平成24年3月30日 株式会社 東芝 - jaea...evaluation on core melt retention in core catcher...
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NSO-2012-000121Rev.0
分 類 2
平成23年度原子力人材育成プログラム
補助金補助事業 成果報告書
「原子炉安全及び耐震試験の実習等による技術者育成プログラム」
平成 24 年 3 月 30 日
株式会社 東芝
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目次
1.事業 A「BEST 等を利用した原子炉安全技術者育成プログラム」成果 2
1.1 目的・背景 2
1.2 実施概要 2
1.2.1 原子力プラントの安全設計・シビアアクシデントに関する講義および教材作成 3
1.2.2 企業の試験設備とシミュレータを用いたBWR炉心冷却実習教育 4
1.2.3 BWRプラントシミュレータを用いた炉心異常過渡現象体験実習 6
1.3 実習の効果 7
2.事業 B「原子炉安全及び耐震試験の実習等による技術者育成プログラム」成果 8
2.1 目的・背景 8
2.2 実施概要 9
2.2.1 実習実施計画策定及び教材作成 10
2.2.2 耐震試験実習の実施 13
2.3 実習の効果 18
1
1. 事業 A「BEST 等を利用した原子炉安全技術者育成プログラム」成果 1.1 目的・背景 本補助事業は、東京電力福島第一原子力発電所の事故により原子力に興味を持つ有能な
学生(原子力人材)を確保できなくなる懸念に対応し、企業が持つ軽水炉の安全に対する
専門的知識や試験設備を活用し、原子力人材育成を企業が直接行うことでわが国の原子力
人材育成に資することが目的である。 軽水炉の安全に関する教育として、(株)東芝が所有する過渡伝熱流動試験装置、および
プラントシミュレータを用いて炉心燃料の過渡事故事象理解のための教育を行う。炉心燃
料の事故時などの過渡時・異常時の伝熱を模擬できる試験装置による実習と演習、事故シ
ミュレータ実習、事故進展防技術講義による燃料原子炉の炉心損傷が伴う過酷事故におけ
る事象の理解や事故の防止のための知識を身につける。また、あわせて実習・演習や講義
の教材を整備する。実習、演習、講義・学習の効果や満足度を聴取して、今後の人材育成
プログラムへフィードバックを図る。
1.2 実施概要
東京電力福島第 1 原子力発電所(1F)は東日本大震災により、全交流電源及び最終ヒートシ
ンク喪失からシビアアクシデントに至る事故となった。今後、原子力発電所の継続利用に
当っては、その社会的受容性向上の観点から、継続的な発電所の安全性向上への努力とそ
の技術の維持が極めて重要となる。 これらを実現するためには、原子炉の安全上最も重要な、炉心損傷、冷却材喪失、シビ
アアクシデントなどの事故時におけるプラント挙動、限界熱流束や過渡時の沸騰遷移、
DNB1、溶融炉心冷却の技術を十分に理解していける原子力人材を確保した上で、その技術
力の維持向上を行っていく必要がある。現状では、上記した原子力人材育成教育に力を入
れている大学は非常に少ないため、原子力企業がその設備、技術、人材を提供して人材育
成をサポートしていくことが人材育成上有効である。 そこで、本事業では、原子力事業の経験が深く、軽水炉の過酷事故防止や事故進展抑制
に関する技術を保有する(株)東芝が、その保有設備であるBWR2炉心燃料の過渡伝熱試験ル
ープを用いた実習により、原理的な炉の事故時等冷却性能を理解し、また、最新のBWRプ
ラントシミュレータを用い、プラント異常時のプラント内の圧力容器・格納容器圧力等の
変化を理解する。さらに企業内の過酷事故評価・解析の専門家による事故進展防止にかか
る講義を行って、軽水炉で原理的に十分過酷事故を防ぐことができることを理解する。平
成 22 年度「原子力人材育成プログラム事業」において整備を進めた原子力プラントの安全・
伝熱流動挙動に関する教材を活用する。 H23年度は、北海道大学、早稲田大学、大阪大学より各5名、合計15名に参加頂き
BEST 等を利用した原子炉安全技術者育成プログラムを実施した。
2
用語の説明 1DNB:Departure from Nucleate Boilingの略で、核沸騰限界 2BWR:Boiling Water Reactorの略で、沸騰水型原子炉
1.2.1 原子力プラントの安全設計・シビアアクシデントに関する講義および教材作成 原子力プラントの概要や熱設計手法、基礎となる二相流動に関する講義を専門家が行い、
原子力プラントの安全設計・シビアアクシデントに関する講義を実プラント設計技術者が
行った。シビアアクシデント部分はH22年度「原子力人材育成プログラム事業」におい
て、整備を進めた原子力プラントの安全・伝熱流動挙動に関する講義内容にシビアアクシ
デントの部分を加えて再整備したものである。 図1に講義風景を示す。活発な質疑が行われた。また、事前に実習で用いる試験体の二
相圧力損失評価に関する課題を与えておき、講義にてその解説を行った。二相圧力損失評
価には二相流に特有の「クオリティ」や「ボイド率」といったパラメータが出てくるので、
導入には最適ではないかと思われる。学生に二相流に関する講義は受けたことがあるか聞
いてみたが、今回実習に参加頂いた北海道大学、大阪大学、早稲田大学では学部生に対し
ては二相流の講義がないとのことである。二相流は様々なところで見られる現象であるの
で、人材育成の観点では大学での講義を望む。なお、北海道大学については、実習にあた
り実習参加者に特別に講義頂いたとのことである。 講義内容 2日目午前
「原子炉(BWR,PWR,4S,SCWR,低減速炉)」 「東芝過渡伝熱流動試験装置」 「稠密バンドル試験体の発熱部圧力損失」
3日目午前 「BWR熱設計手法」 「液膜ドライアウト・リウェット挙動」 「代表炉のシビアアクシデント -BWR-」
3
図1 講義風景
1.2.2 企業の試験設備とシミュレータを用いたBWR炉心冷却実習教育 実習1日目に(株) 東芝の有するシビアアクシデント対応設備等の試験見学を実施した。
図2に㈱東芝の所有するシビアアクシデント時溶融炉心冷却対応試験装置を示す。この試
験装置を初めとした大型の試験装置を見学し、企業の試験設備を体感していただいた。
Evaluation on Core Melt Retention in Core Catcher of Toshiba’s EU-ABWR Proceedings of ICAPP 2011,Nice, France, May 2-5, 2011,Paper 11414
図2 ㈱東芝のシビアアクシデント時溶融炉心冷却対応試験装置
実習2日目、3日目には参加者15名を大学混成の3グループに分けて、図3に示すB
WR過渡伝熱試験ループを実際に運転してデータを採取する炉心冷却実習教育を実施した。
4
図4にBWR過渡伝熱試験ループの運転実習風景を示す。試験体の圧力損失や、ロッド表
面の温度データを採取し、またBWRの運転で定義されている限界出力時の燃料棒表面温
度挙動である過渡的な温度データを体感頂いた。採取したデータについては、各グループ
で整理、検討していただき、最終日の5日目にグループごとに検討内容を発表頂いた。学
生同士、ご出席頂いた先生方との質疑など活発な議論があった。各グループともデータを
整理するだけでなく、現象を理解しようとする姿勢が印象的であった。
図3 (株 )東芝の BWR 過渡伝熱試験装置
(BEST)
図4 BWR過渡伝熱試験ループを用いた実習の様子
5
1.2.3 BWRプラントシミュレータを用いた炉心異常過渡現象体験実習 実習4日目には、㈱東芝が有するBWRプラントシミュレータを用いて、BWRプラン
トの運転を臨場感をもって体験して頂いた。シミュレータの位置づけとして、発電所運転
員の技能向上・維持やメーカ技術者のプラント知識習得が上げられる。午前中は基本的な
操作の説明の後、残留熱除去系のサーベランスをまず実施し、臨界操作を実施した。午後
は、給水ポンプトリップ、手動スクラム、全給水喪失、そして外電喪失の対応操作を実習
し、過渡・事故時のプラント挙動を体験した。さらに、㈱東芝所有のPC過酷事故シミュ
レータを用いて、過酷事故時のプラント挙動のデモを実施した。
表1 実習スケジュール
1 日目(横浜) 2 日目(横浜) 3 日目(横浜) 4 日目(府中) 5 日目(横浜)
午
前
移動 講義
・原子炉
・東芝過渡伝熱流
動試験装置
・稠密バンドル試験
体の発熱部圧力損
失
講義
・BWR熱設計手法
・液膜ドライアウト・
リウェット挙動
・代表炉のシビアア
クシデント-BWR
-
講義
・シミュレータ概要
実習
・基本操作
・臨界操作
・レポート
作成(班ごと)
午
後
講義
・入所教育
・安全教育
・施設見学
シビアアクシデ
ント時溶融炉心冷
却対応試験装置、
BWR 過渡伝熱
試験ループ他
実習
・二相圧損試験
・ロッド表面温度測
定
3 班構成
待機時は課題を実
施
実習
・限界出力試験
・過渡時限界
出力試験デモ
3 班構成
待機時は課題を実
施
実習
・過渡・事故
ポンプトリップ
手動スクラム
全給水喪失
外電喪失
講義
・過酷事故シミュレ
ータデモ
レポート
発表(班ごと)
解散
6
1.3 実習の効果 最終日である 5 日目に実施した発表では、先に述べたように各グループともデータ整理
にとどまらずデータから現象を理解しようとする姿勢が見られ、グループ内で有意義な議
論が行われたことを示している。わずか 5 日間の実習であったが、学生間、先生方との質
疑も学術的なレベルでみても高い水準で行われたことから、非常に有効な実習であったと
考える。伝熱流動の基礎をもう一度学びなおしたい、あるいは自分の研究にこの実習で得
た感覚を役立てたいとの声もあった。 なお、15名の学生に対して簡単なアンケートを実施した。質問事項は下記の2つのみ
である。 Q1 実習内容はいかがでしたか? Q2 実習内容は理解できましたか? 15 名中 13 名が内容については、「非常によかった」と回答、実習内容の理解については、
15 名中 14 名が「理解できた」以上の回答であった。やはり大学講義等でなじみのない二相
流、原子力プラントといった内容のためか、1 名「あまり理解できなかった」との回答があ
るなど、Q2 の内容の理解度については Q1 の回答より低下している。
Q1:実習内容はいかがでしたか
13
2
非常に良かった
良かった
悪かった
とても悪かった
7
Q2:実習内容は理解できましたか
5
9
1
よく理解できた
理解できた
あまり理解できなかった
全く理解できなかった
今回の実習としてよかった点としては、プラントシミュレータの実習や大型試験装置を
体験できたことを挙げた学生が多かった。また、他大学の学生と議論したことで刺激を受
けたとする学生もいた。改善すべき点としては、もう少し時間が欲しいといった声と、プ
ラントシミュレータを 4 日目ではなく前に持ってきてはという意見があった。来年度、実
施する場合には順番を検討したい。
8
2.事業 B「大型多軸加振台を利用した耐震技術者育成プロジェクト」成果
2.1 目的・背景 本補助事業は、東京電力福島第一原子力発電所の事故により原子力に興味を持つ有能な学生(原
子力人材)を確保できなくなる懸念に対応し、企業が持つ軽水炉の安全に対する専門的知識や試験設備を活用し、原子力人材育成を企業が直接行うことでわが国の原子力人材育成に資することが目的である。軽水炉の安全性に関する教育として、(株)東芝が所有する大型多軸加振台を用いた模擬燃料集合体の加振試験による実習と演習、原子力機器の耐震評価手法の学習により、原子炉の耐震技術と裕度の考え方の知識を身につける。また、あわせて実習、演習、講義・学習の効果や満足度を聴取して、今後に人材育成プログラムへのフィードバックを図る。
2.2 実施概要 わが国は地震国であり、特に原子力発電設備に対しては、厳しい耐震基準を設けて安全性・信頼性を確保している。特に今後は、東北地方太平洋沖地震の知見を取り入れ、より厳しい耐震基準が策定される見通しである。このような背景の下、耐震技術は、既設の原子力発電設備の各種機器の評価や新型機器開発の上で、これまで以上に重要性が高まると考えられる。このため、原子力に関わる学協会及び産業界双方にとって、優秀な学生・人材の育成と企業への就業は、今後の原子力技術の維持・発展のために欠かすことができない。図1に示す東芝大型多軸加振台設備では、各種原子力発電設備機器及び炉心燃料の応答解析の検証や地震時の制御棒挿入性評価等で、社内の他、国プロや電力共研で利用されている。一方、大学等の教育機関では小型の加振台を有しているところはあるが、実機や大型機器の耐震実験実習を行なえる場がなく、東芝大型多軸加振台設備を用いた耐震実験実習で実規模試験を体験し、企業の持つ先端技術に関する知識を得ることは、原子力分野を志す学生の耐震技術の向上、モチベーション向上に有用と考えられる。
図1 東芝多軸加振台設備の概要
多軸加振台設備の鳥瞰図 設備の概要図
多軸加振台設備の主な仕様
本プロジェクトでは、東芝が所有する大型多軸加振台を用いた模擬燃料集合体の加振試験による実習・演習と、原子力機器の耐震評価手法の学習を通して、原子炉の耐震技術と裕度の考え方の知識を身につける。平成23年度は、東京都市大学工学部原子力安全工学科の学部生13名が参加し、大型多軸加振台を利用した耐震技術者育成プロジェクトを実施した。 2.2.1 実習実施計画策定及び教材作成
東北地方太平洋沖地震により、原子力発電所の耐震設計の重要性が増しており、より安全な原子力発電所建設のためには耐震設計の技術をより高度にする必要がある。原子力技術者にとって耐震設計の知識を持つことの重要性はますます高まって来ている。本プロジェクトでは、企業における原子炉耐震設計の専門知識を講義、実験・実習を通して学ぶことにより、大学での教育を補うことを主眼とし、参加大学である東京都市大学原子力安全工学科と協議し、学生の学習進度を考慮した実習の実施計画策定及び教材の作成を実施した。実習では、(1)原子力機器の耐震安全性評価事例の学習と、(2)大型多軸加振台施設を利用した原子力機器の耐震裕度評価実習の2項目を主眼とし、原子力機器の耐震評価の概要を捉えるとともに、実機の振動特性評価を体感することにより、現象への理解を深める構成とした。各項目の考え方について以下に示す。また、カリキュラムを表1に示す。また、各実習日毎のレポート提出を義務付け、学生の理解度、満足度の計測を行うとと
9
もに、翌日以降の講義・及び実習の進め方の参考とする。また、その他に実験で重要となる対象機器の寸法計測を体験する演習を取り入れた。 (実習の主眼) (1)原子力機器の耐震安全性評価事例の学習
原子炉機器の耐震安全評価事例を企業の経験に基づいて解説する。具体的には、燃料集合体応力評価事例、制御棒挿入時間評価事例、固定屋根式タンクのスロッシングの天板圧力評価事例、ポンプなど動的機器の耐力評価事例等について解説する。
(2)大型多軸加振台施設を利用した原子力機器の耐震裕度評価実習 実規模の模擬燃料集合体を用いた加振実験を実施し、実規模の原子力機器の耐震裕度評
価を学生自ら体験していただく。なお、まず始めに教材試験体(図2)により、耐震評価上重要な応答スペクトルを理解していただき、その上で模擬燃料集合体の加振実験を実施していただくカリキュラム構成とした。また、各項目で講義にて基礎事項について解説し、次に実習と演習を通して理解を深めるという構成とした。実習、演習では学生は3班に別れ、班毎に作業を行うこととし、指導員が適宜解説及び助言を行う体制とした。
図2 教材試験体
10
表1 実習時間割 表1 実習時間割
1日目 2日目 3日目 4日目 5日目
午前
講義 ・ガイダンス ・安全教育 ・耐震裕度評価方法と評価事例
講義 ・ガイダンス ・耐震安全に関する先端技術 ・燃料集合体を例とした流体構造連成の解説
実習 ・ガイダンス ・実規模燃料集合体加振実験(気中、正弦波加振)
①データ処理 ②試験体観察 ③加振台運転 A 班:①→②→③B 班:③→①→②C 班:②→③→①
実習 ・実規模燃料集合体加振実験
振実験(満水、正弦波加振、地震波加振)
①データ処理 ②試験体観察 ③加振台運転 A 班:①→②→③ B 班:③→①→② C 班:②→③→①
実習 ・実規模燃料集合体加振実験
振実験(半気中、正弦波加振、地震波加振)
①データ処理 ②試験体観察 ③加振台運転 A 班:①→②→③B 班:③→①→②C 班:②→③→①
午後
講義・センサの原理・特徴 ・データ処理、 ・応答スペクトル実習 ・加振台運転実習①加振台概要 ②データ収録 ③加振台運転 A 班:①→②→③B 班:③→①→②C 班:②→③→①・加速度計分解実習 ・ひずみゲージ貼付実習 まとめ 質疑応答 レポート作成
実習 ・教材試験体へのセンサ取付け実習 ・教材試験体加振実験実習①試験体観察 ②加振台運転 ③データ処理 A 班:①→②→③B 班:③→①→②C 班:②→③→①まとめ 質疑応答 レポート作成
実習 ・実規模燃料集合体加振実験(続き) 演習 ・加振試験データ分析、グループ討議 ・分析結果の発表まとめ ・質疑応答 ・レポート作成
実習 ・実規模燃料集合体加振実験(続き) 演習 ・加振試験データ分析、グループ討議 ・分析結果の発表 まとめ ・質疑応答 ・レポート作成
実習 ・部品検査(外観・寸法検査) 演習 ・加振試験データ分析、グループ討議 ・分析結果の発表まとめ ・質疑応答 ・最終レポート作成 ・実習まとめ
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2.2.2 耐震試験実習の実施 実習は、東京都市大学原子力安全工学科の学部生13名が参加し、2月1日から2月7日の休日を除く5日間の期間で実施した。実習は表1に示した時間割に沿って実施した。実施内容を大きく 「(1)原子力機器の耐震安全性評価事例の学習」と「(2)大型多軸加振台施設を利用した原子力機器の耐震裕度評価実習」の二つに分けて実施状況を報告する。 (1)原子力機器の耐震安全性評価事例の学習
1日目の「原子力機器の耐震安全性評価事例」と2日目の「耐震安全に関する先端技術」において、全般的な安全評価の考え方と現在で適用されている技術、今後の技術について紹介した。まず、1日目の「原子力機器の耐震安全性評価事例」では、原子力発電所の耐震安全の考え方について、新耐震指針に沿って講義を行った。原子炉の各設備を耐震重要度分類し、重要施設に適用する地震応答解析の手法について概説した。また耐震裕度評価の実例として、保安院などから公開されている評価資料を参考に、実プラントでの安全裕度に関する評価手順や評価結果の見方について解説した。東日本太平沖地震における原子力発電所の事故を受けて評価が進められているストレステストについて、その目的に触れ、耐震裕度と限界耐力の関係から安全性評価の意味について解説した。また安全裕度の評価方法として、地震応答解析以外に、多度津工学試験所で行われた耐震実証試験の内容や試験より得られた裕度評価結果について紹介した。続いて2日目に、「耐震安全に関する先端技術」として、世界最大級の耐震試験設備であるE-ディフェンスや、近年、大きな課題となっている長周期地震動を再現可能な最新の試験設備等について、公開されている試験動画を参照しながら説明するとともに、評価例についても解説した。また原子力発電所の地震対策として注目されている免震構造について、重要な構成要素である積層ゴムや設計内容について、次世代軽水炉の免震開発を参考に解説した。 学生の専攻は必ずしも機械系ではなかったが、講義では活発な質疑が行われた。更に、学生
が新しい免震方法、制振方法について、講義で得た知識を基に積極的にアイデアを出そうとする姿勢が見られた。図32に講義状況を示す。
図3 講義状況
(2)大型多軸加振台施設を利用した原子力機器の耐震裕度評価実習
で一般的なパワースペクト
原理を解説し、続いて、実際
①教材試験体を用いた応答スペクトルの学習(1日目、2日目) 応答スペクトルは耐震評価上重要な概念であるが、振動工学等ルと同じスペクトルという言葉を使っているが全く異なった概念であるため、特に初学
者にとって理解されにくい。この応答スペクトルをしっかりと理解してもらうため、実際に固有周期の異なる片持梁を並列した教材試験体(図2)を製作し、エル・セントロ波など代表的ないくつかの地震波を用いて加振試験を行なった。
まず、1日目に加振試験をする前に準備として、センサの測定に加速度センサの分解実習、ひずみゲージ貼付実習を行ない、振動計測の基礎を学んで
いただいた。その上で、加振台の概要、加振台の運転、データ処理など加振台実験の基礎を学んでいただいた。
12
2日目に、図2に示した教材試験体の加振試験を実際に学生に実施していただき、正弦波掃
図5 加振台運転実習
引試験や自由振動試験によって実測した片持梁の減衰定数を用いて、応答スペクトルを計算するとともに実際に地震波加振試験で観測した最大加速度を応答スペクトル上にプロットして両者が一致することを確認していただいた。これにより応答スペクトルの定義をしっかりと把握していただいた。実習状況を図4と図5に示す。
図4 教材試験体へのセンサ取付け作業
13
②模擬燃料集合体を用いた実機応答評価学習 2日目に「燃料集合体を例とした流体構造連成の解説」の講義を行い、流体・構造連成の
考え方、流体中の構造物に働く見掛けの質量効果などについて解説を行なった。3日目から5日目にかけて、実規模の模擬燃料集合体4体を試験容器内に設置して加振実験を行なった。このとき、燃料集合体周りの水の有無をパラメータとして、正弦波掃引試験を行い、燃料集合体の周波数応答関数を得た。また、実規模の燃料集合体を準備し、一部、チャンネルを抜くことによって実際の燃料棒、スペーサも含めて燃料集合体の構造について理解を図った。
演習にて、実施した流体・構造連成の講義を通じて教えた流体中の構造物に働く見掛けの質量効果を計算し、周波数応答関数から得られた固有振動数の水の有無による影響を評価していただいた。これにより流体構造連成の評価の重要性を理解していただいた。これらの実験結果の評価を学生たちにグループ毎に議論・考察させることで原子力の耐震研究の実際についてイメージの把握を図った。また、ランダム波加振、地震波加振など、耐震実験で一般的な加振試験状況についても体感していただいた。
模擬燃料集合体を用いた加振実験の条件を以下に示す。
・試験対象:模擬燃料集合体(4体) ・水位:ゼロ、満水、半気中 ・加振波:正弦波、ランダム波、地震波 ・計測値:燃料集合体加速度 ・評価項目:固有振動数、燃料変位、応答倍率
図6~図8に実習の状況を示す。また、図9には寸法計測実習の状況を示す。 流体構造連成を解説した講義では、理解が難しい等の声もあったが、実験条件を変えな
がら3日間実習を行ない、データを自分で考えながら処理することにより理解が進んでいく様子が見られた。グループ討議では、各班でメンバー間の活発な議論が見られ、学生によっては、検討時間が短いとの声もあがり、現象の理解への積極的な姿勢が見られた。
図6 講義状況
14
図7 グループ討議状況
図8 発表会状況
15
図9 部品検査実習状況
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2.3 実習の効果 今回の実習に参加した学生は、振動工学についての学習進度が様々であり、基礎的な事項と応用
的な事項をバランスさせて教育することを心がけた。この効果を計測するため、振動工学の講義及び実習・演習毎にアンケートを実施し、整理した。
実習内容を(1)「原子力機器の耐震安全性評価事例の学習」と(2)「大型多軸加振台施設を利用した原子力機器の耐震裕度評価実習」の二つに分類し、アンケート結果を参照し、効果について検討した。
各講義、実習・演習について学生に実施したアンケート結果を図10~図12に示す。図10には学生が感じた講義レベルを示し、図11には理解度、図12には学んだ内容が今後活用できるか質問したアンケートに対する結果を示す。
(1)原子力機器の耐震安全性評価事例の学習
関連する講義は、図中の「(1)-1耐震裕度評価方法と評価事例」と「(1)-2耐震安全に関する先端技術」となる。図10から図12の結果より、ほとんどの学生が講義内容を適当と感じており、内容を理解していることが分かる。また、今後の自身の研究にも何らかの形で役に立つと考えていることが分かった。今回の参加学生は3年生が主体であり、原子力機器の耐震評価の概要が分かるように、視覚的な資料を中心に教育を行ったことが効果的であったと考える。ただし、今後、参加大学の拡大、参加学生の学習進度の多様化が合った場合の講義内容については検討が必要となる。
(2)大型多軸加振台施設を利用した原子力機器の耐震裕度評価実習
関連する項目は上記の2講義以外の項目となる。前半の教材試験体を用いた一連の実習については、全般的に理解度が高いことが確認できた。耐震評価上重要な応答スペクトルの考え方についても、殆どの学生が理解できたとする成果を得た。
ただし、後半の模擬燃料集合体を用いた加振実験については、流体構造連成に関する講義の理解度が低く、理解できないとする学生が38%存在している。大学で振動工学の科目を履修していない学生に対しては、高度な内容であったことが分かった。しかし、この時の知識を応用して加振データを分析する演習、グループ考察討議について理解度のグラフを見ていくと、学生の理解度が日を追って向上していくことが確認できる。また図10の実習レベルに関する評価をみても、レベルが適当であるという学生が増加して行く事が分かる。これは、今回の分析演習の中で、流体構造連成について簡単な計算を行う課題を与え、学生自身に計算していただいたこと、3日に渡り、模擬燃料集合体の応答を、その場で確認していく過程で、現象への理解が進んでいったものと考える。図12の今後の活用に関しても、日を追って活用できるとの回答が増加することからも、本実習の効果を確認することができた。
以上の結果から、本プロジェクトの実施により、学生の技術力向上とモチベーション向上に関して成果を得ることができたと考える。ただし、今回は、ほぼ単一の学年の参加学生を対象としており、基礎的な項目から応用的な項目まで網羅する構成としたことにより、一部講義、実習によってはどうしても理解できないとする学生が存在すること、一方で、半数以上の学生がレベルが低いと感じる項目があるなど、講義内容のレベル合わせが課題と考える。
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0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90%100%
実習全体を通して
(1)-1耐震裕度評価方法と評価事例
(1)-2耐震安全に関する先端技術
(2)-1センサの原理、データ処理、応答スペクトル
(2)-2加速度計の分解と仕組みの理解
(2)-3加振台実習(加振台説明、データ収録、加振台運転)
(2)-4ひずみゲージの貼り方と実習
(2)-5教材試験体の歪ゲージ貼り
(2)-6片持ち梁試験体の狙いと刺激係数
(2)-7加振試験実習(教材試験体)
(2)-8部品検査
(2)-9燃料集合体を例とした流体構造連成の解説
(2)-10燃料集合体加振試験実習(3日目)
(2)-11燃料集合体加振試験実習(4日目)
(2)-12燃料集合体加振試験実習(5日目)
(2)-13加振データ分析、グループ考察討論(3日目)
(2)-14加振データ分析、グループ考察討論(4日目)
(2)-15加振データ分析、グループ考察討論(5日目)
低い
やや低い
良い
やや高い
高い
図10 講義、実習・演習のレベル
0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
実習全体を通して
(1)-1耐震裕度評価方法と評価事例
(1)-2耐震安全に関する先端技術
(2)-1センサの原理、データ処理、応答スペクトル
(2)-2加速度計の分解と仕組みの理解
(2)-3加振台実習(加振台説明、データ収録、加振台運転)
(2)-4ひずみゲージの貼り方と実習
(2)-5教材試験体の歪ゲージ貼り
(2)-6片持ち梁試験体の狙いと刺激係数
(2)-7加振試験実習(教材試験体)
(2)-8部品検査
(2)-9燃料集合体を例とした流体構造連成の解説
(2)-10燃料集合体加振試験実習(3日目)
(2)-11燃料集合体加振試験実習(4日目)
(2)-12燃料集合体加振試験実習(5日目)
(2)-13加振データ分析、グループ考察討論(3日目)
(2)-14加振データ分析、グループ考察討論(4日目)
(2)-15加振データ分析、グループ考察討論(5日目)
全く理解できない
理解できない
適当
理解できた
非常に良く理解できた
図11 理解度
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0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
実習全体を通して
(1)-1耐震裕度評価方法と評価事例
(1)-2耐震安全に関する先端技術
(2)-1センサの原理、データ処理、応答スペクトル
(2)-2加速度計の分解と仕組みの理解
(2)-3加振台実習(加振台説明、データ収録、加振台運転)
(2)-4ひずみゲージの貼り方と実習
(2)-5教材試験体の歪ゲージ貼り
(2)-6片持ち梁試験体の狙いと刺激係数
(2)-7加振試験実習(教材試験体)
(2)-8部品検査
(2)-9燃料集合体を例とした流体構造連成の解説
(2)-10燃料集合体加振試験実習(3日目)
(2)-11燃料集合体加振試験実習(4日目)
(2)-12燃料集合体加振試験実習(5日目)
(2)-13加振データ分析、グループ考察討論(3日目)
(2)-14加振データ分析、グループ考察討論(4日目)
(2)-15加振データ分析、グループ考察討論(5日目)
全然活用できない
活用できない
活用できる
大いに活用できる
図12 今後活用できるか
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