bigdataを機に注目される データ活用・分析のポイントと心...

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FRIコンサルティング最前線. Vol.5, p.7-12 (2013) 7 特集:企業・社会の新たな価値創造と持続的発展 《企業変革事例》 昨今、BigDataというキーワードが大変な注目を集めている。一部には、すでにバズワード化して いるとの声も上がってきているが、これを機に、データの活用や分析に注目が集まっているのは確か である。構造化データや非構造データなど、様々なデータを収集・蓄積し、分析することで何かしら 新しいビジネスや価値が創出されるといった論調が聞かれるが、その一方で、ユーザー企業の多くが BigDataの活用に失敗するとも言われている。 そこで、本稿では、BigDataのビジネス動向から見えるデータ活用・分析の成功のポイントと適用す べき業務領域、そして、BigData活用におけるユーザー企業のIS部門の方々に向けたBigData活用の心 構えについて述べる。 柴田香代子(しばた かよこ) (株)富士通総研 ビジネス調査室 所属 通信・ハイテク業のお客様を中心と した新規事業・サービス企画、シス テム企画構想に従事。 BigDataΛʹػΕΔ σʔλ׆༻ɾੳͷϙΠϯτͱ৺ߏ ‖ Abstract 業種:業種共通

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FRIコンサルティング最前線. Vol.5, p.7-12 (2013) 7

特集:企業・社会の新たな価値創造と持続的発展 《企業変革事例》

昨今、BigDataというキーワードが大変な注目を集めている。一部には、すでにバズワード化しているとの声も上がってきているが、これを機に、データの活用や分析に注目が集まっているのは確かである。構造化データや非構造データなど、様々なデータを収集・蓄積し、分析することで何かしら新しいビジネスや価値が創出されるといった論調が聞かれるが、その一方で、ユーザー企業の多くがBigDataの活用に失敗するとも言われている。

そこで、本稿では、BigDataのビジネス動向から見えるデータ活用・分析の成功のポイントと適用すべき業務領域、そして、BigData活用におけるユーザー企業のIS部門の方々に向けたBigData活用の心構えについて述べる。

柴田香代子(しばた かよこ)

(株)富士通総研ビジネス調査室 所属通信・ハイテク業のお客様を中心とした新規事業・サービス企画、システム企画構想に従事。

BigDataを機に注目されるデータ活用・分析のポイントと心構え

♦Abstract

業種:業種共通

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FRIコンサルティング最前線. Vol.5, (2013)8

特集:企業・社会の新たな価値創造と持続的発展 《企業変革事例》

ま え が き

国内では2011年から、BigDataというキーワードが大変な注目を集めるようになっている。大手調査会社のGartnerでは、2012年の戦略的テクノロジー TOP10に「次世代アナリティクス」、

「BigData」を位置付けている。また、政府の情報通信審議会においてもBigDataの活用のあり方について検討し、「BigDataの活用における日本の発現効果は今後少なくとも10兆円規模の付加価値創出および、12~15兆円規模の社会的コスト削減の効果がある」と表明しており、BigDataのデータ活用・分析への期待が広がっている。

このように魅力的な見解が多いBigDataというキーワードであるが、一方で、Gartner Predicts 2012では「2015年までを通じ、Fortune 500企業の85%以上が、BigDataを競合優位性確保のために効果的に活用することに失敗する」という指摘もされており、多くの企業がBigDataの活用に成功することは難しいといわれている。そこで、本稿では、BigDataビジネスの現状から、データ活用・分析の成功ポイント、これを活かすことのできる業務領域とその事例、そして最後にIS部門の方々に向けて、BigData活用の心構えに関して述べる。

BigDataの現状から見るデータ活用・分析ポイント

BigDataビジネスの現状を見ると、BigDataのBigというキーワードの捉え方によって、大手SIベンダーと中堅IT販社とで、大きく2つのBigDataビジネスの進め方があるようだ。そこで本節では、この2つの関連者の動向から、データ活用・分析のポイントを述べる。

模索段階の大手SIベンダーBigDataに関する技術やサービスを提供する大手

SIベンダーの多くは、BigDataビジネスに対するビジョンを描いたり、専任組織を設立し、BigDataビジネスに積極的に取り組んでいる。しかしながら、BigDataビジネス立ち上げ当初から謳われていた

「構造化データだけでなく、非構造化データも含め、様々なデータを収集、蓄積し、分析すれば、新たなビジネスが創出される」といった点に引きずられた

ためか、多くのSIベンダーは現状、引き合いは多いものの、BigDataビジネスを商談につなげることに苦戦しており、収益化を模索している状況と言われている。

活用事例を積み上げる中堅IT販社一方、徐々にデータの活用事例を積み上げつつあ

る企業として中堅IT販社が注目されている。中堅IT販社では、日本のユーザー企業の多くが、「Big」と言われるほどの何十テラバイト級のデータを保有していないことや、縦割りの組織であるために各部署に散在したデータを集め、組み合わせて活用することが容易でないことなどから、「Big」という言葉にとらわれることなく、あくまでも「現場で何を実現するか」ということを考え、そこに自らの特定分野に特化したノウハウやインテグレーション力を生かす戦略を取っている。これは、特定分野に絞ることで、ユーザー企業に「何を実現するか」「何に活用するか」という具体的なデータ活用の目的や利用シーンをイメージさせることに成功しているためと思われる。つまり、データ活用・分析においては、「データを集めれば何かしら新たなビジネスが創出される」ということではなく、「何を実現するか」「何に活用するか」という目的を明確にすることが非常に重要であると考える。

データ活用・分析の成功ポイント前述のように、BigDataの動向から見ても、デー

タ活用・分析においては「何を実現するか」「何に活用するか」という目的(=成果)を設定することが重要である。さらに、そもそもデータ活用・分析を実施する理由は、企業活動における何らかの業務の意思決定を行うためのものであり、目的を設定した後は、分析の結果から、どのような意思決定を行い、その結果をどう業務へ適用し、ビジネスの成果につなげるのか、図-1の記述したプロセスを右から左へ、結びつけて検討・実行することが重要である。このような話をすると、ではBigDataによって、ビジネスの何が変わるのかといった疑問を抱く方もおられると思うが、BigDataによって変わることは、BigDataの技術やサービスにより、売上拡大やコスト削減といった事象を分析・考察する際の指標の基となるデータが、より詳細化することによってより

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BigDataを機に注目されるデータ活用・分析のポイントと心構え

正しい意思決定が行われ、業務の効果・効率が向上することに最もインパクトを与えるのだと考える。

データ活用・分析の業務適用領域

データ活用・分析の業務適用領域では次に、データ活用・分析を活かすことのでき

る業務領域を述べる。これを述べるにあたっては、図-2の「データ活用・分析の業務適用領域」にて説明する。この図は、縦軸を業務特性、横軸を分析アプローチの観点として、データ活用・分析の業務適用領域を示したものである。縦軸の業務特性は「Ad hoc」と「Routine」と定義している。ここでの「Ad hoc」というのは、一度分析を行い、分析結果を適用した後は、数年は分析を実施しないような業務と定義しており、例としては、配送計画における物流拠点の立地場所をデータ分析によって検討する業務が該当する。「Routine」というのは、刻々と変化する日々の業務に分析結果を都度適用していく業務であり、例で述べるとコンビニエンスストア等の小売業の日々の発注業務である。

次に、横軸の分析アプローチの観点であるが、データマイニングのようにデータに語らせ、データからビジネスに価値を与える何らかのパターンを発見する分析アプローチを「Find」とし、ある程度構造化されたデータから人の仮説をベースにデータで検証・解決していくアプローチを「Solve」とした。この軸でデータ活用・分析の業務適用領域を見ていくと、もちろんどの象限においても、ビジネスの価値を創出することは可能である。しかしなが

ら、昨今の急速なスピードで変化するビジネス環境においては、BigDataの技術によって可能となった様々なデータを基にした分析を、日々の業務に組み込み、結果を都度適用することのできる②の領域に適用することがデータ活用・分析を実施する部隊にとって、最も継続的に多くの価値を見出すことができる領域であると考える。

データ活用・分析の業務適用領域における事例では、図-2の②の領域において、どのような

事例があるのか、BigDataの特徴である3つのV(Volume、Variety、Velocity)を用いて紹介する。

まず「Volume」であるが、アメリカのスーパーマーケットTargetの事例がある。この事例は、購入者情報と購入者の買い物かごの中身の情報を基

データ

データ

データ

判断A

判断B

判断C

分析 意思決定 業務へ適用 目的設定(成果)

コスト

売上

図-1 データ活用・分析を成功させるためのプロセス

Ad hoc

Routine

③データから発見

Find

Solve

データで解決

図-2 データ活用・分析の業務適用領域

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FRIコンサルティング最前線. Vol.5, (2013)10

特集:企業・社会の新たな価値創造と持続的発展 《企業変革事例》

業務適用領域②におけるFRI事例

次に、図-2の業務適用領域②におけるFRI事例を紹介したい。

クレジットカード会社信用リスク管理業務改革本事例は、クレジットカード会社のカードビジネ

スの拡大を目的として、信用リスク管理モデル適用による審査業務の高度化とモデル導入後の業務プロセス改革をデータアナリストとコンサルタントが一体となって支援させていただいた事例である。

本事例のポイントは、図-1に示したプロセスを、データアナリストとコンサルタントがそれぞれの強みを活かし、相互補完しつつ一気通貫で実施したことであった。

では、それぞれがどのような役割で本プロジェクトを実施したのか、表-1「データアナリストとコンサルタントの役割」に示し、説明する。データアナリストは、データ活用・分析プロセスのうち、主に

「分析」および「意思決定」を担当し、お客様のデータを分析して与信判断における意思決定を支援するための数理モデルを作成した。これらのプロセスは、データアナリスト単独でも実施すること自体は可能であるが、業務に精通したコンサルタントが参画することにより、お客様からインタビュー等で審査ノウハウの本質を引出し、数理モデルに反映することができた。その結果、単純にデータを分析するより、短期間で、精度が高く、業務に適用しやすいモデルを作成することが可能となり、ユーザー企業への価値を最大化できたポイントとなった。このようなデータアナリストとコンサルタントとのコラボレーションが可能となった要因としては、デー

にデータ分析を行い、優良顧客となりうる妊娠女性の買い物習慣を検証した。そして、この検証結果を基に、妊婦に対して適切なクーポンを提供することで、消費行動に結びつけ、成果を上げている事例である。その他、製造業のLGのように、LCDパネル等の製造工程においてBigData技術を適用し、これまで以上に様々なデータを広範囲にわたってセンシングすることが可能となり、大量データから製造工程の最適条件を絞り込むことで、歩留りを高め、コスト削減に成功した事例等もあげられる。

次に「Variety」においては、ローソンの事例を紹介する。ローソンでは、ローソンの会員カードPontaのデータとPOSデータ、さらに今後はYahoo!の口コミを組み合わせることで、SCM、CRMといった業務へ活かす取り組みが行われている。これによって、小売業では、「何をいくつ売った」から「誰に何を売った」というマーケティングへの転換期を迎えている。

また、「Velocity」であるが、パン製造・販売事業を営むアンデルセンでは、原価計算にBigDataの代表的な技術であるHadoopを適用することで、これまでの処理性能を15倍にすることに成功し、4時間かかっていた処理を15~20分にすることで、為替や小麦価格の変動を考慮し、生産計画や原料調達を見直すことに成功している。BigDataというと、本稿でも述べた通り、BigDataによって新しいビジネスを創出するといった点を強調するプレーヤーもいたが、この事例のように、処理能力を早めることでも、十分、ビジネス価値を向上することに貢献しているのである。

表-1 データアナリストとコンサルタントの役割

データ活用・分析を成功させるプロセス分析 意思決定 業務へ適用 目的設定(成果)

コンサルタント ・モデルの有効性・妥当性評価

・利用限度額モデルの有効性・妥当性評価

・モデルツール導入後の業務プロセス策定

・ユーザー向けチェックシート作成

・マネジメント指標の設定・ダッシュボード策定

データアナリスト・モデル定式化

- 利用額予測モデル- スコアリングモデル

・利用限度額モデル定式化・ユーザー向けチェック

シートに対するアドバイス

・上記に対する意見・確認

※利用額予測モデル:カード利用者が将来利用するであろう利用額を算出 スコアリングモデル:貸し倒れの確率を算出 利用限度額モデル:カード利用者の利用限度額を算出

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BigDataを機に注目されるデータ活用・分析のポイントと心構え

が、BigDataとなると、新しいビジネスや何らかの価値を見出すという観点から、とりわけパターン探索の部分に重点が置かれているように思う。しかしながら、IS部門として最も重要視すべき点は、現場部門が実施するデータ活用のための環境作りであり、パターン探索だけでなく、その結果を受け止め、即座に業務へ導入できるICTの構築にあるのだということを心に止めていただきたい。

む  す  び

本稿では、BigDataを機に注目されるデータ活用・分析に関して、大きく3点述べさせていただいた。1点目は、BigDataを機としたデータ活用・分析においては目的を明確にし、図-1のプロセスを実行することが重要であること。2点目は、データ活用・分析を活かすことのできる業務適用領域は、日々の業務に組み込み、継続的に、分析結果を都度適用することのできる図-2の②の領域(Routine-Solve)であること。3点目はIS部門のBigData活用の心構えとして、データを活用する現場部門のために、パターン探索だけでなく、その結果を受け止め、即座に業務への導入ができるデータ活用のための環境作りに注力すべきという点であった。これらを意識し、実行いただくことで、データ活用・分析において、成功する企業が増えることを願っている。

今後FRIでは、データ活用・分析部分だけでなく、最後に申し上げたBigData活用の心構えにおい

タアナリストも業務の言葉で、コンサルタントも数理モデルの言葉で会話できることと、コミュニケーションおよび思考の枠組みとして、富士通グループ独自のコンサルティング方法論であるCOMPAMを共有していたことが大きい。

また、「業務へ適用」、「目的設定(成果)」のプロセスにおいては、コンサルタントが主体となり、策定したモデルツールを利用するユーザー、および成果を把握する経営者の目線で、モデル導入後の業務プロセス策定やKPIを設定し、収益の状況を可視化するダッシュボードを策定するところまで実施した。

このように、データ活用・分析のプロセスを一気通貫で提供できることが、他社にないFRIの強みであり、お客様にとっても、最も効果的・効率的にプロジェクトを成功させたポイントと考える。なお、今回策定した信用リスク管理モデルは、日々の信用リスク管理業務に組み込まれたことで、現在でも、クレジットカード会社のビジネス拡大につながっている。

IS部門におけるBigData活用の心構え

最後に、IS部門におけるBigData活用の心構えとして、BigData活用で危惧されている点を踏まえ、述べたい。本稿のまえがきで、「2015年までを通 じ、Fortune 500企 業 の85%以 上 が、BigDataを競合優位性確保のために効果的に活用することに失敗する」というGartnerの見解を取り上げたが、実はこの調査結果には続きがあり、この結論に至った理由が述べられている。それは、「多くの企業ではBigDataに関する技術面の課題と管理面の課題の両方に対する十分な整備が整っていないため」ということである。実際、ユーザー企業のIS部門からも

「データ活用のための環境作りに知恵を絞らないといけない」といった声が聞かれる。BigData活用の環境作りにおいては、図-3のように、非構造化のデータを含め、利用目的が決まっていない未整理データを収集、蓄積したデータをもとにパターンを探索・発見し、その後、パターン検証・モデルを構築することで、データに意味を持たせてDB化する。さらにそこへ、手順が加わることでアプリケーション化され、業務へ導入されるといった流れとなる

業務側

ICT側

整理データ非手順

手順化未整理データ研究領域

Find

SolveAd hoc

Routine

パターン探索

パターン検証・モデル構築

アプリ化

DB化

業務へ導入

研究領域*

* 研究領域は、研究所等が該当事象の実現にむけて現在研究課題として取り組んでいる領域

図-3 BigData活用までの流れ

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FRIコンサルティング最前線. Vol.5, (2013)12

特集:企業・社会の新たな価値創造と持続的発展 《企業変革事例》

(3) 総務省 情報通信協議会:ビッグデータの活用に関するアドホックグループの検討状況(2012).

(4) BCN Online:ビッグデータへの取り組み.(5) トーマス・H・ダベンポート、ジェーン・G・ハリス:

分析力を武器とする企業 強さを支える新しい戦略の科学(2008).

(6) トーマス・C・レドマン:戦略的データマネジメント(2010).

ても、富士通のBigData活用を実現するシステム部隊等とさらに連携を強め、富士通グループとして、トータルで支援をさせていただきたい。

参 考 文 献(1) Gartner, Inc:2012年 の 戦 略 的 テ ク ノ ロ ジ ー

TOP10.(2) Gartner, Inc :Gartner Predicts 2012.