災害事例 リスクアセスメント · 2017. 1. 2. · 28 建設労務安全 27・3...
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建設労務安全 27・328
災害事例とリスクアセスメント
一酸化炭素中毒等
労働安全コンサルタント
浮田 義明今回は、建設現場で見逃されがちな有害要因によってもたらされた災害事例を
取り上げてみました。作業の陰に潜む危険源については直接目にすることのでき
るものは想像しやすいですが、つい見落としがちなのが空気環境などの目に見え
ない物質の有害性です。
例えば、建設業においては平成6年から平成25年の20年間で、酸素欠乏症で54
名、硫化水素中毒で12名、計66名の方が亡くなっており、決して見過ごすことの
できない有害要因の一つとなっています。
そのほか、建設現場には内燃機関を有する発電機の使用や、アーク溶接機によ
る一酸化炭素中毒の発生、解体工事、設備工事等における塩素等の特定化学物質
の吸引による中毒、塗装工事で使用される有機溶剤による中毒が過去に発生して
いることも忘れてはなりません。
また、断熱材、防音材として用いられる発泡ウレタンも火災によって有害ガス
が発生するため、火気の使用には十分な注意が必要です。
いずれにしても、作業の危険性だけではなく、計画段階においてさまざまな観
点から有害要因の有無についても細心の注意を払い、見落とすことのないよう、
十分精査する必要があります。
本コーナーでは、不幸にして最悪の事態となってしまった事例を取り上げ、同様の作業を行った場合に、①まだほかにも考えられる危険性(ハザード)があるか、②どのような危害を受ける可能性があるか――などについて検討してみる。
Ⅰ.同種災害の防止策、Ⅱ.その他の危険性に基づくリスクアセスメント(例)に分けて、多様なリスクアセスメントの情報が収集できるように構成した。災害発生の防止を目的に実施しているリスクアセスメントの見直し、改善、あるいは安全衛生教育の資料として役立てていただきたい。� (編集部)
第36回
29 建設労務安全 27・3
被災者の状況 災害発生状況
同種の作業で予測されるその他の危険性
職種:土工
年齢:54歳
経験年数:2年
請負次数:4次
ピット内部の型枠ベニヤを解体するためピット内に
降りたところ、ピット下部に滞留した水に溶け込んで
いた高濃度の硫化水素が次第にピット内に充満し、中
毒を起こして倒れた。
① ピットの開口部から墜落する
② ピットのタラップ昇降中に転落する
③ 型枠解体中、サポートが倒壊し激突する
④ 型枠用資材を開口部から搬出する際、落下させる
硫化水素中毒事例 ① 点検用開口部からピット内に入り硫化水素中毒
建設労務安全 27・330
被災者の状況 災害発生状況
同種の作業で予測されるその他の危険性
職種:土工
年齢:64歳、36歳
経験年数:20年、7年
請負次数:1次
地下ピットの排水作業と清掃作業を、エンジンポ
ンプを用いて同僚2名で行っていたところ、エンジ
ンポンプの排気ガスが充満し、一酸化炭素中毒を起
こした。
① 昇降用の開口部から墜落する
② 躯体とわく組足場の隙間から墜落する
③ 地下昇降用の梯子から転落する
一酸化炭素中毒事例 ② エンジンポンプの排気ガスにより一酸化炭素中毒
31 建設労務安全 27・3
被災者の状況 災害発生状況
同種の作業で予測されるその他の危険性
職種:鍛冶工
年齢:50歳
経験年数:30年
請負次数:2次
RC造2階天井のアンカーボルトをガス切断中、切
断器の炎が天井裏の発泡ウレタン系断熱材に引火。急
速に延焼し、3階部分で作業中の作業員が燃焼ガスに
含まれた一酸化炭素を吸引し、中毒を起こした。
① 作業床の端部から墜落する
② 作業床の移動中に梁に激突する
③ 切断したボルトや火花で火傷する
火 災事例 ③ 発泡ウレタン系断熱材にガス切断の炎が引火し中毒
建設労務安全 27・332
【事例①】建設業における硫化水素による災害は、事例と同様のピットや水槽のほか、マンホールや下水道等の地下配管の内部で発生するおそれがあります。硫化水素は、密閉された空間で、木材、石膏ボード、汚泥などが水に浸ることによって硫酸還元菌が繁殖して発生します。発生した硫化水素はそのまま水に溶け込みやすく、溜まった水の中の歩行などで一気に空間に充満し、気中の濃度が100ppmを超えると卵の腐ったような臭いは感じなくなり、700ppmに達すると呼吸が麻痺してしまいます。したがって、硫化水素に接する可能性のある作業に対しては、換気設備の設置など事前対策の検討が求められます。
【事例②】建設現場における一酸化炭素中毒の多くは、内燃機関式の機器を室内で使用することによって発生しています。水中ポンプのほか、コンクリートカッター、溶接機、コンクリートバイブレーター、高圧洗浄機など、エンジン駆動の機器が多くの現場に持ち込まれています。内燃機関の排気ガスを室外に排出するための換気設備を設けることは困難を伴うことから、電動式の機器を使用することが得策と思います。どうしても内燃式機器を使用せざるを得ないときは、作業責任者を選任した上で、詳細な作業手順書を作成し、呼吸用保護具を使用するなど「建設業における一酸化炭素中毒予防のためのガイドライン」に沿った万全の態勢での作業が必要となります。
【事例③】建設物の断熱材、防音材等に発泡ウレタンが用いられることがあります。難燃性の物質が原材料に使用されるなど工夫されてはいますが、火気に接すると燃焼することには変わりありません。したがって、作業を行う際には次の点に留意して作業を行うよう指導することが肝要です。1)作業に従事する労働者に発泡断熱材の危険性、火気管理対策等について十分な教
育を実施すること。2)作業に取りかかる前に火気管理等を含む作業計画を策定すること。3)発泡断熱材が使用されている場所に近接して火気を使用する作業を行う場合には、
当該作業を指揮する者を定めるとともに、その者に直接作業を指揮させること。4)原材料を保管している場所及び吹き付けた場所に火気の使用を厳禁する旨の表示
を行うこと。
■ リスクアセスメントの実施例
今回の災害事例で紹介した現場には、その他の災害をもたらす可能性のある危険源は数
多く潜んでいます。考えられる主な危険性がもたらす災害の発生の可能性、災害の重篤度
の見積りを例示してみましたので、参考にしてください。
Ⅰ.同種災害の防止策
Ⅱ.その他の危険性に基づくリスクアセスメント
*可能性、重篤度の点数は、リスクアセスメントを担当する人によって異なりますので、あくまでも参考見積りです。
表 硫化水素による災害発生の推移
33 建設労務安全 27・3
危険性又は有害性 可能性 重篤度 評価 優先度 リスクの低減措置
事例① 点検用開口部からピット内に入り硫化水素中毒
ピットの開口部から墜落する
4 10 14 ⑤ピット周辺には囲いを設け、
「開口部」の表示を行う。
ピットのタラップ昇降中に転落する
4 10 14 ⑤タラップにセーフティーブロックを取り付け、昇降の際には安全帯を使用する。
型枠解体中、サポートが倒壊し激突する
2 6 8 ③ゆるめたサポートは直ちに床に整頓しながら置く。
型枠用資材を開口部から搬出する際、落下させる
4 3 7 ②資材を搬出する際は、長尺物は確実に1本ずつ手渡しを行う。
事例② エンジンポンプの排気ガスにより一酸化炭素中毒
昇降用の開口部から墜落する
4 10 14 ⑤開口部周囲は、手すりを固定して設置し、覆い又はネットを設置する。
躯体とわく組足場の隙間から墜落する
2 10 12 ④足場には幅木を設け、躯体との隙間は小幅ネットを設置する。
地下昇降用の梯子から転落する
4 10 14 ⑤梯子にセーフティーブロックを取り付け、昇降の際には安全帯を使用する。
事例③ 発泡ウレタン系断熱材にガス切断の炎が引火し中毒
作業床の端部から墜落する 4 10 14 ⑤作業床端部には手すりを設置する。
作業床の移動中に梁に激突する
2 3 5 ②梁下には表示を行い、梁が確認しやすいよう照明を配置する。
切断したボルトや火花で火傷する
4 3 7 ②切断個所の床に防炎シートを敷き、防炎前掛けを着用する。
*可能性の判断基準の例災害発生の可能性の度合 評価基準
可能性が極めて高い 8
可能性が高い 4
可能性がある 2
ほとんどない 1
*重篤度の判断基準の例災害の重篤度 評価基準
死亡 10
重症(休業 1 ヵ月以上) 6
休業災害(4日以上) 3
軽傷(休業3〜0日) 1
*優先度の決定の例判定基準
見積り 18 〜 14 13 〜 10 9 〜 8 7 〜 5 4 〜 2
優先度 ⑤ ④ ③ ② ①