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72 24 6 6.1 6.1.1 トルコは世界における小麦の主要生産国の一つである。2007 年、2008 年は相次いで干ばつが発生し、 小麦生産に大きな影響が現れたが、2009 年以降は比較的順調で、2011 年の小麦生産量は 2,180 万トンと 過去 10 年間で最高の水準に達した。小麦生産面積は、 2006 年以降は 800 万ヘクタール強に縮小しており、 2011 年の生産量は主に単収の伸びによって支えられている(次頁表 47 参照)。2011 年は綿花価格の高騰 により綿花作付けが拡大したために、作付面積はやや減少がみられた。しかし、その後綿花の国際相場が 値崩れしたため、2012 年の作付けは小麦やトウモロコシが多少増加している。 小麦単収は 2011 年に 1 ヘクタールあたり一般小麦で 2.7 トン、デュラム小麦で 2.9 トンと、特に一般 小麦は EU(一般小麦 6.5 トン、デュラム小麦 3.3 トン)に比べて少ない。 小麦生産の大部分は一般小麦で、1 割弱が飼料用に用いられるが、ほとんどは食用である。食用につい ては、およそ半分程度が製粉所で小麦粉として製粉されている。 小麦生産のうち、デュラム小麦が 1718%程度を占める。デュラム小麦は 3~4 割が伝統的なブルグル (ひき割り小麦)向け、また 3 割程度がパスタ向けとなっている(残りは製粉・種子等)。 25 トルコの小麦生産量の推移 出所)トルコ統計研究所(TUIK

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6.1.1

トルコは世界における小麦の主要生産国の一つである。2007 年、2008 年は相次いで干ばつが発生し、

小麦生産に大きな影響が現れたが、2009 年以降は比較的順調で、2011 年の小麦生産量は 2,180 万トンと

過去 10年間で最高の水準に達した。小麦生産面積は、2006年以降は 800万ヘクタール強に縮小しており、

2011 年の生産量は主に単収の伸びによって支えられている(次頁表 47 参照)。2011 年は綿花価格の高騰

により綿花作付けが拡大したために、作付面積はやや減少がみられた。しかし、その後綿花の国際相場が

値崩れしたため、2012 年の作付けは小麦やトウモロコシが多少増加している。

小麦単収は 2011 年に 1 ヘクタールあたり一般小麦で 2.7 トン、デュラム小麦で 2.9 トンと、特に一般

小麦は EU(一般小麦 6.5 トン、デュラム小麦 3.3 トン)に比べて少ない。

小麦生産の大部分は一般小麦で、1 割弱が飼料用に用いられるが、ほとんどは食用である。食用につい

ては、およそ半分程度が製粉所で小麦粉として製粉されている。

小麦生産のうち、デュラム小麦が 17~18%程度を占める。デュラム小麦は 3~4 割が伝統的なブルグル

(ひき割り小麦)向け、また 3 割程度がパスタ向けとなっている(残りは製粉・種子等)。

図 25 トルコの小麦生産量の推移

出所)トルコ統計研究所(TUIK)

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表 47 トルコの小麦生産の推移

計 一般小麦 デュラム小麦

作付面積 生産量 単収 作付面積 生産量 単収 作付面積 生産量 単収

千 ha 千 t t/ha 千 ha 千 t t/ha 千 ha 千 t t/ha

1997 9,340 18,650 2.02 1998 9,400 21,000 2.26 1999 9,380 18,000 1.94 2000 9,400 21,000 2.29 2001 9,350 19,000 2.08 2002 9,300 19,500 2.10 2003 9,100 19,000 2.10 2004 9,300 21,000 2.27 7,200 16,000 2.23 2,100 5,000 2.39

2005 9,250 21,500 2.33 7,250 17,000 2.35 2,000 4,500 2.26

2006 8,490 20,010 2.36 6,980 16,510 2.37 1,510 3,500 2.32

2007 8,098 17,234 2.17 6,743 14,525 2.20 1,355 2,709 2.02

2008 8,090 17,782 2.35 6,750 15,000 2.33 1,340 2,782 2.08

2009 8,100 20,600 2.57 6,765 16,860 2.51 1,335 3,740 2.85

2010 8,103 19,674 2.44 6,769 16,224 2.41 1,334 3,450 2.60

2011 8,096 21,800 2.70 6,758 17,950 2.67 1,338 3,850 2.88 出所)トルコ統計研究所(TUIK)

表 48 トルコのデュラム小麦の需給表

単位)千 t

2009/2010 2010/2011推計 2011/2012予測*

供給

生産量 3,740 3,450 3,140

ロス・廃棄 299 276 251

純生産量 3,441 3,174 2,889

輸入 25 91 30

デュラム小麦 22 89 27

デュラム小麦製品 3 2 3

期首在庫 824 978 1,099

供給計 4,290 4,243 4,018

需要

種子 267 267 268

パスタ 541 567 580

ひき割り小麦 1,100 1,050 1,120

セモリナ粉 184 179 190

製粉 500 480 520

国内需要計 2,592 2,543 2,678

輸出 720 601 800

デュラム小麦 361 60 300

デュラム小麦製品 359 541 500

需要計 3,312 3,144 3,478

期末在庫 978 1,099 540

出所)トルコ農業経済・政策開発研究所(TEPGE)

注)*入手可能な最新の報告書であるが、2001/2012 年は予測値となっている。表 47 のトルコ統計研究所(TUIK)の 2011 年の数

値は確定値である点に注意されたい。

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トルコの主な小麦生産地域は 地中海沿岸のチュクロヴァ(Çukurova)、ハタイ(Hatay)、中央アナト

リア地域のコンヤ(Konya)、アンカラ(Ankara)、南東部アナトリア等である。デュラム小麦では、南東

部アナトリアの重要性が高い。

図 26 トルコの主要な小麦生産地域

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6.1.2

トルコでは、小麦生産に対して政府買付による市場介入と、生産者に対する直接支援、関税とその減免

等の国境措置の 3 つの方面から支援を行っている。

政府買付による市場介入は、価格の急低落を防止することを目的に、トルコ穀物公社(TMO)が生産者

から小麦を買い付けることにより実施される。介入の度合いはトルコにおける農業政策改革の進展によっ

て全体的には下がってきたが、好天候により生産が過剰であった 2005 年や、国際相場が下落した 2009

年などには、生産量の約 2 割をトルコ穀物公社(TMO)が買付け、価格に対して相応の影響を与えた。政

府はトルコ穀物公社(TMO)を、調達から市場統制の方向に転換する方針を示している。トルコ穀物公社

(TMO)はまた、国内不足時には入札により輸入小麦の買い付けも行う。

表 49 トルコ穀物公社(TMO)買付による小麦市場への介入状況

小麦生産量 TMO買付量 TMO売渡量 TMO 買付量の生産量に

占める割合(%)

(千 t)

1996 18,500 632 102 3.4

1997 18,650 3,435 93 18.4

1998 21,000 5,212 2,073 24.8

1999 18,000 4,208 2,280 23.4

2000 21,000 2,959 2,311 14.1

2001 19,000 1,459 2,039 7.7

2002 19,500 333 1,279 1.7

2003 19,000 545 604 2.9

2004 21,000 2,023 1,022 9.6

2005 21,500 4,171 2,744 19.4

2006 20,010 1,457 3,043 7.3

2007 17,234 122 1,003 0.7

2008 17,782 63 535 0.4

2009 20,600 3,771 732 18.3

2010 19,674 980 1,538 5.0

2011 21,800 824 1,060 3.8

2012 19,500 1,628 455 8.3

出所)トルコ穀物公社(TMO)

トルコ政府は、2005 年に油糧種子、オリーブ、綿花、穀物、茶等、政府が国内生産が不足していると考

える分野に対して、「プレミアム」と呼ばれる補助金を支払う制度を導入した。毎年農家が作付けを決める

段階頃に発表され、農家の作物選択の指標の一つとなっている。小麦では、2012 年は 50 リラ/トンであ

った。この他に、正規の認証済み種子の使用や、土壌分析、ディーゼル燃料、肥料等に対する補助として、

ヘクタールあたりそれぞれ 25~60 リラが支払われている。(次頁表 50 参照) なお、認証種子の生産・

流通は主に政府機関である農業公社(TIGEM)によって管理されている。

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表 50 トルコの小麦生産に係る政府補助

プレミアム支払 正規種子補助

(リラ/ha)

土壌分析補助

(リラ/ha)

ディーゼル補助

(リラ/ha)

肥料補助

(リラ/t) (リラ/t) (リラ/ha) *

2005 - - 50 - 24.0 16.0

2006 30 71 50 10.0 - -

2007 35 76 50 10.0 28.8 21.3

2008 40 94 45 10.0 28.8 21.3

2009 45 115 50 22.5 29.3 38.3

2010 50 122 50 25.0 32.5 42.5

2011 50 135 60 25.0 37.5 47.5

2012 50 125 60 25.0 40.0 50.0

出所)USDA FAS 2012 年 5 月 11 日付 Turkey Grain and Feed Annual 2012

注)*平均単収を掛けた参考値 2012 年は約 2. 5kg/ha と想定

なお、米国小麦協会は、トルコは WTO において小麦に対する助成合計量(AMS)の上限はゼロパーセ

ントとなっているにもかかわらず、トルコ政府が WTO への報告を十分に行っておらず、また政府買い入

れと小麦生産に対する政府補助によって小麦の AMS は 55 億ドルとの推計で、上限を上回っていると指摘

している。44

関税の賦課と減免

トルコの小麦の譲許関税は 180%で、実行関税率は現在 130%である(種子用は 0%)。

ただし、不足が生じた場合は、国営穀物公社と政府は協力し合い希望する関税に引き下げることができ

る。例えば、2011 年 2 月 25 日~5 月 1 日まで、関税は 0%に引き下げられている。

また、小麦製品について、小麦粉の関税率は 82%と高く設定されている。一方、パスタの輸入は EU 及

び後発発展途上国から 0%、発展途上国から 4.1%、その他から 7.7%となっている。

国内加工制度(Inward Processing Regime)

トルコでは、EU との関税同盟結成に伴って、従前の輸入インセンティブ制度を廃止し、1996 年に新た

に国内加工制度(Inward Processing Regime)を導入した。これは、輸出を促進するために原料に対する

関税を免除する制度であり、小麦貿易において、広く用いられている。

ただし、認定料が必要で、これが 2012 年 5 月現在で 45 米ドル/トンであるが、2011 年末には 80 米ド

ル/トンであるなど、金額が大きく変動する点も輸入に与えるインパクトが大きい。45

EU からの小麦輸入の無税枠関税割当

EU からの小麦輸入については、無税の関税割当枠がある。

44

US Wheat Associates, 2011, 2012 National Trade Estimate Report Foreign Trade Barriers http://www.uswheat.org/mobile/tradePolicy/doc/0EF8613F9C6A8E898525793E00446542/$File/USW%20NTE%202012.pdf?OpenElement 45

USDA FAS 2012 年 5 月 11 日付 Turkey Grain and Feed Annual 2012

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6.1.3

ロシア、カザフスタン、ウクライナ、リトアニア等のタンパク含有量の高い小麦を国産小麦に混ぜて、

小麦粉の品質を高める方法が一般的に用いられている。ロシア等からは Samsun 港を経由して陸路で各地

の製粉所に運ばれる。輸入量は国内産小麦の品質改良等の影響もあって一時期減少したが、2007 年、2008

年の干ばつの際に大きく増加に転じた後は、堅調な国内需要や、小麦粉とパスタの輸出需要増大に伴い、

国内生産が回復したにもかかわらず輸入量は更に増加した。2011 年は約 480 万トンの輸入がみられた。

輸出は平均的に少ないが、状況に応じて大きく変化しており、2010 年は 100 万トンであったが、2011

年は 5 千トンに留まった。

表 51 トルコの小麦輸入量の推移

千トン

2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011

世界計 1,098 1,846 1,065 136 240 2,147 3,708 3,392 2,554 4,755

ロシア 395 596 153 51 56 976 1,647 2,092 1,433 1,777

米国 20 55 164 2 20 46 19 28 260 901

ウクライナ 29 24 13 0 1 28 101 192 73 578

カザフスタン 205 535 74 77 121 675 991 260 438 289

ブラジル 0 0 71 0 0 0 0 0 0 260

ドイツ 217 428 35 0 0 141 123 356 49 224

アルゼンチン 41 0 21 0 0 0 0 0 0 165

パラグアイ 0 0 12 0 0 0 0 0 0 103

リトアニア 24 38 0 0 0 0 72 111 68 102

出所)国際貿易センター(ITC)

注 HS1001 類(メスリンを含む)

図 27 トルコにおける小麦の流通経路

出所)プロマーコンサルティング

製粉所

生産者

TMO 流通業者

輸入業者

加工企業

卸・小売り

消費者

輸出企業

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6.1.4

トルコの小麦市場は輸入関税によって国際市場から隔離されており、平均的に見れば EU や米国に比べ

て高い水準となっている(下図 28 参照)。さらに労賃や肥料・燃料価格の上昇に合わせて上昇傾向にある。

なお、トルコでは、一般小麦とデュラム小麦では単収に差が無く、ほとんど価格も変わらないか、デュラ

ム小麦がやや安い水準となっており、これはデュラム小麦の単収が一般小麦の約半分で価格が常に高い

EU とは反対の構造である。

国際的な小麦価格は 2007 年から 2008 年にかけて大きく上昇したが、生産が限られており飼料用途の無

いデュラム小麦は特に需給がひっ迫しやすく、EU のデュラム小麦価格は 2008 年には 2006 年に比べて

2.5 倍の高値となった。トルコは国際市場に比べると価格の伸びが緩やかで、2008 年は 1 トンあたり 400

ドルと EU に比べると 2 割安い水準となった。このためトルコ産パスタの価格競争力が高くなったが、こ

の年は日本向けの輸出も急増した年と重なる。

その後、EU のデュラム小麦価格は 2009 年、2010 年とやや落ち着きをみせたため、トルコ産のデュラ

ム小麦価格は再び EU 価格を上回った。しかし、2011 年、2012 年と国際的な供給不安定を背景に、デュ

ラム小麦価格は再び大きくジャンプしたため、2011 年平均ではトルコ産と EU 産でほぼ同じ価格となった。

トルコの小麦生産農家は大部分が小規模であり、中長期的にみて国際的なコスト競争力に欠けており、

今後もトルコ産デュラム小麦が価格競争力を常に維持するというのは容易ではないと考えられる。

図 28 トルコの小麦価格の推移と国際比較

出所) トルコ-トルコ統計研究所(TUIK)、穀物取引所価格

EU-EUROPA、市場価格(AGRIVIEW のデータベースを活用したもので、EU の全ての生産国の加重平均。)

米国-IMF、米国 No.1 Hard Red Winter, ordinary protein FOB 価格

100

200

300

400

500

2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011

$/t

トルコ-小麦平均

トルコ-一般小麦

トルコ-デュラム

EU-一般小麦飼料用

EU-一般小麦パン用

EU-デュラム

米国-一般小麦FOB

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一般小麦における比較であるが、トルコの小麦は単収が低く、生産コストが EU平均と比べて 2倍近い。

農家の平均的な小麦作付面積が 13 ヘクタールと小さく、農家の収益は小さい。

表 52 一般小麦生産コストの比較(2008/09 年)

トルコ平均 中央アナトリア EU

小麦単収 kg/ha 2,200 3,887 5,630

小麦農家経営面積規模 ha/戸 25.5 33.5 86.3

小麦作付面積 ha/戸 12.8 18.7 41.7

ヘクタール当たり小麦収入 €/ha 694 1,180 925

農家当たり小麦収入 € 8,882 22,013 38,577

小麦生産コスト €/kg 0.202 0.228 0.113

農家当たり純収入 € 3,191 5,751 12,048

出所)(Arisoy & Eraktan 2011)

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6.2

6.2.1

生産能力は多岐に及ぶが、およそ 700 の小麦粉の製粉工場があり、中には 1 日あたりの小麦取扱量が

1,000 トンに達する大規模な施設もある。

図 29 トルコの小麦粉・メスリン粉の生産量の推移

出所)トルコ統計研究所(TUIK)

6.2.2

トルコの製粉業者は輸出用には高品質の小麦を用いない。国内用のパンやその他焼成製品用には高品質

小麦(通常 12%以上のタンパク含有率を持つ)を輸入し、低品質の国内産小麦を輸出市場用の小麦粉用と

する傾向がある。主な輸出先はイラク、インドネシア、フィリピン、リビア等となっている。トルコ産小

麦産業の主な競合国はカザフスタンであるが、同国の輸出先は近隣諸国でありその市場の多様性は非常に

限られている。トルコの製粉業者は新たな市場を模索しており南米及びアフリカにおける市場シェアの拡

大を狙っている。

表 53 トルコの小麦粉輸出量の推移

千トン

2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011

世界計 249 593 786 1,980 1,250 1,217 1,212 1,807 1,843 1,985

イラク 0 46 198 1,148 531 481 441 791 825 842

インドネシア 17 28 28 49 74 162 249 443 462 376

リビア 17 106 88 229 180 213 172 49 1 164

フィリピン 0 1 1 2 8 1 31 104 100 105

イスラエル 48 61 66 31 55 35 44 54 19 46

ガンビア 0 9 20 17 35 35 8 20 36 42

タイ 0 0 0 1 6 2 18 30 37 38

マダガスカル 12 5 0 17 18 7 0 15 32 37

パレスチナ 2 3 4 1 10 14 4 13 17 25

ケニア 0 0 0 0 2 7 3 7 11 25

出所)国際貿易センター(ITC)

注 HS1101 類(メスリンを含む)

トン

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6.3

6.3.1

トルコでは 1920 年に初めてセモリナ粉とマカロニの工場が設立されたが、これはトルコで設立された

最初の食品産業の一つに数えられる。パスタは栄養価、食味、用途、価格、保存性等の特徴によって、ト

ルコで最も人気のある主食の一つである。プレーンタイプ及びビタミン強化マカロニがトルコで最も人気

のある種類である。近年では野菜(トマト、ホウレンソウ)及び卵入りマカロニも生産されている。

パスタの原材料はデュラム小麦で、他の小麦の混入は法律で禁じられているが、一部の小規模なメーカ

ーでは、デュラム小麦と一般小麦を混合しているケースもある(主に中東・アフリカ向けで、日本向けに

はデュラム小麦 100%の製品しか輸出していない)。

パスタ産業は、主にトルコの主なデュラム小麦生産地であるアナトリア南東部、中央部、西部に位置し

ている。生産はガズィアンテプ(Gaziantep)とイズミル(Izmir)を中心に行われ、それぞれ全生産量の

40%、25%を占めている。

トルコのパスタ産業の生産能力は世界的にみても非常に大規模で、近代的なハイテクの高温処理ライン

を積極的に増強したため、現在では総生産能力は 125 万トンに拡大している。経済危機のため 2000 年代

初頭には稼働率が一時期 40%程度に落ち込んだが、その後徐々に改善し、現在は 7割程度の稼働率がある。

現在もパスタ産業に対する投資意欲が盛んで、生産能力は近い将来さらに増強されるとみられる。

トルコのパスタ生産は、2009~2011 年で極めて急激な上昇傾向を示し、2011 年には 85 万トンに達し

た。パスタは「コモディティ」として捉えられており、国内需要の成長は緩やかで頭打ちの傾向になって

きた。一方で、海外需要が 2009 年以降急速に増え、生産上昇を支えている。2011 年には国内需要が 45

万トンと、約半分弱が輸出に向けられた。

図 30 パスタ生産量と国内需要の伸び(1992~2011)

出所)トルコパスタ生産者協会

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6.3.2

トルコは 1970 年代から卵不使用の未調理のパスタの輸出国であるが、最近は未調理以外及び具入りの

ものも同国のパスタ輸出において重要性を増している。

パスタの輸出は、主力輸出相手先の一つであった米国向け輸出が 1990 年代に米国がトルコ産パスタに

アンチダンピング措置をとったことによって大きく減少し、またロシアや CIS 諸国向け輸出も 1999 年の

金融危機によって大きく減少、その後はロシアでパスタ製造への投資が盛んになったことから、ロシア・

CIS 諸国向け輸出は回復を見せなかった。

しかし、2000 年代前半からの積極的なアフリカや中東、アジアにおける市場開拓が功を奏し、2000 年

代中盤からはパスタ輸出が回復し始めた。中でも特に 2009 年以降、国際的なデュラム小麦価格高騰を背

景として、アフリカと中東の様々な国に向けた輸出が急激に増加しているほか、日本、ドイツ、韓国等へ

の輸出も伸ばしている。欧州への輸出は少ないが、EU 向けの関税割当枠が年 2 万トンあり、トルコパス

タ産業協会はこれをさらに拡大できるよう働きかけを行いたいと述べている。

好調な輸出市場を背景に、イラクを中心とする中東市場を視野に置き、トルコ南東部のガズィアンテプ

(Gaziantep)においてのパスタ製造施設への投資が増加している。2012 年もパスタ輸出は更に増加する

見込みで、コンヤ(Konya)地域における小麦生産減の懸念はあるものの、アナトリア南東部の高品質デ

ュラム小麦によって減少分は補われると見込まれている。

トルコ政府は加工品の輸出を促進するため、パスタの輸出では、1 トンあたり 21.12 ドルをパスタメー

カーの支払税額から還付する制度を導入している。パスタメーカーによれば、2007 年頃までは初期の発展

を支えるために、支援はもっと多かった。

表 54 トルコのパスタ輸出量と上位 10 ヶ国(2002~2011)

単位:千 t

2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011

世界計 49 69 126 164 192 178 176 214 297 404

アンゴラ 1 1 2 6 4 4 9 10 19 51

トーゴ 0 0 1 4 10 10 11 17 24 40

イラク 0 3 11 14 18 20 13 19 25 31

ベニン 0 0 1 3 5 5 11 10 20 30

ニジェール 0 0 2 4 4 9 9 7 11 18

日本 1 2 3 3 4 2 10 12 14 17

コンゴ 0 0 1 1 2 5 5 10 13 15

ジブチ 0 2 7 9 12 11 7 11 10 14

カメルーン 1 2 3 4 4 2 4 8 4 12

イスラエル 0 0 8 8 10 9 8 11 12 12

出所)国際貿易センター(ITC)

注)HS1902 の計

Page 12:  · 72 24 6 6.1 6.1.1 トルコは世界における小麦の主要生産国の一つである。2007 年、2008 年は相次いで干ばつが発生し、

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6.3.3

トルコのパスタ生産者は 20 社強程度ある。以下に主要な 6 社についてとりまとめる。

表 55 トルコのパスタ生産能力(2011 年)

企業/ブランド名 所在地 生産能力

(t/日) (t/年)

NUH Ankara 609 182,500 NUH Çankırı 72 21,600 DURUM GIDA Mersin 357 106,920 BEŞLER Gaziantep 306 91,800 BARİLLA Bolu 305 91,440 TAT Gaziantep 280 92,400 PİYALE Sakarya-Hendek 252 75,600 DOĞA Gaziantep 225 67,626 KOMBASSAN Karaman 223 66,708 SELVA Konya 216 65,000 MUTLU Gaziantep 203 60,894 BESLEN Gaziantep 190 57,000 OBA Gaziantep 188 56,448 PASTAVİLLA İzmir 163 48,427 TÜRKMEN Çankırı 128 38,556 BERRAK Çankırı 102 30,600 DOYUM Burdur 96 28,642 ÖĞÜN Gaziantep 95 28,500 MER GIDA Mardin 61 18,360 YAYLA Ankara 25 6,375 DOST Çorum 22 6,523 ÖRNEK Gaziantep 15 4,500 TUĞ GIDA Kayseri 10 3,000 ECE Gaziantep 10 3,000

合計 4,153 1,252,419 出所)トルコパスタ生産者協会

Nuh`un Ankara Makarnası San. ve Tic. A.Ş.

1950 年にスタートしたパスタ製造企業で、現在もファミリー企業。トルコ国内に 2 ヵ所の製造工場を

持つ国内最大手。特にアンカラ工場は規模が大きく、年間製造能力は 18 万トン。

Durum Gıda San. ve Tic. A.Ş.(Arbella)

カナダのレンティル等豆類取扱い最大手のアライアンス・グレイン・トレーダーズ(Alliance Grain

Traders Inc)の子会社で、トルコの豆類・穀物取扱い大手であるアーベル(Arbel)グループの中に設立

されたパスタ製造企業。Nuh に次ぐ製造能力を持つ。同グループはパスタの他に、ブルガー小麦(ひき割

り小麦。一度蒸した後に乾燥させて砕いたもので、ピラフ等に用いる)、セモリナ粉の生産も行っている。

Beşsan Makarna, Un, İ (Beşler)

1990 年代に小麦の製粉からスタートしたベシュラー(Beşler)グループの中で、パスタ製造販売を行う

企業。同グループは、パスタの他、製粉、オリーブ油やコーン油等の植物油、石鹸の製造販売も手掛ける。

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Barilla Gıda A.Ş.

イタリア最大手のパスタ・食品最大手 Barilla 傘下の企業である。トルコでは Barilla ブランドのパスタ

と Filiz ブランドのマカロニの他に、Gran Pavesi ブランド及び Wasa ブランドのクラッカーも製造・販

売している。なお、Barilla は日本では日本製粉がライセンス契約で同ブランドのパスタを販売している。

Tat Konserve Sanayi A.Ş. (Pastavilla)

トルコ財閥最大のコチグループ傘下でトルコ最大の食品企業の一つである。トマト加工品、ペースト、

牛乳、パスタが主力の商品で、他にマヨネーズ、ソーセージ、デリカテッセン等を生産し、国内市場のほ

か、35 カ国に輸出をしている。

Bellini Gıda San. ve Tic. A.Ş. (Piyale)

ベリーニ・グダ・サナイ・アーシェ(Bellini Gida Sanayi A.S.)(ブランド名:PİYALE)は、トルコの

食品・日用品大手のユルドゥズ(Yildiz)傘下にある。報道によれば、パスタの生産販売で同国4位のシ

ェアを持つとみられる。ユルドゥズ・グループは 1944 年のウルケルブランドでのビスケット製造を端緒

に、その後食品製造から製紙、包装資材、IT、石油等多角的に展開しているトルコの財閥企業である。国

際的に展開しており、2005 年にケロッグと提携、2007 年にはゴディバを買収し、2009 年にはスパイスの

マコーミックと提携する等、積極的に外資を活用する一方、中東や北アフリカ等への海外投資も積極的に

行い、これら地域で 9 か所の生産拠点を持っている。

2012 年には、日清食品が、ベリーニに対して、発行済み株式の 50%を買収し、社名を「日清ユルドゥ

ズ」に変更、合弁会社とした。パスタ工場内に即席麺の生産ラインを導入する予定で、ユルドゥズと日清

で計 1,500 万米ドルを投資し、カップヌードル等の生産を行う。ユルドゥズの持つ中東や北アフリカなど

のネットワークを活かし、これら地域への供給拠点とすることも視野に入れている。46

46

日清食品及びユルドゥズのウェブサイト、産経新聞 2012 年 7 月 24 日付記事「日清食品がトルコに進出 来春から

カップヌードルなど製造販売」、Zaman 紙 2012 年 7 月 25 日付記事「日清食品、ウルケルを傘下におさめるユルドゥ

ズ社傘下のマカロニ会社株 50%を取得」東京外国語大学 Project MEIS 大久保はるか訳

http://www.el.tufs.ac.jp/prmeis/html/pc/News20120726_073958.html

等を参照。

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6.4

トルコ産パスタは、2008 年以降、輸入が急増しており、2011 年の実績で輸入量は 16,499 トンと、スパ

ゲッティとマカロニの輸入では、イタリアに次いで 2 位の相手国となっている。2008 年はイタリアのパ

スタ価格が急上昇したため、規模の大きい小売チェーン数社がトルコ産パスタの取り扱いを開始し、トル

コからの輸入が急増した。2011 年にイタリア産パスタが 1 キログラムあたり 113 円、米国産パスタが 127

円であるのに比べて、トルコ産パスタは 75 円と、3 割程度の価格差がある。ただし、日本に輸入されてい

るトルコ産パスタの価格を見ると、2007 年は 1 キログラムあたり 134 円、2008 年には同 83 円と比較的

高い時期もあり、常に価格競争力があるというわけではない。

輸入形態としては、バルクで日本に輸入されて日本で小売パック詰めされるほか、トルコで小売パック

詰めされてトルコのメーカーブランドの名前で販売されているものもある。

パスタの関税は、スパゲッティ、マカロニ、卵入りパスタが 30 円/kg、その他パスタが 34 円/kg である。

国産のパスタ生産量は 2011 年では 16 万トン、一方輸入量は 13 万トンとなっている。1980 年代からは

国産のパスタも原料の全量をデュラム・セモリナ粉とし、原料のデュラム小麦全てをカナダや米国からの

輸入に頼っている。

図 31 トルコ産パスタの輸入

出所)貿易統計

図 32 スパゲッティ・マカロニの輸入におけるトルコのシェア(2011)

出所)貿易統計

0

5,000

10,000

15,000

20,000

2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011

その他

マカロニ

スパゲッティ

イタリア59%

トルコ19%

米国16%

その他6%