NTT技術ジャーナル　2015.362

防災・危機管理のNTTグループ連携ソリューション

NTTドコモの衛星通信サービスの取り組み

NTTドコモは，1996年 3月より静止衛星を利用した衛星通信サービスを提供しています．本サービスは半径約600 kmの 4つのビームを使用しており，携帯電話の電波が届かない地域や船舶における通信手段，非常時におけ

る通信手段として利用されています．さらに2000年 3月より，衛星パケット通信サービスを開始し，衛星電話でインターネット･イントラネットとの接続が可能となりました．そして2010年 4月には，ワイドスターⅡを開始しました（図1）．ワイドスターⅡはインターネット電話で利用されている音声コーデックを採用することで，旧

サービスよりも音声品質が向上しました．また，データ通信速度は，上り最大144 kbit/s，下り最大384 kbit/sと旧サービスに比べ高速化＊し，動画像伝送を含むデータ通信用ソリューショ

衛星通信 災害対策 危機管理

＊ 通信速度は送受信時の技術規格上の最大値であり，実際の通信速度を示すものではありません．また通信はベストエフォート方式による提供となり，実際の通信速度は，通信環境やネットワークの混雑状況に応じて変化します．

一般電話（音声）

N-STAR

衛星船舶車載アンテナ 01

衛星船舶・車載端末 01

衛星船舶車載アンテナ 01

衛星屋外設置アンテナ 01

PCXi

インターネット

ドコモ網

企業LANNTT固定網衛星船舶・車載端末 01

衛星可搬端末 01

衛星基地局

衛星可搬端末 01PC

PC（データ転送）

FAX

図 1 　ワイドスターⅡのサービスイメージ

衛星通信サービス「ワイドスターⅡ」

NTTドコモの衛星通信サービス「ワイドスターⅡ」は，2010年 4 月にサービスを開始しました．ワイドスターⅡは，赤道上空にある静止衛星を使って日本全土（一部離島を除く）と日本沿岸からおおむね200海里までの海上エリアをカバーしており，携帯電話の電波が届かない山間部，船舶，離島部等における通信手段や非常時における通信手段として利用いただいています．

飯いいじま

島 康やすゆき

之 /野の む ら

村 政まさかず

和

鈴す ず き

木 高た か し

志 /季き

羽ば

美よしひと

仁

NTTドコモ

NTT技術ジャーナル　2015.3 63

特集

ンへの利用が拡大されました．ワイドスターⅡの契約件数は2014年12月末時点で約 4万件に上っており，音声通話のみならず，静止画像･動画像の伝送を中心とした降雨･地すべり等の気象観測テレメトリ，山間部 ･河川 ･ダム等の監視，インターネット ･イントラネットとの接続，GPSと連携した車両位置管理･船舶運航管理，救急車や病院との連携，災害現場と災害本部との連携等のお客さま専用システムなど，地方自治体を含む公共機関やマスコミ，金融機関，製造業など業種にかかわらず幅広く導入していただいています．

ワイドスターⅡ端末の概要

ワイドスターⅡ端末には衛星可搬端末 01と衛星船舶･車載端末 01の 2種類があります．また，さまざまなオプション品を利用用途に合わせて組み合わせることにより，高品質な衛星通信を可能にします．（1）　衛星可搬端末 01衛星可搬端末 01（図 2（a））は，端末本体にアンテナを内蔵しており山間部や災害現場等への持ち運びが便利になっています．また，衛星方向へのアンテナ調整が簡単にできるようになっています．（2） 　衛星船舶･車載端末 01，衛星船舶車載アンテナ 01

衛星船舶 ･車載端末 01（図 2（b））と衛星船舶車載アンテナ 01（図 2（c））は，船舶または自動車で移動しながら利用可能になっています．衛星船舶車

載アンテナ 01は衛星を自動追尾するため，衛星方向へのアンテナ調整は不要となっています．

(a)　衛星可搬端末 01と衛星ハンドセット 01

(b)　衛星船舶・車載端末 01

(c)　衛星船舶車載アンテナ 01 (d)　衛星FAXアダプタ 01

(e)　ワイドスターマルチアダプタ (f)　衛星屋外設置アンテナ 01図 2 　ワイドスターⅡ端末

NTT技術ジャーナル　2015.364

防災・危機管理のNTTグループ連携ソリューション

（3）　衛星ハンドセット 01衛星ハンドセット 01（図 2（a））は衛星可搬端末 01と衛星船舶･車載端末 01で利用可能となっています．日本語に対応し，携帯電話に類似したメニューキー操作で使いやすくなっています．（4）　衛星FAXアダプタ 01衛星FAXアダプタ 01（図 2（d））は，G3FAX利用時に接続します．また，LAN接続された複数のPC等を接続できるルータ機能を具備しています．（5） 　ワイドスターマルチアダプタワイドスターマルチアダプタ（図 2

（e））は，専用インタフェースから2線式アナログ回線用インタフェースへの信号変換を行います．ワイドスターマルチアダプタを用いることにより，ワイドスターⅡ端末と企業内PBX（Pri-vate Branch eXchange）交換機を接続した音声通話ソリューションも容易に可能となっています．（6）　衛星屋外設置アンテナ 01衛星屋外設置アンテナ 01（図 2（f））は，ビル内等の衛星からの電波が届かない場所で衛星可搬端末 01を利用する場合に，衛星屋外設置アンテナ 01を電波の届く屋外に設置して利用します．

提供するサービスの特徴

ワイドスターⅡで提供しているサービスの特徴を紹介します．

（1）　音声サービスワイドスターⅡには国内携帯電話番号が付与されており，携帯電話と同様に相手先電話番号をそのままダイヤルして通話することが可能です．また，110番や119番などの特別番号への発信や災害時優先電話にも対応しています．（2） 　データ通信サービスデータ通信はワイドスターⅡ端末とPC等をLANケーブルで接続して利用します．また専用のWi-FiルータをワイドスターⅡ端末に接続することで，スマートフォン･タブレットでも衛星回線を用いたデータ通信を行うことが

可能です．さらに，オプションのダイレクトコネクトサービスや，携帯電話でもご利用いただけるパケットデータ直収（ビジネスmopera）にも対応していますので，企業内LANへの接続やバックアップ回線としての利用が可能です．（3） 　ダイレクトコネクトサービス衛星網に閉じた地上の災害の影響を受けにくい通信網を確立できます．衛星端末どうしのP to P（Point to Point）通信はもちろん，複数の拠点と通信できるP to MP（Point to Multi Point）通信も可能です．P to P画像伝送や定点観測，地上データ系ネットワークのバッ

通信先

インターネット公衆回線を使う場合

ダイレクトコネクトサービスを利用している場合

1： 1

1 ：N

インターネット網

ISP

P to P通信

ドコモ衛星網

●

●

●

図 3 　ダイレクトコネクトサービス

NTT技術ジャーナル　2015.3 65

特集

クアップ回線等，さまざまなソリューションとして活用されています（図3）．（4）　FAXゲートウェイサービスお使いのG3FAX機とワイドスターⅡ端末を衛星FAXアダプタ 01経由で接続することで，FAXの送受信ができるサービスです．固定電話網のG3FAX機との通信は，NTTコミュニケーションズのBizFAXを経由して行います（図4）．

今後の取り組み

2011年 3月に発生した東日本大震災をはじめ，近年多発している大規模な自然災害に対して，いかに人命を守るかが社会にとって重要な課題として

認識されています．自然災害時などの緊急時における有用な通信手段としての認知度をさらに高めるとともに，山岳監視などの他ソリューションとの連携などを進め，より多くの方にワイドスターⅡがお役に立つように努めることで，安心･安全な社会の実現に向けて貢献していきます．

■参考文献（1） Technology Reports：“多彩な衛星コミュニ

ケーションを実現する高速化対応衛星移動通信サービス「ワイドスターⅡ」特集，” NTT DOCOMOテクニカル ･ジャーナル，Vol.18，No.2，pp.37-72，2010.

（左から） 季羽 美仁/ 飯島 康之/ 野村 政和/ 鈴木 高志

お客さまにワイドスターⅡを安心してお使いいただけるよう，今後もサービスの品質向上と安定運用に努めます．

◆問い合わせ先NTTドコモ ソリューションビジネス部 衛星ビジネス担当TEL 03-5156-1467FAX 03-6230-1580

固定G3FAX機G3FAX機

衛星FAXアダプタ 01

FAXゲートウェイサービス

ドコモ網

NTTコミュニケーションズ

BizFAXスマートキャストサービス

固定電話からワイドスターⅡ対応端末の場合ワイドスターⅡ対応端末どうしの場合

図 4 　FAXゲートウェイサービス