1.赤土流出の経緯と現状...-1-1.赤土流出の経緯と現状...

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-1- 1.赤土流出の経緯と現状 沖縄県における赤土等の流出は、昭和30年頃から沖縄本島や八重山諸島の国頭マ ージ(酸性土壌)地域においてブルドーザーなどによるパインアップル畑地開墾を行 った頃から目立ってきたといわれている。 さらには、昭和47年の沖縄本土復帰以降、立ち後れている沖縄と本土の格差を是 正するため、大規模な公共事業や民間資本による開発が進められ、大量の赤土等が流 出し、社会問題となった。 このような状況のなか、沖縄県では平成7年に「沖縄県赤土等流出防止条例」を施 行し 一定規模以上の開発行為に対して 工事期間中の土砂流出防止対策を義務づけ 赤土等の流出防止対策を強化している。 日雨量80㎜ 時間雨量20㎜以上の降雨時に 赤土パトロールを実施 仮設沈砂池 工事期間中シート被覆

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Page 1: 1.赤土流出の経緯と現状...-1-1.赤土流出の経緯と現状 沖縄県における赤土等の流出は、昭和30年頃から沖縄本島や八重山諸島の国頭マ

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1.赤土流出の経緯と現状

沖縄県における赤土等の流出は、昭和30年頃から沖縄本島や八重山諸島の国頭マ

ージ(酸性土壌)地域においてブルドーザーなどによるパインアップル畑地開墾を行

った頃から目立ってきたといわれている。

さらには、昭和47年の沖縄本土復帰以降、立ち後れている沖縄と本土の格差を是

正するため、大規模な公共事業や民間資本による開発が進められ、大量の赤土等が流

出し、社会問題となった。

このような状況のなか、沖縄県では平成7年に「沖縄県赤土等流出防止条例」を施

、 、 、行し 一定規模以上の開発行為に対して 工事期間中の土砂流出防止対策を義務づけ

赤土等の流出防止対策を強化している。

日雨量80㎜

時間雨量20㎜以上の降雨時に

赤土パトロールを実施

仮設沈砂池 工事期間中シート被覆

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その結果、開発事業による赤土等の流出量は大幅に減少したが、一方で農地からの

赤土流出の減少は相対的に少ないため、条例施行後、農地からの流出が県全体の流出

量に占める割合は相対的に増加(74.4%)している。

2.農地からの赤土等の流出対策

復帰後実施してきた土地改良事業は、農業生産性の向上等を目的として、地元から

の申請に基づき、国・県・市町村等が実施主体となって事業が進められてきた。

、 、 、事業の実施に当たっては 沖縄の気象特性(雨脚が強い) 土壌条件等(流れ易い土

、 、 、河川が短く すぐ海に流れる)の自然条件を勘案して 沖縄独自の基準を順次策定し

赤土等の流出防止に努めてきた。

赤土等流出防止条例施行前後の赤土流出状況の比較 表-4

施行前 施行後 施行前 施行後

区 分 (t/年) (t/年) 削減率 シェア シェア

1993-94 2001-02

県全体 520,000 299,500 42.4% 100.0% 100.0%

開発事業 167,400 46,300 72.3% 32.0% 15.5%

農地 316,600 222,900 29.6% 62.0% 74.4%

米軍基地 25,300 22,800 9.9% 5.0% 7.6%

その他 5,200 7,500 -44.2% 1.0% 2.5%

注)沖縄県衛生環境研究所、沖縄県環境保全課試算値

作付け前の農地の裸地状況 裸地状態の農地からの赤土流出状況

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3.土木的対策(土地改良事業による対策)

農地からの赤土等流出防止に係る土木的対策については、農地から流出する赤土等

を最小限に抑えるための「発生源対策」と、農地から流出した赤土等が公共用水域に

流出するのを防止するための「流出防止対策(二次対策)」の二つに分類される。

沖縄と全国における基準の比較

ほ場勾配の例

年度 沖縄 全国 備 考

S51 5°以下 7~8° 土地改良事業計画基準「農地開

発 (全国)」

S63 6° 土地改良事業計画基準「農地造

成 (全国)」

土地改良事業等土砂流出防止実H1 1.7°以

施基準(1次試案:沖縄県)下が基本

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(1)発生源対策(畑の対策)

①ほ場勾配修正工

ほ場勾配を1.7°以下に修正することによって、ほ場内の雨水の流れる速さ

を減速させ耕土の流出を抑えようとする対策である。農地の裸地期間(作付け準

備等)における赤土等の流出防止対策としては、最も効果的である。

研究によれば、10° の勾配から3° に緩和すると赤土流出量が84%減ら

すことが出来ると試算されているが、基準では、やんばるの主な土壌である国頭

マージが降雨により流れ始める勾配1.7°を基に1.7°以下としている。

ほ場勾配のイメージ

ほ場勾配修正による対策状況

勾配修正前 勾配修正後

②畦畔工

斜面長が長くなるほど、畑面を

流れる雨水の速さは速くなり、耕

土を流す力は強くなる。

このため、畦畔を設置すること

により、斜面長を短くし耕土が流

れ出すのを抑える。

10°

3°1.7°(3%)

40m 1.2m

2.1m

7.0m

畦畔設置後

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③土砂溜桝

土砂溜桝は、各ほ場の排水の

末端に設置する小規模な沈砂池

である。

これにより、畑面から出る雨

水を一旦貯留して赤土等の粒子

を沈降させる。

④グリ-ンベルト(植栽帯)

ほ場境界、排水路のわき等に植栽

し、畑面から出る赤土混じりの流水

の速さを低下させるとともに、畑外

へ赤土等の流出を防止する。

(2)二次対策(畑から出た赤土等流出防止対策)

①排水路

排水路は、赤土混じりの雨水を沈砂池

に導くことにより、赤土等が直接流出す

ることを防止する。

グリ-ンベルト

土砂溜桝

集水路・排水路

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②沈砂池

農地から流出した赤土混じりの雨水

、を沈砂池内に一旦貯留することにより

赤土等粒子を沈降させる。

4.土木的対策の効果

沖縄県農林水産部において、これらの対策における実証調査を行っている。

結果の内容は以下のとおり。

流域面積1haに対して約100m3程度の沈砂地を設置すると、約70%の濁質量を

除去できる結果となった。なお、漢那地区では砂防ダムを設置しているが、その除去

率は約45%となっている。

沈 砂 池

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5.営農的対策(農家による農地の裸地対策)

農地からの赤土流出を防止するためには、上記の土木的対策と営農的対策との連

携が必要不可欠であり、①赤土流出防止対策施設(排水路、沈砂池等)の適正な維持

管理、②農家による農地の裸地対策や土壌管理等の対策が求められている。

①畑面植生

休耕期間におけるほ場の裸地状

態を解消することにより降雨の力

を弱め、畑面を流れる雨水の速さ

を低下させ、畑からの赤土流出を

防止する。

②マルチング

収穫から植付けまで、または作物が生長

し被覆できるまでの裸地状態を解消し、雨

水が直接畑面に当たらないようにするとと

もに、畑面水の流れの速さを低下させ、赤

土等の流出を防止する。

③グリーンベルト

、 、ほ場境界 排水路のわき等に植栽し

畑から出る赤土混じりの流水の速さを

低下させるとともに、畑外へ赤土等の

流出を防止する。

ギニアグラスによる畑面植生

サトウキビ・パインアップル敷き草マルチ

ステラシートでのグリーンベルト

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④その他

輪作・間作:主体となる作物の間に作付けすることにより裸地を軽減

畝 切 り:集水面積を分割することにより、ほ場の傾斜下部に大量の水が流れ

て侵食するのを防ぐ方法

6.営農的対策の効果

沖縄県文化環境部による実証調査によれば、石垣市のほ場では、グリーンベルトを

設置することにより土砂流出量が61%軽減され、恩納村のほ場では、グリーンベル

トと併せてシガラ柵を設置することにより、土砂流出量が88%軽減されたとの結果

が得られている。

さとうきびほ場における間作

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7.地域における支援体制の構築

農家の高齢化等により排水路の土砂撤去などの維持管理やグリーンベルトの設置が

困難な状況となってきており、地域による支援体制の構築が必要となってきている。

① 地域住民の協力を得ながら排水路、

沈砂池等の土砂除去や除草、グリーンベ

ルトの設置等を行い、施設の機能の維持

を図ることにより、赤土等の流出を防止

する。

②土壌保全の日(土壌流出防止の農家への啓発)

「土壌保全の日」を設置し、土壌保全の

必要性について農家個々への啓発普及を図

る。

土壌保全の日:毎年6月第1水曜日

住民参加の水路清掃

地域住民参加による水路補修工事

・グリーンベルト設置

土壌保全の日の実施状況

沈砂池の土砂撤去状況

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8.赤土対策を推進していく上での課題

(1)土木的対策

事業の必要性について十分に理解が得られないことや、沈砂池等の用地の提供

について、作付け面積が減少するため、農家の同意が得られにくい。

(2)営農的対策

緑肥の種子購入の経済的負担やグリーンベルト設置に伴う作付け面積の減が生

じるため、農家の積極的な取組が得られにくい。

(3)地域の取り組み

農家への支援、農地からの赤土等流出の監視等を推進するうえで、農家地域、

行政が一体となった地域の推進体制の構築が遅れている。

9.赤土等流出防止に関する轟川地域の取組について

石垣市の轟川流域では、流域関係者が一体となった総合的な赤土防止対策をモデ

ル的に取り組んでいる。

(1)土木的対策(農地対策)

流域内の農地対策を効果的に行うために以下の取組を行っている。

① 発生源調査,赤土流出危険度マップ作成

一筆調査を基に、農地の勾配、斜面長、植生状況等を総合的に判断し、赤土発

生源区分図を作成。

② 赤土対策工法設定(ゾ-ンニング)

流域内の農地対策を効果的に行うために、農地非農地分類、植生分類、農地形

状分類等を行い、対策工法及び緊急度を設定。

(2)営農的対策

農地の裸地をなくし、農家による赤土対策を支援するため、以下の取組を行っ

ている。

① 農家聞き取り調査・営農対策事例収集

・緑肥及び敷きマルチを実施した農家の意見把握

・営農的対策の事例等を収集し、流域への普及の

可能性の検討。

② 営農普及マニュアル(案)

農家による赤土対策を推進するため、現状の営

農状況に即した、栽培管理(緑肥等 、土壌管理)

(土づくり等 、農地維持管理(緑地帯・グリ-)

ンベルト)等、営農での赤土対策マニュアルを作

成。

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(3)地域の取組

赤土対策推進体制の構築①

「 」 、地域の関係機関が参画した 轟川流域農地赤土対策推進検討委員会 を設置し

対策の推進方法や、赤土の削減目標等を検討。

検討委員会には、民間団体 環境団体、農家代表としての土地改良区 、大学等( )の学識経験者、石垣市の行政機関、研究機関、国・県の関係行政機関等が支援機

関が参加。

② 住民参加によるデモほ場運営

デモほ場を設置して、民間や地域住民が一体となった、営農的な赤土流出防止

対策を実施。

③ 住民参加の検討

地域住民に赤土問題を認識してもらうために、市民、児童生徒等を対象に「ポ

スタ-・標語」を公募。

ポスター・標語の募集 石垣市赤土流出防止対策

取組農家表彰審査委員会

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○モデル事業における赤土対策検討のイメージ

轟川流域農地赤土対策推進検討委員会

農家との意見交換(ワークショップ開

催)

市民参加型のデモンストレーション圃場

対策についての意見など

対策や効果についての説明

具体的な対策推進計画 ・赤土対策マスタープラン(案) ・営農対策推進マニュアル(案) ・対策推進体制(案).....etc

地域関係者の意見を踏まえた具体的対策の提示

具体的対策の農家への説明

対策推進についての農家意見の集約

農家意見を踏まえた対策推進計画の修正