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事前プランニングの効果を学習者はどう捉えたか ―テキストマイニングによる学習者の意識の分析― 西島絵里子 キーワード:事前プランニング、文章産出のプロセス、テキストマイニング、学習者の意識 1. はじめに 本論文の目的は、文章産出タスクにおける事前プランニングの効果について、書き手である日 本語学習者の意識から探ることである。事前プランニングとは、文章を書く前に準備書き(プラ ン)を作成し、書く内容を予め考えることである。事前プランニングは L1や L2 の文章産出に効 果があると多くの先行研究で指摘されている( Abrams & Byrd, 2016; Ellis & Yuan, 2004; Fukushima & Ito, 2009; 岩男, 2001; Kellogg, 1988, 1990; Meraji, 2011; 西島, 2019; Ojima, 2005; 立川, 2011; 田辺 , 2016)が、それらの研究は書き手が産出した文章(プロダクト)を分析し、文章の流暢さ・複 雑さ・正確さや、内容や構成の良さの観点から効果を検証している。事前プランニングの効果の 検証として、書き手が産出したプロダクトを分析することはもちろん重要であるが、文章を産出 するプロセスで事前プランニングがどのように関わっているか、書き手の意識から探るのも同様 に意義のあることである。 本論文では、書き手である日本語学習者の意識に注目し、学習者が事前プランニングの効果を どのように捉えたかを分析する。 2. 研究課題 本論文では以下の 2 つの研究課題について明らかにする。 (1)事前プランニングを行った場合、事前プランニングを行わない場合と比べて、文章産出のプ ロセスで学習者は語彙、文法、構成、内容に関して変化を感じるか。 (2)上記の項目に関して変化を感じる場合、具体的にどのような変化を感じるか。 3. 調査の方法 3. 1. 調査対象者 中国国内の 4 年制大学で日本語を専攻する学習者 103 名 1 を対象に調査を行った。調査対象者 をマインドマップ作成とアウトライン作成の 2 つの事前プランニング条件に分けた。これら 2 つ のプランニング方法は、文章産出タスクに用いることで、文章の内容や構成の良さの向上に効果 があったと報告されている(岩男, 2001; Kellogg, 1988, 1990; 田辺他, 2016)。本研究において同様 の方法を用いることで、学習者の意識との比較が可能になると考えた。各調査条件の人数、日本 ― 114 ― 東京外国語大学国際日本学研究 プレ創刊号 Tokyo University of Foreign Studies Japan Studies Review №0 1 全て中国語母語話者である。

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Page 1: 244766 外大Japan Studies Review 校了repository.tufs.ac.jp/bitstream/10108/94470/1/008.pdfした。khコーダーはテキストマイニングのツールであり、テキスト型のデータを統計的に分析

事前プランニングの効果を学習者はどう捉えたか―テキストマイニングによる学習者の意識の分析―

西島絵里子

キーワード:事前プランニング、文章産出のプロセス、テキストマイニング、学習者の意識

1.はじめに 本論文の目的は、文章産出タスクにおける事前プランニングの効果について、書き手である日本語学習者の意識から探ることである。事前プランニングとは、文章を書く前に準備書き(プラン)を作成し、書く内容を予め考えることである。事前プランニングは L1 や L2 の文章産出に効果があると多くの先行研究で指摘されている( Abrams & Byrd, 2016; Ellis & Yuan, 2004; Fukushima

& Ito, 2009; 岩男, 2001; Kellogg, 1988, 1990; Meraji, 2011; 西島, 2019; Ojima, 2005; 立川, 2011; 田辺他, 2016)が、それらの研究は書き手が産出した文章(プロダクト)を分析し、文章の流暢さ・複雑さ・正確さや、内容や構成の良さの観点から効果を検証している。事前プランニングの効果の検証として、書き手が産出したプロダクトを分析することはもちろん重要であるが、文章を産出するプロセスで事前プランニングがどのように関わっているか、書き手の意識から探るのも同様に意義のあることである。 本論文では、書き手である日本語学習者の意識に注目し、学習者が事前プランニングの効果をどのように捉えたかを分析する。

2.研究課題 本論文では以下の 2 つの研究課題について明らかにする。

(1) 事前プランニングを行った場合、事前プランニングを行わない場合と比べて、文章産出のプロセスで学習者は語彙、文法、構成、内容に関して変化を感じるか。

(2) 上記の項目に関して変化を感じる場合、具体的にどのような変化を感じるか。

3.調査の方法3.1.調査対象者 中国国内の 4 年制大学で日本語を専攻する学習者 103 名 1 を対象に調査を行った。調査対象者をマインドマップ作成とアウトライン作成の 2 つの事前プランニング条件に分けた。これら 2 つのプランニング方法は、文章産出タスクに用いることで、文章の内容や構成の良さの向上に効果があったと報告されている(岩男, 2001; Kellogg, 1988, 1990; 田辺他, 2016)。本研究において同様の方法を用いることで、学習者の意識との比較が可能になると考えた。各調査条件の人数、日本

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東京外国語大学国際日本学研究 プレ創刊号Tokyo University of Foreign Studies Japan Studies Review №0

1 全て中国語母語話者である。

Page 2: 244766 外大Japan Studies Review 校了repository.tufs.ac.jp/bitstream/10108/94470/1/008.pdfした。khコーダーはテキストマイニングのツールであり、テキスト型のデータを統計的に分析

語学習歴は表 1 のとおりである。

表 1 調査条件と対象者の人数および学習歴

3.2.調査の手続き 調査対象者に意見文のプロンプトを提示し(図 1、2 参照)、テーマについて 10 分間で準備書き

(プラン)を作成するように指示した。事前プランニングの例として、図 3、4 のような例もそれぞれ提示した。マインドマップ作成群、アウトライン作成群とも 10 分間の事前プランニングの後、30 分間で意見文を作成した。その後、学習者に自分が意見文を書いた時のことを振り返って質問紙に回答してもらった。図 5 の例のように、事前プランニングを行ってから意見文を書くことで、事前プランニングを行わない場合と比べて「語彙・文法・構成・内容・その他」の面でどのような変化があったかを記述してもらった。なお、感じたことをより詳細に記述してもらうため、回答は学習者の母語である中国語で行うよう指示した。

3.3.分析方法 学習者が質問紙に書いた内容を日本語に翻訳し、分析のデータとした。翻訳には JLPTN1 保持者で日本国内の大学院修士課程に在籍する中国語母語話者 1 名に協力を依頼した。翻訳された文章について日本語として不自然な点があれば、筆者と協力者が合議のうえ、修正を行った。 まず、事前プランニングを行うことによって語彙、文法、構成、内容の 4 つの項目について変化があったかを調べた。各学習者の回答を分析し、「変化があった」と回答したものの数と全回答数における割合を算出した。回答の分析は全て筆者が 1 人で行い、回答の記述が「変化があった」としているか判断に迷うもの 2 については分析の対象外とし、全回答数から除外した。

3 つのテーマの中から一つ選んで、意見文を書いてください。(30 分)(请在下列的三个主题中任选一个主题,写一篇议论文。)テーマ①「高校生にとって制服は必要だ/必要ではない」テーマ②「小学生に携帯電話を持たせたほうがいい/持たせないほうがいい」テーマ③「本や新聞を読むなら紙のほうがいい/パソコンやスマホ・タブレットのほうがいい」自分の意見を書いてください。理由を二つ以上書いてください。

(请写明自己的意见。论据至少为两个。)

図 1 意見文のプロンプト(学習歴 1 年 6 か月)

― 115 ―

3. 調査の方法

3.1. 調査対象者

中国国内の4年制大学で日本語を専攻する学習者 103 名1を対象に調査を行った。調査

対象者をマインドマップ作成とアウトライン作成の2つの事前プランニング条件に分け

た。これら2つのプランニング方法は、文章産出タスクに用いることで、文章の内容や構

成の良さの向上に効果があったと報告されている(岩男 2001, Kellogg1988,1990,田

辺他 2016)。本研究において同様の方法を用いることで、学習者の意識との比較が可能

になると考えた。各調査条件の人数、日本語学習歴は表1のとおりである。

表表 11 調調査査条条件件とと対対象象者者のの人人数数おおよよびび学学習習歴歴

3.2. 調査の手続き

調査対象者に意見文のプロンプトを提示し(図 1、2 参照)、テーマについて 10 分間で

準備書き(プラン)を作成するように指示した。事前プランニングの例として、図 3、4のような例もそれぞれ提示した。マインドマップ作成群、アウトライン作成群とも 10 分

間の事前プランニングの後、30 分間で意見文を作成した。その後、学習者に自分が意見

文を書いた時のことを振り返って質問紙に回答してもらった。図 5 の例のように、事前

プランニングを行ってから意見文を書くことで、事前プランニングを行わない場合と比

べて「ことば・文法・内容・構成・その他」の面でどのような変化があったかを記述して

もらった。なお、感じたことをより詳細に記述してもらうため、回答は学習者の母語であ

る中国語で行うよう指示した。

3.3. 分析方法

学習者が質問紙に書いた内容を日本語に翻訳し、分析のデータとした。翻訳には

JLPTN1 保持者で日本国内の大学院修士課程に在籍する中国語母語話者 1 名に協力を依

頼した。翻訳された文章について日本語として不自然な点があれば、筆者と協力者が合

議のうえ、修正を行った。

まず、事前プランニングを行うことによって語彙、文法、構成、内容の4つの項目につ

1 全て中国語母語話者である。

調査条件(事前プランニング) マインドマップ 

アウトライン

 調査人数(学習歴) 22名(1年6か月) 22名(1年6か月)

30名(6か月) 29名(6か月)

2 判断に迷うものとは、「文法をより学んだ方がいい」や「普段から定着していることばしか使えなかった」等、各項目についての記述はあるものの、事前プランニングについては言及がないものである。

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3 つのテーマの中から一つ選んで、意見文を書いてください。(30 分)(请在下列的三个主题中任选一个主题,写一篇议论文。)テーマ①「田

い な か

舎の生活と都と か い

会の生活と、どちらがいいですか」テーマ②「高校の生活と大学の生活と、どちらがいいですか」テーマ③「自分の車と、地下鉄やバスと、どちらがいいですか」自分の意見を書いてください。理由を二つ以上書いてください。

(请写明自己的意见。论据至少为两个。)

図 2 意見文のプロンプト(学習歴 6 か月)

 さらに、「変化があった」と回答した記述文をフリーソフトウェアの KH コーダーを用いて分析した。KH コーダーはテキストマイニングのツールであり、テキスト型のデータを統計的に分析することができる。主な機能として、テキスト内で用いられた頻出語を抽出したり、抽出された語と語の結びつきを示したりすることができる(樋口 2014)。本研究では KH コーダーの抽出語の機能を使い、学習者の回答に出現した上位 10 位までの語を抜き出し、学習者の記述文の傾向を分析した。

        これはあるテーマについての意見文のマインドマップ(地図)です。

テーマ:あなたは住むなら、都会がいいですか、それとも田舎がいいですか。

    自分の意見を書いてください。理由を二つ以上書いてください。

図 3 プランの例(マインドマップ・学習歴 1 年 6 か月)

― 116 ―

これはあるテーマについての意見文のマインドマップ(地図)です。

テーマ:あなたは住むなら、都会がいいですか、それとも田舎がいいですか

自分の意見を書いてください。理理由由をを二二つつ以以上上書いてください。

住むなら都会がいい

交通が便利

電車やバスの

本数が多い

駅 や バ ス 停 が

どこにでもある

いろいろな文化的

な刺激がある

美術館や

博物館など

コンサートや

シンポジウムなど

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図 4 プランの例(アウトライン・学習歴 1 年 6 か月)

今回の調査で作文を書いた時のことについてお聞きします。答えは中国語で書いてください。在本次议论文写作的调查中,有几个简单问题想采访一下大家,请大家用中文回答。

(1)今回の調査では、意見文を書く前に、マインドマップ(Mind-Map)を書きました。マインドマップを書くことによって、意見文を書くときに何か変化があったと思いますか。以下の 5 つの点について書いてください。在本次调查活动中,在写文章前,先请大家写了思维导图。你觉得在正式开始写文章前,先写文章

的思维导图这个写作顺序在你写文章的时候有带来什么变化吗?请就以下的五个方面进行回答。

 ①語彙(单词) ②文法(语法) ③構成(结构) ④内容(内容) ⑤その他(其他)

図 5 質問紙の例(マインドマップ)

4.結果4.1.事前プランニングによる変化の有無 表 2 は事前プランニングを行うことで、「変化があった」と感じた学習者の回答数と割合を示したものである。「変化があった」と感じた学習者の割合は項目によって違いがあることがわかる。構成や内容については、ほぼ全ての学習者が「変化があった」と回答したが、語彙と文法につい

― 117 ―

これはあるテーマについての意見文のマインドマップ(地図)です。

テーマ:あなたは住むなら、都会がいいですか、それとも田舎がいいですか

自分の意見を書いてください。理理由由をを二二つつ以以上上書いてください。

住むなら都会がいい

交通が便利

電車やバスの

本数が多い

駅 や バ ス 停 が

どこにでもある

いろいろな文化的

な刺激がある

美術館や

博物館など

コンサートや

シンポジウムなど

図図 33 ププラランンのの例例((ママイインンドドママッッププ))

図図 44 ププラランンのの例例((アアウウトトラライインン))

これはあるテーマについての意見文のアウトラインです。

テーマ:あなたは住むなら都会がいいですか、それとも田舎がいいですか。

自分の意見を書いてください。理理由由をを二二つつ以以上上書いてください。

「住むなら都会がいい」

1.いろいろな文化的な刺激

a コンサートやシンポジウムなど

b 美術館や博物館など

2.交通が便利

a 電車やバスの本数が多い

b 駅やバス停がどこにでもある。

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ては変化を感じた学習者の割合が少なかった。特に文法については、マインドマップ作成条件で変化を感じた学習者が約半数程度であるなど、その傾向が顕著であった。

表 2 事前プランニングで変化があったと回答した学習者の数と割合

4.2.抽出語の分析と記述文の例 表 3 ~表 6 に各項目における抽出語の上位 10 位の語を示す。以下、抽出語の中から事前プランニングに関連があると考えられる語や、各項目に関する評価など、特徴的であると考えられる語を取り上げる。さらにその記述例をいくつか紹介する。

表 3 「語彙」の抽出語(上位 10 位) 表 4 「文法」の抽出語(上位 10 位)

 「語彙」は変化を感じた学習者の割合が少なかったため、抽出語の出現回数も少なめであった。事前プランニングに関連がある語として、「キーワード」や「事前」「考える」などがあり、事前プランニングのおかげでキーワードとなる語を事前に考えることができたと回答している。また、出現語数は少ないものの、「正確」という語も使われており、事前プランニングを行うことで語彙の正確さが高まったと回答した学習者もいた。 

使いたい単語を事前に考えた。(アウトライン)キーワードを羅列して、これを基に拡充した。(アウトライン)単語をより正確に使えるようになった。(マインドマップ)

図 6 「語彙」の記述の例

― 118 ―

今回の調査で作文を書いた時のことについてお聞きします。答えは中国語で書いてください。

在本次议论文写作的调查中,有几个简单问题想采访一下大家,请大家用中文回答。

(1)今回の調査では、意見文を書く前に、マインドマップ(Mind-Map)を書きました。

マインドマップを書くことによって、意見文を書くときに何か変化があったと思いますか。以下の5つの点について書いてください。

在本次调查活动中,在写文章前,先请大家写了思维导图。你觉得在正式开始写文章前,先写文章

的思维导图这个写作顺序在你写文章的时候有带来什么变化吗?请就以下的五个方面进行回答。

①語彙(单词)

②文法(语法)

③構成(结构)

④内容(内容)

⑤その他(其他)

図図 55 質質問問紙紙のの例例((ママイインンドドママッッププ))

4. 結果

4.1. 事前プランニングによる変化の有無

表 2 は事前プランニングを行うことで、「変化があった」と感じた学習者の回答数と割

合を示したものである。「変化があった」と感じた学習者の割合は項目によって違いがあ

ることがわかる。構成や内容については、ほぼ全ての学習者が「変化があった」と回答し

たが、語彙と文法については変化を感じた学習者の割合が少なかった。特に文法につい

ては、マインドマップ作成条件で変化を感じた学習者が約半数程度であるなど、その傾

向が顕著であった。

表表 22 事事前前ププラランンニニンンググでで変変化化ががああっったたとと回回答答ししたた学学習習者者のの数数とと割割合合

変化あり/全回答数 割合 変化あり/全回答数 割合

語彙 31/50 62.0% 37/47 78.7%文法 24/49 49.0% 31/45 68.9%構成 51/52 98.1% 50/51 98.0%内容 52/52 100.0% 51/51 100.0%

マインドマップ アウトライン

4.2. 抽出語の分析と記述文の例

表 3~表 6 に各項目における抽出語の上位 10 位の語を示す。以下、抽出語の中から事

前プランニングに関連があると考えられる語や、各項目に関する評価など、特徴的であ

ると考えられる語を取り上げる。さらにその記述例をいくつか紹介する。

「語彙」は変化を感じた学習者の割合が少なかったため、抽出語の出現回数も少なめ

であった。事前プランニングに関連がある語として、「キーワード」や「事前」「考える」

などがあり、事前プランニングのおかげでキーワードとなる語を事前に考えることがで

きたと回答している。また、出現語数は少ないものの、「正確」という語も使われており、

事前プランニングを行うことで語彙の正確さが高まったと回答した学習者もいた。

「文法」も「語彙」と同様に抽出語の出現回数が少なめであったが、その中で「明確」

「適切」「正確」などの、文法の使用を評価する語彙が使われていた。また、「事前」「考

使いたい単語を事前に考えた(アウトライン) キーワードを羅列して、これを基に拡充した。(アウトライン) 単語をより正確に使えるようになった(マインドマップ)

図図 66 「「語語彙彙」」のの記記述述のの例例

表表 33 「「語語彙彙」」のの抽抽出出語語((上上位位 1100 位位)) 表表 44 「「文文法法」」のの抽抽出出語語((上上位位 1100 位位))

単語 25 単語 33マインドマップ 8 アウトライン 15

使う 7 使う 15考える 6 文章 11書く 6 言葉 8言葉 5 考える 7

キーワード 4 書く 6使える 4 キーワード 3関係 3 作る 3

思い出す 3 思う 3事前 3 出る 3多い 3 正確 3

浮かぶ 3羅列 3

マインドマップ(N=31) アウトライン(N=37)

 抽出語   出現回数 抽出語   出現回数

文法 21 文法 24考える 7 使う 8使う 5 アウトライン 7

使える 5 書く 7明確 5 文章 7

マインドマップ 4 考える 6適切 4 正確 6文 4 使える 4

書く 3 事前 3時制 2 修正 3整理 2 文 3

マインドマップ(N=24) アウトライン(N=31)

 抽出語   出現回数  抽出語   出現回数

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 「文法」も「語彙」と同様に抽出語の出現回数が少なめであったが、その中で「明確」「適切」「正確」などの、文法の使用を評価する語彙が使われていた。また、「事前」「考える」「整理」「修正」のように事前プランニングに関する語もあった。

文法は正確に使えるようになった。(アウトライン)マインドマップに従って適切な文法を探せた。(マインドマップ)文法は明確であった。(アウトライン)事前に作文の中心的な文法を整理できた。(マインドマップ)

図 7 「文法」の記述の例

表 5 「構成」の抽出語(上位 10 位) 表 6 「内容」の抽出語(上位 10 位)

 「構成」では、「明確」という語が多く使われていた。さらに「論理」「ロジック」「順番」「道筋」など、文章の展開に関わる語も使われていた。事前プランニングを行うことで構成が明確になり、論理の展開がわかりやすくなったという評価である。

構成は明確になり、論理的に書けるようになった。(アウトライン)ロジックは明確になった。(マインドマップ)アウトラインの順番で文章を書いた。(アウトライン)考えの道筋は明確で、構成しやすかった。(マインドマップ)

図 8 「構成」の記述の例  「内容」に関わる語では「豊か」という語彙が比較的多く使われていた。「豊か」のほかに内容に関わる語としては「充実」があった。さらに、「構成」の記述で多く見られた「明確」や、「論理」「展開」という語も少数であったが見られた。事前プランニングを行うことで、内容も充実して豊かになり、構成がわかりやすく論の展開もスムーズになったと肯定的に評価している。

― 119 ―

構成は明確になり、論理的に書けるようになった(アウトライン) ロジックは明確になった(マインドマップ) アウトラインの順番で文章を書いた(アウトライン) 考えの道筋は明確で、構成しやすかった(マインドマップ)

図図 88 「「構構成成」」のの記記述述のの例例

える」「整理」「修正」のように事前プランニングに関する語もあった。

「構成」では、「明確」という語が多く使われていた。さらに「論理」「ロジック」「順

番」「道筋」など、文章の展開に関わる語も使われていた。事前プランニングを行うこと

で構成が明確になり、論理の展開がわかりやすくなったという評価である。

「内容」に関わる語では「豊か」という語彙が比較的多く使われていた。「豊か」のほ

かに内容に関わる語としては「充実」があった。さらに、「構成」の記述で多く見られた

「明確」や、「論理」「展開」という語も少数であったが見られた。事前プランニングを行

文法は正確に使えるようになった(アウトライン) マインドマップに従って適切な文法を探せた(マインドマップ) 文法は明確であった。(アウトライン) 事前に作文の中心的な文法を整理できた(マインドマップ)

内容 47 内容 41

書く 15 アウトライン 26

マインドマップ 14 書く 15

豊か 12 豊か 12

明確 9 元 9

考える 6 充実 9

充実 6 文章 8

論理 5 論理 6

考え 4 展開 5

書ける 4 完全 4

考える 4

明確 4

マインドマップ(N=52) アウトライン(N=51)

 抽出語   出現回数  抽出語   出現回数

構成 40 構成 32明確 37 明確 19文章 12 アウトライン 16書く 8 文章 15

マインドマップ 6 書く 14考え 6 論理 10論理 6 順番 6

ロジック 5 大体 4考える 4 完全 3整理 4道筋 4

 抽出語   出現回数

マインドマップ(N=51) アウトライン(N=50)

 抽出語   出現回数

図図 77 「「文文法法」」のの記記述述のの例例

表表 55 「「構構成成」」のの抽抽出出語語((上上位位 1100 位位)) 表表 66 「「内内容容」」のの抽抽出出語語((上上位位 1100 位位))

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内容が充実し、豊かになった。(マインドマップ)内容の展開はより充実した。(アウトライン)内容がより論理的になった。(アウトライン)構成が明確なので、内容を考えやすい。(マインドマップ)

図 9 「内容」の記述の例

5.考察 学習者の記述文を項目ごとに分析した結果、4 つの項目において、事前プランニングによる変化を感じる割合が異なることが分かった。構成や内容については、ほぼ全ての学習者が変化を感じ、肯定的に評価する記述が多かった。それに対して、語彙や文法は変化を感じる学習者の割合が少なく、特に文法ではマインドマップ作成条件の半数が変化なしと答えるなど、事前プランニングの効果を感じにくいことがわかった。 文章産出タスクにおける語彙や文法の使用は、書き手の語彙能力や文法能力に決定される部分が多いため、事前プランニングを行った場合でも、学習者は自身の語彙能力や文法能力以上の成果が感じられなかったと考えられる。しかしながら、一部の学習者の回答に「正確さ」「適切さ」という記述も少数であったが見られた。事前プランニングを行うことで、語彙や文法の適切さや正確さにも注意を払うことができたと学習者は考えていた。学習者のプロダクトを分析した研究では、事前プランニングは語彙や文法の正確さの向上には効果がないとするものが多い(Abrams &

Byrd, 2016; Ellis & Yuan, 2004; 西島, 2019; Ojima, 2005; Salimi & Fatollahnejad, 2012; 立川, 2011)が、少なくとも一部の学習者の意識においては語彙や文法の正確さを高めると評価されていた。 一方、学習者のほとんどが変化を感じていたことから、構成や内容は事前プランニングの影響を受けやすい項目であったと言える。書き手はアウトラインやマインドマップを使って構成を階層的に整理でき、論理展開を明確にすることができたと考えられる(岩男, 2001; Kellogg, 1994)。また、アウトラインやマインドマップというプランニング方法は多くのアイディアを生成するのに有効であるという指摘がある(岩男, 2001; Kellogg, 1990; 西島, 2019)。書き手は構想段階でアウトラインやマインドマップを使って多くのアイディアを生成し、内容を充実させることができたと推測される。

6.結論と今後の課題 本研究では、テキストマイニングの手法を用いて文章産出タスクにおける事前プランニングの効果を学習者の意識の分析によって検討した。その結果、事前プランニングの効果は語彙や文法よりも構成や内容について意識されやすいことがわかった。さらに、それぞれ現れた抽出語を分析した結果、項目ごとに特徴があることがわかった。 しかしながら、今回分析したのは事前プランニングに関する学習者の意識であり、実際に産出されたプロダクトではない。そのため、学習者が意識した効果が実際の意見文には表れない可能性も十分考えられる。今後は学習者の意識とプロダクトにおける効果の違いについてもさらなる検証を行う必要がある。 最後に、学習者が事前プランニングについて効果を認め、肯定的に捉えていることは作文教育への応用の可能性を示唆するものである。今後は事前プランニングの教育現場への応用について

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多くの実践研究が期待される。

参考文献岩男卓実(2001).「文章生成における階層的概念地図作成の効果」『教育心理学研究』49 (1),11-20.立川研一(2011).「中学生のパラグラフ・ライティングにおける事前プランニングとしてのマインドマップ

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紀要』66 号,17-30.西島絵里子(2019).「意見文産出における事前プランニングの効果 ―流暢さ・複雑さ・正確さの観点から

―」『第 28 回小出記念日本語教育研究会予稿集』.24-25.樋口耕一(2014).『社会調査のための計量テキスト分析 ―内容分析の継承と発展を目指して―』 ナカニシヤ

出版Abrams, Z. I., & Byrd, D. R. (2016). “The effects of pre-task planning on L2 writing: Mind-mapping and chronological

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(にしじま えりこ 東京外国語大学世界言語社会教育センター 特任助教)

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Page 9: 244766 外大Japan Studies Review 校了repository.tufs.ac.jp/bitstream/10108/94470/1/008.pdfした。khコーダーはテキストマイニングのツールであり、テキスト型のデータを統計的に分析

Learners’ Recognition of the Effect of Pre-task Planning:A Text Mining Analysis

NISHIJIMA Eriko

KEYWORDS: Pre-task planning, writing process, text mining, learner’s recognition

This study examines the degree to which L2 learners of Japanese recognized the effect of pre-task planning. The participants (103 JFL students) were divided into two groups based on planning type (mind-mapping, outlining) and then wrote an argumentative essay according to each type. After finishing the task, they completed a questionnaire on their recognition of the effect of pre-task planning. The data were then analyzed using KH coder (a text mining tool). It was found that most participants recognized that pre-task planning enhanced the content and structure of their essay as it provided a clear schema for the argumentative essay and promoted idea generation. However, fewer participants recognized any improvement in their use of grammar and vocabulary due to pre-task planning.

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