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日本人の伝統的な食文化 いただきます

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和 食

日本人の伝統的な食文化

いただきます

2 WASHOKU

「和食」

それは日本が守るべき「文化」

日本人でいながらあまり考えてこな

かったけれど「和食」ってなんだろう 

家庭で食べる和食といったらご飯とみ

そ汁おかずと漬物町の食堂の焼き魚

定食も和食カレーライスや寿司もご飯

が中心だから和食のひとつだろう麺

類も餅も和食の中に入るだろう伝統

的な和食の世界はとても広い

そもそも「和食」とは料理のことだけ

を指す言葉ではないのかもしれない

例えばお正月のおせち料理新しい年

を迎え今年一年を元気で幸せいっぱ

いに過ごせるようにという願いが料理

に込められているつまり日本人の信

仰やものの考え方がおせち料理とお

194679と

そ蘇とお雑煮という食とそれを囲む空

間に表れているのだ

食文化とは自分たちをとりまく自然

環境とその国や地域ならではの文化を

背景にして育まれるものだ

南北に長く周囲を海に囲まれ山地

が国土の75を占めるモンスーン気

候のもと四季がはっきりとした変化を

見せ平均の年間降雨量が1800に

もなる日本という国そんな環境を背景

にして四季折々の食材を海山里から

豊かに得ているそうした恵みをもたら

す自然を日本人は敬いまた共に生き

神仏や先祖への信仰が食と結びつきな

がら独自の食文化がこの列島で育まれ

てきた

日本の食文化の成り立ちは中国や朝

鮮半島そして東南アジアなどの外の文

化を取り入れながらまた近代には西

欧の食文化も受容して発展してきたそ

の結果世界に誇るべきおいしくて健

康的な「和食」が展開した

ところがその「和食」がわれわれの食

卓から消えつつある日本の食材の上

にできあがった「和食」なのに今や日本

の食料自給率は40を割っているさ

らに家庭でもご飯を食べなくなり郷土

料理や行事の料理も消えつつある

長い歴史の中で「和食」を単なる料理

でなく文化として育て上げてきた日本

という国そんな日本の伝統的な食文化

である「和食」をこの冊子でひも解いて

いくことにしよう

2 WASHOKU

和 食WASHOKU

[編集委員会]座長 熊倉功夫 委員 江原絢子大久保洋子及川卓也 アドバイザー 宮田繁幸編集 マガジンハウス アートディレクションampデザイン 岡村佳織 表紙イラスト カワナカユカリ(tento)

この冊子では日本の伝統的食文化を表す場合を「和食」料理として表現する場合を和食と表記します

【はじめに】「和食」 それは日本が守るべき「文化」0 1

【食育の必要性】「和食」が危ないどうしたら伝えられるのか3 1

【おわりに】「和食」の未来3 4

【「和食」とは何か】食材料理栄養そしておもてなし 食事の場や食べ方も「和食」の大切な要素0 3

C O N T E N T S

【「和食」の年表】「和食」がたどった道1 5

【 1 自然の尊重】自然の尊重から「和食」は始まりいまここにある0 7

【 2 家族や地域を結ぶ】寄り合いが人をつなぐ 行事や祭りの食の役割0 9

【 3 健康長寿の願い】ハレの日の食事で健康と長寿を願う1 1

【 4 「和食」の多様性】風土が多様性を生みそれが「和食」という地図を描く1 3

0 5「和食」が日本文化である理由

【 1 献立のかたち】「ご飯」を食べるために「汁」と「菜」がある「一汁三菜」が和食の基本型1 7

【 2 食材】和食を支える日本の食材 おいしさの秘密と多様性1 9

【 4 味わい】うま味日本人が発見した「おいしく食べる」最大の知恵2 3

【 5 栄養】栄養バランスの優等生「和食」2 5

【 6 しつらい】人をもてなすためのこころとかたち2 7

【 7 箸と椀】「和食」を支える箸と椀2 8

【 8 酒】「和食」を引き立たせ心をほぐす日本の酒2 9

【 9 和菓子日本茶】暮らしに寄り添う和菓子とお茶3 0

【 3 調理】切る煮る焼く蒸す茹でる和える揚げるhellip    あの手この手で素材をよりおいしく

2 1

「和食」の特徴

34 WASHOKU

える

日本人がその環境のなかで生

み出し築き上げてきた食の知

恵や工夫や慣習それを編み出

した人々など有形無形のすべ

てを「和食」と呼び日本人の伝

統的な食文化を総称する言葉と

して見てみよう

「和食」にはおかずと汁と漬物

でご飯を食べる「一汁三菜」とい

う基本的な組み合わせがある

これは主食であるご飯をおいし

く食べるために工夫された様式

だまたこれはご飯とおかず

を合わせて食べて味わうとい

う特徴を生み出した

「和食」はこのかたちをベース

にしながら継承されてきた一方

「和食」とは何か

食材料理栄養

そしておもてなし

食事の場や食べ方も

「和食」の大切な要素

「和食」とは食材を選ぶことから始まり栄養を考えながら

料理を組みたてるさらにもてなしの心で料理を供する

それをどのように食べるかも大切な要素なのだ

「和食」この言葉をふだん私た

ちは日本的な料理を指す単語

として使っている

しかし「和食」はひとつの料

理ジャンルを指すだけの言葉だ

ろうか

例えば食前食後に口にする

「いただきます」と「ごちそうさ

ま」は料理をつくる人はもちろ

んのこと食材を育んだ自然や

自然を守ってきた祖先や神々へ

の感謝が込められている

また出来上がった料理だけ

でなく料理の手法やその構成

それをどんな食器に盛って食卓

に並べどのように食べるか

ここにも日本人ならではの気持

ちの込め方とスタイルがある

そう考えると「和食」とは料理

というだけでなくrdquo食べること

に関する日本人の慣習ldquoともい

いつの時代でも

「和食」は変化する

食材

料理

「和食」で用いられる食材は米を中心とする穀類野菜きのこ魚貝海藻が主たるもの近年はおいしい和牛も加わっている米は米飯用のうるち米ともち米野菜は古来の品種から明治以降に入ってきた西洋野菜まで多岐にわたり魚も豊富で日本近海に生息する魚種は約4200種類にも上る

「和食」の基本的な献立は「一汁三菜」この献立を構成するのは素材が持つおいしさを生かす料理だ料理で大切になるのはだし(出汁)昆布や鰹節からとることもあれば素材を煮込んで抽出する料理法もあるおいしく仕上がった料理は美しく盛りつけられる

34 WASHOKU

海外の食材や料理調理方法を

積極的に取り入れその内容を

変化させてきた

明治時代の積極的な西洋文

化の導入により「和食」はさ

らなる変化をとげた肉食へ

のタブーが解けて肉とじゃが

いもを煮込み醤油で味付けし

た肉じゃがすき焼きカレー

ライスとんかつなどいわゆる

和わようせっちゅう

洋折衷料理も生まれたこれ

も新しい「和食」の伝統である

ところがいま日本人の食生

活はかつてないほどのスピード

で変化している欧米化など多

様な食のスタイルが生まれ食

に無関心な人々の増加家庭内

での料理の減少などにより文

化としての「和食」を伝承する力

が薄れている

だからこそ改めて「和食」と

はなにかを見直すときなのかも

しれない

では「和食」とはどんな要素

によって構成されているのだ

ろうか

ひとつは「食材」四季が明確

で雨が多い温帯に属する日本

その気候を生かして収穫される

農作物は稲を中心に野菜や山

菜きのこなど多彩だ

また日本は黒潮と親潮がぶ

つかることで豊かな漁場となる

海に囲まれているそのため魚

種が多く地域性豊かな魚食文

化が育まれてきた同じ漁業大

国であるノルウェーの総漁獲高

の9割は8魚種で占められるの

に対し日本の場合28魚種にも

上ることからもいかに魚種が

多いかがわかるまた魚の消費

量はアメリカの約2倍以上に

もあたる年間1人あたり約57

で世界で6番目海からの恵

みが和食の重要な食材であるこ

とがよくわかる

2つめは「料理」水を豊富に

使えることで発達した蒸す茹

でる煮るなどの調理法や種類

豊富な魚を処理するのに適した

包丁などの調理器具そして野

菜と魚介中心の食事をおいしく

食べるために工夫されただし

(出汁)などが「和食」の料理を

支えている

3つめは「栄養」和食は比較

的低カロリーで各種の栄養素

をバランスよく摂取しやすい

そして4つめは「もてなし」

お客様を大切に迎える心持ちは

単なる客に対するサービスだけ

ではない料理を味わい床の間

のしつらいや食器などを鑑賞す

ることで客も主人をねぎらうの

である「いただきます」「ごちそ

うさま」と感謝することからも

てなす側も満ち足りた心になる

箸づかいやふるまい季節や

思いを演出するしつらいとそ

れを鑑賞する態度食事のマナ

ーや食の場に施された趣向を理

解し互いを思いやる心が「和

食」の精神である

もてなし

もてなしとは単なる主人から客へのサービスではなく食べる側にとっての食の場のふるまい全体をも含む例えば食空間におけるしつらいや料理や器に忍ばせた趣向も食べる人がそれと気づくことが主人へのもてなしとなるまさに日本文化の中で「和食」が最たるものであるといえよう

栄養

動物性脂質が少ない伝統的な和食は主食主菜副菜がそろい生活に必要なエネルギーと健康的な生活を送るために理想的な栄養バランスを確保している主食と副食を交互に口の中で調和させながら食べるのは和食独特の食べ方であるうま味を大切にすることで塩分やカロリーのコントロールができる

和食を構成する

4つの要素とは

56 WASHOKU

「あえのこと」が伝わるのは石川県の奥能登地域(輪島市珠洲市穴水町能登町)12月から翌年の2月までldquo田の神様rdquoを家に招き入れ春まで家で過ごしてもらうldquo田の神様rdquoは夫婦二神とされ料理を乗せた神膳はもとより盃や箸など祭礼で使う道具を二組ずつ用意するのがしきたり人々は能登近郊で獲れた食材でldquo田の神様rdquoをもてなす供えられるのは小豆ご飯たら汁大根はちめ甘酒などこれは行事が終わったあと子供たちに食べさせるものでもあった国の重要無形民俗文化財に指定されさらにユネスコの無形文化遺産保護条約代表一覧表に記載された

自然は豊かな恵みだけでなく

ときに厳しさをもたらす風土

が持つ地理的あるいは気候的

な環境を受け入れ日本人は自

然と深く関わって生きてきた

1「和食」の精神性

いまほど科学や技術が発達し

ていなかった時代自然は大き

な存在で人はそこに神を感じ

豊作大漁を祈り収穫の喜びと

感謝は祭りとなった食の恵み

をもたらす自然を尊重する『精

神性』を育んできた

2「和食」の社会性

ふだんの家族の食卓や祝い事

村や町の共同体での祭りや年中

行事自然の恵みを皆で共に食

べるなかで「和食」は継承され

てきた団らんや寄り合い打

ち上げなど「和食」は社会の要

の役割を果たしている

3「和食」の機能性

もちろん食には人が生きる

糧という『機能性』もある米を

中心に野菜魚介類海藻など自

「和食」が日本文化

である理由

rdquo自然ldquoと共にある暮らしが生んだ

四季折々あるいは地域ごとに異なる表情を見せる

自然に寄り添い日本人はそれぞれの食文化をつくりあげた

「和食」がなぜ文化であるのかその理由を探しにでかける

自然と共にある暮らし奥能登のldquoあえのことrdquo

56 WASHOKU

然の恵みをふんだんに使う「和

食」は見事な栄養バランスを持

つ健康的な食文化であるまた

ハレの日の料理には健康長寿

の願いをかけるという「機能」も

ある

4「和食」の地域性

そして多様な『地域性』地

理や気候が各地で異なる日本は

地域ごとに多様な食文化を築い

てきた北海道から沖縄にいた

るまで近世までは各地域が食

材を自給自足しそれぞれに特

徴のある食文化を営んできた

つまり「和食」は日本の地方文

化の象徴である

ここで例として見るのは石

川県奥能登に伝わる「あえのこ

と」これはrdquo田の神様ldquoに一年

の収穫を感謝する農耕儀礼

「あえ=もてなし」「こと=祭

り」を意味し冬から春にかけ

てrdquo田の神様ldquoを家に招き入れ

てもてなす能登の豊かな山

里海の恵みが捧げられる

もう一例は青森県下北半島

にある佐井村の食

長い冬に野菜や山菜などの

保存食を多用する食習慣が育ま

れいまでもその伝統が色濃く

残り独特の郷土料理が受け継

がれている正月にはこの土地

ならではのおせち料理を食べ

無病息災を願う

自然と共にある暮らしが日

本のさまざまな地域で独自の

料理と食習慣を育み「和食」を

かたちづくっているのがわかる

自然と共にある暮らし青森県の場合

東北地方全般に自生する山菜ミズこれはミズを茹でてアクを抜き蒸しサザエとともに昆布だしに浸す「ミズの水あえ」山と海の幸が一品の中で共存する点が興味深い海と山との距離が近い西津軽地方の郷土料理だが山の幸と海の幸がひとつの料理に盛り込まれる

4 地域性津軽地方で小正月などに七草粥の代わりに食べられている汁物一般的な春の七草は冬の青森では採れないため大根やにんじんなど冬の根菜のほかはわらびやぜんまいそして凍み豆腐など保存性の高い食材を多用して厳しい冬の正月に彩りを添えたそこには無病息災への願いが込められている

3 機能性青森県下北半島の突端に位置する人口約2500人の佐井村で毎年9月に開催される箭根森八幡宮例大祭では3日間の祭りの最中は どの家も玄関を開放してどんな客でも招き入れて盃を酌み交わす村中に神が降りて来るこの3日間は人々は平等に食事を囲み絆を固める

2 社会性この地域では家族全員が協力しながらひと冬分の「寒干し大根」づくりに励む大根を一度茹で冷たい清水にさらしてから寒風に当てて乾かすという工程は厳しい冬に対してあらがおうとせず寒さをうまく利用して自然と共に生きるという精神性が育んだ暮らしの知恵だ

1 精神性

寒干し

団らん

けの汁

ミズの水あえ

「和食」が日本文化である理由

1

3

2

4

78 WASHOKU

1

自然の尊重

自然の尊重から「和食」は始まり

いまここにある

豊かな自然なかでも清涼な水に支えられて

「和食」は食材に恵まれ調理方法箸しつらいなどを育んできた

それゆえ季節感を感じ自然を尊重する精神を忘れないのだ

京都市上京区の梨木神社(なしのきじんじゃ)に湧く「染井の井戸」は今でもldquo名水rdquoとして地元の人々から親しまれている湧き水日本各地で川の水のみならず湧き水や井戸水の恵みを受けてそれに感謝して暮らしてきた

78 WASHOKU

大自然が育む恵みが豊かな

日本では古くから自然を崇

拝し尊重する精神を育んでき

た日本各地で季節ごとに豊

作豊漁を祈願する祭りをおこ

なってきたことも自然を敬う

精神の表れだ

春夏秋冬日本は世界に類

を見ないほど四季が明確で和

食にはその季節でしか味わえ

ない多種多様な旬の食材が取り

入れられる

料理を盛るための器もまたし

かり天然の樹脂である漆う

るし

を塗

る漆し

っき器は美しさと防虫効果

耐久性を高めるなどといった先

人の自然に対する知恵が生み出

した器である

また器使いやあしらいで季

節感を出すことやハレの席や

会席料理においては床の間に

季節の花を飾るなどしつらい

に四季を感じさせる工夫が施さ

れるも特筆すべき点だ

そして自然の恵みのひとつ

として大切なものが水である

水は信仰の対象でもあり日

本の食文化を形成する上で重要

な役割を果たしてきた

国内の平均雨量は1800

と多く飲料として使える水が

豊富なのに加え水が地下に滞

留する時間が短くミネラル分

をあまり含まないそのため欧

米など大陸の硬水とは違い軟

水(WHO基準でカルシウムと

マグネシウムの量が120

L未満)であることも「和食」

に大きな影響を与えている

口当たりがやわらかくまろ

やかな軟水をふんだんに使った

調理方法や食材そのものの味

を生かす料理が発達してきた

例えば豆腐木綿豆腐や絹

ごし豆腐といった一般的な日本

の豆腐はたくさんの水を使っ

てつくられるため水の善し悪

しが味に関わってくる

炊飯も水で何度か米を洗い

適量の水を加えて炊くことで

芯のないふっくらとしたご飯に

炊き上がる

副菜であるお浸しのように茹

でた後に水で洗って絞ったり

水によってあくを抜いたりそ

ばのように一度茹でたものを水

で締めたり水をふんだんに使

う料理方法は独特で世界的に

見ても珍しい日本の水の性質

の良さが「和食」を支えている

また昆布や鰹節の持ち味を引

き出せる軟水だからこそだし

を使う調理が発達しただしに

よって自然の恵みである素材

そのものの持ち味をおいしくい

ただくことにもつながっている

のである

季節の移ろいを感じることが

「和食」の精神として息づいてい

る言い換えれば子どもの頃

から四季の感性が備わる日本人

にとっての食つまり「和食」と

は「自然の尊重」そのものなのだ

古くから食されている豆腐大豆の絞り汁を凝固剤で固めたのものだが日本の豆腐は水分を多く含み柔らかなのが特徴である味が淡泊な分製造工程における良質の水が味の決め手といわれる

豆腐

=

良質な水の活用

吹き寄せ

=

季節感を織り込む

「和食」は季節感がさまざまなかたちで織り込まれる吹き寄せという料理は季節の野菜銀杏きのこなどが塵取りに吹き寄せられた秋の風情を表現している

椀もの

=

木という素材使い

汁物を供する器はおおむね木製の椀薄く削った木地に布を巻きその上から漆

うるし

を塗った漆し っ き

器として全国で使われてきた木製なので熱い汁を注いでもその熱さを感じることなく手で持てるのも木という自然の素材ならではのよさだ

わさび

=

自然が持つ機能性

刺身の薬味としておなじみのわさびツンと尖ったその辛味は化学的にはアリルイソチオシアネートという揮発性の成分で強い抗菌殺菌作用があるため生魚を食べるときにその効果が発揮される自然がもたらす効果を駆使する「和食」ならではの知恵だ

豆腐

椀もの

吹き寄せ

わさび

「和食」が日本文化である理由 自然の尊重1

まろやかな軟水が

大きな影響を与える

910 WASHOKU

家族や親族で食卓を囲む日常

的なひとときは「いただきま

す」から始まる大切なコミュニ

ケーションの場みんなが顔を

合わせ食事をしながら日々感

じたことやその日の出来事を語

り合うことで家族の絆を強く

していくまた子どもたちに対

しては箸の持ち方や器の扱い

方といった「和食」ならではの食

の作法を伝えたり料理をとお

して味覚や栄養バランスなどを

教える大切な機会だともいえる

日常とは別に正月や節分大

晦日などの「年中行事」で普段と

は違うそのときならではの料理

をいただくその習慣もまた

家族や親族のつながりを強める

のに役立つまたそれぞれの

家ごとの味や伝統が親から子

へと受け継がれていくことにも

なる

家とは別に地域でつながる

年中行事もある

2

家族や地域を結ぶ

寄り合いが人をつなぐ

行事や祭りの食の役割

食事を共にするということを通して人はつながりを深くする

家族の食卓での団らん祝いごと地域の祭り年中行事

日本の伝統文化の中で食は人をつなぐ役割の中心にある

食を通して

人や地域とつながる

お正月に家族や親族で集まっておせち料理を囲む時間は地域や親族に伝わる食の伝統を次の世代へと受け継ぐ絶好の機会だまた下の写真は青森県西部の日本海沿岸に位置する深浦町でのひとこま

「深浦地産地消の会」ではいくつかの家族が集まって地域に古くから伝えられる郷土料理を教え合うという活動を続けている祖父母の世代しかその作り方を知らない料理を披露し郷土の伝統を次世代へ伝えようと尽力している

家族の食

910 WASHOKU

地域ごとで行う祭りの中でも

食は大切な要素である神社に

おける祭さ

いし祀の後には直な

おらい会と呼

ばれる飲食の儀礼も行われる

本来神への供く

もつ物やお神み

き酒を参

列者がいただくことで神と人

とが一体となり神の加護を期

待するという意味合いを持つ

今日では祭りの後の打ち上げ

という気分もあり祭りを終え

た後人と人とが酒を酌く

み交わ

すそれにより親密感が増し

共同体意識を高めているのだ

こうした打ち上げもまた食

を介した日本の文化といえる

祭りではなくとも食を中心

にして地域がつながるケースも

ある例えば秋になると山形

県や宮城県などで盛んに行われ

る芋煮会仲間や同僚地域の

人たちなどで声を掛け合い河

原に集まる季節の行事だ鍋の

内容は山形県の内陸部では里

芋と牛肉を具として入れた醤油

味が一般的一方宮城県では

里芋と豚肉を味噌で味付けて食

べるこのように地域によって

違いはあるが地元産の秋の食

材を入れ大きな鍋を囲むとい

う点では共通している一緒に

食べるだけでなく共同で鍋を

作ることで親交や結束がより

いっそう深まるのだろう

食をとおして家族や親族

そして地域やコミュニティが

結束力を強めるこれは「社会

性」という「和食」が持つ特徴の

ひとつだ

「和食」が日本文化である理由 家族や地域を結ぶ2

祭礼の中で食事を共にすることは祭りを担う人々の絆を固める大切な機会である下の写真は大阪府の祭りの様子この日に供されたのはハモと松茸のすき鍋水なすの漬物など一方で東北地方の宮城県や山形県で秋になると盛んに行われる

「芋煮会」(写真右)は地域だけでなく職場や親族友人どうしなどのコミュニティ単位で行われることが多い食材を持ち寄って鍋の準備を共に進めることで連帯感が高まるのだ

地域や祭りの食

1112 WASHOKU

おせち料理おせち料理の内容は地域によってさまざまこれは東京のおせち料理のひとつ重箱(手前)には健康を願う「黒豆」や子孫繁栄を願う「数の子」そして田の肥料としたことで豊作を祈願する意味を込めた「田作り」という「祝い肴三種」が盛り込まれている祝い肴にはその他紅白のかまぼこや長寿を祈願した海老の焼き物豊作を願ったたたきごぼうなどがあり地域によって異なっている酢の物(左の小さな重)や煮しめ(奥の大きな重)をおせち料理に供する家庭も多い

日本人の生活の中には特別

なrdquoハレの日ldquoがあるひとつは

正月などのように毎年同じ時期

にめぐってくる年中行事もう

ひとつは誕生や成人や結婚や還

暦など人生の節目にあたる日で

これを人生儀礼と呼ぶそして

ハレの日にはそれを食べるこ

とで「邪気や災厄をはらい健康

長寿を願う」という共通点があ

る一

年の始まりを祝うお正月は

「歳と

しがみ神さま」を各家庭で迎える

年に一度の大切な年中行事家

の入口に立てられる門松は神を

招くための目印で一年の幸せ

を願い家族が集まって食事を

共にするその際に供されるの

がおせち料理だ地域ごとにさ

まざまなバリエーションがある

のもおせち料理の特徴で酒し

ゅこう肴

3

健康長寿の願い

ハレの日の食事で

健康と長寿を願う

例えば全国各地でrdquo文化ldquoとして

色濃く残っているおせち料理

その内容には地域ごとにさまざまな

バリエーションがあるものの

共通しているのは

料理を食べることで健康長寿を

願うという点だ

1112 WASHOKU

お正月雑煮に合わせて飲むお屠蘇は銚ち ょ う し

子三つ重ねの盃盃を乗せる盃台これらを載せる盆で供されるもともとお屠蘇はいくつかの薬草を組み合わせた屠

と そ さ ん

蘇散を酒やみりんに浸して作る薬酒だった

お194679と そ蘇

魂の象徴である丸餅を入れた雑煮を食べるということは神の力をいただくことでもあったこれは京都でなじみ深い西京味噌で味付けした雑煮焼かずに煮た丸餅と昔から縁起物とされた頭

かしらいも

芋(里芋の親芋)が入るのが特徴だ

雑煮

赤い色の小豆は邪気と厄をはらいのけると信じられ祝い事の際には頻繁に登場したまたもち米を蒸して食べる習慣は古い日本の文化でもあって例えば赤飯はハレの食事として供されことにお祝いの席には欠かせない

赤飯一生食べることには苦労しないようにとの願いを込めて子どもの生後100日目に行う「お食い初め」の儀式では尾頭付きの鯛を含んだ一汁三菜の膳が供される丈夫な歯が生えることを願う「歯固めの石」も欠かせない

お食い初め

「和食」が日本文化である理由 健康長寿の願い3

を並べたスタイルもあれば煮

しめだけをおせちとする地域も

あるが神と食事を共にしつ

つ福を招き災いを打ちはらう

という願いが込められていると

いう点は共通している

同じくお正月に食べる雑煮は

そもそも武士にとって一番大切

で正式な酒の肴で正月には必

ず餅の入った雑煮とお194679と

そ蘇が

供されるそして鏡餅などの丸

い餅は神の魂の象徴「歯固め

餅」とも呼ばれ1月11日に鏡餅

を食べて歯が丈夫な長寿を願う

意味が込められている

食を囲み毎日を無事に過ご

すことを願う行事に五節句があ

る七草粥を食べる正月7日

(人じ

んじつ日)の他には邪気をはらう

と信じられていたヨモギ入りの

草餅を食べる3月3日(上じ

ょうし巳)

粽ちまきや柏餅を食べることで健康を

願った5月5日(端た

んご午)索さ

くべい餅と

呼ばれる細い麺を食べて無病を

願う7月7日(七し

ちせき夕)菊酒で不

老不死を願う9月9日(重ち

ょうよう陽)が

ある

人生儀礼に目を向ければ邪

気や厄をはらうと信じられてい

た赤飯は祝儀だけでなくお盆

などの仏事や葬儀の際にも食

べられてきた

体によいものを求めてきた

「和食」の伝統は結果として世

界でもまれにみる健康によい食

文化をつくりあげた健康で長

生きしたいという強い指向が

「和食」の根底にはある

北海道は各地から入ったお雑煮が混在する北海道特産のいくら鮭を使った「親子雑煮」を食べる家庭も多い

焼いた角餅に醤油味が一般的一部の地域では具に豆腐やゴボウなどが入りゴマだれやクルミだれに付けていただくこともある

鰹節でだしを取り醤油で味付けしたすまし汁に焼いた角餅を入れるのが一般的具には鶏肉こまつ菜かまぼこなどが入る

昆布でとっただしに白味噌で味付けし煮た丸餅を入れるすまし汁のところや元旦は白味噌2日目はすまし汁にする地域もある

1314 WASHOKU

「県出身ならあれ食べた

ことあるの」「お雑煮のお餅と

味付けは」hellip日本各地に伝

統的な料理や食材があり味付

けも地域ごとに異なる

気候や風土が異なると採れ

る食材や調理法は変化し地域

色豊かな和食が形づくられてき

たそんな多様性も和食の魅力

であり日本を旅するときの楽

しみのひとつでもあるはずだ

いまのように流通が盛んでな

く保存技術も進んでいなかっ

たころ食料を無駄なく存分に

そして安定的に味わうというこ

とは人々の重要な課題だった

そこで知恵を絞り工夫をこら

し考えられたのが食品の加工

や保存方法その知恵が結果的

に「和食」の多様性を生みだし

ていくことになるのだ

海から遠い土地では魚を長持

ちさせる知恵が生まれ冬が厳

しい北方では野菜を長期にわた

り保存する技が発展してきた

魚の干物餅梅干し凍み豆

腐helliphellipこれら保存食は昔から

ある加工食品だが同じく日本

古来の加工食品に発酵食品があ

る微生物の働きや酵素の力

で保存力や栄養価風味などが

加わった食品だ野菜の漬物も

このひとつ

例えば秋田県の郷土料理「い

ぶりがっこ」大根を囲炉裏の

4

「和食」の多様性

風土が多様性を生み

それが「和食」という地図を描く

南北に長くさまざまな気候を持つ日本だけに地域が持つ食文化は多様で

土地土地に伝わる郷土料理や加工保存技術が存在している

日本の食が描く地図は知れば知るほど面白い

風土の違いから生まれる

食文化の多様性

お雑煮MAP

 

正月に食べられるお雑煮はだ

しの素材や味付け餅の形状具な

どが地域や家庭によってさまざま

であるだしには昆布鰹節煮

干しするめ穴子鶏肉が味付

けには塩醤油味噌などが使われ

る餅は角か丸かそれを焼くか

煮るかという違いもあるまたあ

ん入りの餅を入れる地域もある

具は野菜類魚介類鶏肉などで

地域の特産品が使われることも多

い沖縄県ではお雑煮に代わるも

のとして「中味汁」(豚の内臓の

汁)があるここでは全国各地の

お雑煮の中から特徴のあるもの

を取り上げた丸もち

角もち

角もち

角もち

昆布と鰹節のだしに味噌で味付けし煮た丸餅とかぶそしてかぶの葉を加えたシンプルなお雑煮を食べる地域も味噌は赤味噌白味噌のいずれかが使われる

丸餅に白味噌仕立てが多いが香川県では白味噌にあん入り餅を入れた「あんもち雑煮」が珍しい具は大根ニンジン里芋など

だしはあごだし昆布鶏肉とさまざまだが味付けは醤油味具にかまぼこが入り九州の北部にはあん入り餅を入れる地域もある

醤油味のすまし汁に煮た丸餅が多い出雲地方では

「小豆雑煮」と呼ばれ具はなくぜんざいのような小豆だけの雑煮を食す

昆布と鰹節のだしに味噌で味付けし煮た丸餅とかぶそしてかぶの葉を加えたシンプルなお雑煮を食べる地域も味噌は赤味噌白味噌のいずれかが使わ

1314 WASHOKU

上に吊るし楢や桜の焚き火で

燻製にしてから米糠と塩で漬

けこんだ漬物だこれは冬の訪

れが早い秋田で大根を早く乾

燥させ長く食べられるようにす

るための工夫だいずれも手間

と時間が加わることで風味が

濃縮されとれたてとは違った

深い味わいが生まれた

魚介類の保存食でいえばな

れずし魚を塩と米飯で数日

から数ヶ月寝かせ乳酸発酵さ

せたもの雑菌の繁殖が抑えら

れ長期間の保存が利く上うま

味が増す現在滋賀県のふな

ずし和歌山県のサバやサンマ

のなれずし福井県小浜市のへ

しこなれずし秋田県のハタハ

タ寿司など日本全国の郷土料

理として残っている

また味噌や醤油といった発酵

調味料は日本料理の味の要と

もいえやはりこれらにも地域

によって造り方や味に違いがあ

る例えば味噌大豆と米こ

うじを使い長期間熟成させた辛

口の津軽味噌米こうじを多く

配合した甘みのある西京味噌

大豆こうじを使った赤褐色の名

古屋の八丁味噌麦を原料にし

た九州地方の麦味噌などさま

ざま

地域の特産品発酵調味料餅

で構成されるお雑煮を見ても

多様性はよくわかる

日本の風土と食文化は深く結

びつき世界が注目するバラエテ

ィに富んだ食を育んできたのだ

日本の味噌

mdash

地域と特徴mdash

味噌は製法材料によって

大きく3つに分けられる

全国的に一般的なのが「米

味噌」で蒸すまたは茹で

た大豆に塩米こうじを加え

発酵させたもの米こうじ

の代わりに麦こうじを使用

したものを「麦味噌」大豆

を発酵熟成させたものが

「豆味噌」米味噌には大

豆を蒸して長期間熟成した

辛めの赤味噌と大豆を茹

でて短期間で熟成させた甘

めの白味噌がある

「和食」が日本文化である理由 「和食」の多様性4

主な種類地域 特徴

米味噌

津軽味噌 長期間熟成させる辛口で赤味噌系が主流

仙台味噌 仙台で伝統を継承して造られてきた長期間熟成させる辛口赤味噌系が主流

信州味噌 長野県を中心に造られる山吹色の淡色系の辛味噌

江戸甘味噌 通常の味噌よりもこうじを多く塩を少なくした赤系の甘さのある味噌

西京味噌 関西地方を中心に造られる米こうじの多い甘みのある白味噌

讃岐味噌 香川県で造られる甘みのある白味噌あん餅雑煮にも使われる

府中味噌 甘みのある米こうじの多い白味噌で主に広島県で造られる

麦味噌 九州四国中国 麦こうじを使って発酵させた山吹色を帯びた甘みのある味噌

豆味噌 八丁味噌三州味噌 蒸した大豆でみそ玉を作りこうじ菌を繁殖させて造る濃い赤褐色の味噌

お雑煮に入れる餅の形について出身地ごとに聞き取った結果中部を境にして東は角餅西は丸餅が多かった

もちの形について

丸もち

丸もち

丸もち

丸もち

出典「お雑煮100選」(文化庁)より

(人)

温暖化が進み狩猟が大型獣から小型獣になる

南九州で竪穴式住居にドングリ貯蔵穴が広まる

ドングリなどの植物性食料が重要な食料になる

水田稲作が日本列島に伝来

稲作の広がりと定着魚を発酵させたなれずしの登場

『魏ぎ

し志』倭わ

じんでん

人伝には倭(日本)では冬夏に生菜を

飲食に高杯をつかい手食するとある

土は

師器の移動式かまどの使用

土師器の甑こ

しきに

よる蒸し米が盛んになる

中国に遣唐使を送る大陸の食文化がもたらされる

675年天武天皇が「牛馬犬猿ニワトリ」の

食用を禁止

牛乳を煮詰めて作った「蘇そ

」が朝廷に貢納される

箸の利用が広がる

貴族の大だ

いきょう饗

料理や年中行事が中国の影響で定着

豆腐が中国より伝来する

栄西が宋より抹茶法を持ち帰る

道元が禅宗における食事作法や調理の心得を

説いた『典て

んぞきょうくん

座教訓』『赴ふ

しゅくはんぽう

粥飯法』を執筆

植物性食品のみを使った精進料理の発展

武士の供応食本ほ

んぜん膳

料理の形成

包丁人と呼ばれる料理人が誕生し包丁流派を形成

刻み目のついたすり鉢が広がる

酒造技術の進展

書院茶の湯からわび茶の湯へ

千利休により茶の湯が完成

懐石形式の定着

豊臣秀吉が北野大茶会を開催

欧州が大航海時代に入り

南蛮貿易により南蛮菓子唐辛子などが日本に伝来

日本初の出版料理書『料理物語』刊行

都市部に食べ物屋や料理屋が普及する

料理屋の会席料理形成

けがれによる肉食禁忌の観念が広く浸透

薬食いとしての肉食

飢き

きん饉に備えさつまいもやじゃがいもの栽培を奨励

和菓子の完成

握り寿司やてんぷらが江戸で流行する

肉食解禁と牛鍋の流行

『西洋料理指南』など西洋料理書の出版

西洋料理店の発展

米の摂取率が平均53に

家庭向け料理書の出版

女学校における食物教育

脚か

っけ気

論争がさかんに行われる

牛肉の不足から豚肉の生産が増加

洋菓子の製造発展

物価高騰と米不足によるじゃがいもパンなどの代用食の奨励

国立栄養研究所の開設と栄養学の発展

都市部で和わ

ようせっちゅう

洋折衷料理が普及

戦争による食料不足

食料統制米などほとんどの食品が配給切符制となる

イモなど代用食の増産

戦後のミルクとパンの学校給食が開始

各地に闇市ができる

食料の価格が高騰

厚生省が日本人の栄養基準値を策定

農家の生活改善運動が展開

即席ラーメンなどインスタント食品の開発販売

冷凍冷蔵庫の普及と冷凍食品が普及

日本型食生活の提唱

ファミリーレストランファストフード店の増加

コンビニの発展

日本食の洋食化と簡便化と米摂取量の減少

食料自給率が39〜40に低下

レトルト食品の売上増大

電子レンジ普及率が約90に

遺伝子組み換え食品が登場

地球温暖化など環境問題が深刻化

阪神淡路大震災東日本大震災により災害食が注目される

持続可能性が社会課題に

家庭料理の変化や家族の孤食化などの問題が生まれ和食の見直しへ

縄文時代弥生時代古墳時代飛鳥時代奈良時代平安時代鎌倉時代室町時代安土桃山時代江戸時代BC9000年BC3000年BC2500年頃BC200年頃240年頃500年頃7世紀8世紀8~12世紀12~14世紀14~16世紀16~17世紀17~19世紀

1516 WASHOKU

「和食」の年表

「和食」がたどった道和食の成立とその変化を年表でたどってみると各時代の人々が海外の食文化の影響を受けながら工夫を積み重ねてきた様子が見えてくる

米は縄文時代晩期に伝来し

たとされるが全国に広がるの

は弥生時代である

平安時代の大饗料理は貴族

の供応料理で蒸した高盛の強こ

飯いい

に各種の魚介類を配し調味

料につけて食べる形であった

鎌倉時代には禅宗の影響に

より動物性食品を排除した

精しょうじん進料理が発展した道元禅

師は調理も修行の一つとして

その心得を記した『典て

んぞ座教き

ょうくん訓』と

食事への感謝の念作法を説い

た『赴ふ

粥しゅく

飯はんぽう法』を著した

室町時代上層階層の料理文

化として本膳料理が登場した

この形式は江戸時代後期には

婚礼などの儀礼食として各地域

に浸透し昭和期まで継承され

た本膳には飯汁菜香の物

が盛られ飯を主食とした伝統

的な食事の形式が定着すること

になるまた酒とその酒肴も

本膳に伴って発展した

安土桃山時代には茶の湯に

ともなう懐石が発展した一汁

三菜を基本に旬の素材にこだ

わり食事空間のしつらいにも

気を配るなど精神性をも盛り込

んだこの形式はその精神と

共に現代に引き継がれている

江戸時代の都市部ではそば

すしてんぷらなどの食べ物屋

高級料理店なども広がりをみせ

た料理書の出版も相次ぎ酒

と酒肴を楽しむ料理屋の会席料

理も成立したまた和菓子の

温暖化が進み狩猟が大型獣から小型獣になる

南九州で竪穴式住居にドングリ貯蔵穴が広まる

ドングリなどの植物性食料が重要な食料になる

水田稲作が日本列島に伝来

稲作の広がりと定着魚を発酵させたなれずしの登場

『魏ぎ

し志』倭わ

じんでん

人伝には倭(日本)では冬夏に生菜を

飲食に高杯をつかい手食するとある

土は

師器の移動式かまどの使用

土師器の甑こ

しきに

よる蒸し米が盛んになる

中国に遣唐使を送る大陸の食文化がもたらされる

675年天武天皇が「牛馬犬猿ニワトリ」の

食用を禁止

牛乳を煮詰めて作った「蘇そ

」が朝廷に貢納される

箸の利用が広がる

貴族の大だ

いきょう饗料理や年中行事が中国の影響で定着

豆腐が中国より伝来する

栄西が宋より抹茶法を持ち帰る

道元が禅宗における食事作法や調理の心得を

説いた『典て

んぞきょうくん

座教訓』『赴ふ

しゅくはんぽう

粥飯法』を執筆

植物性食品のみを使った精進料理の発展

武士の供応食本ほ

んぜん膳

料理の形成

包丁人と呼ばれる料理人が誕生し包丁流派を形成

刻み目のついたすり鉢が広がる

酒造技術の進展

書院茶の湯からわび茶の湯へ

千利休により茶の湯が完成

懐石形式の定着

豊臣秀吉が北野大茶会を開催

欧州が大航海時代に入り

南蛮貿易により南蛮菓子唐辛子などが日本に伝来

日本初の出版料理書『料理物語』刊行

都市部に食べ物屋や料理屋が普及する

料理屋の会席料理形成

けがれによる肉食禁忌の観念が広く浸透

薬食いとしての肉食

飢き

きん饉に備えさつまいもやじゃがいもの栽培を奨励

和菓子の完成

握り寿司やてんぷらが江戸で流行する

肉食解禁と牛鍋の流行

『西洋料理指南』など西洋料理書の出版

西洋料理店の発展

米の摂取率が平均53に

家庭向け料理書の出版

女学校における食物教育

脚か

っけ気

論争がさかんに行われる

牛肉の不足から豚肉の生産が増加

洋菓子の製造発展

物価高騰と米不足によるじゃがいもパンなどの代用食の奨励

国立栄養研究所の開設と栄養学の発展

都市部で和わ

ようせっちゅう

洋折衷料理が普及

戦争による食料不足

食料統制米などほとんどの食品が配給切符制となる

イモなど代用食の増産

戦後のミルクとパンの学校給食が開始

各地に闇市ができる

食料の価格が高騰

厚生省が日本人の栄養基準値を策定

農家の生活改善運動が展開

即席ラーメンなどインスタント食品の開発販売

冷凍冷蔵庫の普及と冷凍食品が普及

日本型食生活の提唱

ファミリーレストランファストフード店の増加

コンビニの発展

日本食の洋食化と簡便化と米摂取量の減少

食料自給率が39〜40に低下

レトルト食品の売上増大

電子レンジ普及率が約90に

遺伝子組み換え食品が登場

地球温暖化など環境問題が深刻化

阪神淡路大震災東日本大震災により災害食が注目される

持続可能性が社会課題に

家庭料理の変化や家族の孤食化などの問題が生まれ和食の見直しへ

明治時代大正時代昭和時代(戦前戦中)昭和時代(戦後)平成1869~1912年1912~1926年1926~1945年1945~1989年1989年~

1516 WASHOKU

家庭料理の変化や家族の孤食化などの問題が生まれ和食の見直しへ

基本はほぼこの時代にできたと

いえよう

いっぽう各地域の日常食の

主食は麦雑穀芋類を混合し

たかて飯やうどんなど小麦粉を

用いた食事が多くそれは昭和

期まで引き継がれ各地で独自

の「和食」の文化が形成された

西洋文化を積極的に取り入れ

た明治時代以降西洋料理書が

出版され都市部では西洋料理

店が開店したまた明治時代

後期には家庭向け料理書の出

版が相次ぎ西洋料理をアレン

ジして和食に取り入れた和わ

よう洋

折せっちゅう衷料理が数多く紹介された

大正期国立栄養研究所の開

設により栄養学の研究が進み

日常食の栄養についての関心が

少しずつ広がった

飢餓を経験した戦時期を経て

主食に偏らず副食に動物性食

品や油脂を加えた食事が推奨さ

れたその結果1980年頃

になると日本人の食事は米飯

を基本にしながらも乳乳製品

肉魚類野菜類などを適度に

加えたよりバランスのよい食

事となったこの時期の食生活

を「日本型食生活」と呼んだし

かしその後食生活の洋風化

簡便化が広がり食料自給率は

40パーセントと減少した若年

層を中心に食事の基本型が崩れ

欠食孤食などが話題となり和

食の見直しが求められるように

なった

1718 WASHOKU

「和食」の特徴1

献立のかたち

「ご飯」を食べるために

「汁」と「菜」がある

「一汁三菜」が和食の基本型

「一汁三菜」とは「ご飯」と「汁」と「香の物」に

いくつかの「菜」が添えられるという組み合わせ

「ご飯」と「汁」と「香の物」に「お菜」が3品添えられるという献立が一汁三菜この場合は焼き魚(右奥)と煮物

(左奥)と小松菜のおひたし(中央)の3つの菜で構成される向かって手前左にご飯を手前右には汁をその間に香の物をそれぞれ置くという決まりになっている

1718 WASHOKU

米を炊いた「ご飯」昆布や鰹

節などでとっただしを味噌や塩

などで味付けした具入りの「汁」

塩漬けやぬか漬けや粕漬けなど

の「香の物」そして焼き物や煮

物や和え物などの「菜」その4

つの要素で構成される「一汁三

菜」という組み合わせがある

基本的には汁が一種で菜が

三種の構造を「一汁三菜」と呼

ぶ食事中に口の中をさっぱ

りと保ってくれる「香の物」と

ご飯はいつも必ずついていて

その数も変わらないからあえ

て数えない

日常の食事である一汁三菜に

対して江戸時代によく登場す

るのは二汁五菜つまり汁が二

種に菜が5つこれが昔のおも

てなし料理の基本でお膳もふ

たつ出たいいかえると一汁三

菜はひとつのお膳に載るふだ

んの家庭の食事であることがわ

かる

また汁にもいろいろあった

魚のアラを汁に仕立てたものや

野菜を豆腐と一緒に煮込むけん

ちん汁など具だくさんの汁も

各地域でみられ汁でご飯を食

べるということも和食の特徴の

ひとつだ

一汁三菜の献立の最大の特徴

は汁も香の物も菜もすべてご

飯を食べるために存在するとい

う点かもしれないご飯が主食

でその他の3つの要素が副食

という考えが一汁三菜の根底に

ある少ない菜でたくさんのご

飯を食べご飯の量でカロリー

の摂取量を調整するのがかつ

ての和食の基本的な食べ方だっ

たのだ

「和食」にとって欠かせないご

飯についてもここで触れてお

こう

米には「うるち米」と「もち米」

とがあり強い粘性を持つもち

米は赤飯などのおこわ(強こ

わいい飯

や餅に用いられるそれに対し

てうるち米はもち米より粘り

気が少なく通常の米飯として

使われる

米のもとになる稲の栽培が始

まったのは1万年以上前とされ

野生の稲を栽培したのが始まり

と考えられているその原産地

は中国の長江流域とその周辺

という説が有力でそこから西

へ伝わった品種がインディカ種

また東へと伝わり東アジアに

広がったのがジャポニカ種だ

「和食」における献立の目的は

いわば汁と菜でご飯を食べる

ことつまりご飯に合うのなら

例えばそれが肉じゃがでもコ

ロッケでもとんかつでも菜と

して取り入れてこられたのは

ご飯を主食とする「和食」のス

タイルがしっかりしていたか

らである一汁三菜という和

食の基本型がなくなったら外

国の料理と変わらなくなって

しまうだろう

「和食」の特徴 献立のかたち1

稲 玄米 白米 調理加工

粉にする

飯餅菓子米飯焼き米ひなあられ餅おかきあられ

稲わら 俵わらづと鍋釜敷き畳床むしろわらぞうり縄みのわらぼうき など

酒酢みりん味噌発酵させる

糠 たくあん糠漬けあく抜き

(上新粉など)柏餅草餅重

お も ゆ

湯など

(白玉粉落ら く が ん

雁粉道明寺粉など)白玉最中大福餅落雁桜餅など

どうみょうじ

うるち米の粉

もち米の粉

日本人の暮らしに深く関わる稲米

 現在世界で栽培されている稲の主な種類にはインディカ種(インド型イネ)やジャポニカ種(日本型イネ)などがあるインディカは長粒種と呼ばれる米ジャポニカは日本でよく食べられている丸く短粒な米で短粒種と呼ばれる米の主成分であるでんぷんにはアミロースとアミロペクチンとがありアミロースを多く含むインディカ種は粘り気が少ないのに対しアミロースの少ないジャポニカ種は粘りが強く日本人にとってはおいしい味の米であるそしておにぎりやすしのようにまとめる米料理も発達した 世界の米の生産量は約6億トンと小麦とほぼ同じだがその90以上が日本を含むアジア諸国で栽培されているジャポニカ種は全体の15を占め日本をはじめとして朝鮮半島中国東北部台湾北部などで主に栽培されているインディカ種の栽培地域はインドからベンガル地方のバングラデシュタイをはじめとするインドシナ半島中国の中南部インドネシアなど南アジアが中心だ

ジャポニカ種とインディカ種日常私たちがご飯として食べているのはうるち米赤飯や餅にするのはもち米である栄養価はほとんど同じであるがでんぷんの構成が異なるうるち米はアミロースとアミロペクチンの比率が約28であるがもち米はほとんどアミロペクチンで構成されているそのためにもち米はうるち米に比べて粘りが強く餅にするのに適しているのである日本では両方の米の特徴をうまく利用して粒のまままたは粉にするなどしていろいろな料理や菓子を生み出したり発酵させて酒やみりんなどをつくり出したりしてきた

うるち米ともち米

インディカ

ジャポニカ

「和食」に欠かせない

米はどこから来たのか

1920 WASHOKU

全国各地でさまざまな魚や野

菜が豊富に手に入ったことそ

して文明開化の時代まで一般

的に肉食をしなかったという背

景から「和食」は野菜と魚介類

を中心に調理されてきた

現在日本の市場で流通する

野菜の数は150種類ほどと言

われているその種類はイモ類

やマメ類をはじめ根菜類茎け

いさい菜

類葉菜類果菜類など実に多

様ださらには山菜やきのこ

など森林に自生するものも調

理に工夫することでうまく食材

として取り入れてきた

日本で流通する野菜は近代

になって外国から輸入されたも

のや品種改良によって食べや

すくなったものなど多様では

あるが昔から日本で作り続け

られている伝統野菜(在来野菜)

も少なくない伝統野菜とはだ

いたい三世代以上に渡って栽培

「和食」の特徴2

食材

和食を支える日本の食材

おいしさの秘密と多様性

おいしい和食には素材の力がある四季折々の自然の中から

生み出される日本の食材は驚くほど多様性に富んでいる

野菜

野菜と魚介類の二大食材に

支えられる日本食文化

和食には野菜を使う料理が多くあるが現在日本で流通する野菜の種類も150以上と幅広い分類にしてもジャガイモやサツマイモなどのいも類大豆や小豆などのマメ類ダイコンやカブなどの根菜類ネギやウドなどの茎

け い さ い

菜類コマツナや白菜などの葉菜類ナスやキュウリなどの果菜類そのほかにシイタケやシメジなどのきのこやワラビやゼンマイなどの山菜など多彩な野菜が存在するしかし現代でこそ流通の発展でさまざまな野菜が一年中手に入るが全国で同じ野菜が収穫できるわけではない例えば同じいも類でもサツマイモなどは九州などで多く作られるが冷害に強く冷涼な地で生育するジャガイモは山梨や長野などの山間部や日本の北部で育てられるそのほか地域特有の特産品である伝統野菜がいま注目され始めている

1920 WASHOKU

が続けられ地域に根づいた農

法で作られるものを指しこれ

を守る動きも目立ってきている

魚介類も「和食」にとって欠か

せない食材のひとつ日本で獲

れる海水魚は実に種類豊富で

日本に生息する魚種だけでも約

4200種ある縁起のよい魚

として重宝されるタイをはじめ

アジイワシやサバサンマなど

日本の近海は魚の宝庫である

海水魚だけでなくコイやア

ユフナやウナギそして水田で

獲れるドジョウなどの淡水魚

(川魚)は海から離れた地域では

貴重なタンパク源だったため

古くから料理に使われている

ウナギの蒲焼きは一般的だが

薄切りにしたコイを50くらい

の湯に短時間漬けてから冷水で

身を締めて酢味噌で食べる「鯉

のあらい」やコイの切り身を濃

い味噌で煮た「鯉こく」など味

わい方も豊富

またうま味のもととして古

くから使われてきた昆布や味

噌汁の具としても重宝するワカ

メさらにおむすびに必須の海

苔など海藻類も和食には欠か

せない貝類も種類が豊富で

アワビをひも状に薄くむき乾

燥させた「熨の

しあわび

斗鮑」が神事や祝し

ゅうぎ儀

の象徴として使われてきた

近年日本の食料自給率が低

下し外国産食材の増加も問題

視されているが本来の「和食」

は日本の自然の恵みによって支

えられているのだ

「和食」の特徴 食材2

島国である日本において魚介類は古くから貴重でかつ重要な食材であった農林水産省の定める生鮮食品品質表示基準によれば日本で食される水産物はマグロやカツオイワシやアジなどの海水魚やコイやウナギなどの淡水魚(川魚)シジミやアサリなどの貝類カニやエビなどの甲殻類やカメなどの水産動物類クジラやイルカなどの海産哺乳動物類そのほか昆布やワカメなどの海藻類など実に多様な種類がある2000年に味の素(株)がおこなった「嗜好調査」によれば「食材」としては肉類よりも魚介類のほうが好まれている結果がみられたさまざまな魚介類のなかでもカニエビマグロなどへの嗜好性が高くそれらが「贅沢な食材」と捉えられているようである

山間部など海の魚が手に入らない地域で貴重なタンパク源として重宝されたのが淡水魚(川魚)写真はアユだがその他コイやウナギドジョウワカサギフナなど日本ではさまざまな川魚が食材として使われてきた寄生虫のおそれがあるため生食はあまりされないがその代わりに調理にはさまざまな工夫が見られる海の魚に比べると独特の臭味やクセがあるため「鯉こく」のようにしっかりと煮込むことで臭味を除いたりウナギのように蒲焼きにしたりするなどがその一例だまた例えば滋賀県には琵琶湖で獲れるフナを塩と米で乳酸発酵させ保存性を高めると同時にうま味成分を引き出した「ふなずし」もある

古来日本で食べられてきた海藻類現在でも低カロリーでミネラルビタミンに富む食材として和食では重宝されている日本では約50種類の海藻が食べられているが世界的にみてもここまで多様な海藻を加工し食用とする民族は珍しいなお海藻にはフノリやテングサのような紅藻ワカメ昆布やモズクなどの褐藻アオノリや海ブドウなどの緑藻類の3種類の海藻が存在する昆布のようにだしをとるために使うものもあるが乾燥させて食べる海苔味噌汁や酢の物の具として使われるワカメのようなものまで実に幅広いまた海藻は神への奉納品としての縁も深く日常の食事だけではなく祭りや神事などにも登場している

縄文時代の遺跡である貝塚からアワビやハマグリカキなどの大量の貝殻が発見されていることからもわかるように貝類は日本では古くから食材として利用されてきた春先の干潮時に浜辺に埋まったアサリなどの貝を掘り出して採取する潮干狩りは春の風物詩としても馴染み深い日本には6000近い貝類があるといわれておりなかでもアサリやハマグリのような二枚貝サザエやツブ貝のような巻き貝が食用として親しまれている調理法としては刺身や吸い物味噌汁煮物焼き物炊き込みご飯など幅広い料理に使用されているがだしをとるためにも使われるさらに乾物にすれば保存性も高くなるため古くから交易にも活用されてきた

海の魚

川の魚

海藻貝

2122 WASHOKU

和食における菜さ

の調理法には

煮る焼く蒸す茹でる和あ

える

揚げるなど実に多様な技法が

あるこれを季節の野菜や山

菜魚介類海藻などの食材と組

み合わせることでバラエティ

に富んだ菜が食卓を彩る

数ある日本の調理法の中で

最も特徴的なのは「生もの」材

料を生のまま切り皿に盛り付

け調味料と薬味を添える刺

身といえば魚介類が用いられる

のがほとんどで捌さ

き方切り方

盛り方などが現在世界で注目を

浴びている材料を新鮮な状態

に保つ技術と料理としての盛り

付けの技術があいまって完成し

たものといえる調味料と薬味

の組み合わせも魚類との相性を

考えて工夫されているまた

わさびしょうがからしなどの

薬味や「つま」や「けん」と言わ

れる大根のせん切り大葉防ぼ

うふう風

芽めたで蓼花は

なじそ

紫蘇など防菌効果のあ

るものを添えて見た目も美し

く組み合わせている

ご飯と並んで食卓に欠かせ

ない「汁物」は鰹節や昆布煮干

し干し椎茸などから抽出され

るだしのうま味と具として入

れる素材のうま味が味わいのベ

ースとなっている中には具だ

くさんの菜になるような汁も

ある

また豊富な水を利用した調理

焼き物(サンマの塩焼き)

直火焼きは遠火の強火でほかに間接焼きがある

生もの(カツオの刺身)

生ものには刺身あらい酢の物漬物がある

茹で物(もりそば)

小麦粉やそばなどの粉からつくる麺を茹でる法

旬の食材のおいしさを

引き出す調理法の数々

「和食」の特徴3

調理

切る煮る焼く蒸す茹でる和える揚げるhellip

あの手この手で素材をよりおいしく

バランスの取れた一汁三菜の基本はご飯にあり

ご飯をおいしくいただくために菜さ

の調理方法は進化した

煮物(筑前煮)

煮汁の中で加熱中に調味する法

2122 WASHOKU

法に「茹で物」があるたっぷり

の水を沸騰させ食材を加えて加

熱して取り出すもの青菜そば

などは茹でた後にあくの除去

歯触りを良くするなどのためさ

らに水で洗う場合も多い私た

ちがあたりまえのように調理し

て食べているほうれん草や小松

菜のお浸しは水に恵まれた日本

に定着した料理で世界的にみて

も特徴あるものといえよう

「焼き物」はサンマの塩焼きの

ように塩をふり直火でじっく

り焼き上げる方法が伝統的

「煮物」は世界で最もポピュラ

ーな調理法だが日本では素材

の味を生かしつつ醤油や味噌

など大豆由来の発酵調味料で

味を調えるものが多い

油とともに加熱調理する「炒

め物」は伝統的な調理にはほと

んど見られないが現代では盛

んに使われ和食の幅を広げて

いる

ここに紹介した調理法と料理

の例は主にご飯のおかずとな

るものであるが小麦そば雑

穀などを粉にしこれを調理し

た主食も多い代表的なものに

うどんそばそうめんなどの麺

類があり茹でる場合が多いが

煮込みなど煮るものもある

さまざまな料理を組み合わせ

て食べる和食は素材の味を生

かしうま味をしっかりとれば

最低限の調味料でおいしさを感

じることができ多様な料理を

楽しむことができる

和あえ物

(きゅうりとワカメの酢の物)

野菜や魚介類などをごま味噌酢などで和える法

漬物(きゅうり大根の糠

ぬか

漬け沢たく あ ん

庵漬け)生ものを保存する方法の一種

塩の働きに加え乳酸発酵させたものが多い

汁物(なめこの味噌汁)

だし汁を主体とする法すまし汁みそ汁とろみのついた汁など

蒸し物(茶碗蒸し)

水を沸騰させその水蒸気を利用して加熱する法

浸し物(小松菜のお浸し)

お浸しは調味した汁に浸して味をつけたもの

「和食」の特徴 調理3

揚げ物(天ぷら)

高温の油で食品を加熱する法油の温度は150~200度の範囲で行うことが多い

2324 WASHOKU

「和食」の特徴4

味わい

うま味日本人が発見した「おいしく食べる」最大の知恵

和食の味わいの中で最も重要なのがだし

味噌汁やすまし汁のベースとなり

煮物やおひたしなどさまざまな料理の

味を決定づける味の要だ

和食の味わいを語るうえで忘

れてはならないのがだし(出

汁)の存在汁物や煮物などさ

まざまな料理のベースとして使

われている

なぜ日本人はここまでだしを

好むのかその答えに大きく関

係するのが「うま味」だ江戸時

代の料理書には「だしこそ料理の

根本である」と書かれている

1907年池田菊き

くなえ苗

博士に

よって世界で初めてうま味成

分のひとつがアミノ酸の一種で

あるグルタミン酸であることが

発見されたその後日本人を中

心に研究が進みうま味は甘味

塩味酸味苦味に加えて第5

の味覚として広く知られるよう

になる現在ではうま味調味

料やだし入りのつゆなどうま

味成分を手軽に使える調味料も

普及海外でも人気が高く国

内でも日常的に使用されている

だしのほかに和食の味付け

日本が世界に誇る

第5の味覚うま味

うま味成分を多く含む椎茸もだしをとる目的で使われてきた食材のひとつだしに使用するのは干したもの椎茸は乾燥させることでうま味や香り成分が増すためだ

小魚を煮て乾燥させてつくる煮干しも汁物に多用される材料としてはカタクチイワシが代表的だがその他ウルメイワシやキビナゴトビウオなどの比較的魚体が小さな魚を使ってつくるのが一般的だ

だしのとり方は魚介や野菜から水や湯を使ってうま味成分を抽出するのが一般的だしの素材として最もよく使われるのは昆布と鰹節でそのほか煮干し野菜干し椎茸魚の内臓やあら(頭や骨)などがあるまた潮

うしおじる

汁のように食品そのもののうま味を活かす方法もある

鰹節

「だし」のこと

昆布

煮干し

干し椎茸

2324 WASHOKU

に欠かせないのは塩砂糖味

噌醤油酢酒みりん魚醤な

どの調味料わさびやからし

しょうが山椒とうがらしゆ

ずなども薬味として使われる

これら薬味によって季節感を楽

しみながら素材の味を引き出

すという知恵も「和食」ならでは

夏に高温多湿となる日本では

アジア諸国と同様発酵食品が

発達したそれゆえ味噌や醤

油や酢に代表される発酵調味料

を多用するのも和食の特徴大

豆や穀物を塩漬けにして発酵

させてつくるものだがその過

程で原料のタンパク質がアミノ

酸に分解されうま味成分を豊

富に含んだ調味料ができあがる

のだ

発酵食品も多様だ日本各地

でカビや酵母などの微生物の

働きを活かして食品中のアミ

ノ酸(うま味)を増やす発酵食品

が発達してきた冬場の保存食

として生み出された沢庵や塩

を使って乳酸発酵させる京都の

すぐき菜漬けそして糠ぬ

漬けや

奈良漬けなど野菜を発酵させ

た漬物さらに塩辛やくさや

なれずし鰹節など魚介の保存

食としての発酵食品また大

豆を納豆菌で発酵させる納豆や

こうじ菌で発酵させて乾燥後に

熟成させた寺納豆など大豆の

発酵食品もある

「和食」はうま味を上手に生

かし食材をおいしく食べる知

恵を育んできたのだ

発酵食品

発酵調味料

調味料

「和食」の特徴 味わい4

発酵食品と調味料

魚醤魚を塩漬けにして発酵させる独特の香りと濃いうま味が特徴の調味料ハタハタでつくられる秋田の

「しょっつる」イカやイワシを材料とする能登半島の「いしる(り)」などがある

酒酒もまた和食の調味に欠かせない発酵調味料のひとつ調味料としての酒の主な効果には材料の臭みを消す食材のうま味を引き出して風味をよくする甘みを加えるなどがある

塩海に囲まれている日本では古くから塩は調味料として使用されてきた焼き物や刺身などの調理の味付けとしてはもちろん漬物や干物など食物を貯蔵するための知恵としても活用されている

味噌蒸したり煮たりした大豆にこうじ食塩を混ぜて発酵熟成させた日本を代表する調味料のひとつ味噌汁や煮物などに使われることが多い地域によって使用される味噌の種類がかなり変わるのも特徴だ

酢寿司やなますなど和食に酸味を加える調味料米から醸造した酒に酢酸菌を加えて発酵させて造られる酢に漬けることにより保存性を高める

醤油大豆と小麦で造ったこうじに食塩水を加えた「もろみ」を発酵熟成させ搾ったもの刺身や焼き魚煮物炒め物など幅広い料理に使われている種類は濃口薄口たまり再仕込み白の5つに分類される

みりん蒸したもち米と米こうじを主原料に40~60日かけて熟成させて造られる発酵調味料砂糖と比べて甘みがやわらかく食材の臭味を取る働きもあるまた魚の照り焼きなどのつや出しにも使う

漬物素材を食塩や酢酒粕醤油などに漬け込み熟成させて作られる漬物沢庵や梅干し野沢菜漬けなど野菜類を長期間保存するための知恵として誕生した日本各地に独特の漬物があるのも特徴だ

納豆日本で発展した発酵食品である納豆大豆を納豆菌で発酵させた食品で寺納豆(下記参照)と区別するため「糸引き納豆」とも呼ばれる単品で食べるだけではなく納豆汁や納豆和えなどにも使われている

塩辛魚介類の身や内臓を塩漬けにし発酵させて作られた塩辛は日本における伝統的な保存食品のひとつ使われる素材はその地域によって変わりイカやエビアミタコなど多彩な種類の塩辛が存在する

塩に漬けた魚と炊いたご飯を数日間置き乳酸発酵させたなれずしは魚を保存する知恵として生まれた滋賀県では琵琶湖産のふなを和歌山県や富山県ではサバを岐阜県などではアユを材料にしたものが有名写真は滋賀県湖北地方の年頭の祭りで振る舞われる鯖のなれずし

砂糖世界的に見ても「甘み」を用いた料理が多い現在の和食では砂糖は欠かせない調味料のひとつ単独で料理に使われるというよりは煮物をはじめとするさまざまな料理で醤油や塩味噌などと併用されることが多い

寺納豆茹でた大豆にこうじを加えて発酵させ乾燥させながら熟成を促す発酵食品粘り気のある糸引き納豆とは異なり乾燥して塩辛い禅宗の伝来とともに大陸からもたらされたとされ寺院で作ることが多かったため「寺納豆」と呼ばれた

2526 WASHOKU

「和食」の特徴5

栄養

栄養バランスの優等生「和食」

野菜や魚肉そして米によって構成される「和食」は

栄養バランスの良さでも知られている

最近は五日間すべてを米飯にする完全米飯給食を行う地域も生まれた

和食の特徴のひとつである栄養についてその秘密に迫る

米麦雑穀などを炊いたご飯

を主食としてこれに魚介肉

類野菜類に発酵調味料だしを

組み合わせた和食は栄養学的

にみてもバランスをとりやすい

食事である

歴史的にみると日常食では

主食を大量に摂る習慣が続いた

穀類偏重の食生活だったといえ

よう

しかし豆腐や納豆みそ汁な

どを飯とともに摂ることで米の

アミノ酸の利用率を上げる食べ

方年中行事などハレの日に魚

介類などを摂取して楽しむなど

学ぶべき知恵は多い

なかでも何百年も伝えられて

きた和食の基本型はすぐれた

ものといえよう

副食の主菜には魚肉豆腐

などタンパク質を多く含む料理

を考える副菜には主菜に使わ

なかった野菜芋類などを使い

汁は主菜に合うものを用意する

焼き魚野菜の煮物青菜のお浸

しとみそ汁などでも栄養的バ

ランスはとれている

1980年頃までは多くの

家庭で和食の基本型が続いた

主食の量がやや減り副食が増

加とくに乳乳製品肉類の割

合が増加したこの頃栄養バ

ランスをはかる一つの指標であ

るPFCバランスが理想的な比

率を示した(左記参照)

しかしその後外食の日常化

家庭料理の欧米化が進み米の

摂取量が激減し脂質摂取の過

多などから生活習慣病が問題

となったこうした中各地で

食生活を見直す動きがみられる

ようになったその一つが学校

給食での取り組みである

戦後の食料難の中でパンと

牛乳に副食を加えた完全給食は

1950年に始まった197

6年に米飯が導入されるまで長

く続いたパン給食は和食の基

本型にも影響を与えたようだ

米飯給食は次第に増加し

2010年には週3回以上米

飯給食を実施している小中学

校は90以上となったが週5

回の米飯給食の実施は7以

上と高くない

ここでは2008年に5日

間すべてを米飯給食とした新潟

県三条市の事例を紹介しよう

成長期にバランスのよい食事

で健康な体をつくることそし

て望ましい食習慣を身につけ

生涯を健康に生きることをめざ

し完全米飯給食を実施したと

のこと

米は同市で生産される農薬

を減らしたコシヒカリを七分搗つ

きにした米飯を主食に副食は

主菜副菜汁を組み合わせる献

立をベースとしている主菜は

サケのフライ鶏肉ピリ辛焼き

さんま梅煮など伝統的な和食だ

けではないが和食の基本型の

中に取り入れる工夫がされてい

るパ

ンは油脂や糖分と相性が

良く肥満につながりやすいが

新潟県三条市の給食献立一例三条市の小中学校での献立例ご飯は三条市で収穫したコシヒカリを使用「お米だと腹持ちがよいのでデザートをあまり出さなくとも子どもたちが満足してくれる」とのこと洋風や中華風の献立でもおかずはご飯に合うものを選びスープなどの汁物は確実につけるように心がけている

火曜日

えだまめごはん

さけチーズフライ

くきわかめきんぴら

かきたまじる牛乳

小学校687kcal中学校823kcal

水曜日

ごはんとりにくのぴりからやきいかときゅうりの

あえものしょうがみそスープ牛乳小学校639kcal中学校752kcal

木曜日

ごはんさんまうめにたくあんあえにくじゃがに牛乳なし小学校688kcal中学校814kcal

金曜日ごはんカレーふりかけほうれんそうオムレツフレンチサラダパンプキンスープ牛乳小学校708kcal中学校833kcal

月曜日

ごはんいかのかりんあげ(2こ)

なっとうあえきのこけんちんじるのむヨーグルト

小学校619kcal中学校731kcal

2526 WASHOKU

七分搗米の飯は腹持ちがよく

おやつを食べる子どもが減った

だけでなく肥満の子どもが減

少傾向となり食生活のリズム

が良くなったとされる

また米飯に合う副食は土地

でとれる野菜類を取り入れやす

く季節にあわせてバラエティ

ーに富んだ献立を作ることがで

きる一汁三菜の食べ方の教育

を行った結果給食を残す子ど

もたちも減ったという

基本的な食事パターンが続く

中でも菜を工夫すれば変化に

富む食事を作ることはできる

季節の食材について学び年中

行事への知識も得られるだろう

また子どもたちが和食の基

本型を毎日の給食で体験してい

ることはきわめて重要なことで

ある時々経験するだけでは身

につかないものでも毎日繰り返

すことによって習慣化し定着

するのであるそしてやがて

自分で組み合わせを考えられる

ようになることが期待される

今後の学校給食の役割は大きい

といえるだろう

PFCバランスとは

FAO Statistics Yearbook(日本のみ食料需給表)参照栄養バランスが良いとされるP(たんぱく質)10~20F(脂質)20~30C(炭水化物)50~70の範囲が08~12に収まるように指数化した

日本でのPFCバランスの変化

アメリカとフランスのPFCバランス

タンパク質脂質炭水化物は人間にとって特に不可欠な「三大栄養素」PFCのPはProtein(たんぱく質)FはFat(脂質)CはCarbohydrate(炭水化物)の頭文字でPFCバランスとは食事の中での「たんぱく質」「脂質」「炭水化物」のそれぞれの摂取カロリーの比率健康的な生活をおくるためにはPFCバランスがたんぱく質15脂質25炭水化物60が理想的

給食時には全員で「いただきます」「ごちそうさま」を復唱食育にも力を入れているためそれら言葉の意味についても学校で教えている

米飯給食になってから児童たちの食の嗜し こ う

好に変化が生まれたとか児童たちに好きなおかずを聞いてみると「ハンバーグ」「カレー」などの定番メニューのほか「焼き魚」「納豆」などの和食メニューの名前が上がった

自分の分を食べ終わった児童たちが列をつくって競い合うようにご飯をおかわりしていたこの日の食べ残しはゼロ

C

P

F

14

12

1

08

06

アメリカ(2005~2007年)

C

P

F

14

12

1

08

06

フランス(2005~2007年)

「和食」の特徴 栄養5

日本人のPFCバランスは1965年当時は炭水化物に偏っていたが1980年は非常に理想的な配分になっていたしかしその後の日本人の食生活に肉や油脂類を多く摂り主食の米を食べる量が減り2010年時は欧米型に近づきつつある

C

P

F

14

12

1

08

06

日本1965年

C

P

F

14

12

1

08

06

日本1980年

C

P

F

14

12

1

08

06

日本2010年

2728 WASHOKU

お客を迎える前には店先に打ち水を水で清め準備が整ったことを伝える趣向に合う軸を選ぶのももてなしの基本飾る花は主人自ら育てたものそれを床の花入に活けるのも主人庭に150種ほどの草花を植え日々育てることもしつらいの準備客は女将の温かいもてなしに迎えられる

「和食」の特徴6

しつらい

人をもてなすためのこころとかたち

もてなしは客に対する一方的なサービスではない

お互いに思いやる気持ちから生まれるこころよさである

手入れの行き届いた庭は掃き

清めて水を打ち床の間には軸

を掛け季節の草花を生ける

座敷の襖ふ

すま

も夏には葭よ

しど戸に入れ替

え夏は涼やかに冬は暖かに

すべて相まってもてなしのた

めの用意を整えることそれが

しつらい和食とりわけ懐石

料理においては食材や料理と

ともにしつらいは非常に重要

な要素となる

家庭でも食事をつくる人は

食べる人の顔を思い浮かべなが

ら食事の用意をする食べる人

はつくってくれた人の気持ちを

考えて賞味するここに互いに

もてなす喜びが生まれるのでは

ないだろうか

こうしたもてなしの文化を極

限にまで洗練させた姿が料亭の

もてなしである京都府の無形

文化技術保持者に料理人として

初めて認定された京都の老舗料

亭「瓢亭」の十四代主人高橋英一

さんにその心を聞いてみよう

「料亭は日本文化の凝縮のひと

つと言えます玄関から入って

座敷に行くまでに通る露地にも

季節感があり部屋に入れば時

季や行事の軸がありその座敷

のために選んだ花が飾られる

日本人が自然と身につけている

桜の器を使うことで膳の上にぱっと花が咲くような華やかさが生まれるあしらいは酢取り防風岩海苔

秋の花菊の器はこっくり深い色合いも相まって秋に似合う風情を持つあしらいは岩茸菊花

深さのあるガラスの器に氷が敷き詰められる涼感を目でも舌にも感じるあしらいは穂紫蘇寄せ莫大

縁起のいい鶴は新年の席でも使われるモチーフあしらいは水前寺海苔紫芽紫蘇

四季の感性で受け止めてもらえ

るよう整えお出迎えします

料亭は普段とは違うハレの場で

すがとはいえ行き過ぎず足り

ないことのないよう自然なし

つらいそしてもてなしを心が

けます」

「瓢亭」の座敷に飾られるのは

主人が庭で丹誠込めて育て自

ら生ける茶花

「もてなしの根

底に利休さんの『花は野にある

ごとく』の言葉を思いますが簡

単なようでそれが難しい」自

然体でのもてなしを生むしつら

えは名店においても日々心を

くだき工夫するのだ

「瓢亭」では1年をとおして明石の鯛の向付を供しているが季節ごとに

器とあしらいを変えることで四季を演出している

四季の演出

2728 WASHOKU

和食はご飯と菜あるいはご飯とお汁というように常にご飯を間にはさんで菜や汁をとるのが本来の食べ方下のような不作法とされる箸使い(嫌い箸)があるので覚えておきたい

ご飯は茶碗に味噌汁はお椀

に焼き魚だったら平皿にと普

段料理に合わせて何気なく使う

食器種類の多さもさることな

がら形や素材もさまざま欧

米はもちろん近隣諸国を見回

してもこれほど多種多様な器を

使う国はないそれは四季が明

確なことと無関係ではない

「自宅でも季節に合わせた器

にするだけで気分が変わりま

すよ」と前出「瓢亭」のご主人は

語る 

春であれば華やかな色や形の

もの夏はガラスや青磁など涼

しげな素材の器秋は実りのあ

る彩りがあるもの冬は厚手の

陶器や木製など温もりのあるも

の色素材形を変えるだけで

季節感を演出できる「和食」な

らではの楽しみ

食事の際当たり前のように

使っている箸も日本の食文化

を代表する食具奈良時代以

降匙さ

を使う伝統が消え箸だ

けを使うようになったため熱

い汁物は椀を持ち直接口を

つけてすする文化が確立同

時に椀箸ともに個人所有が基

本となった椀や箸を共有し

匙やレンゲを使うほかの東南

アジア諸国とは異なる食文化

を形成箸食文化圏の中でも

唯一箸だけでご飯を食べる国

となったまた一口に箸といっ

ても食箸取り箸菜箸など用

途に合わせてさまざま食べ

る際に使う食箸だけを見ても

形や素材のほか加工や長さも

豊富にそろうのだ

「和食」の特徴7

箸と椀

「和食」を支える箸と椀

箸食文化圏の中でも唯一箸だけを使う国日本

季節感を感じさせる器とともに独特の食具文化も誇る

渡し箸食事の途中でお箸を

食器の上に渡し置くこと

寄せ箸遠くの食器を

箸で手元に引き寄せる行為

指し箸食事中箸で人やものを指すこと

迷い箸どの料理にしようか迷い箸を料理の上で動かすこと

移り箸いったん取りかけてから

ほかの料理にお箸をうつすこと

箸には食事に使う食箸と調理に使う菜箸とがある菜箸は熱から手を守るため30~50と長く片方がなくならないよう糸でつながっているものもある取り箸は菜箸の一種食箸は個人所有が基本のため使う人に合わせた長さが用意されている漆塗りや螺鈿細工を施したものも多い

種類

形状だけでなく素材もさまざまで近年は黒檀や鉄木など硬質な木が使われることが多い日本の木としては特有の香りがあり古くから懐石用や割り箸に使われてきた杉耐水性耐湿性が高く保存性に優れる上に軽くて持ちやすい檜強くしなりがあり細かいものを取りやすい竹などがある

素材

家庭で使う食箸の形には角箸や四角で角が丸い胴張り五角六角七角八角のほか削りなどがあり持ちやすさに合わせて選べる箸先に加工が施されたものもある来客用に使う銘々箸や割り箸には断面が小判型で割れ目と溝が付いた元禄箸や中央部が太く両端が細い利休箸などが用意されている

日本人にとっての箸は調理から盛りつけ食事までをこなす大事な道具食箸は個人所有が基本のため個々に合わせて選べるのも特徴だ

箸の働き

箸使いの作法を知る

【嫌い箸】

食箸

八角箸 削り箸

菜箸

檜竹

「和食」の特徴 しつらい 箸と椀6 7

2930 WASHOKU

神し ん せ ん

饌として神へ供えられるお神酒は神棚の最上段の中央に置かれるほど重要な地位を占めている

日本酒を造る酒蔵は全国に約1600弱その数は年々減り続けているが数年に一度「日本酒ブーム」も起きている

日本酒とは米と米こうじ

そして水を主な原料にしてそ

れらを発酵させて造られる

原料には主食用の米ではなく

酒造りに適した性質を選び品

種改良された酒し

ゅぞうこうてきまい

造好適米を使

うことが一般的だまた日本

酒の80を占める水も品質を

左右する大きな要因日本酒

の香味を損なわない良質な水

が必須だ

日本酒の醸じ

ょうぞう造の工程にはさ

まざまな技術が伴う例えば米

を精米して味と香りを調整する

技術これは米の外側にあるた

んぱく質や脂質といった雑味の

もとを除くことが目的だが大だ

吟ぎんじょう醸酒にもなると米を半分以

上削ってから仕込むこともある

次いで米を発酵させる技術

酒の場合の発酵とは酵こ

うぼ母が糖類

を食べてアルコールを出すこと

をいうが米には糖類が含まれな

いためまずは米をこうじ菌の酵

素によって糖類へと変えそこに

酵母を加えて発酵させるという

複雑な手順(複式発酵)が必要だ

この手順で使われるこうじもバ

ラこうじと呼ばれる日本独特の

ものだバラこうじは糖化力が

高いのが特徴で日本酒の香りや

味に大きく影響する

稲作を中心に文化を育んでき

た日本では米餅米から造ら

れる酒は地域を問わず重要な

ものとされている米の一粒一

粒に神が宿り同じように酒も

神のおかげで造ることができる

と考えられてきたそして酒

もまた食べ物と共に神に近づ

くための手段として古くから用

いられてきた

同時に家族や親族地域で人

と人をつなぐ上でも酒は大き

な役割を担っている例えばお

神み

き酒祭礼の後には神の酒を

人々が口にする神と同じ酒を

飲みそれを人々が分かち合う

ことで地域やコミュニティが

結束力を強めるのだろう

米や麦やさつまいもなどを原

料とする焼酎も日本酒と並び

日本の國酒とされている酒は

人と人の心をほぐし食事を引

き立たせる重要な役割を担って

いるのだ

「和食」の特徴8

「和食」を引き立たせ

心をほぐす日本の酒

日本人にとっての主食であり精神のかなめでもある米

その米で醸か

される日本酒は「和食」にとって欠かせない要素

日本の「國こ

くしゅ酒

」にもなっている

2930 WASHOKU

「和食」の特徴9

和菓子日本茶

暮らしに寄り添う和菓子とお茶

自然の恵みに感謝し季節の移ろいを敏感に表現する和菓子

日本茶は喉のかわきを癒すだけでなく心を癒し心を高める飲みものである

「和食」の特徴 酒 和菓子8 9

ハレの日の願いを込めた和菓子

和菓子分類餅もの 餅団子大福など蒸しもの 饅頭蒸羊

よ う か ん

羹外う い ろ う

郎村む ら さ め

雨など煉もの 煉

ね り き り

切こなし求ぎ ゅ う ひ

肥飴葛く ず

菓子など焼きもの 味噌松風煎

せ ん べ い

餅桃も も や ま

山カステラどら焼など流しもの 錦

にしきだま

玉煉ね り よ う か ん

羊羹水み ず よ う か ん

羊羹など揚げもの 揚げ煎

せ ん べ い

餅かりんとうなど打ちもの(押しもの) 落

ら く が ん

雁など岡もの 最

も な か

中きんとん鹿か の こ

の子すはまなどかけもの 金

こ ん ぺ い と う

平糖五ご し き ま め

色豆石いしごろも

衣など

これは和菓子の製法によって大まかに分類した表このほか含有する水分量によって生菓子半生 菓 子 干 菓 子などの分け方や上じ ょ う な ま が し

生菓子並菓子駄だ が し

菓子などの分類もある

「岡もの」とはすでにできあがっ た素材をあわせたもの (例きんとん=飴玉とそぼろ餡)

甘く味付けしたごぼうと白味噌餡を赤や白の餅や求

ぎ ゅ う ひ

肥で包んだ生菓子平安時代の新年行事のひとつで長寿を願っておこなわれた「歯固め」の餅に由来する餅と味噌の組み合わせから「包み雑煮」とも呼ばれた

葩はなびらもち

一 月

旧暦十月は「亥の月」と呼ばれていたがその月のさらに「亥の日」に行われる年中行事の際に食べられていた菓子旧暦では10月が冬の始まりそのタイミングで無病息災と多産の猪にあやかって子孫繁栄を願ってこれを食べていたという

亥い の こ も ち

の子餅

十 月六 月

白いういろうの上に小豆の粒餡を散らした菓子古来京都で旧暦六月の晦

み そ か

日(30日)に無病息災を祈願して行われている

「夏なごしのはらい

越祓」になぞらえて初夏の頃に食べられている小豆には邪気祓いの意味があり三角の形は氷を表している

水無月

五 月

平たく丸めた上新粉の餅をふたつに折り中に小豆や味噌の餡を挟んでそれを柏の葉で包んだ菓子柏の葉は新芽が育つまで古い葉が落ちないことから

「子孫繁栄」を願って旧暦五月五日の端

た ん ご

午の節句の供く も つ

物として用いられてきた

柏餅

日本ならではのお茶の製法である手揉みは茶葉の繊維をつぶしながらうまみを引き出すために行う作業手揉みすると茶葉が切れないため茶の甘みを保つことができる

菓子もまた「和食」にとって欠

かせない要素でお客様用の「上

菓子」普段食べる「饅頭」や「餅

菓子」などに分かれるほかに

干菓子や駄菓子など菓子の種

類は多いまた例えば団子や

大福などは「餅もの」求肥や飴

などは「煉りもの」錦玉や

水みずようかん

羊羹などは「流しもの」などと

いうようにその製法によって

分類されることもある米や麦

小豆を代表とする豆類そして

砂糖や水あめなどの材料でバ

ラエティに富んだ菓子が生み出

されてきた

お茶会などの席で抹茶ととも

に味わう菓子もあり季節に合

わせて材料や色やデザインが選

ばれ味覚だけでなく視覚で楽

しむこともある

また年中行事と結びつく菓

子もある例えば旧暦三月三日

の「ひな祭り」では邪気をはら

い強い生命力を象徴するよも

ぎの草もちでつくった草餅を食

べる

和菓子には日本茶がふさわし

い緑茶は12世紀に中国から日

本に伝わったが今では生の茶

葉を蒸してから揉んで乾燥させ

る緑茶の製法は日本独特のもの

となっている緑茶に含まれる

カフェインは覚醒効果がまた

カテキンには抗酸化作用があり

ビタミンCも多く含まれて健

康によい日本茶独特の香りと

うま味は日本文化そのもので

ある

出典「和菓子の歴史展」第五十回虎屋文庫資料展より

3132 WASHOKU

日本の「和食」の文化は自然

環境だけでなく海外からの影

響によっても絶えず変化して

きた

近代以降にはコロッケとん

かつなど洋風料理を和食の基本

型に組み合わせた食事肉と野

菜の煮物や和え物などそれまで

にはない料理が工夫されたそ

の多くは和食の基本型味噌や

醤油を用いた味付け箸で食べ

られる料理など「和食」の要素

を保ちつつ伝えられてきた

しかし第二次世界大戦後高

度経済成長期を迎えると日本人

の食生活は急速に変化する

1970年代にファストフー

ド店ファミリーレストランが

各地に開店しコンビニなども

広がった

1980年頃主食と副食の

バランスは理想的とされたが

(26頁参照)その後米の消費量

はさらに減りパン食が増加

肉類油脂乳乳製品の消費量

も増加し食料自給率も下がっ

た家族での外食が日常化し

家庭の食事も欧米化した

食育の必要性

「和食」が危ないどうしたら伝えられるのか

この150年間で大きく変化し「和食」はいま衰えつつあるその原因はどこにあるのだろうか

食生活の変化

日本の食料自給率の変化農林水産省「食料需給表」より作成

日本のものを食べなくなって 「和食」はどうなる 日本の食料自給率は下がり続けている1965(昭和40)年度はカロリーベースで73だったが2012(平成24)年度は39その大きな原因のひとつは国内で自給可能な米や魚や野菜などの消費量が減少する一方国内で生産が困難な飼料穀物を食べて育つ畜産物や原料を輸入に頼ることが多い冷凍加工食品や小麦の消費が増加したことだと考えられている炭水化物たんぱく質脂肪分をバランスよく摂取する健康的な「和食」に未来はあるのか

国民一人一日当たりの供給純食料農林水産省「食料需給表」より作成

食べる米の量が50年で半減 増えたのは肉と乳製品 国民一人あたりが食べる量を品目別に眺めて分かることそれは日本人が食べる米の量が著しく減ってきたことだ1960(昭和35)年度は一日あたりの米の消費量は約315gだったが2010(平成22年)年度は163gに約半減その代わりに増えたのは牛乳乳製品(約60gから約240g)と肉類(約14gから約80gへ)野菜と魚を中心としたおかずでご飯を食べるという

「和食」のスタイルの変化がわかる

食料費における外食と中食の割合の推移総務省統計局「家計調査年報」より作成

家で食べても 調理することが減っている 外食に対して家庭で作って食べる食事を内食というが弁当や惣菜など調理をせずに食べられるものを買ってきて済ます食事は中食と呼ぶ実はこの中食の割合が増えている外食が占める割合は2000(平成12)年以降横ばいなのに対して中食は増え続けその代わりに内食が減っている食事は家で食べても調理はしないという家庭が増えているのだとすれば「和食」にとって大切な要素を子どもたちに伝える機会が減っているとはいえないだろか

食料自給率(金額ベース)

食料自給率(主食用穀物)

食料自給率(カロリーベース)飼料自給率

米 野菜 肉類牛乳乳製品 魚介類

内食 中食 外食

(g人日)

3132 WASHOKU

50

55

60

65

70

75

01992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012

70

75

80

85

90

95

01992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012

一日に一度はお米を食べないと気がすまない人の割合博報堂生活総研「生活定点2012」

お正月におせち料理を食べた人の割合博報堂生活総研「生活定点2012」

一日に一度は米を炊いたご飯を食べなければ気がすまない人の割合が実はこの20年間で減っているというデータがある1992(平成4)年には714だったが2012(平成24)年には564にまで落ち込んでいるのだ

家族や親族で集まっておせち料理を囲みながら新しい一年の無事を祝うお正月実はおせち料理を食べる人も毎年少なくなっている1992(平成4)年には866だったが2012(平成24)年には748だった

電子レンジの普及や冷凍食品

インスタント食品などにより

食生活は便利になったが家庭

内で調理をする機会が減ったと

もいえる

こうしたなか「和食」の優れ

た点をどうしたら伝えられるの

だろうか親から子へ家庭の食

を伝えるだけでなく学校を通

して子どもたちにさらにその

親の世代にも伝える必要があろ

う高齢者からは「和食」につ

いて具体的に教わることも求

められる

離乳期からの食べ物の選び方

幼児期の食経験を豊富にするこ

となどはとくに重要であろう

小さな頃からの食習慣はその

後の食習慣に大きくかかわって

くるからだ

だしのおいしい味を日々体験

することや魚を味わい骨を箸

でとる訓練を楽しい雰囲気のな

かで教わることなどその積み

重ねの中で「和食」は伝わるので

あろう

経験しない味は異文化とと

らえられるであろうし体験し

ていない調理は簡単でも難しく

感じる食事を用意する過程を

日々見る経験手伝う楽しさ美

しい食器を大切にして使うこと

同じ食べ物を家族や仲間と味わ

い祭りや花見などで共に食べ

る経験を積み重ねることは文

化としての「和食」を伝えるだけ

でなく生きる力を育むことにも

つながるであろう

壁にではなく居間に向かって設置されることが多くなった現在のキッチン夫婦共働きだというこの家庭では夫が厨房に立つことも少なくないというこのように食事の準備を子どもと一緒に行うことで「和食」にとって大切な要素が次の世代に伝えられるようになるのだろう

世帯あたり1ヶ月間の穀類支出金額内訳

1962年3434円

パン

麺他

2010年6373円

パン

麺他

ご飯を食べなくても平気 そんな人が増えている

お米よりパンと麺 その傾向が加速中

おせち料理を食べる派が 毎年ジワリ減少中

1962(昭和37)年度には8割以上を占めていた米への支出が2010(平成22)年度にはパンにとって代わられる米の消費量はパンより多いが家庭では炊飯する必要のある米よりすぐに食べられるパンや麺の支出が多くなり家庭での料理が減っていることを示しているともいえよう

総務省統計局「家計調査年報」より作成

いただきます

ごちそうさま

「和食」の未来

今世紀に入ってから世界に和食ブー

ムが起きている味わいやヘルシーさに

注目が集まり世界中のいたるところに

日本食の店が数多くある

そのように世界から注目される「和食」

だが本家本元の日本国内でその将来が

危ぶまれている

これまで見てきたように「和食」には

新しいものを柔軟に取り込む歴史があっ

た日本人は太古の昔より外国からも

たらされた食文化を自分たちの食生活に

取り込んで日本独自の食文化を発展さ

せてきた地域ごとに地域の環境にふさ

わしい料理をつくり出してきた食べる

料理や食べ方もその時代ごと地域ごと

に変わってきた

その中で貫かれてきたことがある

豊かな自然がもたらす食材のおいしさ

を生かす調理法を工夫し味わうこと

食卓に季節感をしつらえもてなしの気

持ちを共に感じ合う食事の場を持つこ

と一汁三菜という組み合わせを食事

の基本スタイルとして健康的な食生活

をおくることお正月におせち料理を

祝いの日にお赤飯を家族と共に食べる

など食事は家族の絆となっている

豊かな自然を守る気持ちと同じように

日本人を健やかに生かし人と人をつな

いできた「和食」もまた守るべき大切な

日本文化ではないだろうか

「いただきます」「ごちそうさま」と言っ

てみるだけでも「和食」は私たちに身近

になる人と人をあたたかく結びつけて

くれる

日本人はやはりお米のご飯がおいしい

と思うだしのきいた汁でおなかも心も

癒されるこの日本人が長い歴史の中で

育んできたすばらしい財産である「和

食」がこのままなくなってよいと考える

人はいないだろう世界の中でもすぐれ

た食文化として認められた「和食」を日本

の誇りとし大切にして次の世代に受け

継いでいくきっかけにこの冊子がなれ

ば幸いである

ごちそうさま

和 食

2 WASHOKU

「和食」

それは日本が守るべき「文化」

日本人でいながらあまり考えてこな

かったけれど「和食」ってなんだろう 

家庭で食べる和食といったらご飯とみ

そ汁おかずと漬物町の食堂の焼き魚

定食も和食カレーライスや寿司もご飯

が中心だから和食のひとつだろう麺

類も餅も和食の中に入るだろう伝統

的な和食の世界はとても広い

そもそも「和食」とは料理のことだけ

を指す言葉ではないのかもしれない

例えばお正月のおせち料理新しい年

を迎え今年一年を元気で幸せいっぱ

いに過ごせるようにという願いが料理

に込められているつまり日本人の信

仰やものの考え方がおせち料理とお

194679と

そ蘇とお雑煮という食とそれを囲む空

間に表れているのだ

食文化とは自分たちをとりまく自然

環境とその国や地域ならではの文化を

背景にして育まれるものだ

南北に長く周囲を海に囲まれ山地

が国土の75を占めるモンスーン気

候のもと四季がはっきりとした変化を

見せ平均の年間降雨量が1800に

もなる日本という国そんな環境を背景

にして四季折々の食材を海山里から

豊かに得ているそうした恵みをもたら

す自然を日本人は敬いまた共に生き

神仏や先祖への信仰が食と結びつきな

がら独自の食文化がこの列島で育まれ

てきた

日本の食文化の成り立ちは中国や朝

鮮半島そして東南アジアなどの外の文

化を取り入れながらまた近代には西

欧の食文化も受容して発展してきたそ

の結果世界に誇るべきおいしくて健

康的な「和食」が展開した

ところがその「和食」がわれわれの食

卓から消えつつある日本の食材の上

にできあがった「和食」なのに今や日本

の食料自給率は40を割っているさ

らに家庭でもご飯を食べなくなり郷土

料理や行事の料理も消えつつある

長い歴史の中で「和食」を単なる料理

でなく文化として育て上げてきた日本

という国そんな日本の伝統的な食文化

である「和食」をこの冊子でひも解いて

いくことにしよう

2 WASHOKU

和 食WASHOKU

[編集委員会]座長 熊倉功夫 委員 江原絢子大久保洋子及川卓也 アドバイザー 宮田繁幸編集 マガジンハウス アートディレクションampデザイン 岡村佳織 表紙イラスト カワナカユカリ(tento)

この冊子では日本の伝統的食文化を表す場合を「和食」料理として表現する場合を和食と表記します

【はじめに】「和食」 それは日本が守るべき「文化」0 1

【食育の必要性】「和食」が危ないどうしたら伝えられるのか3 1

【おわりに】「和食」の未来3 4

【「和食」とは何か】食材料理栄養そしておもてなし 食事の場や食べ方も「和食」の大切な要素0 3

C O N T E N T S

【「和食」の年表】「和食」がたどった道1 5

【 1 自然の尊重】自然の尊重から「和食」は始まりいまここにある0 7

【 2 家族や地域を結ぶ】寄り合いが人をつなぐ 行事や祭りの食の役割0 9

【 3 健康長寿の願い】ハレの日の食事で健康と長寿を願う1 1

【 4 「和食」の多様性】風土が多様性を生みそれが「和食」という地図を描く1 3

0 5「和食」が日本文化である理由

【 1 献立のかたち】「ご飯」を食べるために「汁」と「菜」がある「一汁三菜」が和食の基本型1 7

【 2 食材】和食を支える日本の食材 おいしさの秘密と多様性1 9

【 4 味わい】うま味日本人が発見した「おいしく食べる」最大の知恵2 3

【 5 栄養】栄養バランスの優等生「和食」2 5

【 6 しつらい】人をもてなすためのこころとかたち2 7

【 7 箸と椀】「和食」を支える箸と椀2 8

【 8 酒】「和食」を引き立たせ心をほぐす日本の酒2 9

【 9 和菓子日本茶】暮らしに寄り添う和菓子とお茶3 0

【 3 調理】切る煮る焼く蒸す茹でる和える揚げるhellip    あの手この手で素材をよりおいしく

2 1

「和食」の特徴

34 WASHOKU

える

日本人がその環境のなかで生

み出し築き上げてきた食の知

恵や工夫や慣習それを編み出

した人々など有形無形のすべ

てを「和食」と呼び日本人の伝

統的な食文化を総称する言葉と

して見てみよう

「和食」にはおかずと汁と漬物

でご飯を食べる「一汁三菜」とい

う基本的な組み合わせがある

これは主食であるご飯をおいし

く食べるために工夫された様式

だまたこれはご飯とおかず

を合わせて食べて味わうとい

う特徴を生み出した

「和食」はこのかたちをベース

にしながら継承されてきた一方

「和食」とは何か

食材料理栄養

そしておもてなし

食事の場や食べ方も

「和食」の大切な要素

「和食」とは食材を選ぶことから始まり栄養を考えながら

料理を組みたてるさらにもてなしの心で料理を供する

それをどのように食べるかも大切な要素なのだ

「和食」この言葉をふだん私た

ちは日本的な料理を指す単語

として使っている

しかし「和食」はひとつの料

理ジャンルを指すだけの言葉だ

ろうか

例えば食前食後に口にする

「いただきます」と「ごちそうさ

ま」は料理をつくる人はもちろ

んのこと食材を育んだ自然や

自然を守ってきた祖先や神々へ

の感謝が込められている

また出来上がった料理だけ

でなく料理の手法やその構成

それをどんな食器に盛って食卓

に並べどのように食べるか

ここにも日本人ならではの気持

ちの込め方とスタイルがある

そう考えると「和食」とは料理

というだけでなくrdquo食べること

に関する日本人の慣習ldquoともい

いつの時代でも

「和食」は変化する

食材

料理

「和食」で用いられる食材は米を中心とする穀類野菜きのこ魚貝海藻が主たるもの近年はおいしい和牛も加わっている米は米飯用のうるち米ともち米野菜は古来の品種から明治以降に入ってきた西洋野菜まで多岐にわたり魚も豊富で日本近海に生息する魚種は約4200種類にも上る

「和食」の基本的な献立は「一汁三菜」この献立を構成するのは素材が持つおいしさを生かす料理だ料理で大切になるのはだし(出汁)昆布や鰹節からとることもあれば素材を煮込んで抽出する料理法もあるおいしく仕上がった料理は美しく盛りつけられる

34 WASHOKU

海外の食材や料理調理方法を

積極的に取り入れその内容を

変化させてきた

明治時代の積極的な西洋文

化の導入により「和食」はさ

らなる変化をとげた肉食へ

のタブーが解けて肉とじゃが

いもを煮込み醤油で味付けし

た肉じゃがすき焼きカレー

ライスとんかつなどいわゆる

和わようせっちゅう

洋折衷料理も生まれたこれ

も新しい「和食」の伝統である

ところがいま日本人の食生

活はかつてないほどのスピード

で変化している欧米化など多

様な食のスタイルが生まれ食

に無関心な人々の増加家庭内

での料理の減少などにより文

化としての「和食」を伝承する力

が薄れている

だからこそ改めて「和食」と

はなにかを見直すときなのかも

しれない

では「和食」とはどんな要素

によって構成されているのだ

ろうか

ひとつは「食材」四季が明確

で雨が多い温帯に属する日本

その気候を生かして収穫される

農作物は稲を中心に野菜や山

菜きのこなど多彩だ

また日本は黒潮と親潮がぶ

つかることで豊かな漁場となる

海に囲まれているそのため魚

種が多く地域性豊かな魚食文

化が育まれてきた同じ漁業大

国であるノルウェーの総漁獲高

の9割は8魚種で占められるの

に対し日本の場合28魚種にも

上ることからもいかに魚種が

多いかがわかるまた魚の消費

量はアメリカの約2倍以上に

もあたる年間1人あたり約57

で世界で6番目海からの恵

みが和食の重要な食材であるこ

とがよくわかる

2つめは「料理」水を豊富に

使えることで発達した蒸す茹

でる煮るなどの調理法や種類

豊富な魚を処理するのに適した

包丁などの調理器具そして野

菜と魚介中心の食事をおいしく

食べるために工夫されただし

(出汁)などが「和食」の料理を

支えている

3つめは「栄養」和食は比較

的低カロリーで各種の栄養素

をバランスよく摂取しやすい

そして4つめは「もてなし」

お客様を大切に迎える心持ちは

単なる客に対するサービスだけ

ではない料理を味わい床の間

のしつらいや食器などを鑑賞す

ることで客も主人をねぎらうの

である「いただきます」「ごちそ

うさま」と感謝することからも

てなす側も満ち足りた心になる

箸づかいやふるまい季節や

思いを演出するしつらいとそ

れを鑑賞する態度食事のマナ

ーや食の場に施された趣向を理

解し互いを思いやる心が「和

食」の精神である

もてなし

もてなしとは単なる主人から客へのサービスではなく食べる側にとっての食の場のふるまい全体をも含む例えば食空間におけるしつらいや料理や器に忍ばせた趣向も食べる人がそれと気づくことが主人へのもてなしとなるまさに日本文化の中で「和食」が最たるものであるといえよう

栄養

動物性脂質が少ない伝統的な和食は主食主菜副菜がそろい生活に必要なエネルギーと健康的な生活を送るために理想的な栄養バランスを確保している主食と副食を交互に口の中で調和させながら食べるのは和食独特の食べ方であるうま味を大切にすることで塩分やカロリーのコントロールができる

和食を構成する

4つの要素とは

56 WASHOKU

「あえのこと」が伝わるのは石川県の奥能登地域(輪島市珠洲市穴水町能登町)12月から翌年の2月までldquo田の神様rdquoを家に招き入れ春まで家で過ごしてもらうldquo田の神様rdquoは夫婦二神とされ料理を乗せた神膳はもとより盃や箸など祭礼で使う道具を二組ずつ用意するのがしきたり人々は能登近郊で獲れた食材でldquo田の神様rdquoをもてなす供えられるのは小豆ご飯たら汁大根はちめ甘酒などこれは行事が終わったあと子供たちに食べさせるものでもあった国の重要無形民俗文化財に指定されさらにユネスコの無形文化遺産保護条約代表一覧表に記載された

自然は豊かな恵みだけでなく

ときに厳しさをもたらす風土

が持つ地理的あるいは気候的

な環境を受け入れ日本人は自

然と深く関わって生きてきた

1「和食」の精神性

いまほど科学や技術が発達し

ていなかった時代自然は大き

な存在で人はそこに神を感じ

豊作大漁を祈り収穫の喜びと

感謝は祭りとなった食の恵み

をもたらす自然を尊重する『精

神性』を育んできた

2「和食」の社会性

ふだんの家族の食卓や祝い事

村や町の共同体での祭りや年中

行事自然の恵みを皆で共に食

べるなかで「和食」は継承され

てきた団らんや寄り合い打

ち上げなど「和食」は社会の要

の役割を果たしている

3「和食」の機能性

もちろん食には人が生きる

糧という『機能性』もある米を

中心に野菜魚介類海藻など自

「和食」が日本文化

である理由

rdquo自然ldquoと共にある暮らしが生んだ

四季折々あるいは地域ごとに異なる表情を見せる

自然に寄り添い日本人はそれぞれの食文化をつくりあげた

「和食」がなぜ文化であるのかその理由を探しにでかける

自然と共にある暮らし奥能登のldquoあえのことrdquo

56 WASHOKU

然の恵みをふんだんに使う「和

食」は見事な栄養バランスを持

つ健康的な食文化であるまた

ハレの日の料理には健康長寿

の願いをかけるという「機能」も

ある

4「和食」の地域性

そして多様な『地域性』地

理や気候が各地で異なる日本は

地域ごとに多様な食文化を築い

てきた北海道から沖縄にいた

るまで近世までは各地域が食

材を自給自足しそれぞれに特

徴のある食文化を営んできた

つまり「和食」は日本の地方文

化の象徴である

ここで例として見るのは石

川県奥能登に伝わる「あえのこ

と」これはrdquo田の神様ldquoに一年

の収穫を感謝する農耕儀礼

「あえ=もてなし」「こと=祭

り」を意味し冬から春にかけ

てrdquo田の神様ldquoを家に招き入れ

てもてなす能登の豊かな山

里海の恵みが捧げられる

もう一例は青森県下北半島

にある佐井村の食

長い冬に野菜や山菜などの

保存食を多用する食習慣が育ま

れいまでもその伝統が色濃く

残り独特の郷土料理が受け継

がれている正月にはこの土地

ならではのおせち料理を食べ

無病息災を願う

自然と共にある暮らしが日

本のさまざまな地域で独自の

料理と食習慣を育み「和食」を

かたちづくっているのがわかる

自然と共にある暮らし青森県の場合

東北地方全般に自生する山菜ミズこれはミズを茹でてアクを抜き蒸しサザエとともに昆布だしに浸す「ミズの水あえ」山と海の幸が一品の中で共存する点が興味深い海と山との距離が近い西津軽地方の郷土料理だが山の幸と海の幸がひとつの料理に盛り込まれる

4 地域性津軽地方で小正月などに七草粥の代わりに食べられている汁物一般的な春の七草は冬の青森では採れないため大根やにんじんなど冬の根菜のほかはわらびやぜんまいそして凍み豆腐など保存性の高い食材を多用して厳しい冬の正月に彩りを添えたそこには無病息災への願いが込められている

3 機能性青森県下北半島の突端に位置する人口約2500人の佐井村で毎年9月に開催される箭根森八幡宮例大祭では3日間の祭りの最中は どの家も玄関を開放してどんな客でも招き入れて盃を酌み交わす村中に神が降りて来るこの3日間は人々は平等に食事を囲み絆を固める

2 社会性この地域では家族全員が協力しながらひと冬分の「寒干し大根」づくりに励む大根を一度茹で冷たい清水にさらしてから寒風に当てて乾かすという工程は厳しい冬に対してあらがおうとせず寒さをうまく利用して自然と共に生きるという精神性が育んだ暮らしの知恵だ

1 精神性

寒干し

団らん

けの汁

ミズの水あえ

「和食」が日本文化である理由

1

3

2

4

78 WASHOKU

1

自然の尊重

自然の尊重から「和食」は始まり

いまここにある

豊かな自然なかでも清涼な水に支えられて

「和食」は食材に恵まれ調理方法箸しつらいなどを育んできた

それゆえ季節感を感じ自然を尊重する精神を忘れないのだ

京都市上京区の梨木神社(なしのきじんじゃ)に湧く「染井の井戸」は今でもldquo名水rdquoとして地元の人々から親しまれている湧き水日本各地で川の水のみならず湧き水や井戸水の恵みを受けてそれに感謝して暮らしてきた

78 WASHOKU

大自然が育む恵みが豊かな

日本では古くから自然を崇

拝し尊重する精神を育んでき

た日本各地で季節ごとに豊

作豊漁を祈願する祭りをおこ

なってきたことも自然を敬う

精神の表れだ

春夏秋冬日本は世界に類

を見ないほど四季が明確で和

食にはその季節でしか味わえ

ない多種多様な旬の食材が取り

入れられる

料理を盛るための器もまたし

かり天然の樹脂である漆う

るし

を塗

る漆し

っき器は美しさと防虫効果

耐久性を高めるなどといった先

人の自然に対する知恵が生み出

した器である

また器使いやあしらいで季

節感を出すことやハレの席や

会席料理においては床の間に

季節の花を飾るなどしつらい

に四季を感じさせる工夫が施さ

れるも特筆すべき点だ

そして自然の恵みのひとつ

として大切なものが水である

水は信仰の対象でもあり日

本の食文化を形成する上で重要

な役割を果たしてきた

国内の平均雨量は1800

と多く飲料として使える水が

豊富なのに加え水が地下に滞

留する時間が短くミネラル分

をあまり含まないそのため欧

米など大陸の硬水とは違い軟

水(WHO基準でカルシウムと

マグネシウムの量が120

L未満)であることも「和食」

に大きな影響を与えている

口当たりがやわらかくまろ

やかな軟水をふんだんに使った

調理方法や食材そのものの味

を生かす料理が発達してきた

例えば豆腐木綿豆腐や絹

ごし豆腐といった一般的な日本

の豆腐はたくさんの水を使っ

てつくられるため水の善し悪

しが味に関わってくる

炊飯も水で何度か米を洗い

適量の水を加えて炊くことで

芯のないふっくらとしたご飯に

炊き上がる

副菜であるお浸しのように茹

でた後に水で洗って絞ったり

水によってあくを抜いたりそ

ばのように一度茹でたものを水

で締めたり水をふんだんに使

う料理方法は独特で世界的に

見ても珍しい日本の水の性質

の良さが「和食」を支えている

また昆布や鰹節の持ち味を引

き出せる軟水だからこそだし

を使う調理が発達しただしに

よって自然の恵みである素材

そのものの持ち味をおいしくい

ただくことにもつながっている

のである

季節の移ろいを感じることが

「和食」の精神として息づいてい

る言い換えれば子どもの頃

から四季の感性が備わる日本人

にとっての食つまり「和食」と

は「自然の尊重」そのものなのだ

古くから食されている豆腐大豆の絞り汁を凝固剤で固めたのものだが日本の豆腐は水分を多く含み柔らかなのが特徴である味が淡泊な分製造工程における良質の水が味の決め手といわれる

豆腐

=

良質な水の活用

吹き寄せ

=

季節感を織り込む

「和食」は季節感がさまざまなかたちで織り込まれる吹き寄せという料理は季節の野菜銀杏きのこなどが塵取りに吹き寄せられた秋の風情を表現している

椀もの

=

木という素材使い

汁物を供する器はおおむね木製の椀薄く削った木地に布を巻きその上から漆

うるし

を塗った漆し っ き

器として全国で使われてきた木製なので熱い汁を注いでもその熱さを感じることなく手で持てるのも木という自然の素材ならではのよさだ

わさび

=

自然が持つ機能性

刺身の薬味としておなじみのわさびツンと尖ったその辛味は化学的にはアリルイソチオシアネートという揮発性の成分で強い抗菌殺菌作用があるため生魚を食べるときにその効果が発揮される自然がもたらす効果を駆使する「和食」ならではの知恵だ

豆腐

椀もの

吹き寄せ

わさび

「和食」が日本文化である理由 自然の尊重1

まろやかな軟水が

大きな影響を与える

910 WASHOKU

家族や親族で食卓を囲む日常

的なひとときは「いただきま

す」から始まる大切なコミュニ

ケーションの場みんなが顔を

合わせ食事をしながら日々感

じたことやその日の出来事を語

り合うことで家族の絆を強く

していくまた子どもたちに対

しては箸の持ち方や器の扱い

方といった「和食」ならではの食

の作法を伝えたり料理をとお

して味覚や栄養バランスなどを

教える大切な機会だともいえる

日常とは別に正月や節分大

晦日などの「年中行事」で普段と

は違うそのときならではの料理

をいただくその習慣もまた

家族や親族のつながりを強める

のに役立つまたそれぞれの

家ごとの味や伝統が親から子

へと受け継がれていくことにも

なる

家とは別に地域でつながる

年中行事もある

2

家族や地域を結ぶ

寄り合いが人をつなぐ

行事や祭りの食の役割

食事を共にするということを通して人はつながりを深くする

家族の食卓での団らん祝いごと地域の祭り年中行事

日本の伝統文化の中で食は人をつなぐ役割の中心にある

食を通して

人や地域とつながる

お正月に家族や親族で集まっておせち料理を囲む時間は地域や親族に伝わる食の伝統を次の世代へと受け継ぐ絶好の機会だまた下の写真は青森県西部の日本海沿岸に位置する深浦町でのひとこま

「深浦地産地消の会」ではいくつかの家族が集まって地域に古くから伝えられる郷土料理を教え合うという活動を続けている祖父母の世代しかその作り方を知らない料理を披露し郷土の伝統を次世代へ伝えようと尽力している

家族の食

910 WASHOKU

地域ごとで行う祭りの中でも

食は大切な要素である神社に

おける祭さ

いし祀の後には直な

おらい会と呼

ばれる飲食の儀礼も行われる

本来神への供く

もつ物やお神み

き酒を参

列者がいただくことで神と人

とが一体となり神の加護を期

待するという意味合いを持つ

今日では祭りの後の打ち上げ

という気分もあり祭りを終え

た後人と人とが酒を酌く

み交わ

すそれにより親密感が増し

共同体意識を高めているのだ

こうした打ち上げもまた食

を介した日本の文化といえる

祭りではなくとも食を中心

にして地域がつながるケースも

ある例えば秋になると山形

県や宮城県などで盛んに行われ

る芋煮会仲間や同僚地域の

人たちなどで声を掛け合い河

原に集まる季節の行事だ鍋の

内容は山形県の内陸部では里

芋と牛肉を具として入れた醤油

味が一般的一方宮城県では

里芋と豚肉を味噌で味付けて食

べるこのように地域によって

違いはあるが地元産の秋の食

材を入れ大きな鍋を囲むとい

う点では共通している一緒に

食べるだけでなく共同で鍋を

作ることで親交や結束がより

いっそう深まるのだろう

食をとおして家族や親族

そして地域やコミュニティが

結束力を強めるこれは「社会

性」という「和食」が持つ特徴の

ひとつだ

「和食」が日本文化である理由 家族や地域を結ぶ2

祭礼の中で食事を共にすることは祭りを担う人々の絆を固める大切な機会である下の写真は大阪府の祭りの様子この日に供されたのはハモと松茸のすき鍋水なすの漬物など一方で東北地方の宮城県や山形県で秋になると盛んに行われる

「芋煮会」(写真右)は地域だけでなく職場や親族友人どうしなどのコミュニティ単位で行われることが多い食材を持ち寄って鍋の準備を共に進めることで連帯感が高まるのだ

地域や祭りの食

1112 WASHOKU

おせち料理おせち料理の内容は地域によってさまざまこれは東京のおせち料理のひとつ重箱(手前)には健康を願う「黒豆」や子孫繁栄を願う「数の子」そして田の肥料としたことで豊作を祈願する意味を込めた「田作り」という「祝い肴三種」が盛り込まれている祝い肴にはその他紅白のかまぼこや長寿を祈願した海老の焼き物豊作を願ったたたきごぼうなどがあり地域によって異なっている酢の物(左の小さな重)や煮しめ(奥の大きな重)をおせち料理に供する家庭も多い

日本人の生活の中には特別

なrdquoハレの日ldquoがあるひとつは

正月などのように毎年同じ時期

にめぐってくる年中行事もう

ひとつは誕生や成人や結婚や還

暦など人生の節目にあたる日で

これを人生儀礼と呼ぶそして

ハレの日にはそれを食べるこ

とで「邪気や災厄をはらい健康

長寿を願う」という共通点があ

る一

年の始まりを祝うお正月は

「歳と

しがみ神さま」を各家庭で迎える

年に一度の大切な年中行事家

の入口に立てられる門松は神を

招くための目印で一年の幸せ

を願い家族が集まって食事を

共にするその際に供されるの

がおせち料理だ地域ごとにさ

まざまなバリエーションがある

のもおせち料理の特徴で酒し

ゅこう肴

3

健康長寿の願い

ハレの日の食事で

健康と長寿を願う

例えば全国各地でrdquo文化ldquoとして

色濃く残っているおせち料理

その内容には地域ごとにさまざまな

バリエーションがあるものの

共通しているのは

料理を食べることで健康長寿を

願うという点だ

1112 WASHOKU

お正月雑煮に合わせて飲むお屠蘇は銚ち ょ う し

子三つ重ねの盃盃を乗せる盃台これらを載せる盆で供されるもともとお屠蘇はいくつかの薬草を組み合わせた屠

と そ さ ん

蘇散を酒やみりんに浸して作る薬酒だった

お194679と そ蘇

魂の象徴である丸餅を入れた雑煮を食べるということは神の力をいただくことでもあったこれは京都でなじみ深い西京味噌で味付けした雑煮焼かずに煮た丸餅と昔から縁起物とされた頭

かしらいも

芋(里芋の親芋)が入るのが特徴だ

雑煮

赤い色の小豆は邪気と厄をはらいのけると信じられ祝い事の際には頻繁に登場したまたもち米を蒸して食べる習慣は古い日本の文化でもあって例えば赤飯はハレの食事として供されことにお祝いの席には欠かせない

赤飯一生食べることには苦労しないようにとの願いを込めて子どもの生後100日目に行う「お食い初め」の儀式では尾頭付きの鯛を含んだ一汁三菜の膳が供される丈夫な歯が生えることを願う「歯固めの石」も欠かせない

お食い初め

「和食」が日本文化である理由 健康長寿の願い3

を並べたスタイルもあれば煮

しめだけをおせちとする地域も

あるが神と食事を共にしつ

つ福を招き災いを打ちはらう

という願いが込められていると

いう点は共通している

同じくお正月に食べる雑煮は

そもそも武士にとって一番大切

で正式な酒の肴で正月には必

ず餅の入った雑煮とお194679と

そ蘇が

供されるそして鏡餅などの丸

い餅は神の魂の象徴「歯固め

餅」とも呼ばれ1月11日に鏡餅

を食べて歯が丈夫な長寿を願う

意味が込められている

食を囲み毎日を無事に過ご

すことを願う行事に五節句があ

る七草粥を食べる正月7日

(人じ

んじつ日)の他には邪気をはらう

と信じられていたヨモギ入りの

草餅を食べる3月3日(上じ

ょうし巳)

粽ちまきや柏餅を食べることで健康を

願った5月5日(端た

んご午)索さ

くべい餅と

呼ばれる細い麺を食べて無病を

願う7月7日(七し

ちせき夕)菊酒で不

老不死を願う9月9日(重ち

ょうよう陽)が

ある

人生儀礼に目を向ければ邪

気や厄をはらうと信じられてい

た赤飯は祝儀だけでなくお盆

などの仏事や葬儀の際にも食

べられてきた

体によいものを求めてきた

「和食」の伝統は結果として世

界でもまれにみる健康によい食

文化をつくりあげた健康で長

生きしたいという強い指向が

「和食」の根底にはある

北海道は各地から入ったお雑煮が混在する北海道特産のいくら鮭を使った「親子雑煮」を食べる家庭も多い

焼いた角餅に醤油味が一般的一部の地域では具に豆腐やゴボウなどが入りゴマだれやクルミだれに付けていただくこともある

鰹節でだしを取り醤油で味付けしたすまし汁に焼いた角餅を入れるのが一般的具には鶏肉こまつ菜かまぼこなどが入る

昆布でとっただしに白味噌で味付けし煮た丸餅を入れるすまし汁のところや元旦は白味噌2日目はすまし汁にする地域もある

1314 WASHOKU

「県出身ならあれ食べた

ことあるの」「お雑煮のお餅と

味付けは」hellip日本各地に伝

統的な料理や食材があり味付

けも地域ごとに異なる

気候や風土が異なると採れ

る食材や調理法は変化し地域

色豊かな和食が形づくられてき

たそんな多様性も和食の魅力

であり日本を旅するときの楽

しみのひとつでもあるはずだ

いまのように流通が盛んでな

く保存技術も進んでいなかっ

たころ食料を無駄なく存分に

そして安定的に味わうというこ

とは人々の重要な課題だった

そこで知恵を絞り工夫をこら

し考えられたのが食品の加工

や保存方法その知恵が結果的

に「和食」の多様性を生みだし

ていくことになるのだ

海から遠い土地では魚を長持

ちさせる知恵が生まれ冬が厳

しい北方では野菜を長期にわた

り保存する技が発展してきた

魚の干物餅梅干し凍み豆

腐helliphellipこれら保存食は昔から

ある加工食品だが同じく日本

古来の加工食品に発酵食品があ

る微生物の働きや酵素の力

で保存力や栄養価風味などが

加わった食品だ野菜の漬物も

このひとつ

例えば秋田県の郷土料理「い

ぶりがっこ」大根を囲炉裏の

4

「和食」の多様性

風土が多様性を生み

それが「和食」という地図を描く

南北に長くさまざまな気候を持つ日本だけに地域が持つ食文化は多様で

土地土地に伝わる郷土料理や加工保存技術が存在している

日本の食が描く地図は知れば知るほど面白い

風土の違いから生まれる

食文化の多様性

お雑煮MAP

 

正月に食べられるお雑煮はだ

しの素材や味付け餅の形状具な

どが地域や家庭によってさまざま

であるだしには昆布鰹節煮

干しするめ穴子鶏肉が味付

けには塩醤油味噌などが使われ

る餅は角か丸かそれを焼くか

煮るかという違いもあるまたあ

ん入りの餅を入れる地域もある

具は野菜類魚介類鶏肉などで

地域の特産品が使われることも多

い沖縄県ではお雑煮に代わるも

のとして「中味汁」(豚の内臓の

汁)があるここでは全国各地の

お雑煮の中から特徴のあるもの

を取り上げた丸もち

角もち

角もち

角もち

昆布と鰹節のだしに味噌で味付けし煮た丸餅とかぶそしてかぶの葉を加えたシンプルなお雑煮を食べる地域も味噌は赤味噌白味噌のいずれかが使われる

丸餅に白味噌仕立てが多いが香川県では白味噌にあん入り餅を入れた「あんもち雑煮」が珍しい具は大根ニンジン里芋など

だしはあごだし昆布鶏肉とさまざまだが味付けは醤油味具にかまぼこが入り九州の北部にはあん入り餅を入れる地域もある

醤油味のすまし汁に煮た丸餅が多い出雲地方では

「小豆雑煮」と呼ばれ具はなくぜんざいのような小豆だけの雑煮を食す

昆布と鰹節のだしに味噌で味付けし煮た丸餅とかぶそしてかぶの葉を加えたシンプルなお雑煮を食べる地域も味噌は赤味噌白味噌のいずれかが使わ

1314 WASHOKU

上に吊るし楢や桜の焚き火で

燻製にしてから米糠と塩で漬

けこんだ漬物だこれは冬の訪

れが早い秋田で大根を早く乾

燥させ長く食べられるようにす

るための工夫だいずれも手間

と時間が加わることで風味が

濃縮されとれたてとは違った

深い味わいが生まれた

魚介類の保存食でいえばな

れずし魚を塩と米飯で数日

から数ヶ月寝かせ乳酸発酵さ

せたもの雑菌の繁殖が抑えら

れ長期間の保存が利く上うま

味が増す現在滋賀県のふな

ずし和歌山県のサバやサンマ

のなれずし福井県小浜市のへ

しこなれずし秋田県のハタハ

タ寿司など日本全国の郷土料

理として残っている

また味噌や醤油といった発酵

調味料は日本料理の味の要と

もいえやはりこれらにも地域

によって造り方や味に違いがあ

る例えば味噌大豆と米こ

うじを使い長期間熟成させた辛

口の津軽味噌米こうじを多く

配合した甘みのある西京味噌

大豆こうじを使った赤褐色の名

古屋の八丁味噌麦を原料にし

た九州地方の麦味噌などさま

ざま

地域の特産品発酵調味料餅

で構成されるお雑煮を見ても

多様性はよくわかる

日本の風土と食文化は深く結

びつき世界が注目するバラエテ

ィに富んだ食を育んできたのだ

日本の味噌

mdash

地域と特徴mdash

味噌は製法材料によって

大きく3つに分けられる

全国的に一般的なのが「米

味噌」で蒸すまたは茹で

た大豆に塩米こうじを加え

発酵させたもの米こうじ

の代わりに麦こうじを使用

したものを「麦味噌」大豆

を発酵熟成させたものが

「豆味噌」米味噌には大

豆を蒸して長期間熟成した

辛めの赤味噌と大豆を茹

でて短期間で熟成させた甘

めの白味噌がある

「和食」が日本文化である理由 「和食」の多様性4

主な種類地域 特徴

米味噌

津軽味噌 長期間熟成させる辛口で赤味噌系が主流

仙台味噌 仙台で伝統を継承して造られてきた長期間熟成させる辛口赤味噌系が主流

信州味噌 長野県を中心に造られる山吹色の淡色系の辛味噌

江戸甘味噌 通常の味噌よりもこうじを多く塩を少なくした赤系の甘さのある味噌

西京味噌 関西地方を中心に造られる米こうじの多い甘みのある白味噌

讃岐味噌 香川県で造られる甘みのある白味噌あん餅雑煮にも使われる

府中味噌 甘みのある米こうじの多い白味噌で主に広島県で造られる

麦味噌 九州四国中国 麦こうじを使って発酵させた山吹色を帯びた甘みのある味噌

豆味噌 八丁味噌三州味噌 蒸した大豆でみそ玉を作りこうじ菌を繁殖させて造る濃い赤褐色の味噌

お雑煮に入れる餅の形について出身地ごとに聞き取った結果中部を境にして東は角餅西は丸餅が多かった

もちの形について

丸もち

丸もち

丸もち

丸もち

出典「お雑煮100選」(文化庁)より

(人)

温暖化が進み狩猟が大型獣から小型獣になる

南九州で竪穴式住居にドングリ貯蔵穴が広まる

ドングリなどの植物性食料が重要な食料になる

水田稲作が日本列島に伝来

稲作の広がりと定着魚を発酵させたなれずしの登場

『魏ぎ

し志』倭わ

じんでん

人伝には倭(日本)では冬夏に生菜を

飲食に高杯をつかい手食するとある

土は

師器の移動式かまどの使用

土師器の甑こ

しきに

よる蒸し米が盛んになる

中国に遣唐使を送る大陸の食文化がもたらされる

675年天武天皇が「牛馬犬猿ニワトリ」の

食用を禁止

牛乳を煮詰めて作った「蘇そ

」が朝廷に貢納される

箸の利用が広がる

貴族の大だ

いきょう饗

料理や年中行事が中国の影響で定着

豆腐が中国より伝来する

栄西が宋より抹茶法を持ち帰る

道元が禅宗における食事作法や調理の心得を

説いた『典て

んぞきょうくん

座教訓』『赴ふ

しゅくはんぽう

粥飯法』を執筆

植物性食品のみを使った精進料理の発展

武士の供応食本ほ

んぜん膳

料理の形成

包丁人と呼ばれる料理人が誕生し包丁流派を形成

刻み目のついたすり鉢が広がる

酒造技術の進展

書院茶の湯からわび茶の湯へ

千利休により茶の湯が完成

懐石形式の定着

豊臣秀吉が北野大茶会を開催

欧州が大航海時代に入り

南蛮貿易により南蛮菓子唐辛子などが日本に伝来

日本初の出版料理書『料理物語』刊行

都市部に食べ物屋や料理屋が普及する

料理屋の会席料理形成

けがれによる肉食禁忌の観念が広く浸透

薬食いとしての肉食

飢き

きん饉に備えさつまいもやじゃがいもの栽培を奨励

和菓子の完成

握り寿司やてんぷらが江戸で流行する

肉食解禁と牛鍋の流行

『西洋料理指南』など西洋料理書の出版

西洋料理店の発展

米の摂取率が平均53に

家庭向け料理書の出版

女学校における食物教育

脚か

っけ気

論争がさかんに行われる

牛肉の不足から豚肉の生産が増加

洋菓子の製造発展

物価高騰と米不足によるじゃがいもパンなどの代用食の奨励

国立栄養研究所の開設と栄養学の発展

都市部で和わ

ようせっちゅう

洋折衷料理が普及

戦争による食料不足

食料統制米などほとんどの食品が配給切符制となる

イモなど代用食の増産

戦後のミルクとパンの学校給食が開始

各地に闇市ができる

食料の価格が高騰

厚生省が日本人の栄養基準値を策定

農家の生活改善運動が展開

即席ラーメンなどインスタント食品の開発販売

冷凍冷蔵庫の普及と冷凍食品が普及

日本型食生活の提唱

ファミリーレストランファストフード店の増加

コンビニの発展

日本食の洋食化と簡便化と米摂取量の減少

食料自給率が39〜40に低下

レトルト食品の売上増大

電子レンジ普及率が約90に

遺伝子組み換え食品が登場

地球温暖化など環境問題が深刻化

阪神淡路大震災東日本大震災により災害食が注目される

持続可能性が社会課題に

家庭料理の変化や家族の孤食化などの問題が生まれ和食の見直しへ

縄文時代弥生時代古墳時代飛鳥時代奈良時代平安時代鎌倉時代室町時代安土桃山時代江戸時代BC9000年BC3000年BC2500年頃BC200年頃240年頃500年頃7世紀8世紀8~12世紀12~14世紀14~16世紀16~17世紀17~19世紀

1516 WASHOKU

「和食」の年表

「和食」がたどった道和食の成立とその変化を年表でたどってみると各時代の人々が海外の食文化の影響を受けながら工夫を積み重ねてきた様子が見えてくる

米は縄文時代晩期に伝来し

たとされるが全国に広がるの

は弥生時代である

平安時代の大饗料理は貴族

の供応料理で蒸した高盛の強こ

飯いい

に各種の魚介類を配し調味

料につけて食べる形であった

鎌倉時代には禅宗の影響に

より動物性食品を排除した

精しょうじん進料理が発展した道元禅

師は調理も修行の一つとして

その心得を記した『典て

んぞ座教き

ょうくん訓』と

食事への感謝の念作法を説い

た『赴ふ

粥しゅく

飯はんぽう法』を著した

室町時代上層階層の料理文

化として本膳料理が登場した

この形式は江戸時代後期には

婚礼などの儀礼食として各地域

に浸透し昭和期まで継承され

た本膳には飯汁菜香の物

が盛られ飯を主食とした伝統

的な食事の形式が定着すること

になるまた酒とその酒肴も

本膳に伴って発展した

安土桃山時代には茶の湯に

ともなう懐石が発展した一汁

三菜を基本に旬の素材にこだ

わり食事空間のしつらいにも

気を配るなど精神性をも盛り込

んだこの形式はその精神と

共に現代に引き継がれている

江戸時代の都市部ではそば

すしてんぷらなどの食べ物屋

高級料理店なども広がりをみせ

た料理書の出版も相次ぎ酒

と酒肴を楽しむ料理屋の会席料

理も成立したまた和菓子の

温暖化が進み狩猟が大型獣から小型獣になる

南九州で竪穴式住居にドングリ貯蔵穴が広まる

ドングリなどの植物性食料が重要な食料になる

水田稲作が日本列島に伝来

稲作の広がりと定着魚を発酵させたなれずしの登場

『魏ぎ

し志』倭わ

じんでん

人伝には倭(日本)では冬夏に生菜を

飲食に高杯をつかい手食するとある

土は

師器の移動式かまどの使用

土師器の甑こ

しきに

よる蒸し米が盛んになる

中国に遣唐使を送る大陸の食文化がもたらされる

675年天武天皇が「牛馬犬猿ニワトリ」の

食用を禁止

牛乳を煮詰めて作った「蘇そ

」が朝廷に貢納される

箸の利用が広がる

貴族の大だ

いきょう饗料理や年中行事が中国の影響で定着

豆腐が中国より伝来する

栄西が宋より抹茶法を持ち帰る

道元が禅宗における食事作法や調理の心得を

説いた『典て

んぞきょうくん

座教訓』『赴ふ

しゅくはんぽう

粥飯法』を執筆

植物性食品のみを使った精進料理の発展

武士の供応食本ほ

んぜん膳

料理の形成

包丁人と呼ばれる料理人が誕生し包丁流派を形成

刻み目のついたすり鉢が広がる

酒造技術の進展

書院茶の湯からわび茶の湯へ

千利休により茶の湯が完成

懐石形式の定着

豊臣秀吉が北野大茶会を開催

欧州が大航海時代に入り

南蛮貿易により南蛮菓子唐辛子などが日本に伝来

日本初の出版料理書『料理物語』刊行

都市部に食べ物屋や料理屋が普及する

料理屋の会席料理形成

けがれによる肉食禁忌の観念が広く浸透

薬食いとしての肉食

飢き

きん饉に備えさつまいもやじゃがいもの栽培を奨励

和菓子の完成

握り寿司やてんぷらが江戸で流行する

肉食解禁と牛鍋の流行

『西洋料理指南』など西洋料理書の出版

西洋料理店の発展

米の摂取率が平均53に

家庭向け料理書の出版

女学校における食物教育

脚か

っけ気

論争がさかんに行われる

牛肉の不足から豚肉の生産が増加

洋菓子の製造発展

物価高騰と米不足によるじゃがいもパンなどの代用食の奨励

国立栄養研究所の開設と栄養学の発展

都市部で和わ

ようせっちゅう

洋折衷料理が普及

戦争による食料不足

食料統制米などほとんどの食品が配給切符制となる

イモなど代用食の増産

戦後のミルクとパンの学校給食が開始

各地に闇市ができる

食料の価格が高騰

厚生省が日本人の栄養基準値を策定

農家の生活改善運動が展開

即席ラーメンなどインスタント食品の開発販売

冷凍冷蔵庫の普及と冷凍食品が普及

日本型食生活の提唱

ファミリーレストランファストフード店の増加

コンビニの発展

日本食の洋食化と簡便化と米摂取量の減少

食料自給率が39〜40に低下

レトルト食品の売上増大

電子レンジ普及率が約90に

遺伝子組み換え食品が登場

地球温暖化など環境問題が深刻化

阪神淡路大震災東日本大震災により災害食が注目される

持続可能性が社会課題に

家庭料理の変化や家族の孤食化などの問題が生まれ和食の見直しへ

明治時代大正時代昭和時代(戦前戦中)昭和時代(戦後)平成1869~1912年1912~1926年1926~1945年1945~1989年1989年~

1516 WASHOKU

家庭料理の変化や家族の孤食化などの問題が生まれ和食の見直しへ

基本はほぼこの時代にできたと

いえよう

いっぽう各地域の日常食の

主食は麦雑穀芋類を混合し

たかて飯やうどんなど小麦粉を

用いた食事が多くそれは昭和

期まで引き継がれ各地で独自

の「和食」の文化が形成された

西洋文化を積極的に取り入れ

た明治時代以降西洋料理書が

出版され都市部では西洋料理

店が開店したまた明治時代

後期には家庭向け料理書の出

版が相次ぎ西洋料理をアレン

ジして和食に取り入れた和わ

よう洋

折せっちゅう衷料理が数多く紹介された

大正期国立栄養研究所の開

設により栄養学の研究が進み

日常食の栄養についての関心が

少しずつ広がった

飢餓を経験した戦時期を経て

主食に偏らず副食に動物性食

品や油脂を加えた食事が推奨さ

れたその結果1980年頃

になると日本人の食事は米飯

を基本にしながらも乳乳製品

肉魚類野菜類などを適度に

加えたよりバランスのよい食

事となったこの時期の食生活

を「日本型食生活」と呼んだし

かしその後食生活の洋風化

簡便化が広がり食料自給率は

40パーセントと減少した若年

層を中心に食事の基本型が崩れ

欠食孤食などが話題となり和

食の見直しが求められるように

なった

1718 WASHOKU

「和食」の特徴1

献立のかたち

「ご飯」を食べるために

「汁」と「菜」がある

「一汁三菜」が和食の基本型

「一汁三菜」とは「ご飯」と「汁」と「香の物」に

いくつかの「菜」が添えられるという組み合わせ

「ご飯」と「汁」と「香の物」に「お菜」が3品添えられるという献立が一汁三菜この場合は焼き魚(右奥)と煮物

(左奥)と小松菜のおひたし(中央)の3つの菜で構成される向かって手前左にご飯を手前右には汁をその間に香の物をそれぞれ置くという決まりになっている

1718 WASHOKU

米を炊いた「ご飯」昆布や鰹

節などでとっただしを味噌や塩

などで味付けした具入りの「汁」

塩漬けやぬか漬けや粕漬けなど

の「香の物」そして焼き物や煮

物や和え物などの「菜」その4

つの要素で構成される「一汁三

菜」という組み合わせがある

基本的には汁が一種で菜が

三種の構造を「一汁三菜」と呼

ぶ食事中に口の中をさっぱ

りと保ってくれる「香の物」と

ご飯はいつも必ずついていて

その数も変わらないからあえ

て数えない

日常の食事である一汁三菜に

対して江戸時代によく登場す

るのは二汁五菜つまり汁が二

種に菜が5つこれが昔のおも

てなし料理の基本でお膳もふ

たつ出たいいかえると一汁三

菜はひとつのお膳に載るふだ

んの家庭の食事であることがわ

かる

また汁にもいろいろあった

魚のアラを汁に仕立てたものや

野菜を豆腐と一緒に煮込むけん

ちん汁など具だくさんの汁も

各地域でみられ汁でご飯を食

べるということも和食の特徴の

ひとつだ

一汁三菜の献立の最大の特徴

は汁も香の物も菜もすべてご

飯を食べるために存在するとい

う点かもしれないご飯が主食

でその他の3つの要素が副食

という考えが一汁三菜の根底に

ある少ない菜でたくさんのご

飯を食べご飯の量でカロリー

の摂取量を調整するのがかつ

ての和食の基本的な食べ方だっ

たのだ

「和食」にとって欠かせないご

飯についてもここで触れてお

こう

米には「うるち米」と「もち米」

とがあり強い粘性を持つもち

米は赤飯などのおこわ(強こ

わいい飯

や餅に用いられるそれに対し

てうるち米はもち米より粘り

気が少なく通常の米飯として

使われる

米のもとになる稲の栽培が始

まったのは1万年以上前とされ

野生の稲を栽培したのが始まり

と考えられているその原産地

は中国の長江流域とその周辺

という説が有力でそこから西

へ伝わった品種がインディカ種

また東へと伝わり東アジアに

広がったのがジャポニカ種だ

「和食」における献立の目的は

いわば汁と菜でご飯を食べる

ことつまりご飯に合うのなら

例えばそれが肉じゃがでもコ

ロッケでもとんかつでも菜と

して取り入れてこられたのは

ご飯を主食とする「和食」のス

タイルがしっかりしていたか

らである一汁三菜という和

食の基本型がなくなったら外

国の料理と変わらなくなって

しまうだろう

「和食」の特徴 献立のかたち1

稲 玄米 白米 調理加工

粉にする

飯餅菓子米飯焼き米ひなあられ餅おかきあられ

稲わら 俵わらづと鍋釜敷き畳床むしろわらぞうり縄みのわらぼうき など

酒酢みりん味噌発酵させる

糠 たくあん糠漬けあく抜き

(上新粉など)柏餅草餅重

お も ゆ

湯など

(白玉粉落ら く が ん

雁粉道明寺粉など)白玉最中大福餅落雁桜餅など

どうみょうじ

うるち米の粉

もち米の粉

日本人の暮らしに深く関わる稲米

 現在世界で栽培されている稲の主な種類にはインディカ種(インド型イネ)やジャポニカ種(日本型イネ)などがあるインディカは長粒種と呼ばれる米ジャポニカは日本でよく食べられている丸く短粒な米で短粒種と呼ばれる米の主成分であるでんぷんにはアミロースとアミロペクチンとがありアミロースを多く含むインディカ種は粘り気が少ないのに対しアミロースの少ないジャポニカ種は粘りが強く日本人にとってはおいしい味の米であるそしておにぎりやすしのようにまとめる米料理も発達した 世界の米の生産量は約6億トンと小麦とほぼ同じだがその90以上が日本を含むアジア諸国で栽培されているジャポニカ種は全体の15を占め日本をはじめとして朝鮮半島中国東北部台湾北部などで主に栽培されているインディカ種の栽培地域はインドからベンガル地方のバングラデシュタイをはじめとするインドシナ半島中国の中南部インドネシアなど南アジアが中心だ

ジャポニカ種とインディカ種日常私たちがご飯として食べているのはうるち米赤飯や餅にするのはもち米である栄養価はほとんど同じであるがでんぷんの構成が異なるうるち米はアミロースとアミロペクチンの比率が約28であるがもち米はほとんどアミロペクチンで構成されているそのためにもち米はうるち米に比べて粘りが強く餅にするのに適しているのである日本では両方の米の特徴をうまく利用して粒のまままたは粉にするなどしていろいろな料理や菓子を生み出したり発酵させて酒やみりんなどをつくり出したりしてきた

うるち米ともち米

インディカ

ジャポニカ

「和食」に欠かせない

米はどこから来たのか

1920 WASHOKU

全国各地でさまざまな魚や野

菜が豊富に手に入ったことそ

して文明開化の時代まで一般

的に肉食をしなかったという背

景から「和食」は野菜と魚介類

を中心に調理されてきた

現在日本の市場で流通する

野菜の数は150種類ほどと言

われているその種類はイモ類

やマメ類をはじめ根菜類茎け

いさい菜

類葉菜類果菜類など実に多

様ださらには山菜やきのこ

など森林に自生するものも調

理に工夫することでうまく食材

として取り入れてきた

日本で流通する野菜は近代

になって外国から輸入されたも

のや品種改良によって食べや

すくなったものなど多様では

あるが昔から日本で作り続け

られている伝統野菜(在来野菜)

も少なくない伝統野菜とはだ

いたい三世代以上に渡って栽培

「和食」の特徴2

食材

和食を支える日本の食材

おいしさの秘密と多様性

おいしい和食には素材の力がある四季折々の自然の中から

生み出される日本の食材は驚くほど多様性に富んでいる

野菜

野菜と魚介類の二大食材に

支えられる日本食文化

和食には野菜を使う料理が多くあるが現在日本で流通する野菜の種類も150以上と幅広い分類にしてもジャガイモやサツマイモなどのいも類大豆や小豆などのマメ類ダイコンやカブなどの根菜類ネギやウドなどの茎

け い さ い

菜類コマツナや白菜などの葉菜類ナスやキュウリなどの果菜類そのほかにシイタケやシメジなどのきのこやワラビやゼンマイなどの山菜など多彩な野菜が存在するしかし現代でこそ流通の発展でさまざまな野菜が一年中手に入るが全国で同じ野菜が収穫できるわけではない例えば同じいも類でもサツマイモなどは九州などで多く作られるが冷害に強く冷涼な地で生育するジャガイモは山梨や長野などの山間部や日本の北部で育てられるそのほか地域特有の特産品である伝統野菜がいま注目され始めている

1920 WASHOKU

が続けられ地域に根づいた農

法で作られるものを指しこれ

を守る動きも目立ってきている

魚介類も「和食」にとって欠か

せない食材のひとつ日本で獲

れる海水魚は実に種類豊富で

日本に生息する魚種だけでも約

4200種ある縁起のよい魚

として重宝されるタイをはじめ

アジイワシやサバサンマなど

日本の近海は魚の宝庫である

海水魚だけでなくコイやア

ユフナやウナギそして水田で

獲れるドジョウなどの淡水魚

(川魚)は海から離れた地域では

貴重なタンパク源だったため

古くから料理に使われている

ウナギの蒲焼きは一般的だが

薄切りにしたコイを50くらい

の湯に短時間漬けてから冷水で

身を締めて酢味噌で食べる「鯉

のあらい」やコイの切り身を濃

い味噌で煮た「鯉こく」など味

わい方も豊富

またうま味のもととして古

くから使われてきた昆布や味

噌汁の具としても重宝するワカ

メさらにおむすびに必須の海

苔など海藻類も和食には欠か

せない貝類も種類が豊富で

アワビをひも状に薄くむき乾

燥させた「熨の

しあわび

斗鮑」が神事や祝し

ゅうぎ儀

の象徴として使われてきた

近年日本の食料自給率が低

下し外国産食材の増加も問題

視されているが本来の「和食」

は日本の自然の恵みによって支

えられているのだ

「和食」の特徴 食材2

島国である日本において魚介類は古くから貴重でかつ重要な食材であった農林水産省の定める生鮮食品品質表示基準によれば日本で食される水産物はマグロやカツオイワシやアジなどの海水魚やコイやウナギなどの淡水魚(川魚)シジミやアサリなどの貝類カニやエビなどの甲殻類やカメなどの水産動物類クジラやイルカなどの海産哺乳動物類そのほか昆布やワカメなどの海藻類など実に多様な種類がある2000年に味の素(株)がおこなった「嗜好調査」によれば「食材」としては肉類よりも魚介類のほうが好まれている結果がみられたさまざまな魚介類のなかでもカニエビマグロなどへの嗜好性が高くそれらが「贅沢な食材」と捉えられているようである

山間部など海の魚が手に入らない地域で貴重なタンパク源として重宝されたのが淡水魚(川魚)写真はアユだがその他コイやウナギドジョウワカサギフナなど日本ではさまざまな川魚が食材として使われてきた寄生虫のおそれがあるため生食はあまりされないがその代わりに調理にはさまざまな工夫が見られる海の魚に比べると独特の臭味やクセがあるため「鯉こく」のようにしっかりと煮込むことで臭味を除いたりウナギのように蒲焼きにしたりするなどがその一例だまた例えば滋賀県には琵琶湖で獲れるフナを塩と米で乳酸発酵させ保存性を高めると同時にうま味成分を引き出した「ふなずし」もある

古来日本で食べられてきた海藻類現在でも低カロリーでミネラルビタミンに富む食材として和食では重宝されている日本では約50種類の海藻が食べられているが世界的にみてもここまで多様な海藻を加工し食用とする民族は珍しいなお海藻にはフノリやテングサのような紅藻ワカメ昆布やモズクなどの褐藻アオノリや海ブドウなどの緑藻類の3種類の海藻が存在する昆布のようにだしをとるために使うものもあるが乾燥させて食べる海苔味噌汁や酢の物の具として使われるワカメのようなものまで実に幅広いまた海藻は神への奉納品としての縁も深く日常の食事だけではなく祭りや神事などにも登場している

縄文時代の遺跡である貝塚からアワビやハマグリカキなどの大量の貝殻が発見されていることからもわかるように貝類は日本では古くから食材として利用されてきた春先の干潮時に浜辺に埋まったアサリなどの貝を掘り出して採取する潮干狩りは春の風物詩としても馴染み深い日本には6000近い貝類があるといわれておりなかでもアサリやハマグリのような二枚貝サザエやツブ貝のような巻き貝が食用として親しまれている調理法としては刺身や吸い物味噌汁煮物焼き物炊き込みご飯など幅広い料理に使用されているがだしをとるためにも使われるさらに乾物にすれば保存性も高くなるため古くから交易にも活用されてきた

海の魚

川の魚

海藻貝

2122 WASHOKU

和食における菜さ

の調理法には

煮る焼く蒸す茹でる和あ

える

揚げるなど実に多様な技法が

あるこれを季節の野菜や山

菜魚介類海藻などの食材と組

み合わせることでバラエティ

に富んだ菜が食卓を彩る

数ある日本の調理法の中で

最も特徴的なのは「生もの」材

料を生のまま切り皿に盛り付

け調味料と薬味を添える刺

身といえば魚介類が用いられる

のがほとんどで捌さ

き方切り方

盛り方などが現在世界で注目を

浴びている材料を新鮮な状態

に保つ技術と料理としての盛り

付けの技術があいまって完成し

たものといえる調味料と薬味

の組み合わせも魚類との相性を

考えて工夫されているまた

わさびしょうがからしなどの

薬味や「つま」や「けん」と言わ

れる大根のせん切り大葉防ぼ

うふう風

芽めたで蓼花は

なじそ

紫蘇など防菌効果のあ

るものを添えて見た目も美し

く組み合わせている

ご飯と並んで食卓に欠かせ

ない「汁物」は鰹節や昆布煮干

し干し椎茸などから抽出され

るだしのうま味と具として入

れる素材のうま味が味わいのベ

ースとなっている中には具だ

くさんの菜になるような汁も

ある

また豊富な水を利用した調理

焼き物(サンマの塩焼き)

直火焼きは遠火の強火でほかに間接焼きがある

生もの(カツオの刺身)

生ものには刺身あらい酢の物漬物がある

茹で物(もりそば)

小麦粉やそばなどの粉からつくる麺を茹でる法

旬の食材のおいしさを

引き出す調理法の数々

「和食」の特徴3

調理

切る煮る焼く蒸す茹でる和える揚げるhellip

あの手この手で素材をよりおいしく

バランスの取れた一汁三菜の基本はご飯にあり

ご飯をおいしくいただくために菜さ

の調理方法は進化した

煮物(筑前煮)

煮汁の中で加熱中に調味する法

2122 WASHOKU

法に「茹で物」があるたっぷり

の水を沸騰させ食材を加えて加

熱して取り出すもの青菜そば

などは茹でた後にあくの除去

歯触りを良くするなどのためさ

らに水で洗う場合も多い私た

ちがあたりまえのように調理し

て食べているほうれん草や小松

菜のお浸しは水に恵まれた日本

に定着した料理で世界的にみて

も特徴あるものといえよう

「焼き物」はサンマの塩焼きの

ように塩をふり直火でじっく

り焼き上げる方法が伝統的

「煮物」は世界で最もポピュラ

ーな調理法だが日本では素材

の味を生かしつつ醤油や味噌

など大豆由来の発酵調味料で

味を調えるものが多い

油とともに加熱調理する「炒

め物」は伝統的な調理にはほと

んど見られないが現代では盛

んに使われ和食の幅を広げて

いる

ここに紹介した調理法と料理

の例は主にご飯のおかずとな

るものであるが小麦そば雑

穀などを粉にしこれを調理し

た主食も多い代表的なものに

うどんそばそうめんなどの麺

類があり茹でる場合が多いが

煮込みなど煮るものもある

さまざまな料理を組み合わせ

て食べる和食は素材の味を生

かしうま味をしっかりとれば

最低限の調味料でおいしさを感

じることができ多様な料理を

楽しむことができる

和あえ物

(きゅうりとワカメの酢の物)

野菜や魚介類などをごま味噌酢などで和える法

漬物(きゅうり大根の糠

ぬか

漬け沢たく あ ん

庵漬け)生ものを保存する方法の一種

塩の働きに加え乳酸発酵させたものが多い

汁物(なめこの味噌汁)

だし汁を主体とする法すまし汁みそ汁とろみのついた汁など

蒸し物(茶碗蒸し)

水を沸騰させその水蒸気を利用して加熱する法

浸し物(小松菜のお浸し)

お浸しは調味した汁に浸して味をつけたもの

「和食」の特徴 調理3

揚げ物(天ぷら)

高温の油で食品を加熱する法油の温度は150~200度の範囲で行うことが多い

2324 WASHOKU

「和食」の特徴4

味わい

うま味日本人が発見した「おいしく食べる」最大の知恵

和食の味わいの中で最も重要なのがだし

味噌汁やすまし汁のベースとなり

煮物やおひたしなどさまざまな料理の

味を決定づける味の要だ

和食の味わいを語るうえで忘

れてはならないのがだし(出

汁)の存在汁物や煮物などさ

まざまな料理のベースとして使

われている

なぜ日本人はここまでだしを

好むのかその答えに大きく関

係するのが「うま味」だ江戸時

代の料理書には「だしこそ料理の

根本である」と書かれている

1907年池田菊き

くなえ苗

博士に

よって世界で初めてうま味成

分のひとつがアミノ酸の一種で

あるグルタミン酸であることが

発見されたその後日本人を中

心に研究が進みうま味は甘味

塩味酸味苦味に加えて第5

の味覚として広く知られるよう

になる現在ではうま味調味

料やだし入りのつゆなどうま

味成分を手軽に使える調味料も

普及海外でも人気が高く国

内でも日常的に使用されている

だしのほかに和食の味付け

日本が世界に誇る

第5の味覚うま味

うま味成分を多く含む椎茸もだしをとる目的で使われてきた食材のひとつだしに使用するのは干したもの椎茸は乾燥させることでうま味や香り成分が増すためだ

小魚を煮て乾燥させてつくる煮干しも汁物に多用される材料としてはカタクチイワシが代表的だがその他ウルメイワシやキビナゴトビウオなどの比較的魚体が小さな魚を使ってつくるのが一般的だ

だしのとり方は魚介や野菜から水や湯を使ってうま味成分を抽出するのが一般的だしの素材として最もよく使われるのは昆布と鰹節でそのほか煮干し野菜干し椎茸魚の内臓やあら(頭や骨)などがあるまた潮

うしおじる

汁のように食品そのもののうま味を活かす方法もある

鰹節

「だし」のこと

昆布

煮干し

干し椎茸

2324 WASHOKU

に欠かせないのは塩砂糖味

噌醤油酢酒みりん魚醤な

どの調味料わさびやからし

しょうが山椒とうがらしゆ

ずなども薬味として使われる

これら薬味によって季節感を楽

しみながら素材の味を引き出

すという知恵も「和食」ならでは

夏に高温多湿となる日本では

アジア諸国と同様発酵食品が

発達したそれゆえ味噌や醤

油や酢に代表される発酵調味料

を多用するのも和食の特徴大

豆や穀物を塩漬けにして発酵

させてつくるものだがその過

程で原料のタンパク質がアミノ

酸に分解されうま味成分を豊

富に含んだ調味料ができあがる

のだ

発酵食品も多様だ日本各地

でカビや酵母などの微生物の

働きを活かして食品中のアミ

ノ酸(うま味)を増やす発酵食品

が発達してきた冬場の保存食

として生み出された沢庵や塩

を使って乳酸発酵させる京都の

すぐき菜漬けそして糠ぬ

漬けや

奈良漬けなど野菜を発酵させ

た漬物さらに塩辛やくさや

なれずし鰹節など魚介の保存

食としての発酵食品また大

豆を納豆菌で発酵させる納豆や

こうじ菌で発酵させて乾燥後に

熟成させた寺納豆など大豆の

発酵食品もある

「和食」はうま味を上手に生

かし食材をおいしく食べる知

恵を育んできたのだ

発酵食品

発酵調味料

調味料

「和食」の特徴 味わい4

発酵食品と調味料

魚醤魚を塩漬けにして発酵させる独特の香りと濃いうま味が特徴の調味料ハタハタでつくられる秋田の

「しょっつる」イカやイワシを材料とする能登半島の「いしる(り)」などがある

酒酒もまた和食の調味に欠かせない発酵調味料のひとつ調味料としての酒の主な効果には材料の臭みを消す食材のうま味を引き出して風味をよくする甘みを加えるなどがある

塩海に囲まれている日本では古くから塩は調味料として使用されてきた焼き物や刺身などの調理の味付けとしてはもちろん漬物や干物など食物を貯蔵するための知恵としても活用されている

味噌蒸したり煮たりした大豆にこうじ食塩を混ぜて発酵熟成させた日本を代表する調味料のひとつ味噌汁や煮物などに使われることが多い地域によって使用される味噌の種類がかなり変わるのも特徴だ

酢寿司やなますなど和食に酸味を加える調味料米から醸造した酒に酢酸菌を加えて発酵させて造られる酢に漬けることにより保存性を高める

醤油大豆と小麦で造ったこうじに食塩水を加えた「もろみ」を発酵熟成させ搾ったもの刺身や焼き魚煮物炒め物など幅広い料理に使われている種類は濃口薄口たまり再仕込み白の5つに分類される

みりん蒸したもち米と米こうじを主原料に40~60日かけて熟成させて造られる発酵調味料砂糖と比べて甘みがやわらかく食材の臭味を取る働きもあるまた魚の照り焼きなどのつや出しにも使う

漬物素材を食塩や酢酒粕醤油などに漬け込み熟成させて作られる漬物沢庵や梅干し野沢菜漬けなど野菜類を長期間保存するための知恵として誕生した日本各地に独特の漬物があるのも特徴だ

納豆日本で発展した発酵食品である納豆大豆を納豆菌で発酵させた食品で寺納豆(下記参照)と区別するため「糸引き納豆」とも呼ばれる単品で食べるだけではなく納豆汁や納豆和えなどにも使われている

塩辛魚介類の身や内臓を塩漬けにし発酵させて作られた塩辛は日本における伝統的な保存食品のひとつ使われる素材はその地域によって変わりイカやエビアミタコなど多彩な種類の塩辛が存在する

塩に漬けた魚と炊いたご飯を数日間置き乳酸発酵させたなれずしは魚を保存する知恵として生まれた滋賀県では琵琶湖産のふなを和歌山県や富山県ではサバを岐阜県などではアユを材料にしたものが有名写真は滋賀県湖北地方の年頭の祭りで振る舞われる鯖のなれずし

砂糖世界的に見ても「甘み」を用いた料理が多い現在の和食では砂糖は欠かせない調味料のひとつ単独で料理に使われるというよりは煮物をはじめとするさまざまな料理で醤油や塩味噌などと併用されることが多い

寺納豆茹でた大豆にこうじを加えて発酵させ乾燥させながら熟成を促す発酵食品粘り気のある糸引き納豆とは異なり乾燥して塩辛い禅宗の伝来とともに大陸からもたらされたとされ寺院で作ることが多かったため「寺納豆」と呼ばれた

2526 WASHOKU

「和食」の特徴5

栄養

栄養バランスの優等生「和食」

野菜や魚肉そして米によって構成される「和食」は

栄養バランスの良さでも知られている

最近は五日間すべてを米飯にする完全米飯給食を行う地域も生まれた

和食の特徴のひとつである栄養についてその秘密に迫る

米麦雑穀などを炊いたご飯

を主食としてこれに魚介肉

類野菜類に発酵調味料だしを

組み合わせた和食は栄養学的

にみてもバランスをとりやすい

食事である

歴史的にみると日常食では

主食を大量に摂る習慣が続いた

穀類偏重の食生活だったといえ

よう

しかし豆腐や納豆みそ汁な

どを飯とともに摂ることで米の

アミノ酸の利用率を上げる食べ

方年中行事などハレの日に魚

介類などを摂取して楽しむなど

学ぶべき知恵は多い

なかでも何百年も伝えられて

きた和食の基本型はすぐれた

ものといえよう

副食の主菜には魚肉豆腐

などタンパク質を多く含む料理

を考える副菜には主菜に使わ

なかった野菜芋類などを使い

汁は主菜に合うものを用意する

焼き魚野菜の煮物青菜のお浸

しとみそ汁などでも栄養的バ

ランスはとれている

1980年頃までは多くの

家庭で和食の基本型が続いた

主食の量がやや減り副食が増

加とくに乳乳製品肉類の割

合が増加したこの頃栄養バ

ランスをはかる一つの指標であ

るPFCバランスが理想的な比

率を示した(左記参照)

しかしその後外食の日常化

家庭料理の欧米化が進み米の

摂取量が激減し脂質摂取の過

多などから生活習慣病が問題

となったこうした中各地で

食生活を見直す動きがみられる

ようになったその一つが学校

給食での取り組みである

戦後の食料難の中でパンと

牛乳に副食を加えた完全給食は

1950年に始まった197

6年に米飯が導入されるまで長

く続いたパン給食は和食の基

本型にも影響を与えたようだ

米飯給食は次第に増加し

2010年には週3回以上米

飯給食を実施している小中学

校は90以上となったが週5

回の米飯給食の実施は7以

上と高くない

ここでは2008年に5日

間すべてを米飯給食とした新潟

県三条市の事例を紹介しよう

成長期にバランスのよい食事

で健康な体をつくることそし

て望ましい食習慣を身につけ

生涯を健康に生きることをめざ

し完全米飯給食を実施したと

のこと

米は同市で生産される農薬

を減らしたコシヒカリを七分搗つ

きにした米飯を主食に副食は

主菜副菜汁を組み合わせる献

立をベースとしている主菜は

サケのフライ鶏肉ピリ辛焼き

さんま梅煮など伝統的な和食だ

けではないが和食の基本型の

中に取り入れる工夫がされてい

るパ

ンは油脂や糖分と相性が

良く肥満につながりやすいが

新潟県三条市の給食献立一例三条市の小中学校での献立例ご飯は三条市で収穫したコシヒカリを使用「お米だと腹持ちがよいのでデザートをあまり出さなくとも子どもたちが満足してくれる」とのこと洋風や中華風の献立でもおかずはご飯に合うものを選びスープなどの汁物は確実につけるように心がけている

火曜日

えだまめごはん

さけチーズフライ

くきわかめきんぴら

かきたまじる牛乳

小学校687kcal中学校823kcal

水曜日

ごはんとりにくのぴりからやきいかときゅうりの

あえものしょうがみそスープ牛乳小学校639kcal中学校752kcal

木曜日

ごはんさんまうめにたくあんあえにくじゃがに牛乳なし小学校688kcal中学校814kcal

金曜日ごはんカレーふりかけほうれんそうオムレツフレンチサラダパンプキンスープ牛乳小学校708kcal中学校833kcal

月曜日

ごはんいかのかりんあげ(2こ)

なっとうあえきのこけんちんじるのむヨーグルト

小学校619kcal中学校731kcal

2526 WASHOKU

七分搗米の飯は腹持ちがよく

おやつを食べる子どもが減った

だけでなく肥満の子どもが減

少傾向となり食生活のリズム

が良くなったとされる

また米飯に合う副食は土地

でとれる野菜類を取り入れやす

く季節にあわせてバラエティ

ーに富んだ献立を作ることがで

きる一汁三菜の食べ方の教育

を行った結果給食を残す子ど

もたちも減ったという

基本的な食事パターンが続く

中でも菜を工夫すれば変化に

富む食事を作ることはできる

季節の食材について学び年中

行事への知識も得られるだろう

また子どもたちが和食の基

本型を毎日の給食で体験してい

ることはきわめて重要なことで

ある時々経験するだけでは身

につかないものでも毎日繰り返

すことによって習慣化し定着

するのであるそしてやがて

自分で組み合わせを考えられる

ようになることが期待される

今後の学校給食の役割は大きい

といえるだろう

PFCバランスとは

FAO Statistics Yearbook(日本のみ食料需給表)参照栄養バランスが良いとされるP(たんぱく質)10~20F(脂質)20~30C(炭水化物)50~70の範囲が08~12に収まるように指数化した

日本でのPFCバランスの変化

アメリカとフランスのPFCバランス

タンパク質脂質炭水化物は人間にとって特に不可欠な「三大栄養素」PFCのPはProtein(たんぱく質)FはFat(脂質)CはCarbohydrate(炭水化物)の頭文字でPFCバランスとは食事の中での「たんぱく質」「脂質」「炭水化物」のそれぞれの摂取カロリーの比率健康的な生活をおくるためにはPFCバランスがたんぱく質15脂質25炭水化物60が理想的

給食時には全員で「いただきます」「ごちそうさま」を復唱食育にも力を入れているためそれら言葉の意味についても学校で教えている

米飯給食になってから児童たちの食の嗜し こ う

好に変化が生まれたとか児童たちに好きなおかずを聞いてみると「ハンバーグ」「カレー」などの定番メニューのほか「焼き魚」「納豆」などの和食メニューの名前が上がった

自分の分を食べ終わった児童たちが列をつくって競い合うようにご飯をおかわりしていたこの日の食べ残しはゼロ

C

P

F

14

12

1

08

06

アメリカ(2005~2007年)

C

P

F

14

12

1

08

06

フランス(2005~2007年)

「和食」の特徴 栄養5

日本人のPFCバランスは1965年当時は炭水化物に偏っていたが1980年は非常に理想的な配分になっていたしかしその後の日本人の食生活に肉や油脂類を多く摂り主食の米を食べる量が減り2010年時は欧米型に近づきつつある

C

P

F

14

12

1

08

06

日本1965年

C

P

F

14

12

1

08

06

日本1980年

C

P

F

14

12

1

08

06

日本2010年

2728 WASHOKU

お客を迎える前には店先に打ち水を水で清め準備が整ったことを伝える趣向に合う軸を選ぶのももてなしの基本飾る花は主人自ら育てたものそれを床の花入に活けるのも主人庭に150種ほどの草花を植え日々育てることもしつらいの準備客は女将の温かいもてなしに迎えられる

「和食」の特徴6

しつらい

人をもてなすためのこころとかたち

もてなしは客に対する一方的なサービスではない

お互いに思いやる気持ちから生まれるこころよさである

手入れの行き届いた庭は掃き

清めて水を打ち床の間には軸

を掛け季節の草花を生ける

座敷の襖ふ

すま

も夏には葭よ

しど戸に入れ替

え夏は涼やかに冬は暖かに

すべて相まってもてなしのた

めの用意を整えることそれが

しつらい和食とりわけ懐石

料理においては食材や料理と

ともにしつらいは非常に重要

な要素となる

家庭でも食事をつくる人は

食べる人の顔を思い浮かべなが

ら食事の用意をする食べる人

はつくってくれた人の気持ちを

考えて賞味するここに互いに

もてなす喜びが生まれるのでは

ないだろうか

こうしたもてなしの文化を極

限にまで洗練させた姿が料亭の

もてなしである京都府の無形

文化技術保持者に料理人として

初めて認定された京都の老舗料

亭「瓢亭」の十四代主人高橋英一

さんにその心を聞いてみよう

「料亭は日本文化の凝縮のひと

つと言えます玄関から入って

座敷に行くまでに通る露地にも

季節感があり部屋に入れば時

季や行事の軸がありその座敷

のために選んだ花が飾られる

日本人が自然と身につけている

桜の器を使うことで膳の上にぱっと花が咲くような華やかさが生まれるあしらいは酢取り防風岩海苔

秋の花菊の器はこっくり深い色合いも相まって秋に似合う風情を持つあしらいは岩茸菊花

深さのあるガラスの器に氷が敷き詰められる涼感を目でも舌にも感じるあしらいは穂紫蘇寄せ莫大

縁起のいい鶴は新年の席でも使われるモチーフあしらいは水前寺海苔紫芽紫蘇

四季の感性で受け止めてもらえ

るよう整えお出迎えします

料亭は普段とは違うハレの場で

すがとはいえ行き過ぎず足り

ないことのないよう自然なし

つらいそしてもてなしを心が

けます」

「瓢亭」の座敷に飾られるのは

主人が庭で丹誠込めて育て自

ら生ける茶花

「もてなしの根

底に利休さんの『花は野にある

ごとく』の言葉を思いますが簡

単なようでそれが難しい」自

然体でのもてなしを生むしつら

えは名店においても日々心を

くだき工夫するのだ

「瓢亭」では1年をとおして明石の鯛の向付を供しているが季節ごとに

器とあしらいを変えることで四季を演出している

四季の演出

2728 WASHOKU

和食はご飯と菜あるいはご飯とお汁というように常にご飯を間にはさんで菜や汁をとるのが本来の食べ方下のような不作法とされる箸使い(嫌い箸)があるので覚えておきたい

ご飯は茶碗に味噌汁はお椀

に焼き魚だったら平皿にと普

段料理に合わせて何気なく使う

食器種類の多さもさることな

がら形や素材もさまざま欧

米はもちろん近隣諸国を見回

してもこれほど多種多様な器を

使う国はないそれは四季が明

確なことと無関係ではない

「自宅でも季節に合わせた器

にするだけで気分が変わりま

すよ」と前出「瓢亭」のご主人は

語る 

春であれば華やかな色や形の

もの夏はガラスや青磁など涼

しげな素材の器秋は実りのあ

る彩りがあるもの冬は厚手の

陶器や木製など温もりのあるも

の色素材形を変えるだけで

季節感を演出できる「和食」な

らではの楽しみ

食事の際当たり前のように

使っている箸も日本の食文化

を代表する食具奈良時代以

降匙さ

を使う伝統が消え箸だ

けを使うようになったため熱

い汁物は椀を持ち直接口を

つけてすする文化が確立同

時に椀箸ともに個人所有が基

本となった椀や箸を共有し

匙やレンゲを使うほかの東南

アジア諸国とは異なる食文化

を形成箸食文化圏の中でも

唯一箸だけでご飯を食べる国

となったまた一口に箸といっ

ても食箸取り箸菜箸など用

途に合わせてさまざま食べ

る際に使う食箸だけを見ても

形や素材のほか加工や長さも

豊富にそろうのだ

「和食」の特徴7

箸と椀

「和食」を支える箸と椀

箸食文化圏の中でも唯一箸だけを使う国日本

季節感を感じさせる器とともに独特の食具文化も誇る

渡し箸食事の途中でお箸を

食器の上に渡し置くこと

寄せ箸遠くの食器を

箸で手元に引き寄せる行為

指し箸食事中箸で人やものを指すこと

迷い箸どの料理にしようか迷い箸を料理の上で動かすこと

移り箸いったん取りかけてから

ほかの料理にお箸をうつすこと

箸には食事に使う食箸と調理に使う菜箸とがある菜箸は熱から手を守るため30~50と長く片方がなくならないよう糸でつながっているものもある取り箸は菜箸の一種食箸は個人所有が基本のため使う人に合わせた長さが用意されている漆塗りや螺鈿細工を施したものも多い

種類

形状だけでなく素材もさまざまで近年は黒檀や鉄木など硬質な木が使われることが多い日本の木としては特有の香りがあり古くから懐石用や割り箸に使われてきた杉耐水性耐湿性が高く保存性に優れる上に軽くて持ちやすい檜強くしなりがあり細かいものを取りやすい竹などがある

素材

家庭で使う食箸の形には角箸や四角で角が丸い胴張り五角六角七角八角のほか削りなどがあり持ちやすさに合わせて選べる箸先に加工が施されたものもある来客用に使う銘々箸や割り箸には断面が小判型で割れ目と溝が付いた元禄箸や中央部が太く両端が細い利休箸などが用意されている

日本人にとっての箸は調理から盛りつけ食事までをこなす大事な道具食箸は個人所有が基本のため個々に合わせて選べるのも特徴だ

箸の働き

箸使いの作法を知る

【嫌い箸】

食箸

八角箸 削り箸

菜箸

檜竹

「和食」の特徴 しつらい 箸と椀6 7

2930 WASHOKU

神し ん せ ん

饌として神へ供えられるお神酒は神棚の最上段の中央に置かれるほど重要な地位を占めている

日本酒を造る酒蔵は全国に約1600弱その数は年々減り続けているが数年に一度「日本酒ブーム」も起きている

日本酒とは米と米こうじ

そして水を主な原料にしてそ

れらを発酵させて造られる

原料には主食用の米ではなく

酒造りに適した性質を選び品

種改良された酒し

ゅぞうこうてきまい

造好適米を使

うことが一般的だまた日本

酒の80を占める水も品質を

左右する大きな要因日本酒

の香味を損なわない良質な水

が必須だ

日本酒の醸じ

ょうぞう造の工程にはさ

まざまな技術が伴う例えば米

を精米して味と香りを調整する

技術これは米の外側にあるた

んぱく質や脂質といった雑味の

もとを除くことが目的だが大だ

吟ぎんじょう醸酒にもなると米を半分以

上削ってから仕込むこともある

次いで米を発酵させる技術

酒の場合の発酵とは酵こ

うぼ母が糖類

を食べてアルコールを出すこと

をいうが米には糖類が含まれな

いためまずは米をこうじ菌の酵

素によって糖類へと変えそこに

酵母を加えて発酵させるという

複雑な手順(複式発酵)が必要だ

この手順で使われるこうじもバ

ラこうじと呼ばれる日本独特の

ものだバラこうじは糖化力が

高いのが特徴で日本酒の香りや

味に大きく影響する

稲作を中心に文化を育んでき

た日本では米餅米から造ら

れる酒は地域を問わず重要な

ものとされている米の一粒一

粒に神が宿り同じように酒も

神のおかげで造ることができる

と考えられてきたそして酒

もまた食べ物と共に神に近づ

くための手段として古くから用

いられてきた

同時に家族や親族地域で人

と人をつなぐ上でも酒は大き

な役割を担っている例えばお

神み

き酒祭礼の後には神の酒を

人々が口にする神と同じ酒を

飲みそれを人々が分かち合う

ことで地域やコミュニティが

結束力を強めるのだろう

米や麦やさつまいもなどを原

料とする焼酎も日本酒と並び

日本の國酒とされている酒は

人と人の心をほぐし食事を引

き立たせる重要な役割を担って

いるのだ

「和食」の特徴8

「和食」を引き立たせ

心をほぐす日本の酒

日本人にとっての主食であり精神のかなめでもある米

その米で醸か

される日本酒は「和食」にとって欠かせない要素

日本の「國こ

くしゅ酒

」にもなっている

2930 WASHOKU

「和食」の特徴9

和菓子日本茶

暮らしに寄り添う和菓子とお茶

自然の恵みに感謝し季節の移ろいを敏感に表現する和菓子

日本茶は喉のかわきを癒すだけでなく心を癒し心を高める飲みものである

「和食」の特徴 酒 和菓子8 9

ハレの日の願いを込めた和菓子

和菓子分類餅もの 餅団子大福など蒸しもの 饅頭蒸羊

よ う か ん

羹外う い ろ う

郎村む ら さ め

雨など煉もの 煉

ね り き り

切こなし求ぎ ゅ う ひ

肥飴葛く ず

菓子など焼きもの 味噌松風煎

せ ん べ い

餅桃も も や ま

山カステラどら焼など流しもの 錦

にしきだま

玉煉ね り よ う か ん

羊羹水み ず よ う か ん

羊羹など揚げもの 揚げ煎

せ ん べ い

餅かりんとうなど打ちもの(押しもの) 落

ら く が ん

雁など岡もの 最

も な か

中きんとん鹿か の こ

の子すはまなどかけもの 金

こ ん ぺ い と う

平糖五ご し き ま め

色豆石いしごろも

衣など

これは和菓子の製法によって大まかに分類した表このほか含有する水分量によって生菓子半生 菓 子 干 菓 子などの分け方や上じ ょ う な ま が し

生菓子並菓子駄だ が し

菓子などの分類もある

「岡もの」とはすでにできあがっ た素材をあわせたもの (例きんとん=飴玉とそぼろ餡)

甘く味付けしたごぼうと白味噌餡を赤や白の餅や求

ぎ ゅ う ひ

肥で包んだ生菓子平安時代の新年行事のひとつで長寿を願っておこなわれた「歯固め」の餅に由来する餅と味噌の組み合わせから「包み雑煮」とも呼ばれた

葩はなびらもち

一 月

旧暦十月は「亥の月」と呼ばれていたがその月のさらに「亥の日」に行われる年中行事の際に食べられていた菓子旧暦では10月が冬の始まりそのタイミングで無病息災と多産の猪にあやかって子孫繁栄を願ってこれを食べていたという

亥い の こ も ち

の子餅

十 月六 月

白いういろうの上に小豆の粒餡を散らした菓子古来京都で旧暦六月の晦

み そ か

日(30日)に無病息災を祈願して行われている

「夏なごしのはらい

越祓」になぞらえて初夏の頃に食べられている小豆には邪気祓いの意味があり三角の形は氷を表している

水無月

五 月

平たく丸めた上新粉の餅をふたつに折り中に小豆や味噌の餡を挟んでそれを柏の葉で包んだ菓子柏の葉は新芽が育つまで古い葉が落ちないことから

「子孫繁栄」を願って旧暦五月五日の端

た ん ご

午の節句の供く も つ

物として用いられてきた

柏餅

日本ならではのお茶の製法である手揉みは茶葉の繊維をつぶしながらうまみを引き出すために行う作業手揉みすると茶葉が切れないため茶の甘みを保つことができる

菓子もまた「和食」にとって欠

かせない要素でお客様用の「上

菓子」普段食べる「饅頭」や「餅

菓子」などに分かれるほかに

干菓子や駄菓子など菓子の種

類は多いまた例えば団子や

大福などは「餅もの」求肥や飴

などは「煉りもの」錦玉や

水みずようかん

羊羹などは「流しもの」などと

いうようにその製法によって

分類されることもある米や麦

小豆を代表とする豆類そして

砂糖や水あめなどの材料でバ

ラエティに富んだ菓子が生み出

されてきた

お茶会などの席で抹茶ととも

に味わう菓子もあり季節に合

わせて材料や色やデザインが選

ばれ味覚だけでなく視覚で楽

しむこともある

また年中行事と結びつく菓

子もある例えば旧暦三月三日

の「ひな祭り」では邪気をはら

い強い生命力を象徴するよも

ぎの草もちでつくった草餅を食

べる

和菓子には日本茶がふさわし

い緑茶は12世紀に中国から日

本に伝わったが今では生の茶

葉を蒸してから揉んで乾燥させ

る緑茶の製法は日本独特のもの

となっている緑茶に含まれる

カフェインは覚醒効果がまた

カテキンには抗酸化作用があり

ビタミンCも多く含まれて健

康によい日本茶独特の香りと

うま味は日本文化そのもので

ある

出典「和菓子の歴史展」第五十回虎屋文庫資料展より

3132 WASHOKU

日本の「和食」の文化は自然

環境だけでなく海外からの影

響によっても絶えず変化して

きた

近代以降にはコロッケとん

かつなど洋風料理を和食の基本

型に組み合わせた食事肉と野

菜の煮物や和え物などそれまで

にはない料理が工夫されたそ

の多くは和食の基本型味噌や

醤油を用いた味付け箸で食べ

られる料理など「和食」の要素

を保ちつつ伝えられてきた

しかし第二次世界大戦後高

度経済成長期を迎えると日本人

の食生活は急速に変化する

1970年代にファストフー

ド店ファミリーレストランが

各地に開店しコンビニなども

広がった

1980年頃主食と副食の

バランスは理想的とされたが

(26頁参照)その後米の消費量

はさらに減りパン食が増加

肉類油脂乳乳製品の消費量

も増加し食料自給率も下がっ

た家族での外食が日常化し

家庭の食事も欧米化した

食育の必要性

「和食」が危ないどうしたら伝えられるのか

この150年間で大きく変化し「和食」はいま衰えつつあるその原因はどこにあるのだろうか

食生活の変化

日本の食料自給率の変化農林水産省「食料需給表」より作成

日本のものを食べなくなって 「和食」はどうなる 日本の食料自給率は下がり続けている1965(昭和40)年度はカロリーベースで73だったが2012(平成24)年度は39その大きな原因のひとつは国内で自給可能な米や魚や野菜などの消費量が減少する一方国内で生産が困難な飼料穀物を食べて育つ畜産物や原料を輸入に頼ることが多い冷凍加工食品や小麦の消費が増加したことだと考えられている炭水化物たんぱく質脂肪分をバランスよく摂取する健康的な「和食」に未来はあるのか

国民一人一日当たりの供給純食料農林水産省「食料需給表」より作成

食べる米の量が50年で半減 増えたのは肉と乳製品 国民一人あたりが食べる量を品目別に眺めて分かることそれは日本人が食べる米の量が著しく減ってきたことだ1960(昭和35)年度は一日あたりの米の消費量は約315gだったが2010(平成22年)年度は163gに約半減その代わりに増えたのは牛乳乳製品(約60gから約240g)と肉類(約14gから約80gへ)野菜と魚を中心としたおかずでご飯を食べるという

「和食」のスタイルの変化がわかる

食料費における外食と中食の割合の推移総務省統計局「家計調査年報」より作成

家で食べても 調理することが減っている 外食に対して家庭で作って食べる食事を内食というが弁当や惣菜など調理をせずに食べられるものを買ってきて済ます食事は中食と呼ぶ実はこの中食の割合が増えている外食が占める割合は2000(平成12)年以降横ばいなのに対して中食は増え続けその代わりに内食が減っている食事は家で食べても調理はしないという家庭が増えているのだとすれば「和食」にとって大切な要素を子どもたちに伝える機会が減っているとはいえないだろか

食料自給率(金額ベース)

食料自給率(主食用穀物)

食料自給率(カロリーベース)飼料自給率

米 野菜 肉類牛乳乳製品 魚介類

内食 中食 外食

(g人日)

3132 WASHOKU

50

55

60

65

70

75

01992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012

70

75

80

85

90

95

01992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012

一日に一度はお米を食べないと気がすまない人の割合博報堂生活総研「生活定点2012」

お正月におせち料理を食べた人の割合博報堂生活総研「生活定点2012」

一日に一度は米を炊いたご飯を食べなければ気がすまない人の割合が実はこの20年間で減っているというデータがある1992(平成4)年には714だったが2012(平成24)年には564にまで落ち込んでいるのだ

家族や親族で集まっておせち料理を囲みながら新しい一年の無事を祝うお正月実はおせち料理を食べる人も毎年少なくなっている1992(平成4)年には866だったが2012(平成24)年には748だった

電子レンジの普及や冷凍食品

インスタント食品などにより

食生活は便利になったが家庭

内で調理をする機会が減ったと

もいえる

こうしたなか「和食」の優れ

た点をどうしたら伝えられるの

だろうか親から子へ家庭の食

を伝えるだけでなく学校を通

して子どもたちにさらにその

親の世代にも伝える必要があろ

う高齢者からは「和食」につ

いて具体的に教わることも求

められる

離乳期からの食べ物の選び方

幼児期の食経験を豊富にするこ

となどはとくに重要であろう

小さな頃からの食習慣はその

後の食習慣に大きくかかわって

くるからだ

だしのおいしい味を日々体験

することや魚を味わい骨を箸

でとる訓練を楽しい雰囲気のな

かで教わることなどその積み

重ねの中で「和食」は伝わるので

あろう

経験しない味は異文化とと

らえられるであろうし体験し

ていない調理は簡単でも難しく

感じる食事を用意する過程を

日々見る経験手伝う楽しさ美

しい食器を大切にして使うこと

同じ食べ物を家族や仲間と味わ

い祭りや花見などで共に食べ

る経験を積み重ねることは文

化としての「和食」を伝えるだけ

でなく生きる力を育むことにも

つながるであろう

壁にではなく居間に向かって設置されることが多くなった現在のキッチン夫婦共働きだというこの家庭では夫が厨房に立つことも少なくないというこのように食事の準備を子どもと一緒に行うことで「和食」にとって大切な要素が次の世代に伝えられるようになるのだろう

世帯あたり1ヶ月間の穀類支出金額内訳

1962年3434円

パン

麺他

2010年6373円

パン

麺他

ご飯を食べなくても平気 そんな人が増えている

お米よりパンと麺 その傾向が加速中

おせち料理を食べる派が 毎年ジワリ減少中

1962(昭和37)年度には8割以上を占めていた米への支出が2010(平成22)年度にはパンにとって代わられる米の消費量はパンより多いが家庭では炊飯する必要のある米よりすぐに食べられるパンや麺の支出が多くなり家庭での料理が減っていることを示しているともいえよう

総務省統計局「家計調査年報」より作成

いただきます

ごちそうさま

「和食」の未来

今世紀に入ってから世界に和食ブー

ムが起きている味わいやヘルシーさに

注目が集まり世界中のいたるところに

日本食の店が数多くある

そのように世界から注目される「和食」

だが本家本元の日本国内でその将来が

危ぶまれている

これまで見てきたように「和食」には

新しいものを柔軟に取り込む歴史があっ

た日本人は太古の昔より外国からも

たらされた食文化を自分たちの食生活に

取り込んで日本独自の食文化を発展さ

せてきた地域ごとに地域の環境にふさ

わしい料理をつくり出してきた食べる

料理や食べ方もその時代ごと地域ごと

に変わってきた

その中で貫かれてきたことがある

豊かな自然がもたらす食材のおいしさ

を生かす調理法を工夫し味わうこと

食卓に季節感をしつらえもてなしの気

持ちを共に感じ合う食事の場を持つこ

と一汁三菜という組み合わせを食事

の基本スタイルとして健康的な食生活

をおくることお正月におせち料理を

祝いの日にお赤飯を家族と共に食べる

など食事は家族の絆となっている

豊かな自然を守る気持ちと同じように

日本人を健やかに生かし人と人をつな

いできた「和食」もまた守るべき大切な

日本文化ではないだろうか

「いただきます」「ごちそうさま」と言っ

てみるだけでも「和食」は私たちに身近

になる人と人をあたたかく結びつけて

くれる

日本人はやはりお米のご飯がおいしい

と思うだしのきいた汁でおなかも心も

癒されるこの日本人が長い歴史の中で

育んできたすばらしい財産である「和

食」がこのままなくなってよいと考える

人はいないだろう世界の中でもすぐれ

た食文化として認められた「和食」を日本

の誇りとし大切にして次の世代に受け

継いでいくきっかけにこの冊子がなれ

ば幸いである

ごちそうさま

和 食

2 WASHOKU

和 食WASHOKU

[編集委員会]座長 熊倉功夫 委員 江原絢子大久保洋子及川卓也 アドバイザー 宮田繁幸編集 マガジンハウス アートディレクションampデザイン 岡村佳織 表紙イラスト カワナカユカリ(tento)

この冊子では日本の伝統的食文化を表す場合を「和食」料理として表現する場合を和食と表記します

【はじめに】「和食」 それは日本が守るべき「文化」0 1

【食育の必要性】「和食」が危ないどうしたら伝えられるのか3 1

【おわりに】「和食」の未来3 4

【「和食」とは何か】食材料理栄養そしておもてなし 食事の場や食べ方も「和食」の大切な要素0 3

C O N T E N T S

【「和食」の年表】「和食」がたどった道1 5

【 1 自然の尊重】自然の尊重から「和食」は始まりいまここにある0 7

【 2 家族や地域を結ぶ】寄り合いが人をつなぐ 行事や祭りの食の役割0 9

【 3 健康長寿の願い】ハレの日の食事で健康と長寿を願う1 1

【 4 「和食」の多様性】風土が多様性を生みそれが「和食」という地図を描く1 3

0 5「和食」が日本文化である理由

【 1 献立のかたち】「ご飯」を食べるために「汁」と「菜」がある「一汁三菜」が和食の基本型1 7

【 2 食材】和食を支える日本の食材 おいしさの秘密と多様性1 9

【 4 味わい】うま味日本人が発見した「おいしく食べる」最大の知恵2 3

【 5 栄養】栄養バランスの優等生「和食」2 5

【 6 しつらい】人をもてなすためのこころとかたち2 7

【 7 箸と椀】「和食」を支える箸と椀2 8

【 8 酒】「和食」を引き立たせ心をほぐす日本の酒2 9

【 9 和菓子日本茶】暮らしに寄り添う和菓子とお茶3 0

【 3 調理】切る煮る焼く蒸す茹でる和える揚げるhellip    あの手この手で素材をよりおいしく

2 1

「和食」の特徴

34 WASHOKU

える

日本人がその環境のなかで生

み出し築き上げてきた食の知

恵や工夫や慣習それを編み出

した人々など有形無形のすべ

てを「和食」と呼び日本人の伝

統的な食文化を総称する言葉と

して見てみよう

「和食」にはおかずと汁と漬物

でご飯を食べる「一汁三菜」とい

う基本的な組み合わせがある

これは主食であるご飯をおいし

く食べるために工夫された様式

だまたこれはご飯とおかず

を合わせて食べて味わうとい

う特徴を生み出した

「和食」はこのかたちをベース

にしながら継承されてきた一方

「和食」とは何か

食材料理栄養

そしておもてなし

食事の場や食べ方も

「和食」の大切な要素

「和食」とは食材を選ぶことから始まり栄養を考えながら

料理を組みたてるさらにもてなしの心で料理を供する

それをどのように食べるかも大切な要素なのだ

「和食」この言葉をふだん私た

ちは日本的な料理を指す単語

として使っている

しかし「和食」はひとつの料

理ジャンルを指すだけの言葉だ

ろうか

例えば食前食後に口にする

「いただきます」と「ごちそうさ

ま」は料理をつくる人はもちろ

んのこと食材を育んだ自然や

自然を守ってきた祖先や神々へ

の感謝が込められている

また出来上がった料理だけ

でなく料理の手法やその構成

それをどんな食器に盛って食卓

に並べどのように食べるか

ここにも日本人ならではの気持

ちの込め方とスタイルがある

そう考えると「和食」とは料理

というだけでなくrdquo食べること

に関する日本人の慣習ldquoともい

いつの時代でも

「和食」は変化する

食材

料理

「和食」で用いられる食材は米を中心とする穀類野菜きのこ魚貝海藻が主たるもの近年はおいしい和牛も加わっている米は米飯用のうるち米ともち米野菜は古来の品種から明治以降に入ってきた西洋野菜まで多岐にわたり魚も豊富で日本近海に生息する魚種は約4200種類にも上る

「和食」の基本的な献立は「一汁三菜」この献立を構成するのは素材が持つおいしさを生かす料理だ料理で大切になるのはだし(出汁)昆布や鰹節からとることもあれば素材を煮込んで抽出する料理法もあるおいしく仕上がった料理は美しく盛りつけられる

34 WASHOKU

海外の食材や料理調理方法を

積極的に取り入れその内容を

変化させてきた

明治時代の積極的な西洋文

化の導入により「和食」はさ

らなる変化をとげた肉食へ

のタブーが解けて肉とじゃが

いもを煮込み醤油で味付けし

た肉じゃがすき焼きカレー

ライスとんかつなどいわゆる

和わようせっちゅう

洋折衷料理も生まれたこれ

も新しい「和食」の伝統である

ところがいま日本人の食生

活はかつてないほどのスピード

で変化している欧米化など多

様な食のスタイルが生まれ食

に無関心な人々の増加家庭内

での料理の減少などにより文

化としての「和食」を伝承する力

が薄れている

だからこそ改めて「和食」と

はなにかを見直すときなのかも

しれない

では「和食」とはどんな要素

によって構成されているのだ

ろうか

ひとつは「食材」四季が明確

で雨が多い温帯に属する日本

その気候を生かして収穫される

農作物は稲を中心に野菜や山

菜きのこなど多彩だ

また日本は黒潮と親潮がぶ

つかることで豊かな漁場となる

海に囲まれているそのため魚

種が多く地域性豊かな魚食文

化が育まれてきた同じ漁業大

国であるノルウェーの総漁獲高

の9割は8魚種で占められるの

に対し日本の場合28魚種にも

上ることからもいかに魚種が

多いかがわかるまた魚の消費

量はアメリカの約2倍以上に

もあたる年間1人あたり約57

で世界で6番目海からの恵

みが和食の重要な食材であるこ

とがよくわかる

2つめは「料理」水を豊富に

使えることで発達した蒸す茹

でる煮るなどの調理法や種類

豊富な魚を処理するのに適した

包丁などの調理器具そして野

菜と魚介中心の食事をおいしく

食べるために工夫されただし

(出汁)などが「和食」の料理を

支えている

3つめは「栄養」和食は比較

的低カロリーで各種の栄養素

をバランスよく摂取しやすい

そして4つめは「もてなし」

お客様を大切に迎える心持ちは

単なる客に対するサービスだけ

ではない料理を味わい床の間

のしつらいや食器などを鑑賞す

ることで客も主人をねぎらうの

である「いただきます」「ごちそ

うさま」と感謝することからも

てなす側も満ち足りた心になる

箸づかいやふるまい季節や

思いを演出するしつらいとそ

れを鑑賞する態度食事のマナ

ーや食の場に施された趣向を理

解し互いを思いやる心が「和

食」の精神である

もてなし

もてなしとは単なる主人から客へのサービスではなく食べる側にとっての食の場のふるまい全体をも含む例えば食空間におけるしつらいや料理や器に忍ばせた趣向も食べる人がそれと気づくことが主人へのもてなしとなるまさに日本文化の中で「和食」が最たるものであるといえよう

栄養

動物性脂質が少ない伝統的な和食は主食主菜副菜がそろい生活に必要なエネルギーと健康的な生活を送るために理想的な栄養バランスを確保している主食と副食を交互に口の中で調和させながら食べるのは和食独特の食べ方であるうま味を大切にすることで塩分やカロリーのコントロールができる

和食を構成する

4つの要素とは

56 WASHOKU

「あえのこと」が伝わるのは石川県の奥能登地域(輪島市珠洲市穴水町能登町)12月から翌年の2月までldquo田の神様rdquoを家に招き入れ春まで家で過ごしてもらうldquo田の神様rdquoは夫婦二神とされ料理を乗せた神膳はもとより盃や箸など祭礼で使う道具を二組ずつ用意するのがしきたり人々は能登近郊で獲れた食材でldquo田の神様rdquoをもてなす供えられるのは小豆ご飯たら汁大根はちめ甘酒などこれは行事が終わったあと子供たちに食べさせるものでもあった国の重要無形民俗文化財に指定されさらにユネスコの無形文化遺産保護条約代表一覧表に記載された

自然は豊かな恵みだけでなく

ときに厳しさをもたらす風土

が持つ地理的あるいは気候的

な環境を受け入れ日本人は自

然と深く関わって生きてきた

1「和食」の精神性

いまほど科学や技術が発達し

ていなかった時代自然は大き

な存在で人はそこに神を感じ

豊作大漁を祈り収穫の喜びと

感謝は祭りとなった食の恵み

をもたらす自然を尊重する『精

神性』を育んできた

2「和食」の社会性

ふだんの家族の食卓や祝い事

村や町の共同体での祭りや年中

行事自然の恵みを皆で共に食

べるなかで「和食」は継承され

てきた団らんや寄り合い打

ち上げなど「和食」は社会の要

の役割を果たしている

3「和食」の機能性

もちろん食には人が生きる

糧という『機能性』もある米を

中心に野菜魚介類海藻など自

「和食」が日本文化

である理由

rdquo自然ldquoと共にある暮らしが生んだ

四季折々あるいは地域ごとに異なる表情を見せる

自然に寄り添い日本人はそれぞれの食文化をつくりあげた

「和食」がなぜ文化であるのかその理由を探しにでかける

自然と共にある暮らし奥能登のldquoあえのことrdquo

56 WASHOKU

然の恵みをふんだんに使う「和

食」は見事な栄養バランスを持

つ健康的な食文化であるまた

ハレの日の料理には健康長寿

の願いをかけるという「機能」も

ある

4「和食」の地域性

そして多様な『地域性』地

理や気候が各地で異なる日本は

地域ごとに多様な食文化を築い

てきた北海道から沖縄にいた

るまで近世までは各地域が食

材を自給自足しそれぞれに特

徴のある食文化を営んできた

つまり「和食」は日本の地方文

化の象徴である

ここで例として見るのは石

川県奥能登に伝わる「あえのこ

と」これはrdquo田の神様ldquoに一年

の収穫を感謝する農耕儀礼

「あえ=もてなし」「こと=祭

り」を意味し冬から春にかけ

てrdquo田の神様ldquoを家に招き入れ

てもてなす能登の豊かな山

里海の恵みが捧げられる

もう一例は青森県下北半島

にある佐井村の食

長い冬に野菜や山菜などの

保存食を多用する食習慣が育ま

れいまでもその伝統が色濃く

残り独特の郷土料理が受け継

がれている正月にはこの土地

ならではのおせち料理を食べ

無病息災を願う

自然と共にある暮らしが日

本のさまざまな地域で独自の

料理と食習慣を育み「和食」を

かたちづくっているのがわかる

自然と共にある暮らし青森県の場合

東北地方全般に自生する山菜ミズこれはミズを茹でてアクを抜き蒸しサザエとともに昆布だしに浸す「ミズの水あえ」山と海の幸が一品の中で共存する点が興味深い海と山との距離が近い西津軽地方の郷土料理だが山の幸と海の幸がひとつの料理に盛り込まれる

4 地域性津軽地方で小正月などに七草粥の代わりに食べられている汁物一般的な春の七草は冬の青森では採れないため大根やにんじんなど冬の根菜のほかはわらびやぜんまいそして凍み豆腐など保存性の高い食材を多用して厳しい冬の正月に彩りを添えたそこには無病息災への願いが込められている

3 機能性青森県下北半島の突端に位置する人口約2500人の佐井村で毎年9月に開催される箭根森八幡宮例大祭では3日間の祭りの最中は どの家も玄関を開放してどんな客でも招き入れて盃を酌み交わす村中に神が降りて来るこの3日間は人々は平等に食事を囲み絆を固める

2 社会性この地域では家族全員が協力しながらひと冬分の「寒干し大根」づくりに励む大根を一度茹で冷たい清水にさらしてから寒風に当てて乾かすという工程は厳しい冬に対してあらがおうとせず寒さをうまく利用して自然と共に生きるという精神性が育んだ暮らしの知恵だ

1 精神性

寒干し

団らん

けの汁

ミズの水あえ

「和食」が日本文化である理由

1

3

2

4

78 WASHOKU

1

自然の尊重

自然の尊重から「和食」は始まり

いまここにある

豊かな自然なかでも清涼な水に支えられて

「和食」は食材に恵まれ調理方法箸しつらいなどを育んできた

それゆえ季節感を感じ自然を尊重する精神を忘れないのだ

京都市上京区の梨木神社(なしのきじんじゃ)に湧く「染井の井戸」は今でもldquo名水rdquoとして地元の人々から親しまれている湧き水日本各地で川の水のみならず湧き水や井戸水の恵みを受けてそれに感謝して暮らしてきた

78 WASHOKU

大自然が育む恵みが豊かな

日本では古くから自然を崇

拝し尊重する精神を育んでき

た日本各地で季節ごとに豊

作豊漁を祈願する祭りをおこ

なってきたことも自然を敬う

精神の表れだ

春夏秋冬日本は世界に類

を見ないほど四季が明確で和

食にはその季節でしか味わえ

ない多種多様な旬の食材が取り

入れられる

料理を盛るための器もまたし

かり天然の樹脂である漆う

るし

を塗

る漆し

っき器は美しさと防虫効果

耐久性を高めるなどといった先

人の自然に対する知恵が生み出

した器である

また器使いやあしらいで季

節感を出すことやハレの席や

会席料理においては床の間に

季節の花を飾るなどしつらい

に四季を感じさせる工夫が施さ

れるも特筆すべき点だ

そして自然の恵みのひとつ

として大切なものが水である

水は信仰の対象でもあり日

本の食文化を形成する上で重要

な役割を果たしてきた

国内の平均雨量は1800

と多く飲料として使える水が

豊富なのに加え水が地下に滞

留する時間が短くミネラル分

をあまり含まないそのため欧

米など大陸の硬水とは違い軟

水(WHO基準でカルシウムと

マグネシウムの量が120

L未満)であることも「和食」

に大きな影響を与えている

口当たりがやわらかくまろ

やかな軟水をふんだんに使った

調理方法や食材そのものの味

を生かす料理が発達してきた

例えば豆腐木綿豆腐や絹

ごし豆腐といった一般的な日本

の豆腐はたくさんの水を使っ

てつくられるため水の善し悪

しが味に関わってくる

炊飯も水で何度か米を洗い

適量の水を加えて炊くことで

芯のないふっくらとしたご飯に

炊き上がる

副菜であるお浸しのように茹

でた後に水で洗って絞ったり

水によってあくを抜いたりそ

ばのように一度茹でたものを水

で締めたり水をふんだんに使

う料理方法は独特で世界的に

見ても珍しい日本の水の性質

の良さが「和食」を支えている

また昆布や鰹節の持ち味を引

き出せる軟水だからこそだし

を使う調理が発達しただしに

よって自然の恵みである素材

そのものの持ち味をおいしくい

ただくことにもつながっている

のである

季節の移ろいを感じることが

「和食」の精神として息づいてい

る言い換えれば子どもの頃

から四季の感性が備わる日本人

にとっての食つまり「和食」と

は「自然の尊重」そのものなのだ

古くから食されている豆腐大豆の絞り汁を凝固剤で固めたのものだが日本の豆腐は水分を多く含み柔らかなのが特徴である味が淡泊な分製造工程における良質の水が味の決め手といわれる

豆腐

=

良質な水の活用

吹き寄せ

=

季節感を織り込む

「和食」は季節感がさまざまなかたちで織り込まれる吹き寄せという料理は季節の野菜銀杏きのこなどが塵取りに吹き寄せられた秋の風情を表現している

椀もの

=

木という素材使い

汁物を供する器はおおむね木製の椀薄く削った木地に布を巻きその上から漆

うるし

を塗った漆し っ き

器として全国で使われてきた木製なので熱い汁を注いでもその熱さを感じることなく手で持てるのも木という自然の素材ならではのよさだ

わさび

=

自然が持つ機能性

刺身の薬味としておなじみのわさびツンと尖ったその辛味は化学的にはアリルイソチオシアネートという揮発性の成分で強い抗菌殺菌作用があるため生魚を食べるときにその効果が発揮される自然がもたらす効果を駆使する「和食」ならではの知恵だ

豆腐

椀もの

吹き寄せ

わさび

「和食」が日本文化である理由 自然の尊重1

まろやかな軟水が

大きな影響を与える

910 WASHOKU

家族や親族で食卓を囲む日常

的なひとときは「いただきま

す」から始まる大切なコミュニ

ケーションの場みんなが顔を

合わせ食事をしながら日々感

じたことやその日の出来事を語

り合うことで家族の絆を強く

していくまた子どもたちに対

しては箸の持ち方や器の扱い

方といった「和食」ならではの食

の作法を伝えたり料理をとお

して味覚や栄養バランスなどを

教える大切な機会だともいえる

日常とは別に正月や節分大

晦日などの「年中行事」で普段と

は違うそのときならではの料理

をいただくその習慣もまた

家族や親族のつながりを強める

のに役立つまたそれぞれの

家ごとの味や伝統が親から子

へと受け継がれていくことにも

なる

家とは別に地域でつながる

年中行事もある

2

家族や地域を結ぶ

寄り合いが人をつなぐ

行事や祭りの食の役割

食事を共にするということを通して人はつながりを深くする

家族の食卓での団らん祝いごと地域の祭り年中行事

日本の伝統文化の中で食は人をつなぐ役割の中心にある

食を通して

人や地域とつながる

お正月に家族や親族で集まっておせち料理を囲む時間は地域や親族に伝わる食の伝統を次の世代へと受け継ぐ絶好の機会だまた下の写真は青森県西部の日本海沿岸に位置する深浦町でのひとこま

「深浦地産地消の会」ではいくつかの家族が集まって地域に古くから伝えられる郷土料理を教え合うという活動を続けている祖父母の世代しかその作り方を知らない料理を披露し郷土の伝統を次世代へ伝えようと尽力している

家族の食

910 WASHOKU

地域ごとで行う祭りの中でも

食は大切な要素である神社に

おける祭さ

いし祀の後には直な

おらい会と呼

ばれる飲食の儀礼も行われる

本来神への供く

もつ物やお神み

き酒を参

列者がいただくことで神と人

とが一体となり神の加護を期

待するという意味合いを持つ

今日では祭りの後の打ち上げ

という気分もあり祭りを終え

た後人と人とが酒を酌く

み交わ

すそれにより親密感が増し

共同体意識を高めているのだ

こうした打ち上げもまた食

を介した日本の文化といえる

祭りではなくとも食を中心

にして地域がつながるケースも

ある例えば秋になると山形

県や宮城県などで盛んに行われ

る芋煮会仲間や同僚地域の

人たちなどで声を掛け合い河

原に集まる季節の行事だ鍋の

内容は山形県の内陸部では里

芋と牛肉を具として入れた醤油

味が一般的一方宮城県では

里芋と豚肉を味噌で味付けて食

べるこのように地域によって

違いはあるが地元産の秋の食

材を入れ大きな鍋を囲むとい

う点では共通している一緒に

食べるだけでなく共同で鍋を

作ることで親交や結束がより

いっそう深まるのだろう

食をとおして家族や親族

そして地域やコミュニティが

結束力を強めるこれは「社会

性」という「和食」が持つ特徴の

ひとつだ

「和食」が日本文化である理由 家族や地域を結ぶ2

祭礼の中で食事を共にすることは祭りを担う人々の絆を固める大切な機会である下の写真は大阪府の祭りの様子この日に供されたのはハモと松茸のすき鍋水なすの漬物など一方で東北地方の宮城県や山形県で秋になると盛んに行われる

「芋煮会」(写真右)は地域だけでなく職場や親族友人どうしなどのコミュニティ単位で行われることが多い食材を持ち寄って鍋の準備を共に進めることで連帯感が高まるのだ

地域や祭りの食

1112 WASHOKU

おせち料理おせち料理の内容は地域によってさまざまこれは東京のおせち料理のひとつ重箱(手前)には健康を願う「黒豆」や子孫繁栄を願う「数の子」そして田の肥料としたことで豊作を祈願する意味を込めた「田作り」という「祝い肴三種」が盛り込まれている祝い肴にはその他紅白のかまぼこや長寿を祈願した海老の焼き物豊作を願ったたたきごぼうなどがあり地域によって異なっている酢の物(左の小さな重)や煮しめ(奥の大きな重)をおせち料理に供する家庭も多い

日本人の生活の中には特別

なrdquoハレの日ldquoがあるひとつは

正月などのように毎年同じ時期

にめぐってくる年中行事もう

ひとつは誕生や成人や結婚や還

暦など人生の節目にあたる日で

これを人生儀礼と呼ぶそして

ハレの日にはそれを食べるこ

とで「邪気や災厄をはらい健康

長寿を願う」という共通点があ

る一

年の始まりを祝うお正月は

「歳と

しがみ神さま」を各家庭で迎える

年に一度の大切な年中行事家

の入口に立てられる門松は神を

招くための目印で一年の幸せ

を願い家族が集まって食事を

共にするその際に供されるの

がおせち料理だ地域ごとにさ

まざまなバリエーションがある

のもおせち料理の特徴で酒し

ゅこう肴

3

健康長寿の願い

ハレの日の食事で

健康と長寿を願う

例えば全国各地でrdquo文化ldquoとして

色濃く残っているおせち料理

その内容には地域ごとにさまざまな

バリエーションがあるものの

共通しているのは

料理を食べることで健康長寿を

願うという点だ

1112 WASHOKU

お正月雑煮に合わせて飲むお屠蘇は銚ち ょ う し

子三つ重ねの盃盃を乗せる盃台これらを載せる盆で供されるもともとお屠蘇はいくつかの薬草を組み合わせた屠

と そ さ ん

蘇散を酒やみりんに浸して作る薬酒だった

お194679と そ蘇

魂の象徴である丸餅を入れた雑煮を食べるということは神の力をいただくことでもあったこれは京都でなじみ深い西京味噌で味付けした雑煮焼かずに煮た丸餅と昔から縁起物とされた頭

かしらいも

芋(里芋の親芋)が入るのが特徴だ

雑煮

赤い色の小豆は邪気と厄をはらいのけると信じられ祝い事の際には頻繁に登場したまたもち米を蒸して食べる習慣は古い日本の文化でもあって例えば赤飯はハレの食事として供されことにお祝いの席には欠かせない

赤飯一生食べることには苦労しないようにとの願いを込めて子どもの生後100日目に行う「お食い初め」の儀式では尾頭付きの鯛を含んだ一汁三菜の膳が供される丈夫な歯が生えることを願う「歯固めの石」も欠かせない

お食い初め

「和食」が日本文化である理由 健康長寿の願い3

を並べたスタイルもあれば煮

しめだけをおせちとする地域も

あるが神と食事を共にしつ

つ福を招き災いを打ちはらう

という願いが込められていると

いう点は共通している

同じくお正月に食べる雑煮は

そもそも武士にとって一番大切

で正式な酒の肴で正月には必

ず餅の入った雑煮とお194679と

そ蘇が

供されるそして鏡餅などの丸

い餅は神の魂の象徴「歯固め

餅」とも呼ばれ1月11日に鏡餅

を食べて歯が丈夫な長寿を願う

意味が込められている

食を囲み毎日を無事に過ご

すことを願う行事に五節句があ

る七草粥を食べる正月7日

(人じ

んじつ日)の他には邪気をはらう

と信じられていたヨモギ入りの

草餅を食べる3月3日(上じ

ょうし巳)

粽ちまきや柏餅を食べることで健康を

願った5月5日(端た

んご午)索さ

くべい餅と

呼ばれる細い麺を食べて無病を

願う7月7日(七し

ちせき夕)菊酒で不

老不死を願う9月9日(重ち

ょうよう陽)が

ある

人生儀礼に目を向ければ邪

気や厄をはらうと信じられてい

た赤飯は祝儀だけでなくお盆

などの仏事や葬儀の際にも食

べられてきた

体によいものを求めてきた

「和食」の伝統は結果として世

界でもまれにみる健康によい食

文化をつくりあげた健康で長

生きしたいという強い指向が

「和食」の根底にはある

北海道は各地から入ったお雑煮が混在する北海道特産のいくら鮭を使った「親子雑煮」を食べる家庭も多い

焼いた角餅に醤油味が一般的一部の地域では具に豆腐やゴボウなどが入りゴマだれやクルミだれに付けていただくこともある

鰹節でだしを取り醤油で味付けしたすまし汁に焼いた角餅を入れるのが一般的具には鶏肉こまつ菜かまぼこなどが入る

昆布でとっただしに白味噌で味付けし煮た丸餅を入れるすまし汁のところや元旦は白味噌2日目はすまし汁にする地域もある

1314 WASHOKU

「県出身ならあれ食べた

ことあるの」「お雑煮のお餅と

味付けは」hellip日本各地に伝

統的な料理や食材があり味付

けも地域ごとに異なる

気候や風土が異なると採れ

る食材や調理法は変化し地域

色豊かな和食が形づくられてき

たそんな多様性も和食の魅力

であり日本を旅するときの楽

しみのひとつでもあるはずだ

いまのように流通が盛んでな

く保存技術も進んでいなかっ

たころ食料を無駄なく存分に

そして安定的に味わうというこ

とは人々の重要な課題だった

そこで知恵を絞り工夫をこら

し考えられたのが食品の加工

や保存方法その知恵が結果的

に「和食」の多様性を生みだし

ていくことになるのだ

海から遠い土地では魚を長持

ちさせる知恵が生まれ冬が厳

しい北方では野菜を長期にわた

り保存する技が発展してきた

魚の干物餅梅干し凍み豆

腐helliphellipこれら保存食は昔から

ある加工食品だが同じく日本

古来の加工食品に発酵食品があ

る微生物の働きや酵素の力

で保存力や栄養価風味などが

加わった食品だ野菜の漬物も

このひとつ

例えば秋田県の郷土料理「い

ぶりがっこ」大根を囲炉裏の

4

「和食」の多様性

風土が多様性を生み

それが「和食」という地図を描く

南北に長くさまざまな気候を持つ日本だけに地域が持つ食文化は多様で

土地土地に伝わる郷土料理や加工保存技術が存在している

日本の食が描く地図は知れば知るほど面白い

風土の違いから生まれる

食文化の多様性

お雑煮MAP

 

正月に食べられるお雑煮はだ

しの素材や味付け餅の形状具な

どが地域や家庭によってさまざま

であるだしには昆布鰹節煮

干しするめ穴子鶏肉が味付

けには塩醤油味噌などが使われ

る餅は角か丸かそれを焼くか

煮るかという違いもあるまたあ

ん入りの餅を入れる地域もある

具は野菜類魚介類鶏肉などで

地域の特産品が使われることも多

い沖縄県ではお雑煮に代わるも

のとして「中味汁」(豚の内臓の

汁)があるここでは全国各地の

お雑煮の中から特徴のあるもの

を取り上げた丸もち

角もち

角もち

角もち

昆布と鰹節のだしに味噌で味付けし煮た丸餅とかぶそしてかぶの葉を加えたシンプルなお雑煮を食べる地域も味噌は赤味噌白味噌のいずれかが使われる

丸餅に白味噌仕立てが多いが香川県では白味噌にあん入り餅を入れた「あんもち雑煮」が珍しい具は大根ニンジン里芋など

だしはあごだし昆布鶏肉とさまざまだが味付けは醤油味具にかまぼこが入り九州の北部にはあん入り餅を入れる地域もある

醤油味のすまし汁に煮た丸餅が多い出雲地方では

「小豆雑煮」と呼ばれ具はなくぜんざいのような小豆だけの雑煮を食す

昆布と鰹節のだしに味噌で味付けし煮た丸餅とかぶそしてかぶの葉を加えたシンプルなお雑煮を食べる地域も味噌は赤味噌白味噌のいずれかが使わ

1314 WASHOKU

上に吊るし楢や桜の焚き火で

燻製にしてから米糠と塩で漬

けこんだ漬物だこれは冬の訪

れが早い秋田で大根を早く乾

燥させ長く食べられるようにす

るための工夫だいずれも手間

と時間が加わることで風味が

濃縮されとれたてとは違った

深い味わいが生まれた

魚介類の保存食でいえばな

れずし魚を塩と米飯で数日

から数ヶ月寝かせ乳酸発酵さ

せたもの雑菌の繁殖が抑えら

れ長期間の保存が利く上うま

味が増す現在滋賀県のふな

ずし和歌山県のサバやサンマ

のなれずし福井県小浜市のへ

しこなれずし秋田県のハタハ

タ寿司など日本全国の郷土料

理として残っている

また味噌や醤油といった発酵

調味料は日本料理の味の要と

もいえやはりこれらにも地域

によって造り方や味に違いがあ

る例えば味噌大豆と米こ

うじを使い長期間熟成させた辛

口の津軽味噌米こうじを多く

配合した甘みのある西京味噌

大豆こうじを使った赤褐色の名

古屋の八丁味噌麦を原料にし

た九州地方の麦味噌などさま

ざま

地域の特産品発酵調味料餅

で構成されるお雑煮を見ても

多様性はよくわかる

日本の風土と食文化は深く結

びつき世界が注目するバラエテ

ィに富んだ食を育んできたのだ

日本の味噌

mdash

地域と特徴mdash

味噌は製法材料によって

大きく3つに分けられる

全国的に一般的なのが「米

味噌」で蒸すまたは茹で

た大豆に塩米こうじを加え

発酵させたもの米こうじ

の代わりに麦こうじを使用

したものを「麦味噌」大豆

を発酵熟成させたものが

「豆味噌」米味噌には大

豆を蒸して長期間熟成した

辛めの赤味噌と大豆を茹

でて短期間で熟成させた甘

めの白味噌がある

「和食」が日本文化である理由 「和食」の多様性4

主な種類地域 特徴

米味噌

津軽味噌 長期間熟成させる辛口で赤味噌系が主流

仙台味噌 仙台で伝統を継承して造られてきた長期間熟成させる辛口赤味噌系が主流

信州味噌 長野県を中心に造られる山吹色の淡色系の辛味噌

江戸甘味噌 通常の味噌よりもこうじを多く塩を少なくした赤系の甘さのある味噌

西京味噌 関西地方を中心に造られる米こうじの多い甘みのある白味噌

讃岐味噌 香川県で造られる甘みのある白味噌あん餅雑煮にも使われる

府中味噌 甘みのある米こうじの多い白味噌で主に広島県で造られる

麦味噌 九州四国中国 麦こうじを使って発酵させた山吹色を帯びた甘みのある味噌

豆味噌 八丁味噌三州味噌 蒸した大豆でみそ玉を作りこうじ菌を繁殖させて造る濃い赤褐色の味噌

お雑煮に入れる餅の形について出身地ごとに聞き取った結果中部を境にして東は角餅西は丸餅が多かった

もちの形について

丸もち

丸もち

丸もち

丸もち

出典「お雑煮100選」(文化庁)より

(人)

温暖化が進み狩猟が大型獣から小型獣になる

南九州で竪穴式住居にドングリ貯蔵穴が広まる

ドングリなどの植物性食料が重要な食料になる

水田稲作が日本列島に伝来

稲作の広がりと定着魚を発酵させたなれずしの登場

『魏ぎ

し志』倭わ

じんでん

人伝には倭(日本)では冬夏に生菜を

飲食に高杯をつかい手食するとある

土は

師器の移動式かまどの使用

土師器の甑こ

しきに

よる蒸し米が盛んになる

中国に遣唐使を送る大陸の食文化がもたらされる

675年天武天皇が「牛馬犬猿ニワトリ」の

食用を禁止

牛乳を煮詰めて作った「蘇そ

」が朝廷に貢納される

箸の利用が広がる

貴族の大だ

いきょう饗

料理や年中行事が中国の影響で定着

豆腐が中国より伝来する

栄西が宋より抹茶法を持ち帰る

道元が禅宗における食事作法や調理の心得を

説いた『典て

んぞきょうくん

座教訓』『赴ふ

しゅくはんぽう

粥飯法』を執筆

植物性食品のみを使った精進料理の発展

武士の供応食本ほ

んぜん膳

料理の形成

包丁人と呼ばれる料理人が誕生し包丁流派を形成

刻み目のついたすり鉢が広がる

酒造技術の進展

書院茶の湯からわび茶の湯へ

千利休により茶の湯が完成

懐石形式の定着

豊臣秀吉が北野大茶会を開催

欧州が大航海時代に入り

南蛮貿易により南蛮菓子唐辛子などが日本に伝来

日本初の出版料理書『料理物語』刊行

都市部に食べ物屋や料理屋が普及する

料理屋の会席料理形成

けがれによる肉食禁忌の観念が広く浸透

薬食いとしての肉食

飢き

きん饉に備えさつまいもやじゃがいもの栽培を奨励

和菓子の完成

握り寿司やてんぷらが江戸で流行する

肉食解禁と牛鍋の流行

『西洋料理指南』など西洋料理書の出版

西洋料理店の発展

米の摂取率が平均53に

家庭向け料理書の出版

女学校における食物教育

脚か

っけ気

論争がさかんに行われる

牛肉の不足から豚肉の生産が増加

洋菓子の製造発展

物価高騰と米不足によるじゃがいもパンなどの代用食の奨励

国立栄養研究所の開設と栄養学の発展

都市部で和わ

ようせっちゅう

洋折衷料理が普及

戦争による食料不足

食料統制米などほとんどの食品が配給切符制となる

イモなど代用食の増産

戦後のミルクとパンの学校給食が開始

各地に闇市ができる

食料の価格が高騰

厚生省が日本人の栄養基準値を策定

農家の生活改善運動が展開

即席ラーメンなどインスタント食品の開発販売

冷凍冷蔵庫の普及と冷凍食品が普及

日本型食生活の提唱

ファミリーレストランファストフード店の増加

コンビニの発展

日本食の洋食化と簡便化と米摂取量の減少

食料自給率が39〜40に低下

レトルト食品の売上増大

電子レンジ普及率が約90に

遺伝子組み換え食品が登場

地球温暖化など環境問題が深刻化

阪神淡路大震災東日本大震災により災害食が注目される

持続可能性が社会課題に

家庭料理の変化や家族の孤食化などの問題が生まれ和食の見直しへ

縄文時代弥生時代古墳時代飛鳥時代奈良時代平安時代鎌倉時代室町時代安土桃山時代江戸時代BC9000年BC3000年BC2500年頃BC200年頃240年頃500年頃7世紀8世紀8~12世紀12~14世紀14~16世紀16~17世紀17~19世紀

1516 WASHOKU

「和食」の年表

「和食」がたどった道和食の成立とその変化を年表でたどってみると各時代の人々が海外の食文化の影響を受けながら工夫を積み重ねてきた様子が見えてくる

米は縄文時代晩期に伝来し

たとされるが全国に広がるの

は弥生時代である

平安時代の大饗料理は貴族

の供応料理で蒸した高盛の強こ

飯いい

に各種の魚介類を配し調味

料につけて食べる形であった

鎌倉時代には禅宗の影響に

より動物性食品を排除した

精しょうじん進料理が発展した道元禅

師は調理も修行の一つとして

その心得を記した『典て

んぞ座教き

ょうくん訓』と

食事への感謝の念作法を説い

た『赴ふ

粥しゅく

飯はんぽう法』を著した

室町時代上層階層の料理文

化として本膳料理が登場した

この形式は江戸時代後期には

婚礼などの儀礼食として各地域

に浸透し昭和期まで継承され

た本膳には飯汁菜香の物

が盛られ飯を主食とした伝統

的な食事の形式が定着すること

になるまた酒とその酒肴も

本膳に伴って発展した

安土桃山時代には茶の湯に

ともなう懐石が発展した一汁

三菜を基本に旬の素材にこだ

わり食事空間のしつらいにも

気を配るなど精神性をも盛り込

んだこの形式はその精神と

共に現代に引き継がれている

江戸時代の都市部ではそば

すしてんぷらなどの食べ物屋

高級料理店なども広がりをみせ

た料理書の出版も相次ぎ酒

と酒肴を楽しむ料理屋の会席料

理も成立したまた和菓子の

温暖化が進み狩猟が大型獣から小型獣になる

南九州で竪穴式住居にドングリ貯蔵穴が広まる

ドングリなどの植物性食料が重要な食料になる

水田稲作が日本列島に伝来

稲作の広がりと定着魚を発酵させたなれずしの登場

『魏ぎ

し志』倭わ

じんでん

人伝には倭(日本)では冬夏に生菜を

飲食に高杯をつかい手食するとある

土は

師器の移動式かまどの使用

土師器の甑こ

しきに

よる蒸し米が盛んになる

中国に遣唐使を送る大陸の食文化がもたらされる

675年天武天皇が「牛馬犬猿ニワトリ」の

食用を禁止

牛乳を煮詰めて作った「蘇そ

」が朝廷に貢納される

箸の利用が広がる

貴族の大だ

いきょう饗料理や年中行事が中国の影響で定着

豆腐が中国より伝来する

栄西が宋より抹茶法を持ち帰る

道元が禅宗における食事作法や調理の心得を

説いた『典て

んぞきょうくん

座教訓』『赴ふ

しゅくはんぽう

粥飯法』を執筆

植物性食品のみを使った精進料理の発展

武士の供応食本ほ

んぜん膳

料理の形成

包丁人と呼ばれる料理人が誕生し包丁流派を形成

刻み目のついたすり鉢が広がる

酒造技術の進展

書院茶の湯からわび茶の湯へ

千利休により茶の湯が完成

懐石形式の定着

豊臣秀吉が北野大茶会を開催

欧州が大航海時代に入り

南蛮貿易により南蛮菓子唐辛子などが日本に伝来

日本初の出版料理書『料理物語』刊行

都市部に食べ物屋や料理屋が普及する

料理屋の会席料理形成

けがれによる肉食禁忌の観念が広く浸透

薬食いとしての肉食

飢き

きん饉に備えさつまいもやじゃがいもの栽培を奨励

和菓子の完成

握り寿司やてんぷらが江戸で流行する

肉食解禁と牛鍋の流行

『西洋料理指南』など西洋料理書の出版

西洋料理店の発展

米の摂取率が平均53に

家庭向け料理書の出版

女学校における食物教育

脚か

っけ気

論争がさかんに行われる

牛肉の不足から豚肉の生産が増加

洋菓子の製造発展

物価高騰と米不足によるじゃがいもパンなどの代用食の奨励

国立栄養研究所の開設と栄養学の発展

都市部で和わ

ようせっちゅう

洋折衷料理が普及

戦争による食料不足

食料統制米などほとんどの食品が配給切符制となる

イモなど代用食の増産

戦後のミルクとパンの学校給食が開始

各地に闇市ができる

食料の価格が高騰

厚生省が日本人の栄養基準値を策定

農家の生活改善運動が展開

即席ラーメンなどインスタント食品の開発販売

冷凍冷蔵庫の普及と冷凍食品が普及

日本型食生活の提唱

ファミリーレストランファストフード店の増加

コンビニの発展

日本食の洋食化と簡便化と米摂取量の減少

食料自給率が39〜40に低下

レトルト食品の売上増大

電子レンジ普及率が約90に

遺伝子組み換え食品が登場

地球温暖化など環境問題が深刻化

阪神淡路大震災東日本大震災により災害食が注目される

持続可能性が社会課題に

家庭料理の変化や家族の孤食化などの問題が生まれ和食の見直しへ

明治時代大正時代昭和時代(戦前戦中)昭和時代(戦後)平成1869~1912年1912~1926年1926~1945年1945~1989年1989年~

1516 WASHOKU

家庭料理の変化や家族の孤食化などの問題が生まれ和食の見直しへ

基本はほぼこの時代にできたと

いえよう

いっぽう各地域の日常食の

主食は麦雑穀芋類を混合し

たかて飯やうどんなど小麦粉を

用いた食事が多くそれは昭和

期まで引き継がれ各地で独自

の「和食」の文化が形成された

西洋文化を積極的に取り入れ

た明治時代以降西洋料理書が

出版され都市部では西洋料理

店が開店したまた明治時代

後期には家庭向け料理書の出

版が相次ぎ西洋料理をアレン

ジして和食に取り入れた和わ

よう洋

折せっちゅう衷料理が数多く紹介された

大正期国立栄養研究所の開

設により栄養学の研究が進み

日常食の栄養についての関心が

少しずつ広がった

飢餓を経験した戦時期を経て

主食に偏らず副食に動物性食

品や油脂を加えた食事が推奨さ

れたその結果1980年頃

になると日本人の食事は米飯

を基本にしながらも乳乳製品

肉魚類野菜類などを適度に

加えたよりバランスのよい食

事となったこの時期の食生活

を「日本型食生活」と呼んだし

かしその後食生活の洋風化

簡便化が広がり食料自給率は

40パーセントと減少した若年

層を中心に食事の基本型が崩れ

欠食孤食などが話題となり和

食の見直しが求められるように

なった

1718 WASHOKU

「和食」の特徴1

献立のかたち

「ご飯」を食べるために

「汁」と「菜」がある

「一汁三菜」が和食の基本型

「一汁三菜」とは「ご飯」と「汁」と「香の物」に

いくつかの「菜」が添えられるという組み合わせ

「ご飯」と「汁」と「香の物」に「お菜」が3品添えられるという献立が一汁三菜この場合は焼き魚(右奥)と煮物

(左奥)と小松菜のおひたし(中央)の3つの菜で構成される向かって手前左にご飯を手前右には汁をその間に香の物をそれぞれ置くという決まりになっている

1718 WASHOKU

米を炊いた「ご飯」昆布や鰹

節などでとっただしを味噌や塩

などで味付けした具入りの「汁」

塩漬けやぬか漬けや粕漬けなど

の「香の物」そして焼き物や煮

物や和え物などの「菜」その4

つの要素で構成される「一汁三

菜」という組み合わせがある

基本的には汁が一種で菜が

三種の構造を「一汁三菜」と呼

ぶ食事中に口の中をさっぱ

りと保ってくれる「香の物」と

ご飯はいつも必ずついていて

その数も変わらないからあえ

て数えない

日常の食事である一汁三菜に

対して江戸時代によく登場す

るのは二汁五菜つまり汁が二

種に菜が5つこれが昔のおも

てなし料理の基本でお膳もふ

たつ出たいいかえると一汁三

菜はひとつのお膳に載るふだ

んの家庭の食事であることがわ

かる

また汁にもいろいろあった

魚のアラを汁に仕立てたものや

野菜を豆腐と一緒に煮込むけん

ちん汁など具だくさんの汁も

各地域でみられ汁でご飯を食

べるということも和食の特徴の

ひとつだ

一汁三菜の献立の最大の特徴

は汁も香の物も菜もすべてご

飯を食べるために存在するとい

う点かもしれないご飯が主食

でその他の3つの要素が副食

という考えが一汁三菜の根底に

ある少ない菜でたくさんのご

飯を食べご飯の量でカロリー

の摂取量を調整するのがかつ

ての和食の基本的な食べ方だっ

たのだ

「和食」にとって欠かせないご

飯についてもここで触れてお

こう

米には「うるち米」と「もち米」

とがあり強い粘性を持つもち

米は赤飯などのおこわ(強こ

わいい飯

や餅に用いられるそれに対し

てうるち米はもち米より粘り

気が少なく通常の米飯として

使われる

米のもとになる稲の栽培が始

まったのは1万年以上前とされ

野生の稲を栽培したのが始まり

と考えられているその原産地

は中国の長江流域とその周辺

という説が有力でそこから西

へ伝わった品種がインディカ種

また東へと伝わり東アジアに

広がったのがジャポニカ種だ

「和食」における献立の目的は

いわば汁と菜でご飯を食べる

ことつまりご飯に合うのなら

例えばそれが肉じゃがでもコ

ロッケでもとんかつでも菜と

して取り入れてこられたのは

ご飯を主食とする「和食」のス

タイルがしっかりしていたか

らである一汁三菜という和

食の基本型がなくなったら外

国の料理と変わらなくなって

しまうだろう

「和食」の特徴 献立のかたち1

稲 玄米 白米 調理加工

粉にする

飯餅菓子米飯焼き米ひなあられ餅おかきあられ

稲わら 俵わらづと鍋釜敷き畳床むしろわらぞうり縄みのわらぼうき など

酒酢みりん味噌発酵させる

糠 たくあん糠漬けあく抜き

(上新粉など)柏餅草餅重

お も ゆ

湯など

(白玉粉落ら く が ん

雁粉道明寺粉など)白玉最中大福餅落雁桜餅など

どうみょうじ

うるち米の粉

もち米の粉

日本人の暮らしに深く関わる稲米

 現在世界で栽培されている稲の主な種類にはインディカ種(インド型イネ)やジャポニカ種(日本型イネ)などがあるインディカは長粒種と呼ばれる米ジャポニカは日本でよく食べられている丸く短粒な米で短粒種と呼ばれる米の主成分であるでんぷんにはアミロースとアミロペクチンとがありアミロースを多く含むインディカ種は粘り気が少ないのに対しアミロースの少ないジャポニカ種は粘りが強く日本人にとってはおいしい味の米であるそしておにぎりやすしのようにまとめる米料理も発達した 世界の米の生産量は約6億トンと小麦とほぼ同じだがその90以上が日本を含むアジア諸国で栽培されているジャポニカ種は全体の15を占め日本をはじめとして朝鮮半島中国東北部台湾北部などで主に栽培されているインディカ種の栽培地域はインドからベンガル地方のバングラデシュタイをはじめとするインドシナ半島中国の中南部インドネシアなど南アジアが中心だ

ジャポニカ種とインディカ種日常私たちがご飯として食べているのはうるち米赤飯や餅にするのはもち米である栄養価はほとんど同じであるがでんぷんの構成が異なるうるち米はアミロースとアミロペクチンの比率が約28であるがもち米はほとんどアミロペクチンで構成されているそのためにもち米はうるち米に比べて粘りが強く餅にするのに適しているのである日本では両方の米の特徴をうまく利用して粒のまままたは粉にするなどしていろいろな料理や菓子を生み出したり発酵させて酒やみりんなどをつくり出したりしてきた

うるち米ともち米

インディカ

ジャポニカ

「和食」に欠かせない

米はどこから来たのか

1920 WASHOKU

全国各地でさまざまな魚や野

菜が豊富に手に入ったことそ

して文明開化の時代まで一般

的に肉食をしなかったという背

景から「和食」は野菜と魚介類

を中心に調理されてきた

現在日本の市場で流通する

野菜の数は150種類ほどと言

われているその種類はイモ類

やマメ類をはじめ根菜類茎け

いさい菜

類葉菜類果菜類など実に多

様ださらには山菜やきのこ

など森林に自生するものも調

理に工夫することでうまく食材

として取り入れてきた

日本で流通する野菜は近代

になって外国から輸入されたも

のや品種改良によって食べや

すくなったものなど多様では

あるが昔から日本で作り続け

られている伝統野菜(在来野菜)

も少なくない伝統野菜とはだ

いたい三世代以上に渡って栽培

「和食」の特徴2

食材

和食を支える日本の食材

おいしさの秘密と多様性

おいしい和食には素材の力がある四季折々の自然の中から

生み出される日本の食材は驚くほど多様性に富んでいる

野菜

野菜と魚介類の二大食材に

支えられる日本食文化

和食には野菜を使う料理が多くあるが現在日本で流通する野菜の種類も150以上と幅広い分類にしてもジャガイモやサツマイモなどのいも類大豆や小豆などのマメ類ダイコンやカブなどの根菜類ネギやウドなどの茎

け い さ い

菜類コマツナや白菜などの葉菜類ナスやキュウリなどの果菜類そのほかにシイタケやシメジなどのきのこやワラビやゼンマイなどの山菜など多彩な野菜が存在するしかし現代でこそ流通の発展でさまざまな野菜が一年中手に入るが全国で同じ野菜が収穫できるわけではない例えば同じいも類でもサツマイモなどは九州などで多く作られるが冷害に強く冷涼な地で生育するジャガイモは山梨や長野などの山間部や日本の北部で育てられるそのほか地域特有の特産品である伝統野菜がいま注目され始めている

1920 WASHOKU

が続けられ地域に根づいた農

法で作られるものを指しこれ

を守る動きも目立ってきている

魚介類も「和食」にとって欠か

せない食材のひとつ日本で獲

れる海水魚は実に種類豊富で

日本に生息する魚種だけでも約

4200種ある縁起のよい魚

として重宝されるタイをはじめ

アジイワシやサバサンマなど

日本の近海は魚の宝庫である

海水魚だけでなくコイやア

ユフナやウナギそして水田で

獲れるドジョウなどの淡水魚

(川魚)は海から離れた地域では

貴重なタンパク源だったため

古くから料理に使われている

ウナギの蒲焼きは一般的だが

薄切りにしたコイを50くらい

の湯に短時間漬けてから冷水で

身を締めて酢味噌で食べる「鯉

のあらい」やコイの切り身を濃

い味噌で煮た「鯉こく」など味

わい方も豊富

またうま味のもととして古

くから使われてきた昆布や味

噌汁の具としても重宝するワカ

メさらにおむすびに必須の海

苔など海藻類も和食には欠か

せない貝類も種類が豊富で

アワビをひも状に薄くむき乾

燥させた「熨の

しあわび

斗鮑」が神事や祝し

ゅうぎ儀

の象徴として使われてきた

近年日本の食料自給率が低

下し外国産食材の増加も問題

視されているが本来の「和食」

は日本の自然の恵みによって支

えられているのだ

「和食」の特徴 食材2

島国である日本において魚介類は古くから貴重でかつ重要な食材であった農林水産省の定める生鮮食品品質表示基準によれば日本で食される水産物はマグロやカツオイワシやアジなどの海水魚やコイやウナギなどの淡水魚(川魚)シジミやアサリなどの貝類カニやエビなどの甲殻類やカメなどの水産動物類クジラやイルカなどの海産哺乳動物類そのほか昆布やワカメなどの海藻類など実に多様な種類がある2000年に味の素(株)がおこなった「嗜好調査」によれば「食材」としては肉類よりも魚介類のほうが好まれている結果がみられたさまざまな魚介類のなかでもカニエビマグロなどへの嗜好性が高くそれらが「贅沢な食材」と捉えられているようである

山間部など海の魚が手に入らない地域で貴重なタンパク源として重宝されたのが淡水魚(川魚)写真はアユだがその他コイやウナギドジョウワカサギフナなど日本ではさまざまな川魚が食材として使われてきた寄生虫のおそれがあるため生食はあまりされないがその代わりに調理にはさまざまな工夫が見られる海の魚に比べると独特の臭味やクセがあるため「鯉こく」のようにしっかりと煮込むことで臭味を除いたりウナギのように蒲焼きにしたりするなどがその一例だまた例えば滋賀県には琵琶湖で獲れるフナを塩と米で乳酸発酵させ保存性を高めると同時にうま味成分を引き出した「ふなずし」もある

古来日本で食べられてきた海藻類現在でも低カロリーでミネラルビタミンに富む食材として和食では重宝されている日本では約50種類の海藻が食べられているが世界的にみてもここまで多様な海藻を加工し食用とする民族は珍しいなお海藻にはフノリやテングサのような紅藻ワカメ昆布やモズクなどの褐藻アオノリや海ブドウなどの緑藻類の3種類の海藻が存在する昆布のようにだしをとるために使うものもあるが乾燥させて食べる海苔味噌汁や酢の物の具として使われるワカメのようなものまで実に幅広いまた海藻は神への奉納品としての縁も深く日常の食事だけではなく祭りや神事などにも登場している

縄文時代の遺跡である貝塚からアワビやハマグリカキなどの大量の貝殻が発見されていることからもわかるように貝類は日本では古くから食材として利用されてきた春先の干潮時に浜辺に埋まったアサリなどの貝を掘り出して採取する潮干狩りは春の風物詩としても馴染み深い日本には6000近い貝類があるといわれておりなかでもアサリやハマグリのような二枚貝サザエやツブ貝のような巻き貝が食用として親しまれている調理法としては刺身や吸い物味噌汁煮物焼き物炊き込みご飯など幅広い料理に使用されているがだしをとるためにも使われるさらに乾物にすれば保存性も高くなるため古くから交易にも活用されてきた

海の魚

川の魚

海藻貝

2122 WASHOKU

和食における菜さ

の調理法には

煮る焼く蒸す茹でる和あ

える

揚げるなど実に多様な技法が

あるこれを季節の野菜や山

菜魚介類海藻などの食材と組

み合わせることでバラエティ

に富んだ菜が食卓を彩る

数ある日本の調理法の中で

最も特徴的なのは「生もの」材

料を生のまま切り皿に盛り付

け調味料と薬味を添える刺

身といえば魚介類が用いられる

のがほとんどで捌さ

き方切り方

盛り方などが現在世界で注目を

浴びている材料を新鮮な状態

に保つ技術と料理としての盛り

付けの技術があいまって完成し

たものといえる調味料と薬味

の組み合わせも魚類との相性を

考えて工夫されているまた

わさびしょうがからしなどの

薬味や「つま」や「けん」と言わ

れる大根のせん切り大葉防ぼ

うふう風

芽めたで蓼花は

なじそ

紫蘇など防菌効果のあ

るものを添えて見た目も美し

く組み合わせている

ご飯と並んで食卓に欠かせ

ない「汁物」は鰹節や昆布煮干

し干し椎茸などから抽出され

るだしのうま味と具として入

れる素材のうま味が味わいのベ

ースとなっている中には具だ

くさんの菜になるような汁も

ある

また豊富な水を利用した調理

焼き物(サンマの塩焼き)

直火焼きは遠火の強火でほかに間接焼きがある

生もの(カツオの刺身)

生ものには刺身あらい酢の物漬物がある

茹で物(もりそば)

小麦粉やそばなどの粉からつくる麺を茹でる法

旬の食材のおいしさを

引き出す調理法の数々

「和食」の特徴3

調理

切る煮る焼く蒸す茹でる和える揚げるhellip

あの手この手で素材をよりおいしく

バランスの取れた一汁三菜の基本はご飯にあり

ご飯をおいしくいただくために菜さ

の調理方法は進化した

煮物(筑前煮)

煮汁の中で加熱中に調味する法

2122 WASHOKU

法に「茹で物」があるたっぷり

の水を沸騰させ食材を加えて加

熱して取り出すもの青菜そば

などは茹でた後にあくの除去

歯触りを良くするなどのためさ

らに水で洗う場合も多い私た

ちがあたりまえのように調理し

て食べているほうれん草や小松

菜のお浸しは水に恵まれた日本

に定着した料理で世界的にみて

も特徴あるものといえよう

「焼き物」はサンマの塩焼きの

ように塩をふり直火でじっく

り焼き上げる方法が伝統的

「煮物」は世界で最もポピュラ

ーな調理法だが日本では素材

の味を生かしつつ醤油や味噌

など大豆由来の発酵調味料で

味を調えるものが多い

油とともに加熱調理する「炒

め物」は伝統的な調理にはほと

んど見られないが現代では盛

んに使われ和食の幅を広げて

いる

ここに紹介した調理法と料理

の例は主にご飯のおかずとな

るものであるが小麦そば雑

穀などを粉にしこれを調理し

た主食も多い代表的なものに

うどんそばそうめんなどの麺

類があり茹でる場合が多いが

煮込みなど煮るものもある

さまざまな料理を組み合わせ

て食べる和食は素材の味を生

かしうま味をしっかりとれば

最低限の調味料でおいしさを感

じることができ多様な料理を

楽しむことができる

和あえ物

(きゅうりとワカメの酢の物)

野菜や魚介類などをごま味噌酢などで和える法

漬物(きゅうり大根の糠

ぬか

漬け沢たく あ ん

庵漬け)生ものを保存する方法の一種

塩の働きに加え乳酸発酵させたものが多い

汁物(なめこの味噌汁)

だし汁を主体とする法すまし汁みそ汁とろみのついた汁など

蒸し物(茶碗蒸し)

水を沸騰させその水蒸気を利用して加熱する法

浸し物(小松菜のお浸し)

お浸しは調味した汁に浸して味をつけたもの

「和食」の特徴 調理3

揚げ物(天ぷら)

高温の油で食品を加熱する法油の温度は150~200度の範囲で行うことが多い

2324 WASHOKU

「和食」の特徴4

味わい

うま味日本人が発見した「おいしく食べる」最大の知恵

和食の味わいの中で最も重要なのがだし

味噌汁やすまし汁のベースとなり

煮物やおひたしなどさまざまな料理の

味を決定づける味の要だ

和食の味わいを語るうえで忘

れてはならないのがだし(出

汁)の存在汁物や煮物などさ

まざまな料理のベースとして使

われている

なぜ日本人はここまでだしを

好むのかその答えに大きく関

係するのが「うま味」だ江戸時

代の料理書には「だしこそ料理の

根本である」と書かれている

1907年池田菊き

くなえ苗

博士に

よって世界で初めてうま味成

分のひとつがアミノ酸の一種で

あるグルタミン酸であることが

発見されたその後日本人を中

心に研究が進みうま味は甘味

塩味酸味苦味に加えて第5

の味覚として広く知られるよう

になる現在ではうま味調味

料やだし入りのつゆなどうま

味成分を手軽に使える調味料も

普及海外でも人気が高く国

内でも日常的に使用されている

だしのほかに和食の味付け

日本が世界に誇る

第5の味覚うま味

うま味成分を多く含む椎茸もだしをとる目的で使われてきた食材のひとつだしに使用するのは干したもの椎茸は乾燥させることでうま味や香り成分が増すためだ

小魚を煮て乾燥させてつくる煮干しも汁物に多用される材料としてはカタクチイワシが代表的だがその他ウルメイワシやキビナゴトビウオなどの比較的魚体が小さな魚を使ってつくるのが一般的だ

だしのとり方は魚介や野菜から水や湯を使ってうま味成分を抽出するのが一般的だしの素材として最もよく使われるのは昆布と鰹節でそのほか煮干し野菜干し椎茸魚の内臓やあら(頭や骨)などがあるまた潮

うしおじる

汁のように食品そのもののうま味を活かす方法もある

鰹節

「だし」のこと

昆布

煮干し

干し椎茸

2324 WASHOKU

に欠かせないのは塩砂糖味

噌醤油酢酒みりん魚醤な

どの調味料わさびやからし

しょうが山椒とうがらしゆ

ずなども薬味として使われる

これら薬味によって季節感を楽

しみながら素材の味を引き出

すという知恵も「和食」ならでは

夏に高温多湿となる日本では

アジア諸国と同様発酵食品が

発達したそれゆえ味噌や醤

油や酢に代表される発酵調味料

を多用するのも和食の特徴大

豆や穀物を塩漬けにして発酵

させてつくるものだがその過

程で原料のタンパク質がアミノ

酸に分解されうま味成分を豊

富に含んだ調味料ができあがる

のだ

発酵食品も多様だ日本各地

でカビや酵母などの微生物の

働きを活かして食品中のアミ

ノ酸(うま味)を増やす発酵食品

が発達してきた冬場の保存食

として生み出された沢庵や塩

を使って乳酸発酵させる京都の

すぐき菜漬けそして糠ぬ

漬けや

奈良漬けなど野菜を発酵させ

た漬物さらに塩辛やくさや

なれずし鰹節など魚介の保存

食としての発酵食品また大

豆を納豆菌で発酵させる納豆や

こうじ菌で発酵させて乾燥後に

熟成させた寺納豆など大豆の

発酵食品もある

「和食」はうま味を上手に生

かし食材をおいしく食べる知

恵を育んできたのだ

発酵食品

発酵調味料

調味料

「和食」の特徴 味わい4

発酵食品と調味料

魚醤魚を塩漬けにして発酵させる独特の香りと濃いうま味が特徴の調味料ハタハタでつくられる秋田の

「しょっつる」イカやイワシを材料とする能登半島の「いしる(り)」などがある

酒酒もまた和食の調味に欠かせない発酵調味料のひとつ調味料としての酒の主な効果には材料の臭みを消す食材のうま味を引き出して風味をよくする甘みを加えるなどがある

塩海に囲まれている日本では古くから塩は調味料として使用されてきた焼き物や刺身などの調理の味付けとしてはもちろん漬物や干物など食物を貯蔵するための知恵としても活用されている

味噌蒸したり煮たりした大豆にこうじ食塩を混ぜて発酵熟成させた日本を代表する調味料のひとつ味噌汁や煮物などに使われることが多い地域によって使用される味噌の種類がかなり変わるのも特徴だ

酢寿司やなますなど和食に酸味を加える調味料米から醸造した酒に酢酸菌を加えて発酵させて造られる酢に漬けることにより保存性を高める

醤油大豆と小麦で造ったこうじに食塩水を加えた「もろみ」を発酵熟成させ搾ったもの刺身や焼き魚煮物炒め物など幅広い料理に使われている種類は濃口薄口たまり再仕込み白の5つに分類される

みりん蒸したもち米と米こうじを主原料に40~60日かけて熟成させて造られる発酵調味料砂糖と比べて甘みがやわらかく食材の臭味を取る働きもあるまた魚の照り焼きなどのつや出しにも使う

漬物素材を食塩や酢酒粕醤油などに漬け込み熟成させて作られる漬物沢庵や梅干し野沢菜漬けなど野菜類を長期間保存するための知恵として誕生した日本各地に独特の漬物があるのも特徴だ

納豆日本で発展した発酵食品である納豆大豆を納豆菌で発酵させた食品で寺納豆(下記参照)と区別するため「糸引き納豆」とも呼ばれる単品で食べるだけではなく納豆汁や納豆和えなどにも使われている

塩辛魚介類の身や内臓を塩漬けにし発酵させて作られた塩辛は日本における伝統的な保存食品のひとつ使われる素材はその地域によって変わりイカやエビアミタコなど多彩な種類の塩辛が存在する

塩に漬けた魚と炊いたご飯を数日間置き乳酸発酵させたなれずしは魚を保存する知恵として生まれた滋賀県では琵琶湖産のふなを和歌山県や富山県ではサバを岐阜県などではアユを材料にしたものが有名写真は滋賀県湖北地方の年頭の祭りで振る舞われる鯖のなれずし

砂糖世界的に見ても「甘み」を用いた料理が多い現在の和食では砂糖は欠かせない調味料のひとつ単独で料理に使われるというよりは煮物をはじめとするさまざまな料理で醤油や塩味噌などと併用されることが多い

寺納豆茹でた大豆にこうじを加えて発酵させ乾燥させながら熟成を促す発酵食品粘り気のある糸引き納豆とは異なり乾燥して塩辛い禅宗の伝来とともに大陸からもたらされたとされ寺院で作ることが多かったため「寺納豆」と呼ばれた

2526 WASHOKU

「和食」の特徴5

栄養

栄養バランスの優等生「和食」

野菜や魚肉そして米によって構成される「和食」は

栄養バランスの良さでも知られている

最近は五日間すべてを米飯にする完全米飯給食を行う地域も生まれた

和食の特徴のひとつである栄養についてその秘密に迫る

米麦雑穀などを炊いたご飯

を主食としてこれに魚介肉

類野菜類に発酵調味料だしを

組み合わせた和食は栄養学的

にみてもバランスをとりやすい

食事である

歴史的にみると日常食では

主食を大量に摂る習慣が続いた

穀類偏重の食生活だったといえ

よう

しかし豆腐や納豆みそ汁な

どを飯とともに摂ることで米の

アミノ酸の利用率を上げる食べ

方年中行事などハレの日に魚

介類などを摂取して楽しむなど

学ぶべき知恵は多い

なかでも何百年も伝えられて

きた和食の基本型はすぐれた

ものといえよう

副食の主菜には魚肉豆腐

などタンパク質を多く含む料理

を考える副菜には主菜に使わ

なかった野菜芋類などを使い

汁は主菜に合うものを用意する

焼き魚野菜の煮物青菜のお浸

しとみそ汁などでも栄養的バ

ランスはとれている

1980年頃までは多くの

家庭で和食の基本型が続いた

主食の量がやや減り副食が増

加とくに乳乳製品肉類の割

合が増加したこの頃栄養バ

ランスをはかる一つの指標であ

るPFCバランスが理想的な比

率を示した(左記参照)

しかしその後外食の日常化

家庭料理の欧米化が進み米の

摂取量が激減し脂質摂取の過

多などから生活習慣病が問題

となったこうした中各地で

食生活を見直す動きがみられる

ようになったその一つが学校

給食での取り組みである

戦後の食料難の中でパンと

牛乳に副食を加えた完全給食は

1950年に始まった197

6年に米飯が導入されるまで長

く続いたパン給食は和食の基

本型にも影響を与えたようだ

米飯給食は次第に増加し

2010年には週3回以上米

飯給食を実施している小中学

校は90以上となったが週5

回の米飯給食の実施は7以

上と高くない

ここでは2008年に5日

間すべてを米飯給食とした新潟

県三条市の事例を紹介しよう

成長期にバランスのよい食事

で健康な体をつくることそし

て望ましい食習慣を身につけ

生涯を健康に生きることをめざ

し完全米飯給食を実施したと

のこと

米は同市で生産される農薬

を減らしたコシヒカリを七分搗つ

きにした米飯を主食に副食は

主菜副菜汁を組み合わせる献

立をベースとしている主菜は

サケのフライ鶏肉ピリ辛焼き

さんま梅煮など伝統的な和食だ

けではないが和食の基本型の

中に取り入れる工夫がされてい

るパ

ンは油脂や糖分と相性が

良く肥満につながりやすいが

新潟県三条市の給食献立一例三条市の小中学校での献立例ご飯は三条市で収穫したコシヒカリを使用「お米だと腹持ちがよいのでデザートをあまり出さなくとも子どもたちが満足してくれる」とのこと洋風や中華風の献立でもおかずはご飯に合うものを選びスープなどの汁物は確実につけるように心がけている

火曜日

えだまめごはん

さけチーズフライ

くきわかめきんぴら

かきたまじる牛乳

小学校687kcal中学校823kcal

水曜日

ごはんとりにくのぴりからやきいかときゅうりの

あえものしょうがみそスープ牛乳小学校639kcal中学校752kcal

木曜日

ごはんさんまうめにたくあんあえにくじゃがに牛乳なし小学校688kcal中学校814kcal

金曜日ごはんカレーふりかけほうれんそうオムレツフレンチサラダパンプキンスープ牛乳小学校708kcal中学校833kcal

月曜日

ごはんいかのかりんあげ(2こ)

なっとうあえきのこけんちんじるのむヨーグルト

小学校619kcal中学校731kcal

2526 WASHOKU

七分搗米の飯は腹持ちがよく

おやつを食べる子どもが減った

だけでなく肥満の子どもが減

少傾向となり食生活のリズム

が良くなったとされる

また米飯に合う副食は土地

でとれる野菜類を取り入れやす

く季節にあわせてバラエティ

ーに富んだ献立を作ることがで

きる一汁三菜の食べ方の教育

を行った結果給食を残す子ど

もたちも減ったという

基本的な食事パターンが続く

中でも菜を工夫すれば変化に

富む食事を作ることはできる

季節の食材について学び年中

行事への知識も得られるだろう

また子どもたちが和食の基

本型を毎日の給食で体験してい

ることはきわめて重要なことで

ある時々経験するだけでは身

につかないものでも毎日繰り返

すことによって習慣化し定着

するのであるそしてやがて

自分で組み合わせを考えられる

ようになることが期待される

今後の学校給食の役割は大きい

といえるだろう

PFCバランスとは

FAO Statistics Yearbook(日本のみ食料需給表)参照栄養バランスが良いとされるP(たんぱく質)10~20F(脂質)20~30C(炭水化物)50~70の範囲が08~12に収まるように指数化した

日本でのPFCバランスの変化

アメリカとフランスのPFCバランス

タンパク質脂質炭水化物は人間にとって特に不可欠な「三大栄養素」PFCのPはProtein(たんぱく質)FはFat(脂質)CはCarbohydrate(炭水化物)の頭文字でPFCバランスとは食事の中での「たんぱく質」「脂質」「炭水化物」のそれぞれの摂取カロリーの比率健康的な生活をおくるためにはPFCバランスがたんぱく質15脂質25炭水化物60が理想的

給食時には全員で「いただきます」「ごちそうさま」を復唱食育にも力を入れているためそれら言葉の意味についても学校で教えている

米飯給食になってから児童たちの食の嗜し こ う

好に変化が生まれたとか児童たちに好きなおかずを聞いてみると「ハンバーグ」「カレー」などの定番メニューのほか「焼き魚」「納豆」などの和食メニューの名前が上がった

自分の分を食べ終わった児童たちが列をつくって競い合うようにご飯をおかわりしていたこの日の食べ残しはゼロ

C

P

F

14

12

1

08

06

アメリカ(2005~2007年)

C

P

F

14

12

1

08

06

フランス(2005~2007年)

「和食」の特徴 栄養5

日本人のPFCバランスは1965年当時は炭水化物に偏っていたが1980年は非常に理想的な配分になっていたしかしその後の日本人の食生活に肉や油脂類を多く摂り主食の米を食べる量が減り2010年時は欧米型に近づきつつある

C

P

F

14

12

1

08

06

日本1965年

C

P

F

14

12

1

08

06

日本1980年

C

P

F

14

12

1

08

06

日本2010年

2728 WASHOKU

お客を迎える前には店先に打ち水を水で清め準備が整ったことを伝える趣向に合う軸を選ぶのももてなしの基本飾る花は主人自ら育てたものそれを床の花入に活けるのも主人庭に150種ほどの草花を植え日々育てることもしつらいの準備客は女将の温かいもてなしに迎えられる

「和食」の特徴6

しつらい

人をもてなすためのこころとかたち

もてなしは客に対する一方的なサービスではない

お互いに思いやる気持ちから生まれるこころよさである

手入れの行き届いた庭は掃き

清めて水を打ち床の間には軸

を掛け季節の草花を生ける

座敷の襖ふ

すま

も夏には葭よ

しど戸に入れ替

え夏は涼やかに冬は暖かに

すべて相まってもてなしのた

めの用意を整えることそれが

しつらい和食とりわけ懐石

料理においては食材や料理と

ともにしつらいは非常に重要

な要素となる

家庭でも食事をつくる人は

食べる人の顔を思い浮かべなが

ら食事の用意をする食べる人

はつくってくれた人の気持ちを

考えて賞味するここに互いに

もてなす喜びが生まれるのでは

ないだろうか

こうしたもてなしの文化を極

限にまで洗練させた姿が料亭の

もてなしである京都府の無形

文化技術保持者に料理人として

初めて認定された京都の老舗料

亭「瓢亭」の十四代主人高橋英一

さんにその心を聞いてみよう

「料亭は日本文化の凝縮のひと

つと言えます玄関から入って

座敷に行くまでに通る露地にも

季節感があり部屋に入れば時

季や行事の軸がありその座敷

のために選んだ花が飾られる

日本人が自然と身につけている

桜の器を使うことで膳の上にぱっと花が咲くような華やかさが生まれるあしらいは酢取り防風岩海苔

秋の花菊の器はこっくり深い色合いも相まって秋に似合う風情を持つあしらいは岩茸菊花

深さのあるガラスの器に氷が敷き詰められる涼感を目でも舌にも感じるあしらいは穂紫蘇寄せ莫大

縁起のいい鶴は新年の席でも使われるモチーフあしらいは水前寺海苔紫芽紫蘇

四季の感性で受け止めてもらえ

るよう整えお出迎えします

料亭は普段とは違うハレの場で

すがとはいえ行き過ぎず足り

ないことのないよう自然なし

つらいそしてもてなしを心が

けます」

「瓢亭」の座敷に飾られるのは

主人が庭で丹誠込めて育て自

ら生ける茶花

「もてなしの根

底に利休さんの『花は野にある

ごとく』の言葉を思いますが簡

単なようでそれが難しい」自

然体でのもてなしを生むしつら

えは名店においても日々心を

くだき工夫するのだ

「瓢亭」では1年をとおして明石の鯛の向付を供しているが季節ごとに

器とあしらいを変えることで四季を演出している

四季の演出

2728 WASHOKU

和食はご飯と菜あるいはご飯とお汁というように常にご飯を間にはさんで菜や汁をとるのが本来の食べ方下のような不作法とされる箸使い(嫌い箸)があるので覚えておきたい

ご飯は茶碗に味噌汁はお椀

に焼き魚だったら平皿にと普

段料理に合わせて何気なく使う

食器種類の多さもさることな

がら形や素材もさまざま欧

米はもちろん近隣諸国を見回

してもこれほど多種多様な器を

使う国はないそれは四季が明

確なことと無関係ではない

「自宅でも季節に合わせた器

にするだけで気分が変わりま

すよ」と前出「瓢亭」のご主人は

語る 

春であれば華やかな色や形の

もの夏はガラスや青磁など涼

しげな素材の器秋は実りのあ

る彩りがあるもの冬は厚手の

陶器や木製など温もりのあるも

の色素材形を変えるだけで

季節感を演出できる「和食」な

らではの楽しみ

食事の際当たり前のように

使っている箸も日本の食文化

を代表する食具奈良時代以

降匙さ

を使う伝統が消え箸だ

けを使うようになったため熱

い汁物は椀を持ち直接口を

つけてすする文化が確立同

時に椀箸ともに個人所有が基

本となった椀や箸を共有し

匙やレンゲを使うほかの東南

アジア諸国とは異なる食文化

を形成箸食文化圏の中でも

唯一箸だけでご飯を食べる国

となったまた一口に箸といっ

ても食箸取り箸菜箸など用

途に合わせてさまざま食べ

る際に使う食箸だけを見ても

形や素材のほか加工や長さも

豊富にそろうのだ

「和食」の特徴7

箸と椀

「和食」を支える箸と椀

箸食文化圏の中でも唯一箸だけを使う国日本

季節感を感じさせる器とともに独特の食具文化も誇る

渡し箸食事の途中でお箸を

食器の上に渡し置くこと

寄せ箸遠くの食器を

箸で手元に引き寄せる行為

指し箸食事中箸で人やものを指すこと

迷い箸どの料理にしようか迷い箸を料理の上で動かすこと

移り箸いったん取りかけてから

ほかの料理にお箸をうつすこと

箸には食事に使う食箸と調理に使う菜箸とがある菜箸は熱から手を守るため30~50と長く片方がなくならないよう糸でつながっているものもある取り箸は菜箸の一種食箸は個人所有が基本のため使う人に合わせた長さが用意されている漆塗りや螺鈿細工を施したものも多い

種類

形状だけでなく素材もさまざまで近年は黒檀や鉄木など硬質な木が使われることが多い日本の木としては特有の香りがあり古くから懐石用や割り箸に使われてきた杉耐水性耐湿性が高く保存性に優れる上に軽くて持ちやすい檜強くしなりがあり細かいものを取りやすい竹などがある

素材

家庭で使う食箸の形には角箸や四角で角が丸い胴張り五角六角七角八角のほか削りなどがあり持ちやすさに合わせて選べる箸先に加工が施されたものもある来客用に使う銘々箸や割り箸には断面が小判型で割れ目と溝が付いた元禄箸や中央部が太く両端が細い利休箸などが用意されている

日本人にとっての箸は調理から盛りつけ食事までをこなす大事な道具食箸は個人所有が基本のため個々に合わせて選べるのも特徴だ

箸の働き

箸使いの作法を知る

【嫌い箸】

食箸

八角箸 削り箸

菜箸

檜竹

「和食」の特徴 しつらい 箸と椀6 7

2930 WASHOKU

神し ん せ ん

饌として神へ供えられるお神酒は神棚の最上段の中央に置かれるほど重要な地位を占めている

日本酒を造る酒蔵は全国に約1600弱その数は年々減り続けているが数年に一度「日本酒ブーム」も起きている

日本酒とは米と米こうじ

そして水を主な原料にしてそ

れらを発酵させて造られる

原料には主食用の米ではなく

酒造りに適した性質を選び品

種改良された酒し

ゅぞうこうてきまい

造好適米を使

うことが一般的だまた日本

酒の80を占める水も品質を

左右する大きな要因日本酒

の香味を損なわない良質な水

が必須だ

日本酒の醸じ

ょうぞう造の工程にはさ

まざまな技術が伴う例えば米

を精米して味と香りを調整する

技術これは米の外側にあるた

んぱく質や脂質といった雑味の

もとを除くことが目的だが大だ

吟ぎんじょう醸酒にもなると米を半分以

上削ってから仕込むこともある

次いで米を発酵させる技術

酒の場合の発酵とは酵こ

うぼ母が糖類

を食べてアルコールを出すこと

をいうが米には糖類が含まれな

いためまずは米をこうじ菌の酵

素によって糖類へと変えそこに

酵母を加えて発酵させるという

複雑な手順(複式発酵)が必要だ

この手順で使われるこうじもバ

ラこうじと呼ばれる日本独特の

ものだバラこうじは糖化力が

高いのが特徴で日本酒の香りや

味に大きく影響する

稲作を中心に文化を育んでき

た日本では米餅米から造ら

れる酒は地域を問わず重要な

ものとされている米の一粒一

粒に神が宿り同じように酒も

神のおかげで造ることができる

と考えられてきたそして酒

もまた食べ物と共に神に近づ

くための手段として古くから用

いられてきた

同時に家族や親族地域で人

と人をつなぐ上でも酒は大き

な役割を担っている例えばお

神み

き酒祭礼の後には神の酒を

人々が口にする神と同じ酒を

飲みそれを人々が分かち合う

ことで地域やコミュニティが

結束力を強めるのだろう

米や麦やさつまいもなどを原

料とする焼酎も日本酒と並び

日本の國酒とされている酒は

人と人の心をほぐし食事を引

き立たせる重要な役割を担って

いるのだ

「和食」の特徴8

「和食」を引き立たせ

心をほぐす日本の酒

日本人にとっての主食であり精神のかなめでもある米

その米で醸か

される日本酒は「和食」にとって欠かせない要素

日本の「國こ

くしゅ酒

」にもなっている

2930 WASHOKU

「和食」の特徴9

和菓子日本茶

暮らしに寄り添う和菓子とお茶

自然の恵みに感謝し季節の移ろいを敏感に表現する和菓子

日本茶は喉のかわきを癒すだけでなく心を癒し心を高める飲みものである

「和食」の特徴 酒 和菓子8 9

ハレの日の願いを込めた和菓子

和菓子分類餅もの 餅団子大福など蒸しもの 饅頭蒸羊

よ う か ん

羹外う い ろ う

郎村む ら さ め

雨など煉もの 煉

ね り き り

切こなし求ぎ ゅ う ひ

肥飴葛く ず

菓子など焼きもの 味噌松風煎

せ ん べ い

餅桃も も や ま

山カステラどら焼など流しもの 錦

にしきだま

玉煉ね り よ う か ん

羊羹水み ず よ う か ん

羊羹など揚げもの 揚げ煎

せ ん べ い

餅かりんとうなど打ちもの(押しもの) 落

ら く が ん

雁など岡もの 最

も な か

中きんとん鹿か の こ

の子すはまなどかけもの 金

こ ん ぺ い と う

平糖五ご し き ま め

色豆石いしごろも

衣など

これは和菓子の製法によって大まかに分類した表このほか含有する水分量によって生菓子半生 菓 子 干 菓 子などの分け方や上じ ょ う な ま が し

生菓子並菓子駄だ が し

菓子などの分類もある

「岡もの」とはすでにできあがっ た素材をあわせたもの (例きんとん=飴玉とそぼろ餡)

甘く味付けしたごぼうと白味噌餡を赤や白の餅や求

ぎ ゅ う ひ

肥で包んだ生菓子平安時代の新年行事のひとつで長寿を願っておこなわれた「歯固め」の餅に由来する餅と味噌の組み合わせから「包み雑煮」とも呼ばれた

葩はなびらもち

一 月

旧暦十月は「亥の月」と呼ばれていたがその月のさらに「亥の日」に行われる年中行事の際に食べられていた菓子旧暦では10月が冬の始まりそのタイミングで無病息災と多産の猪にあやかって子孫繁栄を願ってこれを食べていたという

亥い の こ も ち

の子餅

十 月六 月

白いういろうの上に小豆の粒餡を散らした菓子古来京都で旧暦六月の晦

み そ か

日(30日)に無病息災を祈願して行われている

「夏なごしのはらい

越祓」になぞらえて初夏の頃に食べられている小豆には邪気祓いの意味があり三角の形は氷を表している

水無月

五 月

平たく丸めた上新粉の餅をふたつに折り中に小豆や味噌の餡を挟んでそれを柏の葉で包んだ菓子柏の葉は新芽が育つまで古い葉が落ちないことから

「子孫繁栄」を願って旧暦五月五日の端

た ん ご

午の節句の供く も つ

物として用いられてきた

柏餅

日本ならではのお茶の製法である手揉みは茶葉の繊維をつぶしながらうまみを引き出すために行う作業手揉みすると茶葉が切れないため茶の甘みを保つことができる

菓子もまた「和食」にとって欠

かせない要素でお客様用の「上

菓子」普段食べる「饅頭」や「餅

菓子」などに分かれるほかに

干菓子や駄菓子など菓子の種

類は多いまた例えば団子や

大福などは「餅もの」求肥や飴

などは「煉りもの」錦玉や

水みずようかん

羊羹などは「流しもの」などと

いうようにその製法によって

分類されることもある米や麦

小豆を代表とする豆類そして

砂糖や水あめなどの材料でバ

ラエティに富んだ菓子が生み出

されてきた

お茶会などの席で抹茶ととも

に味わう菓子もあり季節に合

わせて材料や色やデザインが選

ばれ味覚だけでなく視覚で楽

しむこともある

また年中行事と結びつく菓

子もある例えば旧暦三月三日

の「ひな祭り」では邪気をはら

い強い生命力を象徴するよも

ぎの草もちでつくった草餅を食

べる

和菓子には日本茶がふさわし

い緑茶は12世紀に中国から日

本に伝わったが今では生の茶

葉を蒸してから揉んで乾燥させ

る緑茶の製法は日本独特のもの

となっている緑茶に含まれる

カフェインは覚醒効果がまた

カテキンには抗酸化作用があり

ビタミンCも多く含まれて健

康によい日本茶独特の香りと

うま味は日本文化そのもので

ある

出典「和菓子の歴史展」第五十回虎屋文庫資料展より

3132 WASHOKU

日本の「和食」の文化は自然

環境だけでなく海外からの影

響によっても絶えず変化して

きた

近代以降にはコロッケとん

かつなど洋風料理を和食の基本

型に組み合わせた食事肉と野

菜の煮物や和え物などそれまで

にはない料理が工夫されたそ

の多くは和食の基本型味噌や

醤油を用いた味付け箸で食べ

られる料理など「和食」の要素

を保ちつつ伝えられてきた

しかし第二次世界大戦後高

度経済成長期を迎えると日本人

の食生活は急速に変化する

1970年代にファストフー

ド店ファミリーレストランが

各地に開店しコンビニなども

広がった

1980年頃主食と副食の

バランスは理想的とされたが

(26頁参照)その後米の消費量

はさらに減りパン食が増加

肉類油脂乳乳製品の消費量

も増加し食料自給率も下がっ

た家族での外食が日常化し

家庭の食事も欧米化した

食育の必要性

「和食」が危ないどうしたら伝えられるのか

この150年間で大きく変化し「和食」はいま衰えつつあるその原因はどこにあるのだろうか

食生活の変化

日本の食料自給率の変化農林水産省「食料需給表」より作成

日本のものを食べなくなって 「和食」はどうなる 日本の食料自給率は下がり続けている1965(昭和40)年度はカロリーベースで73だったが2012(平成24)年度は39その大きな原因のひとつは国内で自給可能な米や魚や野菜などの消費量が減少する一方国内で生産が困難な飼料穀物を食べて育つ畜産物や原料を輸入に頼ることが多い冷凍加工食品や小麦の消費が増加したことだと考えられている炭水化物たんぱく質脂肪分をバランスよく摂取する健康的な「和食」に未来はあるのか

国民一人一日当たりの供給純食料農林水産省「食料需給表」より作成

食べる米の量が50年で半減 増えたのは肉と乳製品 国民一人あたりが食べる量を品目別に眺めて分かることそれは日本人が食べる米の量が著しく減ってきたことだ1960(昭和35)年度は一日あたりの米の消費量は約315gだったが2010(平成22年)年度は163gに約半減その代わりに増えたのは牛乳乳製品(約60gから約240g)と肉類(約14gから約80gへ)野菜と魚を中心としたおかずでご飯を食べるという

「和食」のスタイルの変化がわかる

食料費における外食と中食の割合の推移総務省統計局「家計調査年報」より作成

家で食べても 調理することが減っている 外食に対して家庭で作って食べる食事を内食というが弁当や惣菜など調理をせずに食べられるものを買ってきて済ます食事は中食と呼ぶ実はこの中食の割合が増えている外食が占める割合は2000(平成12)年以降横ばいなのに対して中食は増え続けその代わりに内食が減っている食事は家で食べても調理はしないという家庭が増えているのだとすれば「和食」にとって大切な要素を子どもたちに伝える機会が減っているとはいえないだろか

食料自給率(金額ベース)

食料自給率(主食用穀物)

食料自給率(カロリーベース)飼料自給率

米 野菜 肉類牛乳乳製品 魚介類

内食 中食 外食

(g人日)

3132 WASHOKU

50

55

60

65

70

75

01992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012

70

75

80

85

90

95

01992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012

一日に一度はお米を食べないと気がすまない人の割合博報堂生活総研「生活定点2012」

お正月におせち料理を食べた人の割合博報堂生活総研「生活定点2012」

一日に一度は米を炊いたご飯を食べなければ気がすまない人の割合が実はこの20年間で減っているというデータがある1992(平成4)年には714だったが2012(平成24)年には564にまで落ち込んでいるのだ

家族や親族で集まっておせち料理を囲みながら新しい一年の無事を祝うお正月実はおせち料理を食べる人も毎年少なくなっている1992(平成4)年には866だったが2012(平成24)年には748だった

電子レンジの普及や冷凍食品

インスタント食品などにより

食生活は便利になったが家庭

内で調理をする機会が減ったと

もいえる

こうしたなか「和食」の優れ

た点をどうしたら伝えられるの

だろうか親から子へ家庭の食

を伝えるだけでなく学校を通

して子どもたちにさらにその

親の世代にも伝える必要があろ

う高齢者からは「和食」につ

いて具体的に教わることも求

められる

離乳期からの食べ物の選び方

幼児期の食経験を豊富にするこ

となどはとくに重要であろう

小さな頃からの食習慣はその

後の食習慣に大きくかかわって

くるからだ

だしのおいしい味を日々体験

することや魚を味わい骨を箸

でとる訓練を楽しい雰囲気のな

かで教わることなどその積み

重ねの中で「和食」は伝わるので

あろう

経験しない味は異文化とと

らえられるであろうし体験し

ていない調理は簡単でも難しく

感じる食事を用意する過程を

日々見る経験手伝う楽しさ美

しい食器を大切にして使うこと

同じ食べ物を家族や仲間と味わ

い祭りや花見などで共に食べ

る経験を積み重ねることは文

化としての「和食」を伝えるだけ

でなく生きる力を育むことにも

つながるであろう

壁にではなく居間に向かって設置されることが多くなった現在のキッチン夫婦共働きだというこの家庭では夫が厨房に立つことも少なくないというこのように食事の準備を子どもと一緒に行うことで「和食」にとって大切な要素が次の世代に伝えられるようになるのだろう

世帯あたり1ヶ月間の穀類支出金額内訳

1962年3434円

パン

麺他

2010年6373円

パン

麺他

ご飯を食べなくても平気 そんな人が増えている

お米よりパンと麺 その傾向が加速中

おせち料理を食べる派が 毎年ジワリ減少中

1962(昭和37)年度には8割以上を占めていた米への支出が2010(平成22)年度にはパンにとって代わられる米の消費量はパンより多いが家庭では炊飯する必要のある米よりすぐに食べられるパンや麺の支出が多くなり家庭での料理が減っていることを示しているともいえよう

総務省統計局「家計調査年報」より作成

いただきます

ごちそうさま

「和食」の未来

今世紀に入ってから世界に和食ブー

ムが起きている味わいやヘルシーさに

注目が集まり世界中のいたるところに

日本食の店が数多くある

そのように世界から注目される「和食」

だが本家本元の日本国内でその将来が

危ぶまれている

これまで見てきたように「和食」には

新しいものを柔軟に取り込む歴史があっ

た日本人は太古の昔より外国からも

たらされた食文化を自分たちの食生活に

取り込んで日本独自の食文化を発展さ

せてきた地域ごとに地域の環境にふさ

わしい料理をつくり出してきた食べる

料理や食べ方もその時代ごと地域ごと

に変わってきた

その中で貫かれてきたことがある

豊かな自然がもたらす食材のおいしさ

を生かす調理法を工夫し味わうこと

食卓に季節感をしつらえもてなしの気

持ちを共に感じ合う食事の場を持つこ

と一汁三菜という組み合わせを食事

の基本スタイルとして健康的な食生活

をおくることお正月におせち料理を

祝いの日にお赤飯を家族と共に食べる

など食事は家族の絆となっている

豊かな自然を守る気持ちと同じように

日本人を健やかに生かし人と人をつな

いできた「和食」もまた守るべき大切な

日本文化ではないだろうか

「いただきます」「ごちそうさま」と言っ

てみるだけでも「和食」は私たちに身近

になる人と人をあたたかく結びつけて

くれる

日本人はやはりお米のご飯がおいしい

と思うだしのきいた汁でおなかも心も

癒されるこの日本人が長い歴史の中で

育んできたすばらしい財産である「和

食」がこのままなくなってよいと考える

人はいないだろう世界の中でもすぐれ

た食文化として認められた「和食」を日本

の誇りとし大切にして次の世代に受け

継いでいくきっかけにこの冊子がなれ

ば幸いである

ごちそうさま

和 食

34 WASHOKU

える

日本人がその環境のなかで生

み出し築き上げてきた食の知

恵や工夫や慣習それを編み出

した人々など有形無形のすべ

てを「和食」と呼び日本人の伝

統的な食文化を総称する言葉と

して見てみよう

「和食」にはおかずと汁と漬物

でご飯を食べる「一汁三菜」とい

う基本的な組み合わせがある

これは主食であるご飯をおいし

く食べるために工夫された様式

だまたこれはご飯とおかず

を合わせて食べて味わうとい

う特徴を生み出した

「和食」はこのかたちをベース

にしながら継承されてきた一方

「和食」とは何か

食材料理栄養

そしておもてなし

食事の場や食べ方も

「和食」の大切な要素

「和食」とは食材を選ぶことから始まり栄養を考えながら

料理を組みたてるさらにもてなしの心で料理を供する

それをどのように食べるかも大切な要素なのだ

「和食」この言葉をふだん私た

ちは日本的な料理を指す単語

として使っている

しかし「和食」はひとつの料

理ジャンルを指すだけの言葉だ

ろうか

例えば食前食後に口にする

「いただきます」と「ごちそうさ

ま」は料理をつくる人はもちろ

んのこと食材を育んだ自然や

自然を守ってきた祖先や神々へ

の感謝が込められている

また出来上がった料理だけ

でなく料理の手法やその構成

それをどんな食器に盛って食卓

に並べどのように食べるか

ここにも日本人ならではの気持

ちの込め方とスタイルがある

そう考えると「和食」とは料理

というだけでなくrdquo食べること

に関する日本人の慣習ldquoともい

いつの時代でも

「和食」は変化する

食材

料理

「和食」で用いられる食材は米を中心とする穀類野菜きのこ魚貝海藻が主たるもの近年はおいしい和牛も加わっている米は米飯用のうるち米ともち米野菜は古来の品種から明治以降に入ってきた西洋野菜まで多岐にわたり魚も豊富で日本近海に生息する魚種は約4200種類にも上る

「和食」の基本的な献立は「一汁三菜」この献立を構成するのは素材が持つおいしさを生かす料理だ料理で大切になるのはだし(出汁)昆布や鰹節からとることもあれば素材を煮込んで抽出する料理法もあるおいしく仕上がった料理は美しく盛りつけられる

34 WASHOKU

海外の食材や料理調理方法を

積極的に取り入れその内容を

変化させてきた

明治時代の積極的な西洋文

化の導入により「和食」はさ

らなる変化をとげた肉食へ

のタブーが解けて肉とじゃが

いもを煮込み醤油で味付けし

た肉じゃがすき焼きカレー

ライスとんかつなどいわゆる

和わようせっちゅう

洋折衷料理も生まれたこれ

も新しい「和食」の伝統である

ところがいま日本人の食生

活はかつてないほどのスピード

で変化している欧米化など多

様な食のスタイルが生まれ食

に無関心な人々の増加家庭内

での料理の減少などにより文

化としての「和食」を伝承する力

が薄れている

だからこそ改めて「和食」と

はなにかを見直すときなのかも

しれない

では「和食」とはどんな要素

によって構成されているのだ

ろうか

ひとつは「食材」四季が明確

で雨が多い温帯に属する日本

その気候を生かして収穫される

農作物は稲を中心に野菜や山

菜きのこなど多彩だ

また日本は黒潮と親潮がぶ

つかることで豊かな漁場となる

海に囲まれているそのため魚

種が多く地域性豊かな魚食文

化が育まれてきた同じ漁業大

国であるノルウェーの総漁獲高

の9割は8魚種で占められるの

に対し日本の場合28魚種にも

上ることからもいかに魚種が

多いかがわかるまた魚の消費

量はアメリカの約2倍以上に

もあたる年間1人あたり約57

で世界で6番目海からの恵

みが和食の重要な食材であるこ

とがよくわかる

2つめは「料理」水を豊富に

使えることで発達した蒸す茹

でる煮るなどの調理法や種類

豊富な魚を処理するのに適した

包丁などの調理器具そして野

菜と魚介中心の食事をおいしく

食べるために工夫されただし

(出汁)などが「和食」の料理を

支えている

3つめは「栄養」和食は比較

的低カロリーで各種の栄養素

をバランスよく摂取しやすい

そして4つめは「もてなし」

お客様を大切に迎える心持ちは

単なる客に対するサービスだけ

ではない料理を味わい床の間

のしつらいや食器などを鑑賞す

ることで客も主人をねぎらうの

である「いただきます」「ごちそ

うさま」と感謝することからも

てなす側も満ち足りた心になる

箸づかいやふるまい季節や

思いを演出するしつらいとそ

れを鑑賞する態度食事のマナ

ーや食の場に施された趣向を理

解し互いを思いやる心が「和

食」の精神である

もてなし

もてなしとは単なる主人から客へのサービスではなく食べる側にとっての食の場のふるまい全体をも含む例えば食空間におけるしつらいや料理や器に忍ばせた趣向も食べる人がそれと気づくことが主人へのもてなしとなるまさに日本文化の中で「和食」が最たるものであるといえよう

栄養

動物性脂質が少ない伝統的な和食は主食主菜副菜がそろい生活に必要なエネルギーと健康的な生活を送るために理想的な栄養バランスを確保している主食と副食を交互に口の中で調和させながら食べるのは和食独特の食べ方であるうま味を大切にすることで塩分やカロリーのコントロールができる

和食を構成する

4つの要素とは

56 WASHOKU

「あえのこと」が伝わるのは石川県の奥能登地域(輪島市珠洲市穴水町能登町)12月から翌年の2月までldquo田の神様rdquoを家に招き入れ春まで家で過ごしてもらうldquo田の神様rdquoは夫婦二神とされ料理を乗せた神膳はもとより盃や箸など祭礼で使う道具を二組ずつ用意するのがしきたり人々は能登近郊で獲れた食材でldquo田の神様rdquoをもてなす供えられるのは小豆ご飯たら汁大根はちめ甘酒などこれは行事が終わったあと子供たちに食べさせるものでもあった国の重要無形民俗文化財に指定されさらにユネスコの無形文化遺産保護条約代表一覧表に記載された

自然は豊かな恵みだけでなく

ときに厳しさをもたらす風土

が持つ地理的あるいは気候的

な環境を受け入れ日本人は自

然と深く関わって生きてきた

1「和食」の精神性

いまほど科学や技術が発達し

ていなかった時代自然は大き

な存在で人はそこに神を感じ

豊作大漁を祈り収穫の喜びと

感謝は祭りとなった食の恵み

をもたらす自然を尊重する『精

神性』を育んできた

2「和食」の社会性

ふだんの家族の食卓や祝い事

村や町の共同体での祭りや年中

行事自然の恵みを皆で共に食

べるなかで「和食」は継承され

てきた団らんや寄り合い打

ち上げなど「和食」は社会の要

の役割を果たしている

3「和食」の機能性

もちろん食には人が生きる

糧という『機能性』もある米を

中心に野菜魚介類海藻など自

「和食」が日本文化

である理由

rdquo自然ldquoと共にある暮らしが生んだ

四季折々あるいは地域ごとに異なる表情を見せる

自然に寄り添い日本人はそれぞれの食文化をつくりあげた

「和食」がなぜ文化であるのかその理由を探しにでかける

自然と共にある暮らし奥能登のldquoあえのことrdquo

56 WASHOKU

然の恵みをふんだんに使う「和

食」は見事な栄養バランスを持

つ健康的な食文化であるまた

ハレの日の料理には健康長寿

の願いをかけるという「機能」も

ある

4「和食」の地域性

そして多様な『地域性』地

理や気候が各地で異なる日本は

地域ごとに多様な食文化を築い

てきた北海道から沖縄にいた

るまで近世までは各地域が食

材を自給自足しそれぞれに特

徴のある食文化を営んできた

つまり「和食」は日本の地方文

化の象徴である

ここで例として見るのは石

川県奥能登に伝わる「あえのこ

と」これはrdquo田の神様ldquoに一年

の収穫を感謝する農耕儀礼

「あえ=もてなし」「こと=祭

り」を意味し冬から春にかけ

てrdquo田の神様ldquoを家に招き入れ

てもてなす能登の豊かな山

里海の恵みが捧げられる

もう一例は青森県下北半島

にある佐井村の食

長い冬に野菜や山菜などの

保存食を多用する食習慣が育ま

れいまでもその伝統が色濃く

残り独特の郷土料理が受け継

がれている正月にはこの土地

ならではのおせち料理を食べ

無病息災を願う

自然と共にある暮らしが日

本のさまざまな地域で独自の

料理と食習慣を育み「和食」を

かたちづくっているのがわかる

自然と共にある暮らし青森県の場合

東北地方全般に自生する山菜ミズこれはミズを茹でてアクを抜き蒸しサザエとともに昆布だしに浸す「ミズの水あえ」山と海の幸が一品の中で共存する点が興味深い海と山との距離が近い西津軽地方の郷土料理だが山の幸と海の幸がひとつの料理に盛り込まれる

4 地域性津軽地方で小正月などに七草粥の代わりに食べられている汁物一般的な春の七草は冬の青森では採れないため大根やにんじんなど冬の根菜のほかはわらびやぜんまいそして凍み豆腐など保存性の高い食材を多用して厳しい冬の正月に彩りを添えたそこには無病息災への願いが込められている

3 機能性青森県下北半島の突端に位置する人口約2500人の佐井村で毎年9月に開催される箭根森八幡宮例大祭では3日間の祭りの最中は どの家も玄関を開放してどんな客でも招き入れて盃を酌み交わす村中に神が降りて来るこの3日間は人々は平等に食事を囲み絆を固める

2 社会性この地域では家族全員が協力しながらひと冬分の「寒干し大根」づくりに励む大根を一度茹で冷たい清水にさらしてから寒風に当てて乾かすという工程は厳しい冬に対してあらがおうとせず寒さをうまく利用して自然と共に生きるという精神性が育んだ暮らしの知恵だ

1 精神性

寒干し

団らん

けの汁

ミズの水あえ

「和食」が日本文化である理由

1

3

2

4

78 WASHOKU

1

自然の尊重

自然の尊重から「和食」は始まり

いまここにある

豊かな自然なかでも清涼な水に支えられて

「和食」は食材に恵まれ調理方法箸しつらいなどを育んできた

それゆえ季節感を感じ自然を尊重する精神を忘れないのだ

京都市上京区の梨木神社(なしのきじんじゃ)に湧く「染井の井戸」は今でもldquo名水rdquoとして地元の人々から親しまれている湧き水日本各地で川の水のみならず湧き水や井戸水の恵みを受けてそれに感謝して暮らしてきた

78 WASHOKU

大自然が育む恵みが豊かな

日本では古くから自然を崇

拝し尊重する精神を育んでき

た日本各地で季節ごとに豊

作豊漁を祈願する祭りをおこ

なってきたことも自然を敬う

精神の表れだ

春夏秋冬日本は世界に類

を見ないほど四季が明確で和

食にはその季節でしか味わえ

ない多種多様な旬の食材が取り

入れられる

料理を盛るための器もまたし

かり天然の樹脂である漆う

るし

を塗

る漆し

っき器は美しさと防虫効果

耐久性を高めるなどといった先

人の自然に対する知恵が生み出

した器である

また器使いやあしらいで季

節感を出すことやハレの席や

会席料理においては床の間に

季節の花を飾るなどしつらい

に四季を感じさせる工夫が施さ

れるも特筆すべき点だ

そして自然の恵みのひとつ

として大切なものが水である

水は信仰の対象でもあり日

本の食文化を形成する上で重要

な役割を果たしてきた

国内の平均雨量は1800

と多く飲料として使える水が

豊富なのに加え水が地下に滞

留する時間が短くミネラル分

をあまり含まないそのため欧

米など大陸の硬水とは違い軟

水(WHO基準でカルシウムと

マグネシウムの量が120

L未満)であることも「和食」

に大きな影響を与えている

口当たりがやわらかくまろ

やかな軟水をふんだんに使った

調理方法や食材そのものの味

を生かす料理が発達してきた

例えば豆腐木綿豆腐や絹

ごし豆腐といった一般的な日本

の豆腐はたくさんの水を使っ

てつくられるため水の善し悪

しが味に関わってくる

炊飯も水で何度か米を洗い

適量の水を加えて炊くことで

芯のないふっくらとしたご飯に

炊き上がる

副菜であるお浸しのように茹

でた後に水で洗って絞ったり

水によってあくを抜いたりそ

ばのように一度茹でたものを水

で締めたり水をふんだんに使

う料理方法は独特で世界的に

見ても珍しい日本の水の性質

の良さが「和食」を支えている

また昆布や鰹節の持ち味を引

き出せる軟水だからこそだし

を使う調理が発達しただしに

よって自然の恵みである素材

そのものの持ち味をおいしくい

ただくことにもつながっている

のである

季節の移ろいを感じることが

「和食」の精神として息づいてい

る言い換えれば子どもの頃

から四季の感性が備わる日本人

にとっての食つまり「和食」と

は「自然の尊重」そのものなのだ

古くから食されている豆腐大豆の絞り汁を凝固剤で固めたのものだが日本の豆腐は水分を多く含み柔らかなのが特徴である味が淡泊な分製造工程における良質の水が味の決め手といわれる

豆腐

=

良質な水の活用

吹き寄せ

=

季節感を織り込む

「和食」は季節感がさまざまなかたちで織り込まれる吹き寄せという料理は季節の野菜銀杏きのこなどが塵取りに吹き寄せられた秋の風情を表現している

椀もの

=

木という素材使い

汁物を供する器はおおむね木製の椀薄く削った木地に布を巻きその上から漆

うるし

を塗った漆し っ き

器として全国で使われてきた木製なので熱い汁を注いでもその熱さを感じることなく手で持てるのも木という自然の素材ならではのよさだ

わさび

=

自然が持つ機能性

刺身の薬味としておなじみのわさびツンと尖ったその辛味は化学的にはアリルイソチオシアネートという揮発性の成分で強い抗菌殺菌作用があるため生魚を食べるときにその効果が発揮される自然がもたらす効果を駆使する「和食」ならではの知恵だ

豆腐

椀もの

吹き寄せ

わさび

「和食」が日本文化である理由 自然の尊重1

まろやかな軟水が

大きな影響を与える

910 WASHOKU

家族や親族で食卓を囲む日常

的なひとときは「いただきま

す」から始まる大切なコミュニ

ケーションの場みんなが顔を

合わせ食事をしながら日々感

じたことやその日の出来事を語

り合うことで家族の絆を強く

していくまた子どもたちに対

しては箸の持ち方や器の扱い

方といった「和食」ならではの食

の作法を伝えたり料理をとお

して味覚や栄養バランスなどを

教える大切な機会だともいえる

日常とは別に正月や節分大

晦日などの「年中行事」で普段と

は違うそのときならではの料理

をいただくその習慣もまた

家族や親族のつながりを強める

のに役立つまたそれぞれの

家ごとの味や伝統が親から子

へと受け継がれていくことにも

なる

家とは別に地域でつながる

年中行事もある

2

家族や地域を結ぶ

寄り合いが人をつなぐ

行事や祭りの食の役割

食事を共にするということを通して人はつながりを深くする

家族の食卓での団らん祝いごと地域の祭り年中行事

日本の伝統文化の中で食は人をつなぐ役割の中心にある

食を通して

人や地域とつながる

お正月に家族や親族で集まっておせち料理を囲む時間は地域や親族に伝わる食の伝統を次の世代へと受け継ぐ絶好の機会だまた下の写真は青森県西部の日本海沿岸に位置する深浦町でのひとこま

「深浦地産地消の会」ではいくつかの家族が集まって地域に古くから伝えられる郷土料理を教え合うという活動を続けている祖父母の世代しかその作り方を知らない料理を披露し郷土の伝統を次世代へ伝えようと尽力している

家族の食

910 WASHOKU

地域ごとで行う祭りの中でも

食は大切な要素である神社に

おける祭さ

いし祀の後には直な

おらい会と呼

ばれる飲食の儀礼も行われる

本来神への供く

もつ物やお神み

き酒を参

列者がいただくことで神と人

とが一体となり神の加護を期

待するという意味合いを持つ

今日では祭りの後の打ち上げ

という気分もあり祭りを終え

た後人と人とが酒を酌く

み交わ

すそれにより親密感が増し

共同体意識を高めているのだ

こうした打ち上げもまた食

を介した日本の文化といえる

祭りではなくとも食を中心

にして地域がつながるケースも

ある例えば秋になると山形

県や宮城県などで盛んに行われ

る芋煮会仲間や同僚地域の

人たちなどで声を掛け合い河

原に集まる季節の行事だ鍋の

内容は山形県の内陸部では里

芋と牛肉を具として入れた醤油

味が一般的一方宮城県では

里芋と豚肉を味噌で味付けて食

べるこのように地域によって

違いはあるが地元産の秋の食

材を入れ大きな鍋を囲むとい

う点では共通している一緒に

食べるだけでなく共同で鍋を

作ることで親交や結束がより

いっそう深まるのだろう

食をとおして家族や親族

そして地域やコミュニティが

結束力を強めるこれは「社会

性」という「和食」が持つ特徴の

ひとつだ

「和食」が日本文化である理由 家族や地域を結ぶ2

祭礼の中で食事を共にすることは祭りを担う人々の絆を固める大切な機会である下の写真は大阪府の祭りの様子この日に供されたのはハモと松茸のすき鍋水なすの漬物など一方で東北地方の宮城県や山形県で秋になると盛んに行われる

「芋煮会」(写真右)は地域だけでなく職場や親族友人どうしなどのコミュニティ単位で行われることが多い食材を持ち寄って鍋の準備を共に進めることで連帯感が高まるのだ

地域や祭りの食

1112 WASHOKU

おせち料理おせち料理の内容は地域によってさまざまこれは東京のおせち料理のひとつ重箱(手前)には健康を願う「黒豆」や子孫繁栄を願う「数の子」そして田の肥料としたことで豊作を祈願する意味を込めた「田作り」という「祝い肴三種」が盛り込まれている祝い肴にはその他紅白のかまぼこや長寿を祈願した海老の焼き物豊作を願ったたたきごぼうなどがあり地域によって異なっている酢の物(左の小さな重)や煮しめ(奥の大きな重)をおせち料理に供する家庭も多い

日本人の生活の中には特別

なrdquoハレの日ldquoがあるひとつは

正月などのように毎年同じ時期

にめぐってくる年中行事もう

ひとつは誕生や成人や結婚や還

暦など人生の節目にあたる日で

これを人生儀礼と呼ぶそして

ハレの日にはそれを食べるこ

とで「邪気や災厄をはらい健康

長寿を願う」という共通点があ

る一

年の始まりを祝うお正月は

「歳と

しがみ神さま」を各家庭で迎える

年に一度の大切な年中行事家

の入口に立てられる門松は神を

招くための目印で一年の幸せ

を願い家族が集まって食事を

共にするその際に供されるの

がおせち料理だ地域ごとにさ

まざまなバリエーションがある

のもおせち料理の特徴で酒し

ゅこう肴

3

健康長寿の願い

ハレの日の食事で

健康と長寿を願う

例えば全国各地でrdquo文化ldquoとして

色濃く残っているおせち料理

その内容には地域ごとにさまざまな

バリエーションがあるものの

共通しているのは

料理を食べることで健康長寿を

願うという点だ

1112 WASHOKU

お正月雑煮に合わせて飲むお屠蘇は銚ち ょ う し

子三つ重ねの盃盃を乗せる盃台これらを載せる盆で供されるもともとお屠蘇はいくつかの薬草を組み合わせた屠

と そ さ ん

蘇散を酒やみりんに浸して作る薬酒だった

お194679と そ蘇

魂の象徴である丸餅を入れた雑煮を食べるということは神の力をいただくことでもあったこれは京都でなじみ深い西京味噌で味付けした雑煮焼かずに煮た丸餅と昔から縁起物とされた頭

かしらいも

芋(里芋の親芋)が入るのが特徴だ

雑煮

赤い色の小豆は邪気と厄をはらいのけると信じられ祝い事の際には頻繁に登場したまたもち米を蒸して食べる習慣は古い日本の文化でもあって例えば赤飯はハレの食事として供されことにお祝いの席には欠かせない

赤飯一生食べることには苦労しないようにとの願いを込めて子どもの生後100日目に行う「お食い初め」の儀式では尾頭付きの鯛を含んだ一汁三菜の膳が供される丈夫な歯が生えることを願う「歯固めの石」も欠かせない

お食い初め

「和食」が日本文化である理由 健康長寿の願い3

を並べたスタイルもあれば煮

しめだけをおせちとする地域も

あるが神と食事を共にしつ

つ福を招き災いを打ちはらう

という願いが込められていると

いう点は共通している

同じくお正月に食べる雑煮は

そもそも武士にとって一番大切

で正式な酒の肴で正月には必

ず餅の入った雑煮とお194679と

そ蘇が

供されるそして鏡餅などの丸

い餅は神の魂の象徴「歯固め

餅」とも呼ばれ1月11日に鏡餅

を食べて歯が丈夫な長寿を願う

意味が込められている

食を囲み毎日を無事に過ご

すことを願う行事に五節句があ

る七草粥を食べる正月7日

(人じ

んじつ日)の他には邪気をはらう

と信じられていたヨモギ入りの

草餅を食べる3月3日(上じ

ょうし巳)

粽ちまきや柏餅を食べることで健康を

願った5月5日(端た

んご午)索さ

くべい餅と

呼ばれる細い麺を食べて無病を

願う7月7日(七し

ちせき夕)菊酒で不

老不死を願う9月9日(重ち

ょうよう陽)が

ある

人生儀礼に目を向ければ邪

気や厄をはらうと信じられてい

た赤飯は祝儀だけでなくお盆

などの仏事や葬儀の際にも食

べられてきた

体によいものを求めてきた

「和食」の伝統は結果として世

界でもまれにみる健康によい食

文化をつくりあげた健康で長

生きしたいという強い指向が

「和食」の根底にはある

北海道は各地から入ったお雑煮が混在する北海道特産のいくら鮭を使った「親子雑煮」を食べる家庭も多い

焼いた角餅に醤油味が一般的一部の地域では具に豆腐やゴボウなどが入りゴマだれやクルミだれに付けていただくこともある

鰹節でだしを取り醤油で味付けしたすまし汁に焼いた角餅を入れるのが一般的具には鶏肉こまつ菜かまぼこなどが入る

昆布でとっただしに白味噌で味付けし煮た丸餅を入れるすまし汁のところや元旦は白味噌2日目はすまし汁にする地域もある

1314 WASHOKU

「県出身ならあれ食べた

ことあるの」「お雑煮のお餅と

味付けは」hellip日本各地に伝

統的な料理や食材があり味付

けも地域ごとに異なる

気候や風土が異なると採れ

る食材や調理法は変化し地域

色豊かな和食が形づくられてき

たそんな多様性も和食の魅力

であり日本を旅するときの楽

しみのひとつでもあるはずだ

いまのように流通が盛んでな

く保存技術も進んでいなかっ

たころ食料を無駄なく存分に

そして安定的に味わうというこ

とは人々の重要な課題だった

そこで知恵を絞り工夫をこら

し考えられたのが食品の加工

や保存方法その知恵が結果的

に「和食」の多様性を生みだし

ていくことになるのだ

海から遠い土地では魚を長持

ちさせる知恵が生まれ冬が厳

しい北方では野菜を長期にわた

り保存する技が発展してきた

魚の干物餅梅干し凍み豆

腐helliphellipこれら保存食は昔から

ある加工食品だが同じく日本

古来の加工食品に発酵食品があ

る微生物の働きや酵素の力

で保存力や栄養価風味などが

加わった食品だ野菜の漬物も

このひとつ

例えば秋田県の郷土料理「い

ぶりがっこ」大根を囲炉裏の

4

「和食」の多様性

風土が多様性を生み

それが「和食」という地図を描く

南北に長くさまざまな気候を持つ日本だけに地域が持つ食文化は多様で

土地土地に伝わる郷土料理や加工保存技術が存在している

日本の食が描く地図は知れば知るほど面白い

風土の違いから生まれる

食文化の多様性

お雑煮MAP

 

正月に食べられるお雑煮はだ

しの素材や味付け餅の形状具な

どが地域や家庭によってさまざま

であるだしには昆布鰹節煮

干しするめ穴子鶏肉が味付

けには塩醤油味噌などが使われ

る餅は角か丸かそれを焼くか

煮るかという違いもあるまたあ

ん入りの餅を入れる地域もある

具は野菜類魚介類鶏肉などで

地域の特産品が使われることも多

い沖縄県ではお雑煮に代わるも

のとして「中味汁」(豚の内臓の

汁)があるここでは全国各地の

お雑煮の中から特徴のあるもの

を取り上げた丸もち

角もち

角もち

角もち

昆布と鰹節のだしに味噌で味付けし煮た丸餅とかぶそしてかぶの葉を加えたシンプルなお雑煮を食べる地域も味噌は赤味噌白味噌のいずれかが使われる

丸餅に白味噌仕立てが多いが香川県では白味噌にあん入り餅を入れた「あんもち雑煮」が珍しい具は大根ニンジン里芋など

だしはあごだし昆布鶏肉とさまざまだが味付けは醤油味具にかまぼこが入り九州の北部にはあん入り餅を入れる地域もある

醤油味のすまし汁に煮た丸餅が多い出雲地方では

「小豆雑煮」と呼ばれ具はなくぜんざいのような小豆だけの雑煮を食す

昆布と鰹節のだしに味噌で味付けし煮た丸餅とかぶそしてかぶの葉を加えたシンプルなお雑煮を食べる地域も味噌は赤味噌白味噌のいずれかが使わ

1314 WASHOKU

上に吊るし楢や桜の焚き火で

燻製にしてから米糠と塩で漬

けこんだ漬物だこれは冬の訪

れが早い秋田で大根を早く乾

燥させ長く食べられるようにす

るための工夫だいずれも手間

と時間が加わることで風味が

濃縮されとれたてとは違った

深い味わいが生まれた

魚介類の保存食でいえばな

れずし魚を塩と米飯で数日

から数ヶ月寝かせ乳酸発酵さ

せたもの雑菌の繁殖が抑えら

れ長期間の保存が利く上うま

味が増す現在滋賀県のふな

ずし和歌山県のサバやサンマ

のなれずし福井県小浜市のへ

しこなれずし秋田県のハタハ

タ寿司など日本全国の郷土料

理として残っている

また味噌や醤油といった発酵

調味料は日本料理の味の要と

もいえやはりこれらにも地域

によって造り方や味に違いがあ

る例えば味噌大豆と米こ

うじを使い長期間熟成させた辛

口の津軽味噌米こうじを多く

配合した甘みのある西京味噌

大豆こうじを使った赤褐色の名

古屋の八丁味噌麦を原料にし

た九州地方の麦味噌などさま

ざま

地域の特産品発酵調味料餅

で構成されるお雑煮を見ても

多様性はよくわかる

日本の風土と食文化は深く結

びつき世界が注目するバラエテ

ィに富んだ食を育んできたのだ

日本の味噌

mdash

地域と特徴mdash

味噌は製法材料によって

大きく3つに分けられる

全国的に一般的なのが「米

味噌」で蒸すまたは茹で

た大豆に塩米こうじを加え

発酵させたもの米こうじ

の代わりに麦こうじを使用

したものを「麦味噌」大豆

を発酵熟成させたものが

「豆味噌」米味噌には大

豆を蒸して長期間熟成した

辛めの赤味噌と大豆を茹

でて短期間で熟成させた甘

めの白味噌がある

「和食」が日本文化である理由 「和食」の多様性4

主な種類地域 特徴

米味噌

津軽味噌 長期間熟成させる辛口で赤味噌系が主流

仙台味噌 仙台で伝統を継承して造られてきた長期間熟成させる辛口赤味噌系が主流

信州味噌 長野県を中心に造られる山吹色の淡色系の辛味噌

江戸甘味噌 通常の味噌よりもこうじを多く塩を少なくした赤系の甘さのある味噌

西京味噌 関西地方を中心に造られる米こうじの多い甘みのある白味噌

讃岐味噌 香川県で造られる甘みのある白味噌あん餅雑煮にも使われる

府中味噌 甘みのある米こうじの多い白味噌で主に広島県で造られる

麦味噌 九州四国中国 麦こうじを使って発酵させた山吹色を帯びた甘みのある味噌

豆味噌 八丁味噌三州味噌 蒸した大豆でみそ玉を作りこうじ菌を繁殖させて造る濃い赤褐色の味噌

お雑煮に入れる餅の形について出身地ごとに聞き取った結果中部を境にして東は角餅西は丸餅が多かった

もちの形について

丸もち

丸もち

丸もち

丸もち

出典「お雑煮100選」(文化庁)より

(人)

温暖化が進み狩猟が大型獣から小型獣になる

南九州で竪穴式住居にドングリ貯蔵穴が広まる

ドングリなどの植物性食料が重要な食料になる

水田稲作が日本列島に伝来

稲作の広がりと定着魚を発酵させたなれずしの登場

『魏ぎ

し志』倭わ

じんでん

人伝には倭(日本)では冬夏に生菜を

飲食に高杯をつかい手食するとある

土は

師器の移動式かまどの使用

土師器の甑こ

しきに

よる蒸し米が盛んになる

中国に遣唐使を送る大陸の食文化がもたらされる

675年天武天皇が「牛馬犬猿ニワトリ」の

食用を禁止

牛乳を煮詰めて作った「蘇そ

」が朝廷に貢納される

箸の利用が広がる

貴族の大だ

いきょう饗

料理や年中行事が中国の影響で定着

豆腐が中国より伝来する

栄西が宋より抹茶法を持ち帰る

道元が禅宗における食事作法や調理の心得を

説いた『典て

んぞきょうくん

座教訓』『赴ふ

しゅくはんぽう

粥飯法』を執筆

植物性食品のみを使った精進料理の発展

武士の供応食本ほ

んぜん膳

料理の形成

包丁人と呼ばれる料理人が誕生し包丁流派を形成

刻み目のついたすり鉢が広がる

酒造技術の進展

書院茶の湯からわび茶の湯へ

千利休により茶の湯が完成

懐石形式の定着

豊臣秀吉が北野大茶会を開催

欧州が大航海時代に入り

南蛮貿易により南蛮菓子唐辛子などが日本に伝来

日本初の出版料理書『料理物語』刊行

都市部に食べ物屋や料理屋が普及する

料理屋の会席料理形成

けがれによる肉食禁忌の観念が広く浸透

薬食いとしての肉食

飢き

きん饉に備えさつまいもやじゃがいもの栽培を奨励

和菓子の完成

握り寿司やてんぷらが江戸で流行する

肉食解禁と牛鍋の流行

『西洋料理指南』など西洋料理書の出版

西洋料理店の発展

米の摂取率が平均53に

家庭向け料理書の出版

女学校における食物教育

脚か

っけ気

論争がさかんに行われる

牛肉の不足から豚肉の生産が増加

洋菓子の製造発展

物価高騰と米不足によるじゃがいもパンなどの代用食の奨励

国立栄養研究所の開設と栄養学の発展

都市部で和わ

ようせっちゅう

洋折衷料理が普及

戦争による食料不足

食料統制米などほとんどの食品が配給切符制となる

イモなど代用食の増産

戦後のミルクとパンの学校給食が開始

各地に闇市ができる

食料の価格が高騰

厚生省が日本人の栄養基準値を策定

農家の生活改善運動が展開

即席ラーメンなどインスタント食品の開発販売

冷凍冷蔵庫の普及と冷凍食品が普及

日本型食生活の提唱

ファミリーレストランファストフード店の増加

コンビニの発展

日本食の洋食化と簡便化と米摂取量の減少

食料自給率が39〜40に低下

レトルト食品の売上増大

電子レンジ普及率が約90に

遺伝子組み換え食品が登場

地球温暖化など環境問題が深刻化

阪神淡路大震災東日本大震災により災害食が注目される

持続可能性が社会課題に

家庭料理の変化や家族の孤食化などの問題が生まれ和食の見直しへ

縄文時代弥生時代古墳時代飛鳥時代奈良時代平安時代鎌倉時代室町時代安土桃山時代江戸時代BC9000年BC3000年BC2500年頃BC200年頃240年頃500年頃7世紀8世紀8~12世紀12~14世紀14~16世紀16~17世紀17~19世紀

1516 WASHOKU

「和食」の年表

「和食」がたどった道和食の成立とその変化を年表でたどってみると各時代の人々が海外の食文化の影響を受けながら工夫を積み重ねてきた様子が見えてくる

米は縄文時代晩期に伝来し

たとされるが全国に広がるの

は弥生時代である

平安時代の大饗料理は貴族

の供応料理で蒸した高盛の強こ

飯いい

に各種の魚介類を配し調味

料につけて食べる形であった

鎌倉時代には禅宗の影響に

より動物性食品を排除した

精しょうじん進料理が発展した道元禅

師は調理も修行の一つとして

その心得を記した『典て

んぞ座教き

ょうくん訓』と

食事への感謝の念作法を説い

た『赴ふ

粥しゅく

飯はんぽう法』を著した

室町時代上層階層の料理文

化として本膳料理が登場した

この形式は江戸時代後期には

婚礼などの儀礼食として各地域

に浸透し昭和期まで継承され

た本膳には飯汁菜香の物

が盛られ飯を主食とした伝統

的な食事の形式が定着すること

になるまた酒とその酒肴も

本膳に伴って発展した

安土桃山時代には茶の湯に

ともなう懐石が発展した一汁

三菜を基本に旬の素材にこだ

わり食事空間のしつらいにも

気を配るなど精神性をも盛り込

んだこの形式はその精神と

共に現代に引き継がれている

江戸時代の都市部ではそば

すしてんぷらなどの食べ物屋

高級料理店なども広がりをみせ

た料理書の出版も相次ぎ酒

と酒肴を楽しむ料理屋の会席料

理も成立したまた和菓子の

温暖化が進み狩猟が大型獣から小型獣になる

南九州で竪穴式住居にドングリ貯蔵穴が広まる

ドングリなどの植物性食料が重要な食料になる

水田稲作が日本列島に伝来

稲作の広がりと定着魚を発酵させたなれずしの登場

『魏ぎ

し志』倭わ

じんでん

人伝には倭(日本)では冬夏に生菜を

飲食に高杯をつかい手食するとある

土は

師器の移動式かまどの使用

土師器の甑こ

しきに

よる蒸し米が盛んになる

中国に遣唐使を送る大陸の食文化がもたらされる

675年天武天皇が「牛馬犬猿ニワトリ」の

食用を禁止

牛乳を煮詰めて作った「蘇そ

」が朝廷に貢納される

箸の利用が広がる

貴族の大だ

いきょう饗料理や年中行事が中国の影響で定着

豆腐が中国より伝来する

栄西が宋より抹茶法を持ち帰る

道元が禅宗における食事作法や調理の心得を

説いた『典て

んぞきょうくん

座教訓』『赴ふ

しゅくはんぽう

粥飯法』を執筆

植物性食品のみを使った精進料理の発展

武士の供応食本ほ

んぜん膳

料理の形成

包丁人と呼ばれる料理人が誕生し包丁流派を形成

刻み目のついたすり鉢が広がる

酒造技術の進展

書院茶の湯からわび茶の湯へ

千利休により茶の湯が完成

懐石形式の定着

豊臣秀吉が北野大茶会を開催

欧州が大航海時代に入り

南蛮貿易により南蛮菓子唐辛子などが日本に伝来

日本初の出版料理書『料理物語』刊行

都市部に食べ物屋や料理屋が普及する

料理屋の会席料理形成

けがれによる肉食禁忌の観念が広く浸透

薬食いとしての肉食

飢き

きん饉に備えさつまいもやじゃがいもの栽培を奨励

和菓子の完成

握り寿司やてんぷらが江戸で流行する

肉食解禁と牛鍋の流行

『西洋料理指南』など西洋料理書の出版

西洋料理店の発展

米の摂取率が平均53に

家庭向け料理書の出版

女学校における食物教育

脚か

っけ気

論争がさかんに行われる

牛肉の不足から豚肉の生産が増加

洋菓子の製造発展

物価高騰と米不足によるじゃがいもパンなどの代用食の奨励

国立栄養研究所の開設と栄養学の発展

都市部で和わ

ようせっちゅう

洋折衷料理が普及

戦争による食料不足

食料統制米などほとんどの食品が配給切符制となる

イモなど代用食の増産

戦後のミルクとパンの学校給食が開始

各地に闇市ができる

食料の価格が高騰

厚生省が日本人の栄養基準値を策定

農家の生活改善運動が展開

即席ラーメンなどインスタント食品の開発販売

冷凍冷蔵庫の普及と冷凍食品が普及

日本型食生活の提唱

ファミリーレストランファストフード店の増加

コンビニの発展

日本食の洋食化と簡便化と米摂取量の減少

食料自給率が39〜40に低下

レトルト食品の売上増大

電子レンジ普及率が約90に

遺伝子組み換え食品が登場

地球温暖化など環境問題が深刻化

阪神淡路大震災東日本大震災により災害食が注目される

持続可能性が社会課題に

家庭料理の変化や家族の孤食化などの問題が生まれ和食の見直しへ

明治時代大正時代昭和時代(戦前戦中)昭和時代(戦後)平成1869~1912年1912~1926年1926~1945年1945~1989年1989年~

1516 WASHOKU

家庭料理の変化や家族の孤食化などの問題が生まれ和食の見直しへ

基本はほぼこの時代にできたと

いえよう

いっぽう各地域の日常食の

主食は麦雑穀芋類を混合し

たかて飯やうどんなど小麦粉を

用いた食事が多くそれは昭和

期まで引き継がれ各地で独自

の「和食」の文化が形成された

西洋文化を積極的に取り入れ

た明治時代以降西洋料理書が

出版され都市部では西洋料理

店が開店したまた明治時代

後期には家庭向け料理書の出

版が相次ぎ西洋料理をアレン

ジして和食に取り入れた和わ

よう洋

折せっちゅう衷料理が数多く紹介された

大正期国立栄養研究所の開

設により栄養学の研究が進み

日常食の栄養についての関心が

少しずつ広がった

飢餓を経験した戦時期を経て

主食に偏らず副食に動物性食

品や油脂を加えた食事が推奨さ

れたその結果1980年頃

になると日本人の食事は米飯

を基本にしながらも乳乳製品

肉魚類野菜類などを適度に

加えたよりバランスのよい食

事となったこの時期の食生活

を「日本型食生活」と呼んだし

かしその後食生活の洋風化

簡便化が広がり食料自給率は

40パーセントと減少した若年

層を中心に食事の基本型が崩れ

欠食孤食などが話題となり和

食の見直しが求められるように

なった

1718 WASHOKU

「和食」の特徴1

献立のかたち

「ご飯」を食べるために

「汁」と「菜」がある

「一汁三菜」が和食の基本型

「一汁三菜」とは「ご飯」と「汁」と「香の物」に

いくつかの「菜」が添えられるという組み合わせ

「ご飯」と「汁」と「香の物」に「お菜」が3品添えられるという献立が一汁三菜この場合は焼き魚(右奥)と煮物

(左奥)と小松菜のおひたし(中央)の3つの菜で構成される向かって手前左にご飯を手前右には汁をその間に香の物をそれぞれ置くという決まりになっている

1718 WASHOKU

米を炊いた「ご飯」昆布や鰹

節などでとっただしを味噌や塩

などで味付けした具入りの「汁」

塩漬けやぬか漬けや粕漬けなど

の「香の物」そして焼き物や煮

物や和え物などの「菜」その4

つの要素で構成される「一汁三

菜」という組み合わせがある

基本的には汁が一種で菜が

三種の構造を「一汁三菜」と呼

ぶ食事中に口の中をさっぱ

りと保ってくれる「香の物」と

ご飯はいつも必ずついていて

その数も変わらないからあえ

て数えない

日常の食事である一汁三菜に

対して江戸時代によく登場す

るのは二汁五菜つまり汁が二

種に菜が5つこれが昔のおも

てなし料理の基本でお膳もふ

たつ出たいいかえると一汁三

菜はひとつのお膳に載るふだ

んの家庭の食事であることがわ

かる

また汁にもいろいろあった

魚のアラを汁に仕立てたものや

野菜を豆腐と一緒に煮込むけん

ちん汁など具だくさんの汁も

各地域でみられ汁でご飯を食

べるということも和食の特徴の

ひとつだ

一汁三菜の献立の最大の特徴

は汁も香の物も菜もすべてご

飯を食べるために存在するとい

う点かもしれないご飯が主食

でその他の3つの要素が副食

という考えが一汁三菜の根底に

ある少ない菜でたくさんのご

飯を食べご飯の量でカロリー

の摂取量を調整するのがかつ

ての和食の基本的な食べ方だっ

たのだ

「和食」にとって欠かせないご

飯についてもここで触れてお

こう

米には「うるち米」と「もち米」

とがあり強い粘性を持つもち

米は赤飯などのおこわ(強こ

わいい飯

や餅に用いられるそれに対し

てうるち米はもち米より粘り

気が少なく通常の米飯として

使われる

米のもとになる稲の栽培が始

まったのは1万年以上前とされ

野生の稲を栽培したのが始まり

と考えられているその原産地

は中国の長江流域とその周辺

という説が有力でそこから西

へ伝わった品種がインディカ種

また東へと伝わり東アジアに

広がったのがジャポニカ種だ

「和食」における献立の目的は

いわば汁と菜でご飯を食べる

ことつまりご飯に合うのなら

例えばそれが肉じゃがでもコ

ロッケでもとんかつでも菜と

して取り入れてこられたのは

ご飯を主食とする「和食」のス

タイルがしっかりしていたか

らである一汁三菜という和

食の基本型がなくなったら外

国の料理と変わらなくなって

しまうだろう

「和食」の特徴 献立のかたち1

稲 玄米 白米 調理加工

粉にする

飯餅菓子米飯焼き米ひなあられ餅おかきあられ

稲わら 俵わらづと鍋釜敷き畳床むしろわらぞうり縄みのわらぼうき など

酒酢みりん味噌発酵させる

糠 たくあん糠漬けあく抜き

(上新粉など)柏餅草餅重

お も ゆ

湯など

(白玉粉落ら く が ん

雁粉道明寺粉など)白玉最中大福餅落雁桜餅など

どうみょうじ

うるち米の粉

もち米の粉

日本人の暮らしに深く関わる稲米

 現在世界で栽培されている稲の主な種類にはインディカ種(インド型イネ)やジャポニカ種(日本型イネ)などがあるインディカは長粒種と呼ばれる米ジャポニカは日本でよく食べられている丸く短粒な米で短粒種と呼ばれる米の主成分であるでんぷんにはアミロースとアミロペクチンとがありアミロースを多く含むインディカ種は粘り気が少ないのに対しアミロースの少ないジャポニカ種は粘りが強く日本人にとってはおいしい味の米であるそしておにぎりやすしのようにまとめる米料理も発達した 世界の米の生産量は約6億トンと小麦とほぼ同じだがその90以上が日本を含むアジア諸国で栽培されているジャポニカ種は全体の15を占め日本をはじめとして朝鮮半島中国東北部台湾北部などで主に栽培されているインディカ種の栽培地域はインドからベンガル地方のバングラデシュタイをはじめとするインドシナ半島中国の中南部インドネシアなど南アジアが中心だ

ジャポニカ種とインディカ種日常私たちがご飯として食べているのはうるち米赤飯や餅にするのはもち米である栄養価はほとんど同じであるがでんぷんの構成が異なるうるち米はアミロースとアミロペクチンの比率が約28であるがもち米はほとんどアミロペクチンで構成されているそのためにもち米はうるち米に比べて粘りが強く餅にするのに適しているのである日本では両方の米の特徴をうまく利用して粒のまままたは粉にするなどしていろいろな料理や菓子を生み出したり発酵させて酒やみりんなどをつくり出したりしてきた

うるち米ともち米

インディカ

ジャポニカ

「和食」に欠かせない

米はどこから来たのか

1920 WASHOKU

全国各地でさまざまな魚や野

菜が豊富に手に入ったことそ

して文明開化の時代まで一般

的に肉食をしなかったという背

景から「和食」は野菜と魚介類

を中心に調理されてきた

現在日本の市場で流通する

野菜の数は150種類ほどと言

われているその種類はイモ類

やマメ類をはじめ根菜類茎け

いさい菜

類葉菜類果菜類など実に多

様ださらには山菜やきのこ

など森林に自生するものも調

理に工夫することでうまく食材

として取り入れてきた

日本で流通する野菜は近代

になって外国から輸入されたも

のや品種改良によって食べや

すくなったものなど多様では

あるが昔から日本で作り続け

られている伝統野菜(在来野菜)

も少なくない伝統野菜とはだ

いたい三世代以上に渡って栽培

「和食」の特徴2

食材

和食を支える日本の食材

おいしさの秘密と多様性

おいしい和食には素材の力がある四季折々の自然の中から

生み出される日本の食材は驚くほど多様性に富んでいる

野菜

野菜と魚介類の二大食材に

支えられる日本食文化

和食には野菜を使う料理が多くあるが現在日本で流通する野菜の種類も150以上と幅広い分類にしてもジャガイモやサツマイモなどのいも類大豆や小豆などのマメ類ダイコンやカブなどの根菜類ネギやウドなどの茎

け い さ い

菜類コマツナや白菜などの葉菜類ナスやキュウリなどの果菜類そのほかにシイタケやシメジなどのきのこやワラビやゼンマイなどの山菜など多彩な野菜が存在するしかし現代でこそ流通の発展でさまざまな野菜が一年中手に入るが全国で同じ野菜が収穫できるわけではない例えば同じいも類でもサツマイモなどは九州などで多く作られるが冷害に強く冷涼な地で生育するジャガイモは山梨や長野などの山間部や日本の北部で育てられるそのほか地域特有の特産品である伝統野菜がいま注目され始めている

1920 WASHOKU

が続けられ地域に根づいた農

法で作られるものを指しこれ

を守る動きも目立ってきている

魚介類も「和食」にとって欠か

せない食材のひとつ日本で獲

れる海水魚は実に種類豊富で

日本に生息する魚種だけでも約

4200種ある縁起のよい魚

として重宝されるタイをはじめ

アジイワシやサバサンマなど

日本の近海は魚の宝庫である

海水魚だけでなくコイやア

ユフナやウナギそして水田で

獲れるドジョウなどの淡水魚

(川魚)は海から離れた地域では

貴重なタンパク源だったため

古くから料理に使われている

ウナギの蒲焼きは一般的だが

薄切りにしたコイを50くらい

の湯に短時間漬けてから冷水で

身を締めて酢味噌で食べる「鯉

のあらい」やコイの切り身を濃

い味噌で煮た「鯉こく」など味

わい方も豊富

またうま味のもととして古

くから使われてきた昆布や味

噌汁の具としても重宝するワカ

メさらにおむすびに必須の海

苔など海藻類も和食には欠か

せない貝類も種類が豊富で

アワビをひも状に薄くむき乾

燥させた「熨の

しあわび

斗鮑」が神事や祝し

ゅうぎ儀

の象徴として使われてきた

近年日本の食料自給率が低

下し外国産食材の増加も問題

視されているが本来の「和食」

は日本の自然の恵みによって支

えられているのだ

「和食」の特徴 食材2

島国である日本において魚介類は古くから貴重でかつ重要な食材であった農林水産省の定める生鮮食品品質表示基準によれば日本で食される水産物はマグロやカツオイワシやアジなどの海水魚やコイやウナギなどの淡水魚(川魚)シジミやアサリなどの貝類カニやエビなどの甲殻類やカメなどの水産動物類クジラやイルカなどの海産哺乳動物類そのほか昆布やワカメなどの海藻類など実に多様な種類がある2000年に味の素(株)がおこなった「嗜好調査」によれば「食材」としては肉類よりも魚介類のほうが好まれている結果がみられたさまざまな魚介類のなかでもカニエビマグロなどへの嗜好性が高くそれらが「贅沢な食材」と捉えられているようである

山間部など海の魚が手に入らない地域で貴重なタンパク源として重宝されたのが淡水魚(川魚)写真はアユだがその他コイやウナギドジョウワカサギフナなど日本ではさまざまな川魚が食材として使われてきた寄生虫のおそれがあるため生食はあまりされないがその代わりに調理にはさまざまな工夫が見られる海の魚に比べると独特の臭味やクセがあるため「鯉こく」のようにしっかりと煮込むことで臭味を除いたりウナギのように蒲焼きにしたりするなどがその一例だまた例えば滋賀県には琵琶湖で獲れるフナを塩と米で乳酸発酵させ保存性を高めると同時にうま味成分を引き出した「ふなずし」もある

古来日本で食べられてきた海藻類現在でも低カロリーでミネラルビタミンに富む食材として和食では重宝されている日本では約50種類の海藻が食べられているが世界的にみてもここまで多様な海藻を加工し食用とする民族は珍しいなお海藻にはフノリやテングサのような紅藻ワカメ昆布やモズクなどの褐藻アオノリや海ブドウなどの緑藻類の3種類の海藻が存在する昆布のようにだしをとるために使うものもあるが乾燥させて食べる海苔味噌汁や酢の物の具として使われるワカメのようなものまで実に幅広いまた海藻は神への奉納品としての縁も深く日常の食事だけではなく祭りや神事などにも登場している

縄文時代の遺跡である貝塚からアワビやハマグリカキなどの大量の貝殻が発見されていることからもわかるように貝類は日本では古くから食材として利用されてきた春先の干潮時に浜辺に埋まったアサリなどの貝を掘り出して採取する潮干狩りは春の風物詩としても馴染み深い日本には6000近い貝類があるといわれておりなかでもアサリやハマグリのような二枚貝サザエやツブ貝のような巻き貝が食用として親しまれている調理法としては刺身や吸い物味噌汁煮物焼き物炊き込みご飯など幅広い料理に使用されているがだしをとるためにも使われるさらに乾物にすれば保存性も高くなるため古くから交易にも活用されてきた

海の魚

川の魚

海藻貝

2122 WASHOKU

和食における菜さ

の調理法には

煮る焼く蒸す茹でる和あ

える

揚げるなど実に多様な技法が

あるこれを季節の野菜や山

菜魚介類海藻などの食材と組

み合わせることでバラエティ

に富んだ菜が食卓を彩る

数ある日本の調理法の中で

最も特徴的なのは「生もの」材

料を生のまま切り皿に盛り付

け調味料と薬味を添える刺

身といえば魚介類が用いられる

のがほとんどで捌さ

き方切り方

盛り方などが現在世界で注目を

浴びている材料を新鮮な状態

に保つ技術と料理としての盛り

付けの技術があいまって完成し

たものといえる調味料と薬味

の組み合わせも魚類との相性を

考えて工夫されているまた

わさびしょうがからしなどの

薬味や「つま」や「けん」と言わ

れる大根のせん切り大葉防ぼ

うふう風

芽めたで蓼花は

なじそ

紫蘇など防菌効果のあ

るものを添えて見た目も美し

く組み合わせている

ご飯と並んで食卓に欠かせ

ない「汁物」は鰹節や昆布煮干

し干し椎茸などから抽出され

るだしのうま味と具として入

れる素材のうま味が味わいのベ

ースとなっている中には具だ

くさんの菜になるような汁も

ある

また豊富な水を利用した調理

焼き物(サンマの塩焼き)

直火焼きは遠火の強火でほかに間接焼きがある

生もの(カツオの刺身)

生ものには刺身あらい酢の物漬物がある

茹で物(もりそば)

小麦粉やそばなどの粉からつくる麺を茹でる法

旬の食材のおいしさを

引き出す調理法の数々

「和食」の特徴3

調理

切る煮る焼く蒸す茹でる和える揚げるhellip

あの手この手で素材をよりおいしく

バランスの取れた一汁三菜の基本はご飯にあり

ご飯をおいしくいただくために菜さ

の調理方法は進化した

煮物(筑前煮)

煮汁の中で加熱中に調味する法

2122 WASHOKU

法に「茹で物」があるたっぷり

の水を沸騰させ食材を加えて加

熱して取り出すもの青菜そば

などは茹でた後にあくの除去

歯触りを良くするなどのためさ

らに水で洗う場合も多い私た

ちがあたりまえのように調理し

て食べているほうれん草や小松

菜のお浸しは水に恵まれた日本

に定着した料理で世界的にみて

も特徴あるものといえよう

「焼き物」はサンマの塩焼きの

ように塩をふり直火でじっく

り焼き上げる方法が伝統的

「煮物」は世界で最もポピュラ

ーな調理法だが日本では素材

の味を生かしつつ醤油や味噌

など大豆由来の発酵調味料で

味を調えるものが多い

油とともに加熱調理する「炒

め物」は伝統的な調理にはほと

んど見られないが現代では盛

んに使われ和食の幅を広げて

いる

ここに紹介した調理法と料理

の例は主にご飯のおかずとな

るものであるが小麦そば雑

穀などを粉にしこれを調理し

た主食も多い代表的なものに

うどんそばそうめんなどの麺

類があり茹でる場合が多いが

煮込みなど煮るものもある

さまざまな料理を組み合わせ

て食べる和食は素材の味を生

かしうま味をしっかりとれば

最低限の調味料でおいしさを感

じることができ多様な料理を

楽しむことができる

和あえ物

(きゅうりとワカメの酢の物)

野菜や魚介類などをごま味噌酢などで和える法

漬物(きゅうり大根の糠

ぬか

漬け沢たく あ ん

庵漬け)生ものを保存する方法の一種

塩の働きに加え乳酸発酵させたものが多い

汁物(なめこの味噌汁)

だし汁を主体とする法すまし汁みそ汁とろみのついた汁など

蒸し物(茶碗蒸し)

水を沸騰させその水蒸気を利用して加熱する法

浸し物(小松菜のお浸し)

お浸しは調味した汁に浸して味をつけたもの

「和食」の特徴 調理3

揚げ物(天ぷら)

高温の油で食品を加熱する法油の温度は150~200度の範囲で行うことが多い

2324 WASHOKU

「和食」の特徴4

味わい

うま味日本人が発見した「おいしく食べる」最大の知恵

和食の味わいの中で最も重要なのがだし

味噌汁やすまし汁のベースとなり

煮物やおひたしなどさまざまな料理の

味を決定づける味の要だ

和食の味わいを語るうえで忘

れてはならないのがだし(出

汁)の存在汁物や煮物などさ

まざまな料理のベースとして使

われている

なぜ日本人はここまでだしを

好むのかその答えに大きく関

係するのが「うま味」だ江戸時

代の料理書には「だしこそ料理の

根本である」と書かれている

1907年池田菊き

くなえ苗

博士に

よって世界で初めてうま味成

分のひとつがアミノ酸の一種で

あるグルタミン酸であることが

発見されたその後日本人を中

心に研究が進みうま味は甘味

塩味酸味苦味に加えて第5

の味覚として広く知られるよう

になる現在ではうま味調味

料やだし入りのつゆなどうま

味成分を手軽に使える調味料も

普及海外でも人気が高く国

内でも日常的に使用されている

だしのほかに和食の味付け

日本が世界に誇る

第5の味覚うま味

うま味成分を多く含む椎茸もだしをとる目的で使われてきた食材のひとつだしに使用するのは干したもの椎茸は乾燥させることでうま味や香り成分が増すためだ

小魚を煮て乾燥させてつくる煮干しも汁物に多用される材料としてはカタクチイワシが代表的だがその他ウルメイワシやキビナゴトビウオなどの比較的魚体が小さな魚を使ってつくるのが一般的だ

だしのとり方は魚介や野菜から水や湯を使ってうま味成分を抽出するのが一般的だしの素材として最もよく使われるのは昆布と鰹節でそのほか煮干し野菜干し椎茸魚の内臓やあら(頭や骨)などがあるまた潮

うしおじる

汁のように食品そのもののうま味を活かす方法もある

鰹節

「だし」のこと

昆布

煮干し

干し椎茸

2324 WASHOKU

に欠かせないのは塩砂糖味

噌醤油酢酒みりん魚醤な

どの調味料わさびやからし

しょうが山椒とうがらしゆ

ずなども薬味として使われる

これら薬味によって季節感を楽

しみながら素材の味を引き出

すという知恵も「和食」ならでは

夏に高温多湿となる日本では

アジア諸国と同様発酵食品が

発達したそれゆえ味噌や醤

油や酢に代表される発酵調味料

を多用するのも和食の特徴大

豆や穀物を塩漬けにして発酵

させてつくるものだがその過

程で原料のタンパク質がアミノ

酸に分解されうま味成分を豊

富に含んだ調味料ができあがる

のだ

発酵食品も多様だ日本各地

でカビや酵母などの微生物の

働きを活かして食品中のアミ

ノ酸(うま味)を増やす発酵食品

が発達してきた冬場の保存食

として生み出された沢庵や塩

を使って乳酸発酵させる京都の

すぐき菜漬けそして糠ぬ

漬けや

奈良漬けなど野菜を発酵させ

た漬物さらに塩辛やくさや

なれずし鰹節など魚介の保存

食としての発酵食品また大

豆を納豆菌で発酵させる納豆や

こうじ菌で発酵させて乾燥後に

熟成させた寺納豆など大豆の

発酵食品もある

「和食」はうま味を上手に生

かし食材をおいしく食べる知

恵を育んできたのだ

発酵食品

発酵調味料

調味料

「和食」の特徴 味わい4

発酵食品と調味料

魚醤魚を塩漬けにして発酵させる独特の香りと濃いうま味が特徴の調味料ハタハタでつくられる秋田の

「しょっつる」イカやイワシを材料とする能登半島の「いしる(り)」などがある

酒酒もまた和食の調味に欠かせない発酵調味料のひとつ調味料としての酒の主な効果には材料の臭みを消す食材のうま味を引き出して風味をよくする甘みを加えるなどがある

塩海に囲まれている日本では古くから塩は調味料として使用されてきた焼き物や刺身などの調理の味付けとしてはもちろん漬物や干物など食物を貯蔵するための知恵としても活用されている

味噌蒸したり煮たりした大豆にこうじ食塩を混ぜて発酵熟成させた日本を代表する調味料のひとつ味噌汁や煮物などに使われることが多い地域によって使用される味噌の種類がかなり変わるのも特徴だ

酢寿司やなますなど和食に酸味を加える調味料米から醸造した酒に酢酸菌を加えて発酵させて造られる酢に漬けることにより保存性を高める

醤油大豆と小麦で造ったこうじに食塩水を加えた「もろみ」を発酵熟成させ搾ったもの刺身や焼き魚煮物炒め物など幅広い料理に使われている種類は濃口薄口たまり再仕込み白の5つに分類される

みりん蒸したもち米と米こうじを主原料に40~60日かけて熟成させて造られる発酵調味料砂糖と比べて甘みがやわらかく食材の臭味を取る働きもあるまた魚の照り焼きなどのつや出しにも使う

漬物素材を食塩や酢酒粕醤油などに漬け込み熟成させて作られる漬物沢庵や梅干し野沢菜漬けなど野菜類を長期間保存するための知恵として誕生した日本各地に独特の漬物があるのも特徴だ

納豆日本で発展した発酵食品である納豆大豆を納豆菌で発酵させた食品で寺納豆(下記参照)と区別するため「糸引き納豆」とも呼ばれる単品で食べるだけではなく納豆汁や納豆和えなどにも使われている

塩辛魚介類の身や内臓を塩漬けにし発酵させて作られた塩辛は日本における伝統的な保存食品のひとつ使われる素材はその地域によって変わりイカやエビアミタコなど多彩な種類の塩辛が存在する

塩に漬けた魚と炊いたご飯を数日間置き乳酸発酵させたなれずしは魚を保存する知恵として生まれた滋賀県では琵琶湖産のふなを和歌山県や富山県ではサバを岐阜県などではアユを材料にしたものが有名写真は滋賀県湖北地方の年頭の祭りで振る舞われる鯖のなれずし

砂糖世界的に見ても「甘み」を用いた料理が多い現在の和食では砂糖は欠かせない調味料のひとつ単独で料理に使われるというよりは煮物をはじめとするさまざまな料理で醤油や塩味噌などと併用されることが多い

寺納豆茹でた大豆にこうじを加えて発酵させ乾燥させながら熟成を促す発酵食品粘り気のある糸引き納豆とは異なり乾燥して塩辛い禅宗の伝来とともに大陸からもたらされたとされ寺院で作ることが多かったため「寺納豆」と呼ばれた

2526 WASHOKU

「和食」の特徴5

栄養

栄養バランスの優等生「和食」

野菜や魚肉そして米によって構成される「和食」は

栄養バランスの良さでも知られている

最近は五日間すべてを米飯にする完全米飯給食を行う地域も生まれた

和食の特徴のひとつである栄養についてその秘密に迫る

米麦雑穀などを炊いたご飯

を主食としてこれに魚介肉

類野菜類に発酵調味料だしを

組み合わせた和食は栄養学的

にみてもバランスをとりやすい

食事である

歴史的にみると日常食では

主食を大量に摂る習慣が続いた

穀類偏重の食生活だったといえ

よう

しかし豆腐や納豆みそ汁な

どを飯とともに摂ることで米の

アミノ酸の利用率を上げる食べ

方年中行事などハレの日に魚

介類などを摂取して楽しむなど

学ぶべき知恵は多い

なかでも何百年も伝えられて

きた和食の基本型はすぐれた

ものといえよう

副食の主菜には魚肉豆腐

などタンパク質を多く含む料理

を考える副菜には主菜に使わ

なかった野菜芋類などを使い

汁は主菜に合うものを用意する

焼き魚野菜の煮物青菜のお浸

しとみそ汁などでも栄養的バ

ランスはとれている

1980年頃までは多くの

家庭で和食の基本型が続いた

主食の量がやや減り副食が増

加とくに乳乳製品肉類の割

合が増加したこの頃栄養バ

ランスをはかる一つの指標であ

るPFCバランスが理想的な比

率を示した(左記参照)

しかしその後外食の日常化

家庭料理の欧米化が進み米の

摂取量が激減し脂質摂取の過

多などから生活習慣病が問題

となったこうした中各地で

食生活を見直す動きがみられる

ようになったその一つが学校

給食での取り組みである

戦後の食料難の中でパンと

牛乳に副食を加えた完全給食は

1950年に始まった197

6年に米飯が導入されるまで長

く続いたパン給食は和食の基

本型にも影響を与えたようだ

米飯給食は次第に増加し

2010年には週3回以上米

飯給食を実施している小中学

校は90以上となったが週5

回の米飯給食の実施は7以

上と高くない

ここでは2008年に5日

間すべてを米飯給食とした新潟

県三条市の事例を紹介しよう

成長期にバランスのよい食事

で健康な体をつくることそし

て望ましい食習慣を身につけ

生涯を健康に生きることをめざ

し完全米飯給食を実施したと

のこと

米は同市で生産される農薬

を減らしたコシヒカリを七分搗つ

きにした米飯を主食に副食は

主菜副菜汁を組み合わせる献

立をベースとしている主菜は

サケのフライ鶏肉ピリ辛焼き

さんま梅煮など伝統的な和食だ

けではないが和食の基本型の

中に取り入れる工夫がされてい

るパ

ンは油脂や糖分と相性が

良く肥満につながりやすいが

新潟県三条市の給食献立一例三条市の小中学校での献立例ご飯は三条市で収穫したコシヒカリを使用「お米だと腹持ちがよいのでデザートをあまり出さなくとも子どもたちが満足してくれる」とのこと洋風や中華風の献立でもおかずはご飯に合うものを選びスープなどの汁物は確実につけるように心がけている

火曜日

えだまめごはん

さけチーズフライ

くきわかめきんぴら

かきたまじる牛乳

小学校687kcal中学校823kcal

水曜日

ごはんとりにくのぴりからやきいかときゅうりの

あえものしょうがみそスープ牛乳小学校639kcal中学校752kcal

木曜日

ごはんさんまうめにたくあんあえにくじゃがに牛乳なし小学校688kcal中学校814kcal

金曜日ごはんカレーふりかけほうれんそうオムレツフレンチサラダパンプキンスープ牛乳小学校708kcal中学校833kcal

月曜日

ごはんいかのかりんあげ(2こ)

なっとうあえきのこけんちんじるのむヨーグルト

小学校619kcal中学校731kcal

2526 WASHOKU

七分搗米の飯は腹持ちがよく

おやつを食べる子どもが減った

だけでなく肥満の子どもが減

少傾向となり食生活のリズム

が良くなったとされる

また米飯に合う副食は土地

でとれる野菜類を取り入れやす

く季節にあわせてバラエティ

ーに富んだ献立を作ることがで

きる一汁三菜の食べ方の教育

を行った結果給食を残す子ど

もたちも減ったという

基本的な食事パターンが続く

中でも菜を工夫すれば変化に

富む食事を作ることはできる

季節の食材について学び年中

行事への知識も得られるだろう

また子どもたちが和食の基

本型を毎日の給食で体験してい

ることはきわめて重要なことで

ある時々経験するだけでは身

につかないものでも毎日繰り返

すことによって習慣化し定着

するのであるそしてやがて

自分で組み合わせを考えられる

ようになることが期待される

今後の学校給食の役割は大きい

といえるだろう

PFCバランスとは

FAO Statistics Yearbook(日本のみ食料需給表)参照栄養バランスが良いとされるP(たんぱく質)10~20F(脂質)20~30C(炭水化物)50~70の範囲が08~12に収まるように指数化した

日本でのPFCバランスの変化

アメリカとフランスのPFCバランス

タンパク質脂質炭水化物は人間にとって特に不可欠な「三大栄養素」PFCのPはProtein(たんぱく質)FはFat(脂質)CはCarbohydrate(炭水化物)の頭文字でPFCバランスとは食事の中での「たんぱく質」「脂質」「炭水化物」のそれぞれの摂取カロリーの比率健康的な生活をおくるためにはPFCバランスがたんぱく質15脂質25炭水化物60が理想的

給食時には全員で「いただきます」「ごちそうさま」を復唱食育にも力を入れているためそれら言葉の意味についても学校で教えている

米飯給食になってから児童たちの食の嗜し こ う

好に変化が生まれたとか児童たちに好きなおかずを聞いてみると「ハンバーグ」「カレー」などの定番メニューのほか「焼き魚」「納豆」などの和食メニューの名前が上がった

自分の分を食べ終わった児童たちが列をつくって競い合うようにご飯をおかわりしていたこの日の食べ残しはゼロ

C

P

F

14

12

1

08

06

アメリカ(2005~2007年)

C

P

F

14

12

1

08

06

フランス(2005~2007年)

「和食」の特徴 栄養5

日本人のPFCバランスは1965年当時は炭水化物に偏っていたが1980年は非常に理想的な配分になっていたしかしその後の日本人の食生活に肉や油脂類を多く摂り主食の米を食べる量が減り2010年時は欧米型に近づきつつある

C

P

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12

1

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06

日本1965年

C

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06

日本1980年

C

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14

12

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06

日本2010年

2728 WASHOKU

お客を迎える前には店先に打ち水を水で清め準備が整ったことを伝える趣向に合う軸を選ぶのももてなしの基本飾る花は主人自ら育てたものそれを床の花入に活けるのも主人庭に150種ほどの草花を植え日々育てることもしつらいの準備客は女将の温かいもてなしに迎えられる

「和食」の特徴6

しつらい

人をもてなすためのこころとかたち

もてなしは客に対する一方的なサービスではない

お互いに思いやる気持ちから生まれるこころよさである

手入れの行き届いた庭は掃き

清めて水を打ち床の間には軸

を掛け季節の草花を生ける

座敷の襖ふ

すま

も夏には葭よ

しど戸に入れ替

え夏は涼やかに冬は暖かに

すべて相まってもてなしのた

めの用意を整えることそれが

しつらい和食とりわけ懐石

料理においては食材や料理と

ともにしつらいは非常に重要

な要素となる

家庭でも食事をつくる人は

食べる人の顔を思い浮かべなが

ら食事の用意をする食べる人

はつくってくれた人の気持ちを

考えて賞味するここに互いに

もてなす喜びが生まれるのでは

ないだろうか

こうしたもてなしの文化を極

限にまで洗練させた姿が料亭の

もてなしである京都府の無形

文化技術保持者に料理人として

初めて認定された京都の老舗料

亭「瓢亭」の十四代主人高橋英一

さんにその心を聞いてみよう

「料亭は日本文化の凝縮のひと

つと言えます玄関から入って

座敷に行くまでに通る露地にも

季節感があり部屋に入れば時

季や行事の軸がありその座敷

のために選んだ花が飾られる

日本人が自然と身につけている

桜の器を使うことで膳の上にぱっと花が咲くような華やかさが生まれるあしらいは酢取り防風岩海苔

秋の花菊の器はこっくり深い色合いも相まって秋に似合う風情を持つあしらいは岩茸菊花

深さのあるガラスの器に氷が敷き詰められる涼感を目でも舌にも感じるあしらいは穂紫蘇寄せ莫大

縁起のいい鶴は新年の席でも使われるモチーフあしらいは水前寺海苔紫芽紫蘇

四季の感性で受け止めてもらえ

るよう整えお出迎えします

料亭は普段とは違うハレの場で

すがとはいえ行き過ぎず足り

ないことのないよう自然なし

つらいそしてもてなしを心が

けます」

「瓢亭」の座敷に飾られるのは

主人が庭で丹誠込めて育て自

ら生ける茶花

「もてなしの根

底に利休さんの『花は野にある

ごとく』の言葉を思いますが簡

単なようでそれが難しい」自

然体でのもてなしを生むしつら

えは名店においても日々心を

くだき工夫するのだ

「瓢亭」では1年をとおして明石の鯛の向付を供しているが季節ごとに

器とあしらいを変えることで四季を演出している

四季の演出

2728 WASHOKU

和食はご飯と菜あるいはご飯とお汁というように常にご飯を間にはさんで菜や汁をとるのが本来の食べ方下のような不作法とされる箸使い(嫌い箸)があるので覚えておきたい

ご飯は茶碗に味噌汁はお椀

に焼き魚だったら平皿にと普

段料理に合わせて何気なく使う

食器種類の多さもさることな

がら形や素材もさまざま欧

米はもちろん近隣諸国を見回

してもこれほど多種多様な器を

使う国はないそれは四季が明

確なことと無関係ではない

「自宅でも季節に合わせた器

にするだけで気分が変わりま

すよ」と前出「瓢亭」のご主人は

語る 

春であれば華やかな色や形の

もの夏はガラスや青磁など涼

しげな素材の器秋は実りのあ

る彩りがあるもの冬は厚手の

陶器や木製など温もりのあるも

の色素材形を変えるだけで

季節感を演出できる「和食」な

らではの楽しみ

食事の際当たり前のように

使っている箸も日本の食文化

を代表する食具奈良時代以

降匙さ

を使う伝統が消え箸だ

けを使うようになったため熱

い汁物は椀を持ち直接口を

つけてすする文化が確立同

時に椀箸ともに個人所有が基

本となった椀や箸を共有し

匙やレンゲを使うほかの東南

アジア諸国とは異なる食文化

を形成箸食文化圏の中でも

唯一箸だけでご飯を食べる国

となったまた一口に箸といっ

ても食箸取り箸菜箸など用

途に合わせてさまざま食べ

る際に使う食箸だけを見ても

形や素材のほか加工や長さも

豊富にそろうのだ

「和食」の特徴7

箸と椀

「和食」を支える箸と椀

箸食文化圏の中でも唯一箸だけを使う国日本

季節感を感じさせる器とともに独特の食具文化も誇る

渡し箸食事の途中でお箸を

食器の上に渡し置くこと

寄せ箸遠くの食器を

箸で手元に引き寄せる行為

指し箸食事中箸で人やものを指すこと

迷い箸どの料理にしようか迷い箸を料理の上で動かすこと

移り箸いったん取りかけてから

ほかの料理にお箸をうつすこと

箸には食事に使う食箸と調理に使う菜箸とがある菜箸は熱から手を守るため30~50と長く片方がなくならないよう糸でつながっているものもある取り箸は菜箸の一種食箸は個人所有が基本のため使う人に合わせた長さが用意されている漆塗りや螺鈿細工を施したものも多い

種類

形状だけでなく素材もさまざまで近年は黒檀や鉄木など硬質な木が使われることが多い日本の木としては特有の香りがあり古くから懐石用や割り箸に使われてきた杉耐水性耐湿性が高く保存性に優れる上に軽くて持ちやすい檜強くしなりがあり細かいものを取りやすい竹などがある

素材

家庭で使う食箸の形には角箸や四角で角が丸い胴張り五角六角七角八角のほか削りなどがあり持ちやすさに合わせて選べる箸先に加工が施されたものもある来客用に使う銘々箸や割り箸には断面が小判型で割れ目と溝が付いた元禄箸や中央部が太く両端が細い利休箸などが用意されている

日本人にとっての箸は調理から盛りつけ食事までをこなす大事な道具食箸は個人所有が基本のため個々に合わせて選べるのも特徴だ

箸の働き

箸使いの作法を知る

【嫌い箸】

食箸

八角箸 削り箸

菜箸

檜竹

「和食」の特徴 しつらい 箸と椀6 7

2930 WASHOKU

神し ん せ ん

饌として神へ供えられるお神酒は神棚の最上段の中央に置かれるほど重要な地位を占めている

日本酒を造る酒蔵は全国に約1600弱その数は年々減り続けているが数年に一度「日本酒ブーム」も起きている

日本酒とは米と米こうじ

そして水を主な原料にしてそ

れらを発酵させて造られる

原料には主食用の米ではなく

酒造りに適した性質を選び品

種改良された酒し

ゅぞうこうてきまい

造好適米を使

うことが一般的だまた日本

酒の80を占める水も品質を

左右する大きな要因日本酒

の香味を損なわない良質な水

が必須だ

日本酒の醸じ

ょうぞう造の工程にはさ

まざまな技術が伴う例えば米

を精米して味と香りを調整する

技術これは米の外側にあるた

んぱく質や脂質といった雑味の

もとを除くことが目的だが大だ

吟ぎんじょう醸酒にもなると米を半分以

上削ってから仕込むこともある

次いで米を発酵させる技術

酒の場合の発酵とは酵こ

うぼ母が糖類

を食べてアルコールを出すこと

をいうが米には糖類が含まれな

いためまずは米をこうじ菌の酵

素によって糖類へと変えそこに

酵母を加えて発酵させるという

複雑な手順(複式発酵)が必要だ

この手順で使われるこうじもバ

ラこうじと呼ばれる日本独特の

ものだバラこうじは糖化力が

高いのが特徴で日本酒の香りや

味に大きく影響する

稲作を中心に文化を育んでき

た日本では米餅米から造ら

れる酒は地域を問わず重要な

ものとされている米の一粒一

粒に神が宿り同じように酒も

神のおかげで造ることができる

と考えられてきたそして酒

もまた食べ物と共に神に近づ

くための手段として古くから用

いられてきた

同時に家族や親族地域で人

と人をつなぐ上でも酒は大き

な役割を担っている例えばお

神み

き酒祭礼の後には神の酒を

人々が口にする神と同じ酒を

飲みそれを人々が分かち合う

ことで地域やコミュニティが

結束力を強めるのだろう

米や麦やさつまいもなどを原

料とする焼酎も日本酒と並び

日本の國酒とされている酒は

人と人の心をほぐし食事を引

き立たせる重要な役割を担って

いるのだ

「和食」の特徴8

「和食」を引き立たせ

心をほぐす日本の酒

日本人にとっての主食であり精神のかなめでもある米

その米で醸か

される日本酒は「和食」にとって欠かせない要素

日本の「國こ

くしゅ酒

」にもなっている

2930 WASHOKU

「和食」の特徴9

和菓子日本茶

暮らしに寄り添う和菓子とお茶

自然の恵みに感謝し季節の移ろいを敏感に表現する和菓子

日本茶は喉のかわきを癒すだけでなく心を癒し心を高める飲みものである

「和食」の特徴 酒 和菓子8 9

ハレの日の願いを込めた和菓子

和菓子分類餅もの 餅団子大福など蒸しもの 饅頭蒸羊

よ う か ん

羹外う い ろ う

郎村む ら さ め

雨など煉もの 煉

ね り き り

切こなし求ぎ ゅ う ひ

肥飴葛く ず

菓子など焼きもの 味噌松風煎

せ ん べ い

餅桃も も や ま

山カステラどら焼など流しもの 錦

にしきだま

玉煉ね り よ う か ん

羊羹水み ず よ う か ん

羊羹など揚げもの 揚げ煎

せ ん べ い

餅かりんとうなど打ちもの(押しもの) 落

ら く が ん

雁など岡もの 最

も な か

中きんとん鹿か の こ

の子すはまなどかけもの 金

こ ん ぺ い と う

平糖五ご し き ま め

色豆石いしごろも

衣など

これは和菓子の製法によって大まかに分類した表このほか含有する水分量によって生菓子半生 菓 子 干 菓 子などの分け方や上じ ょ う な ま が し

生菓子並菓子駄だ が し

菓子などの分類もある

「岡もの」とはすでにできあがっ た素材をあわせたもの (例きんとん=飴玉とそぼろ餡)

甘く味付けしたごぼうと白味噌餡を赤や白の餅や求

ぎ ゅ う ひ

肥で包んだ生菓子平安時代の新年行事のひとつで長寿を願っておこなわれた「歯固め」の餅に由来する餅と味噌の組み合わせから「包み雑煮」とも呼ばれた

葩はなびらもち

一 月

旧暦十月は「亥の月」と呼ばれていたがその月のさらに「亥の日」に行われる年中行事の際に食べられていた菓子旧暦では10月が冬の始まりそのタイミングで無病息災と多産の猪にあやかって子孫繁栄を願ってこれを食べていたという

亥い の こ も ち

の子餅

十 月六 月

白いういろうの上に小豆の粒餡を散らした菓子古来京都で旧暦六月の晦

み そ か

日(30日)に無病息災を祈願して行われている

「夏なごしのはらい

越祓」になぞらえて初夏の頃に食べられている小豆には邪気祓いの意味があり三角の形は氷を表している

水無月

五 月

平たく丸めた上新粉の餅をふたつに折り中に小豆や味噌の餡を挟んでそれを柏の葉で包んだ菓子柏の葉は新芽が育つまで古い葉が落ちないことから

「子孫繁栄」を願って旧暦五月五日の端

た ん ご

午の節句の供く も つ

物として用いられてきた

柏餅

日本ならではのお茶の製法である手揉みは茶葉の繊維をつぶしながらうまみを引き出すために行う作業手揉みすると茶葉が切れないため茶の甘みを保つことができる

菓子もまた「和食」にとって欠

かせない要素でお客様用の「上

菓子」普段食べる「饅頭」や「餅

菓子」などに分かれるほかに

干菓子や駄菓子など菓子の種

類は多いまた例えば団子や

大福などは「餅もの」求肥や飴

などは「煉りもの」錦玉や

水みずようかん

羊羹などは「流しもの」などと

いうようにその製法によって

分類されることもある米や麦

小豆を代表とする豆類そして

砂糖や水あめなどの材料でバ

ラエティに富んだ菓子が生み出

されてきた

お茶会などの席で抹茶ととも

に味わう菓子もあり季節に合

わせて材料や色やデザインが選

ばれ味覚だけでなく視覚で楽

しむこともある

また年中行事と結びつく菓

子もある例えば旧暦三月三日

の「ひな祭り」では邪気をはら

い強い生命力を象徴するよも

ぎの草もちでつくった草餅を食

べる

和菓子には日本茶がふさわし

い緑茶は12世紀に中国から日

本に伝わったが今では生の茶

葉を蒸してから揉んで乾燥させ

る緑茶の製法は日本独特のもの

となっている緑茶に含まれる

カフェインは覚醒効果がまた

カテキンには抗酸化作用があり

ビタミンCも多く含まれて健

康によい日本茶独特の香りと

うま味は日本文化そのもので

ある

出典「和菓子の歴史展」第五十回虎屋文庫資料展より

3132 WASHOKU

日本の「和食」の文化は自然

環境だけでなく海外からの影

響によっても絶えず変化して

きた

近代以降にはコロッケとん

かつなど洋風料理を和食の基本

型に組み合わせた食事肉と野

菜の煮物や和え物などそれまで

にはない料理が工夫されたそ

の多くは和食の基本型味噌や

醤油を用いた味付け箸で食べ

られる料理など「和食」の要素

を保ちつつ伝えられてきた

しかし第二次世界大戦後高

度経済成長期を迎えると日本人

の食生活は急速に変化する

1970年代にファストフー

ド店ファミリーレストランが

各地に開店しコンビニなども

広がった

1980年頃主食と副食の

バランスは理想的とされたが

(26頁参照)その後米の消費量

はさらに減りパン食が増加

肉類油脂乳乳製品の消費量

も増加し食料自給率も下がっ

た家族での外食が日常化し

家庭の食事も欧米化した

食育の必要性

「和食」が危ないどうしたら伝えられるのか

この150年間で大きく変化し「和食」はいま衰えつつあるその原因はどこにあるのだろうか

食生活の変化

日本の食料自給率の変化農林水産省「食料需給表」より作成

日本のものを食べなくなって 「和食」はどうなる 日本の食料自給率は下がり続けている1965(昭和40)年度はカロリーベースで73だったが2012(平成24)年度は39その大きな原因のひとつは国内で自給可能な米や魚や野菜などの消費量が減少する一方国内で生産が困難な飼料穀物を食べて育つ畜産物や原料を輸入に頼ることが多い冷凍加工食品や小麦の消費が増加したことだと考えられている炭水化物たんぱく質脂肪分をバランスよく摂取する健康的な「和食」に未来はあるのか

国民一人一日当たりの供給純食料農林水産省「食料需給表」より作成

食べる米の量が50年で半減 増えたのは肉と乳製品 国民一人あたりが食べる量を品目別に眺めて分かることそれは日本人が食べる米の量が著しく減ってきたことだ1960(昭和35)年度は一日あたりの米の消費量は約315gだったが2010(平成22年)年度は163gに約半減その代わりに増えたのは牛乳乳製品(約60gから約240g)と肉類(約14gから約80gへ)野菜と魚を中心としたおかずでご飯を食べるという

「和食」のスタイルの変化がわかる

食料費における外食と中食の割合の推移総務省統計局「家計調査年報」より作成

家で食べても 調理することが減っている 外食に対して家庭で作って食べる食事を内食というが弁当や惣菜など調理をせずに食べられるものを買ってきて済ます食事は中食と呼ぶ実はこの中食の割合が増えている外食が占める割合は2000(平成12)年以降横ばいなのに対して中食は増え続けその代わりに内食が減っている食事は家で食べても調理はしないという家庭が増えているのだとすれば「和食」にとって大切な要素を子どもたちに伝える機会が減っているとはいえないだろか

食料自給率(金額ベース)

食料自給率(主食用穀物)

食料自給率(カロリーベース)飼料自給率

米 野菜 肉類牛乳乳製品 魚介類

内食 中食 外食

(g人日)

3132 WASHOKU

50

55

60

65

70

75

01992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012

70

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01992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012

一日に一度はお米を食べないと気がすまない人の割合博報堂生活総研「生活定点2012」

お正月におせち料理を食べた人の割合博報堂生活総研「生活定点2012」

一日に一度は米を炊いたご飯を食べなければ気がすまない人の割合が実はこの20年間で減っているというデータがある1992(平成4)年には714だったが2012(平成24)年には564にまで落ち込んでいるのだ

家族や親族で集まっておせち料理を囲みながら新しい一年の無事を祝うお正月実はおせち料理を食べる人も毎年少なくなっている1992(平成4)年には866だったが2012(平成24)年には748だった

電子レンジの普及や冷凍食品

インスタント食品などにより

食生活は便利になったが家庭

内で調理をする機会が減ったと

もいえる

こうしたなか「和食」の優れ

た点をどうしたら伝えられるの

だろうか親から子へ家庭の食

を伝えるだけでなく学校を通

して子どもたちにさらにその

親の世代にも伝える必要があろ

う高齢者からは「和食」につ

いて具体的に教わることも求

められる

離乳期からの食べ物の選び方

幼児期の食経験を豊富にするこ

となどはとくに重要であろう

小さな頃からの食習慣はその

後の食習慣に大きくかかわって

くるからだ

だしのおいしい味を日々体験

することや魚を味わい骨を箸

でとる訓練を楽しい雰囲気のな

かで教わることなどその積み

重ねの中で「和食」は伝わるので

あろう

経験しない味は異文化とと

らえられるであろうし体験し

ていない調理は簡単でも難しく

感じる食事を用意する過程を

日々見る経験手伝う楽しさ美

しい食器を大切にして使うこと

同じ食べ物を家族や仲間と味わ

い祭りや花見などで共に食べ

る経験を積み重ねることは文

化としての「和食」を伝えるだけ

でなく生きる力を育むことにも

つながるであろう

壁にではなく居間に向かって設置されることが多くなった現在のキッチン夫婦共働きだというこの家庭では夫が厨房に立つことも少なくないというこのように食事の準備を子どもと一緒に行うことで「和食」にとって大切な要素が次の世代に伝えられるようになるのだろう

世帯あたり1ヶ月間の穀類支出金額内訳

1962年3434円

パン

麺他

2010年6373円

パン

麺他

ご飯を食べなくても平気 そんな人が増えている

お米よりパンと麺 その傾向が加速中

おせち料理を食べる派が 毎年ジワリ減少中

1962(昭和37)年度には8割以上を占めていた米への支出が2010(平成22)年度にはパンにとって代わられる米の消費量はパンより多いが家庭では炊飯する必要のある米よりすぐに食べられるパンや麺の支出が多くなり家庭での料理が減っていることを示しているともいえよう

総務省統計局「家計調査年報」より作成

いただきます

ごちそうさま

「和食」の未来

今世紀に入ってから世界に和食ブー

ムが起きている味わいやヘルシーさに

注目が集まり世界中のいたるところに

日本食の店が数多くある

そのように世界から注目される「和食」

だが本家本元の日本国内でその将来が

危ぶまれている

これまで見てきたように「和食」には

新しいものを柔軟に取り込む歴史があっ

た日本人は太古の昔より外国からも

たらされた食文化を自分たちの食生活に

取り込んで日本独自の食文化を発展さ

せてきた地域ごとに地域の環境にふさ

わしい料理をつくり出してきた食べる

料理や食べ方もその時代ごと地域ごと

に変わってきた

その中で貫かれてきたことがある

豊かな自然がもたらす食材のおいしさ

を生かす調理法を工夫し味わうこと

食卓に季節感をしつらえもてなしの気

持ちを共に感じ合う食事の場を持つこ

と一汁三菜という組み合わせを食事

の基本スタイルとして健康的な食生活

をおくることお正月におせち料理を

祝いの日にお赤飯を家族と共に食べる

など食事は家族の絆となっている

豊かな自然を守る気持ちと同じように

日本人を健やかに生かし人と人をつな

いできた「和食」もまた守るべき大切な

日本文化ではないだろうか

「いただきます」「ごちそうさま」と言っ

てみるだけでも「和食」は私たちに身近

になる人と人をあたたかく結びつけて

くれる

日本人はやはりお米のご飯がおいしい

と思うだしのきいた汁でおなかも心も

癒されるこの日本人が長い歴史の中で

育んできたすばらしい財産である「和

食」がこのままなくなってよいと考える

人はいないだろう世界の中でもすぐれ

た食文化として認められた「和食」を日本

の誇りとし大切にして次の世代に受け

継いでいくきっかけにこの冊子がなれ

ば幸いである

ごちそうさま

和 食

34 WASHOKU

海外の食材や料理調理方法を

積極的に取り入れその内容を

変化させてきた

明治時代の積極的な西洋文

化の導入により「和食」はさ

らなる変化をとげた肉食へ

のタブーが解けて肉とじゃが

いもを煮込み醤油で味付けし

た肉じゃがすき焼きカレー

ライスとんかつなどいわゆる

和わようせっちゅう

洋折衷料理も生まれたこれ

も新しい「和食」の伝統である

ところがいま日本人の食生

活はかつてないほどのスピード

で変化している欧米化など多

様な食のスタイルが生まれ食

に無関心な人々の増加家庭内

での料理の減少などにより文

化としての「和食」を伝承する力

が薄れている

だからこそ改めて「和食」と

はなにかを見直すときなのかも

しれない

では「和食」とはどんな要素

によって構成されているのだ

ろうか

ひとつは「食材」四季が明確

で雨が多い温帯に属する日本

その気候を生かして収穫される

農作物は稲を中心に野菜や山

菜きのこなど多彩だ

また日本は黒潮と親潮がぶ

つかることで豊かな漁場となる

海に囲まれているそのため魚

種が多く地域性豊かな魚食文

化が育まれてきた同じ漁業大

国であるノルウェーの総漁獲高

の9割は8魚種で占められるの

に対し日本の場合28魚種にも

上ることからもいかに魚種が

多いかがわかるまた魚の消費

量はアメリカの約2倍以上に

もあたる年間1人あたり約57

で世界で6番目海からの恵

みが和食の重要な食材であるこ

とがよくわかる

2つめは「料理」水を豊富に

使えることで発達した蒸す茹

でる煮るなどの調理法や種類

豊富な魚を処理するのに適した

包丁などの調理器具そして野

菜と魚介中心の食事をおいしく

食べるために工夫されただし

(出汁)などが「和食」の料理を

支えている

3つめは「栄養」和食は比較

的低カロリーで各種の栄養素

をバランスよく摂取しやすい

そして4つめは「もてなし」

お客様を大切に迎える心持ちは

単なる客に対するサービスだけ

ではない料理を味わい床の間

のしつらいや食器などを鑑賞す

ることで客も主人をねぎらうの

である「いただきます」「ごちそ

うさま」と感謝することからも

てなす側も満ち足りた心になる

箸づかいやふるまい季節や

思いを演出するしつらいとそ

れを鑑賞する態度食事のマナ

ーや食の場に施された趣向を理

解し互いを思いやる心が「和

食」の精神である

もてなし

もてなしとは単なる主人から客へのサービスではなく食べる側にとっての食の場のふるまい全体をも含む例えば食空間におけるしつらいや料理や器に忍ばせた趣向も食べる人がそれと気づくことが主人へのもてなしとなるまさに日本文化の中で「和食」が最たるものであるといえよう

栄養

動物性脂質が少ない伝統的な和食は主食主菜副菜がそろい生活に必要なエネルギーと健康的な生活を送るために理想的な栄養バランスを確保している主食と副食を交互に口の中で調和させながら食べるのは和食独特の食べ方であるうま味を大切にすることで塩分やカロリーのコントロールができる

和食を構成する

4つの要素とは

56 WASHOKU

「あえのこと」が伝わるのは石川県の奥能登地域(輪島市珠洲市穴水町能登町)12月から翌年の2月までldquo田の神様rdquoを家に招き入れ春まで家で過ごしてもらうldquo田の神様rdquoは夫婦二神とされ料理を乗せた神膳はもとより盃や箸など祭礼で使う道具を二組ずつ用意するのがしきたり人々は能登近郊で獲れた食材でldquo田の神様rdquoをもてなす供えられるのは小豆ご飯たら汁大根はちめ甘酒などこれは行事が終わったあと子供たちに食べさせるものでもあった国の重要無形民俗文化財に指定されさらにユネスコの無形文化遺産保護条約代表一覧表に記載された

自然は豊かな恵みだけでなく

ときに厳しさをもたらす風土

が持つ地理的あるいは気候的

な環境を受け入れ日本人は自

然と深く関わって生きてきた

1「和食」の精神性

いまほど科学や技術が発達し

ていなかった時代自然は大き

な存在で人はそこに神を感じ

豊作大漁を祈り収穫の喜びと

感謝は祭りとなった食の恵み

をもたらす自然を尊重する『精

神性』を育んできた

2「和食」の社会性

ふだんの家族の食卓や祝い事

村や町の共同体での祭りや年中

行事自然の恵みを皆で共に食

べるなかで「和食」は継承され

てきた団らんや寄り合い打

ち上げなど「和食」は社会の要

の役割を果たしている

3「和食」の機能性

もちろん食には人が生きる

糧という『機能性』もある米を

中心に野菜魚介類海藻など自

「和食」が日本文化

である理由

rdquo自然ldquoと共にある暮らしが生んだ

四季折々あるいは地域ごとに異なる表情を見せる

自然に寄り添い日本人はそれぞれの食文化をつくりあげた

「和食」がなぜ文化であるのかその理由を探しにでかける

自然と共にある暮らし奥能登のldquoあえのことrdquo

56 WASHOKU

然の恵みをふんだんに使う「和

食」は見事な栄養バランスを持

つ健康的な食文化であるまた

ハレの日の料理には健康長寿

の願いをかけるという「機能」も

ある

4「和食」の地域性

そして多様な『地域性』地

理や気候が各地で異なる日本は

地域ごとに多様な食文化を築い

てきた北海道から沖縄にいた

るまで近世までは各地域が食

材を自給自足しそれぞれに特

徴のある食文化を営んできた

つまり「和食」は日本の地方文

化の象徴である

ここで例として見るのは石

川県奥能登に伝わる「あえのこ

と」これはrdquo田の神様ldquoに一年

の収穫を感謝する農耕儀礼

「あえ=もてなし」「こと=祭

り」を意味し冬から春にかけ

てrdquo田の神様ldquoを家に招き入れ

てもてなす能登の豊かな山

里海の恵みが捧げられる

もう一例は青森県下北半島

にある佐井村の食

長い冬に野菜や山菜などの

保存食を多用する食習慣が育ま

れいまでもその伝統が色濃く

残り独特の郷土料理が受け継

がれている正月にはこの土地

ならではのおせち料理を食べ

無病息災を願う

自然と共にある暮らしが日

本のさまざまな地域で独自の

料理と食習慣を育み「和食」を

かたちづくっているのがわかる

自然と共にある暮らし青森県の場合

東北地方全般に自生する山菜ミズこれはミズを茹でてアクを抜き蒸しサザエとともに昆布だしに浸す「ミズの水あえ」山と海の幸が一品の中で共存する点が興味深い海と山との距離が近い西津軽地方の郷土料理だが山の幸と海の幸がひとつの料理に盛り込まれる

4 地域性津軽地方で小正月などに七草粥の代わりに食べられている汁物一般的な春の七草は冬の青森では採れないため大根やにんじんなど冬の根菜のほかはわらびやぜんまいそして凍み豆腐など保存性の高い食材を多用して厳しい冬の正月に彩りを添えたそこには無病息災への願いが込められている

3 機能性青森県下北半島の突端に位置する人口約2500人の佐井村で毎年9月に開催される箭根森八幡宮例大祭では3日間の祭りの最中は どの家も玄関を開放してどんな客でも招き入れて盃を酌み交わす村中に神が降りて来るこの3日間は人々は平等に食事を囲み絆を固める

2 社会性この地域では家族全員が協力しながらひと冬分の「寒干し大根」づくりに励む大根を一度茹で冷たい清水にさらしてから寒風に当てて乾かすという工程は厳しい冬に対してあらがおうとせず寒さをうまく利用して自然と共に生きるという精神性が育んだ暮らしの知恵だ

1 精神性

寒干し

団らん

けの汁

ミズの水あえ

「和食」が日本文化である理由

1

3

2

4

78 WASHOKU

1

自然の尊重

自然の尊重から「和食」は始まり

いまここにある

豊かな自然なかでも清涼な水に支えられて

「和食」は食材に恵まれ調理方法箸しつらいなどを育んできた

それゆえ季節感を感じ自然を尊重する精神を忘れないのだ

京都市上京区の梨木神社(なしのきじんじゃ)に湧く「染井の井戸」は今でもldquo名水rdquoとして地元の人々から親しまれている湧き水日本各地で川の水のみならず湧き水や井戸水の恵みを受けてそれに感謝して暮らしてきた

78 WASHOKU

大自然が育む恵みが豊かな

日本では古くから自然を崇

拝し尊重する精神を育んでき

た日本各地で季節ごとに豊

作豊漁を祈願する祭りをおこ

なってきたことも自然を敬う

精神の表れだ

春夏秋冬日本は世界に類

を見ないほど四季が明確で和

食にはその季節でしか味わえ

ない多種多様な旬の食材が取り

入れられる

料理を盛るための器もまたし

かり天然の樹脂である漆う

るし

を塗

る漆し

っき器は美しさと防虫効果

耐久性を高めるなどといった先

人の自然に対する知恵が生み出

した器である

また器使いやあしらいで季

節感を出すことやハレの席や

会席料理においては床の間に

季節の花を飾るなどしつらい

に四季を感じさせる工夫が施さ

れるも特筆すべき点だ

そして自然の恵みのひとつ

として大切なものが水である

水は信仰の対象でもあり日

本の食文化を形成する上で重要

な役割を果たしてきた

国内の平均雨量は1800

と多く飲料として使える水が

豊富なのに加え水が地下に滞

留する時間が短くミネラル分

をあまり含まないそのため欧

米など大陸の硬水とは違い軟

水(WHO基準でカルシウムと

マグネシウムの量が120

L未満)であることも「和食」

に大きな影響を与えている

口当たりがやわらかくまろ

やかな軟水をふんだんに使った

調理方法や食材そのものの味

を生かす料理が発達してきた

例えば豆腐木綿豆腐や絹

ごし豆腐といった一般的な日本

の豆腐はたくさんの水を使っ

てつくられるため水の善し悪

しが味に関わってくる

炊飯も水で何度か米を洗い

適量の水を加えて炊くことで

芯のないふっくらとしたご飯に

炊き上がる

副菜であるお浸しのように茹

でた後に水で洗って絞ったり

水によってあくを抜いたりそ

ばのように一度茹でたものを水

で締めたり水をふんだんに使

う料理方法は独特で世界的に

見ても珍しい日本の水の性質

の良さが「和食」を支えている

また昆布や鰹節の持ち味を引

き出せる軟水だからこそだし

を使う調理が発達しただしに

よって自然の恵みである素材

そのものの持ち味をおいしくい

ただくことにもつながっている

のである

季節の移ろいを感じることが

「和食」の精神として息づいてい

る言い換えれば子どもの頃

から四季の感性が備わる日本人

にとっての食つまり「和食」と

は「自然の尊重」そのものなのだ

古くから食されている豆腐大豆の絞り汁を凝固剤で固めたのものだが日本の豆腐は水分を多く含み柔らかなのが特徴である味が淡泊な分製造工程における良質の水が味の決め手といわれる

豆腐

=

良質な水の活用

吹き寄せ

=

季節感を織り込む

「和食」は季節感がさまざまなかたちで織り込まれる吹き寄せという料理は季節の野菜銀杏きのこなどが塵取りに吹き寄せられた秋の風情を表現している

椀もの

=

木という素材使い

汁物を供する器はおおむね木製の椀薄く削った木地に布を巻きその上から漆

うるし

を塗った漆し っ き

器として全国で使われてきた木製なので熱い汁を注いでもその熱さを感じることなく手で持てるのも木という自然の素材ならではのよさだ

わさび

=

自然が持つ機能性

刺身の薬味としておなじみのわさびツンと尖ったその辛味は化学的にはアリルイソチオシアネートという揮発性の成分で強い抗菌殺菌作用があるため生魚を食べるときにその効果が発揮される自然がもたらす効果を駆使する「和食」ならではの知恵だ

豆腐

椀もの

吹き寄せ

わさび

「和食」が日本文化である理由 自然の尊重1

まろやかな軟水が

大きな影響を与える

910 WASHOKU

家族や親族で食卓を囲む日常

的なひとときは「いただきま

す」から始まる大切なコミュニ

ケーションの場みんなが顔を

合わせ食事をしながら日々感

じたことやその日の出来事を語

り合うことで家族の絆を強く

していくまた子どもたちに対

しては箸の持ち方や器の扱い

方といった「和食」ならではの食

の作法を伝えたり料理をとお

して味覚や栄養バランスなどを

教える大切な機会だともいえる

日常とは別に正月や節分大

晦日などの「年中行事」で普段と

は違うそのときならではの料理

をいただくその習慣もまた

家族や親族のつながりを強める

のに役立つまたそれぞれの

家ごとの味や伝統が親から子

へと受け継がれていくことにも

なる

家とは別に地域でつながる

年中行事もある

2

家族や地域を結ぶ

寄り合いが人をつなぐ

行事や祭りの食の役割

食事を共にするということを通して人はつながりを深くする

家族の食卓での団らん祝いごと地域の祭り年中行事

日本の伝統文化の中で食は人をつなぐ役割の中心にある

食を通して

人や地域とつながる

お正月に家族や親族で集まっておせち料理を囲む時間は地域や親族に伝わる食の伝統を次の世代へと受け継ぐ絶好の機会だまた下の写真は青森県西部の日本海沿岸に位置する深浦町でのひとこま

「深浦地産地消の会」ではいくつかの家族が集まって地域に古くから伝えられる郷土料理を教え合うという活動を続けている祖父母の世代しかその作り方を知らない料理を披露し郷土の伝統を次世代へ伝えようと尽力している

家族の食

910 WASHOKU

地域ごとで行う祭りの中でも

食は大切な要素である神社に

おける祭さ

いし祀の後には直な

おらい会と呼

ばれる飲食の儀礼も行われる

本来神への供く

もつ物やお神み

き酒を参

列者がいただくことで神と人

とが一体となり神の加護を期

待するという意味合いを持つ

今日では祭りの後の打ち上げ

という気分もあり祭りを終え

た後人と人とが酒を酌く

み交わ

すそれにより親密感が増し

共同体意識を高めているのだ

こうした打ち上げもまた食

を介した日本の文化といえる

祭りではなくとも食を中心

にして地域がつながるケースも

ある例えば秋になると山形

県や宮城県などで盛んに行われ

る芋煮会仲間や同僚地域の

人たちなどで声を掛け合い河

原に集まる季節の行事だ鍋の

内容は山形県の内陸部では里

芋と牛肉を具として入れた醤油

味が一般的一方宮城県では

里芋と豚肉を味噌で味付けて食

べるこのように地域によって

違いはあるが地元産の秋の食

材を入れ大きな鍋を囲むとい

う点では共通している一緒に

食べるだけでなく共同で鍋を

作ることで親交や結束がより

いっそう深まるのだろう

食をとおして家族や親族

そして地域やコミュニティが

結束力を強めるこれは「社会

性」という「和食」が持つ特徴の

ひとつだ

「和食」が日本文化である理由 家族や地域を結ぶ2

祭礼の中で食事を共にすることは祭りを担う人々の絆を固める大切な機会である下の写真は大阪府の祭りの様子この日に供されたのはハモと松茸のすき鍋水なすの漬物など一方で東北地方の宮城県や山形県で秋になると盛んに行われる

「芋煮会」(写真右)は地域だけでなく職場や親族友人どうしなどのコミュニティ単位で行われることが多い食材を持ち寄って鍋の準備を共に進めることで連帯感が高まるのだ

地域や祭りの食

1112 WASHOKU

おせち料理おせち料理の内容は地域によってさまざまこれは東京のおせち料理のひとつ重箱(手前)には健康を願う「黒豆」や子孫繁栄を願う「数の子」そして田の肥料としたことで豊作を祈願する意味を込めた「田作り」という「祝い肴三種」が盛り込まれている祝い肴にはその他紅白のかまぼこや長寿を祈願した海老の焼き物豊作を願ったたたきごぼうなどがあり地域によって異なっている酢の物(左の小さな重)や煮しめ(奥の大きな重)をおせち料理に供する家庭も多い

日本人の生活の中には特別

なrdquoハレの日ldquoがあるひとつは

正月などのように毎年同じ時期

にめぐってくる年中行事もう

ひとつは誕生や成人や結婚や還

暦など人生の節目にあたる日で

これを人生儀礼と呼ぶそして

ハレの日にはそれを食べるこ

とで「邪気や災厄をはらい健康

長寿を願う」という共通点があ

る一

年の始まりを祝うお正月は

「歳と

しがみ神さま」を各家庭で迎える

年に一度の大切な年中行事家

の入口に立てられる門松は神を

招くための目印で一年の幸せ

を願い家族が集まって食事を

共にするその際に供されるの

がおせち料理だ地域ごとにさ

まざまなバリエーションがある

のもおせち料理の特徴で酒し

ゅこう肴

3

健康長寿の願い

ハレの日の食事で

健康と長寿を願う

例えば全国各地でrdquo文化ldquoとして

色濃く残っているおせち料理

その内容には地域ごとにさまざまな

バリエーションがあるものの

共通しているのは

料理を食べることで健康長寿を

願うという点だ

1112 WASHOKU

お正月雑煮に合わせて飲むお屠蘇は銚ち ょ う し

子三つ重ねの盃盃を乗せる盃台これらを載せる盆で供されるもともとお屠蘇はいくつかの薬草を組み合わせた屠

と そ さ ん

蘇散を酒やみりんに浸して作る薬酒だった

お194679と そ蘇

魂の象徴である丸餅を入れた雑煮を食べるということは神の力をいただくことでもあったこれは京都でなじみ深い西京味噌で味付けした雑煮焼かずに煮た丸餅と昔から縁起物とされた頭

かしらいも

芋(里芋の親芋)が入るのが特徴だ

雑煮

赤い色の小豆は邪気と厄をはらいのけると信じられ祝い事の際には頻繁に登場したまたもち米を蒸して食べる習慣は古い日本の文化でもあって例えば赤飯はハレの食事として供されことにお祝いの席には欠かせない

赤飯一生食べることには苦労しないようにとの願いを込めて子どもの生後100日目に行う「お食い初め」の儀式では尾頭付きの鯛を含んだ一汁三菜の膳が供される丈夫な歯が生えることを願う「歯固めの石」も欠かせない

お食い初め

「和食」が日本文化である理由 健康長寿の願い3

を並べたスタイルもあれば煮

しめだけをおせちとする地域も

あるが神と食事を共にしつ

つ福を招き災いを打ちはらう

という願いが込められていると

いう点は共通している

同じくお正月に食べる雑煮は

そもそも武士にとって一番大切

で正式な酒の肴で正月には必

ず餅の入った雑煮とお194679と

そ蘇が

供されるそして鏡餅などの丸

い餅は神の魂の象徴「歯固め

餅」とも呼ばれ1月11日に鏡餅

を食べて歯が丈夫な長寿を願う

意味が込められている

食を囲み毎日を無事に過ご

すことを願う行事に五節句があ

る七草粥を食べる正月7日

(人じ

んじつ日)の他には邪気をはらう

と信じられていたヨモギ入りの

草餅を食べる3月3日(上じ

ょうし巳)

粽ちまきや柏餅を食べることで健康を

願った5月5日(端た

んご午)索さ

くべい餅と

呼ばれる細い麺を食べて無病を

願う7月7日(七し

ちせき夕)菊酒で不

老不死を願う9月9日(重ち

ょうよう陽)が

ある

人生儀礼に目を向ければ邪

気や厄をはらうと信じられてい

た赤飯は祝儀だけでなくお盆

などの仏事や葬儀の際にも食

べられてきた

体によいものを求めてきた

「和食」の伝統は結果として世

界でもまれにみる健康によい食

文化をつくりあげた健康で長

生きしたいという強い指向が

「和食」の根底にはある

北海道は各地から入ったお雑煮が混在する北海道特産のいくら鮭を使った「親子雑煮」を食べる家庭も多い

焼いた角餅に醤油味が一般的一部の地域では具に豆腐やゴボウなどが入りゴマだれやクルミだれに付けていただくこともある

鰹節でだしを取り醤油で味付けしたすまし汁に焼いた角餅を入れるのが一般的具には鶏肉こまつ菜かまぼこなどが入る

昆布でとっただしに白味噌で味付けし煮た丸餅を入れるすまし汁のところや元旦は白味噌2日目はすまし汁にする地域もある

1314 WASHOKU

「県出身ならあれ食べた

ことあるの」「お雑煮のお餅と

味付けは」hellip日本各地に伝

統的な料理や食材があり味付

けも地域ごとに異なる

気候や風土が異なると採れ

る食材や調理法は変化し地域

色豊かな和食が形づくられてき

たそんな多様性も和食の魅力

であり日本を旅するときの楽

しみのひとつでもあるはずだ

いまのように流通が盛んでな

く保存技術も進んでいなかっ

たころ食料を無駄なく存分に

そして安定的に味わうというこ

とは人々の重要な課題だった

そこで知恵を絞り工夫をこら

し考えられたのが食品の加工

や保存方法その知恵が結果的

に「和食」の多様性を生みだし

ていくことになるのだ

海から遠い土地では魚を長持

ちさせる知恵が生まれ冬が厳

しい北方では野菜を長期にわた

り保存する技が発展してきた

魚の干物餅梅干し凍み豆

腐helliphellipこれら保存食は昔から

ある加工食品だが同じく日本

古来の加工食品に発酵食品があ

る微生物の働きや酵素の力

で保存力や栄養価風味などが

加わった食品だ野菜の漬物も

このひとつ

例えば秋田県の郷土料理「い

ぶりがっこ」大根を囲炉裏の

4

「和食」の多様性

風土が多様性を生み

それが「和食」という地図を描く

南北に長くさまざまな気候を持つ日本だけに地域が持つ食文化は多様で

土地土地に伝わる郷土料理や加工保存技術が存在している

日本の食が描く地図は知れば知るほど面白い

風土の違いから生まれる

食文化の多様性

お雑煮MAP

 

正月に食べられるお雑煮はだ

しの素材や味付け餅の形状具な

どが地域や家庭によってさまざま

であるだしには昆布鰹節煮

干しするめ穴子鶏肉が味付

けには塩醤油味噌などが使われ

る餅は角か丸かそれを焼くか

煮るかという違いもあるまたあ

ん入りの餅を入れる地域もある

具は野菜類魚介類鶏肉などで

地域の特産品が使われることも多

い沖縄県ではお雑煮に代わるも

のとして「中味汁」(豚の内臓の

汁)があるここでは全国各地の

お雑煮の中から特徴のあるもの

を取り上げた丸もち

角もち

角もち

角もち

昆布と鰹節のだしに味噌で味付けし煮た丸餅とかぶそしてかぶの葉を加えたシンプルなお雑煮を食べる地域も味噌は赤味噌白味噌のいずれかが使われる

丸餅に白味噌仕立てが多いが香川県では白味噌にあん入り餅を入れた「あんもち雑煮」が珍しい具は大根ニンジン里芋など

だしはあごだし昆布鶏肉とさまざまだが味付けは醤油味具にかまぼこが入り九州の北部にはあん入り餅を入れる地域もある

醤油味のすまし汁に煮た丸餅が多い出雲地方では

「小豆雑煮」と呼ばれ具はなくぜんざいのような小豆だけの雑煮を食す

昆布と鰹節のだしに味噌で味付けし煮た丸餅とかぶそしてかぶの葉を加えたシンプルなお雑煮を食べる地域も味噌は赤味噌白味噌のいずれかが使わ

1314 WASHOKU

上に吊るし楢や桜の焚き火で

燻製にしてから米糠と塩で漬

けこんだ漬物だこれは冬の訪

れが早い秋田で大根を早く乾

燥させ長く食べられるようにす

るための工夫だいずれも手間

と時間が加わることで風味が

濃縮されとれたてとは違った

深い味わいが生まれた

魚介類の保存食でいえばな

れずし魚を塩と米飯で数日

から数ヶ月寝かせ乳酸発酵さ

せたもの雑菌の繁殖が抑えら

れ長期間の保存が利く上うま

味が増す現在滋賀県のふな

ずし和歌山県のサバやサンマ

のなれずし福井県小浜市のへ

しこなれずし秋田県のハタハ

タ寿司など日本全国の郷土料

理として残っている

また味噌や醤油といった発酵

調味料は日本料理の味の要と

もいえやはりこれらにも地域

によって造り方や味に違いがあ

る例えば味噌大豆と米こ

うじを使い長期間熟成させた辛

口の津軽味噌米こうじを多く

配合した甘みのある西京味噌

大豆こうじを使った赤褐色の名

古屋の八丁味噌麦を原料にし

た九州地方の麦味噌などさま

ざま

地域の特産品発酵調味料餅

で構成されるお雑煮を見ても

多様性はよくわかる

日本の風土と食文化は深く結

びつき世界が注目するバラエテ

ィに富んだ食を育んできたのだ

日本の味噌

mdash

地域と特徴mdash

味噌は製法材料によって

大きく3つに分けられる

全国的に一般的なのが「米

味噌」で蒸すまたは茹で

た大豆に塩米こうじを加え

発酵させたもの米こうじ

の代わりに麦こうじを使用

したものを「麦味噌」大豆

を発酵熟成させたものが

「豆味噌」米味噌には大

豆を蒸して長期間熟成した

辛めの赤味噌と大豆を茹

でて短期間で熟成させた甘

めの白味噌がある

「和食」が日本文化である理由 「和食」の多様性4

主な種類地域 特徴

米味噌

津軽味噌 長期間熟成させる辛口で赤味噌系が主流

仙台味噌 仙台で伝統を継承して造られてきた長期間熟成させる辛口赤味噌系が主流

信州味噌 長野県を中心に造られる山吹色の淡色系の辛味噌

江戸甘味噌 通常の味噌よりもこうじを多く塩を少なくした赤系の甘さのある味噌

西京味噌 関西地方を中心に造られる米こうじの多い甘みのある白味噌

讃岐味噌 香川県で造られる甘みのある白味噌あん餅雑煮にも使われる

府中味噌 甘みのある米こうじの多い白味噌で主に広島県で造られる

麦味噌 九州四国中国 麦こうじを使って発酵させた山吹色を帯びた甘みのある味噌

豆味噌 八丁味噌三州味噌 蒸した大豆でみそ玉を作りこうじ菌を繁殖させて造る濃い赤褐色の味噌

お雑煮に入れる餅の形について出身地ごとに聞き取った結果中部を境にして東は角餅西は丸餅が多かった

もちの形について

丸もち

丸もち

丸もち

丸もち

出典「お雑煮100選」(文化庁)より

(人)

温暖化が進み狩猟が大型獣から小型獣になる

南九州で竪穴式住居にドングリ貯蔵穴が広まる

ドングリなどの植物性食料が重要な食料になる

水田稲作が日本列島に伝来

稲作の広がりと定着魚を発酵させたなれずしの登場

『魏ぎ

し志』倭わ

じんでん

人伝には倭(日本)では冬夏に生菜を

飲食に高杯をつかい手食するとある

土は

師器の移動式かまどの使用

土師器の甑こ

しきに

よる蒸し米が盛んになる

中国に遣唐使を送る大陸の食文化がもたらされる

675年天武天皇が「牛馬犬猿ニワトリ」の

食用を禁止

牛乳を煮詰めて作った「蘇そ

」が朝廷に貢納される

箸の利用が広がる

貴族の大だ

いきょう饗

料理や年中行事が中国の影響で定着

豆腐が中国より伝来する

栄西が宋より抹茶法を持ち帰る

道元が禅宗における食事作法や調理の心得を

説いた『典て

んぞきょうくん

座教訓』『赴ふ

しゅくはんぽう

粥飯法』を執筆

植物性食品のみを使った精進料理の発展

武士の供応食本ほ

んぜん膳

料理の形成

包丁人と呼ばれる料理人が誕生し包丁流派を形成

刻み目のついたすり鉢が広がる

酒造技術の進展

書院茶の湯からわび茶の湯へ

千利休により茶の湯が完成

懐石形式の定着

豊臣秀吉が北野大茶会を開催

欧州が大航海時代に入り

南蛮貿易により南蛮菓子唐辛子などが日本に伝来

日本初の出版料理書『料理物語』刊行

都市部に食べ物屋や料理屋が普及する

料理屋の会席料理形成

けがれによる肉食禁忌の観念が広く浸透

薬食いとしての肉食

飢き

きん饉に備えさつまいもやじゃがいもの栽培を奨励

和菓子の完成

握り寿司やてんぷらが江戸で流行する

肉食解禁と牛鍋の流行

『西洋料理指南』など西洋料理書の出版

西洋料理店の発展

米の摂取率が平均53に

家庭向け料理書の出版

女学校における食物教育

脚か

っけ気

論争がさかんに行われる

牛肉の不足から豚肉の生産が増加

洋菓子の製造発展

物価高騰と米不足によるじゃがいもパンなどの代用食の奨励

国立栄養研究所の開設と栄養学の発展

都市部で和わ

ようせっちゅう

洋折衷料理が普及

戦争による食料不足

食料統制米などほとんどの食品が配給切符制となる

イモなど代用食の増産

戦後のミルクとパンの学校給食が開始

各地に闇市ができる

食料の価格が高騰

厚生省が日本人の栄養基準値を策定

農家の生活改善運動が展開

即席ラーメンなどインスタント食品の開発販売

冷凍冷蔵庫の普及と冷凍食品が普及

日本型食生活の提唱

ファミリーレストランファストフード店の増加

コンビニの発展

日本食の洋食化と簡便化と米摂取量の減少

食料自給率が39〜40に低下

レトルト食品の売上増大

電子レンジ普及率が約90に

遺伝子組み換え食品が登場

地球温暖化など環境問題が深刻化

阪神淡路大震災東日本大震災により災害食が注目される

持続可能性が社会課題に

家庭料理の変化や家族の孤食化などの問題が生まれ和食の見直しへ

縄文時代弥生時代古墳時代飛鳥時代奈良時代平安時代鎌倉時代室町時代安土桃山時代江戸時代BC9000年BC3000年BC2500年頃BC200年頃240年頃500年頃7世紀8世紀8~12世紀12~14世紀14~16世紀16~17世紀17~19世紀

1516 WASHOKU

「和食」の年表

「和食」がたどった道和食の成立とその変化を年表でたどってみると各時代の人々が海外の食文化の影響を受けながら工夫を積み重ねてきた様子が見えてくる

米は縄文時代晩期に伝来し

たとされるが全国に広がるの

は弥生時代である

平安時代の大饗料理は貴族

の供応料理で蒸した高盛の強こ

飯いい

に各種の魚介類を配し調味

料につけて食べる形であった

鎌倉時代には禅宗の影響に

より動物性食品を排除した

精しょうじん進料理が発展した道元禅

師は調理も修行の一つとして

その心得を記した『典て

んぞ座教き

ょうくん訓』と

食事への感謝の念作法を説い

た『赴ふ

粥しゅく

飯はんぽう法』を著した

室町時代上層階層の料理文

化として本膳料理が登場した

この形式は江戸時代後期には

婚礼などの儀礼食として各地域

に浸透し昭和期まで継承され

た本膳には飯汁菜香の物

が盛られ飯を主食とした伝統

的な食事の形式が定着すること

になるまた酒とその酒肴も

本膳に伴って発展した

安土桃山時代には茶の湯に

ともなう懐石が発展した一汁

三菜を基本に旬の素材にこだ

わり食事空間のしつらいにも

気を配るなど精神性をも盛り込

んだこの形式はその精神と

共に現代に引き継がれている

江戸時代の都市部ではそば

すしてんぷらなどの食べ物屋

高級料理店なども広がりをみせ

た料理書の出版も相次ぎ酒

と酒肴を楽しむ料理屋の会席料

理も成立したまた和菓子の

温暖化が進み狩猟が大型獣から小型獣になる

南九州で竪穴式住居にドングリ貯蔵穴が広まる

ドングリなどの植物性食料が重要な食料になる

水田稲作が日本列島に伝来

稲作の広がりと定着魚を発酵させたなれずしの登場

『魏ぎ

し志』倭わ

じんでん

人伝には倭(日本)では冬夏に生菜を

飲食に高杯をつかい手食するとある

土は

師器の移動式かまどの使用

土師器の甑こ

しきに

よる蒸し米が盛んになる

中国に遣唐使を送る大陸の食文化がもたらされる

675年天武天皇が「牛馬犬猿ニワトリ」の

食用を禁止

牛乳を煮詰めて作った「蘇そ

」が朝廷に貢納される

箸の利用が広がる

貴族の大だ

いきょう饗料理や年中行事が中国の影響で定着

豆腐が中国より伝来する

栄西が宋より抹茶法を持ち帰る

道元が禅宗における食事作法や調理の心得を

説いた『典て

んぞきょうくん

座教訓』『赴ふ

しゅくはんぽう

粥飯法』を執筆

植物性食品のみを使った精進料理の発展

武士の供応食本ほ

んぜん膳

料理の形成

包丁人と呼ばれる料理人が誕生し包丁流派を形成

刻み目のついたすり鉢が広がる

酒造技術の進展

書院茶の湯からわび茶の湯へ

千利休により茶の湯が完成

懐石形式の定着

豊臣秀吉が北野大茶会を開催

欧州が大航海時代に入り

南蛮貿易により南蛮菓子唐辛子などが日本に伝来

日本初の出版料理書『料理物語』刊行

都市部に食べ物屋や料理屋が普及する

料理屋の会席料理形成

けがれによる肉食禁忌の観念が広く浸透

薬食いとしての肉食

飢き

きん饉に備えさつまいもやじゃがいもの栽培を奨励

和菓子の完成

握り寿司やてんぷらが江戸で流行する

肉食解禁と牛鍋の流行

『西洋料理指南』など西洋料理書の出版

西洋料理店の発展

米の摂取率が平均53に

家庭向け料理書の出版

女学校における食物教育

脚か

っけ気

論争がさかんに行われる

牛肉の不足から豚肉の生産が増加

洋菓子の製造発展

物価高騰と米不足によるじゃがいもパンなどの代用食の奨励

国立栄養研究所の開設と栄養学の発展

都市部で和わ

ようせっちゅう

洋折衷料理が普及

戦争による食料不足

食料統制米などほとんどの食品が配給切符制となる

イモなど代用食の増産

戦後のミルクとパンの学校給食が開始

各地に闇市ができる

食料の価格が高騰

厚生省が日本人の栄養基準値を策定

農家の生活改善運動が展開

即席ラーメンなどインスタント食品の開発販売

冷凍冷蔵庫の普及と冷凍食品が普及

日本型食生活の提唱

ファミリーレストランファストフード店の増加

コンビニの発展

日本食の洋食化と簡便化と米摂取量の減少

食料自給率が39〜40に低下

レトルト食品の売上増大

電子レンジ普及率が約90に

遺伝子組み換え食品が登場

地球温暖化など環境問題が深刻化

阪神淡路大震災東日本大震災により災害食が注目される

持続可能性が社会課題に

家庭料理の変化や家族の孤食化などの問題が生まれ和食の見直しへ

明治時代大正時代昭和時代(戦前戦中)昭和時代(戦後)平成1869~1912年1912~1926年1926~1945年1945~1989年1989年~

1516 WASHOKU

家庭料理の変化や家族の孤食化などの問題が生まれ和食の見直しへ

基本はほぼこの時代にできたと

いえよう

いっぽう各地域の日常食の

主食は麦雑穀芋類を混合し

たかて飯やうどんなど小麦粉を

用いた食事が多くそれは昭和

期まで引き継がれ各地で独自

の「和食」の文化が形成された

西洋文化を積極的に取り入れ

た明治時代以降西洋料理書が

出版され都市部では西洋料理

店が開店したまた明治時代

後期には家庭向け料理書の出

版が相次ぎ西洋料理をアレン

ジして和食に取り入れた和わ

よう洋

折せっちゅう衷料理が数多く紹介された

大正期国立栄養研究所の開

設により栄養学の研究が進み

日常食の栄養についての関心が

少しずつ広がった

飢餓を経験した戦時期を経て

主食に偏らず副食に動物性食

品や油脂を加えた食事が推奨さ

れたその結果1980年頃

になると日本人の食事は米飯

を基本にしながらも乳乳製品

肉魚類野菜類などを適度に

加えたよりバランスのよい食

事となったこの時期の食生活

を「日本型食生活」と呼んだし

かしその後食生活の洋風化

簡便化が広がり食料自給率は

40パーセントと減少した若年

層を中心に食事の基本型が崩れ

欠食孤食などが話題となり和

食の見直しが求められるように

なった

1718 WASHOKU

「和食」の特徴1

献立のかたち

「ご飯」を食べるために

「汁」と「菜」がある

「一汁三菜」が和食の基本型

「一汁三菜」とは「ご飯」と「汁」と「香の物」に

いくつかの「菜」が添えられるという組み合わせ

「ご飯」と「汁」と「香の物」に「お菜」が3品添えられるという献立が一汁三菜この場合は焼き魚(右奥)と煮物

(左奥)と小松菜のおひたし(中央)の3つの菜で構成される向かって手前左にご飯を手前右には汁をその間に香の物をそれぞれ置くという決まりになっている

1718 WASHOKU

米を炊いた「ご飯」昆布や鰹

節などでとっただしを味噌や塩

などで味付けした具入りの「汁」

塩漬けやぬか漬けや粕漬けなど

の「香の物」そして焼き物や煮

物や和え物などの「菜」その4

つの要素で構成される「一汁三

菜」という組み合わせがある

基本的には汁が一種で菜が

三種の構造を「一汁三菜」と呼

ぶ食事中に口の中をさっぱ

りと保ってくれる「香の物」と

ご飯はいつも必ずついていて

その数も変わらないからあえ

て数えない

日常の食事である一汁三菜に

対して江戸時代によく登場す

るのは二汁五菜つまり汁が二

種に菜が5つこれが昔のおも

てなし料理の基本でお膳もふ

たつ出たいいかえると一汁三

菜はひとつのお膳に載るふだ

んの家庭の食事であることがわ

かる

また汁にもいろいろあった

魚のアラを汁に仕立てたものや

野菜を豆腐と一緒に煮込むけん

ちん汁など具だくさんの汁も

各地域でみられ汁でご飯を食

べるということも和食の特徴の

ひとつだ

一汁三菜の献立の最大の特徴

は汁も香の物も菜もすべてご

飯を食べるために存在するとい

う点かもしれないご飯が主食

でその他の3つの要素が副食

という考えが一汁三菜の根底に

ある少ない菜でたくさんのご

飯を食べご飯の量でカロリー

の摂取量を調整するのがかつ

ての和食の基本的な食べ方だっ

たのだ

「和食」にとって欠かせないご

飯についてもここで触れてお

こう

米には「うるち米」と「もち米」

とがあり強い粘性を持つもち

米は赤飯などのおこわ(強こ

わいい飯

や餅に用いられるそれに対し

てうるち米はもち米より粘り

気が少なく通常の米飯として

使われる

米のもとになる稲の栽培が始

まったのは1万年以上前とされ

野生の稲を栽培したのが始まり

と考えられているその原産地

は中国の長江流域とその周辺

という説が有力でそこから西

へ伝わった品種がインディカ種

また東へと伝わり東アジアに

広がったのがジャポニカ種だ

「和食」における献立の目的は

いわば汁と菜でご飯を食べる

ことつまりご飯に合うのなら

例えばそれが肉じゃがでもコ

ロッケでもとんかつでも菜と

して取り入れてこられたのは

ご飯を主食とする「和食」のス

タイルがしっかりしていたか

らである一汁三菜という和

食の基本型がなくなったら外

国の料理と変わらなくなって

しまうだろう

「和食」の特徴 献立のかたち1

稲 玄米 白米 調理加工

粉にする

飯餅菓子米飯焼き米ひなあられ餅おかきあられ

稲わら 俵わらづと鍋釜敷き畳床むしろわらぞうり縄みのわらぼうき など

酒酢みりん味噌発酵させる

糠 たくあん糠漬けあく抜き

(上新粉など)柏餅草餅重

お も ゆ

湯など

(白玉粉落ら く が ん

雁粉道明寺粉など)白玉最中大福餅落雁桜餅など

どうみょうじ

うるち米の粉

もち米の粉

日本人の暮らしに深く関わる稲米

 現在世界で栽培されている稲の主な種類にはインディカ種(インド型イネ)やジャポニカ種(日本型イネ)などがあるインディカは長粒種と呼ばれる米ジャポニカは日本でよく食べられている丸く短粒な米で短粒種と呼ばれる米の主成分であるでんぷんにはアミロースとアミロペクチンとがありアミロースを多く含むインディカ種は粘り気が少ないのに対しアミロースの少ないジャポニカ種は粘りが強く日本人にとってはおいしい味の米であるそしておにぎりやすしのようにまとめる米料理も発達した 世界の米の生産量は約6億トンと小麦とほぼ同じだがその90以上が日本を含むアジア諸国で栽培されているジャポニカ種は全体の15を占め日本をはじめとして朝鮮半島中国東北部台湾北部などで主に栽培されているインディカ種の栽培地域はインドからベンガル地方のバングラデシュタイをはじめとするインドシナ半島中国の中南部インドネシアなど南アジアが中心だ

ジャポニカ種とインディカ種日常私たちがご飯として食べているのはうるち米赤飯や餅にするのはもち米である栄養価はほとんど同じであるがでんぷんの構成が異なるうるち米はアミロースとアミロペクチンの比率が約28であるがもち米はほとんどアミロペクチンで構成されているそのためにもち米はうるち米に比べて粘りが強く餅にするのに適しているのである日本では両方の米の特徴をうまく利用して粒のまままたは粉にするなどしていろいろな料理や菓子を生み出したり発酵させて酒やみりんなどをつくり出したりしてきた

うるち米ともち米

インディカ

ジャポニカ

「和食」に欠かせない

米はどこから来たのか

1920 WASHOKU

全国各地でさまざまな魚や野

菜が豊富に手に入ったことそ

して文明開化の時代まで一般

的に肉食をしなかったという背

景から「和食」は野菜と魚介類

を中心に調理されてきた

現在日本の市場で流通する

野菜の数は150種類ほどと言

われているその種類はイモ類

やマメ類をはじめ根菜類茎け

いさい菜

類葉菜類果菜類など実に多

様ださらには山菜やきのこ

など森林に自生するものも調

理に工夫することでうまく食材

として取り入れてきた

日本で流通する野菜は近代

になって外国から輸入されたも

のや品種改良によって食べや

すくなったものなど多様では

あるが昔から日本で作り続け

られている伝統野菜(在来野菜)

も少なくない伝統野菜とはだ

いたい三世代以上に渡って栽培

「和食」の特徴2

食材

和食を支える日本の食材

おいしさの秘密と多様性

おいしい和食には素材の力がある四季折々の自然の中から

生み出される日本の食材は驚くほど多様性に富んでいる

野菜

野菜と魚介類の二大食材に

支えられる日本食文化

和食には野菜を使う料理が多くあるが現在日本で流通する野菜の種類も150以上と幅広い分類にしてもジャガイモやサツマイモなどのいも類大豆や小豆などのマメ類ダイコンやカブなどの根菜類ネギやウドなどの茎

け い さ い

菜類コマツナや白菜などの葉菜類ナスやキュウリなどの果菜類そのほかにシイタケやシメジなどのきのこやワラビやゼンマイなどの山菜など多彩な野菜が存在するしかし現代でこそ流通の発展でさまざまな野菜が一年中手に入るが全国で同じ野菜が収穫できるわけではない例えば同じいも類でもサツマイモなどは九州などで多く作られるが冷害に強く冷涼な地で生育するジャガイモは山梨や長野などの山間部や日本の北部で育てられるそのほか地域特有の特産品である伝統野菜がいま注目され始めている

1920 WASHOKU

が続けられ地域に根づいた農

法で作られるものを指しこれ

を守る動きも目立ってきている

魚介類も「和食」にとって欠か

せない食材のひとつ日本で獲

れる海水魚は実に種類豊富で

日本に生息する魚種だけでも約

4200種ある縁起のよい魚

として重宝されるタイをはじめ

アジイワシやサバサンマなど

日本の近海は魚の宝庫である

海水魚だけでなくコイやア

ユフナやウナギそして水田で

獲れるドジョウなどの淡水魚

(川魚)は海から離れた地域では

貴重なタンパク源だったため

古くから料理に使われている

ウナギの蒲焼きは一般的だが

薄切りにしたコイを50くらい

の湯に短時間漬けてから冷水で

身を締めて酢味噌で食べる「鯉

のあらい」やコイの切り身を濃

い味噌で煮た「鯉こく」など味

わい方も豊富

またうま味のもととして古

くから使われてきた昆布や味

噌汁の具としても重宝するワカ

メさらにおむすびに必須の海

苔など海藻類も和食には欠か

せない貝類も種類が豊富で

アワビをひも状に薄くむき乾

燥させた「熨の

しあわび

斗鮑」が神事や祝し

ゅうぎ儀

の象徴として使われてきた

近年日本の食料自給率が低

下し外国産食材の増加も問題

視されているが本来の「和食」

は日本の自然の恵みによって支

えられているのだ

「和食」の特徴 食材2

島国である日本において魚介類は古くから貴重でかつ重要な食材であった農林水産省の定める生鮮食品品質表示基準によれば日本で食される水産物はマグロやカツオイワシやアジなどの海水魚やコイやウナギなどの淡水魚(川魚)シジミやアサリなどの貝類カニやエビなどの甲殻類やカメなどの水産動物類クジラやイルカなどの海産哺乳動物類そのほか昆布やワカメなどの海藻類など実に多様な種類がある2000年に味の素(株)がおこなった「嗜好調査」によれば「食材」としては肉類よりも魚介類のほうが好まれている結果がみられたさまざまな魚介類のなかでもカニエビマグロなどへの嗜好性が高くそれらが「贅沢な食材」と捉えられているようである

山間部など海の魚が手に入らない地域で貴重なタンパク源として重宝されたのが淡水魚(川魚)写真はアユだがその他コイやウナギドジョウワカサギフナなど日本ではさまざまな川魚が食材として使われてきた寄生虫のおそれがあるため生食はあまりされないがその代わりに調理にはさまざまな工夫が見られる海の魚に比べると独特の臭味やクセがあるため「鯉こく」のようにしっかりと煮込むことで臭味を除いたりウナギのように蒲焼きにしたりするなどがその一例だまた例えば滋賀県には琵琶湖で獲れるフナを塩と米で乳酸発酵させ保存性を高めると同時にうま味成分を引き出した「ふなずし」もある

古来日本で食べられてきた海藻類現在でも低カロリーでミネラルビタミンに富む食材として和食では重宝されている日本では約50種類の海藻が食べられているが世界的にみてもここまで多様な海藻を加工し食用とする民族は珍しいなお海藻にはフノリやテングサのような紅藻ワカメ昆布やモズクなどの褐藻アオノリや海ブドウなどの緑藻類の3種類の海藻が存在する昆布のようにだしをとるために使うものもあるが乾燥させて食べる海苔味噌汁や酢の物の具として使われるワカメのようなものまで実に幅広いまた海藻は神への奉納品としての縁も深く日常の食事だけではなく祭りや神事などにも登場している

縄文時代の遺跡である貝塚からアワビやハマグリカキなどの大量の貝殻が発見されていることからもわかるように貝類は日本では古くから食材として利用されてきた春先の干潮時に浜辺に埋まったアサリなどの貝を掘り出して採取する潮干狩りは春の風物詩としても馴染み深い日本には6000近い貝類があるといわれておりなかでもアサリやハマグリのような二枚貝サザエやツブ貝のような巻き貝が食用として親しまれている調理法としては刺身や吸い物味噌汁煮物焼き物炊き込みご飯など幅広い料理に使用されているがだしをとるためにも使われるさらに乾物にすれば保存性も高くなるため古くから交易にも活用されてきた

海の魚

川の魚

海藻貝

2122 WASHOKU

和食における菜さ

の調理法には

煮る焼く蒸す茹でる和あ

える

揚げるなど実に多様な技法が

あるこれを季節の野菜や山

菜魚介類海藻などの食材と組

み合わせることでバラエティ

に富んだ菜が食卓を彩る

数ある日本の調理法の中で

最も特徴的なのは「生もの」材

料を生のまま切り皿に盛り付

け調味料と薬味を添える刺

身といえば魚介類が用いられる

のがほとんどで捌さ

き方切り方

盛り方などが現在世界で注目を

浴びている材料を新鮮な状態

に保つ技術と料理としての盛り

付けの技術があいまって完成し

たものといえる調味料と薬味

の組み合わせも魚類との相性を

考えて工夫されているまた

わさびしょうがからしなどの

薬味や「つま」や「けん」と言わ

れる大根のせん切り大葉防ぼ

うふう風

芽めたで蓼花は

なじそ

紫蘇など防菌効果のあ

るものを添えて見た目も美し

く組み合わせている

ご飯と並んで食卓に欠かせ

ない「汁物」は鰹節や昆布煮干

し干し椎茸などから抽出され

るだしのうま味と具として入

れる素材のうま味が味わいのベ

ースとなっている中には具だ

くさんの菜になるような汁も

ある

また豊富な水を利用した調理

焼き物(サンマの塩焼き)

直火焼きは遠火の強火でほかに間接焼きがある

生もの(カツオの刺身)

生ものには刺身あらい酢の物漬物がある

茹で物(もりそば)

小麦粉やそばなどの粉からつくる麺を茹でる法

旬の食材のおいしさを

引き出す調理法の数々

「和食」の特徴3

調理

切る煮る焼く蒸す茹でる和える揚げるhellip

あの手この手で素材をよりおいしく

バランスの取れた一汁三菜の基本はご飯にあり

ご飯をおいしくいただくために菜さ

の調理方法は進化した

煮物(筑前煮)

煮汁の中で加熱中に調味する法

2122 WASHOKU

法に「茹で物」があるたっぷり

の水を沸騰させ食材を加えて加

熱して取り出すもの青菜そば

などは茹でた後にあくの除去

歯触りを良くするなどのためさ

らに水で洗う場合も多い私た

ちがあたりまえのように調理し

て食べているほうれん草や小松

菜のお浸しは水に恵まれた日本

に定着した料理で世界的にみて

も特徴あるものといえよう

「焼き物」はサンマの塩焼きの

ように塩をふり直火でじっく

り焼き上げる方法が伝統的

「煮物」は世界で最もポピュラ

ーな調理法だが日本では素材

の味を生かしつつ醤油や味噌

など大豆由来の発酵調味料で

味を調えるものが多い

油とともに加熱調理する「炒

め物」は伝統的な調理にはほと

んど見られないが現代では盛

んに使われ和食の幅を広げて

いる

ここに紹介した調理法と料理

の例は主にご飯のおかずとな

るものであるが小麦そば雑

穀などを粉にしこれを調理し

た主食も多い代表的なものに

うどんそばそうめんなどの麺

類があり茹でる場合が多いが

煮込みなど煮るものもある

さまざまな料理を組み合わせ

て食べる和食は素材の味を生

かしうま味をしっかりとれば

最低限の調味料でおいしさを感

じることができ多様な料理を

楽しむことができる

和あえ物

(きゅうりとワカメの酢の物)

野菜や魚介類などをごま味噌酢などで和える法

漬物(きゅうり大根の糠

ぬか

漬け沢たく あ ん

庵漬け)生ものを保存する方法の一種

塩の働きに加え乳酸発酵させたものが多い

汁物(なめこの味噌汁)

だし汁を主体とする法すまし汁みそ汁とろみのついた汁など

蒸し物(茶碗蒸し)

水を沸騰させその水蒸気を利用して加熱する法

浸し物(小松菜のお浸し)

お浸しは調味した汁に浸して味をつけたもの

「和食」の特徴 調理3

揚げ物(天ぷら)

高温の油で食品を加熱する法油の温度は150~200度の範囲で行うことが多い

2324 WASHOKU

「和食」の特徴4

味わい

うま味日本人が発見した「おいしく食べる」最大の知恵

和食の味わいの中で最も重要なのがだし

味噌汁やすまし汁のベースとなり

煮物やおひたしなどさまざまな料理の

味を決定づける味の要だ

和食の味わいを語るうえで忘

れてはならないのがだし(出

汁)の存在汁物や煮物などさ

まざまな料理のベースとして使

われている

なぜ日本人はここまでだしを

好むのかその答えに大きく関

係するのが「うま味」だ江戸時

代の料理書には「だしこそ料理の

根本である」と書かれている

1907年池田菊き

くなえ苗

博士に

よって世界で初めてうま味成

分のひとつがアミノ酸の一種で

あるグルタミン酸であることが

発見されたその後日本人を中

心に研究が進みうま味は甘味

塩味酸味苦味に加えて第5

の味覚として広く知られるよう

になる現在ではうま味調味

料やだし入りのつゆなどうま

味成分を手軽に使える調味料も

普及海外でも人気が高く国

内でも日常的に使用されている

だしのほかに和食の味付け

日本が世界に誇る

第5の味覚うま味

うま味成分を多く含む椎茸もだしをとる目的で使われてきた食材のひとつだしに使用するのは干したもの椎茸は乾燥させることでうま味や香り成分が増すためだ

小魚を煮て乾燥させてつくる煮干しも汁物に多用される材料としてはカタクチイワシが代表的だがその他ウルメイワシやキビナゴトビウオなどの比較的魚体が小さな魚を使ってつくるのが一般的だ

だしのとり方は魚介や野菜から水や湯を使ってうま味成分を抽出するのが一般的だしの素材として最もよく使われるのは昆布と鰹節でそのほか煮干し野菜干し椎茸魚の内臓やあら(頭や骨)などがあるまた潮

うしおじる

汁のように食品そのもののうま味を活かす方法もある

鰹節

「だし」のこと

昆布

煮干し

干し椎茸

2324 WASHOKU

に欠かせないのは塩砂糖味

噌醤油酢酒みりん魚醤な

どの調味料わさびやからし

しょうが山椒とうがらしゆ

ずなども薬味として使われる

これら薬味によって季節感を楽

しみながら素材の味を引き出

すという知恵も「和食」ならでは

夏に高温多湿となる日本では

アジア諸国と同様発酵食品が

発達したそれゆえ味噌や醤

油や酢に代表される発酵調味料

を多用するのも和食の特徴大

豆や穀物を塩漬けにして発酵

させてつくるものだがその過

程で原料のタンパク質がアミノ

酸に分解されうま味成分を豊

富に含んだ調味料ができあがる

のだ

発酵食品も多様だ日本各地

でカビや酵母などの微生物の

働きを活かして食品中のアミ

ノ酸(うま味)を増やす発酵食品

が発達してきた冬場の保存食

として生み出された沢庵や塩

を使って乳酸発酵させる京都の

すぐき菜漬けそして糠ぬ

漬けや

奈良漬けなど野菜を発酵させ

た漬物さらに塩辛やくさや

なれずし鰹節など魚介の保存

食としての発酵食品また大

豆を納豆菌で発酵させる納豆や

こうじ菌で発酵させて乾燥後に

熟成させた寺納豆など大豆の

発酵食品もある

「和食」はうま味を上手に生

かし食材をおいしく食べる知

恵を育んできたのだ

発酵食品

発酵調味料

調味料

「和食」の特徴 味わい4

発酵食品と調味料

魚醤魚を塩漬けにして発酵させる独特の香りと濃いうま味が特徴の調味料ハタハタでつくられる秋田の

「しょっつる」イカやイワシを材料とする能登半島の「いしる(り)」などがある

酒酒もまた和食の調味に欠かせない発酵調味料のひとつ調味料としての酒の主な効果には材料の臭みを消す食材のうま味を引き出して風味をよくする甘みを加えるなどがある

塩海に囲まれている日本では古くから塩は調味料として使用されてきた焼き物や刺身などの調理の味付けとしてはもちろん漬物や干物など食物を貯蔵するための知恵としても活用されている

味噌蒸したり煮たりした大豆にこうじ食塩を混ぜて発酵熟成させた日本を代表する調味料のひとつ味噌汁や煮物などに使われることが多い地域によって使用される味噌の種類がかなり変わるのも特徴だ

酢寿司やなますなど和食に酸味を加える調味料米から醸造した酒に酢酸菌を加えて発酵させて造られる酢に漬けることにより保存性を高める

醤油大豆と小麦で造ったこうじに食塩水を加えた「もろみ」を発酵熟成させ搾ったもの刺身や焼き魚煮物炒め物など幅広い料理に使われている種類は濃口薄口たまり再仕込み白の5つに分類される

みりん蒸したもち米と米こうじを主原料に40~60日かけて熟成させて造られる発酵調味料砂糖と比べて甘みがやわらかく食材の臭味を取る働きもあるまた魚の照り焼きなどのつや出しにも使う

漬物素材を食塩や酢酒粕醤油などに漬け込み熟成させて作られる漬物沢庵や梅干し野沢菜漬けなど野菜類を長期間保存するための知恵として誕生した日本各地に独特の漬物があるのも特徴だ

納豆日本で発展した発酵食品である納豆大豆を納豆菌で発酵させた食品で寺納豆(下記参照)と区別するため「糸引き納豆」とも呼ばれる単品で食べるだけではなく納豆汁や納豆和えなどにも使われている

塩辛魚介類の身や内臓を塩漬けにし発酵させて作られた塩辛は日本における伝統的な保存食品のひとつ使われる素材はその地域によって変わりイカやエビアミタコなど多彩な種類の塩辛が存在する

塩に漬けた魚と炊いたご飯を数日間置き乳酸発酵させたなれずしは魚を保存する知恵として生まれた滋賀県では琵琶湖産のふなを和歌山県や富山県ではサバを岐阜県などではアユを材料にしたものが有名写真は滋賀県湖北地方の年頭の祭りで振る舞われる鯖のなれずし

砂糖世界的に見ても「甘み」を用いた料理が多い現在の和食では砂糖は欠かせない調味料のひとつ単独で料理に使われるというよりは煮物をはじめとするさまざまな料理で醤油や塩味噌などと併用されることが多い

寺納豆茹でた大豆にこうじを加えて発酵させ乾燥させながら熟成を促す発酵食品粘り気のある糸引き納豆とは異なり乾燥して塩辛い禅宗の伝来とともに大陸からもたらされたとされ寺院で作ることが多かったため「寺納豆」と呼ばれた

2526 WASHOKU

「和食」の特徴5

栄養

栄養バランスの優等生「和食」

野菜や魚肉そして米によって構成される「和食」は

栄養バランスの良さでも知られている

最近は五日間すべてを米飯にする完全米飯給食を行う地域も生まれた

和食の特徴のひとつである栄養についてその秘密に迫る

米麦雑穀などを炊いたご飯

を主食としてこれに魚介肉

類野菜類に発酵調味料だしを

組み合わせた和食は栄養学的

にみてもバランスをとりやすい

食事である

歴史的にみると日常食では

主食を大量に摂る習慣が続いた

穀類偏重の食生活だったといえ

よう

しかし豆腐や納豆みそ汁な

どを飯とともに摂ることで米の

アミノ酸の利用率を上げる食べ

方年中行事などハレの日に魚

介類などを摂取して楽しむなど

学ぶべき知恵は多い

なかでも何百年も伝えられて

きた和食の基本型はすぐれた

ものといえよう

副食の主菜には魚肉豆腐

などタンパク質を多く含む料理

を考える副菜には主菜に使わ

なかった野菜芋類などを使い

汁は主菜に合うものを用意する

焼き魚野菜の煮物青菜のお浸

しとみそ汁などでも栄養的バ

ランスはとれている

1980年頃までは多くの

家庭で和食の基本型が続いた

主食の量がやや減り副食が増

加とくに乳乳製品肉類の割

合が増加したこの頃栄養バ

ランスをはかる一つの指標であ

るPFCバランスが理想的な比

率を示した(左記参照)

しかしその後外食の日常化

家庭料理の欧米化が進み米の

摂取量が激減し脂質摂取の過

多などから生活習慣病が問題

となったこうした中各地で

食生活を見直す動きがみられる

ようになったその一つが学校

給食での取り組みである

戦後の食料難の中でパンと

牛乳に副食を加えた完全給食は

1950年に始まった197

6年に米飯が導入されるまで長

く続いたパン給食は和食の基

本型にも影響を与えたようだ

米飯給食は次第に増加し

2010年には週3回以上米

飯給食を実施している小中学

校は90以上となったが週5

回の米飯給食の実施は7以

上と高くない

ここでは2008年に5日

間すべてを米飯給食とした新潟

県三条市の事例を紹介しよう

成長期にバランスのよい食事

で健康な体をつくることそし

て望ましい食習慣を身につけ

生涯を健康に生きることをめざ

し完全米飯給食を実施したと

のこと

米は同市で生産される農薬

を減らしたコシヒカリを七分搗つ

きにした米飯を主食に副食は

主菜副菜汁を組み合わせる献

立をベースとしている主菜は

サケのフライ鶏肉ピリ辛焼き

さんま梅煮など伝統的な和食だ

けではないが和食の基本型の

中に取り入れる工夫がされてい

るパ

ンは油脂や糖分と相性が

良く肥満につながりやすいが

新潟県三条市の給食献立一例三条市の小中学校での献立例ご飯は三条市で収穫したコシヒカリを使用「お米だと腹持ちがよいのでデザートをあまり出さなくとも子どもたちが満足してくれる」とのこと洋風や中華風の献立でもおかずはご飯に合うものを選びスープなどの汁物は確実につけるように心がけている

火曜日

えだまめごはん

さけチーズフライ

くきわかめきんぴら

かきたまじる牛乳

小学校687kcal中学校823kcal

水曜日

ごはんとりにくのぴりからやきいかときゅうりの

あえものしょうがみそスープ牛乳小学校639kcal中学校752kcal

木曜日

ごはんさんまうめにたくあんあえにくじゃがに牛乳なし小学校688kcal中学校814kcal

金曜日ごはんカレーふりかけほうれんそうオムレツフレンチサラダパンプキンスープ牛乳小学校708kcal中学校833kcal

月曜日

ごはんいかのかりんあげ(2こ)

なっとうあえきのこけんちんじるのむヨーグルト

小学校619kcal中学校731kcal

2526 WASHOKU

七分搗米の飯は腹持ちがよく

おやつを食べる子どもが減った

だけでなく肥満の子どもが減

少傾向となり食生活のリズム

が良くなったとされる

また米飯に合う副食は土地

でとれる野菜類を取り入れやす

く季節にあわせてバラエティ

ーに富んだ献立を作ることがで

きる一汁三菜の食べ方の教育

を行った結果給食を残す子ど

もたちも減ったという

基本的な食事パターンが続く

中でも菜を工夫すれば変化に

富む食事を作ることはできる

季節の食材について学び年中

行事への知識も得られるだろう

また子どもたちが和食の基

本型を毎日の給食で体験してい

ることはきわめて重要なことで

ある時々経験するだけでは身

につかないものでも毎日繰り返

すことによって習慣化し定着

するのであるそしてやがて

自分で組み合わせを考えられる

ようになることが期待される

今後の学校給食の役割は大きい

といえるだろう

PFCバランスとは

FAO Statistics Yearbook(日本のみ食料需給表)参照栄養バランスが良いとされるP(たんぱく質)10~20F(脂質)20~30C(炭水化物)50~70の範囲が08~12に収まるように指数化した

日本でのPFCバランスの変化

アメリカとフランスのPFCバランス

タンパク質脂質炭水化物は人間にとって特に不可欠な「三大栄養素」PFCのPはProtein(たんぱく質)FはFat(脂質)CはCarbohydrate(炭水化物)の頭文字でPFCバランスとは食事の中での「たんぱく質」「脂質」「炭水化物」のそれぞれの摂取カロリーの比率健康的な生活をおくるためにはPFCバランスがたんぱく質15脂質25炭水化物60が理想的

給食時には全員で「いただきます」「ごちそうさま」を復唱食育にも力を入れているためそれら言葉の意味についても学校で教えている

米飯給食になってから児童たちの食の嗜し こ う

好に変化が生まれたとか児童たちに好きなおかずを聞いてみると「ハンバーグ」「カレー」などの定番メニューのほか「焼き魚」「納豆」などの和食メニューの名前が上がった

自分の分を食べ終わった児童たちが列をつくって競い合うようにご飯をおかわりしていたこの日の食べ残しはゼロ

C

P

F

14

12

1

08

06

アメリカ(2005~2007年)

C

P

F

14

12

1

08

06

フランス(2005~2007年)

「和食」の特徴 栄養5

日本人のPFCバランスは1965年当時は炭水化物に偏っていたが1980年は非常に理想的な配分になっていたしかしその後の日本人の食生活に肉や油脂類を多く摂り主食の米を食べる量が減り2010年時は欧米型に近づきつつある

C

P

F

14

12

1

08

06

日本1965年

C

P

F

14

12

1

08

06

日本1980年

C

P

F

14

12

1

08

06

日本2010年

2728 WASHOKU

お客を迎える前には店先に打ち水を水で清め準備が整ったことを伝える趣向に合う軸を選ぶのももてなしの基本飾る花は主人自ら育てたものそれを床の花入に活けるのも主人庭に150種ほどの草花を植え日々育てることもしつらいの準備客は女将の温かいもてなしに迎えられる

「和食」の特徴6

しつらい

人をもてなすためのこころとかたち

もてなしは客に対する一方的なサービスではない

お互いに思いやる気持ちから生まれるこころよさである

手入れの行き届いた庭は掃き

清めて水を打ち床の間には軸

を掛け季節の草花を生ける

座敷の襖ふ

すま

も夏には葭よ

しど戸に入れ替

え夏は涼やかに冬は暖かに

すべて相まってもてなしのた

めの用意を整えることそれが

しつらい和食とりわけ懐石

料理においては食材や料理と

ともにしつらいは非常に重要

な要素となる

家庭でも食事をつくる人は

食べる人の顔を思い浮かべなが

ら食事の用意をする食べる人

はつくってくれた人の気持ちを

考えて賞味するここに互いに

もてなす喜びが生まれるのでは

ないだろうか

こうしたもてなしの文化を極

限にまで洗練させた姿が料亭の

もてなしである京都府の無形

文化技術保持者に料理人として

初めて認定された京都の老舗料

亭「瓢亭」の十四代主人高橋英一

さんにその心を聞いてみよう

「料亭は日本文化の凝縮のひと

つと言えます玄関から入って

座敷に行くまでに通る露地にも

季節感があり部屋に入れば時

季や行事の軸がありその座敷

のために選んだ花が飾られる

日本人が自然と身につけている

桜の器を使うことで膳の上にぱっと花が咲くような華やかさが生まれるあしらいは酢取り防風岩海苔

秋の花菊の器はこっくり深い色合いも相まって秋に似合う風情を持つあしらいは岩茸菊花

深さのあるガラスの器に氷が敷き詰められる涼感を目でも舌にも感じるあしらいは穂紫蘇寄せ莫大

縁起のいい鶴は新年の席でも使われるモチーフあしらいは水前寺海苔紫芽紫蘇

四季の感性で受け止めてもらえ

るよう整えお出迎えします

料亭は普段とは違うハレの場で

すがとはいえ行き過ぎず足り

ないことのないよう自然なし

つらいそしてもてなしを心が

けます」

「瓢亭」の座敷に飾られるのは

主人が庭で丹誠込めて育て自

ら生ける茶花

「もてなしの根

底に利休さんの『花は野にある

ごとく』の言葉を思いますが簡

単なようでそれが難しい」自

然体でのもてなしを生むしつら

えは名店においても日々心を

くだき工夫するのだ

「瓢亭」では1年をとおして明石の鯛の向付を供しているが季節ごとに

器とあしらいを変えることで四季を演出している

四季の演出

2728 WASHOKU

和食はご飯と菜あるいはご飯とお汁というように常にご飯を間にはさんで菜や汁をとるのが本来の食べ方下のような不作法とされる箸使い(嫌い箸)があるので覚えておきたい

ご飯は茶碗に味噌汁はお椀

に焼き魚だったら平皿にと普

段料理に合わせて何気なく使う

食器種類の多さもさることな

がら形や素材もさまざま欧

米はもちろん近隣諸国を見回

してもこれほど多種多様な器を

使う国はないそれは四季が明

確なことと無関係ではない

「自宅でも季節に合わせた器

にするだけで気分が変わりま

すよ」と前出「瓢亭」のご主人は

語る 

春であれば華やかな色や形の

もの夏はガラスや青磁など涼

しげな素材の器秋は実りのあ

る彩りがあるもの冬は厚手の

陶器や木製など温もりのあるも

の色素材形を変えるだけで

季節感を演出できる「和食」な

らではの楽しみ

食事の際当たり前のように

使っている箸も日本の食文化

を代表する食具奈良時代以

降匙さ

を使う伝統が消え箸だ

けを使うようになったため熱

い汁物は椀を持ち直接口を

つけてすする文化が確立同

時に椀箸ともに個人所有が基

本となった椀や箸を共有し

匙やレンゲを使うほかの東南

アジア諸国とは異なる食文化

を形成箸食文化圏の中でも

唯一箸だけでご飯を食べる国

となったまた一口に箸といっ

ても食箸取り箸菜箸など用

途に合わせてさまざま食べ

る際に使う食箸だけを見ても

形や素材のほか加工や長さも

豊富にそろうのだ

「和食」の特徴7

箸と椀

「和食」を支える箸と椀

箸食文化圏の中でも唯一箸だけを使う国日本

季節感を感じさせる器とともに独特の食具文化も誇る

渡し箸食事の途中でお箸を

食器の上に渡し置くこと

寄せ箸遠くの食器を

箸で手元に引き寄せる行為

指し箸食事中箸で人やものを指すこと

迷い箸どの料理にしようか迷い箸を料理の上で動かすこと

移り箸いったん取りかけてから

ほかの料理にお箸をうつすこと

箸には食事に使う食箸と調理に使う菜箸とがある菜箸は熱から手を守るため30~50と長く片方がなくならないよう糸でつながっているものもある取り箸は菜箸の一種食箸は個人所有が基本のため使う人に合わせた長さが用意されている漆塗りや螺鈿細工を施したものも多い

種類

形状だけでなく素材もさまざまで近年は黒檀や鉄木など硬質な木が使われることが多い日本の木としては特有の香りがあり古くから懐石用や割り箸に使われてきた杉耐水性耐湿性が高く保存性に優れる上に軽くて持ちやすい檜強くしなりがあり細かいものを取りやすい竹などがある

素材

家庭で使う食箸の形には角箸や四角で角が丸い胴張り五角六角七角八角のほか削りなどがあり持ちやすさに合わせて選べる箸先に加工が施されたものもある来客用に使う銘々箸や割り箸には断面が小判型で割れ目と溝が付いた元禄箸や中央部が太く両端が細い利休箸などが用意されている

日本人にとっての箸は調理から盛りつけ食事までをこなす大事な道具食箸は個人所有が基本のため個々に合わせて選べるのも特徴だ

箸の働き

箸使いの作法を知る

【嫌い箸】

食箸

八角箸 削り箸

菜箸

檜竹

「和食」の特徴 しつらい 箸と椀6 7

2930 WASHOKU

神し ん せ ん

饌として神へ供えられるお神酒は神棚の最上段の中央に置かれるほど重要な地位を占めている

日本酒を造る酒蔵は全国に約1600弱その数は年々減り続けているが数年に一度「日本酒ブーム」も起きている

日本酒とは米と米こうじ

そして水を主な原料にしてそ

れらを発酵させて造られる

原料には主食用の米ではなく

酒造りに適した性質を選び品

種改良された酒し

ゅぞうこうてきまい

造好適米を使

うことが一般的だまた日本

酒の80を占める水も品質を

左右する大きな要因日本酒

の香味を損なわない良質な水

が必須だ

日本酒の醸じ

ょうぞう造の工程にはさ

まざまな技術が伴う例えば米

を精米して味と香りを調整する

技術これは米の外側にあるた

んぱく質や脂質といった雑味の

もとを除くことが目的だが大だ

吟ぎんじょう醸酒にもなると米を半分以

上削ってから仕込むこともある

次いで米を発酵させる技術

酒の場合の発酵とは酵こ

うぼ母が糖類

を食べてアルコールを出すこと

をいうが米には糖類が含まれな

いためまずは米をこうじ菌の酵

素によって糖類へと変えそこに

酵母を加えて発酵させるという

複雑な手順(複式発酵)が必要だ

この手順で使われるこうじもバ

ラこうじと呼ばれる日本独特の

ものだバラこうじは糖化力が

高いのが特徴で日本酒の香りや

味に大きく影響する

稲作を中心に文化を育んでき

た日本では米餅米から造ら

れる酒は地域を問わず重要な

ものとされている米の一粒一

粒に神が宿り同じように酒も

神のおかげで造ることができる

と考えられてきたそして酒

もまた食べ物と共に神に近づ

くための手段として古くから用

いられてきた

同時に家族や親族地域で人

と人をつなぐ上でも酒は大き

な役割を担っている例えばお

神み

き酒祭礼の後には神の酒を

人々が口にする神と同じ酒を

飲みそれを人々が分かち合う

ことで地域やコミュニティが

結束力を強めるのだろう

米や麦やさつまいもなどを原

料とする焼酎も日本酒と並び

日本の國酒とされている酒は

人と人の心をほぐし食事を引

き立たせる重要な役割を担って

いるのだ

「和食」の特徴8

「和食」を引き立たせ

心をほぐす日本の酒

日本人にとっての主食であり精神のかなめでもある米

その米で醸か

される日本酒は「和食」にとって欠かせない要素

日本の「國こ

くしゅ酒

」にもなっている

2930 WASHOKU

「和食」の特徴9

和菓子日本茶

暮らしに寄り添う和菓子とお茶

自然の恵みに感謝し季節の移ろいを敏感に表現する和菓子

日本茶は喉のかわきを癒すだけでなく心を癒し心を高める飲みものである

「和食」の特徴 酒 和菓子8 9

ハレの日の願いを込めた和菓子

和菓子分類餅もの 餅団子大福など蒸しもの 饅頭蒸羊

よ う か ん

羹外う い ろ う

郎村む ら さ め

雨など煉もの 煉

ね り き り

切こなし求ぎ ゅ う ひ

肥飴葛く ず

菓子など焼きもの 味噌松風煎

せ ん べ い

餅桃も も や ま

山カステラどら焼など流しもの 錦

にしきだま

玉煉ね り よ う か ん

羊羹水み ず よ う か ん

羊羹など揚げもの 揚げ煎

せ ん べ い

餅かりんとうなど打ちもの(押しもの) 落

ら く が ん

雁など岡もの 最

も な か

中きんとん鹿か の こ

の子すはまなどかけもの 金

こ ん ぺ い と う

平糖五ご し き ま め

色豆石いしごろも

衣など

これは和菓子の製法によって大まかに分類した表このほか含有する水分量によって生菓子半生 菓 子 干 菓 子などの分け方や上じ ょ う な ま が し

生菓子並菓子駄だ が し

菓子などの分類もある

「岡もの」とはすでにできあがっ た素材をあわせたもの (例きんとん=飴玉とそぼろ餡)

甘く味付けしたごぼうと白味噌餡を赤や白の餅や求

ぎ ゅ う ひ

肥で包んだ生菓子平安時代の新年行事のひとつで長寿を願っておこなわれた「歯固め」の餅に由来する餅と味噌の組み合わせから「包み雑煮」とも呼ばれた

葩はなびらもち

一 月

旧暦十月は「亥の月」と呼ばれていたがその月のさらに「亥の日」に行われる年中行事の際に食べられていた菓子旧暦では10月が冬の始まりそのタイミングで無病息災と多産の猪にあやかって子孫繁栄を願ってこれを食べていたという

亥い の こ も ち

の子餅

十 月六 月

白いういろうの上に小豆の粒餡を散らした菓子古来京都で旧暦六月の晦

み そ か

日(30日)に無病息災を祈願して行われている

「夏なごしのはらい

越祓」になぞらえて初夏の頃に食べられている小豆には邪気祓いの意味があり三角の形は氷を表している

水無月

五 月

平たく丸めた上新粉の餅をふたつに折り中に小豆や味噌の餡を挟んでそれを柏の葉で包んだ菓子柏の葉は新芽が育つまで古い葉が落ちないことから

「子孫繁栄」を願って旧暦五月五日の端

た ん ご

午の節句の供く も つ

物として用いられてきた

柏餅

日本ならではのお茶の製法である手揉みは茶葉の繊維をつぶしながらうまみを引き出すために行う作業手揉みすると茶葉が切れないため茶の甘みを保つことができる

菓子もまた「和食」にとって欠

かせない要素でお客様用の「上

菓子」普段食べる「饅頭」や「餅

菓子」などに分かれるほかに

干菓子や駄菓子など菓子の種

類は多いまた例えば団子や

大福などは「餅もの」求肥や飴

などは「煉りもの」錦玉や

水みずようかん

羊羹などは「流しもの」などと

いうようにその製法によって

分類されることもある米や麦

小豆を代表とする豆類そして

砂糖や水あめなどの材料でバ

ラエティに富んだ菓子が生み出

されてきた

お茶会などの席で抹茶ととも

に味わう菓子もあり季節に合

わせて材料や色やデザインが選

ばれ味覚だけでなく視覚で楽

しむこともある

また年中行事と結びつく菓

子もある例えば旧暦三月三日

の「ひな祭り」では邪気をはら

い強い生命力を象徴するよも

ぎの草もちでつくった草餅を食

べる

和菓子には日本茶がふさわし

い緑茶は12世紀に中国から日

本に伝わったが今では生の茶

葉を蒸してから揉んで乾燥させ

る緑茶の製法は日本独特のもの

となっている緑茶に含まれる

カフェインは覚醒効果がまた

カテキンには抗酸化作用があり

ビタミンCも多く含まれて健

康によい日本茶独特の香りと

うま味は日本文化そのもので

ある

出典「和菓子の歴史展」第五十回虎屋文庫資料展より

3132 WASHOKU

日本の「和食」の文化は自然

環境だけでなく海外からの影

響によっても絶えず変化して

きた

近代以降にはコロッケとん

かつなど洋風料理を和食の基本

型に組み合わせた食事肉と野

菜の煮物や和え物などそれまで

にはない料理が工夫されたそ

の多くは和食の基本型味噌や

醤油を用いた味付け箸で食べ

られる料理など「和食」の要素

を保ちつつ伝えられてきた

しかし第二次世界大戦後高

度経済成長期を迎えると日本人

の食生活は急速に変化する

1970年代にファストフー

ド店ファミリーレストランが

各地に開店しコンビニなども

広がった

1980年頃主食と副食の

バランスは理想的とされたが

(26頁参照)その後米の消費量

はさらに減りパン食が増加

肉類油脂乳乳製品の消費量

も増加し食料自給率も下がっ

た家族での外食が日常化し

家庭の食事も欧米化した

食育の必要性

「和食」が危ないどうしたら伝えられるのか

この150年間で大きく変化し「和食」はいま衰えつつあるその原因はどこにあるのだろうか

食生活の変化

日本の食料自給率の変化農林水産省「食料需給表」より作成

日本のものを食べなくなって 「和食」はどうなる 日本の食料自給率は下がり続けている1965(昭和40)年度はカロリーベースで73だったが2012(平成24)年度は39その大きな原因のひとつは国内で自給可能な米や魚や野菜などの消費量が減少する一方国内で生産が困難な飼料穀物を食べて育つ畜産物や原料を輸入に頼ることが多い冷凍加工食品や小麦の消費が増加したことだと考えられている炭水化物たんぱく質脂肪分をバランスよく摂取する健康的な「和食」に未来はあるのか

国民一人一日当たりの供給純食料農林水産省「食料需給表」より作成

食べる米の量が50年で半減 増えたのは肉と乳製品 国民一人あたりが食べる量を品目別に眺めて分かることそれは日本人が食べる米の量が著しく減ってきたことだ1960(昭和35)年度は一日あたりの米の消費量は約315gだったが2010(平成22年)年度は163gに約半減その代わりに増えたのは牛乳乳製品(約60gから約240g)と肉類(約14gから約80gへ)野菜と魚を中心としたおかずでご飯を食べるという

「和食」のスタイルの変化がわかる

食料費における外食と中食の割合の推移総務省統計局「家計調査年報」より作成

家で食べても 調理することが減っている 外食に対して家庭で作って食べる食事を内食というが弁当や惣菜など調理をせずに食べられるものを買ってきて済ます食事は中食と呼ぶ実はこの中食の割合が増えている外食が占める割合は2000(平成12)年以降横ばいなのに対して中食は増え続けその代わりに内食が減っている食事は家で食べても調理はしないという家庭が増えているのだとすれば「和食」にとって大切な要素を子どもたちに伝える機会が減っているとはいえないだろか

食料自給率(金額ベース)

食料自給率(主食用穀物)

食料自給率(カロリーベース)飼料自給率

米 野菜 肉類牛乳乳製品 魚介類

内食 中食 外食

(g人日)

3132 WASHOKU

50

55

60

65

70

75

01992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012

70

75

80

85

90

95

01992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012

一日に一度はお米を食べないと気がすまない人の割合博報堂生活総研「生活定点2012」

お正月におせち料理を食べた人の割合博報堂生活総研「生活定点2012」

一日に一度は米を炊いたご飯を食べなければ気がすまない人の割合が実はこの20年間で減っているというデータがある1992(平成4)年には714だったが2012(平成24)年には564にまで落ち込んでいるのだ

家族や親族で集まっておせち料理を囲みながら新しい一年の無事を祝うお正月実はおせち料理を食べる人も毎年少なくなっている1992(平成4)年には866だったが2012(平成24)年には748だった

電子レンジの普及や冷凍食品

インスタント食品などにより

食生活は便利になったが家庭

内で調理をする機会が減ったと

もいえる

こうしたなか「和食」の優れ

た点をどうしたら伝えられるの

だろうか親から子へ家庭の食

を伝えるだけでなく学校を通

して子どもたちにさらにその

親の世代にも伝える必要があろ

う高齢者からは「和食」につ

いて具体的に教わることも求

められる

離乳期からの食べ物の選び方

幼児期の食経験を豊富にするこ

となどはとくに重要であろう

小さな頃からの食習慣はその

後の食習慣に大きくかかわって

くるからだ

だしのおいしい味を日々体験

することや魚を味わい骨を箸

でとる訓練を楽しい雰囲気のな

かで教わることなどその積み

重ねの中で「和食」は伝わるので

あろう

経験しない味は異文化とと

らえられるであろうし体験し

ていない調理は簡単でも難しく

感じる食事を用意する過程を

日々見る経験手伝う楽しさ美

しい食器を大切にして使うこと

同じ食べ物を家族や仲間と味わ

い祭りや花見などで共に食べ

る経験を積み重ねることは文

化としての「和食」を伝えるだけ

でなく生きる力を育むことにも

つながるであろう

壁にではなく居間に向かって設置されることが多くなった現在のキッチン夫婦共働きだというこの家庭では夫が厨房に立つことも少なくないというこのように食事の準備を子どもと一緒に行うことで「和食」にとって大切な要素が次の世代に伝えられるようになるのだろう

世帯あたり1ヶ月間の穀類支出金額内訳

1962年3434円

パン

麺他

2010年6373円

パン

麺他

ご飯を食べなくても平気 そんな人が増えている

お米よりパンと麺 その傾向が加速中

おせち料理を食べる派が 毎年ジワリ減少中

1962(昭和37)年度には8割以上を占めていた米への支出が2010(平成22)年度にはパンにとって代わられる米の消費量はパンより多いが家庭では炊飯する必要のある米よりすぐに食べられるパンや麺の支出が多くなり家庭での料理が減っていることを示しているともいえよう

総務省統計局「家計調査年報」より作成

いただきます

ごちそうさま

「和食」の未来

今世紀に入ってから世界に和食ブー

ムが起きている味わいやヘルシーさに

注目が集まり世界中のいたるところに

日本食の店が数多くある

そのように世界から注目される「和食」

だが本家本元の日本国内でその将来が

危ぶまれている

これまで見てきたように「和食」には

新しいものを柔軟に取り込む歴史があっ

た日本人は太古の昔より外国からも

たらされた食文化を自分たちの食生活に

取り込んで日本独自の食文化を発展さ

せてきた地域ごとに地域の環境にふさ

わしい料理をつくり出してきた食べる

料理や食べ方もその時代ごと地域ごと

に変わってきた

その中で貫かれてきたことがある

豊かな自然がもたらす食材のおいしさ

を生かす調理法を工夫し味わうこと

食卓に季節感をしつらえもてなしの気

持ちを共に感じ合う食事の場を持つこ

と一汁三菜という組み合わせを食事

の基本スタイルとして健康的な食生活

をおくることお正月におせち料理を

祝いの日にお赤飯を家族と共に食べる

など食事は家族の絆となっている

豊かな自然を守る気持ちと同じように

日本人を健やかに生かし人と人をつな

いできた「和食」もまた守るべき大切な

日本文化ではないだろうか

「いただきます」「ごちそうさま」と言っ

てみるだけでも「和食」は私たちに身近

になる人と人をあたたかく結びつけて

くれる

日本人はやはりお米のご飯がおいしい

と思うだしのきいた汁でおなかも心も

癒されるこの日本人が長い歴史の中で

育んできたすばらしい財産である「和

食」がこのままなくなってよいと考える

人はいないだろう世界の中でもすぐれ

た食文化として認められた「和食」を日本

の誇りとし大切にして次の世代に受け

継いでいくきっかけにこの冊子がなれ

ば幸いである

ごちそうさま

和 食

56 WASHOKU

「あえのこと」が伝わるのは石川県の奥能登地域(輪島市珠洲市穴水町能登町)12月から翌年の2月までldquo田の神様rdquoを家に招き入れ春まで家で過ごしてもらうldquo田の神様rdquoは夫婦二神とされ料理を乗せた神膳はもとより盃や箸など祭礼で使う道具を二組ずつ用意するのがしきたり人々は能登近郊で獲れた食材でldquo田の神様rdquoをもてなす供えられるのは小豆ご飯たら汁大根はちめ甘酒などこれは行事が終わったあと子供たちに食べさせるものでもあった国の重要無形民俗文化財に指定されさらにユネスコの無形文化遺産保護条約代表一覧表に記載された

自然は豊かな恵みだけでなく

ときに厳しさをもたらす風土

が持つ地理的あるいは気候的

な環境を受け入れ日本人は自

然と深く関わって生きてきた

1「和食」の精神性

いまほど科学や技術が発達し

ていなかった時代自然は大き

な存在で人はそこに神を感じ

豊作大漁を祈り収穫の喜びと

感謝は祭りとなった食の恵み

をもたらす自然を尊重する『精

神性』を育んできた

2「和食」の社会性

ふだんの家族の食卓や祝い事

村や町の共同体での祭りや年中

行事自然の恵みを皆で共に食

べるなかで「和食」は継承され

てきた団らんや寄り合い打

ち上げなど「和食」は社会の要

の役割を果たしている

3「和食」の機能性

もちろん食には人が生きる

糧という『機能性』もある米を

中心に野菜魚介類海藻など自

「和食」が日本文化

である理由

rdquo自然ldquoと共にある暮らしが生んだ

四季折々あるいは地域ごとに異なる表情を見せる

自然に寄り添い日本人はそれぞれの食文化をつくりあげた

「和食」がなぜ文化であるのかその理由を探しにでかける

自然と共にある暮らし奥能登のldquoあえのことrdquo

56 WASHOKU

然の恵みをふんだんに使う「和

食」は見事な栄養バランスを持

つ健康的な食文化であるまた

ハレの日の料理には健康長寿

の願いをかけるという「機能」も

ある

4「和食」の地域性

そして多様な『地域性』地

理や気候が各地で異なる日本は

地域ごとに多様な食文化を築い

てきた北海道から沖縄にいた

るまで近世までは各地域が食

材を自給自足しそれぞれに特

徴のある食文化を営んできた

つまり「和食」は日本の地方文

化の象徴である

ここで例として見るのは石

川県奥能登に伝わる「あえのこ

と」これはrdquo田の神様ldquoに一年

の収穫を感謝する農耕儀礼

「あえ=もてなし」「こと=祭

り」を意味し冬から春にかけ

てrdquo田の神様ldquoを家に招き入れ

てもてなす能登の豊かな山

里海の恵みが捧げられる

もう一例は青森県下北半島

にある佐井村の食

長い冬に野菜や山菜などの

保存食を多用する食習慣が育ま

れいまでもその伝統が色濃く

残り独特の郷土料理が受け継

がれている正月にはこの土地

ならではのおせち料理を食べ

無病息災を願う

自然と共にある暮らしが日

本のさまざまな地域で独自の

料理と食習慣を育み「和食」を

かたちづくっているのがわかる

自然と共にある暮らし青森県の場合

東北地方全般に自生する山菜ミズこれはミズを茹でてアクを抜き蒸しサザエとともに昆布だしに浸す「ミズの水あえ」山と海の幸が一品の中で共存する点が興味深い海と山との距離が近い西津軽地方の郷土料理だが山の幸と海の幸がひとつの料理に盛り込まれる

4 地域性津軽地方で小正月などに七草粥の代わりに食べられている汁物一般的な春の七草は冬の青森では採れないため大根やにんじんなど冬の根菜のほかはわらびやぜんまいそして凍み豆腐など保存性の高い食材を多用して厳しい冬の正月に彩りを添えたそこには無病息災への願いが込められている

3 機能性青森県下北半島の突端に位置する人口約2500人の佐井村で毎年9月に開催される箭根森八幡宮例大祭では3日間の祭りの最中は どの家も玄関を開放してどんな客でも招き入れて盃を酌み交わす村中に神が降りて来るこの3日間は人々は平等に食事を囲み絆を固める

2 社会性この地域では家族全員が協力しながらひと冬分の「寒干し大根」づくりに励む大根を一度茹で冷たい清水にさらしてから寒風に当てて乾かすという工程は厳しい冬に対してあらがおうとせず寒さをうまく利用して自然と共に生きるという精神性が育んだ暮らしの知恵だ

1 精神性

寒干し

団らん

けの汁

ミズの水あえ

「和食」が日本文化である理由

1

3

2

4

78 WASHOKU

1

自然の尊重

自然の尊重から「和食」は始まり

いまここにある

豊かな自然なかでも清涼な水に支えられて

「和食」は食材に恵まれ調理方法箸しつらいなどを育んできた

それゆえ季節感を感じ自然を尊重する精神を忘れないのだ

京都市上京区の梨木神社(なしのきじんじゃ)に湧く「染井の井戸」は今でもldquo名水rdquoとして地元の人々から親しまれている湧き水日本各地で川の水のみならず湧き水や井戸水の恵みを受けてそれに感謝して暮らしてきた

78 WASHOKU

大自然が育む恵みが豊かな

日本では古くから自然を崇

拝し尊重する精神を育んでき

た日本各地で季節ごとに豊

作豊漁を祈願する祭りをおこ

なってきたことも自然を敬う

精神の表れだ

春夏秋冬日本は世界に類

を見ないほど四季が明確で和

食にはその季節でしか味わえ

ない多種多様な旬の食材が取り

入れられる

料理を盛るための器もまたし

かり天然の樹脂である漆う

るし

を塗

る漆し

っき器は美しさと防虫効果

耐久性を高めるなどといった先

人の自然に対する知恵が生み出

した器である

また器使いやあしらいで季

節感を出すことやハレの席や

会席料理においては床の間に

季節の花を飾るなどしつらい

に四季を感じさせる工夫が施さ

れるも特筆すべき点だ

そして自然の恵みのひとつ

として大切なものが水である

水は信仰の対象でもあり日

本の食文化を形成する上で重要

な役割を果たしてきた

国内の平均雨量は1800

と多く飲料として使える水が

豊富なのに加え水が地下に滞

留する時間が短くミネラル分

をあまり含まないそのため欧

米など大陸の硬水とは違い軟

水(WHO基準でカルシウムと

マグネシウムの量が120

L未満)であることも「和食」

に大きな影響を与えている

口当たりがやわらかくまろ

やかな軟水をふんだんに使った

調理方法や食材そのものの味

を生かす料理が発達してきた

例えば豆腐木綿豆腐や絹

ごし豆腐といった一般的な日本

の豆腐はたくさんの水を使っ

てつくられるため水の善し悪

しが味に関わってくる

炊飯も水で何度か米を洗い

適量の水を加えて炊くことで

芯のないふっくらとしたご飯に

炊き上がる

副菜であるお浸しのように茹

でた後に水で洗って絞ったり

水によってあくを抜いたりそ

ばのように一度茹でたものを水

で締めたり水をふんだんに使

う料理方法は独特で世界的に

見ても珍しい日本の水の性質

の良さが「和食」を支えている

また昆布や鰹節の持ち味を引

き出せる軟水だからこそだし

を使う調理が発達しただしに

よって自然の恵みである素材

そのものの持ち味をおいしくい

ただくことにもつながっている

のである

季節の移ろいを感じることが

「和食」の精神として息づいてい

る言い換えれば子どもの頃

から四季の感性が備わる日本人

にとっての食つまり「和食」と

は「自然の尊重」そのものなのだ

古くから食されている豆腐大豆の絞り汁を凝固剤で固めたのものだが日本の豆腐は水分を多く含み柔らかなのが特徴である味が淡泊な分製造工程における良質の水が味の決め手といわれる

豆腐

=

良質な水の活用

吹き寄せ

=

季節感を織り込む

「和食」は季節感がさまざまなかたちで織り込まれる吹き寄せという料理は季節の野菜銀杏きのこなどが塵取りに吹き寄せられた秋の風情を表現している

椀もの

=

木という素材使い

汁物を供する器はおおむね木製の椀薄く削った木地に布を巻きその上から漆

うるし

を塗った漆し っ き

器として全国で使われてきた木製なので熱い汁を注いでもその熱さを感じることなく手で持てるのも木という自然の素材ならではのよさだ

わさび

=

自然が持つ機能性

刺身の薬味としておなじみのわさびツンと尖ったその辛味は化学的にはアリルイソチオシアネートという揮発性の成分で強い抗菌殺菌作用があるため生魚を食べるときにその効果が発揮される自然がもたらす効果を駆使する「和食」ならではの知恵だ

豆腐

椀もの

吹き寄せ

わさび

「和食」が日本文化である理由 自然の尊重1

まろやかな軟水が

大きな影響を与える

910 WASHOKU

家族や親族で食卓を囲む日常

的なひとときは「いただきま

す」から始まる大切なコミュニ

ケーションの場みんなが顔を

合わせ食事をしながら日々感

じたことやその日の出来事を語

り合うことで家族の絆を強く

していくまた子どもたちに対

しては箸の持ち方や器の扱い

方といった「和食」ならではの食

の作法を伝えたり料理をとお

して味覚や栄養バランスなどを

教える大切な機会だともいえる

日常とは別に正月や節分大

晦日などの「年中行事」で普段と

は違うそのときならではの料理

をいただくその習慣もまた

家族や親族のつながりを強める

のに役立つまたそれぞれの

家ごとの味や伝統が親から子

へと受け継がれていくことにも

なる

家とは別に地域でつながる

年中行事もある

2

家族や地域を結ぶ

寄り合いが人をつなぐ

行事や祭りの食の役割

食事を共にするということを通して人はつながりを深くする

家族の食卓での団らん祝いごと地域の祭り年中行事

日本の伝統文化の中で食は人をつなぐ役割の中心にある

食を通して

人や地域とつながる

お正月に家族や親族で集まっておせち料理を囲む時間は地域や親族に伝わる食の伝統を次の世代へと受け継ぐ絶好の機会だまた下の写真は青森県西部の日本海沿岸に位置する深浦町でのひとこま

「深浦地産地消の会」ではいくつかの家族が集まって地域に古くから伝えられる郷土料理を教え合うという活動を続けている祖父母の世代しかその作り方を知らない料理を披露し郷土の伝統を次世代へ伝えようと尽力している

家族の食

910 WASHOKU

地域ごとで行う祭りの中でも

食は大切な要素である神社に

おける祭さ

いし祀の後には直な

おらい会と呼

ばれる飲食の儀礼も行われる

本来神への供く

もつ物やお神み

き酒を参

列者がいただくことで神と人

とが一体となり神の加護を期

待するという意味合いを持つ

今日では祭りの後の打ち上げ

という気分もあり祭りを終え

た後人と人とが酒を酌く

み交わ

すそれにより親密感が増し

共同体意識を高めているのだ

こうした打ち上げもまた食

を介した日本の文化といえる

祭りではなくとも食を中心

にして地域がつながるケースも

ある例えば秋になると山形

県や宮城県などで盛んに行われ

る芋煮会仲間や同僚地域の

人たちなどで声を掛け合い河

原に集まる季節の行事だ鍋の

内容は山形県の内陸部では里

芋と牛肉を具として入れた醤油

味が一般的一方宮城県では

里芋と豚肉を味噌で味付けて食

べるこのように地域によって

違いはあるが地元産の秋の食

材を入れ大きな鍋を囲むとい

う点では共通している一緒に

食べるだけでなく共同で鍋を

作ることで親交や結束がより

いっそう深まるのだろう

食をとおして家族や親族

そして地域やコミュニティが

結束力を強めるこれは「社会

性」という「和食」が持つ特徴の

ひとつだ

「和食」が日本文化である理由 家族や地域を結ぶ2

祭礼の中で食事を共にすることは祭りを担う人々の絆を固める大切な機会である下の写真は大阪府の祭りの様子この日に供されたのはハモと松茸のすき鍋水なすの漬物など一方で東北地方の宮城県や山形県で秋になると盛んに行われる

「芋煮会」(写真右)は地域だけでなく職場や親族友人どうしなどのコミュニティ単位で行われることが多い食材を持ち寄って鍋の準備を共に進めることで連帯感が高まるのだ

地域や祭りの食

1112 WASHOKU

おせち料理おせち料理の内容は地域によってさまざまこれは東京のおせち料理のひとつ重箱(手前)には健康を願う「黒豆」や子孫繁栄を願う「数の子」そして田の肥料としたことで豊作を祈願する意味を込めた「田作り」という「祝い肴三種」が盛り込まれている祝い肴にはその他紅白のかまぼこや長寿を祈願した海老の焼き物豊作を願ったたたきごぼうなどがあり地域によって異なっている酢の物(左の小さな重)や煮しめ(奥の大きな重)をおせち料理に供する家庭も多い

日本人の生活の中には特別

なrdquoハレの日ldquoがあるひとつは

正月などのように毎年同じ時期

にめぐってくる年中行事もう

ひとつは誕生や成人や結婚や還

暦など人生の節目にあたる日で

これを人生儀礼と呼ぶそして

ハレの日にはそれを食べるこ

とで「邪気や災厄をはらい健康

長寿を願う」という共通点があ

る一

年の始まりを祝うお正月は

「歳と

しがみ神さま」を各家庭で迎える

年に一度の大切な年中行事家

の入口に立てられる門松は神を

招くための目印で一年の幸せ

を願い家族が集まって食事を

共にするその際に供されるの

がおせち料理だ地域ごとにさ

まざまなバリエーションがある

のもおせち料理の特徴で酒し

ゅこう肴

3

健康長寿の願い

ハレの日の食事で

健康と長寿を願う

例えば全国各地でrdquo文化ldquoとして

色濃く残っているおせち料理

その内容には地域ごとにさまざまな

バリエーションがあるものの

共通しているのは

料理を食べることで健康長寿を

願うという点だ

1112 WASHOKU

お正月雑煮に合わせて飲むお屠蘇は銚ち ょ う し

子三つ重ねの盃盃を乗せる盃台これらを載せる盆で供されるもともとお屠蘇はいくつかの薬草を組み合わせた屠

と そ さ ん

蘇散を酒やみりんに浸して作る薬酒だった

お194679と そ蘇

魂の象徴である丸餅を入れた雑煮を食べるということは神の力をいただくことでもあったこれは京都でなじみ深い西京味噌で味付けした雑煮焼かずに煮た丸餅と昔から縁起物とされた頭

かしらいも

芋(里芋の親芋)が入るのが特徴だ

雑煮

赤い色の小豆は邪気と厄をはらいのけると信じられ祝い事の際には頻繁に登場したまたもち米を蒸して食べる習慣は古い日本の文化でもあって例えば赤飯はハレの食事として供されことにお祝いの席には欠かせない

赤飯一生食べることには苦労しないようにとの願いを込めて子どもの生後100日目に行う「お食い初め」の儀式では尾頭付きの鯛を含んだ一汁三菜の膳が供される丈夫な歯が生えることを願う「歯固めの石」も欠かせない

お食い初め

「和食」が日本文化である理由 健康長寿の願い3

を並べたスタイルもあれば煮

しめだけをおせちとする地域も

あるが神と食事を共にしつ

つ福を招き災いを打ちはらう

という願いが込められていると

いう点は共通している

同じくお正月に食べる雑煮は

そもそも武士にとって一番大切

で正式な酒の肴で正月には必

ず餅の入った雑煮とお194679と

そ蘇が

供されるそして鏡餅などの丸

い餅は神の魂の象徴「歯固め

餅」とも呼ばれ1月11日に鏡餅

を食べて歯が丈夫な長寿を願う

意味が込められている

食を囲み毎日を無事に過ご

すことを願う行事に五節句があ

る七草粥を食べる正月7日

(人じ

んじつ日)の他には邪気をはらう

と信じられていたヨモギ入りの

草餅を食べる3月3日(上じ

ょうし巳)

粽ちまきや柏餅を食べることで健康を

願った5月5日(端た

んご午)索さ

くべい餅と

呼ばれる細い麺を食べて無病を

願う7月7日(七し

ちせき夕)菊酒で不

老不死を願う9月9日(重ち

ょうよう陽)が

ある

人生儀礼に目を向ければ邪

気や厄をはらうと信じられてい

た赤飯は祝儀だけでなくお盆

などの仏事や葬儀の際にも食

べられてきた

体によいものを求めてきた

「和食」の伝統は結果として世

界でもまれにみる健康によい食

文化をつくりあげた健康で長

生きしたいという強い指向が

「和食」の根底にはある

北海道は各地から入ったお雑煮が混在する北海道特産のいくら鮭を使った「親子雑煮」を食べる家庭も多い

焼いた角餅に醤油味が一般的一部の地域では具に豆腐やゴボウなどが入りゴマだれやクルミだれに付けていただくこともある

鰹節でだしを取り醤油で味付けしたすまし汁に焼いた角餅を入れるのが一般的具には鶏肉こまつ菜かまぼこなどが入る

昆布でとっただしに白味噌で味付けし煮た丸餅を入れるすまし汁のところや元旦は白味噌2日目はすまし汁にする地域もある

1314 WASHOKU

「県出身ならあれ食べた

ことあるの」「お雑煮のお餅と

味付けは」hellip日本各地に伝

統的な料理や食材があり味付

けも地域ごとに異なる

気候や風土が異なると採れ

る食材や調理法は変化し地域

色豊かな和食が形づくられてき

たそんな多様性も和食の魅力

であり日本を旅するときの楽

しみのひとつでもあるはずだ

いまのように流通が盛んでな

く保存技術も進んでいなかっ

たころ食料を無駄なく存分に

そして安定的に味わうというこ

とは人々の重要な課題だった

そこで知恵を絞り工夫をこら

し考えられたのが食品の加工

や保存方法その知恵が結果的

に「和食」の多様性を生みだし

ていくことになるのだ

海から遠い土地では魚を長持

ちさせる知恵が生まれ冬が厳

しい北方では野菜を長期にわた

り保存する技が発展してきた

魚の干物餅梅干し凍み豆

腐helliphellipこれら保存食は昔から

ある加工食品だが同じく日本

古来の加工食品に発酵食品があ

る微生物の働きや酵素の力

で保存力や栄養価風味などが

加わった食品だ野菜の漬物も

このひとつ

例えば秋田県の郷土料理「い

ぶりがっこ」大根を囲炉裏の

4

「和食」の多様性

風土が多様性を生み

それが「和食」という地図を描く

南北に長くさまざまな気候を持つ日本だけに地域が持つ食文化は多様で

土地土地に伝わる郷土料理や加工保存技術が存在している

日本の食が描く地図は知れば知るほど面白い

風土の違いから生まれる

食文化の多様性

お雑煮MAP

 

正月に食べられるお雑煮はだ

しの素材や味付け餅の形状具な

どが地域や家庭によってさまざま

であるだしには昆布鰹節煮

干しするめ穴子鶏肉が味付

けには塩醤油味噌などが使われ

る餅は角か丸かそれを焼くか

煮るかという違いもあるまたあ

ん入りの餅を入れる地域もある

具は野菜類魚介類鶏肉などで

地域の特産品が使われることも多

い沖縄県ではお雑煮に代わるも

のとして「中味汁」(豚の内臓の

汁)があるここでは全国各地の

お雑煮の中から特徴のあるもの

を取り上げた丸もち

角もち

角もち

角もち

昆布と鰹節のだしに味噌で味付けし煮た丸餅とかぶそしてかぶの葉を加えたシンプルなお雑煮を食べる地域も味噌は赤味噌白味噌のいずれかが使われる

丸餅に白味噌仕立てが多いが香川県では白味噌にあん入り餅を入れた「あんもち雑煮」が珍しい具は大根ニンジン里芋など

だしはあごだし昆布鶏肉とさまざまだが味付けは醤油味具にかまぼこが入り九州の北部にはあん入り餅を入れる地域もある

醤油味のすまし汁に煮た丸餅が多い出雲地方では

「小豆雑煮」と呼ばれ具はなくぜんざいのような小豆だけの雑煮を食す

昆布と鰹節のだしに味噌で味付けし煮た丸餅とかぶそしてかぶの葉を加えたシンプルなお雑煮を食べる地域も味噌は赤味噌白味噌のいずれかが使わ

1314 WASHOKU

上に吊るし楢や桜の焚き火で

燻製にしてから米糠と塩で漬

けこんだ漬物だこれは冬の訪

れが早い秋田で大根を早く乾

燥させ長く食べられるようにす

るための工夫だいずれも手間

と時間が加わることで風味が

濃縮されとれたてとは違った

深い味わいが生まれた

魚介類の保存食でいえばな

れずし魚を塩と米飯で数日

から数ヶ月寝かせ乳酸発酵さ

せたもの雑菌の繁殖が抑えら

れ長期間の保存が利く上うま

味が増す現在滋賀県のふな

ずし和歌山県のサバやサンマ

のなれずし福井県小浜市のへ

しこなれずし秋田県のハタハ

タ寿司など日本全国の郷土料

理として残っている

また味噌や醤油といった発酵

調味料は日本料理の味の要と

もいえやはりこれらにも地域

によって造り方や味に違いがあ

る例えば味噌大豆と米こ

うじを使い長期間熟成させた辛

口の津軽味噌米こうじを多く

配合した甘みのある西京味噌

大豆こうじを使った赤褐色の名

古屋の八丁味噌麦を原料にし

た九州地方の麦味噌などさま

ざま

地域の特産品発酵調味料餅

で構成されるお雑煮を見ても

多様性はよくわかる

日本の風土と食文化は深く結

びつき世界が注目するバラエテ

ィに富んだ食を育んできたのだ

日本の味噌

mdash

地域と特徴mdash

味噌は製法材料によって

大きく3つに分けられる

全国的に一般的なのが「米

味噌」で蒸すまたは茹で

た大豆に塩米こうじを加え

発酵させたもの米こうじ

の代わりに麦こうじを使用

したものを「麦味噌」大豆

を発酵熟成させたものが

「豆味噌」米味噌には大

豆を蒸して長期間熟成した

辛めの赤味噌と大豆を茹

でて短期間で熟成させた甘

めの白味噌がある

「和食」が日本文化である理由 「和食」の多様性4

主な種類地域 特徴

米味噌

津軽味噌 長期間熟成させる辛口で赤味噌系が主流

仙台味噌 仙台で伝統を継承して造られてきた長期間熟成させる辛口赤味噌系が主流

信州味噌 長野県を中心に造られる山吹色の淡色系の辛味噌

江戸甘味噌 通常の味噌よりもこうじを多く塩を少なくした赤系の甘さのある味噌

西京味噌 関西地方を中心に造られる米こうじの多い甘みのある白味噌

讃岐味噌 香川県で造られる甘みのある白味噌あん餅雑煮にも使われる

府中味噌 甘みのある米こうじの多い白味噌で主に広島県で造られる

麦味噌 九州四国中国 麦こうじを使って発酵させた山吹色を帯びた甘みのある味噌

豆味噌 八丁味噌三州味噌 蒸した大豆でみそ玉を作りこうじ菌を繁殖させて造る濃い赤褐色の味噌

お雑煮に入れる餅の形について出身地ごとに聞き取った結果中部を境にして東は角餅西は丸餅が多かった

もちの形について

丸もち

丸もち

丸もち

丸もち

出典「お雑煮100選」(文化庁)より

(人)

温暖化が進み狩猟が大型獣から小型獣になる

南九州で竪穴式住居にドングリ貯蔵穴が広まる

ドングリなどの植物性食料が重要な食料になる

水田稲作が日本列島に伝来

稲作の広がりと定着魚を発酵させたなれずしの登場

『魏ぎ

し志』倭わ

じんでん

人伝には倭(日本)では冬夏に生菜を

飲食に高杯をつかい手食するとある

土は

師器の移動式かまどの使用

土師器の甑こ

しきに

よる蒸し米が盛んになる

中国に遣唐使を送る大陸の食文化がもたらされる

675年天武天皇が「牛馬犬猿ニワトリ」の

食用を禁止

牛乳を煮詰めて作った「蘇そ

」が朝廷に貢納される

箸の利用が広がる

貴族の大だ

いきょう饗

料理や年中行事が中国の影響で定着

豆腐が中国より伝来する

栄西が宋より抹茶法を持ち帰る

道元が禅宗における食事作法や調理の心得を

説いた『典て

んぞきょうくん

座教訓』『赴ふ

しゅくはんぽう

粥飯法』を執筆

植物性食品のみを使った精進料理の発展

武士の供応食本ほ

んぜん膳

料理の形成

包丁人と呼ばれる料理人が誕生し包丁流派を形成

刻み目のついたすり鉢が広がる

酒造技術の進展

書院茶の湯からわび茶の湯へ

千利休により茶の湯が完成

懐石形式の定着

豊臣秀吉が北野大茶会を開催

欧州が大航海時代に入り

南蛮貿易により南蛮菓子唐辛子などが日本に伝来

日本初の出版料理書『料理物語』刊行

都市部に食べ物屋や料理屋が普及する

料理屋の会席料理形成

けがれによる肉食禁忌の観念が広く浸透

薬食いとしての肉食

飢き

きん饉に備えさつまいもやじゃがいもの栽培を奨励

和菓子の完成

握り寿司やてんぷらが江戸で流行する

肉食解禁と牛鍋の流行

『西洋料理指南』など西洋料理書の出版

西洋料理店の発展

米の摂取率が平均53に

家庭向け料理書の出版

女学校における食物教育

脚か

っけ気

論争がさかんに行われる

牛肉の不足から豚肉の生産が増加

洋菓子の製造発展

物価高騰と米不足によるじゃがいもパンなどの代用食の奨励

国立栄養研究所の開設と栄養学の発展

都市部で和わ

ようせっちゅう

洋折衷料理が普及

戦争による食料不足

食料統制米などほとんどの食品が配給切符制となる

イモなど代用食の増産

戦後のミルクとパンの学校給食が開始

各地に闇市ができる

食料の価格が高騰

厚生省が日本人の栄養基準値を策定

農家の生活改善運動が展開

即席ラーメンなどインスタント食品の開発販売

冷凍冷蔵庫の普及と冷凍食品が普及

日本型食生活の提唱

ファミリーレストランファストフード店の増加

コンビニの発展

日本食の洋食化と簡便化と米摂取量の減少

食料自給率が39〜40に低下

レトルト食品の売上増大

電子レンジ普及率が約90に

遺伝子組み換え食品が登場

地球温暖化など環境問題が深刻化

阪神淡路大震災東日本大震災により災害食が注目される

持続可能性が社会課題に

家庭料理の変化や家族の孤食化などの問題が生まれ和食の見直しへ

縄文時代弥生時代古墳時代飛鳥時代奈良時代平安時代鎌倉時代室町時代安土桃山時代江戸時代BC9000年BC3000年BC2500年頃BC200年頃240年頃500年頃7世紀8世紀8~12世紀12~14世紀14~16世紀16~17世紀17~19世紀

1516 WASHOKU

「和食」の年表

「和食」がたどった道和食の成立とその変化を年表でたどってみると各時代の人々が海外の食文化の影響を受けながら工夫を積み重ねてきた様子が見えてくる

米は縄文時代晩期に伝来し

たとされるが全国に広がるの

は弥生時代である

平安時代の大饗料理は貴族

の供応料理で蒸した高盛の強こ

飯いい

に各種の魚介類を配し調味

料につけて食べる形であった

鎌倉時代には禅宗の影響に

より動物性食品を排除した

精しょうじん進料理が発展した道元禅

師は調理も修行の一つとして

その心得を記した『典て

んぞ座教き

ょうくん訓』と

食事への感謝の念作法を説い

た『赴ふ

粥しゅく

飯はんぽう法』を著した

室町時代上層階層の料理文

化として本膳料理が登場した

この形式は江戸時代後期には

婚礼などの儀礼食として各地域

に浸透し昭和期まで継承され

た本膳には飯汁菜香の物

が盛られ飯を主食とした伝統

的な食事の形式が定着すること

になるまた酒とその酒肴も

本膳に伴って発展した

安土桃山時代には茶の湯に

ともなう懐石が発展した一汁

三菜を基本に旬の素材にこだ

わり食事空間のしつらいにも

気を配るなど精神性をも盛り込

んだこの形式はその精神と

共に現代に引き継がれている

江戸時代の都市部ではそば

すしてんぷらなどの食べ物屋

高級料理店なども広がりをみせ

た料理書の出版も相次ぎ酒

と酒肴を楽しむ料理屋の会席料

理も成立したまた和菓子の

温暖化が進み狩猟が大型獣から小型獣になる

南九州で竪穴式住居にドングリ貯蔵穴が広まる

ドングリなどの植物性食料が重要な食料になる

水田稲作が日本列島に伝来

稲作の広がりと定着魚を発酵させたなれずしの登場

『魏ぎ

し志』倭わ

じんでん

人伝には倭(日本)では冬夏に生菜を

飲食に高杯をつかい手食するとある

土は

師器の移動式かまどの使用

土師器の甑こ

しきに

よる蒸し米が盛んになる

中国に遣唐使を送る大陸の食文化がもたらされる

675年天武天皇が「牛馬犬猿ニワトリ」の

食用を禁止

牛乳を煮詰めて作った「蘇そ

」が朝廷に貢納される

箸の利用が広がる

貴族の大だ

いきょう饗料理や年中行事が中国の影響で定着

豆腐が中国より伝来する

栄西が宋より抹茶法を持ち帰る

道元が禅宗における食事作法や調理の心得を

説いた『典て

んぞきょうくん

座教訓』『赴ふ

しゅくはんぽう

粥飯法』を執筆

植物性食品のみを使った精進料理の発展

武士の供応食本ほ

んぜん膳

料理の形成

包丁人と呼ばれる料理人が誕生し包丁流派を形成

刻み目のついたすり鉢が広がる

酒造技術の進展

書院茶の湯からわび茶の湯へ

千利休により茶の湯が完成

懐石形式の定着

豊臣秀吉が北野大茶会を開催

欧州が大航海時代に入り

南蛮貿易により南蛮菓子唐辛子などが日本に伝来

日本初の出版料理書『料理物語』刊行

都市部に食べ物屋や料理屋が普及する

料理屋の会席料理形成

けがれによる肉食禁忌の観念が広く浸透

薬食いとしての肉食

飢き

きん饉に備えさつまいもやじゃがいもの栽培を奨励

和菓子の完成

握り寿司やてんぷらが江戸で流行する

肉食解禁と牛鍋の流行

『西洋料理指南』など西洋料理書の出版

西洋料理店の発展

米の摂取率が平均53に

家庭向け料理書の出版

女学校における食物教育

脚か

っけ気

論争がさかんに行われる

牛肉の不足から豚肉の生産が増加

洋菓子の製造発展

物価高騰と米不足によるじゃがいもパンなどの代用食の奨励

国立栄養研究所の開設と栄養学の発展

都市部で和わ

ようせっちゅう

洋折衷料理が普及

戦争による食料不足

食料統制米などほとんどの食品が配給切符制となる

イモなど代用食の増産

戦後のミルクとパンの学校給食が開始

各地に闇市ができる

食料の価格が高騰

厚生省が日本人の栄養基準値を策定

農家の生活改善運動が展開

即席ラーメンなどインスタント食品の開発販売

冷凍冷蔵庫の普及と冷凍食品が普及

日本型食生活の提唱

ファミリーレストランファストフード店の増加

コンビニの発展

日本食の洋食化と簡便化と米摂取量の減少

食料自給率が39〜40に低下

レトルト食品の売上増大

電子レンジ普及率が約90に

遺伝子組み換え食品が登場

地球温暖化など環境問題が深刻化

阪神淡路大震災東日本大震災により災害食が注目される

持続可能性が社会課題に

家庭料理の変化や家族の孤食化などの問題が生まれ和食の見直しへ

明治時代大正時代昭和時代(戦前戦中)昭和時代(戦後)平成1869~1912年1912~1926年1926~1945年1945~1989年1989年~

1516 WASHOKU

家庭料理の変化や家族の孤食化などの問題が生まれ和食の見直しへ

基本はほぼこの時代にできたと

いえよう

いっぽう各地域の日常食の

主食は麦雑穀芋類を混合し

たかて飯やうどんなど小麦粉を

用いた食事が多くそれは昭和

期まで引き継がれ各地で独自

の「和食」の文化が形成された

西洋文化を積極的に取り入れ

た明治時代以降西洋料理書が

出版され都市部では西洋料理

店が開店したまた明治時代

後期には家庭向け料理書の出

版が相次ぎ西洋料理をアレン

ジして和食に取り入れた和わ

よう洋

折せっちゅう衷料理が数多く紹介された

大正期国立栄養研究所の開

設により栄養学の研究が進み

日常食の栄養についての関心が

少しずつ広がった

飢餓を経験した戦時期を経て

主食に偏らず副食に動物性食

品や油脂を加えた食事が推奨さ

れたその結果1980年頃

になると日本人の食事は米飯

を基本にしながらも乳乳製品

肉魚類野菜類などを適度に

加えたよりバランスのよい食

事となったこの時期の食生活

を「日本型食生活」と呼んだし

かしその後食生活の洋風化

簡便化が広がり食料自給率は

40パーセントと減少した若年

層を中心に食事の基本型が崩れ

欠食孤食などが話題となり和

食の見直しが求められるように

なった

1718 WASHOKU

「和食」の特徴1

献立のかたち

「ご飯」を食べるために

「汁」と「菜」がある

「一汁三菜」が和食の基本型

「一汁三菜」とは「ご飯」と「汁」と「香の物」に

いくつかの「菜」が添えられるという組み合わせ

「ご飯」と「汁」と「香の物」に「お菜」が3品添えられるという献立が一汁三菜この場合は焼き魚(右奥)と煮物

(左奥)と小松菜のおひたし(中央)の3つの菜で構成される向かって手前左にご飯を手前右には汁をその間に香の物をそれぞれ置くという決まりになっている

1718 WASHOKU

米を炊いた「ご飯」昆布や鰹

節などでとっただしを味噌や塩

などで味付けした具入りの「汁」

塩漬けやぬか漬けや粕漬けなど

の「香の物」そして焼き物や煮

物や和え物などの「菜」その4

つの要素で構成される「一汁三

菜」という組み合わせがある

基本的には汁が一種で菜が

三種の構造を「一汁三菜」と呼

ぶ食事中に口の中をさっぱ

りと保ってくれる「香の物」と

ご飯はいつも必ずついていて

その数も変わらないからあえ

て数えない

日常の食事である一汁三菜に

対して江戸時代によく登場す

るのは二汁五菜つまり汁が二

種に菜が5つこれが昔のおも

てなし料理の基本でお膳もふ

たつ出たいいかえると一汁三

菜はひとつのお膳に載るふだ

んの家庭の食事であることがわ

かる

また汁にもいろいろあった

魚のアラを汁に仕立てたものや

野菜を豆腐と一緒に煮込むけん

ちん汁など具だくさんの汁も

各地域でみられ汁でご飯を食

べるということも和食の特徴の

ひとつだ

一汁三菜の献立の最大の特徴

は汁も香の物も菜もすべてご

飯を食べるために存在するとい

う点かもしれないご飯が主食

でその他の3つの要素が副食

という考えが一汁三菜の根底に

ある少ない菜でたくさんのご

飯を食べご飯の量でカロリー

の摂取量を調整するのがかつ

ての和食の基本的な食べ方だっ

たのだ

「和食」にとって欠かせないご

飯についてもここで触れてお

こう

米には「うるち米」と「もち米」

とがあり強い粘性を持つもち

米は赤飯などのおこわ(強こ

わいい飯

や餅に用いられるそれに対し

てうるち米はもち米より粘り

気が少なく通常の米飯として

使われる

米のもとになる稲の栽培が始

まったのは1万年以上前とされ

野生の稲を栽培したのが始まり

と考えられているその原産地

は中国の長江流域とその周辺

という説が有力でそこから西

へ伝わった品種がインディカ種

また東へと伝わり東アジアに

広がったのがジャポニカ種だ

「和食」における献立の目的は

いわば汁と菜でご飯を食べる

ことつまりご飯に合うのなら

例えばそれが肉じゃがでもコ

ロッケでもとんかつでも菜と

して取り入れてこられたのは

ご飯を主食とする「和食」のス

タイルがしっかりしていたか

らである一汁三菜という和

食の基本型がなくなったら外

国の料理と変わらなくなって

しまうだろう

「和食」の特徴 献立のかたち1

稲 玄米 白米 調理加工

粉にする

飯餅菓子米飯焼き米ひなあられ餅おかきあられ

稲わら 俵わらづと鍋釜敷き畳床むしろわらぞうり縄みのわらぼうき など

酒酢みりん味噌発酵させる

糠 たくあん糠漬けあく抜き

(上新粉など)柏餅草餅重

お も ゆ

湯など

(白玉粉落ら く が ん

雁粉道明寺粉など)白玉最中大福餅落雁桜餅など

どうみょうじ

うるち米の粉

もち米の粉

日本人の暮らしに深く関わる稲米

 現在世界で栽培されている稲の主な種類にはインディカ種(インド型イネ)やジャポニカ種(日本型イネ)などがあるインディカは長粒種と呼ばれる米ジャポニカは日本でよく食べられている丸く短粒な米で短粒種と呼ばれる米の主成分であるでんぷんにはアミロースとアミロペクチンとがありアミロースを多く含むインディカ種は粘り気が少ないのに対しアミロースの少ないジャポニカ種は粘りが強く日本人にとってはおいしい味の米であるそしておにぎりやすしのようにまとめる米料理も発達した 世界の米の生産量は約6億トンと小麦とほぼ同じだがその90以上が日本を含むアジア諸国で栽培されているジャポニカ種は全体の15を占め日本をはじめとして朝鮮半島中国東北部台湾北部などで主に栽培されているインディカ種の栽培地域はインドからベンガル地方のバングラデシュタイをはじめとするインドシナ半島中国の中南部インドネシアなど南アジアが中心だ

ジャポニカ種とインディカ種日常私たちがご飯として食べているのはうるち米赤飯や餅にするのはもち米である栄養価はほとんど同じであるがでんぷんの構成が異なるうるち米はアミロースとアミロペクチンの比率が約28であるがもち米はほとんどアミロペクチンで構成されているそのためにもち米はうるち米に比べて粘りが強く餅にするのに適しているのである日本では両方の米の特徴をうまく利用して粒のまままたは粉にするなどしていろいろな料理や菓子を生み出したり発酵させて酒やみりんなどをつくり出したりしてきた

うるち米ともち米

インディカ

ジャポニカ

「和食」に欠かせない

米はどこから来たのか

1920 WASHOKU

全国各地でさまざまな魚や野

菜が豊富に手に入ったことそ

して文明開化の時代まで一般

的に肉食をしなかったという背

景から「和食」は野菜と魚介類

を中心に調理されてきた

現在日本の市場で流通する

野菜の数は150種類ほどと言

われているその種類はイモ類

やマメ類をはじめ根菜類茎け

いさい菜

類葉菜類果菜類など実に多

様ださらには山菜やきのこ

など森林に自生するものも調

理に工夫することでうまく食材

として取り入れてきた

日本で流通する野菜は近代

になって外国から輸入されたも

のや品種改良によって食べや

すくなったものなど多様では

あるが昔から日本で作り続け

られている伝統野菜(在来野菜)

も少なくない伝統野菜とはだ

いたい三世代以上に渡って栽培

「和食」の特徴2

食材

和食を支える日本の食材

おいしさの秘密と多様性

おいしい和食には素材の力がある四季折々の自然の中から

生み出される日本の食材は驚くほど多様性に富んでいる

野菜

野菜と魚介類の二大食材に

支えられる日本食文化

和食には野菜を使う料理が多くあるが現在日本で流通する野菜の種類も150以上と幅広い分類にしてもジャガイモやサツマイモなどのいも類大豆や小豆などのマメ類ダイコンやカブなどの根菜類ネギやウドなどの茎

け い さ い

菜類コマツナや白菜などの葉菜類ナスやキュウリなどの果菜類そのほかにシイタケやシメジなどのきのこやワラビやゼンマイなどの山菜など多彩な野菜が存在するしかし現代でこそ流通の発展でさまざまな野菜が一年中手に入るが全国で同じ野菜が収穫できるわけではない例えば同じいも類でもサツマイモなどは九州などで多く作られるが冷害に強く冷涼な地で生育するジャガイモは山梨や長野などの山間部や日本の北部で育てられるそのほか地域特有の特産品である伝統野菜がいま注目され始めている

1920 WASHOKU

が続けられ地域に根づいた農

法で作られるものを指しこれ

を守る動きも目立ってきている

魚介類も「和食」にとって欠か

せない食材のひとつ日本で獲

れる海水魚は実に種類豊富で

日本に生息する魚種だけでも約

4200種ある縁起のよい魚

として重宝されるタイをはじめ

アジイワシやサバサンマなど

日本の近海は魚の宝庫である

海水魚だけでなくコイやア

ユフナやウナギそして水田で

獲れるドジョウなどの淡水魚

(川魚)は海から離れた地域では

貴重なタンパク源だったため

古くから料理に使われている

ウナギの蒲焼きは一般的だが

薄切りにしたコイを50くらい

の湯に短時間漬けてから冷水で

身を締めて酢味噌で食べる「鯉

のあらい」やコイの切り身を濃

い味噌で煮た「鯉こく」など味

わい方も豊富

またうま味のもととして古

くから使われてきた昆布や味

噌汁の具としても重宝するワカ

メさらにおむすびに必須の海

苔など海藻類も和食には欠か

せない貝類も種類が豊富で

アワビをひも状に薄くむき乾

燥させた「熨の

しあわび

斗鮑」が神事や祝し

ゅうぎ儀

の象徴として使われてきた

近年日本の食料自給率が低

下し外国産食材の増加も問題

視されているが本来の「和食」

は日本の自然の恵みによって支

えられているのだ

「和食」の特徴 食材2

島国である日本において魚介類は古くから貴重でかつ重要な食材であった農林水産省の定める生鮮食品品質表示基準によれば日本で食される水産物はマグロやカツオイワシやアジなどの海水魚やコイやウナギなどの淡水魚(川魚)シジミやアサリなどの貝類カニやエビなどの甲殻類やカメなどの水産動物類クジラやイルカなどの海産哺乳動物類そのほか昆布やワカメなどの海藻類など実に多様な種類がある2000年に味の素(株)がおこなった「嗜好調査」によれば「食材」としては肉類よりも魚介類のほうが好まれている結果がみられたさまざまな魚介類のなかでもカニエビマグロなどへの嗜好性が高くそれらが「贅沢な食材」と捉えられているようである

山間部など海の魚が手に入らない地域で貴重なタンパク源として重宝されたのが淡水魚(川魚)写真はアユだがその他コイやウナギドジョウワカサギフナなど日本ではさまざまな川魚が食材として使われてきた寄生虫のおそれがあるため生食はあまりされないがその代わりに調理にはさまざまな工夫が見られる海の魚に比べると独特の臭味やクセがあるため「鯉こく」のようにしっかりと煮込むことで臭味を除いたりウナギのように蒲焼きにしたりするなどがその一例だまた例えば滋賀県には琵琶湖で獲れるフナを塩と米で乳酸発酵させ保存性を高めると同時にうま味成分を引き出した「ふなずし」もある

古来日本で食べられてきた海藻類現在でも低カロリーでミネラルビタミンに富む食材として和食では重宝されている日本では約50種類の海藻が食べられているが世界的にみてもここまで多様な海藻を加工し食用とする民族は珍しいなお海藻にはフノリやテングサのような紅藻ワカメ昆布やモズクなどの褐藻アオノリや海ブドウなどの緑藻類の3種類の海藻が存在する昆布のようにだしをとるために使うものもあるが乾燥させて食べる海苔味噌汁や酢の物の具として使われるワカメのようなものまで実に幅広いまた海藻は神への奉納品としての縁も深く日常の食事だけではなく祭りや神事などにも登場している

縄文時代の遺跡である貝塚からアワビやハマグリカキなどの大量の貝殻が発見されていることからもわかるように貝類は日本では古くから食材として利用されてきた春先の干潮時に浜辺に埋まったアサリなどの貝を掘り出して採取する潮干狩りは春の風物詩としても馴染み深い日本には6000近い貝類があるといわれておりなかでもアサリやハマグリのような二枚貝サザエやツブ貝のような巻き貝が食用として親しまれている調理法としては刺身や吸い物味噌汁煮物焼き物炊き込みご飯など幅広い料理に使用されているがだしをとるためにも使われるさらに乾物にすれば保存性も高くなるため古くから交易にも活用されてきた

海の魚

川の魚

海藻貝

2122 WASHOKU

和食における菜さ

の調理法には

煮る焼く蒸す茹でる和あ

える

揚げるなど実に多様な技法が

あるこれを季節の野菜や山

菜魚介類海藻などの食材と組

み合わせることでバラエティ

に富んだ菜が食卓を彩る

数ある日本の調理法の中で

最も特徴的なのは「生もの」材

料を生のまま切り皿に盛り付

け調味料と薬味を添える刺

身といえば魚介類が用いられる

のがほとんどで捌さ

き方切り方

盛り方などが現在世界で注目を

浴びている材料を新鮮な状態

に保つ技術と料理としての盛り

付けの技術があいまって完成し

たものといえる調味料と薬味

の組み合わせも魚類との相性を

考えて工夫されているまた

わさびしょうがからしなどの

薬味や「つま」や「けん」と言わ

れる大根のせん切り大葉防ぼ

うふう風

芽めたで蓼花は

なじそ

紫蘇など防菌効果のあ

るものを添えて見た目も美し

く組み合わせている

ご飯と並んで食卓に欠かせ

ない「汁物」は鰹節や昆布煮干

し干し椎茸などから抽出され

るだしのうま味と具として入

れる素材のうま味が味わいのベ

ースとなっている中には具だ

くさんの菜になるような汁も

ある

また豊富な水を利用した調理

焼き物(サンマの塩焼き)

直火焼きは遠火の強火でほかに間接焼きがある

生もの(カツオの刺身)

生ものには刺身あらい酢の物漬物がある

茹で物(もりそば)

小麦粉やそばなどの粉からつくる麺を茹でる法

旬の食材のおいしさを

引き出す調理法の数々

「和食」の特徴3

調理

切る煮る焼く蒸す茹でる和える揚げるhellip

あの手この手で素材をよりおいしく

バランスの取れた一汁三菜の基本はご飯にあり

ご飯をおいしくいただくために菜さ

の調理方法は進化した

煮物(筑前煮)

煮汁の中で加熱中に調味する法

2122 WASHOKU

法に「茹で物」があるたっぷり

の水を沸騰させ食材を加えて加

熱して取り出すもの青菜そば

などは茹でた後にあくの除去

歯触りを良くするなどのためさ

らに水で洗う場合も多い私た

ちがあたりまえのように調理し

て食べているほうれん草や小松

菜のお浸しは水に恵まれた日本

に定着した料理で世界的にみて

も特徴あるものといえよう

「焼き物」はサンマの塩焼きの

ように塩をふり直火でじっく

り焼き上げる方法が伝統的

「煮物」は世界で最もポピュラ

ーな調理法だが日本では素材

の味を生かしつつ醤油や味噌

など大豆由来の発酵調味料で

味を調えるものが多い

油とともに加熱調理する「炒

め物」は伝統的な調理にはほと

んど見られないが現代では盛

んに使われ和食の幅を広げて

いる

ここに紹介した調理法と料理

の例は主にご飯のおかずとな

るものであるが小麦そば雑

穀などを粉にしこれを調理し

た主食も多い代表的なものに

うどんそばそうめんなどの麺

類があり茹でる場合が多いが

煮込みなど煮るものもある

さまざまな料理を組み合わせ

て食べる和食は素材の味を生

かしうま味をしっかりとれば

最低限の調味料でおいしさを感

じることができ多様な料理を

楽しむことができる

和あえ物

(きゅうりとワカメの酢の物)

野菜や魚介類などをごま味噌酢などで和える法

漬物(きゅうり大根の糠

ぬか

漬け沢たく あ ん

庵漬け)生ものを保存する方法の一種

塩の働きに加え乳酸発酵させたものが多い

汁物(なめこの味噌汁)

だし汁を主体とする法すまし汁みそ汁とろみのついた汁など

蒸し物(茶碗蒸し)

水を沸騰させその水蒸気を利用して加熱する法

浸し物(小松菜のお浸し)

お浸しは調味した汁に浸して味をつけたもの

「和食」の特徴 調理3

揚げ物(天ぷら)

高温の油で食品を加熱する法油の温度は150~200度の範囲で行うことが多い

2324 WASHOKU

「和食」の特徴4

味わい

うま味日本人が発見した「おいしく食べる」最大の知恵

和食の味わいの中で最も重要なのがだし

味噌汁やすまし汁のベースとなり

煮物やおひたしなどさまざまな料理の

味を決定づける味の要だ

和食の味わいを語るうえで忘

れてはならないのがだし(出

汁)の存在汁物や煮物などさ

まざまな料理のベースとして使

われている

なぜ日本人はここまでだしを

好むのかその答えに大きく関

係するのが「うま味」だ江戸時

代の料理書には「だしこそ料理の

根本である」と書かれている

1907年池田菊き

くなえ苗

博士に

よって世界で初めてうま味成

分のひとつがアミノ酸の一種で

あるグルタミン酸であることが

発見されたその後日本人を中

心に研究が進みうま味は甘味

塩味酸味苦味に加えて第5

の味覚として広く知られるよう

になる現在ではうま味調味

料やだし入りのつゆなどうま

味成分を手軽に使える調味料も

普及海外でも人気が高く国

内でも日常的に使用されている

だしのほかに和食の味付け

日本が世界に誇る

第5の味覚うま味

うま味成分を多く含む椎茸もだしをとる目的で使われてきた食材のひとつだしに使用するのは干したもの椎茸は乾燥させることでうま味や香り成分が増すためだ

小魚を煮て乾燥させてつくる煮干しも汁物に多用される材料としてはカタクチイワシが代表的だがその他ウルメイワシやキビナゴトビウオなどの比較的魚体が小さな魚を使ってつくるのが一般的だ

だしのとり方は魚介や野菜から水や湯を使ってうま味成分を抽出するのが一般的だしの素材として最もよく使われるのは昆布と鰹節でそのほか煮干し野菜干し椎茸魚の内臓やあら(頭や骨)などがあるまた潮

うしおじる

汁のように食品そのもののうま味を活かす方法もある

鰹節

「だし」のこと

昆布

煮干し

干し椎茸

2324 WASHOKU

に欠かせないのは塩砂糖味

噌醤油酢酒みりん魚醤な

どの調味料わさびやからし

しょうが山椒とうがらしゆ

ずなども薬味として使われる

これら薬味によって季節感を楽

しみながら素材の味を引き出

すという知恵も「和食」ならでは

夏に高温多湿となる日本では

アジア諸国と同様発酵食品が

発達したそれゆえ味噌や醤

油や酢に代表される発酵調味料

を多用するのも和食の特徴大

豆や穀物を塩漬けにして発酵

させてつくるものだがその過

程で原料のタンパク質がアミノ

酸に分解されうま味成分を豊

富に含んだ調味料ができあがる

のだ

発酵食品も多様だ日本各地

でカビや酵母などの微生物の

働きを活かして食品中のアミ

ノ酸(うま味)を増やす発酵食品

が発達してきた冬場の保存食

として生み出された沢庵や塩

を使って乳酸発酵させる京都の

すぐき菜漬けそして糠ぬ

漬けや

奈良漬けなど野菜を発酵させ

た漬物さらに塩辛やくさや

なれずし鰹節など魚介の保存

食としての発酵食品また大

豆を納豆菌で発酵させる納豆や

こうじ菌で発酵させて乾燥後に

熟成させた寺納豆など大豆の

発酵食品もある

「和食」はうま味を上手に生

かし食材をおいしく食べる知

恵を育んできたのだ

発酵食品

発酵調味料

調味料

「和食」の特徴 味わい4

発酵食品と調味料

魚醤魚を塩漬けにして発酵させる独特の香りと濃いうま味が特徴の調味料ハタハタでつくられる秋田の

「しょっつる」イカやイワシを材料とする能登半島の「いしる(り)」などがある

酒酒もまた和食の調味に欠かせない発酵調味料のひとつ調味料としての酒の主な効果には材料の臭みを消す食材のうま味を引き出して風味をよくする甘みを加えるなどがある

塩海に囲まれている日本では古くから塩は調味料として使用されてきた焼き物や刺身などの調理の味付けとしてはもちろん漬物や干物など食物を貯蔵するための知恵としても活用されている

味噌蒸したり煮たりした大豆にこうじ食塩を混ぜて発酵熟成させた日本を代表する調味料のひとつ味噌汁や煮物などに使われることが多い地域によって使用される味噌の種類がかなり変わるのも特徴だ

酢寿司やなますなど和食に酸味を加える調味料米から醸造した酒に酢酸菌を加えて発酵させて造られる酢に漬けることにより保存性を高める

醤油大豆と小麦で造ったこうじに食塩水を加えた「もろみ」を発酵熟成させ搾ったもの刺身や焼き魚煮物炒め物など幅広い料理に使われている種類は濃口薄口たまり再仕込み白の5つに分類される

みりん蒸したもち米と米こうじを主原料に40~60日かけて熟成させて造られる発酵調味料砂糖と比べて甘みがやわらかく食材の臭味を取る働きもあるまた魚の照り焼きなどのつや出しにも使う

漬物素材を食塩や酢酒粕醤油などに漬け込み熟成させて作られる漬物沢庵や梅干し野沢菜漬けなど野菜類を長期間保存するための知恵として誕生した日本各地に独特の漬物があるのも特徴だ

納豆日本で発展した発酵食品である納豆大豆を納豆菌で発酵させた食品で寺納豆(下記参照)と区別するため「糸引き納豆」とも呼ばれる単品で食べるだけではなく納豆汁や納豆和えなどにも使われている

塩辛魚介類の身や内臓を塩漬けにし発酵させて作られた塩辛は日本における伝統的な保存食品のひとつ使われる素材はその地域によって変わりイカやエビアミタコなど多彩な種類の塩辛が存在する

塩に漬けた魚と炊いたご飯を数日間置き乳酸発酵させたなれずしは魚を保存する知恵として生まれた滋賀県では琵琶湖産のふなを和歌山県や富山県ではサバを岐阜県などではアユを材料にしたものが有名写真は滋賀県湖北地方の年頭の祭りで振る舞われる鯖のなれずし

砂糖世界的に見ても「甘み」を用いた料理が多い現在の和食では砂糖は欠かせない調味料のひとつ単独で料理に使われるというよりは煮物をはじめとするさまざまな料理で醤油や塩味噌などと併用されることが多い

寺納豆茹でた大豆にこうじを加えて発酵させ乾燥させながら熟成を促す発酵食品粘り気のある糸引き納豆とは異なり乾燥して塩辛い禅宗の伝来とともに大陸からもたらされたとされ寺院で作ることが多かったため「寺納豆」と呼ばれた

2526 WASHOKU

「和食」の特徴5

栄養

栄養バランスの優等生「和食」

野菜や魚肉そして米によって構成される「和食」は

栄養バランスの良さでも知られている

最近は五日間すべてを米飯にする完全米飯給食を行う地域も生まれた

和食の特徴のひとつである栄養についてその秘密に迫る

米麦雑穀などを炊いたご飯

を主食としてこれに魚介肉

類野菜類に発酵調味料だしを

組み合わせた和食は栄養学的

にみてもバランスをとりやすい

食事である

歴史的にみると日常食では

主食を大量に摂る習慣が続いた

穀類偏重の食生活だったといえ

よう

しかし豆腐や納豆みそ汁な

どを飯とともに摂ることで米の

アミノ酸の利用率を上げる食べ

方年中行事などハレの日に魚

介類などを摂取して楽しむなど

学ぶべき知恵は多い

なかでも何百年も伝えられて

きた和食の基本型はすぐれた

ものといえよう

副食の主菜には魚肉豆腐

などタンパク質を多く含む料理

を考える副菜には主菜に使わ

なかった野菜芋類などを使い

汁は主菜に合うものを用意する

焼き魚野菜の煮物青菜のお浸

しとみそ汁などでも栄養的バ

ランスはとれている

1980年頃までは多くの

家庭で和食の基本型が続いた

主食の量がやや減り副食が増

加とくに乳乳製品肉類の割

合が増加したこの頃栄養バ

ランスをはかる一つの指標であ

るPFCバランスが理想的な比

率を示した(左記参照)

しかしその後外食の日常化

家庭料理の欧米化が進み米の

摂取量が激減し脂質摂取の過

多などから生活習慣病が問題

となったこうした中各地で

食生活を見直す動きがみられる

ようになったその一つが学校

給食での取り組みである

戦後の食料難の中でパンと

牛乳に副食を加えた完全給食は

1950年に始まった197

6年に米飯が導入されるまで長

く続いたパン給食は和食の基

本型にも影響を与えたようだ

米飯給食は次第に増加し

2010年には週3回以上米

飯給食を実施している小中学

校は90以上となったが週5

回の米飯給食の実施は7以

上と高くない

ここでは2008年に5日

間すべてを米飯給食とした新潟

県三条市の事例を紹介しよう

成長期にバランスのよい食事

で健康な体をつくることそし

て望ましい食習慣を身につけ

生涯を健康に生きることをめざ

し完全米飯給食を実施したと

のこと

米は同市で生産される農薬

を減らしたコシヒカリを七分搗つ

きにした米飯を主食に副食は

主菜副菜汁を組み合わせる献

立をベースとしている主菜は

サケのフライ鶏肉ピリ辛焼き

さんま梅煮など伝統的な和食だ

けではないが和食の基本型の

中に取り入れる工夫がされてい

るパ

ンは油脂や糖分と相性が

良く肥満につながりやすいが

新潟県三条市の給食献立一例三条市の小中学校での献立例ご飯は三条市で収穫したコシヒカリを使用「お米だと腹持ちがよいのでデザートをあまり出さなくとも子どもたちが満足してくれる」とのこと洋風や中華風の献立でもおかずはご飯に合うものを選びスープなどの汁物は確実につけるように心がけている

火曜日

えだまめごはん

さけチーズフライ

くきわかめきんぴら

かきたまじる牛乳

小学校687kcal中学校823kcal

水曜日

ごはんとりにくのぴりからやきいかときゅうりの

あえものしょうがみそスープ牛乳小学校639kcal中学校752kcal

木曜日

ごはんさんまうめにたくあんあえにくじゃがに牛乳なし小学校688kcal中学校814kcal

金曜日ごはんカレーふりかけほうれんそうオムレツフレンチサラダパンプキンスープ牛乳小学校708kcal中学校833kcal

月曜日

ごはんいかのかりんあげ(2こ)

なっとうあえきのこけんちんじるのむヨーグルト

小学校619kcal中学校731kcal

2526 WASHOKU

七分搗米の飯は腹持ちがよく

おやつを食べる子どもが減った

だけでなく肥満の子どもが減

少傾向となり食生活のリズム

が良くなったとされる

また米飯に合う副食は土地

でとれる野菜類を取り入れやす

く季節にあわせてバラエティ

ーに富んだ献立を作ることがで

きる一汁三菜の食べ方の教育

を行った結果給食を残す子ど

もたちも減ったという

基本的な食事パターンが続く

中でも菜を工夫すれば変化に

富む食事を作ることはできる

季節の食材について学び年中

行事への知識も得られるだろう

また子どもたちが和食の基

本型を毎日の給食で体験してい

ることはきわめて重要なことで

ある時々経験するだけでは身

につかないものでも毎日繰り返

すことによって習慣化し定着

するのであるそしてやがて

自分で組み合わせを考えられる

ようになることが期待される

今後の学校給食の役割は大きい

といえるだろう

PFCバランスとは

FAO Statistics Yearbook(日本のみ食料需給表)参照栄養バランスが良いとされるP(たんぱく質)10~20F(脂質)20~30C(炭水化物)50~70の範囲が08~12に収まるように指数化した

日本でのPFCバランスの変化

アメリカとフランスのPFCバランス

タンパク質脂質炭水化物は人間にとって特に不可欠な「三大栄養素」PFCのPはProtein(たんぱく質)FはFat(脂質)CはCarbohydrate(炭水化物)の頭文字でPFCバランスとは食事の中での「たんぱく質」「脂質」「炭水化物」のそれぞれの摂取カロリーの比率健康的な生活をおくるためにはPFCバランスがたんぱく質15脂質25炭水化物60が理想的

給食時には全員で「いただきます」「ごちそうさま」を復唱食育にも力を入れているためそれら言葉の意味についても学校で教えている

米飯給食になってから児童たちの食の嗜し こ う

好に変化が生まれたとか児童たちに好きなおかずを聞いてみると「ハンバーグ」「カレー」などの定番メニューのほか「焼き魚」「納豆」などの和食メニューの名前が上がった

自分の分を食べ終わった児童たちが列をつくって競い合うようにご飯をおかわりしていたこの日の食べ残しはゼロ

C

P

F

14

12

1

08

06

アメリカ(2005~2007年)

C

P

F

14

12

1

08

06

フランス(2005~2007年)

「和食」の特徴 栄養5

日本人のPFCバランスは1965年当時は炭水化物に偏っていたが1980年は非常に理想的な配分になっていたしかしその後の日本人の食生活に肉や油脂類を多く摂り主食の米を食べる量が減り2010年時は欧米型に近づきつつある

C

P

F

14

12

1

08

06

日本1965年

C

P

F

14

12

1

08

06

日本1980年

C

P

F

14

12

1

08

06

日本2010年

2728 WASHOKU

お客を迎える前には店先に打ち水を水で清め準備が整ったことを伝える趣向に合う軸を選ぶのももてなしの基本飾る花は主人自ら育てたものそれを床の花入に活けるのも主人庭に150種ほどの草花を植え日々育てることもしつらいの準備客は女将の温かいもてなしに迎えられる

「和食」の特徴6

しつらい

人をもてなすためのこころとかたち

もてなしは客に対する一方的なサービスではない

お互いに思いやる気持ちから生まれるこころよさである

手入れの行き届いた庭は掃き

清めて水を打ち床の間には軸

を掛け季節の草花を生ける

座敷の襖ふ

すま

も夏には葭よ

しど戸に入れ替

え夏は涼やかに冬は暖かに

すべて相まってもてなしのた

めの用意を整えることそれが

しつらい和食とりわけ懐石

料理においては食材や料理と

ともにしつらいは非常に重要

な要素となる

家庭でも食事をつくる人は

食べる人の顔を思い浮かべなが

ら食事の用意をする食べる人

はつくってくれた人の気持ちを

考えて賞味するここに互いに

もてなす喜びが生まれるのでは

ないだろうか

こうしたもてなしの文化を極

限にまで洗練させた姿が料亭の

もてなしである京都府の無形

文化技術保持者に料理人として

初めて認定された京都の老舗料

亭「瓢亭」の十四代主人高橋英一

さんにその心を聞いてみよう

「料亭は日本文化の凝縮のひと

つと言えます玄関から入って

座敷に行くまでに通る露地にも

季節感があり部屋に入れば時

季や行事の軸がありその座敷

のために選んだ花が飾られる

日本人が自然と身につけている

桜の器を使うことで膳の上にぱっと花が咲くような華やかさが生まれるあしらいは酢取り防風岩海苔

秋の花菊の器はこっくり深い色合いも相まって秋に似合う風情を持つあしらいは岩茸菊花

深さのあるガラスの器に氷が敷き詰められる涼感を目でも舌にも感じるあしらいは穂紫蘇寄せ莫大

縁起のいい鶴は新年の席でも使われるモチーフあしらいは水前寺海苔紫芽紫蘇

四季の感性で受け止めてもらえ

るよう整えお出迎えします

料亭は普段とは違うハレの場で

すがとはいえ行き過ぎず足り

ないことのないよう自然なし

つらいそしてもてなしを心が

けます」

「瓢亭」の座敷に飾られるのは

主人が庭で丹誠込めて育て自

ら生ける茶花

「もてなしの根

底に利休さんの『花は野にある

ごとく』の言葉を思いますが簡

単なようでそれが難しい」自

然体でのもてなしを生むしつら

えは名店においても日々心を

くだき工夫するのだ

「瓢亭」では1年をとおして明石の鯛の向付を供しているが季節ごとに

器とあしらいを変えることで四季を演出している

四季の演出

2728 WASHOKU

和食はご飯と菜あるいはご飯とお汁というように常にご飯を間にはさんで菜や汁をとるのが本来の食べ方下のような不作法とされる箸使い(嫌い箸)があるので覚えておきたい

ご飯は茶碗に味噌汁はお椀

に焼き魚だったら平皿にと普

段料理に合わせて何気なく使う

食器種類の多さもさることな

がら形や素材もさまざま欧

米はもちろん近隣諸国を見回

してもこれほど多種多様な器を

使う国はないそれは四季が明

確なことと無関係ではない

「自宅でも季節に合わせた器

にするだけで気分が変わりま

すよ」と前出「瓢亭」のご主人は

語る 

春であれば華やかな色や形の

もの夏はガラスや青磁など涼

しげな素材の器秋は実りのあ

る彩りがあるもの冬は厚手の

陶器や木製など温もりのあるも

の色素材形を変えるだけで

季節感を演出できる「和食」な

らではの楽しみ

食事の際当たり前のように

使っている箸も日本の食文化

を代表する食具奈良時代以

降匙さ

を使う伝統が消え箸だ

けを使うようになったため熱

い汁物は椀を持ち直接口を

つけてすする文化が確立同

時に椀箸ともに個人所有が基

本となった椀や箸を共有し

匙やレンゲを使うほかの東南

アジア諸国とは異なる食文化

を形成箸食文化圏の中でも

唯一箸だけでご飯を食べる国

となったまた一口に箸といっ

ても食箸取り箸菜箸など用

途に合わせてさまざま食べ

る際に使う食箸だけを見ても

形や素材のほか加工や長さも

豊富にそろうのだ

「和食」の特徴7

箸と椀

「和食」を支える箸と椀

箸食文化圏の中でも唯一箸だけを使う国日本

季節感を感じさせる器とともに独特の食具文化も誇る

渡し箸食事の途中でお箸を

食器の上に渡し置くこと

寄せ箸遠くの食器を

箸で手元に引き寄せる行為

指し箸食事中箸で人やものを指すこと

迷い箸どの料理にしようか迷い箸を料理の上で動かすこと

移り箸いったん取りかけてから

ほかの料理にお箸をうつすこと

箸には食事に使う食箸と調理に使う菜箸とがある菜箸は熱から手を守るため30~50と長く片方がなくならないよう糸でつながっているものもある取り箸は菜箸の一種食箸は個人所有が基本のため使う人に合わせた長さが用意されている漆塗りや螺鈿細工を施したものも多い

種類

形状だけでなく素材もさまざまで近年は黒檀や鉄木など硬質な木が使われることが多い日本の木としては特有の香りがあり古くから懐石用や割り箸に使われてきた杉耐水性耐湿性が高く保存性に優れる上に軽くて持ちやすい檜強くしなりがあり細かいものを取りやすい竹などがある

素材

家庭で使う食箸の形には角箸や四角で角が丸い胴張り五角六角七角八角のほか削りなどがあり持ちやすさに合わせて選べる箸先に加工が施されたものもある来客用に使う銘々箸や割り箸には断面が小判型で割れ目と溝が付いた元禄箸や中央部が太く両端が細い利休箸などが用意されている

日本人にとっての箸は調理から盛りつけ食事までをこなす大事な道具食箸は個人所有が基本のため個々に合わせて選べるのも特徴だ

箸の働き

箸使いの作法を知る

【嫌い箸】

食箸

八角箸 削り箸

菜箸

檜竹

「和食」の特徴 しつらい 箸と椀6 7

2930 WASHOKU

神し ん せ ん

饌として神へ供えられるお神酒は神棚の最上段の中央に置かれるほど重要な地位を占めている

日本酒を造る酒蔵は全国に約1600弱その数は年々減り続けているが数年に一度「日本酒ブーム」も起きている

日本酒とは米と米こうじ

そして水を主な原料にしてそ

れらを発酵させて造られる

原料には主食用の米ではなく

酒造りに適した性質を選び品

種改良された酒し

ゅぞうこうてきまい

造好適米を使

うことが一般的だまた日本

酒の80を占める水も品質を

左右する大きな要因日本酒

の香味を損なわない良質な水

が必須だ

日本酒の醸じ

ょうぞう造の工程にはさ

まざまな技術が伴う例えば米

を精米して味と香りを調整する

技術これは米の外側にあるた

んぱく質や脂質といった雑味の

もとを除くことが目的だが大だ

吟ぎんじょう醸酒にもなると米を半分以

上削ってから仕込むこともある

次いで米を発酵させる技術

酒の場合の発酵とは酵こ

うぼ母が糖類

を食べてアルコールを出すこと

をいうが米には糖類が含まれな

いためまずは米をこうじ菌の酵

素によって糖類へと変えそこに

酵母を加えて発酵させるという

複雑な手順(複式発酵)が必要だ

この手順で使われるこうじもバ

ラこうじと呼ばれる日本独特の

ものだバラこうじは糖化力が

高いのが特徴で日本酒の香りや

味に大きく影響する

稲作を中心に文化を育んでき

た日本では米餅米から造ら

れる酒は地域を問わず重要な

ものとされている米の一粒一

粒に神が宿り同じように酒も

神のおかげで造ることができる

と考えられてきたそして酒

もまた食べ物と共に神に近づ

くための手段として古くから用

いられてきた

同時に家族や親族地域で人

と人をつなぐ上でも酒は大き

な役割を担っている例えばお

神み

き酒祭礼の後には神の酒を

人々が口にする神と同じ酒を

飲みそれを人々が分かち合う

ことで地域やコミュニティが

結束力を強めるのだろう

米や麦やさつまいもなどを原

料とする焼酎も日本酒と並び

日本の國酒とされている酒は

人と人の心をほぐし食事を引

き立たせる重要な役割を担って

いるのだ

「和食」の特徴8

「和食」を引き立たせ

心をほぐす日本の酒

日本人にとっての主食であり精神のかなめでもある米

その米で醸か

される日本酒は「和食」にとって欠かせない要素

日本の「國こ

くしゅ酒

」にもなっている

2930 WASHOKU

「和食」の特徴9

和菓子日本茶

暮らしに寄り添う和菓子とお茶

自然の恵みに感謝し季節の移ろいを敏感に表現する和菓子

日本茶は喉のかわきを癒すだけでなく心を癒し心を高める飲みものである

「和食」の特徴 酒 和菓子8 9

ハレの日の願いを込めた和菓子

和菓子分類餅もの 餅団子大福など蒸しもの 饅頭蒸羊

よ う か ん

羹外う い ろ う

郎村む ら さ め

雨など煉もの 煉

ね り き り

切こなし求ぎ ゅ う ひ

肥飴葛く ず

菓子など焼きもの 味噌松風煎

せ ん べ い

餅桃も も や ま

山カステラどら焼など流しもの 錦

にしきだま

玉煉ね り よ う か ん

羊羹水み ず よ う か ん

羊羹など揚げもの 揚げ煎

せ ん べ い

餅かりんとうなど打ちもの(押しもの) 落

ら く が ん

雁など岡もの 最

も な か

中きんとん鹿か の こ

の子すはまなどかけもの 金

こ ん ぺ い と う

平糖五ご し き ま め

色豆石いしごろも

衣など

これは和菓子の製法によって大まかに分類した表このほか含有する水分量によって生菓子半生 菓 子 干 菓 子などの分け方や上じ ょ う な ま が し

生菓子並菓子駄だ が し

菓子などの分類もある

「岡もの」とはすでにできあがっ た素材をあわせたもの (例きんとん=飴玉とそぼろ餡)

甘く味付けしたごぼうと白味噌餡を赤や白の餅や求

ぎ ゅ う ひ

肥で包んだ生菓子平安時代の新年行事のひとつで長寿を願っておこなわれた「歯固め」の餅に由来する餅と味噌の組み合わせから「包み雑煮」とも呼ばれた

葩はなびらもち

一 月

旧暦十月は「亥の月」と呼ばれていたがその月のさらに「亥の日」に行われる年中行事の際に食べられていた菓子旧暦では10月が冬の始まりそのタイミングで無病息災と多産の猪にあやかって子孫繁栄を願ってこれを食べていたという

亥い の こ も ち

の子餅

十 月六 月

白いういろうの上に小豆の粒餡を散らした菓子古来京都で旧暦六月の晦

み そ か

日(30日)に無病息災を祈願して行われている

「夏なごしのはらい

越祓」になぞらえて初夏の頃に食べられている小豆には邪気祓いの意味があり三角の形は氷を表している

水無月

五 月

平たく丸めた上新粉の餅をふたつに折り中に小豆や味噌の餡を挟んでそれを柏の葉で包んだ菓子柏の葉は新芽が育つまで古い葉が落ちないことから

「子孫繁栄」を願って旧暦五月五日の端

た ん ご

午の節句の供く も つ

物として用いられてきた

柏餅

日本ならではのお茶の製法である手揉みは茶葉の繊維をつぶしながらうまみを引き出すために行う作業手揉みすると茶葉が切れないため茶の甘みを保つことができる

菓子もまた「和食」にとって欠

かせない要素でお客様用の「上

菓子」普段食べる「饅頭」や「餅

菓子」などに分かれるほかに

干菓子や駄菓子など菓子の種

類は多いまた例えば団子や

大福などは「餅もの」求肥や飴

などは「煉りもの」錦玉や

水みずようかん

羊羹などは「流しもの」などと

いうようにその製法によって

分類されることもある米や麦

小豆を代表とする豆類そして

砂糖や水あめなどの材料でバ

ラエティに富んだ菓子が生み出

されてきた

お茶会などの席で抹茶ととも

に味わう菓子もあり季節に合

わせて材料や色やデザインが選

ばれ味覚だけでなく視覚で楽

しむこともある

また年中行事と結びつく菓

子もある例えば旧暦三月三日

の「ひな祭り」では邪気をはら

い強い生命力を象徴するよも

ぎの草もちでつくった草餅を食

べる

和菓子には日本茶がふさわし

い緑茶は12世紀に中国から日

本に伝わったが今では生の茶

葉を蒸してから揉んで乾燥させ

る緑茶の製法は日本独特のもの

となっている緑茶に含まれる

カフェインは覚醒効果がまた

カテキンには抗酸化作用があり

ビタミンCも多く含まれて健

康によい日本茶独特の香りと

うま味は日本文化そのもので

ある

出典「和菓子の歴史展」第五十回虎屋文庫資料展より

3132 WASHOKU

日本の「和食」の文化は自然

環境だけでなく海外からの影

響によっても絶えず変化して

きた

近代以降にはコロッケとん

かつなど洋風料理を和食の基本

型に組み合わせた食事肉と野

菜の煮物や和え物などそれまで

にはない料理が工夫されたそ

の多くは和食の基本型味噌や

醤油を用いた味付け箸で食べ

られる料理など「和食」の要素

を保ちつつ伝えられてきた

しかし第二次世界大戦後高

度経済成長期を迎えると日本人

の食生活は急速に変化する

1970年代にファストフー

ド店ファミリーレストランが

各地に開店しコンビニなども

広がった

1980年頃主食と副食の

バランスは理想的とされたが

(26頁参照)その後米の消費量

はさらに減りパン食が増加

肉類油脂乳乳製品の消費量

も増加し食料自給率も下がっ

た家族での外食が日常化し

家庭の食事も欧米化した

食育の必要性

「和食」が危ないどうしたら伝えられるのか

この150年間で大きく変化し「和食」はいま衰えつつあるその原因はどこにあるのだろうか

食生活の変化

日本の食料自給率の変化農林水産省「食料需給表」より作成

日本のものを食べなくなって 「和食」はどうなる 日本の食料自給率は下がり続けている1965(昭和40)年度はカロリーベースで73だったが2012(平成24)年度は39その大きな原因のひとつは国内で自給可能な米や魚や野菜などの消費量が減少する一方国内で生産が困難な飼料穀物を食べて育つ畜産物や原料を輸入に頼ることが多い冷凍加工食品や小麦の消費が増加したことだと考えられている炭水化物たんぱく質脂肪分をバランスよく摂取する健康的な「和食」に未来はあるのか

国民一人一日当たりの供給純食料農林水産省「食料需給表」より作成

食べる米の量が50年で半減 増えたのは肉と乳製品 国民一人あたりが食べる量を品目別に眺めて分かることそれは日本人が食べる米の量が著しく減ってきたことだ1960(昭和35)年度は一日あたりの米の消費量は約315gだったが2010(平成22年)年度は163gに約半減その代わりに増えたのは牛乳乳製品(約60gから約240g)と肉類(約14gから約80gへ)野菜と魚を中心としたおかずでご飯を食べるという

「和食」のスタイルの変化がわかる

食料費における外食と中食の割合の推移総務省統計局「家計調査年報」より作成

家で食べても 調理することが減っている 外食に対して家庭で作って食べる食事を内食というが弁当や惣菜など調理をせずに食べられるものを買ってきて済ます食事は中食と呼ぶ実はこの中食の割合が増えている外食が占める割合は2000(平成12)年以降横ばいなのに対して中食は増え続けその代わりに内食が減っている食事は家で食べても調理はしないという家庭が増えているのだとすれば「和食」にとって大切な要素を子どもたちに伝える機会が減っているとはいえないだろか

食料自給率(金額ベース)

食料自給率(主食用穀物)

食料自給率(カロリーベース)飼料自給率

米 野菜 肉類牛乳乳製品 魚介類

内食 中食 外食

(g人日)

3132 WASHOKU

50

55

60

65

70

75

01992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012

70

75

80

85

90

95

01992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012

一日に一度はお米を食べないと気がすまない人の割合博報堂生活総研「生活定点2012」

お正月におせち料理を食べた人の割合博報堂生活総研「生活定点2012」

一日に一度は米を炊いたご飯を食べなければ気がすまない人の割合が実はこの20年間で減っているというデータがある1992(平成4)年には714だったが2012(平成24)年には564にまで落ち込んでいるのだ

家族や親族で集まっておせち料理を囲みながら新しい一年の無事を祝うお正月実はおせち料理を食べる人も毎年少なくなっている1992(平成4)年には866だったが2012(平成24)年には748だった

電子レンジの普及や冷凍食品

インスタント食品などにより

食生活は便利になったが家庭

内で調理をする機会が減ったと

もいえる

こうしたなか「和食」の優れ

た点をどうしたら伝えられるの

だろうか親から子へ家庭の食

を伝えるだけでなく学校を通

して子どもたちにさらにその

親の世代にも伝える必要があろ

う高齢者からは「和食」につ

いて具体的に教わることも求

められる

離乳期からの食べ物の選び方

幼児期の食経験を豊富にするこ

となどはとくに重要であろう

小さな頃からの食習慣はその

後の食習慣に大きくかかわって

くるからだ

だしのおいしい味を日々体験

することや魚を味わい骨を箸

でとる訓練を楽しい雰囲気のな

かで教わることなどその積み

重ねの中で「和食」は伝わるので

あろう

経験しない味は異文化とと

らえられるであろうし体験し

ていない調理は簡単でも難しく

感じる食事を用意する過程を

日々見る経験手伝う楽しさ美

しい食器を大切にして使うこと

同じ食べ物を家族や仲間と味わ

い祭りや花見などで共に食べ

る経験を積み重ねることは文

化としての「和食」を伝えるだけ

でなく生きる力を育むことにも

つながるであろう

壁にではなく居間に向かって設置されることが多くなった現在のキッチン夫婦共働きだというこの家庭では夫が厨房に立つことも少なくないというこのように食事の準備を子どもと一緒に行うことで「和食」にとって大切な要素が次の世代に伝えられるようになるのだろう

世帯あたり1ヶ月間の穀類支出金額内訳

1962年3434円

パン

麺他

2010年6373円

パン

麺他

ご飯を食べなくても平気 そんな人が増えている

お米よりパンと麺 その傾向が加速中

おせち料理を食べる派が 毎年ジワリ減少中

1962(昭和37)年度には8割以上を占めていた米への支出が2010(平成22)年度にはパンにとって代わられる米の消費量はパンより多いが家庭では炊飯する必要のある米よりすぐに食べられるパンや麺の支出が多くなり家庭での料理が減っていることを示しているともいえよう

総務省統計局「家計調査年報」より作成

いただきます

ごちそうさま

「和食」の未来

今世紀に入ってから世界に和食ブー

ムが起きている味わいやヘルシーさに

注目が集まり世界中のいたるところに

日本食の店が数多くある

そのように世界から注目される「和食」

だが本家本元の日本国内でその将来が

危ぶまれている

これまで見てきたように「和食」には

新しいものを柔軟に取り込む歴史があっ

た日本人は太古の昔より外国からも

たらされた食文化を自分たちの食生活に

取り込んで日本独自の食文化を発展さ

せてきた地域ごとに地域の環境にふさ

わしい料理をつくり出してきた食べる

料理や食べ方もその時代ごと地域ごと

に変わってきた

その中で貫かれてきたことがある

豊かな自然がもたらす食材のおいしさ

を生かす調理法を工夫し味わうこと

食卓に季節感をしつらえもてなしの気

持ちを共に感じ合う食事の場を持つこ

と一汁三菜という組み合わせを食事

の基本スタイルとして健康的な食生活

をおくることお正月におせち料理を

祝いの日にお赤飯を家族と共に食べる

など食事は家族の絆となっている

豊かな自然を守る気持ちと同じように

日本人を健やかに生かし人と人をつな

いできた「和食」もまた守るべき大切な

日本文化ではないだろうか

「いただきます」「ごちそうさま」と言っ

てみるだけでも「和食」は私たちに身近

になる人と人をあたたかく結びつけて

くれる

日本人はやはりお米のご飯がおいしい

と思うだしのきいた汁でおなかも心も

癒されるこの日本人が長い歴史の中で

育んできたすばらしい財産である「和

食」がこのままなくなってよいと考える

人はいないだろう世界の中でもすぐれ

た食文化として認められた「和食」を日本

の誇りとし大切にして次の世代に受け

継いでいくきっかけにこの冊子がなれ

ば幸いである

ごちそうさま

和 食

56 WASHOKU

然の恵みをふんだんに使う「和

食」は見事な栄養バランスを持

つ健康的な食文化であるまた

ハレの日の料理には健康長寿

の願いをかけるという「機能」も

ある

4「和食」の地域性

そして多様な『地域性』地

理や気候が各地で異なる日本は

地域ごとに多様な食文化を築い

てきた北海道から沖縄にいた

るまで近世までは各地域が食

材を自給自足しそれぞれに特

徴のある食文化を営んできた

つまり「和食」は日本の地方文

化の象徴である

ここで例として見るのは石

川県奥能登に伝わる「あえのこ

と」これはrdquo田の神様ldquoに一年

の収穫を感謝する農耕儀礼

「あえ=もてなし」「こと=祭

り」を意味し冬から春にかけ

てrdquo田の神様ldquoを家に招き入れ

てもてなす能登の豊かな山

里海の恵みが捧げられる

もう一例は青森県下北半島

にある佐井村の食

長い冬に野菜や山菜などの

保存食を多用する食習慣が育ま

れいまでもその伝統が色濃く

残り独特の郷土料理が受け継

がれている正月にはこの土地

ならではのおせち料理を食べ

無病息災を願う

自然と共にある暮らしが日

本のさまざまな地域で独自の

料理と食習慣を育み「和食」を

かたちづくっているのがわかる

自然と共にある暮らし青森県の場合

東北地方全般に自生する山菜ミズこれはミズを茹でてアクを抜き蒸しサザエとともに昆布だしに浸す「ミズの水あえ」山と海の幸が一品の中で共存する点が興味深い海と山との距離が近い西津軽地方の郷土料理だが山の幸と海の幸がひとつの料理に盛り込まれる

4 地域性津軽地方で小正月などに七草粥の代わりに食べられている汁物一般的な春の七草は冬の青森では採れないため大根やにんじんなど冬の根菜のほかはわらびやぜんまいそして凍み豆腐など保存性の高い食材を多用して厳しい冬の正月に彩りを添えたそこには無病息災への願いが込められている

3 機能性青森県下北半島の突端に位置する人口約2500人の佐井村で毎年9月に開催される箭根森八幡宮例大祭では3日間の祭りの最中は どの家も玄関を開放してどんな客でも招き入れて盃を酌み交わす村中に神が降りて来るこの3日間は人々は平等に食事を囲み絆を固める

2 社会性この地域では家族全員が協力しながらひと冬分の「寒干し大根」づくりに励む大根を一度茹で冷たい清水にさらしてから寒風に当てて乾かすという工程は厳しい冬に対してあらがおうとせず寒さをうまく利用して自然と共に生きるという精神性が育んだ暮らしの知恵だ

1 精神性

寒干し

団らん

けの汁

ミズの水あえ

「和食」が日本文化である理由

1

3

2

4

78 WASHOKU

1

自然の尊重

自然の尊重から「和食」は始まり

いまここにある

豊かな自然なかでも清涼な水に支えられて

「和食」は食材に恵まれ調理方法箸しつらいなどを育んできた

それゆえ季節感を感じ自然を尊重する精神を忘れないのだ

京都市上京区の梨木神社(なしのきじんじゃ)に湧く「染井の井戸」は今でもldquo名水rdquoとして地元の人々から親しまれている湧き水日本各地で川の水のみならず湧き水や井戸水の恵みを受けてそれに感謝して暮らしてきた

78 WASHOKU

大自然が育む恵みが豊かな

日本では古くから自然を崇

拝し尊重する精神を育んでき

た日本各地で季節ごとに豊

作豊漁を祈願する祭りをおこ

なってきたことも自然を敬う

精神の表れだ

春夏秋冬日本は世界に類

を見ないほど四季が明確で和

食にはその季節でしか味わえ

ない多種多様な旬の食材が取り

入れられる

料理を盛るための器もまたし

かり天然の樹脂である漆う

るし

を塗

る漆し

っき器は美しさと防虫効果

耐久性を高めるなどといった先

人の自然に対する知恵が生み出

した器である

また器使いやあしらいで季

節感を出すことやハレの席や

会席料理においては床の間に

季節の花を飾るなどしつらい

に四季を感じさせる工夫が施さ

れるも特筆すべき点だ

そして自然の恵みのひとつ

として大切なものが水である

水は信仰の対象でもあり日

本の食文化を形成する上で重要

な役割を果たしてきた

国内の平均雨量は1800

と多く飲料として使える水が

豊富なのに加え水が地下に滞

留する時間が短くミネラル分

をあまり含まないそのため欧

米など大陸の硬水とは違い軟

水(WHO基準でカルシウムと

マグネシウムの量が120

L未満)であることも「和食」

に大きな影響を与えている

口当たりがやわらかくまろ

やかな軟水をふんだんに使った

調理方法や食材そのものの味

を生かす料理が発達してきた

例えば豆腐木綿豆腐や絹

ごし豆腐といった一般的な日本

の豆腐はたくさんの水を使っ

てつくられるため水の善し悪

しが味に関わってくる

炊飯も水で何度か米を洗い

適量の水を加えて炊くことで

芯のないふっくらとしたご飯に

炊き上がる

副菜であるお浸しのように茹

でた後に水で洗って絞ったり

水によってあくを抜いたりそ

ばのように一度茹でたものを水

で締めたり水をふんだんに使

う料理方法は独特で世界的に

見ても珍しい日本の水の性質

の良さが「和食」を支えている

また昆布や鰹節の持ち味を引

き出せる軟水だからこそだし

を使う調理が発達しただしに

よって自然の恵みである素材

そのものの持ち味をおいしくい

ただくことにもつながっている

のである

季節の移ろいを感じることが

「和食」の精神として息づいてい

る言い換えれば子どもの頃

から四季の感性が備わる日本人

にとっての食つまり「和食」と

は「自然の尊重」そのものなのだ

古くから食されている豆腐大豆の絞り汁を凝固剤で固めたのものだが日本の豆腐は水分を多く含み柔らかなのが特徴である味が淡泊な分製造工程における良質の水が味の決め手といわれる

豆腐

=

良質な水の活用

吹き寄せ

=

季節感を織り込む

「和食」は季節感がさまざまなかたちで織り込まれる吹き寄せという料理は季節の野菜銀杏きのこなどが塵取りに吹き寄せられた秋の風情を表現している

椀もの

=

木という素材使い

汁物を供する器はおおむね木製の椀薄く削った木地に布を巻きその上から漆

うるし

を塗った漆し っ き

器として全国で使われてきた木製なので熱い汁を注いでもその熱さを感じることなく手で持てるのも木という自然の素材ならではのよさだ

わさび

=

自然が持つ機能性

刺身の薬味としておなじみのわさびツンと尖ったその辛味は化学的にはアリルイソチオシアネートという揮発性の成分で強い抗菌殺菌作用があるため生魚を食べるときにその効果が発揮される自然がもたらす効果を駆使する「和食」ならではの知恵だ

豆腐

椀もの

吹き寄せ

わさび

「和食」が日本文化である理由 自然の尊重1

まろやかな軟水が

大きな影響を与える

910 WASHOKU

家族や親族で食卓を囲む日常

的なひとときは「いただきま

す」から始まる大切なコミュニ

ケーションの場みんなが顔を

合わせ食事をしながら日々感

じたことやその日の出来事を語

り合うことで家族の絆を強く

していくまた子どもたちに対

しては箸の持ち方や器の扱い

方といった「和食」ならではの食

の作法を伝えたり料理をとお

して味覚や栄養バランスなどを

教える大切な機会だともいえる

日常とは別に正月や節分大

晦日などの「年中行事」で普段と

は違うそのときならではの料理

をいただくその習慣もまた

家族や親族のつながりを強める

のに役立つまたそれぞれの

家ごとの味や伝統が親から子

へと受け継がれていくことにも

なる

家とは別に地域でつながる

年中行事もある

2

家族や地域を結ぶ

寄り合いが人をつなぐ

行事や祭りの食の役割

食事を共にするということを通して人はつながりを深くする

家族の食卓での団らん祝いごと地域の祭り年中行事

日本の伝統文化の中で食は人をつなぐ役割の中心にある

食を通して

人や地域とつながる

お正月に家族や親族で集まっておせち料理を囲む時間は地域や親族に伝わる食の伝統を次の世代へと受け継ぐ絶好の機会だまた下の写真は青森県西部の日本海沿岸に位置する深浦町でのひとこま

「深浦地産地消の会」ではいくつかの家族が集まって地域に古くから伝えられる郷土料理を教え合うという活動を続けている祖父母の世代しかその作り方を知らない料理を披露し郷土の伝統を次世代へ伝えようと尽力している

家族の食

910 WASHOKU

地域ごとで行う祭りの中でも

食は大切な要素である神社に

おける祭さ

いし祀の後には直な

おらい会と呼

ばれる飲食の儀礼も行われる

本来神への供く

もつ物やお神み

き酒を参

列者がいただくことで神と人

とが一体となり神の加護を期

待するという意味合いを持つ

今日では祭りの後の打ち上げ

という気分もあり祭りを終え

た後人と人とが酒を酌く

み交わ

すそれにより親密感が増し

共同体意識を高めているのだ

こうした打ち上げもまた食

を介した日本の文化といえる

祭りではなくとも食を中心

にして地域がつながるケースも

ある例えば秋になると山形

県や宮城県などで盛んに行われ

る芋煮会仲間や同僚地域の

人たちなどで声を掛け合い河

原に集まる季節の行事だ鍋の

内容は山形県の内陸部では里

芋と牛肉を具として入れた醤油

味が一般的一方宮城県では

里芋と豚肉を味噌で味付けて食

べるこのように地域によって

違いはあるが地元産の秋の食

材を入れ大きな鍋を囲むとい

う点では共通している一緒に

食べるだけでなく共同で鍋を

作ることで親交や結束がより

いっそう深まるのだろう

食をとおして家族や親族

そして地域やコミュニティが

結束力を強めるこれは「社会

性」という「和食」が持つ特徴の

ひとつだ

「和食」が日本文化である理由 家族や地域を結ぶ2

祭礼の中で食事を共にすることは祭りを担う人々の絆を固める大切な機会である下の写真は大阪府の祭りの様子この日に供されたのはハモと松茸のすき鍋水なすの漬物など一方で東北地方の宮城県や山形県で秋になると盛んに行われる

「芋煮会」(写真右)は地域だけでなく職場や親族友人どうしなどのコミュニティ単位で行われることが多い食材を持ち寄って鍋の準備を共に進めることで連帯感が高まるのだ

地域や祭りの食

1112 WASHOKU

おせち料理おせち料理の内容は地域によってさまざまこれは東京のおせち料理のひとつ重箱(手前)には健康を願う「黒豆」や子孫繁栄を願う「数の子」そして田の肥料としたことで豊作を祈願する意味を込めた「田作り」という「祝い肴三種」が盛り込まれている祝い肴にはその他紅白のかまぼこや長寿を祈願した海老の焼き物豊作を願ったたたきごぼうなどがあり地域によって異なっている酢の物(左の小さな重)や煮しめ(奥の大きな重)をおせち料理に供する家庭も多い

日本人の生活の中には特別

なrdquoハレの日ldquoがあるひとつは

正月などのように毎年同じ時期

にめぐってくる年中行事もう

ひとつは誕生や成人や結婚や還

暦など人生の節目にあたる日で

これを人生儀礼と呼ぶそして

ハレの日にはそれを食べるこ

とで「邪気や災厄をはらい健康

長寿を願う」という共通点があ

る一

年の始まりを祝うお正月は

「歳と

しがみ神さま」を各家庭で迎える

年に一度の大切な年中行事家

の入口に立てられる門松は神を

招くための目印で一年の幸せ

を願い家族が集まって食事を

共にするその際に供されるの

がおせち料理だ地域ごとにさ

まざまなバリエーションがある

のもおせち料理の特徴で酒し

ゅこう肴

3

健康長寿の願い

ハレの日の食事で

健康と長寿を願う

例えば全国各地でrdquo文化ldquoとして

色濃く残っているおせち料理

その内容には地域ごとにさまざまな

バリエーションがあるものの

共通しているのは

料理を食べることで健康長寿を

願うという点だ

1112 WASHOKU

お正月雑煮に合わせて飲むお屠蘇は銚ち ょ う し

子三つ重ねの盃盃を乗せる盃台これらを載せる盆で供されるもともとお屠蘇はいくつかの薬草を組み合わせた屠

と そ さ ん

蘇散を酒やみりんに浸して作る薬酒だった

お194679と そ蘇

魂の象徴である丸餅を入れた雑煮を食べるということは神の力をいただくことでもあったこれは京都でなじみ深い西京味噌で味付けした雑煮焼かずに煮た丸餅と昔から縁起物とされた頭

かしらいも

芋(里芋の親芋)が入るのが特徴だ

雑煮

赤い色の小豆は邪気と厄をはらいのけると信じられ祝い事の際には頻繁に登場したまたもち米を蒸して食べる習慣は古い日本の文化でもあって例えば赤飯はハレの食事として供されことにお祝いの席には欠かせない

赤飯一生食べることには苦労しないようにとの願いを込めて子どもの生後100日目に行う「お食い初め」の儀式では尾頭付きの鯛を含んだ一汁三菜の膳が供される丈夫な歯が生えることを願う「歯固めの石」も欠かせない

お食い初め

「和食」が日本文化である理由 健康長寿の願い3

を並べたスタイルもあれば煮

しめだけをおせちとする地域も

あるが神と食事を共にしつ

つ福を招き災いを打ちはらう

という願いが込められていると

いう点は共通している

同じくお正月に食べる雑煮は

そもそも武士にとって一番大切

で正式な酒の肴で正月には必

ず餅の入った雑煮とお194679と

そ蘇が

供されるそして鏡餅などの丸

い餅は神の魂の象徴「歯固め

餅」とも呼ばれ1月11日に鏡餅

を食べて歯が丈夫な長寿を願う

意味が込められている

食を囲み毎日を無事に過ご

すことを願う行事に五節句があ

る七草粥を食べる正月7日

(人じ

んじつ日)の他には邪気をはらう

と信じられていたヨモギ入りの

草餅を食べる3月3日(上じ

ょうし巳)

粽ちまきや柏餅を食べることで健康を

願った5月5日(端た

んご午)索さ

くべい餅と

呼ばれる細い麺を食べて無病を

願う7月7日(七し

ちせき夕)菊酒で不

老不死を願う9月9日(重ち

ょうよう陽)が

ある

人生儀礼に目を向ければ邪

気や厄をはらうと信じられてい

た赤飯は祝儀だけでなくお盆

などの仏事や葬儀の際にも食

べられてきた

体によいものを求めてきた

「和食」の伝統は結果として世

界でもまれにみる健康によい食

文化をつくりあげた健康で長

生きしたいという強い指向が

「和食」の根底にはある

北海道は各地から入ったお雑煮が混在する北海道特産のいくら鮭を使った「親子雑煮」を食べる家庭も多い

焼いた角餅に醤油味が一般的一部の地域では具に豆腐やゴボウなどが入りゴマだれやクルミだれに付けていただくこともある

鰹節でだしを取り醤油で味付けしたすまし汁に焼いた角餅を入れるのが一般的具には鶏肉こまつ菜かまぼこなどが入る

昆布でとっただしに白味噌で味付けし煮た丸餅を入れるすまし汁のところや元旦は白味噌2日目はすまし汁にする地域もある

1314 WASHOKU

「県出身ならあれ食べた

ことあるの」「お雑煮のお餅と

味付けは」hellip日本各地に伝

統的な料理や食材があり味付

けも地域ごとに異なる

気候や風土が異なると採れ

る食材や調理法は変化し地域

色豊かな和食が形づくられてき

たそんな多様性も和食の魅力

であり日本を旅するときの楽

しみのひとつでもあるはずだ

いまのように流通が盛んでな

く保存技術も進んでいなかっ

たころ食料を無駄なく存分に

そして安定的に味わうというこ

とは人々の重要な課題だった

そこで知恵を絞り工夫をこら

し考えられたのが食品の加工

や保存方法その知恵が結果的

に「和食」の多様性を生みだし

ていくことになるのだ

海から遠い土地では魚を長持

ちさせる知恵が生まれ冬が厳

しい北方では野菜を長期にわた

り保存する技が発展してきた

魚の干物餅梅干し凍み豆

腐helliphellipこれら保存食は昔から

ある加工食品だが同じく日本

古来の加工食品に発酵食品があ

る微生物の働きや酵素の力

で保存力や栄養価風味などが

加わった食品だ野菜の漬物も

このひとつ

例えば秋田県の郷土料理「い

ぶりがっこ」大根を囲炉裏の

4

「和食」の多様性

風土が多様性を生み

それが「和食」という地図を描く

南北に長くさまざまな気候を持つ日本だけに地域が持つ食文化は多様で

土地土地に伝わる郷土料理や加工保存技術が存在している

日本の食が描く地図は知れば知るほど面白い

風土の違いから生まれる

食文化の多様性

お雑煮MAP

 

正月に食べられるお雑煮はだ

しの素材や味付け餅の形状具な

どが地域や家庭によってさまざま

であるだしには昆布鰹節煮

干しするめ穴子鶏肉が味付

けには塩醤油味噌などが使われ

る餅は角か丸かそれを焼くか

煮るかという違いもあるまたあ

ん入りの餅を入れる地域もある

具は野菜類魚介類鶏肉などで

地域の特産品が使われることも多

い沖縄県ではお雑煮に代わるも

のとして「中味汁」(豚の内臓の

汁)があるここでは全国各地の

お雑煮の中から特徴のあるもの

を取り上げた丸もち

角もち

角もち

角もち

昆布と鰹節のだしに味噌で味付けし煮た丸餅とかぶそしてかぶの葉を加えたシンプルなお雑煮を食べる地域も味噌は赤味噌白味噌のいずれかが使われる

丸餅に白味噌仕立てが多いが香川県では白味噌にあん入り餅を入れた「あんもち雑煮」が珍しい具は大根ニンジン里芋など

だしはあごだし昆布鶏肉とさまざまだが味付けは醤油味具にかまぼこが入り九州の北部にはあん入り餅を入れる地域もある

醤油味のすまし汁に煮た丸餅が多い出雲地方では

「小豆雑煮」と呼ばれ具はなくぜんざいのような小豆だけの雑煮を食す

昆布と鰹節のだしに味噌で味付けし煮た丸餅とかぶそしてかぶの葉を加えたシンプルなお雑煮を食べる地域も味噌は赤味噌白味噌のいずれかが使わ

1314 WASHOKU

上に吊るし楢や桜の焚き火で

燻製にしてから米糠と塩で漬

けこんだ漬物だこれは冬の訪

れが早い秋田で大根を早く乾

燥させ長く食べられるようにす

るための工夫だいずれも手間

と時間が加わることで風味が

濃縮されとれたてとは違った

深い味わいが生まれた

魚介類の保存食でいえばな

れずし魚を塩と米飯で数日

から数ヶ月寝かせ乳酸発酵さ

せたもの雑菌の繁殖が抑えら

れ長期間の保存が利く上うま

味が増す現在滋賀県のふな

ずし和歌山県のサバやサンマ

のなれずし福井県小浜市のへ

しこなれずし秋田県のハタハ

タ寿司など日本全国の郷土料

理として残っている

また味噌や醤油といった発酵

調味料は日本料理の味の要と

もいえやはりこれらにも地域

によって造り方や味に違いがあ

る例えば味噌大豆と米こ

うじを使い長期間熟成させた辛

口の津軽味噌米こうじを多く

配合した甘みのある西京味噌

大豆こうじを使った赤褐色の名

古屋の八丁味噌麦を原料にし

た九州地方の麦味噌などさま

ざま

地域の特産品発酵調味料餅

で構成されるお雑煮を見ても

多様性はよくわかる

日本の風土と食文化は深く結

びつき世界が注目するバラエテ

ィに富んだ食を育んできたのだ

日本の味噌

mdash

地域と特徴mdash

味噌は製法材料によって

大きく3つに分けられる

全国的に一般的なのが「米

味噌」で蒸すまたは茹で

た大豆に塩米こうじを加え

発酵させたもの米こうじ

の代わりに麦こうじを使用

したものを「麦味噌」大豆

を発酵熟成させたものが

「豆味噌」米味噌には大

豆を蒸して長期間熟成した

辛めの赤味噌と大豆を茹

でて短期間で熟成させた甘

めの白味噌がある

「和食」が日本文化である理由 「和食」の多様性4

主な種類地域 特徴

米味噌

津軽味噌 長期間熟成させる辛口で赤味噌系が主流

仙台味噌 仙台で伝統を継承して造られてきた長期間熟成させる辛口赤味噌系が主流

信州味噌 長野県を中心に造られる山吹色の淡色系の辛味噌

江戸甘味噌 通常の味噌よりもこうじを多く塩を少なくした赤系の甘さのある味噌

西京味噌 関西地方を中心に造られる米こうじの多い甘みのある白味噌

讃岐味噌 香川県で造られる甘みのある白味噌あん餅雑煮にも使われる

府中味噌 甘みのある米こうじの多い白味噌で主に広島県で造られる

麦味噌 九州四国中国 麦こうじを使って発酵させた山吹色を帯びた甘みのある味噌

豆味噌 八丁味噌三州味噌 蒸した大豆でみそ玉を作りこうじ菌を繁殖させて造る濃い赤褐色の味噌

お雑煮に入れる餅の形について出身地ごとに聞き取った結果中部を境にして東は角餅西は丸餅が多かった

もちの形について

丸もち

丸もち

丸もち

丸もち

出典「お雑煮100選」(文化庁)より

(人)

温暖化が進み狩猟が大型獣から小型獣になる

南九州で竪穴式住居にドングリ貯蔵穴が広まる

ドングリなどの植物性食料が重要な食料になる

水田稲作が日本列島に伝来

稲作の広がりと定着魚を発酵させたなれずしの登場

『魏ぎ

し志』倭わ

じんでん

人伝には倭(日本)では冬夏に生菜を

飲食に高杯をつかい手食するとある

土は

師器の移動式かまどの使用

土師器の甑こ

しきに

よる蒸し米が盛んになる

中国に遣唐使を送る大陸の食文化がもたらされる

675年天武天皇が「牛馬犬猿ニワトリ」の

食用を禁止

牛乳を煮詰めて作った「蘇そ

」が朝廷に貢納される

箸の利用が広がる

貴族の大だ

いきょう饗

料理や年中行事が中国の影響で定着

豆腐が中国より伝来する

栄西が宋より抹茶法を持ち帰る

道元が禅宗における食事作法や調理の心得を

説いた『典て

んぞきょうくん

座教訓』『赴ふ

しゅくはんぽう

粥飯法』を執筆

植物性食品のみを使った精進料理の発展

武士の供応食本ほ

んぜん膳

料理の形成

包丁人と呼ばれる料理人が誕生し包丁流派を形成

刻み目のついたすり鉢が広がる

酒造技術の進展

書院茶の湯からわび茶の湯へ

千利休により茶の湯が完成

懐石形式の定着

豊臣秀吉が北野大茶会を開催

欧州が大航海時代に入り

南蛮貿易により南蛮菓子唐辛子などが日本に伝来

日本初の出版料理書『料理物語』刊行

都市部に食べ物屋や料理屋が普及する

料理屋の会席料理形成

けがれによる肉食禁忌の観念が広く浸透

薬食いとしての肉食

飢き

きん饉に備えさつまいもやじゃがいもの栽培を奨励

和菓子の完成

握り寿司やてんぷらが江戸で流行する

肉食解禁と牛鍋の流行

『西洋料理指南』など西洋料理書の出版

西洋料理店の発展

米の摂取率が平均53に

家庭向け料理書の出版

女学校における食物教育

脚か

っけ気

論争がさかんに行われる

牛肉の不足から豚肉の生産が増加

洋菓子の製造発展

物価高騰と米不足によるじゃがいもパンなどの代用食の奨励

国立栄養研究所の開設と栄養学の発展

都市部で和わ

ようせっちゅう

洋折衷料理が普及

戦争による食料不足

食料統制米などほとんどの食品が配給切符制となる

イモなど代用食の増産

戦後のミルクとパンの学校給食が開始

各地に闇市ができる

食料の価格が高騰

厚生省が日本人の栄養基準値を策定

農家の生活改善運動が展開

即席ラーメンなどインスタント食品の開発販売

冷凍冷蔵庫の普及と冷凍食品が普及

日本型食生活の提唱

ファミリーレストランファストフード店の増加

コンビニの発展

日本食の洋食化と簡便化と米摂取量の減少

食料自給率が39〜40に低下

レトルト食品の売上増大

電子レンジ普及率が約90に

遺伝子組み換え食品が登場

地球温暖化など環境問題が深刻化

阪神淡路大震災東日本大震災により災害食が注目される

持続可能性が社会課題に

家庭料理の変化や家族の孤食化などの問題が生まれ和食の見直しへ

縄文時代弥生時代古墳時代飛鳥時代奈良時代平安時代鎌倉時代室町時代安土桃山時代江戸時代BC9000年BC3000年BC2500年頃BC200年頃240年頃500年頃7世紀8世紀8~12世紀12~14世紀14~16世紀16~17世紀17~19世紀

1516 WASHOKU

「和食」の年表

「和食」がたどった道和食の成立とその変化を年表でたどってみると各時代の人々が海外の食文化の影響を受けながら工夫を積み重ねてきた様子が見えてくる

米は縄文時代晩期に伝来し

たとされるが全国に広がるの

は弥生時代である

平安時代の大饗料理は貴族

の供応料理で蒸した高盛の強こ

飯いい

に各種の魚介類を配し調味

料につけて食べる形であった

鎌倉時代には禅宗の影響に

より動物性食品を排除した

精しょうじん進料理が発展した道元禅

師は調理も修行の一つとして

その心得を記した『典て

んぞ座教き

ょうくん訓』と

食事への感謝の念作法を説い

た『赴ふ

粥しゅく

飯はんぽう法』を著した

室町時代上層階層の料理文

化として本膳料理が登場した

この形式は江戸時代後期には

婚礼などの儀礼食として各地域

に浸透し昭和期まで継承され

た本膳には飯汁菜香の物

が盛られ飯を主食とした伝統

的な食事の形式が定着すること

になるまた酒とその酒肴も

本膳に伴って発展した

安土桃山時代には茶の湯に

ともなう懐石が発展した一汁

三菜を基本に旬の素材にこだ

わり食事空間のしつらいにも

気を配るなど精神性をも盛り込

んだこの形式はその精神と

共に現代に引き継がれている

江戸時代の都市部ではそば

すしてんぷらなどの食べ物屋

高級料理店なども広がりをみせ

た料理書の出版も相次ぎ酒

と酒肴を楽しむ料理屋の会席料

理も成立したまた和菓子の

温暖化が進み狩猟が大型獣から小型獣になる

南九州で竪穴式住居にドングリ貯蔵穴が広まる

ドングリなどの植物性食料が重要な食料になる

水田稲作が日本列島に伝来

稲作の広がりと定着魚を発酵させたなれずしの登場

『魏ぎ

し志』倭わ

じんでん

人伝には倭(日本)では冬夏に生菜を

飲食に高杯をつかい手食するとある

土は

師器の移動式かまどの使用

土師器の甑こ

しきに

よる蒸し米が盛んになる

中国に遣唐使を送る大陸の食文化がもたらされる

675年天武天皇が「牛馬犬猿ニワトリ」の

食用を禁止

牛乳を煮詰めて作った「蘇そ

」が朝廷に貢納される

箸の利用が広がる

貴族の大だ

いきょう饗料理や年中行事が中国の影響で定着

豆腐が中国より伝来する

栄西が宋より抹茶法を持ち帰る

道元が禅宗における食事作法や調理の心得を

説いた『典て

んぞきょうくん

座教訓』『赴ふ

しゅくはんぽう

粥飯法』を執筆

植物性食品のみを使った精進料理の発展

武士の供応食本ほ

んぜん膳

料理の形成

包丁人と呼ばれる料理人が誕生し包丁流派を形成

刻み目のついたすり鉢が広がる

酒造技術の進展

書院茶の湯からわび茶の湯へ

千利休により茶の湯が完成

懐石形式の定着

豊臣秀吉が北野大茶会を開催

欧州が大航海時代に入り

南蛮貿易により南蛮菓子唐辛子などが日本に伝来

日本初の出版料理書『料理物語』刊行

都市部に食べ物屋や料理屋が普及する

料理屋の会席料理形成

けがれによる肉食禁忌の観念が広く浸透

薬食いとしての肉食

飢き

きん饉に備えさつまいもやじゃがいもの栽培を奨励

和菓子の完成

握り寿司やてんぷらが江戸で流行する

肉食解禁と牛鍋の流行

『西洋料理指南』など西洋料理書の出版

西洋料理店の発展

米の摂取率が平均53に

家庭向け料理書の出版

女学校における食物教育

脚か

っけ気

論争がさかんに行われる

牛肉の不足から豚肉の生産が増加

洋菓子の製造発展

物価高騰と米不足によるじゃがいもパンなどの代用食の奨励

国立栄養研究所の開設と栄養学の発展

都市部で和わ

ようせっちゅう

洋折衷料理が普及

戦争による食料不足

食料統制米などほとんどの食品が配給切符制となる

イモなど代用食の増産

戦後のミルクとパンの学校給食が開始

各地に闇市ができる

食料の価格が高騰

厚生省が日本人の栄養基準値を策定

農家の生活改善運動が展開

即席ラーメンなどインスタント食品の開発販売

冷凍冷蔵庫の普及と冷凍食品が普及

日本型食生活の提唱

ファミリーレストランファストフード店の増加

コンビニの発展

日本食の洋食化と簡便化と米摂取量の減少

食料自給率が39〜40に低下

レトルト食品の売上増大

電子レンジ普及率が約90に

遺伝子組み換え食品が登場

地球温暖化など環境問題が深刻化

阪神淡路大震災東日本大震災により災害食が注目される

持続可能性が社会課題に

家庭料理の変化や家族の孤食化などの問題が生まれ和食の見直しへ

明治時代大正時代昭和時代(戦前戦中)昭和時代(戦後)平成1869~1912年1912~1926年1926~1945年1945~1989年1989年~

1516 WASHOKU

家庭料理の変化や家族の孤食化などの問題が生まれ和食の見直しへ

基本はほぼこの時代にできたと

いえよう

いっぽう各地域の日常食の

主食は麦雑穀芋類を混合し

たかて飯やうどんなど小麦粉を

用いた食事が多くそれは昭和

期まで引き継がれ各地で独自

の「和食」の文化が形成された

西洋文化を積極的に取り入れ

た明治時代以降西洋料理書が

出版され都市部では西洋料理

店が開店したまた明治時代

後期には家庭向け料理書の出

版が相次ぎ西洋料理をアレン

ジして和食に取り入れた和わ

よう洋

折せっちゅう衷料理が数多く紹介された

大正期国立栄養研究所の開

設により栄養学の研究が進み

日常食の栄養についての関心が

少しずつ広がった

飢餓を経験した戦時期を経て

主食に偏らず副食に動物性食

品や油脂を加えた食事が推奨さ

れたその結果1980年頃

になると日本人の食事は米飯

を基本にしながらも乳乳製品

肉魚類野菜類などを適度に

加えたよりバランスのよい食

事となったこの時期の食生活

を「日本型食生活」と呼んだし

かしその後食生活の洋風化

簡便化が広がり食料自給率は

40パーセントと減少した若年

層を中心に食事の基本型が崩れ

欠食孤食などが話題となり和

食の見直しが求められるように

なった

1718 WASHOKU

「和食」の特徴1

献立のかたち

「ご飯」を食べるために

「汁」と「菜」がある

「一汁三菜」が和食の基本型

「一汁三菜」とは「ご飯」と「汁」と「香の物」に

いくつかの「菜」が添えられるという組み合わせ

「ご飯」と「汁」と「香の物」に「お菜」が3品添えられるという献立が一汁三菜この場合は焼き魚(右奥)と煮物

(左奥)と小松菜のおひたし(中央)の3つの菜で構成される向かって手前左にご飯を手前右には汁をその間に香の物をそれぞれ置くという決まりになっている

1718 WASHOKU

米を炊いた「ご飯」昆布や鰹

節などでとっただしを味噌や塩

などで味付けした具入りの「汁」

塩漬けやぬか漬けや粕漬けなど

の「香の物」そして焼き物や煮

物や和え物などの「菜」その4

つの要素で構成される「一汁三

菜」という組み合わせがある

基本的には汁が一種で菜が

三種の構造を「一汁三菜」と呼

ぶ食事中に口の中をさっぱ

りと保ってくれる「香の物」と

ご飯はいつも必ずついていて

その数も変わらないからあえ

て数えない

日常の食事である一汁三菜に

対して江戸時代によく登場す

るのは二汁五菜つまり汁が二

種に菜が5つこれが昔のおも

てなし料理の基本でお膳もふ

たつ出たいいかえると一汁三

菜はひとつのお膳に載るふだ

んの家庭の食事であることがわ

かる

また汁にもいろいろあった

魚のアラを汁に仕立てたものや

野菜を豆腐と一緒に煮込むけん

ちん汁など具だくさんの汁も

各地域でみられ汁でご飯を食

べるということも和食の特徴の

ひとつだ

一汁三菜の献立の最大の特徴

は汁も香の物も菜もすべてご

飯を食べるために存在するとい

う点かもしれないご飯が主食

でその他の3つの要素が副食

という考えが一汁三菜の根底に

ある少ない菜でたくさんのご

飯を食べご飯の量でカロリー

の摂取量を調整するのがかつ

ての和食の基本的な食べ方だっ

たのだ

「和食」にとって欠かせないご

飯についてもここで触れてお

こう

米には「うるち米」と「もち米」

とがあり強い粘性を持つもち

米は赤飯などのおこわ(強こ

わいい飯

や餅に用いられるそれに対し

てうるち米はもち米より粘り

気が少なく通常の米飯として

使われる

米のもとになる稲の栽培が始

まったのは1万年以上前とされ

野生の稲を栽培したのが始まり

と考えられているその原産地

は中国の長江流域とその周辺

という説が有力でそこから西

へ伝わった品種がインディカ種

また東へと伝わり東アジアに

広がったのがジャポニカ種だ

「和食」における献立の目的は

いわば汁と菜でご飯を食べる

ことつまりご飯に合うのなら

例えばそれが肉じゃがでもコ

ロッケでもとんかつでも菜と

して取り入れてこられたのは

ご飯を主食とする「和食」のス

タイルがしっかりしていたか

らである一汁三菜という和

食の基本型がなくなったら外

国の料理と変わらなくなって

しまうだろう

「和食」の特徴 献立のかたち1

稲 玄米 白米 調理加工

粉にする

飯餅菓子米飯焼き米ひなあられ餅おかきあられ

稲わら 俵わらづと鍋釜敷き畳床むしろわらぞうり縄みのわらぼうき など

酒酢みりん味噌発酵させる

糠 たくあん糠漬けあく抜き

(上新粉など)柏餅草餅重

お も ゆ

湯など

(白玉粉落ら く が ん

雁粉道明寺粉など)白玉最中大福餅落雁桜餅など

どうみょうじ

うるち米の粉

もち米の粉

日本人の暮らしに深く関わる稲米

 現在世界で栽培されている稲の主な種類にはインディカ種(インド型イネ)やジャポニカ種(日本型イネ)などがあるインディカは長粒種と呼ばれる米ジャポニカは日本でよく食べられている丸く短粒な米で短粒種と呼ばれる米の主成分であるでんぷんにはアミロースとアミロペクチンとがありアミロースを多く含むインディカ種は粘り気が少ないのに対しアミロースの少ないジャポニカ種は粘りが強く日本人にとってはおいしい味の米であるそしておにぎりやすしのようにまとめる米料理も発達した 世界の米の生産量は約6億トンと小麦とほぼ同じだがその90以上が日本を含むアジア諸国で栽培されているジャポニカ種は全体の15を占め日本をはじめとして朝鮮半島中国東北部台湾北部などで主に栽培されているインディカ種の栽培地域はインドからベンガル地方のバングラデシュタイをはじめとするインドシナ半島中国の中南部インドネシアなど南アジアが中心だ

ジャポニカ種とインディカ種日常私たちがご飯として食べているのはうるち米赤飯や餅にするのはもち米である栄養価はほとんど同じであるがでんぷんの構成が異なるうるち米はアミロースとアミロペクチンの比率が約28であるがもち米はほとんどアミロペクチンで構成されているそのためにもち米はうるち米に比べて粘りが強く餅にするのに適しているのである日本では両方の米の特徴をうまく利用して粒のまままたは粉にするなどしていろいろな料理や菓子を生み出したり発酵させて酒やみりんなどをつくり出したりしてきた

うるち米ともち米

インディカ

ジャポニカ

「和食」に欠かせない

米はどこから来たのか

1920 WASHOKU

全国各地でさまざまな魚や野

菜が豊富に手に入ったことそ

して文明開化の時代まで一般

的に肉食をしなかったという背

景から「和食」は野菜と魚介類

を中心に調理されてきた

現在日本の市場で流通する

野菜の数は150種類ほどと言

われているその種類はイモ類

やマメ類をはじめ根菜類茎け

いさい菜

類葉菜類果菜類など実に多

様ださらには山菜やきのこ

など森林に自生するものも調

理に工夫することでうまく食材

として取り入れてきた

日本で流通する野菜は近代

になって外国から輸入されたも

のや品種改良によって食べや

すくなったものなど多様では

あるが昔から日本で作り続け

られている伝統野菜(在来野菜)

も少なくない伝統野菜とはだ

いたい三世代以上に渡って栽培

「和食」の特徴2

食材

和食を支える日本の食材

おいしさの秘密と多様性

おいしい和食には素材の力がある四季折々の自然の中から

生み出される日本の食材は驚くほど多様性に富んでいる

野菜

野菜と魚介類の二大食材に

支えられる日本食文化

和食には野菜を使う料理が多くあるが現在日本で流通する野菜の種類も150以上と幅広い分類にしてもジャガイモやサツマイモなどのいも類大豆や小豆などのマメ類ダイコンやカブなどの根菜類ネギやウドなどの茎

け い さ い

菜類コマツナや白菜などの葉菜類ナスやキュウリなどの果菜類そのほかにシイタケやシメジなどのきのこやワラビやゼンマイなどの山菜など多彩な野菜が存在するしかし現代でこそ流通の発展でさまざまな野菜が一年中手に入るが全国で同じ野菜が収穫できるわけではない例えば同じいも類でもサツマイモなどは九州などで多く作られるが冷害に強く冷涼な地で生育するジャガイモは山梨や長野などの山間部や日本の北部で育てられるそのほか地域特有の特産品である伝統野菜がいま注目され始めている

1920 WASHOKU

が続けられ地域に根づいた農

法で作られるものを指しこれ

を守る動きも目立ってきている

魚介類も「和食」にとって欠か

せない食材のひとつ日本で獲

れる海水魚は実に種類豊富で

日本に生息する魚種だけでも約

4200種ある縁起のよい魚

として重宝されるタイをはじめ

アジイワシやサバサンマなど

日本の近海は魚の宝庫である

海水魚だけでなくコイやア

ユフナやウナギそして水田で

獲れるドジョウなどの淡水魚

(川魚)は海から離れた地域では

貴重なタンパク源だったため

古くから料理に使われている

ウナギの蒲焼きは一般的だが

薄切りにしたコイを50くらい

の湯に短時間漬けてから冷水で

身を締めて酢味噌で食べる「鯉

のあらい」やコイの切り身を濃

い味噌で煮た「鯉こく」など味

わい方も豊富

またうま味のもととして古

くから使われてきた昆布や味

噌汁の具としても重宝するワカ

メさらにおむすびに必須の海

苔など海藻類も和食には欠か

せない貝類も種類が豊富で

アワビをひも状に薄くむき乾

燥させた「熨の

しあわび

斗鮑」が神事や祝し

ゅうぎ儀

の象徴として使われてきた

近年日本の食料自給率が低

下し外国産食材の増加も問題

視されているが本来の「和食」

は日本の自然の恵みによって支

えられているのだ

「和食」の特徴 食材2

島国である日本において魚介類は古くから貴重でかつ重要な食材であった農林水産省の定める生鮮食品品質表示基準によれば日本で食される水産物はマグロやカツオイワシやアジなどの海水魚やコイやウナギなどの淡水魚(川魚)シジミやアサリなどの貝類カニやエビなどの甲殻類やカメなどの水産動物類クジラやイルカなどの海産哺乳動物類そのほか昆布やワカメなどの海藻類など実に多様な種類がある2000年に味の素(株)がおこなった「嗜好調査」によれば「食材」としては肉類よりも魚介類のほうが好まれている結果がみられたさまざまな魚介類のなかでもカニエビマグロなどへの嗜好性が高くそれらが「贅沢な食材」と捉えられているようである

山間部など海の魚が手に入らない地域で貴重なタンパク源として重宝されたのが淡水魚(川魚)写真はアユだがその他コイやウナギドジョウワカサギフナなど日本ではさまざまな川魚が食材として使われてきた寄生虫のおそれがあるため生食はあまりされないがその代わりに調理にはさまざまな工夫が見られる海の魚に比べると独特の臭味やクセがあるため「鯉こく」のようにしっかりと煮込むことで臭味を除いたりウナギのように蒲焼きにしたりするなどがその一例だまた例えば滋賀県には琵琶湖で獲れるフナを塩と米で乳酸発酵させ保存性を高めると同時にうま味成分を引き出した「ふなずし」もある

古来日本で食べられてきた海藻類現在でも低カロリーでミネラルビタミンに富む食材として和食では重宝されている日本では約50種類の海藻が食べられているが世界的にみてもここまで多様な海藻を加工し食用とする民族は珍しいなお海藻にはフノリやテングサのような紅藻ワカメ昆布やモズクなどの褐藻アオノリや海ブドウなどの緑藻類の3種類の海藻が存在する昆布のようにだしをとるために使うものもあるが乾燥させて食べる海苔味噌汁や酢の物の具として使われるワカメのようなものまで実に幅広いまた海藻は神への奉納品としての縁も深く日常の食事だけではなく祭りや神事などにも登場している

縄文時代の遺跡である貝塚からアワビやハマグリカキなどの大量の貝殻が発見されていることからもわかるように貝類は日本では古くから食材として利用されてきた春先の干潮時に浜辺に埋まったアサリなどの貝を掘り出して採取する潮干狩りは春の風物詩としても馴染み深い日本には6000近い貝類があるといわれておりなかでもアサリやハマグリのような二枚貝サザエやツブ貝のような巻き貝が食用として親しまれている調理法としては刺身や吸い物味噌汁煮物焼き物炊き込みご飯など幅広い料理に使用されているがだしをとるためにも使われるさらに乾物にすれば保存性も高くなるため古くから交易にも活用されてきた

海の魚

川の魚

海藻貝

2122 WASHOKU

和食における菜さ

の調理法には

煮る焼く蒸す茹でる和あ

える

揚げるなど実に多様な技法が

あるこれを季節の野菜や山

菜魚介類海藻などの食材と組

み合わせることでバラエティ

に富んだ菜が食卓を彩る

数ある日本の調理法の中で

最も特徴的なのは「生もの」材

料を生のまま切り皿に盛り付

け調味料と薬味を添える刺

身といえば魚介類が用いられる

のがほとんどで捌さ

き方切り方

盛り方などが現在世界で注目を

浴びている材料を新鮮な状態

に保つ技術と料理としての盛り

付けの技術があいまって完成し

たものといえる調味料と薬味

の組み合わせも魚類との相性を

考えて工夫されているまた

わさびしょうがからしなどの

薬味や「つま」や「けん」と言わ

れる大根のせん切り大葉防ぼ

うふう風

芽めたで蓼花は

なじそ

紫蘇など防菌効果のあ

るものを添えて見た目も美し

く組み合わせている

ご飯と並んで食卓に欠かせ

ない「汁物」は鰹節や昆布煮干

し干し椎茸などから抽出され

るだしのうま味と具として入

れる素材のうま味が味わいのベ

ースとなっている中には具だ

くさんの菜になるような汁も

ある

また豊富な水を利用した調理

焼き物(サンマの塩焼き)

直火焼きは遠火の強火でほかに間接焼きがある

生もの(カツオの刺身)

生ものには刺身あらい酢の物漬物がある

茹で物(もりそば)

小麦粉やそばなどの粉からつくる麺を茹でる法

旬の食材のおいしさを

引き出す調理法の数々

「和食」の特徴3

調理

切る煮る焼く蒸す茹でる和える揚げるhellip

あの手この手で素材をよりおいしく

バランスの取れた一汁三菜の基本はご飯にあり

ご飯をおいしくいただくために菜さ

の調理方法は進化した

煮物(筑前煮)

煮汁の中で加熱中に調味する法

2122 WASHOKU

法に「茹で物」があるたっぷり

の水を沸騰させ食材を加えて加

熱して取り出すもの青菜そば

などは茹でた後にあくの除去

歯触りを良くするなどのためさ

らに水で洗う場合も多い私た

ちがあたりまえのように調理し

て食べているほうれん草や小松

菜のお浸しは水に恵まれた日本

に定着した料理で世界的にみて

も特徴あるものといえよう

「焼き物」はサンマの塩焼きの

ように塩をふり直火でじっく

り焼き上げる方法が伝統的

「煮物」は世界で最もポピュラ

ーな調理法だが日本では素材

の味を生かしつつ醤油や味噌

など大豆由来の発酵調味料で

味を調えるものが多い

油とともに加熱調理する「炒

め物」は伝統的な調理にはほと

んど見られないが現代では盛

んに使われ和食の幅を広げて

いる

ここに紹介した調理法と料理

の例は主にご飯のおかずとな

るものであるが小麦そば雑

穀などを粉にしこれを調理し

た主食も多い代表的なものに

うどんそばそうめんなどの麺

類があり茹でる場合が多いが

煮込みなど煮るものもある

さまざまな料理を組み合わせ

て食べる和食は素材の味を生

かしうま味をしっかりとれば

最低限の調味料でおいしさを感

じることができ多様な料理を

楽しむことができる

和あえ物

(きゅうりとワカメの酢の物)

野菜や魚介類などをごま味噌酢などで和える法

漬物(きゅうり大根の糠

ぬか

漬け沢たく あ ん

庵漬け)生ものを保存する方法の一種

塩の働きに加え乳酸発酵させたものが多い

汁物(なめこの味噌汁)

だし汁を主体とする法すまし汁みそ汁とろみのついた汁など

蒸し物(茶碗蒸し)

水を沸騰させその水蒸気を利用して加熱する法

浸し物(小松菜のお浸し)

お浸しは調味した汁に浸して味をつけたもの

「和食」の特徴 調理3

揚げ物(天ぷら)

高温の油で食品を加熱する法油の温度は150~200度の範囲で行うことが多い

2324 WASHOKU

「和食」の特徴4

味わい

うま味日本人が発見した「おいしく食べる」最大の知恵

和食の味わいの中で最も重要なのがだし

味噌汁やすまし汁のベースとなり

煮物やおひたしなどさまざまな料理の

味を決定づける味の要だ

和食の味わいを語るうえで忘

れてはならないのがだし(出

汁)の存在汁物や煮物などさ

まざまな料理のベースとして使

われている

なぜ日本人はここまでだしを

好むのかその答えに大きく関

係するのが「うま味」だ江戸時

代の料理書には「だしこそ料理の

根本である」と書かれている

1907年池田菊き

くなえ苗

博士に

よって世界で初めてうま味成

分のひとつがアミノ酸の一種で

あるグルタミン酸であることが

発見されたその後日本人を中

心に研究が進みうま味は甘味

塩味酸味苦味に加えて第5

の味覚として広く知られるよう

になる現在ではうま味調味

料やだし入りのつゆなどうま

味成分を手軽に使える調味料も

普及海外でも人気が高く国

内でも日常的に使用されている

だしのほかに和食の味付け

日本が世界に誇る

第5の味覚うま味

うま味成分を多く含む椎茸もだしをとる目的で使われてきた食材のひとつだしに使用するのは干したもの椎茸は乾燥させることでうま味や香り成分が増すためだ

小魚を煮て乾燥させてつくる煮干しも汁物に多用される材料としてはカタクチイワシが代表的だがその他ウルメイワシやキビナゴトビウオなどの比較的魚体が小さな魚を使ってつくるのが一般的だ

だしのとり方は魚介や野菜から水や湯を使ってうま味成分を抽出するのが一般的だしの素材として最もよく使われるのは昆布と鰹節でそのほか煮干し野菜干し椎茸魚の内臓やあら(頭や骨)などがあるまた潮

うしおじる

汁のように食品そのもののうま味を活かす方法もある

鰹節

「だし」のこと

昆布

煮干し

干し椎茸

2324 WASHOKU

に欠かせないのは塩砂糖味

噌醤油酢酒みりん魚醤な

どの調味料わさびやからし

しょうが山椒とうがらしゆ

ずなども薬味として使われる

これら薬味によって季節感を楽

しみながら素材の味を引き出

すという知恵も「和食」ならでは

夏に高温多湿となる日本では

アジア諸国と同様発酵食品が

発達したそれゆえ味噌や醤

油や酢に代表される発酵調味料

を多用するのも和食の特徴大

豆や穀物を塩漬けにして発酵

させてつくるものだがその過

程で原料のタンパク質がアミノ

酸に分解されうま味成分を豊

富に含んだ調味料ができあがる

のだ

発酵食品も多様だ日本各地

でカビや酵母などの微生物の

働きを活かして食品中のアミ

ノ酸(うま味)を増やす発酵食品

が発達してきた冬場の保存食

として生み出された沢庵や塩

を使って乳酸発酵させる京都の

すぐき菜漬けそして糠ぬ

漬けや

奈良漬けなど野菜を発酵させ

た漬物さらに塩辛やくさや

なれずし鰹節など魚介の保存

食としての発酵食品また大

豆を納豆菌で発酵させる納豆や

こうじ菌で発酵させて乾燥後に

熟成させた寺納豆など大豆の

発酵食品もある

「和食」はうま味を上手に生

かし食材をおいしく食べる知

恵を育んできたのだ

発酵食品

発酵調味料

調味料

「和食」の特徴 味わい4

発酵食品と調味料

魚醤魚を塩漬けにして発酵させる独特の香りと濃いうま味が特徴の調味料ハタハタでつくられる秋田の

「しょっつる」イカやイワシを材料とする能登半島の「いしる(り)」などがある

酒酒もまた和食の調味に欠かせない発酵調味料のひとつ調味料としての酒の主な効果には材料の臭みを消す食材のうま味を引き出して風味をよくする甘みを加えるなどがある

塩海に囲まれている日本では古くから塩は調味料として使用されてきた焼き物や刺身などの調理の味付けとしてはもちろん漬物や干物など食物を貯蔵するための知恵としても活用されている

味噌蒸したり煮たりした大豆にこうじ食塩を混ぜて発酵熟成させた日本を代表する調味料のひとつ味噌汁や煮物などに使われることが多い地域によって使用される味噌の種類がかなり変わるのも特徴だ

酢寿司やなますなど和食に酸味を加える調味料米から醸造した酒に酢酸菌を加えて発酵させて造られる酢に漬けることにより保存性を高める

醤油大豆と小麦で造ったこうじに食塩水を加えた「もろみ」を発酵熟成させ搾ったもの刺身や焼き魚煮物炒め物など幅広い料理に使われている種類は濃口薄口たまり再仕込み白の5つに分類される

みりん蒸したもち米と米こうじを主原料に40~60日かけて熟成させて造られる発酵調味料砂糖と比べて甘みがやわらかく食材の臭味を取る働きもあるまた魚の照り焼きなどのつや出しにも使う

漬物素材を食塩や酢酒粕醤油などに漬け込み熟成させて作られる漬物沢庵や梅干し野沢菜漬けなど野菜類を長期間保存するための知恵として誕生した日本各地に独特の漬物があるのも特徴だ

納豆日本で発展した発酵食品である納豆大豆を納豆菌で発酵させた食品で寺納豆(下記参照)と区別するため「糸引き納豆」とも呼ばれる単品で食べるだけではなく納豆汁や納豆和えなどにも使われている

塩辛魚介類の身や内臓を塩漬けにし発酵させて作られた塩辛は日本における伝統的な保存食品のひとつ使われる素材はその地域によって変わりイカやエビアミタコなど多彩な種類の塩辛が存在する

塩に漬けた魚と炊いたご飯を数日間置き乳酸発酵させたなれずしは魚を保存する知恵として生まれた滋賀県では琵琶湖産のふなを和歌山県や富山県ではサバを岐阜県などではアユを材料にしたものが有名写真は滋賀県湖北地方の年頭の祭りで振る舞われる鯖のなれずし

砂糖世界的に見ても「甘み」を用いた料理が多い現在の和食では砂糖は欠かせない調味料のひとつ単独で料理に使われるというよりは煮物をはじめとするさまざまな料理で醤油や塩味噌などと併用されることが多い

寺納豆茹でた大豆にこうじを加えて発酵させ乾燥させながら熟成を促す発酵食品粘り気のある糸引き納豆とは異なり乾燥して塩辛い禅宗の伝来とともに大陸からもたらされたとされ寺院で作ることが多かったため「寺納豆」と呼ばれた

2526 WASHOKU

「和食」の特徴5

栄養

栄養バランスの優等生「和食」

野菜や魚肉そして米によって構成される「和食」は

栄養バランスの良さでも知られている

最近は五日間すべてを米飯にする完全米飯給食を行う地域も生まれた

和食の特徴のひとつである栄養についてその秘密に迫る

米麦雑穀などを炊いたご飯

を主食としてこれに魚介肉

類野菜類に発酵調味料だしを

組み合わせた和食は栄養学的

にみてもバランスをとりやすい

食事である

歴史的にみると日常食では

主食を大量に摂る習慣が続いた

穀類偏重の食生活だったといえ

よう

しかし豆腐や納豆みそ汁な

どを飯とともに摂ることで米の

アミノ酸の利用率を上げる食べ

方年中行事などハレの日に魚

介類などを摂取して楽しむなど

学ぶべき知恵は多い

なかでも何百年も伝えられて

きた和食の基本型はすぐれた

ものといえよう

副食の主菜には魚肉豆腐

などタンパク質を多く含む料理

を考える副菜には主菜に使わ

なかった野菜芋類などを使い

汁は主菜に合うものを用意する

焼き魚野菜の煮物青菜のお浸

しとみそ汁などでも栄養的バ

ランスはとれている

1980年頃までは多くの

家庭で和食の基本型が続いた

主食の量がやや減り副食が増

加とくに乳乳製品肉類の割

合が増加したこの頃栄養バ

ランスをはかる一つの指標であ

るPFCバランスが理想的な比

率を示した(左記参照)

しかしその後外食の日常化

家庭料理の欧米化が進み米の

摂取量が激減し脂質摂取の過

多などから生活習慣病が問題

となったこうした中各地で

食生活を見直す動きがみられる

ようになったその一つが学校

給食での取り組みである

戦後の食料難の中でパンと

牛乳に副食を加えた完全給食は

1950年に始まった197

6年に米飯が導入されるまで長

く続いたパン給食は和食の基

本型にも影響を与えたようだ

米飯給食は次第に増加し

2010年には週3回以上米

飯給食を実施している小中学

校は90以上となったが週5

回の米飯給食の実施は7以

上と高くない

ここでは2008年に5日

間すべてを米飯給食とした新潟

県三条市の事例を紹介しよう

成長期にバランスのよい食事

で健康な体をつくることそし

て望ましい食習慣を身につけ

生涯を健康に生きることをめざ

し完全米飯給食を実施したと

のこと

米は同市で生産される農薬

を減らしたコシヒカリを七分搗つ

きにした米飯を主食に副食は

主菜副菜汁を組み合わせる献

立をベースとしている主菜は

サケのフライ鶏肉ピリ辛焼き

さんま梅煮など伝統的な和食だ

けではないが和食の基本型の

中に取り入れる工夫がされてい

るパ

ンは油脂や糖分と相性が

良く肥満につながりやすいが

新潟県三条市の給食献立一例三条市の小中学校での献立例ご飯は三条市で収穫したコシヒカリを使用「お米だと腹持ちがよいのでデザートをあまり出さなくとも子どもたちが満足してくれる」とのこと洋風や中華風の献立でもおかずはご飯に合うものを選びスープなどの汁物は確実につけるように心がけている

火曜日

えだまめごはん

さけチーズフライ

くきわかめきんぴら

かきたまじる牛乳

小学校687kcal中学校823kcal

水曜日

ごはんとりにくのぴりからやきいかときゅうりの

あえものしょうがみそスープ牛乳小学校639kcal中学校752kcal

木曜日

ごはんさんまうめにたくあんあえにくじゃがに牛乳なし小学校688kcal中学校814kcal

金曜日ごはんカレーふりかけほうれんそうオムレツフレンチサラダパンプキンスープ牛乳小学校708kcal中学校833kcal

月曜日

ごはんいかのかりんあげ(2こ)

なっとうあえきのこけんちんじるのむヨーグルト

小学校619kcal中学校731kcal

2526 WASHOKU

七分搗米の飯は腹持ちがよく

おやつを食べる子どもが減った

だけでなく肥満の子どもが減

少傾向となり食生活のリズム

が良くなったとされる

また米飯に合う副食は土地

でとれる野菜類を取り入れやす

く季節にあわせてバラエティ

ーに富んだ献立を作ることがで

きる一汁三菜の食べ方の教育

を行った結果給食を残す子ど

もたちも減ったという

基本的な食事パターンが続く

中でも菜を工夫すれば変化に

富む食事を作ることはできる

季節の食材について学び年中

行事への知識も得られるだろう

また子どもたちが和食の基

本型を毎日の給食で体験してい

ることはきわめて重要なことで

ある時々経験するだけでは身

につかないものでも毎日繰り返

すことによって習慣化し定着

するのであるそしてやがて

自分で組み合わせを考えられる

ようになることが期待される

今後の学校給食の役割は大きい

といえるだろう

PFCバランスとは

FAO Statistics Yearbook(日本のみ食料需給表)参照栄養バランスが良いとされるP(たんぱく質)10~20F(脂質)20~30C(炭水化物)50~70の範囲が08~12に収まるように指数化した

日本でのPFCバランスの変化

アメリカとフランスのPFCバランス

タンパク質脂質炭水化物は人間にとって特に不可欠な「三大栄養素」PFCのPはProtein(たんぱく質)FはFat(脂質)CはCarbohydrate(炭水化物)の頭文字でPFCバランスとは食事の中での「たんぱく質」「脂質」「炭水化物」のそれぞれの摂取カロリーの比率健康的な生活をおくるためにはPFCバランスがたんぱく質15脂質25炭水化物60が理想的

給食時には全員で「いただきます」「ごちそうさま」を復唱食育にも力を入れているためそれら言葉の意味についても学校で教えている

米飯給食になってから児童たちの食の嗜し こ う

好に変化が生まれたとか児童たちに好きなおかずを聞いてみると「ハンバーグ」「カレー」などの定番メニューのほか「焼き魚」「納豆」などの和食メニューの名前が上がった

自分の分を食べ終わった児童たちが列をつくって競い合うようにご飯をおかわりしていたこの日の食べ残しはゼロ

C

P

F

14

12

1

08

06

アメリカ(2005~2007年)

C

P

F

14

12

1

08

06

フランス(2005~2007年)

「和食」の特徴 栄養5

日本人のPFCバランスは1965年当時は炭水化物に偏っていたが1980年は非常に理想的な配分になっていたしかしその後の日本人の食生活に肉や油脂類を多く摂り主食の米を食べる量が減り2010年時は欧米型に近づきつつある

C

P

F

14

12

1

08

06

日本1965年

C

P

F

14

12

1

08

06

日本1980年

C

P

F

14

12

1

08

06

日本2010年

2728 WASHOKU

お客を迎える前には店先に打ち水を水で清め準備が整ったことを伝える趣向に合う軸を選ぶのももてなしの基本飾る花は主人自ら育てたものそれを床の花入に活けるのも主人庭に150種ほどの草花を植え日々育てることもしつらいの準備客は女将の温かいもてなしに迎えられる

「和食」の特徴6

しつらい

人をもてなすためのこころとかたち

もてなしは客に対する一方的なサービスではない

お互いに思いやる気持ちから生まれるこころよさである

手入れの行き届いた庭は掃き

清めて水を打ち床の間には軸

を掛け季節の草花を生ける

座敷の襖ふ

すま

も夏には葭よ

しど戸に入れ替

え夏は涼やかに冬は暖かに

すべて相まってもてなしのた

めの用意を整えることそれが

しつらい和食とりわけ懐石

料理においては食材や料理と

ともにしつらいは非常に重要

な要素となる

家庭でも食事をつくる人は

食べる人の顔を思い浮かべなが

ら食事の用意をする食べる人

はつくってくれた人の気持ちを

考えて賞味するここに互いに

もてなす喜びが生まれるのでは

ないだろうか

こうしたもてなしの文化を極

限にまで洗練させた姿が料亭の

もてなしである京都府の無形

文化技術保持者に料理人として

初めて認定された京都の老舗料

亭「瓢亭」の十四代主人高橋英一

さんにその心を聞いてみよう

「料亭は日本文化の凝縮のひと

つと言えます玄関から入って

座敷に行くまでに通る露地にも

季節感があり部屋に入れば時

季や行事の軸がありその座敷

のために選んだ花が飾られる

日本人が自然と身につけている

桜の器を使うことで膳の上にぱっと花が咲くような華やかさが生まれるあしらいは酢取り防風岩海苔

秋の花菊の器はこっくり深い色合いも相まって秋に似合う風情を持つあしらいは岩茸菊花

深さのあるガラスの器に氷が敷き詰められる涼感を目でも舌にも感じるあしらいは穂紫蘇寄せ莫大

縁起のいい鶴は新年の席でも使われるモチーフあしらいは水前寺海苔紫芽紫蘇

四季の感性で受け止めてもらえ

るよう整えお出迎えします

料亭は普段とは違うハレの場で

すがとはいえ行き過ぎず足り

ないことのないよう自然なし

つらいそしてもてなしを心が

けます」

「瓢亭」の座敷に飾られるのは

主人が庭で丹誠込めて育て自

ら生ける茶花

「もてなしの根

底に利休さんの『花は野にある

ごとく』の言葉を思いますが簡

単なようでそれが難しい」自

然体でのもてなしを生むしつら

えは名店においても日々心を

くだき工夫するのだ

「瓢亭」では1年をとおして明石の鯛の向付を供しているが季節ごとに

器とあしらいを変えることで四季を演出している

四季の演出

2728 WASHOKU

和食はご飯と菜あるいはご飯とお汁というように常にご飯を間にはさんで菜や汁をとるのが本来の食べ方下のような不作法とされる箸使い(嫌い箸)があるので覚えておきたい

ご飯は茶碗に味噌汁はお椀

に焼き魚だったら平皿にと普

段料理に合わせて何気なく使う

食器種類の多さもさることな

がら形や素材もさまざま欧

米はもちろん近隣諸国を見回

してもこれほど多種多様な器を

使う国はないそれは四季が明

確なことと無関係ではない

「自宅でも季節に合わせた器

にするだけで気分が変わりま

すよ」と前出「瓢亭」のご主人は

語る 

春であれば華やかな色や形の

もの夏はガラスや青磁など涼

しげな素材の器秋は実りのあ

る彩りがあるもの冬は厚手の

陶器や木製など温もりのあるも

の色素材形を変えるだけで

季節感を演出できる「和食」な

らではの楽しみ

食事の際当たり前のように

使っている箸も日本の食文化

を代表する食具奈良時代以

降匙さ

を使う伝統が消え箸だ

けを使うようになったため熱

い汁物は椀を持ち直接口を

つけてすする文化が確立同

時に椀箸ともに個人所有が基

本となった椀や箸を共有し

匙やレンゲを使うほかの東南

アジア諸国とは異なる食文化

を形成箸食文化圏の中でも

唯一箸だけでご飯を食べる国

となったまた一口に箸といっ

ても食箸取り箸菜箸など用

途に合わせてさまざま食べ

る際に使う食箸だけを見ても

形や素材のほか加工や長さも

豊富にそろうのだ

「和食」の特徴7

箸と椀

「和食」を支える箸と椀

箸食文化圏の中でも唯一箸だけを使う国日本

季節感を感じさせる器とともに独特の食具文化も誇る

渡し箸食事の途中でお箸を

食器の上に渡し置くこと

寄せ箸遠くの食器を

箸で手元に引き寄せる行為

指し箸食事中箸で人やものを指すこと

迷い箸どの料理にしようか迷い箸を料理の上で動かすこと

移り箸いったん取りかけてから

ほかの料理にお箸をうつすこと

箸には食事に使う食箸と調理に使う菜箸とがある菜箸は熱から手を守るため30~50と長く片方がなくならないよう糸でつながっているものもある取り箸は菜箸の一種食箸は個人所有が基本のため使う人に合わせた長さが用意されている漆塗りや螺鈿細工を施したものも多い

種類

形状だけでなく素材もさまざまで近年は黒檀や鉄木など硬質な木が使われることが多い日本の木としては特有の香りがあり古くから懐石用や割り箸に使われてきた杉耐水性耐湿性が高く保存性に優れる上に軽くて持ちやすい檜強くしなりがあり細かいものを取りやすい竹などがある

素材

家庭で使う食箸の形には角箸や四角で角が丸い胴張り五角六角七角八角のほか削りなどがあり持ちやすさに合わせて選べる箸先に加工が施されたものもある来客用に使う銘々箸や割り箸には断面が小判型で割れ目と溝が付いた元禄箸や中央部が太く両端が細い利休箸などが用意されている

日本人にとっての箸は調理から盛りつけ食事までをこなす大事な道具食箸は個人所有が基本のため個々に合わせて選べるのも特徴だ

箸の働き

箸使いの作法を知る

【嫌い箸】

食箸

八角箸 削り箸

菜箸

檜竹

「和食」の特徴 しつらい 箸と椀6 7

2930 WASHOKU

神し ん せ ん

饌として神へ供えられるお神酒は神棚の最上段の中央に置かれるほど重要な地位を占めている

日本酒を造る酒蔵は全国に約1600弱その数は年々減り続けているが数年に一度「日本酒ブーム」も起きている

日本酒とは米と米こうじ

そして水を主な原料にしてそ

れらを発酵させて造られる

原料には主食用の米ではなく

酒造りに適した性質を選び品

種改良された酒し

ゅぞうこうてきまい

造好適米を使

うことが一般的だまた日本

酒の80を占める水も品質を

左右する大きな要因日本酒

の香味を損なわない良質な水

が必須だ

日本酒の醸じ

ょうぞう造の工程にはさ

まざまな技術が伴う例えば米

を精米して味と香りを調整する

技術これは米の外側にあるた

んぱく質や脂質といった雑味の

もとを除くことが目的だが大だ

吟ぎんじょう醸酒にもなると米を半分以

上削ってから仕込むこともある

次いで米を発酵させる技術

酒の場合の発酵とは酵こ

うぼ母が糖類

を食べてアルコールを出すこと

をいうが米には糖類が含まれな

いためまずは米をこうじ菌の酵

素によって糖類へと変えそこに

酵母を加えて発酵させるという

複雑な手順(複式発酵)が必要だ

この手順で使われるこうじもバ

ラこうじと呼ばれる日本独特の

ものだバラこうじは糖化力が

高いのが特徴で日本酒の香りや

味に大きく影響する

稲作を中心に文化を育んでき

た日本では米餅米から造ら

れる酒は地域を問わず重要な

ものとされている米の一粒一

粒に神が宿り同じように酒も

神のおかげで造ることができる

と考えられてきたそして酒

もまた食べ物と共に神に近づ

くための手段として古くから用

いられてきた

同時に家族や親族地域で人

と人をつなぐ上でも酒は大き

な役割を担っている例えばお

神み

き酒祭礼の後には神の酒を

人々が口にする神と同じ酒を

飲みそれを人々が分かち合う

ことで地域やコミュニティが

結束力を強めるのだろう

米や麦やさつまいもなどを原

料とする焼酎も日本酒と並び

日本の國酒とされている酒は

人と人の心をほぐし食事を引

き立たせる重要な役割を担って

いるのだ

「和食」の特徴8

「和食」を引き立たせ

心をほぐす日本の酒

日本人にとっての主食であり精神のかなめでもある米

その米で醸か

される日本酒は「和食」にとって欠かせない要素

日本の「國こ

くしゅ酒

」にもなっている

2930 WASHOKU

「和食」の特徴9

和菓子日本茶

暮らしに寄り添う和菓子とお茶

自然の恵みに感謝し季節の移ろいを敏感に表現する和菓子

日本茶は喉のかわきを癒すだけでなく心を癒し心を高める飲みものである

「和食」の特徴 酒 和菓子8 9

ハレの日の願いを込めた和菓子

和菓子分類餅もの 餅団子大福など蒸しもの 饅頭蒸羊

よ う か ん

羹外う い ろ う

郎村む ら さ め

雨など煉もの 煉

ね り き り

切こなし求ぎ ゅ う ひ

肥飴葛く ず

菓子など焼きもの 味噌松風煎

せ ん べ い

餅桃も も や ま

山カステラどら焼など流しもの 錦

にしきだま

玉煉ね り よ う か ん

羊羹水み ず よ う か ん

羊羹など揚げもの 揚げ煎

せ ん べ い

餅かりんとうなど打ちもの(押しもの) 落

ら く が ん

雁など岡もの 最

も な か

中きんとん鹿か の こ

の子すはまなどかけもの 金

こ ん ぺ い と う

平糖五ご し き ま め

色豆石いしごろも

衣など

これは和菓子の製法によって大まかに分類した表このほか含有する水分量によって生菓子半生 菓 子 干 菓 子などの分け方や上じ ょ う な ま が し

生菓子並菓子駄だ が し

菓子などの分類もある

「岡もの」とはすでにできあがっ た素材をあわせたもの (例きんとん=飴玉とそぼろ餡)

甘く味付けしたごぼうと白味噌餡を赤や白の餅や求

ぎ ゅ う ひ

肥で包んだ生菓子平安時代の新年行事のひとつで長寿を願っておこなわれた「歯固め」の餅に由来する餅と味噌の組み合わせから「包み雑煮」とも呼ばれた

葩はなびらもち

一 月

旧暦十月は「亥の月」と呼ばれていたがその月のさらに「亥の日」に行われる年中行事の際に食べられていた菓子旧暦では10月が冬の始まりそのタイミングで無病息災と多産の猪にあやかって子孫繁栄を願ってこれを食べていたという

亥い の こ も ち

の子餅

十 月六 月

白いういろうの上に小豆の粒餡を散らした菓子古来京都で旧暦六月の晦

み そ か

日(30日)に無病息災を祈願して行われている

「夏なごしのはらい

越祓」になぞらえて初夏の頃に食べられている小豆には邪気祓いの意味があり三角の形は氷を表している

水無月

五 月

平たく丸めた上新粉の餅をふたつに折り中に小豆や味噌の餡を挟んでそれを柏の葉で包んだ菓子柏の葉は新芽が育つまで古い葉が落ちないことから

「子孫繁栄」を願って旧暦五月五日の端

た ん ご

午の節句の供く も つ

物として用いられてきた

柏餅

日本ならではのお茶の製法である手揉みは茶葉の繊維をつぶしながらうまみを引き出すために行う作業手揉みすると茶葉が切れないため茶の甘みを保つことができる

菓子もまた「和食」にとって欠

かせない要素でお客様用の「上

菓子」普段食べる「饅頭」や「餅

菓子」などに分かれるほかに

干菓子や駄菓子など菓子の種

類は多いまた例えば団子や

大福などは「餅もの」求肥や飴

などは「煉りもの」錦玉や

水みずようかん

羊羹などは「流しもの」などと

いうようにその製法によって

分類されることもある米や麦

小豆を代表とする豆類そして

砂糖や水あめなどの材料でバ

ラエティに富んだ菓子が生み出

されてきた

お茶会などの席で抹茶ととも

に味わう菓子もあり季節に合

わせて材料や色やデザインが選

ばれ味覚だけでなく視覚で楽

しむこともある

また年中行事と結びつく菓

子もある例えば旧暦三月三日

の「ひな祭り」では邪気をはら

い強い生命力を象徴するよも

ぎの草もちでつくった草餅を食

べる

和菓子には日本茶がふさわし

い緑茶は12世紀に中国から日

本に伝わったが今では生の茶

葉を蒸してから揉んで乾燥させ

る緑茶の製法は日本独特のもの

となっている緑茶に含まれる

カフェインは覚醒効果がまた

カテキンには抗酸化作用があり

ビタミンCも多く含まれて健

康によい日本茶独特の香りと

うま味は日本文化そのもので

ある

出典「和菓子の歴史展」第五十回虎屋文庫資料展より

3132 WASHOKU

日本の「和食」の文化は自然

環境だけでなく海外からの影

響によっても絶えず変化して

きた

近代以降にはコロッケとん

かつなど洋風料理を和食の基本

型に組み合わせた食事肉と野

菜の煮物や和え物などそれまで

にはない料理が工夫されたそ

の多くは和食の基本型味噌や

醤油を用いた味付け箸で食べ

られる料理など「和食」の要素

を保ちつつ伝えられてきた

しかし第二次世界大戦後高

度経済成長期を迎えると日本人

の食生活は急速に変化する

1970年代にファストフー

ド店ファミリーレストランが

各地に開店しコンビニなども

広がった

1980年頃主食と副食の

バランスは理想的とされたが

(26頁参照)その後米の消費量

はさらに減りパン食が増加

肉類油脂乳乳製品の消費量

も増加し食料自給率も下がっ

た家族での外食が日常化し

家庭の食事も欧米化した

食育の必要性

「和食」が危ないどうしたら伝えられるのか

この150年間で大きく変化し「和食」はいま衰えつつあるその原因はどこにあるのだろうか

食生活の変化

日本の食料自給率の変化農林水産省「食料需給表」より作成

日本のものを食べなくなって 「和食」はどうなる 日本の食料自給率は下がり続けている1965(昭和40)年度はカロリーベースで73だったが2012(平成24)年度は39その大きな原因のひとつは国内で自給可能な米や魚や野菜などの消費量が減少する一方国内で生産が困難な飼料穀物を食べて育つ畜産物や原料を輸入に頼ることが多い冷凍加工食品や小麦の消費が増加したことだと考えられている炭水化物たんぱく質脂肪分をバランスよく摂取する健康的な「和食」に未来はあるのか

国民一人一日当たりの供給純食料農林水産省「食料需給表」より作成

食べる米の量が50年で半減 増えたのは肉と乳製品 国民一人あたりが食べる量を品目別に眺めて分かることそれは日本人が食べる米の量が著しく減ってきたことだ1960(昭和35)年度は一日あたりの米の消費量は約315gだったが2010(平成22年)年度は163gに約半減その代わりに増えたのは牛乳乳製品(約60gから約240g)と肉類(約14gから約80gへ)野菜と魚を中心としたおかずでご飯を食べるという

「和食」のスタイルの変化がわかる

食料費における外食と中食の割合の推移総務省統計局「家計調査年報」より作成

家で食べても 調理することが減っている 外食に対して家庭で作って食べる食事を内食というが弁当や惣菜など調理をせずに食べられるものを買ってきて済ます食事は中食と呼ぶ実はこの中食の割合が増えている外食が占める割合は2000(平成12)年以降横ばいなのに対して中食は増え続けその代わりに内食が減っている食事は家で食べても調理はしないという家庭が増えているのだとすれば「和食」にとって大切な要素を子どもたちに伝える機会が減っているとはいえないだろか

食料自給率(金額ベース)

食料自給率(主食用穀物)

食料自給率(カロリーベース)飼料自給率

米 野菜 肉類牛乳乳製品 魚介類

内食 中食 外食

(g人日)

3132 WASHOKU

50

55

60

65

70

75

01992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012

70

75

80

85

90

95

01992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012

一日に一度はお米を食べないと気がすまない人の割合博報堂生活総研「生活定点2012」

お正月におせち料理を食べた人の割合博報堂生活総研「生活定点2012」

一日に一度は米を炊いたご飯を食べなければ気がすまない人の割合が実はこの20年間で減っているというデータがある1992(平成4)年には714だったが2012(平成24)年には564にまで落ち込んでいるのだ

家族や親族で集まっておせち料理を囲みながら新しい一年の無事を祝うお正月実はおせち料理を食べる人も毎年少なくなっている1992(平成4)年には866だったが2012(平成24)年には748だった

電子レンジの普及や冷凍食品

インスタント食品などにより

食生活は便利になったが家庭

内で調理をする機会が減ったと

もいえる

こうしたなか「和食」の優れ

た点をどうしたら伝えられるの

だろうか親から子へ家庭の食

を伝えるだけでなく学校を通

して子どもたちにさらにその

親の世代にも伝える必要があろ

う高齢者からは「和食」につ

いて具体的に教わることも求

められる

離乳期からの食べ物の選び方

幼児期の食経験を豊富にするこ

となどはとくに重要であろう

小さな頃からの食習慣はその

後の食習慣に大きくかかわって

くるからだ

だしのおいしい味を日々体験

することや魚を味わい骨を箸

でとる訓練を楽しい雰囲気のな

かで教わることなどその積み

重ねの中で「和食」は伝わるので

あろう

経験しない味は異文化とと

らえられるであろうし体験し

ていない調理は簡単でも難しく

感じる食事を用意する過程を

日々見る経験手伝う楽しさ美

しい食器を大切にして使うこと

同じ食べ物を家族や仲間と味わ

い祭りや花見などで共に食べ

る経験を積み重ねることは文

化としての「和食」を伝えるだけ

でなく生きる力を育むことにも

つながるであろう

壁にではなく居間に向かって設置されることが多くなった現在のキッチン夫婦共働きだというこの家庭では夫が厨房に立つことも少なくないというこのように食事の準備を子どもと一緒に行うことで「和食」にとって大切な要素が次の世代に伝えられるようになるのだろう

世帯あたり1ヶ月間の穀類支出金額内訳

1962年3434円

パン

麺他

2010年6373円

パン

麺他

ご飯を食べなくても平気 そんな人が増えている

お米よりパンと麺 その傾向が加速中

おせち料理を食べる派が 毎年ジワリ減少中

1962(昭和37)年度には8割以上を占めていた米への支出が2010(平成22)年度にはパンにとって代わられる米の消費量はパンより多いが家庭では炊飯する必要のある米よりすぐに食べられるパンや麺の支出が多くなり家庭での料理が減っていることを示しているともいえよう

総務省統計局「家計調査年報」より作成

いただきます

ごちそうさま

「和食」の未来

今世紀に入ってから世界に和食ブー

ムが起きている味わいやヘルシーさに

注目が集まり世界中のいたるところに

日本食の店が数多くある

そのように世界から注目される「和食」

だが本家本元の日本国内でその将来が

危ぶまれている

これまで見てきたように「和食」には

新しいものを柔軟に取り込む歴史があっ

た日本人は太古の昔より外国からも

たらされた食文化を自分たちの食生活に

取り込んで日本独自の食文化を発展さ

せてきた地域ごとに地域の環境にふさ

わしい料理をつくり出してきた食べる

料理や食べ方もその時代ごと地域ごと

に変わってきた

その中で貫かれてきたことがある

豊かな自然がもたらす食材のおいしさ

を生かす調理法を工夫し味わうこと

食卓に季節感をしつらえもてなしの気

持ちを共に感じ合う食事の場を持つこ

と一汁三菜という組み合わせを食事

の基本スタイルとして健康的な食生活

をおくることお正月におせち料理を

祝いの日にお赤飯を家族と共に食べる

など食事は家族の絆となっている

豊かな自然を守る気持ちと同じように

日本人を健やかに生かし人と人をつな

いできた「和食」もまた守るべき大切な

日本文化ではないだろうか

「いただきます」「ごちそうさま」と言っ

てみるだけでも「和食」は私たちに身近

になる人と人をあたたかく結びつけて

くれる

日本人はやはりお米のご飯がおいしい

と思うだしのきいた汁でおなかも心も

癒されるこの日本人が長い歴史の中で

育んできたすばらしい財産である「和

食」がこのままなくなってよいと考える

人はいないだろう世界の中でもすぐれ

た食文化として認められた「和食」を日本

の誇りとし大切にして次の世代に受け

継いでいくきっかけにこの冊子がなれ

ば幸いである

ごちそうさま

和 食

78 WASHOKU

1

自然の尊重

自然の尊重から「和食」は始まり

いまここにある

豊かな自然なかでも清涼な水に支えられて

「和食」は食材に恵まれ調理方法箸しつらいなどを育んできた

それゆえ季節感を感じ自然を尊重する精神を忘れないのだ

京都市上京区の梨木神社(なしのきじんじゃ)に湧く「染井の井戸」は今でもldquo名水rdquoとして地元の人々から親しまれている湧き水日本各地で川の水のみならず湧き水や井戸水の恵みを受けてそれに感謝して暮らしてきた

78 WASHOKU

大自然が育む恵みが豊かな

日本では古くから自然を崇

拝し尊重する精神を育んでき

た日本各地で季節ごとに豊

作豊漁を祈願する祭りをおこ

なってきたことも自然を敬う

精神の表れだ

春夏秋冬日本は世界に類

を見ないほど四季が明確で和

食にはその季節でしか味わえ

ない多種多様な旬の食材が取り

入れられる

料理を盛るための器もまたし

かり天然の樹脂である漆う

るし

を塗

る漆し

っき器は美しさと防虫効果

耐久性を高めるなどといった先

人の自然に対する知恵が生み出

した器である

また器使いやあしらいで季

節感を出すことやハレの席や

会席料理においては床の間に

季節の花を飾るなどしつらい

に四季を感じさせる工夫が施さ

れるも特筆すべき点だ

そして自然の恵みのひとつ

として大切なものが水である

水は信仰の対象でもあり日

本の食文化を形成する上で重要

な役割を果たしてきた

国内の平均雨量は1800

と多く飲料として使える水が

豊富なのに加え水が地下に滞

留する時間が短くミネラル分

をあまり含まないそのため欧

米など大陸の硬水とは違い軟

水(WHO基準でカルシウムと

マグネシウムの量が120

L未満)であることも「和食」

に大きな影響を与えている

口当たりがやわらかくまろ

やかな軟水をふんだんに使った

調理方法や食材そのものの味

を生かす料理が発達してきた

例えば豆腐木綿豆腐や絹

ごし豆腐といった一般的な日本

の豆腐はたくさんの水を使っ

てつくられるため水の善し悪

しが味に関わってくる

炊飯も水で何度か米を洗い

適量の水を加えて炊くことで

芯のないふっくらとしたご飯に

炊き上がる

副菜であるお浸しのように茹

でた後に水で洗って絞ったり

水によってあくを抜いたりそ

ばのように一度茹でたものを水

で締めたり水をふんだんに使

う料理方法は独特で世界的に

見ても珍しい日本の水の性質

の良さが「和食」を支えている

また昆布や鰹節の持ち味を引

き出せる軟水だからこそだし

を使う調理が発達しただしに

よって自然の恵みである素材

そのものの持ち味をおいしくい

ただくことにもつながっている

のである

季節の移ろいを感じることが

「和食」の精神として息づいてい

る言い換えれば子どもの頃

から四季の感性が備わる日本人

にとっての食つまり「和食」と

は「自然の尊重」そのものなのだ

古くから食されている豆腐大豆の絞り汁を凝固剤で固めたのものだが日本の豆腐は水分を多く含み柔らかなのが特徴である味が淡泊な分製造工程における良質の水が味の決め手といわれる

豆腐

=

良質な水の活用

吹き寄せ

=

季節感を織り込む

「和食」は季節感がさまざまなかたちで織り込まれる吹き寄せという料理は季節の野菜銀杏きのこなどが塵取りに吹き寄せられた秋の風情を表現している

椀もの

=

木という素材使い

汁物を供する器はおおむね木製の椀薄く削った木地に布を巻きその上から漆

うるし

を塗った漆し っ き

器として全国で使われてきた木製なので熱い汁を注いでもその熱さを感じることなく手で持てるのも木という自然の素材ならではのよさだ

わさび

=

自然が持つ機能性

刺身の薬味としておなじみのわさびツンと尖ったその辛味は化学的にはアリルイソチオシアネートという揮発性の成分で強い抗菌殺菌作用があるため生魚を食べるときにその効果が発揮される自然がもたらす効果を駆使する「和食」ならではの知恵だ

豆腐

椀もの

吹き寄せ

わさび

「和食」が日本文化である理由 自然の尊重1

まろやかな軟水が

大きな影響を与える

910 WASHOKU

家族や親族で食卓を囲む日常

的なひとときは「いただきま

す」から始まる大切なコミュニ

ケーションの場みんなが顔を

合わせ食事をしながら日々感

じたことやその日の出来事を語

り合うことで家族の絆を強く

していくまた子どもたちに対

しては箸の持ち方や器の扱い

方といった「和食」ならではの食

の作法を伝えたり料理をとお

して味覚や栄養バランスなどを

教える大切な機会だともいえる

日常とは別に正月や節分大

晦日などの「年中行事」で普段と

は違うそのときならではの料理

をいただくその習慣もまた

家族や親族のつながりを強める

のに役立つまたそれぞれの

家ごとの味や伝統が親から子

へと受け継がれていくことにも

なる

家とは別に地域でつながる

年中行事もある

2

家族や地域を結ぶ

寄り合いが人をつなぐ

行事や祭りの食の役割

食事を共にするということを通して人はつながりを深くする

家族の食卓での団らん祝いごと地域の祭り年中行事

日本の伝統文化の中で食は人をつなぐ役割の中心にある

食を通して

人や地域とつながる

お正月に家族や親族で集まっておせち料理を囲む時間は地域や親族に伝わる食の伝統を次の世代へと受け継ぐ絶好の機会だまた下の写真は青森県西部の日本海沿岸に位置する深浦町でのひとこま

「深浦地産地消の会」ではいくつかの家族が集まって地域に古くから伝えられる郷土料理を教え合うという活動を続けている祖父母の世代しかその作り方を知らない料理を披露し郷土の伝統を次世代へ伝えようと尽力している

家族の食

910 WASHOKU

地域ごとで行う祭りの中でも

食は大切な要素である神社に

おける祭さ

いし祀の後には直な

おらい会と呼

ばれる飲食の儀礼も行われる

本来神への供く

もつ物やお神み

き酒を参

列者がいただくことで神と人

とが一体となり神の加護を期

待するという意味合いを持つ

今日では祭りの後の打ち上げ

という気分もあり祭りを終え

た後人と人とが酒を酌く

み交わ

すそれにより親密感が増し

共同体意識を高めているのだ

こうした打ち上げもまた食

を介した日本の文化といえる

祭りではなくとも食を中心

にして地域がつながるケースも

ある例えば秋になると山形

県や宮城県などで盛んに行われ

る芋煮会仲間や同僚地域の

人たちなどで声を掛け合い河

原に集まる季節の行事だ鍋の

内容は山形県の内陸部では里

芋と牛肉を具として入れた醤油

味が一般的一方宮城県では

里芋と豚肉を味噌で味付けて食

べるこのように地域によって

違いはあるが地元産の秋の食

材を入れ大きな鍋を囲むとい

う点では共通している一緒に

食べるだけでなく共同で鍋を

作ることで親交や結束がより

いっそう深まるのだろう

食をとおして家族や親族

そして地域やコミュニティが

結束力を強めるこれは「社会

性」という「和食」が持つ特徴の

ひとつだ

「和食」が日本文化である理由 家族や地域を結ぶ2

祭礼の中で食事を共にすることは祭りを担う人々の絆を固める大切な機会である下の写真は大阪府の祭りの様子この日に供されたのはハモと松茸のすき鍋水なすの漬物など一方で東北地方の宮城県や山形県で秋になると盛んに行われる

「芋煮会」(写真右)は地域だけでなく職場や親族友人どうしなどのコミュニティ単位で行われることが多い食材を持ち寄って鍋の準備を共に進めることで連帯感が高まるのだ

地域や祭りの食

1112 WASHOKU

おせち料理おせち料理の内容は地域によってさまざまこれは東京のおせち料理のひとつ重箱(手前)には健康を願う「黒豆」や子孫繁栄を願う「数の子」そして田の肥料としたことで豊作を祈願する意味を込めた「田作り」という「祝い肴三種」が盛り込まれている祝い肴にはその他紅白のかまぼこや長寿を祈願した海老の焼き物豊作を願ったたたきごぼうなどがあり地域によって異なっている酢の物(左の小さな重)や煮しめ(奥の大きな重)をおせち料理に供する家庭も多い

日本人の生活の中には特別

なrdquoハレの日ldquoがあるひとつは

正月などのように毎年同じ時期

にめぐってくる年中行事もう

ひとつは誕生や成人や結婚や還

暦など人生の節目にあたる日で

これを人生儀礼と呼ぶそして

ハレの日にはそれを食べるこ

とで「邪気や災厄をはらい健康

長寿を願う」という共通点があ

る一

年の始まりを祝うお正月は

「歳と

しがみ神さま」を各家庭で迎える

年に一度の大切な年中行事家

の入口に立てられる門松は神を

招くための目印で一年の幸せ

を願い家族が集まって食事を

共にするその際に供されるの

がおせち料理だ地域ごとにさ

まざまなバリエーションがある

のもおせち料理の特徴で酒し

ゅこう肴

3

健康長寿の願い

ハレの日の食事で

健康と長寿を願う

例えば全国各地でrdquo文化ldquoとして

色濃く残っているおせち料理

その内容には地域ごとにさまざまな

バリエーションがあるものの

共通しているのは

料理を食べることで健康長寿を

願うという点だ

1112 WASHOKU

お正月雑煮に合わせて飲むお屠蘇は銚ち ょ う し

子三つ重ねの盃盃を乗せる盃台これらを載せる盆で供されるもともとお屠蘇はいくつかの薬草を組み合わせた屠

と そ さ ん

蘇散を酒やみりんに浸して作る薬酒だった

お194679と そ蘇

魂の象徴である丸餅を入れた雑煮を食べるということは神の力をいただくことでもあったこれは京都でなじみ深い西京味噌で味付けした雑煮焼かずに煮た丸餅と昔から縁起物とされた頭

かしらいも

芋(里芋の親芋)が入るのが特徴だ

雑煮

赤い色の小豆は邪気と厄をはらいのけると信じられ祝い事の際には頻繁に登場したまたもち米を蒸して食べる習慣は古い日本の文化でもあって例えば赤飯はハレの食事として供されことにお祝いの席には欠かせない

赤飯一生食べることには苦労しないようにとの願いを込めて子どもの生後100日目に行う「お食い初め」の儀式では尾頭付きの鯛を含んだ一汁三菜の膳が供される丈夫な歯が生えることを願う「歯固めの石」も欠かせない

お食い初め

「和食」が日本文化である理由 健康長寿の願い3

を並べたスタイルもあれば煮

しめだけをおせちとする地域も

あるが神と食事を共にしつ

つ福を招き災いを打ちはらう

という願いが込められていると

いう点は共通している

同じくお正月に食べる雑煮は

そもそも武士にとって一番大切

で正式な酒の肴で正月には必

ず餅の入った雑煮とお194679と

そ蘇が

供されるそして鏡餅などの丸

い餅は神の魂の象徴「歯固め

餅」とも呼ばれ1月11日に鏡餅

を食べて歯が丈夫な長寿を願う

意味が込められている

食を囲み毎日を無事に過ご

すことを願う行事に五節句があ

る七草粥を食べる正月7日

(人じ

んじつ日)の他には邪気をはらう

と信じられていたヨモギ入りの

草餅を食べる3月3日(上じ

ょうし巳)

粽ちまきや柏餅を食べることで健康を

願った5月5日(端た

んご午)索さ

くべい餅と

呼ばれる細い麺を食べて無病を

願う7月7日(七し

ちせき夕)菊酒で不

老不死を願う9月9日(重ち

ょうよう陽)が

ある

人生儀礼に目を向ければ邪

気や厄をはらうと信じられてい

た赤飯は祝儀だけでなくお盆

などの仏事や葬儀の際にも食

べられてきた

体によいものを求めてきた

「和食」の伝統は結果として世

界でもまれにみる健康によい食

文化をつくりあげた健康で長

生きしたいという強い指向が

「和食」の根底にはある

北海道は各地から入ったお雑煮が混在する北海道特産のいくら鮭を使った「親子雑煮」を食べる家庭も多い

焼いた角餅に醤油味が一般的一部の地域では具に豆腐やゴボウなどが入りゴマだれやクルミだれに付けていただくこともある

鰹節でだしを取り醤油で味付けしたすまし汁に焼いた角餅を入れるのが一般的具には鶏肉こまつ菜かまぼこなどが入る

昆布でとっただしに白味噌で味付けし煮た丸餅を入れるすまし汁のところや元旦は白味噌2日目はすまし汁にする地域もある

1314 WASHOKU

「県出身ならあれ食べた

ことあるの」「お雑煮のお餅と

味付けは」hellip日本各地に伝

統的な料理や食材があり味付

けも地域ごとに異なる

気候や風土が異なると採れ

る食材や調理法は変化し地域

色豊かな和食が形づくられてき

たそんな多様性も和食の魅力

であり日本を旅するときの楽

しみのひとつでもあるはずだ

いまのように流通が盛んでな

く保存技術も進んでいなかっ

たころ食料を無駄なく存分に

そして安定的に味わうというこ

とは人々の重要な課題だった

そこで知恵を絞り工夫をこら

し考えられたのが食品の加工

や保存方法その知恵が結果的

に「和食」の多様性を生みだし

ていくことになるのだ

海から遠い土地では魚を長持

ちさせる知恵が生まれ冬が厳

しい北方では野菜を長期にわた

り保存する技が発展してきた

魚の干物餅梅干し凍み豆

腐helliphellipこれら保存食は昔から

ある加工食品だが同じく日本

古来の加工食品に発酵食品があ

る微生物の働きや酵素の力

で保存力や栄養価風味などが

加わった食品だ野菜の漬物も

このひとつ

例えば秋田県の郷土料理「い

ぶりがっこ」大根を囲炉裏の

4

「和食」の多様性

風土が多様性を生み

それが「和食」という地図を描く

南北に長くさまざまな気候を持つ日本だけに地域が持つ食文化は多様で

土地土地に伝わる郷土料理や加工保存技術が存在している

日本の食が描く地図は知れば知るほど面白い

風土の違いから生まれる

食文化の多様性

お雑煮MAP

 

正月に食べられるお雑煮はだ

しの素材や味付け餅の形状具な

どが地域や家庭によってさまざま

であるだしには昆布鰹節煮

干しするめ穴子鶏肉が味付

けには塩醤油味噌などが使われ

る餅は角か丸かそれを焼くか

煮るかという違いもあるまたあ

ん入りの餅を入れる地域もある

具は野菜類魚介類鶏肉などで

地域の特産品が使われることも多

い沖縄県ではお雑煮に代わるも

のとして「中味汁」(豚の内臓の

汁)があるここでは全国各地の

お雑煮の中から特徴のあるもの

を取り上げた丸もち

角もち

角もち

角もち

昆布と鰹節のだしに味噌で味付けし煮た丸餅とかぶそしてかぶの葉を加えたシンプルなお雑煮を食べる地域も味噌は赤味噌白味噌のいずれかが使われる

丸餅に白味噌仕立てが多いが香川県では白味噌にあん入り餅を入れた「あんもち雑煮」が珍しい具は大根ニンジン里芋など

だしはあごだし昆布鶏肉とさまざまだが味付けは醤油味具にかまぼこが入り九州の北部にはあん入り餅を入れる地域もある

醤油味のすまし汁に煮た丸餅が多い出雲地方では

「小豆雑煮」と呼ばれ具はなくぜんざいのような小豆だけの雑煮を食す

昆布と鰹節のだしに味噌で味付けし煮た丸餅とかぶそしてかぶの葉を加えたシンプルなお雑煮を食べる地域も味噌は赤味噌白味噌のいずれかが使わ

1314 WASHOKU

上に吊るし楢や桜の焚き火で

燻製にしてから米糠と塩で漬

けこんだ漬物だこれは冬の訪

れが早い秋田で大根を早く乾

燥させ長く食べられるようにす

るための工夫だいずれも手間

と時間が加わることで風味が

濃縮されとれたてとは違った

深い味わいが生まれた

魚介類の保存食でいえばな

れずし魚を塩と米飯で数日

から数ヶ月寝かせ乳酸発酵さ

せたもの雑菌の繁殖が抑えら

れ長期間の保存が利く上うま

味が増す現在滋賀県のふな

ずし和歌山県のサバやサンマ

のなれずし福井県小浜市のへ

しこなれずし秋田県のハタハ

タ寿司など日本全国の郷土料

理として残っている

また味噌や醤油といった発酵

調味料は日本料理の味の要と

もいえやはりこれらにも地域

によって造り方や味に違いがあ

る例えば味噌大豆と米こ

うじを使い長期間熟成させた辛

口の津軽味噌米こうじを多く

配合した甘みのある西京味噌

大豆こうじを使った赤褐色の名

古屋の八丁味噌麦を原料にし

た九州地方の麦味噌などさま

ざま

地域の特産品発酵調味料餅

で構成されるお雑煮を見ても

多様性はよくわかる

日本の風土と食文化は深く結

びつき世界が注目するバラエテ

ィに富んだ食を育んできたのだ

日本の味噌

mdash

地域と特徴mdash

味噌は製法材料によって

大きく3つに分けられる

全国的に一般的なのが「米

味噌」で蒸すまたは茹で

た大豆に塩米こうじを加え

発酵させたもの米こうじ

の代わりに麦こうじを使用

したものを「麦味噌」大豆

を発酵熟成させたものが

「豆味噌」米味噌には大

豆を蒸して長期間熟成した

辛めの赤味噌と大豆を茹

でて短期間で熟成させた甘

めの白味噌がある

「和食」が日本文化である理由 「和食」の多様性4

主な種類地域 特徴

米味噌

津軽味噌 長期間熟成させる辛口で赤味噌系が主流

仙台味噌 仙台で伝統を継承して造られてきた長期間熟成させる辛口赤味噌系が主流

信州味噌 長野県を中心に造られる山吹色の淡色系の辛味噌

江戸甘味噌 通常の味噌よりもこうじを多く塩を少なくした赤系の甘さのある味噌

西京味噌 関西地方を中心に造られる米こうじの多い甘みのある白味噌

讃岐味噌 香川県で造られる甘みのある白味噌あん餅雑煮にも使われる

府中味噌 甘みのある米こうじの多い白味噌で主に広島県で造られる

麦味噌 九州四国中国 麦こうじを使って発酵させた山吹色を帯びた甘みのある味噌

豆味噌 八丁味噌三州味噌 蒸した大豆でみそ玉を作りこうじ菌を繁殖させて造る濃い赤褐色の味噌

お雑煮に入れる餅の形について出身地ごとに聞き取った結果中部を境にして東は角餅西は丸餅が多かった

もちの形について

丸もち

丸もち

丸もち

丸もち

出典「お雑煮100選」(文化庁)より

(人)

温暖化が進み狩猟が大型獣から小型獣になる

南九州で竪穴式住居にドングリ貯蔵穴が広まる

ドングリなどの植物性食料が重要な食料になる

水田稲作が日本列島に伝来

稲作の広がりと定着魚を発酵させたなれずしの登場

『魏ぎ

し志』倭わ

じんでん

人伝には倭(日本)では冬夏に生菜を

飲食に高杯をつかい手食するとある

土は

師器の移動式かまどの使用

土師器の甑こ

しきに

よる蒸し米が盛んになる

中国に遣唐使を送る大陸の食文化がもたらされる

675年天武天皇が「牛馬犬猿ニワトリ」の

食用を禁止

牛乳を煮詰めて作った「蘇そ

」が朝廷に貢納される

箸の利用が広がる

貴族の大だ

いきょう饗

料理や年中行事が中国の影響で定着

豆腐が中国より伝来する

栄西が宋より抹茶法を持ち帰る

道元が禅宗における食事作法や調理の心得を

説いた『典て

んぞきょうくん

座教訓』『赴ふ

しゅくはんぽう

粥飯法』を執筆

植物性食品のみを使った精進料理の発展

武士の供応食本ほ

んぜん膳

料理の形成

包丁人と呼ばれる料理人が誕生し包丁流派を形成

刻み目のついたすり鉢が広がる

酒造技術の進展

書院茶の湯からわび茶の湯へ

千利休により茶の湯が完成

懐石形式の定着

豊臣秀吉が北野大茶会を開催

欧州が大航海時代に入り

南蛮貿易により南蛮菓子唐辛子などが日本に伝来

日本初の出版料理書『料理物語』刊行

都市部に食べ物屋や料理屋が普及する

料理屋の会席料理形成

けがれによる肉食禁忌の観念が広く浸透

薬食いとしての肉食

飢き

きん饉に備えさつまいもやじゃがいもの栽培を奨励

和菓子の完成

握り寿司やてんぷらが江戸で流行する

肉食解禁と牛鍋の流行

『西洋料理指南』など西洋料理書の出版

西洋料理店の発展

米の摂取率が平均53に

家庭向け料理書の出版

女学校における食物教育

脚か

っけ気

論争がさかんに行われる

牛肉の不足から豚肉の生産が増加

洋菓子の製造発展

物価高騰と米不足によるじゃがいもパンなどの代用食の奨励

国立栄養研究所の開設と栄養学の発展

都市部で和わ

ようせっちゅう

洋折衷料理が普及

戦争による食料不足

食料統制米などほとんどの食品が配給切符制となる

イモなど代用食の増産

戦後のミルクとパンの学校給食が開始

各地に闇市ができる

食料の価格が高騰

厚生省が日本人の栄養基準値を策定

農家の生活改善運動が展開

即席ラーメンなどインスタント食品の開発販売

冷凍冷蔵庫の普及と冷凍食品が普及

日本型食生活の提唱

ファミリーレストランファストフード店の増加

コンビニの発展

日本食の洋食化と簡便化と米摂取量の減少

食料自給率が39〜40に低下

レトルト食品の売上増大

電子レンジ普及率が約90に

遺伝子組み換え食品が登場

地球温暖化など環境問題が深刻化

阪神淡路大震災東日本大震災により災害食が注目される

持続可能性が社会課題に

家庭料理の変化や家族の孤食化などの問題が生まれ和食の見直しへ

縄文時代弥生時代古墳時代飛鳥時代奈良時代平安時代鎌倉時代室町時代安土桃山時代江戸時代BC9000年BC3000年BC2500年頃BC200年頃240年頃500年頃7世紀8世紀8~12世紀12~14世紀14~16世紀16~17世紀17~19世紀

1516 WASHOKU

「和食」の年表

「和食」がたどった道和食の成立とその変化を年表でたどってみると各時代の人々が海外の食文化の影響を受けながら工夫を積み重ねてきた様子が見えてくる

米は縄文時代晩期に伝来し

たとされるが全国に広がるの

は弥生時代である

平安時代の大饗料理は貴族

の供応料理で蒸した高盛の強こ

飯いい

に各種の魚介類を配し調味

料につけて食べる形であった

鎌倉時代には禅宗の影響に

より動物性食品を排除した

精しょうじん進料理が発展した道元禅

師は調理も修行の一つとして

その心得を記した『典て

んぞ座教き

ょうくん訓』と

食事への感謝の念作法を説い

た『赴ふ

粥しゅく

飯はんぽう法』を著した

室町時代上層階層の料理文

化として本膳料理が登場した

この形式は江戸時代後期には

婚礼などの儀礼食として各地域

に浸透し昭和期まで継承され

た本膳には飯汁菜香の物

が盛られ飯を主食とした伝統

的な食事の形式が定着すること

になるまた酒とその酒肴も

本膳に伴って発展した

安土桃山時代には茶の湯に

ともなう懐石が発展した一汁

三菜を基本に旬の素材にこだ

わり食事空間のしつらいにも

気を配るなど精神性をも盛り込

んだこの形式はその精神と

共に現代に引き継がれている

江戸時代の都市部ではそば

すしてんぷらなどの食べ物屋

高級料理店なども広がりをみせ

た料理書の出版も相次ぎ酒

と酒肴を楽しむ料理屋の会席料

理も成立したまた和菓子の

温暖化が進み狩猟が大型獣から小型獣になる

南九州で竪穴式住居にドングリ貯蔵穴が広まる

ドングリなどの植物性食料が重要な食料になる

水田稲作が日本列島に伝来

稲作の広がりと定着魚を発酵させたなれずしの登場

『魏ぎ

し志』倭わ

じんでん

人伝には倭(日本)では冬夏に生菜を

飲食に高杯をつかい手食するとある

土は

師器の移動式かまどの使用

土師器の甑こ

しきに

よる蒸し米が盛んになる

中国に遣唐使を送る大陸の食文化がもたらされる

675年天武天皇が「牛馬犬猿ニワトリ」の

食用を禁止

牛乳を煮詰めて作った「蘇そ

」が朝廷に貢納される

箸の利用が広がる

貴族の大だ

いきょう饗料理や年中行事が中国の影響で定着

豆腐が中国より伝来する

栄西が宋より抹茶法を持ち帰る

道元が禅宗における食事作法や調理の心得を

説いた『典て

んぞきょうくん

座教訓』『赴ふ

しゅくはんぽう

粥飯法』を執筆

植物性食品のみを使った精進料理の発展

武士の供応食本ほ

んぜん膳

料理の形成

包丁人と呼ばれる料理人が誕生し包丁流派を形成

刻み目のついたすり鉢が広がる

酒造技術の進展

書院茶の湯からわび茶の湯へ

千利休により茶の湯が完成

懐石形式の定着

豊臣秀吉が北野大茶会を開催

欧州が大航海時代に入り

南蛮貿易により南蛮菓子唐辛子などが日本に伝来

日本初の出版料理書『料理物語』刊行

都市部に食べ物屋や料理屋が普及する

料理屋の会席料理形成

けがれによる肉食禁忌の観念が広く浸透

薬食いとしての肉食

飢き

きん饉に備えさつまいもやじゃがいもの栽培を奨励

和菓子の完成

握り寿司やてんぷらが江戸で流行する

肉食解禁と牛鍋の流行

『西洋料理指南』など西洋料理書の出版

西洋料理店の発展

米の摂取率が平均53に

家庭向け料理書の出版

女学校における食物教育

脚か

っけ気

論争がさかんに行われる

牛肉の不足から豚肉の生産が増加

洋菓子の製造発展

物価高騰と米不足によるじゃがいもパンなどの代用食の奨励

国立栄養研究所の開設と栄養学の発展

都市部で和わ

ようせっちゅう

洋折衷料理が普及

戦争による食料不足

食料統制米などほとんどの食品が配給切符制となる

イモなど代用食の増産

戦後のミルクとパンの学校給食が開始

各地に闇市ができる

食料の価格が高騰

厚生省が日本人の栄養基準値を策定

農家の生活改善運動が展開

即席ラーメンなどインスタント食品の開発販売

冷凍冷蔵庫の普及と冷凍食品が普及

日本型食生活の提唱

ファミリーレストランファストフード店の増加

コンビニの発展

日本食の洋食化と簡便化と米摂取量の減少

食料自給率が39〜40に低下

レトルト食品の売上増大

電子レンジ普及率が約90に

遺伝子組み換え食品が登場

地球温暖化など環境問題が深刻化

阪神淡路大震災東日本大震災により災害食が注目される

持続可能性が社会課題に

家庭料理の変化や家族の孤食化などの問題が生まれ和食の見直しへ

明治時代大正時代昭和時代(戦前戦中)昭和時代(戦後)平成1869~1912年1912~1926年1926~1945年1945~1989年1989年~

1516 WASHOKU

家庭料理の変化や家族の孤食化などの問題が生まれ和食の見直しへ

基本はほぼこの時代にできたと

いえよう

いっぽう各地域の日常食の

主食は麦雑穀芋類を混合し

たかて飯やうどんなど小麦粉を

用いた食事が多くそれは昭和

期まで引き継がれ各地で独自

の「和食」の文化が形成された

西洋文化を積極的に取り入れ

た明治時代以降西洋料理書が

出版され都市部では西洋料理

店が開店したまた明治時代

後期には家庭向け料理書の出

版が相次ぎ西洋料理をアレン

ジして和食に取り入れた和わ

よう洋

折せっちゅう衷料理が数多く紹介された

大正期国立栄養研究所の開

設により栄養学の研究が進み

日常食の栄養についての関心が

少しずつ広がった

飢餓を経験した戦時期を経て

主食に偏らず副食に動物性食

品や油脂を加えた食事が推奨さ

れたその結果1980年頃

になると日本人の食事は米飯

を基本にしながらも乳乳製品

肉魚類野菜類などを適度に

加えたよりバランスのよい食

事となったこの時期の食生活

を「日本型食生活」と呼んだし

かしその後食生活の洋風化

簡便化が広がり食料自給率は

40パーセントと減少した若年

層を中心に食事の基本型が崩れ

欠食孤食などが話題となり和

食の見直しが求められるように

なった

1718 WASHOKU

「和食」の特徴1

献立のかたち

「ご飯」を食べるために

「汁」と「菜」がある

「一汁三菜」が和食の基本型

「一汁三菜」とは「ご飯」と「汁」と「香の物」に

いくつかの「菜」が添えられるという組み合わせ

「ご飯」と「汁」と「香の物」に「お菜」が3品添えられるという献立が一汁三菜この場合は焼き魚(右奥)と煮物

(左奥)と小松菜のおひたし(中央)の3つの菜で構成される向かって手前左にご飯を手前右には汁をその間に香の物をそれぞれ置くという決まりになっている

1718 WASHOKU

米を炊いた「ご飯」昆布や鰹

節などでとっただしを味噌や塩

などで味付けした具入りの「汁」

塩漬けやぬか漬けや粕漬けなど

の「香の物」そして焼き物や煮

物や和え物などの「菜」その4

つの要素で構成される「一汁三

菜」という組み合わせがある

基本的には汁が一種で菜が

三種の構造を「一汁三菜」と呼

ぶ食事中に口の中をさっぱ

りと保ってくれる「香の物」と

ご飯はいつも必ずついていて

その数も変わらないからあえ

て数えない

日常の食事である一汁三菜に

対して江戸時代によく登場す

るのは二汁五菜つまり汁が二

種に菜が5つこれが昔のおも

てなし料理の基本でお膳もふ

たつ出たいいかえると一汁三

菜はひとつのお膳に載るふだ

んの家庭の食事であることがわ

かる

また汁にもいろいろあった

魚のアラを汁に仕立てたものや

野菜を豆腐と一緒に煮込むけん

ちん汁など具だくさんの汁も

各地域でみられ汁でご飯を食

べるということも和食の特徴の

ひとつだ

一汁三菜の献立の最大の特徴

は汁も香の物も菜もすべてご

飯を食べるために存在するとい

う点かもしれないご飯が主食

でその他の3つの要素が副食

という考えが一汁三菜の根底に

ある少ない菜でたくさんのご

飯を食べご飯の量でカロリー

の摂取量を調整するのがかつ

ての和食の基本的な食べ方だっ

たのだ

「和食」にとって欠かせないご

飯についてもここで触れてお

こう

米には「うるち米」と「もち米」

とがあり強い粘性を持つもち

米は赤飯などのおこわ(強こ

わいい飯

や餅に用いられるそれに対し

てうるち米はもち米より粘り

気が少なく通常の米飯として

使われる

米のもとになる稲の栽培が始

まったのは1万年以上前とされ

野生の稲を栽培したのが始まり

と考えられているその原産地

は中国の長江流域とその周辺

という説が有力でそこから西

へ伝わった品種がインディカ種

また東へと伝わり東アジアに

広がったのがジャポニカ種だ

「和食」における献立の目的は

いわば汁と菜でご飯を食べる

ことつまりご飯に合うのなら

例えばそれが肉じゃがでもコ

ロッケでもとんかつでも菜と

して取り入れてこられたのは

ご飯を主食とする「和食」のス

タイルがしっかりしていたか

らである一汁三菜という和

食の基本型がなくなったら外

国の料理と変わらなくなって

しまうだろう

「和食」の特徴 献立のかたち1

稲 玄米 白米 調理加工

粉にする

飯餅菓子米飯焼き米ひなあられ餅おかきあられ

稲わら 俵わらづと鍋釜敷き畳床むしろわらぞうり縄みのわらぼうき など

酒酢みりん味噌発酵させる

糠 たくあん糠漬けあく抜き

(上新粉など)柏餅草餅重

お も ゆ

湯など

(白玉粉落ら く が ん

雁粉道明寺粉など)白玉最中大福餅落雁桜餅など

どうみょうじ

うるち米の粉

もち米の粉

日本人の暮らしに深く関わる稲米

 現在世界で栽培されている稲の主な種類にはインディカ種(インド型イネ)やジャポニカ種(日本型イネ)などがあるインディカは長粒種と呼ばれる米ジャポニカは日本でよく食べられている丸く短粒な米で短粒種と呼ばれる米の主成分であるでんぷんにはアミロースとアミロペクチンとがありアミロースを多く含むインディカ種は粘り気が少ないのに対しアミロースの少ないジャポニカ種は粘りが強く日本人にとってはおいしい味の米であるそしておにぎりやすしのようにまとめる米料理も発達した 世界の米の生産量は約6億トンと小麦とほぼ同じだがその90以上が日本を含むアジア諸国で栽培されているジャポニカ種は全体の15を占め日本をはじめとして朝鮮半島中国東北部台湾北部などで主に栽培されているインディカ種の栽培地域はインドからベンガル地方のバングラデシュタイをはじめとするインドシナ半島中国の中南部インドネシアなど南アジアが中心だ

ジャポニカ種とインディカ種日常私たちがご飯として食べているのはうるち米赤飯や餅にするのはもち米である栄養価はほとんど同じであるがでんぷんの構成が異なるうるち米はアミロースとアミロペクチンの比率が約28であるがもち米はほとんどアミロペクチンで構成されているそのためにもち米はうるち米に比べて粘りが強く餅にするのに適しているのである日本では両方の米の特徴をうまく利用して粒のまままたは粉にするなどしていろいろな料理や菓子を生み出したり発酵させて酒やみりんなどをつくり出したりしてきた

うるち米ともち米

インディカ

ジャポニカ

「和食」に欠かせない

米はどこから来たのか

1920 WASHOKU

全国各地でさまざまな魚や野

菜が豊富に手に入ったことそ

して文明開化の時代まで一般

的に肉食をしなかったという背

景から「和食」は野菜と魚介類

を中心に調理されてきた

現在日本の市場で流通する

野菜の数は150種類ほどと言

われているその種類はイモ類

やマメ類をはじめ根菜類茎け

いさい菜

類葉菜類果菜類など実に多

様ださらには山菜やきのこ

など森林に自生するものも調

理に工夫することでうまく食材

として取り入れてきた

日本で流通する野菜は近代

になって外国から輸入されたも

のや品種改良によって食べや

すくなったものなど多様では

あるが昔から日本で作り続け

られている伝統野菜(在来野菜)

も少なくない伝統野菜とはだ

いたい三世代以上に渡って栽培

「和食」の特徴2

食材

和食を支える日本の食材

おいしさの秘密と多様性

おいしい和食には素材の力がある四季折々の自然の中から

生み出される日本の食材は驚くほど多様性に富んでいる

野菜

野菜と魚介類の二大食材に

支えられる日本食文化

和食には野菜を使う料理が多くあるが現在日本で流通する野菜の種類も150以上と幅広い分類にしてもジャガイモやサツマイモなどのいも類大豆や小豆などのマメ類ダイコンやカブなどの根菜類ネギやウドなどの茎

け い さ い

菜類コマツナや白菜などの葉菜類ナスやキュウリなどの果菜類そのほかにシイタケやシメジなどのきのこやワラビやゼンマイなどの山菜など多彩な野菜が存在するしかし現代でこそ流通の発展でさまざまな野菜が一年中手に入るが全国で同じ野菜が収穫できるわけではない例えば同じいも類でもサツマイモなどは九州などで多く作られるが冷害に強く冷涼な地で生育するジャガイモは山梨や長野などの山間部や日本の北部で育てられるそのほか地域特有の特産品である伝統野菜がいま注目され始めている

1920 WASHOKU

が続けられ地域に根づいた農

法で作られるものを指しこれ

を守る動きも目立ってきている

魚介類も「和食」にとって欠か

せない食材のひとつ日本で獲

れる海水魚は実に種類豊富で

日本に生息する魚種だけでも約

4200種ある縁起のよい魚

として重宝されるタイをはじめ

アジイワシやサバサンマなど

日本の近海は魚の宝庫である

海水魚だけでなくコイやア

ユフナやウナギそして水田で

獲れるドジョウなどの淡水魚

(川魚)は海から離れた地域では

貴重なタンパク源だったため

古くから料理に使われている

ウナギの蒲焼きは一般的だが

薄切りにしたコイを50くらい

の湯に短時間漬けてから冷水で

身を締めて酢味噌で食べる「鯉

のあらい」やコイの切り身を濃

い味噌で煮た「鯉こく」など味

わい方も豊富

またうま味のもととして古

くから使われてきた昆布や味

噌汁の具としても重宝するワカ

メさらにおむすびに必須の海

苔など海藻類も和食には欠か

せない貝類も種類が豊富で

アワビをひも状に薄くむき乾

燥させた「熨の

しあわび

斗鮑」が神事や祝し

ゅうぎ儀

の象徴として使われてきた

近年日本の食料自給率が低

下し外国産食材の増加も問題

視されているが本来の「和食」

は日本の自然の恵みによって支

えられているのだ

「和食」の特徴 食材2

島国である日本において魚介類は古くから貴重でかつ重要な食材であった農林水産省の定める生鮮食品品質表示基準によれば日本で食される水産物はマグロやカツオイワシやアジなどの海水魚やコイやウナギなどの淡水魚(川魚)シジミやアサリなどの貝類カニやエビなどの甲殻類やカメなどの水産動物類クジラやイルカなどの海産哺乳動物類そのほか昆布やワカメなどの海藻類など実に多様な種類がある2000年に味の素(株)がおこなった「嗜好調査」によれば「食材」としては肉類よりも魚介類のほうが好まれている結果がみられたさまざまな魚介類のなかでもカニエビマグロなどへの嗜好性が高くそれらが「贅沢な食材」と捉えられているようである

山間部など海の魚が手に入らない地域で貴重なタンパク源として重宝されたのが淡水魚(川魚)写真はアユだがその他コイやウナギドジョウワカサギフナなど日本ではさまざまな川魚が食材として使われてきた寄生虫のおそれがあるため生食はあまりされないがその代わりに調理にはさまざまな工夫が見られる海の魚に比べると独特の臭味やクセがあるため「鯉こく」のようにしっかりと煮込むことで臭味を除いたりウナギのように蒲焼きにしたりするなどがその一例だまた例えば滋賀県には琵琶湖で獲れるフナを塩と米で乳酸発酵させ保存性を高めると同時にうま味成分を引き出した「ふなずし」もある

古来日本で食べられてきた海藻類現在でも低カロリーでミネラルビタミンに富む食材として和食では重宝されている日本では約50種類の海藻が食べられているが世界的にみてもここまで多様な海藻を加工し食用とする民族は珍しいなお海藻にはフノリやテングサのような紅藻ワカメ昆布やモズクなどの褐藻アオノリや海ブドウなどの緑藻類の3種類の海藻が存在する昆布のようにだしをとるために使うものもあるが乾燥させて食べる海苔味噌汁や酢の物の具として使われるワカメのようなものまで実に幅広いまた海藻は神への奉納品としての縁も深く日常の食事だけではなく祭りや神事などにも登場している

縄文時代の遺跡である貝塚からアワビやハマグリカキなどの大量の貝殻が発見されていることからもわかるように貝類は日本では古くから食材として利用されてきた春先の干潮時に浜辺に埋まったアサリなどの貝を掘り出して採取する潮干狩りは春の風物詩としても馴染み深い日本には6000近い貝類があるといわれておりなかでもアサリやハマグリのような二枚貝サザエやツブ貝のような巻き貝が食用として親しまれている調理法としては刺身や吸い物味噌汁煮物焼き物炊き込みご飯など幅広い料理に使用されているがだしをとるためにも使われるさらに乾物にすれば保存性も高くなるため古くから交易にも活用されてきた

海の魚

川の魚

海藻貝

2122 WASHOKU

和食における菜さ

の調理法には

煮る焼く蒸す茹でる和あ

える

揚げるなど実に多様な技法が

あるこれを季節の野菜や山

菜魚介類海藻などの食材と組

み合わせることでバラエティ

に富んだ菜が食卓を彩る

数ある日本の調理法の中で

最も特徴的なのは「生もの」材

料を生のまま切り皿に盛り付

け調味料と薬味を添える刺

身といえば魚介類が用いられる

のがほとんどで捌さ

き方切り方

盛り方などが現在世界で注目を

浴びている材料を新鮮な状態

に保つ技術と料理としての盛り

付けの技術があいまって完成し

たものといえる調味料と薬味

の組み合わせも魚類との相性を

考えて工夫されているまた

わさびしょうがからしなどの

薬味や「つま」や「けん」と言わ

れる大根のせん切り大葉防ぼ

うふう風

芽めたで蓼花は

なじそ

紫蘇など防菌効果のあ

るものを添えて見た目も美し

く組み合わせている

ご飯と並んで食卓に欠かせ

ない「汁物」は鰹節や昆布煮干

し干し椎茸などから抽出され

るだしのうま味と具として入

れる素材のうま味が味わいのベ

ースとなっている中には具だ

くさんの菜になるような汁も

ある

また豊富な水を利用した調理

焼き物(サンマの塩焼き)

直火焼きは遠火の強火でほかに間接焼きがある

生もの(カツオの刺身)

生ものには刺身あらい酢の物漬物がある

茹で物(もりそば)

小麦粉やそばなどの粉からつくる麺を茹でる法

旬の食材のおいしさを

引き出す調理法の数々

「和食」の特徴3

調理

切る煮る焼く蒸す茹でる和える揚げるhellip

あの手この手で素材をよりおいしく

バランスの取れた一汁三菜の基本はご飯にあり

ご飯をおいしくいただくために菜さ

の調理方法は進化した

煮物(筑前煮)

煮汁の中で加熱中に調味する法

2122 WASHOKU

法に「茹で物」があるたっぷり

の水を沸騰させ食材を加えて加

熱して取り出すもの青菜そば

などは茹でた後にあくの除去

歯触りを良くするなどのためさ

らに水で洗う場合も多い私た

ちがあたりまえのように調理し

て食べているほうれん草や小松

菜のお浸しは水に恵まれた日本

に定着した料理で世界的にみて

も特徴あるものといえよう

「焼き物」はサンマの塩焼きの

ように塩をふり直火でじっく

り焼き上げる方法が伝統的

「煮物」は世界で最もポピュラ

ーな調理法だが日本では素材

の味を生かしつつ醤油や味噌

など大豆由来の発酵調味料で

味を調えるものが多い

油とともに加熱調理する「炒

め物」は伝統的な調理にはほと

んど見られないが現代では盛

んに使われ和食の幅を広げて

いる

ここに紹介した調理法と料理

の例は主にご飯のおかずとな

るものであるが小麦そば雑

穀などを粉にしこれを調理し

た主食も多い代表的なものに

うどんそばそうめんなどの麺

類があり茹でる場合が多いが

煮込みなど煮るものもある

さまざまな料理を組み合わせ

て食べる和食は素材の味を生

かしうま味をしっかりとれば

最低限の調味料でおいしさを感

じることができ多様な料理を

楽しむことができる

和あえ物

(きゅうりとワカメの酢の物)

野菜や魚介類などをごま味噌酢などで和える法

漬物(きゅうり大根の糠

ぬか

漬け沢たく あ ん

庵漬け)生ものを保存する方法の一種

塩の働きに加え乳酸発酵させたものが多い

汁物(なめこの味噌汁)

だし汁を主体とする法すまし汁みそ汁とろみのついた汁など

蒸し物(茶碗蒸し)

水を沸騰させその水蒸気を利用して加熱する法

浸し物(小松菜のお浸し)

お浸しは調味した汁に浸して味をつけたもの

「和食」の特徴 調理3

揚げ物(天ぷら)

高温の油で食品を加熱する法油の温度は150~200度の範囲で行うことが多い

2324 WASHOKU

「和食」の特徴4

味わい

うま味日本人が発見した「おいしく食べる」最大の知恵

和食の味わいの中で最も重要なのがだし

味噌汁やすまし汁のベースとなり

煮物やおひたしなどさまざまな料理の

味を決定づける味の要だ

和食の味わいを語るうえで忘

れてはならないのがだし(出

汁)の存在汁物や煮物などさ

まざまな料理のベースとして使

われている

なぜ日本人はここまでだしを

好むのかその答えに大きく関

係するのが「うま味」だ江戸時

代の料理書には「だしこそ料理の

根本である」と書かれている

1907年池田菊き

くなえ苗

博士に

よって世界で初めてうま味成

分のひとつがアミノ酸の一種で

あるグルタミン酸であることが

発見されたその後日本人を中

心に研究が進みうま味は甘味

塩味酸味苦味に加えて第5

の味覚として広く知られるよう

になる現在ではうま味調味

料やだし入りのつゆなどうま

味成分を手軽に使える調味料も

普及海外でも人気が高く国

内でも日常的に使用されている

だしのほかに和食の味付け

日本が世界に誇る

第5の味覚うま味

うま味成分を多く含む椎茸もだしをとる目的で使われてきた食材のひとつだしに使用するのは干したもの椎茸は乾燥させることでうま味や香り成分が増すためだ

小魚を煮て乾燥させてつくる煮干しも汁物に多用される材料としてはカタクチイワシが代表的だがその他ウルメイワシやキビナゴトビウオなどの比較的魚体が小さな魚を使ってつくるのが一般的だ

だしのとり方は魚介や野菜から水や湯を使ってうま味成分を抽出するのが一般的だしの素材として最もよく使われるのは昆布と鰹節でそのほか煮干し野菜干し椎茸魚の内臓やあら(頭や骨)などがあるまた潮

うしおじる

汁のように食品そのもののうま味を活かす方法もある

鰹節

「だし」のこと

昆布

煮干し

干し椎茸

2324 WASHOKU

に欠かせないのは塩砂糖味

噌醤油酢酒みりん魚醤な

どの調味料わさびやからし

しょうが山椒とうがらしゆ

ずなども薬味として使われる

これら薬味によって季節感を楽

しみながら素材の味を引き出

すという知恵も「和食」ならでは

夏に高温多湿となる日本では

アジア諸国と同様発酵食品が

発達したそれゆえ味噌や醤

油や酢に代表される発酵調味料

を多用するのも和食の特徴大

豆や穀物を塩漬けにして発酵

させてつくるものだがその過

程で原料のタンパク質がアミノ

酸に分解されうま味成分を豊

富に含んだ調味料ができあがる

のだ

発酵食品も多様だ日本各地

でカビや酵母などの微生物の

働きを活かして食品中のアミ

ノ酸(うま味)を増やす発酵食品

が発達してきた冬場の保存食

として生み出された沢庵や塩

を使って乳酸発酵させる京都の

すぐき菜漬けそして糠ぬ

漬けや

奈良漬けなど野菜を発酵させ

た漬物さらに塩辛やくさや

なれずし鰹節など魚介の保存

食としての発酵食品また大

豆を納豆菌で発酵させる納豆や

こうじ菌で発酵させて乾燥後に

熟成させた寺納豆など大豆の

発酵食品もある

「和食」はうま味を上手に生

かし食材をおいしく食べる知

恵を育んできたのだ

発酵食品

発酵調味料

調味料

「和食」の特徴 味わい4

発酵食品と調味料

魚醤魚を塩漬けにして発酵させる独特の香りと濃いうま味が特徴の調味料ハタハタでつくられる秋田の

「しょっつる」イカやイワシを材料とする能登半島の「いしる(り)」などがある

酒酒もまた和食の調味に欠かせない発酵調味料のひとつ調味料としての酒の主な効果には材料の臭みを消す食材のうま味を引き出して風味をよくする甘みを加えるなどがある

塩海に囲まれている日本では古くから塩は調味料として使用されてきた焼き物や刺身などの調理の味付けとしてはもちろん漬物や干物など食物を貯蔵するための知恵としても活用されている

味噌蒸したり煮たりした大豆にこうじ食塩を混ぜて発酵熟成させた日本を代表する調味料のひとつ味噌汁や煮物などに使われることが多い地域によって使用される味噌の種類がかなり変わるのも特徴だ

酢寿司やなますなど和食に酸味を加える調味料米から醸造した酒に酢酸菌を加えて発酵させて造られる酢に漬けることにより保存性を高める

醤油大豆と小麦で造ったこうじに食塩水を加えた「もろみ」を発酵熟成させ搾ったもの刺身や焼き魚煮物炒め物など幅広い料理に使われている種類は濃口薄口たまり再仕込み白の5つに分類される

みりん蒸したもち米と米こうじを主原料に40~60日かけて熟成させて造られる発酵調味料砂糖と比べて甘みがやわらかく食材の臭味を取る働きもあるまた魚の照り焼きなどのつや出しにも使う

漬物素材を食塩や酢酒粕醤油などに漬け込み熟成させて作られる漬物沢庵や梅干し野沢菜漬けなど野菜類を長期間保存するための知恵として誕生した日本各地に独特の漬物があるのも特徴だ

納豆日本で発展した発酵食品である納豆大豆を納豆菌で発酵させた食品で寺納豆(下記参照)と区別するため「糸引き納豆」とも呼ばれる単品で食べるだけではなく納豆汁や納豆和えなどにも使われている

塩辛魚介類の身や内臓を塩漬けにし発酵させて作られた塩辛は日本における伝統的な保存食品のひとつ使われる素材はその地域によって変わりイカやエビアミタコなど多彩な種類の塩辛が存在する

塩に漬けた魚と炊いたご飯を数日間置き乳酸発酵させたなれずしは魚を保存する知恵として生まれた滋賀県では琵琶湖産のふなを和歌山県や富山県ではサバを岐阜県などではアユを材料にしたものが有名写真は滋賀県湖北地方の年頭の祭りで振る舞われる鯖のなれずし

砂糖世界的に見ても「甘み」を用いた料理が多い現在の和食では砂糖は欠かせない調味料のひとつ単独で料理に使われるというよりは煮物をはじめとするさまざまな料理で醤油や塩味噌などと併用されることが多い

寺納豆茹でた大豆にこうじを加えて発酵させ乾燥させながら熟成を促す発酵食品粘り気のある糸引き納豆とは異なり乾燥して塩辛い禅宗の伝来とともに大陸からもたらされたとされ寺院で作ることが多かったため「寺納豆」と呼ばれた

2526 WASHOKU

「和食」の特徴5

栄養

栄養バランスの優等生「和食」

野菜や魚肉そして米によって構成される「和食」は

栄養バランスの良さでも知られている

最近は五日間すべてを米飯にする完全米飯給食を行う地域も生まれた

和食の特徴のひとつである栄養についてその秘密に迫る

米麦雑穀などを炊いたご飯

を主食としてこれに魚介肉

類野菜類に発酵調味料だしを

組み合わせた和食は栄養学的

にみてもバランスをとりやすい

食事である

歴史的にみると日常食では

主食を大量に摂る習慣が続いた

穀類偏重の食生活だったといえ

よう

しかし豆腐や納豆みそ汁な

どを飯とともに摂ることで米の

アミノ酸の利用率を上げる食べ

方年中行事などハレの日に魚

介類などを摂取して楽しむなど

学ぶべき知恵は多い

なかでも何百年も伝えられて

きた和食の基本型はすぐれた

ものといえよう

副食の主菜には魚肉豆腐

などタンパク質を多く含む料理

を考える副菜には主菜に使わ

なかった野菜芋類などを使い

汁は主菜に合うものを用意する

焼き魚野菜の煮物青菜のお浸

しとみそ汁などでも栄養的バ

ランスはとれている

1980年頃までは多くの

家庭で和食の基本型が続いた

主食の量がやや減り副食が増

加とくに乳乳製品肉類の割

合が増加したこの頃栄養バ

ランスをはかる一つの指標であ

るPFCバランスが理想的な比

率を示した(左記参照)

しかしその後外食の日常化

家庭料理の欧米化が進み米の

摂取量が激減し脂質摂取の過

多などから生活習慣病が問題

となったこうした中各地で

食生活を見直す動きがみられる

ようになったその一つが学校

給食での取り組みである

戦後の食料難の中でパンと

牛乳に副食を加えた完全給食は

1950年に始まった197

6年に米飯が導入されるまで長

く続いたパン給食は和食の基

本型にも影響を与えたようだ

米飯給食は次第に増加し

2010年には週3回以上米

飯給食を実施している小中学

校は90以上となったが週5

回の米飯給食の実施は7以

上と高くない

ここでは2008年に5日

間すべてを米飯給食とした新潟

県三条市の事例を紹介しよう

成長期にバランスのよい食事

で健康な体をつくることそし

て望ましい食習慣を身につけ

生涯を健康に生きることをめざ

し完全米飯給食を実施したと

のこと

米は同市で生産される農薬

を減らしたコシヒカリを七分搗つ

きにした米飯を主食に副食は

主菜副菜汁を組み合わせる献

立をベースとしている主菜は

サケのフライ鶏肉ピリ辛焼き

さんま梅煮など伝統的な和食だ

けではないが和食の基本型の

中に取り入れる工夫がされてい

るパ

ンは油脂や糖分と相性が

良く肥満につながりやすいが

新潟県三条市の給食献立一例三条市の小中学校での献立例ご飯は三条市で収穫したコシヒカリを使用「お米だと腹持ちがよいのでデザートをあまり出さなくとも子どもたちが満足してくれる」とのこと洋風や中華風の献立でもおかずはご飯に合うものを選びスープなどの汁物は確実につけるように心がけている

火曜日

えだまめごはん

さけチーズフライ

くきわかめきんぴら

かきたまじる牛乳

小学校687kcal中学校823kcal

水曜日

ごはんとりにくのぴりからやきいかときゅうりの

あえものしょうがみそスープ牛乳小学校639kcal中学校752kcal

木曜日

ごはんさんまうめにたくあんあえにくじゃがに牛乳なし小学校688kcal中学校814kcal

金曜日ごはんカレーふりかけほうれんそうオムレツフレンチサラダパンプキンスープ牛乳小学校708kcal中学校833kcal

月曜日

ごはんいかのかりんあげ(2こ)

なっとうあえきのこけんちんじるのむヨーグルト

小学校619kcal中学校731kcal

2526 WASHOKU

七分搗米の飯は腹持ちがよく

おやつを食べる子どもが減った

だけでなく肥満の子どもが減

少傾向となり食生活のリズム

が良くなったとされる

また米飯に合う副食は土地

でとれる野菜類を取り入れやす

く季節にあわせてバラエティ

ーに富んだ献立を作ることがで

きる一汁三菜の食べ方の教育

を行った結果給食を残す子ど

もたちも減ったという

基本的な食事パターンが続く

中でも菜を工夫すれば変化に

富む食事を作ることはできる

季節の食材について学び年中

行事への知識も得られるだろう

また子どもたちが和食の基

本型を毎日の給食で体験してい

ることはきわめて重要なことで

ある時々経験するだけでは身

につかないものでも毎日繰り返

すことによって習慣化し定着

するのであるそしてやがて

自分で組み合わせを考えられる

ようになることが期待される

今後の学校給食の役割は大きい

といえるだろう

PFCバランスとは

FAO Statistics Yearbook(日本のみ食料需給表)参照栄養バランスが良いとされるP(たんぱく質)10~20F(脂質)20~30C(炭水化物)50~70の範囲が08~12に収まるように指数化した

日本でのPFCバランスの変化

アメリカとフランスのPFCバランス

タンパク質脂質炭水化物は人間にとって特に不可欠な「三大栄養素」PFCのPはProtein(たんぱく質)FはFat(脂質)CはCarbohydrate(炭水化物)の頭文字でPFCバランスとは食事の中での「たんぱく質」「脂質」「炭水化物」のそれぞれの摂取カロリーの比率健康的な生活をおくるためにはPFCバランスがたんぱく質15脂質25炭水化物60が理想的

給食時には全員で「いただきます」「ごちそうさま」を復唱食育にも力を入れているためそれら言葉の意味についても学校で教えている

米飯給食になってから児童たちの食の嗜し こ う

好に変化が生まれたとか児童たちに好きなおかずを聞いてみると「ハンバーグ」「カレー」などの定番メニューのほか「焼き魚」「納豆」などの和食メニューの名前が上がった

自分の分を食べ終わった児童たちが列をつくって競い合うようにご飯をおかわりしていたこの日の食べ残しはゼロ

C

P

F

14

12

1

08

06

アメリカ(2005~2007年)

C

P

F

14

12

1

08

06

フランス(2005~2007年)

「和食」の特徴 栄養5

日本人のPFCバランスは1965年当時は炭水化物に偏っていたが1980年は非常に理想的な配分になっていたしかしその後の日本人の食生活に肉や油脂類を多く摂り主食の米を食べる量が減り2010年時は欧米型に近づきつつある

C

P

F

14

12

1

08

06

日本1965年

C

P

F

14

12

1

08

06

日本1980年

C

P

F

14

12

1

08

06

日本2010年

2728 WASHOKU

お客を迎える前には店先に打ち水を水で清め準備が整ったことを伝える趣向に合う軸を選ぶのももてなしの基本飾る花は主人自ら育てたものそれを床の花入に活けるのも主人庭に150種ほどの草花を植え日々育てることもしつらいの準備客は女将の温かいもてなしに迎えられる

「和食」の特徴6

しつらい

人をもてなすためのこころとかたち

もてなしは客に対する一方的なサービスではない

お互いに思いやる気持ちから生まれるこころよさである

手入れの行き届いた庭は掃き

清めて水を打ち床の間には軸

を掛け季節の草花を生ける

座敷の襖ふ

すま

も夏には葭よ

しど戸に入れ替

え夏は涼やかに冬は暖かに

すべて相まってもてなしのた

めの用意を整えることそれが

しつらい和食とりわけ懐石

料理においては食材や料理と

ともにしつらいは非常に重要

な要素となる

家庭でも食事をつくる人は

食べる人の顔を思い浮かべなが

ら食事の用意をする食べる人

はつくってくれた人の気持ちを

考えて賞味するここに互いに

もてなす喜びが生まれるのでは

ないだろうか

こうしたもてなしの文化を極

限にまで洗練させた姿が料亭の

もてなしである京都府の無形

文化技術保持者に料理人として

初めて認定された京都の老舗料

亭「瓢亭」の十四代主人高橋英一

さんにその心を聞いてみよう

「料亭は日本文化の凝縮のひと

つと言えます玄関から入って

座敷に行くまでに通る露地にも

季節感があり部屋に入れば時

季や行事の軸がありその座敷

のために選んだ花が飾られる

日本人が自然と身につけている

桜の器を使うことで膳の上にぱっと花が咲くような華やかさが生まれるあしらいは酢取り防風岩海苔

秋の花菊の器はこっくり深い色合いも相まって秋に似合う風情を持つあしらいは岩茸菊花

深さのあるガラスの器に氷が敷き詰められる涼感を目でも舌にも感じるあしらいは穂紫蘇寄せ莫大

縁起のいい鶴は新年の席でも使われるモチーフあしらいは水前寺海苔紫芽紫蘇

四季の感性で受け止めてもらえ

るよう整えお出迎えします

料亭は普段とは違うハレの場で

すがとはいえ行き過ぎず足り

ないことのないよう自然なし

つらいそしてもてなしを心が

けます」

「瓢亭」の座敷に飾られるのは

主人が庭で丹誠込めて育て自

ら生ける茶花

「もてなしの根

底に利休さんの『花は野にある

ごとく』の言葉を思いますが簡

単なようでそれが難しい」自

然体でのもてなしを生むしつら

えは名店においても日々心を

くだき工夫するのだ

「瓢亭」では1年をとおして明石の鯛の向付を供しているが季節ごとに

器とあしらいを変えることで四季を演出している

四季の演出

2728 WASHOKU

和食はご飯と菜あるいはご飯とお汁というように常にご飯を間にはさんで菜や汁をとるのが本来の食べ方下のような不作法とされる箸使い(嫌い箸)があるので覚えておきたい

ご飯は茶碗に味噌汁はお椀

に焼き魚だったら平皿にと普

段料理に合わせて何気なく使う

食器種類の多さもさることな

がら形や素材もさまざま欧

米はもちろん近隣諸国を見回

してもこれほど多種多様な器を

使う国はないそれは四季が明

確なことと無関係ではない

「自宅でも季節に合わせた器

にするだけで気分が変わりま

すよ」と前出「瓢亭」のご主人は

語る 

春であれば華やかな色や形の

もの夏はガラスや青磁など涼

しげな素材の器秋は実りのあ

る彩りがあるもの冬は厚手の

陶器や木製など温もりのあるも

の色素材形を変えるだけで

季節感を演出できる「和食」な

らではの楽しみ

食事の際当たり前のように

使っている箸も日本の食文化

を代表する食具奈良時代以

降匙さ

を使う伝統が消え箸だ

けを使うようになったため熱

い汁物は椀を持ち直接口を

つけてすする文化が確立同

時に椀箸ともに個人所有が基

本となった椀や箸を共有し

匙やレンゲを使うほかの東南

アジア諸国とは異なる食文化

を形成箸食文化圏の中でも

唯一箸だけでご飯を食べる国

となったまた一口に箸といっ

ても食箸取り箸菜箸など用

途に合わせてさまざま食べ

る際に使う食箸だけを見ても

形や素材のほか加工や長さも

豊富にそろうのだ

「和食」の特徴7

箸と椀

「和食」を支える箸と椀

箸食文化圏の中でも唯一箸だけを使う国日本

季節感を感じさせる器とともに独特の食具文化も誇る

渡し箸食事の途中でお箸を

食器の上に渡し置くこと

寄せ箸遠くの食器を

箸で手元に引き寄せる行為

指し箸食事中箸で人やものを指すこと

迷い箸どの料理にしようか迷い箸を料理の上で動かすこと

移り箸いったん取りかけてから

ほかの料理にお箸をうつすこと

箸には食事に使う食箸と調理に使う菜箸とがある菜箸は熱から手を守るため30~50と長く片方がなくならないよう糸でつながっているものもある取り箸は菜箸の一種食箸は個人所有が基本のため使う人に合わせた長さが用意されている漆塗りや螺鈿細工を施したものも多い

種類

形状だけでなく素材もさまざまで近年は黒檀や鉄木など硬質な木が使われることが多い日本の木としては特有の香りがあり古くから懐石用や割り箸に使われてきた杉耐水性耐湿性が高く保存性に優れる上に軽くて持ちやすい檜強くしなりがあり細かいものを取りやすい竹などがある

素材

家庭で使う食箸の形には角箸や四角で角が丸い胴張り五角六角七角八角のほか削りなどがあり持ちやすさに合わせて選べる箸先に加工が施されたものもある来客用に使う銘々箸や割り箸には断面が小判型で割れ目と溝が付いた元禄箸や中央部が太く両端が細い利休箸などが用意されている

日本人にとっての箸は調理から盛りつけ食事までをこなす大事な道具食箸は個人所有が基本のため個々に合わせて選べるのも特徴だ

箸の働き

箸使いの作法を知る

【嫌い箸】

食箸

八角箸 削り箸

菜箸

檜竹

「和食」の特徴 しつらい 箸と椀6 7

2930 WASHOKU

神し ん せ ん

饌として神へ供えられるお神酒は神棚の最上段の中央に置かれるほど重要な地位を占めている

日本酒を造る酒蔵は全国に約1600弱その数は年々減り続けているが数年に一度「日本酒ブーム」も起きている

日本酒とは米と米こうじ

そして水を主な原料にしてそ

れらを発酵させて造られる

原料には主食用の米ではなく

酒造りに適した性質を選び品

種改良された酒し

ゅぞうこうてきまい

造好適米を使

うことが一般的だまた日本

酒の80を占める水も品質を

左右する大きな要因日本酒

の香味を損なわない良質な水

が必須だ

日本酒の醸じ

ょうぞう造の工程にはさ

まざまな技術が伴う例えば米

を精米して味と香りを調整する

技術これは米の外側にあるた

んぱく質や脂質といった雑味の

もとを除くことが目的だが大だ

吟ぎんじょう醸酒にもなると米を半分以

上削ってから仕込むこともある

次いで米を発酵させる技術

酒の場合の発酵とは酵こ

うぼ母が糖類

を食べてアルコールを出すこと

をいうが米には糖類が含まれな

いためまずは米をこうじ菌の酵

素によって糖類へと変えそこに

酵母を加えて発酵させるという

複雑な手順(複式発酵)が必要だ

この手順で使われるこうじもバ

ラこうじと呼ばれる日本独特の

ものだバラこうじは糖化力が

高いのが特徴で日本酒の香りや

味に大きく影響する

稲作を中心に文化を育んでき

た日本では米餅米から造ら

れる酒は地域を問わず重要な

ものとされている米の一粒一

粒に神が宿り同じように酒も

神のおかげで造ることができる

と考えられてきたそして酒

もまた食べ物と共に神に近づ

くための手段として古くから用

いられてきた

同時に家族や親族地域で人

と人をつなぐ上でも酒は大き

な役割を担っている例えばお

神み

き酒祭礼の後には神の酒を

人々が口にする神と同じ酒を

飲みそれを人々が分かち合う

ことで地域やコミュニティが

結束力を強めるのだろう

米や麦やさつまいもなどを原

料とする焼酎も日本酒と並び

日本の國酒とされている酒は

人と人の心をほぐし食事を引

き立たせる重要な役割を担って

いるのだ

「和食」の特徴8

「和食」を引き立たせ

心をほぐす日本の酒

日本人にとっての主食であり精神のかなめでもある米

その米で醸か

される日本酒は「和食」にとって欠かせない要素

日本の「國こ

くしゅ酒

」にもなっている

2930 WASHOKU

「和食」の特徴9

和菓子日本茶

暮らしに寄り添う和菓子とお茶

自然の恵みに感謝し季節の移ろいを敏感に表現する和菓子

日本茶は喉のかわきを癒すだけでなく心を癒し心を高める飲みものである

「和食」の特徴 酒 和菓子8 9

ハレの日の願いを込めた和菓子

和菓子分類餅もの 餅団子大福など蒸しもの 饅頭蒸羊

よ う か ん

羹外う い ろ う

郎村む ら さ め

雨など煉もの 煉

ね り き り

切こなし求ぎ ゅ う ひ

肥飴葛く ず

菓子など焼きもの 味噌松風煎

せ ん べ い

餅桃も も や ま

山カステラどら焼など流しもの 錦

にしきだま

玉煉ね り よ う か ん

羊羹水み ず よ う か ん

羊羹など揚げもの 揚げ煎

せ ん べ い

餅かりんとうなど打ちもの(押しもの) 落

ら く が ん

雁など岡もの 最

も な か

中きんとん鹿か の こ

の子すはまなどかけもの 金

こ ん ぺ い と う

平糖五ご し き ま め

色豆石いしごろも

衣など

これは和菓子の製法によって大まかに分類した表このほか含有する水分量によって生菓子半生 菓 子 干 菓 子などの分け方や上じ ょ う な ま が し

生菓子並菓子駄だ が し

菓子などの分類もある

「岡もの」とはすでにできあがっ た素材をあわせたもの (例きんとん=飴玉とそぼろ餡)

甘く味付けしたごぼうと白味噌餡を赤や白の餅や求

ぎ ゅ う ひ

肥で包んだ生菓子平安時代の新年行事のひとつで長寿を願っておこなわれた「歯固め」の餅に由来する餅と味噌の組み合わせから「包み雑煮」とも呼ばれた

葩はなびらもち

一 月

旧暦十月は「亥の月」と呼ばれていたがその月のさらに「亥の日」に行われる年中行事の際に食べられていた菓子旧暦では10月が冬の始まりそのタイミングで無病息災と多産の猪にあやかって子孫繁栄を願ってこれを食べていたという

亥い の こ も ち

の子餅

十 月六 月

白いういろうの上に小豆の粒餡を散らした菓子古来京都で旧暦六月の晦

み そ か

日(30日)に無病息災を祈願して行われている

「夏なごしのはらい

越祓」になぞらえて初夏の頃に食べられている小豆には邪気祓いの意味があり三角の形は氷を表している

水無月

五 月

平たく丸めた上新粉の餅をふたつに折り中に小豆や味噌の餡を挟んでそれを柏の葉で包んだ菓子柏の葉は新芽が育つまで古い葉が落ちないことから

「子孫繁栄」を願って旧暦五月五日の端

た ん ご

午の節句の供く も つ

物として用いられてきた

柏餅

日本ならではのお茶の製法である手揉みは茶葉の繊維をつぶしながらうまみを引き出すために行う作業手揉みすると茶葉が切れないため茶の甘みを保つことができる

菓子もまた「和食」にとって欠

かせない要素でお客様用の「上

菓子」普段食べる「饅頭」や「餅

菓子」などに分かれるほかに

干菓子や駄菓子など菓子の種

類は多いまた例えば団子や

大福などは「餅もの」求肥や飴

などは「煉りもの」錦玉や

水みずようかん

羊羹などは「流しもの」などと

いうようにその製法によって

分類されることもある米や麦

小豆を代表とする豆類そして

砂糖や水あめなどの材料でバ

ラエティに富んだ菓子が生み出

されてきた

お茶会などの席で抹茶ととも

に味わう菓子もあり季節に合

わせて材料や色やデザインが選

ばれ味覚だけでなく視覚で楽

しむこともある

また年中行事と結びつく菓

子もある例えば旧暦三月三日

の「ひな祭り」では邪気をはら

い強い生命力を象徴するよも

ぎの草もちでつくった草餅を食

べる

和菓子には日本茶がふさわし

い緑茶は12世紀に中国から日

本に伝わったが今では生の茶

葉を蒸してから揉んで乾燥させ

る緑茶の製法は日本独特のもの

となっている緑茶に含まれる

カフェインは覚醒効果がまた

カテキンには抗酸化作用があり

ビタミンCも多く含まれて健

康によい日本茶独特の香りと

うま味は日本文化そのもので

ある

出典「和菓子の歴史展」第五十回虎屋文庫資料展より

3132 WASHOKU

日本の「和食」の文化は自然

環境だけでなく海外からの影

響によっても絶えず変化して

きた

近代以降にはコロッケとん

かつなど洋風料理を和食の基本

型に組み合わせた食事肉と野

菜の煮物や和え物などそれまで

にはない料理が工夫されたそ

の多くは和食の基本型味噌や

醤油を用いた味付け箸で食べ

られる料理など「和食」の要素

を保ちつつ伝えられてきた

しかし第二次世界大戦後高

度経済成長期を迎えると日本人

の食生活は急速に変化する

1970年代にファストフー

ド店ファミリーレストランが

各地に開店しコンビニなども

広がった

1980年頃主食と副食の

バランスは理想的とされたが

(26頁参照)その後米の消費量

はさらに減りパン食が増加

肉類油脂乳乳製品の消費量

も増加し食料自給率も下がっ

た家族での外食が日常化し

家庭の食事も欧米化した

食育の必要性

「和食」が危ないどうしたら伝えられるのか

この150年間で大きく変化し「和食」はいま衰えつつあるその原因はどこにあるのだろうか

食生活の変化

日本の食料自給率の変化農林水産省「食料需給表」より作成

日本のものを食べなくなって 「和食」はどうなる 日本の食料自給率は下がり続けている1965(昭和40)年度はカロリーベースで73だったが2012(平成24)年度は39その大きな原因のひとつは国内で自給可能な米や魚や野菜などの消費量が減少する一方国内で生産が困難な飼料穀物を食べて育つ畜産物や原料を輸入に頼ることが多い冷凍加工食品や小麦の消費が増加したことだと考えられている炭水化物たんぱく質脂肪分をバランスよく摂取する健康的な「和食」に未来はあるのか

国民一人一日当たりの供給純食料農林水産省「食料需給表」より作成

食べる米の量が50年で半減 増えたのは肉と乳製品 国民一人あたりが食べる量を品目別に眺めて分かることそれは日本人が食べる米の量が著しく減ってきたことだ1960(昭和35)年度は一日あたりの米の消費量は約315gだったが2010(平成22年)年度は163gに約半減その代わりに増えたのは牛乳乳製品(約60gから約240g)と肉類(約14gから約80gへ)野菜と魚を中心としたおかずでご飯を食べるという

「和食」のスタイルの変化がわかる

食料費における外食と中食の割合の推移総務省統計局「家計調査年報」より作成

家で食べても 調理することが減っている 外食に対して家庭で作って食べる食事を内食というが弁当や惣菜など調理をせずに食べられるものを買ってきて済ます食事は中食と呼ぶ実はこの中食の割合が増えている外食が占める割合は2000(平成12)年以降横ばいなのに対して中食は増え続けその代わりに内食が減っている食事は家で食べても調理はしないという家庭が増えているのだとすれば「和食」にとって大切な要素を子どもたちに伝える機会が減っているとはいえないだろか

食料自給率(金額ベース)

食料自給率(主食用穀物)

食料自給率(カロリーベース)飼料自給率

米 野菜 肉類牛乳乳製品 魚介類

内食 中食 外食

(g人日)

3132 WASHOKU

50

55

60

65

70

75

01992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012

70

75

80

85

90

95

01992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012

一日に一度はお米を食べないと気がすまない人の割合博報堂生活総研「生活定点2012」

お正月におせち料理を食べた人の割合博報堂生活総研「生活定点2012」

一日に一度は米を炊いたご飯を食べなければ気がすまない人の割合が実はこの20年間で減っているというデータがある1992(平成4)年には714だったが2012(平成24)年には564にまで落ち込んでいるのだ

家族や親族で集まっておせち料理を囲みながら新しい一年の無事を祝うお正月実はおせち料理を食べる人も毎年少なくなっている1992(平成4)年には866だったが2012(平成24)年には748だった

電子レンジの普及や冷凍食品

インスタント食品などにより

食生活は便利になったが家庭

内で調理をする機会が減ったと

もいえる

こうしたなか「和食」の優れ

た点をどうしたら伝えられるの

だろうか親から子へ家庭の食

を伝えるだけでなく学校を通

して子どもたちにさらにその

親の世代にも伝える必要があろ

う高齢者からは「和食」につ

いて具体的に教わることも求

められる

離乳期からの食べ物の選び方

幼児期の食経験を豊富にするこ

となどはとくに重要であろう

小さな頃からの食習慣はその

後の食習慣に大きくかかわって

くるからだ

だしのおいしい味を日々体験

することや魚を味わい骨を箸

でとる訓練を楽しい雰囲気のな

かで教わることなどその積み

重ねの中で「和食」は伝わるので

あろう

経験しない味は異文化とと

らえられるであろうし体験し

ていない調理は簡単でも難しく

感じる食事を用意する過程を

日々見る経験手伝う楽しさ美

しい食器を大切にして使うこと

同じ食べ物を家族や仲間と味わ

い祭りや花見などで共に食べ

る経験を積み重ねることは文

化としての「和食」を伝えるだけ

でなく生きる力を育むことにも

つながるであろう

壁にではなく居間に向かって設置されることが多くなった現在のキッチン夫婦共働きだというこの家庭では夫が厨房に立つことも少なくないというこのように食事の準備を子どもと一緒に行うことで「和食」にとって大切な要素が次の世代に伝えられるようになるのだろう

世帯あたり1ヶ月間の穀類支出金額内訳

1962年3434円

パン

麺他

2010年6373円

パン

麺他

ご飯を食べなくても平気 そんな人が増えている

お米よりパンと麺 その傾向が加速中

おせち料理を食べる派が 毎年ジワリ減少中

1962(昭和37)年度には8割以上を占めていた米への支出が2010(平成22)年度にはパンにとって代わられる米の消費量はパンより多いが家庭では炊飯する必要のある米よりすぐに食べられるパンや麺の支出が多くなり家庭での料理が減っていることを示しているともいえよう

総務省統計局「家計調査年報」より作成

いただきます

ごちそうさま

「和食」の未来

今世紀に入ってから世界に和食ブー

ムが起きている味わいやヘルシーさに

注目が集まり世界中のいたるところに

日本食の店が数多くある

そのように世界から注目される「和食」

だが本家本元の日本国内でその将来が

危ぶまれている

これまで見てきたように「和食」には

新しいものを柔軟に取り込む歴史があっ

た日本人は太古の昔より外国からも

たらされた食文化を自分たちの食生活に

取り込んで日本独自の食文化を発展さ

せてきた地域ごとに地域の環境にふさ

わしい料理をつくり出してきた食べる

料理や食べ方もその時代ごと地域ごと

に変わってきた

その中で貫かれてきたことがある

豊かな自然がもたらす食材のおいしさ

を生かす調理法を工夫し味わうこと

食卓に季節感をしつらえもてなしの気

持ちを共に感じ合う食事の場を持つこ

と一汁三菜という組み合わせを食事

の基本スタイルとして健康的な食生活

をおくることお正月におせち料理を

祝いの日にお赤飯を家族と共に食べる

など食事は家族の絆となっている

豊かな自然を守る気持ちと同じように

日本人を健やかに生かし人と人をつな

いできた「和食」もまた守るべき大切な

日本文化ではないだろうか

「いただきます」「ごちそうさま」と言っ

てみるだけでも「和食」は私たちに身近

になる人と人をあたたかく結びつけて

くれる

日本人はやはりお米のご飯がおいしい

と思うだしのきいた汁でおなかも心も

癒されるこの日本人が長い歴史の中で

育んできたすばらしい財産である「和

食」がこのままなくなってよいと考える

人はいないだろう世界の中でもすぐれ

た食文化として認められた「和食」を日本

の誇りとし大切にして次の世代に受け

継いでいくきっかけにこの冊子がなれ

ば幸いである

ごちそうさま

和 食

78 WASHOKU

大自然が育む恵みが豊かな

日本では古くから自然を崇

拝し尊重する精神を育んでき

た日本各地で季節ごとに豊

作豊漁を祈願する祭りをおこ

なってきたことも自然を敬う

精神の表れだ

春夏秋冬日本は世界に類

を見ないほど四季が明確で和

食にはその季節でしか味わえ

ない多種多様な旬の食材が取り

入れられる

料理を盛るための器もまたし

かり天然の樹脂である漆う

るし

を塗

る漆し

っき器は美しさと防虫効果

耐久性を高めるなどといった先

人の自然に対する知恵が生み出

した器である

また器使いやあしらいで季

節感を出すことやハレの席や

会席料理においては床の間に

季節の花を飾るなどしつらい

に四季を感じさせる工夫が施さ

れるも特筆すべき点だ

そして自然の恵みのひとつ

として大切なものが水である

水は信仰の対象でもあり日

本の食文化を形成する上で重要

な役割を果たしてきた

国内の平均雨量は1800

と多く飲料として使える水が

豊富なのに加え水が地下に滞

留する時間が短くミネラル分

をあまり含まないそのため欧

米など大陸の硬水とは違い軟

水(WHO基準でカルシウムと

マグネシウムの量が120

L未満)であることも「和食」

に大きな影響を与えている

口当たりがやわらかくまろ

やかな軟水をふんだんに使った

調理方法や食材そのものの味

を生かす料理が発達してきた

例えば豆腐木綿豆腐や絹

ごし豆腐といった一般的な日本

の豆腐はたくさんの水を使っ

てつくられるため水の善し悪

しが味に関わってくる

炊飯も水で何度か米を洗い

適量の水を加えて炊くことで

芯のないふっくらとしたご飯に

炊き上がる

副菜であるお浸しのように茹

でた後に水で洗って絞ったり

水によってあくを抜いたりそ

ばのように一度茹でたものを水

で締めたり水をふんだんに使

う料理方法は独特で世界的に

見ても珍しい日本の水の性質

の良さが「和食」を支えている

また昆布や鰹節の持ち味を引

き出せる軟水だからこそだし

を使う調理が発達しただしに

よって自然の恵みである素材

そのものの持ち味をおいしくい

ただくことにもつながっている

のである

季節の移ろいを感じることが

「和食」の精神として息づいてい

る言い換えれば子どもの頃

から四季の感性が備わる日本人

にとっての食つまり「和食」と

は「自然の尊重」そのものなのだ

古くから食されている豆腐大豆の絞り汁を凝固剤で固めたのものだが日本の豆腐は水分を多く含み柔らかなのが特徴である味が淡泊な分製造工程における良質の水が味の決め手といわれる

豆腐

=

良質な水の活用

吹き寄せ

=

季節感を織り込む

「和食」は季節感がさまざまなかたちで織り込まれる吹き寄せという料理は季節の野菜銀杏きのこなどが塵取りに吹き寄せられた秋の風情を表現している

椀もの

=

木という素材使い

汁物を供する器はおおむね木製の椀薄く削った木地に布を巻きその上から漆

うるし

を塗った漆し っ き

器として全国で使われてきた木製なので熱い汁を注いでもその熱さを感じることなく手で持てるのも木という自然の素材ならではのよさだ

わさび

=

自然が持つ機能性

刺身の薬味としておなじみのわさびツンと尖ったその辛味は化学的にはアリルイソチオシアネートという揮発性の成分で強い抗菌殺菌作用があるため生魚を食べるときにその効果が発揮される自然がもたらす効果を駆使する「和食」ならではの知恵だ

豆腐

椀もの

吹き寄せ

わさび

「和食」が日本文化である理由 自然の尊重1

まろやかな軟水が

大きな影響を与える

910 WASHOKU

家族や親族で食卓を囲む日常

的なひとときは「いただきま

す」から始まる大切なコミュニ

ケーションの場みんなが顔を

合わせ食事をしながら日々感

じたことやその日の出来事を語

り合うことで家族の絆を強く

していくまた子どもたちに対

しては箸の持ち方や器の扱い

方といった「和食」ならではの食

の作法を伝えたり料理をとお

して味覚や栄養バランスなどを

教える大切な機会だともいえる

日常とは別に正月や節分大

晦日などの「年中行事」で普段と

は違うそのときならではの料理

をいただくその習慣もまた

家族や親族のつながりを強める

のに役立つまたそれぞれの

家ごとの味や伝統が親から子

へと受け継がれていくことにも

なる

家とは別に地域でつながる

年中行事もある

2

家族や地域を結ぶ

寄り合いが人をつなぐ

行事や祭りの食の役割

食事を共にするということを通して人はつながりを深くする

家族の食卓での団らん祝いごと地域の祭り年中行事

日本の伝統文化の中で食は人をつなぐ役割の中心にある

食を通して

人や地域とつながる

お正月に家族や親族で集まっておせち料理を囲む時間は地域や親族に伝わる食の伝統を次の世代へと受け継ぐ絶好の機会だまた下の写真は青森県西部の日本海沿岸に位置する深浦町でのひとこま

「深浦地産地消の会」ではいくつかの家族が集まって地域に古くから伝えられる郷土料理を教え合うという活動を続けている祖父母の世代しかその作り方を知らない料理を披露し郷土の伝統を次世代へ伝えようと尽力している

家族の食

910 WASHOKU

地域ごとで行う祭りの中でも

食は大切な要素である神社に

おける祭さ

いし祀の後には直な

おらい会と呼

ばれる飲食の儀礼も行われる

本来神への供く

もつ物やお神み

き酒を参

列者がいただくことで神と人

とが一体となり神の加護を期

待するという意味合いを持つ

今日では祭りの後の打ち上げ

という気分もあり祭りを終え

た後人と人とが酒を酌く

み交わ

すそれにより親密感が増し

共同体意識を高めているのだ

こうした打ち上げもまた食

を介した日本の文化といえる

祭りではなくとも食を中心

にして地域がつながるケースも

ある例えば秋になると山形

県や宮城県などで盛んに行われ

る芋煮会仲間や同僚地域の

人たちなどで声を掛け合い河

原に集まる季節の行事だ鍋の

内容は山形県の内陸部では里

芋と牛肉を具として入れた醤油

味が一般的一方宮城県では

里芋と豚肉を味噌で味付けて食

べるこのように地域によって

違いはあるが地元産の秋の食

材を入れ大きな鍋を囲むとい

う点では共通している一緒に

食べるだけでなく共同で鍋を

作ることで親交や結束がより

いっそう深まるのだろう

食をとおして家族や親族

そして地域やコミュニティが

結束力を強めるこれは「社会

性」という「和食」が持つ特徴の

ひとつだ

「和食」が日本文化である理由 家族や地域を結ぶ2

祭礼の中で食事を共にすることは祭りを担う人々の絆を固める大切な機会である下の写真は大阪府の祭りの様子この日に供されたのはハモと松茸のすき鍋水なすの漬物など一方で東北地方の宮城県や山形県で秋になると盛んに行われる

「芋煮会」(写真右)は地域だけでなく職場や親族友人どうしなどのコミュニティ単位で行われることが多い食材を持ち寄って鍋の準備を共に進めることで連帯感が高まるのだ

地域や祭りの食

1112 WASHOKU

おせち料理おせち料理の内容は地域によってさまざまこれは東京のおせち料理のひとつ重箱(手前)には健康を願う「黒豆」や子孫繁栄を願う「数の子」そして田の肥料としたことで豊作を祈願する意味を込めた「田作り」という「祝い肴三種」が盛り込まれている祝い肴にはその他紅白のかまぼこや長寿を祈願した海老の焼き物豊作を願ったたたきごぼうなどがあり地域によって異なっている酢の物(左の小さな重)や煮しめ(奥の大きな重)をおせち料理に供する家庭も多い

日本人の生活の中には特別

なrdquoハレの日ldquoがあるひとつは

正月などのように毎年同じ時期

にめぐってくる年中行事もう

ひとつは誕生や成人や結婚や還

暦など人生の節目にあたる日で

これを人生儀礼と呼ぶそして

ハレの日にはそれを食べるこ

とで「邪気や災厄をはらい健康

長寿を願う」という共通点があ

る一

年の始まりを祝うお正月は

「歳と

しがみ神さま」を各家庭で迎える

年に一度の大切な年中行事家

の入口に立てられる門松は神を

招くための目印で一年の幸せ

を願い家族が集まって食事を

共にするその際に供されるの

がおせち料理だ地域ごとにさ

まざまなバリエーションがある

のもおせち料理の特徴で酒し

ゅこう肴

3

健康長寿の願い

ハレの日の食事で

健康と長寿を願う

例えば全国各地でrdquo文化ldquoとして

色濃く残っているおせち料理

その内容には地域ごとにさまざまな

バリエーションがあるものの

共通しているのは

料理を食べることで健康長寿を

願うという点だ

1112 WASHOKU

お正月雑煮に合わせて飲むお屠蘇は銚ち ょ う し

子三つ重ねの盃盃を乗せる盃台これらを載せる盆で供されるもともとお屠蘇はいくつかの薬草を組み合わせた屠

と そ さ ん

蘇散を酒やみりんに浸して作る薬酒だった

お194679と そ蘇

魂の象徴である丸餅を入れた雑煮を食べるということは神の力をいただくことでもあったこれは京都でなじみ深い西京味噌で味付けした雑煮焼かずに煮た丸餅と昔から縁起物とされた頭

かしらいも

芋(里芋の親芋)が入るのが特徴だ

雑煮

赤い色の小豆は邪気と厄をはらいのけると信じられ祝い事の際には頻繁に登場したまたもち米を蒸して食べる習慣は古い日本の文化でもあって例えば赤飯はハレの食事として供されことにお祝いの席には欠かせない

赤飯一生食べることには苦労しないようにとの願いを込めて子どもの生後100日目に行う「お食い初め」の儀式では尾頭付きの鯛を含んだ一汁三菜の膳が供される丈夫な歯が生えることを願う「歯固めの石」も欠かせない

お食い初め

「和食」が日本文化である理由 健康長寿の願い3

を並べたスタイルもあれば煮

しめだけをおせちとする地域も

あるが神と食事を共にしつ

つ福を招き災いを打ちはらう

という願いが込められていると

いう点は共通している

同じくお正月に食べる雑煮は

そもそも武士にとって一番大切

で正式な酒の肴で正月には必

ず餅の入った雑煮とお194679と

そ蘇が

供されるそして鏡餅などの丸

い餅は神の魂の象徴「歯固め

餅」とも呼ばれ1月11日に鏡餅

を食べて歯が丈夫な長寿を願う

意味が込められている

食を囲み毎日を無事に過ご

すことを願う行事に五節句があ

る七草粥を食べる正月7日

(人じ

んじつ日)の他には邪気をはらう

と信じられていたヨモギ入りの

草餅を食べる3月3日(上じ

ょうし巳)

粽ちまきや柏餅を食べることで健康を

願った5月5日(端た

んご午)索さ

くべい餅と

呼ばれる細い麺を食べて無病を

願う7月7日(七し

ちせき夕)菊酒で不

老不死を願う9月9日(重ち

ょうよう陽)が

ある

人生儀礼に目を向ければ邪

気や厄をはらうと信じられてい

た赤飯は祝儀だけでなくお盆

などの仏事や葬儀の際にも食

べられてきた

体によいものを求めてきた

「和食」の伝統は結果として世

界でもまれにみる健康によい食

文化をつくりあげた健康で長

生きしたいという強い指向が

「和食」の根底にはある

北海道は各地から入ったお雑煮が混在する北海道特産のいくら鮭を使った「親子雑煮」を食べる家庭も多い

焼いた角餅に醤油味が一般的一部の地域では具に豆腐やゴボウなどが入りゴマだれやクルミだれに付けていただくこともある

鰹節でだしを取り醤油で味付けしたすまし汁に焼いた角餅を入れるのが一般的具には鶏肉こまつ菜かまぼこなどが入る

昆布でとっただしに白味噌で味付けし煮た丸餅を入れるすまし汁のところや元旦は白味噌2日目はすまし汁にする地域もある

1314 WASHOKU

「県出身ならあれ食べた

ことあるの」「お雑煮のお餅と

味付けは」hellip日本各地に伝

統的な料理や食材があり味付

けも地域ごとに異なる

気候や風土が異なると採れ

る食材や調理法は変化し地域

色豊かな和食が形づくられてき

たそんな多様性も和食の魅力

であり日本を旅するときの楽

しみのひとつでもあるはずだ

いまのように流通が盛んでな

く保存技術も進んでいなかっ

たころ食料を無駄なく存分に

そして安定的に味わうというこ

とは人々の重要な課題だった

そこで知恵を絞り工夫をこら

し考えられたのが食品の加工

や保存方法その知恵が結果的

に「和食」の多様性を生みだし

ていくことになるのだ

海から遠い土地では魚を長持

ちさせる知恵が生まれ冬が厳

しい北方では野菜を長期にわた

り保存する技が発展してきた

魚の干物餅梅干し凍み豆

腐helliphellipこれら保存食は昔から

ある加工食品だが同じく日本

古来の加工食品に発酵食品があ

る微生物の働きや酵素の力

で保存力や栄養価風味などが

加わった食品だ野菜の漬物も

このひとつ

例えば秋田県の郷土料理「い

ぶりがっこ」大根を囲炉裏の

4

「和食」の多様性

風土が多様性を生み

それが「和食」という地図を描く

南北に長くさまざまな気候を持つ日本だけに地域が持つ食文化は多様で

土地土地に伝わる郷土料理や加工保存技術が存在している

日本の食が描く地図は知れば知るほど面白い

風土の違いから生まれる

食文化の多様性

お雑煮MAP

 

正月に食べられるお雑煮はだ

しの素材や味付け餅の形状具な

どが地域や家庭によってさまざま

であるだしには昆布鰹節煮

干しするめ穴子鶏肉が味付

けには塩醤油味噌などが使われ

る餅は角か丸かそれを焼くか

煮るかという違いもあるまたあ

ん入りの餅を入れる地域もある

具は野菜類魚介類鶏肉などで

地域の特産品が使われることも多

い沖縄県ではお雑煮に代わるも

のとして「中味汁」(豚の内臓の

汁)があるここでは全国各地の

お雑煮の中から特徴のあるもの

を取り上げた丸もち

角もち

角もち

角もち

昆布と鰹節のだしに味噌で味付けし煮た丸餅とかぶそしてかぶの葉を加えたシンプルなお雑煮を食べる地域も味噌は赤味噌白味噌のいずれかが使われる

丸餅に白味噌仕立てが多いが香川県では白味噌にあん入り餅を入れた「あんもち雑煮」が珍しい具は大根ニンジン里芋など

だしはあごだし昆布鶏肉とさまざまだが味付けは醤油味具にかまぼこが入り九州の北部にはあん入り餅を入れる地域もある

醤油味のすまし汁に煮た丸餅が多い出雲地方では

「小豆雑煮」と呼ばれ具はなくぜんざいのような小豆だけの雑煮を食す

昆布と鰹節のだしに味噌で味付けし煮た丸餅とかぶそしてかぶの葉を加えたシンプルなお雑煮を食べる地域も味噌は赤味噌白味噌のいずれかが使わ

1314 WASHOKU

上に吊るし楢や桜の焚き火で

燻製にしてから米糠と塩で漬

けこんだ漬物だこれは冬の訪

れが早い秋田で大根を早く乾

燥させ長く食べられるようにす

るための工夫だいずれも手間

と時間が加わることで風味が

濃縮されとれたてとは違った

深い味わいが生まれた

魚介類の保存食でいえばな

れずし魚を塩と米飯で数日

から数ヶ月寝かせ乳酸発酵さ

せたもの雑菌の繁殖が抑えら

れ長期間の保存が利く上うま

味が増す現在滋賀県のふな

ずし和歌山県のサバやサンマ

のなれずし福井県小浜市のへ

しこなれずし秋田県のハタハ

タ寿司など日本全国の郷土料

理として残っている

また味噌や醤油といった発酵

調味料は日本料理の味の要と

もいえやはりこれらにも地域

によって造り方や味に違いがあ

る例えば味噌大豆と米こ

うじを使い長期間熟成させた辛

口の津軽味噌米こうじを多く

配合した甘みのある西京味噌

大豆こうじを使った赤褐色の名

古屋の八丁味噌麦を原料にし

た九州地方の麦味噌などさま

ざま

地域の特産品発酵調味料餅

で構成されるお雑煮を見ても

多様性はよくわかる

日本の風土と食文化は深く結

びつき世界が注目するバラエテ

ィに富んだ食を育んできたのだ

日本の味噌

mdash

地域と特徴mdash

味噌は製法材料によって

大きく3つに分けられる

全国的に一般的なのが「米

味噌」で蒸すまたは茹で

た大豆に塩米こうじを加え

発酵させたもの米こうじ

の代わりに麦こうじを使用

したものを「麦味噌」大豆

を発酵熟成させたものが

「豆味噌」米味噌には大

豆を蒸して長期間熟成した

辛めの赤味噌と大豆を茹

でて短期間で熟成させた甘

めの白味噌がある

「和食」が日本文化である理由 「和食」の多様性4

主な種類地域 特徴

米味噌

津軽味噌 長期間熟成させる辛口で赤味噌系が主流

仙台味噌 仙台で伝統を継承して造られてきた長期間熟成させる辛口赤味噌系が主流

信州味噌 長野県を中心に造られる山吹色の淡色系の辛味噌

江戸甘味噌 通常の味噌よりもこうじを多く塩を少なくした赤系の甘さのある味噌

西京味噌 関西地方を中心に造られる米こうじの多い甘みのある白味噌

讃岐味噌 香川県で造られる甘みのある白味噌あん餅雑煮にも使われる

府中味噌 甘みのある米こうじの多い白味噌で主に広島県で造られる

麦味噌 九州四国中国 麦こうじを使って発酵させた山吹色を帯びた甘みのある味噌

豆味噌 八丁味噌三州味噌 蒸した大豆でみそ玉を作りこうじ菌を繁殖させて造る濃い赤褐色の味噌

お雑煮に入れる餅の形について出身地ごとに聞き取った結果中部を境にして東は角餅西は丸餅が多かった

もちの形について

丸もち

丸もち

丸もち

丸もち

出典「お雑煮100選」(文化庁)より

(人)

温暖化が進み狩猟が大型獣から小型獣になる

南九州で竪穴式住居にドングリ貯蔵穴が広まる

ドングリなどの植物性食料が重要な食料になる

水田稲作が日本列島に伝来

稲作の広がりと定着魚を発酵させたなれずしの登場

『魏ぎ

し志』倭わ

じんでん

人伝には倭(日本)では冬夏に生菜を

飲食に高杯をつかい手食するとある

土は

師器の移動式かまどの使用

土師器の甑こ

しきに

よる蒸し米が盛んになる

中国に遣唐使を送る大陸の食文化がもたらされる

675年天武天皇が「牛馬犬猿ニワトリ」の

食用を禁止

牛乳を煮詰めて作った「蘇そ

」が朝廷に貢納される

箸の利用が広がる

貴族の大だ

いきょう饗

料理や年中行事が中国の影響で定着

豆腐が中国より伝来する

栄西が宋より抹茶法を持ち帰る

道元が禅宗における食事作法や調理の心得を

説いた『典て

んぞきょうくん

座教訓』『赴ふ

しゅくはんぽう

粥飯法』を執筆

植物性食品のみを使った精進料理の発展

武士の供応食本ほ

んぜん膳

料理の形成

包丁人と呼ばれる料理人が誕生し包丁流派を形成

刻み目のついたすり鉢が広がる

酒造技術の進展

書院茶の湯からわび茶の湯へ

千利休により茶の湯が完成

懐石形式の定着

豊臣秀吉が北野大茶会を開催

欧州が大航海時代に入り

南蛮貿易により南蛮菓子唐辛子などが日本に伝来

日本初の出版料理書『料理物語』刊行

都市部に食べ物屋や料理屋が普及する

料理屋の会席料理形成

けがれによる肉食禁忌の観念が広く浸透

薬食いとしての肉食

飢き

きん饉に備えさつまいもやじゃがいもの栽培を奨励

和菓子の完成

握り寿司やてんぷらが江戸で流行する

肉食解禁と牛鍋の流行

『西洋料理指南』など西洋料理書の出版

西洋料理店の発展

米の摂取率が平均53に

家庭向け料理書の出版

女学校における食物教育

脚か

っけ気

論争がさかんに行われる

牛肉の不足から豚肉の生産が増加

洋菓子の製造発展

物価高騰と米不足によるじゃがいもパンなどの代用食の奨励

国立栄養研究所の開設と栄養学の発展

都市部で和わ

ようせっちゅう

洋折衷料理が普及

戦争による食料不足

食料統制米などほとんどの食品が配給切符制となる

イモなど代用食の増産

戦後のミルクとパンの学校給食が開始

各地に闇市ができる

食料の価格が高騰

厚生省が日本人の栄養基準値を策定

農家の生活改善運動が展開

即席ラーメンなどインスタント食品の開発販売

冷凍冷蔵庫の普及と冷凍食品が普及

日本型食生活の提唱

ファミリーレストランファストフード店の増加

コンビニの発展

日本食の洋食化と簡便化と米摂取量の減少

食料自給率が39〜40に低下

レトルト食品の売上増大

電子レンジ普及率が約90に

遺伝子組み換え食品が登場

地球温暖化など環境問題が深刻化

阪神淡路大震災東日本大震災により災害食が注目される

持続可能性が社会課題に

家庭料理の変化や家族の孤食化などの問題が生まれ和食の見直しへ

縄文時代弥生時代古墳時代飛鳥時代奈良時代平安時代鎌倉時代室町時代安土桃山時代江戸時代BC9000年BC3000年BC2500年頃BC200年頃240年頃500年頃7世紀8世紀8~12世紀12~14世紀14~16世紀16~17世紀17~19世紀

1516 WASHOKU

「和食」の年表

「和食」がたどった道和食の成立とその変化を年表でたどってみると各時代の人々が海外の食文化の影響を受けながら工夫を積み重ねてきた様子が見えてくる

米は縄文時代晩期に伝来し

たとされるが全国に広がるの

は弥生時代である

平安時代の大饗料理は貴族

の供応料理で蒸した高盛の強こ

飯いい

に各種の魚介類を配し調味

料につけて食べる形であった

鎌倉時代には禅宗の影響に

より動物性食品を排除した

精しょうじん進料理が発展した道元禅

師は調理も修行の一つとして

その心得を記した『典て

んぞ座教き

ょうくん訓』と

食事への感謝の念作法を説い

た『赴ふ

粥しゅく

飯はんぽう法』を著した

室町時代上層階層の料理文

化として本膳料理が登場した

この形式は江戸時代後期には

婚礼などの儀礼食として各地域

に浸透し昭和期まで継承され

た本膳には飯汁菜香の物

が盛られ飯を主食とした伝統

的な食事の形式が定着すること

になるまた酒とその酒肴も

本膳に伴って発展した

安土桃山時代には茶の湯に

ともなう懐石が発展した一汁

三菜を基本に旬の素材にこだ

わり食事空間のしつらいにも

気を配るなど精神性をも盛り込

んだこの形式はその精神と

共に現代に引き継がれている

江戸時代の都市部ではそば

すしてんぷらなどの食べ物屋

高級料理店なども広がりをみせ

た料理書の出版も相次ぎ酒

と酒肴を楽しむ料理屋の会席料

理も成立したまた和菓子の

温暖化が進み狩猟が大型獣から小型獣になる

南九州で竪穴式住居にドングリ貯蔵穴が広まる

ドングリなどの植物性食料が重要な食料になる

水田稲作が日本列島に伝来

稲作の広がりと定着魚を発酵させたなれずしの登場

『魏ぎ

し志』倭わ

じんでん

人伝には倭(日本)では冬夏に生菜を

飲食に高杯をつかい手食するとある

土は

師器の移動式かまどの使用

土師器の甑こ

しきに

よる蒸し米が盛んになる

中国に遣唐使を送る大陸の食文化がもたらされる

675年天武天皇が「牛馬犬猿ニワトリ」の

食用を禁止

牛乳を煮詰めて作った「蘇そ

」が朝廷に貢納される

箸の利用が広がる

貴族の大だ

いきょう饗料理や年中行事が中国の影響で定着

豆腐が中国より伝来する

栄西が宋より抹茶法を持ち帰る

道元が禅宗における食事作法や調理の心得を

説いた『典て

んぞきょうくん

座教訓』『赴ふ

しゅくはんぽう

粥飯法』を執筆

植物性食品のみを使った精進料理の発展

武士の供応食本ほ

んぜん膳

料理の形成

包丁人と呼ばれる料理人が誕生し包丁流派を形成

刻み目のついたすり鉢が広がる

酒造技術の進展

書院茶の湯からわび茶の湯へ

千利休により茶の湯が完成

懐石形式の定着

豊臣秀吉が北野大茶会を開催

欧州が大航海時代に入り

南蛮貿易により南蛮菓子唐辛子などが日本に伝来

日本初の出版料理書『料理物語』刊行

都市部に食べ物屋や料理屋が普及する

料理屋の会席料理形成

けがれによる肉食禁忌の観念が広く浸透

薬食いとしての肉食

飢き

きん饉に備えさつまいもやじゃがいもの栽培を奨励

和菓子の完成

握り寿司やてんぷらが江戸で流行する

肉食解禁と牛鍋の流行

『西洋料理指南』など西洋料理書の出版

西洋料理店の発展

米の摂取率が平均53に

家庭向け料理書の出版

女学校における食物教育

脚か

っけ気

論争がさかんに行われる

牛肉の不足から豚肉の生産が増加

洋菓子の製造発展

物価高騰と米不足によるじゃがいもパンなどの代用食の奨励

国立栄養研究所の開設と栄養学の発展

都市部で和わ

ようせっちゅう

洋折衷料理が普及

戦争による食料不足

食料統制米などほとんどの食品が配給切符制となる

イモなど代用食の増産

戦後のミルクとパンの学校給食が開始

各地に闇市ができる

食料の価格が高騰

厚生省が日本人の栄養基準値を策定

農家の生活改善運動が展開

即席ラーメンなどインスタント食品の開発販売

冷凍冷蔵庫の普及と冷凍食品が普及

日本型食生活の提唱

ファミリーレストランファストフード店の増加

コンビニの発展

日本食の洋食化と簡便化と米摂取量の減少

食料自給率が39〜40に低下

レトルト食品の売上増大

電子レンジ普及率が約90に

遺伝子組み換え食品が登場

地球温暖化など環境問題が深刻化

阪神淡路大震災東日本大震災により災害食が注目される

持続可能性が社会課題に

家庭料理の変化や家族の孤食化などの問題が生まれ和食の見直しへ

明治時代大正時代昭和時代(戦前戦中)昭和時代(戦後)平成1869~1912年1912~1926年1926~1945年1945~1989年1989年~

1516 WASHOKU

家庭料理の変化や家族の孤食化などの問題が生まれ和食の見直しへ

基本はほぼこの時代にできたと

いえよう

いっぽう各地域の日常食の

主食は麦雑穀芋類を混合し

たかて飯やうどんなど小麦粉を

用いた食事が多くそれは昭和

期まで引き継がれ各地で独自

の「和食」の文化が形成された

西洋文化を積極的に取り入れ

た明治時代以降西洋料理書が

出版され都市部では西洋料理

店が開店したまた明治時代

後期には家庭向け料理書の出

版が相次ぎ西洋料理をアレン

ジして和食に取り入れた和わ

よう洋

折せっちゅう衷料理が数多く紹介された

大正期国立栄養研究所の開

設により栄養学の研究が進み

日常食の栄養についての関心が

少しずつ広がった

飢餓を経験した戦時期を経て

主食に偏らず副食に動物性食

品や油脂を加えた食事が推奨さ

れたその結果1980年頃

になると日本人の食事は米飯

を基本にしながらも乳乳製品

肉魚類野菜類などを適度に

加えたよりバランスのよい食

事となったこの時期の食生活

を「日本型食生活」と呼んだし

かしその後食生活の洋風化

簡便化が広がり食料自給率は

40パーセントと減少した若年

層を中心に食事の基本型が崩れ

欠食孤食などが話題となり和

食の見直しが求められるように

なった

1718 WASHOKU

「和食」の特徴1

献立のかたち

「ご飯」を食べるために

「汁」と「菜」がある

「一汁三菜」が和食の基本型

「一汁三菜」とは「ご飯」と「汁」と「香の物」に

いくつかの「菜」が添えられるという組み合わせ

「ご飯」と「汁」と「香の物」に「お菜」が3品添えられるという献立が一汁三菜この場合は焼き魚(右奥)と煮物

(左奥)と小松菜のおひたし(中央)の3つの菜で構成される向かって手前左にご飯を手前右には汁をその間に香の物をそれぞれ置くという決まりになっている

1718 WASHOKU

米を炊いた「ご飯」昆布や鰹

節などでとっただしを味噌や塩

などで味付けした具入りの「汁」

塩漬けやぬか漬けや粕漬けなど

の「香の物」そして焼き物や煮

物や和え物などの「菜」その4

つの要素で構成される「一汁三

菜」という組み合わせがある

基本的には汁が一種で菜が

三種の構造を「一汁三菜」と呼

ぶ食事中に口の中をさっぱ

りと保ってくれる「香の物」と

ご飯はいつも必ずついていて

その数も変わらないからあえ

て数えない

日常の食事である一汁三菜に

対して江戸時代によく登場す

るのは二汁五菜つまり汁が二

種に菜が5つこれが昔のおも

てなし料理の基本でお膳もふ

たつ出たいいかえると一汁三

菜はひとつのお膳に載るふだ

んの家庭の食事であることがわ

かる

また汁にもいろいろあった

魚のアラを汁に仕立てたものや

野菜を豆腐と一緒に煮込むけん

ちん汁など具だくさんの汁も

各地域でみられ汁でご飯を食

べるということも和食の特徴の

ひとつだ

一汁三菜の献立の最大の特徴

は汁も香の物も菜もすべてご

飯を食べるために存在するとい

う点かもしれないご飯が主食

でその他の3つの要素が副食

という考えが一汁三菜の根底に

ある少ない菜でたくさんのご

飯を食べご飯の量でカロリー

の摂取量を調整するのがかつ

ての和食の基本的な食べ方だっ

たのだ

「和食」にとって欠かせないご

飯についてもここで触れてお

こう

米には「うるち米」と「もち米」

とがあり強い粘性を持つもち

米は赤飯などのおこわ(強こ

わいい飯

や餅に用いられるそれに対し

てうるち米はもち米より粘り

気が少なく通常の米飯として

使われる

米のもとになる稲の栽培が始

まったのは1万年以上前とされ

野生の稲を栽培したのが始まり

と考えられているその原産地

は中国の長江流域とその周辺

という説が有力でそこから西

へ伝わった品種がインディカ種

また東へと伝わり東アジアに

広がったのがジャポニカ種だ

「和食」における献立の目的は

いわば汁と菜でご飯を食べる

ことつまりご飯に合うのなら

例えばそれが肉じゃがでもコ

ロッケでもとんかつでも菜と

して取り入れてこられたのは

ご飯を主食とする「和食」のス

タイルがしっかりしていたか

らである一汁三菜という和

食の基本型がなくなったら外

国の料理と変わらなくなって

しまうだろう

「和食」の特徴 献立のかたち1

稲 玄米 白米 調理加工

粉にする

飯餅菓子米飯焼き米ひなあられ餅おかきあられ

稲わら 俵わらづと鍋釜敷き畳床むしろわらぞうり縄みのわらぼうき など

酒酢みりん味噌発酵させる

糠 たくあん糠漬けあく抜き

(上新粉など)柏餅草餅重

お も ゆ

湯など

(白玉粉落ら く が ん

雁粉道明寺粉など)白玉最中大福餅落雁桜餅など

どうみょうじ

うるち米の粉

もち米の粉

日本人の暮らしに深く関わる稲米

 現在世界で栽培されている稲の主な種類にはインディカ種(インド型イネ)やジャポニカ種(日本型イネ)などがあるインディカは長粒種と呼ばれる米ジャポニカは日本でよく食べられている丸く短粒な米で短粒種と呼ばれる米の主成分であるでんぷんにはアミロースとアミロペクチンとがありアミロースを多く含むインディカ種は粘り気が少ないのに対しアミロースの少ないジャポニカ種は粘りが強く日本人にとってはおいしい味の米であるそしておにぎりやすしのようにまとめる米料理も発達した 世界の米の生産量は約6億トンと小麦とほぼ同じだがその90以上が日本を含むアジア諸国で栽培されているジャポニカ種は全体の15を占め日本をはじめとして朝鮮半島中国東北部台湾北部などで主に栽培されているインディカ種の栽培地域はインドからベンガル地方のバングラデシュタイをはじめとするインドシナ半島中国の中南部インドネシアなど南アジアが中心だ

ジャポニカ種とインディカ種日常私たちがご飯として食べているのはうるち米赤飯や餅にするのはもち米である栄養価はほとんど同じであるがでんぷんの構成が異なるうるち米はアミロースとアミロペクチンの比率が約28であるがもち米はほとんどアミロペクチンで構成されているそのためにもち米はうるち米に比べて粘りが強く餅にするのに適しているのである日本では両方の米の特徴をうまく利用して粒のまままたは粉にするなどしていろいろな料理や菓子を生み出したり発酵させて酒やみりんなどをつくり出したりしてきた

うるち米ともち米

インディカ

ジャポニカ

「和食」に欠かせない

米はどこから来たのか

1920 WASHOKU

全国各地でさまざまな魚や野

菜が豊富に手に入ったことそ

して文明開化の時代まで一般

的に肉食をしなかったという背

景から「和食」は野菜と魚介類

を中心に調理されてきた

現在日本の市場で流通する

野菜の数は150種類ほどと言

われているその種類はイモ類

やマメ類をはじめ根菜類茎け

いさい菜

類葉菜類果菜類など実に多

様ださらには山菜やきのこ

など森林に自生するものも調

理に工夫することでうまく食材

として取り入れてきた

日本で流通する野菜は近代

になって外国から輸入されたも

のや品種改良によって食べや

すくなったものなど多様では

あるが昔から日本で作り続け

られている伝統野菜(在来野菜)

も少なくない伝統野菜とはだ

いたい三世代以上に渡って栽培

「和食」の特徴2

食材

和食を支える日本の食材

おいしさの秘密と多様性

おいしい和食には素材の力がある四季折々の自然の中から

生み出される日本の食材は驚くほど多様性に富んでいる

野菜

野菜と魚介類の二大食材に

支えられる日本食文化

和食には野菜を使う料理が多くあるが現在日本で流通する野菜の種類も150以上と幅広い分類にしてもジャガイモやサツマイモなどのいも類大豆や小豆などのマメ類ダイコンやカブなどの根菜類ネギやウドなどの茎

け い さ い

菜類コマツナや白菜などの葉菜類ナスやキュウリなどの果菜類そのほかにシイタケやシメジなどのきのこやワラビやゼンマイなどの山菜など多彩な野菜が存在するしかし現代でこそ流通の発展でさまざまな野菜が一年中手に入るが全国で同じ野菜が収穫できるわけではない例えば同じいも類でもサツマイモなどは九州などで多く作られるが冷害に強く冷涼な地で生育するジャガイモは山梨や長野などの山間部や日本の北部で育てられるそのほか地域特有の特産品である伝統野菜がいま注目され始めている

1920 WASHOKU

が続けられ地域に根づいた農

法で作られるものを指しこれ

を守る動きも目立ってきている

魚介類も「和食」にとって欠か

せない食材のひとつ日本で獲

れる海水魚は実に種類豊富で

日本に生息する魚種だけでも約

4200種ある縁起のよい魚

として重宝されるタイをはじめ

アジイワシやサバサンマなど

日本の近海は魚の宝庫である

海水魚だけでなくコイやア

ユフナやウナギそして水田で

獲れるドジョウなどの淡水魚

(川魚)は海から離れた地域では

貴重なタンパク源だったため

古くから料理に使われている

ウナギの蒲焼きは一般的だが

薄切りにしたコイを50くらい

の湯に短時間漬けてから冷水で

身を締めて酢味噌で食べる「鯉

のあらい」やコイの切り身を濃

い味噌で煮た「鯉こく」など味

わい方も豊富

またうま味のもととして古

くから使われてきた昆布や味

噌汁の具としても重宝するワカ

メさらにおむすびに必須の海

苔など海藻類も和食には欠か

せない貝類も種類が豊富で

アワビをひも状に薄くむき乾

燥させた「熨の

しあわび

斗鮑」が神事や祝し

ゅうぎ儀

の象徴として使われてきた

近年日本の食料自給率が低

下し外国産食材の増加も問題

視されているが本来の「和食」

は日本の自然の恵みによって支

えられているのだ

「和食」の特徴 食材2

島国である日本において魚介類は古くから貴重でかつ重要な食材であった農林水産省の定める生鮮食品品質表示基準によれば日本で食される水産物はマグロやカツオイワシやアジなどの海水魚やコイやウナギなどの淡水魚(川魚)シジミやアサリなどの貝類カニやエビなどの甲殻類やカメなどの水産動物類クジラやイルカなどの海産哺乳動物類そのほか昆布やワカメなどの海藻類など実に多様な種類がある2000年に味の素(株)がおこなった「嗜好調査」によれば「食材」としては肉類よりも魚介類のほうが好まれている結果がみられたさまざまな魚介類のなかでもカニエビマグロなどへの嗜好性が高くそれらが「贅沢な食材」と捉えられているようである

山間部など海の魚が手に入らない地域で貴重なタンパク源として重宝されたのが淡水魚(川魚)写真はアユだがその他コイやウナギドジョウワカサギフナなど日本ではさまざまな川魚が食材として使われてきた寄生虫のおそれがあるため生食はあまりされないがその代わりに調理にはさまざまな工夫が見られる海の魚に比べると独特の臭味やクセがあるため「鯉こく」のようにしっかりと煮込むことで臭味を除いたりウナギのように蒲焼きにしたりするなどがその一例だまた例えば滋賀県には琵琶湖で獲れるフナを塩と米で乳酸発酵させ保存性を高めると同時にうま味成分を引き出した「ふなずし」もある

古来日本で食べられてきた海藻類現在でも低カロリーでミネラルビタミンに富む食材として和食では重宝されている日本では約50種類の海藻が食べられているが世界的にみてもここまで多様な海藻を加工し食用とする民族は珍しいなお海藻にはフノリやテングサのような紅藻ワカメ昆布やモズクなどの褐藻アオノリや海ブドウなどの緑藻類の3種類の海藻が存在する昆布のようにだしをとるために使うものもあるが乾燥させて食べる海苔味噌汁や酢の物の具として使われるワカメのようなものまで実に幅広いまた海藻は神への奉納品としての縁も深く日常の食事だけではなく祭りや神事などにも登場している

縄文時代の遺跡である貝塚からアワビやハマグリカキなどの大量の貝殻が発見されていることからもわかるように貝類は日本では古くから食材として利用されてきた春先の干潮時に浜辺に埋まったアサリなどの貝を掘り出して採取する潮干狩りは春の風物詩としても馴染み深い日本には6000近い貝類があるといわれておりなかでもアサリやハマグリのような二枚貝サザエやツブ貝のような巻き貝が食用として親しまれている調理法としては刺身や吸い物味噌汁煮物焼き物炊き込みご飯など幅広い料理に使用されているがだしをとるためにも使われるさらに乾物にすれば保存性も高くなるため古くから交易にも活用されてきた

海の魚

川の魚

海藻貝

2122 WASHOKU

和食における菜さ

の調理法には

煮る焼く蒸す茹でる和あ

える

揚げるなど実に多様な技法が

あるこれを季節の野菜や山

菜魚介類海藻などの食材と組

み合わせることでバラエティ

に富んだ菜が食卓を彩る

数ある日本の調理法の中で

最も特徴的なのは「生もの」材

料を生のまま切り皿に盛り付

け調味料と薬味を添える刺

身といえば魚介類が用いられる

のがほとんどで捌さ

き方切り方

盛り方などが現在世界で注目を

浴びている材料を新鮮な状態

に保つ技術と料理としての盛り

付けの技術があいまって完成し

たものといえる調味料と薬味

の組み合わせも魚類との相性を

考えて工夫されているまた

わさびしょうがからしなどの

薬味や「つま」や「けん」と言わ

れる大根のせん切り大葉防ぼ

うふう風

芽めたで蓼花は

なじそ

紫蘇など防菌効果のあ

るものを添えて見た目も美し

く組み合わせている

ご飯と並んで食卓に欠かせ

ない「汁物」は鰹節や昆布煮干

し干し椎茸などから抽出され

るだしのうま味と具として入

れる素材のうま味が味わいのベ

ースとなっている中には具だ

くさんの菜になるような汁も

ある

また豊富な水を利用した調理

焼き物(サンマの塩焼き)

直火焼きは遠火の強火でほかに間接焼きがある

生もの(カツオの刺身)

生ものには刺身あらい酢の物漬物がある

茹で物(もりそば)

小麦粉やそばなどの粉からつくる麺を茹でる法

旬の食材のおいしさを

引き出す調理法の数々

「和食」の特徴3

調理

切る煮る焼く蒸す茹でる和える揚げるhellip

あの手この手で素材をよりおいしく

バランスの取れた一汁三菜の基本はご飯にあり

ご飯をおいしくいただくために菜さ

の調理方法は進化した

煮物(筑前煮)

煮汁の中で加熱中に調味する法

2122 WASHOKU

法に「茹で物」があるたっぷり

の水を沸騰させ食材を加えて加

熱して取り出すもの青菜そば

などは茹でた後にあくの除去

歯触りを良くするなどのためさ

らに水で洗う場合も多い私た

ちがあたりまえのように調理し

て食べているほうれん草や小松

菜のお浸しは水に恵まれた日本

に定着した料理で世界的にみて

も特徴あるものといえよう

「焼き物」はサンマの塩焼きの

ように塩をふり直火でじっく

り焼き上げる方法が伝統的

「煮物」は世界で最もポピュラ

ーな調理法だが日本では素材

の味を生かしつつ醤油や味噌

など大豆由来の発酵調味料で

味を調えるものが多い

油とともに加熱調理する「炒

め物」は伝統的な調理にはほと

んど見られないが現代では盛

んに使われ和食の幅を広げて

いる

ここに紹介した調理法と料理

の例は主にご飯のおかずとな

るものであるが小麦そば雑

穀などを粉にしこれを調理し

た主食も多い代表的なものに

うどんそばそうめんなどの麺

類があり茹でる場合が多いが

煮込みなど煮るものもある

さまざまな料理を組み合わせ

て食べる和食は素材の味を生

かしうま味をしっかりとれば

最低限の調味料でおいしさを感

じることができ多様な料理を

楽しむことができる

和あえ物

(きゅうりとワカメの酢の物)

野菜や魚介類などをごま味噌酢などで和える法

漬物(きゅうり大根の糠

ぬか

漬け沢たく あ ん

庵漬け)生ものを保存する方法の一種

塩の働きに加え乳酸発酵させたものが多い

汁物(なめこの味噌汁)

だし汁を主体とする法すまし汁みそ汁とろみのついた汁など

蒸し物(茶碗蒸し)

水を沸騰させその水蒸気を利用して加熱する法

浸し物(小松菜のお浸し)

お浸しは調味した汁に浸して味をつけたもの

「和食」の特徴 調理3

揚げ物(天ぷら)

高温の油で食品を加熱する法油の温度は150~200度の範囲で行うことが多い

2324 WASHOKU

「和食」の特徴4

味わい

うま味日本人が発見した「おいしく食べる」最大の知恵

和食の味わいの中で最も重要なのがだし

味噌汁やすまし汁のベースとなり

煮物やおひたしなどさまざまな料理の

味を決定づける味の要だ

和食の味わいを語るうえで忘

れてはならないのがだし(出

汁)の存在汁物や煮物などさ

まざまな料理のベースとして使

われている

なぜ日本人はここまでだしを

好むのかその答えに大きく関

係するのが「うま味」だ江戸時

代の料理書には「だしこそ料理の

根本である」と書かれている

1907年池田菊き

くなえ苗

博士に

よって世界で初めてうま味成

分のひとつがアミノ酸の一種で

あるグルタミン酸であることが

発見されたその後日本人を中

心に研究が進みうま味は甘味

塩味酸味苦味に加えて第5

の味覚として広く知られるよう

になる現在ではうま味調味

料やだし入りのつゆなどうま

味成分を手軽に使える調味料も

普及海外でも人気が高く国

内でも日常的に使用されている

だしのほかに和食の味付け

日本が世界に誇る

第5の味覚うま味

うま味成分を多く含む椎茸もだしをとる目的で使われてきた食材のひとつだしに使用するのは干したもの椎茸は乾燥させることでうま味や香り成分が増すためだ

小魚を煮て乾燥させてつくる煮干しも汁物に多用される材料としてはカタクチイワシが代表的だがその他ウルメイワシやキビナゴトビウオなどの比較的魚体が小さな魚を使ってつくるのが一般的だ

だしのとり方は魚介や野菜から水や湯を使ってうま味成分を抽出するのが一般的だしの素材として最もよく使われるのは昆布と鰹節でそのほか煮干し野菜干し椎茸魚の内臓やあら(頭や骨)などがあるまた潮

うしおじる

汁のように食品そのもののうま味を活かす方法もある

鰹節

「だし」のこと

昆布

煮干し

干し椎茸

2324 WASHOKU

に欠かせないのは塩砂糖味

噌醤油酢酒みりん魚醤な

どの調味料わさびやからし

しょうが山椒とうがらしゆ

ずなども薬味として使われる

これら薬味によって季節感を楽

しみながら素材の味を引き出

すという知恵も「和食」ならでは

夏に高温多湿となる日本では

アジア諸国と同様発酵食品が

発達したそれゆえ味噌や醤

油や酢に代表される発酵調味料

を多用するのも和食の特徴大

豆や穀物を塩漬けにして発酵

させてつくるものだがその過

程で原料のタンパク質がアミノ

酸に分解されうま味成分を豊

富に含んだ調味料ができあがる

のだ

発酵食品も多様だ日本各地

でカビや酵母などの微生物の

働きを活かして食品中のアミ

ノ酸(うま味)を増やす発酵食品

が発達してきた冬場の保存食

として生み出された沢庵や塩

を使って乳酸発酵させる京都の

すぐき菜漬けそして糠ぬ

漬けや

奈良漬けなど野菜を発酵させ

た漬物さらに塩辛やくさや

なれずし鰹節など魚介の保存

食としての発酵食品また大

豆を納豆菌で発酵させる納豆や

こうじ菌で発酵させて乾燥後に

熟成させた寺納豆など大豆の

発酵食品もある

「和食」はうま味を上手に生

かし食材をおいしく食べる知

恵を育んできたのだ

発酵食品

発酵調味料

調味料

「和食」の特徴 味わい4

発酵食品と調味料

魚醤魚を塩漬けにして発酵させる独特の香りと濃いうま味が特徴の調味料ハタハタでつくられる秋田の

「しょっつる」イカやイワシを材料とする能登半島の「いしる(り)」などがある

酒酒もまた和食の調味に欠かせない発酵調味料のひとつ調味料としての酒の主な効果には材料の臭みを消す食材のうま味を引き出して風味をよくする甘みを加えるなどがある

塩海に囲まれている日本では古くから塩は調味料として使用されてきた焼き物や刺身などの調理の味付けとしてはもちろん漬物や干物など食物を貯蔵するための知恵としても活用されている

味噌蒸したり煮たりした大豆にこうじ食塩を混ぜて発酵熟成させた日本を代表する調味料のひとつ味噌汁や煮物などに使われることが多い地域によって使用される味噌の種類がかなり変わるのも特徴だ

酢寿司やなますなど和食に酸味を加える調味料米から醸造した酒に酢酸菌を加えて発酵させて造られる酢に漬けることにより保存性を高める

醤油大豆と小麦で造ったこうじに食塩水を加えた「もろみ」を発酵熟成させ搾ったもの刺身や焼き魚煮物炒め物など幅広い料理に使われている種類は濃口薄口たまり再仕込み白の5つに分類される

みりん蒸したもち米と米こうじを主原料に40~60日かけて熟成させて造られる発酵調味料砂糖と比べて甘みがやわらかく食材の臭味を取る働きもあるまた魚の照り焼きなどのつや出しにも使う

漬物素材を食塩や酢酒粕醤油などに漬け込み熟成させて作られる漬物沢庵や梅干し野沢菜漬けなど野菜類を長期間保存するための知恵として誕生した日本各地に独特の漬物があるのも特徴だ

納豆日本で発展した発酵食品である納豆大豆を納豆菌で発酵させた食品で寺納豆(下記参照)と区別するため「糸引き納豆」とも呼ばれる単品で食べるだけではなく納豆汁や納豆和えなどにも使われている

塩辛魚介類の身や内臓を塩漬けにし発酵させて作られた塩辛は日本における伝統的な保存食品のひとつ使われる素材はその地域によって変わりイカやエビアミタコなど多彩な種類の塩辛が存在する

塩に漬けた魚と炊いたご飯を数日間置き乳酸発酵させたなれずしは魚を保存する知恵として生まれた滋賀県では琵琶湖産のふなを和歌山県や富山県ではサバを岐阜県などではアユを材料にしたものが有名写真は滋賀県湖北地方の年頭の祭りで振る舞われる鯖のなれずし

砂糖世界的に見ても「甘み」を用いた料理が多い現在の和食では砂糖は欠かせない調味料のひとつ単独で料理に使われるというよりは煮物をはじめとするさまざまな料理で醤油や塩味噌などと併用されることが多い

寺納豆茹でた大豆にこうじを加えて発酵させ乾燥させながら熟成を促す発酵食品粘り気のある糸引き納豆とは異なり乾燥して塩辛い禅宗の伝来とともに大陸からもたらされたとされ寺院で作ることが多かったため「寺納豆」と呼ばれた

2526 WASHOKU

「和食」の特徴5

栄養

栄養バランスの優等生「和食」

野菜や魚肉そして米によって構成される「和食」は

栄養バランスの良さでも知られている

最近は五日間すべてを米飯にする完全米飯給食を行う地域も生まれた

和食の特徴のひとつである栄養についてその秘密に迫る

米麦雑穀などを炊いたご飯

を主食としてこれに魚介肉

類野菜類に発酵調味料だしを

組み合わせた和食は栄養学的

にみてもバランスをとりやすい

食事である

歴史的にみると日常食では

主食を大量に摂る習慣が続いた

穀類偏重の食生活だったといえ

よう

しかし豆腐や納豆みそ汁な

どを飯とともに摂ることで米の

アミノ酸の利用率を上げる食べ

方年中行事などハレの日に魚

介類などを摂取して楽しむなど

学ぶべき知恵は多い

なかでも何百年も伝えられて

きた和食の基本型はすぐれた

ものといえよう

副食の主菜には魚肉豆腐

などタンパク質を多く含む料理

を考える副菜には主菜に使わ

なかった野菜芋類などを使い

汁は主菜に合うものを用意する

焼き魚野菜の煮物青菜のお浸

しとみそ汁などでも栄養的バ

ランスはとれている

1980年頃までは多くの

家庭で和食の基本型が続いた

主食の量がやや減り副食が増

加とくに乳乳製品肉類の割

合が増加したこの頃栄養バ

ランスをはかる一つの指標であ

るPFCバランスが理想的な比

率を示した(左記参照)

しかしその後外食の日常化

家庭料理の欧米化が進み米の

摂取量が激減し脂質摂取の過

多などから生活習慣病が問題

となったこうした中各地で

食生活を見直す動きがみられる

ようになったその一つが学校

給食での取り組みである

戦後の食料難の中でパンと

牛乳に副食を加えた完全給食は

1950年に始まった197

6年に米飯が導入されるまで長

く続いたパン給食は和食の基

本型にも影響を与えたようだ

米飯給食は次第に増加し

2010年には週3回以上米

飯給食を実施している小中学

校は90以上となったが週5

回の米飯給食の実施は7以

上と高くない

ここでは2008年に5日

間すべてを米飯給食とした新潟

県三条市の事例を紹介しよう

成長期にバランスのよい食事

で健康な体をつくることそし

て望ましい食習慣を身につけ

生涯を健康に生きることをめざ

し完全米飯給食を実施したと

のこと

米は同市で生産される農薬

を減らしたコシヒカリを七分搗つ

きにした米飯を主食に副食は

主菜副菜汁を組み合わせる献

立をベースとしている主菜は

サケのフライ鶏肉ピリ辛焼き

さんま梅煮など伝統的な和食だ

けではないが和食の基本型の

中に取り入れる工夫がされてい

るパ

ンは油脂や糖分と相性が

良く肥満につながりやすいが

新潟県三条市の給食献立一例三条市の小中学校での献立例ご飯は三条市で収穫したコシヒカリを使用「お米だと腹持ちがよいのでデザートをあまり出さなくとも子どもたちが満足してくれる」とのこと洋風や中華風の献立でもおかずはご飯に合うものを選びスープなどの汁物は確実につけるように心がけている

火曜日

えだまめごはん

さけチーズフライ

くきわかめきんぴら

かきたまじる牛乳

小学校687kcal中学校823kcal

水曜日

ごはんとりにくのぴりからやきいかときゅうりの

あえものしょうがみそスープ牛乳小学校639kcal中学校752kcal

木曜日

ごはんさんまうめにたくあんあえにくじゃがに牛乳なし小学校688kcal中学校814kcal

金曜日ごはんカレーふりかけほうれんそうオムレツフレンチサラダパンプキンスープ牛乳小学校708kcal中学校833kcal

月曜日

ごはんいかのかりんあげ(2こ)

なっとうあえきのこけんちんじるのむヨーグルト

小学校619kcal中学校731kcal

2526 WASHOKU

七分搗米の飯は腹持ちがよく

おやつを食べる子どもが減った

だけでなく肥満の子どもが減

少傾向となり食生活のリズム

が良くなったとされる

また米飯に合う副食は土地

でとれる野菜類を取り入れやす

く季節にあわせてバラエティ

ーに富んだ献立を作ることがで

きる一汁三菜の食べ方の教育

を行った結果給食を残す子ど

もたちも減ったという

基本的な食事パターンが続く

中でも菜を工夫すれば変化に

富む食事を作ることはできる

季節の食材について学び年中

行事への知識も得られるだろう

また子どもたちが和食の基

本型を毎日の給食で体験してい

ることはきわめて重要なことで

ある時々経験するだけでは身

につかないものでも毎日繰り返

すことによって習慣化し定着

するのであるそしてやがて

自分で組み合わせを考えられる

ようになることが期待される

今後の学校給食の役割は大きい

といえるだろう

PFCバランスとは

FAO Statistics Yearbook(日本のみ食料需給表)参照栄養バランスが良いとされるP(たんぱく質)10~20F(脂質)20~30C(炭水化物)50~70の範囲が08~12に収まるように指数化した

日本でのPFCバランスの変化

アメリカとフランスのPFCバランス

タンパク質脂質炭水化物は人間にとって特に不可欠な「三大栄養素」PFCのPはProtein(たんぱく質)FはFat(脂質)CはCarbohydrate(炭水化物)の頭文字でPFCバランスとは食事の中での「たんぱく質」「脂質」「炭水化物」のそれぞれの摂取カロリーの比率健康的な生活をおくるためにはPFCバランスがたんぱく質15脂質25炭水化物60が理想的

給食時には全員で「いただきます」「ごちそうさま」を復唱食育にも力を入れているためそれら言葉の意味についても学校で教えている

米飯給食になってから児童たちの食の嗜し こ う

好に変化が生まれたとか児童たちに好きなおかずを聞いてみると「ハンバーグ」「カレー」などの定番メニューのほか「焼き魚」「納豆」などの和食メニューの名前が上がった

自分の分を食べ終わった児童たちが列をつくって競い合うようにご飯をおかわりしていたこの日の食べ残しはゼロ

C

P

F

14

12

1

08

06

アメリカ(2005~2007年)

C

P

F

14

12

1

08

06

フランス(2005~2007年)

「和食」の特徴 栄養5

日本人のPFCバランスは1965年当時は炭水化物に偏っていたが1980年は非常に理想的な配分になっていたしかしその後の日本人の食生活に肉や油脂類を多く摂り主食の米を食べる量が減り2010年時は欧米型に近づきつつある

C

P

F

14

12

1

08

06

日本1965年

C

P

F

14

12

1

08

06

日本1980年

C

P

F

14

12

1

08

06

日本2010年

2728 WASHOKU

お客を迎える前には店先に打ち水を水で清め準備が整ったことを伝える趣向に合う軸を選ぶのももてなしの基本飾る花は主人自ら育てたものそれを床の花入に活けるのも主人庭に150種ほどの草花を植え日々育てることもしつらいの準備客は女将の温かいもてなしに迎えられる

「和食」の特徴6

しつらい

人をもてなすためのこころとかたち

もてなしは客に対する一方的なサービスではない

お互いに思いやる気持ちから生まれるこころよさである

手入れの行き届いた庭は掃き

清めて水を打ち床の間には軸

を掛け季節の草花を生ける

座敷の襖ふ

すま

も夏には葭よ

しど戸に入れ替

え夏は涼やかに冬は暖かに

すべて相まってもてなしのた

めの用意を整えることそれが

しつらい和食とりわけ懐石

料理においては食材や料理と

ともにしつらいは非常に重要

な要素となる

家庭でも食事をつくる人は

食べる人の顔を思い浮かべなが

ら食事の用意をする食べる人

はつくってくれた人の気持ちを

考えて賞味するここに互いに

もてなす喜びが生まれるのでは

ないだろうか

こうしたもてなしの文化を極

限にまで洗練させた姿が料亭の

もてなしである京都府の無形

文化技術保持者に料理人として

初めて認定された京都の老舗料

亭「瓢亭」の十四代主人高橋英一

さんにその心を聞いてみよう

「料亭は日本文化の凝縮のひと

つと言えます玄関から入って

座敷に行くまでに通る露地にも

季節感があり部屋に入れば時

季や行事の軸がありその座敷

のために選んだ花が飾られる

日本人が自然と身につけている

桜の器を使うことで膳の上にぱっと花が咲くような華やかさが生まれるあしらいは酢取り防風岩海苔

秋の花菊の器はこっくり深い色合いも相まって秋に似合う風情を持つあしらいは岩茸菊花

深さのあるガラスの器に氷が敷き詰められる涼感を目でも舌にも感じるあしらいは穂紫蘇寄せ莫大

縁起のいい鶴は新年の席でも使われるモチーフあしらいは水前寺海苔紫芽紫蘇

四季の感性で受け止めてもらえ

るよう整えお出迎えします

料亭は普段とは違うハレの場で

すがとはいえ行き過ぎず足り

ないことのないよう自然なし

つらいそしてもてなしを心が

けます」

「瓢亭」の座敷に飾られるのは

主人が庭で丹誠込めて育て自

ら生ける茶花

「もてなしの根

底に利休さんの『花は野にある

ごとく』の言葉を思いますが簡

単なようでそれが難しい」自

然体でのもてなしを生むしつら

えは名店においても日々心を

くだき工夫するのだ

「瓢亭」では1年をとおして明石の鯛の向付を供しているが季節ごとに

器とあしらいを変えることで四季を演出している

四季の演出

2728 WASHOKU

和食はご飯と菜あるいはご飯とお汁というように常にご飯を間にはさんで菜や汁をとるのが本来の食べ方下のような不作法とされる箸使い(嫌い箸)があるので覚えておきたい

ご飯は茶碗に味噌汁はお椀

に焼き魚だったら平皿にと普

段料理に合わせて何気なく使う

食器種類の多さもさることな

がら形や素材もさまざま欧

米はもちろん近隣諸国を見回

してもこれほど多種多様な器を

使う国はないそれは四季が明

確なことと無関係ではない

「自宅でも季節に合わせた器

にするだけで気分が変わりま

すよ」と前出「瓢亭」のご主人は

語る 

春であれば華やかな色や形の

もの夏はガラスや青磁など涼

しげな素材の器秋は実りのあ

る彩りがあるもの冬は厚手の

陶器や木製など温もりのあるも

の色素材形を変えるだけで

季節感を演出できる「和食」な

らではの楽しみ

食事の際当たり前のように

使っている箸も日本の食文化

を代表する食具奈良時代以

降匙さ

を使う伝統が消え箸だ

けを使うようになったため熱

い汁物は椀を持ち直接口を

つけてすする文化が確立同

時に椀箸ともに個人所有が基

本となった椀や箸を共有し

匙やレンゲを使うほかの東南

アジア諸国とは異なる食文化

を形成箸食文化圏の中でも

唯一箸だけでご飯を食べる国

となったまた一口に箸といっ

ても食箸取り箸菜箸など用

途に合わせてさまざま食べ

る際に使う食箸だけを見ても

形や素材のほか加工や長さも

豊富にそろうのだ

「和食」の特徴7

箸と椀

「和食」を支える箸と椀

箸食文化圏の中でも唯一箸だけを使う国日本

季節感を感じさせる器とともに独特の食具文化も誇る

渡し箸食事の途中でお箸を

食器の上に渡し置くこと

寄せ箸遠くの食器を

箸で手元に引き寄せる行為

指し箸食事中箸で人やものを指すこと

迷い箸どの料理にしようか迷い箸を料理の上で動かすこと

移り箸いったん取りかけてから

ほかの料理にお箸をうつすこと

箸には食事に使う食箸と調理に使う菜箸とがある菜箸は熱から手を守るため30~50と長く片方がなくならないよう糸でつながっているものもある取り箸は菜箸の一種食箸は個人所有が基本のため使う人に合わせた長さが用意されている漆塗りや螺鈿細工を施したものも多い

種類

形状だけでなく素材もさまざまで近年は黒檀や鉄木など硬質な木が使われることが多い日本の木としては特有の香りがあり古くから懐石用や割り箸に使われてきた杉耐水性耐湿性が高く保存性に優れる上に軽くて持ちやすい檜強くしなりがあり細かいものを取りやすい竹などがある

素材

家庭で使う食箸の形には角箸や四角で角が丸い胴張り五角六角七角八角のほか削りなどがあり持ちやすさに合わせて選べる箸先に加工が施されたものもある来客用に使う銘々箸や割り箸には断面が小判型で割れ目と溝が付いた元禄箸や中央部が太く両端が細い利休箸などが用意されている

日本人にとっての箸は調理から盛りつけ食事までをこなす大事な道具食箸は個人所有が基本のため個々に合わせて選べるのも特徴だ

箸の働き

箸使いの作法を知る

【嫌い箸】

食箸

八角箸 削り箸

菜箸

檜竹

「和食」の特徴 しつらい 箸と椀6 7

2930 WASHOKU

神し ん せ ん

饌として神へ供えられるお神酒は神棚の最上段の中央に置かれるほど重要な地位を占めている

日本酒を造る酒蔵は全国に約1600弱その数は年々減り続けているが数年に一度「日本酒ブーム」も起きている

日本酒とは米と米こうじ

そして水を主な原料にしてそ

れらを発酵させて造られる

原料には主食用の米ではなく

酒造りに適した性質を選び品

種改良された酒し

ゅぞうこうてきまい

造好適米を使

うことが一般的だまた日本

酒の80を占める水も品質を

左右する大きな要因日本酒

の香味を損なわない良質な水

が必須だ

日本酒の醸じ

ょうぞう造の工程にはさ

まざまな技術が伴う例えば米

を精米して味と香りを調整する

技術これは米の外側にあるた

んぱく質や脂質といった雑味の

もとを除くことが目的だが大だ

吟ぎんじょう醸酒にもなると米を半分以

上削ってから仕込むこともある

次いで米を発酵させる技術

酒の場合の発酵とは酵こ

うぼ母が糖類

を食べてアルコールを出すこと

をいうが米には糖類が含まれな

いためまずは米をこうじ菌の酵

素によって糖類へと変えそこに

酵母を加えて発酵させるという

複雑な手順(複式発酵)が必要だ

この手順で使われるこうじもバ

ラこうじと呼ばれる日本独特の

ものだバラこうじは糖化力が

高いのが特徴で日本酒の香りや

味に大きく影響する

稲作を中心に文化を育んでき

た日本では米餅米から造ら

れる酒は地域を問わず重要な

ものとされている米の一粒一

粒に神が宿り同じように酒も

神のおかげで造ることができる

と考えられてきたそして酒

もまた食べ物と共に神に近づ

くための手段として古くから用

いられてきた

同時に家族や親族地域で人

と人をつなぐ上でも酒は大き

な役割を担っている例えばお

神み

き酒祭礼の後には神の酒を

人々が口にする神と同じ酒を

飲みそれを人々が分かち合う

ことで地域やコミュニティが

結束力を強めるのだろう

米や麦やさつまいもなどを原

料とする焼酎も日本酒と並び

日本の國酒とされている酒は

人と人の心をほぐし食事を引

き立たせる重要な役割を担って

いるのだ

「和食」の特徴8

「和食」を引き立たせ

心をほぐす日本の酒

日本人にとっての主食であり精神のかなめでもある米

その米で醸か

される日本酒は「和食」にとって欠かせない要素

日本の「國こ

くしゅ酒

」にもなっている

2930 WASHOKU

「和食」の特徴9

和菓子日本茶

暮らしに寄り添う和菓子とお茶

自然の恵みに感謝し季節の移ろいを敏感に表現する和菓子

日本茶は喉のかわきを癒すだけでなく心を癒し心を高める飲みものである

「和食」の特徴 酒 和菓子8 9

ハレの日の願いを込めた和菓子

和菓子分類餅もの 餅団子大福など蒸しもの 饅頭蒸羊

よ う か ん

羹外う い ろ う

郎村む ら さ め

雨など煉もの 煉

ね り き り

切こなし求ぎ ゅ う ひ

肥飴葛く ず

菓子など焼きもの 味噌松風煎

せ ん べ い

餅桃も も や ま

山カステラどら焼など流しもの 錦

にしきだま

玉煉ね り よ う か ん

羊羹水み ず よ う か ん

羊羹など揚げもの 揚げ煎

せ ん べ い

餅かりんとうなど打ちもの(押しもの) 落

ら く が ん

雁など岡もの 最

も な か

中きんとん鹿か の こ

の子すはまなどかけもの 金

こ ん ぺ い と う

平糖五ご し き ま め

色豆石いしごろも

衣など

これは和菓子の製法によって大まかに分類した表このほか含有する水分量によって生菓子半生 菓 子 干 菓 子などの分け方や上じ ょ う な ま が し

生菓子並菓子駄だ が し

菓子などの分類もある

「岡もの」とはすでにできあがっ た素材をあわせたもの (例きんとん=飴玉とそぼろ餡)

甘く味付けしたごぼうと白味噌餡を赤や白の餅や求

ぎ ゅ う ひ

肥で包んだ生菓子平安時代の新年行事のひとつで長寿を願っておこなわれた「歯固め」の餅に由来する餅と味噌の組み合わせから「包み雑煮」とも呼ばれた

葩はなびらもち

一 月

旧暦十月は「亥の月」と呼ばれていたがその月のさらに「亥の日」に行われる年中行事の際に食べられていた菓子旧暦では10月が冬の始まりそのタイミングで無病息災と多産の猪にあやかって子孫繁栄を願ってこれを食べていたという

亥い の こ も ち

の子餅

十 月六 月

白いういろうの上に小豆の粒餡を散らした菓子古来京都で旧暦六月の晦

み そ か

日(30日)に無病息災を祈願して行われている

「夏なごしのはらい

越祓」になぞらえて初夏の頃に食べられている小豆には邪気祓いの意味があり三角の形は氷を表している

水無月

五 月

平たく丸めた上新粉の餅をふたつに折り中に小豆や味噌の餡を挟んでそれを柏の葉で包んだ菓子柏の葉は新芽が育つまで古い葉が落ちないことから

「子孫繁栄」を願って旧暦五月五日の端

た ん ご

午の節句の供く も つ

物として用いられてきた

柏餅

日本ならではのお茶の製法である手揉みは茶葉の繊維をつぶしながらうまみを引き出すために行う作業手揉みすると茶葉が切れないため茶の甘みを保つことができる

菓子もまた「和食」にとって欠

かせない要素でお客様用の「上

菓子」普段食べる「饅頭」や「餅

菓子」などに分かれるほかに

干菓子や駄菓子など菓子の種

類は多いまた例えば団子や

大福などは「餅もの」求肥や飴

などは「煉りもの」錦玉や

水みずようかん

羊羹などは「流しもの」などと

いうようにその製法によって

分類されることもある米や麦

小豆を代表とする豆類そして

砂糖や水あめなどの材料でバ

ラエティに富んだ菓子が生み出

されてきた

お茶会などの席で抹茶ととも

に味わう菓子もあり季節に合

わせて材料や色やデザインが選

ばれ味覚だけでなく視覚で楽

しむこともある

また年中行事と結びつく菓

子もある例えば旧暦三月三日

の「ひな祭り」では邪気をはら

い強い生命力を象徴するよも

ぎの草もちでつくった草餅を食

べる

和菓子には日本茶がふさわし

い緑茶は12世紀に中国から日

本に伝わったが今では生の茶

葉を蒸してから揉んで乾燥させ

る緑茶の製法は日本独特のもの

となっている緑茶に含まれる

カフェインは覚醒効果がまた

カテキンには抗酸化作用があり

ビタミンCも多く含まれて健

康によい日本茶独特の香りと

うま味は日本文化そのもので

ある

出典「和菓子の歴史展」第五十回虎屋文庫資料展より

3132 WASHOKU

日本の「和食」の文化は自然

環境だけでなく海外からの影

響によっても絶えず変化して

きた

近代以降にはコロッケとん

かつなど洋風料理を和食の基本

型に組み合わせた食事肉と野

菜の煮物や和え物などそれまで

にはない料理が工夫されたそ

の多くは和食の基本型味噌や

醤油を用いた味付け箸で食べ

られる料理など「和食」の要素

を保ちつつ伝えられてきた

しかし第二次世界大戦後高

度経済成長期を迎えると日本人

の食生活は急速に変化する

1970年代にファストフー

ド店ファミリーレストランが

各地に開店しコンビニなども

広がった

1980年頃主食と副食の

バランスは理想的とされたが

(26頁参照)その後米の消費量

はさらに減りパン食が増加

肉類油脂乳乳製品の消費量

も増加し食料自給率も下がっ

た家族での外食が日常化し

家庭の食事も欧米化した

食育の必要性

「和食」が危ないどうしたら伝えられるのか

この150年間で大きく変化し「和食」はいま衰えつつあるその原因はどこにあるのだろうか

食生活の変化

日本の食料自給率の変化農林水産省「食料需給表」より作成

日本のものを食べなくなって 「和食」はどうなる 日本の食料自給率は下がり続けている1965(昭和40)年度はカロリーベースで73だったが2012(平成24)年度は39その大きな原因のひとつは国内で自給可能な米や魚や野菜などの消費量が減少する一方国内で生産が困難な飼料穀物を食べて育つ畜産物や原料を輸入に頼ることが多い冷凍加工食品や小麦の消費が増加したことだと考えられている炭水化物たんぱく質脂肪分をバランスよく摂取する健康的な「和食」に未来はあるのか

国民一人一日当たりの供給純食料農林水産省「食料需給表」より作成

食べる米の量が50年で半減 増えたのは肉と乳製品 国民一人あたりが食べる量を品目別に眺めて分かることそれは日本人が食べる米の量が著しく減ってきたことだ1960(昭和35)年度は一日あたりの米の消費量は約315gだったが2010(平成22年)年度は163gに約半減その代わりに増えたのは牛乳乳製品(約60gから約240g)と肉類(約14gから約80gへ)野菜と魚を中心としたおかずでご飯を食べるという

「和食」のスタイルの変化がわかる

食料費における外食と中食の割合の推移総務省統計局「家計調査年報」より作成

家で食べても 調理することが減っている 外食に対して家庭で作って食べる食事を内食というが弁当や惣菜など調理をせずに食べられるものを買ってきて済ます食事は中食と呼ぶ実はこの中食の割合が増えている外食が占める割合は2000(平成12)年以降横ばいなのに対して中食は増え続けその代わりに内食が減っている食事は家で食べても調理はしないという家庭が増えているのだとすれば「和食」にとって大切な要素を子どもたちに伝える機会が減っているとはいえないだろか

食料自給率(金額ベース)

食料自給率(主食用穀物)

食料自給率(カロリーベース)飼料自給率

米 野菜 肉類牛乳乳製品 魚介類

内食 中食 外食

(g人日)

3132 WASHOKU

50

55

60

65

70

75

01992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012

70

75

80

85

90

95

01992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012

一日に一度はお米を食べないと気がすまない人の割合博報堂生活総研「生活定点2012」

お正月におせち料理を食べた人の割合博報堂生活総研「生活定点2012」

一日に一度は米を炊いたご飯を食べなければ気がすまない人の割合が実はこの20年間で減っているというデータがある1992(平成4)年には714だったが2012(平成24)年には564にまで落ち込んでいるのだ

家族や親族で集まっておせち料理を囲みながら新しい一年の無事を祝うお正月実はおせち料理を食べる人も毎年少なくなっている1992(平成4)年には866だったが2012(平成24)年には748だった

電子レンジの普及や冷凍食品

インスタント食品などにより

食生活は便利になったが家庭

内で調理をする機会が減ったと

もいえる

こうしたなか「和食」の優れ

た点をどうしたら伝えられるの

だろうか親から子へ家庭の食

を伝えるだけでなく学校を通

して子どもたちにさらにその

親の世代にも伝える必要があろ

う高齢者からは「和食」につ

いて具体的に教わることも求

められる

離乳期からの食べ物の選び方

幼児期の食経験を豊富にするこ

となどはとくに重要であろう

小さな頃からの食習慣はその

後の食習慣に大きくかかわって

くるからだ

だしのおいしい味を日々体験

することや魚を味わい骨を箸

でとる訓練を楽しい雰囲気のな

かで教わることなどその積み

重ねの中で「和食」は伝わるので

あろう

経験しない味は異文化とと

らえられるであろうし体験し

ていない調理は簡単でも難しく

感じる食事を用意する過程を

日々見る経験手伝う楽しさ美

しい食器を大切にして使うこと

同じ食べ物を家族や仲間と味わ

い祭りや花見などで共に食べ

る経験を積み重ねることは文

化としての「和食」を伝えるだけ

でなく生きる力を育むことにも

つながるであろう

壁にではなく居間に向かって設置されることが多くなった現在のキッチン夫婦共働きだというこの家庭では夫が厨房に立つことも少なくないというこのように食事の準備を子どもと一緒に行うことで「和食」にとって大切な要素が次の世代に伝えられるようになるのだろう

世帯あたり1ヶ月間の穀類支出金額内訳

1962年3434円

パン

麺他

2010年6373円

パン

麺他

ご飯を食べなくても平気 そんな人が増えている

お米よりパンと麺 その傾向が加速中

おせち料理を食べる派が 毎年ジワリ減少中

1962(昭和37)年度には8割以上を占めていた米への支出が2010(平成22)年度にはパンにとって代わられる米の消費量はパンより多いが家庭では炊飯する必要のある米よりすぐに食べられるパンや麺の支出が多くなり家庭での料理が減っていることを示しているともいえよう

総務省統計局「家計調査年報」より作成

いただきます

ごちそうさま

「和食」の未来

今世紀に入ってから世界に和食ブー

ムが起きている味わいやヘルシーさに

注目が集まり世界中のいたるところに

日本食の店が数多くある

そのように世界から注目される「和食」

だが本家本元の日本国内でその将来が

危ぶまれている

これまで見てきたように「和食」には

新しいものを柔軟に取り込む歴史があっ

た日本人は太古の昔より外国からも

たらされた食文化を自分たちの食生活に

取り込んで日本独自の食文化を発展さ

せてきた地域ごとに地域の環境にふさ

わしい料理をつくり出してきた食べる

料理や食べ方もその時代ごと地域ごと

に変わってきた

その中で貫かれてきたことがある

豊かな自然がもたらす食材のおいしさ

を生かす調理法を工夫し味わうこと

食卓に季節感をしつらえもてなしの気

持ちを共に感じ合う食事の場を持つこ

と一汁三菜という組み合わせを食事

の基本スタイルとして健康的な食生活

をおくることお正月におせち料理を

祝いの日にお赤飯を家族と共に食べる

など食事は家族の絆となっている

豊かな自然を守る気持ちと同じように

日本人を健やかに生かし人と人をつな

いできた「和食」もまた守るべき大切な

日本文化ではないだろうか

「いただきます」「ごちそうさま」と言っ

てみるだけでも「和食」は私たちに身近

になる人と人をあたたかく結びつけて

くれる

日本人はやはりお米のご飯がおいしい

と思うだしのきいた汁でおなかも心も

癒されるこの日本人が長い歴史の中で

育んできたすばらしい財産である「和

食」がこのままなくなってよいと考える

人はいないだろう世界の中でもすぐれ

た食文化として認められた「和食」を日本

の誇りとし大切にして次の世代に受け

継いでいくきっかけにこの冊子がなれ

ば幸いである

ごちそうさま

和 食

910 WASHOKU

家族や親族で食卓を囲む日常

的なひとときは「いただきま

す」から始まる大切なコミュニ

ケーションの場みんなが顔を

合わせ食事をしながら日々感

じたことやその日の出来事を語

り合うことで家族の絆を強く

していくまた子どもたちに対

しては箸の持ち方や器の扱い

方といった「和食」ならではの食

の作法を伝えたり料理をとお

して味覚や栄養バランスなどを

教える大切な機会だともいえる

日常とは別に正月や節分大

晦日などの「年中行事」で普段と

は違うそのときならではの料理

をいただくその習慣もまた

家族や親族のつながりを強める

のに役立つまたそれぞれの

家ごとの味や伝統が親から子

へと受け継がれていくことにも

なる

家とは別に地域でつながる

年中行事もある

2

家族や地域を結ぶ

寄り合いが人をつなぐ

行事や祭りの食の役割

食事を共にするということを通して人はつながりを深くする

家族の食卓での団らん祝いごと地域の祭り年中行事

日本の伝統文化の中で食は人をつなぐ役割の中心にある

食を通して

人や地域とつながる

お正月に家族や親族で集まっておせち料理を囲む時間は地域や親族に伝わる食の伝統を次の世代へと受け継ぐ絶好の機会だまた下の写真は青森県西部の日本海沿岸に位置する深浦町でのひとこま

「深浦地産地消の会」ではいくつかの家族が集まって地域に古くから伝えられる郷土料理を教え合うという活動を続けている祖父母の世代しかその作り方を知らない料理を披露し郷土の伝統を次世代へ伝えようと尽力している

家族の食

910 WASHOKU

地域ごとで行う祭りの中でも

食は大切な要素である神社に

おける祭さ

いし祀の後には直な

おらい会と呼

ばれる飲食の儀礼も行われる

本来神への供く

もつ物やお神み

き酒を参

列者がいただくことで神と人

とが一体となり神の加護を期

待するという意味合いを持つ

今日では祭りの後の打ち上げ

という気分もあり祭りを終え

た後人と人とが酒を酌く

み交わ

すそれにより親密感が増し

共同体意識を高めているのだ

こうした打ち上げもまた食

を介した日本の文化といえる

祭りではなくとも食を中心

にして地域がつながるケースも

ある例えば秋になると山形

県や宮城県などで盛んに行われ

る芋煮会仲間や同僚地域の

人たちなどで声を掛け合い河

原に集まる季節の行事だ鍋の

内容は山形県の内陸部では里

芋と牛肉を具として入れた醤油

味が一般的一方宮城県では

里芋と豚肉を味噌で味付けて食

べるこのように地域によって

違いはあるが地元産の秋の食

材を入れ大きな鍋を囲むとい

う点では共通している一緒に

食べるだけでなく共同で鍋を

作ることで親交や結束がより

いっそう深まるのだろう

食をとおして家族や親族

そして地域やコミュニティが

結束力を強めるこれは「社会

性」という「和食」が持つ特徴の

ひとつだ

「和食」が日本文化である理由 家族や地域を結ぶ2

祭礼の中で食事を共にすることは祭りを担う人々の絆を固める大切な機会である下の写真は大阪府の祭りの様子この日に供されたのはハモと松茸のすき鍋水なすの漬物など一方で東北地方の宮城県や山形県で秋になると盛んに行われる

「芋煮会」(写真右)は地域だけでなく職場や親族友人どうしなどのコミュニティ単位で行われることが多い食材を持ち寄って鍋の準備を共に進めることで連帯感が高まるのだ

地域や祭りの食

1112 WASHOKU

おせち料理おせち料理の内容は地域によってさまざまこれは東京のおせち料理のひとつ重箱(手前)には健康を願う「黒豆」や子孫繁栄を願う「数の子」そして田の肥料としたことで豊作を祈願する意味を込めた「田作り」という「祝い肴三種」が盛り込まれている祝い肴にはその他紅白のかまぼこや長寿を祈願した海老の焼き物豊作を願ったたたきごぼうなどがあり地域によって異なっている酢の物(左の小さな重)や煮しめ(奥の大きな重)をおせち料理に供する家庭も多い

日本人の生活の中には特別

なrdquoハレの日ldquoがあるひとつは

正月などのように毎年同じ時期

にめぐってくる年中行事もう

ひとつは誕生や成人や結婚や還

暦など人生の節目にあたる日で

これを人生儀礼と呼ぶそして

ハレの日にはそれを食べるこ

とで「邪気や災厄をはらい健康

長寿を願う」という共通点があ

る一

年の始まりを祝うお正月は

「歳と

しがみ神さま」を各家庭で迎える

年に一度の大切な年中行事家

の入口に立てられる門松は神を

招くための目印で一年の幸せ

を願い家族が集まって食事を

共にするその際に供されるの

がおせち料理だ地域ごとにさ

まざまなバリエーションがある

のもおせち料理の特徴で酒し

ゅこう肴

3

健康長寿の願い

ハレの日の食事で

健康と長寿を願う

例えば全国各地でrdquo文化ldquoとして

色濃く残っているおせち料理

その内容には地域ごとにさまざまな

バリエーションがあるものの

共通しているのは

料理を食べることで健康長寿を

願うという点だ

1112 WASHOKU

お正月雑煮に合わせて飲むお屠蘇は銚ち ょ う し

子三つ重ねの盃盃を乗せる盃台これらを載せる盆で供されるもともとお屠蘇はいくつかの薬草を組み合わせた屠

と そ さ ん

蘇散を酒やみりんに浸して作る薬酒だった

お194679と そ蘇

魂の象徴である丸餅を入れた雑煮を食べるということは神の力をいただくことでもあったこれは京都でなじみ深い西京味噌で味付けした雑煮焼かずに煮た丸餅と昔から縁起物とされた頭

かしらいも

芋(里芋の親芋)が入るのが特徴だ

雑煮

赤い色の小豆は邪気と厄をはらいのけると信じられ祝い事の際には頻繁に登場したまたもち米を蒸して食べる習慣は古い日本の文化でもあって例えば赤飯はハレの食事として供されことにお祝いの席には欠かせない

赤飯一生食べることには苦労しないようにとの願いを込めて子どもの生後100日目に行う「お食い初め」の儀式では尾頭付きの鯛を含んだ一汁三菜の膳が供される丈夫な歯が生えることを願う「歯固めの石」も欠かせない

お食い初め

「和食」が日本文化である理由 健康長寿の願い3

を並べたスタイルもあれば煮

しめだけをおせちとする地域も

あるが神と食事を共にしつ

つ福を招き災いを打ちはらう

という願いが込められていると

いう点は共通している

同じくお正月に食べる雑煮は

そもそも武士にとって一番大切

で正式な酒の肴で正月には必

ず餅の入った雑煮とお194679と

そ蘇が

供されるそして鏡餅などの丸

い餅は神の魂の象徴「歯固め

餅」とも呼ばれ1月11日に鏡餅

を食べて歯が丈夫な長寿を願う

意味が込められている

食を囲み毎日を無事に過ご

すことを願う行事に五節句があ

る七草粥を食べる正月7日

(人じ

んじつ日)の他には邪気をはらう

と信じられていたヨモギ入りの

草餅を食べる3月3日(上じ

ょうし巳)

粽ちまきや柏餅を食べることで健康を

願った5月5日(端た

んご午)索さ

くべい餅と

呼ばれる細い麺を食べて無病を

願う7月7日(七し

ちせき夕)菊酒で不

老不死を願う9月9日(重ち

ょうよう陽)が

ある

人生儀礼に目を向ければ邪

気や厄をはらうと信じられてい

た赤飯は祝儀だけでなくお盆

などの仏事や葬儀の際にも食

べられてきた

体によいものを求めてきた

「和食」の伝統は結果として世

界でもまれにみる健康によい食

文化をつくりあげた健康で長

生きしたいという強い指向が

「和食」の根底にはある

北海道は各地から入ったお雑煮が混在する北海道特産のいくら鮭を使った「親子雑煮」を食べる家庭も多い

焼いた角餅に醤油味が一般的一部の地域では具に豆腐やゴボウなどが入りゴマだれやクルミだれに付けていただくこともある

鰹節でだしを取り醤油で味付けしたすまし汁に焼いた角餅を入れるのが一般的具には鶏肉こまつ菜かまぼこなどが入る

昆布でとっただしに白味噌で味付けし煮た丸餅を入れるすまし汁のところや元旦は白味噌2日目はすまし汁にする地域もある

1314 WASHOKU

「県出身ならあれ食べた

ことあるの」「お雑煮のお餅と

味付けは」hellip日本各地に伝

統的な料理や食材があり味付

けも地域ごとに異なる

気候や風土が異なると採れ

る食材や調理法は変化し地域

色豊かな和食が形づくられてき

たそんな多様性も和食の魅力

であり日本を旅するときの楽

しみのひとつでもあるはずだ

いまのように流通が盛んでな

く保存技術も進んでいなかっ

たころ食料を無駄なく存分に

そして安定的に味わうというこ

とは人々の重要な課題だった

そこで知恵を絞り工夫をこら

し考えられたのが食品の加工

や保存方法その知恵が結果的

に「和食」の多様性を生みだし

ていくことになるのだ

海から遠い土地では魚を長持

ちさせる知恵が生まれ冬が厳

しい北方では野菜を長期にわた

り保存する技が発展してきた

魚の干物餅梅干し凍み豆

腐helliphellipこれら保存食は昔から

ある加工食品だが同じく日本

古来の加工食品に発酵食品があ

る微生物の働きや酵素の力

で保存力や栄養価風味などが

加わった食品だ野菜の漬物も

このひとつ

例えば秋田県の郷土料理「い

ぶりがっこ」大根を囲炉裏の

4

「和食」の多様性

風土が多様性を生み

それが「和食」という地図を描く

南北に長くさまざまな気候を持つ日本だけに地域が持つ食文化は多様で

土地土地に伝わる郷土料理や加工保存技術が存在している

日本の食が描く地図は知れば知るほど面白い

風土の違いから生まれる

食文化の多様性

お雑煮MAP

 

正月に食べられるお雑煮はだ

しの素材や味付け餅の形状具な

どが地域や家庭によってさまざま

であるだしには昆布鰹節煮

干しするめ穴子鶏肉が味付

けには塩醤油味噌などが使われ

る餅は角か丸かそれを焼くか

煮るかという違いもあるまたあ

ん入りの餅を入れる地域もある

具は野菜類魚介類鶏肉などで

地域の特産品が使われることも多

い沖縄県ではお雑煮に代わるも

のとして「中味汁」(豚の内臓の

汁)があるここでは全国各地の

お雑煮の中から特徴のあるもの

を取り上げた丸もち

角もち

角もち

角もち

昆布と鰹節のだしに味噌で味付けし煮た丸餅とかぶそしてかぶの葉を加えたシンプルなお雑煮を食べる地域も味噌は赤味噌白味噌のいずれかが使われる

丸餅に白味噌仕立てが多いが香川県では白味噌にあん入り餅を入れた「あんもち雑煮」が珍しい具は大根ニンジン里芋など

だしはあごだし昆布鶏肉とさまざまだが味付けは醤油味具にかまぼこが入り九州の北部にはあん入り餅を入れる地域もある

醤油味のすまし汁に煮た丸餅が多い出雲地方では

「小豆雑煮」と呼ばれ具はなくぜんざいのような小豆だけの雑煮を食す

昆布と鰹節のだしに味噌で味付けし煮た丸餅とかぶそしてかぶの葉を加えたシンプルなお雑煮を食べる地域も味噌は赤味噌白味噌のいずれかが使わ

1314 WASHOKU

上に吊るし楢や桜の焚き火で

燻製にしてから米糠と塩で漬

けこんだ漬物だこれは冬の訪

れが早い秋田で大根を早く乾

燥させ長く食べられるようにす

るための工夫だいずれも手間

と時間が加わることで風味が

濃縮されとれたてとは違った

深い味わいが生まれた

魚介類の保存食でいえばな

れずし魚を塩と米飯で数日

から数ヶ月寝かせ乳酸発酵さ

せたもの雑菌の繁殖が抑えら

れ長期間の保存が利く上うま

味が増す現在滋賀県のふな

ずし和歌山県のサバやサンマ

のなれずし福井県小浜市のへ

しこなれずし秋田県のハタハ

タ寿司など日本全国の郷土料

理として残っている

また味噌や醤油といった発酵

調味料は日本料理の味の要と

もいえやはりこれらにも地域

によって造り方や味に違いがあ

る例えば味噌大豆と米こ

うじを使い長期間熟成させた辛

口の津軽味噌米こうじを多く

配合した甘みのある西京味噌

大豆こうじを使った赤褐色の名

古屋の八丁味噌麦を原料にし

た九州地方の麦味噌などさま

ざま

地域の特産品発酵調味料餅

で構成されるお雑煮を見ても

多様性はよくわかる

日本の風土と食文化は深く結

びつき世界が注目するバラエテ

ィに富んだ食を育んできたのだ

日本の味噌

mdash

地域と特徴mdash

味噌は製法材料によって

大きく3つに分けられる

全国的に一般的なのが「米

味噌」で蒸すまたは茹で

た大豆に塩米こうじを加え

発酵させたもの米こうじ

の代わりに麦こうじを使用

したものを「麦味噌」大豆

を発酵熟成させたものが

「豆味噌」米味噌には大

豆を蒸して長期間熟成した

辛めの赤味噌と大豆を茹

でて短期間で熟成させた甘

めの白味噌がある

「和食」が日本文化である理由 「和食」の多様性4

主な種類地域 特徴

米味噌

津軽味噌 長期間熟成させる辛口で赤味噌系が主流

仙台味噌 仙台で伝統を継承して造られてきた長期間熟成させる辛口赤味噌系が主流

信州味噌 長野県を中心に造られる山吹色の淡色系の辛味噌

江戸甘味噌 通常の味噌よりもこうじを多く塩を少なくした赤系の甘さのある味噌

西京味噌 関西地方を中心に造られる米こうじの多い甘みのある白味噌

讃岐味噌 香川県で造られる甘みのある白味噌あん餅雑煮にも使われる

府中味噌 甘みのある米こうじの多い白味噌で主に広島県で造られる

麦味噌 九州四国中国 麦こうじを使って発酵させた山吹色を帯びた甘みのある味噌

豆味噌 八丁味噌三州味噌 蒸した大豆でみそ玉を作りこうじ菌を繁殖させて造る濃い赤褐色の味噌

お雑煮に入れる餅の形について出身地ごとに聞き取った結果中部を境にして東は角餅西は丸餅が多かった

もちの形について

丸もち

丸もち

丸もち

丸もち

出典「お雑煮100選」(文化庁)より

(人)

温暖化が進み狩猟が大型獣から小型獣になる

南九州で竪穴式住居にドングリ貯蔵穴が広まる

ドングリなどの植物性食料が重要な食料になる

水田稲作が日本列島に伝来

稲作の広がりと定着魚を発酵させたなれずしの登場

『魏ぎ

し志』倭わ

じんでん

人伝には倭(日本)では冬夏に生菜を

飲食に高杯をつかい手食するとある

土は

師器の移動式かまどの使用

土師器の甑こ

しきに

よる蒸し米が盛んになる

中国に遣唐使を送る大陸の食文化がもたらされる

675年天武天皇が「牛馬犬猿ニワトリ」の

食用を禁止

牛乳を煮詰めて作った「蘇そ

」が朝廷に貢納される

箸の利用が広がる

貴族の大だ

いきょう饗

料理や年中行事が中国の影響で定着

豆腐が中国より伝来する

栄西が宋より抹茶法を持ち帰る

道元が禅宗における食事作法や調理の心得を

説いた『典て

んぞきょうくん

座教訓』『赴ふ

しゅくはんぽう

粥飯法』を執筆

植物性食品のみを使った精進料理の発展

武士の供応食本ほ

んぜん膳

料理の形成

包丁人と呼ばれる料理人が誕生し包丁流派を形成

刻み目のついたすり鉢が広がる

酒造技術の進展

書院茶の湯からわび茶の湯へ

千利休により茶の湯が完成

懐石形式の定着

豊臣秀吉が北野大茶会を開催

欧州が大航海時代に入り

南蛮貿易により南蛮菓子唐辛子などが日本に伝来

日本初の出版料理書『料理物語』刊行

都市部に食べ物屋や料理屋が普及する

料理屋の会席料理形成

けがれによる肉食禁忌の観念が広く浸透

薬食いとしての肉食

飢き

きん饉に備えさつまいもやじゃがいもの栽培を奨励

和菓子の完成

握り寿司やてんぷらが江戸で流行する

肉食解禁と牛鍋の流行

『西洋料理指南』など西洋料理書の出版

西洋料理店の発展

米の摂取率が平均53に

家庭向け料理書の出版

女学校における食物教育

脚か

っけ気

論争がさかんに行われる

牛肉の不足から豚肉の生産が増加

洋菓子の製造発展

物価高騰と米不足によるじゃがいもパンなどの代用食の奨励

国立栄養研究所の開設と栄養学の発展

都市部で和わ

ようせっちゅう

洋折衷料理が普及

戦争による食料不足

食料統制米などほとんどの食品が配給切符制となる

イモなど代用食の増産

戦後のミルクとパンの学校給食が開始

各地に闇市ができる

食料の価格が高騰

厚生省が日本人の栄養基準値を策定

農家の生活改善運動が展開

即席ラーメンなどインスタント食品の開発販売

冷凍冷蔵庫の普及と冷凍食品が普及

日本型食生活の提唱

ファミリーレストランファストフード店の増加

コンビニの発展

日本食の洋食化と簡便化と米摂取量の減少

食料自給率が39〜40に低下

レトルト食品の売上増大

電子レンジ普及率が約90に

遺伝子組み換え食品が登場

地球温暖化など環境問題が深刻化

阪神淡路大震災東日本大震災により災害食が注目される

持続可能性が社会課題に

家庭料理の変化や家族の孤食化などの問題が生まれ和食の見直しへ

縄文時代弥生時代古墳時代飛鳥時代奈良時代平安時代鎌倉時代室町時代安土桃山時代江戸時代BC9000年BC3000年BC2500年頃BC200年頃240年頃500年頃7世紀8世紀8~12世紀12~14世紀14~16世紀16~17世紀17~19世紀

1516 WASHOKU

「和食」の年表

「和食」がたどった道和食の成立とその変化を年表でたどってみると各時代の人々が海外の食文化の影響を受けながら工夫を積み重ねてきた様子が見えてくる

米は縄文時代晩期に伝来し

たとされるが全国に広がるの

は弥生時代である

平安時代の大饗料理は貴族

の供応料理で蒸した高盛の強こ

飯いい

に各種の魚介類を配し調味

料につけて食べる形であった

鎌倉時代には禅宗の影響に

より動物性食品を排除した

精しょうじん進料理が発展した道元禅

師は調理も修行の一つとして

その心得を記した『典て

んぞ座教き

ょうくん訓』と

食事への感謝の念作法を説い

た『赴ふ

粥しゅく

飯はんぽう法』を著した

室町時代上層階層の料理文

化として本膳料理が登場した

この形式は江戸時代後期には

婚礼などの儀礼食として各地域

に浸透し昭和期まで継承され

た本膳には飯汁菜香の物

が盛られ飯を主食とした伝統

的な食事の形式が定着すること

になるまた酒とその酒肴も

本膳に伴って発展した

安土桃山時代には茶の湯に

ともなう懐石が発展した一汁

三菜を基本に旬の素材にこだ

わり食事空間のしつらいにも

気を配るなど精神性をも盛り込

んだこの形式はその精神と

共に現代に引き継がれている

江戸時代の都市部ではそば

すしてんぷらなどの食べ物屋

高級料理店なども広がりをみせ

た料理書の出版も相次ぎ酒

と酒肴を楽しむ料理屋の会席料

理も成立したまた和菓子の

温暖化が進み狩猟が大型獣から小型獣になる

南九州で竪穴式住居にドングリ貯蔵穴が広まる

ドングリなどの植物性食料が重要な食料になる

水田稲作が日本列島に伝来

稲作の広がりと定着魚を発酵させたなれずしの登場

『魏ぎ

し志』倭わ

じんでん

人伝には倭(日本)では冬夏に生菜を

飲食に高杯をつかい手食するとある

土は

師器の移動式かまどの使用

土師器の甑こ

しきに

よる蒸し米が盛んになる

中国に遣唐使を送る大陸の食文化がもたらされる

675年天武天皇が「牛馬犬猿ニワトリ」の

食用を禁止

牛乳を煮詰めて作った「蘇そ

」が朝廷に貢納される

箸の利用が広がる

貴族の大だ

いきょう饗料理や年中行事が中国の影響で定着

豆腐が中国より伝来する

栄西が宋より抹茶法を持ち帰る

道元が禅宗における食事作法や調理の心得を

説いた『典て

んぞきょうくん

座教訓』『赴ふ

しゅくはんぽう

粥飯法』を執筆

植物性食品のみを使った精進料理の発展

武士の供応食本ほ

んぜん膳

料理の形成

包丁人と呼ばれる料理人が誕生し包丁流派を形成

刻み目のついたすり鉢が広がる

酒造技術の進展

書院茶の湯からわび茶の湯へ

千利休により茶の湯が完成

懐石形式の定着

豊臣秀吉が北野大茶会を開催

欧州が大航海時代に入り

南蛮貿易により南蛮菓子唐辛子などが日本に伝来

日本初の出版料理書『料理物語』刊行

都市部に食べ物屋や料理屋が普及する

料理屋の会席料理形成

けがれによる肉食禁忌の観念が広く浸透

薬食いとしての肉食

飢き

きん饉に備えさつまいもやじゃがいもの栽培を奨励

和菓子の完成

握り寿司やてんぷらが江戸で流行する

肉食解禁と牛鍋の流行

『西洋料理指南』など西洋料理書の出版

西洋料理店の発展

米の摂取率が平均53に

家庭向け料理書の出版

女学校における食物教育

脚か

っけ気

論争がさかんに行われる

牛肉の不足から豚肉の生産が増加

洋菓子の製造発展

物価高騰と米不足によるじゃがいもパンなどの代用食の奨励

国立栄養研究所の開設と栄養学の発展

都市部で和わ

ようせっちゅう

洋折衷料理が普及

戦争による食料不足

食料統制米などほとんどの食品が配給切符制となる

イモなど代用食の増産

戦後のミルクとパンの学校給食が開始

各地に闇市ができる

食料の価格が高騰

厚生省が日本人の栄養基準値を策定

農家の生活改善運動が展開

即席ラーメンなどインスタント食品の開発販売

冷凍冷蔵庫の普及と冷凍食品が普及

日本型食生活の提唱

ファミリーレストランファストフード店の増加

コンビニの発展

日本食の洋食化と簡便化と米摂取量の減少

食料自給率が39〜40に低下

レトルト食品の売上増大

電子レンジ普及率が約90に

遺伝子組み換え食品が登場

地球温暖化など環境問題が深刻化

阪神淡路大震災東日本大震災により災害食が注目される

持続可能性が社会課題に

家庭料理の変化や家族の孤食化などの問題が生まれ和食の見直しへ

明治時代大正時代昭和時代(戦前戦中)昭和時代(戦後)平成1869~1912年1912~1926年1926~1945年1945~1989年1989年~

1516 WASHOKU

家庭料理の変化や家族の孤食化などの問題が生まれ和食の見直しへ

基本はほぼこの時代にできたと

いえよう

いっぽう各地域の日常食の

主食は麦雑穀芋類を混合し

たかて飯やうどんなど小麦粉を

用いた食事が多くそれは昭和

期まで引き継がれ各地で独自

の「和食」の文化が形成された

西洋文化を積極的に取り入れ

た明治時代以降西洋料理書が

出版され都市部では西洋料理

店が開店したまた明治時代

後期には家庭向け料理書の出

版が相次ぎ西洋料理をアレン

ジして和食に取り入れた和わ

よう洋

折せっちゅう衷料理が数多く紹介された

大正期国立栄養研究所の開

設により栄養学の研究が進み

日常食の栄養についての関心が

少しずつ広がった

飢餓を経験した戦時期を経て

主食に偏らず副食に動物性食

品や油脂を加えた食事が推奨さ

れたその結果1980年頃

になると日本人の食事は米飯

を基本にしながらも乳乳製品

肉魚類野菜類などを適度に

加えたよりバランスのよい食

事となったこの時期の食生活

を「日本型食生活」と呼んだし

かしその後食生活の洋風化

簡便化が広がり食料自給率は

40パーセントと減少した若年

層を中心に食事の基本型が崩れ

欠食孤食などが話題となり和

食の見直しが求められるように

なった

1718 WASHOKU

「和食」の特徴1

献立のかたち

「ご飯」を食べるために

「汁」と「菜」がある

「一汁三菜」が和食の基本型

「一汁三菜」とは「ご飯」と「汁」と「香の物」に

いくつかの「菜」が添えられるという組み合わせ

「ご飯」と「汁」と「香の物」に「お菜」が3品添えられるという献立が一汁三菜この場合は焼き魚(右奥)と煮物

(左奥)と小松菜のおひたし(中央)の3つの菜で構成される向かって手前左にご飯を手前右には汁をその間に香の物をそれぞれ置くという決まりになっている

1718 WASHOKU

米を炊いた「ご飯」昆布や鰹

節などでとっただしを味噌や塩

などで味付けした具入りの「汁」

塩漬けやぬか漬けや粕漬けなど

の「香の物」そして焼き物や煮

物や和え物などの「菜」その4

つの要素で構成される「一汁三

菜」という組み合わせがある

基本的には汁が一種で菜が

三種の構造を「一汁三菜」と呼

ぶ食事中に口の中をさっぱ

りと保ってくれる「香の物」と

ご飯はいつも必ずついていて

その数も変わらないからあえ

て数えない

日常の食事である一汁三菜に

対して江戸時代によく登場す

るのは二汁五菜つまり汁が二

種に菜が5つこれが昔のおも

てなし料理の基本でお膳もふ

たつ出たいいかえると一汁三

菜はひとつのお膳に載るふだ

んの家庭の食事であることがわ

かる

また汁にもいろいろあった

魚のアラを汁に仕立てたものや

野菜を豆腐と一緒に煮込むけん

ちん汁など具だくさんの汁も

各地域でみられ汁でご飯を食

べるということも和食の特徴の

ひとつだ

一汁三菜の献立の最大の特徴

は汁も香の物も菜もすべてご

飯を食べるために存在するとい

う点かもしれないご飯が主食

でその他の3つの要素が副食

という考えが一汁三菜の根底に

ある少ない菜でたくさんのご

飯を食べご飯の量でカロリー

の摂取量を調整するのがかつ

ての和食の基本的な食べ方だっ

たのだ

「和食」にとって欠かせないご

飯についてもここで触れてお

こう

米には「うるち米」と「もち米」

とがあり強い粘性を持つもち

米は赤飯などのおこわ(強こ

わいい飯

や餅に用いられるそれに対し

てうるち米はもち米より粘り

気が少なく通常の米飯として

使われる

米のもとになる稲の栽培が始

まったのは1万年以上前とされ

野生の稲を栽培したのが始まり

と考えられているその原産地

は中国の長江流域とその周辺

という説が有力でそこから西

へ伝わった品種がインディカ種

また東へと伝わり東アジアに

広がったのがジャポニカ種だ

「和食」における献立の目的は

いわば汁と菜でご飯を食べる

ことつまりご飯に合うのなら

例えばそれが肉じゃがでもコ

ロッケでもとんかつでも菜と

して取り入れてこられたのは

ご飯を主食とする「和食」のス

タイルがしっかりしていたか

らである一汁三菜という和

食の基本型がなくなったら外

国の料理と変わらなくなって

しまうだろう

「和食」の特徴 献立のかたち1

稲 玄米 白米 調理加工

粉にする

飯餅菓子米飯焼き米ひなあられ餅おかきあられ

稲わら 俵わらづと鍋釜敷き畳床むしろわらぞうり縄みのわらぼうき など

酒酢みりん味噌発酵させる

糠 たくあん糠漬けあく抜き

(上新粉など)柏餅草餅重

お も ゆ

湯など

(白玉粉落ら く が ん

雁粉道明寺粉など)白玉最中大福餅落雁桜餅など

どうみょうじ

うるち米の粉

もち米の粉

日本人の暮らしに深く関わる稲米

 現在世界で栽培されている稲の主な種類にはインディカ種(インド型イネ)やジャポニカ種(日本型イネ)などがあるインディカは長粒種と呼ばれる米ジャポニカは日本でよく食べられている丸く短粒な米で短粒種と呼ばれる米の主成分であるでんぷんにはアミロースとアミロペクチンとがありアミロースを多く含むインディカ種は粘り気が少ないのに対しアミロースの少ないジャポニカ種は粘りが強く日本人にとってはおいしい味の米であるそしておにぎりやすしのようにまとめる米料理も発達した 世界の米の生産量は約6億トンと小麦とほぼ同じだがその90以上が日本を含むアジア諸国で栽培されているジャポニカ種は全体の15を占め日本をはじめとして朝鮮半島中国東北部台湾北部などで主に栽培されているインディカ種の栽培地域はインドからベンガル地方のバングラデシュタイをはじめとするインドシナ半島中国の中南部インドネシアなど南アジアが中心だ

ジャポニカ種とインディカ種日常私たちがご飯として食べているのはうるち米赤飯や餅にするのはもち米である栄養価はほとんど同じであるがでんぷんの構成が異なるうるち米はアミロースとアミロペクチンの比率が約28であるがもち米はほとんどアミロペクチンで構成されているそのためにもち米はうるち米に比べて粘りが強く餅にするのに適しているのである日本では両方の米の特徴をうまく利用して粒のまままたは粉にするなどしていろいろな料理や菓子を生み出したり発酵させて酒やみりんなどをつくり出したりしてきた

うるち米ともち米

インディカ

ジャポニカ

「和食」に欠かせない

米はどこから来たのか

1920 WASHOKU

全国各地でさまざまな魚や野

菜が豊富に手に入ったことそ

して文明開化の時代まで一般

的に肉食をしなかったという背

景から「和食」は野菜と魚介類

を中心に調理されてきた

現在日本の市場で流通する

野菜の数は150種類ほどと言

われているその種類はイモ類

やマメ類をはじめ根菜類茎け

いさい菜

類葉菜類果菜類など実に多

様ださらには山菜やきのこ

など森林に自生するものも調

理に工夫することでうまく食材

として取り入れてきた

日本で流通する野菜は近代

になって外国から輸入されたも

のや品種改良によって食べや

すくなったものなど多様では

あるが昔から日本で作り続け

られている伝統野菜(在来野菜)

も少なくない伝統野菜とはだ

いたい三世代以上に渡って栽培

「和食」の特徴2

食材

和食を支える日本の食材

おいしさの秘密と多様性

おいしい和食には素材の力がある四季折々の自然の中から

生み出される日本の食材は驚くほど多様性に富んでいる

野菜

野菜と魚介類の二大食材に

支えられる日本食文化

和食には野菜を使う料理が多くあるが現在日本で流通する野菜の種類も150以上と幅広い分類にしてもジャガイモやサツマイモなどのいも類大豆や小豆などのマメ類ダイコンやカブなどの根菜類ネギやウドなどの茎

け い さ い

菜類コマツナや白菜などの葉菜類ナスやキュウリなどの果菜類そのほかにシイタケやシメジなどのきのこやワラビやゼンマイなどの山菜など多彩な野菜が存在するしかし現代でこそ流通の発展でさまざまな野菜が一年中手に入るが全国で同じ野菜が収穫できるわけではない例えば同じいも類でもサツマイモなどは九州などで多く作られるが冷害に強く冷涼な地で生育するジャガイモは山梨や長野などの山間部や日本の北部で育てられるそのほか地域特有の特産品である伝統野菜がいま注目され始めている

1920 WASHOKU

が続けられ地域に根づいた農

法で作られるものを指しこれ

を守る動きも目立ってきている

魚介類も「和食」にとって欠か

せない食材のひとつ日本で獲

れる海水魚は実に種類豊富で

日本に生息する魚種だけでも約

4200種ある縁起のよい魚

として重宝されるタイをはじめ

アジイワシやサバサンマなど

日本の近海は魚の宝庫である

海水魚だけでなくコイやア

ユフナやウナギそして水田で

獲れるドジョウなどの淡水魚

(川魚)は海から離れた地域では

貴重なタンパク源だったため

古くから料理に使われている

ウナギの蒲焼きは一般的だが

薄切りにしたコイを50くらい

の湯に短時間漬けてから冷水で

身を締めて酢味噌で食べる「鯉

のあらい」やコイの切り身を濃

い味噌で煮た「鯉こく」など味

わい方も豊富

またうま味のもととして古

くから使われてきた昆布や味

噌汁の具としても重宝するワカ

メさらにおむすびに必須の海

苔など海藻類も和食には欠か

せない貝類も種類が豊富で

アワビをひも状に薄くむき乾

燥させた「熨の

しあわび

斗鮑」が神事や祝し

ゅうぎ儀

の象徴として使われてきた

近年日本の食料自給率が低

下し外国産食材の増加も問題

視されているが本来の「和食」

は日本の自然の恵みによって支

えられているのだ

「和食」の特徴 食材2

島国である日本において魚介類は古くから貴重でかつ重要な食材であった農林水産省の定める生鮮食品品質表示基準によれば日本で食される水産物はマグロやカツオイワシやアジなどの海水魚やコイやウナギなどの淡水魚(川魚)シジミやアサリなどの貝類カニやエビなどの甲殻類やカメなどの水産動物類クジラやイルカなどの海産哺乳動物類そのほか昆布やワカメなどの海藻類など実に多様な種類がある2000年に味の素(株)がおこなった「嗜好調査」によれば「食材」としては肉類よりも魚介類のほうが好まれている結果がみられたさまざまな魚介類のなかでもカニエビマグロなどへの嗜好性が高くそれらが「贅沢な食材」と捉えられているようである

山間部など海の魚が手に入らない地域で貴重なタンパク源として重宝されたのが淡水魚(川魚)写真はアユだがその他コイやウナギドジョウワカサギフナなど日本ではさまざまな川魚が食材として使われてきた寄生虫のおそれがあるため生食はあまりされないがその代わりに調理にはさまざまな工夫が見られる海の魚に比べると独特の臭味やクセがあるため「鯉こく」のようにしっかりと煮込むことで臭味を除いたりウナギのように蒲焼きにしたりするなどがその一例だまた例えば滋賀県には琵琶湖で獲れるフナを塩と米で乳酸発酵させ保存性を高めると同時にうま味成分を引き出した「ふなずし」もある

古来日本で食べられてきた海藻類現在でも低カロリーでミネラルビタミンに富む食材として和食では重宝されている日本では約50種類の海藻が食べられているが世界的にみてもここまで多様な海藻を加工し食用とする民族は珍しいなお海藻にはフノリやテングサのような紅藻ワカメ昆布やモズクなどの褐藻アオノリや海ブドウなどの緑藻類の3種類の海藻が存在する昆布のようにだしをとるために使うものもあるが乾燥させて食べる海苔味噌汁や酢の物の具として使われるワカメのようなものまで実に幅広いまた海藻は神への奉納品としての縁も深く日常の食事だけではなく祭りや神事などにも登場している

縄文時代の遺跡である貝塚からアワビやハマグリカキなどの大量の貝殻が発見されていることからもわかるように貝類は日本では古くから食材として利用されてきた春先の干潮時に浜辺に埋まったアサリなどの貝を掘り出して採取する潮干狩りは春の風物詩としても馴染み深い日本には6000近い貝類があるといわれておりなかでもアサリやハマグリのような二枚貝サザエやツブ貝のような巻き貝が食用として親しまれている調理法としては刺身や吸い物味噌汁煮物焼き物炊き込みご飯など幅広い料理に使用されているがだしをとるためにも使われるさらに乾物にすれば保存性も高くなるため古くから交易にも活用されてきた

海の魚

川の魚

海藻貝

2122 WASHOKU

和食における菜さ

の調理法には

煮る焼く蒸す茹でる和あ

える

揚げるなど実に多様な技法が

あるこれを季節の野菜や山

菜魚介類海藻などの食材と組

み合わせることでバラエティ

に富んだ菜が食卓を彩る

数ある日本の調理法の中で

最も特徴的なのは「生もの」材

料を生のまま切り皿に盛り付

け調味料と薬味を添える刺

身といえば魚介類が用いられる

のがほとんどで捌さ

き方切り方

盛り方などが現在世界で注目を

浴びている材料を新鮮な状態

に保つ技術と料理としての盛り

付けの技術があいまって完成し

たものといえる調味料と薬味

の組み合わせも魚類との相性を

考えて工夫されているまた

わさびしょうがからしなどの

薬味や「つま」や「けん」と言わ

れる大根のせん切り大葉防ぼ

うふう風

芽めたで蓼花は

なじそ

紫蘇など防菌効果のあ

るものを添えて見た目も美し

く組み合わせている

ご飯と並んで食卓に欠かせ

ない「汁物」は鰹節や昆布煮干

し干し椎茸などから抽出され

るだしのうま味と具として入

れる素材のうま味が味わいのベ

ースとなっている中には具だ

くさんの菜になるような汁も

ある

また豊富な水を利用した調理

焼き物(サンマの塩焼き)

直火焼きは遠火の強火でほかに間接焼きがある

生もの(カツオの刺身)

生ものには刺身あらい酢の物漬物がある

茹で物(もりそば)

小麦粉やそばなどの粉からつくる麺を茹でる法

旬の食材のおいしさを

引き出す調理法の数々

「和食」の特徴3

調理

切る煮る焼く蒸す茹でる和える揚げるhellip

あの手この手で素材をよりおいしく

バランスの取れた一汁三菜の基本はご飯にあり

ご飯をおいしくいただくために菜さ

の調理方法は進化した

煮物(筑前煮)

煮汁の中で加熱中に調味する法

2122 WASHOKU

法に「茹で物」があるたっぷり

の水を沸騰させ食材を加えて加

熱して取り出すもの青菜そば

などは茹でた後にあくの除去

歯触りを良くするなどのためさ

らに水で洗う場合も多い私た

ちがあたりまえのように調理し

て食べているほうれん草や小松

菜のお浸しは水に恵まれた日本

に定着した料理で世界的にみて

も特徴あるものといえよう

「焼き物」はサンマの塩焼きの

ように塩をふり直火でじっく

り焼き上げる方法が伝統的

「煮物」は世界で最もポピュラ

ーな調理法だが日本では素材

の味を生かしつつ醤油や味噌

など大豆由来の発酵調味料で

味を調えるものが多い

油とともに加熱調理する「炒

め物」は伝統的な調理にはほと

んど見られないが現代では盛

んに使われ和食の幅を広げて

いる

ここに紹介した調理法と料理

の例は主にご飯のおかずとな

るものであるが小麦そば雑

穀などを粉にしこれを調理し

た主食も多い代表的なものに

うどんそばそうめんなどの麺

類があり茹でる場合が多いが

煮込みなど煮るものもある

さまざまな料理を組み合わせ

て食べる和食は素材の味を生

かしうま味をしっかりとれば

最低限の調味料でおいしさを感

じることができ多様な料理を

楽しむことができる

和あえ物

(きゅうりとワカメの酢の物)

野菜や魚介類などをごま味噌酢などで和える法

漬物(きゅうり大根の糠

ぬか

漬け沢たく あ ん

庵漬け)生ものを保存する方法の一種

塩の働きに加え乳酸発酵させたものが多い

汁物(なめこの味噌汁)

だし汁を主体とする法すまし汁みそ汁とろみのついた汁など

蒸し物(茶碗蒸し)

水を沸騰させその水蒸気を利用して加熱する法

浸し物(小松菜のお浸し)

お浸しは調味した汁に浸して味をつけたもの

「和食」の特徴 調理3

揚げ物(天ぷら)

高温の油で食品を加熱する法油の温度は150~200度の範囲で行うことが多い

2324 WASHOKU

「和食」の特徴4

味わい

うま味日本人が発見した「おいしく食べる」最大の知恵

和食の味わいの中で最も重要なのがだし

味噌汁やすまし汁のベースとなり

煮物やおひたしなどさまざまな料理の

味を決定づける味の要だ

和食の味わいを語るうえで忘

れてはならないのがだし(出

汁)の存在汁物や煮物などさ

まざまな料理のベースとして使

われている

なぜ日本人はここまでだしを

好むのかその答えに大きく関

係するのが「うま味」だ江戸時

代の料理書には「だしこそ料理の

根本である」と書かれている

1907年池田菊き

くなえ苗

博士に

よって世界で初めてうま味成

分のひとつがアミノ酸の一種で

あるグルタミン酸であることが

発見されたその後日本人を中

心に研究が進みうま味は甘味

塩味酸味苦味に加えて第5

の味覚として広く知られるよう

になる現在ではうま味調味

料やだし入りのつゆなどうま

味成分を手軽に使える調味料も

普及海外でも人気が高く国

内でも日常的に使用されている

だしのほかに和食の味付け

日本が世界に誇る

第5の味覚うま味

うま味成分を多く含む椎茸もだしをとる目的で使われてきた食材のひとつだしに使用するのは干したもの椎茸は乾燥させることでうま味や香り成分が増すためだ

小魚を煮て乾燥させてつくる煮干しも汁物に多用される材料としてはカタクチイワシが代表的だがその他ウルメイワシやキビナゴトビウオなどの比較的魚体が小さな魚を使ってつくるのが一般的だ

だしのとり方は魚介や野菜から水や湯を使ってうま味成分を抽出するのが一般的だしの素材として最もよく使われるのは昆布と鰹節でそのほか煮干し野菜干し椎茸魚の内臓やあら(頭や骨)などがあるまた潮

うしおじる

汁のように食品そのもののうま味を活かす方法もある

鰹節

「だし」のこと

昆布

煮干し

干し椎茸

2324 WASHOKU

に欠かせないのは塩砂糖味

噌醤油酢酒みりん魚醤な

どの調味料わさびやからし

しょうが山椒とうがらしゆ

ずなども薬味として使われる

これら薬味によって季節感を楽

しみながら素材の味を引き出

すという知恵も「和食」ならでは

夏に高温多湿となる日本では

アジア諸国と同様発酵食品が

発達したそれゆえ味噌や醤

油や酢に代表される発酵調味料

を多用するのも和食の特徴大

豆や穀物を塩漬けにして発酵

させてつくるものだがその過

程で原料のタンパク質がアミノ

酸に分解されうま味成分を豊

富に含んだ調味料ができあがる

のだ

発酵食品も多様だ日本各地

でカビや酵母などの微生物の

働きを活かして食品中のアミ

ノ酸(うま味)を増やす発酵食品

が発達してきた冬場の保存食

として生み出された沢庵や塩

を使って乳酸発酵させる京都の

すぐき菜漬けそして糠ぬ

漬けや

奈良漬けなど野菜を発酵させ

た漬物さらに塩辛やくさや

なれずし鰹節など魚介の保存

食としての発酵食品また大

豆を納豆菌で発酵させる納豆や

こうじ菌で発酵させて乾燥後に

熟成させた寺納豆など大豆の

発酵食品もある

「和食」はうま味を上手に生

かし食材をおいしく食べる知

恵を育んできたのだ

発酵食品

発酵調味料

調味料

「和食」の特徴 味わい4

発酵食品と調味料

魚醤魚を塩漬けにして発酵させる独特の香りと濃いうま味が特徴の調味料ハタハタでつくられる秋田の

「しょっつる」イカやイワシを材料とする能登半島の「いしる(り)」などがある

酒酒もまた和食の調味に欠かせない発酵調味料のひとつ調味料としての酒の主な効果には材料の臭みを消す食材のうま味を引き出して風味をよくする甘みを加えるなどがある

塩海に囲まれている日本では古くから塩は調味料として使用されてきた焼き物や刺身などの調理の味付けとしてはもちろん漬物や干物など食物を貯蔵するための知恵としても活用されている

味噌蒸したり煮たりした大豆にこうじ食塩を混ぜて発酵熟成させた日本を代表する調味料のひとつ味噌汁や煮物などに使われることが多い地域によって使用される味噌の種類がかなり変わるのも特徴だ

酢寿司やなますなど和食に酸味を加える調味料米から醸造した酒に酢酸菌を加えて発酵させて造られる酢に漬けることにより保存性を高める

醤油大豆と小麦で造ったこうじに食塩水を加えた「もろみ」を発酵熟成させ搾ったもの刺身や焼き魚煮物炒め物など幅広い料理に使われている種類は濃口薄口たまり再仕込み白の5つに分類される

みりん蒸したもち米と米こうじを主原料に40~60日かけて熟成させて造られる発酵調味料砂糖と比べて甘みがやわらかく食材の臭味を取る働きもあるまた魚の照り焼きなどのつや出しにも使う

漬物素材を食塩や酢酒粕醤油などに漬け込み熟成させて作られる漬物沢庵や梅干し野沢菜漬けなど野菜類を長期間保存するための知恵として誕生した日本各地に独特の漬物があるのも特徴だ

納豆日本で発展した発酵食品である納豆大豆を納豆菌で発酵させた食品で寺納豆(下記参照)と区別するため「糸引き納豆」とも呼ばれる単品で食べるだけではなく納豆汁や納豆和えなどにも使われている

塩辛魚介類の身や内臓を塩漬けにし発酵させて作られた塩辛は日本における伝統的な保存食品のひとつ使われる素材はその地域によって変わりイカやエビアミタコなど多彩な種類の塩辛が存在する

塩に漬けた魚と炊いたご飯を数日間置き乳酸発酵させたなれずしは魚を保存する知恵として生まれた滋賀県では琵琶湖産のふなを和歌山県や富山県ではサバを岐阜県などではアユを材料にしたものが有名写真は滋賀県湖北地方の年頭の祭りで振る舞われる鯖のなれずし

砂糖世界的に見ても「甘み」を用いた料理が多い現在の和食では砂糖は欠かせない調味料のひとつ単独で料理に使われるというよりは煮物をはじめとするさまざまな料理で醤油や塩味噌などと併用されることが多い

寺納豆茹でた大豆にこうじを加えて発酵させ乾燥させながら熟成を促す発酵食品粘り気のある糸引き納豆とは異なり乾燥して塩辛い禅宗の伝来とともに大陸からもたらされたとされ寺院で作ることが多かったため「寺納豆」と呼ばれた

2526 WASHOKU

「和食」の特徴5

栄養

栄養バランスの優等生「和食」

野菜や魚肉そして米によって構成される「和食」は

栄養バランスの良さでも知られている

最近は五日間すべてを米飯にする完全米飯給食を行う地域も生まれた

和食の特徴のひとつである栄養についてその秘密に迫る

米麦雑穀などを炊いたご飯

を主食としてこれに魚介肉

類野菜類に発酵調味料だしを

組み合わせた和食は栄養学的

にみてもバランスをとりやすい

食事である

歴史的にみると日常食では

主食を大量に摂る習慣が続いた

穀類偏重の食生活だったといえ

よう

しかし豆腐や納豆みそ汁な

どを飯とともに摂ることで米の

アミノ酸の利用率を上げる食べ

方年中行事などハレの日に魚

介類などを摂取して楽しむなど

学ぶべき知恵は多い

なかでも何百年も伝えられて

きた和食の基本型はすぐれた

ものといえよう

副食の主菜には魚肉豆腐

などタンパク質を多く含む料理

を考える副菜には主菜に使わ

なかった野菜芋類などを使い

汁は主菜に合うものを用意する

焼き魚野菜の煮物青菜のお浸

しとみそ汁などでも栄養的バ

ランスはとれている

1980年頃までは多くの

家庭で和食の基本型が続いた

主食の量がやや減り副食が増

加とくに乳乳製品肉類の割

合が増加したこの頃栄養バ

ランスをはかる一つの指標であ

るPFCバランスが理想的な比

率を示した(左記参照)

しかしその後外食の日常化

家庭料理の欧米化が進み米の

摂取量が激減し脂質摂取の過

多などから生活習慣病が問題

となったこうした中各地で

食生活を見直す動きがみられる

ようになったその一つが学校

給食での取り組みである

戦後の食料難の中でパンと

牛乳に副食を加えた完全給食は

1950年に始まった197

6年に米飯が導入されるまで長

く続いたパン給食は和食の基

本型にも影響を与えたようだ

米飯給食は次第に増加し

2010年には週3回以上米

飯給食を実施している小中学

校は90以上となったが週5

回の米飯給食の実施は7以

上と高くない

ここでは2008年に5日

間すべてを米飯給食とした新潟

県三条市の事例を紹介しよう

成長期にバランスのよい食事

で健康な体をつくることそし

て望ましい食習慣を身につけ

生涯を健康に生きることをめざ

し完全米飯給食を実施したと

のこと

米は同市で生産される農薬

を減らしたコシヒカリを七分搗つ

きにした米飯を主食に副食は

主菜副菜汁を組み合わせる献

立をベースとしている主菜は

サケのフライ鶏肉ピリ辛焼き

さんま梅煮など伝統的な和食だ

けではないが和食の基本型の

中に取り入れる工夫がされてい

るパ

ンは油脂や糖分と相性が

良く肥満につながりやすいが

新潟県三条市の給食献立一例三条市の小中学校での献立例ご飯は三条市で収穫したコシヒカリを使用「お米だと腹持ちがよいのでデザートをあまり出さなくとも子どもたちが満足してくれる」とのこと洋風や中華風の献立でもおかずはご飯に合うものを選びスープなどの汁物は確実につけるように心がけている

火曜日

えだまめごはん

さけチーズフライ

くきわかめきんぴら

かきたまじる牛乳

小学校687kcal中学校823kcal

水曜日

ごはんとりにくのぴりからやきいかときゅうりの

あえものしょうがみそスープ牛乳小学校639kcal中学校752kcal

木曜日

ごはんさんまうめにたくあんあえにくじゃがに牛乳なし小学校688kcal中学校814kcal

金曜日ごはんカレーふりかけほうれんそうオムレツフレンチサラダパンプキンスープ牛乳小学校708kcal中学校833kcal

月曜日

ごはんいかのかりんあげ(2こ)

なっとうあえきのこけんちんじるのむヨーグルト

小学校619kcal中学校731kcal

2526 WASHOKU

七分搗米の飯は腹持ちがよく

おやつを食べる子どもが減った

だけでなく肥満の子どもが減

少傾向となり食生活のリズム

が良くなったとされる

また米飯に合う副食は土地

でとれる野菜類を取り入れやす

く季節にあわせてバラエティ

ーに富んだ献立を作ることがで

きる一汁三菜の食べ方の教育

を行った結果給食を残す子ど

もたちも減ったという

基本的な食事パターンが続く

中でも菜を工夫すれば変化に

富む食事を作ることはできる

季節の食材について学び年中

行事への知識も得られるだろう

また子どもたちが和食の基

本型を毎日の給食で体験してい

ることはきわめて重要なことで

ある時々経験するだけでは身

につかないものでも毎日繰り返

すことによって習慣化し定着

するのであるそしてやがて

自分で組み合わせを考えられる

ようになることが期待される

今後の学校給食の役割は大きい

といえるだろう

PFCバランスとは

FAO Statistics Yearbook(日本のみ食料需給表)参照栄養バランスが良いとされるP(たんぱく質)10~20F(脂質)20~30C(炭水化物)50~70の範囲が08~12に収まるように指数化した

日本でのPFCバランスの変化

アメリカとフランスのPFCバランス

タンパク質脂質炭水化物は人間にとって特に不可欠な「三大栄養素」PFCのPはProtein(たんぱく質)FはFat(脂質)CはCarbohydrate(炭水化物)の頭文字でPFCバランスとは食事の中での「たんぱく質」「脂質」「炭水化物」のそれぞれの摂取カロリーの比率健康的な生活をおくるためにはPFCバランスがたんぱく質15脂質25炭水化物60が理想的

給食時には全員で「いただきます」「ごちそうさま」を復唱食育にも力を入れているためそれら言葉の意味についても学校で教えている

米飯給食になってから児童たちの食の嗜し こ う

好に変化が生まれたとか児童たちに好きなおかずを聞いてみると「ハンバーグ」「カレー」などの定番メニューのほか「焼き魚」「納豆」などの和食メニューの名前が上がった

自分の分を食べ終わった児童たちが列をつくって競い合うようにご飯をおかわりしていたこの日の食べ残しはゼロ

C

P

F

14

12

1

08

06

アメリカ(2005~2007年)

C

P

F

14

12

1

08

06

フランス(2005~2007年)

「和食」の特徴 栄養5

日本人のPFCバランスは1965年当時は炭水化物に偏っていたが1980年は非常に理想的な配分になっていたしかしその後の日本人の食生活に肉や油脂類を多く摂り主食の米を食べる量が減り2010年時は欧米型に近づきつつある

C

P

F

14

12

1

08

06

日本1965年

C

P

F

14

12

1

08

06

日本1980年

C

P

F

14

12

1

08

06

日本2010年

2728 WASHOKU

お客を迎える前には店先に打ち水を水で清め準備が整ったことを伝える趣向に合う軸を選ぶのももてなしの基本飾る花は主人自ら育てたものそれを床の花入に活けるのも主人庭に150種ほどの草花を植え日々育てることもしつらいの準備客は女将の温かいもてなしに迎えられる

「和食」の特徴6

しつらい

人をもてなすためのこころとかたち

もてなしは客に対する一方的なサービスではない

お互いに思いやる気持ちから生まれるこころよさである

手入れの行き届いた庭は掃き

清めて水を打ち床の間には軸

を掛け季節の草花を生ける

座敷の襖ふ

すま

も夏には葭よ

しど戸に入れ替

え夏は涼やかに冬は暖かに

すべて相まってもてなしのた

めの用意を整えることそれが

しつらい和食とりわけ懐石

料理においては食材や料理と

ともにしつらいは非常に重要

な要素となる

家庭でも食事をつくる人は

食べる人の顔を思い浮かべなが

ら食事の用意をする食べる人

はつくってくれた人の気持ちを

考えて賞味するここに互いに

もてなす喜びが生まれるのでは

ないだろうか

こうしたもてなしの文化を極

限にまで洗練させた姿が料亭の

もてなしである京都府の無形

文化技術保持者に料理人として

初めて認定された京都の老舗料

亭「瓢亭」の十四代主人高橋英一

さんにその心を聞いてみよう

「料亭は日本文化の凝縮のひと

つと言えます玄関から入って

座敷に行くまでに通る露地にも

季節感があり部屋に入れば時

季や行事の軸がありその座敷

のために選んだ花が飾られる

日本人が自然と身につけている

桜の器を使うことで膳の上にぱっと花が咲くような華やかさが生まれるあしらいは酢取り防風岩海苔

秋の花菊の器はこっくり深い色合いも相まって秋に似合う風情を持つあしらいは岩茸菊花

深さのあるガラスの器に氷が敷き詰められる涼感を目でも舌にも感じるあしらいは穂紫蘇寄せ莫大

縁起のいい鶴は新年の席でも使われるモチーフあしらいは水前寺海苔紫芽紫蘇

四季の感性で受け止めてもらえ

るよう整えお出迎えします

料亭は普段とは違うハレの場で

すがとはいえ行き過ぎず足り

ないことのないよう自然なし

つらいそしてもてなしを心が

けます」

「瓢亭」の座敷に飾られるのは

主人が庭で丹誠込めて育て自

ら生ける茶花

「もてなしの根

底に利休さんの『花は野にある

ごとく』の言葉を思いますが簡

単なようでそれが難しい」自

然体でのもてなしを生むしつら

えは名店においても日々心を

くだき工夫するのだ

「瓢亭」では1年をとおして明石の鯛の向付を供しているが季節ごとに

器とあしらいを変えることで四季を演出している

四季の演出

2728 WASHOKU

和食はご飯と菜あるいはご飯とお汁というように常にご飯を間にはさんで菜や汁をとるのが本来の食べ方下のような不作法とされる箸使い(嫌い箸)があるので覚えておきたい

ご飯は茶碗に味噌汁はお椀

に焼き魚だったら平皿にと普

段料理に合わせて何気なく使う

食器種類の多さもさることな

がら形や素材もさまざま欧

米はもちろん近隣諸国を見回

してもこれほど多種多様な器を

使う国はないそれは四季が明

確なことと無関係ではない

「自宅でも季節に合わせた器

にするだけで気分が変わりま

すよ」と前出「瓢亭」のご主人は

語る 

春であれば華やかな色や形の

もの夏はガラスや青磁など涼

しげな素材の器秋は実りのあ

る彩りがあるもの冬は厚手の

陶器や木製など温もりのあるも

の色素材形を変えるだけで

季節感を演出できる「和食」な

らではの楽しみ

食事の際当たり前のように

使っている箸も日本の食文化

を代表する食具奈良時代以

降匙さ

を使う伝統が消え箸だ

けを使うようになったため熱

い汁物は椀を持ち直接口を

つけてすする文化が確立同

時に椀箸ともに個人所有が基

本となった椀や箸を共有し

匙やレンゲを使うほかの東南

アジア諸国とは異なる食文化

を形成箸食文化圏の中でも

唯一箸だけでご飯を食べる国

となったまた一口に箸といっ

ても食箸取り箸菜箸など用

途に合わせてさまざま食べ

る際に使う食箸だけを見ても

形や素材のほか加工や長さも

豊富にそろうのだ

「和食」の特徴7

箸と椀

「和食」を支える箸と椀

箸食文化圏の中でも唯一箸だけを使う国日本

季節感を感じさせる器とともに独特の食具文化も誇る

渡し箸食事の途中でお箸を

食器の上に渡し置くこと

寄せ箸遠くの食器を

箸で手元に引き寄せる行為

指し箸食事中箸で人やものを指すこと

迷い箸どの料理にしようか迷い箸を料理の上で動かすこと

移り箸いったん取りかけてから

ほかの料理にお箸をうつすこと

箸には食事に使う食箸と調理に使う菜箸とがある菜箸は熱から手を守るため30~50と長く片方がなくならないよう糸でつながっているものもある取り箸は菜箸の一種食箸は個人所有が基本のため使う人に合わせた長さが用意されている漆塗りや螺鈿細工を施したものも多い

種類

形状だけでなく素材もさまざまで近年は黒檀や鉄木など硬質な木が使われることが多い日本の木としては特有の香りがあり古くから懐石用や割り箸に使われてきた杉耐水性耐湿性が高く保存性に優れる上に軽くて持ちやすい檜強くしなりがあり細かいものを取りやすい竹などがある

素材

家庭で使う食箸の形には角箸や四角で角が丸い胴張り五角六角七角八角のほか削りなどがあり持ちやすさに合わせて選べる箸先に加工が施されたものもある来客用に使う銘々箸や割り箸には断面が小判型で割れ目と溝が付いた元禄箸や中央部が太く両端が細い利休箸などが用意されている

日本人にとっての箸は調理から盛りつけ食事までをこなす大事な道具食箸は個人所有が基本のため個々に合わせて選べるのも特徴だ

箸の働き

箸使いの作法を知る

【嫌い箸】

食箸

八角箸 削り箸

菜箸

檜竹

「和食」の特徴 しつらい 箸と椀6 7

2930 WASHOKU

神し ん せ ん

饌として神へ供えられるお神酒は神棚の最上段の中央に置かれるほど重要な地位を占めている

日本酒を造る酒蔵は全国に約1600弱その数は年々減り続けているが数年に一度「日本酒ブーム」も起きている

日本酒とは米と米こうじ

そして水を主な原料にしてそ

れらを発酵させて造られる

原料には主食用の米ではなく

酒造りに適した性質を選び品

種改良された酒し

ゅぞうこうてきまい

造好適米を使

うことが一般的だまた日本

酒の80を占める水も品質を

左右する大きな要因日本酒

の香味を損なわない良質な水

が必須だ

日本酒の醸じ

ょうぞう造の工程にはさ

まざまな技術が伴う例えば米

を精米して味と香りを調整する

技術これは米の外側にあるた

んぱく質や脂質といった雑味の

もとを除くことが目的だが大だ

吟ぎんじょう醸酒にもなると米を半分以

上削ってから仕込むこともある

次いで米を発酵させる技術

酒の場合の発酵とは酵こ

うぼ母が糖類

を食べてアルコールを出すこと

をいうが米には糖類が含まれな

いためまずは米をこうじ菌の酵

素によって糖類へと変えそこに

酵母を加えて発酵させるという

複雑な手順(複式発酵)が必要だ

この手順で使われるこうじもバ

ラこうじと呼ばれる日本独特の

ものだバラこうじは糖化力が

高いのが特徴で日本酒の香りや

味に大きく影響する

稲作を中心に文化を育んでき

た日本では米餅米から造ら

れる酒は地域を問わず重要な

ものとされている米の一粒一

粒に神が宿り同じように酒も

神のおかげで造ることができる

と考えられてきたそして酒

もまた食べ物と共に神に近づ

くための手段として古くから用

いられてきた

同時に家族や親族地域で人

と人をつなぐ上でも酒は大き

な役割を担っている例えばお

神み

き酒祭礼の後には神の酒を

人々が口にする神と同じ酒を

飲みそれを人々が分かち合う

ことで地域やコミュニティが

結束力を強めるのだろう

米や麦やさつまいもなどを原

料とする焼酎も日本酒と並び

日本の國酒とされている酒は

人と人の心をほぐし食事を引

き立たせる重要な役割を担って

いるのだ

「和食」の特徴8

「和食」を引き立たせ

心をほぐす日本の酒

日本人にとっての主食であり精神のかなめでもある米

その米で醸か

される日本酒は「和食」にとって欠かせない要素

日本の「國こ

くしゅ酒

」にもなっている

2930 WASHOKU

「和食」の特徴9

和菓子日本茶

暮らしに寄り添う和菓子とお茶

自然の恵みに感謝し季節の移ろいを敏感に表現する和菓子

日本茶は喉のかわきを癒すだけでなく心を癒し心を高める飲みものである

「和食」の特徴 酒 和菓子8 9

ハレの日の願いを込めた和菓子

和菓子分類餅もの 餅団子大福など蒸しもの 饅頭蒸羊

よ う か ん

羹外う い ろ う

郎村む ら さ め

雨など煉もの 煉

ね り き り

切こなし求ぎ ゅ う ひ

肥飴葛く ず

菓子など焼きもの 味噌松風煎

せ ん べ い

餅桃も も や ま

山カステラどら焼など流しもの 錦

にしきだま

玉煉ね り よ う か ん

羊羹水み ず よ う か ん

羊羹など揚げもの 揚げ煎

せ ん べ い

餅かりんとうなど打ちもの(押しもの) 落

ら く が ん

雁など岡もの 最

も な か

中きんとん鹿か の こ

の子すはまなどかけもの 金

こ ん ぺ い と う

平糖五ご し き ま め

色豆石いしごろも

衣など

これは和菓子の製法によって大まかに分類した表このほか含有する水分量によって生菓子半生 菓 子 干 菓 子などの分け方や上じ ょ う な ま が し

生菓子並菓子駄だ が し

菓子などの分類もある

「岡もの」とはすでにできあがっ た素材をあわせたもの (例きんとん=飴玉とそぼろ餡)

甘く味付けしたごぼうと白味噌餡を赤や白の餅や求

ぎ ゅ う ひ

肥で包んだ生菓子平安時代の新年行事のひとつで長寿を願っておこなわれた「歯固め」の餅に由来する餅と味噌の組み合わせから「包み雑煮」とも呼ばれた

葩はなびらもち

一 月

旧暦十月は「亥の月」と呼ばれていたがその月のさらに「亥の日」に行われる年中行事の際に食べられていた菓子旧暦では10月が冬の始まりそのタイミングで無病息災と多産の猪にあやかって子孫繁栄を願ってこれを食べていたという

亥い の こ も ち

の子餅

十 月六 月

白いういろうの上に小豆の粒餡を散らした菓子古来京都で旧暦六月の晦

み そ か

日(30日)に無病息災を祈願して行われている

「夏なごしのはらい

越祓」になぞらえて初夏の頃に食べられている小豆には邪気祓いの意味があり三角の形は氷を表している

水無月

五 月

平たく丸めた上新粉の餅をふたつに折り中に小豆や味噌の餡を挟んでそれを柏の葉で包んだ菓子柏の葉は新芽が育つまで古い葉が落ちないことから

「子孫繁栄」を願って旧暦五月五日の端

た ん ご

午の節句の供く も つ

物として用いられてきた

柏餅

日本ならではのお茶の製法である手揉みは茶葉の繊維をつぶしながらうまみを引き出すために行う作業手揉みすると茶葉が切れないため茶の甘みを保つことができる

菓子もまた「和食」にとって欠

かせない要素でお客様用の「上

菓子」普段食べる「饅頭」や「餅

菓子」などに分かれるほかに

干菓子や駄菓子など菓子の種

類は多いまた例えば団子や

大福などは「餅もの」求肥や飴

などは「煉りもの」錦玉や

水みずようかん

羊羹などは「流しもの」などと

いうようにその製法によって

分類されることもある米や麦

小豆を代表とする豆類そして

砂糖や水あめなどの材料でバ

ラエティに富んだ菓子が生み出

されてきた

お茶会などの席で抹茶ととも

に味わう菓子もあり季節に合

わせて材料や色やデザインが選

ばれ味覚だけでなく視覚で楽

しむこともある

また年中行事と結びつく菓

子もある例えば旧暦三月三日

の「ひな祭り」では邪気をはら

い強い生命力を象徴するよも

ぎの草もちでつくった草餅を食

べる

和菓子には日本茶がふさわし

い緑茶は12世紀に中国から日

本に伝わったが今では生の茶

葉を蒸してから揉んで乾燥させ

る緑茶の製法は日本独特のもの

となっている緑茶に含まれる

カフェインは覚醒効果がまた

カテキンには抗酸化作用があり

ビタミンCも多く含まれて健

康によい日本茶独特の香りと

うま味は日本文化そのもので

ある

出典「和菓子の歴史展」第五十回虎屋文庫資料展より

3132 WASHOKU

日本の「和食」の文化は自然

環境だけでなく海外からの影

響によっても絶えず変化して

きた

近代以降にはコロッケとん

かつなど洋風料理を和食の基本

型に組み合わせた食事肉と野

菜の煮物や和え物などそれまで

にはない料理が工夫されたそ

の多くは和食の基本型味噌や

醤油を用いた味付け箸で食べ

られる料理など「和食」の要素

を保ちつつ伝えられてきた

しかし第二次世界大戦後高

度経済成長期を迎えると日本人

の食生活は急速に変化する

1970年代にファストフー

ド店ファミリーレストランが

各地に開店しコンビニなども

広がった

1980年頃主食と副食の

バランスは理想的とされたが

(26頁参照)その後米の消費量

はさらに減りパン食が増加

肉類油脂乳乳製品の消費量

も増加し食料自給率も下がっ

た家族での外食が日常化し

家庭の食事も欧米化した

食育の必要性

「和食」が危ないどうしたら伝えられるのか

この150年間で大きく変化し「和食」はいま衰えつつあるその原因はどこにあるのだろうか

食生活の変化

日本の食料自給率の変化農林水産省「食料需給表」より作成

日本のものを食べなくなって 「和食」はどうなる 日本の食料自給率は下がり続けている1965(昭和40)年度はカロリーベースで73だったが2012(平成24)年度は39その大きな原因のひとつは国内で自給可能な米や魚や野菜などの消費量が減少する一方国内で生産が困難な飼料穀物を食べて育つ畜産物や原料を輸入に頼ることが多い冷凍加工食品や小麦の消費が増加したことだと考えられている炭水化物たんぱく質脂肪分をバランスよく摂取する健康的な「和食」に未来はあるのか

国民一人一日当たりの供給純食料農林水産省「食料需給表」より作成

食べる米の量が50年で半減 増えたのは肉と乳製品 国民一人あたりが食べる量を品目別に眺めて分かることそれは日本人が食べる米の量が著しく減ってきたことだ1960(昭和35)年度は一日あたりの米の消費量は約315gだったが2010(平成22年)年度は163gに約半減その代わりに増えたのは牛乳乳製品(約60gから約240g)と肉類(約14gから約80gへ)野菜と魚を中心としたおかずでご飯を食べるという

「和食」のスタイルの変化がわかる

食料費における外食と中食の割合の推移総務省統計局「家計調査年報」より作成

家で食べても 調理することが減っている 外食に対して家庭で作って食べる食事を内食というが弁当や惣菜など調理をせずに食べられるものを買ってきて済ます食事は中食と呼ぶ実はこの中食の割合が増えている外食が占める割合は2000(平成12)年以降横ばいなのに対して中食は増え続けその代わりに内食が減っている食事は家で食べても調理はしないという家庭が増えているのだとすれば「和食」にとって大切な要素を子どもたちに伝える機会が減っているとはいえないだろか

食料自給率(金額ベース)

食料自給率(主食用穀物)

食料自給率(カロリーベース)飼料自給率

米 野菜 肉類牛乳乳製品 魚介類

内食 中食 外食

(g人日)

3132 WASHOKU

50

55

60

65

70

75

01992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012

70

75

80

85

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95

01992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012

一日に一度はお米を食べないと気がすまない人の割合博報堂生活総研「生活定点2012」

お正月におせち料理を食べた人の割合博報堂生活総研「生活定点2012」

一日に一度は米を炊いたご飯を食べなければ気がすまない人の割合が実はこの20年間で減っているというデータがある1992(平成4)年には714だったが2012(平成24)年には564にまで落ち込んでいるのだ

家族や親族で集まっておせち料理を囲みながら新しい一年の無事を祝うお正月実はおせち料理を食べる人も毎年少なくなっている1992(平成4)年には866だったが2012(平成24)年には748だった

電子レンジの普及や冷凍食品

インスタント食品などにより

食生活は便利になったが家庭

内で調理をする機会が減ったと

もいえる

こうしたなか「和食」の優れ

た点をどうしたら伝えられるの

だろうか親から子へ家庭の食

を伝えるだけでなく学校を通

して子どもたちにさらにその

親の世代にも伝える必要があろ

う高齢者からは「和食」につ

いて具体的に教わることも求

められる

離乳期からの食べ物の選び方

幼児期の食経験を豊富にするこ

となどはとくに重要であろう

小さな頃からの食習慣はその

後の食習慣に大きくかかわって

くるからだ

だしのおいしい味を日々体験

することや魚を味わい骨を箸

でとる訓練を楽しい雰囲気のな

かで教わることなどその積み

重ねの中で「和食」は伝わるので

あろう

経験しない味は異文化とと

らえられるであろうし体験し

ていない調理は簡単でも難しく

感じる食事を用意する過程を

日々見る経験手伝う楽しさ美

しい食器を大切にして使うこと

同じ食べ物を家族や仲間と味わ

い祭りや花見などで共に食べ

る経験を積み重ねることは文

化としての「和食」を伝えるだけ

でなく生きる力を育むことにも

つながるであろう

壁にではなく居間に向かって設置されることが多くなった現在のキッチン夫婦共働きだというこの家庭では夫が厨房に立つことも少なくないというこのように食事の準備を子どもと一緒に行うことで「和食」にとって大切な要素が次の世代に伝えられるようになるのだろう

世帯あたり1ヶ月間の穀類支出金額内訳

1962年3434円

パン

麺他

2010年6373円

パン

麺他

ご飯を食べなくても平気 そんな人が増えている

お米よりパンと麺 その傾向が加速中

おせち料理を食べる派が 毎年ジワリ減少中

1962(昭和37)年度には8割以上を占めていた米への支出が2010(平成22)年度にはパンにとって代わられる米の消費量はパンより多いが家庭では炊飯する必要のある米よりすぐに食べられるパンや麺の支出が多くなり家庭での料理が減っていることを示しているともいえよう

総務省統計局「家計調査年報」より作成

いただきます

ごちそうさま

「和食」の未来

今世紀に入ってから世界に和食ブー

ムが起きている味わいやヘルシーさに

注目が集まり世界中のいたるところに

日本食の店が数多くある

そのように世界から注目される「和食」

だが本家本元の日本国内でその将来が

危ぶまれている

これまで見てきたように「和食」には

新しいものを柔軟に取り込む歴史があっ

た日本人は太古の昔より外国からも

たらされた食文化を自分たちの食生活に

取り込んで日本独自の食文化を発展さ

せてきた地域ごとに地域の環境にふさ

わしい料理をつくり出してきた食べる

料理や食べ方もその時代ごと地域ごと

に変わってきた

その中で貫かれてきたことがある

豊かな自然がもたらす食材のおいしさ

を生かす調理法を工夫し味わうこと

食卓に季節感をしつらえもてなしの気

持ちを共に感じ合う食事の場を持つこ

と一汁三菜という組み合わせを食事

の基本スタイルとして健康的な食生活

をおくることお正月におせち料理を

祝いの日にお赤飯を家族と共に食べる

など食事は家族の絆となっている

豊かな自然を守る気持ちと同じように

日本人を健やかに生かし人と人をつな

いできた「和食」もまた守るべき大切な

日本文化ではないだろうか

「いただきます」「ごちそうさま」と言っ

てみるだけでも「和食」は私たちに身近

になる人と人をあたたかく結びつけて

くれる

日本人はやはりお米のご飯がおいしい

と思うだしのきいた汁でおなかも心も

癒されるこの日本人が長い歴史の中で

育んできたすばらしい財産である「和

食」がこのままなくなってよいと考える

人はいないだろう世界の中でもすぐれ

た食文化として認められた「和食」を日本

の誇りとし大切にして次の世代に受け

継いでいくきっかけにこの冊子がなれ

ば幸いである

ごちそうさま

和 食

910 WASHOKU

地域ごとで行う祭りの中でも

食は大切な要素である神社に

おける祭さ

いし祀の後には直な

おらい会と呼

ばれる飲食の儀礼も行われる

本来神への供く

もつ物やお神み

き酒を参

列者がいただくことで神と人

とが一体となり神の加護を期

待するという意味合いを持つ

今日では祭りの後の打ち上げ

という気分もあり祭りを終え

た後人と人とが酒を酌く

み交わ

すそれにより親密感が増し

共同体意識を高めているのだ

こうした打ち上げもまた食

を介した日本の文化といえる

祭りではなくとも食を中心

にして地域がつながるケースも

ある例えば秋になると山形

県や宮城県などで盛んに行われ

る芋煮会仲間や同僚地域の

人たちなどで声を掛け合い河

原に集まる季節の行事だ鍋の

内容は山形県の内陸部では里

芋と牛肉を具として入れた醤油

味が一般的一方宮城県では

里芋と豚肉を味噌で味付けて食

べるこのように地域によって

違いはあるが地元産の秋の食

材を入れ大きな鍋を囲むとい

う点では共通している一緒に

食べるだけでなく共同で鍋を

作ることで親交や結束がより

いっそう深まるのだろう

食をとおして家族や親族

そして地域やコミュニティが

結束力を強めるこれは「社会

性」という「和食」が持つ特徴の

ひとつだ

「和食」が日本文化である理由 家族や地域を結ぶ2

祭礼の中で食事を共にすることは祭りを担う人々の絆を固める大切な機会である下の写真は大阪府の祭りの様子この日に供されたのはハモと松茸のすき鍋水なすの漬物など一方で東北地方の宮城県や山形県で秋になると盛んに行われる

「芋煮会」(写真右)は地域だけでなく職場や親族友人どうしなどのコミュニティ単位で行われることが多い食材を持ち寄って鍋の準備を共に進めることで連帯感が高まるのだ

地域や祭りの食

1112 WASHOKU

おせち料理おせち料理の内容は地域によってさまざまこれは東京のおせち料理のひとつ重箱(手前)には健康を願う「黒豆」や子孫繁栄を願う「数の子」そして田の肥料としたことで豊作を祈願する意味を込めた「田作り」という「祝い肴三種」が盛り込まれている祝い肴にはその他紅白のかまぼこや長寿を祈願した海老の焼き物豊作を願ったたたきごぼうなどがあり地域によって異なっている酢の物(左の小さな重)や煮しめ(奥の大きな重)をおせち料理に供する家庭も多い

日本人の生活の中には特別

なrdquoハレの日ldquoがあるひとつは

正月などのように毎年同じ時期

にめぐってくる年中行事もう

ひとつは誕生や成人や結婚や還

暦など人生の節目にあたる日で

これを人生儀礼と呼ぶそして

ハレの日にはそれを食べるこ

とで「邪気や災厄をはらい健康

長寿を願う」という共通点があ

る一

年の始まりを祝うお正月は

「歳と

しがみ神さま」を各家庭で迎える

年に一度の大切な年中行事家

の入口に立てられる門松は神を

招くための目印で一年の幸せ

を願い家族が集まって食事を

共にするその際に供されるの

がおせち料理だ地域ごとにさ

まざまなバリエーションがある

のもおせち料理の特徴で酒し

ゅこう肴

3

健康長寿の願い

ハレの日の食事で

健康と長寿を願う

例えば全国各地でrdquo文化ldquoとして

色濃く残っているおせち料理

その内容には地域ごとにさまざまな

バリエーションがあるものの

共通しているのは

料理を食べることで健康長寿を

願うという点だ

1112 WASHOKU

お正月雑煮に合わせて飲むお屠蘇は銚ち ょ う し

子三つ重ねの盃盃を乗せる盃台これらを載せる盆で供されるもともとお屠蘇はいくつかの薬草を組み合わせた屠

と そ さ ん

蘇散を酒やみりんに浸して作る薬酒だった

お194679と そ蘇

魂の象徴である丸餅を入れた雑煮を食べるということは神の力をいただくことでもあったこれは京都でなじみ深い西京味噌で味付けした雑煮焼かずに煮た丸餅と昔から縁起物とされた頭

かしらいも

芋(里芋の親芋)が入るのが特徴だ

雑煮

赤い色の小豆は邪気と厄をはらいのけると信じられ祝い事の際には頻繁に登場したまたもち米を蒸して食べる習慣は古い日本の文化でもあって例えば赤飯はハレの食事として供されことにお祝いの席には欠かせない

赤飯一生食べることには苦労しないようにとの願いを込めて子どもの生後100日目に行う「お食い初め」の儀式では尾頭付きの鯛を含んだ一汁三菜の膳が供される丈夫な歯が生えることを願う「歯固めの石」も欠かせない

お食い初め

「和食」が日本文化である理由 健康長寿の願い3

を並べたスタイルもあれば煮

しめだけをおせちとする地域も

あるが神と食事を共にしつ

つ福を招き災いを打ちはらう

という願いが込められていると

いう点は共通している

同じくお正月に食べる雑煮は

そもそも武士にとって一番大切

で正式な酒の肴で正月には必

ず餅の入った雑煮とお194679と

そ蘇が

供されるそして鏡餅などの丸

い餅は神の魂の象徴「歯固め

餅」とも呼ばれ1月11日に鏡餅

を食べて歯が丈夫な長寿を願う

意味が込められている

食を囲み毎日を無事に過ご

すことを願う行事に五節句があ

る七草粥を食べる正月7日

(人じ

んじつ日)の他には邪気をはらう

と信じられていたヨモギ入りの

草餅を食べる3月3日(上じ

ょうし巳)

粽ちまきや柏餅を食べることで健康を

願った5月5日(端た

んご午)索さ

くべい餅と

呼ばれる細い麺を食べて無病を

願う7月7日(七し

ちせき夕)菊酒で不

老不死を願う9月9日(重ち

ょうよう陽)が

ある

人生儀礼に目を向ければ邪

気や厄をはらうと信じられてい

た赤飯は祝儀だけでなくお盆

などの仏事や葬儀の際にも食

べられてきた

体によいものを求めてきた

「和食」の伝統は結果として世

界でもまれにみる健康によい食

文化をつくりあげた健康で長

生きしたいという強い指向が

「和食」の根底にはある

北海道は各地から入ったお雑煮が混在する北海道特産のいくら鮭を使った「親子雑煮」を食べる家庭も多い

焼いた角餅に醤油味が一般的一部の地域では具に豆腐やゴボウなどが入りゴマだれやクルミだれに付けていただくこともある

鰹節でだしを取り醤油で味付けしたすまし汁に焼いた角餅を入れるのが一般的具には鶏肉こまつ菜かまぼこなどが入る

昆布でとっただしに白味噌で味付けし煮た丸餅を入れるすまし汁のところや元旦は白味噌2日目はすまし汁にする地域もある

1314 WASHOKU

「県出身ならあれ食べた

ことあるの」「お雑煮のお餅と

味付けは」hellip日本各地に伝

統的な料理や食材があり味付

けも地域ごとに異なる

気候や風土が異なると採れ

る食材や調理法は変化し地域

色豊かな和食が形づくられてき

たそんな多様性も和食の魅力

であり日本を旅するときの楽

しみのひとつでもあるはずだ

いまのように流通が盛んでな

く保存技術も進んでいなかっ

たころ食料を無駄なく存分に

そして安定的に味わうというこ

とは人々の重要な課題だった

そこで知恵を絞り工夫をこら

し考えられたのが食品の加工

や保存方法その知恵が結果的

に「和食」の多様性を生みだし

ていくことになるのだ

海から遠い土地では魚を長持

ちさせる知恵が生まれ冬が厳

しい北方では野菜を長期にわた

り保存する技が発展してきた

魚の干物餅梅干し凍み豆

腐helliphellipこれら保存食は昔から

ある加工食品だが同じく日本

古来の加工食品に発酵食品があ

る微生物の働きや酵素の力

で保存力や栄養価風味などが

加わった食品だ野菜の漬物も

このひとつ

例えば秋田県の郷土料理「い

ぶりがっこ」大根を囲炉裏の

4

「和食」の多様性

風土が多様性を生み

それが「和食」という地図を描く

南北に長くさまざまな気候を持つ日本だけに地域が持つ食文化は多様で

土地土地に伝わる郷土料理や加工保存技術が存在している

日本の食が描く地図は知れば知るほど面白い

風土の違いから生まれる

食文化の多様性

お雑煮MAP

 

正月に食べられるお雑煮はだ

しの素材や味付け餅の形状具な

どが地域や家庭によってさまざま

であるだしには昆布鰹節煮

干しするめ穴子鶏肉が味付

けには塩醤油味噌などが使われ

る餅は角か丸かそれを焼くか

煮るかという違いもあるまたあ

ん入りの餅を入れる地域もある

具は野菜類魚介類鶏肉などで

地域の特産品が使われることも多

い沖縄県ではお雑煮に代わるも

のとして「中味汁」(豚の内臓の

汁)があるここでは全国各地の

お雑煮の中から特徴のあるもの

を取り上げた丸もち

角もち

角もち

角もち

昆布と鰹節のだしに味噌で味付けし煮た丸餅とかぶそしてかぶの葉を加えたシンプルなお雑煮を食べる地域も味噌は赤味噌白味噌のいずれかが使われる

丸餅に白味噌仕立てが多いが香川県では白味噌にあん入り餅を入れた「あんもち雑煮」が珍しい具は大根ニンジン里芋など

だしはあごだし昆布鶏肉とさまざまだが味付けは醤油味具にかまぼこが入り九州の北部にはあん入り餅を入れる地域もある

醤油味のすまし汁に煮た丸餅が多い出雲地方では

「小豆雑煮」と呼ばれ具はなくぜんざいのような小豆だけの雑煮を食す

昆布と鰹節のだしに味噌で味付けし煮た丸餅とかぶそしてかぶの葉を加えたシンプルなお雑煮を食べる地域も味噌は赤味噌白味噌のいずれかが使わ

1314 WASHOKU

上に吊るし楢や桜の焚き火で

燻製にしてから米糠と塩で漬

けこんだ漬物だこれは冬の訪

れが早い秋田で大根を早く乾

燥させ長く食べられるようにす

るための工夫だいずれも手間

と時間が加わることで風味が

濃縮されとれたてとは違った

深い味わいが生まれた

魚介類の保存食でいえばな

れずし魚を塩と米飯で数日

から数ヶ月寝かせ乳酸発酵さ

せたもの雑菌の繁殖が抑えら

れ長期間の保存が利く上うま

味が増す現在滋賀県のふな

ずし和歌山県のサバやサンマ

のなれずし福井県小浜市のへ

しこなれずし秋田県のハタハ

タ寿司など日本全国の郷土料

理として残っている

また味噌や醤油といった発酵

調味料は日本料理の味の要と

もいえやはりこれらにも地域

によって造り方や味に違いがあ

る例えば味噌大豆と米こ

うじを使い長期間熟成させた辛

口の津軽味噌米こうじを多く

配合した甘みのある西京味噌

大豆こうじを使った赤褐色の名

古屋の八丁味噌麦を原料にし

た九州地方の麦味噌などさま

ざま

地域の特産品発酵調味料餅

で構成されるお雑煮を見ても

多様性はよくわかる

日本の風土と食文化は深く結

びつき世界が注目するバラエテ

ィに富んだ食を育んできたのだ

日本の味噌

mdash

地域と特徴mdash

味噌は製法材料によって

大きく3つに分けられる

全国的に一般的なのが「米

味噌」で蒸すまたは茹で

た大豆に塩米こうじを加え

発酵させたもの米こうじ

の代わりに麦こうじを使用

したものを「麦味噌」大豆

を発酵熟成させたものが

「豆味噌」米味噌には大

豆を蒸して長期間熟成した

辛めの赤味噌と大豆を茹

でて短期間で熟成させた甘

めの白味噌がある

「和食」が日本文化である理由 「和食」の多様性4

主な種類地域 特徴

米味噌

津軽味噌 長期間熟成させる辛口で赤味噌系が主流

仙台味噌 仙台で伝統を継承して造られてきた長期間熟成させる辛口赤味噌系が主流

信州味噌 長野県を中心に造られる山吹色の淡色系の辛味噌

江戸甘味噌 通常の味噌よりもこうじを多く塩を少なくした赤系の甘さのある味噌

西京味噌 関西地方を中心に造られる米こうじの多い甘みのある白味噌

讃岐味噌 香川県で造られる甘みのある白味噌あん餅雑煮にも使われる

府中味噌 甘みのある米こうじの多い白味噌で主に広島県で造られる

麦味噌 九州四国中国 麦こうじを使って発酵させた山吹色を帯びた甘みのある味噌

豆味噌 八丁味噌三州味噌 蒸した大豆でみそ玉を作りこうじ菌を繁殖させて造る濃い赤褐色の味噌

お雑煮に入れる餅の形について出身地ごとに聞き取った結果中部を境にして東は角餅西は丸餅が多かった

もちの形について

丸もち

丸もち

丸もち

丸もち

出典「お雑煮100選」(文化庁)より

(人)

温暖化が進み狩猟が大型獣から小型獣になる

南九州で竪穴式住居にドングリ貯蔵穴が広まる

ドングリなどの植物性食料が重要な食料になる

水田稲作が日本列島に伝来

稲作の広がりと定着魚を発酵させたなれずしの登場

『魏ぎ

し志』倭わ

じんでん

人伝には倭(日本)では冬夏に生菜を

飲食に高杯をつかい手食するとある

土は

師器の移動式かまどの使用

土師器の甑こ

しきに

よる蒸し米が盛んになる

中国に遣唐使を送る大陸の食文化がもたらされる

675年天武天皇が「牛馬犬猿ニワトリ」の

食用を禁止

牛乳を煮詰めて作った「蘇そ

」が朝廷に貢納される

箸の利用が広がる

貴族の大だ

いきょう饗

料理や年中行事が中国の影響で定着

豆腐が中国より伝来する

栄西が宋より抹茶法を持ち帰る

道元が禅宗における食事作法や調理の心得を

説いた『典て

んぞきょうくん

座教訓』『赴ふ

しゅくはんぽう

粥飯法』を執筆

植物性食品のみを使った精進料理の発展

武士の供応食本ほ

んぜん膳

料理の形成

包丁人と呼ばれる料理人が誕生し包丁流派を形成

刻み目のついたすり鉢が広がる

酒造技術の進展

書院茶の湯からわび茶の湯へ

千利休により茶の湯が完成

懐石形式の定着

豊臣秀吉が北野大茶会を開催

欧州が大航海時代に入り

南蛮貿易により南蛮菓子唐辛子などが日本に伝来

日本初の出版料理書『料理物語』刊行

都市部に食べ物屋や料理屋が普及する

料理屋の会席料理形成

けがれによる肉食禁忌の観念が広く浸透

薬食いとしての肉食

飢き

きん饉に備えさつまいもやじゃがいもの栽培を奨励

和菓子の完成

握り寿司やてんぷらが江戸で流行する

肉食解禁と牛鍋の流行

『西洋料理指南』など西洋料理書の出版

西洋料理店の発展

米の摂取率が平均53に

家庭向け料理書の出版

女学校における食物教育

脚か

っけ気

論争がさかんに行われる

牛肉の不足から豚肉の生産が増加

洋菓子の製造発展

物価高騰と米不足によるじゃがいもパンなどの代用食の奨励

国立栄養研究所の開設と栄養学の発展

都市部で和わ

ようせっちゅう

洋折衷料理が普及

戦争による食料不足

食料統制米などほとんどの食品が配給切符制となる

イモなど代用食の増産

戦後のミルクとパンの学校給食が開始

各地に闇市ができる

食料の価格が高騰

厚生省が日本人の栄養基準値を策定

農家の生活改善運動が展開

即席ラーメンなどインスタント食品の開発販売

冷凍冷蔵庫の普及と冷凍食品が普及

日本型食生活の提唱

ファミリーレストランファストフード店の増加

コンビニの発展

日本食の洋食化と簡便化と米摂取量の減少

食料自給率が39〜40に低下

レトルト食品の売上増大

電子レンジ普及率が約90に

遺伝子組み換え食品が登場

地球温暖化など環境問題が深刻化

阪神淡路大震災東日本大震災により災害食が注目される

持続可能性が社会課題に

家庭料理の変化や家族の孤食化などの問題が生まれ和食の見直しへ

縄文時代弥生時代古墳時代飛鳥時代奈良時代平安時代鎌倉時代室町時代安土桃山時代江戸時代BC9000年BC3000年BC2500年頃BC200年頃240年頃500年頃7世紀8世紀8~12世紀12~14世紀14~16世紀16~17世紀17~19世紀

1516 WASHOKU

「和食」の年表

「和食」がたどった道和食の成立とその変化を年表でたどってみると各時代の人々が海外の食文化の影響を受けながら工夫を積み重ねてきた様子が見えてくる

米は縄文時代晩期に伝来し

たとされるが全国に広がるの

は弥生時代である

平安時代の大饗料理は貴族

の供応料理で蒸した高盛の強こ

飯いい

に各種の魚介類を配し調味

料につけて食べる形であった

鎌倉時代には禅宗の影響に

より動物性食品を排除した

精しょうじん進料理が発展した道元禅

師は調理も修行の一つとして

その心得を記した『典て

んぞ座教き

ょうくん訓』と

食事への感謝の念作法を説い

た『赴ふ

粥しゅく

飯はんぽう法』を著した

室町時代上層階層の料理文

化として本膳料理が登場した

この形式は江戸時代後期には

婚礼などの儀礼食として各地域

に浸透し昭和期まで継承され

た本膳には飯汁菜香の物

が盛られ飯を主食とした伝統

的な食事の形式が定着すること

になるまた酒とその酒肴も

本膳に伴って発展した

安土桃山時代には茶の湯に

ともなう懐石が発展した一汁

三菜を基本に旬の素材にこだ

わり食事空間のしつらいにも

気を配るなど精神性をも盛り込

んだこの形式はその精神と

共に現代に引き継がれている

江戸時代の都市部ではそば

すしてんぷらなどの食べ物屋

高級料理店なども広がりをみせ

た料理書の出版も相次ぎ酒

と酒肴を楽しむ料理屋の会席料

理も成立したまた和菓子の

温暖化が進み狩猟が大型獣から小型獣になる

南九州で竪穴式住居にドングリ貯蔵穴が広まる

ドングリなどの植物性食料が重要な食料になる

水田稲作が日本列島に伝来

稲作の広がりと定着魚を発酵させたなれずしの登場

『魏ぎ

し志』倭わ

じんでん

人伝には倭(日本)では冬夏に生菜を

飲食に高杯をつかい手食するとある

土は

師器の移動式かまどの使用

土師器の甑こ

しきに

よる蒸し米が盛んになる

中国に遣唐使を送る大陸の食文化がもたらされる

675年天武天皇が「牛馬犬猿ニワトリ」の

食用を禁止

牛乳を煮詰めて作った「蘇そ

」が朝廷に貢納される

箸の利用が広がる

貴族の大だ

いきょう饗料理や年中行事が中国の影響で定着

豆腐が中国より伝来する

栄西が宋より抹茶法を持ち帰る

道元が禅宗における食事作法や調理の心得を

説いた『典て

んぞきょうくん

座教訓』『赴ふ

しゅくはんぽう

粥飯法』を執筆

植物性食品のみを使った精進料理の発展

武士の供応食本ほ

んぜん膳

料理の形成

包丁人と呼ばれる料理人が誕生し包丁流派を形成

刻み目のついたすり鉢が広がる

酒造技術の進展

書院茶の湯からわび茶の湯へ

千利休により茶の湯が完成

懐石形式の定着

豊臣秀吉が北野大茶会を開催

欧州が大航海時代に入り

南蛮貿易により南蛮菓子唐辛子などが日本に伝来

日本初の出版料理書『料理物語』刊行

都市部に食べ物屋や料理屋が普及する

料理屋の会席料理形成

けがれによる肉食禁忌の観念が広く浸透

薬食いとしての肉食

飢き

きん饉に備えさつまいもやじゃがいもの栽培を奨励

和菓子の完成

握り寿司やてんぷらが江戸で流行する

肉食解禁と牛鍋の流行

『西洋料理指南』など西洋料理書の出版

西洋料理店の発展

米の摂取率が平均53に

家庭向け料理書の出版

女学校における食物教育

脚か

っけ気

論争がさかんに行われる

牛肉の不足から豚肉の生産が増加

洋菓子の製造発展

物価高騰と米不足によるじゃがいもパンなどの代用食の奨励

国立栄養研究所の開設と栄養学の発展

都市部で和わ

ようせっちゅう

洋折衷料理が普及

戦争による食料不足

食料統制米などほとんどの食品が配給切符制となる

イモなど代用食の増産

戦後のミルクとパンの学校給食が開始

各地に闇市ができる

食料の価格が高騰

厚生省が日本人の栄養基準値を策定

農家の生活改善運動が展開

即席ラーメンなどインスタント食品の開発販売

冷凍冷蔵庫の普及と冷凍食品が普及

日本型食生活の提唱

ファミリーレストランファストフード店の増加

コンビニの発展

日本食の洋食化と簡便化と米摂取量の減少

食料自給率が39〜40に低下

レトルト食品の売上増大

電子レンジ普及率が約90に

遺伝子組み換え食品が登場

地球温暖化など環境問題が深刻化

阪神淡路大震災東日本大震災により災害食が注目される

持続可能性が社会課題に

家庭料理の変化や家族の孤食化などの問題が生まれ和食の見直しへ

明治時代大正時代昭和時代(戦前戦中)昭和時代(戦後)平成1869~1912年1912~1926年1926~1945年1945~1989年1989年~

1516 WASHOKU

家庭料理の変化や家族の孤食化などの問題が生まれ和食の見直しへ

基本はほぼこの時代にできたと

いえよう

いっぽう各地域の日常食の

主食は麦雑穀芋類を混合し

たかて飯やうどんなど小麦粉を

用いた食事が多くそれは昭和

期まで引き継がれ各地で独自

の「和食」の文化が形成された

西洋文化を積極的に取り入れ

た明治時代以降西洋料理書が

出版され都市部では西洋料理

店が開店したまた明治時代

後期には家庭向け料理書の出

版が相次ぎ西洋料理をアレン

ジして和食に取り入れた和わ

よう洋

折せっちゅう衷料理が数多く紹介された

大正期国立栄養研究所の開

設により栄養学の研究が進み

日常食の栄養についての関心が

少しずつ広がった

飢餓を経験した戦時期を経て

主食に偏らず副食に動物性食

品や油脂を加えた食事が推奨さ

れたその結果1980年頃

になると日本人の食事は米飯

を基本にしながらも乳乳製品

肉魚類野菜類などを適度に

加えたよりバランスのよい食

事となったこの時期の食生活

を「日本型食生活」と呼んだし

かしその後食生活の洋風化

簡便化が広がり食料自給率は

40パーセントと減少した若年

層を中心に食事の基本型が崩れ

欠食孤食などが話題となり和

食の見直しが求められるように

なった

1718 WASHOKU

「和食」の特徴1

献立のかたち

「ご飯」を食べるために

「汁」と「菜」がある

「一汁三菜」が和食の基本型

「一汁三菜」とは「ご飯」と「汁」と「香の物」に

いくつかの「菜」が添えられるという組み合わせ

「ご飯」と「汁」と「香の物」に「お菜」が3品添えられるという献立が一汁三菜この場合は焼き魚(右奥)と煮物

(左奥)と小松菜のおひたし(中央)の3つの菜で構成される向かって手前左にご飯を手前右には汁をその間に香の物をそれぞれ置くという決まりになっている

1718 WASHOKU

米を炊いた「ご飯」昆布や鰹

節などでとっただしを味噌や塩

などで味付けした具入りの「汁」

塩漬けやぬか漬けや粕漬けなど

の「香の物」そして焼き物や煮

物や和え物などの「菜」その4

つの要素で構成される「一汁三

菜」という組み合わせがある

基本的には汁が一種で菜が

三種の構造を「一汁三菜」と呼

ぶ食事中に口の中をさっぱ

りと保ってくれる「香の物」と

ご飯はいつも必ずついていて

その数も変わらないからあえ

て数えない

日常の食事である一汁三菜に

対して江戸時代によく登場す

るのは二汁五菜つまり汁が二

種に菜が5つこれが昔のおも

てなし料理の基本でお膳もふ

たつ出たいいかえると一汁三

菜はひとつのお膳に載るふだ

んの家庭の食事であることがわ

かる

また汁にもいろいろあった

魚のアラを汁に仕立てたものや

野菜を豆腐と一緒に煮込むけん

ちん汁など具だくさんの汁も

各地域でみられ汁でご飯を食

べるということも和食の特徴の

ひとつだ

一汁三菜の献立の最大の特徴

は汁も香の物も菜もすべてご

飯を食べるために存在するとい

う点かもしれないご飯が主食

でその他の3つの要素が副食

という考えが一汁三菜の根底に

ある少ない菜でたくさんのご

飯を食べご飯の量でカロリー

の摂取量を調整するのがかつ

ての和食の基本的な食べ方だっ

たのだ

「和食」にとって欠かせないご

飯についてもここで触れてお

こう

米には「うるち米」と「もち米」

とがあり強い粘性を持つもち

米は赤飯などのおこわ(強こ

わいい飯

や餅に用いられるそれに対し

てうるち米はもち米より粘り

気が少なく通常の米飯として

使われる

米のもとになる稲の栽培が始

まったのは1万年以上前とされ

野生の稲を栽培したのが始まり

と考えられているその原産地

は中国の長江流域とその周辺

という説が有力でそこから西

へ伝わった品種がインディカ種

また東へと伝わり東アジアに

広がったのがジャポニカ種だ

「和食」における献立の目的は

いわば汁と菜でご飯を食べる

ことつまりご飯に合うのなら

例えばそれが肉じゃがでもコ

ロッケでもとんかつでも菜と

して取り入れてこられたのは

ご飯を主食とする「和食」のス

タイルがしっかりしていたか

らである一汁三菜という和

食の基本型がなくなったら外

国の料理と変わらなくなって

しまうだろう

「和食」の特徴 献立のかたち1

稲 玄米 白米 調理加工

粉にする

飯餅菓子米飯焼き米ひなあられ餅おかきあられ

稲わら 俵わらづと鍋釜敷き畳床むしろわらぞうり縄みのわらぼうき など

酒酢みりん味噌発酵させる

糠 たくあん糠漬けあく抜き

(上新粉など)柏餅草餅重

お も ゆ

湯など

(白玉粉落ら く が ん

雁粉道明寺粉など)白玉最中大福餅落雁桜餅など

どうみょうじ

うるち米の粉

もち米の粉

日本人の暮らしに深く関わる稲米

 現在世界で栽培されている稲の主な種類にはインディカ種(インド型イネ)やジャポニカ種(日本型イネ)などがあるインディカは長粒種と呼ばれる米ジャポニカは日本でよく食べられている丸く短粒な米で短粒種と呼ばれる米の主成分であるでんぷんにはアミロースとアミロペクチンとがありアミロースを多く含むインディカ種は粘り気が少ないのに対しアミロースの少ないジャポニカ種は粘りが強く日本人にとってはおいしい味の米であるそしておにぎりやすしのようにまとめる米料理も発達した 世界の米の生産量は約6億トンと小麦とほぼ同じだがその90以上が日本を含むアジア諸国で栽培されているジャポニカ種は全体の15を占め日本をはじめとして朝鮮半島中国東北部台湾北部などで主に栽培されているインディカ種の栽培地域はインドからベンガル地方のバングラデシュタイをはじめとするインドシナ半島中国の中南部インドネシアなど南アジアが中心だ

ジャポニカ種とインディカ種日常私たちがご飯として食べているのはうるち米赤飯や餅にするのはもち米である栄養価はほとんど同じであるがでんぷんの構成が異なるうるち米はアミロースとアミロペクチンの比率が約28であるがもち米はほとんどアミロペクチンで構成されているそのためにもち米はうるち米に比べて粘りが強く餅にするのに適しているのである日本では両方の米の特徴をうまく利用して粒のまままたは粉にするなどしていろいろな料理や菓子を生み出したり発酵させて酒やみりんなどをつくり出したりしてきた

うるち米ともち米

インディカ

ジャポニカ

「和食」に欠かせない

米はどこから来たのか

1920 WASHOKU

全国各地でさまざまな魚や野

菜が豊富に手に入ったことそ

して文明開化の時代まで一般

的に肉食をしなかったという背

景から「和食」は野菜と魚介類

を中心に調理されてきた

現在日本の市場で流通する

野菜の数は150種類ほどと言

われているその種類はイモ類

やマメ類をはじめ根菜類茎け

いさい菜

類葉菜類果菜類など実に多

様ださらには山菜やきのこ

など森林に自生するものも調

理に工夫することでうまく食材

として取り入れてきた

日本で流通する野菜は近代

になって外国から輸入されたも

のや品種改良によって食べや

すくなったものなど多様では

あるが昔から日本で作り続け

られている伝統野菜(在来野菜)

も少なくない伝統野菜とはだ

いたい三世代以上に渡って栽培

「和食」の特徴2

食材

和食を支える日本の食材

おいしさの秘密と多様性

おいしい和食には素材の力がある四季折々の自然の中から

生み出される日本の食材は驚くほど多様性に富んでいる

野菜

野菜と魚介類の二大食材に

支えられる日本食文化

和食には野菜を使う料理が多くあるが現在日本で流通する野菜の種類も150以上と幅広い分類にしてもジャガイモやサツマイモなどのいも類大豆や小豆などのマメ類ダイコンやカブなどの根菜類ネギやウドなどの茎

け い さ い

菜類コマツナや白菜などの葉菜類ナスやキュウリなどの果菜類そのほかにシイタケやシメジなどのきのこやワラビやゼンマイなどの山菜など多彩な野菜が存在するしかし現代でこそ流通の発展でさまざまな野菜が一年中手に入るが全国で同じ野菜が収穫できるわけではない例えば同じいも類でもサツマイモなどは九州などで多く作られるが冷害に強く冷涼な地で生育するジャガイモは山梨や長野などの山間部や日本の北部で育てられるそのほか地域特有の特産品である伝統野菜がいま注目され始めている

1920 WASHOKU

が続けられ地域に根づいた農

法で作られるものを指しこれ

を守る動きも目立ってきている

魚介類も「和食」にとって欠か

せない食材のひとつ日本で獲

れる海水魚は実に種類豊富で

日本に生息する魚種だけでも約

4200種ある縁起のよい魚

として重宝されるタイをはじめ

アジイワシやサバサンマなど

日本の近海は魚の宝庫である

海水魚だけでなくコイやア

ユフナやウナギそして水田で

獲れるドジョウなどの淡水魚

(川魚)は海から離れた地域では

貴重なタンパク源だったため

古くから料理に使われている

ウナギの蒲焼きは一般的だが

薄切りにしたコイを50くらい

の湯に短時間漬けてから冷水で

身を締めて酢味噌で食べる「鯉

のあらい」やコイの切り身を濃

い味噌で煮た「鯉こく」など味

わい方も豊富

またうま味のもととして古

くから使われてきた昆布や味

噌汁の具としても重宝するワカ

メさらにおむすびに必須の海

苔など海藻類も和食には欠か

せない貝類も種類が豊富で

アワビをひも状に薄くむき乾

燥させた「熨の

しあわび

斗鮑」が神事や祝し

ゅうぎ儀

の象徴として使われてきた

近年日本の食料自給率が低

下し外国産食材の増加も問題

視されているが本来の「和食」

は日本の自然の恵みによって支

えられているのだ

「和食」の特徴 食材2

島国である日本において魚介類は古くから貴重でかつ重要な食材であった農林水産省の定める生鮮食品品質表示基準によれば日本で食される水産物はマグロやカツオイワシやアジなどの海水魚やコイやウナギなどの淡水魚(川魚)シジミやアサリなどの貝類カニやエビなどの甲殻類やカメなどの水産動物類クジラやイルカなどの海産哺乳動物類そのほか昆布やワカメなどの海藻類など実に多様な種類がある2000年に味の素(株)がおこなった「嗜好調査」によれば「食材」としては肉類よりも魚介類のほうが好まれている結果がみられたさまざまな魚介類のなかでもカニエビマグロなどへの嗜好性が高くそれらが「贅沢な食材」と捉えられているようである

山間部など海の魚が手に入らない地域で貴重なタンパク源として重宝されたのが淡水魚(川魚)写真はアユだがその他コイやウナギドジョウワカサギフナなど日本ではさまざまな川魚が食材として使われてきた寄生虫のおそれがあるため生食はあまりされないがその代わりに調理にはさまざまな工夫が見られる海の魚に比べると独特の臭味やクセがあるため「鯉こく」のようにしっかりと煮込むことで臭味を除いたりウナギのように蒲焼きにしたりするなどがその一例だまた例えば滋賀県には琵琶湖で獲れるフナを塩と米で乳酸発酵させ保存性を高めると同時にうま味成分を引き出した「ふなずし」もある

古来日本で食べられてきた海藻類現在でも低カロリーでミネラルビタミンに富む食材として和食では重宝されている日本では約50種類の海藻が食べられているが世界的にみてもここまで多様な海藻を加工し食用とする民族は珍しいなお海藻にはフノリやテングサのような紅藻ワカメ昆布やモズクなどの褐藻アオノリや海ブドウなどの緑藻類の3種類の海藻が存在する昆布のようにだしをとるために使うものもあるが乾燥させて食べる海苔味噌汁や酢の物の具として使われるワカメのようなものまで実に幅広いまた海藻は神への奉納品としての縁も深く日常の食事だけではなく祭りや神事などにも登場している

縄文時代の遺跡である貝塚からアワビやハマグリカキなどの大量の貝殻が発見されていることからもわかるように貝類は日本では古くから食材として利用されてきた春先の干潮時に浜辺に埋まったアサリなどの貝を掘り出して採取する潮干狩りは春の風物詩としても馴染み深い日本には6000近い貝類があるといわれておりなかでもアサリやハマグリのような二枚貝サザエやツブ貝のような巻き貝が食用として親しまれている調理法としては刺身や吸い物味噌汁煮物焼き物炊き込みご飯など幅広い料理に使用されているがだしをとるためにも使われるさらに乾物にすれば保存性も高くなるため古くから交易にも活用されてきた

海の魚

川の魚

海藻貝

2122 WASHOKU

和食における菜さ

の調理法には

煮る焼く蒸す茹でる和あ

える

揚げるなど実に多様な技法が

あるこれを季節の野菜や山

菜魚介類海藻などの食材と組

み合わせることでバラエティ

に富んだ菜が食卓を彩る

数ある日本の調理法の中で

最も特徴的なのは「生もの」材

料を生のまま切り皿に盛り付

け調味料と薬味を添える刺

身といえば魚介類が用いられる

のがほとんどで捌さ

き方切り方

盛り方などが現在世界で注目を

浴びている材料を新鮮な状態

に保つ技術と料理としての盛り

付けの技術があいまって完成し

たものといえる調味料と薬味

の組み合わせも魚類との相性を

考えて工夫されているまた

わさびしょうがからしなどの

薬味や「つま」や「けん」と言わ

れる大根のせん切り大葉防ぼ

うふう風

芽めたで蓼花は

なじそ

紫蘇など防菌効果のあ

るものを添えて見た目も美し

く組み合わせている

ご飯と並んで食卓に欠かせ

ない「汁物」は鰹節や昆布煮干

し干し椎茸などから抽出され

るだしのうま味と具として入

れる素材のうま味が味わいのベ

ースとなっている中には具だ

くさんの菜になるような汁も

ある

また豊富な水を利用した調理

焼き物(サンマの塩焼き)

直火焼きは遠火の強火でほかに間接焼きがある

生もの(カツオの刺身)

生ものには刺身あらい酢の物漬物がある

茹で物(もりそば)

小麦粉やそばなどの粉からつくる麺を茹でる法

旬の食材のおいしさを

引き出す調理法の数々

「和食」の特徴3

調理

切る煮る焼く蒸す茹でる和える揚げるhellip

あの手この手で素材をよりおいしく

バランスの取れた一汁三菜の基本はご飯にあり

ご飯をおいしくいただくために菜さ

の調理方法は進化した

煮物(筑前煮)

煮汁の中で加熱中に調味する法

2122 WASHOKU

法に「茹で物」があるたっぷり

の水を沸騰させ食材を加えて加

熱して取り出すもの青菜そば

などは茹でた後にあくの除去

歯触りを良くするなどのためさ

らに水で洗う場合も多い私た

ちがあたりまえのように調理し

て食べているほうれん草や小松

菜のお浸しは水に恵まれた日本

に定着した料理で世界的にみて

も特徴あるものといえよう

「焼き物」はサンマの塩焼きの

ように塩をふり直火でじっく

り焼き上げる方法が伝統的

「煮物」は世界で最もポピュラ

ーな調理法だが日本では素材

の味を生かしつつ醤油や味噌

など大豆由来の発酵調味料で

味を調えるものが多い

油とともに加熱調理する「炒

め物」は伝統的な調理にはほと

んど見られないが現代では盛

んに使われ和食の幅を広げて

いる

ここに紹介した調理法と料理

の例は主にご飯のおかずとな

るものであるが小麦そば雑

穀などを粉にしこれを調理し

た主食も多い代表的なものに

うどんそばそうめんなどの麺

類があり茹でる場合が多いが

煮込みなど煮るものもある

さまざまな料理を組み合わせ

て食べる和食は素材の味を生

かしうま味をしっかりとれば

最低限の調味料でおいしさを感

じることができ多様な料理を

楽しむことができる

和あえ物

(きゅうりとワカメの酢の物)

野菜や魚介類などをごま味噌酢などで和える法

漬物(きゅうり大根の糠

ぬか

漬け沢たく あ ん

庵漬け)生ものを保存する方法の一種

塩の働きに加え乳酸発酵させたものが多い

汁物(なめこの味噌汁)

だし汁を主体とする法すまし汁みそ汁とろみのついた汁など

蒸し物(茶碗蒸し)

水を沸騰させその水蒸気を利用して加熱する法

浸し物(小松菜のお浸し)

お浸しは調味した汁に浸して味をつけたもの

「和食」の特徴 調理3

揚げ物(天ぷら)

高温の油で食品を加熱する法油の温度は150~200度の範囲で行うことが多い

2324 WASHOKU

「和食」の特徴4

味わい

うま味日本人が発見した「おいしく食べる」最大の知恵

和食の味わいの中で最も重要なのがだし

味噌汁やすまし汁のベースとなり

煮物やおひたしなどさまざまな料理の

味を決定づける味の要だ

和食の味わいを語るうえで忘

れてはならないのがだし(出

汁)の存在汁物や煮物などさ

まざまな料理のベースとして使

われている

なぜ日本人はここまでだしを

好むのかその答えに大きく関

係するのが「うま味」だ江戸時

代の料理書には「だしこそ料理の

根本である」と書かれている

1907年池田菊き

くなえ苗

博士に

よって世界で初めてうま味成

分のひとつがアミノ酸の一種で

あるグルタミン酸であることが

発見されたその後日本人を中

心に研究が進みうま味は甘味

塩味酸味苦味に加えて第5

の味覚として広く知られるよう

になる現在ではうま味調味

料やだし入りのつゆなどうま

味成分を手軽に使える調味料も

普及海外でも人気が高く国

内でも日常的に使用されている

だしのほかに和食の味付け

日本が世界に誇る

第5の味覚うま味

うま味成分を多く含む椎茸もだしをとる目的で使われてきた食材のひとつだしに使用するのは干したもの椎茸は乾燥させることでうま味や香り成分が増すためだ

小魚を煮て乾燥させてつくる煮干しも汁物に多用される材料としてはカタクチイワシが代表的だがその他ウルメイワシやキビナゴトビウオなどの比較的魚体が小さな魚を使ってつくるのが一般的だ

だしのとり方は魚介や野菜から水や湯を使ってうま味成分を抽出するのが一般的だしの素材として最もよく使われるのは昆布と鰹節でそのほか煮干し野菜干し椎茸魚の内臓やあら(頭や骨)などがあるまた潮

うしおじる

汁のように食品そのもののうま味を活かす方法もある

鰹節

「だし」のこと

昆布

煮干し

干し椎茸

2324 WASHOKU

に欠かせないのは塩砂糖味

噌醤油酢酒みりん魚醤な

どの調味料わさびやからし

しょうが山椒とうがらしゆ

ずなども薬味として使われる

これら薬味によって季節感を楽

しみながら素材の味を引き出

すという知恵も「和食」ならでは

夏に高温多湿となる日本では

アジア諸国と同様発酵食品が

発達したそれゆえ味噌や醤

油や酢に代表される発酵調味料

を多用するのも和食の特徴大

豆や穀物を塩漬けにして発酵

させてつくるものだがその過

程で原料のタンパク質がアミノ

酸に分解されうま味成分を豊

富に含んだ調味料ができあがる

のだ

発酵食品も多様だ日本各地

でカビや酵母などの微生物の

働きを活かして食品中のアミ

ノ酸(うま味)を増やす発酵食品

が発達してきた冬場の保存食

として生み出された沢庵や塩

を使って乳酸発酵させる京都の

すぐき菜漬けそして糠ぬ

漬けや

奈良漬けなど野菜を発酵させ

た漬物さらに塩辛やくさや

なれずし鰹節など魚介の保存

食としての発酵食品また大

豆を納豆菌で発酵させる納豆や

こうじ菌で発酵させて乾燥後に

熟成させた寺納豆など大豆の

発酵食品もある

「和食」はうま味を上手に生

かし食材をおいしく食べる知

恵を育んできたのだ

発酵食品

発酵調味料

調味料

「和食」の特徴 味わい4

発酵食品と調味料

魚醤魚を塩漬けにして発酵させる独特の香りと濃いうま味が特徴の調味料ハタハタでつくられる秋田の

「しょっつる」イカやイワシを材料とする能登半島の「いしる(り)」などがある

酒酒もまた和食の調味に欠かせない発酵調味料のひとつ調味料としての酒の主な効果には材料の臭みを消す食材のうま味を引き出して風味をよくする甘みを加えるなどがある

塩海に囲まれている日本では古くから塩は調味料として使用されてきた焼き物や刺身などの調理の味付けとしてはもちろん漬物や干物など食物を貯蔵するための知恵としても活用されている

味噌蒸したり煮たりした大豆にこうじ食塩を混ぜて発酵熟成させた日本を代表する調味料のひとつ味噌汁や煮物などに使われることが多い地域によって使用される味噌の種類がかなり変わるのも特徴だ

酢寿司やなますなど和食に酸味を加える調味料米から醸造した酒に酢酸菌を加えて発酵させて造られる酢に漬けることにより保存性を高める

醤油大豆と小麦で造ったこうじに食塩水を加えた「もろみ」を発酵熟成させ搾ったもの刺身や焼き魚煮物炒め物など幅広い料理に使われている種類は濃口薄口たまり再仕込み白の5つに分類される

みりん蒸したもち米と米こうじを主原料に40~60日かけて熟成させて造られる発酵調味料砂糖と比べて甘みがやわらかく食材の臭味を取る働きもあるまた魚の照り焼きなどのつや出しにも使う

漬物素材を食塩や酢酒粕醤油などに漬け込み熟成させて作られる漬物沢庵や梅干し野沢菜漬けなど野菜類を長期間保存するための知恵として誕生した日本各地に独特の漬物があるのも特徴だ

納豆日本で発展した発酵食品である納豆大豆を納豆菌で発酵させた食品で寺納豆(下記参照)と区別するため「糸引き納豆」とも呼ばれる単品で食べるだけではなく納豆汁や納豆和えなどにも使われている

塩辛魚介類の身や内臓を塩漬けにし発酵させて作られた塩辛は日本における伝統的な保存食品のひとつ使われる素材はその地域によって変わりイカやエビアミタコなど多彩な種類の塩辛が存在する

塩に漬けた魚と炊いたご飯を数日間置き乳酸発酵させたなれずしは魚を保存する知恵として生まれた滋賀県では琵琶湖産のふなを和歌山県や富山県ではサバを岐阜県などではアユを材料にしたものが有名写真は滋賀県湖北地方の年頭の祭りで振る舞われる鯖のなれずし

砂糖世界的に見ても「甘み」を用いた料理が多い現在の和食では砂糖は欠かせない調味料のひとつ単独で料理に使われるというよりは煮物をはじめとするさまざまな料理で醤油や塩味噌などと併用されることが多い

寺納豆茹でた大豆にこうじを加えて発酵させ乾燥させながら熟成を促す発酵食品粘り気のある糸引き納豆とは異なり乾燥して塩辛い禅宗の伝来とともに大陸からもたらされたとされ寺院で作ることが多かったため「寺納豆」と呼ばれた

2526 WASHOKU

「和食」の特徴5

栄養

栄養バランスの優等生「和食」

野菜や魚肉そして米によって構成される「和食」は

栄養バランスの良さでも知られている

最近は五日間すべてを米飯にする完全米飯給食を行う地域も生まれた

和食の特徴のひとつである栄養についてその秘密に迫る

米麦雑穀などを炊いたご飯

を主食としてこれに魚介肉

類野菜類に発酵調味料だしを

組み合わせた和食は栄養学的

にみてもバランスをとりやすい

食事である

歴史的にみると日常食では

主食を大量に摂る習慣が続いた

穀類偏重の食生活だったといえ

よう

しかし豆腐や納豆みそ汁な

どを飯とともに摂ることで米の

アミノ酸の利用率を上げる食べ

方年中行事などハレの日に魚

介類などを摂取して楽しむなど

学ぶべき知恵は多い

なかでも何百年も伝えられて

きた和食の基本型はすぐれた

ものといえよう

副食の主菜には魚肉豆腐

などタンパク質を多く含む料理

を考える副菜には主菜に使わ

なかった野菜芋類などを使い

汁は主菜に合うものを用意する

焼き魚野菜の煮物青菜のお浸

しとみそ汁などでも栄養的バ

ランスはとれている

1980年頃までは多くの

家庭で和食の基本型が続いた

主食の量がやや減り副食が増

加とくに乳乳製品肉類の割

合が増加したこの頃栄養バ

ランスをはかる一つの指標であ

るPFCバランスが理想的な比

率を示した(左記参照)

しかしその後外食の日常化

家庭料理の欧米化が進み米の

摂取量が激減し脂質摂取の過

多などから生活習慣病が問題

となったこうした中各地で

食生活を見直す動きがみられる

ようになったその一つが学校

給食での取り組みである

戦後の食料難の中でパンと

牛乳に副食を加えた完全給食は

1950年に始まった197

6年に米飯が導入されるまで長

く続いたパン給食は和食の基

本型にも影響を与えたようだ

米飯給食は次第に増加し

2010年には週3回以上米

飯給食を実施している小中学

校は90以上となったが週5

回の米飯給食の実施は7以

上と高くない

ここでは2008年に5日

間すべてを米飯給食とした新潟

県三条市の事例を紹介しよう

成長期にバランスのよい食事

で健康な体をつくることそし

て望ましい食習慣を身につけ

生涯を健康に生きることをめざ

し完全米飯給食を実施したと

のこと

米は同市で生産される農薬

を減らしたコシヒカリを七分搗つ

きにした米飯を主食に副食は

主菜副菜汁を組み合わせる献

立をベースとしている主菜は

サケのフライ鶏肉ピリ辛焼き

さんま梅煮など伝統的な和食だ

けではないが和食の基本型の

中に取り入れる工夫がされてい

るパ

ンは油脂や糖分と相性が

良く肥満につながりやすいが

新潟県三条市の給食献立一例三条市の小中学校での献立例ご飯は三条市で収穫したコシヒカリを使用「お米だと腹持ちがよいのでデザートをあまり出さなくとも子どもたちが満足してくれる」とのこと洋風や中華風の献立でもおかずはご飯に合うものを選びスープなどの汁物は確実につけるように心がけている

火曜日

えだまめごはん

さけチーズフライ

くきわかめきんぴら

かきたまじる牛乳

小学校687kcal中学校823kcal

水曜日

ごはんとりにくのぴりからやきいかときゅうりの

あえものしょうがみそスープ牛乳小学校639kcal中学校752kcal

木曜日

ごはんさんまうめにたくあんあえにくじゃがに牛乳なし小学校688kcal中学校814kcal

金曜日ごはんカレーふりかけほうれんそうオムレツフレンチサラダパンプキンスープ牛乳小学校708kcal中学校833kcal

月曜日

ごはんいかのかりんあげ(2こ)

なっとうあえきのこけんちんじるのむヨーグルト

小学校619kcal中学校731kcal

2526 WASHOKU

七分搗米の飯は腹持ちがよく

おやつを食べる子どもが減った

だけでなく肥満の子どもが減

少傾向となり食生活のリズム

が良くなったとされる

また米飯に合う副食は土地

でとれる野菜類を取り入れやす

く季節にあわせてバラエティ

ーに富んだ献立を作ることがで

きる一汁三菜の食べ方の教育

を行った結果給食を残す子ど

もたちも減ったという

基本的な食事パターンが続く

中でも菜を工夫すれば変化に

富む食事を作ることはできる

季節の食材について学び年中

行事への知識も得られるだろう

また子どもたちが和食の基

本型を毎日の給食で体験してい

ることはきわめて重要なことで

ある時々経験するだけでは身

につかないものでも毎日繰り返

すことによって習慣化し定着

するのであるそしてやがて

自分で組み合わせを考えられる

ようになることが期待される

今後の学校給食の役割は大きい

といえるだろう

PFCバランスとは

FAO Statistics Yearbook(日本のみ食料需給表)参照栄養バランスが良いとされるP(たんぱく質)10~20F(脂質)20~30C(炭水化物)50~70の範囲が08~12に収まるように指数化した

日本でのPFCバランスの変化

アメリカとフランスのPFCバランス

タンパク質脂質炭水化物は人間にとって特に不可欠な「三大栄養素」PFCのPはProtein(たんぱく質)FはFat(脂質)CはCarbohydrate(炭水化物)の頭文字でPFCバランスとは食事の中での「たんぱく質」「脂質」「炭水化物」のそれぞれの摂取カロリーの比率健康的な生活をおくるためにはPFCバランスがたんぱく質15脂質25炭水化物60が理想的

給食時には全員で「いただきます」「ごちそうさま」を復唱食育にも力を入れているためそれら言葉の意味についても学校で教えている

米飯給食になってから児童たちの食の嗜し こ う

好に変化が生まれたとか児童たちに好きなおかずを聞いてみると「ハンバーグ」「カレー」などの定番メニューのほか「焼き魚」「納豆」などの和食メニューの名前が上がった

自分の分を食べ終わった児童たちが列をつくって競い合うようにご飯をおかわりしていたこの日の食べ残しはゼロ

C

P

F

14

12

1

08

06

アメリカ(2005~2007年)

C

P

F

14

12

1

08

06

フランス(2005~2007年)

「和食」の特徴 栄養5

日本人のPFCバランスは1965年当時は炭水化物に偏っていたが1980年は非常に理想的な配分になっていたしかしその後の日本人の食生活に肉や油脂類を多く摂り主食の米を食べる量が減り2010年時は欧米型に近づきつつある

C

P

F

14

12

1

08

06

日本1965年

C

P

F

14

12

1

08

06

日本1980年

C

P

F

14

12

1

08

06

日本2010年

2728 WASHOKU

お客を迎える前には店先に打ち水を水で清め準備が整ったことを伝える趣向に合う軸を選ぶのももてなしの基本飾る花は主人自ら育てたものそれを床の花入に活けるのも主人庭に150種ほどの草花を植え日々育てることもしつらいの準備客は女将の温かいもてなしに迎えられる

「和食」の特徴6

しつらい

人をもてなすためのこころとかたち

もてなしは客に対する一方的なサービスではない

お互いに思いやる気持ちから生まれるこころよさである

手入れの行き届いた庭は掃き

清めて水を打ち床の間には軸

を掛け季節の草花を生ける

座敷の襖ふ

すま

も夏には葭よ

しど戸に入れ替

え夏は涼やかに冬は暖かに

すべて相まってもてなしのた

めの用意を整えることそれが

しつらい和食とりわけ懐石

料理においては食材や料理と

ともにしつらいは非常に重要

な要素となる

家庭でも食事をつくる人は

食べる人の顔を思い浮かべなが

ら食事の用意をする食べる人

はつくってくれた人の気持ちを

考えて賞味するここに互いに

もてなす喜びが生まれるのでは

ないだろうか

こうしたもてなしの文化を極

限にまで洗練させた姿が料亭の

もてなしである京都府の無形

文化技術保持者に料理人として

初めて認定された京都の老舗料

亭「瓢亭」の十四代主人高橋英一

さんにその心を聞いてみよう

「料亭は日本文化の凝縮のひと

つと言えます玄関から入って

座敷に行くまでに通る露地にも

季節感があり部屋に入れば時

季や行事の軸がありその座敷

のために選んだ花が飾られる

日本人が自然と身につけている

桜の器を使うことで膳の上にぱっと花が咲くような華やかさが生まれるあしらいは酢取り防風岩海苔

秋の花菊の器はこっくり深い色合いも相まって秋に似合う風情を持つあしらいは岩茸菊花

深さのあるガラスの器に氷が敷き詰められる涼感を目でも舌にも感じるあしらいは穂紫蘇寄せ莫大

縁起のいい鶴は新年の席でも使われるモチーフあしらいは水前寺海苔紫芽紫蘇

四季の感性で受け止めてもらえ

るよう整えお出迎えします

料亭は普段とは違うハレの場で

すがとはいえ行き過ぎず足り

ないことのないよう自然なし

つらいそしてもてなしを心が

けます」

「瓢亭」の座敷に飾られるのは

主人が庭で丹誠込めて育て自

ら生ける茶花

「もてなしの根

底に利休さんの『花は野にある

ごとく』の言葉を思いますが簡

単なようでそれが難しい」自

然体でのもてなしを生むしつら

えは名店においても日々心を

くだき工夫するのだ

「瓢亭」では1年をとおして明石の鯛の向付を供しているが季節ごとに

器とあしらいを変えることで四季を演出している

四季の演出

2728 WASHOKU

和食はご飯と菜あるいはご飯とお汁というように常にご飯を間にはさんで菜や汁をとるのが本来の食べ方下のような不作法とされる箸使い(嫌い箸)があるので覚えておきたい

ご飯は茶碗に味噌汁はお椀

に焼き魚だったら平皿にと普

段料理に合わせて何気なく使う

食器種類の多さもさることな

がら形や素材もさまざま欧

米はもちろん近隣諸国を見回

してもこれほど多種多様な器を

使う国はないそれは四季が明

確なことと無関係ではない

「自宅でも季節に合わせた器

にするだけで気分が変わりま

すよ」と前出「瓢亭」のご主人は

語る 

春であれば華やかな色や形の

もの夏はガラスや青磁など涼

しげな素材の器秋は実りのあ

る彩りがあるもの冬は厚手の

陶器や木製など温もりのあるも

の色素材形を変えるだけで

季節感を演出できる「和食」な

らではの楽しみ

食事の際当たり前のように

使っている箸も日本の食文化

を代表する食具奈良時代以

降匙さ

を使う伝統が消え箸だ

けを使うようになったため熱

い汁物は椀を持ち直接口を

つけてすする文化が確立同

時に椀箸ともに個人所有が基

本となった椀や箸を共有し

匙やレンゲを使うほかの東南

アジア諸国とは異なる食文化

を形成箸食文化圏の中でも

唯一箸だけでご飯を食べる国

となったまた一口に箸といっ

ても食箸取り箸菜箸など用

途に合わせてさまざま食べ

る際に使う食箸だけを見ても

形や素材のほか加工や長さも

豊富にそろうのだ

「和食」の特徴7

箸と椀

「和食」を支える箸と椀

箸食文化圏の中でも唯一箸だけを使う国日本

季節感を感じさせる器とともに独特の食具文化も誇る

渡し箸食事の途中でお箸を

食器の上に渡し置くこと

寄せ箸遠くの食器を

箸で手元に引き寄せる行為

指し箸食事中箸で人やものを指すこと

迷い箸どの料理にしようか迷い箸を料理の上で動かすこと

移り箸いったん取りかけてから

ほかの料理にお箸をうつすこと

箸には食事に使う食箸と調理に使う菜箸とがある菜箸は熱から手を守るため30~50と長く片方がなくならないよう糸でつながっているものもある取り箸は菜箸の一種食箸は個人所有が基本のため使う人に合わせた長さが用意されている漆塗りや螺鈿細工を施したものも多い

種類

形状だけでなく素材もさまざまで近年は黒檀や鉄木など硬質な木が使われることが多い日本の木としては特有の香りがあり古くから懐石用や割り箸に使われてきた杉耐水性耐湿性が高く保存性に優れる上に軽くて持ちやすい檜強くしなりがあり細かいものを取りやすい竹などがある

素材

家庭で使う食箸の形には角箸や四角で角が丸い胴張り五角六角七角八角のほか削りなどがあり持ちやすさに合わせて選べる箸先に加工が施されたものもある来客用に使う銘々箸や割り箸には断面が小判型で割れ目と溝が付いた元禄箸や中央部が太く両端が細い利休箸などが用意されている

日本人にとっての箸は調理から盛りつけ食事までをこなす大事な道具食箸は個人所有が基本のため個々に合わせて選べるのも特徴だ

箸の働き

箸使いの作法を知る

【嫌い箸】

食箸

八角箸 削り箸

菜箸

檜竹

「和食」の特徴 しつらい 箸と椀6 7

2930 WASHOKU

神し ん せ ん

饌として神へ供えられるお神酒は神棚の最上段の中央に置かれるほど重要な地位を占めている

日本酒を造る酒蔵は全国に約1600弱その数は年々減り続けているが数年に一度「日本酒ブーム」も起きている

日本酒とは米と米こうじ

そして水を主な原料にしてそ

れらを発酵させて造られる

原料には主食用の米ではなく

酒造りに適した性質を選び品

種改良された酒し

ゅぞうこうてきまい

造好適米を使

うことが一般的だまた日本

酒の80を占める水も品質を

左右する大きな要因日本酒

の香味を損なわない良質な水

が必須だ

日本酒の醸じ

ょうぞう造の工程にはさ

まざまな技術が伴う例えば米

を精米して味と香りを調整する

技術これは米の外側にあるた

んぱく質や脂質といった雑味の

もとを除くことが目的だが大だ

吟ぎんじょう醸酒にもなると米を半分以

上削ってから仕込むこともある

次いで米を発酵させる技術

酒の場合の発酵とは酵こ

うぼ母が糖類

を食べてアルコールを出すこと

をいうが米には糖類が含まれな

いためまずは米をこうじ菌の酵

素によって糖類へと変えそこに

酵母を加えて発酵させるという

複雑な手順(複式発酵)が必要だ

この手順で使われるこうじもバ

ラこうじと呼ばれる日本独特の

ものだバラこうじは糖化力が

高いのが特徴で日本酒の香りや

味に大きく影響する

稲作を中心に文化を育んでき

た日本では米餅米から造ら

れる酒は地域を問わず重要な

ものとされている米の一粒一

粒に神が宿り同じように酒も

神のおかげで造ることができる

と考えられてきたそして酒

もまた食べ物と共に神に近づ

くための手段として古くから用

いられてきた

同時に家族や親族地域で人

と人をつなぐ上でも酒は大き

な役割を担っている例えばお

神み

き酒祭礼の後には神の酒を

人々が口にする神と同じ酒を

飲みそれを人々が分かち合う

ことで地域やコミュニティが

結束力を強めるのだろう

米や麦やさつまいもなどを原

料とする焼酎も日本酒と並び

日本の國酒とされている酒は

人と人の心をほぐし食事を引

き立たせる重要な役割を担って

いるのだ

「和食」の特徴8

「和食」を引き立たせ

心をほぐす日本の酒

日本人にとっての主食であり精神のかなめでもある米

その米で醸か

される日本酒は「和食」にとって欠かせない要素

日本の「國こ

くしゅ酒

」にもなっている

2930 WASHOKU

「和食」の特徴9

和菓子日本茶

暮らしに寄り添う和菓子とお茶

自然の恵みに感謝し季節の移ろいを敏感に表現する和菓子

日本茶は喉のかわきを癒すだけでなく心を癒し心を高める飲みものである

「和食」の特徴 酒 和菓子8 9

ハレの日の願いを込めた和菓子

和菓子分類餅もの 餅団子大福など蒸しもの 饅頭蒸羊

よ う か ん

羹外う い ろ う

郎村む ら さ め

雨など煉もの 煉

ね り き り

切こなし求ぎ ゅ う ひ

肥飴葛く ず

菓子など焼きもの 味噌松風煎

せ ん べ い

餅桃も も や ま

山カステラどら焼など流しもの 錦

にしきだま

玉煉ね り よ う か ん

羊羹水み ず よ う か ん

羊羹など揚げもの 揚げ煎

せ ん べ い

餅かりんとうなど打ちもの(押しもの) 落

ら く が ん

雁など岡もの 最

も な か

中きんとん鹿か の こ

の子すはまなどかけもの 金

こ ん ぺ い と う

平糖五ご し き ま め

色豆石いしごろも

衣など

これは和菓子の製法によって大まかに分類した表このほか含有する水分量によって生菓子半生 菓 子 干 菓 子などの分け方や上じ ょ う な ま が し

生菓子並菓子駄だ が し

菓子などの分類もある

「岡もの」とはすでにできあがっ た素材をあわせたもの (例きんとん=飴玉とそぼろ餡)

甘く味付けしたごぼうと白味噌餡を赤や白の餅や求

ぎ ゅ う ひ

肥で包んだ生菓子平安時代の新年行事のひとつで長寿を願っておこなわれた「歯固め」の餅に由来する餅と味噌の組み合わせから「包み雑煮」とも呼ばれた

葩はなびらもち

一 月

旧暦十月は「亥の月」と呼ばれていたがその月のさらに「亥の日」に行われる年中行事の際に食べられていた菓子旧暦では10月が冬の始まりそのタイミングで無病息災と多産の猪にあやかって子孫繁栄を願ってこれを食べていたという

亥い の こ も ち

の子餅

十 月六 月

白いういろうの上に小豆の粒餡を散らした菓子古来京都で旧暦六月の晦

み そ か

日(30日)に無病息災を祈願して行われている

「夏なごしのはらい

越祓」になぞらえて初夏の頃に食べられている小豆には邪気祓いの意味があり三角の形は氷を表している

水無月

五 月

平たく丸めた上新粉の餅をふたつに折り中に小豆や味噌の餡を挟んでそれを柏の葉で包んだ菓子柏の葉は新芽が育つまで古い葉が落ちないことから

「子孫繁栄」を願って旧暦五月五日の端

た ん ご

午の節句の供く も つ

物として用いられてきた

柏餅

日本ならではのお茶の製法である手揉みは茶葉の繊維をつぶしながらうまみを引き出すために行う作業手揉みすると茶葉が切れないため茶の甘みを保つことができる

菓子もまた「和食」にとって欠

かせない要素でお客様用の「上

菓子」普段食べる「饅頭」や「餅

菓子」などに分かれるほかに

干菓子や駄菓子など菓子の種

類は多いまた例えば団子や

大福などは「餅もの」求肥や飴

などは「煉りもの」錦玉や

水みずようかん

羊羹などは「流しもの」などと

いうようにその製法によって

分類されることもある米や麦

小豆を代表とする豆類そして

砂糖や水あめなどの材料でバ

ラエティに富んだ菓子が生み出

されてきた

お茶会などの席で抹茶ととも

に味わう菓子もあり季節に合

わせて材料や色やデザインが選

ばれ味覚だけでなく視覚で楽

しむこともある

また年中行事と結びつく菓

子もある例えば旧暦三月三日

の「ひな祭り」では邪気をはら

い強い生命力を象徴するよも

ぎの草もちでつくった草餅を食

べる

和菓子には日本茶がふさわし

い緑茶は12世紀に中国から日

本に伝わったが今では生の茶

葉を蒸してから揉んで乾燥させ

る緑茶の製法は日本独特のもの

となっている緑茶に含まれる

カフェインは覚醒効果がまた

カテキンには抗酸化作用があり

ビタミンCも多く含まれて健

康によい日本茶独特の香りと

うま味は日本文化そのもので

ある

出典「和菓子の歴史展」第五十回虎屋文庫資料展より

3132 WASHOKU

日本の「和食」の文化は自然

環境だけでなく海外からの影

響によっても絶えず変化して

きた

近代以降にはコロッケとん

かつなど洋風料理を和食の基本

型に組み合わせた食事肉と野

菜の煮物や和え物などそれまで

にはない料理が工夫されたそ

の多くは和食の基本型味噌や

醤油を用いた味付け箸で食べ

られる料理など「和食」の要素

を保ちつつ伝えられてきた

しかし第二次世界大戦後高

度経済成長期を迎えると日本人

の食生活は急速に変化する

1970年代にファストフー

ド店ファミリーレストランが

各地に開店しコンビニなども

広がった

1980年頃主食と副食の

バランスは理想的とされたが

(26頁参照)その後米の消費量

はさらに減りパン食が増加

肉類油脂乳乳製品の消費量

も増加し食料自給率も下がっ

た家族での外食が日常化し

家庭の食事も欧米化した

食育の必要性

「和食」が危ないどうしたら伝えられるのか

この150年間で大きく変化し「和食」はいま衰えつつあるその原因はどこにあるのだろうか

食生活の変化

日本の食料自給率の変化農林水産省「食料需給表」より作成

日本のものを食べなくなって 「和食」はどうなる 日本の食料自給率は下がり続けている1965(昭和40)年度はカロリーベースで73だったが2012(平成24)年度は39その大きな原因のひとつは国内で自給可能な米や魚や野菜などの消費量が減少する一方国内で生産が困難な飼料穀物を食べて育つ畜産物や原料を輸入に頼ることが多い冷凍加工食品や小麦の消費が増加したことだと考えられている炭水化物たんぱく質脂肪分をバランスよく摂取する健康的な「和食」に未来はあるのか

国民一人一日当たりの供給純食料農林水産省「食料需給表」より作成

食べる米の量が50年で半減 増えたのは肉と乳製品 国民一人あたりが食べる量を品目別に眺めて分かることそれは日本人が食べる米の量が著しく減ってきたことだ1960(昭和35)年度は一日あたりの米の消費量は約315gだったが2010(平成22年)年度は163gに約半減その代わりに増えたのは牛乳乳製品(約60gから約240g)と肉類(約14gから約80gへ)野菜と魚を中心としたおかずでご飯を食べるという

「和食」のスタイルの変化がわかる

食料費における外食と中食の割合の推移総務省統計局「家計調査年報」より作成

家で食べても 調理することが減っている 外食に対して家庭で作って食べる食事を内食というが弁当や惣菜など調理をせずに食べられるものを買ってきて済ます食事は中食と呼ぶ実はこの中食の割合が増えている外食が占める割合は2000(平成12)年以降横ばいなのに対して中食は増え続けその代わりに内食が減っている食事は家で食べても調理はしないという家庭が増えているのだとすれば「和食」にとって大切な要素を子どもたちに伝える機会が減っているとはいえないだろか

食料自給率(金額ベース)

食料自給率(主食用穀物)

食料自給率(カロリーベース)飼料自給率

米 野菜 肉類牛乳乳製品 魚介類

内食 中食 外食

(g人日)

3132 WASHOKU

50

55

60

65

70

75

01992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012

70

75

80

85

90

95

01992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012

一日に一度はお米を食べないと気がすまない人の割合博報堂生活総研「生活定点2012」

お正月におせち料理を食べた人の割合博報堂生活総研「生活定点2012」

一日に一度は米を炊いたご飯を食べなければ気がすまない人の割合が実はこの20年間で減っているというデータがある1992(平成4)年には714だったが2012(平成24)年には564にまで落ち込んでいるのだ

家族や親族で集まっておせち料理を囲みながら新しい一年の無事を祝うお正月実はおせち料理を食べる人も毎年少なくなっている1992(平成4)年には866だったが2012(平成24)年には748だった

電子レンジの普及や冷凍食品

インスタント食品などにより

食生活は便利になったが家庭

内で調理をする機会が減ったと

もいえる

こうしたなか「和食」の優れ

た点をどうしたら伝えられるの

だろうか親から子へ家庭の食

を伝えるだけでなく学校を通

して子どもたちにさらにその

親の世代にも伝える必要があろ

う高齢者からは「和食」につ

いて具体的に教わることも求

められる

離乳期からの食べ物の選び方

幼児期の食経験を豊富にするこ

となどはとくに重要であろう

小さな頃からの食習慣はその

後の食習慣に大きくかかわって

くるからだ

だしのおいしい味を日々体験

することや魚を味わい骨を箸

でとる訓練を楽しい雰囲気のな

かで教わることなどその積み

重ねの中で「和食」は伝わるので

あろう

経験しない味は異文化とと

らえられるであろうし体験し

ていない調理は簡単でも難しく

感じる食事を用意する過程を

日々見る経験手伝う楽しさ美

しい食器を大切にして使うこと

同じ食べ物を家族や仲間と味わ

い祭りや花見などで共に食べ

る経験を積み重ねることは文

化としての「和食」を伝えるだけ

でなく生きる力を育むことにも

つながるであろう

壁にではなく居間に向かって設置されることが多くなった現在のキッチン夫婦共働きだというこの家庭では夫が厨房に立つことも少なくないというこのように食事の準備を子どもと一緒に行うことで「和食」にとって大切な要素が次の世代に伝えられるようになるのだろう

世帯あたり1ヶ月間の穀類支出金額内訳

1962年3434円

パン

麺他

2010年6373円

パン

麺他

ご飯を食べなくても平気 そんな人が増えている

お米よりパンと麺 その傾向が加速中

おせち料理を食べる派が 毎年ジワリ減少中

1962(昭和37)年度には8割以上を占めていた米への支出が2010(平成22)年度にはパンにとって代わられる米の消費量はパンより多いが家庭では炊飯する必要のある米よりすぐに食べられるパンや麺の支出が多くなり家庭での料理が減っていることを示しているともいえよう

総務省統計局「家計調査年報」より作成

いただきます

ごちそうさま

「和食」の未来

今世紀に入ってから世界に和食ブー

ムが起きている味わいやヘルシーさに

注目が集まり世界中のいたるところに

日本食の店が数多くある

そのように世界から注目される「和食」

だが本家本元の日本国内でその将来が

危ぶまれている

これまで見てきたように「和食」には

新しいものを柔軟に取り込む歴史があっ

た日本人は太古の昔より外国からも

たらされた食文化を自分たちの食生活に

取り込んで日本独自の食文化を発展さ

せてきた地域ごとに地域の環境にふさ

わしい料理をつくり出してきた食べる

料理や食べ方もその時代ごと地域ごと

に変わってきた

その中で貫かれてきたことがある

豊かな自然がもたらす食材のおいしさ

を生かす調理法を工夫し味わうこと

食卓に季節感をしつらえもてなしの気

持ちを共に感じ合う食事の場を持つこ

と一汁三菜という組み合わせを食事

の基本スタイルとして健康的な食生活

をおくることお正月におせち料理を

祝いの日にお赤飯を家族と共に食べる

など食事は家族の絆となっている

豊かな自然を守る気持ちと同じように

日本人を健やかに生かし人と人をつな

いできた「和食」もまた守るべき大切な

日本文化ではないだろうか

「いただきます」「ごちそうさま」と言っ

てみるだけでも「和食」は私たちに身近

になる人と人をあたたかく結びつけて

くれる

日本人はやはりお米のご飯がおいしい

と思うだしのきいた汁でおなかも心も

癒されるこの日本人が長い歴史の中で

育んできたすばらしい財産である「和

食」がこのままなくなってよいと考える

人はいないだろう世界の中でもすぐれ

た食文化として認められた「和食」を日本

の誇りとし大切にして次の世代に受け

継いでいくきっかけにこの冊子がなれ

ば幸いである

ごちそうさま

和 食

1112 WASHOKU

おせち料理おせち料理の内容は地域によってさまざまこれは東京のおせち料理のひとつ重箱(手前)には健康を願う「黒豆」や子孫繁栄を願う「数の子」そして田の肥料としたことで豊作を祈願する意味を込めた「田作り」という「祝い肴三種」が盛り込まれている祝い肴にはその他紅白のかまぼこや長寿を祈願した海老の焼き物豊作を願ったたたきごぼうなどがあり地域によって異なっている酢の物(左の小さな重)や煮しめ(奥の大きな重)をおせち料理に供する家庭も多い

日本人の生活の中には特別

なrdquoハレの日ldquoがあるひとつは

正月などのように毎年同じ時期

にめぐってくる年中行事もう

ひとつは誕生や成人や結婚や還

暦など人生の節目にあたる日で

これを人生儀礼と呼ぶそして

ハレの日にはそれを食べるこ

とで「邪気や災厄をはらい健康

長寿を願う」という共通点があ

る一

年の始まりを祝うお正月は

「歳と

しがみ神さま」を各家庭で迎える

年に一度の大切な年中行事家

の入口に立てられる門松は神を

招くための目印で一年の幸せ

を願い家族が集まって食事を

共にするその際に供されるの

がおせち料理だ地域ごとにさ

まざまなバリエーションがある

のもおせち料理の特徴で酒し

ゅこう肴

3

健康長寿の願い

ハレの日の食事で

健康と長寿を願う

例えば全国各地でrdquo文化ldquoとして

色濃く残っているおせち料理

その内容には地域ごとにさまざまな

バリエーションがあるものの

共通しているのは

料理を食べることで健康長寿を

願うという点だ

1112 WASHOKU

お正月雑煮に合わせて飲むお屠蘇は銚ち ょ う し

子三つ重ねの盃盃を乗せる盃台これらを載せる盆で供されるもともとお屠蘇はいくつかの薬草を組み合わせた屠

と そ さ ん

蘇散を酒やみりんに浸して作る薬酒だった

お194679と そ蘇

魂の象徴である丸餅を入れた雑煮を食べるということは神の力をいただくことでもあったこれは京都でなじみ深い西京味噌で味付けした雑煮焼かずに煮た丸餅と昔から縁起物とされた頭

かしらいも

芋(里芋の親芋)が入るのが特徴だ

雑煮

赤い色の小豆は邪気と厄をはらいのけると信じられ祝い事の際には頻繁に登場したまたもち米を蒸して食べる習慣は古い日本の文化でもあって例えば赤飯はハレの食事として供されことにお祝いの席には欠かせない

赤飯一生食べることには苦労しないようにとの願いを込めて子どもの生後100日目に行う「お食い初め」の儀式では尾頭付きの鯛を含んだ一汁三菜の膳が供される丈夫な歯が生えることを願う「歯固めの石」も欠かせない

お食い初め

「和食」が日本文化である理由 健康長寿の願い3

を並べたスタイルもあれば煮

しめだけをおせちとする地域も

あるが神と食事を共にしつ

つ福を招き災いを打ちはらう

という願いが込められていると

いう点は共通している

同じくお正月に食べる雑煮は

そもそも武士にとって一番大切

で正式な酒の肴で正月には必

ず餅の入った雑煮とお194679と

そ蘇が

供されるそして鏡餅などの丸

い餅は神の魂の象徴「歯固め

餅」とも呼ばれ1月11日に鏡餅

を食べて歯が丈夫な長寿を願う

意味が込められている

食を囲み毎日を無事に過ご

すことを願う行事に五節句があ

る七草粥を食べる正月7日

(人じ

んじつ日)の他には邪気をはらう

と信じられていたヨモギ入りの

草餅を食べる3月3日(上じ

ょうし巳)

粽ちまきや柏餅を食べることで健康を

願った5月5日(端た

んご午)索さ

くべい餅と

呼ばれる細い麺を食べて無病を

願う7月7日(七し

ちせき夕)菊酒で不

老不死を願う9月9日(重ち

ょうよう陽)が

ある

人生儀礼に目を向ければ邪

気や厄をはらうと信じられてい

た赤飯は祝儀だけでなくお盆

などの仏事や葬儀の際にも食

べられてきた

体によいものを求めてきた

「和食」の伝統は結果として世

界でもまれにみる健康によい食

文化をつくりあげた健康で長

生きしたいという強い指向が

「和食」の根底にはある

北海道は各地から入ったお雑煮が混在する北海道特産のいくら鮭を使った「親子雑煮」を食べる家庭も多い

焼いた角餅に醤油味が一般的一部の地域では具に豆腐やゴボウなどが入りゴマだれやクルミだれに付けていただくこともある

鰹節でだしを取り醤油で味付けしたすまし汁に焼いた角餅を入れるのが一般的具には鶏肉こまつ菜かまぼこなどが入る

昆布でとっただしに白味噌で味付けし煮た丸餅を入れるすまし汁のところや元旦は白味噌2日目はすまし汁にする地域もある

1314 WASHOKU

「県出身ならあれ食べた

ことあるの」「お雑煮のお餅と

味付けは」hellip日本各地に伝

統的な料理や食材があり味付

けも地域ごとに異なる

気候や風土が異なると採れ

る食材や調理法は変化し地域

色豊かな和食が形づくられてき

たそんな多様性も和食の魅力

であり日本を旅するときの楽

しみのひとつでもあるはずだ

いまのように流通が盛んでな

く保存技術も進んでいなかっ

たころ食料を無駄なく存分に

そして安定的に味わうというこ

とは人々の重要な課題だった

そこで知恵を絞り工夫をこら

し考えられたのが食品の加工

や保存方法その知恵が結果的

に「和食」の多様性を生みだし

ていくことになるのだ

海から遠い土地では魚を長持

ちさせる知恵が生まれ冬が厳

しい北方では野菜を長期にわた

り保存する技が発展してきた

魚の干物餅梅干し凍み豆

腐helliphellipこれら保存食は昔から

ある加工食品だが同じく日本

古来の加工食品に発酵食品があ

る微生物の働きや酵素の力

で保存力や栄養価風味などが

加わった食品だ野菜の漬物も

このひとつ

例えば秋田県の郷土料理「い

ぶりがっこ」大根を囲炉裏の

4

「和食」の多様性

風土が多様性を生み

それが「和食」という地図を描く

南北に長くさまざまな気候を持つ日本だけに地域が持つ食文化は多様で

土地土地に伝わる郷土料理や加工保存技術が存在している

日本の食が描く地図は知れば知るほど面白い

風土の違いから生まれる

食文化の多様性

お雑煮MAP

 

正月に食べられるお雑煮はだ

しの素材や味付け餅の形状具な

どが地域や家庭によってさまざま

であるだしには昆布鰹節煮

干しするめ穴子鶏肉が味付

けには塩醤油味噌などが使われ

る餅は角か丸かそれを焼くか

煮るかという違いもあるまたあ

ん入りの餅を入れる地域もある

具は野菜類魚介類鶏肉などで

地域の特産品が使われることも多

い沖縄県ではお雑煮に代わるも

のとして「中味汁」(豚の内臓の

汁)があるここでは全国各地の

お雑煮の中から特徴のあるもの

を取り上げた丸もち

角もち

角もち

角もち

昆布と鰹節のだしに味噌で味付けし煮た丸餅とかぶそしてかぶの葉を加えたシンプルなお雑煮を食べる地域も味噌は赤味噌白味噌のいずれかが使われる

丸餅に白味噌仕立てが多いが香川県では白味噌にあん入り餅を入れた「あんもち雑煮」が珍しい具は大根ニンジン里芋など

だしはあごだし昆布鶏肉とさまざまだが味付けは醤油味具にかまぼこが入り九州の北部にはあん入り餅を入れる地域もある

醤油味のすまし汁に煮た丸餅が多い出雲地方では

「小豆雑煮」と呼ばれ具はなくぜんざいのような小豆だけの雑煮を食す

昆布と鰹節のだしに味噌で味付けし煮た丸餅とかぶそしてかぶの葉を加えたシンプルなお雑煮を食べる地域も味噌は赤味噌白味噌のいずれかが使わ

1314 WASHOKU

上に吊るし楢や桜の焚き火で

燻製にしてから米糠と塩で漬

けこんだ漬物だこれは冬の訪

れが早い秋田で大根を早く乾

燥させ長く食べられるようにす

るための工夫だいずれも手間

と時間が加わることで風味が

濃縮されとれたてとは違った

深い味わいが生まれた

魚介類の保存食でいえばな

れずし魚を塩と米飯で数日

から数ヶ月寝かせ乳酸発酵さ

せたもの雑菌の繁殖が抑えら

れ長期間の保存が利く上うま

味が増す現在滋賀県のふな

ずし和歌山県のサバやサンマ

のなれずし福井県小浜市のへ

しこなれずし秋田県のハタハ

タ寿司など日本全国の郷土料

理として残っている

また味噌や醤油といった発酵

調味料は日本料理の味の要と

もいえやはりこれらにも地域

によって造り方や味に違いがあ

る例えば味噌大豆と米こ

うじを使い長期間熟成させた辛

口の津軽味噌米こうじを多く

配合した甘みのある西京味噌

大豆こうじを使った赤褐色の名

古屋の八丁味噌麦を原料にし

た九州地方の麦味噌などさま

ざま

地域の特産品発酵調味料餅

で構成されるお雑煮を見ても

多様性はよくわかる

日本の風土と食文化は深く結

びつき世界が注目するバラエテ

ィに富んだ食を育んできたのだ

日本の味噌

mdash

地域と特徴mdash

味噌は製法材料によって

大きく3つに分けられる

全国的に一般的なのが「米

味噌」で蒸すまたは茹で

た大豆に塩米こうじを加え

発酵させたもの米こうじ

の代わりに麦こうじを使用

したものを「麦味噌」大豆

を発酵熟成させたものが

「豆味噌」米味噌には大

豆を蒸して長期間熟成した

辛めの赤味噌と大豆を茹

でて短期間で熟成させた甘

めの白味噌がある

「和食」が日本文化である理由 「和食」の多様性4

主な種類地域 特徴

米味噌

津軽味噌 長期間熟成させる辛口で赤味噌系が主流

仙台味噌 仙台で伝統を継承して造られてきた長期間熟成させる辛口赤味噌系が主流

信州味噌 長野県を中心に造られる山吹色の淡色系の辛味噌

江戸甘味噌 通常の味噌よりもこうじを多く塩を少なくした赤系の甘さのある味噌

西京味噌 関西地方を中心に造られる米こうじの多い甘みのある白味噌

讃岐味噌 香川県で造られる甘みのある白味噌あん餅雑煮にも使われる

府中味噌 甘みのある米こうじの多い白味噌で主に広島県で造られる

麦味噌 九州四国中国 麦こうじを使って発酵させた山吹色を帯びた甘みのある味噌

豆味噌 八丁味噌三州味噌 蒸した大豆でみそ玉を作りこうじ菌を繁殖させて造る濃い赤褐色の味噌

お雑煮に入れる餅の形について出身地ごとに聞き取った結果中部を境にして東は角餅西は丸餅が多かった

もちの形について

丸もち

丸もち

丸もち

丸もち

出典「お雑煮100選」(文化庁)より

(人)

温暖化が進み狩猟が大型獣から小型獣になる

南九州で竪穴式住居にドングリ貯蔵穴が広まる

ドングリなどの植物性食料が重要な食料になる

水田稲作が日本列島に伝来

稲作の広がりと定着魚を発酵させたなれずしの登場

『魏ぎ

し志』倭わ

じんでん

人伝には倭(日本)では冬夏に生菜を

飲食に高杯をつかい手食するとある

土は

師器の移動式かまどの使用

土師器の甑こ

しきに

よる蒸し米が盛んになる

中国に遣唐使を送る大陸の食文化がもたらされる

675年天武天皇が「牛馬犬猿ニワトリ」の

食用を禁止

牛乳を煮詰めて作った「蘇そ

」が朝廷に貢納される

箸の利用が広がる

貴族の大だ

いきょう饗

料理や年中行事が中国の影響で定着

豆腐が中国より伝来する

栄西が宋より抹茶法を持ち帰る

道元が禅宗における食事作法や調理の心得を

説いた『典て

んぞきょうくん

座教訓』『赴ふ

しゅくはんぽう

粥飯法』を執筆

植物性食品のみを使った精進料理の発展

武士の供応食本ほ

んぜん膳

料理の形成

包丁人と呼ばれる料理人が誕生し包丁流派を形成

刻み目のついたすり鉢が広がる

酒造技術の進展

書院茶の湯からわび茶の湯へ

千利休により茶の湯が完成

懐石形式の定着

豊臣秀吉が北野大茶会を開催

欧州が大航海時代に入り

南蛮貿易により南蛮菓子唐辛子などが日本に伝来

日本初の出版料理書『料理物語』刊行

都市部に食べ物屋や料理屋が普及する

料理屋の会席料理形成

けがれによる肉食禁忌の観念が広く浸透

薬食いとしての肉食

飢き

きん饉に備えさつまいもやじゃがいもの栽培を奨励

和菓子の完成

握り寿司やてんぷらが江戸で流行する

肉食解禁と牛鍋の流行

『西洋料理指南』など西洋料理書の出版

西洋料理店の発展

米の摂取率が平均53に

家庭向け料理書の出版

女学校における食物教育

脚か

っけ気

論争がさかんに行われる

牛肉の不足から豚肉の生産が増加

洋菓子の製造発展

物価高騰と米不足によるじゃがいもパンなどの代用食の奨励

国立栄養研究所の開設と栄養学の発展

都市部で和わ

ようせっちゅう

洋折衷料理が普及

戦争による食料不足

食料統制米などほとんどの食品が配給切符制となる

イモなど代用食の増産

戦後のミルクとパンの学校給食が開始

各地に闇市ができる

食料の価格が高騰

厚生省が日本人の栄養基準値を策定

農家の生活改善運動が展開

即席ラーメンなどインスタント食品の開発販売

冷凍冷蔵庫の普及と冷凍食品が普及

日本型食生活の提唱

ファミリーレストランファストフード店の増加

コンビニの発展

日本食の洋食化と簡便化と米摂取量の減少

食料自給率が39〜40に低下

レトルト食品の売上増大

電子レンジ普及率が約90に

遺伝子組み換え食品が登場

地球温暖化など環境問題が深刻化

阪神淡路大震災東日本大震災により災害食が注目される

持続可能性が社会課題に

家庭料理の変化や家族の孤食化などの問題が生まれ和食の見直しへ

縄文時代弥生時代古墳時代飛鳥時代奈良時代平安時代鎌倉時代室町時代安土桃山時代江戸時代BC9000年BC3000年BC2500年頃BC200年頃240年頃500年頃7世紀8世紀8~12世紀12~14世紀14~16世紀16~17世紀17~19世紀

1516 WASHOKU

「和食」の年表

「和食」がたどった道和食の成立とその変化を年表でたどってみると各時代の人々が海外の食文化の影響を受けながら工夫を積み重ねてきた様子が見えてくる

米は縄文時代晩期に伝来し

たとされるが全国に広がるの

は弥生時代である

平安時代の大饗料理は貴族

の供応料理で蒸した高盛の強こ

飯いい

に各種の魚介類を配し調味

料につけて食べる形であった

鎌倉時代には禅宗の影響に

より動物性食品を排除した

精しょうじん進料理が発展した道元禅

師は調理も修行の一つとして

その心得を記した『典て

んぞ座教き

ょうくん訓』と

食事への感謝の念作法を説い

た『赴ふ

粥しゅく

飯はんぽう法』を著した

室町時代上層階層の料理文

化として本膳料理が登場した

この形式は江戸時代後期には

婚礼などの儀礼食として各地域

に浸透し昭和期まで継承され

た本膳には飯汁菜香の物

が盛られ飯を主食とした伝統

的な食事の形式が定着すること

になるまた酒とその酒肴も

本膳に伴って発展した

安土桃山時代には茶の湯に

ともなう懐石が発展した一汁

三菜を基本に旬の素材にこだ

わり食事空間のしつらいにも

気を配るなど精神性をも盛り込

んだこの形式はその精神と

共に現代に引き継がれている

江戸時代の都市部ではそば

すしてんぷらなどの食べ物屋

高級料理店なども広がりをみせ

た料理書の出版も相次ぎ酒

と酒肴を楽しむ料理屋の会席料

理も成立したまた和菓子の

温暖化が進み狩猟が大型獣から小型獣になる

南九州で竪穴式住居にドングリ貯蔵穴が広まる

ドングリなどの植物性食料が重要な食料になる

水田稲作が日本列島に伝来

稲作の広がりと定着魚を発酵させたなれずしの登場

『魏ぎ

し志』倭わ

じんでん

人伝には倭(日本)では冬夏に生菜を

飲食に高杯をつかい手食するとある

土は

師器の移動式かまどの使用

土師器の甑こ

しきに

よる蒸し米が盛んになる

中国に遣唐使を送る大陸の食文化がもたらされる

675年天武天皇が「牛馬犬猿ニワトリ」の

食用を禁止

牛乳を煮詰めて作った「蘇そ

」が朝廷に貢納される

箸の利用が広がる

貴族の大だ

いきょう饗料理や年中行事が中国の影響で定着

豆腐が中国より伝来する

栄西が宋より抹茶法を持ち帰る

道元が禅宗における食事作法や調理の心得を

説いた『典て

んぞきょうくん

座教訓』『赴ふ

しゅくはんぽう

粥飯法』を執筆

植物性食品のみを使った精進料理の発展

武士の供応食本ほ

んぜん膳

料理の形成

包丁人と呼ばれる料理人が誕生し包丁流派を形成

刻み目のついたすり鉢が広がる

酒造技術の進展

書院茶の湯からわび茶の湯へ

千利休により茶の湯が完成

懐石形式の定着

豊臣秀吉が北野大茶会を開催

欧州が大航海時代に入り

南蛮貿易により南蛮菓子唐辛子などが日本に伝来

日本初の出版料理書『料理物語』刊行

都市部に食べ物屋や料理屋が普及する

料理屋の会席料理形成

けがれによる肉食禁忌の観念が広く浸透

薬食いとしての肉食

飢き

きん饉に備えさつまいもやじゃがいもの栽培を奨励

和菓子の完成

握り寿司やてんぷらが江戸で流行する

肉食解禁と牛鍋の流行

『西洋料理指南』など西洋料理書の出版

西洋料理店の発展

米の摂取率が平均53に

家庭向け料理書の出版

女学校における食物教育

脚か

っけ気

論争がさかんに行われる

牛肉の不足から豚肉の生産が増加

洋菓子の製造発展

物価高騰と米不足によるじゃがいもパンなどの代用食の奨励

国立栄養研究所の開設と栄養学の発展

都市部で和わ

ようせっちゅう

洋折衷料理が普及

戦争による食料不足

食料統制米などほとんどの食品が配給切符制となる

イモなど代用食の増産

戦後のミルクとパンの学校給食が開始

各地に闇市ができる

食料の価格が高騰

厚生省が日本人の栄養基準値を策定

農家の生活改善運動が展開

即席ラーメンなどインスタント食品の開発販売

冷凍冷蔵庫の普及と冷凍食品が普及

日本型食生活の提唱

ファミリーレストランファストフード店の増加

コンビニの発展

日本食の洋食化と簡便化と米摂取量の減少

食料自給率が39〜40に低下

レトルト食品の売上増大

電子レンジ普及率が約90に

遺伝子組み換え食品が登場

地球温暖化など環境問題が深刻化

阪神淡路大震災東日本大震災により災害食が注目される

持続可能性が社会課題に

家庭料理の変化や家族の孤食化などの問題が生まれ和食の見直しへ

明治時代大正時代昭和時代(戦前戦中)昭和時代(戦後)平成1869~1912年1912~1926年1926~1945年1945~1989年1989年~

1516 WASHOKU

家庭料理の変化や家族の孤食化などの問題が生まれ和食の見直しへ

基本はほぼこの時代にできたと

いえよう

いっぽう各地域の日常食の

主食は麦雑穀芋類を混合し

たかて飯やうどんなど小麦粉を

用いた食事が多くそれは昭和

期まで引き継がれ各地で独自

の「和食」の文化が形成された

西洋文化を積極的に取り入れ

た明治時代以降西洋料理書が

出版され都市部では西洋料理

店が開店したまた明治時代

後期には家庭向け料理書の出

版が相次ぎ西洋料理をアレン

ジして和食に取り入れた和わ

よう洋

折せっちゅう衷料理が数多く紹介された

大正期国立栄養研究所の開

設により栄養学の研究が進み

日常食の栄養についての関心が

少しずつ広がった

飢餓を経験した戦時期を経て

主食に偏らず副食に動物性食

品や油脂を加えた食事が推奨さ

れたその結果1980年頃

になると日本人の食事は米飯

を基本にしながらも乳乳製品

肉魚類野菜類などを適度に

加えたよりバランスのよい食

事となったこの時期の食生活

を「日本型食生活」と呼んだし

かしその後食生活の洋風化

簡便化が広がり食料自給率は

40パーセントと減少した若年

層を中心に食事の基本型が崩れ

欠食孤食などが話題となり和

食の見直しが求められるように

なった

1718 WASHOKU

「和食」の特徴1

献立のかたち

「ご飯」を食べるために

「汁」と「菜」がある

「一汁三菜」が和食の基本型

「一汁三菜」とは「ご飯」と「汁」と「香の物」に

いくつかの「菜」が添えられるという組み合わせ

「ご飯」と「汁」と「香の物」に「お菜」が3品添えられるという献立が一汁三菜この場合は焼き魚(右奥)と煮物

(左奥)と小松菜のおひたし(中央)の3つの菜で構成される向かって手前左にご飯を手前右には汁をその間に香の物をそれぞれ置くという決まりになっている

1718 WASHOKU

米を炊いた「ご飯」昆布や鰹

節などでとっただしを味噌や塩

などで味付けした具入りの「汁」

塩漬けやぬか漬けや粕漬けなど

の「香の物」そして焼き物や煮

物や和え物などの「菜」その4

つの要素で構成される「一汁三

菜」という組み合わせがある

基本的には汁が一種で菜が

三種の構造を「一汁三菜」と呼

ぶ食事中に口の中をさっぱ

りと保ってくれる「香の物」と

ご飯はいつも必ずついていて

その数も変わらないからあえ

て数えない

日常の食事である一汁三菜に

対して江戸時代によく登場す

るのは二汁五菜つまり汁が二

種に菜が5つこれが昔のおも

てなし料理の基本でお膳もふ

たつ出たいいかえると一汁三

菜はひとつのお膳に載るふだ

んの家庭の食事であることがわ

かる

また汁にもいろいろあった

魚のアラを汁に仕立てたものや

野菜を豆腐と一緒に煮込むけん

ちん汁など具だくさんの汁も

各地域でみられ汁でご飯を食

べるということも和食の特徴の

ひとつだ

一汁三菜の献立の最大の特徴

は汁も香の物も菜もすべてご

飯を食べるために存在するとい

う点かもしれないご飯が主食

でその他の3つの要素が副食

という考えが一汁三菜の根底に

ある少ない菜でたくさんのご

飯を食べご飯の量でカロリー

の摂取量を調整するのがかつ

ての和食の基本的な食べ方だっ

たのだ

「和食」にとって欠かせないご

飯についてもここで触れてお

こう

米には「うるち米」と「もち米」

とがあり強い粘性を持つもち

米は赤飯などのおこわ(強こ

わいい飯

や餅に用いられるそれに対し

てうるち米はもち米より粘り

気が少なく通常の米飯として

使われる

米のもとになる稲の栽培が始

まったのは1万年以上前とされ

野生の稲を栽培したのが始まり

と考えられているその原産地

は中国の長江流域とその周辺

という説が有力でそこから西

へ伝わった品種がインディカ種

また東へと伝わり東アジアに

広がったのがジャポニカ種だ

「和食」における献立の目的は

いわば汁と菜でご飯を食べる

ことつまりご飯に合うのなら

例えばそれが肉じゃがでもコ

ロッケでもとんかつでも菜と

して取り入れてこられたのは

ご飯を主食とする「和食」のス

タイルがしっかりしていたか

らである一汁三菜という和

食の基本型がなくなったら外

国の料理と変わらなくなって

しまうだろう

「和食」の特徴 献立のかたち1

稲 玄米 白米 調理加工

粉にする

飯餅菓子米飯焼き米ひなあられ餅おかきあられ

稲わら 俵わらづと鍋釜敷き畳床むしろわらぞうり縄みのわらぼうき など

酒酢みりん味噌発酵させる

糠 たくあん糠漬けあく抜き

(上新粉など)柏餅草餅重

お も ゆ

湯など

(白玉粉落ら く が ん

雁粉道明寺粉など)白玉最中大福餅落雁桜餅など

どうみょうじ

うるち米の粉

もち米の粉

日本人の暮らしに深く関わる稲米

 現在世界で栽培されている稲の主な種類にはインディカ種(インド型イネ)やジャポニカ種(日本型イネ)などがあるインディカは長粒種と呼ばれる米ジャポニカは日本でよく食べられている丸く短粒な米で短粒種と呼ばれる米の主成分であるでんぷんにはアミロースとアミロペクチンとがありアミロースを多く含むインディカ種は粘り気が少ないのに対しアミロースの少ないジャポニカ種は粘りが強く日本人にとってはおいしい味の米であるそしておにぎりやすしのようにまとめる米料理も発達した 世界の米の生産量は約6億トンと小麦とほぼ同じだがその90以上が日本を含むアジア諸国で栽培されているジャポニカ種は全体の15を占め日本をはじめとして朝鮮半島中国東北部台湾北部などで主に栽培されているインディカ種の栽培地域はインドからベンガル地方のバングラデシュタイをはじめとするインドシナ半島中国の中南部インドネシアなど南アジアが中心だ

ジャポニカ種とインディカ種日常私たちがご飯として食べているのはうるち米赤飯や餅にするのはもち米である栄養価はほとんど同じであるがでんぷんの構成が異なるうるち米はアミロースとアミロペクチンの比率が約28であるがもち米はほとんどアミロペクチンで構成されているそのためにもち米はうるち米に比べて粘りが強く餅にするのに適しているのである日本では両方の米の特徴をうまく利用して粒のまままたは粉にするなどしていろいろな料理や菓子を生み出したり発酵させて酒やみりんなどをつくり出したりしてきた

うるち米ともち米

インディカ

ジャポニカ

「和食」に欠かせない

米はどこから来たのか

1920 WASHOKU

全国各地でさまざまな魚や野

菜が豊富に手に入ったことそ

して文明開化の時代まで一般

的に肉食をしなかったという背

景から「和食」は野菜と魚介類

を中心に調理されてきた

現在日本の市場で流通する

野菜の数は150種類ほどと言

われているその種類はイモ類

やマメ類をはじめ根菜類茎け

いさい菜

類葉菜類果菜類など実に多

様ださらには山菜やきのこ

など森林に自生するものも調

理に工夫することでうまく食材

として取り入れてきた

日本で流通する野菜は近代

になって外国から輸入されたも

のや品種改良によって食べや

すくなったものなど多様では

あるが昔から日本で作り続け

られている伝統野菜(在来野菜)

も少なくない伝統野菜とはだ

いたい三世代以上に渡って栽培

「和食」の特徴2

食材

和食を支える日本の食材

おいしさの秘密と多様性

おいしい和食には素材の力がある四季折々の自然の中から

生み出される日本の食材は驚くほど多様性に富んでいる

野菜

野菜と魚介類の二大食材に

支えられる日本食文化

和食には野菜を使う料理が多くあるが現在日本で流通する野菜の種類も150以上と幅広い分類にしてもジャガイモやサツマイモなどのいも類大豆や小豆などのマメ類ダイコンやカブなどの根菜類ネギやウドなどの茎

け い さ い

菜類コマツナや白菜などの葉菜類ナスやキュウリなどの果菜類そのほかにシイタケやシメジなどのきのこやワラビやゼンマイなどの山菜など多彩な野菜が存在するしかし現代でこそ流通の発展でさまざまな野菜が一年中手に入るが全国で同じ野菜が収穫できるわけではない例えば同じいも類でもサツマイモなどは九州などで多く作られるが冷害に強く冷涼な地で生育するジャガイモは山梨や長野などの山間部や日本の北部で育てられるそのほか地域特有の特産品である伝統野菜がいま注目され始めている

1920 WASHOKU

が続けられ地域に根づいた農

法で作られるものを指しこれ

を守る動きも目立ってきている

魚介類も「和食」にとって欠か

せない食材のひとつ日本で獲

れる海水魚は実に種類豊富で

日本に生息する魚種だけでも約

4200種ある縁起のよい魚

として重宝されるタイをはじめ

アジイワシやサバサンマなど

日本の近海は魚の宝庫である

海水魚だけでなくコイやア

ユフナやウナギそして水田で

獲れるドジョウなどの淡水魚

(川魚)は海から離れた地域では

貴重なタンパク源だったため

古くから料理に使われている

ウナギの蒲焼きは一般的だが

薄切りにしたコイを50くらい

の湯に短時間漬けてから冷水で

身を締めて酢味噌で食べる「鯉

のあらい」やコイの切り身を濃

い味噌で煮た「鯉こく」など味

わい方も豊富

またうま味のもととして古

くから使われてきた昆布や味

噌汁の具としても重宝するワカ

メさらにおむすびに必須の海

苔など海藻類も和食には欠か

せない貝類も種類が豊富で

アワビをひも状に薄くむき乾

燥させた「熨の

しあわび

斗鮑」が神事や祝し

ゅうぎ儀

の象徴として使われてきた

近年日本の食料自給率が低

下し外国産食材の増加も問題

視されているが本来の「和食」

は日本の自然の恵みによって支

えられているのだ

「和食」の特徴 食材2

島国である日本において魚介類は古くから貴重でかつ重要な食材であった農林水産省の定める生鮮食品品質表示基準によれば日本で食される水産物はマグロやカツオイワシやアジなどの海水魚やコイやウナギなどの淡水魚(川魚)シジミやアサリなどの貝類カニやエビなどの甲殻類やカメなどの水産動物類クジラやイルカなどの海産哺乳動物類そのほか昆布やワカメなどの海藻類など実に多様な種類がある2000年に味の素(株)がおこなった「嗜好調査」によれば「食材」としては肉類よりも魚介類のほうが好まれている結果がみられたさまざまな魚介類のなかでもカニエビマグロなどへの嗜好性が高くそれらが「贅沢な食材」と捉えられているようである

山間部など海の魚が手に入らない地域で貴重なタンパク源として重宝されたのが淡水魚(川魚)写真はアユだがその他コイやウナギドジョウワカサギフナなど日本ではさまざまな川魚が食材として使われてきた寄生虫のおそれがあるため生食はあまりされないがその代わりに調理にはさまざまな工夫が見られる海の魚に比べると独特の臭味やクセがあるため「鯉こく」のようにしっかりと煮込むことで臭味を除いたりウナギのように蒲焼きにしたりするなどがその一例だまた例えば滋賀県には琵琶湖で獲れるフナを塩と米で乳酸発酵させ保存性を高めると同時にうま味成分を引き出した「ふなずし」もある

古来日本で食べられてきた海藻類現在でも低カロリーでミネラルビタミンに富む食材として和食では重宝されている日本では約50種類の海藻が食べられているが世界的にみてもここまで多様な海藻を加工し食用とする民族は珍しいなお海藻にはフノリやテングサのような紅藻ワカメ昆布やモズクなどの褐藻アオノリや海ブドウなどの緑藻類の3種類の海藻が存在する昆布のようにだしをとるために使うものもあるが乾燥させて食べる海苔味噌汁や酢の物の具として使われるワカメのようなものまで実に幅広いまた海藻は神への奉納品としての縁も深く日常の食事だけではなく祭りや神事などにも登場している

縄文時代の遺跡である貝塚からアワビやハマグリカキなどの大量の貝殻が発見されていることからもわかるように貝類は日本では古くから食材として利用されてきた春先の干潮時に浜辺に埋まったアサリなどの貝を掘り出して採取する潮干狩りは春の風物詩としても馴染み深い日本には6000近い貝類があるといわれておりなかでもアサリやハマグリのような二枚貝サザエやツブ貝のような巻き貝が食用として親しまれている調理法としては刺身や吸い物味噌汁煮物焼き物炊き込みご飯など幅広い料理に使用されているがだしをとるためにも使われるさらに乾物にすれば保存性も高くなるため古くから交易にも活用されてきた

海の魚

川の魚

海藻貝

2122 WASHOKU

和食における菜さ

の調理法には

煮る焼く蒸す茹でる和あ

える

揚げるなど実に多様な技法が

あるこれを季節の野菜や山

菜魚介類海藻などの食材と組

み合わせることでバラエティ

に富んだ菜が食卓を彩る

数ある日本の調理法の中で

最も特徴的なのは「生もの」材

料を生のまま切り皿に盛り付

け調味料と薬味を添える刺

身といえば魚介類が用いられる

のがほとんどで捌さ

き方切り方

盛り方などが現在世界で注目を

浴びている材料を新鮮な状態

に保つ技術と料理としての盛り

付けの技術があいまって完成し

たものといえる調味料と薬味

の組み合わせも魚類との相性を

考えて工夫されているまた

わさびしょうがからしなどの

薬味や「つま」や「けん」と言わ

れる大根のせん切り大葉防ぼ

うふう風

芽めたで蓼花は

なじそ

紫蘇など防菌効果のあ

るものを添えて見た目も美し

く組み合わせている

ご飯と並んで食卓に欠かせ

ない「汁物」は鰹節や昆布煮干

し干し椎茸などから抽出され

るだしのうま味と具として入

れる素材のうま味が味わいのベ

ースとなっている中には具だ

くさんの菜になるような汁も

ある

また豊富な水を利用した調理

焼き物(サンマの塩焼き)

直火焼きは遠火の強火でほかに間接焼きがある

生もの(カツオの刺身)

生ものには刺身あらい酢の物漬物がある

茹で物(もりそば)

小麦粉やそばなどの粉からつくる麺を茹でる法

旬の食材のおいしさを

引き出す調理法の数々

「和食」の特徴3

調理

切る煮る焼く蒸す茹でる和える揚げるhellip

あの手この手で素材をよりおいしく

バランスの取れた一汁三菜の基本はご飯にあり

ご飯をおいしくいただくために菜さ

の調理方法は進化した

煮物(筑前煮)

煮汁の中で加熱中に調味する法

2122 WASHOKU

法に「茹で物」があるたっぷり

の水を沸騰させ食材を加えて加

熱して取り出すもの青菜そば

などは茹でた後にあくの除去

歯触りを良くするなどのためさ

らに水で洗う場合も多い私た

ちがあたりまえのように調理し

て食べているほうれん草や小松

菜のお浸しは水に恵まれた日本

に定着した料理で世界的にみて

も特徴あるものといえよう

「焼き物」はサンマの塩焼きの

ように塩をふり直火でじっく

り焼き上げる方法が伝統的

「煮物」は世界で最もポピュラ

ーな調理法だが日本では素材

の味を生かしつつ醤油や味噌

など大豆由来の発酵調味料で

味を調えるものが多い

油とともに加熱調理する「炒

め物」は伝統的な調理にはほと

んど見られないが現代では盛

んに使われ和食の幅を広げて

いる

ここに紹介した調理法と料理

の例は主にご飯のおかずとな

るものであるが小麦そば雑

穀などを粉にしこれを調理し

た主食も多い代表的なものに

うどんそばそうめんなどの麺

類があり茹でる場合が多いが

煮込みなど煮るものもある

さまざまな料理を組み合わせ

て食べる和食は素材の味を生

かしうま味をしっかりとれば

最低限の調味料でおいしさを感

じることができ多様な料理を

楽しむことができる

和あえ物

(きゅうりとワカメの酢の物)

野菜や魚介類などをごま味噌酢などで和える法

漬物(きゅうり大根の糠

ぬか

漬け沢たく あ ん

庵漬け)生ものを保存する方法の一種

塩の働きに加え乳酸発酵させたものが多い

汁物(なめこの味噌汁)

だし汁を主体とする法すまし汁みそ汁とろみのついた汁など

蒸し物(茶碗蒸し)

水を沸騰させその水蒸気を利用して加熱する法

浸し物(小松菜のお浸し)

お浸しは調味した汁に浸して味をつけたもの

「和食」の特徴 調理3

揚げ物(天ぷら)

高温の油で食品を加熱する法油の温度は150~200度の範囲で行うことが多い

2324 WASHOKU

「和食」の特徴4

味わい

うま味日本人が発見した「おいしく食べる」最大の知恵

和食の味わいの中で最も重要なのがだし

味噌汁やすまし汁のベースとなり

煮物やおひたしなどさまざまな料理の

味を決定づける味の要だ

和食の味わいを語るうえで忘

れてはならないのがだし(出

汁)の存在汁物や煮物などさ

まざまな料理のベースとして使

われている

なぜ日本人はここまでだしを

好むのかその答えに大きく関

係するのが「うま味」だ江戸時

代の料理書には「だしこそ料理の

根本である」と書かれている

1907年池田菊き

くなえ苗

博士に

よって世界で初めてうま味成

分のひとつがアミノ酸の一種で

あるグルタミン酸であることが

発見されたその後日本人を中

心に研究が進みうま味は甘味

塩味酸味苦味に加えて第5

の味覚として広く知られるよう

になる現在ではうま味調味

料やだし入りのつゆなどうま

味成分を手軽に使える調味料も

普及海外でも人気が高く国

内でも日常的に使用されている

だしのほかに和食の味付け

日本が世界に誇る

第5の味覚うま味

うま味成分を多く含む椎茸もだしをとる目的で使われてきた食材のひとつだしに使用するのは干したもの椎茸は乾燥させることでうま味や香り成分が増すためだ

小魚を煮て乾燥させてつくる煮干しも汁物に多用される材料としてはカタクチイワシが代表的だがその他ウルメイワシやキビナゴトビウオなどの比較的魚体が小さな魚を使ってつくるのが一般的だ

だしのとり方は魚介や野菜から水や湯を使ってうま味成分を抽出するのが一般的だしの素材として最もよく使われるのは昆布と鰹節でそのほか煮干し野菜干し椎茸魚の内臓やあら(頭や骨)などがあるまた潮

うしおじる

汁のように食品そのもののうま味を活かす方法もある

鰹節

「だし」のこと

昆布

煮干し

干し椎茸

2324 WASHOKU

に欠かせないのは塩砂糖味

噌醤油酢酒みりん魚醤な

どの調味料わさびやからし

しょうが山椒とうがらしゆ

ずなども薬味として使われる

これら薬味によって季節感を楽

しみながら素材の味を引き出

すという知恵も「和食」ならでは

夏に高温多湿となる日本では

アジア諸国と同様発酵食品が

発達したそれゆえ味噌や醤

油や酢に代表される発酵調味料

を多用するのも和食の特徴大

豆や穀物を塩漬けにして発酵

させてつくるものだがその過

程で原料のタンパク質がアミノ

酸に分解されうま味成分を豊

富に含んだ調味料ができあがる

のだ

発酵食品も多様だ日本各地

でカビや酵母などの微生物の

働きを活かして食品中のアミ

ノ酸(うま味)を増やす発酵食品

が発達してきた冬場の保存食

として生み出された沢庵や塩

を使って乳酸発酵させる京都の

すぐき菜漬けそして糠ぬ

漬けや

奈良漬けなど野菜を発酵させ

た漬物さらに塩辛やくさや

なれずし鰹節など魚介の保存

食としての発酵食品また大

豆を納豆菌で発酵させる納豆や

こうじ菌で発酵させて乾燥後に

熟成させた寺納豆など大豆の

発酵食品もある

「和食」はうま味を上手に生

かし食材をおいしく食べる知

恵を育んできたのだ

発酵食品

発酵調味料

調味料

「和食」の特徴 味わい4

発酵食品と調味料

魚醤魚を塩漬けにして発酵させる独特の香りと濃いうま味が特徴の調味料ハタハタでつくられる秋田の

「しょっつる」イカやイワシを材料とする能登半島の「いしる(り)」などがある

酒酒もまた和食の調味に欠かせない発酵調味料のひとつ調味料としての酒の主な効果には材料の臭みを消す食材のうま味を引き出して風味をよくする甘みを加えるなどがある

塩海に囲まれている日本では古くから塩は調味料として使用されてきた焼き物や刺身などの調理の味付けとしてはもちろん漬物や干物など食物を貯蔵するための知恵としても活用されている

味噌蒸したり煮たりした大豆にこうじ食塩を混ぜて発酵熟成させた日本を代表する調味料のひとつ味噌汁や煮物などに使われることが多い地域によって使用される味噌の種類がかなり変わるのも特徴だ

酢寿司やなますなど和食に酸味を加える調味料米から醸造した酒に酢酸菌を加えて発酵させて造られる酢に漬けることにより保存性を高める

醤油大豆と小麦で造ったこうじに食塩水を加えた「もろみ」を発酵熟成させ搾ったもの刺身や焼き魚煮物炒め物など幅広い料理に使われている種類は濃口薄口たまり再仕込み白の5つに分類される

みりん蒸したもち米と米こうじを主原料に40~60日かけて熟成させて造られる発酵調味料砂糖と比べて甘みがやわらかく食材の臭味を取る働きもあるまた魚の照り焼きなどのつや出しにも使う

漬物素材を食塩や酢酒粕醤油などに漬け込み熟成させて作られる漬物沢庵や梅干し野沢菜漬けなど野菜類を長期間保存するための知恵として誕生した日本各地に独特の漬物があるのも特徴だ

納豆日本で発展した発酵食品である納豆大豆を納豆菌で発酵させた食品で寺納豆(下記参照)と区別するため「糸引き納豆」とも呼ばれる単品で食べるだけではなく納豆汁や納豆和えなどにも使われている

塩辛魚介類の身や内臓を塩漬けにし発酵させて作られた塩辛は日本における伝統的な保存食品のひとつ使われる素材はその地域によって変わりイカやエビアミタコなど多彩な種類の塩辛が存在する

塩に漬けた魚と炊いたご飯を数日間置き乳酸発酵させたなれずしは魚を保存する知恵として生まれた滋賀県では琵琶湖産のふなを和歌山県や富山県ではサバを岐阜県などではアユを材料にしたものが有名写真は滋賀県湖北地方の年頭の祭りで振る舞われる鯖のなれずし

砂糖世界的に見ても「甘み」を用いた料理が多い現在の和食では砂糖は欠かせない調味料のひとつ単独で料理に使われるというよりは煮物をはじめとするさまざまな料理で醤油や塩味噌などと併用されることが多い

寺納豆茹でた大豆にこうじを加えて発酵させ乾燥させながら熟成を促す発酵食品粘り気のある糸引き納豆とは異なり乾燥して塩辛い禅宗の伝来とともに大陸からもたらされたとされ寺院で作ることが多かったため「寺納豆」と呼ばれた

2526 WASHOKU

「和食」の特徴5

栄養

栄養バランスの優等生「和食」

野菜や魚肉そして米によって構成される「和食」は

栄養バランスの良さでも知られている

最近は五日間すべてを米飯にする完全米飯給食を行う地域も生まれた

和食の特徴のひとつである栄養についてその秘密に迫る

米麦雑穀などを炊いたご飯

を主食としてこれに魚介肉

類野菜類に発酵調味料だしを

組み合わせた和食は栄養学的

にみてもバランスをとりやすい

食事である

歴史的にみると日常食では

主食を大量に摂る習慣が続いた

穀類偏重の食生活だったといえ

よう

しかし豆腐や納豆みそ汁な

どを飯とともに摂ることで米の

アミノ酸の利用率を上げる食べ

方年中行事などハレの日に魚

介類などを摂取して楽しむなど

学ぶべき知恵は多い

なかでも何百年も伝えられて

きた和食の基本型はすぐれた

ものといえよう

副食の主菜には魚肉豆腐

などタンパク質を多く含む料理

を考える副菜には主菜に使わ

なかった野菜芋類などを使い

汁は主菜に合うものを用意する

焼き魚野菜の煮物青菜のお浸

しとみそ汁などでも栄養的バ

ランスはとれている

1980年頃までは多くの

家庭で和食の基本型が続いた

主食の量がやや減り副食が増

加とくに乳乳製品肉類の割

合が増加したこの頃栄養バ

ランスをはかる一つの指標であ

るPFCバランスが理想的な比

率を示した(左記参照)

しかしその後外食の日常化

家庭料理の欧米化が進み米の

摂取量が激減し脂質摂取の過

多などから生活習慣病が問題

となったこうした中各地で

食生活を見直す動きがみられる

ようになったその一つが学校

給食での取り組みである

戦後の食料難の中でパンと

牛乳に副食を加えた完全給食は

1950年に始まった197

6年に米飯が導入されるまで長

く続いたパン給食は和食の基

本型にも影響を与えたようだ

米飯給食は次第に増加し

2010年には週3回以上米

飯給食を実施している小中学

校は90以上となったが週5

回の米飯給食の実施は7以

上と高くない

ここでは2008年に5日

間すべてを米飯給食とした新潟

県三条市の事例を紹介しよう

成長期にバランスのよい食事

で健康な体をつくることそし

て望ましい食習慣を身につけ

生涯を健康に生きることをめざ

し完全米飯給食を実施したと

のこと

米は同市で生産される農薬

を減らしたコシヒカリを七分搗つ

きにした米飯を主食に副食は

主菜副菜汁を組み合わせる献

立をベースとしている主菜は

サケのフライ鶏肉ピリ辛焼き

さんま梅煮など伝統的な和食だ

けではないが和食の基本型の

中に取り入れる工夫がされてい

るパ

ンは油脂や糖分と相性が

良く肥満につながりやすいが

新潟県三条市の給食献立一例三条市の小中学校での献立例ご飯は三条市で収穫したコシヒカリを使用「お米だと腹持ちがよいのでデザートをあまり出さなくとも子どもたちが満足してくれる」とのこと洋風や中華風の献立でもおかずはご飯に合うものを選びスープなどの汁物は確実につけるように心がけている

火曜日

えだまめごはん

さけチーズフライ

くきわかめきんぴら

かきたまじる牛乳

小学校687kcal中学校823kcal

水曜日

ごはんとりにくのぴりからやきいかときゅうりの

あえものしょうがみそスープ牛乳小学校639kcal中学校752kcal

木曜日

ごはんさんまうめにたくあんあえにくじゃがに牛乳なし小学校688kcal中学校814kcal

金曜日ごはんカレーふりかけほうれんそうオムレツフレンチサラダパンプキンスープ牛乳小学校708kcal中学校833kcal

月曜日

ごはんいかのかりんあげ(2こ)

なっとうあえきのこけんちんじるのむヨーグルト

小学校619kcal中学校731kcal

2526 WASHOKU

七分搗米の飯は腹持ちがよく

おやつを食べる子どもが減った

だけでなく肥満の子どもが減

少傾向となり食生活のリズム

が良くなったとされる

また米飯に合う副食は土地

でとれる野菜類を取り入れやす

く季節にあわせてバラエティ

ーに富んだ献立を作ることがで

きる一汁三菜の食べ方の教育

を行った結果給食を残す子ど

もたちも減ったという

基本的な食事パターンが続く

中でも菜を工夫すれば変化に

富む食事を作ることはできる

季節の食材について学び年中

行事への知識も得られるだろう

また子どもたちが和食の基

本型を毎日の給食で体験してい

ることはきわめて重要なことで

ある時々経験するだけでは身

につかないものでも毎日繰り返

すことによって習慣化し定着

するのであるそしてやがて

自分で組み合わせを考えられる

ようになることが期待される

今後の学校給食の役割は大きい

といえるだろう

PFCバランスとは

FAO Statistics Yearbook(日本のみ食料需給表)参照栄養バランスが良いとされるP(たんぱく質)10~20F(脂質)20~30C(炭水化物)50~70の範囲が08~12に収まるように指数化した

日本でのPFCバランスの変化

アメリカとフランスのPFCバランス

タンパク質脂質炭水化物は人間にとって特に不可欠な「三大栄養素」PFCのPはProtein(たんぱく質)FはFat(脂質)CはCarbohydrate(炭水化物)の頭文字でPFCバランスとは食事の中での「たんぱく質」「脂質」「炭水化物」のそれぞれの摂取カロリーの比率健康的な生活をおくるためにはPFCバランスがたんぱく質15脂質25炭水化物60が理想的

給食時には全員で「いただきます」「ごちそうさま」を復唱食育にも力を入れているためそれら言葉の意味についても学校で教えている

米飯給食になってから児童たちの食の嗜し こ う

好に変化が生まれたとか児童たちに好きなおかずを聞いてみると「ハンバーグ」「カレー」などの定番メニューのほか「焼き魚」「納豆」などの和食メニューの名前が上がった

自分の分を食べ終わった児童たちが列をつくって競い合うようにご飯をおかわりしていたこの日の食べ残しはゼロ

C

P

F

14

12

1

08

06

アメリカ(2005~2007年)

C

P

F

14

12

1

08

06

フランス(2005~2007年)

「和食」の特徴 栄養5

日本人のPFCバランスは1965年当時は炭水化物に偏っていたが1980年は非常に理想的な配分になっていたしかしその後の日本人の食生活に肉や油脂類を多く摂り主食の米を食べる量が減り2010年時は欧米型に近づきつつある

C

P

F

14

12

1

08

06

日本1965年

C

P

F

14

12

1

08

06

日本1980年

C

P

F

14

12

1

08

06

日本2010年

2728 WASHOKU

お客を迎える前には店先に打ち水を水で清め準備が整ったことを伝える趣向に合う軸を選ぶのももてなしの基本飾る花は主人自ら育てたものそれを床の花入に活けるのも主人庭に150種ほどの草花を植え日々育てることもしつらいの準備客は女将の温かいもてなしに迎えられる

「和食」の特徴6

しつらい

人をもてなすためのこころとかたち

もてなしは客に対する一方的なサービスではない

お互いに思いやる気持ちから生まれるこころよさである

手入れの行き届いた庭は掃き

清めて水を打ち床の間には軸

を掛け季節の草花を生ける

座敷の襖ふ

すま

も夏には葭よ

しど戸に入れ替

え夏は涼やかに冬は暖かに

すべて相まってもてなしのた

めの用意を整えることそれが

しつらい和食とりわけ懐石

料理においては食材や料理と

ともにしつらいは非常に重要

な要素となる

家庭でも食事をつくる人は

食べる人の顔を思い浮かべなが

ら食事の用意をする食べる人

はつくってくれた人の気持ちを

考えて賞味するここに互いに

もてなす喜びが生まれるのでは

ないだろうか

こうしたもてなしの文化を極

限にまで洗練させた姿が料亭の

もてなしである京都府の無形

文化技術保持者に料理人として

初めて認定された京都の老舗料

亭「瓢亭」の十四代主人高橋英一

さんにその心を聞いてみよう

「料亭は日本文化の凝縮のひと

つと言えます玄関から入って

座敷に行くまでに通る露地にも

季節感があり部屋に入れば時

季や行事の軸がありその座敷

のために選んだ花が飾られる

日本人が自然と身につけている

桜の器を使うことで膳の上にぱっと花が咲くような華やかさが生まれるあしらいは酢取り防風岩海苔

秋の花菊の器はこっくり深い色合いも相まって秋に似合う風情を持つあしらいは岩茸菊花

深さのあるガラスの器に氷が敷き詰められる涼感を目でも舌にも感じるあしらいは穂紫蘇寄せ莫大

縁起のいい鶴は新年の席でも使われるモチーフあしらいは水前寺海苔紫芽紫蘇

四季の感性で受け止めてもらえ

るよう整えお出迎えします

料亭は普段とは違うハレの場で

すがとはいえ行き過ぎず足り

ないことのないよう自然なし

つらいそしてもてなしを心が

けます」

「瓢亭」の座敷に飾られるのは

主人が庭で丹誠込めて育て自

ら生ける茶花

「もてなしの根

底に利休さんの『花は野にある

ごとく』の言葉を思いますが簡

単なようでそれが難しい」自

然体でのもてなしを生むしつら

えは名店においても日々心を

くだき工夫するのだ

「瓢亭」では1年をとおして明石の鯛の向付を供しているが季節ごとに

器とあしらいを変えることで四季を演出している

四季の演出

2728 WASHOKU

和食はご飯と菜あるいはご飯とお汁というように常にご飯を間にはさんで菜や汁をとるのが本来の食べ方下のような不作法とされる箸使い(嫌い箸)があるので覚えておきたい

ご飯は茶碗に味噌汁はお椀

に焼き魚だったら平皿にと普

段料理に合わせて何気なく使う

食器種類の多さもさることな

がら形や素材もさまざま欧

米はもちろん近隣諸国を見回

してもこれほど多種多様な器を

使う国はないそれは四季が明

確なことと無関係ではない

「自宅でも季節に合わせた器

にするだけで気分が変わりま

すよ」と前出「瓢亭」のご主人は

語る 

春であれば華やかな色や形の

もの夏はガラスや青磁など涼

しげな素材の器秋は実りのあ

る彩りがあるもの冬は厚手の

陶器や木製など温もりのあるも

の色素材形を変えるだけで

季節感を演出できる「和食」な

らではの楽しみ

食事の際当たり前のように

使っている箸も日本の食文化

を代表する食具奈良時代以

降匙さ

を使う伝統が消え箸だ

けを使うようになったため熱

い汁物は椀を持ち直接口を

つけてすする文化が確立同

時に椀箸ともに個人所有が基

本となった椀や箸を共有し

匙やレンゲを使うほかの東南

アジア諸国とは異なる食文化

を形成箸食文化圏の中でも

唯一箸だけでご飯を食べる国

となったまた一口に箸といっ

ても食箸取り箸菜箸など用

途に合わせてさまざま食べ

る際に使う食箸だけを見ても

形や素材のほか加工や長さも

豊富にそろうのだ

「和食」の特徴7

箸と椀

「和食」を支える箸と椀

箸食文化圏の中でも唯一箸だけを使う国日本

季節感を感じさせる器とともに独特の食具文化も誇る

渡し箸食事の途中でお箸を

食器の上に渡し置くこと

寄せ箸遠くの食器を

箸で手元に引き寄せる行為

指し箸食事中箸で人やものを指すこと

迷い箸どの料理にしようか迷い箸を料理の上で動かすこと

移り箸いったん取りかけてから

ほかの料理にお箸をうつすこと

箸には食事に使う食箸と調理に使う菜箸とがある菜箸は熱から手を守るため30~50と長く片方がなくならないよう糸でつながっているものもある取り箸は菜箸の一種食箸は個人所有が基本のため使う人に合わせた長さが用意されている漆塗りや螺鈿細工を施したものも多い

種類

形状だけでなく素材もさまざまで近年は黒檀や鉄木など硬質な木が使われることが多い日本の木としては特有の香りがあり古くから懐石用や割り箸に使われてきた杉耐水性耐湿性が高く保存性に優れる上に軽くて持ちやすい檜強くしなりがあり細かいものを取りやすい竹などがある

素材

家庭で使う食箸の形には角箸や四角で角が丸い胴張り五角六角七角八角のほか削りなどがあり持ちやすさに合わせて選べる箸先に加工が施されたものもある来客用に使う銘々箸や割り箸には断面が小判型で割れ目と溝が付いた元禄箸や中央部が太く両端が細い利休箸などが用意されている

日本人にとっての箸は調理から盛りつけ食事までをこなす大事な道具食箸は個人所有が基本のため個々に合わせて選べるのも特徴だ

箸の働き

箸使いの作法を知る

【嫌い箸】

食箸

八角箸 削り箸

菜箸

檜竹

「和食」の特徴 しつらい 箸と椀6 7

2930 WASHOKU

神し ん せ ん

饌として神へ供えられるお神酒は神棚の最上段の中央に置かれるほど重要な地位を占めている

日本酒を造る酒蔵は全国に約1600弱その数は年々減り続けているが数年に一度「日本酒ブーム」も起きている

日本酒とは米と米こうじ

そして水を主な原料にしてそ

れらを発酵させて造られる

原料には主食用の米ではなく

酒造りに適した性質を選び品

種改良された酒し

ゅぞうこうてきまい

造好適米を使

うことが一般的だまた日本

酒の80を占める水も品質を

左右する大きな要因日本酒

の香味を損なわない良質な水

が必須だ

日本酒の醸じ

ょうぞう造の工程にはさ

まざまな技術が伴う例えば米

を精米して味と香りを調整する

技術これは米の外側にあるた

んぱく質や脂質といった雑味の

もとを除くことが目的だが大だ

吟ぎんじょう醸酒にもなると米を半分以

上削ってから仕込むこともある

次いで米を発酵させる技術

酒の場合の発酵とは酵こ

うぼ母が糖類

を食べてアルコールを出すこと

をいうが米には糖類が含まれな

いためまずは米をこうじ菌の酵

素によって糖類へと変えそこに

酵母を加えて発酵させるという

複雑な手順(複式発酵)が必要だ

この手順で使われるこうじもバ

ラこうじと呼ばれる日本独特の

ものだバラこうじは糖化力が

高いのが特徴で日本酒の香りや

味に大きく影響する

稲作を中心に文化を育んでき

た日本では米餅米から造ら

れる酒は地域を問わず重要な

ものとされている米の一粒一

粒に神が宿り同じように酒も

神のおかげで造ることができる

と考えられてきたそして酒

もまた食べ物と共に神に近づ

くための手段として古くから用

いられてきた

同時に家族や親族地域で人

と人をつなぐ上でも酒は大き

な役割を担っている例えばお

神み

き酒祭礼の後には神の酒を

人々が口にする神と同じ酒を

飲みそれを人々が分かち合う

ことで地域やコミュニティが

結束力を強めるのだろう

米や麦やさつまいもなどを原

料とする焼酎も日本酒と並び

日本の國酒とされている酒は

人と人の心をほぐし食事を引

き立たせる重要な役割を担って

いるのだ

「和食」の特徴8

「和食」を引き立たせ

心をほぐす日本の酒

日本人にとっての主食であり精神のかなめでもある米

その米で醸か

される日本酒は「和食」にとって欠かせない要素

日本の「國こ

くしゅ酒

」にもなっている

2930 WASHOKU

「和食」の特徴9

和菓子日本茶

暮らしに寄り添う和菓子とお茶

自然の恵みに感謝し季節の移ろいを敏感に表現する和菓子

日本茶は喉のかわきを癒すだけでなく心を癒し心を高める飲みものである

「和食」の特徴 酒 和菓子8 9

ハレの日の願いを込めた和菓子

和菓子分類餅もの 餅団子大福など蒸しもの 饅頭蒸羊

よ う か ん

羹外う い ろ う

郎村む ら さ め

雨など煉もの 煉

ね り き り

切こなし求ぎ ゅ う ひ

肥飴葛く ず

菓子など焼きもの 味噌松風煎

せ ん べ い

餅桃も も や ま

山カステラどら焼など流しもの 錦

にしきだま

玉煉ね り よ う か ん

羊羹水み ず よ う か ん

羊羹など揚げもの 揚げ煎

せ ん べ い

餅かりんとうなど打ちもの(押しもの) 落

ら く が ん

雁など岡もの 最

も な か

中きんとん鹿か の こ

の子すはまなどかけもの 金

こ ん ぺ い と う

平糖五ご し き ま め

色豆石いしごろも

衣など

これは和菓子の製法によって大まかに分類した表このほか含有する水分量によって生菓子半生 菓 子 干 菓 子などの分け方や上じ ょ う な ま が し

生菓子並菓子駄だ が し

菓子などの分類もある

「岡もの」とはすでにできあがっ た素材をあわせたもの (例きんとん=飴玉とそぼろ餡)

甘く味付けしたごぼうと白味噌餡を赤や白の餅や求

ぎ ゅ う ひ

肥で包んだ生菓子平安時代の新年行事のひとつで長寿を願っておこなわれた「歯固め」の餅に由来する餅と味噌の組み合わせから「包み雑煮」とも呼ばれた

葩はなびらもち

一 月

旧暦十月は「亥の月」と呼ばれていたがその月のさらに「亥の日」に行われる年中行事の際に食べられていた菓子旧暦では10月が冬の始まりそのタイミングで無病息災と多産の猪にあやかって子孫繁栄を願ってこれを食べていたという

亥い の こ も ち

の子餅

十 月六 月

白いういろうの上に小豆の粒餡を散らした菓子古来京都で旧暦六月の晦

み そ か

日(30日)に無病息災を祈願して行われている

「夏なごしのはらい

越祓」になぞらえて初夏の頃に食べられている小豆には邪気祓いの意味があり三角の形は氷を表している

水無月

五 月

平たく丸めた上新粉の餅をふたつに折り中に小豆や味噌の餡を挟んでそれを柏の葉で包んだ菓子柏の葉は新芽が育つまで古い葉が落ちないことから

「子孫繁栄」を願って旧暦五月五日の端

た ん ご

午の節句の供く も つ

物として用いられてきた

柏餅

日本ならではのお茶の製法である手揉みは茶葉の繊維をつぶしながらうまみを引き出すために行う作業手揉みすると茶葉が切れないため茶の甘みを保つことができる

菓子もまた「和食」にとって欠

かせない要素でお客様用の「上

菓子」普段食べる「饅頭」や「餅

菓子」などに分かれるほかに

干菓子や駄菓子など菓子の種

類は多いまた例えば団子や

大福などは「餅もの」求肥や飴

などは「煉りもの」錦玉や

水みずようかん

羊羹などは「流しもの」などと

いうようにその製法によって

分類されることもある米や麦

小豆を代表とする豆類そして

砂糖や水あめなどの材料でバ

ラエティに富んだ菓子が生み出

されてきた

お茶会などの席で抹茶ととも

に味わう菓子もあり季節に合

わせて材料や色やデザインが選

ばれ味覚だけでなく視覚で楽

しむこともある

また年中行事と結びつく菓

子もある例えば旧暦三月三日

の「ひな祭り」では邪気をはら

い強い生命力を象徴するよも

ぎの草もちでつくった草餅を食

べる

和菓子には日本茶がふさわし

い緑茶は12世紀に中国から日

本に伝わったが今では生の茶

葉を蒸してから揉んで乾燥させ

る緑茶の製法は日本独特のもの

となっている緑茶に含まれる

カフェインは覚醒効果がまた

カテキンには抗酸化作用があり

ビタミンCも多く含まれて健

康によい日本茶独特の香りと

うま味は日本文化そのもので

ある

出典「和菓子の歴史展」第五十回虎屋文庫資料展より

3132 WASHOKU

日本の「和食」の文化は自然

環境だけでなく海外からの影

響によっても絶えず変化して

きた

近代以降にはコロッケとん

かつなど洋風料理を和食の基本

型に組み合わせた食事肉と野

菜の煮物や和え物などそれまで

にはない料理が工夫されたそ

の多くは和食の基本型味噌や

醤油を用いた味付け箸で食べ

られる料理など「和食」の要素

を保ちつつ伝えられてきた

しかし第二次世界大戦後高

度経済成長期を迎えると日本人

の食生活は急速に変化する

1970年代にファストフー

ド店ファミリーレストランが

各地に開店しコンビニなども

広がった

1980年頃主食と副食の

バランスは理想的とされたが

(26頁参照)その後米の消費量

はさらに減りパン食が増加

肉類油脂乳乳製品の消費量

も増加し食料自給率も下がっ

た家族での外食が日常化し

家庭の食事も欧米化した

食育の必要性

「和食」が危ないどうしたら伝えられるのか

この150年間で大きく変化し「和食」はいま衰えつつあるその原因はどこにあるのだろうか

食生活の変化

日本の食料自給率の変化農林水産省「食料需給表」より作成

日本のものを食べなくなって 「和食」はどうなる 日本の食料自給率は下がり続けている1965(昭和40)年度はカロリーベースで73だったが2012(平成24)年度は39その大きな原因のひとつは国内で自給可能な米や魚や野菜などの消費量が減少する一方国内で生産が困難な飼料穀物を食べて育つ畜産物や原料を輸入に頼ることが多い冷凍加工食品や小麦の消費が増加したことだと考えられている炭水化物たんぱく質脂肪分をバランスよく摂取する健康的な「和食」に未来はあるのか

国民一人一日当たりの供給純食料農林水産省「食料需給表」より作成

食べる米の量が50年で半減 増えたのは肉と乳製品 国民一人あたりが食べる量を品目別に眺めて分かることそれは日本人が食べる米の量が著しく減ってきたことだ1960(昭和35)年度は一日あたりの米の消費量は約315gだったが2010(平成22年)年度は163gに約半減その代わりに増えたのは牛乳乳製品(約60gから約240g)と肉類(約14gから約80gへ)野菜と魚を中心としたおかずでご飯を食べるという

「和食」のスタイルの変化がわかる

食料費における外食と中食の割合の推移総務省統計局「家計調査年報」より作成

家で食べても 調理することが減っている 外食に対して家庭で作って食べる食事を内食というが弁当や惣菜など調理をせずに食べられるものを買ってきて済ます食事は中食と呼ぶ実はこの中食の割合が増えている外食が占める割合は2000(平成12)年以降横ばいなのに対して中食は増え続けその代わりに内食が減っている食事は家で食べても調理はしないという家庭が増えているのだとすれば「和食」にとって大切な要素を子どもたちに伝える機会が減っているとはいえないだろか

食料自給率(金額ベース)

食料自給率(主食用穀物)

食料自給率(カロリーベース)飼料自給率

米 野菜 肉類牛乳乳製品 魚介類

内食 中食 外食

(g人日)

3132 WASHOKU

50

55

60

65

70

75

01992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012

70

75

80

85

90

95

01992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012

一日に一度はお米を食べないと気がすまない人の割合博報堂生活総研「生活定点2012」

お正月におせち料理を食べた人の割合博報堂生活総研「生活定点2012」

一日に一度は米を炊いたご飯を食べなければ気がすまない人の割合が実はこの20年間で減っているというデータがある1992(平成4)年には714だったが2012(平成24)年には564にまで落ち込んでいるのだ

家族や親族で集まっておせち料理を囲みながら新しい一年の無事を祝うお正月実はおせち料理を食べる人も毎年少なくなっている1992(平成4)年には866だったが2012(平成24)年には748だった

電子レンジの普及や冷凍食品

インスタント食品などにより

食生活は便利になったが家庭

内で調理をする機会が減ったと

もいえる

こうしたなか「和食」の優れ

た点をどうしたら伝えられるの

だろうか親から子へ家庭の食

を伝えるだけでなく学校を通

して子どもたちにさらにその

親の世代にも伝える必要があろ

う高齢者からは「和食」につ

いて具体的に教わることも求

められる

離乳期からの食べ物の選び方

幼児期の食経験を豊富にするこ

となどはとくに重要であろう

小さな頃からの食習慣はその

後の食習慣に大きくかかわって

くるからだ

だしのおいしい味を日々体験

することや魚を味わい骨を箸

でとる訓練を楽しい雰囲気のな

かで教わることなどその積み

重ねの中で「和食」は伝わるので

あろう

経験しない味は異文化とと

らえられるであろうし体験し

ていない調理は簡単でも難しく

感じる食事を用意する過程を

日々見る経験手伝う楽しさ美

しい食器を大切にして使うこと

同じ食べ物を家族や仲間と味わ

い祭りや花見などで共に食べ

る経験を積み重ねることは文

化としての「和食」を伝えるだけ

でなく生きる力を育むことにも

つながるであろう

壁にではなく居間に向かって設置されることが多くなった現在のキッチン夫婦共働きだというこの家庭では夫が厨房に立つことも少なくないというこのように食事の準備を子どもと一緒に行うことで「和食」にとって大切な要素が次の世代に伝えられるようになるのだろう

世帯あたり1ヶ月間の穀類支出金額内訳

1962年3434円

パン

麺他

2010年6373円

パン

麺他

ご飯を食べなくても平気 そんな人が増えている

お米よりパンと麺 その傾向が加速中

おせち料理を食べる派が 毎年ジワリ減少中

1962(昭和37)年度には8割以上を占めていた米への支出が2010(平成22)年度にはパンにとって代わられる米の消費量はパンより多いが家庭では炊飯する必要のある米よりすぐに食べられるパンや麺の支出が多くなり家庭での料理が減っていることを示しているともいえよう

総務省統計局「家計調査年報」より作成

いただきます

ごちそうさま

「和食」の未来

今世紀に入ってから世界に和食ブー

ムが起きている味わいやヘルシーさに

注目が集まり世界中のいたるところに

日本食の店が数多くある

そのように世界から注目される「和食」

だが本家本元の日本国内でその将来が

危ぶまれている

これまで見てきたように「和食」には

新しいものを柔軟に取り込む歴史があっ

た日本人は太古の昔より外国からも

たらされた食文化を自分たちの食生活に

取り込んで日本独自の食文化を発展さ

せてきた地域ごとに地域の環境にふさ

わしい料理をつくり出してきた食べる

料理や食べ方もその時代ごと地域ごと

に変わってきた

その中で貫かれてきたことがある

豊かな自然がもたらす食材のおいしさ

を生かす調理法を工夫し味わうこと

食卓に季節感をしつらえもてなしの気

持ちを共に感じ合う食事の場を持つこ

と一汁三菜という組み合わせを食事

の基本スタイルとして健康的な食生活

をおくることお正月におせち料理を

祝いの日にお赤飯を家族と共に食べる

など食事は家族の絆となっている

豊かな自然を守る気持ちと同じように

日本人を健やかに生かし人と人をつな

いできた「和食」もまた守るべき大切な

日本文化ではないだろうか

「いただきます」「ごちそうさま」と言っ

てみるだけでも「和食」は私たちに身近

になる人と人をあたたかく結びつけて

くれる

日本人はやはりお米のご飯がおいしい

と思うだしのきいた汁でおなかも心も

癒されるこの日本人が長い歴史の中で

育んできたすばらしい財産である「和

食」がこのままなくなってよいと考える

人はいないだろう世界の中でもすぐれ

た食文化として認められた「和食」を日本

の誇りとし大切にして次の世代に受け

継いでいくきっかけにこの冊子がなれ

ば幸いである

ごちそうさま

和 食

1112 WASHOKU

お正月雑煮に合わせて飲むお屠蘇は銚ち ょ う し

子三つ重ねの盃盃を乗せる盃台これらを載せる盆で供されるもともとお屠蘇はいくつかの薬草を組み合わせた屠

と そ さ ん

蘇散を酒やみりんに浸して作る薬酒だった

お194679と そ蘇

魂の象徴である丸餅を入れた雑煮を食べるということは神の力をいただくことでもあったこれは京都でなじみ深い西京味噌で味付けした雑煮焼かずに煮た丸餅と昔から縁起物とされた頭

かしらいも

芋(里芋の親芋)が入るのが特徴だ

雑煮

赤い色の小豆は邪気と厄をはらいのけると信じられ祝い事の際には頻繁に登場したまたもち米を蒸して食べる習慣は古い日本の文化でもあって例えば赤飯はハレの食事として供されことにお祝いの席には欠かせない

赤飯一生食べることには苦労しないようにとの願いを込めて子どもの生後100日目に行う「お食い初め」の儀式では尾頭付きの鯛を含んだ一汁三菜の膳が供される丈夫な歯が生えることを願う「歯固めの石」も欠かせない

お食い初め

「和食」が日本文化である理由 健康長寿の願い3

を並べたスタイルもあれば煮

しめだけをおせちとする地域も

あるが神と食事を共にしつ

つ福を招き災いを打ちはらう

という願いが込められていると

いう点は共通している

同じくお正月に食べる雑煮は

そもそも武士にとって一番大切

で正式な酒の肴で正月には必

ず餅の入った雑煮とお194679と

そ蘇が

供されるそして鏡餅などの丸

い餅は神の魂の象徴「歯固め

餅」とも呼ばれ1月11日に鏡餅

を食べて歯が丈夫な長寿を願う

意味が込められている

食を囲み毎日を無事に過ご

すことを願う行事に五節句があ

る七草粥を食べる正月7日

(人じ

んじつ日)の他には邪気をはらう

と信じられていたヨモギ入りの

草餅を食べる3月3日(上じ

ょうし巳)

粽ちまきや柏餅を食べることで健康を

願った5月5日(端た

んご午)索さ

くべい餅と

呼ばれる細い麺を食べて無病を

願う7月7日(七し

ちせき夕)菊酒で不

老不死を願う9月9日(重ち

ょうよう陽)が

ある

人生儀礼に目を向ければ邪

気や厄をはらうと信じられてい

た赤飯は祝儀だけでなくお盆

などの仏事や葬儀の際にも食

べられてきた

体によいものを求めてきた

「和食」の伝統は結果として世

界でもまれにみる健康によい食

文化をつくりあげた健康で長

生きしたいという強い指向が

「和食」の根底にはある

北海道は各地から入ったお雑煮が混在する北海道特産のいくら鮭を使った「親子雑煮」を食べる家庭も多い

焼いた角餅に醤油味が一般的一部の地域では具に豆腐やゴボウなどが入りゴマだれやクルミだれに付けていただくこともある

鰹節でだしを取り醤油で味付けしたすまし汁に焼いた角餅を入れるのが一般的具には鶏肉こまつ菜かまぼこなどが入る

昆布でとっただしに白味噌で味付けし煮た丸餅を入れるすまし汁のところや元旦は白味噌2日目はすまし汁にする地域もある

1314 WASHOKU

「県出身ならあれ食べた

ことあるの」「お雑煮のお餅と

味付けは」hellip日本各地に伝

統的な料理や食材があり味付

けも地域ごとに異なる

気候や風土が異なると採れ

る食材や調理法は変化し地域

色豊かな和食が形づくられてき

たそんな多様性も和食の魅力

であり日本を旅するときの楽

しみのひとつでもあるはずだ

いまのように流通が盛んでな

く保存技術も進んでいなかっ

たころ食料を無駄なく存分に

そして安定的に味わうというこ

とは人々の重要な課題だった

そこで知恵を絞り工夫をこら

し考えられたのが食品の加工

や保存方法その知恵が結果的

に「和食」の多様性を生みだし

ていくことになるのだ

海から遠い土地では魚を長持

ちさせる知恵が生まれ冬が厳

しい北方では野菜を長期にわた

り保存する技が発展してきた

魚の干物餅梅干し凍み豆

腐helliphellipこれら保存食は昔から

ある加工食品だが同じく日本

古来の加工食品に発酵食品があ

る微生物の働きや酵素の力

で保存力や栄養価風味などが

加わった食品だ野菜の漬物も

このひとつ

例えば秋田県の郷土料理「い

ぶりがっこ」大根を囲炉裏の

4

「和食」の多様性

風土が多様性を生み

それが「和食」という地図を描く

南北に長くさまざまな気候を持つ日本だけに地域が持つ食文化は多様で

土地土地に伝わる郷土料理や加工保存技術が存在している

日本の食が描く地図は知れば知るほど面白い

風土の違いから生まれる

食文化の多様性

お雑煮MAP

 

正月に食べられるお雑煮はだ

しの素材や味付け餅の形状具な

どが地域や家庭によってさまざま

であるだしには昆布鰹節煮

干しするめ穴子鶏肉が味付

けには塩醤油味噌などが使われ

る餅は角か丸かそれを焼くか

煮るかという違いもあるまたあ

ん入りの餅を入れる地域もある

具は野菜類魚介類鶏肉などで

地域の特産品が使われることも多

い沖縄県ではお雑煮に代わるも

のとして「中味汁」(豚の内臓の

汁)があるここでは全国各地の

お雑煮の中から特徴のあるもの

を取り上げた丸もち

角もち

角もち

角もち

昆布と鰹節のだしに味噌で味付けし煮た丸餅とかぶそしてかぶの葉を加えたシンプルなお雑煮を食べる地域も味噌は赤味噌白味噌のいずれかが使われる

丸餅に白味噌仕立てが多いが香川県では白味噌にあん入り餅を入れた「あんもち雑煮」が珍しい具は大根ニンジン里芋など

だしはあごだし昆布鶏肉とさまざまだが味付けは醤油味具にかまぼこが入り九州の北部にはあん入り餅を入れる地域もある

醤油味のすまし汁に煮た丸餅が多い出雲地方では

「小豆雑煮」と呼ばれ具はなくぜんざいのような小豆だけの雑煮を食す

昆布と鰹節のだしに味噌で味付けし煮た丸餅とかぶそしてかぶの葉を加えたシンプルなお雑煮を食べる地域も味噌は赤味噌白味噌のいずれかが使わ

1314 WASHOKU

上に吊るし楢や桜の焚き火で

燻製にしてから米糠と塩で漬

けこんだ漬物だこれは冬の訪

れが早い秋田で大根を早く乾

燥させ長く食べられるようにす

るための工夫だいずれも手間

と時間が加わることで風味が

濃縮されとれたてとは違った

深い味わいが生まれた

魚介類の保存食でいえばな

れずし魚を塩と米飯で数日

から数ヶ月寝かせ乳酸発酵さ

せたもの雑菌の繁殖が抑えら

れ長期間の保存が利く上うま

味が増す現在滋賀県のふな

ずし和歌山県のサバやサンマ

のなれずし福井県小浜市のへ

しこなれずし秋田県のハタハ

タ寿司など日本全国の郷土料

理として残っている

また味噌や醤油といった発酵

調味料は日本料理の味の要と

もいえやはりこれらにも地域

によって造り方や味に違いがあ

る例えば味噌大豆と米こ

うじを使い長期間熟成させた辛

口の津軽味噌米こうじを多く

配合した甘みのある西京味噌

大豆こうじを使った赤褐色の名

古屋の八丁味噌麦を原料にし

た九州地方の麦味噌などさま

ざま

地域の特産品発酵調味料餅

で構成されるお雑煮を見ても

多様性はよくわかる

日本の風土と食文化は深く結

びつき世界が注目するバラエテ

ィに富んだ食を育んできたのだ

日本の味噌

mdash

地域と特徴mdash

味噌は製法材料によって

大きく3つに分けられる

全国的に一般的なのが「米

味噌」で蒸すまたは茹で

た大豆に塩米こうじを加え

発酵させたもの米こうじ

の代わりに麦こうじを使用

したものを「麦味噌」大豆

を発酵熟成させたものが

「豆味噌」米味噌には大

豆を蒸して長期間熟成した

辛めの赤味噌と大豆を茹

でて短期間で熟成させた甘

めの白味噌がある

「和食」が日本文化である理由 「和食」の多様性4

主な種類地域 特徴

米味噌

津軽味噌 長期間熟成させる辛口で赤味噌系が主流

仙台味噌 仙台で伝統を継承して造られてきた長期間熟成させる辛口赤味噌系が主流

信州味噌 長野県を中心に造られる山吹色の淡色系の辛味噌

江戸甘味噌 通常の味噌よりもこうじを多く塩を少なくした赤系の甘さのある味噌

西京味噌 関西地方を中心に造られる米こうじの多い甘みのある白味噌

讃岐味噌 香川県で造られる甘みのある白味噌あん餅雑煮にも使われる

府中味噌 甘みのある米こうじの多い白味噌で主に広島県で造られる

麦味噌 九州四国中国 麦こうじを使って発酵させた山吹色を帯びた甘みのある味噌

豆味噌 八丁味噌三州味噌 蒸した大豆でみそ玉を作りこうじ菌を繁殖させて造る濃い赤褐色の味噌

お雑煮に入れる餅の形について出身地ごとに聞き取った結果中部を境にして東は角餅西は丸餅が多かった

もちの形について

丸もち

丸もち

丸もち

丸もち

出典「お雑煮100選」(文化庁)より

(人)

温暖化が進み狩猟が大型獣から小型獣になる

南九州で竪穴式住居にドングリ貯蔵穴が広まる

ドングリなどの植物性食料が重要な食料になる

水田稲作が日本列島に伝来

稲作の広がりと定着魚を発酵させたなれずしの登場

『魏ぎ

し志』倭わ

じんでん

人伝には倭(日本)では冬夏に生菜を

飲食に高杯をつかい手食するとある

土は

師器の移動式かまどの使用

土師器の甑こ

しきに

よる蒸し米が盛んになる

中国に遣唐使を送る大陸の食文化がもたらされる

675年天武天皇が「牛馬犬猿ニワトリ」の

食用を禁止

牛乳を煮詰めて作った「蘇そ

」が朝廷に貢納される

箸の利用が広がる

貴族の大だ

いきょう饗

料理や年中行事が中国の影響で定着

豆腐が中国より伝来する

栄西が宋より抹茶法を持ち帰る

道元が禅宗における食事作法や調理の心得を

説いた『典て

んぞきょうくん

座教訓』『赴ふ

しゅくはんぽう

粥飯法』を執筆

植物性食品のみを使った精進料理の発展

武士の供応食本ほ

んぜん膳

料理の形成

包丁人と呼ばれる料理人が誕生し包丁流派を形成

刻み目のついたすり鉢が広がる

酒造技術の進展

書院茶の湯からわび茶の湯へ

千利休により茶の湯が完成

懐石形式の定着

豊臣秀吉が北野大茶会を開催

欧州が大航海時代に入り

南蛮貿易により南蛮菓子唐辛子などが日本に伝来

日本初の出版料理書『料理物語』刊行

都市部に食べ物屋や料理屋が普及する

料理屋の会席料理形成

けがれによる肉食禁忌の観念が広く浸透

薬食いとしての肉食

飢き

きん饉に備えさつまいもやじゃがいもの栽培を奨励

和菓子の完成

握り寿司やてんぷらが江戸で流行する

肉食解禁と牛鍋の流行

『西洋料理指南』など西洋料理書の出版

西洋料理店の発展

米の摂取率が平均53に

家庭向け料理書の出版

女学校における食物教育

脚か

っけ気

論争がさかんに行われる

牛肉の不足から豚肉の生産が増加

洋菓子の製造発展

物価高騰と米不足によるじゃがいもパンなどの代用食の奨励

国立栄養研究所の開設と栄養学の発展

都市部で和わ

ようせっちゅう

洋折衷料理が普及

戦争による食料不足

食料統制米などほとんどの食品が配給切符制となる

イモなど代用食の増産

戦後のミルクとパンの学校給食が開始

各地に闇市ができる

食料の価格が高騰

厚生省が日本人の栄養基準値を策定

農家の生活改善運動が展開

即席ラーメンなどインスタント食品の開発販売

冷凍冷蔵庫の普及と冷凍食品が普及

日本型食生活の提唱

ファミリーレストランファストフード店の増加

コンビニの発展

日本食の洋食化と簡便化と米摂取量の減少

食料自給率が39〜40に低下

レトルト食品の売上増大

電子レンジ普及率が約90に

遺伝子組み換え食品が登場

地球温暖化など環境問題が深刻化

阪神淡路大震災東日本大震災により災害食が注目される

持続可能性が社会課題に

家庭料理の変化や家族の孤食化などの問題が生まれ和食の見直しへ

縄文時代弥生時代古墳時代飛鳥時代奈良時代平安時代鎌倉時代室町時代安土桃山時代江戸時代BC9000年BC3000年BC2500年頃BC200年頃240年頃500年頃7世紀8世紀8~12世紀12~14世紀14~16世紀16~17世紀17~19世紀

1516 WASHOKU

「和食」の年表

「和食」がたどった道和食の成立とその変化を年表でたどってみると各時代の人々が海外の食文化の影響を受けながら工夫を積み重ねてきた様子が見えてくる

米は縄文時代晩期に伝来し

たとされるが全国に広がるの

は弥生時代である

平安時代の大饗料理は貴族

の供応料理で蒸した高盛の強こ

飯いい

に各種の魚介類を配し調味

料につけて食べる形であった

鎌倉時代には禅宗の影響に

より動物性食品を排除した

精しょうじん進料理が発展した道元禅

師は調理も修行の一つとして

その心得を記した『典て

んぞ座教き

ょうくん訓』と

食事への感謝の念作法を説い

た『赴ふ

粥しゅく

飯はんぽう法』を著した

室町時代上層階層の料理文

化として本膳料理が登場した

この形式は江戸時代後期には

婚礼などの儀礼食として各地域

に浸透し昭和期まで継承され

た本膳には飯汁菜香の物

が盛られ飯を主食とした伝統

的な食事の形式が定着すること

になるまた酒とその酒肴も

本膳に伴って発展した

安土桃山時代には茶の湯に

ともなう懐石が発展した一汁

三菜を基本に旬の素材にこだ

わり食事空間のしつらいにも

気を配るなど精神性をも盛り込

んだこの形式はその精神と

共に現代に引き継がれている

江戸時代の都市部ではそば

すしてんぷらなどの食べ物屋

高級料理店なども広がりをみせ

た料理書の出版も相次ぎ酒

と酒肴を楽しむ料理屋の会席料

理も成立したまた和菓子の

温暖化が進み狩猟が大型獣から小型獣になる

南九州で竪穴式住居にドングリ貯蔵穴が広まる

ドングリなどの植物性食料が重要な食料になる

水田稲作が日本列島に伝来

稲作の広がりと定着魚を発酵させたなれずしの登場

『魏ぎ

し志』倭わ

じんでん

人伝には倭(日本)では冬夏に生菜を

飲食に高杯をつかい手食するとある

土は

師器の移動式かまどの使用

土師器の甑こ

しきに

よる蒸し米が盛んになる

中国に遣唐使を送る大陸の食文化がもたらされる

675年天武天皇が「牛馬犬猿ニワトリ」の

食用を禁止

牛乳を煮詰めて作った「蘇そ

」が朝廷に貢納される

箸の利用が広がる

貴族の大だ

いきょう饗料理や年中行事が中国の影響で定着

豆腐が中国より伝来する

栄西が宋より抹茶法を持ち帰る

道元が禅宗における食事作法や調理の心得を

説いた『典て

んぞきょうくん

座教訓』『赴ふ

しゅくはんぽう

粥飯法』を執筆

植物性食品のみを使った精進料理の発展

武士の供応食本ほ

んぜん膳

料理の形成

包丁人と呼ばれる料理人が誕生し包丁流派を形成

刻み目のついたすり鉢が広がる

酒造技術の進展

書院茶の湯からわび茶の湯へ

千利休により茶の湯が完成

懐石形式の定着

豊臣秀吉が北野大茶会を開催

欧州が大航海時代に入り

南蛮貿易により南蛮菓子唐辛子などが日本に伝来

日本初の出版料理書『料理物語』刊行

都市部に食べ物屋や料理屋が普及する

料理屋の会席料理形成

けがれによる肉食禁忌の観念が広く浸透

薬食いとしての肉食

飢き

きん饉に備えさつまいもやじゃがいもの栽培を奨励

和菓子の完成

握り寿司やてんぷらが江戸で流行する

肉食解禁と牛鍋の流行

『西洋料理指南』など西洋料理書の出版

西洋料理店の発展

米の摂取率が平均53に

家庭向け料理書の出版

女学校における食物教育

脚か

っけ気

論争がさかんに行われる

牛肉の不足から豚肉の生産が増加

洋菓子の製造発展

物価高騰と米不足によるじゃがいもパンなどの代用食の奨励

国立栄養研究所の開設と栄養学の発展

都市部で和わ

ようせっちゅう

洋折衷料理が普及

戦争による食料不足

食料統制米などほとんどの食品が配給切符制となる

イモなど代用食の増産

戦後のミルクとパンの学校給食が開始

各地に闇市ができる

食料の価格が高騰

厚生省が日本人の栄養基準値を策定

農家の生活改善運動が展開

即席ラーメンなどインスタント食品の開発販売

冷凍冷蔵庫の普及と冷凍食品が普及

日本型食生活の提唱

ファミリーレストランファストフード店の増加

コンビニの発展

日本食の洋食化と簡便化と米摂取量の減少

食料自給率が39〜40に低下

レトルト食品の売上増大

電子レンジ普及率が約90に

遺伝子組み換え食品が登場

地球温暖化など環境問題が深刻化

阪神淡路大震災東日本大震災により災害食が注目される

持続可能性が社会課題に

家庭料理の変化や家族の孤食化などの問題が生まれ和食の見直しへ

明治時代大正時代昭和時代(戦前戦中)昭和時代(戦後)平成1869~1912年1912~1926年1926~1945年1945~1989年1989年~

1516 WASHOKU

家庭料理の変化や家族の孤食化などの問題が生まれ和食の見直しへ

基本はほぼこの時代にできたと

いえよう

いっぽう各地域の日常食の

主食は麦雑穀芋類を混合し

たかて飯やうどんなど小麦粉を

用いた食事が多くそれは昭和

期まで引き継がれ各地で独自

の「和食」の文化が形成された

西洋文化を積極的に取り入れ

た明治時代以降西洋料理書が

出版され都市部では西洋料理

店が開店したまた明治時代

後期には家庭向け料理書の出

版が相次ぎ西洋料理をアレン

ジして和食に取り入れた和わ

よう洋

折せっちゅう衷料理が数多く紹介された

大正期国立栄養研究所の開

設により栄養学の研究が進み

日常食の栄養についての関心が

少しずつ広がった

飢餓を経験した戦時期を経て

主食に偏らず副食に動物性食

品や油脂を加えた食事が推奨さ

れたその結果1980年頃

になると日本人の食事は米飯

を基本にしながらも乳乳製品

肉魚類野菜類などを適度に

加えたよりバランスのよい食

事となったこの時期の食生活

を「日本型食生活」と呼んだし

かしその後食生活の洋風化

簡便化が広がり食料自給率は

40パーセントと減少した若年

層を中心に食事の基本型が崩れ

欠食孤食などが話題となり和

食の見直しが求められるように

なった

1718 WASHOKU

「和食」の特徴1

献立のかたち

「ご飯」を食べるために

「汁」と「菜」がある

「一汁三菜」が和食の基本型

「一汁三菜」とは「ご飯」と「汁」と「香の物」に

いくつかの「菜」が添えられるという組み合わせ

「ご飯」と「汁」と「香の物」に「お菜」が3品添えられるという献立が一汁三菜この場合は焼き魚(右奥)と煮物

(左奥)と小松菜のおひたし(中央)の3つの菜で構成される向かって手前左にご飯を手前右には汁をその間に香の物をそれぞれ置くという決まりになっている

1718 WASHOKU

米を炊いた「ご飯」昆布や鰹

節などでとっただしを味噌や塩

などで味付けした具入りの「汁」

塩漬けやぬか漬けや粕漬けなど

の「香の物」そして焼き物や煮

物や和え物などの「菜」その4

つの要素で構成される「一汁三

菜」という組み合わせがある

基本的には汁が一種で菜が

三種の構造を「一汁三菜」と呼

ぶ食事中に口の中をさっぱ

りと保ってくれる「香の物」と

ご飯はいつも必ずついていて

その数も変わらないからあえ

て数えない

日常の食事である一汁三菜に

対して江戸時代によく登場す

るのは二汁五菜つまり汁が二

種に菜が5つこれが昔のおも

てなし料理の基本でお膳もふ

たつ出たいいかえると一汁三

菜はひとつのお膳に載るふだ

んの家庭の食事であることがわ

かる

また汁にもいろいろあった

魚のアラを汁に仕立てたものや

野菜を豆腐と一緒に煮込むけん

ちん汁など具だくさんの汁も

各地域でみられ汁でご飯を食

べるということも和食の特徴の

ひとつだ

一汁三菜の献立の最大の特徴

は汁も香の物も菜もすべてご

飯を食べるために存在するとい

う点かもしれないご飯が主食

でその他の3つの要素が副食

という考えが一汁三菜の根底に

ある少ない菜でたくさんのご

飯を食べご飯の量でカロリー

の摂取量を調整するのがかつ

ての和食の基本的な食べ方だっ

たのだ

「和食」にとって欠かせないご

飯についてもここで触れてお

こう

米には「うるち米」と「もち米」

とがあり強い粘性を持つもち

米は赤飯などのおこわ(強こ

わいい飯

や餅に用いられるそれに対し

てうるち米はもち米より粘り

気が少なく通常の米飯として

使われる

米のもとになる稲の栽培が始

まったのは1万年以上前とされ

野生の稲を栽培したのが始まり

と考えられているその原産地

は中国の長江流域とその周辺

という説が有力でそこから西

へ伝わった品種がインディカ種

また東へと伝わり東アジアに

広がったのがジャポニカ種だ

「和食」における献立の目的は

いわば汁と菜でご飯を食べる

ことつまりご飯に合うのなら

例えばそれが肉じゃがでもコ

ロッケでもとんかつでも菜と

して取り入れてこられたのは

ご飯を主食とする「和食」のス

タイルがしっかりしていたか

らである一汁三菜という和

食の基本型がなくなったら外

国の料理と変わらなくなって

しまうだろう

「和食」の特徴 献立のかたち1

稲 玄米 白米 調理加工

粉にする

飯餅菓子米飯焼き米ひなあられ餅おかきあられ

稲わら 俵わらづと鍋釜敷き畳床むしろわらぞうり縄みのわらぼうき など

酒酢みりん味噌発酵させる

糠 たくあん糠漬けあく抜き

(上新粉など)柏餅草餅重

お も ゆ

湯など

(白玉粉落ら く が ん

雁粉道明寺粉など)白玉最中大福餅落雁桜餅など

どうみょうじ

うるち米の粉

もち米の粉

日本人の暮らしに深く関わる稲米

 現在世界で栽培されている稲の主な種類にはインディカ種(インド型イネ)やジャポニカ種(日本型イネ)などがあるインディカは長粒種と呼ばれる米ジャポニカは日本でよく食べられている丸く短粒な米で短粒種と呼ばれる米の主成分であるでんぷんにはアミロースとアミロペクチンとがありアミロースを多く含むインディカ種は粘り気が少ないのに対しアミロースの少ないジャポニカ種は粘りが強く日本人にとってはおいしい味の米であるそしておにぎりやすしのようにまとめる米料理も発達した 世界の米の生産量は約6億トンと小麦とほぼ同じだがその90以上が日本を含むアジア諸国で栽培されているジャポニカ種は全体の15を占め日本をはじめとして朝鮮半島中国東北部台湾北部などで主に栽培されているインディカ種の栽培地域はインドからベンガル地方のバングラデシュタイをはじめとするインドシナ半島中国の中南部インドネシアなど南アジアが中心だ

ジャポニカ種とインディカ種日常私たちがご飯として食べているのはうるち米赤飯や餅にするのはもち米である栄養価はほとんど同じであるがでんぷんの構成が異なるうるち米はアミロースとアミロペクチンの比率が約28であるがもち米はほとんどアミロペクチンで構成されているそのためにもち米はうるち米に比べて粘りが強く餅にするのに適しているのである日本では両方の米の特徴をうまく利用して粒のまままたは粉にするなどしていろいろな料理や菓子を生み出したり発酵させて酒やみりんなどをつくり出したりしてきた

うるち米ともち米

インディカ

ジャポニカ

「和食」に欠かせない

米はどこから来たのか

1920 WASHOKU

全国各地でさまざまな魚や野

菜が豊富に手に入ったことそ

して文明開化の時代まで一般

的に肉食をしなかったという背

景から「和食」は野菜と魚介類

を中心に調理されてきた

現在日本の市場で流通する

野菜の数は150種類ほどと言

われているその種類はイモ類

やマメ類をはじめ根菜類茎け

いさい菜

類葉菜類果菜類など実に多

様ださらには山菜やきのこ

など森林に自生するものも調

理に工夫することでうまく食材

として取り入れてきた

日本で流通する野菜は近代

になって外国から輸入されたも

のや品種改良によって食べや

すくなったものなど多様では

あるが昔から日本で作り続け

られている伝統野菜(在来野菜)

も少なくない伝統野菜とはだ

いたい三世代以上に渡って栽培

「和食」の特徴2

食材

和食を支える日本の食材

おいしさの秘密と多様性

おいしい和食には素材の力がある四季折々の自然の中から

生み出される日本の食材は驚くほど多様性に富んでいる

野菜

野菜と魚介類の二大食材に

支えられる日本食文化

和食には野菜を使う料理が多くあるが現在日本で流通する野菜の種類も150以上と幅広い分類にしてもジャガイモやサツマイモなどのいも類大豆や小豆などのマメ類ダイコンやカブなどの根菜類ネギやウドなどの茎

け い さ い

菜類コマツナや白菜などの葉菜類ナスやキュウリなどの果菜類そのほかにシイタケやシメジなどのきのこやワラビやゼンマイなどの山菜など多彩な野菜が存在するしかし現代でこそ流通の発展でさまざまな野菜が一年中手に入るが全国で同じ野菜が収穫できるわけではない例えば同じいも類でもサツマイモなどは九州などで多く作られるが冷害に強く冷涼な地で生育するジャガイモは山梨や長野などの山間部や日本の北部で育てられるそのほか地域特有の特産品である伝統野菜がいま注目され始めている

1920 WASHOKU

が続けられ地域に根づいた農

法で作られるものを指しこれ

を守る動きも目立ってきている

魚介類も「和食」にとって欠か

せない食材のひとつ日本で獲

れる海水魚は実に種類豊富で

日本に生息する魚種だけでも約

4200種ある縁起のよい魚

として重宝されるタイをはじめ

アジイワシやサバサンマなど

日本の近海は魚の宝庫である

海水魚だけでなくコイやア

ユフナやウナギそして水田で

獲れるドジョウなどの淡水魚

(川魚)は海から離れた地域では

貴重なタンパク源だったため

古くから料理に使われている

ウナギの蒲焼きは一般的だが

薄切りにしたコイを50くらい

の湯に短時間漬けてから冷水で

身を締めて酢味噌で食べる「鯉

のあらい」やコイの切り身を濃

い味噌で煮た「鯉こく」など味

わい方も豊富

またうま味のもととして古

くから使われてきた昆布や味

噌汁の具としても重宝するワカ

メさらにおむすびに必須の海

苔など海藻類も和食には欠か

せない貝類も種類が豊富で

アワビをひも状に薄くむき乾

燥させた「熨の

しあわび

斗鮑」が神事や祝し

ゅうぎ儀

の象徴として使われてきた

近年日本の食料自給率が低

下し外国産食材の増加も問題

視されているが本来の「和食」

は日本の自然の恵みによって支

えられているのだ

「和食」の特徴 食材2

島国である日本において魚介類は古くから貴重でかつ重要な食材であった農林水産省の定める生鮮食品品質表示基準によれば日本で食される水産物はマグロやカツオイワシやアジなどの海水魚やコイやウナギなどの淡水魚(川魚)シジミやアサリなどの貝類カニやエビなどの甲殻類やカメなどの水産動物類クジラやイルカなどの海産哺乳動物類そのほか昆布やワカメなどの海藻類など実に多様な種類がある2000年に味の素(株)がおこなった「嗜好調査」によれば「食材」としては肉類よりも魚介類のほうが好まれている結果がみられたさまざまな魚介類のなかでもカニエビマグロなどへの嗜好性が高くそれらが「贅沢な食材」と捉えられているようである

山間部など海の魚が手に入らない地域で貴重なタンパク源として重宝されたのが淡水魚(川魚)写真はアユだがその他コイやウナギドジョウワカサギフナなど日本ではさまざまな川魚が食材として使われてきた寄生虫のおそれがあるため生食はあまりされないがその代わりに調理にはさまざまな工夫が見られる海の魚に比べると独特の臭味やクセがあるため「鯉こく」のようにしっかりと煮込むことで臭味を除いたりウナギのように蒲焼きにしたりするなどがその一例だまた例えば滋賀県には琵琶湖で獲れるフナを塩と米で乳酸発酵させ保存性を高めると同時にうま味成分を引き出した「ふなずし」もある

古来日本で食べられてきた海藻類現在でも低カロリーでミネラルビタミンに富む食材として和食では重宝されている日本では約50種類の海藻が食べられているが世界的にみてもここまで多様な海藻を加工し食用とする民族は珍しいなお海藻にはフノリやテングサのような紅藻ワカメ昆布やモズクなどの褐藻アオノリや海ブドウなどの緑藻類の3種類の海藻が存在する昆布のようにだしをとるために使うものもあるが乾燥させて食べる海苔味噌汁や酢の物の具として使われるワカメのようなものまで実に幅広いまた海藻は神への奉納品としての縁も深く日常の食事だけではなく祭りや神事などにも登場している

縄文時代の遺跡である貝塚からアワビやハマグリカキなどの大量の貝殻が発見されていることからもわかるように貝類は日本では古くから食材として利用されてきた春先の干潮時に浜辺に埋まったアサリなどの貝を掘り出して採取する潮干狩りは春の風物詩としても馴染み深い日本には6000近い貝類があるといわれておりなかでもアサリやハマグリのような二枚貝サザエやツブ貝のような巻き貝が食用として親しまれている調理法としては刺身や吸い物味噌汁煮物焼き物炊き込みご飯など幅広い料理に使用されているがだしをとるためにも使われるさらに乾物にすれば保存性も高くなるため古くから交易にも活用されてきた

海の魚

川の魚

海藻貝

2122 WASHOKU

和食における菜さ

の調理法には

煮る焼く蒸す茹でる和あ

える

揚げるなど実に多様な技法が

あるこれを季節の野菜や山

菜魚介類海藻などの食材と組

み合わせることでバラエティ

に富んだ菜が食卓を彩る

数ある日本の調理法の中で

最も特徴的なのは「生もの」材

料を生のまま切り皿に盛り付

け調味料と薬味を添える刺

身といえば魚介類が用いられる

のがほとんどで捌さ

き方切り方

盛り方などが現在世界で注目を

浴びている材料を新鮮な状態

に保つ技術と料理としての盛り

付けの技術があいまって完成し

たものといえる調味料と薬味

の組み合わせも魚類との相性を

考えて工夫されているまた

わさびしょうがからしなどの

薬味や「つま」や「けん」と言わ

れる大根のせん切り大葉防ぼ

うふう風

芽めたで蓼花は

なじそ

紫蘇など防菌効果のあ

るものを添えて見た目も美し

く組み合わせている

ご飯と並んで食卓に欠かせ

ない「汁物」は鰹節や昆布煮干

し干し椎茸などから抽出され

るだしのうま味と具として入

れる素材のうま味が味わいのベ

ースとなっている中には具だ

くさんの菜になるような汁も

ある

また豊富な水を利用した調理

焼き物(サンマの塩焼き)

直火焼きは遠火の強火でほかに間接焼きがある

生もの(カツオの刺身)

生ものには刺身あらい酢の物漬物がある

茹で物(もりそば)

小麦粉やそばなどの粉からつくる麺を茹でる法

旬の食材のおいしさを

引き出す調理法の数々

「和食」の特徴3

調理

切る煮る焼く蒸す茹でる和える揚げるhellip

あの手この手で素材をよりおいしく

バランスの取れた一汁三菜の基本はご飯にあり

ご飯をおいしくいただくために菜さ

の調理方法は進化した

煮物(筑前煮)

煮汁の中で加熱中に調味する法

2122 WASHOKU

法に「茹で物」があるたっぷり

の水を沸騰させ食材を加えて加

熱して取り出すもの青菜そば

などは茹でた後にあくの除去

歯触りを良くするなどのためさ

らに水で洗う場合も多い私た

ちがあたりまえのように調理し

て食べているほうれん草や小松

菜のお浸しは水に恵まれた日本

に定着した料理で世界的にみて

も特徴あるものといえよう

「焼き物」はサンマの塩焼きの

ように塩をふり直火でじっく

り焼き上げる方法が伝統的

「煮物」は世界で最もポピュラ

ーな調理法だが日本では素材

の味を生かしつつ醤油や味噌

など大豆由来の発酵調味料で

味を調えるものが多い

油とともに加熱調理する「炒

め物」は伝統的な調理にはほと

んど見られないが現代では盛

んに使われ和食の幅を広げて

いる

ここに紹介した調理法と料理

の例は主にご飯のおかずとな

るものであるが小麦そば雑

穀などを粉にしこれを調理し

た主食も多い代表的なものに

うどんそばそうめんなどの麺

類があり茹でる場合が多いが

煮込みなど煮るものもある

さまざまな料理を組み合わせ

て食べる和食は素材の味を生

かしうま味をしっかりとれば

最低限の調味料でおいしさを感

じることができ多様な料理を

楽しむことができる

和あえ物

(きゅうりとワカメの酢の物)

野菜や魚介類などをごま味噌酢などで和える法

漬物(きゅうり大根の糠

ぬか

漬け沢たく あ ん

庵漬け)生ものを保存する方法の一種

塩の働きに加え乳酸発酵させたものが多い

汁物(なめこの味噌汁)

だし汁を主体とする法すまし汁みそ汁とろみのついた汁など

蒸し物(茶碗蒸し)

水を沸騰させその水蒸気を利用して加熱する法

浸し物(小松菜のお浸し)

お浸しは調味した汁に浸して味をつけたもの

「和食」の特徴 調理3

揚げ物(天ぷら)

高温の油で食品を加熱する法油の温度は150~200度の範囲で行うことが多い

2324 WASHOKU

「和食」の特徴4

味わい

うま味日本人が発見した「おいしく食べる」最大の知恵

和食の味わいの中で最も重要なのがだし

味噌汁やすまし汁のベースとなり

煮物やおひたしなどさまざまな料理の

味を決定づける味の要だ

和食の味わいを語るうえで忘

れてはならないのがだし(出

汁)の存在汁物や煮物などさ

まざまな料理のベースとして使

われている

なぜ日本人はここまでだしを

好むのかその答えに大きく関

係するのが「うま味」だ江戸時

代の料理書には「だしこそ料理の

根本である」と書かれている

1907年池田菊き

くなえ苗

博士に

よって世界で初めてうま味成

分のひとつがアミノ酸の一種で

あるグルタミン酸であることが

発見されたその後日本人を中

心に研究が進みうま味は甘味

塩味酸味苦味に加えて第5

の味覚として広く知られるよう

になる現在ではうま味調味

料やだし入りのつゆなどうま

味成分を手軽に使える調味料も

普及海外でも人気が高く国

内でも日常的に使用されている

だしのほかに和食の味付け

日本が世界に誇る

第5の味覚うま味

うま味成分を多く含む椎茸もだしをとる目的で使われてきた食材のひとつだしに使用するのは干したもの椎茸は乾燥させることでうま味や香り成分が増すためだ

小魚を煮て乾燥させてつくる煮干しも汁物に多用される材料としてはカタクチイワシが代表的だがその他ウルメイワシやキビナゴトビウオなどの比較的魚体が小さな魚を使ってつくるのが一般的だ

だしのとり方は魚介や野菜から水や湯を使ってうま味成分を抽出するのが一般的だしの素材として最もよく使われるのは昆布と鰹節でそのほか煮干し野菜干し椎茸魚の内臓やあら(頭や骨)などがあるまた潮

うしおじる

汁のように食品そのもののうま味を活かす方法もある

鰹節

「だし」のこと

昆布

煮干し

干し椎茸

2324 WASHOKU

に欠かせないのは塩砂糖味

噌醤油酢酒みりん魚醤な

どの調味料わさびやからし

しょうが山椒とうがらしゆ

ずなども薬味として使われる

これら薬味によって季節感を楽

しみながら素材の味を引き出

すという知恵も「和食」ならでは

夏に高温多湿となる日本では

アジア諸国と同様発酵食品が

発達したそれゆえ味噌や醤

油や酢に代表される発酵調味料

を多用するのも和食の特徴大

豆や穀物を塩漬けにして発酵

させてつくるものだがその過

程で原料のタンパク質がアミノ

酸に分解されうま味成分を豊

富に含んだ調味料ができあがる

のだ

発酵食品も多様だ日本各地

でカビや酵母などの微生物の

働きを活かして食品中のアミ

ノ酸(うま味)を増やす発酵食品

が発達してきた冬場の保存食

として生み出された沢庵や塩

を使って乳酸発酵させる京都の

すぐき菜漬けそして糠ぬ

漬けや

奈良漬けなど野菜を発酵させ

た漬物さらに塩辛やくさや

なれずし鰹節など魚介の保存

食としての発酵食品また大

豆を納豆菌で発酵させる納豆や

こうじ菌で発酵させて乾燥後に

熟成させた寺納豆など大豆の

発酵食品もある

「和食」はうま味を上手に生

かし食材をおいしく食べる知

恵を育んできたのだ

発酵食品

発酵調味料

調味料

「和食」の特徴 味わい4

発酵食品と調味料

魚醤魚を塩漬けにして発酵させる独特の香りと濃いうま味が特徴の調味料ハタハタでつくられる秋田の

「しょっつる」イカやイワシを材料とする能登半島の「いしる(り)」などがある

酒酒もまた和食の調味に欠かせない発酵調味料のひとつ調味料としての酒の主な効果には材料の臭みを消す食材のうま味を引き出して風味をよくする甘みを加えるなどがある

塩海に囲まれている日本では古くから塩は調味料として使用されてきた焼き物や刺身などの調理の味付けとしてはもちろん漬物や干物など食物を貯蔵するための知恵としても活用されている

味噌蒸したり煮たりした大豆にこうじ食塩を混ぜて発酵熟成させた日本を代表する調味料のひとつ味噌汁や煮物などに使われることが多い地域によって使用される味噌の種類がかなり変わるのも特徴だ

酢寿司やなますなど和食に酸味を加える調味料米から醸造した酒に酢酸菌を加えて発酵させて造られる酢に漬けることにより保存性を高める

醤油大豆と小麦で造ったこうじに食塩水を加えた「もろみ」を発酵熟成させ搾ったもの刺身や焼き魚煮物炒め物など幅広い料理に使われている種類は濃口薄口たまり再仕込み白の5つに分類される

みりん蒸したもち米と米こうじを主原料に40~60日かけて熟成させて造られる発酵調味料砂糖と比べて甘みがやわらかく食材の臭味を取る働きもあるまた魚の照り焼きなどのつや出しにも使う

漬物素材を食塩や酢酒粕醤油などに漬け込み熟成させて作られる漬物沢庵や梅干し野沢菜漬けなど野菜類を長期間保存するための知恵として誕生した日本各地に独特の漬物があるのも特徴だ

納豆日本で発展した発酵食品である納豆大豆を納豆菌で発酵させた食品で寺納豆(下記参照)と区別するため「糸引き納豆」とも呼ばれる単品で食べるだけではなく納豆汁や納豆和えなどにも使われている

塩辛魚介類の身や内臓を塩漬けにし発酵させて作られた塩辛は日本における伝統的な保存食品のひとつ使われる素材はその地域によって変わりイカやエビアミタコなど多彩な種類の塩辛が存在する

塩に漬けた魚と炊いたご飯を数日間置き乳酸発酵させたなれずしは魚を保存する知恵として生まれた滋賀県では琵琶湖産のふなを和歌山県や富山県ではサバを岐阜県などではアユを材料にしたものが有名写真は滋賀県湖北地方の年頭の祭りで振る舞われる鯖のなれずし

砂糖世界的に見ても「甘み」を用いた料理が多い現在の和食では砂糖は欠かせない調味料のひとつ単独で料理に使われるというよりは煮物をはじめとするさまざまな料理で醤油や塩味噌などと併用されることが多い

寺納豆茹でた大豆にこうじを加えて発酵させ乾燥させながら熟成を促す発酵食品粘り気のある糸引き納豆とは異なり乾燥して塩辛い禅宗の伝来とともに大陸からもたらされたとされ寺院で作ることが多かったため「寺納豆」と呼ばれた

2526 WASHOKU

「和食」の特徴5

栄養

栄養バランスの優等生「和食」

野菜や魚肉そして米によって構成される「和食」は

栄養バランスの良さでも知られている

最近は五日間すべてを米飯にする完全米飯給食を行う地域も生まれた

和食の特徴のひとつである栄養についてその秘密に迫る

米麦雑穀などを炊いたご飯

を主食としてこれに魚介肉

類野菜類に発酵調味料だしを

組み合わせた和食は栄養学的

にみてもバランスをとりやすい

食事である

歴史的にみると日常食では

主食を大量に摂る習慣が続いた

穀類偏重の食生活だったといえ

よう

しかし豆腐や納豆みそ汁な

どを飯とともに摂ることで米の

アミノ酸の利用率を上げる食べ

方年中行事などハレの日に魚

介類などを摂取して楽しむなど

学ぶべき知恵は多い

なかでも何百年も伝えられて

きた和食の基本型はすぐれた

ものといえよう

副食の主菜には魚肉豆腐

などタンパク質を多く含む料理

を考える副菜には主菜に使わ

なかった野菜芋類などを使い

汁は主菜に合うものを用意する

焼き魚野菜の煮物青菜のお浸

しとみそ汁などでも栄養的バ

ランスはとれている

1980年頃までは多くの

家庭で和食の基本型が続いた

主食の量がやや減り副食が増

加とくに乳乳製品肉類の割

合が増加したこの頃栄養バ

ランスをはかる一つの指標であ

るPFCバランスが理想的な比

率を示した(左記参照)

しかしその後外食の日常化

家庭料理の欧米化が進み米の

摂取量が激減し脂質摂取の過

多などから生活習慣病が問題

となったこうした中各地で

食生活を見直す動きがみられる

ようになったその一つが学校

給食での取り組みである

戦後の食料難の中でパンと

牛乳に副食を加えた完全給食は

1950年に始まった197

6年に米飯が導入されるまで長

く続いたパン給食は和食の基

本型にも影響を与えたようだ

米飯給食は次第に増加し

2010年には週3回以上米

飯給食を実施している小中学

校は90以上となったが週5

回の米飯給食の実施は7以

上と高くない

ここでは2008年に5日

間すべてを米飯給食とした新潟

県三条市の事例を紹介しよう

成長期にバランスのよい食事

で健康な体をつくることそし

て望ましい食習慣を身につけ

生涯を健康に生きることをめざ

し完全米飯給食を実施したと

のこと

米は同市で生産される農薬

を減らしたコシヒカリを七分搗つ

きにした米飯を主食に副食は

主菜副菜汁を組み合わせる献

立をベースとしている主菜は

サケのフライ鶏肉ピリ辛焼き

さんま梅煮など伝統的な和食だ

けではないが和食の基本型の

中に取り入れる工夫がされてい

るパ

ンは油脂や糖分と相性が

良く肥満につながりやすいが

新潟県三条市の給食献立一例三条市の小中学校での献立例ご飯は三条市で収穫したコシヒカリを使用「お米だと腹持ちがよいのでデザートをあまり出さなくとも子どもたちが満足してくれる」とのこと洋風や中華風の献立でもおかずはご飯に合うものを選びスープなどの汁物は確実につけるように心がけている

火曜日

えだまめごはん

さけチーズフライ

くきわかめきんぴら

かきたまじる牛乳

小学校687kcal中学校823kcal

水曜日

ごはんとりにくのぴりからやきいかときゅうりの

あえものしょうがみそスープ牛乳小学校639kcal中学校752kcal

木曜日

ごはんさんまうめにたくあんあえにくじゃがに牛乳なし小学校688kcal中学校814kcal

金曜日ごはんカレーふりかけほうれんそうオムレツフレンチサラダパンプキンスープ牛乳小学校708kcal中学校833kcal

月曜日

ごはんいかのかりんあげ(2こ)

なっとうあえきのこけんちんじるのむヨーグルト

小学校619kcal中学校731kcal

2526 WASHOKU

七分搗米の飯は腹持ちがよく

おやつを食べる子どもが減った

だけでなく肥満の子どもが減

少傾向となり食生活のリズム

が良くなったとされる

また米飯に合う副食は土地

でとれる野菜類を取り入れやす

く季節にあわせてバラエティ

ーに富んだ献立を作ることがで

きる一汁三菜の食べ方の教育

を行った結果給食を残す子ど

もたちも減ったという

基本的な食事パターンが続く

中でも菜を工夫すれば変化に

富む食事を作ることはできる

季節の食材について学び年中

行事への知識も得られるだろう

また子どもたちが和食の基

本型を毎日の給食で体験してい

ることはきわめて重要なことで

ある時々経験するだけでは身

につかないものでも毎日繰り返

すことによって習慣化し定着

するのであるそしてやがて

自分で組み合わせを考えられる

ようになることが期待される

今後の学校給食の役割は大きい

といえるだろう

PFCバランスとは

FAO Statistics Yearbook(日本のみ食料需給表)参照栄養バランスが良いとされるP(たんぱく質)10~20F(脂質)20~30C(炭水化物)50~70の範囲が08~12に収まるように指数化した

日本でのPFCバランスの変化

アメリカとフランスのPFCバランス

タンパク質脂質炭水化物は人間にとって特に不可欠な「三大栄養素」PFCのPはProtein(たんぱく質)FはFat(脂質)CはCarbohydrate(炭水化物)の頭文字でPFCバランスとは食事の中での「たんぱく質」「脂質」「炭水化物」のそれぞれの摂取カロリーの比率健康的な生活をおくるためにはPFCバランスがたんぱく質15脂質25炭水化物60が理想的

給食時には全員で「いただきます」「ごちそうさま」を復唱食育にも力を入れているためそれら言葉の意味についても学校で教えている

米飯給食になってから児童たちの食の嗜し こ う

好に変化が生まれたとか児童たちに好きなおかずを聞いてみると「ハンバーグ」「カレー」などの定番メニューのほか「焼き魚」「納豆」などの和食メニューの名前が上がった

自分の分を食べ終わった児童たちが列をつくって競い合うようにご飯をおかわりしていたこの日の食べ残しはゼロ

C

P

F

14

12

1

08

06

アメリカ(2005~2007年)

C

P

F

14

12

1

08

06

フランス(2005~2007年)

「和食」の特徴 栄養5

日本人のPFCバランスは1965年当時は炭水化物に偏っていたが1980年は非常に理想的な配分になっていたしかしその後の日本人の食生活に肉や油脂類を多く摂り主食の米を食べる量が減り2010年時は欧米型に近づきつつある

C

P

F

14

12

1

08

06

日本1965年

C

P

F

14

12

1

08

06

日本1980年

C

P

F

14

12

1

08

06

日本2010年

2728 WASHOKU

お客を迎える前には店先に打ち水を水で清め準備が整ったことを伝える趣向に合う軸を選ぶのももてなしの基本飾る花は主人自ら育てたものそれを床の花入に活けるのも主人庭に150種ほどの草花を植え日々育てることもしつらいの準備客は女将の温かいもてなしに迎えられる

「和食」の特徴6

しつらい

人をもてなすためのこころとかたち

もてなしは客に対する一方的なサービスではない

お互いに思いやる気持ちから生まれるこころよさである

手入れの行き届いた庭は掃き

清めて水を打ち床の間には軸

を掛け季節の草花を生ける

座敷の襖ふ

すま

も夏には葭よ

しど戸に入れ替

え夏は涼やかに冬は暖かに

すべて相まってもてなしのた

めの用意を整えることそれが

しつらい和食とりわけ懐石

料理においては食材や料理と

ともにしつらいは非常に重要

な要素となる

家庭でも食事をつくる人は

食べる人の顔を思い浮かべなが

ら食事の用意をする食べる人

はつくってくれた人の気持ちを

考えて賞味するここに互いに

もてなす喜びが生まれるのでは

ないだろうか

こうしたもてなしの文化を極

限にまで洗練させた姿が料亭の

もてなしである京都府の無形

文化技術保持者に料理人として

初めて認定された京都の老舗料

亭「瓢亭」の十四代主人高橋英一

さんにその心を聞いてみよう

「料亭は日本文化の凝縮のひと

つと言えます玄関から入って

座敷に行くまでに通る露地にも

季節感があり部屋に入れば時

季や行事の軸がありその座敷

のために選んだ花が飾られる

日本人が自然と身につけている

桜の器を使うことで膳の上にぱっと花が咲くような華やかさが生まれるあしらいは酢取り防風岩海苔

秋の花菊の器はこっくり深い色合いも相まって秋に似合う風情を持つあしらいは岩茸菊花

深さのあるガラスの器に氷が敷き詰められる涼感を目でも舌にも感じるあしらいは穂紫蘇寄せ莫大

縁起のいい鶴は新年の席でも使われるモチーフあしらいは水前寺海苔紫芽紫蘇

四季の感性で受け止めてもらえ

るよう整えお出迎えします

料亭は普段とは違うハレの場で

すがとはいえ行き過ぎず足り

ないことのないよう自然なし

つらいそしてもてなしを心が

けます」

「瓢亭」の座敷に飾られるのは

主人が庭で丹誠込めて育て自

ら生ける茶花

「もてなしの根

底に利休さんの『花は野にある

ごとく』の言葉を思いますが簡

単なようでそれが難しい」自

然体でのもてなしを生むしつら

えは名店においても日々心を

くだき工夫するのだ

「瓢亭」では1年をとおして明石の鯛の向付を供しているが季節ごとに

器とあしらいを変えることで四季を演出している

四季の演出

2728 WASHOKU

和食はご飯と菜あるいはご飯とお汁というように常にご飯を間にはさんで菜や汁をとるのが本来の食べ方下のような不作法とされる箸使い(嫌い箸)があるので覚えておきたい

ご飯は茶碗に味噌汁はお椀

に焼き魚だったら平皿にと普

段料理に合わせて何気なく使う

食器種類の多さもさることな

がら形や素材もさまざま欧

米はもちろん近隣諸国を見回

してもこれほど多種多様な器を

使う国はないそれは四季が明

確なことと無関係ではない

「自宅でも季節に合わせた器

にするだけで気分が変わりま

すよ」と前出「瓢亭」のご主人は

語る 

春であれば華やかな色や形の

もの夏はガラスや青磁など涼

しげな素材の器秋は実りのあ

る彩りがあるもの冬は厚手の

陶器や木製など温もりのあるも

の色素材形を変えるだけで

季節感を演出できる「和食」な

らではの楽しみ

食事の際当たり前のように

使っている箸も日本の食文化

を代表する食具奈良時代以

降匙さ

を使う伝統が消え箸だ

けを使うようになったため熱

い汁物は椀を持ち直接口を

つけてすする文化が確立同

時に椀箸ともに個人所有が基

本となった椀や箸を共有し

匙やレンゲを使うほかの東南

アジア諸国とは異なる食文化

を形成箸食文化圏の中でも

唯一箸だけでご飯を食べる国

となったまた一口に箸といっ

ても食箸取り箸菜箸など用

途に合わせてさまざま食べ

る際に使う食箸だけを見ても

形や素材のほか加工や長さも

豊富にそろうのだ

「和食」の特徴7

箸と椀

「和食」を支える箸と椀

箸食文化圏の中でも唯一箸だけを使う国日本

季節感を感じさせる器とともに独特の食具文化も誇る

渡し箸食事の途中でお箸を

食器の上に渡し置くこと

寄せ箸遠くの食器を

箸で手元に引き寄せる行為

指し箸食事中箸で人やものを指すこと

迷い箸どの料理にしようか迷い箸を料理の上で動かすこと

移り箸いったん取りかけてから

ほかの料理にお箸をうつすこと

箸には食事に使う食箸と調理に使う菜箸とがある菜箸は熱から手を守るため30~50と長く片方がなくならないよう糸でつながっているものもある取り箸は菜箸の一種食箸は個人所有が基本のため使う人に合わせた長さが用意されている漆塗りや螺鈿細工を施したものも多い

種類

形状だけでなく素材もさまざまで近年は黒檀や鉄木など硬質な木が使われることが多い日本の木としては特有の香りがあり古くから懐石用や割り箸に使われてきた杉耐水性耐湿性が高く保存性に優れる上に軽くて持ちやすい檜強くしなりがあり細かいものを取りやすい竹などがある

素材

家庭で使う食箸の形には角箸や四角で角が丸い胴張り五角六角七角八角のほか削りなどがあり持ちやすさに合わせて選べる箸先に加工が施されたものもある来客用に使う銘々箸や割り箸には断面が小判型で割れ目と溝が付いた元禄箸や中央部が太く両端が細い利休箸などが用意されている

日本人にとっての箸は調理から盛りつけ食事までをこなす大事な道具食箸は個人所有が基本のため個々に合わせて選べるのも特徴だ

箸の働き

箸使いの作法を知る

【嫌い箸】

食箸

八角箸 削り箸

菜箸

檜竹

「和食」の特徴 しつらい 箸と椀6 7

2930 WASHOKU

神し ん せ ん

饌として神へ供えられるお神酒は神棚の最上段の中央に置かれるほど重要な地位を占めている

日本酒を造る酒蔵は全国に約1600弱その数は年々減り続けているが数年に一度「日本酒ブーム」も起きている

日本酒とは米と米こうじ

そして水を主な原料にしてそ

れらを発酵させて造られる

原料には主食用の米ではなく

酒造りに適した性質を選び品

種改良された酒し

ゅぞうこうてきまい

造好適米を使

うことが一般的だまた日本

酒の80を占める水も品質を

左右する大きな要因日本酒

の香味を損なわない良質な水

が必須だ

日本酒の醸じ

ょうぞう造の工程にはさ

まざまな技術が伴う例えば米

を精米して味と香りを調整する

技術これは米の外側にあるた

んぱく質や脂質といった雑味の

もとを除くことが目的だが大だ

吟ぎんじょう醸酒にもなると米を半分以

上削ってから仕込むこともある

次いで米を発酵させる技術

酒の場合の発酵とは酵こ

うぼ母が糖類

を食べてアルコールを出すこと

をいうが米には糖類が含まれな

いためまずは米をこうじ菌の酵

素によって糖類へと変えそこに

酵母を加えて発酵させるという

複雑な手順(複式発酵)が必要だ

この手順で使われるこうじもバ

ラこうじと呼ばれる日本独特の

ものだバラこうじは糖化力が

高いのが特徴で日本酒の香りや

味に大きく影響する

稲作を中心に文化を育んでき

た日本では米餅米から造ら

れる酒は地域を問わず重要な

ものとされている米の一粒一

粒に神が宿り同じように酒も

神のおかげで造ることができる

と考えられてきたそして酒

もまた食べ物と共に神に近づ

くための手段として古くから用

いられてきた

同時に家族や親族地域で人

と人をつなぐ上でも酒は大き

な役割を担っている例えばお

神み

き酒祭礼の後には神の酒を

人々が口にする神と同じ酒を

飲みそれを人々が分かち合う

ことで地域やコミュニティが

結束力を強めるのだろう

米や麦やさつまいもなどを原

料とする焼酎も日本酒と並び

日本の國酒とされている酒は

人と人の心をほぐし食事を引

き立たせる重要な役割を担って

いるのだ

「和食」の特徴8

「和食」を引き立たせ

心をほぐす日本の酒

日本人にとっての主食であり精神のかなめでもある米

その米で醸か

される日本酒は「和食」にとって欠かせない要素

日本の「國こ

くしゅ酒

」にもなっている

2930 WASHOKU

「和食」の特徴9

和菓子日本茶

暮らしに寄り添う和菓子とお茶

自然の恵みに感謝し季節の移ろいを敏感に表現する和菓子

日本茶は喉のかわきを癒すだけでなく心を癒し心を高める飲みものである

「和食」の特徴 酒 和菓子8 9

ハレの日の願いを込めた和菓子

和菓子分類餅もの 餅団子大福など蒸しもの 饅頭蒸羊

よ う か ん

羹外う い ろ う

郎村む ら さ め

雨など煉もの 煉

ね り き り

切こなし求ぎ ゅ う ひ

肥飴葛く ず

菓子など焼きもの 味噌松風煎

せ ん べ い

餅桃も も や ま

山カステラどら焼など流しもの 錦

にしきだま

玉煉ね り よ う か ん

羊羹水み ず よ う か ん

羊羹など揚げもの 揚げ煎

せ ん べ い

餅かりんとうなど打ちもの(押しもの) 落

ら く が ん

雁など岡もの 最

も な か

中きんとん鹿か の こ

の子すはまなどかけもの 金

こ ん ぺ い と う

平糖五ご し き ま め

色豆石いしごろも

衣など

これは和菓子の製法によって大まかに分類した表このほか含有する水分量によって生菓子半生 菓 子 干 菓 子などの分け方や上じ ょ う な ま が し

生菓子並菓子駄だ が し

菓子などの分類もある

「岡もの」とはすでにできあがっ た素材をあわせたもの (例きんとん=飴玉とそぼろ餡)

甘く味付けしたごぼうと白味噌餡を赤や白の餅や求

ぎ ゅ う ひ

肥で包んだ生菓子平安時代の新年行事のひとつで長寿を願っておこなわれた「歯固め」の餅に由来する餅と味噌の組み合わせから「包み雑煮」とも呼ばれた

葩はなびらもち

一 月

旧暦十月は「亥の月」と呼ばれていたがその月のさらに「亥の日」に行われる年中行事の際に食べられていた菓子旧暦では10月が冬の始まりそのタイミングで無病息災と多産の猪にあやかって子孫繁栄を願ってこれを食べていたという

亥い の こ も ち

の子餅

十 月六 月

白いういろうの上に小豆の粒餡を散らした菓子古来京都で旧暦六月の晦

み そ か

日(30日)に無病息災を祈願して行われている

「夏なごしのはらい

越祓」になぞらえて初夏の頃に食べられている小豆には邪気祓いの意味があり三角の形は氷を表している

水無月

五 月

平たく丸めた上新粉の餅をふたつに折り中に小豆や味噌の餡を挟んでそれを柏の葉で包んだ菓子柏の葉は新芽が育つまで古い葉が落ちないことから

「子孫繁栄」を願って旧暦五月五日の端

た ん ご

午の節句の供く も つ

物として用いられてきた

柏餅

日本ならではのお茶の製法である手揉みは茶葉の繊維をつぶしながらうまみを引き出すために行う作業手揉みすると茶葉が切れないため茶の甘みを保つことができる

菓子もまた「和食」にとって欠

かせない要素でお客様用の「上

菓子」普段食べる「饅頭」や「餅

菓子」などに分かれるほかに

干菓子や駄菓子など菓子の種

類は多いまた例えば団子や

大福などは「餅もの」求肥や飴

などは「煉りもの」錦玉や

水みずようかん

羊羹などは「流しもの」などと

いうようにその製法によって

分類されることもある米や麦

小豆を代表とする豆類そして

砂糖や水あめなどの材料でバ

ラエティに富んだ菓子が生み出

されてきた

お茶会などの席で抹茶ととも

に味わう菓子もあり季節に合

わせて材料や色やデザインが選

ばれ味覚だけでなく視覚で楽

しむこともある

また年中行事と結びつく菓

子もある例えば旧暦三月三日

の「ひな祭り」では邪気をはら

い強い生命力を象徴するよも

ぎの草もちでつくった草餅を食

べる

和菓子には日本茶がふさわし

い緑茶は12世紀に中国から日

本に伝わったが今では生の茶

葉を蒸してから揉んで乾燥させ

る緑茶の製法は日本独特のもの

となっている緑茶に含まれる

カフェインは覚醒効果がまた

カテキンには抗酸化作用があり

ビタミンCも多く含まれて健

康によい日本茶独特の香りと

うま味は日本文化そのもので

ある

出典「和菓子の歴史展」第五十回虎屋文庫資料展より

3132 WASHOKU

日本の「和食」の文化は自然

環境だけでなく海外からの影

響によっても絶えず変化して

きた

近代以降にはコロッケとん

かつなど洋風料理を和食の基本

型に組み合わせた食事肉と野

菜の煮物や和え物などそれまで

にはない料理が工夫されたそ

の多くは和食の基本型味噌や

醤油を用いた味付け箸で食べ

られる料理など「和食」の要素

を保ちつつ伝えられてきた

しかし第二次世界大戦後高

度経済成長期を迎えると日本人

の食生活は急速に変化する

1970年代にファストフー

ド店ファミリーレストランが

各地に開店しコンビニなども

広がった

1980年頃主食と副食の

バランスは理想的とされたが

(26頁参照)その後米の消費量

はさらに減りパン食が増加

肉類油脂乳乳製品の消費量

も増加し食料自給率も下がっ

た家族での外食が日常化し

家庭の食事も欧米化した

食育の必要性

「和食」が危ないどうしたら伝えられるのか

この150年間で大きく変化し「和食」はいま衰えつつあるその原因はどこにあるのだろうか

食生活の変化

日本の食料自給率の変化農林水産省「食料需給表」より作成

日本のものを食べなくなって 「和食」はどうなる 日本の食料自給率は下がり続けている1965(昭和40)年度はカロリーベースで73だったが2012(平成24)年度は39その大きな原因のひとつは国内で自給可能な米や魚や野菜などの消費量が減少する一方国内で生産が困難な飼料穀物を食べて育つ畜産物や原料を輸入に頼ることが多い冷凍加工食品や小麦の消費が増加したことだと考えられている炭水化物たんぱく質脂肪分をバランスよく摂取する健康的な「和食」に未来はあるのか

国民一人一日当たりの供給純食料農林水産省「食料需給表」より作成

食べる米の量が50年で半減 増えたのは肉と乳製品 国民一人あたりが食べる量を品目別に眺めて分かることそれは日本人が食べる米の量が著しく減ってきたことだ1960(昭和35)年度は一日あたりの米の消費量は約315gだったが2010(平成22年)年度は163gに約半減その代わりに増えたのは牛乳乳製品(約60gから約240g)と肉類(約14gから約80gへ)野菜と魚を中心としたおかずでご飯を食べるという

「和食」のスタイルの変化がわかる

食料費における外食と中食の割合の推移総務省統計局「家計調査年報」より作成

家で食べても 調理することが減っている 外食に対して家庭で作って食べる食事を内食というが弁当や惣菜など調理をせずに食べられるものを買ってきて済ます食事は中食と呼ぶ実はこの中食の割合が増えている外食が占める割合は2000(平成12)年以降横ばいなのに対して中食は増え続けその代わりに内食が減っている食事は家で食べても調理はしないという家庭が増えているのだとすれば「和食」にとって大切な要素を子どもたちに伝える機会が減っているとはいえないだろか

食料自給率(金額ベース)

食料自給率(主食用穀物)

食料自給率(カロリーベース)飼料自給率

米 野菜 肉類牛乳乳製品 魚介類

内食 中食 外食

(g人日)

3132 WASHOKU

50

55

60

65

70

75

01992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012

70

75

80

85

90

95

01992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012

一日に一度はお米を食べないと気がすまない人の割合博報堂生活総研「生活定点2012」

お正月におせち料理を食べた人の割合博報堂生活総研「生活定点2012」

一日に一度は米を炊いたご飯を食べなければ気がすまない人の割合が実はこの20年間で減っているというデータがある1992(平成4)年には714だったが2012(平成24)年には564にまで落ち込んでいるのだ

家族や親族で集まっておせち料理を囲みながら新しい一年の無事を祝うお正月実はおせち料理を食べる人も毎年少なくなっている1992(平成4)年には866だったが2012(平成24)年には748だった

電子レンジの普及や冷凍食品

インスタント食品などにより

食生活は便利になったが家庭

内で調理をする機会が減ったと

もいえる

こうしたなか「和食」の優れ

た点をどうしたら伝えられるの

だろうか親から子へ家庭の食

を伝えるだけでなく学校を通

して子どもたちにさらにその

親の世代にも伝える必要があろ

う高齢者からは「和食」につ

いて具体的に教わることも求

められる

離乳期からの食べ物の選び方

幼児期の食経験を豊富にするこ

となどはとくに重要であろう

小さな頃からの食習慣はその

後の食習慣に大きくかかわって

くるからだ

だしのおいしい味を日々体験

することや魚を味わい骨を箸

でとる訓練を楽しい雰囲気のな

かで教わることなどその積み

重ねの中で「和食」は伝わるので

あろう

経験しない味は異文化とと

らえられるであろうし体験し

ていない調理は簡単でも難しく

感じる食事を用意する過程を

日々見る経験手伝う楽しさ美

しい食器を大切にして使うこと

同じ食べ物を家族や仲間と味わ

い祭りや花見などで共に食べ

る経験を積み重ねることは文

化としての「和食」を伝えるだけ

でなく生きる力を育むことにも

つながるであろう

壁にではなく居間に向かって設置されることが多くなった現在のキッチン夫婦共働きだというこの家庭では夫が厨房に立つことも少なくないというこのように食事の準備を子どもと一緒に行うことで「和食」にとって大切な要素が次の世代に伝えられるようになるのだろう

世帯あたり1ヶ月間の穀類支出金額内訳

1962年3434円

パン

麺他

2010年6373円

パン

麺他

ご飯を食べなくても平気 そんな人が増えている

お米よりパンと麺 その傾向が加速中

おせち料理を食べる派が 毎年ジワリ減少中

1962(昭和37)年度には8割以上を占めていた米への支出が2010(平成22)年度にはパンにとって代わられる米の消費量はパンより多いが家庭では炊飯する必要のある米よりすぐに食べられるパンや麺の支出が多くなり家庭での料理が減っていることを示しているともいえよう

総務省統計局「家計調査年報」より作成

いただきます

ごちそうさま

「和食」の未来

今世紀に入ってから世界に和食ブー

ムが起きている味わいやヘルシーさに

注目が集まり世界中のいたるところに

日本食の店が数多くある

そのように世界から注目される「和食」

だが本家本元の日本国内でその将来が

危ぶまれている

これまで見てきたように「和食」には

新しいものを柔軟に取り込む歴史があっ

た日本人は太古の昔より外国からも

たらされた食文化を自分たちの食生活に

取り込んで日本独自の食文化を発展さ

せてきた地域ごとに地域の環境にふさ

わしい料理をつくり出してきた食べる

料理や食べ方もその時代ごと地域ごと

に変わってきた

その中で貫かれてきたことがある

豊かな自然がもたらす食材のおいしさ

を生かす調理法を工夫し味わうこと

食卓に季節感をしつらえもてなしの気

持ちを共に感じ合う食事の場を持つこ

と一汁三菜という組み合わせを食事

の基本スタイルとして健康的な食生活

をおくることお正月におせち料理を

祝いの日にお赤飯を家族と共に食べる

など食事は家族の絆となっている

豊かな自然を守る気持ちと同じように

日本人を健やかに生かし人と人をつな

いできた「和食」もまた守るべき大切な

日本文化ではないだろうか

「いただきます」「ごちそうさま」と言っ

てみるだけでも「和食」は私たちに身近

になる人と人をあたたかく結びつけて

くれる

日本人はやはりお米のご飯がおいしい

と思うだしのきいた汁でおなかも心も

癒されるこの日本人が長い歴史の中で

育んできたすばらしい財産である「和

食」がこのままなくなってよいと考える

人はいないだろう世界の中でもすぐれ

た食文化として認められた「和食」を日本

の誇りとし大切にして次の世代に受け

継いでいくきっかけにこの冊子がなれ

ば幸いである

ごちそうさま

和 食

北海道は各地から入ったお雑煮が混在する北海道特産のいくら鮭を使った「親子雑煮」を食べる家庭も多い

焼いた角餅に醤油味が一般的一部の地域では具に豆腐やゴボウなどが入りゴマだれやクルミだれに付けていただくこともある

鰹節でだしを取り醤油で味付けしたすまし汁に焼いた角餅を入れるのが一般的具には鶏肉こまつ菜かまぼこなどが入る

昆布でとっただしに白味噌で味付けし煮た丸餅を入れるすまし汁のところや元旦は白味噌2日目はすまし汁にする地域もある

1314 WASHOKU

「県出身ならあれ食べた

ことあるの」「お雑煮のお餅と

味付けは」hellip日本各地に伝

統的な料理や食材があり味付

けも地域ごとに異なる

気候や風土が異なると採れ

る食材や調理法は変化し地域

色豊かな和食が形づくられてき

たそんな多様性も和食の魅力

であり日本を旅するときの楽

しみのひとつでもあるはずだ

いまのように流通が盛んでな

く保存技術も進んでいなかっ

たころ食料を無駄なく存分に

そして安定的に味わうというこ

とは人々の重要な課題だった

そこで知恵を絞り工夫をこら

し考えられたのが食品の加工

や保存方法その知恵が結果的

に「和食」の多様性を生みだし

ていくことになるのだ

海から遠い土地では魚を長持

ちさせる知恵が生まれ冬が厳

しい北方では野菜を長期にわた

り保存する技が発展してきた

魚の干物餅梅干し凍み豆

腐helliphellipこれら保存食は昔から

ある加工食品だが同じく日本

古来の加工食品に発酵食品があ

る微生物の働きや酵素の力

で保存力や栄養価風味などが

加わった食品だ野菜の漬物も

このひとつ

例えば秋田県の郷土料理「い

ぶりがっこ」大根を囲炉裏の

4

「和食」の多様性

風土が多様性を生み

それが「和食」という地図を描く

南北に長くさまざまな気候を持つ日本だけに地域が持つ食文化は多様で

土地土地に伝わる郷土料理や加工保存技術が存在している

日本の食が描く地図は知れば知るほど面白い

風土の違いから生まれる

食文化の多様性

お雑煮MAP

 

正月に食べられるお雑煮はだ

しの素材や味付け餅の形状具な

どが地域や家庭によってさまざま

であるだしには昆布鰹節煮

干しするめ穴子鶏肉が味付

けには塩醤油味噌などが使われ

る餅は角か丸かそれを焼くか

煮るかという違いもあるまたあ

ん入りの餅を入れる地域もある

具は野菜類魚介類鶏肉などで

地域の特産品が使われることも多

い沖縄県ではお雑煮に代わるも

のとして「中味汁」(豚の内臓の

汁)があるここでは全国各地の

お雑煮の中から特徴のあるもの

を取り上げた丸もち

角もち

角もち

角もち

昆布と鰹節のだしに味噌で味付けし煮た丸餅とかぶそしてかぶの葉を加えたシンプルなお雑煮を食べる地域も味噌は赤味噌白味噌のいずれかが使われる

丸餅に白味噌仕立てが多いが香川県では白味噌にあん入り餅を入れた「あんもち雑煮」が珍しい具は大根ニンジン里芋など

だしはあごだし昆布鶏肉とさまざまだが味付けは醤油味具にかまぼこが入り九州の北部にはあん入り餅を入れる地域もある

醤油味のすまし汁に煮た丸餅が多い出雲地方では

「小豆雑煮」と呼ばれ具はなくぜんざいのような小豆だけの雑煮を食す

昆布と鰹節のだしに味噌で味付けし煮た丸餅とかぶそしてかぶの葉を加えたシンプルなお雑煮を食べる地域も味噌は赤味噌白味噌のいずれかが使わ

1314 WASHOKU

上に吊るし楢や桜の焚き火で

燻製にしてから米糠と塩で漬

けこんだ漬物だこれは冬の訪

れが早い秋田で大根を早く乾

燥させ長く食べられるようにす

るための工夫だいずれも手間

と時間が加わることで風味が

濃縮されとれたてとは違った

深い味わいが生まれた

魚介類の保存食でいえばな

れずし魚を塩と米飯で数日

から数ヶ月寝かせ乳酸発酵さ

せたもの雑菌の繁殖が抑えら

れ長期間の保存が利く上うま

味が増す現在滋賀県のふな

ずし和歌山県のサバやサンマ

のなれずし福井県小浜市のへ

しこなれずし秋田県のハタハ

タ寿司など日本全国の郷土料

理として残っている

また味噌や醤油といった発酵

調味料は日本料理の味の要と

もいえやはりこれらにも地域

によって造り方や味に違いがあ

る例えば味噌大豆と米こ

うじを使い長期間熟成させた辛

口の津軽味噌米こうじを多く

配合した甘みのある西京味噌

大豆こうじを使った赤褐色の名

古屋の八丁味噌麦を原料にし

た九州地方の麦味噌などさま

ざま

地域の特産品発酵調味料餅

で構成されるお雑煮を見ても

多様性はよくわかる

日本の風土と食文化は深く結

びつき世界が注目するバラエテ

ィに富んだ食を育んできたのだ

日本の味噌

mdash

地域と特徴mdash

味噌は製法材料によって

大きく3つに分けられる

全国的に一般的なのが「米

味噌」で蒸すまたは茹で

た大豆に塩米こうじを加え

発酵させたもの米こうじ

の代わりに麦こうじを使用

したものを「麦味噌」大豆

を発酵熟成させたものが

「豆味噌」米味噌には大

豆を蒸して長期間熟成した

辛めの赤味噌と大豆を茹

でて短期間で熟成させた甘

めの白味噌がある

「和食」が日本文化である理由 「和食」の多様性4

主な種類地域 特徴

米味噌

津軽味噌 長期間熟成させる辛口で赤味噌系が主流

仙台味噌 仙台で伝統を継承して造られてきた長期間熟成させる辛口赤味噌系が主流

信州味噌 長野県を中心に造られる山吹色の淡色系の辛味噌

江戸甘味噌 通常の味噌よりもこうじを多く塩を少なくした赤系の甘さのある味噌

西京味噌 関西地方を中心に造られる米こうじの多い甘みのある白味噌

讃岐味噌 香川県で造られる甘みのある白味噌あん餅雑煮にも使われる

府中味噌 甘みのある米こうじの多い白味噌で主に広島県で造られる

麦味噌 九州四国中国 麦こうじを使って発酵させた山吹色を帯びた甘みのある味噌

豆味噌 八丁味噌三州味噌 蒸した大豆でみそ玉を作りこうじ菌を繁殖させて造る濃い赤褐色の味噌

お雑煮に入れる餅の形について出身地ごとに聞き取った結果中部を境にして東は角餅西は丸餅が多かった

もちの形について

丸もち

丸もち

丸もち

丸もち

出典「お雑煮100選」(文化庁)より

(人)

温暖化が進み狩猟が大型獣から小型獣になる

南九州で竪穴式住居にドングリ貯蔵穴が広まる

ドングリなどの植物性食料が重要な食料になる

水田稲作が日本列島に伝来

稲作の広がりと定着魚を発酵させたなれずしの登場

『魏ぎ

し志』倭わ

じんでん

人伝には倭(日本)では冬夏に生菜を

飲食に高杯をつかい手食するとある

土は

師器の移動式かまどの使用

土師器の甑こ

しきに

よる蒸し米が盛んになる

中国に遣唐使を送る大陸の食文化がもたらされる

675年天武天皇が「牛馬犬猿ニワトリ」の

食用を禁止

牛乳を煮詰めて作った「蘇そ

」が朝廷に貢納される

箸の利用が広がる

貴族の大だ

いきょう饗

料理や年中行事が中国の影響で定着

豆腐が中国より伝来する

栄西が宋より抹茶法を持ち帰る

道元が禅宗における食事作法や調理の心得を

説いた『典て

んぞきょうくん

座教訓』『赴ふ

しゅくはんぽう

粥飯法』を執筆

植物性食品のみを使った精進料理の発展

武士の供応食本ほ

んぜん膳

料理の形成

包丁人と呼ばれる料理人が誕生し包丁流派を形成

刻み目のついたすり鉢が広がる

酒造技術の進展

書院茶の湯からわび茶の湯へ

千利休により茶の湯が完成

懐石形式の定着

豊臣秀吉が北野大茶会を開催

欧州が大航海時代に入り

南蛮貿易により南蛮菓子唐辛子などが日本に伝来

日本初の出版料理書『料理物語』刊行

都市部に食べ物屋や料理屋が普及する

料理屋の会席料理形成

けがれによる肉食禁忌の観念が広く浸透

薬食いとしての肉食

飢き

きん饉に備えさつまいもやじゃがいもの栽培を奨励

和菓子の完成

握り寿司やてんぷらが江戸で流行する

肉食解禁と牛鍋の流行

『西洋料理指南』など西洋料理書の出版

西洋料理店の発展

米の摂取率が平均53に

家庭向け料理書の出版

女学校における食物教育

脚か

っけ気

論争がさかんに行われる

牛肉の不足から豚肉の生産が増加

洋菓子の製造発展

物価高騰と米不足によるじゃがいもパンなどの代用食の奨励

国立栄養研究所の開設と栄養学の発展

都市部で和わ

ようせっちゅう

洋折衷料理が普及

戦争による食料不足

食料統制米などほとんどの食品が配給切符制となる

イモなど代用食の増産

戦後のミルクとパンの学校給食が開始

各地に闇市ができる

食料の価格が高騰

厚生省が日本人の栄養基準値を策定

農家の生活改善運動が展開

即席ラーメンなどインスタント食品の開発販売

冷凍冷蔵庫の普及と冷凍食品が普及

日本型食生活の提唱

ファミリーレストランファストフード店の増加

コンビニの発展

日本食の洋食化と簡便化と米摂取量の減少

食料自給率が39〜40に低下

レトルト食品の売上増大

電子レンジ普及率が約90に

遺伝子組み換え食品が登場

地球温暖化など環境問題が深刻化

阪神淡路大震災東日本大震災により災害食が注目される

持続可能性が社会課題に

家庭料理の変化や家族の孤食化などの問題が生まれ和食の見直しへ

縄文時代弥生時代古墳時代飛鳥時代奈良時代平安時代鎌倉時代室町時代安土桃山時代江戸時代BC9000年BC3000年BC2500年頃BC200年頃240年頃500年頃7世紀8世紀8~12世紀12~14世紀14~16世紀16~17世紀17~19世紀

1516 WASHOKU

「和食」の年表

「和食」がたどった道和食の成立とその変化を年表でたどってみると各時代の人々が海外の食文化の影響を受けながら工夫を積み重ねてきた様子が見えてくる

米は縄文時代晩期に伝来し

たとされるが全国に広がるの

は弥生時代である

平安時代の大饗料理は貴族

の供応料理で蒸した高盛の強こ

飯いい

に各種の魚介類を配し調味

料につけて食べる形であった

鎌倉時代には禅宗の影響に

より動物性食品を排除した

精しょうじん進料理が発展した道元禅

師は調理も修行の一つとして

その心得を記した『典て

んぞ座教き

ょうくん訓』と

食事への感謝の念作法を説い

た『赴ふ

粥しゅく

飯はんぽう法』を著した

室町時代上層階層の料理文

化として本膳料理が登場した

この形式は江戸時代後期には

婚礼などの儀礼食として各地域

に浸透し昭和期まで継承され

た本膳には飯汁菜香の物

が盛られ飯を主食とした伝統

的な食事の形式が定着すること

になるまた酒とその酒肴も

本膳に伴って発展した

安土桃山時代には茶の湯に

ともなう懐石が発展した一汁

三菜を基本に旬の素材にこだ

わり食事空間のしつらいにも

気を配るなど精神性をも盛り込

んだこの形式はその精神と

共に現代に引き継がれている

江戸時代の都市部ではそば

すしてんぷらなどの食べ物屋

高級料理店なども広がりをみせ

た料理書の出版も相次ぎ酒

と酒肴を楽しむ料理屋の会席料

理も成立したまた和菓子の

温暖化が進み狩猟が大型獣から小型獣になる

南九州で竪穴式住居にドングリ貯蔵穴が広まる

ドングリなどの植物性食料が重要な食料になる

水田稲作が日本列島に伝来

稲作の広がりと定着魚を発酵させたなれずしの登場

『魏ぎ

し志』倭わ

じんでん

人伝には倭(日本)では冬夏に生菜を

飲食に高杯をつかい手食するとある

土は

師器の移動式かまどの使用

土師器の甑こ

しきに

よる蒸し米が盛んになる

中国に遣唐使を送る大陸の食文化がもたらされる

675年天武天皇が「牛馬犬猿ニワトリ」の

食用を禁止

牛乳を煮詰めて作った「蘇そ

」が朝廷に貢納される

箸の利用が広がる

貴族の大だ

いきょう饗料理や年中行事が中国の影響で定着

豆腐が中国より伝来する

栄西が宋より抹茶法を持ち帰る

道元が禅宗における食事作法や調理の心得を

説いた『典て

んぞきょうくん

座教訓』『赴ふ

しゅくはんぽう

粥飯法』を執筆

植物性食品のみを使った精進料理の発展

武士の供応食本ほ

んぜん膳

料理の形成

包丁人と呼ばれる料理人が誕生し包丁流派を形成

刻み目のついたすり鉢が広がる

酒造技術の進展

書院茶の湯からわび茶の湯へ

千利休により茶の湯が完成

懐石形式の定着

豊臣秀吉が北野大茶会を開催

欧州が大航海時代に入り

南蛮貿易により南蛮菓子唐辛子などが日本に伝来

日本初の出版料理書『料理物語』刊行

都市部に食べ物屋や料理屋が普及する

料理屋の会席料理形成

けがれによる肉食禁忌の観念が広く浸透

薬食いとしての肉食

飢き

きん饉に備えさつまいもやじゃがいもの栽培を奨励

和菓子の完成

握り寿司やてんぷらが江戸で流行する

肉食解禁と牛鍋の流行

『西洋料理指南』など西洋料理書の出版

西洋料理店の発展

米の摂取率が平均53に

家庭向け料理書の出版

女学校における食物教育

脚か

っけ気

論争がさかんに行われる

牛肉の不足から豚肉の生産が増加

洋菓子の製造発展

物価高騰と米不足によるじゃがいもパンなどの代用食の奨励

国立栄養研究所の開設と栄養学の発展

都市部で和わ

ようせっちゅう

洋折衷料理が普及

戦争による食料不足

食料統制米などほとんどの食品が配給切符制となる

イモなど代用食の増産

戦後のミルクとパンの学校給食が開始

各地に闇市ができる

食料の価格が高騰

厚生省が日本人の栄養基準値を策定

農家の生活改善運動が展開

即席ラーメンなどインスタント食品の開発販売

冷凍冷蔵庫の普及と冷凍食品が普及

日本型食生活の提唱

ファミリーレストランファストフード店の増加

コンビニの発展

日本食の洋食化と簡便化と米摂取量の減少

食料自給率が39〜40に低下

レトルト食品の売上増大

電子レンジ普及率が約90に

遺伝子組み換え食品が登場

地球温暖化など環境問題が深刻化

阪神淡路大震災東日本大震災により災害食が注目される

持続可能性が社会課題に

家庭料理の変化や家族の孤食化などの問題が生まれ和食の見直しへ

明治時代大正時代昭和時代(戦前戦中)昭和時代(戦後)平成1869~1912年1912~1926年1926~1945年1945~1989年1989年~

1516 WASHOKU

家庭料理の変化や家族の孤食化などの問題が生まれ和食の見直しへ

基本はほぼこの時代にできたと

いえよう

いっぽう各地域の日常食の

主食は麦雑穀芋類を混合し

たかて飯やうどんなど小麦粉を

用いた食事が多くそれは昭和

期まで引き継がれ各地で独自

の「和食」の文化が形成された

西洋文化を積極的に取り入れ

た明治時代以降西洋料理書が

出版され都市部では西洋料理

店が開店したまた明治時代

後期には家庭向け料理書の出

版が相次ぎ西洋料理をアレン

ジして和食に取り入れた和わ

よう洋

折せっちゅう衷料理が数多く紹介された

大正期国立栄養研究所の開

設により栄養学の研究が進み

日常食の栄養についての関心が

少しずつ広がった

飢餓を経験した戦時期を経て

主食に偏らず副食に動物性食

品や油脂を加えた食事が推奨さ

れたその結果1980年頃

になると日本人の食事は米飯

を基本にしながらも乳乳製品

肉魚類野菜類などを適度に

加えたよりバランスのよい食

事となったこの時期の食生活

を「日本型食生活」と呼んだし

かしその後食生活の洋風化

簡便化が広がり食料自給率は

40パーセントと減少した若年

層を中心に食事の基本型が崩れ

欠食孤食などが話題となり和

食の見直しが求められるように

なった

1718 WASHOKU

「和食」の特徴1

献立のかたち

「ご飯」を食べるために

「汁」と「菜」がある

「一汁三菜」が和食の基本型

「一汁三菜」とは「ご飯」と「汁」と「香の物」に

いくつかの「菜」が添えられるという組み合わせ

「ご飯」と「汁」と「香の物」に「お菜」が3品添えられるという献立が一汁三菜この場合は焼き魚(右奥)と煮物

(左奥)と小松菜のおひたし(中央)の3つの菜で構成される向かって手前左にご飯を手前右には汁をその間に香の物をそれぞれ置くという決まりになっている

1718 WASHOKU

米を炊いた「ご飯」昆布や鰹

節などでとっただしを味噌や塩

などで味付けした具入りの「汁」

塩漬けやぬか漬けや粕漬けなど

の「香の物」そして焼き物や煮

物や和え物などの「菜」その4

つの要素で構成される「一汁三

菜」という組み合わせがある

基本的には汁が一種で菜が

三種の構造を「一汁三菜」と呼

ぶ食事中に口の中をさっぱ

りと保ってくれる「香の物」と

ご飯はいつも必ずついていて

その数も変わらないからあえ

て数えない

日常の食事である一汁三菜に

対して江戸時代によく登場す

るのは二汁五菜つまり汁が二

種に菜が5つこれが昔のおも

てなし料理の基本でお膳もふ

たつ出たいいかえると一汁三

菜はひとつのお膳に載るふだ

んの家庭の食事であることがわ

かる

また汁にもいろいろあった

魚のアラを汁に仕立てたものや

野菜を豆腐と一緒に煮込むけん

ちん汁など具だくさんの汁も

各地域でみられ汁でご飯を食

べるということも和食の特徴の

ひとつだ

一汁三菜の献立の最大の特徴

は汁も香の物も菜もすべてご

飯を食べるために存在するとい

う点かもしれないご飯が主食

でその他の3つの要素が副食

という考えが一汁三菜の根底に

ある少ない菜でたくさんのご

飯を食べご飯の量でカロリー

の摂取量を調整するのがかつ

ての和食の基本的な食べ方だっ

たのだ

「和食」にとって欠かせないご

飯についてもここで触れてお

こう

米には「うるち米」と「もち米」

とがあり強い粘性を持つもち

米は赤飯などのおこわ(強こ

わいい飯

や餅に用いられるそれに対し

てうるち米はもち米より粘り

気が少なく通常の米飯として

使われる

米のもとになる稲の栽培が始

まったのは1万年以上前とされ

野生の稲を栽培したのが始まり

と考えられているその原産地

は中国の長江流域とその周辺

という説が有力でそこから西

へ伝わった品種がインディカ種

また東へと伝わり東アジアに

広がったのがジャポニカ種だ

「和食」における献立の目的は

いわば汁と菜でご飯を食べる

ことつまりご飯に合うのなら

例えばそれが肉じゃがでもコ

ロッケでもとんかつでも菜と

して取り入れてこられたのは

ご飯を主食とする「和食」のス

タイルがしっかりしていたか

らである一汁三菜という和

食の基本型がなくなったら外

国の料理と変わらなくなって

しまうだろう

「和食」の特徴 献立のかたち1

稲 玄米 白米 調理加工

粉にする

飯餅菓子米飯焼き米ひなあられ餅おかきあられ

稲わら 俵わらづと鍋釜敷き畳床むしろわらぞうり縄みのわらぼうき など

酒酢みりん味噌発酵させる

糠 たくあん糠漬けあく抜き

(上新粉など)柏餅草餅重

お も ゆ

湯など

(白玉粉落ら く が ん

雁粉道明寺粉など)白玉最中大福餅落雁桜餅など

どうみょうじ

うるち米の粉

もち米の粉

日本人の暮らしに深く関わる稲米

 現在世界で栽培されている稲の主な種類にはインディカ種(インド型イネ)やジャポニカ種(日本型イネ)などがあるインディカは長粒種と呼ばれる米ジャポニカは日本でよく食べられている丸く短粒な米で短粒種と呼ばれる米の主成分であるでんぷんにはアミロースとアミロペクチンとがありアミロースを多く含むインディカ種は粘り気が少ないのに対しアミロースの少ないジャポニカ種は粘りが強く日本人にとってはおいしい味の米であるそしておにぎりやすしのようにまとめる米料理も発達した 世界の米の生産量は約6億トンと小麦とほぼ同じだがその90以上が日本を含むアジア諸国で栽培されているジャポニカ種は全体の15を占め日本をはじめとして朝鮮半島中国東北部台湾北部などで主に栽培されているインディカ種の栽培地域はインドからベンガル地方のバングラデシュタイをはじめとするインドシナ半島中国の中南部インドネシアなど南アジアが中心だ

ジャポニカ種とインディカ種日常私たちがご飯として食べているのはうるち米赤飯や餅にするのはもち米である栄養価はほとんど同じであるがでんぷんの構成が異なるうるち米はアミロースとアミロペクチンの比率が約28であるがもち米はほとんどアミロペクチンで構成されているそのためにもち米はうるち米に比べて粘りが強く餅にするのに適しているのである日本では両方の米の特徴をうまく利用して粒のまままたは粉にするなどしていろいろな料理や菓子を生み出したり発酵させて酒やみりんなどをつくり出したりしてきた

うるち米ともち米

インディカ

ジャポニカ

「和食」に欠かせない

米はどこから来たのか

1920 WASHOKU

全国各地でさまざまな魚や野

菜が豊富に手に入ったことそ

して文明開化の時代まで一般

的に肉食をしなかったという背

景から「和食」は野菜と魚介類

を中心に調理されてきた

現在日本の市場で流通する

野菜の数は150種類ほどと言

われているその種類はイモ類

やマメ類をはじめ根菜類茎け

いさい菜

類葉菜類果菜類など実に多

様ださらには山菜やきのこ

など森林に自生するものも調

理に工夫することでうまく食材

として取り入れてきた

日本で流通する野菜は近代

になって外国から輸入されたも

のや品種改良によって食べや

すくなったものなど多様では

あるが昔から日本で作り続け

られている伝統野菜(在来野菜)

も少なくない伝統野菜とはだ

いたい三世代以上に渡って栽培

「和食」の特徴2

食材

和食を支える日本の食材

おいしさの秘密と多様性

おいしい和食には素材の力がある四季折々の自然の中から

生み出される日本の食材は驚くほど多様性に富んでいる

野菜

野菜と魚介類の二大食材に

支えられる日本食文化

和食には野菜を使う料理が多くあるが現在日本で流通する野菜の種類も150以上と幅広い分類にしてもジャガイモやサツマイモなどのいも類大豆や小豆などのマメ類ダイコンやカブなどの根菜類ネギやウドなどの茎

け い さ い

菜類コマツナや白菜などの葉菜類ナスやキュウリなどの果菜類そのほかにシイタケやシメジなどのきのこやワラビやゼンマイなどの山菜など多彩な野菜が存在するしかし現代でこそ流通の発展でさまざまな野菜が一年中手に入るが全国で同じ野菜が収穫できるわけではない例えば同じいも類でもサツマイモなどは九州などで多く作られるが冷害に強く冷涼な地で生育するジャガイモは山梨や長野などの山間部や日本の北部で育てられるそのほか地域特有の特産品である伝統野菜がいま注目され始めている

1920 WASHOKU

が続けられ地域に根づいた農

法で作られるものを指しこれ

を守る動きも目立ってきている

魚介類も「和食」にとって欠か

せない食材のひとつ日本で獲

れる海水魚は実に種類豊富で

日本に生息する魚種だけでも約

4200種ある縁起のよい魚

として重宝されるタイをはじめ

アジイワシやサバサンマなど

日本の近海は魚の宝庫である

海水魚だけでなくコイやア

ユフナやウナギそして水田で

獲れるドジョウなどの淡水魚

(川魚)は海から離れた地域では

貴重なタンパク源だったため

古くから料理に使われている

ウナギの蒲焼きは一般的だが

薄切りにしたコイを50くらい

の湯に短時間漬けてから冷水で

身を締めて酢味噌で食べる「鯉

のあらい」やコイの切り身を濃

い味噌で煮た「鯉こく」など味

わい方も豊富

またうま味のもととして古

くから使われてきた昆布や味

噌汁の具としても重宝するワカ

メさらにおむすびに必須の海

苔など海藻類も和食には欠か

せない貝類も種類が豊富で

アワビをひも状に薄くむき乾

燥させた「熨の

しあわび

斗鮑」が神事や祝し

ゅうぎ儀

の象徴として使われてきた

近年日本の食料自給率が低

下し外国産食材の増加も問題

視されているが本来の「和食」

は日本の自然の恵みによって支

えられているのだ

「和食」の特徴 食材2

島国である日本において魚介類は古くから貴重でかつ重要な食材であった農林水産省の定める生鮮食品品質表示基準によれば日本で食される水産物はマグロやカツオイワシやアジなどの海水魚やコイやウナギなどの淡水魚(川魚)シジミやアサリなどの貝類カニやエビなどの甲殻類やカメなどの水産動物類クジラやイルカなどの海産哺乳動物類そのほか昆布やワカメなどの海藻類など実に多様な種類がある2000年に味の素(株)がおこなった「嗜好調査」によれば「食材」としては肉類よりも魚介類のほうが好まれている結果がみられたさまざまな魚介類のなかでもカニエビマグロなどへの嗜好性が高くそれらが「贅沢な食材」と捉えられているようである

山間部など海の魚が手に入らない地域で貴重なタンパク源として重宝されたのが淡水魚(川魚)写真はアユだがその他コイやウナギドジョウワカサギフナなど日本ではさまざまな川魚が食材として使われてきた寄生虫のおそれがあるため生食はあまりされないがその代わりに調理にはさまざまな工夫が見られる海の魚に比べると独特の臭味やクセがあるため「鯉こく」のようにしっかりと煮込むことで臭味を除いたりウナギのように蒲焼きにしたりするなどがその一例だまた例えば滋賀県には琵琶湖で獲れるフナを塩と米で乳酸発酵させ保存性を高めると同時にうま味成分を引き出した「ふなずし」もある

古来日本で食べられてきた海藻類現在でも低カロリーでミネラルビタミンに富む食材として和食では重宝されている日本では約50種類の海藻が食べられているが世界的にみてもここまで多様な海藻を加工し食用とする民族は珍しいなお海藻にはフノリやテングサのような紅藻ワカメ昆布やモズクなどの褐藻アオノリや海ブドウなどの緑藻類の3種類の海藻が存在する昆布のようにだしをとるために使うものもあるが乾燥させて食べる海苔味噌汁や酢の物の具として使われるワカメのようなものまで実に幅広いまた海藻は神への奉納品としての縁も深く日常の食事だけではなく祭りや神事などにも登場している

縄文時代の遺跡である貝塚からアワビやハマグリカキなどの大量の貝殻が発見されていることからもわかるように貝類は日本では古くから食材として利用されてきた春先の干潮時に浜辺に埋まったアサリなどの貝を掘り出して採取する潮干狩りは春の風物詩としても馴染み深い日本には6000近い貝類があるといわれておりなかでもアサリやハマグリのような二枚貝サザエやツブ貝のような巻き貝が食用として親しまれている調理法としては刺身や吸い物味噌汁煮物焼き物炊き込みご飯など幅広い料理に使用されているがだしをとるためにも使われるさらに乾物にすれば保存性も高くなるため古くから交易にも活用されてきた

海の魚

川の魚

海藻貝

2122 WASHOKU

和食における菜さ

の調理法には

煮る焼く蒸す茹でる和あ

える

揚げるなど実に多様な技法が

あるこれを季節の野菜や山

菜魚介類海藻などの食材と組

み合わせることでバラエティ

に富んだ菜が食卓を彩る

数ある日本の調理法の中で

最も特徴的なのは「生もの」材

料を生のまま切り皿に盛り付

け調味料と薬味を添える刺

身といえば魚介類が用いられる

のがほとんどで捌さ

き方切り方

盛り方などが現在世界で注目を

浴びている材料を新鮮な状態

に保つ技術と料理としての盛り

付けの技術があいまって完成し

たものといえる調味料と薬味

の組み合わせも魚類との相性を

考えて工夫されているまた

わさびしょうがからしなどの

薬味や「つま」や「けん」と言わ

れる大根のせん切り大葉防ぼ

うふう風

芽めたで蓼花は

なじそ

紫蘇など防菌効果のあ

るものを添えて見た目も美し

く組み合わせている

ご飯と並んで食卓に欠かせ

ない「汁物」は鰹節や昆布煮干

し干し椎茸などから抽出され

るだしのうま味と具として入

れる素材のうま味が味わいのベ

ースとなっている中には具だ

くさんの菜になるような汁も

ある

また豊富な水を利用した調理

焼き物(サンマの塩焼き)

直火焼きは遠火の強火でほかに間接焼きがある

生もの(カツオの刺身)

生ものには刺身あらい酢の物漬物がある

茹で物(もりそば)

小麦粉やそばなどの粉からつくる麺を茹でる法

旬の食材のおいしさを

引き出す調理法の数々

「和食」の特徴3

調理

切る煮る焼く蒸す茹でる和える揚げるhellip

あの手この手で素材をよりおいしく

バランスの取れた一汁三菜の基本はご飯にあり

ご飯をおいしくいただくために菜さ

の調理方法は進化した

煮物(筑前煮)

煮汁の中で加熱中に調味する法

2122 WASHOKU

法に「茹で物」があるたっぷり

の水を沸騰させ食材を加えて加

熱して取り出すもの青菜そば

などは茹でた後にあくの除去

歯触りを良くするなどのためさ

らに水で洗う場合も多い私た

ちがあたりまえのように調理し

て食べているほうれん草や小松

菜のお浸しは水に恵まれた日本

に定着した料理で世界的にみて

も特徴あるものといえよう

「焼き物」はサンマの塩焼きの

ように塩をふり直火でじっく

り焼き上げる方法が伝統的

「煮物」は世界で最もポピュラ

ーな調理法だが日本では素材

の味を生かしつつ醤油や味噌

など大豆由来の発酵調味料で

味を調えるものが多い

油とともに加熱調理する「炒

め物」は伝統的な調理にはほと

んど見られないが現代では盛

んに使われ和食の幅を広げて

いる

ここに紹介した調理法と料理

の例は主にご飯のおかずとな

るものであるが小麦そば雑

穀などを粉にしこれを調理し

た主食も多い代表的なものに

うどんそばそうめんなどの麺

類があり茹でる場合が多いが

煮込みなど煮るものもある

さまざまな料理を組み合わせ

て食べる和食は素材の味を生

かしうま味をしっかりとれば

最低限の調味料でおいしさを感

じることができ多様な料理を

楽しむことができる

和あえ物

(きゅうりとワカメの酢の物)

野菜や魚介類などをごま味噌酢などで和える法

漬物(きゅうり大根の糠

ぬか

漬け沢たく あ ん

庵漬け)生ものを保存する方法の一種

塩の働きに加え乳酸発酵させたものが多い

汁物(なめこの味噌汁)

だし汁を主体とする法すまし汁みそ汁とろみのついた汁など

蒸し物(茶碗蒸し)

水を沸騰させその水蒸気を利用して加熱する法

浸し物(小松菜のお浸し)

お浸しは調味した汁に浸して味をつけたもの

「和食」の特徴 調理3

揚げ物(天ぷら)

高温の油で食品を加熱する法油の温度は150~200度の範囲で行うことが多い

2324 WASHOKU

「和食」の特徴4

味わい

うま味日本人が発見した「おいしく食べる」最大の知恵

和食の味わいの中で最も重要なのがだし

味噌汁やすまし汁のベースとなり

煮物やおひたしなどさまざまな料理の

味を決定づける味の要だ

和食の味わいを語るうえで忘

れてはならないのがだし(出

汁)の存在汁物や煮物などさ

まざまな料理のベースとして使

われている

なぜ日本人はここまでだしを

好むのかその答えに大きく関

係するのが「うま味」だ江戸時

代の料理書には「だしこそ料理の

根本である」と書かれている

1907年池田菊き

くなえ苗

博士に

よって世界で初めてうま味成

分のひとつがアミノ酸の一種で

あるグルタミン酸であることが

発見されたその後日本人を中

心に研究が進みうま味は甘味

塩味酸味苦味に加えて第5

の味覚として広く知られるよう

になる現在ではうま味調味

料やだし入りのつゆなどうま

味成分を手軽に使える調味料も

普及海外でも人気が高く国

内でも日常的に使用されている

だしのほかに和食の味付け

日本が世界に誇る

第5の味覚うま味

うま味成分を多く含む椎茸もだしをとる目的で使われてきた食材のひとつだしに使用するのは干したもの椎茸は乾燥させることでうま味や香り成分が増すためだ

小魚を煮て乾燥させてつくる煮干しも汁物に多用される材料としてはカタクチイワシが代表的だがその他ウルメイワシやキビナゴトビウオなどの比較的魚体が小さな魚を使ってつくるのが一般的だ

だしのとり方は魚介や野菜から水や湯を使ってうま味成分を抽出するのが一般的だしの素材として最もよく使われるのは昆布と鰹節でそのほか煮干し野菜干し椎茸魚の内臓やあら(頭や骨)などがあるまた潮

うしおじる

汁のように食品そのもののうま味を活かす方法もある

鰹節

「だし」のこと

昆布

煮干し

干し椎茸

2324 WASHOKU

に欠かせないのは塩砂糖味

噌醤油酢酒みりん魚醤な

どの調味料わさびやからし

しょうが山椒とうがらしゆ

ずなども薬味として使われる

これら薬味によって季節感を楽

しみながら素材の味を引き出

すという知恵も「和食」ならでは

夏に高温多湿となる日本では

アジア諸国と同様発酵食品が

発達したそれゆえ味噌や醤

油や酢に代表される発酵調味料

を多用するのも和食の特徴大

豆や穀物を塩漬けにして発酵

させてつくるものだがその過

程で原料のタンパク質がアミノ

酸に分解されうま味成分を豊

富に含んだ調味料ができあがる

のだ

発酵食品も多様だ日本各地

でカビや酵母などの微生物の

働きを活かして食品中のアミ

ノ酸(うま味)を増やす発酵食品

が発達してきた冬場の保存食

として生み出された沢庵や塩

を使って乳酸発酵させる京都の

すぐき菜漬けそして糠ぬ

漬けや

奈良漬けなど野菜を発酵させ

た漬物さらに塩辛やくさや

なれずし鰹節など魚介の保存

食としての発酵食品また大

豆を納豆菌で発酵させる納豆や

こうじ菌で発酵させて乾燥後に

熟成させた寺納豆など大豆の

発酵食品もある

「和食」はうま味を上手に生

かし食材をおいしく食べる知

恵を育んできたのだ

発酵食品

発酵調味料

調味料

「和食」の特徴 味わい4

発酵食品と調味料

魚醤魚を塩漬けにして発酵させる独特の香りと濃いうま味が特徴の調味料ハタハタでつくられる秋田の

「しょっつる」イカやイワシを材料とする能登半島の「いしる(り)」などがある

酒酒もまた和食の調味に欠かせない発酵調味料のひとつ調味料としての酒の主な効果には材料の臭みを消す食材のうま味を引き出して風味をよくする甘みを加えるなどがある

塩海に囲まれている日本では古くから塩は調味料として使用されてきた焼き物や刺身などの調理の味付けとしてはもちろん漬物や干物など食物を貯蔵するための知恵としても活用されている

味噌蒸したり煮たりした大豆にこうじ食塩を混ぜて発酵熟成させた日本を代表する調味料のひとつ味噌汁や煮物などに使われることが多い地域によって使用される味噌の種類がかなり変わるのも特徴だ

酢寿司やなますなど和食に酸味を加える調味料米から醸造した酒に酢酸菌を加えて発酵させて造られる酢に漬けることにより保存性を高める

醤油大豆と小麦で造ったこうじに食塩水を加えた「もろみ」を発酵熟成させ搾ったもの刺身や焼き魚煮物炒め物など幅広い料理に使われている種類は濃口薄口たまり再仕込み白の5つに分類される

みりん蒸したもち米と米こうじを主原料に40~60日かけて熟成させて造られる発酵調味料砂糖と比べて甘みがやわらかく食材の臭味を取る働きもあるまた魚の照り焼きなどのつや出しにも使う

漬物素材を食塩や酢酒粕醤油などに漬け込み熟成させて作られる漬物沢庵や梅干し野沢菜漬けなど野菜類を長期間保存するための知恵として誕生した日本各地に独特の漬物があるのも特徴だ

納豆日本で発展した発酵食品である納豆大豆を納豆菌で発酵させた食品で寺納豆(下記参照)と区別するため「糸引き納豆」とも呼ばれる単品で食べるだけではなく納豆汁や納豆和えなどにも使われている

塩辛魚介類の身や内臓を塩漬けにし発酵させて作られた塩辛は日本における伝統的な保存食品のひとつ使われる素材はその地域によって変わりイカやエビアミタコなど多彩な種類の塩辛が存在する

塩に漬けた魚と炊いたご飯を数日間置き乳酸発酵させたなれずしは魚を保存する知恵として生まれた滋賀県では琵琶湖産のふなを和歌山県や富山県ではサバを岐阜県などではアユを材料にしたものが有名写真は滋賀県湖北地方の年頭の祭りで振る舞われる鯖のなれずし

砂糖世界的に見ても「甘み」を用いた料理が多い現在の和食では砂糖は欠かせない調味料のひとつ単独で料理に使われるというよりは煮物をはじめとするさまざまな料理で醤油や塩味噌などと併用されることが多い

寺納豆茹でた大豆にこうじを加えて発酵させ乾燥させながら熟成を促す発酵食品粘り気のある糸引き納豆とは異なり乾燥して塩辛い禅宗の伝来とともに大陸からもたらされたとされ寺院で作ることが多かったため「寺納豆」と呼ばれた

2526 WASHOKU

「和食」の特徴5

栄養

栄養バランスの優等生「和食」

野菜や魚肉そして米によって構成される「和食」は

栄養バランスの良さでも知られている

最近は五日間すべてを米飯にする完全米飯給食を行う地域も生まれた

和食の特徴のひとつである栄養についてその秘密に迫る

米麦雑穀などを炊いたご飯

を主食としてこれに魚介肉

類野菜類に発酵調味料だしを

組み合わせた和食は栄養学的

にみてもバランスをとりやすい

食事である

歴史的にみると日常食では

主食を大量に摂る習慣が続いた

穀類偏重の食生活だったといえ

よう

しかし豆腐や納豆みそ汁な

どを飯とともに摂ることで米の

アミノ酸の利用率を上げる食べ

方年中行事などハレの日に魚

介類などを摂取して楽しむなど

学ぶべき知恵は多い

なかでも何百年も伝えられて

きた和食の基本型はすぐれた

ものといえよう

副食の主菜には魚肉豆腐

などタンパク質を多く含む料理

を考える副菜には主菜に使わ

なかった野菜芋類などを使い

汁は主菜に合うものを用意する

焼き魚野菜の煮物青菜のお浸

しとみそ汁などでも栄養的バ

ランスはとれている

1980年頃までは多くの

家庭で和食の基本型が続いた

主食の量がやや減り副食が増

加とくに乳乳製品肉類の割

合が増加したこの頃栄養バ

ランスをはかる一つの指標であ

るPFCバランスが理想的な比

率を示した(左記参照)

しかしその後外食の日常化

家庭料理の欧米化が進み米の

摂取量が激減し脂質摂取の過

多などから生活習慣病が問題

となったこうした中各地で

食生活を見直す動きがみられる

ようになったその一つが学校

給食での取り組みである

戦後の食料難の中でパンと

牛乳に副食を加えた完全給食は

1950年に始まった197

6年に米飯が導入されるまで長

く続いたパン給食は和食の基

本型にも影響を与えたようだ

米飯給食は次第に増加し

2010年には週3回以上米

飯給食を実施している小中学

校は90以上となったが週5

回の米飯給食の実施は7以

上と高くない

ここでは2008年に5日

間すべてを米飯給食とした新潟

県三条市の事例を紹介しよう

成長期にバランスのよい食事

で健康な体をつくることそし

て望ましい食習慣を身につけ

生涯を健康に生きることをめざ

し完全米飯給食を実施したと

のこと

米は同市で生産される農薬

を減らしたコシヒカリを七分搗つ

きにした米飯を主食に副食は

主菜副菜汁を組み合わせる献

立をベースとしている主菜は

サケのフライ鶏肉ピリ辛焼き

さんま梅煮など伝統的な和食だ

けではないが和食の基本型の

中に取り入れる工夫がされてい

るパ

ンは油脂や糖分と相性が

良く肥満につながりやすいが

新潟県三条市の給食献立一例三条市の小中学校での献立例ご飯は三条市で収穫したコシヒカリを使用「お米だと腹持ちがよいのでデザートをあまり出さなくとも子どもたちが満足してくれる」とのこと洋風や中華風の献立でもおかずはご飯に合うものを選びスープなどの汁物は確実につけるように心がけている

火曜日

えだまめごはん

さけチーズフライ

くきわかめきんぴら

かきたまじる牛乳

小学校687kcal中学校823kcal

水曜日

ごはんとりにくのぴりからやきいかときゅうりの

あえものしょうがみそスープ牛乳小学校639kcal中学校752kcal

木曜日

ごはんさんまうめにたくあんあえにくじゃがに牛乳なし小学校688kcal中学校814kcal

金曜日ごはんカレーふりかけほうれんそうオムレツフレンチサラダパンプキンスープ牛乳小学校708kcal中学校833kcal

月曜日

ごはんいかのかりんあげ(2こ)

なっとうあえきのこけんちんじるのむヨーグルト

小学校619kcal中学校731kcal

2526 WASHOKU

七分搗米の飯は腹持ちがよく

おやつを食べる子どもが減った

だけでなく肥満の子どもが減

少傾向となり食生活のリズム

が良くなったとされる

また米飯に合う副食は土地

でとれる野菜類を取り入れやす

く季節にあわせてバラエティ

ーに富んだ献立を作ることがで

きる一汁三菜の食べ方の教育

を行った結果給食を残す子ど

もたちも減ったという

基本的な食事パターンが続く

中でも菜を工夫すれば変化に

富む食事を作ることはできる

季節の食材について学び年中

行事への知識も得られるだろう

また子どもたちが和食の基

本型を毎日の給食で体験してい

ることはきわめて重要なことで

ある時々経験するだけでは身

につかないものでも毎日繰り返

すことによって習慣化し定着

するのであるそしてやがて

自分で組み合わせを考えられる

ようになることが期待される

今後の学校給食の役割は大きい

といえるだろう

PFCバランスとは

FAO Statistics Yearbook(日本のみ食料需給表)参照栄養バランスが良いとされるP(たんぱく質)10~20F(脂質)20~30C(炭水化物)50~70の範囲が08~12に収まるように指数化した

日本でのPFCバランスの変化

アメリカとフランスのPFCバランス

タンパク質脂質炭水化物は人間にとって特に不可欠な「三大栄養素」PFCのPはProtein(たんぱく質)FはFat(脂質)CはCarbohydrate(炭水化物)の頭文字でPFCバランスとは食事の中での「たんぱく質」「脂質」「炭水化物」のそれぞれの摂取カロリーの比率健康的な生活をおくるためにはPFCバランスがたんぱく質15脂質25炭水化物60が理想的

給食時には全員で「いただきます」「ごちそうさま」を復唱食育にも力を入れているためそれら言葉の意味についても学校で教えている

米飯給食になってから児童たちの食の嗜し こ う

好に変化が生まれたとか児童たちに好きなおかずを聞いてみると「ハンバーグ」「カレー」などの定番メニューのほか「焼き魚」「納豆」などの和食メニューの名前が上がった

自分の分を食べ終わった児童たちが列をつくって競い合うようにご飯をおかわりしていたこの日の食べ残しはゼロ

C

P

F

14

12

1

08

06

アメリカ(2005~2007年)

C

P

F

14

12

1

08

06

フランス(2005~2007年)

「和食」の特徴 栄養5

日本人のPFCバランスは1965年当時は炭水化物に偏っていたが1980年は非常に理想的な配分になっていたしかしその後の日本人の食生活に肉や油脂類を多く摂り主食の米を食べる量が減り2010年時は欧米型に近づきつつある

C

P

F

14

12

1

08

06

日本1965年

C

P

F

14

12

1

08

06

日本1980年

C

P

F

14

12

1

08

06

日本2010年

2728 WASHOKU

お客を迎える前には店先に打ち水を水で清め準備が整ったことを伝える趣向に合う軸を選ぶのももてなしの基本飾る花は主人自ら育てたものそれを床の花入に活けるのも主人庭に150種ほどの草花を植え日々育てることもしつらいの準備客は女将の温かいもてなしに迎えられる

「和食」の特徴6

しつらい

人をもてなすためのこころとかたち

もてなしは客に対する一方的なサービスではない

お互いに思いやる気持ちから生まれるこころよさである

手入れの行き届いた庭は掃き

清めて水を打ち床の間には軸

を掛け季節の草花を生ける

座敷の襖ふ

すま

も夏には葭よ

しど戸に入れ替

え夏は涼やかに冬は暖かに

すべて相まってもてなしのた

めの用意を整えることそれが

しつらい和食とりわけ懐石

料理においては食材や料理と

ともにしつらいは非常に重要

な要素となる

家庭でも食事をつくる人は

食べる人の顔を思い浮かべなが

ら食事の用意をする食べる人

はつくってくれた人の気持ちを

考えて賞味するここに互いに

もてなす喜びが生まれるのでは

ないだろうか

こうしたもてなしの文化を極

限にまで洗練させた姿が料亭の

もてなしである京都府の無形

文化技術保持者に料理人として

初めて認定された京都の老舗料

亭「瓢亭」の十四代主人高橋英一

さんにその心を聞いてみよう

「料亭は日本文化の凝縮のひと

つと言えます玄関から入って

座敷に行くまでに通る露地にも

季節感があり部屋に入れば時

季や行事の軸がありその座敷

のために選んだ花が飾られる

日本人が自然と身につけている

桜の器を使うことで膳の上にぱっと花が咲くような華やかさが生まれるあしらいは酢取り防風岩海苔

秋の花菊の器はこっくり深い色合いも相まって秋に似合う風情を持つあしらいは岩茸菊花

深さのあるガラスの器に氷が敷き詰められる涼感を目でも舌にも感じるあしらいは穂紫蘇寄せ莫大

縁起のいい鶴は新年の席でも使われるモチーフあしらいは水前寺海苔紫芽紫蘇

四季の感性で受け止めてもらえ

るよう整えお出迎えします

料亭は普段とは違うハレの場で

すがとはいえ行き過ぎず足り

ないことのないよう自然なし

つらいそしてもてなしを心が

けます」

「瓢亭」の座敷に飾られるのは

主人が庭で丹誠込めて育て自

ら生ける茶花

「もてなしの根

底に利休さんの『花は野にある

ごとく』の言葉を思いますが簡

単なようでそれが難しい」自

然体でのもてなしを生むしつら

えは名店においても日々心を

くだき工夫するのだ

「瓢亭」では1年をとおして明石の鯛の向付を供しているが季節ごとに

器とあしらいを変えることで四季を演出している

四季の演出

2728 WASHOKU

和食はご飯と菜あるいはご飯とお汁というように常にご飯を間にはさんで菜や汁をとるのが本来の食べ方下のような不作法とされる箸使い(嫌い箸)があるので覚えておきたい

ご飯は茶碗に味噌汁はお椀

に焼き魚だったら平皿にと普

段料理に合わせて何気なく使う

食器種類の多さもさることな

がら形や素材もさまざま欧

米はもちろん近隣諸国を見回

してもこれほど多種多様な器を

使う国はないそれは四季が明

確なことと無関係ではない

「自宅でも季節に合わせた器

にするだけで気分が変わりま

すよ」と前出「瓢亭」のご主人は

語る 

春であれば華やかな色や形の

もの夏はガラスや青磁など涼

しげな素材の器秋は実りのあ

る彩りがあるもの冬は厚手の

陶器や木製など温もりのあるも

の色素材形を変えるだけで

季節感を演出できる「和食」な

らではの楽しみ

食事の際当たり前のように

使っている箸も日本の食文化

を代表する食具奈良時代以

降匙さ

を使う伝統が消え箸だ

けを使うようになったため熱

い汁物は椀を持ち直接口を

つけてすする文化が確立同

時に椀箸ともに個人所有が基

本となった椀や箸を共有し

匙やレンゲを使うほかの東南

アジア諸国とは異なる食文化

を形成箸食文化圏の中でも

唯一箸だけでご飯を食べる国

となったまた一口に箸といっ

ても食箸取り箸菜箸など用

途に合わせてさまざま食べ

る際に使う食箸だけを見ても

形や素材のほか加工や長さも

豊富にそろうのだ

「和食」の特徴7

箸と椀

「和食」を支える箸と椀

箸食文化圏の中でも唯一箸だけを使う国日本

季節感を感じさせる器とともに独特の食具文化も誇る

渡し箸食事の途中でお箸を

食器の上に渡し置くこと

寄せ箸遠くの食器を

箸で手元に引き寄せる行為

指し箸食事中箸で人やものを指すこと

迷い箸どの料理にしようか迷い箸を料理の上で動かすこと

移り箸いったん取りかけてから

ほかの料理にお箸をうつすこと

箸には食事に使う食箸と調理に使う菜箸とがある菜箸は熱から手を守るため30~50と長く片方がなくならないよう糸でつながっているものもある取り箸は菜箸の一種食箸は個人所有が基本のため使う人に合わせた長さが用意されている漆塗りや螺鈿細工を施したものも多い

種類

形状だけでなく素材もさまざまで近年は黒檀や鉄木など硬質な木が使われることが多い日本の木としては特有の香りがあり古くから懐石用や割り箸に使われてきた杉耐水性耐湿性が高く保存性に優れる上に軽くて持ちやすい檜強くしなりがあり細かいものを取りやすい竹などがある

素材

家庭で使う食箸の形には角箸や四角で角が丸い胴張り五角六角七角八角のほか削りなどがあり持ちやすさに合わせて選べる箸先に加工が施されたものもある来客用に使う銘々箸や割り箸には断面が小判型で割れ目と溝が付いた元禄箸や中央部が太く両端が細い利休箸などが用意されている

日本人にとっての箸は調理から盛りつけ食事までをこなす大事な道具食箸は個人所有が基本のため個々に合わせて選べるのも特徴だ

箸の働き

箸使いの作法を知る

【嫌い箸】

食箸

八角箸 削り箸

菜箸

檜竹

「和食」の特徴 しつらい 箸と椀6 7

2930 WASHOKU

神し ん せ ん

饌として神へ供えられるお神酒は神棚の最上段の中央に置かれるほど重要な地位を占めている

日本酒を造る酒蔵は全国に約1600弱その数は年々減り続けているが数年に一度「日本酒ブーム」も起きている

日本酒とは米と米こうじ

そして水を主な原料にしてそ

れらを発酵させて造られる

原料には主食用の米ではなく

酒造りに適した性質を選び品

種改良された酒し

ゅぞうこうてきまい

造好適米を使

うことが一般的だまた日本

酒の80を占める水も品質を

左右する大きな要因日本酒

の香味を損なわない良質な水

が必須だ

日本酒の醸じ

ょうぞう造の工程にはさ

まざまな技術が伴う例えば米

を精米して味と香りを調整する

技術これは米の外側にあるた

んぱく質や脂質といった雑味の

もとを除くことが目的だが大だ

吟ぎんじょう醸酒にもなると米を半分以

上削ってから仕込むこともある

次いで米を発酵させる技術

酒の場合の発酵とは酵こ

うぼ母が糖類

を食べてアルコールを出すこと

をいうが米には糖類が含まれな

いためまずは米をこうじ菌の酵

素によって糖類へと変えそこに

酵母を加えて発酵させるという

複雑な手順(複式発酵)が必要だ

この手順で使われるこうじもバ

ラこうじと呼ばれる日本独特の

ものだバラこうじは糖化力が

高いのが特徴で日本酒の香りや

味に大きく影響する

稲作を中心に文化を育んでき

た日本では米餅米から造ら

れる酒は地域を問わず重要な

ものとされている米の一粒一

粒に神が宿り同じように酒も

神のおかげで造ることができる

と考えられてきたそして酒

もまた食べ物と共に神に近づ

くための手段として古くから用

いられてきた

同時に家族や親族地域で人

と人をつなぐ上でも酒は大き

な役割を担っている例えばお

神み

き酒祭礼の後には神の酒を

人々が口にする神と同じ酒を

飲みそれを人々が分かち合う

ことで地域やコミュニティが

結束力を強めるのだろう

米や麦やさつまいもなどを原

料とする焼酎も日本酒と並び

日本の國酒とされている酒は

人と人の心をほぐし食事を引

き立たせる重要な役割を担って

いるのだ

「和食」の特徴8

「和食」を引き立たせ

心をほぐす日本の酒

日本人にとっての主食であり精神のかなめでもある米

その米で醸か

される日本酒は「和食」にとって欠かせない要素

日本の「國こ

くしゅ酒

」にもなっている

2930 WASHOKU

「和食」の特徴9

和菓子日本茶

暮らしに寄り添う和菓子とお茶

自然の恵みに感謝し季節の移ろいを敏感に表現する和菓子

日本茶は喉のかわきを癒すだけでなく心を癒し心を高める飲みものである

「和食」の特徴 酒 和菓子8 9

ハレの日の願いを込めた和菓子

和菓子分類餅もの 餅団子大福など蒸しもの 饅頭蒸羊

よ う か ん

羹外う い ろ う

郎村む ら さ め

雨など煉もの 煉

ね り き り

切こなし求ぎ ゅ う ひ

肥飴葛く ず

菓子など焼きもの 味噌松風煎

せ ん べ い

餅桃も も や ま

山カステラどら焼など流しもの 錦

にしきだま

玉煉ね り よ う か ん

羊羹水み ず よ う か ん

羊羹など揚げもの 揚げ煎

せ ん べ い

餅かりんとうなど打ちもの(押しもの) 落

ら く が ん

雁など岡もの 最

も な か

中きんとん鹿か の こ

の子すはまなどかけもの 金

こ ん ぺ い と う

平糖五ご し き ま め

色豆石いしごろも

衣など

これは和菓子の製法によって大まかに分類した表このほか含有する水分量によって生菓子半生 菓 子 干 菓 子などの分け方や上じ ょ う な ま が し

生菓子並菓子駄だ が し

菓子などの分類もある

「岡もの」とはすでにできあがっ た素材をあわせたもの (例きんとん=飴玉とそぼろ餡)

甘く味付けしたごぼうと白味噌餡を赤や白の餅や求

ぎ ゅ う ひ

肥で包んだ生菓子平安時代の新年行事のひとつで長寿を願っておこなわれた「歯固め」の餅に由来する餅と味噌の組み合わせから「包み雑煮」とも呼ばれた

葩はなびらもち

一 月

旧暦十月は「亥の月」と呼ばれていたがその月のさらに「亥の日」に行われる年中行事の際に食べられていた菓子旧暦では10月が冬の始まりそのタイミングで無病息災と多産の猪にあやかって子孫繁栄を願ってこれを食べていたという

亥い の こ も ち

の子餅

十 月六 月

白いういろうの上に小豆の粒餡を散らした菓子古来京都で旧暦六月の晦

み そ か

日(30日)に無病息災を祈願して行われている

「夏なごしのはらい

越祓」になぞらえて初夏の頃に食べられている小豆には邪気祓いの意味があり三角の形は氷を表している

水無月

五 月

平たく丸めた上新粉の餅をふたつに折り中に小豆や味噌の餡を挟んでそれを柏の葉で包んだ菓子柏の葉は新芽が育つまで古い葉が落ちないことから

「子孫繁栄」を願って旧暦五月五日の端

た ん ご

午の節句の供く も つ

物として用いられてきた

柏餅

日本ならではのお茶の製法である手揉みは茶葉の繊維をつぶしながらうまみを引き出すために行う作業手揉みすると茶葉が切れないため茶の甘みを保つことができる

菓子もまた「和食」にとって欠

かせない要素でお客様用の「上

菓子」普段食べる「饅頭」や「餅

菓子」などに分かれるほかに

干菓子や駄菓子など菓子の種

類は多いまた例えば団子や

大福などは「餅もの」求肥や飴

などは「煉りもの」錦玉や

水みずようかん

羊羹などは「流しもの」などと

いうようにその製法によって

分類されることもある米や麦

小豆を代表とする豆類そして

砂糖や水あめなどの材料でバ

ラエティに富んだ菓子が生み出

されてきた

お茶会などの席で抹茶ととも

に味わう菓子もあり季節に合

わせて材料や色やデザインが選

ばれ味覚だけでなく視覚で楽

しむこともある

また年中行事と結びつく菓

子もある例えば旧暦三月三日

の「ひな祭り」では邪気をはら

い強い生命力を象徴するよも

ぎの草もちでつくった草餅を食

べる

和菓子には日本茶がふさわし

い緑茶は12世紀に中国から日

本に伝わったが今では生の茶

葉を蒸してから揉んで乾燥させ

る緑茶の製法は日本独特のもの

となっている緑茶に含まれる

カフェインは覚醒効果がまた

カテキンには抗酸化作用があり

ビタミンCも多く含まれて健

康によい日本茶独特の香りと

うま味は日本文化そのもので

ある

出典「和菓子の歴史展」第五十回虎屋文庫資料展より

3132 WASHOKU

日本の「和食」の文化は自然

環境だけでなく海外からの影

響によっても絶えず変化して

きた

近代以降にはコロッケとん

かつなど洋風料理を和食の基本

型に組み合わせた食事肉と野

菜の煮物や和え物などそれまで

にはない料理が工夫されたそ

の多くは和食の基本型味噌や

醤油を用いた味付け箸で食べ

られる料理など「和食」の要素

を保ちつつ伝えられてきた

しかし第二次世界大戦後高

度経済成長期を迎えると日本人

の食生活は急速に変化する

1970年代にファストフー

ド店ファミリーレストランが

各地に開店しコンビニなども

広がった

1980年頃主食と副食の

バランスは理想的とされたが

(26頁参照)その後米の消費量

はさらに減りパン食が増加

肉類油脂乳乳製品の消費量

も増加し食料自給率も下がっ

た家族での外食が日常化し

家庭の食事も欧米化した

食育の必要性

「和食」が危ないどうしたら伝えられるのか

この150年間で大きく変化し「和食」はいま衰えつつあるその原因はどこにあるのだろうか

食生活の変化

日本の食料自給率の変化農林水産省「食料需給表」より作成

日本のものを食べなくなって 「和食」はどうなる 日本の食料自給率は下がり続けている1965(昭和40)年度はカロリーベースで73だったが2012(平成24)年度は39その大きな原因のひとつは国内で自給可能な米や魚や野菜などの消費量が減少する一方国内で生産が困難な飼料穀物を食べて育つ畜産物や原料を輸入に頼ることが多い冷凍加工食品や小麦の消費が増加したことだと考えられている炭水化物たんぱく質脂肪分をバランスよく摂取する健康的な「和食」に未来はあるのか

国民一人一日当たりの供給純食料農林水産省「食料需給表」より作成

食べる米の量が50年で半減 増えたのは肉と乳製品 国民一人あたりが食べる量を品目別に眺めて分かることそれは日本人が食べる米の量が著しく減ってきたことだ1960(昭和35)年度は一日あたりの米の消費量は約315gだったが2010(平成22年)年度は163gに約半減その代わりに増えたのは牛乳乳製品(約60gから約240g)と肉類(約14gから約80gへ)野菜と魚を中心としたおかずでご飯を食べるという

「和食」のスタイルの変化がわかる

食料費における外食と中食の割合の推移総務省統計局「家計調査年報」より作成

家で食べても 調理することが減っている 外食に対して家庭で作って食べる食事を内食というが弁当や惣菜など調理をせずに食べられるものを買ってきて済ます食事は中食と呼ぶ実はこの中食の割合が増えている外食が占める割合は2000(平成12)年以降横ばいなのに対して中食は増え続けその代わりに内食が減っている食事は家で食べても調理はしないという家庭が増えているのだとすれば「和食」にとって大切な要素を子どもたちに伝える機会が減っているとはいえないだろか

食料自給率(金額ベース)

食料自給率(主食用穀物)

食料自給率(カロリーベース)飼料自給率

米 野菜 肉類牛乳乳製品 魚介類

内食 中食 外食

(g人日)

3132 WASHOKU

50

55

60

65

70

75

01992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012

70

75

80

85

90

95

01992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012

一日に一度はお米を食べないと気がすまない人の割合博報堂生活総研「生活定点2012」

お正月におせち料理を食べた人の割合博報堂生活総研「生活定点2012」

一日に一度は米を炊いたご飯を食べなければ気がすまない人の割合が実はこの20年間で減っているというデータがある1992(平成4)年には714だったが2012(平成24)年には564にまで落ち込んでいるのだ

家族や親族で集まっておせち料理を囲みながら新しい一年の無事を祝うお正月実はおせち料理を食べる人も毎年少なくなっている1992(平成4)年には866だったが2012(平成24)年には748だった

電子レンジの普及や冷凍食品

インスタント食品などにより

食生活は便利になったが家庭

内で調理をする機会が減ったと

もいえる

こうしたなか「和食」の優れ

た点をどうしたら伝えられるの

だろうか親から子へ家庭の食

を伝えるだけでなく学校を通

して子どもたちにさらにその

親の世代にも伝える必要があろ

う高齢者からは「和食」につ

いて具体的に教わることも求

められる

離乳期からの食べ物の選び方

幼児期の食経験を豊富にするこ

となどはとくに重要であろう

小さな頃からの食習慣はその

後の食習慣に大きくかかわって

くるからだ

だしのおいしい味を日々体験

することや魚を味わい骨を箸

でとる訓練を楽しい雰囲気のな

かで教わることなどその積み

重ねの中で「和食」は伝わるので

あろう

経験しない味は異文化とと

らえられるであろうし体験し

ていない調理は簡単でも難しく

感じる食事を用意する過程を

日々見る経験手伝う楽しさ美

しい食器を大切にして使うこと

同じ食べ物を家族や仲間と味わ

い祭りや花見などで共に食べ

る経験を積み重ねることは文

化としての「和食」を伝えるだけ

でなく生きる力を育むことにも

つながるであろう

壁にではなく居間に向かって設置されることが多くなった現在のキッチン夫婦共働きだというこの家庭では夫が厨房に立つことも少なくないというこのように食事の準備を子どもと一緒に行うことで「和食」にとって大切な要素が次の世代に伝えられるようになるのだろう

世帯あたり1ヶ月間の穀類支出金額内訳

1962年3434円

パン

麺他

2010年6373円

パン

麺他

ご飯を食べなくても平気 そんな人が増えている

お米よりパンと麺 その傾向が加速中

おせち料理を食べる派が 毎年ジワリ減少中

1962(昭和37)年度には8割以上を占めていた米への支出が2010(平成22)年度にはパンにとって代わられる米の消費量はパンより多いが家庭では炊飯する必要のある米よりすぐに食べられるパンや麺の支出が多くなり家庭での料理が減っていることを示しているともいえよう

総務省統計局「家計調査年報」より作成

いただきます

ごちそうさま

「和食」の未来

今世紀に入ってから世界に和食ブー

ムが起きている味わいやヘルシーさに

注目が集まり世界中のいたるところに

日本食の店が数多くある

そのように世界から注目される「和食」

だが本家本元の日本国内でその将来が

危ぶまれている

これまで見てきたように「和食」には

新しいものを柔軟に取り込む歴史があっ

た日本人は太古の昔より外国からも

たらされた食文化を自分たちの食生活に

取り込んで日本独自の食文化を発展さ

せてきた地域ごとに地域の環境にふさ

わしい料理をつくり出してきた食べる

料理や食べ方もその時代ごと地域ごと

に変わってきた

その中で貫かれてきたことがある

豊かな自然がもたらす食材のおいしさ

を生かす調理法を工夫し味わうこと

食卓に季節感をしつらえもてなしの気

持ちを共に感じ合う食事の場を持つこ

と一汁三菜という組み合わせを食事

の基本スタイルとして健康的な食生活

をおくることお正月におせち料理を

祝いの日にお赤飯を家族と共に食べる

など食事は家族の絆となっている

豊かな自然を守る気持ちと同じように

日本人を健やかに生かし人と人をつな

いできた「和食」もまた守るべき大切な

日本文化ではないだろうか

「いただきます」「ごちそうさま」と言っ

てみるだけでも「和食」は私たちに身近

になる人と人をあたたかく結びつけて

くれる

日本人はやはりお米のご飯がおいしい

と思うだしのきいた汁でおなかも心も

癒されるこの日本人が長い歴史の中で

育んできたすばらしい財産である「和

食」がこのままなくなってよいと考える

人はいないだろう世界の中でもすぐれ

た食文化として認められた「和食」を日本

の誇りとし大切にして次の世代に受け

継いでいくきっかけにこの冊子がなれ

ば幸いである

ごちそうさま

和 食

昆布と鰹節のだしに味噌で味付けし煮た丸餅とかぶそしてかぶの葉を加えたシンプルなお雑煮を食べる地域も味噌は赤味噌白味噌のいずれかが使われる

丸餅に白味噌仕立てが多いが香川県では白味噌にあん入り餅を入れた「あんもち雑煮」が珍しい具は大根ニンジン里芋など

だしはあごだし昆布鶏肉とさまざまだが味付けは醤油味具にかまぼこが入り九州の北部にはあん入り餅を入れる地域もある

醤油味のすまし汁に煮た丸餅が多い出雲地方では

「小豆雑煮」と呼ばれ具はなくぜんざいのような小豆だけの雑煮を食す

昆布と鰹節のだしに味噌で味付けし煮た丸餅とかぶそしてかぶの葉を加えたシンプルなお雑煮を食べる地域も味噌は赤味噌白味噌のいずれかが使わ

1314 WASHOKU

上に吊るし楢や桜の焚き火で

燻製にしてから米糠と塩で漬

けこんだ漬物だこれは冬の訪

れが早い秋田で大根を早く乾

燥させ長く食べられるようにす

るための工夫だいずれも手間

と時間が加わることで風味が

濃縮されとれたてとは違った

深い味わいが生まれた

魚介類の保存食でいえばな

れずし魚を塩と米飯で数日

から数ヶ月寝かせ乳酸発酵さ

せたもの雑菌の繁殖が抑えら

れ長期間の保存が利く上うま

味が増す現在滋賀県のふな

ずし和歌山県のサバやサンマ

のなれずし福井県小浜市のへ

しこなれずし秋田県のハタハ

タ寿司など日本全国の郷土料

理として残っている

また味噌や醤油といった発酵

調味料は日本料理の味の要と

もいえやはりこれらにも地域

によって造り方や味に違いがあ

る例えば味噌大豆と米こ

うじを使い長期間熟成させた辛

口の津軽味噌米こうじを多く

配合した甘みのある西京味噌

大豆こうじを使った赤褐色の名

古屋の八丁味噌麦を原料にし

た九州地方の麦味噌などさま

ざま

地域の特産品発酵調味料餅

で構成されるお雑煮を見ても

多様性はよくわかる

日本の風土と食文化は深く結

びつき世界が注目するバラエテ

ィに富んだ食を育んできたのだ

日本の味噌

mdash

地域と特徴mdash

味噌は製法材料によって

大きく3つに分けられる

全国的に一般的なのが「米

味噌」で蒸すまたは茹で

た大豆に塩米こうじを加え

発酵させたもの米こうじ

の代わりに麦こうじを使用

したものを「麦味噌」大豆

を発酵熟成させたものが

「豆味噌」米味噌には大

豆を蒸して長期間熟成した

辛めの赤味噌と大豆を茹

でて短期間で熟成させた甘

めの白味噌がある

「和食」が日本文化である理由 「和食」の多様性4

主な種類地域 特徴

米味噌

津軽味噌 長期間熟成させる辛口で赤味噌系が主流

仙台味噌 仙台で伝統を継承して造られてきた長期間熟成させる辛口赤味噌系が主流

信州味噌 長野県を中心に造られる山吹色の淡色系の辛味噌

江戸甘味噌 通常の味噌よりもこうじを多く塩を少なくした赤系の甘さのある味噌

西京味噌 関西地方を中心に造られる米こうじの多い甘みのある白味噌

讃岐味噌 香川県で造られる甘みのある白味噌あん餅雑煮にも使われる

府中味噌 甘みのある米こうじの多い白味噌で主に広島県で造られる

麦味噌 九州四国中国 麦こうじを使って発酵させた山吹色を帯びた甘みのある味噌

豆味噌 八丁味噌三州味噌 蒸した大豆でみそ玉を作りこうじ菌を繁殖させて造る濃い赤褐色の味噌

お雑煮に入れる餅の形について出身地ごとに聞き取った結果中部を境にして東は角餅西は丸餅が多かった

もちの形について

丸もち

丸もち

丸もち

丸もち

出典「お雑煮100選」(文化庁)より

(人)

温暖化が進み狩猟が大型獣から小型獣になる

南九州で竪穴式住居にドングリ貯蔵穴が広まる

ドングリなどの植物性食料が重要な食料になる

水田稲作が日本列島に伝来

稲作の広がりと定着魚を発酵させたなれずしの登場

『魏ぎ

し志』倭わ

じんでん

人伝には倭(日本)では冬夏に生菜を

飲食に高杯をつかい手食するとある

土は

師器の移動式かまどの使用

土師器の甑こ

しきに

よる蒸し米が盛んになる

中国に遣唐使を送る大陸の食文化がもたらされる

675年天武天皇が「牛馬犬猿ニワトリ」の

食用を禁止

牛乳を煮詰めて作った「蘇そ

」が朝廷に貢納される

箸の利用が広がる

貴族の大だ

いきょう饗

料理や年中行事が中国の影響で定着

豆腐が中国より伝来する

栄西が宋より抹茶法を持ち帰る

道元が禅宗における食事作法や調理の心得を

説いた『典て

んぞきょうくん

座教訓』『赴ふ

しゅくはんぽう

粥飯法』を執筆

植物性食品のみを使った精進料理の発展

武士の供応食本ほ

んぜん膳

料理の形成

包丁人と呼ばれる料理人が誕生し包丁流派を形成

刻み目のついたすり鉢が広がる

酒造技術の進展

書院茶の湯からわび茶の湯へ

千利休により茶の湯が完成

懐石形式の定着

豊臣秀吉が北野大茶会を開催

欧州が大航海時代に入り

南蛮貿易により南蛮菓子唐辛子などが日本に伝来

日本初の出版料理書『料理物語』刊行

都市部に食べ物屋や料理屋が普及する

料理屋の会席料理形成

けがれによる肉食禁忌の観念が広く浸透

薬食いとしての肉食

飢き

きん饉に備えさつまいもやじゃがいもの栽培を奨励

和菓子の完成

握り寿司やてんぷらが江戸で流行する

肉食解禁と牛鍋の流行

『西洋料理指南』など西洋料理書の出版

西洋料理店の発展

米の摂取率が平均53に

家庭向け料理書の出版

女学校における食物教育

脚か

っけ気

論争がさかんに行われる

牛肉の不足から豚肉の生産が増加

洋菓子の製造発展

物価高騰と米不足によるじゃがいもパンなどの代用食の奨励

国立栄養研究所の開設と栄養学の発展

都市部で和わ

ようせっちゅう

洋折衷料理が普及

戦争による食料不足

食料統制米などほとんどの食品が配給切符制となる

イモなど代用食の増産

戦後のミルクとパンの学校給食が開始

各地に闇市ができる

食料の価格が高騰

厚生省が日本人の栄養基準値を策定

農家の生活改善運動が展開

即席ラーメンなどインスタント食品の開発販売

冷凍冷蔵庫の普及と冷凍食品が普及

日本型食生活の提唱

ファミリーレストランファストフード店の増加

コンビニの発展

日本食の洋食化と簡便化と米摂取量の減少

食料自給率が39〜40に低下

レトルト食品の売上増大

電子レンジ普及率が約90に

遺伝子組み換え食品が登場

地球温暖化など環境問題が深刻化

阪神淡路大震災東日本大震災により災害食が注目される

持続可能性が社会課題に

家庭料理の変化や家族の孤食化などの問題が生まれ和食の見直しへ

縄文時代弥生時代古墳時代飛鳥時代奈良時代平安時代鎌倉時代室町時代安土桃山時代江戸時代BC9000年BC3000年BC2500年頃BC200年頃240年頃500年頃7世紀8世紀8~12世紀12~14世紀14~16世紀16~17世紀17~19世紀

1516 WASHOKU

「和食」の年表

「和食」がたどった道和食の成立とその変化を年表でたどってみると各時代の人々が海外の食文化の影響を受けながら工夫を積み重ねてきた様子が見えてくる

米は縄文時代晩期に伝来し

たとされるが全国に広がるの

は弥生時代である

平安時代の大饗料理は貴族

の供応料理で蒸した高盛の強こ

飯いい

に各種の魚介類を配し調味

料につけて食べる形であった

鎌倉時代には禅宗の影響に

より動物性食品を排除した

精しょうじん進料理が発展した道元禅

師は調理も修行の一つとして

その心得を記した『典て

んぞ座教き

ょうくん訓』と

食事への感謝の念作法を説い

た『赴ふ

粥しゅく

飯はんぽう法』を著した

室町時代上層階層の料理文

化として本膳料理が登場した

この形式は江戸時代後期には

婚礼などの儀礼食として各地域

に浸透し昭和期まで継承され

た本膳には飯汁菜香の物

が盛られ飯を主食とした伝統

的な食事の形式が定着すること

になるまた酒とその酒肴も

本膳に伴って発展した

安土桃山時代には茶の湯に

ともなう懐石が発展した一汁

三菜を基本に旬の素材にこだ

わり食事空間のしつらいにも

気を配るなど精神性をも盛り込

んだこの形式はその精神と

共に現代に引き継がれている

江戸時代の都市部ではそば

すしてんぷらなどの食べ物屋

高級料理店なども広がりをみせ

た料理書の出版も相次ぎ酒

と酒肴を楽しむ料理屋の会席料

理も成立したまた和菓子の

温暖化が進み狩猟が大型獣から小型獣になる

南九州で竪穴式住居にドングリ貯蔵穴が広まる

ドングリなどの植物性食料が重要な食料になる

水田稲作が日本列島に伝来

稲作の広がりと定着魚を発酵させたなれずしの登場

『魏ぎ

し志』倭わ

じんでん

人伝には倭(日本)では冬夏に生菜を

飲食に高杯をつかい手食するとある

土は

師器の移動式かまどの使用

土師器の甑こ

しきに

よる蒸し米が盛んになる

中国に遣唐使を送る大陸の食文化がもたらされる

675年天武天皇が「牛馬犬猿ニワトリ」の

食用を禁止

牛乳を煮詰めて作った「蘇そ

」が朝廷に貢納される

箸の利用が広がる

貴族の大だ

いきょう饗料理や年中行事が中国の影響で定着

豆腐が中国より伝来する

栄西が宋より抹茶法を持ち帰る

道元が禅宗における食事作法や調理の心得を

説いた『典て

んぞきょうくん

座教訓』『赴ふ

しゅくはんぽう

粥飯法』を執筆

植物性食品のみを使った精進料理の発展

武士の供応食本ほ

んぜん膳

料理の形成

包丁人と呼ばれる料理人が誕生し包丁流派を形成

刻み目のついたすり鉢が広がる

酒造技術の進展

書院茶の湯からわび茶の湯へ

千利休により茶の湯が完成

懐石形式の定着

豊臣秀吉が北野大茶会を開催

欧州が大航海時代に入り

南蛮貿易により南蛮菓子唐辛子などが日本に伝来

日本初の出版料理書『料理物語』刊行

都市部に食べ物屋や料理屋が普及する

料理屋の会席料理形成

けがれによる肉食禁忌の観念が広く浸透

薬食いとしての肉食

飢き

きん饉に備えさつまいもやじゃがいもの栽培を奨励

和菓子の完成

握り寿司やてんぷらが江戸で流行する

肉食解禁と牛鍋の流行

『西洋料理指南』など西洋料理書の出版

西洋料理店の発展

米の摂取率が平均53に

家庭向け料理書の出版

女学校における食物教育

脚か

っけ気

論争がさかんに行われる

牛肉の不足から豚肉の生産が増加

洋菓子の製造発展

物価高騰と米不足によるじゃがいもパンなどの代用食の奨励

国立栄養研究所の開設と栄養学の発展

都市部で和わ

ようせっちゅう

洋折衷料理が普及

戦争による食料不足

食料統制米などほとんどの食品が配給切符制となる

イモなど代用食の増産

戦後のミルクとパンの学校給食が開始

各地に闇市ができる

食料の価格が高騰

厚生省が日本人の栄養基準値を策定

農家の生活改善運動が展開

即席ラーメンなどインスタント食品の開発販売

冷凍冷蔵庫の普及と冷凍食品が普及

日本型食生活の提唱

ファミリーレストランファストフード店の増加

コンビニの発展

日本食の洋食化と簡便化と米摂取量の減少

食料自給率が39〜40に低下

レトルト食品の売上増大

電子レンジ普及率が約90に

遺伝子組み換え食品が登場

地球温暖化など環境問題が深刻化

阪神淡路大震災東日本大震災により災害食が注目される

持続可能性が社会課題に

家庭料理の変化や家族の孤食化などの問題が生まれ和食の見直しへ

明治時代大正時代昭和時代(戦前戦中)昭和時代(戦後)平成1869~1912年1912~1926年1926~1945年1945~1989年1989年~

1516 WASHOKU

家庭料理の変化や家族の孤食化などの問題が生まれ和食の見直しへ

基本はほぼこの時代にできたと

いえよう

いっぽう各地域の日常食の

主食は麦雑穀芋類を混合し

たかて飯やうどんなど小麦粉を

用いた食事が多くそれは昭和

期まで引き継がれ各地で独自

の「和食」の文化が形成された

西洋文化を積極的に取り入れ

た明治時代以降西洋料理書が

出版され都市部では西洋料理

店が開店したまた明治時代

後期には家庭向け料理書の出

版が相次ぎ西洋料理をアレン

ジして和食に取り入れた和わ

よう洋

折せっちゅう衷料理が数多く紹介された

大正期国立栄養研究所の開

設により栄養学の研究が進み

日常食の栄養についての関心が

少しずつ広がった

飢餓を経験した戦時期を経て

主食に偏らず副食に動物性食

品や油脂を加えた食事が推奨さ

れたその結果1980年頃

になると日本人の食事は米飯

を基本にしながらも乳乳製品

肉魚類野菜類などを適度に

加えたよりバランスのよい食

事となったこの時期の食生活

を「日本型食生活」と呼んだし

かしその後食生活の洋風化

簡便化が広がり食料自給率は

40パーセントと減少した若年

層を中心に食事の基本型が崩れ

欠食孤食などが話題となり和

食の見直しが求められるように

なった

1718 WASHOKU

「和食」の特徴1

献立のかたち

「ご飯」を食べるために

「汁」と「菜」がある

「一汁三菜」が和食の基本型

「一汁三菜」とは「ご飯」と「汁」と「香の物」に

いくつかの「菜」が添えられるという組み合わせ

「ご飯」と「汁」と「香の物」に「お菜」が3品添えられるという献立が一汁三菜この場合は焼き魚(右奥)と煮物

(左奥)と小松菜のおひたし(中央)の3つの菜で構成される向かって手前左にご飯を手前右には汁をその間に香の物をそれぞれ置くという決まりになっている

1718 WASHOKU

米を炊いた「ご飯」昆布や鰹

節などでとっただしを味噌や塩

などで味付けした具入りの「汁」

塩漬けやぬか漬けや粕漬けなど

の「香の物」そして焼き物や煮

物や和え物などの「菜」その4

つの要素で構成される「一汁三

菜」という組み合わせがある

基本的には汁が一種で菜が

三種の構造を「一汁三菜」と呼

ぶ食事中に口の中をさっぱ

りと保ってくれる「香の物」と

ご飯はいつも必ずついていて

その数も変わらないからあえ

て数えない

日常の食事である一汁三菜に

対して江戸時代によく登場す

るのは二汁五菜つまり汁が二

種に菜が5つこれが昔のおも

てなし料理の基本でお膳もふ

たつ出たいいかえると一汁三

菜はひとつのお膳に載るふだ

んの家庭の食事であることがわ

かる

また汁にもいろいろあった

魚のアラを汁に仕立てたものや

野菜を豆腐と一緒に煮込むけん

ちん汁など具だくさんの汁も

各地域でみられ汁でご飯を食

べるということも和食の特徴の

ひとつだ

一汁三菜の献立の最大の特徴

は汁も香の物も菜もすべてご

飯を食べるために存在するとい

う点かもしれないご飯が主食

でその他の3つの要素が副食

という考えが一汁三菜の根底に

ある少ない菜でたくさんのご

飯を食べご飯の量でカロリー

の摂取量を調整するのがかつ

ての和食の基本的な食べ方だっ

たのだ

「和食」にとって欠かせないご

飯についてもここで触れてお

こう

米には「うるち米」と「もち米」

とがあり強い粘性を持つもち

米は赤飯などのおこわ(強こ

わいい飯

や餅に用いられるそれに対し

てうるち米はもち米より粘り

気が少なく通常の米飯として

使われる

米のもとになる稲の栽培が始

まったのは1万年以上前とされ

野生の稲を栽培したのが始まり

と考えられているその原産地

は中国の長江流域とその周辺

という説が有力でそこから西

へ伝わった品種がインディカ種

また東へと伝わり東アジアに

広がったのがジャポニカ種だ

「和食」における献立の目的は

いわば汁と菜でご飯を食べる

ことつまりご飯に合うのなら

例えばそれが肉じゃがでもコ

ロッケでもとんかつでも菜と

して取り入れてこられたのは

ご飯を主食とする「和食」のス

タイルがしっかりしていたか

らである一汁三菜という和

食の基本型がなくなったら外

国の料理と変わらなくなって

しまうだろう

「和食」の特徴 献立のかたち1

稲 玄米 白米 調理加工

粉にする

飯餅菓子米飯焼き米ひなあられ餅おかきあられ

稲わら 俵わらづと鍋釜敷き畳床むしろわらぞうり縄みのわらぼうき など

酒酢みりん味噌発酵させる

糠 たくあん糠漬けあく抜き

(上新粉など)柏餅草餅重

お も ゆ

湯など

(白玉粉落ら く が ん

雁粉道明寺粉など)白玉最中大福餅落雁桜餅など

どうみょうじ

うるち米の粉

もち米の粉

日本人の暮らしに深く関わる稲米

 現在世界で栽培されている稲の主な種類にはインディカ種(インド型イネ)やジャポニカ種(日本型イネ)などがあるインディカは長粒種と呼ばれる米ジャポニカは日本でよく食べられている丸く短粒な米で短粒種と呼ばれる米の主成分であるでんぷんにはアミロースとアミロペクチンとがありアミロースを多く含むインディカ種は粘り気が少ないのに対しアミロースの少ないジャポニカ種は粘りが強く日本人にとってはおいしい味の米であるそしておにぎりやすしのようにまとめる米料理も発達した 世界の米の生産量は約6億トンと小麦とほぼ同じだがその90以上が日本を含むアジア諸国で栽培されているジャポニカ種は全体の15を占め日本をはじめとして朝鮮半島中国東北部台湾北部などで主に栽培されているインディカ種の栽培地域はインドからベンガル地方のバングラデシュタイをはじめとするインドシナ半島中国の中南部インドネシアなど南アジアが中心だ

ジャポニカ種とインディカ種日常私たちがご飯として食べているのはうるち米赤飯や餅にするのはもち米である栄養価はほとんど同じであるがでんぷんの構成が異なるうるち米はアミロースとアミロペクチンの比率が約28であるがもち米はほとんどアミロペクチンで構成されているそのためにもち米はうるち米に比べて粘りが強く餅にするのに適しているのである日本では両方の米の特徴をうまく利用して粒のまままたは粉にするなどしていろいろな料理や菓子を生み出したり発酵させて酒やみりんなどをつくり出したりしてきた

うるち米ともち米

インディカ

ジャポニカ

「和食」に欠かせない

米はどこから来たのか

1920 WASHOKU

全国各地でさまざまな魚や野

菜が豊富に手に入ったことそ

して文明開化の時代まで一般

的に肉食をしなかったという背

景から「和食」は野菜と魚介類

を中心に調理されてきた

現在日本の市場で流通する

野菜の数は150種類ほどと言

われているその種類はイモ類

やマメ類をはじめ根菜類茎け

いさい菜

類葉菜類果菜類など実に多

様ださらには山菜やきのこ

など森林に自生するものも調

理に工夫することでうまく食材

として取り入れてきた

日本で流通する野菜は近代

になって外国から輸入されたも

のや品種改良によって食べや

すくなったものなど多様では

あるが昔から日本で作り続け

られている伝統野菜(在来野菜)

も少なくない伝統野菜とはだ

いたい三世代以上に渡って栽培

「和食」の特徴2

食材

和食を支える日本の食材

おいしさの秘密と多様性

おいしい和食には素材の力がある四季折々の自然の中から

生み出される日本の食材は驚くほど多様性に富んでいる

野菜

野菜と魚介類の二大食材に

支えられる日本食文化

和食には野菜を使う料理が多くあるが現在日本で流通する野菜の種類も150以上と幅広い分類にしてもジャガイモやサツマイモなどのいも類大豆や小豆などのマメ類ダイコンやカブなどの根菜類ネギやウドなどの茎

け い さ い

菜類コマツナや白菜などの葉菜類ナスやキュウリなどの果菜類そのほかにシイタケやシメジなどのきのこやワラビやゼンマイなどの山菜など多彩な野菜が存在するしかし現代でこそ流通の発展でさまざまな野菜が一年中手に入るが全国で同じ野菜が収穫できるわけではない例えば同じいも類でもサツマイモなどは九州などで多く作られるが冷害に強く冷涼な地で生育するジャガイモは山梨や長野などの山間部や日本の北部で育てられるそのほか地域特有の特産品である伝統野菜がいま注目され始めている

1920 WASHOKU

が続けられ地域に根づいた農

法で作られるものを指しこれ

を守る動きも目立ってきている

魚介類も「和食」にとって欠か

せない食材のひとつ日本で獲

れる海水魚は実に種類豊富で

日本に生息する魚種だけでも約

4200種ある縁起のよい魚

として重宝されるタイをはじめ

アジイワシやサバサンマなど

日本の近海は魚の宝庫である

海水魚だけでなくコイやア

ユフナやウナギそして水田で

獲れるドジョウなどの淡水魚

(川魚)は海から離れた地域では

貴重なタンパク源だったため

古くから料理に使われている

ウナギの蒲焼きは一般的だが

薄切りにしたコイを50くらい

の湯に短時間漬けてから冷水で

身を締めて酢味噌で食べる「鯉

のあらい」やコイの切り身を濃

い味噌で煮た「鯉こく」など味

わい方も豊富

またうま味のもととして古

くから使われてきた昆布や味

噌汁の具としても重宝するワカ

メさらにおむすびに必須の海

苔など海藻類も和食には欠か

せない貝類も種類が豊富で

アワビをひも状に薄くむき乾

燥させた「熨の

しあわび

斗鮑」が神事や祝し

ゅうぎ儀

の象徴として使われてきた

近年日本の食料自給率が低

下し外国産食材の増加も問題

視されているが本来の「和食」

は日本の自然の恵みによって支

えられているのだ

「和食」の特徴 食材2

島国である日本において魚介類は古くから貴重でかつ重要な食材であった農林水産省の定める生鮮食品品質表示基準によれば日本で食される水産物はマグロやカツオイワシやアジなどの海水魚やコイやウナギなどの淡水魚(川魚)シジミやアサリなどの貝類カニやエビなどの甲殻類やカメなどの水産動物類クジラやイルカなどの海産哺乳動物類そのほか昆布やワカメなどの海藻類など実に多様な種類がある2000年に味の素(株)がおこなった「嗜好調査」によれば「食材」としては肉類よりも魚介類のほうが好まれている結果がみられたさまざまな魚介類のなかでもカニエビマグロなどへの嗜好性が高くそれらが「贅沢な食材」と捉えられているようである

山間部など海の魚が手に入らない地域で貴重なタンパク源として重宝されたのが淡水魚(川魚)写真はアユだがその他コイやウナギドジョウワカサギフナなど日本ではさまざまな川魚が食材として使われてきた寄生虫のおそれがあるため生食はあまりされないがその代わりに調理にはさまざまな工夫が見られる海の魚に比べると独特の臭味やクセがあるため「鯉こく」のようにしっかりと煮込むことで臭味を除いたりウナギのように蒲焼きにしたりするなどがその一例だまた例えば滋賀県には琵琶湖で獲れるフナを塩と米で乳酸発酵させ保存性を高めると同時にうま味成分を引き出した「ふなずし」もある

古来日本で食べられてきた海藻類現在でも低カロリーでミネラルビタミンに富む食材として和食では重宝されている日本では約50種類の海藻が食べられているが世界的にみてもここまで多様な海藻を加工し食用とする民族は珍しいなお海藻にはフノリやテングサのような紅藻ワカメ昆布やモズクなどの褐藻アオノリや海ブドウなどの緑藻類の3種類の海藻が存在する昆布のようにだしをとるために使うものもあるが乾燥させて食べる海苔味噌汁や酢の物の具として使われるワカメのようなものまで実に幅広いまた海藻は神への奉納品としての縁も深く日常の食事だけではなく祭りや神事などにも登場している

縄文時代の遺跡である貝塚からアワビやハマグリカキなどの大量の貝殻が発見されていることからもわかるように貝類は日本では古くから食材として利用されてきた春先の干潮時に浜辺に埋まったアサリなどの貝を掘り出して採取する潮干狩りは春の風物詩としても馴染み深い日本には6000近い貝類があるといわれておりなかでもアサリやハマグリのような二枚貝サザエやツブ貝のような巻き貝が食用として親しまれている調理法としては刺身や吸い物味噌汁煮物焼き物炊き込みご飯など幅広い料理に使用されているがだしをとるためにも使われるさらに乾物にすれば保存性も高くなるため古くから交易にも活用されてきた

海の魚

川の魚

海藻貝

2122 WASHOKU

和食における菜さ

の調理法には

煮る焼く蒸す茹でる和あ

える

揚げるなど実に多様な技法が

あるこれを季節の野菜や山

菜魚介類海藻などの食材と組

み合わせることでバラエティ

に富んだ菜が食卓を彩る

数ある日本の調理法の中で

最も特徴的なのは「生もの」材

料を生のまま切り皿に盛り付

け調味料と薬味を添える刺

身といえば魚介類が用いられる

のがほとんどで捌さ

き方切り方

盛り方などが現在世界で注目を

浴びている材料を新鮮な状態

に保つ技術と料理としての盛り

付けの技術があいまって完成し

たものといえる調味料と薬味

の組み合わせも魚類との相性を

考えて工夫されているまた

わさびしょうがからしなどの

薬味や「つま」や「けん」と言わ

れる大根のせん切り大葉防ぼ

うふう風

芽めたで蓼花は

なじそ

紫蘇など防菌効果のあ

るものを添えて見た目も美し

く組み合わせている

ご飯と並んで食卓に欠かせ

ない「汁物」は鰹節や昆布煮干

し干し椎茸などから抽出され

るだしのうま味と具として入

れる素材のうま味が味わいのベ

ースとなっている中には具だ

くさんの菜になるような汁も

ある

また豊富な水を利用した調理

焼き物(サンマの塩焼き)

直火焼きは遠火の強火でほかに間接焼きがある

生もの(カツオの刺身)

生ものには刺身あらい酢の物漬物がある

茹で物(もりそば)

小麦粉やそばなどの粉からつくる麺を茹でる法

旬の食材のおいしさを

引き出す調理法の数々

「和食」の特徴3

調理

切る煮る焼く蒸す茹でる和える揚げるhellip

あの手この手で素材をよりおいしく

バランスの取れた一汁三菜の基本はご飯にあり

ご飯をおいしくいただくために菜さ

の調理方法は進化した

煮物(筑前煮)

煮汁の中で加熱中に調味する法

2122 WASHOKU

法に「茹で物」があるたっぷり

の水を沸騰させ食材を加えて加

熱して取り出すもの青菜そば

などは茹でた後にあくの除去

歯触りを良くするなどのためさ

らに水で洗う場合も多い私た

ちがあたりまえのように調理し

て食べているほうれん草や小松

菜のお浸しは水に恵まれた日本

に定着した料理で世界的にみて

も特徴あるものといえよう

「焼き物」はサンマの塩焼きの

ように塩をふり直火でじっく

り焼き上げる方法が伝統的

「煮物」は世界で最もポピュラ

ーな調理法だが日本では素材

の味を生かしつつ醤油や味噌

など大豆由来の発酵調味料で

味を調えるものが多い

油とともに加熱調理する「炒

め物」は伝統的な調理にはほと

んど見られないが現代では盛

んに使われ和食の幅を広げて

いる

ここに紹介した調理法と料理

の例は主にご飯のおかずとな

るものであるが小麦そば雑

穀などを粉にしこれを調理し

た主食も多い代表的なものに

うどんそばそうめんなどの麺

類があり茹でる場合が多いが

煮込みなど煮るものもある

さまざまな料理を組み合わせ

て食べる和食は素材の味を生

かしうま味をしっかりとれば

最低限の調味料でおいしさを感

じることができ多様な料理を

楽しむことができる

和あえ物

(きゅうりとワカメの酢の物)

野菜や魚介類などをごま味噌酢などで和える法

漬物(きゅうり大根の糠

ぬか

漬け沢たく あ ん

庵漬け)生ものを保存する方法の一種

塩の働きに加え乳酸発酵させたものが多い

汁物(なめこの味噌汁)

だし汁を主体とする法すまし汁みそ汁とろみのついた汁など

蒸し物(茶碗蒸し)

水を沸騰させその水蒸気を利用して加熱する法

浸し物(小松菜のお浸し)

お浸しは調味した汁に浸して味をつけたもの

「和食」の特徴 調理3

揚げ物(天ぷら)

高温の油で食品を加熱する法油の温度は150~200度の範囲で行うことが多い

2324 WASHOKU

「和食」の特徴4

味わい

うま味日本人が発見した「おいしく食べる」最大の知恵

和食の味わいの中で最も重要なのがだし

味噌汁やすまし汁のベースとなり

煮物やおひたしなどさまざまな料理の

味を決定づける味の要だ

和食の味わいを語るうえで忘

れてはならないのがだし(出

汁)の存在汁物や煮物などさ

まざまな料理のベースとして使

われている

なぜ日本人はここまでだしを

好むのかその答えに大きく関

係するのが「うま味」だ江戸時

代の料理書には「だしこそ料理の

根本である」と書かれている

1907年池田菊き

くなえ苗

博士に

よって世界で初めてうま味成

分のひとつがアミノ酸の一種で

あるグルタミン酸であることが

発見されたその後日本人を中

心に研究が進みうま味は甘味

塩味酸味苦味に加えて第5

の味覚として広く知られるよう

になる現在ではうま味調味

料やだし入りのつゆなどうま

味成分を手軽に使える調味料も

普及海外でも人気が高く国

内でも日常的に使用されている

だしのほかに和食の味付け

日本が世界に誇る

第5の味覚うま味

うま味成分を多く含む椎茸もだしをとる目的で使われてきた食材のひとつだしに使用するのは干したもの椎茸は乾燥させることでうま味や香り成分が増すためだ

小魚を煮て乾燥させてつくる煮干しも汁物に多用される材料としてはカタクチイワシが代表的だがその他ウルメイワシやキビナゴトビウオなどの比較的魚体が小さな魚を使ってつくるのが一般的だ

だしのとり方は魚介や野菜から水や湯を使ってうま味成分を抽出するのが一般的だしの素材として最もよく使われるのは昆布と鰹節でそのほか煮干し野菜干し椎茸魚の内臓やあら(頭や骨)などがあるまた潮

うしおじる

汁のように食品そのもののうま味を活かす方法もある

鰹節

「だし」のこと

昆布

煮干し

干し椎茸

2324 WASHOKU

に欠かせないのは塩砂糖味

噌醤油酢酒みりん魚醤な

どの調味料わさびやからし

しょうが山椒とうがらしゆ

ずなども薬味として使われる

これら薬味によって季節感を楽

しみながら素材の味を引き出

すという知恵も「和食」ならでは

夏に高温多湿となる日本では

アジア諸国と同様発酵食品が

発達したそれゆえ味噌や醤

油や酢に代表される発酵調味料

を多用するのも和食の特徴大

豆や穀物を塩漬けにして発酵

させてつくるものだがその過

程で原料のタンパク質がアミノ

酸に分解されうま味成分を豊

富に含んだ調味料ができあがる

のだ

発酵食品も多様だ日本各地

でカビや酵母などの微生物の

働きを活かして食品中のアミ

ノ酸(うま味)を増やす発酵食品

が発達してきた冬場の保存食

として生み出された沢庵や塩

を使って乳酸発酵させる京都の

すぐき菜漬けそして糠ぬ

漬けや

奈良漬けなど野菜を発酵させ

た漬物さらに塩辛やくさや

なれずし鰹節など魚介の保存

食としての発酵食品また大

豆を納豆菌で発酵させる納豆や

こうじ菌で発酵させて乾燥後に

熟成させた寺納豆など大豆の

発酵食品もある

「和食」はうま味を上手に生

かし食材をおいしく食べる知

恵を育んできたのだ

発酵食品

発酵調味料

調味料

「和食」の特徴 味わい4

発酵食品と調味料

魚醤魚を塩漬けにして発酵させる独特の香りと濃いうま味が特徴の調味料ハタハタでつくられる秋田の

「しょっつる」イカやイワシを材料とする能登半島の「いしる(り)」などがある

酒酒もまた和食の調味に欠かせない発酵調味料のひとつ調味料としての酒の主な効果には材料の臭みを消す食材のうま味を引き出して風味をよくする甘みを加えるなどがある

塩海に囲まれている日本では古くから塩は調味料として使用されてきた焼き物や刺身などの調理の味付けとしてはもちろん漬物や干物など食物を貯蔵するための知恵としても活用されている

味噌蒸したり煮たりした大豆にこうじ食塩を混ぜて発酵熟成させた日本を代表する調味料のひとつ味噌汁や煮物などに使われることが多い地域によって使用される味噌の種類がかなり変わるのも特徴だ

酢寿司やなますなど和食に酸味を加える調味料米から醸造した酒に酢酸菌を加えて発酵させて造られる酢に漬けることにより保存性を高める

醤油大豆と小麦で造ったこうじに食塩水を加えた「もろみ」を発酵熟成させ搾ったもの刺身や焼き魚煮物炒め物など幅広い料理に使われている種類は濃口薄口たまり再仕込み白の5つに分類される

みりん蒸したもち米と米こうじを主原料に40~60日かけて熟成させて造られる発酵調味料砂糖と比べて甘みがやわらかく食材の臭味を取る働きもあるまた魚の照り焼きなどのつや出しにも使う

漬物素材を食塩や酢酒粕醤油などに漬け込み熟成させて作られる漬物沢庵や梅干し野沢菜漬けなど野菜類を長期間保存するための知恵として誕生した日本各地に独特の漬物があるのも特徴だ

納豆日本で発展した発酵食品である納豆大豆を納豆菌で発酵させた食品で寺納豆(下記参照)と区別するため「糸引き納豆」とも呼ばれる単品で食べるだけではなく納豆汁や納豆和えなどにも使われている

塩辛魚介類の身や内臓を塩漬けにし発酵させて作られた塩辛は日本における伝統的な保存食品のひとつ使われる素材はその地域によって変わりイカやエビアミタコなど多彩な種類の塩辛が存在する

塩に漬けた魚と炊いたご飯を数日間置き乳酸発酵させたなれずしは魚を保存する知恵として生まれた滋賀県では琵琶湖産のふなを和歌山県や富山県ではサバを岐阜県などではアユを材料にしたものが有名写真は滋賀県湖北地方の年頭の祭りで振る舞われる鯖のなれずし

砂糖世界的に見ても「甘み」を用いた料理が多い現在の和食では砂糖は欠かせない調味料のひとつ単独で料理に使われるというよりは煮物をはじめとするさまざまな料理で醤油や塩味噌などと併用されることが多い

寺納豆茹でた大豆にこうじを加えて発酵させ乾燥させながら熟成を促す発酵食品粘り気のある糸引き納豆とは異なり乾燥して塩辛い禅宗の伝来とともに大陸からもたらされたとされ寺院で作ることが多かったため「寺納豆」と呼ばれた

2526 WASHOKU

「和食」の特徴5

栄養

栄養バランスの優等生「和食」

野菜や魚肉そして米によって構成される「和食」は

栄養バランスの良さでも知られている

最近は五日間すべてを米飯にする完全米飯給食を行う地域も生まれた

和食の特徴のひとつである栄養についてその秘密に迫る

米麦雑穀などを炊いたご飯

を主食としてこれに魚介肉

類野菜類に発酵調味料だしを

組み合わせた和食は栄養学的

にみてもバランスをとりやすい

食事である

歴史的にみると日常食では

主食を大量に摂る習慣が続いた

穀類偏重の食生活だったといえ

よう

しかし豆腐や納豆みそ汁な

どを飯とともに摂ることで米の

アミノ酸の利用率を上げる食べ

方年中行事などハレの日に魚

介類などを摂取して楽しむなど

学ぶべき知恵は多い

なかでも何百年も伝えられて

きた和食の基本型はすぐれた

ものといえよう

副食の主菜には魚肉豆腐

などタンパク質を多く含む料理

を考える副菜には主菜に使わ

なかった野菜芋類などを使い

汁は主菜に合うものを用意する

焼き魚野菜の煮物青菜のお浸

しとみそ汁などでも栄養的バ

ランスはとれている

1980年頃までは多くの

家庭で和食の基本型が続いた

主食の量がやや減り副食が増

加とくに乳乳製品肉類の割

合が増加したこの頃栄養バ

ランスをはかる一つの指標であ

るPFCバランスが理想的な比

率を示した(左記参照)

しかしその後外食の日常化

家庭料理の欧米化が進み米の

摂取量が激減し脂質摂取の過

多などから生活習慣病が問題

となったこうした中各地で

食生活を見直す動きがみられる

ようになったその一つが学校

給食での取り組みである

戦後の食料難の中でパンと

牛乳に副食を加えた完全給食は

1950年に始まった197

6年に米飯が導入されるまで長

く続いたパン給食は和食の基

本型にも影響を与えたようだ

米飯給食は次第に増加し

2010年には週3回以上米

飯給食を実施している小中学

校は90以上となったが週5

回の米飯給食の実施は7以

上と高くない

ここでは2008年に5日

間すべてを米飯給食とした新潟

県三条市の事例を紹介しよう

成長期にバランスのよい食事

で健康な体をつくることそし

て望ましい食習慣を身につけ

生涯を健康に生きることをめざ

し完全米飯給食を実施したと

のこと

米は同市で生産される農薬

を減らしたコシヒカリを七分搗つ

きにした米飯を主食に副食は

主菜副菜汁を組み合わせる献

立をベースとしている主菜は

サケのフライ鶏肉ピリ辛焼き

さんま梅煮など伝統的な和食だ

けではないが和食の基本型の

中に取り入れる工夫がされてい

るパ

ンは油脂や糖分と相性が

良く肥満につながりやすいが

新潟県三条市の給食献立一例三条市の小中学校での献立例ご飯は三条市で収穫したコシヒカリを使用「お米だと腹持ちがよいのでデザートをあまり出さなくとも子どもたちが満足してくれる」とのこと洋風や中華風の献立でもおかずはご飯に合うものを選びスープなどの汁物は確実につけるように心がけている

火曜日

えだまめごはん

さけチーズフライ

くきわかめきんぴら

かきたまじる牛乳

小学校687kcal中学校823kcal

水曜日

ごはんとりにくのぴりからやきいかときゅうりの

あえものしょうがみそスープ牛乳小学校639kcal中学校752kcal

木曜日

ごはんさんまうめにたくあんあえにくじゃがに牛乳なし小学校688kcal中学校814kcal

金曜日ごはんカレーふりかけほうれんそうオムレツフレンチサラダパンプキンスープ牛乳小学校708kcal中学校833kcal

月曜日

ごはんいかのかりんあげ(2こ)

なっとうあえきのこけんちんじるのむヨーグルト

小学校619kcal中学校731kcal

2526 WASHOKU

七分搗米の飯は腹持ちがよく

おやつを食べる子どもが減った

だけでなく肥満の子どもが減

少傾向となり食生活のリズム

が良くなったとされる

また米飯に合う副食は土地

でとれる野菜類を取り入れやす

く季節にあわせてバラエティ

ーに富んだ献立を作ることがで

きる一汁三菜の食べ方の教育

を行った結果給食を残す子ど

もたちも減ったという

基本的な食事パターンが続く

中でも菜を工夫すれば変化に

富む食事を作ることはできる

季節の食材について学び年中

行事への知識も得られるだろう

また子どもたちが和食の基

本型を毎日の給食で体験してい

ることはきわめて重要なことで

ある時々経験するだけでは身

につかないものでも毎日繰り返

すことによって習慣化し定着

するのであるそしてやがて

自分で組み合わせを考えられる

ようになることが期待される

今後の学校給食の役割は大きい

といえるだろう

PFCバランスとは

FAO Statistics Yearbook(日本のみ食料需給表)参照栄養バランスが良いとされるP(たんぱく質)10~20F(脂質)20~30C(炭水化物)50~70の範囲が08~12に収まるように指数化した

日本でのPFCバランスの変化

アメリカとフランスのPFCバランス

タンパク質脂質炭水化物は人間にとって特に不可欠な「三大栄養素」PFCのPはProtein(たんぱく質)FはFat(脂質)CはCarbohydrate(炭水化物)の頭文字でPFCバランスとは食事の中での「たんぱく質」「脂質」「炭水化物」のそれぞれの摂取カロリーの比率健康的な生活をおくるためにはPFCバランスがたんぱく質15脂質25炭水化物60が理想的

給食時には全員で「いただきます」「ごちそうさま」を復唱食育にも力を入れているためそれら言葉の意味についても学校で教えている

米飯給食になってから児童たちの食の嗜し こ う

好に変化が生まれたとか児童たちに好きなおかずを聞いてみると「ハンバーグ」「カレー」などの定番メニューのほか「焼き魚」「納豆」などの和食メニューの名前が上がった

自分の分を食べ終わった児童たちが列をつくって競い合うようにご飯をおかわりしていたこの日の食べ残しはゼロ

C

P

F

14

12

1

08

06

アメリカ(2005~2007年)

C

P

F

14

12

1

08

06

フランス(2005~2007年)

「和食」の特徴 栄養5

日本人のPFCバランスは1965年当時は炭水化物に偏っていたが1980年は非常に理想的な配分になっていたしかしその後の日本人の食生活に肉や油脂類を多く摂り主食の米を食べる量が減り2010年時は欧米型に近づきつつある

C

P

F

14

12

1

08

06

日本1965年

C

P

F

14

12

1

08

06

日本1980年

C

P

F

14

12

1

08

06

日本2010年

2728 WASHOKU

お客を迎える前には店先に打ち水を水で清め準備が整ったことを伝える趣向に合う軸を選ぶのももてなしの基本飾る花は主人自ら育てたものそれを床の花入に活けるのも主人庭に150種ほどの草花を植え日々育てることもしつらいの準備客は女将の温かいもてなしに迎えられる

「和食」の特徴6

しつらい

人をもてなすためのこころとかたち

もてなしは客に対する一方的なサービスではない

お互いに思いやる気持ちから生まれるこころよさである

手入れの行き届いた庭は掃き

清めて水を打ち床の間には軸

を掛け季節の草花を生ける

座敷の襖ふ

すま

も夏には葭よ

しど戸に入れ替

え夏は涼やかに冬は暖かに

すべて相まってもてなしのた

めの用意を整えることそれが

しつらい和食とりわけ懐石

料理においては食材や料理と

ともにしつらいは非常に重要

な要素となる

家庭でも食事をつくる人は

食べる人の顔を思い浮かべなが

ら食事の用意をする食べる人

はつくってくれた人の気持ちを

考えて賞味するここに互いに

もてなす喜びが生まれるのでは

ないだろうか

こうしたもてなしの文化を極

限にまで洗練させた姿が料亭の

もてなしである京都府の無形

文化技術保持者に料理人として

初めて認定された京都の老舗料

亭「瓢亭」の十四代主人高橋英一

さんにその心を聞いてみよう

「料亭は日本文化の凝縮のひと

つと言えます玄関から入って

座敷に行くまでに通る露地にも

季節感があり部屋に入れば時

季や行事の軸がありその座敷

のために選んだ花が飾られる

日本人が自然と身につけている

桜の器を使うことで膳の上にぱっと花が咲くような華やかさが生まれるあしらいは酢取り防風岩海苔

秋の花菊の器はこっくり深い色合いも相まって秋に似合う風情を持つあしらいは岩茸菊花

深さのあるガラスの器に氷が敷き詰められる涼感を目でも舌にも感じるあしらいは穂紫蘇寄せ莫大

縁起のいい鶴は新年の席でも使われるモチーフあしらいは水前寺海苔紫芽紫蘇

四季の感性で受け止めてもらえ

るよう整えお出迎えします

料亭は普段とは違うハレの場で

すがとはいえ行き過ぎず足り

ないことのないよう自然なし

つらいそしてもてなしを心が

けます」

「瓢亭」の座敷に飾られるのは

主人が庭で丹誠込めて育て自

ら生ける茶花

「もてなしの根

底に利休さんの『花は野にある

ごとく』の言葉を思いますが簡

単なようでそれが難しい」自

然体でのもてなしを生むしつら

えは名店においても日々心を

くだき工夫するのだ

「瓢亭」では1年をとおして明石の鯛の向付を供しているが季節ごとに

器とあしらいを変えることで四季を演出している

四季の演出

2728 WASHOKU

和食はご飯と菜あるいはご飯とお汁というように常にご飯を間にはさんで菜や汁をとるのが本来の食べ方下のような不作法とされる箸使い(嫌い箸)があるので覚えておきたい

ご飯は茶碗に味噌汁はお椀

に焼き魚だったら平皿にと普

段料理に合わせて何気なく使う

食器種類の多さもさることな

がら形や素材もさまざま欧

米はもちろん近隣諸国を見回

してもこれほど多種多様な器を

使う国はないそれは四季が明

確なことと無関係ではない

「自宅でも季節に合わせた器

にするだけで気分が変わりま

すよ」と前出「瓢亭」のご主人は

語る 

春であれば華やかな色や形の

もの夏はガラスや青磁など涼

しげな素材の器秋は実りのあ

る彩りがあるもの冬は厚手の

陶器や木製など温もりのあるも

の色素材形を変えるだけで

季節感を演出できる「和食」な

らではの楽しみ

食事の際当たり前のように

使っている箸も日本の食文化

を代表する食具奈良時代以

降匙さ

を使う伝統が消え箸だ

けを使うようになったため熱

い汁物は椀を持ち直接口を

つけてすする文化が確立同

時に椀箸ともに個人所有が基

本となった椀や箸を共有し

匙やレンゲを使うほかの東南

アジア諸国とは異なる食文化

を形成箸食文化圏の中でも

唯一箸だけでご飯を食べる国

となったまた一口に箸といっ

ても食箸取り箸菜箸など用

途に合わせてさまざま食べ

る際に使う食箸だけを見ても

形や素材のほか加工や長さも

豊富にそろうのだ

「和食」の特徴7

箸と椀

「和食」を支える箸と椀

箸食文化圏の中でも唯一箸だけを使う国日本

季節感を感じさせる器とともに独特の食具文化も誇る

渡し箸食事の途中でお箸を

食器の上に渡し置くこと

寄せ箸遠くの食器を

箸で手元に引き寄せる行為

指し箸食事中箸で人やものを指すこと

迷い箸どの料理にしようか迷い箸を料理の上で動かすこと

移り箸いったん取りかけてから

ほかの料理にお箸をうつすこと

箸には食事に使う食箸と調理に使う菜箸とがある菜箸は熱から手を守るため30~50と長く片方がなくならないよう糸でつながっているものもある取り箸は菜箸の一種食箸は個人所有が基本のため使う人に合わせた長さが用意されている漆塗りや螺鈿細工を施したものも多い

種類

形状だけでなく素材もさまざまで近年は黒檀や鉄木など硬質な木が使われることが多い日本の木としては特有の香りがあり古くから懐石用や割り箸に使われてきた杉耐水性耐湿性が高く保存性に優れる上に軽くて持ちやすい檜強くしなりがあり細かいものを取りやすい竹などがある

素材

家庭で使う食箸の形には角箸や四角で角が丸い胴張り五角六角七角八角のほか削りなどがあり持ちやすさに合わせて選べる箸先に加工が施されたものもある来客用に使う銘々箸や割り箸には断面が小判型で割れ目と溝が付いた元禄箸や中央部が太く両端が細い利休箸などが用意されている

日本人にとっての箸は調理から盛りつけ食事までをこなす大事な道具食箸は個人所有が基本のため個々に合わせて選べるのも特徴だ

箸の働き

箸使いの作法を知る

【嫌い箸】

食箸

八角箸 削り箸

菜箸

檜竹

「和食」の特徴 しつらい 箸と椀6 7

2930 WASHOKU

神し ん せ ん

饌として神へ供えられるお神酒は神棚の最上段の中央に置かれるほど重要な地位を占めている

日本酒を造る酒蔵は全国に約1600弱その数は年々減り続けているが数年に一度「日本酒ブーム」も起きている

日本酒とは米と米こうじ

そして水を主な原料にしてそ

れらを発酵させて造られる

原料には主食用の米ではなく

酒造りに適した性質を選び品

種改良された酒し

ゅぞうこうてきまい

造好適米を使

うことが一般的だまた日本

酒の80を占める水も品質を

左右する大きな要因日本酒

の香味を損なわない良質な水

が必須だ

日本酒の醸じ

ょうぞう造の工程にはさ

まざまな技術が伴う例えば米

を精米して味と香りを調整する

技術これは米の外側にあるた

んぱく質や脂質といった雑味の

もとを除くことが目的だが大だ

吟ぎんじょう醸酒にもなると米を半分以

上削ってから仕込むこともある

次いで米を発酵させる技術

酒の場合の発酵とは酵こ

うぼ母が糖類

を食べてアルコールを出すこと

をいうが米には糖類が含まれな

いためまずは米をこうじ菌の酵

素によって糖類へと変えそこに

酵母を加えて発酵させるという

複雑な手順(複式発酵)が必要だ

この手順で使われるこうじもバ

ラこうじと呼ばれる日本独特の

ものだバラこうじは糖化力が

高いのが特徴で日本酒の香りや

味に大きく影響する

稲作を中心に文化を育んでき

た日本では米餅米から造ら

れる酒は地域を問わず重要な

ものとされている米の一粒一

粒に神が宿り同じように酒も

神のおかげで造ることができる

と考えられてきたそして酒

もまた食べ物と共に神に近づ

くための手段として古くから用

いられてきた

同時に家族や親族地域で人

と人をつなぐ上でも酒は大き

な役割を担っている例えばお

神み

き酒祭礼の後には神の酒を

人々が口にする神と同じ酒を

飲みそれを人々が分かち合う

ことで地域やコミュニティが

結束力を強めるのだろう

米や麦やさつまいもなどを原

料とする焼酎も日本酒と並び

日本の國酒とされている酒は

人と人の心をほぐし食事を引

き立たせる重要な役割を担って

いるのだ

「和食」の特徴8

「和食」を引き立たせ

心をほぐす日本の酒

日本人にとっての主食であり精神のかなめでもある米

その米で醸か

される日本酒は「和食」にとって欠かせない要素

日本の「國こ

くしゅ酒

」にもなっている

2930 WASHOKU

「和食」の特徴9

和菓子日本茶

暮らしに寄り添う和菓子とお茶

自然の恵みに感謝し季節の移ろいを敏感に表現する和菓子

日本茶は喉のかわきを癒すだけでなく心を癒し心を高める飲みものである

「和食」の特徴 酒 和菓子8 9

ハレの日の願いを込めた和菓子

和菓子分類餅もの 餅団子大福など蒸しもの 饅頭蒸羊

よ う か ん

羹外う い ろ う

郎村む ら さ め

雨など煉もの 煉

ね り き り

切こなし求ぎ ゅ う ひ

肥飴葛く ず

菓子など焼きもの 味噌松風煎

せ ん べ い

餅桃も も や ま

山カステラどら焼など流しもの 錦

にしきだま

玉煉ね り よ う か ん

羊羹水み ず よ う か ん

羊羹など揚げもの 揚げ煎

せ ん べ い

餅かりんとうなど打ちもの(押しもの) 落

ら く が ん

雁など岡もの 最

も な か

中きんとん鹿か の こ

の子すはまなどかけもの 金

こ ん ぺ い と う

平糖五ご し き ま め

色豆石いしごろも

衣など

これは和菓子の製法によって大まかに分類した表このほか含有する水分量によって生菓子半生 菓 子 干 菓 子などの分け方や上じ ょ う な ま が し

生菓子並菓子駄だ が し

菓子などの分類もある

「岡もの」とはすでにできあがっ た素材をあわせたもの (例きんとん=飴玉とそぼろ餡)

甘く味付けしたごぼうと白味噌餡を赤や白の餅や求

ぎ ゅ う ひ

肥で包んだ生菓子平安時代の新年行事のひとつで長寿を願っておこなわれた「歯固め」の餅に由来する餅と味噌の組み合わせから「包み雑煮」とも呼ばれた

葩はなびらもち

一 月

旧暦十月は「亥の月」と呼ばれていたがその月のさらに「亥の日」に行われる年中行事の際に食べられていた菓子旧暦では10月が冬の始まりそのタイミングで無病息災と多産の猪にあやかって子孫繁栄を願ってこれを食べていたという

亥い の こ も ち

の子餅

十 月六 月

白いういろうの上に小豆の粒餡を散らした菓子古来京都で旧暦六月の晦

み そ か

日(30日)に無病息災を祈願して行われている

「夏なごしのはらい

越祓」になぞらえて初夏の頃に食べられている小豆には邪気祓いの意味があり三角の形は氷を表している

水無月

五 月

平たく丸めた上新粉の餅をふたつに折り中に小豆や味噌の餡を挟んでそれを柏の葉で包んだ菓子柏の葉は新芽が育つまで古い葉が落ちないことから

「子孫繁栄」を願って旧暦五月五日の端

た ん ご

午の節句の供く も つ

物として用いられてきた

柏餅

日本ならではのお茶の製法である手揉みは茶葉の繊維をつぶしながらうまみを引き出すために行う作業手揉みすると茶葉が切れないため茶の甘みを保つことができる

菓子もまた「和食」にとって欠

かせない要素でお客様用の「上

菓子」普段食べる「饅頭」や「餅

菓子」などに分かれるほかに

干菓子や駄菓子など菓子の種

類は多いまた例えば団子や

大福などは「餅もの」求肥や飴

などは「煉りもの」錦玉や

水みずようかん

羊羹などは「流しもの」などと

いうようにその製法によって

分類されることもある米や麦

小豆を代表とする豆類そして

砂糖や水あめなどの材料でバ

ラエティに富んだ菓子が生み出

されてきた

お茶会などの席で抹茶ととも

に味わう菓子もあり季節に合

わせて材料や色やデザインが選

ばれ味覚だけでなく視覚で楽

しむこともある

また年中行事と結びつく菓

子もある例えば旧暦三月三日

の「ひな祭り」では邪気をはら

い強い生命力を象徴するよも

ぎの草もちでつくった草餅を食

べる

和菓子には日本茶がふさわし

い緑茶は12世紀に中国から日

本に伝わったが今では生の茶

葉を蒸してから揉んで乾燥させ

る緑茶の製法は日本独特のもの

となっている緑茶に含まれる

カフェインは覚醒効果がまた

カテキンには抗酸化作用があり

ビタミンCも多く含まれて健

康によい日本茶独特の香りと

うま味は日本文化そのもので

ある

出典「和菓子の歴史展」第五十回虎屋文庫資料展より

3132 WASHOKU

日本の「和食」の文化は自然

環境だけでなく海外からの影

響によっても絶えず変化して

きた

近代以降にはコロッケとん

かつなど洋風料理を和食の基本

型に組み合わせた食事肉と野

菜の煮物や和え物などそれまで

にはない料理が工夫されたそ

の多くは和食の基本型味噌や

醤油を用いた味付け箸で食べ

られる料理など「和食」の要素

を保ちつつ伝えられてきた

しかし第二次世界大戦後高

度経済成長期を迎えると日本人

の食生活は急速に変化する

1970年代にファストフー

ド店ファミリーレストランが

各地に開店しコンビニなども

広がった

1980年頃主食と副食の

バランスは理想的とされたが

(26頁参照)その後米の消費量

はさらに減りパン食が増加

肉類油脂乳乳製品の消費量

も増加し食料自給率も下がっ

た家族での外食が日常化し

家庭の食事も欧米化した

食育の必要性

「和食」が危ないどうしたら伝えられるのか

この150年間で大きく変化し「和食」はいま衰えつつあるその原因はどこにあるのだろうか

食生活の変化

日本の食料自給率の変化農林水産省「食料需給表」より作成

日本のものを食べなくなって 「和食」はどうなる 日本の食料自給率は下がり続けている1965(昭和40)年度はカロリーベースで73だったが2012(平成24)年度は39その大きな原因のひとつは国内で自給可能な米や魚や野菜などの消費量が減少する一方国内で生産が困難な飼料穀物を食べて育つ畜産物や原料を輸入に頼ることが多い冷凍加工食品や小麦の消費が増加したことだと考えられている炭水化物たんぱく質脂肪分をバランスよく摂取する健康的な「和食」に未来はあるのか

国民一人一日当たりの供給純食料農林水産省「食料需給表」より作成

食べる米の量が50年で半減 増えたのは肉と乳製品 国民一人あたりが食べる量を品目別に眺めて分かることそれは日本人が食べる米の量が著しく減ってきたことだ1960(昭和35)年度は一日あたりの米の消費量は約315gだったが2010(平成22年)年度は163gに約半減その代わりに増えたのは牛乳乳製品(約60gから約240g)と肉類(約14gから約80gへ)野菜と魚を中心としたおかずでご飯を食べるという

「和食」のスタイルの変化がわかる

食料費における外食と中食の割合の推移総務省統計局「家計調査年報」より作成

家で食べても 調理することが減っている 外食に対して家庭で作って食べる食事を内食というが弁当や惣菜など調理をせずに食べられるものを買ってきて済ます食事は中食と呼ぶ実はこの中食の割合が増えている外食が占める割合は2000(平成12)年以降横ばいなのに対して中食は増え続けその代わりに内食が減っている食事は家で食べても調理はしないという家庭が増えているのだとすれば「和食」にとって大切な要素を子どもたちに伝える機会が減っているとはいえないだろか

食料自給率(金額ベース)

食料自給率(主食用穀物)

食料自給率(カロリーベース)飼料自給率

米 野菜 肉類牛乳乳製品 魚介類

内食 中食 外食

(g人日)

3132 WASHOKU

50

55

60

65

70

75

01992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012

70

75

80

85

90

95

01992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012

一日に一度はお米を食べないと気がすまない人の割合博報堂生活総研「生活定点2012」

お正月におせち料理を食べた人の割合博報堂生活総研「生活定点2012」

一日に一度は米を炊いたご飯を食べなければ気がすまない人の割合が実はこの20年間で減っているというデータがある1992(平成4)年には714だったが2012(平成24)年には564にまで落ち込んでいるのだ

家族や親族で集まっておせち料理を囲みながら新しい一年の無事を祝うお正月実はおせち料理を食べる人も毎年少なくなっている1992(平成4)年には866だったが2012(平成24)年には748だった

電子レンジの普及や冷凍食品

インスタント食品などにより

食生活は便利になったが家庭

内で調理をする機会が減ったと

もいえる

こうしたなか「和食」の優れ

た点をどうしたら伝えられるの

だろうか親から子へ家庭の食

を伝えるだけでなく学校を通

して子どもたちにさらにその

親の世代にも伝える必要があろ

う高齢者からは「和食」につ

いて具体的に教わることも求

められる

離乳期からの食べ物の選び方

幼児期の食経験を豊富にするこ

となどはとくに重要であろう

小さな頃からの食習慣はその

後の食習慣に大きくかかわって

くるからだ

だしのおいしい味を日々体験

することや魚を味わい骨を箸

でとる訓練を楽しい雰囲気のな

かで教わることなどその積み

重ねの中で「和食」は伝わるので

あろう

経験しない味は異文化とと

らえられるであろうし体験し

ていない調理は簡単でも難しく

感じる食事を用意する過程を

日々見る経験手伝う楽しさ美

しい食器を大切にして使うこと

同じ食べ物を家族や仲間と味わ

い祭りや花見などで共に食べ

る経験を積み重ねることは文

化としての「和食」を伝えるだけ

でなく生きる力を育むことにも

つながるであろう

壁にではなく居間に向かって設置されることが多くなった現在のキッチン夫婦共働きだというこの家庭では夫が厨房に立つことも少なくないというこのように食事の準備を子どもと一緒に行うことで「和食」にとって大切な要素が次の世代に伝えられるようになるのだろう

世帯あたり1ヶ月間の穀類支出金額内訳

1962年3434円

パン

麺他

2010年6373円

パン

麺他

ご飯を食べなくても平気 そんな人が増えている

お米よりパンと麺 その傾向が加速中

おせち料理を食べる派が 毎年ジワリ減少中

1962(昭和37)年度には8割以上を占めていた米への支出が2010(平成22)年度にはパンにとって代わられる米の消費量はパンより多いが家庭では炊飯する必要のある米よりすぐに食べられるパンや麺の支出が多くなり家庭での料理が減っていることを示しているともいえよう

総務省統計局「家計調査年報」より作成

いただきます

ごちそうさま

「和食」の未来

今世紀に入ってから世界に和食ブー

ムが起きている味わいやヘルシーさに

注目が集まり世界中のいたるところに

日本食の店が数多くある

そのように世界から注目される「和食」

だが本家本元の日本国内でその将来が

危ぶまれている

これまで見てきたように「和食」には

新しいものを柔軟に取り込む歴史があっ

た日本人は太古の昔より外国からも

たらされた食文化を自分たちの食生活に

取り込んで日本独自の食文化を発展さ

せてきた地域ごとに地域の環境にふさ

わしい料理をつくり出してきた食べる

料理や食べ方もその時代ごと地域ごと

に変わってきた

その中で貫かれてきたことがある

豊かな自然がもたらす食材のおいしさ

を生かす調理法を工夫し味わうこと

食卓に季節感をしつらえもてなしの気

持ちを共に感じ合う食事の場を持つこ

と一汁三菜という組み合わせを食事

の基本スタイルとして健康的な食生活

をおくることお正月におせち料理を

祝いの日にお赤飯を家族と共に食べる

など食事は家族の絆となっている

豊かな自然を守る気持ちと同じように

日本人を健やかに生かし人と人をつな

いできた「和食」もまた守るべき大切な

日本文化ではないだろうか

「いただきます」「ごちそうさま」と言っ

てみるだけでも「和食」は私たちに身近

になる人と人をあたたかく結びつけて

くれる

日本人はやはりお米のご飯がおいしい

と思うだしのきいた汁でおなかも心も

癒されるこの日本人が長い歴史の中で

育んできたすばらしい財産である「和

食」がこのままなくなってよいと考える

人はいないだろう世界の中でもすぐれ

た食文化として認められた「和食」を日本

の誇りとし大切にして次の世代に受け

継いでいくきっかけにこの冊子がなれ

ば幸いである

ごちそうさま

和 食

温暖化が進み狩猟が大型獣から小型獣になる

南九州で竪穴式住居にドングリ貯蔵穴が広まる

ドングリなどの植物性食料が重要な食料になる

水田稲作が日本列島に伝来

稲作の広がりと定着魚を発酵させたなれずしの登場

『魏ぎ

し志』倭わ

じんでん

人伝には倭(日本)では冬夏に生菜を

飲食に高杯をつかい手食するとある

土は

師器の移動式かまどの使用

土師器の甑こ

しきに

よる蒸し米が盛んになる

中国に遣唐使を送る大陸の食文化がもたらされる

675年天武天皇が「牛馬犬猿ニワトリ」の

食用を禁止

牛乳を煮詰めて作った「蘇そ

」が朝廷に貢納される

箸の利用が広がる

貴族の大だ

いきょう饗

料理や年中行事が中国の影響で定着

豆腐が中国より伝来する

栄西が宋より抹茶法を持ち帰る

道元が禅宗における食事作法や調理の心得を

説いた『典て

んぞきょうくん

座教訓』『赴ふ

しゅくはんぽう

粥飯法』を執筆

植物性食品のみを使った精進料理の発展

武士の供応食本ほ

んぜん膳

料理の形成

包丁人と呼ばれる料理人が誕生し包丁流派を形成

刻み目のついたすり鉢が広がる

酒造技術の進展

書院茶の湯からわび茶の湯へ

千利休により茶の湯が完成

懐石形式の定着

豊臣秀吉が北野大茶会を開催

欧州が大航海時代に入り

南蛮貿易により南蛮菓子唐辛子などが日本に伝来

日本初の出版料理書『料理物語』刊行

都市部に食べ物屋や料理屋が普及する

料理屋の会席料理形成

けがれによる肉食禁忌の観念が広く浸透

薬食いとしての肉食

飢き

きん饉に備えさつまいもやじゃがいもの栽培を奨励

和菓子の完成

握り寿司やてんぷらが江戸で流行する

肉食解禁と牛鍋の流行

『西洋料理指南』など西洋料理書の出版

西洋料理店の発展

米の摂取率が平均53に

家庭向け料理書の出版

女学校における食物教育

脚か

っけ気

論争がさかんに行われる

牛肉の不足から豚肉の生産が増加

洋菓子の製造発展

物価高騰と米不足によるじゃがいもパンなどの代用食の奨励

国立栄養研究所の開設と栄養学の発展

都市部で和わ

ようせっちゅう

洋折衷料理が普及

戦争による食料不足

食料統制米などほとんどの食品が配給切符制となる

イモなど代用食の増産

戦後のミルクとパンの学校給食が開始

各地に闇市ができる

食料の価格が高騰

厚生省が日本人の栄養基準値を策定

農家の生活改善運動が展開

即席ラーメンなどインスタント食品の開発販売

冷凍冷蔵庫の普及と冷凍食品が普及

日本型食生活の提唱

ファミリーレストランファストフード店の増加

コンビニの発展

日本食の洋食化と簡便化と米摂取量の減少

食料自給率が39〜40に低下

レトルト食品の売上増大

電子レンジ普及率が約90に

遺伝子組み換え食品が登場

地球温暖化など環境問題が深刻化

阪神淡路大震災東日本大震災により災害食が注目される

持続可能性が社会課題に

家庭料理の変化や家族の孤食化などの問題が生まれ和食の見直しへ

縄文時代弥生時代古墳時代飛鳥時代奈良時代平安時代鎌倉時代室町時代安土桃山時代江戸時代BC9000年BC3000年BC2500年頃BC200年頃240年頃500年頃7世紀8世紀8~12世紀12~14世紀14~16世紀16~17世紀17~19世紀

1516 WASHOKU

「和食」の年表

「和食」がたどった道和食の成立とその変化を年表でたどってみると各時代の人々が海外の食文化の影響を受けながら工夫を積み重ねてきた様子が見えてくる

米は縄文時代晩期に伝来し

たとされるが全国に広がるの

は弥生時代である

平安時代の大饗料理は貴族

の供応料理で蒸した高盛の強こ

飯いい

に各種の魚介類を配し調味

料につけて食べる形であった

鎌倉時代には禅宗の影響に

より動物性食品を排除した

精しょうじん進料理が発展した道元禅

師は調理も修行の一つとして

その心得を記した『典て

んぞ座教き

ょうくん訓』と

食事への感謝の念作法を説い

た『赴ふ

粥しゅく

飯はんぽう法』を著した

室町時代上層階層の料理文

化として本膳料理が登場した

この形式は江戸時代後期には

婚礼などの儀礼食として各地域

に浸透し昭和期まで継承され

た本膳には飯汁菜香の物

が盛られ飯を主食とした伝統

的な食事の形式が定着すること

になるまた酒とその酒肴も

本膳に伴って発展した

安土桃山時代には茶の湯に

ともなう懐石が発展した一汁

三菜を基本に旬の素材にこだ

わり食事空間のしつらいにも

気を配るなど精神性をも盛り込

んだこの形式はその精神と

共に現代に引き継がれている

江戸時代の都市部ではそば

すしてんぷらなどの食べ物屋

高級料理店なども広がりをみせ

た料理書の出版も相次ぎ酒

と酒肴を楽しむ料理屋の会席料

理も成立したまた和菓子の

温暖化が進み狩猟が大型獣から小型獣になる

南九州で竪穴式住居にドングリ貯蔵穴が広まる

ドングリなどの植物性食料が重要な食料になる

水田稲作が日本列島に伝来

稲作の広がりと定着魚を発酵させたなれずしの登場

『魏ぎ

し志』倭わ

じんでん

人伝には倭(日本)では冬夏に生菜を

飲食に高杯をつかい手食するとある

土は

師器の移動式かまどの使用

土師器の甑こ

しきに

よる蒸し米が盛んになる

中国に遣唐使を送る大陸の食文化がもたらされる

675年天武天皇が「牛馬犬猿ニワトリ」の

食用を禁止

牛乳を煮詰めて作った「蘇そ

」が朝廷に貢納される

箸の利用が広がる

貴族の大だ

いきょう饗料理や年中行事が中国の影響で定着

豆腐が中国より伝来する

栄西が宋より抹茶法を持ち帰る

道元が禅宗における食事作法や調理の心得を

説いた『典て

んぞきょうくん

座教訓』『赴ふ

しゅくはんぽう

粥飯法』を執筆

植物性食品のみを使った精進料理の発展

武士の供応食本ほ

んぜん膳

料理の形成

包丁人と呼ばれる料理人が誕生し包丁流派を形成

刻み目のついたすり鉢が広がる

酒造技術の進展

書院茶の湯からわび茶の湯へ

千利休により茶の湯が完成

懐石形式の定着

豊臣秀吉が北野大茶会を開催

欧州が大航海時代に入り

南蛮貿易により南蛮菓子唐辛子などが日本に伝来

日本初の出版料理書『料理物語』刊行

都市部に食べ物屋や料理屋が普及する

料理屋の会席料理形成

けがれによる肉食禁忌の観念が広く浸透

薬食いとしての肉食

飢き

きん饉に備えさつまいもやじゃがいもの栽培を奨励

和菓子の完成

握り寿司やてんぷらが江戸で流行する

肉食解禁と牛鍋の流行

『西洋料理指南』など西洋料理書の出版

西洋料理店の発展

米の摂取率が平均53に

家庭向け料理書の出版

女学校における食物教育

脚か

っけ気

論争がさかんに行われる

牛肉の不足から豚肉の生産が増加

洋菓子の製造発展

物価高騰と米不足によるじゃがいもパンなどの代用食の奨励

国立栄養研究所の開設と栄養学の発展

都市部で和わ

ようせっちゅう

洋折衷料理が普及

戦争による食料不足

食料統制米などほとんどの食品が配給切符制となる

イモなど代用食の増産

戦後のミルクとパンの学校給食が開始

各地に闇市ができる

食料の価格が高騰

厚生省が日本人の栄養基準値を策定

農家の生活改善運動が展開

即席ラーメンなどインスタント食品の開発販売

冷凍冷蔵庫の普及と冷凍食品が普及

日本型食生活の提唱

ファミリーレストランファストフード店の増加

コンビニの発展

日本食の洋食化と簡便化と米摂取量の減少

食料自給率が39〜40に低下

レトルト食品の売上増大

電子レンジ普及率が約90に

遺伝子組み換え食品が登場

地球温暖化など環境問題が深刻化

阪神淡路大震災東日本大震災により災害食が注目される

持続可能性が社会課題に

家庭料理の変化や家族の孤食化などの問題が生まれ和食の見直しへ

明治時代大正時代昭和時代(戦前戦中)昭和時代(戦後)平成1869~1912年1912~1926年1926~1945年1945~1989年1989年~

1516 WASHOKU

家庭料理の変化や家族の孤食化などの問題が生まれ和食の見直しへ

基本はほぼこの時代にできたと

いえよう

いっぽう各地域の日常食の

主食は麦雑穀芋類を混合し

たかて飯やうどんなど小麦粉を

用いた食事が多くそれは昭和

期まで引き継がれ各地で独自

の「和食」の文化が形成された

西洋文化を積極的に取り入れ

た明治時代以降西洋料理書が

出版され都市部では西洋料理

店が開店したまた明治時代

後期には家庭向け料理書の出

版が相次ぎ西洋料理をアレン

ジして和食に取り入れた和わ

よう洋

折せっちゅう衷料理が数多く紹介された

大正期国立栄養研究所の開

設により栄養学の研究が進み

日常食の栄養についての関心が

少しずつ広がった

飢餓を経験した戦時期を経て

主食に偏らず副食に動物性食

品や油脂を加えた食事が推奨さ

れたその結果1980年頃

になると日本人の食事は米飯

を基本にしながらも乳乳製品

肉魚類野菜類などを適度に

加えたよりバランスのよい食

事となったこの時期の食生活

を「日本型食生活」と呼んだし

かしその後食生活の洋風化

簡便化が広がり食料自給率は

40パーセントと減少した若年

層を中心に食事の基本型が崩れ

欠食孤食などが話題となり和

食の見直しが求められるように

なった

1718 WASHOKU

「和食」の特徴1

献立のかたち

「ご飯」を食べるために

「汁」と「菜」がある

「一汁三菜」が和食の基本型

「一汁三菜」とは「ご飯」と「汁」と「香の物」に

いくつかの「菜」が添えられるという組み合わせ

「ご飯」と「汁」と「香の物」に「お菜」が3品添えられるという献立が一汁三菜この場合は焼き魚(右奥)と煮物

(左奥)と小松菜のおひたし(中央)の3つの菜で構成される向かって手前左にご飯を手前右には汁をその間に香の物をそれぞれ置くという決まりになっている

1718 WASHOKU

米を炊いた「ご飯」昆布や鰹

節などでとっただしを味噌や塩

などで味付けした具入りの「汁」

塩漬けやぬか漬けや粕漬けなど

の「香の物」そして焼き物や煮

物や和え物などの「菜」その4

つの要素で構成される「一汁三

菜」という組み合わせがある

基本的には汁が一種で菜が

三種の構造を「一汁三菜」と呼

ぶ食事中に口の中をさっぱ

りと保ってくれる「香の物」と

ご飯はいつも必ずついていて

その数も変わらないからあえ

て数えない

日常の食事である一汁三菜に

対して江戸時代によく登場す

るのは二汁五菜つまり汁が二

種に菜が5つこれが昔のおも

てなし料理の基本でお膳もふ

たつ出たいいかえると一汁三

菜はひとつのお膳に載るふだ

んの家庭の食事であることがわ

かる

また汁にもいろいろあった

魚のアラを汁に仕立てたものや

野菜を豆腐と一緒に煮込むけん

ちん汁など具だくさんの汁も

各地域でみられ汁でご飯を食

べるということも和食の特徴の

ひとつだ

一汁三菜の献立の最大の特徴

は汁も香の物も菜もすべてご

飯を食べるために存在するとい

う点かもしれないご飯が主食

でその他の3つの要素が副食

という考えが一汁三菜の根底に

ある少ない菜でたくさんのご

飯を食べご飯の量でカロリー

の摂取量を調整するのがかつ

ての和食の基本的な食べ方だっ

たのだ

「和食」にとって欠かせないご

飯についてもここで触れてお

こう

米には「うるち米」と「もち米」

とがあり強い粘性を持つもち

米は赤飯などのおこわ(強こ

わいい飯

や餅に用いられるそれに対し

てうるち米はもち米より粘り

気が少なく通常の米飯として

使われる

米のもとになる稲の栽培が始

まったのは1万年以上前とされ

野生の稲を栽培したのが始まり

と考えられているその原産地

は中国の長江流域とその周辺

という説が有力でそこから西

へ伝わった品種がインディカ種

また東へと伝わり東アジアに

広がったのがジャポニカ種だ

「和食」における献立の目的は

いわば汁と菜でご飯を食べる

ことつまりご飯に合うのなら

例えばそれが肉じゃがでもコ

ロッケでもとんかつでも菜と

して取り入れてこられたのは

ご飯を主食とする「和食」のス

タイルがしっかりしていたか

らである一汁三菜という和

食の基本型がなくなったら外

国の料理と変わらなくなって

しまうだろう

「和食」の特徴 献立のかたち1

稲 玄米 白米 調理加工

粉にする

飯餅菓子米飯焼き米ひなあられ餅おかきあられ

稲わら 俵わらづと鍋釜敷き畳床むしろわらぞうり縄みのわらぼうき など

酒酢みりん味噌発酵させる

糠 たくあん糠漬けあく抜き

(上新粉など)柏餅草餅重

お も ゆ

湯など

(白玉粉落ら く が ん

雁粉道明寺粉など)白玉最中大福餅落雁桜餅など

どうみょうじ

うるち米の粉

もち米の粉

日本人の暮らしに深く関わる稲米

 現在世界で栽培されている稲の主な種類にはインディカ種(インド型イネ)やジャポニカ種(日本型イネ)などがあるインディカは長粒種と呼ばれる米ジャポニカは日本でよく食べられている丸く短粒な米で短粒種と呼ばれる米の主成分であるでんぷんにはアミロースとアミロペクチンとがありアミロースを多く含むインディカ種は粘り気が少ないのに対しアミロースの少ないジャポニカ種は粘りが強く日本人にとってはおいしい味の米であるそしておにぎりやすしのようにまとめる米料理も発達した 世界の米の生産量は約6億トンと小麦とほぼ同じだがその90以上が日本を含むアジア諸国で栽培されているジャポニカ種は全体の15を占め日本をはじめとして朝鮮半島中国東北部台湾北部などで主に栽培されているインディカ種の栽培地域はインドからベンガル地方のバングラデシュタイをはじめとするインドシナ半島中国の中南部インドネシアなど南アジアが中心だ

ジャポニカ種とインディカ種日常私たちがご飯として食べているのはうるち米赤飯や餅にするのはもち米である栄養価はほとんど同じであるがでんぷんの構成が異なるうるち米はアミロースとアミロペクチンの比率が約28であるがもち米はほとんどアミロペクチンで構成されているそのためにもち米はうるち米に比べて粘りが強く餅にするのに適しているのである日本では両方の米の特徴をうまく利用して粒のまままたは粉にするなどしていろいろな料理や菓子を生み出したり発酵させて酒やみりんなどをつくり出したりしてきた

うるち米ともち米

インディカ

ジャポニカ

「和食」に欠かせない

米はどこから来たのか

1920 WASHOKU

全国各地でさまざまな魚や野

菜が豊富に手に入ったことそ

して文明開化の時代まで一般

的に肉食をしなかったという背

景から「和食」は野菜と魚介類

を中心に調理されてきた

現在日本の市場で流通する

野菜の数は150種類ほどと言

われているその種類はイモ類

やマメ類をはじめ根菜類茎け

いさい菜

類葉菜類果菜類など実に多

様ださらには山菜やきのこ

など森林に自生するものも調

理に工夫することでうまく食材

として取り入れてきた

日本で流通する野菜は近代

になって外国から輸入されたも

のや品種改良によって食べや

すくなったものなど多様では

あるが昔から日本で作り続け

られている伝統野菜(在来野菜)

も少なくない伝統野菜とはだ

いたい三世代以上に渡って栽培

「和食」の特徴2

食材

和食を支える日本の食材

おいしさの秘密と多様性

おいしい和食には素材の力がある四季折々の自然の中から

生み出される日本の食材は驚くほど多様性に富んでいる

野菜

野菜と魚介類の二大食材に

支えられる日本食文化

和食には野菜を使う料理が多くあるが現在日本で流通する野菜の種類も150以上と幅広い分類にしてもジャガイモやサツマイモなどのいも類大豆や小豆などのマメ類ダイコンやカブなどの根菜類ネギやウドなどの茎

け い さ い

菜類コマツナや白菜などの葉菜類ナスやキュウリなどの果菜類そのほかにシイタケやシメジなどのきのこやワラビやゼンマイなどの山菜など多彩な野菜が存在するしかし現代でこそ流通の発展でさまざまな野菜が一年中手に入るが全国で同じ野菜が収穫できるわけではない例えば同じいも類でもサツマイモなどは九州などで多く作られるが冷害に強く冷涼な地で生育するジャガイモは山梨や長野などの山間部や日本の北部で育てられるそのほか地域特有の特産品である伝統野菜がいま注目され始めている

1920 WASHOKU

が続けられ地域に根づいた農

法で作られるものを指しこれ

を守る動きも目立ってきている

魚介類も「和食」にとって欠か

せない食材のひとつ日本で獲

れる海水魚は実に種類豊富で

日本に生息する魚種だけでも約

4200種ある縁起のよい魚

として重宝されるタイをはじめ

アジイワシやサバサンマなど

日本の近海は魚の宝庫である

海水魚だけでなくコイやア

ユフナやウナギそして水田で

獲れるドジョウなどの淡水魚

(川魚)は海から離れた地域では

貴重なタンパク源だったため

古くから料理に使われている

ウナギの蒲焼きは一般的だが

薄切りにしたコイを50くらい

の湯に短時間漬けてから冷水で

身を締めて酢味噌で食べる「鯉

のあらい」やコイの切り身を濃

い味噌で煮た「鯉こく」など味

わい方も豊富

またうま味のもととして古

くから使われてきた昆布や味

噌汁の具としても重宝するワカ

メさらにおむすびに必須の海

苔など海藻類も和食には欠か

せない貝類も種類が豊富で

アワビをひも状に薄くむき乾

燥させた「熨の

しあわび

斗鮑」が神事や祝し

ゅうぎ儀

の象徴として使われてきた

近年日本の食料自給率が低

下し外国産食材の増加も問題

視されているが本来の「和食」

は日本の自然の恵みによって支

えられているのだ

「和食」の特徴 食材2

島国である日本において魚介類は古くから貴重でかつ重要な食材であった農林水産省の定める生鮮食品品質表示基準によれば日本で食される水産物はマグロやカツオイワシやアジなどの海水魚やコイやウナギなどの淡水魚(川魚)シジミやアサリなどの貝類カニやエビなどの甲殻類やカメなどの水産動物類クジラやイルカなどの海産哺乳動物類そのほか昆布やワカメなどの海藻類など実に多様な種類がある2000年に味の素(株)がおこなった「嗜好調査」によれば「食材」としては肉類よりも魚介類のほうが好まれている結果がみられたさまざまな魚介類のなかでもカニエビマグロなどへの嗜好性が高くそれらが「贅沢な食材」と捉えられているようである

山間部など海の魚が手に入らない地域で貴重なタンパク源として重宝されたのが淡水魚(川魚)写真はアユだがその他コイやウナギドジョウワカサギフナなど日本ではさまざまな川魚が食材として使われてきた寄生虫のおそれがあるため生食はあまりされないがその代わりに調理にはさまざまな工夫が見られる海の魚に比べると独特の臭味やクセがあるため「鯉こく」のようにしっかりと煮込むことで臭味を除いたりウナギのように蒲焼きにしたりするなどがその一例だまた例えば滋賀県には琵琶湖で獲れるフナを塩と米で乳酸発酵させ保存性を高めると同時にうま味成分を引き出した「ふなずし」もある

古来日本で食べられてきた海藻類現在でも低カロリーでミネラルビタミンに富む食材として和食では重宝されている日本では約50種類の海藻が食べられているが世界的にみてもここまで多様な海藻を加工し食用とする民族は珍しいなお海藻にはフノリやテングサのような紅藻ワカメ昆布やモズクなどの褐藻アオノリや海ブドウなどの緑藻類の3種類の海藻が存在する昆布のようにだしをとるために使うものもあるが乾燥させて食べる海苔味噌汁や酢の物の具として使われるワカメのようなものまで実に幅広いまた海藻は神への奉納品としての縁も深く日常の食事だけではなく祭りや神事などにも登場している

縄文時代の遺跡である貝塚からアワビやハマグリカキなどの大量の貝殻が発見されていることからもわかるように貝類は日本では古くから食材として利用されてきた春先の干潮時に浜辺に埋まったアサリなどの貝を掘り出して採取する潮干狩りは春の風物詩としても馴染み深い日本には6000近い貝類があるといわれておりなかでもアサリやハマグリのような二枚貝サザエやツブ貝のような巻き貝が食用として親しまれている調理法としては刺身や吸い物味噌汁煮物焼き物炊き込みご飯など幅広い料理に使用されているがだしをとるためにも使われるさらに乾物にすれば保存性も高くなるため古くから交易にも活用されてきた

海の魚

川の魚

海藻貝

2122 WASHOKU

和食における菜さ

の調理法には

煮る焼く蒸す茹でる和あ

える

揚げるなど実に多様な技法が

あるこれを季節の野菜や山

菜魚介類海藻などの食材と組

み合わせることでバラエティ

に富んだ菜が食卓を彩る

数ある日本の調理法の中で

最も特徴的なのは「生もの」材

料を生のまま切り皿に盛り付

け調味料と薬味を添える刺

身といえば魚介類が用いられる

のがほとんどで捌さ

き方切り方

盛り方などが現在世界で注目を

浴びている材料を新鮮な状態

に保つ技術と料理としての盛り

付けの技術があいまって完成し

たものといえる調味料と薬味

の組み合わせも魚類との相性を

考えて工夫されているまた

わさびしょうがからしなどの

薬味や「つま」や「けん」と言わ

れる大根のせん切り大葉防ぼ

うふう風

芽めたで蓼花は

なじそ

紫蘇など防菌効果のあ

るものを添えて見た目も美し

く組み合わせている

ご飯と並んで食卓に欠かせ

ない「汁物」は鰹節や昆布煮干

し干し椎茸などから抽出され

るだしのうま味と具として入

れる素材のうま味が味わいのベ

ースとなっている中には具だ

くさんの菜になるような汁も

ある

また豊富な水を利用した調理

焼き物(サンマの塩焼き)

直火焼きは遠火の強火でほかに間接焼きがある

生もの(カツオの刺身)

生ものには刺身あらい酢の物漬物がある

茹で物(もりそば)

小麦粉やそばなどの粉からつくる麺を茹でる法

旬の食材のおいしさを

引き出す調理法の数々

「和食」の特徴3

調理

切る煮る焼く蒸す茹でる和える揚げるhellip

あの手この手で素材をよりおいしく

バランスの取れた一汁三菜の基本はご飯にあり

ご飯をおいしくいただくために菜さ

の調理方法は進化した

煮物(筑前煮)

煮汁の中で加熱中に調味する法

2122 WASHOKU

法に「茹で物」があるたっぷり

の水を沸騰させ食材を加えて加

熱して取り出すもの青菜そば

などは茹でた後にあくの除去

歯触りを良くするなどのためさ

らに水で洗う場合も多い私た

ちがあたりまえのように調理し

て食べているほうれん草や小松

菜のお浸しは水に恵まれた日本

に定着した料理で世界的にみて

も特徴あるものといえよう

「焼き物」はサンマの塩焼きの

ように塩をふり直火でじっく

り焼き上げる方法が伝統的

「煮物」は世界で最もポピュラ

ーな調理法だが日本では素材

の味を生かしつつ醤油や味噌

など大豆由来の発酵調味料で

味を調えるものが多い

油とともに加熱調理する「炒

め物」は伝統的な調理にはほと

んど見られないが現代では盛

んに使われ和食の幅を広げて

いる

ここに紹介した調理法と料理

の例は主にご飯のおかずとな

るものであるが小麦そば雑

穀などを粉にしこれを調理し

た主食も多い代表的なものに

うどんそばそうめんなどの麺

類があり茹でる場合が多いが

煮込みなど煮るものもある

さまざまな料理を組み合わせ

て食べる和食は素材の味を生

かしうま味をしっかりとれば

最低限の調味料でおいしさを感

じることができ多様な料理を

楽しむことができる

和あえ物

(きゅうりとワカメの酢の物)

野菜や魚介類などをごま味噌酢などで和える法

漬物(きゅうり大根の糠

ぬか

漬け沢たく あ ん

庵漬け)生ものを保存する方法の一種

塩の働きに加え乳酸発酵させたものが多い

汁物(なめこの味噌汁)

だし汁を主体とする法すまし汁みそ汁とろみのついた汁など

蒸し物(茶碗蒸し)

水を沸騰させその水蒸気を利用して加熱する法

浸し物(小松菜のお浸し)

お浸しは調味した汁に浸して味をつけたもの

「和食」の特徴 調理3

揚げ物(天ぷら)

高温の油で食品を加熱する法油の温度は150~200度の範囲で行うことが多い

2324 WASHOKU

「和食」の特徴4

味わい

うま味日本人が発見した「おいしく食べる」最大の知恵

和食の味わいの中で最も重要なのがだし

味噌汁やすまし汁のベースとなり

煮物やおひたしなどさまざまな料理の

味を決定づける味の要だ

和食の味わいを語るうえで忘

れてはならないのがだし(出

汁)の存在汁物や煮物などさ

まざまな料理のベースとして使

われている

なぜ日本人はここまでだしを

好むのかその答えに大きく関

係するのが「うま味」だ江戸時

代の料理書には「だしこそ料理の

根本である」と書かれている

1907年池田菊き

くなえ苗

博士に

よって世界で初めてうま味成

分のひとつがアミノ酸の一種で

あるグルタミン酸であることが

発見されたその後日本人を中

心に研究が進みうま味は甘味

塩味酸味苦味に加えて第5

の味覚として広く知られるよう

になる現在ではうま味調味

料やだし入りのつゆなどうま

味成分を手軽に使える調味料も

普及海外でも人気が高く国

内でも日常的に使用されている

だしのほかに和食の味付け

日本が世界に誇る

第5の味覚うま味

うま味成分を多く含む椎茸もだしをとる目的で使われてきた食材のひとつだしに使用するのは干したもの椎茸は乾燥させることでうま味や香り成分が増すためだ

小魚を煮て乾燥させてつくる煮干しも汁物に多用される材料としてはカタクチイワシが代表的だがその他ウルメイワシやキビナゴトビウオなどの比較的魚体が小さな魚を使ってつくるのが一般的だ

だしのとり方は魚介や野菜から水や湯を使ってうま味成分を抽出するのが一般的だしの素材として最もよく使われるのは昆布と鰹節でそのほか煮干し野菜干し椎茸魚の内臓やあら(頭や骨)などがあるまた潮

うしおじる

汁のように食品そのもののうま味を活かす方法もある

鰹節

「だし」のこと

昆布

煮干し

干し椎茸

2324 WASHOKU

に欠かせないのは塩砂糖味

噌醤油酢酒みりん魚醤な

どの調味料わさびやからし

しょうが山椒とうがらしゆ

ずなども薬味として使われる

これら薬味によって季節感を楽

しみながら素材の味を引き出

すという知恵も「和食」ならでは

夏に高温多湿となる日本では

アジア諸国と同様発酵食品が

発達したそれゆえ味噌や醤

油や酢に代表される発酵調味料

を多用するのも和食の特徴大

豆や穀物を塩漬けにして発酵

させてつくるものだがその過

程で原料のタンパク質がアミノ

酸に分解されうま味成分を豊

富に含んだ調味料ができあがる

のだ

発酵食品も多様だ日本各地

でカビや酵母などの微生物の

働きを活かして食品中のアミ

ノ酸(うま味)を増やす発酵食品

が発達してきた冬場の保存食

として生み出された沢庵や塩

を使って乳酸発酵させる京都の

すぐき菜漬けそして糠ぬ

漬けや

奈良漬けなど野菜を発酵させ

た漬物さらに塩辛やくさや

なれずし鰹節など魚介の保存

食としての発酵食品また大

豆を納豆菌で発酵させる納豆や

こうじ菌で発酵させて乾燥後に

熟成させた寺納豆など大豆の

発酵食品もある

「和食」はうま味を上手に生

かし食材をおいしく食べる知

恵を育んできたのだ

発酵食品

発酵調味料

調味料

「和食」の特徴 味わい4

発酵食品と調味料

魚醤魚を塩漬けにして発酵させる独特の香りと濃いうま味が特徴の調味料ハタハタでつくられる秋田の

「しょっつる」イカやイワシを材料とする能登半島の「いしる(り)」などがある

酒酒もまた和食の調味に欠かせない発酵調味料のひとつ調味料としての酒の主な効果には材料の臭みを消す食材のうま味を引き出して風味をよくする甘みを加えるなどがある

塩海に囲まれている日本では古くから塩は調味料として使用されてきた焼き物や刺身などの調理の味付けとしてはもちろん漬物や干物など食物を貯蔵するための知恵としても活用されている

味噌蒸したり煮たりした大豆にこうじ食塩を混ぜて発酵熟成させた日本を代表する調味料のひとつ味噌汁や煮物などに使われることが多い地域によって使用される味噌の種類がかなり変わるのも特徴だ

酢寿司やなますなど和食に酸味を加える調味料米から醸造した酒に酢酸菌を加えて発酵させて造られる酢に漬けることにより保存性を高める

醤油大豆と小麦で造ったこうじに食塩水を加えた「もろみ」を発酵熟成させ搾ったもの刺身や焼き魚煮物炒め物など幅広い料理に使われている種類は濃口薄口たまり再仕込み白の5つに分類される

みりん蒸したもち米と米こうじを主原料に40~60日かけて熟成させて造られる発酵調味料砂糖と比べて甘みがやわらかく食材の臭味を取る働きもあるまた魚の照り焼きなどのつや出しにも使う

漬物素材を食塩や酢酒粕醤油などに漬け込み熟成させて作られる漬物沢庵や梅干し野沢菜漬けなど野菜類を長期間保存するための知恵として誕生した日本各地に独特の漬物があるのも特徴だ

納豆日本で発展した発酵食品である納豆大豆を納豆菌で発酵させた食品で寺納豆(下記参照)と区別するため「糸引き納豆」とも呼ばれる単品で食べるだけではなく納豆汁や納豆和えなどにも使われている

塩辛魚介類の身や内臓を塩漬けにし発酵させて作られた塩辛は日本における伝統的な保存食品のひとつ使われる素材はその地域によって変わりイカやエビアミタコなど多彩な種類の塩辛が存在する

塩に漬けた魚と炊いたご飯を数日間置き乳酸発酵させたなれずしは魚を保存する知恵として生まれた滋賀県では琵琶湖産のふなを和歌山県や富山県ではサバを岐阜県などではアユを材料にしたものが有名写真は滋賀県湖北地方の年頭の祭りで振る舞われる鯖のなれずし

砂糖世界的に見ても「甘み」を用いた料理が多い現在の和食では砂糖は欠かせない調味料のひとつ単独で料理に使われるというよりは煮物をはじめとするさまざまな料理で醤油や塩味噌などと併用されることが多い

寺納豆茹でた大豆にこうじを加えて発酵させ乾燥させながら熟成を促す発酵食品粘り気のある糸引き納豆とは異なり乾燥して塩辛い禅宗の伝来とともに大陸からもたらされたとされ寺院で作ることが多かったため「寺納豆」と呼ばれた

2526 WASHOKU

「和食」の特徴5

栄養

栄養バランスの優等生「和食」

野菜や魚肉そして米によって構成される「和食」は

栄養バランスの良さでも知られている

最近は五日間すべてを米飯にする完全米飯給食を行う地域も生まれた

和食の特徴のひとつである栄養についてその秘密に迫る

米麦雑穀などを炊いたご飯

を主食としてこれに魚介肉

類野菜類に発酵調味料だしを

組み合わせた和食は栄養学的

にみてもバランスをとりやすい

食事である

歴史的にみると日常食では

主食を大量に摂る習慣が続いた

穀類偏重の食生活だったといえ

よう

しかし豆腐や納豆みそ汁な

どを飯とともに摂ることで米の

アミノ酸の利用率を上げる食べ

方年中行事などハレの日に魚

介類などを摂取して楽しむなど

学ぶべき知恵は多い

なかでも何百年も伝えられて

きた和食の基本型はすぐれた

ものといえよう

副食の主菜には魚肉豆腐

などタンパク質を多く含む料理

を考える副菜には主菜に使わ

なかった野菜芋類などを使い

汁は主菜に合うものを用意する

焼き魚野菜の煮物青菜のお浸

しとみそ汁などでも栄養的バ

ランスはとれている

1980年頃までは多くの

家庭で和食の基本型が続いた

主食の量がやや減り副食が増

加とくに乳乳製品肉類の割

合が増加したこの頃栄養バ

ランスをはかる一つの指標であ

るPFCバランスが理想的な比

率を示した(左記参照)

しかしその後外食の日常化

家庭料理の欧米化が進み米の

摂取量が激減し脂質摂取の過

多などから生活習慣病が問題

となったこうした中各地で

食生活を見直す動きがみられる

ようになったその一つが学校

給食での取り組みである

戦後の食料難の中でパンと

牛乳に副食を加えた完全給食は

1950年に始まった197

6年に米飯が導入されるまで長

く続いたパン給食は和食の基

本型にも影響を与えたようだ

米飯給食は次第に増加し

2010年には週3回以上米

飯給食を実施している小中学

校は90以上となったが週5

回の米飯給食の実施は7以

上と高くない

ここでは2008年に5日

間すべてを米飯給食とした新潟

県三条市の事例を紹介しよう

成長期にバランスのよい食事

で健康な体をつくることそし

て望ましい食習慣を身につけ

生涯を健康に生きることをめざ

し完全米飯給食を実施したと

のこと

米は同市で生産される農薬

を減らしたコシヒカリを七分搗つ

きにした米飯を主食に副食は

主菜副菜汁を組み合わせる献

立をベースとしている主菜は

サケのフライ鶏肉ピリ辛焼き

さんま梅煮など伝統的な和食だ

けではないが和食の基本型の

中に取り入れる工夫がされてい

るパ

ンは油脂や糖分と相性が

良く肥満につながりやすいが

新潟県三条市の給食献立一例三条市の小中学校での献立例ご飯は三条市で収穫したコシヒカリを使用「お米だと腹持ちがよいのでデザートをあまり出さなくとも子どもたちが満足してくれる」とのこと洋風や中華風の献立でもおかずはご飯に合うものを選びスープなどの汁物は確実につけるように心がけている

火曜日

えだまめごはん

さけチーズフライ

くきわかめきんぴら

かきたまじる牛乳

小学校687kcal中学校823kcal

水曜日

ごはんとりにくのぴりからやきいかときゅうりの

あえものしょうがみそスープ牛乳小学校639kcal中学校752kcal

木曜日

ごはんさんまうめにたくあんあえにくじゃがに牛乳なし小学校688kcal中学校814kcal

金曜日ごはんカレーふりかけほうれんそうオムレツフレンチサラダパンプキンスープ牛乳小学校708kcal中学校833kcal

月曜日

ごはんいかのかりんあげ(2こ)

なっとうあえきのこけんちんじるのむヨーグルト

小学校619kcal中学校731kcal

2526 WASHOKU

七分搗米の飯は腹持ちがよく

おやつを食べる子どもが減った

だけでなく肥満の子どもが減

少傾向となり食生活のリズム

が良くなったとされる

また米飯に合う副食は土地

でとれる野菜類を取り入れやす

く季節にあわせてバラエティ

ーに富んだ献立を作ることがで

きる一汁三菜の食べ方の教育

を行った結果給食を残す子ど

もたちも減ったという

基本的な食事パターンが続く

中でも菜を工夫すれば変化に

富む食事を作ることはできる

季節の食材について学び年中

行事への知識も得られるだろう

また子どもたちが和食の基

本型を毎日の給食で体験してい

ることはきわめて重要なことで

ある時々経験するだけでは身

につかないものでも毎日繰り返

すことによって習慣化し定着

するのであるそしてやがて

自分で組み合わせを考えられる

ようになることが期待される

今後の学校給食の役割は大きい

といえるだろう

PFCバランスとは

FAO Statistics Yearbook(日本のみ食料需給表)参照栄養バランスが良いとされるP(たんぱく質)10~20F(脂質)20~30C(炭水化物)50~70の範囲が08~12に収まるように指数化した

日本でのPFCバランスの変化

アメリカとフランスのPFCバランス

タンパク質脂質炭水化物は人間にとって特に不可欠な「三大栄養素」PFCのPはProtein(たんぱく質)FはFat(脂質)CはCarbohydrate(炭水化物)の頭文字でPFCバランスとは食事の中での「たんぱく質」「脂質」「炭水化物」のそれぞれの摂取カロリーの比率健康的な生活をおくるためにはPFCバランスがたんぱく質15脂質25炭水化物60が理想的

給食時には全員で「いただきます」「ごちそうさま」を復唱食育にも力を入れているためそれら言葉の意味についても学校で教えている

米飯給食になってから児童たちの食の嗜し こ う

好に変化が生まれたとか児童たちに好きなおかずを聞いてみると「ハンバーグ」「カレー」などの定番メニューのほか「焼き魚」「納豆」などの和食メニューの名前が上がった

自分の分を食べ終わった児童たちが列をつくって競い合うようにご飯をおかわりしていたこの日の食べ残しはゼロ

C

P

F

14

12

1

08

06

アメリカ(2005~2007年)

C

P

F

14

12

1

08

06

フランス(2005~2007年)

「和食」の特徴 栄養5

日本人のPFCバランスは1965年当時は炭水化物に偏っていたが1980年は非常に理想的な配分になっていたしかしその後の日本人の食生活に肉や油脂類を多く摂り主食の米を食べる量が減り2010年時は欧米型に近づきつつある

C

P

F

14

12

1

08

06

日本1965年

C

P

F

14

12

1

08

06

日本1980年

C

P

F

14

12

1

08

06

日本2010年

2728 WASHOKU

お客を迎える前には店先に打ち水を水で清め準備が整ったことを伝える趣向に合う軸を選ぶのももてなしの基本飾る花は主人自ら育てたものそれを床の花入に活けるのも主人庭に150種ほどの草花を植え日々育てることもしつらいの準備客は女将の温かいもてなしに迎えられる

「和食」の特徴6

しつらい

人をもてなすためのこころとかたち

もてなしは客に対する一方的なサービスではない

お互いに思いやる気持ちから生まれるこころよさである

手入れの行き届いた庭は掃き

清めて水を打ち床の間には軸

を掛け季節の草花を生ける

座敷の襖ふ

すま

も夏には葭よ

しど戸に入れ替

え夏は涼やかに冬は暖かに

すべて相まってもてなしのた

めの用意を整えることそれが

しつらい和食とりわけ懐石

料理においては食材や料理と

ともにしつらいは非常に重要

な要素となる

家庭でも食事をつくる人は

食べる人の顔を思い浮かべなが

ら食事の用意をする食べる人

はつくってくれた人の気持ちを

考えて賞味するここに互いに

もてなす喜びが生まれるのでは

ないだろうか

こうしたもてなしの文化を極

限にまで洗練させた姿が料亭の

もてなしである京都府の無形

文化技術保持者に料理人として

初めて認定された京都の老舗料

亭「瓢亭」の十四代主人高橋英一

さんにその心を聞いてみよう

「料亭は日本文化の凝縮のひと

つと言えます玄関から入って

座敷に行くまでに通る露地にも

季節感があり部屋に入れば時

季や行事の軸がありその座敷

のために選んだ花が飾られる

日本人が自然と身につけている

桜の器を使うことで膳の上にぱっと花が咲くような華やかさが生まれるあしらいは酢取り防風岩海苔

秋の花菊の器はこっくり深い色合いも相まって秋に似合う風情を持つあしらいは岩茸菊花

深さのあるガラスの器に氷が敷き詰められる涼感を目でも舌にも感じるあしらいは穂紫蘇寄せ莫大

縁起のいい鶴は新年の席でも使われるモチーフあしらいは水前寺海苔紫芽紫蘇

四季の感性で受け止めてもらえ

るよう整えお出迎えします

料亭は普段とは違うハレの場で

すがとはいえ行き過ぎず足り

ないことのないよう自然なし

つらいそしてもてなしを心が

けます」

「瓢亭」の座敷に飾られるのは

主人が庭で丹誠込めて育て自

ら生ける茶花

「もてなしの根

底に利休さんの『花は野にある

ごとく』の言葉を思いますが簡

単なようでそれが難しい」自

然体でのもてなしを生むしつら

えは名店においても日々心を

くだき工夫するのだ

「瓢亭」では1年をとおして明石の鯛の向付を供しているが季節ごとに

器とあしらいを変えることで四季を演出している

四季の演出

2728 WASHOKU

和食はご飯と菜あるいはご飯とお汁というように常にご飯を間にはさんで菜や汁をとるのが本来の食べ方下のような不作法とされる箸使い(嫌い箸)があるので覚えておきたい

ご飯は茶碗に味噌汁はお椀

に焼き魚だったら平皿にと普

段料理に合わせて何気なく使う

食器種類の多さもさることな

がら形や素材もさまざま欧

米はもちろん近隣諸国を見回

してもこれほど多種多様な器を

使う国はないそれは四季が明

確なことと無関係ではない

「自宅でも季節に合わせた器

にするだけで気分が変わりま

すよ」と前出「瓢亭」のご主人は

語る 

春であれば華やかな色や形の

もの夏はガラスや青磁など涼

しげな素材の器秋は実りのあ

る彩りがあるもの冬は厚手の

陶器や木製など温もりのあるも

の色素材形を変えるだけで

季節感を演出できる「和食」な

らではの楽しみ

食事の際当たり前のように

使っている箸も日本の食文化

を代表する食具奈良時代以

降匙さ

を使う伝統が消え箸だ

けを使うようになったため熱

い汁物は椀を持ち直接口を

つけてすする文化が確立同

時に椀箸ともに個人所有が基

本となった椀や箸を共有し

匙やレンゲを使うほかの東南

アジア諸国とは異なる食文化

を形成箸食文化圏の中でも

唯一箸だけでご飯を食べる国

となったまた一口に箸といっ

ても食箸取り箸菜箸など用

途に合わせてさまざま食べ

る際に使う食箸だけを見ても

形や素材のほか加工や長さも

豊富にそろうのだ

「和食」の特徴7

箸と椀

「和食」を支える箸と椀

箸食文化圏の中でも唯一箸だけを使う国日本

季節感を感じさせる器とともに独特の食具文化も誇る

渡し箸食事の途中でお箸を

食器の上に渡し置くこと

寄せ箸遠くの食器を

箸で手元に引き寄せる行為

指し箸食事中箸で人やものを指すこと

迷い箸どの料理にしようか迷い箸を料理の上で動かすこと

移り箸いったん取りかけてから

ほかの料理にお箸をうつすこと

箸には食事に使う食箸と調理に使う菜箸とがある菜箸は熱から手を守るため30~50と長く片方がなくならないよう糸でつながっているものもある取り箸は菜箸の一種食箸は個人所有が基本のため使う人に合わせた長さが用意されている漆塗りや螺鈿細工を施したものも多い

種類

形状だけでなく素材もさまざまで近年は黒檀や鉄木など硬質な木が使われることが多い日本の木としては特有の香りがあり古くから懐石用や割り箸に使われてきた杉耐水性耐湿性が高く保存性に優れる上に軽くて持ちやすい檜強くしなりがあり細かいものを取りやすい竹などがある

素材

家庭で使う食箸の形には角箸や四角で角が丸い胴張り五角六角七角八角のほか削りなどがあり持ちやすさに合わせて選べる箸先に加工が施されたものもある来客用に使う銘々箸や割り箸には断面が小判型で割れ目と溝が付いた元禄箸や中央部が太く両端が細い利休箸などが用意されている

日本人にとっての箸は調理から盛りつけ食事までをこなす大事な道具食箸は個人所有が基本のため個々に合わせて選べるのも特徴だ

箸の働き

箸使いの作法を知る

【嫌い箸】

食箸

八角箸 削り箸

菜箸

檜竹

「和食」の特徴 しつらい 箸と椀6 7

2930 WASHOKU

神し ん せ ん

饌として神へ供えられるお神酒は神棚の最上段の中央に置かれるほど重要な地位を占めている

日本酒を造る酒蔵は全国に約1600弱その数は年々減り続けているが数年に一度「日本酒ブーム」も起きている

日本酒とは米と米こうじ

そして水を主な原料にしてそ

れらを発酵させて造られる

原料には主食用の米ではなく

酒造りに適した性質を選び品

種改良された酒し

ゅぞうこうてきまい

造好適米を使

うことが一般的だまた日本

酒の80を占める水も品質を

左右する大きな要因日本酒

の香味を損なわない良質な水

が必須だ

日本酒の醸じ

ょうぞう造の工程にはさ

まざまな技術が伴う例えば米

を精米して味と香りを調整する

技術これは米の外側にあるた

んぱく質や脂質といった雑味の

もとを除くことが目的だが大だ

吟ぎんじょう醸酒にもなると米を半分以

上削ってから仕込むこともある

次いで米を発酵させる技術

酒の場合の発酵とは酵こ

うぼ母が糖類

を食べてアルコールを出すこと

をいうが米には糖類が含まれな

いためまずは米をこうじ菌の酵

素によって糖類へと変えそこに

酵母を加えて発酵させるという

複雑な手順(複式発酵)が必要だ

この手順で使われるこうじもバ

ラこうじと呼ばれる日本独特の

ものだバラこうじは糖化力が

高いのが特徴で日本酒の香りや

味に大きく影響する

稲作を中心に文化を育んでき

た日本では米餅米から造ら

れる酒は地域を問わず重要な

ものとされている米の一粒一

粒に神が宿り同じように酒も

神のおかげで造ることができる

と考えられてきたそして酒

もまた食べ物と共に神に近づ

くための手段として古くから用

いられてきた

同時に家族や親族地域で人

と人をつなぐ上でも酒は大き

な役割を担っている例えばお

神み

き酒祭礼の後には神の酒を

人々が口にする神と同じ酒を

飲みそれを人々が分かち合う

ことで地域やコミュニティが

結束力を強めるのだろう

米や麦やさつまいもなどを原

料とする焼酎も日本酒と並び

日本の國酒とされている酒は

人と人の心をほぐし食事を引

き立たせる重要な役割を担って

いるのだ

「和食」の特徴8

「和食」を引き立たせ

心をほぐす日本の酒

日本人にとっての主食であり精神のかなめでもある米

その米で醸か

される日本酒は「和食」にとって欠かせない要素

日本の「國こ

くしゅ酒

」にもなっている

2930 WASHOKU

「和食」の特徴9

和菓子日本茶

暮らしに寄り添う和菓子とお茶

自然の恵みに感謝し季節の移ろいを敏感に表現する和菓子

日本茶は喉のかわきを癒すだけでなく心を癒し心を高める飲みものである

「和食」の特徴 酒 和菓子8 9

ハレの日の願いを込めた和菓子

和菓子分類餅もの 餅団子大福など蒸しもの 饅頭蒸羊

よ う か ん

羹外う い ろ う

郎村む ら さ め

雨など煉もの 煉

ね り き り

切こなし求ぎ ゅ う ひ

肥飴葛く ず

菓子など焼きもの 味噌松風煎

せ ん べ い

餅桃も も や ま

山カステラどら焼など流しもの 錦

にしきだま

玉煉ね り よ う か ん

羊羹水み ず よ う か ん

羊羹など揚げもの 揚げ煎

せ ん べ い

餅かりんとうなど打ちもの(押しもの) 落

ら く が ん

雁など岡もの 最

も な か

中きんとん鹿か の こ

の子すはまなどかけもの 金

こ ん ぺ い と う

平糖五ご し き ま め

色豆石いしごろも

衣など

これは和菓子の製法によって大まかに分類した表このほか含有する水分量によって生菓子半生 菓 子 干 菓 子などの分け方や上じ ょ う な ま が し

生菓子並菓子駄だ が し

菓子などの分類もある

「岡もの」とはすでにできあがっ た素材をあわせたもの (例きんとん=飴玉とそぼろ餡)

甘く味付けしたごぼうと白味噌餡を赤や白の餅や求

ぎ ゅ う ひ

肥で包んだ生菓子平安時代の新年行事のひとつで長寿を願っておこなわれた「歯固め」の餅に由来する餅と味噌の組み合わせから「包み雑煮」とも呼ばれた

葩はなびらもち

一 月

旧暦十月は「亥の月」と呼ばれていたがその月のさらに「亥の日」に行われる年中行事の際に食べられていた菓子旧暦では10月が冬の始まりそのタイミングで無病息災と多産の猪にあやかって子孫繁栄を願ってこれを食べていたという

亥い の こ も ち

の子餅

十 月六 月

白いういろうの上に小豆の粒餡を散らした菓子古来京都で旧暦六月の晦

み そ か

日(30日)に無病息災を祈願して行われている

「夏なごしのはらい

越祓」になぞらえて初夏の頃に食べられている小豆には邪気祓いの意味があり三角の形は氷を表している

水無月

五 月

平たく丸めた上新粉の餅をふたつに折り中に小豆や味噌の餡を挟んでそれを柏の葉で包んだ菓子柏の葉は新芽が育つまで古い葉が落ちないことから

「子孫繁栄」を願って旧暦五月五日の端

た ん ご

午の節句の供く も つ

物として用いられてきた

柏餅

日本ならではのお茶の製法である手揉みは茶葉の繊維をつぶしながらうまみを引き出すために行う作業手揉みすると茶葉が切れないため茶の甘みを保つことができる

菓子もまた「和食」にとって欠

かせない要素でお客様用の「上

菓子」普段食べる「饅頭」や「餅

菓子」などに分かれるほかに

干菓子や駄菓子など菓子の種

類は多いまた例えば団子や

大福などは「餅もの」求肥や飴

などは「煉りもの」錦玉や

水みずようかん

羊羹などは「流しもの」などと

いうようにその製法によって

分類されることもある米や麦

小豆を代表とする豆類そして

砂糖や水あめなどの材料でバ

ラエティに富んだ菓子が生み出

されてきた

お茶会などの席で抹茶ととも

に味わう菓子もあり季節に合

わせて材料や色やデザインが選

ばれ味覚だけでなく視覚で楽

しむこともある

また年中行事と結びつく菓

子もある例えば旧暦三月三日

の「ひな祭り」では邪気をはら

い強い生命力を象徴するよも

ぎの草もちでつくった草餅を食

べる

和菓子には日本茶がふさわし

い緑茶は12世紀に中国から日

本に伝わったが今では生の茶

葉を蒸してから揉んで乾燥させ

る緑茶の製法は日本独特のもの

となっている緑茶に含まれる

カフェインは覚醒効果がまた

カテキンには抗酸化作用があり

ビタミンCも多く含まれて健

康によい日本茶独特の香りと

うま味は日本文化そのもので

ある

出典「和菓子の歴史展」第五十回虎屋文庫資料展より

3132 WASHOKU

日本の「和食」の文化は自然

環境だけでなく海外からの影

響によっても絶えず変化して

きた

近代以降にはコロッケとん

かつなど洋風料理を和食の基本

型に組み合わせた食事肉と野

菜の煮物や和え物などそれまで

にはない料理が工夫されたそ

の多くは和食の基本型味噌や

醤油を用いた味付け箸で食べ

られる料理など「和食」の要素

を保ちつつ伝えられてきた

しかし第二次世界大戦後高

度経済成長期を迎えると日本人

の食生活は急速に変化する

1970年代にファストフー

ド店ファミリーレストランが

各地に開店しコンビニなども

広がった

1980年頃主食と副食の

バランスは理想的とされたが

(26頁参照)その後米の消費量

はさらに減りパン食が増加

肉類油脂乳乳製品の消費量

も増加し食料自給率も下がっ

た家族での外食が日常化し

家庭の食事も欧米化した

食育の必要性

「和食」が危ないどうしたら伝えられるのか

この150年間で大きく変化し「和食」はいま衰えつつあるその原因はどこにあるのだろうか

食生活の変化

日本の食料自給率の変化農林水産省「食料需給表」より作成

日本のものを食べなくなって 「和食」はどうなる 日本の食料自給率は下がり続けている1965(昭和40)年度はカロリーベースで73だったが2012(平成24)年度は39その大きな原因のひとつは国内で自給可能な米や魚や野菜などの消費量が減少する一方国内で生産が困難な飼料穀物を食べて育つ畜産物や原料を輸入に頼ることが多い冷凍加工食品や小麦の消費が増加したことだと考えられている炭水化物たんぱく質脂肪分をバランスよく摂取する健康的な「和食」に未来はあるのか

国民一人一日当たりの供給純食料農林水産省「食料需給表」より作成

食べる米の量が50年で半減 増えたのは肉と乳製品 国民一人あたりが食べる量を品目別に眺めて分かることそれは日本人が食べる米の量が著しく減ってきたことだ1960(昭和35)年度は一日あたりの米の消費量は約315gだったが2010(平成22年)年度は163gに約半減その代わりに増えたのは牛乳乳製品(約60gから約240g)と肉類(約14gから約80gへ)野菜と魚を中心としたおかずでご飯を食べるという

「和食」のスタイルの変化がわかる

食料費における外食と中食の割合の推移総務省統計局「家計調査年報」より作成

家で食べても 調理することが減っている 外食に対して家庭で作って食べる食事を内食というが弁当や惣菜など調理をせずに食べられるものを買ってきて済ます食事は中食と呼ぶ実はこの中食の割合が増えている外食が占める割合は2000(平成12)年以降横ばいなのに対して中食は増え続けその代わりに内食が減っている食事は家で食べても調理はしないという家庭が増えているのだとすれば「和食」にとって大切な要素を子どもたちに伝える機会が減っているとはいえないだろか

食料自給率(金額ベース)

食料自給率(主食用穀物)

食料自給率(カロリーベース)飼料自給率

米 野菜 肉類牛乳乳製品 魚介類

内食 中食 外食

(g人日)

3132 WASHOKU

50

55

60

65

70

75

01992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012

70

75

80

85

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95

01992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012

一日に一度はお米を食べないと気がすまない人の割合博報堂生活総研「生活定点2012」

お正月におせち料理を食べた人の割合博報堂生活総研「生活定点2012」

一日に一度は米を炊いたご飯を食べなければ気がすまない人の割合が実はこの20年間で減っているというデータがある1992(平成4)年には714だったが2012(平成24)年には564にまで落ち込んでいるのだ

家族や親族で集まっておせち料理を囲みながら新しい一年の無事を祝うお正月実はおせち料理を食べる人も毎年少なくなっている1992(平成4)年には866だったが2012(平成24)年には748だった

電子レンジの普及や冷凍食品

インスタント食品などにより

食生活は便利になったが家庭

内で調理をする機会が減ったと

もいえる

こうしたなか「和食」の優れ

た点をどうしたら伝えられるの

だろうか親から子へ家庭の食

を伝えるだけでなく学校を通

して子どもたちにさらにその

親の世代にも伝える必要があろ

う高齢者からは「和食」につ

いて具体的に教わることも求

められる

離乳期からの食べ物の選び方

幼児期の食経験を豊富にするこ

となどはとくに重要であろう

小さな頃からの食習慣はその

後の食習慣に大きくかかわって

くるからだ

だしのおいしい味を日々体験

することや魚を味わい骨を箸

でとる訓練を楽しい雰囲気のな

かで教わることなどその積み

重ねの中で「和食」は伝わるので

あろう

経験しない味は異文化とと

らえられるであろうし体験し

ていない調理は簡単でも難しく

感じる食事を用意する過程を

日々見る経験手伝う楽しさ美

しい食器を大切にして使うこと

同じ食べ物を家族や仲間と味わ

い祭りや花見などで共に食べ

る経験を積み重ねることは文

化としての「和食」を伝えるだけ

でなく生きる力を育むことにも

つながるであろう

壁にではなく居間に向かって設置されることが多くなった現在のキッチン夫婦共働きだというこの家庭では夫が厨房に立つことも少なくないというこのように食事の準備を子どもと一緒に行うことで「和食」にとって大切な要素が次の世代に伝えられるようになるのだろう

世帯あたり1ヶ月間の穀類支出金額内訳

1962年3434円

パン

麺他

2010年6373円

パン

麺他

ご飯を食べなくても平気 そんな人が増えている

お米よりパンと麺 その傾向が加速中

おせち料理を食べる派が 毎年ジワリ減少中

1962(昭和37)年度には8割以上を占めていた米への支出が2010(平成22)年度にはパンにとって代わられる米の消費量はパンより多いが家庭では炊飯する必要のある米よりすぐに食べられるパンや麺の支出が多くなり家庭での料理が減っていることを示しているともいえよう

総務省統計局「家計調査年報」より作成

いただきます

ごちそうさま

「和食」の未来

今世紀に入ってから世界に和食ブー

ムが起きている味わいやヘルシーさに

注目が集まり世界中のいたるところに

日本食の店が数多くある

そのように世界から注目される「和食」

だが本家本元の日本国内でその将来が

危ぶまれている

これまで見てきたように「和食」には

新しいものを柔軟に取り込む歴史があっ

た日本人は太古の昔より外国からも

たらされた食文化を自分たちの食生活に

取り込んで日本独自の食文化を発展さ

せてきた地域ごとに地域の環境にふさ

わしい料理をつくり出してきた食べる

料理や食べ方もその時代ごと地域ごと

に変わってきた

その中で貫かれてきたことがある

豊かな自然がもたらす食材のおいしさ

を生かす調理法を工夫し味わうこと

食卓に季節感をしつらえもてなしの気

持ちを共に感じ合う食事の場を持つこ

と一汁三菜という組み合わせを食事

の基本スタイルとして健康的な食生活

をおくることお正月におせち料理を

祝いの日にお赤飯を家族と共に食べる

など食事は家族の絆となっている

豊かな自然を守る気持ちと同じように

日本人を健やかに生かし人と人をつな

いできた「和食」もまた守るべき大切な

日本文化ではないだろうか

「いただきます」「ごちそうさま」と言っ

てみるだけでも「和食」は私たちに身近

になる人と人をあたたかく結びつけて

くれる

日本人はやはりお米のご飯がおいしい

と思うだしのきいた汁でおなかも心も

癒されるこの日本人が長い歴史の中で

育んできたすばらしい財産である「和

食」がこのままなくなってよいと考える

人はいないだろう世界の中でもすぐれ

た食文化として認められた「和食」を日本

の誇りとし大切にして次の世代に受け

継いでいくきっかけにこの冊子がなれ

ば幸いである

ごちそうさま

和 食

温暖化が進み狩猟が大型獣から小型獣になる

南九州で竪穴式住居にドングリ貯蔵穴が広まる

ドングリなどの植物性食料が重要な食料になる

水田稲作が日本列島に伝来

稲作の広がりと定着魚を発酵させたなれずしの登場

『魏ぎ

し志』倭わ

じんでん

人伝には倭(日本)では冬夏に生菜を

飲食に高杯をつかい手食するとある

土は

師器の移動式かまどの使用

土師器の甑こ

しきに

よる蒸し米が盛んになる

中国に遣唐使を送る大陸の食文化がもたらされる

675年天武天皇が「牛馬犬猿ニワトリ」の

食用を禁止

牛乳を煮詰めて作った「蘇そ

」が朝廷に貢納される

箸の利用が広がる

貴族の大だ

いきょう饗料理や年中行事が中国の影響で定着

豆腐が中国より伝来する

栄西が宋より抹茶法を持ち帰る

道元が禅宗における食事作法や調理の心得を

説いた『典て

んぞきょうくん

座教訓』『赴ふ

しゅくはんぽう

粥飯法』を執筆

植物性食品のみを使った精進料理の発展

武士の供応食本ほ

んぜん膳

料理の形成

包丁人と呼ばれる料理人が誕生し包丁流派を形成

刻み目のついたすり鉢が広がる

酒造技術の進展

書院茶の湯からわび茶の湯へ

千利休により茶の湯が完成

懐石形式の定着

豊臣秀吉が北野大茶会を開催

欧州が大航海時代に入り

南蛮貿易により南蛮菓子唐辛子などが日本に伝来

日本初の出版料理書『料理物語』刊行

都市部に食べ物屋や料理屋が普及する

料理屋の会席料理形成

けがれによる肉食禁忌の観念が広く浸透

薬食いとしての肉食

飢き

きん饉に備えさつまいもやじゃがいもの栽培を奨励

和菓子の完成

握り寿司やてんぷらが江戸で流行する

肉食解禁と牛鍋の流行

『西洋料理指南』など西洋料理書の出版

西洋料理店の発展

米の摂取率が平均53に

家庭向け料理書の出版

女学校における食物教育

脚か

っけ気

論争がさかんに行われる

牛肉の不足から豚肉の生産が増加

洋菓子の製造発展

物価高騰と米不足によるじゃがいもパンなどの代用食の奨励

国立栄養研究所の開設と栄養学の発展

都市部で和わ

ようせっちゅう

洋折衷料理が普及

戦争による食料不足

食料統制米などほとんどの食品が配給切符制となる

イモなど代用食の増産

戦後のミルクとパンの学校給食が開始

各地に闇市ができる

食料の価格が高騰

厚生省が日本人の栄養基準値を策定

農家の生活改善運動が展開

即席ラーメンなどインスタント食品の開発販売

冷凍冷蔵庫の普及と冷凍食品が普及

日本型食生活の提唱

ファミリーレストランファストフード店の増加

コンビニの発展

日本食の洋食化と簡便化と米摂取量の減少

食料自給率が39〜40に低下

レトルト食品の売上増大

電子レンジ普及率が約90に

遺伝子組み換え食品が登場

地球温暖化など環境問題が深刻化

阪神淡路大震災東日本大震災により災害食が注目される

持続可能性が社会課題に

家庭料理の変化や家族の孤食化などの問題が生まれ和食の見直しへ

明治時代大正時代昭和時代(戦前戦中)昭和時代(戦後)平成1869~1912年1912~1926年1926~1945年1945~1989年1989年~

1516 WASHOKU

家庭料理の変化や家族の孤食化などの問題が生まれ和食の見直しへ

基本はほぼこの時代にできたと

いえよう

いっぽう各地域の日常食の

主食は麦雑穀芋類を混合し

たかて飯やうどんなど小麦粉を

用いた食事が多くそれは昭和

期まで引き継がれ各地で独自

の「和食」の文化が形成された

西洋文化を積極的に取り入れ

た明治時代以降西洋料理書が

出版され都市部では西洋料理

店が開店したまた明治時代

後期には家庭向け料理書の出

版が相次ぎ西洋料理をアレン

ジして和食に取り入れた和わ

よう洋

折せっちゅう衷料理が数多く紹介された

大正期国立栄養研究所の開

設により栄養学の研究が進み

日常食の栄養についての関心が

少しずつ広がった

飢餓を経験した戦時期を経て

主食に偏らず副食に動物性食

品や油脂を加えた食事が推奨さ

れたその結果1980年頃

になると日本人の食事は米飯

を基本にしながらも乳乳製品

肉魚類野菜類などを適度に

加えたよりバランスのよい食

事となったこの時期の食生活

を「日本型食生活」と呼んだし

かしその後食生活の洋風化

簡便化が広がり食料自給率は

40パーセントと減少した若年

層を中心に食事の基本型が崩れ

欠食孤食などが話題となり和

食の見直しが求められるように

なった

1718 WASHOKU

「和食」の特徴1

献立のかたち

「ご飯」を食べるために

「汁」と「菜」がある

「一汁三菜」が和食の基本型

「一汁三菜」とは「ご飯」と「汁」と「香の物」に

いくつかの「菜」が添えられるという組み合わせ

「ご飯」と「汁」と「香の物」に「お菜」が3品添えられるという献立が一汁三菜この場合は焼き魚(右奥)と煮物

(左奥)と小松菜のおひたし(中央)の3つの菜で構成される向かって手前左にご飯を手前右には汁をその間に香の物をそれぞれ置くという決まりになっている

1718 WASHOKU

米を炊いた「ご飯」昆布や鰹

節などでとっただしを味噌や塩

などで味付けした具入りの「汁」

塩漬けやぬか漬けや粕漬けなど

の「香の物」そして焼き物や煮

物や和え物などの「菜」その4

つの要素で構成される「一汁三

菜」という組み合わせがある

基本的には汁が一種で菜が

三種の構造を「一汁三菜」と呼

ぶ食事中に口の中をさっぱ

りと保ってくれる「香の物」と

ご飯はいつも必ずついていて

その数も変わらないからあえ

て数えない

日常の食事である一汁三菜に

対して江戸時代によく登場す

るのは二汁五菜つまり汁が二

種に菜が5つこれが昔のおも

てなし料理の基本でお膳もふ

たつ出たいいかえると一汁三

菜はひとつのお膳に載るふだ

んの家庭の食事であることがわ

かる

また汁にもいろいろあった

魚のアラを汁に仕立てたものや

野菜を豆腐と一緒に煮込むけん

ちん汁など具だくさんの汁も

各地域でみられ汁でご飯を食

べるということも和食の特徴の

ひとつだ

一汁三菜の献立の最大の特徴

は汁も香の物も菜もすべてご

飯を食べるために存在するとい

う点かもしれないご飯が主食

でその他の3つの要素が副食

という考えが一汁三菜の根底に

ある少ない菜でたくさんのご

飯を食べご飯の量でカロリー

の摂取量を調整するのがかつ

ての和食の基本的な食べ方だっ

たのだ

「和食」にとって欠かせないご

飯についてもここで触れてお

こう

米には「うるち米」と「もち米」

とがあり強い粘性を持つもち

米は赤飯などのおこわ(強こ

わいい飯

や餅に用いられるそれに対し

てうるち米はもち米より粘り

気が少なく通常の米飯として

使われる

米のもとになる稲の栽培が始

まったのは1万年以上前とされ

野生の稲を栽培したのが始まり

と考えられているその原産地

は中国の長江流域とその周辺

という説が有力でそこから西

へ伝わった品種がインディカ種

また東へと伝わり東アジアに

広がったのがジャポニカ種だ

「和食」における献立の目的は

いわば汁と菜でご飯を食べる

ことつまりご飯に合うのなら

例えばそれが肉じゃがでもコ

ロッケでもとんかつでも菜と

して取り入れてこられたのは

ご飯を主食とする「和食」のス

タイルがしっかりしていたか

らである一汁三菜という和

食の基本型がなくなったら外

国の料理と変わらなくなって

しまうだろう

「和食」の特徴 献立のかたち1

稲 玄米 白米 調理加工

粉にする

飯餅菓子米飯焼き米ひなあられ餅おかきあられ

稲わら 俵わらづと鍋釜敷き畳床むしろわらぞうり縄みのわらぼうき など

酒酢みりん味噌発酵させる

糠 たくあん糠漬けあく抜き

(上新粉など)柏餅草餅重

お も ゆ

湯など

(白玉粉落ら く が ん

雁粉道明寺粉など)白玉最中大福餅落雁桜餅など

どうみょうじ

うるち米の粉

もち米の粉

日本人の暮らしに深く関わる稲米

 現在世界で栽培されている稲の主な種類にはインディカ種(インド型イネ)やジャポニカ種(日本型イネ)などがあるインディカは長粒種と呼ばれる米ジャポニカは日本でよく食べられている丸く短粒な米で短粒種と呼ばれる米の主成分であるでんぷんにはアミロースとアミロペクチンとがありアミロースを多く含むインディカ種は粘り気が少ないのに対しアミロースの少ないジャポニカ種は粘りが強く日本人にとってはおいしい味の米であるそしておにぎりやすしのようにまとめる米料理も発達した 世界の米の生産量は約6億トンと小麦とほぼ同じだがその90以上が日本を含むアジア諸国で栽培されているジャポニカ種は全体の15を占め日本をはじめとして朝鮮半島中国東北部台湾北部などで主に栽培されているインディカ種の栽培地域はインドからベンガル地方のバングラデシュタイをはじめとするインドシナ半島中国の中南部インドネシアなど南アジアが中心だ

ジャポニカ種とインディカ種日常私たちがご飯として食べているのはうるち米赤飯や餅にするのはもち米である栄養価はほとんど同じであるがでんぷんの構成が異なるうるち米はアミロースとアミロペクチンの比率が約28であるがもち米はほとんどアミロペクチンで構成されているそのためにもち米はうるち米に比べて粘りが強く餅にするのに適しているのである日本では両方の米の特徴をうまく利用して粒のまままたは粉にするなどしていろいろな料理や菓子を生み出したり発酵させて酒やみりんなどをつくり出したりしてきた

うるち米ともち米

インディカ

ジャポニカ

「和食」に欠かせない

米はどこから来たのか

1920 WASHOKU

全国各地でさまざまな魚や野

菜が豊富に手に入ったことそ

して文明開化の時代まで一般

的に肉食をしなかったという背

景から「和食」は野菜と魚介類

を中心に調理されてきた

現在日本の市場で流通する

野菜の数は150種類ほどと言

われているその種類はイモ類

やマメ類をはじめ根菜類茎け

いさい菜

類葉菜類果菜類など実に多

様ださらには山菜やきのこ

など森林に自生するものも調

理に工夫することでうまく食材

として取り入れてきた

日本で流通する野菜は近代

になって外国から輸入されたも

のや品種改良によって食べや

すくなったものなど多様では

あるが昔から日本で作り続け

られている伝統野菜(在来野菜)

も少なくない伝統野菜とはだ

いたい三世代以上に渡って栽培

「和食」の特徴2

食材

和食を支える日本の食材

おいしさの秘密と多様性

おいしい和食には素材の力がある四季折々の自然の中から

生み出される日本の食材は驚くほど多様性に富んでいる

野菜

野菜と魚介類の二大食材に

支えられる日本食文化

和食には野菜を使う料理が多くあるが現在日本で流通する野菜の種類も150以上と幅広い分類にしてもジャガイモやサツマイモなどのいも類大豆や小豆などのマメ類ダイコンやカブなどの根菜類ネギやウドなどの茎

け い さ い

菜類コマツナや白菜などの葉菜類ナスやキュウリなどの果菜類そのほかにシイタケやシメジなどのきのこやワラビやゼンマイなどの山菜など多彩な野菜が存在するしかし現代でこそ流通の発展でさまざまな野菜が一年中手に入るが全国で同じ野菜が収穫できるわけではない例えば同じいも類でもサツマイモなどは九州などで多く作られるが冷害に強く冷涼な地で生育するジャガイモは山梨や長野などの山間部や日本の北部で育てられるそのほか地域特有の特産品である伝統野菜がいま注目され始めている

1920 WASHOKU

が続けられ地域に根づいた農

法で作られるものを指しこれ

を守る動きも目立ってきている

魚介類も「和食」にとって欠か

せない食材のひとつ日本で獲

れる海水魚は実に種類豊富で

日本に生息する魚種だけでも約

4200種ある縁起のよい魚

として重宝されるタイをはじめ

アジイワシやサバサンマなど

日本の近海は魚の宝庫である

海水魚だけでなくコイやア

ユフナやウナギそして水田で

獲れるドジョウなどの淡水魚

(川魚)は海から離れた地域では

貴重なタンパク源だったため

古くから料理に使われている

ウナギの蒲焼きは一般的だが

薄切りにしたコイを50くらい

の湯に短時間漬けてから冷水で

身を締めて酢味噌で食べる「鯉

のあらい」やコイの切り身を濃

い味噌で煮た「鯉こく」など味

わい方も豊富

またうま味のもととして古

くから使われてきた昆布や味

噌汁の具としても重宝するワカ

メさらにおむすびに必須の海

苔など海藻類も和食には欠か

せない貝類も種類が豊富で

アワビをひも状に薄くむき乾

燥させた「熨の

しあわび

斗鮑」が神事や祝し

ゅうぎ儀

の象徴として使われてきた

近年日本の食料自給率が低

下し外国産食材の増加も問題

視されているが本来の「和食」

は日本の自然の恵みによって支

えられているのだ

「和食」の特徴 食材2

島国である日本において魚介類は古くから貴重でかつ重要な食材であった農林水産省の定める生鮮食品品質表示基準によれば日本で食される水産物はマグロやカツオイワシやアジなどの海水魚やコイやウナギなどの淡水魚(川魚)シジミやアサリなどの貝類カニやエビなどの甲殻類やカメなどの水産動物類クジラやイルカなどの海産哺乳動物類そのほか昆布やワカメなどの海藻類など実に多様な種類がある2000年に味の素(株)がおこなった「嗜好調査」によれば「食材」としては肉類よりも魚介類のほうが好まれている結果がみられたさまざまな魚介類のなかでもカニエビマグロなどへの嗜好性が高くそれらが「贅沢な食材」と捉えられているようである

山間部など海の魚が手に入らない地域で貴重なタンパク源として重宝されたのが淡水魚(川魚)写真はアユだがその他コイやウナギドジョウワカサギフナなど日本ではさまざまな川魚が食材として使われてきた寄生虫のおそれがあるため生食はあまりされないがその代わりに調理にはさまざまな工夫が見られる海の魚に比べると独特の臭味やクセがあるため「鯉こく」のようにしっかりと煮込むことで臭味を除いたりウナギのように蒲焼きにしたりするなどがその一例だまた例えば滋賀県には琵琶湖で獲れるフナを塩と米で乳酸発酵させ保存性を高めると同時にうま味成分を引き出した「ふなずし」もある

古来日本で食べられてきた海藻類現在でも低カロリーでミネラルビタミンに富む食材として和食では重宝されている日本では約50種類の海藻が食べられているが世界的にみてもここまで多様な海藻を加工し食用とする民族は珍しいなお海藻にはフノリやテングサのような紅藻ワカメ昆布やモズクなどの褐藻アオノリや海ブドウなどの緑藻類の3種類の海藻が存在する昆布のようにだしをとるために使うものもあるが乾燥させて食べる海苔味噌汁や酢の物の具として使われるワカメのようなものまで実に幅広いまた海藻は神への奉納品としての縁も深く日常の食事だけではなく祭りや神事などにも登場している

縄文時代の遺跡である貝塚からアワビやハマグリカキなどの大量の貝殻が発見されていることからもわかるように貝類は日本では古くから食材として利用されてきた春先の干潮時に浜辺に埋まったアサリなどの貝を掘り出して採取する潮干狩りは春の風物詩としても馴染み深い日本には6000近い貝類があるといわれておりなかでもアサリやハマグリのような二枚貝サザエやツブ貝のような巻き貝が食用として親しまれている調理法としては刺身や吸い物味噌汁煮物焼き物炊き込みご飯など幅広い料理に使用されているがだしをとるためにも使われるさらに乾物にすれば保存性も高くなるため古くから交易にも活用されてきた

海の魚

川の魚

海藻貝

2122 WASHOKU

和食における菜さ

の調理法には

煮る焼く蒸す茹でる和あ

える

揚げるなど実に多様な技法が

あるこれを季節の野菜や山

菜魚介類海藻などの食材と組

み合わせることでバラエティ

に富んだ菜が食卓を彩る

数ある日本の調理法の中で

最も特徴的なのは「生もの」材

料を生のまま切り皿に盛り付

け調味料と薬味を添える刺

身といえば魚介類が用いられる

のがほとんどで捌さ

き方切り方

盛り方などが現在世界で注目を

浴びている材料を新鮮な状態

に保つ技術と料理としての盛り

付けの技術があいまって完成し

たものといえる調味料と薬味

の組み合わせも魚類との相性を

考えて工夫されているまた

わさびしょうがからしなどの

薬味や「つま」や「けん」と言わ

れる大根のせん切り大葉防ぼ

うふう風

芽めたで蓼花は

なじそ

紫蘇など防菌効果のあ

るものを添えて見た目も美し

く組み合わせている

ご飯と並んで食卓に欠かせ

ない「汁物」は鰹節や昆布煮干

し干し椎茸などから抽出され

るだしのうま味と具として入

れる素材のうま味が味わいのベ

ースとなっている中には具だ

くさんの菜になるような汁も

ある

また豊富な水を利用した調理

焼き物(サンマの塩焼き)

直火焼きは遠火の強火でほかに間接焼きがある

生もの(カツオの刺身)

生ものには刺身あらい酢の物漬物がある

茹で物(もりそば)

小麦粉やそばなどの粉からつくる麺を茹でる法

旬の食材のおいしさを

引き出す調理法の数々

「和食」の特徴3

調理

切る煮る焼く蒸す茹でる和える揚げるhellip

あの手この手で素材をよりおいしく

バランスの取れた一汁三菜の基本はご飯にあり

ご飯をおいしくいただくために菜さ

の調理方法は進化した

煮物(筑前煮)

煮汁の中で加熱中に調味する法

2122 WASHOKU

法に「茹で物」があるたっぷり

の水を沸騰させ食材を加えて加

熱して取り出すもの青菜そば

などは茹でた後にあくの除去

歯触りを良くするなどのためさ

らに水で洗う場合も多い私た

ちがあたりまえのように調理し

て食べているほうれん草や小松

菜のお浸しは水に恵まれた日本

に定着した料理で世界的にみて

も特徴あるものといえよう

「焼き物」はサンマの塩焼きの

ように塩をふり直火でじっく

り焼き上げる方法が伝統的

「煮物」は世界で最もポピュラ

ーな調理法だが日本では素材

の味を生かしつつ醤油や味噌

など大豆由来の発酵調味料で

味を調えるものが多い

油とともに加熱調理する「炒

め物」は伝統的な調理にはほと

んど見られないが現代では盛

んに使われ和食の幅を広げて

いる

ここに紹介した調理法と料理

の例は主にご飯のおかずとな

るものであるが小麦そば雑

穀などを粉にしこれを調理し

た主食も多い代表的なものに

うどんそばそうめんなどの麺

類があり茹でる場合が多いが

煮込みなど煮るものもある

さまざまな料理を組み合わせ

て食べる和食は素材の味を生

かしうま味をしっかりとれば

最低限の調味料でおいしさを感

じることができ多様な料理を

楽しむことができる

和あえ物

(きゅうりとワカメの酢の物)

野菜や魚介類などをごま味噌酢などで和える法

漬物(きゅうり大根の糠

ぬか

漬け沢たく あ ん

庵漬け)生ものを保存する方法の一種

塩の働きに加え乳酸発酵させたものが多い

汁物(なめこの味噌汁)

だし汁を主体とする法すまし汁みそ汁とろみのついた汁など

蒸し物(茶碗蒸し)

水を沸騰させその水蒸気を利用して加熱する法

浸し物(小松菜のお浸し)

お浸しは調味した汁に浸して味をつけたもの

「和食」の特徴 調理3

揚げ物(天ぷら)

高温の油で食品を加熱する法油の温度は150~200度の範囲で行うことが多い

2324 WASHOKU

「和食」の特徴4

味わい

うま味日本人が発見した「おいしく食べる」最大の知恵

和食の味わいの中で最も重要なのがだし

味噌汁やすまし汁のベースとなり

煮物やおひたしなどさまざまな料理の

味を決定づける味の要だ

和食の味わいを語るうえで忘

れてはならないのがだし(出

汁)の存在汁物や煮物などさ

まざまな料理のベースとして使

われている

なぜ日本人はここまでだしを

好むのかその答えに大きく関

係するのが「うま味」だ江戸時

代の料理書には「だしこそ料理の

根本である」と書かれている

1907年池田菊き

くなえ苗

博士に

よって世界で初めてうま味成

分のひとつがアミノ酸の一種で

あるグルタミン酸であることが

発見されたその後日本人を中

心に研究が進みうま味は甘味

塩味酸味苦味に加えて第5

の味覚として広く知られるよう

になる現在ではうま味調味

料やだし入りのつゆなどうま

味成分を手軽に使える調味料も

普及海外でも人気が高く国

内でも日常的に使用されている

だしのほかに和食の味付け

日本が世界に誇る

第5の味覚うま味

うま味成分を多く含む椎茸もだしをとる目的で使われてきた食材のひとつだしに使用するのは干したもの椎茸は乾燥させることでうま味や香り成分が増すためだ

小魚を煮て乾燥させてつくる煮干しも汁物に多用される材料としてはカタクチイワシが代表的だがその他ウルメイワシやキビナゴトビウオなどの比較的魚体が小さな魚を使ってつくるのが一般的だ

だしのとり方は魚介や野菜から水や湯を使ってうま味成分を抽出するのが一般的だしの素材として最もよく使われるのは昆布と鰹節でそのほか煮干し野菜干し椎茸魚の内臓やあら(頭や骨)などがあるまた潮

うしおじる

汁のように食品そのもののうま味を活かす方法もある

鰹節

「だし」のこと

昆布

煮干し

干し椎茸

2324 WASHOKU

に欠かせないのは塩砂糖味

噌醤油酢酒みりん魚醤な

どの調味料わさびやからし

しょうが山椒とうがらしゆ

ずなども薬味として使われる

これら薬味によって季節感を楽

しみながら素材の味を引き出

すという知恵も「和食」ならでは

夏に高温多湿となる日本では

アジア諸国と同様発酵食品が

発達したそれゆえ味噌や醤

油や酢に代表される発酵調味料

を多用するのも和食の特徴大

豆や穀物を塩漬けにして発酵

させてつくるものだがその過

程で原料のタンパク質がアミノ

酸に分解されうま味成分を豊

富に含んだ調味料ができあがる

のだ

発酵食品も多様だ日本各地

でカビや酵母などの微生物の

働きを活かして食品中のアミ

ノ酸(うま味)を増やす発酵食品

が発達してきた冬場の保存食

として生み出された沢庵や塩

を使って乳酸発酵させる京都の

すぐき菜漬けそして糠ぬ

漬けや

奈良漬けなど野菜を発酵させ

た漬物さらに塩辛やくさや

なれずし鰹節など魚介の保存

食としての発酵食品また大

豆を納豆菌で発酵させる納豆や

こうじ菌で発酵させて乾燥後に

熟成させた寺納豆など大豆の

発酵食品もある

「和食」はうま味を上手に生

かし食材をおいしく食べる知

恵を育んできたのだ

発酵食品

発酵調味料

調味料

「和食」の特徴 味わい4

発酵食品と調味料

魚醤魚を塩漬けにして発酵させる独特の香りと濃いうま味が特徴の調味料ハタハタでつくられる秋田の

「しょっつる」イカやイワシを材料とする能登半島の「いしる(り)」などがある

酒酒もまた和食の調味に欠かせない発酵調味料のひとつ調味料としての酒の主な効果には材料の臭みを消す食材のうま味を引き出して風味をよくする甘みを加えるなどがある

塩海に囲まれている日本では古くから塩は調味料として使用されてきた焼き物や刺身などの調理の味付けとしてはもちろん漬物や干物など食物を貯蔵するための知恵としても活用されている

味噌蒸したり煮たりした大豆にこうじ食塩を混ぜて発酵熟成させた日本を代表する調味料のひとつ味噌汁や煮物などに使われることが多い地域によって使用される味噌の種類がかなり変わるのも特徴だ

酢寿司やなますなど和食に酸味を加える調味料米から醸造した酒に酢酸菌を加えて発酵させて造られる酢に漬けることにより保存性を高める

醤油大豆と小麦で造ったこうじに食塩水を加えた「もろみ」を発酵熟成させ搾ったもの刺身や焼き魚煮物炒め物など幅広い料理に使われている種類は濃口薄口たまり再仕込み白の5つに分類される

みりん蒸したもち米と米こうじを主原料に40~60日かけて熟成させて造られる発酵調味料砂糖と比べて甘みがやわらかく食材の臭味を取る働きもあるまた魚の照り焼きなどのつや出しにも使う

漬物素材を食塩や酢酒粕醤油などに漬け込み熟成させて作られる漬物沢庵や梅干し野沢菜漬けなど野菜類を長期間保存するための知恵として誕生した日本各地に独特の漬物があるのも特徴だ

納豆日本で発展した発酵食品である納豆大豆を納豆菌で発酵させた食品で寺納豆(下記参照)と区別するため「糸引き納豆」とも呼ばれる単品で食べるだけではなく納豆汁や納豆和えなどにも使われている

塩辛魚介類の身や内臓を塩漬けにし発酵させて作られた塩辛は日本における伝統的な保存食品のひとつ使われる素材はその地域によって変わりイカやエビアミタコなど多彩な種類の塩辛が存在する

塩に漬けた魚と炊いたご飯を数日間置き乳酸発酵させたなれずしは魚を保存する知恵として生まれた滋賀県では琵琶湖産のふなを和歌山県や富山県ではサバを岐阜県などではアユを材料にしたものが有名写真は滋賀県湖北地方の年頭の祭りで振る舞われる鯖のなれずし

砂糖世界的に見ても「甘み」を用いた料理が多い現在の和食では砂糖は欠かせない調味料のひとつ単独で料理に使われるというよりは煮物をはじめとするさまざまな料理で醤油や塩味噌などと併用されることが多い

寺納豆茹でた大豆にこうじを加えて発酵させ乾燥させながら熟成を促す発酵食品粘り気のある糸引き納豆とは異なり乾燥して塩辛い禅宗の伝来とともに大陸からもたらされたとされ寺院で作ることが多かったため「寺納豆」と呼ばれた

2526 WASHOKU

「和食」の特徴5

栄養

栄養バランスの優等生「和食」

野菜や魚肉そして米によって構成される「和食」は

栄養バランスの良さでも知られている

最近は五日間すべてを米飯にする完全米飯給食を行う地域も生まれた

和食の特徴のひとつである栄養についてその秘密に迫る

米麦雑穀などを炊いたご飯

を主食としてこれに魚介肉

類野菜類に発酵調味料だしを

組み合わせた和食は栄養学的

にみてもバランスをとりやすい

食事である

歴史的にみると日常食では

主食を大量に摂る習慣が続いた

穀類偏重の食生活だったといえ

よう

しかし豆腐や納豆みそ汁な

どを飯とともに摂ることで米の

アミノ酸の利用率を上げる食べ

方年中行事などハレの日に魚

介類などを摂取して楽しむなど

学ぶべき知恵は多い

なかでも何百年も伝えられて

きた和食の基本型はすぐれた

ものといえよう

副食の主菜には魚肉豆腐

などタンパク質を多く含む料理

を考える副菜には主菜に使わ

なかった野菜芋類などを使い

汁は主菜に合うものを用意する

焼き魚野菜の煮物青菜のお浸

しとみそ汁などでも栄養的バ

ランスはとれている

1980年頃までは多くの

家庭で和食の基本型が続いた

主食の量がやや減り副食が増

加とくに乳乳製品肉類の割

合が増加したこの頃栄養バ

ランスをはかる一つの指標であ

るPFCバランスが理想的な比

率を示した(左記参照)

しかしその後外食の日常化

家庭料理の欧米化が進み米の

摂取量が激減し脂質摂取の過

多などから生活習慣病が問題

となったこうした中各地で

食生活を見直す動きがみられる

ようになったその一つが学校

給食での取り組みである

戦後の食料難の中でパンと

牛乳に副食を加えた完全給食は

1950年に始まった197

6年に米飯が導入されるまで長

く続いたパン給食は和食の基

本型にも影響を与えたようだ

米飯給食は次第に増加し

2010年には週3回以上米

飯給食を実施している小中学

校は90以上となったが週5

回の米飯給食の実施は7以

上と高くない

ここでは2008年に5日

間すべてを米飯給食とした新潟

県三条市の事例を紹介しよう

成長期にバランスのよい食事

で健康な体をつくることそし

て望ましい食習慣を身につけ

生涯を健康に生きることをめざ

し完全米飯給食を実施したと

のこと

米は同市で生産される農薬

を減らしたコシヒカリを七分搗つ

きにした米飯を主食に副食は

主菜副菜汁を組み合わせる献

立をベースとしている主菜は

サケのフライ鶏肉ピリ辛焼き

さんま梅煮など伝統的な和食だ

けではないが和食の基本型の

中に取り入れる工夫がされてい

るパ

ンは油脂や糖分と相性が

良く肥満につながりやすいが

新潟県三条市の給食献立一例三条市の小中学校での献立例ご飯は三条市で収穫したコシヒカリを使用「お米だと腹持ちがよいのでデザートをあまり出さなくとも子どもたちが満足してくれる」とのこと洋風や中華風の献立でもおかずはご飯に合うものを選びスープなどの汁物は確実につけるように心がけている

火曜日

えだまめごはん

さけチーズフライ

くきわかめきんぴら

かきたまじる牛乳

小学校687kcal中学校823kcal

水曜日

ごはんとりにくのぴりからやきいかときゅうりの

あえものしょうがみそスープ牛乳小学校639kcal中学校752kcal

木曜日

ごはんさんまうめにたくあんあえにくじゃがに牛乳なし小学校688kcal中学校814kcal

金曜日ごはんカレーふりかけほうれんそうオムレツフレンチサラダパンプキンスープ牛乳小学校708kcal中学校833kcal

月曜日

ごはんいかのかりんあげ(2こ)

なっとうあえきのこけんちんじるのむヨーグルト

小学校619kcal中学校731kcal

2526 WASHOKU

七分搗米の飯は腹持ちがよく

おやつを食べる子どもが減った

だけでなく肥満の子どもが減

少傾向となり食生活のリズム

が良くなったとされる

また米飯に合う副食は土地

でとれる野菜類を取り入れやす

く季節にあわせてバラエティ

ーに富んだ献立を作ることがで

きる一汁三菜の食べ方の教育

を行った結果給食を残す子ど

もたちも減ったという

基本的な食事パターンが続く

中でも菜を工夫すれば変化に

富む食事を作ることはできる

季節の食材について学び年中

行事への知識も得られるだろう

また子どもたちが和食の基

本型を毎日の給食で体験してい

ることはきわめて重要なことで

ある時々経験するだけでは身

につかないものでも毎日繰り返

すことによって習慣化し定着

するのであるそしてやがて

自分で組み合わせを考えられる

ようになることが期待される

今後の学校給食の役割は大きい

といえるだろう

PFCバランスとは

FAO Statistics Yearbook(日本のみ食料需給表)参照栄養バランスが良いとされるP(たんぱく質)10~20F(脂質)20~30C(炭水化物)50~70の範囲が08~12に収まるように指数化した

日本でのPFCバランスの変化

アメリカとフランスのPFCバランス

タンパク質脂質炭水化物は人間にとって特に不可欠な「三大栄養素」PFCのPはProtein(たんぱく質)FはFat(脂質)CはCarbohydrate(炭水化物)の頭文字でPFCバランスとは食事の中での「たんぱく質」「脂質」「炭水化物」のそれぞれの摂取カロリーの比率健康的な生活をおくるためにはPFCバランスがたんぱく質15脂質25炭水化物60が理想的

給食時には全員で「いただきます」「ごちそうさま」を復唱食育にも力を入れているためそれら言葉の意味についても学校で教えている

米飯給食になってから児童たちの食の嗜し こ う

好に変化が生まれたとか児童たちに好きなおかずを聞いてみると「ハンバーグ」「カレー」などの定番メニューのほか「焼き魚」「納豆」などの和食メニューの名前が上がった

自分の分を食べ終わった児童たちが列をつくって競い合うようにご飯をおかわりしていたこの日の食べ残しはゼロ

C

P

F

14

12

1

08

06

アメリカ(2005~2007年)

C

P

F

14

12

1

08

06

フランス(2005~2007年)

「和食」の特徴 栄養5

日本人のPFCバランスは1965年当時は炭水化物に偏っていたが1980年は非常に理想的な配分になっていたしかしその後の日本人の食生活に肉や油脂類を多く摂り主食の米を食べる量が減り2010年時は欧米型に近づきつつある

C

P

F

14

12

1

08

06

日本1965年

C

P

F

14

12

1

08

06

日本1980年

C

P

F

14

12

1

08

06

日本2010年

2728 WASHOKU

お客を迎える前には店先に打ち水を水で清め準備が整ったことを伝える趣向に合う軸を選ぶのももてなしの基本飾る花は主人自ら育てたものそれを床の花入に活けるのも主人庭に150種ほどの草花を植え日々育てることもしつらいの準備客は女将の温かいもてなしに迎えられる

「和食」の特徴6

しつらい

人をもてなすためのこころとかたち

もてなしは客に対する一方的なサービスではない

お互いに思いやる気持ちから生まれるこころよさである

手入れの行き届いた庭は掃き

清めて水を打ち床の間には軸

を掛け季節の草花を生ける

座敷の襖ふ

すま

も夏には葭よ

しど戸に入れ替

え夏は涼やかに冬は暖かに

すべて相まってもてなしのた

めの用意を整えることそれが

しつらい和食とりわけ懐石

料理においては食材や料理と

ともにしつらいは非常に重要

な要素となる

家庭でも食事をつくる人は

食べる人の顔を思い浮かべなが

ら食事の用意をする食べる人

はつくってくれた人の気持ちを

考えて賞味するここに互いに

もてなす喜びが生まれるのでは

ないだろうか

こうしたもてなしの文化を極

限にまで洗練させた姿が料亭の

もてなしである京都府の無形

文化技術保持者に料理人として

初めて認定された京都の老舗料

亭「瓢亭」の十四代主人高橋英一

さんにその心を聞いてみよう

「料亭は日本文化の凝縮のひと

つと言えます玄関から入って

座敷に行くまでに通る露地にも

季節感があり部屋に入れば時

季や行事の軸がありその座敷

のために選んだ花が飾られる

日本人が自然と身につけている

桜の器を使うことで膳の上にぱっと花が咲くような華やかさが生まれるあしらいは酢取り防風岩海苔

秋の花菊の器はこっくり深い色合いも相まって秋に似合う風情を持つあしらいは岩茸菊花

深さのあるガラスの器に氷が敷き詰められる涼感を目でも舌にも感じるあしらいは穂紫蘇寄せ莫大

縁起のいい鶴は新年の席でも使われるモチーフあしらいは水前寺海苔紫芽紫蘇

四季の感性で受け止めてもらえ

るよう整えお出迎えします

料亭は普段とは違うハレの場で

すがとはいえ行き過ぎず足り

ないことのないよう自然なし

つらいそしてもてなしを心が

けます」

「瓢亭」の座敷に飾られるのは

主人が庭で丹誠込めて育て自

ら生ける茶花

「もてなしの根

底に利休さんの『花は野にある

ごとく』の言葉を思いますが簡

単なようでそれが難しい」自

然体でのもてなしを生むしつら

えは名店においても日々心を

くだき工夫するのだ

「瓢亭」では1年をとおして明石の鯛の向付を供しているが季節ごとに

器とあしらいを変えることで四季を演出している

四季の演出

2728 WASHOKU

和食はご飯と菜あるいはご飯とお汁というように常にご飯を間にはさんで菜や汁をとるのが本来の食べ方下のような不作法とされる箸使い(嫌い箸)があるので覚えておきたい

ご飯は茶碗に味噌汁はお椀

に焼き魚だったら平皿にと普

段料理に合わせて何気なく使う

食器種類の多さもさることな

がら形や素材もさまざま欧

米はもちろん近隣諸国を見回

してもこれほど多種多様な器を

使う国はないそれは四季が明

確なことと無関係ではない

「自宅でも季節に合わせた器

にするだけで気分が変わりま

すよ」と前出「瓢亭」のご主人は

語る 

春であれば華やかな色や形の

もの夏はガラスや青磁など涼

しげな素材の器秋は実りのあ

る彩りがあるもの冬は厚手の

陶器や木製など温もりのあるも

の色素材形を変えるだけで

季節感を演出できる「和食」な

らではの楽しみ

食事の際当たり前のように

使っている箸も日本の食文化

を代表する食具奈良時代以

降匙さ

を使う伝統が消え箸だ

けを使うようになったため熱

い汁物は椀を持ち直接口を

つけてすする文化が確立同

時に椀箸ともに個人所有が基

本となった椀や箸を共有し

匙やレンゲを使うほかの東南

アジア諸国とは異なる食文化

を形成箸食文化圏の中でも

唯一箸だけでご飯を食べる国

となったまた一口に箸といっ

ても食箸取り箸菜箸など用

途に合わせてさまざま食べ

る際に使う食箸だけを見ても

形や素材のほか加工や長さも

豊富にそろうのだ

「和食」の特徴7

箸と椀

「和食」を支える箸と椀

箸食文化圏の中でも唯一箸だけを使う国日本

季節感を感じさせる器とともに独特の食具文化も誇る

渡し箸食事の途中でお箸を

食器の上に渡し置くこと

寄せ箸遠くの食器を

箸で手元に引き寄せる行為

指し箸食事中箸で人やものを指すこと

迷い箸どの料理にしようか迷い箸を料理の上で動かすこと

移り箸いったん取りかけてから

ほかの料理にお箸をうつすこと

箸には食事に使う食箸と調理に使う菜箸とがある菜箸は熱から手を守るため30~50と長く片方がなくならないよう糸でつながっているものもある取り箸は菜箸の一種食箸は個人所有が基本のため使う人に合わせた長さが用意されている漆塗りや螺鈿細工を施したものも多い

種類

形状だけでなく素材もさまざまで近年は黒檀や鉄木など硬質な木が使われることが多い日本の木としては特有の香りがあり古くから懐石用や割り箸に使われてきた杉耐水性耐湿性が高く保存性に優れる上に軽くて持ちやすい檜強くしなりがあり細かいものを取りやすい竹などがある

素材

家庭で使う食箸の形には角箸や四角で角が丸い胴張り五角六角七角八角のほか削りなどがあり持ちやすさに合わせて選べる箸先に加工が施されたものもある来客用に使う銘々箸や割り箸には断面が小判型で割れ目と溝が付いた元禄箸や中央部が太く両端が細い利休箸などが用意されている

日本人にとっての箸は調理から盛りつけ食事までをこなす大事な道具食箸は個人所有が基本のため個々に合わせて選べるのも特徴だ

箸の働き

箸使いの作法を知る

【嫌い箸】

食箸

八角箸 削り箸

菜箸

檜竹

「和食」の特徴 しつらい 箸と椀6 7

2930 WASHOKU

神し ん せ ん

饌として神へ供えられるお神酒は神棚の最上段の中央に置かれるほど重要な地位を占めている

日本酒を造る酒蔵は全国に約1600弱その数は年々減り続けているが数年に一度「日本酒ブーム」も起きている

日本酒とは米と米こうじ

そして水を主な原料にしてそ

れらを発酵させて造られる

原料には主食用の米ではなく

酒造りに適した性質を選び品

種改良された酒し

ゅぞうこうてきまい

造好適米を使

うことが一般的だまた日本

酒の80を占める水も品質を

左右する大きな要因日本酒

の香味を損なわない良質な水

が必須だ

日本酒の醸じ

ょうぞう造の工程にはさ

まざまな技術が伴う例えば米

を精米して味と香りを調整する

技術これは米の外側にあるた

んぱく質や脂質といった雑味の

もとを除くことが目的だが大だ

吟ぎんじょう醸酒にもなると米を半分以

上削ってから仕込むこともある

次いで米を発酵させる技術

酒の場合の発酵とは酵こ

うぼ母が糖類

を食べてアルコールを出すこと

をいうが米には糖類が含まれな

いためまずは米をこうじ菌の酵

素によって糖類へと変えそこに

酵母を加えて発酵させるという

複雑な手順(複式発酵)が必要だ

この手順で使われるこうじもバ

ラこうじと呼ばれる日本独特の

ものだバラこうじは糖化力が

高いのが特徴で日本酒の香りや

味に大きく影響する

稲作を中心に文化を育んでき

た日本では米餅米から造ら

れる酒は地域を問わず重要な

ものとされている米の一粒一

粒に神が宿り同じように酒も

神のおかげで造ることができる

と考えられてきたそして酒

もまた食べ物と共に神に近づ

くための手段として古くから用

いられてきた

同時に家族や親族地域で人

と人をつなぐ上でも酒は大き

な役割を担っている例えばお

神み

き酒祭礼の後には神の酒を

人々が口にする神と同じ酒を

飲みそれを人々が分かち合う

ことで地域やコミュニティが

結束力を強めるのだろう

米や麦やさつまいもなどを原

料とする焼酎も日本酒と並び

日本の國酒とされている酒は

人と人の心をほぐし食事を引

き立たせる重要な役割を担って

いるのだ

「和食」の特徴8

「和食」を引き立たせ

心をほぐす日本の酒

日本人にとっての主食であり精神のかなめでもある米

その米で醸か

される日本酒は「和食」にとって欠かせない要素

日本の「國こ

くしゅ酒

」にもなっている

2930 WASHOKU

「和食」の特徴9

和菓子日本茶

暮らしに寄り添う和菓子とお茶

自然の恵みに感謝し季節の移ろいを敏感に表現する和菓子

日本茶は喉のかわきを癒すだけでなく心を癒し心を高める飲みものである

「和食」の特徴 酒 和菓子8 9

ハレの日の願いを込めた和菓子

和菓子分類餅もの 餅団子大福など蒸しもの 饅頭蒸羊

よ う か ん

羹外う い ろ う

郎村む ら さ め

雨など煉もの 煉

ね り き り

切こなし求ぎ ゅ う ひ

肥飴葛く ず

菓子など焼きもの 味噌松風煎

せ ん べ い

餅桃も も や ま

山カステラどら焼など流しもの 錦

にしきだま

玉煉ね り よ う か ん

羊羹水み ず よ う か ん

羊羹など揚げもの 揚げ煎

せ ん べ い

餅かりんとうなど打ちもの(押しもの) 落

ら く が ん

雁など岡もの 最

も な か

中きんとん鹿か の こ

の子すはまなどかけもの 金

こ ん ぺ い と う

平糖五ご し き ま め

色豆石いしごろも

衣など

これは和菓子の製法によって大まかに分類した表このほか含有する水分量によって生菓子半生 菓 子 干 菓 子などの分け方や上じ ょ う な ま が し

生菓子並菓子駄だ が し

菓子などの分類もある

「岡もの」とはすでにできあがっ た素材をあわせたもの (例きんとん=飴玉とそぼろ餡)

甘く味付けしたごぼうと白味噌餡を赤や白の餅や求

ぎ ゅ う ひ

肥で包んだ生菓子平安時代の新年行事のひとつで長寿を願っておこなわれた「歯固め」の餅に由来する餅と味噌の組み合わせから「包み雑煮」とも呼ばれた

葩はなびらもち

一 月

旧暦十月は「亥の月」と呼ばれていたがその月のさらに「亥の日」に行われる年中行事の際に食べられていた菓子旧暦では10月が冬の始まりそのタイミングで無病息災と多産の猪にあやかって子孫繁栄を願ってこれを食べていたという

亥い の こ も ち

の子餅

十 月六 月

白いういろうの上に小豆の粒餡を散らした菓子古来京都で旧暦六月の晦

み そ か

日(30日)に無病息災を祈願して行われている

「夏なごしのはらい

越祓」になぞらえて初夏の頃に食べられている小豆には邪気祓いの意味があり三角の形は氷を表している

水無月

五 月

平たく丸めた上新粉の餅をふたつに折り中に小豆や味噌の餡を挟んでそれを柏の葉で包んだ菓子柏の葉は新芽が育つまで古い葉が落ちないことから

「子孫繁栄」を願って旧暦五月五日の端

た ん ご

午の節句の供く も つ

物として用いられてきた

柏餅

日本ならではのお茶の製法である手揉みは茶葉の繊維をつぶしながらうまみを引き出すために行う作業手揉みすると茶葉が切れないため茶の甘みを保つことができる

菓子もまた「和食」にとって欠

かせない要素でお客様用の「上

菓子」普段食べる「饅頭」や「餅

菓子」などに分かれるほかに

干菓子や駄菓子など菓子の種

類は多いまた例えば団子や

大福などは「餅もの」求肥や飴

などは「煉りもの」錦玉や

水みずようかん

羊羹などは「流しもの」などと

いうようにその製法によって

分類されることもある米や麦

小豆を代表とする豆類そして

砂糖や水あめなどの材料でバ

ラエティに富んだ菓子が生み出

されてきた

お茶会などの席で抹茶ととも

に味わう菓子もあり季節に合

わせて材料や色やデザインが選

ばれ味覚だけでなく視覚で楽

しむこともある

また年中行事と結びつく菓

子もある例えば旧暦三月三日

の「ひな祭り」では邪気をはら

い強い生命力を象徴するよも

ぎの草もちでつくった草餅を食

べる

和菓子には日本茶がふさわし

い緑茶は12世紀に中国から日

本に伝わったが今では生の茶

葉を蒸してから揉んで乾燥させ

る緑茶の製法は日本独特のもの

となっている緑茶に含まれる

カフェインは覚醒効果がまた

カテキンには抗酸化作用があり

ビタミンCも多く含まれて健

康によい日本茶独特の香りと

うま味は日本文化そのもので

ある

出典「和菓子の歴史展」第五十回虎屋文庫資料展より

3132 WASHOKU

日本の「和食」の文化は自然

環境だけでなく海外からの影

響によっても絶えず変化して

きた

近代以降にはコロッケとん

かつなど洋風料理を和食の基本

型に組み合わせた食事肉と野

菜の煮物や和え物などそれまで

にはない料理が工夫されたそ

の多くは和食の基本型味噌や

醤油を用いた味付け箸で食べ

られる料理など「和食」の要素

を保ちつつ伝えられてきた

しかし第二次世界大戦後高

度経済成長期を迎えると日本人

の食生活は急速に変化する

1970年代にファストフー

ド店ファミリーレストランが

各地に開店しコンビニなども

広がった

1980年頃主食と副食の

バランスは理想的とされたが

(26頁参照)その後米の消費量

はさらに減りパン食が増加

肉類油脂乳乳製品の消費量

も増加し食料自給率も下がっ

た家族での外食が日常化し

家庭の食事も欧米化した

食育の必要性

「和食」が危ないどうしたら伝えられるのか

この150年間で大きく変化し「和食」はいま衰えつつあるその原因はどこにあるのだろうか

食生活の変化

日本の食料自給率の変化農林水産省「食料需給表」より作成

日本のものを食べなくなって 「和食」はどうなる 日本の食料自給率は下がり続けている1965(昭和40)年度はカロリーベースで73だったが2012(平成24)年度は39その大きな原因のひとつは国内で自給可能な米や魚や野菜などの消費量が減少する一方国内で生産が困難な飼料穀物を食べて育つ畜産物や原料を輸入に頼ることが多い冷凍加工食品や小麦の消費が増加したことだと考えられている炭水化物たんぱく質脂肪分をバランスよく摂取する健康的な「和食」に未来はあるのか

国民一人一日当たりの供給純食料農林水産省「食料需給表」より作成

食べる米の量が50年で半減 増えたのは肉と乳製品 国民一人あたりが食べる量を品目別に眺めて分かることそれは日本人が食べる米の量が著しく減ってきたことだ1960(昭和35)年度は一日あたりの米の消費量は約315gだったが2010(平成22年)年度は163gに約半減その代わりに増えたのは牛乳乳製品(約60gから約240g)と肉類(約14gから約80gへ)野菜と魚を中心としたおかずでご飯を食べるという

「和食」のスタイルの変化がわかる

食料費における外食と中食の割合の推移総務省統計局「家計調査年報」より作成

家で食べても 調理することが減っている 外食に対して家庭で作って食べる食事を内食というが弁当や惣菜など調理をせずに食べられるものを買ってきて済ます食事は中食と呼ぶ実はこの中食の割合が増えている外食が占める割合は2000(平成12)年以降横ばいなのに対して中食は増え続けその代わりに内食が減っている食事は家で食べても調理はしないという家庭が増えているのだとすれば「和食」にとって大切な要素を子どもたちに伝える機会が減っているとはいえないだろか

食料自給率(金額ベース)

食料自給率(主食用穀物)

食料自給率(カロリーベース)飼料自給率

米 野菜 肉類牛乳乳製品 魚介類

内食 中食 外食

(g人日)

3132 WASHOKU

50

55

60

65

70

75

01992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012

70

75

80

85

90

95

01992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012

一日に一度はお米を食べないと気がすまない人の割合博報堂生活総研「生活定点2012」

お正月におせち料理を食べた人の割合博報堂生活総研「生活定点2012」

一日に一度は米を炊いたご飯を食べなければ気がすまない人の割合が実はこの20年間で減っているというデータがある1992(平成4)年には714だったが2012(平成24)年には564にまで落ち込んでいるのだ

家族や親族で集まっておせち料理を囲みながら新しい一年の無事を祝うお正月実はおせち料理を食べる人も毎年少なくなっている1992(平成4)年には866だったが2012(平成24)年には748だった

電子レンジの普及や冷凍食品

インスタント食品などにより

食生活は便利になったが家庭

内で調理をする機会が減ったと

もいえる

こうしたなか「和食」の優れ

た点をどうしたら伝えられるの

だろうか親から子へ家庭の食

を伝えるだけでなく学校を通

して子どもたちにさらにその

親の世代にも伝える必要があろ

う高齢者からは「和食」につ

いて具体的に教わることも求

められる

離乳期からの食べ物の選び方

幼児期の食経験を豊富にするこ

となどはとくに重要であろう

小さな頃からの食習慣はその

後の食習慣に大きくかかわって

くるからだ

だしのおいしい味を日々体験

することや魚を味わい骨を箸

でとる訓練を楽しい雰囲気のな

かで教わることなどその積み

重ねの中で「和食」は伝わるので

あろう

経験しない味は異文化とと

らえられるであろうし体験し

ていない調理は簡単でも難しく

感じる食事を用意する過程を

日々見る経験手伝う楽しさ美

しい食器を大切にして使うこと

同じ食べ物を家族や仲間と味わ

い祭りや花見などで共に食べ

る経験を積み重ねることは文

化としての「和食」を伝えるだけ

でなく生きる力を育むことにも

つながるであろう

壁にではなく居間に向かって設置されることが多くなった現在のキッチン夫婦共働きだというこの家庭では夫が厨房に立つことも少なくないというこのように食事の準備を子どもと一緒に行うことで「和食」にとって大切な要素が次の世代に伝えられるようになるのだろう

世帯あたり1ヶ月間の穀類支出金額内訳

1962年3434円

パン

麺他

2010年6373円

パン

麺他

ご飯を食べなくても平気 そんな人が増えている

お米よりパンと麺 その傾向が加速中

おせち料理を食べる派が 毎年ジワリ減少中

1962(昭和37)年度には8割以上を占めていた米への支出が2010(平成22)年度にはパンにとって代わられる米の消費量はパンより多いが家庭では炊飯する必要のある米よりすぐに食べられるパンや麺の支出が多くなり家庭での料理が減っていることを示しているともいえよう

総務省統計局「家計調査年報」より作成

いただきます

ごちそうさま

「和食」の未来

今世紀に入ってから世界に和食ブー

ムが起きている味わいやヘルシーさに

注目が集まり世界中のいたるところに

日本食の店が数多くある

そのように世界から注目される「和食」

だが本家本元の日本国内でその将来が

危ぶまれている

これまで見てきたように「和食」には

新しいものを柔軟に取り込む歴史があっ

た日本人は太古の昔より外国からも

たらされた食文化を自分たちの食生活に

取り込んで日本独自の食文化を発展さ

せてきた地域ごとに地域の環境にふさ

わしい料理をつくり出してきた食べる

料理や食べ方もその時代ごと地域ごと

に変わってきた

その中で貫かれてきたことがある

豊かな自然がもたらす食材のおいしさ

を生かす調理法を工夫し味わうこと

食卓に季節感をしつらえもてなしの気

持ちを共に感じ合う食事の場を持つこ

と一汁三菜という組み合わせを食事

の基本スタイルとして健康的な食生活

をおくることお正月におせち料理を

祝いの日にお赤飯を家族と共に食べる

など食事は家族の絆となっている

豊かな自然を守る気持ちと同じように

日本人を健やかに生かし人と人をつな

いできた「和食」もまた守るべき大切な

日本文化ではないだろうか

「いただきます」「ごちそうさま」と言っ

てみるだけでも「和食」は私たちに身近

になる人と人をあたたかく結びつけて

くれる

日本人はやはりお米のご飯がおいしい

と思うだしのきいた汁でおなかも心も

癒されるこの日本人が長い歴史の中で

育んできたすばらしい財産である「和

食」がこのままなくなってよいと考える

人はいないだろう世界の中でもすぐれ

た食文化として認められた「和食」を日本

の誇りとし大切にして次の世代に受け

継いでいくきっかけにこの冊子がなれ

ば幸いである

ごちそうさま

和 食

1718 WASHOKU

「和食」の特徴1

献立のかたち

「ご飯」を食べるために

「汁」と「菜」がある

「一汁三菜」が和食の基本型

「一汁三菜」とは「ご飯」と「汁」と「香の物」に

いくつかの「菜」が添えられるという組み合わせ

「ご飯」と「汁」と「香の物」に「お菜」が3品添えられるという献立が一汁三菜この場合は焼き魚(右奥)と煮物

(左奥)と小松菜のおひたし(中央)の3つの菜で構成される向かって手前左にご飯を手前右には汁をその間に香の物をそれぞれ置くという決まりになっている

1718 WASHOKU

米を炊いた「ご飯」昆布や鰹

節などでとっただしを味噌や塩

などで味付けした具入りの「汁」

塩漬けやぬか漬けや粕漬けなど

の「香の物」そして焼き物や煮

物や和え物などの「菜」その4

つの要素で構成される「一汁三

菜」という組み合わせがある

基本的には汁が一種で菜が

三種の構造を「一汁三菜」と呼

ぶ食事中に口の中をさっぱ

りと保ってくれる「香の物」と

ご飯はいつも必ずついていて

その数も変わらないからあえ

て数えない

日常の食事である一汁三菜に

対して江戸時代によく登場す

るのは二汁五菜つまり汁が二

種に菜が5つこれが昔のおも

てなし料理の基本でお膳もふ

たつ出たいいかえると一汁三

菜はひとつのお膳に載るふだ

んの家庭の食事であることがわ

かる

また汁にもいろいろあった

魚のアラを汁に仕立てたものや

野菜を豆腐と一緒に煮込むけん

ちん汁など具だくさんの汁も

各地域でみられ汁でご飯を食

べるということも和食の特徴の

ひとつだ

一汁三菜の献立の最大の特徴

は汁も香の物も菜もすべてご

飯を食べるために存在するとい

う点かもしれないご飯が主食

でその他の3つの要素が副食

という考えが一汁三菜の根底に

ある少ない菜でたくさんのご

飯を食べご飯の量でカロリー

の摂取量を調整するのがかつ

ての和食の基本的な食べ方だっ

たのだ

「和食」にとって欠かせないご

飯についてもここで触れてお

こう

米には「うるち米」と「もち米」

とがあり強い粘性を持つもち

米は赤飯などのおこわ(強こ

わいい飯

や餅に用いられるそれに対し

てうるち米はもち米より粘り

気が少なく通常の米飯として

使われる

米のもとになる稲の栽培が始

まったのは1万年以上前とされ

野生の稲を栽培したのが始まり

と考えられているその原産地

は中国の長江流域とその周辺

という説が有力でそこから西

へ伝わった品種がインディカ種

また東へと伝わり東アジアに

広がったのがジャポニカ種だ

「和食」における献立の目的は

いわば汁と菜でご飯を食べる

ことつまりご飯に合うのなら

例えばそれが肉じゃがでもコ

ロッケでもとんかつでも菜と

して取り入れてこられたのは

ご飯を主食とする「和食」のス

タイルがしっかりしていたか

らである一汁三菜という和

食の基本型がなくなったら外

国の料理と変わらなくなって

しまうだろう

「和食」の特徴 献立のかたち1

稲 玄米 白米 調理加工

粉にする

飯餅菓子米飯焼き米ひなあられ餅おかきあられ

稲わら 俵わらづと鍋釜敷き畳床むしろわらぞうり縄みのわらぼうき など

酒酢みりん味噌発酵させる

糠 たくあん糠漬けあく抜き

(上新粉など)柏餅草餅重

お も ゆ

湯など

(白玉粉落ら く が ん

雁粉道明寺粉など)白玉最中大福餅落雁桜餅など

どうみょうじ

うるち米の粉

もち米の粉

日本人の暮らしに深く関わる稲米

 現在世界で栽培されている稲の主な種類にはインディカ種(インド型イネ)やジャポニカ種(日本型イネ)などがあるインディカは長粒種と呼ばれる米ジャポニカは日本でよく食べられている丸く短粒な米で短粒種と呼ばれる米の主成分であるでんぷんにはアミロースとアミロペクチンとがありアミロースを多く含むインディカ種は粘り気が少ないのに対しアミロースの少ないジャポニカ種は粘りが強く日本人にとってはおいしい味の米であるそしておにぎりやすしのようにまとめる米料理も発達した 世界の米の生産量は約6億トンと小麦とほぼ同じだがその90以上が日本を含むアジア諸国で栽培されているジャポニカ種は全体の15を占め日本をはじめとして朝鮮半島中国東北部台湾北部などで主に栽培されているインディカ種の栽培地域はインドからベンガル地方のバングラデシュタイをはじめとするインドシナ半島中国の中南部インドネシアなど南アジアが中心だ

ジャポニカ種とインディカ種日常私たちがご飯として食べているのはうるち米赤飯や餅にするのはもち米である栄養価はほとんど同じであるがでんぷんの構成が異なるうるち米はアミロースとアミロペクチンの比率が約28であるがもち米はほとんどアミロペクチンで構成されているそのためにもち米はうるち米に比べて粘りが強く餅にするのに適しているのである日本では両方の米の特徴をうまく利用して粒のまままたは粉にするなどしていろいろな料理や菓子を生み出したり発酵させて酒やみりんなどをつくり出したりしてきた

うるち米ともち米

インディカ

ジャポニカ

「和食」に欠かせない

米はどこから来たのか

1920 WASHOKU

全国各地でさまざまな魚や野

菜が豊富に手に入ったことそ

して文明開化の時代まで一般

的に肉食をしなかったという背

景から「和食」は野菜と魚介類

を中心に調理されてきた

現在日本の市場で流通する

野菜の数は150種類ほどと言

われているその種類はイモ類

やマメ類をはじめ根菜類茎け

いさい菜

類葉菜類果菜類など実に多

様ださらには山菜やきのこ

など森林に自生するものも調

理に工夫することでうまく食材

として取り入れてきた

日本で流通する野菜は近代

になって外国から輸入されたも

のや品種改良によって食べや

すくなったものなど多様では

あるが昔から日本で作り続け

られている伝統野菜(在来野菜)

も少なくない伝統野菜とはだ

いたい三世代以上に渡って栽培

「和食」の特徴2

食材

和食を支える日本の食材

おいしさの秘密と多様性

おいしい和食には素材の力がある四季折々の自然の中から

生み出される日本の食材は驚くほど多様性に富んでいる

野菜

野菜と魚介類の二大食材に

支えられる日本食文化

和食には野菜を使う料理が多くあるが現在日本で流通する野菜の種類も150以上と幅広い分類にしてもジャガイモやサツマイモなどのいも類大豆や小豆などのマメ類ダイコンやカブなどの根菜類ネギやウドなどの茎

け い さ い

菜類コマツナや白菜などの葉菜類ナスやキュウリなどの果菜類そのほかにシイタケやシメジなどのきのこやワラビやゼンマイなどの山菜など多彩な野菜が存在するしかし現代でこそ流通の発展でさまざまな野菜が一年中手に入るが全国で同じ野菜が収穫できるわけではない例えば同じいも類でもサツマイモなどは九州などで多く作られるが冷害に強く冷涼な地で生育するジャガイモは山梨や長野などの山間部や日本の北部で育てられるそのほか地域特有の特産品である伝統野菜がいま注目され始めている

1920 WASHOKU

が続けられ地域に根づいた農

法で作られるものを指しこれ

を守る動きも目立ってきている

魚介類も「和食」にとって欠か

せない食材のひとつ日本で獲

れる海水魚は実に種類豊富で

日本に生息する魚種だけでも約

4200種ある縁起のよい魚

として重宝されるタイをはじめ

アジイワシやサバサンマなど

日本の近海は魚の宝庫である

海水魚だけでなくコイやア

ユフナやウナギそして水田で

獲れるドジョウなどの淡水魚

(川魚)は海から離れた地域では

貴重なタンパク源だったため

古くから料理に使われている

ウナギの蒲焼きは一般的だが

薄切りにしたコイを50くらい

の湯に短時間漬けてから冷水で

身を締めて酢味噌で食べる「鯉

のあらい」やコイの切り身を濃

い味噌で煮た「鯉こく」など味

わい方も豊富

またうま味のもととして古

くから使われてきた昆布や味

噌汁の具としても重宝するワカ

メさらにおむすびに必須の海

苔など海藻類も和食には欠か

せない貝類も種類が豊富で

アワビをひも状に薄くむき乾

燥させた「熨の

しあわび

斗鮑」が神事や祝し

ゅうぎ儀

の象徴として使われてきた

近年日本の食料自給率が低

下し外国産食材の増加も問題

視されているが本来の「和食」

は日本の自然の恵みによって支

えられているのだ

「和食」の特徴 食材2

島国である日本において魚介類は古くから貴重でかつ重要な食材であった農林水産省の定める生鮮食品品質表示基準によれば日本で食される水産物はマグロやカツオイワシやアジなどの海水魚やコイやウナギなどの淡水魚(川魚)シジミやアサリなどの貝類カニやエビなどの甲殻類やカメなどの水産動物類クジラやイルカなどの海産哺乳動物類そのほか昆布やワカメなどの海藻類など実に多様な種類がある2000年に味の素(株)がおこなった「嗜好調査」によれば「食材」としては肉類よりも魚介類のほうが好まれている結果がみられたさまざまな魚介類のなかでもカニエビマグロなどへの嗜好性が高くそれらが「贅沢な食材」と捉えられているようである

山間部など海の魚が手に入らない地域で貴重なタンパク源として重宝されたのが淡水魚(川魚)写真はアユだがその他コイやウナギドジョウワカサギフナなど日本ではさまざまな川魚が食材として使われてきた寄生虫のおそれがあるため生食はあまりされないがその代わりに調理にはさまざまな工夫が見られる海の魚に比べると独特の臭味やクセがあるため「鯉こく」のようにしっかりと煮込むことで臭味を除いたりウナギのように蒲焼きにしたりするなどがその一例だまた例えば滋賀県には琵琶湖で獲れるフナを塩と米で乳酸発酵させ保存性を高めると同時にうま味成分を引き出した「ふなずし」もある

古来日本で食べられてきた海藻類現在でも低カロリーでミネラルビタミンに富む食材として和食では重宝されている日本では約50種類の海藻が食べられているが世界的にみてもここまで多様な海藻を加工し食用とする民族は珍しいなお海藻にはフノリやテングサのような紅藻ワカメ昆布やモズクなどの褐藻アオノリや海ブドウなどの緑藻類の3種類の海藻が存在する昆布のようにだしをとるために使うものもあるが乾燥させて食べる海苔味噌汁や酢の物の具として使われるワカメのようなものまで実に幅広いまた海藻は神への奉納品としての縁も深く日常の食事だけではなく祭りや神事などにも登場している

縄文時代の遺跡である貝塚からアワビやハマグリカキなどの大量の貝殻が発見されていることからもわかるように貝類は日本では古くから食材として利用されてきた春先の干潮時に浜辺に埋まったアサリなどの貝を掘り出して採取する潮干狩りは春の風物詩としても馴染み深い日本には6000近い貝類があるといわれておりなかでもアサリやハマグリのような二枚貝サザエやツブ貝のような巻き貝が食用として親しまれている調理法としては刺身や吸い物味噌汁煮物焼き物炊き込みご飯など幅広い料理に使用されているがだしをとるためにも使われるさらに乾物にすれば保存性も高くなるため古くから交易にも活用されてきた

海の魚

川の魚

海藻貝

2122 WASHOKU

和食における菜さ

の調理法には

煮る焼く蒸す茹でる和あ

える

揚げるなど実に多様な技法が

あるこれを季節の野菜や山

菜魚介類海藻などの食材と組

み合わせることでバラエティ

に富んだ菜が食卓を彩る

数ある日本の調理法の中で

最も特徴的なのは「生もの」材

料を生のまま切り皿に盛り付

け調味料と薬味を添える刺

身といえば魚介類が用いられる

のがほとんどで捌さ

き方切り方

盛り方などが現在世界で注目を

浴びている材料を新鮮な状態

に保つ技術と料理としての盛り

付けの技術があいまって完成し

たものといえる調味料と薬味

の組み合わせも魚類との相性を

考えて工夫されているまた

わさびしょうがからしなどの

薬味や「つま」や「けん」と言わ

れる大根のせん切り大葉防ぼ

うふう風

芽めたで蓼花は

なじそ

紫蘇など防菌効果のあ

るものを添えて見た目も美し

く組み合わせている

ご飯と並んで食卓に欠かせ

ない「汁物」は鰹節や昆布煮干

し干し椎茸などから抽出され

るだしのうま味と具として入

れる素材のうま味が味わいのベ

ースとなっている中には具だ

くさんの菜になるような汁も

ある

また豊富な水を利用した調理

焼き物(サンマの塩焼き)

直火焼きは遠火の強火でほかに間接焼きがある

生もの(カツオの刺身)

生ものには刺身あらい酢の物漬物がある

茹で物(もりそば)

小麦粉やそばなどの粉からつくる麺を茹でる法

旬の食材のおいしさを

引き出す調理法の数々

「和食」の特徴3

調理

切る煮る焼く蒸す茹でる和える揚げるhellip

あの手この手で素材をよりおいしく

バランスの取れた一汁三菜の基本はご飯にあり

ご飯をおいしくいただくために菜さ

の調理方法は進化した

煮物(筑前煮)

煮汁の中で加熱中に調味する法

2122 WASHOKU

法に「茹で物」があるたっぷり

の水を沸騰させ食材を加えて加

熱して取り出すもの青菜そば

などは茹でた後にあくの除去

歯触りを良くするなどのためさ

らに水で洗う場合も多い私た

ちがあたりまえのように調理し

て食べているほうれん草や小松

菜のお浸しは水に恵まれた日本

に定着した料理で世界的にみて

も特徴あるものといえよう

「焼き物」はサンマの塩焼きの

ように塩をふり直火でじっく

り焼き上げる方法が伝統的

「煮物」は世界で最もポピュラ

ーな調理法だが日本では素材

の味を生かしつつ醤油や味噌

など大豆由来の発酵調味料で

味を調えるものが多い

油とともに加熱調理する「炒

め物」は伝統的な調理にはほと

んど見られないが現代では盛

んに使われ和食の幅を広げて

いる

ここに紹介した調理法と料理

の例は主にご飯のおかずとな

るものであるが小麦そば雑

穀などを粉にしこれを調理し

た主食も多い代表的なものに

うどんそばそうめんなどの麺

類があり茹でる場合が多いが

煮込みなど煮るものもある

さまざまな料理を組み合わせ

て食べる和食は素材の味を生

かしうま味をしっかりとれば

最低限の調味料でおいしさを感

じることができ多様な料理を

楽しむことができる

和あえ物

(きゅうりとワカメの酢の物)

野菜や魚介類などをごま味噌酢などで和える法

漬物(きゅうり大根の糠

ぬか

漬け沢たく あ ん

庵漬け)生ものを保存する方法の一種

塩の働きに加え乳酸発酵させたものが多い

汁物(なめこの味噌汁)

だし汁を主体とする法すまし汁みそ汁とろみのついた汁など

蒸し物(茶碗蒸し)

水を沸騰させその水蒸気を利用して加熱する法

浸し物(小松菜のお浸し)

お浸しは調味した汁に浸して味をつけたもの

「和食」の特徴 調理3

揚げ物(天ぷら)

高温の油で食品を加熱する法油の温度は150~200度の範囲で行うことが多い

2324 WASHOKU

「和食」の特徴4

味わい

うま味日本人が発見した「おいしく食べる」最大の知恵

和食の味わいの中で最も重要なのがだし

味噌汁やすまし汁のベースとなり

煮物やおひたしなどさまざまな料理の

味を決定づける味の要だ

和食の味わいを語るうえで忘

れてはならないのがだし(出

汁)の存在汁物や煮物などさ

まざまな料理のベースとして使

われている

なぜ日本人はここまでだしを

好むのかその答えに大きく関

係するのが「うま味」だ江戸時

代の料理書には「だしこそ料理の

根本である」と書かれている

1907年池田菊き

くなえ苗

博士に

よって世界で初めてうま味成

分のひとつがアミノ酸の一種で

あるグルタミン酸であることが

発見されたその後日本人を中

心に研究が進みうま味は甘味

塩味酸味苦味に加えて第5

の味覚として広く知られるよう

になる現在ではうま味調味

料やだし入りのつゆなどうま

味成分を手軽に使える調味料も

普及海外でも人気が高く国

内でも日常的に使用されている

だしのほかに和食の味付け

日本が世界に誇る

第5の味覚うま味

うま味成分を多く含む椎茸もだしをとる目的で使われてきた食材のひとつだしに使用するのは干したもの椎茸は乾燥させることでうま味や香り成分が増すためだ

小魚を煮て乾燥させてつくる煮干しも汁物に多用される材料としてはカタクチイワシが代表的だがその他ウルメイワシやキビナゴトビウオなどの比較的魚体が小さな魚を使ってつくるのが一般的だ

だしのとり方は魚介や野菜から水や湯を使ってうま味成分を抽出するのが一般的だしの素材として最もよく使われるのは昆布と鰹節でそのほか煮干し野菜干し椎茸魚の内臓やあら(頭や骨)などがあるまた潮

うしおじる

汁のように食品そのもののうま味を活かす方法もある

鰹節

「だし」のこと

昆布

煮干し

干し椎茸

2324 WASHOKU

に欠かせないのは塩砂糖味

噌醤油酢酒みりん魚醤な

どの調味料わさびやからし

しょうが山椒とうがらしゆ

ずなども薬味として使われる

これら薬味によって季節感を楽

しみながら素材の味を引き出

すという知恵も「和食」ならでは

夏に高温多湿となる日本では

アジア諸国と同様発酵食品が

発達したそれゆえ味噌や醤

油や酢に代表される発酵調味料

を多用するのも和食の特徴大

豆や穀物を塩漬けにして発酵

させてつくるものだがその過

程で原料のタンパク質がアミノ

酸に分解されうま味成分を豊

富に含んだ調味料ができあがる

のだ

発酵食品も多様だ日本各地

でカビや酵母などの微生物の

働きを活かして食品中のアミ

ノ酸(うま味)を増やす発酵食品

が発達してきた冬場の保存食

として生み出された沢庵や塩

を使って乳酸発酵させる京都の

すぐき菜漬けそして糠ぬ

漬けや

奈良漬けなど野菜を発酵させ

た漬物さらに塩辛やくさや

なれずし鰹節など魚介の保存

食としての発酵食品また大

豆を納豆菌で発酵させる納豆や

こうじ菌で発酵させて乾燥後に

熟成させた寺納豆など大豆の

発酵食品もある

「和食」はうま味を上手に生

かし食材をおいしく食べる知

恵を育んできたのだ

発酵食品

発酵調味料

調味料

「和食」の特徴 味わい4

発酵食品と調味料

魚醤魚を塩漬けにして発酵させる独特の香りと濃いうま味が特徴の調味料ハタハタでつくられる秋田の

「しょっつる」イカやイワシを材料とする能登半島の「いしる(り)」などがある

酒酒もまた和食の調味に欠かせない発酵調味料のひとつ調味料としての酒の主な効果には材料の臭みを消す食材のうま味を引き出して風味をよくする甘みを加えるなどがある

塩海に囲まれている日本では古くから塩は調味料として使用されてきた焼き物や刺身などの調理の味付けとしてはもちろん漬物や干物など食物を貯蔵するための知恵としても活用されている

味噌蒸したり煮たりした大豆にこうじ食塩を混ぜて発酵熟成させた日本を代表する調味料のひとつ味噌汁や煮物などに使われることが多い地域によって使用される味噌の種類がかなり変わるのも特徴だ

酢寿司やなますなど和食に酸味を加える調味料米から醸造した酒に酢酸菌を加えて発酵させて造られる酢に漬けることにより保存性を高める

醤油大豆と小麦で造ったこうじに食塩水を加えた「もろみ」を発酵熟成させ搾ったもの刺身や焼き魚煮物炒め物など幅広い料理に使われている種類は濃口薄口たまり再仕込み白の5つに分類される

みりん蒸したもち米と米こうじを主原料に40~60日かけて熟成させて造られる発酵調味料砂糖と比べて甘みがやわらかく食材の臭味を取る働きもあるまた魚の照り焼きなどのつや出しにも使う

漬物素材を食塩や酢酒粕醤油などに漬け込み熟成させて作られる漬物沢庵や梅干し野沢菜漬けなど野菜類を長期間保存するための知恵として誕生した日本各地に独特の漬物があるのも特徴だ

納豆日本で発展した発酵食品である納豆大豆を納豆菌で発酵させた食品で寺納豆(下記参照)と区別するため「糸引き納豆」とも呼ばれる単品で食べるだけではなく納豆汁や納豆和えなどにも使われている

塩辛魚介類の身や内臓を塩漬けにし発酵させて作られた塩辛は日本における伝統的な保存食品のひとつ使われる素材はその地域によって変わりイカやエビアミタコなど多彩な種類の塩辛が存在する

塩に漬けた魚と炊いたご飯を数日間置き乳酸発酵させたなれずしは魚を保存する知恵として生まれた滋賀県では琵琶湖産のふなを和歌山県や富山県ではサバを岐阜県などではアユを材料にしたものが有名写真は滋賀県湖北地方の年頭の祭りで振る舞われる鯖のなれずし

砂糖世界的に見ても「甘み」を用いた料理が多い現在の和食では砂糖は欠かせない調味料のひとつ単独で料理に使われるというよりは煮物をはじめとするさまざまな料理で醤油や塩味噌などと併用されることが多い

寺納豆茹でた大豆にこうじを加えて発酵させ乾燥させながら熟成を促す発酵食品粘り気のある糸引き納豆とは異なり乾燥して塩辛い禅宗の伝来とともに大陸からもたらされたとされ寺院で作ることが多かったため「寺納豆」と呼ばれた

2526 WASHOKU

「和食」の特徴5

栄養

栄養バランスの優等生「和食」

野菜や魚肉そして米によって構成される「和食」は

栄養バランスの良さでも知られている

最近は五日間すべてを米飯にする完全米飯給食を行う地域も生まれた

和食の特徴のひとつである栄養についてその秘密に迫る

米麦雑穀などを炊いたご飯

を主食としてこれに魚介肉

類野菜類に発酵調味料だしを

組み合わせた和食は栄養学的

にみてもバランスをとりやすい

食事である

歴史的にみると日常食では

主食を大量に摂る習慣が続いた

穀類偏重の食生活だったといえ

よう

しかし豆腐や納豆みそ汁な

どを飯とともに摂ることで米の

アミノ酸の利用率を上げる食べ

方年中行事などハレの日に魚

介類などを摂取して楽しむなど

学ぶべき知恵は多い

なかでも何百年も伝えられて

きた和食の基本型はすぐれた

ものといえよう

副食の主菜には魚肉豆腐

などタンパク質を多く含む料理

を考える副菜には主菜に使わ

なかった野菜芋類などを使い

汁は主菜に合うものを用意する

焼き魚野菜の煮物青菜のお浸

しとみそ汁などでも栄養的バ

ランスはとれている

1980年頃までは多くの

家庭で和食の基本型が続いた

主食の量がやや減り副食が増

加とくに乳乳製品肉類の割

合が増加したこの頃栄養バ

ランスをはかる一つの指標であ

るPFCバランスが理想的な比

率を示した(左記参照)

しかしその後外食の日常化

家庭料理の欧米化が進み米の

摂取量が激減し脂質摂取の過

多などから生活習慣病が問題

となったこうした中各地で

食生活を見直す動きがみられる

ようになったその一つが学校

給食での取り組みである

戦後の食料難の中でパンと

牛乳に副食を加えた完全給食は

1950年に始まった197

6年に米飯が導入されるまで長

く続いたパン給食は和食の基

本型にも影響を与えたようだ

米飯給食は次第に増加し

2010年には週3回以上米

飯給食を実施している小中学

校は90以上となったが週5

回の米飯給食の実施は7以

上と高くない

ここでは2008年に5日

間すべてを米飯給食とした新潟

県三条市の事例を紹介しよう

成長期にバランスのよい食事

で健康な体をつくることそし

て望ましい食習慣を身につけ

生涯を健康に生きることをめざ

し完全米飯給食を実施したと

のこと

米は同市で生産される農薬

を減らしたコシヒカリを七分搗つ

きにした米飯を主食に副食は

主菜副菜汁を組み合わせる献

立をベースとしている主菜は

サケのフライ鶏肉ピリ辛焼き

さんま梅煮など伝統的な和食だ

けではないが和食の基本型の

中に取り入れる工夫がされてい

るパ

ンは油脂や糖分と相性が

良く肥満につながりやすいが

新潟県三条市の給食献立一例三条市の小中学校での献立例ご飯は三条市で収穫したコシヒカリを使用「お米だと腹持ちがよいのでデザートをあまり出さなくとも子どもたちが満足してくれる」とのこと洋風や中華風の献立でもおかずはご飯に合うものを選びスープなどの汁物は確実につけるように心がけている

火曜日

えだまめごはん

さけチーズフライ

くきわかめきんぴら

かきたまじる牛乳

小学校687kcal中学校823kcal

水曜日

ごはんとりにくのぴりからやきいかときゅうりの

あえものしょうがみそスープ牛乳小学校639kcal中学校752kcal

木曜日

ごはんさんまうめにたくあんあえにくじゃがに牛乳なし小学校688kcal中学校814kcal

金曜日ごはんカレーふりかけほうれんそうオムレツフレンチサラダパンプキンスープ牛乳小学校708kcal中学校833kcal

月曜日

ごはんいかのかりんあげ(2こ)

なっとうあえきのこけんちんじるのむヨーグルト

小学校619kcal中学校731kcal

2526 WASHOKU

七分搗米の飯は腹持ちがよく

おやつを食べる子どもが減った

だけでなく肥満の子どもが減

少傾向となり食生活のリズム

が良くなったとされる

また米飯に合う副食は土地

でとれる野菜類を取り入れやす

く季節にあわせてバラエティ

ーに富んだ献立を作ることがで

きる一汁三菜の食べ方の教育

を行った結果給食を残す子ど

もたちも減ったという

基本的な食事パターンが続く

中でも菜を工夫すれば変化に

富む食事を作ることはできる

季節の食材について学び年中

行事への知識も得られるだろう

また子どもたちが和食の基

本型を毎日の給食で体験してい

ることはきわめて重要なことで

ある時々経験するだけでは身

につかないものでも毎日繰り返

すことによって習慣化し定着

するのであるそしてやがて

自分で組み合わせを考えられる

ようになることが期待される

今後の学校給食の役割は大きい

といえるだろう

PFCバランスとは

FAO Statistics Yearbook(日本のみ食料需給表)参照栄養バランスが良いとされるP(たんぱく質)10~20F(脂質)20~30C(炭水化物)50~70の範囲が08~12に収まるように指数化した

日本でのPFCバランスの変化

アメリカとフランスのPFCバランス

タンパク質脂質炭水化物は人間にとって特に不可欠な「三大栄養素」PFCのPはProtein(たんぱく質)FはFat(脂質)CはCarbohydrate(炭水化物)の頭文字でPFCバランスとは食事の中での「たんぱく質」「脂質」「炭水化物」のそれぞれの摂取カロリーの比率健康的な生活をおくるためにはPFCバランスがたんぱく質15脂質25炭水化物60が理想的

給食時には全員で「いただきます」「ごちそうさま」を復唱食育にも力を入れているためそれら言葉の意味についても学校で教えている

米飯給食になってから児童たちの食の嗜し こ う

好に変化が生まれたとか児童たちに好きなおかずを聞いてみると「ハンバーグ」「カレー」などの定番メニューのほか「焼き魚」「納豆」などの和食メニューの名前が上がった

自分の分を食べ終わった児童たちが列をつくって競い合うようにご飯をおかわりしていたこの日の食べ残しはゼロ

C

P

F

14

12

1

08

06

アメリカ(2005~2007年)

C

P

F

14

12

1

08

06

フランス(2005~2007年)

「和食」の特徴 栄養5

日本人のPFCバランスは1965年当時は炭水化物に偏っていたが1980年は非常に理想的な配分になっていたしかしその後の日本人の食生活に肉や油脂類を多く摂り主食の米を食べる量が減り2010年時は欧米型に近づきつつある

C

P

F

14

12

1

08

06

日本1965年

C

P

F

14

12

1

08

06

日本1980年

C

P

F

14

12

1

08

06

日本2010年

2728 WASHOKU

お客を迎える前には店先に打ち水を水で清め準備が整ったことを伝える趣向に合う軸を選ぶのももてなしの基本飾る花は主人自ら育てたものそれを床の花入に活けるのも主人庭に150種ほどの草花を植え日々育てることもしつらいの準備客は女将の温かいもてなしに迎えられる

「和食」の特徴6

しつらい

人をもてなすためのこころとかたち

もてなしは客に対する一方的なサービスではない

お互いに思いやる気持ちから生まれるこころよさである

手入れの行き届いた庭は掃き

清めて水を打ち床の間には軸

を掛け季節の草花を生ける

座敷の襖ふ

すま

も夏には葭よ

しど戸に入れ替

え夏は涼やかに冬は暖かに

すべて相まってもてなしのた

めの用意を整えることそれが

しつらい和食とりわけ懐石

料理においては食材や料理と

ともにしつらいは非常に重要

な要素となる

家庭でも食事をつくる人は

食べる人の顔を思い浮かべなが

ら食事の用意をする食べる人

はつくってくれた人の気持ちを

考えて賞味するここに互いに

もてなす喜びが生まれるのでは

ないだろうか

こうしたもてなしの文化を極

限にまで洗練させた姿が料亭の

もてなしである京都府の無形

文化技術保持者に料理人として

初めて認定された京都の老舗料

亭「瓢亭」の十四代主人高橋英一

さんにその心を聞いてみよう

「料亭は日本文化の凝縮のひと

つと言えます玄関から入って

座敷に行くまでに通る露地にも

季節感があり部屋に入れば時

季や行事の軸がありその座敷

のために選んだ花が飾られる

日本人が自然と身につけている

桜の器を使うことで膳の上にぱっと花が咲くような華やかさが生まれるあしらいは酢取り防風岩海苔

秋の花菊の器はこっくり深い色合いも相まって秋に似合う風情を持つあしらいは岩茸菊花

深さのあるガラスの器に氷が敷き詰められる涼感を目でも舌にも感じるあしらいは穂紫蘇寄せ莫大

縁起のいい鶴は新年の席でも使われるモチーフあしらいは水前寺海苔紫芽紫蘇

四季の感性で受け止めてもらえ

るよう整えお出迎えします

料亭は普段とは違うハレの場で

すがとはいえ行き過ぎず足り

ないことのないよう自然なし

つらいそしてもてなしを心が

けます」

「瓢亭」の座敷に飾られるのは

主人が庭で丹誠込めて育て自

ら生ける茶花

「もてなしの根

底に利休さんの『花は野にある

ごとく』の言葉を思いますが簡

単なようでそれが難しい」自

然体でのもてなしを生むしつら

えは名店においても日々心を

くだき工夫するのだ

「瓢亭」では1年をとおして明石の鯛の向付を供しているが季節ごとに

器とあしらいを変えることで四季を演出している

四季の演出

2728 WASHOKU

和食はご飯と菜あるいはご飯とお汁というように常にご飯を間にはさんで菜や汁をとるのが本来の食べ方下のような不作法とされる箸使い(嫌い箸)があるので覚えておきたい

ご飯は茶碗に味噌汁はお椀

に焼き魚だったら平皿にと普

段料理に合わせて何気なく使う

食器種類の多さもさることな

がら形や素材もさまざま欧

米はもちろん近隣諸国を見回

してもこれほど多種多様な器を

使う国はないそれは四季が明

確なことと無関係ではない

「自宅でも季節に合わせた器

にするだけで気分が変わりま

すよ」と前出「瓢亭」のご主人は

語る 

春であれば華やかな色や形の

もの夏はガラスや青磁など涼

しげな素材の器秋は実りのあ

る彩りがあるもの冬は厚手の

陶器や木製など温もりのあるも

の色素材形を変えるだけで

季節感を演出できる「和食」な

らではの楽しみ

食事の際当たり前のように

使っている箸も日本の食文化

を代表する食具奈良時代以

降匙さ

を使う伝統が消え箸だ

けを使うようになったため熱

い汁物は椀を持ち直接口を

つけてすする文化が確立同

時に椀箸ともに個人所有が基

本となった椀や箸を共有し

匙やレンゲを使うほかの東南

アジア諸国とは異なる食文化

を形成箸食文化圏の中でも

唯一箸だけでご飯を食べる国

となったまた一口に箸といっ

ても食箸取り箸菜箸など用

途に合わせてさまざま食べ

る際に使う食箸だけを見ても

形や素材のほか加工や長さも

豊富にそろうのだ

「和食」の特徴7

箸と椀

「和食」を支える箸と椀

箸食文化圏の中でも唯一箸だけを使う国日本

季節感を感じさせる器とともに独特の食具文化も誇る

渡し箸食事の途中でお箸を

食器の上に渡し置くこと

寄せ箸遠くの食器を

箸で手元に引き寄せる行為

指し箸食事中箸で人やものを指すこと

迷い箸どの料理にしようか迷い箸を料理の上で動かすこと

移り箸いったん取りかけてから

ほかの料理にお箸をうつすこと

箸には食事に使う食箸と調理に使う菜箸とがある菜箸は熱から手を守るため30~50と長く片方がなくならないよう糸でつながっているものもある取り箸は菜箸の一種食箸は個人所有が基本のため使う人に合わせた長さが用意されている漆塗りや螺鈿細工を施したものも多い

種類

形状だけでなく素材もさまざまで近年は黒檀や鉄木など硬質な木が使われることが多い日本の木としては特有の香りがあり古くから懐石用や割り箸に使われてきた杉耐水性耐湿性が高く保存性に優れる上に軽くて持ちやすい檜強くしなりがあり細かいものを取りやすい竹などがある

素材

家庭で使う食箸の形には角箸や四角で角が丸い胴張り五角六角七角八角のほか削りなどがあり持ちやすさに合わせて選べる箸先に加工が施されたものもある来客用に使う銘々箸や割り箸には断面が小判型で割れ目と溝が付いた元禄箸や中央部が太く両端が細い利休箸などが用意されている

日本人にとっての箸は調理から盛りつけ食事までをこなす大事な道具食箸は個人所有が基本のため個々に合わせて選べるのも特徴だ

箸の働き

箸使いの作法を知る

【嫌い箸】

食箸

八角箸 削り箸

菜箸

檜竹

「和食」の特徴 しつらい 箸と椀6 7

2930 WASHOKU

神し ん せ ん

饌として神へ供えられるお神酒は神棚の最上段の中央に置かれるほど重要な地位を占めている

日本酒を造る酒蔵は全国に約1600弱その数は年々減り続けているが数年に一度「日本酒ブーム」も起きている

日本酒とは米と米こうじ

そして水を主な原料にしてそ

れらを発酵させて造られる

原料には主食用の米ではなく

酒造りに適した性質を選び品

種改良された酒し

ゅぞうこうてきまい

造好適米を使

うことが一般的だまた日本

酒の80を占める水も品質を

左右する大きな要因日本酒

の香味を損なわない良質な水

が必須だ

日本酒の醸じ

ょうぞう造の工程にはさ

まざまな技術が伴う例えば米

を精米して味と香りを調整する

技術これは米の外側にあるた

んぱく質や脂質といった雑味の

もとを除くことが目的だが大だ

吟ぎんじょう醸酒にもなると米を半分以

上削ってから仕込むこともある

次いで米を発酵させる技術

酒の場合の発酵とは酵こ

うぼ母が糖類

を食べてアルコールを出すこと

をいうが米には糖類が含まれな

いためまずは米をこうじ菌の酵

素によって糖類へと変えそこに

酵母を加えて発酵させるという

複雑な手順(複式発酵)が必要だ

この手順で使われるこうじもバ

ラこうじと呼ばれる日本独特の

ものだバラこうじは糖化力が

高いのが特徴で日本酒の香りや

味に大きく影響する

稲作を中心に文化を育んでき

た日本では米餅米から造ら

れる酒は地域を問わず重要な

ものとされている米の一粒一

粒に神が宿り同じように酒も

神のおかげで造ることができる

と考えられてきたそして酒

もまた食べ物と共に神に近づ

くための手段として古くから用

いられてきた

同時に家族や親族地域で人

と人をつなぐ上でも酒は大き

な役割を担っている例えばお

神み

き酒祭礼の後には神の酒を

人々が口にする神と同じ酒を

飲みそれを人々が分かち合う

ことで地域やコミュニティが

結束力を強めるのだろう

米や麦やさつまいもなどを原

料とする焼酎も日本酒と並び

日本の國酒とされている酒は

人と人の心をほぐし食事を引

き立たせる重要な役割を担って

いるのだ

「和食」の特徴8

「和食」を引き立たせ

心をほぐす日本の酒

日本人にとっての主食であり精神のかなめでもある米

その米で醸か

される日本酒は「和食」にとって欠かせない要素

日本の「國こ

くしゅ酒

」にもなっている

2930 WASHOKU

「和食」の特徴9

和菓子日本茶

暮らしに寄り添う和菓子とお茶

自然の恵みに感謝し季節の移ろいを敏感に表現する和菓子

日本茶は喉のかわきを癒すだけでなく心を癒し心を高める飲みものである

「和食」の特徴 酒 和菓子8 9

ハレの日の願いを込めた和菓子

和菓子分類餅もの 餅団子大福など蒸しもの 饅頭蒸羊

よ う か ん

羹外う い ろ う

郎村む ら さ め

雨など煉もの 煉

ね り き り

切こなし求ぎ ゅ う ひ

肥飴葛く ず

菓子など焼きもの 味噌松風煎

せ ん べ い

餅桃も も や ま

山カステラどら焼など流しもの 錦

にしきだま

玉煉ね り よ う か ん

羊羹水み ず よ う か ん

羊羹など揚げもの 揚げ煎

せ ん べ い

餅かりんとうなど打ちもの(押しもの) 落

ら く が ん

雁など岡もの 最

も な か

中きんとん鹿か の こ

の子すはまなどかけもの 金

こ ん ぺ い と う

平糖五ご し き ま め

色豆石いしごろも

衣など

これは和菓子の製法によって大まかに分類した表このほか含有する水分量によって生菓子半生 菓 子 干 菓 子などの分け方や上じ ょ う な ま が し

生菓子並菓子駄だ が し

菓子などの分類もある

「岡もの」とはすでにできあがっ た素材をあわせたもの (例きんとん=飴玉とそぼろ餡)

甘く味付けしたごぼうと白味噌餡を赤や白の餅や求

ぎ ゅ う ひ

肥で包んだ生菓子平安時代の新年行事のひとつで長寿を願っておこなわれた「歯固め」の餅に由来する餅と味噌の組み合わせから「包み雑煮」とも呼ばれた

葩はなびらもち

一 月

旧暦十月は「亥の月」と呼ばれていたがその月のさらに「亥の日」に行われる年中行事の際に食べられていた菓子旧暦では10月が冬の始まりそのタイミングで無病息災と多産の猪にあやかって子孫繁栄を願ってこれを食べていたという

亥い の こ も ち

の子餅

十 月六 月

白いういろうの上に小豆の粒餡を散らした菓子古来京都で旧暦六月の晦

み そ か

日(30日)に無病息災を祈願して行われている

「夏なごしのはらい

越祓」になぞらえて初夏の頃に食べられている小豆には邪気祓いの意味があり三角の形は氷を表している

水無月

五 月

平たく丸めた上新粉の餅をふたつに折り中に小豆や味噌の餡を挟んでそれを柏の葉で包んだ菓子柏の葉は新芽が育つまで古い葉が落ちないことから

「子孫繁栄」を願って旧暦五月五日の端

た ん ご

午の節句の供く も つ

物として用いられてきた

柏餅

日本ならではのお茶の製法である手揉みは茶葉の繊維をつぶしながらうまみを引き出すために行う作業手揉みすると茶葉が切れないため茶の甘みを保つことができる

菓子もまた「和食」にとって欠

かせない要素でお客様用の「上

菓子」普段食べる「饅頭」や「餅

菓子」などに分かれるほかに

干菓子や駄菓子など菓子の種

類は多いまた例えば団子や

大福などは「餅もの」求肥や飴

などは「煉りもの」錦玉や

水みずようかん

羊羹などは「流しもの」などと

いうようにその製法によって

分類されることもある米や麦

小豆を代表とする豆類そして

砂糖や水あめなどの材料でバ

ラエティに富んだ菓子が生み出

されてきた

お茶会などの席で抹茶ととも

に味わう菓子もあり季節に合

わせて材料や色やデザインが選

ばれ味覚だけでなく視覚で楽

しむこともある

また年中行事と結びつく菓

子もある例えば旧暦三月三日

の「ひな祭り」では邪気をはら

い強い生命力を象徴するよも

ぎの草もちでつくった草餅を食

べる

和菓子には日本茶がふさわし

い緑茶は12世紀に中国から日

本に伝わったが今では生の茶

葉を蒸してから揉んで乾燥させ

る緑茶の製法は日本独特のもの

となっている緑茶に含まれる

カフェインは覚醒効果がまた

カテキンには抗酸化作用があり

ビタミンCも多く含まれて健

康によい日本茶独特の香りと

うま味は日本文化そのもので

ある

出典「和菓子の歴史展」第五十回虎屋文庫資料展より

3132 WASHOKU

日本の「和食」の文化は自然

環境だけでなく海外からの影

響によっても絶えず変化して

きた

近代以降にはコロッケとん

かつなど洋風料理を和食の基本

型に組み合わせた食事肉と野

菜の煮物や和え物などそれまで

にはない料理が工夫されたそ

の多くは和食の基本型味噌や

醤油を用いた味付け箸で食べ

られる料理など「和食」の要素

を保ちつつ伝えられてきた

しかし第二次世界大戦後高

度経済成長期を迎えると日本人

の食生活は急速に変化する

1970年代にファストフー

ド店ファミリーレストランが

各地に開店しコンビニなども

広がった

1980年頃主食と副食の

バランスは理想的とされたが

(26頁参照)その後米の消費量

はさらに減りパン食が増加

肉類油脂乳乳製品の消費量

も増加し食料自給率も下がっ

た家族での外食が日常化し

家庭の食事も欧米化した

食育の必要性

「和食」が危ないどうしたら伝えられるのか

この150年間で大きく変化し「和食」はいま衰えつつあるその原因はどこにあるのだろうか

食生活の変化

日本の食料自給率の変化農林水産省「食料需給表」より作成

日本のものを食べなくなって 「和食」はどうなる 日本の食料自給率は下がり続けている1965(昭和40)年度はカロリーベースで73だったが2012(平成24)年度は39その大きな原因のひとつは国内で自給可能な米や魚や野菜などの消費量が減少する一方国内で生産が困難な飼料穀物を食べて育つ畜産物や原料を輸入に頼ることが多い冷凍加工食品や小麦の消費が増加したことだと考えられている炭水化物たんぱく質脂肪分をバランスよく摂取する健康的な「和食」に未来はあるのか

国民一人一日当たりの供給純食料農林水産省「食料需給表」より作成

食べる米の量が50年で半減 増えたのは肉と乳製品 国民一人あたりが食べる量を品目別に眺めて分かることそれは日本人が食べる米の量が著しく減ってきたことだ1960(昭和35)年度は一日あたりの米の消費量は約315gだったが2010(平成22年)年度は163gに約半減その代わりに増えたのは牛乳乳製品(約60gから約240g)と肉類(約14gから約80gへ)野菜と魚を中心としたおかずでご飯を食べるという

「和食」のスタイルの変化がわかる

食料費における外食と中食の割合の推移総務省統計局「家計調査年報」より作成

家で食べても 調理することが減っている 外食に対して家庭で作って食べる食事を内食というが弁当や惣菜など調理をせずに食べられるものを買ってきて済ます食事は中食と呼ぶ実はこの中食の割合が増えている外食が占める割合は2000(平成12)年以降横ばいなのに対して中食は増え続けその代わりに内食が減っている食事は家で食べても調理はしないという家庭が増えているのだとすれば「和食」にとって大切な要素を子どもたちに伝える機会が減っているとはいえないだろか

食料自給率(金額ベース)

食料自給率(主食用穀物)

食料自給率(カロリーベース)飼料自給率

米 野菜 肉類牛乳乳製品 魚介類

内食 中食 外食

(g人日)

3132 WASHOKU

50

55

60

65

70

75

01992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012

70

75

80

85

90

95

01992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012

一日に一度はお米を食べないと気がすまない人の割合博報堂生活総研「生活定点2012」

お正月におせち料理を食べた人の割合博報堂生活総研「生活定点2012」

一日に一度は米を炊いたご飯を食べなければ気がすまない人の割合が実はこの20年間で減っているというデータがある1992(平成4)年には714だったが2012(平成24)年には564にまで落ち込んでいるのだ

家族や親族で集まっておせち料理を囲みながら新しい一年の無事を祝うお正月実はおせち料理を食べる人も毎年少なくなっている1992(平成4)年には866だったが2012(平成24)年には748だった

電子レンジの普及や冷凍食品

インスタント食品などにより

食生活は便利になったが家庭

内で調理をする機会が減ったと

もいえる

こうしたなか「和食」の優れ

た点をどうしたら伝えられるの

だろうか親から子へ家庭の食

を伝えるだけでなく学校を通

して子どもたちにさらにその

親の世代にも伝える必要があろ

う高齢者からは「和食」につ

いて具体的に教わることも求

められる

離乳期からの食べ物の選び方

幼児期の食経験を豊富にするこ

となどはとくに重要であろう

小さな頃からの食習慣はその

後の食習慣に大きくかかわって

くるからだ

だしのおいしい味を日々体験

することや魚を味わい骨を箸

でとる訓練を楽しい雰囲気のな

かで教わることなどその積み

重ねの中で「和食」は伝わるので

あろう

経験しない味は異文化とと

らえられるであろうし体験し

ていない調理は簡単でも難しく

感じる食事を用意する過程を

日々見る経験手伝う楽しさ美

しい食器を大切にして使うこと

同じ食べ物を家族や仲間と味わ

い祭りや花見などで共に食べ

る経験を積み重ねることは文

化としての「和食」を伝えるだけ

でなく生きる力を育むことにも

つながるであろう

壁にではなく居間に向かって設置されることが多くなった現在のキッチン夫婦共働きだというこの家庭では夫が厨房に立つことも少なくないというこのように食事の準備を子どもと一緒に行うことで「和食」にとって大切な要素が次の世代に伝えられるようになるのだろう

世帯あたり1ヶ月間の穀類支出金額内訳

1962年3434円

パン

麺他

2010年6373円

パン

麺他

ご飯を食べなくても平気 そんな人が増えている

お米よりパンと麺 その傾向が加速中

おせち料理を食べる派が 毎年ジワリ減少中

1962(昭和37)年度には8割以上を占めていた米への支出が2010(平成22)年度にはパンにとって代わられる米の消費量はパンより多いが家庭では炊飯する必要のある米よりすぐに食べられるパンや麺の支出が多くなり家庭での料理が減っていることを示しているともいえよう

総務省統計局「家計調査年報」より作成

いただきます

ごちそうさま

「和食」の未来

今世紀に入ってから世界に和食ブー

ムが起きている味わいやヘルシーさに

注目が集まり世界中のいたるところに

日本食の店が数多くある

そのように世界から注目される「和食」

だが本家本元の日本国内でその将来が

危ぶまれている

これまで見てきたように「和食」には

新しいものを柔軟に取り込む歴史があっ

た日本人は太古の昔より外国からも

たらされた食文化を自分たちの食生活に

取り込んで日本独自の食文化を発展さ

せてきた地域ごとに地域の環境にふさ

わしい料理をつくり出してきた食べる

料理や食べ方もその時代ごと地域ごと

に変わってきた

その中で貫かれてきたことがある

豊かな自然がもたらす食材のおいしさ

を生かす調理法を工夫し味わうこと

食卓に季節感をしつらえもてなしの気

持ちを共に感じ合う食事の場を持つこ

と一汁三菜という組み合わせを食事

の基本スタイルとして健康的な食生活

をおくることお正月におせち料理を

祝いの日にお赤飯を家族と共に食べる

など食事は家族の絆となっている

豊かな自然を守る気持ちと同じように

日本人を健やかに生かし人と人をつな

いできた「和食」もまた守るべき大切な

日本文化ではないだろうか

「いただきます」「ごちそうさま」と言っ

てみるだけでも「和食」は私たちに身近

になる人と人をあたたかく結びつけて

くれる

日本人はやはりお米のご飯がおいしい

と思うだしのきいた汁でおなかも心も

癒されるこの日本人が長い歴史の中で

育んできたすばらしい財産である「和

食」がこのままなくなってよいと考える

人はいないだろう世界の中でもすぐれ

た食文化として認められた「和食」を日本

の誇りとし大切にして次の世代に受け

継いでいくきっかけにこの冊子がなれ

ば幸いである

ごちそうさま

和 食

1718 WASHOKU

米を炊いた「ご飯」昆布や鰹

節などでとっただしを味噌や塩

などで味付けした具入りの「汁」

塩漬けやぬか漬けや粕漬けなど

の「香の物」そして焼き物や煮

物や和え物などの「菜」その4

つの要素で構成される「一汁三

菜」という組み合わせがある

基本的には汁が一種で菜が

三種の構造を「一汁三菜」と呼

ぶ食事中に口の中をさっぱ

りと保ってくれる「香の物」と

ご飯はいつも必ずついていて

その数も変わらないからあえ

て数えない

日常の食事である一汁三菜に

対して江戸時代によく登場す

るのは二汁五菜つまり汁が二

種に菜が5つこれが昔のおも

てなし料理の基本でお膳もふ

たつ出たいいかえると一汁三

菜はひとつのお膳に載るふだ

んの家庭の食事であることがわ

かる

また汁にもいろいろあった

魚のアラを汁に仕立てたものや

野菜を豆腐と一緒に煮込むけん

ちん汁など具だくさんの汁も

各地域でみられ汁でご飯を食

べるということも和食の特徴の

ひとつだ

一汁三菜の献立の最大の特徴

は汁も香の物も菜もすべてご

飯を食べるために存在するとい

う点かもしれないご飯が主食

でその他の3つの要素が副食

という考えが一汁三菜の根底に

ある少ない菜でたくさんのご

飯を食べご飯の量でカロリー

の摂取量を調整するのがかつ

ての和食の基本的な食べ方だっ

たのだ

「和食」にとって欠かせないご

飯についてもここで触れてお

こう

米には「うるち米」と「もち米」

とがあり強い粘性を持つもち

米は赤飯などのおこわ(強こ

わいい飯

や餅に用いられるそれに対し

てうるち米はもち米より粘り

気が少なく通常の米飯として

使われる

米のもとになる稲の栽培が始

まったのは1万年以上前とされ

野生の稲を栽培したのが始まり

と考えられているその原産地

は中国の長江流域とその周辺

という説が有力でそこから西

へ伝わった品種がインディカ種

また東へと伝わり東アジアに

広がったのがジャポニカ種だ

「和食」における献立の目的は

いわば汁と菜でご飯を食べる

ことつまりご飯に合うのなら

例えばそれが肉じゃがでもコ

ロッケでもとんかつでも菜と

して取り入れてこられたのは

ご飯を主食とする「和食」のス

タイルがしっかりしていたか

らである一汁三菜という和

食の基本型がなくなったら外

国の料理と変わらなくなって

しまうだろう

「和食」の特徴 献立のかたち1

稲 玄米 白米 調理加工

粉にする

飯餅菓子米飯焼き米ひなあられ餅おかきあられ

稲わら 俵わらづと鍋釜敷き畳床むしろわらぞうり縄みのわらぼうき など

酒酢みりん味噌発酵させる

糠 たくあん糠漬けあく抜き

(上新粉など)柏餅草餅重

お も ゆ

湯など

(白玉粉落ら く が ん

雁粉道明寺粉など)白玉最中大福餅落雁桜餅など

どうみょうじ

うるち米の粉

もち米の粉

日本人の暮らしに深く関わる稲米

 現在世界で栽培されている稲の主な種類にはインディカ種(インド型イネ)やジャポニカ種(日本型イネ)などがあるインディカは長粒種と呼ばれる米ジャポニカは日本でよく食べられている丸く短粒な米で短粒種と呼ばれる米の主成分であるでんぷんにはアミロースとアミロペクチンとがありアミロースを多く含むインディカ種は粘り気が少ないのに対しアミロースの少ないジャポニカ種は粘りが強く日本人にとってはおいしい味の米であるそしておにぎりやすしのようにまとめる米料理も発達した 世界の米の生産量は約6億トンと小麦とほぼ同じだがその90以上が日本を含むアジア諸国で栽培されているジャポニカ種は全体の15を占め日本をはじめとして朝鮮半島中国東北部台湾北部などで主に栽培されているインディカ種の栽培地域はインドからベンガル地方のバングラデシュタイをはじめとするインドシナ半島中国の中南部インドネシアなど南アジアが中心だ

ジャポニカ種とインディカ種日常私たちがご飯として食べているのはうるち米赤飯や餅にするのはもち米である栄養価はほとんど同じであるがでんぷんの構成が異なるうるち米はアミロースとアミロペクチンの比率が約28であるがもち米はほとんどアミロペクチンで構成されているそのためにもち米はうるち米に比べて粘りが強く餅にするのに適しているのである日本では両方の米の特徴をうまく利用して粒のまままたは粉にするなどしていろいろな料理や菓子を生み出したり発酵させて酒やみりんなどをつくり出したりしてきた

うるち米ともち米

インディカ

ジャポニカ

「和食」に欠かせない

米はどこから来たのか

1920 WASHOKU

全国各地でさまざまな魚や野

菜が豊富に手に入ったことそ

して文明開化の時代まで一般

的に肉食をしなかったという背

景から「和食」は野菜と魚介類

を中心に調理されてきた

現在日本の市場で流通する

野菜の数は150種類ほどと言

われているその種類はイモ類

やマメ類をはじめ根菜類茎け

いさい菜

類葉菜類果菜類など実に多

様ださらには山菜やきのこ

など森林に自生するものも調

理に工夫することでうまく食材

として取り入れてきた

日本で流通する野菜は近代

になって外国から輸入されたも

のや品種改良によって食べや

すくなったものなど多様では

あるが昔から日本で作り続け

られている伝統野菜(在来野菜)

も少なくない伝統野菜とはだ

いたい三世代以上に渡って栽培

「和食」の特徴2

食材

和食を支える日本の食材

おいしさの秘密と多様性

おいしい和食には素材の力がある四季折々の自然の中から

生み出される日本の食材は驚くほど多様性に富んでいる

野菜

野菜と魚介類の二大食材に

支えられる日本食文化

和食には野菜を使う料理が多くあるが現在日本で流通する野菜の種類も150以上と幅広い分類にしてもジャガイモやサツマイモなどのいも類大豆や小豆などのマメ類ダイコンやカブなどの根菜類ネギやウドなどの茎

け い さ い

菜類コマツナや白菜などの葉菜類ナスやキュウリなどの果菜類そのほかにシイタケやシメジなどのきのこやワラビやゼンマイなどの山菜など多彩な野菜が存在するしかし現代でこそ流通の発展でさまざまな野菜が一年中手に入るが全国で同じ野菜が収穫できるわけではない例えば同じいも類でもサツマイモなどは九州などで多く作られるが冷害に強く冷涼な地で生育するジャガイモは山梨や長野などの山間部や日本の北部で育てられるそのほか地域特有の特産品である伝統野菜がいま注目され始めている

1920 WASHOKU

が続けられ地域に根づいた農

法で作られるものを指しこれ

を守る動きも目立ってきている

魚介類も「和食」にとって欠か

せない食材のひとつ日本で獲

れる海水魚は実に種類豊富で

日本に生息する魚種だけでも約

4200種ある縁起のよい魚

として重宝されるタイをはじめ

アジイワシやサバサンマなど

日本の近海は魚の宝庫である

海水魚だけでなくコイやア

ユフナやウナギそして水田で

獲れるドジョウなどの淡水魚

(川魚)は海から離れた地域では

貴重なタンパク源だったため

古くから料理に使われている

ウナギの蒲焼きは一般的だが

薄切りにしたコイを50くらい

の湯に短時間漬けてから冷水で

身を締めて酢味噌で食べる「鯉

のあらい」やコイの切り身を濃

い味噌で煮た「鯉こく」など味

わい方も豊富

またうま味のもととして古

くから使われてきた昆布や味

噌汁の具としても重宝するワカ

メさらにおむすびに必須の海

苔など海藻類も和食には欠か

せない貝類も種類が豊富で

アワビをひも状に薄くむき乾

燥させた「熨の

しあわび

斗鮑」が神事や祝し

ゅうぎ儀

の象徴として使われてきた

近年日本の食料自給率が低

下し外国産食材の増加も問題

視されているが本来の「和食」

は日本の自然の恵みによって支

えられているのだ

「和食」の特徴 食材2

島国である日本において魚介類は古くから貴重でかつ重要な食材であった農林水産省の定める生鮮食品品質表示基準によれば日本で食される水産物はマグロやカツオイワシやアジなどの海水魚やコイやウナギなどの淡水魚(川魚)シジミやアサリなどの貝類カニやエビなどの甲殻類やカメなどの水産動物類クジラやイルカなどの海産哺乳動物類そのほか昆布やワカメなどの海藻類など実に多様な種類がある2000年に味の素(株)がおこなった「嗜好調査」によれば「食材」としては肉類よりも魚介類のほうが好まれている結果がみられたさまざまな魚介類のなかでもカニエビマグロなどへの嗜好性が高くそれらが「贅沢な食材」と捉えられているようである

山間部など海の魚が手に入らない地域で貴重なタンパク源として重宝されたのが淡水魚(川魚)写真はアユだがその他コイやウナギドジョウワカサギフナなど日本ではさまざまな川魚が食材として使われてきた寄生虫のおそれがあるため生食はあまりされないがその代わりに調理にはさまざまな工夫が見られる海の魚に比べると独特の臭味やクセがあるため「鯉こく」のようにしっかりと煮込むことで臭味を除いたりウナギのように蒲焼きにしたりするなどがその一例だまた例えば滋賀県には琵琶湖で獲れるフナを塩と米で乳酸発酵させ保存性を高めると同時にうま味成分を引き出した「ふなずし」もある

古来日本で食べられてきた海藻類現在でも低カロリーでミネラルビタミンに富む食材として和食では重宝されている日本では約50種類の海藻が食べられているが世界的にみてもここまで多様な海藻を加工し食用とする民族は珍しいなお海藻にはフノリやテングサのような紅藻ワカメ昆布やモズクなどの褐藻アオノリや海ブドウなどの緑藻類の3種類の海藻が存在する昆布のようにだしをとるために使うものもあるが乾燥させて食べる海苔味噌汁や酢の物の具として使われるワカメのようなものまで実に幅広いまた海藻は神への奉納品としての縁も深く日常の食事だけではなく祭りや神事などにも登場している

縄文時代の遺跡である貝塚からアワビやハマグリカキなどの大量の貝殻が発見されていることからもわかるように貝類は日本では古くから食材として利用されてきた春先の干潮時に浜辺に埋まったアサリなどの貝を掘り出して採取する潮干狩りは春の風物詩としても馴染み深い日本には6000近い貝類があるといわれておりなかでもアサリやハマグリのような二枚貝サザエやツブ貝のような巻き貝が食用として親しまれている調理法としては刺身や吸い物味噌汁煮物焼き物炊き込みご飯など幅広い料理に使用されているがだしをとるためにも使われるさらに乾物にすれば保存性も高くなるため古くから交易にも活用されてきた

海の魚

川の魚

海藻貝

2122 WASHOKU

和食における菜さ

の調理法には

煮る焼く蒸す茹でる和あ

える

揚げるなど実に多様な技法が

あるこれを季節の野菜や山

菜魚介類海藻などの食材と組

み合わせることでバラエティ

に富んだ菜が食卓を彩る

数ある日本の調理法の中で

最も特徴的なのは「生もの」材

料を生のまま切り皿に盛り付

け調味料と薬味を添える刺

身といえば魚介類が用いられる

のがほとんどで捌さ

き方切り方

盛り方などが現在世界で注目を

浴びている材料を新鮮な状態

に保つ技術と料理としての盛り

付けの技術があいまって完成し

たものといえる調味料と薬味

の組み合わせも魚類との相性を

考えて工夫されているまた

わさびしょうがからしなどの

薬味や「つま」や「けん」と言わ

れる大根のせん切り大葉防ぼ

うふう風

芽めたで蓼花は

なじそ

紫蘇など防菌効果のあ

るものを添えて見た目も美し

く組み合わせている

ご飯と並んで食卓に欠かせ

ない「汁物」は鰹節や昆布煮干

し干し椎茸などから抽出され

るだしのうま味と具として入

れる素材のうま味が味わいのベ

ースとなっている中には具だ

くさんの菜になるような汁も

ある

また豊富な水を利用した調理

焼き物(サンマの塩焼き)

直火焼きは遠火の強火でほかに間接焼きがある

生もの(カツオの刺身)

生ものには刺身あらい酢の物漬物がある

茹で物(もりそば)

小麦粉やそばなどの粉からつくる麺を茹でる法

旬の食材のおいしさを

引き出す調理法の数々

「和食」の特徴3

調理

切る煮る焼く蒸す茹でる和える揚げるhellip

あの手この手で素材をよりおいしく

バランスの取れた一汁三菜の基本はご飯にあり

ご飯をおいしくいただくために菜さ

の調理方法は進化した

煮物(筑前煮)

煮汁の中で加熱中に調味する法

2122 WASHOKU

法に「茹で物」があるたっぷり

の水を沸騰させ食材を加えて加

熱して取り出すもの青菜そば

などは茹でた後にあくの除去

歯触りを良くするなどのためさ

らに水で洗う場合も多い私た

ちがあたりまえのように調理し

て食べているほうれん草や小松

菜のお浸しは水に恵まれた日本

に定着した料理で世界的にみて

も特徴あるものといえよう

「焼き物」はサンマの塩焼きの

ように塩をふり直火でじっく

り焼き上げる方法が伝統的

「煮物」は世界で最もポピュラ

ーな調理法だが日本では素材

の味を生かしつつ醤油や味噌

など大豆由来の発酵調味料で

味を調えるものが多い

油とともに加熱調理する「炒

め物」は伝統的な調理にはほと

んど見られないが現代では盛

んに使われ和食の幅を広げて

いる

ここに紹介した調理法と料理

の例は主にご飯のおかずとな

るものであるが小麦そば雑

穀などを粉にしこれを調理し

た主食も多い代表的なものに

うどんそばそうめんなどの麺

類があり茹でる場合が多いが

煮込みなど煮るものもある

さまざまな料理を組み合わせ

て食べる和食は素材の味を生

かしうま味をしっかりとれば

最低限の調味料でおいしさを感

じることができ多様な料理を

楽しむことができる

和あえ物

(きゅうりとワカメの酢の物)

野菜や魚介類などをごま味噌酢などで和える法

漬物(きゅうり大根の糠

ぬか

漬け沢たく あ ん

庵漬け)生ものを保存する方法の一種

塩の働きに加え乳酸発酵させたものが多い

汁物(なめこの味噌汁)

だし汁を主体とする法すまし汁みそ汁とろみのついた汁など

蒸し物(茶碗蒸し)

水を沸騰させその水蒸気を利用して加熱する法

浸し物(小松菜のお浸し)

お浸しは調味した汁に浸して味をつけたもの

「和食」の特徴 調理3

揚げ物(天ぷら)

高温の油で食品を加熱する法油の温度は150~200度の範囲で行うことが多い

2324 WASHOKU

「和食」の特徴4

味わい

うま味日本人が発見した「おいしく食べる」最大の知恵

和食の味わいの中で最も重要なのがだし

味噌汁やすまし汁のベースとなり

煮物やおひたしなどさまざまな料理の

味を決定づける味の要だ

和食の味わいを語るうえで忘

れてはならないのがだし(出

汁)の存在汁物や煮物などさ

まざまな料理のベースとして使

われている

なぜ日本人はここまでだしを

好むのかその答えに大きく関

係するのが「うま味」だ江戸時

代の料理書には「だしこそ料理の

根本である」と書かれている

1907年池田菊き

くなえ苗

博士に

よって世界で初めてうま味成

分のひとつがアミノ酸の一種で

あるグルタミン酸であることが

発見されたその後日本人を中

心に研究が進みうま味は甘味

塩味酸味苦味に加えて第5

の味覚として広く知られるよう

になる現在ではうま味調味

料やだし入りのつゆなどうま

味成分を手軽に使える調味料も

普及海外でも人気が高く国

内でも日常的に使用されている

だしのほかに和食の味付け

日本が世界に誇る

第5の味覚うま味

うま味成分を多く含む椎茸もだしをとる目的で使われてきた食材のひとつだしに使用するのは干したもの椎茸は乾燥させることでうま味や香り成分が増すためだ

小魚を煮て乾燥させてつくる煮干しも汁物に多用される材料としてはカタクチイワシが代表的だがその他ウルメイワシやキビナゴトビウオなどの比較的魚体が小さな魚を使ってつくるのが一般的だ

だしのとり方は魚介や野菜から水や湯を使ってうま味成分を抽出するのが一般的だしの素材として最もよく使われるのは昆布と鰹節でそのほか煮干し野菜干し椎茸魚の内臓やあら(頭や骨)などがあるまた潮

うしおじる

汁のように食品そのもののうま味を活かす方法もある

鰹節

「だし」のこと

昆布

煮干し

干し椎茸

2324 WASHOKU

に欠かせないのは塩砂糖味

噌醤油酢酒みりん魚醤な

どの調味料わさびやからし

しょうが山椒とうがらしゆ

ずなども薬味として使われる

これら薬味によって季節感を楽

しみながら素材の味を引き出

すという知恵も「和食」ならでは

夏に高温多湿となる日本では

アジア諸国と同様発酵食品が

発達したそれゆえ味噌や醤

油や酢に代表される発酵調味料

を多用するのも和食の特徴大

豆や穀物を塩漬けにして発酵

させてつくるものだがその過

程で原料のタンパク質がアミノ

酸に分解されうま味成分を豊

富に含んだ調味料ができあがる

のだ

発酵食品も多様だ日本各地

でカビや酵母などの微生物の

働きを活かして食品中のアミ

ノ酸(うま味)を増やす発酵食品

が発達してきた冬場の保存食

として生み出された沢庵や塩

を使って乳酸発酵させる京都の

すぐき菜漬けそして糠ぬ

漬けや

奈良漬けなど野菜を発酵させ

た漬物さらに塩辛やくさや

なれずし鰹節など魚介の保存

食としての発酵食品また大

豆を納豆菌で発酵させる納豆や

こうじ菌で発酵させて乾燥後に

熟成させた寺納豆など大豆の

発酵食品もある

「和食」はうま味を上手に生

かし食材をおいしく食べる知

恵を育んできたのだ

発酵食品

発酵調味料

調味料

「和食」の特徴 味わい4

発酵食品と調味料

魚醤魚を塩漬けにして発酵させる独特の香りと濃いうま味が特徴の調味料ハタハタでつくられる秋田の

「しょっつる」イカやイワシを材料とする能登半島の「いしる(り)」などがある

酒酒もまた和食の調味に欠かせない発酵調味料のひとつ調味料としての酒の主な効果には材料の臭みを消す食材のうま味を引き出して風味をよくする甘みを加えるなどがある

塩海に囲まれている日本では古くから塩は調味料として使用されてきた焼き物や刺身などの調理の味付けとしてはもちろん漬物や干物など食物を貯蔵するための知恵としても活用されている

味噌蒸したり煮たりした大豆にこうじ食塩を混ぜて発酵熟成させた日本を代表する調味料のひとつ味噌汁や煮物などに使われることが多い地域によって使用される味噌の種類がかなり変わるのも特徴だ

酢寿司やなますなど和食に酸味を加える調味料米から醸造した酒に酢酸菌を加えて発酵させて造られる酢に漬けることにより保存性を高める

醤油大豆と小麦で造ったこうじに食塩水を加えた「もろみ」を発酵熟成させ搾ったもの刺身や焼き魚煮物炒め物など幅広い料理に使われている種類は濃口薄口たまり再仕込み白の5つに分類される

みりん蒸したもち米と米こうじを主原料に40~60日かけて熟成させて造られる発酵調味料砂糖と比べて甘みがやわらかく食材の臭味を取る働きもあるまた魚の照り焼きなどのつや出しにも使う

漬物素材を食塩や酢酒粕醤油などに漬け込み熟成させて作られる漬物沢庵や梅干し野沢菜漬けなど野菜類を長期間保存するための知恵として誕生した日本各地に独特の漬物があるのも特徴だ

納豆日本で発展した発酵食品である納豆大豆を納豆菌で発酵させた食品で寺納豆(下記参照)と区別するため「糸引き納豆」とも呼ばれる単品で食べるだけではなく納豆汁や納豆和えなどにも使われている

塩辛魚介類の身や内臓を塩漬けにし発酵させて作られた塩辛は日本における伝統的な保存食品のひとつ使われる素材はその地域によって変わりイカやエビアミタコなど多彩な種類の塩辛が存在する

塩に漬けた魚と炊いたご飯を数日間置き乳酸発酵させたなれずしは魚を保存する知恵として生まれた滋賀県では琵琶湖産のふなを和歌山県や富山県ではサバを岐阜県などではアユを材料にしたものが有名写真は滋賀県湖北地方の年頭の祭りで振る舞われる鯖のなれずし

砂糖世界的に見ても「甘み」を用いた料理が多い現在の和食では砂糖は欠かせない調味料のひとつ単独で料理に使われるというよりは煮物をはじめとするさまざまな料理で醤油や塩味噌などと併用されることが多い

寺納豆茹でた大豆にこうじを加えて発酵させ乾燥させながら熟成を促す発酵食品粘り気のある糸引き納豆とは異なり乾燥して塩辛い禅宗の伝来とともに大陸からもたらされたとされ寺院で作ることが多かったため「寺納豆」と呼ばれた

2526 WASHOKU

「和食」の特徴5

栄養

栄養バランスの優等生「和食」

野菜や魚肉そして米によって構成される「和食」は

栄養バランスの良さでも知られている

最近は五日間すべてを米飯にする完全米飯給食を行う地域も生まれた

和食の特徴のひとつである栄養についてその秘密に迫る

米麦雑穀などを炊いたご飯

を主食としてこれに魚介肉

類野菜類に発酵調味料だしを

組み合わせた和食は栄養学的

にみてもバランスをとりやすい

食事である

歴史的にみると日常食では

主食を大量に摂る習慣が続いた

穀類偏重の食生活だったといえ

よう

しかし豆腐や納豆みそ汁な

どを飯とともに摂ることで米の

アミノ酸の利用率を上げる食べ

方年中行事などハレの日に魚

介類などを摂取して楽しむなど

学ぶべき知恵は多い

なかでも何百年も伝えられて

きた和食の基本型はすぐれた

ものといえよう

副食の主菜には魚肉豆腐

などタンパク質を多く含む料理

を考える副菜には主菜に使わ

なかった野菜芋類などを使い

汁は主菜に合うものを用意する

焼き魚野菜の煮物青菜のお浸

しとみそ汁などでも栄養的バ

ランスはとれている

1980年頃までは多くの

家庭で和食の基本型が続いた

主食の量がやや減り副食が増

加とくに乳乳製品肉類の割

合が増加したこの頃栄養バ

ランスをはかる一つの指標であ

るPFCバランスが理想的な比

率を示した(左記参照)

しかしその後外食の日常化

家庭料理の欧米化が進み米の

摂取量が激減し脂質摂取の過

多などから生活習慣病が問題

となったこうした中各地で

食生活を見直す動きがみられる

ようになったその一つが学校

給食での取り組みである

戦後の食料難の中でパンと

牛乳に副食を加えた完全給食は

1950年に始まった197

6年に米飯が導入されるまで長

く続いたパン給食は和食の基

本型にも影響を与えたようだ

米飯給食は次第に増加し

2010年には週3回以上米

飯給食を実施している小中学

校は90以上となったが週5

回の米飯給食の実施は7以

上と高くない

ここでは2008年に5日

間すべてを米飯給食とした新潟

県三条市の事例を紹介しよう

成長期にバランスのよい食事

で健康な体をつくることそし

て望ましい食習慣を身につけ

生涯を健康に生きることをめざ

し完全米飯給食を実施したと

のこと

米は同市で生産される農薬

を減らしたコシヒカリを七分搗つ

きにした米飯を主食に副食は

主菜副菜汁を組み合わせる献

立をベースとしている主菜は

サケのフライ鶏肉ピリ辛焼き

さんま梅煮など伝統的な和食だ

けではないが和食の基本型の

中に取り入れる工夫がされてい

るパ

ンは油脂や糖分と相性が

良く肥満につながりやすいが

新潟県三条市の給食献立一例三条市の小中学校での献立例ご飯は三条市で収穫したコシヒカリを使用「お米だと腹持ちがよいのでデザートをあまり出さなくとも子どもたちが満足してくれる」とのこと洋風や中華風の献立でもおかずはご飯に合うものを選びスープなどの汁物は確実につけるように心がけている

火曜日

えだまめごはん

さけチーズフライ

くきわかめきんぴら

かきたまじる牛乳

小学校687kcal中学校823kcal

水曜日

ごはんとりにくのぴりからやきいかときゅうりの

あえものしょうがみそスープ牛乳小学校639kcal中学校752kcal

木曜日

ごはんさんまうめにたくあんあえにくじゃがに牛乳なし小学校688kcal中学校814kcal

金曜日ごはんカレーふりかけほうれんそうオムレツフレンチサラダパンプキンスープ牛乳小学校708kcal中学校833kcal

月曜日

ごはんいかのかりんあげ(2こ)

なっとうあえきのこけんちんじるのむヨーグルト

小学校619kcal中学校731kcal

2526 WASHOKU

七分搗米の飯は腹持ちがよく

おやつを食べる子どもが減った

だけでなく肥満の子どもが減

少傾向となり食生活のリズム

が良くなったとされる

また米飯に合う副食は土地

でとれる野菜類を取り入れやす

く季節にあわせてバラエティ

ーに富んだ献立を作ることがで

きる一汁三菜の食べ方の教育

を行った結果給食を残す子ど

もたちも減ったという

基本的な食事パターンが続く

中でも菜を工夫すれば変化に

富む食事を作ることはできる

季節の食材について学び年中

行事への知識も得られるだろう

また子どもたちが和食の基

本型を毎日の給食で体験してい

ることはきわめて重要なことで

ある時々経験するだけでは身

につかないものでも毎日繰り返

すことによって習慣化し定着

するのであるそしてやがて

自分で組み合わせを考えられる

ようになることが期待される

今後の学校給食の役割は大きい

といえるだろう

PFCバランスとは

FAO Statistics Yearbook(日本のみ食料需給表)参照栄養バランスが良いとされるP(たんぱく質)10~20F(脂質)20~30C(炭水化物)50~70の範囲が08~12に収まるように指数化した

日本でのPFCバランスの変化

アメリカとフランスのPFCバランス

タンパク質脂質炭水化物は人間にとって特に不可欠な「三大栄養素」PFCのPはProtein(たんぱく質)FはFat(脂質)CはCarbohydrate(炭水化物)の頭文字でPFCバランスとは食事の中での「たんぱく質」「脂質」「炭水化物」のそれぞれの摂取カロリーの比率健康的な生活をおくるためにはPFCバランスがたんぱく質15脂質25炭水化物60が理想的

給食時には全員で「いただきます」「ごちそうさま」を復唱食育にも力を入れているためそれら言葉の意味についても学校で教えている

米飯給食になってから児童たちの食の嗜し こ う

好に変化が生まれたとか児童たちに好きなおかずを聞いてみると「ハンバーグ」「カレー」などの定番メニューのほか「焼き魚」「納豆」などの和食メニューの名前が上がった

自分の分を食べ終わった児童たちが列をつくって競い合うようにご飯をおかわりしていたこの日の食べ残しはゼロ

C

P

F

14

12

1

08

06

アメリカ(2005~2007年)

C

P

F

14

12

1

08

06

フランス(2005~2007年)

「和食」の特徴 栄養5

日本人のPFCバランスは1965年当時は炭水化物に偏っていたが1980年は非常に理想的な配分になっていたしかしその後の日本人の食生活に肉や油脂類を多く摂り主食の米を食べる量が減り2010年時は欧米型に近づきつつある

C

P

F

14

12

1

08

06

日本1965年

C

P

F

14

12

1

08

06

日本1980年

C

P

F

14

12

1

08

06

日本2010年

2728 WASHOKU

お客を迎える前には店先に打ち水を水で清め準備が整ったことを伝える趣向に合う軸を選ぶのももてなしの基本飾る花は主人自ら育てたものそれを床の花入に活けるのも主人庭に150種ほどの草花を植え日々育てることもしつらいの準備客は女将の温かいもてなしに迎えられる

「和食」の特徴6

しつらい

人をもてなすためのこころとかたち

もてなしは客に対する一方的なサービスではない

お互いに思いやる気持ちから生まれるこころよさである

手入れの行き届いた庭は掃き

清めて水を打ち床の間には軸

を掛け季節の草花を生ける

座敷の襖ふ

すま

も夏には葭よ

しど戸に入れ替

え夏は涼やかに冬は暖かに

すべて相まってもてなしのた

めの用意を整えることそれが

しつらい和食とりわけ懐石

料理においては食材や料理と

ともにしつらいは非常に重要

な要素となる

家庭でも食事をつくる人は

食べる人の顔を思い浮かべなが

ら食事の用意をする食べる人

はつくってくれた人の気持ちを

考えて賞味するここに互いに

もてなす喜びが生まれるのでは

ないだろうか

こうしたもてなしの文化を極

限にまで洗練させた姿が料亭の

もてなしである京都府の無形

文化技術保持者に料理人として

初めて認定された京都の老舗料

亭「瓢亭」の十四代主人高橋英一

さんにその心を聞いてみよう

「料亭は日本文化の凝縮のひと

つと言えます玄関から入って

座敷に行くまでに通る露地にも

季節感があり部屋に入れば時

季や行事の軸がありその座敷

のために選んだ花が飾られる

日本人が自然と身につけている

桜の器を使うことで膳の上にぱっと花が咲くような華やかさが生まれるあしらいは酢取り防風岩海苔

秋の花菊の器はこっくり深い色合いも相まって秋に似合う風情を持つあしらいは岩茸菊花

深さのあるガラスの器に氷が敷き詰められる涼感を目でも舌にも感じるあしらいは穂紫蘇寄せ莫大

縁起のいい鶴は新年の席でも使われるモチーフあしらいは水前寺海苔紫芽紫蘇

四季の感性で受け止めてもらえ

るよう整えお出迎えします

料亭は普段とは違うハレの場で

すがとはいえ行き過ぎず足り

ないことのないよう自然なし

つらいそしてもてなしを心が

けます」

「瓢亭」の座敷に飾られるのは

主人が庭で丹誠込めて育て自

ら生ける茶花

「もてなしの根

底に利休さんの『花は野にある

ごとく』の言葉を思いますが簡

単なようでそれが難しい」自

然体でのもてなしを生むしつら

えは名店においても日々心を

くだき工夫するのだ

「瓢亭」では1年をとおして明石の鯛の向付を供しているが季節ごとに

器とあしらいを変えることで四季を演出している

四季の演出

2728 WASHOKU

和食はご飯と菜あるいはご飯とお汁というように常にご飯を間にはさんで菜や汁をとるのが本来の食べ方下のような不作法とされる箸使い(嫌い箸)があるので覚えておきたい

ご飯は茶碗に味噌汁はお椀

に焼き魚だったら平皿にと普

段料理に合わせて何気なく使う

食器種類の多さもさることな

がら形や素材もさまざま欧

米はもちろん近隣諸国を見回

してもこれほど多種多様な器を

使う国はないそれは四季が明

確なことと無関係ではない

「自宅でも季節に合わせた器

にするだけで気分が変わりま

すよ」と前出「瓢亭」のご主人は

語る 

春であれば華やかな色や形の

もの夏はガラスや青磁など涼

しげな素材の器秋は実りのあ

る彩りがあるもの冬は厚手の

陶器や木製など温もりのあるも

の色素材形を変えるだけで

季節感を演出できる「和食」な

らではの楽しみ

食事の際当たり前のように

使っている箸も日本の食文化

を代表する食具奈良時代以

降匙さ

を使う伝統が消え箸だ

けを使うようになったため熱

い汁物は椀を持ち直接口を

つけてすする文化が確立同

時に椀箸ともに個人所有が基

本となった椀や箸を共有し

匙やレンゲを使うほかの東南

アジア諸国とは異なる食文化

を形成箸食文化圏の中でも

唯一箸だけでご飯を食べる国

となったまた一口に箸といっ

ても食箸取り箸菜箸など用

途に合わせてさまざま食べ

る際に使う食箸だけを見ても

形や素材のほか加工や長さも

豊富にそろうのだ

「和食」の特徴7

箸と椀

「和食」を支える箸と椀

箸食文化圏の中でも唯一箸だけを使う国日本

季節感を感じさせる器とともに独特の食具文化も誇る

渡し箸食事の途中でお箸を

食器の上に渡し置くこと

寄せ箸遠くの食器を

箸で手元に引き寄せる行為

指し箸食事中箸で人やものを指すこと

迷い箸どの料理にしようか迷い箸を料理の上で動かすこと

移り箸いったん取りかけてから

ほかの料理にお箸をうつすこと

箸には食事に使う食箸と調理に使う菜箸とがある菜箸は熱から手を守るため30~50と長く片方がなくならないよう糸でつながっているものもある取り箸は菜箸の一種食箸は個人所有が基本のため使う人に合わせた長さが用意されている漆塗りや螺鈿細工を施したものも多い

種類

形状だけでなく素材もさまざまで近年は黒檀や鉄木など硬質な木が使われることが多い日本の木としては特有の香りがあり古くから懐石用や割り箸に使われてきた杉耐水性耐湿性が高く保存性に優れる上に軽くて持ちやすい檜強くしなりがあり細かいものを取りやすい竹などがある

素材

家庭で使う食箸の形には角箸や四角で角が丸い胴張り五角六角七角八角のほか削りなどがあり持ちやすさに合わせて選べる箸先に加工が施されたものもある来客用に使う銘々箸や割り箸には断面が小判型で割れ目と溝が付いた元禄箸や中央部が太く両端が細い利休箸などが用意されている

日本人にとっての箸は調理から盛りつけ食事までをこなす大事な道具食箸は個人所有が基本のため個々に合わせて選べるのも特徴だ

箸の働き

箸使いの作法を知る

【嫌い箸】

食箸

八角箸 削り箸

菜箸

檜竹

「和食」の特徴 しつらい 箸と椀6 7

2930 WASHOKU

神し ん せ ん

饌として神へ供えられるお神酒は神棚の最上段の中央に置かれるほど重要な地位を占めている

日本酒を造る酒蔵は全国に約1600弱その数は年々減り続けているが数年に一度「日本酒ブーム」も起きている

日本酒とは米と米こうじ

そして水を主な原料にしてそ

れらを発酵させて造られる

原料には主食用の米ではなく

酒造りに適した性質を選び品

種改良された酒し

ゅぞうこうてきまい

造好適米を使

うことが一般的だまた日本

酒の80を占める水も品質を

左右する大きな要因日本酒

の香味を損なわない良質な水

が必須だ

日本酒の醸じ

ょうぞう造の工程にはさ

まざまな技術が伴う例えば米

を精米して味と香りを調整する

技術これは米の外側にあるた

んぱく質や脂質といった雑味の

もとを除くことが目的だが大だ

吟ぎんじょう醸酒にもなると米を半分以

上削ってから仕込むこともある

次いで米を発酵させる技術

酒の場合の発酵とは酵こ

うぼ母が糖類

を食べてアルコールを出すこと

をいうが米には糖類が含まれな

いためまずは米をこうじ菌の酵

素によって糖類へと変えそこに

酵母を加えて発酵させるという

複雑な手順(複式発酵)が必要だ

この手順で使われるこうじもバ

ラこうじと呼ばれる日本独特の

ものだバラこうじは糖化力が

高いのが特徴で日本酒の香りや

味に大きく影響する

稲作を中心に文化を育んでき

た日本では米餅米から造ら

れる酒は地域を問わず重要な

ものとされている米の一粒一

粒に神が宿り同じように酒も

神のおかげで造ることができる

と考えられてきたそして酒

もまた食べ物と共に神に近づ

くための手段として古くから用

いられてきた

同時に家族や親族地域で人

と人をつなぐ上でも酒は大き

な役割を担っている例えばお

神み

き酒祭礼の後には神の酒を

人々が口にする神と同じ酒を

飲みそれを人々が分かち合う

ことで地域やコミュニティが

結束力を強めるのだろう

米や麦やさつまいもなどを原

料とする焼酎も日本酒と並び

日本の國酒とされている酒は

人と人の心をほぐし食事を引

き立たせる重要な役割を担って

いるのだ

「和食」の特徴8

「和食」を引き立たせ

心をほぐす日本の酒

日本人にとっての主食であり精神のかなめでもある米

その米で醸か

される日本酒は「和食」にとって欠かせない要素

日本の「國こ

くしゅ酒

」にもなっている

2930 WASHOKU

「和食」の特徴9

和菓子日本茶

暮らしに寄り添う和菓子とお茶

自然の恵みに感謝し季節の移ろいを敏感に表現する和菓子

日本茶は喉のかわきを癒すだけでなく心を癒し心を高める飲みものである

「和食」の特徴 酒 和菓子8 9

ハレの日の願いを込めた和菓子

和菓子分類餅もの 餅団子大福など蒸しもの 饅頭蒸羊

よ う か ん

羹外う い ろ う

郎村む ら さ め

雨など煉もの 煉

ね り き り

切こなし求ぎ ゅ う ひ

肥飴葛く ず

菓子など焼きもの 味噌松風煎

せ ん べ い

餅桃も も や ま

山カステラどら焼など流しもの 錦

にしきだま

玉煉ね り よ う か ん

羊羹水み ず よ う か ん

羊羹など揚げもの 揚げ煎

せ ん べ い

餅かりんとうなど打ちもの(押しもの) 落

ら く が ん

雁など岡もの 最

も な か

中きんとん鹿か の こ

の子すはまなどかけもの 金

こ ん ぺ い と う

平糖五ご し き ま め

色豆石いしごろも

衣など

これは和菓子の製法によって大まかに分類した表このほか含有する水分量によって生菓子半生 菓 子 干 菓 子などの分け方や上じ ょ う な ま が し

生菓子並菓子駄だ が し

菓子などの分類もある

「岡もの」とはすでにできあがっ た素材をあわせたもの (例きんとん=飴玉とそぼろ餡)

甘く味付けしたごぼうと白味噌餡を赤や白の餅や求

ぎ ゅ う ひ

肥で包んだ生菓子平安時代の新年行事のひとつで長寿を願っておこなわれた「歯固め」の餅に由来する餅と味噌の組み合わせから「包み雑煮」とも呼ばれた

葩はなびらもち

一 月

旧暦十月は「亥の月」と呼ばれていたがその月のさらに「亥の日」に行われる年中行事の際に食べられていた菓子旧暦では10月が冬の始まりそのタイミングで無病息災と多産の猪にあやかって子孫繁栄を願ってこれを食べていたという

亥い の こ も ち

の子餅

十 月六 月

白いういろうの上に小豆の粒餡を散らした菓子古来京都で旧暦六月の晦

み そ か

日(30日)に無病息災を祈願して行われている

「夏なごしのはらい

越祓」になぞらえて初夏の頃に食べられている小豆には邪気祓いの意味があり三角の形は氷を表している

水無月

五 月

平たく丸めた上新粉の餅をふたつに折り中に小豆や味噌の餡を挟んでそれを柏の葉で包んだ菓子柏の葉は新芽が育つまで古い葉が落ちないことから

「子孫繁栄」を願って旧暦五月五日の端

た ん ご

午の節句の供く も つ

物として用いられてきた

柏餅

日本ならではのお茶の製法である手揉みは茶葉の繊維をつぶしながらうまみを引き出すために行う作業手揉みすると茶葉が切れないため茶の甘みを保つことができる

菓子もまた「和食」にとって欠

かせない要素でお客様用の「上

菓子」普段食べる「饅頭」や「餅

菓子」などに分かれるほかに

干菓子や駄菓子など菓子の種

類は多いまた例えば団子や

大福などは「餅もの」求肥や飴

などは「煉りもの」錦玉や

水みずようかん

羊羹などは「流しもの」などと

いうようにその製法によって

分類されることもある米や麦

小豆を代表とする豆類そして

砂糖や水あめなどの材料でバ

ラエティに富んだ菓子が生み出

されてきた

お茶会などの席で抹茶ととも

に味わう菓子もあり季節に合

わせて材料や色やデザインが選

ばれ味覚だけでなく視覚で楽

しむこともある

また年中行事と結びつく菓

子もある例えば旧暦三月三日

の「ひな祭り」では邪気をはら

い強い生命力を象徴するよも

ぎの草もちでつくった草餅を食

べる

和菓子には日本茶がふさわし

い緑茶は12世紀に中国から日

本に伝わったが今では生の茶

葉を蒸してから揉んで乾燥させ

る緑茶の製法は日本独特のもの

となっている緑茶に含まれる

カフェインは覚醒効果がまた

カテキンには抗酸化作用があり

ビタミンCも多く含まれて健

康によい日本茶独特の香りと

うま味は日本文化そのもので

ある

出典「和菓子の歴史展」第五十回虎屋文庫資料展より

3132 WASHOKU

日本の「和食」の文化は自然

環境だけでなく海外からの影

響によっても絶えず変化して

きた

近代以降にはコロッケとん

かつなど洋風料理を和食の基本

型に組み合わせた食事肉と野

菜の煮物や和え物などそれまで

にはない料理が工夫されたそ

の多くは和食の基本型味噌や

醤油を用いた味付け箸で食べ

られる料理など「和食」の要素

を保ちつつ伝えられてきた

しかし第二次世界大戦後高

度経済成長期を迎えると日本人

の食生活は急速に変化する

1970年代にファストフー

ド店ファミリーレストランが

各地に開店しコンビニなども

広がった

1980年頃主食と副食の

バランスは理想的とされたが

(26頁参照)その後米の消費量

はさらに減りパン食が増加

肉類油脂乳乳製品の消費量

も増加し食料自給率も下がっ

た家族での外食が日常化し

家庭の食事も欧米化した

食育の必要性

「和食」が危ないどうしたら伝えられるのか

この150年間で大きく変化し「和食」はいま衰えつつあるその原因はどこにあるのだろうか

食生活の変化

日本の食料自給率の変化農林水産省「食料需給表」より作成

日本のものを食べなくなって 「和食」はどうなる 日本の食料自給率は下がり続けている1965(昭和40)年度はカロリーベースで73だったが2012(平成24)年度は39その大きな原因のひとつは国内で自給可能な米や魚や野菜などの消費量が減少する一方国内で生産が困難な飼料穀物を食べて育つ畜産物や原料を輸入に頼ることが多い冷凍加工食品や小麦の消費が増加したことだと考えられている炭水化物たんぱく質脂肪分をバランスよく摂取する健康的な「和食」に未来はあるのか

国民一人一日当たりの供給純食料農林水産省「食料需給表」より作成

食べる米の量が50年で半減 増えたのは肉と乳製品 国民一人あたりが食べる量を品目別に眺めて分かることそれは日本人が食べる米の量が著しく減ってきたことだ1960(昭和35)年度は一日あたりの米の消費量は約315gだったが2010(平成22年)年度は163gに約半減その代わりに増えたのは牛乳乳製品(約60gから約240g)と肉類(約14gから約80gへ)野菜と魚を中心としたおかずでご飯を食べるという

「和食」のスタイルの変化がわかる

食料費における外食と中食の割合の推移総務省統計局「家計調査年報」より作成

家で食べても 調理することが減っている 外食に対して家庭で作って食べる食事を内食というが弁当や惣菜など調理をせずに食べられるものを買ってきて済ます食事は中食と呼ぶ実はこの中食の割合が増えている外食が占める割合は2000(平成12)年以降横ばいなのに対して中食は増え続けその代わりに内食が減っている食事は家で食べても調理はしないという家庭が増えているのだとすれば「和食」にとって大切な要素を子どもたちに伝える機会が減っているとはいえないだろか

食料自給率(金額ベース)

食料自給率(主食用穀物)

食料自給率(カロリーベース)飼料自給率

米 野菜 肉類牛乳乳製品 魚介類

内食 中食 外食

(g人日)

3132 WASHOKU

50

55

60

65

70

75

01992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012

70

75

80

85

90

95

01992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012

一日に一度はお米を食べないと気がすまない人の割合博報堂生活総研「生活定点2012」

お正月におせち料理を食べた人の割合博報堂生活総研「生活定点2012」

一日に一度は米を炊いたご飯を食べなければ気がすまない人の割合が実はこの20年間で減っているというデータがある1992(平成4)年には714だったが2012(平成24)年には564にまで落ち込んでいるのだ

家族や親族で集まっておせち料理を囲みながら新しい一年の無事を祝うお正月実はおせち料理を食べる人も毎年少なくなっている1992(平成4)年には866だったが2012(平成24)年には748だった

電子レンジの普及や冷凍食品

インスタント食品などにより

食生活は便利になったが家庭

内で調理をする機会が減ったと

もいえる

こうしたなか「和食」の優れ

た点をどうしたら伝えられるの

だろうか親から子へ家庭の食

を伝えるだけでなく学校を通

して子どもたちにさらにその

親の世代にも伝える必要があろ

う高齢者からは「和食」につ

いて具体的に教わることも求

められる

離乳期からの食べ物の選び方

幼児期の食経験を豊富にするこ

となどはとくに重要であろう

小さな頃からの食習慣はその

後の食習慣に大きくかかわって

くるからだ

だしのおいしい味を日々体験

することや魚を味わい骨を箸

でとる訓練を楽しい雰囲気のな

かで教わることなどその積み

重ねの中で「和食」は伝わるので

あろう

経験しない味は異文化とと

らえられるであろうし体験し

ていない調理は簡単でも難しく

感じる食事を用意する過程を

日々見る経験手伝う楽しさ美

しい食器を大切にして使うこと

同じ食べ物を家族や仲間と味わ

い祭りや花見などで共に食べ

る経験を積み重ねることは文

化としての「和食」を伝えるだけ

でなく生きる力を育むことにも

つながるであろう

壁にではなく居間に向かって設置されることが多くなった現在のキッチン夫婦共働きだというこの家庭では夫が厨房に立つことも少なくないというこのように食事の準備を子どもと一緒に行うことで「和食」にとって大切な要素が次の世代に伝えられるようになるのだろう

世帯あたり1ヶ月間の穀類支出金額内訳

1962年3434円

パン

麺他

2010年6373円

パン

麺他

ご飯を食べなくても平気 そんな人が増えている

お米よりパンと麺 その傾向が加速中

おせち料理を食べる派が 毎年ジワリ減少中

1962(昭和37)年度には8割以上を占めていた米への支出が2010(平成22)年度にはパンにとって代わられる米の消費量はパンより多いが家庭では炊飯する必要のある米よりすぐに食べられるパンや麺の支出が多くなり家庭での料理が減っていることを示しているともいえよう

総務省統計局「家計調査年報」より作成

いただきます

ごちそうさま

「和食」の未来

今世紀に入ってから世界に和食ブー

ムが起きている味わいやヘルシーさに

注目が集まり世界中のいたるところに

日本食の店が数多くある

そのように世界から注目される「和食」

だが本家本元の日本国内でその将来が

危ぶまれている

これまで見てきたように「和食」には

新しいものを柔軟に取り込む歴史があっ

た日本人は太古の昔より外国からも

たらされた食文化を自分たちの食生活に

取り込んで日本独自の食文化を発展さ

せてきた地域ごとに地域の環境にふさ

わしい料理をつくり出してきた食べる

料理や食べ方もその時代ごと地域ごと

に変わってきた

その中で貫かれてきたことがある

豊かな自然がもたらす食材のおいしさ

を生かす調理法を工夫し味わうこと

食卓に季節感をしつらえもてなしの気

持ちを共に感じ合う食事の場を持つこ

と一汁三菜という組み合わせを食事

の基本スタイルとして健康的な食生活

をおくることお正月におせち料理を

祝いの日にお赤飯を家族と共に食べる

など食事は家族の絆となっている

豊かな自然を守る気持ちと同じように

日本人を健やかに生かし人と人をつな

いできた「和食」もまた守るべき大切な

日本文化ではないだろうか

「いただきます」「ごちそうさま」と言っ

てみるだけでも「和食」は私たちに身近

になる人と人をあたたかく結びつけて

くれる

日本人はやはりお米のご飯がおいしい

と思うだしのきいた汁でおなかも心も

癒されるこの日本人が長い歴史の中で

育んできたすばらしい財産である「和

食」がこのままなくなってよいと考える

人はいないだろう世界の中でもすぐれ

た食文化として認められた「和食」を日本

の誇りとし大切にして次の世代に受け

継いでいくきっかけにこの冊子がなれ

ば幸いである

ごちそうさま

和 食

1920 WASHOKU

全国各地でさまざまな魚や野

菜が豊富に手に入ったことそ

して文明開化の時代まで一般

的に肉食をしなかったという背

景から「和食」は野菜と魚介類

を中心に調理されてきた

現在日本の市場で流通する

野菜の数は150種類ほどと言

われているその種類はイモ類

やマメ類をはじめ根菜類茎け

いさい菜

類葉菜類果菜類など実に多

様ださらには山菜やきのこ

など森林に自生するものも調

理に工夫することでうまく食材

として取り入れてきた

日本で流通する野菜は近代

になって外国から輸入されたも

のや品種改良によって食べや

すくなったものなど多様では

あるが昔から日本で作り続け

られている伝統野菜(在来野菜)

も少なくない伝統野菜とはだ

いたい三世代以上に渡って栽培

「和食」の特徴2

食材

和食を支える日本の食材

おいしさの秘密と多様性

おいしい和食には素材の力がある四季折々の自然の中から

生み出される日本の食材は驚くほど多様性に富んでいる

野菜

野菜と魚介類の二大食材に

支えられる日本食文化

和食には野菜を使う料理が多くあるが現在日本で流通する野菜の種類も150以上と幅広い分類にしてもジャガイモやサツマイモなどのいも類大豆や小豆などのマメ類ダイコンやカブなどの根菜類ネギやウドなどの茎

け い さ い

菜類コマツナや白菜などの葉菜類ナスやキュウリなどの果菜類そのほかにシイタケやシメジなどのきのこやワラビやゼンマイなどの山菜など多彩な野菜が存在するしかし現代でこそ流通の発展でさまざまな野菜が一年中手に入るが全国で同じ野菜が収穫できるわけではない例えば同じいも類でもサツマイモなどは九州などで多く作られるが冷害に強く冷涼な地で生育するジャガイモは山梨や長野などの山間部や日本の北部で育てられるそのほか地域特有の特産品である伝統野菜がいま注目され始めている

1920 WASHOKU

が続けられ地域に根づいた農

法で作られるものを指しこれ

を守る動きも目立ってきている

魚介類も「和食」にとって欠か

せない食材のひとつ日本で獲

れる海水魚は実に種類豊富で

日本に生息する魚種だけでも約

4200種ある縁起のよい魚

として重宝されるタイをはじめ

アジイワシやサバサンマなど

日本の近海は魚の宝庫である

海水魚だけでなくコイやア

ユフナやウナギそして水田で

獲れるドジョウなどの淡水魚

(川魚)は海から離れた地域では

貴重なタンパク源だったため

古くから料理に使われている

ウナギの蒲焼きは一般的だが

薄切りにしたコイを50くらい

の湯に短時間漬けてから冷水で

身を締めて酢味噌で食べる「鯉

のあらい」やコイの切り身を濃

い味噌で煮た「鯉こく」など味

わい方も豊富

またうま味のもととして古

くから使われてきた昆布や味

噌汁の具としても重宝するワカ

メさらにおむすびに必須の海

苔など海藻類も和食には欠か

せない貝類も種類が豊富で

アワビをひも状に薄くむき乾

燥させた「熨の

しあわび

斗鮑」が神事や祝し

ゅうぎ儀

の象徴として使われてきた

近年日本の食料自給率が低

下し外国産食材の増加も問題

視されているが本来の「和食」

は日本の自然の恵みによって支

えられているのだ

「和食」の特徴 食材2

島国である日本において魚介類は古くから貴重でかつ重要な食材であった農林水産省の定める生鮮食品品質表示基準によれば日本で食される水産物はマグロやカツオイワシやアジなどの海水魚やコイやウナギなどの淡水魚(川魚)シジミやアサリなどの貝類カニやエビなどの甲殻類やカメなどの水産動物類クジラやイルカなどの海産哺乳動物類そのほか昆布やワカメなどの海藻類など実に多様な種類がある2000年に味の素(株)がおこなった「嗜好調査」によれば「食材」としては肉類よりも魚介類のほうが好まれている結果がみられたさまざまな魚介類のなかでもカニエビマグロなどへの嗜好性が高くそれらが「贅沢な食材」と捉えられているようである

山間部など海の魚が手に入らない地域で貴重なタンパク源として重宝されたのが淡水魚(川魚)写真はアユだがその他コイやウナギドジョウワカサギフナなど日本ではさまざまな川魚が食材として使われてきた寄生虫のおそれがあるため生食はあまりされないがその代わりに調理にはさまざまな工夫が見られる海の魚に比べると独特の臭味やクセがあるため「鯉こく」のようにしっかりと煮込むことで臭味を除いたりウナギのように蒲焼きにしたりするなどがその一例だまた例えば滋賀県には琵琶湖で獲れるフナを塩と米で乳酸発酵させ保存性を高めると同時にうま味成分を引き出した「ふなずし」もある

古来日本で食べられてきた海藻類現在でも低カロリーでミネラルビタミンに富む食材として和食では重宝されている日本では約50種類の海藻が食べられているが世界的にみてもここまで多様な海藻を加工し食用とする民族は珍しいなお海藻にはフノリやテングサのような紅藻ワカメ昆布やモズクなどの褐藻アオノリや海ブドウなどの緑藻類の3種類の海藻が存在する昆布のようにだしをとるために使うものもあるが乾燥させて食べる海苔味噌汁や酢の物の具として使われるワカメのようなものまで実に幅広いまた海藻は神への奉納品としての縁も深く日常の食事だけではなく祭りや神事などにも登場している

縄文時代の遺跡である貝塚からアワビやハマグリカキなどの大量の貝殻が発見されていることからもわかるように貝類は日本では古くから食材として利用されてきた春先の干潮時に浜辺に埋まったアサリなどの貝を掘り出して採取する潮干狩りは春の風物詩としても馴染み深い日本には6000近い貝類があるといわれておりなかでもアサリやハマグリのような二枚貝サザエやツブ貝のような巻き貝が食用として親しまれている調理法としては刺身や吸い物味噌汁煮物焼き物炊き込みご飯など幅広い料理に使用されているがだしをとるためにも使われるさらに乾物にすれば保存性も高くなるため古くから交易にも活用されてきた

海の魚

川の魚

海藻貝

2122 WASHOKU

和食における菜さ

の調理法には

煮る焼く蒸す茹でる和あ

える

揚げるなど実に多様な技法が

あるこれを季節の野菜や山

菜魚介類海藻などの食材と組

み合わせることでバラエティ

に富んだ菜が食卓を彩る

数ある日本の調理法の中で

最も特徴的なのは「生もの」材

料を生のまま切り皿に盛り付

け調味料と薬味を添える刺

身といえば魚介類が用いられる

のがほとんどで捌さ

き方切り方

盛り方などが現在世界で注目を

浴びている材料を新鮮な状態

に保つ技術と料理としての盛り

付けの技術があいまって完成し

たものといえる調味料と薬味

の組み合わせも魚類との相性を

考えて工夫されているまた

わさびしょうがからしなどの

薬味や「つま」や「けん」と言わ

れる大根のせん切り大葉防ぼ

うふう風

芽めたで蓼花は

なじそ

紫蘇など防菌効果のあ

るものを添えて見た目も美し

く組み合わせている

ご飯と並んで食卓に欠かせ

ない「汁物」は鰹節や昆布煮干

し干し椎茸などから抽出され

るだしのうま味と具として入

れる素材のうま味が味わいのベ

ースとなっている中には具だ

くさんの菜になるような汁も

ある

また豊富な水を利用した調理

焼き物(サンマの塩焼き)

直火焼きは遠火の強火でほかに間接焼きがある

生もの(カツオの刺身)

生ものには刺身あらい酢の物漬物がある

茹で物(もりそば)

小麦粉やそばなどの粉からつくる麺を茹でる法

旬の食材のおいしさを

引き出す調理法の数々

「和食」の特徴3

調理

切る煮る焼く蒸す茹でる和える揚げるhellip

あの手この手で素材をよりおいしく

バランスの取れた一汁三菜の基本はご飯にあり

ご飯をおいしくいただくために菜さ

の調理方法は進化した

煮物(筑前煮)

煮汁の中で加熱中に調味する法

2122 WASHOKU

法に「茹で物」があるたっぷり

の水を沸騰させ食材を加えて加

熱して取り出すもの青菜そば

などは茹でた後にあくの除去

歯触りを良くするなどのためさ

らに水で洗う場合も多い私た

ちがあたりまえのように調理し

て食べているほうれん草や小松

菜のお浸しは水に恵まれた日本

に定着した料理で世界的にみて

も特徴あるものといえよう

「焼き物」はサンマの塩焼きの

ように塩をふり直火でじっく

り焼き上げる方法が伝統的

「煮物」は世界で最もポピュラ

ーな調理法だが日本では素材

の味を生かしつつ醤油や味噌

など大豆由来の発酵調味料で

味を調えるものが多い

油とともに加熱調理する「炒

め物」は伝統的な調理にはほと

んど見られないが現代では盛

んに使われ和食の幅を広げて

いる

ここに紹介した調理法と料理

の例は主にご飯のおかずとな

るものであるが小麦そば雑

穀などを粉にしこれを調理し

た主食も多い代表的なものに

うどんそばそうめんなどの麺

類があり茹でる場合が多いが

煮込みなど煮るものもある

さまざまな料理を組み合わせ

て食べる和食は素材の味を生

かしうま味をしっかりとれば

最低限の調味料でおいしさを感

じることができ多様な料理を

楽しむことができる

和あえ物

(きゅうりとワカメの酢の物)

野菜や魚介類などをごま味噌酢などで和える法

漬物(きゅうり大根の糠

ぬか

漬け沢たく あ ん

庵漬け)生ものを保存する方法の一種

塩の働きに加え乳酸発酵させたものが多い

汁物(なめこの味噌汁)

だし汁を主体とする法すまし汁みそ汁とろみのついた汁など

蒸し物(茶碗蒸し)

水を沸騰させその水蒸気を利用して加熱する法

浸し物(小松菜のお浸し)

お浸しは調味した汁に浸して味をつけたもの

「和食」の特徴 調理3

揚げ物(天ぷら)

高温の油で食品を加熱する法油の温度は150~200度の範囲で行うことが多い

2324 WASHOKU

「和食」の特徴4

味わい

うま味日本人が発見した「おいしく食べる」最大の知恵

和食の味わいの中で最も重要なのがだし

味噌汁やすまし汁のベースとなり

煮物やおひたしなどさまざまな料理の

味を決定づける味の要だ

和食の味わいを語るうえで忘

れてはならないのがだし(出

汁)の存在汁物や煮物などさ

まざまな料理のベースとして使

われている

なぜ日本人はここまでだしを

好むのかその答えに大きく関

係するのが「うま味」だ江戸時

代の料理書には「だしこそ料理の

根本である」と書かれている

1907年池田菊き

くなえ苗

博士に

よって世界で初めてうま味成

分のひとつがアミノ酸の一種で

あるグルタミン酸であることが

発見されたその後日本人を中

心に研究が進みうま味は甘味

塩味酸味苦味に加えて第5

の味覚として広く知られるよう

になる現在ではうま味調味

料やだし入りのつゆなどうま

味成分を手軽に使える調味料も

普及海外でも人気が高く国

内でも日常的に使用されている

だしのほかに和食の味付け

日本が世界に誇る

第5の味覚うま味

うま味成分を多く含む椎茸もだしをとる目的で使われてきた食材のひとつだしに使用するのは干したもの椎茸は乾燥させることでうま味や香り成分が増すためだ

小魚を煮て乾燥させてつくる煮干しも汁物に多用される材料としてはカタクチイワシが代表的だがその他ウルメイワシやキビナゴトビウオなどの比較的魚体が小さな魚を使ってつくるのが一般的だ

だしのとり方は魚介や野菜から水や湯を使ってうま味成分を抽出するのが一般的だしの素材として最もよく使われるのは昆布と鰹節でそのほか煮干し野菜干し椎茸魚の内臓やあら(頭や骨)などがあるまた潮

うしおじる

汁のように食品そのもののうま味を活かす方法もある

鰹節

「だし」のこと

昆布

煮干し

干し椎茸

2324 WASHOKU

に欠かせないのは塩砂糖味

噌醤油酢酒みりん魚醤な

どの調味料わさびやからし

しょうが山椒とうがらしゆ

ずなども薬味として使われる

これら薬味によって季節感を楽

しみながら素材の味を引き出

すという知恵も「和食」ならでは

夏に高温多湿となる日本では

アジア諸国と同様発酵食品が

発達したそれゆえ味噌や醤

油や酢に代表される発酵調味料

を多用するのも和食の特徴大

豆や穀物を塩漬けにして発酵

させてつくるものだがその過

程で原料のタンパク質がアミノ

酸に分解されうま味成分を豊

富に含んだ調味料ができあがる

のだ

発酵食品も多様だ日本各地

でカビや酵母などの微生物の

働きを活かして食品中のアミ

ノ酸(うま味)を増やす発酵食品

が発達してきた冬場の保存食

として生み出された沢庵や塩

を使って乳酸発酵させる京都の

すぐき菜漬けそして糠ぬ

漬けや

奈良漬けなど野菜を発酵させ

た漬物さらに塩辛やくさや

なれずし鰹節など魚介の保存

食としての発酵食品また大

豆を納豆菌で発酵させる納豆や

こうじ菌で発酵させて乾燥後に

熟成させた寺納豆など大豆の

発酵食品もある

「和食」はうま味を上手に生

かし食材をおいしく食べる知

恵を育んできたのだ

発酵食品

発酵調味料

調味料

「和食」の特徴 味わい4

発酵食品と調味料

魚醤魚を塩漬けにして発酵させる独特の香りと濃いうま味が特徴の調味料ハタハタでつくられる秋田の

「しょっつる」イカやイワシを材料とする能登半島の「いしる(り)」などがある

酒酒もまた和食の調味に欠かせない発酵調味料のひとつ調味料としての酒の主な効果には材料の臭みを消す食材のうま味を引き出して風味をよくする甘みを加えるなどがある

塩海に囲まれている日本では古くから塩は調味料として使用されてきた焼き物や刺身などの調理の味付けとしてはもちろん漬物や干物など食物を貯蔵するための知恵としても活用されている

味噌蒸したり煮たりした大豆にこうじ食塩を混ぜて発酵熟成させた日本を代表する調味料のひとつ味噌汁や煮物などに使われることが多い地域によって使用される味噌の種類がかなり変わるのも特徴だ

酢寿司やなますなど和食に酸味を加える調味料米から醸造した酒に酢酸菌を加えて発酵させて造られる酢に漬けることにより保存性を高める

醤油大豆と小麦で造ったこうじに食塩水を加えた「もろみ」を発酵熟成させ搾ったもの刺身や焼き魚煮物炒め物など幅広い料理に使われている種類は濃口薄口たまり再仕込み白の5つに分類される

みりん蒸したもち米と米こうじを主原料に40~60日かけて熟成させて造られる発酵調味料砂糖と比べて甘みがやわらかく食材の臭味を取る働きもあるまた魚の照り焼きなどのつや出しにも使う

漬物素材を食塩や酢酒粕醤油などに漬け込み熟成させて作られる漬物沢庵や梅干し野沢菜漬けなど野菜類を長期間保存するための知恵として誕生した日本各地に独特の漬物があるのも特徴だ

納豆日本で発展した発酵食品である納豆大豆を納豆菌で発酵させた食品で寺納豆(下記参照)と区別するため「糸引き納豆」とも呼ばれる単品で食べるだけではなく納豆汁や納豆和えなどにも使われている

塩辛魚介類の身や内臓を塩漬けにし発酵させて作られた塩辛は日本における伝統的な保存食品のひとつ使われる素材はその地域によって変わりイカやエビアミタコなど多彩な種類の塩辛が存在する

塩に漬けた魚と炊いたご飯を数日間置き乳酸発酵させたなれずしは魚を保存する知恵として生まれた滋賀県では琵琶湖産のふなを和歌山県や富山県ではサバを岐阜県などではアユを材料にしたものが有名写真は滋賀県湖北地方の年頭の祭りで振る舞われる鯖のなれずし

砂糖世界的に見ても「甘み」を用いた料理が多い現在の和食では砂糖は欠かせない調味料のひとつ単独で料理に使われるというよりは煮物をはじめとするさまざまな料理で醤油や塩味噌などと併用されることが多い

寺納豆茹でた大豆にこうじを加えて発酵させ乾燥させながら熟成を促す発酵食品粘り気のある糸引き納豆とは異なり乾燥して塩辛い禅宗の伝来とともに大陸からもたらされたとされ寺院で作ることが多かったため「寺納豆」と呼ばれた

2526 WASHOKU

「和食」の特徴5

栄養

栄養バランスの優等生「和食」

野菜や魚肉そして米によって構成される「和食」は

栄養バランスの良さでも知られている

最近は五日間すべてを米飯にする完全米飯給食を行う地域も生まれた

和食の特徴のひとつである栄養についてその秘密に迫る

米麦雑穀などを炊いたご飯

を主食としてこれに魚介肉

類野菜類に発酵調味料だしを

組み合わせた和食は栄養学的

にみてもバランスをとりやすい

食事である

歴史的にみると日常食では

主食を大量に摂る習慣が続いた

穀類偏重の食生活だったといえ

よう

しかし豆腐や納豆みそ汁な

どを飯とともに摂ることで米の

アミノ酸の利用率を上げる食べ

方年中行事などハレの日に魚

介類などを摂取して楽しむなど

学ぶべき知恵は多い

なかでも何百年も伝えられて

きた和食の基本型はすぐれた

ものといえよう

副食の主菜には魚肉豆腐

などタンパク質を多く含む料理

を考える副菜には主菜に使わ

なかった野菜芋類などを使い

汁は主菜に合うものを用意する

焼き魚野菜の煮物青菜のお浸

しとみそ汁などでも栄養的バ

ランスはとれている

1980年頃までは多くの

家庭で和食の基本型が続いた

主食の量がやや減り副食が増

加とくに乳乳製品肉類の割

合が増加したこの頃栄養バ

ランスをはかる一つの指標であ

るPFCバランスが理想的な比

率を示した(左記参照)

しかしその後外食の日常化

家庭料理の欧米化が進み米の

摂取量が激減し脂質摂取の過

多などから生活習慣病が問題

となったこうした中各地で

食生活を見直す動きがみられる

ようになったその一つが学校

給食での取り組みである

戦後の食料難の中でパンと

牛乳に副食を加えた完全給食は

1950年に始まった197

6年に米飯が導入されるまで長

く続いたパン給食は和食の基

本型にも影響を与えたようだ

米飯給食は次第に増加し

2010年には週3回以上米

飯給食を実施している小中学

校は90以上となったが週5

回の米飯給食の実施は7以

上と高くない

ここでは2008年に5日

間すべてを米飯給食とした新潟

県三条市の事例を紹介しよう

成長期にバランスのよい食事

で健康な体をつくることそし

て望ましい食習慣を身につけ

生涯を健康に生きることをめざ

し完全米飯給食を実施したと

のこと

米は同市で生産される農薬

を減らしたコシヒカリを七分搗つ

きにした米飯を主食に副食は

主菜副菜汁を組み合わせる献

立をベースとしている主菜は

サケのフライ鶏肉ピリ辛焼き

さんま梅煮など伝統的な和食だ

けではないが和食の基本型の

中に取り入れる工夫がされてい

るパ

ンは油脂や糖分と相性が

良く肥満につながりやすいが

新潟県三条市の給食献立一例三条市の小中学校での献立例ご飯は三条市で収穫したコシヒカリを使用「お米だと腹持ちがよいのでデザートをあまり出さなくとも子どもたちが満足してくれる」とのこと洋風や中華風の献立でもおかずはご飯に合うものを選びスープなどの汁物は確実につけるように心がけている

火曜日

えだまめごはん

さけチーズフライ

くきわかめきんぴら

かきたまじる牛乳

小学校687kcal中学校823kcal

水曜日

ごはんとりにくのぴりからやきいかときゅうりの

あえものしょうがみそスープ牛乳小学校639kcal中学校752kcal

木曜日

ごはんさんまうめにたくあんあえにくじゃがに牛乳なし小学校688kcal中学校814kcal

金曜日ごはんカレーふりかけほうれんそうオムレツフレンチサラダパンプキンスープ牛乳小学校708kcal中学校833kcal

月曜日

ごはんいかのかりんあげ(2こ)

なっとうあえきのこけんちんじるのむヨーグルト

小学校619kcal中学校731kcal

2526 WASHOKU

七分搗米の飯は腹持ちがよく

おやつを食べる子どもが減った

だけでなく肥満の子どもが減

少傾向となり食生活のリズム

が良くなったとされる

また米飯に合う副食は土地

でとれる野菜類を取り入れやす

く季節にあわせてバラエティ

ーに富んだ献立を作ることがで

きる一汁三菜の食べ方の教育

を行った結果給食を残す子ど

もたちも減ったという

基本的な食事パターンが続く

中でも菜を工夫すれば変化に

富む食事を作ることはできる

季節の食材について学び年中

行事への知識も得られるだろう

また子どもたちが和食の基

本型を毎日の給食で体験してい

ることはきわめて重要なことで

ある時々経験するだけでは身

につかないものでも毎日繰り返

すことによって習慣化し定着

するのであるそしてやがて

自分で組み合わせを考えられる

ようになることが期待される

今後の学校給食の役割は大きい

といえるだろう

PFCバランスとは

FAO Statistics Yearbook(日本のみ食料需給表)参照栄養バランスが良いとされるP(たんぱく質)10~20F(脂質)20~30C(炭水化物)50~70の範囲が08~12に収まるように指数化した

日本でのPFCバランスの変化

アメリカとフランスのPFCバランス

タンパク質脂質炭水化物は人間にとって特に不可欠な「三大栄養素」PFCのPはProtein(たんぱく質)FはFat(脂質)CはCarbohydrate(炭水化物)の頭文字でPFCバランスとは食事の中での「たんぱく質」「脂質」「炭水化物」のそれぞれの摂取カロリーの比率健康的な生活をおくるためにはPFCバランスがたんぱく質15脂質25炭水化物60が理想的

給食時には全員で「いただきます」「ごちそうさま」を復唱食育にも力を入れているためそれら言葉の意味についても学校で教えている

米飯給食になってから児童たちの食の嗜し こ う

好に変化が生まれたとか児童たちに好きなおかずを聞いてみると「ハンバーグ」「カレー」などの定番メニューのほか「焼き魚」「納豆」などの和食メニューの名前が上がった

自分の分を食べ終わった児童たちが列をつくって競い合うようにご飯をおかわりしていたこの日の食べ残しはゼロ

C

P

F

14

12

1

08

06

アメリカ(2005~2007年)

C

P

F

14

12

1

08

06

フランス(2005~2007年)

「和食」の特徴 栄養5

日本人のPFCバランスは1965年当時は炭水化物に偏っていたが1980年は非常に理想的な配分になっていたしかしその後の日本人の食生活に肉や油脂類を多く摂り主食の米を食べる量が減り2010年時は欧米型に近づきつつある

C

P

F

14

12

1

08

06

日本1965年

C

P

F

14

12

1

08

06

日本1980年

C

P

F

14

12

1

08

06

日本2010年

2728 WASHOKU

お客を迎える前には店先に打ち水を水で清め準備が整ったことを伝える趣向に合う軸を選ぶのももてなしの基本飾る花は主人自ら育てたものそれを床の花入に活けるのも主人庭に150種ほどの草花を植え日々育てることもしつらいの準備客は女将の温かいもてなしに迎えられる

「和食」の特徴6

しつらい

人をもてなすためのこころとかたち

もてなしは客に対する一方的なサービスではない

お互いに思いやる気持ちから生まれるこころよさである

手入れの行き届いた庭は掃き

清めて水を打ち床の間には軸

を掛け季節の草花を生ける

座敷の襖ふ

すま

も夏には葭よ

しど戸に入れ替

え夏は涼やかに冬は暖かに

すべて相まってもてなしのた

めの用意を整えることそれが

しつらい和食とりわけ懐石

料理においては食材や料理と

ともにしつらいは非常に重要

な要素となる

家庭でも食事をつくる人は

食べる人の顔を思い浮かべなが

ら食事の用意をする食べる人

はつくってくれた人の気持ちを

考えて賞味するここに互いに

もてなす喜びが生まれるのでは

ないだろうか

こうしたもてなしの文化を極

限にまで洗練させた姿が料亭の

もてなしである京都府の無形

文化技術保持者に料理人として

初めて認定された京都の老舗料

亭「瓢亭」の十四代主人高橋英一

さんにその心を聞いてみよう

「料亭は日本文化の凝縮のひと

つと言えます玄関から入って

座敷に行くまでに通る露地にも

季節感があり部屋に入れば時

季や行事の軸がありその座敷

のために選んだ花が飾られる

日本人が自然と身につけている

桜の器を使うことで膳の上にぱっと花が咲くような華やかさが生まれるあしらいは酢取り防風岩海苔

秋の花菊の器はこっくり深い色合いも相まって秋に似合う風情を持つあしらいは岩茸菊花

深さのあるガラスの器に氷が敷き詰められる涼感を目でも舌にも感じるあしらいは穂紫蘇寄せ莫大

縁起のいい鶴は新年の席でも使われるモチーフあしらいは水前寺海苔紫芽紫蘇

四季の感性で受け止めてもらえ

るよう整えお出迎えします

料亭は普段とは違うハレの場で

すがとはいえ行き過ぎず足り

ないことのないよう自然なし

つらいそしてもてなしを心が

けます」

「瓢亭」の座敷に飾られるのは

主人が庭で丹誠込めて育て自

ら生ける茶花

「もてなしの根

底に利休さんの『花は野にある

ごとく』の言葉を思いますが簡

単なようでそれが難しい」自

然体でのもてなしを生むしつら

えは名店においても日々心を

くだき工夫するのだ

「瓢亭」では1年をとおして明石の鯛の向付を供しているが季節ごとに

器とあしらいを変えることで四季を演出している

四季の演出

2728 WASHOKU

和食はご飯と菜あるいはご飯とお汁というように常にご飯を間にはさんで菜や汁をとるのが本来の食べ方下のような不作法とされる箸使い(嫌い箸)があるので覚えておきたい

ご飯は茶碗に味噌汁はお椀

に焼き魚だったら平皿にと普

段料理に合わせて何気なく使う

食器種類の多さもさることな

がら形や素材もさまざま欧

米はもちろん近隣諸国を見回

してもこれほど多種多様な器を

使う国はないそれは四季が明

確なことと無関係ではない

「自宅でも季節に合わせた器

にするだけで気分が変わりま

すよ」と前出「瓢亭」のご主人は

語る 

春であれば華やかな色や形の

もの夏はガラスや青磁など涼

しげな素材の器秋は実りのあ

る彩りがあるもの冬は厚手の

陶器や木製など温もりのあるも

の色素材形を変えるだけで

季節感を演出できる「和食」な

らではの楽しみ

食事の際当たり前のように

使っている箸も日本の食文化

を代表する食具奈良時代以

降匙さ

を使う伝統が消え箸だ

けを使うようになったため熱

い汁物は椀を持ち直接口を

つけてすする文化が確立同

時に椀箸ともに個人所有が基

本となった椀や箸を共有し

匙やレンゲを使うほかの東南

アジア諸国とは異なる食文化

を形成箸食文化圏の中でも

唯一箸だけでご飯を食べる国

となったまた一口に箸といっ

ても食箸取り箸菜箸など用

途に合わせてさまざま食べ

る際に使う食箸だけを見ても

形や素材のほか加工や長さも

豊富にそろうのだ

「和食」の特徴7

箸と椀

「和食」を支える箸と椀

箸食文化圏の中でも唯一箸だけを使う国日本

季節感を感じさせる器とともに独特の食具文化も誇る

渡し箸食事の途中でお箸を

食器の上に渡し置くこと

寄せ箸遠くの食器を

箸で手元に引き寄せる行為

指し箸食事中箸で人やものを指すこと

迷い箸どの料理にしようか迷い箸を料理の上で動かすこと

移り箸いったん取りかけてから

ほかの料理にお箸をうつすこと

箸には食事に使う食箸と調理に使う菜箸とがある菜箸は熱から手を守るため30~50と長く片方がなくならないよう糸でつながっているものもある取り箸は菜箸の一種食箸は個人所有が基本のため使う人に合わせた長さが用意されている漆塗りや螺鈿細工を施したものも多い

種類

形状だけでなく素材もさまざまで近年は黒檀や鉄木など硬質な木が使われることが多い日本の木としては特有の香りがあり古くから懐石用や割り箸に使われてきた杉耐水性耐湿性が高く保存性に優れる上に軽くて持ちやすい檜強くしなりがあり細かいものを取りやすい竹などがある

素材

家庭で使う食箸の形には角箸や四角で角が丸い胴張り五角六角七角八角のほか削りなどがあり持ちやすさに合わせて選べる箸先に加工が施されたものもある来客用に使う銘々箸や割り箸には断面が小判型で割れ目と溝が付いた元禄箸や中央部が太く両端が細い利休箸などが用意されている

日本人にとっての箸は調理から盛りつけ食事までをこなす大事な道具食箸は個人所有が基本のため個々に合わせて選べるのも特徴だ

箸の働き

箸使いの作法を知る

【嫌い箸】

食箸

八角箸 削り箸

菜箸

檜竹

「和食」の特徴 しつらい 箸と椀6 7

2930 WASHOKU

神し ん せ ん

饌として神へ供えられるお神酒は神棚の最上段の中央に置かれるほど重要な地位を占めている

日本酒を造る酒蔵は全国に約1600弱その数は年々減り続けているが数年に一度「日本酒ブーム」も起きている

日本酒とは米と米こうじ

そして水を主な原料にしてそ

れらを発酵させて造られる

原料には主食用の米ではなく

酒造りに適した性質を選び品

種改良された酒し

ゅぞうこうてきまい

造好適米を使

うことが一般的だまた日本

酒の80を占める水も品質を

左右する大きな要因日本酒

の香味を損なわない良質な水

が必須だ

日本酒の醸じ

ょうぞう造の工程にはさ

まざまな技術が伴う例えば米

を精米して味と香りを調整する

技術これは米の外側にあるた

んぱく質や脂質といった雑味の

もとを除くことが目的だが大だ

吟ぎんじょう醸酒にもなると米を半分以

上削ってから仕込むこともある

次いで米を発酵させる技術

酒の場合の発酵とは酵こ

うぼ母が糖類

を食べてアルコールを出すこと

をいうが米には糖類が含まれな

いためまずは米をこうじ菌の酵

素によって糖類へと変えそこに

酵母を加えて発酵させるという

複雑な手順(複式発酵)が必要だ

この手順で使われるこうじもバ

ラこうじと呼ばれる日本独特の

ものだバラこうじは糖化力が

高いのが特徴で日本酒の香りや

味に大きく影響する

稲作を中心に文化を育んでき

た日本では米餅米から造ら

れる酒は地域を問わず重要な

ものとされている米の一粒一

粒に神が宿り同じように酒も

神のおかげで造ることができる

と考えられてきたそして酒

もまた食べ物と共に神に近づ

くための手段として古くから用

いられてきた

同時に家族や親族地域で人

と人をつなぐ上でも酒は大き

な役割を担っている例えばお

神み

き酒祭礼の後には神の酒を

人々が口にする神と同じ酒を

飲みそれを人々が分かち合う

ことで地域やコミュニティが

結束力を強めるのだろう

米や麦やさつまいもなどを原

料とする焼酎も日本酒と並び

日本の國酒とされている酒は

人と人の心をほぐし食事を引

き立たせる重要な役割を担って

いるのだ

「和食」の特徴8

「和食」を引き立たせ

心をほぐす日本の酒

日本人にとっての主食であり精神のかなめでもある米

その米で醸か

される日本酒は「和食」にとって欠かせない要素

日本の「國こ

くしゅ酒

」にもなっている

2930 WASHOKU

「和食」の特徴9

和菓子日本茶

暮らしに寄り添う和菓子とお茶

自然の恵みに感謝し季節の移ろいを敏感に表現する和菓子

日本茶は喉のかわきを癒すだけでなく心を癒し心を高める飲みものである

「和食」の特徴 酒 和菓子8 9

ハレの日の願いを込めた和菓子

和菓子分類餅もの 餅団子大福など蒸しもの 饅頭蒸羊

よ う か ん

羹外う い ろ う

郎村む ら さ め

雨など煉もの 煉

ね り き り

切こなし求ぎ ゅ う ひ

肥飴葛く ず

菓子など焼きもの 味噌松風煎

せ ん べ い

餅桃も も や ま

山カステラどら焼など流しもの 錦

にしきだま

玉煉ね り よ う か ん

羊羹水み ず よ う か ん

羊羹など揚げもの 揚げ煎

せ ん べ い

餅かりんとうなど打ちもの(押しもの) 落

ら く が ん

雁など岡もの 最

も な か

中きんとん鹿か の こ

の子すはまなどかけもの 金

こ ん ぺ い と う

平糖五ご し き ま め

色豆石いしごろも

衣など

これは和菓子の製法によって大まかに分類した表このほか含有する水分量によって生菓子半生 菓 子 干 菓 子などの分け方や上じ ょ う な ま が し

生菓子並菓子駄だ が し

菓子などの分類もある

「岡もの」とはすでにできあがっ た素材をあわせたもの (例きんとん=飴玉とそぼろ餡)

甘く味付けしたごぼうと白味噌餡を赤や白の餅や求

ぎ ゅ う ひ

肥で包んだ生菓子平安時代の新年行事のひとつで長寿を願っておこなわれた「歯固め」の餅に由来する餅と味噌の組み合わせから「包み雑煮」とも呼ばれた

葩はなびらもち

一 月

旧暦十月は「亥の月」と呼ばれていたがその月のさらに「亥の日」に行われる年中行事の際に食べられていた菓子旧暦では10月が冬の始まりそのタイミングで無病息災と多産の猪にあやかって子孫繁栄を願ってこれを食べていたという

亥い の こ も ち

の子餅

十 月六 月

白いういろうの上に小豆の粒餡を散らした菓子古来京都で旧暦六月の晦

み そ か

日(30日)に無病息災を祈願して行われている

「夏なごしのはらい

越祓」になぞらえて初夏の頃に食べられている小豆には邪気祓いの意味があり三角の形は氷を表している

水無月

五 月

平たく丸めた上新粉の餅をふたつに折り中に小豆や味噌の餡を挟んでそれを柏の葉で包んだ菓子柏の葉は新芽が育つまで古い葉が落ちないことから

「子孫繁栄」を願って旧暦五月五日の端

た ん ご

午の節句の供く も つ

物として用いられてきた

柏餅

日本ならではのお茶の製法である手揉みは茶葉の繊維をつぶしながらうまみを引き出すために行う作業手揉みすると茶葉が切れないため茶の甘みを保つことができる

菓子もまた「和食」にとって欠

かせない要素でお客様用の「上

菓子」普段食べる「饅頭」や「餅

菓子」などに分かれるほかに

干菓子や駄菓子など菓子の種

類は多いまた例えば団子や

大福などは「餅もの」求肥や飴

などは「煉りもの」錦玉や

水みずようかん

羊羹などは「流しもの」などと

いうようにその製法によって

分類されることもある米や麦

小豆を代表とする豆類そして

砂糖や水あめなどの材料でバ

ラエティに富んだ菓子が生み出

されてきた

お茶会などの席で抹茶ととも

に味わう菓子もあり季節に合

わせて材料や色やデザインが選

ばれ味覚だけでなく視覚で楽

しむこともある

また年中行事と結びつく菓

子もある例えば旧暦三月三日

の「ひな祭り」では邪気をはら

い強い生命力を象徴するよも

ぎの草もちでつくった草餅を食

べる

和菓子には日本茶がふさわし

い緑茶は12世紀に中国から日

本に伝わったが今では生の茶

葉を蒸してから揉んで乾燥させ

る緑茶の製法は日本独特のもの

となっている緑茶に含まれる

カフェインは覚醒効果がまた

カテキンには抗酸化作用があり

ビタミンCも多く含まれて健

康によい日本茶独特の香りと

うま味は日本文化そのもので

ある

出典「和菓子の歴史展」第五十回虎屋文庫資料展より

3132 WASHOKU

日本の「和食」の文化は自然

環境だけでなく海外からの影

響によっても絶えず変化して

きた

近代以降にはコロッケとん

かつなど洋風料理を和食の基本

型に組み合わせた食事肉と野

菜の煮物や和え物などそれまで

にはない料理が工夫されたそ

の多くは和食の基本型味噌や

醤油を用いた味付け箸で食べ

られる料理など「和食」の要素

を保ちつつ伝えられてきた

しかし第二次世界大戦後高

度経済成長期を迎えると日本人

の食生活は急速に変化する

1970年代にファストフー

ド店ファミリーレストランが

各地に開店しコンビニなども

広がった

1980年頃主食と副食の

バランスは理想的とされたが

(26頁参照)その後米の消費量

はさらに減りパン食が増加

肉類油脂乳乳製品の消費量

も増加し食料自給率も下がっ

た家族での外食が日常化し

家庭の食事も欧米化した

食育の必要性

「和食」が危ないどうしたら伝えられるのか

この150年間で大きく変化し「和食」はいま衰えつつあるその原因はどこにあるのだろうか

食生活の変化

日本の食料自給率の変化農林水産省「食料需給表」より作成

日本のものを食べなくなって 「和食」はどうなる 日本の食料自給率は下がり続けている1965(昭和40)年度はカロリーベースで73だったが2012(平成24)年度は39その大きな原因のひとつは国内で自給可能な米や魚や野菜などの消費量が減少する一方国内で生産が困難な飼料穀物を食べて育つ畜産物や原料を輸入に頼ることが多い冷凍加工食品や小麦の消費が増加したことだと考えられている炭水化物たんぱく質脂肪分をバランスよく摂取する健康的な「和食」に未来はあるのか

国民一人一日当たりの供給純食料農林水産省「食料需給表」より作成

食べる米の量が50年で半減 増えたのは肉と乳製品 国民一人あたりが食べる量を品目別に眺めて分かることそれは日本人が食べる米の量が著しく減ってきたことだ1960(昭和35)年度は一日あたりの米の消費量は約315gだったが2010(平成22年)年度は163gに約半減その代わりに増えたのは牛乳乳製品(約60gから約240g)と肉類(約14gから約80gへ)野菜と魚を中心としたおかずでご飯を食べるという

「和食」のスタイルの変化がわかる

食料費における外食と中食の割合の推移総務省統計局「家計調査年報」より作成

家で食べても 調理することが減っている 外食に対して家庭で作って食べる食事を内食というが弁当や惣菜など調理をせずに食べられるものを買ってきて済ます食事は中食と呼ぶ実はこの中食の割合が増えている外食が占める割合は2000(平成12)年以降横ばいなのに対して中食は増え続けその代わりに内食が減っている食事は家で食べても調理はしないという家庭が増えているのだとすれば「和食」にとって大切な要素を子どもたちに伝える機会が減っているとはいえないだろか

食料自給率(金額ベース)

食料自給率(主食用穀物)

食料自給率(カロリーベース)飼料自給率

米 野菜 肉類牛乳乳製品 魚介類

内食 中食 外食

(g人日)

3132 WASHOKU

50

55

60

65

70

75

01992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012

70

75

80

85

90

95

01992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012

一日に一度はお米を食べないと気がすまない人の割合博報堂生活総研「生活定点2012」

お正月におせち料理を食べた人の割合博報堂生活総研「生活定点2012」

一日に一度は米を炊いたご飯を食べなければ気がすまない人の割合が実はこの20年間で減っているというデータがある1992(平成4)年には714だったが2012(平成24)年には564にまで落ち込んでいるのだ

家族や親族で集まっておせち料理を囲みながら新しい一年の無事を祝うお正月実はおせち料理を食べる人も毎年少なくなっている1992(平成4)年には866だったが2012(平成24)年には748だった

電子レンジの普及や冷凍食品

インスタント食品などにより

食生活は便利になったが家庭

内で調理をする機会が減ったと

もいえる

こうしたなか「和食」の優れ

た点をどうしたら伝えられるの

だろうか親から子へ家庭の食

を伝えるだけでなく学校を通

して子どもたちにさらにその

親の世代にも伝える必要があろ

う高齢者からは「和食」につ

いて具体的に教わることも求

められる

離乳期からの食べ物の選び方

幼児期の食経験を豊富にするこ

となどはとくに重要であろう

小さな頃からの食習慣はその

後の食習慣に大きくかかわって

くるからだ

だしのおいしい味を日々体験

することや魚を味わい骨を箸

でとる訓練を楽しい雰囲気のな

かで教わることなどその積み

重ねの中で「和食」は伝わるので

あろう

経験しない味は異文化とと

らえられるであろうし体験し

ていない調理は簡単でも難しく

感じる食事を用意する過程を

日々見る経験手伝う楽しさ美

しい食器を大切にして使うこと

同じ食べ物を家族や仲間と味わ

い祭りや花見などで共に食べ

る経験を積み重ねることは文

化としての「和食」を伝えるだけ

でなく生きる力を育むことにも

つながるであろう

壁にではなく居間に向かって設置されることが多くなった現在のキッチン夫婦共働きだというこの家庭では夫が厨房に立つことも少なくないというこのように食事の準備を子どもと一緒に行うことで「和食」にとって大切な要素が次の世代に伝えられるようになるのだろう

世帯あたり1ヶ月間の穀類支出金額内訳

1962年3434円

パン

麺他

2010年6373円

パン

麺他

ご飯を食べなくても平気 そんな人が増えている

お米よりパンと麺 その傾向が加速中

おせち料理を食べる派が 毎年ジワリ減少中

1962(昭和37)年度には8割以上を占めていた米への支出が2010(平成22)年度にはパンにとって代わられる米の消費量はパンより多いが家庭では炊飯する必要のある米よりすぐに食べられるパンや麺の支出が多くなり家庭での料理が減っていることを示しているともいえよう

総務省統計局「家計調査年報」より作成

いただきます

ごちそうさま

「和食」の未来

今世紀に入ってから世界に和食ブー

ムが起きている味わいやヘルシーさに

注目が集まり世界中のいたるところに

日本食の店が数多くある

そのように世界から注目される「和食」

だが本家本元の日本国内でその将来が

危ぶまれている

これまで見てきたように「和食」には

新しいものを柔軟に取り込む歴史があっ

た日本人は太古の昔より外国からも

たらされた食文化を自分たちの食生活に

取り込んで日本独自の食文化を発展さ

せてきた地域ごとに地域の環境にふさ

わしい料理をつくり出してきた食べる

料理や食べ方もその時代ごと地域ごと

に変わってきた

その中で貫かれてきたことがある

豊かな自然がもたらす食材のおいしさ

を生かす調理法を工夫し味わうこと

食卓に季節感をしつらえもてなしの気

持ちを共に感じ合う食事の場を持つこ

と一汁三菜という組み合わせを食事

の基本スタイルとして健康的な食生活

をおくることお正月におせち料理を

祝いの日にお赤飯を家族と共に食べる

など食事は家族の絆となっている

豊かな自然を守る気持ちと同じように

日本人を健やかに生かし人と人をつな

いできた「和食」もまた守るべき大切な

日本文化ではないだろうか

「いただきます」「ごちそうさま」と言っ

てみるだけでも「和食」は私たちに身近

になる人と人をあたたかく結びつけて

くれる

日本人はやはりお米のご飯がおいしい

と思うだしのきいた汁でおなかも心も

癒されるこの日本人が長い歴史の中で

育んできたすばらしい財産である「和

食」がこのままなくなってよいと考える

人はいないだろう世界の中でもすぐれ

た食文化として認められた「和食」を日本

の誇りとし大切にして次の世代に受け

継いでいくきっかけにこの冊子がなれ

ば幸いである

ごちそうさま

和 食

1920 WASHOKU

が続けられ地域に根づいた農

法で作られるものを指しこれ

を守る動きも目立ってきている

魚介類も「和食」にとって欠か

せない食材のひとつ日本で獲

れる海水魚は実に種類豊富で

日本に生息する魚種だけでも約

4200種ある縁起のよい魚

として重宝されるタイをはじめ

アジイワシやサバサンマなど

日本の近海は魚の宝庫である

海水魚だけでなくコイやア

ユフナやウナギそして水田で

獲れるドジョウなどの淡水魚

(川魚)は海から離れた地域では

貴重なタンパク源だったため

古くから料理に使われている

ウナギの蒲焼きは一般的だが

薄切りにしたコイを50くらい

の湯に短時間漬けてから冷水で

身を締めて酢味噌で食べる「鯉

のあらい」やコイの切り身を濃

い味噌で煮た「鯉こく」など味

わい方も豊富

またうま味のもととして古

くから使われてきた昆布や味

噌汁の具としても重宝するワカ

メさらにおむすびに必須の海

苔など海藻類も和食には欠か

せない貝類も種類が豊富で

アワビをひも状に薄くむき乾

燥させた「熨の

しあわび

斗鮑」が神事や祝し

ゅうぎ儀

の象徴として使われてきた

近年日本の食料自給率が低

下し外国産食材の増加も問題

視されているが本来の「和食」

は日本の自然の恵みによって支

えられているのだ

「和食」の特徴 食材2

島国である日本において魚介類は古くから貴重でかつ重要な食材であった農林水産省の定める生鮮食品品質表示基準によれば日本で食される水産物はマグロやカツオイワシやアジなどの海水魚やコイやウナギなどの淡水魚(川魚)シジミやアサリなどの貝類カニやエビなどの甲殻類やカメなどの水産動物類クジラやイルカなどの海産哺乳動物類そのほか昆布やワカメなどの海藻類など実に多様な種類がある2000年に味の素(株)がおこなった「嗜好調査」によれば「食材」としては肉類よりも魚介類のほうが好まれている結果がみられたさまざまな魚介類のなかでもカニエビマグロなどへの嗜好性が高くそれらが「贅沢な食材」と捉えられているようである

山間部など海の魚が手に入らない地域で貴重なタンパク源として重宝されたのが淡水魚(川魚)写真はアユだがその他コイやウナギドジョウワカサギフナなど日本ではさまざまな川魚が食材として使われてきた寄生虫のおそれがあるため生食はあまりされないがその代わりに調理にはさまざまな工夫が見られる海の魚に比べると独特の臭味やクセがあるため「鯉こく」のようにしっかりと煮込むことで臭味を除いたりウナギのように蒲焼きにしたりするなどがその一例だまた例えば滋賀県には琵琶湖で獲れるフナを塩と米で乳酸発酵させ保存性を高めると同時にうま味成分を引き出した「ふなずし」もある

古来日本で食べられてきた海藻類現在でも低カロリーでミネラルビタミンに富む食材として和食では重宝されている日本では約50種類の海藻が食べられているが世界的にみてもここまで多様な海藻を加工し食用とする民族は珍しいなお海藻にはフノリやテングサのような紅藻ワカメ昆布やモズクなどの褐藻アオノリや海ブドウなどの緑藻類の3種類の海藻が存在する昆布のようにだしをとるために使うものもあるが乾燥させて食べる海苔味噌汁や酢の物の具として使われるワカメのようなものまで実に幅広いまた海藻は神への奉納品としての縁も深く日常の食事だけではなく祭りや神事などにも登場している

縄文時代の遺跡である貝塚からアワビやハマグリカキなどの大量の貝殻が発見されていることからもわかるように貝類は日本では古くから食材として利用されてきた春先の干潮時に浜辺に埋まったアサリなどの貝を掘り出して採取する潮干狩りは春の風物詩としても馴染み深い日本には6000近い貝類があるといわれておりなかでもアサリやハマグリのような二枚貝サザエやツブ貝のような巻き貝が食用として親しまれている調理法としては刺身や吸い物味噌汁煮物焼き物炊き込みご飯など幅広い料理に使用されているがだしをとるためにも使われるさらに乾物にすれば保存性も高くなるため古くから交易にも活用されてきた

海の魚

川の魚

海藻貝

2122 WASHOKU

和食における菜さ

の調理法には

煮る焼く蒸す茹でる和あ

える

揚げるなど実に多様な技法が

あるこれを季節の野菜や山

菜魚介類海藻などの食材と組

み合わせることでバラエティ

に富んだ菜が食卓を彩る

数ある日本の調理法の中で

最も特徴的なのは「生もの」材

料を生のまま切り皿に盛り付

け調味料と薬味を添える刺

身といえば魚介類が用いられる

のがほとんどで捌さ

き方切り方

盛り方などが現在世界で注目を

浴びている材料を新鮮な状態

に保つ技術と料理としての盛り

付けの技術があいまって完成し

たものといえる調味料と薬味

の組み合わせも魚類との相性を

考えて工夫されているまた

わさびしょうがからしなどの

薬味や「つま」や「けん」と言わ

れる大根のせん切り大葉防ぼ

うふう風

芽めたで蓼花は

なじそ

紫蘇など防菌効果のあ

るものを添えて見た目も美し

く組み合わせている

ご飯と並んで食卓に欠かせ

ない「汁物」は鰹節や昆布煮干

し干し椎茸などから抽出され

るだしのうま味と具として入

れる素材のうま味が味わいのベ

ースとなっている中には具だ

くさんの菜になるような汁も

ある

また豊富な水を利用した調理

焼き物(サンマの塩焼き)

直火焼きは遠火の強火でほかに間接焼きがある

生もの(カツオの刺身)

生ものには刺身あらい酢の物漬物がある

茹で物(もりそば)

小麦粉やそばなどの粉からつくる麺を茹でる法

旬の食材のおいしさを

引き出す調理法の数々

「和食」の特徴3

調理

切る煮る焼く蒸す茹でる和える揚げるhellip

あの手この手で素材をよりおいしく

バランスの取れた一汁三菜の基本はご飯にあり

ご飯をおいしくいただくために菜さ

の調理方法は進化した

煮物(筑前煮)

煮汁の中で加熱中に調味する法

2122 WASHOKU

法に「茹で物」があるたっぷり

の水を沸騰させ食材を加えて加

熱して取り出すもの青菜そば

などは茹でた後にあくの除去

歯触りを良くするなどのためさ

らに水で洗う場合も多い私た

ちがあたりまえのように調理し

て食べているほうれん草や小松

菜のお浸しは水に恵まれた日本

に定着した料理で世界的にみて

も特徴あるものといえよう

「焼き物」はサンマの塩焼きの

ように塩をふり直火でじっく

り焼き上げる方法が伝統的

「煮物」は世界で最もポピュラ

ーな調理法だが日本では素材

の味を生かしつつ醤油や味噌

など大豆由来の発酵調味料で

味を調えるものが多い

油とともに加熱調理する「炒

め物」は伝統的な調理にはほと

んど見られないが現代では盛

んに使われ和食の幅を広げて

いる

ここに紹介した調理法と料理

の例は主にご飯のおかずとな

るものであるが小麦そば雑

穀などを粉にしこれを調理し

た主食も多い代表的なものに

うどんそばそうめんなどの麺

類があり茹でる場合が多いが

煮込みなど煮るものもある

さまざまな料理を組み合わせ

て食べる和食は素材の味を生

かしうま味をしっかりとれば

最低限の調味料でおいしさを感

じることができ多様な料理を

楽しむことができる

和あえ物

(きゅうりとワカメの酢の物)

野菜や魚介類などをごま味噌酢などで和える法

漬物(きゅうり大根の糠

ぬか

漬け沢たく あ ん

庵漬け)生ものを保存する方法の一種

塩の働きに加え乳酸発酵させたものが多い

汁物(なめこの味噌汁)

だし汁を主体とする法すまし汁みそ汁とろみのついた汁など

蒸し物(茶碗蒸し)

水を沸騰させその水蒸気を利用して加熱する法

浸し物(小松菜のお浸し)

お浸しは調味した汁に浸して味をつけたもの

「和食」の特徴 調理3

揚げ物(天ぷら)

高温の油で食品を加熱する法油の温度は150~200度の範囲で行うことが多い

2324 WASHOKU

「和食」の特徴4

味わい

うま味日本人が発見した「おいしく食べる」最大の知恵

和食の味わいの中で最も重要なのがだし

味噌汁やすまし汁のベースとなり

煮物やおひたしなどさまざまな料理の

味を決定づける味の要だ

和食の味わいを語るうえで忘

れてはならないのがだし(出

汁)の存在汁物や煮物などさ

まざまな料理のベースとして使

われている

なぜ日本人はここまでだしを

好むのかその答えに大きく関

係するのが「うま味」だ江戸時

代の料理書には「だしこそ料理の

根本である」と書かれている

1907年池田菊き

くなえ苗

博士に

よって世界で初めてうま味成

分のひとつがアミノ酸の一種で

あるグルタミン酸であることが

発見されたその後日本人を中

心に研究が進みうま味は甘味

塩味酸味苦味に加えて第5

の味覚として広く知られるよう

になる現在ではうま味調味

料やだし入りのつゆなどうま

味成分を手軽に使える調味料も

普及海外でも人気が高く国

内でも日常的に使用されている

だしのほかに和食の味付け

日本が世界に誇る

第5の味覚うま味

うま味成分を多く含む椎茸もだしをとる目的で使われてきた食材のひとつだしに使用するのは干したもの椎茸は乾燥させることでうま味や香り成分が増すためだ

小魚を煮て乾燥させてつくる煮干しも汁物に多用される材料としてはカタクチイワシが代表的だがその他ウルメイワシやキビナゴトビウオなどの比較的魚体が小さな魚を使ってつくるのが一般的だ

だしのとり方は魚介や野菜から水や湯を使ってうま味成分を抽出するのが一般的だしの素材として最もよく使われるのは昆布と鰹節でそのほか煮干し野菜干し椎茸魚の内臓やあら(頭や骨)などがあるまた潮

うしおじる

汁のように食品そのもののうま味を活かす方法もある

鰹節

「だし」のこと

昆布

煮干し

干し椎茸

2324 WASHOKU

に欠かせないのは塩砂糖味

噌醤油酢酒みりん魚醤な

どの調味料わさびやからし

しょうが山椒とうがらしゆ

ずなども薬味として使われる

これら薬味によって季節感を楽

しみながら素材の味を引き出

すという知恵も「和食」ならでは

夏に高温多湿となる日本では

アジア諸国と同様発酵食品が

発達したそれゆえ味噌や醤

油や酢に代表される発酵調味料

を多用するのも和食の特徴大

豆や穀物を塩漬けにして発酵

させてつくるものだがその過

程で原料のタンパク質がアミノ

酸に分解されうま味成分を豊

富に含んだ調味料ができあがる

のだ

発酵食品も多様だ日本各地

でカビや酵母などの微生物の

働きを活かして食品中のアミ

ノ酸(うま味)を増やす発酵食品

が発達してきた冬場の保存食

として生み出された沢庵や塩

を使って乳酸発酵させる京都の

すぐき菜漬けそして糠ぬ

漬けや

奈良漬けなど野菜を発酵させ

た漬物さらに塩辛やくさや

なれずし鰹節など魚介の保存

食としての発酵食品また大

豆を納豆菌で発酵させる納豆や

こうじ菌で発酵させて乾燥後に

熟成させた寺納豆など大豆の

発酵食品もある

「和食」はうま味を上手に生

かし食材をおいしく食べる知

恵を育んできたのだ

発酵食品

発酵調味料

調味料

「和食」の特徴 味わい4

発酵食品と調味料

魚醤魚を塩漬けにして発酵させる独特の香りと濃いうま味が特徴の調味料ハタハタでつくられる秋田の

「しょっつる」イカやイワシを材料とする能登半島の「いしる(り)」などがある

酒酒もまた和食の調味に欠かせない発酵調味料のひとつ調味料としての酒の主な効果には材料の臭みを消す食材のうま味を引き出して風味をよくする甘みを加えるなどがある

塩海に囲まれている日本では古くから塩は調味料として使用されてきた焼き物や刺身などの調理の味付けとしてはもちろん漬物や干物など食物を貯蔵するための知恵としても活用されている

味噌蒸したり煮たりした大豆にこうじ食塩を混ぜて発酵熟成させた日本を代表する調味料のひとつ味噌汁や煮物などに使われることが多い地域によって使用される味噌の種類がかなり変わるのも特徴だ

酢寿司やなますなど和食に酸味を加える調味料米から醸造した酒に酢酸菌を加えて発酵させて造られる酢に漬けることにより保存性を高める

醤油大豆と小麦で造ったこうじに食塩水を加えた「もろみ」を発酵熟成させ搾ったもの刺身や焼き魚煮物炒め物など幅広い料理に使われている種類は濃口薄口たまり再仕込み白の5つに分類される

みりん蒸したもち米と米こうじを主原料に40~60日かけて熟成させて造られる発酵調味料砂糖と比べて甘みがやわらかく食材の臭味を取る働きもあるまた魚の照り焼きなどのつや出しにも使う

漬物素材を食塩や酢酒粕醤油などに漬け込み熟成させて作られる漬物沢庵や梅干し野沢菜漬けなど野菜類を長期間保存するための知恵として誕生した日本各地に独特の漬物があるのも特徴だ

納豆日本で発展した発酵食品である納豆大豆を納豆菌で発酵させた食品で寺納豆(下記参照)と区別するため「糸引き納豆」とも呼ばれる単品で食べるだけではなく納豆汁や納豆和えなどにも使われている

塩辛魚介類の身や内臓を塩漬けにし発酵させて作られた塩辛は日本における伝統的な保存食品のひとつ使われる素材はその地域によって変わりイカやエビアミタコなど多彩な種類の塩辛が存在する

塩に漬けた魚と炊いたご飯を数日間置き乳酸発酵させたなれずしは魚を保存する知恵として生まれた滋賀県では琵琶湖産のふなを和歌山県や富山県ではサバを岐阜県などではアユを材料にしたものが有名写真は滋賀県湖北地方の年頭の祭りで振る舞われる鯖のなれずし

砂糖世界的に見ても「甘み」を用いた料理が多い現在の和食では砂糖は欠かせない調味料のひとつ単独で料理に使われるというよりは煮物をはじめとするさまざまな料理で醤油や塩味噌などと併用されることが多い

寺納豆茹でた大豆にこうじを加えて発酵させ乾燥させながら熟成を促す発酵食品粘り気のある糸引き納豆とは異なり乾燥して塩辛い禅宗の伝来とともに大陸からもたらされたとされ寺院で作ることが多かったため「寺納豆」と呼ばれた

2526 WASHOKU

「和食」の特徴5

栄養

栄養バランスの優等生「和食」

野菜や魚肉そして米によって構成される「和食」は

栄養バランスの良さでも知られている

最近は五日間すべてを米飯にする完全米飯給食を行う地域も生まれた

和食の特徴のひとつである栄養についてその秘密に迫る

米麦雑穀などを炊いたご飯

を主食としてこれに魚介肉

類野菜類に発酵調味料だしを

組み合わせた和食は栄養学的

にみてもバランスをとりやすい

食事である

歴史的にみると日常食では

主食を大量に摂る習慣が続いた

穀類偏重の食生活だったといえ

よう

しかし豆腐や納豆みそ汁な

どを飯とともに摂ることで米の

アミノ酸の利用率を上げる食べ

方年中行事などハレの日に魚

介類などを摂取して楽しむなど

学ぶべき知恵は多い

なかでも何百年も伝えられて

きた和食の基本型はすぐれた

ものといえよう

副食の主菜には魚肉豆腐

などタンパク質を多く含む料理

を考える副菜には主菜に使わ

なかった野菜芋類などを使い

汁は主菜に合うものを用意する

焼き魚野菜の煮物青菜のお浸

しとみそ汁などでも栄養的バ

ランスはとれている

1980年頃までは多くの

家庭で和食の基本型が続いた

主食の量がやや減り副食が増

加とくに乳乳製品肉類の割

合が増加したこの頃栄養バ

ランスをはかる一つの指標であ

るPFCバランスが理想的な比

率を示した(左記参照)

しかしその後外食の日常化

家庭料理の欧米化が進み米の

摂取量が激減し脂質摂取の過

多などから生活習慣病が問題

となったこうした中各地で

食生活を見直す動きがみられる

ようになったその一つが学校

給食での取り組みである

戦後の食料難の中でパンと

牛乳に副食を加えた完全給食は

1950年に始まった197

6年に米飯が導入されるまで長

く続いたパン給食は和食の基

本型にも影響を与えたようだ

米飯給食は次第に増加し

2010年には週3回以上米

飯給食を実施している小中学

校は90以上となったが週5

回の米飯給食の実施は7以

上と高くない

ここでは2008年に5日

間すべてを米飯給食とした新潟

県三条市の事例を紹介しよう

成長期にバランスのよい食事

で健康な体をつくることそし

て望ましい食習慣を身につけ

生涯を健康に生きることをめざ

し完全米飯給食を実施したと

のこと

米は同市で生産される農薬

を減らしたコシヒカリを七分搗つ

きにした米飯を主食に副食は

主菜副菜汁を組み合わせる献

立をベースとしている主菜は

サケのフライ鶏肉ピリ辛焼き

さんま梅煮など伝統的な和食だ

けではないが和食の基本型の

中に取り入れる工夫がされてい

るパ

ンは油脂や糖分と相性が

良く肥満につながりやすいが

新潟県三条市の給食献立一例三条市の小中学校での献立例ご飯は三条市で収穫したコシヒカリを使用「お米だと腹持ちがよいのでデザートをあまり出さなくとも子どもたちが満足してくれる」とのこと洋風や中華風の献立でもおかずはご飯に合うものを選びスープなどの汁物は確実につけるように心がけている

火曜日

えだまめごはん

さけチーズフライ

くきわかめきんぴら

かきたまじる牛乳

小学校687kcal中学校823kcal

水曜日

ごはんとりにくのぴりからやきいかときゅうりの

あえものしょうがみそスープ牛乳小学校639kcal中学校752kcal

木曜日

ごはんさんまうめにたくあんあえにくじゃがに牛乳なし小学校688kcal中学校814kcal

金曜日ごはんカレーふりかけほうれんそうオムレツフレンチサラダパンプキンスープ牛乳小学校708kcal中学校833kcal

月曜日

ごはんいかのかりんあげ(2こ)

なっとうあえきのこけんちんじるのむヨーグルト

小学校619kcal中学校731kcal

2526 WASHOKU

七分搗米の飯は腹持ちがよく

おやつを食べる子どもが減った

だけでなく肥満の子どもが減

少傾向となり食生活のリズム

が良くなったとされる

また米飯に合う副食は土地

でとれる野菜類を取り入れやす

く季節にあわせてバラエティ

ーに富んだ献立を作ることがで

きる一汁三菜の食べ方の教育

を行った結果給食を残す子ど

もたちも減ったという

基本的な食事パターンが続く

中でも菜を工夫すれば変化に

富む食事を作ることはできる

季節の食材について学び年中

行事への知識も得られるだろう

また子どもたちが和食の基

本型を毎日の給食で体験してい

ることはきわめて重要なことで

ある時々経験するだけでは身

につかないものでも毎日繰り返

すことによって習慣化し定着

するのであるそしてやがて

自分で組み合わせを考えられる

ようになることが期待される

今後の学校給食の役割は大きい

といえるだろう

PFCバランスとは

FAO Statistics Yearbook(日本のみ食料需給表)参照栄養バランスが良いとされるP(たんぱく質)10~20F(脂質)20~30C(炭水化物)50~70の範囲が08~12に収まるように指数化した

日本でのPFCバランスの変化

アメリカとフランスのPFCバランス

タンパク質脂質炭水化物は人間にとって特に不可欠な「三大栄養素」PFCのPはProtein(たんぱく質)FはFat(脂質)CはCarbohydrate(炭水化物)の頭文字でPFCバランスとは食事の中での「たんぱく質」「脂質」「炭水化物」のそれぞれの摂取カロリーの比率健康的な生活をおくるためにはPFCバランスがたんぱく質15脂質25炭水化物60が理想的

給食時には全員で「いただきます」「ごちそうさま」を復唱食育にも力を入れているためそれら言葉の意味についても学校で教えている

米飯給食になってから児童たちの食の嗜し こ う

好に変化が生まれたとか児童たちに好きなおかずを聞いてみると「ハンバーグ」「カレー」などの定番メニューのほか「焼き魚」「納豆」などの和食メニューの名前が上がった

自分の分を食べ終わった児童たちが列をつくって競い合うようにご飯をおかわりしていたこの日の食べ残しはゼロ

C

P

F

14

12

1

08

06

アメリカ(2005~2007年)

C

P

F

14

12

1

08

06

フランス(2005~2007年)

「和食」の特徴 栄養5

日本人のPFCバランスは1965年当時は炭水化物に偏っていたが1980年は非常に理想的な配分になっていたしかしその後の日本人の食生活に肉や油脂類を多く摂り主食の米を食べる量が減り2010年時は欧米型に近づきつつある

C

P

F

14

12

1

08

06

日本1965年

C

P

F

14

12

1

08

06

日本1980年

C

P

F

14

12

1

08

06

日本2010年

2728 WASHOKU

お客を迎える前には店先に打ち水を水で清め準備が整ったことを伝える趣向に合う軸を選ぶのももてなしの基本飾る花は主人自ら育てたものそれを床の花入に活けるのも主人庭に150種ほどの草花を植え日々育てることもしつらいの準備客は女将の温かいもてなしに迎えられる

「和食」の特徴6

しつらい

人をもてなすためのこころとかたち

もてなしは客に対する一方的なサービスではない

お互いに思いやる気持ちから生まれるこころよさである

手入れの行き届いた庭は掃き

清めて水を打ち床の間には軸

を掛け季節の草花を生ける

座敷の襖ふ

すま

も夏には葭よ

しど戸に入れ替

え夏は涼やかに冬は暖かに

すべて相まってもてなしのた

めの用意を整えることそれが

しつらい和食とりわけ懐石

料理においては食材や料理と

ともにしつらいは非常に重要

な要素となる

家庭でも食事をつくる人は

食べる人の顔を思い浮かべなが

ら食事の用意をする食べる人

はつくってくれた人の気持ちを

考えて賞味するここに互いに

もてなす喜びが生まれるのでは

ないだろうか

こうしたもてなしの文化を極

限にまで洗練させた姿が料亭の

もてなしである京都府の無形

文化技術保持者に料理人として

初めて認定された京都の老舗料

亭「瓢亭」の十四代主人高橋英一

さんにその心を聞いてみよう

「料亭は日本文化の凝縮のひと

つと言えます玄関から入って

座敷に行くまでに通る露地にも

季節感があり部屋に入れば時

季や行事の軸がありその座敷

のために選んだ花が飾られる

日本人が自然と身につけている

桜の器を使うことで膳の上にぱっと花が咲くような華やかさが生まれるあしらいは酢取り防風岩海苔

秋の花菊の器はこっくり深い色合いも相まって秋に似合う風情を持つあしらいは岩茸菊花

深さのあるガラスの器に氷が敷き詰められる涼感を目でも舌にも感じるあしらいは穂紫蘇寄せ莫大

縁起のいい鶴は新年の席でも使われるモチーフあしらいは水前寺海苔紫芽紫蘇

四季の感性で受け止めてもらえ

るよう整えお出迎えします

料亭は普段とは違うハレの場で

すがとはいえ行き過ぎず足り

ないことのないよう自然なし

つらいそしてもてなしを心が

けます」

「瓢亭」の座敷に飾られるのは

主人が庭で丹誠込めて育て自

ら生ける茶花

「もてなしの根

底に利休さんの『花は野にある

ごとく』の言葉を思いますが簡

単なようでそれが難しい」自

然体でのもてなしを生むしつら

えは名店においても日々心を

くだき工夫するのだ

「瓢亭」では1年をとおして明石の鯛の向付を供しているが季節ごとに

器とあしらいを変えることで四季を演出している

四季の演出

2728 WASHOKU

和食はご飯と菜あるいはご飯とお汁というように常にご飯を間にはさんで菜や汁をとるのが本来の食べ方下のような不作法とされる箸使い(嫌い箸)があるので覚えておきたい

ご飯は茶碗に味噌汁はお椀

に焼き魚だったら平皿にと普

段料理に合わせて何気なく使う

食器種類の多さもさることな

がら形や素材もさまざま欧

米はもちろん近隣諸国を見回

してもこれほど多種多様な器を

使う国はないそれは四季が明

確なことと無関係ではない

「自宅でも季節に合わせた器

にするだけで気分が変わりま

すよ」と前出「瓢亭」のご主人は

語る 

春であれば華やかな色や形の

もの夏はガラスや青磁など涼

しげな素材の器秋は実りのあ

る彩りがあるもの冬は厚手の

陶器や木製など温もりのあるも

の色素材形を変えるだけで

季節感を演出できる「和食」な

らではの楽しみ

食事の際当たり前のように

使っている箸も日本の食文化

を代表する食具奈良時代以

降匙さ

を使う伝統が消え箸だ

けを使うようになったため熱

い汁物は椀を持ち直接口を

つけてすする文化が確立同

時に椀箸ともに個人所有が基

本となった椀や箸を共有し

匙やレンゲを使うほかの東南

アジア諸国とは異なる食文化

を形成箸食文化圏の中でも

唯一箸だけでご飯を食べる国

となったまた一口に箸といっ

ても食箸取り箸菜箸など用

途に合わせてさまざま食べ

る際に使う食箸だけを見ても

形や素材のほか加工や長さも

豊富にそろうのだ

「和食」の特徴7

箸と椀

「和食」を支える箸と椀

箸食文化圏の中でも唯一箸だけを使う国日本

季節感を感じさせる器とともに独特の食具文化も誇る

渡し箸食事の途中でお箸を

食器の上に渡し置くこと

寄せ箸遠くの食器を

箸で手元に引き寄せる行為

指し箸食事中箸で人やものを指すこと

迷い箸どの料理にしようか迷い箸を料理の上で動かすこと

移り箸いったん取りかけてから

ほかの料理にお箸をうつすこと

箸には食事に使う食箸と調理に使う菜箸とがある菜箸は熱から手を守るため30~50と長く片方がなくならないよう糸でつながっているものもある取り箸は菜箸の一種食箸は個人所有が基本のため使う人に合わせた長さが用意されている漆塗りや螺鈿細工を施したものも多い

種類

形状だけでなく素材もさまざまで近年は黒檀や鉄木など硬質な木が使われることが多い日本の木としては特有の香りがあり古くから懐石用や割り箸に使われてきた杉耐水性耐湿性が高く保存性に優れる上に軽くて持ちやすい檜強くしなりがあり細かいものを取りやすい竹などがある

素材

家庭で使う食箸の形には角箸や四角で角が丸い胴張り五角六角七角八角のほか削りなどがあり持ちやすさに合わせて選べる箸先に加工が施されたものもある来客用に使う銘々箸や割り箸には断面が小判型で割れ目と溝が付いた元禄箸や中央部が太く両端が細い利休箸などが用意されている

日本人にとっての箸は調理から盛りつけ食事までをこなす大事な道具食箸は個人所有が基本のため個々に合わせて選べるのも特徴だ

箸の働き

箸使いの作法を知る

【嫌い箸】

食箸

八角箸 削り箸

菜箸

檜竹

「和食」の特徴 しつらい 箸と椀6 7

2930 WASHOKU

神し ん せ ん

饌として神へ供えられるお神酒は神棚の最上段の中央に置かれるほど重要な地位を占めている

日本酒を造る酒蔵は全国に約1600弱その数は年々減り続けているが数年に一度「日本酒ブーム」も起きている

日本酒とは米と米こうじ

そして水を主な原料にしてそ

れらを発酵させて造られる

原料には主食用の米ではなく

酒造りに適した性質を選び品

種改良された酒し

ゅぞうこうてきまい

造好適米を使

うことが一般的だまた日本

酒の80を占める水も品質を

左右する大きな要因日本酒

の香味を損なわない良質な水

が必須だ

日本酒の醸じ

ょうぞう造の工程にはさ

まざまな技術が伴う例えば米

を精米して味と香りを調整する

技術これは米の外側にあるた

んぱく質や脂質といった雑味の

もとを除くことが目的だが大だ

吟ぎんじょう醸酒にもなると米を半分以

上削ってから仕込むこともある

次いで米を発酵させる技術

酒の場合の発酵とは酵こ

うぼ母が糖類

を食べてアルコールを出すこと

をいうが米には糖類が含まれな

いためまずは米をこうじ菌の酵

素によって糖類へと変えそこに

酵母を加えて発酵させるという

複雑な手順(複式発酵)が必要だ

この手順で使われるこうじもバ

ラこうじと呼ばれる日本独特の

ものだバラこうじは糖化力が

高いのが特徴で日本酒の香りや

味に大きく影響する

稲作を中心に文化を育んでき

た日本では米餅米から造ら

れる酒は地域を問わず重要な

ものとされている米の一粒一

粒に神が宿り同じように酒も

神のおかげで造ることができる

と考えられてきたそして酒

もまた食べ物と共に神に近づ

くための手段として古くから用

いられてきた

同時に家族や親族地域で人

と人をつなぐ上でも酒は大き

な役割を担っている例えばお

神み

き酒祭礼の後には神の酒を

人々が口にする神と同じ酒を

飲みそれを人々が分かち合う

ことで地域やコミュニティが

結束力を強めるのだろう

米や麦やさつまいもなどを原

料とする焼酎も日本酒と並び

日本の國酒とされている酒は

人と人の心をほぐし食事を引

き立たせる重要な役割を担って

いるのだ

「和食」の特徴8

「和食」を引き立たせ

心をほぐす日本の酒

日本人にとっての主食であり精神のかなめでもある米

その米で醸か

される日本酒は「和食」にとって欠かせない要素

日本の「國こ

くしゅ酒

」にもなっている

2930 WASHOKU

「和食」の特徴9

和菓子日本茶

暮らしに寄り添う和菓子とお茶

自然の恵みに感謝し季節の移ろいを敏感に表現する和菓子

日本茶は喉のかわきを癒すだけでなく心を癒し心を高める飲みものである

「和食」の特徴 酒 和菓子8 9

ハレの日の願いを込めた和菓子

和菓子分類餅もの 餅団子大福など蒸しもの 饅頭蒸羊

よ う か ん

羹外う い ろ う

郎村む ら さ め

雨など煉もの 煉

ね り き り

切こなし求ぎ ゅ う ひ

肥飴葛く ず

菓子など焼きもの 味噌松風煎

せ ん べ い

餅桃も も や ま

山カステラどら焼など流しもの 錦

にしきだま

玉煉ね り よ う か ん

羊羹水み ず よ う か ん

羊羹など揚げもの 揚げ煎

せ ん べ い

餅かりんとうなど打ちもの(押しもの) 落

ら く が ん

雁など岡もの 最

も な か

中きんとん鹿か の こ

の子すはまなどかけもの 金

こ ん ぺ い と う

平糖五ご し き ま め

色豆石いしごろも

衣など

これは和菓子の製法によって大まかに分類した表このほか含有する水分量によって生菓子半生 菓 子 干 菓 子などの分け方や上じ ょ う な ま が し

生菓子並菓子駄だ が し

菓子などの分類もある

「岡もの」とはすでにできあがっ た素材をあわせたもの (例きんとん=飴玉とそぼろ餡)

甘く味付けしたごぼうと白味噌餡を赤や白の餅や求

ぎ ゅ う ひ

肥で包んだ生菓子平安時代の新年行事のひとつで長寿を願っておこなわれた「歯固め」の餅に由来する餅と味噌の組み合わせから「包み雑煮」とも呼ばれた

葩はなびらもち

一 月

旧暦十月は「亥の月」と呼ばれていたがその月のさらに「亥の日」に行われる年中行事の際に食べられていた菓子旧暦では10月が冬の始まりそのタイミングで無病息災と多産の猪にあやかって子孫繁栄を願ってこれを食べていたという

亥い の こ も ち

の子餅

十 月六 月

白いういろうの上に小豆の粒餡を散らした菓子古来京都で旧暦六月の晦

み そ か

日(30日)に無病息災を祈願して行われている

「夏なごしのはらい

越祓」になぞらえて初夏の頃に食べられている小豆には邪気祓いの意味があり三角の形は氷を表している

水無月

五 月

平たく丸めた上新粉の餅をふたつに折り中に小豆や味噌の餡を挟んでそれを柏の葉で包んだ菓子柏の葉は新芽が育つまで古い葉が落ちないことから

「子孫繁栄」を願って旧暦五月五日の端

た ん ご

午の節句の供く も つ

物として用いられてきた

柏餅

日本ならではのお茶の製法である手揉みは茶葉の繊維をつぶしながらうまみを引き出すために行う作業手揉みすると茶葉が切れないため茶の甘みを保つことができる

菓子もまた「和食」にとって欠

かせない要素でお客様用の「上

菓子」普段食べる「饅頭」や「餅

菓子」などに分かれるほかに

干菓子や駄菓子など菓子の種

類は多いまた例えば団子や

大福などは「餅もの」求肥や飴

などは「煉りもの」錦玉や

水みずようかん

羊羹などは「流しもの」などと

いうようにその製法によって

分類されることもある米や麦

小豆を代表とする豆類そして

砂糖や水あめなどの材料でバ

ラエティに富んだ菓子が生み出

されてきた

お茶会などの席で抹茶ととも

に味わう菓子もあり季節に合

わせて材料や色やデザインが選

ばれ味覚だけでなく視覚で楽

しむこともある

また年中行事と結びつく菓

子もある例えば旧暦三月三日

の「ひな祭り」では邪気をはら

い強い生命力を象徴するよも

ぎの草もちでつくった草餅を食

べる

和菓子には日本茶がふさわし

い緑茶は12世紀に中国から日

本に伝わったが今では生の茶

葉を蒸してから揉んで乾燥させ

る緑茶の製法は日本独特のもの

となっている緑茶に含まれる

カフェインは覚醒効果がまた

カテキンには抗酸化作用があり

ビタミンCも多く含まれて健

康によい日本茶独特の香りと

うま味は日本文化そのもので

ある

出典「和菓子の歴史展」第五十回虎屋文庫資料展より

3132 WASHOKU

日本の「和食」の文化は自然

環境だけでなく海外からの影

響によっても絶えず変化して

きた

近代以降にはコロッケとん

かつなど洋風料理を和食の基本

型に組み合わせた食事肉と野

菜の煮物や和え物などそれまで

にはない料理が工夫されたそ

の多くは和食の基本型味噌や

醤油を用いた味付け箸で食べ

られる料理など「和食」の要素

を保ちつつ伝えられてきた

しかし第二次世界大戦後高

度経済成長期を迎えると日本人

の食生活は急速に変化する

1970年代にファストフー

ド店ファミリーレストランが

各地に開店しコンビニなども

広がった

1980年頃主食と副食の

バランスは理想的とされたが

(26頁参照)その後米の消費量

はさらに減りパン食が増加

肉類油脂乳乳製品の消費量

も増加し食料自給率も下がっ

た家族での外食が日常化し

家庭の食事も欧米化した

食育の必要性

「和食」が危ないどうしたら伝えられるのか

この150年間で大きく変化し「和食」はいま衰えつつあるその原因はどこにあるのだろうか

食生活の変化

日本の食料自給率の変化農林水産省「食料需給表」より作成

日本のものを食べなくなって 「和食」はどうなる 日本の食料自給率は下がり続けている1965(昭和40)年度はカロリーベースで73だったが2012(平成24)年度は39その大きな原因のひとつは国内で自給可能な米や魚や野菜などの消費量が減少する一方国内で生産が困難な飼料穀物を食べて育つ畜産物や原料を輸入に頼ることが多い冷凍加工食品や小麦の消費が増加したことだと考えられている炭水化物たんぱく質脂肪分をバランスよく摂取する健康的な「和食」に未来はあるのか

国民一人一日当たりの供給純食料農林水産省「食料需給表」より作成

食べる米の量が50年で半減 増えたのは肉と乳製品 国民一人あたりが食べる量を品目別に眺めて分かることそれは日本人が食べる米の量が著しく減ってきたことだ1960(昭和35)年度は一日あたりの米の消費量は約315gだったが2010(平成22年)年度は163gに約半減その代わりに増えたのは牛乳乳製品(約60gから約240g)と肉類(約14gから約80gへ)野菜と魚を中心としたおかずでご飯を食べるという

「和食」のスタイルの変化がわかる

食料費における外食と中食の割合の推移総務省統計局「家計調査年報」より作成

家で食べても 調理することが減っている 外食に対して家庭で作って食べる食事を内食というが弁当や惣菜など調理をせずに食べられるものを買ってきて済ます食事は中食と呼ぶ実はこの中食の割合が増えている外食が占める割合は2000(平成12)年以降横ばいなのに対して中食は増え続けその代わりに内食が減っている食事は家で食べても調理はしないという家庭が増えているのだとすれば「和食」にとって大切な要素を子どもたちに伝える機会が減っているとはいえないだろか

食料自給率(金額ベース)

食料自給率(主食用穀物)

食料自給率(カロリーベース)飼料自給率

米 野菜 肉類牛乳乳製品 魚介類

内食 中食 外食

(g人日)

3132 WASHOKU

50

55

60

65

70

75

01992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012

70

75

80

85

90

95

01992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012

一日に一度はお米を食べないと気がすまない人の割合博報堂生活総研「生活定点2012」

お正月におせち料理を食べた人の割合博報堂生活総研「生活定点2012」

一日に一度は米を炊いたご飯を食べなければ気がすまない人の割合が実はこの20年間で減っているというデータがある1992(平成4)年には714だったが2012(平成24)年には564にまで落ち込んでいるのだ

家族や親族で集まっておせち料理を囲みながら新しい一年の無事を祝うお正月実はおせち料理を食べる人も毎年少なくなっている1992(平成4)年には866だったが2012(平成24)年には748だった

電子レンジの普及や冷凍食品

インスタント食品などにより

食生活は便利になったが家庭

内で調理をする機会が減ったと

もいえる

こうしたなか「和食」の優れ

た点をどうしたら伝えられるの

だろうか親から子へ家庭の食

を伝えるだけでなく学校を通

して子どもたちにさらにその

親の世代にも伝える必要があろ

う高齢者からは「和食」につ

いて具体的に教わることも求

められる

離乳期からの食べ物の選び方

幼児期の食経験を豊富にするこ

となどはとくに重要であろう

小さな頃からの食習慣はその

後の食習慣に大きくかかわって

くるからだ

だしのおいしい味を日々体験

することや魚を味わい骨を箸

でとる訓練を楽しい雰囲気のな

かで教わることなどその積み

重ねの中で「和食」は伝わるので

あろう

経験しない味は異文化とと

らえられるであろうし体験し

ていない調理は簡単でも難しく

感じる食事を用意する過程を

日々見る経験手伝う楽しさ美

しい食器を大切にして使うこと

同じ食べ物を家族や仲間と味わ

い祭りや花見などで共に食べ

る経験を積み重ねることは文

化としての「和食」を伝えるだけ

でなく生きる力を育むことにも

つながるであろう

壁にではなく居間に向かって設置されることが多くなった現在のキッチン夫婦共働きだというこの家庭では夫が厨房に立つことも少なくないというこのように食事の準備を子どもと一緒に行うことで「和食」にとって大切な要素が次の世代に伝えられるようになるのだろう

世帯あたり1ヶ月間の穀類支出金額内訳

1962年3434円

パン

麺他

2010年6373円

パン

麺他

ご飯を食べなくても平気 そんな人が増えている

お米よりパンと麺 その傾向が加速中

おせち料理を食べる派が 毎年ジワリ減少中

1962(昭和37)年度には8割以上を占めていた米への支出が2010(平成22)年度にはパンにとって代わられる米の消費量はパンより多いが家庭では炊飯する必要のある米よりすぐに食べられるパンや麺の支出が多くなり家庭での料理が減っていることを示しているともいえよう

総務省統計局「家計調査年報」より作成

いただきます

ごちそうさま

「和食」の未来

今世紀に入ってから世界に和食ブー

ムが起きている味わいやヘルシーさに

注目が集まり世界中のいたるところに

日本食の店が数多くある

そのように世界から注目される「和食」

だが本家本元の日本国内でその将来が

危ぶまれている

これまで見てきたように「和食」には

新しいものを柔軟に取り込む歴史があっ

た日本人は太古の昔より外国からも

たらされた食文化を自分たちの食生活に

取り込んで日本独自の食文化を発展さ

せてきた地域ごとに地域の環境にふさ

わしい料理をつくり出してきた食べる

料理や食べ方もその時代ごと地域ごと

に変わってきた

その中で貫かれてきたことがある

豊かな自然がもたらす食材のおいしさ

を生かす調理法を工夫し味わうこと

食卓に季節感をしつらえもてなしの気

持ちを共に感じ合う食事の場を持つこ

と一汁三菜という組み合わせを食事

の基本スタイルとして健康的な食生活

をおくることお正月におせち料理を

祝いの日にお赤飯を家族と共に食べる

など食事は家族の絆となっている

豊かな自然を守る気持ちと同じように

日本人を健やかに生かし人と人をつな

いできた「和食」もまた守るべき大切な

日本文化ではないだろうか

「いただきます」「ごちそうさま」と言っ

てみるだけでも「和食」は私たちに身近

になる人と人をあたたかく結びつけて

くれる

日本人はやはりお米のご飯がおいしい

と思うだしのきいた汁でおなかも心も

癒されるこの日本人が長い歴史の中で

育んできたすばらしい財産である「和

食」がこのままなくなってよいと考える

人はいないだろう世界の中でもすぐれ

た食文化として認められた「和食」を日本

の誇りとし大切にして次の世代に受け

継いでいくきっかけにこの冊子がなれ

ば幸いである

ごちそうさま

和 食

2122 WASHOKU

和食における菜さ

の調理法には

煮る焼く蒸す茹でる和あ

える

揚げるなど実に多様な技法が

あるこれを季節の野菜や山

菜魚介類海藻などの食材と組

み合わせることでバラエティ

に富んだ菜が食卓を彩る

数ある日本の調理法の中で

最も特徴的なのは「生もの」材

料を生のまま切り皿に盛り付

け調味料と薬味を添える刺

身といえば魚介類が用いられる

のがほとんどで捌さ

き方切り方

盛り方などが現在世界で注目を

浴びている材料を新鮮な状態

に保つ技術と料理としての盛り

付けの技術があいまって完成し

たものといえる調味料と薬味

の組み合わせも魚類との相性を

考えて工夫されているまた

わさびしょうがからしなどの

薬味や「つま」や「けん」と言わ

れる大根のせん切り大葉防ぼ

うふう風

芽めたで蓼花は

なじそ

紫蘇など防菌効果のあ

るものを添えて見た目も美し

く組み合わせている

ご飯と並んで食卓に欠かせ

ない「汁物」は鰹節や昆布煮干

し干し椎茸などから抽出され

るだしのうま味と具として入

れる素材のうま味が味わいのベ

ースとなっている中には具だ

くさんの菜になるような汁も

ある

また豊富な水を利用した調理

焼き物(サンマの塩焼き)

直火焼きは遠火の強火でほかに間接焼きがある

生もの(カツオの刺身)

生ものには刺身あらい酢の物漬物がある

茹で物(もりそば)

小麦粉やそばなどの粉からつくる麺を茹でる法

旬の食材のおいしさを

引き出す調理法の数々

「和食」の特徴3

調理

切る煮る焼く蒸す茹でる和える揚げるhellip

あの手この手で素材をよりおいしく

バランスの取れた一汁三菜の基本はご飯にあり

ご飯をおいしくいただくために菜さ

の調理方法は進化した

煮物(筑前煮)

煮汁の中で加熱中に調味する法

2122 WASHOKU

法に「茹で物」があるたっぷり

の水を沸騰させ食材を加えて加

熱して取り出すもの青菜そば

などは茹でた後にあくの除去

歯触りを良くするなどのためさ

らに水で洗う場合も多い私た

ちがあたりまえのように調理し

て食べているほうれん草や小松

菜のお浸しは水に恵まれた日本

に定着した料理で世界的にみて

も特徴あるものといえよう

「焼き物」はサンマの塩焼きの

ように塩をふり直火でじっく

り焼き上げる方法が伝統的

「煮物」は世界で最もポピュラ

ーな調理法だが日本では素材

の味を生かしつつ醤油や味噌

など大豆由来の発酵調味料で

味を調えるものが多い

油とともに加熱調理する「炒

め物」は伝統的な調理にはほと

んど見られないが現代では盛

んに使われ和食の幅を広げて

いる

ここに紹介した調理法と料理

の例は主にご飯のおかずとな

るものであるが小麦そば雑

穀などを粉にしこれを調理し

た主食も多い代表的なものに

うどんそばそうめんなどの麺

類があり茹でる場合が多いが

煮込みなど煮るものもある

さまざまな料理を組み合わせ

て食べる和食は素材の味を生

かしうま味をしっかりとれば

最低限の調味料でおいしさを感

じることができ多様な料理を

楽しむことができる

和あえ物

(きゅうりとワカメの酢の物)

野菜や魚介類などをごま味噌酢などで和える法

漬物(きゅうり大根の糠

ぬか

漬け沢たく あ ん

庵漬け)生ものを保存する方法の一種

塩の働きに加え乳酸発酵させたものが多い

汁物(なめこの味噌汁)

だし汁を主体とする法すまし汁みそ汁とろみのついた汁など

蒸し物(茶碗蒸し)

水を沸騰させその水蒸気を利用して加熱する法

浸し物(小松菜のお浸し)

お浸しは調味した汁に浸して味をつけたもの

「和食」の特徴 調理3

揚げ物(天ぷら)

高温の油で食品を加熱する法油の温度は150~200度の範囲で行うことが多い

2324 WASHOKU

「和食」の特徴4

味わい

うま味日本人が発見した「おいしく食べる」最大の知恵

和食の味わいの中で最も重要なのがだし

味噌汁やすまし汁のベースとなり

煮物やおひたしなどさまざまな料理の

味を決定づける味の要だ

和食の味わいを語るうえで忘

れてはならないのがだし(出

汁)の存在汁物や煮物などさ

まざまな料理のベースとして使

われている

なぜ日本人はここまでだしを

好むのかその答えに大きく関

係するのが「うま味」だ江戸時

代の料理書には「だしこそ料理の

根本である」と書かれている

1907年池田菊き

くなえ苗

博士に

よって世界で初めてうま味成

分のひとつがアミノ酸の一種で

あるグルタミン酸であることが

発見されたその後日本人を中

心に研究が進みうま味は甘味

塩味酸味苦味に加えて第5

の味覚として広く知られるよう

になる現在ではうま味調味

料やだし入りのつゆなどうま

味成分を手軽に使える調味料も

普及海外でも人気が高く国

内でも日常的に使用されている

だしのほかに和食の味付け

日本が世界に誇る

第5の味覚うま味

うま味成分を多く含む椎茸もだしをとる目的で使われてきた食材のひとつだしに使用するのは干したもの椎茸は乾燥させることでうま味や香り成分が増すためだ

小魚を煮て乾燥させてつくる煮干しも汁物に多用される材料としてはカタクチイワシが代表的だがその他ウルメイワシやキビナゴトビウオなどの比較的魚体が小さな魚を使ってつくるのが一般的だ

だしのとり方は魚介や野菜から水や湯を使ってうま味成分を抽出するのが一般的だしの素材として最もよく使われるのは昆布と鰹節でそのほか煮干し野菜干し椎茸魚の内臓やあら(頭や骨)などがあるまた潮

うしおじる

汁のように食品そのもののうま味を活かす方法もある

鰹節

「だし」のこと

昆布

煮干し

干し椎茸

2324 WASHOKU

に欠かせないのは塩砂糖味

噌醤油酢酒みりん魚醤な

どの調味料わさびやからし

しょうが山椒とうがらしゆ

ずなども薬味として使われる

これら薬味によって季節感を楽

しみながら素材の味を引き出

すという知恵も「和食」ならでは

夏に高温多湿となる日本では

アジア諸国と同様発酵食品が

発達したそれゆえ味噌や醤

油や酢に代表される発酵調味料

を多用するのも和食の特徴大

豆や穀物を塩漬けにして発酵

させてつくるものだがその過

程で原料のタンパク質がアミノ

酸に分解されうま味成分を豊

富に含んだ調味料ができあがる

のだ

発酵食品も多様だ日本各地

でカビや酵母などの微生物の

働きを活かして食品中のアミ

ノ酸(うま味)を増やす発酵食品

が発達してきた冬場の保存食

として生み出された沢庵や塩

を使って乳酸発酵させる京都の

すぐき菜漬けそして糠ぬ

漬けや

奈良漬けなど野菜を発酵させ

た漬物さらに塩辛やくさや

なれずし鰹節など魚介の保存

食としての発酵食品また大

豆を納豆菌で発酵させる納豆や

こうじ菌で発酵させて乾燥後に

熟成させた寺納豆など大豆の

発酵食品もある

「和食」はうま味を上手に生

かし食材をおいしく食べる知

恵を育んできたのだ

発酵食品

発酵調味料

調味料

「和食」の特徴 味わい4

発酵食品と調味料

魚醤魚を塩漬けにして発酵させる独特の香りと濃いうま味が特徴の調味料ハタハタでつくられる秋田の

「しょっつる」イカやイワシを材料とする能登半島の「いしる(り)」などがある

酒酒もまた和食の調味に欠かせない発酵調味料のひとつ調味料としての酒の主な効果には材料の臭みを消す食材のうま味を引き出して風味をよくする甘みを加えるなどがある

塩海に囲まれている日本では古くから塩は調味料として使用されてきた焼き物や刺身などの調理の味付けとしてはもちろん漬物や干物など食物を貯蔵するための知恵としても活用されている

味噌蒸したり煮たりした大豆にこうじ食塩を混ぜて発酵熟成させた日本を代表する調味料のひとつ味噌汁や煮物などに使われることが多い地域によって使用される味噌の種類がかなり変わるのも特徴だ

酢寿司やなますなど和食に酸味を加える調味料米から醸造した酒に酢酸菌を加えて発酵させて造られる酢に漬けることにより保存性を高める

醤油大豆と小麦で造ったこうじに食塩水を加えた「もろみ」を発酵熟成させ搾ったもの刺身や焼き魚煮物炒め物など幅広い料理に使われている種類は濃口薄口たまり再仕込み白の5つに分類される

みりん蒸したもち米と米こうじを主原料に40~60日かけて熟成させて造られる発酵調味料砂糖と比べて甘みがやわらかく食材の臭味を取る働きもあるまた魚の照り焼きなどのつや出しにも使う

漬物素材を食塩や酢酒粕醤油などに漬け込み熟成させて作られる漬物沢庵や梅干し野沢菜漬けなど野菜類を長期間保存するための知恵として誕生した日本各地に独特の漬物があるのも特徴だ

納豆日本で発展した発酵食品である納豆大豆を納豆菌で発酵させた食品で寺納豆(下記参照)と区別するため「糸引き納豆」とも呼ばれる単品で食べるだけではなく納豆汁や納豆和えなどにも使われている

塩辛魚介類の身や内臓を塩漬けにし発酵させて作られた塩辛は日本における伝統的な保存食品のひとつ使われる素材はその地域によって変わりイカやエビアミタコなど多彩な種類の塩辛が存在する

塩に漬けた魚と炊いたご飯を数日間置き乳酸発酵させたなれずしは魚を保存する知恵として生まれた滋賀県では琵琶湖産のふなを和歌山県や富山県ではサバを岐阜県などではアユを材料にしたものが有名写真は滋賀県湖北地方の年頭の祭りで振る舞われる鯖のなれずし

砂糖世界的に見ても「甘み」を用いた料理が多い現在の和食では砂糖は欠かせない調味料のひとつ単独で料理に使われるというよりは煮物をはじめとするさまざまな料理で醤油や塩味噌などと併用されることが多い

寺納豆茹でた大豆にこうじを加えて発酵させ乾燥させながら熟成を促す発酵食品粘り気のある糸引き納豆とは異なり乾燥して塩辛い禅宗の伝来とともに大陸からもたらされたとされ寺院で作ることが多かったため「寺納豆」と呼ばれた

2526 WASHOKU

「和食」の特徴5

栄養

栄養バランスの優等生「和食」

野菜や魚肉そして米によって構成される「和食」は

栄養バランスの良さでも知られている

最近は五日間すべてを米飯にする完全米飯給食を行う地域も生まれた

和食の特徴のひとつである栄養についてその秘密に迫る

米麦雑穀などを炊いたご飯

を主食としてこれに魚介肉

類野菜類に発酵調味料だしを

組み合わせた和食は栄養学的

にみてもバランスをとりやすい

食事である

歴史的にみると日常食では

主食を大量に摂る習慣が続いた

穀類偏重の食生活だったといえ

よう

しかし豆腐や納豆みそ汁な

どを飯とともに摂ることで米の

アミノ酸の利用率を上げる食べ

方年中行事などハレの日に魚

介類などを摂取して楽しむなど

学ぶべき知恵は多い

なかでも何百年も伝えられて

きた和食の基本型はすぐれた

ものといえよう

副食の主菜には魚肉豆腐

などタンパク質を多く含む料理

を考える副菜には主菜に使わ

なかった野菜芋類などを使い

汁は主菜に合うものを用意する

焼き魚野菜の煮物青菜のお浸

しとみそ汁などでも栄養的バ

ランスはとれている

1980年頃までは多くの

家庭で和食の基本型が続いた

主食の量がやや減り副食が増

加とくに乳乳製品肉類の割

合が増加したこの頃栄養バ

ランスをはかる一つの指標であ

るPFCバランスが理想的な比

率を示した(左記参照)

しかしその後外食の日常化

家庭料理の欧米化が進み米の

摂取量が激減し脂質摂取の過

多などから生活習慣病が問題

となったこうした中各地で

食生活を見直す動きがみられる

ようになったその一つが学校

給食での取り組みである

戦後の食料難の中でパンと

牛乳に副食を加えた完全給食は

1950年に始まった197

6年に米飯が導入されるまで長

く続いたパン給食は和食の基

本型にも影響を与えたようだ

米飯給食は次第に増加し

2010年には週3回以上米

飯給食を実施している小中学

校は90以上となったが週5

回の米飯給食の実施は7以

上と高くない

ここでは2008年に5日

間すべてを米飯給食とした新潟

県三条市の事例を紹介しよう

成長期にバランスのよい食事

で健康な体をつくることそし

て望ましい食習慣を身につけ

生涯を健康に生きることをめざ

し完全米飯給食を実施したと

のこと

米は同市で生産される農薬

を減らしたコシヒカリを七分搗つ

きにした米飯を主食に副食は

主菜副菜汁を組み合わせる献

立をベースとしている主菜は

サケのフライ鶏肉ピリ辛焼き

さんま梅煮など伝統的な和食だ

けではないが和食の基本型の

中に取り入れる工夫がされてい

るパ

ンは油脂や糖分と相性が

良く肥満につながりやすいが

新潟県三条市の給食献立一例三条市の小中学校での献立例ご飯は三条市で収穫したコシヒカリを使用「お米だと腹持ちがよいのでデザートをあまり出さなくとも子どもたちが満足してくれる」とのこと洋風や中華風の献立でもおかずはご飯に合うものを選びスープなどの汁物は確実につけるように心がけている

火曜日

えだまめごはん

さけチーズフライ

くきわかめきんぴら

かきたまじる牛乳

小学校687kcal中学校823kcal

水曜日

ごはんとりにくのぴりからやきいかときゅうりの

あえものしょうがみそスープ牛乳小学校639kcal中学校752kcal

木曜日

ごはんさんまうめにたくあんあえにくじゃがに牛乳なし小学校688kcal中学校814kcal

金曜日ごはんカレーふりかけほうれんそうオムレツフレンチサラダパンプキンスープ牛乳小学校708kcal中学校833kcal

月曜日

ごはんいかのかりんあげ(2こ)

なっとうあえきのこけんちんじるのむヨーグルト

小学校619kcal中学校731kcal

2526 WASHOKU

七分搗米の飯は腹持ちがよく

おやつを食べる子どもが減った

だけでなく肥満の子どもが減

少傾向となり食生活のリズム

が良くなったとされる

また米飯に合う副食は土地

でとれる野菜類を取り入れやす

く季節にあわせてバラエティ

ーに富んだ献立を作ることがで

きる一汁三菜の食べ方の教育

を行った結果給食を残す子ど

もたちも減ったという

基本的な食事パターンが続く

中でも菜を工夫すれば変化に

富む食事を作ることはできる

季節の食材について学び年中

行事への知識も得られるだろう

また子どもたちが和食の基

本型を毎日の給食で体験してい

ることはきわめて重要なことで

ある時々経験するだけでは身

につかないものでも毎日繰り返

すことによって習慣化し定着

するのであるそしてやがて

自分で組み合わせを考えられる

ようになることが期待される

今後の学校給食の役割は大きい

といえるだろう

PFCバランスとは

FAO Statistics Yearbook(日本のみ食料需給表)参照栄養バランスが良いとされるP(たんぱく質)10~20F(脂質)20~30C(炭水化物)50~70の範囲が08~12に収まるように指数化した

日本でのPFCバランスの変化

アメリカとフランスのPFCバランス

タンパク質脂質炭水化物は人間にとって特に不可欠な「三大栄養素」PFCのPはProtein(たんぱく質)FはFat(脂質)CはCarbohydrate(炭水化物)の頭文字でPFCバランスとは食事の中での「たんぱく質」「脂質」「炭水化物」のそれぞれの摂取カロリーの比率健康的な生活をおくるためにはPFCバランスがたんぱく質15脂質25炭水化物60が理想的

給食時には全員で「いただきます」「ごちそうさま」を復唱食育にも力を入れているためそれら言葉の意味についても学校で教えている

米飯給食になってから児童たちの食の嗜し こ う

好に変化が生まれたとか児童たちに好きなおかずを聞いてみると「ハンバーグ」「カレー」などの定番メニューのほか「焼き魚」「納豆」などの和食メニューの名前が上がった

自分の分を食べ終わった児童たちが列をつくって競い合うようにご飯をおかわりしていたこの日の食べ残しはゼロ

C

P

F

14

12

1

08

06

アメリカ(2005~2007年)

C

P

F

14

12

1

08

06

フランス(2005~2007年)

「和食」の特徴 栄養5

日本人のPFCバランスは1965年当時は炭水化物に偏っていたが1980年は非常に理想的な配分になっていたしかしその後の日本人の食生活に肉や油脂類を多く摂り主食の米を食べる量が減り2010年時は欧米型に近づきつつある

C

P

F

14

12

1

08

06

日本1965年

C

P

F

14

12

1

08

06

日本1980年

C

P

F

14

12

1

08

06

日本2010年

2728 WASHOKU

お客を迎える前には店先に打ち水を水で清め準備が整ったことを伝える趣向に合う軸を選ぶのももてなしの基本飾る花は主人自ら育てたものそれを床の花入に活けるのも主人庭に150種ほどの草花を植え日々育てることもしつらいの準備客は女将の温かいもてなしに迎えられる

「和食」の特徴6

しつらい

人をもてなすためのこころとかたち

もてなしは客に対する一方的なサービスではない

お互いに思いやる気持ちから生まれるこころよさである

手入れの行き届いた庭は掃き

清めて水を打ち床の間には軸

を掛け季節の草花を生ける

座敷の襖ふ

すま

も夏には葭よ

しど戸に入れ替

え夏は涼やかに冬は暖かに

すべて相まってもてなしのた

めの用意を整えることそれが

しつらい和食とりわけ懐石

料理においては食材や料理と

ともにしつらいは非常に重要

な要素となる

家庭でも食事をつくる人は

食べる人の顔を思い浮かべなが

ら食事の用意をする食べる人

はつくってくれた人の気持ちを

考えて賞味するここに互いに

もてなす喜びが生まれるのでは

ないだろうか

こうしたもてなしの文化を極

限にまで洗練させた姿が料亭の

もてなしである京都府の無形

文化技術保持者に料理人として

初めて認定された京都の老舗料

亭「瓢亭」の十四代主人高橋英一

さんにその心を聞いてみよう

「料亭は日本文化の凝縮のひと

つと言えます玄関から入って

座敷に行くまでに通る露地にも

季節感があり部屋に入れば時

季や行事の軸がありその座敷

のために選んだ花が飾られる

日本人が自然と身につけている

桜の器を使うことで膳の上にぱっと花が咲くような華やかさが生まれるあしらいは酢取り防風岩海苔

秋の花菊の器はこっくり深い色合いも相まって秋に似合う風情を持つあしらいは岩茸菊花

深さのあるガラスの器に氷が敷き詰められる涼感を目でも舌にも感じるあしらいは穂紫蘇寄せ莫大

縁起のいい鶴は新年の席でも使われるモチーフあしらいは水前寺海苔紫芽紫蘇

四季の感性で受け止めてもらえ

るよう整えお出迎えします

料亭は普段とは違うハレの場で

すがとはいえ行き過ぎず足り

ないことのないよう自然なし

つらいそしてもてなしを心が

けます」

「瓢亭」の座敷に飾られるのは

主人が庭で丹誠込めて育て自

ら生ける茶花

「もてなしの根

底に利休さんの『花は野にある

ごとく』の言葉を思いますが簡

単なようでそれが難しい」自

然体でのもてなしを生むしつら

えは名店においても日々心を

くだき工夫するのだ

「瓢亭」では1年をとおして明石の鯛の向付を供しているが季節ごとに

器とあしらいを変えることで四季を演出している

四季の演出

2728 WASHOKU

和食はご飯と菜あるいはご飯とお汁というように常にご飯を間にはさんで菜や汁をとるのが本来の食べ方下のような不作法とされる箸使い(嫌い箸)があるので覚えておきたい

ご飯は茶碗に味噌汁はお椀

に焼き魚だったら平皿にと普

段料理に合わせて何気なく使う

食器種類の多さもさることな

がら形や素材もさまざま欧

米はもちろん近隣諸国を見回

してもこれほど多種多様な器を

使う国はないそれは四季が明

確なことと無関係ではない

「自宅でも季節に合わせた器

にするだけで気分が変わりま

すよ」と前出「瓢亭」のご主人は

語る 

春であれば華やかな色や形の

もの夏はガラスや青磁など涼

しげな素材の器秋は実りのあ

る彩りがあるもの冬は厚手の

陶器や木製など温もりのあるも

の色素材形を変えるだけで

季節感を演出できる「和食」な

らではの楽しみ

食事の際当たり前のように

使っている箸も日本の食文化

を代表する食具奈良時代以

降匙さ

を使う伝統が消え箸だ

けを使うようになったため熱

い汁物は椀を持ち直接口を

つけてすする文化が確立同

時に椀箸ともに個人所有が基

本となった椀や箸を共有し

匙やレンゲを使うほかの東南

アジア諸国とは異なる食文化

を形成箸食文化圏の中でも

唯一箸だけでご飯を食べる国

となったまた一口に箸といっ

ても食箸取り箸菜箸など用

途に合わせてさまざま食べ

る際に使う食箸だけを見ても

形や素材のほか加工や長さも

豊富にそろうのだ

「和食」の特徴7

箸と椀

「和食」を支える箸と椀

箸食文化圏の中でも唯一箸だけを使う国日本

季節感を感じさせる器とともに独特の食具文化も誇る

渡し箸食事の途中でお箸を

食器の上に渡し置くこと

寄せ箸遠くの食器を

箸で手元に引き寄せる行為

指し箸食事中箸で人やものを指すこと

迷い箸どの料理にしようか迷い箸を料理の上で動かすこと

移り箸いったん取りかけてから

ほかの料理にお箸をうつすこと

箸には食事に使う食箸と調理に使う菜箸とがある菜箸は熱から手を守るため30~50と長く片方がなくならないよう糸でつながっているものもある取り箸は菜箸の一種食箸は個人所有が基本のため使う人に合わせた長さが用意されている漆塗りや螺鈿細工を施したものも多い

種類

形状だけでなく素材もさまざまで近年は黒檀や鉄木など硬質な木が使われることが多い日本の木としては特有の香りがあり古くから懐石用や割り箸に使われてきた杉耐水性耐湿性が高く保存性に優れる上に軽くて持ちやすい檜強くしなりがあり細かいものを取りやすい竹などがある

素材

家庭で使う食箸の形には角箸や四角で角が丸い胴張り五角六角七角八角のほか削りなどがあり持ちやすさに合わせて選べる箸先に加工が施されたものもある来客用に使う銘々箸や割り箸には断面が小判型で割れ目と溝が付いた元禄箸や中央部が太く両端が細い利休箸などが用意されている

日本人にとっての箸は調理から盛りつけ食事までをこなす大事な道具食箸は個人所有が基本のため個々に合わせて選べるのも特徴だ

箸の働き

箸使いの作法を知る

【嫌い箸】

食箸

八角箸 削り箸

菜箸

檜竹

「和食」の特徴 しつらい 箸と椀6 7

2930 WASHOKU

神し ん せ ん

饌として神へ供えられるお神酒は神棚の最上段の中央に置かれるほど重要な地位を占めている

日本酒を造る酒蔵は全国に約1600弱その数は年々減り続けているが数年に一度「日本酒ブーム」も起きている

日本酒とは米と米こうじ

そして水を主な原料にしてそ

れらを発酵させて造られる

原料には主食用の米ではなく

酒造りに適した性質を選び品

種改良された酒し

ゅぞうこうてきまい

造好適米を使

うことが一般的だまた日本

酒の80を占める水も品質を

左右する大きな要因日本酒

の香味を損なわない良質な水

が必須だ

日本酒の醸じ

ょうぞう造の工程にはさ

まざまな技術が伴う例えば米

を精米して味と香りを調整する

技術これは米の外側にあるた

んぱく質や脂質といった雑味の

もとを除くことが目的だが大だ

吟ぎんじょう醸酒にもなると米を半分以

上削ってから仕込むこともある

次いで米を発酵させる技術

酒の場合の発酵とは酵こ

うぼ母が糖類

を食べてアルコールを出すこと

をいうが米には糖類が含まれな

いためまずは米をこうじ菌の酵

素によって糖類へと変えそこに

酵母を加えて発酵させるという

複雑な手順(複式発酵)が必要だ

この手順で使われるこうじもバ

ラこうじと呼ばれる日本独特の

ものだバラこうじは糖化力が

高いのが特徴で日本酒の香りや

味に大きく影響する

稲作を中心に文化を育んでき

た日本では米餅米から造ら

れる酒は地域を問わず重要な

ものとされている米の一粒一

粒に神が宿り同じように酒も

神のおかげで造ることができる

と考えられてきたそして酒

もまた食べ物と共に神に近づ

くための手段として古くから用

いられてきた

同時に家族や親族地域で人

と人をつなぐ上でも酒は大き

な役割を担っている例えばお

神み

き酒祭礼の後には神の酒を

人々が口にする神と同じ酒を

飲みそれを人々が分かち合う

ことで地域やコミュニティが

結束力を強めるのだろう

米や麦やさつまいもなどを原

料とする焼酎も日本酒と並び

日本の國酒とされている酒は

人と人の心をほぐし食事を引

き立たせる重要な役割を担って

いるのだ

「和食」の特徴8

「和食」を引き立たせ

心をほぐす日本の酒

日本人にとっての主食であり精神のかなめでもある米

その米で醸か

される日本酒は「和食」にとって欠かせない要素

日本の「國こ

くしゅ酒

」にもなっている

2930 WASHOKU

「和食」の特徴9

和菓子日本茶

暮らしに寄り添う和菓子とお茶

自然の恵みに感謝し季節の移ろいを敏感に表現する和菓子

日本茶は喉のかわきを癒すだけでなく心を癒し心を高める飲みものである

「和食」の特徴 酒 和菓子8 9

ハレの日の願いを込めた和菓子

和菓子分類餅もの 餅団子大福など蒸しもの 饅頭蒸羊

よ う か ん

羹外う い ろ う

郎村む ら さ め

雨など煉もの 煉

ね り き り

切こなし求ぎ ゅ う ひ

肥飴葛く ず

菓子など焼きもの 味噌松風煎

せ ん べ い

餅桃も も や ま

山カステラどら焼など流しもの 錦

にしきだま

玉煉ね り よ う か ん

羊羹水み ず よ う か ん

羊羹など揚げもの 揚げ煎

せ ん べ い

餅かりんとうなど打ちもの(押しもの) 落

ら く が ん

雁など岡もの 最

も な か

中きんとん鹿か の こ

の子すはまなどかけもの 金

こ ん ぺ い と う

平糖五ご し き ま め

色豆石いしごろも

衣など

これは和菓子の製法によって大まかに分類した表このほか含有する水分量によって生菓子半生 菓 子 干 菓 子などの分け方や上じ ょ う な ま が し

生菓子並菓子駄だ が し

菓子などの分類もある

「岡もの」とはすでにできあがっ た素材をあわせたもの (例きんとん=飴玉とそぼろ餡)

甘く味付けしたごぼうと白味噌餡を赤や白の餅や求

ぎ ゅ う ひ

肥で包んだ生菓子平安時代の新年行事のひとつで長寿を願っておこなわれた「歯固め」の餅に由来する餅と味噌の組み合わせから「包み雑煮」とも呼ばれた

葩はなびらもち

一 月

旧暦十月は「亥の月」と呼ばれていたがその月のさらに「亥の日」に行われる年中行事の際に食べられていた菓子旧暦では10月が冬の始まりそのタイミングで無病息災と多産の猪にあやかって子孫繁栄を願ってこれを食べていたという

亥い の こ も ち

の子餅

十 月六 月

白いういろうの上に小豆の粒餡を散らした菓子古来京都で旧暦六月の晦

み そ か

日(30日)に無病息災を祈願して行われている

「夏なごしのはらい

越祓」になぞらえて初夏の頃に食べられている小豆には邪気祓いの意味があり三角の形は氷を表している

水無月

五 月

平たく丸めた上新粉の餅をふたつに折り中に小豆や味噌の餡を挟んでそれを柏の葉で包んだ菓子柏の葉は新芽が育つまで古い葉が落ちないことから

「子孫繁栄」を願って旧暦五月五日の端

た ん ご

午の節句の供く も つ

物として用いられてきた

柏餅

日本ならではのお茶の製法である手揉みは茶葉の繊維をつぶしながらうまみを引き出すために行う作業手揉みすると茶葉が切れないため茶の甘みを保つことができる

菓子もまた「和食」にとって欠

かせない要素でお客様用の「上

菓子」普段食べる「饅頭」や「餅

菓子」などに分かれるほかに

干菓子や駄菓子など菓子の種

類は多いまた例えば団子や

大福などは「餅もの」求肥や飴

などは「煉りもの」錦玉や

水みずようかん

羊羹などは「流しもの」などと

いうようにその製法によって

分類されることもある米や麦

小豆を代表とする豆類そして

砂糖や水あめなどの材料でバ

ラエティに富んだ菓子が生み出

されてきた

お茶会などの席で抹茶ととも

に味わう菓子もあり季節に合

わせて材料や色やデザインが選

ばれ味覚だけでなく視覚で楽

しむこともある

また年中行事と結びつく菓

子もある例えば旧暦三月三日

の「ひな祭り」では邪気をはら

い強い生命力を象徴するよも

ぎの草もちでつくった草餅を食

べる

和菓子には日本茶がふさわし

い緑茶は12世紀に中国から日

本に伝わったが今では生の茶

葉を蒸してから揉んで乾燥させ

る緑茶の製法は日本独特のもの

となっている緑茶に含まれる

カフェインは覚醒効果がまた

カテキンには抗酸化作用があり

ビタミンCも多く含まれて健

康によい日本茶独特の香りと

うま味は日本文化そのもので

ある

出典「和菓子の歴史展」第五十回虎屋文庫資料展より

3132 WASHOKU

日本の「和食」の文化は自然

環境だけでなく海外からの影

響によっても絶えず変化して

きた

近代以降にはコロッケとん

かつなど洋風料理を和食の基本

型に組み合わせた食事肉と野

菜の煮物や和え物などそれまで

にはない料理が工夫されたそ

の多くは和食の基本型味噌や

醤油を用いた味付け箸で食べ

られる料理など「和食」の要素

を保ちつつ伝えられてきた

しかし第二次世界大戦後高

度経済成長期を迎えると日本人

の食生活は急速に変化する

1970年代にファストフー

ド店ファミリーレストランが

各地に開店しコンビニなども

広がった

1980年頃主食と副食の

バランスは理想的とされたが

(26頁参照)その後米の消費量

はさらに減りパン食が増加

肉類油脂乳乳製品の消費量

も増加し食料自給率も下がっ

た家族での外食が日常化し

家庭の食事も欧米化した

食育の必要性

「和食」が危ないどうしたら伝えられるのか

この150年間で大きく変化し「和食」はいま衰えつつあるその原因はどこにあるのだろうか

食生活の変化

日本の食料自給率の変化農林水産省「食料需給表」より作成

日本のものを食べなくなって 「和食」はどうなる 日本の食料自給率は下がり続けている1965(昭和40)年度はカロリーベースで73だったが2012(平成24)年度は39その大きな原因のひとつは国内で自給可能な米や魚や野菜などの消費量が減少する一方国内で生産が困難な飼料穀物を食べて育つ畜産物や原料を輸入に頼ることが多い冷凍加工食品や小麦の消費が増加したことだと考えられている炭水化物たんぱく質脂肪分をバランスよく摂取する健康的な「和食」に未来はあるのか

国民一人一日当たりの供給純食料農林水産省「食料需給表」より作成

食べる米の量が50年で半減 増えたのは肉と乳製品 国民一人あたりが食べる量を品目別に眺めて分かることそれは日本人が食べる米の量が著しく減ってきたことだ1960(昭和35)年度は一日あたりの米の消費量は約315gだったが2010(平成22年)年度は163gに約半減その代わりに増えたのは牛乳乳製品(約60gから約240g)と肉類(約14gから約80gへ)野菜と魚を中心としたおかずでご飯を食べるという

「和食」のスタイルの変化がわかる

食料費における外食と中食の割合の推移総務省統計局「家計調査年報」より作成

家で食べても 調理することが減っている 外食に対して家庭で作って食べる食事を内食というが弁当や惣菜など調理をせずに食べられるものを買ってきて済ます食事は中食と呼ぶ実はこの中食の割合が増えている外食が占める割合は2000(平成12)年以降横ばいなのに対して中食は増え続けその代わりに内食が減っている食事は家で食べても調理はしないという家庭が増えているのだとすれば「和食」にとって大切な要素を子どもたちに伝える機会が減っているとはいえないだろか

食料自給率(金額ベース)

食料自給率(主食用穀物)

食料自給率(カロリーベース)飼料自給率

米 野菜 肉類牛乳乳製品 魚介類

内食 中食 外食

(g人日)

3132 WASHOKU

50

55

60

65

70

75

01992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012

70

75

80

85

90

95

01992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012

一日に一度はお米を食べないと気がすまない人の割合博報堂生活総研「生活定点2012」

お正月におせち料理を食べた人の割合博報堂生活総研「生活定点2012」

一日に一度は米を炊いたご飯を食べなければ気がすまない人の割合が実はこの20年間で減っているというデータがある1992(平成4)年には714だったが2012(平成24)年には564にまで落ち込んでいるのだ

家族や親族で集まっておせち料理を囲みながら新しい一年の無事を祝うお正月実はおせち料理を食べる人も毎年少なくなっている1992(平成4)年には866だったが2012(平成24)年には748だった

電子レンジの普及や冷凍食品

インスタント食品などにより

食生活は便利になったが家庭

内で調理をする機会が減ったと

もいえる

こうしたなか「和食」の優れ

た点をどうしたら伝えられるの

だろうか親から子へ家庭の食

を伝えるだけでなく学校を通

して子どもたちにさらにその

親の世代にも伝える必要があろ

う高齢者からは「和食」につ

いて具体的に教わることも求

められる

離乳期からの食べ物の選び方

幼児期の食経験を豊富にするこ

となどはとくに重要であろう

小さな頃からの食習慣はその

後の食習慣に大きくかかわって

くるからだ

だしのおいしい味を日々体験

することや魚を味わい骨を箸

でとる訓練を楽しい雰囲気のな

かで教わることなどその積み

重ねの中で「和食」は伝わるので

あろう

経験しない味は異文化とと

らえられるであろうし体験し

ていない調理は簡単でも難しく

感じる食事を用意する過程を

日々見る経験手伝う楽しさ美

しい食器を大切にして使うこと

同じ食べ物を家族や仲間と味わ

い祭りや花見などで共に食べ

る経験を積み重ねることは文

化としての「和食」を伝えるだけ

でなく生きる力を育むことにも

つながるであろう

壁にではなく居間に向かって設置されることが多くなった現在のキッチン夫婦共働きだというこの家庭では夫が厨房に立つことも少なくないというこのように食事の準備を子どもと一緒に行うことで「和食」にとって大切な要素が次の世代に伝えられるようになるのだろう

世帯あたり1ヶ月間の穀類支出金額内訳

1962年3434円

パン

麺他

2010年6373円

パン

麺他

ご飯を食べなくても平気 そんな人が増えている

お米よりパンと麺 その傾向が加速中

おせち料理を食べる派が 毎年ジワリ減少中

1962(昭和37)年度には8割以上を占めていた米への支出が2010(平成22)年度にはパンにとって代わられる米の消費量はパンより多いが家庭では炊飯する必要のある米よりすぐに食べられるパンや麺の支出が多くなり家庭での料理が減っていることを示しているともいえよう

総務省統計局「家計調査年報」より作成

いただきます

ごちそうさま

「和食」の未来

今世紀に入ってから世界に和食ブー

ムが起きている味わいやヘルシーさに

注目が集まり世界中のいたるところに

日本食の店が数多くある

そのように世界から注目される「和食」

だが本家本元の日本国内でその将来が

危ぶまれている

これまで見てきたように「和食」には

新しいものを柔軟に取り込む歴史があっ

た日本人は太古の昔より外国からも

たらされた食文化を自分たちの食生活に

取り込んで日本独自の食文化を発展さ

せてきた地域ごとに地域の環境にふさ

わしい料理をつくり出してきた食べる

料理や食べ方もその時代ごと地域ごと

に変わってきた

その中で貫かれてきたことがある

豊かな自然がもたらす食材のおいしさ

を生かす調理法を工夫し味わうこと

食卓に季節感をしつらえもてなしの気

持ちを共に感じ合う食事の場を持つこ

と一汁三菜という組み合わせを食事

の基本スタイルとして健康的な食生活

をおくることお正月におせち料理を

祝いの日にお赤飯を家族と共に食べる

など食事は家族の絆となっている

豊かな自然を守る気持ちと同じように

日本人を健やかに生かし人と人をつな

いできた「和食」もまた守るべき大切な

日本文化ではないだろうか

「いただきます」「ごちそうさま」と言っ

てみるだけでも「和食」は私たちに身近

になる人と人をあたたかく結びつけて

くれる

日本人はやはりお米のご飯がおいしい

と思うだしのきいた汁でおなかも心も

癒されるこの日本人が長い歴史の中で

育んできたすばらしい財産である「和

食」がこのままなくなってよいと考える

人はいないだろう世界の中でもすぐれ

た食文化として認められた「和食」を日本

の誇りとし大切にして次の世代に受け

継いでいくきっかけにこの冊子がなれ

ば幸いである

ごちそうさま

和 食

2122 WASHOKU

法に「茹で物」があるたっぷり

の水を沸騰させ食材を加えて加

熱して取り出すもの青菜そば

などは茹でた後にあくの除去

歯触りを良くするなどのためさ

らに水で洗う場合も多い私た

ちがあたりまえのように調理し

て食べているほうれん草や小松

菜のお浸しは水に恵まれた日本

に定着した料理で世界的にみて

も特徴あるものといえよう

「焼き物」はサンマの塩焼きの

ように塩をふり直火でじっく

り焼き上げる方法が伝統的

「煮物」は世界で最もポピュラ

ーな調理法だが日本では素材

の味を生かしつつ醤油や味噌

など大豆由来の発酵調味料で

味を調えるものが多い

油とともに加熱調理する「炒

め物」は伝統的な調理にはほと

んど見られないが現代では盛

んに使われ和食の幅を広げて

いる

ここに紹介した調理法と料理

の例は主にご飯のおかずとな

るものであるが小麦そば雑

穀などを粉にしこれを調理し

た主食も多い代表的なものに

うどんそばそうめんなどの麺

類があり茹でる場合が多いが

煮込みなど煮るものもある

さまざまな料理を組み合わせ

て食べる和食は素材の味を生

かしうま味をしっかりとれば

最低限の調味料でおいしさを感

じることができ多様な料理を

楽しむことができる

和あえ物

(きゅうりとワカメの酢の物)

野菜や魚介類などをごま味噌酢などで和える法

漬物(きゅうり大根の糠

ぬか

漬け沢たく あ ん

庵漬け)生ものを保存する方法の一種

塩の働きに加え乳酸発酵させたものが多い

汁物(なめこの味噌汁)

だし汁を主体とする法すまし汁みそ汁とろみのついた汁など

蒸し物(茶碗蒸し)

水を沸騰させその水蒸気を利用して加熱する法

浸し物(小松菜のお浸し)

お浸しは調味した汁に浸して味をつけたもの

「和食」の特徴 調理3

揚げ物(天ぷら)

高温の油で食品を加熱する法油の温度は150~200度の範囲で行うことが多い

2324 WASHOKU

「和食」の特徴4

味わい

うま味日本人が発見した「おいしく食べる」最大の知恵

和食の味わいの中で最も重要なのがだし

味噌汁やすまし汁のベースとなり

煮物やおひたしなどさまざまな料理の

味を決定づける味の要だ

和食の味わいを語るうえで忘

れてはならないのがだし(出

汁)の存在汁物や煮物などさ

まざまな料理のベースとして使

われている

なぜ日本人はここまでだしを

好むのかその答えに大きく関

係するのが「うま味」だ江戸時

代の料理書には「だしこそ料理の

根本である」と書かれている

1907年池田菊き

くなえ苗

博士に

よって世界で初めてうま味成

分のひとつがアミノ酸の一種で

あるグルタミン酸であることが

発見されたその後日本人を中

心に研究が進みうま味は甘味

塩味酸味苦味に加えて第5

の味覚として広く知られるよう

になる現在ではうま味調味

料やだし入りのつゆなどうま

味成分を手軽に使える調味料も

普及海外でも人気が高く国

内でも日常的に使用されている

だしのほかに和食の味付け

日本が世界に誇る

第5の味覚うま味

うま味成分を多く含む椎茸もだしをとる目的で使われてきた食材のひとつだしに使用するのは干したもの椎茸は乾燥させることでうま味や香り成分が増すためだ

小魚を煮て乾燥させてつくる煮干しも汁物に多用される材料としてはカタクチイワシが代表的だがその他ウルメイワシやキビナゴトビウオなどの比較的魚体が小さな魚を使ってつくるのが一般的だ

だしのとり方は魚介や野菜から水や湯を使ってうま味成分を抽出するのが一般的だしの素材として最もよく使われるのは昆布と鰹節でそのほか煮干し野菜干し椎茸魚の内臓やあら(頭や骨)などがあるまた潮

うしおじる

汁のように食品そのもののうま味を活かす方法もある

鰹節

「だし」のこと

昆布

煮干し

干し椎茸

2324 WASHOKU

に欠かせないのは塩砂糖味

噌醤油酢酒みりん魚醤な

どの調味料わさびやからし

しょうが山椒とうがらしゆ

ずなども薬味として使われる

これら薬味によって季節感を楽

しみながら素材の味を引き出

すという知恵も「和食」ならでは

夏に高温多湿となる日本では

アジア諸国と同様発酵食品が

発達したそれゆえ味噌や醤

油や酢に代表される発酵調味料

を多用するのも和食の特徴大

豆や穀物を塩漬けにして発酵

させてつくるものだがその過

程で原料のタンパク質がアミノ

酸に分解されうま味成分を豊

富に含んだ調味料ができあがる

のだ

発酵食品も多様だ日本各地

でカビや酵母などの微生物の

働きを活かして食品中のアミ

ノ酸(うま味)を増やす発酵食品

が発達してきた冬場の保存食

として生み出された沢庵や塩

を使って乳酸発酵させる京都の

すぐき菜漬けそして糠ぬ

漬けや

奈良漬けなど野菜を発酵させ

た漬物さらに塩辛やくさや

なれずし鰹節など魚介の保存

食としての発酵食品また大

豆を納豆菌で発酵させる納豆や

こうじ菌で発酵させて乾燥後に

熟成させた寺納豆など大豆の

発酵食品もある

「和食」はうま味を上手に生

かし食材をおいしく食べる知

恵を育んできたのだ

発酵食品

発酵調味料

調味料

「和食」の特徴 味わい4

発酵食品と調味料

魚醤魚を塩漬けにして発酵させる独特の香りと濃いうま味が特徴の調味料ハタハタでつくられる秋田の

「しょっつる」イカやイワシを材料とする能登半島の「いしる(り)」などがある

酒酒もまた和食の調味に欠かせない発酵調味料のひとつ調味料としての酒の主な効果には材料の臭みを消す食材のうま味を引き出して風味をよくする甘みを加えるなどがある

塩海に囲まれている日本では古くから塩は調味料として使用されてきた焼き物や刺身などの調理の味付けとしてはもちろん漬物や干物など食物を貯蔵するための知恵としても活用されている

味噌蒸したり煮たりした大豆にこうじ食塩を混ぜて発酵熟成させた日本を代表する調味料のひとつ味噌汁や煮物などに使われることが多い地域によって使用される味噌の種類がかなり変わるのも特徴だ

酢寿司やなますなど和食に酸味を加える調味料米から醸造した酒に酢酸菌を加えて発酵させて造られる酢に漬けることにより保存性を高める

醤油大豆と小麦で造ったこうじに食塩水を加えた「もろみ」を発酵熟成させ搾ったもの刺身や焼き魚煮物炒め物など幅広い料理に使われている種類は濃口薄口たまり再仕込み白の5つに分類される

みりん蒸したもち米と米こうじを主原料に40~60日かけて熟成させて造られる発酵調味料砂糖と比べて甘みがやわらかく食材の臭味を取る働きもあるまた魚の照り焼きなどのつや出しにも使う

漬物素材を食塩や酢酒粕醤油などに漬け込み熟成させて作られる漬物沢庵や梅干し野沢菜漬けなど野菜類を長期間保存するための知恵として誕生した日本各地に独特の漬物があるのも特徴だ

納豆日本で発展した発酵食品である納豆大豆を納豆菌で発酵させた食品で寺納豆(下記参照)と区別するため「糸引き納豆」とも呼ばれる単品で食べるだけではなく納豆汁や納豆和えなどにも使われている

塩辛魚介類の身や内臓を塩漬けにし発酵させて作られた塩辛は日本における伝統的な保存食品のひとつ使われる素材はその地域によって変わりイカやエビアミタコなど多彩な種類の塩辛が存在する

塩に漬けた魚と炊いたご飯を数日間置き乳酸発酵させたなれずしは魚を保存する知恵として生まれた滋賀県では琵琶湖産のふなを和歌山県や富山県ではサバを岐阜県などではアユを材料にしたものが有名写真は滋賀県湖北地方の年頭の祭りで振る舞われる鯖のなれずし

砂糖世界的に見ても「甘み」を用いた料理が多い現在の和食では砂糖は欠かせない調味料のひとつ単独で料理に使われるというよりは煮物をはじめとするさまざまな料理で醤油や塩味噌などと併用されることが多い

寺納豆茹でた大豆にこうじを加えて発酵させ乾燥させながら熟成を促す発酵食品粘り気のある糸引き納豆とは異なり乾燥して塩辛い禅宗の伝来とともに大陸からもたらされたとされ寺院で作ることが多かったため「寺納豆」と呼ばれた

2526 WASHOKU

「和食」の特徴5

栄養

栄養バランスの優等生「和食」

野菜や魚肉そして米によって構成される「和食」は

栄養バランスの良さでも知られている

最近は五日間すべてを米飯にする完全米飯給食を行う地域も生まれた

和食の特徴のひとつである栄養についてその秘密に迫る

米麦雑穀などを炊いたご飯

を主食としてこれに魚介肉

類野菜類に発酵調味料だしを

組み合わせた和食は栄養学的

にみてもバランスをとりやすい

食事である

歴史的にみると日常食では

主食を大量に摂る習慣が続いた

穀類偏重の食生活だったといえ

よう

しかし豆腐や納豆みそ汁な

どを飯とともに摂ることで米の

アミノ酸の利用率を上げる食べ

方年中行事などハレの日に魚

介類などを摂取して楽しむなど

学ぶべき知恵は多い

なかでも何百年も伝えられて

きた和食の基本型はすぐれた

ものといえよう

副食の主菜には魚肉豆腐

などタンパク質を多く含む料理

を考える副菜には主菜に使わ

なかった野菜芋類などを使い

汁は主菜に合うものを用意する

焼き魚野菜の煮物青菜のお浸

しとみそ汁などでも栄養的バ

ランスはとれている

1980年頃までは多くの

家庭で和食の基本型が続いた

主食の量がやや減り副食が増

加とくに乳乳製品肉類の割

合が増加したこの頃栄養バ

ランスをはかる一つの指標であ

るPFCバランスが理想的な比

率を示した(左記参照)

しかしその後外食の日常化

家庭料理の欧米化が進み米の

摂取量が激減し脂質摂取の過

多などから生活習慣病が問題

となったこうした中各地で

食生活を見直す動きがみられる

ようになったその一つが学校

給食での取り組みである

戦後の食料難の中でパンと

牛乳に副食を加えた完全給食は

1950年に始まった197

6年に米飯が導入されるまで長

く続いたパン給食は和食の基

本型にも影響を与えたようだ

米飯給食は次第に増加し

2010年には週3回以上米

飯給食を実施している小中学

校は90以上となったが週5

回の米飯給食の実施は7以

上と高くない

ここでは2008年に5日

間すべてを米飯給食とした新潟

県三条市の事例を紹介しよう

成長期にバランスのよい食事

で健康な体をつくることそし

て望ましい食習慣を身につけ

生涯を健康に生きることをめざ

し完全米飯給食を実施したと

のこと

米は同市で生産される農薬

を減らしたコシヒカリを七分搗つ

きにした米飯を主食に副食は

主菜副菜汁を組み合わせる献

立をベースとしている主菜は

サケのフライ鶏肉ピリ辛焼き

さんま梅煮など伝統的な和食だ

けではないが和食の基本型の

中に取り入れる工夫がされてい

るパ

ンは油脂や糖分と相性が

良く肥満につながりやすいが

新潟県三条市の給食献立一例三条市の小中学校での献立例ご飯は三条市で収穫したコシヒカリを使用「お米だと腹持ちがよいのでデザートをあまり出さなくとも子どもたちが満足してくれる」とのこと洋風や中華風の献立でもおかずはご飯に合うものを選びスープなどの汁物は確実につけるように心がけている

火曜日

えだまめごはん

さけチーズフライ

くきわかめきんぴら

かきたまじる牛乳

小学校687kcal中学校823kcal

水曜日

ごはんとりにくのぴりからやきいかときゅうりの

あえものしょうがみそスープ牛乳小学校639kcal中学校752kcal

木曜日

ごはんさんまうめにたくあんあえにくじゃがに牛乳なし小学校688kcal中学校814kcal

金曜日ごはんカレーふりかけほうれんそうオムレツフレンチサラダパンプキンスープ牛乳小学校708kcal中学校833kcal

月曜日

ごはんいかのかりんあげ(2こ)

なっとうあえきのこけんちんじるのむヨーグルト

小学校619kcal中学校731kcal

2526 WASHOKU

七分搗米の飯は腹持ちがよく

おやつを食べる子どもが減った

だけでなく肥満の子どもが減

少傾向となり食生活のリズム

が良くなったとされる

また米飯に合う副食は土地

でとれる野菜類を取り入れやす

く季節にあわせてバラエティ

ーに富んだ献立を作ることがで

きる一汁三菜の食べ方の教育

を行った結果給食を残す子ど

もたちも減ったという

基本的な食事パターンが続く

中でも菜を工夫すれば変化に

富む食事を作ることはできる

季節の食材について学び年中

行事への知識も得られるだろう

また子どもたちが和食の基

本型を毎日の給食で体験してい

ることはきわめて重要なことで

ある時々経験するだけでは身

につかないものでも毎日繰り返

すことによって習慣化し定着

するのであるそしてやがて

自分で組み合わせを考えられる

ようになることが期待される

今後の学校給食の役割は大きい

といえるだろう

PFCバランスとは

FAO Statistics Yearbook(日本のみ食料需給表)参照栄養バランスが良いとされるP(たんぱく質)10~20F(脂質)20~30C(炭水化物)50~70の範囲が08~12に収まるように指数化した

日本でのPFCバランスの変化

アメリカとフランスのPFCバランス

タンパク質脂質炭水化物は人間にとって特に不可欠な「三大栄養素」PFCのPはProtein(たんぱく質)FはFat(脂質)CはCarbohydrate(炭水化物)の頭文字でPFCバランスとは食事の中での「たんぱく質」「脂質」「炭水化物」のそれぞれの摂取カロリーの比率健康的な生活をおくるためにはPFCバランスがたんぱく質15脂質25炭水化物60が理想的

給食時には全員で「いただきます」「ごちそうさま」を復唱食育にも力を入れているためそれら言葉の意味についても学校で教えている

米飯給食になってから児童たちの食の嗜し こ う

好に変化が生まれたとか児童たちに好きなおかずを聞いてみると「ハンバーグ」「カレー」などの定番メニューのほか「焼き魚」「納豆」などの和食メニューの名前が上がった

自分の分を食べ終わった児童たちが列をつくって競い合うようにご飯をおかわりしていたこの日の食べ残しはゼロ

C

P

F

14

12

1

08

06

アメリカ(2005~2007年)

C

P

F

14

12

1

08

06

フランス(2005~2007年)

「和食」の特徴 栄養5

日本人のPFCバランスは1965年当時は炭水化物に偏っていたが1980年は非常に理想的な配分になっていたしかしその後の日本人の食生活に肉や油脂類を多く摂り主食の米を食べる量が減り2010年時は欧米型に近づきつつある

C

P

F

14

12

1

08

06

日本1965年

C

P

F

14

12

1

08

06

日本1980年

C

P

F

14

12

1

08

06

日本2010年

2728 WASHOKU

お客を迎える前には店先に打ち水を水で清め準備が整ったことを伝える趣向に合う軸を選ぶのももてなしの基本飾る花は主人自ら育てたものそれを床の花入に活けるのも主人庭に150種ほどの草花を植え日々育てることもしつらいの準備客は女将の温かいもてなしに迎えられる

「和食」の特徴6

しつらい

人をもてなすためのこころとかたち

もてなしは客に対する一方的なサービスではない

お互いに思いやる気持ちから生まれるこころよさである

手入れの行き届いた庭は掃き

清めて水を打ち床の間には軸

を掛け季節の草花を生ける

座敷の襖ふ

すま

も夏には葭よ

しど戸に入れ替

え夏は涼やかに冬は暖かに

すべて相まってもてなしのた

めの用意を整えることそれが

しつらい和食とりわけ懐石

料理においては食材や料理と

ともにしつらいは非常に重要

な要素となる

家庭でも食事をつくる人は

食べる人の顔を思い浮かべなが

ら食事の用意をする食べる人

はつくってくれた人の気持ちを

考えて賞味するここに互いに

もてなす喜びが生まれるのでは

ないだろうか

こうしたもてなしの文化を極

限にまで洗練させた姿が料亭の

もてなしである京都府の無形

文化技術保持者に料理人として

初めて認定された京都の老舗料

亭「瓢亭」の十四代主人高橋英一

さんにその心を聞いてみよう

「料亭は日本文化の凝縮のひと

つと言えます玄関から入って

座敷に行くまでに通る露地にも

季節感があり部屋に入れば時

季や行事の軸がありその座敷

のために選んだ花が飾られる

日本人が自然と身につけている

桜の器を使うことで膳の上にぱっと花が咲くような華やかさが生まれるあしらいは酢取り防風岩海苔

秋の花菊の器はこっくり深い色合いも相まって秋に似合う風情を持つあしらいは岩茸菊花

深さのあるガラスの器に氷が敷き詰められる涼感を目でも舌にも感じるあしらいは穂紫蘇寄せ莫大

縁起のいい鶴は新年の席でも使われるモチーフあしらいは水前寺海苔紫芽紫蘇

四季の感性で受け止めてもらえ

るよう整えお出迎えします

料亭は普段とは違うハレの場で

すがとはいえ行き過ぎず足り

ないことのないよう自然なし

つらいそしてもてなしを心が

けます」

「瓢亭」の座敷に飾られるのは

主人が庭で丹誠込めて育て自

ら生ける茶花

「もてなしの根

底に利休さんの『花は野にある

ごとく』の言葉を思いますが簡

単なようでそれが難しい」自

然体でのもてなしを生むしつら

えは名店においても日々心を

くだき工夫するのだ

「瓢亭」では1年をとおして明石の鯛の向付を供しているが季節ごとに

器とあしらいを変えることで四季を演出している

四季の演出

2728 WASHOKU

和食はご飯と菜あるいはご飯とお汁というように常にご飯を間にはさんで菜や汁をとるのが本来の食べ方下のような不作法とされる箸使い(嫌い箸)があるので覚えておきたい

ご飯は茶碗に味噌汁はお椀

に焼き魚だったら平皿にと普

段料理に合わせて何気なく使う

食器種類の多さもさることな

がら形や素材もさまざま欧

米はもちろん近隣諸国を見回

してもこれほど多種多様な器を

使う国はないそれは四季が明

確なことと無関係ではない

「自宅でも季節に合わせた器

にするだけで気分が変わりま

すよ」と前出「瓢亭」のご主人は

語る 

春であれば華やかな色や形の

もの夏はガラスや青磁など涼

しげな素材の器秋は実りのあ

る彩りがあるもの冬は厚手の

陶器や木製など温もりのあるも

の色素材形を変えるだけで

季節感を演出できる「和食」な

らではの楽しみ

食事の際当たり前のように

使っている箸も日本の食文化

を代表する食具奈良時代以

降匙さ

を使う伝統が消え箸だ

けを使うようになったため熱

い汁物は椀を持ち直接口を

つけてすする文化が確立同

時に椀箸ともに個人所有が基

本となった椀や箸を共有し

匙やレンゲを使うほかの東南

アジア諸国とは異なる食文化

を形成箸食文化圏の中でも

唯一箸だけでご飯を食べる国

となったまた一口に箸といっ

ても食箸取り箸菜箸など用

途に合わせてさまざま食べ

る際に使う食箸だけを見ても

形や素材のほか加工や長さも

豊富にそろうのだ

「和食」の特徴7

箸と椀

「和食」を支える箸と椀

箸食文化圏の中でも唯一箸だけを使う国日本

季節感を感じさせる器とともに独特の食具文化も誇る

渡し箸食事の途中でお箸を

食器の上に渡し置くこと

寄せ箸遠くの食器を

箸で手元に引き寄せる行為

指し箸食事中箸で人やものを指すこと

迷い箸どの料理にしようか迷い箸を料理の上で動かすこと

移り箸いったん取りかけてから

ほかの料理にお箸をうつすこと

箸には食事に使う食箸と調理に使う菜箸とがある菜箸は熱から手を守るため30~50と長く片方がなくならないよう糸でつながっているものもある取り箸は菜箸の一種食箸は個人所有が基本のため使う人に合わせた長さが用意されている漆塗りや螺鈿細工を施したものも多い

種類

形状だけでなく素材もさまざまで近年は黒檀や鉄木など硬質な木が使われることが多い日本の木としては特有の香りがあり古くから懐石用や割り箸に使われてきた杉耐水性耐湿性が高く保存性に優れる上に軽くて持ちやすい檜強くしなりがあり細かいものを取りやすい竹などがある

素材

家庭で使う食箸の形には角箸や四角で角が丸い胴張り五角六角七角八角のほか削りなどがあり持ちやすさに合わせて選べる箸先に加工が施されたものもある来客用に使う銘々箸や割り箸には断面が小判型で割れ目と溝が付いた元禄箸や中央部が太く両端が細い利休箸などが用意されている

日本人にとっての箸は調理から盛りつけ食事までをこなす大事な道具食箸は個人所有が基本のため個々に合わせて選べるのも特徴だ

箸の働き

箸使いの作法を知る

【嫌い箸】

食箸

八角箸 削り箸

菜箸

檜竹

「和食」の特徴 しつらい 箸と椀6 7

2930 WASHOKU

神し ん せ ん

饌として神へ供えられるお神酒は神棚の最上段の中央に置かれるほど重要な地位を占めている

日本酒を造る酒蔵は全国に約1600弱その数は年々減り続けているが数年に一度「日本酒ブーム」も起きている

日本酒とは米と米こうじ

そして水を主な原料にしてそ

れらを発酵させて造られる

原料には主食用の米ではなく

酒造りに適した性質を選び品

種改良された酒し

ゅぞうこうてきまい

造好適米を使

うことが一般的だまた日本

酒の80を占める水も品質を

左右する大きな要因日本酒

の香味を損なわない良質な水

が必須だ

日本酒の醸じ

ょうぞう造の工程にはさ

まざまな技術が伴う例えば米

を精米して味と香りを調整する

技術これは米の外側にあるた

んぱく質や脂質といった雑味の

もとを除くことが目的だが大だ

吟ぎんじょう醸酒にもなると米を半分以

上削ってから仕込むこともある

次いで米を発酵させる技術

酒の場合の発酵とは酵こ

うぼ母が糖類

を食べてアルコールを出すこと

をいうが米には糖類が含まれな

いためまずは米をこうじ菌の酵

素によって糖類へと変えそこに

酵母を加えて発酵させるという

複雑な手順(複式発酵)が必要だ

この手順で使われるこうじもバ

ラこうじと呼ばれる日本独特の

ものだバラこうじは糖化力が

高いのが特徴で日本酒の香りや

味に大きく影響する

稲作を中心に文化を育んでき

た日本では米餅米から造ら

れる酒は地域を問わず重要な

ものとされている米の一粒一

粒に神が宿り同じように酒も

神のおかげで造ることができる

と考えられてきたそして酒

もまた食べ物と共に神に近づ

くための手段として古くから用

いられてきた

同時に家族や親族地域で人

と人をつなぐ上でも酒は大き

な役割を担っている例えばお

神み

き酒祭礼の後には神の酒を

人々が口にする神と同じ酒を

飲みそれを人々が分かち合う

ことで地域やコミュニティが

結束力を強めるのだろう

米や麦やさつまいもなどを原

料とする焼酎も日本酒と並び

日本の國酒とされている酒は

人と人の心をほぐし食事を引

き立たせる重要な役割を担って

いるのだ

「和食」の特徴8

「和食」を引き立たせ

心をほぐす日本の酒

日本人にとっての主食であり精神のかなめでもある米

その米で醸か

される日本酒は「和食」にとって欠かせない要素

日本の「國こ

くしゅ酒

」にもなっている

2930 WASHOKU

「和食」の特徴9

和菓子日本茶

暮らしに寄り添う和菓子とお茶

自然の恵みに感謝し季節の移ろいを敏感に表現する和菓子

日本茶は喉のかわきを癒すだけでなく心を癒し心を高める飲みものである

「和食」の特徴 酒 和菓子8 9

ハレの日の願いを込めた和菓子

和菓子分類餅もの 餅団子大福など蒸しもの 饅頭蒸羊

よ う か ん

羹外う い ろ う

郎村む ら さ め

雨など煉もの 煉

ね り き り

切こなし求ぎ ゅ う ひ

肥飴葛く ず

菓子など焼きもの 味噌松風煎

せ ん べ い

餅桃も も や ま

山カステラどら焼など流しもの 錦

にしきだま

玉煉ね り よ う か ん

羊羹水み ず よ う か ん

羊羹など揚げもの 揚げ煎

せ ん べ い

餅かりんとうなど打ちもの(押しもの) 落

ら く が ん

雁など岡もの 最

も な か

中きんとん鹿か の こ

の子すはまなどかけもの 金

こ ん ぺ い と う

平糖五ご し き ま め

色豆石いしごろも

衣など

これは和菓子の製法によって大まかに分類した表このほか含有する水分量によって生菓子半生 菓 子 干 菓 子などの分け方や上じ ょ う な ま が し

生菓子並菓子駄だ が し

菓子などの分類もある

「岡もの」とはすでにできあがっ た素材をあわせたもの (例きんとん=飴玉とそぼろ餡)

甘く味付けしたごぼうと白味噌餡を赤や白の餅や求

ぎ ゅ う ひ

肥で包んだ生菓子平安時代の新年行事のひとつで長寿を願っておこなわれた「歯固め」の餅に由来する餅と味噌の組み合わせから「包み雑煮」とも呼ばれた

葩はなびらもち

一 月

旧暦十月は「亥の月」と呼ばれていたがその月のさらに「亥の日」に行われる年中行事の際に食べられていた菓子旧暦では10月が冬の始まりそのタイミングで無病息災と多産の猪にあやかって子孫繁栄を願ってこれを食べていたという

亥い の こ も ち

の子餅

十 月六 月

白いういろうの上に小豆の粒餡を散らした菓子古来京都で旧暦六月の晦

み そ か

日(30日)に無病息災を祈願して行われている

「夏なごしのはらい

越祓」になぞらえて初夏の頃に食べられている小豆には邪気祓いの意味があり三角の形は氷を表している

水無月

五 月

平たく丸めた上新粉の餅をふたつに折り中に小豆や味噌の餡を挟んでそれを柏の葉で包んだ菓子柏の葉は新芽が育つまで古い葉が落ちないことから

「子孫繁栄」を願って旧暦五月五日の端

た ん ご

午の節句の供く も つ

物として用いられてきた

柏餅

日本ならではのお茶の製法である手揉みは茶葉の繊維をつぶしながらうまみを引き出すために行う作業手揉みすると茶葉が切れないため茶の甘みを保つことができる

菓子もまた「和食」にとって欠

かせない要素でお客様用の「上

菓子」普段食べる「饅頭」や「餅

菓子」などに分かれるほかに

干菓子や駄菓子など菓子の種

類は多いまた例えば団子や

大福などは「餅もの」求肥や飴

などは「煉りもの」錦玉や

水みずようかん

羊羹などは「流しもの」などと

いうようにその製法によって

分類されることもある米や麦

小豆を代表とする豆類そして

砂糖や水あめなどの材料でバ

ラエティに富んだ菓子が生み出

されてきた

お茶会などの席で抹茶ととも

に味わう菓子もあり季節に合

わせて材料や色やデザインが選

ばれ味覚だけでなく視覚で楽

しむこともある

また年中行事と結びつく菓

子もある例えば旧暦三月三日

の「ひな祭り」では邪気をはら

い強い生命力を象徴するよも

ぎの草もちでつくった草餅を食

べる

和菓子には日本茶がふさわし

い緑茶は12世紀に中国から日

本に伝わったが今では生の茶

葉を蒸してから揉んで乾燥させ

る緑茶の製法は日本独特のもの

となっている緑茶に含まれる

カフェインは覚醒効果がまた

カテキンには抗酸化作用があり

ビタミンCも多く含まれて健

康によい日本茶独特の香りと

うま味は日本文化そのもので

ある

出典「和菓子の歴史展」第五十回虎屋文庫資料展より

3132 WASHOKU

日本の「和食」の文化は自然

環境だけでなく海外からの影

響によっても絶えず変化して

きた

近代以降にはコロッケとん

かつなど洋風料理を和食の基本

型に組み合わせた食事肉と野

菜の煮物や和え物などそれまで

にはない料理が工夫されたそ

の多くは和食の基本型味噌や

醤油を用いた味付け箸で食べ

られる料理など「和食」の要素

を保ちつつ伝えられてきた

しかし第二次世界大戦後高

度経済成長期を迎えると日本人

の食生活は急速に変化する

1970年代にファストフー

ド店ファミリーレストランが

各地に開店しコンビニなども

広がった

1980年頃主食と副食の

バランスは理想的とされたが

(26頁参照)その後米の消費量

はさらに減りパン食が増加

肉類油脂乳乳製品の消費量

も増加し食料自給率も下がっ

た家族での外食が日常化し

家庭の食事も欧米化した

食育の必要性

「和食」が危ないどうしたら伝えられるのか

この150年間で大きく変化し「和食」はいま衰えつつあるその原因はどこにあるのだろうか

食生活の変化

日本の食料自給率の変化農林水産省「食料需給表」より作成

日本のものを食べなくなって 「和食」はどうなる 日本の食料自給率は下がり続けている1965(昭和40)年度はカロリーベースで73だったが2012(平成24)年度は39その大きな原因のひとつは国内で自給可能な米や魚や野菜などの消費量が減少する一方国内で生産が困難な飼料穀物を食べて育つ畜産物や原料を輸入に頼ることが多い冷凍加工食品や小麦の消費が増加したことだと考えられている炭水化物たんぱく質脂肪分をバランスよく摂取する健康的な「和食」に未来はあるのか

国民一人一日当たりの供給純食料農林水産省「食料需給表」より作成

食べる米の量が50年で半減 増えたのは肉と乳製品 国民一人あたりが食べる量を品目別に眺めて分かることそれは日本人が食べる米の量が著しく減ってきたことだ1960(昭和35)年度は一日あたりの米の消費量は約315gだったが2010(平成22年)年度は163gに約半減その代わりに増えたのは牛乳乳製品(約60gから約240g)と肉類(約14gから約80gへ)野菜と魚を中心としたおかずでご飯を食べるという

「和食」のスタイルの変化がわかる

食料費における外食と中食の割合の推移総務省統計局「家計調査年報」より作成

家で食べても 調理することが減っている 外食に対して家庭で作って食べる食事を内食というが弁当や惣菜など調理をせずに食べられるものを買ってきて済ます食事は中食と呼ぶ実はこの中食の割合が増えている外食が占める割合は2000(平成12)年以降横ばいなのに対して中食は増え続けその代わりに内食が減っている食事は家で食べても調理はしないという家庭が増えているのだとすれば「和食」にとって大切な要素を子どもたちに伝える機会が減っているとはいえないだろか

食料自給率(金額ベース)

食料自給率(主食用穀物)

食料自給率(カロリーベース)飼料自給率

米 野菜 肉類牛乳乳製品 魚介類

内食 中食 外食

(g人日)

3132 WASHOKU

50

55

60

65

70

75

01992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012

70

75

80

85

90

95

01992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012

一日に一度はお米を食べないと気がすまない人の割合博報堂生活総研「生活定点2012」

お正月におせち料理を食べた人の割合博報堂生活総研「生活定点2012」

一日に一度は米を炊いたご飯を食べなければ気がすまない人の割合が実はこの20年間で減っているというデータがある1992(平成4)年には714だったが2012(平成24)年には564にまで落ち込んでいるのだ

家族や親族で集まっておせち料理を囲みながら新しい一年の無事を祝うお正月実はおせち料理を食べる人も毎年少なくなっている1992(平成4)年には866だったが2012(平成24)年には748だった

電子レンジの普及や冷凍食品

インスタント食品などにより

食生活は便利になったが家庭

内で調理をする機会が減ったと

もいえる

こうしたなか「和食」の優れ

た点をどうしたら伝えられるの

だろうか親から子へ家庭の食

を伝えるだけでなく学校を通

して子どもたちにさらにその

親の世代にも伝える必要があろ

う高齢者からは「和食」につ

いて具体的に教わることも求

められる

離乳期からの食べ物の選び方

幼児期の食経験を豊富にするこ

となどはとくに重要であろう

小さな頃からの食習慣はその

後の食習慣に大きくかかわって

くるからだ

だしのおいしい味を日々体験

することや魚を味わい骨を箸

でとる訓練を楽しい雰囲気のな

かで教わることなどその積み

重ねの中で「和食」は伝わるので

あろう

経験しない味は異文化とと

らえられるであろうし体験し

ていない調理は簡単でも難しく

感じる食事を用意する過程を

日々見る経験手伝う楽しさ美

しい食器を大切にして使うこと

同じ食べ物を家族や仲間と味わ

い祭りや花見などで共に食べ

る経験を積み重ねることは文

化としての「和食」を伝えるだけ

でなく生きる力を育むことにも

つながるであろう

壁にではなく居間に向かって設置されることが多くなった現在のキッチン夫婦共働きだというこの家庭では夫が厨房に立つことも少なくないというこのように食事の準備を子どもと一緒に行うことで「和食」にとって大切な要素が次の世代に伝えられるようになるのだろう

世帯あたり1ヶ月間の穀類支出金額内訳

1962年3434円

パン

麺他

2010年6373円

パン

麺他

ご飯を食べなくても平気 そんな人が増えている

お米よりパンと麺 その傾向が加速中

おせち料理を食べる派が 毎年ジワリ減少中

1962(昭和37)年度には8割以上を占めていた米への支出が2010(平成22)年度にはパンにとって代わられる米の消費量はパンより多いが家庭では炊飯する必要のある米よりすぐに食べられるパンや麺の支出が多くなり家庭での料理が減っていることを示しているともいえよう

総務省統計局「家計調査年報」より作成

いただきます

ごちそうさま

「和食」の未来

今世紀に入ってから世界に和食ブー

ムが起きている味わいやヘルシーさに

注目が集まり世界中のいたるところに

日本食の店が数多くある

そのように世界から注目される「和食」

だが本家本元の日本国内でその将来が

危ぶまれている

これまで見てきたように「和食」には

新しいものを柔軟に取り込む歴史があっ

た日本人は太古の昔より外国からも

たらされた食文化を自分たちの食生活に

取り込んで日本独自の食文化を発展さ

せてきた地域ごとに地域の環境にふさ

わしい料理をつくり出してきた食べる

料理や食べ方もその時代ごと地域ごと

に変わってきた

その中で貫かれてきたことがある

豊かな自然がもたらす食材のおいしさ

を生かす調理法を工夫し味わうこと

食卓に季節感をしつらえもてなしの気

持ちを共に感じ合う食事の場を持つこ

と一汁三菜という組み合わせを食事

の基本スタイルとして健康的な食生活

をおくることお正月におせち料理を

祝いの日にお赤飯を家族と共に食べる

など食事は家族の絆となっている

豊かな自然を守る気持ちと同じように

日本人を健やかに生かし人と人をつな

いできた「和食」もまた守るべき大切な

日本文化ではないだろうか

「いただきます」「ごちそうさま」と言っ

てみるだけでも「和食」は私たちに身近

になる人と人をあたたかく結びつけて

くれる

日本人はやはりお米のご飯がおいしい

と思うだしのきいた汁でおなかも心も

癒されるこの日本人が長い歴史の中で

育んできたすばらしい財産である「和

食」がこのままなくなってよいと考える

人はいないだろう世界の中でもすぐれ

た食文化として認められた「和食」を日本

の誇りとし大切にして次の世代に受け

継いでいくきっかけにこの冊子がなれ

ば幸いである

ごちそうさま

和 食

2324 WASHOKU

「和食」の特徴4

味わい

うま味日本人が発見した「おいしく食べる」最大の知恵

和食の味わいの中で最も重要なのがだし

味噌汁やすまし汁のベースとなり

煮物やおひたしなどさまざまな料理の

味を決定づける味の要だ

和食の味わいを語るうえで忘

れてはならないのがだし(出

汁)の存在汁物や煮物などさ

まざまな料理のベースとして使

われている

なぜ日本人はここまでだしを

好むのかその答えに大きく関

係するのが「うま味」だ江戸時

代の料理書には「だしこそ料理の

根本である」と書かれている

1907年池田菊き

くなえ苗

博士に

よって世界で初めてうま味成

分のひとつがアミノ酸の一種で

あるグルタミン酸であることが

発見されたその後日本人を中

心に研究が進みうま味は甘味

塩味酸味苦味に加えて第5

の味覚として広く知られるよう

になる現在ではうま味調味

料やだし入りのつゆなどうま

味成分を手軽に使える調味料も

普及海外でも人気が高く国

内でも日常的に使用されている

だしのほかに和食の味付け

日本が世界に誇る

第5の味覚うま味

うま味成分を多く含む椎茸もだしをとる目的で使われてきた食材のひとつだしに使用するのは干したもの椎茸は乾燥させることでうま味や香り成分が増すためだ

小魚を煮て乾燥させてつくる煮干しも汁物に多用される材料としてはカタクチイワシが代表的だがその他ウルメイワシやキビナゴトビウオなどの比較的魚体が小さな魚を使ってつくるのが一般的だ

だしのとり方は魚介や野菜から水や湯を使ってうま味成分を抽出するのが一般的だしの素材として最もよく使われるのは昆布と鰹節でそのほか煮干し野菜干し椎茸魚の内臓やあら(頭や骨)などがあるまた潮

うしおじる

汁のように食品そのもののうま味を活かす方法もある

鰹節

「だし」のこと

昆布

煮干し

干し椎茸

2324 WASHOKU

に欠かせないのは塩砂糖味

噌醤油酢酒みりん魚醤な

どの調味料わさびやからし

しょうが山椒とうがらしゆ

ずなども薬味として使われる

これら薬味によって季節感を楽

しみながら素材の味を引き出

すという知恵も「和食」ならでは

夏に高温多湿となる日本では

アジア諸国と同様発酵食品が

発達したそれゆえ味噌や醤

油や酢に代表される発酵調味料

を多用するのも和食の特徴大

豆や穀物を塩漬けにして発酵

させてつくるものだがその過

程で原料のタンパク質がアミノ

酸に分解されうま味成分を豊

富に含んだ調味料ができあがる

のだ

発酵食品も多様だ日本各地

でカビや酵母などの微生物の

働きを活かして食品中のアミ

ノ酸(うま味)を増やす発酵食品

が発達してきた冬場の保存食

として生み出された沢庵や塩

を使って乳酸発酵させる京都の

すぐき菜漬けそして糠ぬ

漬けや

奈良漬けなど野菜を発酵させ

た漬物さらに塩辛やくさや

なれずし鰹節など魚介の保存

食としての発酵食品また大

豆を納豆菌で発酵させる納豆や

こうじ菌で発酵させて乾燥後に

熟成させた寺納豆など大豆の

発酵食品もある

「和食」はうま味を上手に生

かし食材をおいしく食べる知

恵を育んできたのだ

発酵食品

発酵調味料

調味料

「和食」の特徴 味わい4

発酵食品と調味料

魚醤魚を塩漬けにして発酵させる独特の香りと濃いうま味が特徴の調味料ハタハタでつくられる秋田の

「しょっつる」イカやイワシを材料とする能登半島の「いしる(り)」などがある

酒酒もまた和食の調味に欠かせない発酵調味料のひとつ調味料としての酒の主な効果には材料の臭みを消す食材のうま味を引き出して風味をよくする甘みを加えるなどがある

塩海に囲まれている日本では古くから塩は調味料として使用されてきた焼き物や刺身などの調理の味付けとしてはもちろん漬物や干物など食物を貯蔵するための知恵としても活用されている

味噌蒸したり煮たりした大豆にこうじ食塩を混ぜて発酵熟成させた日本を代表する調味料のひとつ味噌汁や煮物などに使われることが多い地域によって使用される味噌の種類がかなり変わるのも特徴だ

酢寿司やなますなど和食に酸味を加える調味料米から醸造した酒に酢酸菌を加えて発酵させて造られる酢に漬けることにより保存性を高める

醤油大豆と小麦で造ったこうじに食塩水を加えた「もろみ」を発酵熟成させ搾ったもの刺身や焼き魚煮物炒め物など幅広い料理に使われている種類は濃口薄口たまり再仕込み白の5つに分類される

みりん蒸したもち米と米こうじを主原料に40~60日かけて熟成させて造られる発酵調味料砂糖と比べて甘みがやわらかく食材の臭味を取る働きもあるまた魚の照り焼きなどのつや出しにも使う

漬物素材を食塩や酢酒粕醤油などに漬け込み熟成させて作られる漬物沢庵や梅干し野沢菜漬けなど野菜類を長期間保存するための知恵として誕生した日本各地に独特の漬物があるのも特徴だ

納豆日本で発展した発酵食品である納豆大豆を納豆菌で発酵させた食品で寺納豆(下記参照)と区別するため「糸引き納豆」とも呼ばれる単品で食べるだけではなく納豆汁や納豆和えなどにも使われている

塩辛魚介類の身や内臓を塩漬けにし発酵させて作られた塩辛は日本における伝統的な保存食品のひとつ使われる素材はその地域によって変わりイカやエビアミタコなど多彩な種類の塩辛が存在する

塩に漬けた魚と炊いたご飯を数日間置き乳酸発酵させたなれずしは魚を保存する知恵として生まれた滋賀県では琵琶湖産のふなを和歌山県や富山県ではサバを岐阜県などではアユを材料にしたものが有名写真は滋賀県湖北地方の年頭の祭りで振る舞われる鯖のなれずし

砂糖世界的に見ても「甘み」を用いた料理が多い現在の和食では砂糖は欠かせない調味料のひとつ単独で料理に使われるというよりは煮物をはじめとするさまざまな料理で醤油や塩味噌などと併用されることが多い

寺納豆茹でた大豆にこうじを加えて発酵させ乾燥させながら熟成を促す発酵食品粘り気のある糸引き納豆とは異なり乾燥して塩辛い禅宗の伝来とともに大陸からもたらされたとされ寺院で作ることが多かったため「寺納豆」と呼ばれた

2526 WASHOKU

「和食」の特徴5

栄養

栄養バランスの優等生「和食」

野菜や魚肉そして米によって構成される「和食」は

栄養バランスの良さでも知られている

最近は五日間すべてを米飯にする完全米飯給食を行う地域も生まれた

和食の特徴のひとつである栄養についてその秘密に迫る

米麦雑穀などを炊いたご飯

を主食としてこれに魚介肉

類野菜類に発酵調味料だしを

組み合わせた和食は栄養学的

にみてもバランスをとりやすい

食事である

歴史的にみると日常食では

主食を大量に摂る習慣が続いた

穀類偏重の食生活だったといえ

よう

しかし豆腐や納豆みそ汁な

どを飯とともに摂ることで米の

アミノ酸の利用率を上げる食べ

方年中行事などハレの日に魚

介類などを摂取して楽しむなど

学ぶべき知恵は多い

なかでも何百年も伝えられて

きた和食の基本型はすぐれた

ものといえよう

副食の主菜には魚肉豆腐

などタンパク質を多く含む料理

を考える副菜には主菜に使わ

なかった野菜芋類などを使い

汁は主菜に合うものを用意する

焼き魚野菜の煮物青菜のお浸

しとみそ汁などでも栄養的バ

ランスはとれている

1980年頃までは多くの

家庭で和食の基本型が続いた

主食の量がやや減り副食が増

加とくに乳乳製品肉類の割

合が増加したこの頃栄養バ

ランスをはかる一つの指標であ

るPFCバランスが理想的な比

率を示した(左記参照)

しかしその後外食の日常化

家庭料理の欧米化が進み米の

摂取量が激減し脂質摂取の過

多などから生活習慣病が問題

となったこうした中各地で

食生活を見直す動きがみられる

ようになったその一つが学校

給食での取り組みである

戦後の食料難の中でパンと

牛乳に副食を加えた完全給食は

1950年に始まった197

6年に米飯が導入されるまで長

く続いたパン給食は和食の基

本型にも影響を与えたようだ

米飯給食は次第に増加し

2010年には週3回以上米

飯給食を実施している小中学

校は90以上となったが週5

回の米飯給食の実施は7以

上と高くない

ここでは2008年に5日

間すべてを米飯給食とした新潟

県三条市の事例を紹介しよう

成長期にバランスのよい食事

で健康な体をつくることそし

て望ましい食習慣を身につけ

生涯を健康に生きることをめざ

し完全米飯給食を実施したと

のこと

米は同市で生産される農薬

を減らしたコシヒカリを七分搗つ

きにした米飯を主食に副食は

主菜副菜汁を組み合わせる献

立をベースとしている主菜は

サケのフライ鶏肉ピリ辛焼き

さんま梅煮など伝統的な和食だ

けではないが和食の基本型の

中に取り入れる工夫がされてい

るパ

ンは油脂や糖分と相性が

良く肥満につながりやすいが

新潟県三条市の給食献立一例三条市の小中学校での献立例ご飯は三条市で収穫したコシヒカリを使用「お米だと腹持ちがよいのでデザートをあまり出さなくとも子どもたちが満足してくれる」とのこと洋風や中華風の献立でもおかずはご飯に合うものを選びスープなどの汁物は確実につけるように心がけている

火曜日

えだまめごはん

さけチーズフライ

くきわかめきんぴら

かきたまじる牛乳

小学校687kcal中学校823kcal

水曜日

ごはんとりにくのぴりからやきいかときゅうりの

あえものしょうがみそスープ牛乳小学校639kcal中学校752kcal

木曜日

ごはんさんまうめにたくあんあえにくじゃがに牛乳なし小学校688kcal中学校814kcal

金曜日ごはんカレーふりかけほうれんそうオムレツフレンチサラダパンプキンスープ牛乳小学校708kcal中学校833kcal

月曜日

ごはんいかのかりんあげ(2こ)

なっとうあえきのこけんちんじるのむヨーグルト

小学校619kcal中学校731kcal

2526 WASHOKU

七分搗米の飯は腹持ちがよく

おやつを食べる子どもが減った

だけでなく肥満の子どもが減

少傾向となり食生活のリズム

が良くなったとされる

また米飯に合う副食は土地

でとれる野菜類を取り入れやす

く季節にあわせてバラエティ

ーに富んだ献立を作ることがで

きる一汁三菜の食べ方の教育

を行った結果給食を残す子ど

もたちも減ったという

基本的な食事パターンが続く

中でも菜を工夫すれば変化に

富む食事を作ることはできる

季節の食材について学び年中

行事への知識も得られるだろう

また子どもたちが和食の基

本型を毎日の給食で体験してい

ることはきわめて重要なことで

ある時々経験するだけでは身

につかないものでも毎日繰り返

すことによって習慣化し定着

するのであるそしてやがて

自分で組み合わせを考えられる

ようになることが期待される

今後の学校給食の役割は大きい

といえるだろう

PFCバランスとは

FAO Statistics Yearbook(日本のみ食料需給表)参照栄養バランスが良いとされるP(たんぱく質)10~20F(脂質)20~30C(炭水化物)50~70の範囲が08~12に収まるように指数化した

日本でのPFCバランスの変化

アメリカとフランスのPFCバランス

タンパク質脂質炭水化物は人間にとって特に不可欠な「三大栄養素」PFCのPはProtein(たんぱく質)FはFat(脂質)CはCarbohydrate(炭水化物)の頭文字でPFCバランスとは食事の中での「たんぱく質」「脂質」「炭水化物」のそれぞれの摂取カロリーの比率健康的な生活をおくるためにはPFCバランスがたんぱく質15脂質25炭水化物60が理想的

給食時には全員で「いただきます」「ごちそうさま」を復唱食育にも力を入れているためそれら言葉の意味についても学校で教えている

米飯給食になってから児童たちの食の嗜し こ う

好に変化が生まれたとか児童たちに好きなおかずを聞いてみると「ハンバーグ」「カレー」などの定番メニューのほか「焼き魚」「納豆」などの和食メニューの名前が上がった

自分の分を食べ終わった児童たちが列をつくって競い合うようにご飯をおかわりしていたこの日の食べ残しはゼロ

C

P

F

14

12

1

08

06

アメリカ(2005~2007年)

C

P

F

14

12

1

08

06

フランス(2005~2007年)

「和食」の特徴 栄養5

日本人のPFCバランスは1965年当時は炭水化物に偏っていたが1980年は非常に理想的な配分になっていたしかしその後の日本人の食生活に肉や油脂類を多く摂り主食の米を食べる量が減り2010年時は欧米型に近づきつつある

C

P

F

14

12

1

08

06

日本1965年

C

P

F

14

12

1

08

06

日本1980年

C

P

F

14

12

1

08

06

日本2010年

2728 WASHOKU

お客を迎える前には店先に打ち水を水で清め準備が整ったことを伝える趣向に合う軸を選ぶのももてなしの基本飾る花は主人自ら育てたものそれを床の花入に活けるのも主人庭に150種ほどの草花を植え日々育てることもしつらいの準備客は女将の温かいもてなしに迎えられる

「和食」の特徴6

しつらい

人をもてなすためのこころとかたち

もてなしは客に対する一方的なサービスではない

お互いに思いやる気持ちから生まれるこころよさである

手入れの行き届いた庭は掃き

清めて水を打ち床の間には軸

を掛け季節の草花を生ける

座敷の襖ふ

すま

も夏には葭よ

しど戸に入れ替

え夏は涼やかに冬は暖かに

すべて相まってもてなしのた

めの用意を整えることそれが

しつらい和食とりわけ懐石

料理においては食材や料理と

ともにしつらいは非常に重要

な要素となる

家庭でも食事をつくる人は

食べる人の顔を思い浮かべなが

ら食事の用意をする食べる人

はつくってくれた人の気持ちを

考えて賞味するここに互いに

もてなす喜びが生まれるのでは

ないだろうか

こうしたもてなしの文化を極

限にまで洗練させた姿が料亭の

もてなしである京都府の無形

文化技術保持者に料理人として

初めて認定された京都の老舗料

亭「瓢亭」の十四代主人高橋英一

さんにその心を聞いてみよう

「料亭は日本文化の凝縮のひと

つと言えます玄関から入って

座敷に行くまでに通る露地にも

季節感があり部屋に入れば時

季や行事の軸がありその座敷

のために選んだ花が飾られる

日本人が自然と身につけている

桜の器を使うことで膳の上にぱっと花が咲くような華やかさが生まれるあしらいは酢取り防風岩海苔

秋の花菊の器はこっくり深い色合いも相まって秋に似合う風情を持つあしらいは岩茸菊花

深さのあるガラスの器に氷が敷き詰められる涼感を目でも舌にも感じるあしらいは穂紫蘇寄せ莫大

縁起のいい鶴は新年の席でも使われるモチーフあしらいは水前寺海苔紫芽紫蘇

四季の感性で受け止めてもらえ

るよう整えお出迎えします

料亭は普段とは違うハレの場で

すがとはいえ行き過ぎず足り

ないことのないよう自然なし

つらいそしてもてなしを心が

けます」

「瓢亭」の座敷に飾られるのは

主人が庭で丹誠込めて育て自

ら生ける茶花

「もてなしの根

底に利休さんの『花は野にある

ごとく』の言葉を思いますが簡

単なようでそれが難しい」自

然体でのもてなしを生むしつら

えは名店においても日々心を

くだき工夫するのだ

「瓢亭」では1年をとおして明石の鯛の向付を供しているが季節ごとに

器とあしらいを変えることで四季を演出している

四季の演出

2728 WASHOKU

和食はご飯と菜あるいはご飯とお汁というように常にご飯を間にはさんで菜や汁をとるのが本来の食べ方下のような不作法とされる箸使い(嫌い箸)があるので覚えておきたい

ご飯は茶碗に味噌汁はお椀

に焼き魚だったら平皿にと普

段料理に合わせて何気なく使う

食器種類の多さもさることな

がら形や素材もさまざま欧

米はもちろん近隣諸国を見回

してもこれほど多種多様な器を

使う国はないそれは四季が明

確なことと無関係ではない

「自宅でも季節に合わせた器

にするだけで気分が変わりま

すよ」と前出「瓢亭」のご主人は

語る 

春であれば華やかな色や形の

もの夏はガラスや青磁など涼

しげな素材の器秋は実りのあ

る彩りがあるもの冬は厚手の

陶器や木製など温もりのあるも

の色素材形を変えるだけで

季節感を演出できる「和食」な

らではの楽しみ

食事の際当たり前のように

使っている箸も日本の食文化

を代表する食具奈良時代以

降匙さ

を使う伝統が消え箸だ

けを使うようになったため熱

い汁物は椀を持ち直接口を

つけてすする文化が確立同

時に椀箸ともに個人所有が基

本となった椀や箸を共有し

匙やレンゲを使うほかの東南

アジア諸国とは異なる食文化

を形成箸食文化圏の中でも

唯一箸だけでご飯を食べる国

となったまた一口に箸といっ

ても食箸取り箸菜箸など用

途に合わせてさまざま食べ

る際に使う食箸だけを見ても

形や素材のほか加工や長さも

豊富にそろうのだ

「和食」の特徴7

箸と椀

「和食」を支える箸と椀

箸食文化圏の中でも唯一箸だけを使う国日本

季節感を感じさせる器とともに独特の食具文化も誇る

渡し箸食事の途中でお箸を

食器の上に渡し置くこと

寄せ箸遠くの食器を

箸で手元に引き寄せる行為

指し箸食事中箸で人やものを指すこと

迷い箸どの料理にしようか迷い箸を料理の上で動かすこと

移り箸いったん取りかけてから

ほかの料理にお箸をうつすこと

箸には食事に使う食箸と調理に使う菜箸とがある菜箸は熱から手を守るため30~50と長く片方がなくならないよう糸でつながっているものもある取り箸は菜箸の一種食箸は個人所有が基本のため使う人に合わせた長さが用意されている漆塗りや螺鈿細工を施したものも多い

種類

形状だけでなく素材もさまざまで近年は黒檀や鉄木など硬質な木が使われることが多い日本の木としては特有の香りがあり古くから懐石用や割り箸に使われてきた杉耐水性耐湿性が高く保存性に優れる上に軽くて持ちやすい檜強くしなりがあり細かいものを取りやすい竹などがある

素材

家庭で使う食箸の形には角箸や四角で角が丸い胴張り五角六角七角八角のほか削りなどがあり持ちやすさに合わせて選べる箸先に加工が施されたものもある来客用に使う銘々箸や割り箸には断面が小判型で割れ目と溝が付いた元禄箸や中央部が太く両端が細い利休箸などが用意されている

日本人にとっての箸は調理から盛りつけ食事までをこなす大事な道具食箸は個人所有が基本のため個々に合わせて選べるのも特徴だ

箸の働き

箸使いの作法を知る

【嫌い箸】

食箸

八角箸 削り箸

菜箸

檜竹

「和食」の特徴 しつらい 箸と椀6 7

2930 WASHOKU

神し ん せ ん

饌として神へ供えられるお神酒は神棚の最上段の中央に置かれるほど重要な地位を占めている

日本酒を造る酒蔵は全国に約1600弱その数は年々減り続けているが数年に一度「日本酒ブーム」も起きている

日本酒とは米と米こうじ

そして水を主な原料にしてそ

れらを発酵させて造られる

原料には主食用の米ではなく

酒造りに適した性質を選び品

種改良された酒し

ゅぞうこうてきまい

造好適米を使

うことが一般的だまた日本

酒の80を占める水も品質を

左右する大きな要因日本酒

の香味を損なわない良質な水

が必須だ

日本酒の醸じ

ょうぞう造の工程にはさ

まざまな技術が伴う例えば米

を精米して味と香りを調整する

技術これは米の外側にあるた

んぱく質や脂質といった雑味の

もとを除くことが目的だが大だ

吟ぎんじょう醸酒にもなると米を半分以

上削ってから仕込むこともある

次いで米を発酵させる技術

酒の場合の発酵とは酵こ

うぼ母が糖類

を食べてアルコールを出すこと

をいうが米には糖類が含まれな

いためまずは米をこうじ菌の酵

素によって糖類へと変えそこに

酵母を加えて発酵させるという

複雑な手順(複式発酵)が必要だ

この手順で使われるこうじもバ

ラこうじと呼ばれる日本独特の

ものだバラこうじは糖化力が

高いのが特徴で日本酒の香りや

味に大きく影響する

稲作を中心に文化を育んでき

た日本では米餅米から造ら

れる酒は地域を問わず重要な

ものとされている米の一粒一

粒に神が宿り同じように酒も

神のおかげで造ることができる

と考えられてきたそして酒

もまた食べ物と共に神に近づ

くための手段として古くから用

いられてきた

同時に家族や親族地域で人

と人をつなぐ上でも酒は大き

な役割を担っている例えばお

神み

き酒祭礼の後には神の酒を

人々が口にする神と同じ酒を

飲みそれを人々が分かち合う

ことで地域やコミュニティが

結束力を強めるのだろう

米や麦やさつまいもなどを原

料とする焼酎も日本酒と並び

日本の國酒とされている酒は

人と人の心をほぐし食事を引

き立たせる重要な役割を担って

いるのだ

「和食」の特徴8

「和食」を引き立たせ

心をほぐす日本の酒

日本人にとっての主食であり精神のかなめでもある米

その米で醸か

される日本酒は「和食」にとって欠かせない要素

日本の「國こ

くしゅ酒

」にもなっている

2930 WASHOKU

「和食」の特徴9

和菓子日本茶

暮らしに寄り添う和菓子とお茶

自然の恵みに感謝し季節の移ろいを敏感に表現する和菓子

日本茶は喉のかわきを癒すだけでなく心を癒し心を高める飲みものである

「和食」の特徴 酒 和菓子8 9

ハレの日の願いを込めた和菓子

和菓子分類餅もの 餅団子大福など蒸しもの 饅頭蒸羊

よ う か ん

羹外う い ろ う

郎村む ら さ め

雨など煉もの 煉

ね り き り

切こなし求ぎ ゅ う ひ

肥飴葛く ず

菓子など焼きもの 味噌松風煎

せ ん べ い

餅桃も も や ま

山カステラどら焼など流しもの 錦

にしきだま

玉煉ね り よ う か ん

羊羹水み ず よ う か ん

羊羹など揚げもの 揚げ煎

せ ん べ い

餅かりんとうなど打ちもの(押しもの) 落

ら く が ん

雁など岡もの 最

も な か

中きんとん鹿か の こ

の子すはまなどかけもの 金

こ ん ぺ い と う

平糖五ご し き ま め

色豆石いしごろも

衣など

これは和菓子の製法によって大まかに分類した表このほか含有する水分量によって生菓子半生 菓 子 干 菓 子などの分け方や上じ ょ う な ま が し

生菓子並菓子駄だ が し

菓子などの分類もある

「岡もの」とはすでにできあがっ た素材をあわせたもの (例きんとん=飴玉とそぼろ餡)

甘く味付けしたごぼうと白味噌餡を赤や白の餅や求

ぎ ゅ う ひ

肥で包んだ生菓子平安時代の新年行事のひとつで長寿を願っておこなわれた「歯固め」の餅に由来する餅と味噌の組み合わせから「包み雑煮」とも呼ばれた

葩はなびらもち

一 月

旧暦十月は「亥の月」と呼ばれていたがその月のさらに「亥の日」に行われる年中行事の際に食べられていた菓子旧暦では10月が冬の始まりそのタイミングで無病息災と多産の猪にあやかって子孫繁栄を願ってこれを食べていたという

亥い の こ も ち

の子餅

十 月六 月

白いういろうの上に小豆の粒餡を散らした菓子古来京都で旧暦六月の晦

み そ か

日(30日)に無病息災を祈願して行われている

「夏なごしのはらい

越祓」になぞらえて初夏の頃に食べられている小豆には邪気祓いの意味があり三角の形は氷を表している

水無月

五 月

平たく丸めた上新粉の餅をふたつに折り中に小豆や味噌の餡を挟んでそれを柏の葉で包んだ菓子柏の葉は新芽が育つまで古い葉が落ちないことから

「子孫繁栄」を願って旧暦五月五日の端

た ん ご

午の節句の供く も つ

物として用いられてきた

柏餅

日本ならではのお茶の製法である手揉みは茶葉の繊維をつぶしながらうまみを引き出すために行う作業手揉みすると茶葉が切れないため茶の甘みを保つことができる

菓子もまた「和食」にとって欠

かせない要素でお客様用の「上

菓子」普段食べる「饅頭」や「餅

菓子」などに分かれるほかに

干菓子や駄菓子など菓子の種

類は多いまた例えば団子や

大福などは「餅もの」求肥や飴

などは「煉りもの」錦玉や

水みずようかん

羊羹などは「流しもの」などと

いうようにその製法によって

分類されることもある米や麦

小豆を代表とする豆類そして

砂糖や水あめなどの材料でバ

ラエティに富んだ菓子が生み出

されてきた

お茶会などの席で抹茶ととも

に味わう菓子もあり季節に合

わせて材料や色やデザインが選

ばれ味覚だけでなく視覚で楽

しむこともある

また年中行事と結びつく菓

子もある例えば旧暦三月三日

の「ひな祭り」では邪気をはら

い強い生命力を象徴するよも

ぎの草もちでつくった草餅を食

べる

和菓子には日本茶がふさわし

い緑茶は12世紀に中国から日

本に伝わったが今では生の茶

葉を蒸してから揉んで乾燥させ

る緑茶の製法は日本独特のもの

となっている緑茶に含まれる

カフェインは覚醒効果がまた

カテキンには抗酸化作用があり

ビタミンCも多く含まれて健

康によい日本茶独特の香りと

うま味は日本文化そのもので

ある

出典「和菓子の歴史展」第五十回虎屋文庫資料展より

3132 WASHOKU

日本の「和食」の文化は自然

環境だけでなく海外からの影

響によっても絶えず変化して

きた

近代以降にはコロッケとん

かつなど洋風料理を和食の基本

型に組み合わせた食事肉と野

菜の煮物や和え物などそれまで

にはない料理が工夫されたそ

の多くは和食の基本型味噌や

醤油を用いた味付け箸で食べ

られる料理など「和食」の要素

を保ちつつ伝えられてきた

しかし第二次世界大戦後高

度経済成長期を迎えると日本人

の食生活は急速に変化する

1970年代にファストフー

ド店ファミリーレストランが

各地に開店しコンビニなども

広がった

1980年頃主食と副食の

バランスは理想的とされたが

(26頁参照)その後米の消費量

はさらに減りパン食が増加

肉類油脂乳乳製品の消費量

も増加し食料自給率も下がっ

た家族での外食が日常化し

家庭の食事も欧米化した

食育の必要性

「和食」が危ないどうしたら伝えられるのか

この150年間で大きく変化し「和食」はいま衰えつつあるその原因はどこにあるのだろうか

食生活の変化

日本の食料自給率の変化農林水産省「食料需給表」より作成

日本のものを食べなくなって 「和食」はどうなる 日本の食料自給率は下がり続けている1965(昭和40)年度はカロリーベースで73だったが2012(平成24)年度は39その大きな原因のひとつは国内で自給可能な米や魚や野菜などの消費量が減少する一方国内で生産が困難な飼料穀物を食べて育つ畜産物や原料を輸入に頼ることが多い冷凍加工食品や小麦の消費が増加したことだと考えられている炭水化物たんぱく質脂肪分をバランスよく摂取する健康的な「和食」に未来はあるのか

国民一人一日当たりの供給純食料農林水産省「食料需給表」より作成

食べる米の量が50年で半減 増えたのは肉と乳製品 国民一人あたりが食べる量を品目別に眺めて分かることそれは日本人が食べる米の量が著しく減ってきたことだ1960(昭和35)年度は一日あたりの米の消費量は約315gだったが2010(平成22年)年度は163gに約半減その代わりに増えたのは牛乳乳製品(約60gから約240g)と肉類(約14gから約80gへ)野菜と魚を中心としたおかずでご飯を食べるという

「和食」のスタイルの変化がわかる

食料費における外食と中食の割合の推移総務省統計局「家計調査年報」より作成

家で食べても 調理することが減っている 外食に対して家庭で作って食べる食事を内食というが弁当や惣菜など調理をせずに食べられるものを買ってきて済ます食事は中食と呼ぶ実はこの中食の割合が増えている外食が占める割合は2000(平成12)年以降横ばいなのに対して中食は増え続けその代わりに内食が減っている食事は家で食べても調理はしないという家庭が増えているのだとすれば「和食」にとって大切な要素を子どもたちに伝える機会が減っているとはいえないだろか

食料自給率(金額ベース)

食料自給率(主食用穀物)

食料自給率(カロリーベース)飼料自給率

米 野菜 肉類牛乳乳製品 魚介類

内食 中食 外食

(g人日)

3132 WASHOKU

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70

75

01992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012

70

75

80

85

90

95

01992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012

一日に一度はお米を食べないと気がすまない人の割合博報堂生活総研「生活定点2012」

お正月におせち料理を食べた人の割合博報堂生活総研「生活定点2012」

一日に一度は米を炊いたご飯を食べなければ気がすまない人の割合が実はこの20年間で減っているというデータがある1992(平成4)年には714だったが2012(平成24)年には564にまで落ち込んでいるのだ

家族や親族で集まっておせち料理を囲みながら新しい一年の無事を祝うお正月実はおせち料理を食べる人も毎年少なくなっている1992(平成4)年には866だったが2012(平成24)年には748だった

電子レンジの普及や冷凍食品

インスタント食品などにより

食生活は便利になったが家庭

内で調理をする機会が減ったと

もいえる

こうしたなか「和食」の優れ

た点をどうしたら伝えられるの

だろうか親から子へ家庭の食

を伝えるだけでなく学校を通

して子どもたちにさらにその

親の世代にも伝える必要があろ

う高齢者からは「和食」につ

いて具体的に教わることも求

められる

離乳期からの食べ物の選び方

幼児期の食経験を豊富にするこ

となどはとくに重要であろう

小さな頃からの食習慣はその

後の食習慣に大きくかかわって

くるからだ

だしのおいしい味を日々体験

することや魚を味わい骨を箸

でとる訓練を楽しい雰囲気のな

かで教わることなどその積み

重ねの中で「和食」は伝わるので

あろう

経験しない味は異文化とと

らえられるであろうし体験し

ていない調理は簡単でも難しく

感じる食事を用意する過程を

日々見る経験手伝う楽しさ美

しい食器を大切にして使うこと

同じ食べ物を家族や仲間と味わ

い祭りや花見などで共に食べ

る経験を積み重ねることは文

化としての「和食」を伝えるだけ

でなく生きる力を育むことにも

つながるであろう

壁にではなく居間に向かって設置されることが多くなった現在のキッチン夫婦共働きだというこの家庭では夫が厨房に立つことも少なくないというこのように食事の準備を子どもと一緒に行うことで「和食」にとって大切な要素が次の世代に伝えられるようになるのだろう

世帯あたり1ヶ月間の穀類支出金額内訳

1962年3434円

パン

麺他

2010年6373円

パン

麺他

ご飯を食べなくても平気 そんな人が増えている

お米よりパンと麺 その傾向が加速中

おせち料理を食べる派が 毎年ジワリ減少中

1962(昭和37)年度には8割以上を占めていた米への支出が2010(平成22)年度にはパンにとって代わられる米の消費量はパンより多いが家庭では炊飯する必要のある米よりすぐに食べられるパンや麺の支出が多くなり家庭での料理が減っていることを示しているともいえよう

総務省統計局「家計調査年報」より作成

いただきます

ごちそうさま

「和食」の未来

今世紀に入ってから世界に和食ブー

ムが起きている味わいやヘルシーさに

注目が集まり世界中のいたるところに

日本食の店が数多くある

そのように世界から注目される「和食」

だが本家本元の日本国内でその将来が

危ぶまれている

これまで見てきたように「和食」には

新しいものを柔軟に取り込む歴史があっ

た日本人は太古の昔より外国からも

たらされた食文化を自分たちの食生活に

取り込んで日本独自の食文化を発展さ

せてきた地域ごとに地域の環境にふさ

わしい料理をつくり出してきた食べる

料理や食べ方もその時代ごと地域ごと

に変わってきた

その中で貫かれてきたことがある

豊かな自然がもたらす食材のおいしさ

を生かす調理法を工夫し味わうこと

食卓に季節感をしつらえもてなしの気

持ちを共に感じ合う食事の場を持つこ

と一汁三菜という組み合わせを食事

の基本スタイルとして健康的な食生活

をおくることお正月におせち料理を

祝いの日にお赤飯を家族と共に食べる

など食事は家族の絆となっている

豊かな自然を守る気持ちと同じように

日本人を健やかに生かし人と人をつな

いできた「和食」もまた守るべき大切な

日本文化ではないだろうか

「いただきます」「ごちそうさま」と言っ

てみるだけでも「和食」は私たちに身近

になる人と人をあたたかく結びつけて

くれる

日本人はやはりお米のご飯がおいしい

と思うだしのきいた汁でおなかも心も

癒されるこの日本人が長い歴史の中で

育んできたすばらしい財産である「和

食」がこのままなくなってよいと考える

人はいないだろう世界の中でもすぐれ

た食文化として認められた「和食」を日本

の誇りとし大切にして次の世代に受け

継いでいくきっかけにこの冊子がなれ

ば幸いである

ごちそうさま

和 食

2324 WASHOKU

に欠かせないのは塩砂糖味

噌醤油酢酒みりん魚醤な

どの調味料わさびやからし

しょうが山椒とうがらしゆ

ずなども薬味として使われる

これら薬味によって季節感を楽

しみながら素材の味を引き出

すという知恵も「和食」ならでは

夏に高温多湿となる日本では

アジア諸国と同様発酵食品が

発達したそれゆえ味噌や醤

油や酢に代表される発酵調味料

を多用するのも和食の特徴大

豆や穀物を塩漬けにして発酵

させてつくるものだがその過

程で原料のタンパク質がアミノ

酸に分解されうま味成分を豊

富に含んだ調味料ができあがる

のだ

発酵食品も多様だ日本各地

でカビや酵母などの微生物の

働きを活かして食品中のアミ

ノ酸(うま味)を増やす発酵食品

が発達してきた冬場の保存食

として生み出された沢庵や塩

を使って乳酸発酵させる京都の

すぐき菜漬けそして糠ぬ

漬けや

奈良漬けなど野菜を発酵させ

た漬物さらに塩辛やくさや

なれずし鰹節など魚介の保存

食としての発酵食品また大

豆を納豆菌で発酵させる納豆や

こうじ菌で発酵させて乾燥後に

熟成させた寺納豆など大豆の

発酵食品もある

「和食」はうま味を上手に生

かし食材をおいしく食べる知

恵を育んできたのだ

発酵食品

発酵調味料

調味料

「和食」の特徴 味わい4

発酵食品と調味料

魚醤魚を塩漬けにして発酵させる独特の香りと濃いうま味が特徴の調味料ハタハタでつくられる秋田の

「しょっつる」イカやイワシを材料とする能登半島の「いしる(り)」などがある

酒酒もまた和食の調味に欠かせない発酵調味料のひとつ調味料としての酒の主な効果には材料の臭みを消す食材のうま味を引き出して風味をよくする甘みを加えるなどがある

塩海に囲まれている日本では古くから塩は調味料として使用されてきた焼き物や刺身などの調理の味付けとしてはもちろん漬物や干物など食物を貯蔵するための知恵としても活用されている

味噌蒸したり煮たりした大豆にこうじ食塩を混ぜて発酵熟成させた日本を代表する調味料のひとつ味噌汁や煮物などに使われることが多い地域によって使用される味噌の種類がかなり変わるのも特徴だ

酢寿司やなますなど和食に酸味を加える調味料米から醸造した酒に酢酸菌を加えて発酵させて造られる酢に漬けることにより保存性を高める

醤油大豆と小麦で造ったこうじに食塩水を加えた「もろみ」を発酵熟成させ搾ったもの刺身や焼き魚煮物炒め物など幅広い料理に使われている種類は濃口薄口たまり再仕込み白の5つに分類される

みりん蒸したもち米と米こうじを主原料に40~60日かけて熟成させて造られる発酵調味料砂糖と比べて甘みがやわらかく食材の臭味を取る働きもあるまた魚の照り焼きなどのつや出しにも使う

漬物素材を食塩や酢酒粕醤油などに漬け込み熟成させて作られる漬物沢庵や梅干し野沢菜漬けなど野菜類を長期間保存するための知恵として誕生した日本各地に独特の漬物があるのも特徴だ

納豆日本で発展した発酵食品である納豆大豆を納豆菌で発酵させた食品で寺納豆(下記参照)と区別するため「糸引き納豆」とも呼ばれる単品で食べるだけではなく納豆汁や納豆和えなどにも使われている

塩辛魚介類の身や内臓を塩漬けにし発酵させて作られた塩辛は日本における伝統的な保存食品のひとつ使われる素材はその地域によって変わりイカやエビアミタコなど多彩な種類の塩辛が存在する

塩に漬けた魚と炊いたご飯を数日間置き乳酸発酵させたなれずしは魚を保存する知恵として生まれた滋賀県では琵琶湖産のふなを和歌山県や富山県ではサバを岐阜県などではアユを材料にしたものが有名写真は滋賀県湖北地方の年頭の祭りで振る舞われる鯖のなれずし

砂糖世界的に見ても「甘み」を用いた料理が多い現在の和食では砂糖は欠かせない調味料のひとつ単独で料理に使われるというよりは煮物をはじめとするさまざまな料理で醤油や塩味噌などと併用されることが多い

寺納豆茹でた大豆にこうじを加えて発酵させ乾燥させながら熟成を促す発酵食品粘り気のある糸引き納豆とは異なり乾燥して塩辛い禅宗の伝来とともに大陸からもたらされたとされ寺院で作ることが多かったため「寺納豆」と呼ばれた

2526 WASHOKU

「和食」の特徴5

栄養

栄養バランスの優等生「和食」

野菜や魚肉そして米によって構成される「和食」は

栄養バランスの良さでも知られている

最近は五日間すべてを米飯にする完全米飯給食を行う地域も生まれた

和食の特徴のひとつである栄養についてその秘密に迫る

米麦雑穀などを炊いたご飯

を主食としてこれに魚介肉

類野菜類に発酵調味料だしを

組み合わせた和食は栄養学的

にみてもバランスをとりやすい

食事である

歴史的にみると日常食では

主食を大量に摂る習慣が続いた

穀類偏重の食生活だったといえ

よう

しかし豆腐や納豆みそ汁な

どを飯とともに摂ることで米の

アミノ酸の利用率を上げる食べ

方年中行事などハレの日に魚

介類などを摂取して楽しむなど

学ぶべき知恵は多い

なかでも何百年も伝えられて

きた和食の基本型はすぐれた

ものといえよう

副食の主菜には魚肉豆腐

などタンパク質を多く含む料理

を考える副菜には主菜に使わ

なかった野菜芋類などを使い

汁は主菜に合うものを用意する

焼き魚野菜の煮物青菜のお浸

しとみそ汁などでも栄養的バ

ランスはとれている

1980年頃までは多くの

家庭で和食の基本型が続いた

主食の量がやや減り副食が増

加とくに乳乳製品肉類の割

合が増加したこの頃栄養バ

ランスをはかる一つの指標であ

るPFCバランスが理想的な比

率を示した(左記参照)

しかしその後外食の日常化

家庭料理の欧米化が進み米の

摂取量が激減し脂質摂取の過

多などから生活習慣病が問題

となったこうした中各地で

食生活を見直す動きがみられる

ようになったその一つが学校

給食での取り組みである

戦後の食料難の中でパンと

牛乳に副食を加えた完全給食は

1950年に始まった197

6年に米飯が導入されるまで長

く続いたパン給食は和食の基

本型にも影響を与えたようだ

米飯給食は次第に増加し

2010年には週3回以上米

飯給食を実施している小中学

校は90以上となったが週5

回の米飯給食の実施は7以

上と高くない

ここでは2008年に5日

間すべてを米飯給食とした新潟

県三条市の事例を紹介しよう

成長期にバランスのよい食事

で健康な体をつくることそし

て望ましい食習慣を身につけ

生涯を健康に生きることをめざ

し完全米飯給食を実施したと

のこと

米は同市で生産される農薬

を減らしたコシヒカリを七分搗つ

きにした米飯を主食に副食は

主菜副菜汁を組み合わせる献

立をベースとしている主菜は

サケのフライ鶏肉ピリ辛焼き

さんま梅煮など伝統的な和食だ

けではないが和食の基本型の

中に取り入れる工夫がされてい

るパ

ンは油脂や糖分と相性が

良く肥満につながりやすいが

新潟県三条市の給食献立一例三条市の小中学校での献立例ご飯は三条市で収穫したコシヒカリを使用「お米だと腹持ちがよいのでデザートをあまり出さなくとも子どもたちが満足してくれる」とのこと洋風や中華風の献立でもおかずはご飯に合うものを選びスープなどの汁物は確実につけるように心がけている

火曜日

えだまめごはん

さけチーズフライ

くきわかめきんぴら

かきたまじる牛乳

小学校687kcal中学校823kcal

水曜日

ごはんとりにくのぴりからやきいかときゅうりの

あえものしょうがみそスープ牛乳小学校639kcal中学校752kcal

木曜日

ごはんさんまうめにたくあんあえにくじゃがに牛乳なし小学校688kcal中学校814kcal

金曜日ごはんカレーふりかけほうれんそうオムレツフレンチサラダパンプキンスープ牛乳小学校708kcal中学校833kcal

月曜日

ごはんいかのかりんあげ(2こ)

なっとうあえきのこけんちんじるのむヨーグルト

小学校619kcal中学校731kcal

2526 WASHOKU

七分搗米の飯は腹持ちがよく

おやつを食べる子どもが減った

だけでなく肥満の子どもが減

少傾向となり食生活のリズム

が良くなったとされる

また米飯に合う副食は土地

でとれる野菜類を取り入れやす

く季節にあわせてバラエティ

ーに富んだ献立を作ることがで

きる一汁三菜の食べ方の教育

を行った結果給食を残す子ど

もたちも減ったという

基本的な食事パターンが続く

中でも菜を工夫すれば変化に

富む食事を作ることはできる

季節の食材について学び年中

行事への知識も得られるだろう

また子どもたちが和食の基

本型を毎日の給食で体験してい

ることはきわめて重要なことで

ある時々経験するだけでは身

につかないものでも毎日繰り返

すことによって習慣化し定着

するのであるそしてやがて

自分で組み合わせを考えられる

ようになることが期待される

今後の学校給食の役割は大きい

といえるだろう

PFCバランスとは

FAO Statistics Yearbook(日本のみ食料需給表)参照栄養バランスが良いとされるP(たんぱく質)10~20F(脂質)20~30C(炭水化物)50~70の範囲が08~12に収まるように指数化した

日本でのPFCバランスの変化

アメリカとフランスのPFCバランス

タンパク質脂質炭水化物は人間にとって特に不可欠な「三大栄養素」PFCのPはProtein(たんぱく質)FはFat(脂質)CはCarbohydrate(炭水化物)の頭文字でPFCバランスとは食事の中での「たんぱく質」「脂質」「炭水化物」のそれぞれの摂取カロリーの比率健康的な生活をおくるためにはPFCバランスがたんぱく質15脂質25炭水化物60が理想的

給食時には全員で「いただきます」「ごちそうさま」を復唱食育にも力を入れているためそれら言葉の意味についても学校で教えている

米飯給食になってから児童たちの食の嗜し こ う

好に変化が生まれたとか児童たちに好きなおかずを聞いてみると「ハンバーグ」「カレー」などの定番メニューのほか「焼き魚」「納豆」などの和食メニューの名前が上がった

自分の分を食べ終わった児童たちが列をつくって競い合うようにご飯をおかわりしていたこの日の食べ残しはゼロ

C

P

F

14

12

1

08

06

アメリカ(2005~2007年)

C

P

F

14

12

1

08

06

フランス(2005~2007年)

「和食」の特徴 栄養5

日本人のPFCバランスは1965年当時は炭水化物に偏っていたが1980年は非常に理想的な配分になっていたしかしその後の日本人の食生活に肉や油脂類を多く摂り主食の米を食べる量が減り2010年時は欧米型に近づきつつある

C

P

F

14

12

1

08

06

日本1965年

C

P

F

14

12

1

08

06

日本1980年

C

P

F

14

12

1

08

06

日本2010年

2728 WASHOKU

お客を迎える前には店先に打ち水を水で清め準備が整ったことを伝える趣向に合う軸を選ぶのももてなしの基本飾る花は主人自ら育てたものそれを床の花入に活けるのも主人庭に150種ほどの草花を植え日々育てることもしつらいの準備客は女将の温かいもてなしに迎えられる

「和食」の特徴6

しつらい

人をもてなすためのこころとかたち

もてなしは客に対する一方的なサービスではない

お互いに思いやる気持ちから生まれるこころよさである

手入れの行き届いた庭は掃き

清めて水を打ち床の間には軸

を掛け季節の草花を生ける

座敷の襖ふ

すま

も夏には葭よ

しど戸に入れ替

え夏は涼やかに冬は暖かに

すべて相まってもてなしのた

めの用意を整えることそれが

しつらい和食とりわけ懐石

料理においては食材や料理と

ともにしつらいは非常に重要

な要素となる

家庭でも食事をつくる人は

食べる人の顔を思い浮かべなが

ら食事の用意をする食べる人

はつくってくれた人の気持ちを

考えて賞味するここに互いに

もてなす喜びが生まれるのでは

ないだろうか

こうしたもてなしの文化を極

限にまで洗練させた姿が料亭の

もてなしである京都府の無形

文化技術保持者に料理人として

初めて認定された京都の老舗料

亭「瓢亭」の十四代主人高橋英一

さんにその心を聞いてみよう

「料亭は日本文化の凝縮のひと

つと言えます玄関から入って

座敷に行くまでに通る露地にも

季節感があり部屋に入れば時

季や行事の軸がありその座敷

のために選んだ花が飾られる

日本人が自然と身につけている

桜の器を使うことで膳の上にぱっと花が咲くような華やかさが生まれるあしらいは酢取り防風岩海苔

秋の花菊の器はこっくり深い色合いも相まって秋に似合う風情を持つあしらいは岩茸菊花

深さのあるガラスの器に氷が敷き詰められる涼感を目でも舌にも感じるあしらいは穂紫蘇寄せ莫大

縁起のいい鶴は新年の席でも使われるモチーフあしらいは水前寺海苔紫芽紫蘇

四季の感性で受け止めてもらえ

るよう整えお出迎えします

料亭は普段とは違うハレの場で

すがとはいえ行き過ぎず足り

ないことのないよう自然なし

つらいそしてもてなしを心が

けます」

「瓢亭」の座敷に飾られるのは

主人が庭で丹誠込めて育て自

ら生ける茶花

「もてなしの根

底に利休さんの『花は野にある

ごとく』の言葉を思いますが簡

単なようでそれが難しい」自

然体でのもてなしを生むしつら

えは名店においても日々心を

くだき工夫するのだ

「瓢亭」では1年をとおして明石の鯛の向付を供しているが季節ごとに

器とあしらいを変えることで四季を演出している

四季の演出

2728 WASHOKU

和食はご飯と菜あるいはご飯とお汁というように常にご飯を間にはさんで菜や汁をとるのが本来の食べ方下のような不作法とされる箸使い(嫌い箸)があるので覚えておきたい

ご飯は茶碗に味噌汁はお椀

に焼き魚だったら平皿にと普

段料理に合わせて何気なく使う

食器種類の多さもさることな

がら形や素材もさまざま欧

米はもちろん近隣諸国を見回

してもこれほど多種多様な器を

使う国はないそれは四季が明

確なことと無関係ではない

「自宅でも季節に合わせた器

にするだけで気分が変わりま

すよ」と前出「瓢亭」のご主人は

語る 

春であれば華やかな色や形の

もの夏はガラスや青磁など涼

しげな素材の器秋は実りのあ

る彩りがあるもの冬は厚手の

陶器や木製など温もりのあるも

の色素材形を変えるだけで

季節感を演出できる「和食」な

らではの楽しみ

食事の際当たり前のように

使っている箸も日本の食文化

を代表する食具奈良時代以

降匙さ

を使う伝統が消え箸だ

けを使うようになったため熱

い汁物は椀を持ち直接口を

つけてすする文化が確立同

時に椀箸ともに個人所有が基

本となった椀や箸を共有し

匙やレンゲを使うほかの東南

アジア諸国とは異なる食文化

を形成箸食文化圏の中でも

唯一箸だけでご飯を食べる国

となったまた一口に箸といっ

ても食箸取り箸菜箸など用

途に合わせてさまざま食べ

る際に使う食箸だけを見ても

形や素材のほか加工や長さも

豊富にそろうのだ

「和食」の特徴7

箸と椀

「和食」を支える箸と椀

箸食文化圏の中でも唯一箸だけを使う国日本

季節感を感じさせる器とともに独特の食具文化も誇る

渡し箸食事の途中でお箸を

食器の上に渡し置くこと

寄せ箸遠くの食器を

箸で手元に引き寄せる行為

指し箸食事中箸で人やものを指すこと

迷い箸どの料理にしようか迷い箸を料理の上で動かすこと

移り箸いったん取りかけてから

ほかの料理にお箸をうつすこと

箸には食事に使う食箸と調理に使う菜箸とがある菜箸は熱から手を守るため30~50と長く片方がなくならないよう糸でつながっているものもある取り箸は菜箸の一種食箸は個人所有が基本のため使う人に合わせた長さが用意されている漆塗りや螺鈿細工を施したものも多い

種類

形状だけでなく素材もさまざまで近年は黒檀や鉄木など硬質な木が使われることが多い日本の木としては特有の香りがあり古くから懐石用や割り箸に使われてきた杉耐水性耐湿性が高く保存性に優れる上に軽くて持ちやすい檜強くしなりがあり細かいものを取りやすい竹などがある

素材

家庭で使う食箸の形には角箸や四角で角が丸い胴張り五角六角七角八角のほか削りなどがあり持ちやすさに合わせて選べる箸先に加工が施されたものもある来客用に使う銘々箸や割り箸には断面が小判型で割れ目と溝が付いた元禄箸や中央部が太く両端が細い利休箸などが用意されている

日本人にとっての箸は調理から盛りつけ食事までをこなす大事な道具食箸は個人所有が基本のため個々に合わせて選べるのも特徴だ

箸の働き

箸使いの作法を知る

【嫌い箸】

食箸

八角箸 削り箸

菜箸

檜竹

「和食」の特徴 しつらい 箸と椀6 7

2930 WASHOKU

神し ん せ ん

饌として神へ供えられるお神酒は神棚の最上段の中央に置かれるほど重要な地位を占めている

日本酒を造る酒蔵は全国に約1600弱その数は年々減り続けているが数年に一度「日本酒ブーム」も起きている

日本酒とは米と米こうじ

そして水を主な原料にしてそ

れらを発酵させて造られる

原料には主食用の米ではなく

酒造りに適した性質を選び品

種改良された酒し

ゅぞうこうてきまい

造好適米を使

うことが一般的だまた日本

酒の80を占める水も品質を

左右する大きな要因日本酒

の香味を損なわない良質な水

が必須だ

日本酒の醸じ

ょうぞう造の工程にはさ

まざまな技術が伴う例えば米

を精米して味と香りを調整する

技術これは米の外側にあるた

んぱく質や脂質といった雑味の

もとを除くことが目的だが大だ

吟ぎんじょう醸酒にもなると米を半分以

上削ってから仕込むこともある

次いで米を発酵させる技術

酒の場合の発酵とは酵こ

うぼ母が糖類

を食べてアルコールを出すこと

をいうが米には糖類が含まれな

いためまずは米をこうじ菌の酵

素によって糖類へと変えそこに

酵母を加えて発酵させるという

複雑な手順(複式発酵)が必要だ

この手順で使われるこうじもバ

ラこうじと呼ばれる日本独特の

ものだバラこうじは糖化力が

高いのが特徴で日本酒の香りや

味に大きく影響する

稲作を中心に文化を育んでき

た日本では米餅米から造ら

れる酒は地域を問わず重要な

ものとされている米の一粒一

粒に神が宿り同じように酒も

神のおかげで造ることができる

と考えられてきたそして酒

もまた食べ物と共に神に近づ

くための手段として古くから用

いられてきた

同時に家族や親族地域で人

と人をつなぐ上でも酒は大き

な役割を担っている例えばお

神み

き酒祭礼の後には神の酒を

人々が口にする神と同じ酒を

飲みそれを人々が分かち合う

ことで地域やコミュニティが

結束力を強めるのだろう

米や麦やさつまいもなどを原

料とする焼酎も日本酒と並び

日本の國酒とされている酒は

人と人の心をほぐし食事を引

き立たせる重要な役割を担って

いるのだ

「和食」の特徴8

「和食」を引き立たせ

心をほぐす日本の酒

日本人にとっての主食であり精神のかなめでもある米

その米で醸か

される日本酒は「和食」にとって欠かせない要素

日本の「國こ

くしゅ酒

」にもなっている

2930 WASHOKU

「和食」の特徴9

和菓子日本茶

暮らしに寄り添う和菓子とお茶

自然の恵みに感謝し季節の移ろいを敏感に表現する和菓子

日本茶は喉のかわきを癒すだけでなく心を癒し心を高める飲みものである

「和食」の特徴 酒 和菓子8 9

ハレの日の願いを込めた和菓子

和菓子分類餅もの 餅団子大福など蒸しもの 饅頭蒸羊

よ う か ん

羹外う い ろ う

郎村む ら さ め

雨など煉もの 煉

ね り き り

切こなし求ぎ ゅ う ひ

肥飴葛く ず

菓子など焼きもの 味噌松風煎

せ ん べ い

餅桃も も や ま

山カステラどら焼など流しもの 錦

にしきだま

玉煉ね り よ う か ん

羊羹水み ず よ う か ん

羊羹など揚げもの 揚げ煎

せ ん べ い

餅かりんとうなど打ちもの(押しもの) 落

ら く が ん

雁など岡もの 最

も な か

中きんとん鹿か の こ

の子すはまなどかけもの 金

こ ん ぺ い と う

平糖五ご し き ま め

色豆石いしごろも

衣など

これは和菓子の製法によって大まかに分類した表このほか含有する水分量によって生菓子半生 菓 子 干 菓 子などの分け方や上じ ょ う な ま が し

生菓子並菓子駄だ が し

菓子などの分類もある

「岡もの」とはすでにできあがっ た素材をあわせたもの (例きんとん=飴玉とそぼろ餡)

甘く味付けしたごぼうと白味噌餡を赤や白の餅や求

ぎ ゅ う ひ

肥で包んだ生菓子平安時代の新年行事のひとつで長寿を願っておこなわれた「歯固め」の餅に由来する餅と味噌の組み合わせから「包み雑煮」とも呼ばれた

葩はなびらもち

一 月

旧暦十月は「亥の月」と呼ばれていたがその月のさらに「亥の日」に行われる年中行事の際に食べられていた菓子旧暦では10月が冬の始まりそのタイミングで無病息災と多産の猪にあやかって子孫繁栄を願ってこれを食べていたという

亥い の こ も ち

の子餅

十 月六 月

白いういろうの上に小豆の粒餡を散らした菓子古来京都で旧暦六月の晦

み そ か

日(30日)に無病息災を祈願して行われている

「夏なごしのはらい

越祓」になぞらえて初夏の頃に食べられている小豆には邪気祓いの意味があり三角の形は氷を表している

水無月

五 月

平たく丸めた上新粉の餅をふたつに折り中に小豆や味噌の餡を挟んでそれを柏の葉で包んだ菓子柏の葉は新芽が育つまで古い葉が落ちないことから

「子孫繁栄」を願って旧暦五月五日の端

た ん ご

午の節句の供く も つ

物として用いられてきた

柏餅

日本ならではのお茶の製法である手揉みは茶葉の繊維をつぶしながらうまみを引き出すために行う作業手揉みすると茶葉が切れないため茶の甘みを保つことができる

菓子もまた「和食」にとって欠

かせない要素でお客様用の「上

菓子」普段食べる「饅頭」や「餅

菓子」などに分かれるほかに

干菓子や駄菓子など菓子の種

類は多いまた例えば団子や

大福などは「餅もの」求肥や飴

などは「煉りもの」錦玉や

水みずようかん

羊羹などは「流しもの」などと

いうようにその製法によって

分類されることもある米や麦

小豆を代表とする豆類そして

砂糖や水あめなどの材料でバ

ラエティに富んだ菓子が生み出

されてきた

お茶会などの席で抹茶ととも

に味わう菓子もあり季節に合

わせて材料や色やデザインが選

ばれ味覚だけでなく視覚で楽

しむこともある

また年中行事と結びつく菓

子もある例えば旧暦三月三日

の「ひな祭り」では邪気をはら

い強い生命力を象徴するよも

ぎの草もちでつくった草餅を食

べる

和菓子には日本茶がふさわし

い緑茶は12世紀に中国から日

本に伝わったが今では生の茶

葉を蒸してから揉んで乾燥させ

る緑茶の製法は日本独特のもの

となっている緑茶に含まれる

カフェインは覚醒効果がまた

カテキンには抗酸化作用があり

ビタミンCも多く含まれて健

康によい日本茶独特の香りと

うま味は日本文化そのもので

ある

出典「和菓子の歴史展」第五十回虎屋文庫資料展より

3132 WASHOKU

日本の「和食」の文化は自然

環境だけでなく海外からの影

響によっても絶えず変化して

きた

近代以降にはコロッケとん

かつなど洋風料理を和食の基本

型に組み合わせた食事肉と野

菜の煮物や和え物などそれまで

にはない料理が工夫されたそ

の多くは和食の基本型味噌や

醤油を用いた味付け箸で食べ

られる料理など「和食」の要素

を保ちつつ伝えられてきた

しかし第二次世界大戦後高

度経済成長期を迎えると日本人

の食生活は急速に変化する

1970年代にファストフー

ド店ファミリーレストランが

各地に開店しコンビニなども

広がった

1980年頃主食と副食の

バランスは理想的とされたが

(26頁参照)その後米の消費量

はさらに減りパン食が増加

肉類油脂乳乳製品の消費量

も増加し食料自給率も下がっ

た家族での外食が日常化し

家庭の食事も欧米化した

食育の必要性

「和食」が危ないどうしたら伝えられるのか

この150年間で大きく変化し「和食」はいま衰えつつあるその原因はどこにあるのだろうか

食生活の変化

日本の食料自給率の変化農林水産省「食料需給表」より作成

日本のものを食べなくなって 「和食」はどうなる 日本の食料自給率は下がり続けている1965(昭和40)年度はカロリーベースで73だったが2012(平成24)年度は39その大きな原因のひとつは国内で自給可能な米や魚や野菜などの消費量が減少する一方国内で生産が困難な飼料穀物を食べて育つ畜産物や原料を輸入に頼ることが多い冷凍加工食品や小麦の消費が増加したことだと考えられている炭水化物たんぱく質脂肪分をバランスよく摂取する健康的な「和食」に未来はあるのか

国民一人一日当たりの供給純食料農林水産省「食料需給表」より作成

食べる米の量が50年で半減 増えたのは肉と乳製品 国民一人あたりが食べる量を品目別に眺めて分かることそれは日本人が食べる米の量が著しく減ってきたことだ1960(昭和35)年度は一日あたりの米の消費量は約315gだったが2010(平成22年)年度は163gに約半減その代わりに増えたのは牛乳乳製品(約60gから約240g)と肉類(約14gから約80gへ)野菜と魚を中心としたおかずでご飯を食べるという

「和食」のスタイルの変化がわかる

食料費における外食と中食の割合の推移総務省統計局「家計調査年報」より作成

家で食べても 調理することが減っている 外食に対して家庭で作って食べる食事を内食というが弁当や惣菜など調理をせずに食べられるものを買ってきて済ます食事は中食と呼ぶ実はこの中食の割合が増えている外食が占める割合は2000(平成12)年以降横ばいなのに対して中食は増え続けその代わりに内食が減っている食事は家で食べても調理はしないという家庭が増えているのだとすれば「和食」にとって大切な要素を子どもたちに伝える機会が減っているとはいえないだろか

食料自給率(金額ベース)

食料自給率(主食用穀物)

食料自給率(カロリーベース)飼料自給率

米 野菜 肉類牛乳乳製品 魚介類

内食 中食 外食

(g人日)

3132 WASHOKU

50

55

60

65

70

75

01992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012

70

75

80

85

90

95

01992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012

一日に一度はお米を食べないと気がすまない人の割合博報堂生活総研「生活定点2012」

お正月におせち料理を食べた人の割合博報堂生活総研「生活定点2012」

一日に一度は米を炊いたご飯を食べなければ気がすまない人の割合が実はこの20年間で減っているというデータがある1992(平成4)年には714だったが2012(平成24)年には564にまで落ち込んでいるのだ

家族や親族で集まっておせち料理を囲みながら新しい一年の無事を祝うお正月実はおせち料理を食べる人も毎年少なくなっている1992(平成4)年には866だったが2012(平成24)年には748だった

電子レンジの普及や冷凍食品

インスタント食品などにより

食生活は便利になったが家庭

内で調理をする機会が減ったと

もいえる

こうしたなか「和食」の優れ

た点をどうしたら伝えられるの

だろうか親から子へ家庭の食

を伝えるだけでなく学校を通

して子どもたちにさらにその

親の世代にも伝える必要があろ

う高齢者からは「和食」につ

いて具体的に教わることも求

められる

離乳期からの食べ物の選び方

幼児期の食経験を豊富にするこ

となどはとくに重要であろう

小さな頃からの食習慣はその

後の食習慣に大きくかかわって

くるからだ

だしのおいしい味を日々体験

することや魚を味わい骨を箸

でとる訓練を楽しい雰囲気のな

かで教わることなどその積み

重ねの中で「和食」は伝わるので

あろう

経験しない味は異文化とと

らえられるであろうし体験し

ていない調理は簡単でも難しく

感じる食事を用意する過程を

日々見る経験手伝う楽しさ美

しい食器を大切にして使うこと

同じ食べ物を家族や仲間と味わ

い祭りや花見などで共に食べ

る経験を積み重ねることは文

化としての「和食」を伝えるだけ

でなく生きる力を育むことにも

つながるであろう

壁にではなく居間に向かって設置されることが多くなった現在のキッチン夫婦共働きだというこの家庭では夫が厨房に立つことも少なくないというこのように食事の準備を子どもと一緒に行うことで「和食」にとって大切な要素が次の世代に伝えられるようになるのだろう

世帯あたり1ヶ月間の穀類支出金額内訳

1962年3434円

パン

麺他

2010年6373円

パン

麺他

ご飯を食べなくても平気 そんな人が増えている

お米よりパンと麺 その傾向が加速中

おせち料理を食べる派が 毎年ジワリ減少中

1962(昭和37)年度には8割以上を占めていた米への支出が2010(平成22)年度にはパンにとって代わられる米の消費量はパンより多いが家庭では炊飯する必要のある米よりすぐに食べられるパンや麺の支出が多くなり家庭での料理が減っていることを示しているともいえよう

総務省統計局「家計調査年報」より作成

いただきます

ごちそうさま

「和食」の未来

今世紀に入ってから世界に和食ブー

ムが起きている味わいやヘルシーさに

注目が集まり世界中のいたるところに

日本食の店が数多くある

そのように世界から注目される「和食」

だが本家本元の日本国内でその将来が

危ぶまれている

これまで見てきたように「和食」には

新しいものを柔軟に取り込む歴史があっ

た日本人は太古の昔より外国からも

たらされた食文化を自分たちの食生活に

取り込んで日本独自の食文化を発展さ

せてきた地域ごとに地域の環境にふさ

わしい料理をつくり出してきた食べる

料理や食べ方もその時代ごと地域ごと

に変わってきた

その中で貫かれてきたことがある

豊かな自然がもたらす食材のおいしさ

を生かす調理法を工夫し味わうこと

食卓に季節感をしつらえもてなしの気

持ちを共に感じ合う食事の場を持つこ

と一汁三菜という組み合わせを食事

の基本スタイルとして健康的な食生活

をおくることお正月におせち料理を

祝いの日にお赤飯を家族と共に食べる

など食事は家族の絆となっている

豊かな自然を守る気持ちと同じように

日本人を健やかに生かし人と人をつな

いできた「和食」もまた守るべき大切な

日本文化ではないだろうか

「いただきます」「ごちそうさま」と言っ

てみるだけでも「和食」は私たちに身近

になる人と人をあたたかく結びつけて

くれる

日本人はやはりお米のご飯がおいしい

と思うだしのきいた汁でおなかも心も

癒されるこの日本人が長い歴史の中で

育んできたすばらしい財産である「和

食」がこのままなくなってよいと考える

人はいないだろう世界の中でもすぐれ

た食文化として認められた「和食」を日本

の誇りとし大切にして次の世代に受け

継いでいくきっかけにこの冊子がなれ

ば幸いである

ごちそうさま

和 食

2526 WASHOKU

「和食」の特徴5

栄養

栄養バランスの優等生「和食」

野菜や魚肉そして米によって構成される「和食」は

栄養バランスの良さでも知られている

最近は五日間すべてを米飯にする完全米飯給食を行う地域も生まれた

和食の特徴のひとつである栄養についてその秘密に迫る

米麦雑穀などを炊いたご飯

を主食としてこれに魚介肉

類野菜類に発酵調味料だしを

組み合わせた和食は栄養学的

にみてもバランスをとりやすい

食事である

歴史的にみると日常食では

主食を大量に摂る習慣が続いた

穀類偏重の食生活だったといえ

よう

しかし豆腐や納豆みそ汁な

どを飯とともに摂ることで米の

アミノ酸の利用率を上げる食べ

方年中行事などハレの日に魚

介類などを摂取して楽しむなど

学ぶべき知恵は多い

なかでも何百年も伝えられて

きた和食の基本型はすぐれた

ものといえよう

副食の主菜には魚肉豆腐

などタンパク質を多く含む料理

を考える副菜には主菜に使わ

なかった野菜芋類などを使い

汁は主菜に合うものを用意する

焼き魚野菜の煮物青菜のお浸

しとみそ汁などでも栄養的バ

ランスはとれている

1980年頃までは多くの

家庭で和食の基本型が続いた

主食の量がやや減り副食が増

加とくに乳乳製品肉類の割

合が増加したこの頃栄養バ

ランスをはかる一つの指標であ

るPFCバランスが理想的な比

率を示した(左記参照)

しかしその後外食の日常化

家庭料理の欧米化が進み米の

摂取量が激減し脂質摂取の過

多などから生活習慣病が問題

となったこうした中各地で

食生活を見直す動きがみられる

ようになったその一つが学校

給食での取り組みである

戦後の食料難の中でパンと

牛乳に副食を加えた完全給食は

1950年に始まった197

6年に米飯が導入されるまで長

く続いたパン給食は和食の基

本型にも影響を与えたようだ

米飯給食は次第に増加し

2010年には週3回以上米

飯給食を実施している小中学

校は90以上となったが週5

回の米飯給食の実施は7以

上と高くない

ここでは2008年に5日

間すべてを米飯給食とした新潟

県三条市の事例を紹介しよう

成長期にバランスのよい食事

で健康な体をつくることそし

て望ましい食習慣を身につけ

生涯を健康に生きることをめざ

し完全米飯給食を実施したと

のこと

米は同市で生産される農薬

を減らしたコシヒカリを七分搗つ

きにした米飯を主食に副食は

主菜副菜汁を組み合わせる献

立をベースとしている主菜は

サケのフライ鶏肉ピリ辛焼き

さんま梅煮など伝統的な和食だ

けではないが和食の基本型の

中に取り入れる工夫がされてい

るパ

ンは油脂や糖分と相性が

良く肥満につながりやすいが

新潟県三条市の給食献立一例三条市の小中学校での献立例ご飯は三条市で収穫したコシヒカリを使用「お米だと腹持ちがよいのでデザートをあまり出さなくとも子どもたちが満足してくれる」とのこと洋風や中華風の献立でもおかずはご飯に合うものを選びスープなどの汁物は確実につけるように心がけている

火曜日

えだまめごはん

さけチーズフライ

くきわかめきんぴら

かきたまじる牛乳

小学校687kcal中学校823kcal

水曜日

ごはんとりにくのぴりからやきいかときゅうりの

あえものしょうがみそスープ牛乳小学校639kcal中学校752kcal

木曜日

ごはんさんまうめにたくあんあえにくじゃがに牛乳なし小学校688kcal中学校814kcal

金曜日ごはんカレーふりかけほうれんそうオムレツフレンチサラダパンプキンスープ牛乳小学校708kcal中学校833kcal

月曜日

ごはんいかのかりんあげ(2こ)

なっとうあえきのこけんちんじるのむヨーグルト

小学校619kcal中学校731kcal

2526 WASHOKU

七分搗米の飯は腹持ちがよく

おやつを食べる子どもが減った

だけでなく肥満の子どもが減

少傾向となり食生活のリズム

が良くなったとされる

また米飯に合う副食は土地

でとれる野菜類を取り入れやす

く季節にあわせてバラエティ

ーに富んだ献立を作ることがで

きる一汁三菜の食べ方の教育

を行った結果給食を残す子ど

もたちも減ったという

基本的な食事パターンが続く

中でも菜を工夫すれば変化に

富む食事を作ることはできる

季節の食材について学び年中

行事への知識も得られるだろう

また子どもたちが和食の基

本型を毎日の給食で体験してい

ることはきわめて重要なことで

ある時々経験するだけでは身

につかないものでも毎日繰り返

すことによって習慣化し定着

するのであるそしてやがて

自分で組み合わせを考えられる

ようになることが期待される

今後の学校給食の役割は大きい

といえるだろう

PFCバランスとは

FAO Statistics Yearbook(日本のみ食料需給表)参照栄養バランスが良いとされるP(たんぱく質)10~20F(脂質)20~30C(炭水化物)50~70の範囲が08~12に収まるように指数化した

日本でのPFCバランスの変化

アメリカとフランスのPFCバランス

タンパク質脂質炭水化物は人間にとって特に不可欠な「三大栄養素」PFCのPはProtein(たんぱく質)FはFat(脂質)CはCarbohydrate(炭水化物)の頭文字でPFCバランスとは食事の中での「たんぱく質」「脂質」「炭水化物」のそれぞれの摂取カロリーの比率健康的な生活をおくるためにはPFCバランスがたんぱく質15脂質25炭水化物60が理想的

給食時には全員で「いただきます」「ごちそうさま」を復唱食育にも力を入れているためそれら言葉の意味についても学校で教えている

米飯給食になってから児童たちの食の嗜し こ う

好に変化が生まれたとか児童たちに好きなおかずを聞いてみると「ハンバーグ」「カレー」などの定番メニューのほか「焼き魚」「納豆」などの和食メニューの名前が上がった

自分の分を食べ終わった児童たちが列をつくって競い合うようにご飯をおかわりしていたこの日の食べ残しはゼロ

C

P

F

14

12

1

08

06

アメリカ(2005~2007年)

C

P

F

14

12

1

08

06

フランス(2005~2007年)

「和食」の特徴 栄養5

日本人のPFCバランスは1965年当時は炭水化物に偏っていたが1980年は非常に理想的な配分になっていたしかしその後の日本人の食生活に肉や油脂類を多く摂り主食の米を食べる量が減り2010年時は欧米型に近づきつつある

C

P

F

14

12

1

08

06

日本1965年

C

P

F

14

12

1

08

06

日本1980年

C

P

F

14

12

1

08

06

日本2010年

2728 WASHOKU

お客を迎える前には店先に打ち水を水で清め準備が整ったことを伝える趣向に合う軸を選ぶのももてなしの基本飾る花は主人自ら育てたものそれを床の花入に活けるのも主人庭に150種ほどの草花を植え日々育てることもしつらいの準備客は女将の温かいもてなしに迎えられる

「和食」の特徴6

しつらい

人をもてなすためのこころとかたち

もてなしは客に対する一方的なサービスではない

お互いに思いやる気持ちから生まれるこころよさである

手入れの行き届いた庭は掃き

清めて水を打ち床の間には軸

を掛け季節の草花を生ける

座敷の襖ふ

すま

も夏には葭よ

しど戸に入れ替

え夏は涼やかに冬は暖かに

すべて相まってもてなしのた

めの用意を整えることそれが

しつらい和食とりわけ懐石

料理においては食材や料理と

ともにしつらいは非常に重要

な要素となる

家庭でも食事をつくる人は

食べる人の顔を思い浮かべなが

ら食事の用意をする食べる人

はつくってくれた人の気持ちを

考えて賞味するここに互いに

もてなす喜びが生まれるのでは

ないだろうか

こうしたもてなしの文化を極

限にまで洗練させた姿が料亭の

もてなしである京都府の無形

文化技術保持者に料理人として

初めて認定された京都の老舗料

亭「瓢亭」の十四代主人高橋英一

さんにその心を聞いてみよう

「料亭は日本文化の凝縮のひと

つと言えます玄関から入って

座敷に行くまでに通る露地にも

季節感があり部屋に入れば時

季や行事の軸がありその座敷

のために選んだ花が飾られる

日本人が自然と身につけている

桜の器を使うことで膳の上にぱっと花が咲くような華やかさが生まれるあしらいは酢取り防風岩海苔

秋の花菊の器はこっくり深い色合いも相まって秋に似合う風情を持つあしらいは岩茸菊花

深さのあるガラスの器に氷が敷き詰められる涼感を目でも舌にも感じるあしらいは穂紫蘇寄せ莫大

縁起のいい鶴は新年の席でも使われるモチーフあしらいは水前寺海苔紫芽紫蘇

四季の感性で受け止めてもらえ

るよう整えお出迎えします

料亭は普段とは違うハレの場で

すがとはいえ行き過ぎず足り

ないことのないよう自然なし

つらいそしてもてなしを心が

けます」

「瓢亭」の座敷に飾られるのは

主人が庭で丹誠込めて育て自

ら生ける茶花

「もてなしの根

底に利休さんの『花は野にある

ごとく』の言葉を思いますが簡

単なようでそれが難しい」自

然体でのもてなしを生むしつら

えは名店においても日々心を

くだき工夫するのだ

「瓢亭」では1年をとおして明石の鯛の向付を供しているが季節ごとに

器とあしらいを変えることで四季を演出している

四季の演出

2728 WASHOKU

和食はご飯と菜あるいはご飯とお汁というように常にご飯を間にはさんで菜や汁をとるのが本来の食べ方下のような不作法とされる箸使い(嫌い箸)があるので覚えておきたい

ご飯は茶碗に味噌汁はお椀

に焼き魚だったら平皿にと普

段料理に合わせて何気なく使う

食器種類の多さもさることな

がら形や素材もさまざま欧

米はもちろん近隣諸国を見回

してもこれほど多種多様な器を

使う国はないそれは四季が明

確なことと無関係ではない

「自宅でも季節に合わせた器

にするだけで気分が変わりま

すよ」と前出「瓢亭」のご主人は

語る 

春であれば華やかな色や形の

もの夏はガラスや青磁など涼

しげな素材の器秋は実りのあ

る彩りがあるもの冬は厚手の

陶器や木製など温もりのあるも

の色素材形を変えるだけで

季節感を演出できる「和食」な

らではの楽しみ

食事の際当たり前のように

使っている箸も日本の食文化

を代表する食具奈良時代以

降匙さ

を使う伝統が消え箸だ

けを使うようになったため熱

い汁物は椀を持ち直接口を

つけてすする文化が確立同

時に椀箸ともに個人所有が基

本となった椀や箸を共有し

匙やレンゲを使うほかの東南

アジア諸国とは異なる食文化

を形成箸食文化圏の中でも

唯一箸だけでご飯を食べる国

となったまた一口に箸といっ

ても食箸取り箸菜箸など用

途に合わせてさまざま食べ

る際に使う食箸だけを見ても

形や素材のほか加工や長さも

豊富にそろうのだ

「和食」の特徴7

箸と椀

「和食」を支える箸と椀

箸食文化圏の中でも唯一箸だけを使う国日本

季節感を感じさせる器とともに独特の食具文化も誇る

渡し箸食事の途中でお箸を

食器の上に渡し置くこと

寄せ箸遠くの食器を

箸で手元に引き寄せる行為

指し箸食事中箸で人やものを指すこと

迷い箸どの料理にしようか迷い箸を料理の上で動かすこと

移り箸いったん取りかけてから

ほかの料理にお箸をうつすこと

箸には食事に使う食箸と調理に使う菜箸とがある菜箸は熱から手を守るため30~50と長く片方がなくならないよう糸でつながっているものもある取り箸は菜箸の一種食箸は個人所有が基本のため使う人に合わせた長さが用意されている漆塗りや螺鈿細工を施したものも多い

種類

形状だけでなく素材もさまざまで近年は黒檀や鉄木など硬質な木が使われることが多い日本の木としては特有の香りがあり古くから懐石用や割り箸に使われてきた杉耐水性耐湿性が高く保存性に優れる上に軽くて持ちやすい檜強くしなりがあり細かいものを取りやすい竹などがある

素材

家庭で使う食箸の形には角箸や四角で角が丸い胴張り五角六角七角八角のほか削りなどがあり持ちやすさに合わせて選べる箸先に加工が施されたものもある来客用に使う銘々箸や割り箸には断面が小判型で割れ目と溝が付いた元禄箸や中央部が太く両端が細い利休箸などが用意されている

日本人にとっての箸は調理から盛りつけ食事までをこなす大事な道具食箸は個人所有が基本のため個々に合わせて選べるのも特徴だ

箸の働き

箸使いの作法を知る

【嫌い箸】

食箸

八角箸 削り箸

菜箸

檜竹

「和食」の特徴 しつらい 箸と椀6 7

2930 WASHOKU

神し ん せ ん

饌として神へ供えられるお神酒は神棚の最上段の中央に置かれるほど重要な地位を占めている

日本酒を造る酒蔵は全国に約1600弱その数は年々減り続けているが数年に一度「日本酒ブーム」も起きている

日本酒とは米と米こうじ

そして水を主な原料にしてそ

れらを発酵させて造られる

原料には主食用の米ではなく

酒造りに適した性質を選び品

種改良された酒し

ゅぞうこうてきまい

造好適米を使

うことが一般的だまた日本

酒の80を占める水も品質を

左右する大きな要因日本酒

の香味を損なわない良質な水

が必須だ

日本酒の醸じ

ょうぞう造の工程にはさ

まざまな技術が伴う例えば米

を精米して味と香りを調整する

技術これは米の外側にあるた

んぱく質や脂質といった雑味の

もとを除くことが目的だが大だ

吟ぎんじょう醸酒にもなると米を半分以

上削ってから仕込むこともある

次いで米を発酵させる技術

酒の場合の発酵とは酵こ

うぼ母が糖類

を食べてアルコールを出すこと

をいうが米には糖類が含まれな

いためまずは米をこうじ菌の酵

素によって糖類へと変えそこに

酵母を加えて発酵させるという

複雑な手順(複式発酵)が必要だ

この手順で使われるこうじもバ

ラこうじと呼ばれる日本独特の

ものだバラこうじは糖化力が

高いのが特徴で日本酒の香りや

味に大きく影響する

稲作を中心に文化を育んでき

た日本では米餅米から造ら

れる酒は地域を問わず重要な

ものとされている米の一粒一

粒に神が宿り同じように酒も

神のおかげで造ることができる

と考えられてきたそして酒

もまた食べ物と共に神に近づ

くための手段として古くから用

いられてきた

同時に家族や親族地域で人

と人をつなぐ上でも酒は大き

な役割を担っている例えばお

神み

き酒祭礼の後には神の酒を

人々が口にする神と同じ酒を

飲みそれを人々が分かち合う

ことで地域やコミュニティが

結束力を強めるのだろう

米や麦やさつまいもなどを原

料とする焼酎も日本酒と並び

日本の國酒とされている酒は

人と人の心をほぐし食事を引

き立たせる重要な役割を担って

いるのだ

「和食」の特徴8

「和食」を引き立たせ

心をほぐす日本の酒

日本人にとっての主食であり精神のかなめでもある米

その米で醸か

される日本酒は「和食」にとって欠かせない要素

日本の「國こ

くしゅ酒

」にもなっている

2930 WASHOKU

「和食」の特徴9

和菓子日本茶

暮らしに寄り添う和菓子とお茶

自然の恵みに感謝し季節の移ろいを敏感に表現する和菓子

日本茶は喉のかわきを癒すだけでなく心を癒し心を高める飲みものである

「和食」の特徴 酒 和菓子8 9

ハレの日の願いを込めた和菓子

和菓子分類餅もの 餅団子大福など蒸しもの 饅頭蒸羊

よ う か ん

羹外う い ろ う

郎村む ら さ め

雨など煉もの 煉

ね り き り

切こなし求ぎ ゅ う ひ

肥飴葛く ず

菓子など焼きもの 味噌松風煎

せ ん べ い

餅桃も も や ま

山カステラどら焼など流しもの 錦

にしきだま

玉煉ね り よ う か ん

羊羹水み ず よ う か ん

羊羹など揚げもの 揚げ煎

せ ん べ い

餅かりんとうなど打ちもの(押しもの) 落

ら く が ん

雁など岡もの 最

も な か

中きんとん鹿か の こ

の子すはまなどかけもの 金

こ ん ぺ い と う

平糖五ご し き ま め

色豆石いしごろも

衣など

これは和菓子の製法によって大まかに分類した表このほか含有する水分量によって生菓子半生 菓 子 干 菓 子などの分け方や上じ ょ う な ま が し

生菓子並菓子駄だ が し

菓子などの分類もある

「岡もの」とはすでにできあがっ た素材をあわせたもの (例きんとん=飴玉とそぼろ餡)

甘く味付けしたごぼうと白味噌餡を赤や白の餅や求

ぎ ゅ う ひ

肥で包んだ生菓子平安時代の新年行事のひとつで長寿を願っておこなわれた「歯固め」の餅に由来する餅と味噌の組み合わせから「包み雑煮」とも呼ばれた

葩はなびらもち

一 月

旧暦十月は「亥の月」と呼ばれていたがその月のさらに「亥の日」に行われる年中行事の際に食べられていた菓子旧暦では10月が冬の始まりそのタイミングで無病息災と多産の猪にあやかって子孫繁栄を願ってこれを食べていたという

亥い の こ も ち

の子餅

十 月六 月

白いういろうの上に小豆の粒餡を散らした菓子古来京都で旧暦六月の晦

み そ か

日(30日)に無病息災を祈願して行われている

「夏なごしのはらい

越祓」になぞらえて初夏の頃に食べられている小豆には邪気祓いの意味があり三角の形は氷を表している

水無月

五 月

平たく丸めた上新粉の餅をふたつに折り中に小豆や味噌の餡を挟んでそれを柏の葉で包んだ菓子柏の葉は新芽が育つまで古い葉が落ちないことから

「子孫繁栄」を願って旧暦五月五日の端

た ん ご

午の節句の供く も つ

物として用いられてきた

柏餅

日本ならではのお茶の製法である手揉みは茶葉の繊維をつぶしながらうまみを引き出すために行う作業手揉みすると茶葉が切れないため茶の甘みを保つことができる

菓子もまた「和食」にとって欠

かせない要素でお客様用の「上

菓子」普段食べる「饅頭」や「餅

菓子」などに分かれるほかに

干菓子や駄菓子など菓子の種

類は多いまた例えば団子や

大福などは「餅もの」求肥や飴

などは「煉りもの」錦玉や

水みずようかん

羊羹などは「流しもの」などと

いうようにその製法によって

分類されることもある米や麦

小豆を代表とする豆類そして

砂糖や水あめなどの材料でバ

ラエティに富んだ菓子が生み出

されてきた

お茶会などの席で抹茶ととも

に味わう菓子もあり季節に合

わせて材料や色やデザインが選

ばれ味覚だけでなく視覚で楽

しむこともある

また年中行事と結びつく菓

子もある例えば旧暦三月三日

の「ひな祭り」では邪気をはら

い強い生命力を象徴するよも

ぎの草もちでつくった草餅を食

べる

和菓子には日本茶がふさわし

い緑茶は12世紀に中国から日

本に伝わったが今では生の茶

葉を蒸してから揉んで乾燥させ

る緑茶の製法は日本独特のもの

となっている緑茶に含まれる

カフェインは覚醒効果がまた

カテキンには抗酸化作用があり

ビタミンCも多く含まれて健

康によい日本茶独特の香りと

うま味は日本文化そのもので

ある

出典「和菓子の歴史展」第五十回虎屋文庫資料展より

3132 WASHOKU

日本の「和食」の文化は自然

環境だけでなく海外からの影

響によっても絶えず変化して

きた

近代以降にはコロッケとん

かつなど洋風料理を和食の基本

型に組み合わせた食事肉と野

菜の煮物や和え物などそれまで

にはない料理が工夫されたそ

の多くは和食の基本型味噌や

醤油を用いた味付け箸で食べ

られる料理など「和食」の要素

を保ちつつ伝えられてきた

しかし第二次世界大戦後高

度経済成長期を迎えると日本人

の食生活は急速に変化する

1970年代にファストフー

ド店ファミリーレストランが

各地に開店しコンビニなども

広がった

1980年頃主食と副食の

バランスは理想的とされたが

(26頁参照)その後米の消費量

はさらに減りパン食が増加

肉類油脂乳乳製品の消費量

も増加し食料自給率も下がっ

た家族での外食が日常化し

家庭の食事も欧米化した

食育の必要性

「和食」が危ないどうしたら伝えられるのか

この150年間で大きく変化し「和食」はいま衰えつつあるその原因はどこにあるのだろうか

食生活の変化

日本の食料自給率の変化農林水産省「食料需給表」より作成

日本のものを食べなくなって 「和食」はどうなる 日本の食料自給率は下がり続けている1965(昭和40)年度はカロリーベースで73だったが2012(平成24)年度は39その大きな原因のひとつは国内で自給可能な米や魚や野菜などの消費量が減少する一方国内で生産が困難な飼料穀物を食べて育つ畜産物や原料を輸入に頼ることが多い冷凍加工食品や小麦の消費が増加したことだと考えられている炭水化物たんぱく質脂肪分をバランスよく摂取する健康的な「和食」に未来はあるのか

国民一人一日当たりの供給純食料農林水産省「食料需給表」より作成

食べる米の量が50年で半減 増えたのは肉と乳製品 国民一人あたりが食べる量を品目別に眺めて分かることそれは日本人が食べる米の量が著しく減ってきたことだ1960(昭和35)年度は一日あたりの米の消費量は約315gだったが2010(平成22年)年度は163gに約半減その代わりに増えたのは牛乳乳製品(約60gから約240g)と肉類(約14gから約80gへ)野菜と魚を中心としたおかずでご飯を食べるという

「和食」のスタイルの変化がわかる

食料費における外食と中食の割合の推移総務省統計局「家計調査年報」より作成

家で食べても 調理することが減っている 外食に対して家庭で作って食べる食事を内食というが弁当や惣菜など調理をせずに食べられるものを買ってきて済ます食事は中食と呼ぶ実はこの中食の割合が増えている外食が占める割合は2000(平成12)年以降横ばいなのに対して中食は増え続けその代わりに内食が減っている食事は家で食べても調理はしないという家庭が増えているのだとすれば「和食」にとって大切な要素を子どもたちに伝える機会が減っているとはいえないだろか

食料自給率(金額ベース)

食料自給率(主食用穀物)

食料自給率(カロリーベース)飼料自給率

米 野菜 肉類牛乳乳製品 魚介類

内食 中食 外食

(g人日)

3132 WASHOKU

50

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01992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012

70

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95

01992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012

一日に一度はお米を食べないと気がすまない人の割合博報堂生活総研「生活定点2012」

お正月におせち料理を食べた人の割合博報堂生活総研「生活定点2012」

一日に一度は米を炊いたご飯を食べなければ気がすまない人の割合が実はこの20年間で減っているというデータがある1992(平成4)年には714だったが2012(平成24)年には564にまで落ち込んでいるのだ

家族や親族で集まっておせち料理を囲みながら新しい一年の無事を祝うお正月実はおせち料理を食べる人も毎年少なくなっている1992(平成4)年には866だったが2012(平成24)年には748だった

電子レンジの普及や冷凍食品

インスタント食品などにより

食生活は便利になったが家庭

内で調理をする機会が減ったと

もいえる

こうしたなか「和食」の優れ

た点をどうしたら伝えられるの

だろうか親から子へ家庭の食

を伝えるだけでなく学校を通

して子どもたちにさらにその

親の世代にも伝える必要があろ

う高齢者からは「和食」につ

いて具体的に教わることも求

められる

離乳期からの食べ物の選び方

幼児期の食経験を豊富にするこ

となどはとくに重要であろう

小さな頃からの食習慣はその

後の食習慣に大きくかかわって

くるからだ

だしのおいしい味を日々体験

することや魚を味わい骨を箸

でとる訓練を楽しい雰囲気のな

かで教わることなどその積み

重ねの中で「和食」は伝わるので

あろう

経験しない味は異文化とと

らえられるであろうし体験し

ていない調理は簡単でも難しく

感じる食事を用意する過程を

日々見る経験手伝う楽しさ美

しい食器を大切にして使うこと

同じ食べ物を家族や仲間と味わ

い祭りや花見などで共に食べ

る経験を積み重ねることは文

化としての「和食」を伝えるだけ

でなく生きる力を育むことにも

つながるであろう

壁にではなく居間に向かって設置されることが多くなった現在のキッチン夫婦共働きだというこの家庭では夫が厨房に立つことも少なくないというこのように食事の準備を子どもと一緒に行うことで「和食」にとって大切な要素が次の世代に伝えられるようになるのだろう

世帯あたり1ヶ月間の穀類支出金額内訳

1962年3434円

パン

麺他

2010年6373円

パン

麺他

ご飯を食べなくても平気 そんな人が増えている

お米よりパンと麺 その傾向が加速中

おせち料理を食べる派が 毎年ジワリ減少中

1962(昭和37)年度には8割以上を占めていた米への支出が2010(平成22)年度にはパンにとって代わられる米の消費量はパンより多いが家庭では炊飯する必要のある米よりすぐに食べられるパンや麺の支出が多くなり家庭での料理が減っていることを示しているともいえよう

総務省統計局「家計調査年報」より作成

いただきます

ごちそうさま

「和食」の未来

今世紀に入ってから世界に和食ブー

ムが起きている味わいやヘルシーさに

注目が集まり世界中のいたるところに

日本食の店が数多くある

そのように世界から注目される「和食」

だが本家本元の日本国内でその将来が

危ぶまれている

これまで見てきたように「和食」には

新しいものを柔軟に取り込む歴史があっ

た日本人は太古の昔より外国からも

たらされた食文化を自分たちの食生活に

取り込んで日本独自の食文化を発展さ

せてきた地域ごとに地域の環境にふさ

わしい料理をつくり出してきた食べる

料理や食べ方もその時代ごと地域ごと

に変わってきた

その中で貫かれてきたことがある

豊かな自然がもたらす食材のおいしさ

を生かす調理法を工夫し味わうこと

食卓に季節感をしつらえもてなしの気

持ちを共に感じ合う食事の場を持つこ

と一汁三菜という組み合わせを食事

の基本スタイルとして健康的な食生活

をおくることお正月におせち料理を

祝いの日にお赤飯を家族と共に食べる

など食事は家族の絆となっている

豊かな自然を守る気持ちと同じように

日本人を健やかに生かし人と人をつな

いできた「和食」もまた守るべき大切な

日本文化ではないだろうか

「いただきます」「ごちそうさま」と言っ

てみるだけでも「和食」は私たちに身近

になる人と人をあたたかく結びつけて

くれる

日本人はやはりお米のご飯がおいしい

と思うだしのきいた汁でおなかも心も

癒されるこの日本人が長い歴史の中で

育んできたすばらしい財産である「和

食」がこのままなくなってよいと考える

人はいないだろう世界の中でもすぐれ

た食文化として認められた「和食」を日本

の誇りとし大切にして次の世代に受け

継いでいくきっかけにこの冊子がなれ

ば幸いである

ごちそうさま

和 食

2526 WASHOKU

七分搗米の飯は腹持ちがよく

おやつを食べる子どもが減った

だけでなく肥満の子どもが減

少傾向となり食生活のリズム

が良くなったとされる

また米飯に合う副食は土地

でとれる野菜類を取り入れやす

く季節にあわせてバラエティ

ーに富んだ献立を作ることがで

きる一汁三菜の食べ方の教育

を行った結果給食を残す子ど

もたちも減ったという

基本的な食事パターンが続く

中でも菜を工夫すれば変化に

富む食事を作ることはできる

季節の食材について学び年中

行事への知識も得られるだろう

また子どもたちが和食の基

本型を毎日の給食で体験してい

ることはきわめて重要なことで

ある時々経験するだけでは身

につかないものでも毎日繰り返

すことによって習慣化し定着

するのであるそしてやがて

自分で組み合わせを考えられる

ようになることが期待される

今後の学校給食の役割は大きい

といえるだろう

PFCバランスとは

FAO Statistics Yearbook(日本のみ食料需給表)参照栄養バランスが良いとされるP(たんぱく質)10~20F(脂質)20~30C(炭水化物)50~70の範囲が08~12に収まるように指数化した

日本でのPFCバランスの変化

アメリカとフランスのPFCバランス

タンパク質脂質炭水化物は人間にとって特に不可欠な「三大栄養素」PFCのPはProtein(たんぱく質)FはFat(脂質)CはCarbohydrate(炭水化物)の頭文字でPFCバランスとは食事の中での「たんぱく質」「脂質」「炭水化物」のそれぞれの摂取カロリーの比率健康的な生活をおくるためにはPFCバランスがたんぱく質15脂質25炭水化物60が理想的

給食時には全員で「いただきます」「ごちそうさま」を復唱食育にも力を入れているためそれら言葉の意味についても学校で教えている

米飯給食になってから児童たちの食の嗜し こ う

好に変化が生まれたとか児童たちに好きなおかずを聞いてみると「ハンバーグ」「カレー」などの定番メニューのほか「焼き魚」「納豆」などの和食メニューの名前が上がった

自分の分を食べ終わった児童たちが列をつくって競い合うようにご飯をおかわりしていたこの日の食べ残しはゼロ

C

P

F

14

12

1

08

06

アメリカ(2005~2007年)

C

P

F

14

12

1

08

06

フランス(2005~2007年)

「和食」の特徴 栄養5

日本人のPFCバランスは1965年当時は炭水化物に偏っていたが1980年は非常に理想的な配分になっていたしかしその後の日本人の食生活に肉や油脂類を多く摂り主食の米を食べる量が減り2010年時は欧米型に近づきつつある

C

P

F

14

12

1

08

06

日本1965年

C

P

F

14

12

1

08

06

日本1980年

C

P

F

14

12

1

08

06

日本2010年

2728 WASHOKU

お客を迎える前には店先に打ち水を水で清め準備が整ったことを伝える趣向に合う軸を選ぶのももてなしの基本飾る花は主人自ら育てたものそれを床の花入に活けるのも主人庭に150種ほどの草花を植え日々育てることもしつらいの準備客は女将の温かいもてなしに迎えられる

「和食」の特徴6

しつらい

人をもてなすためのこころとかたち

もてなしは客に対する一方的なサービスではない

お互いに思いやる気持ちから生まれるこころよさである

手入れの行き届いた庭は掃き

清めて水を打ち床の間には軸

を掛け季節の草花を生ける

座敷の襖ふ

すま

も夏には葭よ

しど戸に入れ替

え夏は涼やかに冬は暖かに

すべて相まってもてなしのた

めの用意を整えることそれが

しつらい和食とりわけ懐石

料理においては食材や料理と

ともにしつらいは非常に重要

な要素となる

家庭でも食事をつくる人は

食べる人の顔を思い浮かべなが

ら食事の用意をする食べる人

はつくってくれた人の気持ちを

考えて賞味するここに互いに

もてなす喜びが生まれるのでは

ないだろうか

こうしたもてなしの文化を極

限にまで洗練させた姿が料亭の

もてなしである京都府の無形

文化技術保持者に料理人として

初めて認定された京都の老舗料

亭「瓢亭」の十四代主人高橋英一

さんにその心を聞いてみよう

「料亭は日本文化の凝縮のひと

つと言えます玄関から入って

座敷に行くまでに通る露地にも

季節感があり部屋に入れば時

季や行事の軸がありその座敷

のために選んだ花が飾られる

日本人が自然と身につけている

桜の器を使うことで膳の上にぱっと花が咲くような華やかさが生まれるあしらいは酢取り防風岩海苔

秋の花菊の器はこっくり深い色合いも相まって秋に似合う風情を持つあしらいは岩茸菊花

深さのあるガラスの器に氷が敷き詰められる涼感を目でも舌にも感じるあしらいは穂紫蘇寄せ莫大

縁起のいい鶴は新年の席でも使われるモチーフあしらいは水前寺海苔紫芽紫蘇

四季の感性で受け止めてもらえ

るよう整えお出迎えします

料亭は普段とは違うハレの場で

すがとはいえ行き過ぎず足り

ないことのないよう自然なし

つらいそしてもてなしを心が

けます」

「瓢亭」の座敷に飾られるのは

主人が庭で丹誠込めて育て自

ら生ける茶花

「もてなしの根

底に利休さんの『花は野にある

ごとく』の言葉を思いますが簡

単なようでそれが難しい」自

然体でのもてなしを生むしつら

えは名店においても日々心を

くだき工夫するのだ

「瓢亭」では1年をとおして明石の鯛の向付を供しているが季節ごとに

器とあしらいを変えることで四季を演出している

四季の演出

2728 WASHOKU

和食はご飯と菜あるいはご飯とお汁というように常にご飯を間にはさんで菜や汁をとるのが本来の食べ方下のような不作法とされる箸使い(嫌い箸)があるので覚えておきたい

ご飯は茶碗に味噌汁はお椀

に焼き魚だったら平皿にと普

段料理に合わせて何気なく使う

食器種類の多さもさることな

がら形や素材もさまざま欧

米はもちろん近隣諸国を見回

してもこれほど多種多様な器を

使う国はないそれは四季が明

確なことと無関係ではない

「自宅でも季節に合わせた器

にするだけで気分が変わりま

すよ」と前出「瓢亭」のご主人は

語る 

春であれば華やかな色や形の

もの夏はガラスや青磁など涼

しげな素材の器秋は実りのあ

る彩りがあるもの冬は厚手の

陶器や木製など温もりのあるも

の色素材形を変えるだけで

季節感を演出できる「和食」な

らではの楽しみ

食事の際当たり前のように

使っている箸も日本の食文化

を代表する食具奈良時代以

降匙さ

を使う伝統が消え箸だ

けを使うようになったため熱

い汁物は椀を持ち直接口を

つけてすする文化が確立同

時に椀箸ともに個人所有が基

本となった椀や箸を共有し

匙やレンゲを使うほかの東南

アジア諸国とは異なる食文化

を形成箸食文化圏の中でも

唯一箸だけでご飯を食べる国

となったまた一口に箸といっ

ても食箸取り箸菜箸など用

途に合わせてさまざま食べ

る際に使う食箸だけを見ても

形や素材のほか加工や長さも

豊富にそろうのだ

「和食」の特徴7

箸と椀

「和食」を支える箸と椀

箸食文化圏の中でも唯一箸だけを使う国日本

季節感を感じさせる器とともに独特の食具文化も誇る

渡し箸食事の途中でお箸を

食器の上に渡し置くこと

寄せ箸遠くの食器を

箸で手元に引き寄せる行為

指し箸食事中箸で人やものを指すこと

迷い箸どの料理にしようか迷い箸を料理の上で動かすこと

移り箸いったん取りかけてから

ほかの料理にお箸をうつすこと

箸には食事に使う食箸と調理に使う菜箸とがある菜箸は熱から手を守るため30~50と長く片方がなくならないよう糸でつながっているものもある取り箸は菜箸の一種食箸は個人所有が基本のため使う人に合わせた長さが用意されている漆塗りや螺鈿細工を施したものも多い

種類

形状だけでなく素材もさまざまで近年は黒檀や鉄木など硬質な木が使われることが多い日本の木としては特有の香りがあり古くから懐石用や割り箸に使われてきた杉耐水性耐湿性が高く保存性に優れる上に軽くて持ちやすい檜強くしなりがあり細かいものを取りやすい竹などがある

素材

家庭で使う食箸の形には角箸や四角で角が丸い胴張り五角六角七角八角のほか削りなどがあり持ちやすさに合わせて選べる箸先に加工が施されたものもある来客用に使う銘々箸や割り箸には断面が小判型で割れ目と溝が付いた元禄箸や中央部が太く両端が細い利休箸などが用意されている

日本人にとっての箸は調理から盛りつけ食事までをこなす大事な道具食箸は個人所有が基本のため個々に合わせて選べるのも特徴だ

箸の働き

箸使いの作法を知る

【嫌い箸】

食箸

八角箸 削り箸

菜箸

檜竹

「和食」の特徴 しつらい 箸と椀6 7

2930 WASHOKU

神し ん せ ん

饌として神へ供えられるお神酒は神棚の最上段の中央に置かれるほど重要な地位を占めている

日本酒を造る酒蔵は全国に約1600弱その数は年々減り続けているが数年に一度「日本酒ブーム」も起きている

日本酒とは米と米こうじ

そして水を主な原料にしてそ

れらを発酵させて造られる

原料には主食用の米ではなく

酒造りに適した性質を選び品

種改良された酒し

ゅぞうこうてきまい

造好適米を使

うことが一般的だまた日本

酒の80を占める水も品質を

左右する大きな要因日本酒

の香味を損なわない良質な水

が必須だ

日本酒の醸じ

ょうぞう造の工程にはさ

まざまな技術が伴う例えば米

を精米して味と香りを調整する

技術これは米の外側にあるた

んぱく質や脂質といった雑味の

もとを除くことが目的だが大だ

吟ぎんじょう醸酒にもなると米を半分以

上削ってから仕込むこともある

次いで米を発酵させる技術

酒の場合の発酵とは酵こ

うぼ母が糖類

を食べてアルコールを出すこと

をいうが米には糖類が含まれな

いためまずは米をこうじ菌の酵

素によって糖類へと変えそこに

酵母を加えて発酵させるという

複雑な手順(複式発酵)が必要だ

この手順で使われるこうじもバ

ラこうじと呼ばれる日本独特の

ものだバラこうじは糖化力が

高いのが特徴で日本酒の香りや

味に大きく影響する

稲作を中心に文化を育んでき

た日本では米餅米から造ら

れる酒は地域を問わず重要な

ものとされている米の一粒一

粒に神が宿り同じように酒も

神のおかげで造ることができる

と考えられてきたそして酒

もまた食べ物と共に神に近づ

くための手段として古くから用

いられてきた

同時に家族や親族地域で人

と人をつなぐ上でも酒は大き

な役割を担っている例えばお

神み

き酒祭礼の後には神の酒を

人々が口にする神と同じ酒を

飲みそれを人々が分かち合う

ことで地域やコミュニティが

結束力を強めるのだろう

米や麦やさつまいもなどを原

料とする焼酎も日本酒と並び

日本の國酒とされている酒は

人と人の心をほぐし食事を引

き立たせる重要な役割を担って

いるのだ

「和食」の特徴8

「和食」を引き立たせ

心をほぐす日本の酒

日本人にとっての主食であり精神のかなめでもある米

その米で醸か

される日本酒は「和食」にとって欠かせない要素

日本の「國こ

くしゅ酒

」にもなっている

2930 WASHOKU

「和食」の特徴9

和菓子日本茶

暮らしに寄り添う和菓子とお茶

自然の恵みに感謝し季節の移ろいを敏感に表現する和菓子

日本茶は喉のかわきを癒すだけでなく心を癒し心を高める飲みものである

「和食」の特徴 酒 和菓子8 9

ハレの日の願いを込めた和菓子

和菓子分類餅もの 餅団子大福など蒸しもの 饅頭蒸羊

よ う か ん

羹外う い ろ う

郎村む ら さ め

雨など煉もの 煉

ね り き り

切こなし求ぎ ゅ う ひ

肥飴葛く ず

菓子など焼きもの 味噌松風煎

せ ん べ い

餅桃も も や ま

山カステラどら焼など流しもの 錦

にしきだま

玉煉ね り よ う か ん

羊羹水み ず よ う か ん

羊羹など揚げもの 揚げ煎

せ ん べ い

餅かりんとうなど打ちもの(押しもの) 落

ら く が ん

雁など岡もの 最

も な か

中きんとん鹿か の こ

の子すはまなどかけもの 金

こ ん ぺ い と う

平糖五ご し き ま め

色豆石いしごろも

衣など

これは和菓子の製法によって大まかに分類した表このほか含有する水分量によって生菓子半生 菓 子 干 菓 子などの分け方や上じ ょ う な ま が し

生菓子並菓子駄だ が し

菓子などの分類もある

「岡もの」とはすでにできあがっ た素材をあわせたもの (例きんとん=飴玉とそぼろ餡)

甘く味付けしたごぼうと白味噌餡を赤や白の餅や求

ぎ ゅ う ひ

肥で包んだ生菓子平安時代の新年行事のひとつで長寿を願っておこなわれた「歯固め」の餅に由来する餅と味噌の組み合わせから「包み雑煮」とも呼ばれた

葩はなびらもち

一 月

旧暦十月は「亥の月」と呼ばれていたがその月のさらに「亥の日」に行われる年中行事の際に食べられていた菓子旧暦では10月が冬の始まりそのタイミングで無病息災と多産の猪にあやかって子孫繁栄を願ってこれを食べていたという

亥い の こ も ち

の子餅

十 月六 月

白いういろうの上に小豆の粒餡を散らした菓子古来京都で旧暦六月の晦

み そ か

日(30日)に無病息災を祈願して行われている

「夏なごしのはらい

越祓」になぞらえて初夏の頃に食べられている小豆には邪気祓いの意味があり三角の形は氷を表している

水無月

五 月

平たく丸めた上新粉の餅をふたつに折り中に小豆や味噌の餡を挟んでそれを柏の葉で包んだ菓子柏の葉は新芽が育つまで古い葉が落ちないことから

「子孫繁栄」を願って旧暦五月五日の端

た ん ご

午の節句の供く も つ

物として用いられてきた

柏餅

日本ならではのお茶の製法である手揉みは茶葉の繊維をつぶしながらうまみを引き出すために行う作業手揉みすると茶葉が切れないため茶の甘みを保つことができる

菓子もまた「和食」にとって欠

かせない要素でお客様用の「上

菓子」普段食べる「饅頭」や「餅

菓子」などに分かれるほかに

干菓子や駄菓子など菓子の種

類は多いまた例えば団子や

大福などは「餅もの」求肥や飴

などは「煉りもの」錦玉や

水みずようかん

羊羹などは「流しもの」などと

いうようにその製法によって

分類されることもある米や麦

小豆を代表とする豆類そして

砂糖や水あめなどの材料でバ

ラエティに富んだ菓子が生み出

されてきた

お茶会などの席で抹茶ととも

に味わう菓子もあり季節に合

わせて材料や色やデザインが選

ばれ味覚だけでなく視覚で楽

しむこともある

また年中行事と結びつく菓

子もある例えば旧暦三月三日

の「ひな祭り」では邪気をはら

い強い生命力を象徴するよも

ぎの草もちでつくった草餅を食

べる

和菓子には日本茶がふさわし

い緑茶は12世紀に中国から日

本に伝わったが今では生の茶

葉を蒸してから揉んで乾燥させ

る緑茶の製法は日本独特のもの

となっている緑茶に含まれる

カフェインは覚醒効果がまた

カテキンには抗酸化作用があり

ビタミンCも多く含まれて健

康によい日本茶独特の香りと

うま味は日本文化そのもので

ある

出典「和菓子の歴史展」第五十回虎屋文庫資料展より

3132 WASHOKU

日本の「和食」の文化は自然

環境だけでなく海外からの影

響によっても絶えず変化して

きた

近代以降にはコロッケとん

かつなど洋風料理を和食の基本

型に組み合わせた食事肉と野

菜の煮物や和え物などそれまで

にはない料理が工夫されたそ

の多くは和食の基本型味噌や

醤油を用いた味付け箸で食べ

られる料理など「和食」の要素

を保ちつつ伝えられてきた

しかし第二次世界大戦後高

度経済成長期を迎えると日本人

の食生活は急速に変化する

1970年代にファストフー

ド店ファミリーレストランが

各地に開店しコンビニなども

広がった

1980年頃主食と副食の

バランスは理想的とされたが

(26頁参照)その後米の消費量

はさらに減りパン食が増加

肉類油脂乳乳製品の消費量

も増加し食料自給率も下がっ

た家族での外食が日常化し

家庭の食事も欧米化した

食育の必要性

「和食」が危ないどうしたら伝えられるのか

この150年間で大きく変化し「和食」はいま衰えつつあるその原因はどこにあるのだろうか

食生活の変化

日本の食料自給率の変化農林水産省「食料需給表」より作成

日本のものを食べなくなって 「和食」はどうなる 日本の食料自給率は下がり続けている1965(昭和40)年度はカロリーベースで73だったが2012(平成24)年度は39その大きな原因のひとつは国内で自給可能な米や魚や野菜などの消費量が減少する一方国内で生産が困難な飼料穀物を食べて育つ畜産物や原料を輸入に頼ることが多い冷凍加工食品や小麦の消費が増加したことだと考えられている炭水化物たんぱく質脂肪分をバランスよく摂取する健康的な「和食」に未来はあるのか

国民一人一日当たりの供給純食料農林水産省「食料需給表」より作成

食べる米の量が50年で半減 増えたのは肉と乳製品 国民一人あたりが食べる量を品目別に眺めて分かることそれは日本人が食べる米の量が著しく減ってきたことだ1960(昭和35)年度は一日あたりの米の消費量は約315gだったが2010(平成22年)年度は163gに約半減その代わりに増えたのは牛乳乳製品(約60gから約240g)と肉類(約14gから約80gへ)野菜と魚を中心としたおかずでご飯を食べるという

「和食」のスタイルの変化がわかる

食料費における外食と中食の割合の推移総務省統計局「家計調査年報」より作成

家で食べても 調理することが減っている 外食に対して家庭で作って食べる食事を内食というが弁当や惣菜など調理をせずに食べられるものを買ってきて済ます食事は中食と呼ぶ実はこの中食の割合が増えている外食が占める割合は2000(平成12)年以降横ばいなのに対して中食は増え続けその代わりに内食が減っている食事は家で食べても調理はしないという家庭が増えているのだとすれば「和食」にとって大切な要素を子どもたちに伝える機会が減っているとはいえないだろか

食料自給率(金額ベース)

食料自給率(主食用穀物)

食料自給率(カロリーベース)飼料自給率

米 野菜 肉類牛乳乳製品 魚介類

内食 中食 外食

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90

95

01992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012

一日に一度はお米を食べないと気がすまない人の割合博報堂生活総研「生活定点2012」

お正月におせち料理を食べた人の割合博報堂生活総研「生活定点2012」

一日に一度は米を炊いたご飯を食べなければ気がすまない人の割合が実はこの20年間で減っているというデータがある1992(平成4)年には714だったが2012(平成24)年には564にまで落ち込んでいるのだ

家族や親族で集まっておせち料理を囲みながら新しい一年の無事を祝うお正月実はおせち料理を食べる人も毎年少なくなっている1992(平成4)年には866だったが2012(平成24)年には748だった

電子レンジの普及や冷凍食品

インスタント食品などにより

食生活は便利になったが家庭

内で調理をする機会が減ったと

もいえる

こうしたなか「和食」の優れ

た点をどうしたら伝えられるの

だろうか親から子へ家庭の食

を伝えるだけでなく学校を通

して子どもたちにさらにその

親の世代にも伝える必要があろ

う高齢者からは「和食」につ

いて具体的に教わることも求

められる

離乳期からの食べ物の選び方

幼児期の食経験を豊富にするこ

となどはとくに重要であろう

小さな頃からの食習慣はその

後の食習慣に大きくかかわって

くるからだ

だしのおいしい味を日々体験

することや魚を味わい骨を箸

でとる訓練を楽しい雰囲気のな

かで教わることなどその積み

重ねの中で「和食」は伝わるので

あろう

経験しない味は異文化とと

らえられるであろうし体験し

ていない調理は簡単でも難しく

感じる食事を用意する過程を

日々見る経験手伝う楽しさ美

しい食器を大切にして使うこと

同じ食べ物を家族や仲間と味わ

い祭りや花見などで共に食べ

る経験を積み重ねることは文

化としての「和食」を伝えるだけ

でなく生きる力を育むことにも

つながるであろう

壁にではなく居間に向かって設置されることが多くなった現在のキッチン夫婦共働きだというこの家庭では夫が厨房に立つことも少なくないというこのように食事の準備を子どもと一緒に行うことで「和食」にとって大切な要素が次の世代に伝えられるようになるのだろう

世帯あたり1ヶ月間の穀類支出金額内訳

1962年3434円

パン

麺他

2010年6373円

パン

麺他

ご飯を食べなくても平気 そんな人が増えている

お米よりパンと麺 その傾向が加速中

おせち料理を食べる派が 毎年ジワリ減少中

1962(昭和37)年度には8割以上を占めていた米への支出が2010(平成22)年度にはパンにとって代わられる米の消費量はパンより多いが家庭では炊飯する必要のある米よりすぐに食べられるパンや麺の支出が多くなり家庭での料理が減っていることを示しているともいえよう

総務省統計局「家計調査年報」より作成

いただきます

ごちそうさま

「和食」の未来

今世紀に入ってから世界に和食ブー

ムが起きている味わいやヘルシーさに

注目が集まり世界中のいたるところに

日本食の店が数多くある

そのように世界から注目される「和食」

だが本家本元の日本国内でその将来が

危ぶまれている

これまで見てきたように「和食」には

新しいものを柔軟に取り込む歴史があっ

た日本人は太古の昔より外国からも

たらされた食文化を自分たちの食生活に

取り込んで日本独自の食文化を発展さ

せてきた地域ごとに地域の環境にふさ

わしい料理をつくり出してきた食べる

料理や食べ方もその時代ごと地域ごと

に変わってきた

その中で貫かれてきたことがある

豊かな自然がもたらす食材のおいしさ

を生かす調理法を工夫し味わうこと

食卓に季節感をしつらえもてなしの気

持ちを共に感じ合う食事の場を持つこ

と一汁三菜という組み合わせを食事

の基本スタイルとして健康的な食生活

をおくることお正月におせち料理を

祝いの日にお赤飯を家族と共に食べる

など食事は家族の絆となっている

豊かな自然を守る気持ちと同じように

日本人を健やかに生かし人と人をつな

いできた「和食」もまた守るべき大切な

日本文化ではないだろうか

「いただきます」「ごちそうさま」と言っ

てみるだけでも「和食」は私たちに身近

になる人と人をあたたかく結びつけて

くれる

日本人はやはりお米のご飯がおいしい

と思うだしのきいた汁でおなかも心も

癒されるこの日本人が長い歴史の中で

育んできたすばらしい財産である「和

食」がこのままなくなってよいと考える

人はいないだろう世界の中でもすぐれ

た食文化として認められた「和食」を日本

の誇りとし大切にして次の世代に受け

継いでいくきっかけにこの冊子がなれ

ば幸いである

ごちそうさま

和 食

2728 WASHOKU

お客を迎える前には店先に打ち水を水で清め準備が整ったことを伝える趣向に合う軸を選ぶのももてなしの基本飾る花は主人自ら育てたものそれを床の花入に活けるのも主人庭に150種ほどの草花を植え日々育てることもしつらいの準備客は女将の温かいもてなしに迎えられる

「和食」の特徴6

しつらい

人をもてなすためのこころとかたち

もてなしは客に対する一方的なサービスではない

お互いに思いやる気持ちから生まれるこころよさである

手入れの行き届いた庭は掃き

清めて水を打ち床の間には軸

を掛け季節の草花を生ける

座敷の襖ふ

すま

も夏には葭よ

しど戸に入れ替

え夏は涼やかに冬は暖かに

すべて相まってもてなしのた

めの用意を整えることそれが

しつらい和食とりわけ懐石

料理においては食材や料理と

ともにしつらいは非常に重要

な要素となる

家庭でも食事をつくる人は

食べる人の顔を思い浮かべなが

ら食事の用意をする食べる人

はつくってくれた人の気持ちを

考えて賞味するここに互いに

もてなす喜びが生まれるのでは

ないだろうか

こうしたもてなしの文化を極

限にまで洗練させた姿が料亭の

もてなしである京都府の無形

文化技術保持者に料理人として

初めて認定された京都の老舗料

亭「瓢亭」の十四代主人高橋英一

さんにその心を聞いてみよう

「料亭は日本文化の凝縮のひと

つと言えます玄関から入って

座敷に行くまでに通る露地にも

季節感があり部屋に入れば時

季や行事の軸がありその座敷

のために選んだ花が飾られる

日本人が自然と身につけている

桜の器を使うことで膳の上にぱっと花が咲くような華やかさが生まれるあしらいは酢取り防風岩海苔

秋の花菊の器はこっくり深い色合いも相まって秋に似合う風情を持つあしらいは岩茸菊花

深さのあるガラスの器に氷が敷き詰められる涼感を目でも舌にも感じるあしらいは穂紫蘇寄せ莫大

縁起のいい鶴は新年の席でも使われるモチーフあしらいは水前寺海苔紫芽紫蘇

四季の感性で受け止めてもらえ

るよう整えお出迎えします

料亭は普段とは違うハレの場で

すがとはいえ行き過ぎず足り

ないことのないよう自然なし

つらいそしてもてなしを心が

けます」

「瓢亭」の座敷に飾られるのは

主人が庭で丹誠込めて育て自

ら生ける茶花

「もてなしの根

底に利休さんの『花は野にある

ごとく』の言葉を思いますが簡

単なようでそれが難しい」自

然体でのもてなしを生むしつら

えは名店においても日々心を

くだき工夫するのだ

「瓢亭」では1年をとおして明石の鯛の向付を供しているが季節ごとに

器とあしらいを変えることで四季を演出している

四季の演出

2728 WASHOKU

和食はご飯と菜あるいはご飯とお汁というように常にご飯を間にはさんで菜や汁をとるのが本来の食べ方下のような不作法とされる箸使い(嫌い箸)があるので覚えておきたい

ご飯は茶碗に味噌汁はお椀

に焼き魚だったら平皿にと普

段料理に合わせて何気なく使う

食器種類の多さもさることな

がら形や素材もさまざま欧

米はもちろん近隣諸国を見回

してもこれほど多種多様な器を

使う国はないそれは四季が明

確なことと無関係ではない

「自宅でも季節に合わせた器

にするだけで気分が変わりま

すよ」と前出「瓢亭」のご主人は

語る 

春であれば華やかな色や形の

もの夏はガラスや青磁など涼

しげな素材の器秋は実りのあ

る彩りがあるもの冬は厚手の

陶器や木製など温もりのあるも

の色素材形を変えるだけで

季節感を演出できる「和食」な

らではの楽しみ

食事の際当たり前のように

使っている箸も日本の食文化

を代表する食具奈良時代以

降匙さ

を使う伝統が消え箸だ

けを使うようになったため熱

い汁物は椀を持ち直接口を

つけてすする文化が確立同

時に椀箸ともに個人所有が基

本となった椀や箸を共有し

匙やレンゲを使うほかの東南

アジア諸国とは異なる食文化

を形成箸食文化圏の中でも

唯一箸だけでご飯を食べる国

となったまた一口に箸といっ

ても食箸取り箸菜箸など用

途に合わせてさまざま食べ

る際に使う食箸だけを見ても

形や素材のほか加工や長さも

豊富にそろうのだ

「和食」の特徴7

箸と椀

「和食」を支える箸と椀

箸食文化圏の中でも唯一箸だけを使う国日本

季節感を感じさせる器とともに独特の食具文化も誇る

渡し箸食事の途中でお箸を

食器の上に渡し置くこと

寄せ箸遠くの食器を

箸で手元に引き寄せる行為

指し箸食事中箸で人やものを指すこと

迷い箸どの料理にしようか迷い箸を料理の上で動かすこと

移り箸いったん取りかけてから

ほかの料理にお箸をうつすこと

箸には食事に使う食箸と調理に使う菜箸とがある菜箸は熱から手を守るため30~50と長く片方がなくならないよう糸でつながっているものもある取り箸は菜箸の一種食箸は個人所有が基本のため使う人に合わせた長さが用意されている漆塗りや螺鈿細工を施したものも多い

種類

形状だけでなく素材もさまざまで近年は黒檀や鉄木など硬質な木が使われることが多い日本の木としては特有の香りがあり古くから懐石用や割り箸に使われてきた杉耐水性耐湿性が高く保存性に優れる上に軽くて持ちやすい檜強くしなりがあり細かいものを取りやすい竹などがある

素材

家庭で使う食箸の形には角箸や四角で角が丸い胴張り五角六角七角八角のほか削りなどがあり持ちやすさに合わせて選べる箸先に加工が施されたものもある来客用に使う銘々箸や割り箸には断面が小判型で割れ目と溝が付いた元禄箸や中央部が太く両端が細い利休箸などが用意されている

日本人にとっての箸は調理から盛りつけ食事までをこなす大事な道具食箸は個人所有が基本のため個々に合わせて選べるのも特徴だ

箸の働き

箸使いの作法を知る

【嫌い箸】

食箸

八角箸 削り箸

菜箸

檜竹

「和食」の特徴 しつらい 箸と椀6 7

2930 WASHOKU

神し ん せ ん

饌として神へ供えられるお神酒は神棚の最上段の中央に置かれるほど重要な地位を占めている

日本酒を造る酒蔵は全国に約1600弱その数は年々減り続けているが数年に一度「日本酒ブーム」も起きている

日本酒とは米と米こうじ

そして水を主な原料にしてそ

れらを発酵させて造られる

原料には主食用の米ではなく

酒造りに適した性質を選び品

種改良された酒し

ゅぞうこうてきまい

造好適米を使

うことが一般的だまた日本

酒の80を占める水も品質を

左右する大きな要因日本酒

の香味を損なわない良質な水

が必須だ

日本酒の醸じ

ょうぞう造の工程にはさ

まざまな技術が伴う例えば米

を精米して味と香りを調整する

技術これは米の外側にあるた

んぱく質や脂質といった雑味の

もとを除くことが目的だが大だ

吟ぎんじょう醸酒にもなると米を半分以

上削ってから仕込むこともある

次いで米を発酵させる技術

酒の場合の発酵とは酵こ

うぼ母が糖類

を食べてアルコールを出すこと

をいうが米には糖類が含まれな

いためまずは米をこうじ菌の酵

素によって糖類へと変えそこに

酵母を加えて発酵させるという

複雑な手順(複式発酵)が必要だ

この手順で使われるこうじもバ

ラこうじと呼ばれる日本独特の

ものだバラこうじは糖化力が

高いのが特徴で日本酒の香りや

味に大きく影響する

稲作を中心に文化を育んでき

た日本では米餅米から造ら

れる酒は地域を問わず重要な

ものとされている米の一粒一

粒に神が宿り同じように酒も

神のおかげで造ることができる

と考えられてきたそして酒

もまた食べ物と共に神に近づ

くための手段として古くから用

いられてきた

同時に家族や親族地域で人

と人をつなぐ上でも酒は大き

な役割を担っている例えばお

神み

き酒祭礼の後には神の酒を

人々が口にする神と同じ酒を

飲みそれを人々が分かち合う

ことで地域やコミュニティが

結束力を強めるのだろう

米や麦やさつまいもなどを原

料とする焼酎も日本酒と並び

日本の國酒とされている酒は

人と人の心をほぐし食事を引

き立たせる重要な役割を担って

いるのだ

「和食」の特徴8

「和食」を引き立たせ

心をほぐす日本の酒

日本人にとっての主食であり精神のかなめでもある米

その米で醸か

される日本酒は「和食」にとって欠かせない要素

日本の「國こ

くしゅ酒

」にもなっている

2930 WASHOKU

「和食」の特徴9

和菓子日本茶

暮らしに寄り添う和菓子とお茶

自然の恵みに感謝し季節の移ろいを敏感に表現する和菓子

日本茶は喉のかわきを癒すだけでなく心を癒し心を高める飲みものである

「和食」の特徴 酒 和菓子8 9

ハレの日の願いを込めた和菓子

和菓子分類餅もの 餅団子大福など蒸しもの 饅頭蒸羊

よ う か ん

羹外う い ろ う

郎村む ら さ め

雨など煉もの 煉

ね り き り

切こなし求ぎ ゅ う ひ

肥飴葛く ず

菓子など焼きもの 味噌松風煎

せ ん べ い

餅桃も も や ま

山カステラどら焼など流しもの 錦

にしきだま

玉煉ね り よ う か ん

羊羹水み ず よ う か ん

羊羹など揚げもの 揚げ煎

せ ん べ い

餅かりんとうなど打ちもの(押しもの) 落

ら く が ん

雁など岡もの 最

も な か

中きんとん鹿か の こ

の子すはまなどかけもの 金

こ ん ぺ い と う

平糖五ご し き ま め

色豆石いしごろも

衣など

これは和菓子の製法によって大まかに分類した表このほか含有する水分量によって生菓子半生 菓 子 干 菓 子などの分け方や上じ ょ う な ま が し

生菓子並菓子駄だ が し

菓子などの分類もある

「岡もの」とはすでにできあがっ た素材をあわせたもの (例きんとん=飴玉とそぼろ餡)

甘く味付けしたごぼうと白味噌餡を赤や白の餅や求

ぎ ゅ う ひ

肥で包んだ生菓子平安時代の新年行事のひとつで長寿を願っておこなわれた「歯固め」の餅に由来する餅と味噌の組み合わせから「包み雑煮」とも呼ばれた

葩はなびらもち

一 月

旧暦十月は「亥の月」と呼ばれていたがその月のさらに「亥の日」に行われる年中行事の際に食べられていた菓子旧暦では10月が冬の始まりそのタイミングで無病息災と多産の猪にあやかって子孫繁栄を願ってこれを食べていたという

亥い の こ も ち

の子餅

十 月六 月

白いういろうの上に小豆の粒餡を散らした菓子古来京都で旧暦六月の晦

み そ か

日(30日)に無病息災を祈願して行われている

「夏なごしのはらい

越祓」になぞらえて初夏の頃に食べられている小豆には邪気祓いの意味があり三角の形は氷を表している

水無月

五 月

平たく丸めた上新粉の餅をふたつに折り中に小豆や味噌の餡を挟んでそれを柏の葉で包んだ菓子柏の葉は新芽が育つまで古い葉が落ちないことから

「子孫繁栄」を願って旧暦五月五日の端

た ん ご

午の節句の供く も つ

物として用いられてきた

柏餅

日本ならではのお茶の製法である手揉みは茶葉の繊維をつぶしながらうまみを引き出すために行う作業手揉みすると茶葉が切れないため茶の甘みを保つことができる

菓子もまた「和食」にとって欠

かせない要素でお客様用の「上

菓子」普段食べる「饅頭」や「餅

菓子」などに分かれるほかに

干菓子や駄菓子など菓子の種

類は多いまた例えば団子や

大福などは「餅もの」求肥や飴

などは「煉りもの」錦玉や

水みずようかん

羊羹などは「流しもの」などと

いうようにその製法によって

分類されることもある米や麦

小豆を代表とする豆類そして

砂糖や水あめなどの材料でバ

ラエティに富んだ菓子が生み出

されてきた

お茶会などの席で抹茶ととも

に味わう菓子もあり季節に合

わせて材料や色やデザインが選

ばれ味覚だけでなく視覚で楽

しむこともある

また年中行事と結びつく菓

子もある例えば旧暦三月三日

の「ひな祭り」では邪気をはら

い強い生命力を象徴するよも

ぎの草もちでつくった草餅を食

べる

和菓子には日本茶がふさわし

い緑茶は12世紀に中国から日

本に伝わったが今では生の茶

葉を蒸してから揉んで乾燥させ

る緑茶の製法は日本独特のもの

となっている緑茶に含まれる

カフェインは覚醒効果がまた

カテキンには抗酸化作用があり

ビタミンCも多く含まれて健

康によい日本茶独特の香りと

うま味は日本文化そのもので

ある

出典「和菓子の歴史展」第五十回虎屋文庫資料展より

3132 WASHOKU

日本の「和食」の文化は自然

環境だけでなく海外からの影

響によっても絶えず変化して

きた

近代以降にはコロッケとん

かつなど洋風料理を和食の基本

型に組み合わせた食事肉と野

菜の煮物や和え物などそれまで

にはない料理が工夫されたそ

の多くは和食の基本型味噌や

醤油を用いた味付け箸で食べ

られる料理など「和食」の要素

を保ちつつ伝えられてきた

しかし第二次世界大戦後高

度経済成長期を迎えると日本人

の食生活は急速に変化する

1970年代にファストフー

ド店ファミリーレストランが

各地に開店しコンビニなども

広がった

1980年頃主食と副食の

バランスは理想的とされたが

(26頁参照)その後米の消費量

はさらに減りパン食が増加

肉類油脂乳乳製品の消費量

も増加し食料自給率も下がっ

た家族での外食が日常化し

家庭の食事も欧米化した

食育の必要性

「和食」が危ないどうしたら伝えられるのか

この150年間で大きく変化し「和食」はいま衰えつつあるその原因はどこにあるのだろうか

食生活の変化

日本の食料自給率の変化農林水産省「食料需給表」より作成

日本のものを食べなくなって 「和食」はどうなる 日本の食料自給率は下がり続けている1965(昭和40)年度はカロリーベースで73だったが2012(平成24)年度は39その大きな原因のひとつは国内で自給可能な米や魚や野菜などの消費量が減少する一方国内で生産が困難な飼料穀物を食べて育つ畜産物や原料を輸入に頼ることが多い冷凍加工食品や小麦の消費が増加したことだと考えられている炭水化物たんぱく質脂肪分をバランスよく摂取する健康的な「和食」に未来はあるのか

国民一人一日当たりの供給純食料農林水産省「食料需給表」より作成

食べる米の量が50年で半減 増えたのは肉と乳製品 国民一人あたりが食べる量を品目別に眺めて分かることそれは日本人が食べる米の量が著しく減ってきたことだ1960(昭和35)年度は一日あたりの米の消費量は約315gだったが2010(平成22年)年度は163gに約半減その代わりに増えたのは牛乳乳製品(約60gから約240g)と肉類(約14gから約80gへ)野菜と魚を中心としたおかずでご飯を食べるという

「和食」のスタイルの変化がわかる

食料費における外食と中食の割合の推移総務省統計局「家計調査年報」より作成

家で食べても 調理することが減っている 外食に対して家庭で作って食べる食事を内食というが弁当や惣菜など調理をせずに食べられるものを買ってきて済ます食事は中食と呼ぶ実はこの中食の割合が増えている外食が占める割合は2000(平成12)年以降横ばいなのに対して中食は増え続けその代わりに内食が減っている食事は家で食べても調理はしないという家庭が増えているのだとすれば「和食」にとって大切な要素を子どもたちに伝える機会が減っているとはいえないだろか

食料自給率(金額ベース)

食料自給率(主食用穀物)

食料自給率(カロリーベース)飼料自給率

米 野菜 肉類牛乳乳製品 魚介類

内食 中食 外食

(g人日)

3132 WASHOKU

50

55

60

65

70

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01992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012

70

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80

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01992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012

一日に一度はお米を食べないと気がすまない人の割合博報堂生活総研「生活定点2012」

お正月におせち料理を食べた人の割合博報堂生活総研「生活定点2012」

一日に一度は米を炊いたご飯を食べなければ気がすまない人の割合が実はこの20年間で減っているというデータがある1992(平成4)年には714だったが2012(平成24)年には564にまで落ち込んでいるのだ

家族や親族で集まっておせち料理を囲みながら新しい一年の無事を祝うお正月実はおせち料理を食べる人も毎年少なくなっている1992(平成4)年には866だったが2012(平成24)年には748だった

電子レンジの普及や冷凍食品

インスタント食品などにより

食生活は便利になったが家庭

内で調理をする機会が減ったと

もいえる

こうしたなか「和食」の優れ

た点をどうしたら伝えられるの

だろうか親から子へ家庭の食

を伝えるだけでなく学校を通

して子どもたちにさらにその

親の世代にも伝える必要があろ

う高齢者からは「和食」につ

いて具体的に教わることも求

められる

離乳期からの食べ物の選び方

幼児期の食経験を豊富にするこ

となどはとくに重要であろう

小さな頃からの食習慣はその

後の食習慣に大きくかかわって

くるからだ

だしのおいしい味を日々体験

することや魚を味わい骨を箸

でとる訓練を楽しい雰囲気のな

かで教わることなどその積み

重ねの中で「和食」は伝わるので

あろう

経験しない味は異文化とと

らえられるであろうし体験し

ていない調理は簡単でも難しく

感じる食事を用意する過程を

日々見る経験手伝う楽しさ美

しい食器を大切にして使うこと

同じ食べ物を家族や仲間と味わ

い祭りや花見などで共に食べ

る経験を積み重ねることは文

化としての「和食」を伝えるだけ

でなく生きる力を育むことにも

つながるであろう

壁にではなく居間に向かって設置されることが多くなった現在のキッチン夫婦共働きだというこの家庭では夫が厨房に立つことも少なくないというこのように食事の準備を子どもと一緒に行うことで「和食」にとって大切な要素が次の世代に伝えられるようになるのだろう

世帯あたり1ヶ月間の穀類支出金額内訳

1962年3434円

パン

麺他

2010年6373円

パン

麺他

ご飯を食べなくても平気 そんな人が増えている

お米よりパンと麺 その傾向が加速中

おせち料理を食べる派が 毎年ジワリ減少中

1962(昭和37)年度には8割以上を占めていた米への支出が2010(平成22)年度にはパンにとって代わられる米の消費量はパンより多いが家庭では炊飯する必要のある米よりすぐに食べられるパンや麺の支出が多くなり家庭での料理が減っていることを示しているともいえよう

総務省統計局「家計調査年報」より作成

いただきます

ごちそうさま

「和食」の未来

今世紀に入ってから世界に和食ブー

ムが起きている味わいやヘルシーさに

注目が集まり世界中のいたるところに

日本食の店が数多くある

そのように世界から注目される「和食」

だが本家本元の日本国内でその将来が

危ぶまれている

これまで見てきたように「和食」には

新しいものを柔軟に取り込む歴史があっ

た日本人は太古の昔より外国からも

たらされた食文化を自分たちの食生活に

取り込んで日本独自の食文化を発展さ

せてきた地域ごとに地域の環境にふさ

わしい料理をつくり出してきた食べる

料理や食べ方もその時代ごと地域ごと

に変わってきた

その中で貫かれてきたことがある

豊かな自然がもたらす食材のおいしさ

を生かす調理法を工夫し味わうこと

食卓に季節感をしつらえもてなしの気

持ちを共に感じ合う食事の場を持つこ

と一汁三菜という組み合わせを食事

の基本スタイルとして健康的な食生活

をおくることお正月におせち料理を

祝いの日にお赤飯を家族と共に食べる

など食事は家族の絆となっている

豊かな自然を守る気持ちと同じように

日本人を健やかに生かし人と人をつな

いできた「和食」もまた守るべき大切な

日本文化ではないだろうか

「いただきます」「ごちそうさま」と言っ

てみるだけでも「和食」は私たちに身近

になる人と人をあたたかく結びつけて

くれる

日本人はやはりお米のご飯がおいしい

と思うだしのきいた汁でおなかも心も

癒されるこの日本人が長い歴史の中で

育んできたすばらしい財産である「和

食」がこのままなくなってよいと考える

人はいないだろう世界の中でもすぐれ

た食文化として認められた「和食」を日本

の誇りとし大切にして次の世代に受け

継いでいくきっかけにこの冊子がなれ

ば幸いである

ごちそうさま

和 食

2728 WASHOKU

和食はご飯と菜あるいはご飯とお汁というように常にご飯を間にはさんで菜や汁をとるのが本来の食べ方下のような不作法とされる箸使い(嫌い箸)があるので覚えておきたい

ご飯は茶碗に味噌汁はお椀

に焼き魚だったら平皿にと普

段料理に合わせて何気なく使う

食器種類の多さもさることな

がら形や素材もさまざま欧

米はもちろん近隣諸国を見回

してもこれほど多種多様な器を

使う国はないそれは四季が明

確なことと無関係ではない

「自宅でも季節に合わせた器

にするだけで気分が変わりま

すよ」と前出「瓢亭」のご主人は

語る 

春であれば華やかな色や形の

もの夏はガラスや青磁など涼

しげな素材の器秋は実りのあ

る彩りがあるもの冬は厚手の

陶器や木製など温もりのあるも

の色素材形を変えるだけで

季節感を演出できる「和食」な

らではの楽しみ

食事の際当たり前のように

使っている箸も日本の食文化

を代表する食具奈良時代以

降匙さ

を使う伝統が消え箸だ

けを使うようになったため熱

い汁物は椀を持ち直接口を

つけてすする文化が確立同

時に椀箸ともに個人所有が基

本となった椀や箸を共有し

匙やレンゲを使うほかの東南

アジア諸国とは異なる食文化

を形成箸食文化圏の中でも

唯一箸だけでご飯を食べる国

となったまた一口に箸といっ

ても食箸取り箸菜箸など用

途に合わせてさまざま食べ

る際に使う食箸だけを見ても

形や素材のほか加工や長さも

豊富にそろうのだ

「和食」の特徴7

箸と椀

「和食」を支える箸と椀

箸食文化圏の中でも唯一箸だけを使う国日本

季節感を感じさせる器とともに独特の食具文化も誇る

渡し箸食事の途中でお箸を

食器の上に渡し置くこと

寄せ箸遠くの食器を

箸で手元に引き寄せる行為

指し箸食事中箸で人やものを指すこと

迷い箸どの料理にしようか迷い箸を料理の上で動かすこと

移り箸いったん取りかけてから

ほかの料理にお箸をうつすこと

箸には食事に使う食箸と調理に使う菜箸とがある菜箸は熱から手を守るため30~50と長く片方がなくならないよう糸でつながっているものもある取り箸は菜箸の一種食箸は個人所有が基本のため使う人に合わせた長さが用意されている漆塗りや螺鈿細工を施したものも多い

種類

形状だけでなく素材もさまざまで近年は黒檀や鉄木など硬質な木が使われることが多い日本の木としては特有の香りがあり古くから懐石用や割り箸に使われてきた杉耐水性耐湿性が高く保存性に優れる上に軽くて持ちやすい檜強くしなりがあり細かいものを取りやすい竹などがある

素材

家庭で使う食箸の形には角箸や四角で角が丸い胴張り五角六角七角八角のほか削りなどがあり持ちやすさに合わせて選べる箸先に加工が施されたものもある来客用に使う銘々箸や割り箸には断面が小判型で割れ目と溝が付いた元禄箸や中央部が太く両端が細い利休箸などが用意されている

日本人にとっての箸は調理から盛りつけ食事までをこなす大事な道具食箸は個人所有が基本のため個々に合わせて選べるのも特徴だ

箸の働き

箸使いの作法を知る

【嫌い箸】

食箸

八角箸 削り箸

菜箸

檜竹

「和食」の特徴 しつらい 箸と椀6 7

2930 WASHOKU

神し ん せ ん

饌として神へ供えられるお神酒は神棚の最上段の中央に置かれるほど重要な地位を占めている

日本酒を造る酒蔵は全国に約1600弱その数は年々減り続けているが数年に一度「日本酒ブーム」も起きている

日本酒とは米と米こうじ

そして水を主な原料にしてそ

れらを発酵させて造られる

原料には主食用の米ではなく

酒造りに適した性質を選び品

種改良された酒し

ゅぞうこうてきまい

造好適米を使

うことが一般的だまた日本

酒の80を占める水も品質を

左右する大きな要因日本酒

の香味を損なわない良質な水

が必須だ

日本酒の醸じ

ょうぞう造の工程にはさ

まざまな技術が伴う例えば米

を精米して味と香りを調整する

技術これは米の外側にあるた

んぱく質や脂質といった雑味の

もとを除くことが目的だが大だ

吟ぎんじょう醸酒にもなると米を半分以

上削ってから仕込むこともある

次いで米を発酵させる技術

酒の場合の発酵とは酵こ

うぼ母が糖類

を食べてアルコールを出すこと

をいうが米には糖類が含まれな

いためまずは米をこうじ菌の酵

素によって糖類へと変えそこに

酵母を加えて発酵させるという

複雑な手順(複式発酵)が必要だ

この手順で使われるこうじもバ

ラこうじと呼ばれる日本独特の

ものだバラこうじは糖化力が

高いのが特徴で日本酒の香りや

味に大きく影響する

稲作を中心に文化を育んでき

た日本では米餅米から造ら

れる酒は地域を問わず重要な

ものとされている米の一粒一

粒に神が宿り同じように酒も

神のおかげで造ることができる

と考えられてきたそして酒

もまた食べ物と共に神に近づ

くための手段として古くから用

いられてきた

同時に家族や親族地域で人

と人をつなぐ上でも酒は大き

な役割を担っている例えばお

神み

き酒祭礼の後には神の酒を

人々が口にする神と同じ酒を

飲みそれを人々が分かち合う

ことで地域やコミュニティが

結束力を強めるのだろう

米や麦やさつまいもなどを原

料とする焼酎も日本酒と並び

日本の國酒とされている酒は

人と人の心をほぐし食事を引

き立たせる重要な役割を担って

いるのだ

「和食」の特徴8

「和食」を引き立たせ

心をほぐす日本の酒

日本人にとっての主食であり精神のかなめでもある米

その米で醸か

される日本酒は「和食」にとって欠かせない要素

日本の「國こ

くしゅ酒

」にもなっている

2930 WASHOKU

「和食」の特徴9

和菓子日本茶

暮らしに寄り添う和菓子とお茶

自然の恵みに感謝し季節の移ろいを敏感に表現する和菓子

日本茶は喉のかわきを癒すだけでなく心を癒し心を高める飲みものである

「和食」の特徴 酒 和菓子8 9

ハレの日の願いを込めた和菓子

和菓子分類餅もの 餅団子大福など蒸しもの 饅頭蒸羊

よ う か ん

羹外う い ろ う

郎村む ら さ め

雨など煉もの 煉

ね り き り

切こなし求ぎ ゅ う ひ

肥飴葛く ず

菓子など焼きもの 味噌松風煎

せ ん べ い

餅桃も も や ま

山カステラどら焼など流しもの 錦

にしきだま

玉煉ね り よ う か ん

羊羹水み ず よ う か ん

羊羹など揚げもの 揚げ煎

せ ん べ い

餅かりんとうなど打ちもの(押しもの) 落

ら く が ん

雁など岡もの 最

も な か

中きんとん鹿か の こ

の子すはまなどかけもの 金

こ ん ぺ い と う

平糖五ご し き ま め

色豆石いしごろも

衣など

これは和菓子の製法によって大まかに分類した表このほか含有する水分量によって生菓子半生 菓 子 干 菓 子などの分け方や上じ ょ う な ま が し

生菓子並菓子駄だ が し

菓子などの分類もある

「岡もの」とはすでにできあがっ た素材をあわせたもの (例きんとん=飴玉とそぼろ餡)

甘く味付けしたごぼうと白味噌餡を赤や白の餅や求

ぎ ゅ う ひ

肥で包んだ生菓子平安時代の新年行事のひとつで長寿を願っておこなわれた「歯固め」の餅に由来する餅と味噌の組み合わせから「包み雑煮」とも呼ばれた

葩はなびらもち

一 月

旧暦十月は「亥の月」と呼ばれていたがその月のさらに「亥の日」に行われる年中行事の際に食べられていた菓子旧暦では10月が冬の始まりそのタイミングで無病息災と多産の猪にあやかって子孫繁栄を願ってこれを食べていたという

亥い の こ も ち

の子餅

十 月六 月

白いういろうの上に小豆の粒餡を散らした菓子古来京都で旧暦六月の晦

み そ か

日(30日)に無病息災を祈願して行われている

「夏なごしのはらい

越祓」になぞらえて初夏の頃に食べられている小豆には邪気祓いの意味があり三角の形は氷を表している

水無月

五 月

平たく丸めた上新粉の餅をふたつに折り中に小豆や味噌の餡を挟んでそれを柏の葉で包んだ菓子柏の葉は新芽が育つまで古い葉が落ちないことから

「子孫繁栄」を願って旧暦五月五日の端

た ん ご

午の節句の供く も つ

物として用いられてきた

柏餅

日本ならではのお茶の製法である手揉みは茶葉の繊維をつぶしながらうまみを引き出すために行う作業手揉みすると茶葉が切れないため茶の甘みを保つことができる

菓子もまた「和食」にとって欠

かせない要素でお客様用の「上

菓子」普段食べる「饅頭」や「餅

菓子」などに分かれるほかに

干菓子や駄菓子など菓子の種

類は多いまた例えば団子や

大福などは「餅もの」求肥や飴

などは「煉りもの」錦玉や

水みずようかん

羊羹などは「流しもの」などと

いうようにその製法によって

分類されることもある米や麦

小豆を代表とする豆類そして

砂糖や水あめなどの材料でバ

ラエティに富んだ菓子が生み出

されてきた

お茶会などの席で抹茶ととも

に味わう菓子もあり季節に合

わせて材料や色やデザインが選

ばれ味覚だけでなく視覚で楽

しむこともある

また年中行事と結びつく菓

子もある例えば旧暦三月三日

の「ひな祭り」では邪気をはら

い強い生命力を象徴するよも

ぎの草もちでつくった草餅を食

べる

和菓子には日本茶がふさわし

い緑茶は12世紀に中国から日

本に伝わったが今では生の茶

葉を蒸してから揉んで乾燥させ

る緑茶の製法は日本独特のもの

となっている緑茶に含まれる

カフェインは覚醒効果がまた

カテキンには抗酸化作用があり

ビタミンCも多く含まれて健

康によい日本茶独特の香りと

うま味は日本文化そのもので

ある

出典「和菓子の歴史展」第五十回虎屋文庫資料展より

3132 WASHOKU

日本の「和食」の文化は自然

環境だけでなく海外からの影

響によっても絶えず変化して

きた

近代以降にはコロッケとん

かつなど洋風料理を和食の基本

型に組み合わせた食事肉と野

菜の煮物や和え物などそれまで

にはない料理が工夫されたそ

の多くは和食の基本型味噌や

醤油を用いた味付け箸で食べ

られる料理など「和食」の要素

を保ちつつ伝えられてきた

しかし第二次世界大戦後高

度経済成長期を迎えると日本人

の食生活は急速に変化する

1970年代にファストフー

ド店ファミリーレストランが

各地に開店しコンビニなども

広がった

1980年頃主食と副食の

バランスは理想的とされたが

(26頁参照)その後米の消費量

はさらに減りパン食が増加

肉類油脂乳乳製品の消費量

も増加し食料自給率も下がっ

た家族での外食が日常化し

家庭の食事も欧米化した

食育の必要性

「和食」が危ないどうしたら伝えられるのか

この150年間で大きく変化し「和食」はいま衰えつつあるその原因はどこにあるのだろうか

食生活の変化

日本の食料自給率の変化農林水産省「食料需給表」より作成

日本のものを食べなくなって 「和食」はどうなる 日本の食料自給率は下がり続けている1965(昭和40)年度はカロリーベースで73だったが2012(平成24)年度は39その大きな原因のひとつは国内で自給可能な米や魚や野菜などの消費量が減少する一方国内で生産が困難な飼料穀物を食べて育つ畜産物や原料を輸入に頼ることが多い冷凍加工食品や小麦の消費が増加したことだと考えられている炭水化物たんぱく質脂肪分をバランスよく摂取する健康的な「和食」に未来はあるのか

国民一人一日当たりの供給純食料農林水産省「食料需給表」より作成

食べる米の量が50年で半減 増えたのは肉と乳製品 国民一人あたりが食べる量を品目別に眺めて分かることそれは日本人が食べる米の量が著しく減ってきたことだ1960(昭和35)年度は一日あたりの米の消費量は約315gだったが2010(平成22年)年度は163gに約半減その代わりに増えたのは牛乳乳製品(約60gから約240g)と肉類(約14gから約80gへ)野菜と魚を中心としたおかずでご飯を食べるという

「和食」のスタイルの変化がわかる

食料費における外食と中食の割合の推移総務省統計局「家計調査年報」より作成

家で食べても 調理することが減っている 外食に対して家庭で作って食べる食事を内食というが弁当や惣菜など調理をせずに食べられるものを買ってきて済ます食事は中食と呼ぶ実はこの中食の割合が増えている外食が占める割合は2000(平成12)年以降横ばいなのに対して中食は増え続けその代わりに内食が減っている食事は家で食べても調理はしないという家庭が増えているのだとすれば「和食」にとって大切な要素を子どもたちに伝える機会が減っているとはいえないだろか

食料自給率(金額ベース)

食料自給率(主食用穀物)

食料自給率(カロリーベース)飼料自給率

米 野菜 肉類牛乳乳製品 魚介類

内食 中食 外食

(g人日)

3132 WASHOKU

50

55

60

65

70

75

01992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012

70

75

80

85

90

95

01992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012

一日に一度はお米を食べないと気がすまない人の割合博報堂生活総研「生活定点2012」

お正月におせち料理を食べた人の割合博報堂生活総研「生活定点2012」

一日に一度は米を炊いたご飯を食べなければ気がすまない人の割合が実はこの20年間で減っているというデータがある1992(平成4)年には714だったが2012(平成24)年には564にまで落ち込んでいるのだ

家族や親族で集まっておせち料理を囲みながら新しい一年の無事を祝うお正月実はおせち料理を食べる人も毎年少なくなっている1992(平成4)年には866だったが2012(平成24)年には748だった

電子レンジの普及や冷凍食品

インスタント食品などにより

食生活は便利になったが家庭

内で調理をする機会が減ったと

もいえる

こうしたなか「和食」の優れ

た点をどうしたら伝えられるの

だろうか親から子へ家庭の食

を伝えるだけでなく学校を通

して子どもたちにさらにその

親の世代にも伝える必要があろ

う高齢者からは「和食」につ

いて具体的に教わることも求

められる

離乳期からの食べ物の選び方

幼児期の食経験を豊富にするこ

となどはとくに重要であろう

小さな頃からの食習慣はその

後の食習慣に大きくかかわって

くるからだ

だしのおいしい味を日々体験

することや魚を味わい骨を箸

でとる訓練を楽しい雰囲気のな

かで教わることなどその積み

重ねの中で「和食」は伝わるので

あろう

経験しない味は異文化とと

らえられるであろうし体験し

ていない調理は簡単でも難しく

感じる食事を用意する過程を

日々見る経験手伝う楽しさ美

しい食器を大切にして使うこと

同じ食べ物を家族や仲間と味わ

い祭りや花見などで共に食べ

る経験を積み重ねることは文

化としての「和食」を伝えるだけ

でなく生きる力を育むことにも

つながるであろう

壁にではなく居間に向かって設置されることが多くなった現在のキッチン夫婦共働きだというこの家庭では夫が厨房に立つことも少なくないというこのように食事の準備を子どもと一緒に行うことで「和食」にとって大切な要素が次の世代に伝えられるようになるのだろう

世帯あたり1ヶ月間の穀類支出金額内訳

1962年3434円

パン

麺他

2010年6373円

パン

麺他

ご飯を食べなくても平気 そんな人が増えている

お米よりパンと麺 その傾向が加速中

おせち料理を食べる派が 毎年ジワリ減少中

1962(昭和37)年度には8割以上を占めていた米への支出が2010(平成22)年度にはパンにとって代わられる米の消費量はパンより多いが家庭では炊飯する必要のある米よりすぐに食べられるパンや麺の支出が多くなり家庭での料理が減っていることを示しているともいえよう

総務省統計局「家計調査年報」より作成

いただきます

ごちそうさま

「和食」の未来

今世紀に入ってから世界に和食ブー

ムが起きている味わいやヘルシーさに

注目が集まり世界中のいたるところに

日本食の店が数多くある

そのように世界から注目される「和食」

だが本家本元の日本国内でその将来が

危ぶまれている

これまで見てきたように「和食」には

新しいものを柔軟に取り込む歴史があっ

た日本人は太古の昔より外国からも

たらされた食文化を自分たちの食生活に

取り込んで日本独自の食文化を発展さ

せてきた地域ごとに地域の環境にふさ

わしい料理をつくり出してきた食べる

料理や食べ方もその時代ごと地域ごと

に変わってきた

その中で貫かれてきたことがある

豊かな自然がもたらす食材のおいしさ

を生かす調理法を工夫し味わうこと

食卓に季節感をしつらえもてなしの気

持ちを共に感じ合う食事の場を持つこ

と一汁三菜という組み合わせを食事

の基本スタイルとして健康的な食生活

をおくることお正月におせち料理を

祝いの日にお赤飯を家族と共に食べる

など食事は家族の絆となっている

豊かな自然を守る気持ちと同じように

日本人を健やかに生かし人と人をつな

いできた「和食」もまた守るべき大切な

日本文化ではないだろうか

「いただきます」「ごちそうさま」と言っ

てみるだけでも「和食」は私たちに身近

になる人と人をあたたかく結びつけて

くれる

日本人はやはりお米のご飯がおいしい

と思うだしのきいた汁でおなかも心も

癒されるこの日本人が長い歴史の中で

育んできたすばらしい財産である「和

食」がこのままなくなってよいと考える

人はいないだろう世界の中でもすぐれ

た食文化として認められた「和食」を日本

の誇りとし大切にして次の世代に受け

継いでいくきっかけにこの冊子がなれ

ば幸いである

ごちそうさま

和 食

2930 WASHOKU

神し ん せ ん

饌として神へ供えられるお神酒は神棚の最上段の中央に置かれるほど重要な地位を占めている

日本酒を造る酒蔵は全国に約1600弱その数は年々減り続けているが数年に一度「日本酒ブーム」も起きている

日本酒とは米と米こうじ

そして水を主な原料にしてそ

れらを発酵させて造られる

原料には主食用の米ではなく

酒造りに適した性質を選び品

種改良された酒し

ゅぞうこうてきまい

造好適米を使

うことが一般的だまた日本

酒の80を占める水も品質を

左右する大きな要因日本酒

の香味を損なわない良質な水

が必須だ

日本酒の醸じ

ょうぞう造の工程にはさ

まざまな技術が伴う例えば米

を精米して味と香りを調整する

技術これは米の外側にあるた

んぱく質や脂質といった雑味の

もとを除くことが目的だが大だ

吟ぎんじょう醸酒にもなると米を半分以

上削ってから仕込むこともある

次いで米を発酵させる技術

酒の場合の発酵とは酵こ

うぼ母が糖類

を食べてアルコールを出すこと

をいうが米には糖類が含まれな

いためまずは米をこうじ菌の酵

素によって糖類へと変えそこに

酵母を加えて発酵させるという

複雑な手順(複式発酵)が必要だ

この手順で使われるこうじもバ

ラこうじと呼ばれる日本独特の

ものだバラこうじは糖化力が

高いのが特徴で日本酒の香りや

味に大きく影響する

稲作を中心に文化を育んでき

た日本では米餅米から造ら

れる酒は地域を問わず重要な

ものとされている米の一粒一

粒に神が宿り同じように酒も

神のおかげで造ることができる

と考えられてきたそして酒

もまた食べ物と共に神に近づ

くための手段として古くから用

いられてきた

同時に家族や親族地域で人

と人をつなぐ上でも酒は大き

な役割を担っている例えばお

神み

き酒祭礼の後には神の酒を

人々が口にする神と同じ酒を

飲みそれを人々が分かち合う

ことで地域やコミュニティが

結束力を強めるのだろう

米や麦やさつまいもなどを原

料とする焼酎も日本酒と並び

日本の國酒とされている酒は

人と人の心をほぐし食事を引

き立たせる重要な役割を担って

いるのだ

「和食」の特徴8

「和食」を引き立たせ

心をほぐす日本の酒

日本人にとっての主食であり精神のかなめでもある米

その米で醸か

される日本酒は「和食」にとって欠かせない要素

日本の「國こ

くしゅ酒

」にもなっている

2930 WASHOKU

「和食」の特徴9

和菓子日本茶

暮らしに寄り添う和菓子とお茶

自然の恵みに感謝し季節の移ろいを敏感に表現する和菓子

日本茶は喉のかわきを癒すだけでなく心を癒し心を高める飲みものである

「和食」の特徴 酒 和菓子8 9

ハレの日の願いを込めた和菓子

和菓子分類餅もの 餅団子大福など蒸しもの 饅頭蒸羊

よ う か ん

羹外う い ろ う

郎村む ら さ め

雨など煉もの 煉

ね り き り

切こなし求ぎ ゅ う ひ

肥飴葛く ず

菓子など焼きもの 味噌松風煎

せ ん べ い

餅桃も も や ま

山カステラどら焼など流しもの 錦

にしきだま

玉煉ね り よ う か ん

羊羹水み ず よ う か ん

羊羹など揚げもの 揚げ煎

せ ん べ い

餅かりんとうなど打ちもの(押しもの) 落

ら く が ん

雁など岡もの 最

も な か

中きんとん鹿か の こ

の子すはまなどかけもの 金

こ ん ぺ い と う

平糖五ご し き ま め

色豆石いしごろも

衣など

これは和菓子の製法によって大まかに分類した表このほか含有する水分量によって生菓子半生 菓 子 干 菓 子などの分け方や上じ ょ う な ま が し

生菓子並菓子駄だ が し

菓子などの分類もある

「岡もの」とはすでにできあがっ た素材をあわせたもの (例きんとん=飴玉とそぼろ餡)

甘く味付けしたごぼうと白味噌餡を赤や白の餅や求

ぎ ゅ う ひ

肥で包んだ生菓子平安時代の新年行事のひとつで長寿を願っておこなわれた「歯固め」の餅に由来する餅と味噌の組み合わせから「包み雑煮」とも呼ばれた

葩はなびらもち

一 月

旧暦十月は「亥の月」と呼ばれていたがその月のさらに「亥の日」に行われる年中行事の際に食べられていた菓子旧暦では10月が冬の始まりそのタイミングで無病息災と多産の猪にあやかって子孫繁栄を願ってこれを食べていたという

亥い の こ も ち

の子餅

十 月六 月

白いういろうの上に小豆の粒餡を散らした菓子古来京都で旧暦六月の晦

み そ か

日(30日)に無病息災を祈願して行われている

「夏なごしのはらい

越祓」になぞらえて初夏の頃に食べられている小豆には邪気祓いの意味があり三角の形は氷を表している

水無月

五 月

平たく丸めた上新粉の餅をふたつに折り中に小豆や味噌の餡を挟んでそれを柏の葉で包んだ菓子柏の葉は新芽が育つまで古い葉が落ちないことから

「子孫繁栄」を願って旧暦五月五日の端

た ん ご

午の節句の供く も つ

物として用いられてきた

柏餅

日本ならではのお茶の製法である手揉みは茶葉の繊維をつぶしながらうまみを引き出すために行う作業手揉みすると茶葉が切れないため茶の甘みを保つことができる

菓子もまた「和食」にとって欠

かせない要素でお客様用の「上

菓子」普段食べる「饅頭」や「餅

菓子」などに分かれるほかに

干菓子や駄菓子など菓子の種

類は多いまた例えば団子や

大福などは「餅もの」求肥や飴

などは「煉りもの」錦玉や

水みずようかん

羊羹などは「流しもの」などと

いうようにその製法によって

分類されることもある米や麦

小豆を代表とする豆類そして

砂糖や水あめなどの材料でバ

ラエティに富んだ菓子が生み出

されてきた

お茶会などの席で抹茶ととも

に味わう菓子もあり季節に合

わせて材料や色やデザインが選

ばれ味覚だけでなく視覚で楽

しむこともある

また年中行事と結びつく菓

子もある例えば旧暦三月三日

の「ひな祭り」では邪気をはら

い強い生命力を象徴するよも

ぎの草もちでつくった草餅を食

べる

和菓子には日本茶がふさわし

い緑茶は12世紀に中国から日

本に伝わったが今では生の茶

葉を蒸してから揉んで乾燥させ

る緑茶の製法は日本独特のもの

となっている緑茶に含まれる

カフェインは覚醒効果がまた

カテキンには抗酸化作用があり

ビタミンCも多く含まれて健

康によい日本茶独特の香りと

うま味は日本文化そのもので

ある

出典「和菓子の歴史展」第五十回虎屋文庫資料展より

3132 WASHOKU

日本の「和食」の文化は自然

環境だけでなく海外からの影

響によっても絶えず変化して

きた

近代以降にはコロッケとん

かつなど洋風料理を和食の基本

型に組み合わせた食事肉と野

菜の煮物や和え物などそれまで

にはない料理が工夫されたそ

の多くは和食の基本型味噌や

醤油を用いた味付け箸で食べ

られる料理など「和食」の要素

を保ちつつ伝えられてきた

しかし第二次世界大戦後高

度経済成長期を迎えると日本人

の食生活は急速に変化する

1970年代にファストフー

ド店ファミリーレストランが

各地に開店しコンビニなども

広がった

1980年頃主食と副食の

バランスは理想的とされたが

(26頁参照)その後米の消費量

はさらに減りパン食が増加

肉類油脂乳乳製品の消費量

も増加し食料自給率も下がっ

た家族での外食が日常化し

家庭の食事も欧米化した

食育の必要性

「和食」が危ないどうしたら伝えられるのか

この150年間で大きく変化し「和食」はいま衰えつつあるその原因はどこにあるのだろうか

食生活の変化

日本の食料自給率の変化農林水産省「食料需給表」より作成

日本のものを食べなくなって 「和食」はどうなる 日本の食料自給率は下がり続けている1965(昭和40)年度はカロリーベースで73だったが2012(平成24)年度は39その大きな原因のひとつは国内で自給可能な米や魚や野菜などの消費量が減少する一方国内で生産が困難な飼料穀物を食べて育つ畜産物や原料を輸入に頼ることが多い冷凍加工食品や小麦の消費が増加したことだと考えられている炭水化物たんぱく質脂肪分をバランスよく摂取する健康的な「和食」に未来はあるのか

国民一人一日当たりの供給純食料農林水産省「食料需給表」より作成

食べる米の量が50年で半減 増えたのは肉と乳製品 国民一人あたりが食べる量を品目別に眺めて分かることそれは日本人が食べる米の量が著しく減ってきたことだ1960(昭和35)年度は一日あたりの米の消費量は約315gだったが2010(平成22年)年度は163gに約半減その代わりに増えたのは牛乳乳製品(約60gから約240g)と肉類(約14gから約80gへ)野菜と魚を中心としたおかずでご飯を食べるという

「和食」のスタイルの変化がわかる

食料費における外食と中食の割合の推移総務省統計局「家計調査年報」より作成

家で食べても 調理することが減っている 外食に対して家庭で作って食べる食事を内食というが弁当や惣菜など調理をせずに食べられるものを買ってきて済ます食事は中食と呼ぶ実はこの中食の割合が増えている外食が占める割合は2000(平成12)年以降横ばいなのに対して中食は増え続けその代わりに内食が減っている食事は家で食べても調理はしないという家庭が増えているのだとすれば「和食」にとって大切な要素を子どもたちに伝える機会が減っているとはいえないだろか

食料自給率(金額ベース)

食料自給率(主食用穀物)

食料自給率(カロリーベース)飼料自給率

米 野菜 肉類牛乳乳製品 魚介類

内食 中食 外食

(g人日)

3132 WASHOKU

50

55

60

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70

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01992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012

70

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80

85

90

95

01992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012

一日に一度はお米を食べないと気がすまない人の割合博報堂生活総研「生活定点2012」

お正月におせち料理を食べた人の割合博報堂生活総研「生活定点2012」

一日に一度は米を炊いたご飯を食べなければ気がすまない人の割合が実はこの20年間で減っているというデータがある1992(平成4)年には714だったが2012(平成24)年には564にまで落ち込んでいるのだ

家族や親族で集まっておせち料理を囲みながら新しい一年の無事を祝うお正月実はおせち料理を食べる人も毎年少なくなっている1992(平成4)年には866だったが2012(平成24)年には748だった

電子レンジの普及や冷凍食品

インスタント食品などにより

食生活は便利になったが家庭

内で調理をする機会が減ったと

もいえる

こうしたなか「和食」の優れ

た点をどうしたら伝えられるの

だろうか親から子へ家庭の食

を伝えるだけでなく学校を通

して子どもたちにさらにその

親の世代にも伝える必要があろ

う高齢者からは「和食」につ

いて具体的に教わることも求

められる

離乳期からの食べ物の選び方

幼児期の食経験を豊富にするこ

となどはとくに重要であろう

小さな頃からの食習慣はその

後の食習慣に大きくかかわって

くるからだ

だしのおいしい味を日々体験

することや魚を味わい骨を箸

でとる訓練を楽しい雰囲気のな

かで教わることなどその積み

重ねの中で「和食」は伝わるので

あろう

経験しない味は異文化とと

らえられるであろうし体験し

ていない調理は簡単でも難しく

感じる食事を用意する過程を

日々見る経験手伝う楽しさ美

しい食器を大切にして使うこと

同じ食べ物を家族や仲間と味わ

い祭りや花見などで共に食べ

る経験を積み重ねることは文

化としての「和食」を伝えるだけ

でなく生きる力を育むことにも

つながるであろう

壁にではなく居間に向かって設置されることが多くなった現在のキッチン夫婦共働きだというこの家庭では夫が厨房に立つことも少なくないというこのように食事の準備を子どもと一緒に行うことで「和食」にとって大切な要素が次の世代に伝えられるようになるのだろう

世帯あたり1ヶ月間の穀類支出金額内訳

1962年3434円

パン

麺他

2010年6373円

パン

麺他

ご飯を食べなくても平気 そんな人が増えている

お米よりパンと麺 その傾向が加速中

おせち料理を食べる派が 毎年ジワリ減少中

1962(昭和37)年度には8割以上を占めていた米への支出が2010(平成22)年度にはパンにとって代わられる米の消費量はパンより多いが家庭では炊飯する必要のある米よりすぐに食べられるパンや麺の支出が多くなり家庭での料理が減っていることを示しているともいえよう

総務省統計局「家計調査年報」より作成

いただきます

ごちそうさま

「和食」の未来

今世紀に入ってから世界に和食ブー

ムが起きている味わいやヘルシーさに

注目が集まり世界中のいたるところに

日本食の店が数多くある

そのように世界から注目される「和食」

だが本家本元の日本国内でその将来が

危ぶまれている

これまで見てきたように「和食」には

新しいものを柔軟に取り込む歴史があっ

た日本人は太古の昔より外国からも

たらされた食文化を自分たちの食生活に

取り込んで日本独自の食文化を発展さ

せてきた地域ごとに地域の環境にふさ

わしい料理をつくり出してきた食べる

料理や食べ方もその時代ごと地域ごと

に変わってきた

その中で貫かれてきたことがある

豊かな自然がもたらす食材のおいしさ

を生かす調理法を工夫し味わうこと

食卓に季節感をしつらえもてなしの気

持ちを共に感じ合う食事の場を持つこ

と一汁三菜という組み合わせを食事

の基本スタイルとして健康的な食生活

をおくることお正月におせち料理を

祝いの日にお赤飯を家族と共に食べる

など食事は家族の絆となっている

豊かな自然を守る気持ちと同じように

日本人を健やかに生かし人と人をつな

いできた「和食」もまた守るべき大切な

日本文化ではないだろうか

「いただきます」「ごちそうさま」と言っ

てみるだけでも「和食」は私たちに身近

になる人と人をあたたかく結びつけて

くれる

日本人はやはりお米のご飯がおいしい

と思うだしのきいた汁でおなかも心も

癒されるこの日本人が長い歴史の中で

育んできたすばらしい財産である「和

食」がこのままなくなってよいと考える

人はいないだろう世界の中でもすぐれ

た食文化として認められた「和食」を日本

の誇りとし大切にして次の世代に受け

継いでいくきっかけにこの冊子がなれ

ば幸いである

ごちそうさま

和 食

2930 WASHOKU

「和食」の特徴9

和菓子日本茶

暮らしに寄り添う和菓子とお茶

自然の恵みに感謝し季節の移ろいを敏感に表現する和菓子

日本茶は喉のかわきを癒すだけでなく心を癒し心を高める飲みものである

「和食」の特徴 酒 和菓子8 9

ハレの日の願いを込めた和菓子

和菓子分類餅もの 餅団子大福など蒸しもの 饅頭蒸羊

よ う か ん

羹外う い ろ う

郎村む ら さ め

雨など煉もの 煉

ね り き り

切こなし求ぎ ゅ う ひ

肥飴葛く ず

菓子など焼きもの 味噌松風煎

せ ん べ い

餅桃も も や ま

山カステラどら焼など流しもの 錦

にしきだま

玉煉ね り よ う か ん

羊羹水み ず よ う か ん

羊羹など揚げもの 揚げ煎

せ ん べ い

餅かりんとうなど打ちもの(押しもの) 落

ら く が ん

雁など岡もの 最

も な か

中きんとん鹿か の こ

の子すはまなどかけもの 金

こ ん ぺ い と う

平糖五ご し き ま め

色豆石いしごろも

衣など

これは和菓子の製法によって大まかに分類した表このほか含有する水分量によって生菓子半生 菓 子 干 菓 子などの分け方や上じ ょ う な ま が し

生菓子並菓子駄だ が し

菓子などの分類もある

「岡もの」とはすでにできあがっ た素材をあわせたもの (例きんとん=飴玉とそぼろ餡)

甘く味付けしたごぼうと白味噌餡を赤や白の餅や求

ぎ ゅ う ひ

肥で包んだ生菓子平安時代の新年行事のひとつで長寿を願っておこなわれた「歯固め」の餅に由来する餅と味噌の組み合わせから「包み雑煮」とも呼ばれた

葩はなびらもち

一 月

旧暦十月は「亥の月」と呼ばれていたがその月のさらに「亥の日」に行われる年中行事の際に食べられていた菓子旧暦では10月が冬の始まりそのタイミングで無病息災と多産の猪にあやかって子孫繁栄を願ってこれを食べていたという

亥い の こ も ち

の子餅

十 月六 月

白いういろうの上に小豆の粒餡を散らした菓子古来京都で旧暦六月の晦

み そ か

日(30日)に無病息災を祈願して行われている

「夏なごしのはらい

越祓」になぞらえて初夏の頃に食べられている小豆には邪気祓いの意味があり三角の形は氷を表している

水無月

五 月

平たく丸めた上新粉の餅をふたつに折り中に小豆や味噌の餡を挟んでそれを柏の葉で包んだ菓子柏の葉は新芽が育つまで古い葉が落ちないことから

「子孫繁栄」を願って旧暦五月五日の端

た ん ご

午の節句の供く も つ

物として用いられてきた

柏餅

日本ならではのお茶の製法である手揉みは茶葉の繊維をつぶしながらうまみを引き出すために行う作業手揉みすると茶葉が切れないため茶の甘みを保つことができる

菓子もまた「和食」にとって欠

かせない要素でお客様用の「上

菓子」普段食べる「饅頭」や「餅

菓子」などに分かれるほかに

干菓子や駄菓子など菓子の種

類は多いまた例えば団子や

大福などは「餅もの」求肥や飴

などは「煉りもの」錦玉や

水みずようかん

羊羹などは「流しもの」などと

いうようにその製法によって

分類されることもある米や麦

小豆を代表とする豆類そして

砂糖や水あめなどの材料でバ

ラエティに富んだ菓子が生み出

されてきた

お茶会などの席で抹茶ととも

に味わう菓子もあり季節に合

わせて材料や色やデザインが選

ばれ味覚だけでなく視覚で楽

しむこともある

また年中行事と結びつく菓

子もある例えば旧暦三月三日

の「ひな祭り」では邪気をはら

い強い生命力を象徴するよも

ぎの草もちでつくった草餅を食

べる

和菓子には日本茶がふさわし

い緑茶は12世紀に中国から日

本に伝わったが今では生の茶

葉を蒸してから揉んで乾燥させ

る緑茶の製法は日本独特のもの

となっている緑茶に含まれる

カフェインは覚醒効果がまた

カテキンには抗酸化作用があり

ビタミンCも多く含まれて健

康によい日本茶独特の香りと

うま味は日本文化そのもので

ある

出典「和菓子の歴史展」第五十回虎屋文庫資料展より

3132 WASHOKU

日本の「和食」の文化は自然

環境だけでなく海外からの影

響によっても絶えず変化して

きた

近代以降にはコロッケとん

かつなど洋風料理を和食の基本

型に組み合わせた食事肉と野

菜の煮物や和え物などそれまで

にはない料理が工夫されたそ

の多くは和食の基本型味噌や

醤油を用いた味付け箸で食べ

られる料理など「和食」の要素

を保ちつつ伝えられてきた

しかし第二次世界大戦後高

度経済成長期を迎えると日本人

の食生活は急速に変化する

1970年代にファストフー

ド店ファミリーレストランが

各地に開店しコンビニなども

広がった

1980年頃主食と副食の

バランスは理想的とされたが

(26頁参照)その後米の消費量

はさらに減りパン食が増加

肉類油脂乳乳製品の消費量

も増加し食料自給率も下がっ

た家族での外食が日常化し

家庭の食事も欧米化した

食育の必要性

「和食」が危ないどうしたら伝えられるのか

この150年間で大きく変化し「和食」はいま衰えつつあるその原因はどこにあるのだろうか

食生活の変化

日本の食料自給率の変化農林水産省「食料需給表」より作成

日本のものを食べなくなって 「和食」はどうなる 日本の食料自給率は下がり続けている1965(昭和40)年度はカロリーベースで73だったが2012(平成24)年度は39その大きな原因のひとつは国内で自給可能な米や魚や野菜などの消費量が減少する一方国内で生産が困難な飼料穀物を食べて育つ畜産物や原料を輸入に頼ることが多い冷凍加工食品や小麦の消費が増加したことだと考えられている炭水化物たんぱく質脂肪分をバランスよく摂取する健康的な「和食」に未来はあるのか

国民一人一日当たりの供給純食料農林水産省「食料需給表」より作成

食べる米の量が50年で半減 増えたのは肉と乳製品 国民一人あたりが食べる量を品目別に眺めて分かることそれは日本人が食べる米の量が著しく減ってきたことだ1960(昭和35)年度は一日あたりの米の消費量は約315gだったが2010(平成22年)年度は163gに約半減その代わりに増えたのは牛乳乳製品(約60gから約240g)と肉類(約14gから約80gへ)野菜と魚を中心としたおかずでご飯を食べるという

「和食」のスタイルの変化がわかる

食料費における外食と中食の割合の推移総務省統計局「家計調査年報」より作成

家で食べても 調理することが減っている 外食に対して家庭で作って食べる食事を内食というが弁当や惣菜など調理をせずに食べられるものを買ってきて済ます食事は中食と呼ぶ実はこの中食の割合が増えている外食が占める割合は2000(平成12)年以降横ばいなのに対して中食は増え続けその代わりに内食が減っている食事は家で食べても調理はしないという家庭が増えているのだとすれば「和食」にとって大切な要素を子どもたちに伝える機会が減っているとはいえないだろか

食料自給率(金額ベース)

食料自給率(主食用穀物)

食料自給率(カロリーベース)飼料自給率

米 野菜 肉類牛乳乳製品 魚介類

内食 中食 外食

(g人日)

3132 WASHOKU

50

55

60

65

70

75

01992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012

70

75

80

85

90

95

01992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012

一日に一度はお米を食べないと気がすまない人の割合博報堂生活総研「生活定点2012」

お正月におせち料理を食べた人の割合博報堂生活総研「生活定点2012」

一日に一度は米を炊いたご飯を食べなければ気がすまない人の割合が実はこの20年間で減っているというデータがある1992(平成4)年には714だったが2012(平成24)年には564にまで落ち込んでいるのだ

家族や親族で集まっておせち料理を囲みながら新しい一年の無事を祝うお正月実はおせち料理を食べる人も毎年少なくなっている1992(平成4)年には866だったが2012(平成24)年には748だった

電子レンジの普及や冷凍食品

インスタント食品などにより

食生活は便利になったが家庭

内で調理をする機会が減ったと

もいえる

こうしたなか「和食」の優れ

た点をどうしたら伝えられるの

だろうか親から子へ家庭の食

を伝えるだけでなく学校を通

して子どもたちにさらにその

親の世代にも伝える必要があろ

う高齢者からは「和食」につ

いて具体的に教わることも求

められる

離乳期からの食べ物の選び方

幼児期の食経験を豊富にするこ

となどはとくに重要であろう

小さな頃からの食習慣はその

後の食習慣に大きくかかわって

くるからだ

だしのおいしい味を日々体験

することや魚を味わい骨を箸

でとる訓練を楽しい雰囲気のな

かで教わることなどその積み

重ねの中で「和食」は伝わるので

あろう

経験しない味は異文化とと

らえられるであろうし体験し

ていない調理は簡単でも難しく

感じる食事を用意する過程を

日々見る経験手伝う楽しさ美

しい食器を大切にして使うこと

同じ食べ物を家族や仲間と味わ

い祭りや花見などで共に食べ

る経験を積み重ねることは文

化としての「和食」を伝えるだけ

でなく生きる力を育むことにも

つながるであろう

壁にではなく居間に向かって設置されることが多くなった現在のキッチン夫婦共働きだというこの家庭では夫が厨房に立つことも少なくないというこのように食事の準備を子どもと一緒に行うことで「和食」にとって大切な要素が次の世代に伝えられるようになるのだろう

世帯あたり1ヶ月間の穀類支出金額内訳

1962年3434円

パン

麺他

2010年6373円

パン

麺他

ご飯を食べなくても平気 そんな人が増えている

お米よりパンと麺 その傾向が加速中

おせち料理を食べる派が 毎年ジワリ減少中

1962(昭和37)年度には8割以上を占めていた米への支出が2010(平成22)年度にはパンにとって代わられる米の消費量はパンより多いが家庭では炊飯する必要のある米よりすぐに食べられるパンや麺の支出が多くなり家庭での料理が減っていることを示しているともいえよう

総務省統計局「家計調査年報」より作成

いただきます

ごちそうさま

「和食」の未来

今世紀に入ってから世界に和食ブー

ムが起きている味わいやヘルシーさに

注目が集まり世界中のいたるところに

日本食の店が数多くある

そのように世界から注目される「和食」

だが本家本元の日本国内でその将来が

危ぶまれている

これまで見てきたように「和食」には

新しいものを柔軟に取り込む歴史があっ

た日本人は太古の昔より外国からも

たらされた食文化を自分たちの食生活に

取り込んで日本独自の食文化を発展さ

せてきた地域ごとに地域の環境にふさ

わしい料理をつくり出してきた食べる

料理や食べ方もその時代ごと地域ごと

に変わってきた

その中で貫かれてきたことがある

豊かな自然がもたらす食材のおいしさ

を生かす調理法を工夫し味わうこと

食卓に季節感をしつらえもてなしの気

持ちを共に感じ合う食事の場を持つこ

と一汁三菜という組み合わせを食事

の基本スタイルとして健康的な食生活

をおくることお正月におせち料理を

祝いの日にお赤飯を家族と共に食べる

など食事は家族の絆となっている

豊かな自然を守る気持ちと同じように

日本人を健やかに生かし人と人をつな

いできた「和食」もまた守るべき大切な

日本文化ではないだろうか

「いただきます」「ごちそうさま」と言っ

てみるだけでも「和食」は私たちに身近

になる人と人をあたたかく結びつけて

くれる

日本人はやはりお米のご飯がおいしい

と思うだしのきいた汁でおなかも心も

癒されるこの日本人が長い歴史の中で

育んできたすばらしい財産である「和

食」がこのままなくなってよいと考える

人はいないだろう世界の中でもすぐれ

た食文化として認められた「和食」を日本

の誇りとし大切にして次の世代に受け

継いでいくきっかけにこの冊子がなれ

ば幸いである

ごちそうさま

和 食

3132 WASHOKU

日本の「和食」の文化は自然

環境だけでなく海外からの影

響によっても絶えず変化して

きた

近代以降にはコロッケとん

かつなど洋風料理を和食の基本

型に組み合わせた食事肉と野

菜の煮物や和え物などそれまで

にはない料理が工夫されたそ

の多くは和食の基本型味噌や

醤油を用いた味付け箸で食べ

られる料理など「和食」の要素

を保ちつつ伝えられてきた

しかし第二次世界大戦後高

度経済成長期を迎えると日本人

の食生活は急速に変化する

1970年代にファストフー

ド店ファミリーレストランが

各地に開店しコンビニなども

広がった

1980年頃主食と副食の

バランスは理想的とされたが

(26頁参照)その後米の消費量

はさらに減りパン食が増加

肉類油脂乳乳製品の消費量

も増加し食料自給率も下がっ

た家族での外食が日常化し

家庭の食事も欧米化した

食育の必要性

「和食」が危ないどうしたら伝えられるのか

この150年間で大きく変化し「和食」はいま衰えつつあるその原因はどこにあるのだろうか

食生活の変化

日本の食料自給率の変化農林水産省「食料需給表」より作成

日本のものを食べなくなって 「和食」はどうなる 日本の食料自給率は下がり続けている1965(昭和40)年度はカロリーベースで73だったが2012(平成24)年度は39その大きな原因のひとつは国内で自給可能な米や魚や野菜などの消費量が減少する一方国内で生産が困難な飼料穀物を食べて育つ畜産物や原料を輸入に頼ることが多い冷凍加工食品や小麦の消費が増加したことだと考えられている炭水化物たんぱく質脂肪分をバランスよく摂取する健康的な「和食」に未来はあるのか

国民一人一日当たりの供給純食料農林水産省「食料需給表」より作成

食べる米の量が50年で半減 増えたのは肉と乳製品 国民一人あたりが食べる量を品目別に眺めて分かることそれは日本人が食べる米の量が著しく減ってきたことだ1960(昭和35)年度は一日あたりの米の消費量は約315gだったが2010(平成22年)年度は163gに約半減その代わりに増えたのは牛乳乳製品(約60gから約240g)と肉類(約14gから約80gへ)野菜と魚を中心としたおかずでご飯を食べるという

「和食」のスタイルの変化がわかる

食料費における外食と中食の割合の推移総務省統計局「家計調査年報」より作成

家で食べても 調理することが減っている 外食に対して家庭で作って食べる食事を内食というが弁当や惣菜など調理をせずに食べられるものを買ってきて済ます食事は中食と呼ぶ実はこの中食の割合が増えている外食が占める割合は2000(平成12)年以降横ばいなのに対して中食は増え続けその代わりに内食が減っている食事は家で食べても調理はしないという家庭が増えているのだとすれば「和食」にとって大切な要素を子どもたちに伝える機会が減っているとはいえないだろか

食料自給率(金額ベース)

食料自給率(主食用穀物)

食料自給率(カロリーベース)飼料自給率

米 野菜 肉類牛乳乳製品 魚介類

内食 中食 外食

(g人日)

3132 WASHOKU

50

55

60

65

70

75

01992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012

70

75

80

85

90

95

01992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012

一日に一度はお米を食べないと気がすまない人の割合博報堂生活総研「生活定点2012」

お正月におせち料理を食べた人の割合博報堂生活総研「生活定点2012」

一日に一度は米を炊いたご飯を食べなければ気がすまない人の割合が実はこの20年間で減っているというデータがある1992(平成4)年には714だったが2012(平成24)年には564にまで落ち込んでいるのだ

家族や親族で集まっておせち料理を囲みながら新しい一年の無事を祝うお正月実はおせち料理を食べる人も毎年少なくなっている1992(平成4)年には866だったが2012(平成24)年には748だった

電子レンジの普及や冷凍食品

インスタント食品などにより

食生活は便利になったが家庭

内で調理をする機会が減ったと

もいえる

こうしたなか「和食」の優れ

た点をどうしたら伝えられるの

だろうか親から子へ家庭の食

を伝えるだけでなく学校を通

して子どもたちにさらにその

親の世代にも伝える必要があろ

う高齢者からは「和食」につ

いて具体的に教わることも求

められる

離乳期からの食べ物の選び方

幼児期の食経験を豊富にするこ

となどはとくに重要であろう

小さな頃からの食習慣はその

後の食習慣に大きくかかわって

くるからだ

だしのおいしい味を日々体験

することや魚を味わい骨を箸

でとる訓練を楽しい雰囲気のな

かで教わることなどその積み

重ねの中で「和食」は伝わるので

あろう

経験しない味は異文化とと

らえられるであろうし体験し

ていない調理は簡単でも難しく

感じる食事を用意する過程を

日々見る経験手伝う楽しさ美

しい食器を大切にして使うこと

同じ食べ物を家族や仲間と味わ

い祭りや花見などで共に食べ

る経験を積み重ねることは文

化としての「和食」を伝えるだけ

でなく生きる力を育むことにも

つながるであろう

壁にではなく居間に向かって設置されることが多くなった現在のキッチン夫婦共働きだというこの家庭では夫が厨房に立つことも少なくないというこのように食事の準備を子どもと一緒に行うことで「和食」にとって大切な要素が次の世代に伝えられるようになるのだろう

世帯あたり1ヶ月間の穀類支出金額内訳

1962年3434円

パン

麺他

2010年6373円

パン

麺他

ご飯を食べなくても平気 そんな人が増えている

お米よりパンと麺 その傾向が加速中

おせち料理を食べる派が 毎年ジワリ減少中

1962(昭和37)年度には8割以上を占めていた米への支出が2010(平成22)年度にはパンにとって代わられる米の消費量はパンより多いが家庭では炊飯する必要のある米よりすぐに食べられるパンや麺の支出が多くなり家庭での料理が減っていることを示しているともいえよう

総務省統計局「家計調査年報」より作成

いただきます

ごちそうさま

「和食」の未来

今世紀に入ってから世界に和食ブー

ムが起きている味わいやヘルシーさに

注目が集まり世界中のいたるところに

日本食の店が数多くある

そのように世界から注目される「和食」

だが本家本元の日本国内でその将来が

危ぶまれている

これまで見てきたように「和食」には

新しいものを柔軟に取り込む歴史があっ

た日本人は太古の昔より外国からも

たらされた食文化を自分たちの食生活に

取り込んで日本独自の食文化を発展さ

せてきた地域ごとに地域の環境にふさ

わしい料理をつくり出してきた食べる

料理や食べ方もその時代ごと地域ごと

に変わってきた

その中で貫かれてきたことがある

豊かな自然がもたらす食材のおいしさ

を生かす調理法を工夫し味わうこと

食卓に季節感をしつらえもてなしの気

持ちを共に感じ合う食事の場を持つこ

と一汁三菜という組み合わせを食事

の基本スタイルとして健康的な食生活

をおくることお正月におせち料理を

祝いの日にお赤飯を家族と共に食べる

など食事は家族の絆となっている

豊かな自然を守る気持ちと同じように

日本人を健やかに生かし人と人をつな

いできた「和食」もまた守るべき大切な

日本文化ではないだろうか

「いただきます」「ごちそうさま」と言っ

てみるだけでも「和食」は私たちに身近

になる人と人をあたたかく結びつけて

くれる

日本人はやはりお米のご飯がおいしい

と思うだしのきいた汁でおなかも心も

癒されるこの日本人が長い歴史の中で

育んできたすばらしい財産である「和

食」がこのままなくなってよいと考える

人はいないだろう世界の中でもすぐれ

た食文化として認められた「和食」を日本

の誇りとし大切にして次の世代に受け

継いでいくきっかけにこの冊子がなれ

ば幸いである

ごちそうさま

和 食

3132 WASHOKU

50

55

60

65

70

75

01992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012

70

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95

01992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012

一日に一度はお米を食べないと気がすまない人の割合博報堂生活総研「生活定点2012」

お正月におせち料理を食べた人の割合博報堂生活総研「生活定点2012」

一日に一度は米を炊いたご飯を食べなければ気がすまない人の割合が実はこの20年間で減っているというデータがある1992(平成4)年には714だったが2012(平成24)年には564にまで落ち込んでいるのだ

家族や親族で集まっておせち料理を囲みながら新しい一年の無事を祝うお正月実はおせち料理を食べる人も毎年少なくなっている1992(平成4)年には866だったが2012(平成24)年には748だった

電子レンジの普及や冷凍食品

インスタント食品などにより

食生活は便利になったが家庭

内で調理をする機会が減ったと

もいえる

こうしたなか「和食」の優れ

た点をどうしたら伝えられるの

だろうか親から子へ家庭の食

を伝えるだけでなく学校を通

して子どもたちにさらにその

親の世代にも伝える必要があろ

う高齢者からは「和食」につ

いて具体的に教わることも求

められる

離乳期からの食べ物の選び方

幼児期の食経験を豊富にするこ

となどはとくに重要であろう

小さな頃からの食習慣はその

後の食習慣に大きくかかわって

くるからだ

だしのおいしい味を日々体験

することや魚を味わい骨を箸

でとる訓練を楽しい雰囲気のな

かで教わることなどその積み

重ねの中で「和食」は伝わるので

あろう

経験しない味は異文化とと

らえられるであろうし体験し

ていない調理は簡単でも難しく

感じる食事を用意する過程を

日々見る経験手伝う楽しさ美

しい食器を大切にして使うこと

同じ食べ物を家族や仲間と味わ

い祭りや花見などで共に食べ

る経験を積み重ねることは文

化としての「和食」を伝えるだけ

でなく生きる力を育むことにも

つながるであろう

壁にではなく居間に向かって設置されることが多くなった現在のキッチン夫婦共働きだというこの家庭では夫が厨房に立つことも少なくないというこのように食事の準備を子どもと一緒に行うことで「和食」にとって大切な要素が次の世代に伝えられるようになるのだろう

世帯あたり1ヶ月間の穀類支出金額内訳

1962年3434円

パン

麺他

2010年6373円

パン

麺他

ご飯を食べなくても平気 そんな人が増えている

お米よりパンと麺 その傾向が加速中

おせち料理を食べる派が 毎年ジワリ減少中

1962(昭和37)年度には8割以上を占めていた米への支出が2010(平成22)年度にはパンにとって代わられる米の消費量はパンより多いが家庭では炊飯する必要のある米よりすぐに食べられるパンや麺の支出が多くなり家庭での料理が減っていることを示しているともいえよう

総務省統計局「家計調査年報」より作成

いただきます

ごちそうさま

「和食」の未来

今世紀に入ってから世界に和食ブー

ムが起きている味わいやヘルシーさに

注目が集まり世界中のいたるところに

日本食の店が数多くある

そのように世界から注目される「和食」

だが本家本元の日本国内でその将来が

危ぶまれている

これまで見てきたように「和食」には

新しいものを柔軟に取り込む歴史があっ

た日本人は太古の昔より外国からも

たらされた食文化を自分たちの食生活に

取り込んで日本独自の食文化を発展さ

せてきた地域ごとに地域の環境にふさ

わしい料理をつくり出してきた食べる

料理や食べ方もその時代ごと地域ごと

に変わってきた

その中で貫かれてきたことがある

豊かな自然がもたらす食材のおいしさ

を生かす調理法を工夫し味わうこと

食卓に季節感をしつらえもてなしの気

持ちを共に感じ合う食事の場を持つこ

と一汁三菜という組み合わせを食事

の基本スタイルとして健康的な食生活

をおくることお正月におせち料理を

祝いの日にお赤飯を家族と共に食べる

など食事は家族の絆となっている

豊かな自然を守る気持ちと同じように

日本人を健やかに生かし人と人をつな

いできた「和食」もまた守るべき大切な

日本文化ではないだろうか

「いただきます」「ごちそうさま」と言っ

てみるだけでも「和食」は私たちに身近

になる人と人をあたたかく結びつけて

くれる

日本人はやはりお米のご飯がおいしい

と思うだしのきいた汁でおなかも心も

癒されるこの日本人が長い歴史の中で

育んできたすばらしい財産である「和

食」がこのままなくなってよいと考える

人はいないだろう世界の中でもすぐれ

た食文化として認められた「和食」を日本

の誇りとし大切にして次の世代に受け

継いでいくきっかけにこの冊子がなれ

ば幸いである

ごちそうさま

和 食

いただきます

ごちそうさま

「和食」の未来

今世紀に入ってから世界に和食ブー

ムが起きている味わいやヘルシーさに

注目が集まり世界中のいたるところに

日本食の店が数多くある

そのように世界から注目される「和食」

だが本家本元の日本国内でその将来が

危ぶまれている

これまで見てきたように「和食」には

新しいものを柔軟に取り込む歴史があっ

た日本人は太古の昔より外国からも

たらされた食文化を自分たちの食生活に

取り込んで日本独自の食文化を発展さ

せてきた地域ごとに地域の環境にふさ

わしい料理をつくり出してきた食べる

料理や食べ方もその時代ごと地域ごと

に変わってきた

その中で貫かれてきたことがある

豊かな自然がもたらす食材のおいしさ

を生かす調理法を工夫し味わうこと

食卓に季節感をしつらえもてなしの気

持ちを共に感じ合う食事の場を持つこ

と一汁三菜という組み合わせを食事

の基本スタイルとして健康的な食生活

をおくることお正月におせち料理を

祝いの日にお赤飯を家族と共に食べる

など食事は家族の絆となっている

豊かな自然を守る気持ちと同じように

日本人を健やかに生かし人と人をつな

いできた「和食」もまた守るべき大切な

日本文化ではないだろうか

「いただきます」「ごちそうさま」と言っ

てみるだけでも「和食」は私たちに身近

になる人と人をあたたかく結びつけて

くれる

日本人はやはりお米のご飯がおいしい

と思うだしのきいた汁でおなかも心も

癒されるこの日本人が長い歴史の中で

育んできたすばらしい財産である「和

食」がこのままなくなってよいと考える

人はいないだろう世界の中でもすぐれ

た食文化として認められた「和食」を日本

の誇りとし大切にして次の世代に受け

継いでいくきっかけにこの冊子がなれ

ば幸いである

ごちそうさま

和 食

「和食」の未来

今世紀に入ってから世界に和食ブー

ムが起きている味わいやヘルシーさに

注目が集まり世界中のいたるところに

日本食の店が数多くある

そのように世界から注目される「和食」

だが本家本元の日本国内でその将来が

危ぶまれている

これまで見てきたように「和食」には

新しいものを柔軟に取り込む歴史があっ

た日本人は太古の昔より外国からも

たらされた食文化を自分たちの食生活に

取り込んで日本独自の食文化を発展さ

せてきた地域ごとに地域の環境にふさ

わしい料理をつくり出してきた食べる

料理や食べ方もその時代ごと地域ごと

に変わってきた

その中で貫かれてきたことがある

豊かな自然がもたらす食材のおいしさ

を生かす調理法を工夫し味わうこと

食卓に季節感をしつらえもてなしの気

持ちを共に感じ合う食事の場を持つこ

と一汁三菜という組み合わせを食事

の基本スタイルとして健康的な食生活

をおくることお正月におせち料理を

祝いの日にお赤飯を家族と共に食べる

など食事は家族の絆となっている

豊かな自然を守る気持ちと同じように

日本人を健やかに生かし人と人をつな

いできた「和食」もまた守るべき大切な

日本文化ではないだろうか

「いただきます」「ごちそうさま」と言っ

てみるだけでも「和食」は私たちに身近

になる人と人をあたたかく結びつけて

くれる

日本人はやはりお米のご飯がおいしい

と思うだしのきいた汁でおなかも心も

癒されるこの日本人が長い歴史の中で

育んできたすばらしい財産である「和

食」がこのままなくなってよいと考える

人はいないだろう世界の中でもすぐれ

た食文化として認められた「和食」を日本

の誇りとし大切にして次の世代に受け

継いでいくきっかけにこの冊子がなれ

ば幸いである

ごちそうさま

和 食

ごちそうさま

和 食