専門葬儀社の家族葬 家族葬の未来の形を予測し、 新たな顧客 … ·...

Post on 17-Jun-2020

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56 仏事 2012. 5

東京・昭島市のくじら葬祭(株式会社 結セレモニー)では、顧客の

希望を丁寧にヒアリングし、「感動できる葬儀づくり」を心がけている。

家族葬のニーズが急増する中、同社の取り組みと今後の展望について、

谷島健次社長に話を聞いた。

同社の概要

生花業界出身の谷島社長が同社を設立したのは、平成 21 年。「くじら葬祭」という屋号は、同社事務所所在地の東京都昭島市、多摩川河川敷で昭和 36年に鯨の化石が発掘されて以来、鯨が市のイメージキャラクター的存在である事に由来する。地域の人たちに親しまれるようにとの思いで付けられたものだという。

対応エリアは東京 ・ 多摩地区(昭島市、立川市、八王子市)を中心に、東京都内全域および神奈川県北部、埼玉県南部での葬儀にも対応している。「葬祭業というものに対して以前から、『サービス

に対してのお客さまの満足度が低い業種』だと認識してきた。お客さまの中に『とにかく葬儀は高い』というイメージがあるのは、提供したサービスに満足していないから。

葬祭業に限った話ではないが、カタログやホームページでは良い事ばかり書いているのに、実際は違っていた、満足できなかったというのはよくあること。起業に当たっては、サービスにいかに心を込められるか、お客さまにいかに感動していただけるかを追求することを理念にした」

良質なサービスであれば、自然に広がって行くものだという考えから、同社では、会員制度はあえて設けていない。

集客は無料電話相談から施行につながるケースが

主であるが、そのほか葬儀のポータルサイトやインターネット検索からの流入も多い。

また、「店舗の前をよく通っていて、以前から気になっていた」と言って同社を訪問する顧客もいるという。同社の外観は、グリーンや白を基調とした明るい外装と、谷島社長が自らデザインした坊主頭のイメージキャラクター“おむすびくん”のイラストが特徴的だ。さらに入口に掛かる大きな時計にも、二つの意味があるという。「一つは、通勤や通学で店舗の前を通る人たちは必ず時計を見るので、『時計のある葬儀屋さん』と当社を認識してもらうこと。もう一つは、時計を見た人たちに、大切な人と大切な時間を過ごして欲しいという願いが込められている」

打合せや事前相談に使用する応接室も、明るくて居心地の良い空間となっており、葬儀社の敷居が高いイメージを払拭し、誰もが入りやすい店舗づくりに成功していると言えるだろう。

顧客ニーズへの対応

祭壇を付けないという選択近年、ますます注目が集まっている家族葬。同社

でも施行件数は多いというが、谷島社長は、「現在の家族葬のスタイルは、まだ不完全だ」と語る。「現在の家族葬は、費用を抑えるために会葬者を

少なくしたというものが多く、一般葬を単純に小さくしただけだと言える。本来の意味の家族葬とは違

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専門葬儀社の家族葬

くじら葬祭(株式会社 結セレモニー)

家族葬の未来の形を予測し、新たな顧客ニーズへの柔軟な対応を

谷島健次社長

葬儀関連

葬儀の場合の食事や返礼品までもが付いているセットはいわゆるファミレスやファストフードのセットと違って、セットだから割引になっているという事ではない。遺族が必要としているか否かによって用意するかどうかということが大切なのであり、別途費用までセットになっているプランはかえって無駄な出費が出る場合がある。

また、東京の多摩地区の場合で言うと、市営の斎場を利用すれば、白木祭壇が備え付けになっていることも多い。にもかかわらず、葬儀社の方でも祭壇費用込みの料金プランしか無いという話になると、お客さまから料金を二重取りしている形になり、結果的に、お客さまの信頼を失う結果になりかねない」

葬儀の費用に関しては、『とにかく安く抑えたい』という希望も多い。「一般では、葬儀を小規模にすれば費用を安くできると考える人が多いが、打合せの段階で、『会葬者は数十人程度で』と言うお客さまに対しては、可能であれば、100 人、200 人単位の参列者に来てもらって香典を頂いた方が、結果的に持ち出しが少なくなることを説明するようにしている」という。

家族葬の今後顧客からのニーズが高まっている家族葬だが、谷

島社長は、この状況が永続的に続くわけではないと考えている。「将来的に 20 年、30 年先を見た場合に、家族葬の

スタイルは変わっていくと思う。現在よりもさらに縮小したものになり、最終的には火葬式に肉づけをしただけのような形になってしまうかもしれない。今の若い世代が喪主として葬儀を行うようになるころには、現在通用している葬儀そのものの意義やしきたりが形として残っているとはとても思えない。

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うのではないか、と常に感じている。告別式が終われば、故人は“形”としてはこの世

から無くなってしまうのだから、通夜と告別式の二日間で、遺族や近しい人たちが故人と心ゆくまで寄り添っていられるというのが、理想的な家族葬のスタイルだと思う。そこでの葬儀社の役割は、故人と最後の大切な時間を過ごす空間作りを心がける事。そしてまた、いかにサービスに心を込められるかがポイントである。それは決して大掛かりな事ではなく、ささやかなおもてなしで良い。例えば、故人が好きだったお菓子があれば買って来るとか、ちょっとした心使いをする事で、遺族に感動してもらえるのである。そこで、高価な祭壇や棺を勧めても、葬儀には必要な物なので形式的に選びはするが、実際は遺族にとってはどうでも良いこと。遺族は、祭壇や棺に感動するわけではない」

同社では、各プランの料金設定において、基本料金には祭壇費用が含まれておらず、別料金としてあらかじめ明記している。生花業界出身で“花のプロ”である谷島社長であれば、豪華で華やかな花祭壇を提案して利益を上げる事も可能であるが、そこはあくまで、遺族の意向を優先するようにしている。「高価な祭壇はあえて勧めていない。実際にも、最低限の価格帯の祭壇を選ぶお客さまが多い。近親者しか参列しない家族葬においては、他人の目を気にしなくなった分、『高価な祭壇にしなければならない』という固定観念がなくなったのだと思う」。

また、同社の料金設定の場合には、基本料金のみを支払い、祭壇を付けないという選択も可能となる。「セットプランと言うと、お客さまの中には『祭

壇や食事、返礼品までもいろいろなものがたくさんついている方がお得』というイメージがあると思うが、食事や返礼品を必要としていない遺族もいる。

同社のお客様相談センター。入口に掛かる大きな時計が目印となっている

相談センターの中はオレンジと白のトーンで明るい雰囲気。犬のぬいぐるみが訪れた人々の心を癒す

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例えば精進落しにしても、『なぜ高価な料理を食べなければならないのか。近くのファストフードで良い』という顧客に対して、しきたりだからと言っても通用しない場合も有り得るだろう。そのような中で、いかにバランスを取ってサービスを提供していくかが、葬祭業界全体の今後の課題だと思う」

顧客満足度を高める工夫を

家族葬以外では、一日葬の依頼も、徐々にではあるが増えてきているという。遠方の親類など、通夜と告別式に二日間続けて出席することが困難なため、通夜にしか参列しない会葬者も多い。「通夜にだけは人が大勢いて、告別式になると極端に少なくなるのでは、あまりに淋しい。遺族からは、『一日葬にしたおかげで、大勢の人に参列してもらえた』と喜ばれる」。

それぞれの顧客に最も喜んでもらえるサービスを提供するには、まずは遺族が故人に対して何をしてあげたいと思っているかを知ることが重要である。そのため同社では、事前相談には特に力を入れており、24 時間・年中無休で対応している。「以前は、お客さまの中に『まだ亡くなってもい

ないのに葬儀の相談をするなんて不謹慎だ』という考え方があったのだと思うが、最近は徐々に変わってきている。また、一度相談してしまうと、予約させられてしまうのではないかと躊

ちゅうちょ

躇するお客さまもいるが、そういったイメージも払拭していきたい。葬儀に直接関係のない相談に対しても、相手の話を最後まで聞き、柔軟に対応している」

また、今後はますます顧客流入の核になることが予想されるインターネットでは、SEO に力を入れるのはもちろんであるが、同社ホームページにおい

て、葬儀に関するさまざまな情報を発信する“葬儀あらかると”をスタートさせた。第 1 回では、葬儀費用の不当表示問題について特集するなど、顧客に対して誠実に、有益な情報を発信することを目指している姿勢がうかがえる。

今後の展望

今後は、家族葬をメーンで執り行う斎場を自社で建設する予定だが、その構想は一風変わっている。

「斎場というより、コンドミニアムのようなイメージ。遺族が、故人との最後の時間を過ごす場所にしたい。例えば、故人の死を現実として受け入れられない遺族がいたとしたら、心の整理がつくまでは何日間でも遺体に寄り添っていられる空間を提供する。また、エンバーミングの希望があれば対応できるようにするなど、遺族のニーズに対して柔軟に、トータルサポートで応えられる体勢を目指したい」

谷島社長の構想は、同社に寄せられる電話相談の内容を分析した結果から生まれたものだという。「お客さまからは、『通夜の何日か前から、遺体と

一緒に泊まれる斎場を探している』という相談が非常に多い。現状では、そういった希望に対応している斎場はほぼ無いので、そのように説明するしかないが、相談が多いということは、確実にニーズがあるということ」

遺族が故人に何をしてあげたいかを丁寧にヒアリングすると同時に、故人にとって最もふさわしい葬儀とは何なのかを常に探求し続けているという谷島社長。「例えば、『音楽葬にしてみようかしら』と言うお

客さまもいるが、格好良さそうだから、豪華そうだからというイメージだけでは決めて欲しくない。そういった場合には、なぜ音楽葬なのか、故人が音楽とどのように関っていたのかを丁寧に聞く事が何よりも大切である。例えば自分の場合、息子がピアノを弾くのが得意なので、息子には『お父さんが死んだら、葬儀が終わるまでずっとお前のピアノを聞かせてくれ』と言ってある。自分の場合は、それだけで充分である。決して豪華ではなくても、“その人らしい葬儀”を行うことが大切。そのためには葬儀社の方からもお客さまに対して積極的に提案やレクチャーを行えるよう、勉強と努力が必要だと思う」

3

4事前相談用の個室

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