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２１世紀の日本のかたち（１１）

調和的都市化（Harmonious Urbanization）

--- 国連ハビタット（NGO）・世界居住学会南京集会に参加して –--

戸沼幸市

＜ (財 )日本開発構想研究所 理事長＞

１．はじめに

私は、2008年11月3〜7日の間、中国、南京市

で行われた国連ハビタットの一つの集会に出席致

しました。

開催期間中、南京市の大きな会場では、中国の

この地方の都市の歴史と未来を示す展示が大々的

になされ、大小の会議場で、主題－「Harmonious

Urbanization」についていくつもの議論が展開され

ました。

私の参加したハビタットＮＧＯ“ＷＳＥ(World

Society of EKISTICS : 世界居住学会）”は、1970

年にギリシャ人、デイノス・ドクシアデスが呼掛

け、歴史家のトインビー、建築家のバックミンス

ターフラー、社会学者のマーガレット・ミード、

都市地理学のジャン・ゴットマン、日本人では磯

村英一らが参加して設立されました。地球儀を真

ん中において、世界の人間居住の未来を学際的に

研究することを目的としています。

ＷＳＥは、隔年で地球のあちこち、ヨーロッパ

やアジアの都市で会議を行い、一昨年は日本の滋

賀県彦根市で開催されました。今回は、国連ハビ

タットに合わせて中国の南京市で行われることに

なったものです。

会議の主題「Harmonious Urbanization」は中国に

おいて現在、独特な意味を持っています。

２．中国における調和的都市化

現在、13億人の人口を持つ中国の都市化は激し

いものがあります。

2030年において、南京市から上海に至る長江沿

い300kmと、上海市から寧波市までの杭州湾沿い

260km の、東京～大阪間ほどの範囲に総計約２億

人（2002 年人口：6,550 万人）が居住するであろ

うと私どもの研究所では推計しています。（図１）

億単位の人口を吸収するメガロポリスとして、

この長江メガロポリスの他に、北京市、天津市、

河北省の人口連担地域があり、これに広東省の巨

大人口集積地帯が加わっています。（図２、図３）

中国は都市部における一人っ子政策の徹底化に

より、やがて人口増に急ブレーキがかかると予想

されますが、現在は依然として人口は増え続けて

おり、21世紀前半は、この巨大人口を背景に農村

から都市への人口流入に歯止めがかからず、都市

化、巨大都市化（メトロポリス）、巨帯都市化（メ

ガロポリス）が急速に進んでいます。中国政府は

また、近代化、都市化を積極的に推進し、外国資

本を大きく受入れて、農業から工業化、第三次産

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業化、途上国から先進国への方向を明確にしてい

ます。

今回の中国行きは、私には12年ぶりであり、上

海の変貌ぶりには驚かされました。中心部の金融

中心地区には、超高層ビルが林立し、これに最近

（10月25日）、日本の森ビルが建設した、栓抜き

の形をした地上 101 階、高さ 492m の「上海環球

金融中心」（上海ワールドフィナンシャルセンタ

ー）が加わりました。高速自動車網に加え、地下

鉄の建設も急ピッチで、2010年開催予定の上海万

国博覧会（テーマ：より良い都市、より良い生活）

までに、あと数本造りあげる勢いです。上海市内

と上海空港間は、リニアモーターカーが時速

400km、６分間でつないでいます。上海は超スピ

ード、超高層の国際先端都市というほかありませ

ん。

これと対照的に、超高層の足回りには前近代が

渦巻いています。

上海市の人口（2005年）は、いわゆる戸籍人口

1,360万人、非戸籍人口約600万人と言われていま

す。この二種の人びとの間には、住む、働く場に

大きな格差があるようです。上海駅の地下通路や

周辺部には、大きな袋を抱えた人々が大勢で何か

を叫んでいました。

中国の急速な近代都市化は、経済のグローバル

化の中で、中国政府が中国への市場経済への転換

に舵をきり、外国からの資本、物、情報、人を受

入れています。日本人も現在10万人が住んでおり、

私の知人も上海スピードで忙しく働いています。

都会の流行も都市のデザインもどんどん世界中を

取込んで、歴史や伝統もひとまず横において、と

いう風です。

大きく行き過ぎても不具合があれば修正すれば

良いというのでしょう。ストックよりもフローで

経済の活性化を図るかのようです。伝統的な低層

の中国風住居をどんどん壊して建てる高層住宅の

寿命も長いものとは思えないのですが。

３．南京集会

南京市（人口 600 万人）は内陸にあるためか上

海よりも都市化のスピードが遅く、古都の雰囲気

をいまだもっていると感じられました。

会議の合間に、平坦な南京市街の中でぽっこり

と高い、南京市鐘山風景区にある秋の世界文化遺

産、明・清朝の皇帝陵墓群のある明孝陵と、孫文

の墓、中山陵にも登りました。市内には城壁が残

っており、この中に船で遊覧できる水路の街並み

を、中国側の配慮でお茶を飲みながら楽しむこと

ができました。

そして日本と関わりの深い「侵華日軍南京大虐

殺偶難同胞紀念館」を訪れました。

本館（1985年、設計：斉康）は江東門集団虐殺

「万人抗」遺跡の上に建てられており、日本軍に

よる南京虐殺の生なましい記録が克明に展示され

ておりました。新館（2007年、設計：何鏡堂）は

「平和の舟」と名付けられ「化剣為犁」（戦争をや

めて平和となる）を造形化した建築と展示であり、

改めて戦争の愚と日中の友好を願う気持ちを強く

しました。私の早稲田大学教師時代、研究室にや

ってきた中国人留学生、この若い友人達が国境を

越えて、今、活躍していることは、まことに頼も

しいことです。

さて、世界居住学会（ＷＳＥ）の議論－調和的

都市化、人間居住ですが、様ざまな論点があり、

それぞれの国の実情と取組みについて報告し合っ

たのですが、やはり中国側が直面している「都市

化」の課題の大きさに圧倒されたといったところ

です。また、地球温暖化問題、世界金融危機問題、

多方面なグローバル化の問題について話合いまし

た。

会議開催中にアメリカの次期大統領にオバマ氏

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が選ばれたニュースも飛込んできました。

これからの地球の人間居住は問題山積、宿題一

杯、といったところです。

ＷＳＥの次回開催は、トルコのイスタンブール

で行うことを確認し、地球における人間居住を包

括的に行う、研究、教育のプログラムを試案的に

つくってみようということになりました。

今回、中国側は精華大学（北京）と、東南大学

（南京）が多くの労力をさいて準備してくれまし

たが、これに応えて、日本側も早稲田などいくつ

かの大学、研究所などをベースに交流のネットワ

ークを広げ、強めたいものです。この中で「アジ

アにおける調和的人間居住」といったものと関連

させて、21世紀の日本のかたちを改めて探りたい

と考えています。

（2008年11月15日）

会議出席者との記念写真

主な出席者

日本 戸沼幸市、長島孝一、長島キャサリン、後藤春彦、関口信行、趙城埼

中国 精華大学：呉良鏞、毛其智、武廷海、呉唯佳、他

南京大学：王建国、董衛、他

その他 ギリシャ： D.Agrafiotis Panayis Psomopoulon

トルコ： Rusen Keles

コロンビア： Eduardo Barajas

カナダ： Edward A.Leman William Michelson

オーストリア： John R.Minnery A.Rahmaan

パキスタン： M.A.Mushal

イタリア： L.Musara

ニュージーランド： Barry Rae

エチオピア： Wubshet Berhana 他

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南通市

蘇州市

除州市

南京市

揚州市

泰州市

上海市

淮陰市

無錫市

常州市

宣城市

鎮江市

塩城市

巣湖市

湖州市

蕪湖市

嘉興市

馬鞍山市

宿迂市

銅陵市

舟山市

0 20 40 60 80 10010km

資料７－２　江蘇省南部土地利用現況図

各メッシュにおいて1/2以上を占める土地利用を表示した。

凡例

河川・湖

都市的土地利用

州

農村住民区

草地

畑

水田

森林

地級市

浜

資料：中国科学院データセンター「中国人文・経済・環境・気候データ集　　　（１キロメッシュ地図対応）」をもとに（財）日本開発構想研究所で出力

図１ 日本と中国の比較

図２ 長江デルタ（江蘇州南部）の土地利用現況

資料：「中国人文・経済・環境・気候データ集」中国科学院資源環境科学センター－2005 年 12 月班－より財団法人日

本開発構想研究所作成

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図３ 長江流域及びその周辺の人口密度

資料：「中国城市統計年報 2006 年」中国国家統計局城市社会経済調査司（編）より財団法人日本開発構想研究所作成

江西省

安徽省

福建省

江蘇省

浙江省

上海市

六安市

麗水市

杭州市

安慶市

塩城市

除州市

宣城市

徐州市

温州市

金華市

阜陽市

宿州市

淮陰市

黄山市

巣湖市

宿州市

台州市

亳州市

衢州市

南通市

蘇州市

池州市

寧波市紹興市

合肥市

揚州市

南京市

蚌埠市

泰州市

湖州市

連雲港市

無錫市常州市

嘉興市

鎮江市

蕪湖市

淮北市

淮南市

馬鞍山市

銅陵市

舟山市

0 100 200 300 km

県級市人口密度（人/k㎡）82.239 - 500500 - 750750 - 10001000 - 20002000 - 4877.5No Data

地級市省鉄道

人口密度（2005年）