第1章 救急医療の現状と課題...9 1.2.2 消防機関における救急体制の現状...
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救急救命の活動においては、従来から迅速かつ的確な対応が求められており、単に医療機関への迅速な搬送を行うのみならず、初期の救急救命処置についてもより迅速かつ効果的に実施されるよう、地方自治体の救急(消防)機関において努力がなされているところである。このような救急救命に関しては、従来から情報通信の効果的な利用ついても多くの取り
組みが行われている。現在においては、救急隊と医療機関との間で携帯電話による意思の疎通が一般的となり、また、救急・消防無線システムについても、防災用等他の公共用無線システムとともにアナログ方式からデジタル方式への移行が進められている。
こうした背景から、平成16年度には「北陸地域におけるデジタル防災情報ネットワークに関する検討会」を開催しVHF帯マルチホップ無線通信システム、18GHz帯無線アクセスシステム及び有線網を接続した災害対策用高速IP無線システムに関する通信試験等を行い、当該システムの有用性を確認した。また、山間地域からの映像伝送や比較的狭い地域を移動しながら被災映像を災害対策本部等に伝送する場合において、VHF帯マルチホップ無線通信システムのマルチホップ中継機能が極めて効果的であることも併せて確認した。
一方、救急業務において、救急車で搬送中の患者の映像等の医療情報を搬送先の病院等の医療機関にリアルタイムに伝送する場合、救急車が走行する道路など広い地域を無線エリアとすることが想定される。また、マルチホップ中継機能に加えて、アクセスポイントのハンドオーバー技術(通信端末が接続する基地局を切り替えること)等が重要になるとともに、医師が有用と考える一定の品質を確保した画像伝送であることが大変重要である。このため、上記検討会においては救急業務用高度画像伝送システムへのVHF帯マルチホップ無線通信システムの活用を図ることを前提に、引き続き技術的検討等を行う必要があると提言してきた。
ここ数年、特に携帯電話や無線LANの普及を背景として全国的にも「救急車の関係する映像等伝送研究・実験」が多方面で行われており、救急車から病院に傷病者情報を伝送する必要性が高いことが伺える。加えて、救急救命士の処置範囲拡大のための制度整備も順次行われており、それに伴い搬送中の適切なプレホスピタルケアのための環境整備も迫られており、医師の適切な指示・指導・助言が得られるための情報伝送の必要性がより高まってきている。
これを受けて、平成17年度に実施する本検討会では、「救急業務用高度医療情報伝送システム」の実現に向けて、救急医療の現場が求める医療情報の種類や品質、システムの機能や性能等を調査・検討するとともに、救急医療の実態に即した通信実験等を通じて救急業務用高度医療情報伝送システムの望ましい技術的条件及び実現に向けた方策と課題などについて明らかにした。
1.1 調査検討に至る背景
救急医療の現状と課題第1章
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1.2.1 救急医療制度の概要
日本の救急医療制度は、昭和39年に「救急告示制度」が整備され、救急隊によって搬送される患者を受け入れる医療機関の確保を目的とし、さらに、昭和52年から開始された、初期、二次、三次救急医療体制の整備は、地域における救急医療体制を確立することを目的としている。これにより、三次救急医療機関である救命救急センターは、平成16年度末時点で178ヶ所を数え、当初の設置目標を達成している。加えて、厚生労働省では、これを補完するために、平成16年、救命救急センター倍増計画(病床数10のミニ救命センターの整備)を発表し、その整備に取り組んでいるところである。
一方、e-Japan政策を背景にIT技術の開発・普及が推進されている今日においては、国民に対する効果的な医療機関情報の公開の取組みに加えて関連する情報システム整備も進められている。例えば、各都道府県で救急医療情報センターがほぼ整備されており、現在、医療機関検索や、夜間・休日当番の情報などが閲覧できるようになっている。(全国の救急医療情報システムhttp://shoufukumemo.com/zenkoku/qq_zenkoku.htm)
さて、救急医療機関等の整備の一方で、救急搬送途上の医療(病院前救護:プレホスピタルケア)の充実を目指して平成3年に成立した「救急救命士法」では、救急救命士は医師の指示のもとに、3つの特定行為(①除細動、②器具を用いた気道確保、③静脈路確保のための輸液)を実施できることとなった。そして、特に5年ほど前からは、救急隊員の間でもプレホスピタルケアの意識の高まりとともに、業務範囲や関係設備の整備・改善のための具体的取り組みが進められ、平成16年7月には気管挿管が特定行為として認めらたことに加え、平成18年4月からは薬剤エピネフリン投与が認められようとしている。
救急救命士法により、救急救命士は搬送途上におけるより高度なプレホスピタルケアを行うことができるようになったものの、あくまでも「救急救命士は、医師の具体的な指示を受けなければ、厚生労働省令で定める救急救命処置を行ってはならない(救急救命士法第44条「特定行為等の制限」)」とされている。さらに、これに関連して、医師が救急救命士の応急処置等の質を保証する「メディカルコントロール」体制の整備に注目が集まってくる。プレホスピタルケアの中心的な役割は救急救命士に委ねられることから、救急救命士自
身の医療知識や技術面で向上させていくことの重要性が認識されるとともに、救急搬送中の患者状態の情報の授受、助言等、救急救命士と医師等とがいかに緊密な連携を図ることができるかが重要なポイントとなってきている。
1.2 我が国の救急医療の現状と課題
第1章 救急医療の現状と課題
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1.2.2 消防機関における救急体制の現状
(1)救急業務の実施状況
平成17年版消防白書によれば、表1-1のとおり、平成16年中における全国の救急業務の実施状況は、ヘリコプターによる件数も含め、503万1,464件(対前年比4.1%増)と、初めて500万件を超え、前年と比較し、19万8,564件増加している。また、救急自動車による出場件数は、全国で1日平均1万3,741件で、6.3秒に1回の割合で救急隊が出場し、国民の27人に1人が救急隊によって搬送されたことになる。表1-2に示すように、救急自動車による出場件数のうち、上位の事故種別は、急病が295万3,471件(全体の58.7%)、次いで交通事故が66万7,928件(全体の13.3%)を占めている。
「救急出場は6.3秒に1回、国民27人に1人が救急搬送」
「救急出場は6.5秒に1回、国民28人に1人が救急搬送」
H16年中
H15年中
救急業務の実施状況救急業務の実施状況は毎年増加しているは毎年増加している急病が全体の急病が全体の58.758.7%を占めている%を占めている
表1-1 救急出場件数及び搬送人員の推移
表1-2 事故種別出場件数(搬送人員)
表:平成17年版消防白書
第1章 救急医療の現状と課題
構成比(%)
出場件数(搬送人員)
構成比(%)
出場件数(搬送人員)
13.7(15.9)
662,542(726,452)
13.3(15.3)
667,928(724,832)
交通事故
58.4(57.6)
2,819,620(2,633,808)
58.7(58.0)
2,953,471(2,753,170)
急病
平成15年中平成16年中事故種別
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(2)救急搬送の実施状況
平成16年中の救急自動車による出場件数のうち、現場到着所要時間別(救急事故の覚知から現場に到着するまでに要した時間別の救急出場件数の状況は、5~10分未満が最も多く、全体の56.1%になっている(図1-1)。また、平均現場到着所要時間は6.4分となっている。
平成16年中の救急自動車による搬送人員についての病院到着所要時間(救急事故の覚知から医療機関等に到着するまでに要した時間)は、20分~30分未満が最も多く、全体の38.3%を占めている。次いで30分~60分未満が全体の36.3%であり(図1-2) 、三次医療機関への搬送による所要時間が影響しているものと考えられる。また、医療機関までの到着所要時間の平均は30.0分となっている。
図1-1 現場到着所要時間 図1-2 病院到着所要時間
現場到着まで平均6.4分病院到着まで平均30.0分
表:平成17年版消防白書
第1章 救急医療の現状と課題
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(3)救急隊員による応急処置等の実施状況
表1-3は、平成16年の救急隊員・救命士による応急処置の実施状況である。平成16年の救急車のうち、救急隊員が応急処置等を行った傷病者は97.8%であり、その数は関連機器の整備や技能の向上、関係法令の整備等ともあいまって年々増加傾向にある。特に、心肺機能停止状態の傷病者の蘇生等のために行う高度な応急処置(ラリンゲアル
マスク等による気道確保、気管挿管、除細動、静脈路確保)の件数は5万4千件(赤色囲い箇所)にのぼり、前年比で約15.5%増と著しく、救急救命士の処置の重要性が高まっていることが伺える。
表:平成17年版消防白書
表1-3 救急隊員・救命士による応急処置の実施状況
第1章 救急医療の現状と課題
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(4)救急隊数及び救急隊員数
平成17年4月1日現在、救急隊は4,757隊(対前年46隊増)設置されている。 図1-3は救急隊員の数の状況である。救急隊員としての有資格者は全国で10万5,013人(対前年1,464人増)であって、このうち5万7,966人が、救急隊員として救急業務に実際に従事している 。
救急隊員の数はこの5年においては微増にとどまっており、救急隊員の処置拡大に関する制度改正に対応したより高度な救急のための研修等により技能の向上が重要になっていると考えられる。
(5)救急自動車の整備
全国の消防本部における救急自動車の保有台数は、予備車を含め、平成17年4月1日時点で、5,641台(対前年5台増)であるが、このうち、拡大された応急処置等を行うために必要な高規格救急自動車は3,859台(対前年222台増、6.1%増)が配置されている。このことから、順次、高規格救急自動車への切替え整備を推進していることが分かる。
救急車の保有台数は、5,636台高規格救急車は3,637台
救急車の保有台数は、5,641台高規格救急車は3,859台
平成16年4月1日時点 平成17年4月1日時点
数値・グラフ:平成17年版消防白書
図1-3 救急隊員の充実状況
第1章 救急医療の現状と課題
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1.2.3 医療機関における救急体制の現状
救急病院とは、事故や急病等による傷病者を救急隊が緊急に搬送する医療機関であって、各医療機関からの協力の申出を受けて都道府県知事が認定し告示した病院及び診療所のことを指す。平成17年版消防白書によれば、患者を受け入れる救急病院及び診療所として告示されたものは、全国で4,862箇所(平成17年4月1日)である。
また、救急告示病院制度とは別に、救急医療一元化のために、救急医療機関の区分がなされて 図1-4及び表1-4に示すように3段階の救急医療機関の区分が設けられており、厚生労働省が中心となってその整備強化を推進しているところである。
■初期救急医療機関 510箇所 ■第二次救急医療機関 410地区
■第三次救急医療機関 178箇所(内、高度救命救急センター 16箇所)
初期救急医療機関
第二次救急医療機関
第三次救急医療機関
・高度救命救急センター・救命救急センター
・病院群輪番制病院・共同利用型病院・その他24時間体制による施設
・休日夜間急患センター・在宅当番医制
(24H)
(休日夜間)
(休日夜間)
救急医療情報センター 消防機関消防機関
救急患者
市区町村事業
都道府県事業
国の事業
図1-4 我が国の救急医療体制
数値:平成17年版消防白書
第1章 救急医療の現状と課題
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二次救急医療機関では対応できない複数の診療科領域にわたる重篤な救急患者に対し、高度な医療を総合的に提供する医療機関。
入院治療を必要とする重症救急患者の医療を担当する医療機関。
外来診療によって救急患者の医療を担当する医療機関であり、救急医療に携わることを表明する医療機関。
内容
● 重篤な救急患者を、常に必ず受け入れることができる診療体制をとること。
● ICU、CCU等を備え、常時、重篤な患者に対し高度な治療が可能なこと。(24時間体制)
● 医療従事者(医師、看護士、救急救命士等)に対し、必要な研修を行う体制を有すること。
● 救急医療について相当の知識及び経験を有する医師が常時診療に従事していること。
● エックス線装置、心電計、輸血及び輸液などのための設備、その他救急医療を行うために 必要な施設及び設備を有すること。
● 救急医療を要する傷病者のために優先的に使用される病床または専用病床を有すること。
● 救急隊による傷病者の搬送に容易な場所に所在し、かつ、傷病者の搬入に適した構造設備を有すること。
・ 24時間体制で救急患者に必要な検査、治療ができること(病院群輪番制病院は当番日においてその体制を有すること)。
・ 救急患者を原則として24時間体制で受け入れ(病院群輪番制病院は当番日において24時間体制で受け入れること)、救急隊による傷病者の搬入に適した構造設備を有すること。
● 休日夜間急患受入が行えること。
要件
第三次救急医療機関
(救命救急センター)
第二次救急医療機関(精神科救急を含む24時間体制の救急病院、病院群輪番制病院及び有床診療所)
初期救急医療機関(在宅当番医、休日・夜間急患センター)
区分
表1-4 救急医療機関区分の内容
第1章 救急医療の現状と課題
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1.2.4 プレホスピタルケアと救急救命士
(1)プレホスピタルケアとは
プレホスピタルケア(病院前救護)とは、重篤な病気を発症したり怪我を負った患者を救急車で搬送中に、救急隊員が適切な処置を行うことをいうものであり、これまで病院内で行われてきた救急医療の地域への拡大を意味する。なお、地域によっては医師が救急現場に出動し、病院外での救急活動をすることもあり、
これをプレホスピタルケアに含める場合もあるが、ここでは、前者の救急隊員による病院前救護に限定する。
(2)救急救命士とその役割
救急隊員は、患者を迅速に搬送するのみならず、プレホスピタルケアの上で重要な役割を担っている。なかでも救急救命士は、厚生労働大臣の免許を受けた国家資格者(※1)であって、診療の補助をする職種と位置づけられており、その業務を行う場所は、傷病者を現場から医療機関搬送するまでの間に限られている。また、救急救命士が行うことのできる「救急救命処置」の具体的内容は厚生労働省令により定められており、特定行為と呼ばれる心肺停止傷病者への処置の行為が医師の具体的な指示に基づいて行うことができるようになった。これにより、救急隊員が行う応急処置の範囲が拡がり、傷病者の救命と救急業務の高度化に大きな成果が上がったといわれている。
救急救命士の処置範囲の拡大について、消防庁は厚生労働省と共同で「救急救命士の業務のあり方等に関する検討会」を開催し、平成14年12月及び平成15年12月に報告書をそれぞれ取りまとめている。これを受けて、メディカルコントロール体制の整備を前提とした上で、以下のように処置範囲が拡大されてきている。
数値:平成17年版消防白書
第1章 救急医療の現状と課題
① 除細動(平成15年4月~)● 医師の指示を待つことなく心肺停止傷病者に対して包括的指示(メディカルコントロール協議会が定めたプロトコール)による除細動処置(※2)が可能となり、特定行為からは除外。
② 気管挿管(平成16年7月~)● 気管挿管(口から気管にチューブを挿入して酸素を送り込む)処置が可能。● 一般人を含め、AED(自動体外式除細動器)(※2)による除細動処置が可能。
③ 薬剤投与(平成18年4月~)● 救急救命士が心拍再開に役立つ強心剤(エピネフリン)が使用可能(予定)。
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以上のように、救急救命士を中心とした救急隊員による処置範囲は拡大の方向にあるが、その前提として、メディカルコントロール体制の一層の充実強化が必須であり、特に、先の「③薬剤投与」の実施にあたっては、医師から救急救命士への常時指示体制整備が求められており、常時オンラインによる指示の必要性がさらに高まってきている。また同時に、このような制度改正に伴って、救急救命士は医療知識と医療機器を扱うためのノウハウを常に磨き上げていくことも期待されている。
(3)救急救命士の設置状況
消防庁では、全ての救急隊に救急救命士が少なくとも常時1名配置される体制を目標に救急救命士の養成と運用体制の整備を推進している。救急本部では99.4%(全国848消防本部のうち843本部)が設置目標を達成しており、救急隊では78.2%(全国4,757隊の救急隊のうち3,722隊)が運用目標を達成しており、毎年着々と整備が進められている。図1-5に救急救命士の推移を示す。救急救命士の資格を有する消防職員は1万7,091人、
であり、うち、約90%に当たる1万5,317人(対前年1,812人増)が現に救急救命士として運用されている。
数値:平成17年度版消防白書
図1-5 救急救命士数の推移
資格の取得・配置が進んでいる!
第1章 救急医療の現状と課題
※1 救急救命士の資格は、5年または2千時間以上救急業務に従事した後、835時間以上の養成課程を修了し、国家試験に合格して取得できるものである。
※2 自動的に心電図を判断して除細動処置(いわゆる電気ショック)を行う体外式の装置については、救急隊員が使用しているものと16年7月から一般人が使用できるようになったものとで一部の機能が異なるが、ここでは救急隊員用を「自動体外式除細動装置」とし、一般人用を「AED」又は「AED(自動体外式除細動器)」と呼ぶ。なお、AEDは、Automated External Defibrillator の略。
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(4)救急救命士導入の効果
救急救命士の導入の効果を示すといえる例として、最近の成果の推移を表1-5に示す。心肺停止の傷病者に対して、一般救急隊員によって、処置された傷病者が1ヵ月後に生存している割合が、3.6%~3.9%であるのに対して、救急救命士によって処置された場合での、その割合は、6.3%~7.1%となっており、この数値の上では、救急救命士導入とその活動の効果が表れているとも考えられる。
表1-5 救急救命士導入の効果
数値・表:平成17年版消防白書
第1章 救急医療の現状と課題
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1.2.5 メディカルコントロールと救急医療
(1)メディカルコントロール(MC)とは
メディカルコントロールとは、救急救命士の行う医療行為の質を医学的に保証する考え方であり、その目的は、救急医療の品質を向上させることにあると言える。本検討会においては、病院前救護体制におけるメディカルコントロールのポイントのう
ち、救急現場から医療機関へ搬送されるまでの間に救急救命士等が医療行為を実施する場合において、医師が指示又は指導・助言を行い、処置記録の事後検証を実施しそれらの医療行為の質を保証することの重要性を認識した上で、通信システムを利用してその活動の円滑化を図ることによって、傷病者の救命率の向上や合併症の発生率の低下等の予後の向上に資する可能性を検討した。
(2)プレホスピタルケアのためのメディカルコントロールの充実に向けて
救急救命士を含む救急隊員が搬送中に行うプレホスピタルケア(病院前救護)を適切に行うためには、医師によるオンライン(通信等を利用した)によるメディカルコントロールが重要であるが、現在、その通信は主に単信方式の音声無線通信及び携帯電話(衛星回線含む)を介して行っている。救急救命士法では、救急救命士が特定行為を行う場合に、「医師の具体的な指示を受けなくてはならない(救急救命士法第44条「特定行為等の制限 」) 」と規程されているが、全国的に指示体制は必ずしも満足すべき状態ではないといわれている。このために、制度や習熟度等の体制面での充実に加え、音声に一部低速のデータ通信が行われているのみの水準にある通信の現状を改善する必要もあると考えられる。実際、ここ数年、全国で救急車内での様子を撮影し、医療機関へ画像伝送する実証実験
は多くの機関で取り組まれており、通信の高度化に大きな期待が寄せられている。もとより、処置に関して、医師が指示、指導・助言を行うためには、傷病者の病状を正確にかつリアルタイムに把握することが前提であり、また、的確な情報が伝送可能であるならば、救急救命士による処置範囲もさらに拡大できることも期待される。
本検討会においては、動画像伝送を中心に、必要として求められる品質レベルを明確化する調査・実証試験に取り組んだ。この結果、メディカルコントロール体制の確立をはかる観点からも、様々な制約(制度、技術、コスト等)がある中で一定の品質を明確化し、これを確保できる可能な限りの整備をすべきであるとの認識が得られた。
第1章 救急医療の現状と課題
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(3)メディカルコントロール体制(組織)整備の経過
最近においてメディカルコントロール体制の整備に具体的な提言が行われたのは、「病院前救護体制のあり方に関する検討会」報告書(平成12年厚生省(現:厚生労働省))であり、翌年「救急業務高度化推進委員会」報告書において、メディカルコントロールに特化した都道府県単位のメディカルコントロール協議会及び地域のメディカルコントロール協議会の設置の提言がなされた。その後、厚生労働省と消防庁の積極的な働きかけもあって、急速にメディカルコントロール体制の基盤整備が進められてきている。
なお、平成15年10月の厚生労働省の調査によれば、表1-6のような位置づけのもと、47都道府県全てに同協議会が設置されており、257に区分されたメディカルコントロール担当地域それぞれにひとつずつの地域メディカルコントロール協議会が設置されてはいる。しかし、次項に示すとおり、医師の指示の元に救急救命士の特定行為が可能な体制として全てが整っているというわけではないことを念頭に置く必要がある。
・救急搬送、救急医療体制に関わる調整
・救急救命士に対する指示体制、救急隊員に対する指導・助言体制
・救急隊員の病院実習などの調整
・救急活動記録様式(検証票様式)の項目の策定
・救急搬送、救急医療体制に関わる検証
・各種プロトコールの策定と検証結果に基づく修正
・その他、地域のプレホスピタルケアの向上に関すること
・MCを担当する医療機関の選定及びMC協議会の担当範囲の区域割の調整、決定に関すること
・消防本部間、医療機関間及び消防本部と医療機関の調整に関すること
・MC協議会における決定事項などに関する調整、助言に関すること
・その他、地域のプレホスピタルケアの向上に関すること
協議事項
担当範囲内の救急業務が円滑に実施できるよう救急搬送、救急医療体制の調整と検証、救急救命士に対する指示体制及び救急救命士を含む救急隊員に対する指導・助言体制の調整、教育・訓練体制の調整、各種プロトコールの策定及び修正など
・都道府県内の医療資源や救急搬送需要を勘案して、地域の実情に応じたMCを担当する医療機関の選定とその担当範囲を調整し、決定する。
・下部組織としてMC協議会を設置する。
・都道府県内のMC協議会間の調整や隣接する都道府県単位の協議会との調整を行う。
役割
都道府県消防主管部局、衛生主管部局、担当範囲内の消防機関、担当単位内の群市区医師会、担当範囲内の救急医療機関、担当範囲内の救急救命センター等に所属する救急医療に精通した医師ら
都道府県消防主管部局、衛生主管部局、都道府県の医師会、消防機関の代表、救急救命センターなどに所属する救急医療に精通した医師、都道府県内MC協議会の代表など
構成
救急救命センターなど地域の中核的な救急医療機関のMCに関わる担当範囲ごとに協議会を設置する。
既存の協議会の中に、MCに関する事項を専門的に取り扱う分科会を設置してもよい。
位置づけ
地域のMC協議会都道府県単位のMC協議会
表1-6 メディカルコントロール(MC)に関わる協議会
表:「病院前救護とメディカルコントロール」抜粋(監修:日本医救急医療学会他 編集:日本救急医療学会メディカルコントロール体制検討委員会)
第1章 救急医療の現状と課題
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(4)メディカルコントロール体制整備のために
メディカルコントロール体制の整備に当たって、前出の「救急業務高度化推進委員会」報告書で、以下の3つの体制を構築することが重要であるとされている。特に、平成18年4月から救急救命士による薬剤投与(エピネフリンの使用)が開始される予定であり、以下の「A.常時指示体制」の整備の必要性は益々高くなる。しかし、これらの体制の具体化に関しては、各都道府県並びにメディカルコントロール協議会ごとに異なった課題があり、現在においても整備・充実のための努力が行われている。
上記A.常時指示体制について、理想的な例としては、オンラインメディカルコントロールに携る医師が消防本部の指令室に常駐し、119番通報の時点から救急救命士の要請に応じて助言や指示を行う体制が考えられる。東京都や横浜市においては、実際に消防の通信指令室に指導医を常駐(非常勤で24時間交代)させる体制が構築され、消防の指揮命令系統の中に指導医が組み込まれているので、指示系統は非常にスムーズであると言われている。また、米国においては、常時指示体制を重視して地域単位でメディカルコントロール通信指令体制が構築されており、常にメディカルコントロールドクターが常駐し、搬送先病院の決定までも指示している。米国ではこれに加えて常勤のメディカルコントロールディレクター(医師)も任命されて、地域のメディカルコントロール体制を統括している。このような状況を踏まえ、米国が日本に比べて大きく異なるのは、メディカルコント
ロール体制に大きな権限が与えられているのと同時に責任を有する(指示等の内容によってはペナルティーも課せられる)点にあるといえる。
日本のメディカルコントロール体制においても指導医を消防指令室に常駐させることが期待されるのは当然であるが、医師のマンパワー及びコスト面等の制約もあり、実現できていないため、今後、消防体制の広域化等ともあいまって、消防本部におけるオンラインメディカルコントロール体制が普及し、救急業務の高度化の推進力になることが望まれている。メディカルコントロール体制の構築を図るには、こうした課題に対応して方向性を明確化する力が必要であり、時間と労力も求められるといえる。
A.常時指示体制救急隊が、現場から24時間いつでも迅速に救急専門医師等に指示、指導及び助言を要請できる体制にあること。
B.事後検証体制実施した救急活動の医学的判断及び処置の適正性について、医師による事後検証を行いその結果を再教育に活用すること。
C.再教育体制救急救命士の資格取得後の教育として、医療機関において、定期的に研修・実習を行うこと。
出典:救急業務高度化推進委員会・報告書(H15.3)総務省消防庁
第1章 救急医療の現状と課題
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一方、B.に上げた事後検証については、体制の整備が整ってきている。今後、医療機関ばかりでなく消防機関において、さらに対応を充実する必要はあるが、救急救命士を含む救急隊員の応急処置等の質を保証し、地域におけるプレホスピタルケアの一層の向上を図るためには、
・ 現在、十分に実施されていない医学的観点からの事後検証を実施・ その検証結果について当該救急活動を実施した救急救命士を含む救急隊員に対しフィードバック
・ C.に示す再教育の一環として活用すること
が重要といえる。特に、救急救命士の処置範囲が拡大して新たに行われる処置、あるいは包括的指示の範
囲中で行われる処置については、実施した処置等が適切であったかどうかを事後に医学的な観点から検証を実施することが必要と考えられる。
C.再教育制度の具体的な方法として、現在は、地域のメディカルコントロール協議会や医療機関との間で救急救命士への定期的な研修及び実習が一般的に行われるようになっている。このことは、医師と救急救命士との信頼関係を構築し、顔の見える関係を作ることで、緊急時対応を速やかに行うことができるのにも役立っている。消防(救急)指令室への医師の常駐の実現が難しいことを考慮すれば、救急隊員に対する研修・教育はより重要であると考えられる。
第1章 救急医療の現状と課題
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(5)メディカルコントロール体制の課題(意見)
メディカルコントロール体制の現状又は今後の整備に関して前項に示した課題の他、アンケート調査及びヒアリング調査(詳細は第2章参照)等から得られた医療機関及び消防機関の意見は、以下のとおりである。
● 現在、救急搬送中の情報伝達手段は携帯電話等の音声によるため、指示・指導するのに必要な情報量が少ない。
● 指示を出す医師の側では、救急救命士からの指示要請について、その内容を吟味する間もなく実施の許可を出さざるを得ない状況になっている。
● 指示した処置を正しく実施しているかどうかを適切に判断することは難しい。
● 医師の指示と消防機関における指揮命令系統との関係が曖昧になっている。
● 伝達する情報量を増やすがために生じる傷病者のプライバシーに対する配慮は必要である。
● 利用・装備する救急隊員へのストレスに対する考慮を考える必要がある。
① 医療機関の意見
● 救急隊員及び救急救命士は、臨床の場において医師の指示のもとに十分な医学的な経験を積むことが困難な状況にある。
● 救急救命士が少数の地域では、適切な指導者が存在しない場合が多く、救急隊員としての経験は重ねても、救急救命士としての資質を高めることが困難な状況にある。
● 病院実習を重ねる中で救急救命士の手技等に個人差が生じる。このことは例えば、応急処置範囲の拡大に伴う講習の受講者の推薦において、地域のメディカルコントロール協議会の期待する手技と消防機関の推薦者との乖離といった形でも表れる。
② 消防(救急)機関の意見
第1章 救急医療の現状と課題
23
前頁の意見はまた見方を変えると救急業務高度医療情報伝送システムにおいて、次のような要件が期待されるものと考えられる。
● 音声に加えて映像その他多くの情報を伝達し、医師の迅速かつ的確な指示・助言等に資することができるものであること。
● 上記情報の伝達により、救急隊員の行為に対しても適切な指導に役立つものであること。
● 患者のプライバシーへの配慮や、救急隊員への操作運用上の配慮が払われるものであること。
第1章 救急医療の現状と課題
24
1.3.1 救急体制の現状
(1)消防本部及び救急隊数
救急隊とその編成は、消防法施行令、救急業務実施基準、消防力の基準などで示されており、救急車1台と救急隊員3名(ヘリコプターは2名)をもって編成することとなっている。北陸地域における救急隊数は、表1-7のとおりである。
1.3 北陸地域における救急体制の現状と課題
第1章 救急医療の現状と課題
表1-7 北陸地域における救急本部及び救急隊数
4,757848全国
5011福井県
4812石川県
5416富山県
救急隊数消防本部数県
平成17年4月1日現在
25
図1-6 北陸3県における救急隊員の占める救急救命士数の割合
(補足)
・救急隊員とは
消防法施行令に規定された救急隊員資格として、135時間以上の講習を修了しなければならないが、現在では教育の充実強化推進の背景から、250時間以上の研修を修了したものとするように努めている。
(2)救急隊員数に占める救急救命士数の割合
北陸地域の救急隊員数と救急救命士数は、図1-6のとおりである。富山県では救急隊員数が754人中25.7%が、また石川県では救急隊員数は650人中28.4%が、また福井県では、救急隊員数は679人中19.7%がそれぞれ救急救命士である。一方、全国では、救急救命士として従事している割合は、救急隊員数の内、26.4%であ
り、前年度23.3%に比べてその割合は増加している。
560465
545
194
185134
0
100
200
300
400
500
600
700
800
富山県 石川県 福井県
救急隊員(救命士資格なし) 救急救命士■救急救命士資格を有する救急隊員 ■救急隊員(左記以外)
第1章 救急医療の現状と課題
平成17年4月1日現在
26
(補足)
・標準型救急車とは
救急救命士制度導入以前から使用されていたタイプで、隊員3名以下及び傷病者2名以下が収容でき、応急処置などに必要な資機材を積載できる構造の自動車
・高規格救急車とは
救急救命士が搭乗し、特定行為などを行うための資機材の積載及び活動スペースを確保するため、標準型救急車に比べ、室内も広くなっている自動車
図1-7 北陸3県における救急車の台数
(H17.4.1現在)
(3)救急車の数
北陸地域における救急車の台数とその中の高規格救急車の割合を図1-7に示す。富山県では63台中54台(前年度比3台増)の85.7%が、また、石川県では55台中47台(前年度比2台増)の85.4%が、また福井県では55台32台(前年度比2台増)の58.1%が、それぞれ高規格救急車である。一方、全国においては、高規格救急車の割合は68.4%(前年度64.5%)であり、微増で
あるものの、こちらも高規格救急車への切り替えが進んでいることが伺える。
9 8
23
5447
32
0
10
20
30
40
50
60
70
富山県 石川県 福井県
(一般)救急車 高規格救急車■高規格救急車 ■標準型救急車
第1章 救急医療の現状と課題
27
(4)北陸地域における救急体制における課題に関する意見
前出の現状を踏まえ、アンケート調査・ヒアリング調査を通じて得られた主な課題等の意見は、次のとおりである。
① 救急救命士の数
消防庁では、全ての救急隊に救急救命士が少なくとも常時1名配置される体制を目標に救急救命士の養成と運用体制の整備を推進しているが、北陸地域の消防本部の多くでは、全ての救急隊に365日救急救命士を搭乗させている状況であり、概ね不足感はないといえる。加えて一部の消防本部では、1救急隊につき、常時救急救命士2名の乗車を目指し養成している。
② 救急救命士資格取得の環境
救急救命士の資格は、5年または2千時間以上救急業務に従事した後、835時間以上の養成課程を修了し、国家試験に合格して取得できるものであり、救急本部及び受験者の負荷は少なくないと考えられる。これに対し消防本部の中には、救急救命士の資格取得候補者を定め、年間出動件数の一番多い救急隊に配置することで、知識・経験とも十分事前準備ができるよう配慮している例もあり、積極的な取り組みが伺える。
③ 救急車数
救急車の配置台数については、消防力の整備指針に比して一部には充足している例もあったが、年間出動件数と照らし合わせても、北陸地域においては配置台数としてはほぼ十分に整備されているといえる。
④ 高規格救急車への切り替え
高規格救急車への切り替えについては、近年の伸びこそ微増ながらも順調に進んでいる。特に、都市部の消防本部では、全て高規格救急車にて運用しているとの報告もある。一方で、高規格救急車配備後の更新期間については、財政難や補助金が削減される状況にあるため延長されるのではないかとの懸念の声もあった。
⑤ 北陸地域特有の課題
北陸地域では、冬期、積雪の影響から車両運行に困難をきたし、現場到着及びストレッチャーの搬送に時間を要する他、道路状況(圧雪等)によっては傷病者に過度に振動を与えることがある。また、狭い道路に入れず広い路上で停車し、徒歩で現場へ向かうことがあり、若干ながらも現場到着(傷病者への接触までの時間)が遅れる場合がある。
第1章 救急医療の現状と課題
28
1.3.2 救急業務の実施状況
北陸地域における救急業務の実施に関する主なデータは、次のとおりである。
(1)収容所要時間状況
収容所要時間とは、図1-8のとおり、消防機関における知覚から医療機関に収容されるまでの時間である。なお、現場到着時間は、救急車両を現場近くで停車させた時刻であり、傷病者と救急隊員とが接触する時刻は状況によってはさらに遅くなる。
① 北陸3県における全体の平均収容所要時間(H16年中)は、以下のとおりである。
●富山県 : 25.6分●石川県 : 23.2分●福井県 : 24.9分●全 国 : 30.0分
② 北陸3県における事故種別収容平均時間(H16年中)は、表1-8のとおりである
▼覚知 ▼現場到着 ▼医療機関収容
図1-8 収容所要時間とは
26.7分その他
24.3分一般負傷
25.3分交通事故
25.6分急病
収容平均時間事故種別
27.6分その他
23.2分一般負傷
21.3分交通事故
22.9分急病
収容平均時間事故種別
第1章 救急医療の現状と課題
表1-8 事故種別収容平均時間
【富山県】 【石川県】 【福井県】
29.5分その他
24.6分一般負傷
23.9分交通事故
24.1分急病
収容平均時間事故種別
29
③ 北陸3県における収容所要時間別割合(H16年中)は、表1-9のとおりである。
●富山県
搬送人員の76.7%は、覚知から30分内に医療機関等に収容している。
●石川県
搬送人員の78.1%は、覚知から30分内に医療機関等に収容している。
●福井県
搬送人員の74.5%は、覚知から30分内に医療機関等に収容している。
6,910人(23.2%)30分以上
29,677人合計
14,429人(48.6%)20-30分未満
8,212人(27.7%)10-20分未満
126人(0.4%)10分未満
搬送割合収容時間
6,808人(21.9%)30分以上
31,184人合計
13,074人(41.9%)20-30分未満
10,892人(34.9%)10-20分未満
410人(1.3%)10分未満
搬送割合収容時間
第1章 救急医療の現状と課題
【富山県】 【石川県】
【福井県】
表1-9 収容所要時間別割合
5,613人(25.5%)30分以上
21,981人合計
7,538人(34.3%)20-30分未満
8,422人(38.3%)10-20分未満
408人(1.9%)10分未満
搬送割合収容時間
30
(2)救急搬送人員状況
① 傷病程度別救急搬送人員(H16年中)は、表1-10のとおりである。
●富山県
救急搬送において、重症傷病者の割合は13.3%、中等症の割合は42.2%である。
●石川県
救急搬送において、重症傷病者の割合は17.3%、中等症の割合は37.3%である。
●福井県
救急搬送において、重症傷病者の割合は16.2%、中等症の割合は42.9%である。
20人(0.1%)その他
29,677人合計
12,659人(42.7%)軽症
12,575人(42.2%)中等症
3,945人(13.3%)重症
469人(1.6%)死亡
搬送人員数(割合)傷病程度
第1章 救急医療の現状と課題
29人(0.1%)その他
31,184人合計
13,386人(42.9%)軽症
11,631人(37.3%)中等症
5,408人(17.3%)重症
730人(2.3%)死亡
搬送人員数(割合)傷病程度
【富山県】 【石川県】
【福井県】
表1-10 傷病程度別救急搬送人員
11人(0.1%)その他
21,981人合計
8,545人(38.9%)軽症
9,424人(42.9%)中等症
3,559人(16.2%)重症
442人(2.0%)死亡
搬送人員数(割合)傷病程度
31
② 事故種別救急搬送人員(H16年中)は、以下及び表1-11のとおりである。
●富山県
救急搬送人員は、29,677人。救急搬送の事故種別で最も多いのは、急病の55.8%であり、次に交通事故の16.7%となっている。
●石川県
救急搬送人員は、31,184人。救急搬送の事故種別で最も多いのは、急病の56.8%であり、次に交通事故の15.9%となっている。
●福井県
救急搬送人員は、21,981人。救急搬送の事故種別で最も多いのは、急病の52.7%であり、次に交通事故の18.8%となっている。
29,677人合計
4,107人(13.9%)その他
4,047人(13.6%)一般負傷
16,574人(55.8%)急病
4,949人(16.7%)交通事故
搬送人員数(割合)事故種別
31,184人合計
4,084人(13.1%)その他
4,439人(14.2%)一般負傷
17,707人(56.8%)急病
4,954人(15.9%)交通事故
搬送人員数(割合)事故種別
21,981人合計
3,355人(15.3%)その他
2,899人(13.2%)一般負傷
11,588人(52.7%)急病
4,139人(18.8%)交通事故
搬送人員数(割合)事故種別
第1章 救急医療の現状と課題
【富山県】 【石川県】
【福井県】
表1-11 事故種別救急搬送人員
32
(3)市街地・僻地に見る収容所要時間別搬送状況
富山県及び石川県の主な地域(消防本部)について、市街地・郊外地域(僻地の多い地域)等ごとの所要時間別搬送状況は、それぞれ表1-12~1-15のとおりである。地域区分に係わらず搬送時間が20分~30分の時間帯に多くが集中している。市街地では
これより短い時間帯にも多く件数があるが、一方、僻地の多い地域では30分~60分の時間を要する事例の件数が目立っている。また、60分以上の搬送時間を要する事例も一定数ある。これら長時間の搬送事例の多く
は、山間地域・半島地域等のいわば僻地地域で発生した重篤傷病者を3次病院に搬送しなければならない事例と見られているが、富山市や金沢市等の規模の大きな市街地を抱える地域にあっても同様の事例が少なからず存在している。このような事例においては、特にメディカルコントロールの充実のもとに実施するプレ
ホスピタルケアの内容の検討が重要であると考えられる。
1,31623191(14.5%)
722(54.9%)
389(29.6%)
9射水消防市街地近郊
僻地の多い地域
市街地
地域区分
851841(4.8%)
398(46.8%)
310(36.4%)
88(10.3%)
6立山町
2,740249(1.8%)
942(34.4%)
1,268(46.3%)
475(17.3%)
4砺波広域圏
4,091118661(16.1%)
1,970(48.2%)
1,419(34.7%)
22(0.5%)
高岡市
12,766395(0.7%)
2,984(23.4%)
6,639(52.0%)
3,013(23.6%)
32(0.2%)
富山市
合計120分以上60~120分30~60分20~30分10~20分10分未満地域(消防本部)
最も割合が高い 2番目に割合が高い
表1-12 (富山県)地域別主要所要時間別搬送状況
*行政区分はいずれも2004~2005年度合併前
第1章 救急医療の現状と課題
0
1,000
2,000
3,000
4,000
5,000
6,000
7,000
富山市 高岡市 射水消防 立山町 砺波広域圏
10分未満 10分以上20分未満 20分以上30分未満 30分以上60分未満 60分以上120分未満 120分以上
表1-13 (富山県)地域別主要所要時間別搬送状況(グラフ)
33
僻地
市街地近郊
市街地
地域区分
3,679290(2.4%)
686(18.6%)
1,530(41.6%)
1,317(35.8%)
54(1.5%)
白山石川広域
2,70529122(4.5%)
877(32.4%)
791(29.2%)
747(27.6%)
139(5.1%)
奥能登広域圏
2,296112(0.5%)
709(30.8%)
1,006(43.8%)
543(23.6%)
25(1.1%)
七尾鹿島広域圏
2,205329(1.3%)
270(12,2%)
905(41.0%)
978(44,3%)
20(0.9%)
加賀市
11,735049(0.4%)
1,478(12.6%)
5,301(45,1%)
4,848(41,3%)
59(0.5%)
金沢市
合計120分以上60~120分30~60分20~30分10~20分10分未満地域(消防本部)
最も割合が高い 2番目に割合が高い
表1-14 (石川県)地域別主要所要時間別搬送状況
*行政区分はいずれも2004~2005年度合併前
第1章 救急医療の現状と課題
0
1,000
2,000
3,000
4,000
5,000
6,000
金沢市 加賀市 白山石川広域 七尾鹿島広域圏 奥能登広域圏
10分未満 10分以上20分未満 20分以上30分未満 30分以上60分未満 60分以上120分未満 120分以上
表1-15 (石川県)地域別主要所要時間別搬送状況(グラフ)
34
(4)心臓停止を例とした救命活動の効果
一般に、救急救命活動については、その対応の迅速さにより効果に大きな差があると考えられている。救命活動に対する効果についての詳細な統計の取得や分析は困難であるが、石川県メディカルコントロール協議会による、同県における心停止(心臓停止)の事例についての調査例の概要を表1-16に示す。この調査を通じて行われた分析結果及び考察の主な事項としては、次のようなものが上
げられている。
第1章 救急医療の現状と課題
● 迅速な救命措置が可能で効果が期待できる「目撃心停止」(心停止の発生が周囲の者に目撃される例)に対しても、実際に除細動等の準備ができた時点で措置が有効な段階にある割合や生存退院者の率に地域的に大きな差があった。
● 目撃心停止のうち、除細動の措置が有効な割合が下がるのは、通報の遅れや救急隊の到着までの時間に影響されている可能性がある(心原性の目撃心停止の除細動適応例について通報-現場到着時間を比較すると、生存退院例では平均4.4分であり、死亡例では平均6.9分であり、有意差が認められた)。このような場合、救急隊員以外の目撃者等による心臓マッサージ等の措置が行われることが期待される。
● 石川県では、石川県メディカルコントロール協議会の指導のもとに実施されている一般救急隊員までを対象とした除細動措置の指導等による効果が現れてきており、今後、これに加えて行われるAED(自動体外式除細動器)の普及活動を含め、効果が高まることが期待される。
表1-16 石川県における心停止に関する調査結果の例
819.5%
133.3%
00%
116.7%
626.1%
生存退院(人)
%(対心原性目撃除差細動可)
1639.0%
3100%
111.1%
233.3%
1460.9%
心拍再開(人)%(対心原性目撃除差細動可)
4119.8%
310.7%
918.8%
614.2%
2325.8%
心原性目撃除差細動可(人)%(対心原性目撃)
20731.7%
2826.2%
4840.0%
4230.4%
8937.6%
心原性目撃(人)%(対心原性)
65251.4%
10753.0%
12054.8%
13850.0%
28750.1%
心原性心停止(人)%(対搬送心停止)
127054.1
202118.8
21975.0
27658.0
57340.3
搬送心停止(人)(/10万人/年)
計能登北部能登中部南加賀中央
※石川県メディカルコントロール協議会調査から
35
1.3.3 救急医療体制の現状
(1)救急医療機関数(告示医療機関)
北陸3県における救急医療機関として告示された病院及び診療所数は、表1-17のとおりである。この他に医療機関は相当数(10倍以上)存在するが、救急患者の96%以上が救急医療機関(特に救急病院)に搬送されている。したがって、救急搬送先としてのこれら救急医療機関数と配置が、医療機関収容までの搬送時間に大きく影響するものと考えられる。
各県における1救急病院あたりの人口割合は以下のとおりであり、北陸3県の中では、福井県は比較的充実しているように伺える。
人口
富山県 約111万人石川県 約118万人福井県 約82万人
富山県 県民2.6万人につき1救急病院石川県 県民2.4万人につき1救急病院福井県 県民1.7万人につき1救急病院
表1-17 救急医療機関数(告示医療機関)
第1章 救急医療の現状と課題
36
(2)第3次救急医療機関の配置
救急医療機関の中でも、重篤な救急患者を常に受け入れる体制を整備している三次救急医療機関である(高度)救命救急センターの配置状況は、図1-9とおりである。
●富山県 3病院●石川県 4病院●福井県 2病院
北陸地域において、三次救急病院は比較的市街地に集中している。このことは、山間部等の僻地において重篤な救急患者を三次救急病院まで搬送する場合に、相当の搬送時間がかかることを意味する。この搬送中における救急隊員によるプレホスピタルケア(病院前救護)の重要性が高まっており、こうした背景を受けて医療行為の質を保証するためのメディカルコントロール体制の整備が求められてきたものと考えられる。
図1-9 北陸3県における三次医療機関配置図
※アンケート調査とはH17.7下旬に実施し回答を得た救急医療機関先で三次救急医療機関として区分記入があったところである。
第1章 救急医療の現状と課題
三次救急医療機関
アンケート調査にて区分記載のあった三次救急医療機関
37
1.3.4 メディカルコントロール体制の現状と課題
メディカルコントロール体制の整備については、前節1.2.5「メディカルコントロールと救急医療」でも言及したとおり、次の3つの体制を構築することが重要であると考えられている。
北陸地域における現状の認識について、医療機関及び救急機関の主な意見は次のとおりである。
(1)医療機関の意見
A.常時指示体制救急隊が、現場から24時間いつでも迅速に救急専門医師等に指示、指導及び助言を要請できる体制にあること。
B.事後検証体制実施した救急活動の医学的判断及び処置の適正性について、医師による事後検証を行いその結果を再教育に活用すること。
C.再教育体制救急救命士の資格取得後の教育として、医療機関において、定期的に研修・実習を行うこと。
出典:救急業務高度化推進委員会・報告書(H15.3)総務省消防庁
第1章 救急医療の現状と課題
A.常時指示体制について
● オンラインメディカルコントロールに携わる指示医は、基本的に病院の勤務医であるため、救急搬送中の病院前救護に専従することは困難である。
● 石川県の場合、事後検証医は救急医学会の認定医(専門医)に限定されている。また、現在5病院(救急救命センター2箇所、大学病院2箇所、医療センター1箇所)が、気管挿管について指示・助言を行うことが認められており、また薬剤投与については2大学病院に限定することが検討されており、メディカルコントロールの質の維持に資する体制を整備している。
38
第1章 救急医療の現状と課題
B.事後検証体制について
● 事後検証については、北陸地域に限らず全国的に概ね適切に実施されていると考えられる。
● しかし、事後検証結果が病院前救急医療体制の質の向上のために十分活用されているか否かについては、地域差があると考えられている。
C.再教育体制について
● 北陸地域では、救急救命士の指導教育に相応しい医師(救急専門医)の養成を熱心に行っている。また、救急専門医は、救急救命士・救急隊員への研修・実習にも積極的に取り組んでいる。
● 救急隊員に対して、メディカルコントロール協議会の定めたプロトコール(救急隊員の行う処置の手順の規定)に従った自動体外式除細動装置の使用のための研修会を積極的に開催している。(都市部は救急救命士の搭乗率が比較的高いが、他地域では高規格救急車を利用している場合でも必ずしも救急救命士の搭乗率は高いとは限らないことに注意が必要。)
● 救急救命士が受講する生涯研修(毎年2日間×2回)を行うとともに、JPTEC協議会が提供している病院前外傷教育プログラムや、日本救急医学会が主催するICLS (蘇生処置をマスターするためのミニマムプロトコール )コースなどの受講をメディカルコントロール協議会が支援している。
なお、北陸地域に限ったことではないが、上記のほか、メディカルコントロールの必要性が高まっている一方で、関係法令の整備(権限、罰則、責任所在の明確化等)の遅れや明確かつ必要十分な財源確保がなされていないこと等ために十分に体制整備ができないとの認識がある模様である。これに対し、北陸地域の各協議会では、医療機関と消防機関の連携による研修体制充実など「できることから取り組む」努力が払われている。
(補足)
・JPTEC(Japan Prehospital Trauma Evaluation and Care)協議会とは
平成15年6月、我が国に於ける病院前の外傷観察・処置標準化プログラムの普及を目的として発足した。本協議会は日本救急医学会メデイカルコントロール体制検討委員会の下部組織として位置付けられ、実際の運営は日本救急医学会各地方会傘下のJPTEC協議会地方支部が担当している。
・ICLS(Immediate Cardiac Life Support)とは
医療従事者のための蘇生トレーニングコースである。緊急性の高い病態のうち、特に「突然の心停止に対する最初の10分間の対応と適切なチーム蘇生」を習得することを目標としており、日本救急医学会では、一定の基準を満たしたコースに対して「コース認定」を行ったり、コースの指導者を養成するためのワークショップ開催や、指導者の学会認定も行っている。
39
(2)消防機関の意見
● 現場の実感として、特定行為の実施時は指示要請が必要となることを前提に、搬送中のメディカルコントロールの重要性は高いと考えている。
● プレホスピタルケア(病院前救護)にあたって上記の重要性を認識しつつも、消防機関側では、病院実習を中心に人的・コスト的に負担が大きいと感じている。
● 医療機関との定期的な研修・実習の具体的な例は以下のとおりであり、他においても同様の取り組みがなされている模様である。
(例1)実務救急救命士は、2次・3次医療機関(計4病院)において実習及び症例検討会に参加し、2年間で128時間の研修を受け、また、就業前の救急救命士は、二次・三次医療機関(計4病院)において160時間の研修実施が行われている。
(例2)救急救命士に対する生涯研修は、2年間で128時間以上施される。また、月1回程度の割合で、市内の医療機関において症例検討会が実施される。
第1章 救急医療の現状と課題