第2講隣人訴訟・法意識 - hiroshima shudo universityns1.shudo-u.ac.jp/~tyano/law...

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第2講 隣人訴訟・法意識

―「日本人の法意識」論―

Ⅰ隣人訴訟

事件の経過

1977(昭和52)年5月8日 三重県鈴鹿市で、3歳4ヶ月の幼児 a が近所のため池で死亡。

同年12月 aの両親(A)は、bの両親(B)・鈴鹿市を

被告として損害賠償請求の訴えを津地裁に提起。

1983(昭和58)年2月25日 津地裁で、原告一部勝

訴の判決。

判決報道とその後の反応。

法務省の異例の見解発表

1983(昭和58)年4月8日付け

裁判を受ける権利は、重要な基本的人権のひとつ。

どのような事実関係であっても、裁判所に訴えを提起して法的救済を求めることは、妨げられない。

多数の侮辱的・脅迫的投書や電話で原告および被告の権利が侵害されたのは、極めて遺憾。

国民ひとりひとりが、再びこのような遺憾な事態を招くことのないよう、慎重に行動するよう訴える。

隣人訴訟のケースをどうみるか

法律のプロ

投書・嫌がらせした人たち

裁判官・弁護士、法務官僚、法律学者たち

……訴訟提起は当然

……このような事件が訴訟

となることに違和感

……著しい落差が存在

さまざまな解釈

(1)伝統的法意識の所産(新聞論調、六本)

むら的行動様式 田舎vs都会

「現代の村八分」

対内モラルと対外モラル(利谷)

(2)現代的現象都市型行動様式(星野)

アノミーの所産(矢野)

いかなる問題が提起されたか

(1)法意識ないし法文化の問題

(2)法の解決の相対性(楜沢能生)

日本人は法的関係を結び合うのが苦手。

近隣の問題解決には法はなじまない。

楜沢能生楜沢能生

『法社会学への誘い』p29ff.

日本社会において、「法化」が不十分な点を指摘すると同時に、

「法化」にはなじまない領域にまで、法が侵入してくることの異常さを指摘する。

日本社会の「法化」の問題

Ⅱ 「日本人の法意識」論

1970年代さまざまな「日本人=ユニーク論」

が展開された。

川島武宜の「日本人の法意識」は、日本人論と共通の性格をもちつつも、また法社会学界に鋭い問題を提起した。

川島武宜『日本人の法意識』(岩波新書、1967年)

第一章 問題

第二章 権利および法律についての意識

第三章 所有権についての意識

第四章 契約についての意識

第五章 民事訴訟の法意識

第六章 むすび

川島『日本人の法意識』より

「第1章 問題」

・日本の法典は、はなはだ西洋的であった。

・法典と国民の生活のあいだには大きなずれがあった。

・国民の法意識がそのカギをにぎっているのではないか。

川島『日本人の法意識』より

「第2章 権利および法律についての意識」

・伝統的に日本人には「権利」の観念が欠けている。

・日本人には、法律に対する規範意識(遵法精神)が欠けている。

川島『日本人の法意識』より

「第3章 所有権についての意識」

・日本人には、近代的な所有権についての意識が弱いか、もしくは欠けている。

・日本人には、所有者が所有物に独占的排他的支配権をもっているという意識がない。

・所有者の所有物に対する権利の強弱は、物の現実的支配と分かちがたく結びついている。

川島『日本人の法意識』より

「第4章 契約についての法意識」

・日本人には、「契約」は守らねばならないという意識が弱い。

契約の拘束力に対する意識が弱い。

・特殊日本的な契約が存在している。

cf.書店の委託販売、デパートの委託仕入

れ、小作契約、建築請負契約、身元保証契約etc.

川島『日本人の法意識』より

「第5章 民事訴訟の法意識」

・ヨーロッパ人にとって、自己の権利が侵害された時、訴訟に訴えるのは自己の権利のみならず神聖な義務である。

(cf. R.イェーリング

『権利のための闘争』)

「日本人の訴訟嫌い」

・日本人には、訴訟に訴えることをためらいあるいは嫌うという傾向がある。

・日本人は、争いを調停もしくは仲裁によって解決することを好む。

川島『日本人の法意識』より

第6章 むすび

・日本社会の「近代化」によって、いずれ日本人の法意識も近代的になっていくであろう。

・よりつよく権利を意識する。

・より頻繁に訴訟を利用する。

・人々の生活にとって、法や裁判所は重要なものとなる。

・裁判官の社会的地位も上昇する。

社会構造

日本人特有の法意識 日本人特有の法行動

家父長制的社会構造

協同体的 〃

社会構造

社会構造

日本人特有の法意識 日本人特有の法行動市民社会的

ずれ

ヨーロッパ人の法意識 ヨーロッパ人の法行動市民社会的

川島テーゼと経験的調査

日本文化会議による2度の調査

1971(昭和46)年調査

日本文化会議『日本人の法意識』1973、至誠堂

日本文化会議『共同討議日本人にとって法とは何か』

1974、研究社

1976(昭和51)年調査

日本文化会議『現代日本人の法意識』

1982、第一法規

日本人の法意識も一色ではない

法寛容志向型

法厳格適用型

法無関心型

川島テーゼの発展とそれへの疑問

六本佳平……法意識と法観念

現実の法 観念の法

認 識 法知識

当為・表象 法意見 法意識 法観念

態 度 法態度

川島テーゼへの異論

ジョン・O・ヘイリー「裁判嫌いの神話」

John Owen Haley

日本人は、はたして「裁判嫌い」か?

アメリカ以外の国と比較するとどうか?

近代化・都市化の達成によって、日本ははたして訴訟社会になったか?

法意識論の整理

棚瀬孝雄

①原型モデル=タイムラグ・モデル

近代化の遅れとみる。

②状況規定モデル

権利主張を妨げる要因を重視

③社会文法モデル

当該社会独特の交際のルール

単一モデルに収斂しない

今回のポイント

(1)1977年津市で起こった隣人訴訟事件

は、法意識や法文化の問題を浮上させた。

(2)川島武宜は、日本人の法意識の遅れの原因を協同体的社会構造に求め、やがて近代化によって克服されると論じた。

(3)高度経済成長後も日本人の行動様式には顕著な差異が見られず、川島テーゼは見直しを余儀なくされている。

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