第4節 農業経営の動向と所得増大に向けた取組 - maff.go.jp...2.2 4.0 1.9 1.3 2.5...

7
第4節 農業経営の動向と所得増大に向けた取組 244 (農業経営費の現状) 農業生産にかかるコストを縮減することも、農業所得の増大のために重要です。 例えば、稲作 10a 当たりの生産費について、平成 12(2000)年から平成 21(2009) 年までの推移をみると、労働時間の減少により家族労働費は5万1千円から3万5千円へ と大きく減少しています(図2- 73)。一方、物財費や雇用労働費等の外部支払経費(農 業経営費)は生産資材価格の高騰等により8万6千円から9万1千円へと増加しています。 農業経営費の内容は、作物や営農類型によって相当程度の差異があります。例えば、水 田作経営では、農機具費、肥料費、農用建物費がそれぞれ農業経営費の 25%、10%、9 %を占めています 1 。施設野菜作経営では、農用建物費、光熱動力費、農機具費が、それ ぞれ農業経営費の 13%、13%、11%を占めています。また、養豚経営では、飼料費、農 業薬剤・医薬品費、光熱動力費が、それぞれ農業経営費の 66%、5%、5%を占めています。 このため、各作物・営農類型の特性に応じながら、特に農業経営費に占める割合の高いコ ストを中心に縮減する取組が必要です。 1 農林水産省「平成21年営農類型別経営統計(個別経営)」 図2-73 米の10a当たり生産費の推移 -2 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 資料:農林水産省「米及び小麦の生産費」 平成12 (2000) 年産 17 (2005) 18 (2006) 19 (2007) 20 (2008) 21 (2009) 万円 副産物価額 16.1 2.7 5.1 2.0 1.3 2.8 14.7 2.3 4.2 1.9 1.4 2.6 14.4 2.2 4.0 1.9 1.3 2.5 14.0 2.2 3.8 1.8 1.3 2.5 9.1 8.6 14.7 2.1 3.7 2.1 1.2 3.2 14.3 2.0 3.5 2.1 1.2 3.1 支払利子・地代 雇用労働費 その他物財費 家族労働費 自己資本利子・自作地地代 賃借料及び料金 農機具費・自動車費 光熱動力費 農業薬剤費 肥料費

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第4節 農業経営の動向と所得増大に向けた取組

244

(農業経営費の現状)農業生産にかかるコストを縮減することも、農業所得の増大のために重要です。例えば、稲作 10a 当たりの生産費について、平成 12(2000)年から平成 21(2009)

年までの推移をみると、労働時間の減少により家族労働費は5万1千円から3万5千円へと大きく減少しています(図2- 73)。一方、物財費や雇用労働費等の外部支払経費(農業経営費)は生産資材価格の高騰等により8万6千円から9万1千円へと増加しています。

農業経営費の内容は、作物や営農類型によって相当程度の差異があります。例えば、水田作経営では、農機具費、肥料費、農用建物費がそれぞれ農業経営費の 25%、10%、9%を占めています 1。施設野菜作経営では、農用建物費、光熱動力費、農機具費が、それぞれ農業経営費の 13%、13%、11%を占めています。また、養豚経営では、飼料費、農業薬剤・医薬品費、光熱動力費が、それぞれ農業経営費の 66%、5%、5%を占めています。このため、各作物・営農類型の特性に応じながら、特に農業経営費に占める割合の高いコストを中心に縮減する取組が必要です。

1 農林水産省「平成 21 年営農類型別経営統計(個別経営)」

図2-73 米の10a当たり生産費の推移

-2

0

2

4

6

8

10

12

14

16

18

資料:農林水産省「米及び小麦の生産費」

平成12

(2000)

年産

17

(2005)

18

(2006)

19

(2007)

20

(2008)

21

(2009)

万円

副産物価額

16.1

2.7

5.1

2.0

1.3

2.8

14.7

2.3

4.2

1.9

1.4

2.6

14.4

2.2

4.0

1.9

1.3

2.5

14.0

2.2

3.8

1.8

1.3

2.5

9.18.6

14.7

2.1

3.7

2.1

1.2

3.2

14.3

2.0

3.5

2.1

1.2

3.1

支払利子・地代

雇用労働費

その他物財費

家族労働費

自己資本利子・自作地地代

賃借料及び料金

農機具費・自動車費

光熱動力費

農業薬剤費

肥料費

物財費

外部支払経費(農業経営費)

全算入生産費

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245

第1部

第2章

(物財費縮減の取組)米等の土地利用型作物については、物財費、特に農機具費の占める割合が高くなって

いますが、規模の拡大により一定程度縮減することができます。例えば、稲作 10a 当たりの農機具費は、 作付規模1~2ha 層では2万7千円ですが、10 ~ 15ha 層になると1万8千円となります(図2- 74)。これは、集落営農の取組においても、農地を集積し農業機械を有効利用すれば、同様の効果が得られるものです。

肥料に関しては、土壌診断 1 に基づき、施肥設計の見直しや施肥低減技術の導入等を行い、適正施肥に取り組み、コストを縮減させることが重要です。施肥低減を行う際には品質や収量に影響を与えないようにすることが必要ですが、その際の基準となるのが都道府県が作成する減肥基準です。減肥基準については、平成 22(2010)年9月現在、32道府県で策定されている一方、15 都府県では未策定の状況にあります。その理由の一つとして「根拠となるデータがない」という点もあげられていることから、減肥基準策定にかかるデータ収集の取組が進められているところです。

農薬に関しては、製造・流通コストの縮減、大型包装農薬やジェネリック農薬 2 等低価格農薬の供給拡大も必要ですが、農業者の側でも、病害虫発生予察情報 3 に基づく適期防除、総合的病害虫・雑草管理(IPM)4 を通じた農薬使用量の抑制に努めていくことが重要です。また、資材の大口・予約購入等により、肥料も含めなるべく安価に購入し、コスト縮減に取り組むことも重要です。

図2-74 米の10a当たり生産費の内訳(作付規模別)

資料:農林水産省「平成 21 年産米及び小麦の生産費」

25

20

15

10

5

0

万円

0.5ha未満

15.0ha以上

0.5~1.0

1.0~2.0

2.0~3.0

3.0~5.0

5.0~10.0

10.0~15.0

3.9 3.7

11.2

18.3

2.7

8.4

14.7

2.3

7.4

13.0

2.2

6.8

11.8

2.0

6.6

11.2

1.8 1.7

5.4

9.4

6.4

11.2

13.3

22.1

うち農機具費

うち物財費

全算入生産費

1、2 [ 用語の解説 ] を参照3  各都道府県に設置された病害虫防除所が発表する病害虫の発生に関する予測等の情報のことです。おおむね月に1

回程度、農作物ごとの重要な病害虫の発生状況や、防除上の注意事項等が盛り込まれています。各都道府県病害虫防除所のホームページからみることができます。

4  IPM は、Integrated Pest Management の略。化学合成農薬だけに依存するのではなく、例えば、輪作体系や抵抗性品種、熱水や太陽熱等を利用した土壌の消毒、天敵やフェロモンの利用等を組み合わせる防除手法のことです。

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第4節 農業経営の動向と所得増大に向けた取組

246

(労働費縮減の取組)水稲の 10a 当たり労働時間については、0.5ha 未満層では 45 時間ですが、1~2ha 層

30 時間、10 ~ 15ha 層 17 時間となっていることから、規模が大きくなるほど単位面積当たり労働費も低くなります 1 。

また、作業の方法によっても、労働費を縮減できます。例えば、水稲作における直播栽培 2 により、労働時間は慣行栽培に比べ2~3割の減少が図られるといった実証結果 3 もあることから 、主食用米のほか、特に低コスト化が求められる米粉用米や飼料用米等の生産の際にも導入していくことが重要です。水稲の直播栽培面積は年々増加しており、平成 21(2009)年産では 1 万 9,600ha となっています(図2- 75)。地域別にみると、北陸が 7,100ha と最も多く、なかでも福井県は 3,200ha と県全体の水稲作付面積の 12%に相当しています 4。福井県で取組が進んでいる理由としては、行政や農協等関係機関による技術指導や播種機等の導入支援が行われてきていることがあげられます。

コラム  肥料施用量の大幅低減に寄与する「畝うね

内部分施用技術」

1 農林水産省「平成 21 年産米及び小麦の生産費」 2  [ 用語の解説 ] を参照 3 農林水産省が平成 13(2001)~ 15(2003)年に行った実証事業における代表的な成果4  北陸及び福井県の直播栽培面積は、農林水産省調べ。福井県の水稲作付面積は、農林水産省「平成 21 年産作物統計」

キャベツやはくさい等の露地野菜を栽培する際には、肥料や防除剤等の資材をほ場全体に施用することが多くなっています。しかし、これらはすべて効力を発揮している訳ではなく、ほ場内に蓄積したり、降雨等によりほ場外に流出するものも相当あります。

このような無駄をなくすために「畝内部分施用技術」が開発されています。これは、トラクターに専用のアタッチメントを装着し、畝立て作業と同時に、作物に施用効果が高い畝中央部の範囲だけに肥料や根こぶ病* 1 防除薬等を混合して施用する技術です。このことにより、単位面積当たりの肥料施用量を 30 ~ 50%低減することができるほか、根こぶ病の防除のための農薬施用量を3分の1まで低減することができます。また、畝立てと資材施用を同時に行うことができるので、慣行の作業体系で行っている基肥等の散布作業を省略でき、労働時間の短縮にもつながります。

なお、収量や品質面においては、この技術により肥料施用量を慣行栽培の 50%に減らしたり、根こぶ病防除剤の施用量を慣行の3分の1まで減らしたりしても、慣行栽培で生産したものと変わらないという結果が得られました。

この「畝内部分施用技術」は、今後、野菜生産農家の生産コスト縮減に寄与していくことが期待されます。

トラクターに装着した畝内部分施用機 畝内部分施用法による資材混合状況と施用範囲

畝立て・成形機(3条用) 資材混合域

トラクター(33 馬力)

肥料・農薬ホッパー

* 1  土壌中のかびの一種による土壌伝染病で、アブラナ科作物の根に寄生します。寄生すると根にこぶが生じ、発育が遅れるなどして、枯死することもあります。

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247

第1部

第2章

図2-76 搾乳ロボットと搾乳ユニット自動搬送装置

資料:農林水産省作成

(搾乳ロボット) (搾乳ユニット自動搬送装置)

牛が枠内に入ると、装着タグにより牛の個体識別が行われます。搾乳可能な場合、乳頭洗浄後、カップが装着され搾乳が開始

スイッチを入れると、レールに沿ってユニットが自動で動き、牛の間に進入

搾乳終了後、乳頭ごとに病気予防のための措置がなされ、カップの洗浄が行われます。出口ゲートが開いて、牛が退出

乳頭洗浄、前搾り、ユニット装着を作業者が行い、搾乳が開始。搾乳後自動的にユニットが外れ、次の牛のところに移動

なお、直播栽培の最大の課題であった出芽・苗立ちの不安定性や倒伏については、落水出芽法 1 や高精度湛水直播機 2 の導入により、解決の目途が立ったという評価が得られています。

畜産経営においては、省力化を進めていくため、大学等の研究機関、普及センター等の指導組織や獣医師との技術指導のネットワーク化を図りつつ、肥育期間を短縮するなど飼養管理技術等の高度化に取り組んでいくことが重要です。特に、酪農においては、飼養規模や飼養管理方法に応じて、自動給餌機のほか、搾乳ロボットや搾乳ユニット自動搬送装置等の新しい飼養管理技術の活用が進められていますが、これらを通じてさらなる省力化を図っていくことが期待されています(図2- 76)。

図2-75 水稲の直播栽培面積の推移

資料:農林水産省調べ 注:1) 平成 21(2009)年産は速報値 2) 関東は山梨県、長野県、静岡県を含む。

平成12(2000)年産

0.60.1 0.2

3.93.1

1.6

0.80.80.7

7.1

1.4

5.0

0.7

1.91.4 1.21.0

0.5

3.43.43.3

0.6 0.9 0.8

平成 17(2005)年産平成 21(2009)年産

0

2

4

6

8

全国計:平成 12(2000)年産   8,900ha    平成 17(2005)年産 1万 5,700ha    平成 21(2009)年産 1万 9,600ha

千 ha

東北

北陸

関東

北海道

中国・四国

東海

近畿

九州

1  湛水直播栽培における栽培技術の一つです。播種後に一旦水田の水を抜き(落水)、出芽後、再度水田に水を入れます。このことにより、湛水直播栽培における出芽・苗立ちの安定性が大きく向上します。

2  平成 11(1999)年に開発された播種機で、田植機との兼用利用が可能です。田の土壌硬度に応じて覆土量の自動調節等を行い、安定した播種深度を確保できることから、出芽・苗立ちの安定性が向上します。

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第4節 農業経営の動向と所得増大に向けた取組

248

事 例  省力化と生産コスト縮減の取組

(1)直播栽培による米粉用米の低コスト生産新潟県新

発ば

田た

市し

の農事組合法人ユニオンファーム両新田は、経営耕地 40ha のうち、新潟県の推奨品種である米粉用米「こしいぶき」を2ha 栽培し、そのうち1ha で鉄コーティング湛水直播栽培* 1 を行っています。

この直播栽培により労働時間が2割減少するとともに、育苗費がかからなくなったことにより生産費が1割減少しています。

* 1 鉄をまぶしコーティングした種子を耕起・代かきしたほ場に直接播く方法です。

新潟県福島県

長野県

新発田市

米粉用米の播種作業

(2)マッピングシステムを使った施肥設計システムの開発北 海 道 帯

おび

広ひろ

市し

の 十 勝 農 協 連 合 会 は、 管 内 25万6千 ha(関係農業者約 6,700 戸)の農地を対象にして、土壌内のりん酸・加里の含有状況のデータを地帯別に蓄積し、パソコンの画面上で確認できるマッピングシステムを導入しています。これを使用して施肥設計システムを構築し、それぞれの農地に適した肥料銘柄等を示すことができるようになっています。

各農業者は、農協事務所内にあるパソコンで自らの農地の状況を確認することにより適正施肥を進めることができることから、肥料コストの低減が図られてきています。

北海道

帯広市

マッピングシステムが入ったパソコンの画面

(3)自動灌水システムの導入による作業の省力化岩手県花

はな

巻まき

市し

のガンバいさご営農組合は、経営耕地 42ha で水稲 26ha、大豆 10ha、露地ピーマン 35a の栽培に取り組んでいます。

このうち露地ピーマンの栽培ほ場において、電力設備を必要としない自動灌水システムを導入しています。このシステムは、タンクの水の圧力を利用して、ほ場にパイプを通して水と液肥を自動的に供給するものです。

平成 22(2010)年度には、25a のほ場に導入し、通常は半日かかっていた灌水作業が、水・液肥のセット・システムの起動のみの作業となり、労働時間の大幅な減少に寄与しています。

岩手県秋田県

花巻市

自動灌水システム

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249

第1部

第2章

(飼料費縮減の取組)畜産経営においては、飼料費が生産費の多くを占めています。例えば、牛乳(実搾乳)

100kg 当たりの飼料費は 4,100 円で、生産費の 46%を占めています 1。また、肥育豚生体 100kg 当たりの飼料費は1万8千円で、生産費の 64%を占めています。

飼料費を縮減し畜産経営を安定させるため、これまでも飼料効率を高める家畜の改良等が行われていますが、飼料給与について、多くを輸入に頼り国際価格の変動の影響を受けやすい輸入濃厚飼料中心の体系から、牧草や稲発酵粗飼料、飼料用米等の自給飼料中心の体系への転換を図ることも必要です。

自給飼料生産にかかるコストは、1TDNkg 当たり 42 円(平成 20(2008)年、全国値)となっており、輸入粗飼料価格 96 円/1TDNkg(乾牧草、同年)と比べても6割安くなっています 2。しかし、利便性や労力面の負担等の要因により、輸入粗飼料が利用される傾向にあります。このため、今後、優良品種の導入等による飼料作物の生産拡大や地域資源を活かした放牧の導入を進めるとともに、コントラクター組織 3 や TMR センター等の活用、国産粗飼料の広域流通の推進を図り、飼料生産の外部化による低コスト化、省力化を図っていくことが必要です。

また、近年は、食品産業と食 品 残 さ 飼 料 化 事 業 者 及 び農 業 者 等 が 連 携 し て 広 域 的なエコフィードの生産・利用を 拡 大 す る 取 組 も 進 ん で いま す。 食 品 残 さ の 飼 料 化 を行っている業者は、 平成 22

(2010)年5月現在で 155 業者あります 4。これら事業者が平成 21(2009)年度に処理した食品残さの量は 79 万tであり、これから 51 万 t のエコフィードを製造しています。地域別にみると、関東・東山、東海、九州で多く取り組まれており、全国で製造されたエコフィードのうち7割を占めています(図2- 77)。

なお、エコフィードの平均的な販売価格は、余剰食品等を乾燥させた乾燥飼料 25 円/kg、豆腐かす等を乳酸発酵させたサイレージ 18 円/ kg、原材料と水等を混ぜたリキッド飼料6円/ kg となっています 5。一方、配合飼料価格の平均は 54 円/ kg となっており 6、 配合飼料の一部をエコフィードで置き換えることにより飼料費縮減に寄与することが期待されています。

1 農林水産省「平成 21 年度 畜産物生産費」。生産費は全算入生産費 2  自給飼料生産コストは、農林水産省「牛乳生産費調査」、「日本標準飼料成分表」から算出。飼料生産にかかった材

料費(種子、肥料等)、固定材費(建物、農機具)等の合計(労働費を含む)。輸入粗飼料価格は、農林水産省調べ。農家段階の価格

3  農家の労働力等を補うため、畜産農家等から飼料作物の収穫作業等の農作業を請け負う組織のことです。営農集団から農協等、様々な経営形態があります。

4  (社)中央畜産会が把握しかつ同法人ホームページ(http://ecofeed.lin.gr.jp/map.cgi)にて情報公開することに同意した業者数です。

5  (社)日本養豚協会「平成 21 年度畜産利用意向調査」(平成 22(2010)年3月公表)。平成 21(2009)年8月1日現在で都道府県養豚協会等が確認できているすべての養豚経営者または農場責任者を対象にしたアンケート調査

(有効回答数 3,881)6 (社)配合飼料供給安定機構「飼料月報」より抜粋(平成 21(2009)年度における全畜種加重平均工場渡価格)

ビールかす

エコフィードを食べる牛 豆腐かす(おから)

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第4節 農業経営の動向と所得増大に向けた取組

250

他方、農業者のエコフィードの利用状況をみると、養豚経営では 16%の農業者が利用している状況にあります 1。エコフィードを利用している農業者の今後の利用の意向については、「このまま継続したい」67%、「拡大したい」29%となっていることから、エコフィードに対する農業者の満足度は高いといえます。肉用牛経営では、エコフィードを利用している割合は 48%となっていますが、エコフィードを利用している農業者の今後の意向については、「現状を維持したい」52%、「利用を拡大したい」34%となっています 2。

平成 21(2009) 年3月には、 農林水産省が作成した「食品残さ等利用飼料における安全性確保のためのガイドライン」(平成 18(2006)年8月)を遵守し、一定比率以上の国内で発生した食品循環資源の利用、栄養成分等の把握等の条件を満たした飼料を認証するエコフィード認証制度が民間団体において始まりました(図2- 78)。平成 22

(2010) 年 12 月現在で 11 業者 40 製品が認証を受けていますが、今後、食品残さの飼料化の促進等が期待されます。

また、平成 23(2011)年度からは、エコフィー ドの給与量等を定めた認証基準のもとで生産された畜産物を「エコフィード利用畜産物」として認証する制度も始まります。認証された畜産物の商品にはマークが付けられ、環境にも配慮した商品として消費者にもアピールできることから、エコフィードの認知度向上と消費拡大、飼料化の促進が期待されます。

図2-77 食品残さ処理量と飼料化量(農業地域別)

資料:(社)中央畜産会調べを基に農林水産省で作成  注:1)同会が把握しかつ同会ホームページにて情報公開することに同意した155 業者のデータを基に集計   2)平成 21(2009)年度の数値

0

5

10

15

20

25

30万t

4.4

2.13.6

4.4

食品残さ処理量

26.9

19.1

1.1 0.7

14.1

9.27.1

4.22.8

4.8

18.7

6.6

0.3 0.2

飼料化量

北海道 東北 関東・東山

北陸 東海 近畿 中国・四国

九州 沖縄

1 前ページ脚注 5 の資料を基に農林水産省で算出2  全国肉牛事業協同組合「肉用牛肥育農家エコフィード利用意向調査」(平成 22(2010)年3月公表)。当該組合員

の肉用牛経営体 648 戸を対象にしたアンケート調査(回答率 20%)

図2-78 エコフィード認証

      マーク

資料:(社) 日本科学飼料協会 注:認証番号が「21 認証第○○○号」で、

  食品循環資源の利用割合が「50%以上」であった場合の認証マークの表示例