ar sn a ar ar ar = + + + + = l r 1 a¬¬9章.varモデルによる計量分析の基礎 162...

22
9 VAR { } n a n a = = + + + + + 0 2 1 0 n n n a a a a a L L n n () n a a a a n S + + + + = L 2 1 0 () { } n S () S n S n = lim S ) 0 (> a r L L + + + + + n ar ar ar a 2 () a n r r a ar ar ar a n S n n ) 1 ( 1 ) 1 ( 1 2 + = + + + + = + L () L k t t k Y Y L = L , 2 , 1 = k 1 1 < < r 1 r 1 r 1 r 1 = r + () r a n S n = 1 lim

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Page 1: ar Sn a ar ar ar = + + + + = L r 1 a¬¬9章.VARモデルによる計量分析の基礎 162 9-1-4.単変量確率過程の定常性の条件 1)復習:確率過程の(弱)定常性の定義

第 9 章.VAR モデルによる計量分析の基礎

160

第 9 章.VAR モデルによる計量分析の基礎

9-1.単変量の確率過程

9-1-1.数学準備:等比級数の性質

数列{ }na に対し、以下のような形式的和を「級数」といい、 na をその一般項という。

∑∞

=

=+++++0

210n

nn aaaaa LL (9-1)

また、初項から第n項までの和を級数(9-1)式の第n部分和という。

( ) naaaanS ++++= L210 (9-2)

数列 ( ){ }nS がある一定の値に収束するとき、つまり

( ) SnSn

=∞→

lim

となるとき、級数(9-1)式は S に収束するという。

いま、初項 )0(>a 、公比 r の等比級数 LL +++++ nararara 2 の一般項は、

( )an

rra

arararanSn

n

)1(1

)1( 1

2

+−−

=++++=

+

L

この等比級数の収束先(すなわち無限等比級数の和)は以下のようになる。

9-1-2.ラグ演算子

ラグ演算子 ( )L (lag operator)は以下のように定義される。

kttk YYL −= L,2,1=k (9-5)

ラグ演算子を用いた多項式(ラグ多項式)は等比級数と同じ演算ルールにしたがう。

不確定

( 11 <<− r のとき)

( 1≧r のとき)

( 1−≦r のとき)

( 1≠r のとき)

( 1=r のとき)

∞+

( )r

anSn −

=∞→ 1

lim

(9-3)

(9-4)

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第 9 章.VAR モデルによる計量分析の基礎

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9-1-3.単変量の自己回帰過程・移動平均過程のラグ多項式表記

1)自己回帰過程(Autoregressive Process)

以下のような DGP(Data Generating Process)をもつ確率過程は、次数 p の自己回帰過

程といわれ、 ( )pAR と表記される。

tptpttt uYYYY ++++= −−− φφφ L2211 (9-6)

ラグ演算子を用いると、(9-6)式は以下のように書き換えられる。

( ) ttp

p uYLLL =⋅−−−− φφφ L2211 (9-7)

さらに、ラグ多項式 を以下のように定義する。

( ) ( )pp LLLL φφφφ −−−−= L2

211 (9-8)

すると(9-7)式は以下のように書き換え可能になる。

( ) tt uYL =⋅φ ないしは ( ) tt uL

Y ⋅=φ

1 (9-9)

2)移動平均過程(moving average process)

以下のような DGP(Data Generating Process)をもつ確率過程は、次数q の移動平均過

程といわれ、 ( )qMA と表記される。

qtttt uuuY −− +++= q11 θθ L (9-10)

ラグ演算子を用いて(9-10)式を書き換えると

( ) tq

qt uLLLY ⋅++++= θθθ L2211 (9-11)

さらに、ラグ多項式 を以下のように定義する。

( ) ( )qq LLLL θθθθ ++++= L2

211 (9-12)

すると(9-12)式は以下のようなに書き換え可能になる。

( ) tt uLY ⋅= θ (9-13)

( )Lφ

( )Lθ

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第 9 章.VAR モデルによる計量分析の基礎

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9-1-4.単変量確率過程の定常性の条件

1)復習:確率過程の(弱)定常性の定義

確率変数 Xt が以下の性質をもつとき確率過程{ …,X-1,X0,X1,… }は弱定常性をもつ。

a) E(Xt)=μ

b) var(Xt)=σ2

c) cov(Xt,Xt-s )=E(Xt -μ)(Xt-s -μ)= γ(s)

つまり、① 期待値と分散は一定値をとる。(時間 t に依存しない)

② 共分散は 2時点の時間差(S)のみに依存する関数(時間 t に依存しない)

例) cov(X1970,X1980 )= cov(X1975,X1985 )= cov(X1981,X1991 )=γ(10)

2)確率過程が定常性をみたすための条件

①次数 p の自己回帰過程 ( )pAR の定常性の条件

AR(p)過程(9-6)式が定常性を満たすためには、(9-8)式に対応する以下の特性方程式

01 221 =⋅−−⋅−⋅− p

p zzz φφφ L (9-14)

において、zの全ての根(=解)の絶対値が1より大きくなくてはならない。

②次数q の移動平均過程 ( )qMA の定常性の条件

MA(q)過程(9-10)式が定常性を満たすためには、(9-12)式に対応する以下の特性方程式

01 221 =⋅++⋅+⋅+ q

q zzz θθθ L (9-15)

において、zの全ての根(=解) の絶対値が1より大きくなくてはならない。

【具体例】AR(1)の定常性の条件

⇒ (9-16)

このケースでの特性方程式は である。よって、定常性の条件は、

11

1

>=φ

z ⇒ 11 <φ

となる。なお、z=1(すなわち単位根)であるとき、(9-16)式は Random Walk 過程に従う。

ttt uYY += −11φ ( ) tt uYL =⋅− 11 φ

01 1 =− zφ

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第 9 章.VAR モデルによる計量分析の基礎

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9-1-5.定常時系列の反転可能性

① 定常性を満たす ( )pAR 過程は無限の移動平均過程 ( )∞MA に反転可能である。

② 定常性を満たす ( )qMA 過程は無限の自己回帰過程 ( )∞AR に反転可能である。

【具体例】定常な AR(1)の MA(∞)への反転

⇒ ⇒

定常性を満たしているとき「|φ1|<1」が成立する。また、既に述べたようにラグ演算子

は等比級数と同じ演算ルールに従う。よって、「(9-3)式 ⇔ (9-4)式 」の関係を援用すると、

以下のような MA(∞)への書き換えが可能になる。

( ) ( ) iti

it

i

itt uuLu

LY −

=

=∑∑ ⋅=⋅⋅=⋅

−=

01

01

111

φφφ

(9-17)

つまり AR(p)過程として記述できる経済変数は、ある期に発生したショック(誤差項)が永続

的に残るモデルとして表現できる。 この性質は多変量確率過程に応用され、VAR(Vector

Autoregeression)推計の重要な分析ツールであるインパルス応答関数(後述)の理論的背景

となっている。

9-2.多変量自己回帰モデル(VAR:Vector Autoregression Model)

9-2-1.VAR の定式化

これまでは 1 変量の AR 過程について扱ってきた。ここからは多変量の自己回帰過程、すなわち

Vector Autoregression Model(VAR Model)について考えてゆく。例えば、2変数からなるラグ次

数(p)の VAR は以下のように記述される。

t

p

kkt

p

kktt uYkYkY 1

1212

1111101 )()( +++= ∑∑

=−

=− φφφ (9-18-A)

t

p

kkt

p

kktt uYkYkY 2

1222

1121202 )()( +++= ∑∑

=−

=− φφφ (9-18-B)

ttt uYY += −11φ ( ) tt uYL =⋅− 11 φ ( ) tt uL

Y ⋅−

=11

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第 9 章.VAR モデルによる計量分析の基礎

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VAR の特徴は以下のようにまとめられる。

①(内生)変数の数と同じ本数の推定式から構成される、

②各推定式の説明変数は、自分自身および自分以外の変数のラグ項(のみ)から構成される。

すなわち、VAR は、現在における変数の変動を「過去の変数間の相互依存関係」によって説明

しようとするモデルである。他方、VAR では「現在の変数間の相互依存関係」は説明変数として

考慮されない。

変数が増えるにしたがい、VAR を(9-18-A)・(9-18-B)式のように記述することは煩雑になって

いく。よって、VAR はベクトルと行列で表記されることが一般的である。例えば、(9-18-A)・(9-18-B)

式について、まず、以下のように変数ベクトル、係数行列を定義する。

=

i

ii Y

Yy

2

1

20

100 φ

φ

)()()()(

2221

1211

kkkk

k φφφφ

pk ,,2,1 L=

すると、(9-18-A)・(9-18-B)式から構成される VAR の行列表記は

tptpttt uyyyy +Φ++Φ+Φ+Φ= −−− L22110 (9-19)

となる。N変数 VAR の場合も同様に表記できる。

9-2-2.VAR の誤差項が満たすべき性質

一般に、VAR の誤差項は以下の性質を満たすことが前提とされる。

① 0)( =tuE , ⇒ [解釈] 平均ゼロ

② ∑=′= )()( ttt uuEuVar , ⇒ [解釈] 分散-共分散が一定 (9-20)

③ 0)( =−sttuuE for 0>s ⇒ [解釈] 誤差項に系列相関なし

ここで行列Σは必ずしも対角行列である必要はない。つまり、VAR を構成する各式の誤差項には

相関があってもかまわない。

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第 9 章.VAR モデルによる計量分析の基礎

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9-2-3.VAR の安定性の条件

単一方程式による回帰では、係数推定値が安定的な(=「みせかけの回帰」にならない)ため

には一定の条件が必要とされた。具体的には、使用変数がすべて「定常」であるか、非定常変数

間での「共和分関係」の成立が条件だった。VAR の場合にも同様の安定性の条件が存在する。

【VAR の安定性の条件】

)( pVAR モデル

tptpttt uyyyy +Φ++Φ+Φ+Φ= −−− L22110

が安定的であるためには、以下に示される連立特性方程式

0221 =Φ−−Φ−Φ− p

pn zzzI L

のすべての根 )(z の絶対値が1より大きくなければならない。

【VAR の安定性が満たされるための十分条件】

VAR を構成する全ての変数が I(0)であるとき、VAR の安定性条件は満たされている。39

9-2-4.VAR の推計手法

1)推定方法

VAR を構成する各式の誤差項が(9-20)式を満たし、かつ、9-2-2 節で示された VAR の安定性

の条件が満たされていれば、各式を OLS 推定することによって、係数推定値は一致性を満たし、

(漸近的に)最小分散推定量となる。この意味で、推定自体に難しいテクニックは要さない。

2)ラグ次数の選択

VAR のラグ次数の選択基準は、拡張 Dickey-Fuller 検定のそれと同様である。すなわち、

赤池情報量基準(AIC)や Schwltz-Bayez 情報量基準(SBIC)などが最小となるラグ次数を

選択することが一般的である。

39 必要条件ではない。詳細は Hamilton(1994)“Time Series Analysis”(Prinston University Press)などを参照さ

れたい。

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第 9 章.VAR モデルによる計量分析の基礎

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9-3.E-Views による VAR の推計

以下では実習問題を交えながら、E-Views による VAR 推計の操作手順を説明する。

Q9-1 (保存 Workfile 名:Q9-1.wf1)

“Q9 68SNA 需要項目.xls” には 1955 年 Q1(実際には 1955 年 Q2)~1985 年 Q4 までの①

CP90S:実質 民間最終消費支出(季調済み)、②IP90S:実質 民間総固定資本形成(季調

済み)、③IG90S:公的総固定資本形成(季調済み)が収録されている。(ともに 1990 年基

準価格、単位は 10億円)

1)各変数について ADF 検定を実施し、和分次数を確定せよ。(有意水準 5%)

2)3変量 VAR を推定せよ。ただし、①もしも各変数が I(1)であれば階差をとって I(0)に

すること、②最適ラグ次数はここでは AIC 基準で選ぶこと(結果を“VAR01”で保存)

⇒ 操作手順は以下のとおり (以下の作業についての解答例は巻末〔P297〕に掲載されている)

【操作手順】

① 各変数につき単位根検定を行う。本実習問題では IG90S,IP90S,CP90S ともに I(1)となる。

② IG90S,IP90S,CP90S を選択してダブルクリック → Open VAR

※ 順番を守って選択してほしい(理由は後述 / ただし推計結果に直接の影響はない)

③ Endogenous Variables 欄を D(IG90S), D(IP90S), D(CP90S) に変更する。

※ 使用する変数が I(0)であればこのプロセスは不要となる

④“Lag Intervals for Endogenous”は、最初は E-Views が指定した次数に従う。

⑤ 推定結果ウィンドウで “View → Lag Structure → Lag length criteria”とすすみ、

“Lag to include”は原則として E-Views に従う(ある程度は長めにとる)

⑥ 情報量基準(この実習では AIC)が最小となるラグ次数を確認したら“Estimate”を押し、ラ

グ次数を最適なものに変更したうえで VAR 推定を行う。(結果を“VAR01”として保存)

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第 9 章.VAR モデルによる計量分析の基礎

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得られた推計結果は以下のように解釈される。

① 過去の公共投資↑ → 現在の民間消費↑ ~ 乗数効果の存在が示唆される。

② 過去の民間投資↑ → 現在の公共投資↓ ~ 自動安定化装置の存在が示唆される

~ ただし、ラグ次数が多くなるほど係数の解釈に困難をともなうようになる。

◆応用的な分析の必要性

計量分析の手法として VAR を用いるとき、各式の係数推定値の大きさに直接の関心がよせ

られることはあまりない。頻繁に利用されるのは、VAR から派生した ①Granger 因果性検定

や ②インパルス応答関数 である。

9-4.Granger 因果性の検定

9-4-1.Granger 因果性

ある変数(X)の予測を行ううえで、予測モデルに他の変数(Y)を含めても予測が改善しな

いとき、「変数(Y) から変数(X)への Granger の意味での因果関係はない」といわれる。VAR

推定と F検定を組み合わせることにより、変数間の Granger の意味での因果性の有無を検定す

ることができる。例として、以下の2変数 VAR を考える。

t

p

kkt

p

kktt uYkXkX 1

112

11110 )()( +⋅+⋅+= ∑∑

=−

=− φφφ (9-21-A)

t

p

kkt

p

kktt uYkXkY 2

122

12120 )()( +⋅+⋅+= ∑∑

=−

=− φφφ (9-21-B)

Granger 因果性の定義をふまえると、Yから Xへの因果性がないことの必要十分条件は

0)()2()1( 121212 ==== pφφφ L

同様に、Xから Yへの因果性がないことの必要十分条件は

0)()2()1( 212121 ==== pφφφ L

したがって、例えば Yから Xへの Granger 因果性の有無を調べたいときには、以下の仮説

検定を行えばよい。

H0: H1:いずれかの kについて 0)()2()1( 121212 ==== pφφφ L 0)(12 ≠kφ

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第 9 章.VAR モデルによる計量分析の基礎

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帰無仮説が棄却されれば「YからXへのGrangerの意味での因果性が存在する」とみなせる。

この検定では複数の係数制約が同時に成立しているか否かをみているので、F検定を適用する

ことが適切なように思われる。しかし、VAR モデルの係数制約に関する F統計量は、厳密には

正しい F分布をとらない。正しくは「p(ラグ次数)×F統計量」が自由度pのχ2分布をとる。

9-4-2.E-Views による Granger 因果性の検定

Q9-2 (保存 Workfile 名:“Q9-1.wf1”に作業を加え“Q8-2.wf1”として保存)

Q9-1 で推定された VAR の結果をもとに、Granger 因果性の検定を行え

【操作手順】Q8-1 で保存した“VAR01”を開いたうえで

View → Lag Structure → Granger Causality/Block Exogeneity Test

※ 結果は以下のように出力される。

VAR Pairwise Granger Causality/Block Exogeneity Wald Tests Date: 12/14/04 Time: 15:52 Sample: 1955:1 1985:4 Included observations: 119

Dependent variable: D(IG90S) ※他の変数から公共投資への因果性の有無

Exclude Chi-sq df Prob.

D(IP90S) 8.951706 3 0.0299

D(CP90S) 5.004284 3 0.1715

All 13.71310 6 0.0330

Dependent variable: D(IP90S) ※他の変数から民間投資への因果性の有無

Exclude Chi-sq df Prob.

D(IG90S) 6.195911 3 0.1025

D(CP90S) 0.466446 3 0.9262

All 8.793599 6 0.1855

Dependent variable: D(CP90S) ※他の変数から民間消費への因果性の有無

Exclude Chi-sq df Prob.

D(IG90S) 8.276349 3 0.0406

D(IP90S) 1.638052 3 0.6508

All 14.21602 6 0.0273

②「公共投資 → 民間消費」への因果をチェック

①「民間消費 → 公共投資」への因果をチェック

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第 9 章.VAR モデルによる計量分析の基礎

169

既に述べたように、帰無仮説は「当該変数のラグ項の係数が全て 0」であるから、Granger

因果性の存在を信じる分析者にとっては、帰無仮説が棄却されることが望ましい。つまり、

有意確率が低い(→ 少なくとも 10%未満)ほうがよい。

【検定結果の解釈】

①“民間消費 → 公共投資”の Granger 因果の有無

帰無仮説が正しい確率は 17.5% → 採択 → Granger 因果性はない

②“公共投資 → 民間消費”の Granger 因果の有無

帰無仮説が正しい確率は 4.06% → 棄却 → Granger 因果性はある

よって、結論としては「公共投資 → 民間消費」の方向への Granger 因果性が認められ、乗

数効果の存在が示唆される。

◆ Granger 因果性検定の弱点

① 定式化の誤りに起因する問題

Granger 因果性の検定は、真のモデルよりも少ない変数を用いると結果が変化するこ

とがある。(そもそも「真のモデル」の定義自体が困難) ゆえに、アドホックに任意

の 2変数の因果関係を調べる目的で Granger 因果性の検定を用いるべきではない。

②「両因果」への注意

「Y→Xへの因果性」と同時に「X→Yへの因果性」が認められることもある。よって、

一方向の Granger 因果性だけ検証して「因果関係あり」と判断してはいけない。

9-4-3.Toda-Yamamoto(1995)の発見:Lag Augmented VAR

従来の Granger 因果性の検定は、原則として VAR が安定であるときしか適用できない。し

たがって、利用データが I(1)であるときには、階差系列でしか Granger 因果性の検定ができ

ない。しかし、Toda and Yamamoto(1995)の手法に従えば、I(1)のレベル項を用いた Granger

因果性の検定が可能になる。具体的には、まず I(d)のレベル系列を VAR 推定して最適ラグ次

数を確定し、次に「最適ラグ次数+和分次数(d)」分のラグで新たに VAR 推定をする。この

VAR を用いれば Granger 因果性検定が実施できる。

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第 9 章.VAR モデルによる計量分析の基礎

170

Q9-3 (保存 Workfile 名:“Q9-2.wf1”に作業を加え“Q9-3.wf1”として保存)

Q9-1 で用いた IG90S,IP90S,CP90S について、Toda and Yamamoto(1995)の手法でレベ

ル項による Granger 因果性検定を行え。ここでは AIC 基準で最適ラグ次数を選ぶこと

⇒ 操作手順は以下のとおり (以下の作業についての解答例は巻末〔P301〕に掲載されている)

【操作手順】

① IG90S, IP90S, CP90S を選択してダブルクリックし、“Open VAR”を選ぶ。

②“Lag Intervals for Endogenous”は、最初は E-Views が指定した次数に従う。

③ 推定結果ウィンドウで“View → Lag Structure → Lag length criteria”と進み、“Lag

to include”は原則として E-Views に従う(ある程度は長めにとる)

④ 情報量基準(ここでは AIC)が最小となるラグ次数を確認して VAR を閉じる。

(結果の保存は不要)

⑤ あらためて IG90S, IP90S, CP90S を選択してダブルクリックし、“Open VAR”を選ぶ。そ

のうえで、ラグ次数を 5(= AIC 基準での最適次数(4) + ADF 検定での和分次数(1)) と

して「OK」を押す。

⑥ VAR の推計結果が表示された後、“View → Lag Structure → Granger Causality/Block

Exogeneity Test”とすすむ。

⇒ 階差項での検定結果と異なっているか? それとも同じか?

【E-Views 補足】Group コマンドを通じた Granger 因果性検定

① Granger 因果性を検定したい変数群(ここでは IG90S,IP90S,CP90S)を選択

② ダブルクリック → Open Group → View → Granger Causality → ・・・・

③“Lags to include”で適切なラグ次数を設定し“OK”

※ Group コマンドを通じた Granger 因果性検定の利点と欠点は以下のとおり

・利点: 直観的にわかりやすい結果表示

・欠点: (厳密には正しくない) F検定でしか評価できない

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第 9 章.VAR モデルによる計量分析の基礎

171

9-5.インパルス応答関数

9-5-1.インパルス応答関数の導出

既に示したように、単変量の定常なAR(p)過程は無限の移動平均過程MA(∞)に書き換えられる。

安定的な VAR についても同様の「反転」が可能である。

ラグ次数 1の 2変量 VAR を以下のように表記する。

ttt uyy +Φ+Φ= −110 (9-22)

ただし、

したがって、

tt uyLI +Φ=Φ− 01 )( (9-23)

となり、以下のように整理できる。

tt uLILIy 110

11 )()( −− Φ−+ΦΦ−=

tuLI 110 )( −Φ−+Ψ= ただし、 0

110 )( ΦΦ−=Ψ −LI (9-24)

ここで VAR が安定的ならば、やはり「(9-3)式 ⇔ (9-4)式 」の関係を援用できる。ゆえに

∑∞

=

− Φ=Φ−0

11

1 )(i

ii LLI (9-25)

と書くことができる。よって、ラグ次数 1の VAR は以下のように無限の VMA に反転可能である。

∑∞

=−Φ+Ψ=

010

iit

it uy (9-26)

(9-26)式は、「ある変数の現在の値 = 初期値 + 無限大過去に発生したショック(=誤差項)

の蓄積」と表現できることを意味する。時期をずらして(9-26)式を解釈すると、ある変数に生

じた現時点でのショックは、当該変数および他の変数に対し、マグニチュードを変えながら永続

的に影響を及ぼし続ける。

各期の影響のマグニチュードは、(9-26)式に(9-22)式の VAR の係数行列を代入することによっ

て算出できる。 例えば、当期(第 0 期)に変数 Y1に対してだけ 1 単位のショックが生じたと仮

定しよう。すなわち、

=

t

tt Y

Yy

2

1

=

t

tt u

uu

2

1

)1()1()1()1(

2221

12111 φφ

φφ

20

100 φ

φ

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第 9 章.VAR モデルによる計量分析の基礎

172

=

01

0u (9-27)

他方、(9-26)式をふまえると、第 0 期のショックの係数行列は (行列Φ1の“0 乗”)であ

る。これは単位行列に他ならない。よって、(9-27)式のショックが当該期の被説明変数群に及ぼ

す影響は以下のようになる。

=

=⋅Φ=

01

01

1001

001*

20

*10 u

YY

(9-28)

次に、(9-27)式で表される第 0期ショックが 1期先(第 1期)の被説明変数群に及ぼす影響は、

=

=⋅Φ=

)1()1(

01

)1()1()1()1(

21

11

2221

12110

11*

21

*11

φφ

φφφφ

uYY

(9-29)

さらに、第 0期ショックが 2期先(第 2期)の被説明変数群に及ぼす影響は、

=⋅Φ=⋅Φ=

)1()1(

)1()1()1()1(

21

11

2221

12111

110

21*

22

*12

φφ

φφφφ

uuYY

++

=)1()1()1()1(

)1()1()1(

21222111

21122

11

φφφφφφφ

(9-30)

ここで(9-29)式や(9-30)式からわかるように、ある特定の変数に生じた 1単位ショックは、VAR

のシステムを通じて経時的に他の変数にも影響を及ぼしていく。同様の作業を続けると、第 0期

ショックが m期後の被説明変数群に及ぼす影響まで順番に把握することができる。作成された変

数を 0期からm期まで順番に並べた流列

{ }*1

*12

*11

*10 ,,,, mYYYY LLL (9-31)

{ }*2

*22

*21

*20 ,,,, mYYYY LLL (9-32)

を「インパルス応答関数」という。なお、(9-30)式は「Y1(の衝撃)に対する Y1(自身)のイ

ンパルス応答関数」、(9-32)式は「Y1(の衝撃)に対する Y2のインパルス応答関数」である。他

方、初期時点でのショックの与え方を

=′

10

0u (9-33)

01Φ

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第 9 章.VAR モデルによる計量分析の基礎

173

とすれば、これとは別に「Y2(の衝撃)に対する Y1のインパルス応答関数」と「Y2(の衝撃)に

対する Y2(自身)のインパルス応答関数」を導出することも可能である。

さらに、インパルスの経時的蓄積をみるための以下の流列を「累積インパルス応答関数」という

∑∑∑

===

m

ii

ii

ii YYYY

0

*1

2

0

*1

1

0

*1

*10 ,,,, LLL (9-34)

9-5-2.誤差項の同時点相関に起因するインパルス応答関数の問題点

1)再考:誤差項の同時点相関

第 9-2 節で VAR を定義したとき、各式の誤差項は同時点で相関していてもかまわないと述

べた。もっとも、これは VAR を OLS 推定することに問題がないということである。 VAR から

インパルス応答関数を導出しようとすると、誤差項の同時点相関は問題を引き起こす。とい

うのも、誤差項が同時点相関しているとき、(9-27)式や(9-33)式のように1つの変数にだ

けショックが生じるという状況はそもそも起こり得ないからだ。

現実経済をふまえた場合、VAR の式間の誤差項に相関があるとの想定は極めて自然である。

例えば、以下のような単純な IS-LM 体系を考える。

ttttt RbYbRaaY 11121111210 ε+++−= −− ・・・・ IS 曲線(9-35)

ttttt RbYbYaaR 21221212120 ε++++= −− ・・・・ LM 曲線(9-36)

2 つの式は同時点で互いの変数が影響を及ぼしあっており、この意味で「構造方程式」と解

釈できる。(9-35)式と(9-36)式の誤差項には同時点相関はないと仮定する。すなわち、

0)( 1 =tE ε , 0)( 2 =tE ε ,

211 )( εσε =tV ,

222 )( εσε =tV , (9-37)

0),(),( 2121 == tttt ECov εεεε

(9-35)式と(9-36) 式を連立させて解くと IS-LM 均衡としての Y と R を導出できる。行列を

つかってこれをまとめると以下のように表記できる。

ttt yBy ε+Γ+Γ= −110 (9-38)

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第 9 章.VAR モデルによる計量分析の基礎

174

ただし、

=

t

tt R

Yy ,

=1

1

21

12

aa

B ,

20

100 a

a ,

2221

12111 bb

bb ,

=

t

tt

2

1

εε

ε

さらに、両辺から Bの逆行列を乗じると、

ttt uyy +Φ+Φ= −110 (9-39)

ただし、 01

0 Γ=Φ −B , 11

1 Γ=Φ −B , tt Bu ε1−=

(9-39)式では、各式の説明変数が自分自身および自分以外の変数のラグ項のみから構成されて

おり、明らかに第 9-2 節で定義した VAR の要件を満たす。ここで tt Bu ε1−= を計算すると、

1221

21211 1 aa

au ttt +

−=

εε

2112

12122 1 aa

au ttt +

+=

εε (9-40)

(9-40)式より、VAR モデル(9-38)の各誤差項は平均ゼロ、分散は一定となる。しかし、共分

散については

)(),( 2121 tttt uuEuuCov =

+

+−= 2

2112

12122121

)1())((

aaaaE tttt εεεε

22112

2212

2121

)1( aaaa

+−

= εε σσ (9-41)

となり、ゼロとはならない。つまり、VAR を「構造方程式」の連立体系から導出された「誘導

形」として解釈するならば、誤差項に同時点相関があることを予め想定することは自然である。

9-5-3.Cholesky 分解

誤差項に同時点間の相関がある場合、たとえば「変数 X にだけ 1単位のショックが生じた

ときのインパルス応答」を算出したいと思っても、かならず変数 Y にも同時点でショックが

伝達されてしまう。これを考慮せずに(9-31)・(9-32)式のようなインパルス応答関数を導

出するのは誤りである。

こうした場合には“Cholesky 分解”という手法を導入し、最初に与えるショックに同時点

間の相関が発生しないように分散-共分散行列を変換(=対角化)してインパルス応答関数を

算出する。(詳細は、羽森(2000)の P.167~P.168 を参照) なお、E-Views のインパルス応

答関数のコマンドでは、デフォルトで Cholesky 分解されたショックが与えられる。

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第 9 章.VAR モデルによる計量分析の基礎

175

Q9-4 (保存 Workfile 名:“Q9-2.wf1”に作業を加え“Q9-4.wf1”として保存)

Q9-1 で推計した VAR についてインパルス応答関数と累積インパルス応答関数を算出

し、「公共投資の乗数効果」について検討せよ。

⇒ 操作手順は以下のとおり (以下の作業についての解答例は巻末〔P303〕に掲載されている)

【操作手順】

① VAR の推計結果ウィンドウより、 Impulse ボタンを押す。

②“Impulse Definition”が、“Cholesky dof adjusted”であることを確認する。

③“Display”の“Period”は任意だが、ここでは“10”に設定

④ 通常のインパルス応答関数であれば“Accumulated Response”にチェックを入れない。

累積インパルス応答関数であれば“Accumulated Response”にチェックを入れる。

※ いったん片方を表示した後、再度 Impulse を押せば変更可能

⑤“OK”を押し、表示されたグラフを保存する。

A)通常のインパルス応答関数 : Freeze → Name → Impulse01

B)累積インパルス応答関数 : Freeze → Name → Accumulated01

【グラフの見方】

実線の上下に表示される点線は「±2×標準偏差」のバンドである。この点線がゼロを超

えているならば、統計的に有意な影響があったとみなすことができる。

◆ Cholesky 分解の弱点

VAR の変数の順番をかえると Cholesky 分解する際の行列の要素も変わる。この結果、算

出されたインパルス応答関数の結果が変わることがしばしばある。 以下の実習問題でこの

点を確認されたい。

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第 9 章.VAR モデルによる計量分析の基礎

176

Q9-5 (保存 Workfile 名:“Q9-4.wf1”に作業を加え“Q9-5.wf1”として保存)

VAR 推計の際、変数の選択順を D(CP90S),D(IP90S),D(IG90S)に変更したうえで、

インパルス応答関数と累積インパルス応答関数を算出せよ。

※ Q9-4 にあわせてラグ次数は「3」とすること

⇒ 解答例は巻末〔P305〕に掲載されている

※ 表示されたグラフを保存する。

A)通常のインパルス応答関数 : Freeze → Name → Impulse02

B)累積インパルス応答関数 : Freeze → Name → Accumulated02

⇒ Q9-4 と Q9-5 の「インパルス応答関数」に差異は見られるか?

(グラフの並び順が異なるので注意すること)

【対処方法】

根本的な解決策はない。例えば、順番をいれかえた結果と両方を示したり、「外生性が

高い順に並べた」とはじめに宣言してしまうことが一般的である。

9-6.Blanchard and Quah(1989) タイプの構造形 VAR

9-5-2 節において、VAR が経済理論モデルの誘導形(=経済モデルにおける内生変数の均衡解)

として解釈されることを説明した。もっとも、いったん背後に「構造方程式」の存在を認識し

てしまうと、誘導形 VAR の残差に立脚したインパルス応答関数はわれわれにさほど有用な情報

をもたらさないことに気づく。なぜなら、誘導形 VAR(9-39)の誤差項(u)は「均衡へのショ

ック」であることは確かであるが、それが ISサイド由来のショック(例:オイルショック)な

のか、LM サイド由来のショック(例:予期せぬ金融緩和)なのかは識別できないからだ。だが、

政策当局が本当に知りたいのは、識別されたショック(=実物ショックや貨幣ショック)に対

する内生変数の反応であろう。

Blanchard and Quah(1989)は、誘導形VARの残差項から実物ショックと貨幣ショックを識

別するために、以下の方法を提案した。まず、誘導形ショック(ui)と構造形ショック(εi)

との間には(9-40)式のような関係が成立している。

1221

21211 1 aa

au ttt +

−=

εε

2112

12122 1 aa

au ttt +

+=

εε (9-40:再掲)

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第 9 章.VAR モデルによる計量分析の基礎

177

これを以下のように書き換える。

ttt aaa

aau 2

1221

121

12211 11

1 εε ⋅+

−⋅+

= ⇒ tttu 22111 εαεα ⋅+⋅= (9-42)

ttt aaaaau 2

12211

1221

212 1

11

εε ⋅+

+⋅+

= ⇒ tttu 22112 εβεβ ⋅+⋅= (9-43)

いま、誘導形 VAR の残差 u1と u2は推計により得られるので、4 つのパラメータ(α1, α2,

β1,β2)が確定されれば構造形ショック(ε1,ε2)を逆算でき、これに対応したインパルス応

答関数を導出できる。準備として、構造形ショックの分散・共分散を以下のように基準化して

おく。

=

⋅⋅

=∑1001

)()()()(

2212

212

1

ttt

ttt

EEEE

εεεεεε

ε (9-44)

4 つのパラメータを含む 4 本の連立方程式体系を組むことができれば、この問題を解決する

ことができる。このうち 3本については分散と共分散の関係を用いればよい。

22

211 )( αα +=tuVar

22

212 )( ββ +=tuVar ※ いずれも(A-3)の結果を用いている

221121 )( βαβα ⋅+⋅=ttuuCov

未知パラメータは4つあるのであと1つ追加的な制約式が必要になる。ここで Blanchard and

Quah(1989)は「実物サイドへのショックは長期的な影響をもたない」という制約を付加する。

この制約は以下のように表記できる。まず、実際に推計する誘導形 VAR は(9-39)式である。

これを変形していくと

ttt uyy +Φ+Φ= −110 (9-39)

⇒ ( ) tt uyL +Φ=⋅⋅Φ− 011 ⇒ tt uLL

y ⋅⋅Φ−

+Φ⋅Φ−

=1

01 1

11

1

⋅+⋅⋅+⋅

⋅⋅Φ−

+Φ⋅Φ−

=

tt

tt

t

t

LLRY

2211

2211

10

1 11

11

εβεβεαεα

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第 9 章.VAR モデルによる計量分析の基礎

178

[ ]

[ ]

⋅+⋅⋅⋅Φ

⋅+⋅⋅⋅Φ⋅+=

∑∞

=

=

022111

022111

0

)()(

)()(

itt

i

itt

i

t

t

L

LX

RY

εβεβ

εαεα 【MA 過程に反転】

このうち Ytについてのみ抽出すると、

ti

ti

t iLgiLfxY 20

1212110

121210 );,,,,,();,,,,,( εββααεββαα ⋅Φ+⋅Φ+= ∑∑∞

=

=

ただし、f(・), g(・)は括弧内の変数を含む多項式である。したがって、Blanchard and

Quah(1989)タイプの制約(「実物サイドへのショック(ε1)は長期的な影響をもたない」)は、

0);,,,,,(0

12121 =Φ∑∞

=i

iLf ββαα (9-44)

ここに 4 本の連立方程式体系が構築され、パラメータ(α1, α2,β1,β2)が求められる。得

られたパラメータを(9-42)・(9-43)式に代入したうえで 9-5-1 節のプロセスを援用すること

により、構造形ショックに対応したインパルス応答関数を導出される。40

9-7.誤差修正 VAR

第 8 章で学んだ「Error Correction Model」は VAR においても適用可能である。すなわち I(1)

変数間に共和分関係がある場合には、階差系列による VAR を推定するよりも、誤差修正項を加え

た誤差修正 VAR(EC-VAR)を推定することが望ましい。

いま、以下の2変数(ともに I(1)変数)でラグ次数を2とするVARについて考える。

tttt uyyy +Φ+Φ= −− 2211 (9-45)

ただし、

40 詳細な数式展開は羽森(2000)の p.174~178 を参照のこと。なお、本論で利用しているコレツキー分解についても、

得られた誘導形ショックに制約を課して別のショック系列を導出しているという意味において、構造形 VAR に分類され

ることがある。

=

t

tt u

uu

2

1

)1()1()1()1(

2221

12111 φφ

φφ

=

t

tt X

Yy

)2()2()2()2(

2221

12112 φφ

φφ

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第 9 章.VAR モデルによる計量分析の基礎

179

この式の差分体系は、

ttttt uyyyy +Φ+−Φ= −−− 22111⊿

tttttt uyyyyy +Φ+Φ−Φ+−Φ= −−−−− 221212111 ttt uyy +Γ−Π= −− 111 ⊿ (9-46)

ただし、 I−Φ+Φ=Π 21 , 21 Φ−=Γ

Granger は、もし変数間に共和分関係が成立しているなら、(9-46)式の右辺第 1 項が、以下

のように表現できることを示した。

[ ] ( )12112

1

1

121

2

111 −−

−−− ⋅+⋅⋅

=

⋅⋅

=⋅⋅=⋅Π tt

t

ttt XY

XY

yy ββαα

ββαα

βα (9-47)

これが有名な「Granger の表現定理」(第 8章参照)である。さらに、

( ) ( )( ) ( )112

11121

21

111211

2

1−−−−−− ⋅−⋅

=⋅+⋅

⋅⋅

=+⋅

tttttt XYXYXY δ

λλ

ββαβαβ

ββαα

(9-48)

ただし、λ1=β1・α1 ,λ2=β1・α2 ,δ=-β2 /β1

と変形可能である。誤差修正項(ECT)を

111 −−− ⋅−= ttt XYECT δ (9-49)

として定義すると、最終的に(2)式を以下のように書き換えられる。

tttt uyECTy +Γ+⋅= −− 111 ⊿⊿ λ ただし、

=

2

1

λλ

λ (9-50)

ここで、

[ ]

+

∆∆

+

⋅−⋅

=

∆∆

2

1

1

1

2222

1211

1

1

2

1 1εε

δλλ

t

t

t

t

t

t

XY

dddd

XY

XY

上の式において、左辺の階差項は I(0)であるから、右辺も I(0)にならないと式がバランス

左辺

右辺第一項

誤差項

右辺第二項

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第 9 章.VAR モデルによる計量分析の基礎

180

しない。ところで、右辺第 2項は階差項だから I(0)、誤差項も White Noise の仮定より I(0) で

あるから、条件を満たすためには右辺第 1 項も I(0)でなければならない。もし(9-48)式にお

いて ECT が I(0)となっている、すなわち共和分関係が成立しているならばこの条件が満たさ

れる。これが Granger の表現定理のエッセンスである。

《演習》誤差修正 VAR の推計

(保存 Workfile 名:Test9.wf1) ※ 途中までは「第 8 章 補論」と重複する。

“Test9 購買力平価.xls” には 1989 年 1 月~2004 年 10 月までの①対ドル名目為替レー

ト(ER,②)米国の輸出物価(USEXP)、③日本の輸出物価(JPEXP)が収録されている。

1)各変数を対数変換し、LER,LUSEXP,LJPEXP と名づけよ。これらについて ADF 検定を行

い、全てが有意水準 5%で I(1)変数であることを確認せよ。

2)Johansen 型の共和分検定により、共和分ベクトルがたかだか 1本存在することを確か

めなさい。ただし、ラグ次数は2、共和分ベクトルの設定は「定数項とトレンド項あり」

にせよ。

3)以下の指示に従い、LER,LUSEXP,LJPEXP の“Error Correction VAR”を推計せよ。

⇒ 操作手順は以下のとおり (以下の作業についての解答例は巻末〔P307〕に掲載されている)

【作業手順】

① LER,LUSEXP,LJPEXP を選択してダブルクリック → Open VAR

② VAR Type を“Vector Error Correction”に設定

③ 今回は“Endogenous Variables”はレベル項のままでよい。

※ EC-VAR は変数が I(1)であることが前提なので、自動的に階差をとってくれる。

④“Lag Intervals for ~”

Johansen 型の共和分検定を実施したときの次数と整合させる。→ 今回は「2」

⑤“Cointegration”

1)Rank → Johansen 型の共和分検定で確認された共和分ベクトルの数

→ 今回は「1」

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第 9 章.VAR モデルによる計量分析の基礎

181

2)Deterministic Trend Specification

・共和分回帰に定数項を含めたい場合:

“Linear Trend in Data” & 3)Intercept in ・・・

・共和分回帰に定数項とトレンド項を含めたい場合:

“Linear Trend in Data” & 4)Intercept and Trend in ・・・

→ 今回はトレンドありなので“4)Intercept and Trend in ・・・”

※ Granger 因果性の検定、インパルス応答関数(ただし標準偏差は非表示)も実施可能である。