第7章 主要産業の動向 - jbic...11% 機械製造・ 金属加工 16% 燃料・エネル...

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79 非鉄金属 6% 化学・石油 化学 5% 林業、木材 加工、紙パ ルプ 3% 建材業 3% 軽工業 1% その他 17% 鉄鋼業 10% 食品工業 11% 機械製造・ 金属加工 16% 燃料・エネル ギー 28% (出所) ロシア連邦国家統計局、ロシアの鉱工業 2005 第7章 主要産業の動向 1.産業構造の特徴 ロシアの産業構造において主要な位置 を占めるのは、石油およびガス産業であ り、鉱工業生産の構成比に占める比率は、 28%となっている(図表1-68)。 なお、石油、石油製品、および天然ガ ス等の燃料・エネルギー商品はロシアの 主要な輸出品であり、ロシアのCIS以外 の諸国への輸出に占める割合は、常に全 体の5割超となっている。最近は石油価 格高騰により、その割合はさらに強まる 傾向にあり、2005年のロシアからのCIS 以外の諸国への財の輸出総額に占める燃 料・エネルギー商品の比率は、前年の 59.9%から66.8%に拡大している。また、 これに鉄、非鉄等の素材を加えると、ロシアの輸出総額の8割以上を占める。 機械製造・金属加工は、鉱工業生産構成比では全体の16%を占めるが、輸出に占める割合 は低く(全体の数%に過ぎない)、またその大半が軍需製品により占められていると言われて いる。 2.エネルギー産業 ロシアは世界最大級のエネルギー資源産出国であり、特に天然ガスは、確認埋蔵量、生産 量ともに、世界第1位である。2005 年末時点の天然ガスの確認埋蔵量は、1,688TCF(兆立 方フィート)で世界全体に占めるシェアは 26.6%、1日あたりの生産量も 57.9BCF10 立方フィート)と世界全体の 21.6%を占める(図表 1-69)。 石油については、2005 年末時点の確認埋蔵量は 724 億バレルで、世界に占めるシェアは 6.2%である。同埋蔵量は世界第 7 位、中東地域以外ではベネズエラに次いで第 2 位を占め ている(図表 1-70)。生産量は、サウジアラビアに次いで世界 2 位の 955 万バレル/日で、世 界に占めるシェアは 12.1%である。 図表 1-68 鉱工業生産構成比(2004 )

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Page 1: 第7章 主要産業の動向 - JBIC...11% 機械製造・ 金属加工 16% 燃料・エネル ギー 28% (出所) ロシア連邦国家統計局、ロシアの鉱工業 2005 年 第7章

79

非鉄金属6%

化学・石油化学5%

林業、木材加工、紙パルプ3%

建材業3%

軽工業1%

その他17%

鉄鋼業10% 食品工業

11%

機械製造・金属加工16%

燃料・エネルギー28%

(出所) ロシア連邦国家統計局、ロシアの鉱工業

2005年

第7章 主要産業の動向

1.産業構造の特徴

ロシアの産業構造において主要な位置

を占めるのは、石油およびガス産業であ

り、鉱工業生産の構成比に占める比率は、

28%となっている(図表1-68)。 なお、石油、石油製品、および天然ガ

ス等の燃料・エネルギー商品はロシアの

主要な輸出品であり、ロシアのCIS以外の諸国への輸出に占める割合は、常に全

体の5割超となっている。最近は石油価格高騰により、その割合はさらに強まる

傾向にあり、2005年のロシアからのCIS以外の諸国への財の輸出総額に占める燃

料・エネルギー商品の比率は、前年の

59.9%から66.8%に拡大している。また、これに鉄、非鉄等の素材を加えると、ロシアの輸出総額の8割以上を占める。 機械製造・金属加工は、鉱工業生産構成比では全体の16%を占めるが、輸出に占める割合は低く(全体の数%に過ぎない)、またその大半が軍需製品により占められていると言われて

いる。

2.エネルギー産業 ロシアは世界最大級のエネルギー資源産出国であり、特に天然ガスは、確認埋蔵量、生産

量ともに、世界第1位である。2005年末時点の天然ガスの確認埋蔵量は、1,688TCF(兆立方フィート)で世界全体に占めるシェアは 26.6%、1日あたりの生産量も 57.9BCF(10億立方フィート)と世界全体の 21.6%を占める(図表 1-69)。 石油については、2005 年末時点の確認埋蔵量は 724 億バレルで、世界に占めるシェアは

6.2%である。同埋蔵量は世界第 7 位、中東地域以外ではベネズエラに次いで第 2 位を占めている(図表 1-70)。生産量は、サウジアラビアに次いで世界 2位の 955万バレル/日で、世界に占めるシェアは 12.1%である。

図表 1-68 鉱工業生産構成比(2004年)

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図表 1-69 石油・天然ガスの確認埋蔵量(2005年末時点) (単位:石油は 10億バレル、ガスは TCF、世界シェアは%)

石油 天然ガス 国名 埋蔵量 シェア 可採年数 国名 埋蔵量 シェア 可採年数

サウジアラビア 264.2 22.0% 65.6 ロシア 1,688 26.6% 80.0 イラン 137.5 11.5% 93.0 イラン 943.9 14.9% 100年超 イラク 115.0 9.6% 100年超 カタール 910.1 14.3% 100年超 クゥエイト 101.5 8.5% 100年超 サウジアラビア 243.6 3.8% 99.3 UAE(アラブ首長国連邦)

97.8 8.1% 97.4 UAE(アラブ首長国連邦)

213.0 3.4% 100年超

ベネズエラ 79.7 6.6% 72.6 米国 192.5 3.0% 10.4 ロシア 74.4 6.2% 21.4 ナイジェリア 184.6 2.9% 100年超 カザフスタン 39.6 3.3% 79.6 アルジェリア 161.7 2.5% 52.2 リビア 39.1 3.3% 63.0 ベネズエラ 152.3 2.4% 100年超 ナイジェリア 35.9 3.0% 38.1 イラク 111.9 1.8% 100年超 (出所)BP Statisctical Review of World Energy June 2006

図表 1-70 石油・天然ガスの生産量(2005年末時点) (単位:石油は千バレル、ガスは BCF、世界シェアは%)

石油 天然ガス 国名 生産量/日 シェア 国名 生産量/日 シェア

サウジアラビア 11,035 13.5% ロシア 57.9 21.6% ロシア 9,551 12.1% 米国 49.9 19.0% 米国 6,830 8.0% カナダ 17.9 6.7% イラン 4,049 5.1% 英国 8.5 3.2% メキシコ 3,759 4.8% アルジェリア 8.5 3.2% 中国 3,627 4.6% イラン 8.4 3.1% カナダ 3,047 3.7% ノルウェー 8.2 3.1% ベネズエラ 3,007 4.0% インドネシア 7.4 2.8% ノルウェー 2,969 3.5% サウジアラビア 6.7 2.5% UAE 2,751 3.3% オランダ 6.1 2.3% (出所)BP Statisctical Review of World Energy June 2006 (1) エネルギー需給17バランス ロシアの 2004年の一次エネルギー供給量は 6億 4,153万 TOE(石油換算トン)で、エネルギー源別の内訳は石油が 1億 3,085万 TOE(全体に占める比率、20.4%)、ガスが 3億 4,656万 TOE(同 54.0%)、石炭が 1億 419万 TOE(同 16.2%)、原子力が 3,808万 TOE(同 5.9%)となっており、天然ガス依存度が高いことが分かる(図表 1-71)。 また、ロシアは、一次エネルギー国内生産の約 46%を輸出するエネルギー純輸出国であり、

2004年には、石油は国内生産量の 72.2%に当たる 3億 3,103万 TOEを、ガスも同 31.8%に当たる 1億 6,182万 TOEを輸出した。 金額ベースで見ると、2005年の原油、天然ガス、石油製品の輸出額合計は全輸出額の61.1%を占めており、エネルギー産業は連邦政府の歳入を支える大きな柱となっている。

17 一次エネルギー供給量とは、国内に供給されたエネルギーの総量であり、具体的に一次エネルギー供給を計量する際には、国内での最終エネルギー消費を賄うために利用されたエネルギーの

量などから計測する。

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図表 1-71 一次エネルギー需給バランス(2004年、単位:百万 TOE) 石油 ガス 石炭 原子力 その他 合計

国内生産 458.49 509.17 130.13 38.08 22.60 1,158.47 輸入 4.81 5.56 12.34 - - 23.77 輸出 331.03 161.82 40.22 - - 534.77 在庫変動 -1.42 -6.35 1.94 - - -5.93 総一次供給 130.85 346.56 104.19 38.08 21.86 641.53 シェア(%) 20.4 54.0 16.2 5.9 3.4 100.0

(出所)IEA, ”Energy Balances of Non-OECD Countries”,2003-2004, 2006 Edition.

ロシアでは天然ガスを利用して発電・熱供給18などを行う比率が高いため、天然ガスの純

輸出量の生産量に占める比率は石油の同比率よりも小さくなっている。ロシア政府は今後は、

天然ガス依存度を引き下げ、海外輸出量を増大させて外貨獲得することを志向しており、石

炭火力および原子力と水力による発電比率を高める方針である。

(2) 石油産業

① 石油政策

プーチン政権は 2期目に入ってから、ロシア石油産業に対する「国家管理」を強化する方針を取っている。具体的には、1999年以降にロシアの原油生産量回復に大きく貢献したユコスを政治主導で解体に追い込んだほか19、国営のロスネフチの企業規模拡大を図っている。

また、油価高騰により、高い収益を上げている石油各企業に対して課税を強化し、そこで得

られた資金をロシア経済の多様化・高度化に充当したいという意向もある。 その他、ロシアの原油輸出は欧州向けが中心であるが、原油輸出先の多様化を推進したい

考えもある。

18 加熱された水・蒸気等を導管により供給すること。 19 ユコス事件については、p8参照。ユコスは現在解体の途上にある。

BOX: ロシアのエネルギー政策 ・ ロシア連邦政府は、2003 年 8 月、エネルギー省が他の省および企業・研究機関と共同でまとめた『2020年までを対象期間とするエネルギー戦略』を承認した。同戦略には、「天然資源とエネルギー資源の効率的利用」と「経済成長と生活水準の向上を目的とするエネルギーポテンシャルの効率的利用」という2つの目的を掲げ、更に「燃料の品質向上」、「エネルギー製品の競争力強化」、「国際市場でのサービス展開」という 3つの課題を挙げている。

・ 2006 年 5 月には、プーチン大統領が「年次教書」を発表し、石油・ガス産業の上流部門(探鉱・開発・生産)に対する自信を表明し、エネルギー分野に関して 6 項目、(①精製部門における技術開発および新しい技術の適用、②エネルギー輸送部門の充実と新規市場の開拓、③原子力分野の開発、④水素および核エネルギーの開発、⑤省エネルギーの推進、⑥環境対策)を重点分野として掲げている。

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② 産業構造

石油産業については 1991年より再編成が進められており、その結果、石油の探鉱・開発・生産、精製、販売の各子会社を統括する垂直統合石油企業が順次設立された。その後、大規

模垂直統合石油企業による中小石油企業の吸収・合併を経て、2005 年 11 月時点で 10 社に集約されている(10 社は図表 1-72 参照)。なお、10 社のうち、ロスネフチとガスプロムネフチ(旧シブネフチ)20がロシア石油産業の中で国営系(国が過半ないしは 100%の株式を保有する)と位置付けられており、外資系は、TNK-BP1 社のみで21、その他は、国内独立系

企業に大別される。 1993年からは、これら垂直統合石油企業の民営化(ロシア連邦政府保有株式の売却)も進められており、2006 年 7 月に最後まで完全な国営石油企業として残っていたロスネフチの新規株式公開(IPO:Initial Public Offering)が実施され(モスクワとロンドンの証券取引所で上場)、マレーシア・ペトロナスがロスネフチの全株式の 10%、英国 BP が同 9%、中国 CNPCが同 5%の株式を取得した。 ロシアの垂直統合石油企業は自社が生産した原油を輸出する場合、国営の原油パイプライ

ン運営企業トランスネフチ22から原油輸出量の割当の認可を受ける必要がある。 ③ 原油の生産動向

ロシアの原油生産量は緩やかに拡大している。主要垂直統合企業別原油生産量を見ると、

2005年の原油生産量は、ルクオイルが 8,780万トンで第 1位、TNK-BPが 7,530万トンで第 2位、ロスネフチが 7,440万トンで第 3位、スルグートネフチェガスが 6,390万トンで第4位となった(図表 1-72)。上位 3社でロシアの原油生産量のシェアの半分を占めている。

図表 1-72 会社別原油生産量 (単位:百万トン、%)

2000年 2001年 2002年 2003年 2004年 2005年 シェア ルクオイル 62.2 62.9 75.5 78.9 84.1 87.8 18.7 TNK-BP 28.6 40.6 37.5 61.6 70.3 75.3 16.0 ロスネフチ 13.5 14.9 16.1 19.6 21.6 74.4 15.8 スルグートネフチェガス 40.6 44.0 49.1 54 59.6 63.9 13.6 ガスプロムネフチ 17.2 20.6 26.3 31.4 34.0 3.03 7.0 タトネフチ 24.3 24.6 24.6 24.7 25.1 25.3 5.4 ユコス 49.8 58.1 69.3 80.7 85.7 24.5 5.2 スラブネフチ 12.3 14.9 14.7 18.1 22 24.2 5.1 ルスオイル - - - 2.0 6.6 12.2 2.6 バシネフチ 11.9 11.9 12 12 12.1 11.9 2.5

20 2005年 9月、ガスプロムはシブネフチの全株式の 72.7%を 131億ドルで買収し、石油分野への本格的な進出を果たした。 21 2003年 8月、チュメニ・オイルと BPの折半出資により新会社「TNK-BP」が設立され、同社はシダンコを実質的に子会社化している。 22原油パイプライン運営企業トランスネフチおよび石油製品パイプライン運営企業トランスネフチェプロダクトはロシア連邦政府が全株式を保有する国営企業である。

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その他 62.9 55.5 54.4 38.4 37.8 37.4 8.0 うちガスプロム関係会社 10.0 10.2 10.8 11.0 12.0 12.8 2.7 ロシア全体 323.2 348.1 379.6 421.3 458.8 470.0 100.0 垂統企業の比率(%) 50.1 52.6 53.9 58.3 58.7 71.2 -

(出所)The Almanac of Russian and Caspian Petroleum:2006 Edition, Energy Intelligence Group.

ロシアの主な原油生産地は西シベリア、ヴォルガ・ウラル地域などであるが、今後は北極

圏や東シベリア・極東などでの開発がロシアの原油増産に貢献していくといわれている。し

かしながら、これらの地域は環境が厳しく、インフラが未整備であるため探鉱・開発・生産・

輸送コストはいずれも従来の西シベリア開発よりも高コストになると予想されている。 なお、「2020 年までを対象期間とするエネルギー戦略」によれば、石油の生産は 2000 年から 2010 年まではかなり大幅な増産(楽観シナリオで 10 年間で 51.2%、堅調シナリオで同 37.3%の伸び)となるが、それ以降 2020年にかけては緩やかな伸びが想定され、楽観シナリオで 10年間で 6.1%増とされている。堅調シナリオでは 2010年から 2015年にかけての増産は 5年間で 1.1%増とされており、2015年から 2020年にかけて増産は見込まれていない。

④ 原油の輸出動向

国別の石油輸出状況をみると、CISではベラルーシが多く、CIS以外では、ドイツとイタリア向けが多かったが、近年はオランダ向けが最大となっており、ポーランドを合わせた 4カ国でロシアからの原油輸出量全体の 5割程度を占める。なお、輸出量全体に占めるシェアは欧州向けが拡大する一方で CIS向けは縮小する傾向がみられる。

図表 1-73 仕向け地別輸出量 (単位:100万トン)

2001 2002 2003 2004 2005 シェア CIS 23.6 32.9 37.1 40.1 38.0 15.1 ウクライナ 9.4 16.2 19.5 19.1 14.8 5.9 ベラルーシ 11.8 14.0 14.9 17.8 19.3 7.6 欧州 - - - - - - オランダ 7.91 16.11 22.06 35.56 40.69 16.1 イタリア 20.84 19.90 21.15 25.56 28.92 11.5 ドイツ 20.59 20.85 25.18 29.40 27.39 10.9 ポーランド 18.14 16.01 16.4 17.16 17.48 6.9 全体 160.65 187.67 223.54 257.41 252.44 100.0

(出所)ロシア通関統計(各年版)

⑤ 石油製品の生産動向

ロシアの国内石油製品生産量は、2000年から 2004年にかけて増加しているものの、2000年の石油製品別シェアと 2004 年のシェアに殆ど変化がみられておらず、ロシア国内における精製設備の高度化や 2次装置の設置などはあまり進んでいないと見られている。

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2006年 1月 1日現在、ロシアには 41の製油所があるが、多くの製油所が老朽化しており、精製設備の高度化が課題となっている。

図表 1-74 石油製品別生産量の推移 (単位:千 TOE)

シェア

2000年 2001年 2002年 2003年 2004年 2000年 2004年

ガソリン 29.1 29.6 31 31.4 32.7 16.3 16.7 軽油 51 51.9 54.6 55.8 57.3 28.6 29.3 ジェット燃料・灯油 9.4 9.6 10 10.1 10.3 5.3 5.3 重油 51.2 53.3 56.5 54.1 56 28.8 28.6 LPG 8.2 8.9 8.6 9.7 9.9 4.7 5.1 その他 29.1 28.7 27.9 28.4 29.5 16.3 15.1 合計 178 182.1 188.6 189.6 195.7 100 100

(出所)IEA, Energy balance of non-OECD Countries 2003-2004. 2006 Edition データベース.

⑥ 主な石油開発プロジェクトの最近の動向

● チマン・ペチョラ油田開発 2004年 10月、コノコフィリップスはロシア政府が保有していたルクオイルの株式全て(同社全株式の 7.6%に相当)を 20億ドルで買収した。また、2005年 5月にコノコフィリップスはルクオイルと合弁でチマン・ペチョラの油田開発を推進する意向を表明した。なお、コ

ノコフィリップスはルクオイルの株式保有比率を当初の 7.6%から 20%まで引き上げる予定である。

● 東シベリア原油パイプライン

2005 年 4 月、ロシアの産業・エネルギー省は東シベリア原油パイプラインに関してタイシェットからスコヴォロディーノまでの第一フェーズの建設を 2008 年までに完了する旨の指令書を出した。第一フェーズには 65 億ドルの建設費が見込まれているが、トランスネフチは石油生産企業に対する原油パイプライン使用料金を 7~8%引き上げて、全額を自社の自己資金で賄う方針である。同パイプラインの第一フェーズ完成後、中国および太平洋向けに

鉄道による原油輸出が計画されている。2006 年 4 月、トランスネフチは東シベリア原油パイプライン第一フェーズ(タイシェットからスコヴォロディーノまで)の建設に着手した。

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(3) 天然ガスセクター ① 天然ガス政策 ロシアは、中央アジア諸国から安価なガスを輸入してロシア国内用に供給し、ロシア国内

で生産される天然ガスを欧州などに国際価格で輸出することで外貨を稼いできた。しかしな

がら、近年、トルクメニスタンがロシア向けガス輸出価格の値上げを要求するなど、状況が

変化してきていることから、ロシアも国内ガス価格制度の大きな見直しを行う必要に迫られ

ている。 なお、ロシアの天然ガスセクターをほぼ独占するガスプロムによる輸出は、パイプライン

による欧州向けが中心となっているが、今後は天然ガス輸出先の多様化および LNG の導入などを推進したい意向がある。 ② 産業構造 ● 上流部門 ガスプロム(ロシア政府はガスプロム全株式の 50%+1株を保有する筆頭株主23)がロシ

ア国内の天然ガスの探鉱、開発、生産、輸送、輸出、卸売をほぼ独占的に行っており、その

天然ガス生産量はロシア全体の約 85%を占めている。ガスプロムの他にイテラ、ノヴァテック、ノルトガスといった独立系ガス企業も天然ガスの生産を行っているものの、独立系ガス

企業は、ロシア全体の天然ガス生産量の約 5%のシェアを占めるに過ぎない。 ● 輸送販売部門 ガスプロムは国内輸送、国内販売(卸売り

段階まで)、輸出においてもほぼ独占状態にあ

り、2005年、ロシア政府はガスプロムをロシア国内の全てのガス輸出を担う事業者として

位置づけると発表した。 ロシアの天然ガスパイプライン網は、1960年代以降カスピ海周辺のガス開発から西シベ

リアの石油ガス開発へと生産地が移動するの

に伴い整備が進められ、周辺地域におけるガ

ス利用も促進されてきた。大規模な天然ガス

生産が行われている西シベリア以西を中心に

ガスパイプライン網は既に整備されている。

23 従来、外国企業によるガスプロム株式の保有比率は外国企業全体で 20%未満に制限されていたが、2005年 12月、ロシア下院はこの外国企業によるガスプロム株式保有制限に関する法律の撤廃を可決した。

北部パイプライン

(出所)ガスプロムホームページ

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図表 1-75 ロシアのガスパイプライン網

(出所) INCOTEC

東シベリアや極東ロシアでは、サハ(Sakha)共和国の首都ヤクーツク(Yakutsk)周辺、サハリンの北方オハ(Okha)地域、アムール(Amur)川流域のコムソモルスク・ナ・アムーレ(Komsomolsk-na-Amur)にガスパイプライン網が整備されている。また、サハリンからハバロフスク(Khabarovsk)までのパイプラインが 2005年に開通したが、西シベリア以西の地域と比べて東シベリア、極東のガス輸送インフラの整備は遅れている。そのため、ロ

シア政府は石油ガス開発と東シベリア・極東の社会インフラ整備、経済発展を長年の課題と

して抱えている。なお、ガスプロムは東シベリアにおけるガスパイプライン網を整備し、西

シベリアにおけるネットワークと接続させ、全ロシアのパイプライン網を完成させる計画を

持っている。また、同社の優先投資事業はガス輸送インフラ整備であり、輸送ロスの改善に

今後積極的に取り組んでいく方針である。 独立系ガス企業はガスプロムが独占的に管理している国内ガスパイプラインへのアクセス

を要求することができるが、ガスプロムはパイプラインの物理的な輸送能力の制約を理由に、

独立系ガス企業からのパイプラインへのアクセスの要求を拒否できる。なお、独立系ガス企

業は、ロシア連邦政府が決定した「規制価格(ガスプロムはこれに完全に拘束される)」より

最高 20%まで高い価格で卸売りを行なうことができる。

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③ 生産動向

ロシアの天然ガス生産量は、2000 年の 583.7bcm から 2005 年の 640.6bcm へと年平均1.9%増加してきたものの、同期間の原油生産量の伸び(年平均 7.8%増)に比較すると、天然ガス生産量の増加は緩やかであった。同期間のガスプロムの生産量は 523.1bcm から

547.9bcmへと年平均 0.9%増加し、独立系ガス企業は 27.9bcmから 44bcmへ年平均 9.5%増加し、石油企業などのその他企業は 32.7bcmから 48.9bcmへ年平均 8.4%増加してきた。2000年時点ではガスプロムは国内天然ガス生産量の 89.6%を生産していたが、2005年ではその比率は 85.5%まで縮小しており、他方で独立系企業ならびにその他石油企業などによる天然ガス生産の比率が拡大している。

図表 1-76 企業別ガス生産量の推移 (単位:bcm) 2000年 2001年 2002年 2003年 2004年 2005年

ガスプロム 523.1 512 521.9 540.2 545.1 547.9 独立系ガス企業 27.9 31.5 37.1 35.8 44.3 44.0 その他 32.7 32.3 34.6 40.4 44.9 48.9 合計 583.7 581.4 594.9 616.4 616.5 640.6 ガスプロムのシェア 89.6 88.1 87.7 87.60 88.4 85.5

(出所)The Almanac of Russian and Caspian Petroleum:2004 Edition, Energy Intelligence Group. ロシアの天然ガス生産の大部分は、西シベリアのヤマル・ネネツ自治管区で生産されてい

るが、近年は主力生産地であるウレンゴイ(Urengoy)、ヤンブルグ(Yamburg)、メドヴェジェ(Medvezhye)の 3大ガス田の枯渇が進んでおり、ガス生産量の増加率は伸び悩んでいる。ガス生産量の減少傾向を食い止めるために、既存ガス田の深部にある古い地層の開発、

あるいはヤマル半島などロシア国内で新規ガス田を開発が求められるが、ヤマル半島の場合、

永久凍土帯に入ることから、抗井掘削、地表設備建設において、設備の維持作業に多くの困

難が生じ、ガスの開発コストは$40/千立米($1.11/MMBtu)にも達するとされている24。ま

た、これらのヤマル半島から既存パイプランに接続するには、新たに長距離パイプラインを

敷設する必要があるなど、課題が多い。

図表 1-77 主要なガス開発プロジェクト

ガス田/鉱区名 確認埋蔵量(10bcm) 生産量 Urengoy 29,000 (2004) N.A Yamburg N.A N.A. Madvezh’ye N.A. N.A. Zapolyarnoye N.A. 100(2005 年

初め) Sakhalin-2(Piltum-Astokhskoye, Lunskoye)

507(ガス)、10億バレル(石油) 70,000バレル/日(石油)

Sakhalin-4(West 89 N.A

24 本村真澄、石油大国ロシアの復活、アジア経済研究所、2005年、194ページ

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Schmidtovsky, Astrakhanovsky) Kovykta 1,900(ガス)、5億バレル(石油) N.A. Talakanskoye 47(ガス)、8.3億バレル(石油) N.A. Chayandinskoye 1,220(ガス)、35億バレル(石油) N.A Shtokmanovskoye 3,300(ガス)、2.3 億バレル(コンデン

セート) N.A.

(出所) World Markets Research Center, Country Report-Russia(Energy), Oil & Gas: Upstream(2006年9月 19日データ更新分)

長期の天然ガス生産見通しについては、石油ほどの大きな伸びは想定されておらず、上記

エネルギー戦略の堅調シナリオでは、2000年に比べて 2010年は 8.7%増、2015年で 13.0%増、2020年で 16.4%増と見込まれている。また、楽観シナリオでも同 13.9%、20.7%、25.0%と控えめである。 ④ ガス輸出動向

2000 年以降、ロシアは CIS 向けの輸出量を減少させ、欧州向け輸出量を増加させる政策をとったが、最近は CIS向けも回復し、輸出量全体が増加している25。 ロシアからの天然ガス輸出はパイプラインによって行われており、2006年12月現在、LNG輸出は行なわれていないものの、近年、ガスプロムは LNG 事業への参入に強い関心を示しており、LNG 開発プロジェクトに関して西側の石油・ガス企業から複数のオファーを受けている。2005年 8月には、ガスプロムは英国子会社 Gazprom Marketing and Tradingを経由して、米国向けに初の LNGを輸出することを発表した。同社はシェル(Shell)および英BGと LNGの米国向け輸出契約を締結し、2006年 8月には日本向けに LNGを輸出した。

図表 1-78 ロシアからの天然ガス輸出量 (単位:bcm)

欧州 フランス ドイツ イタリア トルコ

CIS 合 計

2002年 128.6 11.4 31.5 19.3 11.8 42.3 170.9 2005年 156.1 13.2 36.0 22.0 18.0 76.6 232.7

(出所)ガスプロム年報各号

⑤ 主な天然ガス開発プロジェクトの最近の動向 ● サハリン開発

2006年 8月、ロシアの天然資源省はロシア連邦政府が 2003年に出したサハリン 2の環境F/Sの国家承認の取り消しを求めて提訴する方針を発表。2006年 12月に、シェル、三井物産、三菱商事はガスプロムにサハリン 2権益の 50%+1株を譲渡することでガスプロムと合意した。譲渡後のシェル、三井物産、三菱商事の保有株式は半分になり、全体での保有比率

25ガスプロムは欧州諸国等へのガス輸出契約の当事者として各国と契約を行っている。

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はそれぞれ 27.5%、12.5%、10%となる。この権益売却によって、今まで外資のみの国際コンソーシアムが開発・生産を進めてきたサハリン 2プロジェクトにロシア国営企業ガスプロムが参入することになった。

● コヴィクタ・ガス田開発 2004年 2月、イルクーツク州政府はコヴィクタ・ガス田の保有権益 11.24%を売却する方針を発表した(現在、TNK-BP が同ガス田の権益の過半数を保有)。ガスプロムが同ガス田の権益取得を目指して、TNK-BPおよびイルクーツク州政府側と交渉を続けているが、イルクーツク州政府が保有していた権益を獲得することになるかどうか現段階では未定である。

● ザパリャルノエ・ガス田開発

2005年 7月、ガスプロムとシェルはお互いが保有する天然ガス権益の交換取引に合意し、ガスプロムが西シベリアのザパリャルノエ・ガス田の権益 50%をシェルに譲渡する引き換えに、シェルが保有するサハリン 2の権益 55%のうち 25%を取得することになっていた。しかし、その後シェルがサハリン 2の開発コストが当初予定額の 2倍に膨らんだことを発表したことから、ガスプロムは交換する予定の資産を再評価する必要があるとして保留し、ガス

プロムとシェルのザパリャルノエ権益に関する取引は事実上消滅したものと考えられる。 ● 中露ガスパイプライン・プロジェクト

2005 年 12 月、ガスプロムは中国 CNPC との間で中国向け天然ガス輸出計画に関する正式交渉を開始した。

● 北欧ガスパイプライン・プロジェクト

2005年 12月にガスプロムはロシアのバルト海沿岸都市ヴィボルグからバルト海海底を通過してドイツ北東部のバルト海沿岸都市フレイスヴァルドに至る「北欧ガスパイプライン

(North European Gas Pipeline)」の建設を開始した。同パイプラインの第一フェーズの輸送能力は 275億立米/年で 2010年の稼動開始を目標としている。第二フェーズでは 2013年に輸送能力を 550億立米/年まで増強する予定である。総投資予定額は約 47億米ドルで、同パイプラインの建設・運営コンソーシアムにはガスプロムが 51%、そして、ドイツの BASFおよびエーオン・ルアガスがそれぞれ 24.5%ずつ出資している。

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3.自動車産業

(1) 生産動向

ロシアの乗用車メーカーは、純国産メーカーと外国車の生産を行っているメーカーの2つのタイプに大別されるが、以下に、それぞれのメーカーの現状を紹介する。 ① 純国産メーカー

純国産車の技術水準は、約10~40年前のレベルといわれており、価格の安さが主要なセールスポイントといわれている。しかしながら、2005年の原材料価格の高騰を背景に多くの純国産メーカーが乗用車価格の大幅な値上げを行い(純国産車の平均価格は1年間で11%上昇)、乗用車価格引き上げは販売戦略において大きな影響を与え、多くの純国産メーカーは販

売不振に苦しみ、在庫調整のための減産を余儀なくされた。 純国産メーカーの中では最も技術レベルが高いといわれるAvtoVAZ(ヴォルガ自動車工場)の場合であっても、2005年前半は値上げを主因とする深刻な販売不振に直面した。

AvtoVAZを含むすべての純国産メーカーにおいて、技術力の低さが競争力低下要因であることは否定し難い事実であり、各メーカーとも生き残りをかけた企業戦略の抜本的な見直し

を迫られている状況である。主要メーカーの中には、外国車のアセンブラーとして生き残る

道を選択しているところもあり26、。また、AvtoVAZも、生産車種の抜本的な見直しを検討しているものの、純国産メーカーの苦戦は当面続くと予想されている。

図表1-79 純国産車の生産状況

(単位 台)

2004 2005 増加率(%)

AvtoVAZ GAZ(純国産車のみ) ZMA(純国産車のみ) UAZ UAZ特殊車両 SeAZ IzhAvto(純国産車のみ) ロスラーダ ブロント デラウエイ ラーダ・トゥール スーペル・アフト

717,98565,87041,35831,136-

19,00082,09517,683

675164688427

721,49251,59630,25829,141

15612,95242,59022,143

30313236121

0.5 ▲21.7 ▲26.9 ▲6.4 -

▲31.2 ▲48.1

25.2 ▲55.1 ▲19.5 ▲47.5 ▲95

合 計 977,081 911,145 ▲6.7 (出所)ASMホールディング

26 IzhAvtoやセヴェルスターリ・アフト傘下の ZMAなど。

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② 外国車生産メーカーの生産状況

ロシアでは、既にGMが合弁企業(GM-AvtoVAZ)を設立し現地生産を行っている他、ルノーやフォードも現地生産を行っている。さらに、GAZ(インド車)、TagAZ(韓国の現代車)、IzhAvto(韓国の起亜車)、AvtoTOR(韓国の起亜車、BMW車等)といったロシア資本の企業が自社工場で外国車の生産を行うケースもある。

2005年は輸入新車の販売台数が大幅に伸びたのに対し、ロシアで現地生産される外国車の生産

台数は、前年比18.2%増とやや伸び悩んだ。その背景には、①GM-AvtoVAZの主力モデルであるシボレーNIVA(写真右)の販売不振、②フォードの工場の生産能力(年産約3万台)の限界、③韓国での自動車メーカーのストの影響を受け

TagAZでの現代車の生産台数が予定を下回ったこと等が考えられるものの、GM-AvtoVAZの問題を除いては、一時的な要因に拠るものであり、外

国車生産台数の中長期的な伸び率の低下を示すも

のではない27。 むしろ、アフトフラモス(ルノー)でのロガン(写

真右)の生産も今後本格化する予定となっているな

ど、多くの外国メーカーがロシアでの現地生産を決

定もしくは検討しており、将来的にロシアでの外国

車の生産台数は大幅に拡大することが予想される状

況である。 上記案件に加えて、新規の外国車現地生産プロジ

ェクトが浮上しており、最も具体化しているのは、サンクトペテルブルグ郊外におけるトヨ

タの現地生産プロジェクトである。トヨタは、2007年末からのカムリを年間2万5,000台生産(当初計画)する予定であるが、将来的には年産5万台まで拡大する予定である。 また、日産も2006年春にロシアでの現地生産の意向を表明、現地工場はトヨタと同じサンクトペテルブルグ市(同市北西部のカメンカ)に建設される予定で(トヨタの工場は同市南

部のシュシャーリで建設中)、年間生産能力は5万台が見込まれている。 その他、いすゞ自動車もロシアの自動車メーカー(セベルスタリ・アフト社)と業務提携し、

ロシア西部ヴォルガエリアのウリヤノフスクで小型トラックの現地生産を行うことを正式に

発表しているほか、三菱自動車、スズキ自動車もロシアへの進出を発表するなど、日系大手

自動車メーカーが相次いでロシアでの現地生産を発表している。 27 フォードの工場は、年産6万台体制に既に増強済みで、TagAZでも 2006年は大幅な増産が予定されている。

写真上:シボレーNIVA(出所)http://niva.avto-city.ru/

写真下:ルノーロガン(出所)Wikipedia

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欧米系では、VWやGMも(合弁企業とは異なる)、現地工場を建設する意向を表明しているが、これらの外国企業はいずれも、「工業アセンブリー用部品の輸入関税引き下げ措置(詳

細以下BOX参照)」という、一定の条件を満たした自動車工場もしくは自動車部品工場に部品あるいは原料の輸入関税上の特典を供与することを規定した特恵関税制度の適用を受けた

上で、現地生産を開始する予定となっている。

図表1-80 ロシア国内での外国車の生産状況 (単位 台)

2004 2005 増加率(%)

GAZ(インド車を生産) AvtoTOR(複数の外国車を生産) GM-AvtoVAZ(シボレー) TagAZ(現代) アフトフラモス(ルノー) フォード・ロシア IzhAvto(起亜) ZMA(双竜)

-14,32657,70430,000

47729,700

592-

9016,22351,81942,45110,24633,0383,031

22

-13.2

▲10.241.5

約21倍11.2

約5倍-

合 計 132,799 156,920 18.2(出所)ASMホールディング

BOX:工業アセンブリー用部品の輸入関税引き下げ措置について 2005 年3月 29 日付けロシア連邦政府決定第 166 号「ロシア連邦関税率の工業アセンブリー用に輸入される自動車部品の部分の変更について」:

この政府決定第 166号は、一定の条件(「工業用アセンブリー」の認定に必要な条件)を満たした工場(ロシア資本、外資の別は問われないようである)には、部品の輸入関税上の特典を供与するという主旨の文書である。 工業アセンブリー措置に従い、部品・ユニットの輸入関税上の特典を得るための主な条件としては、以下の点が挙げられている。 ・2交代制で生産能力2万 5,000台/年の複数の生産プロセスを整えた生産工場を用意すること。・ブラウンフィールド方式の工場(稼働中の工場を改修する場合)の場合は協定発効後 18ヶ月以内で、グリーンフィールド方式の工場(更地から新たに建設する場合)の場合は、30 ヶ月以内に、溶接、塗装、組み立ての各ラインの設置を終了し、それらのラインを使用して生産を開始すること(これら3つのラインが整備されるまでも生産は行なわれ、輸入関税上の特典は供与されるが、その内容は各投資家とロシア政府側で締結される協定の中で規定される模様)。・上記3つのラインを整備して生産を開始してから 24ヶ月以内に特典を受けて輸入する部品の量を製品総額(車体の価格を除外する)の 10%以上削減する。さらに、42 ヶ月以内と 54 ヶ月以内に、それぞれさらに 10%ずつ削減しなければならない。

なお、協定の有効期間(特典を得られる期間)は、以下のとおりである。 ・ブラウンフィールドの場合は最大7年間。 ・グリーンフィールドの場合は最大8年間。 但し、協定の発効とはどの時点のことを指すのか不明確であり(セミノックダウン(以下、

SKD)を開始した時点と考えるのが妥当かと思われる)、例えば、グリーンフィールドの場合、とりあえず組み立てラインだけを整備しとりあえず SKDを開始し、その後、30ヶ月以内に溶接、塗装の各ラインを導入するといった方法も可能かと判断される。

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モスクワのトヨタショールーム

(2) 市場動向

ロシアの新車市場は、①純国産車、②

外国新車(国内でアセンブリーされる外

国車+輸入新車)、③輸入中古車の3つのカテゴリーに大別される28。

2005年の新車販売台数は前年比約9%増の177万台に達し、中でも最も販売台数が多いのは純国産車(全体の47.5%を占める)であるが、2005年の販売台数は前年比マイナス5%と伸び率は低迷して

いる。他方で、外国新車の販売台数は前

年比で約50%増加し60万台を超え、全体に占めるシェアも34.7%に達している。なお、外国新車のうち、約45万台が輸入新車であり(輸入新車の約7割)、輸入中古車の販売台数は、ほぼ前年並みで31万台であった(図表1-81)。 外国新車販売台数が伸びている背景には、ロシア経済が好調でロシアのユーザーの購買力

が全般的に上昇しているのに加え、割賦販売制度(オートローン)が急激に普及してきたことがある。今後も純国産車の販売台数が低迷し、外国新車の販売台数が大幅に伸びるという傾

向は当面続くとみられている。

図表1-81 ロシアの乗用車市場の規模(台数ベース)(単位 1,000台)

(出所)『エクスペルト』誌(2006.2.6-12) 外国新車の中では、特に日本車と韓国車の人気が高く(図表1-82)、韓国車はリーズナブル

な価格設定が支持されている。日本車は最も価格の安いモデルでも最低1万5,000ドルと全般的に価格水準は高いものの、その品質の高さが売り上げの好調さにつながっている。 日本メーカーの中では、トヨタと三菱の人気が高いが、最近、日産とマツダも急激に販売

台数を伸ばしている。モデルでは、三菱のランサー、トヨタのカローラ、カムリ、日産のア

ルメーラ、マツダ3等の人気が非常に高い。なお、ロシアでは軽乗用車の人気は低く、同国の市場に軽乗用車を本格的に投下している外国メーカーは少ない。

28 輸入中古車が新車販売台数に含まれるのは奇異に思われるが、ロシアの調査機関の中には、「その年にロシアの乗用車市場に新たに出現した車」という意味で輸入中古車も「新車」として扱うところが多いのである。

カテゴリー 2003 2004 2005 %

純国産車 外国新車 輸入中古車

870 218 400

882 409 318

841 614 312

47.6 34.7 17.6

合 計 1,488 1,609 1,767 100.0

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図表1-82 2005年の外国メーカー別販売台数

メーカー名 2005年販売台数 (台)

2004年販売台数 (台)

増加率 (%)

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10

現代 トヨタ フォード 三菱 大宇 日産 ルノー 起亜 マツダ シボレー

87,457 60,638 60,654 55,148 48,623 46,485 29,177 24,671 21,120 20,481

50,686 43,867 39,241 30,097 28,434 18,759 19,119 18,042 9,153 8,866

73 38 54 83 37 63 56 37 131 131

(出所)Gazeta.ru、2005.1.23

BOX: ロシアにおける自動車の現地生産 ~主要メーカーの戦略~ ・ わが国を含め、欧米諸国のロシアでの自動車の現地生産が急増しているが、企業が現地生

産に踏み切る理由は、大まかにいって、以下の2点に集約されるといえる。 ① ロシアは、急成長を遂げつつある BRICs の他の諸国と同様、今後も国民の購買力が拡大し続けると予想される巨大市場であり、将来への足場を築いておきたい。

② 関税支払い・輸送コスト上の節約、税制上や輸入組立部品の輸入関税上の優遇措置の適用が期待できる。 また、ロシアがWTOに加盟すれば、個別の優遇措置は適用されないため、こうしたことも外国自動車メーカーのロシアでの現地生産への駆け込み的進出を加速させている一因と考えられる。

・ 実際のロシアでの現地生産に関しては、当初の生産目標を年間約2~3万台前後という低い数値に設定し、その後、市場動向を見て増産していくというパターンが多く見られる。これは、ロシアでは部品の現地調達が困難なため、同国の工場を完成車の輸出拠点として位置づけることは難しく、もっぱらロシアを販売市場として位置づけているためだと推測される。

・ 現地生産される車種は、現在の国民の購買力水準に見合った小売価格 1.5万ドル程度の車が太宗を占めるが、わが国の自動車メーカーとして一番早く現地生産を決定したトヨタの場合は(車種はカムリ、当初年産 2万台予定、価格帯は 3万ドル程度)、ロシアの富裕層を販売ターゲットにする予定といわれており、これは競合する車が比較的少なく、安定した販売が見込め、利益率も高いことによるものである。

・ ロシアでの現地生産の問題点としては、やはり自動車関連産業の裾野が狭いため部品の現地調達が困難で、調達に関しコスト高になり、またジャストインタイム方式が実施できないことである。現地生産自動車の組立部品の輸入関税優遇措置についても、ローカルコンテンツ率(現地調達率)を引き上げることが前提条件となっており、条件がクリアーされない場合、優遇措置が撤回される恐れがあり、今後、進出企業は本国の下請け企業の現地参入も含め、現地での自動車関連産業の育成という問題に直面することになる。

・ インフラの未整備、発展途上国と比べて相対的に高い労働コスト、法整備の不備や適用の非透明性など必ずしもロシアの投資環境は良好とは言えないが、外国自動車メーカーのロシアでの現地生産が一向に衰えを見せないどころか増加しつあるのは、デメリットを補っても余りある現在のロシア国民の購買力の大きさにあると思われる。

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4.家電産業

ロシアの家電市場において日本メーカーは一定のプレゼンスを確保しているものの、白物

家電部門におけるプレゼンスは非常に低く、専らAV家電部門(特にテレビ市場)が日本企業にとっての主要な市場となっている。 ロシアでは、テレビ番組を録画する習慣が余りなく、日本メーカーが得意とする高付加価

値の録画機能付DVDプレーヤーの売行きも低迷していることから、ここではテレビの生産動向と市場の状況を中心に紹介する。 (1) 生産動向

ロシアでは、経済の好調さを背景とした消費者の購買力の上昇に加え、カリーニングラー

ドという特別経済区のステイタスを有するロシアの飛び地に所在する複数のロシア資本の工

場で、外国ブランドのテレビが生産されるケースが増加している(2004年の実績では、ロシアで生産されたテレビの約60%が外国ブランドであった)。ロシアのテレビの生産量は急増傾向にあり、2003年の240万台から、2004年には450万台、更に2005年には680万に達した。 カリーニングラードはロシア連邦を構成する構成主体(州)のひとつであるが、地政学上

重要な意味を持つ飛び地であり、州全体が保税地域としてのステイタスを保有している。し

かも、カリーニングラードの場合は、部品を輸入して完成品にすることにより一定の付加価

値をつけることが出来れば、その完成品を無関税で国内貨物にすることが可能になっている

ため、カリーニングラードで組み立てられた家電製品も、ほぼ例外なく無関税で国内貨物に

することが可能になっている。このシステムを利用して、今後も複数の日本メーカーがカリ

ーニングラードの工場に薄型テレビの組み立てを委託する予定となっている。 なお、カリーニングラードの工場に限らず、ロシアのテレビ工場では、部品を完成度の高

いキットの形で輸入し、簡単な組み立てを行なうという方式が一般的になっている。この分

野のロシアの部品メーカーの技術レベルは低いため、AV家電においてはブラウン管や電子部品を国内で調達することは困難である。冷蔵庫についてもコンプレッサーは通常輸入に依存

している。 カリーニングラード以外では、ヴォロネジやノヴゴロドの工場で外国ブランドのテレビが

組み立てられているほか、トルコのVestelがロシア国内に自社工場を保有している。その他、韓国のLGが2006年9月に、TVの他、ホームシアター、冷蔵庫、洗濯機を生産する工場をモスクワ郊外でオープンしている。 (2) 市場規模

2003年におけるロシアのテレビ販売台数は360万台、2004年は650万台と急速に拡大していることが分かる29。2004年には、全体の32%が輸入品で、68%がロシア国内で生産された

29 ロシアの調査機関「エクスペルト」社による。

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図表1-83 2003~2004年のテレビ市場のブランド別シェア

(単位 %)

ブランド 2003 2004 変動 (ポイント)

Samsung(韓国) LG(韓国) Thomson(英国) Philips(オランダ) Rolsen(韓ロ合弁) JVC(日本) Vestel(トルコ) Polar(ロシア) Panasonic(日本) Sanyo(日本) Rubin(ロシア) Sokol(ロシア) Sony(日本) Akai(日本) その他

18.6 14.1 10.0 6.4 6.7 6.5 0.2 4.9 4.3 2.1 8.9 4.7 4.0 0.0 8.6

16.6 10.3 8.0 7.4 7.1 6.4 5.7 5.7 5.1 4.5 4.4 4.1 4.0 1.0 9.7

▲2.0 ▲3.8 ▲2.0 1.0 0.4 ▲0.1 5.5 0.8 0.8 2.4 ▲4.5 ▲0.6 0.0 1.0 1.1

(出所)TPK「Bytovaya elektronika“Sokol”」

ものである。 主要メーカー別の市場シェアは図表1-83のとおりであるが、若干伸び率は鈍化してはいる

ものの、SamsungとLGの韓国勢が全体に占めるシェアは大きい(2社併せて全体の27%)。 日本勢も一定のプレゼンスを維持しているが、全般的にシェアは伸び悩み傾向が見られる。

しかしながら、今後は松下電器など複数の日本メーカーがカリーニングラードでの薄型テレ

ビの委託生産を開始するため、日本メーカーのシェアが増大する可能性は高い30。 なお、Rolsen、Polar、Rubin、Sokol等は国産ブランドであるが、これらブランドのテレビも部品はすべて輸入に依存している。

5.製鉄業

(1) 粗鋼生産量

ソ連解体後から1994年までの間に、内需の激減を背景として、ロシアの粗鋼生産量は急激に減少したが、大手鉄鋼メーカーは価格競争力を武器に国際市場に積極的に進出、好調な輸

30 松下電器産業(以下、松下)は、2007年夏からロシアで年間三十万台弱プラズマテレビを生産する計画を発表。基幹部品であるパネルを日本から送り、現地メーカーに組み立てを委託する。場所はロシア西部の飛び地で、委託生産企業が集積するカリーニングラード市が有力である。松下は昨年からロシアで中型の液晶テレビを生産しているが、37型以上の大画面のプラズマテレビも生産することで、現地で26型から50型までの多様な画面サイズをそろえることとなる。 これまでロシア向けのプラズマテレビは、欧州向け拠点であるチェコ工場から完成品を輸出していたが、ロシアのAV(音響・映像)機器市場は 2006年に約 51億ドルで、前年比 2割増と好調なため、現地生産に切り替えて、需要に即応できる供給体制を整える予定。完成品にかかる関税負担を軽減する狙いもある。(2007年 2月 28日付日本経済新聞朝刊より抜粋)

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出に支えられる形で徐々に生産が安定した(図表1-84)。 その後は、内需のさらなる減退およびルーブルの高値安定による輸出効率の低下等の要因

があり、1998年には生産が再び激減し、ソ連解体後最低の水準を記録したものの、ルーブル・レートの大幅低下で輸出効率が大幅に改善されたことに加え、1999年後半からの石油価格の高騰に支えられた内需の回復傾向や国際市況の好転といった要因もあり、2000年には記録的な増産を記録した。

2001年は国際市況が低迷したため、生産が伸び悩んだが、2002年後半ごろより国際市況が大幅に改善されたこともあり、2003年のロシアの粗鋼生産量はほぼ10年ぶりに6,000万tの大台を回復した。2004年以降は輸出の好調さに加え、内需も順調に推移するようになり、さらに生産量が増加している。

図表1-84 ロシアの粗鋼生産量の推移

(単位 100万t) 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 77.1 67.0 58.3 48.8 51.6 49.3 48.4 43.8 51.5 59.1 59.0 59.9 62.8 65.6 66.2 (出所)ロシア連邦統計庁

図表1-85 主要企業別の粗鋼生産量の推移 (単位 1,000t)

2003 2004 2005 ロシア全体 セヴェルスターリ マグニトゴルスク製鉄所 ノヴォリペツク製鉄所 西シベリア製鉄所 ニジネタギル製鉄所 チェリャビンスク製鉄所(メチェル) ウラリスカヤ・スターリ ノヴォクズネツク製鉄所 オスコル製鉄所

62,839.3 9,877.1

11,466.9 8,854.0 5,931.3 5,477.4 4,186.2

288.6 268.5

2,353.3

65,645.6 10,435.3 11,281.6 9,122.8 5,603.5 5,491.3 4,960.6 3,616.8 1,110.5 2,463.9

66,186.2 10,820.4 11,393.8 8,468.9 5,683.0 5,574.5 4,597.8 3,618.0 1,305.7 2,549.4

(出所)『インターファクス鉱山金属レポート』、2006.No5。

(2) ロシアの鉄鋼業界地図

ロシアの鉄鋼分野では数百のメーカーが活動しているといわれているが、①最大手、②準

大手、③中小の3グループに区分される。最大手に属するのはセヴェルスターリ、マグニトゴルスク、ノヴォリペツクの各製鉄所で、3社合計でロシア全体の粗鋼生産量の約半分を占める。これらの企業は輸出や国内市場の堅調さに支えられ、いずれも業績が好調で、国内外

で積極的なM&Aを行なっている。 準大手に属するのは西シベリア、ニジネタギル、ノヴォクズネツク(この3つの製鉄所はアブラモビッチも大株主となっているエヴラズホールディングという持ち株会社の傘下に入

っている)、メチェル(投資ファンド傘下の製鉄所で石炭会社等も保有している)、ウラリス

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カヤ・スターリ、オスコルで、この6社合計で2005年のロシア全体の粗鋼生産量および完成鋼材生産量のそれぞれ約4割を占めている。 中小メーカーの総数は数百といわれているが、いずれも零細企業でロシアの粗鋼生産量に

占める割合は10%強、完成鋼材生産量に占める割合は10%未満に過ぎない。これらの企業は、製品の品質や販路の問題があり輸出は殆ど行なっていないため、国内市場でのプレゼンスは

生産量から受ける印象よりも高くなっている。かつては、これら中小メーカーが極端な安値

で鉄鋼製品を国内市場に供給することが、鉄鋼製品の国内外価格差を生む主因の一つである

との指摘があったが、最近は、中小メーカーの淘汰が進んでいることや、大手メーカーによ

る国内向け鉄鋼製品の大幅値上げに歩調を合わせる形で中小メーカーも価格を引き上げてい

ることもあり、中小メーカーによるダンピングが問題視されることは少なくなっている。 なお、ロシアの鉄鋼メーカーの設備・技術は大手のそれも含め、全般的に老朽化・陳腐化

の傾向が顕著であり、製品の品質はそれほど高くない。専ら価格の安さを武器に市場でのプ

レゼンスを確保しているといっても過言ではない。例えば、最近、ロシアでは現地生産に踏

み切る外国メーカーが増加しているが、それらのメーカーに自動車用鋼板を納入できる鉄鋼

メーカーは今のところ存在しないのが現状である。