事業継続計画(bcp) -...

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2011年3月11日午後2時46分、未曾有の1000年に一度と言われる「東日本 大震災」が 発生しました。震度5弱以上が観測されたのは全国4268観測点中734地 点。震度7は宮城県 栗原市の1地点、6強は宮城、福島、茨城、栃木4県の40地点(2 011年3月30日現在)となり、 この大地震は東日本太平洋岸へ津波を発生させ、甚大 な被害を発生させました。とりわけ、福 島第一原発にも過大な損害を与え今後数年間にわ たり対応が必要になると言われています。 添付している本書は、東日本大震災からの教訓を含め、BCP(事業継続計画書)と防 災マニ ュアルの違いについてご説明し、企業が取組みやすいBCP策定について解説しま した。 両者の一番の違いは、BCPは全社的な立場で考え、企業防災は拠点の立場で考えることにあり ます。例えば、工場や店舗が地震や火災などで大規模に被災した場合ですが、企業防災の立場で はその「被災した工場または店舗をなるべく早く復旧し、事業や業務の再開」を目指します。これに 対してBCPは、 「被災した工場や店舗の事業を他の工場や店舗で代行出来ないか」を考えます。 なお、基本となるBCPは内閣府の「事業継続ガイドライン第一版」に準拠し、防災マ ニュアルは愛 知県防災局が編集した「防災マニュアル作成例」を参考にしています。 また、中小企業庁の「中小企業BCP作例運用指針」と、現在検討が進められているI SO2230 1「事業継続マネジメントシステム — 要求事項(最終案) 」を参考にしま した。 皆様方の今後の事業継続ならびに防災に本書がお役立て頂けましたら幸甚に存じます。 AIG 損害保険株式会社 事業継続計画(BCP) はしがき

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2011年3月11日午後2時46分、未曾有の1000年に一度と言われる「東日本 大震災」が

発生しました。震度5弱以上が観測されたのは全国4268観測点中734地 点。震度7は宮城県

栗原市の1地点、6強は宮城、福島、茨城、栃木4県の40地点(2 011年3月30日現在)となり、

この大地震は東日本太平洋岸へ津波を発生させ、甚大 な被害を発生させました。とりわけ、福

島第一原発にも過大な損害を与え今後数年間にわ たり対応が必要になると言われています。

添付している本書は、東日本大震災からの教訓を含め、BCP(事業継続計画書)と防 災マニ

ュアルの違いについてご説明し、企業が取組みやすいBCP策定について解説しま した。

両者の一番の違いは、BCPは全社的な立場で考え、企業防災は拠点の立場で考えることにあり

ます。例えば、工場や店舗が地震や火災などで大規模に被災した場合ですが、企業防災の立場で

はその「被災した工場または店舗をなるべく早く復旧し、事業や業務の再開」を目指します。これに

対してBCPは、「被災した工場や店舗の事業を他の工場や店舗で代行出来ないか」を考えます。

なお、基本となるBCPは内閣府の「事業継続ガイドライン第一版」に準拠し、防災マ ニュアルは愛

知県防災局が編集した「防災マニュアル作成例」を参考にしています。

また、中小企業庁の「中小企業BCP作例運用指針」と、現在検討が進められているI SO2230

1「事業継続マネジメントシステム — 要求事項(最終案)」を参考にしま した。

皆様方の今後の事業継続ならびに防災に本書がお役立て頂けましたら幸甚に存じます。

AIG 損害保険株式会社

事業継続計画(BCP)

はしがき

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事業継続計画(BCP)を理解するために

BCPと防災マニュアル

AIG 損害保険株式会社

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2011年3月11日午後2時46分、未曾有の1000年に一度と言われる「東日本大震災」が発生し

まし た。震度5弱以上が観測されたのは全国4268観測点中734地点。震度7は宮城県栗原市の1

地点、6 強は宮城、福島、茨城、栃木4県の40地点(2011年3月30日現在)となり、この大地震は

東日本太平 洋岸へ津波を発生させ、甚大な被害を発生させました。とりわけ、福島第一原発にも過大

な損害を与え 今後数年間にわたり対応が必要になると言われています。

本書は、東日本大震災からの教訓を含め、BCP(事業継続計画書)と防災マニュアルの違いについ

てご説明し、企業が取組みやすいBCP策定について解説します。

両者の一番の違いは、BCPは全社的な立場で考え、企業防災は拠点の立場で考えることにありま

す。 例えば、工場や店舗が地震や火災などで大規模に被災した場合ですが、企業防災の立場で

はその「被災した工場または店舗をなるべく早く復旧し、事業や業務の再開」を目指します。これに対し

てBCPは、「被災した工場や店舗の事業を他の工場や店舗で代行出来ないか」を考えます。

なお、基本となるBCPは内閣府の「事業継続ガイドライン第一版」に準拠し、防災マニュアルは愛知

県防災局が編集した「防災マニュアル作成例」を参考にしています。

また、中小企業庁の「中小企業BCP作例運用指針」と、現在検討が進められているISO22301

「事業継続マネジメントシステム ― 要求事項(最終案)」を参考にしました。

参考資料

1) 「防災マニュアル作成例」 愛知県防災局、2005年6月

2) 「事業継続ガイドライン第一版」 内閣府、2005年8月

3) 「中小企業BCP策定運用指針」 中小企業庁、2006年2月

4) ISO/DIS22301「事業継続マネジメントシステム-要求事項( 最終案)」、日本規格協会、

2011年5月

はしがき

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まず、「BCP」と「防災マニュアル」を目次の項目で比較しますと、BCPの方には防災マニュアルに

は ない「対象とするリスク」、「継続対策」、「IT の対策」、「実効性を高める為に」の四章が増えていま

す。各 章の中味も用語を含め多少違いますが、一番の違いはこの四章にあります。

更にですが、BCPの中心は第7章の継続対策にあります。これは代替対策とも呼ばれますが、代替

生 産、代替販売、迂回路の活用、代替部品やITのバックアップオフィスなどが含まれます。

福島原発事故で、指定避難区域にいた乳牛を他の地域に移し飼育することや指定避難区域の双

葉 町役場や飯舘村役場が役場機能を他に移し業務を継続することも継続対策です。 また、津波で

被災 した自動車部品メーカーがユーザー企業で事業を再開したことや、計画停電のために土日祝日

などに 操業を行い、平日を振替休日にすることも継続対策です。

東日本大震災では、被災後に継続対策を検討し、実行した事例が多く見られますが、BCPはでき

る 限り平時の冷静なときに、継続対策を考えます。この予め準備する継続対策の有無が防災マニュ

アル との大きな違いと思います。

BCPの目次 防災マニュアルの目次

第1章 はじめに 第1章 はじめに

第2章 対象とするリスク -

第3章 緊急事態における組織体制 第2章 災害時における組織体制

第4章 緊急連絡網 第3章 緊急連絡網

第5章 情報の収集と提供 第4章 情報の収集と提供

第6章 応急救護・初期消火・避難等 第5章 応急救護・初期消火・避難等

第7章 継続対策 -

第8章 復旧対策 第6章 復旧対策

第9章 予防対策 第7章 災害予防対策

第10章 ITの対策 -

第11章 教育と訓練 第8章 防災教育・防災訓練

第12章 実効性を高める為に -

BCP と防災マニュアルの違い

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第 1 章 はじめ

本章では、BCPと防災マニュアルに大きな相違はありません。以下の文書はBCP用ですが、文書中

にある「BCP」を「防災マニュアル」に、また「災害・事故・事件」を「災害」、そして第2項の「継続を図る」

を「復旧を図る」に置き換えると防災マニュアルになります。

これからもお分かりになると思いますが、BCPと防災マニュアルは兄弟姉妹のように似ています。

第1章 はじめに

地震や水害をはじめとした災害・事故・事件(以下「災害等」という)に対処するため、ここにBCPを定め

る。当BCPは、わが社の従業員および関係者(以下「従業員等」という)と資産、事業と業務の推進に大

きな影響を与える災害等に対し備えるためのものであり、次の三点を原則とする。

第1に、人命の保護を最優先する。

第2に、資産を保護し、事業および業務の継続を図る。

第3に、余力がある場合には近隣事業所への協力に当たる。

なお、当BCPによって迅速的確な対応をすることが、災害等による被害を軽減することとなるので、従

業員等は、予めこの内容をよく理解し、出来ればシミュレーショントレーニングをしておくことを推奨す

る。

【BCP用、防災対策もほぼ同じ】

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第 2 章 対象とするリスク

防災マニュアルではこの章はありません。BCPは災害・事故・事件と範囲が広いので、対象リスクを決

める必要があります。なお、リスクは顕在化するまでで、顕在化後は災害・事故・事件(以下「災害等」)

になります。

災害等は国により発生する頻度や影響度が異なります。日本では、地震、津波、水害、土砂災害など

自然災害の発生頻度と影響度が高いのですが、欧州では水害、テロ、感染症が高く、北米では水害、竜巻、

誘拐が高くなります。

リスク対策の観点からは、対象リスクを広くした方が「想定外」が減少し、良いのですが、対象リスクの

増加はBCPの文書も増加させ、管理を難しくします。ここでは、日本で多くの企業が被災した経験を持

つリスクに限定しますので、各社の都合により対象を拡大してください。

【BCPのみ】

第2章 対象とするリスク

当BCPで対象とする災害等は次のとおりとし、これ以外のリスクについては社長または社長が指名した者(以下

「社長等」という)が追加する。

自然災害 : 地震、津波、水害、土砂災害、感染症

事故 : 労働災害、IT 事故、火災、原発事故

事件 : サーバー攻撃、盗難、防火

参考までに、その他にも以下のようなリスクがありますが、各社の状況により追記してみてください。

自然災害 : 風水災、噴火、落雷、異常気象

事故 : 火災・爆発、製品事故、交通事故、環境汚染

事件 : テロ、誘拐、企業犯罪・不祥事、風評

注意

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第 3章

防災マニュアルでは「災害時における組織体制」と表題が代わりますが、内容はBCPとほぼ同じです。 違い

は、防災マニュアルでは「防災対策室」の設置場所が一箇所ですが、BCPでは「防災対策室」が

「 災 害 等 対 策 室 」 に 名称 が 変 わ り 、 一 番 目 の 設置 場所 が 使 え な く な る こ と も 想定 し 二番 目 を 設

置します。

東日本大震災では、予定した対策室が被災し、他の場所に対策室を設けざるを得なくなった自治体、 企

業が多数出ましたが、BCPでは平時から対策室を二箇所以上に設置することを推奨しています。

一番目の対策室と二番目の対策室の距離ですが、火災の場合は近い方が良く、広域災害や原発

事故を考えるとある程度離れた方が良いことになります。これらを考え、本書では「50km離れる」ことに

しています。なお、この距離は各社でご検討ください。

【BCP用、防災対策もほぼ同じ】

第3章 緊急事態時における組織体制

1. 設置時期: 震度 5 強以上の地震、津波、水害など自然災害については気象庁が当地域に警 報が

出た時点。その他の災害および事故・事件では社長等が判断する。

2. 設置場所は次のとおりとし、第二設置場所の使用は災害等対策室長が判断する。

(1) 第一設置場所: ○○○ビル (○○町○○丁目○-○番)

(2) 第二設置場所: □□□ビル (□□町□□丁目□-□番)

(第一と第二は50km程度離れていることが望まれる)

3. 設置場所の必要機材は次のとおりとし、災害等対策室長が管理する。

固定電話、携帯電話、ファックス、パソコン、プリンター、複写機、事業所配置図、平面図、組織 図、

従業員等の名簿、救急箱、飲料水、非常食料、毛布など

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4. 組織内容 (名称例:災害等対策室)災害等対策室の組織はつぎのとおりとし、社長等が対策室長と

副対策室長を任命する。

5. 対策室長は、次の業務を行う責任者を任命する。

(1) 災害地、社内、周辺の被災情報の収集、記録、報告、発表 (責任者:○○○○)

(2) 防災対策上重要事項の決定、指示、命令、報告 (責任者:○○○○)

(3) 本社、出先事務所の人員ならびに保安措置状況の把握 (責任者:○○○○)

(4) テナントの人員ならびに保安措置状況の把握 (責任者:○○○○)

(5) 従業員および関係者の帰宅についての安全確認、帰宅指示(責任者:○○○○)

(6) 被災状況情報の収集と確認、救出・救助の応援指示 (責任者:○○○○)

(7) 他事業所、関係会社との情報交換、支援要請 (責任者:○○○○)

副室長

災害等対策室長

厚生班 広報班 警備班 情報班

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防災マニュアルもBCPも基本は同じですが、「災害」と「災害等」、「防災対策室」と「災害等対策室」

など一部の用語が代わります。

東日本大震災では、被災しなかった東京でも固定電話、携帯電話が使えなくなり多くの方が家族と

の連絡に6時間以上を要すことになりました。また、Eメールも輻輳し、電話と同じ程度の時間を要しまし

た。被災時における家族、友人、従業員等との連絡を確保することは大変大きな問題ですが、これは通

信会社に改善をお願いすることになります。

企業では衛星電話の活用が考えられますが、これは本支店間や工場間の連絡には活用出来ますが、

使用料金が半額以下にならないと個人での活用は難しいと思います。

【BCP 用、防災対策もほぼ同じ】

第4章 緊急連絡網

1. 従業員および関係者の安否確認・緊急動員に係る緊急事態は下図のとおりとし、班長および 副

班長は対策室長が任命する。

第 4 章 緊急連絡網

災害等対策室

班長

副班長

班長

副班長

班長

副班長

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2. 緊急連絡網を使用する際は、次の事項に注意する。

(1) 災害等が発生した時は、速やかに指定された次の従業員等へ連絡する。

(2) 長電話は避け、連絡は簡潔に行う。

(3) 次の従業員と連絡がとれないときは、その従業員等をスキップして次の従業員等へ連絡する。

(4) 電話で連絡のとれない従業員については、本部員か本部が指定した者(連絡のとれな

い従業員等宅の最寄りに住む従業員等)が直接訪問する。

(5) 災害等で被災し、負傷し、被害をうけた従業員等に対し必要なサポートをする。

(6) この緊急連絡網は、緊急事態対策室からの情報伝達用連絡網としても使用される。

(7) 当社ホームページの緊急事態対策室の掲示板にも逐次必要な情報を掲示する。

(8) 電話は固定電話と携帯電話を併記し、連絡先は適宜メンテナンスを行う。

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一部の用語が代わる程度で、BCPと防災マニュアルに大きな違いはありません。なお、正確な情報

の収集は大変重要ですが、被災時は市役所や消防署も多忙を極めていますのでその配慮も必要にな

ります。それぞれの組織、企業が正確な情報をウエブサイトやローカルテレビなどで提供すると、通信の

輻輳を大きく減少すると思います。

【BCP 用、防災対策もほぼ同じ】

第5章 情報の収集と提供

1. 情報の項目、収集方法および責任者は次のとおりとする。

項目 収集方法 責任者

従業員等の安否確認

・ 災害等対策室または対策準備室が担当する ○○○○ ・ 緊急連絡網により電話確認

・ E メールを補足的に活用

建物の被害状況の

・ 自社の総務課の従業員等が担当する

○○○○

・ 建築業者に建物の被害調査を依頼する

把握と記録 ・ 周辺環境の被災状況は広報課の従業員が

収集する

周辺環境の被害状況の

把握と記録

自社の広報課の従業員等が担当する

○○○○

インフラの被害状況の

把握と記録

自社の営業部の従業員が担当する

インフラ・行政等連絡先一覧表による

○○○○

顧客・サプライヤとの連絡 ・

自社の営業部の従業員が担当する

顧客・サプライヤ一覧表による

○○○○

行政等との連絡 ・

災害等対策室または対策準備室が担当する

インフラ・行政等連絡先一覧表による

○○○○

愛知県防災局編「防災マニュアル作成例」から作成

第 5 章 情報の収集と提供

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2. 情報の収集に際しては次の事項に注意する。

(1) 建物内の従業員等、社外出務中の従業員等の安否確認を行う。

(2) 負傷者の有無(傷病程度も)を把握し、必要な応急措置を行う。

(3) 収集した情報は、会議室の壁にまとめて張り出すなどして、情報の一元管理を図る。

(4) 収集した情報を PC で整理する要員を配置する。

(5) 災害等対策用従業員等の招集と、自宅待機従業員等の振り分けを行う。

(6) 勤務時間外に発生した場合には、参集者で災害等対策準備室を立ち上げる。

3. 社長等が指名したBCP担当者は関係業者の一覧表を作成し、変更がある都度更新し、社内

の関係者に周知する。

関係業者名 所在地 責任者 電話番号 FAX

A 通信会社

B 建設業社

C 物流会社

D 警備会社

E 電気会社

F 設備会社

・・・・・・

情報収集者および情報受信者、情報整理者、情報判断者、情報発信者を分けた方が効率的になる。

ITを活用する際は、情報漏洩、不正侵入に気をつけること。

注意

社内での情報の錯綜を排除するためには、施設および関係業者毎に発信者とその代理、受信

者と その代理を平時に決めて置くこと。

電話・FAXが使用できない場合は、Eメールを活用すると良い。

注意

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4. BCP担当者はインフラ関係および行政等の連絡先一覧表を作成し、変更がある都度更新し、 社内の

関係者に周知する。

情報 機関 入手先名(機関名) 電話番号

行政情報

消防 ○○消防署

○○出張所

警察 ○○警察署

○○派出所

保健所 ○○市役所

○○市区役所

市 ○○市役所

(町村) ○○市区役所

県 ○○県防災局災害対策課 災害対策本

部情報統括部(設置時のみ)

交通情報

道路

○○運輸局

○○県警察本部災害対策課

○日本高速道路株式会社

○○県道路公社

鉄道・バス

JR○○駅

JR△△駅

A私鉄○○駅

B私鉄○○駅

地下鉄○○駅

○○市交通局

○○バス

インフラ

電気 □□電力○○営業所

ガス □□ガス○○営業所

△△ガス○○営業所

水道 ○○市水道局

○○県健康福祉部生活衛生課

電話

NTT○○支店災害対策室

KDDI○○支社 NTTドコ

モ○○災害対策室

気象情報

気象 ○○地方気象台[天気相談]

(気象予警報 177)

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日本では応急救護も初期消火も一人でも実施する事例があるが、米国ではまず三人集めてからこれ

を実施する事例が多い。これは、一人が対応を行い、一人が対応者を見守り、最後の一人が緊急時の

連絡担当になる。無論、この三名ともに教育と訓練を受けていることが前提になる。

三名を集めてから活動を開始するのは二次被害を避けるためには大変有効な方法で、例えば、

倒れている人を救護する場合に、倒れた理由が酸素欠乏とすると対応者も救護を開始すると同時に

酸欠で倒れる可能性がある。見守り者はそれを連絡担当者に伝え、連絡担当者は消防、警察、関係者

に伝えることになる。

このケースを一名で対応すると、始めに倒れた人と対応者の二名が被災し、共に死亡する可能性が

ある。また、初期消火も一名で行うと、自身が被災したい場合に救出も、連絡も出来なくなる。

なお、初期消火および応急救護は訓練を受けた方のみが実施し、訓練を受けていない方は避難

します。

【BCP 用、防災対策もほぼ同じ】

第6章 応急救護・初期消火・避難等

1. BCP担当者は初期活動一覧表を作成し、必要がある都度更新し、社内の関係者に周知する。

応急救護

従業員等による 1. まず、三名を集める。

応急措置 2. 教育と訓練を受けた従業員等により、応急手当を実施する。

医療機関への搬送

1. 119番通報により救急車を要請する。

2. 同時多発災害の場合は、社用車等により最寄りの病院へ搬送する。

【指定搬送先病院】 ○○○○病院

初期消火

火の始末 1. 地震発災後は、建物内の火気使用場所を点検する。

【点検場所】 湯沸室、燃料庫、その他

初期消火

1. 火災を発見した場合は、大声で周囲の人に知らせる。

2. 119番通報を行う。

3. 三名になってから、初期消火に努める。

【必要機材】 消火器、消火栓、水バケツ等

4. 地震の場合には、消防車の到着が遅れることを考慮する。

第 6 章 応急救護・初期消火・避難等

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避難など

避難誘導 1.

2.

避難の場合は、避難誘導に従い落ち着いて行動する。 外来者は不

慣れであるので避難誘導にあたっては特に気をつける。

避難場所

1. 火災時: 原則として地上に向かう。

2. 洪水、高潮時: 原則として 2 階以上に向かう。

3. 地震時: まず、自分の身の安全を図る。

非常持ち出し 1. 非常用ナップザックを準備し、次のものを収納しておく。

応急手当セット、ラジオ、懐中電灯、従業員等の名簿等

大規模災害時の

1. ○○公園 (会社近くの小規模公園など)

2. △△公園テニス場入口付近 (大規模公園など)

落ち合い場所 3. 落ち合い場所に集まることができない場合は、「災害用伝言ダイヤル

171」を利用する。

愛知県防災局編「防災マニュアル作成例」から作成

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2. 地震の心得は次のとおりとする。

地震の心得 10カ条

1. まずわが身の安全を図る

地震が発生したら、まず丈夫なテーブル、机などの下に身をかくして、しばらく様子を見る。

2. すばやく火の始末

大地震で最も恐ろしいのは火災。地震を感じたら落ち着いて、冷静に、すばやく火の始末。

3. 火が出たらまず消火

万一出火した場合には、初期のうちに火を消すことが大切。周囲に声をかけあい皆で協力

して初期消火に努める。

4. あわてて外に飛び出ない

屋外は屋根瓦、ブロック塀、ガラスの飛散など危険がいっぱい。揺れがおさまったら外の様子

を見て、落ち着いて行動する。(外へ出るときは、ヘルメットや頭巾などをかぶって出る)

5. 危険な場所には近寄るな

狭い路地、塀ぎわ、ブロック塀の傍など、危険な場所にいるときは急いで離れる。

6. がけ崩れ、津波などに注意

がけ崩れ、津波など危険区域では、すばやく安全な場所に避難する。

7. 正しい情報で行動

テレビやラジオ、防災機関からの情報で行動し、デマに惑わされないよう注意する。

8. 人の集まる場所では冷静な行動を

あわてて出口や階段に殺到せず、係員の指示に従う。

9. 避難は徒歩で、持ち物は最小限に

避難は自動車、自転車は使わず徒歩で。また、身軽に行動できるよう荷物は必要最小限に

とどめ、背負うなどして両手をあける。

10. 自動車は左に寄せて停車

カーラジオの情報に注意し、勝手な走行はしない。また、走行できない場合は左に寄せて

停車し、エンジンを止める。車を離れて避難する時は、キーはつけたままで、ドアロックも

しない。車検証などの貴重品を忘れず持ち出して徒歩で避難する。

愛知県防災局編「防災マニュアル作成例」から作成

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3. 津波の心得は次のとおりとする。

津波の心得 10カ条

1. 小さな揺れでも油断禁物

小さな揺れでも大津波の危険性がある。

2. 高い場所へ避難する

海岸から「より遠くへ」でなく、「より高い」場所へ避難する。

3. 津波のスピードは速い

「注意報」や「警報」が出る前に来る津波もある。揺れを感じたら、直ちに避難する。

4. 津波は繰り返し来る

津波は2回、3回と襲ってくる。津波が落ち着くまでは注意する。

5. 引き潮がなくても注意

震源付近の地形によっては、引き潮が起こらない津波もある。

6. 満潮の時は要注意

水位が高くなっているので、被害が大きくなる。

7. 正しい情報を聞く

防災行政無線放送やテレビ・ラジオなどで正しい情報を聞く。

8. 河川に近づかない

津波は河川をさかのぼってくるので、河川には絶対に近づかないようにする。

9. 海岸に近づかない

意報、警報が解除されるまで海辺には絶対に近づかないようにする。

10. 海上では

船舶は無線などの情報で速やかに行動する。

和歌山県田辺市編「災害時の心得」から作成

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本章は防災マニュアルにはありません。BCP固有のもので、内容は代替対策です。いつもの駐車場

が使えない場合は代替駐車場の活用、電力中断には非常用発電機の活用などが継続対策です。この

対策で一番重要なのは、別の工場や他社での代替生産や、別の場所での代替販売などです。

東日本大震災で被災した商店や農協などが東京や横浜で被災地の産物を販売するのも継続対策

ですし、被災した町村役場の土地台帳などを修復するのも継続対策です。

継続対策がない場合は、 役場や商店の応急復旧を急がざるを得ませんが、 継続対策があると

時間的な余裕が生まれ、復旧・復興の計画策定と実施にも時間的な余裕が出てきます。

【BCP のみ】

第7章 継続対策

1. 災害等で本社ビルが使用できない場合は、○○支社でその機能を維持する。○○支社が

使えない場合は△△支社でその機能を維持する。

2. 支社などの事務所が使 用不能の場 合は、 仮事務所の設置 場所である第一候補場所と

第二候補場所を支社長が設定する。

3. 本社工場が被災した場合は、○○工場で同一商品の生産を行う。

4. 情報センターが被災した場合は、□□支社でその機能を維持する。そのため、各種データは毎日午後

7時に□□支社に送信し、保管する。

5. 継続対策に必要な要員は、都度社長等が指名し、必要な訓練を行う。

第 7 章 継続対策

ここでは本社機能、本社工場、情報センターとなっているが本来は全社に高い影響がある事

業、業務を選び出し、これらの継続対策を考えることになる。

全社に高い影響がある事業、業務を選び出す作業を、ビジネス影響度分析(BIA)といい、ISO

のBCMS(事業継続マネジメントシステム)では必須作業になる。

ITの継続対策(バックアップ)は特に重要である。東日本大震災では、ITの継続対策がない自

治体や 企業が見受けられ、重要データが修復できないほど損傷した事例もあった。

注意

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復旧対策は、応急復旧と恒久復旧があります。防災マニュアルは応急復旧が必須かつ重要項目で

すが、BCPには継続対策があるので必須ですが補助項目になります。

被害の程度により、復旧、復興、再生と分かれます。復旧は「旧に復する」で被害は小さいイメージで

す。次に被害が大きいのは復興で、意味は「また興す」です。今回の大震災で甚大な被害が出た地域

は復興よりも「再生」が相応しいと思います。

【BCP 用、防災対策もほぼ同じ】

第8章 復旧対策

1. 社長等が応急復旧を指示した場合は、災害等対策室長は次の業務を行う。

(1) 被災した自社およびテナントの経営資源を確認する。

(2) 自社およびテナントの使用可能な経営資源を確認する。

(3) 応急復旧に必要な資源のコストと調達時間を調べる。

(4) 社長等が応急復旧の範囲と期間を決定する。

(5) 応急復旧を実施する。

2. 社長等が恒久復旧を指示した場合は、対策等対策室長は次の業務を行う。

(1) 被災した自社およびテナントの経営資源を確認する。

(2) 自社およびテナントの使用可能な経営資源を確認する。

(3) 社長等が恒久復旧計画を策定する。

(4) 応急復旧に必要な資源のコストと調達時間を調べる。

(5) 計画に基づき復旧を実施する。

3. 災害等対策室長は次の事項に留意する。

(1) 被災した建物や資源の警備体制を確保する。

(2) 被災事業所の所在する地域社会の救援活動および復旧計画には、進んで協力する。

(3) テナント(店舗・営業窓口等)の移転先の確保と他のビルからのテナント(店舗・営業窓口等)の

受入れに協力する。

(4) 避難場所の提供に協力する。

第 8 章 復旧対策

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ここは、対象リスクにともない対策数が増減します。ただし、対策が似ているリスクもありますので、リスク数

の増減ほど対策数は増減しません。

対策には大きく分けて次のような経営資源別になりますが、東日本大震災でも原発事故でも極めて重要

と指摘されるのは「無形財」に含まれる「経営意欲」、「勤労意欲」、「ブランド」です。有形財や情報、資金が

津波に流されても、人材が残り、その人材に経営意欲や勤労意欲があれば組織や企業は再生が可能

です。

逆に、終息の見通しがなかなか出ない福島原発事故は、目の前にある有形財や情報などが活用

出来ないばかりか、経営意欲と勤労意欲を著しく傷つけますので、この意欲の減少に歯止めをかける

対策が必要となります。

・ 人材: 従業員、経営層、関係者、他

・ 無形財: 知財、専門技能、ブランド、経営意欲、勤労意欲、他

・ 有形財: 材料、部品、生産設備、製品、建物、他

・ 資金: 現金、貯預金、売掛金回収、給与支払、保険、他

・ 情報(一般): 株主情報、従業員情報、顧客情報、サプライヤ情報、他

・ 情報(IT): 各種データ、各種ソフト、他

【BCP 用、防災対策もほぼ同じ】

第9章 予防対策

1. 当工場の建 物および設備の予防対 策は社長等 の指示に基 づき各部門 長が実施する。

なお、主な実施項目は次のとおりである。

(1) 建 物の 全 般 的 定 期 点 検 と 補 強 及 び 補修 工事 の 必 要 項 目 を 検討 し 、 計画的に

実施する。

(2) 看板、ブロック、ガラス等の落下倒壊防止対策を実施する。

(3) キャビネット、パーテーション、ロッカー等什器の転倒防止を実施する。

(4) ストーブ、湯沸かし器等火気使用設備、危険物施設、消防用設備、AED等の安全確認と点検

を実施する。

(5) IT 機器、複写機、FAX等情報機器類の安全対策を実施する。

第 9 章 予防対策

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2. 重要書類の保管と非常用持ち出し袋の管理は社長等の指示の基づき各部門長が実施する。なお、主

な項目は次のとおりである。

(1) 重要書類は、耐火金庫に保管する。

(2) 非常用持ち出し書類は、最小限とし、火災又は爆発の危険性のあるときに限る。

(3) 非常用持ち出し袋には下記のものを収容し、各部門長は内容物の数量および有効期限を確認

して常に使用可能な状態にしておく。

(4) 非常用持ち出し袋は、AビルとB倉庫に各4セット保管する。

(非常用持ち出し袋の収容物)

愛知県防災局編「防災マニュアル作成例」から作成

3. 非常用備品は次のとおりとし同数をAビルとB倉庫に保管する。保管の責任者であるBCP 担当者

は毎年○月○日現在の数量、内容物の保存状態を確認し、関係者に周知する。

【注意】表の数量は10名・3日分である。

項目 番号 品名 数量

食料

1 飲料水 100リットル

2 食料品 (カンパン、カップ麺、缶詰等) 100セット

生活用品

3 毛布・タオル 10枚

4 炊き出し道具 (携帯コンロ、携帯燃料、鍋など) 一式

5 食器セット(紙皿、紙コップ、箸等) 一式

6 ポリタンク 2個

7 ティッシュ・ウエットティッシュ 4個

8 軍手 10組

9 防塵マスク 10個

10 簡易トイレ 100個

№ 品 名 数量

1 救急医療セット 1

2 携帯ラジオ 1

3 懐中電灯 1

4 予備電池(ラジオ、電灯用) 1

5 現金(小銭) 1

6 テレホンカード(50 度数) 1

7 ライター 1

8 タオル 2

9 ポケットティッシュ 5

10 コップ 5

№ 品 名 数量

11 部門の従業員等名簿 1

12 軍手 2

13 ゴミ袋 2

14 ウォーターパック 1

15 マスク 2

16 笛 2

17 近隣の地図 1

18 方位磁石 1

19 災害用トイレ 10

20 その他

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各種機材

11 防水シート 2枚

12 土嚢 20個

13 ロープ 50メートル

14 救急箱 1セット

15 懐中電灯(予備の電池含む) 5個

16 ヘルメット 10個

17 脚立(はしご) 1個

18 防災用工具 一式

感染症対策

19 感染症対策マスク 120個

20 消毒液 3個

21 体温計 1個

22 感染防止手袋 60組

23 感染症防護服 2組

その他

24 雨具 10組

25 使い捨てカイロ 120個

26 その他

愛知県防災局編「防災マニュアル作成例」から作成

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既にご承知と思いますが、地震や火災、 労働災害よりもIT事故・ 事件の発生頻度が高いことが

知られています。IT 障害が発生すると、生産ラインや販売業務、さらには請求書作成業務や入金確

認 業務が停止します。また、顧客やサプライヤとの連絡も中断します。

ITの事故・事件で多い原因は、機器や配線の劣化、予想以上の業務数の増加、従業員等の誤操作

などの事故、情報漏洩(事故の場合もある)やウイルスなどの事件ですが、落雷による停電や福島原発

事故による計画停電も IT 事故の原因になります。

ITの対策で重要なことの一つに、ビジネス側が明確に復旧の優先順位やデータ保管の優先度を

決めることがあります。これが曖昧ですと、IT側が混乱し、復旧に多くの時間を費やすことになります。

【参考資料】

1) 『ITサービス継続ガイドライン』 経済産業省、2008年9月

2) 『ISO/IEC20000 活用ガイドと実践事例』、ISO/IEC20000 活用ガイドと実践事例編集

委員会 編著(編集委員長 大畑毅)、日本規格協会、2008年1月28日

【BCP のみ】

第10章 ITの対策

1. 社長から任命されたIT管理責任者は、次の業務を担当する。

(1) IT の全部品の名称、調達先、在庫状況、発注から納期までの時間、代替部品の要件を明記

した一覧表の作成

(2) IT関係要員の資格、知識、スキル、経験条件、代替要件を明記した一覧表の作成

(3) 事業・業務側と協議し、業務毎の目標復旧時間(RTO)の設定

(4) 事業・業務側と協議し、業務毎の目標復旧ポイント(RPO)の設定

(5) 事業側が決めた、業務の復旧優先順位の遵守

(6) RTO とRPOの遵守

(7) 情報漏洩対策と不正侵入対策

(8) 情報の予防・緊急事態・継続・復旧対策と各対策書(BCP)の作成

第 10 章 IT の対策

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2. IT管理責任者は、バックアップオフィスの維持管理を担当する。

(1) 本社のIT機能のバックアップオフィスの設置

(2) 毎時(または毎日)本社のデータをバックアップオフィスへの送信

(3) 毎月一度、バックアップオフィス機能の検証

3. IT管理責任者は、次の事項に留意する。

(1) ITにかかる経費は社長等の指示を受ける

(2) 次席および三席代行者を指名する

(3) 社長等が別に任命するIT監査責任者の業務に協力する

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本章もBCPと防災マニュアルでは大きな違いはありません。用語が一部異なることと、BCPでは対象

リスクが増減するに従い訓練のタイプも増減します。

訓練は、事前に異常事態の想定をする必要があります。その想定は大変難しいのですが、過去に

発生した災害等を解析し構築します。想定が甘いと、実際に被災した時に「想定外」が多発します。

逆に想定が厳しいと、訓練時に「そんなことはありえない」発言が多発します。訓練の想定はこのように

難しいため、社長等の承認を得る必要があります。

一般的には、第9章 「予防対策」の解説文にある経営資源の欠乏度で調整します。例えば、人材の

損傷率、有形財や情報の損傷率です。これに次のようなインフラの損傷率を加えることもできます。想定

損傷率が低いと訓練は甘くなり、想定損傷率が高いと訓練は厳しくなります。

・ 電気

・ 上水道

・ 下水道 (盲点になりがちですが、重要)

・ 通信 (電話、ウエブ、メール)

・ ガス

・ 道路 (幹線道路、搬入道路)

・ 鉄道 (通勤用、通勤鉄道が止まると道路は混雑し通行不能になる)

【BCP 用、防災対策もほぼ同じ】

第11章 教育と訓練

1. 教育と訓練は、BCP担当者が消防、警察などの指導と助言の下に実施し、全ての従業員等は参加

するものとする。

2. 以下の訓練は毎年一度実施し、これ以外の災害等に対する訓練は社長等が別途指示する。

(1) 防火訓練

(2) 救急救命訓練

(3) 防災訓練

(4) 防犯訓練

(5) 水防訓練

第 11 章 教育と訓練

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3. 訓練には次の項目を含む。

(1) 火災発生時の初期対応

(2) 地震発生時の初期対応

(3) 救出救護

(4) 災害等対策室の設置及び運用

(5) 情報の収集、伝達

(6) 継続対策および復旧対策

4. 教育は、BCP担当者が毎年一回以上実施し、次の項目を含む。

(1) 当社のBCPの概要について

(2) 各員の任務と行動基準について

(3) 災害等の一般知識について(地震、水害、火災、犯罪、労災事故、IT 事故等)

(4) 応急処置について

5. 社長等は各部門長に指示し、従業員等が次の講習会に参加できるようにする。

(1) 消防署が行う応急手当普及員講習会

(2) 警察署が行う防犯講習会

(3) 自治体が行う防災講習会

(4) その他防災等に関する講習会

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これまでの章は防災マニュアルとBCPの違いを例にとりながら、BCP策定の考え方を紹介しました。

この考え方を踏まえて実効性を高める為に、以下のような要素を加味し運用できると、さらに効果的

なBCPになります。

1. 資金計画

BCPの実効性を高くするためには、BCP発動時の資金計画とBCP実装時の資金計画の

検討が必要になります。

発動時の資金計画としては、①従業員等への緊急支援資金、②被災時の避難および復旧

資金の想定と調達方法、③事業停止期間中の必要運転資金の想定と調達方法、 ④代替

生産・代替販売などの費用の想定と調達方法などです。発動時は、火急的かつ速やかに対策

を実行しなければならないので、被害想定に見合った調達計画を策定していないと、予定した

効果を挙げることができなくなります。このためには、日頃から発動時の想定資金の算出と調達

方法を検討しておく必要があります。

BCP実装時の資金計画としては、⑤予防対策資金(耐震・免震補強含む)、⑥セカンドサイト

運営資金、⑦在庫等の滞留資金計画などです。策定した計画をスムーズに実行する為に、

脆弱部分の強化、被害の拡大抑制、部分的二重化など、事前に各種対策を実行する為の資

金計画が必要になります。全ての予防対策と事業の二重化を実施しておけばBCPとしては極

めて有効になりますが、莫大な費用が発生し、その多くは実際には活用しないこともあります。

事業体としてどの程度の費用を確保して、どの事前対策を実行するかを検討しなければなりま

せん。

2. 非常時の権限体系 いざ災害が発生した場合、経営層全員が無事に業務遂行できるとは限りません。

災害で本社

機能が麻痺したり、感染症発症などで複数の権限保持者の業務遂行が不可能になるケースも

あります。また、緊急時こそよりスピーディーに対応しなければならないはずが、平時の稟議承認

体制と同様のスピード感で処理を進めると、対応が後手に回り、スムーズな継続対策・復旧対策

を進めることもできません。

第 12 章 実効性を高める為に

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そのために非常時の権限体系を明らかにしておくことが重要になります。事前に明確化しておく

べき主な事項は以下の二種類です。

(1) 権限委譲

① マネジメント層が身体的問題で長期間業務遂行が不可能になった場合

・ 社長を含む経営陣(上位者)の代理権限者及び順位

② マネジメント層が物理的問題で業務遂行が不可能になった場合

・ 代替事業所での業務遂行責任者の権限など

(2) 承認プロセス

① 支払い承認

・ 災害復旧で突発的に発生する各種費用の支払い承認の簡素化

② 人事異動・出張承認

・ 被災事業所で勤務不可能な場合の異動、被災事業所の復旧応援等で緊急の

異動・出張申請の簡素化

以上

監修: 黄野 吉博(こうの よしひろ)

一般社団法人レジリエンス協会代表理事

【ご活用にあたってのご注意】

本書は、企業が対処するべき災害等において、BCPと防災マニュアルの違いをご理解頂き、BCP

策定を担当する関係者が取組みやすいようにまとめたものです。従いまして、対策を講じる全ての事項

を網羅したり、災害等発生に伴う被害を防ぐことを保証するものではありません。

各企業の実情に合わせたうえで、関係法令を遵守し、行政機関や地域社会などの方針に準じて対

応されるよう加筆・修正のうえ、ご活用ください。