2018 4 28 is report no. 2018042119 ·...

20
良質な睡眠と ICT 奥村 拓巳 藤井 聖香 廣安 知之 日和 悟 2018 4 28 IS Report No. 2018042119 Report Medical Information System Laboratory

Upload: others

Post on 18-Jun-2020

0 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 2018 4 28 IS Report No. 2018042119 · 4.1で述べた生体センサ,環境センサから情報は集約・統合された後にaiによる分析が行われ,良 質な睡眠を提供するための睡眠環境の最適解の算出が行われる.

良質な睡眠とICT   

奥村 拓巳 藤井 聖香 廣安 知之 日和 悟   

2018年 4月 28日   

IS Report No. 2018042119   

ReportMedical Information  System Laboratory  

Page 2: 2018 4 28 IS Report No. 2018042119 · 4.1で述べた生体センサ,環境センサから情報は集約・統合された後にaiによる分析が行われ,良 質な睡眠を提供するための睡眠環境の最適解の算出が行われる.

Abstract

従来の ICT ×睡眠では生体センタから得られた情報による睡眠の質の評価に留まっていた.しかし

これからの ICT×睡眠では,センサから得られた環境・生体情報をデジタル化する IoT技術,デジタ

ル化された情報から良質な睡眠を提供することができる睡眠環境の最適解を算出する分析技術,スト

レスの原因となる要素を解決するための設備機器,それらを結びつける通信技術や設備機器を制御す

るルームマネジメントシステムが構成要素となり,良質な睡眠を提供するという目的のもとシステム

となる.それにより睡眠環境の自動最適化を行い,良質な睡眠を提供することができるようになる.

キーワード: 睡眠, ICT, IoT, 生体センサ, 環境センサ, 制御システム

Page 3: 2018 4 28 IS Report No. 2018042119 · 4.1で述べた生体センサ,環境センサから情報は集約・統合された後にaiによる分析が行われ,良 質な睡眠を提供するための睡眠環境の最適解の算出が行われる.

目 次

第 1章 はじめに . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2

第 2章 従来の ICT ×睡眠 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3

第 3章 最新の ICT ×睡眠 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5

3.1 センシング . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6

3.2 AIによる睡眠環境の最適解の算出 . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6

3.3 睡眠環境向上設備とルームマネジメントシステムによる睡眠環境の自動最適化 . 6

第 4章 センサ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9

第 5章 Bluetooth5.0. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 12

第 6章 制御システム . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 13

第 7章 制御システムのセキュリティ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 14

第 8章 今度の展望 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15

第 9章 まとめ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16

Page 4: 2018 4 28 IS Report No. 2018042119 · 4.1で述べた生体センサ,環境センサから情報は集約・統合された後にaiによる分析が行われ,良 質な睡眠を提供するための睡眠環境の最適解の算出が行われる.

第 1章 はじめに

私たちの長い人生の中で睡眠は 3分の 1を占めている.人生を 80年と考えると生涯で 26.7年は眠っ

ている計算になり,良い睡眠をとることは良い人生を送ることにつながる.睡眠には,「レム睡眠」と

いう脳は起きていて体は寝ている睡眠と「ノンレム睡眠」という脳も体も眠っている睡眠の 2種類が

あり,それを繰り返しながら眠っている.明け方までにかけてレム睡眠とノンレム睡眠が 4,5回繰り

返されるのが通常の睡眠パターンである.ノンレム睡眠は明け方に近づくにつれて浅くなり,持続時

間も短くなる.逆にレム睡眠は明け方になるほど出現時間が多くなる.Fig. 1.1は理想的な睡眠が行

われている時の睡眠波形である.健康や精神状態を健全に保つためには適正な睡眠が不可欠である.

しかし,日本人は世界でも最も睡眠時間が短い国であると言われており,食事や運動に比べ睡眠は軽

視されている. 原因として,寝る間を惜しんで働くことを良しとする文化が定着しているためであ

る.現在,日本では 5人に 1人の大人が睡眠に関する問題を抱えており,睡眠に関する問題の解決が

課題として挙げられる.しかし,睡眠時間を自分で管理することはできるが,睡眠の質を管理するこ

とはできない.例えば,病院生活を送る入院患者にとって病室は日常生活の場となる.生活環境の変

化により睡眠の時間は充分に確保できるが,睡眠の質の低下に悩まされる患者は少なくない. また,

それが原因による医療スタッフへの業務負担も問題となっている.さらに,会社においては従業員の

睡眠の質の低下が原因となり,引き起こされる体調不良や休業が生産性の低下につながっている.こ

のような社会問題に対して,Information and Communication Technology(ICT)の活用による睡眠

環境改善の取り組みが成されている.先進国の多くは既に ICTを利用したサービスが日常生活レベ

ルにまで広く普及している.日本もその例外ではなく,ICTの導入は私たちの生活に大きな変化をも

たらしている.「情報」は単体では意味を成さず,「情報」を「通信・伝達」するからこそ,技術が私た

ちの生活をより豊かにする.技術の発展に伴い,様々な形で人の生活に取り入れられている ICTだ

が,睡眠への導入にはまだまだ課題がある.本稿では,ICTの発展や従来の課題への取り組み,展望

について睡眠の視点から述べる [1] [2] [3].

Fig. 1.1 理想的な睡眠波形 (参考文献 [3]より自作)

2

Page 5: 2018 4 28 IS Report No. 2018042119 · 4.1で述べた生体センサ,環境センサから情報は集約・統合された後にaiによる分析が行われ,良 質な睡眠を提供するための睡眠環境の最適解の算出が行われる.

第 2章 従来の ICT×睡眠

現在さまざまな ICT技術が人々の生活に取り入れられこれまで感覚的な評価がされていた日常生活

のデジタル化が進んでいる.睡眠に関しても,ウェアラブル端末やスマートフォンなどに搭載された

生体センサや加速度センサにより睡眠中の脈拍や体温,体の動きの情報を集め,睡眠状態分析アプリ

ケーションにより人の睡眠状態の分析が行われている.Fig. 2.1は iPhoneのアプリケーションによ

る睡眠状態の分析である.具体的には,睡眠中のノンレム睡眠とレム睡眠の時間変化を睡眠中の人の

動きなどから分析し,睡眠の質を定量的に評価することや分析した結果に基づいて起床に適したタイ

ミングでアラームが鳴る.しかし,センサから得られた情報をもとに睡眠の質を分析することはでき

ていたが,睡眠の質を低下させている原因やその原因の解決策の提案は行われていないのが現状であ

る.これは IoTの成熟度モデルの中では可視化・制御の段階である [4].Fig. 2.2では IoT成熟度モ

デルを示す.したがって,睡眠の質を評価できる技術は実現しているが,睡眠中のストレスはそのス

トレスの原因となっている要素を解決することができる設備機器に対して,自分で働きかけなければ

解決することができない.例えば,睡眠中に暑いと感じた場合,室内の温度を下げるためにクーラー

を稼働させる,窓を開けるなどの行動を自らで取らなければならなかった.そのため,睡眠中のスト

レスとなる要因は解決することができるが,睡眠を中断し,自分で設備機器に働きかけるという行動

自体が睡眠の質を低下させる要因となっていた [5].

3

Page 6: 2018 4 28 IS Report No. 2018042119 · 4.1で述べた生体センサ,環境センサから情報は集約・統合された後にaiによる分析が行われ,良 質な睡眠を提供するための睡眠環境の最適解の算出が行われる.

第 2 章 従来の ICT ×睡眠

Fig. 2.1 睡眠状態の可視化 (Fitbitアプリによる実計測データ)

Fig. 2.2 IoT成熟度モデル (参考文献 [4]より自作)

4

Page 7: 2018 4 28 IS Report No. 2018042119 · 4.1で述べた生体センサ,環境センサから情報は集約・統合された後にaiによる分析が行われ,良 質な睡眠を提供するための睡眠環境の最適解の算出が行われる.

第 3章 最新の ICT×睡眠

最新の ICT技術,IoT技術を駆使し,ICT ×睡眠で実現できることは,「良質な睡眠を提供する」と

いう目的を持ったシステム (睡眠環境)である.センサから得られた環境・生体情報をデジタル化す

る IoT技術,デジタル化された情報から良質な睡眠を提供することができる睡眠環境の最適解を算

出する分析技術,ストレスの原因となる要素を解決するための設備機器,それらを結びつける通信技

術や設備機器を制御するルームマネジメントシステムが構成要素となる.それにより良質な睡眠を提

供するという目的のもとシステムとなり,睡眠環境の自動最適化を行い良質な睡眠を提供することが

できる.これは IoTの成熟度モデルの中では最適化の段階であり,生体センサによりモノ (人)の詳

細な動きや状況を把握し,環境センサにより睡眠状態が変化した時の睡眠環境の把握を行うことで,

単にデータの可視化や設備機器の自動化を行うだけでなく,状況や条件に応じた最適な振る舞いを行

う [4].現在上記のようなシステムは医療の現場で実現されている.睡眠環境を整え,入院患者が良

質な療養生活を送ることは,患者と医療施設の双方にとって大きなメリットがある.患者にとっては,

良質な睡眠を得られることで目が覚めにくくなり,夜間のベッド乗降やトイレの回数が減少する.こ

れにより,転倒による怪我のリスク軽減が期待される.特に高齢者の転倒・転落事故は発生頻度が高

く,近年増加傾向にあるため.対策が急務であると考えられている.さらに長期的な目線では,睡眠

状態の記録により生活リズムの改善やそれぞれの患者にあったオーダーメイドの睡眠環境の提案を行

うことができる.また,医療施設にとっては,患者が怪我するリスク軽減に加えて,夜間の呼出コール

が減ることで医療スタッフの業務負荷が軽減され,就労環境の改善も見込める.本章では上記で述べ

たシステムについて機能・役割の面から述べる.Fig.4では睡眠環境システムの概要を示す.[6] [7].

Fig. 3.1 睡眠環境システム (参考文献 [6]より自作)

5

Page 8: 2018 4 28 IS Report No. 2018042119 · 4.1で述べた生体センサ,環境センサから情報は集約・統合された後にaiによる分析が行われ,良 質な睡眠を提供するための睡眠環境の最適解の算出が行われる.

3.1センシング 第 3 章 最新の ICT ×睡眠

3.1 センシング

従来の睡眠の質を評価することができる生体センサからの情報に加え,病室に取り付けた環境セン

サにより睡眠環境の情報を所得する.具体的には,睡眠の質に関して,「温度」・「音」・「光」の三要素

がそれぞれ大きな影響を与えることが分かっているため,温熱センサ,音響センサ,照度センサを取

り付ける.

3.2 AIによる睡眠環境の最適解の算出

4.1で述べた生体センサ,環境センサから情報は集約・統合された後にAIによる分析が行われ,良

質な睡眠を提供するための睡眠環境の最適解の算出が行われる.

3.3 睡眠環境向上設備とルームマネジメントシステムによる睡眠環境の自動最適化

睡眠環境向上設備として,病室が多床室であるという環境特性と睡眠の質に関して「温度」・「音」・

「光」の要素が大きな影響を与えることがわかっていることから Fig. 3.4のような設備を構築されて

いる.廊下側や窓側で自然光による照度の差が生まれることから模擬窓照明,他のベッドへの影響を

最小限に抑え,快適な温度環境や音響環境を提供するための送風装置,ブラウンノイズスピーカーな

どが設置されている.ルームマネジメントシステムは IPネットワークによるシステム連携で,各病

室の温度や照度,音響などを集中制御するシステムである.ホテルなどに利用されていたシステムを

応用したものである.下記では上記で述べた睡眠の質に関して大きな影響を与える 3つの要素に対す

る機能について述べる.Fig. 3.2では,睡眠に大きな影響を与える 3つの要素について示す.Fig. 3.3

では,睡眠環境システムの 3つの要素ごとの機能について示す.

Fig. 3.2 睡眠の質に影響を与える三要素 (参考文献 [6]より自作)

6

Page 9: 2018 4 28 IS Report No. 2018042119 · 4.1で述べた生体センサ,環境センサから情報は集約・統合された後にaiによる分析が行われ,良 質な睡眠を提供するための睡眠環境の最適解の算出が行われる.

3.3睡眠環境向上設備とルームマネジメントシステムによる睡眠環境の自動最適化第 3 章 最新の ICT ×睡眠

• 照明

就寝 1時間前からは,部屋を暗めの暖色系の明かりだけにすると眠りやすくなる.また,睡眠

中の部屋は,0.3[ lx ]程度の明るさが理想である.0.3[ lx ]とは,何となく室内が見える月明か

り程度の明るさである.そして,目覚めたらすぐに日光を浴びるようにする.日光を浴びると

体内時計がリセットされ,すっきりとした目覚めを得ることができる.体内時計は人間が地球

の自転に合わせて効率的に生きるために備えられた仕組みであり,健康的な生活を送るために

は体に朝を感知させる必要がある.体に朝を感知させるためには,起床後 3時間以内に明るい

光を浴びるい必要がある.ライトなどを使用して人工的に 2500[lx]以上の光を浴びるだけでも,

体に朝を感知させることができる.2500[ lx ]とはスーパーやコンビニの店内と同程度の明るさ

である.この考え方に基づき,病室内の照度を朝方は上げて,昼以降は徐々に下げていくなど,

患者の一日の生活リズムが安定するような光環境を自動的に創出する.特に多床室においては,

窓側と廊下側の患者で日中受ける照度にばらつきが出るため,環境センサでモニタリングしな

がら太陽光に近い光を照射することができる模擬窓照明などを補助的に活用し,廊下側でも日

中に十分な照度を確保することができる.

• 温度

寝室の理想的な睡眠環境は,冬は 16~19[ ℃ ],夏は 26[ ℃ ]以下である.湿度は季節を問わず

50[ % ]前後を保つと快眠しやすくなる.布団の中の理想的な温度は,32~34[ ℃ ]である.一

般的に睡眠の前半は深い眠りが生じるため,患者の就寝時には送風により良好な温熱環境を創

出し,快適な入眠と深い眠りを促す.睡眠を検知して一定時間が経過した後には送風装置を弱

める一方,室内空調により温熱環境を最適に保つ.また,布団の中は温度調節が難しいことや,

頭部は体の中でも特に発熱量が多いことから,ベッドの上に設置された送風機から頭部に微弱

な風を送風することで涼感が得られ,寝苦しさを解消することができる.

• 音響

心地良く眠るためには,周囲の音が 40[ dB ]以下であることが必要だとされている.40[ dB ]

は,図書館内の静かな環境と同程度である.医療施設は自宅と違い,様々な音が混在し耳障り

に感じることがある.特に就寝時に病室内が静かすぎると,隣接する患者の生活音,廊下のス

リッパ音やスタッフステーションでの作業音など周辺の様々な音が聞こえて,かえって寝付き

が悪くなることがある.そこで患者の就寝時には微弱な音(ブラウンノイズ)を発生させ,ベッ

ド周りの雑騒音を緩和することで入眠を促し,ベットに搭載された体動センサによる睡眠の検

知後はノイズを徐々に下げ,自動的に消音する.

7

Page 10: 2018 4 28 IS Report No. 2018042119 · 4.1で述べた生体センサ,環境センサから情報は集約・統合された後にaiによる分析が行われ,良 質な睡眠を提供するための睡眠環境の最適解の算出が行われる.

3.3睡眠環境向上設備とルームマネジメントシステムによる睡眠環境の自動最適化第 3 章 最新の ICT ×睡眠

Fig. 3.3 睡眠環境システムの機能 (参考文献 [6]より自作)

Fig. 3.4 睡眠環境システムの設備機器 (参考文献 [7]より引用)

8

Page 11: 2018 4 28 IS Report No. 2018042119 · 4.1で述べた生体センサ,環境センサから情報は集約・統合された後にaiによる分析が行われ,良 質な睡眠を提供するための睡眠環境の最適解の算出が行われる.

第 4章 センサ

センサの基本的な内部構成はセンサ素子とCPUがインターフェースで接続されている構成になって

いる.IoT技術の発達によりセンサで取得することができる情報は多種多様となり,具体的には位置

情報 (GPS),光量/色,重力/体積/密度,磁力,圧力/衝撃力,電流/電圧,加速度/角速度,温度/湿

度,方向/距離,成分量,画像/動画,流量,生体情報,振動,音声/周波数,ON/OFF状態などの情

報を所得することができる [4].その中で今回の睡眠環境システムではセンサにより光量/色,加速

度/角速度,温度/湿度,生体情報,音声/周波数の情報を所得することで患者の睡眠状態を分析し最

適解の算出を行なっている.下記では具体的に各要素がどういったセンサにより情報の取得が行われ

ているかについて述べる.Fig. 4.1はベッドに付けられた生体センサのイメージである.

Fig. 4.1 生体センサ (参考文献 [8]より自作)

• 照度センサ

受光素子 (フォトダイオード,フォトトランジスタ)に入射した環境光や赤外光を電流に変換し

て明るさを検知する.照度センサに求められる重要な特性が分光感度特性であり,人間の目が

感じることのできる波長 (400[ nm ]~800[ nm ]) と同じ波長の感度を持つことが必要である.

しかし,照度センサは,一般的にシリコンフォトダイオードが受光部に採用されており,この

フォトダイオードは,人間の目には見えない赤外線領域にも感度があるため,人間の目の感度

に補正を行う必要がある.人間の目の感度を視感度といい,受光部に存在する光学フィルタに

より視感度に調節されている [9].

• 音響センサ

音の検出を行うセンサを一般にマイクロホンと呼ぶ.マイクロホンは,その変換方式の違いに

より動電型,静電型,圧電型に分類される.計測用としては,小形にできることや,広い周波

数帯域に渡ってフラットな周波数特性を持ち,ほかの形式に比べ安定性がきわめて高いことか

ら静電型(コンデンサ)マイクが一般に使用されている.静電型マイクは,振動膜にあらかじ

め電気を貯めておいて,音を受けて振動膜が動くと電圧が変わる原理を応用している.また静

9

Page 12: 2018 4 28 IS Report No. 2018042119 · 4.1で述べた生体センサ,環境センサから情報は集約・統合された後にaiによる分析が行われ,良 質な睡眠を提供するための睡眠環境の最適解の算出が行われる.

第 4 章 センサ

電型マイクは,バイアス型とバックエレクトレット型の 2種類があり,その違いは外部から直

流電圧を加えているか,電圧を加える代わりに永久電気分極した高分子フィルムを使用するか

である Fig.8ではバイアス型とバックエレクトレット型の構造の違いについて示す [10].

• 温熱センサ

病室に取り付けた放射温度計により患者の体温の計測を行う.放射温度計を使用するメリット

としては,リアルタイムで高速に温度の計測が行える点や非接触で温度の測定が行える点,セ

ンサを接触させると表面温度が変化する物体の温度の計測に有効である点であり,移動・回転す

る物体の体温の測定に有効である.デメリットは,物体に合わせた放射率の設定が必須な点で

ある.原理としては,物体から放射された赤外線をレンズでサーモパイルという検出素子に集

光する.サーモパイルとは物体から放出される赤外線を吸収,それによって暖められると,温

度に応じた電気信号を生じる検出素子である [11].

• 加速度センサ

加速度センサは,1秒間の速度変化(加速度)を測定するセンサである.重力加速度も検出で

きるため,人や物体の動きや地震などの振動を検出することができる.加速度センサーの一般

的な測定方式は,バネと重りが一体化した部品に対して,加速度が発生した時の位置を測定す

る.X軸,Y軸,Z軸のそれぞれの方向に取り付けた重りが,外部からの衝撃により移動する

ことで,その位置変化をセンサー内部で測定する仕組みになっている.後はバネ係数などを考

慮した力学の方程式(フックの法則)に数値を入力することで,加速度を導き出すことができ

る [12].

• マイクロ波ドップラーセンサ

従来の接触型の脈拍の計測には,指先や手首にセンサを設置し,センサから発せられた光が血

中のヘモグロビンに吸収され,反射光が増減する原理を利用したものであった.マイクロ波ドッ

プラーセンサでは,人体に向けて照射した 24GHz帯のマイクロ波が心臓の拍動による胸部表面

の僅かな変位によってドップラー効果を起こし,その周波数が変動することを検出する.Fig.

4.2はマイクロ波ドップラーセンサのイメージ図である.非接触・非拘束のセンサであるため,

被験者への負担を軽減することができ,デメリットとしては体動ノイズの影響を大きく受ける

ことである.体動ノイズへの対策として,従来の高速フーリエ変換での解析では,ノイズが含

まれた波形のまま解析が行われており,体動ノイズの影響を強く受けていた.これに対して,新

たな取り組みでは,自己回帰モデルによる解析により,ノイズの影響を軽減している.具体的

には,線型波形はノイズの影響を受けていると仮定し,脈拍のモデル化を行う手法が用いられ

ている [8] [13].

10

Page 13: 2018 4 28 IS Report No. 2018042119 · 4.1で述べた生体センサ,環境センサから情報は集約・統合された後にaiによる分析が行われ,良 質な睡眠を提供するための睡眠環境の最適解の算出が行われる.

第 4 章 センサ

Fig. 4.2 マイクロ波ドップラーセンサ (参考文献 [13]より自作)

11

Page 14: 2018 4 28 IS Report No. 2018042119 · 4.1で述べた生体センサ,環境センサから情報は集約・統合された後にaiによる分析が行われ,良 質な睡眠を提供するための睡眠環境の最適解の算出が行われる.

第 5章 Bluetooth5.0

Bluetoothは 2.4[ GHz ]帯の電波を使用した近距離通信技術である.周波数ホッピングという技術を

用いて,80[ MHz ]の帯域幅の中を絶えず周波数を変化させながら通信している.通信速度は最大で数

Mbps程度なので,大容量のデータ転送ではなく低速の近距離通信に使われている.現在 Bluetooth

low energy(BLE)規格が広く普及しているが IoTの広がりによって LE規格だけでは対応できない用

途が増えてきたためBluetooth5.0という規格が新しく発表された.従来使用されていたBluetooth4.2

からの主な変更点は以下の 3つである [14].

• 高速伝送モード

LE規格をベースに伝送速度をBluetooth4.2の 2倍にした LE 2Mモードが追加された.低消費

電力である BLEの特徴を引き継いだままで伝送速度を 2[ Mbps ]に高速化した.

• 長距離伝送モード

伝送距離を伸ばすためのLE codedモードを追加された.このモードではエラー訂正のための冗

長コードを付加して伝送するため,実効データ・レートは遅くなるが通信距離を Bluetooth4.2

の 4倍に拡大し最大通信距離 400[ m ]まで対応することが可能になった.ただし,伝送速度が

遅くなることによって電波を送信している時間が長くなるため,デバイスの平均消費電力は増

加することになる.

• メッシュ・ネットワーク

初期の Bluetoothからサポートされているマスタスレーブ通信,Version4.0で追加されたアド

バタイジング通信に加えて,メッシュ・ネットワーク構成が追加された.Bluetooth4.xまでは

1対 1または 1対多のネットワーク構成だったが,Bluetooth5.0ではメッシュ・ネットワークが

構成できるようになった.メッシュ・ネットワークではペリフェラルが自立的にネットワーク

を形成することで,遠距離通信を実現したり通信の信頼性を向上したりすることが可能になる.

12

Page 15: 2018 4 28 IS Report No. 2018042119 · 4.1で述べた生体センサ,環境センサから情報は集約・統合された後にaiによる分析が行われ,良 質な睡眠を提供するための睡眠環境の最適解の算出が行われる.

第 6章 制御システム

サーバーからルームコントローラを経由し設備機器の制御を行う.一般的にサーバーとルームコント

ローラ間は LAN,ルームコントローラと設備機器間は専用ケーブルで接続されている.今回の睡眠

環境システムにおいては,良質な睡眠を提供するための睡眠環境の自動最適化の役割を担っている

が,オフィスの照明環境の自動最適化を行い,省エネルギー効果の高い設備運用の実現にも使用され

ている.

13

Page 16: 2018 4 28 IS Report No. 2018042119 · 4.1で述べた生体センサ,環境センサから情報は集約・統合された後にaiによる分析が行われ,良 質な睡眠を提供するための睡眠環境の最適解の算出が行われる.

第 7章 制御システムのセキュリティ

睡眠環境の ICT・IoT化にはセキュリティへの対応が不可欠となっている.従来のサイバー攻撃とい

えば,個人のコンピュータや企業で利用されるOA機器がターゲットと考えられていた.しかし昨今

では,「ICT・IoT化の促進」や「ビックデータ活用」を目的に企業や社会インフラで利用されている

制御システムにおいても,インターネットの接続と汎用的なシステムの利用が求められるケースが増

えている.この変化によって,本来サイバー攻撃のターゲットとは無縁だった制御システムも,現在

はさまざまなサイバー攻撃の脅威にさらされている.本章ではこのような社会的背景に対しての制御

システムのセキュリティについて述べる [15].

• 侵入検知ソリューション

従来であれば,office automation(OA)ネットワークはルーターやファイヤーウォール,設備

不備を狙われ侵入されていた.しかし,侵入検知ソリューションの使用により,Unified threat

management(UTM),サンドボックスなど各種セキュリティデバイスを活用し,外部からの攻

撃やウイルスの侵入,内部からの不正な通信を検出する.

• 可視化ソリューション

従来であれば未承認のパソコンが接続されることで,無線LANを盗用されていた.さらにUSB

や外部メディアによりウイルス感染,不正プログラムの実行が行われていた.しかし,可視化

ソリューションの使用により,TCP/IPネットワークに接続されている全ての端末,禁止され

たUSBなどのデバイスを洗い出し,管理者が接続状況を把握することが可能となる.また,OS

のバージョンやパッチ (セキュリティ更新プログラム)の適用状況や利用されているアプリケー

ションを確認する.

• 自動対策ソリューション

侵入検知で検出されたアラートや組織が許可していないデバイス,脆弱性を持つデバイスの接

続を検知し自動的にブロックまたは隔離する.

• Security information and event management (SIEM)

様々なセキュリティデバイスから出力されるログを収集し分析することで,より早期の発見と

高度な分析を可能にする.

• セキュリティ運用監視サービス

UTM,サンドボックスなど各種セキュリティデバイスと連携し,検知結果をもとにブロックや

隔離を行う.

14

Page 17: 2018 4 28 IS Report No. 2018042119 · 4.1で述べた生体センサ,環境センサから情報は集約・統合された後にaiによる分析が行われ,良 質な睡眠を提供するための睡眠環境の最適解の算出が行われる.

第 8章 今度の展望

上記で述べた睡眠環境を自動最適化することができるシステムは,現在医療機関にのみ導入されてい

るため,今後は必要な機能のカスタマイズなどを行えるようにすることで,老人ホールやホテルなど

への導入が期待される.また睡眠不足は翌日に頭痛や倦怠感を引き起こし,日常生活に支障を来すだ

けではなく,労働者の生産性を低下させ,死亡リスクを高めることにより,日本経済に多大な損失を

もたらしている.将来的にはマンションや一軒家などへの導入も視野に入れることで睡眠の質の低下

が原因になり引き起こされる生産性低下を改善することが期待される.技術面では,現在に使用され

ているセンサは,「体動」,「脈拍」を計測する生体センサと睡眠の質に大きく影響を与えるとされてい

る「温熱」,「光」,「音響」の 3つの要素を計測するセンサのみが用いられているが,「匂い」,「圧力」,

「脳波」などを計測することができるセンサを用いることによって,さらに細分化された良質な睡眠

の提供をすることが期待される.

15

Page 18: 2018 4 28 IS Report No. 2018042119 · 4.1で述べた生体センサ,環境センサから情報は集約・統合された後にaiによる分析が行われ,良 質な睡眠を提供するための睡眠環境の最適解の算出が行われる.

第 9章 まとめ

本稿では,近年注目度が高まっている睡眠の質における ICT技術,IoT技術の貢献について述べた.

ICT技術,IoT技術の著しい進化の背景には,センサの利便性の向上,ネットワーク環境や通信規格

の規模拡大や通信速度の向上,既存システムとの統合による新たな機能の創出,AIなどによる高精

度での分析技術などさまざまな技術が組み合わさることにより実現可能となった仕組みが多くある.

今回の睡眠環境システムは医療現場における睡眠の課題を解決することを目的に開発されたが,企業

においても従業員の睡眠の質の低下が原因による生産性の低下が問題とされている.今後の新たな技

術の発展により上記のような問題が解決されることが期待される.

16

Page 19: 2018 4 28 IS Report No. 2018042119 · 4.1で述べた生体センサ,環境センサから情報は集約・統合された後にaiによる分析が行われ,良 質な睡眠を提供するための睡眠環境の最適解の算出が行われる.

参考文献

[1] B. Frontier, “睡眠のあり方を変えれば、日本経済に数兆円のインパクトが生まれる,” https:

//frontier.bizreach.jp/health-care/neurospace/, 閲覧日:2018年 4月 10日.

[2] 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, “睡眠障害センター,” https://www.ncnp.

go.jp/hospital/sdc/index.html, 閲覧日:2018年 4月 10日.

[3] A. Co, “いきいき健康研究所,” http://report.ajinomoto-kenko.com/suimin/nayami.html,

閲覧日:2018年 4月 10日.

[4] 片山暁雄, 松下亨平, 大槻 健, 大瀧隆太, 鈴木貴典, IoTエンジニア養成読本, 初版 第 1刷, 技術

評論社, 2017.

[5] 初雁卓郎, 椎野俊秀, 村井真也, “ベッド上の患者行動を推定・通知するシステム 「離床 catch」

の提案,” 労働科学, vol. 88, no. 3, pp. 94–102, 2012.

[6] NECネッツエスアイ株式会社鹿島建設株式会社, “睡眠環境向上技術と環境制御技術を融合した

システム「nem-amore」を開発,” https://www.nesic.co.jp/news/2018/20180315.html, 閲

覧日:2018年 4月 10日.

[7] 鹿島建設株式会社, “入院患者の睡眠環境を最適化する技術を構築,” https://www.kajima.co.

jp/news/press/201610/17a1-j.htm, 閲覧日:2018年 4月 10日.

[8] M.M. Co., “ワイヤレスベッドセンサ,” https://www.murata.com/ja-jp/products/sensor/

accel/sca10h_11h, 閲覧日:2018年 4月 10日.

[9] 松井克之, “照度センサ一体型近接センサ (特集 エコ・ポジティブをサポートする技術),” シャー

プ技報, vol. 0, no. 101, pp. 34–37, 2010.

[10] 株式会社小野測器, “音とそのセンサについて,” https://www.onosokki.co.jp/HP-WK/c_

support/newreport/sound/soundsensor_1.htm, 閲覧日:2018年 4月 10日.

[11] 株式会社 KEYENCE, “放射温度計の基礎,” https://www.keyence.co.jp/ss/products/

recorder/lab/thermometry/radiation.jsp, 閲覧日:2018年 4月 10日.

[12] 株式会社スマートドライブ, “スマホや自動運転に活用される加速度センサー、ジャイロセンサーと

は,” https://smartdrivemagazine.jp/technology/accelerometer\_gyroscope/, 閲覧日:

2018年 4月 10日.

17

Page 20: 2018 4 28 IS Report No. 2018042119 · 4.1で述べた生体センサ,環境センサから情報は集約・統合された後にaiによる分析が行われ,良 質な睡眠を提供するための睡眠環境の最適解の算出が行われる.

参考文献 参考文献

[13] 和泉慎太郎, “マイクロ波ドップラーセンサーを用いた車載応用非接触心拍変動・呼吸モニタリング

技術の開発,” http://www.takatafound.or.jp/support/articles/pdf/160615_03.pdf, 閲

覧日:2018年 4月 10日.

[14] 岡田信孝, “近距離 iot 無線の主役ー bluetooth low energy から bluetooth 5 へ,” https://

thinkit.co.jp/article/9959, 閲覧日:2018年 4月 10日.

[15] “制御システム向けセキュリティ対策 - iot セキュリティソリューション,” https://www.

softbanktech.jp/service/list/iot-security/, 閲覧日:2018年 4月 10日.

18