一般社団法人 電子情報通信学会 information and...

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エラスティック光アグリゲーションネットワーク(EAN)における 光アドホックネットワーク実現のためのリモート ONU の提案 岡本 聡 関井 貴大 伊佐治 義大 佐藤 丈博 山中 直明 †慶應義塾大学 大学院理工学研究科 223-8522 神奈川県横浜市港北区日吉 3-14-1 Telecom Bretagne 2 rue de la Châtaigneraie, 35576, Cesson Sévigné, France E-mail: [email protected] あらまし 次世代メトロ/アクセス統合網であるエラスティックλアグリゲーション網(EAN)では,光スイッチ を利用したアクティブな Optical Distribution Network (ODN)を利用して, Optical Line Terminal (OLT)Optical Network Unit (ONU)の間で故障救済としてリストレーションを行うことが期待されている.本論文では,リストレーション を超える故障救済技術として,有線光網である EAN において光アドホックネットワークを提案する.また,光ア ドホックネットワークを実現するためのキー装置となるリモート ONU の構成手法を提案する. キーワード 光アドホックネットワーク,OLTONU,故障救済,アクティブ光網 Proposal of the Remote Optical Network Unit for Realizing an Optical Ad Hoc Networking Method in the Elastic Lambda Aggregation Network Satoru OKAMOTO Takahiro SEKII Yoshihiro ISAJI Takehiro SATO and Naoaki YAMANAKA Graduate School of Science and Technology, Keio University 3-14-1 Hiyoshi, Kohoku-ku, Yokohama-shi, Kanagawa, 223-8522 Japan Telecom Bretagne 2 rue de la Châtaigneraie, 35576, Cesson Sévigné, France E-mail: [email protected] Abstract To improve disaster tolerance in optical access and aggregation network, the Elastic Lambda Aggregation Network (EAN) has been proposed. The target of the EAN is to create next generation metro and access integrated networks. In the EAN, an active optical distribution network (ODN) will provide restoration capability among an optical line terminal (OLT) and optical network units (ONUs). However, there is a case when many central offices (COs) will be collapsed and ODN will be able to provides partial fiber routes from ONUs to OLTs. In such scenario, if ONU can communicate with adjusting ONU via survived ODN, multi-hop communication from an ONU to OLT via ONUs will be possible. This paper proposes an optical ad hoc networking method to realize the multi-hop communication, and also proposes how to realize direct ONU-to-ONU communication. Keywords Optical Ad Hoc Networking, OLT, ONU, Disaster Recovery, Active Optical Networking 1. はじめに 1.1. 研究背景 Fiber to the Home (FTTH) 4G スマートフォンの普 及に伴い,動画配信等の大容量を必要とするアプリケ ーションが普及し,ユーザがやり取りするデータ量は 年々増加している.さらに 5G に向けて無線技術のみ ならず無線フロントホール,バックホールの光ネット ワークに対するネットワークの伝送容量の拡大が必要 となり [1] ,それを構成するネットワーク機器の消費電 力増加が新たな問題を招いている.現在の全世界にお けるネットワーク機器の消費電力は 2008 年の 25 GW から年率 12%で増加し, 2020 年にはほぼ 4 倍の 98 GW に達すると予想されている [2] .文 献 [2] で は ,デ ー タ セ ンタの消費電力もネットワーク機器と同じペースで増 加し, 29GW から 114GW に増加すると予想されている. 各ネットワーク機器の消費電力はインタフェイスの伝 送速度向上と共に増加するため,アグリゲーション網 となるメトロエリアネットワーク内のイーサネットス イッチや IP ルータの機器消費電力は,FTTH によるブ ロードバンドの利用度の増加と共に更なる増大が予想 される.従って,ネットワークの消費電力問題の解決 はデータセンタの消費電力削減と並んで喫緊の課題で - 99 - 一般社団法人 電子情報通信学会 信学技報 THE INSTITUTE OF ELECTRONICS, INFORMATION AND COMMUNICATION ENGINEERS This article is a technical report without peer review, and its polished and/or extended version may be published elsewhere. Copyright ©2016 by IEICE IEICE Technical Report PN2015-120(2016-03)

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一般社団法人 電子情報通信学会 信学技報

THE INSTITUTE OF ELECTRONICS, IEICE Technical Report

INFORMATION AND COMMUNICATION ENGINEERS

This article is a technical report without peer review, and its polished and/or extended version may be published elsewhere.

Copyright ©20●● by IEICE

エラスティック光アグリゲーションネットワーク(EAN)における

光アドホックネットワーク実現のためのリモート ONUの提案

岡本 聡† 関井 貴大‡ 伊佐治 義大† 佐藤 丈博† 山中 直明†

†慶應義塾大学 大学院理工学研究科 〒223-8522 神奈川県横浜市港北区日吉 3-14-1

‡Telecom Bretagne 2 rue de la Châtaigneraie, 35576, Cesson Sévigné, France

E-mail: [email protected]

あらまし 次世代メトロ/アクセス統合網であるエラスティックλアグリゲーション網(EAN)では,光スイッチ

を利用したアクティブなOptical Distribution Network (ODN)を利用して,Optical Line Terminal (OLT)とOptical Network

Unit (ONU)の間で故障救済としてリストレーションを行うことが期待されている.本論文では,リストレーション

を超える故障救済技術として,有線光網である EAN において光アドホックネットワークを提案する.また,光ア

ドホックネットワークを実現するためのキー装置となるリモート ONUの構成手法を提案する.

キーワード 光アドホックネットワーク,OLT,ONU,故障救済,アクティブ光網

Proposal of the Remote Optical Network Unit for Realizing an Optical Ad Hoc

Networking Method in the Elastic Lambda Aggregation Network

Satoru OKAMOTO† Takahiro SEKII‡ Yoshihiro ISAJI† Takehiro SATO†

and Naoaki YAMANAKA†

†Graduate School of Science and Technology, Keio University 3-14-1 Hiyoshi, Kohoku-ku, Yokohama-shi,

Kanagawa, 223-8522 Japan

‡Telecom Bretagne 2 rue de la Châtaigneraie, 35576, Cesson Sévigné, France

E-mail: [email protected]

Abstract To improve disaster tolerance in optical access and aggregation network, the Elastic Lambda Aggregation

Network (EAN) has been proposed. The target of the EAN is to create next generation metro and access integrated networks.

In the EAN, an active optical distribution network (ODN) will provide restoration capability among an optical line terminal

(OLT) and optical network units (ONUs). However, there is a case when many central offices (COs) will be collapsed and

ODN will be able to provides partial fiber routes from ONUs to OLTs. In such scenario, if ONU can communicate with

adjusting ONU via survived ODN, multi-hop communication from an ONU to OLT via ONUs will be possible. This paper

proposes an optical ad hoc networking method to realize the multi-hop communication, and also proposes how to realize direct

ONU-to-ONU communication.

Keywords Optical Ad Hoc Networking, OLT, ONU, Disaster Recovery, Active Optical Networking

1. はじめに

1.1. 研究背景

Fiber to the Home (FTTH)や 4G スマートフォンの普

及に伴い,動画配信等の大容量を必要とするアプリケ

ーションが普及し,ユーザがやり取りするデータ量は

年々増加している.さらに 5G に向けて無線技術のみ

ならず無線フロントホール,バックホールの光ネット

ワークに対するネットワークの伝送容量の拡大が必要

となり [1],それを構成するネットワーク機器の消費電

力増加が新たな問題を招いている.現在の全世界にお

けるネットワーク機器の消費電力は 2008 年の 25 GW

から年率 12%で増加し,2020 年にはほぼ 4 倍の 98 GW

に達すると予想されている [2].文献 [2]では,データセ

ンタの消費電力もネットワーク機器と同じペースで増

加し,29GW から 114GW に増加すると予想されている.

各ネットワーク機器の消費電力はインタフェイスの伝

送速度向上と共に増加するため,アグリゲーション網

となるメトロエリアネットワーク内のイーサネットス

イッチや IP ルータの機器消費電力は,FTTH によるブ

ロードバンドの利用度の増加と共に更なる増大が予想

される.従って,ネットワークの消費電力問題の解決

はデータセンタの消費電力削減と並んで喫緊の課題で

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一般社団法人 電子情報通信学会 信学技報THE INSTITUTE OF ELECTRONICS, INFORMATION AND COMMUNICATION ENGINEERS

This article is a technical report without peer review, and its polished and/or extended version may be published elsewhere.                                           Copyright ©2016 by IEICE

IEICE Technical Report PN2015-120(2016-03)

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ある.文献 [3,4]では,上記問題の解決策として,電気

パケット処理で多重化されるアグリゲーション網をメ

トロ /アクセス統合型の光ネットワークに組み替える

ことで,消費電力を理想的には最大三桁下げることが

可能であると報告されている.更に,ネットワーク仮

想化 [5]やネットワーク機能仮想化 [6]を取り込み,多様

なサービスやネットワーク構成を実現し,サービス提

供する容量を伸縮自在に利用する次世代メトロ /アク

セス統合網であるエラスティック光アグリゲーション

ネットワーク (EAN)が提案されている [7-9].

EAN では,仮想 FTTH と仮想レイヤ 2 スイッチと

でアクセス網とアグリゲーション網を統合した光アグ

リゲーションネットワークを提供することが提案され

ており [7,10],様々なサービスを Pseudo Wire (PW)と

Multi-Protocol Label Switching Transport Profile

(MPLS-TP)を利用してイーサネットにマッピングする

ことでイーサネットを利用した FTTH に統合化できる

[7,11].又,EAN では,Optical Line Terminal (OLT)と

Optical Network Unit (ONU)間の Optical Distribution

Network (ODN) を , 帯 域 可 変 波 長 選 択 ス イ ッ チ

(Bandwidth Variable Wavelength Selective Switch:

BV-WSS)や ns オーダーの高速切替が可能な光スイッ

チを適用してアクティブ ODN とすることで,ONU が

接続可能な OLT を変更可能とし,ネットワークが提供

する機能性を高めることが検討されている [7,12-14].

又,FTTH 技術としては,Orthogonal Frequency Division

Multiplexing Passive Optical Network (OFDM-PON)を利

用することで,伝送技術の向上を図り,伝送距離の長

延化 (40 km)や収容 ONU 数の拡大 (256 ONU)が期待さ

れている [7,9].

アクティブ ODNと OLTの仮想化を組合せることで,

PON では困難であったリストレーション機能や OLT

のマイグレーション機能 [14-17]の実現が可能となり

耐障害性は高まっていると言える.しかしながら,局

舎が機能停止するような大規模災害においては,ODN

が利用可能であっても 40kmの距離制限により ONU か

ら OLT への伝送が不可能となる状況が想定できる.本

論文では,ONU から ODN を介して隣接地域の ONU

へ通信を行い,生存 OLT に到達可能な ONU までマル

チホップ転送を行うことで大規模災害時の救済を実現

する光アドホックネットワークを提案する.また,光

アドホックネットワークを実現するためのキー装置と

なるリモート ONU (R-ONU)の構成手法を提案する.

2. EAN アーキテクチャ

EAN は,OLT と ONU にプログラマビリティを持た

せ,提供するサービスに応じた論理 OLT ( L-OLT)及び

論理 ONU (L-ONU)をそれぞれプログラマブル OLT

(P-OLT)及びプログラマブル ONU (P-ONU)内に生成す

る.プログラマビリティは,様々なレベルで行うこと

が想定されている.例えば,ハードウェア内のパラメ

ータの変更,Field-Programmable Gate Array (FPGA)の

動的変更,プロトコル処理のソフトウェア変更等が考

えられる.プログラマビリティの導入により,家庭用

インターネットアクセス,モバイルバックホール・フ

ロントホール,イーサネット専用線,遠隔データセン

タ 間 通 信 な ど の ネ ッ ト ワ ー ク サ ー ビ ス は

P-OLT/P-ONU で統合的に収容される.図 1 に EAN の

概要アーキテクチャを示す [7, 13, 14].EAN は,コア

網とユーザの間に存在し,P-OLT,アクティブ ODN,

P-ONU により仮想 FTTH サービスをユーザに提供し,

サービス毎にアグリゲートされたトラヒックをコア網

に提供する.EAN では,既存の FTTH とは異なり,

a) L-ONU から複数の L-OLT への到達が可能,b) L-OLT

と L-ONU の間の経路を複数確保可能, c) L-OLT のイ

ンスタンスを同一局舎内あるいは局舎間で移動させる

L-OLT マイグレーション [14-17]が可能,といった特長

を持つ.特長 a),b)より EAN ではリストレーション

実現の可能性が高いことが分かる.

3. 光アドホックネットワークの提案

3.1. 光アドホックネットワークの動作概要

大規模災害等において,局舎が損壊し加入者側の

ONU が生存しているが,所属していた OLT が失われ

た状況を想定する.P-OLT 内の L-OLT リソースに余裕

がある場合には,2 で述べたように L-OLT を生成して

接続先を失った ONU を収容するリストレーションに

よる救済が期待できる.また,収容する ONU 数が単

独の L-OLT の収容可能数である 256 を上回るような状

況においては,TDMA (Time Division Multiple Access)

を利用した L-OLT 仮想化による救済手法が提案され

ている [18-20].TDMA 型救済においても,ONU から

図 1. EAN アーキテクチャ

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OLT までの距離が 40 km を超える場合には伝送が不可

能となるため救済は実現不可能となる.

この状態を打破するために,ONU から送信された主

信号を ODN で折り返して他の ONU と通信させ,40 km

の範囲内で OLT と通信可能な ONU までマルチホップ

通信を行い,ソース ONU からシンク OLT までの通信

経路を確立する光アドホックネットワークを構成する

ことを考える.

一般的に,有線光通信網は,光ファイバにより接続

先が限定され,無線通信のように接続先を自由に変更

することは困難である.また,PON では一芯双方向通

信が行われ,主信号の上り方向と下り方向の使用波長

帯域が異なるため,ONU から送信された主信号をパッ

シブ ODN つまりは光カプラで折り返して他の ONU と

通信することは困難である.これら二つの制限に対し

て,EAN の特長であるアクティブ ODN を活用して打

破することにチャレンジする.

波長帯域が異なるという制限に対しては,両波長帯

域に対応する特別な ONUである Remote ONU (R-ONU)

を各 ONU 群に配備することを提案する.図 2 に,大

規模災害発生時に,ソース ONU から R-ONU 経由でバ

ケツリレーにより生存 OLT まで通信を確立する光ア

ドホックネットワークの概要を示す.

局舎#1, #2 が被災し,ONU 群#1 と ONU 群#2 に所属

する ONU が局舎の OLT 罹災のため接続可能な OLT を

発見できなかった場合を考える.ONU 群#1 の ONU は,

隣接する ONU 群内の生存 R-ONU を探索するための

R-ONU ディスカバリを行い,ONU 群#2 に配備されて

いる R-ONU#2 を発見し予約する.R-ONU#2 は,ONU

群#1 の ONU(含む R-ONU#1)に対して簡易 OLT とし

て動作する.簡易 OLT 機能は,ONU の登録,帯域割

当が想定される.ONU 群#1 に割当てられている上り

波長“赤”は,ODN 中の光スイッチ設定が変更される

ことで ONU 群#2 へ伝送され,R-ONU#2 で受信される.

R-ONU#2 からの ONU 群#1 に向けて送信された下り波

長“赤”は,ONU 群#1 へ伝送される.“赤”は,波長

ペアに割当てられたラベルであり,実際の波長は上り

と下りで異なっている.同様に,ONU 群#2 は,ONU

群#3 の R-ONU#3 をディスカバリし,波長“緑”を使

用して,簡易 OLT である R-ONU#3 と ONU 群#2 の ONU

(含む R-ONU#2)が通信を行う.R-ONU#2 は,ONU

群#1 から簡易 OLT として受信したデータを蓄積し,

蓄積したデータを ONU として隣接 R-ONU#3 へ転送す

る.R-ONU#3 は,ONU 群#2 の ONU から受信したデ

ータを蓄積し,波長“青”を利用して OLT へ転送する.

このように,ONU 群#1 に所属する ONU は,R-ONU#2

⇒R-ONU#3 の経路を辿って局舎#3 の OLT から外部へ

到達する経路を確保可能となるが,動作すべき通信プ

ロトコルに注意が必要となる.R-ONU がイーサネット

ブリッジとして動作できた場合,図 3 に示すように,

ユ ー ザ 認 証 で 必 要 と な る PPPoE (Point-to-Point

Protocol over Ethernet) や IP アドレス等の管理は局舎

#3 のサービスルータや BAS (Broadband Access Server)

から各 ONU 群に対して実行することが可能となる.

この場合,R-ONU#3 の背後には複数の MAC アドレス

が存在するため,OLT では複数の MAC が R-ONU#3 の

LLID (Logical Link ID) #100 宛であることを認識する

必要がある.

3.2. ディスカバリ実現手法

光アドホックネットワークにおける通信の実現の

ためには,ONU 群から生存 R-ONU のディスカバリが

必要となる.ディスカバリ実現手法として R-ONU と

ODN 制御網間に通信チャネルを設けることを提案す

る.この場合,R-ONU が罹災した場合には ONU 群か

図 2. 光アドホックネットワークの概要

図 3. マルチホップ通信概要

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らのディスカバリが不可能となるが,大規模災害時で

あることを考慮すると許容されるものと考える.

ONU からの通信チャネルとしては,EAN において

は ONU から複数の OLT への接続が可能なため,接続

する OLT を決定するための ONU からの OLT ディスカ

バリ機能を実現するための制御ツリーとなる C-Tree

が提案されている [13].このため,図 4 に示すように

C-Tree 用のサブチャネルと同様に固定サブチャネルを

R-ONU ディスカバリチャネルとして ODN 内の光スイ

ッチ制御装置と R-ONU 間に定義することが可能であ

る.

OLT からの通信が途絶した R-ONU は,ODN 制御網

に対して TTL (Time to Live)によりホップ数制限をか

けたブロードキャスト探索メッセージを,ディスカバ

リチャネルを利用して送信する. TTL は,遠方の

R-ONU を発見してもデータプレーンの光信号が距離

的に減衰して伝送不能となるため,適切な値を設定し

て探索範囲を限定させるために適用する.

ODN 制御網からの探索メッセージは,生存 R-ONU

へ転送される.探索メッセージを受信した R-ONU は,

送信元 ONU 群の経路に向けて主信号波長の予約を行

い,簡易 OLT として ONU 群との通信を開始する.

3.3. ODN 内光スイッチノード構成

ODN を構成するための光スイッチノード構成を図 5

に示す.EANではアクティブ ODNを構成するために,

マルチデグリーの ROADM (Reconfigurable Optical

Add/Drop Multiplexer)又は OXC (Optical Cross-Connect)

が要求される.EAN プロジェクトにおいては,現在,

ROADM や OXC を 構 成 す る た め の 大 規 模 WSS

(Wavelength Selective Switch)の開発が進められている

[21,22].アクティブ ODN ではスイッチを遠隔制御す

るための制御部が必要である.図 5 では制御部と外部

との通信のための制御チャネルを主信号と WDM する

例を示している. EAN プロジェクトにおいては,

OpenFlow プロトコルを利用して,仮想レイヤ 2 網とア

クティブ ODN の連携制御が報告されている [15,23-26].

光アドホックネットワークを実現するための拡張

としては,制御部から配下の ONU 群の R-ONU に向け

てディスカバリチャネルを追加する部分である.

4. リモート ONU 構成法

R-ONU は,ONU として R-ONU 又は OLT との通信

を行う他,簡易 OLT として ONU 群との間での通信を

行う.さらに簡易 OLT として動作する際には,データ

の中継機能が必要となる.3.1 で述べたように,デー

タの中継は,イーサネットブリッジとして動作するこ

とが要求されるが,転送タイミングは (簡易 )OLT から

の指示で決定されるため,蓄積型イーサネットブリッ

ジとして動作することが要求される.

以上の機能を提供するための R-ONU の概略構造を

図 6 に示す.R-ONU 内は,隣接 R-ONU 探索のための

ディスカバリチャネル用送受信器があり,配下にある

制御部でサブ ONU の OLT との接続状態を確認し,救

済可能な OLT の接続の存在有無を確認する.

(a)

(b)

図 4. ディスカバリチャネル. (a) C-Tree とディス

カバリチャネル. (b) チャネル配置例.

図 5. ODN 用光スイッチノード構成

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OLT との接続が可能な場合,サブ ONU は上り方向

λ data1U,下り方向λ data1D で送受信 (+C-Tree)される通常

の ONU として動作する.又,サブ OLT は,ディスカ

バリチャネルを通じて予約された波長λ data2(U/D)を用

いて隣接 ONU 群との通信を行う.サブ ONU の U/D と

サブ OLT の U/D は方向が逆となる.予約が無い場合

にはサブ OLT からの送信は行わない.OLT から受信し

たデータは,蓄積型ブリッジに送られる.サブ OLT は,

蓄積型ブリッジから読み出したデータの宛先 MAC ア

ドレスに基づいて LLID を付与すべきであるが,機能

簡易化のためにブロードキャスト用の LLID を適用す

ることも考えらえる.

OLT との接続が不可能となり,リストレーションの

実行等十分な時間が経過後も OLT との接続が回復で

きない場合には,光アドホックネットワークモードが

発動する.隣接 R-ONU のディスカバリを実行すると

共に,隣接 ONU 群からの R-ONU ディスカバリ受信に

備える.ディスカバリで発見された R-ONU との間で,

使用する波長のネゴシエーションを行い,波長の予約

を行いλ data1 の波長を決定する.具体的なネゴシエー

ション及び波長決定アルゴリズムは今度の課題である.

図 6 では,明示的にサブ ONU とサブ OLT を設置す

る構成を示したが,サブ ONU の送受信タイミングと

サブ OLT の送受信タイミングを,TDMA 等を活用して

タイミングが重ならないように制御することが可能で

あれば,送信器の波長をダイナミックに切り替えるこ

とでハードウェア量の削減を図ることが可能になるも

のと考えられる.又, TDMA を活用することでサブ

OLT に接続される ONU 群を複数設けることが可能と

なり,OLT から接続される ONU 群を図 2,3 で示した

単純数珠繋ぎ接続からツリー接続に拡張することも可

能になる.

5. ONU 救済率評価

大規模災害では,ONU が OLT 罹災を検出 (OLT 連続

故障数 1)し,隣接生存 R-ONU を発見するが,その

R-ONU も OLT 罹災 (OLT 連続故障数 2)な状態が発生す

る.コンピュータシミュレーションにより ONU 救済

率の向上を確認する.ODN を 10×10 格子型トポロジ

とし,格子の各点に光スイッチノードが配備され,配

下に ONU 群が 1 個存在 (総 ONU 群数 100,R-ONU 数

100)するものとする.OLT に接続される生存 R-ONU

を 10 個ランダムに ONU 群に配備し,TTL を 3, 5, 7 と

してランダムに選択されたソース ONU から TTL ホッ

プ以内での R-ONU 発見の k 回連続成功が連続故障数 k

に対する救済と定義する.ただし,生存 R-ONU が救

済可能な ONU 群は 1 であり,ディスカバリの先着し

た ONU 群のみが救済可能となる.また,波長割当は

考慮していない.表 1 にシミュレーション諸元を,図

7 にシミュレーション概要を示す.

表 1. シミュレーション諸元

項目 内容

ODN トポロジ 10×10 格子型

ONU 群数 100 (R-ONU は各群 1)

生存 R-ONU 10 個をランダム配置

TTL 3, 5, 7

トポロジ故障率 0 ~ 80% (10%刻み )

試行回数 10,000

ソース ONU 1 個をランダムに配置

波長割当 未考慮

[評価 1]

k=1 とし,生存 R-ONU は OLT と接続されているも

とする.トポロジを 10~80%破壊した場合の ONU 救

済率を評価した.つまり,ONU から生存リンクを辿っ

て TTL ホップ数以内に生存 R-ONU に到達することが

救済条件となる.評価結果を図 8 に示す.横軸がトポ

ロジ故障率で,縦軸が ONU 救済率である.故障率 0

図 6. R-ONU の内部構造

図 7. シミュレーション概要

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においても TTL 内に生存 R-ONU が存在しない場合が

あるため ONU 救済率は 0 にはならない.また,故障

率 40%以上においては,TTL を 5 以上に増加させても

効果が無いことが分かる.

[評価 2]

TTL を 7 に設定し,OLT 連続故障を想定した場合の

ONU 救済率を評価する.本評価においては生存 R-ONU

は OLT とは未接続とする.シミュレーションにおいて

は,ソース ONU が R-ONU として R-ONU ディスカバ

リを実行,他の R-ONU からのディスカバリは発生せ

ずリソースは必ず確保可能とし,TTL 内で発見される

R-ONU を何段経由可能となるのかを連続 OLT 故障数

として求めた.図 7 ではネットワークの最大距離は 18

であるが,TTL=7 で連続故障数 k=5 を想定すると,生

存 R-ONU を 7 ホップ以内で重複することなく 5 個連

続して発見することが救済となる.トポロジ故障率を

20~80%変化させた場合の評価結果を図 9 に示す.ト

ポロジ故障率が 30%程度であれば,5 連続 OLT 故障

(R-ONU5 段マルチホップが必要)でも 40%程度の

ONU 救済率を期待できることが分かる.しかし,トポ

ロジ故障率が 40%に達すると,同程度の ONU 救済率

は 2 連続 OLT 故障に激減してしまう.しかしながら,

トポロジ故障率 50%においても,5 連続 OLT 故障での

ONU 救済率 10%が達成可能となっている.

ネットワーク的には,k≦5 で OLT に接続されてい

る生存 R-ONU に到達することで救済されるため,ト

ポロジ故障率 50%において,実際の救済率は 10%より

も向上する可能性があるがリソースの競合を考慮する

必要があり,詳細な評価が必要である.

まとめ

EAN における,光アドホックネットワーク構成法

を提案し,大規模災害時の連続 OLT 故障においても

ONU 救済が可能となることを示した.また,光アドホ

ックネットワーク方式で必要となる ONU 間通信手法

としてサブ OLT 機能を有するリモート ONU (R-ONU)

を ONU 群に配備することを提案し,R-ONU 構成手法

を提案した.今後は,R-ONU ディスカバリプロトコル,

光伝送特性を取り込んだネットワーク的な救済率評価,

R-ONU のコスト評価等が課題となる.

謝辞

本研究の一部は,NICT 委託研究「エラスティック

光アグリゲーションネットワークの研究開発」のサポ

ートを受けて行われた.

文 献 [1] 一般社団法人情報技術委員会,“「将来のモバイル

ネットワーキングに関する検討会」ホワイトペーパー”,2015 年 3 月.

[2] M. Pickavet, W. Vereecken, S. Demeyer, P. Audenaert, B. Vermeulen, C. Develder, D. Colle, B. Dhoedt, and P. Demeester,“Worldwide Energy Needs for ICT: the Rise of Power-Aware Networking,” Proc. IEEE ANTS 2008, Bombay, India, Dec. 2008.

[3] H. Takeshita, D. Ishii, S. Okamoto, E. Oki, and N. Yamanaka, “Highly Energy Efficient Layer-3 Network Architecture Based on Service Cloud and Optical Aggregation Network,” IEICE Trans. Commun., vol. E94-B, no. 4, pp. 894-903, Apr. 2011.

[4] Y. Hara, T. Sato, Y. Shimada, K. Ashizawa, K. Tokuhashi, D. Ishii, S. Okamoto, and N. Yamanaka, “A Study of Next Generation Metro-Access Hybrid Scalable Network by Using PLZT Ultra High Speed Optical Wavelength Selective Switch,” Proc. IEEE-ISAS 2011, GS1-A-1, pp. 1-6, June 2011.

[5] 中尾彰宏,“新世代ネットワーク構想におけるネットワーク仮想化,”信学誌, vol.94, no.5, pp.385-390,2011 年 5 月.

[6] “Network Functions Virtualization – Introductory White Paper,” ETSI, Oct. 2012.

[7] 岡本聡,“多様なサービスやネットワーク構成を実現する伸縮自在光メトロアクセス融合型アグリゲーションネットワーク技術 – エラスティックλアグリゲーションネットワーク -,”信学技報,CS2012-96, 2013 年 1 月.

[8] 岡本聡,佐藤丈博,竹下秀俊,山中直明,“エラ

図 8. トポロジ故障率に対する ONU 救済率

図 9. OLT 連続故障率に対する ONU 救済率

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スティックλアグリゲーションネットワーク(EAN)の提案,”信学総大,B-8-63,2013 年 3 月.

[9] S. Kimura, “Elastic Lambda Aggregation Network (EAN),” Proc. OECC/PS 2013, WP4 -4, July 2013.

[10] 岡本聡,竹下秀俊,山中直明,“エラスティックλアグリゲーションネットワーク (EAN)における仮想レイヤ 2 スイッチ実現手法の提案,”信学ソ大,B-8-12,2014 年 9 月.

[11] 岡本聡 , 佐藤丈博 , 大木英司 , 竹下秀俊 , 山中直明 , “エラスティックλアグリゲーションネットワーク (EAN)における OAM 及び複数サービス収容手法の考察,”信学総大,B-8-66,2014 年 3 月.

[12] 山口哲平 , 樋口雄紀 , 佐藤丈博 , 竹下秀俊 , 岡本聡 , 山中直明,“エラスティック光アグリゲーションネットワークにおける複数 OLT が協調動作する TDM 網の検討,”信学技報,PN2012-92,2013年 3 月.

[13] T. Sato, K. Tokuhashi, H. Takeshita, S. Okamoto, and N. Yamanaka, “A Study on Network Control Method in Elastic Lambda Aggregation Network (EAN),” Proc. IEEE HPSR 2013, 2-1, July 2013.

[14] 佐藤丈博,樋口雄紀,竹下秀俊,岡本聡,山中直明,大木英司,“エラスティック光アグリゲーションネットワークにおける論理 OLT のマイグレーション手法,”信学論 (B),Vol. J97-B,No. 7, pp. 474-485,2014 年 7 月.

[15] 竹下秀俊,樋口雄紀,佐藤丈博,小番麻斗,岡本聡,山中直明,“エラスティックλアグリゲーションネットワークにおける論理 OLT のマイグレーション実験,”信学技報,NS2013-250,2014 年3 月.

[16] 竹下秀俊,山口哲平,芦沢國正,佐藤丈博,小番麻斗,山中直明,岡本聡,“エラスティックλアグリゲーションネットワーク (EλAN)におけるトラヒック変動に対応したネットワーク再構成実験,”信学総大,B-8-8,2015 年 3 月.

[17] T. Sato, K. Ashizawa, H. Takeshita, S. Okamoto, N. Yamanaka, and E. Oki, “Logical Optical Line Terminal Placement Optimization in the Elastic Lambda Aggregation Network With Optical Distribution Network Constraints,” IEEE/OSA J. Optical Communications and Networking (JOCN), Vol. 7, No. 9, pp. 928-941, Sept. 2015.

[18] A. Kotsugai, T. Sato, H. Takeshita, S. Okamoto, and N. Yamanaka, “SDN/NFV based disaster recovery method in Elastic Lambda Aggregation Network (EλAN),” Proc. iPOP2014, T3-2, May 2014.

[19] A. Kotsugai, T. Sato, H. Takeshita, S. Okamoto, and N. Yamanaka, “TDMA-Based OLT Sharing Method to Improve Disaster Tolerance in Elastic Lambda Aggregation Network,” Proc. ECOC2014, P.7.6, Sept. 2014.

[20] 佐藤丈博,小番麻斗,竹下秀俊,岡本聡,山中直明,大木英司,“エラスティック光アグリゲーションネットワークにおける TDMA による OLT 仮想化を用いた ONU 接続保持手法,”信学論 (B),Vol.99, No.3, 2016 年 3 月掲載予定.

[21] 小栗淳司,河原亮,岩間真木,堀川浩二,木村賢宜,齋藤正美,越浩之,加木信行,“LCOS を用いた帯域可変型 1x40 波長選択スイッチの開発,”信学技報,PN2014-89,2015 年 3 月.

[22] 小栗淳司,河原亮,“31 入出力ポートを持つ疑似4x30 Contention 波長選択スイッチの開発,”信学技報,PN2015-77,2016 年 1 月.

[23] 岡本聡,高山,菊田洸,佐藤丈博,竹下秀俊,山

中直明,“OpenFlow プロトコルを用いた MPLS-TP/光空間スイッチマルチレイヤネットワーク制御実験,”信学技報,PN2013-23,2013 年 8 月.

[24] T. Yamaguchi, T. Sato, H. Takeshita, S. Okamoto, and N. Yamanaka, “Experimental Report of Elastic Lambda Aggregation Network (EλAN) Control Method for SDN-based Carrier Class Network,” Proc. COIN2014, TP-24, Aug. 2014.

[25] X. Cao, N. Yoshikane, T. Tsuritani, T. Yamaguchi, T. Sato, S. Okamoto, T. Miyazawa, and H. Harai, “SDN/OpenFlow-based Unified Control of 100 Gb/s-Class Core/Metro/Access Optical Networks ,” Proc. SDN/MPLS2014, Wed1_2, Nov. 2014.

[26] Y. Isaji, T. Sato, H. Takeshita, S. Okamoto, and N. Yamanaka, “Time estimation of logical optical line terminal migration for Elastic Lambda Aggregation Network,” IEICE ComEX, Vol.5, No.2, Feb. 2016.

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