分散型 mtmd による大スパン建築構造の振動制御...

8
1.はじめに TMD(Tuned Mass Damper)は,質量,バネ,ダンパーで構成され, 構造物に取り付けて大きく振動させることにより,構造物の振動エ ネルギーを TMD の運動エネルギーとして吸収し,ダンパーの減衰 力によりエネルギーを消散させることができる。そのため,これま で様々な建築構造物で地震動や風荷重に対する振動制御に用いられ てきた。本研究は,空間的な広がりをもつドームやスタジアム屋根 など大スパン屋根構造物の地震時や強風時における振動制御,大ス パン床スラブなど軽量大スパン構造物の環境振動対策としての TMD の適用方法に関するものである。大スパン屋根構造物では,新 潟県中越地震や福岡西方沖の地震,宮城県沖の地震においても体育 館やプールの天井材や照明など吊り物の落下被害が多く発生し,耐 震制振対策の必要性が指摘されている 1) 。また今後さらに床スラブ の大スパン化が進むことにより,環境振動障害に対する対策の必要 性が増すものと思われる 2) 。大スパン建築構造は,ビル等の多層式 骨組構造のせん断型振動と比較して,高次モードまで含む固有振動 数の近接した複数のモードが励起される特徴があるため,本研究で は,特に固有振動数の近接した複数のモードを効率良く制御する設 計手法の開発に重点を置いている。 既報 3) では,これら大スパン建築構造用の TMD 設計法として, 複数の小型の TMD を空間に分散配置する分散型 TMD を提案した。 設計パラメーターの設定法として,同調比に対するロバスト性に優 れる MTMD 4),5) を用い,MTMD は制御モードの重ね合わせの 最大振幅点に分散型に配置した(図1参照,以下,分散型 MTMD と述べる)。矩形平板を対象モデルとして選択し,2個のモードを制 御対象モードとした周波数応答解析の結果,合計 TMD 質量が等し い条件で,従来の通常 TMD 設計法と比較して,以下の結果が得ら れている。(1)提案手法は,MTMD 設定バンド幅(複数の MTMD のうち最大固有振動数から最小固有振動数までの幅)の内側では制 振効果が優れるが,バンド幅外側では応答が若干大きくなる傾向が ある。(2)提案手法は,一点でなく構造物全体の振動を制御する目 的に対して特に有効である。最終的に提案手法が大スパン建築構造 TMD 設計法として適用可能性に優れるという結論が得られた。 これらの結果を受け,既報 6) では,MTMD の空間配置に重点を 置いた研究結果を述べた。 MTMD の逐次的な最適配置探索手法を提 案して最適配置を求め,提案した簡易配置法との比較を行った。そ の結果,精算による最適配置と提案した簡易 MTMD 配置はほぼ等 しく,制振効果もほぼ同じであることが分かった。次に大スパン建 築構造モデルとして単層円筒ラチスシェルを選択し,観測地震波を 用いた時刻歴応答解析により,提案手法の制振効果を確認した。そ の結果,モードの腹に一つの TMD を配置する従来型の TMD 設計法 は, TMD を配置した位置における制振効果は高いが,それ以外の位 置での応答のバラツキが大きい。一方,提案手法は構造物全体をバ ランス良く制御でき,且つ提案手法の構造物全体における制振効果 が非常に優れていることが確認された。 既報 7) では,本設計法で重要な設計パラメーターである,複数モ ード制御のための MTMD バンド幅設定法に着目した研究結果を述 べた。まず,複数モードの固有振動数間隔を単一モード制御時にお * 東京大学生産技術研究所 助教・工博 Research Associate, IIS, University of Tokyo, Dr. Eng. * * 東京大学生産技術研究所 教授・工博 Professor, IIS, University of Tokyo, Dr. Eng. 分散型 MTMD による大スパン建築構造の振動制御に関する研究 -アーチモデルを用いた振動台実験- Keywords : Vibration control, Large span structures, Tuned mass damper, Single TMD, Multiple TMD, Shaking table tests 振動制御,大スパン構造,TMD,通常 TMDMTMD,振動台実験 VIBRATION CONTROL OF LARGE SPAN STRUCTURES USING DISTRIBUTED MTMDs Shaking table tests with an arch model 吉中 * 川口健一 ** Susumu YOSHINAKA and Ken’ichi KAWAGUCHI The main objective of this research is to develop the vibration control procedure of several modes for large span structures using distributed MTMDs (multiple tuned mass dampers). In order to examine fundamental and real behavior of the MTMD procedure, shaking table tests with a small-scaled arch model are executed. Firstly, to confirm frequency response characteristics of the MTMD procedure, tests using harmonic excitation are executed and we compare test results with analytical results. Then, we study controlling performance of the MTMD procedure under random excitation. Finally, we study robust performance of the MTMD procedure against frequency changes of structures that is important issue for real applications of the proposed method to the vibration control of several modes at a time.

Upload: others

Post on 28-Dec-2019

0 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 分散型 MTMD による大スパン建築構造の振動制御 …news-sv.aij.or.jp/kouzou/s18/yoshi2.pdf1.はじめに TMD(Tuned Mass Damper)は,質量,バネ,ダンパーで構成され,構造物に取り付けて大きく振動させることにより,構造物の振動エ

1.はじめに

TMD(Tuned Mass Damper)は,質量,バネ,ダンパーで構成され,

構造物に取り付けて大きく振動させることにより,構造物の振動エ

ネルギーを TMD の運動エネルギーとして吸収し,ダンパーの減衰

力によりエネルギーを消散させることができる。そのため,これま

で様々な建築構造物で地震動や風荷重に対する振動制御に用いられ

てきた。本研究は,空間的な広がりをもつドームやスタジアム屋根

など大スパン屋根構造物の地震時や強風時における振動制御,大ス

パン床スラブなど軽量大スパン構造物の環境振動対策としての

TMD の適用方法に関するものである。大スパン屋根構造物では,新

潟県中越地震や福岡西方沖の地震,宮城県沖の地震においても体育

館やプールの天井材や照明など吊り物の落下被害が多く発生し,耐

震制振対策の必要性が指摘されている1)。また今後さらに床スラブ

の大スパン化が進むことにより,環境振動障害に対する対策の必要

性が増すものと思われる2)。大スパン建築構造は,ビル等の多層式

骨組構造のせん断型振動と比較して,高次モードまで含む固有振動

数の近接した複数のモードが励起される特徴があるため,本研究で

は,特に固有振動数の近接した複数のモードを効率良く制御する設

計手法の開発に重点を置いている。

既報3)では,これら大スパン建築構造用の TMD 設計法として,

複数の小型の TMD を空間に分散配置する分散型 TMD を提案した。

設計パラメーターの設定法として,同調比に対するロバスト性に優

れる MTMD 法4),5)を用い,MTMD は制御モードの重ね合わせの

最大振幅点に分散型に配置した(図1参照,以下,分散型 MTMD

と述べる)。矩形平板を対象モデルとして選択し,2個のモードを制

御対象モードとした周波数応答解析の結果,合計 TMD 質量が等し

い条件で,従来の通常 TMD 設計法と比較して,以下の結果が得ら

れている。(1)提案手法は,MTMD 設定バンド幅(複数の MTMD

のうち最大固有振動数から最小固有振動数までの幅)の内側では制

振効果が優れるが,バンド幅外側では応答が若干大きくなる傾向が

ある。(2)提案手法は,一点でなく構造物全体の振動を制御する目

的に対して特に有効である。最終的に提案手法が大スパン建築構造

の TMD 設計法として適用可能性に優れるという結論が得られた。

これらの結果を受け,既報6)では,MTMD の空間配置に重点を

置いた研究結果を述べた。MTMD の逐次的な最適配置探索手法を提

案して最適配置を求め,提案した簡易配置法との比較を行った。そ

の結果,精算による最適配置と提案した簡易 MTMD 配置はほぼ等

しく,制振効果もほぼ同じであることが分かった。次に大スパン建

築構造モデルとして単層円筒ラチスシェルを選択し,観測地震波を

用いた時刻歴応答解析により,提案手法の制振効果を確認した。そ

の結果,モードの腹に一つの TMD を配置する従来型の TMD 設計法

は,TMD を配置した位置における制振効果は高いが,それ以外の位

置での応答のバラツキが大きい。一方,提案手法は構造物全体をバ

ランス良く制御でき,且つ提案手法の構造物全体における制振効果

が非常に優れていることが確認された。

既報7)では,本設計法で重要な設計パラメーターである,複数モ

ード制御のための MTMD バンド幅設定法に着目した研究結果を述

べた。まず,複数モードの固有振動数間隔を単一モード制御時にお

* 東京大学生産技術研究所 助教・工博 Research Associate, IIS, University of Tokyo, Dr. Eng. * * 東京大学生産技術研究所 教授・工博 Professor, IIS, University of Tokyo, Dr. Eng.

分散型 MTMD による大スパン建築構造の振動制御に関する研究 -アーチモデルを用いた振動台実験-

Keywords : Vibration control, Large span structures, Tuned mass damper, Single TMD, Multiple TMD, Shaking table tests 振動制御,大スパン構造,TMD,通常 TMD,MTMD,振動台実験

VIBRATION CONTROL OF LARGE SPAN STRUCTURES USING DISTRIBUTED MTMDs Shaking table tests with an arch model

吉 中 進

*, 川口健一 **

Susumu YOSHINAKA and Ken’ichi KAWAGUCHI

The main objective of this research is to develop the vibration control procedure of several modes for large span structures using distributed MTMDs (multiple tuned mass dampers). In order to examine fundamental and real behavior of the MTMD procedure, shaking table tests with a small-scaled arch model are executed. Firstly, to confirm frequency response characteristics of the MTMD procedure, tests using harmonic excitation are executed and we compare testresults with analytical results. Then, we study controlling performance of the MTMD procedure under random excitation. Finally, we study robust performance of the MTMD procedure against frequency changes of structures thatis important issue for real applications of the proposed method to the vibration control of several modes at a time.

Page 2: 分散型 MTMD による大スパン建築構造の振動制御 …news-sv.aij.or.jp/kouzou/s18/yoshi2.pdf1.はじめに TMD(Tuned Mass Damper)は,質量,バネ,ダンパーで構成され,構造物に取り付けて大きく振動させることにより,構造物の振動エ

MTMD

大スパン建築構造

けるロバスト余裕と同意とし,単一モード制御時における最適バン

ド幅を応用した複数モード制御時のバンド幅の設定方法を新たに提

案した。次に,提案手法の適用範囲の目安を考えるにあたり,提案

手法と単一モード制御時の MTMD 法を,MTMD 質量密度による付

加減衰の変化という点から考察した。その結果,提案手法が有効で

あるのは,MTMD 設定バンド幅が制御モードの最適バンド幅の約

2.0 倍以下のときであることが分かった。さらに,代表的な大スパン

建築構造である球殻状スペースフレーム構造に本手法を適用して数

値解析による検討を行った。本構造のように自由度が高く,柔らか

いモデルで全体が滑らかに変位するモードを制御対象とする場合に

おける MTMD 配置法を新たに提案し,良好な制振効果を確認した。

以上述べたように,本研究ではこれまで,分散型 MTMD の制振効

果を解析的に確認してきた。本論文では,大スパン建築構造モデル

を想定した小規模のアーチ模型を用いて行った振動台実験の結果に

ついて報告する。既往の研究として,MTMD ではないが,固有振動

数をずらした複数個のTMDを用いた二重TMDを平板モデルに適用

したときのインパルスハンマ加振による実験的研究8)があるが,こ

れは大スパン建築構造への適用を想定して研究されたものではない。

本論文では,分散型 MTMD を大スパン建築構造へ応用するための

基礎データを得ることを目的とし,単一モード制御時における

MTMD 法の調和外力と不規則励振に対する制振性能の実験的検証,

実験結果と解析結果の比較,さらに,特に複数モード制御に応用す

るときに重要な特性である構造物の固有振動数変動に対するロバス

ト性の確認に重点を置いて述べる。

図1 分散型 MTMD

2.通常 TMD と MTMD 法

通常 TMD と MTMD 法の概念図を図2に示す。以降で,通常 TMD

とはこれまで一般的に用いられている従来型設計法であり,①モー

ドの腹に1個の TMD を設置し,②設計パラメーターは Den Hartog

による固定点法9)などパラメーター最適調整法に従う方法を指すこ

ととする。一方,MTMD 法4),5)は,図2に示すように複数の小型

の MTMD を制御対象モードの固有振動数の周りに,あるバンド幅

を持たせて分布させる方法であり,①共振点における制振効果が高

く,②同調比や減衰比の変化に対するロバスト性に優れた特徴を持

っている。特に②のロバスト性が MTMD 法の大きな特徴である。

図2 通常 TMD と MTMD 法

3.アーチモデルと実験機器

長さ 91.0cm,幅 10.0cm,厚さ 1.6mm の平らな鋼板を弾性的に曲

げたものを試験体とした。曲げてアーチ形状となった試験体のスパ

ンは 86.0cm,ライズは 12.4cm である。振幅 12.4cm の正弦波の曲線

の長さは 90.2cm であり,形状は正弦アーチに近いと考えられる。鋼

板の両端はφ10 の鋼棒で製作したピンで支持し,架台に固定した。

アーチ鉄板の重量は約 1.143kg である。試験体の図面及び写真を,

図3と写真1に示す。

振動台は,東大生研所有の IMV 社製1軸1自由度振動台 CVL-

500-75 を用いてアーチのスパン方向に加力した。計測は,次章で

述べる1次モードの腹の位置に鉛直方向にレーザー変位計を設置し,

アーチの架台に対する鉛直方向変位を計測した(位置は図3参照)。

図3 試験体図面

写真1 アーチモデル設置状況

4.アーチ単体の振動性状

最初に線形固有値解析の結果を述べ,次に調和外力を入力した振

動台実験の結果を述べる。

(1)線形固有値解析

アーチ単体の基本的な振動性状を確認するために,線形固有値解

析を行った。解析は汎用構造解析ソフト MSC.Nastran を用いた。材

料特性は鋼材の材料定数を用い,ヤング係数 2.05×1011 N/m2,せん

断弾性係数 7.94×1010 N/m2,比重 7,850 kg/m3を用いた。鋼板はシェ

ル要素でモデル化し,境界は両端部ピン支持とした(図4参照)

図4 解析モデル

3次モードまでの固有振動数と有効質量を表1に,XZ 平面で見

たモード形状を図5に示す。有効質量から確認されるように,今回

の加振方向(X 方向)で励起されるモードは1次と3次の逆対称モ

ードであり,2次モードは Z 方向加振で励起される対称モードであ

る。表1に示すように,本アーチの固有周期は既報6),7)で述べた

ドーム状スペースフレーム構造のように近接していない。しかし第

接合部への MTMD の埋め込み

X

YZ

Page 3: 分散型 MTMD による大スパン建築構造の振動制御 …news-sv.aij.or.jp/kouzou/s18/yoshi2.pdf1.はじめに TMD(Tuned Mass Damper)は,質量,バネ,ダンパーで構成され,構造物に取り付けて大きく振動させることにより,構造物の振動エ

0

0.04

0.08

0.12

0.16

0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8

長さ(m)

高さ(m)

アーチ形状1次モード2次モード3次モード

1次モード 2次モード

3次モード

1次モード腹(節点A)

1次モード腹(節点B)

21.0cm

21.0cm

1章で述べたように,本論文は単一モード制御時における MTMD

法の振動性状の実験的検証を主目的としていることから,アーチに

限らず大スパン構造に共通して励起しやすい基本的な逆対称1波の

モード形状で,水平入力に対しても上下方向に大きな応答が生じる

大スパン構造に特徴的な振動性状を示す1次モードを制御モードと

して選択した。1次モードの腹の位置は端部から 21.0cm である。

表1 固有振動数 有効質量(kg) モード次数 固有振動数

(Hz) X 方向 Z 方向 1次モード 17.03 0.2234 0 2次モード 38.31 0 0.001732 3次モード 72.38 0.05168 0

図5 モード形状

(2)振動台実験

振動台実験に先立ち,アーチ単体の固有振動数を測定するために,

1次モードの腹に強制変位を与えて自由振動実験を行いフーリエス

ペクトルを求めた。その結果,17.10Hz 付近で応答が卓越し,表1

に示した解析結果とほぼ等しいことが分かった。1次モードの固有

振動数 17.10Hz 近傍の 10.0~24.0Hz において 0.5Hz 間隔で,0.5G の

正弦波を入力した。応答変位は定常状態における値を計測した。図

6に実験結果と,比較のための解析結果を示す。解析における減衰

比は,実験で得られた周波数応答曲線からハーフパワー法10)を用

いて求めた値 2.713%を用いた。解析結果と実験結果は非常に良い一

致を示している。以降の解析でアーチの減衰比は 2.713%を用いた。

図6 アーチ単体の周波数応答

5.通常 TMD と分散型 MTMD の設計

(1)設計パラメーターの設定

通常 TMD 及び MTMD の合計質量は,アーチ全体の構造質量の

5.249%である 60.0g とした。制御振動数は,実験で得られた1次モ

ード固有振動数である 17.10Hz を用いた。

①通常 TMD

通常 TMD は,1次モードの腹に1個の TMD を設置する。設計パラ

メーターは,Den Hartog による調和地盤振動下での最適同調比 optγ と

最適減衰比 optξ の計算式9)である(1),(2)式を用いて求めた。

ここで, µ は主振動系の等価質量に対する TMD の質量比である。

µγ

+=

11

opt (1)

2/183

µµξ

+=opt

(2)

通常 TMD と MTMD の等価質量の計算は,図4の有限要素分割を基

に,文献11)で述べられた多自由度系における等価質量同定法であ

る固有ベクトル法を用いて求めた。本モデルの1次モード腹におけ

る等価質量の値は 0.5820kg である。上式を用いて求めた TMD の固

有振動数は 16.28Hz,最適減衰比は 19.17%である。TMD1個の質量

は 30.0g,バネ定数は 314.0N/m,減衰係数は 1.177 N・sec/m である。

②分散型 MTMD

最初に既往文献4)で述べられた MTMD の設計パラメーターの設

定法をまとめる。ここで,全ての MTMD の質量と固有円振動数間

隔は等しい。図7に MTMD の固有円振動数の振動数軸上での分布

を示す。

図7 MTMD の固有円振動数の分布

MTMD の個数は N 個(=2n+1)とする。n は MTMD の番号である。中

心の MTMD の固有円振動数を 0ω ,それ以外の MTMD の固有円振

動数を jω とし,両者の関係を(3)式で表す。 0ω と構造物の固有円振

動数 sω の関係を(4)式で表す。式中のパラメーター β は MTMD の固

有円振動数間隔を, 0β は 0ω と sω の間隔を示している。

( )nnjjj ~−=+= )1(0 βωω (3)

)1( 00 βωω += s (4)

MTMD の固有円振動数のバンド幅 B を(5)式で表す。

0/)( ωωω nnB −−= (5)

このときパラメーター β とバンド幅 B の関係は,(6)式で表される。

)2/()1/( nBNB =−=β (6)

MTMD の合計質量比を totalµ とすると,

)1(/0 totals µωω += (7)

既往文献4)で提案された最適バンド幅 cB は以下の(8)式である。

)8(41 TB totalc µ= (8)

ただし, )log(NT += γ (γ=0.57721:オイラー定数) (9)

この最適バンド幅は,幅広い外力振動数に対して平均した制振性能

を持つ MTMD の特性が卓越するのは,構造物-MTMD 系の全ての

モードで MTMD の動きに大きな差が無いモード形になっているこ

とから,「各モードにおける MTMD の最大モード振幅が等しい」こ

とを基準として定められたものである。

0.0

1.0

2.0

3.0

4.0

5.0

10.0 12.0 14.0 16.0 18.0 20.0 22.0 24.0

外力周波数(Hz)

応答

変位(m

m)

実験結果(節点A)

実験結果(節点B)

解析結果

1次モード固有振動数:17.10Hz

.

Page 4: 分散型 MTMD による大スパン建築構造の振動制御 …news-sv.aij.or.jp/kouzou/s18/yoshi2.pdf1.はじめに TMD(Tuned Mass Damper)は,質量,バネ,ダンパーで構成され,構造物に取り付けて大きく振動させることにより,構造物の振動エ

MTMD の減衰比の目安として,以下の(10)式が与えられている。

πβξ /3=T (10)

(6)式より,バンド幅 B を決定するとパラメーター β が定まり,(3)

式と(10)式より個々の MTMD の固有円振動数と減衰比が求まる。

なお,複数モード制御時におけるパラメーター設定法については,

既報7)で提案している。本論文では,外力として,地震動のように

幅広い周波数成分を含むものを想定しているため,MTMD のバンド

幅は,より広い周波数領域に亘って平均的な応答が得られるように

(8)式を用いて求められる最適バンド幅(14.22~18.21Hz)を 1.5 倍

に拡大した値を用いた。一般に,最適バンド幅のとき,制御目標と

する振動数に対して最も制振効果が高く,ある幅をもった外力振動

数に対しても安定した制振効果を持つが,既往文献3)でも述べたよ

うに,最適バンド幅を若干拡大した方がより広い外力周波数におい

て応答のバラツキの少ない安定した制振効果を得ることができるた

め,ここでは最適バンド幅を 1.5 倍に拡大した値を用いた。MTMD

の個数は4個とし,2個の腹に2個づつ分散させて設置した。表2

に4個の MTMD の設計パラメーターを示す。4個の MTMD の質量

と減衰比は,それぞれ 15.0g と 6.796%で共通である。MTMD の減衰

比は通常 TMD の約 35%と小さい。

表2 MTMD の設計パラメーター MTMD番号 固有振動数

(Hz) バネ定数 (N/m)

減衰係数 (N・sec/m)

MTMD1 13.27 104.3 0.1700 MTMD2 15.28 138.2 0.1957 MTMD3 17.28 176.9 0.2214 MTMD4 19.29 220.4 0.2472

(2)TMD・MTMD 模型の製作

通常 TMD 及び MTMD は,錘,板バネで構成する。今回の試験で

は機構が複雑となるダンパー装置は設けず,板バネの材料減衰のみ

とした。提案手法ではMTMD は法線方向に作動することとしている

ため,模型においても作動に方向性を持たせるため,板バネを用い

た。図8に示すように,アーチの両側に板バネを張り出し,板バネ

の先端に錘を設置する。通常 TMD は1次モードの1つの腹(図9

の節点 A)に設置し,MTMD は2個の腹(図9の節点 A と節点 B)

に分散させて設置した。通常 TMD はアーチ両側の錘の固有振動数

が同じだが,MTMD は4個の MTMD の固有振動数が全て異なるた

め,アーチ両側に張り出した板バネの長さは全て異なる。

図8 TMD 取り付け立面図

板バネのバネ定数の計算には以下の(11)式を用いた。

3

3

4LEWHk = (11)

(a)通常 TMD

(b)MTMD

図9 通常 TMD と MTMD の配置

ここで,E は板バネのヤング係数,W,H,L は,それぞれ板バネの

幅,厚さ,長さである。材質はリン青銅を使用し,ヤング係数

E=98,000N/mm2 を用いた。試験体に用いた1個あたりの通常 TMD

と MTMD の構成を表3と表4に示す。

表3 通常 TMD の構成 錘 質量 m/1個 30.0g

長さ L 5.3cm 幅 W 1.5cm

板バネ

高さ H 0.5mm 表4 MTMD の構成

錘 質量 m/1個 15.0g MTMD1 7.6cm MTMD2 6.9cm MTMD3 6.4cm

長さ L

MTMD4 5.9cm 幅 W 1.5cm

板バネ

高さ H 0.5mm

6.通常 TMD と分散型 MTMD の周波数応答特性

前章の通常 TMD と MTMD をアーチに設置し,アーチ単体のとき

と同様に 10.0~24.0Hzまで 0.5Hz間隔で 0.5Gの正弦波を入力した。

6.1 通常 TMD の実験結果

(1)周波数応答

通常 TMD の設置状況を写真2に示す。設計時における TMD の固

有振動数は 16.28Hz であるが,約 5mm の強制変位を与えて得られた

自由振動曲線から求めた模型の固有振動数は 15.53Hz と 16.60Hz で

あった。模型の減衰比は 2.926%であり,前章で求めた設計値 19.17%

と比較して小さい。実験と比較した解析において,TMD 模型の板バ

ネの固有振動数と等しくなるように板バネの長さを調整した。また

板バネとアーチに接着するために用いた磁石の質量は,実測値をア

ーチへの付加質量として与え,数値解析に反映させた。TMD の減衰

は部材減衰として考慮した。図10に実験結果と解析結果の比較を

示す。応答の大きさには多少の違いがあるが,実験で応答のピーク

が生じるのは 14.0Hz と 19.0Hz であり,解析で応答のピークが生じ

るのは 13.88Hz と 19.03Hz と,全体の傾向は良く一致している。図

Page 5: 分散型 MTMD による大スパン建築構造の振動制御 …news-sv.aij.or.jp/kouzou/s18/yoshi2.pdf1.はじめに TMD(Tuned Mass Damper)は,質量,バネ,ダンパーで構成され,構造物に取り付けて大きく振動させることにより,構造物の振動エ

中に点線で設計値を用いて解析したときの応答曲線を設計値解析結

果として示す。模型よりも減衰比が大きいために,1次モード固有

振動数における応答は実験結果よりも大きいものの,全体的に凹凸

の少ないなだらかな曲線となっている。通常 TMD を設置した節点

A と設置しない節点 B における周波数応答の比較(解析結果と実験

結果)から,TMD を設置することにより構造物の対称性は若干失わ

れるものの,その影響は微小であると考えられる。

写真2 通常 TMD 設置状況

図10 通常 TMD の周波数応答

(2)TMD 設置位置における応答の比較

前述した実験では,TMD は最もアーチの応答が大きいモードの腹

に置いたが,ここでは TMD 設置位置における応答の違いを調べる

ために,設置位置を変えて実験を行った。設置位置はアーチ端部か

ら 7,14,21,28,35,43cm の点とした。43cm の点がスパン中央である。

図11に端部からの距離を横軸とし,縦軸に応答変位を取った TMD

の設置位置による応答変位の変化の様子を示す。スパン中央に TMD

を設置した場合は,モードの節であり,且つ TMD の作動方向が加

力方向と垂直であるため TMD による制振効果は見られない。それ

以外の点においては,腹に設置した場合に応答が最も小さく制振効

果が高いものの,応答の大きさにそれほどの違いは見られなかった。

図11 TMD 設置位置における応答の変化

6.2 分散型 MTMD の実験結果

(1)MTMD 模型の改良

MTMD 模型をアーチの腹に取り付け,0.5G の正弦波を入力した。

16.0Hz の正弦波を加振したとき,モード腹の節点の応答が約 4mm

と非常に大きくなった。原因は写真3に示すようにアーチ両側に取

り付けた固有振動数の異なる4個の MTMD がそれぞれ逆位相で振

動することにより,捩れ振動が生じ,両端部のピン支持部における

ガタなどが原因となり,安定して振動しないためであった。図12

に解析で得られた4次モードのモード形状(固有振動数:16.15Hz)

を示す。解析結果からも4個の MTMD が逆位相で振動し,捩れ振

動が生じていることが分かる。

写真3 16.0Hz 加振時の MTMD 振動状況

MTMD 模型の改良を行った。具体的には MTMD の固有振動数を変

えることなく,MTMD の慣性モーメントが小さくなるように,板バ

ネの厚さを薄くすることによって,板バネ全体の長さを短くした。

図12 MTMD を設置した4次モード(16.15Hz)

改良後の MTMD 模型の構成を表5に示す。さらにアーチ両側で

の板バネの長さの違いを小さくするため,図13に示す MTMD 配

置とした。改良後,捩れ振動の影響は改善された。

改良した MTMD は板バネ全体の長さが短いため,長さの誤差に

敏感であり,設計上の固有振動数と若干の違いがあった。そこで,

固有振動数を調整するため,錘を付加した。MTMD 模型の最終的な

固有振動数と,錘の重さを表6に示す。改良後の錘の重さは,アー

チの質量の 7.445%である。表6には通常 TMD と同様に,実測した

自由振動曲線から求めた4個の MTMD の減衰比を示す。全体的に

設計値よりも減衰比が小さく,バラツキがある。しかし,既往の研

究12)よりMTMDは減衰比に対するロバスト性が高いことが確認さ

れており,減衰比の精度が結果に与える影響は通常 TMD と比べて

小さいと考えられる。

表5 改良後の MTMD の構成 錘 質量 m/1個 15.0g

MTMD1 3.1cm MTMD2 2.8cm MTMD3 2.6cm

長さ L

MTMD4 2.4cm 幅 W 1.5cm

板バネ

高さ H 0.2mm

0.0

1.0

2.0

3.0

4.0

5.0

10.0 12.0 14.0 16.0 18.0 20.0 22.0 24.0

外力周波数(Hz)

応答

変位

(mm)

解析結果(節点A)

解析結果(節点B)

実験結果(節点A)

実験結果(節点B)

TMD無し(実験結果)

設計値解析結果(節点A)

設計値解析結果(節点B)

1次モード固有振動数:17.10Hz

解析結果 実験結果

TMD無し

設計値

0.0

1.0

2.0

3.0

4.0

5.0

0 10 20 30 40TMD設置位置(端部からの距離L(cm))

応答

変位

(mm)

節点A

節点Bスパン中央

腹端部

Page 6: 分散型 MTMD による大スパン建築構造の振動制御 …news-sv.aij.or.jp/kouzou/s18/yoshi2.pdf1.はじめに TMD(Tuned Mass Damper)は,質量,バネ,ダンパーで構成され,構造物に取り付けて大きく振動させることにより,構造物の振動エ

図13 改良後の MTMD 配置

表6 改良後の MTMD 設計パラメーター 固有振動数(Hz) 錘の質量(g) 減衰比(%) MTMD

番号 設計 模型 設計 模型 設計 模型 MTMD1 13.27 13.54 15.0 19.0 6.796 1.324 MTMD2 15.28 15.81 15.0 21.0 6.796 0.7702MTMD3 17.28 17.82 15.0 23.2 6.796 2.377 MTMD4 19.29 19.47 15.0 21.9 6.796 4.542

(2)周波数応答

改良した MTMD 模型を用いて,正弦波を入力した。アーチに

MTMD を設置した状況を写真4に示す。

写真4 MTMD 設置状況

図14に実験結果と解析結果の比較を示す。通常TMDと同様に,

解析では板バネの固有振動数が模型と等しくなるように板バネの長

さを調整した。実験結果と解析結果で応答の大きさや応答ピークが

生じる周波数に若干の違いがあるものの,MTMD が設定バンド幅内

側において安定した制振効果が得られるという文献4),5)で述べら

れた特徴が実験でも良く現れている。13.0Hz と 21.5Hz で応答のピ

ークが現れ,TMD 無しの場合よりも応答が若干大きくなっているが,

それ以外の周波数では概ね TMD 無しの場合よりも応答が小さい。

通常 TMD と同様に,図中に点線で,表2で示した設計値を用い

て解析したときの応答曲線を設計値解析結果として示す。模型より

も減衰比が大きいために,若干凹凸の少ないなだらかな曲線となっ

ているが,実験結果との差は通常 TMD に比較して小さい。

図14 MTMD の周波数応答

6.3 周波数応答のまとめ

前節までで見たように,解析と実験で応答の大きさやピークの生

じる周波数に若干の違いはあるものの,全体の傾向は良く一致して

いる。応答値の違いに関する原因の一つは,TMD 模型の減衰の振幅

依存性が強いためではないかと考えられる。

前述したように,今回の実験では簡易な模型を使用したために,

減衰比が設計値と異なるが,MTMD の場合は通常 TMD に比較して,

設計値を用いて解析した場合の応答曲線と実験結果の差が小さく,

減衰比に対するロバスト性が確認された。さらに MTMD の場合は,

通常 TMD よりも小さい減衰比で,広い外力周波数においてバラツ

キの小さい安定した制振効果が得られることが確認された。

7.帯域白色雑音入力に対する制振効果

不規則励振に対する制振効果を確認するために,周波数帯域が狭

い場合と広い場合の帯域白色雑音を入力して,振動台実験を行った。

前章で述べたが,比較のために示した通常 TMD の制振効果は,

MTMD に比較すると設計値からの応答のズレが若干大きいが,ここ

では参考値として示した。

7.1 狭い帯域を持つ白色雑音

1次モードの固有振動数 17.10Hz 近傍の,10.0~24.0Hz の周波数

を含む帯域白色雑音を入力波として用いた(図15参照)。入力波の

rms 値は 2.94m/sec2で,加力時間は 30.0 秒である。

図15 狭い帯域を持つ白色雑音入力波

図16にTMD無しと通常TMDの場合における1次モード腹の節点

B(図9参照)の時刻歴応答変位を示す(図には最大応答が生じる

範囲である 8 秒~18 秒までの応答を示す)。図17に TMD 無しと

MTMD の場合における節点 B(図13参照)の時刻歴応答変位を示

す。通常 TMD の場合も最大応答が TMD 無しの場合と比較して約

55.4%に低下し,加力時間全体でも高い制振効果が得られているこ

とが確認できるが,MTMD の場合は最大応答も約 45.3%に低下し,

さらに制振性能に優れていることが確認できる。

図16 TMD 無しと通常 TMD の時刻歴応答変位

ホワイトノイズ波(10~24Hz)

-10.0

-8.0

-6.0

-4.0

-2.0

0.0

2.0

4.0

6.0

8.0

10.0

0 5 10 15 20 25 30

時間(秒)

加速度

(m/sec2)

ホワイトノイズ(10~24Hz)加力時刻暦応答

-5.0

-4.0

-3.0

-2.0

-1.0

0.0

1.0

2.0

3.0

4.0

5.0

8 10 12 14 16 18

時間(秒)

鉛直

方向

応答

変位

(mm)

通常TMDTMD無し

TMD無し最大応答変位:4.28mm

通常TMD最大応答変位:2.37mm

0.0

1.0

2.0

3.0

4.0

5.0

10.0 12.0 14.0 16.0 18.0 20.0 22.0 24.0

外力周波数(Hz)

応答

変位

(mm)

解析結果(節点A)

解析結果(節点B)

実験結果(節点A)

実験結果(節点B)

TMD無し(実験結果)

設計値解析結果(節点A)

設計値解析結果(節点B)

1次モード固有振動数:17.10Hz

.

MTMD設定バンド幅(13.54~19.47Hz)

解析結果実験結果

TMD無し

設計値

Page 7: 分散型 MTMD による大スパン建築構造の振動制御 …news-sv.aij.or.jp/kouzou/s18/yoshi2.pdf1.はじめに TMD(Tuned Mass Damper)は,質量,バネ,ダンパーで構成され,構造物に取り付けて大きく振動させることにより,構造物の振動エ

1.73

0.62

0.29

0.0

0.3

0.6

0.9

1.2

1.5

1.8

(単位:mm2)

TMD無し通常TMDMTMD

TMD無し

通常TMD

MTMD

図17 TMD 無しと MTMD の時刻歴応答変位

図18に加力時間30.0秒間内における応答変位の2乗平均値を示す。

加力時間の全域に亘って MTMD の優れた制振性能が確認できる。

図18 応答変位2乗平均値の比較

7.2 広い帯域を持つ白色雑音

前節の入力波の2倍の周波数帯域 3.0~31.0Hz を含む帯域白色雑

音を入力波として用いた(図19参照)。rms 値は 1.96m/sec2である。

図19 広い帯域を持つ白色雑音入力波

図20に TMD 無しと通常 TMD の1次モード腹の節点 B における

時刻歴応答変位を示す。図21に TMD 無しと MTMD の場合におけ

る節点 B の時刻歴応答変位を示す。前節と同様に,通常 TMD で最

大応答が TMD 無しの場合と比較して約 67.4%に低下し,加力時間

全体でも高い制振効果が得られていることが確認できるが,MTMD

の場合は最大応答変位が約 51.5%に低下し,さらに制振効果が高い。

図22に加力時間 30.0 秒間内における応答変位の2乗平均値を

示す。本図からも MTMD の優れた制振性能が確認できる。

図20 TMD 無しと通常 TMD の時刻歴応答変位

図21 TMD 無しと MTMD の時刻歴応答変位

図22 応答変位2乗平均値の比較

8.固有振動数変動に対する MTMD のロバスト性の確認

本章では,固有振動数の変動に対する MTMD のロバスト性を確

認するために,アーチの1次モードの腹に錘を追加する簡単な方法

でアーチの固有振動数を変化させ,制振効果の変化を調べた。制振

効果の確認には,図15に示した狭帯域白色雑音を入力し,加力時

間 30.0 秒間内における,①応答変位の2乗平均値と②最大応答値を

調べた。文献4)によると,ロバスト余裕 rB は MTMD 設定バンド幅

B と最適バンド幅 cB の差 cr BBB −= で表される。本論文の

MTMD モデルは,MTMD バンド幅が最適バンド幅の 1.5 倍であり,

ロバスト性向上を主目的に設計されたものと比較してロバスト余裕

は小さいため,比較的狭い固有振動数変動に対するロバスト性を確

認した。図23に本 MTMD モデルにおける振動数軸上での MTMD

設定バンド幅と最適バンド幅,制御ロバスト余裕の関係を示す。理

論上の制御ロバスト余裕は,16.42~18.36Hz である。図24に固有

振動数の変動による応答変位2乗平均値の変化を示す。横軸に錘を

アーチに付加した後の1次モード固有振動数の実験値を示す。( )

内は 17.0Hz からの変動率を示す。縦軸に通常 TMD と MTMD の場

合を TMD 無しの応答変位の2乗平均値で除した値を示す。図25

に固有振動数の変動による最大応答値の変化を示す。横軸は同様に,

錘付加後の固有振動数を,縦軸に通常 TMD と MTMD の場合を TMD

無しのときの最大応答値で除した値を示す。

図23 制御ロバスト余裕

ホワイトノイズ(10~24Hz)加力時刻暦応答

-5.0

-4.0

-3.0

-2.0

-1.0

0.0

1.0

2.0

3.0

4.0

5.0

8 10 12 14 16 18

時間(秒)

鉛直方向応答変位

(mm)

MTMDTMD無し

TMD無し最大応答変位:4.28mm

MTMD最大応答変位:1.94mm

ホワイトノイズ波(3~31Hz)

-10.0

-8.0

-6.0

-4.0

-2.0

0.0

2.0

4.0

6.0

8.0

10.0

0 5 10 15 20 25 30

時間(秒)

加速

度(m/sec2)

ホワイトノイズ(3~31Hz)加力時刻暦応答

-5.0

-4.0

-3.0

-2.0

-1.0

0.0

1.0

2.0

3.0

4.0

5.0

8 10 12 14 16 18

時間(秒)

鉛直

方向

応答

変位

(mm)

通常TMDTMD無し

TMD無し最大応答変位:2.64mm

通常TMD最大応答変位:1.78mm

ホワイトノイズ(3~31Hz)加力時刻暦応答

-5.0

-4.0

-3.0

-2.0

-1.0

0.0

1.0

2.0

3.0

4.0

5.0

8 10 12 14 16 18

時間(秒)

鉛直方向応答変位(m

m)

MTMDTMD無し

TMD無し最大応答変位:2.64mm

MTMD最大応答変位:1.36mm

0.70

0.280.15

0.0

0.3

0.6

0.9

1.2

1.5

1.8

(単位:mm2) TMD無し通常TMDMTMD

TMD無し

通常TMDMTMD

Page 8: 分散型 MTMD による大スパン建築構造の振動制御 …news-sv.aij.or.jp/kouzou/s18/yoshi2.pdf1.はじめに TMD(Tuned Mass Damper)は,質量,バネ,ダンパーで構成され,構造物に取り付けて大きく振動させることにより,構造物の振動エ

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

14.5 15.0 15.5 16.0 16.5 17.0

アーチ固有振動数(Hz)

応答値/TMD無しの応答変位2乗平均値 通常TMD

MTMD

理論上のロバスト余裕(16.42~18.36Hz)

制御目標

(14.7%) (11.8%)

(8.82%) (5.88%)

(2.94%) (0.0%)

通常TMD

MTMD

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

14.5 15.0 15.5 16.0 16.5 17.0

アーチ固有振動数(Hz)

最大応答値/TMD無しの最大

応答値

通常TMD

MTMD

制御目標

理論上のロバスト余裕(16.42~18.36Hz)

(14.7%) (11.8%)

(8.82%) (5.88%)

(2.94%) (0.0%)

通常TMD

MTMD

図24 固有振動数の変動による応答変位2乗平均値の変化

図25 固有振動数の変動による最大応答値の変化

通常 TMD と MTMD ともに,制御目標振動数での制振効果が高い。

通常 TMD の場合は目標振動数以外での制振効果のバラツキが大き

いが,MTMD はバラツキが小さく固有振動数変動に対するロバスト

性が確認できる。通常 TMD と比較して,MTMD は広い固有振動数

で安定した制振効果を示し,且つ理論上のロバスト余裕を超えても

急に制振効果が低下することは無い。16.0Hz の近傍で通常 TMD の

効果が高いのは,6.1節で述べたように模型片側の TMD の固有

振動数が設計値よりも約 0.8Hz 低くなっているためではないかと思

われる。本論文では,あくまで1個の入力波のみであるが,MTMD

の固有振動数変動に対するロバスト性の傾向は確認できたと思われ

る。

9.まとめ

本論文では,MTMD 法を大スパン建築構造へ応用した場合の効果

を小規模のアーチモデルと簡易な MTMD 模型を用いて,振動台実

験により分散型 MTMD の振動性状と制振性能を確認した。MTMD

は簡易な模型であるため,特に減衰比で設計パラメーターが設計値

と若干異なるが,基本的な振動性状は確認することが出来たと考え

られる。

以下に結果をまとめる。

(1)周波数応答に関して,通常 TMD と MTMD の両者ともに,解

析と実験で応答の大きさとピークを生じる周波数に多少の違いが

あるが,全体の傾向は良く一致している。MTMD は通常 TMD と

比較して,小さい減衰比で広い外力周波数に亘って安定した制振

効果を得ることができ,減衰比に対するロバスト性も高いことが

確認された。

(2)不規則励振として,周波数帯域の異なる2つの帯域白色雑音

を入力し,変位の2乗平均値,最大応答値の低減効果を調べたと

ころ,ともに MTMD の高い制振効果が確認された。

(3)構造物の固有振動数変動に対する MTMD のロバスト性を確

認するために,アーチの固有振動数を変化させて,制振効果を比

較した。その結果,MTMD は固有振動数変動に対するロバスト性

が高く,且つ理論上のロバスト余裕を超えても急に制振効果が低

下することが無いことが分かった。

なお,本論文では水平加振を対象として MTMD の制振効果を実

験的に確認し,解析結果とほぼ一致することを確認した。上下加振

に対しては励起されるモードは変化するものの基本的な設計方法は

同じであり,既報6)で解析的に確認したように提案手法を適用する

ことにより,有効な制振効果が得られると考えられる。

謝辞

本研究は 2005 年度財団法人鹿島学術振興財団研究助成金による

ものである。ここに謝意を表します。

参考文献

1)日本建築学会編:体育館・公共ホールの地震被害と耐震改修,2005 年度

日本建築学会大会(近畿)構造部門(シェル・空間構造)PD 資料,2005.9.

2)(社)日本建築構造技術者協会:主集居住環境としての対振動性能,structure,

pp.11-46,No.84,2002.10

3)吉中進,川口健一:大スパン建築構造における複数モード制御のための

MTMD法に基づく分散型TMDに関する研究,日本建築学会構造系論文集,

第586号, pp.123-130, 2004.12.

4)阿部雅人,藤野陽三:マルティプル同調質量ダンパー(MTMD)の基本的特

性,土木学会論文集,No.465,pp.87-96,1993.4.

5)阿部雅人,藤野陽三:マルティプル同調質量ダンパー(MTMD)の性能評価

式,土木学会論文集,No.465,pp.97-106,1993.4.

6)吉中進, 川口健一:分散型 MTMD による大スパン建築構造の振動制御

MTMD の空間配置について,構造工学論文集 Vol.52B,pp.41-51, 2006.3.

7)吉中進, 川口健一:分散型 MTMD による大スパン建築構造の振動制御

複数モード制御のための MTMD バンド幅設定法,日本建築学会構造系論

文集,第 608 号,pp.77-84,2006.10.

8)山下繁生,背戸一登,大熊政明,長松照男:動吸振器による構造物の振

動制御(第2報,実験的方法),日本機械学会論文集(C 編),52 巻 484

号,1986.12.

9)例えば,山口宏樹:構造振動・制御,共立出版株式会社,1996.5.

10)例えば,(社)日本機械学会編:振動のダンピング技術,株式会社養賢

堂,1998.9.

11)例えば,背戸一登:構造物の振動制御,コロナ社,2006.4.

12)藤野陽三,孫利民,山口宏樹:マルティプル TMD・TLD の特性の把握,

構造工学論文集 Vol.38A,pp.825-836, 1992.3.