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平成27年度地方都市ガス事業天然ガス化促進対策 調査(ガス工作物技術基準適合性評価等(ガス工作物 技術基準適合性評価事業))報告書 2016 3 16

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平成27年度地方都市ガス事業天然ガス化促進対策

調査(ガス工作物技術基準適合性評価等(ガス工作物

技術基準適合性評価事業))報告書

2016 年 3 月 16 日

i

はじめに

平成 27 年度地方都市ガス事業天然ガス化促進対策調査(ガス工作物技術基準適合性評価

等(ガス工作物技術基準適合性評価事業)(以下、本調査という。)では、群構造特性を有

する LNG 地下タンクを対象に、大規模地震に対する耐性評価等を行う汎用シミュレーショ

ンプログラムを開発した。

また、ガス供給システム全体の災害対策、とりわけ災害などの外的要因による設備への

影響や各種対策効果の評価(以下、耐災性評価という。)に関して今後の取り組みの方向性

を整理した。

なお、本事業の実施にあたって、本事業分野に知見のある複数の有識者及び事業者等に

より「ガス工作物技術基準適合性評価委員会(LNG 地下タンク耐震性評価)」(以下、評価

委員会)を構成し、議論、検討・評価を行った。

本報告書は、これらの検討結果についてまとめたものである。

ii

目次

1. ガス工作物技術基準適合性評価委員会(LNG 地下タンク耐震性評価) ......................... 1

1.1 設置目的 ...................................................................................................................... 1

1.2 開催概要 ...................................................................................................................... 1

1.3 委員 ............................................................................................................................. 1

2. LNG 地下タンク評価シミュレーションプログラムの仕様作成、解析入力条件の設定 ... 3

2.1 解析対象 ...................................................................................................................... 3

2.2 LNG 地下タンク評価シミュレーションプログラムの仕様 ........................................ 3

2.3 LNG 地下タンク評価シミュレーションプログラムの入力条件の設定 ...................... 5

2.3.1 モデル化の前提条件 .................................................................................................... 5

2.3.2 モデル化の方法と留意事項 ......................................................................................... 6

3. 既存プログラムの改良による汎用シミュレーションプログラムの開発 ........................... 7

3.1 COM3 プログラムの利用 ............................................................................................ 7

3.2 COM3 プログラムの入出力ファイルに関する概要 .................................................... 9

4. 開発したシミュレーションプログラムによる業界データとのクロス評価 ...................... 11

4.1 解析の目的 ................................................................................................................. 11

4.2 モデルの概要 .............................................................................................................. 11

4.2.1 解析モデル ................................................................................................................ 11

4.2.2 材料特性 .................................................................................................................... 15

4.2.3 境界条件 .................................................................................................................... 19

4.2.4 荷重条件と検討ケース .............................................................................................. 20

4.3 常時荷重載荷時の解析結果 ....................................................................................... 23

4.3.1 地震時荷重載荷時の解析結果① ................................................................................ 26

4.3.2 地震時荷重載荷時の解析結果② ................................................................................ 36

4.3.3 Ovaling(楕円化)振動 ............................................................................................. 46

4.3.4 解析結果のまとめと今後の課題 ................................................................................ 50

5. ガス供給システムの耐災性評価に関する提言 ................................................................. 52

5.1 都市ガスの災害対策のこれまでの取り組み ............................................................. 52

5.1.1 都市ガスの災害対策の枠組み ................................................................................... 52

5.1.2 災害対策の取り組みの現状 ....................................................................................... 53

5.2 関連分野の議論状況 .................................................................................................. 59

5.3 耐災性評価の高度化の方向性 ................................................................................... 69

5.3.1 耐災性評価の位置づけの変化 ................................................................................... 69

5.3.2 高度化に関する論点 .................................................................................................. 70

5.3.3 耐災性評価に関して取り組むべき施策 ..................................................................... 71

1

1. ガス工作物技術基準適合性評価委員会(LNG 地下タンク耐震性評価)

1.1 設置目的

本事業の実施にあたり、LNG 地下タンク評価シミュレーションプログラム(計算モデル)

の仕様、解析入力条件の設定等を検討・評価するために、本事業分野に知見のある複数の有

識者及び事業者等により「ガス工作物技術基準適合性評価委員会(LNG 地下タンク耐震性

評価)」(以下、評価委員会)を構成した。

1.2 開催概要

評価委員会は以下のとおり3回開催した。

委員会 実施時期 内容

第 1 回

2015 年 7 月 28 日(火)

15:00~17:30

株式会社三菱総合研究所 4F

大会議室 C

1.開催挨拶

2.委員及びオブザーバー紹介

3.事業概要、検討の進め方

4.地下 LNG タンクの安全性評価について

5.ガス供給システム全体の評価について

6.その他

第 2 回

2015 年 9 月 30 日(水)

15:00~17:30

株式会社三菱総合研究所 4F

CR-B 会議室

1.前回議事録確認

2.LNG 地下タンクの安全性評価について

3.ガス供給システム全体の評価について

4.その他

第 3 回

2015 年 12 月 3 日(木)

15:00~17:30

株式会社三菱総合研究所 4F

CR-B 会議室

1.前回議事録確認

2.LNG 地下タンクの安全性評価について

3.ガス供給システム全体の評価について

4.その他

1.3 委員

評価委員会の委員は以下の9名(五十音順、敬称略)である。

<委員>

市村 強 東京大学 地震研究所 巨大地震津波災害予測研究センター 准教授

鬼束 俊一 東京電力株式会社 建設部 土木・建築技術センター

原子力火力土木技術グループ グループマネージャー

川村 佳則 東京ガス株式会社 エネルギー生産部 生産管理グループ 主幹

小林 且典 東邦ガス株式会社 技術部 緑浜増設プロジェクト リーダー

佐竹 利明 仙台市ガス局 製造供給部 港工場 工場長

西崎 丈能 大阪ガス株式会社 エンジニアリング部 シニアリサーチャー

原田 光男 石油資源開発株式会社 相馬プロジェク本部 電力事業推進部 部長

2

前川 宏一 東京大学 大学院工学系研究科 社会基盤学専攻 教授

良知 浩 静岡ガス株式会社 生産部 生産担当マネージャー

<オブザーバー>

永井 裕司 経済産業省商務流通保安グループガス安全室 総括担当補佐

下舘 拓章 経済産業省商務流通保安グループガス安全室 技術担当補佐

上田 宣孝 経済産業省商務流通保安グループガス安全室 ガス・熱供給保安係長

清水 良郁 経済産業省商務流通保安グループガス安全室 液化石油ガス保安専門職

土屋 智史 株式会社コムスエンジニアリング 代表取締役社長

野口 和彦 横浜国立大学 大学院 環境情報研究院 教授

(野口教授は第 2 回のみの参加)

3

2. LNG 地下タンク評価シミュレーションプログラムの仕様作成、解析入力条

件の設定

2.1 解析対象

前章で開催した委員会で得られた委員コメントも踏まえ、電力施設での既往の検討事例1,2

も参照しつつ、解析対象として、国内の群構造特性を有する LNG 地下タンクを想定した構

造物およびその周辺地盤を解析対象とした。

ここでは、ガス工作物として実在する構造物/工場を対象とするものではないが、地下式

貯槽指針3に基づき設計した地下タンク躯体を想定し、より現実に即した検討を行うものと

した。なお、付帯設備等は対象から除外した。

2.2 LNG 地下タンク評価シミュレーションプログラムの仕様

LNG 地下タンクの地震時挙動を解析的に評価するにあたり、前章で開催した委員会から

の御助言も踏まえつつ、シミュレーションプログラムの仕様と入力条件について検討した。

シミュレーションプログラムが備えるべき機能としては、以下のようなものが挙げられた。

(1) RC 構造物とともに、周辺地盤の地震時応答を直接的に連成して評価できるものであ

ること.

通常のシミュレーションプログラムでは、RC 構造物あるいは地盤に対象を特化し

たものが多く、従来は両者を包含できる機能を有したものは限られていた.地中構造

物の場合は、地震時の地盤変位を最初に求め、その変位を構造物だけ取り出したモデ

ルに作用させる手法を採用することも広く行われていた(応答変位法).

本検討では、ガス工作物の群構造特性を有する LNG 地下タンクの大規模地震時挙

動を評価することから構造物と周辺地盤を連成して評価できるものを必要条件とす

る.

(2) 地震時動的応答を精度良く評価できるものであること.

(1)とも関連するが、地震時挙動を評価することを目的とするため、構造物・地盤と

もに非線形領域で正負繰返し履歴を受ける影響を評価できる必要がある.その際、将

来的な動向も踏まえ、水平 1 方向だけでなく、水平 2 方向あるいは鉛直方向を含めた

3 方向入力を可能とするものが望ましい.

(3) RC 構造物のひび割れや鉄筋降伏といった現象を再現できるものであること.

RC 構造物の非線形挙動については各種モデル化方法が存在するが、LNG 地下タン

1 原田光男,茂木寛之,権守英樹,山谷敦:地盤との相互作用を考慮した 3 次元非線形 FEM 解析による

LNG 地下タンク躯体の耐震性能照査,土木学会論文集 A1, Vol.67, No.3, pp.565-582, 2011. 2 土屋智史,千々和伸浩,原田光男,三島徹也,前川宏一:近接する LNG 地下タンク群と地盤で構成され

るタンクヤード全体の 3 次元動的応答解析,土木学会論文集 A1, Vol.71, No.3, pp.429-448, 2015.土木学会:

2012 年制定 コンクリート標準示方書[設計編],2013.3 3 ガス協会:LNG 地下式貯槽指針,2012.4

4

クの耐震性評価を行うために、ひび割れや鉄筋降伏といった現象を再現できる必要が

あり、タンク構造物の形状を鑑みれば、材料非線形モデル(繰返し履歴を考慮した応

力-ひずみ関係)に基づくモデルとするのがよい.

RC 構造物の非線形解析については、土木学会の『2012 年制定 コンクリート標準

示方書[設計編]4』を参照することができる.コンクリート標準示方書に従い、以

下のモデルを用いることを基本とする.

・ひび割れ進展を含むコンクリートについて、いろいろなモデルが提案されているが、

不連続に変化するひび割れ変位をある領域で平均化し、平均ひずみとして扱う分散ひ

び割れモデルを採用する.本検討対象のタンクのような鉄筋が平均的に配置されてい

る壁状の構造物では、特に適用性が高いとされているためである.

・ひび割れ発生以降のコンクリートと鉄筋の相互作用については、鉄筋とコンクリー

トの付着すべり関係を包含した鉄筋とコンクリートの平均応力-平均ひずみ関係(引

張)を用いる.

・ひび割れ面での応力伝達については、多方向のひび割れを考慮可能な固定ひび割れ

モデルを用いる.タンク構造物では様々な方向にひび割れが導入されることが想定さ

れ、かつせん断挙動を精度良く追跡する必要があるためである.

・ひび割れ平行方向の圧縮モデルについては、多軸応力の影響を考慮でき、除荷・再

載荷の繰り返し応力履歴や、経験最大圧縮ひずみの増加に伴う剛性の低下を考慮でき

るモデルを用いる.

・構造物中には鉄筋周辺の鉄筋との複合作用が支配的な領域とコンクリートのみの挙

動が支配的な領域があるが、それぞれの領域に適したモデルを適用する.後者では、

ひび割れ発生以降の軟化挙動を適切に考慮する必要がある.

・鉄筋については、相互作用をコンクリートとペアで考慮可能で、鉄筋が配置された

方向に対して、降伏、降伏後のひずみ硬化、降伏後の除荷・再載荷における履歴エネ

ルギー吸収およびバウジンガー効果を考慮可能なモデルを用いる.

(4) 温度変化に伴う体積変化を考慮できるものであること.

LNG 地下タンクは、極めて低い温度にさらされることになる.温度変化にともな

う体積変化が無視できないため、この影響を考慮できる必要がある.

(5) 実用的な労力と時間で計算可能であること.

ガス工作物の群構造特性を有する LNG 地下タンクの大規模地震時挙動を評価する

ためには、比較的規模の大きいモデルを作成し、数値解析を実施する必要がある.そ

のため、計算容量に対する制限が少なく、ある程度の規模で高速度演算処理を実施可

能なシミュレーションプログラムであることが望ましい.

上記の機能を備え、個々のタンクの構造形状や立地条件に応じて、入力条件を設定でき

ることをシミュレーションプログラムの仕様とすることとした。上記の機能を有していれ

ば、解析手法は如何なるものでもよいと考えられるが、次章で詳説するように、ここでは

4 土木学会:2012 年制定 コンクリート標準示方書[設計編],2013.3

5

この分野において多数の実績を有する有限要素非線形解析(FEM)を適用した。

2.3 LNG 地下タンク評価シミュレーションプログラムの入力条件の設定

2.3.1 モデル化の前提条件

委員会で得られた委員コメントを踏まえ、地下タンクのモデル化の前提条件として、以下

を確認した。

モデル化する群タンクの諸元は、全タンクともに、日本ガス協会「LNG 地下式貯槽

指針 3」に基づき設計した 4 基の地下タンクとする(図 2-1)。

地盤、側壁、連壁、底版全てソリッド要素、屋根は弾性シェル要素によりモデル化を

行う。

地盤の不陸は考慮せず、整層地盤として簡易的にモデル化する。

モデル化範囲は水平方向 10D(D:タンク直径)、鉛直深度方向 DL+14.4~DL-200.0m と

する。

躯体の物性値には、計測された実強度を用いる。

地盤の側方および底面の境界には、粘性境界を設定する。

凍土を含む躯体-地盤間は、接合要素(ジョイント要素)により剥離・すべりを考慮

する。

常時荷重を考慮した後に、地震荷重として加速度時刻歴波形を入力する。常時荷重と

して、満液時を考慮する。

入力地震波(L2)は水平 1 方向入力とし、タンク配置を考慮した 2 ケース実施する。

時間間隔は Δ0.01秒とする。

解析モデルは、50,000 要素程度となるように作成する。

(a)対象標準断面図 (b)群タンクの配置図

図 2-1 想定した対象構造物概要図

6

2.3.2 モデル化の方法と留意事項

委員会で得られた委員コメントを踏まえ、地下タンクの具体的なモデル化方法やモデル作

成時の留意点等として,以下の項目が挙げられた。また、それらに対する対応方針を付記し

た。

タンクの壁厚方向の分割は、鉄筋配置に応じた分割とし、曲げ剛性を一致させるとと

もに、コンクリートのみの挙動が支配的な領域では、ひび割れ発生以降の軟化挙動を

要素寸法に応じて設定する。

⇒モデル化の際に留意する。

コンクリートと鉄筋の材料強度は、データが存在する場合には、設計値ではなく実測

値を用いることができる。なお、低温時の特性変化も考えられるが、本検討では対応

しない。

⇒モデル化の際に留意する.

地盤物性値は、G/G0-γ曲線、h-γ曲線から定まる非線形特性を考慮する。なお、ガス

工作物では凍土の影響も考慮する(弾性と仮定してよい)。この点は、一般に電力施

設とは思想が異なる。

⇒地盤パラメータを適切に設定する.(せん断特性は R-O 型モデル)

構造物と地盤の間での剥離を考慮し、構造物に過度な引張力が加わることを回避する。

⇒躯体-地盤間にジョイント要素を定義して、非現実的な応答を回避する。

常時荷重を適切に載荷して、振動や解の発散(あるいは信頼性の低下)が生じないよ

うにする。

⇒常時荷重を静的に漸増載荷することで、非現実的な応答を回避する。

できる限り解析領域を広く設定し、地盤の側方および底面に適切な境界条件を定義し

て、想定した地震動が入力されているか確認する。

⇒地盤の側方および底面に粘性境界を定義し、モデル外縁には擬似遠方地盤を追加す

る。事前検討として、重複反射理論により算出した値との比較を行い妥当性の確認を

行う。

地震応答解析に入力する加速度時刻歴波形は立地条件に応じて選定し、応答が小さく

収まるまでの継続時間を設定する。

⇒LNG 地下式貯槽指針 3 の考え方を踏まえつつ、想定した地点での地盤条件と工学

的盤面に応じて、重複反射理論に基づいて入力波形を設定する。また、継続時間は計

算状況/途中経過を踏まえつつ、必要な時間継続する。(事前に継続時間を確定しない。)

地下タンクの耐震性評価は、構造物の変位および加速度応答、躯体のひずみ損傷など

に基づいて総合的に行うものとする。

⇒上記の値を出力し、アニメーション機能なども用いて、地下タンクの耐震性を評価

する。なお,損傷状況によっては、面外せん断破壊に対する照査 3を省略する。また、

群設効果に着目することから、Ovaling(楕円化)振動についても整理する。

7

3. 既存プログラムの改良による汎用シミュレーションプログラムの開発

3.1 COM3 プログラムの利用

本調査において、当初、既存プログラムの改良による汎用シミュレーションプログラムの

開発を行うことを想定したが、コード選定等の調査に基づき、既存の汎用プログラムで対応

可能であることがわかった。

特に、RC 構造物については、コンクリート標準示方書 4の記載に即したシミュレーショ

ンプログラムを準備することが必須となるが、これに準拠したプログラムとして、東京大学

コンクリート研究室で開発中の COM35があることがわかった。COM3 では、図 3-1 のよう

に地盤も対象とする機能を有し、各種構造物について検証が行われており、地盤との連成を

含めて実構造物に適用された実績を有している 5,6など。また、前章の 2.2 で記載された(1)

~(5)のすべての条件を満たす機能が既に実装されており、特にプログラムを修正すること

なく、適用可能であることがわかった。

図 3-1 地盤-構造物を連成した地震応答解析の例 6

本検討に先立つ予備検討として、既往の縮小タンク試験体の載荷実験7を対象として、

COM3 による非線形解析を実施し、その適用性を試験的に検証した。ここでは次章で詳説

する水平 2 方向に載荷する、No.2 試験体を対象とした。載荷実験の概要を図 3-2 に、解析

結果例を図 3-3 に示す.図 3-3 のコンター図では、紙面奥行き方向に載荷している状況を

描画しており、赤く着色している部位でひずみ損傷が大きくなっていることを表す。

解析から得られた荷重-層間変形角関係は、実験結果と良く一致しており、損傷が生じる

部位も実験結果と整合していることから、タンク構造物に対して、COM3 は十分な適用性

5 Maekawa, K., Pimanmas, A. and Okamura, H.:“Nonlinear Mechanics of Reinforced Concrete”, SPON Press,

2003. 6 牧剛史,土屋智史,渡辺忠朋,前川宏一:3 次元非線形有限要素法を用いた RC 杭基礎-地盤系の連成地

震応答解析,土木学会論文集 A, Vol.64, No.2, pp.192-207, 2008.4 7 原田光男,鬼束俊一,山谷敦,松尾豊史:地震時における LNG 地下タンク躯体の耐荷機構,土木学会論

文集 A1(構造・地震工学),Vol.67,No.3,pp.517-529,2011.

8

を有していると判断できる。また、タンク構造物を対象とするにあたり、プログラム自体の

修正や機能の追加は、必要ないと判断した。

以上を踏まえ、本検討ではシミュレーションプログラムとして、COM3 を用いることと

した。COM3 はプレポスト機能を備えた解析ツール COM3D として、一般に販売されてい

るものである。参考までに図 3-4 には、ホームページ(http://www.ducoms.com/)より一部

抜粋した COM3D の機能概要を示す。

図 3-2 実験の概要 6

図 3-3 解析結果例

-3000

-2000

-1000

0

1000

2000

3000

4000

-2 -1 0 1 2 3 4 5

荷重(kN)

層間変形角(%)

9

図 3-4 COM3D の機能概要(HP より転載)

3.2 COM3 プログラムの入出力ファイルに関する概要

COM3 は、有限要素非線形解析ツールであり、解析モデルは、対象を細分化した要素と

要素を構成する節点からなる。節点は解析領域の XYZ 座標が定義され、拘束条件が付与さ

れる。要素は節点構成により分割と形状が定義され、材料特性が付与される。さらに,鉄筋

コンクリートの場合には、鉄筋の量と配置されている方向が定義され、ひび割れ以降の軟化

挙動を設定する。

入力ファイルのモデル作成時における要素分割では、できる限り扁平とならない形状とし、

変形が集中する領域では粗い分割とならないようにすることとした。地震応答解析時には、

対象とする周波数を勘案して、要素長の範囲を設定する必要がある。その上で、RC 材料構

成則では図 3-5のように,鉄筋とコンクリートの相互作用効果(付着)を各々の応力-ひず

10

み関係に包含される形で定式化しており、鉄筋情報の入力は要素ごとに 3 方向の鉄筋比とし

て空間平均化した形で入力する形を取っているため、要素分割時には,実際の鉄筋配置の粗

密を考慮して行う必要がある。(無筋コンクリートは鉄筋比がゼロの RC 要素として取り扱

う。)すなわち、全体の形状は対象構造物を忠実にモデル化した上で、主鉄筋の断落しやせ

ん断補強筋の配置間隔の変化点等を考慮し、断面方向についてはかぶりの 2 倍の寸法を外側

からの分割位置として、部材の曲げ剛性が一致するように分割を行う方針とした。

図 3-5 COM3D における材料非線形モデル概要

出力ファイルでは、コンクリートおよび鉄筋の各種応力とひずみ、節点での変位、加速度、

反力などが出力される。これらを基にグラフ化や画像化処理を行う(ポスト処理)。画像化

処理については、有限要素解析用の一般汎用ツールを用いることもできる。本調査では,

GiD Version 12.0.2 を用いてポスト処理を行った。

11

4. 開発したシミュレーションプログラムによる業界データとのクロス評価

4.1 解析の目的

「LNG 地下タンクの群効果を確認すること」を目的として、4 基の地下式 LNG 地下タン

ク群を対象に非線形動的解析を実施した。レベル 2 地震動を入力波形とし、躯体及び地盤の

加速度や変位応答、損傷度に基づき躯体の安全性について検討した。あわせて、1 タンクモ

デルによる感度解析を行い、群タンクによる影響を比較検討した。

本検討のモデル化及び動的解析は、同様の検討を実施した既往の研究 1,2 を踏襲して行う

こととした。

4.2 モデルの概要

4.2.1 解析モデル

(1) 群設タンクと単タンクの全体モデル

解析モデルの全体図を図 4-1 に示す。図 4-1 (1)の群設タンク(以下、tank4 と称する)の

総要素数は、およそ 50,000 強となった。鉛直方向の要素分割は、地層区分を基準とした。

側壁と連壁の半径方向(断面方向)は鉄筋のかぶりを考慮して、それぞれ 4 分割と 3 分割と

した。また、モデル外縁には擬似遠方地盤を追加した。

図 4-1 (2)は、群設効果の比較検証用の単タンクモデル(以下、tank1 と称する)である。

(1) 群設タンク(tank4) (2) 単タンク(tank1)

図 4-1 解析モデル概要

12

(3) tank4:躯体周辺要素分割 (4) 躯体と凍土

図 4-1 解析モデル概要(つづき)

(2) 躯体周りジョイント要素

既往の事例に基づき、躯体が地盤から過度な引張力を受けることも懸念されたため、躯体

-地盤間に不連続な剥離・すべりを考慮するためのジョイント要素を図 4-2 のように定義

し、非現実的な応答となることを回避した。

①躯体/連壁/凍土-地盤: テンションカット

②連壁-側壁(ジベル有り): テンションカット、ただし剥離時もせん断剛性を付与

③連壁-側壁(ジベル無し): テンションカット

④凍土-側壁上部: 剛結

図 4-2 ジョイント要素の配置概要

No.1

No.2

No.3

No.4

13

せん断伝達機構(ジベル筋)が配置されている連壁-側壁間の下側(②)では、せん断方

向の応答について検討した実験結果8に基づいて、剥離時のバネ剛性を推定した(図 4-3)。

なお、実験では部材間のすきま(d)をパラメータとして載荷が行われているが、いずれの

結果も初期剛性は概ね一致していると判断した。

図 4-3 側壁‐連壁間ジベルの荷重‐変位関係 1

(3) 粘性境界

水平方向の境界条件として、側方には粘性境界を設定し、粘性境界の外側には自由地盤振

動を模した擬似遠方地盤要素を接続して、振動エネルギーの逸散を考慮した。モデル底面に

も、底面から下方への振動エネルギーの逸散を考慮するための粘性境界を設定した。設定し

た境界条件の概要は、図 4-4 に示す通りである 2。

8 妹島淳生,若林雅樹,長谷川俊昭,川村佳則,渡辺宗樹:埋込の短いスリップバー方式のせん断耐力に

関する実験的研究,第 49 回年次学術講演会講演論文集,1994.

14

図 4-4 粘性境界条件の概要

15

4.2.2 材料特性

調査研究委員会による御助言も踏まえ、材料特性として、以下のように設定した。

(1) コンクリート

躯体コンクリート強度は、実機のコア抜きサンプリングによる圧縮試験結果(実強度)を

採用した(表 4-1)。なお、RC 要素の単位体積重量は 24.5kN/m3とした。

表 4-1 躯体コンクリート物性値

*引張強度は ftT=0.23×fcT2/3により算出

(2) 鉄筋

鉄筋は、表 4-2 の実測値を採用した。

表 4-2 躯体鉄筋物性値

(3) 地盤

表 4-3 にボーリングデータに基づく各層の地盤物性値を示す。地盤の初期せん断剛性 G0

はせん断弾性波速度 Vs より算出した。図 4-5 に示す各地盤の非線形特性(G/G0-γ 曲線、h-γ

曲線)からパラメータ α,β を推定し、せん断強度 Suを算出した。本検討では、これらの物

性値を与えることで図 4-5の実線で示した地盤の非線形特性を再現するものである。なお、

凍土は弾性体としてモデル化した。

本解析検討で採用するせん断応力-せん断ひずみの骨格曲線は、Ramberg-Osgood モデル

(R-O モデル)と同様式で表現でき、式(4.1)のように表される。また、履歴則は Masing 則

に従う。

uSG1

0

(4.1)

16

ここで、γ:せん断ひずみ、τ:せん断応力、G0:初期せん断剛性、Su:せん断強度(ひず

み 0.01 時の応力)である。式(4.1)に Masing 則を適用すると式(4.2)が、式(4.1)を変形して式

(4.3)が得られる。式(4.2)より最大減衰定数 hmax を定めれば、2

2max

h hmax =

2

π∙

β

β+2か

ら β が求まる。また、G/G0=0.5 のときのせん断ひずみを基準とすると、α = 2βの関係が得

られ、 が求まる。さらに、式(4.1)の定義より、τ = Suにおけるひずみがγ = (1 + α)Su

G0(= 0.01)

となる関係がある。したがって G0 を算出しておけば、ひずみ依存曲線(G/G0-γ 曲線、h-γ

曲線)から必要なパラメータ(α,β,Su)を容易に決定することができ、本検討においても、

試験値を基に入力パラメータを設定した。

0

12

2

G

Gh

(4.2)

uSGG 1/1/ 0 (4.3)

表 4-3 地盤物性値

17

(1) B(盛土) (2) Bs1(埋立層)

(3) Bs2(埋立層) (4) A1c(沖積層)

(5)A2c(沖積層) (6) A2s(沖積層)

図 4-5 地盤の非線形特性

18

(7)D1s(洪積層) (8) D3s1(洪積層)

(9)D3c(洪積層) (10) Kac(土丹層)

図 4-5 地盤の非線形特性(つづき)

19

4.2.3 境界条件

境界条件は、既往の検討事例を参考に、側方および底面に粘性境界を設けた。モデル遠方

には自由振動地盤を模擬した擬似遠方地盤要素を接続し、振動エネルギーの逸散を考慮した

水平/鉛直用のジョイント要素を追加した。図 4-6 に常時荷重時(初期応力解析)と地震応

答解析時の境界条件概要を示す。常時荷重には水平方向を拘束し、地震時には拘束を解除し

た。

図 4-6 境界条件イメージ図(解析モデル断面)

20

4.2.4 荷重条件と検討ケース

(1) 常時荷重

本検討における荷重条件は、常時荷重を載荷させて初期応力状態を再現させた後、地震荷

重として時刻歴加速度を与えた。なお、常時荷重は一括載荷とし、地震による動液圧は地震

波入力の直前に静的に載荷した。入力荷重詳細を表 4-4 に、各荷重の概要図を図 4-7 にそ

れぞれ示す。

表 4-4 常時荷重詳細

図 4-7 常時荷重載荷概要図

(2) 地震荷重

図 4-8 のように、入力用地震波は設計地震波を重複反射理論により、DL-59.3m(土丹上

面)から DL-200.0m(解析モデル底面)にまで引戻して作成した。図 4-9 (1)に波形の加速

度応答スペクトルを、図 4-9 (2)に入力地震波の時刻歴を示す。なお、本検討では、地震波

 ① 自重 鉛直方向に重力加速度を作用させることで考慮する.

 ② 土圧 鉛直方向に重力加速度を作用させることで考慮する.

 ②'低減土圧 連壁効果による低減土圧を側壁内面より分布荷重として載荷する.

 ③ ガス圧 側壁内面に分布荷重として載荷する.

 ④ 液圧 側壁内面,底版上面に分布荷重として載荷する.

 ⑤ 揚水圧 底部下面に分布荷重として載荷する.

 ⑥ 屋根荷重 重力加速度を作用させることで考慮する.

 ⑦ 凍結土圧 躯体外側から分布荷重として載荷する.

 ⑧ プレストレス力 側壁頂部に分布荷重として載荷する.

 ⑨ 温度荷重 躯体温度分布より要素に温度ひずみとして載荷する.

 ⑩ 動液圧 側壁内面に分布荷重として載荷する.

荷重 入力方法,作用位置

21

の入力を 3 秒から開始し、図 4-10 に示すように、地震波入力方向を 2 ケース(CASE1:X

軸方向、CASE2:45°方向)設定した。

図 4-8 入力地震波(2E)のイメージ図

(1)加速度応答スペクトル(減衰 5%)

(2)時刻歴加速度波形

図 4-9 入力地震波(2E 波)

22

図 4-10 タンク配置を考慮した地震波入力ケース

23

4.3 常時荷重載荷時の解析結果

常時荷重を静的に載荷させたときの、tank4 モデル全体の変形図を図 4-11 に示す。側壁

と底版の変形図(変形倍率 200 倍)+主ひずみ分布を図 4-12 に示す。tank4 については、

各タンクともに同様の挙動であることを確認している。躯体の最大主ひずみ(引張)は 200μ

以下であり、ひずみの集中は底版上面、側壁‐底版のハンチ部である。また、最小主ひずみ

(圧縮)についても、側壁下部に集中しているが、-200μ程度の値に留まっている。同様に、

tank1 に常時荷重を載荷させたときのモデル全体変形図、躯体の変形図(変形倍率 200 倍)

+主ひずみ分布を、それぞれ図 4-13、図 4-14 に示す。変形、主ひずみ分布ともに、tank4

との差異は見られない。

(1)モデル全体

(2)躯体周辺

図 4-11 tank4:常時荷重載荷後変形図(変形倍率 30 倍)

24

(1)最大主ひずみε1 (2)最小主ひずみε3

図 4-12 tank4:躯体主ひずみ分布(変形倍率 200 倍)

(1) モデル全体

(2) 躯体周辺

図 4-13 tank1:常時荷重載荷後変形図(変形倍率 30 倍)

25

(1)最大主ひずみε1 (2)最小主ひずみε3

図 4-14 tank1:躯体主ひずみ分布(変形倍率 200 倍)

26

4.3.1 地震時荷重載荷時の解析結果①

(1) 入力方向の時刻歴応答変位波形

図 4-15 に示す位置における応答加速度、モデル底面との相対変位をそれぞれ、図 4-16、

図 4-17 に示す。なお、tank1 の出力位置は tank4 と同座標位置である。応答加速度では、地

表面(A1)では、群設モデル tank4 の方が、応答値が大きくなる傾向が見られた。しかし、地

表面の変位波形では、tank4 の方が大きくなる結果となり、これらはタンクの群効果による

ものと推察される。一方、地中部(A2)において、tank4、tank1 の両者は同様の挙動を示した。

また、躯体頂部(B)、底版中央(C)では、深さによらず、両モデルで応答加速度・応答変位と

もに大きな差異はない。

(1)Tank4 (2)Tank1

図 4-15 結果出力位置

27

(1)A1:モデル中央地表面(DL+14.4m)

(2)A2:モデル中央地中(DL-55.912m)

(3)B:躯体頂部(DL+14.4m)

(4)C:底版中央(DL-47.912m)

図 4-16 tank4 と tank1 の X 方向時刻歴加速度波形とフーリエスペクトル

28

(1)A1:モデル中央地表面(DL+14.4m)

(2)A2:モデル中央地中(DL-55.912m)

(3)B:躯体頂部(DL+14.4m)

(4)C:底版中央(DL-47.912m)

図 4-17 tank4 と tank1 の X 方向時刻歴変位波形

29

(2) 応答変位分布および変形図

図 4-17 (1)で示した tank4 の時刻歴変位波形において、+X 側変位が最大となる時刻(10.67

秒)と-X 側変位が最大となる時刻(9.68 秒)における変位コンター図を図 4-18 に示す。地表面

では 20~30cm 程度の変形量に対して、躯体周辺では 10cm 以下となった。また、モデル断

面図をみると、地盤の変形は表層付近の地層に集中した。また、tank1 における同様に結果

を図 4-19 に示す。tank1 においても躯体周辺の応答変位は小さい結果となった。

(1)+X方向 地表面変位最大時(10.67sec)

(2)-X方向 地表面変位最大時(9.68sec)

図 4-18 tank4:地表面変位最大時の全体変形量コンター図

30

(1)+X方向 地表面変位最大時(10.67sec)

(2)-X方向 地表面変位最大時(9.68sec)

図 4-19 tank1:地表面変位最大時の全体変形量コンター図

31

tank4 の変形図を図 4-20 に示す。

(1)地表面(A1) 正側変位最大時

(2)地表面(A1) 負側変位最大時

図 4-20 tank4:地表面変位最大時の全体変形図

(倍率 30 倍、上:モデル全体、下:躯体周辺)

32

図 4-21 に主要動後の時刻 19 秒における残留変位量を示す。躯体周辺の地表面では最大

で 10cm 程度の残留変位が確認できた。また、tank4 におけるタンク間の残留変位の分布は、

タンク配置に影響を受けた分布形状となった。

(1)tank4

(2)tank1

図 4-21 X 方向残留変位(時刻 19sec)

33

(3) タンク躯体ひずみ分布

図 4-22、図 4-23 に tank4 と tank1 における躯体の主ひずみのコンター図を示す。なお、

コンター図は、各主ひずみの応答値が最大となる時刻のものである。図 4-22 の tank4 の最

大主ひずみでは、側壁外側下部において最大値 179μとなった。X 方向に隣接するタンク間

でひずみ分布、変形形状に大きな差は見られなかった。tank1 の最大主ひずみ分布(図 4-23)

は tank4 と同様の分布となったが、主ひずみが最大となる位置はやや異なる結果となった。

最小主ひずみにおいても、tank4 と tank1 で同様の挙動を示した(図 4-24、図 4-25)。ただ

し、いずれも tank1 の方が、若干応答値が大きくなった。

最大・最小主ひずみの応答より、想定した地震時の躯体損傷はコンクリートがわずかにひ

び割れる程度に留まると想定される。引張に対しては鉄筋の降伏ひずみの 1/10 程度、圧縮

に対してはコンクリートの圧縮強度に対応するひずみのおおよそ 1/10 であって、十分な裕

度を有していることが分かる。ちなみに、土木学会コンクリート標準示方書[設計編]5)で

は、面部材を有限要素モデルにより解析する場合、応答変位が終局変位に達しないことの照

査に代えて、板表面の面内主圧縮ひずみの最大値が圧縮強度に対応するひずみの 2 倍になら

ないことで照査してよいとしている。

図 4-22 tank4:躯体最大主ひずみの分布(変形倍率 200 倍)

34

図 4-23 tank1:躯体最大主ひずみの分布(変形倍率 200 倍)

図 4-24 tank4:躯体最大主ひずみの分布(変形倍率 200 倍)

35

図 4-25 tank1:躯体最大主ひずみの分布(変形倍率 200 倍)

36

4.3.2 地震時荷重載荷時の解析結果②

(1) 入力方向の時刻歴応答変位波形

CASE1 と同様に、図 4-26 に示す位置における応答加速度、モデル底面との相対変位の時

刻歴波形をそれぞれ、図 4-27、図 4-28 に示す(緑線)。比較対象として、CASE1 の応答値

を併記した(赤線)。応答加速度においては、各位置で CASE2 の方が若干小さくなる傾向

が得られた。また変位時刻歴は CASE1 と CASE2 とで概ね一致した挙動を示したが、躯体

頂部の応答値には乖離が生じる結果となった。

(1)Tank4 (2)Tank1

図 4-26 結果出力位置

37

(1)A1:モデル中央地表面(DL+14.4m)

(2)A2:モデル中央地中(DL-55.912m)

(3)B:躯体頂部(DL+14.4m)

(4)C:底版中央(DL-47.912m)

図 4-27 tank4 と tank1 の加力方向時刻歴加速度波形とフーリエスペクトル

38

(1)A1:モデル中央地表面(DL+14.4m)

(2)A2:モデル中央地中(DL-55.912m)

(3)B:躯体頂部(DL+14.4m)

(4)C:底版中央(DL-47.912m)

図 4-28 tank4 と tank1 の加力方向時刻歴変位波形

39

(2) 応答変位分布および変形図

地表面の入力方向変位が正側と負側で最大となる時刻における変形量コンター図を、それ

ぞれ図 4-29、図 4-30 に示す。CASE1 と同様にタンク周辺の変位量は地表面に比べて小さ

くなる。また、図 4-31 に変形図を、図 4-32 に時刻 19.0 秒における残留変位量のコンター

図を示す。

(1)CASE2

(2)CASE1

図 4-29 地表面変位 正側最大時の変形量コンター図

40

(1)CASE2

(2)CASE1

図 4-30 tank1:地表面変位最大時の全体変形量コンター図

41

CASE2 の変形図を図 4-31 に示す。

(1)正側変位最大時

(2)負側変位最大時

図 4-31 地表面変位最大時の加力方向断面変形図(倍率 30 倍、上:モデル全体、下:躯体

周辺)

42

(1)CASE2

(2)CASE1

図 4-32 CASE2 と CASE1 の残留変位(時刻 19.0 秒)

43

(3) タンク躯体ひずみ分布

図 4-33 は、最大主ひずみの最大値時刻歴波形とその最大値時の主ひずみ分布を示したも

のである。なお、CASE2 において、解析上側壁頂部にひずみが大きくなっているが地盤変

形の影響を受けているものだと考えられる。ここでは地震による損傷が卓越すると考えられ

るタンク側壁の下端から高さ 2/3 までの範囲で評価を行った。その結果、最大主ひずみは時

刻 7.52 秒時に 169μであり、最大値を示す箇所は No.2 に位置するタンク側壁の下部であっ

た。一方、図 4-34 に示した最小主ひずみでは、最小主ひずみが最も小さくなる時刻は 7.64

秒時であり、最大主ひずみとほぼ同時刻であった。最小主ひずみの発生箇所は No.2 におけ

る側壁下部の内側であった。ひずみの集中は見られるものの、応答値は小さくと躯体の損傷

はわずかであるといえる。

引張に対しては鉄筋の降伏ひずみのおおよそ 1/10 程度、圧縮に対してはコンクリートの

圧縮強度に対応するひずみの 1/10 程度以下であって、十分な裕度を有していることが分か

った。

図 4-33 躯体の最大主ひずみ分布(時刻 7.52 秒)

44

図 4-34 躯体の最小主ひずみ分布(時刻 7.64 秒)

45

図 4-35 に、これまでの各ケースの主ひずみの時刻歴を比較した。CASE1 と CAE2 を比較

すると、最大主ひずみ、最小主ひずみともに有意な差が見られ、CASE2 の方が、主ひずみ

が小さくなっており、群効果の影響を受けたものと言える。つまり、CASE2 の最大主ひず

みは、CASE1 の 92 %、また CASE2 の最小主ひずみは、CASE1 の 95 %の値となっている。

また、各ひずみの最大(小)値について Tank1 を基準とすると、CASE1 では 97 および 98 %、

CASE2 では 89 および 93 %の値となっている。

なお、本検討対象よりも建設年度が古い電力系の地下タンク 2では、群効果を考慮するこ

とで、-340 μであった最小主ひずみの最小値が-266 μに、1040 μであった最大主ひずみ

の最大値が 290 μになった参考値が示されている。

(1)最大主ひずみ最大値時刻歴

(2)最小主ひずみ最大値時刻歴

図 4-35 各ケースにおける躯体の主ひずみ最大値の比較

100

120

140

160

180

200

4 6 8 10 12 14 16 18

最大主ひずみ

ε 1(μ

)

Time(sec)

-400

-350

-300

-250

4 6 8 10 12 14 16 18

最小主ひずみ

ε 3(μ

)

Time(sec)

46

4.3.3 Ovaling(楕円化)振動

既往の先行研究より、地盤を介してタンク群が相互に影響を及ぼし合う場合には、同一時

刻での形状が一様でなくなることが知られている。そこで、本検討においては、タンク最上

面の形状に対する直径の変化に着目した。図 4-36 に対象タンクの位置関係を示す。

図 4-37 に、Y 方向に隣接するタンクに対する CASE1 の直径の変化の履歴を示す。2 つの

タンクの相互関係はほぼ 45°方向にあり、相対運動をしている事がわかる。これは、Y 方向

に近接するタンク群は、ほぼ連動して ovaling 変形していることを意味する。一方、X 方向

に隣接する No.1-No.2 については(図 4-38)、最初の 4.67 秒程度までは、ほぼ 45°方向にあ

るが、主要動が入力される 4.67 秒以降では、それまでとは逆に隣り合うタンクは異なる変

形を示すことがわかる。これは、既往の研究 2でも示されており、本検討においても同様の

挙動が確認できたといえる。

図 4-36 CASE1:tank4 モデル各タンク配置概要図

図 4-37 CASE1:No.1-No.3 間の 0°-180°方向のタンク直径の相互変化

47

図 4-38 CASE1:No.1-No.2 間の 0°-180°方向のタンク直径の相互変化

図 4-39 に示す CASE2 でも同様に Ovaling の挙動を確認した。加力方向に対し直交に隣り

合うタンク間(図 4-40)と平行に隣り合うタンク間(図 4-41)の直径の相互変化を示した。

Ovaling の挙動傾向は CASE1 と同様であり、直交して隣接する場合は同一の挙動、平行に

隣接する場合は異なる変形形状を示した。

48

図 4-39 CASE2:tank4 モデル各タンク配置概要図

図 4-40 CASE2:No.2-No.3 間の 45°-225°方向のタンク直径の相互変化

49

図 4-41 CASE2:No.1-No.4 間の 45°-225°方向のタンク直径の相互変化

50

4.3.4 解析結果のまとめと今後の課題

(1) 解析結果のまとめ

LNG 地下タンクの群効果を確認することを目的として、LNG 地下タンク群の非線形地震

応答解析を実施した。4 つのタンク群を対象として、入力地震波の方向を変化させた 2 ケー

スの解析を行った。さらに、群タンクによる影響を比較検討するため、単一タンクモデルに

よる感度解析を行った。以下に、その結果概要をまとめる。

LNG 地下タンク群の地盤と躯体を連成したモデルを作成し、地震応答解析を実施した

ところ、計算途中に発散することなく、応答値が小さく落ち着いた段階まで追跡するこ

とができ、本検討で用いた解析手法およびモデル化の有効性を確認できた。さらに、複

数のケースについて解析を実施することで、考察を深めることができ、かつ解析の妥当

性を確認することができた。なお、本検討では、既往の文献 1,2 とは異なり、コンクリ

ートと鉄筋の材料特性として実測値を用い、地中連壁と凍土もモデル化を行う条件設定

とした。

応答加速度・変位については、地中部ではタンク数や地震動の入力方向による大きな差

は見られなかったが、タンク周辺の地表面では、群効果による影響を確認することがで

きた。

地下式貯槽指針 3に基づき設計した地下タンク躯体は、いずれのケースにおいてもひず

み損傷は数百 μ 程度に留まっており、想定した巨大地震動に対しても、十分な安全性

を保持していることが認められた。また、詳細に比較すると、地震入力の方向やタンク

数によって、ひずみ応答にわずかながら差が生じており、群効果によりひずみが小さく

なる傾向を示した。

躯体の Ovaling 振動を分析すると、群タンクの影響が認められた。

以上の挙動は、電力系の地下タンクを対象とした既往の検討結果 1,2 と同様の傾向であ

った。したがって、地下式貯槽指針に規定されている手法を適用することで安全性、タ

ンクとしての機能を確保できている。さらに、群効果を直接考慮することで、より合理

性や安全性を高められる見込みが得られたと考えられる。

既往の知見および本検討結果を踏まえると、ここでの解析手法は、想定地震動が非常に

大きい場合や建設年度の古い既設構造物に対して有益であると思われる。さらに、境界

条件や条件設定に関する諸課題を解決することで、地下タンクのみならず、LNG 地上

タンクや海水取水設備等の地中土木構造物等の高レベル地震動に対する耐性評価に有

効に活用できるものと推察されるとともに、首都直下地震や南海トラフ地震等の巨大地

震、あるいは長周期地震動に対する検討の際に活用できる見込みが得られたと考えられ

る。

51

躯体の面外破壊については、ひずみ損傷が小さく、かつタンクの耐荷機構から類推して

面外せん断破壊が生じる可能性はないことから、本検討では実務における通常の照査を

省略した。

(2) 解析結果のまとめ

LNG ガスタンクの群効果を明らかにすることを目的に解析を実施した。当初の目的は達

成されたと考えるが、他の大きなエネルギー源を保有する施設に対する地震評価への拡張や、

ガス業界のみならず電力業界や他産業に至るまで、コンクリート構造物に対する評価への活

用等、より幅広い視点を含めると以下の課題が残っているものと考えられる。

解析の詳細化

今回実施した群タンク効果の解析については、詳細レベルにおいて課題が残っている。

例えば、メッシュ詳細度に対する依存性や精度の検証、加振の大きさ、加振のかけ方を

より現実的なものにする等、委員会で確認を経たモデル化の仮定部分についてより現実

に即した解析を実施することへの課題が残っている。

解析の横展開

今回実施した群タンク効果の解析の経験に基づき、解析対象を横展開する可能性が考え

られる。方向性としては、以下の二つが挙げられる。

LNG 地上タンク等への展開

本解析は、地下タンクのみならず、LNG 地上タンク、海水取水設備等の地中土木

構造物等の高レベル地震動に対する耐性評価に有効に活用できる解析である。解析

を行う際の境界条件、モデル化条件等の条件設定に関する諸課題を解決することが

必要と考える。

建設年度の古いLNG地下タンクに対する評価

今回の解析対象としたLNG地下タンクは、最新の設計指針に基づき設計したタン

クであり、既往のノウハウを集約したものである。一方、建設年度の古い地下タン

クも多数存在しており、これらの高レベル地震動に対する耐震性能評価を行う際の

境界条件、評価基準等の条件設定に関する諸課題を解決することが必要と考える。

LNG地下タンク、LNG地上タンクに対する巨大地震の影響

LNGタンクに対しての首都直下地震、南海トラフ地震等の巨大地震に対する影響の指

摘がなされている。強震動地震動だけでなく、長周期地震動に関する検討も内閣府で進

められている。こられへの対応として、本解析を用いた評価が必要と考える。

52

5. ガス供給システムの耐災性評価に関する提言

東日本大震災の被害状況を踏まえつつ、今後発生が想定されている南海トラフ巨大地震や

首都直下地震対策に向けて、減災や早期復旧等を図る視点から、ガス供給システムの災害対

策(設備対策、緊急対策、復旧対策等)を検討しておく必要がある。

効果的な災害対策を講じるためには、災害などの外的要因による設備への影響のシミュレ

ーションや各種対策効果の評価を行っておくことが重要であり、これを耐災性評価という。

本事業では、ガス供給システム全体の災害対策、とりわけ耐災性評価に関して今後の取り

組みの方向性を整理した。都市ガスの災害対策のこれまでの取り組み、関連分野の議論を踏

まえつつ、耐災性評価の高度化の方向性についてまとめるものとした。

5.1 都市ガスの災害対策のこれまでの取り組み

5.1.1 都市ガスの災害対策の枠組み

都市ガスの保安については、平成 10 年に取りまとめられたガス安全高度化検討会報告書

において示された「安全高度化目標」を達成するために、国およびガス事業者により種々の

対策が講じられてきた。安全高度化目標においては、全体、製造段階、供給段階、消費段階

のそれぞれにおいて 2010 年時点の目標が設定され、その目標に向けて、着実な事故の低減

が進められてきた。図 5-1 に、都市ガス供給システムの製造・供給・消費段階の区分と、

保安責任の区分を示す。保安の責任は、製造段階と供給段階についてはガス事業者、消費段

階については需要家(ガスを使用する者)に区分されている。

図 5-1 都市ガス供給システムの製造・供給・消費段階

2011 年 5 月に、総合資源エネルギー調査会ガス安全小委員会において、都市ガスの保安

をめぐる情勢の変化を踏まえて、2020 年までの 10 年間を見据えた総合的なガスの保安対策

として、「ガス安全高度化計画」が策定された。

ここでは、安全高度化目標として、「2020 年の死亡事故ゼロに向けて、国、ガス事業者、

53

需要家及び関係事業者等が、各々の果たすべき役割を着実に実行するとともに、環境変化を

踏まえて迅速に対応することで、各々が共同して安全・安心な社会を実現する。」と設定さ

れた。また、2020 年時点の安全高度化指標が設定された。

安全高度化目標の実現の一端を担うガス事業者では、都市ガス業界の将来にわたって持続

的に成長する方向性として、GasVision2030 を取り纏め 2008 年 4 月に発表している。また、

2020 年に向けた「ガス安全高度化計画」の策定を受けて、GasVision の下、環境変化等に対

応したガス保安対策のあり方について、都市ガス業界の行動計画として策定された「保安自

主行動計画」を踏まえ、“2030 年を見据えた 2020 年”を目標年とする、業界としての新た

な行動計画「保安向上計画 2020」が策定され 2011 年 10 月に発表されている。

図 5-2 国・業界・事業者における計画の関係

図 5-2 に、国・業界・事業者における計画の関係を示した。

都市ガス供給システムの災害対策に関しては、前述した国の「ガス安全高度化計画」、業

界が示した「GasVision2030」と「保安向上計画 2020」の中で示されており、個別のガス事

業者においては、各社の中期計画の中で事業構造改革と経営・事業基盤強化の中で、環境性

や効率性と並んで、その取り組みが示されている。

災害対策については、国・業界・事業者の計画の中で、地震や津波等の外的要因への備え

として「守り」の施策として取り組まれている。災害対策は、事故や経年劣化への対策であ

る保安対策と共通する部分も多く、両者は密接に関係した存在になっていると言える。

5.1.2 災害対策の取り組みの現状

(1) 従前の取り組み(~2010)

平成7年に発生した阪神・淡路大震災以降、様々な対策が実施されてきた。平成 16 年に

発生した新潟県中越地震及び平成 19 年に発生した新潟県中越沖地震に対する対策により、

新たな知見が加えられ、さらに地震対策が強化されてきた。対策としては、設備に対する対

ガス安全高度化計画

Gas Vision 2030

各社中期計画

保安向上計画2020

業界

事業者

環境性、効率性、供給安定性、利便性等の追求

環境性、効率性、供給安定性、利便性の追求

事業構造改革、経営・事業基盤強化

保安対策災害対策

攻め守り

保安対策災害対策

保安対策災害対策

54

策、緊急時のための対策、復旧における対策に分かれており、それぞれ以下の対策が実施さ

れたことが報告されている9。

<設備対策>

耐震性向上のため、耐震性の低い管から耐震性の高いポリエチレン管 26 への取替え

を継続的に推進した。

地震対策技術調査事業として、平成 20 年度から 3 ヵ年で埋設導管の長柱座屈 27 防止

のための耐震設計ガイドライン(案)を作成した。

<緊急対策>

被害状況の予測及び供給停止判断を的確に行うため、地震計の設置推進、設置環境の

見直しを行った。

供給停止権限を有する者の常駐又は確実な連絡手段の整備推進等、即時に供給停止が

可能な体制を強化した。

一般ガス事業者、簡易ガス事業者、ガス導管事業者及び国の間でガス防災支援システ

ム(G-React)の運用を開始した。

ほぼ全ての需要家において感震遮断機能が搭載されたマイコンメーターが設備され

た。

<復旧対策>

移動式ガス発生設備導入促進事業が創設され、34 のガス事業者が初めて移動式ガス

発生設備を導入した。これにより、全国の移動式ガス発生設備の配備数が 122 基(平

成 19 年)から 537 基(平成 21 年)に増加した。

移動式ガス発生設備を適切なタイミングで設置できるように、重要施設のリスト化を

行い、当該施設におけるガスの使用規模、用途等の情報の整理を行った。

大規模な災害が発生した場合、速やかな復旧のためにガス事業者間の相互応援体制が

整備された。

ガス導管内に侵入した水を迅速に除去するための採水ノウハウ集を作成した。

(2) ガス安全高度化計画に基づく対策の推進(~2020)

2010 年までの取り組みを踏まえて 2011 年 5月に策定されたガス安全高度化計画において、

災害対策に関しても具体化が図られている。しかしながら、その検討過程において、東日本

大震災が発生した。震災後の 2013 年 3 月に震災の教訓を踏まえた産業構造審議会保安分科

会報告書10がまとめられ、今後、東日本大震災を踏まえた対策を着実に実施していくととも

に、東日本大震災以上の地震動や津波が想定される南海トラフ巨大地震、首都直下地震等に

ついても対策を講じる必要があるとしている。

現時点における設備対策、緊急対策、復旧対策の内容は図 5-3 に示す通りである。

9 ガス安全高度化計画 総合資源エネルギー調査会 都市熱エネルギー部会 ガス安全小委員会、2013 年 4 月 10 東日本大震災を踏まえた都市ガス供給の災害対策検討報告書、総合資源エネルギー調査会都市熱エネル

ギー部会ガス安全小委員会災害対策ワーキンググループ、2013 年 3 月

55

図 5-3 ガス安全高度化計画に基づく施策

安全高度化目標の達成に向けた実行計画(アクションプラン) の進捗状況については、

2015 年 4 月 20 日のガス安全小委員会(第 10 回)で報告されており、災害対策の状況につ

いて以下に概要を示す。

1)設備対策

耐震化率の一層の向上

一般ガス事業者における低圧本支管の耐震化、ポリエチレン化の取り組みは、2013

年において耐震化率 81.1%、PE 管比率 41.9%。[JGA]

「長柱座屈防止のための耐震設計指針(仮称)」の策定

JGA に設置した外部有識者の参加によるガス工作物等技術基準調査委員会におい

て、平成 25 年 1 月に審議を行い、指針の新規制定が承認。その後 1 か月のパブリ

ックコメントを経て、指針が発行された。[JGA]

支持部材損傷防止措置未実施の球形ガスホルダーの補強対策の推進

残存する7基のガスホルダーについては、開放検査にあわせた補強等を予定してお

り、対策の前倒しを引き続き依頼。[JGA]

重要電気設備等の津波・浸水対策の推進

津波対策に関する要領を新規策定し、事業者への対策を周知。「LNG 受入基地設備

指針」の改訂。臨時製造による代替策の整備・運用開始。[JGA]

56

2)緊急対策

防災データベースの改善及び ICT 等の技術の進歩に合わせた情報システム等の継続

的な見直し

ガス防災支援システム基盤整備事業(G-React)の運用を実施。ガス事業者等から、

供給ブロック情報や主要ガス設備情報等の基礎データを収集しシステムに反映さ

せることで、システムを最新の情報に更新。[国]

G-Reactを利用した大規模な地震発生時を想定した被害状況報告訓練を支部毎に実

施。[JGA]

G-React の基礎データ更新について、必要な情報を協会支部から収集[JCGA]

防災訓練の実施

平成 26 年 9 月 1 日「防災の日」において、東京都23区を震源地とした地震を想

定した災害発生時の地震災害応急対策の実施体制の確保等を図るため、総合防災訓

練を実施。[国]

地震等災害が発生した場合の JGA とガス事業者の情報連絡方法の確認や初動対応

の確認等、災害対応能力の向上を図るため訓練(1 回以上/年)を継続的に実施。[JGA]

保安規程に定める防災訓練の継続的な実施。[JCGA]

供給停止判断基準の見直し

ガス導管等の被害が軽微となることが予見できる場合について、JGA が検討して

見直した追加事項を反映し改訂した保安規程について、立入検査において適切な運

用がなされているか確認。[国]

ガス導管の耐震化率に焦点をあて、供給停止判断基準に追加された特例措置に関す

る詳細な適用条件について検討を実施。この検討結果を受けて追加の特例措置の適

用条件をまとめ、平成 24 年度内に運用基準を定め、保安規程(参考例)及び保安

規程(参考例)の解説に反映。[JGA]

液状化により著しい地盤変位が生じる可能性の高い地区の特定及びリスト化

アンケート(平成 25 年 7 月)によりガス事業者の実施状況を調査し、液状化によ

り著しい地盤変位が生じる可能性の高い地区に対して、対応が図られていることを

確認。[JGA]

危険性のある箇所の把握に努め、その結果、簡易ガス団地の所在地が液状化の危険

性があると判明した場合は、今後対策を検討。[JCGA]

自治体等により特定された盛土崩壊等の可能性のある地区のリスト化

アンケート(平成 25 年 7 月)によりガス事業者の実施状況を調査し、自治体等に

より特定された盛土崩壊等の可能性のある地区に対して、対応が進められているこ

とを確認。[JGA]

危険性のある箇所の把握に努め、その結果、簡易ガス団地の所在地が盛土崩壊の危

険性があると判明した場合は、今後対策を検討。[JCGA]

作業員の安全確保に係る避難場所の確保、災害対応マニュアル類の見直し、避難訓練

を含む保安教育の再徹底

津波対策に関する要領を新規策定し、事業者への対策を周知。「LNG 受入基地設備

指針」の改訂。[JGA]

簡易ガス事業地震防災対策マニュアルの改訂を実施。[JCGA]

57

非裏波溶接鋼管の特定及び関係する遮断装置のリスト化

アンケート(平成 25 年 7 月)によりガス事業者の実施状況を調査し、対象の非裏

波溶接鋼管に対して、対応が図られていることを確認。[JGA]

津波漂流物による損傷可能性のある橋梁添架管の特定及び関係する遮断装置のリス

ト化

アンケート(平成 25 年 7 月)によりガス事業者の実施状況を調査し、想定津波高

さが明らかとなったガス事業者において、津波漂流物による損傷可能性のある橋梁

添架管への対応が図られていることを確認。[JGA]

特定製造所における感震自動ガス遮断装置の全数設置に向けた普及促進

平成 26 年度の特定製造所の感震自動ガス遮断装置の設置状況は、普及率 93.4%。

[JGA]

通信手段の充実

国、関係事業者及び自治体間の情報共有・伝達体制等の在り方に関し、非常通信協

議会の見直し(協議会構成の拡充、情報共有・伝達体制の整備、非常通信ルートの

見直し等)を行うことを決定。[国]

震災復旧時の通信統制を想定した訓練を実施。無線のデジタル化対応のための環境

整備。都市ガスシンポジウムアネックスでの説明。全国のガス事業者向け説明会。

[JGA]

災害時の通信手段について各事業者に調査した結果に基づき、多重化を行っていな

い事業者については、地震防災対策マニュアル等を通して多重化の必要性について

周知を実施。[JCGA]

3)復旧対策

余震等を考慮した復旧作業員の安全に配慮した復旧活動のあり方の検討

余震時の対応方法の重要性等について、JGA の地震防災対策関連図書(地震防災

対策ガイドライン、地震時ガス導管復旧作業の手引等)に反映し、全国のガス事業

者へ周知。[JGA]

安全確保等に関する対策を盛り込むため、平成 24 年 11 月に簡易ガス事業地震防災

対策マニュアルを改訂。以降事業者に周知・啓発を実施。[JCGA]

復旧時における仮設配管及び導管地中残置に関する検討

スムーズに工事に着手できた事例について、平成 25 年 2 月及び 12 月に国土交

通省道路局路政課に紹介し、さらなる協力依頼を平成 26 年 7 月、12 月及び平成2

7年2月に実施。経済産業省の協力依頼を受け、国土交通省道路局路政課では、各

道路管理者に対する協力要請を検討中。[国]

移動式ガス発生設備の大容量化について検討

高圧ガス保安法上、300 ㎥ 以上の貯蔵能力の場合に求められる物理的規制(保安

物件との離隔距離等)や手続き(事前届出等)等の保安上の措置を適用した場合、

現実的か。仮に緩和が必要な場合、同等の保安確保が可能で、かつ現実的な代替

措置はあるか。以上について検討を進めている。[国]

法定熱量測定の特例措置の検討

ガス事業法施行規則改正済み。[国]

58

需要家データ、マッピングデータ等のバックアップの確保

アンケート(平成 25 年 7 月)によりガス事業者の実施状況を調査し、津波により

本社設備等が被災する可能性のあるガス事業者において、バックアップデータ確保

に向け取組みが推進されていることを確認。[JGA]

「地震防災対策マニュアル」において、需要家情報や導管図面等の重要なデータに

ついては、被災時においてもデータの消失等が起こらないように、日頃からデータ

のバックアップや、データの複数個所での保管管理を考慮するよう新たに記載。こ

のマニュアルに沿って事業者に要請。[JCGA]

事前届出を行っていない車両に対する緊急通行車両確認標章交付の迅速化

発災後、JGA の先遣隊が円滑に活動できる仕組みを講じるため、平成 26 年 11 月

28 日に警察庁交通局交通規制課と打ち合わせ済み。[国]

支援物資物流システム改善状況のフォロー

平成 23 年 12 月に「『支援物資物流システムの基本的な考え方』に関するアドバイ

ザリー会議」報告書がとりまとめられ、物流事業者の能力を最大限活用、災害時協

力協定の内容の見直し、協定締結の推進等を行うことが決定。[国]

(3) 南海トラフ巨大地震、首都直下地震を踏まえたガス設備の耐性評価と復旧迅速化対策

2013 年 12 月に、国土強靱化基本法が成立、翌 2014 年 6 月 3 日、国土強靱化基本計画が

閣議決定された。国土強靱化とは、「強さ」と「しなやかさ」を持った安全・安心な国土・地域・

経済社会の構築に向けた取り組みである。この基本計画の推進方針では、ライフライン(ガ

ス等)の管路や施設の耐震化を図ること、耐食性・耐震性に優れたガス管への取替えを、学

校・病院等の関係機関、地方公共団体と連携しつつ着実に推進することが言及されている。

2014 年のガス安全小委員会において、南海トラフ巨大地震、首都直下地震を踏まえたガ

ス設備の耐性評価と復旧迅速化対策等の検討を行い、同 7 月に従前の取組に対する評価と今

後講じるべき対応策が中間報告書11としてとりまとめられた。

中間報告書では、耐性評価について、東京ガス㈱、大阪ガス㈱、東邦ガス㈱の3社におい

て基本的には妥当性があることが確認されているが、東京ガス㈱の1製造所において震度7

に該当するため、引き続き、詳細な耐性評価を行うこととしている。また、復旧対策につい

て、基本的に妥当性があることを確認されているが、復旧要員の確保及び復旧優先順位の確

認について、引き続き具体的な検討を行うこととしている。

その後の 2015 年 6 月にガス業界における取組のフォローアップ状況が報告された12。

1)耐性評価(ハード面)

造設備の重要度に応じた現行の耐震基準への適合状況の確認

11 産業構造審議会保安分科会ガス安全小委員会中間報告書~南海トラフ巨大地震、首都直下地震を踏まえ

たガス設備の耐性評価と復旧迅速化対策等~ 産業構造審議会保安分科会ガス安全小委員会、2014 年 7 月 12 産業構造審議会保安分科会ガス安全小委員会中間報告書(南海トラフ巨大地震、首都直下地震を踏まえ

たガス設備の耐性評価と復旧迅速化対策等)のフォローアップ状況について(報告)、経済産業省商務流通

保安グループ ガス安全室、平成 27 年 6 月 29 日

59

「特定事業所かつ重要度Ⅰaの設備」に該当する3事業者の計12基のLNG、L

PG貯槽について、現行耐震基準に適合することを確認した。

液状化の基準制定前の設備を含め、液状化に留意した対策

大手3社については全基、それ以外については8事業者(代表基)において、液状

化に留意した設計及び施工が実施されていることを確認した。

首都直下地震で震度7となる1箇所の製造所の詳細解析、震度7の供給設備の調査

(想定加速度等)

内閣府から発表される首都直下地震の大正関東地震タイプの地震波形データが未

公表のため、公表され次第、検討を開始することとした。

2)耐性評価(ソフト面)

中央防災会議の想定をベースとした自治体独自想定の考慮

考慮すべき新たな津波想定の公表はない。

LNG気化器等の円滑な広域融通の検討と推進

災害時にLNG気化器の広域融通を行う仕組みを構築した。

事業者が取り組んだ対策事例の共有化

津波対策に関する内容を盛り込んだ指針を策定し、説明会を通じて各事業者に説明

した。

3)復旧対策

復旧作業員、要員の確保、出動が可能か、定期的に検討

災害時に優先的に復旧すべき社会的重要度の高い施設を定期的に確認。実状を考慮し

た上、各事業者にてあらかじめ検討

各事業者の防災訓練などの機会を通じて確認した。

5.2 関連分野の議論状況

前節で述べたとおり、都市ガスの災害対策は、過去の災害の教訓等を踏まえ、国及びガス

事業者の連携により継続的に高度化が図られてきている。その結果として、都市ガスの安全

基準は他分野との比較においても高いものになっている。

一方で、ガス供給システムは、エネルギーシステム改革やガスシステム改革の議論の中で、

事業環境が大きく変わろうとしている。都市ガスの安全、いわゆる保安対策や災害対策に関

しても、この事業環境の変化を踏まえたうえで、国・業界・事業者の役割や位置づけの再確

認が必要である。

また、ガス供給システムは我が国の経済活動を支える重要インフラの一つであり、各分野

の社会課題との関連性を有する。直面する社会課題への対応の方向性に関する論点として、

例えばインフラ長寿命化や国土強靭化、科学技術イノベーションに関する議論も踏まえる必

要がある。

社会の安全・安心に対する要求レベルが高まっていく中で、これら関連分野の議論との整

合を図りつつ、ガス供給システム全体の災害対策、さらには耐災性評価の高度化を検討する

べき時期に来ている。

60

意識しておくべき周辺議論として、例えば表 5-5 に示すものが挙げられる。

図 5-4 都市ガス供給システムの災害対策の高度化

表 5-5 今後の耐災性評価の高度化に係わる主な周辺議論

社会課題・論点 目的・方向性(都市ガス関連)

エネルギーシステ

ム改革

総合的なエネルギー市場を創り上げ、以下を実現

・日本の成長の牽引(革新的な技術の導入、異なるサービスの融合な

どのイノベーションの創発)

・消費者利益のさらなる向上(エネルギー選択の自由拡大、料金の最

大限抑制、安定供給と保安の確保などの、消費者利益の向上)

ガスシステム改革 ・天然ガスの安定供給の確保

・ガス料金を最大限抑制

・利用メニューの多様化と事業機会拡大

・天然ガス利用方法の拡大

日本再興戦略

-JAPAN is BACK-

・最先端の技術を活かして、インテリジェント・インフラを実現

・安全で強靱なインフラが低コストで実現されている社会

インフラ長寿命化 ・個別施設毎の長寿命化計画を核としてメンテナンスサイクルを構築

・メンテナンスサイクルの実行や体制の構築等により、トータルコス

トを縮減・平準化

・産学官の連携により、新技術を開発・メンテナンス産業を育成

国土強靭化 ・大規模自然災害発生後であっても、経済活動(サプライチェーンを

含む)を機能不全に陥らせない

・大規模自然災害発生後であっても、生活・経済活動に必要最低限の

電気、ガス、上下水 道、燃料、交通ネットワーク等を確保すると

ともに、これらの早期復旧を図る

科学技術イノベー

ション

<科学技術イノベーション総合戦略>

・世界に先駆けた次世代インフラの整備(インフラの安全・安心の確

保、レジリエントな防災・減災機能の強化)

<革新的研究開発推進プログラム ImPACT>

・人知を超える自然災害やハザードの影響を制御し、被害を最小化

<戦略的イノベーション創造プログラム SIP>

・エネルギーキャリア

・インフラ維持管理・更新・マネジメント技術

・レジリエントな防災・減災機能の強化 等

将来の事業環境/都市ガス供給システム

インフラ長寿命化

エネルギーシステム改革

科学技術イノベーション

国土強靭化ガスシステム改革 ・・・

災害対策・耐災性評価の高度化

これまでの取り組みや災害事例を踏まえた高度化

事業環境の変化を踏まえた高度化

社会環境の変化・様々な社会課題

61

1)エネルギーシステム改革・ガスシステム改革

ガスシステム改革後の保安規制(災害対策を含む)に関しては、産業構造審議会保安部会

ガス安全小委員会のガスシステム改革保安対策ワーキンググループにて議論が進められて

いるところである。災害対策についても、エネルギーシステム改革と合わせて、技術革新や

効率化と保安(災害対策を含む)投資のバランス、自由化後の導管・小売事業者の役割分担

等について検討が必要である。

2)日本再興戦略

日本再興戦略が掲げるアクションプランの中のひとつに「戦略市場創造プラン」がある。

この中に、都市ガスシステムが関わる部分としては、「テーマ3:安全・便利で経済的な次

世代インフラの構築」がある。社会像として「最先端の技術を活かして、インテリジェント・

インフラを実現」、「安全で強靱なインフラが低コストで実現されている社会」等があるべき

姿として掲げられている。

なお、インフラデータを把握・蓄積・活用すること及び 信頼性・経済性の高い点検・補

修技術の採用をインフラ管理の標準とする必要があることから、国が主導しながら自治体や

民間を巻き込みつつ、インフラ管理の在り方・ 方向性、将来に向けたロードマップなどを

内容とする「インフラ長寿命化基本計画」を策定することとされている。

3)インフラ長寿命化

平成 25 年 11 月にインフラ長寿命化基本計画が策定され、国や地方公共団体等が一丸とな

ってインフラの戦略的な維持管理・更新等を推進するものとされている。

この計画は、国民の安全・安心を確保し、中長期的な維持管理・更新等に係るトータルコ

ストの縮減や予算の平準化を図るとともに、維持管理・更新に係る産業(メンテナンス産業)

の競争力を確保するための方向性を示すものとして、国や地方公共団体、その他民間企業等

が管理するあらゆるインフラを対象に含めたものである。

この計画では、目指すべき姿と基本的な考え方として、表 5-6 の内容が示されている。

なお、インフラ長寿命化基本計画に基づき、経済産業省においても平成 27 年 3 月に経済

産業省インフラ長寿命化計画(行動計画)を策定するとともに、インフラの状態モニタリン

グ技術開発やインフラの点検・調査用ロボット技術開発などの関連事業が実施されている

(図 5-7 参照)。

62

表 5-6 インフラ長寿命化基本計画の基本的な考え方(抜粋)

目指すべき姿 安全で強靱なインフラシステムの構築

メンテナンス技術の基盤強化、新技術の開発・導入を通じ、厳しい

地形、多様な気象条件、度重なる大規模災害等の脆弱性に対応

総合的・一体的なインフラマネジメントの実現

人材の確保も含めた包括的なインフラマネジメントにより、インフ

ラ機能を適正化・維持し、効率的に持続可能で活力ある未来を実現

メンテナンス産業によるインフラビジネスの競争力強化

今後のインフラビジネスの柱となるメンテナンス産業で、世界のフ

ロントランナーの地位を獲得

基本的な考え

インフラ機能の確実かつ効率的な確保

メンテナンスサイクルの構築や多段階の対策により、安全・安心を

確保

予防保全型維持管理の導入、必要性の低い施設の統廃合等によりト

ータルコストを縮減・平準化し、インフラ投資の持続可能性を確保

メンテナンス産業の育成

産学官連携の下、新技術の開発・積極公開により民間開発を活性化

させ、世界の最先端へ誘導

多様な施策・主体との連携

防災・減災対策等との連携により、維持管理・更新を効率化

政府・産学界・地域社会の相互連携を強化し、限られた予算や人材

で安全性や利便性を維持・向上

出所)インフラ長寿命化基本計画

図 5-7 経済産業省 インフラ維持管理・更新等の社会課題対応システム開発プロジェクト

出所)http://www.meti.go.jp/policy/economy/gijutsu_kakushin/kenkyu_kaihatu/infurakoudoukeikaku.html

63

4)国土強靭化

平成 25 年 12 月 11 日に、強くしなやかな国民生活の実現を図るための防災・減災等に資

する国土強靱化基本法が公布・施行され、平成 26 年 6 月 3 日には、基本法に基づき、国土

強靱化基本計画が閣議決定された。さらに、具体的な実施施策等を示した国土強靱化アクシ

ョンプランを定め、国土強靱化の取組を計画的に進めているところである。

国土強靭化基本計画では、「基本目標」、「事前に備えるべき目標」を定め、その上で、起

きてはならない最悪の事態を想定し、現状分析(脆弱性評価)を行ったうえで、それを回避

するための備えの施策について、KPI を設定し、進捗管理を行っている。

インフラに関連する目標としては、「大規模自然災害発生後であっても、経済活動(サプ

ライチェーンを含む)を機能不全に陥らせない」、「大規模自然災害発生後であっても、生活・

経済活動に必要最低限の電気、ガス、上下水道、燃料、交通ネットワーク等を確保するとと

もに、これらの早期復旧を図る」などが設定されている。都市ガスの災害対策についても、

これら基本目標に沿った施策・事業の設定、取り組みが必要となっている。

64

表 5-8 国土強靭化における起きてはならない最悪の事態

5)G 空間×ICT

総務省では、平成 25 年度より、G 空間情報と ICT を融合させ、暮らしに新たな革新をも

たらすため、関係府省や民間企業、地方自治体等と連携し、「G 空間×ICT 推進会議」(座長:

65

柴崎 亮介 東京大学 空間情報科学研究センター 教授)を開催しつつ、「G 空間×ICT」プ

ロジェクトを推進している。

具体のプロジェクトとしては、G 空間情報の円滑な利活用を可能とする「G空間プラット

フォーム」と最先端の防災システムや地域活性化・新産業創出を実現する「G 空間シティ」

を実施している。

図 5-9 総務省 「G空間×ICT」プロジェクトの概要

出所)http://www.soumu.go.jp/main_content/000390992.pdf

6)科学技術イノベーション

我が国は、経済再生、人口減少や少子高齢化の急速な進行、地球環境問題等の難題が山積

しており、これらの課題の克服のために、科学技術イノベーションに期待される役割は増大

している。特に、現下の最大かつ喫緊の課題である経済再生に向けて、科学技術イノベーシ

ョンの潜在力を集中して発揮し、この時局を打開し未来を切り拓くため、科学技術イノベー

ション政策の全体像として「科学技術イノベーション総合戦略」が定められた。

科学技術イノベーション総合戦略の中で、取り組むべき課題として「世界に先駆けた次世

代インフラの整備(具体的には、インフラの安全・安心の確保、レジリエントな防災・減災

機能の強化)」が掲げられている。

また、科学技術イノベーション総合戦略及び日本再興戦略において、総合科学技術・イノ

ベーション会議(CSTI)の司令塔機能強化がうたわれており、そのための具体施策として、

以下の 2 つの研究開発プログラムが設定された。

<戦略的イノベーション創造プログラム SIP>

総合科学技術・イノベーション会議が自らの司令塔機能を発揮して、府省の枠や旧来の分

野の枠を超えたマネジメントに主導的な役割を果たすことを通じて、科学技術イノベーショ

66

ンを実現するために新たに創設するプログラム。

SIP では、以下の 11 課題の研究開発が進められている。

① 革新的燃焼技術 研究開発計画

② 次世代パワーエレクトロニクス

③ 革新的構造材料 研究開発計画

④ エネルギーキャリア

⑤ 次世代海洋資源調査技術

⑥ 自動走行システム 研究開発計画

⑦ インフラ維持管理・更新マネジメント技術

⑧ レジリエントな防災・減災機能の強化

⑨ 次世代農林水産業創造技術 研究開発計画

⑩ 革新的設計生産技術 研究開発計画

⑪ 重要インフラ等におけるサイバーセキュリティの確保

このうち、都市ガスシステムの災害対策に特に関連するテーマとして、④エネルギーキャ

リア、⑦インフラ維持管理・更新・マネジメント技術、⑧レジリエントな防災・減災機能の

強化等がある。

例えば、⑦インフラ維持管理・更新・マネジメント技術に関しては、点検・モニタリング・

診断技術、構造材料・劣化機構・補修・補強技術、情報・通信技術、ロボット技術、アセッ

トマネジメント技術の 5 テーマについて研究開発が進められている。今後のガスシステムの

災害対策・保安対策に活用できるものも多いと思われる。

また、⑧レジリエントな防災・減災機能の強化に関しては、災害の予防、予測、対応に関

する技術の研究開発が進められており、災害時の都市ガスの復旧対応の迅速化等に資する関

連技術があると思われる。

④エネルギーキャリアに関しては、水素供給システムをターゲットとしたものであるが、

横浜国大の野口教授が関与されているように、エネルギーキャリアの安全性評価のスキーム

について、既存キャリアとの比較評価、社会受容性を検討するアプローチ等については、都

市ガスシステムの安全性評価の参考になると考えられる。

67

図 5-10(インフラ維持管理・更新・マネジメント技術)研究開発項目

出所)http://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/sip/keikaku/7_infura.pdf

図 5-11(レジリエントな防災・減災機能の強化)研究開発項目

出所)http://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/sip/keikaku/8_bousai.pdf

68

図 5-12(エネルギーキャリア)研究開発項目

出所)http://www.jst.go.jp/sip/pdf/SIP_energycarriers2015.pdf

<革新的研究開発推進プログラム ImPACT>

実現すれば産業や社会のあり方に大きな変革をもたらす革新的な科学技術イノベーショ

ンの創出を目指し、ハイリスク・ハイインパクトな挑戦的研究開発を推進することを目的と

して創設されたプログラム。

ImPACT では、都市ガスシステムの災害対策に直接的に関連する研究開発プログラムは今

のところ設定されていないが、「社会リスクを低減する超ビッグデータプラットフォーム」

など、間接的に関連しそうなプログラムが設定され、研究開発が進められようとしている。

図 5-13 革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)の概要

69

<ポスト「京」プロジェクト>

文部科学省では、「我が国における科学技術の振興、産業競争力の強化、国際貢献、安全・

安心の国づくり等を実現するため、平成 26 年度よりスーパーコンピュータ「京」の後継機

となるポスト「京」の開発(フラッグシップ 2020 プロジェクト)」を進めている。

ポスト「京」においては、国家基幹技術として国家的に解決を目指す社会的・科学的課題

に戦略的に取り組み、我が国の成長に寄与し世界を先導する成果を創出することが期待され

ており、9つの重点課題が選定されている。カテゴリ「防災・環境問題」における重点課題

の一つに「地震・津波による複合災害の統合的予測システムの構築」(東京大学地震研究所

の堀教授、市村准教授ら)がある。同研究は、サブ課題A「地震・津波の災害被害予測の実

用化研究」、サブ課題B「統合的予測のための社会科学シミュレーションの開発」から構成

されている。例えば、サブ課題 A の関連研究としてテラ自由度モデルの動的非線形有限要

素法を用いた都市シミュレーション13がある。

図 5-14 東京の都市シミュレーション

出所)脚注 13

5.3 耐災性評価の高度化の方向性

5.3.1 耐災性評価の位置づけの変化

これまで、ガス供給システムの耐災性評価としては、導管に対する各種流送評価(定常/

13 Tsuyoshi Ichimura1, Kohei Fujita, Pher Errol Balde Quinay, Lalith Maddegedara1,Muneo Hori, Seizo Tanaka,

Yoshihisa Shizawa, Hiroshi Kobayashi, and Kazuo Minami, Implicit nonlinear wave simulation with 1.08T DOF and

0.270T unstructured finite elements to enhance comprehensive earthquake simulation, SC '15 Proceedings of the

International Conference for High Performance Computing, Networking, Storage and Analysis, Article No. 4

70

非定常)や設計地震動に基づく導管の弾塑性解析(液状化地盤対応等)等が行われてきた。

これらの評価は、設備単体を対象としたものであり、また耐震基準など事前の対策検討に資

するものであった。つまり、“静的な活用”にとどまってきたといえる。

一方で、前節で紹介したガス供給システムを取り巻く周辺議論を踏まえれば、耐災性評価

に求められる役割は変化してきていると考えなければならない。

例えば、計算技術の高度化により、シミュレーションの大規模化や高分解能化、高速化が

進んでいる。また、データ利活用・共有の観点からは、各種技術(センサー・IoT・通信、

ビッグデータ処理・AI 等)の進化や、データ基盤整備の進展などにより、耐災性評価に関

する技術的制約はなくなりつつある。

また、社会的ニーズにも変化はみられる。例えば、ガス供給システムのサプライチェーン

全体の影響評価、他インフラとの相互依存性解析、工学的影響のみならず社会的影響までを

含めた評価、また、過酷事象や地震以外のハザードに対する影響評価など、災害対策高度化

の観点から様々なニーズが出始めている。

ガス事業者としても、復旧対応力の評価、事業影響の評価等に加え、アセットマネジメン

トや投資計画などの経営判断局面での活用、つまり、“動的な活用”までを想定すべきとこ

ろである。

5.3.2 高度化に関する論点

評価委員会では、東京大学の市村委員、またオブザーバーである横浜国立大学の野口教授

に、耐災性評価の高度化について情報提供をいただいた。

1)全体系を考慮した地震応答シミュレーション(市村委員)

市村委員からは、地盤・構造物・都市などの全体系を考慮した地震応答のシミュレーショ

ンの動向や課題について解説をいただいた。

要点は以下のとおり。

断層―構造物系、都市全体の地震応答シミュレーションについて、主な課題は膨大の

解析コストとモデルの不確からしさである。

解析コストは徐々に解決されつつあるが、一方でモデルの信頼性向上は大きな課題。

2)水素システムの社会リスクについて(野口教授)

野口教授からは、水素システムの安全性評価を題材に、工学システムの社会リスク評価の

必要性について解説をいただいた。

要点は以下のとおり。

工学システムを原因とする物理的被害に関する受容性だけではなく、工学システムの

実装が社会に与える影響(社会リスク)を総合的に検討し、受容性を検討する必要が

ある。

社会リスクの総合的評価による工学システムの選択が必要。

71

5.3.3 耐災性評価に関して取り組むべき施策

これまでのガス供給システムの災害対策の取り組み、関連分野の議論、さらには評価委員

会での議論等をもとに、経済産業省、日本ガス協会等のご意見を踏まえつつ、都市ガスシス

テムの耐災性評価として取り組むべき施策を整理した。

施策については、計算技術の高度化、データ利活用・共有、社会ニーズ、事業者ニーズ、

その他全体取組のそれぞれの観点から、また、短期(3 年をめど)、中長期(5 年以上)に分

けて整理を行った。表 5-15 に示す。

計算技術の高度化の観点においては、リアルタイム津波浸水予測や都市全体の地震応答シ

ミュレーションなどへの取り組みが期待される。データ利活用・共有の観点においては、

G-React や地下埋設物データベースなどのプラットフォームの整備促進、IoT や AI による状

態監視・判断の高度化などが期待される。

また、事業者ニーズへの対応として、地震時の行動渋滞予測に基づく復旧対応シミュレー

ションに加えて、ガス供給設備全体の総合リスク評価など経営判断局面での活用に資する技

術整備が期待される。

72

表 5-15 都市ガスシステムの耐災性評価として取り組むべき施策

検討事項 短期(~3年) 中長期(5年~) 計算技術の高度化 (シーズ起点)

・導管に対する流送評価の高度化 ・設計地震動に基づく導管等の弾塑性解析の高度化 ・ガス供給システムを含む都市全体地震応答シミュレーション(不整形地

盤における低圧ガス供給ネットワークの耐震性評価など) ・リアルタイム津波浸水予測 ・津波波力による設備への影響シミュレーション

・ガス供給システムを含む都市全体地震応答シミュレーション(高度

化)

データ利活用・共有 ・地下埋設物データの整備・利活用 ・インフラ情報共有プラットフォーム整備・利活用 ・早期被害把握(人工衛星やドローン等の活用) ・G-React システム拡張

・IoT を用いた設備の早期被害把握 ・復旧操作判断の自動化(AI活用)

社会ニーズ ・首都直下地震、南海トラフ巨大地震等による被害想定 ・ガス供給サプライチェーンの災害リスク評価、供給継続性評価

・他インフラとの相互依存性を考慮した影響評価 ・地震災害以外を想定した耐災性評価(巨大台風・大規模水害等

の自然災害、テロ・犯罪等の人的脅威) 事業者ニーズ ・復旧対応シミュレーション(地震時の行動渋滞予測、要員配置計画

等) ・事故・故障リスクと災害リスクの両方を対象とした総合リスク評価 ・総合リスク評価に基づく保安価値定量化とアセットマネジメント

・左記の高度化

全体取り組み ・耐災性評価手法の整備、汎用プログラム開発 ・他施策及び海外動向の把握

・左記の高度化

平成27年度地方都市ガス事業天然ガス化促進対策調査(ガ

ス工作物技術基準適合性評価等(ガス工作物技術基準適合性

評価事業))報告書

平成 28 年 3 月

株式会社 三菱総合研究所

科学・安全政策研究本部

TEL (03)6705-6067