[15.06.22] intro to "白石和紙"

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白石和紙 - 現状と今後の展望について - 小野寺 志乃 [ Onodera Shino ] 一般社団法人FLAT 代表理事 http://flatjp.com FabLab SENDAI - FLAT 代表/デザイナー http://fablabsendai-flat.com

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白石和紙 - 現状と今後の展望について -

小野寺 志乃 [ Onodera Shino ]

一般社団法人FLAT 代表理事

http://f lat jp.com

FabLab SENDAI - FLAT 代表/デザイナー

http://fablabsendai-f lat .com

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白石和紙とは

江戸時代頃から周知のものに 白石和紙の生産は、伊達政宗の殖産奨励(植樹令など・1618年)によって拡大され、奉書から厚紙、

ちり紙など約60種の和紙が漉かれ、藩内の需要を満たしていたといわれています。

元々は農閑期の内職として、白石の領内では約300件の農家が紙漉きを行なっていました。

白石和紙の原料には、様々種類のある楮(こうぞ)の中でも、非常に細く長く強靭な繊維をもつ雌のカジノキが使用されています。

約300年間作り和紙を漉き続けた遠藤家 2005年頃には既に白石市内唯一の紙漉き工房となった遠藤家。

江戸時代中期に紙漉きを始め一度衰退をしたものの、1931年に故・遠藤忠雄氏が伝統の復興を志し工房を設立。

2015年4月に幕を閉じるまで、妻の遠藤まし子氏らにより和紙の製造が続けられてきました。

白石和紙から作られる「紙布」「紙子」 白石和紙は書画・ 記録用紙としてだけではなく、

衣類などを作るための素材としても使用されてきました。

細く切った紙を糸にして布を織り出す「紙布(しふ)」や、

こんにゃく糊を染み込ませた揉み紙で作られた「紙子(かみこ)」を用いて、

労働着から高級品まで様々な衣類が仕立てられたそうです。

白石和紙が大変強靭で柔らかな紙であるということだけでなく、布の原料として

用いられる「綿」が、白石地方では栽培困難であったということがこの背景にあります。

〈白石和紙を用いた生産品の例〉

1940年(昭和15年)頃~ 外務省/第二次世界大戦降伏文書等

1973年(昭和48年)~ 東大寺/お水取りの紙衣用

1982年(昭和57年) ISSEY MIYAKE/パリコレクション 遠藤まし子しによりつくられた「紙布織」

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白石和紙の製造工程

1.こうぞ蒸し 切り取った楮の生木を1m程度に切り揃えて束ね、釜に入れて2~3時間蒸し上げたのち、表皮を剥ぐ。

2.こうぞ引き 和紙づくりでは一番内側の白皮のみを使用するため、不要な黒皮、緑色の甘皮などを丁寧に削り取る。

3.白皮干し 白皮は剥いだらすぐに干す。特別に白い紙にするため、雪にさらす「雪ざらし」という方法をとることもある。

4.草洗い 干した白皮を清水に浸してざぶざぶ振り動かしながら、ごみや黒皮を洗い出し、ざるに入れて水に浸しておく。

5.草煮(くさに) ソーダ灰を入れた湯を沸かし、白皮をほぐして入れ、蓋をしてよく煮る。この後からは白皮を「かみくさ」と呼ぶ。

6.草出し 「かみくさ」をざるに入れて水に浸し、一本一本指先で引き上げながら、変色部分やごみ等を指先で千切り捨てる。

7.草打ち 草出しした「かみくさ」を厚い板台の上に乗せ、角長の木のたたき棒で叩いて繊維一本一本をほぐしていく。

8.ざぶり 木箱に水を汲み「かみくさ」を入れ、馬鍬(まぐわ)を強く前後に動かして、繊維を完全にほぐしていく。

9.紙漉き すきふねに「かみくさ」とネリ(トロロアオイの根の汁)を入れ、漉き桁と漉き簀を使って紙を漉いていく。

10.紙くれしぼり 漉いた紙は台の上に重ねる。これを「紙床」や「紙くれ」という。一晩おいた「紙くれ」に圧をかけて水を絞る。

11.紙乾し 水気を切った紙は、晴天の日を待って干す。干し板を台にのせ、紙の表面を刷毛で丁寧になでつけて張り付ける。

12.紙断ち仕上げ 板から剥がした紙の裏表、厚み、白さの同じような質のものを揃え、紙の寸法によって四方を小刀で裁断する。

(画像引用元:http://www9.plala .or. jp/krafuto/washi/kotei .html)

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白石和紙の現状

2015年4月に「白石和紙工房」閉鎖 職人の高齢化、白石市の宅地開発等の理由により工房閉鎖。

代表の遠藤まし子氏によると、今後事業再開の目処は無く、工房自体も取り壊しなどの可能性があるとのことです。

市民グループ「蔵冨人」による保存活動 白石市内で約20年間地域おこし活動をしている市民グループ「蔵冨人(くらふと)」メンバーらにより、

原料の楮の栽培や、和紙を使ったあかりづくりワークショップ等が長年行なわれてきました。

加えて、2015年からは紙漉きも開始され、近隣小中学校の卒業証書の制作が予定されているなど、

これまで以上に精力的な保存活動に取り組まれています。

また、「蔵冨人」はこれまで20年近く「白石和紙工房」で使用される楮を栽培し、納めてきたという実績があり、

現在も引き続き遠藤まし子氏や職人らによる和紙づくりの指導を受けています。

「蔵冨人」による和紙あかりワークショップの様子「蔵冨人」による和紙づくりの様子

(画像引用元:http://www.kahoku.co. jp/tohokunews/201505/20150513_15017.html)

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白石和紙 蔵富人紙 指定の条件

「白石和紙」と認定される条件は特に定められておらず、宮城県白石市で作られる和紙は総称してそのように呼ばれており、

「白石和紙工房」で作られてきた和紙も「蔵王紙」と呼ばれることもあります。

そこで、「蔵冨人」は「白石和紙工房」で行われてきた和紙づくりの技術保存を目的とし、この度新たに条件を定めました。

一、幻聴は白石産 虎斑の楮「かじのき」のみであること。

二、伝統的な製法と製紙用具によること。

  「皮引き」「草出し」による白皮作業を行う。

  煮熟には草木灰またはソーダ灰を使用すること。

  薬品漂白を行なわず、添料を紙料に添加しないこと。

  叩解は手打ちまたはこれに準じた方法で行うこと。

  抄造はトロロアオイまたは植物性の「ねり」を用い

  竹簀により用途に応じ伝統的な4種を漉き分ける。

  板干しまたは鉄板による乾燥であること。

三、伝統的な白石和紙の色沢、

  地合等の特質を目指し保持すること。

白石和紙の漉き方4種

1.溜め漉き 厚手の紙、芯紙など。

2.漣(れん)漉き 帳面紙、書画用紙、障子紙など。

3.流し漉き 水引や紙布を織る紙糸を作る紙など。

4.十文字漉き 紙衣や合羽紙など。

楮畑 カレンダー

3月 「トロロアオイ畑耕し」

5月 「トロロアオイ種蒔き」「楮 芽かき」

6月 「楮畑 草刈り・剪定・追肥」

7月 「楮畑 草刈り・剪定・トロロアオイ土寄せ」

8月 「楮畑 草刈り・水撒き」

10月 「トロロアオイ収穫」「楮畑草刈り」

12月~3月 「楮収穫」

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当方のこれまでの活動

2012年2月より白石和紙工房へ継続的に訪問 2012年2月より白石和紙工房へ継続的に訪問し、白石和紙の歴史や工房の成り立ち、和紙づくりなどについて

代表の遠藤まし子氏、職人のみなさんよりお話を伺いしてきました。

また、せんだいメディアテークの白石和紙技術のアーカイブ事業について、コーディネーターとして参加いたしました。

2013年より紙布織技術所持者に師事 遠藤まし子氏に師事し、仙台市在住の染色作家である大金暁子氏より、

白石和紙を用いた紙糸づくり及び紙布織についてご指導いただいております。

また現在、紙糸づくりに必要な糸車をレーザーカッターを使用して制作し、

広く一般の方にも紙布織を体験していただくためのワークショップの企画を行っています。

「蔵冨人」のメンバーとして保存活動に従事 2014年より「蔵冨人」の活動に参加し、和紙づくりのほか、和紙あかりワークショップ等の企画運営に参加しています。

2015年夏からは、和紙を用いた新たなプロダクト開発を「蔵冨人」メンバーと共に実施予定です。

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今後の展開

白石和紙及びその他和紙の性質調査の実施 職人の高齢化や後継者育成の困難さなど、和紙が抱える課題は多数存在しています。あまり多くは議論されませんが、その中でも「和紙」の定義

の不明瞭さもまた大きな課題であると言えます。日本工業規格の「紙・板紙及びパルプ用語」(規格番号 JISP0001)では、和紙を「我が国で発

展してきた特有の紙の総称」とし、また、「参考」として「手すき和紙と機械すき和紙とに分類される。本来は、 じん皮繊維にねりを用い、手す

き法によって製造された紙。現在では化学パルプを用い、機械すき法によるものが多い。」としています。

そのため、一般に広く流通する和紙の多くが「外国製」や「機械抄き」であったり、また国内産の手すき和紙であっても、原材料に外国産のもの

や洋紙原料(木材パルプ)が含まれているというのが現状です。和紙の文化的、伝統的な価値、その特性が見直されている昨今ですが、このよう

な和紙にまでその価値や特性あるのかが問われています。

そこで、和紙そのものについての化学的、物理的性質について調査を実施し、特性や洋紙との差異についてきちんと把握した上で、商品開発につ

なげていきたいと考えています。

デジタルファブリケーションを活用した技術継承・発展への取り組み 当方は、レーザーカッターや3Dプリンタ等のデジタル工作機器を備えたものづくり工作室を運営しています。それらの機材を活用し、アナログで

は継承が困難であった和紙づくりに必要な道具の制作や、和紙の新たな活用可能性について研究に取り組んでまいります。

また機材の使用だけではなく、工作室に集まる様々なバックグラウンドを持つユーザーとのやりとりを通じ、これまであまり行なわれることのな

かった分野の技術と和紙とのマッチングを行いたいと考えています。

「蔵冨人」のメンバーとしての和紙技術保存・啓蒙活動 今後も引き続き「蔵冨人」メンバーとともに、和紙づくりに取り組み、その技術保存・継承を行なっていきます。加えて、これまではワークショッ

プの開催を通じての啓蒙活動がメインでしたが、これからは商品や和紙グッズキットの開発などを行ない、白石市外ないしは海外の人々に向けて

の情報発信にも取り組んでいきたいと考えています。