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ARTA Essential Manual Rev. 2.0 Copyright © 2013 Iridium17 All Rights reserved 1 ARTA Essential Manual Revision 2.0 - How to measure your loudspeaker with ARTA - 本書は ARTA User Manual Version 1.7.1 を筆者が独自に解釈し、加筆したものです。筆者は本書に係 るいかなる不利益に対しても責任を負いません。本書の利用は自己責任にてお願いします。 コンテンツの無断転載を禁じます。 1. はじめに 2. 疑似無響室測定とは 3. ARTA に必要なもの 4. ARTA のセッティング 4.1 ハードウェアのセッティング 4.2 ARTA のキャリブレーション 4.3 ARTA のインパルス応答測定信号 5. Far field 測定における疑似無響室測定 5.1 マイクセッティング 5.2 疑似無響室測定の手順 5.3 Far field 測定のダイナミックレンジ 6. Near field 測定 6.1 マイクセッティング 6.2 Near field 測定の手順 6.3 バスレフ特性の合成 6.4 Near field 測定の高域限界 7. トータルレスポンス 8. ARTA による測定例 9. 参考文献

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ARTA Essential Manual Revision 2.0

- How to measure your loudspeaker with ARTA -

本書は ARTA User Manual Version 1.7.1 を筆者が独自に解釈し、加筆したものです。筆者は本書に係

るいかなる不利益に対しても責任を負いません。本書の利用は自己責任にてお願いします。

コンテンツの無断転載を禁じます。

1. はじめに

2. 疑似無響室測定とは

3. ARTA に必要なもの

4. ARTA のセッティング

4.1 ハードウェアのセッティング

4.2 ARTA のキャリブレーション

4.3 ARTA のインパルス応答測定信号

5. Far field 測定における疑似無響室測定

5.1 マイクセッティング

5.2 疑似無響室測定の手順

5.3 Far field 測定のダイナミックレンジ

6. Near field 測定

6.1 マイクセッティング

6.2 Near field 測定の手順

6.3 バスレフ特性の合成

6.4 Near field 測定の高域限界

7. トータルレスポンス

8. ARTA による測定例

9. 参考文献

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1. はじめに

ARTA はスピーカーの周波数特性や位相特性を測定するためのシェアウェアです。ARTA はインパル

ス応答測定を行うことにより、自宅でも部屋の反射の影響を受けない疑似無響室測定が簡単に行えること

が最大の特徴です。

2. 疑似無響室測定とは

スピーカーの周波数特性を測定してみようと思い立ったとき、最初に思い浮かべるのは図1のようなセッ

ティングではないでしょうか。設置場所は無響室ではない普通の部屋で、スピーカーと測定マイクの距離

は 1.0mです。このような測定を Far field測定と呼びます。残念なことに Far field測定でスピーカースピーカースピーカースピーカーににににサイサイサイサイ

ンンンン波波波波スィープスィープスィープスィープをををを与与与与ええええ、、、、マイクマイクマイクマイクでででで信号強度信号強度信号強度信号強度をををを測定測定測定測定してもしてもしてもしてもスピーカスピーカスピーカスピーカーーーー特性特性特性特性をををを正確正確正確正確にににに測定測定測定測定することはすることはすることはすることは出来出来出来出来ませんませんませんません。。。。

部屋の床や壁からの反射音が直接音と干渉し、周波数特性に凹凸を生じるからです。このような反射波

の影響を避けて正しい測定をするためには部屋の床や壁からの反射音の影響を排除しなければいけま

せん。昔からスピーカー特性の測定には無響室が必要と言われてきた所以です。

さて、図1のセッティングにおいてスピーカーから出た音がどこにも反射されずに直接マイクに到達する

のに要する時間は、音速を 340m/sとすると 1.0m÷340m/s=0.00294s=2.94msとなります。一方、スピー

カーから出た音のうち床で反射されてマイクに到達する成分を考えると、このときの伝搬距離は約 2.4mで

すから、この成分がマイクに到達するのに要する時間は 2.4m÷340m/s=0.00706s=7.06msとなります。

すなわち床で反射された音は直接音よりも 7.06-2.94=4.12ms遅れてマイクに到達することになります。

1.1m

1.0m

1.2m 1.2m

SpeakerMicrophone

図1 周波数特性測定のセッティングの例

©Iridium17

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この様子はインパルス応答測定によって捉えることが出来ます。インパルス応答測定とはスピーカーに

パルス波を与え、そのときの振幅の時間変化を捉える測定方法です。図1のセッティングにおける音の伝

搬の様子を ARTA のインパルス応答測定で捉えた結果を図2に示します。赤いラインの右側にある一連

の大きなピークが直接波です。直接波の振動が収まった後、黄色いラインの右側あたりに再び信号が現

れていますが、これが反射波です。インパルス応答特性をフーリエ変換することで周波数特性に変換する

ことができるのですが、ここで全ての時間に対してフーリエ変換するのではなく、直接波直接波直接波直接波がががが到達到達到達到達してからしてからしてからしてから反反反反

射波射波射波射波がががが到達到達到達到達するまでのするまでのするまでのするまでの時間時間時間時間のみをのみをのみをのみを対象対象対象対象にしてにしてにしてにしてフーリエフーリエフーリエフーリエ変換変換変換変換するするするすると、直接波だけから周波数特性のデータ

を求めることができます。このようにして得たデータは部屋の反射の影響を含まないため、この測定方法を

疑似無響室測定と呼びます。またフーリエ変換する時間間隔を Gateと呼ぶことから Gated measurementと

も呼びます。

一方、疑似無響室測定にはあまり低い周波数まで測定できないという弱点があります。その限界は

Gate時間の逆数で決まり、たとえば Gate時間が 4msなら測定下限は 250Hzとなります。この限界よりも

低い周波数領域を測定する場合は別のテクニックを使います。

図2 ARTA で測定したインパルス応答特性

©Iridium17

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3. ARTA に必要なもの

ARTA に限らず、どんな測定でも適当に行えば適当な結果しか得られません。正確な結果を得るために

は、適切な道具とそれなりの手間が必要です。ARTA で測定を行うためにはオーディオインターフェース

と測定用マイクが必要です。まずオーディオインターフェースですが、スピーカーの周波数特性を測定す

る目的であれば周波数特性さえフラットであれば歪みやノイズは重要ではないように思えますが、インパ

ルス応答においては測定系の歪みやノイズの存在は測定結果に影響を与えます。このような理由から

ARTA では以下のような比較的高級なオーディオインタフェースが推奨されています。

� RME Fireface 800, RME Fireface 400, RME DIGI96, RME HDSP

� M-audio Audiophile 2496, Firewire Solo, USB Transit, Delta 44,

� Terratec EWX 24/96, Firewire FW X24

筆者の場合は M-audio Firewire 410という 24bit/96kHzサンプリングの製品を使用しました。ファンタム

電源付きマイクプリアンプを内蔵しているので、測定用マイクをそのまま接続可能です。またこのクラスの

製品ではライン入出力がバランス型になっているものが多いのですが、Firewire 410はアンバランス型な

ので測定用途にはむしろ好都合です。ただしライン入出力端子がフォーンプラグなのでアンプと接続する

ためには RCA ピンへの変換が必要です。

図3 M-audio Firewire410 のフロントパネル

図4 M-audio Firewire410 のリヤパネル

©Iridium17

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図5 M-audio Firewire410 の周波数特性(48kHz サンプリング)

図6 M-audio Firewire410 の THD+N 特性(48kHz サンプリング)

©Iridium17

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測定用マイクとしては Behringer ECM8000が有名ですが、個別の校正データは付属していません。カタ

ログに掲載された周波数特性は素晴らしくフラットなのですが、実際には個体差が大きく、周波数特性も

必ずしもフラットとは限らないようです。正確正確正確正確なななな測定測定測定測定をををを行行行行うためにはうためにはうためにはうためには校正校正校正校正さささされたれたれたれたマイクマイクマイクマイクをををを使使使使うことをうことをうことをうことを強強強強くおくおくおくお薦薦薦薦

めしますめしますめしますめします。。。。海外のサイトから校正済み Behringer ECM8000を購入することも可能ですが、国内で購入可

能な校正データ付きマイクとして Dayton EMM-6があります。Daytonはアメリカの Parts Expressのオリジ

ナルブランドですが、安くて品質の良い製品を数多く出しています。EMM-6 には個別の校正チャートが

付属しますが、さらにシリアル No.から検索して CSV ファイルをダウンロードすることが出来ます。このファ

イルは拡張子を書き換えることで ARTA のマイク校正ファイルとして使用可能です。

図7 Dayton EMM-6

図8 Dayton EMM-6 の校正チャート ©Iridium17

©Iridium17©Iridium17

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4. ARTA のセッティング

4.1 ハードウェアのセッティング

ARTA には3つの測定モードが用意されています。

1111))))Dual channel mode

参照信号としてスピーカーへの入力信号を用いるモードで、位相も含めて最も精度の高いデータが得

られます。クロスオーバーネットワークのシミュレーションに用いるデータを取得するなら Dual channel

mode をををを強強強強くくくく推奨推奨推奨推奨しますしますしますします。。。。このモードではパワーアンプの出力をオーディオインターフェースのライン入力

に接続するため、分圧回路があったほうが安心です。筆者の場合はR1=2KΩ、R2=220Ωとしましたが、ド

ライバの能率やマイクの感度にも依存しますので、多少トライアンドエラーが必要になります。

図9 Dual channel mode 用分圧回路(手前)

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2222))))Semi-dual channel mode

参照信号としてオーディオインターフェースのライン出力を用いるモードです。Dual channel modeよりも

手軽ですが、その分精度は落ちると思われますので、敢えて推奨はしません。

3333))))Single channel mode

参照信号を用いないモードです。PC のオンボードサウンドカードと Skype 用マイクでも使ってちょっと

ARTA の味見をしてみたい向きにはお薦めですが、測定精度は最も低くなります。特に位相を正確に測

定することが出来ないのでクロスオーバーネットワークのシミュレーションに使うのは不向きなモードです。

繰り返しになりますが、正確な測定を行うためにはスピーカーの入力信号を分圧して参照信号として使

う Dual channel modeで測定することを推奨します。

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4.2 ARTA のキャリブレーション

ARTA では測定を行う前に簡単なキャリブレーションが必要です。その手順を以下に説明します。

1) Soundcard full scale output (左の列)

・ オーディオインターフェースの入力および出力レベルを最大にセットします。

・ オーディオインターフェースの左 chに DMM を接続し ACV モードにします。

・ [Generate sinus (400Hz)]を押し、出力電圧を読み取ります。

・ その値を[Enter voltmeter (scope) value]に入力します。

・ [Accept]を押します。

2) Soundcard full scale input (真ん中の列)

・ オーディオインターフェースの左 ch出力を左 chのライン入力に接続します。

・ [Estimate Max Input mV]を押してしばらく待ちます。

・ Channelで[Right]を選択し、オーディオインターフェースの左 ch出力を右 chのライン入力に接

続します。

・ [Estimate Max Input mV]を押してしばらく待ちます

・ [Accept]を押します。

3) Microphone sensitivity (右の列)

・ ここは特に入力しないでも大丈夫です。

キャリブレーションは以上で終わりです。

図10 ARTA のキャリブレーション画面

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4.3 ARTA のインパルス応答測定信号

ARTA には以下の3種類の測定信号が内蔵されています。

1) Periodic noise

2) Swept sine

3) MLS

Periodic noiseはゴーッというノイズ、Swept sineはピュッ、ピュッという Audysseyでおなじみの音です。マニ

ュアルによれば、Periodic noiseか Swept sineを使え、とあります。MLS は Speaker workshopでもおなじみ

の測定信号ですが、ARTA では MLS をあまり推奨していません。ここでは Periodic noiseの Pinkを使いま

す。Sequence lengthは普通は 32k で十分ですが、バスレフのポートレスポンスの測定など低域の分解能

を上げたいときは 64k にします。Sampling rateは 48k で十分でしょう。なお、忘れずに Dual channel

measurement modeにチェックを入れておきます。Number of averageは測定環境のノイズレベル次第です

が、普通は 16回もやれば十分です。

図11 ARTA のインパルス応答測定モード

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5. Far field 測定における疑似無響室測定

5.1 マイクセッティング

疑似無響室測定は直接波と反射波がマイクに到達するまでの時間差を利用しています。図10

は図1と同じく床から 1.1mの高さにマイクを設置した図ですが、この例では直接波の伝搬距離が

1mであるのに対し、床からの反射波は 2.4mを伝搬してマイクに届きます。このときの時間差が

約 4.12msであることは既に述べたとおりです。さて、反射は床だけでなく天井や壁によっても生

じます。図11はマイクセッティングを上から見たものですが、この図から分かるように床面か

らと同じように壁からも 1.1m以上の距離を取ってやる必要があります。

1.1m

1.0m

1.2m 1.2m

SpeakerMicrophone

図12 疑似無響室測定のマイクセッティング

1.1m

1.1m

1.0m

1.2m 1.2m

1.2m 1.2m

図13 マイクセッティングを上から見たところ

©Iridium17

©Iridium17

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もう一つ見落としがちなのがマイク後方からの反射です。図10で反射波の伝搬距離は 2.4m でしたから、

マイク後方からの反射についても 2.4m 以上の伝搬距離を取ってやる必要があります。すなわち、図12か

ら分かるようにマイク先端から後方に 0.7m 以上の距離が必要です。マイクスタンドやマイクホルダーなど

至近距離からの反射は直接波との時間差が小さいので極力避けなければいけません。図13に良い例と

良くない例を示します。ブームスタンドを使ってマイクを出来るだけ前方に突き出したようなセッティングを

しなければいけません。

また測定環境の静粛性も重要です。窓を閉め、エアコンは切ります。時計など音を発する物は撤去しま

す。測定用パソコンはなるべくマイクから遠ざけるようにします。

1.1m

1.7m

0.7m1.0m

図14 マイク後方からの反射

図15 良い例(左)と良くない例(右)

©Iridium17

©Iridium17©Iridium17

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5.2 疑似無響室測定の手順

1) メニューから[Imp]を選択し、インパルス応答測定のウィンドウを開きます。

図16 インパルス応答測定モード

2) 必要なパラメータを入力し、[Record]を押すと測定が始まります。測定時の音量はふだん音楽を聴く

程度の音量とし、バーグラフを見ながらマイクゲインを調整します。このとき参照信号のレベルがマイ

クレベルと大きくかけ離れているようなら分圧回路の定数を変更する必要があります。

図17 インパルス応答測定モード測定中の画面

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3) 測定が終わったら下図のようなインパルス応答波形が得られているはずです。次にカーソル(マウス

左ボタン)とマーカー(右ボタン)で Gate を設定します。カーソルは最初の大きなパルスが始まる前、

マーカーは次のパルスが始まる前に設定します。画面左下に Gate時間が表示されるので、おおよそ

想定通りの時間(先の例では 4ms)になっていることを確認します。

図18 インパルス応答波形

4) メニューの[Analysis]から Unsmoothed DFT frequency response / Spectrumを選びます。このメニュー

から Cumulative spectrumを選ぶことも出来ます。

図19 インパルス応答の解析メニュー

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5) 下図のような周波数特性のグラフが現れます。このとき左下のボタンで[M+P]を選択して位相特性も

合わせて表示されるようにしておきます。なおグラフ左下の黄色いバーはこの周波数領域の測定値

が正確でないことを示しています。このグラフは Ctrl+C でクリップボードにコピーされるので、ペイント

等のアプリケーションに貼り付けて画像として保存することが出来ます。

図20 インパルス応答から周波数特性への変換

6) File メニューから[Export] → [ASCII file]を選択し、周波数特性と位相データをテキスト形式で保

存します。このとき拡張子を.FRDとしておくと Speaker Workshopにインポートして各種解析やシミュレ

ーションの元データとして使用することが出来ます。

図21 データのエクスポート

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5.3 Far field 測定のダイナミックレンジ

Far field測定におけるノイズレベルを調べるにはパワーアンプからスピーカーへの結線を切り離して無

音状態で測定しますが、参照信号の配線はつないでおきます。このようにして測定したノイズレベルの例

を図17に示します。測定環境は普通のリビングルームで特に防音処理はしていませんが、エアコンはオ

フにして、ノイズを発生する掛け時計などは撤去しています。このときのノイズレベルは-70db程度となって

おり、図20と比較すると 60db程度のダイナミックレンジが得られていることが分かります。

図22 測定環境のノイズレベルを測定する時のセッティング

図23 ノイズレベルの例

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6. Near field 測定

6.1 マイクセッティング

先に述べたように疑似無響室測定にはあまり低い周波数まで測定できないという弱点がありますので、

バスレフ特性など低い周波数領域を測定する場合は Near field 測定というテクニックを使います。Near

field 測定とはマイクをスピーカーに接近させて行う測定のことで、マイクに届く音の殆どが直接波となるた

め、部屋の反射音の影響を殆ど受けません。その一方で、後述するようにあまり高い周波数まで測定する

ことは出来ませんので、Near field測定は低域特性の測定専用となります。Near field測定でウーファーの

測定を行う場合はマイクをダストキャップ(あるいはフェーズプラグ)から 5mm程度にまで接近させ、ポート

レスポンスを測定する場合はポートの開口部ぎりぎりのところにマイクをセットします。

図24 Near field 測定のマイクセッティング例

©Iridium17

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6.2 Near field 測定の手順

Near field測定では部屋の反射の影響が無視できるので Gated measurementは使わず、得られたイン

パルス応答をそのままフーリエ変換して周波数特性を求めます。メニューから[FR2]を選択すると測定画

面が表示されます。

図25 FR2 モード

Setupメニューから[Measurement]を選択し、測定条件を設定します。図25に測定パラメータの例を示しま

す。このウィンドウを閉じて赤い三角ボタンをクリックすると測定が始まります。

図26 FR2 モードの測定パラメータ

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図27にバスレフ型ウーファーの Near field測定例を示します。ポートチューニング周波数のところにデ

ィップが現れるのが特徴です。

図27 バスレフ型ウーファーの Near field 特性

図28にバスレフポートの Near field測定例を示します。ポートチューニング周波数を中心とした山型の

特性を示していますが、それに加えてこの例では 500Hzから 2kHzにわたって細かいピークがいくつか現

れています。これはエンクロージャ内部の定在波やポート自身の共鳴など好ましくない現象ですので、吸

音材の量を調節するなどして対策する必要があります。

図28 バスレフポートの Near field 特性

©Iridium17

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6.3 バスレフ特性の合成

Near field測定で求めたウーファーの特性とバスレフポートの特性を Speaker workshopにインポートし

て合成することでバスレフ特性を求めることが出来ます。このときウーファーとポートの有効半径の比で音

圧レベルを補正する必要がありますが、この操作は Speaker workshopがやってくれます。なお、Near field

測定のデータにはバッフル回折の影響が反映されない点には注意を要します。

図29 Speaker workshop によるウーファーとツィータの Near field 特性の合成

図30 合成したバスレフ特性

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6.4 Near field 測定の高域限界

Near field測定が万能かというとそうではなく、ある程度以上の周波数領域は正確に測定できないという

弱点があります。これはウーファーの中心部から出た音と周辺部から出た音の位相差が無視できなくなる

領域で起こる現象で、その限界周波数 fmaxは D を振動板の直径(cm)として次式で与えられます。

(1)

fmax (Hz) = 10950 / D ・・・ (1)

(1)式から分かるように、15cmクラスのドライバの場合、Near field測定で正確な結果が得られるのはせい

ぜい 1kHz程度までです。

【参考】

Near field 測定を用いたバスレフ特性の測定原理は以下の文献がオリジナルと思われます。

Low-Frequency Loudspeaker Assessment by Nearfield Sound-Pressure Measurement D. B. KEELE, JR. Electro-Voice, Inc.,

JAES Volume 22 Issue 3 pp. 154-162; April 1974

http://www.xlrtechs.com/dbkeele.com/papers.htm

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7. トータルレスポンス

これまでの述べてきたように、一般的なマイクセッティングにおける疑似無響室測定の低域測定限界は

250Hz程度、Near field測定の高域限界はドライバの口径にもよりますが 15cmクラスであれば 1kHz程度

となります。幸いにも両者の限界はオーバーラップしていますので、適当なポイントで両者を合成すること

によりトータルレスポンスを得ることが出来ます。ただし Near field測定のデータにはバッフル回折の影響

が反映されないため、”Edge”などのバッフル回折シミュレーションソフトを用いてゲインを計算し、あらかじ

めデータを補正しておく必要があります。

図31 “Edge”によるバッフル回折のシミュレーション例

図32 Far field 測定データの補正(青:補正無し、緑:補正後)

©Iridium17

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補正した Near field測定のデータを Far field測定のデータとつなぎ合わせることでトータルレスポンスを

求めることが出来ます。このデータのつなぎ合わせ操作を Spliceと呼び、Speaker workshopで行うことが

出来ます。Spliceする周波数は 300~500Hzとするのが一般的です。

このように、Far field測定(疑似無響室測定)と Near field測定を組み合わせることにより、自宅でもスピ

ーカーの周波数特性を正確に測定することが可能になります。マルチウェイシステムを設計・製作する際

にはドライバ特性の測定が不可欠であり、

図33 Speaker workshop によるデータの Splice

図34 トータルレスポンス

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8. ARTA による測定例

TangBand W3-315SC Farfield frequency response

TangBand W3-315SC Cumulative Spectral Decay

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SEAS Excel W15CY001 Farfield frequency response (Baffle dimension : 354mm×202mm)

SEAS Excel T25CF001 Farfield frequency response (Baffle dimension : 354mm×202mm)

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W15CY001 with and without crossover network

T25CF001 with and without crossover network

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SEAS Excel W15CY001 Woofer Nearfield response

SEAS Excel W15CY001 Port Nearfield response

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SEAS Excel 2way Farfield frequency response (Tweeter normal phase)

SEAS Excel 2way Farfield frequency response (Tweeter reverse phase)

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SEAS Excel 2way Woofer and Tweeter response with crossover network

SEAS Excel 2way Cumulative Spectral Decay

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9. 参考図書

Loudspeaker Design Cookbook Vance Dicason

ISBN-13: 978-1882580330

Loudspeaker Recipes: Book 1 Vance Dicason

ISBN-13: 978-1882580040

Testing Loudspeakers Joseph D'Appolito

ISBN-13: 978-1882580170

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ARTA Essential Manual Revision 2.0

- How to measure your loudspeaker with ARTA –

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