a.炭素繊維製造エネルギー低減技術の研究開発 b.炭素繊維 ... · 2018. 10....

62
「炭素繊維製造エネルギー低減技術の研究開発」 A.炭素繊維製造エネルギー低減技術の研究開発 B.炭素繊維リサイクル技術の実証研究開発 評価用資料 平成21年11月19日 経済産業省製造産業局繊維課 東レ株式会社 社団法人化学繊維技術改善研究委員会 日本コークス工業株式会社(旧:三井鉱山株式会社) 第1回繊維分野における エネルギー使用合理化技術開発補助金 プロジェクト事後評価検討会 資料6-3

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    「炭素繊維製造エネルギー低減技術の研究開発」

    A.炭素繊維製造エネルギー低減技術の研究開発

    B.炭素繊維リサイクル技術の実証研究開発

    評価用資料

    平成21年11月19日

    経済産業省製造産業局繊維課

    東レ株式会社

    社団法人化学繊維技術改善研究委員会

    日本コークス工業株式会社(旧:三井鉱山株式会社)

    第1回繊維分野における

    エネルギー使用合理化技術開発補助金

    プロジェクト事後評価検討会

    資料6-3

  • 1

    目次

    1.事業の目的・政策的位置付け

    1-1 事業の目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2

    1-2 国の関与の必要性・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6

    1-3 政策的位置付け・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7

    2.研究開発目標

    2-1 研究開発目標・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12

    2-1-1 全体の目標設定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12

    2-1-2 個別要素技術の目標設定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19

    3.成果、目標の達成度

    3-1 成果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23

    3-1-1 全体成果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23

    3-1-2 個別要素技術成果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25

    3-1-3 特許出願状況等・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・35

    3-2 目標の達成度・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・37

    4.事業化、波及効果

    4-1 事業化の見通し・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・45

    4-2 波及効果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・49

    5.研究開発マネジメント・体制・資金・費用効果等

    5-1 研究開発計画・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・51

    5-2 研究開発実施者の実施体制・運営・・・・・・・・・・・・・・・・・・55

    5-3 資金配分・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・57

    5-4 費用対効果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・59

    5-5 変化への対応・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・61

  • 2

    1.事業の目的・政策的位置付け

    1-1 事業の目的

    近年、人類の生存基盤に関わる重要な環境面の問題として、地球温暖化問題

    が挙げられる機会が増加し、地球温暖化問題を通して従来の大量生産、大量廃

    棄の社会活動の見直しが検討されている。その中で2005年2月に京都議定

    書が発効された。

    同議定書において我が国は二酸化炭素等の温室効果ガスの排出量を1990

    年対比6%削減する義務を負っている。

    一方、原油価格高騰等を始めとする、昨今の厳しいエネルギー情勢に対応す

    べく、経済産業省では平成18年5月に①国民に信頼されるエネルギー安全保

    障の確立、②エネルギー問題と環境問題の一体的解決による持続可能な成長基

    盤の確立、③アジア・世界のエネルギー問題克服への積極的貢献を目的とした、

    「新・国家エネルギー戦略」を策定した。ここでは4つの計画に取り組んでお

    り、その中には運輸エネルギーの次世代化計画があり具体的な項目に燃費改善

    が盛り込まれている。

    燃費を改善するためには軽量・高強度材料の開発を推進することが必要とな

    っている。

    先端複合材料である炭素繊維強化複合材料(CFRP:Carbon Fiber

    Reinforced Plastic)は、軽量(比重がアルミニウムの2/3)であり、高い

    強度(アルミニウムの約5倍)を有しているため、消費エネルギーの低減化に

    大きく貢献する素材である。一方でCFRPに用いる炭素繊維の製造には多大

    なエネルギーを要し、その消費エネルギーの低減化が望まれている。

    そこで、本研究開発事業は、以下のA.及びB.を行うことにより、現在よ

    りも低エネルギーで炭素繊維を製造することを目的とする。

    A.炭素繊維製造エネルギーの低減技術の研究開発

    炭素繊維の前駆体ポリマーであるポリアクリロニトリル(以下PANと略

    す)から炭素繊維を低エネルギーで得る工程を新たに開発する。

    B.炭素繊維リサイクル技術の実証研究開発

    炭素繊維リサイクル処理フロー・設備について検討、パイロットプラント

    を設計・建設してリサイクル技術の実証研究開発を行う。また、リサイクル

    システムの基盤構築のために、炭素繊維製品廃材及び製品の製造過程で排出

    される工場廃材(以下、「炭素繊維廃材」と言う。)の収集システムの検討・

    実証を行うと共に、リサイクル炭素繊維の市場性について調査検討を行う。

  • 3

    【技術的な動向】

    A.炭素繊維製造エネルギーの低減技術の研究開発

    PAN系炭素繊維の製造工程は重合・製糸工程と焼成工程に分かれる。重合・

    製糸工程ではアクリロニトリルを触媒などにより重合した後に繊維化し、焼成

    工程ではPAN繊維を耐炎化処理した後、炭化処理を行う。このように炭素繊

    維は多くの工程を経て製造されており、多大なエネルギーを要する(286M

    J/Kg、出典:第22回炭素繊維協会複合材料セミナー)。一方、PANから

    炭素繊維を製造する理論収率は68%であるのに対して、実際の収率ははるか

    に低い値である。この収率を向上することができれば製造エネルギー及び製造

    コストを削減することが可能となる。

    B.炭素繊維リサイクル技術の実証研究開発

    近年、炭素繊維リサイクル技術については、様々な機関等で検討されてきて

    いる。特に、CFRPからマトリックス樹脂を分離し、炭素繊維を回収する熱

    分解法によるリサイクルの検討が多い。2009年に英国では、世界最初の炭

    素繊維リサイクルの商業運転が始められたが、この熱分解法を採用している。

    熱分解法以外にも、化学的溶解法や超臨界流体法による分解も検討されている

    が、分解できる樹脂に制限があるとともに、高圧な条件下での処理となるため

    高コストになる等の制約が予想される。従って、炭素繊維廃材について、分解

    処理できる樹脂に制限が比較的尐なく、低コストで大量に処理が可能な方法が

    望まれている。

    【社会的な動向】

    CFRPは鉄、アルミニウムと比較して軽量化、高疲労寿命、錆びない等の

    メリットが大きいことから、航空機に採用されており、今後も開発される航空

    機の構造材の大部分にCFRPが採用されることは間違いないと言える。

    民間航空機へのCFRP適用の転機になったのはボーイング(B)777の

    一次構造体*1への採用であり、それ以降、航空機部材へのCFRP適用部位は拡

    大し、777において12%であったCFRP重量比率はボーイング社の次期

    中型機B787では主翼、胴体まで適用部材が拡がり、合計50%まで増大し

    た。エアバス社においても2007年就航したA380では尾翼、圧力隔壁、

    中央ウィングボックスなどの部材にCFRPが適用されており、今後さらに適

    用部材が増加する見込みである(図1)。

  • 4

    50123CFRP使用比率(wt%)

    206.51.0CF使用量 / 機 (トン)

    B787

    200919951982導入時期

    一次構造体(主翼、尾翼、胴体等)

    二次構造体

    309.61.5CFRP 使用量/ 機 (トン)

    一次構造体(尾翼 など)

    二次構造体二次構造体CFRP使用部位

    B777B767型 式

    50123CFRP使用比率(wt%)

    206.51.0CF使用量 / 機 (トン)

    B787

    200919951982導入時期

    一次構造体(主翼、尾翼、胴体等)

    二次構造体

    309.61.5CFRP 使用量/ 機 (トン)

    一次構造体(尾翼 など)

    二次構造体二次構造体CFRP使用部位

    B777B767型 式

    水平尾翼 胴体

    垂直尾翼

    胴体翼

    翼胴フェアリング

    胴体

    B7B78787“オール複合材航空機”

    B777B777フロアビーム(床構造材)

    エンジンカバー

    垂直尾翼

    複合材料使用 部材

    図1.航空機用途のCFRP

    *1 一次構造体とは、航空機の安全性を保障するうえで重要な部材(主翼等)、二次構造体とは、一次構造

    材以外の部材(内装など)を指す。

    また、車体の軽量化による燃費の向上が期待される自動車用途への適用も今

    後進むものと考えられる。自動車用途へのCFRPの適用においては、まず欧

    州においてF1レーシングカーや超高級スポーツカー分野でプリプレグ*2 が採

    用され、その有効性が実証されてきた。量産車種への適用はコストや生産(成

    形)技術などに課題があったが、近年RTM*3などの、オートクレーブ*4を使用

    しない成形法が開発され、量産車種への適用が始まりつつある。

    CFRPは、プロペラシャフト、エンジンフード、リアスポイラーへの適用

    も広がりつつある。CFRPプロペラシャフトは従来のスチール製に比べ5

    0%の軽量化が実現できただけでなく、複合材料の特性を生かして衝突時には

    破壊エネルギーを吸収するという安全な機能も有しており、今後炭素繊維複合

    材料の適用はさらに高まるものと予想される(図2)。

    また、近年の各国燃費規制強化に伴い、自動車メーカーは車体の軽量化に本

    格的に取組んでおり、その一環としてCFRPの適用検討を開始している。

    *2 炭素繊維に樹脂を含浸させた中間材料

    *3 「レジントランスファーモールディング」の略で、樹脂を型に注入して含浸する成形法

    *4 高温、高圧条件でプリプレグを硬化させる反応容器

  • 5

    図2.自動車用途のCFRP

    このようにCFRPは今後需要が飛躍的に伸びることが考えられるため、現

    在の多くの製造エネルギーを要する製造技術を改良していくことは炭素繊維製

    造メーカーの社会的責任と考えられる。

    【経済的な動向】

    炭素繊維は航空機、自動車の軽量化に繋がり、燃費が向上するため、物流コ

    ストの低減が可能になる一方で、複数の工程を経て製造されることから、鉄等

    の構造部材と比較して、製造エネルギーが大きく、製造コストも高くなる。新

    製造技術を見出して炭素繊維製造時の収率を向上することができれば化石燃料

    の使用を大幅に削減し、製造エネルギーを小さくし、低コストで製造すること

    が可能となる。

    サイドメンバ①SMC②CFRP

    フード①SMC②CFRP

    ルーフ①SMC②GF//PU③CFRP

    バンパー①GF//PP、②PP③GF//PU、④SMC

    フェンダー①PA/PPE②PA/ABS③PC/ABS④PC/PBT⑤GF//PU⑥SMC・BMC⑦CFRP

    ホイールキャップ①PP、②PC/ABS、③PA/PPE

    サンルーフ・リアウインド

    ①PC

    ドアモジュール①GF//PP②BMC

    フロントエンドモジュール①GF//PP、②GF//PA③SMC・GMT

    インテークマニホールド①GF//PA②BMC

    ランプレンズ①PC②PMMA

    シリンダヘッドカバー①GF//PA②BMC

    燃料タンク(含CNGタンク)①HDPE/EVOH②CFRP

    スポイラー①ABS、②PA/PPE、③SMC、④CFRP

    インパネ類①GF//PP、②ABS

    フロア①SMC、②CFRP

    プロペラシャフト①CF/GFRP、②CFRP

    プラットフォーム①CFRP

    アンダーカバー①GF//PP、②GF//PU、③SMC・GMT、④CFRP

    PP :ポリプロピレンPA :ポリアミドPPE:ポリフェニレンエーテルPC :ポリカーボネートPBT:ポリブチレンテレフタレート

    ランプリフレクタ①PC②BMC

    PU :ポリウレタンPMMA:ポリメチルメタクリレートABS:アクリルニトリル・ブタジエン・スチレンHDPE:高密度ポリエチレンEVOH:エチレン・ビニルアルコール

    GF :ガラス繊維CFRP:炭素繊維強化樹脂SMC:シートモールディングコンパウンドBMC:バルクモールディングコンパウンドGMT:ガラスマット強化熱可塑性樹脂

    トランクリッド・テールゲート①PA/PPE、②GF//PP、③SMC・GMT、④CFRP

    サイドメンバ①SMC②CFRP

    フード①SMC②CFRP

    ルーフ①SMC②GF//PU③CFRP

    バンパー①GF//PP、②PP③GF//PU、④SMC

    フェンダー①PA/PPE②PA/ABS③PC/ABS④PC/PBT⑤GF//PU⑥SMC・BMC⑦CFRP

    ホイールキャップ①PP、②PC/ABS、③PA/PPE

    サンルーフ・リアウインド

    ①PC

    ドアモジュール①GF//PP②BMC

    フロントエンドモジュール①GF//PP、②GF//PA③SMC・GMT

    インテークマニホールド①GF//PA②BMC

    ランプレンズ①PC②PMMA

    シリンダヘッドカバー①GF//PA②BMC

    燃料タンク(含CNGタンク)①HDPE/EVOH②CFRP

    スポイラー①ABS、②PA/PPE、③SMC、④CFRP

    インパネ類①GF//PP、②ABS

    フロア①SMC、②CFRP

    プロペラシャフト①CF/GFRP、②CFRP

    プラットフォーム①CFRP

    アンダーカバー①GF//PP、②GF//PU、③SMC・GMT、④CFRP

    PP :ポリプロピレンPA :ポリアミドPPE:ポリフェニレンエーテルPC :ポリカーボネートPBT:ポリブチレンテレフタレート

    ランプリフレクタ①PC②BMC

    PU :ポリウレタンPMMA:ポリメチルメタクリレートABS:アクリルニトリル・ブタジエン・スチレンHDPE:高密度ポリエチレンEVOH:エチレン・ビニルアルコール

    GF :ガラス繊維CFRP:炭素繊維強化樹脂SMC:シートモールディングコンパウンドBMC:バルクモールディングコンパウンドGMT:ガラスマット強化熱可塑性樹脂

    トランクリッド・テールゲート①PA/PPE、②GF//PP、③SMC・GMT、④CFRP

  • 6

    1-2 国の関与の必要性

    製造エネルギーの削減は革新的な技術の創出と、炭素繊維を大量合成可能な

    プロセスの検討が必須であり、以下のとおり官民一体となり中長期的に取り組

    む必要がある。

    A.炭素繊維製造エネルギーの低減技術の研究開発

    炭素繊維製造工程の中でもより多くのエネルギーを要する焼成工程の収率を

    向上することで、炭素繊維製造エネルギーの低減を図るものである。製造エネ

    ルギーの低減化によりコストも低減され、CFRPの一層の普及にもつながる

    ことから、省エネ・省資源に貢献するものであり、国際競争力の強化にもつな

    がり、現在の社会のニーズに合致するものである。

    炭素繊維製造に要するエネルギーを低減する技術を創出し、炭素繊維製造プ

    ロセスのスケールアップの検討を実施することは極めて重要である。しかしな

    がら炭素繊維は多くの工程を経て製造されており、そのうちの一ヶ所の工程を

    変更した場合、他の工程も最適化する必要がある。そのため、製造エネルギー

    低減のための新技術を開発し、他の工程を最適化し大量合成可能な炭素繊維製

    造プロセスを構築するには多くの時間と労力を要する。また炭素繊維の焼成工

    程は、化学構造変化等の詳細が不明であり、ブラックボックスの部分が多く、

    耐炎化、炭化の工程にともなうPANの構造変化の分析も必要となることから、

    革新技術の導入は技術的なハードルが高く、製造装置、分析装置等多額の設備

    投資も必要となるため、一企業のみで取り組むことは難しい。

    したがって官民が一体となって取り組む必要がある。

    B.炭素繊維リサイクル技術の実証研究開発

    現在、埋設処理されている炭素繊維製品の廃棄物についての炭素繊維リサイ

    クル技術開発のため、パイロットプラントを建設してリサイクル技術の実証研

    究開発を行う。また、リサイクルシステムの基盤構築のために、炭素繊維製品

    の収集システムの検討を行うと共に、リサイクル炭素繊維の市場性について調

    査検討を行うことにより、省資源化、エネルギー使用合理化に貢献しようとす

    るものである。

    今後増大する炭素繊維廃材に対するリサイクルの要求に対し、リサイクル技

    術を確立することは、国内の炭素繊維産業の国際競争力の維持・確保や炭素繊

    維の安定供給に資し、国民や社会のニーズに合致したものである。

    しかしながら、本研究開発には、大型設備での検討が必要で、多額の設備投

    資を要し、長期にわたる多くの技術蓄積が必要とすることから、リスクが高く、

    民間企業のみで取り組むことは難しい。

    したがって官民が一体となって取り組む必要がある。

  • 7

    1-3 政策的位置付け

    「エネルギー基本計画」(2007年3月閣議決定)、「新・国家エネルギー戦

    略」(2006年5月)、「第3期科学技術基本計画」(2006年3月閣議決定)、

    「経済成長戦略大綱」(2006年7月財政・経済一体改革会議)、「京都議定書

    目標達成計画」(2005年4月閣議決定)において、推進すべき技術開発とし

    てエネルギーに係る分野が示されている。

    本研究開発はこれらに基づき、製造エネルギーの削減、二酸化炭素の排出削

    減を図ることによる地球温暖化の抑制に貢献することを目的として、経済産業

    省において取りまとめられた「省エネルギー技術開発プログラム」に位置付け

    られる「エネルギー使用合理化繊維関連次世代技術開発」のテーマの1つとし

    て実施されたものである。なお、平成20年4月に経済産業省の研究開発プロ

    グラムが再編され、「エネルギー使用合理化繊維関連次世代技術開発」は、現在

    「エネルギーイノベーションプログラム」の「4-Ⅰ 総合エネルギー効率の

    向上/超燃焼システム技術」に位置付けられている。

    図3.エネルギーイノベーションプログラム

  • 8

    また、本研究開発は、経済産業省「技術戦略マップ2009」において、以

    下のとおり位置づけれらている。

    A.炭素繊維製造エネルギーの低減技術の研究開発

    エネルギー分野における②「運輸部門の燃料の多様化」に寄与する技術ロー

    ドマップに記載されている「高性能航空機」の「炭素系複合材利用拡大による

    軽量化」及びファイバー分野(ナノテクノロジー・部材)の炭素繊維・複合材

    料(移動体)分野における技術ロードマップに記載されている「革新炭素繊維

    の開発(低コスト炭素繊維)」に含まれる技術である。

    No. エネルギー技術

    個別技術2401

    2401 高性能航空機24012401

    2401 高性能航空機2401 炭素系複合材利用拡大などによる軽量化2401 ジェットエンジンの高効率化 更なる省エネ化2401 環境性、経済性、安全性等の一層の向上24012401

    2025 2030~2010 2015 2020

    図4.経済産業省「技術戦略マップ2009」エネルギー分野

    「運輸部門の燃料の多様化」技術ロードマップ

  • 9

    図5.経済産業省「技術戦略マップ2009」ファイバー分野

    炭素繊維・複合材料(移動体)分野技術ロードマップ

    大項目 小項目 № 研究開発の方向性

    自動車 外板部材

    駆動装置

    ドライブシャフト

    パネル

    インテリアパネル

    2120(2)低コスト炭素繊維

    航空機 二次構造材

    昇降舵、方向舵

    車輌 鉄道車輌

    ボディー

    台車

    外板、マスト

    船体

    ヨット用マスト

    2402(2)CFRPの耐衝撃改善

    2403(3)複合材と金属の接合技術

    2010 2015

    船舶

    (1)高加工性・環境負荷低減技術

    フードトランクリッド

    スポイラー屋根

    ドアパネルトラック架装

    (1)高加工性・環境負荷低減技術

    (1)高加工性・環境負荷低減技術

    (1)高加工性・環境負荷低減技術

    (1)高加工性・環境負荷低減技術

    (1)高加工性・環境負荷低減技術

    2101

    2106

    2201

    2115

    2301

    2401

    接合・接着および表面処理技術(複合材と金属の接合)技術

    革新的炭素繊維の開発(低コスト炭素繊維)

    樹脂マトリックスの開発(可塑性樹脂)目標:-40℃~80℃(低線膨張率)

    革新的成型技術開発(低コスト、短時間)

    中間基材の開発(プリフォーム、プリプレグ)

    革新的炭素繊維の開発(低コスト炭素繊維)

    樹脂マトリックスの開発(可塑性樹脂)

    革新的成型技術開発(低コスト、短時間)

    中間基材の開発(プリフォーム、プリプレグ)

    革新的炭素繊維の開発(低コスト炭素繊維)

    革新的成型技術(低コスト、短時間)の開発

    革新的炭素繊維の開発(低コスト炭素繊維)

    革新的炭素繊維の開発(低コスト炭素繊維)

    革新的成型技術開発(低コスト、短時間)

    革新的炭素繊維の開発(低コスト炭素繊維)

    革新的成型技術開発(低コスト、短時間)

    樹脂マトリックスの開発(可塑性樹脂)

    中間基材の開発(プリフォーム、プリプレグ)

    革新的炭素繊維の開発(低コスト炭素繊維)

    革新的成型技術開発(低コスト、短時間)

    樹脂マトリックスの開発(熱可塑性樹脂)

    中間基材の開発(プリフォーム、プリプレグ)

    繊維-樹脂界面性能の向上(耐衝撃性及び靭性の改善)

  • 10

    B.炭素繊維リサイクル技術の実証研究開発

    ファイバー分野における「炭素繊維・複合材料(移動体)分野」の技術マッ

    プに記載されている「繊維複合材料のリサイクル技術・システム」及び同じく

    ファイバー分野における「基盤技術分野」の技術マップに記載されている「複

    合材料のリサイクル」に係る研究開発である。

    図6.経済産業省「技術戦略マップ2009」

    ファイバー分野技術マップ全体俯瞰図

  • 11

    大項目 小項目 №

    ファイバーに求められる性能及び機能

    研究開発の方向性 課題繊維製品名繊維素材名

    期待される効果

    自動車 外板部材 2104外観(塗装性) (4)繊維複合のリサイクル技術とシステ

    ム衝撃設計の自由度が尐ない 熱可塑性ビニロンプラ

    スチック燃費が向上する(省エネルギー)

    車体(ボディ) 2113 リサイクル性 (5)繊維複合材のリサイクル技術とシス リサイクルできない 安全性が向上インテリアパネル 2117 リサイクル性 (3)繊維複合材のリサイクル技術とシス コストが高い リサイクルが可能になる

    エンジンカバーなど 2121 耐熱性 (3)繊維強化材のリサイクル技術と体制 リサイクルできないアラミド繊維強化プラスチック

    安全性が向上する

    リサイクル性 (4)その他 ①安全性、吸振(音)性 ②高強度化

    その他自動車部品 2127 ③リサイクル技術航空機 胴体 ダメージ゙の易発見性 (6)その他

     ①被加工性 ②リサイクル ③非加熱硬化型樹脂

    車輌 鉄道車輌 台車 不燃性 (3)その他 車体の低コスト化に繋がるコストパフォーマンス向上  ①生産性向上

     ②熱特性の改善 ③CFRPの耐衝撃改善

     ④リサイクル技術

    2206

    2122

    2303

    図7.経済産業省「技術戦略マップ2009」

    ファイバー分野〔炭素繊維・複合材料(移動体)分野〕の技術マップ

    大項目 中項目 小項目 № 研究開発の方向性及び課題ファイバーに

    求められる性能及び機能と期待される効果

    繊維製品名繊維素材名

    自然と環境に優しい繊維技術

    資源・エネルギー有効利用(リサイクル)

    複合材料のリサイクル

    4211炭素繊維と樹脂の分離技術複合材料リサイクルの社会的システム確立

    易リサイクル性、環境性能、コストパフォーマンス

    熱可塑性炭素繊維強化プラスチック

    図8.経済産業省「技術戦略マップ2009」

    ファイバー分野〔基盤技術分野〕の技術マップ

  • 12

    2.研究開発目標

    2-1 研究開発目標

    2-1-1 全体の目標設定

    A.炭素繊維製造エネルギーの低減技術の研究開発

    炭素繊維製造における製造エネルギーの低減技術確立のため、炭素繊維前駆

    体ポリマーから炭素繊維を製造するまでの収率を向上し、実施可能なプロセス

    を構築するべく検討を行った。

    具体的な全体目標・指標、設定理由は表1の通りとした。

    表1.全体の目標

    目標・指標 設定理由

    耐炎化糸から炭素繊維を製造する際の

    収率を60%にする、

    現行の炭素繊維製造の理論収率は6

    8%である。現在の耐炎化工程で得ら

    れる耐炎化糸は非耐炎化構造部分が3

    0%のため、耐炎構造比率の向上で炭

    化収率も向上できると考えられる。

    またPANよりも炭素比率の高い前

    駆体を混合することで炭化収率を向上

    できると判断した。

    炭素繊維の物性を以下の通りとする。

    ・強度:低強度炭素繊維同等

    ・弾性率:汎用炭素繊維の60%以上

    補強繊維として先行しているガラス繊

    維に対して優位性が維持できる物性と

    した。

  • 13

    炭素繊維の製造工程の概略は図9、図10に示す通りである。

    アクリロニトリル、

    溶媒、触媒

    図9.炭素繊維の重合・製糸工程

    図10.炭素繊維の焼成工程

    PAN系炭素繊維の製造工程は重合・製糸工程(図9)と焼成工程(図10)

    に分かれる。重合・製糸工程ではアクリロニトリルを触媒により重合し、その

    後重合したポリマー溶液を凝固浴に吐出し(紡糸)、水洗、一次延伸、油剤付与

    を経た後、乾燥、二次延伸などの処理を行い、PAN繊維をボビンに巻き取る。

    焼成工程ではPAN繊維をボビンから繰り出し空気中200~300℃で加熱

    (耐炎化)処理した後、不活性雰囲気中*5で1000~2000℃で加熱(炭化)

    水洗・1次

    延伸、油剤

    乾燥 2次延伸

    紡糸 重合

    PAN繊維 耐炎化 炭化 表面処理

    サイジング剤 炭素繊維

    フィルター

    ボビン

    PAN繊維 凝固浴

  • 14

    処理する。さらに炭素繊維表面に官能基を付与する処理(表面処理)を行い、

    サイジング剤と呼ばれる集束剤を付与し、最終的にはボビンに巻き取って製品

    とする。PANから炭素繊維が製造される際の化学構造変化は図11に示すと

    おり。

    *5 窒素、アルゴンなど反応性の低いガスで満たされた状態

    NH

    N N

    O

    N N N N N

    OH

    石油 NN N N N

    精製 反応 重合・製糸

    N N N N

    N N N N

    酸化

    環化

    プロピレン アクリロニトリル ポリアクリロニトリル

    耐炎化糸(主な化学構造)

    耐炎化工程

    N 炭素繊維

    C HN

    % 6826 6元素比率

    炭化工程

    図11.焼成工程における化学構造変化

    (出典:CARBON FIBER AND THEIR CONPOSITES)

    耐炎化工程において、PANの隣接したニトリル基が環化し、同時に酸化反

    応が起きることによって、アクリドン、ナフチリジン環等の耐炎化構造を有す

    る「耐炎化糸」が得られる。この耐炎化糸は、炭化工程の窒素雰囲気でさらに

    高温処理することで縮合多環芳香族構造を有する炭素繊維となる。

    PANから炭素繊維に至る工程の理論収率は68%であるが、実際の収率は

    それよりも低い値となっている。この理由は、耐炎化糸においてアクリドン環、

    ナフチリジン環以外に非耐炎化構造の水素環ナフチリジン、未反応ニトリルが

    存在することに起因する(表2)。

  • 15

    表2.耐炎糸における部分構造と比率(出典:炭素繊維(近代編集社))

    部分

    構造名

    アクリドン ナフチリジン 水素化

    ナフチリジン

    未反応

    ニトリル

    構造

    NH

    O

    N

    N

    NN

    比率 40% 30% 20% 10%

    耐炎構造

    (炭化工程で炭素繊維になる構造)

    非耐炎構造

    (炭化工程で炭素繊維にならず、焼失し

    てしまう構造)

    水素化ナフチリジン、未反応ニトリル部分は炭化工程で焼失するため、こ

    の比率が多いほど炭化収率が低下してしまう。また水素化ナフチリジン部分も

    耐炎性が不十分であると考えられる。これら耐炎化が不十分な構造が存在する

    ために収率が低くなると考えられる。そこで耐炎化構造の比率を向上させるこ

    とができたら炭化収率を向上できるものと考えられる。

    また、原料のPANと、PANよりも炭化収率の高いと考えられる前駆体を

    混合した後に耐炎化、炭化することによっても炭化収率の向上が可能になると

    考えられる。

    本研究開発では以下の項目が課題となる。

    (1)耐炎化促進剤添加による耐炎化糸の耐炎化構造比率向上(図10の耐炎

    化工程、図11のPANから耐炎化糸が生成する工程)

    PANから耐炎化糸を製造する工程は、隣接するニトリル基の環化とメチレ

    ン鎖の酸化である。このうち、環化はニトリル基の窒素原子が隣接するニトリ

    ル基の炭素原子と結合し、環を形成する反応である。この反応性は低く、未反

    応のニトリル部分が残存する要因と考えられる。PANに環化を促進する試薬

    を添加してニトリル基の一部を活性化すれば反応性が向上し、耐炎化糸の環化

    比率が向上できると考えられる。

    また、環化反応のみ進行した、耐炎化構造ではない水素化ナフチリジンも2

    0%程度存在することから、酸化を促進することによっても炭化収率の向上が

    期待される。

    PAN、水素化ナフチリジン環を酸化する工程は、200~300℃の温度

    条件下、空気中の酸素で酸素原子付加、メチレン鎖の脱水素を起こす反応であ

    る。

  • 16

    環化反応と同時に酸化反応も進行するが、一般的に空気によるメチレン鎖の酸

    化は起こりにくい反応であることから、必要に応じて酸化を促進する薬剤の添

    加を検討する。

    そのため、高温、空気雰囲気の耐炎化工程で反応を促進する添加剤の探索が

    課題となる。

    (2)高炭化収率前駆体の添加による炭化収率向上

    炭素繊維の製造工程の収率を向上するため高炭化収率前駆体を混合する。そ

    のために最適な前駆体を見出すことが大きな課題である。高炭化収率前駆体の

    種類としては、炭化収率を高くするために、炭素比率の高いものが望ましい。

    一方でPAN及びPANを溶解する溶媒が高極性物質であるのに対し、炭素

    比率の高い物質の極性は一般的に低くなる。

    また、高極性のポリマー溶液に低極性の物質を混合した場合、低極性の物質

    は反発してしまい、混合することが困難となる。

    そこで本検討では炭化収率が高く、PANとの親和性が高いという2つの特

    性を併せ持つ物質の探索が課題となる。

    (3)製糸技術

    製糸工程(図9の紡糸工程)ではPANの溶液を数μmサイズのフィルター

    で濾過した後に微細な口金の孔から凝固浴に吐出する。PANの添加剤(薬剤、

    高炭化収率前駆体)が均一に溶解/分散していないとフィルター、口金部分で

    目詰まりを起こして安定に製糸することが困難になる。

    また、PANの製糸工程では繊維の配向性を向上させるために延伸処理を行

    う必要があるが、添加剤が均一に溶解/分散していないと延伸工程で糸切れを

    起こすことが考えられる。そこで添加剤の添加手法、均一に分散する手法を開

    発し、製糸工程において連続運転プロセス技術を確立することが課題となる。

    (4)焼成技術

    炭素繊維の焼成工程(図10の耐炎化、炭化工程)では化学構造が大きく変

    化するが、本研究開発では異種の前駆体を混合したPANを耐炎化、炭化処理

    するため、焼成工程で糸切れを起こしやすい(炭素繊維の最終製品は高強度で

    あるが、途中の製造段階ではもろい)と考えられる。そこで本研究開発では焼

    成工程で糸切れを起こすことなく連続運転するプロセスを確立する。またPA

    Nに均一に分散した高炭化収率前駆体は、炭化工程でPAN由来の炭素繊維と

    混合することによって品位の高い炭素繊維が製造される。本研究開発ではPA

    N由来の炭素繊維と高炭化収率前駆体を混合するため、従来法とは焼成条件が

  • 17

    異なる可能性が考えられ、炭素繊維生産条件に適用できるよう条件検討を行う

    必要がある。

  • 18

    B.炭素繊維リサイクル技術の実証研究開発

    炭素繊維リサイクル技術の確立による炭素繊維の製造エネルギーの低減のた

    め、炭素繊維廃材のリサイクルを行うためのパイロットプラントを建設し、炭

    素繊維リサイクル技術の実証研究開発を行った。

    具体的な全体目標・指標、設定理由は表3のとおりとした。

    表3.全体の目標

    目標・指標 設定理由

    炭素繊維廃材を熱分解法によりリサイ

    クルし、リサイクル炭素繊維の収率を

    60%にする、もしくは炭素繊維のエ

    ネルギー原単位を10%減尐させる。

    炭素繊維製造プロセスの目標値をリ

    サイクル炭素繊維によって達成するこ

    とが可能かを検討するため。

    バージン炭素繊維レベルの性能を発現

    するリサイクル炭素繊維を開発する。

    用途開発を進めるためには、バージ

    ン炭素繊維並の性能発現が期待される

    ため。

    本研究開発においては、軽くて強く、燃費の向上などにも役立つ炭素繊維に

    ついて、従来よりも製造エネルギーやCO2排出量が尐ないプロセスを開発する

    ことを目標としている。

    具体的には、熱分解法によるパイロットプラントを建設し、リサイクル炭素

    繊維の収率について、60%を達成、もしくは炭素繊維のエネルギー原単位を

    10%減らすことを目指すものである。

    炭素繊維は、軽くて強いという特性が評価され複合材料強化繊維として、ス

    ポーツ、航空機、産業用途で需要拡大してきている。

    こうした需要拡大と同時に炭素繊維リサイクル技術も確立する必要がある。

    複合材料には熱硬化性樹脂をマトリックス樹脂とするものが圧倒的に多いが、

    熱処理法は、樹脂の種類によらず、比較的制限が尐なく分解することができる

    方法である。

    また、CFRP複合材料からのリサイクル炭素繊維形態としては、粉末状の

    ミルド糸以外にチョップド糸も考えられるが、チョップド糸は、ミルド糸に比

    べて繊維長が6mm程度と長いことから性能発現性が高く、品質保証の要求も

    高い。そのため、原料トレーサビリィティも求められ、リサイクル対象廃材が

    制限される。さらには収束剤などの付加的技術や高次加工技術も必要になると

    考えられる。

    そのため、本研究開発では、多様な廃材材料の均一混合も可能なミルド糸とし

    ての回収技術の開発を行うこととした。

  • 19

    2-1-2 個別要素技術の目標設定

    本研究開発の推進について、表4、表5のとおり個別要素技術の詳細な目標

    を設定した。

    A.炭素繊維製造エネルギーの低減技術の研究開発

    表4.個別要素技術の目標

    要素技術 目標・指標 設定理由・根拠等

    (1)耐炎化促進剤添加に

    よる耐炎化糸の耐炎

    化構造比率向上

    薬剤添加による耐炎化糸

    中ニトリル基の半減(赤外

    吸収スペクトルで224

    0cm-1吸光度の50%

    削減)

    未反応のニトリルの環化及び酸

    化促進により耐炎化が促進でき

    る。

    PANの環化、メチレン鎖

    の酸化比率(耐炎化進行

    度)の向上(赤外吸収スペ

    クトルで1600cm-1

    吸光度10%以上向上)

    耐炎化進行度*6 の向上によって

    炭化収率も向上すると推定し、

    耐炎化の進行度は赤外吸収スペ

    クトルの1600cm-1吸光

    度で判断可能。

    *6 耐炎化構造の生成度合い

    耐炎化糸から炭素繊維を

    得る炭化収率の向上(高炭

    化収率前駆体添加検討と

    合わせて60%まで向上)

    現行の炭化収率が低い要因を考

    慮して妥当と判断した。

    (2)高炭化収率前駆体の

    添加による炭化収率

    向上

    ①PANの炭化収率を向

    上させる高炭化収率前

    駆体の開発

    添加することによってPANの

    炭化収率を向上する添加剤を見

    出すことも、炭化収率の向上に

    は重要と判断した。

    ②高炭化収率前駆体の分

    散性の向上

    1)分散性の良好な前駆体

    の開発

    2)高炭化収率前駆体の分

    散剤の開発

    高炭化収率前駆体をPAN中に

    均一に分散させないと不均一な

    炭素繊維となり機械物性が低下

    する。

    分散性向上のため、分散剤の添

    加も必要と判断した。

  • 20

    ③高炭化収率前駆体の分

    析評価法の確立

    分散状態を正確に評価できる評

    価法が必要となる。

    ④高炭化収率前駆体のナ

    ノレベルまでの微細化

    (ポリマー中平均粒径 1

    100nm以下、繊維中

    に粗大粒子が見られな

    いこと)

    製糸工程の安定化、耐炎化・炭

    化工程後の物性向上のためにナ

    ノレベルまでの微細化が必要

    繊維中に粗大粒子が存在する

    と、そこが起点となって破断す

    るので強度が低下する。

    ⑤高炭化収率前駆体添加

    手法の最適化による実

    用領域での前駆体の均

    一分散性の向上

    PANに高炭化収率前駆体を添

    加する手法の最適化が前駆体の

    分散性に大きく影響すると推定

    されるため検討する。

    (3)製糸技術

    連続運転でフィルター圧

    の上昇が1%以下

    連続運転でフィルター圧上昇が

    見られない場合、安定して繊維

    化することができると判断。

    所定の延伸倍率で連続運

    転しても糸切れが観察さ

    れないこと

    連続運転で糸切れが見られない

    場合、安定して繊維化すること

    ができると判断。

    (4)焼成技術 耐炎化・炭化工程において

    連続運転しても糸切れが

    ないこと

    連続運転で糸切れが見られない

    場合、安定して繊維化すること

    ができると判断。

    炭化収率の向上(炭化収率

    60%の達成)

    耐炎化構造比率の向上技術、高

    炭化収率前駆体の混合技術によ

    って60%まで向上できると判

    断した。

    ・強度:低強度炭素繊維同

    ・弾性率:汎用炭素繊維の

    60%以上

    補強繊維として先行しているガ

    ラス繊維に対して優位性が維持

    できる物性とした。

  • 21

    B.炭素繊維リサイクル技術の実証研究開発

    表5.個別要素技術の目標

    要素技術 目標・指標 妥当性・設定理由・根拠等

    (1)炭素繊維リサイクル

    のプロセスフロー設

    ①リサイクル処理対象物・処

    理能力を決定する。

    リサイクルプロセス・パイ

    ロットプラントの設計に必

    要。

    ②プロセス要素について検

    討し、設備仕様を決定す

    る。

    パイロットプラント設計・

    建設に必要。

    (2)パイロットプラント

    の設計・建設

    用地を選定し、工業レベルで

    実証試験可能な一貫体制の

    プラントを建設する。

    実証研究開発を行うために

    必要。

    (3)工業レベルでの運転

    可能なパイロットプ

    ラント実証運転

    ①各種炭素繊維廃材の適正

    な処理方法・条件を開発す

    る。

    廃材に制限を設けずリサイ

    クル可能範囲を広げるため。

    ②将来、処理対象になる可能

    性がある炭素繊維廃材の

    処理課題明確化する。

    ③ L C I ( Life Cycle

    Inventory)データを採

    取、製造エネルギー(1

    0%削減)、CO2排出(5

    0%削減)の大幅な削減

    効果を実証する。

    バージンミルド炭素繊維の

    現在の製造エネルギーは29

    0MJ/kg、CO2排出量は

    22.5kg/kgである。

    リサイクルミルド炭素繊維

    の製造に当たっては、バージ

    ンミルド炭素繊維と比較し

    て、製造エネルギー・CO2

    排出量の削減効果が予想され

    るため、リサイクル技術によ

    り、その効果を実証する。

    (4)リサイクル品の品質

    評価

    ① バージンミルド炭素繊

    維並みの複合材料性能

    を発現するリサイクル

    ミルド炭素繊維を開発

    用途開発をすすめるために

    バージンミルド繊維並みの性

    能発現が期待される。

  • 22

    する。

    熱可塑性樹脂(ポリカー

    ボネート樹脂)射出成形

    体(繊維重量含有率3

    0%)で、

    【曲げ強度】

    150MPa以上、

    【曲げ弾性率】

    7500MPa以上

    【体積固有抵抗】

    2×1011Ω・m以下

    ② リサイクルミルド炭素

    繊維の仕様を作成する。

    ユーザー評価などをすすめ

    るために必要。

    (5)炭素繊維廃材収集に

    係る検証

    炭素繊維強化樹脂複合材

    料、炭素繊維プリプレグ及

    び炭素繊維の廃材(以下、

    「各種炭素繊維廃材」と言

    う。)の収集地からパイロッ

    トプラント現地への運送、梱

    包・運搬・保管について検証

    する。

    各種炭素繊維廃材収集シス

    テム確立のため、実際に排出

    が予想される企業や地域から

    運送実証をしておく必要があ

    る。

    (6)市場性調査 ユーザー評価等を通じて

    標準品仕様を作成する。

    リサイクルシステム構築・

    事業化のために出口の用途開

    発をすすめるために必要。

  • 23

    3.成果、目標の達成度

    3-1 成果

    3-1-1 全体成果

    A.炭素繊維製造エネルギーの低減技術の研究開発

    「耐炎化促進剤添加による耐炎化糸の耐炎化構造比率の向上」及び「高炭化

    収率前駆体の添加」の2つの手法によって炭化収率を向上する技術の開発を検

    討した。このうち耐炎化糸の耐炎化構造比率の向上による手法は、耐炎化糸の

    耐炎化進行度が向上しても炭化収率には変化が見られず、コンセプトの証明が

    できなかった。そのため、高炭化収率前駆体の添加による手法の検討に集中し

    た。

    本研究開発の結果、高度に微細化した高炭化収率前駆体であるカーボンブラ

    ックをPANに均一に分散させた後に製糸し、耐炎化、炭化することによって

    炭化収率を向上する新プロセスを構築した。

    本プロセスは以下の特徴を有する。

    A)高炭化収率前駆体として、炭素比率が高く、安価、かつ製造エネルギーの

    低いカーボンブラックを使用する(カーボンブラックの製造エネルギーは、

    旭カーボン株式会社からのヒアリングの結果から約30MJ/kgとなる。)。

    B)表面に酸性官能基を有するカーボンブラックを使用し、さらに分散剤を添

    加する。これにより、PANに対する親和性が大きく向上した。

    C)カーボンブラックを重合溶媒(無粘溶媒)に分散させ、高圧ホモジナイザ

    ー処理によって微細化した後にアクリロニトリル、重合開始剤を添加してP

    ANとするため、カーボンブラックはPAN中に均一に分散されており、さ

    らにスケールアップ化にも容易に対応することが可能となる。

    D)カーボンブラックを均一配合したPANはフィルター部の目詰まり、糸切

    れ等を起こすことなく安定して製糸することができる。

    E)カーボンブラックを均一配合したPAN繊維を耐炎化、炭化することによ

    って炭化収率が向上した炭素繊維を得ることができる。

    B.炭素繊維リサイクル技術の実証研究開発

    リサイクルミルド炭素繊維を製造するプロセスの検討・設計やリサイクル設

    備の仕様検討を行い、炭素繊維関連廃棄物を700[トン/年]処理可能なパ

    イロットプラントを福岡県大牟田市エコタウン内の三井鉱山株式会社(現日本

    コークス工業株式会社)所有地に平成18年3月に建設した。

    本パイロットプラントは、次の特徴を有する。

  • 24

    (1)各種炭素繊維廃材及び同各種形態廃材のリサイクルが可能

    (2)炭素繊維廃材の樹脂の分解については、破砕あるいは切断した廃材を窒

    素雰囲気のローラハースキルンへ連続的に供給し、処理、取り出す連続

    熱処理方法を採用。この方法は、分解する樹脂の種類に制約が尐なく、

    大量の廃材を比較的低コストで処理が可能

    本パイロットプラントを用いて実証運転、試作製品評価を行い、炭素繊維関

    連廃材がリサイクル出来ることを明らかにした(図12)。

    図12.炭素繊維協会のリサイクルプロセス

    本研究開発のリサイクルミルド炭素繊維の破砕・熱分解・ミルド化粉砕処理

    の全製造プロセスでのリサイクル収率は、熱分解処理プロセスでの収率により

    決まり、CFRP複合材料及び炭素繊維プリプレグ廃材からの場合の収率は7

    0%強、炭素繊維廃材からのリサイクル収率はほぼ100%であった。また、

    パイロットプラントでの運転データから、リサイクルミルド炭素繊維を500

    トン/年製造時の製造エネルギーは、バージンミルド炭素繊維の290MJ/

    kgから48MJ/kgと、83%削減出来ることが分かった。

    したがって、「炭素繊維のリサイクル収率について、60%を達成、もしくは

    炭素繊維のエネルギー原単位を10%減らす」という目標を達成した。

    また、試作品によるリサイクルミルド炭素繊維の品質評価を行い、熱可塑性樹

    脂射出成形体でバージンミルド炭素繊維並みの機械的・電気的特性が発現され

    ることを確認した。

    切断破砕

    選別

    CF・織物

    CFRP

    プリプレグ 収集

    ミルド化熱分解

    一次破砕 分級

    ミルド繊維短繊維CFRP破砕品

    製品・市場

    処理・製造

    廃材収集

    二次破砕

    切断破砕

    選別

    CF・織物

    CFRP

    プリプレグ 収集

    ミルド化熱分解

    一次破砕 分級

    ミルド繊維短繊維CFRP破砕品

    製品・市場

    処理・製造

    廃材収集

    二次破砕

  • 25

    3-1-2 個別要素技術成果

    A.炭素繊維製造エネルギーの低減技術の研究開発

    (1)耐炎化促進剤添加による耐炎化糸の耐炎構造比率の向上

    PANの環化を促進する試薬及び酸化剤を同時に添加した後に耐炎化処理す

    ることによって、耐炎化糸中の未反応ニトリル基の半減、PANの環化、メチ

    レン鎖の酸化比率を向上させることができた。

    しかしながらこの耐炎化糸を用いて炭化処理を行ったところ、炭化収率は従

    来手法のものと同等になり、収率向上効果は確認できなかった。この原因につ

    いては不明であるが、短期間で原因究明して改善手法を見出すのは困難という

    判断をした。

    (2)高炭化収率前駆体の添加による炭化収率向上

    耐炎化促進剤添加による耐炎化糸の耐炎化構造比率の向上はできなかったが、

    高炭化収率前駆体(カーボンブラック)の配合による炭化収率の向上検討は炭

    素繊維の炭化収率が55%まで向上し、コンセプトを確認することができた。

    高炭化収率前駆体であるカーボンブラックの、均一分散化、ナノサイズ化につ

    いて検討した。特殊なカーボンブラックを使用し、さらに分散剤を添加するこ

    とによってPANとの親和性を向上させた。このカーボンブラックを微細化手

    法によってナノサイズ化に成功し、さらに均一分散後に重合する手法を見出し、

    PANのナノサイズのカーボンブラックを均一分散させることができた。

    PANに混合する高炭化収率前駆体に必要な条件は、炭素比率が高いこと、

    PANと親和性が高く均一に溶解あるいは分散すること、分散する物質の場合

    は粒子径が微細であること、等が挙げられる。

    ① PANの炭化収率を向上させる高炭化収率前駆体の開発

    高炭化収率前駆体として、炭素比率が高く安価な材料としてカーボンブラッ

    クを選択したところ、炭素繊維の炭化収率が55%まで向上した。

    ② 高炭化収率前駆体の分散性の向上

    種々のカーボンブラックについてPANとの親和性を評価した。その結果特

    殊なカーボンブラックを使用すると親油性(低極性)カーボンブラックよりも

    親和性が向上することを見出した。また、親水性カーボンブラックを使用する

    ことによってPANとの親和性は向上したが、添加量を多くするとカーボンブ

    ラック同士の凝集体が確認されるため、さらに親和性を向上させるため分散剤

  • 26

    の添加を検討し、親和性をさらに向上させることに成功した。

    ③ 高炭化収率前駆体の分析評価法の確立

    走査電子顕微鏡を用いて、繊維中の高炭化収率前駆体の分散状態を評価する

    手法を確立することができた。

    ④ 高炭化収率前駆体のナノレベルまでの微細化

    カーボンブラックは通常一次凝集、二次凝集しており、凝集部分が炭素繊維

    物性を低下させる懸念がある。そこでカーボンブラックの凝集を解消するには

    物理的粉砕が必要と考え、微細化手法を検討し、その結果ナノレベルの微細化

    (100nm以下)を達成した。

    ⑤ 高炭化収率前駆体添加手法の最適化による実用領域での前駆体の均一分散

    性の向上

    親和性の高いカーボンブラックを使用し、さらに分散剤を添加することによ

    ってカーボンブラック同士の分散性は大きく向上するが、高粘度なPAN溶液

    と微細粒子(カーボンブラック)の混合では実用領域までスケールアップした

    場合には均一混合に限界があると考えた。そこでカーボンブラックの添加手法

    を最適化することによってスケールアップしてもカーボンブラックが均一分散

    したPANを得る条件を見出した。

    (3)製糸技術

    カーボンブラックを添加剤として配合したPANの製糸を検討した。製糸の

    実用特性を実現するために、製糸時のフィルター圧上昇が見られないこと(フ

    ィルターの目詰まりがないこと)及び製糸工程で糸切れが発生しないことを項

    目として挙げた。

    これは(2)における高炭化収率前駆体の分散性、凝集物の有無に関連する。

    カーボンブラックの分散が不均一な場合及び凝集体が尐量でも存在する場合は

    製糸開始とともにフィルター圧の上昇が見られたが、(2)に示した微細化手法、

    均一分散手法を導入することによって、高炭化収率前駆体のPANに対する親

    和性を大きく向上し、連続運転においてフィルター圧上昇1%以下、かつ延伸

    工程において糸切れも発生させることなく、安定的に製糸する連続プロセスを

    確立することができた。

    (4)焼成技術

    カーボンブラックを均一分散したPAN繊維の焼成(耐炎化、炭化)条件を

  • 27

    検討した。

    安定した焼成工程の確立を目的として、耐炎化、炭化工程それぞれについて

    連続運転で糸切れが見られないことを目標としたが、達成することができた。

    炭化収率については高炭化収率前駆体を配合したPAN繊維の焼成によって5

    5%までの向上を達成することができた。

    また、本研究開発における炭素繊維の目標値は汎用の炭素繊維を参考に、強

    度、弾性率に目標値を設定した。

    これに対して、得られた炭素繊維の物性値は、弾性率については目標を達成

    することができたが、強度については目標値と比較して若干低い値であり、焼

    成条件の検討を適正化する必要があると考えられる。

    これは、焼成工程の条件が最適化されていないためと考えられるので、今後、

    実用化プロセスとして確立するためには、条件の最適化が必要と考えられる。

  • 28

    B.炭素繊維リサイクル技術の実証研究開発

    (1)炭素繊維リサイクルのプロセスフロー設計

    ①処理対象物・処理能力の決定

    炭素繊維関係廃棄物の形態、排出量などについて炭素繊維メーカー各社

    及びその顧客企業に対し実施したアンケート調査に対する52社からの回答

    結果から、リサイクル対象と成り得る炭素繊維廃材を1000トン/年と推定、

    収集量をその70%として、パイロットプラントの処理能力を700トン/年

    とした。

    また、アンケート結果から炭素繊維プリプレグ廃材も相当割合を占めるこ

    とが分ったため、炭素繊維に加えて炭素繊維プリプレグの処理検討も可能な

    プロセスとした。

    ②プロセス要素の検討及び設備仕様

    1)プロセス要素の検討

    プロセス要素の検討を行い、プロセスフローを設計した(図13)。

    図13.炭素繊維協会リサイクルプロセスフロー

    なお、炭素繊維プリプレグについては、離型紙付きで廃棄される場合もあ

    る*7 が、設備仕様を検討する中で、離型紙は破砕や切断段階で、風力選別機

  • 29

    でプリプレグから分別することは難しく、熱分解処理後の離型紙残渣は20

    ~30%あることが分かり、これらは不純物要因になるため、本研究開発で

    は、離型紙付きのプリプレグは処理対象外とした。

    また、CFRP複合材料については、ガラス繊維や金属と貼り合わせたハ

    イブリッド品や塗装品の廃棄も考えられるが、破砕後や熱処理後でも炭素繊

    維とガラス繊維や金属が樹脂や樹脂分解残渣を介在して密着しており適当

    な選別方法が見つからず、さらに塗装は熱分解時の発生ガスの問題や製品へ

    の不純物混入に関しその組成等の確認、検査等も要することから、これらハ

    イブリッド品や塗装品も本研究開発では処理対象外とした。

    *7 炭素繊維プリプレグは、粘着性を維持する等のために離型紙(シリコン等を塗布し、適度に剥離し

    やすくした紙)が貼られた状態で巻かれ出荷される。

    2)設備仕様

    a.プロセス要素検討により、炭素繊維プリプレグは粘着性を有する(未硬化)

    ため、破砕機や切断機の刃に樹脂が付着し、長時間の連続処理が出来なくな

    る。そのため、粘着性を失わせる(タックレス化)前処理をするために熱風

    循環式硬化炉(図13の硬化炉の部分)を設置した。

    b.タックレス化した炭素繊維プリプレグシートや炭素繊維の細片化のために、

    切断速度400回/分の高速切断機(図13の切断の部分)を設置した。

    c.ブロック状に硬化させた炭素繊維プリプレグやCFRP複合材料の破砕に

    は、二軸回転剪断(図14)による一次(粗)破砕機(図13の一次破砕の

    部分)を設置した。

    d.廃材をさらに細片化するため回転刃と固定刃による一軸回転剪断方式の二

    次破砕機(図13の二次破砕の部分)を設置した。破砕機の処理能力は、共

    に150kg/hであり、一次破砕機は、炭素繊維強化樹脂複合材料の航空

    機主翼付け根部厚さと云われる25mmまで破砕可能である(図15)。

    図14.一次破砕機の二軸回転刃 図15.破砕検討用モデルサンプル

    (500×500×25mmt)

    破砕前500×500×25mm

    1次破砕後KS-4080-141H

    2次破砕後U480 スクリーン 13φ

    図3. 25mmt CFRP

    破砕前500×500×25mm

    1次破砕後KS-4080-141H

    2次破砕後U480 スクリーン 13φ

    図3. 25mmt CFRP

  • 30

    e.破砕物の分級のため、振動篩(図13の分級の部分)を設置し、これは

    2段シフターを有し、破砕物を3か所で採集できる(図16)。

    図16.分級機(振動篩)

    f.樹脂分解処理は、N2シール型ローラーハースキルン(図17)による連

    続熱処理法(図13の熱分解処理炉の部分)とした。

    直燃方式の一次脱臭炉と触媒方式による二次脱臭炉を有する排ガス脱臭

    炉を設置した。排ガス脱臭炉の処理能力は、炭素繊維強化エポキシ樹脂換算

    で160kg/hである。

    図17.熱分解処理炉(ローラーハースキルン)

    g.ミルド化粉砕は、衝撃剪断式粉砕(ハンマーミル)による。

    炭素繊維プリプレグ破砕片や炭素繊維は供給ホッパー内でブリッジを起こ

    し、スクリューフィードではサンプルが粉砕室へ送り込まれず、粉砕不能とな

    るため、ブロア吸引方式(図12のミルド化粉砕の部分)とした。

    (2)パイロットプラントの設計・建設

    CFRP複合材料廃棄物を700トン/年処理可能な工場面積1000m2

    のパイロットプラントを福岡県大牟田市エコタウン内の三井鉱山株式会社

  • 31

    (現:日本コ-クス工業株式会社)所有地に平成18年3月に建設し、同年4

    月から立上げ稼働に入った(図18)。

    図18.リサイクルパイロットプラントの外観

    (3)工業レベルでの運転可能なパイロットプラント実証運転

    平成20年の5月、7月、12月の3回、通算3か月実証運転を行った。

    実証内容は以下のとおり。

    ①各種炭素繊維廃材の適正な処理方法・条件開発

    各種炭素繊維廃材について、破砕・切断、熱処理温度・時間・酸素濃度、

    粉砕の条件を検討、適正化した。未硬化炭素繊維プリプレグの前処理につい

    ては方法、条件を検討し、効率的処理への課題を抽出した。

    炭素繊維プリプレグや積層構成によっては一部のCFRP複合材料は、破

    砕により細長い破砕物や炭素繊維毛玉ができやすく、それらが設備、搬送経

    路でのスクリーンやホッパー(貯槽)取り出し口、バルブ、篩等でブリジッ

    ジ(架橋した状態)を形成したり、浮遊したりし、詰まり、停機に至ること

    が分かったので、破砕物ホッパー下部のロータリーバルブ調整・取り外しや

    破砕物分級機のシフター取り外し等の設備改善や処理フローの変更を行っ

    た。

    ②将来処理対象になる可能性がある炭素繊維廃材の処理課題の明確化

    ピッチ系汎用炭素繊維の撚り糸、フェルト及び断熱材ブロックの破砕 試

    験を実施し、回収品の状況を確認した。その結果、撚り糸、フェルトは引き

    ちぎられ嵩高になるだけであり、再度高次加工が必要と考えられた。一方、

    断熱材ブロックは破砕だけでミルド繊維状のものが得られることが分かっ

    た。

    また、金属やガラス繊維との貼り合わせハイブリッド材、塗装品、熱可塑

    性樹脂 複合材料についても試験を行った。ハイブリッド材では不純物や熱

  • 32

    分解残渣混入による製品品質への影響が懸念され、塗装品では熱分解ガスに

    よる設備障害が考えられ、また熱可塑性樹脂複合材料では一般に繊維含有率

    が低いために収率が低下する等の問題点を摘出した。これらの問題を解決す

    るためには、廃材の受入検査体制や廃材から不純物を選別する方法の確立が

    必要等の課題を抽出した。

    ③ LCIデータの採取

    パイロットプラントでの実証運転でLCIデータを採取した結果、バージ

    ンミルド炭素繊維の500トン/年製造時の製造エネルギーとCO2排出量

    がそれぞれ290MJ/kg、22.5CO2・kg/kgであるのに対し

    て、リサイクルミルド炭素繊維の製造エネルギーとCO2排出量は、それぞ

    れ48MJ/kg、3.1CO2・kg/kgとなり、バージンミルド炭素

    繊維製造と比較して、製造エネルギーは83%の削減、CO2排出量は8

    6%削減となった。

    なお、通常のCFRP複合材料のリサイクル収率は、70%強である。

    (4)リサイクル品の品質評価

    ①バージンミルド炭素繊維並みの複合材料性能を発現するリサイクルミルド

    炭素繊維の開発

    リサイクルミルド炭素繊維の嵩密度、繊維長分布、水分率、吸湿率測定、

    炭素濃度、不純物元素分析や熱可塑性樹脂射出成形・引張り、曲げ、電気特

    性等の試作品による評価を行った。その結果、リサイクルミルド炭素繊維を

    使った熱可塑性樹脂複合材料の方が、バージンミルド炭素繊維を使った熱可

    塑性樹脂複合材料よりも、曲げ強度・弾性率、導電率(体積固有抵抗の逆数)

    共に高くなった(表6)。

    表6.熱可塑性樹脂複合材料における性能

    リサイクルミルド

    炭素繊維使用の場合

    バージンミルド

    炭素繊維使用の場合

    曲げ強度(Mpa) 175 149

    曲げ弾性率(MPa) 11,120 7,510

    導電率(S) 1.6×10-9 5.0×10-12

  • 33

    ②リサイクルミルド炭素繊維の仕様作成

    数度にわたる試作品評価実績を基に、標準リサイクルミルド炭素繊維の仕

    様を決めた(表7)。

    表7.代表的ミルド炭素繊維の仕様

    また、現場でリサイクルミルド炭素繊維を簡単に検査する方法について検

    討し、かさ密度の試験方法をマニュアル化した。さらに、混合した繊維長の

    分布データを解析するプログラムを作成した。

    (5)炭素繊維廃材収集に係る検証

    ガラス繊維強化樹脂等の他素材廃棄物の収集システムを調査するとともに、

    炭素繊維関連廃棄物の種類・形態、排出量、処理方法、発生場所などについて、

    炭素繊維メーカー各社及びその顧客企業に対し、アンケート調査を実施した。

    その上で、PAN系やピッチ系炭素繊維及びそれらを使ったプリプレグ、

    CFRP、ピッチ系炭素繊維断熱材・フェルト等の各種廃材サンプルを炭素繊

    維メーカー7社(東レ株式会社、三菱レイヨン株式会社、東邦テナックス株式

    会社、株式会社クレハ、大阪ガスケミカル株式会社、三菱樹脂株式会社、日本

    グラファイトファイバー株式会社)から提供を受け、ユーザーの成形加工企業

    2社からはゴルフシャフトなどの炭素繊維強化樹脂複合材料の製品、その端材

    やプリプレグ端材の廃材を購入した。これらの廃材サンプルは、フレコン、ヘ

    ッシャン袋、ダンボール箱で梱包し、、福島、千葉、東京、静岡、長野、愛知、

    岐阜、大阪、兵庫、香川、愛媛の各都府県から、トラック便や宅急便を使い、

    福岡県大牟田市の倉庫またはリサイクルパイロットプラントへ運送した。

    その上で、廃材サンプルの倉庫からプラントへの運搬方法・梱包方法及び倉

    庫・プラント内での保管方法について検証を行い、本研究開発で採用した廃材

    の梱包・運搬方法については問題がないことを確認した。

    更に、本研究開発で採用した製品の梱包・運搬方法でリサイクルミルド炭素

    0.23-0.50 0.34-0.52 嵩密度 (g/cm3)

    0.12-0.40 0.10-0.33 質量平均

    0.08-0.15 0.06-0.13 数 平均平均繊維長(mm)

    CFCFRP原料廃材

    0.23-0.50 0.34-0.52 嵩密度 (g/cm3)

    0.12-0.40 0.10-0.33 質量平均

    0.08-0.15 0.06-0.13 数 平均平均繊維長(mm)

    CFCFRP原料廃材

  • 34

    繊維を炭素繊維メーカー各社へ送付し、運搬途中での梱包損傷による繊維飛散

    や受取後の製品扱い性に問題がないことを確認した。

    (6)市場性調査

    リサイクルミルド炭素繊維の具体的市場性、今後の課題把握のために計画し

    ていたユーザー評価については、プラント操業実績が尐なく、また品質安定性

    やユーザーへの供給保証もしがたく、実施に至らなかった。

    そこで、ミルド炭素繊維の市場規模・動向について、調査を行い、

    1)2007年時点でミルド炭素繊維とチョップド炭素繊維を合わせた市場は、

    1200トン/年規模で、年率約10%で拡大していることが分かった。

    2)ミルド炭素繊維のリサイクルは多様な炭素繊維関連廃棄物に適用できるメ

    リットが有るが、ミルド炭素繊維市場は拡大途上にあり、同市場に限定し

    たリサイクルの事業性は低く、リサイクルチョップド炭素繊維等を含めた

    製品開発も課題になることが分かった。

    さらに、炭素繊維メーカー各社内でリサイクルミルド炭素繊維の繊維長、異物、

    コンパウンド化・射出成形・品質特性等の評価を行い、平均繊維長は、市販ミ

    ルド繊維の領域であるが、繊維長が数mmと長い物の混入、毛玉、金属の混入

    が多いのが課題として挙がり、市販レベルに至には更なる検討が必要である。

  • 35

    3-1-3 特許出願状況

    本研究開発における特許出願状況については表8及び表9のとおり。

    表8.特許・論文等件数

    論文数 論 文 の 被

    引用度数

    特 許 等 件

    数(出願を

    含む)

    特 許 権 の

    実施件数

    ラ イ セ ン

    ス供与数

    取 得 ラ イ

    センス料

    国 際 標 準

    への寄与

    A.炭素繊

    維製造エネ

    ルギーの低

    減技術の研

    究開発

    0 0 4 0 0 0 0

    B.炭素繊

    維リサイク

    ル技術の実

    証研究開発

    4 0 0 0 0 0 0

    計 4 0 4 0 0 0 0

    表9.特許・論文リスト

    題目・メディア等 時期

    特許 出願 No.2005-354397 2005.12

    炭素繊維前駆体繊維用重合体組成物

    特許 出願 No.2006-183045 2006.07

    炭素繊維前駆体繊維用重合体組成物

    特許 出願 No.2006-337886 2006.12

    炭素繊維前駆体組成物および炭素繊維前駆体繊維の製造方

    特許 出願 No.2007-295149 2007.11

    炭素繊維前駆体組成物および炭素繊維前駆体繊維の製造方

  • 36

    題目・メディア等 時期

    発表 第 21回複合材料セミナー「炭素繊維のリサイクルに関して」 2008.2

    「炭素繊維のリサイクル 炭素繊維協会CFリサイクルの

    取組み」大牟田市主催ビジネスセミナー

    2008.7

    H20 年度土木学会全国大会研究討論会「炭素繊維の環境負荷

    性能とリサイクル」

    2008.9

    第 22 回複合材料セミナー「炭素繊維リサイクル実証試験結

    果報告」

    2008.2

  • 37

    3-2 目標の達成度

    3-2-1 全体目標

    A.炭素繊維製造エネルギーの低減技術の研究開発

    表10.目標に対する成果・達成度の一覧表

    目標・指標 成果 達成度

    耐炎化糸から炭素繊維を製造する際

    の収率を60%にする。

    2つの手法のうち、耐炎化促

    進剤添加による耐炎化糸の

    耐炎化構造比率向上は断念

    した。一方、高炭化収率前駆

    体の添加による炭化収率向

    上については、高炭化収率前

    駆体としてカーボンブラッ

    クが有用であることを見出

    し、さらにカーボンブラック

    の表面改質、分散剤添加、混

    合手法の改良によってスケ

    ールアップ可能な炭素繊維

    製造手法とすることができ

    た。この手法により炭化収率

    が55%まで向上した。

    *8 現在カーボンブラック微細化手

    法、添加手法はラボ段階であり、

    生産スケールでの必要エネルギー

    を算出していないため、炭化収率

    のみへ言及する。

    一部達成

    ・強度:

    低強度炭素繊維同等

    ・弾性率:

    汎用炭素繊維の60%以上

    本研究開発により得られた

    炭素繊維の物性は以下のと

    おりとなった。

    ・強度:目標の90%

    ・弾性率:目標達成

    一部達成

  • 38

    B.炭素繊維リサイクル技術の実証研究開発

    表11.目標に対する成果・達成度の一覧表

    目標・指標 成果 達成度

    炭素繊維廃材を熱分解法により

    リサイクルし、リサイクル炭素

    繊維の炭化収率を60%にす

    る、もしくは炭素繊維のエネル

    ギー原単位を10%減尐させ

    る。

    リサイクル収率は、CFRP

    複合材料・プリプレグでは7

    0%強、炭素繊維廃材からのリ

    サイクル収率はほぼ100%で

    あった。

    リサイクルミルド炭素繊維

    は、バージンミルド炭素繊維に

    対して、製造エネルギーが1

    7%となった。

    達成

    バージン炭素繊維レベルの性能

    を発現するリサイクル炭素繊維

    を開発する。

    リサイクルミルド炭素繊維の

    熱可塑性樹脂射出成形体での、

    曲げ強度、曲げ弾性率、導電率

    がバージンミルド炭素繊維使用

    の場合より高い結果を得た。

    達成

  • 39

    3-2-2 個別要素技術成果

    A.炭素繊維製造エネルギーの低減技術の研究開発

    表12.目標に対する成果・達成度の一覧表

    要素技術 目標・指標

    成果 達成度

    (1)耐炎化促進剤

    添加による

    耐炎化糸の

    耐炎化構造

    比率向上

    薬剤添加による耐炎化糸中

    ニトリル基の半減(赤外吸収

    スペクトルで2240cm-

    1吸光度の 50%削減)

    環化促進剤と酸化剤を同時

    に添加した後に耐炎化する

    ことによって、耐炎化糸の未

    反応ニトリル基を半減する

    ことができた。

    達成

    PANの環化、メチレン鎖の

    酸化比率(耐炎化進行度)の

    向上(赤外吸収スペクトルで

    1600cm-1吸光度1

    0%以上向上)

    環化促進剤と酸化剤を同時

    に添加した後に耐炎化する

    ことによって耐炎化を促進

    することができた。

    達成

    耐炎化糸から炭素繊維を得

    る炭化収率の向上(高炭化収

    率前駆体添加検討と合わせ

    て60%へ向上)

    炭化収率の向上は確認でき

    なかった。

    未達成

    (2)高炭化収率前

    駆体の添加

    による炭化

    収率向上

    ①PANの炭化収率を向上

    させる高炭化収率前駆体

    の開発

    炭化収率を向上する高炭化

    収率前駆体としてカーボン

    ブラックを見出した。

    達成

    ②高炭化収率前駆体の分散

    性の向上

    1)分散性の良好な前駆体の

    開発

    2)高炭化収率前駆体の分散

    剤の開発

    1)特殊なカーボンブラック

    の使用によりPANとの親

    和性が向上し、PAN中での

    分散性が向上することを見

    出した

    2)分散剤の添加によってさ

    らにPANとの親和性が向

    上し、PAN中でのカーボン

    ブラック同士の凝集を抑え、

    分散性がさらに向上するこ

    とを見出した。

    達成

    ③高炭化収率前駆体の分析 走査電子顕微鏡によってP 達成

  • 40

    評価法の確立

    AN中のカーボンブラック

    を分析する方法を確立した。

    ④高炭化収率前駆体のナノ

    レベルまでの微細化

    (ポリマー中平均粒径10

    0nm以下で、繊維中に粗

    大粒子が見られないこと)

    カーボンブラックを分散さ

    せた後に微細化手法によっ

    て50~70nmの微細化

    を達成した。

    達成

    ⑤ 高炭化収率前駆体添加

    手法の最適化による実

    用領域での前駆体の均

    一分散性の向上

    最適なカーボンブラック添

    加手法を見いだし、ポリマー

    中の分散性が大きく向上す

    ることを見いだした。

    達成

    (3)製糸技術 連続運転でフィルター圧の

    上昇が1%以下

    カーボンブラック混合PA

    Nの製糸で連続運転したが

    フィルター圧の上昇は全く

    見られず、スケールアップ可

    能な製糸手法を見出した。

    達成

    所定の延伸倍率で連続運転

    しても糸切れが観察されな

    いこと

    カーボンブラック混合PA

    Nを糸切れすることなく連

    続運転でき、スケールアップ

    可能な製糸手法を見出した。

    達成

    (4)焼成技術 耐炎化・炭化工程において連

    続運転しても糸切れがない

    こと

    カーボンブラック混合PA

    N繊維を糸切れさせること

    なく炭素繊維とすることが

    可能となり、スケールアップ

    可能な焼成法を見出した。

    達成

    炭化収率の向上(炭化収率6

    0%の達成)

    耐炎化構造比率の向上検討

    は断念したが、高炭化収率前

    駆体の混合手法により炭化

    収率55%まで向上した。

    一部

    達成

    ・強度:低強度炭素繊維同等

    ・弾性率:汎用炭素繊維の6

    0%以上

    ・強度:目標の90%

    ・弾性率:目標達成

    一部

    達成

  • 41

    B.炭素繊維リサイクル技術の実証研究開発

    表13.目標に対する成果・達成度の一覧表

    要素技術 目標・指標

    成果 達成度

    (1)プロセス

    フロー設

    ①リサイクル処理対象物・

    処理能力を決定する。

    炭素繊維メーカー等へのア

    ンケート調査結果を基に、パイ

    ロットプラントの炭素繊維廃

    材処理能力を700トン/年

    と設定した。また、CFRP複

    合材料だけでなく、炭素繊維や

    炭素繊維プリプレグ廃材も処

    理対象とした。

    また、

    達成

    ②プロセス要素について検

    討し、設備仕様を決定す

    る。

    プロセス検討を行い、プロセ

    スフローを決定した。

    また、切断、破砕、熱処理、

    粉砕について検討し、プリプレ

    グの前処理硬化炉、高速切断

    機、1次・2次破砕機、分級機、

    熱分解処理炉・排ガス脱臭炉及

    びミルド化粉砕機の設備仕様

    を決定した。

    達成

    (2)パイロッ

    トプラン

    ト の 設

    計・建設

    用地を選定し、工業レベル

    で実証試験可能な一貫体制

    のプラントを建設する。

    福岡県大牟�