5. 装着型アシストロボット着用者の固定障害物との...

6
装着型アシストロボット着用者の固定障害物との接触に対する 転倒回避動作の研究 櫛田 諒太 *1 , 秋山 靖博 *1 , 山田 陽滋 *1 , 岡本 正吾 *1 An Analysis of Recovery Motion of a HumanWearing Physical Assistant Robot in Response to Contact to Fixed Obstacle Ryota KUSHIDA *1 , Yasuhiro AKIYAMA *1 , Yoji YAMADA *1 and Shogo OKAMOTO *1 *1 Department of Mechanical Science and Engineering Graduate School of Engineering, Nagoya Univercity Huro-cho, Tikusa-ku, Nagoya-shi, Aich 864-4603, Japan Population of the elderly is glowing and improvement of QOL of the elderly is a social demand. Then physical assistant robots have been developed as one of the solutions, but they have risk of a fall. Therefore, an analysis of reaction motions to fall causes and an evaluation of risk of the fall can contribute the development of the robot. In this study, reaction motions of two healthy young men after contacts between a side part of the robot and an obstacle were analyzed. As a result, two deferent reaction motions were observed, which are rotational motions and straight motions. They were classified based on pelvis rotational angle and angular velocity on horizontal plane. There were 1) LARGE angle, 2) SMALL angle and LARGE angular velocity, 3) SMALL angle and SMALL angular velocity cases. First and Second case were observed in rotational motions and third case was done in straight motion. And first case and third case were considered to be hazardous. Key Words : Physical assistant robot, Collision to side of a robot, Fall avoidance motion, Gait analysis 1. 近年,先進国を中心に高齢化が進行しており日本も 超高齢社会へと突入した.それにより生じる高齢者の QOL 向上等の課題に対する解決策の1つとして,装 着型パワーアシストロボットの開発が進められている. これはカフや靴によって使用者に固定され,使用者の 動作に対応するトルクを印加することで使用者を補助 することを目的としたロボットである.本研究では特 に加齢等により筋力の衰えが生じた歩行者を日常的に アシストする日常支援用ロボットに着目した.これら のロボットにより歩行頻度が増加することで,健康増 進,活動範囲の拡大等の QOL の向上が期待できる. しかし装着型ロボットは使用者に密着して用いられ るため,様々なリスクを持つ.特に装着者が主に高齢 者であることを考慮すると,その安全性には留意する 必要がある.中でも転倒は最も懸念されるリスクの 1 つである.これは骨盤や脊椎といった主要な器官を傷 つけることにより寝たきり,下半身麻痺などの深刻度 の高い被害を引き起こしやすい.深刻な被害に至らな *1 名古屋大学大学院工学研究科機械理工学専攻(〒 464-8603 古屋市千種区不老町)[email protected] い場合でも,転倒を経験した高齢者はその恐怖から歩 行に対して消極的となり,外出の頻度が減少するため QOL が低下することとなる.従って装着型ロボット を製品化する際には転倒リスクを評価し,ロボットの 安全を確保することが重要である. しかし,転倒については未知の部分が多く,リスク の定量的な評価は困難である.リスクを評価する際に は安全規格や評価指標が求められる.装着型ロボット を含む安全規格として 2014 年に ISO13482 (1) が発行さ れ,生活支援ロボットを製品化する際の安全性評価の 指標の1つとなっている.しかしこれは転倒に焦点を 当てたものではなく,より詳細な転倒の解析が求めら れる. 現在製品化されている歩行支援用の装着型ロボット が用いられるのはリハビリテーションや介護などの環 境である.したがって転倒リスクについては,補助者 や免荷装置によるサポートを前提とすることで十分に 低減している.また従来の装着型ロボットの転倒に関 する研究 (2)(3) はロボットに内在する危険源に焦点を当 て行われてきた.しかし装着型ロボットが日常生活中 の使用へと普及するためには,より広範な環境を視野 22 回ロボティクスシンポジア(2017 3 15 -16 日・群馬) SY0005/17/0000-00159 © 2017 SICE 3A2 - 159 -

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Page 1: 5. 装着型アシストロボット着用者の固定障害物との …...装着型アシストロボット着用者の固定障害物との接触に対する 転倒回避動作の研究

装着型アシストロボット着用者の固定障害物との接触に対する

転倒回避動作の研究

櫛田諒太 ∗1, 秋山靖博 ∗1, 山田陽滋 ∗1, 岡本正吾 ∗1

An Analysis of Recovery Motion of a HumanWearing Physical Assistant Robotin Response to Contact to Fixed Obstacle

Ryota KUSHIDA∗1, Yasuhiro AKIYAMA∗1,Yoji YAMADA∗1 and Shogo OKAMOTO∗1

∗1 Department of Mechanical Science and Engineering Graduate School of Engineering, Nagoya UnivercityHuro-cho, Tikusa-ku, Nagoya-shi, Aich 864-4603, Japan

Population of the elderly is glowing and improvement of QOL of the elderly is a socialdemand. Then physical assistant robots have been developed as one of the solutions, but theyhave risk of a fall. Therefore, an analysis of reaction motions to fall causes and an evaluationof risk of the fall can contribute the development of the robot. In this study, reaction motionsof two healthy young men after contacts between a side part of the robot and an obstaclewere analyzed. As a result, two deferent reaction motions were observed, which are rotationalmotions and straight motions. They were classified based on pelvis rotational angle and angularvelocity on horizontal plane. There were 1) LARGE angle, 2) SMALL angle and LARGEangular velocity, 3) SMALL angle and SMALL angular velocity cases. First and Second casewere observed in rotational motions and third case was done in straight motion. And first caseand third case were considered to be hazardous.  

Key Words : Physical assistant robot, Collision to side of a robot, Fall avoidance motion, Gait analysis

1. 諸 言

近年,先進国を中心に高齢化が進行しており日本も

超高齢社会へと突入した.それにより生じる高齢者の

QOL 向上等の課題に対する解決策の1つとして,装

着型パワーアシストロボットの開発が進められている.

これはカフや靴によって使用者に固定され,使用者の

動作に対応するトルクを印加することで使用者を補助

することを目的としたロボットである.本研究では特

に加齢等により筋力の衰えが生じた歩行者を日常的に

アシストする日常支援用ロボットに着目した.これら

のロボットにより歩行頻度が増加することで,健康増

進,活動範囲の拡大等の QOL の向上が期待できる.しかし装着型ロボットは使用者に密着して用いられ

るため,様々なリスクを持つ.特に装着者が主に高齢

者であることを考慮すると,その安全性には留意する

必要がある.中でも転倒は最も懸念されるリスクの 1つである.これは骨盤や脊椎といった主要な器官を傷

つけることにより寝たきり,下半身麻痺などの深刻度

の高い被害を引き起こしやすい.深刻な被害に至らな

∗1 名古屋大学大学院工学研究科機械理工学専攻(〒 464-8603名古屋市千種区不老町)[email protected]

い場合でも,転倒を経験した高齢者はその恐怖から歩

行に対して消極的となり,外出の頻度が減少するため

QOL が低下することとなる.従って装着型ロボット

を製品化する際には転倒リスクを評価し,ロボットの

安全を確保することが重要である.

しかし,転倒については未知の部分が多く,リスク

の定量的な評価は困難である.リスクを評価する際に

は安全規格や評価指標が求められる.装着型ロボット

を含む安全規格として 2014年に ISO13482(1)が発行さ

れ,生活支援ロボットを製品化する際の安全性評価の

指標の1つとなっている.しかしこれは転倒に焦点を

当てたものではなく,より詳細な転倒の解析が求めら

れる.

現在製品化されている歩行支援用の装着型ロボット

が用いられるのはリハビリテーションや介護などの環

境である.したがって転倒リスクについては,補助者

や免荷装置によるサポートを前提とすることで十分に

低減している.また従来の装着型ロボットの転倒に関

する研究(2)(3)はロボットに内在する危険源に焦点を当

て行われてきた.しかし装着型ロボットが日常生活中

の使用へと普及するためには,より広範な環境を視野

5. 結 言

本稿では,事故やヒヤリハットの情報を基に空間

的・時系列的な状況と予測される危害の程度や事故の

発生確率を深層学習したニューラルネットワークのモ

デルを搭載することで,環境認識による変化要因の検

知を行い,リアルタイムにリスク分析を行う方法を提

案した.提案方法では,まず空間的かつ時間的変化お

よび変化率に対応可能なように DCNNと RNN-LSTMを組合せたニューラルネットワークのモデルを構築し,

次にこのモデルによりリアルタイムにリスク分析を行

った.実験により,各種センサからの入力に対する提

案方法の有効性を確認した. さらに事故発生機構をモデル化することで,将来的

に事故やヒヤリハットの発生の仕組みをシミュレーシ

ョンなどで定量的に評価することが可能となった. 今後は,DNNモデルの表現能力の精査と,学習の分散および入出力データや特徴抽出情報(フィルタ)な

どのニューラルネットワークのデータを複数のロボッ

ト間で逐次共有することで学習の効率化と,リスク分

析の網羅性向上を図り,その効果を検証する.また,

事故発生機構モデルを利用した事故発生シミュレーシ

ョンを評価する.

参 考 文 献

(1) 東京消防庁, “報道発表資料”,(2017), pp. 1-3. (2) 東京消防庁, “救急搬送データから見る日常生活事故の実態”, 東京消防庁 防災部防災安全課, (2015).

(3) A.Krizhevsky, I. Sutskever, G. E. Hinton,“ImageNet Classification with Deep Convolutional1 Neural Networks”, In Proceedings of Advances in Neural Information Processing Systems (NIPS), 25, (2012), pp. 1090-1105.

(4) S. Hochreiter and J. Schmidhuber, “Long short-term memory”, Neural Computation, 9 (8), (1997), pp. 1735-1780.

(5) C. A. Ericson II, “Hazard Analysis Techniques For System Safety Second Edition”,John Wiley & Sons, Inc., (2016).

(6) Ericson, C., “Fault tree analysis – a history”, In:17th International System Safety Conference. Unionville, VA, (1999), pp.1–9.

(7) 森康,杉本旭,”定性的リスクアセスメント改善に関する考察(PHAにおける定性的リスクマトリクスの定量化)”,日本機械学会論文集C編,Vol.75, No.759(2009), pp.261-269.

(8) .Jordi Dunjóa, Vasilis Fthenakis, Juan A. Vílchez, Josep Arnaldos, “Hazard and operability (HAZOP) analysis”, A literature review, Journal of Hazardous Materials, Vol. 173, Issues 1–3, (2010), pp.19–32.

(9) MIL-STD-1629A, “Military Standard, procedures for performing a Failure Mode, Effects and Criticality Analysis”, Department of Defense, Washington, DC, 1980.

(10) 武藤芳照,”ここまでできる高齢者の転倒予防”, 日本看護協会出版会, 2010.

(11) 難波孝彰, 山田陽滋,“移動ロボットによる高齢者のための転倒防止アシストについての研究”, 日本機械学会2016年度年次大会, (2016).

(12) S. Ji, W. Xu, M. Yang, and K. Yu, “3D convolutional neural networks for human action recognition”, IEEE Transactions on Pattern Analysis and Machine Intelligence, 35(1), (2013), pp. 221–231.

(13) K. Simonyanand A. Zisserman, “Two-stream convolutional networks for action recognition in videos”, Advances in Neural Information Processing Systems, (2014), pp. 568–576.

(14) A. Karpathy, George Toderici, Sanketh Shetty, Thomas Leung, Rahul Sukthankar, Li Fei-Fei, “Large-scale Video Classification with Convolutional Neural Networks”, IEEE Conference on Computer Vision and Pattern Recognition, (2014).

(15) G. Kulkami, V. Premraj, S.Dhar, S. Li, Y. Choi, A.C. Berg, and T. L. Berg, “Baby talk: Understanding and generating simple image descriptions”, IEEE Conference on Computer Vision and Pattern Recognition, (2011).

(16) A. Karpathy, L. Fei-Fei, “Deep Visual-Semantic Alignment for Generating Image Descriptions”, IEEE Conference on Computer Vision and Pattern Recognition, (2015).

(17) L. A. Gatys, A. S. Ecker, M. Bethge “A Neural Algorithm of Artistic Style”, IEEE Conference on Computer Vision and Pattern Recognition, (2015).

(18) H. yoshimura, T. Shimizu, M. Hori, T. Matsumura, Y. Iwai, “Proposal of a Trigonometric Polynomial Unit for Neural Networks,” 2012 International Workshop on Nonlinear Circuits, Communications and Signal Processing, NCSP'12, (2012), pp.361-364.

(19) S. Tokui, K. Oono, S. Hide and J. Clayton, “Chainer: a next-Generation Open Source Framework for Deep Learning”, Preferred Networks, (2015).

(20) G. Griffin, A. Holub and P. Perona, “Caltech-256 Object Category Dataset”, Caltech Technical Report, (2006).

(21) ISO12100,”Safety of machinery – General principles for design – Risk assessment and risk reduction”, (2010).

第 22 回ロボティクスシンポジア(2017 年 3 月 15 日 -16 日・群馬)

SY0005/17/0000-00159 © 2017 SICE3A2

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Page 2: 5. 装着型アシストロボット着用者の固定障害物との …...装着型アシストロボット着用者の固定障害物との接触に対する 転倒回避動作の研究

Obstacle

Fixed rail

Motion Capture System Speed guide

Metronome

Gondola

Motorpower

Fig. 3: Experimental overview

ク技販製)が設置され,床反力を計測した.これによ

り踵接地のタイミングの判別が可能である.障害物の

接触部には静電容量型 6軸力覚センサ(ワコーテック製)が取り付けられ,接触力を計測した.

2·4 安全装具 被験者が実際に転倒することを

防ぐため,ハーネスを着用した.ハーネスは空気アク

チュエータによりゴンドラに吊られており,通常歩行

時には被験者に影響を与えないが,被験者が転倒へ繋

がる程バランスを崩した場合には転倒を防ぐことが可

能である.加えて大腿部にプロテクタ,足部にサポー

タが着用され被験者を打撲や捻挫から保護した.

3. 実 験 方 法

本実験は本学工学部倫理部会の承認のもと行った.

その概要を図 3に示す.本実験では装着型アシストロボットの側部と障害物を接触させた.被験者は装着型

ロボットなど各装具を着用した状態で長さ 7 mの直線

走路に沿って歩行し,ロボット側部のアルミプレート

と障害物が接触した.被験者はスピードガイド及びメ

トロノームにより歩幅がほぼ一定になるよう調整され

た.ただし装着型ロボット着用直後は歩容に乱れが生

じることが予想されるため,試行前に歩容が安定する

まで十分に歩行練習を行った.被験者は初め自然な方

法で歩行し,スピードガイド及びメトロノームの速度

はそれに対応する値に設定した.接触後の反応につい

ては特に指示せず,自然な動作を取ることとした.

障害物は可動式で,試行ごとに接触の有無,タイミ

ング,部位を変更することが可能である.予備実験の

結果から,動作に与える影響が大きいと考えられる接

触の部位とタイミングを変えながら実験を行った.接

触の部位は腰部(股関節付近)と膝部(膝関節付近)

の 2 種類とした.接触タイミングは接触が発生する瞬間の立脚の位置

に準じて 2種類のタイミングを設定した.立脚が障害物より進行した状態,即ち立脚の踵が障害物より前方

の位置で遊脚が障害物と接触する試行を Foot-Foward

Foot-Forward Contact Foot-Rear Contact

Obstacle

Stance leg

Traveling direction

Fig. 4: Images of Foot-Foward Contact and Foot-Rear Contact

Contact とした.立脚が障害物より進行していない状態,即ち立脚のつま先が障害物よりも後方の位置で遊

脚が障害物と接触する試行を Foot-Rear Contact とし

た.Foot-Foward Contact および Foot-Rear Contact の概念図を図 4 に示す.しかし,歩行のばらつきのため接触タイミングを実

験時に完全に制御することは困難であった.したがっ

て得られた実験データより改めて接触タイミングを算

出し,その影響を評価することとした.

不意の接触を模擬するため,これらの条件や障害物

の有無,左右どちらの脚で接触が発生するかはランダ

ムに決定された.また障害物が被験者の視界に入るこ

とを防ぐため,被験者は下部が覆われたゴーグルを装

着した.

4. 実 験 結 果

今回の実験では被験者は健常な若い男性 2 名とし

た.2 名の被験者より 31 回の接触を含む計 70 回の試行を計測した.立脚期に障害物と接触した試行等を除

き,うち 23 回の接触を解析した.通常歩行時の歩行速度,歩幅,ケイデンスを表 1に示す.いずれの被験者も一般的な歩行(6)のものから大きな逸脱は見られな

かった.ただし被験者 B は被験者 A より歩行速度及

び歩幅が小さいことから,やや慎重に歩行していたと

考えられる.これは被験者 B は被験者 A の 91.7%程度の身長であったことが原因として考えられる.

被験者の反応動作はその外観から回転が大きい動作

と直進する動作に大別することができた.接触の条件

により被験者の回転度合いが変化する結果は以前の研

究(4)と一致する.回転および直進それぞれの動作の代

表的な試行の足跡を図 5に示す.障害物を原点とした平面上に,右足接地後に左足が障害物と接触し再度右

足を接地するまでの 3歩を示した.また右足の踵軌跡を平面上にプロットし,足跡のつま先付近には歩数を

付記した.便宜上,接触したステップ(図中番号 2)を接触脚,その次歩である姿勢を回復させるためのス

テップ(図中番号 3)を回復脚と呼ぶ.回転動作では接触脚の接地後,回復脚を水平面上で回転させながら

Fig. 1: MALO Fig. 2: Obstacle

に入れ,環境中に存在する危険源に対する安全性も考

慮しなければらない.それに伴い従来の研究のような

使用環境だけでなく,障害物や段差の存在する屋内な

ど複雑な環境を想定する必要がある.しかし,このよ

うな環境を前提とした転倒研究は僅かに行われている

に過ぎない(4).

これを踏まえ,本研究では新たな使用環境において

浮上する転倒危険源のうち,装着型ロボットの側部が

障害物に接触する状況を実験により再現し,評価を行

う.現在開発されているロボットの多くは装着者の下

肢側部に取り付けられる形状をしている.したがって,

普及の初期段階ではこの形状のロボットが主流となる

と考えられる.側部での接触は装着型ロボットが日常

生活に普及した際,屋内で家具に接触する,ドアを開

け通り抜けようとして壁部と接触するなど,発生する

可能性が十分に高いと考えられる状況である.また,

こうした接触は装着者の水平面上の回転を招くことが

予想されるが,現在開発されているロボットの多くは

このような矢状面外の動作に配慮しておらず,転倒へ

至りやすいと考えられる.また体幹を回転させること

で側方や後方への転倒へ繋がる可能性を持つ.この場

合上肢の防御動作により転倒を防ぎ辛く,大腿骨近位

部骨折など深刻な被害を引き起こす可能性が高い(5)た

め,危険度が高い.

このような状況を想定し,被験者の反応動作に現れ

る特徴的な要素や動作傾向を解析することにより,装

着型ロボットの転倒リスク評価に貢献することを本稿

の目的とする.

2. 実 験 装 置

2·1 試験用ロボット 本研究グループでは,試験

用下肢装着型ロボットであるMALO(Motor ActuatedLower-limb Orthosis)を製作した.これは本研究グループが長下肢装具(トクダオルソテック製)を加工し製

作したもので,その概要を図 1に示す.骨盤部をコルセット,大腿部及び下腿部をカフ,足部をシューズに

より固定する.股関節,膝関節,足関節は矢状面上に

1 自由度を持つジョイントとなっており,本研究で対象とするロボットと同様に股関節の矢状面外の動作は

制限される.また障害物との接触部として,側部にア

ルミプレートが設置されている.左右の膝関節及び股

関節に DC モータ(Maxon, RE40)が備え付けられ,

電流によるトルク制御を行う.MALOは動作抵抗を除

去する動摩擦補償,および歩行をアシストするトルク

を印加する.以下に歩行アシストの詳細を述べる.

2·1·1 アシスト期間 MALO は装着者の歩行周

期に同期してトルクを印加することによりアシストを

行う.これはリズムアシスト(7)等で採用されている手

法であり,ロボット普及の初期段階において多く採用

されると予想される.アシストのタイミングと方向は

先行研究(3)に基づき決定した.人は支持脚期に大きな

トルクを必要とするため,これを補助する.また足の

振りを補助する目的で遊脚期にもアシストを行う.歩

行周期を踵接地から同足の次の踵接地までを 1周期として定義し,支持脚期には股関節に歩行周期の 15%から 45%で伸展方向に,膝関節に 30%から 60%で屈曲方向にトルクを印加した.また遊脚期には,股関節に

歩行周期の 65%から 95%に屈曲方向に,膝関節に歩行周期の 75%から 95%に進展方向にトルクを印加した.

2·1·2 アシストトルクの大きさ 本研究で対象

とするロボットは日常生活での使用が期待される歩行

支援ロボットであり,筋力が弱った装着者の歩行をア

シストするものである.従って人間の筋力に匹敵する

トルクを印加する必要はないと考える.そのため印加

するトルクの大きさは,立脚期では人が必要とする平

均力モーメントのおよそ 20%とし,股関節,膝関節ともに約 8Nm とする.また遊脚期で振り出しを補助す

るトルクは平均力モーメントの約 25%とし,股関節,膝関節ともに約 7Nm とする.

2·2 固定障害物 本実験で接触に使用した可動

式障害物を図 2に示す.アルミフレームを組み合わせて製作したもので,高さは可変で最大約 95 cmである.

本障害物は,走路の左右に接地された治具に対して万

力で固定される.固定位置は走路に沿って調整可能で

あり,これにより接触の部位や左右,タイミングを実

験中に変化させることが可能である.

2·3 計測装置 被験者の姿勢の計測にはモーシ

ョンキャプチャシステム(Motion Analysis 社製 MAC3DSystem)にを用いた.カメラが発した赤外線を被

験者の身体主要部に貼付されたマーカが反射すること

により位置を特定し,被験者の姿勢を 3次元上で計測した.またビデオカメラによる撮影を行い動作を記録

した.MALOの足底には 6軸フォースプレート(テッ

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Page 3: 5. 装着型アシストロボット着用者の固定障害物との …...装着型アシストロボット着用者の固定障害物との接触に対する 転倒回避動作の研究

Obstacle

Fixed rail

Motion Capture System Speed guide

Metronome

Gondola

Motorpower

Fig. 3: Experimental overview

ク技販製)が設置され,床反力を計測した.これによ

り踵接地のタイミングの判別が可能である.障害物の

接触部には静電容量型 6軸力覚センサ(ワコーテック製)が取り付けられ,接触力を計測した.

2·4 安全装具 被験者が実際に転倒することを

防ぐため,ハーネスを着用した.ハーネスは空気アク

チュエータによりゴンドラに吊られており,通常歩行

時には被験者に影響を与えないが,被験者が転倒へ繋

がる程バランスを崩した場合には転倒を防ぐことが可

能である.加えて大腿部にプロテクタ,足部にサポー

タが着用され被験者を打撲や捻挫から保護した.

3. 実 験 方 法

本実験は本学工学部倫理部会の承認のもと行った.

その概要を図 3に示す.本実験では装着型アシストロボットの側部と障害物を接触させた.被験者は装着型

ロボットなど各装具を着用した状態で長さ 7 mの直線

走路に沿って歩行し,ロボット側部のアルミプレート

と障害物が接触した.被験者はスピードガイド及びメ

トロノームにより歩幅がほぼ一定になるよう調整され

た.ただし装着型ロボット着用直後は歩容に乱れが生

じることが予想されるため,試行前に歩容が安定する

まで十分に歩行練習を行った.被験者は初め自然な方

法で歩行し,スピードガイド及びメトロノームの速度

はそれに対応する値に設定した.接触後の反応につい

ては特に指示せず,自然な動作を取ることとした.

障害物は可動式で,試行ごとに接触の有無,タイミ

ング,部位を変更することが可能である.予備実験の

結果から,動作に与える影響が大きいと考えられる接

触の部位とタイミングを変えながら実験を行った.接

触の部位は腰部(股関節付近)と膝部(膝関節付近)

の 2 種類とした.接触タイミングは接触が発生する瞬間の立脚の位置

に準じて 2種類のタイミングを設定した.立脚が障害物より進行した状態,即ち立脚の踵が障害物より前方

の位置で遊脚が障害物と接触する試行を Foot-Foward

Foot-Forward Contact Foot-Rear Contact

Obstacle

Stance leg

Traveling direction

Fig. 4: Images of Foot-Foward Contact and Foot-Rear Contact

Contact とした.立脚が障害物より進行していない状態,即ち立脚のつま先が障害物よりも後方の位置で遊

脚が障害物と接触する試行を Foot-Rear Contact とし

た.Foot-Foward Contact および Foot-Rear Contact の概念図を図 4 に示す.しかし,歩行のばらつきのため接触タイミングを実

験時に完全に制御することは困難であった.したがっ

て得られた実験データより改めて接触タイミングを算

出し,その影響を評価することとした.

不意の接触を模擬するため,これらの条件や障害物

の有無,左右どちらの脚で接触が発生するかはランダ

ムに決定された.また障害物が被験者の視界に入るこ

とを防ぐため,被験者は下部が覆われたゴーグルを装

着した.

4. 実 験 結 果

今回の実験では被験者は健常な若い男性 2 名とし

た.2 名の被験者より 31 回の接触を含む計 70 回の試行を計測した.立脚期に障害物と接触した試行等を除

き,うち 23 回の接触を解析した.通常歩行時の歩行速度,歩幅,ケイデンスを表 1に示す.いずれの被験者も一般的な歩行(6)のものから大きな逸脱は見られな

かった.ただし被験者 B は被験者 A より歩行速度及

び歩幅が小さいことから,やや慎重に歩行していたと

考えられる.これは被験者 B は被験者 A の 91.7%程度の身長であったことが原因として考えられる.

被験者の反応動作はその外観から回転が大きい動作

と直進する動作に大別することができた.接触の条件

により被験者の回転度合いが変化する結果は以前の研

究(4)と一致する.回転および直進それぞれの動作の代

表的な試行の足跡を図 5に示す.障害物を原点とした平面上に,右足接地後に左足が障害物と接触し再度右

足を接地するまでの 3歩を示した.また右足の踵軌跡を平面上にプロットし,足跡のつま先付近には歩数を

付記した.便宜上,接触したステップ(図中番号 2)を接触脚,その次歩である姿勢を回復させるためのス

テップ(図中番号 3)を回復脚と呼ぶ.回転動作では接触脚の接地後,回復脚を水平面上で回転させながら

Fig. 1: MALO Fig. 2: Obstacle

に入れ,環境中に存在する危険源に対する安全性も考

慮しなければらない.それに伴い従来の研究のような

使用環境だけでなく,障害物や段差の存在する屋内な

ど複雑な環境を想定する必要がある.しかし,このよ

うな環境を前提とした転倒研究は僅かに行われている

に過ぎない(4).

これを踏まえ,本研究では新たな使用環境において

浮上する転倒危険源のうち,装着型ロボットの側部が

障害物に接触する状況を実験により再現し,評価を行

う.現在開発されているロボットの多くは装着者の下

肢側部に取り付けられる形状をしている.したがって,

普及の初期段階ではこの形状のロボットが主流となる

と考えられる.側部での接触は装着型ロボットが日常

生活に普及した際,屋内で家具に接触する,ドアを開

け通り抜けようとして壁部と接触するなど,発生する

可能性が十分に高いと考えられる状況である.また,

こうした接触は装着者の水平面上の回転を招くことが

予想されるが,現在開発されているロボットの多くは

このような矢状面外の動作に配慮しておらず,転倒へ

至りやすいと考えられる.また体幹を回転させること

で側方や後方への転倒へ繋がる可能性を持つ.この場

合上肢の防御動作により転倒を防ぎ辛く,大腿骨近位

部骨折など深刻な被害を引き起こす可能性が高い(5)た

め,危険度が高い.

このような状況を想定し,被験者の反応動作に現れ

る特徴的な要素や動作傾向を解析することにより,装

着型ロボットの転倒リスク評価に貢献することを本稿

の目的とする.

2. 実 験 装 置

2·1 試験用ロボット 本研究グループでは,試験

用下肢装着型ロボットであるMALO(Motor ActuatedLower-limb Orthosis)を製作した.これは本研究グループが長下肢装具(トクダオルソテック製)を加工し製

作したもので,その概要を図 1に示す.骨盤部をコルセット,大腿部及び下腿部をカフ,足部をシューズに

より固定する.股関節,膝関節,足関節は矢状面上に

1 自由度を持つジョイントとなっており,本研究で対象とするロボットと同様に股関節の矢状面外の動作は

制限される.また障害物との接触部として,側部にア

ルミプレートが設置されている.左右の膝関節及び股

関節に DC モータ(Maxon, RE40)が備え付けられ,

電流によるトルク制御を行う.MALOは動作抵抗を除

去する動摩擦補償,および歩行をアシストするトルク

を印加する.以下に歩行アシストの詳細を述べる.

2·1·1 アシスト期間 MALO は装着者の歩行周

期に同期してトルクを印加することによりアシストを

行う.これはリズムアシスト(7)等で採用されている手

法であり,ロボット普及の初期段階において多く採用

されると予想される.アシストのタイミングと方向は

先行研究(3)に基づき決定した.人は支持脚期に大きな

トルクを必要とするため,これを補助する.また足の

振りを補助する目的で遊脚期にもアシストを行う.歩

行周期を踵接地から同足の次の踵接地までを 1周期として定義し,支持脚期には股関節に歩行周期の 15%から 45%で伸展方向に,膝関節に 30%から 60%で屈曲方向にトルクを印加した.また遊脚期には,股関節に

歩行周期の 65%から 95%に屈曲方向に,膝関節に歩行周期の 75%から 95%に進展方向にトルクを印加した.

2·1·2 アシストトルクの大きさ 本研究で対象

とするロボットは日常生活での使用が期待される歩行

支援ロボットであり,筋力が弱った装着者の歩行をア

シストするものである.従って人間の筋力に匹敵する

トルクを印加する必要はないと考える.そのため印加

するトルクの大きさは,立脚期では人が必要とする平

均力モーメントのおよそ 20%とし,股関節,膝関節ともに約 8Nm とする.また遊脚期で振り出しを補助す

るトルクは平均力モーメントの約 25%とし,股関節,膝関節ともに約 7Nm とする.

2·2 固定障害物 本実験で接触に使用した可動

式障害物を図 2に示す.アルミフレームを組み合わせて製作したもので,高さは可変で最大約 95 cmである.

本障害物は,走路の左右に接地された治具に対して万

力で固定される.固定位置は走路に沿って調整可能で

あり,これにより接触の部位や左右,タイミングを実

験中に変化させることが可能である.

2·3 計測装置 被験者の姿勢の計測にはモーシ

ョンキャプチャシステム(Motion Analysis 社製 MAC3DSystem)にを用いた.カメラが発した赤外線を被

験者の身体主要部に貼付されたマーカが反射すること

により位置を特定し,被験者の姿勢を 3次元上で計測した.またビデオカメラによる撮影を行い動作を記録

した.MALOの足底には 6軸フォースプレート(テッ

- 161 -

Page 4: 5. 装着型アシストロボット着用者の固定障害物との …...装着型アシストロボット着用者の固定障害物との接触に対する 転倒回避動作の研究

Table 2: Classification of Rotational/Straight motions based on pelvis yaw angle and angular velocity on horizontal plane (nA is anumber of trials in subject A and nA is that of subject B.)

LARGE angular velocity SMALL angular velocityLARGE angle Rotational motion (nA = 5,nB = 8)SMALL angle Rotational motion (nA = 0,nB = 6) Straight motion (nA = 4,nB = 0)  

0 10 20 30 40 50-60-30

0306090

120150180210

Percentage of normal gait cycle[% of gait cycle]

Pelv

is y

aw a

ngle

[deg

] and

angu

lar v

eloc

ity [d

eg/s

]

(a) case 1)

0 10 20 30 40 50-60-30

0306090

120150180210

Percentage of normal gait cycle[% of gait cycle]

Pelv

is y

aw a

ngle

[deg

] and

angu

lar v

eloc

ity [d

eg/s

]

(b) case 2)

0 10 20 30 40 50-60-30

0306090

120150180210

Percentage of normal gait cycle[% of gait cycle]

Pelv

is y

aw a

ngle

[deg

] and

angu

lar v

eloc

ity [d

eg/s

]

(c) case 3)

Fig. 6: Pelvis yaw angle and angular velocity (Black vertical line shows timing of heel contact of contact leg.)

動作全体を通して回転要素が支配的であった.

2)のケースでは被験者が回復脚を接地した時点における水平面上の回転は小さいが,その後の動作で回

転を示した.これは反力による回転は生じなかったも

のの,障害物をすり抜ける際に回転が行われた可能性

が考えられる.

3)のケースでは回転が小さく動作が直進的であり,つんのめりに類似した動作となった.被験者が障害物

をすり抜けようとする際に,接触脚を股関節の内側か

ら旋回させ障害物を迂回することに起因すると推測さ

れる.即ち,回復脚を障害物より遠位へ接地させるこ

とで股関節を前方へ開き,接触脚が障害物を迂回する

余裕を生みだし,接触脚の旋回を緩やかにすることを

試みたと考えられる.また一部では,接触脚を接地さ

せる際に立脚と衝突する動作が観測された.

1)や 2)のケースで観測された回転動作では,接触時の勢いが回転へ変換され,前転モーメントが抑制さ

れた可能性が挙げられる.また,回転は接触脚を軸足

として行われたが,軸足を滑らせながら全体を回転さ

せる様子が観測できた.ロボットを装着していない人

間が歩行中に方向転換を行う場合,軸足側股関節の内

外旋が大きな働きを占めることが知られている(8).し

かし今回の実験ではロボットの機構により股関節の内

外旋が拘束されたため,ロボット装着者特有の回転方

法をとったと考えられる.これらのケースでは体幹ご

と大きく回転するため側方または後方への転倒が予想

されるが,このような方向への転倒に至る場合,上肢

による防御戦略が困難である.また骨盤や脊椎を損傷

する可能性が高いため,深刻度が高いケースと考えら

れる.

一方,3)のケースで現れた直進動作では,回復脚を大きく前方へ出し踏ん張ることにより転倒を回避し

ていると考えられる.本動作では前方への転倒が予想

されるが地面に手をついて防御するといった戦略がと

りやすく,比較的深刻度が低いケースであると考えら

れる.但し接触脚と立脚が交差するケースも観測され

たため,これにより予期せぬ転倒が引き起こされる可

能性がある.

今回の実験では,安全のため被験者は高齢者ではな

く若年の健常者とした.しかし装着者が高齢者であっ

た場合,筋力の衰弱のためバランスを崩し易いと考え

られる.特につんのめるような動作が観測された 3)のケースでは,回復脚の踏ん張りにより体重を支え切

れず,転倒へ至る状況が予想される.また高齢者は遊

脚のつま先が下がりやすいことも知られている(9)ため,

回復脚を前方へ振り出す際につま先と地面が接触する

リスクも考えられる.

今後はより回転が支配的で深刻度が高い 1)のケースや,接触後に遊脚と立脚が衝突する動作が認められ

た 3)のケースに注視した,より詳細な解析が必要となる.

-0.4 -0.2 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2

-0.6

-0.4

-0.2

0

1

23

Late

ral d

irect

ion

[m]

Traveling direction [m]

�Left�Right

(a) footprint of a rotational motion

Late

ral d

irect

ion

[m]

Traveling direction [m]-0.4 -0.2 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2

-0.6

-0.4

-0.2

0

1

2 3

(b) footprint of a straight motion

Fig. 5: Footprint of three steps around the moment of the contact. Origin is a position of the obstacle and it showed as a blacksquare. Number near each footprint is step number. Purple footprints are that of left foot and green ones are that of left foot.A trajectory of right heel is showed as green triangles.

接地した.一方直進動作では回復脚の回転は比較的小

さく,接触脚より遠位に接地させていたことがわかる.

回転動作と直進動作は,その特徴から下肢の回転に

より区別できると考えられる.骨盤の水平面上の回転

角度を下肢の回転を代表とする角度として選定し,こ

れを評価した.即ち回復脚を接地した時点において骨

盤の回転角度が大きい/小さいケースで回転/直進動作が観測されると考えられる.しかし,接地時点での骨

盤角度に着目した分類においては直進動作と判定さ

れるケースの中にも,回転運動と類似した動作の特徴

を有する試行が存在した.こうしたケースでは回復脚

接地時点では骨盤の回転角度が小さくとも,以降のス

テップで回転動作を取ることがビデオカメラによる解

析から判明した.そのため骨盤の回転角度に加え回転

角速度を評価することを試みた.その結果回転角度が

小さいケースであっても回転角速度が大きい場合回転

動作をとることがわかった.

そうした特徴を踏まえ改めてまとめると,骨盤の回

転角度及び角速度について,1)回転角度が大きいケース,2)回転角度は小さいが回転角速度が大きいケース,3)回転角度および回転角速度が小さいケースに整理でき,このうち 1),2)では回転動作,3)では直進動作が観測された.この分類を表 2に示す.また,それぞれのケースにおいて,障害物と接触してから回復

脚を接地するまでの骨盤の水平面上での回転角度及び

回転角速度の遷移を図 6に示す.横軸に通常歩行の平均歩行周期を 100%としそれに対する割合で表した時間軸,縦軸に回転角度および回転角速度を示す.また,

接触脚を接地したタイミングを黒線で示す.回転角度

は全ケースにおいて増加しているが,1)のケースでは最終的に 73.0deg に達したのに対し,2) と 3) のケースではそれぞれ 34.6deg と 34.7deg に留まった.また回転角速度については,接触後増加した後に 1度減少する事象は全ケースにおいて共通であった.その後 1)

Table 1: Gait parameters of normal walking

Subject A Subject BVelocity [m/s] 4.48(±0.26) 3.88(±0.11)Step length L [m] 0.77(±0.03) 0.65(±0.02)Step length R [m] 0.78(±0.06) 0.62(±0.03)Cadence [cycle/min] 49.1(±1.3) 50.1(±1.1)

と 2) のケースでは再び増加する様子を見せそれぞれ132.9deg/s と 96.9deg/s に達したのに対し,3) のケースでは僅かに増加するもその後減少していき,最終的

には-23.6deg/s となった.

5. 考 察

実験より,ロボット側部と障害物が接触した後の装

着者の動作は回転が大きい動作と直進が大きい動作に

大別できるという結果が得られた.これらの動作につ

いて,被験者Aは回転動作と直進動作を示したのに対

し,被験者 Bは回転動作のみを示した.これは障害物への当たり方や歩行速度が影響した可能性があるが,

被験者固有の特徴である可能性も考えられる.そのた

め接触前後の時点を対象とした力学的解析を進めると

共に被験者数を増加し更なる解析を行うことが求めら

れる.

また骨盤の水平面上の回転角度及び回転角速度によ

り動作を区別した場合 1)回転角度が大きいケース,2)回転角度は小さいが回転角速度が大きいケース,3)回転角度および回転角速度が小さいケースで分けられる

ことがわかった.

1)のケースが生じた要因として,障害物に接触した際のモーメントが大きいため回転が発生した可能性

と共に,障害物と接触した際に回転によりロボット接

触部の方向を変え障害物をすり抜けようとした可能性

が挙げられる.回転角度,角速度ともに大きいため,

- 162 -

Page 5: 5. 装着型アシストロボット着用者の固定障害物との …...装着型アシストロボット着用者の固定障害物との接触に対する 転倒回避動作の研究

Table 2: Classification of Rotational/Straight motions based on pelvis yaw angle and angular velocity on horizontal plane (nA is anumber of trials in subject A and nA is that of subject B.)

LARGE angular velocity SMALL angular velocityLARGE angle Rotational motion (nA = 5,nB = 8)SMALL angle Rotational motion (nA = 0,nB = 6) Straight motion (nA = 4,nB = 0)  

0 10 20 30 40 50-60-30

0306090

120150180210

Percentage of normal gait cycle[% of gait cycle]

Pelv

is y

aw a

ngle

[deg

] and

angu

lar v

eloc

ity [d

eg/s

]

(a) case 1)

0 10 20 30 40 50-60-30

0306090

120150180210

Percentage of normal gait cycle[% of gait cycle]

Pelv

is y

aw a

ngle

[deg

] and

angu

lar v

eloc

ity [d

eg/s

]

(b) case 2)

0 10 20 30 40 50-60-30

0306090

120150180210

Percentage of normal gait cycle[% of gait cycle]

Pelv

is y

aw a

ngle

[deg

] and

angu

lar v

eloc

ity [d

eg/s

]

(c) case 3)

Fig. 6: Pelvis yaw angle and angular velocity (Black vertical line shows timing of heel contact of contact leg.)

動作全体を通して回転要素が支配的であった.

2)のケースでは被験者が回復脚を接地した時点における水平面上の回転は小さいが,その後の動作で回

転を示した.これは反力による回転は生じなかったも

のの,障害物をすり抜ける際に回転が行われた可能性

が考えられる.

3)のケースでは回転が小さく動作が直進的であり,つんのめりに類似した動作となった.被験者が障害物

をすり抜けようとする際に,接触脚を股関節の内側か

ら旋回させ障害物を迂回することに起因すると推測さ

れる.即ち,回復脚を障害物より遠位へ接地させるこ

とで股関節を前方へ開き,接触脚が障害物を迂回する

余裕を生みだし,接触脚の旋回を緩やかにすることを

試みたと考えられる.また一部では,接触脚を接地さ

せる際に立脚と衝突する動作が観測された.

1)や 2)のケースで観測された回転動作では,接触時の勢いが回転へ変換され,前転モーメントが抑制さ

れた可能性が挙げられる.また,回転は接触脚を軸足

として行われたが,軸足を滑らせながら全体を回転さ

せる様子が観測できた.ロボットを装着していない人

間が歩行中に方向転換を行う場合,軸足側股関節の内

外旋が大きな働きを占めることが知られている(8).し

かし今回の実験ではロボットの機構により股関節の内

外旋が拘束されたため,ロボット装着者特有の回転方

法をとったと考えられる.これらのケースでは体幹ご

と大きく回転するため側方または後方への転倒が予想

されるが,このような方向への転倒に至る場合,上肢

による防御戦略が困難である.また骨盤や脊椎を損傷

する可能性が高いため,深刻度が高いケースと考えら

れる.

一方,3)のケースで現れた直進動作では,回復脚を大きく前方へ出し踏ん張ることにより転倒を回避し

ていると考えられる.本動作では前方への転倒が予想

されるが地面に手をついて防御するといった戦略がと

りやすく,比較的深刻度が低いケースであると考えら

れる.但し接触脚と立脚が交差するケースも観測され

たため,これにより予期せぬ転倒が引き起こされる可

能性がある.

今回の実験では,安全のため被験者は高齢者ではな

く若年の健常者とした.しかし装着者が高齢者であっ

た場合,筋力の衰弱のためバランスを崩し易いと考え

られる.特につんのめるような動作が観測された 3)のケースでは,回復脚の踏ん張りにより体重を支え切

れず,転倒へ至る状況が予想される.また高齢者は遊

脚のつま先が下がりやすいことも知られている(9)ため,

回復脚を前方へ振り出す際につま先と地面が接触する

リスクも考えられる.

今後はより回転が支配的で深刻度が高い 1)のケースや,接触後に遊脚と立脚が衝突する動作が認められ

た 3)のケースに注視した,より詳細な解析が必要となる.

-0.4 -0.2 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2

-0.6

-0.4

-0.2

0

1

23

Late

ral d

irect

ion

[m]

Traveling direction [m]

�Left�Right

(a) footprint of a rotational motion

Late

ral d

irect

ion

[m]

Traveling direction [m]-0.4 -0.2 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2

-0.6

-0.4

-0.2

0

1

2 3

(b) footprint of a straight motion

Fig. 5: Footprint of three steps around the moment of the contact. Origin is a position of the obstacle and it showed as a blacksquare. Number near each footprint is step number. Purple footprints are that of left foot and green ones are that of left foot.A trajectory of right heel is showed as green triangles.

接地した.一方直進動作では回復脚の回転は比較的小

さく,接触脚より遠位に接地させていたことがわかる.

回転動作と直進動作は,その特徴から下肢の回転に

より区別できると考えられる.骨盤の水平面上の回転

角度を下肢の回転を代表とする角度として選定し,こ

れを評価した.即ち回復脚を接地した時点において骨

盤の回転角度が大きい/小さいケースで回転/直進動作が観測されると考えられる.しかし,接地時点での骨

盤角度に着目した分類においては直進動作と判定さ

れるケースの中にも,回転運動と類似した動作の特徴

を有する試行が存在した.こうしたケースでは回復脚

接地時点では骨盤の回転角度が小さくとも,以降のス

テップで回転動作を取ることがビデオカメラによる解

析から判明した.そのため骨盤の回転角度に加え回転

角速度を評価することを試みた.その結果回転角度が

小さいケースであっても回転角速度が大きい場合回転

動作をとることがわかった.

そうした特徴を踏まえ改めてまとめると,骨盤の回

転角度及び角速度について,1)回転角度が大きいケース,2)回転角度は小さいが回転角速度が大きいケース,3)回転角度および回転角速度が小さいケースに整理でき,このうち 1),2)では回転動作,3)では直進動作が観測された.この分類を表 2に示す.また,それぞれのケースにおいて,障害物と接触してから回復

脚を接地するまでの骨盤の水平面上での回転角度及び

回転角速度の遷移を図 6に示す.横軸に通常歩行の平均歩行周期を 100%としそれに対する割合で表した時間軸,縦軸に回転角度および回転角速度を示す.また,

接触脚を接地したタイミングを黒線で示す.回転角度

は全ケースにおいて増加しているが,1)のケースでは最終的に 73.0deg に達したのに対し,2) と 3) のケースではそれぞれ 34.6deg と 34.7deg に留まった.また回転角速度については,接触後増加した後に 1度減少する事象は全ケースにおいて共通であった.その後 1)

Table 1: Gait parameters of normal walking

Subject A Subject BVelocity [m/s] 4.48(±0.26) 3.88(±0.11)Step length L [m] 0.77(±0.03) 0.65(±0.02)Step length R [m] 0.78(±0.06) 0.62(±0.03)Cadence [cycle/min] 49.1(±1.3) 50.1(±1.1)

と 2) のケースでは再び増加する様子を見せそれぞれ132.9deg/s と 96.9deg/s に達したのに対し,3) のケースでは僅かに増加するもその後減少していき,最終的

には-23.6deg/s となった.

5. 考 察

実験より,ロボット側部と障害物が接触した後の装

着者の動作は回転が大きい動作と直進が大きい動作に

大別できるという結果が得られた.これらの動作につ

いて,被験者Aは回転動作と直進動作を示したのに対

し,被験者 Bは回転動作のみを示した.これは障害物への当たり方や歩行速度が影響した可能性があるが,

被験者固有の特徴である可能性も考えられる.そのた

め接触前後の時点を対象とした力学的解析を進めると

共に被験者数を増加し更なる解析を行うことが求めら

れる.

また骨盤の水平面上の回転角度及び回転角速度によ

り動作を区別した場合 1)回転角度が大きいケース,2)回転角度は小さいが回転角速度が大きいケース,3)回転角度および回転角速度が小さいケースで分けられる

ことがわかった.

1)のケースが生じた要因として,障害物に接触した際のモーメントが大きいため回転が発生した可能性

と共に,障害物と接触した際に回転によりロボット接

触部の方向を変え障害物をすり抜けようとした可能性

が挙げられる.回転角度,角速度ともに大きいため,

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Page 6: 5. 装着型アシストロボット着用者の固定障害物との …...装着型アシストロボット着用者の固定障害物との接触に対する 転倒回避動作の研究

ロボット装着時創傷リスク評価を目的とした皮膚 3次元形状再現機構の開発

境勇真 ∗1, 秋山靖博 ∗1, 山田陽滋 ∗1, 岡本正吾 ∗1

Development of a three-dimensional skin shape reproducing mechanism for theevaluation of wounds risk when using wearable robot

Yuma SAKAI∗1, Yasuhiro AKIYAMA∗1, Yoji YAMADA∗1 and ShogoOKAMOTO∗1

∗1 Department of Mechanical Science and Engineering, Nagoya UniversityFuro-cho, Nagoya, Aichi 464-8603, Japan

When using a wearable robot, there is a possibility that skin damages are caused.Therefore, safety validation of wearable robots is important to put them into practical use.In the previous study, a wounds risk to one specific shape of human skin was the targetfor evaluation. However, the evaluation is insufficient because targeting shapes of humanskin vary among people. Therefore, conducting the evaluation on various shapes of humanskin is required for further practical use of wearable robots. The study aims to developa three-dimensional skin shape reproducing mechanism for the evaluation of wounds risksin using wearable robots. To this end, we develop a reproducing mechanism and conductexperiments evaluating the performance of the developed mechanism using a model ofmembrane deformation.

Key Words : wearable robot, contact safety, skin shape

本論文における主要記号

γxy 膜の面内せん断ひずみ

(εx)k k番目の x軸方向ケーブルのひずみ

(εy)l l 番目の y軸方向ケーブルのひずみ

εx 膜の x軸方向ひずみ

εy 膜の y軸方向ひずみ

A ケーブルの断面積

Ai j 膜の面内剛性

E ケーブルの縦弾性係数

H 平均曲率

K x軸方向ケーブルの本数

L y軸方向ケーブルの本数

p 内圧

Tkx k番目の x軸方向ケーブルの張力

Tly l 番目の y軸方向ケーブルの張力

uk k番目の x軸方向ケーブルの x方向変位

Vc ケーブルのひずみエネルギー

vl l 番目の y軸方向ケーブルの y方向変位

∗1 名古屋大学工学研究科機械理工学専攻(〒 464-8603名古屋市千種区不老町)[email protected]

Vm 膜のひずみエネルギー

W 外部仕事

w z軸方向変位

wkx k番目の x軸方向ケーブルの z方向変位

wly l 番目の y軸方向ケーブルの z方向変位

1. 緒 言

現在の日本における少子高齢化の進行に伴い,要介

護者の生活の質の向上や労働者の生産性の向上を目的

とした装着型ロボットへの期待が高まっている.ここ

で装着型ロボットとは,人間が身体に装着具(カフ)を

介して装着するロボットのことで,アクチュエータの

アシスト力によって目的の作業および動作の補助を行

うものを指す.この装着型ロボットの利用により,労

働者の作業における負担の軽減,要介護者のリハビリ

支援や歩行支援などが実現できると考えられる.しか

し,装着型ロボットの実用化・事業化のためには十分な

臨床的検証が必要であるとともに,安全性に関する基

準・技術など多くの問題を解決する必要がある(1),(2),(3).

これらは,装着型ロボットの安全要求事項として国際

規格 ISO 13482(4)にまとめられており,本研究が関連

する内容は同規格において「ロボット使用時のストレ

6. 結 言

本稿では装着型ロボット装着者がロボット側部と障

害物を接触するという状況を想定した実験を行い,反

応動作を解析した.その結果装着者は,回転が大きい

動作,あるいは直進に近い動作をとることが判明した.

回復脚接地時点における骨盤の水平面上での回転角度

を評価したところ,回転角度が大きいケースでは回転

動作,回転角度が小さいケースでは回転動作および直

進動作が観測された.更に回転角速度を加え評価した

結果,回転角度が小さいケースのうち回転角速度が大

きいケースでは回転動作,回転角速度が小さいケース

では直進動作を取ったことが判明した.今後は危険度

が高いと考えられる回転角度及び回転角速度が大きい

ケースや,回転角度及び角速度が小さいケースについ

て詳細な解析を行うことが求められる.

参 考 文 献

(1) “Robots and robotics devices - safety requirements forpersonal care robots”, TechRepISO13482, (2014)

(2) Pei-Chun Kao, Cara L. Lewis and Daniel P. Ferries, “Jointkinetic response during unexpectedly reduced plantarflexor torque provided by a robotic ankle exoskeletonduring walking”, Journal of Biomechanics, Vol.43,(2010), pp.1401–1407.

(3) Yasuhito AKIYAMA, Ikuma HIGO, Yoji YAMADA andShogo OKAMOTO, “An Analysis of Recovering Motionof Human to Prevent Fall in Respone to Abnormality witha Physical Assistant Robot”, International Conference onRobotics and Biomimetics, (2014), pp.1493–1498.

(4) Yasihito AKIYAMA, Ryota KUSHIDA, Yoji YAMADAand Shogo OKAMOTO, “An Analysis of RecoveryMotion of a Man Wearing Physical Assistant Robot inRespons e to Collision”, IEEE International Conferenceon Systems, Man, and Cybernetics, (2015), pp.1090–1093.

(5) 山本創太,“歩行者転倒における大腿骨頚部骨折発生機序の生体力学的検討”,日本機械学会論文集 A 編,Vol.72,No.723 (2006-2011), pp.1799–1807.

(6) Carol A. Oathis,“オーチスのキネシオロジー 身体運動の力学と病態力学 原著第 2 版”,有限会社ラウンドフット, (2012), pp.911–912.

(7) Ken YASUHARA, Kei SHIMADA, Taiji KOYAMA,Tetsuya IDO, Keishiro KIKUCHI and Yosuke ENDO,“Walking assist device with stride management system”,Honda R&D technical review,Vol.21,No.2 (2009),pp.54–62.

(8) Aftab E. Patla, Stephen D. Prentice, C. Robinson andJ. Neufeld, “Minimum foot clearance during walking:Strategies for the minimisation of trip-related falls”,Journal of Experimental Psychology: Human Perceptionand Performance, Vol.17, (1991), No.3, pp.603–634.

(9) Rezaul Begg, Russell Best, Lisa Dell’Oro and SimonTaylor, “Minimum foot clearance during walking:Strategies for the minimisation of trip-related falls”, Gait& Posture, Vol.25, (2007), pp.191–198.

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