自治体の災害時応援職員は現場でどのように調整されたか...

14
2016/9/27 © Shingo Nagamatsu 自治体の災害時応援職員は現場でどのように調整されたか ―2011年南三陸町の事例How were disaster operational staffs from other local governments coordinated on site? A case of Minamisanriku town in 2011. 関西大学 社会安全学部 永松伸吾・越山健治

Upload: -

Post on 16-Apr-2017

705 views

Category:

Data & Analytics


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 自治体の災害時応援職員は現場でどのように調整されたか ―2011年南三陸町の事例 ―

2016/9/27

© Shingo Nagamatsu

自治体の災害時応援職員は現場でどのように調整されたか―2011年南三陸町の事例―

How were disaster operational staffs from other local governments coordinated on site? A case of Minamisanriku town in 2011.

関西大学 社会安全学部

永松伸吾・越山健治

Page 2: 自治体の災害時応援職員は現場でどのように調整されたか ―2011年南三陸町の事例 ―

2016/9/27

© Shingo Nagamatsu

背景

• 大規模災害時における自治体間支援は防災研究の主要なテーマの一つ(渡辺・岡田 2004)(舩木・河田・矢守 2006)

• 東日本大震災では、自治体職員による被災地支援が大規模に行われた。それゆえに、支援の調整ニーズが高まった。

• 自治体毎に支援を調整するための様々な仕組みが発達した。• 関西広域連合、都道府県合同方式、総務省方式、スクラム型支援etc.

• マクロ的にはいずれも肯定的な評価が多い。(難波 2011)(阪本・矢守 2012) (中林 2014)(西堀 2016)

Page 3: 自治体の災害時応援職員は現場でどのように調整されたか ―2011年南三陸町の事例 ―

2016/9/27

© Shingo Nagamatsu

研究の目的• 本当にこれらは被災自治体の調整労力を軽減しているのだろうか?• 現地での職員の活動を具体的にどう調整していったのかに関

する研究は少ない。(河本・重川・田中, 2013)(本荘・立木,2013)

• 南三陸町の初動期の応援職員へのアンケート調査を用いて、現場の指揮調整の実態を解明する。• 南三陸町に応援に入ったすべての団体を横断的に調査

• 職員個人を対象とした調査

Page 4: 自治体の災害時応援職員は現場でどのように調整されたか ―2011年南三陸町の事例 ―

2016/9/27

© Shingo Nagamatsu

アンケート調査の概要• 東日本大震災発生後から2011年4月31日までの間

に南三陸町に派遣された職員全員を対象。

• 窓口部局を通じての直接配布・郵送回収(一部メール回答)

8月末までに南三陸町が受け入れた短期派遣者約2500名(DRI 2011)

4月末までの派遣実績54団体 (人数不明)

調査協力49団体(724人)

有効回答数 459(60.6%)

Page 5: 自治体の災害時応援職員は現場でどのように調整されたか ―2011年南三陸町の事例 ―

2016/9/27

© Shingo Nagamatsu

組織における調整手法

1. 指示・命令 (command and control)• 一人の指示者(commander)

• 階層的(hierarchical alignment)

• 権威・権限を利用(authority)

2. 自発的協力(coordination)• 複数の構成員らによる自発的な調整 (voluntary alignment)

• 水平的(horizontal)

• 相互の信頼と協調行動(mutual trust and cooperation)

Page 6: 自治体の災害時応援職員は現場でどのように調整されたか ―2011年南三陸町の事例 ―

2016/9/27

© Shingo Nagamatsu

危機管理における指示調整系統

Groenendaal(2013)を参考に筆者分類

Page 7: 自治体の災害時応援職員は現場でどのように調整されたか ―2011年南三陸町の事例 ―

2016/9/27

© Shingo Nagamatsu

危機管理における指示調整系統

Groenendaal(2013)を参考に筆者分類古典的ICS ボランティア 実践的ICS

自治体間応援の実態

Page 8: 自治体の災害時応援職員は現場でどのように調整されたか ―2011年南三陸町の事例 ―

2016/9/27

© Shingo Nagamatsu

リーダーサブリーダー

南三陸町職員.33

(n=42) .64(n=42)

.13(n=352)

.38(n=352)

.49(n=352)

注:リーダー(△)への指示系統の割合と職員(○)への割合とは比較できない。また矢印線の太さは指示割合に比例している。

その他

その他

組織内調整

指示者リーダー その他 南三陸町職

員(=指示・命令) (=自発的協力)

重み 0.38 0.13 0.49

組織間調整

南三陸町職員0.64

指示統制型 分散的調整型直接指示型

(=指示・命令) 24.3% 8.3%

それ以外0.33

集中的調整型 調整型49%

(=自発的協力) 12.5% 4.3%

南三陸町における危機管理の指揮調整系統モデル別活動職員数の推計

直接指示型が過半を占める!

Q: 主に誰の指示で動いていましたか?

Page 9: 自治体の災害時応援職員は現場でどのように調整されたか ―2011年南三陸町の事例 ―

2016/9/27

© Shingo Nagamatsu

南三陸町の特定の職員に指揮調整負担が集中

被指示者別・被指示者が指示していた人数

Page 10: 自治体の災害時応援職員は現場でどのように調整されたか ―2011年南三陸町の事例 ―

2016/9/27

© Shingo Nagamatsu

なぜ直接指示型か?主に南三陸町の職員の指示で活動したという回答に関するロジット分析結果

(1)被指示者数が多い職員(2)複数自治体による混成チームによる派遣(3)単独都道府県で混成されるチームよりも、複数都道府県による混成チーム(4)関西広域連合の都道府県職員の係数は負

支援チーム内の組織内調整力の弱さによって、直接指示型が指向される

被説明変数

サンプル数

係数 標準誤差

定数 -1.19 0.687

都道府県職員ダミー -0.11 0.662

女性ダミー 1.813 0.779

リーダーダミー 1.545 0.515 **

課長補佐以上ダミー -0.089 0.286

所属組織経験年数 0 0.022

災害対応経験ダミー -0.362 0.342

応援経験ダミー 0.108 0.34

研修受講経験ダミー 0.616 0.322 *

被指示者数 0.345 0.128 **

本部調整ダミー 0.125 0.273

同一都道府県内混成チームダミー 0.774 0.382 **

複数都道府県間混成チームダミー 0.865 0.461 **

避難所運営支援ダミー -1.175 0.48 *

支援調整業務ダミー -0.732 0.628

心のケアダミー 0.849 0.906 *

緊急消防援助活動ダミー -3.82 0.97 **

物資輸送・配布ダミー -0.141 0.535

保健衛生活動ダミー -3.412 0.92 **

応急給水支援ダミー -0.59 0.616

独自支援ダミー -0.573 0.481

独自支援×都道府県ダミー -1.676 0.91

個別協定ダミー 0.617 0.887

市町村長会ダミー -0.435 0.582

市町村長会ダミー×都道府県ダミー 0.037 1.077

関西広域連合ダミー 0.259 0.585

関西広域連合×都道府県職員ダミー -2.835 1.056 **

厚生労働省ダミー 0.149 0.961

厚生労働省×都道府県職員ダミー 0.285 1.042

全国水道協会ダミー 0.562 0.614

全国水道協会ダミー×都道府県職員ダミー 0.885 1.634

対数尤度

Nagaike R2乗

注: *, ** はそれぞれ両側検定で5%有意、1%有意を示す

361.318

0.424

個人

属性

指揮

調整

業務

内容

派遣

スキ

ーム

主に南三陸町の職員

の指示で活動=1

362

Page 11: 自治体の災害時応援職員は現場でどのように調整されたか ―2011年南三陸町の事例 ―

2016/9/27

© Shingo Nagamatsu

複数自治体による混成チームの調整力は弱い

自分が所属する自治体職員

同じ支援チームに所属する他の自治体の職員

リーダー(n=43) 74.4% 55.8%サブリーダー(n=43) 67.4% 48.8%

Q:あなたが指示をしたのはどのような方々ですか?

Page 12: 自治体の災害時応援職員は現場でどのように調整されたか ―2011年南三陸町の事例 ―

2016/9/27

© Shingo Nagamatsu

関西広域連合も、市町村職員に対する調整力が弱い。

所属組織 度数

被指示者数

平均

主に南三

陸町職員

の指示で

動いた率

都道府県 30 1.43 12.1%

市町村 42 2.52 68.2%

計 72 2.07 44.2%

都道府県 80 2.00 32.1%

市町村 226 1.91 53.4%

特別区 11 6.18 84.6%

その他 7 1.71 57.1%

計 324 2.07 49.6%

西

Page 13: 自治体の災害時応援職員は現場でどのように調整されたか ―2011年南三陸町の事例 ―

2016/9/27

© Shingo Nagamatsu

被説明変数

サンプル数

係数 標準誤差

定数 1.752 .240 **

課長補佐以上ダミー 0.264 0.178

所属組織経験年数 0.017 0.011

災害対応経験ダミー -0.007 0.191

応援経験ダミー 0.122 0.213

研修受講経験ダミー -0.021 0.195 **

関西広域連合ダミー 0.692 0.259 **

避難所運営ダミー -.125 .246

物資輸送・配布ダミー -.229 .257

心のケアダミー .994 .457 *

支援調整業務ダミー .127 .334

緊急消防援助活動ダミー -.050 .346

応急給水支援ダミー -.209 .238

修正済R2

F統計値

注: *, ** はそれぞれ両側検定で5%有意、1%有

意を示す

262

現地であなたに指示

を出した人数

0.04

1.870*

関西広域

連合それ以外

年齢 39.67 41.32 1.151

性別 1.00 1.08 1.933

管理職比率 0.61 0.44 -2.129

所属部課での経験年数 3.06 6.78 4.389 *

災害対応業務経験有無 0.45 0.27 -2.332 ***

他自治体への応援経験の有無 0.32 0.22 -1.344 ***

防災に関する研修受講の有無 0.23 0.35 1.782

t値

Page 14: 自治体の災害時応援職員は現場でどのように調整されたか ―2011年南三陸町の事例 ―

2016/9/27

© Shingo Nagamatsu

結論• 東日本大震災においては、支援のマッチングの調整に関して大

きな前進がみられた。

• その結果、複数の自治体による混成チームによる派遣が増加した。

• これらのチームは内部の調整力が弱いために、被災自治体職員の指示を必要とする職員割合が高い。

• 受援計画の作成を促進するという現在のアプローチは的外れ。

• 派遣チームのチーム内調整力を高める必要がある。• 制度的にリーダーに指揮命令権を与えることは地方自治法上困難。

• 機能別にチームを組んで派遣(避難所支援チーム、罹災判定チーム、学校再開支援チームなど)するのが現実的では。