第6章 粘土鉱物を含む試料の比抵抗と物理・化学・ …第6章...

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第6章 粘土鉱物を含む試料の比抵抗と物理・化学・力学的特性との関係 105 第6章 粘土鉱物を含む試料の比抵抗と物理・化学・力学的特性との関係 6.1 緒言 比抵抗構造の解釈には第5章で述べたようにアーチーの式が使用されることが多いが、 その適用には限界があり、最近では(5.3)式をはじめとする並列回路モデルが多くの研究者 によって提唱されている。並列回路モデルでは導電性鉱物による過剰な導電性を考慮して いるが、これは多くの場合は粘土鉱物によるものである。このことは、岩石に粘土鉱物が 多量に含まれる場合は、アーチーの式が適用できないことを意味している。我が国は地震 や火山の活動度が高く、降水量も比較的多く、新第三紀にはかなりの部分が海面下にあっ たことなどから、地盤や岩盤中には風化作用や熱水作用あるいは続成作用によって生じた 粘土鉱物が普遍的に存在する。したがって、比抵抗構造を解釈するためには、粘土鉱物の 影響を知ることが重要である。 一方、石油・金属・地熱などの鉱床には、続成変質や熱水変質によって生成された多種・ 多量の粘土鉱物が伴われている場合が多い。そのため、資源探査では、岩石や土壌中に存 在する粘土鉱物が探査の指標となり、その分布を求めることが探査の目的となることが多 い。また、粘土鉱物は含水量の多寡によって、液性の状態から塑性、半固体、固体の状態 に変化する。そのため、粘土鉱物を含む地盤や岩盤は含水量によって強度が大きく変わる。 一般に地盤や岩盤は含水量が大きくなるほどせん断強度が減少し、崩壊を起こしやすくな る。難透水性の膨張性粘土鉱物が含まれる層の上に透水性の良い表層があるような地盤や 岩盤では、豪雨時や融雪時にはその境界付近に水が集積し、しかも膨張性粘土鉱物の吸水 膨潤により地中の間隙圧が増大するため、地すべりや斜面崩壊などの地質災害が起こりや すい(玉田・福田, 1991; 伊藤, 1998)。このような地質災害の危険性を把握するため、地盤や 岩盤中における粘土鉱物の分布を求めることが必要とされている。このことは、粘土鉱物 が比抵抗に与える影響を把握できれば、地下の比抵抗分布を求める電気・電磁探査は、資 源探査や防災調査などに役立つということを意味している。 粘土鉱物が比抵抗に与える影響の把握は、これまでは主に石油探査の分野で行われてき た。その結果は、(5.5)式、(5.8)式、(5.9)式などにまとめられている。しかし、これらは主 に物理検層データや採取された岩石試料の測定データに基づいているため、研究対象とな った地質のほとんどが泥質岩であり、粘土鉱物は続成作用から生成されたものであるので、 必ずしも他の分野に適用できない。石油探査以外では粘土鉱物の量や種類が及ぼす影響の 大きさがほとんど調べられていないので、電気・電磁探査の結果から特定の粘土鉱物の分

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  • 第6章 粘土鉱物を含む試料の比抵抗と物理・化学・力学的特性との関係

    105

    第6章 粘土鉱物を含む試料の比抵抗と物理・化学・力学的特性との関係

    6.1 緒言

    比抵抗構造の解釈には第5章で述べたようにアーチーの式が使用されることが多いが、

    その適用には限界があり、最近では(5.3)式をはじめとする並列回路モデルが多くの研究者

    によって提唱されている。並列回路モデルでは導電性鉱物による過剰な導電性を考慮して

    いるが、これは多くの場合は粘土鉱物によるものである。このことは、岩石に粘土鉱物が

    多量に含まれる場合は、アーチーの式が適用できないことを意味している。我が国は地震

    や火山の活動度が高く、降水量も比較的多く、新第三紀にはかなりの部分が海面下にあっ

    たことなどから、地盤や岩盤中には風化作用や熱水作用あるいは続成作用によって生じた

    粘土鉱物が普遍的に存在する。したがって、比抵抗構造を解釈するためには、粘土鉱物の

    影響を知ることが重要である。

    一方、石油・金属・地熱などの鉱床には、続成変質や熱水変質によって生成された多種・

    多量の粘土鉱物が伴われている場合が多い。そのため、資源探査では、岩石や土壌中に存

    在する粘土鉱物が探査の指標となり、その分布を求めることが探査の目的となることが多

    い。また、粘土鉱物は含水量の多寡によって、液性の状態から塑性、半固体、固体の状態

    に変化する。そのため、粘土鉱物を含む地盤や岩盤は含水量によって強度が大きく変わる。

    一般に地盤や岩盤は含水量が大きくなるほどせん断強度が減少し、崩壊を起こしやすくな

    る。難透水性の膨張性粘土鉱物が含まれる層の上に透水性の良い表層があるような地盤や

    岩盤では、豪雨時や融雪時にはその境界付近に水が集積し、しかも膨張性粘土鉱物の吸水

    膨潤により地中の間隙圧が増大するため、地すべりや斜面崩壊などの地質災害が起こりや

    すい(玉田・福田, 1991; 伊藤, 1998)。このような地質災害の危険性を把握するため、地盤や

    岩盤中における粘土鉱物の分布を求めることが必要とされている。このことは、粘土鉱物

    が比抵抗に与える影響を把握できれば、地下の比抵抗分布を求める電気・電磁探査は、資

    源探査や防災調査などに役立つということを意味している。

    粘土鉱物が比抵抗に与える影響の把握は、これまでは主に石油探査の分野で行われてき

    た。その結果は、(5.5)式、(5.8)式、(5.9)式などにまとめられている。しかし、これらは主

    に物理検層データや採取された岩石試料の測定データに基づいているため、研究対象とな

    った地質のほとんどが泥質岩であり、粘土鉱物は続成作用から生成されたものであるので、

    必ずしも他の分野に適用できない。石油探査以外では粘土鉱物の量や種類が及ぼす影響の

    大きさがほとんど調べられていないので、電気・電磁探査の結果から特定の粘土鉱物の分

  • 第6章 粘土鉱物を含む試料の比抵抗と物理・化学・力学的特性との関係

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    布を断定的に解釈することは難しいということは否めない。

    このような背景から、本研究では、間隙率、間隙水の比抵抗、含有される粘土鉱物の種

    類や量が既知の人工試料を作成し、その比抵抗を計測することによって、特定の粘土鉱物

    の比抵抗への影響だけを把握することを考えた。この目的のため、粘土鉱物を含有する試

    料の比抵抗を計測するシステムを製作した。そして岩石や土壌の比抵抗に大きな影響を与

    える粘土鉱物の一つであるスメクタイトに注目し、スメクタイトを含有する人工試料を作

    成してその比抵抗を測定し、その測定方法を確立した。次に、膨張性の異なる 7 種類の粘

    土鉱物を対象に、それらを含有する人工試料を作成して、含有量による比抵抗の変化を測

    定した。そして、粘土鉱物の種類および含有量と比抵抗との関係について考察した。さら

    に、試料となった粘土鉱物の物理的、化学的および力学的特性を調べ、それぞれの粘土鉱

    物が示す比抵抗と物理・化学・力学的特性との関係を考察した。本章では、以上の結果に

    ついて述べる。

    6.2 粘土鉱物試料について

    本研究では、比抵抗を測定する粘土鉱物には、カオリナイト、セリサイトおよび5種の

    スメクタイトの粉末試料を用いた。以下では、岩生ほか(1985)、日本粘土学会(1987)、白水

    (1988)に基づき、それぞれの粘土鉱物の一般的特徴について概説する。また、本研究に用

    いた粘土鉱物試料の物理・化学・力学的特性について示す。

    6.2.1 各粘土鉱物の一般的特徴

    カオリナイト、セリサイトおよびスメクタイトは、Si-O の四面体シートや Al-O などの

    八面体シートが平面的につながっている層状珪酸塩鉱物である。それぞれの構造模式を第

    6.1 図に示す。

    カオリナイトは1枚の四面体シートと1枚の八面体シートが連結する1:1型構造をもち、

    理想化学式は

    Al2Si2O5(OH) 4

    と表される。層と層との間(層間)には水素結合が形成され、底面間隔(単位構造の厚さ)は約

    7Åと一定である。

    セリサイトは 2 枚の四面体シートと 1 枚の八面体シートが連結する 2:1 型構造をもち、

    その一般的な化学組成式は

    K0.85(Al1.9 R0.12+) (Si3.25Al0.75) O10 (OH)2

  • 第6章 粘土鉱物を含む試料の比抵抗と物理・化学・力学的特性との関係

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    〈R2+は Mg2+と Fe2+を主とする〉

    と表される。化学組成式中の K0.85 は層間に入るカリウムイオンである。各層は負電荷が過

    剰となっているため、層間にはカリウムイオンのような陽イオンが入り、層と層とは電気

    的に結合する。この陽イオンを層間陽イオンと呼ぶ。セリサイトの底面間隔は約 10Åであ

    る。

    スメクタイトは、セリサイトと同様に 2:1 型構造をもち、その一般的な化学組成式は

    (Na, Ca1/2)0.2~0.6 (R3+, R2+, Li)2~3 (Si, Al)4 O10(OH)2·nH2O

    〈R3+は Al3+と Fe3+、R2+は Mg2+と Fe2+を主とする〉

    と表される。化学組成式中の(Na, Ca1/2)0.2~0.6および nH2O は、層間陽イオンと層間水である。

    スメクタイトもセリサイトと同様、構造的に負電荷が過剰であるため層間に陽イオンが入

    る。また、スメクタイトでは層間陽イオンが水分子を引き寄せるため、層間には水も入る。

    層と層間陽イオンとは水分子を隔てて結ばれるのでその結合力は弱く、この層間陽イオン

    は移動しやすい。水中では層間陽イオンの交換が容易に起こるので、スメクタイトの層間

    陽イオンは交換性陽イオンとも呼ばれる。交換性陽イオンによってスメクタイトの特性が

    異なり、Na+が多いものをNa型スメクタイト、Ca2+が多いものをCa型スメクタイトと呼ぶ。

    層間水の量は交換性陽イオンの種類や湿度によって変化する。スメクタイトの底面間隔は

    15Åであるが、層間水の量が多くなると底面間隔はさらに広がる。底面間隔が広がる状態

    を膨張性と呼び、水によって底面間隔が広がる状態を膨潤と呼ぶ。

    前述したようにセリサイトやスメクタイトは構造的に負電荷が過剰である。これらの粘

    土鉱物が水と接すると、水分子は極性をもつため、その表面に水を吸着する。これを吸着

    水と呼ぶ。また過剰な負電荷は吸着水中の陽イオンを引き寄せるため、粘土鉱物の表面に

    はイオン濃度が高くなっている電気二重層が形成される。これを模式的に示すと第 6.2 図

    のようになる。

    スメクタイトでは層間にも水や陽イオンが入るため、セリサイトと比較すると非常に大

    きな電気二重層が形成される。前述したスメクタイトの膨潤は、層間に電気二重層が厚く

    発達してその中に多量の水を拘束した状態といえる。層間陽イオンの種類によって、層間

    に引きつけられる水分子の数(水和度)や形成される電気二重層の厚さが異なるので、膨潤

    の大きさが異なる。一般に交換性陽イオンの原子価が小さいほど、同じ原子価のイオンで

    は原子量が大きくイオン半径が小さいほど、水和度が大きくなり、電気二重層は厚くなる。

    Na+と Ca2+を比較した場合、Na+の方が原子価は小さく、イオン半径が小さいので、Na+を

    交換性陽イオンに多く持つスメクタイトほど、水を吸着しやすく、電気二重層が厚く発達

    し、大きく膨潤する傾向がある。

  • 第6章 粘土鉱物を含む試料の比抵抗と物理・化学・力学的特性との関係

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    15Å~

    octahedralsheet

    tetrahedralsheet

    interlayercation

    H2O

    exchangeablecation

    0, +

    0, -

    0,+,-

    -

    -

    0, -

    -, 0

    -, 0

    surface OH

    7Å

    10Å

    Kaolinite Sericite Smectite

    第 6.1 図 カオリナイト、セリサイトおよびスメクタイトの構造模式図。

    clay ion solution

    ion concentrationconstanthigh low

    electric double layer

    excessive

    +-

    -------------

    (solid) (liquid)

    nagative charge

    第 6.2 図 電気二重層の模式図。

  • 第6章 粘土鉱物を含む試料の比抵抗と物理・化学・力学的特性との関係

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    6.2.2 各粘土鉱物試料の物理・化学・力学的特性

    本研究に用いたカオリナイトは中央カオリン(株)から提供されたインドネシア産のもの

    である。セリサイトは斐川鉱業(株)から購入した島根県産のもので、商標名は Z-20 である。

    スメクタイトはクニミネ工業(株)から提供された山形県および宮城県産のもので、川崎酸

    白、クニボンド、川崎原鉱、KN-1、クニピアという名称で呼ばれている。ここではそれぞ

    れをスメクタイト A、B、C、D、E と呼ぶ。なお、各スメクタイトがもつ主な交換性陽イ

    オンの種類から、スメクタイト A と B は Ca 型スメクタイトに、スメクタイト C は Na-Ca

    混合型スメクタイトに、スメクタイト D と E は Na 型スメクタイトに分類される。

    各粘土鉱物の代表物性値を第 6.1 表に示す。ここで膨潤度(Degree of swelling)は蒸留水で

    自由に膨潤させた場合の吸水量を乾燥重量で除した値である。液性限界(Liquid limit)、塑性

    限界(Plastic limit)および塑性指数(Plasticity index)は日本工業規格に準拠して求めた。一般に

    塑性指数が大きい粘土鉱物ほど多量の水を吸着しやく、粘りけは大きく、透水性が悪い。

    平均粒径(Averaged grain size)はレーザー回折・散乱法で求めた粒度分布の中心値である。

    BET 比表面積(BET specific surface)は窒素(N2)ガスを吸着させる BET 法によって求めた値で

    ある。この測定ではガス圧の異なる 11 点の N2 ガスを用いた。また、全比表面積(Total specific

    surface)は、エチレングリコールモノエチルエーテル(EGME)を用いる EGME 吸着法によっ

    て求めた値である。一般に BET 法から求めた値は標準の比表面積とされ(岩生ほか, 1985)、

    BET 法は岩石や砂質土などの比表面積の測定にもよく用いられている(関根ほか, 1997;茂

    木ほか, 1986)。しかし、窒素分子は膨張性粘土鉱物の層間には入っていけないので、BET

    法から求めた値は粘土鉱物に対しては外比表面積になる(日本粘土学会編, 1987)。したがっ

    て、EGME 吸着法で求めた比表面積の方が大きくなり、BET 比表面積との差が大きいほど

    層間の比表面積が大きな粘土鉱物と考えることができる。

    含水した粘土鉱物の力学的特性に関係のある膨潤度や塑性指数を比較すると、カオリナ

    イトやセリサイトはスメクタイトと比較すると小さいことがわかる。スメクタイトの中で

    は、Na 型スメクタイトの方が Ca 型スメクタイトより膨潤度や塑性指数が高い。これは前

    述したように、Na+イオンを交換性陽イオンに持つほど電気二重層が厚くなり、層間水の量

    が増えるからである。また、全比表面積が大きい粘土鉱物ほど膨潤度も大きい傾向がある。

    このことは、全比表面積が大きい粘土鉱物ほど水を吸着しやすく、大きな電気二重層を持

    つことを示唆している。

    それぞれの陽イオン交換量(CEC)を比較すると、カオリナイトやセリサイトはスメクタイ

    トより 1 桁近く小さいことがわかる。スメクタイトの種類による CEC の差は小さい。膨潤

    度や塑性指数が大きなスメクタイト E の CEC は他のスメクタイトの CEC より大きいもの

  • 第6章 粘土鉱物を含む試料の比抵抗と物理・化学・力学的特性との関係

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    の、CEC と膨潤度や塑性指数などの力学的特性との相関は小さいと判断できる。

    第 6.1 表 各粘土鉱物の代表的物性値。

    Clay minerals Kaolinite Sericite Smectite-A Smectite-B Smectite-C Smectite-D Smectite-E

    Degree of swelling(ml/2g)

    5 6 6 7 11 20 65

    Liquid limit (%) 75.0 86.5 141.0 205.6 277.0 412.5 846.1Plastic limit (%) 47.4 41.5 45.3 46.0 44.0 30.4 37.0Plasticity index 27.6 45.0 95.7 159.6 233.0 382.1 809.1Averaged grain size(μm)

    4.07 7.32 11.0 8.88 10.3 3.98 2.15

    BET specific surface(m2/g)

    23.1 16.7 72.4 80.4 65.8 34.2 22.1

    Total specificsurface (m2/g)

    43.7 32.2 393.7 431.0 417.7 423.3 577.2

    CEC* (meq/100g) 7.35 8.07 75.4 86.5 79.6 85.6 115.0Chemical composition (%)

    SiO2 46.41 46.34 72.20 70.90 70.90 65.20 61.30

    Al2O3 36.65 29.64 12.80 14.90 13.50 16.90 21.90

    Fe2O3 0.71 2.23 1.77 1.61 1.95 2.16 2.21 MgO 0.07 0.90 3.72 3.85 4.09 3.45 3.43 CaO 0.05 2.18 1.56 2.15 1.35 1.84 0.46

    Na2O 0.03 0.25 0.29 0.37 1.20 2.94 4.06

    K2O 0.77 8.96 Ig・loss 14.87 7.15 6.34 5.08 6.16 5.87 6.24 Total 99.56 97.65 98.68 98.96 99.15 98.36 99.60

    Main exchangeablecation

    Ca2+ Ca2+ Na+, Ca2+ Na+ Na+

    * cation excahnge capacity

    6.3 粘土鉱物を含む試料の比抵抗測定法の開発

    6.3.1 比抵抗測定法の原理

    試料が柱状であれば、その比抵抗は軸方向に平行となるように電流を流し、電流密度と

    軸方向のある区間における電位差を測定することで求められる。すなわち、試料の断面積

    を S、電位差の測定区間の長さを LΔ 、試料に流した電流値を I、測定電位差を VΔ とすると、

  • 第6章 粘土鉱物を含む試料の比抵抗と物理・化学・力学的特性との関係

    111

    試料の比抵抗ρは(1.4)式より次式のようになる。

    IV

    LS Δ

    ⋅Δ

    =ρ (6.1)

    この式を利用して試料の比抵抗を求めるため、まず、第 6.3 図に示すような測定システム

    を構築した。これは、電流値と電位値を測定して比抵抗を求める比抵抗測定システムと試

    料を入れるサンプルホルダーからなる。以下にそれぞれの説明を行う。

    6.2.2 比抵抗測定システムおよび比抵抗の計算方法

    比抵抗測定システムは、1μHz から 50MHz の任意波形を出力できる発振器、フルスケー

    ル 16 ビット・最高サンプリングタイム 10-5sec で電流値と電位値を測定するデジタル電圧

    計、微小電流を高精度に測定するための電流増幅器、測定システムへの分流の影響を抑制

    するための電圧増幅器、これらのシステムを制御してデータの取得からデータ処理までの

    プロセスを自動的に行うパソコンから構成される。このシステムを、便宜上、システム 1

    と呼ぶ。各装置の詳細や比抵抗の求め方については、西澤・高倉(1989)および高倉・西澤

    (1990)で説明してある。

    この測定システムの精度を検証するため、市販されている 100、2k、7.5k、20k、30k、50k、

    200kΩの抵抗器の抵抗を計測した。ここで、送信電流は 10-5~10-3Aとし、送信波形は周波

    数が 0.1、0.5、1、5、10、50、100、500Hz の正弦波とした。また、電流値と電位値のサン

    プリングは1波長当り 100 点で行った。求めた抵抗を市販のテスター(横河M&C(株)製

    7534 02 デジタルマルチメータ)による測定値と比較した結果、その差は 50Hz のデータを除

    き、100~20kΩで 1%以内であり、30k~200kΩで 3%以内であった。

    システム 1 は、後述する第1回目の比抵抗測定で使用した。しかし、測定効率が悪いの

    で、第2回目の測定では第 6.4 図に示すように、米国 Zonge 社の GDP-16 と LDT-10 を組み

    合わせた測定システムを使用した。本論文では、これをシステム 2 と呼ぶ。本システムの

    精度を検証するため、上記と同じ抵抗器の抵抗を計測した。この際、送信電流には振幅が

    0.1mA 前後の周波数 0.25、2、16、128、1024Hz の矩形波を用いた。その結果、市販のテス

    ターによる測定値との差は全て 2%以内であることが確認できた。また、システム 1 によ

    る測定値との差を比較したところ、近い周波数ではその差は全て 3%以内であった。した

    がって、どちらのシステムを用いてもほぼ同じ結果が得られると判断できる。いずれのシ

    ステムもスタッキング回数を増やすことによりデータの品質が高くなるが、測定効率の高

    いシステム 2 の方がスタッキング数を増やすことができるので、高品質のデータを得るこ

    とができる。

  • 第6章 粘土鉱物を含む試料の比抵抗と物理・化学・力学的特性との関係

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    Personal

    computer

    Transmitter Voltmeterch1  ch2

    Current

    amplifier

    Voltage

    amplifier

    Sample holder

    C

    P

    C

    P

    第 6.3 図 測定システム 1 の概要。

    GDP-16

    LDT-10

    Oscillator

    Transmitter

    ch1

    ch2

    +-

    C

    P

    C

    P

    output

    Sample holder

    Receiver

    input

    第 6.4 図 測定システム 2 の概要。

    6.3.3 サンプルホルダー

    固結した岩石試料の比抵抗を測定するサンプルホルダーについては、いくつかの種類の

    ものが製作されており、その原理や測定精度が詳細に検討されている(千葉・熊田, 1994)。

  • 第6章 粘土鉱物を含む試料の比抵抗と物理・化学・力学的特性との関係

    113

    しかし、未固結の土壌や軟岩の比抵抗を測定するサンプルホルダーについては茂木ほか

    (1986)や島ほか(1995)などに報告はあるものの、測定精度について検討された例はほとんど

    見当たらない。そのため、第 6.5 図に示すようなサンプルホルダーを製作し、その測定精

    度について検討した。

    このサンプルホルダーは本体電極部、本体延長部、コック電極部、ピストン電極部から

    構成され、全体では注射器の形状をなす。この中に入れられた試料の比抵抗は四端子法に

    より測定される。本体電極部は内径 40mm、長さ 100mm の円柱管で、その内側には 50mm

    離して 2 本の溝が切ってあり、電位電極となる直径 0.7mm の白金線が埋め込まれている。

    ただし、二つの電極の中心は本体電極部の中心とは 5mm ずれている。すなわち、一つの電

    極は本体電極部の端から 30mm の位置にあり、もう片方の電極はもう一方の端より 20mm

    20

    20

    50

    30

    100

    100

    lead

    lead

    lead

    lead

    current electrode(platinum net)

    current electrode(platinum net)

    potential electrodes(platinum wire)

    cock

    piston electrode part

    body electrode part

    cock electrode part

    body extension part

    40

    第 6.5 図 サンプルホルダーの模式図。

  • 第6章 粘土鉱物を含む試料の比抵抗と物理・化学・力学的特性との関係

    114

    の位置にある。測定では、端から 30mm 離れている電極が上になるように用いる。コック

    電極部はその上部が本体電極部と密着連結ができるようになっており、中ほどに電流電極

    となる直径 39mm の白金網が取り付けられ、下部より水の排出が制御できるようになって

    いる。連結部より白金電極網までの距離は 20mm である。ピストン電極部のピストンの外

    径は 39mm で、その先端に電流電極となる直径 39mm の白金網が張り付けられている。ピ

    ストンの外径が本体電極部の内径より 1mm 小さいのは、本体電極部の中でピストンを円滑

    に動かすためである。また、ピストンには多数の小さな穴を開け、ピストンで試料を押し

    つけたときに、溶液や粘土鉱物が上方に抜けやすいようにしている。

    粘土鉱物の比抵抗測定では、膨潤や含有される電解質の対策を考える必要がある。その

    ため、本体電極部およびコック電極部には、圧力による変形、電解質による腐食、および

    温度による膨張が少ない強化ガラスを用いている。ピストン電極部の材質は塩ビである。

    測定では本体電極部とコック電極部を連結し、その中に試料を入れて、上からピストン電

    極部で試料を押さえながら、試料の両端に電流を流し、電位電極間に生じる電位差を計測

    し、四端子法により比抵抗を求めた。すなわち、電流値を I、測定電位差を VΔ とすると、

    サンプルホルダーの断面積 S が 1.2567×10-3m2、電位電極間の距離 LΔ が 5×10-2m である

    ので、試料の比抵抗ρは(6.1)式より

    V/I0.0251V/IL/ Δ⋅=Δ⋅Δ= Sρ (6.2)

    となる。なお、上式により正確な比抵抗を求めるためには、電位電極間では電流がサンプ

    ルホルダーの軸方向に平行となる必要がある。ピストンの直径が本体電極部の内径より小

    さいため、ピストンが多少傾くことがあるので、ピストン電極部にある電流電極と本体電

    極部の電位電極とが近づき過ぎると、上記の条件が満たされなくなることが懸念される。

    これを回避するために、第 6.5 図のように本体電極部と同じ大きさの円柱管(本体延長部)

    を用意し、本体電極部の上に連結して測定を行った。

    このサンプルホルダーの測定精度を検証するため、システム1を用い、ホルダー内に0.001、

    0.01、0.1、1、3.3mol/l の塩化カリウム(KCl)溶液を入れ、それぞれの比抵抗をピストン電極

    の位置や傾きを変えながら測定した。また、サンプルホルダーでの測定直後には、溶液の

    比抵抗と温度とを導電率計で測定した。その結果、いずれの濃度の溶液においても、ピス

    トン電極部の電流電極部を電位電極から 10mm 以上離すことにより、サンプルホルダーの

    測定値と KCl 溶液の濃度と温度から求まる理論値との差は 2%以内になることが確認でき

    た。したがって、このサンプルホルダーで測定された値は補正をしなくても実用上十分な

    精度があると判断した。

  • 第6章 粘土鉱物を含む試料の比抵抗と物理・化学・力学的特性との関係

    115

    6.4 粘土鉱物を含む試料の比抵抗測定

    6.4.1 測定方法

    粘土鉱物は水を吸着しやすいので、少量の水と均質に混ぜ合わせることは難しい。また、

    スメクタイトのような膨潤性粘土は水を吸着すると非常に高い粘性を示すようになるため、

    決められた量をサンプルホルダーの中に入れることや、逆にそこから取り出すことは非常

    に難しい。そこで、本研究では、直径約 1mm のビーズ 300g とイオン濃度が既知の溶液 200g

    に粘土鉱物を混合する人工試料を作成し、以下のような手順を用いて、スメクタイトの含

    有比による比抵抗の変化を測定することにした。

    まず、ガラスビーズとイオン溶液だけの試料を作成し、サンプルホルダーに入れてその

    比抵抗を計測する。このときのガラスビーズが作る間隙率は 37%(±1%)である。次にその

    試料をサンプルホルダーから出し、ガラスビーズとイオン溶液に乾燥させた粘土鉱物を加

    え十分に撹拌して均一に混合させる。そして、間隙率が大きくならないように、ガラスビ

    ーズ同士が接触するまでピストン電極に圧力を加えながら試料を少しずつサンプルホルダ

    ーに押し込み、その比抵抗を測定する。粘土は乾燥重量で 3、3、3、3、3、3、6、6、6、

    9g ずつ追加し、その後は粘土鉱物の膨潤によりガラスビーズの間隔率が維持できなくなる

    か、あるいは総含有量が 150g に達するまで 15g ずつ追加する。

    このような手順で測定することにより、試料は流動性の高い状態にあり、サンプルホル

    ダーへの出し入れは容易になる。粘土鉱物はガラスビーズよりはるかに小さいので、ガラ

    スビーズが作る間隙に入る。したがって、この測定方法では、間隙中にある粘土鉱物が試

    料の比抵抗に及ぼす影響を計測することになる。その模式を第 6.6 図に示すが、粘土鉱物

    が増えるにつれて、ガラスビーズが作る間隙(初期間隙 iφ )の中で溶液が占める部分(有効間

    隙 eφ )が減り、スメクタイトの粒子および層間水が占める部分が増える。ガラスは絶縁体と

    みなせるため、この方法では、溶液の占める部分が膨潤した粘土鉱物(粘土鉱物粒子と吸着

    水および層間水)に置換した場合の比抵抗変化を測定することになる。したがって、膨潤し

    た粘土鉱物の比抵抗が溶液の比抵抗より低ければ、粘土鉱物の含有量が増えるにつれて測

    定される試料の比抵抗は下がる。逆に膨潤した粘土鉱物の比抵抗の方が高ければ、粘土鉱

    物の含有量が増えるにつれて試料の比抵抗は上がる。なお、粘土鉱物の量が少ないときは、

    混合した直後は溶液中でしばらく浮遊懸濁しているが、時間がたつと沈降するので、比抵

    抗の測定は短時間ですることが肝要である。

  • 第6章 粘土鉱物を含む試料の比抵抗と物理・化学・力学的特性との関係

    116

    glass beads

    smectite

    interlayer waterelectric

    insulator

    conductorφe

    φtφi

    interstitial water

    double layer

    第 6.6 図 サンプルにおけるガラスビーズ、イオン溶液、粘土鉱物の関係。粘土鉱物が増えるにつれて、ガラスビーズが作る間隙(初期間隙 iφ )の中で溶液が占める部分(有効間隙 eφ )が減り、スメクタイトの粒子および層間水が占める部分が増える。

    6.4.2 第1回目の比抵抗測定

    6.4.2.1 測定方法

    第1回目の測定では測定条件を検討することを目的に、交換性陽イオンの異なるスメク

    タイト A、C、D を含む試料を対象に、その比抵抗を測定した。ここで、イオン溶液として

    は、溶液中の陽イオンの影響を調べるため、塩化カリウム(KCl)、塩化ナトリウム(NaCl)、

    塩化カルシウム(CaCl2)溶液を準備した。また、溶液の比抵抗が試料の比抵抗に及ぼす影響

    を検討するため、それぞれについて、濃度が 0.1、0.01、0.001mol/l の溶液を用意した。し

    たがって、本研究で用いた溶液は全部で9種類であり、溶液ごとに 3 種類のスメクタイト

    を含有させることから、溶液とスメクタイトの組み合わせの数は全部で 27 となった。

    比抵抗測定はスメクタイトの含有量を変えるごとに、0.1、0.5、1、5、10、50、100、500Hz

    の 8 周波数の正弦波電流を用い、各周波数について 2 周期分のデータを取得した。このと

    き、送信電流の振幅は 10-5~10-3A の範囲となるように調整した。1 回の測定にかかる時間

    は 3 分程度であるが、水の多い場所でパソコンを扱うためその準備に慎重になったことも

    あり、1 種類の試料のデータ取得にかかる時間は約 3~4 時間であった。そのため、1 日に

    測定できる試料は 1 ないし 2 種類で、27 種類の試料の測定が終わるまでには正味 19 日間

  • 第6章 粘土鉱物を含む試料の比抵抗と物理・化学・力学的特性との関係

    117

    を要した。データ取得は空調により 21~25℃の温度に保たれた部屋で実施した。

    6.4.2.2 測定結果

    ガラスビーズ 300g と 0.01mol/l の KCl 溶液 200g に対し、各スメクタイト 30g を含有させ

    た試料で測定された比抵抗の周波数変化を第 6.7 図に示す。いずれの試料とも周波数が高

    くなるにつれて比抵抗が低くなる傾向がある。この傾向は測定した全ての試料で見られる。

    しかし、500Hz と 0.1Hz で測定される比抵抗の違いは最大で 10%程度である。また、いず

    れの試料の比抵抗とも同じような周波数依存性を示す。

    本研究では粘土鉱物の有量による比抵抗の変化を検討することが目的であるので、ここ

    では測定値の再現性が最も高かった周波数 100Hz の電流を用いたときの測定結果を議論の

    対象とし、その代表的なものを第 6.8~6.13 図に示す。ここで、グラフの横軸はスメクタイ

    ト重量のガラスビーズ重量に対する比である。本測定により把握された測定条件による比

    抵抗への影響の特徴について以下に示す。

    第 6.7 図 ガラスビーズ 300g と 0.01mol/l の KCl 溶液 200g に対し、スメクタイト A、C、D を 30g を含有させた試料で測定された比抵抗の周波数変化。

  • 第6章 粘土鉱物を含む試料の比抵抗と物理・化学・力学的特性との関係

    118

    (1)溶液にイオン濃度が高いとき、試料に含有されるスメクタイトの種類が違うと、測定さ

    れる比抵抗が異なる。比抵抗を下げる効果はスメクタイト D が最も大きく、スメクタイト

    C がその次に大きく、スメクタイト A は最も小さい(第 6.8 図)。イオン濃度が低くなると、

    スメクタイトの種類による比抵抗の差はほとんどない(第 6.9 図)。

    (2)溶液のイオン濃度が 0.001mol/l のとき、スメクタイトの含有量が多いほど比抵抗は低く

    なる。逆に溶液のイオン濃度が 0.1mol/l と高くなると、スメクタイトの含有量が多いほど

    比抵抗は高くなる(第 6.10 図、第 6.11 図)。

    (3)同じイオン濃度の溶液を比較した場合、CaCl2 溶液を含む試料の比抵抗は低い。しかし、

    溶液の比抵抗が同じならば、比抵抗の変化は溶液の種類によらずほぼスメクタイトの含有

    量だけに依存する(第 6.12 図、第 6.13 図)。

    (4)三つのスメクタイトを比較すると、膨潤度の高い粘土鉱物ほど比抵抗を下げる効果は大

    きい。スメクタイト D は膨潤が大きかったため、ガラスビーズの間隙に 60g(ガラスビーズ

    の重量の 20%)までしか含有させることができなかった(第 6.10 図)。また、溶液の比抵抗が

    高くなるほど、膨潤が大きくなり、含有させることが難しくなる(第 6.12 図、第 6.13 図)。

    6.4.3 第2回目の比抵抗測定

    6.4.3.1 測定方法

    第1回目の比抵抗測定の結果、粘土鉱物を含む試料の比抵抗は、粘土鉱物の種類や量や

    イオン溶液の濃度に大きく依存するが、イオン溶液の種類にはほとんど影響されないこと

    がわかった。そこで、第2回目の比抵抗測定では、使用するイオン溶液は濃度が 0.1、0.01、

    0.001mol/l の KCl 溶液だけとした。また、スメクタイト D の結果より、粘土鉱物の含有は

    60g(ガラスビーズの重量の 20%)までとした。測定対象とする粘土鉱物は第 6.1 表に示す7

    種類としたので、溶液とスメクタイトの組み合わせの数は全部で 21 となった。

    測定ではシステム 2 を使用した。電流は振幅が 0.1mA 前後の 0.25、2、16、128、1024Hz

    の矩形波であり、スタッキング回数は各周波数の測定時間がほぼ同じになるようにそれぞ

    れ 8、16、128、1024、8192 回とした。全周波数の測定に要する時間は 2~3 分であった。

    測定システムや測定周波数を変えたことにより、第 1 回目の測定より測定時間が大幅に短

    縮され、1 種類の試料に対して約 2 時間で測定が終了できるようになった。そのため、1 日

    に 3 種類の試料を測定し、21 種類の試料の測定は正味 7 日間で完了した。なお、測定は 17

    ~22℃の温度に保たれた状態で実施された。

  • 第6章 粘土鉱物を含む試料の比抵抗と物理・化学・力学的特性との関係

    119

    第 6.8 図 試料の比抵抗とスメクタイトの種類および含有量との関係。イオン溶液は 0.001mol/l の KCl溶液である。 第 6.9 図 試料の比抵抗と含有されるスメクタイトの種類および量との関係。イオン溶液は 0. 1mol/l のKCl 溶液である。

  • 第6章 粘土鉱物を含む試料の比抵抗と物理・化学・力学的特性との関係

    120

    第 6.10 図 試料の比抵抗と KCl 溶液のイオン濃度およびスメクタイト D の含有量との関係。

    第 6.11 図 試料の比抵抗と KCl 溶液のイオン濃度およびスメクタイト A の含有量との関係。

  • 第6章 粘土鉱物を含む試料の比抵抗と物理・化学・力学的特性との関係

    121

    第 6.12 図 試料の比抵抗とイオン溶液の種類およびスメクタイト C の含有量との関係。イオン溶液は、0.001mol/l の KCl、NaCl、CaCl2溶液である。 第 6.13 図 試料の比抵抗とイオン溶液の種類およびスメクタイト C の含有量との関係。イオン溶液は、0.1mol/l の KCl、NaCl、CaCl2溶液である。

  • 第6章 粘土鉱物を含む試料の比抵抗と物理・化学・力学的特性との関係

    122

    6.4.3.2 測定結果

    周波数 128Hz の電流を用いたときに測定される粘土鉱物が含有されていない試料の比抵

    抗とイオン溶液の比抵抗との関係を第 6.14 図に示す。図の横軸は溶液の比抵抗である。ま

    た、図には第1回目の測定で得た周波数 100Hz の正弦波電流を用いたときの 27 試料の結

    果も示している。第 6.14 図をみると、溶液の比抵抗が高くなると測定値にややばらつきが

    見られるものの、溶液の比抵抗と試料の比抵抗とは相関係数が 0.99 の線形関係にあり、試

    料の比抵抗を 0R 、溶液の比抵抗を WR とすると

    WRR ⋅= 35.30 (6.3)

    と表される。このことは、ガラスビーズと KCl 溶液だけの試料では、アーチーの式が成立

    することを意味している。

    次に各粘土鉱物 30g を含有させた試料で測定された比抵抗の周波数変化を第 6.15 図に示

    す。いずれの試料とも周波数が高くなるにつれて比抵抗が低くなる傾向があるが、1024Hz

    と 0.25Hz で測定される比抵抗の違いは最大で 10%程度である。また、いずれの試料の比

    抵抗とも同じような周波数依存性を示す。本研究では粘土鉱物の種類や含有量による比抵

    抗の変化を検討することが目的であるので、ここでは周波数 128Hz の電流を用いたときの

    第 6.14 図 粘土鉱物が含有されていない試料の比抵抗とイオン溶液の比抵抗との関係。

  • 第6章 粘土鉱物を含む試料の比抵抗と物理・化学・力学的特性との関係

    123

    第 6.15 図 ガラスビーズ 300g と 0.01mol/l の KCl 溶液 200g に対し、各粘土鉱物 30g を含有させた試料で測定された比抵抗の周波数変化。

    測定結果を議論の対象とし、KCl 溶液の濃度が 0.001、0.01、0.1mol/l に対する測定結果を

    第 6.16 図、第 6.17 図、第 6.18 図に示す。ここで、グラフの横軸は粘土の重量をガラスビ

    ーズの重量に対する含有比である。

    第 6.16 図より、溶液のイオン濃度が 0.001mol/l と低い場合は、カオリナイトを除き、粘

    土鉱物の含有量が多いほど試料の比抵抗は低くなることがわかる。比抵抗の下がり方は、

    スメクタイト A<セリサイト<スメクタイト C<スメクタイト B<スメクタイト D<スメ

    クタイト E の順に大きくなる。カオリナイトを含む試料は含有量が増えるにつれて比抵抗

    が上昇する。

    第 6.17 図より溶液のイオン濃度が 0.01mol/l となると、カオリナイトに加え、セリサイト

    を含む試料も、粘土鉱物の含有量の増加につれて比抵抗が上昇することがわかる。スメク

    タイトを含む試料は、粘土鉱物の含有量が多いほど試料の比抵抗は低くなる。しかし、そ

    の下がり方はイオン濃度が 0.001mol/l の場合(第 6.16 図)と比較すると小さい。それぞれの

    粘土鉱物が有する比抵抗を下げる効果(過剰導電性)は、スメクタイト A<スメクタイト C

    <スメクタイト B<スメクタイト D<スメクタイト E の順に大きくなる。

    第 6.18 図より、溶液のイオン濃度が 0.1mol/l と高くなると、全ての試料で粘土鉱物の含

    有量の増加とともに比抵抗は上昇することがわかる。

  • 第6章 粘土鉱物を含む試料の比抵抗と物理・化学・力学的特性との関係

    124

    第 6.16 図 試料の比抵抗と粘土鉱物の種類および含有量との関係。イオン溶液は 0.001mol/l の KCl 溶液である。 第 6.17 図 試料の比抵抗と粘土鉱物の種類および含有量との関係。イオン溶液は 0.01mol/l の KCl 溶液である。

  • 第6章 粘土鉱物を含む試料の比抵抗と物理・化学・力学的特性との関係

    125

    第 6.18 図 試料の比抵抗と粘土鉱物の種類および含有量との関係。イオン溶液は 0.1mol/l の KCl 溶液である。

    6.5 考察

    6.5.1 粘土鉱物の種類および含有量と比抵抗との関係とその原因

    各粘土鉱物 30g を含有させた試料で測定された比抵抗と KCl 溶液の比抵抗との関係を第

    6.19 図に示す。ここで、図中の破線は、第 6.14 図に示すガラスビーズと溶液だけの試料か

    ら求められたアーチーの式である。溶液の比抵抗と比較して、粘土鉱物の比抵抗が高けれ

    ば測定値は破線の上方にプロットされ、その逆ならば測定値は破線より下方にプロットさ

    れる。また、測定値の変化が破線と平行であれば、アーチーの式が成立するとみなすこと

    ができる。第 6.19 図より、カオリナイトを含有する試料を除き、試料の比抵抗と溶液の比

    抵抗との間にはアーチーの式が成立しないことは明らかである。

    溶液の比抵抗が高い場合、すなわち溶液の濃度が低い場合、カオリナイトを含有する試

    料を除き、含有量が増えるほど試料の比抵抗は下がる。したがって、膨潤した粘土鉱物は

    溶液より低比抵抗であるといえる。このことは、膨潤した粘土鉱物に過剰導電性が現れる

    ことを意味している。粘土鉱物粒子そのものは絶縁体であるので、過剰導電性は吸着水や

    層間水の部分すなわちイオン濃度の高い電気二重層が厚く発達した膨潤領域によるものと

  • 第6章 粘土鉱物を含む試料の比抵抗と物理・化学・力学的特性との関係

    126

    第 6.19 図 各粘土鉱物 30g を含有させた試料の比抵抗と KCl 溶液の比抵抗との関係。

    理解できる。膨潤度の大きいスメクタイト E や D のような Na 型スメクタイトは、層間に

    電気二重層を厚く発達させるため、鉱物粒子に形成される電気二重層の接触する割合が高

    く、わずかな含有量でも試料の比抵抗を低下させると考えられる。すなわち、イオン濃度

    の高い電気二重層が接触してネットワークができ、それを介して電流が流れやすくなって

    いるからと考えることができる。一方、膨潤度の小さいカオリナイトは電気二重層があま

    り発達しないことから、含有量の増加とともに絶縁体である粒子の部分が増え、比抵抗が

    上昇すると考えられる。

    溶液のイオン濃度が高くなると、粘土含有量の増加に対する比抵抗の変化が小さくなる。

    溶液の濃度が0.01mol/lの場合はカオリナイトとセリサイトを含む試料が含有量の増加に伴

    い比抵抗が増加し、溶液の濃度が 0.1mol/l の場合にはいずれの試料も含有量の増加に伴い

    比抵抗は増加するようになる。これらの現象は、膨潤した粘土鉱物と溶液の比抵抗との差

    が小さくなり、ある濃度で逆転して、試料の電気伝導が主に間隙中の溶液に依存されるよ

    うになることを示している。また、溶液の濃度が高くなると、イオン密度が高くイオン間

    に働く斥力が大きくなるため、形成される電気二重層が薄くなり、膨潤が抑えられること

    も粘土鉱物の過剰導電性が小さくなる原因と考えられる。溶液の濃度が 0.001mol/l のカオ

  • 第6章 粘土鉱物を含む試料の比抵抗と物理・化学・力学的特性との関係

    127

    リナイトを含む試料の比抵抗と、0.01mol/l のカオリナイトとセイサイトを含む試料の比抵

    抗と、0.1mol/l の全ての試料の比抵抗の上昇のしかたがほぼ同じことは、絶縁体である粘土

    鉱物粒子の領域だけが増えていると理解できる。

    6.5.2 粘土鉱物の過剰導電性と物理および化学的特性との関係

    粘土鉱物の種類によって比抵抗の下がり方、すなわち過剰導電性が異なる。その原因と

    して、Waxman and Smits(1968)、Clavier et al.(1977)、 Sen et al.(1988)、Sen and Goode(1992)

    などが粘土鉱物が泥質岩の比抵抗に及ぼす影響を検討した研究から考察したように、各粘

    土鉱物がもつ CEC の違いがあげられる。濃度が 0.01mol/l の比抵抗(第 6.17 図)と CEC の大

    きさ(第 6.1 表)を比較すると、スメクタイトを含有する試料の比抵抗とセリサイトあるいは

    カオリナイトを含有する試料の比抵抗の違いは、CEC の違いで説明できる。しかし、5 種

    のスメクタイトを含む試料の比抵抗をそれぞれ比較すると、必ずしも CEC の大きさと整合

    的ではなく、また CEC の差に比較して比抵抗の差が大きすぎる。また、溶液濃度が

    0.001mol/l と低い場合(第 6.16 図)は、セリサイトの方がスメクタイト A より比抵抗が低く

    なる。したがって、必ずしも CEC の大きさだけが比抵抗に影響するわけではないといえる。

    粘土鉱物に過剰導電性が現れる原因として、第 5.2 節で説明した粘土鉱物がもつ表面伝

    導現象があげられる(山口,1962; Bussian,1983; 茂木ほか,1986)。表面伝導現象は固相と液相

    の界面に生じる電気二重層による現象であり、粘土鉱物のように固相の表面積が大きいと

    顕著に現れると考えられている。したがって、比抵抗と表面積の間に密接な関係があると

    予想できる。第 6.1 表からわかるように、全比表面積の値はセリサイト<カオリナイト<

    スメクタイト A<スメクタイト C<スメクタイト D<スメクタイト B<スメクタイト E の

    順に大きくなる。この順序は第 6.16 図で見られる溶液濃度が 0.001mol/l のときの各粘土鉱

    物が有する過剰導電性の大きさと比較すると、ほぼ整合的であるものの、カオリナイトと

    セリサイトの順が、さらにスメクタイト D とスメクタイト C の順が入れ替わっている。こ

    のことは、粘土鉱物による過剰導電性の違いはそれぞれの粘土鉱物がもつ表面積と深く関

    係することを支持している一方、過剰導電性は必ずしも表面積だけでは説明できないこと

    を意味している。

    以上のことから、粘土鉱物の過剰導電性は、表面積という物理的な要因と CEC のような

    化学的な要因とが複合されたものと考える方が妥当である。なお、BET 比表面積と過剰導

    電性の大きさとを比較すると、最も顕著な過剰導電性を示すスメクタイト E の比表面積が

    最も小さくなるなど、両者の間に予想される関係は認められない。したがって、粘土鉱物

    の表面積と比抵抗との関係を検討するにあたっては、BET 法による測定は不適切であるこ

  • 第6章 粘土鉱物を含む試料の比抵抗と物理・化学・力学的特性との関係

    128

    とがわかる。

    6.5.3 比抵抗と力学的特性との関係

    粘土鉱物がもつ過剰導電性の大きさは、スメクタイト B と C の順番が異なるものの、膨

    潤度の大きさと定性的にはよく整合する。また、液性限界や塑性指数とも整合する。この

    事実は、それぞれの粘土鉱物がもつ水の量、すなわち形成される電気二重層の大きさで説

    明できる。つまり、カオリナイトやセリサイトと比較してスメクタイトは水を吸着しやす

    く厚い電気二重層を形成するので、またスメクタイトの中では Na+を交換性陽イオンに多

    く持つ粘土鉱物ほど水を吸着しやすく電気二重層は大きくなるので、膨張性が高くなり、

    比抵抗が低くなると考えられる。

    以上のことは、比抵抗が土壌や岩石がもつ膨潤度や塑性指数のような力学的特性を評価

    する一つの指標になるという可能性を示唆するものである。そして、電気探査や電磁探査

    は、地盤や岩盤中の膨張性粘土の存在を把握する有効な方法であるといえる。

    さて、地すべりや斜面崩壊などの地質災害は、地盤や岩盤がもつせん断強度が深く関係

    する。そこで、せん断強度と比抵抗との関係を調べるため、濃度 0.001mol/l の KCl 溶液を

    用いた人工試料で、粘土鉱物の含有量の違いによる内部摩擦角φと粘着力 C の変化を一面

    せん断試験で計測した。ここで、内部摩擦角φと粘着力 C は土壌や岩石のせん断強度 S を

    定義する物理量で、せん断面に作用する垂直応力をσ とすると

    φσ tan+= CS (6.4)

    という関係がある。つまり、内部摩擦角φや粘着力 C が大きくなるほど、せん断抵抗も大

    きくなる。各粘土鉱物の含有量による内部摩擦角φの変化を第 6.20 図に、粘着力 C の変化

    を第 6.21 図に示す。また、比抵抗と内部摩擦角との関係を第 6.22 図に、比抵抗と粘着力と

    の関係を第 6.23 図に示す。

    第 6.22 図より比抵抗と内部摩擦角とは正相関があることは明らかである。ただし、第 6.20

    図を第 6.16 図と比較してわかるように、セリサイトやスメクタイト A、B、C では粘土の

    含有量が増えて比抵抗が低くなるほど内部摩擦角が大きくなっているので、必ずしも比抵

    抗と内部摩擦角の間には正相関が成り立つとはいえない。ここでわかることは、測定した

    試料全体を平均的に見ると、比抵抗が小さくなるほど内部摩擦角も小さくなる傾向がある

    ということである。

    第 6.23 図より、スメクタイト D、E を除けば、比抵抗と粘着力との間には明瞭な相関は

    見られない。第 6.23 図と第 6.16 図との比較より、スメクタイト D、E では、その含有量が

    増えて比抵抗が下がるほど、粘着力が増えることがわかる。これは、膨潤度の大きい粘土

  • 第6章 粘土鉱物を含む試料の比抵抗と物理・化学・力学的特性との関係

    129

    第 6.20 図 各粘土鉱物の含有量による試料の内部摩擦角φの変化。

    第 6.21 図 各粘土鉱物の含有量による試料の粘着力 C の変化。

  • 第6章 粘土鉱物を含む試料の比抵抗と物理・化学・力学的特性との関係

    130

    第 6.22 図 各粘土鉱物の含有量による試料の比抵抗と内部摩擦角との関係。

    第 6.23 図 各粘土鉱物の含有量による試料の比抵抗と粘着力との関係。

  • 第6章 粘土鉱物を含む試料の比抵抗と物理・化学・力学的特性との関係

    131

    鉱物が含まれる試料では、比抵抗が低いものほど大きなせん断強度をもつことを意味して

    いる。ただし、ここで測定された粘着力の値は最大でも約 8000Pa と小さく、せん断強度と

    してはほとんど無視できる。

    本研究において用いた人工試料のほとんどが、それ自体では形状を保持することができ

    ないほど緩く、流動性に富むものである。そのため、上記のせん断試験の結果は、自然界

    にある土壌や岩石に対する力学的特性の定量的評価への適用は難しいと考える。しかし、

    第 6.22 図の結果より比抵抗と内部摩擦角との間には相関があることは確かである。また、

    第 6.20 図からわかるようにスメクタイト D や E では、その含有量とともに試料の内部摩擦

    角が減少しており、実際の地すべり粘土の土質試験からスメクタイトの含有量が多いと内

    部摩擦角が小さいことを示した玉田(1984)、玉田・福田(1991)、横田ほか(1997)などの報告

    と整合する。これは、膨潤性の高い粘土を含有する土壌や岩盤の力学的特性を評価する指

    標に比抵抗がなりうるという可能性を支持するものである。今後は実際の土壌や岩石を対

    象に、比抵抗と力学的特性の定量的な関係を検討する必要がある。

    6.6 結言

    本章では、まず、粘土鉱物を含む試料の比抵抗を測定するシステムと測定方法について

    述べ、十分な測定精度があることを示した。次に特性の異なる 7 種類の粘土鉱物を含む人

    工試料の比抵抗を測定し、含有される粘土鉱物の種類や量による比抵抗の違いを比較した。

    そして、各粘土鉱物がもつ物理・化学・力学的特性と比抵抗とを比較・検討した。その結

    果、以下のような知見が得られた。

    (1)カオリナイト、セリサイト、スメクタイトを比較すると、カオリナイトを除き、含有量

    が多いほど試料の比抵抗は低くなる。スメクタイトの比抵抗を下げる効果は大きく、とく

    に Na 型スメクタイトはわずかに含まれるだけでも試料の比抵抗を著しく低下させる。

    (2)粘土鉱物が持つ過剰導電性は粘土鉱物の表面および層間に形成される電気二重層の大

    きさと関連している。電気二重層が厚く発達する粘土鉱物ほど大きな過剰導電性を示し、

    膨潤度や液性限界および塑性指数が大きい。

    (3)過剰導電性は CEC や全比表面積とも相関する。粘土鉱物の過剰導電性は、表面積という

    物理的な要因と CEC のような化学的な要因とが複合されたものと考えられる。

    (4)粘土鉱物を含む試料では、比抵抗と内部摩擦角との間に相関が認められる。このことは、

    比抵抗が岩盤や地盤の力学的特性を評価する指標になりうることを示唆している。

    本研究で得られた粘土鉱物の特性と比抵抗との密接な関係についての知見は、多くの分

  • 第6章 粘土鉱物を含む試料の比抵抗と物理・化学・力学的特性との関係

    132

    野において実施した電気・電磁探査結果の解釈に新しい視点を与え、電気・電磁探査法の

    活用を進めるものと考える。

    ※本文は、「高倉伸一(2004): 高密度電気・電磁探査法による比抵抗構造の調査と解釈に

    関する研究, 博士論文, 京都大学工学部,348p.」の第5章です。なお、一部の図は JPEG

    に変換して、Word に貼り付けました。そのため、上記論文とは、図の大きさ、レイアウ

    ト、解像度が、多少、異なっております。

    引用される場合は、上記の文献の記入をお願いいたします。また、この内容の一部は、

    以下に公表しております。こちらも参照・引用していただければ幸いです。

    高倉伸一・小酒欽弥・西澤修・青木正博 (2000): 粘土鉱物を含む試料の比抵抗測定, 物理

    探査, 53, 119-128.

    高倉伸一(2000): 粘土鉱物を含む試料の比抵抗と物理・化学・力学的特性との関係,物理探

    査,53,415-426.