事例対象研究は、研究者および被験者（または被検体）の恣意的な評価、影響を排して実

験を行い、検証するための一つの手段である。

例えば 1948 年には、史上初の結核に対する特効薬として注目されたストレプトマイシン

について、その有効性を確かめるためにこの手段が用いられた（※実際にはランダム化

比較試験：Randomized Controlled Trial 内のバイアス排除の一環として行われている)

今回のレポートではジレクトロ・キネティック研究所が開発したといういわゆる「人間

探知機（研究所側の主張によれば）」についての有効性を確かめるためサンディア研究

所が実際に行った実験をモチーフとし、架空の実験について取り上げ、そのプロセス・

意義について論じる。

仮説:「 ファンディング・ヒト社の開発したヒューマン・アンボックス は人間の心臓の

鼓動が一定方向の揺れを放出することや体温と周囲の空気との温度差を利用し 15～18

メートル以内の人間についてならたとえ、ターゲット（ここでは人間）とアンボックス

の使用者についてどんな物体があったとしても、ターゲットの位置を感知することがで

きるものである。」

実験：基本的な実験の手順は以下のとおりである。

まず 2 メートル四方（人間が入れるくらい）の容器を 20 メートルほどの間隔をあけて 5

つ直線状に実験室内に用意する。

一回の試行について、どこに人が隠れるかどうかは任意によるものとする。

そして最も装置を扱うのに適しているであろうファインディング・ヒト社の開発部研究

員が 10 人実験に参加しそれぞれ 5 人ずつ実験群・と対照群に分かれてもらった（ちなみ

にそれぞれの研究員に対してひとりずつ調査員が同伴しアンボックスの結果を確認し

た。）。

また、「音」等のまたその他アンボックス以外のものから読み取れるパターンの影響を

完全に除外するため、研究者には音の聞こえないヘッドホンを常に着用してもらい、部

屋の温度や照明は常に同程度になるように調整がなされた。

最初の段階でこの 10 人ににはあらかじめどの箱の中に「人が隠れているか教えたうえ」

でアンボックスによってどの箱に人が隠れているかを当ててもらった。このとき 10 人中

10 人がどこにターゲットがいるかを当てることができ、アンボックスについて実験時に

「異常がなかった」ことについて確認した。

その次の段階では今度はアンボックスは使用せずに、ターゲットがどこにいるかを当て

てもらった（ただし箱の半径 10 メートル以内には近づけないように線が引かれていた）

ここまでの手順で実験に入るまでの準備段階が完了した。

：実験群の 5 人にはアンボックスを使用してもらい、ターゲットがどこにいるのかを報

告してもらい

　対照群にはアンボックスと同じような重さ、外見、をした装置（この実験の「探知」

については何の影響ももたらさないものである）を使用して実験群の 5 人と同じくター

ゲットがどこにいるのか報告してもらった。

この試行を全員について 20 回繰り返し行い、その結果は各試行毎のインターバル中にま

とめられた。

さらに、研究者本人達が同伴する調査員から情報を読み取る可能性を考え、調査員にもど

この箱に人が入っているのかはあらかじめ教えてはいなかった。

この実験により得られた結果は以下のようになった。

対照群・実験群どもにアンボックスを使用しない場合の「探知」成功回数

平均　4.2 回　/ 20 回

実験群のアンボックス使用による「探知」成功回数

平均　18.2 回　/ 20 回

対照群のアンボックス（ダミー）使用に「探知」成功回数

平均　3.8 回　/ 20 回

結論：　この実験結果により、確かに「ヒューマン・アンボックス」には一定の有効性

があることが実証された。

対照群にはあらかじめダミーを使用させることによって恣意的に「探知」を成功・ある

いは失敗させることを防いだが、実験前の準備段階とさほど変わらない確率だったこと

から、この結果に影響するバイアスはなかったものとして考えてよいだろう。

この事例対象研究によって「ヒューマン・ボックス」の実用性が証明されたのち、商品

化候補としてロック社によって特許の申請もなされた。

ちなみに実際のライフガードの研究では調査員の影響を排するために実験は暗闇の中で

行われた。また、ライフガードの「探知」の結果は 6 回中 25 回ととても「有効である」

といえるような結果ではなかったことを明記しておく。

また、今回の上の架空の実験では二重盲検化を行ってから事例対象研究を行った。

これは研究者側から機械に「異常があった」とする抗議が出るのを防ぐ目的で行うもの

である。

現在では主に事例対象研究は心臓病に対する薬物などの臨床研究の際に「プラシーボ」と

呼ばれる偽薬を用いて行われている。今回の実験例でも分かる通り、一定の実験におい

て計測にバイアスがかからないようにするための有効な手段であると考えられる。

参考にしたウェブサイト：

https//ja.wikipedia.org/wiki/ランダム化比較実験

skeptic.com/wishfulthinking.html

www.quackwatch.com/01QuackeryRelatedtopis/ttdata