③バイオディーゼル燃料使用時における新長期規制適合車の ......軽油 bdf_a...

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③バイオディーゼル燃料使用時における新長期規制適合車の 排出ガス性能評価とアンケート調査による使用実態の把握 環境研究領域 ※川野 大輔 水嶋 教文 石井 近年のバイオ燃料に対する関心の高まりを背景と して、バイオディーゼル燃料を製造・利用する事業者 が増加している。しかし、通常の軽油と燃料性状が異 なる上に、バイオディーゼル燃料の製造地域間でも燃 料性状が異なるため、車両の安全・環境性能の悪化を 引き起こすおそれがある。 ここでは、各地域で製造・使用されている複数のバ イオディーゼル燃料を新長期規制適合車で使用し、燃 料性状の違いが排出ガス性能に与える影響を調査す るとともに、バイオディーゼル燃料の使用実態把握を 目的としたアンケート調査を行った結果を報告する。 使 日本では、各地域で回収した廃食用油を原料として バイオディーゼル燃料を製造・利用する地産地消の取 り組みが行われている。しかし、廃食用油の品質やバ イオディーゼル燃料製造施設の違いにより、燃料性状 が製造地域間で異なるのが現状である。 そこで本実験では、新長期規制適合車に各地域で製 造されたバイオディーゼル燃料を適用し、燃料性状の 差異が車両の排出ガス性能に及ぼす影響を調査した。 本試験で使用した車両の諸元を表 1 に示す。本車両 は、排出ガスの後処理装置として酸化触媒(DOCとディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)が装 着された塵芥車である。 試験燃料の性状を表 2 に示す。本実験では、北海道、 関西地方、九州地方の比較的大規模な製造施設で製造 された 3 種のバイオディーゼル燃料を用いた。さら に、比較対象として従来の軽油も用い、JE05 モード による排出ガス測定試験を行った。 NOx 排出量の測定結果を図 1 に示す。いずれのバ イオディーゼル燃料においても軽油に対して約 3 程度増加し、新長期規制値(平均値)を超える結果と なった。これは、バイオディーゼル燃料の使用により 燃焼特性が変化するため、特に加減速時において NOx 排出濃度が増加したことが原因であるものと考 えられる。ただし、これは EGR 率の増加のみで十分 改善できる程度であり、加えて製造地域の違いによる 影響は明確に表れなかった。 なお、 PMCO、および NMHC に関しては、 DPF DOC で十分低減されるため、どの燃料を用いても 極めて低い排出量であった。したがって、バイオディ ーゼル燃料使用時には軽油と比較して NOx 排出量の み若干増加し、バイオディーゼル燃料の性状の地域差 による影響は少ないことがわかった。 1 車両諸元 車両タイプ 塵芥車 車両型式 PDG-FE73D 最大積載量 2,000 kg 車両総重量 6,435 kg エンジン型式 4M50 (T4) 総排気量 4,899 cm 3 最大出力 150 kW 最大トルク 441 Nm 変速機 4 AT 後処理装置 DOC, DPF 排出ガス規制 新長期規制 (2005) 2 燃料性状 軽油 BDF_A BDF_B BDF_C 密度(15 ) g/cm 3 0.8275 0.8843 0.8849 0.8844 動粘度 mm 2 /s 3.777 (30 ) 4.534 (40 ) 4.689 (40 ) 4.460 (40 ) 引火点 66.0 168.0 115.0 126.0 セタン価 57.2 52.4 52.6 52.5 蒸留性状 IP 170.0 255.0 285.5 272.5 50 % 282.5 352.0 352.5 351.5 EP 354.0 CHO wt.% C 85.9 77.0 76.8 76.8 H 13.9 12.2 12.2 12.1 O 0.2 10.8 11.0 11.1 低位発熱量 kJ/kg 42850 37170 37000 36900 流動点 -22.5 -12.5 -15.0 -5.0 硫黄分 ppm 4.76 2.0 3.3 1.3 –146–

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Page 1: ③バイオディーゼル燃料使用時における新長期規制適合車の ......軽油 BDF_A BDF_B BDF_C 燃料種 NOx g/kWh 新長期規制平均値 新長期規制上限値

③バイオディーゼル燃料使用時における新長期規制適合車の 排出ガス性能評価とアンケート調査による使用実態の把握

環境研究領域 ※川野 大輔 水嶋 教文 石井 素

1.はじめに 近年のバイオ燃料に対する関心の高まりを背景と

して、バイオディーゼル燃料を製造・利用する事業者

が増加している。しかし、通常の軽油と燃料性状が異

なる上に、バイオディーゼル燃料の製造地域間でも燃

料性状が異なるため、車両の安全・環境性能の悪化を

引き起こすおそれがある。 ここでは、各地域で製造・使用されている複数のバ

イオディーゼル燃料を新長期規制適合車で使用し、燃

料性状の違いが排出ガス性能に与える影響を調査す

るとともに、バイオディーゼル燃料の使用実態把握を

目的としたアンケート調査を行った結果を報告する。 2.バイオディーゼル燃料使用時の排出ガス性能

2.1.実験概要 日本では、各地域で回収した廃食用油を原料として

バイオディーゼル燃料を製造・利用する地産地消の取

り組みが行われている。しかし、廃食用油の品質やバ

イオディーゼル燃料製造施設の違いにより、燃料性状

が製造地域間で異なるのが現状である。 そこで本実験では、新長期規制適合車に各地域で製

造されたバイオディーゼル燃料を適用し、燃料性状の

差異が車両の排出ガス性能に及ぼす影響を調査した。 2.2.実験装置および方法 本試験で使用した車両の諸元を表 1に示す。本車両は、排出ガスの後処理装置として酸化触媒(DOC)とディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)が装着された塵芥車である。 試験燃料の性状を表 2に示す。本実験では、北海道、関西地方、九州地方の比較的大規模な製造施設で製造

された 3 種のバイオディーゼル燃料を用いた。さらに、比較対象として従来の軽油も用い、JE05モードによる排出ガス測定試験を行った。 2.3.実験結果

NOx 排出量の測定結果を図 1に示す。いずれのバイオディーゼル燃料においても軽油に対して約 3 割程度増加し、新長期規制値(平均値)を超える結果と

なった。これは、バイオディーゼル燃料の使用により

燃焼特性が変化するため、特に加減速時において

NOx 排出濃度が増加したことが原因であるものと考えられる。ただし、これはEGR率の増加のみで十分改善できる程度であり、加えて製造地域の違いによる

影響は明確に表れなかった。 なお、PM、CO、およびNMHCに関しては、DPFやDOCで十分低減されるため、どの燃料を用いても極めて低い排出量であった。したがって、バイオディ

ーゼル燃料使用時には軽油と比較してNOx排出量のみ若干増加し、バイオディーゼル燃料の性状の地域差

による影響は少ないことがわかった。 表 1 車両諸元

車両タイプ 塵芥車 車両型式 PDG-FE73D 最大積載量 2,000 kg 車両総重量 6,435 kg エンジン型式 4M50 (T4) 総排気量 4,899 cm3 最大出力 150 kW 最大トルク 441 Nm 変速機 4速 AT 後処理装置 DOC, DPF 排出ガス規制 新長期規制 (2005)

表 2 燃料性状 軽油 BDF_A BDF_B BDF_C

密度(15 ℃) g/cm3 0.8275 0.8843 0.8849 0.8844

動粘度 mm2/s 3.777 (30 ℃)

4.534 (40 ℃)

4.689 (40 ℃)

4.460 (40 ℃)

引火点 ℃ 66.0 168.0 115.0 126.0 セタン価 57.2 52.4 52.6 52.5

蒸留性状 ℃

IP 170.0 255.0 285.5 272.5 50 % 282.5 352.0 352.5 351.5 EP 354.0 - - -

CHO wt.%

C 85.9 77.0 76.8 76.8

H 13.9 12.2 12.2 12.1

O 0.2 10.8 11.0 11.1 低位発熱量 kJ/kg 42850 37170 37000 36900 流動点 ℃ -22.5 -12.5 -15.0 -5.0 硫黄分 ppm 4.76 2.0 3.3 1.3

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図 1 NOx排出量(JE05モード)

3.バイオディーゼル燃料の使用実態 3.1.調査概要 バイオディーゼル燃料に関するアンケート調査は

行われているものの、調査対象が極めて少ないことか

ら、使用実態を十分に把握できているとは言えない。 そこで、自動車検査証備考欄に「廃食用油燃料併用」

等が記載された車両の使用者(4,651件)全員に対し、バイオディーゼル燃料の使用等に関するアンケート

調査用紙を郵送し、使用実態調査を実施した。 3.2.アンケート調査結果 バイオディーゼル燃料を使用する際の軽油との混

合割合に関する調査結果を図 2に示す。「バイオディーゼル燃料 100%(軽油への混合なし)」が、現在バイオディーゼル燃料を使用している887件のうち821件で 9割近くを占めており、軽油と混合して利用している例は極めて少ない。 バイオディーゼル燃料を使用した際の車両の不具

合発生状況に関する調査結果を図 3に示す。「燃料フィルタの目詰まり」が 406 件の約 25%と最も多く、それ以外ではエンジン出力や始動性の低下が目立つ。

エンジン出力や始動性の低下、エンジン回転不安定の

原因は、主に燃料フィルタや燃料噴射ポンプの目詰ま

りと考えられることから、不具合のほとんどがバイオ

ディーゼル燃料の低い低温流動性や、残留グリセリン

や反応触媒等の不純物の混入による燃料噴射系の不

具合であることがわかる。

4.まとめ 製造地域の異なる複数のバイオディーゼル燃料を

用いて新長期規制適合車の排出ガス性能を調査した

結果、いずれのバイオディーゼル燃料でも軽油に比べ

図 2 軽油との混合割合

図 3 車両の不具合発生状況 てNOx排出量が増加するが、いずれの排出ガス成分においても、バイオディーゼル燃料の違いによる影響

は見られなかった。 バイオディーゼル燃料の使用実態把握を目的とし

たアンケート調査を行った結果、使用者のほとんどが

軽油に混合しないままバイオディーゼル燃料を使用

していた。それ故、特に燃料噴射系の不具合が多数発

生していることがわかった。 なお本調査は、平成 21年度の国土交通省受託事業

「新燃料の安全性・低公害性評価事業」で行われた。

NOx g/kWh

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

軽油 BDF_A BDF_B BDF_C

燃料種

NO

x g/

kWh 新長期規制平均値

新長期規制上限値

1.691.68

2.212.15 2.232.19 2.122.18

821

30 4610

0

100

200

300

400

500

600

700

800

900

バイオディ�ゼル燃料

100%�軽油への混合

なし�

バイオディ�ゼル燃料

5%以下

その他

無回答・無効

軽油との混合割合(複数回答あり)

有効回答数 887

利用者数

406

129

88

144 144

65

22

142

415

0

50

100

150

200

250

300

350

400

450

燃料フィルタの目詰まり

燃料噴射ポンプの目詰まり

燃料供給系部品の劣化�膨潤�腐食

エンジン出力の低下

エンジン始動性の低下

エンジン回転不安定

エンジンの焼き付き

その他の症状�自由記述�

無回答・無効

不具合発生の有無(複数回答あり)

有効回答数 1,021

利用者数

–147–