1) 従来の垂直軸揚力型風車 ·...

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株式会社ドリームバードの稲垣 誠二と申します。 前回に引き続き、私が考案しました「垂直軸型螺旋タービン」をこの紙面を 借りてご紹介させていただきます。 前回は「垂直軸型螺旋タービン」の「垂直軸」ということについて書きまし たが、今回は主に「螺旋」について書きたいと思います。この「螺旋」こそが、 私が考案したタービンの最大の特徴です。 1 従来の垂直軸揚力型風車 前回、紹介したように垂直軸型風車には「抗力型」と「揚力 型」がありますが、「揚力型」の代表としてダリウス型という ものです。これはフランスのダリウスさんという学者が考案さ れたものです。曲線の美しい図 1 がダリウスさんの考案され た原型です。 その後、製造コストなどの理由から直線翼を用いた図 2 のよ うなタイプが考え出されました。 これらのダリウス型はプロペラ風車に匹敵するほどの高出力 が出せるのですが、欠点として自己起動性が低いことが挙げら れます。揚力が発生する角度は限られていますので、風車のブ レードがその位置にないと始動することができないのです。 サボニウス風車に代表される抗力型風車については、自己起 動性は高いのですが、その回転は風の速度を超えることはあり ません。従って、そもそもプロペラ風車の効率に迫ることは不可 能でした。 これを改善したのが図 3 のヘリカル(螺旋)型のダリウス風車で、 ブレードがどの位置にあっても始動することができます。これは 1995 年にノースイースタン大学のゴルロフ氏(Alexander M. Gorlov)が発明されたもので、GHT (Gorlov Helical Turbin) と呼ばれています。風車だけでなく水車にも利用され、世界各国 1 ダリウス型風 2 直線翼型ダ リウス風車 3 ヘリカル型 ダリウス風車

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Page 1: 1) 従来の垂直軸揚力型風車 · もともと、プロペラや飛行機などは技術的に多くの改良が加えられており、 流れの傾きは持っていました。プロペラは中心から円周に向けて流れるように

株式会社ドリームバードの稲垣 誠二と申します。 前回に引き続き、私が考案しました「垂直軸型螺旋タービン」をこの紙面を

借りてご紹介させていただきます。 前回は「垂直軸型螺旋タービン」の「垂直軸」ということについて書きまし

たが、今回は主に「螺旋」について書きたいと思います。この「螺旋」こそが、

私が考案したタービンの最大の特徴です。 (1)従来の垂直軸揚力型風車

前回、紹介したように垂直軸型風車には「抗力型」と「揚力

型」がありますが、「揚力型」の代表としてダリウス型という

ものです。これはフランスのダリウスさんという学者が考案さ

れたものです。曲線の美しい図 1 がダリウスさんの考案された原型です。 その後、製造コストなどの理由から直線翼を用いた図 2 のようなタイプが考え出されました。 これらのダリウス型はプロペラ風車に匹敵するほどの高出力

が出せるのですが、欠点として自己起動性が低いことが挙げら

れます。揚力が発生する角度は限られていますので、風車のブ

レードがその位置にないと始動することができないのです。 サボニウス風車に代表される抗力型風車については、自己起

動性は高いのですが、その回転は風の速度を超えることはあり

ません。従って、そもそもプロペラ風車の効率に迫ることは不可

能でした。 これを改善したのが図3のヘリカル(螺旋)型のダリウス風車で、ブレードがどの位置にあっても始動することができます。これは

1995 年にノースイースタン大学のゴルロフ氏(Alexander M. Gorlov)が発明されたもので、GHT (Gorlov Helical Turbin) と呼ばれています。風車だけでなく水車にも利用され、世界各国

図1ダリウス型風

図2直線翼型ダ

リウス風車

図3ヘリカル型

ダリウス風車

Page 2: 1) 従来の垂直軸揚力型風車 · もともと、プロペラや飛行機などは技術的に多くの改良が加えられており、 流れの傾きは持っていました。プロペラは中心から円周に向けて流れるように

で特許権を取得されていますが、なぜか日本では取得できていません。よって、

日本国内では見かけることがありません。 (2)様々な螺旋の種類

さて、このヘリカル(=形容詞, 名詞ではヘリックス)とは、ドリルやボルトネジのように一定のピッチで縦方向に巻き上

がって(下がって)いく螺旋です。弦巻線とも呼ばれる三次

元の曲線です。(図 4) これに対して平面上に旋回が中心から遠ざかる二次元の曲

線を渦巻(スパイラル)と言います。二次元と言っても、数

学上の話なので平面的に展開する螺旋のことです。 この二次元の渦巻の代表的なものとしては、線が等間隔の

「アルキメデスの螺旋」(図 5)と角度が一定である「対数螺旋」(図 6)があります。 螺旋や渦巻、その種類の違いとか、ややこしい話になって

いますが、実際に日本語でも英語でも、この螺旋(helix)とか渦巻(spiral)の使い分けはかなりいい加減でややこしい話になっているので、ご勘弁ください(笑) ただし、自然界でよく見かける螺旋の多くは案外シンプル

なようです。

図4ヘリカル(螺旋)

図5 アルキメデスの

螺旋(二次元)

図6対数螺旋(二次元)

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(3)自然界の螺旋 以下の図 7 のように自然界に見られる多くの螺旋は三次元の対数螺旋になっているようです。これらの例にとどまらず、例えば鷹などの猛禽類が獲物を狙

って降下するときも、蜂が花に向かって飛ぶ軌跡も対数螺旋に近いのだそうで

す。もちろん、風や水流などが渦を巻くときも対数螺旋を描きます。

対数螺旋の「角度が一定」というのは、図 8のように拡大する角度θ(傾き)が一定ということです。これを

三次元の対数螺旋にすると図 9のようになります。これが自然界に見られる多くの螺旋のタイプということが

できると思います。

図7自然界に見られる螺旋

図8 拡大する角度θが

一定である対数螺旋

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なぜ、自然界の螺旋はこのような形をとるので

しょうか? その答えは簡単ではないと思いますが、生物が

成長していく場合には同じ形(=相似形)に成長する性質を持っているのかもしれません。 水や風のような流体の場合は、傾き(=ベクトル)は、外から別の力を加えないと変わりません。つまり、もともと渦は対数螺旋の流れを取りやす

いと言えるのではないでしょうか。 さらに流体は圧力の高い方から低い方へ流れ

て広がる性質を持っています。この自然界の渦の

形と流体の性質に私は着目しました。

(4)風車のエネルギー変換効率 風車のエネルギー変換効率というのは、風を受ける翼がどれだけ風のエネル

ギーを受けて回転という機械運動に変換できるかで決まります。 単純に言えば、翼が大きい方が受けられるエネルギーが大きくなるのは自明

なことです。同じ翼の長さ(=翼幅と呼びます)であれば、翼の幅(=翼弦と

呼びます)を大きくとった方が、風の力を大きく得ることができます。実際こ

の方法は風車を回りやすくするためには有効な方法です。 しかし、そうすると回転した風車を通り抜ける風の量が減ってしまい回転速

度を上げることができません。つまり翼弦を広くするか狭くするかは、トルク

を有利する代わりに回転速度を下げてしまうので、エネルギー変換効率そのも

のを高くすることはできないということです。 翼弦を大きく取らず、つまり翼の翼面積を変えずに、風の力をどのように有

効に翼に作用させるか? その答えは、翼に当たって作用する空気の流れの角度、すなわち傾きを変えることにありました。

図9三次元の対数螺旋

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もともと、プロペラや飛行機などは技術的に多くの改良が加えられており、

流れの傾きは持っていました。プロペラは中心から円周に向けて流れるように

傾きを持っていますし、飛行機の翼も根元から翼端に向けて流れが傾くように

なっています。もちろん、人間がそれを理解する前に鳥の翼はそのような形状

となっていました。翼を流れる空気の流れに「傾き」を導入していないのは垂

直軸風車だけだったのです。 そこで、従来のヘリカル型(GHT)の翼の形状をヘリカルから対数螺旋状に改良しました。翼の下

部の円周よりも上部の円周を大きくし、それらを結

ぶ、翼のエッジの曲線を対数螺旋状にしました。(図

10) こうすることで、従来のヘリカル型の翼での流体

の方向が図 11左のように風と同様の水平にしかならないのに対して、対数螺旋状にした場合は図 11右のように流体の流れは斜め上方向に傾きを持つ

ことになります。 これは、下部の円周 r に翼が進む速度に対して、上部の円周 R に翼が進む速度が速いために気圧の差が生じ、Fの方向の流れができるためです。

図11従来のヘリカル型の翼での流体の流れ(左)対数螺旋状の翼の場合(右)

図10翼のエッジの曲線を対数

螺旋に改良

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こうして、従来翼に作用する流体の流れを二次元的にしか捉えていなかった垂

直軸型風車に三次元の流体の流れの考え方を取り入れて完成したのが図12の基本形です。

図12垂直軸型(対数)螺旋タービン基本形

この基本形には対数螺旋だけでなく、エネルギー変換効率を向上させるため

の他の工夫も含まれていますが、ここでは割愛します。(ただし、それらの工夫

とはすでにある三次元翼の工夫を生かしたもので、流れを三次元的に扱うこと

がなければ効果が少ないものでした。) この(対数)螺旋タービンの基本形と従来のヘリカルタービン(GHT)を同じ大きさの模型を作って比較したところ、(対数)螺旋タービンの基本形は 1.4倍の速度で回転しました。

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エネルギー=質量×速度の二乗(E=MV2)ですので、 質量が同じである場合、速度が 1.4 倍であれば、約 2 倍のエネルギーを取り出せたという計算となります。

(5)何故、素人の私が新しい風車を作れたのか?

さて、今回は前回に増して長い文章となってしまいました。ややこしい話を

ここまでお読みいただきありがとうございます。もう少しで終わります(笑)。 実はつい先週に東京都中小企業振興公社による『新製品・新技術開発助成事

業』の二次面接を受けてきました。この二次面接をパスできれば、晴れて助成

金を受けることができるのです。 その席で、おそらく技術担当と思われる審査官が以下のような質問をされま

した。 「物理や流体的な理論がわからないと、こう言った発明はできないと思うの

ですが、ご専門は? どのような理論からこれを導き出したのですか?」 この質問は門外漢がどうやって考え出したのかという驚きも含まれていたよ

うな気がします。 それに対して、私は次のように答えました。 「物理や流体力学は専門ではないのですが、独学で学びました。それと 3Dプリンターで何度も仮設と実証の試行錯誤が出来たので、理論が先に答えを出し

たわけではないと思います」 前回に記したように、当初は自分で風車を作るとは思いもよらなかったので

す。子供の頃はものを作ることはとっても好きでしたが。もう 40年以上何かものを作るということはしたことはありませんでした。 ただ、原発事故が起こってから、再生可能エネルギーの利用を少しでも増や

すことができないかとは考えていて、「エネ経」ができてすぐに入会もしようと

思っていたのですが、私にできることは何もなかったので入会をためらってい

たのです。 しかし、「思い」と「興味」がありさえすれば、インターネット上にはいろん

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な情報があふれており、大学で学ぶことくらいは独学でできてしまうのが今な

のではないかと思います。実際のところ、米国のある大学などは授業に用いる

教材や研究成果を公開しているので、私は大いに利用させてもらいました。 そして、やはり 3Dプリンタで素早くものを作ることができるようになったこと(もちろん、CAD などの操作も覚える必要はありますが)。これらの「やろうと思えば素人でもやれる」という環境が今なのではないかと思います。 今、私は50代半ばを超えたところですが、こういう豊かな時代にあって、

実はチャンスはいろんなところにあるのではないかと思い始めています。 これからの社会は AIやロボットなどの普及もします。電気自動車もすぐに普及するようになるでしょう。一方で気候変動の問題の解決は急がれます。日本

の人口は減少することがすでに明らかです。老人が増えることも避けられませ

ん。そうした新しい時代に向けて、エネルギーの獲得の仕方はもちろん、働き

方やライフスタイルが激変していくように思われます。 こうした変化の中で、私たちはいろんなことを見直していく必要があるでし

ょう。その解決には多分、素人も玄人もないと思います。皆が始めて経験する

ことなのですから。ピンチをチャンスに変えるのも、多分やる気を出した素人

なのではないかと私は思うのです。 長い文章を最後までお読みいただきありがとうございます。 また、折を見て、進捗を報告させていただければと思います。