総 説 - 一般社団法人 色材協会-japan society of colour...
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─小特集 界面活性剤─
1.はじめに
リン脂質,脂肪酸,ステロール類およびセラミド類などの生
体脂質や界面活性剤は,一つの分子構造の中に親水性の部分
(親水基)と親油性の部分(親油基)を併せもった両親媒性の
化合物である。このような物質は水中において自発的に集合
し,ミセルや液晶あるいはゲルなどの規則的な構造をもった分
子集合体(自己組織体)を形成する。これが,両親媒性物質の
自己組織化現象である。近年,皮膚外用剤やスキンケア化粧料
の分野において,両親媒性物質の自己組織化を乳化などに応用
する研究がなされ,D相乳化法 1,2)や液晶乳化法 3)として実用
化されてきた。これらは,両親媒性脂質や界面活性剤の溶存状
態を制御することで液晶やゲルなどの分子集合体(自己組織
体)を形成させ,そこに多量の分散質を可溶化あるいは微細分
散させる技術である。さらには,自己組織体を用いて,皮膚保
湿作用,荒れ肌改善機能および薬効成分の経皮貯留効果などの
製剤としての機能を向上させる試みがなされている。そこで本
稿では,両親媒性脂質の自己組織化とそれらの皮膚外用剤やス
キンケア化粧料への応用について解説する。
2.両親媒性物質の自己組織化
2.1 臨界充填パラメーター(critical packing parameter:
CPP)
両親媒性物質や界面活性剤(以下,両親媒性分子)は水中で
分子会合し,球状ミセル,棒状ミセル,ヘキサゴナル液晶,ラメ
ラ液晶,キュービック液晶などの多様な自己組織体を形成する。
これら自己組織体の構造(幾何学構造)は,両親媒性物質や界
面活性剤の分子構造,濃度および温度によって決まり,与えら
れた条件の中で最小面積となる幾何学形状をとる。ここで両親
媒性分子の構造と自己組織体の形状との関係は,臨界充填パラ
メーター(critical packing parameter:CPP)によって考察する
ことができる 4)。このCPPは,自己組織体の界面における両親
媒性分子の疎水基と親水基のそれぞれの占有空間の幾何学バラ
ンスを示す無次元の数値であり,自己組織体の疎水部と親水部
の界面において,両親媒性分子1個が占める面積(ao)と疎水
部の長さ(lc)およびその体積(V)を用いてCPP=V/(aoLc)で
定義される。すなわち,CPPは,親水部断面積と疎水部の長さ
からなる円筒の体積に対する,疎水部の体積比で定義されるパ
ラメーターである(図-1)。
CPPの計算において,疎水部の長さ(Lc)およびその体積
(V)に対し,下記式がそれぞれ与えられている 4)。
···················································(1)
·····················································(2)
ここで,ncは,炭化水素鎖中の炭素の数である。また,両親媒性
分子が占める面積(ao,両親媒性分子の極性基当たりの断面積)
は,おもに両親媒性分子間の相互作用によって決まる。すなわ
ち,ファンデルワールズ引力 γaoと静電的な反発力 e2D/(2εao)
L . . ncc Å( ) = +1 5 1 265
V . . ncÅ3 27 4 26 9( ) = +
両親媒性物質の自己組織化とその応用
橋本 悟*,†
*ニッコールグループ㈱コスモステクニカルセンター 東京都板橋区蓮根3-2-4-3(〒174-0046)†Corresponding Author, E-mail: hashimoto@ns-cosmos.co.jp
(2012年6月7日受付;2012年8月16日受理)
要 旨
生体脂質や界面活性剤などの両親媒性物質は,水中において自発的に集合し,それらの臨界充填パラメーター(critical packing
parameter:CPP)に従った種々の幾何学構造をもつ分子集合体(自己組織体)を形成する。これらの自己組織体は,高内相比乳化機
能(high internal phase ratio emulsification),薬効成分の経皮貯留効果,皮膚保湿作用および荒れ肌改善機能を示し,化粧料や軟膏など
の皮膚外用剤の機能を向上させることができる。
キーワード:両親媒性物質,自己組織体,逆ヘキサゴナル型自己組織体(H2),ラメラ液晶,皮膚外用剤
総 説J. Jpn. Soc. Colour Mater., 85〔9〕,378–383(2012)
図-1 両親媒性分子の臨界充填パラメーター(critical packingparameter:CPP)
〔氏名〕はしもと さとる〔現職〕㈱コスモステクニカルセンター取締役製品開発部長〔趣味〕スキー〔経歴〕 1980年群馬大学工学部合成化学科卒業。2003年博士(工学)取得(東
京理科大学)。2002年より現職。専門:コロイド化学(界面活性剤の溶液物性)。
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