会話と並行する身体動作がコミュニケーションを規定する (jsai2013)

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会話と並行する身体動作が コミュニケーションを規定する 06. 06. 2013 坂井田瑠衣|慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 加藤文俊|慶應義塾大学環境情報学部 ―お好み焼きの協同調理を介した 食卓におけるコミュニケーションの分析― JSAI2013 OS-12 知の身体性 3G3-OS-12a-2

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Page 1: 会話と並行する身体動作がコミュニケーションを規定する (JSAI2013)

会話と並行する身体動作が コミュニケーションを規定する

06. 06. 2013 坂井田瑠衣|慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 加藤文俊|慶應義塾大学環境情報学部

―お好み焼きの協同調理を介した 食卓におけるコミュニケーションの分析―

JSAI2013 OS-12 知の身体性3G3-OS-12a-2

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会話が身体動作と並行する

OS-12 知の身体性 会話と並行する身体動作がコミュニケーションを規定する

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身体動作は会話の秩序を変えるか

•  身体動作と並行する会話 v  自分の発話と相手の発話を調整 v  自分の身体動作と発話を調整

Ø  視線の向け先が相手だけではない

•  通常の会話と異なる秩序が生まれるのでは? v  話し手が視線を向けた相手は次話者になりやすい  [榎本 11]

Ø  通常は視線が円滑な話者交替に寄与している v  身体動作への注視が相手への視線配布を妨げ, 注意散漫になる?

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協同調理は会話の潤滑油になるか

•  「鍋を囲んで会話すると親睦が深まる」? v  調理によって生起したコミュニケーションの 秩序が親密度の醸成に貢献しているのでは?

OS-12 知の身体性 会話と並行する身体動作がコミュニケーションを規定する

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仮説|調理が発話重複や沈黙を生む

•  調理中は発話重複や沈黙が増えるのでは? v  調理により円滑な話者交替が妨害されている?

•  重複や沈黙の否定的影響は感じない v  発話重複が調理音と相まって盛り上がりを醸成 v  沈黙が続いても調理の様子を全員で観察する ことで一体感を感じる

•  料理を完成させるという切実な目的を共有 v  調理が秩序の変容を正当化する?

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発話重複や沈黙は悪か?

•  重複や沈黙は「発生すべきでない現象」 とは限らない v  相槌の重複は会話の一体感を醸成する v  話者交替において発話末要素が重複する現象 は,円滑な話者交替と評定される[榎本 03] v  親密度の高い参与者同士は多少の重複や 沈黙を許し合う?

Ø  親密度が重複や沈黙として表出している?

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食卓の協同調理を観察する

•  もんじゃ焼きの食卓 v  複数人が協同して調理する場面が多い

Ø  一人が具材を鉄板に落とし,別の者がヘラで具材 を切り刻む Ø  cf. 「鍋奉行」の出現

v  調理難易度が高い Ø  初心者と熟達者で 教え合いや調理権の 譲渡が発生

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会話収録方法

•  飲食店での会話を参与観察・映像分析 v  卓上の会話を映像と音声で収録 v  参与者:互いに親密な3名の大学生・大学院生

Ø  写真の左からH,S(第1著者),U v  もんじゃ調理の中級者2名(S,U)と初心者1名(H)

The 27th Annual Conference of the Japanese Society for Artificial Intelligence, 2013

- 2 -

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OS-12 知の身体性 会話と並行する身体動作がコミュニケーションを規定する

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分析方法

•  分析対象範囲 v  以下の3フェーズで比較分析

(1) メニュー選び (234.85秒)    … 身体動作有 (2) 料理到着待ち (158.82秒)    … 身体動作無 (3) もんじゃ焼き調理中 (412.93秒) … 身体動作有

•  発話重複分析 v  重複:複数人の100ms以上の発話の重なり

•  沈黙分析 v  沈黙:100ms以上誰も発話しない状態

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発話重複分析|総発話時間・回数

•  メニュー選びともんじゃ焼き調理中に重複が増加 v メニューや鉄板に視線を向ける v 視線を交わして発話を調整することが困難になり重複が生じた? OS-12 知の身体性 会話と並行する身体動作がコミュニケーションを規定する

0

10

20

30

メニュー選び 料理到着待ち もんじゃ焼き調理中

総発話時間に占める重複時間(%)$総発話回数に占める重複回数(%)$

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発話重複分析|参与者別

OS-12 知の身体性 会話と並行する身体動作がコミュニケーションを規定する

(3) もんじゃ焼き調理中 (1) メニュー選び

(2) 料理到着待ち

0

20

40

60

80

S H U

(1) メニュー選び

各参与者の重複時間(%)$

各参与者の重複回数(%)$

0

20

40

60

80

S H U

(2) 料理到着待ち

各参与者の重複時間(%)$

各参与者の重複回数(%)$

0

20

40

60

80

S H U

(3) もんじゃ焼き調理中

各参与者の重複時間(%)$

各参与者の重複回数(%)$

•  特にSの時間と回数,  Uの回数が多い

•  Hの時間のみ減少するが回数は(1)と同水準で高い

•  重複時間と回数は   3名がほぼ同割合

•  3名が互いに同程度の 頻度で重複し合う

•  (1)と比較して全員の 時間と回数が少ない (Hの重複時間を除く)

•  特にSとUの回数は (1)の2分の1以下

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調理時の重複の増加に生じる個人差

•  身体動作を伴う(1)と(3) v  全体としての顕著な差異は見られず v  (3)にてSの重複時間と回数が大幅に増加

Ø  調理に入ると重複が多くなる参与者が存在する?

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なぜ調理中に重複が多くなるのか

•  熟達者から初心者への教え合いが影響? v  SとUがHに対して指示を出す場面が複数回 v  SとUは互いに他の発話を補うように発話

Ø  結果として重複 •  難易度の高い行為を協同して遂行する状況

v  通常は必要のないやり取りが重複を促した?

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事例分析|教示の補足による重複

•  事例:SとUがYに調理を教示して重複する(約5秒間) •  状況

v Yが調理し,SとUが見守る (調理熟達度はU>S>Y) 1.  加熱が進行し,土手を作って残りの汁を流し込む

フェーズに移行 2.  フェーズ移行のタイミングを察知したUが,汁の入った

器に手を伸ばす 3.  手を伸ばす行為を見たSが,Yに土手を作るよう教示

•  「土手」という語彙が出ず,ジェスチャーで表現 4.  Uが「土手作って」と言葉で補足

•  ここでSの教示とUの補足が重複

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SとUの視線配布遷移           重複

•  UとSはYに教示する必要性を 

暗黙的に合意 •  一刻も早く円滑に教示する   

ために重複を許した? •  UとSは一切視線を合わせない

•  視線を向けていないことが  重複を正当化した?  

OS-12 知の身体性 会話と並行する身体動作がコミュニケーションを規定する

   鉄板

U

Y S

ボウル

もんじゃ

もんじゃ

ボウル

ボウル&Uの手 もんじゃ

もんじゃ

Yの顔 もんじゃ

Yの顔

これ (.) [あの : : : ] 土手を作らないと

[土手作っ]て U発話

S発話 U視線

S視線

土手のジェスチャー Sジェスチャー

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沈黙分析|分析対象範囲の総時間

•  もんじゃ焼き調理中に沈黙が発生しやすい?

OS-12 知の身体性 会話と並行する身体動作がコミュニケーションを規定する

0

0.5

1

1.5

2

2.5

0

20

40

60

80

メニュー選び 料理到着待ち もんじゃ焼き 調理中

総時間に占める沈黙時間(%)$沈黙平均時間(秒)$

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メニュー選びでは沈黙が増加せず

•  (1)と(2)の沈黙時間はほぼ同割合 v  (1)と(3)は共に身体動作を伴うが, (1)では沈黙は増加しない

•  (1)メニュー選び v  メニューを見て会話しなが ら短時間で注文を決定 v  献立を決定するという 明示的で喫緊の課題が共有

Ø  長時間の沈黙を許さなかった?

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なぜ調理中は沈黙が許されるか

•  調理が一段落し,会話せずに調理の様子を全員でじっと見つめる時間が訪れる

•  料理の完成を期待し調理を黙々と見守る ✕ コミュニケーションが停滞 ◯ 全員での協同調理が互いの信頼感を醸成 ◯ 沈黙を許し合う関係性が発生?

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まとめ

•  協同調理場面のインタラクションを分析 •  身体動作が会話の秩序を規定する可能性を提示 •  発話重複分析

v  メニュー選びや調理中は発話重複が増加 v  調理中の重複の増加量には個人差

Ø  参与者間で不均等な重複が発生,会話の高揚感が醸成 •  沈黙分析

v  調理中は沈黙が長時間発生 Ø  調理終盤の沈黙が料理完成に向けて一体感を高める

•  調理中に多く生起する重複や沈黙 v  メリハリを伴うコミュニケーションの活性化に貢献

OS-12 知の身体性 会話と並行する身体動作がコミュニケーションを規定する

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協同調理の特殊性と一般性

•  協同調理の特殊性 v  明示的で切実な動機が共有された協同的営為

Ø  調理完遂に対しての即時的報酬(食事) v  時間制限を伴う課題

Ø  加熱し過ぎると完成度が低下 v  日常性の強い営為

Ø  衣食住という日常的文脈で全ての生活者が経験 •  協同調理の一般性

v  ことばと身体が絶妙に相互作用 v  複雑なインタラクションが難なく展開

Ø  身体性を孕むコミュニケーションの観察対象に好適 OS-12 知の身体性 会話と並行する身体動作がコミュニケーションを規定する

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今後の課題

•  知見の有用性を裏付ける v  さらなる定量的分析と詳細な事例分析

•  調理以外の非言語行為を考慮する v  話者交替で重要な役割を担う視線配布 v  調理行為以外の身体動作としてのジェスチャー

•  親密度の異なる参与者の会話も観察する v  今回は親密度の高い参与者同士の分析のみ

•  コミュニケーションを活性化する食卓のデザインに向けた知見を蓄積する

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