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10 群-8 編-4 章〈ver.1/2019/1/30〉
電子情報通信学会「知識ベース」 © 電子情報通信学会 2019 1/(21)
10群(集積回路)- 8編(集積化センサとマイクロマシン)
4 章 MEMS ジャイロスコープ 【本章の構成】
本章では以下について解説する. 4-1 はじめに 4-2 ダブルジンバルモデル 4-3 振動型ジャイロスコープの動作原理 4-4 検出回路 4-5 MEMS ジャイロの例 4-6 高感度化のためのデバイス構造設計 4-7 周波数安定度 4-8 まとめ 補遺 4-A 回転の角速度が時間変化する場合の検出系の変位 4 章演習問題
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10群-8編-4章
4-1 はじめに (執筆者:鈴木健一郎)[2018 年 8 月 受領]
振動型 MEMS ジャイロスコープ(ジャイロセンサ)は,小型であるにも関わらず高い分解
能を持ち,しかも量産可能であることから,民生量産品に広く使用されている.現在,振動型
MEMS ジャイロスコープは“Rate Grade”に分類される性能を持っている(3 章 3-1 節表 1・1 で
は Automotive グレードとして記載)1).これは,代表的に 1~10 Hz の帯域で 0.5 deg/sec(1800 deg/h)の分解能を持つ低感度のセンサである.x, y, z の 3 軸に対して直線を検出する加速度セ
ンサと軸周りの回転を検出するジャイロスコープを組み合わせたセンサを種々の慣性計測装
置(IMU:Inertial Measurement Unit)へ適用するための技術革新が進んでいる(表 1・1).今後,
幅広い応用に適用させるために,広帯域化(10~100 Hz)と高感度化(1~10 deg/h)すること
が求められる.
表 1・1 自動車用 IMU センサとその応用 2)
検出軸 応 用
Ωz
ay, ax
ACC(Adaptive Cruise Control),
AFS(Active Front Steering)
HHC(Hill-hold Control)
ESP®(Vehicle Dynamics Control)
Ωx
az, (ay)
RSC(Roll-stability Control)
RoSe(Rollover Sensing)
近年の MEMS センサの感度とバイアス安定性の目覚ましい向上は,主に,①検出回路の集
積化,②機械ばねの機械的カップリングの抑制,③高周波化,の改良によって実現されたが,
各々の改良によりほかの性能が劣化するという深刻なトレードオフが一般に存在する.このた
め,ジャイロスコープの設計においてはこのトレードオフをよく理解することが重要である.
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10群-8編-4章
4-2 ダブルジンバルモデル (執筆者:鈴木健一郎)[2018 年 8 月 受領]
図 2・1 はダブルジンバル構造を持つ振動型 MEMS ジャイロスコープの構成を示したもので
ある.振動型ジャイロスコープは駆動系と検出系の 2 つの機械システムから構成されており,
このモデルでは X 方向に動作する駆動系の内部に Y 方向に動作する検出系が形成されている.
検出系(s の添え字で表記)は,慣性質量 m(検出系可動電極の質量を含む)を持つ機械構造
体がばね定数 ks と減衰係数 bs と結合した機械振動モデルによって表現できる.一方,駆動系
(d の添え字で表記)は,慣性質量 M(m を含む)を持つ機械構造体がばね定数 kdと減衰係数
bd と結合した機械振動モデルによって表現できる.ダブルジンバル構造では慣性質量 m と Mはそれぞれ Y 軸と X 軸のみに動作することが許されていることに注意されたい.
図 2・1 ダブルジンバル構造の模式図
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10群-8編-4章
4-3 振動型ジャイロスコープの動作原理 (執筆者:鈴木健一郎)[2018 年 8 月 受領]
振動型ジャイロスコープはコリオリ力によって生じた検出系慣性質量の変位を測定して機
械系に加えられた回転速度の検出を行っている.コリオリ力は運動する質量に作用する回転座
標系から見た力である.振動型ジャイロスコープではコリオリ力によって発生する微小なセン
サ変位を拡大するために,共振現象が利用される. 4-3-1 コリオリ力
図 2・1 に示した X-Y 座標軸をダブルジンバル構造に固定して Z 軸を中心として角速度ベクト
ル𝛺𝛺で回転するとき,X-Y 座標系は静止座標系に対してその原点を共有する回転座標系とみる
ことができる.図 2・1 のダブルジンバル構造の慣性質量 m に力 f が働くとき,回転座標系でみ
ると慣性質量 m の運動方程式は以下のようになる.
𝑚𝑚𝛼 = 𝑓𝑓 − 2𝑚𝑚𝛺𝛺 × 𝑣𝑣 − 𝑚𝑚 𝑑𝑑𝛺𝛺
𝑑𝑑𝑑𝑑 × 𝑟𝑟 − 𝑚𝑚𝛺𝛺 × 𝛺𝛺 × 𝑟𝑟 (3・1)
ここで,𝛼 と 𝑣𝑣 は回転座標系(図 2・1 の X-Y 座標系)でみた値を示している.式(3・1)の右
辺に示されているように回転座標系には三種類の見掛けの力が現れる.右辺第二項の力をコリ
オリ(Coriolis)の力,第四項の力を遠心力と呼んでいる.コリオリ力は回転座標系内部で速度
を持つ質量に作用する見掛けの力である.また,右辺第三項の力は回転運動の加速度による力
である.いま,検出系の慣性質量 m に以下のようなばね復元力と減衰力からなる力が Y 軸方向
に作用する場合を考える.
𝑓𝑓𝑦𝑦 = −𝑘𝑘𝑠𝑠𝑦𝑦 − 𝑏𝑏𝑠𝑠𝑦 = −𝑚𝑚𝜔𝜔𝑛𝑛,𝑠𝑠2 𝑦𝑦 − 2𝑚𝑚𝜁𝜁𝑠𝑠𝜔𝜔𝑛𝑛,𝑠𝑠𝑦 (3・2a)
この力を式(3・1)に代入することにより,検出系の Y 軸方向の運動方程式が得られる.
𝑚𝑚𝑦 + 2𝑚𝑚𝜁𝜁𝑠𝑠𝜔𝜔𝑛𝑛,𝑠𝑠𝑦 + 𝑚𝑚𝜔𝜔𝑛𝑛,𝑠𝑠2 − 𝛺𝛺2𝑦𝑦 = −2𝑚𝑚𝛺𝛺𝑣𝑣𝑥𝑥 −𝑚𝑚𝛺𝑥𝑥 (3・2b)
MEMS ジャイロスコープの設計では 𝜔𝜔𝑛𝑛,𝑠𝑠2 ≫ 𝛺𝛺2 となるようにするため,結局,以下の運動
方程式が得られる.
𝑦 + 2𝜁𝜁𝑠𝑠𝜔𝜔𝑛𝑛,𝑠𝑠𝑦 + 𝜔𝜔𝑛𝑛,𝑠𝑠2 𝑦𝑦 = −2𝛺𝛺𝑣𝑣𝑥𝑥 − 𝛺𝑥𝑥 (3・2c)
式(3・2c)右辺の第 1 項がコリオリ力によるものであり,慣性質量 m は主にコリオリ力によっ
て運動する.通常,−𝛺𝑥𝑥の力はコリオリ力に比べて小さいために無視することが多い. 4-3-2 MEMSジャイロスコープ
MEMS 振動式ジャイロスコープでは,駆動系に力を加えて慣性質量 m(及び M)を振動さ
せ,コリオリ力によって発生した検出系慣性質量 m の変位を計測する.ジャイロスコープの感
度を大きくするためには,駆動系及び検出系の機械要素パラメータの設計が重要である. (1) 駆動系の振動:参照振動
図 2・1 に示した X 軸方向に振動する質量 M に角振動数 ω を持つ駆動力 𝐹𝐹0 cos𝜔𝜔𝜔𝜔 が加えら
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れた場合には,式(3・1)よりこの慣性質量 M は以下の運動方程式に従って振動することが導か
れる(vy = 0 に注意).
𝑥 + 2𝜁𝜁𝑑𝑑𝜔𝜔𝑛𝑛,𝑑𝑑𝑥 + 𝜔𝜔𝑛𝑛,𝑑𝑑2 𝑥𝑥 =
𝐹𝐹0 cos𝜔𝜔𝑑𝑑𝑀𝑀
(3・3)
ここで,ω n,d = (kd /M)1/2 である.式(3・3)は質量-ばね-減衰を持つ機械システム系に外力が作用
したときの運動方程式と同じである.式(3・3)を x について解くと駆動系の変位は以下のよう
に表される.
𝑥𝑥 =
𝐹𝐹0𝑘𝑘𝑑𝑑
1− 𝜔𝜔𝜔𝜔𝑛𝑛,𝑑𝑑
22+2𝜁𝜁𝑑𝑑
𝜔𝜔𝜔𝜔𝑛𝑛,𝑑𝑑
2 cos𝜔𝜔𝜔𝜔 −φ𝑑𝑑 (3・4a)
φ𝑑𝑑 = tan—1
2𝜁𝜁𝑑𝑑𝜔𝜔
𝜔𝜔𝑛𝑛,𝑑𝑑
1− 𝜔𝜔𝜔𝜔𝑛𝑛,𝑑𝑑
2 (3・4b)
また,式(3・4a)を時間微分することにより,駆動部の速度が以下のように求められる.
𝑣𝑣𝑥𝑥 = 𝑥 =
𝐹𝐹0𝑘𝑘𝑑𝑑𝜔𝜔
1− 𝜔𝜔𝜔𝜔𝑛𝑛,𝑑𝑑
22+2𝜁𝜁𝑑𝑑
𝜔𝜔𝜔𝜔𝑛𝑛,𝑑𝑑
2 sin𝜔𝜔𝜔𝜔 −φ𝑑𝑑 (3・5a)
ここで得られた速度 vx は回転座標系でみた質量の速度であり,式(3・2)の v であることに注意
されたい(駆動力の方向が回転座標系とともに回転するため). MEMS ジャイロスコープではコリオリ力を大きくするために駆動系の速度を最大になるよ
うに設計する.式(3・5a)を見ると,駆動力の角振動数を駆動系の固有角振動数の近くに設定す
ると駆動系の速度が最大になることが分かる.この条件における機械構造体の設計パラメータ
を明確にするために,𝑘𝑘𝑑𝑑 = 𝑀𝑀𝜔𝜔𝑛𝑛,𝑑𝑑2 を使って,式(3・5a)を以下のように書き換える.
𝑣𝑣𝑥𝑥 = −𝜔𝜔𝐹𝐹0 sin𝜔𝜔𝑑𝑑−φ𝑑𝑑
𝑀𝑀𝜔𝜔𝑛𝑛,𝑑𝑑2 −𝜔𝜔2
2+2𝜁𝜁𝑑𝑑𝜔𝜔𝜔𝜔𝑛𝑛,𝑑𝑑
2 (3・5b)
駆動の角振動数が固有角振動数に近いときには,式(3・5b)は以下のように近似できる.
𝑣𝑣𝑥𝑥 ≈ 𝐹𝐹0
2𝜁𝜁𝑑𝑑𝑀𝑀𝜔𝜔 cos𝜔𝜔𝜔𝜔, ω ≈ 𝜔𝜔𝑛𝑛,𝑑𝑑 (3・6)
X 軸方向速度は駆動周波数の 1/ ω に比例している.この式より,(固有角振動数が設定され
ている場合)駆動系の速度は質量に反比例することが分かる.この結果,駆動系全体に働くコ
リオリ力は質量に依存しないことになる.
また,𝜔𝜔 ≈ 𝜔𝜔𝑛𝑛,𝑑𝑑のとき,φ𝑑𝑑 ≈ 𝜋𝜋 2⁄ である.これより,X 軸方向の変位は駆動力の方向に対し
てπ /2 ラジアンだけ遅れていることが分かる.図 3・1(a)は,共振時の駆動系の駆動力,変位,
速度の位相ベクトル図である.駆動系の X 軸方向の振動において,慣性質量 M 及び m の速度
方向は印加力の方向と一致する(式(3・6))のに対して,その変位方向は駆動力の方向に直交す
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2ζ𝑠𝑠 𝜔𝜔𝜔𝜔𝑛𝑛,𝑠𝑠
1 − 𝜔𝜔𝜔𝜔𝑛𝑛,𝑠𝑠
2
る(式(3・4b))ことが分かる.
(a) 駆動系 (b) 検出系(𝜔𝜔𝑛𝑛,𝑠𝑠 ≈ 𝜔𝜔𝑛𝑛,𝑑𝑑) (c)検出系(𝜔𝜔𝑛𝑛,𝑠𝑠 ≫ 𝜔𝜔𝑛𝑛,𝑑𝑑)
図 3・1 ω = ω n,dの角周波数で駆動系を駆動したときに,それぞれの慣性質量に働く駆動力,変位,速
度の位相ベクトル図 (2) 検出系の振動:検出振動
図 2・1 に示したように検出系機械要素が X 軸方向に駆動系に固定されているために,検出系
慣性質量 m の X 軸方向の速度は駆動系の X 軸方向の速度と等しくなる.このとき,Z 軸周りに
一定の角速度Ω を持つ回転運動が機械構造体全体に加わると,検出系の慣性質量にコリオリ力
が作用する(駆動系慣性質量 M にもコリオリ力が作用するが,M は Y 軸方向に変形すること
ができないように枠に固定されている).このコリオリ力は,式(3・2c)に示すように —Y 軸方向
に向いている.いま,式(3・2c)のΩ の時間変化がゼロとしたとき,検出系慣性質量に働くコリ
オリ力は
𝐹𝐹𝑐𝑐,𝑠𝑠 = −2𝑚𝑚𝛺𝛺𝑣𝑣𝑥𝑥 = − 2𝑚𝑚𝛺𝛺𝐹𝐹02𝜁𝜁𝑑𝑑𝑀𝑀𝜔𝜔
cos𝜔𝜔𝜔𝜔, 𝜔𝜔 ≈ 𝜔𝜔𝑛𝑛,𝑑𝑑 (3・7a)
であるため,検出系の慣性質量の運動方程式は 𝑦 + 2𝜁𝜁𝑠𝑠𝜔𝜔𝑛𝑛,𝑠𝑠𝑦 + 𝜔𝜔𝑛𝑛,𝑠𝑠
2 𝑦𝑦 = −2𝛺𝛺𝑣𝑣𝑥𝑥 (3・7b) となる.ここで,検出系の固有角振動数をω n,s = (ks /m)1/2 とした.式(3・7)を解くと検出系の Y軸方向変位が以下のように求められる.
𝑦𝑦 ≈
2𝜔𝜔𝛺𝛺𝜔𝜔𝑛𝑛,𝑠𝑠2
𝐹𝐹02𝜁𝜁𝑑𝑑𝑀𝑀𝜔𝜔2
1− 𝜔𝜔𝜔𝜔𝑛𝑛,𝑠𝑠
22+2𝜁𝜁𝑠𝑠
𝜔𝜔𝜔𝜔𝑛𝑛,𝑠𝑠
2 cos𝜔𝜔𝜔𝜔 −φ𝑠𝑠, 𝜔𝜔 ≈ 𝜔𝜔𝑛𝑛,𝑑𝑑 (3・8a)
φs = tan—1 (3・8b)
式(3・8a)において,𝑄𝑄𝑑𝑑 = 12𝜁𝜁𝑑𝑑
は,共振の鋭さを表すものである.すなわち,Qdが大きいほど
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駆動系の共振は鋭いことを示している.慣性質量 m の Y 軸方向駆動力は式(3・4a)の X 軸方向
駆動力 F0 の大きさの約2𝛺𝛺
2𝜁𝜁𝑠𝑠𝜔𝜔𝑛𝑛,𝑠𝑠= 𝑄𝑄𝑠𝑠
2𝛺𝛺𝜔𝜔𝑛𝑛,𝑠𝑠
倍となる.検出系の Qs が大きいほど感度が増加するこ
とになる.式(3・8)は検出感度を変位で示したジャイロスコープの基本式である.回転速度Ω
に比例して Y 軸方向の変位が発生することが示されている.また,Y 軸方向変位は駆動周波数
の 1/ω にほぼ比例(𝜔𝜔𝑛𝑛,𝑠𝑠 ≈ 𝜔𝜔𝑛𝑛,𝑑𝑑)しており,駆動周波数が増大するに従って急激に減少するこ
とが分かる. ジャイロスコープでは検出系と駆動系の 2 つの固有角振動数が現れる.これらの関係を評価
するために,両者の固有角振動数の差を以下のように設定する.
∆𝜔𝜔= 𝜔𝜔𝑛𝑛,𝑠𝑠 − 𝜔𝜔𝑛𝑛,𝑑𝑑 > 0 (3・9a)
式(3・9a)を用いると,式(3・8)は
𝑦𝑦 ≈ −𝛺𝛺𝐹𝐹02𝑀𝑀𝜁𝜁𝑑𝑑𝜔𝜔𝑛𝑛,𝑑𝑑
2 1
(∆𝜔𝜔)2+𝜁𝜁𝑠𝑠𝜔𝜔𝑛𝑛,𝑠𝑠2 cos𝜔𝜔𝜔𝜔 −φ𝑠𝑠 (3・9b)
となる.この式より,Y 軸方向変位は 1/Δω にほぼ比例しており,Δω を増大させると減少する
ことが分かる.式(3・9b)からを用いて,検出系の変位 y を以下に示す 2 つの条件について評価
する 3). (a) ∆𝜔𝜔≪ 𝜁𝜁𝑠𝑠𝜔𝜔𝑛𝑛,𝑠𝑠 の場合:
駆動系と検出系の固有角振動数が非常に近い場合である.このとき,式(3・9b)は
𝑦𝑦 ≈ − 𝛺𝛺𝐹𝐹02𝑀𝑀𝜁𝜁𝑑𝑑𝜁𝜁𝑠𝑠
1𝜔𝜔𝑛𝑛,𝑑𝑑3 sin𝜔𝜔𝜔𝜔, 𝜔𝜔 ≈ 𝜔𝜔𝑛𝑛,𝑑𝑑, φ𝑠𝑠 ≈ 𝜋𝜋 2⁄ (3・9c)
となる.Y 軸方向変位は駆動系共振周波数 1/ωn,d3 に比例しており,駆動周波数を増大させる
と急激に減少する.図 3・1(b)は,検出系の X 軸及び Y 軸の変位方向を駆動力の方向に対して
示したベクトル図である.この場合には,検出系の Y 軸方向の変位と X 軸方向の変位の位相
が 180 度異なる(式(3・9b)において Y 軸方向の変位が駆動力に対してマイナスであることに
注意).すなわち,検出系の慣性質量 m は —X 軸方向に傾いた直線上を運動する. (b) ∆𝜔𝜔≫ 𝜁𝜁𝑠𝑠𝜔𝜔𝑛𝑛,𝑠𝑠 の場合, 駆動系と検出系の固有角振動数の差が大きい場合である.このとき,式(3・9b)は
𝑦𝑦 ≈ − 𝛺𝛺𝐹𝐹02𝑀𝑀𝜁𝜁𝑑𝑑𝜔𝜔𝑛𝑛,𝑑𝑑
2 1∆𝜔𝜔
cos𝜔𝜔𝜔𝜔, 𝜔𝜔 ≈ 𝜔𝜔𝑛𝑛,𝑑𝑑, 0 < φ𝑠𝑠 < 𝜋𝜋 2⁄ (3・9d)
となる.このときには,検出系の Y 軸方向の変位は X 軸方向の変位より位相が 180 度以上進
んでいる.すなわち,検出系の慣性質量 m は長軸が —X 軸方向に傾いた楕円を反時計回りに
回転する運動を行う. 式(3・9)が MEMS ジャイロスコープの基本式となるものであり,検出系の変位が回転角速度
に比例することを示している.検出系の変位は,駆動系のパラメータ(質量,固有振動,及び
減衰比)のほかに,駆動及び検出系の固有振動数の差と検出系の Y 軸方向の固有周波数帯域(2ζs ω n.s)にも依存している.更に,検出系の変位は固有角振動数の 2~3 乗に反比例して急速
に減少するという特徴がある.式(3・9)より,MEMS ジャイロスコープでは,(固有角振動数一
定のもとで)駆動系の質量 M(質量 m を含む)を減少させると検出部の振幅が増大するという
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高感度化の重要な設計指針が得られる.これは,質量の減少に対応して固有角振動数を一定に
するためにばね定数を小さく設計する必要がある(この場合,式(3・6)に示すようにコリオリ
力は変化しない)ことから,検出系のばね定数の減少により検出系の振幅が増大するからであ
る.一方,加速度センサでは,固有振動数が一定のときには,質量を減少(同時にばね定数も
減少)させても感度は変化しない(3 章式(3・1)).このように,質量に関して加速度センサと
ジャイロスコープの設計指針が異なっていることに注意する必要がある. (3) 周波数帯域
図 3・2 は,MEMS ジャイロスコープにおける振幅の周波数応答を模式的に示したものであ
る.図中の実線と破線で描かれた駆動系の X 軸方向及び検出系の Y 軸方向の変位振幅は式(3・4)及び(3・8)に示したものである.ジャイロスコープは駆動系の振幅が最大になる周波数に近
い周波数で励振されるために,検出系のこの周波数に対応する変位振幅が出力信号となる.こ
の例では,検出系の減衰比を駆動系の減衰比より大きくし,更に検出系の固有共振周波数を駆
動系よりも若干大きく設定した.これは共振系では共振周波数を超えると振幅が急激に減少す
ることを考慮して,駆動系の共振周波数が変化しても検出系の振幅が急激に減少しないように
するためである.駆動系と検出系の 2 つの共振周波数を完全に一致させることは困難であるた
めに,このように余裕をもたせた設計をすることが肝要である. さて,式(3・7)では一定の回転運動によって生じるコリオリ力の影響を評価したが,以下に
回転運動が時間変化する場合を考えよう.回転速度が角振動数ω 3で調和振動する場合には,コ
リオリ力と回転の加速度による力はω + ω 3とω —ω 3の 2 つの角振動数を持つ成分の和として表
される(補遺 4-A 参照).ここでω は駆動系の振動数を表しており,駆動系の固有角振動数に
近い値である.図 3・2 の A0 はω 3 がゼロのときの検出系の振幅である.また,A1,H と A1,L はω 3
がゼロでない(ω + ω 3 < ω n,s)ときのω + ω 3とω —ω 3に対応した検出系の変位を表している.
図 3・2 駆動系及び検出系のそれぞれの変位と周波数との関係を示す模式図
他方,A2,H と A2,L は回転速度変化の角振動数ω 3 が A1,H と A1,L の場合よりも大きい場合(ω + ω3 > ω n,s)を示しており,この場合には検出系の振幅(A2,Hと A2,L)は A0の振幅からかなり減
少した値となる(特に A2,H).このように回転速度の時間変化ω 3 が大きくなると検出系の感度
が大きく減少することが起こる.センサ感度を回転速度(変化する場合を含めて)に対して一
・マ・ハ・フ・U・・
振動数
検出系
駆動系
A1,L
A2,L
A1,H
A2,H
A0
XX
変
位
の
振
幅
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定にするためには角振動数ω 3 を制限することが必要であり,これがセンサの周波数帯域と呼
ばれるものである.同図をみると,センサの周波数帯域は検出系と駆動系の固有振動数の差を
大きくとる(同時に検出系の減衰比も十分大きくする)ことによって増大することが分かる.
しかし,式(3・9c)に示すように,センサ感度が低下するという問題が同時に生じる.このこと
を考慮して,振動ジャイロスコープの周波数帯域の概算評価の指標として,
周波数帯域:𝜔𝜔𝑛𝑛,𝑠𝑠 − 𝜔𝜔𝑛𝑛,𝑑𝑑 (3・10)
が用いられる.MEMS ジャイロスコープでは感度を高く保つためにこの帯域を小さく設定して
おり,通常数十 Hz 程度と狭いものである.
10 群-8 編-4 章〈ver.1/2019/1/30〉
電子情報通信学会「知識ベース」 © 電子情報通信学会 2019 10/(21)
10群-8編-4章
4-4 検出回路 (執筆者:鈴木健一郎)[2018 年 8 月 受領]
ジャイロスコープの駆動系構造体が参照振動数(5 kHz)を持つ AC 電源(DC バイアスを含
む)によって振動させられるとき,デバイスに加えられた角速度に比例したコリオリ力が検出
系慣性質量を振動させる.すなわち,検出系慣性質量には参照振動に加えてコリオリ力によっ
て発生した検出振動が重ね合わされることになる.しかし,ダブルジンバル構造を用いること
により,コリオリ力によって発生した検出振動のみによって検出系の静電容量変化が引き起こ
されるようにすることができる(4-3-2 項参照).このように実際のジャイロスコープは駆動系
と検出系の両方の構造体があって動作するものであるが,測定評価を簡略化するために検出系
の電気回路特性を駆動系と分離して評価したいという要求がある.
(a) 検出系評価用デバイス
(b) 検出系電気回路(駆動回路を含む)
(c) 出力電圧の時間応答波形(LT-SPICE シミュレーション):
RF = 1 MΩ, CF = 1.2 pF, RPD = 1 kΩ, CPD = 0.1 µF
図 4・1 ジャイロスコープの検出系電気回路
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通常,検出回路を評価するためにはジャイロスコープを回転機械構造体に搭載して評価を行
う必要があるが,コリオリ力を静電気力で代替することによってジャイロスコープの検出系回
路を直接評価することができる.これは,駆動系をコリオリ力相当の静電気力駆動源に代替す
る(この場合,駆動系とセンサ系の振動は同じ方向になるように設定される)ことによって実
現できる 4).図 4・1(a)はこの目的のために,ジャイロスコープの検出系の可動電極に検出振動
方向に駆動する電極構造を設けた構造を持つデバイスの写真である.このデバイスでは本来コ
リオリ力によって生じる検出振動を 5 kHz の交流電源で代替して生じるようにしている.図 4・1(b)は 5 kHz の交流電源によって検出電極を直接に駆動する回路(Driving Part)と静電容量変
化を検出するための検出回路(Detective Part)とを示したものである.検出電極のギャップが
5 kHz で変化することから 1 MHz の搬送信号の振幅が変調され,この変調信号を演算増幅器後
段の検出回路で 5 kHz の信号に復調することによって静電容量変化を検出することができると
いう検出回路である.最初に検出電極静電容量を通過した交流電気信号はトランスインピーダ
ンス回路によって電流から電圧に(I-V)変換される.同図に示す回路は 5 kHz の電気信号の一
部が出力するという課題を持っているが,1 MHz の信号に比べてこれを小さく抑えることがで
きる(反転増幅器の増幅率に換算して約 1/200). トランスインピーダンス回路後段の検出回路では,搬送信号のピーク検出(包絡線検出)信
号処理によって検出系の静電容量変化を計測することができる.ピーク検出回路はダイオード
に CR 並列回路を接続した構成を持つが,このピーク検出回路のそれぞれの機能を以下に述べ
る.振幅変調された 1 MHz の搬送信号(3 章 3-4-2 項参照)はダイオードにより検波され,正
の電圧部分が取り出される.この電圧が増大するとき図の CPDに電荷が充電される.一方,搬
送信号電圧が減少するときには(CPD に蓄積された電圧よりも低くなるため)ダイオードが遮
断される.このため,CPD に蓄積された電荷が RPD に放電されて出力電圧の減少が起こる.こ
の出力電圧の減少時間は CPDRPD の時定数に依存しており,以下の条件が成り立つように設定
される.
1𝑓𝑓𝑐𝑐 ≪ 𝐶𝐶𝑃𝑃𝑃𝑃𝑅𝑅𝑃𝑃𝑃𝑃 ≪
12𝜋𝜋𝑚𝑚
1𝑓𝑓𝑚𝑚
(4・1)
ここで,fc及び fmは搬送波(1 MHz)及び変調信号(ここでは回転速度,5 kHz)の周波数であ
り,m は変調指数である.通常,出力電圧のリップルを小さくするために CPDRPDを1
2𝜋𝜋𝑚𝑚1𝑓𝑓𝑚𝑚に近
い値に設定する.このようにして,振幅変調された信号の振幅成分を出力電圧として取り出す
ことができる. 図 4・1(c)はこの検出回路評価用デバイスの出力電圧を LT-SPICE シミュレータを使って計算
したものであり,検出電極部の初期キャパシタンス(Csense)を 3 pF,キャパシタンス変化量を
0.06 pF としたときの検波回路の出力である.この結果より,出力電圧が初期時間より 0.05 ms経過後にはほぼ定常状態に落ち着くことが分かる.低域フィルタの次数が低いため 1 MHz 成 分が完全には除去しきれていない(5 kHz 信号の太い線が見られる)が,5 kHz 成分(50 mVpp)
の信号が明瞭に観察できる.この 5 kHz 成分の振幅値が Csense のキャパシタンス変化量に比例
する量であり,本来のジャイロスコープでは角速度信号に対応する.
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4-5 MEMS ジャイロの例 (執筆者:鈴木健一郎)[2018 年 8 月 受領]
STMicroelectronics 社の車載用 3 軸ジャイロセンサ(A3G4250D)の代表的なデータを表 5・1に示す 5).3 章表 1・1 の分類では,車載用の最も高い感度を持つセンサになる.
表 5・1 STMicroelectronics 社 A3G4250D(3 軸ジャイロセンサ)の代表的なデータ
電 源〔V〕 消費電流〔mA〕 使用温度〔〕
3.0 6.1 —40 —85
動作レンジ 〔deg /s〕
感 度 〔mdeg /s〕
Zero-rate Level温度特性 〔(deg/s)/〕
ノイズ密度 〔(deg/s)/Hz1/2〕
±245 8.75(31.5 deg/hr) ±0.03 0.03(BW = 50 Hz)
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4-6 高感度化のためのデバイス構造設計 (執筆者:鈴木健一郎)[2018 年 8 月 受領]
近年,MEMS ジャイロスコープの高感度化は機械構造体と電気回路の改良によって飛躍的に
増大した.機械構造体においては,X 軸(駆動方向)と Y 軸(検出方向)方向の振動が混じり
合うクロスカップリングの軽減が大きな課題であった.また,ジャイロスコープは共振系であ
るために,圧力に強く依存する.図 6・1 は著者のグループが試作したジャイロスコープの振動
振幅圧力依存性の測定値を示したものである.ジャイロスコープでは大きな振幅を得るために
高い Q 値を実現する必要があるが,この図をみると 20 Pa の圧力においても Q 値が急激に変化
しており,更に圧力を低減することが高感度化に有効であることが示されている.なお,機械
構造体の振動は共振周波数が高くなるに従って Q 値が変化する圧力の下限が高くなることが
知られている.この Q 値の変化が小さいということはジャイロスコープの実装が簡単になる
ことを意味している.
(a) 振動振幅の周波数応答 (b) Q 値
図 6・1 試作したジャイロスコープの圧力依存性(測定値)
以降の本節では,先に述べた設計指針を利用したジャイロスコープ高感度化の研究を紹介す
る. 先に,固有角振動数を一定にするとき,駆動系の質量 M(質量 m を含む)を減少させると検
出系の振幅が増大する,ことを結論して述べた(式(3・9)).図 6・2 はこの設計指針に基づいて
作製したシリコンジャイロスコープの写真である.構造体に多数の穴が設けられているのが見
られるが,これは駆動系及び検出系の慣性質量を軽減するために行ったものである. このジャイロスコープの機械特性を穴のない構造と比較してシミュレーションした結果を
表 6・1 に示す 6).駆動系と検出系の共振周波数を同じにしたために,穴を設けた構造のばね定
数は駆動系と検出系の両方で穴のない構造に比べて小さく設定されている.これら 2 つの構造
体に同じ大きさの X 軸方向駆動力が作用した場合を考えると,穴のない構造の方が X 軸方向
変位が大きくなる(ばね定数が小さいため).しかし,Y 軸方向に作用するコリオリ力は 2 つの
構造体で同じ大きさになる(穴を設けた構造と穴を設けない構造で,式(3・7a)に示す m/M の値
が等しいため).最後に,Y 軸方向検出系においては,穴を設けた構造の変位振幅が穴を設けな
0
20
40
60
80
100
120
140
3900 3950 4000 4050
周波数(Hz)
振幅
(nm)
20(Pa) 40(Pa)
60(Pa) 80(Pa)
100(Pa) 125(Pa)
150(Pa) 175(Pa)
200(Pa) 225(Pa)
250(Pa) 275(Pa)
300(Pa)
0
200
400
600
800
1000
1200
1400
0 100 200 300
圧力(Pa)
Q値
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い構造に比べて 1.7 倍に増大するという結果が得られた.このことから,ジャイロスコープの
慣性質量を軽減することによってその感度を増大させることが可能であることが示される.
表 6・1(a) 駆動系(X 軸)と検出系(Y 軸)の共振周波数とばね定数の比較(シミュレーション)
駆動系 検出系
fx〔kHz〕 kx〔N/m〕 fy〔kHz〕 ky〔N/m〕
穴なし構造 6.14 573 6.34 400
穴あり構造 6.14 337 6.34 235
表 6・1(b) 駆動系(X 軸)と検出系(Y 軸)の駆動力と変位の振幅の比較(シミュレーション)
駆動系 検出系
Fx〔µN〕 X0〔µm〕 Fy〔pN〕 Y0〔pm〕
穴なし構造 1 8.8 10.3 125
穴あり構造 1 15 10.3 220
図 6・3 アレイセンサによる高感度化の原理
図 6・2 試作したシリコンジャイロスコープ(軽量化のために多数の穴が形成されている)
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高感度化のための構造設計の第二の方法は,ジャイロスコープを連結したアレイ構造を形成
することである.図 6・3 は 2 個のジャイロスコープの出力電流を足し合わせることを模式的に
示したものである.1 個のジャイロスコープの検出電極は,通常,可動電極が最も近い位置に
ある固定電極に関して互いにその距離が反対方向に変化するように配置した櫛歯電極の組合
せからなっている(図 6・3 の 1 個のジャイロスコープでは上側の可動-固定電極ギャップが狭
くなるとき,下側の可動-固定電極ギャップが広くなる).そして,この両者の差をとることに
よって,オフセット信号を除去できる.ジャイロスコープの感度を増大させるにはこれら個々
のジャイロスコープの出力電流を合計するとよいことは容易に理解できるはずである. 表 6・2 は同じ面積を持つ 1 個の面積を N 倍に拡大したセンサとセンサアレイの特性を比較
したものである.N 倍拡大センサは基準センサの面積を単純に N 倍したものである.一方,セ
ンサアレイは N 個の基準センサを並べたものである.面積 N 倍拡大センサの一辺の寸法は基
準センサに対して√𝑁𝑁倍となるので,駆動力は√𝑁𝑁倍となる(駆動系は一片の端に沿って形成さ
れる).共振周波数を変えないことにすると,ばね定数は質量増大を相殺するために基準セン
サの N 倍にする必要がある.この結果,N 倍拡大センサの X 軸方向駆動力は基準センサの1 √𝑁𝑁⁄倍となると考えられる.一方,N 倍拡大センサの検出系においては,質量 N 倍のためにコリオ
リ力が√𝑁𝑁倍となるが,検出系ばね定数が N 倍であるために Y 軸方向振幅が1 √𝑁𝑁⁄ 倍となる.最
後に N 倍の面積を考慮すると,検出系キャパシタンスの変化量は基準センサの√𝑁𝑁倍となるこ
とが分かる.
表 6・2 同じ面積を持つ 1 個の面積を N 倍に拡大したセンサとセンサアレイの特性比較
基準センサ 面積 N 倍拡大
センサ N 連結アレイ
慣性質量 M 1 N 1
駆動力 1 √𝑁𝑁 1
ばね定数(fd:一定) 1 N 1
駆動振幅 X (1/√𝑁𝑁) X X
コリオリ力 Fc √𝑁𝑁 Fc
検出振幅 Y (1/√𝑁𝑁) Y Y
検出面積 S N S N S
キャパシタンス変化 ∆C √𝑁𝑁∆C Ν ∆C
一方,アレイセンサは個々の要素は基準センサと同じ特性を持つので,アレイにした後には
検出面積が N 倍になる結果,キャパシタンス変化が基準センサの N 倍に増加する.以上のこ
とから,アレイセンサは基準センサの N 倍の出力電流を持ち,また同一構造を拡大したセンサ
と比較しても√𝑁𝑁倍感度が高くなることが分かる. しかし,個々のジャイロスコープの共振周波数が異なっているときには上に述べたアレイセ
ンサの効果が期待できないという課題がある.これは,アレイセンサ全体のある振動モードに
おいて,振動振幅が小さなセンサが発生する懸念があるからである.図 6・4 は 4 つの基準セン
サを互いに連結した構造を持つ振動センサの振動モードを示したものである.連結ビームのば
ね定数を固くすることによって,個々のセンサとほぼ等しい共振周波数を持ってアレイ全体が
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振動することが示されている(左右それぞれの列方向に配置された機械構造体がほぼ同一の振
動を行っている).
図 6・4 連結ビームによって結合したアレイ振動センサの振動モード
図 6・5 は著者のグループが作製した 2×2 の振動センサアレイとその周波数特性の測定値を
示したものである 7).アレイセンサ内部の 4 つのセンサの特性がよく揃っていることが分かる.
これより,この連結アレイセンサの原理を利用するとジャイロスコープの感度を増大させるこ
とができると期待できる.
図 6・5 試作した 2×2 の振動センサアレイとその周波数特性の測定値
Am
plitu
de[n
m]
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4-7 周波数安定度 (執筆者:鈴木健一郎)[2018 年 8 月 受領]
センサの入力が 0 のときに出力される値をバイアス誤差(ドリフト誤差)と呼び,温度変化
や振動などによって発生する.圧力センサなどでいうオフセット誤差と同等のセンサ性能評価
を示す指標である.センサの周波数安定度は周波数オフセットとは異なり周波数変動を計測す
ることによって求められる.以下にジャイロスコープの周波数安定度の計測でよく利用される
手法を述べる. 周波数変動角周波数ω 0 を持って振動しているセンサは位相雑音φ(t)を含んでいるために,
時間 t のときの信号は
𝑣𝑣(𝜔𝜔) = 𝑉𝑉0 cos𝜔𝜔0 + φ(𝜔𝜔) ≈ 𝑉𝑉0 cos 𝜔𝜔0 + 𝑑𝑑𝑑𝑑𝑑𝑑φ(𝜔𝜔)𝜔𝜔 = 𝑉𝑉0 cos 𝜔𝜔0 1 + 1
𝜔𝜔0
𝑑𝑑𝑑𝑑𝑑𝑑φ(𝜔𝜔) 𝜔𝜔 (7・1)
と表すことができる.ここで,周波数変動の割合を位相雑音を用いて
𝑦𝑦(𝜔𝜔) = 1𝜔𝜔0
𝑑𝑑φ(𝜔𝜔)
𝑑𝑑𝜔𝜔 (7・2)
と表すと,時間間隔 ∆τ で計測されたデータを用いて,アラン分散は
AVAR(∆𝜏𝜏) = 12(𝑛𝑛−1)
∑ 𝑦𝑦(𝑖𝑖 + 1)∆𝜏𝜏 − 𝑦𝑦(𝑖𝑖∆𝜏𝜏)2𝑛𝑛−1
𝑖𝑖=1 (7・3)
で与えられる.n はデータの総数である.1 つ前の計測値との差をとることによって,周波数
オフセットの影響が取り除かれている.図 7・1 は,アラン分散 log y(t) を log ∆τ を横軸にして
模式的に描いたものである.図の左側ではサンプリング時間が短いためにランダムノイズ(フ
リッカーノイズやホワイトノイズなど)の影響が大きくなるが,サンプル時間を長くするに従
ってこの影響を除くことが
できるために分散の数値を
減少させることができる.一
方,図の右側ではサンプル時
間が長いことからランダム
ノイズの影響が抑制される
が,今度はバイアス誤差の影
響が顕著になる(オフセット
の影響を除くために一つ前
のデータとの差をとって処
理しているが,サンプル時間
が長くなるとこの影響が大
きくなってくる).この曲線
の極小がバイアスインスタ
ビリティを与えるもので,ジ
ャイロスコープの分解能評
価によく使用されている.
図 7・1 アラン分散と測定時間間隔との関係を示す模式図
log ∆τ
AVAR: log σ(∆τ)
傾き:-1, -2ランダムノイズホワイトノイズフリッカーノイズ
傾き:1, 2バイアス誤差ランダムウオーク直線ドリフトAV
AR: l
og σ
(∆τ)
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4-8 まとめ (執筆者:鈴木健一郎)[2018 年 8 月 受領]
近年,MEMS ジャイロスコープの感度の改良は急速になされてきたが,慣性グレードに到達
するには更に何桁ものオーダで感度を拡大する必要がある.感度増大で注目される一つの手法
は検出系の Q 値を大きくすることである(究極的には検出系と駆動系の共振周波数を一致さ
せることにつながる).この場合,検出信号が増大して感度が増大するが,製品ばらつきの増大
や周波数帯域が狭くなるという問題が発生するために,この手法の商品化は断念されていた.
つい最近,駆動系(あるいは検出系)の共振周波数を電気的に制御して両者の共振周波数を自
動的に一致させることが利用されるようになった.この手法は,感度を飛躍的に増大させるだ
けでなく,周波数帯域も拡大するのにも役立っている.
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補遺 4-A 回転の角速度が時間変化する場合の検出系の変位
(執筆者:鈴木健一郎)[2018 年 8 月 受領]
先に述べた式(3・8)は角速度が時間的に一定のときの検出系の変位であった.以下に,回転
の角速度が調和振動的に時間変化する場合を考えてみよう. 駆動系が調和振動の駆動力により振動させられるとき,駆動系の質量 M は,式(3・4)で表さ
れる X 軸方向の変位と,式(3・6)で近似される速度を持って振動する.いま,回転の角速度が
各振動数ω 3で調和振動的に変化する場合には,角速度は
𝛺𝛺(𝜔𝜔) = 𝛺𝛺0 cos𝜔𝜔3𝜔𝜔 (4・A・1)
と表すことができる.回転角速度が時間的に変化するとき,コリオリ力は
𝑓𝑓𝑐𝑐 = −2𝑚𝑚𝑣𝑣𝑥𝑥𝛺𝛺(𝜔𝜔) ≈ − 𝑚𝑚𝐹𝐹0𝛺𝛺0𝜁𝜁𝑑𝑑𝑀𝑀𝜔𝜔
cos𝜔𝜔𝜔𝜔 cos𝜔𝜔3𝜔𝜔 = − 𝑚𝑚𝐹𝐹0𝛺𝛺02𝜁𝜁𝑑𝑑𝑀𝑀𝜔𝜔
[cos(𝜔𝜔 + 𝜔𝜔3)𝜔𝜔 + cos(𝜔𝜔 −𝜔𝜔3)𝜔𝜔],
ω ≈ 𝜔𝜔𝑛𝑛,𝑑𝑑 (4・A・2a) であり,2 つの調和振動成分を持つことが分かる. 一方,回転運動の加速度による力は以下のようになる.
−𝑚𝑚𝛺(𝜔𝜔)𝑥𝑥 ≈ 𝑚𝑚𝐹𝐹0𝛺𝛺0𝜔𝜔32𝜁𝜁𝑑𝑑𝑀𝑀𝜔𝜔2 sin𝜔𝜔𝜔𝜔 sin𝜔𝜔3𝜔𝜔 = −
𝑚𝑚𝐹𝐹0𝛺𝛺0𝜔𝜔34𝜁𝜁𝑑𝑑𝑀𝑀𝜔𝜔2
[cos(𝜔𝜔 + 𝜔𝜔3)𝜔𝜔 − cos(𝜔𝜔 − 𝜔𝜔3)𝜔𝜔],
ω ≈ 𝜔𝜔𝑛𝑛,𝑑𝑑 (4・A・2b) これら式(4・A・2a) 及び式(4・A・2b)から,慣性質量 m の加速度は以下のようになる.
−2𝛺𝛺(𝜔𝜔)𝑣𝑣𝑥𝑥 − 𝛺(𝜔𝜔)𝑥𝑥 ≈ − 𝐹𝐹0𝛺𝛺0
2𝜁𝜁𝑑𝑑𝑀𝑀𝜔𝜔2 𝜔𝜔 + 𝜔𝜔3
2 cos(𝜔𝜔 +𝜔𝜔3)𝜔𝜔 − 𝜔𝜔 − 𝜔𝜔3
2 cos(𝜔𝜔 − 𝜔𝜔3)𝜔𝜔
ω ≈ 𝜔𝜔𝑛𝑛,𝑑𝑑 (4・A・2c) 式(3・2c)の運動方程式の右辺に式(4・A・2c)の加速度を代入すると,検出系の慣性質量 m の Y軸方向変位が ω ≈ 𝜔𝜔𝑛𝑛,𝑑𝑑 (4・A・3) と求められる.ここで,検出系と駆動系の固有角振動数の差を
∆𝜔𝜔= 𝜔𝜔𝑛𝑛,𝑠𝑠 − 𝜔𝜔𝑛𝑛,𝑑𝑑 (4・A・4a)
と置くと,式(4・A・3)は以下のように近似できる.
( ) ( )
−+
−−
−−+
++
+−
++Ω−≈
2
,
3,
22
,
3,
3,3,
2
,
3,
22
,
3,
3,3,2
,2
,
00
21
)sin(2/
21
)sin(2/2
sn
dns
sn
dn
dndn
sn
dns
sn
dn
dndn
sndnd
ttM
Fy
ωωω
ζω
ωω
ωωωω
ωωω
ζω
ωω
ωωωωωωζ
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𝑦𝑦 ≈ − 𝐹𝐹0𝛺𝛺0
2𝜁𝜁𝑑𝑑𝑀𝑀𝜔𝜔𝑛𝑛,𝑑𝑑2
2(∆𝜔𝜔)2+𝜁𝜁𝑠𝑠𝜔𝜔𝑛𝑛,𝑠𝑠2
sin𝜔𝜔𝑛𝑛,𝑑𝑑 +𝜔𝜔3𝜔𝜔 + sin𝜔𝜔𝑛𝑛,𝑑𝑑 − 𝜔𝜔3𝜔𝜔, 𝜔𝜔 ≈ 𝜔𝜔𝑛𝑛,𝑑𝑑 (4・A・4b)
ここで,𝜔𝜔3 ≪ 𝜔𝜔𝑛𝑛,𝑑𝑑 ,𝜔𝜔𝑛𝑛,𝑠𝑠と𝜔𝜔𝑛𝑛,𝑑𝑑 ≈ 𝜔𝜔𝑛𝑛,𝑠𝑠の関係を使用した.式(4・A・4b)より,角速度がω 3で時間
的に変化するとき,検出系の質量はωn,d + ω 3とωn,d — ω 3の 2 つの角振動数で時間変化すること
が分かる.通常,ωn,d + ω 3で振動する成分は低域通過フィルタを使用して除去するので,ωn,d — ω 3で振動する成分のみが出力信号として検出されることになる.
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4章演習問題
[4.1] 表 1・1 に示す自動車応用慣性制御システムの仕組みをそれぞれについて調べよ. [4.2] 式(3・1)を導け. [4.3] 式(3・1)と式(3・2a)から式(3・2b)を導け. [4.4] 図 3・1(b), (c)の位相ベクトル図から慣性質量 m の軌跡を述べよ. [4.5] 式(4・A・2a)を導け. [4.6] ω 3 = 0 のとき,式(4・A・4b)が式(3・8a)になることを確かめよ. 参考文献
1) N. Yazdi, F. Ayazi, and K. Najafi:“Micromachined inertial sensors,”Proc. IEEE, vol.86, no.8, 1998. 2) U.-M. Gomez:“Smarter MEMS sensors for automotive and consumer applications,”Presentation slides in the
10th MEMS Engineer Forum, Tokyo, 2018. 3) S.D. Senturia:“Mirosystem Design,”Kluwer Academic Publishers, Boston, 2001. 4) M. Ogawa, Y. Miyake, H. Tanigawa, and K. Suzuki:“New Evaluation Method with no Rotational Mechanics on
the Detection Circuits for Vibratory MEMS Gyroscopes,”Proceedings of the 29th Sensor Symposium, Kitakyushu City, The Institute of Electrical Engineers of Japan, pp.612-615, Oct. 2012.
5) STMicroelectronics, A3G4250D データ (Dec 022768 Rev3), 2012. 6) K. Fuwa, Z. Jin, M. Hirata, and K. Suzuki:“A Hexagonal Gyroscope Utilizing Rigidly-coupled Beams,”
Proceedings of the 28th Sensor Symposium, Tokyo, The Institute of Electrical Engineers of Japan, pp.590-594, Sep. 2011.
7) Y. Miyake, M. Hirata, and K. Suzuki:“Mechanical Vibration Characteristics for the Driving Part in Array of Microelectromechanical Systems Vibratory Gyroscopes, ” Japanese Journal of Applied Physics, vol.51, pp.097201:1-8, 2012.