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講義ノート3:多期間モデル(直接の解法)

稲葉 大

初稿 2008年 10月 27日updated 2010年 5月 26日

目 次

I 有限期間 4

I.1 有限期間の中央計画者問題 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4

I.2 共役変数と投資財価格 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6

II 無限期間 7

II.1 無限期間の中央計画者問題 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7

II.2 定常状態 (steady state) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7

II.3 ダイナミクス . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9

(i) 位相図 (phase diagram) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9

(ii) 動学的な経路の導出 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11

II.4 ダイナミクスの具体的な分析 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 13

(i) 具体例 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 13

II.5 数値計算による解法:狙い撃ち法 (shooting algorithm) . . . . . . . . . . . . . . 14

(i) アルゴリズム . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 14

(ii) Matlab Code . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15

II.6 線形近似 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 20

(i) 数学の準備 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 20

(ii) 線形近似の例 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 22

III 競争均衡 25

III.1 経済環境 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 25

(i) 家計の効用 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 26

(ii) 生産技術 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 26

III.2 家計と企業の行動 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 26

(i) 家計の効用最大化問題 (Consumer Problem (CP)) . . . . . . . . . . . . . 26

III.3 企業の利潤最大化問題 (Firm Problem (FP)) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 28

III.4 競争均衡 (Competitive Equilibrium) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 29

1

IV 補論1:最大値原理 31

IV.1 最大値原理の十分性 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 32

IV.2 連続時間の最大値原理 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 32

2

第2回の講義ノートでは二期間のモデルについて,動学的一般均衡モデルを取り扱った.二期間から多期間(有限期間)への拡張は容易であり,本質は全く変わらない.数式による見た目もまったく変わらないため,理解も用意であると思われる.そのため,多期間になることで難しいと感じる場合には,二期間のモデルをしっかりと復習しておくこと.期間が無限にある無限期間の場合は,若干取り扱いに注意が必要だが,やはり本質は同じである.以下では,まず中央計画者問題について有限期間期間および無限期間のケースについて考察するが,分権経済の場合は家計の最適化問題について同じ手法を利用可能である.二期間モデルで見たとおり,いまのモデルにおいて中央計画者問題と分権経済とでは,達成される配分 (allocation)

は同じである.そこでまずは簡単な中央計画者問題から考察することにする.繰り返しだが,中央計画者問題とは、資源制約と生産関数の下で、計画当局が経済の全ての主体に消費計画を提示して、それを実行させることができる問題のことである.問題の解(均衡経路)を求める方法はいくつかあるが,この講義では代表的な二つを紹介する.ひとつはラグランジュ乗数法を用いた巨大な非線形計画問題を解くといった「直接の解法」.もう一つは,動的計画法 (dynamic

programming)を用いた方法である.ここで紹介するベーシックな最適成長モデルにおいては,どちらの方法を用いても良い.しかし実際にはどちらの方法を用いるかは,モデルの性質によって異なり,動的計画法しか利用できないケース(例えばサーチモデル,離散選択のモデルなど)のための準備として動的計画法を学んでおく必要がある1.まずは直接の解法を用いて,中央計画者問題の解を求めよう.そのまま定常状態とダイナミクスの分析を行う.その後,動的計画法へと戻ることにする.

1講義では時間があれば触れるが,recursive competitive equilibriumとの関係でも動的計画法を理解しておくことに意味がある.

3

I 有限期間

I.1 有限期間の中央計画者問題

中央計画者が代表的家計と同じ効用を持っているとする(あるいは代表的家計の効用を最大にするように行動している)ときの,中央計画者問題は次のようになる.

(SP)  maxct,it,kt+1

T∑t=0

βtu(ct)

subject to

ct + it = f(kt)

kt+1 − kt = it − δkt, t = 0, · · · , T,

k0 = k0

kT+1 ≥ 0.

ここで 0 < β < 1は,割引因子 (discount factor)である.効用関数 u(·)と生産関数 f(·)は,

u(0) = 0, u′(·) > 0, u′′(·) < 0, u′(0) = ∞, u′(∞) = 0

f(0) = 0, f ′(·) > 0, f ′′(·) < 0, f ′(0) = ∞, f ′(∞) = 0

という性質をもつと仮定する.ctは一人当たり消費,itは一人当たり投資,t期初(あるいはt − 1期末)の ktは一人当たり資本ストックである.kT+1は T 期末に残した一人当たり資本ストックである.中央計画者が経済の配分を決定する問題なので,ここには市場は存在しない.よって当然ながら,市場価格というものも,ここでは登場しない.中央計画者は,代表的家計の効用を最大にするように,その経済の生産技術に基づいて生産を行い,生産物を配分していくという問題を解いているのである.

(SP)からあらかじめ itを消去しておくと,

(SP)  maxct,kt+1

T∑t=0

βtu(ct)

subject to

kt+1 − kt = f(kt) − ct − δkt t = 0, · · · , T, (遷移式 (transition equation))

k0 = k0

kT+1 ≥ 0.

直接にこの問題を解く方法は,巨大な非線形制約問題として,ラグランジュ乗数法を用いて解く方法である.ラグランジアンは次のように定義される.

L =T∑

t=0

βtu(ct) +T∑

t=0

βtλt

{f(kt) − ct − kt+1 + (1 − δ)kt

}+ λ−1(k0 − k0) + µkT+1. (1)

4

ここで,経済の状態を表す ktを状態変数 (state variable),経済で選択可能な変数 ctを制御変数 (control variable)と呼ぶことがある2.βtλt はラグランジュ乗数であり,共役変数 (costate

variable)と呼ばれる3.それぞれについて一階条件を求めてみると,

∂L∂ct

= βtu′(ct) − βtλt = 0 (for t = 0, 1, 2, · · · , T )

∂L∂kt+1

= −βtλt + βt+1λt+1

{f ′(kt+1) + (1 − δ)

}= 0 (for t = 0, 1, 2, · · · , T − 1)

∂L∂kT+1

= −βT λT + µ = 0

∂L∂λt

= βt{

f(kt) − ct − kt+1 + (1 − δ)kt

}= 0 (for t = 0, 1, 2, · · · , T )

∂L∂λ−1

= k0 − k0 = 0.

と,クーン・タッカー条件kT+1 ≥ 0, µ ≥ 0, µkT+1 = 0.

以上を整理すると,

u′(ct) = λt (for t = 0, 1, 2, · · · , T ) (2)

λt = βλt+1

{f ′(kt+1) + (1 − δ)

}(for t = 0, 1, 2, · · · , T − 1) (3)

βT λT = µ (4)

kt+1 − kt = f(kt) − ct − δkt (for t = 0, 1, 2, · · · , T ) (5)

k0 = k0 (初期条件) (6)

kT+1 ≥ 0, µ ≥ 0, µkT+1 = 0 (クーン・タッカー条件). (7)

(2),(3)より,Euler方程式

u′(ct) = βu′(ct+1){

f ′(kt+1) + (1 − δ)}

(8)

を導くことができる.これはちょうど,二期間のモデルで t=0のときに相当していることがわかる.クーン・タッカー条件 (7)式より,

βT λT kT+1 = 0 (9)

という横断性条件を導出することができる.βT λT > 0であるから,横断性条件より

kT+1 = 0.

であることがわかる.つまり経済が終了するT期末には,資本は残らず使い果たされている.

2どの変数が状態変数や制御変数になるかは,モデルによって異なる.3計算の利便性および λt を定常にする目的から,ラグランジュ乗数に βt をつけて βtλt としている.ラグラン

ジュ乗数を単に λt としても結果は同じものになるが,λt が異なっていることには注意が必要である.

5

I.2 共役変数と投資財価格

いま ktを資本と考えると,遷移式 kt+1 − kt = f(kt)− ct − δktは,投資を表している.λtはこの遷移式のラグランジュ乗数であるから,投資が限界的に 1単位増加したときに,どれだけ効用が増加するかを表す値である.つまり効用で測った投資財の「潜在価格 (shadow price)」と考えることができる (潜在価格 (shadow price)とは,仮に市場が存在して,価格が付けられたとすれば,成立する価格のことである.ここでは消費者が資本ストックを保有し,自分で持っている財で投資を行うため,投資財の市場が無い.そのため,潜在価格として投資財価格があらわされる.).投資財価格のダイナミクスは (3)式より,

λt = βλt+1

{f ′(kt+1) + (1 − δ)

}(for t = 0, 1, 2, · · · , T − 1) (10)

と表されている.投資財の価格は将来によって規定された前向きの変数 (forward-looking variable)

となっている.

横断面条件は次のように書きなおすことができる.

βT λT kT+1 = 0

⇐⇒βT u′(cT )kT+1 = 0 ((2)より.)

この式は,「投資財価格 λT ×残す資本 kT+1の割引現在価値」であり,最後の期末に資本ストック kT+1を残すことの割引現在価値はゼロであることをあらわしている.問題が二期間のときには0期,1期の関係だけであったものが,多期間のときには t期と t+1期の関係として同じ形になっていることを確認したい.(この問題と最大値原理 (maximum principle)

との関係は,補論を参照.)

6

II 無限期間

II.1 無限期間の中央計画者問題

無限期間の問題も基本的には同じである.

(SP)  maxct,kt+1

∞∑t=0

βtu(ct)

s.t. kt+1 − kt = f(kt) − ct − δkt

k0 = k0.

効用関数,生産関数に関する仮定は今までと同じとする.

L =∞∑

t=0

βtu(ct) +∞∑

t=0

βtλt

{f(kt) − ct − kt+1 + (1 − δ)kt

}+ λ−1(k0 − k0) (11)

kt+1,ct,λについて一階条件を求めてみると,

∂L∂ct

= βtu′(ct) − βtλt = 0

∂L∂kt+1

= −βtλt + βt+1λt+1

{f ′(kt+1) + (1 − δ)

}= 0

∂L∂λt

= βt{

f(kt) − ct − kt+1 + (1 − δ)kt

}= 0

∂L∂λ−1

= k0 − k0 = 0.

となり,整理すると,

u′(ct) = βu′(ct+1){

f ′(kt+1) + (1 − δ)}

(12)

kt+1 − kt = f(kt) − ct − δkt (13)

k0 = k0 (14)

と横断性条件は有限期間から,T → ∞とした,

limt→∞

βtu′(ct)kt+1 = 0. (15)

II.2 定常状態 (steady state)

最適なパス (optimal path)は,以下の必要条件

u′(ct) = βu′(ct+1){

f ′(kt+1) + (1 − δ)}

(16)

kt+1 − kt = f(kt) − ct − δkt (17)

k0 = k0

7

と横断面条件を満たす経路である.(16)式は,一人当たり消費 ctの動きを表す差分方程式である.一方 (17)式は,一人当たり資本ストック ktの動きを表す差分方程式である.この二つの式から連立差分方程式という形でシステムが表されている.差分方程式を解くにあたって,まずは定常状態の分析から行ってみよう.定常状態とは,一人当たり資本,一人当たり消費が一定であるようなところである.つまり,定常状態の値を c∗,k∗,λ∗とおくとき,

u′(c∗) = βu′(c∗){

f ′(k∗) + (1 − δ)}

k∗ − k∗ = f(k∗) − c∗ − δk∗

を満たす.少し操作すれば,

1 = β{

f ′(k∗) + (1 − δ)}

(18)

c∗ + δk∗ = f(k∗) (19)

(18)は,消費についての差分方程式において,ct = ct+1 = c∗とおいたものである.つまり消費が一定である所をあらわしている.一方,(19)は資本についての差分方程式において,kt = kt+1 = k∗

とおいたものである.つまり資本が一定である所をあらわしている.両方を同時に満たす定常状態は,これら二本の交点であり,連立方程式の解となる.いま生産関数 f(k)の関数形は,具体的には特定化していないため,以下ではグラフを用いてみることにする4.縦軸に消費 c,横軸に資本ストック kをおくとき,(18),(19)は以下のグラフとして描くことができる.

c

kk∗

ct+1 = ct

kt+1 = ktE

kg

c∗

図 1: Steady state

(18)式は,グラフにおいて垂直な直線で描かれる.この直線上では ct+1 = ct,つまり消費が一定である.(19)式は,グラフにおいて山形の曲線で描かれる.この直線上では kt+1 = kt,つ

4生産関数を例えばコブ=ダグラス型などに特定化した場合には,解析的に解くことができる.後に例として紹介する.

8

まり資本が一定である.よって,cと kともに一定となる線の交点 E点が定常状態となる.

修正された黄金律 (modified golden rule)

定常状態の消費を最大にするという意味での黄金律水準の資本ストック kg は,(19) 式よりf ′(kg) = δ である.これ以上資本が大きくなりすぎれば,定常状態において消費はむしろ小さくなってしまい,動学的に非効率 (dynamic inefficiency)であると言われる.一方この黄金律水準よりも左側であるところは,動学的に効率的 (dynamic efficiency)であるという.この問題では,消費者の異時点間の効用最大化問題を考慮した場合に,定常状態は k∗がであり (18)式より,f ′(k∗) = 1

β− 1 + δを満たす.f ′(·)は減少関数であるため,k∗ < kgであることがわかり,

定常状態において動学的に効率であることがわかる.

II.3 ダイナミクス

(i) 位相図 (phase diagram)

繰り返しだが,最適な経路 (optimal path)は,以下の必要条件

u′(ct) = βu′(ct+1){

f ′(kt+1) + (1 − δ)}

(20)

kt+1 − kt = f(kt) − ct − δkt (21)

k0 = k0

と横断面条件を満たす経路である.以下ではモデルのダイナミクスまたは動学的な経路を考察していくことにする.定常状態を基準として考える.

(ct+1 = ct線)

「ct+1 = ct線」について考察をしてみる.いま資本が k∗のにいるとすると ct+1

ct= 1,つまり

1 = β{

f ′(k) + (1 − δ)}を満たしている.「ct+1 = ct線」の左側は kだけを減らした領域である.

f ′(k)は減少関数であるから,

1 < β{f ′(k) + (1 − δ)

}とわかる,よって,左側の領域では,(20)式より,

u′(ct)

u′(ct+1)= β

{f ′(kt+1) + (1 − δ)

}> 1

⇐⇒u′(ct) > u′(ct+1)

⇐⇒ct+1 > ct

である.最後の不等式は,効用関数の仮定より u′(· · · )が減少関数であることからわかる.以上の考察から,「ct+1 = ct線」の左側では

ct+1 > ct

⇐⇒ct+1

ct

> 1

9

であり,消費は増加する傾向があることがわかる.つまり図 2に矢印で示したように「ct+1 = ct

線」の左側では消費は上昇する方向に増えていく.まったく同じ考察から,「ct+1 = ct線」の右側では,消費は減少する.経済学的な理由は以下の通りである,資本ストックが小さい領域では,生産関数の過程より資本から得られるリターンである f ′(k)+ (1− δ)が大きい.つまりいま消費をすることをやめて投資に回し,将来消費をすることのリターンが大きいということである.よって,消費は ct+1 > ct

という関係を満たすことになる.逆に資本ストックが大きい領域では,生産関数の過程より資本から得られるリターンである f ′(k)+ (1− δ)が小さい.つまりいま消費をすることをやめて投資に回し,将来消費をすることのリターンが小さいということである.よって,消費は ct+1 < ct

という関係を満たすことになる.

c

kk∗

ct+1 = ct

kg

図 2: ct+1 = ct線

(kt+1 = kt線)

「kt+1 = kt線」について考察をしてみる.「kt+1 = kt線」上にいるとすると kt+1 = kt,つまりc + δk = f(k)という関係を満たしている.この曲線の上側はここから kを一定として,cだけを減らした領域である.

c + δk > f(k)

とわかる,よって,上側の領域では,(21)式は,

kt+1 − kt = f(kt) − ct − δkt < 0

⇐⇒kt+1 < kt

であり,資本は減少する傾向があることがわかる.つまり 3図に矢印で示したように「kt+1 = kt

線」の上側では資本は減少する.まったく同じ考察から,「kt+1 = kt線」の下側では,逆に資本は増加する.

10

c

k

kt+1 = kt

kg

図 3: kt+1 = kt線

(ii) 動学的な経路の導出

図 2と図 3を重ねて表示することで,kと cの位相図 (phase diagram)を作成することができる.この図を作成することで,資本と消費がある水準のときに,どういった動学的経路をたどっていくかを,領域によって分析できる.たとえば領域 Iにいるとき,領域 Iにいる場合,資本も消費も時間とともに増えていく.領域 IIの場合には,資本は増え,消費は減っていく.領域 III

では,資本も消費も減っていく.領域 IVでは,消費は増え,資本は減っていく.

c

kk∗

ct+1 = ct

kt+1 = ktE

kg

c∗

IV

III

III

図 4: 位相図I

11

ここで,資本ストックの初期値が k0(以下の図の点線の位置)であったときの,最適な経路を見つけてみよう.最適な経路は繰り返しだが,(20),(21)式と横断面条件を満たす経路である.すなわち,定常状態に到達する経路である5.図 5では,c∗0という消費の初期値からスタートすることで,最適な経路に到達できる.

c

kk∗

ct+1 = ct

kt+1 = ktE

kgk0

cl0

c∗0cu0

O E ′

図 5: 位相図 II

それでは,c∗0以外の経路を選んではいけないのだろうか?例えば,cu0を選んだ場合.領域 Iに

いる間は,消費も資本も増え続けるが,kt+1 = ktの線と交わり,領域 IVに入ってしまったあとは,消費は資本を食いつぶすことで増え続け,資本は減っていく.いずれ資本を食べつくせば,生産も消費もできず,原点に飛んでしまう.つまり資本も所得も消費もゼロになってしまう.終わりがゼロになってしまうことが分かっていると,終わりの限界効用が limc→0 u′(c) = ∞であるため,今消費をしないで投資に回し,将来投資をしたほうが望ましくなる.とすれば,cu

0 という消費水準は高すぎるため,投資に回す分を増やし,消費は抑えられてくる.逆に cl

0を選んだ場合.領域 Iにいる間は,消費も資本も増え続けるが,ct+1 = ctの線と交わり,領域 IIに入ってしまったあとは,消費を減らして,資本を貯え続けていく.最終的に一切消費をせず,資本だけを蓄積し続け,E ′点へと収束してしまう.消費額はゼロに収束するため,最後の限界効用は limc→0 u′(c) = ∞である.一方資本ストックは,E ′の水準で一定である.このとき横断性条件を考えてみよう.E ′は kgよりも明らかに動学的に非効率な領域にある.つまり f ′(k) < δとなっている.このとき,(20)式より,

u′(ct+1)

u′(ct)=

1

β{f ′(kt+1) + (1 − δ)

} >1

β

となっている.つまり u′(ct)が 1βより早く増加することがわかる.よって,横断性条件の左辺

limt→∞

βtu′(ct)kt+1

5定常状態では,すべての変数が一定であるから,横断面条件も満たされている.

12

を考えると,u′(ct)が 1βより早く変化するため,limt→∞ βtu′(ct) = ∞となる.一方 limt→∞ kt =

kE′と有限の値であるため,limt→∞

βtu′(ct)kt+1 = ∞

となり横断性条件を満たさないことになる.よって,cl0という消費の初期値は低すぎるため,消

費を増やすことになる.結果として,合理的な経済主体のもとでは c∗0へと消費額は決まることになる.図 5の cl

0から始

まる経路を,あんてん

鞍点経路 (saddle path)と呼ぶ.これは図を 3次元的に理解し,矢印の進む方向は低いところと考えれば,馬の鞍の形に似ていることからついた名前である.

II.4 ダイナミクスの具体的な分析

生産関数や効用関数を具体的な関数に特定化すれば,連立差分方程式を解くことで解を得ることができる.しかし,一般に非線形の差分方程式は解析的に解くことができない.そのため,ダイナミクスの分析は,先の分析のようにグラフを用いて一般的なことしか言えないことが多い.その場合,通常の二つの方法でダイナミクスを分析する.一つは,コンピューターを用いた数値計算を行うことで,非線形のダイナミクスを求める分析である.ここでは狙い撃ち法について紹介する.もう一つは,定常状態のまわり(近傍)だけで,関数を線形に近似してそのダイナミクスを分析である.ここではまず,線形近似の問題を考えることにする.

(i) 具体例

効用関数と生産関数に具体的な関数形を決めて例を紹介する.最適な経路は,

u′(ct) = βu′(ct+1){

f ′(kt+1) + (1 − δ)}

(22)

kt+1 − kt = f(kt) − ct − δkt (23)

と初期条件と横断面条件を満たす経路である.以下効用関数と生産関数に具体的な関数形を仮定して考察してくことにする.効用関数は,

u(c) =c1−σ

1 − σ

とする6.一方,生産関数は,f(k) = Akα

とする7.よって,均衡条件は次のようになる

c−σt = βc−σ

t+1

{αAkα−1

t+1 + (1 − δ)}

(24)

kt+1 − kt = Akαt − ct − δkt (25)

6このような効用関数を相対的危険回避度一定 (constant relative risk aversion, CRRA)型効用関数という.さらに σ → 1のとき,u(c) = log cとなる性質をもつ.

7コブ=ダグラス型生産関数 Y = AKαL1−α を一人当たりに直すと,y = Akα とかくことができる.

13

II.5 数値計算による解法:狙い撃ち法 (shooting algorithm)

コンピューターを用いた数値計算を行うことで,非線形ダイナミクスを求める分析方法は多数あるが,ここでは最も簡単な狙い撃ち法を紹介する.この方法は,通常モデルに不確実性が無い問題について解を得るために用いられる.最適なパスは,初期値 k0から初めて,(24)式と,(25)式を満たし,定常状態に到達するような経路である.このような経路は,位相図で分析したとおり,最適な c0を選ぶことで達成される.そこで,いろいろな初期値 c0を試して,差分方程式をシミュレーションし,定常状態に到達するような調度良い c0を見つける.これを狙い撃ち法 (shooting algorithm)という8.準備として定常状態を求めておく.(24)式と (25)式からなるシステムの定常状態を求める.

1 = β{

αAk∗α−1 + (1 − δ)}

(26)

c∗ + δk∗ = Ak∗α (27)

より,

k∗ =

{1β− (1 − δ)

αA

} 1α−1

(28)

c∗ = Ak∗α − δk∗ (29)

と計算できる.

(i) アルゴリズム

位相図による最適パスからわかるように,c0よりも少しでも大きい消費の初期値を選んでしまうと,発散してしまう.逆に,c0よりも少しでも小さい消費の初期値を選んでしまうと,E ′

へと飛んで行ってしまう.先に分析したように,これらは両方ともに,経済学的に最適な経路から排除される.ちょうど定常状態に向かう鞍点経路に乗る c0を見つけるために,次のような操作を行う.

8狙い撃ち法は,最近では日本経済の失われた10年を考察したHayashi and Prescott (2002),Kobayashi andInaba (2006)などで使われている.

14

狙い撃ち法 (shooting algorithm)

1. 定常状態を求める.

2. 消費の初期値の候補の下限 clと上限 cuを決める.

3. c0 = cl+cu

2にする.

4. 所与の初期値 k0と,今選んだ c0に基づいて,(24),(25)式を t = 1, 2, 3, · · · ,逐次に解いていく.

5. 十分に大きいの tを計算したとき

(a) もし kt > k∗なら,cl = c0と置き換えて,step 3に戻る.

(b) もし kt < k∗なら,cu = c0と置き換えて,step 3に戻る.

(c) もし k∗ − kt < ϵなら,次に進む.

6. 得られた c0を最適な初期値として,ct, ktを最適経路とする.

(ii) Matlab Code

shootingのためのMatlabコードを以下に示す.Matlabの使い方については,上坂 (2000)が一番分かりやすい.頭に%がついている文は,コメントであり,計算には影響しないプログラムのメモとして書いている.

% determinisitic model

% shooting algorithm for simple optimal growth model

% u(c)=c^(1-sigma)/(1-sigma)

% y=Ak^alpha

% 2008/11/22

% Masaru Inaba at YNU

% 以下の 6行は,Matlabを正常に機能させるのに必要なだけで,% shootingと関係ない.clear all;

close all;

set(0,’defaultAxesFontSize’,12);

set(0,’defaultAxesFontName’,’century’);

set(0,’defaultTextFontSize’,12);

set(0,’defaultTextFontName’,’century’);

%================

% parameters

15

%================

alpha=0.3; % capital share

beta=0.98; % discount factor

delta=0.08; % depreciation rate

sigma=2; % relative risk aversion

T=100; % maximum time for simulation

A=1*ones(T,1); % productivity (which is constant for all t)

%====================

% steady state values

%====================

A_ss=1; %productivity in ss

% ss capital, equation (28)

k_ss=((1/beta-(1-delta))/(alpha*A_ss))^(1/(alpha-1));

% ss consumption, equation(29)

c_ss=A_ss*k_ss^alpha-delta*k_ss;

%=====================

% initialization

%=====================

k_0=0.1; % initial value of capital

% lower bound of initial value of consumption

c_under=0.000000001;

% upper bound of initial value of consumption

c_upper=A_ss*k_0^alpha-delta*k_0;

% initialize path vector of capital as zero vector

k=zeros(T,1);

% initialize path vector of consumption as zero vector

c=zeros(T,1);

%======================

% shooting algorithm

%======================

while (abs(k(T)-k_ss)>1e-8)&(abs(c(T)-c_ss)>1e-8); % start while iteration

% initialize path vector of capital as zero vector

k=zeros(T,1);

% initialize path vector of consumption as zero vector

c=zeros(T,1);

c0temp=(c_upper+c_under)/2; % initialization of c_0

%-----------

16

% at t=1

%-----------

t=1; % note that Matlab can not apply the number of index 0

k(t)=k_0;

c(t)=c0temp;

% equation (25)

k(t+1)=A(t)*k(t)^alpha-c(t)-delta*k(t)+k(t);

% equation (24)

c(t+1)=(c(t)^(-sigma)...

/(beta*(alpha*A(t+1)*k(t+1)^(alpha-1)+(1-delta))))^(-1/sigma);

%---------------

% for t=2 to T-1

%---------------

for t=2:T-1;

% equation (25)

k(t+1)=A(t)*k(t)^alpha-c(t)-delta*k(t)+k(t);

% flag 1 means k(t) is too big

if k(t+1)>2*k_ss; flag=1; break; end;

% flag 2 means k(t) is too small

if k(t+1)<0; flag=2; break; end;

% equation (24)

c(t+1)=(c(t)^(-sigma)...

/(beta*(alpha*A(t+1)*k(t+1)^(alpha-1)+(1-delta))))^(-1/sigma);

end

%---------------

% diagnosis

%---------------

if t==T-1;

if k(T)>k_ss;

flag=1 % flag 1 means k(T) is too big

else

flag=2 % flag 2 means k(T) is too small

end

end

if flag==1;

c_under=c0temp

elseif flag==2;

c_upper=c0temp

end

clear flag

end % end of while iteration loop

17

disp(’We found!’); % the end of shooting algorithm.

%=============================

% code for the graph plottings

%=============================

% data for equation (27);

k_Eprime=(delta/A_ss)^(1/(alpha-1)); % position of E’

% data for plotting equation (27)

k_27=linspace(0,k_Eprime,1000); % vector of k in (27)

c_27=A_ss.*k_27.^alpha-delta.*k_27; % vector of c in (27)

% data for plotting equation (26)

c_26=linspace(0,2*c_ss,100);

k_26=k_ss*ones(100,1);

% data for initial value plotting

k_initial=k_0*ones(100);

c_kinitial=linspace(0,(A_ss*k_0^alpha-delta*k_0),100);

% data for optimal initial consumption

coptini=c(1,1)*ones(100);

koptini=linspace(0,k_0,100);

figure(1);

% plot equation(27)

plot(k_27,c_27);axis([0,1.05*k_Eprime,0,1.3*c_ss]);hold on;

% plot equation(26)

plot(k_26,c_26);

plot(k,c,’m’,’LineWidth’,2);% plot for optimal path

plot(k_initial,c_kinitial,’:’); % plot for k_0

plot(koptini,coptini,’:’); % plot for optimal c_0

text(k_0,-0.15,’k_{0}’);

text(-0.8,c(1,1),’c_0’);

text(k_ss,-0.15,’k_{ss}’);

text(k_ss,1.03*c_ss,’E’);

text(k_Eprime,-0.15,’E^\prime’);

hold off;

figure(2);

% plot equation(27)

plot(k_27,c_27);axis([0,1.3*k_ss,0,1.3*c_ss]);hold on;

18

% plot equation(26)

plot(k_26,c_26);

plot(k,c,’m’,’LineWidth’,2);% plot for optimal path

plot(k_initial,c_kinitial,’:’); % plot for k_0

plot(koptini,coptini,’:’); % plot for optimal c_0

text(k_0,-0.15,’k_{0}’);

text(-0.2,c(1,1),’c_0’);

text(k_ss,-0.15,’k_{ss}’);

text(k_ss,1.03*c_ss,’E’);

text(k_Eprime,-0.15,’E^\prime’);

hold off;

===========================================================

Matlabコードはここまで.以下に,このコードで作成したグラフを表示すると,

0 5 10 15 20 25 30 350

0.5

1

1.5

k0

c0

kss

E

E′

図 6: Phase diagram for shooting 1

左側を拡大すると,

19

0 1 2 3 4 5 60

0.5

1

1.5

k0

c0

kss

E

図 7: Phase diagram for shooting 2

II.6 線形近似

(i) 数学の準備

非線形な関数を線形(1次関数)に近似することを線形近似という.線形近似はテイラー展開の特殊なケースといえる.テイラー展開とは,微分可能な関数 f(x)を,ある点 aのまわりで次のように展開できることをいう9.

f(x) = f(a) + f ′(a)(x − a) +1

2!f ′′(a)(x − a)2 +

1

3!f ′′′(x − a)2 + · · ·

⇐⇒ =∞∑

n=0

1

n!fn(a)(x − a)n

この式では,1次だけでなくそれ以上に無限先まで展開している.これを1次まで近似したものが,

f(x) ≈ f(a) + f ′(a)(x − a) (30)

テイラー展開による一次近似(線形近似)である.この近似は,次のグラフを見ると分かりやすい.関数 f(x)を x = aというまわりで線形に表現したものである.2変数の関数の場合には,

f(x, y) = f(a, b) + fx(a, b)(x − a) + fy(a, b)(y − b)

+1

2!

{fxx(a, b)(x − a)2 + 2fxy(x − a)(y − b) + fyy(a, b)(y − b)2

}+ · · ·

9より詳しい議論はチャン (1996)を参照

20

a

f(x)

x

f(x)

f(a) + f ′(a)(x − a)

図 8: 線形近似のイメージ

ただし,fx = ∂f(x,y)∂xこれも1次までの線形近似では,

f(x, y) ≈ f(a, b) + fx(a, b)(x − a) + fy(a, b)(y − b) (31)

と書くことができる.また,経済学ではしばしば対数線形近似 (log-linearization)が行われる.これは,ある変数 x

を次のように変換して,ln xについて ln aのまわりで線形近似を行うものである10.

x = eln x

とする11と,f(x) = f(eln x

)である.これを ln xについて線形近似をすると,(30)式より,

f(x) ≈ f(eln a

)+

∂f(eln x

)∂ ln x

(ln x − ln a)

⇐⇒f(x) ≈ f(a) + af ′(a)(ln x − ln a)

2行目の第2項の微分については脚注を参照12.これを対数線形近似と呼ぶ.この式にはある10lnは自然対数であり ln x = loge x.11eはネイピア数である.dex

dx = ex という特徴を持っている.122行目の第2項の微分については,

x = eln x

に注意して,f(x) = f(eln x

)を ln xで微分すれば良い.

∂f(eln x

)∂ lnx

=∂f(x)

∂x

∂eln x

∂ lnx= f ′(x)x

21

特徴がある.実は対数の差分は,変化率の近似になっている.つまり

ln(x) − ln(a) = ln(x

a

)= ln

(x − a

a+ 1

)≈ x − a

a(32)

x−aaは,xが aから何パーセント離れているかを表しているため,aからのパーセントかい離

(persentage deviation)と呼ばれる.aを,モデルの定常状態だと解釈すれば,定常状態から何パーセント離れているかでモデルを記述することができる.以下では,線形近似を用いるが,後に対数線形近似も利用することがあるので,きちんと理解しておくこと.

(ii) 線形近似の例

以下の記述は,Dirk Krugerの講義ノートを一部参照している.(24)式と (25)式からなるシステムを定常状態のまわりで線形近似することで,定常状態のまわりでの振る舞いを見ることができる.定常状態のまわりで近似をするため,横断面条件は満たされていることが仮定されていると考えて良い.まず定常状態は,(26)式と (27)式より,

k∗ =

{1β− (1 − δ)

αA

} 1α−1

c∗ = Ak∗α − δk∗

と計算できる.

まずは,(25)式を線形近似してみよう.各項線形近似すると,

kt+1 ≈ k∗ + 1 × (kt+1 − k∗)

kt ≈ k∗ + 1 × (kt − k∗)

Akαt ≈ Ak∗α + αAk∗α−1(kt − k∗)

ct ≈ c∗ + 1 × (ct − c∗)

δkt ≈ δk∗ + δ × (kt − k∗)

よって,(25)式は

kt+1 − kt = Akαt − ct − δkt

⇐⇒(k∗ + kt+1 − k∗) − (k∗ + kt − k∗) = Ak∗α + αAk∗α−1(kt − k∗)

− (c∗ + ct − c∗) − {δk∗ + δ(kt − k∗)}⇐⇒(kt+1 − k∗) − (kt − k∗) = αAk∗α−1(kt − k∗) − (ct − c∗) − δ(kt − k∗) ((27)式を利用)

22

ここで xt ≡ xt − x∗と定義すると13,

kt+1 − kt = αAk∗α−1kt − ct − δkt

⇐⇒kt+1 =(αAk∗α−1 + 1 − δ)kt − ct

⇐⇒kt+1 =1

βkt − ct ((26)式を利用)

⇐⇒kt+1 = θ1kt − ct (33)

ここで,θ1 = 1β

> 0と置いている.一方,(24)を線形近似する.各項ごとに線形近似すると,第一項目は,

c−σt ≈ c∗−σ − σc∗−σ−1(ct − c∗)

第二項目は,

βc−σt+1

{αAkα−1

t+1 + (1 − δ)}≈ βc∗−σ

{αAk∗α−1 + (1 − δ)

}− σβc∗−σ−1

{αAk∗α−1 + (1 − δ)

}(ct+1 − c∗)

+ βc∗−σ{

α(α − 1)Ak∗α−2}

(kt+1 − k∗)

よって,(24)式は,定常状態の式も利用して,

−σc∗−σ−1(ct − c∗) = −σc∗−σ−1(ct+1 − c∗) + βc∗−σ{

α(α − 1)Ak∗α−2}

(kt+1 − k∗)

と書くことができる.xt ≡ xt − x∗と定義すると,

− σc∗−1ct = −σc∗−1ct+1 + β{

α(α − 1)Ak∗α−2}

kt+1

⇔ ct = ct+1 + θ2kt+1

⇔ ct+1 − ct = −θ2kt+1 (34)

それぞれの係数を θ2 =β

{α(α−1)Ak∗α−2

}−σc∗−1 > 0で置き換えている.

線形近似した式 (33),(34)をまとめると,

kt+1 = θ1kt − ct

ct+1 − ct = −θ2kt+1

これらの式から ctを消去して,

kt+2 − (1 + θ1 + θ2)kt+1 + θ1kt = 0

⇔ kt+2 − θ3kt+1 + θ1kt = 0

という二階の差分方程式が得られる.ここで θ3 = 1 + θ1 + θ2と置く.この差分方程式の特性方程式を分析することで,ダイナミクスの特性を分析できる.この二階差分方程式の特性方程式

13xは定常状態からのかい離(定常状態からどれだけ離れているか)を表している.

23

は次のような二次式で表される µ2 − θ3µ + θ1 = 0の解は,µ1,2 =θ3±

√θ23−4θ1

2である.解のひと

つは µ1 > 1,もう一つ µ2 < 1は負である14.この事実は,システムが「鞍点」を持っていることを示している.この差分方程式の解の候補は,

kt − k∗ = b1µt1 + b2µ

t2

である.第一項は µ1 > 1であるため,発散していってしまう.一方,第二項は µ2 < 1であるため 0へと収束していく.定常状態に収束していく経路が求めたい解であるから,選ぶべき解は,定常状態 kt = k∗へと収束してく第二項のみということになる.よって b1 = 0.

==

14ここでいくつかの得られる情報を用いて,解の値を分析する.まず,

θ3 > θ1 + 1

であるため,判別式θ23 − 4θ1 > (θ1 + 1)2 − 4θ1 = θ2

1 − 2θ1 + 1 = (θ1 − 1)2 > 0

である.判別式が正であるということは,二次式の解は二つとも実数であることがわかる.さらに

µ1 × µ2 =θ23

4± θ2

3 − 4θ1

4= θ1 =

> 0

である.θ3 > 0であるため,µ1 = θ3+√

θ23−4θ1

2 > 0である.よって µ2 > 0であり,二つの解は正の実数であることがわかる.さらに大きい方の解は,

µ1 =θ3 +

√θ23 − 4θ1

2>

θ3 +√

(θ1 + 1)2 − 4θ1

2=

θ3 + θ1 − 12

>2θ1

2= θ1 =

⇒µ1 >1β

µ1 × µ2 = 1β より,

µ2 < 1

よって,解のひとつは µ1 > 1,もう一つ µ2 < 1は負である

24

c

kk∗

ct+1 = ct

kt+1 = ktE

kg

c∗

図 9: Linearized dynamics

III 競争均衡これまでの問題は,中央計画問題であった.以下では,家計と企業がそれぞれに効用および利潤の最大化を行っている競争的な経済での市場均衡を分析していくことにする.以下の記述は,二期間のモデルと全く同じといってよい.当然,厚生経済学の基本定理も成立する.

III.1 経済環境

• 経済の期間は無限期間であるとする.

• 家計(消費者 consumer)は代表的家計 (one representative household)として表されるとする.

• 家計は,資本と労働を所有している.家計は企業を所有しており,企業の利潤は配当として家計に支払われる.(ただし競争的企業を仮定しているため配当はゼロである.以下では配当を明記しない.)

• 家計は,各期得られる所得を,消費と貯蓄に振り分ける.貯蓄を原資として,投資を行い,資本ストックを増やす.

• 代表的な企業は,資本と労働を生産要素として,家計から雇い生産を行う.家計も企業も競争的に行動すると仮定する.つまり,両者とも,価格決定に影響力を持たず,市場の価格を所与としてプライス・テイカーとして行動する.

• この経済の財 (goods)は,消費ができ,また投資として資本蓄積にも使えるとする.

25

(i) 家計の効用

家計は現在から将来効用の現在価値を最大にするように各期の消費を決定する.家計の効用関数は,次のようにあらわされる.

∞∑t=0

βtu(ct). (35)

u(·)は効用関数であり,

u(0) = 0, u′(·) > 0, u′′(·) < 0, u′(0) = ∞, u′(∞) = 0

という性質をもつと仮定する.

(ii) 生産技術

企業の生産技術は,以前と同様である.ここでは代表的家計は,一人であり,労働供給も1であることから,一人当たりの生産関数を

yt = f(kt) (36)

と書くことにする.この関数 f(kt)の形は,次のようになる.

MPK = f ′(k) > 0

f ′′(k) < 0

limk→0

f ′(k) = ∞

limk→∞

f ′(k) = 0

III.2 家計と企業の行動

(i) 家計の効用最大化問題 (Consumer Problem (CP))

代表的家計は,予算の制約のもとで,効用を最大にするように消費と投資を決定する.

(CP) maxct,it,at+1

∞∑t=0

βtu(ct).

s.t. ct + it = wt + rtat (37)

at+1 − at = it − δat (38)

a0 = a0

(37)式は,t期における家計の予算制約である.aは家計が保有している資本ストックであり,初期の保有量 a0は与えられている.wは実質賃金 (real wage)である.この家計の労働力は 1単位と仮定しているため,労働所得はw ∗ 1となる.資本の rは実質レンタル料 (real rental price)

である.家計が持る資本を企業にレンタルするときの価格である15.15家計はプライス・テイカーであるため,wと rは家計にとって所与である.

26

この問題は,iを消去してみると,先に学んだ中央計画者問題の kを aに置き換えたものと同じものであるから,ラグランジアンを定義して,直接の方法で解けば良い.効用最大化のための一階条件は,at+1,ct,λtについて一階条件を求めてみると,

u′(ct) = βu′(ct+1){

rt+1 + 1 − δ}(オイラー方程式)

at+1 − at = wt + rtat − ct − δat(予算制約式)

a0 = a0(初期条件).

が得られる.また横断性条件は有限期間から,T → ∞とした,

limt→∞

βtu′(ct)at+1 = 0. (39)

ここで,各期の予算制約を書いてみると

a1 = w0 + (r0 + 1 − δ)a0 − c0 (t = 0) (40)

a2 = w1 + (r1 + 1 − δ)a1 − c1 (t = 1) (41)

a3 = w1 + (r1 + 1 − δ)a2 − c2 (t = 1) (42)

...

at+1 = wt + (rt + 1 − δ)at − ct (for all t) (43)

ここで,(40)と (40)から a1を消去すると,

c0

1 + r0 − δ+

c1

(1 + r0 − δ)(1 + r1 − δ)+

a2

(1 + r0 − δ)(1 + r1 − δ)=

w0

1 + r0 − δ+

w1

(1 + r0 − δ)(1 + r1 − δ)+ a0

が得られる.さらに,(42)を用いて,a2を消去すれば,

c0

1 + r0 − δ+

c1

(1 + r0 − δ)(1 + r1 − δ)

+c2

(1 + r0 − δ)(1 + r1 − δ)(1 + r2 − δ)+

a3

(1 + r0 − δ)(1 + r1 − δ)(1 + r2 − δ)

=w0

1 + r0 − δ+

w1

(1 + r0 − δ)(1 + r1 − δ)+

w2

(1 + r0 − δ)(1 + r1 − δ)(1 + r2 − δ)+ a0

が得られる.この作業を一般の t期について (43)式を用いて繰り返すと,

∞∑t=0

ct∏tj=0(1 + rt − δ)

+ limt→∞

at+1∏tj=0(1 + rt − δ)

= a0 +∞∑

t=0

wt∏tj=0(1 + rt − δ)∏t

j=1 xj = x1 × x2 × · · · × xtを表す.ここで,左辺第二項の limt→∞

at+1∏tj=0(1+rt−δ)

について考察をする.もしこの項が正であれば,将

来無限先の資産 atの割引現在価値が正であり,消費者はもっと消費をして効用を高めることができる.つまり最適ではない.そのため,左辺第二項が正になることはない.これが横断面条

27

件であり,すでに考察してきた問題である.逆に左辺第二項が負であるようなケースを考えてみよう.この場合,消費者が借金を残して逃げることができ,生涯の所得以上に消費をすることができる.当然この場合,貸し手はお金を貸すわけはなく,このような消費計画は実現できない.これを非ポンジ・ゲーム条件 (no Ponzi

game condition)と呼ぶ16.以上から,横断性条件および非ポンジ・ゲーム条件を同時に満たすためには,左辺第二項は

limt→∞

at+1∏tj=0(1 + rt − δ)

= 0 (44)

ここでオイラー方程式より,

u′(ct) = βu′(ct+1){

rt+1 + 1 − δ}

⇐⇒ 1

1 + rt+1 − δ= β

u′(ct+1)

u′(ct)

を用いると,(45)式は,

limt→∞

βtu′(ct)at+1

u′(c0)(1 + r0 − δ)= 0 (45)

u′(c0)(1 + r0 − δ) = 1と基準化しておけば,先の横断性条件と同じものが得られる.以上から,異時点間の予算制約 (intertemporal budget constraint)は

∞∑t=0

ct∏tj=0(1 + rt − δ)

= a0 +∞∑

t=0

wt∏tj=0(1 + rt − δ)

(46)

と書くことができる.右辺は,「初期に持っている資産」+「生涯所得の割引現在価値」.左辺は,「生涯に行う消費の割引現在価値」である.

III.3 企業の利潤最大化問題 (Firm Problem (FP))

企業は各期利潤を最大にするように,雇うべき資本と労働を決める.企業の利潤は,

maxKt,Lt

Ft(Kt, Lt) − rtKt − wtLt (47)

と表せる.Ltで割り,一人当たりの利潤であらわせば,労働力は均衡では1であるので,資本の投入だけを決めれば良いことになる.

maxkt

f(kt) − rtkt − wt (48)

ktは企業が需要する資本量である.利潤最大化の一階条件は,

f ′(kt) = rt (49)

実質賃金wtは,資本への支払いの残りが支払われる17.

wt = f(kt) − rtkt (50)

16この問題では,あらかじめ a ≥ 0を仮定していたので,始めから非ポンジ・ゲーム条件を仮定していたことになる.しかしいま考察したような経済学的な理由から,非ポンジ・ゲーム条件を考慮してもまったく同じである.

17生産関数は規模に関して収穫一定であるため,オイラーの定理が成立する.そのため企業の超過利潤はゼロである.

28

III.4 競争均衡 (Competitive Equilibrium)

競争均衡は,次のように定義できる.

• 家計,企業といったプライス・テイカーである競争的な経済主体が,市場価格を所与としてそれぞれが最適に行動している(主体的均衡が達成されている).

• 市場の需要と供給が一致している(market clearing condition).

• 資源制約が満たされている.

よって,ここでは競争均衡は次のように定義できる.

競争均衡 この経済の競争均衡は,以下を満たすような配分 (allocation){ct, it, at+1, kt+1, yt}および価格 (prices){wt, rt}である.

1. 家計は,市場価格{wt, rt}を所与として,効用を最大にするように,ct, it, at+1を決めている.

2. 企業は,市場価格{wt, rt}を所与として,利潤を最大にするように,投入である資本 atを決めている.

3. 市場清算 (market clearing):労働市場,資本市場の需給は一致している.

• 労働市場: 家計の労働供給  1 = 企業の労働需要  1

• 資本市場: 家計の資本供給  at = 企業の資本需要  kt

4. 資源制約:各期の財市場の需給は一致している.

ct + it = yt

29

問題を再掲しながら整理すると,

1. 家計は,市場価格{wt, rt}を所与として,次の効用最大化問題を解いている.

(CP) maxct,it,at+1

∞∑t=0

βtu(ct)

s.t ct + it = wt + rtat

at+1 − at = it − δat

a0 = a0

2. 企業は,市場価格{wt, rt}を所与として,利潤最大化問題を解いている.

(FP) maxkt

f(kt) − rtkt − wt

3. 市場が均衡している.

• at = kt

• ct + it = yt

F.O.C.sと均衡条件をまとめると,

u′(ct) = βu′(ct+1)(1 + rt+1 − δ) (51)

f ′(kt) = rt (52)

wt = f(kt) − rtkt (53)

yt = f(kt) (54)

ct + it = yt (55)

it = kt+1 − (1 − δ)kt (56)

k0 = k0. (57)

s式の本数は 7本,変数の数は(ct, rt, wt, kt, yt, it, k0)で7個であり,このシステムを解くことができる.

30

IV 補論1:最大値原理最大値原理は講義ではカバーしない.しかし,連続時間のモデルなどを取り扱うケースに備えて,知っておく方が良い.ラグランジアンを以下のように定義する18.

L =T∑

t=0

u(ct) +T∑

t=0

βtλt

{f(kt) − ct − kt+1 + (1 − δ)kt

}+ λ−1(k0 − k0) + µ(kT+1).

ラグランジアンにおいて,次のようにハミルトニアン (Hamiltonian)を定義する.以下は割引価値ハミルトニアン (current value Hamiltonian)という定義である.

H(ct, kt, λt) = u(ct) + λt

{f(kt) − ct − δkt

}(58)

この定義を置くと,ラグランジアンは次のように書きなおすことができる.

L =T∑

t=0

βtH(ct, kt, λt) +T∑

t=0

(βtλt − βt−1λt−1

)kt + λ0k0 − βT λT kT+1 + µ(kT+1).

したがって,最適化の必要条件は,次のように書くことができる.

∂L∂ct

= βtHct = 0 (for t = 0, 1, 2, · · · , T )

∂L∂kt+1

= βtHkt+1 + (βt+1λt+1 − βtλt) = 0 (for t = 0, 1, 2, · · · , T − 1)

∂L∂kT+1

= βT λT − µ = 0

∂L∂λt

= βtHλt + βtkt − βtkt+1 = 0 (for t = 0, 1, 2, · · · , T )

k0 = k0

kT+1 ≥ 0, µ ≥ 0, and µkT+1 = 0.

以上の結果をまとめると,最大値原理の必要条件は,

Hct = 0 (for t = 0, 1, 2, · · · , T − 1) (ハミルトニアンの最大化) (59)

βλt+1 − λt = −Hkt+1 (for t = 0, 1, 2, · · · , T − 2) (60)

βT λT = µ (61)

kt+1 − kt = Hλt (for t = 0, 1, 2, · · · , T ) (62)

k0 = k0 (初期条件) (63)

kT+1 ≥ 0, µ ≥ 0, and µkT+1 = 0 (クーン・タッカー条件) (64)

18以下の記述は西村 (1990) を参考にしている.細かな変数の取扱が異なるが本質は同じである.

31

と書くことができる.計算して整理すると,

u′(ct) = λt (for t = 0, 1, 2, · · · , T ) (65)

λt = βλt+1

{f ′(kt+1) + (1 − δ)

}(for t = 0, 1, 2, · · · , T − 1) (66)

βT λT = µ (67)

kt+1 − kt = f(kt) − ct − δkt (for t = 0, 1, 2, · · · , T ) (68)

k0 = k0 (69)

kT+1 ≥ 0, µ ≥ 0, and µkT+1 = 0. (70)

IV.1 最大値原理の十分性

次の条件を満たすとき,最大値原理の必要条件は必要十分条件となる.詳しくは時間の都合上省略する.西村 (1990),または連続時間での説明であるが,Chiang (1992)を参照.

1. u(·)が,ctについて連続微分可能で凹関数.

2. f(kt) − ct − δktが,ct,ktについて連続微分可能で凹関数.

IV.2 連続時間の最大値原理

時間の都合上省略.基本的には離散時間の問題について単位時間を δtとしたとき,その極限∆t → 0を用いることで導出できる.詳しくは西村 (1990)およびChiang (1992),またはBarro

and Sala-i-Martin (2003)を参照すること.

参考文献[1] Barro, Robert, and Xavier Sala-i-Martin, (2003) “Economic Growth”, 2nd edition, MIT

Press.

[2] Chiang, Alpha, C., (1992) “Elements of Dynamic Optimization”, McGraw-Hill Interna-

tional Editions.

[3] チャン, A., C., (1995),「現代経済学の数学基礎〈上〉〈下〉」,CAP出版

[4] Hayashi, Fumio and Edward C. Prescott, (2002) “The 1990s in Japan: A Lost Decade,”

Review of Economic Dynamics, 5, 206–235.

[5] Kobayashi, Keiichiro and Masaru Inaba (2006) “Business cycle accounting for the Japanese

economy.” Japan and the World Economy, 18(4), 418–440.

[6] Ljungqvist, Lars and Thomas Sargent, (2004), “Recursive Macroeconomic Theory,” 2nd

edition, MIT Press.

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[7] 西村清彦,(1990),「経済学のための最適化理論入門」,東京大学出版会.

[8] Romer, David, (2005) “Advanced Macroeconomics”, 3rd edition, McGraw-Hill.

[9] 齊藤誠,(2006),「新しいマクロ経済学―クラシカルとケインジアンの邂逅」,有斐閣,新版.

[10] 上坂吉則 (2000),「MATLABプログラミング入門」,牧野書店.

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