それでも福島に生きていく

Asahi Shimbun Weekly AERA 2013.3.25 38 36 18 20 それでも 福島 きていく 福島ではいまも原発事故で県外に避難している人がいる。 一方で、あえて 大好きな地元福島に留まることを選んだ若者もいる。 福島の20代を撮った。 矛盾を抱える福島の₂₀代 ライター デコート・豊崎アリサ 写真 Jeremie Souteyrat 再校

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福島市に住む若者たち。 AERA, mar 2013

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Page 1: それでも福島に生きていく

Asahi Shimbun Weekly AERA 2013.3.25 38

 

36万人──。

 

福島第一原発事故後、甲状腺

がん検査の対象となっている福

島県内の子どもたちの数だ。

 

この検査の対象は、事故当時

18歳以下。事故後、子どもたち

の県外避難を支援する活動など

が行われているが、20代の若者

たちは対象外で、〝見捨てられ

た〟ような格好だ。

「原発が爆発した時点で福島に

いたので、いまさら出て行って

も……でも次に地震があったら

さすがに逃げると思う」

 

と話す福島市在住の23歳の男

性の言葉が世代の気持ちを代弁

している。彼と会ったのは、昨

年11月に行われた「福コン」と

言われる街コン。お祭り騒ぎだ

ったが、当日の福島市中心部の

東北電力福島営業所前の線量は

毎時0・6マイクロシーベルト。

放射能について気にしているの

は県外の人間だけだった。

元気だと伝えたい

 

何をするにも遅すぎるという

諦めの気持ちと、こんな福島で

誇りを持って生きていく──20

代の若者にはそうした想いが交

錯しているように見えた。

「福島は世界中に有名になった。

危ない街だと思われるかもしれ

ないが、僕たちはここにいるよ、

元気だよと皆に伝えたい」

 

そう語る福島市中心部にある

クラブ・ネオのDJ、stillm

om

ent

(22)の夢はいろんな土地

で「福島を伝えること」。

 

事故後、どこにも避難しなか

った。「ただちに人体には影響

がない」という政府の言葉以外

に、放射能に関する知識がなか

ったから。いまは初期動作とし

ては「まず避難」すべきだった

それでも福島で生きていく福島ではいまも原発事故で県外に避難している人がいる。一方で、あえて「大好きな地元」福島に留まることを選んだ若者もいる。福島の20代を撮った。

矛盾を抱える福島の₂₀代

ライター デコート・豊崎アリサ 写真 Jeremie Souteyrat

再校

Page 2: それでも福島に生きていく

Asahi Shimbun Weekly AERA 2013.3.2539

 

36万人──。

 

福島第一原発事故後、甲状腺

がん検査の対象となっている福

島県内の子どもたちの数だ。

 

この検査の対象は、事故当時

18歳以下。事故後、子どもたち

の県外避難を支援する活動など

が行われているが、20代の若者

たちは対象外で、〝見捨てられ

た〟ような格好だ。

「原発が爆発した時点で福島に

いたので、いまさら出て行って

も……でも次に地震があったら

さすがに逃げると思う」

 

と話す福島市在住の23歳の男

性の言葉が世代の気持ちを代弁

している。彼と会ったのは、昨

年11月に行われた「福コン」と

言われる街コン。お祭り騒ぎだ

ったが、当日の福島市中心部の

東北電力福島営業所前の線量は

毎時0・6マイクロシーベルト。

放射能について気にしているの

は県外の人間だけだった。

元気だと伝えたい

 

何をするにも遅すぎるという

諦めの気持ちと、こんな福島で

誇りを持って生きていく──20

代の若者にはそうした想いが交

錯しているように見えた。

「福島は世界中に有名になった。

危ない街だと思われるかもしれ

ないが、僕たちはここにいるよ、

元気だよと皆に伝えたい」

 

そう語る福島市中心部にある

クラブ・ネオのDJ、stillm

om

ent

(22)の夢はいろんな土地

で「福島を伝えること」。

 

事故後、どこにも避難しなか

った。「ただちに人体には影響

がない」という政府の言葉以外

に、放射能に関する知識がなか

ったから。いまは初期動作とし

ては「まず避難」すべきだった

若者

普段人通りが少ない夜の福島市だが、福コンのイベントには2000人が集まった。R&Bをかけた古い外国車も走り回っていた

クラブ・ネオで活動しているDJ,still moment。除染作業が「復興バブル」にしか見えないという。家族ができたら、大好きな福島市を離れた方がいいという。「小さい子どもには相応しくない環境だから」

飯舘村から福島市へ避難した佐藤健太(30)は、「先進国として、私たちは何も気づかなかったというのは一番よくない」と話す。現状を見たい県外の人たちのために元警戒区域などで観察ツアーを主催しているhttp://www.fukushima-kaigi.jp/

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Page 3: それでも福島に生きていく

Asahi Shimbun Weekly AERA 2013.3.25 40

のでは、と思っている。

 

彼の隣にいた仲間のラッパー、

HO

OD

RAT

Z

(23)も、

「避難した仲間の判断は賢かっ

たと思うけど、ラッパーやDJ

には地元を背負って音楽をやり

たいという変なプライドもある」

 

2人とも福島市の隣、伊達市

という線量の高い地域に住む。

HO

OD

RAT

Z

は昼間、伊達市

の建設現場で働く。市内には年

間の積算放射線量が20ミリを超

えるホットスポットもある。

「測定器は持っていない。もう

遅い、ってかんじ」

 

彼は3・11後、「D

on't Forget

という怒りと悔しさを表現する

曲を作ったが、今はあまり歌っ

ていない。忘れてはいけない事

故を忘れないと生きていけない、

という矛盾する気持ちがまだう

まく整理できない。

「放射能を気にしていたらやっ

てられない。それでも、東京の

反原発デモを聞くと嬉しい」

 

とDJのLe m

onde

(20)は言

う。クラブ・ネオは東京などか

らDJを呼んで福島をテーマに

したイベントを頻繁に開いてい

る。復興ビジネス関係者以外で

福島を訪れる人は少ない。孤立

した島のような福島の状態に彼

らが傷ついていることを感じた。

(文中敬称略)

若者

福島市内の放射線量のモニタリングポストは、除染された場所に設置されているものもある。場所によってはモニタリングポストの数値の数倍になるところもある

DJle mondeはアフリカを含めて幅広い音楽が好き。フランスの一流紙「Le monde」の名前をDJ名にしたのは、原発事故以降、メディアに対する不信感があったからと話す

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