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目次

2

1 3次元立体音場 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3

1-1 3次元立体音場とは .................................................................................................................3

1-2 バイノーラル.............................................................................................................................4

1-3 ダミーヘッド録音.....................................................................................................................5

1-4 方向感:バイノーラル・プロセッサー...............................................................................6

1-5 距離感:ディスタンス・プロセッサー...............................................................................8

1-6 臨場感:リバーブ・プロセッサー........................................................................................9

1-7 移動感:ディレイ・モード .................................................................................................10

1-8 スピーカー再生:トランゾーラル・プロセッサー........................................................12

1-9 人間の聴覚と3D立体音場...................................................................................................13

1-10 ヘッドホン再生とスピーカー再生.....................................................................................14

1-11 ダミーヘッド録音とローランド・サウンド・スペース・システム...........................14

1-12 バイノーラル・サウンドの保存.........................................................................................15

1-13 RSS-10のファンクション・モード..................................................................................15

2 ノウハウ編 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16

2-1 前から後ろへ流れ去っていく感じを出すには................................................................16

2-2 上下感の演出 ..........................................................................................................................16

2-3 迫ってくる音/遠ざかっていく音の移動感 ....................................................................17

2-4 迫力のあるリアルな移動感 .................................................................................................18

2-5 音像が遠くから近付いてくるときのスムーズな移動感と臨場感...............................19

2-6 ダミーヘッド録音とのミックス.........................................................................................19

2-7 遠くから顔のそばまで近付いてくる小さい音源............................................................20

2-8 広大な空間の背景音..............................................................................................................20

2-9 定位感のないイメージ・サウンド.....................................................................................21

2-10 別の空間で音が響いている感じを表現したい................................................................22

2-11 音像の大きさと迫力あるサウンド.....................................................................................23

2-12 前方定位感 ..............................................................................................................................23

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1 3次元立体音場

3

1-1 3次元立体音場とは私たちが普段耳にしている音は、あらゆる方向から聞こえてきます。また、無意識のうちに、音が聞こえてくる方向やその距離を判断しています。この当たり前ともいえる“音の空間”=“音場”は、実は3次元立体音場そのものなのです。

しかし、音楽あるいは音の再生を行う場合、この当たり前であるはずの3次元立体音場をそのまま再現することは困難でした。3次元立体音場を実現するためには、音が聞こえてくる方向や距離に応じて、それぞれ音源(スピーカー)を配置しなければなりません。ごく限られた空間であれば、このようなマルチ・スピーカー・システムによる再生環境を実現することも不可能ではありませんが、通常は2スピーカーによるステレオ再生やヘッドホンによる再生が一般的です。

2スピーカーによるステレオ再生では、左右のスピーカーから出力される音量を調節することによって音像を定位させることができますが、その音像の定位は、左右のスピーカーの間に限られてしまいます。

通常の再生システムで、普段私たちが耳にしている3次元立体音場が実現できるとしたら……。その可能性は無限に広がります。

例えば、より臨場感あふれるサウンド演出も可能になります。映画やTVプログラムなど、映像で展開されるさまざまなシーンを、よりリアルに、迫力あるものにすることができることでしょう。あたかも自分がそこにいるかのように感じられるサウンド演出も思いのままに行えるはずです。

さらに、マルチメディアを駆使したコンテンツ制作では、3次元グラフィックスなどを多用した仮想的な空間の実現を目指しています。視覚によるバーチャル・リアリティに、聴覚によるバーチャル・リアリティが融合することにより、“バーチャル”を意識させない現実感を持った空間を作り出すことが可能になります。

また、音楽制作においても、従来はステレオ再生を前提としていましたが、それが3次元立体音場で再生できるとしたら、音像の配置の仕方から、音楽の作り方までもが大きく変わる可能性を秘めています。

この3次元立体音場を実現するのが、ローランド・サウンド・スペース=RSSシステムです。この技術を利用したローランド・サウンド・スペース・プロセッサーRSS-10は、3次元空間に自由に音像を定位させたり、あるいは音像を移動させることができます。また、RSSシステムによる3次元立体音場の再生には、専用の再生システムを必要としません。通常の2スピーカーによる再生システム、あるいはヘッドホンによる再生で、3次元立体音場を実現できるのです。

�� RL

音像�音像� 音像�

普通のステレオ�

音像�

音像�

音像�

3次元立体音場�

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1-2 バイノーラル普段、私たちが耳にしている立体的な音場を再現する方法として、以前から利用されているのがバイノーラル・サウンドです。私たちが音を聞く場合、音源から発生した音(音波)がさまざまな経路を経て、また、さまざまな特性の変化を伴った上で(これについては後述します)、左右の耳に到達します。この「左右の耳に到達した音」を2チャンネルの信号として取り出したものがバイノーラル・サウンドです(fig.1-1)。

●fig.1-1

バイノーラル・サウンドは、ダミーヘッドという人間の頭部と上半身を象った録音装置で録音します。つまり、人間の耳に聞こえる音をそのまま録音できることになります。ダミーヘッドで録音された2チャンネルのバイノーラル・サウンドをヘッドホンで再生することにより、あたかもリスナーが立体的な音場の中に位置しているかのように聞くことができるのです。

ダミーヘッドによる録音は、あくまで録音方法による3次元立体音場の再現には非常に有効です。例えば、コンサートホールで音楽を聞いている状態や、街の雑踏の中に立っている状態などをダミーヘッドで収録することにより、効果的な3次元立体音場が再現できます。

ただし、ダミーヘッドによる録音が行えるのは、現実の立体音場の中に限られます。例えば、車が目の前を通過するサウンドを収録したいときには、実際に車を走らせ、ダミーヘッドを置いて録音するしかないわけです。

現実にあるさまざまな情景を立体音場として収録/再現する方法としては、ダミーヘッドは優れた録音方法ですが、必ずしもそのような収録環境を実現できるとは限りません。

ローランド・サウンド・スペース・システムでは、このダミーヘッド録音によるバイノーラル・サウンドをデジタル信号処理によって作り出すことができます。つまり、ある音源(モノラルの信号)を、立体空間の中に配置し、それをダミーヘッドで録音した際に得られるであろうバイノーラル・サウンドを、デジタル信号処理によってシミュレートすることができるわけです(fig.1-2)。

L ch

ダミーヘッド�

バイノーラル・サウンド�

人間の頭部を象った�ダミーヘッドの両耳の位置で収録� R ch

マイクロフォン�

4

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●fig.1-2

これが、3次元立体音場を作り出すローランド・サウンド・スペース・システムの最も基本的な原理です。

1-3 ダミーヘッド録音ダミーヘッドによる録音は、現実の立体音場を収録/再現する手法として有効です。ダミーヘッドとは、その名のとおり、原寸大の人間の頭部と上半身を持ち、左右の耳の中(内耳に相当する位置)にマイクが付けられています。

これにより、立体音場の中で左右の耳に到達する音を忠実に収録することができます。

私たちが音を聞き、その方向や距離などが判断できるのは、左右の耳に届いた音のわずかな違いを無意識のうちに感じ取っているからです。例えば、左右の耳に届く音量の違いや時間差、さらには耳(外耳)や頭部で反射した音の周波数特性の変化を感じ取ることによって、音の方向や距離などを知ることができます(fig.1-3)。

ダミーヘッドでは、このような人間の耳で捉えられる音をそのまま録音することにより、あたかも「録音した場」の中にいるかのような立体的な音場が得られるのです。

また、ダミーヘッドで録音されたバイノーラル・サウンドは、耳の位置で収録されたものですから、再生するときも、できるだけそれと同じ状態で再生しなければなりません。バイノーラル・サウンドは、必ずヘッドホンで再生します(fig.1-4)。

バイノーラル・サウンドを、通常のスピーカー・システムで再生すると、スピーカーの位置や耳との距離により、本来の立体的な音場が再現されません。

●fig.1-3 ●fig.1-4

バイノーラル・�サウンド� ヘッドホン再生�

バイノーラル・サウンド�

デジタル信号処理�

頭部音響伝達関数�

ダミーヘッド�録音�

モノラル信号�

ヘッドホン再生�

音源�

音量の違い、時間差、周波数特性の違いなどから音源の方向や距離などを判断。�

バイノーラル・サウンドをヘッドホン再生することによって、音源の方向や距離を再現することが可能。�

音源�

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1-4 方向感:バイノーラル・プロセッサーローランド・サウンド・スペース・システムの基本原理は、1チャンネルの信号をデジタル信号処理によって、バイノーラル・サウンドに変換することです。この際に、さまざまなパラメーターによって、3次元立体音場を自在に作り上げることができますが、その働きを知り、使いこなしていただくためには、どのような仕組みでデジタル信号処理されているのかを理解しておく必要があります。

まず、3次元立体音場を作り出すうえで、もっとも重要なのが、音が聞こえてくる方向=方向感です。

立体空間に位置する音源から発生した音は、左右の耳に到達しますが、音源の位置によって左右の耳に音が届く際にわずかな時間差を生じます。例えば、リスナーの左側に音源がある場合、左の耳に音が到達し、わずかに遅れて右の耳に音が到達します。これは、音源から左右の耳への距離の違いでもあります。

この時間差は非常にわずかなものですが、人間は、このわずかな時間差を敏感に感じ取って、それをもとに音が聞こえる方向を判断しています。

また、左右の耳に到達する音は、時間差だけでなく、異なる周波数特性の変化も伴っています。これは、耳(外耳)の形や頭部の形(鼻の高さなど)によっても変化します(fig.1-5)。

●fig.1-5

例えば、左右の耳に音が到達する時間差だけでは、真正面にある音や真上(真下)、真後ろから聞こえてくる音を区別することができません。これらの場合は、いずれも音源から左右の耳が等距離にありますので、時間差は発生しないことになります。

ところが、真正面から聞こえてくる音と、真後ろから聞こえてくる音とでは、周波数特性が変化します。この周波数特性の変化も感じ取ることによって、音の方向感が決まります(fig.1-6)。

時間差�

周波数� 周波数�

レベル�レベル�

音源の方向によって、左右の耳に音が到達する際に時間差が発生します。また、左右の耳の周波数特性の違いによっても音源の方向を判断しています。�

音源�

6

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●fig.1-6

なお、このような音が聞こえてくる方向と、左右の耳に到達する音の時間差や周波数特性の変化を表す頭部音響伝達関数は、反射音がまったくない無響室で測定することができます。

ローランド・サウンド・スペース・システムでは、無響室で測定された頭部音響伝達関数により、左右の耳に到達する音の特性をシミュレートしています。

音源�音源�

音源�

音源が両耳から等距離にあるとき、時間差は発生しませんが、周波数特性の変化から方向を判断することができます。�

周波数�

レベル�

周波数�

レベル�

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1-5 距離感:ディスタンス・プロセッサー次に、3次元立体音場を実現するためには、音源との距離感も重要になってきます。一般に、遠くの音ほど小さく聞こえますが、その他にも音の反射や高域の減衰など、さまざまな要素を敏感に感じ取ることによって、距離感を判断しています。

まず、音源から出された音がダイレクトに耳に到達する場合を考えてみましょう。音源との距離が離れていれば、それだけ音が到達するまでに時間がかかります。また、それに伴って音圧(音量)も減衰します。そして、周波数が高い成分ほど減衰しやすいため、音源との距離によって高域がより減衰(周波数特性が変化)します。

さらに、距離感を感じ取る際に大切なのが反射音です。音源から直接耳に到達した音(直接音)に対して、反射音がより多く含まれていれば、一般的には音源が離れた距離にあると感じられます。

反射音には、さまざまな音がありますが、中でも距離感を決定する上で重要なのが一次反射音です。通常、音を聴くときは、床や地面の上にいますから、床面による一次反射音は距離感を感じ取るためには大きな要素となります。

音源から発生した音が床面に1回反射して耳に到達する音(一次反射音)は、直接音よりも長い距離を伝搬されるため、わずかな時間差を生じます。また、直接音と同様に音圧の減衰や高域の減衰があるほか、床面に反射したときに減衰したり(床面に吸収されたり)、あるいは反射特性によって周波数特性が変化します(fig.1-7)。

●fig.1-7

例えば、コンクリートや大理石のような、硬質な床面の場合には減衰も少なく、ほとんど吸収されることはありませんが、土やカーペット、木材などの場合には、音が吸収されることによって大きく減衰し、さらに高域ほど吸収されやすいため、周波数特性も変化します。

ローランド・サウンド・スペース・システムでは、反射特性や減衰などをパラメーターとして一次反射音をシミュレートすることにより、3次元立体音場に欠かせない距離感を表現しています。

音源�

直接音�

一次反射音�

��������������������������

一次反射音は直接音より長い経路を経て耳に到達するため、伝搬時間が異なります。�また、床面の反射特性や反射による減衰のため、音圧・周波数特性も変化します。�

8

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1-6 臨場感:リバーブ・プロセッサー広大な平地に立っている場合、方向感と距離感によって立体的な音場を表現することができますが、私たちが耳にする音のほとんどは、それ以外の反射音を含んでいます。例えば、部屋の中にいる場合であれば、壁や天井による反射音も耳に到達します。また、先の一次反射音と同様に、壁の反射特性や、壁との距離によっても反射音は複雑に変化します。さらに、部屋のように閉じられた空間では、床面や壁、天井などで反射した一次反射音だけでなく、複数回反射してから耳に到達する残響音も含まれます。

このような反射音、残響音による空間の大きさの感じ方や、臨場感については、すでにエフェクターのリバーブで経験していると思います。

実際に、部屋の大きさや形状、そして壁や天井の反射特性などをすべてシミュレートすることは、膨大な演算量を必要とするため、ローランド・サウンド・スペース・システムでは、同様の効果が得られるデジタル・リバーブの技術を応用しています。

ただし、通常のデジタル・リバーブは、2スピーカー・システムで再生するために設計されていますが、ローランド・サウンド・スペース・システムでは、立体的な空間の中での残響をシミュレートするために、残響音を3次元的に配置してます(fig.1-8)。

●fig.1-8

また、ローランド・サウンド・スペース・システムの大きな特長である音源の移動についても考慮されています。例えば、同じ空間内の残響であっても、音源の位置によって残響音は異なります。部屋の中央に音源がある場合と、壁に近い位置に音源がある場合とでは、残響音もそれぞれ異なったものになるのです。

音源�

直接音�

直接音、一次反射音だけでなく、壁面や天井の反射音も耳に到達します。�

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1-7 移動感:ディレイ・モード方向感、距離感、臨場感によって、3次元立体音場における音源の位置については表現することができますが、次に音源が移動する場合について考えてみましょう。

先の方向感、距離感、臨場感が時間とともに変化することによっても、音源の移動感を感じ取ることができますが、さらに直接音と一次反射音との干渉やドップラー効果によっても、移動感を感じ取ることができます。

直接音と一次反射音は、わずかな時間差を持っています。このため、このふたつの音を合成すると周波数特性に変化が現れます。一定の時間差を持ったふたつの音を合成すると、各周波数の位相のずれによって干渉が起こります。ある周波数では振幅がより大きくなり、またある周波数では打ち消し合います。

このように、わずかな時間差による干渉では、コームフィルター(櫛形フィルター)と呼ばれる周波数特性となり、フランジング効果が得られます(fig.1-9)。このコームフィルターは、時間差によって(音源との距離によって)連続的に変化します。この干渉による周波数特性の変化をシミュレートすることによって、音源の移動感を表現することができます。

●fig.1-9

�周波数�

レベル�

音源が移動すると、直接音と一次反射音の時間差(位相差)が変化するため、コームフィルターの特性も変化します。�

音源�

直接音�

一次反射音�

�������������

10

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また、音源が高速に移動することによりドップラー効果も得られます。音源が近付いてくる場合には、音波の周期が詰まるため、音の高さが上がって聞こえます。これとは逆に、音源が遠ざかっていく場合には、音波の周期が伸びるため、音の高さが下がって聞こえます(fig.1-10)。

●fig.1-10

これらの効果は、目の前を車や電車が通過する際に(あるいは電車に乗って踏切を通過する際に)経験したことがあることでしょう。

RSS-10では、ディレイ・モードによって、ドップラー効果をつけるかどうかを選ぶことができます。ABSOLUTE DELAY(アブソリュート・ディレイ)モードにすると、音源が移動したときに(音源と耳との距離が変化したときに)音が到達するまでの時間も変化してドップラー効果が付きます。また、RELATIVE DELAY(リラティブ・ディレイ)モードでは、音源との距離による遅れが付かないため、ドップラー効果は得られません。

どのような効果が得たいのかに応じて、ディレイ・モードの設定を選ぶようにしてください。

音源が近付いてくる場合� 音源が遠ざかる場合�

音源が近付いてくる場合は周期が短くなり、音の高さは高くなります。�音源が遠ざかる場合は周期が長くなり、音の高さは低くなります。�

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1-8 スピーカー再生:トランゾーラル・プロセッサーこのように、ローランド・サウンド・スペース・システムでは、方向感、距離感、臨場感、移動感をデジタル信号処理でシミュレートすることによって、モノラルの信号を立体的な空間の中に配置して、3次元立体音場を自在に作り出すことができます。

ただし、この結果得られた2チャンネルのバイノーラル・サウンドは、ヘッドホンでの再生を必要としますので、再生する環境が限定されてしまいます。

そこで、ローランド・サウンド・スペース・システムでは、バイノーラル・サウンドを通常の2スピーカー・システムで再生できるようにするためのトランゾーラル・プロセッサーを内蔵しています。

バイノーラル・サウンドは、左右の耳の位置で再生されたときに初めて3次元立体音場が実現できます。ところが、通常の2スピーカー・システムで再生する場合には、右耳用の信号が左耳へ、左耳用の信号が右耳へと到達してしまい(クロストーク)、理想的な再生が行えません。

そこで、これらのクロストークを打ち消すための信号を加えることによって、右のスピーカーから出た音を右耳だけに、左のスピーカーから出た音を左耳だけに伝えることができます。

トランゾーラル・プロセッサーでは、このようにバイノーラル・サウンドを2スピーカー・システムで再生できるように信号を加工します(fig.1-11)。

●fig.1-11

なお、RSS-10にはアウトプット・モードとして、BINAURAL(バイノーラル)モード[トランゾーラル・オフ]、SPEAKER(スピーカー)モード[トランゾーラル・オン]の他、HEADPHONES(ヘッドホン)モードも備えています。

これは、ヘッドホンで再生したときにもっとも理想的な3次元立体音場を実現するためのモードです。バイノーラル・サウンドをそのままヘッドホンで再生すると、真正面にある音源が正しく定位しないため、それを補って最適な状態で3次元立体音場を実現できるようにするのがHEADPHONESモードです。

HeHe

Hx Hx

��

クロストーク(Hx)を打ち消すような成分を加えることで、�両耳の位置でバイノーラル・サウンドが再生されるように�します。�

RL

12

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1-9 人間の聴覚と3D立体音場ここまで説明したきたように、ローランド・サウンド・スペース・システムでは、ダミーヘッド録音によるバイノーラル・サウンドをデジタル信号処理によってシミュレートし、さらにトランゾーラル・プロセッサーによって、スピーカー再生時にも3次元立体音場を実現することができます。

ただし、これらはあくまで理想的な状態で再生した場合であり、さらに人間の聴覚や知覚によっても感じ方が変わってきます。

例えば、立体的な空間に位置する音源の方向や距離を判断する際、音源が一定の位置にあると(移動しないと)判別しづらい場合があります。これは、私たちが普段何気なく行っている動作──音が聞こえてくる方向や距離がよくわからない場合、顔の向きを変えて確かめてみること──からもわかると思います。

顔の向きが変わることによって、相対的に音源の方向も変わり、先に説明した方向感(時間差や周波数特性の変化)が変わるためです。

これをローランド・サウンド・スペース・システムによる再生に置き換えると、音源を立体的な空間にただ配置しただけでは、方向感や距離感が感じられない(あるいは期待した効果が得られない)ことがあります。このようなときは、音源の位置を移動させることによって、方向感や距離感をよりはっきりと感じ取らせることができます。

また、人間の聴覚では(聞こえた音を判断する場合)、経験によって判断していることも数多くあります。例えば、ドップラー効果による移動感の場合、私たちが普段耳にしている効果をシミュレートすることによって、それと同じような移動感を感じ取ることができるわけです。

さらに、真正面や真上など、左右の耳に音が到達する際に時間差が生じない移動の場合でも、周波数特性の変化によって移動感を感じ取ることができますが、今までに聴いたこともないような音の場合、実際に音源が移動した際にどのような周波数特性が変化するのかわかりません。つまり、それまでの経験によって移動感を感じている部分も大きいことになるのです。

ローランド・サウンド・スペース・システムを使えば、実際の環境に関係なく、音源を自由な位置に配置することができますが、このような人間の耳の特性や感じ方によって思ったような効果が得られないことがあることも理解しておいてください。

さらに、ローランド・サウンド・スペース・システムでは、リスナーの位置を基準として音源の位置を決めているため、音源が移動しているのか、あるいはリスナーが移動しているのかを(それだけでは)判断することができません。

例えば、映像にサウンドを付けたり、バーチャル・リアリティで映像にサウンドを加える場合、音源が移動しているのか、リスナーが移動しているのかは、映像などの他の知覚情報によって大きく左右されます。カメラ・アングルが大きく移動すれば、それに伴った音源の移動はリスナーの移動として感じられるはずです。

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1-10 ヘッドホン再生とスピーカー再生ローランド・サウンド・スペース・システムでは、1チャンネルの信号を3次元立体音場に配置して、それをヘッドホンあるいはスピーカーで再生することができます。

ヘッドホンで再生するか、スピーカーで再生するかは、どのような環境でサウンドが利用されるのかによって変わってきます。それぞれの特徴を理解したうえで、ヘッドホン再生用として作成するのか、スピーカー再生用として作成するのかを選択してください。

ヘッドホン再生の場合、クロストークなどの影響を考えなくてもよいため、より理想的な状態で3次元立体音場を実現できます。また、再生するサウンド以外の環境音(周りから聞こえてくる音)についてもほとんど遮断することができますので、ローランド・サウンド・スペース・システムの効果を最大限に引き出すことができるでしょう。

ただし、ヘッドホンを付けることによって、再生できる場所が限られますし、さらにはヘッドホンは頭部と一緒に動いてしまうため、顔の向きが変われば同じように音像も移動してしまいます。

スピーカー・システムで再生する場合は、一般的な環境で再生できるというメリットがあります。また、映像に連動したサウンドやマルチメディア・タイトルのサウンドの場合、映像の位置が固定されているため、スピーカー・システムを固定的に配置することができます。

しかし、この場合はスピーカー・システムの中央で聞いたときに理想的な3次元立体音場が得られるため、リスナーの位置が限定されてしまいます。また、顔の向きを変えると、トランゾーラル・プロセッサーによる効果が思いどおりに得られないことがあります。

さらに、スピーカー・システムで再生する場合、スピーカーとリスナー(耳)との間には一定の距離があるため、床面などによる一次反射音や壁の残響音が加わってしまいます。このため、リスナーのすぐ近くに音像を配置したい場合に、思ったような効果が得られない(ある距離から近付くことができない)ことがあります。

スピーカーで再生するときは、床面にカーペットを敷いたり、窓など音が反射しやすい部分にカーテンをするなど、できるだけ音が反射しないような再生環境にしてください。なお、再生環境については、5章で詳しく説明しています。

1-11 ダミーヘッド録音とローランド・サウンド・スペース・システムローランド・サウンド・スペース・システムにより、音源を3次元立体音場に自由に配置したり移動することができますが、あらゆるソースに対して有効なわけではありません。使用する目的や得たい効果によっては、ダミーヘッドによる録音が効果的な場合もあります。

ローランド・サウンド・スペース・システムでは、1チャンネルの信号を3次元の立体的な空間内に自由に配置したり移動できますが、複数の音を配置したい場合には、それぞれ個別に処理しなければなりません。RSS-10では、ステーショナリー・モードで2チャンネル、フライング・モードでは1チャンネルの音源を定位させることができますが、それ以上の信号を同時に処理するためには、複数台のRSS-10が必要になります。

例えば、環境音(街の雑踏など)は、個別の音をローランド・サウンド・スペース・システムで処理するよりは、ダミーヘッド録音を行った方が簡単ですし、また、より自然な効果が得られます。

環境音とローランド・サウンド・スペース・システムによるサウンドを組み合わせたい場合は、ダミーヘッド録音のサウンド(バイノーラル)と、RSS-10のバイノーラル・サウンドをミキシングします。また、ミキシング後のサウンドを、RSS-10のトランゾーラル・プロセッサーでスピーカー再生用に処理します(fig.1-12)。

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●fig.1-12

1-12 バイノーラル・サウンドの保存ローランド・サウンド・スペース・システムで作成されたスピーカー再生用のサウンドやヘッドホン再生用のサウンドは、バイノーラル・サウンドに戻すことはできません。制作過程や、将来サウンドの修正や変更が考えられる場合には、必ずバイノーラル・サウンドの状態、あるいはモノラル信号+RSS-10のセッティング・データの形で保存してください。

RSS-10では、バイノーラル・プロセッサーを使用せずに、トランゾーラル・プロセッサーのみを使用することができます。あらかじめ収録されたバイノーラル・サウンド(ダミーヘッド録音のサウンドやバイノーラル・プロセッサーで処理されたサウンド)をトランゾーラル・プロセッサーで処理することによって、スピーカー再生用、ヘッドホン再生用のサウンドを作ることができます。

1-13 RSS-10のファンクション・モードRSS-10では、ローランド・サウンド・スペースによる3次元立体音場を作り出すことができますが、どのような目的で利用するのかに応じて3つのファンクション・モードを備えています。

STATIONARY(ステーショナリー)モードでは、3次元の立体空間の中で音像を固定して配置することができます。例えば、ステージ上の楽器の配置に応じて音像を定位させる場合など、音像が移動しないケースで使用します。ステーショナリー・モードでは、1台のRSS-10で2チャンネルの音像定位が行えます。

FLYING(フライング)モードでは、3次元の立体空間内で音像をリアルタイムに移動することができます。フライング・モードでは、1台のRSS-10で1チャンネルの音像定位が行えます(INPUT Aに入力された信号を音像定位します)。

TRANSAURAL(トランゾーラル)モードでは、バイノーラル・サウンドをスピーカー再生用、あるいはヘッドホン再生用のサウンドに変換します。バイノーラル・ミックスを行う場合には、ミックスされたサウンドをトランゾーラル・モードで目的に合わせた再生方法用のサウンドに変換するときに使用します。

ミキサー�

アウトプット・モード�=BINAURAL

ファンクション・モード�=TRANSAURAL

モノラル信号�

ダミーヘッド�

バイノーラル・サウンドの状態で、ダミーヘッドの信号やRSS-10で処理した信号をミキシングした後、トランゾーラル・プロセッサーでヘッドホン再生用、あるいはスピーカー再生用のサウンドに変換します。�

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2 ノウハウ編

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2-1 前から後ろへ流れ去っていく感じを出すには音が出ている物体が前方にあって、その物体に近付き通り越していくような効果(リスナーが移動するケース)、あるいは前方から音がまっすぐにリスナーに向かってきて後方へ流れ去っていくような効果(音源が移動するケース)を表現したい場合、そのとおりに軌跡を描いても、はっきりとした効果が得られないことがあります(fig.2-1)。

これは、音像を真正面や真上、真後ろなどに定位させた場合、左右の耳との距離が同じになり、音像が移動しても左右の耳に届く音の音量差や時間差が発生しないためです。

このような効果を、よりはっきりと表現したいときは、真正面から向かってくるのではなく、少し斜めからリスナーの位置を通って後方に移動させるといいでしょう。音像をわずかに左右にずらすことによって、音像が迫ってくる感じや後方へ去っていく感じをはっきりと表現することができます。また、複数の音を移動させる場合には、右前方→左後方、左前方→右後方へと交互に移動させるといいでしょう(fig.2-2)。

●fig.2-1 ●fig.2-2

2-2 上下感の演出音像を上下に移動させたい場合、特に真正面で上下に移動させる場合、そのような軌跡を設定しても期待した効果はなかなか得られません(fig.2-3)。これは、人間の耳では、左右の耳から等距離にある音像の移動を判断することが難しいためです。

このようなときは、左右の動きを伴わせると効果的です。例えば、リスナーの真横から始まり、真下、反対側の横、真上とリスナーを取り巻くように移動させれば、ほとんどの人が音像の上下の移動を感じ取ることができます(fig.2-4)。

また、音像を直線的に上下に移動させたいときは、左右の移動を伴うようにするか、真正面ではなく少し左右にずらしたうえで上下に移動させるといいでしょう。例えば、左上から右下へと移動するようにしたり、真横の位置で上下させるとはっきりとした効果が得られます(fig.2-5)。

なお、どうしても真正面の位置で音像を上下に移動させたいときは、床の反射(一次反射音)を利用する方法を試してみてください。あらかじめ一次反射音がはっきりとわかる状態にした上で音像を移動させると、一次反射音の音量変化などによって、上下の移動感を表現できることもあります。

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●fig.2-3 ●fig.2-4 ●fig.2-5

2-3 迫ってくる音/遠ざかっていく音の移動感ジェット機が正面から滑走路を直進し(こちらに向かってきて)、頭上を離陸していく効果を作りたいときや、人がしゃべりながら歩いていくようすを表現したいとき、あるいはヘリコプターが飛来してくるようすを表現したいときなど、期待どおりの効果が得られないことがあります(fig.2-6)。

通常のステレオ再生の場合は、音量やパンポット、リバーブなどを組み合わせてこのような効果を表現しようとしますが、なかなかリアルに表現することはできません。また、RSS-10で処理する場合も、単に音像を移動したり、それに伴うリバーブの変化などだけではリアリティに欠ける場合があります。

このようなときは、床の反射を利用するといいでしょう。はっきりとした効果が得られないときは、必要に応じてフロア・カラーやリフレクションを調節してみてください。微妙にニュアンスが変化します(fig.2-7)。

また、ドップラー効果を利用することも有効な方法です。救急車が目の前を走り過ぎていくようなはっきりとしたドップラー効果だけでなく、わずかにかけることによってリアルな移動感が得られます。

●fig.2-6 ●fig.2-7

������������

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2-4 迫力のあるリアルな移動感RSS-10では、音像の移動を自由にコントロールすることができますが、自動車や飛行機、砲弾など、高速で移動する物体を3次元立体音場でリアルに表現したいときなど、迫力を出すことが難しい場合があります。また、高速で広い範囲を移動する物体の場合、音像との距離によって音量が大きく変化してしまいます。

音像が遠くにあるときは音量が小さすぎ、目の前を通過するときだけ瞬間的に最大音量になると、ほとんどの場合、迫力に欠けることになります。

このようなときは、大きな空間を表現するための残響のほかに、もう1台のRSS-10を使用して比較的近くの反射物による反射音(小さな空間の残響)を加えることで、接近してきたときの迫力を増すことができます(fig.2-8)。また、近くの反射音を加えることによって、音像が近付いてきたときに、顔のそばに張り付いてしまったように聞こえる感じを抑えることができます。

●fig.2-8

RSS-10(B):小さな空間�

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2-5 音像が遠くから近付いてくるときのスムーズな移動感と臨場感音像が遠くから近付いてくるときに、スムーズに移動する感じとその場(音場)の臨場感を出したい場合、例えば、マーチング・バンドのように楽器を演奏しながらリスナーに近付いてくる感じを表現したいときは、2台のRSS-10を使用するといいでしょう。

RSS-10では、音の響く空間をひとつだけシミュレートしています。例えば、ルーム・サイズを40m、リバーブ・タイムを4secに設定すると、おおよそ一辺が40mぐらいのエリアの周りに反射物がある設定の3Dサウンドが作られます。このとき、エリア内には何も反射物が存在しないという状態になります。

人間の耳は、近くの反射音がないと、音像は実際の位置より近くに、場合によっては顔のそばに張り付いたように感じることがあります。現実には、近くに何も反射物がない状態というのはほとんどありえません。何かしらの反射物があり、複雑なサウンドに変化することによって、遠くから近付いてくる音像の定位感を感じ取っています。

このため、RSS-10でスムーズな移動感と臨場感を表現したいときには、リスナー近くの反射物をシミュレートすると効果的です。具体的には、まず1台のRSS-10で想定する広さの空間を作ります。そして、もう1台のRSS-10で近くの反射音を加えます。例えば、ルーム・サイズ4m、リバーブ・タイム0.2sec、リバーブ・レベル最大に設定し、直接音はカットします(反射音だけを加えるようにします)。また、ウォール・カラーをCold側に設定すると、さらに効果的でしょう。

このように、2台のRSS-10を設定し、並列に接続した上で同じポジション(あるいは軌跡)を与えてコントロールすることによって、スムーズな移動感と臨場感を表現することができます。

2-6 ダミーヘッド録音とのミックスRSS-10を使うことによって、さまざまな3Dサウンドを作り出すことができますが、街の雑踏や草原の背景音などを個別に定位させてミックスするのは、あまり得策とはいえません。収録可能な音は、ダミーヘッド・マイクを使って収録し、必要に応じてそれにRSS-10で処理した音をミックスするようにしましょう(fig.2-9)。

●fig.2-9

RSS-10で作り出されるバイノーラル・サウンドは、そのままダミーヘッド・マイクで収録されたサウンドとミックスすることができます。このとき、ダミーヘッド・マイクで収録したサウンドの残響音に合わせてRSS-10の各パラメーターを設定するといいでしょう。残響の時間や音質など、できるだけダミーヘッド・マイクで収録したサウンドに近付けることによって、スムーズにRSS-10で処理したサウンドをミックスできます。また、設定パラメーターの数値にはあまりこだわらずに、ヘッドホンなどでモニターしながら耳で確認した方がいいでしょう。

ミキサー�

RSS-10

ダミーヘッド�

BINAURAL

BINAURAL

ヘッドホン�(モニター)�

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2-7 遠くから顔のそばまで近付いてくる小さい音源部屋の端から蚊が飛んできて、顔の周りにまとわり付くように飛び回る効果のように、小さい音源が遠くから顔の近くまで近付いてくる効果を得たいときは、RSS-10で軌跡を設定することのほかにもいくつかのポイントがあります。

まず、遠くから近くまで、音像の移動に合わせて音量の変化をはっきりと出すために、クリッピング・エリアを頭の半径ぐらいまで小さく設定します。通常は、最小値の0.16m(16cm)に設定しておけばいいでしょう。

また、単純に音像が近付いてくる、あるいは離れていくよりは、遠くなったり近くなったり、前後左右に移動したりと、音像の方向や距離に変化をつけると効果的です。さらに残響については、あまり残響音が多く含まれるよりは、リバーブ・タイム、リバーブ・レベルともに抑え気味にしておいた方がいいでしょう。残響については、3Dサウンドの想定される環境(ベッドルーム、会議室、竹薮など)に応じて調節してください。

2-8 広大な空間の背景音背景音が必要でも、ダミーヘッドで実際に収録できない場合(ダミーヘッド・マイクが用意できない場合など)、RSS-10で3Dサウンドを作り、それを合成して背景音として使用することになるでしょう。しかし、背景音に含まれるすべての音をひとつひとつRSS-10で処理していくのでは、膨大な時間と作業が必要となってしまいます。

このようなときは、まず要素となる音素材をリスト・アップして、それぞれの定位または動きをあらかじめ決めておきます。また、サンプラーを2台(1台はステレオ・サンプリング可能なもの)使用するといいでしょう。

1台目のサンプラーにモノラルの音素材をサンプリングし、RSS-FXで音の定位または移動をコントロールしながら、もう1台のサンプラーにステレオ・サンプリングします。この状態で、音素材レベルで3Dサウンドに処理されたバイノーラル・サウンドをMIDIキーボード上にマッピングしていきます。

同様の手順で、必要となる音素材をサンプリングし、MIDIキーボード上の異なるキー(あるいは音域)にアサインします。あとはMIDIキーボードをリアルタイムに演奏して、3Dサウンド処理された音を背景音として聞こえるように仕上げます(fig.2-10)。

●fig.2-10

サンプラー�MIDI IN

MIDI OUT

RSS-10

サンプラー�音素材�

鍵盤上に3Dサウンドでステレオ・サンプリングされた音をアサインする�

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この方法では、下準備に手間がかかりますが、やり直しが簡単に行える点や感覚的に仕上げていける点でメリットがあります。また、MIDIキーボードの演奏をMIDIシーケンサーなどにリアルタイム・レコーディングしておけば、背景音の鳴る順番や間隔などを修正することも可能になります。

音素材の数だけRSS-10を用意することによっても、同様の処理は可能になりますが、システムが大掛かりになってしまったり、接続やコントロールが複雑になります。サンプラー2台とRSS-10を使用すれば、比較的小規模なシステムで背景音を作ることができます。

2-9 定位感のないイメージ・サウンドどこからともなく聞こえてくるイメージ・サウンドを作りたい場合は、次のようにするといいでしょう。

RSS-10は、立体的な空間の中に音を定位させるプロセッサーですから、そのままでは空間内のどこか1点に音像が定位することになります。しかしながら、RSS-10で作り出される3Dサウンドの残響音を利用することによって、定位感を持たないサウンドを作り出すことができます。

RSS-10の残響音はリスナーを取り囲むように立体的に聞こえます。このため、簡易的な方法として、直接音をカットして残響音だけを使うと、方向感/定位感のないサウンドを作ることができます。このとき、直接音はカットされても、音像の位置によって残響音が変化する点に注意してください。

まったく方向感のない3Dサウンドを作るときは、中心(リスナー)付近に定位させるとよいでしょう。また、逆に、定位をずらすことによって微妙な方向感/定位感を持たせることも可能になりますので、得たい効果によって定位を変えてその効果を確かめてみるとよいでしょう。

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2-10 別の空間で音が響いている感じを表現したい現在のRSS-10では、音が響く空間を、リスナーを中心としたひとつの空間としてシミュレートしています。ですから、リスナーのいる空間内に、別の空間(部屋など)があり、その中で響いているような効果を得たいときには少し工夫する必要があります。

例えば、リスナーの左前方に小さな部屋があり、その中で響いている音が聞こえてくるようなケース(fig.2-11)を例にとってみましょう。

このような場合は、2台のRSS-10を使用して左前方の近接した2点に定位させ、さらに別のリバーブで加えた残響音をその2点に定位させるといいでしょう。リスナーの周りの空間内にある別の部屋の中での響きを表現することができます。

●fig.2-11

RSS-10でシミュレートされる空間�

小さな空間�

リバーブ�

RSS-10

RSS-10

音源�

22

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2-11 音像の大きさと迫力あるサウンドRSS-10では、立体的な空間の中ではっきりと音を定位させることができます。しかし、人間の音に関する非常に優れた認知能力からすれば、まだまだ表現することが難しい部分もあります。例えば、空間内の1点に定位するということは、そのままでは音像の物理的な大きさ(サイズ)を表現することはできません。

ところが、実際の3Dサウンドの作成においては、リスナーに迫ってくる迫力あるサウンドなど、音像の物理的な大きさを表現したい場合もあります。RSS-10で音像の物理的な大きさを表現したい場合は、次のようにするとよいでしょう。

音像の大きさを表現するためには、RSS-10を2台あるいは3台使用します。つまり、近接した複数のポジションでひとつの音像の大きさを表現することになります。また、音像を移動するときは、複数のポジションの相対的な位置を保ったまま同時に移動させます。

このように、複数のポジションでひとつの音像を表現することによって、音像の大きさや、近付いてきたときの圧倒的な迫力を演出することができます。

2-12 前方定位感ヘッドホン再生時に、前方に定位させたいときや、スピーカー再生時にスピーカーより奥に定位させたいときは、次のようにするとよいでしょう。

ヘッドホン再生時の頭外前方定位は、どのような方式を使用しても非常に難しいとされています(通常のステレオ再生では、中央に定位させた音は頭の中で鳴っているように聞こえます)。RSS-10の場合も、パラメーター設定で頭外の前方に定位させても、そのとおりに聞こえないケースがありますが、次のようにすることである程度近い感じを表現することができます。

ルーム・サイズを4m、リバーブ・タイムを0.2sec、リバーブ・レベルを最大にして、直接音を若干(数デシベル)下げると、リバーブを加えたという感じにはならずに、音像が引っ込んだ感じとして聞こえます。また、このときリバーブ・タイムを長くすると、リバーブ成分が目立って残響臭さが出てしまいますので注意してください。

音色については、ウォール・カラーで調節することができます。好みの音色が得られるようにウォール・カラーを調節してみてください。また、フロア・ディスタンスも定位感に大きく影響を与えますので、モニターしながら調節してみましょう。

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