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非鉛系圧電セラミックスの研究開発状況と課題 Present Developments and Perspective of Lead-Free Piezoelectric Ceramics 竹中 正 、永田 肇、晝間 裕二(東理大・理工) Tadashi Takenaka , Hajime Nagata and Yuji Hiruma (Faculty of Sci. & Tech., Tokyo University of Science) Dielectric, ferroelectric and piezoelectric properties of perovskite ferroelectric and bismuth layered-structured ferroelectric (BLSF) ceramics are described as superior candidates for lead-free piezoelectric materials to reduce environmental damages. Perovskite type ceramics seem to be suitable for actuator and high power applications that are required a large piezoelectric constant, d 33 (>300 pC/N) and a relatively high Curie temperature, Tc (>200 °C). On the other hand, BLSF ceramics seem to be excellent candidates as piezoelectric sensors for high temperatures and piezoelectric ceramic resonators with high mechanical quality factor, Q m and low temperature coefficient of resonance frequency, TC-f. 1. はじめに [1- 7] 近年、環境保全に対する意識の高まりを受け、電 子部品における PbHgCdCr 6+ などの有害元素を 排除する動きが欧州を中心に活発となり、その使用 が法律で禁止され、あるいは規制の対象となる使用 禁止法令(いわゆる RoHS 指令)が EU 2006 年7 月1日に施行された。電子材料の高機能化に重要な 役割を果たす原材料の酸化鉛 (PbO)も、廃棄処理問 題に関して、環境問題が懸念されることから、その 対象となっている。例えば、酸化鉛を主成分として 含む半田は他の代替品と置き換わるべく技術開発 が進んで、ほとんど完了のレベルに達している。広 くエレクトロニクスの分野で実用化されている圧 電デバイスを構成する圧電材料は、セラミックスを 中心として、単結晶や薄膜など多種多様の材料が開 発されている。その大部分を占める圧電セラミック スは、 Pb 系ペロブスカイト型強誘電体セラミックス で、その主流は PbZrO 3 PbTiO 3 (PZT) を含む多成分 系、いわゆる、PZT 系であり、主成分として多量の 酸化鉛を含んでいるため、同様の問題を抱えている。 圧電材料として使用される電子セラミックス中 の鉛は、性能面の問題から例外規定として現段階で RoHS 指令対象から除外されている。特に、圧電 セラミックスの中で、アクチュエータなどのハイパ ワー応用分野では、圧電特性の最低条件として、圧 電定数 d 33 300 C/N、かつ、動作温度範囲を示す キュリー点 Tc 200 ℃を同時に満足する特性が要 求されているが、長らくそのような非鉛圧電材料は 報告されていなかった。ところが、最近、 Nature [8] にニオブ-タンタル酸塩 (K,Na,Li)(Nb,Ta,Sb)O 3 系で 上記の条件を満足する PZT 系並みの非鉛圧電セラ ミックスが報告され、いよいよ圧電セラミックスも RoHS 指令対象の例外規定では済まなくなってきた 感がある。この様な状況に鑑み、環境にやさしい無 鉛圧電材料の研究開発は急務かつ、必要不可欠であ ると考えられ、現在の PZT 系の性能に匹敵する高性 能非鉛系圧電セラミックスの研究開発が急速に世 界的な関心を集めている。 本講演では、非鉛系セラミックス研究の歴史なら びに現状の研究・開発状況について述べる。まず、 上記のような条件を満たし、PZT に替わり得る非鉛 系圧電セラミックスの候補と考えられているペロブ スカイト型の BaTiO 3 -(Bi 1/2 K 1/2 )TiO 3 BT-BKT)系、 -------------------------------------------------------------- E-mail: [email protected] (Bi 1/2 Na 1/2 )TiO 3 BNT)を主体とした固溶体系、およ び、最近注目の KNbO 3 系セラミックスの焼結性を中 心とした研究について述べる。さらに、ビスマス層 状構造強誘電体(BLSF)セラミックス関係として、 それらがもつ特徴である大きな機械的品質係数 Qm および小さな共振周波数温度係数 (TC-f ) を生かし た高安定な非鉛圧電レゾネータ用材料等への応用を 目指して更なる高機能化の観点から、2~3の粒子 配向型 BLSF セラミックスについて述べる。さらに、 最近の非鉛圧電セラミックス研究開発の進展と話題 についても言及する。 2. 代表的な非鉛系圧電材料 ペロブスカイト ABO 3 型酸化物の強誘電性の強さ は、2-4系列では PbTiO 3 、1-5系列では KNbO 3 -3系列では BiFeO 3 と考えられるが、PbTiO 3 系以 外では PZT 系に匹敵する圧電性は得られていない。 すなわち、圧電性にとって、Aイオンとして Pb が、 Bイオンとして Ti が必要不可欠である。Pb に代わ り得る可能性があるのは、Bi(Bi 1/2 Na 1/2 ) 、あるい は、(Bi 1/2 K 1/2 )であると考えられる。 無鉛圧電セラミックスの代表例として、過去に、 KNbO 3 -NaNbO 3 -LiNbO 3 [9]が誘電率の小さな高周 波用圧電セラミックスとして研究されているが、歴 史的には、チタン酸バリウム BaTiO 3 に始まり、現在 では、主として、チタン酸ビスマスナトリウム (Bi 1/2 Na 1/2 )TiO 3 [BNT] 、チタン酸ビスマスカリウム (Bi 1/2 K 1/2 )TiO 3 [BKT]BaTiO 3 などのチタン酸塩系、 および最近では、 (K,Na,Li)(Nb,Ta)O 3 ニオブタンタル 酸塩系ペロブスカイト構造、および、ビスマス層状 構造強誘電体(BLSF)が活発に研究されている。ま た、単結晶では、従来から、LiNbO 3 および LiTaO 3 が、さらに、最近では、KNbO 3 (Bi 1/2 Na 1/2 )TiO 3 - BaTiO 3 系などのペロブスカイト形無鉛強誘電体の 研究が活発化している。また、ランガサイト La 3 Ga 5 SiO 14 や四ホウ酸リチウム Li 2 B 4 O 7 などの圧電 単結晶も、高温用圧電センサ材料や弾性表面波 SAW)用基板として注目を浴びている。 それらのうち、最近の非鉛圧電材料研究開発動向 として、ペロブスカイト構造強誘電体セラミックス およびビスマス層状構造強誘電体セラミックスの いくつかの具体例について述べる。その他の研究開 発動向については紙面の関係でここでは割愛する が、参考文献の解説等[1-7]をご参照頂ければ幸い である。 Proceedings of Symposium on Ultrasonic Electronics, Vol.28, (2007), pp. 13-16 14-16 November, 2007 1-INV

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  • 非鉛系圧電セラミックスの研究開発状況と課題 Present Developments and Perspective of Lead-Free Piezoelectric Ceramics 竹中 正†、永田 肇、晝間 裕二(東理大・理工) Tadashi Takenaka , Hajime Nagata and Yuji Hiruma (Faculty of Sci. & Tech., Tokyo University of Science)

    Dielectric, ferroelectric and piezoelectric properties of perovskite ferroelectric and bismuth layered-structured ferroelectric (BLSF) ceramics are described as superior candidates for lead-free piezoelectric materials to reduce environmental damages. Perovskite type ceramics seem to be suitable for actuator and high power applications that are required a large piezoelectric constant, d33 (>300 pC/N) and a relatively high Curie temperature, Tc (>200 °C). On the other hand, BLSF ceramics seem to be excellent candidates as piezoelectric sensors for high temperatures and piezoelectric ceramic resonators with high mechanical quality factor, Qm and low temperature coefficient of resonance frequency, TC-f.

    1. はじめに [1- 7]

    近年、環境保全に対する意識の高まりを受け、電子部品における Pb、Hg、Cd、Cr6+などの有害元素を排除する動きが欧州を中心に活発となり、その使用が法律で禁止され、あるいは規制の対象となる使用禁止法令(いわゆる RoHS指令)が EUで 2006年7月1日に施行された。電子材料の高機能化に重要な役割を果たす原材料の酸化鉛 (PbO)も、廃棄処理問題に関して、環境問題が懸念されることから、その対象となっている。例えば、酸化鉛を主成分として含む半田は他の代替品と置き換わるべく技術開発が進んで、ほとんど完了のレベルに達している。広くエレクトロニクスの分野で実用化されている圧電デバイスを構成する圧電材料は、セラミックスを中心として、単結晶や薄膜など多種多様の材料が開発されている。その大部分を占める圧電セラミックスは、Pb系ペロブスカイト型強誘電体セラミックスで、その主流は PbZrO3- PbTiO3 (PZT) を含む多成分系、いわゆる、PZT系であり、主成分として多量の酸化鉛を含んでいるため、同様の問題を抱えている。 圧電材料として使用される電子セラミックス中の鉛は、性能面の問題から例外規定として現段階では RoHS指令対象から除外されている。特に、圧電セラミックスの中で、アクチュエータなどのハイパワー応用分野では、圧電特性の最低条件として、圧電定数 d33>300 pC/N、かつ、動作温度範囲を示すキュリー点 Tc >200 ℃を同時に満足する特性が要求されているが、長らくそのような非鉛圧電材料は報告されていなかった。ところが、最近、Nature [8]にニオブ-タンタル酸塩 (K,Na,Li)(Nb,Ta,Sb)O3 系で上記の条件を満足する PZT 系並みの非鉛圧電セラミックスが報告され、いよいよ圧電セラミックスもRoHS 指令対象の例外規定では済まなくなってきた感がある。この様な状況に鑑み、環境にやさしい無鉛圧電材料の研究開発は急務かつ、必要不可欠であると考えられ、現在の PZT系の性能に匹敵する高性能非鉛系圧電セラミックスの研究開発が急速に世界的な関心を集めている。 本講演では、非鉛系セラミックス研究の歴史ならびに現状の研究・開発状況について述べる。まず、上記のような条件を満たし、PZTに替わり得る非鉛系圧電セラミックスの候補と考えられているペロブスカイト型の BaTiO3-(Bi1/2K1/2)TiO3(BT-BKT)系、 -------------------------------------------------------------- E-mail: [email protected]

    (Bi1/2Na1/2)TiO3(BNT)を主体とした固溶体系、および、最近注目の KNbO3系セラミックスの焼結性を中心とした研究について述べる。さらに、ビスマス層状構造強誘電体(BLSF)セラミックス関係として、それらがもつ特徴である大きな機械的品質係数 Qmおよび小さな共振周波数温度係数 (TC-f ) を生かした高安定な非鉛圧電レゾネータ用材料等への応用を目指して更なる高機能化の観点から、2~3の粒子配向型 BLSFセラミックスについて述べる。さらに、最近の非鉛圧電セラミックス研究開発の進展と話題についても言及する。 2. 代表的な非鉛系圧電材料

    ペロブスカイト ABO3型酸化物の強誘電性の強さは、2-4系列では PbTiO3、1-5系列では KNbO3、3-3系列では BiFeO3と考えられるが、PbTiO3系以外では PZT 系に匹敵する圧電性は得られていない。すなわち、圧電性にとって、Aイオンとして Pbが、Bイオンとして Ti が必要不可欠である。Pb に代わり得る可能性があるのは、Bi、(Bi1/2Na1/2) 、あるいは、(Bi1/2K1/2)であると考えられる。 無鉛圧電セラミックスの代表例として、過去に、KNbO3-NaNbO3-LiNbO3 系[9]が誘電率の小さな高周波用圧電セラミックスとして研究されているが、歴史的には、チタン酸バリウム BaTiO3に始まり、現在では、主として、チタン酸ビスマスナトリウム (Bi1/2Na1/2)TiO3 [BNT]、チタン酸ビスマスカリウム(Bi1/2K1/2)TiO3 [BKT]や BaTiO3などのチタン酸塩系、および最近では、(K,Na,Li)(Nb,Ta)O3ニオブタンタル酸塩系ペロブスカイト構造、および、ビスマス層状構造強誘電体(BLSF)が活発に研究されている。また、単結晶では、従来から、LiNbO3 および LiTaO3が、さらに、最近では、KNbO3 や(Bi1/2Na1/2)TiO3- BaTiO3 系などのペロブスカイト形無鉛強誘電体の研究が活発化している。また、ランガサイトLa3Ga5SiO14や四ホウ酸リチウム Li2B4O7などの圧電単結晶も、高温用圧電センサ材料や弾性表面波(SAW)用基板として注目を浴びている。 それらのうち、最近の非鉛圧電材料研究開発動向として、ペロブスカイト構造強誘電体セラミックスおよびビスマス層状構造強誘電体セラミックスのいくつかの具体例について述べる。その他の研究開発動向については紙面の関係でここでは割愛するが、参考文献の解説等[1-7]をご参照頂ければ幸いである。

    Proceedings of Symposium on Ultrasonic Electronics, Vol.28, (2007), pp. 13-1614-16 November, 20071-INV

  • 3. ペロブスカイト型強誘電体セラミックス

    圧電セラミックスは強誘電体セラミックスを分極処理したものである。分極処理とは、最初等方性体である焼成したままの強誘電体セラミックスに直流高電界を印加し、強誘電体の分域の方向を一定の方向にそろえ、強誘電体セラミックスに極性を付与する操作であり、自発分極が3次元的に配向可能なペロブスカイト構造がたいへん有利であるため、実用化されているほとんどの圧電セラミックスはペロブスカイト構造である。

    3.1 BaTiO3-(Bi1/2K1/2)TiO3系 チタン酸バリウム(BaTiO3, BT)は、ABO3ペロブスカイト構造の中で、最初にその強誘電性が発見されたこともあり、強誘電性を中心に、現在までに詳しく調べられている。しかし、キュリ- 温度 Tcが比較的低く(~135 ℃)、室温付近から低温にかけて結晶構造相転移に伴う変態点があるためにその圧電温度特性が悪い等応用上不都合な点が多く、1950年代にPZTが発見されてからは、圧電セラミックスとしてほとんど使用されていない。 BT セラミックスのキュリー点(Tc)を上昇させる物質としては、チタン酸鉛(PbTiO3)が古くからよく知られている。非鉛系でそのような効果を示すものは 1962 年に C. F. Buhrer [10]が報告している(Bi1/2K1/2)TiO3 (BKT)のみであるが、その電気的特性についての記載はない。BKT は、室温において BTと同様に正方晶をとり、その Tcは約 380 °C とペロブスカイト構造強誘電体の中でも高く、その圧電動作温度範囲は広いと考えられる。しかしながら、BKTは焼結性が悪く高密度セラミックスの作製が非常に困難であり、その研究報告は少ない。最近、BaTiO3- (Bi1/2K1/2)TiO3系セラミックスの電気的諸特性を明らかにし、様々な応用へ展開することを目的とした研究が行われている [11、12]。図 1 はホット・プレス(HP)法により作製した BKT セラミックスの電気機械結合係数k33 の温度特性[12]を示すが、予想通り、かなり高温まで圧電特性が維持される。

    図 1 HP 法により作製した BKT セラミックスの電気機械結合係数k33の温度特性 [12]. 3.2 KNbO3系強誘電体セラミックス [13, 14] KNbO3 [KN]単結晶は、鉛系を含む圧電材料中、最も高い厚み振動電気機械結合係数kt=0.69を示し、また、キュリー点Tc も450 °Cと高く動作温度範囲も広いことから、優れた非鉛圧電材料の候補として極めて有望視されている。そのため、KN単結晶や(K,Na,Li)NbO3を主成分とした固溶体セラミックスは数多くの研究がなされているが、固溶体

    ではないKNセラミックスの研究は非常に少なく、特に、圧電性に関する報告はほとんどない。この理由として、KNセラミックスの難焼結性と潮解性が挙げられる。また、(K,Na)NbO3や(K,Na,Li)NbO3等においても、KN近傍は同様に作製が困難となっている。 最近、高密度かつ高品質のKNセラミックスを作製する試みがなされている。それは、一般的なセラミックス作製プロセスにおいて用いられるボールミルプロセスを粉砕効率の観点から最適化し、これによりKNの焼結性を改善するとともに、Bi2O3を微量添加することで、KNに残留するK2CO3の影響を除去して潮解性をなくす工夫をしている。その結果、Bi2O3を0.5 wt%以上添加することでKNセラミックスの作製上の問題点である潮解性が解消された。また、混合および粉砕ボールミルプロセスにおいて2 mmφの小径ボールを使用することで、従来では70 %程度であった密度比が最大で95 %となる緻密な試料を得ている。Bi添加量をx wt%およびMn添加量をy wt%として、[KNBix Mny]と略記する。潮解性除去のためBi2O3を0.5 wt%添加したKNBi0.5に対し、Bi2O3添加に起因する強誘電性の低下を抑えるために、MnCO3を微量添加すると、ほぼ全ての試料において焼結密度および抵抗率ρ が向上し、KNBi0.5Mn0.4においては密度比99 %、抵抗率ρ= 1.31 x

    1012 Ωcmと非常に高品質

    のKN系セラミックス試料が得られた。また、MnCO3の添加量増加に伴い、粒子径の増大が見られ、同時に残留分極Prが向上した。KNBi0.5Mn1.0で最も大きな強誘電性を示し、Pr=13.3 µC/cm2、結合係数kは、それぞれ、縦結合モードk33=0.30、径方向振動モードkp=0.20 が得られた。また、仮焼条件を最適化することにより、潮解性除去のためのBi2O3添加量を0.3 wt%にまで抑えることができ、KNBi0.3Mn0.4ではPr =12.8 µC/cm2およびkp=0.26を示すセラミックス試料が得られている。

    3.3 (Bi1/2Na1/2)TiO3-(Bi1/2K1/2)TiO3-BaTiO3 三成分系固溶体セラミックス [15-20] ペロブスカイト型強誘電体である(Bi1/2Na1/2)TiO3[BNT]の室温における結晶構造は菱面晶(a=3.891 Å、α=89°36’)で、残留分極 Pr =38μC/cm2 および抗電界 Ec =73 kV/cm である。強誘電体としてのこれらの特性から判断して、BNT は無鉛圧電セラミックスの有力な候補であると考えられる[16]。近年、BNT を含む多成分系固溶体セラミックスの分極処理が容易な組成が活発に検討され、その誘電的、圧電的、機械的諸性質に関する研究が系統的に幅広く行われ、それらの結果から、圧電セラミックスへの応用に有利な種々の特徴を有することがわかってきた[15-20]。 BNT 系固溶体のうち、(1-x)(Bi1/2Na1/2)TiO3‐ xBaTiO3 (BNBT-100x) 系 や (1-y)(Bi1/2Na1/2)TiO3 -y(Bi1/2K1/2)TiO3(BNKT-100y)系は、大きな圧電性が期待される多系相境界(MPB)組成をもつことが知られており、MPB はそれぞれ x=0.06-0.07 および y=0.16-0.20 付近に存在することが報告されている。さ ら に 、 そ れ ら の MPB を 組 み 合 わ せ たx(Bi1/2Na1/2)TiO3[BNT]-y(Bi1/2K1/2)TiO3[BKT]-zBaTiO3[BT] (x+y+z=1) [以下、BNBKy:z (x)と略す]三成分系の MPB 近傍組成を詳しく調査した結果、BNBK4:1(0.852)でキュリー点 Tc が 300 °C 程度で、

  • かつ、圧電定数 d33=190 pC/N という無鉛圧電セラミックスの中では大きな値を示すことが報告されている。しかし、この MPB 近傍組成は、反強誘電相から強誘電相に相転移する第 2相転移点 T2が 120 °C 付近に存在するため、圧電セラミックスとして利用できるのはそれ以下の温度に限られ、実用的な動作温度範囲はきわめて狭く限られてしまう。最近、この三成分系において BKT:BT 比を一定とし、BNT 量(x)を変化させることで反強誘電相転移温度の高温化が試みられている。 図 2 に示すとおり、正方晶性(tetragonality)の増大により、tanδのピークを示す温度 T2(第2相転移点)の高温化は達成できたが、例えば、BNBK2:1(0.78)で d33=134.8 pC/N 程度に圧電特性は低下した。圧電性低下の理由の一つは、自由誘電率 ε33Tの減少で、もう一つは、MPB 組成(k33>0.5)より外れた組成(x<0.83)では k33 が 0.45 以下に大きく減少したことが挙げられる。次に、分極処理条件を最適化することにより正方晶性の大きな組成の圧電性の改善を試みた。すなわち、反強誘電相の温度で電界をかけたままで、強誘電相まで温度を下げる電界冷却法により分極処理を行った結果、BNBK2:1(0.78)では T2=197 °C で、k33=0.474 および d33 =140.2 pC/N を示し、圧電性が改善された。 以上のように、本組成は、圧電性を維持する動作温度範囲が 200 °C を超え、非鉛圧電セラミックスとして有望な組成である。しかし、実用化のためにはより大きな圧電性が必要となるので、今後は粒径の制御や固溶体への添加物の検討、さらに、粒子配向を行うことなどが要求される。

    図 2 BNBK4:1(x) (x=0.852 お よ び 0.75) とBNBK2:1(x) (x=0.78)の結合係数 k33 温度依存性. 4. ビスマス層状構造強誘電体(BLSF)系と 粒子配向型 BLSF 圧電セラミックス [21-29]

    ビスマス層状構造強誘電体(Bismuth Layer- Structured Ferroelectrics, BLSF)の特徴は大きな結晶構造異方性を持つことである。BLSF セラミックスの圧電的性質は、日本の2つのグループ、池上と上田[21] および高橋(幸)[22] によって初めて報告され、それらの結果から、BLSF は、従来の PZT系圧電セラミックスに比べて、キュリ- 点 Tc が高い、電気機械結合係数kの異方性が大きい、共振周波数温度係数が小さいなどの特長を有することが明らかになった。これらの特長を十分生かすことができれば、BLSF は高温用および高周波用の、あるいは,高安定性が要求される分野の特殊な圧電セラミック

    材料としての利用開発が有望である。 単結晶のもっている異方性をなるべく損なうことなしに、単結晶の性質を極限まで引き出せるようなセラミックスの作製法として、製造過程において微細構造を制御し、結晶粒を配向させる粒子配向技術が近年注目され[23-31]、強誘電体セラミックス、熱電セラミックスや高温超伝導セラミックスに相次いで応用されている。

    4.1 Bi4Ti3O12 (BIT)系 [32-35] BLSF の中で、Bi4Ti3O12 (BIT)は Tcが 680 ℃と特に高く、単結晶の ab 軸方向自発分極 Ps(a)が 30~50 µC/cm2と大きな値を示すことから、無鉛圧電材料の有力な候補と考えられている。BIT にドナー系添加物である Nb5+あるいは V5+を添加した Bi4Ti3-xNbxO12 [BITN-x] および Bi4Ti3-xVxO12 [BITV-x] の抵抗率 ρは、BIT (x=0) の約 1010~1011 Ω⋅cmに対して、約 1013-1014 Ω⋅cm と 2~3 桁程度上昇する。これは、3 価と 4 価を取りうる不安定な Ti をドナーである Nb5+あるいは V5+が補償しているためと考えられる。中性を保つためのそれぞれの最適組成は、BITN-0.08 およびBITV-0.01である。Nbおよび V置換量(x)に対する Tcは、置換しない場合(BIT (x=0) )の 683 ℃ から、置換量とともに、徐々に低下していくが、V置換 BITV の場合は Nb 置換 BITN の場合に比べて Tcははやく飽和する傾向がある。これは、Vの置換量が多くなると Vは Ti位置に置換することが困難となり、過剰なVは粒界に存在するようになることを示唆している。 結合係数 k33 のNb および V置換量(x)に対する変化では、BITN の k33は x=0.08 で飽和する傾向にあるが、 BITV の k33 は BITV-0.02 で最大値 0.25 に達し、この値は無配向 BLSFセラミックスの中では比較的大きい。これは ρ が上昇したことによって分極処理が容易になったためと考えられる。次に、Nb(x=0.08)および V(x=0.04)を添加した粒子配向セラミックスの圧電特性(図 3)は、それぞれ、k33=0.39および k33=0.38 が得られた。粒子配向した HF BITN-0.08 および HF BITV-0.04 の結合係数k33 は粒子配向度 F とともに直線的に増加し、完全配向(F = 1) の k33 はおよそ 0.42 に達する。このように、BLSFに対して粒子配向技術はたいへん有効である。

    図 3 HF BITN-0.08および HF BITV-0.04のインピーダンスZ(大きさ |Z|と位相 θ )の周波数特性. 4.2 Sr2Bi4Ti5O18-Ca2Bi4Ti5O18系 [36] BLSF のうち、BO6 酸素八面体の積み重なり数を示す層数

    m が5の報告例は少ない。最近、m=5 の(Sr(1-x)Cax)2Bi4Ti5O18 (SCBT-x) (0≦x≦1)について、非鉛系レゾネータへ応用す

  • る観点からその圧電的諸特性が報告された。Ca の置換量(x)

    が増加すると機械的品質係数Qmは大きくなるが、xの増加とと

    もに分極処理が困難になり x=0.6以上では十分な圧電性は確

    認できていない。

    図 4 は、SCBT-0(OF、HF)の(33)モード共振周波数 fr 温

    度特性を示す。レゾネータ応用に対して重要な共振周波数温

    度係数 TC-f は、温度範囲-25℃~125℃に対して、SCBT-0

    の OF および HF 試料で、それぞれ、-85.6 ppm/℃および

    -63.0 ppm/℃が得られ、粒子配向を行うことにより TC-f を改

    善することができる。一方、SCBT-x (x=0、0.3、0.5)の TC-fは、

    それぞれ、-85.6 ppm/℃ (x=0)、-77.6 ppm/℃ (x=0.3)および

    -66.6 ppm/℃ (x=0.5)が得られ、Ca の置換量(x)が増加する

    と TC-fが改善できることがわかる。SCBT-0.5 を粒子配向(HF)

    することにより、大きなQm(2320)を保ちながら、TC-f は-50

    ppm/℃まで改善できている。

    図 4 SCBT-0 (OF、 HF)の(33)モード共振周波数温度特性.

    5. おわりに

    30 年程前に、酸化鉛 (PbO) を含まない無鉛(あるいは、低鉛)圧電セラミックスの研究開発状況調査が国内外で行われたことがあるが、PZT系に替わり得るものはないとの結論 [37]であり、非鉛系圧電セラミックスが実用化された例はない。 非鉛系圧電セラミックスの研究開発は、近年、有害物質の使用規制から、環境にやさしい非鉛系圧電材料の開発に対する社会的な要請が強まる中で、セラミックスや単結晶を中心として欧米や我が国で、さらに、最近では中国や韓国でも、大学等の研究機関のみならず、民間企業でも大変活発化してきた感がある。 圧電材料の今後の研究開発動向は、組成的には非鉛系の要求が高まり、形態的には、単結晶指向で、Templated Grain Growth (TGG) 法 や Seeded Polycrystal Conversion (SPC) 法などによる粒子配向 (Textured Grain) 化が主流となり、厚膜・薄膜化も大変重要になると考えられる。非鉛圧電セラミックスの今後の課題は、さらに大きな圧電d定数を有し、同時に、動作温度範囲の広い(キュリー温度Tc の高い)材料を開発するとともに、その粒子配向セラミックスの製法として PZT 系並みの安価な製法を開発することであろう。 引用文献 [1] 竹中 正: Fine Ceramics Report, 15 (6) (1997) 116. [2] 竹中 正:非鉛系圧電材料調査報告書 (EMAJ-R023),(社)日本電子材料工業会 (1999-10). [3] 竹中 正:第 29 回 EM シンポジウム講演予稿集 , (2000-5) p. 53. [4] 竹中 正:”非鉛系圧電材料”,「セラミック電子部品・材料の技術開発」pp.78-106(第 2章圧電材料の 3)((株)

    シーエムシー、2000年 8月) [5] 竹中 正:超音波 TECHNO, 13, No.8 (2001-8) pp.2 – 12. [6] 竹中 正:マテリアル インテグレーション, 15, No.3, (2002-3) pp.89 - 100. [7] T. Takenaka and H. Nagata: J. Euro. Ceramic Soc., 25, Issue 12 (2005) pp. 2693-2700. [8] Y. Saito, H. Takao, T. Tani, T. nonoyama, K. Takatori, T. Homma, T. Nagaya and M. Nakamura: Nature, 432 (4 November, 2004) 84. [9] 米沢正智、大野留治:電子通信学会超音波研究会資料 No.US73-14 (1973-08). [10] C. F. Buhrer: J. Chem. Phys., 36 (1962) 798. [11] Y. Hiruma, R. Aoyagi, H. Nagata and T. Takenaka: Jpn. J. Appl. Phys., 43, No.11A (2004) 7556. [12] Y. Hiruma, R. Aoyagi, H. Nagata and T. Takenaka: Jpn. J. Appl. Phys., 44, Part 1, No. 7A(2005)5040. [13] T. Yoshida, Y. Hiruma, R. Aoyagi, H. Nagata and T. Takenaka: Key Engineering Materials, 301 (2005) 19. [14] K. Matsumoto, Y. Hiruma, H. Nagata and T. Takenaka: Jpn. J. Appl. Phys., 45, Part 1, No. 5B (2006) 4479. [15] T. Takenaka, K. Maruyama and K. Sakata: Jpn. J. Appl. Phys., 30, Part 1, No.9B (1991) 2236. [16] H. Nagata, T. Shinya, Y. Hiruma, T. Takenaka, I. Sakaguchi and H. Haneda: Ceramic Transactions, 167 (2005) pp. 213-221. [17] H. Nagata, M. Yoshida, Y. Makiuchi and T. Takenaka: Jpn. J. Appl. Phys., 42, Part 1, No.12 (2003) 7401. [18] Y. Makiuchi, R. Aoyagi, Y. Hiruma, H. Nagata and T. Takenaka: Jpn. J. Appl. Phys. 44 [6B] (2005) 4350. [19] K. Yoshii, Y. Hiruma, H. Nagata and T. Takenaka: Jpn. J. Appl. Phys. 45, Part 1, No. 5B (2006) 4493. [20] Y. Hiruma, Y. Makiuchi, R. Aoyagi, H. Nagata and T. Takenaka: Ceramic Transactions, 174 (2006) pp. 139-146. [21] S. Ikegami and I. Ueda: Jpn. J. Appl. Phys. 13 (1974) 1572. [22] 高橋幸治: チタバリ研究会資料, No.XXIV-138-904 (1975). [23] T. Takenaka and K. Sakata: Jpn. J. Appl. Phys. 19 (1980) 31. [24] 竹中 正、坂田好一郎:セラミックス, 24, (1989) 965. [25] 竹中 正:材料科学, 27 (3) (1990) 136. [26] 竹中 正:化学工業, 50 (1999) 867. [27] T. Takenaka: J. Ceramic Soc., Jpn, 110 (2002) 215. [28] 竹中 正、坂田好一郎: 電子通信学会論文誌, J65-C, (1982) 514. [29] T. Takenaka and K. Sakata: Ferroelectrics, 94 (1989) 175. [30] T. Tani: J. Korean Phys. Soc., 32 (1998) S1217. [31] T. Takeuchi, T. Tani and Y. Saito: Jpn. J. Appl. Phys., 38 (1999) 5553. [32] Y. Noguchi, I. Miwa, Y. Goshima and M. Miyayama: Jpn. J. Appl. Phys., 39 (2000) L1259. [33] H. Nagata, Y. Yano, G Takeda and T. Takenaka: Asian Ceramic Science for Electronics II (Proc. the 2nd Asian Meeting on Electroceramics (AMEC-2)), (2002) pp.27-30. [34] H. Nagata, Y. Yano, H. Enosawa, Y. Fujita and T. Takenaka: Proc. the 13th IEEE International Symposium on the Applications of Ferroelectrics (ISAF XIII 2002) (IEEE Catalog No.02CH37341) (2003) pp.303-306. [35] H. Nagata, Y. Fujita, H. Enosawa, and T. Takenaka: Ceramic Transactions, 150 (2004) pp. 253-263. [36] H. Nagata, S. Horiuchi, Y. Hiruma and T. Takenaka: Proc. 2005 IEEE Ultrasonics Symposium, pp. 1077-1082 (2006). [37]「圧電セラミック材料の動向調査報告書」(1976, 昭和51年 3月、電子材料工業会).