第2章 宮城県の山・平野・川・海の現状 · 2015. 12. 25. · 第2章...

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12 1 宮城県の山・平野・川・海の現状 本章では,県内の生物多様性を県内全域のほか,山(森,湿原,草地等),平野(農地,居 ,草地,湖沼等),川(河川,水路等),海(干潟,砂浜,湿地,藻場等)の 4 つの地域 に分け,それぞれの地域における「自然の現状」と「人と自然の関わり」について整理しま した。 (1)自然の現状 (変化に富んだ多様な自然) 本県は奥羽山脈,北上山地,阿武隈山地等の山地と,これらの山地を水源とする北上川 や阿武隈川等の大小の河川,その流域に広がる広大な仙台平野,伊豆沼・内沼等の大小の 沼やため池,仙台平野沿岸の砂浜海岸や,唐桑半島から牡鹿半島に至るリアス海岸等の変 化に富んだ環境を有しています。 (県土の約6割を占める森林) 県土面積 7,286km 2 のうち,森林 4,164 km 2 (県土の 57%),農地 1,279 km 2 (同 17%), 宅地 443 km 2 (同 6%),水面(河川,水路,池沼,ため池等)325 km 2 (同 4%),道路 320 km 2 (同 4%)等となっています。 ※数値は平成 25 年現在 第2章 宮城県の山・平野・川・海の現状 地域戦略における自然環境の区分(イメージ) 出典:宮城県環境基本計画に加筆 山(森,湿原,草地等) 平野(農地,居久根,草地,湖沼等) 海(干潟,砂浜,湿地,藻場等) ,沿岸域) 県内全域 川(河川,水路等)

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Page 1: 第2章 宮城県の山・平野・川・海の現状 · 2015. 12. 25. · 第2章 宮城県の山・平野・川・海の現状 地域戦略における自然環境の区分(イメージ)

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1 宮城県の山・平野・川・海の現状

本章では,県内の生物多様性を県内全域のほか,山(森,湿原,草地等),平野(農地,居い

久ぐ

根ね

,草地,湖沼等),川(河川,水路等),海(干潟,砂浜,湿地,藻場等)の 4 つの地域

に分け,それぞれの地域における「自然の現状」と「人と自然の関わり」について整理しま

した。

(1)自然の現状

(変化に富んだ多様な自然)

本県は奥羽山脈,北上山地,阿武隈山地等の山地と,これらの山地を水源とする北上川

や阿武隈川等の大小の河川,その流域に広がる広大な仙台平野,伊豆沼・内沼等の大小の

沼やため池,仙台平野沿岸の砂浜海岸や,唐桑半島から牡鹿半島に至るリアス海岸等の変

化に富んだ環境を有しています。

(県土の約6割を占める森林)

県土面積 7,286km2のうち,森林 4,164 km2(県土の 57%),農地 1,279 km2(同 17%),

宅地 443 km2(同 6%),水面(河川,水路,池沼,ため池等)325 km2(同 4%),道路

320 km2(同 4%)等となっています。

※数値は平成 25年現在

第2章 宮城県の山・平野・川・海の現状

地域戦略における自然環境の区分(イメージ)

出典:宮城県環境基本計画に加筆

山(森,湿原,草地等)

平野(農地,居久根,草地,湖沼等)

海(干潟,砂浜,湿地,藻場等)

,沿岸域)

県内全域

川(河川,水路等)

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(観光等)

本県の山や海などの豊かな環境や美しい景観,四季折々の海や山の幸を求めて多くの人々

が訪れます。平成 25 年は約 5,569 万人※もの人々が本県を訪れました。主な内訳として,

蔵王地区約 389 万人,船形連峰地区約 367 万人,南三陸海岸地区約 104 万人となっていま

す。本県の来訪者総数の一割に当たる約 530 万人が自然観察や散策等の自然系の来訪者でし

た。このほか,県内の山岳地域や沿岸部などでは,自然体験や環境学習,農林漁業体験など

の様々なプログラムを通じて持続可能な地域づくりを学び・体感するエコツーリズムの取組

が,NPO 等の様々な主体によって行われています。

※平成 25年 1~12月の累計値。出典は「観光概要統計」(宮城県観光課,平成 26年 9月)

(1)自然環境の現状

(高山から丘陵まで多様な環境が見られる)

山形県との県境には奥羽山脈,北上川の東側には北上山地,福島県との県境には阿武隈

山地が連なっています。標高の違いによって,生息・生育する動物や植物の種類が異なり

ます。栗駒山や蔵王山のように標高が 1,500m 前後の高山帯には,ハイマツ等を中心とす

る低木が広がり,標高 1,000~1,500m の亜高山帯にはアオモリトドマツ等の常緑針葉樹が,

標高 300~1,000m 以下の山地帯にはミズナラやブナ等の落葉広葉樹が,また,標高 300m

以下の丘陵帯にはコナラやクリ,アカマツ等が見られます。県東部の北上山地には標高

1,000m 以下の山地帯,丘陵帯が連なります。山地や丘陵にはかつてブナやミズナラが広

がっていましたが,明治時代以降のスギやアカマツ等による植林が始まると,人工林に置

き換わりました。

森林

57%農地

18%

宅地

6%

水面 4%

道路 4%原野 1%

その他

10%

四季の変化が美しい栗駒山(栗原市)

標高 300~1,000m 前後にはブナやナナカマドが自生し,紅葉

の時期には美しい景色を求めて多くの人が訪れます。

宮城県の土地利用の現況(平成 24年)

出典:宮城県震災復興・企画部(平成 24年)

宮城県社会経済白書 平成 24年度版

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船形山(標高 1,500m)には,ブナやミヤマナラ等の高山・亜高山帯の植生が現存して

おり,その一部が学術的に貴重な森林植生として,船形連峰県立自然公園及び林野庁の船

形山植物群落保護林に設定され,保全が図られています。

栗原市の御嶽み た け

山(標高 483m)の山腹から山麓にかけて自生するアズマシャクナゲは,

国内の自生地の北限として,国の天然記念物に指定されています。

(多様な生きものが生息)

ツキノワグマやニホンカモシカ,ニホンジカ等の大型の哺乳類や,イヌワシやクマタカ

等の猛禽類などが生息しています。また,岩手県から南下してきたと見られるニホンジカ

が気仙沼市周辺で確認されるなど,ツキノワグマやニホンジカ,イノシシ等の野生動物の

生息・行動圏に変化が見られます。

加美町の魚取ゆ と り

沼ぬま

(標高 620m,面積 3.3ha)には,テツギョが生息しており,昭和 8 年

に沼全域がテツギョの生息地として国の天然記念物に指定されました。また,魚取沼周辺

の国有林約 84ha は,テツギョの生息環境の保全を目的に,魚取沼県自然環境保全地域に

指定されているほか,林野庁が保護林(魚取沼鉄魚特定動物生息地保護林)を設定してい

ます。

イヌワシ

県内でも営巣が確認されているイヌワシ。プロ野球の東北楽

天ゴールデンイーグルスや,サッカーの Jリーグのベガルタ

仙台のチームマスコットやエンブレム(シンボルマーク)に

も使われている,本県を代表する生きものの一つです。

アズマシャクナゲ(御嶽山/栗原市)

船形山(色麻町)

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(2)人と自然の関わりの現状

(林業との関わり)

本県の森林面積は県土の約 57%を占めていますが,そのうち約 48%が人工林です。こ

のうち私有林では,一般に収穫可能とされる 8 齢級以上の森林(植林してから 36 年以上

経過した森林)が約 122 千 ha と全体の約 79%を占めています。また,保育・間伐等の森

林施業が必要な7齢級以下(植林してから35年以下)の森林が全体の約21%(約 324ha)

となっています。樹種別面積では,スギが 71%と最も多く,次いでマツ類 22%,ヒノキ 5%

で,スギとマツの 2 樹種で人工林全体の 93%を占めています。材積で見ても,スギが約

81%と人工林の大半を占めています。所有形態別に見ると,国・公有林が約 48%,私有林

が約 52%となっています。

出典:宮城県(平成 24年)みやぎの森林・林業のすがた(平成 25年度版)

テツギョ

魚取沼(加美町)

出典:東北森林管理局ウェブサイト

県内の人工林・天然林の面積(左図)と材積(右図)

宮城県の所有者別森林面積(単位:ha)

出典:農林水産省(平成 22年)世界農林業センサス

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林業算出額は,木材価格が最高値を記録した昭和 55 年には,木材生産部門だけで 151

億円の産出額があり,林業産出額全体でも昭和 50 年の 1.5 倍の 176 億円でした。その後,

木材生産部門は木材価格の低迷等から大幅に減少し,林業産出額も減少傾向が続いていま

す。

平成 23 年は東日本大震災の影響により,木材生産,栽培きのこ類生産ともに大きく落

ち込みましたが,平成 24 年になると県内の木材加工工場の復旧が進み,木材生産産出額

は震災前の水準に回復しつつあります。一方,栽培きのこ類は,東京電力福島第一原子力

発電所の事故に伴う出荷制限や風評被害等の影響により,産出額は低迷した状況が続いて

います。

(森林と生活との関わり)

森林は,水源のかん養,国土の保全,木材をはじめとする林産物の生産等の多面的機能

を有しており,国民生活や地域の経済・雇用などに大きく貢献しています。特に近年は,

地球温暖化防止対策として,森林の二酸化炭素を吸収する機能への期待が大きくなってい

ます。また,人間の生産・消費活動の一環として利用される森林,いわゆる里山林は,住

宅を建てる際の材料となり,薪や炭として燃料となり,生活雑貨や工芸品,さらには神社

の御神木など,山村地域の人々の暮らしや文化,信仰等と深く関係しています。

こうした森林の多様な機能を持続的に発揮するためには,人間の働き掛けによって健全

な森林を積極的に造成し,育成する「森林整備」が必要であり,特に,人工林が本格的な

利用期を迎える中,適切な保育・間伐等の森林整備に加え,成熟した人工林を伐採し利用

した上で,再造林を着実に行うなど,人工林の「若返り」を図ることや森林資源の循環利

用のサイクルが機能して森林整備が継続できるように,国産材の需要を確保することが重

要となっています。

■身近な里山林を生かした伝統工芸品

本県を代表する伝統工芸品の「こけし」や仙台簞笥たんす

,仙台堆つい

朱しゅ

等は,地域で採れた様々な木材

が使われています。地域の気候風土に適した自然素材を使いながら,長い時間をかけて作り方や

形などの工夫が積み重ねられた結果,地域を代表する伝統工芸品として広く知られる存在になっ

たといえます。

地域によって形などに違いがある「こけし」

〔原材料〕ミズキ,イタヤカエデ等

※ 写真左から遠刈田こけし(蔵王町),鳴子こけし(大崎市),弥治郎こけし(白石市),肘折こけし(県内全域)

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(1)自然環境の現状

(沼やため池が点在する水に恵まれた環境)

奥羽山脈と北上山地に挟まれた県央部には広大な仙台平野が広がっています。北上川や

名取川,広瀬川,阿武隈川を始めとする大小の河川が平野を縫うように流れ,太平洋に注

いでいます。県北部の伊豆沼・内沼,長沼,蕪栗沼,化女沼等のほか,県全域に 6,074 か

所※(全国の都道府県で第 7 位)の農業用のため池が点在しています。伊豆沼や長沼では,

エビ類や魚類等が漁獲されていました。

※農林水産省農村振興局資料(平成 9年)

(国際的に重要な湿地群)

良好な湿地が点在する県北地域は,ロシア北東部から飛来するガン類等の渡り鳥の重要

な越冬地となっています。特に,マガンは国内に飛来する個体の約 9 割が伊豆沼・内沼の

周辺など本県北部に飛来しています。伊豆沼・内沼,蕪栗沼・周辺水田及び化女沼の 3 か

所が渡り鳥の飛来地として国際的に重要な湿地「ラムサール条約湿地」に登録され,国指

定鳥獣保護区として管理されています。

また,この 3 か所は東アジア・オーストラリア地域フライウェイパートナーシップに参

加しています。

このほか,平成 22 年に環境省が,ラムサール条約湿地としての国際的な基準を満たす

と認められる湿地(潜在候補地)を全国で 172 か所選定していますが,本県からは 5 か所

(志津川湾,万石浦,松島湾,北上川(追波湾)河口域,長面浦及び阿武隈川河口域)の

潜在候補地が選ばれています。いずれの湿地も,震災後に開催された専門家による委員会

(東北地方太平洋沿岸地域におけるラムサール条約湿地潜在候補地の資質委員会)におい

ても,潜在候補地としての価値を有することが確認されています。

平野

仙台簞笥

〔原材料〕ケヤキ,スギ,クリ等 仙台堆朱

〔原材料〕ウルシ等

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(生きものと共存する農地)

農村地域で見られる水田や畑,農業用水路,ため池,草地(採草地等)などは,農業生

産の場であると同時にトンボやメダカ,カエル,ドジョウ,フナ,モツゴ,タモロコ,タ

ニシ,カワニナ,ミズカマキリ,ヌマエビ等の多くの生きものの命を支えています。大崎

市内のため池には,全国的に絶滅のおそれのある淡水魚のシナイモツゴが生息しており,

地域の市民団体等による保全活動が継続的に行われています。

シナイモツゴの名前の由来は,品井沼(現在の大崎市から松島町にかけて広がっていた広さ約 2,500haの沼)

で発見されたことによるものです。品井沼は,明治時代以降の干拓によって水田に姿を変えましたが,シナイモ

ツゴは現在も大崎市内のため池等で生息が確認されています。

(2)人と自然の関わりの現状

(東北地方を代表する農村景観)

県北地域の低地は,東北地方でも有数の穀倉地帯として広大な水田が広がり,周辺には

農業用のため池が点在する景観が見られます。また,仙台平野南部では奥羽山脈から吹き

下ろす強風に備えて,家屋の周辺を防風林で囲んだ居い

久ぐ

根ね

が見られるのも本県の平野部の

特徴的な景観の一つとなっています。

伊豆沼・内沼(登米市・栗原市) 蕪栗沼

(登米市・栗原市・大崎市)

(大崎市・登米市)

化女沼(大崎市)

伊豆沼・内沼,蕪栗沼・周辺水田,化女沼は本県を代表する湿地です。これらの水辺やその周辺の水田地帯

はガン類やハクチョウ類などの渡り鳥をはじめ,多くの生きものの命を育んでいます。

シナイモツゴ 提供:NPO法人シナイモツゴ郷の会

現在の品井沼の様子

提供:公益財団法人宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団

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(農業との関わり)

本県の農業産出額は 1,810 億円(平成 24 年)

で,(内訳:米 885 億円,野菜 217 億円,畜産 626

億円)都道府県別で全国第 4 位の水田面積

(103,700ha)を抱える本県では,全国に先駆け

て環境保全型の農法による米づくり「特別栽培米※」の栽培が行われており,その栽培面積は平成

24 年で全作付面積(69,300ha)の約 4 割

(28,100ha)を占めています。

※ 特別栽培米

化学合成農薬の使用成分数と,化学肥料の使用量を本県で一般的に行われている栽培方法(慣行栽培)の

半分以下に抑えて作られた米

仙台平野の水田地帯(写真左)と仙台平野南部の居

(写真右)

水田と居久根は,仙台平野をはじめ,農村地域で見ることのできる,本県を代

表する景観です。居久根は,植栽してから長い年月によって成長した樹木を防風

林としてだけでなく建築材としての活用や,実を食料にするなど,水田地帯にお

いて環境と共生する仕組みとなっており,野鳥や昆虫などの生息環境としても貴

重な空間となっています。

さらに大崎市等では,渡り鳥のマガンをシンボルとする「ふゆみずたんぼ米」(写真左),

シナイモツゴをシンボルとする「シナイモツゴ郷の米」(写真右)等地域を代表する生きも

のをシンボルに掲げた安心・安全な農法による米づくりが行われています。

出典:株式会社たじり穂波公社ウェブサイト

たじりかしまだいシナイモツゴ郷の米つくり手の会ウェブサイト

ウェブサイト

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また,大崎地域では,「水鳥を育む湿地としての大崎の水田農業」を,伝統的な農業,農

法を核として,生物多様性や優れた景観などが一体となって,保全,活用される世界的に

重要な農業システムとされる,世界農業遺産へ申請する協議会が組織されています。

(伝統野菜)

県内には昔から地域で栽培されてきた野菜(伝統野菜)の種が,農家の努力によって多

く保存されています。本県では,農家や飲食店,宿泊施設,学校等との連携を図りながら

伝統野菜の保全も含めて,地域で採れた農産物を地域で消費する地産地消の取組を進めて

います。取組の成果は,県のウェブサイト「食材王国みやぎ」を通じて広く発信していま

す。

地域で栽培されてきた野菜(伝統野菜)

(グリーン・ツーリズム)

食や農作業体験などを通じて,子ども達の食育や体験学習をはじめ,農山村と都市との

交流を促進するグリーン・ツーリズムの取組が行われています。登米市や栗原市,大崎市,

加美町などでは,農家等が組織する協議会が学校等を対象として農林漁業体験を受け入れ,

農林漁業者は地域食材や地域資源を活用したレストランや民宿を運営するなど,地域ぐる

みの取組が県内で行われています。

出典:宮城県ウェブサイト 「食材王国みやぎ」等より作成

小瀬菜大根 からとり芋

仙台長なす 仙台雪菜 仙台芭蕉菜 仙台白菜

曲がりねぎ

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(1)自然環境の現状

(森と海をつなぐ自然の環境軸)

県内には北上川,名取川,鳴瀬川,阿武隈川など 263 の一級河川と,七北田川など 69

の二級河川,市町村が管理する 55 河川を合わせて 387 河川が流れ,全河川の延長距離は

2,568km,流域面積の合計は 6,810k ㎡にのぼります。

仙台平野は,北上川,鳴瀬川,名取川,阿武隈川等の流れにより形作られた地形です。

水際や河口部,河川敷などの湿った環境にはヨシやガマなどが生えて,北上川や名取川

の河口などでは広いヨシ原となっています。また,河川敷の乾いた場所にはススキやオギ

などが生え,まとまった広さの草地を形成している例も見られます。

(2)人と自然の関わりの現状

(レクリエーション等の機会の提供)

北上川や広瀬川などの河川敷では,年間を通じて散策や釣り,スポーツ,ピクニック,

自然観察などを楽しむ人の姿が見られます。潤いのある水辺は,私たちにレクリエーショ

ンや環境学習,癒やしの場などの様々な機会を提供しています。また,河川は内水面漁業

の場としても利用されており,県内の内水面漁業協同組合(平成 24 年現在 17 組合)によ

って,水産資源の保全等の取組が行われています。

※ 内水面漁業組合数は,農林水産省東北農政局(平成 25年)「農林水産統計みやぎ」による。

(治水対策)

県内の河川では築堤や河道掘削などの河川事業やダム事業が行われています。

北上川

県内の主な河川

出典:宮城県土木部河川課「みやぎの河川・ダム・海岸」

広瀬川

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(1)自然環境の現状

(砂浜海岸とリアス海岸が続く沿岸部)

牡鹿半島から岩手県境にかけての沿岸部は,入り組んだ地形が特徴的なリアス海岸が続

きます。また,石巻市から福島県境にかけての太平洋沿岸部は,砂浜海岸があり,ところ

どころに干潟が点在しています。美しい砂浜は海水浴や観光の場として,また,干潟は潮

干狩り等のレクリエーションの場として利用されています。海岸に沿って塩害や飛砂の防

止を目的とした海岸林が整備されていましたが,東日本大震災の津波により,多くの海岸

林が流出や倒壊によって失われました。

(生きものの多様性に富んだ干潟や海岸)

沿岸部の湿地には全国的にみて個体数が減少傾向にある,ヒヌマイトトンボやコバネア

オイトトンボなどのトンボ類が生息しています。東日本大震災の津波によって,これらの

トンボ類をはじめとする沿岸部の生きものの生息・生育環境は大きな影響を受けましたが,

震災後4年が経過して,良好な湿地が再生した箇所も見られます。

仙台湾沿岸の蒲生や井土浦,鳥の海等の干潟にはアサリ,ゴカイ,エビ類等の多様な生

きものが生息しています。それらの生きものを求めてシギ類やチドリ類等の多くの水鳥が

訪れます。蒲生干潟には国の天然記念物のコクガンも飛来しています。これらの干潟は,

渡り鳥の中継地点として,国際的にも重要な湿地となっています。

ヒヌマイトトンボ

体長が 3cmほどのトンボのなかまで、河口付近や沿岸部の汽水域

の湖沼などの限られた環境に生息しています。

幼虫は淡水でも育ちますが、生息環境をめぐる他のトンボ類との

競争に弱いために、汽水域でしか生き残れないと考えられています。

国内での分布は極めて局所的で、宮城県内の生息環境は石巻市を除

いて津波で失われました。

提供:五十嵐由里氏

リアス海岸特有の入り組んだ地形が

見られる海岸(気仙沼大島)

提供:環境省

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(2)人と自然との関わりの現状

(漁業との関わり)

本県における海面漁業の経営体数は 4,006(平成 20 年 11 月現在)で,前回調査(平成

15 年)比で 527 経営体の減少(-12%)となりました。昭和 58 年以降の約 30 年間では

2,963 経営体の減少(-43%)と,ほぼ半減しています。

海面漁業の経営体のうち約 6 割(2,366 経営体)を海面養殖が占めており,全県の海面

漁業の経営体に占める海面養殖を行う経営体の比率は,全国平均の約 17%と比較してかな

り高いといえます。内訳は,カキ類養殖 809 経営体,ワカメ類養殖 611 経営体,ホタテ貝

養殖 372 経営体となっています。

※ 出典:宮城県震災復興・企画部(平成 25年)宮城県社会経済白書 平成 24年度版

(観光やレクリエーションとの関わり)

入り組んだ海岸線や風光明媚な景観が広がる松島湾や三陸海岸一帯には,豊かな自然や

景観,三陸沖の豊富な海の幸などを求めて多くの観光客が訪れます。東日本大震災の津波

や地盤沈下によって沿岸部の自然環境や景観の多くが一変しましたが,地域の漁業関係者

や NPO 等が中心となって,エコツーリズムなどの新たな地域振興の取組が震災復興の取

組と一体的に進められています。

震災後の蒲生干潟(仙台市,平成 27年 1月)とコクガン

東日本大震災の地震による地盤沈下や津波による浸食によって,干潟の形

が大きく変化しましたが,震災から 3年が経過し,以前の姿を取り戻しつつ

あります。震災後もコクガンの飛来が確認されています。

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2 県内で行われている生物多様性の保全に関する取組

県内では様々な主体により,地域の豊かな自然を守り育て,そこから得られる様々な恵

みを持続的に利活用する取組が行われています。これらの取組を県内全域のほか,森,平

野,川,海の 4 つの地域に分類して整理しました。

1 環境保全に関する計画や指針の策定等 取組主体 県

(条例の制定や計画の策定)

本県は,自然の保全の在り方についての基本的な考え方をまとめた自然環境保全条例を

昭和 47 年に制定し,同条例に基づいて翌昭和 48 年に宮城県自然環境保全基本方針を策定

しました。平成 7 年には,本県における環境政策や環境保全の取組の方向性をまとめた環

境基本条例を制定し,同条例に基づいて平成 9 年には宮城県環境基本計画を策定しました。

その後,平成 18 年には宮城県環境基本計画と宮城県自然環境保全基本方針の見直しを行

い,新たに生物多様性や里山保全等の視点を盛り込みました。その他,本県では以下のよ

うな環境保全に関する条例や計画等の制定・策定を行っています。

これまでに制定・策定された環境保全に関する主な条例等と関連計画等

内容 条例等の名称及び制定・策定時期 関連する計画等

環境保全全般

宮城の将来ビジョン(平成 19 年 3 月) 宮城の将来ビジョン・震災復興実施計画

(平成 24 年 3 月) 宮城県震災復興計画(平成 23 年 9 月)

環境基本条例(平成 7 年 3 月) 環境基本計画(平成 18 年 3 月)

自然環境の保全

県立自然公園条例(昭和 34 年 7 月) ※同条例に基づいて 8 か所の県立自然公

園を指定。

自然環境保全条例(昭和 47 年 7 月)

※同条例に基づいて 16 か所の県自然環

境保全地域,9 か所の緑地環境保全地

域を指定。

みやぎ森林・林業の将来ビジョン(平成20 年 3 月)

みやぎ食と農の県民条例(平成 12 年 7 月) みやぎ食と農の県民条例基本計画

(平成 23 年 3 月)

大規模開発行為に関する指導要綱

(昭和 51 年 8 月)

野生生物の保護

及び適正な管理

第 11 次宮城県鳥獣保護事業計画書

(平成 25 年 4 月) 特定鳥獣保護管理計画(平成 25 年 3 月)

水環境の保全

ふるさと宮城の水循環保全条例

(平成 16 年 6 月)

宮城県水循環保全基本計画

(平成 18 年 12 月)

みやぎ海とさかなの県民条例

(平成 15 年 3 月)

水産業の振興に関する基本的な計画

(平成 26 年 10 月)

自然環境の持続

利用

みやぎ観光創造県民条例

(平成 23 年 3 月)

みやぎ観光戦略プラン(第 3 期)

(平成 26 年 3 月)

県内全域

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2 法律等に基づく国立公園や保護区等の指定 取組主体 国,県

(法律や条例に基づく保護区等の指定)

県内には,自然の保全を目的とした法律や条令に基づいて保護地域に指定された自然公

園等の土地が延べ約 1,900 km2(県土の約 26%,平成 25 年 12 月現在)あります。これら

の指定地域では,開発行為等の土地の状態を変える行為に対する一定の規制が行われてい

ます。国立公園,国定公園及び県立自然公園は奥羽山地と北上山地を中心に指定されてい

ます。

(国立公園,国定公園の指定)

自然公園法に基づいて,県東部の北上山地一帯が三陸復興国立公園に,県西部の蔵王山,

栗駒山一帯及び南三陸・金華山がそれぞれ国定公園に指定され,開発等による環境の改変

が規制されています。

県内の国立公園・国定公園の指定状況(平成 25年 12月現在)

指定根拠 種別 箇所数 面積

自然公園法 国立公園(三陸復興国立公園) 1 980ha

国定公園(蔵王,栗駒,南三陸金華山) 3 64,175ha

(県立自然公園,県自然環境保全地域等の指定)

県立自然公園条例や県自然環境保全条例に基づいて,阿武隈渓谷,蔵王山麓,仙台湾海

浜等が県立自然公園や県自然環境保全地域等に指定され,開発行為が規制されています。

県立自然公園等の指定状況(平成 25年 12月現在)

指定根拠 種別 箇所数 面積

県立自然公園条例 県立自然公園 8 106,044ha

自然環境保全条例 県自然環境保全地域 16 8,574ha

緑地環境保全地域 9 10,101ha

自然公園等の指定状況(平成 25年 12月現在)

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(鳥獣保護区)

鳥獣の保護を図るため,鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律に基づく

鳥獣保護区として 99 か所 156,721ha が指定され,そのうち 10 か所 8,807ha が,開発が

規制される特別保護地区に指定されています。

県内の鳥獣保護区指定状況(平成 25年度末)

鳥獣保護区 うち特別保護地区

国指定 4 か所 12,190ha 4 か所 1,577ha

県指定 95 か所 144,531ha 10 か所 8,807ha

計 99 か所 156,721ha 14 か所 10,384ha

(ラムサール条約湿地)

国内でも有数の渡り鳥の飛来地である伊豆沼・内沼,蕪栗沼・周辺水田及び化女沼の 3

湿地が,水鳥の生息地として国際的に重要な湿地の保全とその賢明な利用を目的とする国

際条約「ラムサール条約」に基づくラムサール条約湿地に登録されています。指定面積は

伊豆沼・内沼 559ha,蕪栗沼・周辺水田 423ha,化女沼 34ha となっています。

(保安林,保護林)

水源かん養,山地災害に対する防備等を目的に森林法に基づく保安林に指定された森林

が 182,323ha(平成 25 年度末現在),原生的な森林生態系や優れた自然景観を有する貴重

な森林の保護を目的に,林野庁が保護林として設定した国有林が約 14,179ha(平成 26 年

度当初現在)あります。

3 開発等による環境への影響を把握・低減する取組 取組主体 国,県

(環境アセスメント等)

本県では、平成 10 年 3 月に制定した環境影響評価条例に基づいて,環境影響評価(ア

セスメント)を導入しています。この制度では,例えば宅地やゴルフ場等の造成工事や道

路建設など,自然環境への影響が懸念される事業が行われる場合には,事前に環境調査を

実施して自然環境への影響を把握し,必要な対策を検討しています。

4 野生生物の生息環境の保全・再生 取組主体 NPO,県,市町村,学校,県民 等

(希少種,在来種の保護)

大崎市内では,全国的に絶滅のおそれのある淡水魚「シナイモツゴ」や「ゼニタナゴ」

の保護と復元を目的に,NPO 法人シナイモツゴ郷の会が中心となり,市内の小学校や農家、

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東北大学や大崎市と連携して,オオクチバスやアメリカザリガニ等の外来種の駆除のほか,

生息池を増やし保全する活動を継続的に行っています。

伊豆沼・内沼では,周辺環境からの富栄養化した水の流入や,増加したハスの枯死体の

腐食・堆積等による水質の悪化,オオクチバスによるゼニタナゴ等の在来魚の捕食等によ

り,生物多様性が低下しました。そこで,公益財団法人宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団

が中心となり,効率的なハスの刈り取り及びオオクチバスの捕獲方法の確立と,かつて繁

茂していたクロモ等の在来の水草の育成・増殖を一体的に進めることで,適正な水環境で

あったとされる昭和 55 年以前の伊豆沼・内沼の再生を目指しています。

平成 16 年に開始したオオクチバスの産卵床による駆除数は平成 25 年にはピーク時(平

成 17 年の 252 床)の 10 分の 1 にまで減少し,モツゴやモロコ等の個体数が増加傾向にあ

るなど,目に見えた成果が現れています。

(伊豆沼・内沼自然再生事業)

伊豆沼・内沼では,県,地元市町村,NPO,漁業協同組合,土地改良区等で構成する伊

豆沼・内沼自然再生協議会(自然再生推進法に基づく法定協議会)を平成 20 年に立ち上

げ,種構成が単純化してきている水鳥の飛来状況の調査や,オオクチバスやブルーギル等

の外来生物による被害,水質の悪化等の課題解決に向けた様々な保全対策,環境教育やエ

コツーリズム等の推進などの自然再生事業を継続して行っています。

(蒲生干潟自然再生事業)

蒲生干潟(仙台市)では,干潟の塩分濃度上昇や干潟面積の減少,人による無秩序な空

間利用等により,鳥類の生活環境が劣化し,干潟を利用する野鳥の飛来種類や飛来数の減

池干しによる外来種の駆除作業

出典:NPO法人シナイモツゴ郷の会

ウェブサイト

伊豆沼・内沼における外来種の駆除作業

出典:公益財団法人宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団

ゼニタナゴ

提供:NPO法人シナイモツゴ郷の会

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少が問題となっていたことから,平成 17 年に国,県,地元市町村,NPO,学識経験者

等で構成する蒲生干潟自然再生協議会(法定協議会)を立ち上げ,導流堤や越波防止堤の

設置,人の利用に関するマナーづくりなどの対策を行ってきました。東日本大震災による

地盤沈下と津波の影響により,干潟の形状は大きく変わりましたが,現在自然の力によっ

て,地形や底生生物,植物の生息・生育の遷移が続いており,国や県においてモニタリ

ングを行いながら,被災後の環境の変化を調査しています。また,干潟や砂浜の利用者

に対する干潟への配慮についての注意喚起を行っています。

5 環境教育に関する取組 取組主体 NPO,県,市町村,学校,県民 等

(多様な主体による環境教育の取組)

本県では,地域の NPO や学校,企業,市町村等の連携により,森林や農地,海岸等の

自然環境を生かした体験型の環境学習やエコツーリズム等の様々な分野における継続的

な環境教育が行われています。東日本大震災以降は,被災地域をフィールドにした防災教

育等の取組を通じて,地域住民とプログラム参加者の相互交流を通じた地域づくりの取組

が行われています。

(持続可能な地域づくりを考え・学ぶ教育の推進)

自然や歴史,文化,産業等の様々な地域の資源に着目し,農業や環境等の幅広い視点か

ら持続可能な地域の在り方を主体的に考え・学ぶ人材育成の取組「持続可能な開発のため

の教育(ESD:Educational for Sustainable Development)」が,仙台広域圏 ESD・RCE

(Regional Centre of Expertise)運営委員会として県内 4 地域(仙台,気仙沼,大崎,白

石・七ヶ宿)の自治体等と 2 大学(宮城教育大学,東北大学)の連携により進められてい

ます。

仙台地区では循環型社会の実現に向けた市民活動の在り方,白石・七ヶ宿地区では水源

地域の里山保全活動などが行われています。気仙沼市では市内の全ての小・中学校がユネ

スコスクール※に加盟し,市や大学,地域の NPO 等の多様な主体との連携の下,環境教育

や防災教育,国際理解教育,郷土芸能等,幅広い観点から地域づくりに関する教育に取り

組んでいます。これは,ユネスコスクールの取組規模としては全国でもトップクラスです。

気仙沼市は平成23年の東日本大震災において,沿岸部を中心に甚大な被害を受けましたが,

震災を契機に,防災や減災の視点から見た持続可能な地域の在り方についての学びを深め

ています。

※ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)憲章に掲げられた環境教育や平和,人権等のテーマに基づく教育を

実践する学校。ユネスコが認定・登録

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6 自然の恵みの持続利用に関する取組 取組主体 県,市町村,農家, 企業(飲食店),学校 等

(みやぎ食育応援団)

本県では平成 23 年度に「第 2 期宮城県食育推進プラン」を策定し,食育を通じた健康

づくりや地産地消,食文化の継承等を図るため,人材育成による推進体制の整備や普及啓

発を行い,県民運動としての食育に取り組んでいます。

「みやぎ食育応援団(みやぎ食育アドバイザー,みやぎ食育コーディネーター及び団体

で構成)は,自ら食育に取り組むとともに,地域や学校,団体等が行う食育活動に対し,

専門的な立場から取組を支援しており,地域の特色に応じた食育の推進を継続的に支援す

る仕組みが整備されています。

7 みやぎ環境税を活用した環境保全 取組主体 県,市町村,県民, NPO,企業,学校 等

本県では,宮城の豊かな自然環境を守り,次世代に引き継いでいくために,喫緊の環境

問題に対応する施策に充当する財源として,平成 23 年 4 月から「みやぎ環境税」を導入

しています。環境税を活用した事業については,同年に「みやぎグリーン戦略プラン」を

策定し,森林の間伐や再生可能エネルギーの普及促進などによる地球温暖化の対策をはじ

め,野生鳥獣の保護や適正管理,健全な里山林の保全・再生などの生物多様性の確保に関

する様々な事業を展開しています。

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1 法律等に基づく国立公園や保護区等の指定 取組主体 国,県

(国立公園,国定公園の指定)※再掲

自然公園法に基づいて,県東部の北上山地一帯が三陸復興国立公園,県西部の蔵王山,

栗駒山麓及び南三陸・金華山が国定公園に指定され,開発等による環境の改変が規制され

ています。

(県立自然公園,県自然環境保全地域等の指定)※再掲

県立自然公園条例や自然環境保全条例に基づいて,阿武隈渓谷,蔵王山麓,仙台湾海浜

等が県立自然公園や県自然環境保全地域等に指定され,開発行為が規制されています。

(天然記念物の指定)

北上山地の翁倉山周辺がイヌワシの繁殖地として,文化財保護法に基づく国の天然記念

物に指定されています。

(良好な国有林を「保護林」や「緑の回廊」として保全)

奥羽山脈の稜線沿い等にある国有林のうち,野生生物の生息・生育環境の保全等を目的

に保護林を設定するとともに,これらをネットワークでつなぐ林野庁の「緑の回廊」の取

組が行われています。本県では約 14,179ha の国有林が保護林として,約 17,545ha が「緑

の回廊」として保全されています(面積数値は平成26年度当初現在)。

2 多様な主体の連携による森づくり 取組主体 国,県,企業 等

(市民参加の森づくり)

森づくりに関心を持つ企業や民間団体等の活動フィールドとして県有林を提供する「わ

たしたちの森づくり事業」をはじめ,県有林だけでなく市町村有林や,個人・団体等が所

有する私有林における森づくり「みやぎの里山コモンズ・パートナーシップの森林づくり

(みやぎの里山林協働再生支援事業)」を通じ CSR 活動の一環として,森林環境の整備の

ほか,林業,自然体験,森林レクリエーション及び森林・環境教育の場として多面的な森林

利用に取り組んでいます。平成 26 年 3 月末現在,市民参加の森づくりとして,28 社が延

べ 158ha で活動に取り組んでいます。

また,県内の国有林では,民間団体(NPO や企業等)との協定の締結や体験林業の実施

等により,国有林を提供して,里山等の森林整備や海岸防災林の植樹活動等が行われていま

す。

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(企業の森づくり)

県内の民有林において,県と森林所有者,県内外の企業との連携により,森林環境の整

備等を目的とした「企業の森づくり」が行われています。

(森林認証制度等を活用した持続可能な森づくり)

本県では,森林整備による二酸化炭素吸収量をクレジットとして市場取引するJ-クレ

ジット制度が実施されているほか,持続可能な森林経営を行っている森林やその管理主体

を第三者機関が認証する,以下に挙げた森林認証制度が森づくりに活用されています。ま

た,利用期を迎えた森林資源の有効活用により,森林が有する水源かん養や地球温暖化の

防止等の機能の向上を目的とする「みやぎの木づかい運動」を行っています。さらに「宮

城県の公共建築物における木材利用の促進に関する方針」(平成 23 年策定)に基づいて,

公共施設における県産材の利用促進が進められています。

○ J-クレジット制度/〔認証機関〕J-クレジット制度認証委員会(環境省)等

○ フォレストック認証/〔認証機関〕一般社団法人フォレストック協会

○ FSC(Forest Stewardship Council)森林認証制度/〔認証機関〕森林管理協議会

○ SGEC(Sustainable Green Ecosystem Council)森林認証制度/〔認証機関〕一般社団

法人緑の循環認証会議,〔県内の認証森林〕3 か所 5,164ha(平成 26 年 8 月現在)

仙台コカ・コーラボトリング株式会社の事例

「うるおいの森づくり」(白石市,蔵王町)

平成 18年から宮城県森林インストラクター協会との連携による広葉

樹の植栽や下刈等が行われています。森の素材を活用した工作教室や森

の散策など多彩なメニューを用意することで,様々な角度から森の魅力

を発信する取組は人気が高く,毎年 200人以上の参加があります。

東北ミサワホーム株式会社の事例

「MISAWAオーナーの森 宮城」

利府町内の県有林で「わたしたちの森づくり事業」によるネーミン

グ・ライツ(命名権)を取得し,月 2回程度,宮城県森林インストラ

クター協会との連携による森づくりが社員参加で行われています。遊

歩道など森林の整備が進み,荒れていた森が今では「いやしの森」と

呼べるほど豊かな森に変わりました。

このほか,楽天株式会社では,プロ野球チーム「東北楽天ゴールデンイーグルス」のマ

スコットにもなっているイヌワシの生息環境の保全に関する普及啓発を行う「クラッチの

仲間イヌワシを守ろうプロジェクト」を平成 24 年から行っています。平成 26 年からは,

その取組をさらに一歩進めて,イヌワシの生息環境の保全・再生を目的とした具体的な森

林整備を行う「楽天の森」プロジェクトを東北 6 県を対象に始め,平成 27 年度からは全

国に展開していきます。

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1 湿地の保全と持続的な利活用に関する取組 取組主体 国,県,市町村,NPO,農家,県民,学校,

企業 等

(ラムサール条約湿地の保全)

県北にある伊豆沼・内沼,蕪栗沼・周辺水田及び化女沼の 3 か所の湿地が,渡り鳥の飛

来地として国際的に重要な湿地の保全に関する国際条約「ラムサール条約」に基づくラム

サール条約湿地に登録されています。また 3 か所の湿地は,国指定鳥獣保護区の特別保護

地区にも指定され,鳥獣の捕獲や開発行為が規制されています。現在,良好な湿地環境の

保全・再生を目的とした外来生物の駆除や水質の改善等の取組が行われています。

県内のラムサール条約湿地の登録状況(平成 26年 8月現在)

条約湿地名 所在市町村 面積 登録時期

伊豆沼・内沼 登米市,栗原市 559ha 昭和 60 年 9 月

蕪栗沼・ 周辺水田 登米市,栗原市,大崎市 423ha 平成 17年 11月

化女沼 大崎市 34ha 平成 20年 10月

※ 国内では 46か所 計 137,968haがラムサール条約湿地に登録されています。

出典:環境省ウェブサイトをもとに作成

(蕪栗沼周辺における環境保全の取組)

現在,大崎市や栗原市,登米市では,良好な湿地の保全とその持続的な利用の実現に向

けた環境教育プログラムやエコツーリズム等の取組が行われています。蕪栗沼周辺地域で

は,農家や NPO,企業,学校等の多様な主体が連携し,冬期の水田に水をためて昆虫や微

生物,渡り鳥のすみかとする「ふゆみずたんぼ(冬期湛水田)」や,湿地に生えるヨシを燃

料(ヨシペレット)として利用する取組などを通じて,人と自然が共生する地域づくりが

行われています。

蕪栗沼周辺では遊水地の整備と一体で,自然と共存する農業や渡り鳥が飛来する良好な

湿地環境の保全が進められています。同地区では,蕪栗沼・周辺水田がラムサール条約湿

地に登録される以前から,「ふゆみずたんぼ」の取組が推進されていますが,実施する水田

が点在しているために作業効率が悪く,マガン等の飛来環境としても,よりまとまった面

積の確保が課題となっていました。現在,沼の北西部にある蕪栗沼地区では,農家や土地

改良区,大崎市,県が連携して,地区内のふゆみずたんぼを 1 か所に集約し(約 36ha。整

備が完了すれば,1 か所のふゆみずたんぼとしては国内でも最大規模になる見込み),水田

の周囲の水路を土水路として整備する等の環境に配慮したほ場整備が行われています。

平野

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2 自然と共生する農業の推進 取組主体 JA みやぎ,農家,

土地改良区 等

(みやぎの環境保全米づくり全県推進運動)

JA 宮城中央会では,身近な生きものや自然環境に配慮して,化学合成農薬と化学肥料の

使用を通常の半分以下に減らす農法による「環境保全米」づくりを進めています。環境保全

米の取組を,平成 27 年までに県内の水稲作付面積の 70%の水田で実施することを目指して

います。また,営農に伴う作業効率・コスト軽減を環境保全と一体的に進めることを目的と

した新たな農法として,種もみを直接水田に播く「直播じかまき

栽培」の実証にも取り組んでいます。

環境保全米の取組を普及するために,地域の JA や農家が中心となって「みやぎの環境保全

米県民会議」を立ち上げ,県内の環境保全米に関する取組状況を共有するとともに,成果を

ニュースレターにまとめ(約 2 万部,年間約 4 回発行),県内の生活協同組合や学校等に配

布する等の広報活動も行っています。

(学童農園)

県内の小学校等において,市町村や農家,JA 等の連携により,農作業体験を通じて食や

農業,身近な自然の大切さを体験する学童農園の取組が行われています。

県内における環境保全米の作付面積の推移

出典:JA全農みやぎウェブサイト

蕪栗沼・周辺水田における「ふゆみずたんぼ」の取組

(大崎市伸萠

しんぽう

地区)

蕪栗沼周辺では,ガン類などの渡り鳥の越冬地の分散を目的に冬季に水

田に水を張る「ふゆみずたんぼ」の取組が平成 10年頃から始まりました。

平成 15年からは蕪栗沼の南側の伸萠地区で集落単位での取組が始まって

います。

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(多面的機能支払交付金等を活用した環境保全の取組)

農業者等の組織する団体が主体となって行う農地や農業用水等の保全管理や農村環境の

保全等に対する国(農林水産省)の多面的機能支払交付金を活用した環境保全の取組が,農

地やその周辺で行われています。この交付金を活用している地域の活動組織は県内に 784

組織あり(平成 26 年度),県内の約 62,000 の農地を対象に取組が行われています。また,

農業農村整備事業では農地等の改良工事と併せ,トンボ類やカエル類などの水田にすむ生き

ものの調査や,ほ場整備等によって水田と排水路に落差等が生じた箇所への水田魚道の設置

などの取組が行われています。

(田んぼの生きもの調査)

県と JA,土地改良区等の連携により,県内の水田とその周辺の農業用水路,ため池等を

調査する「田んぼの生きもの調査」が平成 13 年から行われています。田んぼの生きもの調

査は,水田周辺の水路やため池にすむ生きものを対象とした「魚類・水生生物調査」,水田

周辺の農道や畦の周りにすむカエルを対象とした「カエル調査」,及びこの2つの調査を行

った場所の環境を対象とした「環境調査」の 3 つの調査で構成されています。魚類調査は県

内 22 市町村の延べ 416 地点で行われ,これまでに,46 種の淡水魚が確認されています。

これは,県内で確認された淡水魚 70 種の約 7 割に相当します。カエル調査は 18 市町村の

延べ 166 地点で行われ,7 種類のカエルが確認されています。

(畜産振興における環境保全)

畜産経営に起因する環境汚染の防止と畜産経営の健全な発展を図ることを目的に,家畜

排せつ物処理施設の整備を実施し,また,家畜排せつ物の適正処理の指導を行い,環境保全

に努めています。

(企業との連携による環境保全活動)

大崎市の酒蔵「一ノ蔵」では,渡り鳥の湿地に関する国際条約「ラム

サール条約」で水田として世界で初めて認定された蕪栗沼・周辺水田で

ふゆみずたんぼ栽培で生産された有機米「ササニシキ」を原料にして日

本酒を醸造・販売しています。自然との共生を目指し,売上げの一部を

地域の NPO の取組の支援にあてるなど,地域の生物多様性の向上に取り

組んでいます。 ふゆみずたんぼ米を使った日本酒

提供:株式会社一ノ蔵

水田に設置された魚道

水田魚道の他に,稲の根付きを良くするために田植え後に,水田

の水を一旦抜く中干しによってメダカなどが一気に用排水路に流

されないように,避難場所として「江

」をつくる取組なども行われ

ています。

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1 地域との連携による川づくり 取組主体 県,市町村,NPO,市民,学校 等

(多自然川づくりの推進)

広瀬川では地域住民との連携による川の自然再生の取組(多自然川づくり)が平成 19 年

から行われました。計画段階から地域住民や NPO,市民団体等が参加して,ワークショッ

プ形式で川づくりの方向性などが検討され,礫河原の再生などの取組が行われました。整備

後には,再生した環境の変化を調べる環境調査なども行われました。

出典:宮城県仙台土木事務所資料

(白石川における水辺再生の取組)

本県では住民参加による自然に優しい川づくりを進めており,平成 10 年から蔵王町内の

白石川において,地元の小学校と連携してマコモの植栽を行っています。現在,地域の NPO

(白鳥愛護会)が主体となり,七ヶ宿ダム管理所,蔵王町立宮小学校,蔵王町農林観光課,

宮城県大河原土木事務所等の連携により,良好な水辺環境の創出に関する取組が行われてい

ます。

地域の小学校との連携によるマコモの植栽風景(震災前)

出典:宮城ウェブサイト(宮城県大河原土木事務所)

河川敷に創出された礫河原 漁協との連携により,川の流れに落差がある

箇所に設置された魚道

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2 川に関する普及啓発の取組 取組主体 県,市町村,NPO,市民,学校 等

(「みやぎ出前講座」等を通じた川に関する環境学習)

県の「みやぎ出前講座」(県職員が地域の会合等の場に出向き,県所管事業の説明を行う

もの)の一環で,小学校の「総合的な学習の時間」等において,河川をテーマにした環境学

習の支援を行っています。また,宮城県仙台土木事務所では,県が主催する「みやぎ出前講

座」とは別に,独自事業として河川の環境学習に関する講座を開講しています。

県ではこの他に,県内の小学校の児童,中学校・高等学校の生徒を対象に,身近な河川の

状態を知り,河川への親しみや水環境の保全に関する意識の啓発を目的とした水生生物調査

を昭和 61 年から行っています。平成 23 年には,小学校等 26 団体計 622 人が参加して,県

内 23 河川の水生生物調査を行いました。

(環境保全啓発と水資源の理解促進の取組)

県内の内水面漁業協同組合等のさけふ化団体では,本県の重要な水産資源である,さけ資

源を維持するために,河川に遡上した親魚から卵を採取し,人口ふ化・育成し,その稚魚を

流域の河川に放流しています。

また,流域の市民の方々と連携し,小学校や幼稚園児によるさけの体験放流を企画するな

ど,水辺環境の保全の大切さを感じてもらうよう活動しています。

小学校における「みやぎ出前講座」の実施風景

出典:宮城県仙台土木事務所資料

放流時の風景 出典:宮城県さけます増殖協会ウェブサイト

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1 沿岸域の環境保全 取組主体 漁業者,NPO,県民,

市町村 等

(松島湾におけるアマモ場の再生)

松島湾では,市民,漁業者,市町村等で構成する任意団体「松島湾アマモ場再生会議」を

立ち上げて,東日本大震災の際の津波で失われた藻場(アマモ場)の再生に向けた取組を行

っています。これまでに,残存するアマモ場の調査と花芽の採取,アマモ場と漁業との関わ

りに関する地元への聞き取り調査等を行い,その成果を自然観察会やウェブサイト等を通じ

て広く発信しています。

(地域資源を生かした復興)

国内でも有数の漁場を有する沿岸部の生物多様性の保全・回復を通じて,地域の自然資源

を生かした復興に取り組む「海と田んぼからのグリーン復興プロジェクト」が,大学・NPO・

企業等の連携で進められています。現在,沿岸部の自然環境の継続的な調査のほか,唐桑半

島(気仙沼市)や浦戸諸島(塩竈市)等における生物多様性に配慮したまちづくり,塩害の

被害を受けた水田における「ふゆみずたんぼ」の推進等を行っています。

(沿岸域の重要な自然環境の可視化)

環境省では,自然環境に配慮した復興事業の推進に向けて,東日本大震災が太平洋沿岸地

域の自然環境に及ぼした影響を調査し,その結果を踏まえて,津波浸水域における自然環境

保全上重要な生物が生息・生育する環境(ハビタット)を示した地図「重要自然マップ」を

まとめました。このマップは東北地方の沿岸域の自治体等に配布されたほか,環境省のウェ

ブサイトでも公開されています。

アマモ場の調査風景

出典:松島湾アマモ場再生会議ウェブサイト

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2 流域が一体となった環境保全の取組 取組主体 漁業者,NPO,県民,

市町村,学校,企業 等

(気仙沼湾における豊かな海を育む森づくり)

カキの養殖が盛んな気仙沼湾の周辺では,NPO 法人「森は海の恋人」が中心となって,

魚介類を育む豊かな海の再生を目的に,湾に注ぐ大川上流の室根山周辺における広葉樹の森

づくりに取り組んでいます。当地域における漁業者や県民,学校,企業等の様々な組織の連

携による森づくりの取組は,海の森づくりの先駆けとして国内外から注目されています。

3 三陸復興国立公園における取組 取組主体 国,石巻市,南三陸町,登米市,NPO 等

(みちのく潮風トレイル,フィールドミュージアムの整備)

東日本大震災を契機に,環境省では,青森県から宮城県にかけての太平洋岸に断続的に続

く国立公園を三陸復興国立公園として一元化しました。また,現在,環境省や市町村等の連

携により,沿岸地域の豊かな自然や地域の歴史文化に触れ親しむことを目的とした長距離自

然歩道「みちのく潮風トレイル」の設定が進められています。さらに,環境省は南三陸町,

石巻市,登米市域では,周囲の自然を活用して,自然体験や環境学習を推進する場の確保を

目的としたフィールドミュージアムの整備を進めています。

また,国土交通省等が中心となって整備に向けた準備が進められている「石巻市南浜地区

復興祈念公園(仮称)」においては,過去に存在した湿地・沼地空間の整備についての検討

が行われています。

(在来種に着目した海岸林の再生)

亘理町の吉田東部地区には幅約 400m,延長約 1km にわたってクロマツ等を中心とする

海岸林が続いていましたが,東日本大震災の際の津波でそのほとんどが流出しました。同地

区では現在,地域住民と NPO,専門家,企業及び町の連携により,海岸林を拠点としたコ

ミュニティの再生を目指す「わたりグリーンプロジェクト」が立ち上がり,在来種による多

4 自然が有する多面的機能に着目した防災・減災の取組

取組主体 NPO,県民,市町村 等

室根山(気仙沼市)における植樹の様子

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様性に富んだ海岸林の再生を核に,環境教育や,特産品のイチゴを活用した農村体験のフィ

ールド整備等の取組が一体的に進められています。

(千年希望の丘を通じた災害教育)

東日本大震災の津波によって壊滅的な被害を受けた岩沼市では,自然災害を完全に防御す

るのではなく,災害時の被害を最小限にとどめる「減災」の考え方に立ったまちづくりを進

めています。震災によって発生した津波堆積物を活用して,津波の力を減衰し,避難場所と

しても活用できる丘陵「千年希望の丘」を整備し,防災教育の場として活用する取組が始ま

っています。

千年希望の丘の整備構想図(上)と現在の整備状況(左)

出典:岩沼市ウェブサイト

亘理町の海岸林

(低木層にはニセアカシアやイタチハギが優占している)