八戸港での砕岩棒による撤去 若築建設東北支店 鈴木利尚氏 · 2020. 3....
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八戸港での砕岩棒による撤去
若築建設東北支店 鈴木利尚氏
最初に工事概要だが、工事名は「八戸港八太郎地区防波堤(北)(災害復旧)ケーソン撤
去外工事(その 2)」で、発注者は国土交通省、請負者は若築・りんかい日産・あおみ JV で
ある。工期は平成 23 年 9 月 30 日~平成 24 年 10 月 31 日の約 1年間。施工場所は青森県八
戸市の八戸港。太平洋側に面した港で、図で赤く示されたところである(2P、3P)。
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被災状況について説明する。これは震災後の写真だが、防波堤 3.5km のうち 4 割が津波
で崩壊した。私たちが請け負った工事は、このうち延長 267m。拡大写真がケーソンの崩壊
状況を示す(4P)。
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工事内容は、ケーソンを撤去し、撤去が終わったら元の場所に基礎を構築し、本体工と
してケーソンを据え付けること(5P)。これが施工図面である(6P)。上の平面図ではケー
ソンが元の場所からずれた状況にあることがわかる。下の断面図では、ケーソンが‐10m ま
で下がっている。
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工事の特徴だが、倒壊した防波堤 18 函を破砕して撤去するという、過去に前例のないも
のだった。(破砕・撤去が)大量であるという特徴が一つある。また、既設防波堤の中詰材
と破砕したコンクリート殻を、新設ケーソンの中詰材として再利用するのも特徴である
(7P)。
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施工フローだが、上部・蓋コンクリート、ケーソンの破砕を砕岩棒で行い、陸上に上げ
る。陸上で砂とコンクリートに分けて、コンクリートは有筋と無筋にさらに分ける。砂は
集積しておく。有筋殻は産廃処分し、無筋殻は集積してケーソン中詰に再利用する流れに
なっている(8P)。
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現況確認をナローマルチビームで行い、水中の状態を表した図だ(9P)。私たちの施工箇
所では、ケーソンが最大 7.5m 沈下していた。一方、水上にケーソンが 2.4m 出ている部分
もあり、倒壊状況がまちまちだった。
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破砕・撤去の課題は 3 点ある。安全かつ確実に破砕・撤去できる方法は何か。設計数量
(で示された再利用コンクリート殻)を確保するにはどうしたらいいか。また、破砕した
コンクリートの揚土方法は設計ではバックホウとなっていたが、バックホウで揚土できる
かが課題であった(10P)。
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課題への対策として、破砕・撤去に浚渫システムを使用することにした。グラブ浚渫船
に GPS が付いているので、位置管理、深度管理ができる。また、仕上げ堀を 1 回ですませ
るため、水中ソナーを併用してモニタリングを行うことにした。さらに、陸上に出ている
部分で砕岩棒を使った時に、コンクリートが飛散してグラブ船のオペレーターが被災する
ことがないよう、オペレーター室の前に防護網を設置した。
撤去数量の確保への対応だが、むやみやたらに壊してしまうと、(コンクリートが)飛散
して、どこに行くかわからない。おおよその順番として、上部・蓋コンクリート部分を壊
し、次に中詰材を取り出し、最後にケーソン側壁を取ることにし、(コンクリートの)流出
を抑えた。
揚土方法だが、やはり想像通り、大きなコンクリート塊が揚がってきたので、起重機船
で揚げることにした(11P)。
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施工状況だが、左の写真はグラブ浚渫船のオペレータールームで、右側に付いているモ
ニターでケーソンのモニタリングを行っている(12P)。真ん中の写真が、グラブ船による
上部コンクリートの撤去状況である。グラブバケットの大きさからもわかるように、10t~
30t のコンクリート殻が揚がったこともあった。右側の写真が起重機船での揚土状況を示す。
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こうした対策を講じたことで、ケーソンの破砕を順調に進めることができた。特に GPS
で位置管理ができたので、砕岩棒を確実にケーソンにヒットさせることができた。また、
水中ソナーを使うことで掘跡を確認し、確実に設計深度を確保できた。防護網を使用した
ことで、コンクリートが飛び散りオペレーター室に激突することもなかったし、側壁を最
後に撤去したことで、中詰材の流出を最小限に抑えられた。起重機船を使用したことでコ
ンクリート塊を揚げられないこともなかった(13P)。
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撤去後の出来形だが、きれいにケーソンが取れていることがわかる(14P)。平均の深度
だが、設計の‐10m に対して‐12.3m だ。ちょっと深いが、砕岩棒を自由落下させるため、
‐10m を確実に確保するためには、‐10m より深く砕岩することになることが原因である。
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次に、陸上に揚げた後の分別・二次破砕の課題である。効率よく二次破砕するために、
含水率や塊の大きさは適当なのか、検収方法として、コンクリート殻や砂の数量をどのよ
うに確定するのか、などが陸上での課題として挙げられた(15P)。
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効率よく二次破砕を行うために、岸壁に揚げた状態の時に揚土場所を「コンクリート殻
混じり砂①」「コンクリート殻混じり砂②」「コンクリート殻」の三つに分けた。「コンクリ
ート殻混じり砂①」はまだ含水率の高いもの。一日抜気して次の日に運搬する。運搬して
いる日には「コンクリート殻混じり砂②」を抜気し、常に含水率を下げダンプトラックで
運搬しやすい状態にした(16P)。
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検収方法だが、撤去した中詰砂とコンクリート殻を張立て、体積を求めた。コンクリー
ト殻は設計数量がコンクリートの NET 数量となっているため、対比できるように単位体積
重量から変化率を求め、ほぐした数量を NET 数量に換算し、数量を確定した。中詰砂は、
コンクリート殻と砂のふるい分けを行うが若干のコンクリート殻が混じるので、粒度試験
から 2mm を境に砂とコンクリート塊に分け、数量を確定した(17P)。
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左の写真のように、岸壁上でバックホウ、大型ブレーカー、ニブラでコンクリートを破
砕。真ん中の写真は、分別ヤードで振り分けているところ。最後に右の写真のように、破
砕機を用いて規定の大きさまでコンクリート殻を破砕する(18P)。
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粒度試験と変化率についてだが、中詰材に含まれるコンクリート殻の割合は土質試験の
結果、平均 20.5%と確認された。コンクリート殻の変化率は平均 1.18 だった。出来高に対
するロス率だが、‐12.3m まで掘った出来形に対する陸上での検収値の差をロス率で表した。
無筋コンクリートは 1.02 で(再利用できたのは)ほぼ 100%だった。有筋コンクリート、主
にケーソン部分は 0.77 で 20%程度、中詰材については 0.73 で 30%程度となり、水中部分
の有筋コンクリートと中詰材に関しては、2~3割のロスが発生することがわかった(19P)。
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陸上の施工上の課題に対する結果だが、揚土岸壁を三つに区分けして水率や大きさを調
整した結果、ダンプ運転が滞りなく行うことができたのは効果的だった。検収方法につい
ても、粒度試験、単位体積重量から変化率を求めるという裏付けがあったので、しっかり
とした管理ができた(20P)。
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最後に、破砕材の中詰材への流用および混合率の課題である。撤去した中詰材は新設ケ
ーソンの中詰材として活用したのだが、その条件は「湿潤時の単位体積重量が 18.1kN/㎥以
上」だった。混合方法も、どこでどのように混合するかが課題であった(21P)。
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混合率については、コンクリート殻と撤去砂はすべて使用する前提であった。全体から
挙がってきた撤去数量は、破砕材と砂がほぼ 1対 2の割合だったので、1対 2で混合試験を
行いながら、18.1kN/㎥を超えるかどうかを検証した。また、震災土砂については、震災で
貯まった土を活用してほしいという八戸市からの要請があった。震災土砂は湿潤時単位体
積重量が小さかったので、砕石(C-40)と混合して使用することにした。混合方法につい
ては、混合率をダンプトラックの台数で管理し、積出岸壁で混合した(22P)。
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使用材料と混合比だが、撤去した破砕材、分別した砂、山砂、震災土砂、砕石(C-40)
と、湿潤時の重量は設計の単位体積重量をすべて超えていたのだが、震災土砂に関しては
(18.1kN/㎥以下だったので)単体では使用できなかった(23P)。また、中詰砂と破砕材に
ついては混合使用してほしいという指示があったので、単体で条件をクリアしていたが混
合使用した。下の表のように破砕材と砂、砕石(C‐40)と震災土砂を 1対 2の割合で混合
した(23P)。
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試験方法だが、約 1 ㎥の鋼製の容器に海水を 3 分の 1 程度入れ、そこに混合した材料を
入れていく。容器天端まで中詰材を投入し、トラックスケールで重量を計測する。このよ
うな形で湿潤時単位体積重量を試験した(24P)。湿潤時単位体積重量の測定結果は、破砕
材と砂(混合材①)が平均 20.3kN/㎥、砕石(C‐40)と震災土砂(混合剤②)が 19.4kN/
㎥だったので、18.1kN/㎥以上をクリアしている(25P)。
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最後のまとめになるが、構造物撤去工事を円滑に進めるために重要なのは、海上施工と
陸上施工のバランスを保つことである。また、作業内容や静穏度の関係から、作業船の損
傷が多く発生した。港を守る防波堤が破壊されていたので、港内とはいえ静穏度が保たれ
ない。
そうした状況で作業を行うため船に損傷を受けた。加えて、ケーソンの形状とグラブバケ
ットを合わせてつかむことは皆無だった。ケーソンの上部壁と側壁は直角に交わっている
ので、バケットがうまくかみ合えばひねる力が生じないのだが、どうしても斜めに(つか
んで)ひねってしまう。グラブバケットの爪やバケットに大きなダメージを受けた。
今後の課題として、波浪に強い作業船、より強固なグラブバケットが必要であろう。こ
うしたハード面に加え、構成する船団、船員の教育も重要だと感じている。中詰材の流用
だが、今後もいろいろなところで災害復旧工事が行われれば、リサイクル材や発生土砂が
発生する。リサイクルや廃棄物処理の観点からも、その転用・活用は重要だと思う(26P)。
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(文責:協会事務局)