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状態監視保全のためのオイル分析ハンドブック / 6. オイル分析を対象とした赤外分光法 37 6. オイル分析を対象とした赤外分光法 潤滑油分析における赤外分光学の証明 なぜ、赤外分光学は潤滑油の分析で使用されるのでしょうか。この質問に答えるには、何を検査する必要があるのか、(潤滑油の分析は 何から成り立つか)、赤外分光学とは何か、また何を実際に提供できるのかなどを理解する必要があります。最初の質問から始めると、使 用中の潤滑油の分析をするために、一般にどんな検査をする必要があるか。それは確かに、監視を必要とする装置、その装置の操作条 件、そしてその装置に使われている潤滑油の種類などに依存します。表 6-1 は一般的な例のリストを示しています。この資料は、17 項 目のうち 14 あるいは 80%以上の割合で、使用中の潤滑油に必要な特性は、赤外分光学を使用して行われています。これは赤外分光 学が潤滑油の分析のための重要な用具であることを明確に立証しています。従って、赤外分光学はこれだけ数多くの関連したパラメータ ーの提供が可能であれば、ここで潤滑油の分析を考える際にまず赤外分光学が第一ではないのかという質問に遭遇します。それに答える ためには、もう少し掘り下げて理解する必要があります。 次は、赤外とは何か、また何を実際に提供できるのかという質問です。例えば、酸価(AN)の測定には、赤外でその目的を達成するよりも、 むしろ滴定法の使用が圧倒的に一般的です(ASTM D664 に記述)。しかし、すべてのタイプの機械類に対して AN と BN を監察するに は、赤外分光学がますます多く利用されています。 これは石油製品を分析する分野では、一般的な傾向に追随します。これらの試験を行うのに、以前は湿式化学分析が要求されましたが、 赤外、ラマンおよび他の分光技術は標準的な用具として受け入れられるようになり、選択をすることができます。この傾向はますます継続 するのは事実です。 従って、赤外とは何か、および赤外はこれらの特 性を如何にして提供できるのか。潤滑油の分析 を対象とした赤外分光学は、非常に簡単な方 法に依存しています。赤外放射の周波数の機 能として、潤滑油はどの程度の量の赤外放射を 吸収するかを観察してみます。図 6-1は、一般 的な潤滑油の赤外スペクトル線を示しています。 赤外分光学自体からの必要なものは、この資 料で十分ですが、正確な赤外スペクトル線が得 られていることを確認する必要があります。図 6-1 で見ることができるように、異なった潤滑油 のタイプおよび一般に異なった潤滑油は、スペク トル線に大きな相違を生じることがわかります。こ の相違点を利用して、これらのスペクトル線から 有効な情報に変換します(潤滑油の特性は表 6-1 に表示)。 ここで、どうしてこれらのスペクトル線を有意義な 情報に変換できるかという質問が生じます。これ は重要なステップで、はじめに赤外が潤滑油の 分析に応用された時、また過去四十年にわたっ て、赤外に対する主な挑戦の一つです。その回答は、確立した化学統計分析用具を応用することによって、一般に呼ばれている「ケモメト リックス法」です。このケモメトリックス法による分析は「校正」の作成に依存しています。校正は非常に簡単です。 異なったレベルの不純物 および劣化状態にある使用中の潤滑油から広範囲の試料を抽出し、それぞれの赤外スペクトル線を測定します。次に、これらと完全に同 表 6-1 一般的な潤滑油の性状分析項目と赤外分光分析との関係性 潤滑油の性状 種類 赤外分光分析 パーティクルカウント/粒子識別 潤滑油汚染/機械摩耗 摩耗金属 機械摩耗 グリコール 潤滑油汚染 溶存水 潤滑油汚染 乳化水 潤滑油汚染 不適切な潤滑油 潤滑油汚染 混入液体 潤滑油汚染 燃料 潤滑油汚染 粘度 潤滑油汚染/劣化 ニトロ化 潤滑油劣化 硫酸化 潤滑油劣化 酸化 潤滑油劣化 すす 潤滑油汚染/劣化 酸化(AN) 潤滑油劣化 塩基価(BN) 潤滑油劣化 耐摩耗剤 添加剤消耗 酸化防止剤 添加剤消耗

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Page 1: 6. オイル分析を対象とした赤外分光法...状態監視保全のためのオイル分析ハンドブック 6/ . オイル分析を対象とした赤外分光法 37 6. オイル分析を対象とした赤外分光法

状態監視保全のためのオイル分析ハンドブック / 6. オイル分析を対象とした赤外分光法 37

6. オイル分析を対象とした赤外分光法

潤滑油分析における赤外分光学の証明

なぜ、赤外分光学は潤滑油の分析で使用されるのでしょうか。この質問に答えるには、何を検査する必要があるのか、(潤滑油の分析は

何から成り立つか)、赤外分光学とは何か、また何を実際に提供できるのかなどを理解する必要があります。最初の質問から始めると、使

用中の潤滑油の分析をするために、一般にどんな検査をする必要があるか。それは確かに、監視を必要とする装置、その装置の操作条

件、そしてその装置に使われている潤滑油の種類などに依存します。表 6-1 は一般的な例のリストを示しています。この資料は、17 項

目のうち14あるいは80%以上の割合で、使用中の潤滑油に必要な特性は、赤外分光学を使用して行われています。これは赤外分光

学が潤滑油の分析のための重要な用具であることを明確に立証しています。従って、赤外分光学はこれだけ数多くの関連したパラメータ

ーの提供が可能であれば、ここで潤滑油の分析を考える際にまず赤外分光学が第一ではないのかという質問に遭遇します。それに答える

ためには、もう少し掘り下げて理解する必要があります。

次は、赤外とは何か、また何を実際に提供できるのかという質問です。例えば、酸価(AN)の測定には、赤外でその目的を達成するよりも、

むしろ滴定法の使用が圧倒的に一般的です(ASTM D664 に記述)。しかし、すべてのタイプの機械類に対して AN と BN を監察するに

は、赤外分光学がますます多く利用されています。

これは石油製品を分析する分野では、一般的な傾向に追随します。これらの試験を行うのに、以前は湿式化学分析が要求されましたが、

赤外、ラマンおよび他の分光技術は標準的な用具として受け入れられるようになり、選択をすることができます。この傾向はますます継続

するのは事実です。

従って、赤外とは何か、および赤外はこれらの特

性を如何にして提供できるのか。潤滑油の分析

を対象とした赤外分光学は、非常に簡単な方

法に依存しています。赤外放射の周波数の機

能として、潤滑油はどの程度の量の赤外放射を

吸収するかを観察してみます。図 6-1は、一般

的な潤滑油の赤外スペクトル線を示しています。

赤外分光学自体からの必要なものは、この資

料で十分ですが、正確な赤外スペクトル線が得

られていることを確認する必要があります。図

6-1 で見ることができるように、異なった潤滑油

のタイプおよび一般に異なった潤滑油は、スペク

トル線に大きな相違を生じることがわかります。こ

の相違点を利用して、これらのスペクトル線から

有効な情報に変換します(潤滑油の特性は表

6-1 に表示)。

ここで、どうしてこれらのスペクトル線を有意義な

情報に変換できるかという質問が生じます。これ

は重要なステップで、はじめに赤外が潤滑油の

分析に応用された時、また過去四十年にわたっ

て、赤外に対する主な挑戦の一つです。その回答は、確立した化学統計分析用具を応用することによって、一般に呼ばれている「ケモメト

リックス法」です。このケモメトリックス法による分析は「校正」の作成に依存しています。校正は非常に簡単です。 異なったレベルの不純物

および劣化状態にある使用中の潤滑油から広範囲の試料を抽出し、それぞれの赤外スペクトル線を測定します。次に、これらと完全に同

表 6-1 一般的な潤滑油の性状分析項目と赤外分光分析との関係性

潤滑油の性状 種類 赤外分光分析

パーティクルカウント/粒子識別 潤滑油汚染/機械摩耗

摩耗金属 機械摩耗

グリコール 潤滑油汚染

溶存水 潤滑油汚染

乳化水 潤滑油汚染

不適切な潤滑油 潤滑油汚染

混入液体 潤滑油汚染

燃料 潤滑油汚染

粘度 潤滑油汚染/劣化

ニトロ化 潤滑油劣化

硫酸化 潤滑油劣化

酸化 潤滑油劣化

すす 潤滑油汚染/劣化

酸化(AN) 潤滑油劣化

塩基価(BN) 潤滑油劣化

耐摩耗剤 添加剤消耗

酸化防止剤 添加剤消耗

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38 6. オイル分析を対象とした赤外分光法 / 状態監視保全のためのオイル分析ハンドブック

じ試料を採集し、湿式化学滴定法のような伝統的に標準とされている装置を使って、必要な化学特性を測定します。後は、表に組分け

る作業です。個々の試料の赤外スペクトル線と必要とする特性(例えばその試料の AN など)の組合せを行います。

ある特定のタイプの潤滑油から、その潤滑油を代表

する一組の試料を正しく採集し測定が完了した時点

で、次の校正の作成に移ります。このケモメトリックス

法を利用することによって、新しい未知の試料から得

た赤外スペクトル線を、その試料のAN数値に正確に

変換する公式を作成することができます。校正はこの

ように機能します。ここでさらに前進して、同種類の潤

滑油から任意の試料のスペクトル線を使って、そのス

ペクトル線に同じ公式を適用することにより即座にそ

の試料の AN 値を割り出すことができます。

これは潤滑油分析のための赤外法の真実の使命で

す。できるだけ多くの種類の潤滑油製品また多くの特

性に拡張して、このプロセスを履行したいと思います。すなわち、得られた赤外スペクトル線から任意に選ばれた特性、任意に選ばれた潤

滑油に変換できる校正の「ライブラリー」を作成したいと願っています。これが目標です。

ところが、世界中には数限りない種類の潤滑油が存在します。表 6-1 にリストされている全ての特性に対して、また世界中のすべての潤

滑油毎に校正を作成することは不可能です。また更に貴方が遭遇している潤滑油に対しては? 実際、この挑戦は長年に渡って赤外分

析法の適用の可能性に限度をもたらし、また潤滑油分析に対する真実の潜在能力を覆ってきました。 最近になって、この困難な状態か

ら脱出することが開始しました。

これをいかに達成するか、また余りにも多種の潤滑油が存在するので、数限りない校正を行わなければならない、あるいは赤外分析法の

有効性を限定してしまうようなこの筋書きから如何に脱出できるでしょうか。取敢えず、可能なことから開始します。できるだけ多くの潤滑油

の種類の測定をして、これらの潤滑油にある共通性を捜します。これを行うには、統計的な分類技術および古き良き化学の知識を利用し

ます。化学は、市場にある種々の潤滑油の化学構造において共通性を示してくれます。この情報を統計分析学に導き、Spectro 社製の

装置が測定した多くの種類の潤滑油の間で、パターンを探求しました。

結果は予想を上回る、非常に優れた成果が表れました。世界中には無数の潤滑油がありますが、ほとんどすべての潤滑油(90%以上)

は、共通した少数の系列に属します。ここで、2 種類の潤滑油が一つの共通系列に属するという表現をすることに、非常に注意をしなくて

はなりません。これは一体何を意味するのでしょうか。これは事実上、ある特定の系列の潤滑油は、得られた赤外スペクトル線を、ANのよ

うな潤滑油の特性に変換する際に、同一の公式あるいは校正が使えるということを意味します。確かにその通りです。ある特定の潤滑油

がどの系列に属するかという識別と確認ができ、そしてその系列に必要とする校正の作成を完了すれば、オイルの赤外スペクトル線を採集

し、以前には決してできなかった潤滑油の定量的な情報を得ることができます。

この過程を頭に描いて、これらの結果を提供するために規則的なプロセスを作成することが可能です。このプロセスは次の主要な 3 項目を

含みます。

1) 既知の潤滑油系統の校正を作成する。

2) 未知の潤滑油がどの系列に属するか識別するために使う統計分析の方法論を事前に提供する(確立した統計的識別ソフトの使用

による)。

3) どの識別された系列にも属さない潤滑油を確認し、これらの潤滑油に対して新しい系列を作成する。

図 6-1 一般的な潤滑油の赤外スペクトル

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状態監視保全のためのオイル分析ハンドブック / 6. オイル分析を対象とした赤外分光法 39

この3つのステップを基に作業を継続して、全てのオイルが適切な類別を持つ定められた系列に属することを確証することにより、赤外分析

法の適応性を急激に拡張することが可能です。

赤外分光学を使用して潤滑油の分析を目的としたこのようなアプローチは、この方法が存在する短期間に、これらの全ての特性に対して、

赤外分析法で「可能」から「ルーチンベース」で提供するように進歩したということを繰り返して証明できました(過去5年間に計画的に開発

された)。これは、このような赤外の校正に基づいた新しい分析法の基準をこの業界にて道を開くことになります。

赤外分光学が新しい時代に入ったことを実感し「専門化した」技術を必要とせずに、ユーザーにとってより貴重な特性を提供できるようにな

り、潤滑油の分析における赤外の実例は過去数年間に完全に変化したことを、実際に見始めることができます。

赤外計器の画期的な進歩、例えば溶媒なしで簡単に拭取ることができるセル機能、また装置の大きさの縮小に対する認識の変化など

(両者とも以前に設置不可能であった場所にも、現在では使用できるように貢献)により、赤外分析法は今まで潤滑油の分析担当者に対

して、これ以上有用ではありませんでした。私達は今ちょうど原点に立っているところです。