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山下 心不全合併心房細動では,「心不全がコントロー ルできていないと心房細動に対する経口抗凝固療法が 難しくなる」という課題があります。一般的に脳梗塞 のリスク評価に用いられるCHADS2 スコアの項目のう ち心不全(Congestive heart failure)がいわば動的な病 態であるのに対し,その他の項目は静的な病態という 特殊性があるからです。本座談会では,このような「心 房細動を合併する心不全をどのように管理するか」を テーマに,はじめに心房細動合併心不全の病態や管理 についてご紹介いただき,その多様性をふまえて心房 細動合併心不全における抗凝固療法について考えてい きたいと思います。 山下 まずは,心房細動合併心不全の疫学とその多様 性について,志賀先生にご解説をお願いします。 志賀 心不全症例における心房細動の合併頻度につい ては,海外の報告からは約20~40% 1) - 4) ,わが国の報 告からは約 30~40%といえるでしょう 5) - 8) また,左室駆出率(LVEF)が保たれた心不全(HFpEF) とLVEFが低下した心不全(HFrEF)での心房細動合併 率については,海外の報告ではHFpEFでHFrEFに比 してやや頻度が高く 9) ,わ が 国 の JCARE-CARD 10) CHART study 8) でも同様の傾向がみられました。 心房細動合併心不全の疫学と その多様性 心房細動と心不全は加齢とともに有病率が増加する疾患であり,高齢化が進む日本では心房細動合併心不全 患者の増加が予想される。心房細動は心不全の予後増悪因子であること,また心原性脳塞栓症のリスク因 子であることから,その治療方針が模索されている。しかし,両疾患が合併した場合の病態や両疾患が相 互に及ぼす影響,治療方針などについてはいまだ手探りの状態である。本座談会では,心房細動合併心不 全の疫学や治療,その多様性と課題について本領域を牽引するエキスパートの先生方にご討議いただいた。 心房細動を合併する心不全を どのように管理するか 山下 武志 公益財団法人 心臓血管研究所所長 志賀  剛 東京女子医科大学 循環器内科准教授 加藤 真帆人 日本大学医学部内科学系 循環器内科学分野助教 猪又 孝元 北里大学北里研究所病院 循環器内科教授 (発言順) 司会 出席者 Cardio-Coagulation Vol.3 No.2 6 (86) SAMPLE Copyright(c) Medical Review Co.,Ltd.

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山下 心不全合併心房細動では,「心不全がコントロールできていないと心房細動に対する経口抗凝固療法が難しくなる」という課題があります。一般的に脳梗塞のリスク評価に用いられるCHADS2スコアの項目のうち心不全(Congestive heart failure)がいわば動的な病態であるのに対し,その他の項目は静的な病態という特殊性があるからです。本座談会では,このような「心房細動を合併する心不全をどのように管理するか」をテーマに,はじめに心房細動合併心不全の病態や管理についてご紹介いただき,その多様性をふまえて心房細動合併心不全における抗凝固療法について考えていきたいと思います。

山下 まずは,心房細動合併心不全の疫学とその多様性について,志賀先生にご解説をお願いします。志賀 心不全症例における心房細動の合併頻度については,海外の報告からは約20~40%1)-4),わが国の報告からは約30~40%といえるでしょう5)-8)。 また,左室駆出率(LVEF)が保たれた心不全(HFpEF)とLVEFが低下した心不全(HFrEF)での心房細動合併率については,海外の報告ではHFpEFでHFrEFに比してやや頻度が高く9),わが国のJCARE-CARD10),CHART study8)でも同様の傾向がみられました。

 心房細動と心不全は相互に関係しており,合併症例では予後不良となることがFramingham研究により示されています(図1)11)。また心房細動症例1,100例を10年間追跡したBelgrade Atrial Fibrillation Studyでは9.9%が心不全を合併し,心不全を合併すると脳卒中/全身性塞栓症リスクが3.3倍,虚血性脳卒中リスクが4.9倍まで上昇することが報告されました12)。システマティックレビューでも心不全を合併した心房細動症例では脳梗塞リスクが高まることが報告されており13),心房細動合併心不全における抗凝固療法の必要性が示されています。さらに,HFrEFだけでなくHFpEFも脳梗塞のリスクとなりうること14)15),またHFpEFとHFrEFにおける脳梗塞リスクはほぼ同等であること16)

が明らかになっています。山下 ありがとうございました。 HFpEF・HFrEFが同等に脳梗塞リスクになるのであれば,CHADS2スコアにおける心不全はどう定義すべきでしょうか。志賀 CHADS2スコアにおける心不全はSPAF試験17)

で定義された“recent CHF exacerbation”,すなわち100日以内の心不全増悪であり,HFrEFに限定しない

広義の心不全です。一方,CHA2DS2-VAScスコアでは心不全の定義にLVEF≦40%が加わりました。さらに,非ビタミンK拮抗/直接作用型経口抗凝固薬(NOAC/ DOAC)の大規模試験でもNYHA分類Ⅱ度以上の心不全症状に加え,LVEF<35~40%を定義に組み入れています。このことから,現在の抗凝固療法におけるリスクとしての心不全は心不全症状がない低心機能およびHFpEF・HFrEFの3病態が混同していると考えられます。山下 CHADS2スコアでは心不全は1点ですが,心不全のみに該当する患者は若年の拡張型心筋症(DCM)などに限定され,ほとんどの場合は高血圧の既往や糖尿病の合併,高齢にも該当します。心不全単独の脳梗塞リスクの同定はきわめて困難ですね。加藤 CHA2DS2-VAScスコアにおける心不全の定義においては,HFrEFとHFpEFの病態の違いに加えて心不全の重症度を考慮していないという問題があります。たとえば,LVEF≧50%であってもうっ血性心不全を発症して入院すればステージCの症候性心不全になり,ステージCの心不全とステージBの無症状の左室収縮機能不全を一律に心不全としてスコアに組み入れるの

は難しいと感じています。

山下 心房細動合併心不全の病態は多様であり,その多様性をふまえた対応・管理が求められます。心房細動がどの程度心不全を悪化させるのか,そして実臨床において各症例でどのように判断すべきか,猪又先生にご解説いただきます。猪又 “心房細動が心不全を悪化させるのか,心不全が心房細動を悪化させるのか”については,時間軸で推定するほかないと考えます。たとえば両室ペーシング機能付き植込み型除細動器(CRT-D)などのデバイスが入っているとイベントが記録されるので,後から確認可能です。当院で経験したDCMの症例は発作性心房細動(PAF)が発生するたびに入院をくり返していましたが,CRT-D植込み後にHis束アブレーションを施行したところその後約8年にわたってPAFを認めず,入院となるようなイベントも起きていません。心房収縮の出現,あるいはPAFの消失が一因とも考えられますが,心不全増悪因子の同定は難しい課題です。 しかし,実際の臨床では心不全症例における心房細

動の影響を実感することが少なくありません。当院の検討では,PAF群では持続性心房細動(CAF)群,洞

調律群に比べて慢性心不全増悪による入院率が高いことが示されました(図2)18)。さらに,新規発症の心房

細動合併心不全症例では,心房細動を合併しない心不全症例に比べて入院リスクが4.5倍に高まるとの報告があります19)。また,CAFと比較してPAFで有症状の心不全例が多いことが示されています20)。さらに,心房細動は心不全における予後増悪因子であることは間違いないものの21),CAFはPAFに比べて心不全症例での死亡が多く,その傾向はHFpEFで顕著であること22),また心房細動・心房頻拍の合併の有無によってCRTの予後改善効果は変わらないこと23)などから,心房細動の多様性をふまえた心不全管理が重要と考えられます。 わが国からの報告では,心房細動合併心不全症例においてレートコントロールは予後を改善せず,β遮断薬の用量,すなわち心不全に対する治療強化が予後を予測する独立因子であることが示唆されました24)。適切な管理のもとでは心不全増悪因子としての心房細動の意味合いは弱くなると考えられます。 心房細動の存在と心不全増悪の因果関係が明らかな症例は実際の臨床では少なく,同じ心不全でも洞調律のまま経過するケース,途中で心房細動を発症するケースのいずれも経験します。心不全を層別化し,洞調律であっても心不全の成り立ちを考慮した管理が必要です。

山下 ありがとうございました。 心房細動と心不全の相互作用について,ほかの先生方はどうお考えですか。志賀 心不全に対して心房細動がどの程度寄与しているのかは,やはり個別の判断が必要です。心房細動は予後予測因子ではあっても全例において治療ターゲットにはなりえない,という前提も重要かと思います。

山下 洞調律維持が難しい心房細動合併心不全症例に対しては,レートコントロールが選択肢となります。目標心拍数をどのように設定すべきか,加藤先生にご解説いただきます。加藤 心拍数にばらつきがあっても血行動態が安定しているケースでは1回心拍出量が増えることにより代償され,心拍出量は一定に維持されますが,代償機能では補えないほど心拍数が減少ないし増加すれば心拍出量も維持できなくなります。 心房細動,特に頻脈性心房細動から心不全を惹起しやすくなることは,その病態生理からも明らかです。頻脈があれば動悸・胸部不快感などの症状が出現しますが,頻脈が続くと症状は消失し,脈拍数増加などのイベント時にのみ症状を自覚するようになります。また拡張期の短縮により左室充満時間が減少し,心拍出量が低下して心不全を起こすと考えられており,一方

で心房収縮が消失して心房内血栓から塞栓症を引き起こす機序も重要です(図3)。 では,血行動態が安定した慢性心不全に合併する心房細動に対してはどのようにレートコントロールを行うべきでしょうか。RACEⅡ試験では,永続性心房細動における心血管合併症・心血管死抑制において,緩やかな心拍数コントロール(<110拍/分)群で厳格な心拍数コントロール(<80拍/分)群に対する非劣性を認めました(図4)25)。この結果をもとに,『心房細動治療(薬物)ガイドライン(2013年改訂版)』では高めの目標心拍数(安静時心拍数<110拍/分)が推奨されています26)。ただし,心房細動では心拍数は一定ではなく,時間の経過とともに徐脈化していく傾向にあります。心房細動のどの段階で介入しレートコントロールを行うか,そのタイミングも検討すべき課題の1つです。 一方で,急性心不全に伴う心房細動に対するレートコントロールのタイミングも考える必要があります。ASCEND-HF試験のサブ解析では,入院時の心拍数は心不全治療によって自然と低下することが示されました27)。急性心不全で積極的に心拍数を下げるべき場面

はあまり経験しませんので,心拍数の低下を待ってもよいかもしれません。つまり,急性心不全の初期治療

を適切に行い,血行動態を安定させたうえで心拍数に異常があれば介入していくという考え方です。山下 ありがとうございました。今のところ明確な治療方針や目標心拍数はみえてこないものの,基本的には心不全を適切に管理したうえで心房細動の治療を考えるという順序ですね。β遮断薬は心房細動合併心不全の予後を改善しない,というメタ解析が報告されていますが28),心不全治療の標準薬であるβ遮断薬でなぜ有効性が示されなかったのか,心拍数と関係があるのでしょうか。志賀 メタ解析の対象となった各無作為化比較試験(RCT)の対象症例は選択されたものです。スウェーデンのコホート研究では,心房細動合併心不全でもβ遮断薬により死亡率が有意に抑制されたことが報告されており29),RCTとリアルワールドでβ遮断薬の使い方が異なる点も考慮すべきと思います。

山下 続いて,心房細動合併心不全におけるリズムコントロールについて,志賀先生にご解説をお願いします。志賀 ここでは心房細動に合併した慢性心不全に的を

絞ってお話しさせていただきます。いくつかのRCTをみてみると,NYHA分類Ⅱ度以上の心不全の増加に伴って心房細動合併頻度は上昇し,これに伴ってアミオダロンの使用頻度も増加しています30)。心不全に合併した心房細動の洞調律維持についてはアミオダロンが有効であり,われわれの検討ではアミオダロン開始後12 ヵ月で7割近い洞調律維持が得られています31)。ただし,アミオダロンを使用していても5年後に心房細動合併心不全症例の2割近くが永続性心房細動に移行していました。同検討ではPAF群および左房径<45mm群と比較して,CAF群および左房径≧45mm群でアミオダロンの洞調律維持効果が有意に低下することも明らかになっています31)。 一方,心房細動合併心不全に対するアブレーションについては,短期的効果をみた検討がほとんどです。肺静脈隔離術(PVI)を基本とするアブレーション群と房室接合部アブレーション+心室ペーシング群を比較した試験では6ヵ月後のLVEF,6分間歩行距離,QOL質問票スコアがPVI群で有意に改善し32),またPVIによるアブレーション群と薬物療法群を比較した試験では6ヵ月後のLVEF,peak VO2,心不全QOL(MLWHF),BNPがアブレーション群で有意に改善しました33)。ただし,両試験とも長期予後については評価されていません。 さらに,NYHA分類Ⅲ度の重症心不全を中心とした比較試験では,アブレーションにより洞調律維持効果が認められたのは50%にすぎず,6ヵ月後のLVEFおよび運動耐容能,NT-proBNP,QOLの改善において有意差を認めませんでした34)。また,アブレーションに関連する合併症を18%に認めたことから,重症心不全においてはアブレーション治療の意義が疑問視されます。心不全に伴う心房細動に対するアブレーションの効果をみたメタ解析では,重症例などの心不全症例には適応されないものの,アブレーションは洞調律維持効果において有用なツールとなること,また心房細動診断後早期の施行が有効であることが示されています35)。山下 ありがとうございました。 総体的に洞調律維持による予後改善効果はまだ明らかではなく,心房細動の病態や心不全の重症度などの多様性によって個別に考えるべきということですね。猪又 リズムコントロールによる予後改善効果につい

ては今後の検討が待たれますが,アミオダロン投与やアブレーションで早期に介入することにより心不全の進展を緩やかにできる可能性はあります。一方で,すべての重症心不全症例で洞調律維持の効果が期待できないわけではありません。先ほどお話ししたように,PAFを契機に入院をくり返すような重症心不全症例では,洞調律に回復させることでイベントを起こさず入院を回避できる可能性もあります。志賀 心房細動が心不全重症化のトリガーになる場合,洞調律維持による予後への影響も期待できますね。

山下 では最後に,心不全合併心房細動症例に対する抗凝固療法のあり方について考えていきたいと思います。たとえば,心房細動を合併し急性心不全で入院してきた症例に対して,安定期にどのような抗凝固療法を選択されますか。猪又 基本的に心不全合併の有無によって抗凝固療法の選択を変えることはありません。その時点で腎機能がどの程度低下しているかによって判断します。志賀 うっ血性心不全がコントロールできている退院前の安定期であれば,CHADS2スコアに準じた選択でよいと思います。山下 ワルファリンとNOAC/DOACの使い分けについてはどのようにお考えですか。志賀 クレアチニンクリアランス(CCr)が50mL/分以上であればNOAC/DOACを選択するかと思います。ただし,心不全症例は他の慢性疾患が合併していることが多く,抗凝固効果がモニタリングできるワルファリンのほうがよいケースもあるでしょう。加藤 当院では従来どおりワルファリンを導入し,コントロールが難しい場合はNOAC/DOACに切り替えることが多いのですが,まだ確立した方法論はないと思います。猪又 腎機能が保たれている前提で,高齢者が多い実臨床ではワルファリンの出血リスクを考えてNOAC/DOACを選択するかもしれませんね。山下 心不全という因子がなければ,多くの医師が腎機能低下症例や経済的理由を除いてNOAC/DOACを

選択すると思います。CHADS2スコアの項目のうち心不全だけ重み付けが違ってくるのはなぜでしょうか。猪又 心不全で腎機能が低下するとNOAC/DOACの減量基準に該当することになりますので,やはり心不全が動的な因子であることが大きいと思います。志賀 ワルファリンはPT-INRの至適範囲が狭く,その範囲内でのコントロールが重要でした。一方のNOAC/DOACではまだ明らかでない部分も多いですが,心不全に関して今後十分な知見が蓄積されれば,心房細動合併心不全症例の多様性をふまえた心不全管理や抗凝固療法の選択が可能になるのではないかと思います。猪又 急性期の入院管理から退院前後の慢性期管理をつなぐデータも必要ですね。山下 ありがとうございました。 本座談会では,心房細動合併心不全の多様性,管理の難しさ,今後解決すべき課題を確認してまいりました。抗凝固療法の適切なあり方を探るためにも,まずは心不全の多様性をふまえた定義づけから始める必要があるようです。心不全合併心房細動に対する最適な心不全治療および抗凝固療法の確立をめざし,臨床知見を積み重ねていくことが求められます。

心房細動合併心不全の疫学とその多様性

心房細動と心不全は加齢とともに有病率が増加する疾患であり,高齢化が進む日本では心房細動合併心不全患者の増加が予想される。心房細動は心不全の予後増悪因子であること,また心原性脳塞栓症のリスク因子であることから,その治療方針が模索されている。しかし,両疾患が合併した場合の病態や両疾患が相互に及ぼす影響,治療方針などについてはいまだ手探りの状態である。本座談会では,心房細動合併心不全の疫学や治療,その多様性と課題について本領域を牽引するエキスパートの先生方にご討議いただいた。

心房細動を合併する心不全をどのように管理するか

山下 武志公益財団法人心臓血管研究所所長

志賀  剛東京女子医科大学循環器内科准教授

加藤 真帆人日本大学医学部内科学系循環器内科学分野助教

猪又 孝元北里大学北里研究所病院循環器内科教授       (発言順)

司会 出席者

Cardio-CoagulationVol.3 No.2 Cardio-Coagulation Vol.3 No.26 (86) 7 (87)SAMPLECopyright(c) Medical Review Co.,Ltd.