第1章 これからの進路指導 · 2010. 11. 17. · 第1章 これからの進路指導...

19
第1章 これからの進路指導 ここでは,これまでの進路指導を振り返り,新しい進路指導,つまり「キャリア教育の視 点に立った進路指導」の在り方についてその意義や内容について考えます。また,学校で展 開するために必要な計画の作成などについても考えていきます。

Upload: others

Post on 17-Oct-2020

3 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 第1章 これからの進路指導 · 2010. 11. 17. · 第1章 これからの進路指導 ここでは,これまでの進路指導を振り返り,新しい進路指導,つまり「キャリア教育の視

第1章

これからの進路指導

ここでは,これまでの進路指導を振り返り,新しい進路指導,つまり「キャリア教育の視

点に立った進路指導」の在り方についてその意義や内容について考えます。また,学校で展

開するために必要な計画の作成などについても考えていきます。

Page 2: 第1章 これからの進路指導 · 2010. 11. 17. · 第1章 これからの進路指導 ここでは,これまでの進路指導を振り返り,新しい進路指導,つまり「キャリア教育の視

順位 都道府県名 2003年 2002年 増減

全国平均 10.3 10.5 △ 0.2

1 沖縄 28.1 30.1 △ 2.0

2 東京 14.1 13.9 0.2

3 神奈川 14.1 14.4 △ 0.3

4 大阪 13.1 13.1 0.0

5 宮城 12.0 13.0 △ 1.0

Q1 進路指導を取り巻く状況はどのようになっているのでしょうか

1.1 若者を巡る問題

現在,産業・経済の構造的変化や雇用の多様化などを背景に,児童生徒の進路を巡る環境は大きく

変化しています。多様な価値観や生き方が混在する中,児童生徒はモデルとすべき生き方を見付けに

くく 「人間関係をうまく築くことができない 「自分で意思決定できない 「将来に希望をもつこと, 」 」

ができない 「自分の進路を選ぼうとしない」などという状況が見られます。このことは「フリータ」

ー」の増加や*「NEET (Not in Employment, Education or Training)」の出現,依然として高水準な

早期離職率といった現象でも分かります。この現象は,東北地方の高卒者について増加しているとの

調査結果もまとめられています。このように若者をめぐる状況は,あらゆる面で困難な状況をはらん

でいます。

仕事をしていない若者の中で,在学中でもなく,家事をするでもなく,職探しもして*NEET:いない,本当に何もしていない若者

■高卒者の無業者率

1.2 学校教育に求められるもの

このような状況を見ると,若者は仕事に就きた

いと思っていないのではないかと思われがちです

が,実際にはそうではありません 「自分が何を。

したいのか 「自分には何が向いているのか」が」

よく分からない若者が多いようです。中学校卒業

者や高校卒業者が「在学時にしてほしかった指導」

「 」や やっておけば良かった事柄 として 自己の「 」 「 平成14年 文部科学省 学校基本調査

理解」にかかわる事柄が挙げられています (表1 表2)。

一方,企業等が求める人材については 「意欲や態度,職業観・勤労観」が挙げられています。,

学校においては,様々な体験を通して,児童生徒一人一人が「自己理解」を深め 「どのように人と,

してありたいのか 「どのように今を生きていくのか」といったことを考えさせ,学校から職業(仕」,

事)の世界へとスムーズに移行できるような支援が今こそ必要なのです。

表1

表2

中学校在学時に指導してほしかった事柄

(公立中学校3年生について)

1 自分の個性や適性を考える学習 (51.9%)2 進路選択の考え方や方法 (36.1%)3 進路に関する入手方法とその利用の仕方 (32.8%)

文部省 「中学校における進路指導に関する総合的実態調査

高等学校の進路指導への要望

(就職を希望している高校3年生について)

1 自分が何に向いているか知るための学習 (43.1%)2 進路に関する情報や資料の充実 (26.3%)3 将来の仕事に役立つ知識・技術の学習 (26.2%)

文部科学省「高校生の就職問題に関する検討会議報告」

求められる教育とは?

「社会の激しい変化に流されることな

く,それぞれが直面するであろう様々

な課題に柔軟にかつたくましく対応

し,社会人・職業人として自立してい

くことができるようにする教育」

(「キャリア教育の推進に関する総

合的調査研究協力者会議報告

書」より引用)

Page 3: 第1章 これからの進路指導 · 2010. 11. 17. · 第1章 これからの進路指導 ここでは,これまでの進路指導を振り返り,新しい進路指導,つまり「キャリア教育の視

Q2 キャリア教育とは何ですか

「キャリア教育の推進に関する総合的調査研究協力者会議報告書 (文部科学省 2004年)を基に」

みていきましょう。

2.1 キャリア教育の定義

2.2 キャリアとは?

「個人」と「働くこと」の関係の上に成り立つ概念です。

私たちは,一生涯の中で家庭生活では「子ども 「親 「祖父母」などの役割や立場を,社会生活」 」

では「職業人」や「地域社会における市民」など様々な役割や立場を経験していきます。そのような

立場や役割を経験しながら,進路探索期や進路決定時期,新入社員の時期,管理職の時期,また退職

者として人生のそれぞれの時期に 「働くこと」との意味付けを行いながら積み重ねたものを「キャ,

リア」ととらええます。

キャリアは生き方や価値観,勤労観,職業観などと深く結び付き,具体的な職業や職場などの選

択・決定やその過程での諸経験を通して,時間をかけて徐々に積み上げつくられていくものです。

2.3 キャリア発達とは?

。 。 ,発達の過程はいくつかの節目をもちます これを発達段階といいます 生涯の各発達段階において

個人が生涯にわたって果たす社会的役割との関係付けを中心として,発達の過程をとらえたものがキ

ャリア発達です。つまり,一人前の職業人として必要とされる能力や態度を成長させる過程を意味し

ます。キャリア発達は自然に起こるものではなく,様々な働き掛けが必要です。

「進路発達」という概念は学校段階におけるキャリア発達とも言えますが,本書ではすべて「キャ

リア発達」と呼ぶことにします。

*発達課題についてはQ4で説明します。

2.4「職業観,勤労観」とは?

端的に,キャリア教育は「児童生徒の職業観・勤労観を育てる教育」です。それでは職業観,勤労

観とは何でしょうか。

「職業観」とは・・・人それぞれの職業に対する価値的な理解で,人が生きていく上での職業の果たす意義

や役割についての認識

「勤労観」とは・・・職業としての仕事だけでなく「働くこと」そのものに対する個人の見方や考え方,価値観

なお 「児童生徒の職業観・勤労観を育む教育の推進について(国立教育政策研究所2002年11月 」, )

によれば次のようにまとめられます。

キャリア教育とは

「キャリア」概念に基づき「児童生徒一人一人のキャリア発達を支援し,それぞれにふさわ

しいキャリアを形成していくために必要な意欲・態度や能力を育てる教育」であり,端的には

「児童生徒一人一人の勤労観,職業観を育てる教育」である。

キャリアの定義

キャリアとは「個々人が生涯にわたって遂行する様々な立場や役割の連鎖」 及び

「その過程における自己と働くこととの関係づけや価値付けの累積」である。

Page 4: 第1章 これからの進路指導 · 2010. 11. 17. · 第1章 これからの進路指導 ここでは,これまでの進路指導を振り返り,新しい進路指導,つまり「キャリア教育の視

Q3 「望ましい職業観・勤労観」とは何ですか。

3.1 「望ましさ」の要件

学習指導要領には「望ましい職業観・勤労観の形成」が挙げられており,キャリア教育が目指すと

ころも「職業観・勤労観を育てる教育」です。ここで 「望ましさ」の確認をしておきましょう。,

「望ましさ」の要件として以下の点が挙げられています ( 児童生徒の職業観・勤労観を育む教育。「

の推進について」2002年 国立教育政策研究所 )

●理解・認識面

(1) 職業には貴賤がないこと

(2) 職務遂行には規範の遵守や責任が伴うこと

(3) 職業には生計を維持するだけでなく,自己の能力を発揮し,社会の一員としての役割を果た

す義務があるということ

●情意・態度面

(1) 自己及びその個性をかけがえのない価値あるものであるとする自覚

(2) 自己と働くこと及びその関係についての総合的な検討を通した,職業,勤労に対する自分な

りの構え

(3) 将来の夢や希望の実現を目指して取り組もうとする意欲的な態度

上記の要件を受けて「望ましい職業観・勤労観」を指導する配慮が必要です。

3.2 「望ましい職業観・勤労観の育成」にかかわる学習のねらいや内容

「望ましい職業観・勤労観の育成」にかかわる学習のねらいは 「職業や勤労の持つ意義や役割に,

ついて深め,将来の進路選択や職業選択など,自分の将来の生き方の選択基準となる価値観の形成を

図ること」です。学習内容としては次のようなものが挙げられます。

(1) 職業や勤労の社会的な役割について理解すること

(2) 職業生活を通した自己実現について考えること

(3) 自分の人生における職業の位置付けを考えること

(4) 自分が理想とする生き方を考えた望ましい選択をさせるために,将来の自分の職業生活への

期待を育むこと

(5) 生きがい,働きがいについて考えること

(6) 職業に望む態度・姿勢を考えること

(7) 勤労への意欲を高め,職業に対する興味・関心を喚起すること

「望ましい職業観・勤労観」をはぐくむ上で,児童生徒が直接,仕事や職場,職業に触れたり,体

験することを通してこれらの学習を行っていくことが効果的です。

職場体験等の計画や実施に関しては第3章を参考にしてください。

(資料:月刊「進路指導」第76巻第10号財団法人日本進路指導協会発行)

「職業観・勤労観」は職業や勤労についての知識・理解及びそれらが人生で果たす意義や役割についての

個々人の認識であり,職業・勤労に対する見方・考え方,態度等を内容とする価値観である。

その意味で職業・勤労を媒体とした人生観とも言うべきものであり,人が職業や勤労を通してどのような生

き方を選択するかの基準となり,その後の生活により良く適応するための基盤となるものである。

Page 5: 第1章 これからの進路指導 · 2010. 11. 17. · 第1章 これからの進路指導 ここでは,これまでの進路指導を振り返り,新しい進路指導,つまり「キャリア教育の視

Q4 進路指導とキャリア教育の関係はどうなるのですか。

進路指導とキャリア教育は密接な関連があります。進路指導の定義・概念はキャリア教育の定義

・概念と大きな違いが見られません。つまり進路指導の取組は, をなすといえまキャリア教育の中核

す。

従来の進路指導の傾向 キャリア教育の視点に立った進路指導

①「進路決定の指導」に重点が置かれがち ①「キャリア発達を促す指導」と「進路決定のた

めの指導」の調和のとれた指導

②進路意識の向上と体験活動の結び付きが不十 ②キャリア発達を促す体験活動の計画・実施

分 (自己の変化を自覚させる事後指導の重視)

③学級活動やロングホームルームでの進路指導 ③各教科等などあらゆる教育活動で取り組む進路

が中心になりがち 指導

④適応にかかる指導が軽視されがち ④時代の変化に柔軟に対応していく資質や能力を

身に付けるための指導

⑤進路決定のみを重視しがちな進路相談活動 ⑤個人のキャリア発達を支援する計画的なキャリ

アカウンセリング

キャリア教育の視点に立った進路指導では児童生徒の幅広い能力の形成を支援していくことが重視

されていきます。たとえば,次に挙げられる内容が考えられます。

・社会や集団への適応力 ・規範意識の向上やマナーの理解

・豊かな人間性や社会性 ・学ぶことや働くことへの関心・意欲の向上

・人間関係を形成していく力 ・コミュニケーション能力

これらの能力が特定の授業だけでは身に付くことではないことから,あらゆる教

育活動で取り組んでいかなければならないのです。

従来の進路指導

新しい進路指導キャリア教育の視点

○キャリア発達を促す支援

・キャリア発達の組織的・体系的な支援

・児童生徒の意識の変容,能力態度の育成

○「キャリア発達」と「進路

決定」の指導と充実

○適応にかかる指導の充実

Page 6: 第1章 これからの進路指導 · 2010. 11. 17. · 第1章 これからの進路指導 ここでは,これまでの進路指導を振り返り,新しい進路指導,つまり「キャリア教育の視

Q5 キャリア発達課題とは何ですか。

5.1 キャリア発達課題とは?

5.2 キャリア発達課題の設定について

キャリア発達課題は「進路発達課題」として1984年に「中学校・高等学校進路指導の手引き」に示

されています。

(1)従来示されてきた児童生徒の発達段階とその課題の例示(1984年9月文部省)

小学校 中学校 高等学校目標

課題 自己と進路の理解 進路の探索と選択 進路の吟味と決定

①自己像の形成と発展 ①自己理解の明確化 ①自己理解の現実吟味

②勤労習慣の習得 ②人生設計立案責任の受容 ②好ましい生き方の自覚

③職業概念の理解 ③暫定的進路計画の立案 ③進路計画の再検討

④職業人モデルへの同一視 ④啓発的経験の獲得 ④啓発的経験の深化

教育・職業情報の収集,検討 教育・職業情報の選択的活用⑤人間関係技能の習得 ⑤ ⑤

進路の決定と過程の一般化⑥自己の客観化の拡大 ⑥進路選択過程の理解 ⑥

自己実現の能力・態度の確立⑦人間性の尊重 ⑦自立の精神の確立 ⑦

今回,国立教育政策研究所より,新たに整理・検討された各発達段階と発達課題が示されました。

(2) 新しいキャリア発達課題(進路発達課題)

職業観・勤労観を育む学習プログラムの枠組み(例) (2002年 国立教育政策研究所)

小学校 中学校 高等学校段階

進路の探索・選択にかかる 現実的探索・試行と現実的探索と暫定的選択

基盤形成の時期 社会的移行準備の時期課題 の時期

・自己及び他者への積極的関 ・肯定的自己理解と自己有用 ・自己理解の深化と自己受容

心の形成・発展 感の獲得

・身の回りの仕事や環境への ・興味・関心等に基づく職業 ・選択基準としての職業観・

関心・意欲の向上 観・勤労観の形成 勤労観の確立

・夢や希望,憧れる自己イ ・進路計画の立案と暫定的選 ・将来設計の立案と社会的移

メージの獲得 択 行の準備

・勤労を重んじ目標に向かっ ・生き方や進路に関する現実 ・進路の現実吟味と試行的参

て努力する態度の形成 的探索 加

今回示された課題は次の4つの視点から設定されていると考えられます。

・自己理解にかかわる課題

・望ましい価値観(職業観・勤労観)の形成にかかわる課題

・将来の進路設計にかかわる課題

・職業的自立,職業的自己実現にかかわる課題

進路発達課題

キャリア発達課題

(進路発達課題)

キャリア発達課題とは,それぞれのキャリア発達段階で,職業・進路の選択能力及び将来の職業

人として必要な能力・資質の形成という側面から発達上の課題をとらえたもの(「キャリア教育

の推進に関する総合的調査研究協力者会議 報告書」2004年1月 文部科学省)

Page 7: 第1章 これからの進路指導 · 2010. 11. 17. · 第1章 これからの進路指導 ここでは,これまでの進路指導を振り返り,新しい進路指導,つまり「キャリア教育の視

Q6 キャリア教育ではぐくむ能力や態度はどのようなものですか。

国立教育政策研究所から,キャリア教育ではぐくむ能力や態度について4能力領域8能力が示され

ました。これらの能力はキャリア発達課題を達成するために必要とされる能力です。各能力と具体的

な例をまとめましたので参考にしてください。

(以下「キャリア諸能力」と示します)キャリア発達にかかわる諸能力

領域説明 能力説明 具体的な例領域

人 他者の個性を尊重し,自 【自他の理解能力】 自分のよさや興味・関心の理解

間 己の個性を発揮しながら, 自己理解を深め,他者の多様な個 自己を肯定的に受け入れる力

関 様々な人々とコミュにケー 性を理解し,互いに認めあうことを 他者のよさを発見し,理解する力

係 ションを図り,協力・共同 大切にして行動していく能力 協力性 リーダー性

形 してものごとに取り組む。 【コミュニケーション能力】 チームの一員として行動する能力

成 多様な集団・組織の中で,コミュ 自分の考えや思いを伝える能力

能 ニケーションや豊かな人間関係を築 対人折衝能力

力 きながら,自己の成長を果たしてい 人間関係を広げる能力

く能力 新しい環境への適応力

学ぶこと・働くことの意 【情報収集・探索能力】 情報収集能力

義や役割及びその多様性を 進路や職業等に関する様々な情報 情報活用能力 情報整理・処理能力

情 理解し,幅広く情報を活用 を収集・探索するとともに,必要な 表・式 グラフ化能力

報 して,自己の進路や生き方 情報を選択・活用し,自己の進路や 図などを用いて分かりやすく発表する

活 の選択に生かす。 生き方を考えていく能力 力

用 【職業理解能力】 現状を認識する力

能 様々な体験等を通して,学校で学 産業構造とその変化を理解する力

力 ぶことと社会・職業生活との関連や 将来を予測する力

今しなければならないことなどを理 学業と職業を関連づける力

解していく能力

夢や希望をもって将来の 【役割把握・認識能力】 自己の役割と社会の関係を把握する力

生き方や生活を考え,社会 生活・仕事上の多様な役割や意義

将 の現実を踏まえながら,前 及びその関連等を理解し,自己の果

来 向きに自己の将来を設計す たすべき役割等についての認識を深

設 る。 めていく能力

計 【計画実行能力】 将来の生活設計や進路設計

能 目標とすべき将来の生き方や進路 人生設計

力 を考え,それを実現するための進路 自己教育力

計画を立て,実際の選択行動等で実

行していく能力

自らの意志と責任でより 【選択能力】 比較検討能力

よい選択・決定を行うとと 様々な選択肢について比較検討し 葛藤処理能力

意 もに,その過程での課題や たり,葛藤を克服したりして,主体 判断・決断力

思 葛藤に積極的に取り組み克 的に判断し,自らにふさわしい選択

決 服する。 ・決定を行っていく能力

定 【課題解決能力】 問題解決能力

能 意思決定に伴う責任を受け入れ選 課題を設定し解決していく能力

力 択結果に適応するとともに,希望す 論理的思考

る進路の実現に向け,自らの課題を 自己評価能力

設定してその解決に取り組む能力

( 児童生徒の職業観・勤労観を育む教育の推進について」国立教育政策研究所生徒指導センターならびに「職業教育及び進路指導「

に関する基礎的研究(最終報告)職業教育・進路指導研究会 を参考に作成)

Page 8: 第1章 これからの進路指導 · 2010. 11. 17. · 第1章 これからの進路指導 ここでは,これまでの進路指導を振り返り,新しい進路指導,つまり「キャリア教育の視

Q7 キャリア発達課題を達成する小中高を見通した支援とはどういうものですか。

キャリア教育という視点から考えると,小学校からの支援が必要となります。そして,学校教育

を離れても,児童生徒が社会の一員としての役割を自覚し,職業人としても自らキャリア発達を促し

ていく態度や能力を身に付ける必要があります。そのためには小中高の12年間が見通され,また各校

系統的な支援とは「児童生徒のキャ種の中でも学習や活動が系統的に展開されなければなりません。

と考えます。リア発達段階やキャリア発達課題に応じた一貫性のある発展的な指導」

各教科,特別活動,道徳 「総合的な学習の時間」などが有機また,キャリア発達課題の解決は, ,

。また,学校教育だ的につながって,効果的に働くものと考えます。これを横断的な支援と考えます

けで児童生徒のキャリア発達は十分ではないことから, と考えて地域や家庭との連携も横断的な支援

います。

自己決定力を身に付けた児童生徒

学 校 教 育

特別活動キャリア

カウンセリング総合的な

学習の時間高

教科の学習

発達課題の達成

特別活動道徳

キャリア

カウンセリング中総合的な

学習の時間 教科の

学習

発達課題の達成

特別活動道徳

教科の学習

キャリア

カウンセ

リング総合的な

学習の時間

横 断 的 支 援

Page 9: 第1章 これからの進路指導 · 2010. 11. 17. · 第1章 これからの進路指導 ここでは,これまでの進路指導を振り返り,新しい進路指導,つまり「キャリア教育の視

Q8 小・中・高等学校ではどのような組織が必要ですか。

8.1 小・中学校における校内組織

学校教育活動全体を通して行われるのがキャリア教育です。全教職員が,キャリア教育の意義を正

, , 。 ,しく理解し 系統的・横断的な支援が組織的に展開されるためにも 校内組織は大切です ここでは

小学校,中学校での校内組織の基本的な在り方を考えてみます。これを参考にして,学校規模などの

実情にあった,より実践的な組織を考えるとよいと思われます。

8.1.1 「キャリア教育主任」の位置付け

キャリア教育の全体計画,年間指導計画の立案,情報の収集や提供など,キャリア教育の組織の中

核として位置付け,全校的な協力体制を推進し,キャリア教育の推進者となるのが,キャリア教育主

任です。

8.1.2 「キャリア教育推進委員会」の設置

, , , ,各種委員会の一つとして組織し キャリア教育についての基本方針や事業 行事等を検討 確認し

決定したり,評価資料からキャリア教育の改善点を検討したりする委員会です。ここで決定した内容

を職員会議において提案します。

キャリア教育推進委員会 構成員

校長 教頭 教務主任 キャリア教育主任 各学年部主任 特別活動主任

総合的な学習主任(主担当) (必要に応じて教科主任)

8.1.3 「キャリア教育部」の設置

キャリア教育推進委員会への原案作成や,検討・確認等を受けて,具体的に活動するのがこの組織

です。構成員は,キャリア教育主任と各学年のキャリア教育担当を中心に必要なメンバーで組織し,

実際に,児童生徒のキャリア発達を促すことができるような支援を実現できるよう活動します。

なお,下に示した仕事はあくまでも例ですので,学校の事情や児童生徒の実態を考慮した独自の組

織を作ることが大切です。

【キャリア教育部の仕事】

<企画運営・渉外>

①指導計画の立案・作成

キャリア教育の つの能力領域を発達させるような,教科等を含んだ全体計画及び個々の具体的4

な計画を作成する ( 第1章 Q10参照)。

②対外的な交渉(職場体験・インターンシップ,外部講師の依頼など)

啓発的な体験学習を企画し,実施する。

③校内研修の企画・運営

教職員のキャリア教育の意義について十分理解を得る。

④学校外でのネットワークづくり (キャリア教育推進校を中心とした学校間連携)

学校間連携を図り,定期的に情報交換の場を設け,活動を企画し運営する。

(同校種間連携,異校種間連携)

学校人材バンクの充実や体験活動協力事業所との連携を図る。

Page 10: 第1章 これからの進路指導 · 2010. 11. 17. · 第1章 これからの進路指導 ここでは,これまでの進路指導を振り返り,新しい進路指導,つまり「キャリア教育の視

キャリア学習><

①学級活動やロングホームルームにおける進路意識の高揚を図るような学習内容の検討

②キャリア学習の指導計画の立案・作成 ( 第1章 Q10参照)

<進路情報>

①進路にかかわる情報の収集,整理,開示などの情報の管理

キャリアルーム(進路指導室)を設けて,児童生徒が自由に上級学校や仕事に関する情報に触れ

られるような場を設ける

②進学・就職に関する事務事項の整理や関係機関との連絡・連携

③地域の方々や保護者へ向けた定期刊行物の発行

( 第2章 Q7参照)<キャリアカウンセリング>

①キャリアカウンセリングの計画や諸検査の計画の作成と実施

②キャリアカウンセリングの重点や方法の提示

③卒業後の追指導の準備

8.2 高等学校における校内組織

8.2.1 組織作りのポイント

高等学校では,従来の進路指導部を中心とした組織と同様の形になるものと思われます。しかし,従来

の進路指導の域を出て「キャリア教育」を推進するという観点から以下の点について,検討が必要である

と考えられます。

(1) キャリア教育は 「総合的な学習の時間」等を通した実践が重要になってくるので,学校の教育課程の,

作成についても,進路指導部の意向が適切に反映される体制をつくるようにすることが大切です。例

えば 「キャリア教育企画会議」のような会議をもち,学校全体のキャリア教育の推進について進路指,

導部がリーダーシップを取る形で進めることも考えられます。

(2) キャリア教育は 「インターンシップ」などの行事を活用して取り組む場合もあるので,学年・教員間,

の共通理解が必要です。そのための校内研修をもつことも必要です。

生徒指導部

校長

環境緑化部

・・・

管理部

教頭 特別活動部

Page 11: 第1章 これからの進路指導 · 2010. 11. 17. · 第1章 これからの進路指導 ここでは,これまでの進路指導を振り返り,新しい進路指導,つまり「キャリア教育の視

(3) キャリア教育の推進のためには小・中・高等学校の連携が求められるため 「連絡協議会」のような組,

織が作られることがあります。そういう対外組織との連絡窓口を位置付けることが求められます。

(4) 「キャリア教育開発委員会」を組織し,個別の具体的なカリキュラム作りなどを行うことも考えられ

ます。

(5) これからの進路指導における,教育相談活動は 「キャリア・カウンセリング」という,従来の「進路,

相談」よりも,知識・技能が求められる内容になることが予想されます。したがって,今後展開され

る「キャリア・カウンセラー養成研修」などを受講した教員などが中核となるよう配置することが望

まれます。

8.2.2校内組織の例

簡単な例を示します。

8.3 校外での連携を図るための組織

(1) 小・中・高等学校の連携を図るための組織 「キャリア教育推進校」の設置

キャリア教育推進校を中心とした学校間連携組織は次の活動を可能にします。

・児童生徒のキャリア発達に関する情報の共有

・異校種間や同校種間の連携授業

・地域の実態を鑑みたキャリア発達課題の設定

・職場体験学習やインターンシップの長期実施

(2) 地域内の連携を図る組織 市町村単位での「キャリア教育推進協議会」の設立

役割の一部として次の点が上げられます。

・職場体験・インターンシップの事業所の確保

・外部講師等,地域人材に関する情報の収集と活用

「キャリア教育推進校」とは

地域内のキャリア教育推進の中核となる学校。キャリア教育を推進するための学校間連携の

事務局となるもの。

「キャリア教育推進協議会」構成員

地域内の各小・中・高等学校,経済団体,行政機関,地域内各団体など

Page 12: 第1章 これからの進路指導 · 2010. 11. 17. · 第1章 これからの進路指導 ここでは,これまでの進路指導を振り返り,新しい進路指導,つまり「キャリア教育の視

Q9 キャリア教育を推進するための計画とその評価はどうすればいいのですか。

9.1 キャリア教育推進のために必要となる計画

キャリア教育を推進していくために必要となる計画を 「中学校・高等学校進路指導の手引き(文,

部省 1997年 」を参考に考えてみると以下の通りです。)

:自校のキャリア教育の目標,方針,努力点などを系統的に明らかにしたキャリア教育全体計画

全体構想

(1) 生徒に直接働き掛けるために必要な計画

①学級活動・ロングホームルームにおけるキャリア学習計画

②教科,総合的な学習の時間におけるキャリア教育計画

( )( )③啓発的な体験的学習の実施計画 事前・事後を含む 職場体験については 第3章 参照

④キャリアカウンセリング計画

(2) 教師の活動のために必要な計画

①キャリア教育部の活動計画 ②研修の計画

③キャリア教育室の管理・運営計画 ④進学・就職の事務処理計画

⑤評価の計画 ⑥卒業者への追指導計画

(3) その他

①外部との計画 (学校間連携計画)

②保護者への計画 (研修講座 進学・就職個別相談) など

これらの中でも,必ず必要とされるものとして 「キャリア教育全体計画 「学級活動またはロン, 」

グホームルームにおけるキャリア学習計画 「教科におけるキャリア教育計画 「総合的な学習の時」 」

間におけるキャリア教育計画」そして「啓発的な体験学習の実施計画」が挙げられます。これらの計

画の作成上の留意点については,後で詳しく述べることにします。

9.2 キャリア教育の評価の内容

キャリア教育をの評価については以下の点が挙げられます。

(1) 教師の側の評価

①キャリア教育の方針,支援体制や組織,校外関係諸機関との連携に関する評価

②キャリア教育目標と計画,教科領域等におけるキャリア教育の展開,指導の成果について

(2) 児童生徒の側の評価

①児童生徒個々のキャリア発達に関する評価

進路への関心の度合い,自己理解の程度,進路計画の内容と範囲,自己実現の意欲と態度,

意思決定のプロセスの自覚と行動 「キャリア諸能力」の発達度,

②集団としてのキャリア発達に関する評価

学級,学年としての集団としてのキャリア発達

9.3 キャリア教育の評価の方法

(1) 教師の側の評価

学期末など定期的なキャリア教育に対する評価を実施することが望まれます 「キャリア教育の意。

味や位置付けの理解」など,支援体制や組織に対する相互評価を,教師一人一人の意識にかかわる項

目は自己評価を実施します。また,体験活動など校外関係諸機関とかかわる項目は,他者評価として

Page 13: 第1章 これからの進路指導 · 2010. 11. 17. · 第1章 これからの進路指導 ここでは,これまでの進路指導を振り返り,新しい進路指導,つまり「キャリア教育の視

連携諸機関へ直接評価を求めることも必要となるでしょう。これらの結果を考察し,改善策をキャリ

ア教育部で作成し,キャリア推進委員会で審議し,全職員が共通に理解してキャリア教育を一層推進

していくことが求められます。

(2) 児童生徒の側の評価

①教師による評価

ア 教科におけるキャリア教育の評価について

教科には教科の評価規準があり,それに基づいて評価されます。キャリア教育の評価として,

教科では,教科の目標や内容,児童生徒の実態から,あらかじめ重点的にはぐくむキャリア諸能

力を設定し,その能力の育成を中心に展開することを提案します。設定した能力を評価していく

わけですから,その能力が育成されるような活動や学習を展開していく必要があります。

評価に際しては,重点的にはぐくむ「キャリア諸能力」について,学習活動に対応した評価規

準を設定することが求められます。その方法については,第2章で説明します。

イ 道徳の時間のキャリア教育の評価

道徳の時間においては,扱う価値項目や資料と育成することができる「キャリア発達を促す能

力や態度」を関連付けて,展開することが求められると考えます。道徳の時間の「振り返り」の

活動で使用する道徳ノートなどの記入内容から,目指す「キャリア発達を促す能力や態度」を見

取り,評価していくことが考えられます。

ウ 特別活動,総合的な学習の時間の評価について

特別活動や道徳,総合的な学習の時間については,扱う単元や題材に応じて,重点的にはぐく

, 。むキャリア諸能力を設定し 育成が図られるよう指導・援助していくことが望ましいと考えます

特別活動や総合的な学習の時間では,1年間を通して,キャリア諸能力がすべてはぐくまれるよ

う支援し,評価することが望まれます。特別活動や総合的な学習の時間においても,重点的には

ぐくむキャリア諸能力について学習活動に対応した評価規準を設定して評価しくことを提案しま

す。

②児童生徒自身による自己評価

それぞれの学習で設定されたキャリア諸能力について,自己評価し,自分自身の向上や課題を

意識化させ,学習の意欲へと結び付けます

( ) 評価の活用について3このようにして累積された指導者側の評価をそれぞれ整理し,総括的評価を行います。担任は,

各担当教師が作成した評価をもとに,総合的に評価します。また,児童生徒のキャリア発達諸能力

に関する自己評価や,発達課題に関する自己評価も同じく累積させます。これらの資料を用いて,

, 。 ,定期的にキャリアカウンセリングを設定し 児童生徒にフィードバックしていきます 児童生徒は

自分のキャリア発達について客観的に再評価し,教師の助言を参考にしながら,次の発達課題の達

成に向けて,自分なりの目標を設定していくようになります。

このような活動を通して,児童生徒が自分の将来を真剣に考えたり,主体的に学習に取り組むよ

うになるなど,児童生徒の変容をもたらすように指導・援助していくことが大切だと考えます。

Page 14: 第1章 これからの進路指導 · 2010. 11. 17. · 第1章 これからの進路指導 ここでは,これまでの進路指導を振り返り,新しい進路指導,つまり「キャリア教育の視

Q10 必要とされる計画の作成上の留意点は何ですか。

10.1 キャリア教育全体計画の作成上の留意点

キャリア教育全体計画は,学校教育目標との関連やキャリア教育として各教育活動の方向性を示す

。 , ,ものです キャリア教育の目標や4つの能力領域における身に付けさせたい具体的な能力 学習内容

指導方法や各教科等の関連などの位置付けが分かるように作成します。

(1) キャリア教育の目標を明記する。

①学校教育目標の関連を図ること。

②児童生徒のキャリア発達上の実態を十分把握すること。

③児童生徒の実態を踏まえた上で,キャリア発達課題の達成を目指したものであること。

④職業人としての保護者や地域の願い等が反映されること。

(2) 各学年の重点目標を設定する

①児童生徒の実態を把握すること

②児童生徒のキャリア発達段階を踏まえて設定すること

③学校キャリア教育目標の達成を目指すキャリア発達課題の4点から設定された内容であること

(3) 指導や援助の方針,体制,評価計画を明記する

①学校キャリア教育目標を達成するための共通した指導・援助の方針であること。

②指導・援助を具現化するための体制を考える。

③キャリア教育の評価の方法と活用について述べる

(4) 各教科領域における指導の方針とキャリア諸能力

教科領域等ではぐくむキャリア諸能力とその指導の方針について述べる。

(5) 地域や学校間の連携について明記する

どのような連携がどう言った場面で図られるのかを,明記する。

これらの手順や留意点を踏まえると次のような様式が考えられます。

なお 「資料編」資料1に全体計画例を示しました。参考にしてください。,

Page 15: 第1章 これからの進路指導 · 2010. 11. 17. · 第1章 これからの進路指導 ここでは,これまでの進路指導を振り返り,新しい進路指導,つまり「キャリア教育の視

平成 17年度 ○○○学校 キャリア教育全体計画

学校教育目標

【キャリア教育目標】

各 学 年 の 重 点 目 標 低学年(1学年) 中学年 (2学年) 高学年(3学年)

【キャリア教育の指導】

指導援助の方針 指導体制 評価について

各教科・領域等におけるキャリア教育の方針 国語 図工

算数 家庭

社会 保体

理科 道徳

英語 特活

音楽 総合

【保護者・地域との連携】 【学校間連携】

指導・援助の方針を具現化す

るための指導体制について記

入します。

評価についての方法や活用の

仕方について述べる

・児童の実態

・保護者の願い

学校教育目標を受けて,児童生徒の実態や保護

者の願いを加味し,どのような能力や態度を育

てるのかを明記します。

・関係する法規等

・教師の願い

キャリア発達をおさえて,次の4つの視点から具体的な目標を定めます。

・ 自己理解にかかわる課題

・ 望ましい価値観(職業観・勤労観)の形成にかかわる課題

・ 将来の進路設計にかかわる課題

・ 職業的自立,職業的自己実現にかかわる課題

教科では,あらかじめ設定した重点的にはぐくむ「キャリア発達にかかわる諸能力」

を,どのように育成するのかを明記します。特別活動,道徳,総合的な学習の時間に

おいては,キャリア教育を推進する上で,どのような方針で展開するのかを明記しま

す。

計画を実施するにあたって必要とされる連携について述べます

キャリア教育を推進する上

で,展開する指導・援助の在

り方について述べます。

Page 16: 第1章 これからの進路指導 · 2010. 11. 17. · 第1章 これからの進路指導 ここでは,これまでの進路指導を振り返り,新しい進路指導,つまり「キャリア教育の視

「 )10.2 年間全体計画表の作成上の留意点 ( 資料編」資料2参照

全体計画をもとにつくられた,キャリア教育の趣旨を踏まえた年間全体計画表は,キャリア教育の

具体的な展開を示すものです。年間全体計画表に盛り込みたい項目は以下の点です。

・学活,ホームルームにおけるキャリア学習計画 ・総合的な学習の時間

・キャリア教育にかかわる道徳価値項目 ・キャリアカウンセリング計画

・保護者へのキャリア教育にかかわる啓発事業

例 平成17年度 ○○町立△△中学校 キャリア教育年間全体計画表

:人間関係形成能力 :情報活用能力 :将来設計能力 :意思決定能力人 情 将 意

4月 5月 6月 7月

○中学校生活のスタート ◎自分のよさ 友だちのよ ○奉仕活動について考えよ1

人 情 人 情さ う

将 情 将年 ○学級の組織 ◎私が学校へ来る理由 ◎私たちの将来の展望

人 意◎私の個性 ○係活動を見直そう

○2年生の私 ○よりよい学級生活のため ○奉仕活動について考えよ2 人

人 情◎選択教科を決定しよう に う

情 意 情 意 情年 ◎人はなぜ働くのか ◎職業の世界

○最上級生として ◎自分を見つめ直そう ○奉仕活動について考えよ3 将

意 人 将 意 情◎選択教科の決定 う

意 将 情 将年 ○学級目標を考えよう ◎働くことと学ぶこと ◎進路の選択肢

情 意 情◎自ら学ぶ意義 ◎進路先について

1 新しい希望 (1-2) 個性をみがく (1-5) 理想の実現(1-4)

2 個性の伸長(1-5) 生きる喜び 3-3 自主・自律(1ー3)( )

3 理想の実現(1-4) 個性の伸長 1-5 理想の実現 (1ー4)( )

学級づくり活動1

宿泊体験学習2

3 上級学校の先生の修学旅行

話を聞く会

キャリアカウ

ンセリング

生徒会活動 新入生歓迎集会 中総体壮行式生徒総会

始業式 入学式学校行事

カウンセリングのための調査調査・検査

3保護者への キャリア広報の発行1 キャリア広報の発行2 キャリア広報の発行

啓発活動 上級学校の先生の話を聞く会

(3年)

学級活動におけるキャリア学習

総合的な学習

啓発的な

体験学習

職 業 人 へ の イ ン タ ビュ ー

働く意義や職場の現状について,調査や体験を通して考えよう!

地 域 ニ ュ ー ス を つ く ろ う

キャリアカウンセリング1

全校

奉仕

活動

Page 17: 第1章 これからの進路指導 · 2010. 11. 17. · 第1章 これからの進路指導 ここでは,これまでの進路指導を振り返り,新しい進路指導,つまり「キャリア教育の視

10.3 キャリア教育の視点に立った教科年間指導計画作成上の留意点

教科の年間計画に キャリア発達にかかわる点を明記します。教科の目標の達成とともに,扱う単,元や題材が児童生徒のキャリア発達に,どのようにかかわるのかを意識することが,キャリア教育の

視点に立った教科指導の第一歩となります。計画を作成する上での留意点は以下の通りになります。

①教科として重点的にはぐくむ「キャリア諸能力」を設定すること。

②設定した「キャリア諸能力」を育成するのに適する単元や題材を吟味すること。

③単元や題材を通して,具体的に目指す「キャリア諸能力」の態度や能力を示すこと。

(どのような児童生徒の活動が見られることを期待するのか。単元全体の評価規準となります)

「 」 , 。④重点を置く キャリア諸能力 を育成するために どのような活動が可能かを吟 味すること

中学校1年 英語科年間計画

単元名「Unit 1 ようこそグリーン先生」

月 単 元 時 到達目標 学習内容 教科の評価規準 キャリア発達に

名 表現 理解 言語文化 かかわる諸能力関心・意欲

・強勢,イン 1 の文 話すこと 話すこと 話すこと ■コミュニケー. I am ~. 〔 〕〔 〕 〕

トネーショ の形や意味 ①アイコン ① の ① ション能力I am~. I am ~.【評価規準】ン,区切り を理解して, タクトを 文を用い Are

4 など基本的 自己紹介の 大切にし て正しく ・相手を見て話y o u ~ ?な英語の音 表現を学習 て,間違 話すこと の文の す,表情豊か3声の特徴を する。 いをおそ ができる 意味や にあいさつす

とらえ,正 2 れずに, 構造を るなどの基本.You are~./Areしく聞き取 の文や 積極的に 理解し 的コミュニケyou~?ることがで その応答に 英語で話 ている ーションのマ。

きる。 ついて学習 している ②相手に ナーを理解す

・強勢,イン し,相手を 応じた る。

○支援の留意点トネーショ 確かめたり, 敬称を

ン,区切り 出身地をた 使うこ ・コミュニケー

など基本的 ずねる表現 とがで ション活動の

な英語の音 を学習する。 きる。 前に,マナー

声の特徴に を確認する場

慣れ,正し 面を設け,意

く発音する 識して活動さ

ことができ せる。

る。

10.4 学活やロングホームルームにおけるキャリア学習年間計画の作成上の留意点

キャリア教育は,学校教育活動全体で推進していきます。中でも,学級活動やロングホームルーム

で扱う題材は 「キャリア諸能力」の育成に働き掛けるものが多いこと,また,学習指導要領に進路,

に関する学習が明記されていることから,大切な学習の場となると考えます。キャリア学習年間計画

を作成する際は,扱う題材で特に育成したい能力を明確に示すことが大切です。年間計画の「指導の

ねらい」には 「どのような活動」を通して,児童生徒が「どのようなことを学び ,その後「どの, 」

ように変容していくのか」を具体的に明記します。そのねらいから,重点的にはぐくむ「キャリア諸

能力」を設定し,設定した能力が効果的に育成できるような授業を展開することが大切です。学級活

動やロングホームルームでの,学習指導要領におけるキャリア教育の関連事項を「キャリア教育の推

進に関する総合的調査研究協力者会議」をもとにまとめると以下のようになります。

Page 18: 第1章 これからの進路指導 · 2010. 11. 17. · 第1章 これからの進路指導 ここでは,これまでの進路指導を振り返り,新しい進路指導,つまり「キャリア教育の視

【小学校】

・学級や学校における生活上の諸問題の解決,学級内の組織づくりや仕事の分担処理などの活動

,・希望や目標をもって生きる態度の形成,基本的な生活習慣の形成,望ましい人間関係の育成

心身ともに健康で安全な生活態度の形成など

中学校・高等学校 ( )内の記述は高等学校の内容【 】

・学級や学校における生活上の諸問題の解決,学級内の組織づくりや仕事の分担処理などの活動

・個人及び社会の一員としての在り方(生き方)に関すること

青年期の不安や悩み(悩みや課題)とその解決,自己及び他者の個性の理解と尊重,社会の

一員としての自覚と責任(社会生活における役割の自覚と自己責任 ,男女相互の理解と協)

力,望ましい人間関係の確立(コミュニケーション能力の育成と人間関係の確立 ,ボラン)

ティア活動の意義の理解 (国際理解と国際交流)など,

・学業生活の充実及び将来の生き方と進路の適切な選択(決定)に関すること

学ぶことの意義の理解,自主的(主体的)な学習態度の形成(確立 ,選択教科等(教科・)

科目の適切な選択,進路適性の吟味(理解)と進路情報の活用,望ましい職業観・勤労観の

形成(確立 ,主体的な進路の選択(決定)と将来設計など)

例 中学1年 学級活動キャリア学習計画

月 題材名 指導のねらい はぐくむキャリア諸能力領域

中学校生活のスタート 中学校生活の適応を図るために,中 【人間関係形成能力】・コミュニケーション能力( ガイダンス ) 学校の生活や心構えなどについて知

り,自分なりの目標を立てる活動を通4 して,新しい環境に適応し人間関係を

つくることの大切さを理解し,希望を③ もって生活する。

学級の組織 学級において必要な係活動を考え仕 【将来設計能力】,・役割把握・認識能力事を分担する活動を通して,自己の役

割について理解し,積極的に集団に貢献する。

【人間関係形成能力】話合い活動と学級目標 話合い活動のマナーを理解して学級目標を決定する活動を通して,学級集 ・コミュニケーション能力団としての意識を高め,互いに支えないながら生活できる。

自分のよさ 友だちのよさ 友人に対するメッセージを贈る活動 【人間関係形成能力】・自他の理解能力5 を通して,友人の良さを発見し,認め・コミュニケーション能力ていく態度の大切さを理解し,今後の

生活に生かす。

10.5 キャリア教育の視点に立った「総合的な学習の時間」の計画作成上の留意点

「総合的な学習の時間」の年間計画に,キャリア教育ではぐくみたい諸能力がどの場面や活動で育

成されるのかを明記することで,キャリア教育を意識した「総合的な学習の時間」の展開が期待され

ます。

「 」 ,キャリア教育の視点に立った 総合的な学習の時間 の展開のためには以下の点を留意することで

児童生徒のキャリア課題を解決し,諸能力を育成することができると考えます。

Page 19: 第1章 これからの進路指導 · 2010. 11. 17. · 第1章 これからの進路指導 ここでは,これまでの進路指導を振り返り,新しい進路指導,つまり「キャリア教育の視

・児童生徒の興味や関心を学習に関係付けること (自己理解)。

・校外での活動を通じて,児童生徒が社会性を身に付けること (コミュニケーション能力)。

・自己の課題の解決のために必要な情報を収集させ,取捨選択し活用させること。

( )情報収集・探索能力

・学習の成果を多くの人に発信する場を設けること (情報収集・探索能力)。

・社会で起こっている出来事と自分の日常生活とを結び付けて考えさせること (職業理解能力)。

・課題解決を通して,自分が果たさなければならないことを考えさせること。

( )役割把握・認識能力

・課題解決のためにすべきことを見通し,計画し実行する場を設けること (計画実行能力)。

・課題解決のための複数の選択肢の中から,自分のすべきことを判断し実行させる (選択能力)。

・自ら課題を見いだしていくことの大切さを理解させ,主体的に解決する場面を設けること。

(課題解決能力)

・様々な人との出会いや課題を追究する中で,多様な価値観があることを知り,自分の生き方を

。 ( )考させること 情報収集・探索能力

本ハンドブックにおいては より 進路 を意識した 総合的な学習の時間 の在り方を考え 職, 「 」 「 」 ,「

場体験学習やインターンシップ」と「起業家教育」の展開例を示すことにします。

参考文献

〔1〕文部科学省:キャリア教育の推進に関する総合的調査研究協力者会議報告書 2004

〔2〕職業教育進路指導研究会:職業教育及び進路指導に関する基礎的研究 1998

〔3〕国立教育政策研究所生徒指導センター:児童生徒の職業観・勤労観を育む教育の

推進について調査研究報告書 2002

〔4〕文部科学省:小学校学習指導要領 2003

〔5〕文部科学省:中学校学習指導要領 2003

〔6〕文部科学省:高等学校学習指導要領 2003

〔7〕文部省:中学校高等学校進路指導の手引き 高等学校ホームルーム担任編

日本進路指導協会 1983

〔8〕文部省:中学校高等学校進路指導の手引き 中学校学級担任編 日本進路指導協会 1994

〔9〕文部省:中学校高等学校進路指導の手引き 進路指導主事編 日本進路指導協会 1977

〔10〕文部省:中学校高等学校進路指導の手引き 啓発的経験編 日本進路指導協会 1984

〔11〕仙崎武・野々村新・渡辺三枝子・菊池武剋: 入門進路指導・相談」福村出版 2000「

〔12〕仙崎武監修: キャリア教育読本」教育開発研究所 2000「