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2013 年度駒澤大学 経営学部経営学科
中川功一研究室第 4期卒業論文
生産マネジメント入門まとめ
田邑房司
【要旨】
本論は藤本隆宏著『生産マネジメント入門 生産システム編』を中心にまとめたもので
ある。専門分野として生産管理を学ぶ人は勿論、生産管理以外の業種やその他分野にもシ
フトできる思考が凝縮されている。本論をきっかけに生産管理への興味を持っていただけ
れば幸いである。
〈キーワード〉
ものづくり、競争力、広義の情報、情報プロセス、大量生産方式、原価管理、ジャストイ
ンタイム、納期、工程管理
Ⅰ はじめに
経営学の一分野である「技術・生産管理論」(technology and operations management:
TOM)について書かれている本である。文字通り工場現場の「生産管理」も扱うが製品開発
のプロセスの「技術管理」や資材調達のための「購買管理」も含む広義のトータルマネジ
メントを扱う。前提として、本書は文系事務職から理系現場職の人まで、誰が読んでも役
に立つ、知っておいて損はない、というスタンスで書いてある。勿論、「技術・生産管理論」
というからには、製造業の中核である、生産(オペレーション)・製品開発・購買といった
一連の業務を統合的なシステムと見なし、それがどのように成り立ち、どのように連動し、
企業目的に貢献するかを明らかにする学問である。
そして分析対象は「メーカー」が中心であるが、サービス業の現場でも「オペレーショ
ン」は行われている。つまり分析対象ということになる(あくまで中心は製造業ではある)。
アメリカでは企業の競争力というと戦略的・経済的視点から生産システムを通観した著書
はあるが、日本では少ない。技術系の、現場管理者向けの解説書は山ほどあるのにホワイ
トカラーは「もの造り」に関して知識が少なく、その上で経営戦略論を行なっても、十分
に分析が行われていないのだ。20世紀後半における日本企業/産業の国際競争力を支えてい
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たものの 1つは紛れもなく現場の地道な「もの造り」能力なのだ。しかし、「もの造り教育」
がアメリカなどに遅れを取っている日本においてグローバル競争が激化する 21世紀は甚だ
課題であるといえる。
まず、今一度初心に戻って、生産と製造という言葉について考えてもらいたい。生産
(production)とは、基本的に生産要素(原材料、労働力、機械)⇒有用な財(有形・無形)
という変換過程である。有形ならば製品(product)、無形ならサービスと呼ばれる(金融
業界は無形でも商品、製品と呼ぶこともある)。製造(manufacturing)という言葉も生産
に近い形で使われ方をするが、本書ではアメリカ的な製造の意味である、設計・開発さら
には購買までも含む、価値創造プロセスとして捉えていく。
Ⅰ−Ⅰ システム・広義の情報とはなにか
先ほどの製造を広義に捉え、製造企業の生産活動と製品開発活動を広く浅く捉えていくと
すると、議論がばらばらになってしまうおそれがある。そこで 3つの一貫した視点を入れ
る。①システムとしての製造企業について②広義の情報について③競争力(製品設計情報、
製造企業システムの目的)についてである。
Ⅰ-Ⅰ−Ⅰ システムとしての製造企業
まず、製造企業の生産・製造活動を分析するのに、どのような問題意識を持って分析す
るかが問題である。本書では「システム」という言葉を使って問題を分析していく。そこ
で「システム」とはどんなものかというと、ワインバーグによると「すべてのモデルは、
我々が理科したいと思っている対象を、我々が理解していると思っている別の対象によっ
て表現したものである」ということである。以下に例を示したい。
例1)駒澤大学を理解したい対象とする場合
突然、駒澤大学と言われても写真でもなければ、実態は直接見ることができない。そこで、
観察者・研究者はあるシステム、モデル(立地、学生数、大きさ、特徴等々)に押し付け
ることによって初めて、そのものを理解する。
どんな「システム」を選ぶかは目的、経験などによって異なるが、同じ対象に異なるシス
テムを重ねあわせることで、企業の構造システムを立体的に捉えることが出来る。そして
最も抽象的なシステムの定義で言えば「互いに関係を持つ 2個以上の要素の集まり」であ
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る。カネのシステムを重視すればドイツ経営学、ヒトのシステムを重視すればバーナード
組織論というようになるのである。そこでいえば本書は「情報」と「モノ」を重視してい
く。
Ⅰ-Ⅰ−Ⅱ 広義の情報
本書の目的のひとつは製造企業の生産活動と製品開発活動をバラバラではなく一体とな
って、顧客にとって満足・魅力を生み出す「競争力」「トータルシステム」を説明すること
にある。そこには普通の生産管理論の教科書には出てこない特異な視点がある。製品の消
費、生産、製品開発等をまとめて、顧客にとって価値が生み出される全体のプロセスを「情
報」という言葉にくくってしまおうとする試みである。それを「広義の情報」として、今
後情報という言葉にしていく。「情報」というと文字・数字・記号などの媒体によって伝達
され、受け手に情報を知らせることであるが、それは「狭義の情報」でしかない。ここで
いう「広義の情報」とはあるほかのものや概念を表象する形、パターンの総称である。こ
こでも例示を示したいと思う。
例2)白い紙の場合
右と左に白い壁がある。そして2つをよく見比べると、右の壁には黒い点があることが
わかる。狭義の情報で考えれば、右の壁にはただの黒い点がある、という情報だけでしか
ない。
しかし、左の白い壁にもう一度注目してみると、左の壁からは白い壁という情報で右の
壁には黒い点という情報になる。もし、右側でも白い壁がほとんどなのに、黒い点ばかり
強調されて、白い壁という情報は無視されがちになってしまう。仮に「私は両方の壁を白
く塗りました。右の壁は真ん中だけ残しました。」という情報があるとすると、黒い点では
なく、「塗り残し」という情報になる。
また、「実は両方の壁に点があります。左側には白い点を打ちました。」という情報があ
れば、たまたま壁が白かったので同化しただけで、両方の壁に同じ点があると解釈できる
のである。
・
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このように、「広義の情報」には、コンピューターが処理するデジタル情報のみならず、
鉄の塊に刻まれたアナログな情報、人に蓄積された知識・熟練、紙に書かれた文字や記号
など「他の何かを表象する形やパターン」である限りすべてが含まれる。ただし、情報そ
れ自体は無形であり、何らかの媒体を通して初めて伝わるのである。
Ⅰ-Ⅰ−Ⅲ 競争力(製品設計情報・製造企業システムの目的)
まず、「製品設計情報」というものを考えてみよう。とある製品を開発する人々は、製品
が持つべき機能を考え、紙に書いたり、実物試作品で試行錯誤を行ったりする。これらは
いずれも「広義の情報」といえる。そして、製造業であれサービス業であれ顧客が購入す
る「商品」には、何らかの「製品計画情報」が商品を媒体として上に乗った状態といえる。
例3)自動車の製品設計情報
外観のデザイン・剛性、空力特性の設計、内装やコンセプト等(仮に採用されなくても)
これらの製品設計情報を厚さ 0.8ミリの鉄板を媒体として顧客に発信している。
一方顧客は企業が製品に託している情報の束を受け取り解釈し、満足を得る。発信する
企業からすると「製品設計情報」が受けての顧客からすると「価値を担った情報」と言え
る。そう考えるならば、「世の中のすべての産業は広義の情報産業」ということも出来る。
このようにして「広義の情報」をキーワードとして企業活動を見直すと開発・生産・販売
のトータルシステムが浮き彫りになる。
そして、製造企業はシステムとして「目的」を持つとされている。過去経済学・経営学
では利潤・売上・企業価値などを目的とみなすモデルが示された。また「誰」のためかと
いえば、利害関係者(ステークホルダー)とされる株主・従業員・顧客などが考えられる。
このように、企業システムの長期的な目的はステークホルダー間での「パフォーマンス」、
満足度や魅力の維持・向上することだといえる。
しかし、以上のステークホルダー論を大前提とした上で、企業パフォーマンス全体を語
ることは不明確となる。そこで、パフォーマンスの要因である「競争力」すなわち、製品
市場消費者から見たパフォーマンス評価を主要な基軸としていく。その観点から製造業の
生産・開発活動を分析していくこととする。
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Ⅱ 開発と生産プロセス分析
Ⅱ−Ⅰ プロセス分析とは
一般にプロセス(過程、手順)とはインプット(投入物)をアウトプット(産出物)に
変換(taranform)するシステムのことである。
図Ⅱ−Ⅰ−Ⅰ プロセスの概念
インプットやアウトプットはフローとも呼ばれる。システム工学では一般にモノのフロ
ー、エネルギーのフロー、情報のフローの三種類がある。また、フローの出入りに対して、
その蓄積をストックという。また伝統的な生産管理学ではまずはモノのフローに着目する。
この場合インプットは材料であり、モノとしてのアウトプットは製品である。このモノの
フローの側面に着目して作成されるフローチャートを工程管理図(フローダイアグラム)
という。企業の中で、インプットとして取り込み、価値の高いアウトプットに変換する部
分がプロセスと定義できる。交換価値でも使用価値でもいいが、ここではもう少しミクロ
レベルで生産を分析し、フローチャート(工程流れ図)の例を見ていく。
図Ⅱ−Ⅰ−Ⅱ チーズバーガー生産工程
プロセス(ストック) インプット アウトプット
生産指示
(12 個 1 ロット)
パン上
パン下
挽肉
トースター
で焼く 55m
トースター
で焼く 55m
グリル
で焼く 60m
チーズ
などな
ど
グリル
で焼く 60m
トッピング
合体
ハンバーガー
完成
グリル
の洗浄
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Ⅱ−Ⅰ−Ⅰ プロセス分析の事例
生産工程がフローチャートにできたら、次に工程を分析・診断して問題解決をする。ど
のような分析を行うかは何について改善したいか(生産量、品質、納期、生産能力 etc)に
よる。例えば先ほど例にあげた、チーズバーガーの生産能力増強の事例を考える。
ちなみに工程はマルで、在庫(原料)は逆三角で表される。ハンバーガーの例では、12
個 1 ロットの生産能力がある。また生産にかかる時間は全体で 2 分かかるとする(これを
サイクルタイムという)。しかし、ハンバーグを焼くのに最も時間がかかり、その間パンを
焼くトースターは 1分間のアイドルタイム(待ち時間)が生じてしまう。
この場合生産量を増加させるなら、ハンバーグを焼く時間の短縮が課題となる。それは
グリルの増強なのか、短時間でも焼けるハンバーグの生産なのか、ハンバーグを先に焼い
ておくのかはわからないが、ハンバーグを焼く時間を短縮することでアイドルタイムを短
縮すれば生産力は向上するといえる。
Ⅲ 製品と工程の歴史分析
前章まで、「もの造りシステム」を構成する基本単位である工程と製品、及びその間の関
係について見てきた。この章では、自動車文明の製品・工程ライフサイクルの歴史を追っ
て見ていく。特に焦点を当てるのは 20世紀最大の特徴であった大量生産(マスプロダクシ
ョン)方式である。
Ⅲ−Ⅰ黎明期の自動車産業
自動車は 1886 年ころ、ドイツのダイムラーとベンツがほぼ同時に生産し始めたといわれ
ている。当時は富裕層の好奇心の対象として少量生産されていた。たとえば 1895年のベン
ツ(当時トップメーカー)は年間 135 台の生産にとどまっていた。また、ガソリン以外に
も電気蒸気のエネルギー源とするものがあり、どれが本命となるかはなぞだった。
しかし、1200キロ往復ラリーレースで 24代の自動車のうち完走した 9台中8台がガソリ
ン自動車だったことからのちのガソリン自動車優位を決定づける。これ以後、現代では当
たり前となっている空気入りタイヤ、スピードメーター、ヘッドランプなども開発され、
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現代の自動車に近い形となっていく。
スピードも四駆ガソリン自動車の始まりといわれる、旧ダイムラー社のモデルで1気筒
462cc1.1 馬力の小さなエンジンを積んだものの最高時速は 16 キロであり、実用性は低かっ
た。その後 2気筒とエンジンの開発とともに馬力も向上し、最高時速は 20キロ前後まで向
上するも限界が合った。
これが、シンプレックスモデルと言われる、エンジン前置きでシャフトにより後輪へ動
力を伝達する今日的な形式が採用される。空間的製薬からエンジンが開放され、4 気筒
5319cc に拡大し、最高時速 75キロまで一気に向上した。
Ⅲ−Ⅱ 初期のアメリカ自動車産業
19世紀末~20世紀初頭にかけて今では存在しない自動車メーカーがミシガン州デト
ロイト周辺や東海岸のニューイングランド周辺で盛んだった。181社の中で 137社が撤退し、
多産多死の時代であった。
その中で力をつけたのはビッグ 3といわれる GM、クライスラー、フォード自動車である。
ここでまず突出したのはかの有名なフォードであるが、のちに GMのフレキシブル大量生産
である。
表Ⅲ 初期のフォードシステムと GMシステムの比較
初期のフォードシステム
(T型フォード)
GMのスローン方式
(フレキシブル大量生産)
マイナーチェンジ対応力 あり(シャーシは変わらず) あり(毎年モデルチェンジ)
メジャーチェンジ対応力 なし(T→A 型に 1 年間かか
る)
やや高い(エンジンでも 2週
間で切り替え)
工作機械 専門的 凡庸的
垂直統合具合 極端な垂直統合 外注率が相対的に高い
工程レイアウト 製品別(機会を密集配置) 製品別(フォードと同じ)
製品開発能力 やや弱い。過去のデータに依
存しすぎている。
比較的高い。デザイン専門部
門強化と計画的モデルチェ
ンジで改善している。
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◆フォードの特徴
・1908年当時 960ドル、生産台数約 2万台だった T型
フォードを、1916年には 360ドル、生産台数約 70万台
まで増加させる。
・ピーク時(1920年前後)には年間 200 万台以上の生産
を可能とし、自動車シェア 80%を達成。(20世紀初頭のア
メリカ全体の生産台数は 4万台)
・移動式組立ラインを導入、部品相互互換性の徹底、作業細分化と科学的管理法などを用
い、定置式生産システム時代の 12時間半から 1時間半へと飛躍的に生産能力を向上させた。
デメリット
・事実上すべての生産設備を T 型フォードに特化していたため、モデルチェンジに対応す
る柔軟性が失われた。
◆GMの特徴
・アメリカ自動車産業多産多死の時代に生き残り、
キャデラック、オークランドなどトラックメーカーを
次々に買収した。
・シボレーの創出に関与、後に T型フォードと人気を
二分する。
・定期的モデルチェンジ、部品共通化に基づくフルライン生産、デザイン開発部門の拡充
などフレキシブル(柔軟な)大量生産方式を打ち出す。
・多種類の自動車を生産していたので、アメリカのみならず、オーストラリアやアジアに
も生産拠点を持っていた。
◆マスプロダクションのまとめ
マスプロダクション方式の条件をまとめるなら、①移動式組立ライン②専用工作機によ
る部品の互換性の徹底③作業細分化のシステマティックな採用、以上の三点より大量生産
方式が可能と言えるだろう。これらによって驚異的に短いスループットタイムを達成した
のがフォードである。しかし一方でモデルの柔軟性が全くなく、その後定期的モデルチェ
ンジが常識となる。
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Ⅳ 競争力とその構成要素
Ⅳ−Ⅰ 「尊敬される企業」とその競争力
競争力(competitiveness)とはおおまかに言えば弱肉強食の市場で企業や製品が生き残
る力のことであるが、必ずしも共通認識があるとはいえない。
そこで企業のパフォーマンスから測定を試みると、利害関係者(ステークホルダー)で
ある株主、顧客、従業員、サプライヤー、そして一般社会などを満遍なく満足させる企業
である。株価を高め高品質の製品で顧客を満足させ、待遇も仕事内容も充実させ、サプラ
イヤーを報い、地域社会から好かれる、そんな企業が「尊敬に値する企業」であると考え、
目指すべきである。
しかしこのような競争力は必要条件ではあるが十分条件ではない。国際競争が激化する
昨今、製品開発・生産システムの側面でもキーワードとなっている「競争力」を概念的に
表すなら有形財の製造企業の場合、その企業が提供する製品群ないし個別製品が、既存の
顧客を満足させ、かつ潜在的な顧客を購買へと誘引する力のことといえる。
図Ⅳ−Ⅰ 競争力のダイナミックス
また競争力を考える際、分析の単位は、少なくとも事業部レベル、またはブランド、そ
して個別製品レベルで論じられるべきである。具体的には、サントリーはウィスキー部門
においては国内最強であるが、ビール部門はあまり強くないというように、部門や個別製
品において競争力とは一概に語れない多面的な概念である。そのため、「我社は競争力があ
る」といった発言は「競争力」という点でおかしな使い方をしているのである。
よって、競争力は多角化戦略などとははっきり区別し、事業別、ブランド、個別製品の
レベルで論じられるべき多面的な概念であるといえる。
製品の競争力
潜在顧客誘引度 既存顧客の満足度
ユーザー人口増加 新規顧客増加
リピーター
評判
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Ⅳ−Ⅱ 競争力の構成要素「4P」と「QCDF」
顧客から製造企業の糸が見える、見えないという点で競争力を分けると、4Pは表層の競
争力、QCDFは深層の競争力と言える。
図Ⅳ−Ⅱ 顧客インターフェイスと表層の競争力ファクター
情報の束
4Pとは製造企業が「情報の束」を発信し、顧客がそれを受信し、その製品評価に影響を
与えるコミュニケーションツールといえる。消費者が直接受け取って評価できるという点
で「表層の競争力」と言えるのである。
これに対し、QCDは工場など現場の人々が、競争力の指標としている。4Pの背後から支
えコスト競争力がプライス(価格に)、プロダクト(製品)にはすべての要素が情報の束と
して貢献する。個別に説明を加えると、コストとは製品の原価であり材料費や人件費設備
開発費などが含まれる。長期的にみたコストの低減は自社などの生産性向上活動とみなさ
れる。品質(quality)とは「製造の目標として狙った品質、その実際の品質」と定義され
るように、設計品質と製造品質に分かれるが、詳しくは5章で扱う。納期(delivery)と
はいくら良い商品でもいつまでも待たされることが買う気を失うように、生産期間と開発
期間に分けられる。この期間をリードタイムと呼び、詳しくはまた6章で扱う。
フレキシビリティは上記3つとは同列ではない。QCDといった重要な競争力を図るファク
ターのレベルが、外的要因の変化によってマイナスの影響を受けない度合いのことだと定
義する。一般に高いフレキシビリティと高い生産性(コストが低い)は両立不可能といわ
れるがトヨタ自動車のように成功した事例もあり、競争力の源泉ともいえる。
Product(製品に体化したメッセージ)
Price(顧客に伝えられる価値情報)
Promotion(広告、他販売手段)
Place(販売店頭、セールストーク)
製造企業
発信側
顧客
受信側
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Ⅳ−Ⅲ 能力構築競争
能力構築競争とは上記でみてきた「深層の競争力」の優劣を競わせることである。上の
図のとおり、表層の競争力や利益パフォーマンスはあくまで組織能力(組織ルーチン)や
深層競争力によって支えられ形作られている。つまり深層力のパフォーマンスと組織能力
といった、モノづくりパフォーマンスを高めるために企業間で切磋琢磨することが「能力
構築競争」だと著者は考える。
図Ⅳ−Ⅲ モノづくり組織能力とパフォーマンス
Ⅳ−Ⅳ 競争とそのシフト
以上のように、競争力とは一見価格や利益など、消費者の目に触れるところから始まる
ように見えて、4Pなどの競争の中でも製品と価格に注目してみると、QCDという深層の競
争がそれを決定づけている。通常の新製品などであれば、コア機能以外に目を向けるよう
になると(自動車が最初は目新しくても一般化されるように)、製品自体が洗練されていき、
消費者は能力構築の対象領域に気づくこともなく、競争の焦点が深層へとシフトしていく
のである。
その他の環境要因
組織能力
深層の競争
パフォーマンス
表層の競争
パフォーマンス
利益
パフォーマンス
能力構築競争の対象領域
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Ⅴ コスト・生産性の管理と改善
製品のコスト管理をする活動を原価管理という。原価管理の前提になる情報は原価計算
によって算出できる。ここでは、標準原価と実際原価の差を測定し、然るべき修正行動を
「狭義の原価管理」といい、実際原価を標準原価の近辺に維持するという、短絡的で能動
的な管理活動である。それに対して、「広義の原価管理」とは前述した狭義の原価管理に加
え、改善活動や標準原価そのものの見直しと改定という原価低減、さらに製品企画よる原
価企画などを含むダイナミックな概念である。
Ⅴ−Ⅰ 生産性の概念と分類
投入要素価格に対する生産効率が生産性と規定したが、そのうえで重要となるのがコス
ト規定要因である。単純化のため、標準価格と実際価格に差がなく、物的生産性に要素価
格を掛け合わせたものが製品原価とする。
ここでコスト競争力、すなわちコストの低減化を行うと競争力は向上する。このコスト
競争力アップの方法には「生産性向上」と「要素価格の切り下げ」になる。前述したとお
りインプット⇒加工⇒アウトプットの一連の流れである。コスト競争力を考える場合まず
アウトプットの分類も重要であるが、とりわけインプットの分類が重要になる。
A,労働生産性
個別生産性分類の中でもっとも一般的なものである。基本的には一人当たりの・労働時間
当たりの産出量を指す。
B,資本生産性(設備生産性)
測定が前者と比べて困難ではある。労働分類では熟練労働者か否かで分類できるが設備と
なると、プレス機、説処理設備、組み立てロボットのように千差万別である。そうした違
いを無視して台数で割ることは無理があるので、設備当たりの生涯累積生産量(ライフタ
イム通算の生産量)を把握し、製品一つ当たりの当該設備コストを算出する。
C,原材料生産性
歩留まり、原単位などともいわれる。製品1つあたりに必要な部品の数は決まっているの
で、それを「部品展開表」にまとめる。公邸内の不良発生率低減を除けば、問題とされる
ことは少ない。
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図Ⅴ−Ⅰ 要素生産性と生産リードタイム(概念図)
この図からもわかるとおり、製品への情報転写を行っている、工程に注目し、その時に
原材料や仕掛品に価値が付与されている。つまり生産効率を要素生産率とするのであれば、
「情報転写の効率」が工程から製品への実質的付加価値を加える「賞味作業時間」と言え
るのである。一日当たりの作業時間を考える場合は、「サイクルタイム×作業者数」であら
わすことができる。
つまり、「情報転写のスピード」が速いほど、「情報転写の時間シェア」が長いほど、労
働生産性は高くなるということである。
Ⅴ−Ⅱ 情報転写効率としての要素生産性
冒頭で述べたように、「企業システムを情報想像・情報処理のプロセス」としてみた場合、
生産性とは工程から製品(材料・仕掛品)への情報転写であると考える。現場における物
的な要素せ要素生産性とは、生産工程におけるさまざまな「メディア」(作業者、マニュア
原材料 最終製品
第二工程 第一工程
仕掛品
作 業 者
1
作 業 者
2
発信側(生産性)
受信側(リードタイム)
在庫時間
サイクルタイム
サイクルタイム 在庫時間
在庫
時間
在庫
時間
搬送時間
生産リードタイム
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ル、ハードウェア設備など)に体化した「製品設計情報」を工程から製品への情報転写の
効率だといえる。
先の図で示した灰色の部分、つまりサイクルタイムの長さが一区切りの作業時間であり、
そのサイクルタイムのうちで付加価値を生み出す時間を正味作業時間=設計情報の転写が
行われている時間を指している。この場合、1サイクルの仕事(アウトプット)をするの
に要する時間の長さが現場レベルでの労働生産性の一つの指標となるのである。そして正
味作業時間とサイクルタイムの関係を比較分析することによって労働生産性の要素分析が
可能となるのだ。
例えば自動車の最終組立工程の労働生産性は「完成品一台当たりの工数」で表わされる
ことが多い。1日当たりの実労働時間(作業員数×1日当たり平均実労働時間)を1日の
生産台数で割ったものである。つまり「人・時間/台」という単位で表す。労働生産性は
サイクルタイム×作業者数で表すことが出来る。
Ⅴ−Ⅲ 学習効果とその測定
学習曲線とは一般的には知識・技能を修得することであるが、ここではある作業や工程
に関する熟練の獲得のことを示す。その根拠となるのは学習曲線で累積生産と製品一個あ
たりの所定時間の関係性を示したものである。
累積生産量が増えれば製品1つあたりのコストは一定比率減少するという仮説だが、累積
の「時間の関数」か「生産の関数」は議論の分かれ目である。結論を先に行ってしまえば
累積生産量仮設も時間仮設もどちらにしても深刻な問題ではなく、勿論個人としてこの学
習曲線の利用をしていく上で、組織的にも単位コストを下げようとする問題解決の意識を
持つことが重要である。
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Ⅴ−Ⅲ−Ⅰ 個人学習と組織学習
次に学習する主体は何か、という問題がある。実際には個人レベルでの学習効果と組織
レベルでの学習効果が混在している場合があるが分けて考えてみる。
個人レベルの学習効果は、個人が作業の繰り返し仕事に慣れ、技能や作業効率を高めて
いくことを指す。作業者に特別なインセンティブが与えられた時にのみ顕著に現れること
が過去の研究によって確認されている。その他、訓練システムの改善や作業手順の変更、
実験の試行錯誤の組織的な奨励なども加速度的に個人の学習効果が現れやすい。
しかし、インセンティブの不足や肉体的限界、現状安住的ムードの蔓延等によって学習
効果は制限される。個人レベルの学習効果は累積生産によって自動的に得られるものでは
ないと言える。
組織レベルの学習効果は、組織が学習すると言うよりは、組織が累積生産経験を生かし
て製品・工程・設備・作業方法を改善し、組織ルーチンを改定し、生産性を向上させるこ
との一種であろう。無論その中には個人学習の効果も一要因として組み込まれている。そ
の中で一般的には組織学習は個人学習よりもマネジメントのやり方しだいで効果が大きく
変わってくると言われている。
例えば、技術の変化・学習効果の組織内移転メカニズムの効果・人員の配置換え・組織
風土の変革などによって持続的な学習効果が期待できる。この点で肉体的認知的限界が壁
になる個人学習の効果は停滞しやすいが、組織学習の効果はマネジメント次第で継続的な
効率アップが可能である。
Ⅴ−Ⅳ 改善活動とインダストリアル・エンジニアリング
ここまで、生産向上についていわば外側から、生産システムの効率化を除外して、5章
をまとめてきた。ここでは生産技術の領域といわれる、機械・設備・工作技術などに対す
る設計・改善を加える分野、生産システム全体といわれる、作業者・機械設備・材料・製
品在庫・搬送システムの効率化の分野、2つの領域分野についての考察をする。
◆工程作業:第 2 章で紹介した、工程連鎖としてのプロセスにおける、モノの流れのフロ
ーチャート分析やレイアウト分析。
◆連合作業分析:人と機械、人と人の組み合わさった作業分析。
◆動作研究:個別工程における作業の繰り返し動作を分析。諸用作業分析、微作動分析、
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両手作業分析など。
◆時間研究:ストップウォッチを使った作業時間の測定・評価。作業測定ともいい 1 分単
位で測定し、平均値を算出し、各作業の平均的な条件を前提とした標準作業時間を設定す
る。
◆稼働分析:連続観察やワークサンプリングによって作業時間を主作業・付随作業・余裕
に分類しその比率を分析する。
上記の分析は方法分析とも呼ばれ、「工程⇒作業⇒要素作業⇒動作」といった、人の生産
システムレベルにおおまかに対応している。作業の所要時間算出を主な目的とするが、個々
の要素作業の所要時間を具体的に積み上げ、付加価値を生んでいる時間と、そうでない時
間に分析しカテゴリー別に各々を分析測定するのが稼働分析である。
Ⅵ 納期と工程管理
この章では競争力の第二ファクターである納期とその背後にある生産数量・生産期間、
そしてそれらの管理改善の問題を分析していく。
Ⅵ−Ⅰ 納期と工程管理の概念
納期とは「納入期日」と「納入期間」に分けられる。いずれにしても、顧客の立場から
いえば「欲しいものが、欲しいときに、必要数量手に入るかどうか」が製品に対する満足
度につながる。原則から言えば、納期はあくまで顧客のニーズ基準によって決められるべ
きであり、エンドユーザーにとって「納期=納入期間」が理想とされる。
しかし、顧客がどのくらい待てるかは、製品や顧客のタイプによって異なる。たとえば
石鹸ならば普通の小売店の店頭で今すぐに欲しい(許容納期ほぼ0)が、自動車の場合は
国産車でも発注から2~3週間、品薄の人気高級車であれば何ヶ月待っても買おうという
人もいる。このように納期の上限は、「顧客がどれだけ待てるか」による。
先の例にもあったように顧客が店頭で「今すぐ買いたい」と考える製品は「見込み生産」
される。最終製品の在庫を一定量だけ店頭に置いてもらい、顧客は製品を選んで買ってい
く。お店は顧客ニーズに対して製品在庫で対応し、在庫を補充する形でメーカーに注文を
し、メーカーは在庫を補充するように生産を行う。つまり、メーカーは発注に先立って生
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産を行うのであって、「納期」とメーカーの「生産期間」は連動していない。むしろ、最終
在庫を「どこに、どれだけ持つか」といった、流通段階のマネジメントが納期に影響する。
これに対して「受注生産」の場合は、顧客からの発注があっ手から生産を開始し、指定
された期日までに納入する。もっとも、受注生産といっても、原料・部品のある段階まで
は見込み生産をしておくので純粋な受注生産というものはほとんど存在しない。
例えば、立ち食いそば屋では注文前に麺をゆでておくが、手打ちそば屋では注文を受け
てからゆで始める。注文前にある程度見込んで麺を打っておくところも、注文を取ってか
ら麺を打つところもあるといった具合である。
Ⅵ−Ⅰ−Ⅰ 生産納期・納期・工程管理
さて、顧客の要求する納期を達成するためには、ある数量の製品をある機関に生産完了
しなければならない。そのためには、先立って必要材料や部品をタイミングよく発注・購
入し、各工程に作業、設備、工具などを事前配分する必要がある。
これらは、理論上では最終製品の必要生産量から逆算し算出できる。また各作業の着手
時期や部品手配のタイミングは、生産完了期日から標準的な生産リードタイムの分だけ割
り出せる。このように最終製品の納期と数量の達成のためには工程についての知識が必要
である。
ここでの工程とは前述のように「材料から製品に至る物的変形の過程」、また情報システ
ム論的立場から言えば「原材料が労働者や設備に蓄積・配備された製品情報を次々に受信・
吸収する事によって製品に変換されていく連鎖過程」である。書く作業における生産要素
所要量と着手時期も、こうしたプロセスの連鎖を遡る形で決定されていく。
以上のことから、生産管理論では「納期と生産量を管理すること」を「納期管理」とは
いわず、「工程管理」といい、主に納期と数量の面から生産活動を計画統制することを指す。
Ⅵ−Ⅰ−Ⅱ 工程管理の構成要素
A,生産計画
①アウトプットの計画である日程計画②プロセスの計画である手順計画③インプット計画
である人員計画、設備計画、材料計画などが含まれる。
この中で、最も基本となるのが日程計画、つまり生産完了に関するスケジュールであり、
各工程でのインプットの所要量と投入タイミングはこれに連動して決められる。
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B,生産統制
生産計画に基づき、実行段階において計画通りの活動を保証することを生産統制という。
その主体は基本的に生産現場の管理者(職長)である。生産統制には手配、差立(作業開
始に伴う現場管理者から作業員への作業割当・指示)作業指導などが含まれる。これらは
作業開始前の生産統制である。
これらに加えて生産統制には作業開始後における計画と実績の乖離発見・原因追求などの
是正活動つまり「作業統制」も含まれる。作業統制は生産計画側の日程計画、工数計画、
材料企画を基本に対応しており進度管理(日程計画を守るために進歩状況と日程計画表の
進度グラフやガンチャートを用いて比較し遅延対策をとる)、作業量のコントロールである
余力管理(手待ち仕事量と工数計画などを比較し是正活動をすること)、材料のコントロー
ルである現品管理からなる。さらに資料管理(生産実績資料の収集と統計分析)など、作
業完了後の事後処理も生産統制に含まれる。
Ⅵ−Ⅱ 日程計画(アウトプットの計画)
まず、アウトプット側の計画である日程計画を見ていくと、日程計画は受注生産と見込
み生産の場合で異なるが、ここは見込み生産のケースに絞って説明する。
見込み生産の場合、全体、および品種別の需要予測が生産計画の基礎となる。需要パタ
ーンによって、移動平均、指数平滑法、回帰分析、字形分析など様々な手法がある。しか
し、需要予測は当然外れる傾向があるので、これを日程計画に展開する過程で、できる限
りの計画修正を行うことが望ましい。
また、日程計画を立てる段階で、生産の限界、経済的ロットサイズ、平準化といった生産
の側面の制約条件も加味するので、需要予測がそのまま生産計画になるとは限らない。
いずれにしても、需要予測をもとに段階的に日程計画を立てていくのが原則である。す
なわち、品種的にははるかに細かく、部門的にはより狭く、期間的にはより近い将来を日
程計画に段階的に盛り込んで立てていく。
日本では大日程計画→中日程計画→小日程計画という三段階の考えが大半である。アメリ
カの生産管理で説明されるのは、全般的生産計画→基準的生産計画→スケジューリングと
日本のそれぞれに大まかに対応している。実際には日米2つの生産計画日程に微妙なずれ
があるのだが、単純化するためにほぼ同列のものとみなす。
![Page 19: 2013 年度駒澤大学 経営学部経営学科 生産システム …koichinakagawa.web.fc2.com/studentessay/fusashi.pdf2013年度駒澤大学 経営学部経営学科 中川功一研究室第4期卒業論文](https://reader033.vdocuments.site/reader033/viewer/2022060505/5f1e7944bd406953d220a535/html5/thumbnails/19.jpg)
Ⅵ−Ⅱ−Ⅰ 全般的生産計画(aggregate production planning):大日程計画
全般的生産計画は、工場全体を対象として、主な製品カテゴリー別に、すべての品種を
集計した生産予定量を月単位か週単位で示す。計画期間は通常半年から1年半のことが多
い。カテゴリー別の需要予測を所要として、全体の所要労働力のレベルも同時に決める。
全般的生産計画は解析的に策定する方法も開発されているが、通常の場合流動曲線を利
用した(縦軸:累積生産量、横軸:計画期間)チャートを利用することが多く、グラフィ
ックな試行錯誤(カットアンドトライ法)である。
それぞれのアプローチについて、基本賃金・採用費・レイオフ(一時的解雇)・超過勤務
手当・在庫費用・品切れの機会費用などを比較して、適切な案を選択する必要がある。一
般的には需要たん毛変動に惑わされて生産ペースをあまり頻繁に変更しないほうがよいと
されるが、これも、生産ラインの対生産フレキシビリティ次第である。いずれにせよ、決
め手となるのはどの手法を選択するか、ではなく、ケースバイケースで考えるべきである。
Ⅵ−Ⅱ−Ⅱ 基準生産計画(master production schedule):中日程計画
すでに述べたように、基準生産計画は中日程計画、月次生産計画などとよばれる A に対
応して考えられる。それを品目別にブレークダウンし、それぞれの品目の数量と生産完了
予定時期を1日から1週間(あるいは旬)単位で特定化したもので、計画対象となる期間
は1カ月から3カ月ぐらいである。いずれにしても「マスター」という名前から察せられ
るように、後述の資材所要量計画や工数計画の基本となる重要な日程計画である。品目別
の基準生産計画の場合も、集計レベルでの全般的生産と同様、流動数グラフや集計ソフト
を使ってトライアンドトライで計画を作るのが通常であったが、近年コンピュータの情報
処理速度の向上や情報技術科の発展に伴い、頻繁に生産計画修正の結果シミュレーション
ができる性ん心的な生産計画ソフトも登場しつつある。
Ⅵ−Ⅱ−Ⅲ スケジューリング:小日程計画
各作業・機械単位で、どの工程がどの製品(あるいはロット)をいつかこうするかを具
体的に指定した、詳細かる生産直前のアウトプット計画である。一般にこのレベルで作業
の着手・完了時刻を明確に支持した計画、つまり、そのまま現場への作業割当・作業指示
となりうる細かい計画(スケジューリング)である。実際、生産管理の部門から生産現場
に贈られる小日程計画がそのまま生産指示となっている企業もある。
![Page 20: 2013 年度駒澤大学 経営学部経営学科 生産システム …koichinakagawa.web.fc2.com/studentessay/fusashi.pdf2013年度駒澤大学 経営学部経営学科 中川功一研究室第4期卒業論文](https://reader033.vdocuments.site/reader033/viewer/2022060505/5f1e7944bd406953d220a535/html5/thumbnails/20.jpg)
小日程計画は、通常、期間が 1日から 10日程度の非常に短期の計画である。個人作業・
機械のレベルへの作業割当の計画を、日単位から自国単位、30 分単位、あるいはもっと細
かく行う。計画単位の細かさは、生産のサイクルタイムやロットサイズにより異なると考
えられる。
たとえば、1つひとつ品種が異なる製品が混ざるかつ、短サイクルタイムで流れる自動車
の産量組立ラインにおいて個々のボディの着工順序をサイクルタイム単位で計画すること
を「組立順序計画」というが、これを一種の小日程計画とみなすならば、その計画単位は
サイクルタイムそのもの(多くの場合は 1分から数分)だと考えるべきである。
◆事例:トヨタ生産方式の場合の自動車生産日程計画
ジャストインタイム企業として知られるトヨタ自動車の生産計画は、4段階の相互調
整・計画修正を経て徐々に計画制度を上げる。この計画調整システムを「オーダー・エン
トリー・システム」と呼ぶ。前述の一般的な日程計画と比べると、需要予測・受注状況と
日程計画の調整がより段階的できめ細かく、また販売・生産館の調整が、ある程度双方的
であることが特徴である。
年間生産計画→月次生産計画→旬間生産計画→組立順序計画
前述と特に異なるのは月次生産計画である。計画期間は 3 か月(生産月の 1~3 か月前)
で計画単位1か月~1日。大分類の使用(ボディ、エンジン、トランスミッション、グレ
ードのタイプ)別。前月の月次生産計画は、ディーラーの3カ月需要予想を基礎とする。
生産能力など自動車メーカー側の制約も加味されており、販売側からの情報を 100%受け入
れたものとはなっていない。
しかし、1か月前の確定月次生産計画の段階で、実際の部品発注量と内示される計画量
の誤差は、10%以内がほとんどである(この精度が出せることが、後述の「かんばん方式」
を成功させるカギと言われている)。
一方、確定月次計画に基づく1日ごとの製品ミックスはディーラー別に分解され、ディ
ーラー別の「車両別台数引き取り枠」として提示される。ディーラーとメーカーの交渉を
経てこの数字(月次生産計画)が生産月の前月に確定する。また、ディーラーは「車種別
台数引き取り枠」の枠内で、最終仕様レベルの注文を確定し、これを旬(10 日単位)で、
その旬が始まる 7日前に自動車メーカーにオンラインで伝える。
![Page 21: 2013 年度駒澤大学 経営学部経営学科 生産システム …koichinakagawa.web.fc2.com/studentessay/fusashi.pdf2013年度駒澤大学 経営学部経営学科 中川功一研究室第4期卒業論文](https://reader033.vdocuments.site/reader033/viewer/2022060505/5f1e7944bd406953d220a535/html5/thumbnails/21.jpg)
Ⅶ 結論
今回生産管理について、教科書を元に再編をしてきたが、率直な感想を言えば生産管理
に関する知識と観点はなかなか身につかない。というのも、生産管理=製造業という着眼
点以上に、具体性から観点を引き離したり近づけたりを繰り返して理解を深めていくこと
が理解を深める鍵を握っているからである。
去年の夏、上海ダイキン工場を視察した時もそうだったが、現場というのは常に予想を
はるかに凌駕する情報が溢れていた。一見すると空調機製造ライン工場でしかないのだが、
その巨大な建物には多くの人と機械が稼働している。そしてその稼働率向上のため毎日
様々な工夫や試みが行われているのである。朝から晩まで工場を見学し、その中でも自分
が理解し把握できた範疇はおそらく全体の 20%も行かないのではないかとさえ感じた。
そうした具体性を持った現場レベルと、抽象した文章(マニュアル)レベルの知識をう
まく融合させ、限りなく無駄と呼ばれる活動を減らし続けているのがトヨタシステムであ
り、少なくとも先進的に取り入れていったということに疑いの余地はない。「モノづくり」
と呼ばれる分野は無論だが、それ以外の産業に対しても、このようなシステムが存在して
いることは知っておいて損ではないはずだ。
自分にしても、卒論を執筆する過程で、理解・把握をしてアウトプットできた部分とそ
うでない部分、要するに付加価値を生む時間とそうでない時間が合ったと思う。そのよう
な分類をゼロにしていく活動は今後も続くであろう。
最後に、本論を執筆するにあたり、邪道に行きがちな自身の論文を最後まで指導をして
くださった先生、難解な内容を拙い文章で発表する私を的確に指摘してくれた同期生、多
大な感謝とともに本論を締めくくりたいと思う。
参考文献
藤本隆宏著 『生産マネジメント入門Ⅰ 生産システム編』
若井吉樹著 『世界一わかりやすい在庫削減の授業』
MONOIST 生産管理用語集
http://monoist.atmarkit.co.jp/terminology/fpro_index.html