ポリウレタンディスパージョンの高耐久化と応用『bwd−102』...
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77
●ポリウレタンディスパージョンの高耐久化と応用
ウレタン研究所 コーティンググループ 高橋 優千葉 充城野 孝喜
1.はじめに
コーティング材料、接着剤、シーリングなどの用途
分野では環境負荷低減に対する関心が一段と高まって
おり、その背景には、中国における VOC 削減へ向け
ての強化、自動車や建材(特に内装材)に関する自主
規制の気運の高まりが挙げられる。
その中、ウレタン樹脂を水媒体に分散させたポリウ
レタンディスパージョン(以下、PUD)は、環境調和
型材料として注目されており、様々な企業、機関で研
究開発されており 1)− 4)、市場投入されている。その一
方で、従来の PUD は性能面では耐久性に劣ることか
ら未だに溶剤系が主流になっているのが現状である。
当社はポリウレタンの原料であるイソシアネートや
ポリオール等の原料を保有する強みを生かし、新た
な観点から PUD の開発を行ってきた。特にポリオー
ルの一種であるポリカーボネートジオール(以下、
PCD)はポリエステルやポリエーテル骨格よりも耐水
性、耐熱性など優れた特性を有しており、PUD に使
用することで貯蔵安定性や被覆材料の耐水性などの性
能に優れた製品の創出が期待される。本稿では、高耐
久 PUD の開発製品について紹介する。
2.PUD の高耐久化へのアプローチ
[1]PCD 骨格の安定性
コーティング材料(特に自動車塗料)では高耐久性
が要求されるため、PUD を設計するに当たり、主骨
格であるポリオールの影響について検討した。図 1 に
示す貯蔵安定性試験の結果から、PCD を用いた PUD
は加水分解による分子量低下抑制に効果があることを
確認した。特に高温環境下では、ポリカーボネート系
PUD と同等の樹脂強度を有する標準的なポリエステ
ル系 PUD と比較し優れていた。
[2]ポリウレタン樹脂の高分子化と高架橋化
一般的に溶剤系樹脂は予め高分子・高架橋したポリ
マーを溶媒に溶かすため高粘度・ゲル化する課題があ
る。一方、PUD はプレポリマー或いはオリゴマーを
水分散するため低粘度であり、塗膜にした後に縮重合
し高分子化するため高架橋化が容易である(図2)。
この PUD の特長を生かし、ハードセグメントの高架
橋化制御を行うことで(図3)、塗膜としての耐水性
は溶剤系以上の性能を持たせ、更に弾性挙動の制御を
行った。
100
80
60
40
20
0
脂肪族エステルタイプ
芳香族エステルタイプ
カーボネートタイプ数平均分子量の保持率(%)
25℃保管条件
0 1 2 3
経過時間(月)
4 5 6
100
80
60
40
20
0
数平均分子量の保持率(%)
40℃保管条件
0 1 2 3
経過時間(月)
4 5 6
図1 PUD骨格変更での加水分解性の違い
78 TOSOH Research & Technology Review Vol.59(2015)
3. PUD 開発製品
[1]高架橋型 PUD『AQD − 473』
(1)代表性状と粘弾性挙動
表1に高架橋型 PUD の開発製品である『AQD −
473』の代表性状を示す。また、図4に高架橋型 PUD
を用い作製したフィルムの動的粘弾性測定結果を示
す。基本原料組成を同一にし、三次元架橋度を変化さ
せた場合の損失正接の挙動を観察した。結果、標準と
比較し、架橋度を増加させることでハードセグメント
に起因したピークと PCD 由来のソフトセグメントに
起因したピークが明確になっていることを確認した。
更に各ピークに挟まれるゴム弾性温度領域が広がるこ
とも確認できた。
(2)塗膜性能
『AQD − 473』は、カーボネート骨格で且つ高架橋設
計であることから、塗料として求められる耐水性、耐
溶剤系 高架橋型 PUD
高粘度化・ゲル化 低粘度[Nv=35%]
粒径 60~200nm
粘度 20~200mPa・s@25℃
図2 溶剤系と PUDの架橋の影響
ポリウレタンディスパージョン
ハードセグメント
ソフトセグメント
30~150nm
図3 高架橋 PUDのイメージ
極性タイプ
外観
粘度(mPa・s at 25℃)
不揮発分(%)
pH
平均粒径(nm)[参考値]
OH価(KOHmg/ g-solid)
アニオン
乳白色~淡黄色水分散液
20~150
34~36
7.4~8.4
40~120
<5
基本骨格カーボネート系
水系ポリウレタン樹脂
表1 高架橋型 PUD『AQD-473』の代表性状
ハードセグメント由来0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0
損失正接(tanδ)
-200 -100 0 100 200 300
計測温度(℃)
架橋導入(高)架橋導入(低)標準
ソフトセグメント由来
測定装置:RHEOVIBRON DDVⅡ-FP周波数 35Hz,昇温速度:2℃/min
図4 PUDフィルムの架橋導入量と粘度性挙動
79東ソー研究・技術報告 第 59 巻(2015)
熱性に優れる利点を有する。図5に、調製した PUD
を用いてクリア塗料を調製し、鋼板にスプレーにて塗
工後、120℃で 30 分間乾燥した後、その試験板を各温
度の温水に 24 時間浸漬させた場合の塗膜外観を示す。
試験板を蛍光灯で照らした場合、光沢を維持し表面状
態が良好な状態を“判定 1”とした。また、光沢は維
持しているが、水膨れ状の細かい塗膜の浮き(ブリス
ター)が発生している状態を“判定 2”とした。更に、
光沢が低下し塗膜全体が劣化した状態を“判定 3”と
した。
表2に『AQD − 473』の評価結果を示す。比較として、
PUD の骨格変更(ポリカーボネート系→ポリエーテ
ル系,ポリエステル系)したサンプル(低架橋型)を
評価した。評価の結果、ポリエステル系は低温でも樹
脂の加水分解に起因した光沢低下の発生、ポリエーテ
ル系は耐熱性に起因するブリスターが 80℃程度から
発生することを確認した。一方、ポリカーボネート系
は光沢性に優れ、更に高架橋化することで沸騰水でも
耐え得る性能を保持していることを確認した。
表3には耐ブロッキング性の評価結果を示す。試験
方法としては、上記の耐水性評価で用いたものと同様
の試験板に 500g の加重で、各温度に加熱した後、試
験板を傾けた場合の滑り度合いを確認し評価した。評
価の結果、カーボネート系高架橋型 PUD の『AQD −
473』は他のサンプルと比較し、120℃まで評価良好で
あり大幅に優れることを確認した。
[2]ブロックイソシアネート(BI)との複合化 PUD
『BWD − 102』
(1)基本設計と代表性状
耐水性、耐熱性に優れた高架橋型 PUD 『AQD − 473』
の骨格を応用し、一液系で更に耐溶剤性に優れた
PUD を開発した。手法としては、図6に示す様にブ
ロックイソシアネートを高架橋水系樹脂で分散させた
いわゆるコアシェル構造とすることで PUD の貯蔵安
定性とブロックイソシアネートとしての塗料調製時の
ハンドリング性を向上させることを同時に達成した。
表4に BI 複合型 PUD (BWD − 102)の代表性状を
示す。
(2)熱解離性
BI 複合型 PUD『BWD − 102』と高架橋型 PUD 『AQD
− 473』の混合液を用い熱解離性を評価した結果を図7
に示す。評価方法は、混合液を 100 ミクロンのドクター
判定1
判定2
判定3
外観良好 ブリスター発生 光沢低下
図5 塗膜の耐水性評価の判定レベルと外観状態
開発製品 AQD-473
ポリカーボネート系
ポリエーテル系
ポリエステル系
高架橋型
標準
標準
標準
25
1
1
1
1
PUDタイプ 40
1
1
1
2
40
1
1
1
3
試験温度(℃)
80
1
1
2
3
100
1
2
2
3
表2 各 PUDを用いた塗膜の耐水性評価結果
開発製品 AQD-473
ポリカーボネート系
ポリエーテル系
ポリエステル系
高架橋型
標準
標準
標準
60
◯
◯
×
◯
PUDタイプ 80
◯
×
×
×
100
◯
×
×
×
試験温度(℃)
120
◯
×
×
×
140
×
×
×
×
表3 各 PUDを用いた塗膜の耐ブロッキング評価結果
単独では分散安定性が悪いが、熱解離可能
コア層
シェル層
耐水性に優れ、安定な籠構造
コア/シェルブロックイソシアネート(BI)/カーボンネート系高架橋 PU(AQD)
図6 BI 複合 PUDのイメージ
極性タイプ
外観
粘度(mPa・s at 25℃)
不揮発分(%)
アニオン
乳白色水分散液
20~350
35~38
理論有効NCO含量(%-solid)[参考値]
6.5~7.5
pH
平均粒径(nm)[参考値]
7.4~8.4
50~150
基本骨格カーボネート系
ブロックイソシアネート含有水系ポリウレタン樹脂
表4 BI 複合型 PUD『BWD-102』の代表性状
80 TOSOH Research & Technology Review Vol.59(2015)
ブレードで鋼板に塗工し、温度勾配式オーブンにて乾
燥温度を変化させ、MEK でラビング試験(耐溶剤性)
を行い、塗膜が溶解あるいは剥がれる回数にて評価し
た。
その結果、開発品は無触媒環境下でも 120℃付近か
ら硬化が始まり、130℃付近で急激に熱解離性が高ま
ることを確認した。比較として用いた従来のブロック
イソシアネートの水分散液系と比較しても明確な違い
を確認することができた。
4.おわりに
ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂の耐水性、耐
熱性といった特長を生かし、更に PUD の高架橋化す
ることで新製品『AQD − 473』、『AQD − 473』を開発した。
今後、PCD の種類を変更することでハードコートか
らソフトコートまで更に硬度幅を広げる可能性があ
る。更には、イソシアネートやカルボジイミドなど他
架橋剤を併用することで二液系、一液系の塗料として
のアプリケーションの充実化が図れると期待される。
今後も引き続き、自動車、建材、プラスチックなど様々
な用途分野に貢献できれば幸いである。
5.引用文献
1) Geurink,,P. J. A.,T. Scherer,R. Buter, A.
Steenbergen,H. Henderiks,Progress in Organic Coatings,55,119-117(2006)
2) Galgoci E .C.,C. R. Hegedus,F. H. Walker,D.
J. Tempel,F. R. Pepe,K. A. Yoxheimer,A. S.
Boyce,JTC Coatings Tech ,28-35(2005)
3) Lahtinen,M.,C.Price,Polym Int,51,353-361(2002)
200
180
160
140
120
100
80
60
40
20
0
耐溶剤性(MEKラビング)[回]
80 100 120 140 160 180
乾燥温度(℃)@30min
開発品従来品
図7 AQD-473/ BWD-102 の熱解離性
4) Chinwanitcharoen. C.,S. Kanoh,,T. Yamada,,K.
Tada,S. Hayashi,S. Sugano,Macromol.Symp.,
216,229-239(2004)
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