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1 February 23, 2018 本資料は情報提供を唯一の目的としたものであり、金融商品の売買や投資などの勧誘を目的としたものではありません。 本資料の中に銀行取引や同取引に関連する記載がある場合、弊行がそれらの取引を応諾したこと、またそれらの取引の 実行を推奨することを意味するものではなく、それらの取引の妥当性や適法性等について保証するものでもありません。 ・本資料の記述は弊行内で作成したものを含め弊行の統一された考えを表明したものではありません。 ・本資料は信頼できると思われる情報に基づいて作成されていますが、その正確性、信頼性、完全性を保証するものでは ありません。最終判断はご自身で行っていただきますようお願いいたします。本資料に基づく投資決定、経営上の判断、 その他全ての行為によって如何なる損害を受けた場合にも、弊行ならびに原資料提供者は一切の責任を負いません。実 際の適用につきましては、別途、公認会計士、税理士、弁護士にご確認いただきますようお願いいたします。 ・本資料の知的財産権は全て原資料提供者または株式会社三菱東京 UFJ 銀行に帰属します。本資料の本文の一部または 全部について、第三者への開示および、複製、販売、その他如何なる方法においても、第三者への提供を禁じます。 ・本資料の内容は予告なく変更される場合があります。 BTMU Global Business Insight Asia & Oceania .失敗しないパートナー選び(その 2-海外企業評判調査の重要性 三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング株式会社 チーフコンサルタント 谷本 護 .フィリピン:企業結合規制に関する新ルールの制定 Nagashima Ohno & Tsunematsu Hanoi Branch パートナー 澤山 啓伍 長島・大野・常松法律事務所 フィリピン国弁護士 Diana S. Gervacio .タイ税務当局からのグレーな打診について ムアーズ・ローランド(タイランド)国際会計事務所 公認会計士 山崎 宏史 .海外勤務者にかかる税金と保険 7)海外旅行保険の加入について 三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング株式会社 チーフコンサルタント 藤井 恵 Ⅴ.各国トピックス 【インド】2018 年度予算案発表 農業、地方インフラに重点 【ベトナム】日本の官民 ハノイ近郊でスマート都市開発 【タイ】ラヨーン県にスマートパーク 2021 年開業目指す 【インドネシア】工業団地開発 政府計画を前倒し達成 2 4 6 9 … 12

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February 23, 2018

・ 本資料は情報提供を唯一の目的としたものであり、金融商品の売買や投資などの勧誘を目的としたものではありません。

本資料の中に銀行取引や同取引に関連する記載がある場合、弊行がそれらの取引を応諾したこと、またそれらの取引の

実行を推奨することを意味するものではなく、それらの取引の妥当性や適法性等について保証するものでもありません。

・本資料の記述は弊行内で作成したものを含め弊行の統一された考えを表明したものではありません。

・本資料は信頼できると思われる情報に基づいて作成されていますが、その正確性、信頼性、完全性を保証するものでは

ありません。最終判断はご自身で行っていただきますようお願いいたします。本資料に基づく投資決定、経営上の判断、

その他全ての行為によって如何なる損害を受けた場合にも、弊行ならびに原資料提供者は一切の責任を負いません。実

際の適用につきましては、別途、公認会計士、税理士、弁護士にご確認いただきますようお願いいたします。

・本資料の知的財産権は全て原資料提供者または株式会社三菱東京 UFJ銀行に帰属します。本資料の本文の一部または

全部について、第三者への開示および、複製、販売、その他如何なる方法においても、第三者への提供を禁じます。

・本資料の内容は予告なく変更される場合があります。

BTMU Global Business Insight

Asia & Oceania

Ⅰ.失敗しないパートナー選び(その 2)

-海外企業評判調査の重要性

三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング株式会社 チーフコンサルタント 谷本 護

Ⅱ.フィリピン:企業結合規制に関する新ルールの制定

Nagashima Ohno & Tsunematsu Hanoi Branch パートナー 澤山 啓伍

長島・大野・常松法律事務所 フィリピン国弁護士 Diana S. Gervacio

Ⅲ.タイ税務当局からのグレーな打診について

ムアーズ・ローランド(タイランド)国際会計事務所 公認会計士 山崎 宏史

Ⅳ.海外勤務者にかかる税金と保険

(7)海外旅行保険の加入について

三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング株式会社 チーフコンサルタント 藤井 恵

Ⅴ.各国トピックス

【インド】2018 年度予算案発表 農業、地方インフラに重点

【ベトナム】日本の官民 ハノイ近郊でスマート都市開発

【タイ】ラヨーン県にスマートパーク 2021 年開業目指す

【インドネシア】工業団地開発 政府計画を前倒し達成

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Ⅰ.失敗しないパートナー選び(その 2)

-海外企業評判調査の重要性

日本企業が海外企業の買収を検討する際に、事業・財務以外に重要な要素として企業評判がある。具体

的には「刑事罰・行政罰の有無」「サプライヤーなど重要な外部ステークホルダーの潜在的な離反可能性」

「民間非営利団体(NPO)などからの訴訟提起リスク」「従業員層の潜在的な離反可能性」を確認する必

要が出てきている。このような可能性があると「そもそもデューデリジェンスする価値があるのか?」「企

業文化の不一致度合いがあまりにも大きい」「対象企業のベンダーに関連した責任まで本社遡及(そきゅ

う)」という可能性がある。

欧米企業の海外企業買収事例に比べて、日本企業は企業評判調査の戦略的活用が遅れている。その結果、

負わなくてもよいリスクを買収後に負ってしまったり、あるいは地元経済界から実質的追放状態になって

しまったりなどの事例も散見される状況である。

本稿では、筆者がこれまで規模の大小、地域横断的な評判調査に携わってきた経験から、特に今回は企

業評判調査で着眼すべき留意点を紹介する。

◆汚職・贈収賄

対象企業が汚職で摘発されたような事例がないか、あるいは今そういうことをやっているように推察さ

れるか?を確認することが特に重要となる。本確認は対象企業に尋ねても回答が難しい局面も多いため、

関連するステークホルダーにヒアリングを重ねて推察していくことが肝要となる。

筆者が特に推奨するパターンは「類似タイプの企業行動と比較してどうか?」をスコアリングで評価す

ることにある。例えばある財閥と対象企業を比較して、特に営業面での汚職が地方政府向け案件で見られ

るなど比較対象を明確にすることで、汚職・贈収賄レベルの大きさを極力具体的に把握することが肝要に

なる。

◆反社会的勢力

海外現地国で反社会的勢力を定義しているケースはほぼ皆無のため、ポリシーとしてどこまでを射程範

囲にするかも重要な議題となる。特に留意が必要な場合として、対象企業の海外事業子会社で、創業間も

ない実質休眠会社がある場合は要注意である。このような場合は表面的には事業の失敗ということになっ

ているが、反社会的勢力への還流の可能性を疑ってよい取引も散見される。こういった取引パターンが見

られるかも重要になる。

◆NPO などからの訴訟提起リスク

対象企業が研究開発機能や製造機能を持ち、特に研究開発機能や製造機能のシナジー効果を検討する場

合に、本件を慎重に調査することを推奨する。素材・製法といったさまざまなノウハウが、現地NPO か

ら訴訟提起されるリスクが考えられる。

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例えば、ある外資系化粧品メーカーが東南アジアのある国で地元企業を買収し、成分データベースを統

合して地元製品開発を加速化させたが、現地NPOからの訴訟提起により実質的に断念したケースもある。

この結果、当該メーカーは研究開発シナジーを断念し、大幅な減損を余儀なくされた。このように想定し

ていたシナジーを帳消しにする可能性もあるため、NPO などからの訴訟提起リスクも重要な検討項目と

思われる。

◆サプライヤーなど重要な外部ステークホルダーの潜在的な離反可能性

例えば、サプライヤーである医療機器を調達しソフトウエアを組み込んで研究所に販売している対象企

業の事例を挙げる。本事例ではビジネスモデル上、サプライヤーの協力が不可欠であるが、サプライヤー

が対象企業に供給し続けているのは、ある研究所で納品上のペナルティーを受けており、本対象企業を選

択するしかなかったことが大きな理由であった。この対象企業に対して、さまざまな研究所に販路を持つ

専門商社が買収した場合、サプライヤーが離反する可能性はかなり高いと思われる。

以上のように対象企業のみならず、重要なステークホルダーに関してはその取引を継続している根本的

な理由を構造化し、場合によっては重要なステークホルダー自体の評判確認も必要になってくる。

◆従業員層の潜在的な離反可能性

ビジネス上の重要な意思決定、機能活用がマネジメント層に集中しているのか、それとも表面的にはマ

ネジメント層が把握しているように見えるが、実質的にミドルマネジャー層で運営しているのかは大きな

論点となる。特に実質的に後者であるにもかかわらず、前者であると考えて買収した場合は大幅な価値毀

損(きそん)に至るケースが多い。

筆者は、このような傾向を事前に見抜く施策として「効果」「効率」「持続性」の 3観点で各機能のミド

ルマネジャー・トップマネジメントの評判調査をすることを推奨している。特に実質的に後者であるにも

かかわらず、表面的に前者と見えるパターンでは、ある程度番頭的な存在があり、持続性という観点で推

察していけば判明することも多い。

記事提供:三菱 UFJリサーチ&コンサルティング株式会社

チーフコンサルタント 谷本 護

(2018年 1月 16日作成)

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Ⅱ.フィリピン:企業結合規制に関する新ルールの制定

フィリピンでは、長らく個別法でのカルテル禁止などの規定はあったものの、包括的な競争法(日本で

の独占禁止法に相当する法律)が存在していなかった。これには、国内の財閥の政治力の強さなどが背景

にあったと言われていた。しかし、ASEAN 加盟国が 2015 年までに ASEAN が採択した競争政策につい

てのガイドラインに沿った法制度の整備を目指す中、フィリピンにおいても競争法の整備が求められ、

2015年 7月 21日に至って、当時のアキノ大統領がフィリピン競争法(Republic Act No. 10667, Philippine

Competition Act)に署名し、同法が成立、同年 8月 8 日に施行された。また、翌年 6月 18日には、競争

法施行規則(The Implementing Rules and Regulations of the Philippine Competition Act)(以下「施行

規則」という。)が施行された。

このように、フィリピンの競争法は比較的歴史が浅く、特に企業結合規制に関しては、その対象や手続

などに関して実務面で混乱が生じていた。そこで、今般フィリピン公正取引委員会(Philippine

Competition Commission)(以下「PCC」という。なお、これ自体がフィリピン競争法に基づいて設立さ

れた新たな機関である。)は、2017 年 11 月 23 日に企業結合に関する新ルール(PCC Rules on Merger

Procedure)(以下「新ルール」という。)を公布し、同ルールは 12月 8日に施行された。本稿では、この

新ルールにより変更された点を中心に、新ルールの内容について概説する。

1.届出の時期

競争法では、10億フィリピンペソ(約 25億円)を超える価値を有するM&A取引を行う当事者は、公

正取引委員会に対して通知を行う義務があり、その通知から 30日(最長 90日まで延長されうる)の間は、

PCCの承認が出るまでその取引の実行が禁止される。

施行規則では、この通知を、当該取引を行うための確定契約の締結前に行うべきであるとしていた(施

行規則第 4ルール第 2項)。PCCは、この点について、さらに Clarificatory Note No. 16-001において、

当該通知は法的拘束力のある事前合意書(MOUなど)を締結する場合にはそれを締結した以降に提出が

でき、そのような事前合意書がない場合には、確定契約の締結前に確定契約の文案を根拠として PCC に

対する通知を行うこともできるとしていた。

しかしながら、このような企業結合審査の届出は、国によっては確定契約の締結後にしか提出できない

ところもある。フィリピンのように確定契約締結前に届出が必要とされると、当事者の社内でも守秘性が

求められる契約締結前の段階で PCC が要求する細かな競争上の情報を収集するのは困難であることや、

多数の国で届出が必要となるような M&A取引の場合には、当事者間での契約締結・実行手続におけるス

ケジュールの調整が難しくなることなどの問題点が指摘されていた。

そこで、新ルールでは上記施行規則の規定を改め、該当する企業結合の通知は、確定契約の締結後 30

日以内に行うべきことになった(新ルール第 2.1条)。

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2.審査手続

施行規則では、通知がなされた企業結合について、2 段階での審査が行われることを規定しているが、

新ルールではそれぞれの段階での手続の詳細を規定している。第 1 段階は最長 30 日間で行われ、通知さ

れた企業結合が、より詳細な審査を必要とする競争上の問題を生じさせるかどうかが審査される。この段

階で PCCが問題ないとの結論に至らない場合には、その旨が当事者に通知され、最長 60日間の第 2段階

の審査が行われる。

第 2段階の審査において、調査を行うM&A局(Mergers and Acquisitions Office)が、対象とする企

業結合が実質的な競争制限をもたらすとの結論に至った場合には、第2段階の審査開始から45日以内に、

M&A 局から PCC 及び当事者に対して、その結論及びその競争制限を回避するための提案を記載した懸

念表明書(Statement of Concerns)が提出される。当該懸念表明書は、秘密情報を排除した形で PCCの

ウェブサイトに公開され、第三者からの意見も聴取される。当事者も、懸念表明書に対して釈明を求め、

自己の意見を書面又は審問の場で表明する機会が与えられる。これらを経て、最終的に PCC が当該企業

結合に関する決定を行う。

なお、PCC は、通知を受けなかった企業結合についても、その通知義務の有無にかかわらず、自発的

に、当該企業結合により実質的な競争制限が発生しないかどうかを調査することができる。

3.違反に対する制裁

新ルールは、企業結合に関する通知義務及び通知後の待機期間の違反についての罰則を定めた PCC

Memorandum Circular No. 17-001を明示的に改訂している。

新ルールでは、上記の Memorandum Circularが定めている通知義務違反及び通知後の待機期間違反に

対する罰則に加えて、禁止された企業結合を行った場合(初回の違反で最大 1億フィリピンペソ)や、通

知が期限に遅れた場合の罰則(最大 2百万フィリピンペソ)などを定めるほか、実際の罰金額の決定の際

に考慮すべき事情など詳細な規定を定めている。

記事提供:

Nagashima Ohno & Tsunematsu Hanoi Branch パートナー 澤山 啓伍

長島・大野・常松法律事務所 フィリピン国弁護士 Diana S. Gervacio

(2018年 1月作成)

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Ⅲ.タイ税務当局からのグレーな打診について

1.はじめに

在タイ日系企業の税務に関するさまざまな相談を受けていると、タイ税務当局から税法から逸脱した解

決やその他の打診をされた旨を伺うことが多々あります。このような場合は、会社が置かれている状況を

整理して冷静な対応をすることが必要です。

2.グレーな打診を受けるタイミング

在タイ日系企業がタイ税務当局からグレーな打診を受けるタイミングとしては、多くの場合、税務調査

の終盤です。

付加価値税(VAT)や源泉税の還付を請求した際や取引規模の大きな会社であれば、5年に 1回程度の

頻度で税務調査が入ります。タイの税務調査は日本のように短期集中的に行われるものでなく、税務当局

からの資料提出指示を受け 1 カ月程度の資料準備期間が与えられ、資料提出後、数カ月程度の税務当局側

の資料検討期間があり、さらに追加での資料提出の指示があります。そのようなプロセスを繰り返した後、

税務当局の見解と追徴に関する方針の話が担当官から提示されます。グレーな打診の多くはこの複数回の

資料検討後の見解についての話の中で出されることが多いようです。

3.グレーな打診の内容

グレーな打診とは税務官からの税法に基づかない解決法のことを意味しており、具体的には下記のよう

なものがあります。

(1)還付対象金額について、具体的な根拠なく 50%などの一定割合の還付で解決する旨の打診。

(2)売上高や利益、原価などある種の損益数値を用いて、その一定割合の支払いを求めることで税務

調査を終わらせる旨の打診。

(3)100万バーツ、500万バーツなどきりのいい金額の支払いをもって税務調査を終わらせる旨の打診。

4.グレーな打診の性質

こういった打診の性質には主に以下の二つのパターンがあります。

A:税務調査によって会社の税務処理上の問題点を税務局側が既に発見しているが、その問題点により

発生する正確な追徴税額を算定するためには、より詳細な調査を実施する必要がある。その手続き

を省略するために概算金額による追徴税の支払いをもって、税務局側が解決を図ろうとしているパ

ターン。

タイの税務当局は慢性的な人材不足の状況にあり、実施すべき業務量に対して職員数が追い付いていま

せん。

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従って税務調査には常に長い行列ができているような状態で、還付を申請してから税務調査が入るまで

に半年以上待たされるということも、半ば常態化しています。

そういった状況下において、より少ない作業量で効率的に追徴税を徴収する責務を負っている税務局担

当官にとっては、税務調査が終わりの見えない泥沼の状況に陥ることは避けたいものです。長引きそうだ

と判断した際には、税法の裏付けのない計算方法により概算での追徴税をもって解決を図ろうとしてきま

す。

B:税務調査によって会社側になんらかの問題点を発見し、それを見逃すことの見返りとして、担当税

務官もしくは担当チームへの私的な支払いを求めてくるパターン。

当然ながら上述は汚職となりタイにおいても違法な行為です。

しかしながらタイにおいては公務員の給料が民間に比して著しく低く、古くからの慣習として担当官へ

の直接な支払いで解決をしているという実態が残念ながら残っています。これは飲酒運転を取り締まる警

察、ビザを管理する入国管理局、ワークパーミットを管理する労働局など、さまざまな場所において依然

として見受けられます。

5.グレーな打診への対応

税務局からのグレーな打診に遭遇した際には応じるか否か慎重に検討を重ねる必要があります。

第一に検討すべき事項としては、支払いを求められる場合にそれが税務局へ直接支払われ、納税受領書

が発行されるものであるのか、それとも支払いが税務官への個人的なものであり、なんら正式な領収書が

発行されるものではないのかという点です。

前者であれば、上述の A パターン、後者であれば B パターンに該当し、B パターンであれば応じる側

の会社にもコンプライアンス上の問題が発生します。

次に検討すべき事項としては、税務局側に発見された会社の問題点について、もし時間をかけて全ての

資料を調査し、税法にのっとった正しい追徴税の計算を実施した場合には、その金額がどの程度に上るか

という点です。

これにより打診された金額と実際に時間をかけて最後まで徹底的に調査された場合にはじき出される

金額を、比較考慮し的確な判断をすることが可能となります。

会社によっては具体的な検証もなく、東南アジアはまだそういう状況だからと勝手に納得して慢性的に

税務官に私的な支払いを続けているところも散見されます。

しかし、そもそも会社になんら税務処理上の問題がなければ、上記のようなグレーな打診自体発生しま

せん。

警察による飲酒運転の取り締まりにおいても、ドライバーが飲酒さえしていなければなんら支払いをす

ることなく検問を抜けることができるのと同様です。

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上述した通りに応じた側にも法的なリスクがある上、なんら問題点の検証なく、対応してしまうままで

は何の解決にもなりません。

グレーな打診があった際には危険信号だと理解し、打診に対して的確に対応し、その後にグレーな打診

を受けることがない体制の整備のために徹底的な検証をすることが必要です。

記事提供:ムアーズ・ローランド(タイランド)国際会計事務所

公認会計士 山崎 宏史

(2018年 1月 15日作成)

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Ⅳ.海外勤務者にかかる税金と保険

(7)海外旅行保険の加入について

(前回のレポートは、以下の URLをクリックして本文をご参照ください。)

http://www.bk.mufg.jp/report/insasean/AW20180214.pdf

Q . 海外旅行保険の加入

海外で勤務する際、海外旅行保険に加入するケースが多いと聞きました。

海外旅行保険について知っておくべきことを教えてください。

A.

1.海外旅行保険加入の必要性

海外で勤務する際、海外旅行保険に加入するケースが多くなっています。

海外で支払った医療費は、日本で加入している公的医療保険(健康保険)でもカバーされますが、必ず

しも支払った医療費の全額が払い戻されるわけではありません。日本国内で保険診療を受けた場合の医療

費を基準とするため、欧米などの医療費の高い地域、またアジアでも欧米系の医療機関を利用した場合は、

かなりの自己負担を強いられる可能性があります。

そのため、安心して海外生活を送るためには日本の健康保険だけでなく、民間の各保険会社が取り扱っ

ている海外旅行保険に加入することを考えた方がいいでしょう。海外旅行保険の加入申し込みは、必ず日

本を出国するまでに行う必要があります(日本を出国してからの加入はできません)。

2.こんなケースは海外旅行保険の対象外

(1) 持病および妊娠、出産

海外旅行保険に加入する際、持病がある人は対象外となりますので注意しましょう。保険加入時に持病

について自己申告をしていなかったとしても、保険金請求の際には保険会社による調査がありますので、

結果「治療内容から判断すると持病である」とされ、保険金が支払われないケースがあります。

持病を抱え、定期的に医療行為を受ける必要がある人が海外勤務することになった場合、会社側として

は思慮するところかもしれません。しかし、代替する人員がいないため、やむを得ず持病がある人が赴任

することになった場合は、現地でかかる医療費をどこまで会社側が負担してくれるのかなど、あらかじめ

確認しておくことをお勧めします。

また、妊娠・出産は病気ではないため、これらに要する医療費は海外旅行保険の対象にはなりません。

(2)歯科治療

歯科治療費は、基本的に海外旅行保険の対象にはなりません(特約で歯科治療プランがあるものもあり

ます)。海外で歯科治療を受ける場合は、かかった治療費を健康保険組合などに申告して、治療費の一部

を還付してもらうという形になります(ただし、交通事故で歯を損傷した場合は「けが」扱いとして、歯

の治療費が海外旅行保険から給付されることがあります)。

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3.海外勤務者はしっかり事前説明を受けておくこと

海外勤務者からよく聞かれるのは「総務や人事担当者から『海外旅行保険に加入しておいたよ』と、保

険会社が作った「海外旅行保険ガイドブック」などをポンと渡されるだけで何も説明がなかった。そのた

め、いざ現地で海外旅行保険を使おうと思ったとき、どうすればよいか分からず困った」という意見や不

満などです。

そこで、会社側としては、赴任前には給与などの説明だけでなく、海外旅行保険の使い方や注意事項に

ついても説明しておく必要があります。

(1)保険証券番号・緊急時の保険会社連絡先の携帯

万が一の事態に備え、充実した海外旅行保険を海外勤務者に付与していたとしても、当該海外勤務者が

事故に遭ったとき、自分の保険証券番号が分からない(つまり、保険に加入していることが証明できない)

状況であれば、医療行為を受ける必要があっても、医療機関から「支払い能力なし」と見なされて治療を

行ってもらえない可能性があります。

保険証券は常に何部かコピーして控えを持っておく、もしくは手帳や財布に番号を控えておくなどの準

備をしておきましょう。また、加入している保険の引受会社の緊急連絡先を携帯電話などに登録したり、

手帳に書き留めておいたりする必要もあります。

(2)キャッシュレスとなる医療機関の確認

通常、保険会社は各国の主要都市に「提携の医療機関」を幾つか保有しています。その病院で治療を受

ける際に保険証券を提示すれば、キャッシュレス(治療費の支払いなし)で治療を受けることができます。

海外勤務者が赴任する都市、頻繁に出張する都市においてキャッシュレスとなる医療機関が存在するのか、

あらかじめ調べておく必要があります(赴任先や居住地の近くにキャッシュレスの対象となる医療機関が

ない場合、保険会社に依頼すれば、現地の医療機関に対しキャッシュレス対応ができるよう、交渉してく

れることもあります)。

4.賠償責任が適用されないケース

「個人賠償責任補償特約」を付けておくと、法律上の賠償責任が発生した場合に保険金の支払い対象に

なりますが、次の場合は対象外となります。

・保険契約者または被保険者の故意によって生じた損害

・被保険者の職務遂行に起因する損害賠償責任

・被保険者と同居する親族および同一旅行行程の親族に対する損害賠償責任

・被保険者が所有・使用または管理する財物の損壊もしくは損失に対する損害賠償責任

・被保険者の心神喪失に起因する損害賠償責任

・被保険者または被保険者の指図による暴行・殴打に起因する損害賠償責任 など

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海外旅行保険の加入

・海外勤務する際は、必ず海外旅行保険に加入することを忘れずに!

海外旅行保険に加入していないと、万一の際、多額の医療費が発生したり、医療費が支払えず、命

を落としてしまったりするリスクがあることを認識する。あらかじめ会社側に確認すること。

記事提供:三菱 UFJリサーチ&コンサルティング株式会社

チーフコンサルタント 藤井 恵

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Ⅴ.各国トピックス

【インド】2018 年度予算案発表 農業、地方インフラに重点

2 月 1日、インド政府は 2018 年度(2018年 4月~2019 年 3月)予算案を発表した。2019年春の下院総

選挙を控え、積極財政路線を維持する。2018年度の歳出総額は前年度比 10.1%増の 24兆 4,221億ルピー。

地方の農業やインフラ整備に歳出総額の 6 割近くに及ぶ 14 兆 3,400 億ルピーを支出し、経済成長の押し

上げを目指す。また、「メイク・イン・インディア」のさらなる推進のため、自動車や携帯電話の輸入関

税引き上げが盛り込まれ、日系各社の戦略へも影響が予想される。

【ベトナム】日本の官民 ハノイ近郊でスマート都市開発

日本の官民が最先端技術を結集したスマートタウンを建設する。ハノイ近郊の 310ヘクタールの土地に、

中間所得層を対象としたマンションや商業施設などを開発、2023 年までの完成を目指す。経済産業省と

日本の大手企業 20 社以上が参画し、自動運転バスや、情報技術(IT)を活用した省エネルギー機器を整

備し、新たな都市のモデルを示す。

【タイ】ラヨーン県にスマートパーク 2021 年開業目指す

2 月 7日、タイ工業団地公団(IEAT)は東部経済回廊(EEC)エリアのラヨーン県にハイテク工業団地

「スマートパーク」を開発すると発表した。1,500 ライ(240 ヘクタール)の土地に政府が指定する優先

産業の企業を誘致する。約 400億バーツの投資を 60 社以上から見込んでおり、2021 年の開業を目指す。

【インドネシア】工業団地開発 政府計画を前倒し達成

2 月 12 日、インドネシア産業省は、2019 年を期限とする工業団地 10 ヶ所の開発計画を早々に達成し、

既に運営を開始したことを明らかにした。さらに 3ヶ所(アチェ州ロクスマウェ経済特区、バンテン州セ

ランのウィルマー工業団地、リアウ州のタンジュンブトン工業団地)の工業団地の操業開始を年内に予定

しており、13ヶ所の工業団地内で総額 250兆 7,000億ルピア(約 2兆円)の投資誘致を目指している。

(各国トピックスの出所)各国政府・業界団体発表、各種報道

Page 13: BTMU Global Business Insight Asia & OceaniaBTMU Global Business Insight Asia & Oceania 3 例えば、ある外資系化粧品メーカーが東南アジアのある国で地元企業を買収し、成分データベースを統

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(編集・発行) 三菱東京 UFJ 銀行 国際業務部

(照会先)松山 昭浩 福住 知子

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