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スギ乾燥のための10の要点 スギ乾燥のための10の要点 [森林総合研究所 第1期中期計画成果集18] 独立行政法人 森林総合研究所 Forestry and Forest Products Research Institute ISBN4-902606-24-0

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スギ乾燥のための10の要点スギ乾燥のための10の要点

[森林総合研究所 第1期中期計画成果集18]

独立行政法人 森林総合研究所Forestry and Forest Products Research Institute

ISBN4-902606-24-0

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はじめに

 わが国には約1,000万haの人工林が育っており、その多くが伐期を迎えつつあります。これらの木材資源の有効利用は、林業および木材産業の活性化だけでなく、地球環境保全にも重要な役割を担っています。このうちスギは人工林による蓄積の6割近くを占める主要な樹種ですが、他の樹種に比べ乾燥が難しく、既存の乾燥技術では乾燥時間が長くかかり、乾燥コストが高くなる問題点があります。このため、スギ材乾燥の効率化を目指して、平成12年度から16年度の5年間にわたり、交付金プロジェクト「スギ材の革新的高速乾燥システムの開発」を実施しました。  この資料は、プロジェクトの研究成果の一部を「スギ乾燥のための10の要点」として取りまとめたものです。今後、スギ材乾燥技術の普及、スギの需要拡大につながることを期待しています。

スギ乾燥のための10の要点

1.スギ原木の材質を知る ・・・・・・ p1

 乾燥コストを低減し品質の向上を図るために、原木の含水率や密度、ヤング率等のバラツキを把握します。

2.原木の材質を選別する ・・・・・・・ p3

 スギ材の合理的な加工・利用を図るため、 終製品の品質に影響する含水率等を原木段階で判別します。

3. 終製品の強度を予測する ・・・・・ p5

 目的に合った原木を選ぶために、丸太段階において製材品のヤング係数を予測します。

森林総合研究所  スギ乾燥のための10の要点

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5.心持ち材の乾燥割れを防止する ・・・・ p9

 乾燥材の品質向上のため、熱処理を活用し温度条件を適切に制御して、乾燥割れを防止します。

7.組み合わせ処理を考える ・・・・・・ p13

 乾燥材の品質確保とコスト低減のため、場合によっては、いくつかの方法を組み合わせて処理します。

9.エネルギー循環を考える ・・・・・・・・ p17

 スギ材乾燥の省エネルギーを進めるため、カーボンニュートラルの木質系廃材の利用を考えます。

4.製材木取りを考える ・・・・・・ p7

 製品の用途に求められる性能や含水率に応じて丸太を仕分け、適な木取りで製材します。

6.乾燥を速める ・・・・・・・・・ p11

 乾燥コストを低減するためには、割れを防止しながら乾燥を速める工夫が必要です。

8.乾燥材の性能を知る ・・・・・・・・・ p15

 建築用部材として性能を保証するため、乾燥材の強度や耐久性を明らかにします。

10.効率的なシステムをつくる ・・・・・・・・ p19

 スギ乾燥材の生産コスト低減を図るため、効率的な乾燥材生産システムをつくります。

森林総合研究所 第1期中期計画成果集18

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1.スギ原木の材質を知る

 木材製品の品質は、多くの用途において原木の品質が影響します。乾燥コストを低減し品質の向上を図るためには、まず乾燥のしやすさに影響する原木の含水率や密度、ヤング率等のバラツキを把握することが大切です。

●生材含水率

 針葉樹材の生材含水率は、一般的に辺材で高く心材では低いものですが、スギ材では心材でも高い場合があります。特に黒心材では含水率が高いことが知られています。品種や生育条件によっても異なり、図1-1に示すように 40%〜260%の広い範囲でばらつきます。この心材含水率が高いことと、一本一本の含水率が大きく異なることが、スギ材の乾燥を難しくする根本原因です。

 ●密度

 木材の密度は収縮率や乾燥速さに影響します。スギ材の密度には、心材含水率ほどの違いはありませんが、良く知られている15品種の個体内の平均容積密度数は287~384(kg/m3)の範囲にあります。図1-2は精英樹の容積密度数ですが、心材の平均値は322(kg/m3)です。なお、容積密度数は、密度の表し方の一つで、水を含まない状態の木材重さ÷生材の単位容積で求めます。 乾燥のしやすさは密度に大きく左右されますが、それだけではなく年輪や細胞壁の構造、水分のかたよりなどにも複雑な影響を受けます。

 図1-1 生材含水率の分布

  図1-2 容積密度数の分布

森林総合研究所  スギ乾燥のための10の要点

0

50

100

150

200

250

300

200 240 280 320 360 400 440 480

容積密度数(kg/m3)

現れ

た個

体の

数(本

心材

辺材

N = 1050 ( 558クローン )

0

50

100

150

200

250

0 40 80 120 160 200 240 280 320

生材含水率(%)

現れ

た個

体の

数(本

)心材

辺材

N = 945 ( 518クローン )

1

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●ヤング係数の樹幹内分布

 スギに限らず多くの樹種では、髄から樹皮側に向かって性質が変化し、品質が向上していく領域を未成熟材部、品質が安定する領域を成熟材部と呼びます。ヤング係数は、材料の変形のしやすさを表す指標で、木材の強さや乾燥のしやすさに関係します。その値は、樹幹横断面内の部位によって異なり(図1-3)、樹幹の高さ方向でも異なっています。

●収縮率

表1-1に示すように、品種や地上高によって収縮率の大きさが異なります。品種にもよりますが、地上高の低い1番丸太から採材し、ヤング係数の低い柱材では、軸方向の収縮率が大きいため、大きな曲がりが生じやすく(図1-4)、また内部割れも生じやすくなります。それに対して樹幹の上部から取ったヤング係数が高い材では表面割れが発生しやすい傾向にあります。

 このように、含水率、ヤング率、収縮率等は品種間、固体間、樹幹内で異なるため、それらが乾燥材の品質に影響します。原木の性質に合わせて乾燥方法や条件を調整することが必要です。

地上高 品種名 容積密度 T/R 容積密度 T/R

(m) (g/cm3) T R L (g/cm3) T R L

0.3 ボカスギ 0.324 5.23 2.40 1.40 2.2 0.265 5.23 2.14 0.27 2.40.3 アヤスギ 0.386 5.93 2.45 0.92 2.4 0.358 6.16 2.45 0.26 2.50.3 リュノヒゲ 0.349 7.06 2.62 0.15 2.7 0.333 6.23 2.71 0.35 2.31 クモトオシ 0.320 6.77 2.77 0.10 2.4 0.318 7.56 3.12 0.22 2.41 ヤブクグリ 0.356 6.19 2.73 0.89 2.3 0.332 5.84 2.49 0.18 2.3

6 ボカスギ 0.316 5.6 2.66 0.18 2.1 0.324 6.17 2.92 0.18 2.16 アヤスギ 0.395 6.3 2.05 0.31 3.1 0.415 6.00 2.73 0.16 2.26 リュノヒゲ 0.346 7.31 3.08 0.18 2.4 0.361 6.82 3.70 0.26 1.88 クモトオシ 0.329 6.48 2.55 0.09 2.5 0.352 7.03 3.26 0.14 2.28 ヤブクグリ 0.367 5.77 2.51 0.33 2.3 0.400 7.16 4.09 0.12 1.8

全収縮率(%) 全収縮率(%)

樹幹の内側 樹幹の外側

図1-3 ヤング係数の樹幹横断面内分布

図1-4 柱材のヤング係数と曲がりとの関係

表1-1 収縮率

FFPRI

0

2

4

6

8

10

ヤン

グ係

数(G

Pa)

0 50 100 150 200

髄からの距離(mm)

y = 0.028x + 4.8 r=0.53 (x<80)

0

10

20

30

40

50

0 5 10 15

柱材のヤング係数 (GPa)

曲が

り(2

面の

矢高

合計

) 

(mm

ボカスギ1番

ボカスギ4番ヤブクグリ1番

ヤブクグリ4番アヤスギ1番

アヤスギ4番リュウノヒゲ1番

リュウノヒゲ4番クモトオシ1番

クモトオシ4番

*1番、4番は、それぞれ根元に一番近い丸太、高さ方向の順に  4番目の丸太から取ったものです。

*Tは年輪に沿った方向、Rは年輪に直角方向、Lは樹幹高さ方向、T/Rは比を表します。

2

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2.原木の材質を選別する

●含水率と密度の評価方法

 丸太内の生材含水率を評価する方法として、丸太に周波数を変えながら電気を加え、そのインピーダンス及び位相角を測定することによって、丸太内の含水率分布を推定できます(図2-1)。 密度を簡便に測定する方法としては、ピロディン(図2-2)を使う方法が考えられますが、品種や材質等の丸太条件が整わないと密度を正確に推定することは困難です。

 スギは丸太によって品質が様々であるため、最終的な製品の品質や価値を向上させ効率的に原木を利用するためには、目的別に選別することが必要です。ばらつきが少なく品質の安定した乾燥材を供給するためには、最終製品の品質に影響する含水率等を原木段階で判別し、その後の合理的な加工・利用を図ることが大切です。

図2-1 電気測定による含水率分布の評価 

図2-2 ピンが出た状態のピロディン

*ピンの打ち込み深さと丸太の平均密度との 間には相関関係があります。

0

50

100

150

200

250

300

0 10 20 30 40

丸太横断面内における位置(cm)

含水

率(%

推定値(低含水率) 測定値(低含水率)

推定値(高含水率) 測定値(高含水率)

(樹皮) (樹皮)

森林総合研究所  スギ乾燥のための10の要点

●ヤング係数の評価方法

 丸太のヤング係数は、図2-3に示す縦振動法によって求めることができます。丸太木口をハンマーで打撃することによって振動を発生させ、対面の木口から放射される振動をマイクロフォンで測定する簡便な方法です。

手順2:FFTアナライザによってピークを示す周波数として

固有振動数を求めます。

手順3:丸太のヤング係数(GPa)は、固有振動数(f:Hz)、みかけの密度(ρ:kg/m3)、および材長(L:m)を使って、下式により計算します。

  ヤング係数 = 4×L2×f2×ρ×10-9

図2-3 縦振動法による丸太ヤング係数の     測定方法

FFTアナライザー

原木丸太

手順1:みかけの密度と長さを測定します。

3

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●原木の選別方法

 ばらつきが少なく品質の安定した乾燥材を生産するためには、乾燥性に基づいて選別を行い、被乾燥材の初期条件をできるだけ整えることが必要です。また、スギは他樹種と比較してヤング率の低い丸太の出現頻度が高いという問題もあります。このため、図2-4に示すように、含水率とヤング係数を指標として、用途に合わせて合理的な原木利用を図ることが大切です。 一般に、木材は密度が大きく、生材含水率が高いほど乾燥しにくいものです。したがって、簡易的にみかけの密度(図2-5)を使って選別することも考えられます。ただし、丸太内の含水率のばらつきや密度の区別はできないことに注意が必要です。 

図2-4 原木丸太をヤング係数と含水率の指標に基づいて用途を判別するフロー

FFPRI

0

100

200

300

400

0 500 1000 1500

みかけの密度(kg/m3)

含水

率(%

)図2-5 みかけの密度と含水率の関係     (小ブロック) 

 みかけの密度は、丸太重量/丸太材積で求めます。 丸太の重量は、木材実質の重さに水分の重さが加わったものです。したがって、実質の量が同じであれば、重量は含水率の指標になります。

ヤング係数

含水率or

みかけの密度

原木丸太

含水率or

みかけの密度

低強度

(5<E<8

高強度

高含水率(100%<MC)

低含水率(MC<100%)

高含水率(100%<MC)

低含水率(MC<100%)

集成材ラミナ等構造用(柱、梁桁材等)

板・平割材、ラミナ等

非構造材等

構造用(柱、梁桁材等)

ヤング係数

含水率 or

みかけの密度

原木丸太

含水率 or

みかけの密度

低強度(E<5 GPa)

中強度(5<E<8GPa)

高強度(8GPa<E)

高含水率(100%<MC)

低含水率(MC<100%)

高含水率(100%<MC)

低含水率(MC<100%)

集成材ラミナ等構造用(柱、梁桁材等)

板・平割材、ラミナ等

非構造材等

構造用(柱、梁桁材等)

4

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3.最終製品の強度を予測する

●正角材等のヤング係数の推定

 丸太のヤング係数を非破壊的に測定するにはいくつかの方法があります。その中の1つの方法が縦振動法(前章参照)です。図3-1に示すように、正角材および平角材などの心持ち一丁取りの製材品のヤング係数は、丸太のヤング係数との間で高い相関関係にあるため、この間の回帰式から製材品のヤング係数を推定することができます。

●ラミナ材等のヤング係数の推定

 ラミナ材など丸太から数多くの製材品を採材する際、それぞれの製材品のヤング係数は次のように推定します。まず、髄から樹皮に向かう半径方向におけるヤング係数の変動(図1-3)について、未成熟材部での傾きを0.028、成熟材部との境界を髄から80mmと仮定します。これにより、横断面内でのヤング係数と、丸太のヤング係数(EfrLog)、丸太半径(R)、および髄からの距離(r)との関係を表す数式を求めることができます。すなわち、図3-2に示すような髄から距離rに位置する板材のヤング係数(Efrtimber)を、丸太の大きさにより、以下の二つの計算式を使って推定します。

図3-1 丸太の縦振動法による丸太ヤング係数と平角材のヤング係数との関係

 スギ丸太のヤング係数の横断面内分布をモデル化することによって、原木丸太の縦振動法によるヤング係数と半径、および採材される製材品の位置(髄からの距離)をパラメ−タとして、丸太段階において製材品のヤング係数を予測します。

・・

R

r

EfrLog

EfrTimber

図3-2 木取り位置(r)と丸太半径(R)との関係

森林総合研究所  スギ乾燥のための10の要点

LogTimber EfrR

rEfr +)380

+80-(×028.0= 2

3

 

(r<80の場合)

LogTmber EfrR

Efr +380

×028.0= 2

3

(r≧80の場合)

0

2

4

6

8

10

12

平角

の曲

げヤ

ング

係数

(G

Pa)

0 2 4 6 8 10 12

丸太のヤング係数(GPa)

y = 0.89x + 0.79 r = 0.87 (n=60)

5

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      ●この推定法は正確か

 実際にスギ丸太に適用し、推定した製材品のヤング係数と、採材して実際に測定した製材品のヤング係数との関係を求めました。その結果、図3-2に示すように、推定値と実測値の間には高い相関関係が認められます。 この結果から、原木丸太の段階で、丸太内部の各位置から採る製材品のヤング係数を高精度に推定できることがわかります。

●製材品のヤング係数分布の推定

 図3-2で使用したデータを元に、丸太段階で求めた製材品のヤング係数推定値の分布と製材後に実測したヤング係数実測値の分布を図3-3に示しました。両ヤング係数はほぼ同様の分布であることが確認できます。したがって、丸太の段階で、丸太のヤング係数を把握し、木取り方法を決めれば、製材品のヤング係数の分布も把握できることになります。これによって、集成材用ラミナの製材では、強度の等級区分にあわせてラミナの在庫管理ができるようになり、ラミナの歩留まり向上に役立てることができます。

図3-2 製材品のヤング係数の推定値と     実測値との関係

図3-3 ラミナ材の推定値(左図)と実測値(右図)の分布

FFPRI

0

2

4

6

8

10

12

14

ヤン

グ係

数実

測値

(GP

a)

0 2 4 6 8 10 12 14

ヤング係数推定値 (GPa)

y = 0.90x + 0.76 r = 0.85 (n=505)

ラミ

ナの

ヤング係数の推定値(GPa)

0

50

100

150

0 5 10 15 20

平均値:8.10GPa

変動係数:20.6%

0

50

100

150

ラミ

ナの

0 5 10 15 20

ヤング係数の実測値(GPa)

平均値:8.06GPa

変動係数:21.9%

*推定値は含水率15%のときの値に補正しています。

6

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4.製材木取りを考える

 一般に、丸太は曲がりなどの形質によって仕分けされています。しかし、製品の用途に求められる性能や含水率に応じて丸太を仕分け、 適な木取りで製材すれば、要求性能を満たす製品の歩止りが向上し、より効率的な製材生産および乾燥の効率化につながります。

● 丸太の仕分け方法の考え方

 表4-1に示すように、ヤング係数と含水率の高低によって、丸太を4つのグループに分けることができます。 ここでは、丸太の仕分け効果について検証するため、図4-1に示すように、ヤング係数は7.0GPa(スギ材の平均的な値であり、JAS機械等級区分E70の製品を取る目安でもある)、含水率は100%(生材含水率の平均的な値である)を区分の目安とし、用途に合った木取りを行います。

表4-1 丸太仕分け方法の考え方

森林総合研究所  スギ乾燥のための10の要点

π

LblmlmltlblVll mt

24

×)++2+2+(=

22

Vg

ρ =

100×374.0

374.0-=ρ

ue

注) ヤング係数と含水率の求め方

 ヤング係数は縦振動法(3ページ)によって求め、含水率は丸太の見かけの密度から、次の式を使って推定します。

ここで、ue:推定含水率(%)、 0.374:スギの平均全乾密度(g/cm3) 、 ρ:見かけの密度(g/cm3)、g:丸太の重量(g)、 V:丸太材積 (cm3) 、lt:末口の周囲長(cm)、lm:中央部の周囲長(cm)、lb:元口の周囲長(cm)、L:材長(cm)、です。

ス タ ー ト

丸太の動的ヤング係数

丸太の推定含水率?

小 大

(≦7.0GPa) (>7.0GPa)

(≦100%) (>100%)丸太の推定含水率?

グループⅠ

小 大 小 大

グループⅡ グループⅢ グループⅣ

(≦100%) (>100%)

  図4-1 動的ヤング係数と推定含水率による丸太の仕分け方法

ヤング係数 含水率

グループⅠ 低い 低い

グループⅡ 低い 高い

グループⅢ 高い 低い

グループⅣ 高い 高い

7

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図4-2 丸太含水率と動的ヤング係数を考慮した標準木取り

グループ Ⅰ

正角木取り

グループ Ⅱ

板・平割木取り

グループ Ⅲ

平角木取り

グループ Ⅳ

ラミナ木取り

*高周波型含水率計により測定

 図4-3 製材直後の材の平均含水率 図4-4 3×13cm材の製材直後の ヤング係数の分布

● 木取り方法

 図4-2は、図4-1によって仕分けた丸太の標準的な木取りを示しています。なお、いずれも、丸太の外周部からは平割や板を木取りします。

● 選別の効果

  図4-3 に示すように、丸太段階で仕分けることによって、製材後の製品の含水率を低くすることができます。また、図4-4に示すように、ヤング係数によって仕分けした場合、 製材直後の3.0×13.0cm材についてヤング係数の高い製品の割合が高くなりました。このように、丸太段階で含水率や強度を考慮した仕分けを行い、それに適した木取りで製材することにより、用途に適した製品を効率よく生産できることになります。

FFPRI

中心部から平角ほど強度要求の高くない正角を取る

中 心 部 か ら 強度要求の低い下地材用の平割を取る

中心部から強度要求が高く乾燥しにくい平角を取る

中心部から強度要求が高いラミナを取る

0

10

20

30

40

-5.0 5.0-6.0 6.0-7.0 7.0-8.0 8.0-9.0 9.0- 10.0 10.0-

ヤング係数E(GPa)

頻 

度(%

)

仕分けあり

仕分け無し

(仕分けた丸太) (仕分けない丸太)

50

60

70

80

90

100

含水

率(%

)

正角 平角

8

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5.心持ち材の乾燥割れを防止する

0

200

400

600

800

試験番号

割れの発生数(箇所)

0

100

200

300

400

乾燥時間(hr)

表面割れ内部割れ乾燥時間

①  ②  ③  ④  ⑤  ⑥  ⑦  ⑧

乾燥条件

① 50〜70℃② 60〜80℃③ 85〜95℃④ 90〜100℃⑤ 100〜110℃⑥ 110℃一定⑦ 120℃一定⑧ 135℃一定

 心持ち材は、中心の心材が乾燥しにくく、表層との間に大きな水分傾斜ができて、これと接線方向の収縮量が半径方向より2倍以上も大きなことが相まって、普通に乾燥すれば表面割れ(材面の割れ)が発生します。しかし、高温処理を活用することにより、これを防ぐことが可能になりました。ただし、高温のまま終わりまで乾燥すると内部割れが発生しやすくなります。表面割れと内部割れの両方を防ぐためには、乾燥途中の温度条件を適切に制御することが大切です。

●割れの発生と乾燥温度

 一般的に、針葉樹材の場合、乾燥温度を高くしても、それほど割れの発生に影響しません。このため、低温の50〜60℃の乾燥温度よりも中温の70〜90℃で乾燥したほうが乾燥時間を考えると有利です(図5-1)。100℃以上の高温でも、適正な処理条件を用いると表面割れを防止することができます。しかし、内部割れの危険性は大きくなります。また、内部割れは、含水率が低い材ほど、多くなります(図5-2)。

●材面割れの防止

 心持ち材の乾燥では、乾燥中に表面に大きな引っ張りの応力が生じやすく、これが表面割れの原因となります。しかし。高温で乾燥することにより、表面にドライングセット(乾燥時の自由な収縮が引っ張りの力によって抑制される結果、小さな収縮量に固定されること)を形成させ、表面割れを防ぐことが可能になります。この処理は、蒸気式乾燥機による高温乾燥(高温セット処理)や圧力容器を用いる過熱蒸気処理により行うことができます。

0.0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

10%以下 10~15% 15~20% 20~25% 25~30% 30%以上

1本

当た

りの

内部

割れ

面積

(cm

2)

含水率の範囲(%)

図5-1 割れの発生と乾燥温度との関係

図5-2 含水率と内部割れとの関係

森林総合研究所  スギ乾燥のための10の要点

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●温度の制御方法

 高温セット処理は、乾球温度120℃、湿球温度90℃の条件で12〜24時間行います。この処理によって大きなドライングセット効果が得られます(図5-3)。乾燥初期に高温セット処理を取り入れた乾燥工程では、乾燥後半には処理温度を100℃以下にする(図5-3)、あるいは減圧乾燥や天然乾燥などによって、乾燥時の材温を低下させます。これによって内部割れを防止することができます(図5-4)。高周波減圧乾燥と組み合わせると、内部割れを少なくし、急速乾燥することも可能になります。

●セット処理を活かす条件

 表面割れを防ぐには乾燥初期の高温処理の時間を長くする必要がありますが、内部割れを防ぐには早めに材温を下げることが必要です。これらは相反する条件であるため、製品として求められる品質に合わせて乾燥処理条件を適宜調整することが必要です。 なお、セット処理を活かすには;①温度・湿度・風量の制御を適切に行う

ことのできる装置を選ぶ。 ②乾燥前に表層が乾きすぎないように

する。③表層の含水率が少なくとも20%付近

に達したことを終了の目安とする。④乾燥前の選別により初期含水率を揃

えるようにする。

図5-3 乾燥スケジュールと含水率経過      *材寸法:11.7×11.7×300cm

図5-4 乾燥条件が内部割れに与える影響

FFPRI

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

0 10 20 30 40 50

高温乾燥

高温セット+中温乾燥

1本

当り

の内

部割

れ面

積(cm

2)

含水率(%)

近似曲線(高温乾燥)

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

0 10 20 30 40 50

高温乾燥

高温セット+高周波減圧乾燥①

高温セット+高周波減圧乾燥②

1本

当り

の内

部割

れ面

積(cm

2)

含水率(%)

近似曲線(高温乾燥)

0

20

40

60

80

100

120

0 24 48 72 96 120 144 168 192 216 240

含水

率(%

)・温

度(℃

乾燥時間(H)

乾球温度

湿球温度

含水率

高温セット処理

10

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0

20

40

60

80

100

120

140

0 20 40 60 80

処理時間(hr)

温度

(℃),

相対

湿度

(%

)含

水率

(%

0

0.1

0.2

0.3

絶対

圧力

(M

Pa)

温度

湿度

含水率

絶対圧力

6.乾燥を速める

●過熱蒸気の利用

 一般的な蒸気式乾燥機を用いて心持ち柱材を処理した場合、乾燥温度を高めて乾燥を速めようとすると、内部割れが多く発生します。そのため、平均温度を下げて7~9日程度で乾燥するのが一般的です。圧力容器(写真6-1)を用いて過熱蒸気乾燥を行うと、内部割れを発生させずに高温で乾燥することができます。過熱蒸気による乾燥では、乾燥初期の湿度条件を高く保ち、乾燥に伴って湿度を徐々に低下させます(図6-1)。乾燥時間は3〜4日程度で済みます。

●過熱蒸気処理の特徴

 130℃の高温処理にもかかわらず、写真6-2に示すように、内部割れ、表面割れが防止できます。ただし、高温高湿処理ですので、大きな変色が生じます。材色変化を防止するためには、過熱蒸気処理を2日程度に止め、その後は減圧乾燥により低い温度で乾燥します。 写真6-2の右側に示すように、高周波加熱減圧乾燥との組み合わせによって、表面割れ、内部割れの程度は変わらずに、材色を著しく改善できます。この場合の乾燥時間は、過熱蒸気により高温乾燥する場合よりも約1日延びることになります。

写真6-1 過熱蒸気式木材乾燥装置

*過熱蒸気として、100℃以上で常圧より高い圧力を持ち、かつ飽和温度より高い温度の蒸気を使います。

写真6-2 乾燥後の内部割れと材色

 乾燥コストを低減するには、乾燥を速め、乾燥時間を短縮するのが一つの方法です。そのためには、高温蒸気を用いたり、あるいは減圧して沸点を下げ、より低温で水分蒸発を速めたりします。しかし、どの方法も心持ち材特有の表面割れや内部割れを生じさせない工夫を施すことが大切です。

【過熱蒸気乾燥】 【過熱蒸気前処理+ 高周波加熱減圧乾燥】

    図6-1 温度と圧力の制御方法

*絶対圧力を制御することによって湿度を調整します

森林総合研究所  スギ乾燥のための10の要点

11

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●高周波加熱の活用

 蒸気式乾燥等の熱風乾燥では、一般に材の表面から乾燥が進み、内部は含水率が高いまま残る傾向があります。これを防ぎ乾燥を速めるには、蒸気加熱に加えて補助的に高周波加熱を行うことが効果的です。高周波加熱の効率を向上させるには、乾燥の後半に高周波を加えます。付加的に、仕上がり含水率が均一になるという効果が得られます。

●蒸気・高周波併用減圧乾燥法の利用

 減圧乾燥法は通常より沸点が低く、乾燥を速めるのに有効です。これまで広葉樹材の乾燥に、高周波加熱・減圧乾燥法が適用されています。背割りを入れない心持ち材の乾燥では低温での乾燥は難しいことが課題でしたが、減圧下での熱風乾燥との併用によって、この問題を解決します。一つの装置で熱処理と減圧乾燥を行うため、減圧乾燥で生じやすい乾燥割れを抑制しやすくなります。 具体的な処理条件として、図6-2に示すように、90℃での蒸煮処理を12時間、温度110℃、圧力70kPaの熱処理を24時間、温度90℃、圧力30.7kPaの熱風減圧乾燥を36時間行い、その後高周波加熱を加えるようにします。高周波のみによる加熱にくらべて、木材から蒸発した水分が暖められ、また効率よく乾燥機の外へ排出されます。これによって、約4日で乾燥が終了し、割れも少なくできます。また、図6-3に示すように、乾燥中期から後期にかけて高周波を併用しているため、内部からの水分移動がスムーズに行われて均一に仕上がることも特徴です。

図6-2 蒸気・高周波併用減圧乾燥法による    乾燥条件と乾燥経過

FFPRI

装置内温度(℃)、

圧力(kPa)、材温(℃)

0 24 48  72   96   120

140

120

100

80

60

40

20

0

時間(h)

大気圧

装置内温度

圧力

材温制御(高周波)

含水率(%)、温度(℃)

時間(h)

初期含水率が低い場合

初期含水率が高い場合

材中心温度

処理の経過

 乾燥経過

140

120

100

80

60

40

20

0

0 24 48  72   96   120

図6-3 乾燥前後の含水率分布

0

50

100

150

200

含水

率(%

表層 表層中央

乾燥前

乾燥後

12

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7.組み合わせ処理を考える

 スギ材は初期含水率が高く、コスト低減が難しい。また、含水率のばらつきが、仕上がりを均一化するのを難しくしています。生産方法によっては品質を確保することが難しい場合や、コストの低減に限界が生じる場合も考えられます。したがって、一つの方法や装置を使って乾燥することが効率的ですが、場合によってはいくつかの方法を組み合わせて処理することも必要になります。

●組み合わせ処理の考え方

 要点5(9ページ)に示すように、天然乾燥等の低温条件で心持ち材を乾燥すると、材面に大きな割れが生じやすく、また含水率等の管理が難しいという問題があります。また、人工乾燥ではコスト低減が難しい場合もあります。このため、表7-1に示すように、前処理と仕上げ処理を異なる方法で行うなど、目的に合わせて乾燥材の品質向上やコスト低減を図ることが考えられます。 表7-3には、柱材を対象にした様々な組み合わせ処理条件を示しています。主に、乾燥割れの防止、もしくは乾燥時間の短縮を考慮したものです。

図7-1 天然乾燥との組み合わせがコストに

    与える影響

●組み合わせの効果

 組み合わせ処理により、仕上がりの均一化などの利点が得られると同時に、図7-1に示すように、天然乾燥を導入する場合にはコストを削減できる可能性があります。

表7-1 組み合わせ処理の方法と目的

4000

5000

6000

7000

8000

9000

10000

100 200 300 400

乾燥材生産量(m3/月)

乾燥

コス

ト(

円/m3)

蒸気式(中温)

蒸気式(高温)

天然+蒸気式(中温)

蒸気式(高温)+天然

森林総合研究所  スギ乾燥のための10の要点

前処理 仕上げ 材種等

方法 高温処理 中温乾燥 天然乾燥 高周波加熱併用乾燥

目的

表面割れの防止 含水率の低減 含水率の均一化 乾燥時間の短縮

内部割れの防止 省エネルギー 仕上がりの均一化

心持ち材 断面の大きな材

13

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●表面割れ抑制のための主な前処理

 表7-2に、主な前処理装置とその処理条件を示しています。(高温セット処理) 蒸気式乾燥機を使って高温セット処理を行い、その後は天然乾燥あるいは中温の蒸気式乾燥など他の乾燥方法を用います。表層の含水率が20%程度になるまで処理すると材面割れの抑制効果が得られますので、含水率が特に高い場合には処理時間を長くする必要があります。(蒸煮・減圧処理) 圧力容器を使って、100℃以上で蒸煮処理したあと、減圧処理を行うことによって、その後の乾燥における心持ち材の割れ発生を抑制します。処理後に、短時間天然乾燥した後一般の蒸気式乾燥法等で仕上げることもできます。

表7-3 組み合わせ処理による柱材の乾燥条件

 表7-2 割れを防止するための前処理条件

(高温過熱蒸気処理) 心持ち材の表面割れ防止は、乾燥温度が高いほど有利なので、要点6(11ページ)に示したように、高温過熱蒸気を使うことによって、通常よりも処理温度を高めて、処理時間を短縮することができます。

FFPRI

*◎:良好、○:普通、△:やや問題あり

蒸煮処理 乾燥処理

温度:95℃ 乾球温度:120℃

時間:6hr 湿球温度:90℃

時間:18〜24hr

缶内温度:140℃

相対湿度:約40%

処理時間:4hr

温度:120℃ 減圧時間:7〜8hr

時間;6〜7hr (含む、解放時間)

過熱蒸気処理装置

なし

蒸煮減圧処理装置

処理後含水率(目安)

40-50%

60-70%

50-60%

装置前処理条件

蒸気式乾燥機

方法別 合計 表面割れ 内部割れ

蒸気式高温セット処理 120 1

天然乾燥 10〜30 100〜120

過熱蒸気処理 140 0.25

天然乾燥 10〜30 120〜150

蒸煮・減圧処理 120 0.25

天然乾燥 10〜30 120〜150

過熱蒸気処理 140 0.25

蒸気式中温乾燥 90 10

蒸気式高温セット処理 120 1

蒸気式中温乾燥 90 6

過熱蒸気処理 115 0.5

高周波加熱・減圧乾燥 50〜60 3.5

蒸気加熱・減圧処理 90〜110 1.5

蒸気・高周波併用減圧乾燥 65 3

蒸気式高温セット処理 120 1

高周波加熱・減圧乾燥 50〜60 3

蒸気式高温セット処理 120 2

マイクロ波加熱乾燥 100〜110

調湿 50〜60

乾燥コスト

○ 丸太3〜1

△ ○

柱材

90〜150 ○ ○ △ 柱材

4 ○

○ ○

◎ ◎

平角材

90〜150

7 ○ 柱材

90〜150 △ ◎ △

◎ 柱材

○ 柱材

○4.5 ◎ ◎

11 ◎ ◎

処理後含水率

備考

4 ◎ ◎ ◎ 柱材

◎ ◎ 柱材

温度(℃)割れの抑制効果

組み合わせ方法処理日数の目安(日)

14

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8.乾燥材の性能を知る

●耐力壁の性能 

 耐力壁は、地震や風の水平力に抵抗し建物の安全を確保するための重要な要素です。耐力壁には、筋かい壁、針葉樹合板壁、ボード壁、せっこう壁など様々な種類があります。生材を使用すると、時間経過に伴い耐力壁を構成する部材の含水率が低下します。この際、図8-1に示すように、初期剛性は低下し、変形しやすい壁になります。これを防ぐには、施工段階から乾燥材を用いることが必要です。

●接合部の性能 

 接合部は、建物を構成する部材と部材を繋ぐ所です。生材を用いたボルト接合部は、図8-2に示すように、時間経過に伴い部材含水率が低下し、部材の収縮がはじまると同時にクリープ変形量の急激な増加が生じます。このため、構造的な狂いが生じやすくなります。図8-3に示すように、乾燥材を使った接合部は変形しにくくなります。

図8-1 乾燥を伴う時間経過と耐力壁    の初期剛性との関係

 生材を使って短期間に住宅を建てると、きしみが生じたり、壁に亀裂が入るなどの不具合が生じるばかりではなく、構造性能にも影響を及ぼします。そのため、住宅を建てるときには、建築用部材として品質が優れた乾燥材が必要です。しかし、乾燥条件によっては、部材の強度や耐久性が低下するため、乾燥材の性能を理解することが大切です。

 図8-2 ボルト接合部のクリープ変形量と部材含水率との関係

図8-3 釘接合部における生材と人工乾燥材    強さの比較

*乾燥程度が違うスギ乾燥材と生材で作製した釘接合部について、強さ(上図)と変形しにくさ(下図)を比較しています。

森林総合研究所  スギ乾燥のための10の要点

*初期剛性は、耐力壁の変形のしにくさを表します。

*クリープ変形とは、加わる力が同じでも変形が進む現象です。  図中の%は、接合部にかかる力のレベルを表しています。

初期

剛性

(kN/mm)

時間経過  ( 年)

48. 7%17. 1%

15. 2%

50. 1%

16. 4%15. 0%

17. 2%

50. 1%

15. 7%

60. 5%

15. 4%17. 7%

数字は実験時含水率

15. 3%

15. 6%

16. 0%

15. 6%

0 1 2 3 40.0

0.5

1.0

1.5

2.0

筋かい壁針葉樹合板壁ボード(OSB)壁せっこう壁

0

5

10

15

20

25

0.001 0.01 0.1 1 10 100 1000 10000 100000

経過時間 [hr]

めり

込み

クリ

ープ

変形

量 

[mm

0

20

40

60

80

100

120

140

部材

含水

率 

[%]

恒温恒湿室・67%

屋内・84%

屋内・67%

屋内・84%

屋内・67%

恒温恒湿室・67%

クリープ変形量

含水率

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

人工乾燥材(乾燥・強)

人工乾燥材(乾燥・中)

生材

剛性

の比

(生

材を

1と

した

とき

の値

0.0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

1.2

人工乾燥材(乾燥・強)

人工乾燥材(乾燥・中)

生材

強さ

の比

(生

材を

1と

した

とき

の値

15

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●部材の強度

 住宅の梁などのたわみやすさの指標となる曲げヤング係数は、乾燥条件による違いはありません(図8-4)。しかし、強さの指標となる曲げ強さは、 90℃と120℃の乾燥でほとんど違いがありませんが、135℃では他よりも明らかに低下します(図8-5)。力の加わり方によっても乾燥条件が強度性能に及ぼす影響は異なりますが、強さについて云えば、乾燥温度が高すぎると低下してしまいます。また、乾燥温度の他にも、内部割れが大きいと強さに影響することが考えられます。

●部材の耐久性

 心材は、本来的に微生物や菌からの攻撃に対して強く、辺材に比べて耐久性が高い部分です。シロアリに対する強さの指標となる耐蟻性は、乾燥条件の影響がほとんど認められません(図8-6)。しかし、腐朽菌に対する強さの指標となる耐朽性は、乾燥温度が高くなるに従って少しずつ低下します(図8-7)。このように、乾燥条件によっては耐久性が低下することに留意する必要があります。  

 

0

2

4

6

8

10

12

曲げヤ

ング

係数 (kN/mm

2)

0 20 40 60 80 100

パーセンタイル

135℃  45時間

120℃  72時間

90℃ 174時間

0

10

20

30

40

50

60

曲げ強さ (N/mm

2)

0 20 40 60 80 100パーセンタイル

135℃ 45時間

120℃ 72時間

90℃ 174時間

0

10

20

30

40

50

60

オオウ

ズラ

タケ

によ

る質量

減少

率(

%)

90℃ 120時間 120℃ 40時間 135℃ 30時間 90℃ 120時間

スギ心材 スギ心材 スギ心材 スギ辺材

0

2

4

6

8

10

12

シロ

アリ

によ

る質

量減

少率

(%

90℃ 120時間 120℃ 40時間 135℃ 30時間 90℃ 120時間

スギ心材 スギ心材 スギ心材 スギ辺材

図8-4 乾燥条件が曲げヤング係数に与える影響

図8-5 乾燥条件が曲げ強さに与える影響

図8-6 乾燥条件と耐蟻性との関係 図8-7 乾燥条件と耐腐朽性との関係

FFPRI

*パーセンタイルとは、測定値を小さい方から並べて  パーセントで見た数字です。

*重量減少率が小さいほど、耐蟻性があります。 *重量減少率が大きいほど腐れやすいことを示しています。

16

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9.エネルギー循環を考える

 スギ材乾燥にはエネルギーを必要とします。重油等の化石燃料を使用すると、コストの低減には限界があるとともに、地球温暖化対策としてカーボンニュートラルの木材利用を進める上でも意味がなくなります。今後、木材乾燥工場では使用エネルギーを木質系燃料に代えていくことを積極的に推進する必要があり、これが乾燥コスト低減にもつながると考えられます。

●工場残廃材を活用する

 製材工場において主流を占める蒸気式乾燥機の多くが重油や灯油を燃料としています。製材工程からは原木量の30〜40%の残廃材(写真9-1)が排出されます。このうち約75%はチップや家畜敷料などとして、残りの約25%は燃料として利用できます。

 乾燥用の蒸気をつくるには木屑炊きボイラー(写真9-2)を使用しますが、その設備費は高いので、コスト低減効果を得るためにはある程度の生産規模が必要になります。表9-1に示すように、生産規模が月産500m3

程度に大きくなると、木屑燃料による乾燥コストの低減効果が大きくなります。

 

写真9-2 木屑炊きボイラー

写真9-1 工場残廃材

 廃材処理のために焼却炉を設置するか、あるいは産業廃棄物として処理する必要があり、このための経費がかかります。木屑燃料を使用すると、廃材処理が不要になります。

表9-1 蒸気式乾燥機による燃料の種類、生産規模別   の乾燥コスト

乾燥コスト:設備償却費、人件費、燃料費乾燥温度:120〜90℃乾燥日数:7日灯油価格:70円/L、廃材価格:0円

森林総合研究所  スギ乾燥のための10の要点

100m3/月 300m

3/月 500m

3/月

灯油 11, 000 9, 600 9, 100

木屑 11, 500 7, 300 6, 400

変化率 +5% −24% −30%

乾燥コ ス ト ( 円/m3)燃料

17

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図9-1 乾燥材および未乾燥材の単位   生産量あたりCO2排出量の関係

図9-2 木屑で化石燃料を代替した場合のCO2削減の効果

●乾燥工場におけるCO2排出量

 国内17の製材工場を対象にして行ったCO2排出量の評価結果を、図9-1に示しています。人工乾燥しなければ排出量は少ないのですが、人工乾燥を行っても製材品の単位生産量あたりCO2排出量は、工場の生産規模が大きい場合には少なくなります。 人工乾燥の方法によっても排出量は異なりますが、乾燥材製造によるCO2排出量は平均すると約150kg-CO2/m3程度になります。

●木屑利用によるCO2排出の削減効果

 表9-1には、製材工場における木屑利用によるCO2排出量の削減効果を示しています。乾燥工程では90%ほどの削減ができ、平均すると工場全体では約30%の削減が見込めることを示しています。 今後、地球温暖化対策として省エネルギー化が進み、生産工程における環境負荷が製品を評価する大切な尺度となることも考えられます。木材乾燥にかかるエネルギーは比較的大きいので、その環境負荷を低減していく努力が大切です。

*計算の根拠:熱量、重油及び灯油7500kcal/l、木屑2600kcal/kg、 排出原単位、灯油2.677kg-CO2/l、重油 2.835kg-CO2/l、木屑0.112kg-CO2/kg*A~Mは、それぞれ生産規模、乾燥方法が異なる。

FFPRI

500

1000

1500

2000

2500

3000

3500

CO2排

出量(t-CO2)

木屑で代替した場合

灯油または重油

軽油

電力

製材工場

A B C D E F G H I J K L M

0

100

200

300

400

0 50 100 150

製品生産量(千m3/年)

単位

生産

量あ

たり

排出

(kg-

CO

2/m

3)

乾燥材

未乾燥材

18

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10.効率的なシステムをつくる

 スギ乾燥材の生産効率を上げ、ひいてはコスト低減を図るためには、生産規模の拡大はもとより、 終用途の品質を勘案した原材料選別、天然乾燥との組み合わせの導入、さらには木質廃材の活用などを考慮し、効率的な乾燥材生産システムを構築することが必要です。

●用途区分とその処理条件・方法

 乾燥材に求められる品質は使用目的によって異なるため、材種や用途によって適正な乾燥条件を選択することが大切です。図10-1に、柱材向け及び造作材向けの蒸気式乾燥スケジュールの例を示しています。 表10-1は、乾燥材の品質や生産の効率性を勘案して、原木選別から 終的な品質・性能評価にいたる、用途別の生産工程を示しています。 乾燥方法・条件は、乾燥材の品質だけではなく、生産コストや生産を取り巻く社会環境等に基づいて決定されますが、品質とコストは相反するため、目的に合った乾燥条件や方法を選択するとともに、合理的な生産システムをつくることが大切です。

表10-1 用途別の乾燥処理工程の例

図10-1 用途による乾燥スケジュールの相違

0

20

40

60

80

100

120

140

0 50 100 150 200

乾燥時間(hr)

乾燥温度 (℃

)

湿球温度

乾球温度

0

20

40

60

80

100

120

0 20 40 60 80 100 120

乾燥時間 (hr)

乾燥温

度 (℃

)

乾球温度

湿球温度

森林総合研究所  スギ乾燥のための10の要点

A. 柱材(一般材)のための高温セット処理を取り入れたスケジュール

B. 造作材のための天然乾燥後に中温乾燥する際のスケジュール

前処理 乾燥・仕上げ

平角材 梁・桁材形質、含水率ヤング率

自動木取り自動製材

重量選別 蒸煮・高温処理 中温・高周波 含水率、強度 高周波複合式

管柱土台

形質、含水率自動木取り自動製材

天然乾燥 中温 含水率、強度蒸気式

管柱土台

形質、含水率 重量選別 蒸煮・高温処理 中温 含水率、強度蒸気式(高温)

管柱土台

形質、含水率 重量選別 蒸煮 過熱蒸気・減圧 含水率、強度 圧力容器式

化粧柱 形質 背割り加工 低温 含水率、材色蒸気式除湿式

造作材下地用材

形質自動木取り自動製材

天然乾燥 中温 含水率、材色  

ラミナ - 曲がり挽き 重量選別 天然乾燥 中温 含水率、強度  

丸太 建築用 通直材蒸煮・高温処理

天然乾燥マイクロ波

中温含水率  

板材

乾燥処理品質評価等 備考

正角材

      工程材種・用途

原木選別 製材 製材選別

19

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端材等

粉砕機

煙突

サイクロン 木屑炊きボイラー

集塵器

乾燥機

小型蒸気タービン

復水器

プレ乾燥(排ガス)

(蒸気)

(電力)

(蒸気)

原木選別機原木 製材機

重量選別機自動さん積機グレーダー

乾燥材

乾燥材

●効率的な乾燥材生産システム

●スギ乾燥材生産のために

 森林施業の変化に伴う原木条件の多様化と、消費者の品質要求に的確に対応する技術を活用することで、乾燥材を市場へ安定的に供給することが大切です。木質資源の循環利用を図りながら、地域事情に合った乾燥材生産システムをつくることが必要です。

図10-2 効率性を考慮した生産システムの例

   品質向上;原木選別、製材重量選別、        グレーディング   省力化:自動さん積み機   省エネ化:木屑炊きボイラーシステム

FFPRI

スギ人工林

原木供給

効率的な乾燥システム

乾燥コスト低減

省エネルギー

適正な乾燥制御

含水率管理

乾燥品質の向上

規模拡大

自動制御

乾燥効率や製品の要求品質による

丸太や製材の選別

生材含水率や強度

の非破壊測定

丸太

市場ニーズの把握

   強度 , 耐久性, etc

市場への安定供給

 乾燥材生産の効率向上には、原木の性質に応じた適切な乾燥前選別とともに、生産規模の適正化とエネルギー費の削減方法を考える必要があります。エネルギー費削減には、工場残廃材の利用が考えられ、また様々な品質要求に対応できる乾燥施設が必要です。生産の大規模化によって、作業や操作の自動化や木屑等バイオマス利用のシステム化などのメリットが生じます。図10-2には、乾燥材品質確保と大幅なコスト低減をねらいとし、選別機を導入し、自動さん積み機によって生産の省力化を図り、かつ工場残廃材等を利用した生産システムの一例を示しています。

原木選別技術

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スギ乾燥のための10の要点

独立行政法人 森林総合研究所独立行政法人 森林総合研究所第1期中期計画成果集第1期中期計画成果集1818

発  行  日 平成18年3月編集 ・ 発行 独立行政法人 森林総合研究所

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