2. 説 - hess · 東京大学工学部笛木和雄 はじめに...

14
2. 高温酸化物超伝導体とその応用 東京大学工学部笛木和雄 はじめに 超伝導は低温において物質の電気抵抗がゼロとなる現象である O 抵抗のある常伝導状態から,抵抗 イロの超伝導状態に転移する温度は臨界温度 (Tc 左記す)と呼ばれるが,従来見出された超伝導体で Tc が低く,最高といわれた Nb3Ge でも 2 6 K に過ぎなかった。従って超伝導を利用するとすればタ 沸点 4.2Kの液体ヘリウムを寒剤とせねばならず 3 コスト面からも資源面からも問題があった。 しかし昨年秋からTc の高い超伝導体が p 酸化物系で次々と見出された。 (Lal-XSrx) 2CU04 系がTc 二二 40 K YBa 2CU 3U7-y 系が Tc 90 K 9 遂に液体窒素(沸点 77K )温度の超伝導体が発見され た。ここで超伝導の利用可能性は一挙に拡大し大学9 研究所はもとより,企業も一斉に研究開発に 乗り出して来ている。その進歩は目ざましぐ 9 まさに日進月歩である O 研究開発の現状を概観する。 2. 従来の超伝導物賞 超伝導が最初に発見されたのは水銀についてであるが,ヲ|続いて単体金属について測定が行なわれ9 Nb VTa Pb などが比較的高い臨界温度 Tc を持つことが見出された O ついで "Tc の高い Nb の合金が研 究され, Nb-Ti 合金, Nb-Sn 合金が見出され,金属間化合物として, A-15 型構造の Nb3Ge Nb3 Sn Nb3Aeなど,また B-1 型構造の Nb V の炭化物タ窒化物が高い Tcを持つ超伝導体であることが明 らかにされた。 セラミック超伝導体左しては,上記の炭化物z 窒化物以外に酸化物,カルコゲン化物,開化物の研 究が行なわれ,有機物も取り上げられるよろになった。表 1に従来見出された主な超伝導体とそのTc をまとめて示す。また 5 Iの下方の斜の点線が従来型超伝導体のTc の推移であ::5 0 いかに Tc の上昇 が遅かったかがわかる。 超伝導状態、を出現させるためにはTc 以下に冷却する必要がある。寒剤としては液体ヘリウム(沸点 2 K ) ,液体窒素(沸点 7 7 K ) , ドライアイス(昇華温度 197K),などがあるが,用いられ る超伝導材料は,寒剤の沸点または昇華温度ょっ o 度以上高いTc が望まれる。従来の超伝導物質の 最高の Tc Nb3Ge 23.6Kであるから,液体ヘリウムが唯一の寒剤をいうこ土になる O ヘリウムは アメリカ p カナダの天然カ、、スから回収して得られ p わが国では産出しなし'0 換言すれば資源的な制約 がある O また値段も液化して 2000/g程度と高価である。加えて,低温になればなる程冷却効率 が悪くなって,設備も大型化する O こうした理由から液体ヘリウムを寒剤に用いる超伝導技術は,そ の普及に多くの問題を内蔵し,高Tc の超伝導体の出現がまたれていた。 3-

Upload: others

Post on 27-May-2020

0 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 2. 説 - HESS · 東京大学工学部笛木和雄 はじめに 超伝導は低温において物質の電気抵抗がゼロとなる現象である O 抵抗のある常伝導状態から,抵抗

2. 解 説

高温酸化物超伝導体とその応用

東京大学工学部笛木和雄

はじめに

超伝導は低温において物質の電気抵抗がゼロとなる現象である O 抵抗のある常伝導状態から,抵抗

イロの超伝導状態に転移する温度は臨界温度 (Tc左記す)と呼ばれるが,従来見出された超伝導体で

は Tcが低く,最高といわれたNb3Geでも 2 6 Kに過ぎなかった。従って超伝導を利用するとすればタ

沸点 4.2Kの液体ヘリウムを寒剤とせねばならず 3 コスト面からも資源面からも問題があった。

しかし昨年秋からTcの高い超伝導体がp 酸化物系で次々と見出された。 (Lal-XSrx) 2CU04系がTc

二二 40 K, YBa 2CU 3U7-y系がTc二 90 Kで 9 遂に液体窒素(沸点 77K )温度の超伝導体が発見され

た。ここで超伝導の利用可能性は一挙に拡大し大学9 研究所はもとより,企業も一斉に研究開発に

乗り出して来ている。その進歩は目ざましぐ 9 まさに日進月歩である O 研究開発の現状を概観する。

2. 従来の超伝導物賞

超伝導が最初に発見されたのは水銀についてであるが,ヲ|続いて単体金属について測定が行なわれ9

Nb ,V,Ta ,Pbなどが比較的高い臨界温度Tcを持つことが見出された O ついで"Tcの高いNbの合金が研

究され, Nb-Ti合金, Nb-Sn合金が見出され,金属間化合物として, A-15型構造のNb3Ge,Nb3 Sn,

Nb3Aeなど,またB- 1型構造のNbや Vの炭化物タ窒化物が高いTcを持つ超伝導体であることが明

らかにされた。

セラミック超伝導体左しては,上記の炭化物z 窒化物以外に酸化物,カルコゲン化物,開化物の研

究が行なわれ,有機物も取り上げられるよろになった。表 1に従来見出された主な超伝導体とそのTc

をまとめて示す。また 5 図 Iの下方の斜の点線が従来型超伝導体のTcの推移であ::50 いかにTcの上昇

が遅かったかがわかる。

超伝導状態、を出現させるためにはTc以下に冷却する必要がある。寒剤としては液体ヘリウム(沸点

2 K ) ,液体窒素(沸点 77 K ) , ドライアイス(昇華温度 197K),などがあるが,用いられ

る超伝導材料は,寒剤の沸点または昇華温度ょっ o度以上高いTcが望まれる。従来の超伝導物質の

最高のTcはNb3Geの23.6Kであるから,液体ヘリウムが唯一の寒剤をいうこ土になる O ヘリウムは

アメリカ p カナダの天然カ、、スから回収して得られp わが国では産出しなし'0換言すれば資源的な制約

がある O また値段も液化して 2000円/g程度と高価である。加えて,低温になればなる程冷却効率

が悪くなって,設備も大型化する O こうした理由から液体ヘリウムを寒剤に用いる超伝導技術は,そ

の普及に多くの問題を内蔵し,高Tcの超伝導体の出現がまたれていた。

← 3-

Page 2: 2. 説 - HESS · 東京大学工学部笛木和雄 はじめに 超伝導は低温において物質の電気抵抗がゼロとなる現象である O 抵抗のある常伝導状態から,抵抗

表 1 従来の超伝導体の Tc

可竺仁ド!!LI住宅4ζ:?と11Nb~瓦:;~rii--円三一Pb 7.19 Nb3Ae 17.5

V 6.03 V3Si 17. 1

Ta 4.48 NbN B -1型 16. 1

Ilg ~α) 4. 15 TaN 14.0

Sn 3.72 NbC 1 1. 1

Ti O.:~ 9 TaC 1 l. 1

Zr 0.55 WC 10.0

Nb-Ti bcc 9.5 LiTi己04 スピネノレ 13.7

Nb-Zr bcc 11. 0 Ba(Bi .Pb)03 13

Nb:lSn A-15型 18.0 PbMo6SS シェフ'レJレ 1 5

Nb JGa 2 O. 2 NbB B -1 J担 8.3

NbJGe 22.5 ErRhB プラスター 8.7

(98K) YBa2Cu30y ,

95

90

85

nu "u

L. i

35

i

k

7

2J

I

--ょ

'io

u

C

2

• r

s

-a

'10

ill点

na ーしa-CII-O(30K)

30ト+/ ト

/

NbJUc ~ (23. 6K) ~ ~.

!')!! 20~----------,/::::..~"", ___~....11パ 20. 3) 除 「 ー一一ブ面市,Ga-

NllJSn " 国~'

.r VJS i NbN ・~/ ... Ua (Pb. U i) 0,

/ V,Ga ・ノ./~NbC Mo-Itc • 〆

Pb戸/・ Nb

5 1-/ --e_一一一一一一一一一一一一一一一斗叫J"{/I. 2} IIC

...Nc (27. 1)

~ 25

15

}

【.,A

()

190() 20 '10 60 BO 20りり

国 ll} (~I~)

図 1 超電導体の Tcの推移

-4-

Page 3: 2. 説 - HESS · 東京大学工学部笛木和雄 はじめに 超伝導は低温において物質の電気抵抗がゼロとなる現象である O 抵抗のある常伝導状態から,抵抗

3圃 新超伝導材料

3.1 La-Ba-Cu-O系酸化物超伝導体の発見

高温超伝導体の出現は強く望まれていたにも拘わらず, 1973年に Nb3Geの 2:3. 6 Kが見出されて

以来,これを上まわるTcを有する超伝導体は見出されなかった。研究がなかったわけではない。高Tc

の新物質発見左いうニュースが流れたこともあったが,再現性が悪く再確認ができなかったり,実験

ーターの解釈の誤りであったりしていずれも幻に終った。更に BCS 理論より Tc 二 30~50 Kが限

界という話もあって,高Tcイヒについては悲観的な見方する人も多く,それが新物質探索への意欲を減

退させていたことも否定できない。

Z. Ph ys .誌の 1986年4月号に IBMのスイスチューリッヒ研究所からの一篇の論文が掲載され

た。著者は Bednorz とMUllerI)である。彼らはベロブスカイト組成の La-Ba-Cu-0系の酸化物をつ

くり,その抵抗率を測定して図 2の結果を得タ 30K付近からの抵抗率の減少は超伝導によるもので

0.010

Ba--La-Cu-O系

.. 四"f~・・ E ( B a ~ L a ) C u 03・ム .-. . I • 1 .~ •

0.000ト組成

町@

0.006

EUC

@

@ •

2

Q.

0.004 1-

• 7.5 A/cm2

• 2.5 A/cm2

・0.5A Icm2

a , 0.002 ・一

Be clnorz & Mi.ill er

O O

..~

d ーと_-.1 L一一」IU 20 JU 4U 50 60

L.a-Ba-Cu-O系の低温における抵抗率 (B叫 orz & Mul1er 1) 図 2

あろうと指摘し,高温超伝導の可能性を示唆した。この論文はほとんど他の注意をひかなかった。一

つには抵抗率ゼロと見なされるTcが10 K位と低く,またゼロとならない実験結果も多い上,超伝導

の確認に不可欠左いわれるマイスナー効果の実験がなされていなかったからである O

東大工学部の内田研,田中研,笛木研の数名がこの論文の内容を再確認する目的で実験に入ったo

1986年 11月の上旬のことである。彼等は磁化率の測定により,超伝導に基因すると思われるシグナ

← 5←

Page 4: 2. 説 - HESS · 東京大学工学部笛木和雄 はじめに 超伝導は低温において物質の電気抵抗がゼロとなる現象である O 抵抗のある常伝導状態から,抵抗

X線回折の結果と合わせて,2)

NiF4型構造の(La ,Ba )zCu 0 4が超伝導物質であることを見出した。図 4に抵抗率の測定結果を示す。

図 3のK2シグナルの強くなる方向に製造条件を変えて,ルを見出し,

ランタン

Jミリウム

酸素

§

O

K2NiF4構造図 3

T

四ロロロロロロ o~__g. .・..J イ

J竺山・.........-♂.,-ロ @

CP i ロ 'ロ・ロ . ロロ zD . ロ

(La .Ba )Cu031f :

の還元処理 2 ロ

ロロ

ロロ

ロロ

ロロ

ロロ

門ロロロロl_.,.!J_~ _ L

1 0

(Lal-XBaX)2CU04

1 5

1 0ト

(EuqmlDH)

時記揺 . '" K2 N2 F4 単一相

40 一L30 い。

宇勺

L

トF円JU

50 nu

nHU

温度(K )

(Lal-xBax)2Cu04の抵抗率)

-6-

図 4

Page 5: 2. 説 - HESS · 東京大学工学部笛木和雄 はじめに 超伝導は低温において物質の電気抵抗がゼロとなる現象である O 抵抗のある常伝導状態から,抵抗

これからわかるように開始温度 33 K,ゼロ抵抗温度 23Kは,これまでの最高であった。この発見

は田中教授より発表され,朝日新聞に掲載された口この報はいち早く海外に報ぜられ,たまたま同日

日本を発ってアメリカに向った北沢助教授は 9 現地の学会で多くの質問を受け,特別に機会を与えら

れてその内容を明らかにした。これを契機としてアメリカを始め各国での新超伝導物質の研究が一斉

に開始された。

3.2 (La l-xSrX) ZCU04系及び (Lal-xCax) ZCU04系

内田 p 田中研では La-Ba-Cu-O系酸化物の物性研究を開始したが,筆者の研究室ではKzNiF4型

構造の他の超伝導物質の探索を開始した。その結果, (La , M )z CU04-~ のM に Sr , Ca の入った酸

化物も超伝導体であるこ土を見出した。)図 5にその結果を示す。 M 二 Caの系はTcは 20K位と低か

スJ ICS17(Sr) 円。。ロロロロロロ 庁~Çl 0 0000 u

口E白人材半、口 oυ Y..Jロ亡口口亡口ロロ

/ιEUC

ICSll (Ca) O

?。

oth/ha AA& .Ao,C:J. 叫孟

ロ oo,o, ICS5(Srl ロ(Lal-XCax)zCU04

¥¥ ロo CL(L a 1 -x S r x ) 2 C u 04

O 10 20 30 40 50

T/K

凶 5 (Lal-xSrx)zC山 (Lal-xCax)zC仙の抵抗率;

。。、ロ

A O

A o,A と{:.'-'

ったが, M 二 Srの系は(L aO• ¥)2 5 S r 0,0 75 )z C U 04 -~の時最高の開始温度 37 K,ゼロ抵抗温度

3 3 Kを示した。このTc特にゼロ抵抗温度はこれまでの最高であり,筆者より新開発表を行なった。

1 2月 23日のこ左であった。一週間遅れてアメリカのベル研究所より同じ物質について発表があっ

た。

図 3 のように K2NiF4 型の (Lal-xSrx)2Cu04-~ は正方晶 (x の小さい時は斜方品)で c Cu 06 J

の八面体がコーナーを共有する型で二次元的に配列して層を形成し,その層間に La叶, S r Z十のイオ

ンが存在して,層同士を結びつけている。 Cu2トと 02ーの形成する平面が主要な導電面である口

K2NiF4型の酸化物AzB04はベロブスカイト型酸化物AB03(図 6)と構造的に類縁関係にあるので

ベロブスカイト型酸化物に特徴的な幾つかの性質を持ち合わせている。

その第一はAサイトイオンを大幅に置換固溶できることで La2Cu04のLa叶の一部を Sr2十で置換

したものが (Lal-xSrx)zCU 04-'-Sで、ある o La 3-卜をSrZ十で一部置換すると十3価の La3十が+2の電荷

をもっアルカリ士類金属イオンで、置換されるので,十の電荷が一つ減少することになる。この電荷補

-7-

Page 6: 2. 説 - HESS · 東京大学工学部笛木和雄 はじめに 超伝導は低温において物質の電気抵抗がゼロとなる現象である O 抵抗のある常伝導状態から,抵抗

磁束量子

午斗rp t

i ¥¥ h パ b

Qプイ I ぺ ;~ ι斗ク ~

/

図 6 磁束量子と超伝導渦流

償は, Cu2十がCu3十になるか,0-2→地 02+ Vo + 2e'の反応で酸素イオ巧~fLVõが生成するかによって

行なわれる。 Sr2+置換では (Lal-x Srx) 2 Cu 04一宮のX 二 0.075の時は,Cu3+の生成で電荷補償治前わ

れているo (Lal-X Srx)2 Cu 04は正方晶が超伝導を示す。図 7にはこの系の Xとlα0,CO, Tcの関係

を示した。

ぺ¥。国

伺¥。U

o 0.05 0.1 0.15 0.2

x

5)

図 7 (La l-X S:rx)2 Cu 04 -C'のao,CO ,Tc

-8-

Page 7: 2. 説 - HESS · 東京大学工学部笛木和雄 はじめに 超伝導は低温において物質の電気抵抗がゼロとなる現象である O 抵抗のある常伝導状態から,抵抗

超伝導に重要な役割を超伝導には磁性イオンの存在が悪い影響を与えるといわれる。その理由は 9

電子と磁性イオンの相互作用によって壊わされるからである O 酸化物超伝導体の

Lae:←の一部を磁性を有する他の希土類金属イオンで置換し,

Tcがいかに変化するかを調べたO その結果が図 8らある O

場合についてこれを明かにする目的で,

果すクーパ一対が,

(LaO.85 LnO.05 SrO.1)z Cu 04-8

T一一ァー-

4一一?守一3.78

『,

ro

J

吋d・

J

A

-4}

ロa

そ--E-L-→宮 5ロ←よ4 ロ

13..3

・4D

u 13..2

ト ¥¥¥o _~〆/30トー ・剖戸- ~

3t I_~I_.!..ー」ーーニ

La (Ce) Pr Nd !Pml Sm Eu Gd Tb Oy Ho Er TID (YbJ(Lul

(LaO.85 LnO.05 SrO.I h Cu 04一宮のランタニド元素の種類と Tcの関係 6)

40

-¥

-

Uト

図 8

これをみると第一次近似ではTcは希土類イオンの種類によって影響を受けないといえる。このこと

はAサイトに磁性イオンがあっても Cu2十と 02←のつくる導電面にはほとんど影響がないことを意味

Tcは磁性イオンのトータルスピン Sとよい相関があり, Sが大きい程しかし第二次近似では,する。

Tc は{sよくなるといえる O

次は導電の主要な役割を果す金属イオン CU2-1を他の 3d遵移金属イオンで置換した場合Tcがどうな7 )

るかである。その結表を表 2にまとめて示す。 Bサイトイオンの置換は一般にかなり大きな影響を与え

y

0.01 0.05 0.1

3 4 3 1 ×

1 6 ×

2 7 ×

3 5 ×

3 4 3 1 28

3 3 2 3 ×

34 24 ×

3 0 × ×

(LaO.9 Sr 0.1) 2 CuI'-y My 04の臨界温度(開始温度 )(Kr M

一iv

r

n

e

o

-

-

n

一TC

M

F

C

N

Z

表 2

X ,検出されず

ヲー

Page 8: 2. 説 - HESS · 東京大学工学部笛木和雄 はじめに 超伝導は低温において物質の電気抵抗がゼロとなる現象である O 抵抗のある常伝導状態から,抵抗

。た

るといえる。しかもいずれも Tcを低下させる方向であり,高Tc化という観点からは逆の結果となっ

8) 凶 9に,臨界磁場Hcz(T)の測定値の一例を示す。 Hcz(O)が 60T位になることがわかるが,これは

それまで最高といわれていた PbMo6S8のHczに匹敵するか,それ以上である。

40

}ー

30

~ l選~ 醤

20

10

06

し31.・,Sro.I .CuO ..

図 9 LaL85Sro.15Cu04のHcz

3.3 YB a Z CU3 Oy及び REBaz CU3 Oy系

(Lal-XSrX)ZCu04系は 40 K級であったがp

9リ本年 2月米圃のヒストン大学'とアラパマ大学ょ

に 9 0 k級の酸化物超伝導体発見の発表があっ

た。その酸化物はYBazCU3 Oyであることがやが

て明らかとなり,結晶構造もいくつかの機関で独立

に決定されたO 図 10のように結晶は斜方晶(ノン

ストイキオメトリにより正方品)で,図 16のベ

ロブスカイト構造を基準にして説明すると,ベロプ

スカイトの Aサイトを YとBaが (Ba-Y-Ba Jの

順で規則的に占有する O 正規のベロブスカイトの

場合yの値は 9であるが, YBazCu30yのyの実

測値は 6.93------6.1で9 酸素が欠損している O 若し

y = 7とすれば,欠損数は 2になる。 Y と同じ平

C u •

c

cム. t・>e:8・.o : T. .:~. @ : O(占有期金目 l.

o : O(ð.~'" I l.υ: O(占有刺

10)11)

凶 10 Y Ba z Cu 3 Oyの構造

ハU

Page 9: 2. 説 - HESS · 東京大学工学部笛木和雄 はじめに 超伝導は低温において物質の電気抵抗がゼロとなる現象である O 抵抗のある常伝導状態から,抵抗

而内の酸素がすべて欠損することで欠損数は lとなる。また Cu1の面内にある Oが半分欠損するとそ

yが更に小さくなった時の欠損箇所 α軸と平行で Cu1を含んだ列の酸素が抜ける Oの欠損数は 1左なる口

あるいは Cu1と0の一次元鎖であるかはよくわかっていない。尊電面はYの両側の CulIの面か,

ー一一一上一一一一一 __1-3 即 2 -1 I ()(j (ρU-,/i)IIII)

l2) Y Ba2 CU3 0693ー守ぴフノンスト/キオメトリ g

O

091-

-4

図 11

酸素分圧と温

温度の高い程yの値は小さい。空気中で一定温度に保持し

抵抗率を測定した結果を図 12に示す。

で宮は図 11のように,yの値である y二 6.93-C'

酸素分圧一定ならば9

Tcに最も影響が大きいのは,

度によってきまり,

これをみると,高温て平衡に達せしめたあとクエンチして,

一一一一一一

( K )

一定温度でアニール後グエンチしたサンプルの抵抗率図 12

110

8

4

2

6

{三Hu--三一O

マ-OF}

時M

持制

Page 10: 2. 説 - HESS · 東京大学工学部笛木和雄 はじめに 超伝導は低温において物質の電気抵抗がゼロとなる現象である O 抵抗のある常伝導状態から,抵抗

500 ocで処理したものが,抵抗率も低く, Tcも最も高yの値の小さい試料程Tcは低く,で処理し,

い。 YBa2CuOyのy3十を他の希土類金属イオンで置換したものについて抵抗率を測定した結果は図 13

このことは希土類金属イオンの種類によらず, Tcはほとんど93Kと一定である。に示した通りで,

RE Baz CU3 07-x

""'---Nd

3口目。

2000

100目

(EυdE)時目指割

• I

100 日日 300 目。

RE Baz CU3 07-Xの抵抗率)図 13

Aサイトイオンは導電にほとんど影響を与えないことを意味する Bサイトの Cu2+イオンをNi2+

イオンで置換した試料の抵抗率を図 14に示す口 Niz十の量の増加とともに Tcは下がる傾向にある O

(EυqE)ミ

n

u

n

u

n

u

、‘J

匂J

s

h

E

-

-

a'IJt'eB-‘マahEEE'EBEEvaJ

,azaa'EEBEBEE---E

,,,4.

。白川口000

A

U

0

.

A

U

.

Ad

.

ω

0・

ω

ρ

a

o

AU

K・

-

a

O

l

,ι4

・nU

U

6

0

・0=

1・

u

n

F

V

'

O

A

U

F

U

H

・4JF

A

r

f

h

H沼200000J

1

d

F

L

・---------b噂,

色a

a

a

i

J

A

F

t

a

A

心UD

A--

D ‘。。‘u

• ω ・

(gudg)時端組収岡、

250 200 150

T (K) 温度

50

14 )

Y Ba2CU3-yNiy07-Sの抵抗率'図 14

Hcz(O)は 100Tをはるかに超えるものもみ図 15はYBaz CU3 OyのHczの値である O これより,

られる口

また表 3は臨界電流密度の値をまとめたものである O 酸化物超伝導体は Jcが小さいのではないか

土の観測が初期にはなされていたが,単結晶薄膜lでは 106A/c1lIを上まわることが最近見出された。

-12

Page 11: 2. 説 - HESS · 東京大学工学部笛木和雄 はじめに 超伝導は低温において物質の電気抵抗がゼロとなる現象である O 抵抗のある常伝導状態から,抵抗

100

BYCO=#=I---

BYCO:!b

80

60

ト'

r、4u 主~tO

O,~ O

一-L一一回ム20 J~O 60 00 100

15)

図 15 Y Baz CU3 uyのHcz

表 3 Y -Ba系酸化物超伝・導体の臨界電流密度

塊 状

塊 状

7 7

1 5

(A/crA) 機 関 発 表 年 月

ぢ 東 芝 1987年 4月

1 0 1 11 11

112 三菱電機 11

1,100 米 ATTベル研 11

0.000 米ウエスチング

ノ、 ウ ス 1987年 3月

1 05 I B 恥f 1987年 5月

5 x 1 06 11

!ギム!日温屈をu=i線材 l

1 塊状 1

塊 状 リ

多結晶薄膜 77

4 2

実用材料となるためには 106A/令d以上の臨界電流密度が必要といわれているが,多結晶について今後

この値にどの程度近ずくか大いに注目したい。

4. 超伝導の応用

超伝噂は何よりもゼロ抵抗によって特徴付けられる。ゼロ抵抗であるから,大電流を流すことが可

能となる。大電流をコイルに流すと強磁場が得られ,また電流の流れているコイルの両端を短絡する

L 永久電流左なって減衰するこ左はない。これらの一連の特徴を組み合わせて使うことにより新ら

しい電力系統,輸送機関,測定機器をつくることができる。

先ずゼロ抵抗を利用したものに超伝尊送電がある O これまでの送電には抵抗のある電線が用いられ

qU

19A

Page 12: 2. 説 - HESS · 東京大学工学部笛木和雄 はじめに 超伝導は低温において物質の電気抵抗がゼロとなる現象である O 抵抗のある常伝導状態から,抵抗

ていたためジュール熱の発生は避けられない。従ってジュール熱の発生をできるだけ抑える目的で,

大電力の遠距離輸送には超高圧送電が採用されている。しかし超伝導を用いればジュール熱の発生はな

いので,大電流を流すことも可能となる O 同じように発電機,変圧器,モーター,調相機などの電気

機器類も超伝導化により省エネルギー型にすることができる。

次は超伝導コイル,超伝導磁石である O コイルのつくる磁場の強さは,単位長さ当りの捲線数と線

に流す電流の大きさに比例する。超伝導線を用いると大電流を流すことが可能なので強磁場が得られ

る。更に超伝導コイルに電流を流した後,超伝導スイッチで両端を短絡すれば y コイルの中を永久電

流が流れ,磁場の強さは安定化する O 大型の強力磁石の利用分野としては,核融合炉, MH D発電加

速器などが挙げられる。小型の強力磁石の応用としては研究用磁石, NMRやESRなどの磁気共鳴

装置,またNMRを利用した診断装置NMR-CT,電子顕微鏡などが挙げられる。

永久電流 Iの流れているコイルのインダクタンスをLとすると,このコイル中に Eニ(弘)Li 2のエ

ネルギーが磁気エネルギーの形で蓄えられる O 電気エネルギーは輸送,利用,環境性にすぐれたエネ

ルギーであるが貯蔵性がないのが欠点とされていた。現在では貯蔵用に揚水発電が用いられ 9 近い将

来二次電池による貯蔵も検討されている。コイルによる電力貯蔵は電磁気系としての貯蔵で効率 90

%以上とすぐれ,また電力系統の安定化にも役立つといった長所がある O

超伝導を利用した輸送機関として陸上では磁気浮上車があり,海上では電磁推進船がある O 磁気浮

上車は, レール側にコイルを並べ,車上に超伝導磁石をおき,超伝導磁石がコイル上を通り過ぎる時

コイル内に発生した磁束と超伝導磁石の磁束問の反壌によって車体を浮かせ, リニアモータによって

推進を行なうもので,時速 50 O~6 00 kmを出すことができる O 電磁推進船は船底に取り付けたダク

トに直角な方向から超伝導磁石で磁場をかけ,夕、、クト,磁場のいずれにも直角な方向に二つの電極を

取り付け,直流を流す。海水中には食塩などの塩類が溶解しているので導電性を有しているので,電

流が流れる O フレミングの左手の法則によって, ダクトの中を海水が動き,この反動を利用して船が推進す

るO

以上は電力・エネルギーへの超伝導の応用であるが 9 エレクトロニグス関係への応用もいろいろあ

る。集積回路の集積化が進むt:,素子からの発熱を取り去ることが大きな問題となる。その配線に超

伝導体を用いる左発熱量が減り,高集積化が可能となる。また超伝導の薄膜にレーザ一光を照射する

と,照射された部分が常伝導化する。従って照射しない場合とした場合とで抵抗が変り,これを利用

するとスイッチング素子ができる口

1 0 A程度の薄膜を挟んで両側に超伝導体をつけると,超伝導間にトンネル効果によって電流が流

れる。この現象をジョセフソン効果といい,ジョセフソン効果を利用した素子をジョセフソン素子と

いう O ジョセフソン素子はスイッチング作用を有する他,徴弱な磁場に感ずるセンサーともなるので,

広い応用がある O スイッチング素子として利用すると,スイッチング速度が半導体を利用したものの

100倍程度大きいので,高速コンビュータをつくることができる O また磁気センサーとしては,新

-14-

Page 13: 2. 説 - HESS · 東京大学工学部笛木和雄 はじめに 超伝導は低温において物質の電気抵抗がゼロとなる現象である O 抵抗のある常伝導状態から,抵抗

超電導薄膜(S2)

サブストレート

図 16 トンネ/レ型ジ冨セブソン接合

超伝導物質の探索,地磁気や岩石磁気の測定9 生体磁気測定(心磁Igj,脳磁波)へ応用できる。その

但,電圧標準,赤外線センサーなど広い用途が考えられる。

5圃 おわりに

高温超伝導体は 90K級のものまで見出された。 Tcの上昇は目を見張るばかりに急であったが,何

しろ本格的に開始されたのは昨年暮からで,まだ半年しか経っていない。今後更にTcの高いものが見

比される可能性は大いにあり,いまから取りかかっても決して遅くはない。推進するには化学の;音、欲

ある方の積極的な参加を望みたい。

文献

1) J.G.Bednorz andK.Muller: Z.Phys. B64(1986)189

2) S.Uchida, H.Takagi, K.Kitazawa and S.Tanaka Jap. J.Appl. phys. 26 (1986) L1

3) H.Takagi, S.Uchida, K.Kitazawa and S.Tanaka Jpn. J,Appl. phys. 26 (1987) L123

4) K.Kishio, K.Kitazawa, S.Kanbe, I.Yasuda, N. Sugii,百.Takagi, S. Uchida, K. Fueki and

S. Tan心王a,Chem. Let t .1987 429

5) S.Kanbe, K.Kishio, K.Kitazawa, K.Fueki, H.Takagi and S.Tanaka, Chem. Lett 1987 547

6) K.Kishio, K.Kitazawa, T.Hasegawa, M.Aoki, K.Fuel王 and S. Tan心王a,Jpn.J. Appl Phys 26

(1987) L391

7) T.Hasegawa, K.Kishio, M.Aoki, N.Oolba, K.Kitazawa, K.Fueki, S.Uchida and S.Tan討王a,

「「U

Page 14: 2. 説 - HESS · 東京大学工学部笛木和雄 はじめに 超伝導は低温において物質の電気抵抗がゼロとなる現象である O 抵抗のある常伝導状態から,抵抗

lpn.J.Appl Phys 26 (1987) 337

8) S. Uchida, H. T油 agi,S.Tanaka, K.Nakao, N.Miura, K.Kishio, K.Kitazawa and K.Fueki,

J pn . J . Appl. phys. 26 (1987) L 196

9) M. K. Wu, 1.R. Ashuburn, C. J . Torng, P .H.Hor, R.L.地 ng.L. Gao, Z. J • Huang, Y. Q • W時,

C.W.Chu. Phys. Rev. Lett. 58 (1987) 908

10) F.Izumi. H.Asano, T.Ishigaki, A.Ono,祖d F.P.Okamura Jpn. J,Appl phys. 26 (1987)

ノ転 5 L611

11) F. lzumi, H. Asano and T. Ishigaki, Jpn. J.Appl. phys. 26 (1987)五 5 L617

12) KoKishio, J. Shimoyama. T.Hasegawa, K.Kitazawa and K. Fueki, Jpn.J .Appl. phys.に

投稿中

13) J.M. Tarascon, W.R.McKinnon, L.H.Greene, G.W.Hull and E.M.Uogel,投稿中

14) Y.Maeno, T.Nojima, Y.Aoki, M.Kato, K.Hoshino, A.Minami and T.Fujita, Jpn. J.

App 1. phys. 2 6 (1 98 7 ) L 7 7 4

15) K.Okuda, S. N噌 uchi,A. Yamagishi, K. Sugiyama and M. Date, Jpn. J . Appl. Phys. 26

(1987) L822

-16-