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業界分析 産業ガス⼤⼿企業 グローバル⼤⼿企業の収益性⽐較 2017年8⽉24⽇ 株式会社トリアス ⽇本の⼤⼿ガス企業は、グローバル競合企業と⽐べて なぜ利益率が低いのか︖ はじめに 産業ガス事業の基礎をごく簡単に⾔えば 、乾燥空気(酸素20.9%、窒素78.1%、 アルゴン0.9%、その他0.1%)を低温蒸留法(冷却による空気の液化)により⾼純 度のガスと液体に分離・抽出するプロセスである。業界の主要企業は、製鉄、⽯油精 製、⽯油化学、製薬、⾷品・飲料、医療、電⼦、航空産業などの広範な産業に向け て、産業ガスの製造、貯蔵及び輸送に⾄る包括的なソリューションを提供している。 酸素の最⼤の産業⽤途は、製鉄業の⾼炉の燃焼温度を上昇させる促進剤である。 窒素は、⽯油精製及び⽯油化学製品の製造⼯程後の有害ガス・蒸気の除去、医薬 品の冷却装置、そして半導体の製造⼯程の被膜蒸着で使⽤される。また、アルゴンは、 溶接や⿊鉛電炉などの⾼温⽤途で不活性シールドガスとして使⽤される。 産業ガス事業は元来資本集約的で、その収益性はスケールメリットによる業務効率化 に左右されることが多い。このため、【表1】にあるとおり、規模が⼤きく、グローバルに事 業分散している業界トップクラス企業の利益率が⽇本の⼤⼿2社のそれより⾼いことは 想像に難くない。 トリアスでは利益率の差に焦点を当てて、3つの特徴的側⾯について検証した。すなわ ち、[パート1]ではM&Aで得られるシナジーの違い、[パート2]では⽇本固有の要因、 [パート3]ではグローバル市場に対するエクスポージャーの違い、である。これらの検証を 通じ、⽇本の⼤⼿ガス2社の成⻑の⽅向性について考察してみた。 1 本レポートのカバレッジ︓ AI FP Air Liquide LIN GR Linde Group PX US Praxair APD US Air Products & Chemicals 4088 JT エア・ウオーター 4091 JT ⼤陽⽇酸 2168 HK Yingde Gases 【表1】 産業ガスグローバル⼤⼿企業の概要(現地通貨・⽶ドル換算) 会社名 通貨 順位 決算期 売上⾼ 5売上⾼ 売上 営業利益 5営業利益 営業 現地通貨 CAGR 百万⽶ドル 総利益率 現地通貨 CAGR 百万⽶ドル 利益率 Linde Group + Praxair (合併予定) EUR (mn) (参考) 16/12月期 27,482 - 29,623 - 4,421 - - 16.1% Air Liquide EUR (mn) 1 16/12月期 18,135 4.3% 19,089 N.A . 3,024 4.3% 3,183 16.7% Linde Group EUR (mn) 2 16/12月期 16,948 1.7% 17,840 36.2% 2,099 0.3% 2,209 12.4% Praxair USD (mn) 3 16/12月期 10,534 -1.6% 10,534 44.4% 2,322 -1.2% 2,322 22.0% Air Products & Chemicals USD (mn) 4 16/9月期 9,524 -0.2% 9,524 32.8% 2,199 10.5% 2,199 23.1% エア・ウォーター JPY (bn) 5 17/3月期 671 5.6% 6,096 22.9% 41 10.3% 376 6.2% ⼤陽⽇酸 JPY (bn) 6 17/3月期 582 5.6% 5,287 37.1% 54 21.2% 488 9.2% Yingde Gases CNY (mn) 7 16/12月期 8,404 14.1% 1,177 30.4% 1,932 15.1% 271 23.0% 出所︓Bloomberg L. P.の業績データをもとに(株)トリアスにて作成 ⽶ドルとの換算為替レートは以下のとおり︓110円/⽶ドル(3⽉末)、0.95ユーロ/⽶ドル、0.14⼈⺠元/⽶ドル(12⽉末) Copyright © 2017 Trias Corporation. All rights reserved.

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業界分析

産業ガス⼤⼿企業グローバル⼤⼿企業の収益性⽐較2017年8⽉24⽇

株式会社トリアス

⽇本の⼤⼿ガス企業は、グローバル競合企業と⽐べてなぜ利益率が低いのか︖

はじめに産業ガス事業の基礎をごく簡単に⾔えば 、乾燥空気(酸素20.9%、窒素78.1%、アルゴン0.9%、その他0.1%)を低温蒸留法(冷却による空気の液化)により⾼純度のガスと液体に分離・抽出するプロセスである。業界の主要企業は、製鉄、⽯油精製、⽯油化学、製薬、⾷品・飲料、医療、電⼦、航空産業などの広範な産業に向けて、産業ガスの製造、貯蔵及び輸送に⾄る包括的なソリューションを提供している。

酸素の最⼤の産業⽤途は、製鉄業の⾼炉の燃焼温度を上昇させる促進剤である。窒素は、⽯油精製及び⽯油化学製品の製造⼯程後の有害ガス・蒸気の除去、医薬品の冷却装置、そして半導体の製造⼯程の被膜蒸着で使⽤される。また、アルゴンは、溶接や⿊鉛電炉などの⾼温⽤途で不活性シールドガスとして使⽤される。

産業ガス事業は元来資本集約的で、その収益性はスケールメリットによる業務効率化に左右されることが多い。このため、【表1】にあるとおり、規模が⼤きく、グローバルに事業分散している業界トップクラス企業の利益率が⽇本の⼤⼿2社のそれより⾼いことは想像に難くない。

トリアスでは利益率の差に焦点を当てて、3つの特徴的側⾯について検証した。すなわち、[パート1]ではM&Aで得られるシナジーの違い、[パート2]では⽇本固有の要因、[パート3]ではグローバル市場に対するエクスポージャーの違い、である。これらの検証を通じ、⽇本の⼤⼿ガス2社の成⻑の⽅向性について考察してみた。

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本レポートのカバレッジ︓

AI FP Air Liquide

LIN GR Linde Group

PX US Praxair

APD USAir Products  & Chemicals

4088 JT エア・ウオーター4091 JT ⼤陽⽇酸2168 HK Yingde Gases

【表1】 産業ガスグローバル⼤⼿企業の概要(現地通貨・⽶ドル換算)会社名 通貨 順位 決算期 売上⾼ 5年 売上⾼ 売上 営業利益 5年 営業利益 営業

現地通貨 CAGR 百万⽶ドル 総利益率 現地通貨 CAGR 百万⽶ドル 利益率Linde Group + Praxair (合併予定)EUR (mn) (参考) 16/12月期 27,482 - 29,623 - 4,421 - - 16.1%

Air Liquide EUR (mn) 1 16/12月期 18,135 4.3% 19,089 N.A . 3,024 4.3% 3,183 16.7%

Linde Group EUR (mn) 2 16/12月期 16,948 1.7% 17,840 36.2% 2,099 0.3% 2,209 12.4%

Praxair USD (mn) 3 16/12月期 10,534 -1.6% 10,534 44.4% 2,322 -1.2% 2,322 22.0%

Air Products & Chemicals USD (mn) 4 16/9月期 9,524 -0.2% 9,524 32.8% 2,199 10.5% 2,199 23.1%

エア・ウォーター JPY (bn) 5 17/3月期 671 5.6% 6,096 22.9% 41 10.3% 376 6.2%

⼤陽⽇酸 JPY (bn) 6 17/3月期 582 5.6% 5,287 37.1% 54 21.2% 488 9.2%

Yingde Gases CNY (mn) 7 16/12月期 8,404 14.1% 1,177 30.4% 1,932 15.1% 271 23.0%

出所︓Bloomberg L. P.の業績データをもとに(株)トリアスにて作成⽶ドルとの換算為替レートは以下のとおり︓110円/⽶ドル(3⽉末)、0.95ユーロ/⽶ドル、0.14⼈⺠元/⽶ドル(12⽉末)

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株式会社トリアス産業ガス⼤⼿企業

[パート1] M&Aで得られるシナジーの違い産業ガス事業は元来資本集約的であり、また⼀部プロジェクトの⼤型化の傾向も⼿伝い、過去10年間に⼤⼿グローバル企業による⼤型買収が相次いだ結果、企業間統合が驚くべきスピードで進んでいる。[パート1]では、性格が⼤きく異なる⽇本の⼤⼿2社のM&A戦略の違いを検証したのち、海外主要企業がM&Aで得たシナジーのスケールの違いを⽐較する。

1990年代のバブル経済崩壊後、⽇本では業界統合が進み、⼤陽⽇酸株式会社(⽇本酸素、東洋酸素、⼤陽酸素)とエア・ウォーター株式会社(共同酸素、⼤同酸素、ほくさん)の2つの⼤きなグループが誕⽣した。その合計シェアは、医療⽤途を含む産業ガス国内市場の約7割に達した。しかし、主要製造業の⽣産拠点が海外に着実にシフトし、⽇本の産業基盤が空洞化したことで、産業ガスの国内市場は頭打ちとなり、2社は新たな利益源の構築を余儀なくされ、それぞれにM&A戦略を進めることになるが、2社の⽅向性は⾮常に異なるものだった。

⼤陽⽇酸のM&A戦略は、北⽶とアジアを中⼼に、産業ガス事業の海外での拡⼤を⽬指している。2016年9⽉、⼤陽⽇酸の⽶国⼦会社であるMatheson Tri-Gasは、⽶Air Liquideが⽶Airgas取得のために公正取引委員会の指⽰に従って分離した資産を取得した(Air Liquideグループの北東部及び中⻄部でのシェアが極端に拡⼤したため)。このなかには、18の空気分離装置(ASU)、2つの亜酸化窒素⼯場、4つの⼆酸化炭素⼯場などが含まれ、総額600億円(5.5億⽶ドル)超と、⼤陽⽇酸で過去最⼤の買収案件となった。

東洋経済によると、⼤陽⽇酸は2016年3⽉期までの10期で25件のM&Aを実施し、総額で約2,200億円を投じた。特に⽶国では通算で15社、直近5期で9社を取得している。⽶国に集中する背景には、同国の産業ガス消費量が世界で最⼤であること、また⼈⼝増加がもたらす持続的成⻑がある。これまでのM&Aは製造⽤資産を持たない販売ネットワークの取得が⼤半で、主要メーカーから製品を購⼊し、最終顧客に販売している。

⼤陽⽇酸の基本戦略は、特定地域で販売シェアを上げ、販売が⼀定レベルを超えてから独⾃のASU施設を建設するというものである。カリフォルニア、テキサス、フロリダといった地域に強みを持つが、現在の⽶国市場における同社シェアは数%と未だ低い。⼀⽅で、IFRS基準による2016年3⽉期の⽶国ガス事業の売上収益は1,495億円(2017年3⽉期は1,472億円)で、同じくM&Aを進めるアジア・オセアニアガス事業の売上収益893億円(同858億円)と合わせた海外売上⾼は2,388億円(同2,330億円)となり、海外売上⾼⽐率は約4割となった。⽶国の⼤⼿企業は、業界顧客との⻑いつながりにより、北東及び中⻄部地域で基盤を固めているため、このM&Aは、これら地域進出のための⼤きな戦略的試みであった。

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⼤陽⽇酸は⽶国全体に占める市場シェアが低いことから、中期的な潜在成⻑性は⾼い。当⾯の優先課題は、取得した製造⽤資産の省エネルギー化と効率化を進めることにある。2018年3⽉期から2021年3⽉期の新たな中期経営計画『Ortus Stage2』(2017年3⽉発表)では、投資総額3,400億円の7割(年間で約600億円)を海外でのM&Aや能⼒拡⼤などの戦略投資に充てるとしている。これに含まれるのは、北⽶で進⾏中の販売会社のM&Aや、ASU・⼆酸化炭素施設への設備投資、中国における半導体向けガス製造施設への投資、そして東南アジアや南アジアの地域ガス製造会社のM&Aや、ASU・⼆酸化炭素・⽔素ガス及び特殊ガス製造施設への設備投資である。

これに対し、エア・ウォーターのM&Aは、主に国内事業の多様化に集中してきた。東洋経済によると、エア・ウォーターは2016年3⽉期までの10期で、M&Aや資本参加に600億円を投資しており、その数は50件を超える。分野は広範にわたるが、戦略的には農業・⾷品関連と医療関連に重点が置かれている。この2業種は、ビジネスサイクルの循環変動に左右されにくく、着実な成⻑による安定したキャッシュ・フローを⽣み出す点で魅⼒がある。

エア・ウォーターは、ハム・ソーセージメーカーである雪印⾷品の北海道⼯場を2002年に取得し、本格的に⾷品ビジネスに参⼊した。雪印⾷品は輸⼊⽜⾁を国産と偽った表⽰偽装事件により、会社清算を余儀なくされていた。2012年に、関東圏でブランド⼒がある相模ハムを⼦会社化し、春雪さぶーる株式会社(前雪印⾷品)と合併。その後2016年7⽉には、⽇清製粉グループより⼤⼭ハム株式会社(⿃取県)の全株式を取得し、全国ブランドのさぶーる、北海道の⼩売ブランドの春雪、相模ハムブランドに加えた。

エア・ウォーターは、農産品加⼯販売のM&Aにも⼒を⼊れている。2012年には、ジャガイモやカボチャなどの野菜の集荷・卸売業を⾏う株式会社トミイチ(北海道)、冷凍野菜の製造を⾏う有限会社林屋グループ(北海道)を取得。2015年には、デパートや駅ビル内およそ90店舗を展開する⻘果⼩売り事業の九州屋(東京/⼋王⼦)を取得して川下市場に参⼊。2016年には、株式会社マルハニチロ北⽇本の冷凍野菜を⽣産する⼗勝⼯場(北海道)を取得した。

医療関連においても、2005年に医療⽤⼈⼯呼吸器や消防設備のメーカーである川重防災⼯業株式会社を連結⼦会社化。2010年には、病院の⼿術室や集中治療室(ICU)の設計・施⼯を⾏う美和医療電機株式会社(名古屋)を、また2013年には病院で使う製品の物流管理会社を伊藤忠商事から取得した。

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2016年3⽉期には、医療関連事業の売上⾼1,245億円(2017年3⽉期は1,300億円)と農業・⾷品関連事業の売上⾼916億円(同1,184億円)の合計が2,161億円(同2,484億円)となり、産業ガス事業の売上⾼1,948億円(同1,995億円)を超えた。東洋経済オンラインの記事によれば、同社は銀⾏や投資ファンド、後継者不⾜に直⾯する企業などから毎年100件近い潜在的M&A候補を紹介され、これらのデューデリジェンスを⾏い、既存事業とのシナジーを検証しているとのことだ。

エア・ウォーターは買収した企業の従業員をそのまま雇⽤しながらも、コスト削減や売上増に必要な施策を実施することで、買収後の利益率を向上させてきた。その⼀例が、2012年に買収したゴールドパック株式会社だ。同社は主に⼤⼿飲料メーカーから野菜・フルーツジュースの受託⽣産を⾏っていたが、⼯場稼働率の変動に苦しんでいた。買収後は⾃社ブランドを⽴ち上げて稼働率を安定させ、収益率を20〜30%向上させることに成功した。

ちなみに、現在進⾏中の3か年中期経営計画「NEXT-2020 Ver.3」では、2019年3⽉期にかけて、2,400億円の事業投資額のうち600億円をM&A投資に充てる計画である。

このように、⽇本の産業ガス⼤⼿2社によるM&Aは、⽇本の産業ガス市場の低い成⻑性を補うことに的を絞ったこともあり、⼤陽⽇酸は1.61倍(CAGR 4.9%増)に、エア・ウォーターは2016年3⽉期までの10期で売上⾼を1.76倍(CAGR 5.8%増)に拡⼤させた。

ここで、⽇本の産業ガス⼤⼿2社を業界のグローバルな視点から⾒てみよう。⼤陽⽇酸の前⾝である⽇本酸素は1910年に東京で、エア・ウォーターの前⾝のほくさんは1929年に北海道で設⽴された。海外では、1895年にドイツ⼈科学者のカール・フォン・リンデが深冷空気分離に必要な⾰新的冷凍技術をミュンヘンで発明し(Linde AGは1879年に化学会社として設⽴)、1903年に深冷空気分離の特許を取得した。また、Air Liquideが1902年にパリで設⽴されるなど、⽇本企業は欧州の先駆企業より10〜30年の後発となっている。

P.5の【表2】は、産業ガスのグローバル業界再編における主なM&A案件をまとめたものだ。⼤陽⽇酸は2009年、⽶国中⻄部と北東部に強みを持ち、独⽴系で⽶国最⼤の⼯業ガスディストリビューターであるValley National Gasesを買収し、世界最⼤の産業ガス消費市場の重要な地域に参⼊した。この買収時のプレスリリースによれば、シナジーの⽬標を年間1,800万⽶ドルとしている。

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株式会社トリアス産業ガス⼤⼿企業

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この買収の3年前となる2006年、世界第3位のLinde Groupは、第2位の英国Brinʼs Oxygen Company(BOC)の取得⼊札に成功した。BOCは1886年に2⼈のフランス⼈兄弟により設⽴され、その120年後、3万⼈の従業員を擁し、事業地域の構成はアジアパシフィック、ヨーロッパ、⽶国がそれぞれ約3割となっている。この買収成功により、Linde Groupは82億ポンド(144億⽶ドル、120億ユーロ)企業となり、世界第1位に躍り出た。なお、アナリスト向け説明によれば、Linde Groupは、この買収によるシナジーを年間250百万ポンド(300百万⽶ドル、⼤陽⽇酸のValleyNational Gases買収額の16.7倍)と⾒込んでいた。

Air Liquideは2007年、独エンジニアリング会社のLuigiを550百万ポンドで買収してグローバルのエンジニアリング能⼒を倍増し、同社の⼤規模産業事業(収益の30%)を強化した。2015年には、Air Liquideが⽶国のパッケージ型ガス⾸位のAirgasを134億⽶ドルで買収(2016年春に完了)し、ライバルだったLindeGroup、そして⽶国のAir Products & Chemicals、Praxairを追い抜くとともに、成⻑が鈍化していたヨーロッパの事業が加速したことで、売上⾼合計は200億ユーロを達成した。このシナジー効果によるコスト削減⽬標は、年間少なくとも300百万⽶ドルとしている。

2016年、Linde GroupはPraxairとの合併を発表した。ロイターによると、この合併による同Groupの統合時価総額は730億⽶ドルとなる。この合併は2017年6⽉1⽇に両社の取締役会で承認され、2018年下半期に合併が完了する予定である。これによる年間のシナジー効果は、以前の10億⽶ドルから12億⽶ドルに上⽅修正されている。

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【表2】 過去10年間の主なM&A取引

株式会社トリアス産業ガス⼤⼿企業

年 詳細2006 独Linde Groupが英BOCを買収2007 仏Air Liquideが独Lurgiを買収2009 ⼤陽⽇酸が⽶Valley National Gasesを買収2012 Linde Groupが⽶Air Products & Chemicalsの家庭医療事業の欧州拠点を買収

Air Products & ChemicalsがチリINDURAを買収Air Liquideが⻄GASMEDIを買収Linde Groupが⽶LINCAREを買収

2014 三菱ケミカルホールディングスが⼤陽⽇酸を買収2015 Air Liquideが⽶Airgas買収を発表(2016年に完了)2016 Linde Groupが⽶Praxairとの経営統合を発表

反対しているドイツ側労働組合と合意できれば、2018年下半期に統合完了予定出所: 各種メディア情報をもとに(株)トリアスにて作成

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[パート2] ⽇本固有の要因︓①産業基盤の空洞化、②持続するデフレ経済環境、③既に減少に転じた⼈⼝動態[パート1]では、規模の⼤⼩が利益率に⼤きな意味を持つことを⾒てきた。[パート2]では、⽇本固有のマイナス要因について検証する。ポイント①の産業基盤の空洞化は⽇本に限ったことでなく、あらゆる先進国経済の第⼀次素材産業が、安い賃⾦や安い操業コスト、⾼い成⻑などを求めて新興国へシフトするのは⾃然の成り⾏きである。しかし、⽇本の場合は、②との組み合わせによる『超円⾼』期間の⻑期化が(【グラフ1】参照)、輸出の⼤きな重しとなり、価格と需要を押し下げてきた。

【グラフ1】 『超円⾼』期間の⻑期化

P.7〜8のIMF世界経済データベースが2017年4⽉に更新したマクロデータ(【グラフ2】【グラフ3】【表3】【表4】)が⽰すように、過去10年間、⽇本は主要先進国の中でGDPが最低レベルにあり、最悪のデフレ圧⼒にも苦しんできたが、2012年末に⾃⺠党が第⼀党に返り咲き、⽇銀が安倍新内閣の経済⽅針「アベノミクス」のもと、急激な円安局⾯を演出し、円レートが120円/⽶ドルまで下落したことで、GDP、企業利益、インフレの全てが2013年から2014年にかけて⼤きく改善した。

ここでは、産業ガスを使⽤する主要な5つの産業として、製鉄業、⽯油精製業、⽯油化学製品製造業、発電所、半導体製造業に着⽬し、1980年代後半から1990年代初頭に強かったこれら産業における⽇本のポジションが⼤幅に後退したことについて検証する。

前述の経済的背景に加え、各産業固有の構造的要因が重⼤な産業空洞化を引き起こしたことが、⽇本の産業ガスサービス事業者を取り巻く環境を厳しくしているほか、⽯油価格の暴落が、特に関連エンジニアリング企業の打撃となっている。

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株式会社トリアス産業ガス⼤⼿企業

出所: Bloomberg L.P.のデータをもとに(株)トリアスにて作成

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IMF 世界経済⾒通しデータベース(2017年4⽉更新)

【グラフ2】 IMF 世界⽣産サマリ (実質GDP)

【グラフ3】 IMF 世界インフレーションサマリ (消費者物価)

出所: IMF

株式会社トリアス産業ガス⼤⼿企業

出所: IMF

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IMF 世界経済⾒通しデータベース(2017年4⽉更新)

【表3】 IMF ⽣産サマリ (実質GDP)

【表4】 IMF 世界インフレーションサマリ (消費者物価)

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株式会社トリアス産業ガス⼤⼿企業

出所: IMF

出所: IMF

⼗億⽶ドル、前年⽐ 名⽬GDP 1999-08 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018

国別 2017見込 平均 ⾒込 ⾒込世界 $77,988 4.2 -0.1 5.4 4.2 3.5 3.4 3.5 3.4 3.1 3.5 3.6

先進国 $46,905 2.5 -3.4 3.1 1.7 1.2 1.3 2.0 2.1 1.7 2.0 2.0

アメリカ $19,417 2.6 -2.8 2.5 1.6 2.2 1.7 2.4 2.6 1.6 2.3 2.5

⽇本 $4,841 1.0 -5.4 4.2 -0.1 1.5 2.0 0.3 1.2 1.0 1.2 0.6

ドイツ $3,423 1.6 -5.6 4.0 3.7 0.7 0.6 1.6 1.5 1.8 1.6 1.5

イギリス $2,497 2.6 -4.3 1.9 1.5 1.3 1.9 3.1 2.2 1.8 2.0 1.5

フランス $2,420 2.0 -2.9 2.0 2.1 0.2 0.6 0.6 1.3 1.2 1.4 1.7

カナダ $1,600 2.9 -3.0 3.1 3.1 1.7 2.5 2.6 0.9 1.4 1.9 2.0

韓国 $1,498 5.7 0.7 6.5 3.7 2.3 2.9 3.3 2.8 2.8 2.7 2.8

新興国/途上国 $31,083 6.2 2.9 7.4 6.3 5.4 5.1 4.7 4.2 4.1 4.5 4.8

新興国/アジアの途上国 $17,085 8.0 7.5 9.6 7.9 7.0 6.9 6.8 6.7 6.4 6.4 6.4

中国 $11,795 10.1 9.2 10.6 9.5 7.9 7.8 7.3 6.9 6.7 6.6 6.2

インド $2,454 6.9 8.5 10.3 6.6 5.5 6.5 7.2 7.9 6.8 7.2 7.7

ブラジル $2,141 3.5 -0.1 7.5 4.0 1.9 3.0 0.5 -3.8 -3.6 0.2 1.7

ロシア $1,561 6.9 -7.8 4.5 4.0 3.5 1.3 0.7 -2.8 -0.2 1.4 1.4

インドネシア $1,021 4.9 4.7 6.4 6.2 6.0 5.6 5.0 4.9 5.0 5.1 5.3

メキシコ $987 2.6 -4.7 5.1 4.0 4.0 1.4 2.3 2.6 2.3 1.7 2.0

トルコ $794 4.1 -4.7 8.5 11.1 4.8 8.5 5.2 6.1 2.9 2.5 3.3

⼗億⽶ドル、前年⽐ 名⽬GDP 1999-08 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018

国別 2017⾒込 平均 ⾒込 ⾒込世界 $77,988 4.5 2.7 3.7 5.0 4.1 3.7 3.2 2.8 2.8 3.5 3.4

先進国 $46,905 2.2 0.2 1.5 2.7 2.0 1.4 1.4 0.3 0.8 2.0 1.9

アメリカ $19,417 2.8 -0.3 1.6 3.1 2.1 1.5 1.6 0.1 1.3 2.7 2.4

⽇本 $4,841 -0.2 -1.4 -0.7 -0.3 -0.1 0.3 2.8 0.8 -0.1 1.0 0.6

ドイツ $3,423 1.7 0.2 1.1 2.5 2.1 1.6 0.8 0.1 0.4 2.0 1.7

イギリス $2,497 1.8 2.2 3.3 4.5 2.8 2.6 1.5 0.1 0.6 2.5 2.6

フランス $2,420 1.9 0.1 1.7 2.3 2.2 1.0 0.6 0.1 0.3 1.4 1.2

カナダ $1,600 2.3 0.3 1.8 2.9 1.5 0.9 1.9 1.1 1.4 2.0 2.1

韓国 $1,498 2.9 2.8 2.9 4.0 2.2 1.3 1.3 0.7 1.0 1.8 1.9

新興国/途上国 $31,083 7.5 5.0 5.6 7.1 5.8 5.5 4.7 4.7 4.4 4.7 4.4

新興国/アジアの途上国 $17,085 3.9 2.8 5.1 6.5 4.6 4.6 3.5 2.7 2.9 3.3 3.3

中国 $11,795 1.8 -0.7 3.3 5.4 2.6 2.6 2.0 1.4 2.0 2.4 2.3

インド $2,454 4.8 10.6 9.5 9.5 9.9 9.4 5.9 4.9 4.9 4.8 5.1

ブラジル $2,141 6.9 4.9 5.0 6.6 5.4 6.2 6.3 9.0 8.7 4.4 4.3

ロシア $1,561 21.4 11.7 6.9 8.4 5.1 6.8 7.8 15.5 7.0 4.5 4.2

インドネシア $1,021 10.0 5.0 5.1 5.3 4.0 6.4 6.4 6.4 3.5 4.5 4.5

メキシコ $987 6.3 5.3 4.2 3.4 4.1 3.8 4.0 2.7 2.8 4.8 3.2

トルコ $794 29.0 6.3 8.6 6.5 8.9 7.5 8.9 7.7 7.8 10.1 9.1

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0

200,000

400,000

600,000

800,000

1,000,000

1,200,000

1,400,000

1,600,000

1,800,000 その他

ブラジル

アメリカ

ドイツ

ウクライナ

ロシア

インド

中国

韓国

⽇本

(千トン)

9

製鉄セクター世界鉄鋼協会のデータ(【グラフ4】【グラフ5】)によると、アジアの総⽣産に占める⽇本の市場シェアは2005年の18.8%から2016年には9.3%に半減している。この10年間の⽣産量の年平均成⻑率(CAGR)は、1.1%減だった。⼀⽅で、同期間の中国のCAGRは7.4%増、インドは6.8%増、韓国は4.1%増である。ちなみに、1985年当時のアジア総⽣産における⽇本のシェアは54.5%だった。中国に突出して過剰な⽣産能⼒があるため、グローバル市場の将来⾒通しには不透明感が残る。⽇本市場については、主要な⾃動⾞/機械の顧客メーカーがグローバル市場をリードしているものの、その⽣産は着実に海外にシフトしている。

【グラフ4】 世界鉄鋼協会 2006年〜2015年 国別粗鋼⽣産の推移

【グラフ5】 アジアの鉄鋼⽣産における⽇本のシェアは過去10年で半減

出所︓ 世界鉄鋼協会の統計年鑑をもとに(株)トリアスにて作成2016年のデータは⽉次プレスリリースをもとに計算

出所︓ 世界鉄鋼協会の統計年鑑をもとに(株)トリアスにて作成

株式会社トリアス産業ガス⼤⼿企業

5.0%

8.0%

11.0%

14.0%

17.0%

20.0%

30,000

50,000

70,000

90,000

110,000

130,000粗鋼⽇本/アジア

9.3%

9.4%

18.8%

(千トン)

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0

50,000

100,000

150,000

200,000

250,000

ガソリン

ナフサ

ジェット燃料油

灯油

ディーゼル

A重油

B重油/C重油

1995年のピークから31.4%減

(千キロリットル)

【グラフ6】 精製燃料製品の国内動向 (経済産業省予想)

⽯油精製セクター【グラフ6】からわかるとおり、東⽇本⼤震災と津波の発⽣、国内原⼦⼒発電所の全⾯停⽌が発電⽤B重油・C重油の需要を押し上げ、2011年度と2012年度に燃料総需要が⼀時的に⽴ち直りを⾒せたが、内燃エンジンの燃費向上が続くこと、消費者の⼩型⾞志向、そして⽇本が技術的に世界をリードするハイブリット・電気⾃動⾞の急速な普及により、今後需要は徐々に減少していく⾒通しだ(【グラフ7】参照)。

10

【グラフ7】 国内登録乗⽤⾞におけるハイブリッド・電気⾃動⾞動向

出所︓経済産業省の資源エネルギー統計に基づく⽇本⽯油連盟のデータ

出所︓⾃動⾞検査登録情報協会 (AIRIA)

株式会社トリアス産業ガス⼤⼿企業

(台)

0%

2%

4%

6%

8%

10%

12%

0

1,000,000

2,000,000

3,000,000

4,000,000

5,000,000

6,000,000

電気⾃動⾞

ハイブリッド⾞

登録乗⽤⾞に占めるシェア

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-12%

-8%

-4%

0%

4%

8%

12%

16%

△ 6,000

△ 4,000

△ 2,000

0

2,000

4,000

6,000

8,000

1990 1992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012 2014 2016

(千トン) エチレン⽣産量 対前年⽐

11

⽯油化学製品製造セクター⽯油化学⼯業協会(JPCA)が、経済産業省の⽣産統計をもとにまとめたデータ(【グラフ8】【表5】)によると、2016年のエチレン⽣産は2007年のピークから18.9%減少している。⽯油精製セクターと同様に、最終製品の需要の落ち込みによる稼働率の低下で、メーカーは統合や閉鎖による⽣産縮⼩を余儀なくされている。⽯油精製セクターと同様、当セクターも規模が重要で、アジアにおける⾼効率で⼤規模な施設の新設により、⽇本は汎⽤グレード製品で相対的にコスト競争⼒を失いつつある。

【グラフ8】 ⽇本のエチレン⽣産の推移(暦年)

【表5】 エチレン由来製品のグローバル⽣産能⼒と需要に関する経済産業省予想 (エチレン換算)

注︓ 経済産業省の需要予想には、CIS︓0.5百万トン〜4.2百万トン(CAGR 2.3%増)、アフリカ︓1.5百万トン〜5.1百万トン(CAGR 5.9%増)が含まれている

出所︓経済産業省 「世界の⽯油化学製品の今後の需給動向 2016年7⽉」

株式会社トリアス産業ガス⼤⼿企業

出所︓JPCAのデータをもとに(株)トリアスにて作成

百万トン、%合計 韓国 台湾 中国 ASEAN インド ⽇本

能⼒ 2014 164.5 64.6 8.5 5.0 26.0 12.4 5.4 7.2 24.8 40.0 28.82020 200.0 76.5 8.9 5.2 32.4 14.8 8.3 6.9 24.8 50.6 34.7

増加幅 2014-20 35.5 11.9 0.4 0.1 6.4 2.4 2.9 △ 0.3 0.0 10.6 5.9CAGR 2014-20 3.3% 2.9% 0.8% 0.4% 3.8% 3.1% 7.3% -0.8% 0.0% 4.0% 3.2%能⼒シェア 2014 100% 39% 5% 3% 16% 8% 3% 4% 15% 24% 17%

2020 100% 38% 4% 3% 16% 7% 4% 3% 12% 25% 17%

中東世界 アジア 欧州 北中南⽶

百万トン、%合計 韓国 台湾 中国 ASEAN インド ⽇本

需要 2014 131.2 59.9 4.4 2.4 34.7 7.4 6.0 5.0 20.8 34.4 8.1 3.7 3.62020 162.7 78.8 4.5 2.7 49.1 9.1 8.5 4.9 22.3 40.1 11.3 4.2 5.1

増加幅 2014-20 31.5 18.9 0.1 0.3 14.4 1.7 2.5 △ 0.1 1.5 5.7 3.2 0.5 1.5CAGR 2014-20 3.7% 4.7% 0.1% 2.5% 6.0% 3.5% 6.0% -0.4% 1.2% 2.6% 5.7% 2.3% 5.9%

CIS アフリカ世界 アジア 欧州 北中南⽶ 中東

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0.225

0.103 0.127

0.107

0.237

0.327

0.181 0.162

0.069 0.076

0.143 0.145

0.110

0.000

0.050

0.100

0.150

0.200

0.250

0.300

0.350

⽇本 韓国 アメリカ カナダ イギリス ドイツ フランス

家庭⽤

産業⽤

(⽶ドル/kwh)

12

発電所セクター電気事業連合会(FEPC)が経済産業省の統計をもとにまとめたデータによると、2016年3⽉期の電⼒各社の売上⾼合計は、2008年3⽉期のピークから13.3%減少している。東⽇本⼤震災とそれに伴う国内の原⼦⼒発電所の全⾯停⽌後、化⽯燃料への需要回帰で電気料⾦は約20%上昇した。政府は積極的に省エネ施策を進め、規制緩和で⾃家発電による売電の販売が増えている。また、補助⾦制度が太陽光発電や⾵⼒発電などの代替エネルギーの普及に貢献している(【グラフ9】【グラフ10】参照)。

【グラフ9】 発電・買電合計の推移(地域電⼒10社)

【グラフ10】 2015年 OECD諸国のIEA電⼒価格

出所︓国際エネルギー機関「Key World Energy Statistics 2016」

株式会社トリアス産業ガス⼤⼿企業

0

100

200

300

400

500

600

700

800

900

1,000

買電(調整済)

新エネルギー

原⼦⼒

⽕⼒

⽔⼒

(10億kwh)

出所︓ FEPC

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-30.0

-20.0

-10.0

0.0

10.0

20.0

30.0

40.0

50.0

(30,000)

(20,000)

(10,000)

0

10,000

20,000

30,000

40,000

50,000

⽣産額前年⽐

(%)(百万⽶ドル)

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

中国

アジアパシフィック

ヨーロッパ

アメリカ

⽇本

13

半導体製造セクター世界半導体市場統計(WSTS)のデータによると、⽇本の⽣産額シェアは1988年の40%をピークに低下し続ける⼀⽅、アジア太平洋のシェアは台湾、韓国、中国がけん引する形で60%以上に上昇している。2015年には⽇本のシェアが初めて10%を下回る9.3%となり、2016年も9.5%の⽔準にとどまっている。この動きは、製鉄業のそれと酷似している。同じくWSTSのデータによれば、名⽬上の⽇本の半導体⽣産額は、2007年のピークから33.9%の減少となっている( 【グラフ11】【グラフ12】参照)。

【グラフ11】 WSTS 世界半導体市場 地域別シェアの推移

【グラフ12】 WSTS ⽇本の半導体⽣産額の推移

出所︓WSTS

株式会社トリアス産業ガス⼤⼿企業

出所︓WSTS

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百万円、 % 13/3⽉期 14/3⽉期 15/3⽉期 16/3⽉期 16/3⽉期 17/3⽉期 対前期⽐ 5年J-GAAP J-GAAP J-GAAP J-GAAP IFRS IFRS CAGR

売上⾼ 468,387 522,746 559,373 641,516 594,421 581,586 -2.2 5.6

⽇本 329,771 352,069 354,241 350,842 346,558 338,239 -2.4 0.6

⽶国 81,024 102,772 126,203 180,327 143,090 141,009 -1.5 14.9

その他 57,592 67,905 78,928 110,346 104,772 102,336 -2.3 15.5

売上構成⽐ 100.0% 100.0% 100.0% 100.0% 100.0% 100.0% - -

⽇本 70.4% 67.3% 63.3% 54.7% 58.3% 58.2% - -

⽶国 17.3% 19.7% 22.6% 28.1% 24.1% 24.2% - -

その他 12.3% 13.0% 14.1% 17.2% 17.6% 17.6% - -

出所︓会社短信、有価証券報告書をもとに(株)トリアスにて作成

14

[パート3] グローバル市場に対するエクスポージャーの違い[パート2]では、⽇本で産業ガス事業を⾏う場合、構造的要因が厳しい環境をもたらしていることを⾒てきた。[パート3]では、主要グローバル企業の事業ポートフォリオの違いを⾒ていく。⽇本の⼤⼿2社の場合、⽇本市場に構造的ハンディキャップがあるものの、国内市場に対するエクスポージャーが⾼い。

⼤陽⽇酸の近年の国内売上⾼は約58%を占めるが(【表6】参照)、IFRS導⼊によりのれん償却費がなくなる以前から、地理的拡⼤やM&Aを通じたシナジーで利益率が上昇し始めており、この傾向は今後も続くと⾒られる。

【表7】 ⼤陽⽇酸︓地域別売上⾼・売上構成⽐の推移

【表6】 ⼤陽⽇酸︓セグメント別業績の推移

株式会社トリアス産業ガス⼤⼿企業

百万円、 % 13/3⽉期 14/3⽉期 15/3⽉期 16/3⽉期 16/3⽉期 17/3⽉期 対前期⽐ 5年J-GAAP J-GAAP J-GAAP J-GAAP IFRS IFRS CAGR

売上⾼合計 468,387 522,746 559,373 641,516 594,421 581,586 -2.2 2.7

国内ガス事業 341,883 344,635 332,247 327,952 321,416 -2.0 -

⽶国ガス事業 107,504 130,983 188,566 149,553 147,274 -1.5 -

アジア・オセアニアガス事業 54,349 61,995 93,174 89,375 85,875 -3.9 -

サーモス他事業 19,010 21,758 27,528 27,541 27,018 -1.9 -

セグメント利益※ 24,884 31,489 35,297 43,362 47,456 54,736 15.3 14.8

国内ガス事業 23,368 25,045 27,539 27,850 29,450 5.7 -

⽶国ガス事業 4,714 5,795 6,812 9,241 12,074 30.7 -

アジア・オセアニアガス事業 1,912 2,468 4,461 3,009 5,165 71.7 -

サーモス他事業 3,064 3,437 5,993 9,001 10,017 11.3 -

調整額 1,569 1,449 1,445 1,646 1,970 - -

調整前セグメント利益率※ 5.3% 6.0% 6.3% 6.8% 8.0% 9.4% - -

国内ガス事業 6.8% 7.3% 8.3% 8.5% 9.2% - -

⽶国ガス事業 4.4% 4.4% 3.6% 6.2% 8.2% - -

アジア・オセアニアガス事業 3.5% 4.0% 4.8% 3.4% 6.0% - -

サーモス他事業 16.1% 15.8% 21.8% 32.7% 37.1% - -

報告営業利益 - - - 48,925 53,664 9.7 -

※注︓IFRSの導⼊により、セグメント利益は営業利益より⾮経常損益を差し引いた値を表⽰    15/3⽉期以前のセグメント分類は、産業ガス、エレクトロニクス、エネルギー及びその他事業出所︓会社短信、有価証券報告書をもとに(株)トリアスにて作成

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百万円、 % 13/3⽉期 14/3⽉期 15/3⽉期 16/3⽉期 17/3⽉期 対前期⽐ 5年実績 実績 実績 実績 実績 CAGR

売上⾼ 540,016 641,256 660,541 660,622 670,536 1.5 5.6

産業ガス関連事業 173,355 189,175 203,128 194,787 199,452 2.4 3.6

ケミカル関連事業 93,352 95,160 102,644 86,994 61,343 -29.5 -10.0

医療関連事業 78,904 120,018 118,323 124,540 129,961 4.4 13.3

エネルギー関連事業 54,090 57,278 52,824 46,356 45,030 -2.9 -4.5

農業・⾷品関連事業 45,712 71,660 71,394 91,551 118,404 29.3 26.9

その他の事業 94,600 107,961 112,226 116,392 116,343 0.0 5.3

経常利益 35,155 36,281 38,159 35,075 41,251 17.6 4.1

産業ガス関連事業 13,631 13,072 12,702 14,215 16,591 16.7 5.0

ケミカル関連事業 3,143 2,892 2,535 4,867 985 - ⾚字化医療関連事業 6,479 7,618 7,632 8,668 9,230 6.5 9.3

エネルギー関連事業 3,116 3,238 3,174 3,597 3,851 7.1 5.4

農業・⾷品関連事業 1,355 2,564 2,105 3,016 4,028 33.6 31.3

その他の事業 5,587 7,121 7,964 9,086 8,468 -6.8 11.0

調整額 1,842 225 2,043 1,358 64 - -

経常利益率 6.5% 5.7% 5.8% 5.3% 6.2%

産業ガス関連事業 7.9% 6.9% 6.3% 7.3% 8.3%

ケミカル関連事業 3.4% 3.0% 2.5% -5.6% -1.6%

医療関連事業 8.2% 6.3% 6.5% 7.0% 7.1%

エネルギー関連事業 5.8% 5.7% 6.0% 7.8% 8.6%

農業・⾷品関連事業 3.0% 3.6% 2.9% 3.3% 3.4%

その他の事業 5.9% 6.6% 7.1% 7.8% 7.3%

注︓セグメント利益(損失)への持分法適⽤会社の影響反映のため、経常利益を使⽤   海外売上⾼⽐率が10%未満のため、地域別売上⾼は⾮開⽰出所︓会社短信、有価証券報告書をもとに(株)トリアスにて作成

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エア・ウォーターも同様で、同社の事業は⼤半が国内市場向けである。医療関連と農業・⾷品関連のM&Aを中⼼にした⻑期的経営戦略のもと、これらの事業の5年のCAGRは売上⾼は2桁で成⻑しており、利益も⾼い成⻑を実現している。

2016年度から2018年度までの3か年中期経営計画Ver.3では、キャッシュ・カウ事業である産業系(産業ガス関連、ケミカル関連)を基盤に、⼈にかかわる事業(医療関連、エネルギー関連、農業・⾷品関連、その他)で新たな成⻑を創出し、多様な事業の総合⼒で、より⾼い成⻑の実現を⽬指している。

特に、医療関連事業と農業・⾷品関連事業の⾼い成⻑で収益に貢献するとの経営戦略⽬標は、全体の利益成⻑のみならず、産業系事業に対する景気変動インパクトを低下させ、キャッシュ・フローの質と安定性の改善につながっていると⾒られる。

【表8】 エア・ウォーター︓セグメント別業績の推移

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[パート1]で述べた通り、Air LiquideはAirgasを買収し、2016年に⼿続きを完了した。【表9】では、同社の南北アメリカと並んで⼯業が対前期⽐で⼤きく伸⻑し、いずれも5年のCAGRを引き上げていることがわかる。ヘルスケア、エレクトロニクス、アジア・パシフィックの5年CAGRの⽔準は、それぞれの潜在成⻑率から⾒れば相応と思われる(ただし、エレクトロニクスは構造的というより循環的な伸⻑)。

ここで強調したいのは、⼤規模産業やヨーロッパなど、同社の既存市場における事業の低成⻑である。同社の2016年度の参考資料には、「過去30年にわたり⼀貫して合計収益のCAGRが6.0%増」とあるが、これは明らかに現在も進⾏中の計画的な事業ポートフォリオ再編によってもたらされたものであろう。

【表10】 Air Liquide︓ガス及びサービス事業の経常的営業利益・利益率の推移(経常的営業利益/売上収益)

【表9】 Air Liquide︓ガス及びサービス事業及び地域セグメント別売上収益の推移

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百万ユーロ、 % 12/12⽉期 13/12⽉期 14/12⽉期 15/12⽉期 16/12⽉期 対前期⽐ 対前期⽐ 5年実績 実績 実績 実績 実績 調整後 CAGR

ガス及びサービス 13,912 13,837 13,800 14,752 17,331 17.5 2.7 5.6

⼤規模産業 5,015 4,940 4,980 5,201 5,037 -3.1 5.4 0.1

⼯業 5,193 5,081 5,016 5,229 7,565 44.7 -1.6 9.9

ヘルスケア 2,482 2,689 2,570 2,799 3,111 11.2 4.9 5.8

エレクトロニクス 1,222 1,127 1,234 1,523 1,618 6.2 4.3 7.3

ヨーロッパ 7,025 7,058 6,604 6,749 6,593 -2.3 2.0 -1.6

南北アメリカ 3,108 3,225 3,384 3,595 6,230 73.3 1.8 19.0

アジア・パシフィック 3,416 3,184 3,402 3,850 3,936 2.2 4.2 3.6

中東及びアフリカ 363 370 410 558 572 2.5 7.6 12.0

注︓⽐較のための調整は、重要⼦会社連結範囲( Airgas など) 2,735 、為替 △ 203 、天然ガス △ 272 、電⼒ △ 84

    15/12 ⽉期と 16/12 ⽉期のガス・サービスの売上収益は、それぞれの全体売上収益( 15/12 ⽉期 15,819 百万ユーロ、    16/12 ⽉期 18,135 百万ユーロ)の 93.3 %と 95.6 %を占める出所︓ Air Liquide の アナリスト向けプレゼン資料をもとに(株)トリアスにて作成

百万ユーロ、 % 12/12⽉期 13/12⽉期 14/12⽉期 15/12⽉期 16/12⽉期実績 実績 実績 実績 実績

ガス及びサービス 18.8% 19.2% 19.5% 20.1% 18.7%

ヨーロッパ 18.3% 19.1% 19.9% 19.6% 20.0%

南北アメリカ 24.0% 23.6% 22.6% 23.5% 17.3%

アジア・パシフィック 15.1% 15.1% 16.3% 18.2% 18.5%

中東及びアフリカ 21.2% 17.9% 15.0% 15.9% 19.9%

注︓経常的営業利益(OPR: Operating Profit Recurring)とは、   営業利益から⾮経常的損益項⽬を除いたもの出所︓ Air Liquide のアナリスト向けプレゼン資料をもとに(株)トリアスにて作成

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Linde Groupで特筆すべきは、 Praxairへの合併提案のほか、明確な⽬標設定のもとに医療事業を拡⼤していることである。2012年、同社はAir Products &Chemicals から、年商210百万ユーロの⼤陸ヨーロッパにおける在宅医療事業を買い取った。更に、2012年後半には年商18億⽶ドルの⽶LINCARE Holdingsを買収した。

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百万ユーロ、 % 12/12⽉期 13/12⽉期 14/12⽉期 15/12⽉期 16/12⽉期 対前期⽐ 5年実績 実績 実績 実績 実績 CAGR

グループ売上収益 15,280 16,655 17,047 17,944 16,948 -5.6 2.6

ガス部⾨ 12,591 13,971 13,982 15,168 14,892 -1.8 4.3

⽐較可能な成⻑率* 3.8 3.3 2.7 2.1 1.4

エンジニアリング部⾨ 2,561 2,879 3,106 2,594 2,351 -9.4 -2.1

営業利益 3,530 3,966 3,920 4,131 4,098 -0.8 3.8

ガス部⾨ 3,403 3,846 3,835 4,151 4,210 1.4 5.5

エンジニアリング部⾨ 312 319 300 216 196 -9.3 -11.0

営業利益率(全社消去前) 23.10% 23.80% 23.00% 23.00% 24.20%

ガス部⾨ 27.00% 27.50% 27.40% 27.40% 28.30%

エンジニアリング部⾨ 12.20% 11.10% 9.70% 8.30% 8.30%

*注︓為替の影響と天然ガス価格の変動を調整出所︓Linde Groupの開⽰資料をもとに(株)トリアスにて作成

百万ユーロ、 % 12/12⽉期 13/12⽉期 14/12⽉期 15/12⽉期 16/12⽉期 対前期⽐ 5年実績 実績 実績 実績 実績 CAGR

EMEA︓売上収益 5,998 6,090 5,980 6,010 5,736 -4.6 -1.1

アジア・パシフィック︓売上収益 3,498 3,767 3,812 4,157 4,109 -1.2 4.1

アメリカ⼤陸︓売上収益 3,200 4,231 4,314 5,183 5,232 0.9 13.1

EMEA︓営業利益 1,700 1,759 1,778 1,790 1,807 0.9 1.5

アジア・パシフィック︓営業利益 935 1,005 1,010 1,063 1,084 2.0 3.8

アメリカ⼤陸︓営業利益 768 1,082 1,047 1,298 1,319 1.6 14.5

EMEA︓営業利益率 28.30% 28.90% 29.70% 29.80% 31.50%

アジア・パシフイック︓営業利益率 26.70% 26.70% 26.50% 25.60% 26.40%

アメリカ⼤陸︓営業利益率 24.00% 25.60% 24.30% 25.00% 25.20%

出所︓Linde Groupの開⽰資料をもとに(株)トリアスにて作成

百万ユーロ、 % 12/12⽉期 13/12⽉期 14/12⽉期 15/12⽉期 16/12⽉期 対前期⽐ 5年実績 実績 実績 実績 実績 CAGR

ガス部⾨︓製品別売上収益バルク 3,381 3,328 3,335 3,616 3,575 -1.1 1.4

シリンダー 4,254 4,050 3,890 4,040 3,820 -5.4 -2.7

オンサイト 2,921 3,578 3,698 3,847 3,757 -2.3 6.5

ヘルスケア 2,035 3,015 3,059 3,665 3,740 2 16.4

エンジニアリング部⾨︓製品別売上収益オレフィンプラント 684 378 494 683 819 19.9 4.6

天然ガスプラント 471 684 835 572 448 -21.7 -1.2

空気分離プラント 704 959 901 406 419 3.2 -12.2

⽔素合成プラント 419 619 631 690 485 -29.7 3.7

その他 283 239 245 243 180 -25.9 -10.7

出所︓Linde Groupの開⽰資料をもとに(株)トリアスにて作成

【表11】 Linde Group︓セグメント別業績の推移

【表12】 Linde Group︓ガス部⾨の地域別業績の推移

【表13】 Linde Group︓製品別売上収益の推移

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ここで、Linde Groupと合併予定のPraxairの業績を⾒てみる。【表14】からわかるとおり、成⻑性が明らかに⽋如している。売上⾼の5年CAGRは1.6%減、営業利益においては2.1%減となっている。

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百万⽶ドル、 % 12/12⽉期 13/12⽉期 14/12⽉期 15/12⽉期 16/12⽉期 対前期⽐ 5年実績 実績 実績 実績 実績 CAGR

売上⾼合計 11,224 11,925 12,273 10,776 10,534 -2.2 -1.6

北⽶ 5,598 6,164 6,436 5,865 5,592 -4.7 0.0

ヨーロッパ 1,474 1,542 1,546 1,320 1,392 5.5 -1.4

南⽶ 2,082 2,042 1,993 1,431 1,399 -2.2 -9.5

アジア 1,414 1,525 1,619 1,551 1,555 0.3 2.4

表⾯技術 656 652 679 609 596 -2.1 -2.4

営業利益合計 2,437 2,625 2,608 2,321 2,238 -3.6 -2.1

北⽶ 1,465 1,538 1,580 1,558 1,430 -8.2 -0.6

ヨーロッパ 256 270 291 250 273 9.2 1.6

南⽶ 429 467 449 291 257 -11.7 -12.0

アジア 246 271 303 289 276 -4.5 2.9

表⾯技術 106 111 123 105 102 -2.9 -1.0

消去 65 32 138 172 100 - -

消去前営業利益合計 21.7% 22.0% 21.2% 21.5% 21.2%

北⽶ 26.2% 25.0% 24.5% 26.6% 25.6%

ヨーロッパ 17.4% 17.5% 18.8% 18.9% 19.6%

南⽶ 20.6% 22.9% 22.5% 20.3% 18.4%

アジア 17.4% 17.8% 18.7% 18.6% 17.7%

表⾯技術 16.2% 17.0% 18.1% 17.2% 17.1%

出所︓Praxairの開⽰資料をもとに(株)トリアスにて作成

百万⽶ドル、 % 12/12⽉期 13/12⽉期 14/12⽉期 15/12⽉期 16/12⽉期実績 実績 実績 実績 実績

最終市場製造業 32% 30% 30% 30% 29%

⾦属 14% 13% 12% 11% 12%

エネルギー 17% 19% 20% 18% 17%

化学 11% 10% 10% 10% 9%

電⼦ 5% 5% 4% 5% 5%

ヘルスケア 7% 7% 7% 7% 7%

⾷品&飲料 5% 8% 8% 9% 10%

航空宇宙 1% 1% 1% 2% 2%

その他 8% 7% 8% 8% 9%

販売形態オンサイト 27% 28% 30% 28% 28%

⼩売 35% 36% 36% 38% 38%

パッケージ型ガス 36% 34% 32% 32% 31%

その他 2% 2% 2% 2% 3%

出所︓Praxairの開⽰資料をもとに(株)トリアスにて作成

【表14】 Praxair︓セグメント別業績の推移

【表15】 Praxair︓最終市場及び販売形態別北⽶売上⾼構成⽐の推移

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2016年のAir LiquideによるAirgasの取得とLinde GroupとPraxairの合併提案により、Air Products & Chemicalsは魅⼒的なパートナーへのアプローチをすべて先取りされ、他のパートナーを探す必要性に直⾯している。同社は、中国YingdeGasesの取得計画を断念したものの、中国の半導体と液晶ディスプレイの新⼯場に係る6案件の受注獲得を発表した。

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百万⽶ドル、 % 12/9⽉期 13/9⽉期 14/9⽉期 15/9⽉期 16/9⽉期 対前期⽐ 5年実績 実績 実績 実績 実績 CAGR

売上⾼合計 9,611.7 10,180.4 10,439.0 9,894.9 9,524.4 -3.7 -0.2

産業ガス - アメリカ⼤陸 4,078.5 3,693.9 3,343.6 -9.5

産業ガス - EMEA 2,150.7 1,864.9 1,700.3 -8.8

産業ガス - アジア 1,527.0 1,637.5 1,716.1 4.8

産業ガス - グローバル 296.0 286.8 498.8 73.9

材料技術 2,064.6 2,087.1 2,019.5 -3.2

営業利益合計 1,626.2 1,583.2 1,656.5 1,893.2 2,198.5 16.1 7.8

産業ガス - アメリカ⼤陸 762.6 808.4 895.2 10.7

産業ガス - EMEA 351.2 330.7 382.8 15.8

産業ガス - アジア 310.4 380.5 449.1 18.0

産業ガス - グローバル 57.3 51.6 21.3 -

材料技術 379.0 476.7 530.2 11.2

消去 77.0 51.5 37.5 -

持分法適⽤会社の損益 151.4 154.5 148.6 -3.8

産業ガス - アメリカ⼤陸 60.9 64.6 52.7 -18.4

産業ガス - EMEA 44.1 42.4 36.5 -13.9

産業ガス - アジア 38.0 46.1 57.8 25.4

産業ガス - グローバル 5.8 0.8 0.1 -

材料技術 2.6 2.2 1.7 -22.7

注︓14/9⽉期以前のセグメント分類は、⼩売⽤ガス、船積⽤ガス、電⼦・機能材料、設備・エネルギー出所︓Air Products & Chemicalsの開⽰資料をもとに(株)トリアスにて作成

百万⽶ドル、 % 12/9⽉期 13/9⽉期 14/9⽉期 15/9⽉期 16/9⽉期実績 実績 実績 実績 実績

売上⾼構成⽐ 100.0% 100.0% 100.0%

産業ガス - アメリカ⼤陸 39.1% 37.3% 35.1%

産業ガス - EMEA 20.6% 18.8% 17.9%

産業ガス - アジア 14.6% 16.5% 18.0%

産業ガス - グローバル 2.8% 2.9% 5.2%

材料技術 19.8% 21.1% 21.2%

消去前営業利益 16.9% 15.6% 15.9% 19.1% 23.1%

産業ガス - アメリカ⼤陸 18.7% 21.9% 26.8%

産業ガス - EMEA 16.3% 17.7% 22.5%

産業ガス - アジア 20.3% 23.2% 26.2%

産業ガス - グローバル -19.4% -18.0% -4.3%

材料技術 18.4% 22.8% 26.3%

【表16】 Air Products & Chemicals︓セグメント別業績の推移

【表17】 Air Products & Chemicals︓セグメント別売上⾼及び営業利益の構成⽐

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⾹港に拠点を置くYingde Gasesは、中国最⼤の独⽴系産業ガス供給会社である。同社の2015年度決算説明資料によると、売上⾼の87%をオンサイト・プラント事業が占めている。また、2016年度上半期の同資料によると、上位顧客5社のうち4社は中国の鉄⼯所であることがわかる。

Air Products & Chemicalsは、財務検査を条件に、12⽉に法的拘束⼒のない現⾦のみ15億ドル(6.00⾹港ドル/株)の⼊札を提⽰した。これはAir Products &Chemicalsが電⼦材料事業を切り離し、機能材料事業を38億ドルで売却したあとの出来事だ。その後3⽉下旬に、株主の利益最⼤化につながらないとして、AirProducts & Chemicalsは⼊札撤回を発表した。これは、Yingde Gasesの取締役会において、中国では珍しい共同創設者間の権⼒争いがあったためである。ちなみに、Yingde Gasesのバランス・シートはレバレッジがかなり⾼い状況にある。

おわりに3つの特徴的側⾯の検証を通じ、⽇本の⼤⼿ガス企業を分析するうえで重要なポイントが⾒えてきた。

[パート1]M&Aによるシナジー効果の規模という点では、産業ガスのグローバル⼤⼿企業と⽇本の⼤⼿2社の間には⼤きなギャップがあるものの、⽇本の⼤⼿2社の場合、M&Aを通じたシナジー効果が明らかに利益率の改善につながっている。

[パート2]⽇本には固有のネガティブ要因があり、⽇本以外の⼤半のアジア諸国や⽶国における市場環境と対極を成している。⽇本の⼤⼿2社の収益性を⾒る際は、これらの要因を考慮する必要がある。

[パート3]グローバル⼤⼿企業についても、既存市場(セグメントや地域)における成⻑鈍化傾向が顕在化している。⽇本の⼤⼿2社は、固有のネガティブ要因を有する国内市場へのエクスポージャーが未だ⼤きいものの、新たな事業分野・地域への展開を通じ、中期的な収益創出を実現しており、将来的な成⻑余⼒を⼗分に残している。

以上を踏まえ、⽇本の⼤⼿2社は、グローバル⼤⼿企業との⽐較において、規模のメリット、すなわち利益率では劣るものの、独⾃の成⻑戦略の実践により、利益率が改善しており、収益の成⻑性ではグローバル⼤⼿企業に劣っていないと考える。

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