第 12 章「fbm fo-u 過程の統計的推測」20130021/ecmr/chap12-2013.pdf第12 章「fbm...

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12 章「fBm fO-U 過程の統計的推測」 する した. に拡 した する う.そ ため fBm (フラクショナル Brown fO-U(フラクショナル O-U あり, ,これ して, および 題を する. 12.1 fBm への弱収束 ここ ,まず, fBm が, した ARFIMA(p, d, q ) モデルに して られるこ そう.そ ために, FCLT について する. お,FCLT について ARFIMA モデルが り扱いが異 るが,ここ について る. について 扱うこ にする. まず, 扱った ARFIMA(p, d, q ) モデルに {η j } を,d = H 1/2 して, ように する. (1 L) H1/2 η j = u j = θ(L) φ(L) ε j = α(L) ε j , 0 <H 1/2 < 1/2 (1) ここ {ε j }∼ i.i.d.(02 ) あり,{u j } ARMA(p, q ) ある. パラメータ d = H 1/2 について 0 <d< 1/2 している {η j } り,MA() による η j = (1 L) (H1/2) u j = 1 Γ(H 1/2) k=0 Γ(k + H 1/2) Γ(k + 1) u j k = k=0 ψ k ε j k (2) つ. ψ k について ψ k = O(k H3/2 ) り, する い. u j = ε j ψ k = Γ(k + H 1/2)/(Γ(H 1/2)Γ(k + 1)) ある( 1). ように された ARFIMA(p, H 1/2,q ) モデルに対する FCLT るた めに, する. fBm(フラクショナル Brown 運動) M する き, [0,M ] され, から する B H (t)= c H 0 −∞ (t u) H1/2 (u) H1/2 dW (u)+ t 0 (t u) H1/2 dW (u) (3) する.ここ (a) {W (t)} BmBrown ある. (b) H Hurst 指数 れるパラメータ あり,1/2 <H< 1 ある. (c) c H あり, ように えられる. c H = 2H Γ(3/2 H ) Γ(H +1/2)Γ(2 2H ) 1

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Page 1: 第 12 章「fBm fO-U 過程の統計的推測」20130021/ecmr/chap12-2013.pdf第12 章「fBm とfO-U 過程の統計的推測」 前章では,離散時間の長期記憶的時系列に関する統計的推測を議論した.本章では,連続

第 12 章「fBm と fO-U 過程の統計的推測」

前章では,離散時間の長期記憶的時系列に関する統計的推測を議論した.本章では,連続時間に拡張した場合の長期記憶性に関する議論を行う.そのための代表的な確率過程は,fBm(フラクショナル Brown 運動)と fO-U(フラクショナル O-U 過程)であり,本章では,これらの確率過程を中心として,推定および検定の問題を考察する.

12.1  fBm への弱収束ここでは,まず,fBmが,前章で議論した離散時間の ARFIMA(p, d, q)モデルに従う長期記

憶時系列の極限として得られることを示そう.そのために,離散時間長期記憶時系列の FCLTについて説明する.なお,FCLT については,ARFIMA モデルが定常な場合と非定常な場合で取り扱いが異なるが,ここでは,定常な場合について述べる.非定常な場合については,本章 節で扱うことにする.まず,前章で扱った ARFIMA(p, d, q) モデルに従う時系列 {ηj} を,d = H − 1/2 として,

次のように定義する.

(1 − L)H−1/2 ηj = uj =θ(L)

φ(L)εj = α(L) εj, 0 < H − 1/2 < 1/2 (1)

ここで,{εj} ∼ i.i.d.(0, σ2) であり,{uj} は,定常,反転可能な ARMA(p, q) 過程である.差分パラメータ d = H − 1/2 については,0 < d < 1/2 を仮定しているので,{ηj} も,定常,反転可能な系列となり,MA(∞) による表現

ηj = (1 − L)−(H−1/2) uj =1

Γ(H − 1/2)

∞∑k=0

Γ(k +H − 1/2)

Γ(k + 1)uj−k =

∞∑k=0

ψk εj−k (2)

をもつ.係数 ψk については,ψk = O(kH−3/2) となり,減少する程度は非常に遅い.実際,uj = εj の場合には,ψk = Γ(k +H − 1/2)/(Γ(H − 1/2)Γ(k + 1)) である(問題 1).以上のように定義された定常な ARFIMA(p,H − 1/2, q) モデルに対する FCLT を述べるた

めに,次の確率過程を定義する.

・fBm(フラクショナル Brown 運動)M を任意の正の実数とするとき,区間 [0,M ] 上で定義され,原点から出発する連続時間確

率過程

BH(t) = cH

[∫ 0

−∞

{(t− u)H−1/2 − (−u)H−1/2

}dW (u) +

∫ t

0(t− u)H−1/2 dW (u)

](3)

を定義する.ここで,

(a) {W (t)} は Bm(標準 Brown 運動)である.

(b) H は,Hurst 指数と呼ばれるパラメータであり,1/2 < H < 1 である.

(c) 定数 cH は,標準化定数であり,次のように与えられる.

cH =

√√√√ 2HΓ(3/2−H)

Γ(H + 1/2)Γ(2 − 2H)

1

Page 2: 第 12 章「fBm fO-U 過程の統計的推測」20130021/ecmr/chap12-2013.pdf第12 章「fBm とfO-U 過程の統計的推測」 前章では,離散時間の長期記憶的時系列に関する統計的推測を議論した.本章では,連続

このとき,確率過程 {BH(t)} を fBm(フラクショナル Brown 運動)という.

式 (3) で定義された fBm は,Bm に関する 2 つの Stieltjes 積分を含んでいる.第 1 の積分は,無限の過去からの Bm に関する積分であり,平均 2 乗の意味での積分可能性は自明ではない.この点について見てみよう.まず,t を固定して,u→ −∞ とすると,

{(t− u)H−1/2 − (−u)H−1/2

}2=

{(−u)H−1/2

((1 − t

u

)H−1/2

− 1

)}2

∼ (H − 1/2)2 t2(−u)2H−3

となるので,2H − 3 < −1 であることから,u → −∞ で積分可能である.また,u ↗ 0 の場合には,H − 1/2 > 0 であるから,問題ない.第 2 の積分も,積分可能であるので,BH(t) は,明確に定義されている.なお,fBm を無限の過去からの Bm の増分を使って定義することの理由は,定常増分性を確保するためである.この点については,次節で述べることにする.確率過程としての fBm は,Kolmogorov により,1940 年頃に考案されたと言われている.

その後,Mandelbrot-Van Ness (1968) により,積分表現 (3) が得られた.それは,2 つの積分から成り立っており,最初の積分は (−∞, 0] 上で,あとの積分は [0, t] 上での Bm に関するStieltjes 積分である.表現は複雑であるが,Bm の増分の独立性より,これら 2 つの積分は,互いに独立である.したがって,次のことが成り立つ.

V(BH(t)) = c2H

[∫ 0

−∞

{(t− u)H−1/2 − (−u)H−1/2

}2du+

∫ t

0(t− u)2H−1 du

]

= c2H t2H[∫ ∞

0

{(1 + u)H−1/2 − uH−1/2

}2du+

1

2H

]= t2H (4)

ここで,

1

c2H=∫ ∞

0

{(1 + u)H−1/2 − uH−1/2

}2du+

1

2H=

Γ(H + 1/2)Γ(2 − 2H)

2HΓ(3/2−H)(5)

となることは,あとで示すことにする.定数 cH は,時点 t = 1 において,V(BH(1)) = 1 となるという意味で基準化定数である.さて,ARFIMA(p,H − 1/2, q) モデルに従う時系列 {ηj} から,次の部分和過程を構成し

よう.

X(H)T (t) =

cH Γ(H + 1/2)

THσ

[Tt]∑j=1

ηj + (Tt− [Tt])cHΓ(H + 1/2) η[Tt]+1

THσ(6)

このとき,次の FCLT が成り立つ(Davydov (1970)).

定理 12.1 式 (1) の ARFIMA(p, d, q) モデルに従う時系列 {ηj} において,E(ε4j) < ∞ とす

る.このとき,(6) で定義される部分和過程 {X(H)T } に対して,X(H)

T ⇒ α(1)BH なる FCLTが成り立つ.

{ηj} が ARIMA(0, H − 1/2, 0) に従う場合に,定理の直観的な証明を与えよう.まず,

[Tt]∑j=1

ηj =[Tt]∑j=1

∞∑k=0

ψk εj−l =0∑

j=−∞

⎛⎝[Tt]−j∑

k=0

ψk −−j∑k=0

ψk

⎞⎠ εj +

[Tt]∑j=1

⎛⎝[Tt]−j∑

k=0

ψk

⎞⎠ εj

2

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において,Sowell (1990) の結果を使って,

j∑k=0

ψj =1

Γ(H − 1/2)

j∑k=0

Γ(k +H − 1/2)

Γ(k + 1)=

1

Γ(H + 1/2)

Γ(j +H + 1/2)

Γ(j + 1)

≈ 1

Γ(H + 1/2)jH−1/2

を得る.したがって,

[Tt]∑j=1

ηj ≈ TH−1/2

Γ(H + 1/2)

⎡⎣ 0∑

j=−T

{(t− j

T

)H−1/2

−(− j

T

)H−1/2}εj +

[Tt]∑j=1

(t− j

T

)H−1/2

εj

⎤⎦

となるので,次の結果が得られる.

1

TH σ

[Tt]∑j=1

ηj ⇒ 1

Γ(H + 1/2)

[∫ 0

−∞

{(t− u)H−1/2 − (−u)H−1/2

}dW (u)

+∫ t

0(t− u)H−1/2 dW (u)

]

このことと,再度,Sowell (1990) の結果を使うと,

limT→∞

V

⎛⎝ 1

TH σ

T∑j=1

ηj

⎞⎠ =

Γ(2 − 2H)

2HΓ(H + 1/2)Γ(3/2−H)

=1

Γ2(H + 1/2)

[∫ ∞

0

{(1 + u)H−1/2 − uH−1/2

}2du+

1

2H

]

が得られる.このことから,式 (5) の関係が証明され,定理 12.1 の成立が直観的に示された.なお,厳密な証明については,Helland (1982) を参照されたい.また,{ηj} が ARIMA(p, d, q)に従う場合の FCLT は,B-N 分解を使って証明できる(問題 2).

12.2  fBm の性質ここでは,fBm のさまざまな性質について考えることにする.まず,fBm がもっている代

表的な性質は,次の通りである.

(i) 定常増分をもつ.すなわち,次のことが成り立つ(問題 3).

V(BH(t) − BH(s)) = (t− s)2H (7)

したがって,増分の分布は,時間差だけに依存する.すなわち,次の性質が成り立つ.

{BH(t+ u) −BH(u)} D= {BH(t)} (u > 0) (8)

(ii) 共分散関数は,(7) の結果より次のように与えられる.

Cov(BH(s), BH(t)) =1

2[V(BH(s)) + V(BH(t)) − V(BH(t) − BH(s))]

=1

2

[s2H + t2H − (t− s)2H

](9)

3

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(iii) 各 k = 1, 2, · · · に対して,増分 ΔBH(k) = BH(k) − BH(k − 1) の共分散関数 r(n) は,n→ ∞ のとき,

r(n) = Cov(ΔBH(k), ΔBH(k + n))

=1

2

[(n+ 1)2H + (n− 1)2H − 2n2H

]∼ H(2H − 1)n2H−2 (n→ ∞) (10)

となる.ここで,−1 < 2H − 2 < 0 であることから,

∞∑n=1

r(n) =∞∑

n=1

Cov(ΔBH(k), ΔBH(k + n)) = ∞ (11)

が成り立つ.この意味で,fBm は,長期記憶的である.通常の Bm の場合は,独立増分をもつので,r(n) (n = 1, 2, · · ·) は,すべて 0 となる.この意味で,Bm は,短期記憶的である.

(iv) 式 (10) の関係は,時差が大きい場合に成り立つ関係であるが,この関係は,時差が微小の場合にも,形式的に次のことが成り立つ.

Cov(dBH(s), dBH(t)) = E(dBH(s) dBH(t)) = H(2H − 1)(t− s)2H−2 dsdt (12)

この関係を,fBm の微小増分ルールという.

(v) 自己相似性(self-similarity)をもっている.すなわち,次のことが成り立つ.

{BH(at)} D= {aH BH(t)} (a > 0) (13)

(vi) マルチンゲールでない.

上記の性質のそれぞれについて,Bm との違いに注意しながら見てみよう.まず,(i) の定常増分性は,Bm も共有する性質である.ただし,fBm では,定常増分が定常であるのに対して,Bm の場合は定常増分が独立となる.この点については,(iii) および (iv) に関係することなので,後述する.共分散関数に関する性質 (ii) は,Bm の場合にも H = 1/2 とすれば成り立つので,H に関

して連続性がある性質である.長期記憶性に関する性質 (iii) は,Bm の場合には,増分が独立となることから,すべての n = 1, 2, · · · に対して,r(n) = 0 となる.したがって,Bm は長期記憶的ではない.この点は,fBm と本質的に異なる点である.性質 (iv) の微小増分ルールの関係式 (12) は,次のように求めることができる.まず,次の

関係に注目する.

Cov(BH(s), BH(t)) =1

2

[s2H + t2H − (t− s)2H

]

= H(2H − 1)∫ s

0

∫ t

0(v − u)2H−2 dudv (14)

他方で,次の表現を考える.

Cov(BH(s), BH(t)) = Cov(∫ s

0dBH(u),

∫ t

0dBH(v)

)

=∫ s

0

∫ t

0E(dBH(u) dBH(v)) (15)

4

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したがって,(14) と (15) から,形式的に (12) の関係が得られる.なお,(12) の関係に関する詳細については,Gripenberg-Norros (1996) を参照されたい.性質 (v) の自己相似性が意味することは,時間を変換して a 倍した時点で考える分布は,変

換前の値の aH 倍の分布になる,ということである.これは,Bm の場合にも同様に成り立つ性質である.この変換により,変換後の分散は a2H 倍となる.自己相似性により,例えば,次のことが成り立つ(問題 4).∫ M

0B2

H(t) dtD= M2H+1

∫ 1

0B2

H(t) dt

最後の (vi) は,(iii),(iv) とともに,Bm と本質的に違う性質である.Bm はマルチンゲールであり,Ito 解析は,その事実を使って展開される.なお,Ito 解析は,マルチンゲールよりも広いクラスのセミマルチンゲールに対しても適用可能である.しかし,fBm は,セミマルチンゲールでもないので,それも不可能である.実際,次の積分は,Ito 積分として定義することはできない.

S =∫ M

0BH(t) dBH(t) (1/2 < H < 1) (16)

次節では,fBm に関連した Girsanov の定理を示して,Bm の場合との違いを詳しく見ることにする.

12.3  fBm に対する Girsanov の定理ここでは,fBmに関連した 2つの確率過程を取り上げて,確率測度の変換に関する Girsanov

の定理がどのような形で成り立つかを説明する.第 1 の確率過程は 1 次のトレンドが加わった場合であり,第 2 の確率過程はフラクショナルな O-U 過程の場合である.

12.3.1  1 次のトレンドを含む fBm次の確率過程を考えよう.

XαH(t) = α t+BH(t) (0 ≤ t ≤M) (17)

ここで,α は,任意の定数である.XαH(t) 1 次のトレンドを含む fBm である.このとき,次

の定理が成り立つ.証明は,Norros-Valkeila-Virtamo (1999) を参照されたい.

定理 12.2 式 (17) で定義された確率過程 XαH = {Xα

H(t)} と BH = {BH(t)} に誘導される(C[0,M ],B(C[0,M ])) 上の確率測度を,それぞれ μXα

H, μBH

とする.すなわち,

μXαH(A) = P (Xα

H ∈ A), μBH(A) = P (BH ∈ A), A ∈ B(C[0,M ])

である.このとき,μXαHと μBH

は同値であり,Radon-Nikodym の導関数は,

dμXαH

dμBH

(XαH) = exp

[αMα

H(M) − α2

2V(Mα

H(M))

](18)

で与えられる.ここで,

MαH(t) = c1

∫ t

0(u(t− u))1/2−H dXα

H(u) = c1

∫ t

0(u(t− u))1/2−H (αdu+ dBH(u))

=Γ(3/2 −H)

2HΓ(H + 1/2)Γ(3 − 2H)t2−2Hα +MH(t) (19)

5

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c1 =1

2HΓ(3/2 −H)Γ(H + 1/2)

V(MαH(t)) = V(MH(t)) =

Γ(3/2 −H)

2HΓ(H + 1/2)Γ(3 − 2H)t2−2H (20)

MH(t) = c1

∫ t

0(u(t− u))1/2−H dBH(u) (21)

Radon-Nikodym の導関数は,マルチンゲールであるが,その表現には,新たな確率過程Mα

H(t) が入り込んで複雑な様相を呈している.このことも,fBm がマルチンゲールでないことの表れである.Mα

H(t) は,式 (19) のように,2 つの項からなっている.式 (20) の V(MαH(t))

の表現を使えば,

MαH(t) = V(Mα

H(t))α +MH(t) (22)

と表すこともできる.ここで,第 1 項は,t の単調連続関数,第 2 項の MH(t) は (21) で定義されており,マルチンゲールとなることが知られている.すなわち,

Cov(MH(s), MH(t)) = V(MH(s)) =Γ(3/2 −H)

2HΓ(H + 1/2)Γ(3 − 2H)t2−2H (s < t)

となる.このことから,MαH(t)はセミマルチンゲールとなり,α = 0の場合には,マルチンゲー

ルとなる.ところで,式 (18) の導関数は,パラメータ α の尤度関数とみなすことができる.したがっ

て,α の MLE α は,(22) を使って,

α =Mα

H(M)

V(MαH(M))

= α +MH(M)

V(MαH(M))

∼ N

(α,

1

V(MH(M))

)

となる.標準化することにより,結局,次の表現が得られる.

M1−H (α− α) ∼ N

(0,

2HΓ(H + 1/2)Γ(3 − 2H)

Γ(3/2 −H)

)= N(0, λH) (23)

他方,α の LSE α は,式 (17) の確率微分 dXH(t) = α dt+ dBH(t) から,

α =

∫M0 dXH(t)∫M

0 dt=

1

MXH(M) = α +

BH(M)

M∼ N(α, M2H−2)

となる.したがって,次の結果を得る.

M1−H (α− α) ∼ N(0, 1) (24)

表 12-1 は,式 (23) で示された標準化 MLE の分布の分散 λH を,さまざまな H の値に対して計算したものである.なお,H < 1/2 の場合は考察の対象外であるが,参考のために示してある.LSE の分散は,式 (24) にあるように,常に 1 であるから,MLE の方が一様によい推定量である.特に,H < 1/2 の場合には,MLE の優位性が目立つが,H > 1/2 の場合には,両者の差は微小である.なお,H = 1/2 の場合には,両者は一致する.次節では,モデル (17)からデータが離散的に観測される場合の推測理論について議論する.

6

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表 12-1 MLE の分散 λH = 2HΓ(H + 1/2)Γ(3 − 2H)/Γ(3/2−H)

H 0.15 0.25 0.35 0.45 0.55 0.65 0.75 0.85 0.95

λH 0.7021 0.8986 0.9738 0.9979 0.9985 0.9907 0.9833 0.9818 0.9906

12.3.2  fO-U 過程ここでは,確率微分により定義された次の確率過程を考えよう.

dYH(t) = αYH(t) dt+ dBH(t), YH(0) = 0 (0 ≤ t ≤ M) (25)

ここで,α はドリフト・パラメータであり,BH(t) は fBm である.このようにして定義される確率過程 YH(t) を fO-U 過程(フラクショナル O-U 過程)という.α = 0 の場合は fBm に帰着する.以下,fO-U 過程の性質を列挙しよう.

(i) 次のような一意的な解をもっている.

YH(t) = eαt∫ t

0e−αs dBH(s) (26)

(ii) 共分散関数は,式 (12) の微小増分ルールにより,次のように与えられる.

Cov(YH(s), YH(t)) = H(2H − 1)eα(s+t)∫ s

0

∫ t

0e−α(u+v)|u− v|2H−2 dudv (27)

(iii) 長期記憶的な誤差項をもつ単位根近接過程の分布収束先である.すなわち,

yj = ρyj−1 + ηj, ρ = 1 +α

T, y0 = 0 (j = 1, · · · , T ) (28)

において,ηj が ARFIMA(0, H − 1/2, 0)

(1 − L)H−1/2ηj = εj , {εj} ∼ i.i.d.(0, σ2)

に従うとき,次の分布収束が成り立つ.

cH Γ(H + 1/2)

σ THy[Tt] ⇒ YH(t) (0 ≤ t ≤ 1)

上記の性質 (i) は,通常の O-U 過程の場合には,よく知られた事実であるが,今の場合の証明については,Cheridito-Kawaguchi-Maejima (2003) を参照されたい.なお,ここでは,Riemann-Stieltjes 積分が使われているが,fBm はマルチンゲールでないので,性質 (ii) にあるように,共分散の計算では注意が必要である.分散は,

V(YH(t)) = H(2H − 1)e2αt∫ t

0

∫ t

0e−α(r+s)|r − s|2H−2 dr ds (1/2 < H < 1)

7

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となるが,この計算も,これ以上は簡単にできそうもないと思われる.性質 (iii) は,もっと一般に,ηj が ARFIMA(p,H − 1/2, q) 過程

(1 − L)H−1/2 ηj =θ(L)

φ(L)εj = α(L)εj, {εj} ∼ i.i.d.(0, σ2) (29)

に従う場合にも拡張できる.すなわち,式 (28)の時系列 yj の誤差項 ηj が,式 (29)の ARFIMA過程に従うとき,部分和過程

Y(H)T (t) =

cHΓ(H + 1/2)

σ THy[Tt] + (Tt− [Tt])

cHΓ(H + 1/2)

σ TH

(y[Tt]+1 − y[Tt]

)

に対して,次の FCLT が成り立つ.

Y(H)T ⇒ α(1)YH

このような fO-U 過程の測度変換に関して,Kleptsyna-Le Breton-Roubaud (2000) は,次の定理を証明した.

定理 12.3 次の 2 つの fO-U 過程を定義する.

dY αH (t) = αY α

H (t)dt+ dBH(t), dY βH(t) = βY β

H(t)dt+ dBH(t), Y αH (0) = Y β

H(0) = 0

このとき,それぞれの確率過程により誘導される測度 μY αHと μY β

Hは同値であり,Y γ

H = {Y γH(t)}

で評価された Radon-Nikodym の導関数は,次のように与えられる.

dμY αH

dμY βH

(Y γH) = exp

[(α− β)

∫ M

0Qγ

H(t)dZγH(t) − α2 − β2

2

∫ M

0{Qγ

H(t)}2 dvH(t)

](30)

ここで,

vH(t) =t2−2HΓ(3/2 −H)

2HΓ(3 − 2H)Γ(H + 1/2)(31)

QγH(t) =

HΓ(2 − 2H)Γ(H + 1/2)

Γ(3/2 −H)

{t2H−1Zγ

H(t) +∫ t

0s2H−1 dZγ

H(s)}

(32)

ZγH(t) =

1

2HΓ(3/2 −H)Γ(H + 1/2)

∫ t

0(s(t− s))1/2−H dY γ

H(s) (33)

式 (30) の右辺には,確率過程として QγH(t) と Zγ

H(t),決定論的な関数として vH(t) が導入されていて,定理 12.2 よりもさらに複雑な様相を呈している.ただし,H = 1/2 の場合には,

vH(t) = t, QγH(t) = Zγ

H(t) = Y γH(t) (H = 1/2)

となり,通常の O-U 過程における Girsanov の定理(第 4 章の定理 4.3)に帰着することがわかる.確率過程 Zγ

H(t) は,セミマルチンゲールであることが知られている(Kleptsyna-Le Breton(2002)).また,Qγ

H(t) は,L2 に属する確率過程であり,式 (30) の右辺の第 1 の積分は,Ito

8

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積分となっている.第 2 の積分は,Riemann-Stieltjes 積分である.なお,セミマルチンゲールである Zγ

H(t) は,次のように分解できる.

ZγH(t) = γ

∫ t

0Qγ

H(t) dvH(t) +MH(t)

ここで,MH(t) は,式 (21) で定義された確率過程であり,マルチンゲールとなっている.統計的推測の観点からは,モデル

dY αH (t) = αY α

H (t) dt+ dBH(t), Y αH (0) = 0 (0 ≤ t ≤M) (34)

におけるドリフト・パラメータ α の推定が重要である.LSE は,直観的には,

αLSE =

∫M0 Y α

H (t) dY αH (t)∫M

0 (Y αH (t))2 dt

= α +

∫M0 Y α

H (t) dBH(t)∫M0 (Y α

H (t))2 dt(35)

と定義される.しかし,BH(t) は,マルチンゲールでないので,分子の積分は Ito 積分とはならない.この積分については,新たな定義が必要となる.この点に関しては,本章 5 節で扱うことにする.他方,α の MLE は,定理 12.3 の結果を使って,尤度関数

l(α) =dμY α

H

dμY 0H

(Y αH ) = exp

[α∫ M

0Qα

H(t) dZαH(t) − α2

2

∫ M

0{Qα

H(t)}2 dvH(t)

]. (36)

から,次のように求めることができる.

αMLE =

∫M0 Qα

H(t) dZαH(t)∫M

0 {QαH(t)}2 dvH(t)

=U(H,M, α)

V (H,M, α)(37)

ここで,

U(H,M, α) =∫ M

0Qα

H(t) dZαH(t), V (H,M, α) =

∫ M

0{Qα

H(t)}2 dvH(t) (38)

本章 5 節では,MLE の密度関数を計算する.また,LSE との比較を行う.さらに,検定問題 H0 : α = 0 について考える.この仮説は,fO-U 過程が fBm に帰着するということであり,離散時間時系列との関連では,長期記憶過程を誤差項とする系列が単位根をもつかどうかの検定とみなすことができる.

12.4  fBm におけるトレンド・パラメータの推定本章 3.1 節で扱った 1 次のトレンド項を含む fBmを再度取り上げよう.ただし,ここでは,

モデル (17) からの観測値が離散的に得られる場合の推定問題を考える.今,時間間隔 h で,N個の観測値が得られるものとしよう.すなわち,次のモデルを考える.

Y (t) = αt+BH(t) (t = t1, t2, · · · , tN) ⇔ Y = αt + BH (39)

ここで,

ti = ih (i = 1, 2, · · · , N), t = (t1, · · · , tN )′

Y = (Y (t1), · · · , Y (tN))′, BH = (BH(t1), · · · , BH(tN ))′

9

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以上の設定のもとで,パラメータ α の MLE を考えよう.対数尤度は,

L(μ) = −N2

log(2π) − 1

2log |ΓH | − 1

2(Y − αt)′Γ−1

H (Y − αt)

で与えられる.ここで,

ΓH = V(BH) =[1

2h2H

(i2H + j2H − |i− j|2H

)]i,j=1,···,N

このとき,α の MLE は,次のようになる.

α =t′Γ−1

H Y

t′Γ−1H t

= α+t′Γ−1

H BH

t′Γ−1H t

∼ N

(α,

1

t′Γ−1H t

)(40)

この結果は,0 < H < 1 のときに成り立つ.特に,H = 1/2 のときは,次のように簡単になる(問題 5).

α =1

NhY (Nh) ∼ N

(α,

1

Nh

)(H = 1/2) (41)

一般の場合に戻って,N → ∞ のときの MLE α の収束のオーダーについて考えよう.式(40) より,√

t′Γ−1H t (α− α) ∼ N(0, 1) (42)

が得られる.ここで,本章 3.1 節で議論した連続時間における結果,すなわち,区間 [0,M ] で観測値が得られる場合の MLE α の分布が,式 (23) にあるように,

M1−H (α− α) ∼ N

(0,

2HΓ(H + 1/2)Γ(3 − 2H)

Γ(3/2 −H)

)= N(0, λH)

で与えられる.このことから,離散的に観測値が得られる今の場合には,次のことが成り立つことが予想される.

t′Γ−1H t = O

((Nh)2−H

), α− α = Op

((Nh)H−1

)

そして,MLE の漸近分布は,次のようになるものと予想される.

(Nh)1−H(α− α) → N(0, λH) (43)

ここで,

λH = limN→∞

λHN = limN→∞

(1

(Nh)2−2Ht′Γ−1

H t

)−1

(44)

上記の予想の正しさは,式 (44) が成り立つかどうかにかかっている.このことを検証するために,表 12-2 には,次の 2 つの値

λ−1HN =

1

(Nh)2−2Ht′Γ−1

H t, λ−1H =

Γ(3/2 −H)

2H Γ(H + 1/2) Γ(3 − 2H).

を,さまざまな H と N に対して計算した結果を示している.この結果から,上述の予想は正しいものと推測されるが,厳密な証明も必要であろう.

10

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表 12-2  λ−1HN と λ−1

H の値

H 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9

N = 10

λ−1HN 1.3501 1.1231 1.0382 1.0070 1.0000 1.0037 1.0104 1.0146 1.0122

N = 50

λ−1HN 1.6432 1.1870 1.0535 1.0093 1.0000 1.0048 1.0130 1.0180 1.0149

N = 100

λ−1HN 1.7022 1.1974 1.0558 1.0097 1.0000 1.0049 1.0133 1.0184 1.0152

N = 500

λ−1HN 1.7592 1.2065 1.0577 1.0099 1.0000 1.0050 1.0136 1.0187 1.0155

N = 1000

λ−1HN 1.7676 1.2078 1.0579 1.0100 1.0000 1.0050 1.0136 1.0189 1.0155

λ−1H 1.7769 1.2091 1.0582 1.0100 1.0000 1.0050 1.0137 1.0188 1.0156

12.5  fO-U 過程のドリフト・パラメータの推定と検定ここでは,fO-U 過程のドリフト・パラメータ α が負あるいは 0 であると仮定して,その

推定問題および検定問題を考えよう.モデルは,

dYH(t) = αYH(t) dt+ dBH(t), YH(0) = 0 (0 ≤ t ≤ M) (45)

であり,観測値は,区間 [0,M ] で連続的に得られるものとする.推定量としては,以下の各小節で,それぞれ LSE と MLE のクラスについて議論しよう.検定問題については,最後の小節で議論する.

12.5.1 LSELSE については,2 種類の定義が可能である.まず,式 (35) で定義した推定量を

α1 =

∫M0 YH(t) dYH(t)∫M

0 Y 2H(t) dt

= α +

∫M0 YH(t) dBH(t)∫M

0 Y 2H(t) dt

(46)

としよう.

11

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本章 3.2 節で述べたように,式 (46) の最右辺第 2 項の分子の積分は,Ito 積分ではない.この積分は,次のように定義される.今,pm を区間 [0,M ] の任意の分割 pm : 0 = t0 < t1 <· · · < tm = M として,次の和を考えよう.

S(YH, pm) =m−1∑i=0

YH(ti)♦(BH(ti+1) − BH(ti))

ここで,‘♦’ は,Wick 積 と呼ばれる(詳しくは,Duncan-Hu-Pasik-Duncan (2000) を参照).このとき,積分は,Δm = max(ti − ti−1) として,次のように定義される.

∫ M

0YH(t) dBH(t) = lim

Δm→0

m∑i=1

YH(ti−1)♦(BH(ti) − BH(ti−1))

Wick 積は,次の性質をもっている.

E(YH(ti−1)♦(BH(ti) −BH(ti−1))) = E(YH(ti−1))E(BH(ti) −BH(ti−1)) = 0

このことから,通常の Ito 積分と同様に,次のことが成り立つ.

E

(∫ M

0YH(t) dBH(t)

)= 0

特に,次のことが成り立つ.∫ M

0BH(t) dBH(t) =

1

2

(B2

H(M) −M2H)

この事実は,H = 1/2 の場合には Ito 積分として周知のことである.他方,通常の Riemman 和による積分の定義も考えられる.ここでは,それを次のように表

すことにする.∫ M

0YH(t) δBH(t) = lim

Δm→0

m∑i=1

YH(ti−1)(BH(ti) − BH(ti−1))

このとき,次のことが成り立つ(問題 6).∫ M

0BH(t) δBH(t) =

1

2B2

H(M) (1/2 < H < 1)

以上,fBmによる 2つの積分を定義したが,これらの間には,次の関係がある(Hu-Nualart(2010)).

∫ M

0YH(t) δBH(t) =

∫ M

0YH(t) dBH(t) + E

(∫ M

0YH(t) δBH(t)

)(47)

さらに,Hu-Nualart (2010) は,次の事実を示した.

AH(M) = E

(∫ M

0YH(t) δBH(t)

)= H(2H − 1)

∫ M

0

∫ t

0u2H−2 eαu du dt (48)

∫ M

0YH(t) δBH(t) = −α

∫ M

0Y 2

H(t) dt+1

2Y 2

H(M) (49)

12

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∫ M

0YH(t) dBH(t) = −α

∫ M

0Y 2

H(t) dt+1

2Y 2

H(M) − AH(M) (50)

以上の議論から,式 (46) の α1 は,

α1 =Y 2

H(M)/2 −AH(M)∫M0 Y 2

H(t) dt(51)

と表すことができる.そして,Hu-Nualart (2010) は,α < 0 のとき,次の事実を証明した.

1

MY 2

H(M) → 0 (52)

limM→∞

1

MAH(M) = H(2H − 1)(−α)1−2H Γ(2H − 1) (53)

1

M

∫ M

0Y 2

H(t) dt → α−2H H Γ(2H) (54)

ここでの収束は,確率 1 および平均 2 乗の意味で成り立つ.したがって,M → ∞ のとき,次の大数の強法則が成り立つ.

α1 → −H(2H − 1)(−α)1−2H Γ(2H − 1)

α−2H H Γ(2H)= α (α < 0)

Hu-Nualart (2010) は,CLT についても,α < 0,1/2 ≤ H < 3/4 のとき,次の事実を証明した.

√M(α1 − α) → N(0,−ασ2

H), σ2H = (4H − 1)

(1 +

Γ(3 − 4H)Γ(4H − 1)

Γ(2 − 2H)Γ(2H)

)(55)

パラメータ α が 0 のときの α1 の漸近的性質については,別の議論が必要である.このとき,YH(t) = BH(t) となり,また,式 (48) より,AH(M) = M2H/2 となるから,

α1 =

(B2

H(M) −M2H)/2∫M

0 B2H(t) dt

D=

1

M

(B2H(1) − 1) /2∫ 10 B2

H(t) dt(α = 0)

を得る(問題 7).このことから,α1 = Op(M−1) で,一致性をもつ.ただし,漸近分布は正規

ではなく,M α1 が M に依存しないフラクショナルな単位根分布となる.この点は,α < 0 の場合との大きな違いである.次に,第 2 の積分で定義される推定量

α2 =Y 2

H(M)/2∫M0 Y 2

H(t) dt= α +

∫M0 YH(t) δBH(t)∫M

0 Y 2H(t) dt

. (56)

を取り上げよう.この推定量は,式 (28) で定義された離散時間のフラクショナルな単位根近接モデルにおける係数 ρ の推定量 ρ と密接に関連している.実際,次のことが成り立つ.

T (ρ− 1) =1

T 2H

T∑j=2

yj−1(yj − yj−1)

/1

T 2H+1

T∑j=2

y2j−1

⇒ Y 2H(1)/2∫ 1

0 Y 2H(t) dt

. (57)

13

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ここで,ρ = 1 + (α/T ) であるので,α = T (ρ − 1) となり,T (ρ − 1) は,α の LSE として解釈できる.推定量 α2 は,α < 0 ならば,(52) と (54) の関係から,M → ∞ のとき,0 に収束してし

まう.したがって,一致性をもたない.他方,α = 0 のときは,

α2D=

1

M

B2H(1)/2∫ 1

0 B2H(t) dt

(α = 0)

となることから,一致性をもち,Mα2 が M に依存しない非正規の分布となる.Hu-Nualart (2010) は,式 (54) の関係に注目して,α < 0 のもとで,推定量

α3 = −(

1

HΓ(2H)M

∫ M

0Y 2

H(t) dt

)−1/2H

(58)

を提案した.そして,α < 0,1/2 ≤ H < 3/4 ならば,次の CLT が成り立つことを証明した.

√M(α3 − α) → N

(0,− α

4H2σ2

H

)(59)

ここで,σ2H は,(55)で定義された値である.式 (55) と (59)からわかるように,推定量 α3 は,

α1 よりも漸近的によりよい推定量である.本節では,最小 2 乗法にもとづく 3 つの推定量を考察した.これらの密度関数を計算して

図示することは,非常に興味あることであるが,現在のところ,それは不可能な状況である.その理由は,

∫M0 Y 2

H(t) dtの特性関数を導出できないことによる.この問題に関しては,本章 6節で,再度取り上げることにしたい.

12.5.2 MLE と MCEパラメータ α の MLE については,すでに,式 (37) で次のように導出されている.

αMLE =

∫M0 Qα

H(t) dZαH(t)∫M

0 {QαH(t)}2 dvH(t)

=U(H,M, α)

V (H,M, α)(60)

ここで,

U(H,M, α) =∫ M

0Qα

H(t) dZαH(t), V (H,M, α) =

∫ M

0{Qα

H(t)}2 dvH(t) (61)

であり,vH(t),QαH(t),Zα

H(t) は,それぞれ,(31), (32), (33) で定義されている.複雑な表現であるが,α = 0,H = 1/2 の場合は,通常の単位根分布に帰着することがわかる.しかし,α = 0,H > 1/2 の場合の表現は,あまり簡単にはならない(問題 8).実際に MLE の計算が実行可能かどうかという問題が残るが,理論的には,MLE αMLE の

分布関数

FMLE(x) = P (αMLE < x) = P (xV (M,H, α) − U(M,H, α) > 0). (62)

を計算することは可能である.そのためには,U(M,H, α) と V (M,H, α) の同時 m.g.f. を導出する必要がある.次の定理は,その結果である.証明は,Kleptysna-Le Breton (2002) の驚嘆すべき方法と Girsanov の定理 12.3 を使えば示すことができる.詳細は,Tanaka (2013b)を参照されたい.

14

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Theorem 12.4 統計量 U(M,H, α) と V (M,H, α) の同時 m.g.f. は,次のように与えられる.

m(θ1, θ2) = E [exp{θ1U(H,M, α) + θ2V (H,M, α)}]= e−M(α+θ1)/2

[(1 +

(α+ θ1)2

μ2

)cosh2 μM

2− α + θ1

μsinh μM

+πM

4 sin πH

{−(α + θ1)

2

μI−H

(μM

2

)IH−1

(μM

2

)

+μI1−H

(μM

2

)IH

(μM

2

)}]−1/2

, (63)

ここで,μ =√α2 − 2θ2 である.また,Iν(z) は,第 1 種変形 Bessel 関数であり,次のように

定義される.

Iν(z) =∞∑

k=0

(z/2)ν+2k

k!Γ(ν + k + 1)(64)

この結果を使って,分布関数 FMLE(x) は,Imhof の方法より,次のように計算することができる.

FMLE(x) =1

2+

1

π

∫ ∞

0

1

θIm [m(−iθ, iθx)] dθ (65)

ここで,m(−iθ, iθx) は,xV (H,M, α) − U(M,H, α) の特性関数である.MLE以外にも,最尤法的に求められる推定量として,MCE(Minimum Contrast Estimator:

最小対照推定量)を考えることができる.この場合の MCE は,Bishwal (2008) で提案されたものであり,まず,スコア関数

s(α) =d log l(α)

dα=∫ M

0Qα

H(t) dZαH(t) − α

∫ M

0{Qα

H(t)}2 dvH(t)

=1

2

[2HΓ(2 − 2H)Γ(H + 1/2)

Γ(3/2 −H)Zα

H(M)∫ M

0t2H−1 dZα

H(t) −M

]

−α∫ M

0{Qα

H(t)}2 dvH(t)

を定義する.ここで,最後の式表現は,Kleptsyna-Le Breton (2002) による.このとき,MCEは,次の方程式の解として与えられる.

e(α) = −M2

− α∫ M

0{Qα

H(t)}2 dvH(t) = 0

したがって,次の表現を得る.

αMCE =−M/2∫M

0 {QαH(t)}2 dvH(t)

(66)

MCE は,常に非正の値をもたらす推定量であることがわかる.そして,分布関数は,

FMCE(x) = P (αMCE < x) = P (xV (H,M, α) +M/2 > 0)

=1

2+

1

π

∫ ∞

0

1

θIm

[eiMθ/2m(0, iθx)

]dθ (67)

15

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により計算することができる.ここで,eiMθ/2m(0, iθx) は,xV (H,M, α)+M/2 の特性関数である.以下,MLE と MCE の密度関数を数値計算して,図示してみよう.そのための計算方法

の説明は,ここでは省略する.詳細は Tanaka (2013b) を参照されたい.図 12-1 は,α = 0,H = 1/2 の場合の MLE αMLE の密度関数を M = 1, 5, 10, 20 の場合に図示したものである.これらは,通常の単位根分布に対応するものであり,M が大きくなると,真の値 0 に収束して行く様子がわかる.ここでは示していないが,α = 0 で,H > 1/2 の場合も,ほぼ同様である.ただし,H = 1/2 の場合よりも,ばらつきが若干小さくなる.この点については,あとで,分布のモーメントを計算して示すことにする.

図 12-1

図 12-2 には,αMCE の密度関数が α = 0,H = 1/2 の場合に描かれている.図 12-1 で示した αMLE の密度関数とは異なり,サポートが負であり,M が大きくなるにつれて,単調な形状となって行く.あとで示すように,H > 1/2 が大きくなるとばらつきが若干小さくなる点は,αMLE と同様である.

図 12-2

パラメータ α が 0 の場合の推定量の性質については,LSE の場合と同様に,次のことが成り立つ.

定理 12.4 Hurst パラメータ H と観測スパン M のもとでの α の MLE と MCE を,それぞれ,αMLE(H,M) and αMCE(H,M) とする.このとき,パラメータ α の真値が 0 ならば,次のことが成り立つ.

αMLE(H,M)D= αMLE(H, 1)/M, αMCE(H,M)

D= αMCE(H, 1)/M

この定理により,M αMLE(H,M) および M αMCE(H,M) の分布は,M に依存しない.さらに,次のことを示唆する.パラメータ α が 0 ならば,

xγ(H,M) = xγ(H, 1)/M, yγ(H,M) = yγ(H, 1)/M

ここで,xγ(H,M) と yγ(H,M) は,それぞれ,αMLE と αMCE の 100γ% 点である.図 12-3 と図 12-4 は,α が負の場合の MLE の密度関数である.前者は,α = −3,H = 0.7

であり,後者は,α = −5,H = 0.9 である.分布のばらつきは,α の絶対値が大きくなるにつれて大きくなるが,H の値にはあまり依存しない.また,M が大きくなるにつれて,正規分布へ分布収束する.これらの点については,すぐあとで,理論的に検証する.なお,MCE の密度関数は示していないが,α = 0 の場合と異なり,MLE と同様なので,ここでは省略する.

図 12-3 図 12-4

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パラメータ α が負の場合の漸近分布については,次のことが成り立つ.証明については,Brouste-Kleptsyna (2010),Bishwal (2011) を参照されたい.

定理 12.5 パラメータ α が負ならば,M → ∞ のとき,MLE と MCE の分布は漸近的に同一の正規分布となり,次のことが成り立つ.√

M (αMLE − α) → N(0, −2α),√M (αMCE − α) → N(0, −2α) (68)

漸近分布で注目すべき点は,Hurst パラメータ H の値に依存しない点である.パラメータα には依存して,その絶対値が大きくなるにつれて,分散が大きくなるという性質をもっている.いずれにしろ,MLE と MCE の漸近的な性質は,α = 0 と α < 0 の場合では,大きく異なることがわかった.表 12-3 には,MLE と MCE の平均と分散が示されている.なお,それぞれの k 次のモー

メントは,次のように計算することができる.

E(αkMLE) =

1

(k − 1)!

∫ ∞

0θk−12

∂m(θ1,−θ2)∂θk

1

∣∣∣∣∣θ1=0

dθ2 (69)

E(αkMCE) =

(−M2

)k 1

(k − 1)!

∫ ∞

0θk−12 m(0,−θ2) dθ2 (70)

ここで,m(θ1, θ2) は,式 (63) で定義された m.g.f. である.

表 12-3

表 12-3 では,MLE と MCE に関して今までに述べたことが裏付けされている.すなわち,次の事実である.

(i) パラメータ α が 0 のときは,観測スパンが M のときの推定量の平均は,M = 1 のときの 1/M であり,分散は 1/M2 となる.Hurst パラメータ H の値が大きくなるにつれて,分散は若干小さくなる.

(ii) パラメータ α が負のときは,2 つの推定量は,M が大きくなると互いに近づき,その分布は H に依存しない.

パラメータ α の推定量としては,MLE と MCE 以外にも,前小節では,LSE に基づく一致推定量 α1 と α3 を扱った.ここでは,これらの推定量の漸近的な相対的効率を考えてみよう.そのためには,式 (55),(59) と定理 12.5 から,次の関係を求めることができる.

eff1 = limM→∞

V(√M(αMLE − α))

V(√M(α1 − α))

=2

σ2H

(71)

eff3 = limM→∞

V(√M(αMLE − α))

V(√M(α3 − α))

=8H2

σ2H

(72)

ここで,σ2H は (55) で定義された値である.

図 12-5 には,1/2 < H < 3/4 の範囲で,eff1 と eff3 の値が図示されている.推定量として,α3 は,α1 に比べて優れているが,漸近的効率は,H が大きくなるにつれて,ともに 0 に単調減少していくことがわかる.

17

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図 12-5

12.5.3 パラメータ α に関する検定問題ここでは,パララメータ α に関する検定問題

H0 : α = 0 vs. H1 : α < 0. (73)

を考えよう.帰無仮説は,fO-U過程が fBmに帰着するということである.離散時間時系列との関連では,モデル (28) における係数パラメータ ρ に関する単位根検定とみなすことができる.検定統計量としては,αMLE と αMCE に基づくものを考えよう.仮説は,統計量が小さい

ときに棄却される.表 12-4 には,帰無分布の有意点が示されている.これは,M = 1 の場合である.任意の M の場合の有意点は,対応する値を M で割ればよい.

表 12-4

これらの検定の検出力については,次の性質がある.

定理 12.6 Hurst パラメータ H を与えられて,統計量 αMLE と αMCE に基づく α に関する(73) の検定の検出力は,α×M のみに依存する.

証明は,検出力関数が α×M のみに依存していることを確認すればよい.Tanaka (2013b)を参照されたい.表 12-5 は,2 つの検定の 5% 有意水準における検出力を α×M の値の観点から計算した結果である.特に,H = 1/2 の場合の MLE に基づく検定は,AR 単位根に関する DF検定の局所検出力と同一である(第 8 章の表 8.8 を参照).両者を比較すると,MLE に基づく検定の方が優れているが,その差はわずかである.また,H が大きい方が,検出力が高いこともわかる.図 12-6 は,H = 0.9 の場合の 2 つの検定の 5% 有意水準における検出力を図示したものである.

表 12-5 図 12-6

12.6  fBm のマルチンゲール近似前節では,fO-U 過程のドリフト・パラメータの推測問題を考察し,LSE や MLE などの性

質を議論した.その中で,MLE の分布は計算できたが,LSE については不可能であった.それは,LSE に関連する特性関数を導出できないことによる.ここでは,ある種の近似により,この問題を部分的に解決しよう.以下では,次の 2 つの統計量を扱おう.

SH =∫ 1

0B2

H(t) dt, RH =B2

H(1)/2∫ 10 B2

H(t) dt(74)

ここでは,観測スパンをM = 1 としてあるが,fBm BH(t) の自己相似性により,任意の M についても容易に考えることができる.SH は,H = 1/2 ならば,Bm の 2 乗の積分に帰着する統計量である.他方,RH は,本章 5.1 節で議論した fO-U 過程におけるドリフト・パラメータ α の LSE α2 であり,式 (56) で定義されたものである.ただし,RH は,α の真値が 0 の

18

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場合に対応した推定量であり,この場合には一致性をもっている.そして,式 (57) にあるように,離散時間におけるフラクショナルな単位根分布の意味合いをもっている.ここでの目的は,式 (74) の SH と RH を近似する統計量に関連した特性関数を求めること

である.以下,それぞれについて小節に分けて考えよう.さらに,最後の小節では,近似単位根分布のモーメントに関して,興味ある事実について述べることにする.

12.6.1  SH の近似SH は,分布の意味で同等な次の表現をもっている.

SH =∫ 1

0B2

H(t) dtD=∫ 1

0

∫ 1

0KH(s, t) dW (s)dW (t)

=∫ 1

0

∫ 1

0

1

2

(s2H + t2H − |s− t|2H

)dW (s)dW (t) (75)

ここで,

KH(s, t) = Cov(BH(s), BH(t)) =1

2

(s2H + t2H − |s− t|2H

)(76)

SH の特性関数を求めるには,第 4 章で議論した (i) 固有値アプローチ,(ii) Girsanov アプローチ,第 5 章で説明した (iii) Fredholm アプローチが考えられるが,いずれの方法も,ここでは適用できない.なぜなら,(i) は,核関数 KH(s, t) の固有値を明示的に求めることができないので,適用不可である.また,(ii) は,fBm に対する Girsanov の定理 12.2 あるいは定理12.3 のいずれもが適用できないから,不可である(問題 9).さらに,Fredholm アプローチも,積分方程式と同値な微分方程式の導出が困難で未知であるから,適用不可である.実際,積分方程式

f(t) = λ∫ 1

0KH(s, t) f(s) ds

の両辺を t に関して微分して,

f ′(t) = λH[t2H−1

∫ 1

0f(s)ds−

∫ t

0(t− s)2H−1f(s)ds+

∫ 1

t(s− t)2H−1f(s)ds

]

f ′′(t) = λH(2H − 1)[t2H−2

∫ 1

0f(s)ds−

∫ t

0(t− s)2H−2f(s)ds−

∫ 1

t(s− t)2H−2f(s)ds

]

を得る.しかし,これらから,扱いやすい微分方程式を導出することは困難である.核関数KH(s, t) に含まれる項 |s− t|2H が問題を困難にしている.ここでは,BH(t) を近似することを考える.そのために,本章 3 節の式 (21) で導入した確

率過程

MH(t) =1

2HΓ(3/2−H)Γ(H + 1/2)

∫ t

0(u(t− u))1/2−H dBH(u) (77)

を取り上げよう.MH(t) は,Norros-Valkeila-Virtamo (1999) で議論されたマルチンゲールであり,次の性質をもっている.

(a) H = 1/2 のときは Bm に帰着する.

(b) s < t のとき,MH(t) の増分は BH(s) と独立である.

(c) Cov(MH(s),MH(t)) = a2H (min(s, t))2−2H , aH =

√Γ(3/2−H)

2HΓ(H+1/2)Γ(3−2H)

19

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(d) Corr(BH(t),MH(t)) = a−1H

(e) MH(t) = bH∫ t0 u

1/2−H dW (u)D= MH(t), bH =

√2(1 −H) aH

上記の性質 (b) は,MH(t) の定義 (77) とマルチンゲール性による.性質 (c) は,マルチンゲール性をもたらす.性質 (d) の相関係数は,同一時点での BH(t) と MH(t) の相関係数を示している.この値は t に依存せずに一定であり,BH(t) を MH(t) で近似するために重要となる.H > 1/2 ならば,非常に強い相関があることをあとで示す.性質 (e) は,通常の Bm に関する積分で定義される確率過程 MH(t) が,MH(t) と同じ分布に従うことを述べており,実際の近似には MH(t) を使うことになる.図 12-7 には,上記の性質 (d) で述べた BH(t) と MH(t) の相関係数を 0 < H < 1 の範囲で

図示している.当然ながら,H = 1/2 のときの値は 1 である.H > 0.4 の範囲では,完全相関に近いことがわかる.

図 12-7

以上のことから,BH(t) を γMH(t) で近似する.ここで,γ は,

E(B2H(t)) = t2H = E

((γMH(t))2

)= γ2a2

Ht2−2H ⇔ γ = a−1

H t2H−1

となるように選ぶ.さらに,MH(t) を上記の性質 (e) にある MH(t) で置き換えることで得られる BH(t) の近似

CH(t) = γMH(t) =√

2(1 −H)t2H−1∫ t

0u1/2−H dW (u) (78)

を使って,SH の近似として,

TH =∫ 1

0C2

H(t) dt

=2(1 −H)

4H − 1

∫ 1

0

∫ 1

0

[1 − (max(s, t))4H−1

](s t)1/2−H dW (s)dW (t) (79)

D=

∫ 1

0

∫ 1

0(st)2H−1 (min(s, t))2−2H dW (s) dW (t). (80)

を考えることになる.ここで,式 (79) は,(78) の定義から,次のようにして得られる.

∫ 1

0C2

H(t) dt = 2(1 −H)∫ 1

0t4H−2

(∫ t

0

∫ t

0(u v)1/2−H dW (u)dW (v)

)dt

= 2(1 −H)∫ 1

0

∫ 1

0

(∫ 1

max(u,v)t4H−2 dt

)(u v)1/2−H dW (u)dW (v)

=2(1 −H)

4H − 1

∫ 1

0

∫ 1

0

[1 − (max(s, t))4H−1

](s t)1/2−H dW (s)dW (t)

他方,式 (80)は,Cov(CH(s), CH(t))から得られる関係である(問題 10).もちろん,H = 1/2のときは,SH = TH となり,

T1/2 =∫ 1

0

∫ 1

0[1 − max(s, t)] dW (s)dW (t)

D=∫ 1

0

∫ 1

0min(s, t) dW (s)dW (t). (81)

20

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が成り立つ.図 12-8 と図 12-9 は,それぞれ,H = 0.3 と H = 0.8 の場合に,近似統計量 TH と,真

の統計量 SH における核関数の差 DH(s, t) = Cov(CH(s), CH(t)) − Cov(BH(s), BH(t)) を図示したものである.後者のように,H が大きい場合には近似の程度がよいのに対して,前者のように,H が小さい場合には近似がよくないことが見てとれる.このことは,図 12-7 で示したBH(t) と CH(t) の相関係数の性質と符合している.

図 12-8 図 12-9

以上のことを踏まえて,SH の近似である TH の分布を求めてみよう.そのために,まず.TH の特性関数を求める.次の定理は,Fredholm アプローチにより,Tanaka (2013a)で得られた結果である.

定理 12.7 式 (79) あるいは (80) で定義された統計量 TH の特性関数は,次のように与えられる.

φH(θ) = E(eiθTH ) =

[(δ

2

Γ(1 − ν) J−ν(δ)

]−1/2

, (82)

ここで,

δ =

√2 − 2H

H + 1/2

√2iθ, ν =

2H − 1/2

H + 1/2

である.また,J−ν(z) は,階数 −ν の第 1 種 Bessel 関数であり,次のように定義される.

J−ν(z) =∞∑

k=0

(−1)k (z/2)2k−ν

k! Γ(k − ν + 1)(83)

この定理で,H = 1/2 のときは,

δ =√

2iθ, ν = 1/2, J−1/2(z) =√

2/(πz) cos z

となるので,この場合の特性関数は,

φH(θ) =(cos

√2iθ

)−1/2(H = 1/2)

となる.この結果は,すでに周知のものである.また,H = 1 のときも,特性関数は定義され,その場合には次のようになる(問題 11).

φH(θ) =

(1 − 2iθ

3

)−1/2

(H = 1)

これは,χ2(1) の定数倍の分布の特性関数,すなわち,Z ∼ N(0, 1/3) のときの Z2 の特性関数である.

TH の密度関数は,上で得られた特性関数 φH(θ) を反転することにより,数値積分で計算することができる.その結果が 図 12-10 に示されている.H = 1/2 の場合は SH = TH なので,正確な密度関数であるが,それ以外は近似である.これらは,単峰型であるが,H が 1 になると,原点で発散する単調関数となる.

21

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図 12-10

近似の程度を調べるために,SH と TH の平均と分散を比較してみよう.まず,平均は等しく,次のようになる.

E(SH) = E(TH) =1

2H + 1

そして,分散は,次のように計算できる(問題 12).

V(SH) =1

2

∫ 1

0

∫ 1

0

(s2H + t2H − |s− t|2H

)2dsdt =

4H + 3

(4H + 1)(4H + 2)− 2Γ2(2H + 1)

Γ(4H + 3)

V(TH) =d2φH(−iθ)

dθ2

∣∣∣∣∣θ=0

− E2(TH) =4H + 5

3(2H + 1)2− 1

(2H + 1)2=

2

3(2H + 1).

表 12-6 には,V(SH) と V(TH) が,H ≥ 1/2 のさまざまな値に対して計算されている.全体として,近似分布の分散は,真の分散と小数第 2 位あたりまで一致していることがわかる.表 12-7 には,TH の分布の分位点が示されている.H = 1 の場合は,χ2(1) の分布の分位点の1/3 となっている.

表 12-6 表 12-7

12.6.2 RH の近似次に,統計量 RH の近似として,次の RH を考えよう.

RH =12B2

H(1)∫ 10 B2

H(t) dt≈ RH =

12C2

H(1)∫ 10 C2

H(t) dt=UH

VH

, (84)

ここで,

UH =1

2

(∫ 1

0s1/2−H dW (s)

)2

=1

2

∫ 1

0

∫ 1

0(s t)1/2−H dW (s)dW (t) (85)

VH =∫ 1

0t4H−2

(∫ t

0u1/2−H dW (u)

)2

dt

=1

4H − 1

∫ 1

0

∫ 1

0

(1 − (max(s, t))4H−1

)(s t)1/2−H dW (s)dW (t) (86)

以上より,次の分布を扱うことになる.

P (RH < x) = P(xVH − UH > 0

)= P

(∫ 1

0

∫ 1

0KH(s, t; x) dW (s)dW (t) > 0

)

ここで,

KH(s, t; x) =x

4H − 1

(1 − (max(s, t))4H−1

)(s t)1/2−H − 1

2(s t)1/2−H (87)

22

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RH の分布関数は,KH(s, t; x) の FD (Fredholm 行列式)を導出することができれば,計算が可能となる.次の定理は Tanaka (2013a) で得られた結果である.

定理 12.8 式 (87) で与えられた核関数 KH(s, t; x) の FD は,次のようになる.

DH(λ; x) =(κ

2

Γ(1 − ν)

(J−ν(κ) +

λ

2

J1−ν(κ)√λx

)(88)

ここで,κ と ν は,次のように定義される.

κ =

√λx

H + 1/2, ν =

2H − 1/2

H + 1/2

この定理において,H = 1/2 ならば,

κ =√λx, ν = 1/2, J−1/2(z) =

√2/(πz) cos z, J1/2(z) =

√2/(πz) sin z

となるので,K1/2(s, t; x) = x(1 − max(s, t)) − 1/2 の FD は,次のようになる(問題 13).

D1/2(λ; x) = cos√λx+

λ

2

sin√λx√

λx

図 12-11 は,定理 12.8 を使って,RH の近似である RH の分布関数は,次のように計算することができる.

P (RH < x) =1

2+

1

π

∫ ∞

0

1

θIm

[(DH(2iθ; x))−1/2

]dθ

図 12-11 は,RH の密度関数を図示したものである.H = 1/2 の場合の密度は正確であるが,それ以外は近似である.近似密度は,原点で発散している.また,正のある値の所で峰をもっており,H が大きくなるにつれて,分布は右側にシフトする.

図 12-10

12.6.3 近似単位根分布のモーメントここでは,前小節で扱ったフラクショナル単位根分布 RH の近似である RH の分布のモー

メントを求めよう.そのために,まず,式 (84) の RH = UH/VH において,UH と VH の同時m.g.f. を考えよう.それは,次のように導出できる.

mH(θ1, θ2) = E[exp

(θ1UH + θ2VH

)]= [DH(−2θ1;−θ2/θ1)]−1/2

=

[( √2θ2

2H + 1

Γ(1 − ν)

(J−ν

( √2θ2

H + 1/2

)− θ1√

2θ2J1−ν

( √2θ2

H + 1/2

))]−1/2

ここで,ν = (2H − 1/2)/(H + 1/2) である.同時 m.g.f. を使えば,RH の j 次のモーメントは,次のように計算することができる.

E(Rj

H

)= E

⎡⎣(UH

VH

)j⎤⎦ =

1

(j − 1)!

∫ ∞

0θj−12

∂jmH(θ1,−θ2)∂θj

1

∣∣∣∣∣θ1=0

dθ2.

23

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特に,j = 1 のとき,次のように興味ある事実を導くことができる.

定理 12.9  RH の分布の平均は,次のように与えられる.

E(RH

)= E

(UH

VH

)= H +

1

2. (89)

この結果は,比の形 UH/VH の確率変数の平均にしては,非常に簡明である.ここで,分子,分母それぞれの平均は,

E(UH

)=

1

2

∫ 1

0t1−2H dt =

1

4(1 −H),

E(VH

)=

1

4H − 1

∫ 1

0

(1 − t4H−1

)t1−2H dt =

1

2(1 −H)(2H + 1).

となる.したがって,次のことが成り立つ.

E(RH

)= E

(UH

VH

)=

E(UH)

E(VH)=

1

4(1 −H)

/1

2(1 −H)(2H + 1)= H +

1

2.

すなわち,比の期待値は期待値の比に等しい.このことは,もし,RH が VH と独立ならば成り立つことである.しかし,それは成り立たない.このことを示すには,次のことを確かめればよい.

E(R2H V

2H) = E(U2

H) �= E(R2H) E(V 2

H)

実際,H = 1/2 ならば,次のことが成り立つ.

E(R21/2) = E

[(1

2W 2(1)

/∫ 1

0W 2(t) dt

)2]

=∫ ∞

0θ2∂2

∂θ21

[cosh

√2θ2 − θ1

sinh√

2θ2√2θ2

]−1/2∣∣∣∣∣∣θ1=0

dθ2

=3

8

∫ ∞

0

tanh2√

2θ2√cosh

√2θ2

dθ2 = 1.8907,

E(U21/2) =

1

4E(W 4(1)) =

3

4, E(V 2

1/2) = E

[(∫ 1

0W 2(t) dt

)2]

=7

12,

したがって,次の結果を得る.

E(U21/2) =

3

4�= E(R2

1/2) E(V 21/2) = 1.8907 × 7

12= 1.103.

今までは,フラクショナルな単位根分布の近似分布に関して,興味ある性質を見てきたが,多重単位根分布においても,このことが成り立つ.この点については,すでに,第 6 章で説明したことである.すなわち,{Fk(t)} が k 重積分 Bm のとき,

Rk =F 2

k (1)/2∫ 10 F 2

k (t) dt, (k = 0, 1, 2, · · ·)

24

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は,多重単位根モデル

yj = ρyj−1 + vj , ρ の真値 = 1, (1 − L)k vj = εj, {εj} ∼ i.i.d.(0, σ2)

における ρ の LSE ρ を基準化した統計量 T (ρ− 1) の極限分布となる.ただし,k = 0 の場合には,T (ρ− 1) の極限分布は,通常の単位根分布であり,R0 とは異なる分布をもっている.このとき,第 6 章で議論したように,次のことが成り立つ.

E(Rk) = E

(F 2

k (1)/2∫ 10 F 2

k (t) dt

)= k + 1

フラクショナルな単位根分布 RH についても,E(RH) = H + 1/2 となるであろうことが予想される.

25

Page 26: 第 12 章「fBm fO-U 過程の統計的推測」20130021/ecmr/chap12-2013.pdf第12 章「fBm とfO-U 過程の統計的推測」 前章では,離散時間の長期記憶的時系列に関する統計的推測を議論した.本章では,連続

第 12 章 練 習 問 題

1. 時系列 ηj が,次の MA(∞) に従うとする.

ηj = (1 − L)−(H−1/2) εj =1

Γ(H − 1/2)

∞∑k=0

Γ(k +H − 1/2)

Γ(k + 1)εj−k =

∞∑k=0

ψk εj−k

このとき,ψk = O(kH−3/2) となることを示せ.

2. 本章 1 節の式 (6) で定義された部分和過程

X(H)T (t) =

cH Γ(H + 1/2)

THσ

[Tt]∑j=1

ηj + (Tt− [Tt])cHΓ(H + 1/2) η[Tt]+1

THσ

において,ηj が問題 1 で定義された長期記憶過程で E(ε4j) <∞ ならば,X(H)

T ⇒ BH が成り立つ.このことを前提として,ηj が,ARFIMA(p,H − 1/2, q) 過程

(1 − L)H−1/2 ηj = uj =θ(L)

φ(L)εj = α(L)εj

に従う場合には,X(H)T ⇒ α(1)BH が成り立つことを示せ.

3. fBm の定義

BH(t) = cH

[∫ 0

−∞

{(t− u)H−1/2 − (−u)H−1/2

}dW (u) +

∫ t

0(t− u)H−1/2 dW (u)

]

と,関係式

1

c2H=∫ ∞

0

{(1 + u)H−1/2 − uH−1/2

}2du+

1

2H

から,次のことを証明せよ.

V(BH(t) − BH(s)) = (t− s)2H

4. fBm の自己相似性を使って,次のことを証明せよ.∫ M

0B2

H(t) dtD= M2H+1

∫ 1

0B2

H(t) dt

5. 推定量 α = t′Γ−1H Y /t′Γ−1

H t を考える.ここで,

Y = αt + BH , t = (h, 2h, · · · , Nh)′, BH = (BH(h), · · · , BH(Nh))′

ΓH = V(BH) =[1

2h2H

(i2H + j2H − |i− j|2H

)]i,j=1,···,N

このとき,H = 1/2 ならば,次のことが成り立つことを示せ.

α =1

NhY (Nh) ∼ N

(α,

1

Nh

)(H = 1/2)

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Page 27: 第 12 章「fBm fO-U 過程の統計的推測」20130021/ecmr/chap12-2013.pdf第12 章「fBm とfO-U 過程の統計的推測」 前章では,離散時間の長期記憶的時系列に関する統計的推測を議論した.本章では,連続

6. 次の積分を考える.

∫ M

0YH(t) δBH(t) = lim

Δm→0

m∑i=1

YH(ti−1)(BH(ti) − BH(ti−1))

ここで,Δm は,区間 [0,M ] の分割 Δm : 0 = t0 < t1 < · · · < tm = M である.このとき,次のことを示せ.

∫ M

0BH(t) δBH(t) =

1

2B2

H(M) (1/2 < H < 1)

7. 区間 [0,M ] における fBm の観測値に基づく推定量

α1 =

(B2

H(M) −M2H)/2∫M

0 B2H(t) dt

を考える.このとき,次のことを示せ.

α1D=

1

M

(B2H(1) − 1) /2∫ 10 B2

H(t) dt

8. 本章 5 節で定義した最尤推定量

αMLE =

∫M0 Qα

H(t) dZαH(t)∫M

0 {QαH(t)}2 dvH(t)

=U(H,M, α)

V (H,M, α)

は,α = 0, H = 1/2 ならば,次の形になることを示せ.

αMLE =

∫M0 W (t) dW (t)∫M

0 W 2(t) dt

9. 統計量∫M0 B2

H(t) dt の特性関数を求めるために,fBm に関連した Girsanov の定理 12.2および 12.3 が適用できない理由を述べよ.

10. 確率過程

CH(t) =√

2(1 −H)t2H−1∫ t

0u1/2−H dW (u)

に対して,次のことを示せ.

∫ 1

0C2

H(t) dtD=∫ 1

0

∫ 1

0(st)2H−1 (min(s, t))2−2H dW (s) dW (t)

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11. 本章 6 節で定義した特性関数

φH(θ) = E(eiθTH ) =

[(δ

2

Γ(1 − ν) J−ν(δ)

]−1/2

(1/2 ≤ H ≤ 1)

を考える.ここで,

δ =

√2 − 2H

H + 1/2

√2iθ, ν =

2H − 1/2

H + 1/2

である.また,J−ν(z) は,階数 −ν の第 1 種 Bessel 関数である.H = 1 のとき,特性関数は次のようになることを示せ.

φH(θ) =

(1 − 2iθ

3

)−1/2

(H = 1)

12. 次の 2 つの統計量を考える.

SH =∫ 1

0B2

H(t) dt, TH =∫ 1

0C2

H(t) dt

ここで,CH(t) は,問題 10 で与えられている.このとき,分散は,それぞれ,次のようになることを示せ.

V(SH) =4H + 3

(4H + 1)(4H + 2)− 2Γ2(2H + 1)

Γ(4H + 3), V(TH) =

2

3(2H + 1)

13. 核関数 K(s, t; x) = x(1 − max(s, t)) − 1/2 の FD は,次のようになることを示せ.

D(λ; x) = cos√λx+

λ

2

sin√λx√

λx

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表 12-3  αMLE と αMCE の平均と分散

(M, H) (1, 0.5) (40, 0.5) (1, 0.7) (40, 0.7) (1, 0.9) (40, 0.9)

α = 0

E(αMLE) −1.781 −0.045 −1.763 −0.044 −1.578 −0.039E(αMCE) −2.781 −0.070 −2.671 −0.067 −2.094 −0.052

V(αMLE) 10.112 0.0063 9.924 0.0062 8.731 0.0055V(αMCE) 9.221 0.0058 8.986 0.0056 7.601 0.0048

α = −1

E(αMLE) −2.882 −1.050 −2.874 −1.050 −2.752 −1.050E(αMCE) −3.700 −1.063 −3.583 −1.060 −2.931 −1.037

V(αMLE) 11.761 0.056 11.551 0.056 10.284 0.054V(αMCE) 11.329 0.056 11.106 0.056 9.771 0.056

α = −3

E(αMLE) −4.954 −3.050 −4.953 −3.050 −4.895 −3.050E(αMCE) −5.626 −3.063 −5.506 −3.060 −4.769 −3.035

V(αMLE) 15.410 0.156 15.175 0.155 13.729 0.154V(αMCE) 15.426 0.156 15.216 0.156 14.026 0.156

α = −5

E(αMLE) −6.976 −5.050 −6.976 −5.050 −6.940 −5.050E(αMCE) −7.593 −5.063 −7.472 −5.060 −6.690 −5.035

V(αMLE) 19.272 0.256 19.031 0.255 17.480 0.254V(αMCE) 19.460 0.256 19.253 0.256 18.183 0.256

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表 12-4  αMLE と αMCE の分布の分位点(α = 0 and M = 1)

Probability of a smaller value

H 0.01 0.05 0.1 0.5 0.9 0.95 0.99

αMLE

0.5 −13.696 −8.039 −5.714 −0.853 0.928 1.285 2.0330.6 −13.676 −8.023 −5.699 −0.850 0.921 1.277 2.0220.7 −13.608 −7.964 −5.648 −0.836 0.899 1.250 1.9890.8 −13.446 −7.822 −5.523 −0.789 0.856 1.195 1.9240.9 −12.988 −7.415 −5.154 −0.636 0.767 1.084 1.791

αMCE

0.5 −14.510 −8.856 −6.533 −1.721 −0.418 −0.302 −0.1790.6 −14.465 −8.814 −6.493 −1.695 −0.409 −0.295 −0.1750.7 −14.314 −8.673 −6.359 −1.606 −0.378 −0.272 −0.1610.8 −13.983 −8.364 −6.067 −1.420 −0.317 −0.228 −0.1340.9 −13.196 −7.630 −5.376 −1.027 −0.209 −0.149 −0.087

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表 12-5 統計量 αMLE と αMCE に基づく検定の 5% 有意水準における検出力

α×M −0.5 −1 −5 −10 −15 −20

H = 0.5

MLE 6.30 7.86 31.42 75.57 96.94 99.88MCE 6.25 7.74 30.02 73.12 96.15 99.83

H = 0.7

MLE 6.32 7.89 31.86 76.37 97.20 99.90MCE 6.26 7.77 30.36 73.78 96.40 99.85

H = 0.9

MLE 6.41 8.13 35.26 82.20 98.62 99.97MCE 6.31 7.88 31.70 76.00 97.05 99.89

31

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表 12-6  SH と TH の分散

H 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 0.95 1.0

V(SH) 1/3 0.30652 0.28194 0.25975 0.23990 0.23081 2/9

V(TH) 1/3 0.30303 0.27778 0.25641 0.23810 0.22989 2/9

表 12-7  TH の分布の分位点

Probability of a smaller value

0.01 0.05 0.1 0.5 0.9 0.95 0.99

H = 0.5 0.0345 0.0565 0.0765 0.2905 1.1958 1.6557 2.7875

H = 0.6 0.0246 0.04160 0.0577 0.2502 1.1181 1.5582 2.6407

H = 0.7 0.0169 0.0296 0.0423 0.2175 1.0521 1.4744 2.5131

H = 0.8 0.0106 0.0196 0.0292 0.1909 0.9952 1.4015 2.4008

H = 0.9 0.0053 0.0108 0.0174 0.1694 0.9456 1.3374 2.3011

H = 0.95 0.0029 0.0064 0.0115 0.1601 0.9231 1.3081 2.2551

H = 1.0 0.00005 0.0013 0.0053 0.1516 0.9018 1.2805 2.2116

32

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図 12-1 推定量 αMLE の密度関数(α = 0, H = 1/2)

−2 −1 0 1 2

0

1

2

3

4

5

6

M = 1

M = 5

M = 10

M = 20

α = 0, H = 0.5

33

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図 12-2 推定量 αMCE の密度関数(α = 0, H = 1/2)

−5 −4 −3 −2 −1 0

0.0

0.2

0.4

0.6

0.8

M = 1

M = 5

M = 10

M = 20

α = 0, H = 0.5

34

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図 12-3 推定量 αMLE の密度関数(α = −3, H = 0.7)

−5 −4 −3 −2 −1

0.0

0.2

0.4

0.6

0.8

M = 1

M = 5

M = 10

M = 20α = −3, H = 0.7

35

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図 12-4 推定量 αMLE の密度関数(α = −5, H = 0.9)

−7 −6 −5 −4 −3

0.0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

M = 1

M = 5

M = 10

M = 20α = −5, H = 0.9

36

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図 12-5  2 つの LSE の漸近効率

0.50 0.55 0.60 0.65 0.70 0.75

0.0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

eff_1

eff_3

37

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図 12-6 統計量 αMLE と αMCE に基づく検定の 5% 有意水準における検出力曲線

−20 −15 −10 −5 0

0.0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

MCE

MLE H = 0.9

38

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図 12-7 BH(t) と MH(t) の相関係数

0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0

0.0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

39

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図 12-8 DH(s, t) = Cov(CH(s), CH(t)) − Cov(BH(s), BH(t)) (H = 0.3)

0.5

s0.2

0.4

0.6

0.8

t

−0.1

−0.0

5 0

0.05

0.1

40

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図 12-9 DH(s, t) = Cov(CH(s), CH(t)) − Cov(BH(s), BH(t)) (H = 0.8)

0.5

s0.2

0.4

0.6

0.8

t

−0.1

−0.0

5 0

0.05

0.1

41

Page 42: 第 12 章「fBm fO-U 過程の統計的推測」20130021/ecmr/chap12-2013.pdf第12 章「fBm とfO-U 過程の統計的推測」 前章では,離散時間の長期記憶的時系列に関する統計的推測を議論した.本章では,連続

図 12-10  TH =∫ 10 C2

H(t) dt の密度関数

0.0 0.1 0.2 0.3 0.4

0

2

4

6

8

H = 0.5

H = 0.6

H = 0.7

H = 0.8

H = 0.9

42

Page 43: 第 12 章「fBm fO-U 過程の統計的推測」20130021/ecmr/chap12-2013.pdf第12 章「fBm とfO-U 過程の統計的推測」 前章では,離散時間の長期記憶的時系列に関する統計的推測を議論した.本章では,連続

図 12-11 フラクショナル単位根分布の近似密度関数

0 1 2 3 4

0.0

0.2

0.4

0.6

0.8

H = 0.5

H = 0.6

H = 0.7

H = 0.8

H = 0.9

43