assq 日本語版の心理測定学的特性の検証と 短縮版の開発

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自閉症スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorders: ASD)は,相互的な社会的やりとりの障害,言語的・ 非言語的コミュニケーションの障害,および,限局さ れた興味・行動の様式によって特徴づけられる一群の 発達障害である。本研究では,一般小中学生と ASD 児の比較に基づいて,ASD のスクリーニング尺度であ Autism Spectrum Screening QuestionnaireASSQ)邦 訳版(Ehlers, Gillberg, & Wing, 1999; 井伊・林・廣瀬・ 東條, 2003)の心理測定学的特性の検討と短縮版の開 発を行う。 近年,ASD を始めとする発達障害の研究が急速に 発展し,発達障害の概念の整理とアセスメント手法の 洗練化が進んでいる。そうした中で,一般人口におい て,かつて考えられていたよりも,はるかに多くの子 どもや成人が発達障害を有することが明らかになって きた。30 年前の段階では,自閉症の有病率は 1 万人 2 人(0.02%)程度と推定されていたが(Gillberg, ASSQ 日本語版の心理測定学的特性の検証と 短縮版の開発 伊藤  大幸 浜松医科大学 松本  かおり 金沢工業大学 髙柳  伸哉 弘前大学 原田  新 徳島大学 大嶽  さと子 名古屋女子大学 望月  直人 大阪大学 中島  俊思 浜松医科大学 野田  航 大阪教育大学 田中  善大 奈良佐保短期大学 辻井  正次 中京大学 Psychometric properties of the Japanese version of the Autism Spectrum Screening Questionnaire (ASSQ): Development of a short form Hiroyuki Ito Hamamatsu University School of Medicine, Kaori Matsumoto Kanazawa Institute of Technology, Nobuya Takayanagi Hirosaki University, Shin Harada University of Tokushima, Satoko Ohtake College of Nagoya Womens University, Naoto Mochizuki Osaka University, Syunji Nakajima Hamamatsu University School of Medicine, Wataru Noda Osaka Kyoiku University, Yoshihiro Tanaka Nara Saho College, and Masatsugu Tsujii Chukyo UniversityWe examined the psychometric properties of the Japanese version of the Autism Spectrum Screening Questionnaire (ASSQ) and developed a short-form. This study included 157 children with autism spectrum disorders (ASD, ages 7–18, 128 boys) and 4,101 healthy controls (ages 7–15, 3,344 boys) from a general population with a controlled male-female ratio. Four factors (Unusual Interests, Sociality, Peer Relations, and Repetitive Behaviors) were extracted by exploratory factor analysis of control group data. Confirmatory factor analysis revealed that the 4-factor model fit well with data for another sample of the control and ASD groups. Logistic analysis showed that the former 3 factors could significantly predict ASD diagnosis. Thus, a short form of the ASSQ was developed, consisting of 11 items for these 3 factors. This short form showed sufficient internal consistency and high discrimination power for ASD diagnosis that was comparable to that of the 22-item version. Receiver operating characteristic analysis indicated an optimal cut-off of 7 for the 22-item version (sensitivity .949, specificity .801) and 5 for the short-form (sensitivity .936, specificity .818). Key words: autism spectrum disorders, developmental disorders, Autism Spectrum Screening Questionnaire, psychometric properties, short-form. The Japanese Journal of Psychology J-STAGE Advanced published date: July 1, 2014 Correspondence concerning this article should be sent to: Hiroyuki Ito, Research Center for Child Mental Development, Hamamatsu University School of Medicine, Handayama, Higashi-ku, Hamamatsu 431-3192, Japane-mail: [email protected]心理学研究 2014 年 doi.org/10.4992/jjpsy.85.13213 研究資料 Methodological Advancement

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自閉症スペクトラム障害(AutismSpectrumDisorders:ASD)は,相互的な社会的やりとりの障害,言語的・非言語的コミュニケーションの障害,および,限局された興味・行動の様式によって特徴づけられる一群の発達障害である。本研究では,一般小中学生と ASD児の比較に基づいて,ASDのスクリーニング尺度であ

る AutismSpectrumScreeningQuestionnaire(ASSQ)邦訳版(Ehlers,Gillberg,&Wing,1999;井伊・林・廣瀬・東條,2003)の心理測定学的特性の検討と短縮版の開発を行う。近年,ASDを始めとする発達障害の研究が急速に

発展し,発達障害の概念の整理とアセスメント手法の洗練化が進んでいる。そうした中で,一般人口において,かつて考えられていたよりも,はるかに多くの子どもや成人が発達障害を有することが明らかになってきた。30年前の段階では,自閉症の有病率は 1万人に 2人(0.02%)程度と推定されていたが(Gillberg,

ASSQ日本語版の心理測定学的特性の検証と短縮版の開発

伊藤 大幸 浜松医科大学 松本 かおり 金沢工業大学 髙柳 伸哉 弘前大学 原田 新徳島大学 大嶽 さと子 名古屋女子大学 望月 直人 大阪大学 中島 俊思 浜松医科大学

野田 航 大阪教育大学 田中 善大 奈良佐保短期大学 辻井 正次 中京大学

Psychometric properties of the Japanese version of the Autism Spectrum Screening Questionnaire (ASSQ): Development of a short form

Hiroyuki Ito(Hamamatsu University School of Medicine), Kaori Matsumoto(Kanazawa Institute of Technology), Nobuya Takayanagi(Hirosaki University), Shin Harada(University of Tokushima), Satoko Ohtake(College of Nagoya Women’s University), Naoto Mochizuki (Osaka University), Syunji Nakajima(Hamamatsu University

School of Medicine), Wataru Noda(Osaka Kyoiku University), Yoshihiro Tanaka(Nara Saho College), and Masatsugu Tsujii (Chukyo University)

Weexamined thepsychometricpropertiesof the Japaneseversionof theAutismSpectrumScreeningQuestionnaire (ASSQ)anddevelopedashort-form.Thisstudy included157childrenwithautismspectrumdisorders (ASD,ages7–18,128boys)and4,101healthycontrols (ages7–15,3,344boys) fromageneralpopulationwithacontrolledmale-femaleratio.Fourfactors(UnusualInterests,Sociality,PeerRelations,andRepetitiveBehaviors)wereextractedbyexploratoryfactoranalysisofcontrolgroupdata.Confirmatoryfactoranalysisrevealedthat the4-factormodelfitwellwithdataforanothersampleof thecontrolandASDgroups.Logisticanalysisshowedthattheformer3factorscouldsignificantlypredictASDdiagnosis.Thus,ashortformoftheASSQwasdeveloped,consistingof11itemsforthese3factors.ThisshortformshowedsufficientinternalconsistencyandhighdiscriminationpowerforASDdiagnosisthatwascomparabletothatofthe22-itemversion.Receiveroperatingcharacteristicanalysis indicatedanoptimalcut-offof7for the22-itemversion(sensitivity.949,specificity.801)and5fortheshort-form(sensitivity.936,specificity.818).

Key words:autismspectrumdisorders,developmentaldisorders,AutismSpectrumScreeningQuestionnaire,psychometricproperties,short-form.

The Japanese Journal of PsychologyJ-STAGEAdvancedpublisheddate:July1,2014

Correspondenceconcerningthisarticleshouldbesentto:HiroyukiIto,ResearchCenterforChildMentalDevelopment,HamamatsuUniversitySchoolofMedicine,Handayama,Higashi-ku,Hamamatsu431-3192,Japan(e-mail:[email protected]

心理学研究 2014年 doi.org/10.4992/jjpsy.85.13213 研究資料MethodologicalAdvancement

伊藤他:ASSQ日本語版の心理測定学的特性と短縮版の開発 285

1984),近年ではその 100倍にあたる 2%前後の有病率が報告されるようになっている(Blumberg,Bramlett, Kogan, Schieve, Jones, & Lu, 2013; Kim,Leventhal,Koh,Fombonne,Laska,Lim,Cheon,Kim,Kim,Lee,&Song,2011)。国内でも,全国の公立小中学校での調査から,通常学級に在籍する小中学生のうち,6.5%(うち ASD傾向は 1.1%)が,発達障害の可能性を有することが報告されている(文部科学省,2012)。こうした現状から,発達障害の心理・生理・病理的特性を明らかにするとともに,効果的な支援のあり方を見出すことが喫緊の課題となっている。このような現状の中で,研究・臨床のいずれの文脈

においても,十分な精度で発達障害特性を評価しうるアセスメントツールが必要とされている。Table1に示すように,ASDのアセスメントツールは大きく,面接,観察,質問紙の三つの形式に分類することができる。このうち,面接や観察によるツールは,専門家が対象者や保護者から直接的に情報を得ることができるため,より信頼性・妥当性に優れている。その一方で,個々の対象者や保護者に専門家が個別で検査を実施する必要がある上に,1回の実施に 30分─ 2時間程度を要するため,実施のコストが大きいという側面もある。したがって,臨床の文脈では,ある程度,ASDの可能性が疑われる対象者に対して,確定診断のための補助的なツールとして使用されることが一般的である。研究の文脈では,比較的小規模のサンプルを扱う実験研究や介入研究に使用されることが多い。それに対し,質問紙形式のツールは,一度に多数の

対象者に対して実施可能であり,所要時間も 20分程度までと短いため,実施のコストが小さい。その一方で,必ずしも専門知識のない対象者本人,保護者,教師などが評定を行うため,面接・観察に比べ信頼性・妥当性がやや劣る面がある。したがって,臨床の文脈では,一般の人々を対象とした一次的なスクリーニン

グ(ふるい分け)の目的で使用されることが多い。研究の文脈では,主に大規模サンプルを扱う調査研究・疫学研究で使用される。このような使用用途を考慮すると,質問紙形式のア

セスメントツールに求められていることは,一定の測定精度を維持しつつ,いかに項目数と所要時間を短縮し,実施コストの低減を実現するかということである。例えば,一次的なスクリーニングという場面を想定すると,主な対象となるのは特定の障害の疑いが指摘されていない一般の人々であるため,ASDだけでなく,注意欠如多動性障害(ADHD),学習障害(LD)などの他の発達障害や,健診などの状況であれば,身体疾患のスクリーニングも同時に行うという状況が多くなる。また,調査研究においても,有病率に関する疫学調査などを除けば,ASDの仮説的なリスク要因や結果変数を調査項目に含め,ASD特性との関連性を検討する必要がある。こうした状況においては,ASD特性の評価に割くことのできる項目数には,厳しい制約がかかることになる。

Table1に示したように,既存の質問紙ツールの中でも,Ehlersetal.(1999)によって開発された ASSQは,他の尺度に比べ大幅に項目数が少なく,上記のようなニーズに,より即していると言える。また,ASSQは前述の文部科学省(2012)の調査でも使用され,邦訳版の無償使用が可能となっているため,使用料が必要となる他の尺度よりも,研究・臨床双方の文脈で利用可能性が高い。ASSQは ASDのスクリーニングにおいて高い精度を発揮することが示されており(Ehlers,etal.,1999;Posserud,Lundervold,&Gillberg,2009),各国での ASDの有病率に関する疫学調査(Kimetal.,2011),低出生体重や親の喫煙などのリスク要因との関連を探る研究(Indredavik,Brudakk,Romundstad,&Vik,2007),精神的健康や睡眠などの結果変数との関連を探る研究(Sivertsen,

Table1子どもを対象に含む ASDのアセスメントツールとその基本的特徴

形式 ツール 項目数 対象年齢 所要時間 主たる用途面接 PARS 34 3歳以上 30─ 45分

・確定診断の補助・実験・介入研究ADI-R 93 2歳以上 a) 1.5─ 2時間

観察 ADOS 1歳以上 30─ 45分質問紙 SRS 65 4─ 18歳 15─ 20分

・スクリーニング・調査研究

SCQ 40 4歳以上 10─ 15分児童用 AQ 50 4─ 11歳 15分前後

ASSQ 27 7─ 16歳 5─ 10分注) PARS:広汎性発達障害日本自閉症協会評定尺度 ,ADI-R:AutismDiagnosticInterview-Revised,ADOS:Autism

DiagnosticObservationSchedule,SRS:SocialResponsivenessScale,SCQ:SocialCommunicationQuestionnaire,AQ:AutismSpectrumQuotient,ASSQ:AutismSpectrumScreeningQuestionnaire

a)精神年齢。

心理学研究 2014年第 85巻第 1号286

Posserud,Gillberg,Lundervold,&Hysing,2012)など,幅広く利用されている。しかし,ASSQの日本語版(井伊他,2003)について,

十分な心理測定学的特性の検討はなされておらず,萱村・井関(2008)の報告があるのみである。萱村・井関(2008)では,児童養護施設の入所児を対象とし,2名の指導員の評定者間信頼性を検討している。項目によってばらつきがあるものの,合計得点では r=.76の相関が得られ,一定の評定者間信頼性が確認された。しかし,ASSQ日本語版が実際にどの程度の精度でASDを識別しうるかという最も重要な点については検討がなされていない。以上のような現状を踏まえ,本研究では,以下の 2

点を目的とした検討を行う。第一に,ASSQ日本語版の心理測定学的特性について,因子構造,内的整合性に基づく信頼性,ASDの識別精度,最適なカットオフ設定の各観点から検証する。7─ 18歳までの 157名の ASD児と小学 2年生から中学 3年生までの 4,101名の一般小中学生から得た大規模データを用いて,多角的な心理測定学的特性の検証を行う。第二に,さらなる実施コストの低減を図るため,

ASSQの短縮版を開発する。前述の通り,ASSQはもともと他の尺度よりも項目数が少ないが,27という項目数は,一次的なスクリーニングや包括的な調査研究においては,まだ十分に有用性の高い数とは言えない。そこで本研究では,大規模データの利点を活かし,十分な ASDの識別精度を維持しながら,大幅に項目数を削減した短縮版の開発を目指す。

方  法

対象者

本研究では,ASD群および一般群の二つの群を設定した。ASD群については,発達障害児者の支援事業を行っている NPO法人の会員から,7─ 18歳の157名(男子 128名,女子 29名:平均年齢13.3歳,SD=2.8)が参加した。ASD群の対象者はいずれも,ASDについて熟練した精神科医により,DSM-IV-TR(AmericanPsychiatricAssociation:APA,2000)に基づいて ASD(自閉性障害,アスペルガー障害,または,特定不能の広汎性発達障害)の診断を受けていた。男女比は約 4:1であり,一般母集団における ASDの有病率に関する先行研究の報告(Blumbergetal.,2013;Kawamura,Takahashi,&Ishii,2008)にほぼ一致している。なお,2013年に公刊された DSM-5(APA,2013)では,上記の三つの下位診断が ASDという一つの診断に統合されているため,本研究では,これらの下位診断ごとの分析は行わない。一般群については,調査対象市の全ての公立小中学

校で調査を実施した。通常学級に在籍する小学 2年生

から中学 3年生(7─ 15歳)の 6,611名のデータから,ASD群と男女比をマッチングした 4,101名(男子 3,344名,女子 757名:平均年齢 10.9歳,SD=2.3)のサンプルを構成した(男子のデータは全て使用し,女子のデータをランダムに抽出した)1。

ASSQ

ASSQは,保護者や教師など,対象者をよく知る成人が評定する形式を取る。自閉症に典型的に見られる社会性,言語,行動,興味の特徴が,対象者に当てはまるか否かを問う 27項目から構成されており,各項目について“いいえ:0”,“多少:1”,“はい:2”の3段階での評定を求める。可能な得点範囲は 0から 54点であり,得点が高いほど,ASD特性が顕著であることを意味する。原版では因子構造は検討されておらず,全体の合計点のみが使用されている。本研究では,井伊他(2003)の作成した日本語版(ASSQ-R)を使用した。本調査に先立ち,各項目の有効性を検討するため,

一般群 994名(男子 498名,女子 496名),ASD群 90名(男子 72名,女子 18名)を対象に予備調査を実施した。各項目の評定×群(一般群・ASD群)の γ(質的変数間の関連を示す指標で,相関係数と同様に –1から 1の値を取る)を算出したところ,全項目の中央値は .742であり,全体として ASSQ日本語版の項目は ASDを有効に識別しうることが示唆された。しかし,27項目のうち,項目 1(γ= – .478),項目 4(γ=.440),項目 7(γ=.379),項目 8(γ=.462),項目 24(γ=.465)は,γが .50を下回り,ASDの識別力が低いことが示されたため,本調査では,これら 5項目を除く 22項目を使用した。

手続き

ASD群については,NPO法人の活動に際して,保護者に質問紙を配布し,回答後は,同時に配布した返信用封筒を用いて質問紙を返送するよう依頼した。一般群については,小中学校の各学級担任から児童生徒を通して,保護者に質問紙を配布し,回答後は,質問紙を封筒に入れて厳封の上,児童生徒から学級担任を介して回収を行った。いずれの群についても,調査へ

1 これに先立って,年齢および性別のマッチングの必要性を検証するため,ASSQの合計得点について,年齢を独立変数とした分散分析と,性別を独立変数とした t検定を実施した。その結果,年齢については,一般群(F (7,6433)=1.80,p=.08),ASD群(F (11,144)=1.31,p=.22),いずれにおいても有意な主効果が見られなかった。一方,性別については,ASD群では有意差が見られなかったものの(t (154)=.226,p=.82),一般群では有意差が見られた(t (6403)=10.17,p< .001)。これらの結果を踏まえ,一般群のサンプリングに際して,性別についてのみマッチングを行うこととした。

伊藤他:ASSQ日本語版の心理測定学的特性と短縮版の開発 287

の回答は任意であり,回答しないことによる不利益は生じないことを説明文書によって教示した。本研究の手続きは,浜松医科大学医の倫理委員会の審査と承認を受けた。統計解析のうち,探索的・確認的因子分析には

MplusVersion7(Muthen&Muthen),その他の分析には PASWStatistics18.0(SPSS)を使用した。

結果と考察

因子構造

本研究では,以下の 2段階によって ASSQの因子構造を検討した。第 1段階として,一般群の約 9割(3,677名)のデータをランダムに抽出し,探索的因子分析を行った。一般に探索的因子分析は,小規模サンプルでは結果が不安定になりやすいため,この段階では,ASD群でなく,数の多い一般群のデータを使用して,安定的な結果を得ることを優先した。その上で,第 2段階として,一般群の残りの約 1割(424名)のデータと ASD群のデータを用いて,両群間の測定不変性(異なる母集団の間で因子構造が一致するか否か)を検証するための確認的因子分析を行った。この段階では,第 1段階で得られた因子モデルが,一般群の異なるサンプルや ASD群にあてはまるか否かを検証する。この 2段階の交差妥当化手続き(データの一部で得られた結果を,残りのデータで検証すること)により,頑健な因子モデルの構築と検証を図る。探索的因子分析 まず,一般群の 3,677名のデータ

を使用して探索的因子分析を行った。ただし,ASSQは 3件法の尺度であり,各項目の評定値は間隔尺度ではなく順序尺度として扱うのが適当であるため

(Olsson,1979),平均分散調整済み重みづけ最小二乗法(WLSMV)によるカテゴリカル因子分析(ジオミン回転)を行った。1因子解から 6因子解までの適合度をTable2に示す。一般に,CFIは .90以上,RMSEAは .06以下,SRMRは .08以下の数値が,良好な適合を示す経験的基準とされている(Bentler&Bonnet,1980;Hu&Bentler,1998)。値の相対的な推移に着目すると,CFI,RMSEA,

SRMRのいずれも,1因子モデルから 4因子モデルまでの適合度の変化に比して,4因子モデルから 5因子,6因子モデルにかけての適合度の変化は小さい。このことから,4因子モデルが適合度と倹約性の観点でバランスのとれたモデルであることが示されている。また,相関行列における固有値の推移は,第 1因子から順に,11.85,1.54,1.48,1.00,0.71,0.65,…となっており,カイザー基準によっても,4因子モデルが支持される。固有値の推移に基づくスクリー基準からは1因子を採用することも可能であるが,1因子モデルの適合度(RMSEA,SRMR)は,上述の経験的基準に照らして,必ずしも良好とは言えない。統計学的観点からは,スクリー基準は因子数決定における簡便法の一種であり,RMSEAなどの適合度指標を優先することが望ましいとされている(Fabrigar,Wegener,MacCallum,&Strahan,1999)。4因子モデルにおけるCFI,RMSEA,SRMSはいずれも上述の経験的基準を満たし,十分に良好な適合を示している。以上の結果から,4因子モデルを採用することとした。

4因子モデルにおける各項目の因子負荷量を Table3に示す。全ての項目がいずれかの因子に .35以上の負荷を示している。各因子に高い負荷を示す項目の内容から,各因子をそれぞれ“独自の興味”,“社会性”,“友

Table2探索的・確認的因子分析における各モデルの適合度

モデル n df χ2 CFI RMSEA SRMR

探索的因子分析1因子モデル 3677 209 3276.0 .927 .063 .084

2因子モデル 3677 188 2178.1 .953 .054 .071

3因子モデル 3677 168 1149.2 .977 .040 .047

4因子モデル 3677 149 662.7 .988 .031 .030

5因子モデル 3677 131 468.0 .992 .027 .026

6因子モデル 3677 114 334.2 .995 .023 .022

確認的因子分析 群ごと  一般群 424 203 302.1 .981 .034

  ASD群 157 203 388.5 .915 .076

  配置不変モデル 581 424 714.5 .963 .049

  測定不変モデル 581 442 716.5 .965 .046

心理学研究 2014年第 85巻第 1号288

人関係”,“癖・こだわり”と命名した。“社会性”,“友人関係”,“癖・こだわり”は相互に .50を超える高い因子間相関を示したが,“独自の興味”は他の因子と .30台の相関を示すに留まった。確認的因子分析 上述の探索的因子分析の結果が,

一般群の異なるサンプルや ASD群にあてはまるか否かを検証するため,確認的因子分析を行った。上述の結果に基づき,4因子を仮定し,各因子に最も高い負荷を示した(Table3に太字で示した)項目にのみパスを引き,各因子間には相関を想定したモデルを設定

した。ここでも,各項目の評定値は順序変数として扱い,WLSMVによる分析を行った。まず,各群で個別に分析を行ったところ,一般群で

は探索的因子分析と同程度の適合度が得られた(Table2)。ASD群では,一般群よりもやや適合が悪かったが,CFIは経験的基準の .90を上回っており,RMSEAも .076と許容しうる範囲の値を示した。次に,両群のデータに対して,多母集団同時分析を

行った。両群の因子負荷量について等値制約を置かない配置不変モデルと等値制約を置く測定不変モデルを

Table3一般群データに基づく探索的因子分析の結果と各項目の ASDの識別力

項目の要約負荷量

γb)

I II III IV

独自の興味 3a) 独自の興味 .828 – .029 .143 .051 .686

2a) “博士” .786 .040 – .086 – .049 .691

10a) 得意・不得意 .444 .331 .053 .085 .795

社会性 11a) 場面理解 .022 .999 – .067 – .192 .845

13 配慮ない言動 – .061 .818 – .008 .015 .758

18a) 常識の乏しさ – .172 .795 .059 .052 .813

12a) 共感性のなさ – .011 .720 .174 .005 .868

19 ゲームでの協力 .035 .587 .097 .162 .781

6 形式的会話 .093 .566 .143 – .020 .809

5 言葉通りの解釈 – .039 .562 .319 .040 .780

20a) ぎこちなさ – .003 .509 .200 .187 .879

友人関係 17a) 友達がいない .006 – .020 .911 – .022 .896

15a) 友達関係の失敗 – .017 .107 .865 – .007 .878

16a) 友達の中で一人 .089 .022 .836 .022 .822

25a) 被いじめ .027 .065 .563 .176 .831

癖・こだわり 26 独特な表情 – .070 – .049 .017 .998 .868

14 独特な目つき – .068 .041 – .015 .824 .773

27 独特な姿勢 .026 .019 .087 .754 .886

21 無意図的動作 .044 .246 – .068 .594 .784

23 変化への抵抗 .163 .268 .132 .461 .711

22 強いこだわり .175 .272 .009 .430 .798

9 無目的発声 .064 .355 – .078 .391 .742

因子間相関II .364

III .327 .683

IV .356 .724 .545a)短縮版の採用項目。b)各項目の評定と ASDの有無の関連性を示す。

伊藤他:ASSQ日本語版の心理測定学的特性と短縮版の開発 289

比較した。その結果,CFI,RMSEAのいずれにおいても,測定不変モデルが配置不変モデルよりも良好な適合を示した(Table2)。また,両モデルの χ2の差は有意でなく(χ2(18)=2.00,p=1.00),測定不変モデルは,より制約の少ない配置不変モデルと同等の適合を示した。測定不変モデルの CFIは .965,RMSEAは .046であり,いずれも経験的基準に達している。以上の結果から,探索的因子分析において見出された4因子構造が,一般群の異なるサンプルや ASD群にも適合することが確認された。以降の分析では,各因子に負荷する項目の評定値を単純合計した尺度得点を使用する。

ロジスティック回帰分析

続いて,上述の因子分析において構成された四つの下位尺度のうち,いずれの下位尺度が ASDの有無を予測するかを検討するため,4下位尺度を独立変数,群(一般群・ASD群)を従属変数とするロジスティック回帰分析を行った。ただし,結果の解釈を容易にするため,各独立変数は標準化(Z得点化)した値を用いた。その結果,“独自の興味”(OR=1.41,p< .001),“社会性”(OR=1.58,p< .001),“友人関係”(OR=1.66,p< .001)の効果が有意であり,“癖・こだわり”(OR=1.11,p=.11)の効果は有意でなかった。

短縮版の項目選定

上述の因子分析およびロジスティック回帰分析の結果に基づき,短縮版の項目選定を行った。ロジスティック回帰分析により,4下位尺度のうち,“癖・こだわり”は ASDの有無に対して独自の予測力を持たないことが示された。このことは,当該尺度が ASDの識別において独自の情報を提供しないことを意味する。言い換えれば,ASDの識別において“癖・こだわり”が持つ情報は,他の 3下位尺度に含有されている。したがって,ASDの識別という文脈においては,“癖・こだわり”を削除しても識別力の低下は生じないため,短縮版には当該尺度の項目を採用しないこととした。残りの 3下位尺度は,それぞれ独自の予測力を有することが示されたため,これら 3下位尺度から項目を選定して短縮版を作成することとした。

3尺度が ASDに対して独自の予測力を有することを考慮すると,短縮版の作成にあたっても,各下位尺度内での内的整合性を維持する必要があると考えられる。そこで,下位尺度ごとに項目数の減少に伴うα係数の変化を検討したところ,“社会性”や“友人関係”では,項目数が 4項目を下回るとα係数が顕著に低下したため,それぞれ 4項目を選定することとした。また,“独自の興味”はもともと 3項目のみで構成されるため,全項目を採用した。8項目で構成される“社会性”からの項目選定にあたっては,各項目の評定値

×群(一般群・ASD群)の γをもとに,γが高い順に4項目を採用した(Table3)。以上により,3下位尺度11項目からなる ASSQ短縮版が作成された。

内的整合性

各群における各尺度のα係数を Table4に示す。項目数の少ない“独自の興味”は,いずれの群でも .70を下回るα係数を示している。“友人関係”も ASD群で .70を下回る値を示しているが,全体では .812と十分な値を示している。“社会性”は,項目数が多い 22項目版の方が高い値を示しているが,短縮版も全体では .821と十分な値を示した。合計点のα係数は,全体で 22項目版が .916,短縮版が .856といずれも十分な値を示した。

平均値の比較

一般群と ASD群における各尺度の平均値を Table5に示す。等分散を仮定しないWelchの t検定により,22項目版,短縮版の全ての尺度において ASD群の得点が一般群よりも有意に高いことが示された。2群の平均値の差を一般群の標準偏差で除して算出した効果量 dは,22項目版と短縮版で同程度の値を示しており,短縮版が 22項目版と同等の精度で一般群と ASD群の差を表現しうることが示唆された。

ROC 分析

22項目版および短縮版による ASDの識別精度と最適なカットオフ値を検討するため,ROC分析を行った。ROC分析では,縦軸に感度(真陽性率:障害・疾病のあるケースを正しく陽性と判定できる割合),横軸に偽陽性率(1-特異度:障害・疾病のないケースを誤って陽性と判定してしまう割合)を取り,カットオフ値を連続的に変化させたときの両者の推移をプロットした ROC曲線を描く。一般に,カットオフ値を低くするほど,感度は上昇するが,偽陽性率も上昇する関係にあるため,両者の推移から最適なカットオ

Table4各尺度のα係数

尺度 一般群 ASD群 全体22項目合計 .896 .881 .916

 独自の興味 .587 .635 .612

 社会性 .859 .829 .880

 友人関係 .784 .653 .812

 癖・こだわり .770 .799 .808

短縮版合計 .825 .747 .856

 独自の興味 .587 .635 .612

 社会性 .793 .723 .821

 友人関係 .784 .653 .812

心理学研究 2014年第 85巻第 1号290

フ値を設定する必要がある。また,検査の識別精度が高いほど,偽陽性率を抑えたまま高い感度を得ることができるため,ROC曲線下の面積(AUC)が大きくなる性質がある。AUCの経験的基準として,.60から .75は中程度,.75から .90は良好,.90から .97はきわめて良好,.97から 1.00は最良の識別精度を示すとされる(Swets,1988)。

AUC Figure1に一般群と ASD群の識別における22項目版および短縮版の ROC曲線を示す。22項目版の AUCは,合計点が .941,“独自の興味”が .820,“社会性”が .918,“友人関係”が .909,“癖・こだわり”が .861であった。また,短縮版の AUCは,合計点が .943,“社会性”が .918であった(残り 2下位尺度は 22項目版と同一)。いずれの版でも,合計点が最も高い AUCを示し,ASDのスクリーニングの用途には合計点の使用が望ましいことが示された。また,22項目版と短縮版の合計点は同等の AUCを示し,いずれも上記の経験的基準に照らして,きわめて良好な識別精度を

有していると言える。カットオフ値の設定 続いて,22項目版および短

縮版の合計点について,ROC曲線に基づいてカットオフ値を検討した。カットオフ値の設定においては,基本的に感度と特異度(偽陽性率の低さ)がともにできるだけ大きくなる値に設定することが望ましい。ただし,臨床の文脈において,ASSQは一次的なスクリーニングが主たる用途となるため,見落としが生じないよう,偽陽性率の低さ(特異度の高さ)よりも感度の高さを優先する必要がある。これらを考慮し,特異度が .80を下回らない範囲で感度が最大になる点を検討すると,22項目版では 7点(感度 .949,特異度 .801),短縮版では 5点(感度 .936,特異度 .818)という値が得られた。このカットオフ値は,22項目版では感度と特異度の合計が最大値を取る点であり,短縮版でも最大値と .003の差しかない点であることから,尺度の識別力が最大限に発揮される点と言える。ただし,ASDの有病率は一般人口の 2%前後と推

.0

.2

.4

.6

.8

1.0

.0 .5 1.0

感度

偽陽性率( 1-特異度)

22項目合計独自の興味社会性友人関係癖・こだわり

.0

.2

.4

.6

.8

1.0

.0 .5 1.0

感度

偽陽性率( 1-特異度)

短縮版合計

独自の興味

社会性

友人関係

Figure1. 一般群と ASD群の識別における 22項目版(左)および短縮版(右)の ROC曲線

Table5一般群と ASD群における各尺度の平均値とその差異

尺度一般群 ASD群

t dM SD M SD

22項目合計 3.88 5.29 18.85 8.66 21.44*** 2.83

独自の興味 0.97 1.28 2.83 1.61 14.33*** 1.46

社会性 1.82 2.66 8.16 3.88 20.22*** 2.38

友人関係 0.51 1.20 3.79 2.21 18.49*** 2.73

癖・こだわり 0.61 1.48 4.03 3.47 12.31*** 2.30

短縮版合計 2.34 3.12 10.95 4.34 24.63*** 2.76

独自の興味 0.97 1.28 2.83 1.61 14.33*** 1.46

社会性 0.86 1.46 4.32 2.12 20.28*** 2.37

友人関係 0.51 1.20 3.79 2.21 18.49*** 2.73

***p< .001

伊藤他:ASSQ日本語版の心理測定学的特性と短縮版の開発 291

定されており(Blumbergetal.,2013;Kimetal.,2011),これをもとに上記のカットオフ値における陽性的中率(陽性と判定されたケースが実際に障害を有している割合)を算出すると,22項目版で 8.85%,短縮版で9.50%となる。したがって,上記のカットオフ値以上の得点を示しても,ASDの確定診断にまで至るケースは必ずしも多くないと言える。そこで,より ASDの疑いが強いと判断できるカットオフ値を設定するならば,ASD群の中央値を超える得点として,22項目版では 20点(感度 .487,特異度 .976),短縮版では12点(感度 .474,特異度 .977)という値が得られる。このカットオフ値での陽性的中率は,それぞれ29.3%,29.4%であり,ASDの比較的強い疑いを示すカットオフ値として機能すると考えられる。

総 合 考 察

因子構造 一般群のデータに基づく探索的因子分析の結果,“独自の興味”,“社会性”,“友人関係”,“癖・こだわり”の 4因子が見出された。項目内容を精査すると,このうち“社会性”は,ASDを構成する三つ組の障害(APA,2000)のうち,社会的相互作用やコミュニケーションの障害と概念的に対応する。“友人関係”も社会的相互作用の障害と関連するが,こちらは社会性の問題によって波及的に生じる二次的な問題と言える。“独自の興味”と“癖・こだわり”は行動・興味の限局的・反復的な様式に対応するが,その中でも前者は興味の限局,後者は行動面の限局に関連する。確認的因子分析により,この 4因子モデルは,一般

群の異なるサンプルや ASD群にも適合する頑健なモデルであることが示された。一般群において見出された因子モデルが ASD群にも適合するという結果は,自閉的特性がスペクトラム(連続体)を形成しており,一定の自閉的特性を有する人々が一般人口にも幅広く分布するという自閉症スペクトラムの概念を裏づける知見である。なぜなら,この結果は,第一に,一般群において各項目の得点が一定の分散を有していること,第二に,その分散がランダムな測定誤差によってのみ生じているものではなく,ASD群と同様の構造を有していることを意味しているためである。

ASDの予測 ロジスティック回帰分析の結果,“独自の興味”,“社会性”,“友人関係”は,それぞれ有意に ASDの有無を予測したが,“癖・こだわり”は独自の予測力が見られなかった。平均値の比較では“癖・こだわり”も他の下位尺度と同様に(むしろ“独自の興味”よりは顕著に),一般群と ASD群の差異を示したことを考えると,“癖・こだわり”が尺度として有効に機能していないというよりは,“癖・こだわり”と相関の高い“社会性”や“友人関係”がより直接的な予測力を発揮したために,“癖・こだわり”の直接の予測力が見られなくなったものと考えられる。その

点,“独自の興味”は,平均値の比較では 2群の差が最も不明瞭であったが,他の下位尺度と相関が低く,独自の情報を有する下位尺度であるため,ロジスティック回帰分析において独立した予測力を発揮したと考えられる。“友人関係”が“社会性”とは独立に ASDの有無を予測するという結果は,やや意外と言える。“友人関係”は,概念的に,“社会性”の問題によって生じる二次的な問題に関する内容となっている。そのため,順当に考えれば“友人関係”の予測力は,“社会性”の予測力に取り込まれて消失すると考えられる。しかし,実際には,“友人関係”は“社会性”とは独自に,また係数としては“社会性”よりも高い精度で,ASDを予測することが示された。この理由としては,保護者にとって,“友人関係”の問題の方が,“社会性”の問題よりも,目につきやすい問題であるという可能性が考えられる。実際,“社会性”の項目にあるような,場面を理解できない,常識が乏しい,共感性が低いといった特性は,比較的抽象的な観念であり,保護者がそれを十分に認識できないことも考えられる。それに対し,“友人関係”に含まれる,仲の良い友達がいないとか,いじめを受けているといった問題は,具体的な状態であることから保護者にも比較的認識されやすく,ASDの発見において重要なサインになると考えられる。短縮版の作成 以上の分析結果と各項目の識別力に基づき,3下位尺度 11項目からなる ASSQ短縮版を構成した。項目数の半減(22項目から 11項目)にもかかわらず,内的整合性を示すα係数の低下はわずかに留まった。ただし,下位尺度では,22項目版と短縮版で共通する“独自の興味”がやや不十分なα係数を示しており,下位尺度単位での利用の際は,ランダム誤差による相関の希薄化や測定値の揺らぎに注意する必要がある。識別精度とカットオフ値 ROC分析の結果から,

22項目版と短縮版は ASDに対して同等の識別精度を有すること,また,いずれについても下位尺度得点より合計点の識別精度が高いことが示された。識別精度を示すAUCは22項目版合計で .941,短縮版合計で .943であり,Posserudetal.(2009)が報告している ASSQ原版の AUC(.90)よりも高い数値が得られた。感度と特異度の推移から,特に障害の疑いが指摘されていない一般児童を対象とした一次的なスクリーニングでは,22項目版で 7点(感度 .949,特異度 .801),短縮版で 5点(感度 .936,特異度 .818)のカットオフ値が望ましいと考えられた。また,より厳格な基準として,22項目版で 20点以上(感度 .487,特異度 .976),短縮版で 12点以上(感度 .474,特異度 .977)の得点を示した場合,実際に ASDを有している可能性は約 3割に達すると推定されるため,医療・相談機関への受

心理学研究 2014年第 85巻第 1号292

診・相談が強く望まれる。今後の展望 最後に,本研究の限界と今後の展望を

述べる。本研究では,対照群として通常学級に在籍する小中学生のデータを用いたが,文部科学省(2012)の調査が指摘するように,通常学級においても,一定の割合で ASDの可能性を有する子どもが存在する。したがって,本研究は厳密な意味での症例対照研究とはなっていない点に注意が必要である。ただし,この問題は,尺度の識別精度(特異度)を過小評価させる危険性はあっても,その逆は考えられないため,本研究の結果は ASSQ日本語版の控えめな識別精度を示していると言える。今後の発達障害に関する研究の重要な課題の一つ

は,ASD特性や ADHD特性のような障害特性と,親の養育行動,家族関係,友人関係などの環境要因との双方向的な影響のあり方と,そうした要因が思春期以降のメンタルヘルスの問題や不登校,引きこもりなどの不適応行動につながっていくメカニズムを包括的に明らかにすることである。こうした複雑な問題の検討にあたっては,個々の変数の測定にあてられる項目数は限られており,ASSQやその短縮版が高い有用性を発揮することが期待される。

引 用 文 献

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―2013.8.15受稿,2014.1.18受理―