第17回フォーラム - 東京大学july.2013 no.19 1graduate school of economics, faculty of...

20
July.2013 No.19 1 Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo 19 科・経 地方公共団体金融機構寄付講座 ニューズレター 201328日(火) 16001830 東京大学本郷キャンパス 東京大学大学院経済学研究科学術交流棟 (小島ホール)階 小島コンファレンスルーム ● 報 告 江夏 あかね 株式会社野村資本市場研究所研究部主任研究員三宅 裕樹 京都大学大学院経済学研究科博士後期課程● 討 論 緒方 俊則 地方公共団体金融機構地方支援部長兼総括主任研究員小西 砂千夫 関西学院大学大学院経済学研究科・人間福祉学部教授● 報告者リプライ ● 質疑応答 201328日(火)、小島コンファレンスルームにおい て地方公共団体金融機構寄付講座第17回フォーラム「『北欧 モデル』から考える地方の資金調達の在り方―スウェーデ ン・デンマーク調査報告」が開催されました。2013週間にわたる北欧の調査出張をもとに、野村資本市場 研究所主任研究員の江夏氏からはデンマークの、京都大学 大学院の三宅氏からはスウェーデンの地方共同調達機関と しての組織がそれぞれ紹介され、組織の特徴や地方自治体 との関係、地方債市場における位置づけなどについて具体 的にご報告いただき、日本における地方の資金調達の在り 方についての示唆をいただきました。二人の討論者からは、 北欧カ国における地方共同調達機関の地方自治体向け支 援業務の具体的な説明や、フランスにおける事例の紹介な どがなされ、報告内容を掘り下げる論点が提示されました。 また、フロアからも質問がなされ、活発な議論が展開され ました。 ※当日の報告資料は寄付講座のホームページでご覧頂けます。 URLhttp://www.e.u-tokyo.ac.jp/kifu/jfm.html 主催/東京大学大学院経済学研究科寄付講座、 地方公共団体金融機構 17 回フォーラム 「『北欧モデル』から考える地方の資金調達の在り方―スウェーデン・デンマーク調査報告」

Upload: others

Post on 20-Sep-2020

2 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 第17回フォーラム - 東京大学July.2013 No.19 1Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo 第 19 号東 京 大 学 大 学 院 経 済 学

July.2013 No.19 1

Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo

第 19 号

東 京 大 学 大 学 院 経 済 学 研 究 科 ・ 経 済 学 部地 方 公 共 団 体 金 融 機 構 寄 付 講 座  ニ ュ ー ズ レ タ ー

日 時2013年5月28日(火)16:00~18:30

場 所東京大学本郷キャンパス

東京大学大学院経済学研究科学術交流棟

(小島ホール)2階 小島コンファレンスルーム

内 容● 報 告

  江夏 あかね(株式会社野村資本市場研究所研究部主任研究員)

  三宅 裕樹(京都大学大学院経済学研究科博士後期課程)

● 討 論

  緒方 俊則(地方公共団体金融機構地方支援部長兼総括主任研究員)

  小西 砂千夫(関西学院大学大学院経済学研究科・人間福祉学部教授)

● 報告者リプライ

● 質疑応答

2013年5月28日(火)、小島コンファレンスルームにおい

て地方公共団体金融機構寄付講座第17回フォーラム「『北欧

モデル』から考える地方の資金調達の在り方―スウェーデ

ン・デンマーク調査報告」が開催されました。2013年3月

の1週間にわたる北欧の調査出張をもとに、野村資本市場

研究所主任研究員の江夏氏からはデンマークの、京都大学

大学院の三宅氏からはスウェーデンの地方共同調達機関と

しての組織がそれぞれ紹介され、組織の特徴や地方自治体

との関係、地方債市場における位置づけなどについて具体

的にご報告いただき、日本における地方の資金調達の在り

方についての示唆をいただきました。二人の討論者からは、

北欧4カ国における地方共同調達機関の地方自治体向け支

援業務の具体的な説明や、フランスにおける事例の紹介な

どがなされ、報告内容を掘り下げる論点が提示されました。

また、フロアからも質問がなされ、活発な議論が展開され

ました。

※当日の報告資料は寄付講座のホームページでご覧頂けます。 (URL:http://www.e.u-tokyo.ac.jp/kifu/jfm.html)

主催/東京大学大学院経済学研究科寄付講座、 地方公共団体金融機構        

第17回フォーラム「『北欧モデル』から考える地方の資金調達の在り方―スウェーデン・デンマーク調査報告」

Page 2: 第17回フォーラム - 東京大学July.2013 No.19 1Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo 第 19 号東 京 大 学 大 学 院 経 済 学

2

Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo

Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo

Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo

報告

株式会社野村資本市場研究所主任研究員

江夏 あかね

「北欧モデル」とデンマークの基礎知識 私からはデンマークについてご紹介させてい

ただきます。最初に、「北欧モデル」の意味や

デンマークの基礎的な情報の確認をさせていた

だいた上で、私どもが訪問いたしましたコペン

ハーゲン市とデンマーク地方金融公庫の地方財

政の仕組みや運営、地方債について分析し、最

後に今日のフォーラムのタイトルにもなってお

ります、「北欧モデル」から考える地方の資金調

達のあり方ということでまとめさせていただき

たいと思います。

 まず3ページ目をお開き下さい。「北欧モデル」

ということで、明確な定義はないのですが、一

般論としてよく言われるのは高水準の課税とそ

れに基づく社会サービスの提供といった特徴が

挙げられます。また、北欧モデルの地方自治の

特徴としては、地方自治が強調されているとい

うこと、地方財政において地方税が非常に重要

な役割になっているということ、福祉国家とし

て地方公共団体がその主体を担っているという

こと、そして地方の政治と行政の一体的な協力

体制が確立していること、等が先行研究で指摘

されております。

 次のページですが、デンマークという国に

ついて見ていきます。デンマークは、人口は

約560万人、GDPは約3,100億米ドルと、人口、

GDPともに日本の約19分の1という比較的規

模の小さい国です。ただ、この国はトリプルA

の格付けを取得するなど高い信用力を誇ってい

ます。背景といたしましては、まず、人口1人

当たりのGDPが約5万6,000ドルで、日本が約

4万7,000ドルですから、大変富のある国だと

いうことがお分かりいただけると思います。ま

た、財政上非常に健全な状態だということで

す。ソブリン分析においては典型的に、財政収

支(対GDP比)や政府債務(対GDP比)に着

目するわけですが、財政赤字(対GDP比)は比

較的小さい規模でとどまっていますし、政府債

務(対GDP比)も、日本は200%を超えるので

はないかとも言われていますが、デンマークの

場合、40%台で推移しており、大変健全な財政

状況が維持されております。デンマークの信用

力上の弱みとしては、国の規模が非常に小さい

こともあり、基本的には海外から資金を調達し

なければならない構造になっているため、金融

セクターで対外借入ニーズが高いということと、

家計債務の規模が比較的大きいことが挙げられ

ます。日本では、約1,200兆円の家計金融資産が

経常収支の黒字に大きく貢献しているとも言わ

れていますが、デンマークの場合、高福祉国家

で国民の将来に対する不安が比較的大きくない

こともあるせいか、貯蓄率がかなり低い状況と

なっております。地方公共団体を含めた公的セ

クター以外に、比較的大きな借入ニーズがわり

とあるというのがこの国の特徴だと思います。

 5ページ目をお開き下さい。デンマークの戦

後の歴史について、経済・政治、地方自治・地

方財政関連の出来事を基にまとめております。

デンマークは戦後、福祉国家の実現ということ

で1960年代は比較的安定した状況を謳歌してお

りました。しかし、1970年代に入り北欧諸国の

経済状況が悪化する中で、デンマークにおいて

も、当時は石油などの資源を多く輸入していた

ためにオイルショックの影響を大きく受け、物

価高騰や失業率の上昇、財政赤字、経常赤字と

いう複数の問題に直面しました。しかし、この

ような出来事を契機に、デンマーク国民は、福

祉の良い面と悪い面を認識していったとされて

おります。一方、同時期には、地方公共団体で

Page 3: 第17回フォーラム - 東京大学July.2013 No.19 1Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo 第 19 号東 京 大 学 大 学 院 経 済 学

Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo

July.2013 No.19 3

Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo

Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo

大きな改革がありました。1970年、19世紀初頭

から1,300以上あった地方公共団体が、14のアム

ト(県)と275のコムーネ(市)に再編されました。

他方、デンマークは、1973年に欧州共同体

(EC)に加盟したということがあります。デン

マークは現在でもデンマーク・クローネという

自国通貨を維持しています。ECには加盟した

のですが、ユーロ参加に関しては否決をしてお

ります。当時の分析によると、ユーロ参加で福

祉の面を維持することが困難になるのではない

かという国民の不安や、ユーロの相場が当時下

落をしていたため、デンマーク・クローネとい

う通貨を維持すべきという考えが主流だったこ

とが否決の背景としてあるようです。ただし、

デンマークは、1982年から当時の欧州通貨単位

(ECU)に連動させるペッグ制を導入しました。

また、1999年にユーロが導入された際にも、デ

ンマークは欧州為替相場メカニズム(ERM2)

の参加国として、ユーロとのぺッグ制を維持し

ているという状況になっています。

 もう1つご留意いただきたい点ですが、北欧

諸国は各国の状況が割と異なる傾向があるので

すが、デンマークは1980年代前半に他の国に先

駆けて金融の自由化が始まりました。この点が

何故重要かということは後にご紹介させていた

だきます。

 地方自治に関してですが、2007年には「デン

マーク版道州制改革」が実地され、地方公共団

体が5つのレジオン(州)と98のコムーネに再

編されました。再編の目的は、住民の生活によ

り近い行政単位であるコムーネの権限移譲を進

めるとともに、福祉社会への発展及び質の高い

福祉サービスを住民に提供することでした。ま

た、もともと人口がそれほど大きくない国であ

る以上、規模が小さい地方公共団体が多かった

ために、再編を通じて平均5.5万人ほどの人口

を1つの地方公共団体の規模とし、スケールメ

リットを享受するためというのも背景の1つで

した。さらに、重複している行政分野を整理し、

効率・質の向上ということも再編の背景として

挙げられます。

 現在、地方公共団体の中ではレジオンとコ

ムーネという2層制の構造となっております

が、日本も都道府県、市町村という2層制になっ

ております。業務分担や財政の特徴について見

ると、実は日本とデンマークの状況は大きく異

なっています。レジオンは、広域的な行政ニー

ズを担うといった面は都道府県と共通しており

ますが、レジオンは日本の都道府県とは異なり

課税権を有していないという特徴がございます。

一方、基礎自治体であるコムーネは、福祉や子

育て支援に関しては住民に身近な行政を担って

おり、歳入では地方税が中心の構造になってい

ます。コムーネとレジオンでは歳入の構造が大

きく異なり、歳入の主体はコムーネが地方税、

レジオンが包括補助金となっております。

デンマーク地方財政の仕組み 続いて7ページ目、デンマークの地方財政の

仕組みをご紹介させていただきます。まず、国

の関与についてですが、基本的には内務保健省

の管轄下にあります。特徴的なのは予算プロセ

スで、中央政府が採択した包括的経済政策に基

本的に沿って財政運営していくことが義務付け

られており、毎年予算を組成する際に、翌年度

の地方公共団体の予算の枠組みを国と地方が協

議を行い決定する予算協調制度といった仕組み

が導入されています。この中では、歳出規模や

税率、一般財源の包括補助金の規模などが議論

されており、国と地方が協調して財政運営をし

ているということがお分かりいただけると思い

ます。

財政調整の仕組みですが、デンマークは日本

と同じように国から地方への財政移転というこ

とで垂直的な仕組みとして包括補助金がありま

すが、日本とは異なる仕組みとして、コムーネ

間で財政状況の均てん化を図るという水平的な

仕組みとして平衡交付金というものが導入され

ています。

 次に地方公共団体の借入の仕組みについて8

ページ目をお開きください。これも日本と似て

いるところと違うところがあります。日本も、

基本的には地方財政法第5条を通じて地方債の

充当目的について規定されていますが、このよ

うな建設公債主義というのは、基本的にはデン

マークでも採用されております。デンマークの

Page 4: 第17回フォーラム - 東京大学July.2013 No.19 1Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo 第 19 号東 京 大 学 大 学 院 経 済 学

4

Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo

Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo

Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo

場合は、厳格に適債基準が決められています。

現在では、高齢者住宅や省エネ対策等特定目的

に限定して借入を起こすことができるように

なっています。借入限度額に関しては、基本的

には毎年の予算協調制度の中で合意を通じて確

認されるものになっています。地方の借入に関

し、日本の場合、外貨地方債の一部で明示的な

保証が付与されているものはありますが、ほと

んどの地方債には保証が付与されておりません。

デンマークの地方債についても、中央政府によ

る明示的な保証の仕組みはありません。

 また、最近の仕組みとしてご紹介したいのが、

為替リスクを回避するため、2011年以降の借

入に関しては、デンマーク・クローネもしくは

ユーロ建て以外では禁止されているという点で

す。特にヨーロッパで金融危機時に、地方公共

団体が為替リスクに晒された結果、大きな損失

を抱えることになり、投資銀行を訴える事例が

あったと思いますが、デンマークでも、スイス

フランで借入をしていた団体が為替リスクに伴

い損失を出したということがあったとのことで、

これがこのような規制の背景となっているそう

です。一方、デンマークの地方公共団体の場合、

ほぼすべての公営企業と住宅供給公社のローン

に対して債務保証を付与することができること

になっています。日本の地方公共団体の場合、

原則として債務保証は禁止されていますが、地

方三公社の中で地方道路公社と土地開発公社に

対しては債務保証を行うことが可能となってい

ます。

 もう一つ、現在のデンマークの地方公共団体

の長期債務残高は、2012年末時点で976億デン

マーク・クローネ(約1.7兆円)ですが、日本

の地方公共団体の債務が公営企業分を合わせて

約228兆円(2013年度末見込み)ということを

踏まえますと、日本の約0.7%ほどと小さい規

模になっています。それから、デンマークの場

合、地方公共団体の長期債務残高の規模は、名

目GDPの5.4%程度ですが、日本の地方債務の場

合、2011年度の統計で46.9%ですので、デンマー

クの地方債務残高(対GDP比)もかなり低いと

いうことが分かります。ちなみに、このGDPに

対する地方の債務残高の規模ですが、2011年の

場合、英国やフランス、イタリアの平均は8.9%

ほどで、OECD加盟国平均が7.0%でしたので、

日本の地方債務残高(対GDP比)がいかに高い

水準にあるかということが浮き彫りになります。

それから、デンマークの地方公共団体は債務不

履行(デフォルト)の仕組みがありません。債

務再編や支払い停止が認められないという判決

も過去に存在しているとのことです。もう一つ、

ソルベンシーの維持のため、365日平均でネット

ベースの金融資産をプラスの水準で維持するこ

とや、四半期ベースでの財務報告が義務づけら

れているという規制があります。以上、デンマー

クの基礎的な情報をご紹介させていただきまし

た。

コペンハーゲン市の財政運営 続いてコペンハーゲン市についてご紹介いた

します。国の経済の中心を担うデンマークの首

都で人口はデンマークの1割強に当たる約70万

人、今でも若年層を中心に人口が増加していま

す。コペンハーゲン都市圏(グレーター・コペ

ンハーゲン)では約120万人と、人口の大体5分

の1以上が集積をしています。こちらの財政状

況です。予算の内訳をご覧いただけますでしょ

うか。日本の地方公共団体の場合、基本的には

現金主義、単式簿記に基づき予算を示していま

すが、コペンハーゲン市の場合は現金主義のほ

か発生主義でも財政管理をしているとのことで

す。歳入においては、地方債という項目が上がっ

ておりませんが、例えば地方公共団体全体の

2010年決算では、地方債は歳入の僅か2.4%しか

占めていなかったとのことです。この2.4%とい

う数字がどういう意味を持つのかということで

すが、日本の平成25年度の地方財政計画の中で

は、地方債が歳入全体の13.6%を占めているこ

とと比較しますと、デンマークにおいて地方債

が歳入に占める割合が非常に小さいということ

がお分かりいただけると思います。その他の特

徴として、コムーネにおいては、地方所得税が

主体ですが、コペンハーゲン市の歳入では固定

資産税も比較的潤沢といったことが挙げられま

す。

 続いて12ページをお開きいただけますでしょ

Page 5: 第17回フォーラム - 東京大学July.2013 No.19 1Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo 第 19 号東 京 大 学 大 学 院 経 済 学

Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo

July.2013 No.19 5

Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo

Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo

うか。コペンハーゲン市の債務状況をご紹介い

たします。資金調達に関しては、かつては債券

発行もしていたとのことですが、現在は証書形

式(ローン)のみで調達をしています。左側の

図の借入残高ですが、90年代初頭は人口流出が

多く港湾開発を行なっていたため借入が多かっ

たのですが、町の整備に伴い人口集積が進み、

財政健全化に取り組むにつれて借入規模が縮小

していきました。右側の図は債務残高ですが、

将来にわたって徐々に縮小していくことが見通

されています。債務を占める大きいものは地下

鉄や土地開発公社ですが、土地開発公社の固定

利付借入の一部をコペンハーゲン市が負担して

いたのですが、借入条件がコペンハーゲン市の

財政運営にとって負担が重いということで、こ

れを2007年に返済し、後からご紹介しますデン

マーク地方金融公庫の協力によって変動利付債

務に借換えたということがあります。これを通

じて、コペンハーゲン市の金利負担は低下し、

金利リスクのバランスも図られたとのことです。

連結ベースで土地開発公社のほかに地下鉄の分

の債務が今後増えていくと推計されております

が、地下鉄の債務は国とコペンハーゲン市が折

半出資し、連帯債務となっているとのことです。

デンマーク地方金融公庫 デンマークの地方共同調達機関であるデン

マーク地方金融公庫をご紹介いたします。19世紀末に設立された大変古い協同組合で、内務

保健省の監督下にあります。デンマークでは、

1880年代に酪農組合から農業協同組合が誕生し

ました。酪農組合の場合、協同運営を通じたス

ケールメリットが期待されて設立されたわけで

すが、そのようなモデルがデンマークでは根付

いており、デンマーク地方金融公庫も協同組合

という形式で始まりました。デンマーク地方金

融公庫は、協同組合で金融機関ではないため、

欧州連合(EU)の金融規制の対象外で、これ

は比較的重要な点です。2011年冬、ノルウェー

輸出金融公社の格付けが大きく引き下げられた

ことは、記憶に新しいと思います。格下げの要

因の一つとしてノルウェー輸出金融公社は従来、

オイルメジャーなど大口の貸出先を有していま

したが、EUの資本要求指令(CRD)の中の与

信集中規制等の適用免除が撤廃され、金融機関

として取り扱われるようになったことで、既存

のビジネス・モデルでは運営が困難になったこ

とが挙げられます。一方、デンマーク地方金融

公庫は、金融機関ではなく、協同組合であった

ため、そのような金融機関向けの規制の対象外

であったという状況です。

 法人税に関しては、1980年代から他の民間と

同じような税率で課税対象になっています。メ

ンバーはデンマークの地方公共団体に限定され

ています。加盟は任意ですが、現時点ではすべ

ての地方公共団体が加盟をしており、加盟地方

公共団体はすべてのデンマーク地方金融公庫の

債務に対して連帯責任を負っているということ

になっています。業務目的は、加盟地方公共団

体に対してコスト効率の高い資金調達を確保す

ることです。貸出先は、日本の地方公共団体金

融機構の場合は、地方公共団体のみを対象とし

ておりますが、デンマーク地方金融公庫は、加

盟地方公共団体に加えて、地方公共団体が全額

債務保証した公営企業等の外郭団体を対象にし

ています。貸出の他に、ファイナンス・リース

やデリバティブというサービスも加盟地方公共

団体に対して提供しています。デンマーク地方

金融公庫は、地方公共団体の負債管理等に関す

るアドバイザリー業務も実施しています。個別

の借入へ無償で、または要請に基づき有償で財

務アドバイス等を実施するという方法で包括的

なサービスを提供しています。

 16ページ目、財務状況ですが、比較的潤沢に

準備金が積み上がっており、配当の仕組みはな

いため全部内部留保することができます。2012年のTier1ソルベンシー比率は56%と大変高い

水準です。流動性に関しては、いくつかの地方

金融公社で見られるような中央銀行へのファン

ディング・アクセスはデンマーク地方金融公庫

の場合ございませんが、貸出のためにプレファ

ンドということで、貸出の少し前に借入を一定

範囲内で行うことが法律上認められています。

リスク管理体制は厳格に管理をしており、通貨

や金利リスクのエクスポージャーは事実上ゼロ

だと伺いました。

Page 6: 第17回フォーラム - 東京大学July.2013 No.19 1Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo 第 19 号東 京 大 学 大 学 院 経 済 学

6

Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo

Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo

Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo

 17ページ目、資金調達状況ですが、基本的な

資金調達戦略はベンチマーク債や他市場におけ

る公募、私募債、コマーシャル・ペーパー(CP)

などですが、金融危機以降の傾向として流動性

を意識し、私募より公募が選好されるようにな

りベンチマーク債への需要が高いという状況に

なっています。また、米ドルの起債が増えてき

たということが挙げられます。もちろんベーシ

ス・スワップの環境で米ドルの起債が有利と

いう話もあるようですが、米国市場では、金融

危機を通じてファニーメイやフレディマックと

いった政府支援機関(GSE)が実質的に公的管

理下に入り、高クレジットの銘柄が資産クラス

から剥落したということがあるので、デンマー

ク地方金融公庫をはじめとした多くの公的機関

や国際金融機関等が米ドル市場を目指して起債

をしているという傾向にあります。デュレー

ションに関しては、金融危機以前は15年や20年

という非常に長い資金調達ができたのですが、

現在は5年や3年という短いデュレーションが

選好されるようになったとのことです。

 18ページ目、貸出状況をご紹介いたします。

本日のお話の中で重要な点として、デンマーク

地方金融公庫のマーケットシェアが挙げられ

ます。デンマーク地方金融公庫をめぐっては、

1980年代頃には20%から30%台であったシェア

が急増し、現在では約95%とほぼシェアを独占

しています。残りの5%は中央政府が融資をし

ているとのことです。マーケットシェアが急激

に拡大した背景としては、1970~80年代にデン

マーク経済は厳しい状況にさらされたため、デ

ンマーク・クローネ建ての貸出金利が一時的に

20%に達するようなこともありました。地方公

共団体によっては当時、ドイツマルクで調達を

するようなケースもあったということで、デン

マーク地方金融公庫のシェアは低迷していたの

です。しかし、1980年代前半から始まった金融

自由化に伴い、それまでは伝統的な条件であっ

たローンの条件を多様化させ提供サービスも拡

充させていきます。デンマーク地方金融公庫は、

民間金融機関とは異なり高水準の格付けを有し

ているため、低金利の調達が可能であったうえ、

配当の仕組みがないことも功を奏し、地方公共

団体へ魅力的な金利水準の貸出を提供すること

が可能となりました。さらに90年代前半、金融

自由化が北欧で浸透し、モーゲージ等で貸出競

争が熾烈になりました。90年代前半は、一時的

に、金融機関の貸出残高がGDPを超えてしまう

ような状況にもなり、厳しい金融環境になりま

した。デンマークでは、金融危機が連鎖するよ

うな状態は阻止できたのですが、90年代初頭と

いうのはデンマークの民間金融機関にとっても

厳しい時代だったということがあります。です

から、民間金融機関は、信用力の水準に準じて

資金調達コストもかかるため、より利回りの高

い融資を求めることになる上、民間市場でモー

ゲージ等の分野で厳しい競争を克服しなければ

いけなかった状況と考えられます。その意味で、

デンマーク地方金融公庫が低リスク・低リター

ンである地方公共団体向けに貸出しを行ってい

るというのは、ビジネス・モデルが異なる民間

金融機関からすると、あまり妙味がないという

ことで、自然に住み分けがされていったのでは

ないかとみられます。

 最後に、「『北欧モデル』から考える地方の資

金調達の在り方」についてですが、これまで見

てきたなかで日本との共通点もいくつかあると

いうことを認識できたと思います。例えば、地

方債制度の仕組みと国の関与という点での建設

公債主義に基づく借入の厳格化、そして間接金

融主体という金融市場です。米国では直接金

融が進んでいるわけですが、大陸ヨーロッパは

基本的に間接金融主体ですから借入が基本的に

は主軸になっております。日本も基本的には間

接金融が現在でも中心ですが、最近では地方分

権や財政投融資改革の流れを通じて市場公募化

が進展してきています。なお、デンマークに関

しては、デンマーク地方金融公庫の貸出の中で

95%がローン形式、債券発行は5%程というこ

とでほとんどが借入という状況になっています。

もう一つ日本との共通点としては、長らく根付

いた地方公共団体への公的金融の仕組みという

ことで、日本でも財政投融資の仕組みや公営企

業金融公庫(現在の地方公共団体金融機構)が

あるように、欧州諸国では地方公共団体向けの

公的金融の仕組みが100年以上根付いているケー

Page 7: 第17回フォーラム - 東京大学July.2013 No.19 1Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo 第 19 号東 京 大 学 大 学 院 経 済 学

Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo

July.2013 No.19 7

Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo

Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo

スも散見されます。デンマークにおいても1899年に協同組合として設立されたデンマーク地方

金融公庫が中核的な役割を担ってきました。

 デンマークの事例から考える地方の資金調達

のあり方についてですが、日本の地方の資金調

達の仕組みは大変良くできていると思います

が、デンマークで画期的だったのは1970~80年

代に国の経済が厳しい中でも資金提供してきた

結果、デンマーク地方金融公庫の役割が大きく

拡大したということが言えると思います。なお、

マイケル・ポーターの『競争の戦略』では、集

中、コストリーダーシップ及び差別化の三つの

基本戦略を実行することがビジネス上の競争に

勝ち抜く上で重要だと言われていますが、この

三つのポイントにデンマーク地方金融公庫のモ

デルを適用すると当てはまっていることが分か

ります。まず集中に関しては、従来から加盟団

体である地方公共団体のみを対象にし、海外や

他のセクターに対象を拡大せず集中してきたこ

と。コストリーダーシップに関しては、高格付

け、配当のないビジネス・モデル、資金調達多

様化等を通じた有利な資金調達を背景とした低

位で安定した資金の提供。そして差別化に関し

ては、地方公共団体向けの専門金融機関として、

地方公共団体のニーズに即したサービスを、有

償、無償のものを含めて提供してきたというと

ころです。デンマーク地方金融公庫の場合、『競

争の戦略』で挙げられた3つの基本戦略にも下

支えされ、競争に勝ったのだろうと思います。

 ただし、マーケットシェアを多く獲得するこ

とがビジネス・モデルとして成功なのかと言う

と、普遍的に見てそれは必ずしも成功とは言え

ないと思います。日本の場合、地方公共団体は、

財政融資資金、地方公共団体金融機構資金、銀

行等引受資金、市場公募資金という4つの区分

から円滑に資金調達を行うことが可能です。地

方公共団体金融機構資金のシェアは、2013年度

地方債計画上では14%ですが、デンマーク地方

金融公庫の市場シェアである95%を目指せばよ

いかというと、個人的にはそうは思っておりま

せん。ただし、デンマーク地方金融公庫から学

べることの一つは、長い歴史に下支えされた強

固な業務・財務基盤・ノウハウの蓄積に加えて、

地方公共団体のニーズや外部環境の変化に迅速

に柔軟に対応できたことであり、日本の地方公

共団体金融機構に対する良い教訓になるのでは

ないかと思っています。私の発表は以上でござ

います。ご清聴ありがとうございました。

京都大学大学院経済学研究科博士後期課程

三宅 裕樹

調査出張の概要 私からは、スウェーデンに関しご報告させて

いただきたいと思います。

まず初めに、2013年3月、1週間にわたる北

欧の調査出張という非常に貴重な機会を頂戴い

たしましたことを深く感謝申し上げます。本日

は、できる限りその内容をこの場でご報告させ

ていただければと思っております。

今回、スウェーデンとデンマークの2カ国を

訪問いたしましたが、私の理解では、大きな目

的の一つはこの2カ国の地方債制度、市場がど

ういった特徴を持っているのかという一般的な

情報の収集。もう一つは、2008年のリーマン・

ショック以降のグローバル金融危機が、この2

カ国の地方債市場に影響を与えたのか、与えた

とすればそれによってどのような変化が起きた

のかということについてのインタビュー。この

二つであったと理解しております。

 スウェーデンで、3つの訪問先にインタビュー

させていただきました。一つはコミュンインベ

ストという、先ほど江夏様からお話がございま

Page 8: 第17回フォーラム - 東京大学July.2013 No.19 1Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo 第 19 号東 京 大 学 大 学 院 経 済 学

8

Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo

Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo

Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo

したコミュネレジットに相当するスウェーデン

の組織で、地方自治体が出資をして地方債を共

同発行するために作られている組織です。現

在は、スウェーデン最大の地方債の保有主体

となっています。二つ目はSALARという、ス

ウェーデンのいわゆる地方自治体協会に当たる

組織です。三つ目は首都ストックホルム市です。

この三つの機関にそれぞれインタビューさせて

いただきました(報告資料P2)。

 スウェーデンは北欧最大の国ということで知

られています。先ほど江夏様からご紹介があり

ましたデンマークと比較しますと、経済規模・

人口規模で大体2倍ほどの規模感でイメージし

ていただければよいかと思います(報告資料

p3)。

個人的に今回のインタビュー調査において一

番関心があったのは二つ目の調査目的、つまり

グローバル金融危機の影響がスウェーデンの地

方債市場にあったのかどうかということです。

4ページの左側はスウェーデンの地方債市場の

保有者構造の推移を金融危機前後で見たもので

す。ご覧いただきますと、民間の商業銀行が市

場シェアを落としたのに対して、地方自治体の

共同発行機関であるコミュンインベストが市場

シェアを上げていることが見て取れます。この

図の一つの理解としては、今回の金融危機がス

ウェーデンの金融機関に非常に大きな影響を与

えて、地方債市場から撤退せざるをえなかった。

しかし、そうはいっても地方自治体は借入が必

要だということで、そのバックアップとして公

的機関であるコミュンインベストが支えたのだ

という一つの解釈が成り立ちえます。そういっ

た理解に立つと、スウェーデンの地方債市場は

今回の金融危機から非常に影響を受けたという

理解も成り立ちうるわけです。一方で同じペー

ジの右側、これはスウェーデンの市町村に当た

る自治体のコミューンの財政状況の推移ですが、

歳入の内訳を示した棒グラフは非常にきれいな

増加基調をたどっており、年を隠すとどこが金

融危機なのか分からないほどです。折れ線グラ

フは財政収支ですが、年の変動はありますが金

融危機後に下がったというわけでは必ずしもな

く、また金融危機前後で一貫して黒字を維持し

ています(報告資料p4)。

こういったことを見てくると、スウェーデン

の地方自治体に金融危機の影響はあったのかと

いうことが疑問として生じます。こういうこと

をどう理解すればいいのかということをインタ

ビューを通じて知りたいと考えていました。結

論を申しますと、私の印象からすると、今回の

金融危機はスウェーデンの地方債市場にはほと

んど影響はなかったと考えてよいのではないか

と思っています。それがなぜなのかという観点

から、以下ご報告させていただきます。

グローバル金融危機とスウェーデン グローバル金融危機がスウェーデンの地方債

市場に与えた影響を考える前に、まずは今回の

金融危機がスウェーデンの経済全体・金融市場

全体にどのような影響を与えたのかということ

を確認していきます。

2007年のサブプライム・ローン問題から始

まった今回の一連の危機は、大きく三つの段階

に分けることができると思います。一つ目は、

流動性危機と呼ばれる状況です。リーマン・

ショックが発生し、金融市場でパニックが起き

てしまった結果、金融機関や投資家が一斉に金

融市場から資金を引き揚げてしまい、それに

よって金融機関、投資家の運用に悪影響を与え

投売りを余儀なくされ、またそれが混乱をさら

に深めるということが起こった段階です。この

第1段階に関しては、スウェーデンも少なから

ず影響を受けたと言ってよいと思います。6ペー

ジの左側が銀行間金利の対政策金利スプレッド

の推移を見たものですが、2007年前半まではほ

ぼ0bpで推移していたものが、サブプライム・

ローン問題が懸念され始めると開き始め、それ

が一気に引き上がったのがリーマン・ショック

の時期だったということがご確認いただけると

思います。スウェーデンの金融市場では、国内

系のユニバーサル・バンクが圧倒的なシェアを

占めており、銀行が中心の金融市場です。ス

ウェーデンの大手金融機関は2000年代に入り、

融資主体として国外への進出や、資金調達先と

してもスウェーデン国外から資金を調達する割

合を増やしていました。それがこの右側の図で

Page 9: 第17回フォーラム - 東京大学July.2013 No.19 1Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo 第 19 号東 京 大 学 大 学 院 経 済 学

Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo

July.2013 No.19 9

Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo

Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo

示しているものです。国内系の金融機関が、こ

のようなかたちで国外との金融取引を積極化さ

せていたことが、流動性危機の段階を免れえな

かった主要因の一つとして挙げられるのではな

いかと思います(報告資料p6)。

 一連の金融危機で、第1段階が流動性危機と

すれば、第2段階が銀行危機と言える状況かと

思います。つまり、市場がパニックに陥った混

乱がある程度落ち着くと、次第に住宅ローン市

場のバブルが崩壊してしまったことを受けて、

金融機関が持っている住宅ローン債権が不良化

してしまう、あるいは保有していた証券化商品

が格下げされデフォルトしたりして、証券化商

品の評価損・実現損で損失を抱えてしまう、こ

れによって、金融機関の財務状態の悪化が表面

化し、対応に追われる段階です。あるいは、実

体経済が悪化してしまった結果、事業会社など

への融資が貸倒れになってしまい、金融機関、

投資家が不良債権を抱えてしまう。それによっ

て自己資本が棄損し不足してしまう状況に陥っ

た段階です。これを私は銀行危機と呼びたいと

思いますが、この第2段階の銀行危機について

は、スウェーデンは大きな影響を受けなかった

と基本的に考えてよいと思います。

 7ページの左側は、スウェーデンの金融機関、

銀行の貸倒れ損失の推移をみたものです。ご案

内の通り90年代初めに北欧金融危機があり、ス

ウェーデンにおいても住宅バブルが崩壊した結

果、不良債権を大量に抱え込んだ金融機関が倒

産していく状況が起きました。そういった時期

と比較すると、確かに今回の金融危機を受けて

貸倒れ損失は膨らんでいるわけですが、90年代

に比べて事業規模そのものは非常に大きくなっ

ているにも関わらず貸倒れ損失は圧倒的に少な

い水準だったということがご確認いただけるか

と思います(報告資料p7)。

 なぜなのかというと、スウェーデン国内の実

体経済が急速に悪化したもののそれが一時的に

とどまったということが一つの重要な要因かと

思います。8ページの左の図は実質GDP成長

率の推移ですが、2008年にマイナスに陥り2009年にはマイナス5%と急激に悪化したというこ

とがご確認いただけるかと思いますが、この急

速な落ち込みはあくまでも輸出の急激な落ち込

みに起因するものであって、スウェーデン国内

の家計の消費や投資という国内の要因に関して

は安定していた状況にありました。国内基盤が

しっかりしていたからこそ、翌2010年には急激

な回復を遂げているわけです。実体経済で深刻

な状況が長続きしなかったため、スウェーデン

の金融機関が抱えているローン債権の多くが貸

倒れてしまうことが避けられたと思います。実

際、先ほどご覧いただいた7ページで、今回の

金融危機のところで少し膨らんでいる貸倒れ損

失についても、これはスウェーデン国内での貸

倒れということではなく、スウェーデンの金融

機関が2000年代から積極的に進出していた東

ヨーロッパの新興諸国での貸倒れが出てきたと

いうのが主因で、必ずしも国内の要因ではあり

ませんでした(報告資料p8)。

 その結果、不良債権が多額に発生する事態を

免れたため、スウェーデンの金融機関は現時点

でも健全性を維持しています。9ページの左側

は、欧州の大手金融機関の自己資本比率のラン

キングです。青色で示しているのがスウェーデ

ン国内大手4行ですが、総じて上位に位置して

いるということは明らかです。トップのUBSは

スイスの金融機関ですが、これは公的資金の注

入を受けたからこれだけの水準になっており、

そういう意味ではスウェーデンの金融機関は、

自力でこれだけ高い水準を達成し、上位を占め

ています。ですから一連のグローバル金融危機

の第2段階では、スウェーデンは全体としては

少なくともそれほど深刻な状況にはならなかっ

たと捉えてよいのではないかと思います(報告

資料p9)。

 流動性危機、銀行危機と続いて第3段階は、

ソブリン危機です。2010年のギリシャ問題に端

を発して、特に欧州の先進諸国の財政問題が懸

念される事態が発生しました。その結果、国債

の金利が跳ね上がり、政府が債務の返済や新た

な資金調達に苦しんだことは皆さまもご記憶が

新しいかと思います。この段階についても、ス

ウェーデンはほとんど深刻な状況には至らな

かったと言ってよいのだろうと思います。金融

機関がそれほど深刻な状況に陥りませんでした

Page 10: 第17回フォーラム - 東京大学July.2013 No.19 1Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo 第 19 号東 京 大 学 大 学 院 経 済 学

10

Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo

Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo

Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo

ので公的資金を大量に注入する必要はありませ

んでした。また、実体経済も一時的に悪化しま

したが長続きすることはなかったため、景気対

策・財政出動の必要もそれほどありませんでし

た。スウェーデンの政府としても税収の落込み

や歳出の急激な膨らみということもそれほど起

きなかったので、政府の債務残高の対GDP比の

推移を見ても、一貫した減少傾向が基本的には

続いているということが見て取れるわけです。

以上で、非常にざっくりしたかたちで、スウェー

デン経済・金融市場全体にグローバル金融危機

の影響があったのかどうかということについて

見てまいりました(報告資料p10)。

 地方債市場への影響 次に、今回のテーマである地方債市場に関し

て見ていきたいと思います。12ページですが、

これは欧州地方自治体協会が欧州各国の地方自

治体協会にアンケート調査を行った結果を、ス

ウェーデンの地方自治体協会の回答部分につい

て抜粋したものです。左側はリーマン・ショッ

ク直後の時期と言える2009年3月に実施したも

ので、右側はそれから半年後、2009年8月に行

われたものです。後者は、流動性危機の一時の

パニックが大方収まって、銀行危機という段階

が懸念されていた時期と言ってよいかと思いま

す。

左側の回答をみると、やはり流動性危機の段

階においては、スウェーデンの地方債市場にお

いても深刻な影響があったということが読み取

れます。左側の上にあるように、「2008年秋の

リーマン・ショック後、コミューンの中には金

融機関からの融資を断られ投資事業を一時的に

中断せざるを得ないところもあり、債券形式で

の地方債の発行が不可能になってしまった」と

いうことを答えていらっしゃいます。ただ、そ

れから半年経つと答えが大きく変わり、「一連の

金融危機の影響は改善に向かっていますか?」

という問いには「改善に向かってます」と、「翌

年2010年は大丈夫ですか?」という問いには「大

丈夫です」と答えていらっしゃるわけです。こ

れは、先ほど見てきたことと概ね一致するかと

思います。つまり、確かに流動性危機の段階は

スウェーデン全体として影響があり、それは地

方債市場も免れなかったわけですが、銀行危機

の段階、さらにはソブリン危機の段階に関して

はスウェーデン全体が影響を受けていない。そ

の中で、地方債市場においても概ね影響がな

かったということを表わしている、という理解

でよいかと思います。実際、今回のインタビュー

調査でも、「2008年以降の金融危機の影響はあり

ましたか?」という質問をそれぞれの訪問先に

しましたが、私の印象としてはほとんどなかっ

た、という感じでした。確かにリーマン・ショッ

クから5年近く、ギリシャ問題からも3年ほど

と相当に時間は経っていると言えるわけですが、

その点を割引いても、金融危機の影響はそれほ

どなかったという先方のお答えは、素直に受け

取っていいのではないかと理解しています(報

告資料p12)。

 では、そのような理解に立つと、冒頭申し上

げた金融危機前後におけるスウェーデンの地方

債市場の保有者構造の変化をどう考えればいい

のかということが改めて問題になってきます。

つまり、スウェーデンの金融機関はほとんど金

融危機の影響を受けていないにも関わらず市場

シェアを落とし、その一方でコミュンインベス

トは上がっています。これが金融危機の影響で

ないとするならばどう理解すればいいのかとい

うことを次に考える必要があります。そういっ

たことを考えるために、コミュンインベストの

組織について少し丁寧にみていきたいと思いま

す。

民間金融機関と対等な条件で競争するコミュンインベスト

13ページ左側は、コミュンインベストの組織

図を示したものです。コミュンインベストは債

券を発行して国内外の金融市場から資金を調達

します。調達したお金をスウェーデン国内の地

方自治体、および地方自治体が債務保証を提供

している地方公営企業に融資するという役割を

担っています。

ただし、スウェーデンの地方自治体であれば

コミュンインベストからお金を借りられるのか

というと、決してそういうわけではありません。

各団体は、コミュンインベストからお金を借り

Page 11: 第17回フォーラム - 東京大学July.2013 No.19 1Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo 第 19 号東 京 大 学 大 学 院 経 済 学

Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo

July.2013 No.19 11

Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo

Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo

ようとする際、コミュンインベストのグループ

の加盟団体になることが求められます。加盟団

体は大きく二つの責任を引き受けることになり、

一つはコミュンインベストに親会社を通じて出

資をすること。もう一つはコミュンインベスト

の債務の連帯保証の責任を引き受けること。こ

の二つのコスト負担を引き受けるのであれば、

このグループの加盟団体となりコミュンインベ

ストからお金を借りる権利を得ることができま

す。この判断は各団体が自由に自律的に行うこ

とができます。これに関して明示的・暗黙的な

強制はないため、各団体はコミュンインベスト

からお金を借りることが得か損かという経済合

理的観点から判断して、コミュンインベストへ

の出資・連帯保証の責任を引き受けるかどうか

を判断しています(報告資料p13)。

ですから、地方自治体の共同出資機関と言っ

ても、地方自治体との関係は、非常にドライな

関係と特徴づけられるかと思います。言い換え

れば、コミュンインベストは民間の金融機関と

ほとんど変わりない組織だと言ってよいだろう

と思います。国との関係ということで申し上げ

れば、国から出資や債務保証、補助金の拠出を

受けているわけではありませんし、民間金融機

関と同じ規制のもとに置かれています。監督官

庁も総務省などではなく金融監督庁ですし、法

人税も支払っています。よって、中央政府から

特別待遇を受けているというわけではないと

言っていいと思います。地方自治体との関係に

ついても先ほど申し上げましたとおり、地方自

治体はそれぞれ、自分にとって「借りたいな」「得

だな」と思えば加盟団体になって出資・連帯保

証の責任を引き受けるし、「借りても意味がない」

と思えば出資をしないという判断をしているわ

けです。

 今回のインタビュー先の一つでありましたス

トックホルム市は依然として加盟しておらず、

コミュンインベストとは経済的な関係が何もあ

りません。なぜかと言いますと、コミュンイン

ベストからお金を借りても意味がないからとい

うことで、そんなことをしなくても自分たち単

独で地方債を発行して十分に魅力的な条件を引

き付けることができるからだということをおっ

しゃっていました。そして今のところ、今後

も基本的に入るつもりはないとのことでした。

もっとも、共同発行の仕組みの場合にはモラル・

ハザードの問題があり、大規模団体は入りたが

らず中小の団体が入りたくなるということも言

われるわけですが、第2の団体であるヨーテボ

リ市は加盟団体になっていることなどからも、

大規模団体だから加盟することは全くないとい

うことでも決してありません。いずれにせよ申

し上げたいことは、国や地方自治体との関係で

見てもコミュンインベストは特別な優遇を受け

ているわけではなく、民間の金融機関と同等の

競争条件にあり、その中で頑張っている機関な

のだという点がポイントだということです。

 このことを違う角度からみれば、地方自治体

との関係が、評価し評価される関係だと言える

と思います。今申し上げたことをコミュンイン

ベストの立場からすると、自分は決して国から

支援を受けているわけでもないし自治体からも

優遇措置を受けているわけでもない。だから地

方債市場において民間の金融機関と同じ競争条

件で地方自治体からの評価を獲得しなくてはい

けない。毎回の地方債の発行においては入札が

行われ、民間の金融機関と同じように参加しな

ければいけない。その中で選ばれればコミュン

インベストはお金を貸すことができるし、選ば

れなければ民間の金融機関が選ばれてしまう、

ということになってしまうわけです。コミュン

インベストとしては、当然事業規模を拡大し市

場シェアを獲得することによって自分たちの立

場を確立し拡大していきたいということを念頭

に置いています。ですから地方自治体から評価

されると必死になって頑張っているという意味

では、地方自治体から評価される立場なわけで

す。

 一方で、地方自治体を評価する立場でもあり

ます。市場原理に則ったマーケット・ドミナン

トな運営を行っているということを、コミュン

インベストの方は繰り返しインタビュー調査で

おっしゃっていました。どういうことかという

と、自分たちは民間の金融機関と全く同じく市

場原理に則って運営しているのだということで

す。つまり、ある団体が財政状態の悪化に苦し

Page 12: 第17回フォーラム - 東京大学July.2013 No.19 1Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo 第 19 号東 京 大 学 大 学 院 経 済 学

12

Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo

Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo

Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo

んでいるからといって、通常よりも低い金利で

融資をしたり通常よりも多額の資金を貸付ける

ようなサポートをする組織では全くないのだと

いうことです。ですから、地方債市場の最後の

貸手というわけでは決してなく、コミュンイン

ベスト単独として各地方自治体の財政状態をき

ちんとチェックし、貸倒れのリスクはないとい

うことをきちんと確認してから融資を行ってい

ます。そういう意味で自治体とは、評価し評価

されるというとてもドライな関係にあると言っ

てよいのだろうと思います(報告資料p14)。

 このようなことを踏まえて、先ほどの市場

シェアの推移を改めて見ますと、実は金融危機

以前からコミュンインベストは一貫して市場

シェアを伸ばしているということが重要なのだ

と思います。コミュンインベストが現在のよう

な形態で運営されたのは1993年以降で、15ペー

ジの図は95年から地方債市場の状況を見たもの

ですが、金融危機に関係なく一貫して市場シェ

アを伸ばしているということがご確認いただけ

るかと思います。確かに、市場シェアが大きく

上がった時期がありますが、これは金融危機後

ではなく直前の2000年代前半であり、金融危

機だから市場シェアが急激に伸びたというわけ

ではありません。また、国内銀行の市場シェア

の低下も決して金融危機の後に起きたわけでは

なく、90年代末から一貫した傾向になっている

わけです。これは、コミュンインベストが金融

危機に関係なく一貫して地方自治体から高い評

価を得続けているということを示している、と

理解できるのではないかと思います(報告資料

p15)。

コミュンインベストの強み では、なぜそれだけコミュンインベストは地

方債市場において強いのかを改めて考える必要

があるだろうと思います。次に、コミュンイン

ベストの基本的な特徴として私が特に重要だと

考えていることを三つご説明します。

 一つ目は、国外の資本市場から資金を調達し

やすい仕組みになっているということです。銀

行は預金を通じた資金調達が中心になるわけで

すが、これだと地理的に遠いところからの資金

調達はなかなか難しくコストが高くつきます。

それに対してコミュンインベストはノンバンク

ですので、社債を発行して資金調達します。債

券の発行は、少なくとも預金に比べれば国外か

らの資金調達に関しては強みを持っていると考

えられます。実際コミュンインベストの資金調

達先を見ても、確かに国内の資金調達も増加し

つつありますが、大陸欧州やアメリカ、オース

トラリア、そして何よりも日本からの資金調達

を積極的に行っています。こういうかたちで資

金調達を行っているため、調達先に関して一番

有利な条件のところを選ぶことがより容易にで

きる点に強みを持っているというのが一つの大

きな強みとして挙げられると思います。

 より重要なのは二つ目と三つ目です。二つ目

は、コミュンインベストが事業の効率化を思う

存分進めることができる仕組みだということで

す。一般的に金融機関が事業を効率化させる場

合の一つの重要な方法は、事業規模の拡大で

す。規模・範囲の経済性を追求する。あるいは

融資先や資金調達先を分散化させ、リスク分散

を追求する。これは、事業規模を拡大すること

によってより効果を高めることができるわけで

す。しかし、いわゆる政府系金融機関というこ

とになれば、事業規模を拡大する際に起きてく

るのが民業圧迫という批判です。優遇措置を受

けている機関が事業規模を拡大すれば金融市場

にゆがみが生じるのでよろしくないということ

です。しかしながら、スウェーデンにおいてコ

ミュンインベストは先ほども見たように、4割

という非常に大きな市場シェアを占め、銀行を

駆逐していますが、それに対して民業圧迫とい

う批判を私が知る限りは聞いたことがありませ

ん。それは、確かに自治体が出資をしていると

いう意味ではコミュンインベストは政府系金融

機関ではありますが、何度も申し上げました通

り、国からも自治体からも特別な優遇措置を受

けているわけではありません。ですから民間の

金融機関と基本的には同じなわけです。とする

と、この市場シェアの増加は健全な競争の結果、

地方自治体からコミュンインベストが選ばれた

と理解でき、別に「ずるい」という話ではない

ので事業規模を制約するという話にはならない

Page 13: 第17回フォーラム - 東京大学July.2013 No.19 1Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo 第 19 号東 京 大 学 大 学 院 経 済 学

Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo

July.2013 No.19 13

Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo

Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo

のです。そうすると、地方自治体からの評価を

得た上で事業規模を拡大し効率化を実現し、そ

れがさらに自治体からの評価を高め、さらに市

場シェアを高めることができる。そういう好循

環を彼らは追求し、少なくとも今のところそれ

が成功しているというのが、二つ目のポイント

ではなかろうかと思います。

 三つ目のポイントは、地方自治体のための金

融サービスの提供が使命づけられた機関だとい

うことです。当然民間の金融機関もお客さまの

ためと言うわけですが、一方で、融資先である

顧客と金融機関の株主の利害のバランスをどの

ように取るかということが民間の金融機関の場

合には重要になります。これに対しコミュンイ

ンベストの場合には、お客さまである融資先と

して地方自治体がいます。そして、その地方自

治体からの利払いなどの手数料収入を得て、そ

こからの利益を配当として株主に還元していま

す。ここまでは民間の金融機関と同じですが、

コミュンインベストの実質的な株主は同時にお

客様・顧客である地方自治体なわけです。その

ため、お客さまである地方自治体から、短期的

な視点で手数料を多く取り、出資者への配当を

より増やして株価を高めるという動機付けが働

かない仕組みになっています。コミュンインベ

ストとしては、相互会社という組織形態になっ

ている以上、地方自治体の利益に反するような

行動を取りにくい仕組みになっているわけです。

これは言い換えれば、地方自治体のために金融

サービスを提供するということが使命づけられ

た制度設計になっているということで、地方自

治体からすると安心してコミュンインベストの

言うことを信用できるのです。これがさらにコ

ミュンインベストの評価を高めることにつな

がっているのではないかと考えられるわけです。

コミュンインベストは経営課題も抱えています

が、少なくとも市場シェアの一貫した増加がな

ぜ起きているのかといった時には、以上の三つ

が重要なポイントなのではないかと私自身は考

えています(報告資料p16)。

最後に、本日のタイトルは「『北欧モデル』か

ら考える」となっていますが、このコミュンイ

ンベストの仕組みは北欧モデルかどうかという

ことです。確かにスウェーデンの仕組みとして

Page 14: 第17回フォーラム - 東京大学July.2013 No.19 1Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo 第 19 号東 京 大 学 大 学 院 経 済 学

14

Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo

Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo

Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo

は極めて重要な仕組み、特徴を有した機関だと

認識しております。ただ、先ほど江夏様からご

報告がありましたデンマークと比べても、特

に地方債制度に関しては相当に違いがありま

す。また、ノルウェーのKBN、フィンランドの

Muni Finという組織があり、別の機会にインタ

ビューをさせて頂きましたが、これらはコミュ

ンインベストとは相当に違うという印象を受け

ました。実際の制度設計も、自治体の100%出資

なのか、国が作っている機関なのか、その混合

形態なのか、この点だけを見ても全然違います。

ですので、本日お話しさせていただきましたコ

ミュンインベストという組織は、あくまでもス

ウェーデンの特徴なのだということでご理解い

ただければと考えている次第です。私からは以

上です(報告資料p17)。

討論

地方公共団体金融機構地方支援部長兼総括主任研究員

緒方 俊則

今回、フォーラム運営委員の1人としてス

ウェーデン、デンマークの調査に参加をさせて

いただきました。調査対象機関、調査事項につ

きましては討論資料に書いているとおりです。

私は地方公共団体金融機構に勤務をしているこ

ともあり、とりわけスウェーデンのコミュンイ

ンベスト、そしてデンマーク地方金融公庫につ

きましては、以前からよく名前を聞いておりま

した。今回実際に現地に行き、関係機関の幹部

の方々と交流し、お話を直接お伺いする大変貴

重な機会となりました。

 この二つの機関については既にご紹介があっ

たとおりですが、コミュンインベストは1986年に設立されました。エレブロという一つの地

域の10の自治体が集まり設立し、周辺の自治体

からも加入要請があり拡大していきました。現

在は全自治体の約9割が利用するまでに拡大

し、地方債市場のシェアは約40%という状況で

す。一方、デンマーク地方金融公庫は100年以上

の歴史を持つ機関で、現在では全自治体が利用

し、地方債市場においても90%を超える圧倒的

なシェアを持っています。

 これらの機関は、融資業務のほかに対自治体

向けのサービスとして財務アドバイザリー業務

も展開しています。一昨年、私ども機構では、

本日の報告者であります三宅様のご協力をいた

だき、北欧4カ国における地方自治体向け財務

アドバイザリー業務の調査を実施しました。こ

れまでの報告の中にもありましたが、北欧4カ

国には自治体向けの資金を融資する機関があり

ます。形態は違いますが、いずれの機関でも融

資業務と併せて自治体の財務アドバイザリー業

務を展開しています。共通した背景には、1990年代頃から金融商品や資金管理手法の多様化・

複雑化が進み、それぞれの国の自治体において

専門的で自治体の立場も理解したアドバイスへ

のニーズが高まってきたということがあります。

 具体的な業務内容は4機関とも類似性はあり

ますが、ここでは今回の調査対象であった コ

ミュンインベストとデンマーク地方金融公庫を

挙げます。共通した業務内容として一つ目は、

地方自治体の借入分野に対する中立的な個別ア

ドバイス、二つ目は借入分析などをすることが

できる便利なウェブサイトツールの提供、三つ

目はニューズレターを通じた経済金融情報の提

供です。こういった業務の他に、コミュンイン

ベストについては自治体職員向けの出前講座や

調査研究の実施も一部見られ、サービスは無償

で提供しています。このようなサービスは、新

しい融資先を開拓していく観点で呼び水的な効

果を狙って行われています。また、このような

アドバイスを実施することにより、自治体の健

Page 15: 第17回フォーラム - 東京大学July.2013 No.19 1Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo 第 19 号東 京 大 学 大 学 院 経 済 学

Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo

July.2013 No.19 15

Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo

Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo

全な財務状況の維持につながり、ひいてはコ

ミュンインベスト自体の事業リスクの管理にも

なるという狙いもあるということです。

デンマーク地方金融公庫については、上記三

つのサービスは無償で提供しているのですが、

この他に有償サービスとして、自治体への定期

的なアドバイスや重要情報の提供を行っていま

す。この有償サービスは市町村の約3割が利用

しています。

このような業務を通じた特徴を三つまとめま

した。一つ目は、地方自治体の立場に立った中

立的なアドバイスを実施し、融資業務とは独立

しているという特徴です。二つ目ですが、地方

自治体の業務内容と経済金融市場情勢の双方に

通じた専門家を組織の中に抱え、このような専

門家がアドバイスを提供しています。三つ目と

して、自ら提供できるサービス範囲を超える部

分については外部専門家と連携し、地方自治体

を包括的に支援しています。当機構におきまし

ても自治体向けの財務アドバイザリー業務(こ

れは地方支援業務と呼んでおります)に取り組

み始めて現在4年目を迎え、北欧諸国機関の取

組につきましては引き続き情報収集、情報交換

を進め参考にしていきたいと考えています。

 最後に、発表者へご質問をさせていただきた

いと思います。今回の調査で訪問しましたス

トックホルム市とコペンハーゲン市は、いずれ

も強い経済力と高い信用力を持った自治体です

が、この2都市のインタビューは対象的でした。

デンマークのコペンハーゲン市でデンマーク地

方金融公庫に対する評価を聞きますと、低利で

資金調達ができ非常に役に立つ組織だというお

話でしたが、ストックホルム市にコミュンイン

ベストの話を聞きますと、利用しておらず当面

利用する予定もないというお話でした。

 このような状況をもとに三宅様へお尋ねしま

す。コミュンインベスト自体は規模の拡大を大

きな目標にしているというお話がありました。

そうであるとすればゆくゆくはストックホルム

市の加盟も視野に入れて取組を進めていくので

はないかと思いますが、そのためにはストック

ホルム市のような資金調達力が高い自治体でも

加盟したくなるような条件の提供が必要ではな

いかと思います。こういう観点で、今後の見通

しについて情報やご知見をお持ちであればご教

示願えればと思います。

 また、江夏様へお尋ねします。デンマーク地

方金融公庫は、コミュンインベストと比べ圧倒

的に自治体からの利用があるという状況がござ

います。民間金融機関との住み分けがあるので

はないかという話がありましたが、コペンハー

ゲン市につきましては信用力も非常に高いとい

うことですので、住み分けがあるにせよ、やは

りデンマーク地方金融公庫は対自治体向けに条

件のいい融資を提供できているのではないかと

も思われます。もしそうだとすれば、コミュン

インベストとの対比で、デンマーク地方金融公

庫には一定の強みがあるということになると思

いますが、こういった観点で何かお気づきにな

る点があれば、教えていただきたいと思います。

関西学院大学大学院経済学研究科・人間福祉学部教授

小西 砂千夫

今日のお二方のご報告を、側面から補強する

という観点でお話しさせていただきます。実は

偶然、別件で4月にブリュッセルの状況を調査

する機会があり、そこでフランスに少し足を伸

ばしてバンク・ポスタールとCDCという、地方

債の引受けをしている機関で調査をする機会を

作り、今日のこととの関係について調査をして

まいりました。そのことをご報告いたしまして、

側面から今日のお二人のご報告を補強するとい

Page 16: 第17回フォーラム - 東京大学July.2013 No.19 1Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo 第 19 号東 京 大 学 大 学 院 経 済 学

16

Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo

Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo

Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo

う役割とさせていただきたいと思います。

 まず、デンマークとスウェーデンのご報告の

中で一番大事なところをもう一度復習しておこ

うと思います。共同調達機関ということは間違

いないのですが、デンマークとスウェーデンは

形態が全然違うんです。2国以外にも、いわゆ

るノルディックカントリーというのは他にもあ

りますが違うところへ行けば全然違うんです。

制度は歴史的に形成されているところがあるの

で全然違うというところはとても面白い。一方

で、ヨーロッパ債務危機が地方債市場に与える

影響を相当回避できているのは、共同調達機関

があったということが要因の一つとして非常に

有効であり、民間の銀行だけに調達が偏ってい

れば、当然影響はあったということになるわけ

ですから、危機管理の仕組みとして共同調達機

関というのは機能すると思ったところでありま

す。

 それから、デンマークとスウェーデンそれぞ

れで聞き取りをする中で、共同調達機関から見

て自治体が安全な貸付先かどうかという議論に

おいて、建設公債主義というのが出てくるわけ

です。これが非常に重要だと思うのですが、私

がニューヨークでそのことをお話しした時に

は、バックドアの借入があるからそんなのは駄

目だと言われました。そうすると、同じ建設公

債主義でもバックドアボローイングがあるかど

うかというのは非常に大きいわけですが、それ

は基本的にないというご説明をデンマーク、ス

ウェーデンでは伺っていて、これも非常に大き

いところではないかと思うわけです。

それと非常に重要なのですが、そもそもそん

なに借りているわけではないというところで、

マーケットとして巨大市場ではないんです。建

設公債主義ですから要は日本で言う投資的経費

です。投資的経費に対して借りているわけです

が、これがどんどん出ているという感じでもな

い。そうすると、地方債マーケットというのは

非常にユニークな存在で手堅いビジネスモデル

なわけです。規模はそんなに大きくなくて手堅

く儲けていただくにはいいマーケットですけど、

これから大きく伸びていくというマーケット

ではないという感じを受けています。そういう

雰囲気の中で共同調達機関というのがうまくは

まっているという印象ではないかと思うわけで

す。

 一方、フランスですが、2カ所で聞いた際に、

デクシアが4割ほど地方の資金調達を担ってい

たということを言っていました。もちろんその

デクシアは破たんしてしまって、加えて、外国

の金融機関がどんどん撤退してフランス国内の

銀行もすごく減ったということですので、資金

の出し手がデクシアがいなくなるにもかかわら

ず、代わりの金融機関がいないので、これはも

う明らかにフランスはかなり影響を受けたんで

す。

 そのデクシアなき後、どう対応するかとい

うことで、今はバンク・ポスタルとCDCです。

CDCのほうが老舗でバンク・ポスタルはつい最

近始めました。民間の金融機関の場合は、短期

で調達し長期で貸付するとすれば、市場が不安

定になるとスワップが難しくなるので、そこが

非常に大きいわけですが、そこでCDCがようや

くその肩代わりをして、地方公営企業への融資

を拡大する方向らしいのです。それと、デクシ

アに代わる新たな公的金融機関というのを作っ

てそこが資金調達をするそうですから、フラン

スは共同発行機関ではなく、財政投融資の代わ

りのようなものを急ごしらえで作るように対応

したということであります。

 CDCというのは、そもそも預金の一部を強制

的に供託するような仕組みになっているので、

財政投融資に匹敵するようなものだと考えれば

いいと思います。そこでの聞き取りの中で、フ

ランスの自治体は破綻しないことが前提だとい

うことを聞いてきまして、やっぱり建設公債主

義というのが出てくるんです。そこでバックド

アボローイングはどうなのかと聞きましたら、

「フランスではルールはあるけれども、フランス

のルールには必ず例外があるんです」と言われ

るわけです。「でもこの件に関しては、私は一度

も聞いたことがない」と、しゃれた言われ方を

されました。建設公債主義を厳格に守っている

ということで、破綻しない実感があるという答

えが返ってきたので、やっぱり同じだなという

ふうに思いました。

Page 17: 第17回フォーラム - 東京大学July.2013 No.19 1Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo 第 19 号東 京 大 学 大 学 院 経 済 学

Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo

July.2013 No.19 17

Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo

Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo

 人件費の考え方が日本と異なるということも

あります。フランスでは、自治体の支払いの中

で、1に人件費、2に公債費は絶対削れないと

言われました。「フランスでは人件費のほうが先

に来るのか」とわざわざ聞いたんですけど、「そ

うだ」と言われました。建設公債主義である以

上、公債費が優先的でそこが滞るということは

ないというわけです。

それから財政状況は、事前に財政悪化を防止

しようという国に関する仕組みがあります。共

同発行はどうなのかというと、自治体間で連帯

感が十分ないからそもそも共同発行は馴染まな

いというんです。連帯保証も難しい。それで、

いわゆる共同調達機関も、文化的・政治的にそ

もそも共同発行がまとまるような風土がないと

言われるわけです。

 ですから今日は、ノルディックモデルは多様

で、これはノルディックモデルと言えるのかど

うかとおっしゃったんですけど、フランスまで

行って「やっぱり言えるんじゃないかな」と思っ

たのは、信頼感です。デンマークで「もともと

やっぱり農業国なので連帯するんです」という

お話がありました。

日本では発行ロットが大きいので、市場公募

債、財投、銀行貸付、共同発行債、もちろん機

構もあり、何種類も全部あるわけですね。発行

ロットが小さければ、どこかで収まるというこ

とではないかと思います。共同発行機関は、基

本的には市場ルールに基づいているというのは、

日本でも同じことではないかというふうに思い

ます。こういうふうに考えてみると、フランス

も日本も含めて、背景の違いにそれぞれ制度の

違いが微妙に対応しているということではない

のかというふうに印象を持ったということであ

ります。以上です。

報告者リプライ

○江夏 私のほうからは、緒方様からいただき

ましたデンマーク地方金融公庫の強みというと

ころで、若干補足をさせていただければと思い

ます。コペンハーゲン市に訪問させていただい

た際に印象的だったのが、コペンハーゲン市が

デンマーク地方金融公庫に対して感謝をしてい

るというようなスタンスだったことです。特に

債務負担のところで、開発公社の固定利付債務

を変動債務に借換えする際に協力してもらった

という点が大きいとみられます。デンマーク地

方金融公庫がそのようなきめ細かなサービスが

できたので、コペンハーゲン市という大きな地

方公共団体のコミットメントをきちんといただ

けたのだろうということです。

 実は、コペンハーゲン市はかつて格付けを取

得していたのですが、2009年に取り下げていた

ことがわかりました。コペンハーゲン市はかつ

て債券でも資金調達をしていたとのことですが、

デンマーク地方金融公庫から借りることが財政

運営上適しているので、格付けは取り下げて、

対デンマーク地方金融公庫で借入を実施すると

いうのがコペンハーゲン市の財政運営の中に根

付いたのだろうと察したとのことです。

 もう一つ印象的だった話ですが、デンマーク

地方金融公庫に「どうして95%ものシェアを取

ることができたのですか?」という点でお伺い

をしたところ、地方公共団体が民間金融機関と

もやり取りを行うことがあるとご教示いただき

ました。しかし、実際は条件が合わず、「デンマー

ク地方金融公庫のほうに行ってください」とい

うふうに言われるということがほとんどとのこ

とです。先ほど三宅様のご発表で、民業圧迫の

ようなお話は聞いたことがないとの御指摘があ

り、私もハッとしたのですが、確かにデンマー

クについて調べていても、そういうことは出て

こないわけです。ですから、理論的には競争相

手でもあるのですが、少なくともデンマークに

関してはもう住み分けができているということ

で、民間金融機関がデンマーク地方金融公庫を

競争相手としても見ていないということの裏返

しだろうと感じました。以上でございます。

○三宅 ストックホルム市とコミュンインベス

トの関係ということでご質問いただきましたが、

端的に言えば、コミュンインベストはストック

ホルム市に入ってほしい、逆にストックホルム

市はコミュンインベストに入る気はさらさらな

い、そういうふうな関係です。

Page 18: 第17回フォーラム - 東京大学July.2013 No.19 1Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo 第 19 号東 京 大 学 大 学 院 経 済 学

18

Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo

Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo

Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo

ストックホルム市はなぜなのかというと、少

なくとも現状では自分でなんとでもなるからだ

ということであります。ではコミュンインベス

トの立場から見た時にどうなのかというと、彼

らが発表する資料などでも、今後の事業計画、

事業目標という中で、すべての団体がゆくゆ

くは加盟団体、つまりコミュンインベストのグ

ループのメンバーになってほしいということを

目標として常に掲げています。それは言い換え

れば、ストックホルム市にも当然入って欲しい

ということです。理由は、彼らの事業規模が拡

大でき、それによってさらに効率化を進めるこ

とができ、地方債市場におけるプレゼンスが高

まるからだという考えがあるわけです。

 では、具体的にコミュンインベストはどうい

う取り組みをしているのかというと、それはな

かなか難しいというのが、お答えになろうかと

思います。共同発行という話になった時に、ど

うしても大規模団体はあまり参加したがらなく

て、中小の団体は積極的に参加したい、あるい

は、財政状態が健全なところは参加したがらな

いけれど、財政状態が厳しいところは参加した

がる、こういったモラル・ハザードが起こると

いうことが一般論として指摘されています。た

だ、少なくとも理論的に考えた時には必ずしも

そういうことが常に起こるというわけではない

ということも、併せて留意する必要があります。

 例えば一般の銀行をイメージしていただくと、

銀行というのは大企業にも融資をしていますし、

中小企業にも融資をしています。経営が絶好調

だというところにも融資していれば、そうでも

ないところにも融資をしている。しかし、これ

は見方を変えれば、様々な事業会社が銀行を通

じ、家計などから預金という形で共同の資金調

達を行っているわけです。それに対してモラル・

ハザードが起きるという事態、あるいはそうし

た批判は起こらないわけです。なぜこれが可能

になっているかというと、銀行が各融資先にお

金を貸す時の貸付条件に格差を設定することが

できるからです。その端的な例が金利の格差で、

それによって融資先のリスク管理を行うのです。

利用条件に格差を設定することによって、いろ

んな融資先に資金を貸し付け、それぞれの先に

とって魅力的な金融機関になろうということを、

金融機関は通常行っています。

 では、デンマーク地方金融公庫も含めてコ

ミュンインベストがそれをできるのかと言われ

ると、これが難しいわけです。実際には、融資

額についてはそれなりの格差を設定するとい

うことはやっておりますが、金利格差の設定に

ついては、コミュンインベストでは市場原理に

則った運営を心掛けていると強調しておられま

したが、やっぱりそれでも難しい。ですので、

基本的には格差を設定しないという方針を維持

せざるを得ないのです。

 つまり、コミュンインベストがいくら財政規

模も大きく財政状態がよいストックホルム市に

入ってほしいと言っても、民間金融機関であれ

ば低い金利を設定するということで柔軟に対応

できるわけですが、それがコミュンインベスト

には難しい。これが、ストックホルム市がコミュ

ンインベストのグループに加盟することの一番

の障害になっています。また、これを克服する

のは少なくとも政治的に大変難しい。これが、

コミュンインベストがストックホルム市に振ら

れ続けている、一番の要因としてあるんだろう

というふうに思います。以上でございます。

質疑応答

○質問者1 江夏様には、デンマーク地方金融

公庫と自治体との関係における、95%の圧倒的

なシェアの中でのドライな側面としての個別融

資相手先との関係について、三宅様には、ス

ウェーデンの地方財政制度の中でのコミュンイ

ンベストの存在はどういう位置づけなのかとい

う、2点をお聞きしたいと思います。

○江夏 デンマークの地方公共団体とデンマー

ク地方金融公庫がドライな関係かウェットな関

係かということで、今回の調査は、デンマーク

の地方公共団体についてはコペンハーゲン市と

いう代表的な地方公共団体のみでしたので、仮

に規模の異なる地方公共団体へ伺っていれば

違ったことを感じていたかもしれないと思って

おります。ただ、私どもの調査で感じたことと

Page 19: 第17回フォーラム - 東京大学July.2013 No.19 1Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo 第 19 号東 京 大 学 大 学 院 経 済 学

Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo

July.2013 No.19 19

Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo

Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo

いうのは、ドライ、ウェットというより別の関

係だろうというところです。私自身は、普段か

ら地方公共団体金融機構、地方公共団体とお仕

事上でかかわらせていただいておりますが、双

方がお互いについてお話をされるそのトーンと

比較的似ていると感じました。ですから、ドラ

イかウェットかというよりも、一番近いところ

というのは日本の関係とそれほど変わらないの

ではないかという印象を受けたということにな

ります。以上でございます。

○三宅 スウェーデンの地方財政の運営の中に

おけるコミュンインベストの位置付けというこ

とですが、国は地方自治体の地方債の発行を助

けてあげるためにコミュンインベストを創設・

運営しているわけではなく、何かの支援をして

あげているわけでもなく、それゆえ地方財政の

仕組みとはかなり距離を置いてコミュンインベ

ストは運営されていると、私自身は理解してお

ります。スウェーデンの地方債の発行の仕組み

を見ても、ほかの諸国と比べても、相当に起債

自主権が幅広く認められています。ですので、

地方債を発行する方法については国がバック

アップしているわけでもありませんし、法律や

ルールを作っているわけでも決してなく、地方

自治体が自由に好きなように発行することがで

きているわけであります。その中で自然発生的

に出てきた一つの工夫がコミュンインベストな

のです。ですので、例えばデンマークのように

地方自治体の予算編成と密接にリンクしていた

り、国と地方との協議の場が毎年設けられてい

るというようなことがスウェーデンにはないで

すし、当然そういう制度の中にコミュンインベ

ストが位置付けられているわけではありません。

ということで、冒頭に申し上げましたように地

方財政の運営とコミュンインベストというのは、

相当の距離感があり、それがスウェーデンの特

徴かなというふうに理解しております。以上で

ございます。

○質問者2 三宅様の資料15ページは非常に興

味深いグラフだと思いますが、この事情という

のは、いわゆるBIS規制が大きく効いてきている

ような側面はあるのかどうかということと、仮

にBIS規制が影響している場合、金融機関であ

れば貸出の期間を短くしないといけない一方で、

地方公共団体は建設公債主義が中心となりなが

らも日本では公共施設の耐用年数は償還年限30年ということになっていますので、この場合貸

し辛くなるということも言えますが、その一つ

の結果としてこの図にあるように民間金融機関

のほうが落ちてコミュンインベストのほうが伸

びているというようなことかと思います。貸出

状況に関して、日本ではJGBスプレッドなどが

ありますが、スウェーデンでも対国債スプレッ

ドの点で、長期、超長期あたりについてが描か

れているのかどうか、聞かせてください。

○三宅 スウェーデンの地方債市場における銀

行のシェアが低下している要因についてのご質

問ですが、もちろんBIS規制の影響がないと申

し上げるつもりはございませんが、銀行として

は基本的に自治体には融資をしたいというのが、

BIS規制導入後も一貫してあると言ってよいんだ

ろうと思います。スウェーデンに関しましては、

地方債の年限は短く5年以内の年限が中心に

なっております。もっとも、今回の金融危機を

受けてその年限は長期化が図られました。報告

の中でも、流動性危機が地方債市場にも大きな

影響を与えたと申し上げましたが、その流動性

危機によって短期資金の調達が難しくなり、大

変な状況に陥ってしまったということで年限を

長くしようという取り組みが、金融危機を経て

一つの教訓として行われました。

 ですので、民間の銀行にとっても、地方自治

体向けの融資が年限を理由にものすごく難しい

ということにはなりにくいと考えられます。銀

行は、地方自治体向け融資は、安全性という意

味できわめて有望な貸付先だと考えております

ので、BIS規制の導入に関係なく貸したいという

のがあります。でもコミュンインベストに負け

てしまうというのが、この図の理解として私が

現時点で理解しているところです。スプレッド

に関しましてはデータがございませんので、ご

容赦願えれば幸いです。以上でございます。

○質問者3 コミュンインベストやデンマーク

地方金融公庫の貸出シェアが伸び、貸付が差別

化されている要因としてはおそらく、金融機関

が金利変動リスクを取りたがらない変動金利貸

Page 20: 第17回フォーラム - 東京大学July.2013 No.19 1Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo 第 19 号東 京 大 学 大 学 院 経 済 学

20

Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo

東 京 大 学 大 学 院 経 済 学 研 究 科 ・ 経 済 学 部

113-0033 7-3-1 7 709

tel 03-5841-5598 fax 03-5841-5521http://www.e.u-tokyo.ac.jp/kifu/jfm.html

2013 7

寄付講座の組織・機構

◆ 東京大学大学院経済学研究科寄付講座運営委員会  井堀 利宏  (東京大学大学院経済学研究科教授)  馬場  哲  (東京大学大学院経済学研究科教授)  林  正義  (東京大学大学院経済学研究科准教授)  持田 信樹  (東京大学大学院経済学研究科教授)

◆ 地方公共団体金融機構寄付講座フォーラム運営委員会  稲生 信男  (東洋大学国際地域学部教授)  江夏 あかね  (株式会社野村資本市場研究所研究部主任研究員)  緒方 俊則  (地方公共団体金融機構地方支援部長・総括主任研究員)  小西 砂千夫  (関西学院大学大学院経済学研究科・人間福祉学部教授)  遠松 秀将  (東京都財務局主計部公債課長)  三富 吉浩  (川崎市財政局財政部担当部長)  持田 信樹  (東京大学大学院経済学研究科教授)

◆ フォーラム運営委員会事務局(※は事務局長)  青木 世一  (財団法人地方債協会企画調査部副参事) ※天羽 正継  (高崎経済大学経済学部講師)  石橋 美秀  (地方公共団体金融機構地方支援部調査企画課主査)

出をしていることと、もう一つは預貸ギャップ

の大きさが影響しているのではないかと思いま

す。日本の場合は預貸ギャップが大きいため、

無理して自治体など金利リスクを受けるところ

に貸していこうというようになっていますが、

江夏様のお話では、デンマークは家計部門の貯

蓄率が高くないということなので、預貸ギャッ

プがないから金融機関が自治体に無理に貸さな

くてもいいということがあるのかなと思いまし

た。スウェーデンにおける預貸ギャップや家計

の資本蓄積はどうなのかということについて言

及いただければと思います。

○三宅 預貸ギャップの管理については、コ

ミュンインベストは相当に頑張っています。貸

付期間というのは、先ほども申し上げた通り5

年ないしそれよりも短いぐらいの期間でやって

おりますが、そもそものビジネス・モデルとし

て地方債市場に専門・特化するというのがあり

ますので、確かに1回きりの融資の期間という

意味では短い期間になりますが、基本的にはそ

の借換えに応えていくので、そういう意味で長

期的にコミットしていくという関係にあろうか

と思います。

 彼らの資金調達での年限に関して言えば、こ

れは同じく5年より短いかというとそういうわ

けではなく、長期の資金調達も彼らは行ってお

ります。では、彼らのALM上のリスク管理はど

うなっているのかというと、その年限のギャッ

プは相当に埋められております。というのは、

彼らが調達した資金を様々な金融手法、すなわ

ちデリバティブなどを使ってリスク回避を行っ

ている結果、少なくとも資産と負債の平均年限

はほぼ一致しています。ですので、自分たちに

とって有利な資金調達機会を考えながら、貸出

は短い年限でせざるを得ない、変動金利でやら

ざるを得ないというところのギャップは、こう

したかたちで管理しているというふうに見てい

いのではないかと思います。